2020年04月26日

2020年5月号  ’危機’が変えた’世界の秩序’と,日本の選択 - 林川眞善

目  次 

はじめに No country is an island 

・安倍首相、緊急事態宣言
・米国政治のトレンド・シフト/ ・問題は`危機後’の対応

第1章 危機が齎すグローバル経済新常態
 
1.今、世界経済は「緊急停止」
(1)進み出す国家主義への回帰  
(2)メルケル首相メッセージのこと
2.無極化に向かう世界

第2章 米国政治のトレンド・シフト、米大統領選の行方

1.‘危機’ 対応に映る米政治のニュー・トレンド     
(1)米政権のコロナ危機対策
(2)危機が齎す米政治の左傾化
2.トランプ政権のresilience & vulnerability
(1)トランプ政権の‘強さ’と‘弱さ’
(2)今「断崖」に向かう米中関係 
・「国民とある」ということ
 ・J. バイデン氏、参上

おわりに  日本の選択    

・終焉遂げたアベノミクス / ・‘危機後’の世界で日本は

----------------------------------------------------------------------

はじめに No country is an island

・安倍首相、緊急事態宣言
3月末から始まったコロナ感染者の急増に照らし、4月7日、安倍首相は、緊急事態宣言を発出、同時に、事業規模108兆円の緊急経済対策を閣議決定しました。緊急事態宣言の‘狙い’は云うまでもなく、新型コロナ菌による肺炎感染拡大にストップをかける事、そしてコロナ対策が結果として齎している経済活動停滞、それと並行して深まる国民生活の不安解消への取り組み、です。が、感染拡大が今尚続く現状からは、イタリア等欧米で起きたような「医療崩壊」を防ぐためにも、この際は経済悪化をある程度覚悟してでも、コロナ封じ込めこそが最優先である事、云うまでもありません。

今、世界の総人口の4割が外出禁止の状況にあると伝えられています。この数字は感染拡大防止のため人の移動を規制してきた結果ですが、これが需要、供給両面での活動にブレーキをかけ、世界経済が急速な停滞状況を託つ証左とされる処です。

巷間、2008年の世界的金融危機、リーマンショックと比較して語られること多々ですが、リーマンの場合は、金融機関間の間でカネの動きが止まり、ヒトとモノの動きも止まったのに対し、今次コロナ危機は、感染拡大防止策によってヒトとモノの動きが止まり、それがカネの動きを止めるまさに、危機発生のプロセスが逆流しており、しかも大企業のみならず中小・零細企業をも同時に巻き込み、事態は複雑化している点で大きく異にする処です。

つまり、リーマンの場合、大幅な金融緩和や金融機関への財政資金の注入でカネの動きが回復し、ヒトやモノの動きも戻ってきたのに対し、今次危機の場合、各国で利下げや収入を失った家計への融資や財政資金による支援など打ち出されていますが、カネを動かしても外出規制など活動が制限されている間はヒトの動きは戻らず、危機構造が複雑化している点で、実体経済の回復は相当遅れるものと見ざるを得ません。因みに、4月14日、IMFが発表した2020年の世界経済の成長率見通しでは、マイナス3.0% に引き下げています。

この際は、何としても新型コロナウイルス撲滅が第一ですが、これが目に見えないウイルスとの闘いとなる点で、一国だけでは対処しきれず、国際間の連携が不可避となる処(注)、想起するのはThe Economist , 2007/12/1 の巻頭言No country is an island(如何なる国も、孤島では在りえない)です。

(注)リーマン後、中国が4兆元(約60兆円)の景気対策を打ちだし、世界経済を土俵
際で支えたことは銘記されるべき処です。尤も今の中国にそうした力はありませんが、
国際間の連携効果と云うものです。序で乍らG7ではワクチン開発支援で、実績あるノル
ウエーに拠点を置く国際研究機関、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)に数十億ドル
規模の資金拠出を予定とか。(日経2020/3/27)

・米国政治のトレンド・シフト
然し、一体感を以ってグローバルな危機に対峙していけるかとなると、置かれた現実からはいささか疑問は禁じ得ません。つまり、欧米諸国は、自国安全のためと国境封鎖等に向かうことで、自国主義、国家主義への回帰の姿を強く映し出す処です。

そうした環境の中、世界が注目するのは、やはりトランプ米国の行動様式です。トランプ大統領はWHOのパンデミック宣言が出たあと国家非常事態宣言を発し、3月27日には約2兆ドルと、極めて大規模な対策を打ち出し、更に今、想定越えの雇用悪化に照らし、3月27日と同規模の追加策、第4弾の検討を始めたと報じられています。それは今秋の大統領選を睨んでの彼の焦りを映す処ともされるのですが、ここで注目されることは、その対策策定の過程で露わとなってきた米国政治のトレンドの変化です。

つまり、連日更新の進む感染者の増大(3月26日には、米国のコロナ感染者は世界最多の8万3507人)に照らし、彼は今次の危機を保険危機、医療危機と理解してきたとされ、以って低所得者の救済に向かう処です。これは、民主党左派のリベラルが目指す方向と重なる処、つまりは米国政治のトレンドがトランプ氏の忌み嫌う社会主義的な色合いを強める一方で、これがトランプ米国第一主義とも絡んで、国家主義への回帰を現実とする様相になってきたと云う処です。‘米国よ、前もか’ です。

・問題は`危機後’の対応
世界経済は今、緊急停止の状況です。収縮する経済への対処と同時に、感染症対策に迫られ、財政面でも医療提供体制の整備や治療薬の開発が求められる状況です。そして危機回避に向けては、各国の利害を超えた結果が求められる処です。ただ、各国の努力で危機が過ぎたとして、世界が危機前の姿に戻れるかと云えば、それは極めてnegativeとなる処です。

つまり、緊急対策を以って臨むとしても単なる需要対策だけではなく、供給能力の削減といった構造対策が求められ、その結果は産業構造の変化、多くの企業で事業転換が不可避となると見るからです。加えてこれまで過剰投資を支えてきた過剰債務の処理も伴う事もこれありで、かかる事態の変化からは相応の時間を要するというものです。加えて、日本がこれまで拠り所としてきた世界の秩序が、危機を契機に急速な構造変化を辿りだしている事も有之で、問題は‘危機後’の世界をどう捉え、これにどう向き合っていくかとなる処です。 

そこで、今次論考では危機後の可能性を探る意味を含め、① 世界経済の生業の行方を検証し、② 危機を契機に進む米国政治のトレンド・シフトの現実と大統領選を控えたトランプ氏の行動様式、そして ➂ 危機後, 日本の目指すべき方向について、考察する事とします。


第1章 危機が齎すグローバル経済新常態

1.今、世界経済は「緊急停止」

前述の通り、新型コロナの拡散防止作戦として各国の進める水際作戦は、ヒトの出入りの管理強化に向かうことで、まさに国境が高くなり、往来が不自由になり、経済と企業活動の停滞をもたらし、それこそがグローバル経済の新常態と映る処です。それは自由で開かれた世界を目指すグローバル化は緊急停止の様相を呈する処、グローバル化が大きな壁に当たりつつあることを意味し、もはやその転換点をも示唆する処です。

(1)進み出す国家主義への回帰
その「緊急停止」を巡って、 Financial TimesのコラムニストGideon Rachman氏は、同紙(2020/3/24) にて ‘Nationalism is a side effect of corona virus’ (コロナ・パンデクスが齎す副作用は危険なナショナリズムの台頭)と題し ‘今、ボーダー(国境)がすさまじい勢いで復活しつつある。それは新型コロナウイルスに因るものだが、仮にそれが止まったとして、もはやウイルス発生前のグローバルな世界に戻る可能性は低い’ と、以下三つの事由をもって Return of the Nation State、国民国家 [国家内部の全住民を一つのまとまった構成員(国民)として結合する事によって成り立つ国家] への回帰トレンドを指摘すると共に、その変化に懸念を語るのです。

 ① 緊急事態下では人々は国民国家に頼ろうとする事。国民国家にはグローバル機関に
はない財政的、組織的な強みがあり、人々の感情に訴える力も強い事。
 ② グローバルなサプライチェーンが脆弱だと分かったこと。(revealing the fragility of global supply chains )
 ③ 危機発生前から顕著だった保護主義や自国回帰、国家管理の厳格化を求める声がよ
   り高まったこと。

 (注)サプライチェーンの脆弱性:かつてはきれいな棲み分けが出来ていた国際分業体系
にあって、それぞれが支配を目論むサプライチェーン上の部位が徐々に重なり合い、互い
の領域を侵食し始めた結果と云え、サプライチェーンの統治構造の変化を意味する処。

彼が語る危険な事とは、国民国家の復活で制御不能な国家主義が頭をもたげ、世界貿易の急減や国際協力の有名無実化の進行であり、最悪のシナリオとしてEUの崩壊、米中関係の断絶、更には、戦争へエスカレートする事態をもと、する処です。

そして、国民国家への回帰の動きは特に欧州で目立つとし、3月18日、メルケル首相がコロナ対応への協力を国民に訴えたTV演説をreferし、その際、EUに関して一言も触れられていなかったこと、また本来国境管理はなかったはずが突如復活(独・仏間)したこと、更に企業や失業者への経済支援の多くは、EUからではなく欧州各国からきているとも指摘し、これら一国主義への回帰を映すものではと、懸念を示すのです。

(2)メルケル首相メッセージのこと
そこで一言。 確かにラックマン指摘にあるように近時、EU諸国の中には自国主義に走る動きは出てきていますし、コロナ危機への経済対策を巡って加盟国間の亀裂が深まり、EU南北の対立(イタリアやスペイン vs オランダ)と報じられる処です。ただ、メルケル首相のTV演説の中にEUの文言が見えなかったと云うことだけで即、一国主義への回帰云々としうるものか、その指摘には聊かのバイアスを禁じ得ません。

国内が分断しているようでは外交で力を発揮することはできません。当時のメルケル首相を巡る政治環境は次の通りでした。つまりメルケル首相が、自らの後継者として推薦していたメルケル氏所属のCDU党首クランプカレンバウア氏が2月10日、政治的な失言や選挙での相次ぐ敗北を事由にその指名から降板、その後、ぎくしゃくしていた連立相手の社会民主党とCDUとの間で改めて和解が進み、メルケル首相の再登板が合意され今日に至っている事情これありで、この際はとにかく国内政治の立て直しをと、メルケル氏にとって初となるTV演説に臨んだものと推測するのです。

因みに、今年7~12月はドイツがEUの議長国です。従ってドイツの政権が瓦解すれば欧州全体が混乱するとの認識があって,まずは国内の引き締めとの思いがあっての結果ではと,推測するのです。更に、トランプ米国とは距離を置く処、トランプによる「ドイツたたき」の可能性も否定しえぬ状況にある一方で、9月にはEU27国首脳と共にドイツで中国習近平主席との会談が予定されています。いま欧州景気が低迷傾向にある中、大黒柱のドイツが冷え込めば総崩れになりかねず、その点で、まずはドイツがしっかりせねばと手綱を引き締め、統合に臨まんとの思いが、そうさせたのではと、忖度する処です

