2017年04月27日

2017年5月号  Jacksonian Politicsとトランプ大統領リスク - 林川眞善

はじめに いま窮地の中のトランプ氏

就任100日というハネムーンの終わりを目前にして、なおトランプ政権への不信感は深まる状況にあります。これまでトランプ氏が大統領として執る行動様式に見る論理の欠如、それらが齎す結果としての政治の現実と、選挙中の声高に叫んできた公約との落差に、彼の大統領としての資質に疑問ありと、批判の高まるなか、4月1日付The Economist誌はその巻頭言で ‘The Trump presidency is in a hole . That is bad for America – and the world’とトランプ政権を極めて厳しく評する処となっています。そんな折、手にしたWalter Russell Mead, Professor at Bard Collegeの論考「Jacksonian Revolt」(米Foreign Affairs3月号)は、トランプ革命がなぜ起きたか、彼を支える草の根の思想運動がどこにあるか、が解説され併せて、これからの世界経済の戦略の在り方を問うという、興味深いものでした。

そもそも、英国のEU離脱もそうですが、グローバル化を活かしながら繁栄してきた米国ですが、その結果は経済格差拡大と云う社会的矛盾を晒す処、そうした繫栄から取り残された人たちの声が政治批判となって、それがアメリカン・ポピュリズムを生み、トランプ氏はこれに乗ることで大統領への道を拓いたと理解される処です。
が、そうしたトランプ氏の台頭をMead氏は、単に現状への批判行動と云うよりは、戦後米国の経済政策、とりわけ対外戦略に見る思考様式の変遷の中に捉え直すと同時に、トランプ氏が、これまで繰り返し公言してきた「America First」、「グローバル化拒否」をミッションとする背景を語ると云うもので、まさにトランプ現象の深部に迫ると云うものでした。

ただ、それでも過去70年で初めて米国民は戦後外交政策の核心にあった政策、理念そして諸制度をdisparageする、つまりそれらを貶めるような仁を大統領に選択したとも指摘するのですが、それこそが、彼の行動をして世界が一喜一憂する、いや一憂一憂する環境が演出される処となっていると云うものです。

そこで、今回は、まずMead氏が分析するトランプ氏の行動様式の背景を改めて読み解く事とし、以って一連の国際会議、G20会議、とりわけ米中首脳会談、更には日米新対話に映る新たな世界情勢に日本は如何に向かい合っていくべきか、考察したいと考えます。
(2017/4/26)
目   次
       
1.Jacksonian Revolt by Walter Russell Mead,
(1)戦後米国対外政策を規定した二つの思潮
(2)トランプ氏の変節が意味すること

2 .米中首脳会談と日米経済新対話に映るトランプ政権の生業
(1)米中首脳会談
(2)日米経済新対話

3.トランプ ‘ハネムーン’ 政治 総括
(1)トランプ氏の「就任100日行動計画」
(2)トランプ大統領リスク

おわりに:もう一つのフランス革命?

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1. Jacksonian Revolt by Walter Russel Mead

(1)戦後米国対外政策を規定した二つの思潮

まずMead氏は、第2次世界大戦以降の米国のgrand strategy (大戦略)は二つのmajor schools of thought(主要な思想学派)によって形成されてきたと言うのです。

その一つは、Hamiltonian 派、或いはWilsonian 派と云われるリベラルな思考様式を取るグループだというのです。 このHamiltonian 派とは初代米財務長官(1789~1795)、Hamiltonが世界経済の再生を重視したことを映す思考様式ですが、一方のWilsonian派とは第28代米大統領(1913~1921)、Wilsonのことで、第一次大戦後、国際連盟を提唱した仁であり、経済より人権や民主主義といった価値観を重視する仁ですが、両者は共にリベラルな世界秩序を維持するグローバル主義という点で共通するグループとされる処です。