2.無極化に向かう世界

さて、ラックマン氏の指摘は、要は、不安と恐怖を乗り越えて国際社会が結束できるかを質すものと思料するのですが、上述国家主義への回帰トレンドと、世界秩序のkingpinたる
トランプ米国の行動様式と重ねるとき、それにはnegativeとならざるを得ません。
米国はトランプ氏が大統領に就任以来、America firstの下、国際間の協調、協定を軽視し、自国利益を優先しながら覇権国家を演じてきています。然し、今次COVID-19危機は、そうした体制をも揺るがす状況にあります。つまり、前述のように各国は、危機対応を通じ、自国の安全に向かう中、米国も、後述するような危機対応強化を通じて更なる米国主義を図らんとする処、その結果は他国を率いる力を弱体化させる処です。

因みに今秋の米大統領選では現職のトランプ氏の優位が喧伝されていました。それは、戦後最長を謳歌した好景気と低失業率を以ってする予測でした。然し、そのシナリオは新型コロナ危機で剥げ落ち、いまトランプ氏はコロナの収束と早期の景気回復に向けた強い指導力をアピールする戦略を描く処です。そこには、既存の大国としての米国はなく、されど競合国の中国が米国にとって代われるほどの実力も信頼をも欠く状況で、それは世界の無極化、いわゆるGゼロへの動きを鮮明とする処です。(注)

(注) Coronavirus reveals the dread of `non-polar’ world.- The two great powers cannot lead and there is no persuasive coalition to replace them. By Janan Ganesh, Financial Times , 2020/04/02

世界は今、国家主義への回帰が進む一方で無極化が進む、時に脅威とも映る新環境にあって、問題は、各国の近視眼的な指導者がどう対応していくか、見通し難いことです。そうした中、やはり注目されるのが、米大統領選を控えたトランプ氏の行動様式です。


第2章 米国政治のトレンド・シフト、米大統領選の行方

1.`危機’ 対応に映る米政治のニュー・トレンド

今次危機は金融危機ではなく、保険危機、医療危機とも指摘される中、トランプ政権の危機対策はその色合いを濃く映す処です。以下は、その経緯をレビューするものです。

(1)米政権のコロナ危機対策
トランプ氏は、3月10日のコロナ・パンデミクス宣言に呼応する如くに、それまで極めて楽観的だった彼は、3月11日夜、ホワイトハウスからの国民向けTV演説で、コロナ感染拡大への対応策として、欧州からの入国禁止措置を発表。更に16日には英国、アイルランドをもこれに追加したのです。まさに米国の水際大作戦です。米国に呼応する如くに、欧州、カナダ、ロシア、中南米諸国も同様「外国人の入国禁止」を発表する処、これで地球大での人間閉じ込め作戦が一気に進む様相です。 そして問題は、こうした水際作戦の結果は消費の落ち込を誘発、それが企業の破綻やリストラを呼び、雇用喪失と云う不安の連鎖を呼ぶ処、消費の縮小は一時的な現象から長期的な構造問題に転じてきたことです。

さてトランプ大統領は3月13日、国家非常事態を宣言。同時に最大500億ドル(約5兆円超)を投じ、検査や治療の体制強化、新型コロナで打撃を受けた企業や個人の支援強化の方針を明示、翌14日には議会下院が野党・民主党の経済支援策(コロナ無償検査、有給病気休暇、失業保険の拡充、低所得者向け食糧支援、等)をも可決。更に21日、米欧の4~6期成長率のマイナス幅が前期比年率換算で10%を超すとの見方が浮上したことから、同日、クドロー米国家経済会議議長は、財政支出では1.3兆~1.4兆ドル、更にFRBの追加対策を加えて経済対策はGDP(21兆ドル)の10 %程度規模の対策が必要とし、3月25日未明、与野党議会指導部との合意を経て27日、米議会で2兆ドル(約220兆円)の大型経済対策を決定(注)したのです。これは2008年の金融危機対策(7000億ドル)を上回る数字です。

(注)2兆ドル経済対策の内容:家計と企業に直接送り込むもの。医療整備(1400億ド
ル)、航空会社等(750億ドル)事業会社(4250億ドル)、中小企業(3500億ドル)、家
計(5000 億ドル)尚、同時にトランプ氏は米自動車大手のGMに対して呼吸器生産命
令を国防生産法の適用を以って発令した。

(2)危機が齎す米政治の左傾化
処で、トランプ氏は連日更新が進む感染者数の増大に照らし、今次危機を保険危機、医療危機と、理解を深めたようで、医療や低所得層への支援に多くを配慮するものとしています。そして、3月上旬には考えられなかったことですが、注目すべきは、米政府は、ここにきて本来トランプ氏が忌み嫌う社会民主主義に近い政策を次々に打ち出してきた事でした。

これまで大企業、富裕層を対象とするような減税策等で支持を得てきたトランプ氏ですが、大統領就任以来忌避してきた低所得層支援、教育無償化問題、更には国民皆保険問題等も俎上に乗ってくる処、まさにコロナ危機によって民主党、とりわけサンダース氏らリベラル派が考える世界のあるべき姿へ変貌する様相を露わとするのです。危機が齎した与党共和党のリベラル化とされる処、瞬時振り子が右から左へと揺れる姿を見る思いです。勿論、人気取りもこれありでしょうが、2017年の大統領就任以来の姿勢の変化を映す処です。

序で乍ら、英国においても保守政権ながら 3/11, 17, 20日と3弾の経済政策を発表する処、大規模な財政出動を決め、又、どちらかと云えば企業寄りとされる大統領が率いるフランスも同じ様相にある処です。とすれば財政支援の点ではもはや米欧は一体化していると云えそうです。ただ米国にあっては、家計や企業への支援と云う短期の議論に止まることなく根本的な富の再分配の問題にまで、今や議論されつつある事が大きな違いを見せる処です。

尚、3月11日、トランプ氏がホワイトハウスから国民向けに感染拡大への対応策を発表した際、「政治や党派の対立は横において一つの国家、一つの家族としてまとまらなければならない」と、国民に団結を訴えています。「怒りと分断」をエネルギーとする同氏にしては「大統領らしい」初の演説だったと評されていましたが、これが厳しい批判に曝された末のことと云え、明らかに自らの再選に向けた焦りを映す処です。

因みに、3月24日、TVインタービューではトランプ氏はコロナ対応で停滞する経済活動の再開は復活祭(4月12日)までにと、していました。が結局、4月16日 ,感染者が少ない地域から経済活動の再開を3段階で進める新方針を発表。3月中旬からの厳しい外出規制の緩和に踏み切ったのです。勿論、緩和のタイミングに厳しい批判のある処、どこまで経済が戻るか不透明で、TVに映し出されるNYの街の様子は、まるで1930年代の大不況とも見紛う光景ですが、トランプ氏の行動は、あれもこれも大統領選のため、と云った様相です。 
尤も、これまでトランプ氏の絶対優位の証とされてきた経済は急激な減速にあり(注)、内外環境の急速な構造変化、更にはこの危機を契機に有権者のトランプ観も厳しくなってき事情もあり、楽観し難い状況にはなってきています。

    (注)減速の米経済:4月3日、米労働省発表の3月雇用統計では景気動向を敏感に映
す非農業部門就業者数は前月比70万1千人減少。就業者の減少は2010 年9月以来,
9年半ぶり。新型コロナで米経済は大幅な活動制限を強いられてきた結果で、過去に
例のない雇用と景気の悪化に、経済対策の執行が追い付かない状況。

いずれにせよ、今次のコロナ経済対策が映し出すことは、トランプ氏の行動様式の変化、米国政治の左傾化トレンドです。そこで、改めて彼の可能性を検証します。

2.トランプ政権のresilience & vulnerability

(1)トランプ政権の‘強さ’と‘弱さ’
処で、コロナ危機もさることながら、近時の金融市場の動揺で不安が生じているのは、トランプ政権の経済・金融危機に対する管理能力にありと、されていますが、要は、従来の米政権には危機の火消し役になる顔があったが、今はそれが見当たらないと云うものです。

つまり、クリントン政権時のルービン氏、ブッシュ政権時のポールソン氏、オバマ政権ではガイトナー氏と云った財務長官や国家経済会議委員長等、主要経済閣僚の存在です。しかし、今のムニューシン財務長官にしても、クドローNEC委員長にも、そうした威信は感じられません。トランプ氏は安全保障ではマテイス前国務長官、経済ではコーヘン前NEC委員長ら、大統領への苦言も辞さない専門家を排除してきています。今のトランプ政権にはそうした人物は見当りません。今後の危機対応では、そのツケが回ってくることもありうると云うものです。 更に、トランプ氏が今次のCOVID19対策の責任者に副大統領のマイク・ペンスを指名したことです。彼は科学を疑い続けてきた人物とされる仁で、まさに感染症に対峙する者の適性に、有権者のトランプ氏に対する見方が変わってきたとされる処です。

加えて、国民に添う政治と云う点で、とりわけ問題となるのが無保険者もいる米国の医療制度です。この問題では、国民皆保険を掲げる民主党左派のサンダース上院議員はもとより、中道のバイデン氏もオバマ政権で実施した医療制度改革(オバマケア)の更なる改革案をも主張しており、オバマケアの撤廃を主張しCDC(Center for Disease Control & Prevention:米疾病管理予防センター)の予算を削減してきたトランプ氏にとって、不利な展開の可能性が指摘される処です。 因みに、3月次FT・米財団協働世論調査では、コロナ感染拡大で「所得が減った」との回答が73%に上った由。 他事情についてもトランプ再選に逆風が吹く様子が伝わる処です。(日経2020/4/8)

もう一つ、問われるリスクはトランプ政権下で進んだ多国間協調や国際機関の軽視です。とりわけパンデミックスの状況にあって問題となるのが国際的な危機対応です。自国優先を掲げるトランプ政権はコロナ問題でも欧州や中国との亀裂を深める処、とりわけ米中では感染拡大の経緯を巡り、非難の応酬で、その関係は再び悪化を見せる処です。 壊滅的な被害を及ぼすパンデミックは、世界の二つの経済大国、米中が立場を棚上げにして、協調する好機と思えるのですが、その関係は1989年の「天安門事件」で中国政府が軍を投入し民主化運動を弾圧した時と同様に、この危機のさなか、パンデミックの原因を巡って両国は醜い中傷合戦を展開する処です。ではその実状は、です。

(2)今「断崖」に向かう米中関係
まず、震源地、中国の実状はと云えば、感染都市の封鎖や強制的な隔離で封じ込めを進めると同時に、メデイア統制で批判の声を排除し政府の対策の成果を内外に印象付けようとしていると伝えられる処です。 因みに3月18日、中国政府は国内に駐在していた米NY Times, Wall Street Journal, Washington Postの米国記者ほぼ全員を外国に追放したこと、前号論考でも触れましたが、米中関係は新たな緊張関係を呈する処です。

3月19日付けFinancial Timesは、中国駐在の米ジャーナリストが中国からの追放を受けたことで、US-China ties worst in decades after expulsionsと題し、目下の米中間のパンデミック論争は旧ソ連の戦時体制を思い起こすとしながら、今次の米記者の中国からの追放は、中国情報への道を断つもの、world access to true information about China と、報道の自由を叫ぶのです。更には、新型コロナウイルスの感染が更に拡大すれば、米中の責任転嫁も一段と激しくなり「既に恐ろしいほどに険悪な両国関係に深刻な影響を及ぼすことになる」(The Economist, 2020/3/21)と、新たな事態の展開を危惧する処です。

同紙24日付けでは、米シンクタンク、ブルキングス研究所のライアン・ハス氏は「新型コロナウイルスの感染拡大は両国関係の現状を鏡のように映し出している。そこに浮かび上がる像は醜い。両国の指導者は今、蔓延を止めるために共に何をすべきかを話すことなく、ウイルスがどこから出現し、感染拡大の責任が誰にあるのかという議論に終始している」と、指摘する処です。周知の通りトランプ大統領は新型ウイルスについて「中国ウイルス」と呼び、中国外務省からは強い非難を受ける処、更に、中国国営メデイアはウイルスの感染爆発に対処するには独裁的統治体制の方が民主主義体制よりも適しているとまで主張する処です。今 ‘危機’に協力して対応すべき局面で、二大国の振る舞いは何とも情けない限りです。

いずれにせよ重要なのは政府と国民の信頼関係です。その為には、納得できる正確な説明と情報の開示が求められる処、この点で親和性の高いのは民主主義の他ないのです。

・「国民とある」ということ
序で乍ら、政府と国民の信頼関係維持の視点で、Financial Times ,2020/03/19が掲載した論考、「Donald Trump and the need to lead by example – The president should look to Roman history and Ireland on how to act in a crisis 」(トランプ大統領は、ローマの賢帝、アウレリウスに習い、アイルランドのバラッカー首相に習え)は極めて興味深く迫る処です。

その概要ですが、まず「他の災厄と同じく、感染症の拡大は人の性格を、中でも指導者の性
格を露わとする。重要な事は誠実さ、勇気、品位。新型コロナウイルスが齎す脅威が如何に
大きいか、トランプ大統領はこの数日の間に漸く把握したようだが、残念乍ら同大統領はず
~と理解している振りをすることにエネルギーを費やしてきた。そして自らが発するメッ
セージ自体の価値を引き下げてしまった。メッセージは信頼されていてこそ価値を持つ」と
し、その上で、トランプ大統領が学ぶべきは、ローマの賢帝とされたアウレリウス帝が当時
の疫病対応で見せた国民とある姿を、又、3月17日、アイルランド国民に向けた演説で、
バラッカー首相が感染拡大に苦しむ国の人々と「共にいる」姿勢を打ち出していたことを取
り上げ、まさに見習うべきと示唆するものでした。

「国民とある」、それこそは政治の基本姿勢と云え、これがトランプ氏にいかに届くものか、
大統領選を控えた彼の行動様式に斯界の関心が深まる処です。現時点でのトランプ支持率
は各種世論調査で相次ぎ就任以来最高を更新しているようですが、これが国家的危機に対
処する米大統領の支持率上昇の通例に照らすと押し上げ効果は勢いを欠くとされていま
す。深まる党派の分断が影を落とし、野党の支持層を取り込めていないことが指摘される
処、11月大統領選へまさに綱渡りの政権運営を余儀なくされていく事と思料するのです。

・J. バイデン氏、参上
処で、4月8日、民主党候補の指名を争っていたバーニー・サンダース上院議員が挙党体制構築のためと、大統領予備戦からの撤退を表明。これでバイデン前副大統領の民主党候補が確定し、秋の米大統領選はバイデン氏がトランプ氏に挑む構図に固まったようです。

バイデン氏を巡る詳細は別の機会としますが、彼がForeign Affairs , March/April,2020 に寄稿した論文では、民主主義の再興、中間層の強化を、外交面では同盟国重視を訴え、自分こそが世界をオバマ時代に戻すことができるとの期待を、人々に抱かせる様相です。 然し、トランプ時代の4年間、米国自身、そして米国と世界各国との関係は根本から変わってきたこと、国内ではこの4年間に進んだ社会的、政治的分断は極めて深く、仮に彼が大統領となったとして、では次の4年でこの分断が改善に向かうものかと、質す処です。いずれにせよ、トランプ氏の絶対優位は消え、両者互角の選挙戦となるのではと思料する処です。


おわりに 日本の選択

・終焉遂げたアベノミクス
4月23日, 政府が纏めた4月「月例経済報告」は、3月に続き景気判断を更に下方修正、一段と厳しい状況との判断を示す処です。3月報告(3/26)では、それまで「穏やかな回復基調」としてきた景況判断から「回復」の文字が消え、2012年末の安倍第2次政権発足以来、6年9か月振り、‘アベノミクス景気の途切れ’と評される処でした。それが今次報告では「悪化」となり、コロナ危機とともに、まさにアベノミクスの‘終焉’を告げる処です。

さて、「この3か月で世界は劇的に変わった」(IMF)とされるなか、コロナの影響で生活に困る家計や、資金繰りに窮する企業の救済は一刻を争う状況となってきています。
安倍政府は3月28日、GDPの1割、56兆円を上回る大規模の緊急対策を、4月7日には‘緊急事態宣言’の発出と併せ、事業規模108兆円の緊急経済対策を決定しましたが、4月20日には、一人当たりの支援給付を盛り込んで組み替えた補正予算,117兆1千億円を決定しましたが、その間の姿はまさにバタバタ劇。 4月17日、記者会見に臨んだ安倍首相の口からは、一国のリーダーとして現下の‘非常事態’をどう捉え、どう取り組もうとするのか、一向に伝わる事なく、更には対策実行のスピード感のなさが指摘されるや、かかる事態に彼は陳謝するのでした。国家の‘緊急事態’の何たるかの認識の欠落を映す処、まさに危機に向かうリーダーとしての資質が問われる瞬間の続く処です。

・‘危機後’の世界で日本は
さて先に、強制的な分断が解ける、その‘あと’「コロナ後」の対応が問題と指摘してきました。先行きの見えない中、未来のことなど今は考えられないとの批判のある処かとは思います。が、筆者はある機会を経て、以下趣旨のコメントを繰り返す処です。

―  (本稿冒頭で触れたように)産業調整といった構造問題もさる事ながら、現下で進む世界秩序の構造変化で、これまで日本が拠り所としてきたグローバリゼーションは今、‘試されるグローバリゼーション’と揶揄される状況にある。それでも、厳しい危機対応をくぐりぬけたとき、これまで以上にネットを活用し、より世界と密接につながった社会が現出しているかもしれない。そこで芽吹き始めた新秩序に備えない手はないのではと。

さて、3月31日付日経に載った世界的ベストセラー「サピエンス全史」の著者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏の投稿は、新型コロナウイルスの脅威に直面する世界に今後の指針を示すのでした。同氏はその中で、感染拡大も、それに伴う経済危機もグローバルな問題であり、これを効果的に解決するには、国を超えた協力以外に道なく、自国の事だけを考え、他国のことを全く考慮しないままに行動すれば、混乱と、より深刻な危機を招くことになると看破するものでした。 人口減少と対峙し進む日本、これまでの世界における日本の生業に照らし、なお今後の日本の行方を思うとき、進むべきはグローバル化の道と再認識する処です。

但し、それはJ.ステイグリッツ氏が「Globalization and its Discontents」(2002)で批判した市場主義グローバリゼーションではなく、国民を幸せにするグローバリゼーション、progressive capitalism(弊論考、2月号)を映すグローバリゼーションへの取り組みです。
そして、実践的にはValue Chainをキーワードとした取り組みをイメージする処ですが、そのプロセスこそは日本経済にイノベーションやビジネスモデルを生み出す処と思料するのです。その心、No Country Is An Island いま再び です。 (2020/4/25記) 
                         
posted by 林川眞善 at 11:32| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2020年03月26日

2020年4月号  COVID-19、’コロナ危機’に覆われた世界 - 林川眞善

目  次

はじめに 世界は今, 新型コロナ・パンデミック  
     ・日本政府の危機対応は

第1章  新型コロナウイルス感染拡大と世界経済
  1 新型コロナ感染拡大と習近平政権
  (1)「COVID~19」危機とグローバル経済
  (2)中国国内で高まる習近平共産党批判
                
  2.新型コロナ感染危機の実像と国際協調
  (1)コロナ感染が齎す経済的ショックとその対応
  (2)求められる国際協調とトランプ米国
  (3)‘市場’が映すコロナ恐怖に強く反応したトランプ政権

第2章 新型コロナ感染拡大と、二つのテーマ 
    ― 米中経済関係のDecuplingと、米大統領選

  1.問われる中国依存のグローバリゼーション
  (1)変わる多国籍企業のグローバル化対応
   (2)新型コロナ騒動後の世界経済

  2. 新型コロナ対策と11月米大統領選
  (1)トランプ氏を巡る政治環境
  (2)トランプ氏のCOVID-19対応策も大統領選狙い

おわりに  危機はいずれ終わる        
     ・危機はいずれ終わるのです
       
-------------------------------------------------------------


はじめに 世界は今、新型コロナ・パンデミック

先月弊論考では、これまで世界経済の有力な在り姿として認識されてきたグローバル化の動きに、その主役とされていた米英両国が背を向け、まさにbackward regressionを呈する事態になって来た事に、世界経済の行方に大いなる懸念を記した処でしたが、もはや、そんな懸念等をすっ飛ばすような事態と対峙する処となってきました。新型コロナウイルスによる新型肺炎感染の世界的拡大です。3月11日、WHOは新型コロナ感染の拡大状況につき「パンデミック相当」、つまり現状はパンデミック状況にありと、宣言したのです。(注)

 (注)テドロスWHO事務局長は3月12日の記者会見で、新型コロナ感染状況をパンデミックとし
た判断根拠として、「過去2週間で中国の外での感染者は13倍に、感染者の見つかった国は3倍に
増加。4291人が死亡。この数字は、数週間で更に増えるとみられる」と説明。パンデミック(ある
病気が世界中で大規模に流行し、制御不能になった状態を指す)宣言自体に法的拘束力はないが、
宣言によってワクチン増産など具体的施策を促す事を狙いとする。

周知の通り新型コロナウイルス、「CODIV-19」は昨年末、中国、武漢市で確認され、1月には中国全土に、2月にアジア各国、2月下旬にはイタリアで感染が爆発、3月には欧州全域に、そして米国へと3大経済圏を網羅する状況となっています。
その感染経路は、空気伝染ではなくヒトとヒトとの直接接触、或いは乗り物などでの間接接触とされ、感染拡大の阻止には不要不急の外出を避ける事、グループや企業など、多くの人が交流する場を避ける事とされ、従って生産活動は工場閉鎖などで停滞、一方、個人の行動規制が加わったことで消費活動は急速に停滞、勿論これに伴うサービス業も窮地に置かれるなどで、世界経済は供給、需要の両面で、一挙に停滞の様相を強める処となっています。

因みに、3月18日,ILOが公表した報告書では、コロナウイルスの影響で、世界で失業者が最大2500万人増えるとしていますが、要は各地での企業の操業停止や店舗の営業の規制が相次ぎ、企業活動の停滞が深刻になってきていることを示唆する処です。

そもそもCODIV-19感染拡散の事情としては、日本総研理事の呉軍華氏も指摘するように、(日経2月28日) 「経済のグローバル化が進展した結果、危機のグローバル化が進んだこと、そして、その勝者たる民主国家とは異質体制の国、中国がグローバルパワーになった事で、これまで経験したことのない危機の発生リスクを世界は内包してしまったことの結果」と云え、とりわけ、言論統制と権力の一極集中の体制下では危機の発生は避けにくいとも指摘される処です。