もう一つは、こうしたグローバル主義にはコストがかるということで、その反動として台頭してきたのがnationalismとanti-globalismを旨とする流れで、これにはJefferson主義とJackson主義の2つに分類されるというのです。
Jefferson主義とは第3代米大統領、Jefferson(1801~1809)の名を頂く処ですが、これは世界に関与するコストとリスクを最小限にして国益を守る立場とするもので、共和党のSenator Rand Paul & Ted Cruzなどがそれに分類される仁であり、彼らは共和党の予備選挙ではJefferson主義の波に乗れるとしていたというのでした。もう一つのJackson主義とは第7代米大統領のJackson(1829~1837)の名を頂くものですが、彼は政治家としてのidentityを庶民(commons)の味方に置く、とする仁でしたが、トランプはライバルが把握できないものを感じ取っていたというのです。つまり、それは米国政治に本当に台頭しているのは、Jeffersonian minimalism(最小の投資で最大の成果を得る)ではなく、Jacksonian populist nationalism だったと云うのでした。

・Jacksonian Populism
では彼が描くジャクソン派ポピュリズムの特徴とはMead によれば、Identity Politics Bite Back(アイデンテイテイ政治の復権)にあるように、彼らは米国のエスタブリッシュメントはもはや米国の価値観に忠実な、信頼できる愛国者ではないと考えるようになっているというのです。国際主義を旨とする人は人権の改善のために働くことを義務と考え、ジャクソン主義者を遅れた利己主義者とみなすが、ジャクソン主義者は自国を第一に考えることに道義上の疑問を投げかけるような国際主義者を裏切り者に近い存在とみなす、というのです。そして近時こうしたエリートに対する不信はますます高まってきているというのです。

今日の米国には、多様な民族、人種、性と宗教の動きが溢れており、エリートたちは文化的な認知を求めるアフリカ系やヒスパニック系、女性やLGBTQの人たち、更に先住民やイスラム教徒の要求を喜んで受け入れるようになったが、こういう状態はジャクソン主義者たちにとってはより複雑で、彼らは、自分たちがどのカテゴリーにも適応しないと考えていると云うのです。
多くの白人有権者たちの間にはいわゆるポリテイカル・コレクトネス(政治的正しさ)に対する抵抗が強くなり、自分たちの所属意識を高めようという意思も高まったというのですが、これが時として人種差別主義として現れることがあるというのです。人々は常に、自分たちのアイデンテイテイを積極的な意味に考えることを人種差別だとしてきているのですが、彼らは,自分たちはまさに人種主義者であり、そのことを最大限に利用するのは当然だとし、いわゆるアルトライト(もう一つの右翼)の興隆は、少なくとも部分的にこういったダイナミックスに源を発するものと見るのです。

そして移民問題についてはこう指摘しています。つまり、低賃金労働者への影響とか反イスラム感情が議論されていますが、ジャクソン主義者はこの問題を、自分たちを自国の主流から排斥する意図的、意識的な試みの一環と見ているというのです。民主党員の間では有権者人口の変化で民主党多数派の期待が云々されていますが、ジャクソン主義者はこれを米国の人口構成の意図的な変革と受け止めるのです。エリートたちが移民のレベルを上げることに熱心で、不法移民に関心を払わない様子を見聞きするとき、彼らは経済問題に引き付けて考えるのではなく、彼らを文化的、政治的、人口構成的に権力から締め出そうとしているともみているというのです。要するに、昨年の選挙で米国民は、特定の政党と云うよりは、広く統治者と彼らが関係する国際主義的イデオロギーへの不信を表明するものだったと分析するのです。以って、トランプ革命をJacksonian Revoltとする処です。

・The Road ahead ― 今後の課題
では、係る状況が今後の米国の外交政策にどう反映していくと見るのか。就任後に考えを修正した大統領は過去には多くいたし、トランプも例外ではなかろうとはしています。因みに、
ジャクソン主義者は、ブッシュ元大統領を英雄として支持したものの失望して背を向けたが、トランプにも起こり得ると見るのです。現在の処、ジャクソン主義者は、米国が地球規模での関与やリベラル秩序の建設には懐疑的ですが、それは特定の政策への期待と云うよりは外交政策の策定者への信頼欠如の為だというのです。