・日本政府の危機対応は
さて、日本政府は2月25日、政府専門家会議の見解を擁し、新型コロナ感染対策の基本方針を出すとともに、その二日後の27日には安倍首相は、自分で今が危機状況と判断したと、突然、特別緊急措置として小中高の一斉休校の要請を出したのです。これが1300万人を超す小中高生徒とその家族を巻き込んだことで、二日前の混乱に、まさに火に油を注ぐ如くにその発言は全国を混乱に陥れる処でした。この発言については、事前の専門家会議でも全く議論されておらず、メデイアによると菅官房長官、杉田和弘官房副長官も賛成していないにも関わらず、今井尚哉首相補佐官の進言を首相が受け入れたものだった由で、安倍首相の危機対応とはそんな程度のものかと思わせるばかりです。尚 政府は3月10日、緊急対策第2弾を発表、第3弾を4月に打ち出す予定とのことです。

という事で今次論考では、CODIV-19感染拡大が齎す経済的ショックの現実、そこから窺える次の経済行動、就中、中国を核としたサプライチェーンの次の姿の可能性を考察し、以って企業、消費者の行動について考えていきます。更にコロナ感染の広がりの如何は、米国では11月の米大統領選を揺るがす可能性のある処、日本にあっては東京Olympicsのリスケも浮かぶ処です。そうした事態への見通しをも含め論述する事とします。


第1章 新型コロナウイルス感染拡大と世界経済

1.新型コロナ感染拡大と習近平政権

(1)「COVID-19」危機とグローバル経済
米英を起点とする世界秩序の逆流が進み、世界経済の先行きに不透明感を募らせる中、昨年12月以降、もう一つ、中国発の「COVID-19」(コロナウイルス肺炎感染)と云う難敵が加わり、それが「健康」だけではなく労働市場と経済への危機に繋がってくるなど、欧米の後退トレンドが齎す危機を超えた、多大な影響を世界に及ぼす処となっています。

当該拡大の事情については前述の次第ですが、中国を発症源とした新コロナウイルスの感染拡大で、工場の閉鎖や労働者、一般市民の移動の制限が進み、一方で、中国が防疫策の強化に向った結果、世界の工場と云われる中国経済は機能不全に陥り、これが世界経済を萎縮させ、アジアや欧米の株式市場では株価は軒並み急落を誘引する処です。 前述WHOのパンデミック宣言を待つことなくグローバル経済は、すでに経済的パンデミック状況にあって,中国の体制に根差した, 映画ならぬ「チャイナ・シンドローム」を現実とする処でした。

(2)中国国内で高まる習近平共産党批判
12月8日に新型肺炎の初ケースが報告されながら、対応が本格化したのが1月20日、習近平主席が直接指示を出してからの事。この初動対応の遅れは、チェルノブイリ原発事故(1986/4/26)にも比せられる処、一党独裁下で言論を封鎖する隠蔽体質が初動を誤らせ、被害を拡大したと現地市民が声をあげだすほどと、メデイアの伝える処です。これこそは前出、呉軍華氏の指摘に通ずる処で、中国型独裁制への不満、つまり「国民の安全より、国(共産党)の安全を優先する」姿勢と、習近平政権への批判が広がる処です。( 注:中国本土での患者:7万4185人、死亡者:2000人超, 2月18日現在 )

先月、弊月例論考(3月号)の「おわりに」の項で紹介しましたが、Wall Street Journal, Feb. 7が掲載した記事 ‘From Washington to Wuhan, All Eyes Are on Xi ’(ワシントンから武漢まで、全ての視線が習近平に)は、今次の爆発的感染は共産党政権の独裁の弱点を露呈したものと断じる一方で、1911年、武漢で起きた辛亥革命の第一段階となった武昌蜂起をリフアーしながら、「第2の武漢革命」の可能性を見落とすなと記していたのです。果せるかな、3月18日、中国政府は国内に駐在していた米NY Times, Wall Street Journal, Washington Postの米国記者ほぼ全員を外国に追放したのです。聊か気がかりとする処です。(注:ソ連はチェルノブイリの5年後に崩壊)

尚、3月5日開催の人民大会は感染封じ込めを優先し、先に延期が決定されていましたが、この春、習近平主席の国賓として訪日予定も延期となりました。習氏の延期については、日本側での感染状況を勘案してのこととされているようですが、今、習氏には中国を離れられない政治的事情があってのことではと勘繰られる処です。 因みに、新華社通信は3月10日、周氏は国内で新型コロナ発症以来、始めて武漢入りした旨報じていましたが、自ら陣頭指揮を執る姿勢を見せることで求心力の維持を狙う思惑がみえる処です。

2.新型コロナ感染危機の実像と国際協調 

(1)コロナ感染が齎す経済的ショックと対応
今次、新型コロナの感染ショックは、70年代の危機(注)と対比されることがよくありますが、その様相は構造的に異なるだけに、当該対応策は、その点を踏まえた対応が求められる処です。
(注)1970年代の危機:石油、食料の供給減少で経済成長が途絶え、景気悪化と物価上昇が同時
進行のstagflation発生。各国政府はインフレ抑制を重視し、その後、数十年に及ぶ中銀の役割
が築かれたとされている。

その点、The Economist, Feb.22,2020 は 「Shock therapy – The Covid-19 outbreak presents policymakers with a new sort of economic threat 」と題したコラムは、その違いを解説すると共に、その違いを踏まえた対策をと云うものです。以下はその概要を紹介するものです。

① まず、かつてF.ルーズベルトが発したと云う「我々が恐れなければならない唯一のものは、恐れる事そのものだ」との言葉は、景気悪化の多くの場合にあてはまる。恐れることそのものが引き起こす、投資や消費を避けようとする行動が、経済的な繁栄にたいする最大の脅威であるからだと云うのです。そして既に死者が2000人を超えた新型コロナウイルスによる肺炎、「COVID-19」の感染拡大も決して例外ではない。が、今次新型肺炎が齎す脅威の構造はこれまでのそれとは大いに異なるだけに、従来型の対応では通じないと。

② つまり、ウイルス封じ込めのため工場閉鎖、サプライチェーンの寸断で経済活動を制限。しかも、中国人労働者の移動が制限される限り、世界最大の輸出大国の企業の活動が出来ず、その結果、中国からの供給に依存する企業は在庫が減り、業務縮小を余儀なくされている。一方、感染拡大策が進む結果、個人消費は停滞していく。つまりSupply shock とDemand shockの複合化が進むと。 ― 因みに米アップルは2/17、供給網問題からiPhoneの生産が制限され、売り上げ予想を達成できないとの見通しを発表する処。

➂ ただ、現在の経済状況は70年代と違い、特に世界のインフレは不可解なほど低水準で
推移しており、その点では政策担当者は足元のインフレを悪化させることなく景気刺激策
が打てる。そこで、新型肺炎が世界で猛威を振るうとなると景気刺激策が必要となるが、
問題は、いま金利は既に低水準にあり、中銀の打つ手が限られている。 加えて、供給寸断
が続けば、その対策として新たなサプライヤーを探し契約を結び、新規顧客の開拓も必要と
なる。業を煮やした企業は、中国との関係を断つ時期が来たと判断するかもしれず、実際、
中国に進出の一部企業は台湾への移転を図りつつあると。

④ こうした変化を受けて中国経済が一段と低迷すれば、欧米経済のデフレ圧力が強まる可能性を指摘する処です。尤も、世界がこの20年間 低インフレにとどまった要因と、数十年に及ぶ経済統合の流れが逆に進めば(既に筆者が指摘している処ですが)、眠っていた物価上昇圧力が目を覚ましかねない。そこで政策当事者らは、再び景気低迷下でインフレ上昇と戦うべきか、苦渋の決断を求められる可能性があるとも指摘するが、未知の脅威にさらされた場合、政策当事者は、過剰反応も不十分な対応もリスクを孕むと忠告する。

➄ そして、70年代から得られる最も重要な教訓はおそらく、ショックが起きるとそれまで当たり前だった経済の在り様が、驚異的なスピードで経験したことのない状況に一変してしまう事で、世界はこの教訓を、今回の感染拡大が起きる前にきちんと理解しておくべきだった、と締めるのです。けだしと、する処です。

序で乍ら、英王立国際問題研究所所長のR.ニブレット氏は日経紙(日経 3/3)とのインタビューで「COVID-19が終息しても世界経済がV字回復するか疑問」とし、併せ、中国に依存したサプライチェーンを見直し、脱炭素を真剣に考えるきっかけとせよと、も指摘するのです。ヒトやモノの動きが続々と連鎖する新たな危機構造への対応を示唆する処です。

(2)求められる国際協調とトランプ米国
3月2日、OECDは2020年の世界実質成長率は2.4%との予測を発表しています。昨年11月発表時より0.5ポイント下方修正されています。 中国が3月末までに感染拡大のピークを越すとの前提で試算したとされるものです。前述の通り、感染拡大で生産、物流、消費などの停滞が広がり、世界経済が予想以上の停滞リスクを高め、世界需給ギャップの一層の拡大で、世界経済の長期停滞の可能性すら云々されるだけに、その回避には国際協調による柔軟な政策対応が、強く求められる処です。

まず、2月19日、IMFは世界経済を支えるため各国宛て国際協調を要請。更に2月22/23日、リヤドで 行われたG20財務相・中銀総裁会議では、財政出動を含む政策総動員を謳う処です。(共有される懸念:中国成長の落ち込み、Global Supply-chainの混乱、中国人の旅行、移動の見通し)次いで、3月3日、G7財務相・中銀総裁による緊急電話会議が、更に3月16日、G7 首脳によるTV会議が行われ「必要かつ十分な経済財政政策」の取り組みが確認されました。

ですが、気がかりは、あまりマーケットに響かないことでした。と云うのも、まずはG7の結束力の如何です。つまり、ごく最近まで米中が角を突き合わせ、トランプ大統領はG7首脳を軽んじ、国内の人気取りのために国際協調をないがしろにしてきたツケが回ってきたことが云々される処、そこでリーマン危機直後と同じ結束力が期待できるかという点、です。更には、金融緩和の余地は乏しく、財政出動の資本もおのずと限界のある点です。

それだけに、各国にはより一層の連携強化を図る一方、新型コロナの影響を見極めながら、財政出動の道を探る事が求められる処です。 更に、中長期的な経済の底上げに資するインフラ投資やデジタル投資と云った、いわゆる「賢い支出」を優先することが共通の課題です。もとより新型コロナそのものを封じ込む努力は云うまでもなく、さもなくば企業や個人の活動を正常化するのは難しくなる筈です。

(3)‘市場’が映すコロナ恐怖に強く反応したトランプ政権
そうした環境下、一挙にコロナ恐怖を高めたのは3月9日のロシアとの協調減産合意に失敗したサウジが増産に踏み切ったことでした。同日(時差関係)原油価格は前日比30%超の下落(1バレル30ドル割れ)、NY株は一時2000ドル超安(取引一時停止)、東京株式市場では2万円割れ(19473円割れ),円相場は一時101円代に上昇、等々、コロナ感染で景気減速懸念が高まる中、原油安、円高が追い打ちをかける形で一気にコロナ恐怖を高めたのです。

翌日の3月10日にはコロナ・パンデミクス宣言が出されたこともあり、それまで極めて楽観的だったトランプ大統領は、3月11日夜、ホワイトハウスからの国民向けTV演説で、コロナ感染拡大への対応策として、欧州からの入国禁止措置を発表。更に16日には英国、アイルランドをもこれに追加したのです。まさに米国の水際大作戦です。米国に呼応する如くに、欧州、カナダ、ロシア、中南米諸国も同様「外国人の入国禁止」を発表したのです。
これで地球大での人間閉じ込め作戦が一気に進む様相です。ただ、この結果、懸念されるのが消費の落ち込みです。そしてこれが企業の破綻やリストラから雇用喪失と云う不安の連鎖を呼び、消費の縮小は一時的な現象から長期的な構造問題に転じかねないと云う点です。

この点トランプ政権は、同13日、国家非常事態を宣言。同時に最大500億ドル(約5兆円超)を投じ、検査や治療の体制強化、新型コロナで打撃を受けた企業や個人の支援も強化する、方針を明らかにしたのです。そして、翌14日には議会下院が野党・民主党の経済支援策(コロナ無償検査、有給病気休暇、失業保険の拡充、低所得者向け食糧支援、等)をも可決。 更に21日、米欧の4~6期成長率のマイナス幅が前期比年率換算で10%を超す見方が浮上してきたことから、同日、クドロー米国家経済会議議長は、財政支出が1.3兆~1.4兆ドル、そしてFRBの追加対策を加えて経済対策はGDP(21兆ドル)の10 %程度規模の対策が必要と発言、25日未明、与野党議会指導部はコロナ対策を2兆ドルと合意決定。これは2008年の金融危機対策(7000億ドル)を上回る数字です。

勿論米国のみならず、欧州でも、ドイツが財政健全化政策を棚上げし、中小、零細企業への短期的な資金繰り策として1500億ユ-ロ(約18兆円)を景気対策の柱に、又英国では300億ポンド(3兆9千億円)規模の財政対策を発表するなど、経済対策拡張に、まさに向かう処です。

          第2章  新型コロナ感染拡大と、二つのテーマ
 ― 米中経済関係のDecouplingと、米大統領選

1.問われる中国依存のグローバリゼーション
            
米中貿易戦争を以って米中デカップリングが云々される中、それは神話に過ぎないと論じた米イエール大教授のS.ローチ氏のessay(1月3日付)を弊論考(2020/2月号)で紹介しましたが、それが神話ではなくなりつつある現実が生まれてきました。理由は勿論、前述の通りCOVID-19による新型肺炎で、中国と一部先進国との経済面でのデカップリングが一層の注目を集める処、つまりは対中依存の限界が俎上に乗ってきたと云うものです。

既に触れたように、工場の操業停止、消費もぱったりと止まったため、多国籍企業は中国での生産を移管させざるを得なくなっている処、米アップルも前述したように投資家に対し、コロナの影響で売り上げが落ち込むと明言する処です。日本では2月10日、日産自動車が九州の完成車工場を中国からの部品調達が困難となったとして工場の稼働の一時停止を決めましたが、まさに中国依存のサプライチェーンが新型コロナのお陰で機能しえなくなった、日本が経験した初の事例でした。

(1)変わる多国籍企業のグローバル化対応
さて、Financial Timesは2週にわたり、今次の‘コロナ事件’で多国籍企業のglobalization の様態が変る事になるとする、同社Columnist, Rana Foroohar氏によるessay,2本、‘Coronavirus speeds up global decoupling ’(Feb.24)と‘Margins are going to be squeezed’ ( Mar.2) を掲載しています。

① 前者は新型コロナ肺炎拡大で中国と一部先進国との経済面のデカップリングが一層注目を集めている事情を伝えるものでした。それは世界経済のデカップリングは数年前から徐々に進行してきたとし、その具体例として、韓国のサムスン電子は中国の工場を閉鎖し、ベトナムに新工場を立ちあげた事、一部米企業はサプライチェーンを自国に近いところに移してきたことで、メキシコはその恩恵を受ける処、こうしたデカプリングは、今後更に加速するはずとするのです。つまり、COVID-19の蔓延に対する中国政府の不透明な対応が、中国で事業を展開するリスクを浮き彫りにしているからだと云うのです。

そこで興味深いことは、「ウイルスとデカプリングの間には類似点がある」と云う彼女の指摘です。双方とも表立って見える事、見えない事があるというのです。前者についてはマスクや混乱、そしてサプライチエーンの移転や利益予想の下方修正。後者は、コロナによる犠牲者の数がどれほどになるか、或いはグローバル化が解消されて亀裂が深まった場合、5~10年後の世界は経済・政治面でどのように変わってしまうのか、と云ったことだと云うのです。そして具体的に差し迫った課題として挙げるのが台湾における半導体事業です。

台湾の地元企業が世界の半導体の大半を生産しているのですが、中国はまだ技術的に自立できていない重要分野と指定する処です。だが半導体には設備投資と研究開発が必要で、この為中国が半導体を国産化できる産業として育成する迄10年はかかるかもしれず、それまでは米企業に部品を供給しているだけでなく、民主主義へのサポートを拡大している台湾に依存していく事となるが、そこで米中双方がそれぞれ独自のハイテク産業を構築しようとする中、台湾の半導体産業は政治問題になるか、そうなる場合いつなのかと。要はいつまでも台湾が半導体を米中両国に供給し続けられないだろうと云う前提の事だと云うものですが、これらすべてが世界経済と地政学の形を根本的に変えるかもと、云うものです。

② 後者は、多国籍企業の経営行動の変化についてです。多国籍企業は、業務効率を高度に最適化し、複雑な仕組みを以って経営する企業と云え、これが好調な利益を上げてこられた背景には、中国で生産した製品を欧米で販売し香港、ダブリン、ケイマン諸島などのタックスヘイブンで富を蓄積する仕組みを構築してきたことに負うものとしながら、一方で複雑な組織構造につきものの脆弱性を回避するために事業モデルの変革を迫られる日がいずれ訪れると考えてきたが、ついにその時が来たようだと云うのです。

つまり、今次のCOVID-19の感染拡大を受け、米国経済と中国経済のデカップリングが加速し、消費地に近い場所に生産拠点を置く傾向はますます強まると云うのです。そして、Mike Pyle, BlackRock’s chief global investment strategistが云う「supply chains that are less efficient but more resilient」(効率性では劣るものの耐久性に勝るサプライチェーンができる)との指摘に通じる処とするのです。そして新型コロナ問題が一段落すれば、decoupling やdeglobalization の潮流は勢いを増すとも予測する処です。いずれにせよ消費地に比較的近い場所に拠点を置くと云った傾向が強まっていくと云えそうです。

(2)新型コロナ騒動後の世界経済
勿論、株式市場が再び回復しはじめる可能性は十分あるでしょうし、世界の中銀の追加的金融緩和措置や新型コロナの感染終息が好材料になっていくでしょう。が、これが完全なV字回復の軌道を描いていけるかと云うと多くの疑問が指摘される処です。つまり、今次のコロナ事件で、従来のシステムに内在する深刻な脆弱性が暴露されてしまったからと、云うのです。とすればこのための修復作業こそが、次の経済に係る大きな課題となる処です。

2.新型コロナ対策と11月米大統領選

(1)トランプ氏を巡る政治環境
今米国は大統領予備選の真っ盛り、と云ってもその賑わいは、民主党の候補者選びであって、民主党候補が誰に絞られるかですが、共和党については現職大統領のトランプ氏で実質的には決定されており、しかも下馬評では彼の優位が伝えられるだけに、同氏は民主党の候補者選びを、ゆとりを以って観戦する処でしょう。ただ、ここに至って新型コロナの推移の如何では、その優位が崩れかねない状況が生まれてきたのではと思われるのです。つまり彼はCOVID-19の国内感染は拡大しないと極めて楽観的で、国民に株を買ってくれることを望んでいると報じられるほどでした。が、前述の通り自らは国家非常事態宣言を発するなど、情勢は予断を許さぬ状況へと変わってきたようです。

トランプ氏にとって最も優先すべきは、11月の大統領選挙に向け、経済成長を維持することで、当局者たちはCOVID-19の脅威を割り引いて話すよう指示されていたとの由でした。と云うのもウイルス感染が広がった場合、彼は二つの点で、一つは米経済の成長が損なわれる事、もう一つは新型肺炎に楽観的見解を呈していたことで国民の信頼を失う事になると見られているからです。 

(2)トランプ氏のCOVID-19対策も大統領選狙い
その点で、トランプ氏とCOVID-19を巡る新事情について日経ビジネス(3/9)が伝えるフイナンシャル・タイムズのコメント、COVID-19がトランプ政治にもたらす影響、は極めて興味深く伝わる処、そこで、筆者の個人的見立てをも含め、その概要を以下に、紹介しておきたいと思います。

① まず「適正が重要」と云う事に有権者が改めて気づくことだと云うのです。感染症に対峙する者の適正として、科学的な知識を受け入れることが重要だとし、トランプ氏がCODIV-19対策の責任者にマイク・ペンス氏を充てたことを挙げるのです。と云うのも同氏は生涯にわたり科学を疑い続けてきたとされる人物です。トランプ氏は昨年、国土安全保障省のコーデイネータを解任すると共に、世界の健康安全保障に関する業務を廃止しています。そして、オバマケアの撤廃を主張し、CDC(米疾病対策センター)とWHOに係る予算も大幅削減を提案していますが、トランプ氏にとって医療制度の問題が大統領選の争点と浮上する可能性が出てきたと思料される処です。トランプ氏は何年もの間、専門家の価値を過少評価してきていますが、専門家を必要とする今、同氏がどういう態度をとるかだと云うのです。

② もう一つ考えうる事として、米国が掲げてきた「開放性」に及ぶ事と、云うのです。
トランプ氏は長年、グローバル化を激しく非難してきていますが、現在、多くの民主党議員がこの姿勢に倣い始めていると云うのです。民主党候補に名のりを上げていたE.ウオーレン氏は2月下旬、米国が世界のサプライチェーン、特に中国のそれに依存していたことが、今回のウイルス騒動で露呈したと指摘していたのです。そこで今、パンデミックが起きれば米国の政策が反グローバル化に大きく傾く可能性があると云うのでした。(注:民主党は本来、労働者側にあり、グローバル化が雇用機会を奪うとは予ての立場。)

➂ 最後に、COVID-19が米国に大きな被害を齎した場合、おそらく、馴染みの現象を引き起こすだろうと云う点です。つまり「インフォデミック」です。トランプ氏は事実と異なる内容を発信する傾向がある処、未だその動きはないものの、COVID-19に再選を脅かされることがあれば話は違ってくると云うのです。

いずれにせよ大統領選での焦点はコロナ拡大への対応力の如何と、なるのではと思料するのです。3月11日、トランプ大統領はホワイトハウス執務室から国家非常事態宣言を発した際、「政治や党派対立は横において一つの国家、一つの家族としてまとまらなければならない」と国民の団結を訴えていました。「怒りと分断」をエネルギーとする同氏にしては「大統領らしい」演説だったと評されていましたが、これは厳しい批判に曝されて追い込まれた末のことと云え、明らかにその辺の焦りが窺える処です。

          
おわりに  危機はいずれ終わる

今次のコロナ危機への政府対応、言い換えれば危機対応のあいまいさは、冒頭で触れた通りですがすが、安倍首相が説明の都度,政府専門家会議の権威を笠に着て、右往左往する政府の姿は、放射能漏れを起こした東電福島第一原子力発電所の事故対応とも映る処です。原発事故を受けて政府は独立性の高い原子力規制委員会を作り、専門家の見地から安全確保に万全を期す仕組みを整えたとされていますが、いま足元で政府の専門家会議がイベント自粛などと打ち出す姿は、今なお規制委が原発を動かすかどうかと揺れる様に重なる処です。