この25年間、西側の政策担当者は危険なほど単純化された考えに夢中になってきた。資本主義は制御されているから、もはや全般的な経済的、社会的、政治的激変は起こらないと考えてきた。が、9・11後に起きた多くの出来事、対テロ戦争から金融危機、欧米の両方で起こった怒りにみちた国家主義的ナショナリズムのうねりは大きな驚きであった。そして日増し、明らかになっている事はグローバル化とオートメーションが繁栄と社会の安定を支えてきた社会経済モデルを破壊している事というのです。そして資本主義の次の発展段階では、地球規模のリベラル秩序と国家の支柱の基本軸の如何が問題となるというのです。

従って今後の課題は、通常の路線に沿ったリベラルな国際秩序建設の任務を完了するというよりはむしろ、リベラル秩序の融解を止め、グローバルシステムをより維持可能な基礎の上に据え直す方策を探すことと云うのです。そして、国際秩序はelite やbalance of powerだけでなく、国民共同体による自由な選択、すなわち世界に関わることで利益を引き出すのと同じくらい、外部の世界から守られていると感じられる共同体の選択に据えられる必要がある、というのです。

・・・The challenge for international politics in the days ahead is therefore less to complete the task of liberal world order building along conventional lines than to find a way to stop the liberal order’s erosion and reground the global system on a more sustainable basis.
International order needs to rest not just on elite consensus and balance of power and policy but also on the free choices of national communities – communities that need to feel protected from the outside world as much as they want to benefit from engaging with it.

勿論、彼がイメージする具体的な事態とは、当該論考を見る限りでは検証不可ですが、いま相対的優位な政治資源を手にしていると言われる日本こそは具体的シナリオを以って当該テーマに取り組むべき時ではないか、と思料するのです。崩れそうな世界環境の中、ドイツに実績を持ち得た日本に「日独が協力して自由貿易の砦になれ」と、コラムニストの秋田浩之氏はその主張を展開(3月10日付日経)していましたが、まさに時宜をえたものと云え、それをより確実にしていく為にも、今日本経済の成長基盤再構築への行動が求められている事、間違いない処です。

(2)トランプ氏の変節が意味すること

これまでAmerica First,一点張りで進んでいるトランプ氏、これまでのJacksonian like ともされてきた主張は、政権内部の意見の相違、政権と議会との関係、更には政権を取り巻く外部環境の変化、等々から、時に修正を余儀なくされる場面が顕著となってきています。それはグローバル化の深化が政治経済の生業を根本から変えてきたという事で、旧来のJacksonian流ではいかなくなっていることを語る処ともいえ、因みに、トランプ氏が否定的な態度を示していたNATO については支援姿勢に転じ、米連銀のイエレン議長についても再選を示唆する他、米輸銀に対する姿勢にしても極めて好意的に変わり、更には中国の為替慣行を不当なものと激しく非難し、大統領就任初日には中国を為替操作国に認定すると公言していましたが、後述、米中首脳会談後の4月14日の財務省報告では、中国を為替操作国と認定することを撤回したのです。

つまり、トランプ氏を巡る外交戦略については取り巻きの軍人出身者らがトランプ氏の「米国第一」の外交政策を締め出している一方で、ウオール街が経済の議論を有利に進めていることを示唆するものであり、つまりは政府の政策は急速に、昨年の有権者があれほど激しく拒絶した事態に戻りつつある事を示唆する処と思料するのです。

こうした変節とも言える行動はトランプ政治にとって大きな後退とも言える処ですが、外交や安全保障などを巡る発言の修正が目立つようになったという事は、後述する北朝鮮やシリアを巡る情勢が緊迫し、国際社会との協調が不可欠との認識に至ったという事なのでしょうか。もとより、これが現実としては全く賢明な動きと云うことなのですが、これでトランプ政権が国際経済の分野で破壊的な対決を引き起こす可能性が消えたとは思えないのが悩ましい処です。と云うのもこうした変節が、気まぐれから起きているように見えてならないからです。4月18日、ウイスコンシ州で行った演説では、自国産業と雇用を優先し自由貿易に反対する姿勢、米国第一主義、を曲げることのないことを再び明言するのでした。