そもそも実態がよく見えない今次のようなコロナ・リスクに対抗せんとする場合、何よりもまず国民を安心させることが大前提です。そのためには、専門家の意見を束ね、‘政治’としてどのように対峙せんとするのか、まず国民に示していく事です。そして持てる情報をオープンにしながら、感染リスクにいかに取り組むか、関係諸国との連携も含め、その姿勢を素早く示していく事ではなかったかと思料するのです。安倍政権のやり方はまず小出しをしながら、つまり様子を見ながらの小出し政策です。これでは国民を惑わすだけで、まさにトランプ氏が非常事態宣言時、期待したような国民の団結等生まれるはずなく、まさに安倍首相らしいやり方と批判の集まる処です。

・危機はいずれ終わるのです
とは云え、欧米のウイルス流行拡大の様相をTVニュースで見ている限り、彼らの医療や公衆衛生が、我々が考えている以上にウイルス流行に弱いことが伝わる処です。一方、日本はどうか、勿論、まだ問題を抱えていますが、日本の死亡者数は大きくは増えていませんし、中国ほど市民行動を徹底監視せず、手洗いやマスク、企業や個人それぞれの行動の変化でウイルス蔓延を防いでいます。 これは日本社会の強さだと、語るのは阪大准教授の安田洋祐氏です(日経3/25) そして、今次のコロナで見えた日本の優位性を海外にアピールできれば、高度な技術を持つ外国人を積極的に集めることができるし、そしてこの人材を生かし、他国から遅れているデジタルシフトを進めれば、次の成長に繋がると、指摘するのです。まさに、筆者の予の思いに通じる、極めて然りとする処です。

コロナショックを契機としてTV会議が普及してきていますし、これが会社の意思決定をも変えていく事になるものと思料するのです。かつてオイルショックで日本の省エネが一気に進んだように、これをきっかけに日本企業の古い部分が一気に変わる、働き方改革にも繋がる処ではと、期待する処です。コロナ危機の拡大は続いています。そして今尚、我々を取り巻く空気は暗いものがある事否定できません。でも、その危機はいずれ終わるのです。その思いを強くし、これを機会として革新行動を目指すべきときではと痛く思う処です。

序で乍ら一言。安倍首相は一人で判断し、緊急特別措置を取る事としたと云った際、追ってこれが法的措置となるようしたいと云うのでしたが、改憲においては緊急事態条項の導入にこだわる彼だけに、悪乗りすることがなければと、気にかかる処です。と云うのも緊急事態宣言の発令は私権制限を伴う事になる点で、民主政治における大問題となる処です。(果たせるかな、13日、関係法案「新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案」は国会を通過、緊急事態宣言の発令が可能となりました。)  ( 2020/3/25記 )
posted by 林川眞善 at 10:28| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2020年02月25日

2020年3月号  世界は今、Backward Regression - 林川眞善

目 次

はじめに 後退する戦後世界の経済秩序
  ・大西洋憲章(Atlantic Charter)
             
第1章  海図なき船出のジョンソン英国

 1. 英国のEU離脱
  ・離脱後の英国の行方
 2. 英国が抜けたEUの生業
 (1)NATO(North Atlantic Treaty Organization : 北大西洋条約機構)
(2) 欧州産業政策 ( European industrial policy )
 
第2章 管理貿易指向を強めるトランプ米国

1. トランプ貿易協定と世界経済
 (1) 管理貿易指向を強めるトランプ政権
(2) Tearing up the rulebook
2. トランプ大統領の年頭教書
  ・一般教書( State of the Union Address)
  ・米大統領選

おわりに いま世界はコロナショック    
 1 コロナショックと習近平政権
  ・Wall Street Journalの警鐘
 2 日本経済の焦点は今
  ・日本は大丈夫か
          ----------------------------------------------------------


はじめに 後退する戦後世界の経済秩序

・大西洋憲章(Atlantic Charter)
現下で露とする英米の自国主義、その行動様式を観ていくとき、銘記されるべきは戦後世界のビジョンとなった「大西洋憲章」です。それは、1941年8月、F.ローズベルトとチャーチルが大西洋上で英米首脳会談を行い、第2次世界大戦後の連合国の戦後処理構想、国際協調の在り方について宣言したもので、民族の自決、自由貿易、国際的な経済協力、平和の確立、武力行使の法規と安全保障システムの確立、等8条からなるものです。(尚、これに至る経緯事情はここでは割愛)そして戦後、創設された国連は、この憲章を基礎とした安全保障システムに他なりません。 
一方、世界経済の再建を目指し、大西洋憲章の精神を映す形で、民主主義、自由主義を以って、やはり英米が主導する形で、いわゆるブレトンウッズ体制(世銀、IMF)を構築、以って世界経済のサポーテイング・システムとして今日に至った事、周知の処です。
つまりは戦後75年、良い、悪いはともかく、今日云うG7メンバーの英米が主導する形で、国際協調をキーワードに世界の秩序構築を果たし、今日の繁栄を齎してきたと云う事です。

が、こうした路線構築に努力してきた本家たる英国と米国が、いわゆるポピュリズムに応える形で自由主義、国際協調路線に背を向ける中、今年に入って、その動きが具体的、極めて先鋭的に現れて来ています。

その一つが2020年1月31日の英国のEUからの離脱です。これは欧州(EU)諸国と共に発展していくとした協調路線の忌避と云うものです。もとより欧州諸国は、これまでの秩序維持に向けつつ、独自路線の強化に向かう処です。一方米国は、「米国第一」主義を叫ぶトランプ大統領の台頭で、対外的には多国間交渉の協調路線を忌避、対米貿易関係については、デイールを前提とした二国間貿易協定を強行、これが管理貿易の様相を強め、世界的な貿易秩序の混乱を招く処、その典型を、米中貿易交渉「第一段階の合意」に見る処です。
つまりgoing my way の英国、これまでの国際秩序を守りたい欧州、新しい覇権争いに入った米国、この三すくみの構図が、世界の先行きに不確実さを高める処となっています。

そこで本稿では、海図なきまま船出したとされるジョンソン英国とその後のEU、そして管理貿易指向を強めるトランプ米国、それぞれの実態を改めて整理し、今後の行方について考察する事とします。尚、こうした環境の中、中国発のコロナウイルスによる肺炎感染が世界的広がりを見、世界経済の今後に不透明感を深める処、時に「パンデミクス」への懸念すら呼ぶ処です。 そこで、おわりにその現状、とりわけ習近平政権の行方にフォーカスすると同時に、日本経済の行くえについても併せ考察する事とします。


            第1章 海図なき船出のジョンソン英国

1.英国のEU離脱

2020年1月29日、欧州議会は英国のEUからの離脱を定めた協定案を賛成多数で可決。既に英国側では関連法案を成立させ、手続きを終えていたことで、予定通り、2020年1月31日、英国は2016年国民投票が示した民意、EUからの離脱、が3年半を経て実現しました。これで、47年間の加盟に幕を下ろすとともに、2月1日以降は単独国家として、つまりは離脱派が目指した国家主権の回復を謳歌する形で、問題は多々ながら、自らの進む方向を目指すことになったと云うものです。かかる行動は、俗に言う「グロバル化」を横に置き、「民主主義」の下、英国主義と云う「国家主義」にシフトしたと云う事であれば、ダニ・ロドリック教授の云う「グローバリゼーション・パラドックス」(2013/12/20)を実証したと云うものなのでしょうか。

英国はEUにあっては、ドイツに次ぐ第2位の経済大国です。それだけに英国が抜けたと云う事は、EU拡大戦略のとん挫を意味する処、要は欧州の戦後秩序に幕を下ろすことになったと云うもので、まさに歴史的な節目を迎えたと云うものです。そして、英国が自国優先に転じたことで、国際協調を重んじる「西洋の価値観」を傷つけ、同時に自らは欧州における発言力を失う結果となったことに、聊かの寂しさを禁じ得ない処です。離脱2日前、1月29日付けFinancial Timesで、Mr. Martin Wolf が`Britain will not be alone but will be lonelier ‘と記していましたが、そのニュアンスに、思いは尚更となる処です。
更にThe Economist, (Feb.1st )巻頭論考「Into the unknown」では、ジョンソン首相はとにかくEUからの離脱だけを目的とした行動 (Mr. Johnson was focused entirely on leaving the EU)で、実際、国として取り組むべき問題に(例えば 中国・フアーウエイ製品の使用問題も含め)真剣に対峙しようとはしていない、つまりは海図を持つことのないままに大海に船出したと、手厳しく批判する処です。
     
・ 離脱後の英国の行方
さてこれから英国が対峙していく課題、問題と云えば、何としても貿易協定の取り扱いです。今年12月末までは激変緩和のために「移行期間」が設定されており、この間に英国はEUとの間で、新たな関税や貿易ルールを定めたFTAの合意を図る事が不可避となる処です。 因みに、英国の自動車生産の半分はEU向け輸出で、これまでEU加盟国として、これまで関税なしで輸出されていたものが、FTAが締結されない場合、10%の関税がかかる事となり、英国の自動車づくりは競争力を失う一方、82万人と云われる自動車関連の雇用は、英製造業の3割を占めるだけに、その打撃は大きく、従って早期決着が喫緊のテーマとなる処、色々な要素が絡むだけに綱渡りの交渉を余儀なくされていく事になるのではと思料する処です。勿論、貿易以外で医薬品や化学品の規制問題への取り組み調整、等々問題は山積みで、仮に期限内に当該関連事項の整備が出来ない場合、無秩序な離脱となる懸念の残る処です。

さて、ジョンソン首相は2月3日、新たなFTAの交渉に向けた方針をそれぞれ発表しています。まず、EUとの間で関税復活を避ける事、FTAの在り方としては、規制の調和は求めない「カナダ方式」(注)を追求する事。(注:カナダとEUの間で2016 年2月合意したFTAでは、物品貿易について、7年以内に相方関税品目の98.6%を撤廃するとしている)そして、製品や環境基準、政府補助金等、産業政策面で、今後EUルールに従わない方針を、明言したのです。

要はEUルールに縛られずに、独自の産業政策の下、ITや金融などの成長産業を通じて経済成長を追求するものと云え、貿易でも米国や日本などとも通商交渉を進め、今後3年で貿易の8割をFTAでカバーすると語る処です(注)。

       (注)因みに、EU離脱後の戦略として英国もアジア太平洋地域との関係強化を謳う処、2月8日にはラーブ英外相が訪日、日英関係の緊密化について話し合われた由。尚、離脱後初の外国訪問先は日本の他、オーストラリア、シンガポール、マレーシアとの由。

が、ジョンソン氏の思考様式と関係諸国のそれと如何に整合されるか、なお、危惧の残る処です。因みに、「5G」の通信網で米国は、長期的な安全保障と経済的影響に照らし、中国のフアーウエイ社製品の完全排除を、英国を含む同盟国に働きかけています。が1月28日、英国はこれを容認したのですが、米国は「特別な関係」を築いてきた英国の離反と、見直しを迫る状況に、ジョンソンvsトランプのさや当てともいえる微妙な雰囲気が伝わる処です。
つまり、英国は対EUだけでなく対米でも関係悪化を甘んじて受け入れることとしたと云う、ある種国際関係における緊張感を醸成する処です。

ジョンソン政権下で果されたBREXIT、その結果として対EUでは貿易政策等、見直しが喫緊の課題にある事上述の通りですが、それ以上に重要なことは、国民投票で離脱を決めてから3年半、政治の混乱を経て迎えた歴史的な節目ですが、それだけに地域の格差や世論、様々な社会の分断を抱えたまま、新しい時代に突入したと云え、この分断状況を克服、結束し、前進することができるか、何よりも基本問題として残る処です。そして云えることは残念ながら英国は、もう民主主義の「モデル国家」ではなくなったと云う事でしょう。

それにしても上掲、エコノミスト誌、Into the unknown が、締めとして伝える下記言辞こそは、肝に銘ずべきと思料するばかりです。

― Britain’s future is full of uncertainty. To find No longer part of one of the great global blocs, it has to find a new role in the world. ----- The difficulties should not be underestimated. But when Britain previously reset its course, in 1945 and 1979, the choices it made helped reshape the world. It should aim to do that again.

2.英国が抜けたEUの生業

戦後の西欧は、英独仏三カ国の絶妙な勢力均衡が、その土台となってきました。然し、その土台を揺るがし出したのが自国主義を標榜するトランプ米政権の台頭ですが、そこに英国の離脱が重なたことで、一挙に地政学的バランスの如何が、問題として急浮上する処です。
具体的には、一つは欧州の安全保障体制、もう一つは欧州経済の競争力の問題です。

(1)NATO (North Atlantic Treaty Organization : 北大西洋条約機構)
欧州の安全保障体制は、米主導で始まったNATOに依存する処、米国第一主義を標榜するトランプ氏は、不公平な経費負担のもとで、なぜ米国が欧州の安全保障を守る必要があるのかと、侮蔑的姿勢をもってEUに対峙する近時姿勢に(注)、昨年5月にはメルケル独首相が ‘我々が他者に完全に頼る事の出来る時代は終わった’ と語り、更にマクロン仏大統領は‘欧州安全保障は米トランプ政権には頼れない’(The Economist, 2019/11/9, A continent in peril)と語るほどに、両者の亀裂を深める様相にあります。そしてマクロン氏はもはや欧州軍編成の必要性を指摘する処です。

       (注)昨年12月4日のロンドンでのNATO首脳会議では、トランプ氏は軍事費のGDP
比2%への引き上げを強硬に主張、共同防衛にはトランプ氏は絶対視しない姿勢を示唆、
するなどNATOの安全保障の枠組みの揺らぎを感じさせている。

そうした流れの中、斯界の関心を呼ぶのがEU内politics、つまり独仏のバランスです。昨年、2019年1月22日、独仏両首脳は政治経済のみならず軍事分野までも連携強化を目指す「独仏アーヘン条約」を締結していますが、それも ‘強いドイツがドイツにとっても欧州にとっても求められている’ のに、ドイツ国民の大方は,そのような役割を果たすことになお否定的であることに苛立つマクロン氏の姿を映す処とみられています。そうした状況にあって、ドイツとフランスのパワー・バランスを変化させる可能性が強い、そのポイントが英国の存在だった、と云うのが外交評論家の舟橋洋一氏です。

つまり、「東西ドイツの統一の際、ミッテラン仏大統領は統一に反対するサッチャー英首相の ‘脅威 ’を、ドイツに対するレバレッジとして用いて、コール独首相から欧州通貨統合への確約を取り付けることに成功している。が、フランスは今後、そのように英国とパワーを重ね合わせることでドイツをバランスさせる外交の妙は期待できないかも」と、云うのです。更に世界の超大国として登場しつつある中国に、英独仏がどのように対応するかも今後欧州の大きな地政学的要素となるが、さて独仏が共同歩調をとることができるか、と質す処です。が、産業政策面では後述するように、ドイツはフランス流にシフトし出す様相にあり、その点ではEUの新たな可能性を感じさせると云うものです。

とにかく、英国の離脱で大きな影響を受けそうなのが、英国の拠出が無くなるEU予算(英国の拠出比率は約1割強)であり、外交・安全保障政策です。 前者は英国の抜けた分を如何に他27メンバー国でどう分担するかですが、後者については、英国は外交・安保面での存在感が極めて大きく、防衛支出はEU内ではトップ、フランス同様国連安保理の常任理事国であり、核保有国でもある点で、EUとしての影響力を保持するため、外交・安保政策では従来通りの協力を英側に求めていく事にはなるのでしょう。もとより英国としても外交・安全保障政策に関しては、米、EU双方と等距離で臨むべきものと思料する処です。

(2)欧州産業政策(European industrial policy)
EU欧州委員会は、2月3日、ジョンソン英首相の方針表明に応える如く英国とのFTAなど将来関係を巡る交渉方針を発表しました。英国が関税ゼロの継続を追求せんとする中、一方的な規制緩和などで競争力を不当に高めることがないように「公正な競争環境」の確保を最重視するもので、それは、前出ジョンソン首相が云うように、EUのルールに合わせないのならば、英側に関税ゼロ等の通商条件は認めない姿勢を鮮明とするものです。 つまり、英国が「第三国」となった今、英国とEU加盟国の間では競争が発生する処、これまでEUの厳しい基準に合わせていた英国が、規制や補助金制度を独自に緩和すれば加盟国が不利になると、英国の抜け駆けをチェックせんとするもので、「公正な競争」最重視です。

ですが1月18日付けThe Economist は、その状況が変わりつつある、Europe is rediscovering its penchant for statist intervention(欧州の産業政策はいま、国家主導型に傾きだした)と指摘する処です。その背景にはEU各国には開かれた貿易と投資と云う政策では、世界との競争に伍していけないと云う共通認識が広がりつつあるため、と云うのです。

同誌記事は「欧州は技術開発に乗り遅れ、今や技術は米国が牛耳る。中国企業は政府からの手厚い保護と支援で今や欧州の競合と対等に戦える。欧州以外の地域では、量子コンピューターや次世代自動車など画期的な技術革新が相次ぐ。ならば国家による支援と云う諸外国と似た政策を導入すればEUの産業も再び世界トップと比肩できるようになるのでは」と。そして、英国のEU離脱が決まったことも、政府による介入への懐疑的な見方を和らげる一因となったともいうのですが、最大の理由は、ドイツの考え方の変化にあるようです。フランスは以前から大規模な公共事業と緩い競争法支持してきたが、ドイツでは政府が市場のルールだけ決め、後は企業にお任せ、としてきていますが、この方針が近年、ドイツには仇となったと云うのです。そのドイツの政策転換が、まだ途中の段階ながら、フランスの方針へと振れつつあると云うのです。

この3月にはフォンデアライエン委員長は、EUの競争力回復のため、新たな産業戦略を発表することになっていますが、その際はドイツの政策転換も明確になっていくだろうし、いまこそ欧州は産業戦略をどうすべきか考えるべき時と指摘するのです。これまでは労働者のスキルやサプライチェーン、中小企業の育成と云った陳腐なお題目を繰り返すだけでお茶を濁してきたが、今回は大幅な政策転換が期待できそうだと云うのです。

尚、この指摘はまさに今の安倍経済政策に求められる視点です。つまり、アベノミクスは
頑なにトリクルダウンに固執し、本格的な税・社会保障改革に手を付けぬままにあるのですが、今日のデジタル経済では付加価値が一部の経営者や株主に集中するためトリクルダウンは生じません。手をこまぬいているうちにAIによる労働代替効果も加わり、中間層の崩壊や格差拡大でポピュリズムを招く処です。EUの政策姿勢をreviewするにつけ今日の国家に与えられた役割、つまりは所得再分配こそ、確実に取り組むべき時と思料するのです。


第2章 管理貿易指向を強めるトランプ米国
 
1.トランプ貿易協定と世界経済

(1)管理貿易指向を強めるトランプ政権
上述、英国のEU離脱が、拡大発展を目指してきた欧州の流れを逆流させる一方、トランプ政権が主導する二国間貿易協定も、自由貿易の流れをまさに逆行させる処です。

今年に入ってからと云うもの、トランプ政権は1月15日、中国との貿易交渉を巡る「第1段階の合意」で正式署名を交わし、それとは前後して、1月1日には日米貿易協定(国会承認2019/12/4)が発効、又、1月29日には、NAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新協定「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定) 」が締結され、日本、中国、北米と立て続けに、米国第一主義に沿ったトランプ貿易協定、3連ちゃんの成立です。

勿論、いずれも大きな経済成長や雇用創出につながる枠組みと、主張される処、トランプ氏はFTAと距離を置き、例えば、NAFTAに代わるUSMCAでは、その呼称からはFree trade、自由貿易の表記は消え、現地生産については材料の現地調達比率を厳しく規定する処です。又トランプ政権が主導する二国間貿易協定では、貿易の安定的拡大を図るためとしながら、日米貿易協定の場合、商品を特定し、当該商品の輸出量、輸入量を予め両国間で取りまとめ、以って日米貿易の枠組みとするもので、その限りにおいて極めて管理的となるものです。

又、米中貿易協定は、あくまでも米国の対中貿易のインバランス是正を目的とした、従って米中貿易は双方合意の数量、金額を枠組みとするものとなっています。具体的には中国の対米黒字の縮小に向け、米国製品の追加購入分を今後2年で2000億ドル(約22兆円)、上積みすることを盛り込んだものとなっています。こうした米中と云う二大経済大国が、国家レベルで巨額の貿易額を2年にわたって設定するのは極めて異例。この趣旨の下、二次合意交渉が近々、予定されている由ですが、11月の選挙後になるかもとも言われており、関税合戦そのものの終結は依然見えてはきません。いずれにせよ管理された貿易が、日欧や新興国の対中輸出に打撃が及び、国際通商体制の動揺が続くことになる事、云う迄もない処です。

トランプ政権が標榜する米国第一主義の下、米国の利害に即した貿易協定が導入されていくことは、これまで米国が主導してきた ‘自由貿易を通じて世界経済の成長を’ とのコンセプトへの敬意もなく、まさにTrump’s Backward March on Trade (Anne O. Kruger)の態を成す処、その実態はと云えば、利己的で無礼で信用できないものと映る処です。

(2)Tearing up the rulebook 
The Economist (Jan 25),は、こうしたトランプ政権の貿易行動を「Tearing up the rulebook 
- The costs of America’s lurch towards managed trade」(ルールブックを破り捨てた米国―
管理貿易に傾く米国)と、激しくその理不尽さを突き付ける処、以下はその概要です.