・Steve Bannon氏のこと
序でながら、この‘変節’と云う点で触れておかねばならない状況があります。それはトランプ氏の側近、大統領上級顧問で国家安全保障会議(NSC)の常任委員にあったSteve Bannon氏、彼については2月13日付TIME誌では‘The second most powerful man in the world’とまで評された仁ですが、その彼が4月はじめにNSCメンバーから外されたという事です。なぜか、それは政権内の確執(バノン氏と、トランプ娘婿のクシュナー上級顧問、マクマスター大統領補佐官との確執)によるものと伝えられています。バノン氏は極右の立場にあって人種差別、女性蔑視の激しい過激な人物とされる処、トランプ氏の政策、言動は彼の誘導によるものとされています。それだけに彼が外れたことで、欧州の同盟国は安堵しているとも伝えられる処です。序でながら、トランプ氏のシリア向けミサイル攻撃を彼は反対していた由。

そこで興味深いことは、Financial Timesのcolumnist、Mr. Edward Luceのコメント` Why Trump
still needs Bannon’(April 13) でした。つまり「バノン氏は姿を消したわけではない。実際、
彼は政権内では唯一戦略的頭脳に近いものを持った人物。米国の政治は変革する必要がある。ト
ランプ氏に一票を投じた人々は中産階級に再び光を当てるという同氏の公約を信じて投票した
が、この選挙の立役者はバノン氏。そこでバノン氏の処遇がこの先どうなるかでトランプ氏が、
自分が大統領にえらばれた理由を忘れていないかが分かるだろう」というのでした。


2.米中首脳会談と日米経済新対話に映るトランプ政権の生業

(1)初の米中首脳会談(4月6・7日)

上述環境のなか、4月6・7日、世界が注目するトランプ大統領と中国習近平主席との初の首脳会談が米国フロリダのトランプ氏別荘で行われました。当初、色々の憶測が伝えられていましたがメデイアによると、結論的には‘中国の挑戦に苛立つ米国の巻き返しのドラマ’と映ったというのです。 そして、何よりも興味を引くこととなったのはトランプ大統領就任直後、わずか76日後の出来事ということで、体面を重んじる中国としては異例の速さに関心が集まったというものでしたが、それには習氏には急がねばならない事情があったためだとされています。

その事情の一つは経済です。中国は2001年にWTOに加盟していますが、それ以降米国が主導するグローバル化の波に乗って成長してきたとされています。その成長が相対的に鈍ってきた今、そこにトランプ政権の保護主義の矛先が中国に向かうとなれば、中国の世界戦略も破たんしかねない。とにかく対米関係の安定が最優先とする事情があっての事都いわれています。
もう一つは内政への対応問題と云われています。と云うのも、この秋、中国では最高指導部を入れ替える共産党大会が予定されており、既にいろいろの闘いが始まっていると伝えられる処ですが、習氏としては対米関係の安定を成果に共産党大会に臨みたいとしていると観測されているのです。つまり、‘対米外交は内政の延長にあり’と云うところでしょうか。

さてトランプ氏は習氏との会談には国務、国防、商務の各長官ら主要閣僚を揃えて望んでおり、日米首脳会談時よりも重い陣容だったとされ、中国は体面を保ち得たと云う一方、トランプ氏も安全保障から通商、為替まで全て話し合っていると国内にアピールできたとするものでした。 ただ、2日間の会談後、米中共同の発表や中国側の記者会見も一切なかったという点で、新たな米中関係を示すこともなく、以って深刻な対立があったのではと勘繰る向きもある処です。

尚、そうしたことで当該会談内容は不明ですが、米中高官の発言からは、「朝鮮半島情勢問題」「東・南シナ海問題」「貿易不均衡是正問題」等、更には「米中課題を話し合う対話枠組み」について話し合いがおこなわれたとされていますが、特段の具体的成果は見られず、ただ貿易不均衡の是正に向けた政策策定「100日計画」(注)について合意を見ただけでしたが、それでもトランプ氏が先手を取り、主導力をアッピールするものだったと云うのでした。ただ、言えることは、仮に米中が貿易戦争にでも陥れば日本にも悪影響が及ぶこと間違いなく、とにかく貿易不均衡是正に向けて動いたことは日本にとって好影響と云う処でしょうか。

    (注)「100日計画」:7日行われた米中経済対話では、ロス商務長官、ムニューシン財務長
     官は中国の汪洋副首相との対話において、100日内に両国の貿易不均衡を分析し、この改善
     策を取纏める事で合意。米国は航空機やエネルギー、農産物の対中輸出拡大を求めるとしてる。
因みに、オバマ前政権時の2015年9月、習氏の訪米時には、中国有力企業が米ボーイング
社から航空機300機を買う契約を結んでいる。この差をどう読むか。トランプ氏は習氏に核・
ミサイル開発をやめない北朝鮮への制裁強化を迫っており、この点で習氏にすれば北朝鮮への
カードを切る前に経済協力の持ち駒を使うのは得策でない。その代わりに出したのが「100
日計画」ではとの憶測もある処。要は秋への時間稼ぎではと見られているが。

とにかく初の顔合わせという事で、トランプ大統領にとって今次首脳会談は、協力できる相手か見極める場とするものだったと報じられており、とりわけ近時北朝鮮問題への中国の関与協力をと公言していますが、「中華民族の偉大な復興という夢」を掲げる習氏、一方「アメリカを再び偉大に」とするトランプ氏。この二つを戦略路線として進む限りにおいては、激突する危険性は否定しえず、その端緒が貿易摩擦と云うものか、それともほかにあるのか、という事でしょうが、今後の世界経済における米中関係の重要性に鑑みた場合、言える事はと云えば、二人が対立していてはどちらもその目標は達成できないことを互いに納得し合わなければならないという事でしょうから、つまる処、目標達成の為に、どこまで歩み寄れるかが問われていく事になるという事でしょうが、その難所は今、新たに始まったばかりと云えそうです。その点、日本としてもそうした新たな視点をもって、その推移を見極めていくこと肝要と思料する処です。

(2)日米経済新対話 (4月17・18日)

日米両政府は18日、麻生福総理・財政相とペンス副大統領をヘッドとして日米経済対話の初会合を首相官邸で開催しましたが、対話終了後に公表された共同プレスリリースによれば、今後の協議は「貿易・投資ノルール」・「経済財政・構造政策」・「個別分野」の三つ柱で進める事で合意し、年内に次回会合を米国で開くこととしたとするだけで、どうも視界不良の対話と映る処です。

そもそもこの対話は、2月の首脳会談で安倍首相から、言うなれば先制攻撃とも言うべく提案を行い、これにトランプ氏が合意したと云うもので、その点では日本側は周到な準備で臨んだと言われ、実際その枠組みづくりは日本の思惑通りに進んだように見られる処です。然し、一方の米側は人事の遅れなどで本格協議の態勢が整っていない事もこれありで、特段の進捗は見られなかったというものでした。ではなぜ米側は、そんな様で日本まで来て?と云う処です。
それと云うのも、周知の通り、日本としては米国のTPP回帰を期待しての対話を進めたいとする処、ペンス副大統領は多国間協議ではなく2国間交渉を重視し、FTAへの意欲を明確にしている点で双方のスタンスがスタートラインにおいてズレがある中で、 前述、中国の為替操作国認定をあっさりと撤回したようにトランプ大統領の立ち位置も見にくいという事、それに政権内の対立もあって、先が見通しにくいという事情を映すものだったからと思料するのですが。

・対話の目指すべき方向
いずれにせよ今後の対話にあったって日本は、2国間協定の交渉に応じるにしても、TPP交渉での日米合意をベースに議論を進めるべきで、併せて米国の離脱後のTPPが空中分解しないよう、米国を除く11か国での発効を探っていくべきと思料する処です。そして日米両国がとくに問われることは、短期的な得点稼ぎではなく真に両国が必要とする構造改革に繋がる議論ができるか、であるはずです。トランプ政権は雇用創出を掲げ、失われた製造業の復活に力を入れるとしています。又日本も、金融・財政政策など景気刺激策に頼らない自律的な経済成長の実現が求められる処、そのためには国内の抵抗の強い構造改革が欠かせない処です。せっかく始めたからには、志の高い日米対話にしていく事を期待する処です。


3.トランプ ‘ハネムーン’政治 総括

― 米大統領の就任から100日間はハネムーン(蜜月期間)とされ、議会やメデイアも厳し批判を控えるのが通例です。さてトランプ氏にとってのハネムーンはこの4月29日で終わります。ではその間の実績はどうだったか。そこで彼が選挙中打ち出した公約、つまり「就任100日行動計画」の実績、そしてそこに残されている問題、今後の課題についてレビューし、以って100日行動計画の総括に代える事とするものです。

(1)トランプ氏の「就任100日行動計画」の現実(弊月例論考、2016年12月号)

ここで示されていたのが、就任初日に実行する18項目、そして立法措置を伴う10の事案ですが、その成果は如何と云う処ですが、まず初日実行の18項目については、初日に限らなければ、実行したものは多く、大統領令だけで実行出来る‘TPPからの離脱宣言’、‘NAFTAの再交渉宣言’、或いは‘エネルギー開発の許可’などがありますが、これに対して‘減税’や‘インフラ投資’と云った政権公約の実現に欠かせない10の法案作成は全て失敗か未着手の状態にあります。

とりわけ‘オバマケアの代替法案’を作ったものの、野党民主党どころか、与党共和党内を取りまとめきれず、撤回を余儀なくされており、オバマケア見直しを最優先策と位置付けてきただけに、その撤回インパクトは大きく、他の政策の遅れに繋がっている処です。尚、その他テーマについての進捗状況は、通商関係では「中国の為替操作国認定」については前述の通りでひとまず見送りとされており、移民問題については2度の大統領令が出されたものの、周知の通り人権問題に絡めた裁判所裁定で実施差し止め、国境の壁建設も予算取り出来ずに先送りとされています。

尚、21日、トランプ大統領は、オバマ前政権下の税制や金融関連規制(ドット・フランク法)について見直しを指示する大統領令に署名、26日には大型減税案を公表する旨発表しています。まさに就任100日の節目を29日に控え、経済対策の目玉である税制分野で実績作りを急ぐというものの由でしょうが、問題は下院共和党が提案する「法人税の国境調整」の扱いで、理論的には貿易収支の改善を映し急激にドル高が進む可能性も指摘され、ムニューシン財務長官は、通貨への影響を懸念し、導入に慎重な姿勢にある処、このほか減税規模や財源などを巡って関係者らの意見の隔たりは大きく、調整は難航する可能性が今から指摘されている処です。
ただ、減税等政策への期待は大きく、それがはげ落ちることにでもなれば企業や個人が投資や消費に踏み切れず、続く景気回復の限界論も余儀なくされる処、さてアメリカ第一主義で通し切れるか、改めて問われる処です。それにしても100日の直前、28日には暫定予算の期限も到来する処、議会で期限延長などの合意が得られなければ、100日目を政府機関の閉鎖という異常事態で迎える可能性も否定できず、政策実現に向け政権は大きな岐路に立たされる処です。

(2)トランプ大統領リスク

さて、上記政策対応の現状は、Jacksonian populism like に、しかし移民や環境など世界が抱える問題には背を向け、更には世界の警察であることを拒否する、言うなればトランプ大統領の単独主義のなせる業とも云うべく、そこにはそれ相応のリスク、つまりトランプ大統領リスクを認識していく必要があるという事です。

因みに、4月6日のトランプ政権によるシリアへのミサイル攻撃は、議会や同盟国との相談もなしに実行されています。そしてその動きは特段の戦略を持っての話と云うよりは、化学兵器で苦しむ子供たちの姿を見て、言うなれば感情的、衝動的に走った行為と説明される処です。但し、それも、トランプ氏がこれまでロシア、プーチン氏との密接な関係が取りざたされてきたことで、この点を払しょくするために敢えてロシアが支援するシリア、アサドを攻撃した、つまり国内政治要因で動いたともされています。

いずれにせよ、身勝手に動く、一言で言って何をしでかすかわからない、自らの行動に対する制限が少ない人物だけに、この100日の経過の中、彼の単独主義がもたらすリスクをこの際は十分理解しておく必要を改めて痛感させられた処です。こうしたトランプ大統領のリスクは当初は意識されていたはずですが、何時しか世界的な景気回復やトランプ政権の経済政策が焦点となっている点で、それが忘れがちになっているのですが、まさにシリア攻撃でそのリスクの顕在化を自覚させられたという事です。 そして今、北朝鮮情勢の緊迫化は地政学リスクの拡大を余儀なくさせています。具体的には北朝鮮の核実験をやめさせるため、米中日韓が一体になって圧力をかけていますが、北朝鮮にはそれを受け入れる様子は見られません。緊張緩和に進まなければ、米国単独による攻撃も予想される処、日本としては、トランプ政権との付き合い方を改めて検討していく事の必要性、痛感する処です。


おわりに:もう一つのフランス革命?

本稿執筆中の4月24日早朝、フランス大統領選挙第1回投票の結果が伝わってきました。4人の候補の内、首位は元経済産業デジタル相で中道の立場を取る親EUのエマヌエル・マクロン(Emmanuel Macron)候補、2位が極右政党、国民戦線(FN)党首で、反EUのマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)候補。いずれも過半数には至らず、従って5月7日予定の第2回投票で、この二人による決選投票が行われることになります。まさに、リベラルなEU主導者対極右の一騎打ちということです。さて、フランス国民はいずれを選択するものか。アメリカでトランプが想定外の勝利を収めたようにフランスでも同じようなことが起こるのでしょうか。とにかく2大政党の左派と右派の候補者が第1回で負けたという事は過去60年間で初の出来事で、まさにフランス政治の転機とされる処です。

実は、第1回投票で首位争いをした4人の候補のうち2人、極右のルペン氏も急進左派のメランション氏はポピュリズムで支持を伸ばしたとされています。その理由は、経済不振やグローバル化への反動だけではなく、とりわけ反移民感情については、その根っ子が1954~62年のアルジェリア独立戦争にあるというもので、その植民地政策の失敗が結果として極右勢力を生み、一方急進左派は政府による統制色の濃い経済政策で格差是正を図るとしたものの、結果として産業の育成が出来ず、雇用が伸びず、それが左派の後退に繋がってきたというもので、要は戦後の2大政党政治の下で、積もり積もった不満が今回の結果を生んだとされる処です。そして既成政党を離れ、独立した中道の立場でそうした政治環境を有利に自分のものにしていった結果、マクロン候補が首位に上ったという事です。従って、当然のことながら米国のケースとは本質的に異なる動きと読める処です。

・`The Coming French Revolution ‘
米論壇、PROJECT SYNDICATEに現れた4月17日付Mr. ZAKI LAIDI、Professor at L’Institut d’etudes politiques de Parisの論考`The Coming French Revolution ‘は、そうした選挙戦の流れを分析する中で、マクロン候補のインサイト、洞察力の豊かさを評価し、以って第一回投票に勝利を収めた事、そしてマクロン候補の最終勝利を前提に、大統領当選後の議会対応について以下、提言するのです。

マクロン候補は豊かなインサイト、洞察力を以って、当初あまり理解されていなかった右派、左派の2大政党政治が政治の進歩を阻害していると、読み取っていたというのです。実際フランス国民は伝統的政党を拒否するようになってきており、その点で、当初弱いと見られていたが、それがかえって強みになったと指摘するのです。そして、若き独立系中道候補のマクロン氏の大統領選出の可能性の高さに照らし、5月7日には