―1月21日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(いわゆるダボス会議)に現れたトランプ大統領は居並ぶ世界の有名人たちを前に、米国の通商政策の抜本的な改革について豪語した。まず1月15日の中国との「第1段階の合意」によって貿易の障壁は低くなり、知的財産も守られるとし、又米国のサービス、エネルギー等々、の輸入を無効2年間2000億ドル増やすと約束したこと、について得意げに語った。実際、これは貿易ルールではなく購入額の水準について合意したことは、米国の通商政策が根本的に変わったことを伝えるも、決して良い方向への変化を語るものではない。

―トランプ氏のような重商主義者は、貿易を2通りのアプローチで管理する。外国企業の対
米輸出を抑えるか、または米国製品をもっと購入するよう外国に促すかだが、今次の中国と
の合意のように貿易相手国が米国製品の輸入拡大に合意する例は一般的でない。
最もよく知られているレーガン政権時の日米半導体協定は、日本の半導体市場での外国品
シェアーを20%に引き上げると云う約束をさせたものだが、これは米国側の貿易赤字を
減らすことよりはむしろ、不当に閉じられている市場をこじ開ける事にあった。

―今回の米中合意をつぶさに見ると、無駄やゆがみが生じるリスクが浮き彫りとなる。合意
された中国への輸入増加の規模とスピードはすさまじく、米ピーターソン国際経済研究所
によると、中国は2020年末までに特定の米農産物の輸入を17年比で60%, 工業製品の輸
入を65%増やす約束をした事になる。しかもこれは、中国の経済に関係なく実行されねば
ならないこととなっていると。かつて日本も国内需要における輸入品の割合を高める事に
同意したが、中国は金額を具体的に決めて購入を約束している。従って中国は普通であれば
必要のない、或いは他国から買い付ける品物を米国から購入すると約束した恐れがある。

―そこで、米中の合意が定着すれば、世界の貿易システムを脅かすことになる。皮肉なこと
に現在の貿易システムは、米国が1990年代に管理貿易では機能しないと判断した末の帰結
だ。つまり自分が管理貿易をやりながら、他国に自由市場の長所を解くことが難しいことと
悟った米国は、WTOの創設に向けて動いた。力ではなく、ルールに基づいたシステムに向
け舵を切ったのだが、トランプ氏はそのルールを一貫して傷つけてきた。

―今回の中国との合意も、WTOのルール等大したものではないとの見方を勢いづける処、この合意はあっさり崩れ、新たな敵意のぶつかり合いの先駆けになる恐れはあると。
つまり米国は輸出についても管理を強めており、そのことは、中国が米国から輸入する選択肢を狭めるかもしれない。従って今回の合意がどうなろうとも混乱は不可避だと思われる。それが明らかになる時、トランプ氏がまだホワイトハウスにいるかどうかわからないが、と。
(注:中国はそのタイミングを測りながら米国に対峙していくと云う事でしょうか)

さて、前世銀首席エコノミストで、現在、Johns Hopkins大教授のAnne O. Krueger氏も、1月20付けで、こうしたトランプ政府の貿易行動に「Trump’s Backward March on Trade」と題しProject Syndicateに投稿していますが、現状について、国際的協調等お構いなく、まさにポピュリズムに乗った、独善的な行動を映す結果と総括しながらも、仮に、次期大統領選でトランプ氏が再選されれば現状はより専横的になっていくのではとしながらも、彼でなくとも共和党の誰かが大統領になっても、これまでの米国民を分断してきた深い溝はすぐには埋まる事はなく、その流れは大きく変ることはないだろうと指摘するのです。

問題であった弾劾裁判も2月5日、上院での無罪評決を得た今、トランプ氏はこの結果を逆手に取る如くに、大統領選に有利な材料と、敵を誹謗、中傷しまくる事でしょうし、米国の権威を傷つけつつ、そして大統領への再選で、`あがり’となるのでしょうか。実に忌まわしい状況が続くかと思うと、居てもたってもいられない思いに駆られると云うものです。

2.トランプ大統領の3大年頭教書
そうした中、2月4日ワシントンDCではトランプ氏による3大年頭教書の内、一般教書演説が行われました。が、それは国を纏めると云う大統領の役目を、もはや放棄したかの一般演説だったと、メデイアの多くは評する処です。2月6日付け日経に掲載の「米大統領の一般教書演説要旨」をベースに当該演説をレビューしたいと思います。

・一般教書(State of the Union Address)
当該教書は定められた通りに、「経済政策」に始まり、「安全保障」、「教育・医療」、「不法移民問題」、そして「外交」で終わるものでした。本来なら、State of Union、国の現状を報告し、これからの1年の運営方針を語り、国民が一体となって前進しようと云うものの筈ですが、冒頭の経済政策では、雇用創出(ブルーカラー好況、等)や,貿易協定の締結(対中貿易交渉締結、NAFTA見直し、等)など、その実績を挙げ、「公約をまもった」と誇示し、「偉大な米国の復活」とアピールするものでした。が一方、大統領選の争点となる医療保険では「社会主義者に米国の医療制度を破壊させない」と国民皆保険を唱えるサンダース上院議員ら民主党左派候補をあてこするなど、11月の大統領選を睨んだ、事実上の選挙公約の意味合いを感じさせる異例の演説でした。 因みに昨年まで盛り込まれていた「結束」の二文字は完全に消え、加えて昨年、世界を翻弄させた北朝鮮に対する言及もないままです。

なお指標的(注)には確かに米経済は過去最長の景気局面にある処です。トランプ氏は以って「ブルーカラ―好況」と云うのでしたが、その恩恵は富裕層に集中しており、上位1% の富裕層が米国全体の所得の2割を占める処、経済格差は戦後最悪の状況にあるとされていますが、彼がどう認識し、どう考えているのか。肝心な点は伝わることはないままです。

   (注)好調を示す経済指標:
米労働省が2月7日発表の1月の雇用統計では、非農業部門の就業者数は前月比22万5千人増
で、1月の失業率は3.6%と前月比0.1ポイント悪化したが、約50年ぶりという歴史的な低水準、
雇用情勢は好調。 一方、5日商務省発表の貿易統計では、モノの貿易赤字は8529億4900万ド
ルで前年比2.5%の減少で、これは2016年以来、3年ぶりの減少。対中赤字も3年ぶりに縮小。

尚、年頭教書に続く2021会計年度(2020/10~2021/9)予算教書( Budget Message of the President)は2月10日に、又20日には、大統領経済報告( Economic Report of the President )が議会に送られています。前者は米大統領の税財政方針を示すもので、社会保障等の圧縮で、年1兆ドルの財政赤字を5年で半減すると提案する一方、国防費を増額してインフラにも1兆ドルを投じる等、選挙を前に支持基盤の保守派に強く配慮した内容です。しかも、経済成長率を3%と見込んでの試算で、極めて楽観的と映る処です。又、経済報告書でも、過去最長の景気拡大となった米経済を「大いなる成長」(Great Expansion)と名付け, 減税や規制緩和の効果の自賛と民主党への反論が大半だった(日経夕刊2/21)とされる処ですが、いずれも11月の大統領選向けのアッピール教書と評される処です。

・米大統領選
序で乍ら、2月3日のアイオワ州、11日にはニューハンプシャー州での予備選を経て2020年米大統領選が実質、始まりました。共和党はトランプ氏で決まりでしょうが、民主党は本命のないままに3月3日のスパー・チューズデーを迎える処です。 大統領選については別途の機会に論じたいと思っていますが、これからの世界の行方にとって極めて重要なeventです。それだけに見どころはとなると勝ち負けもさることながら、やはり世界共通の課題としてある、格差拡大による社会の分断、ポピュリズムの広がりなどに11月の本選までの9か月間、米国民はどう向きあっていこうとするか、にある処ではと思料するのです。 
尚、日本に関連する分野でいえば、在日米軍へのいわゆる思いやり予算の規模を定めた特別協定が来年3月に満了します。さて日米同盟の維持に必要なコストをどう考えていけばいいのか、トランプ氏の選挙目当ての手柄づくりに、手を貸すようなことのない毅然とした交渉対応をと、願う処です。


おわりに いま世界はコロナショック

(1)コロナショックと習近平政権
自国第一主義を標榜する米英を起点とする世界秩序の逆流が進み、世界経済の先行きに不透明感を募らせる中、もう一つ、中国発の「COVID-19」(コロナウイルス肺炎感染)と云う難敵が加わり、今や、後退トレンド以上に、世界経済に多大な影響を及ぼす処です。
それは製造業のサプライチェーンのハブとしての地位を固めた中国の生産停止が世界経済に与える影響の重大さで、日本経済研究センターの試算(日経 2020/2/9)では中国の生産停止で生産が100億ドル(約1兆1千憶円)減なら、海外全体での生産・販売を67億ドル押し下げ、特に韓国、日本、米国への影響は大、とするのです。まさにコロナショックです。

・Wall Street Journal の警鐘
そんな中,今次の感染を巡り中国では習近平共産党への批判の高まりが伝えられ、聊か気になる処です。Brexit, トランプ現象などのポピュリズムが民主主義、資本主義を貶めていく一方で、経済発展を遂げる「幸福な監視社会」たる中国モデルが、もてはやされる事すらありました。が、12月8日に新型肺炎の初ケースが報告されながら、対応が本格化したのが1月20日に習近平が直接指示を出してからで、初動対応の遅れが今日の混乱を招いたと、(情報の公開は共産党統治に悪影響が及ぶと隠蔽された)中国型独裁制の問題を浮き彫りする処、共産党政権の「国民の安全より、国(共産党)の安全を優先する姿勢」に不満が広がったと云うものです。(中国本土での患者:7万4185人、死亡者:2000人超, as of 2/18 )

2月7日付けWall Street Journal(電子版)が伝える‘From Washington to Wuhan, All Eyes Are on Xi ’(ワシントンから武漢まで、全ての視線が習近平に)なる記事(注)では、今次の爆発的感染は共産党政権の独裁の弱点を露呈したものと断じると共に、感染拡大は習近平政権に内外での危機を招き、同政権の存続が問われる事にもなりかねないと、1911年、武漢で起きた辛亥革命の第一段階となった武昌蜂起をリフアーしながら、最後にDon’t rule out a second Wuhan revolutionと、「第2の武漢革命」の可能性すら示唆する処です。
(注)寄稿者は米スタンフォード大 フーバー研究所のアジア問題専門家、Michael Auslin氏。

習主席はこの春、国賓として訪日予定です。それまでに新型肺炎が終息しているか、ですが、既に3月5日開催予定の全人代の延期が伝えられています。上記W.S.J.の噂も有之で、訪日の予定見直しが必要になる公算大ではと、愚考する処です。

2月14日には、米国CDC(米疾病対策センター)は季節性インフルエンザが猛威を振るう(患者:2,600万人以上、死者: 約1万4000人)なか、相当数の新型コロナ患者が見込まれると発表、世界は更に混迷感を深める処です。

(2)日本経済の焦点は今
さて日本では「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗船者3700人の防疫問題を巡り連日報道され、庶民生活への影響も気がかりとなる処、経済活動への懸念も云うまでもありません。

2月10日、日産自動車は九州の完成車工場の稼働の一時停止を決定。これも新型肺炎の影響でサプライチェーンが混乱し、中国からの部品調達が難しくなった為だと云うもので、こうした生産調整、調達先の変更等が、生産システムの世界的な構造変化を齎す処、日本の上場企業の2020年3月期決算は、大幅減益が見込まれる処です。(日経2020/2/11)

2月17日、公表の10~12月期GDPは、年率6.3%減と5四半期ぶりのマイナス成長です。このマイナスは昨年10月の消費税引き上げ、天候不順による個人消費の後退等、想定されていた事ですが、問題はその後の経済の行方です。この新型肺炎の感染拡大で消費マインドの悪化等で、国内経済の減速が心配され、2月13日,政府は景気下支えとして緊急対策(153億円規模)を決定していますが、少し前まで日本経済の焦点は、東京五輪後の景気後退懸念でしたが、時間軸が一気に前倒しになってきた様相です。

さて、その東京五輪ですが、コロナ問題で世界的イベントの見直しが喧伝される中、来月には聖火リレーも始まる処、まさに綱渡り的開催となるのではと、気がかりとする処です。

・日本は大丈夫か
さて、IMFは2月19日、コロナが齎す世界経済への悪影響を抑える為に国際協調をと、各国に協力要請の声をあげています。日本としてもこの際は、財政支援を惜しまず、政治のリーダーシップを求めていきたいと思うばかりです。
が、連日TVに映しだされる国会審議の様相、安倍首相はじめ答弁にあたる閣僚の姿は、辻元清美議員に「鯛は頭から腐る」と揶揄されるほどに、実に体たらくを露わとする処、なんともこれで大丈夫かと、不安は募るばかりです。
                               ( 2020/2/25記 )
posted by 林川眞善 at 16:41| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする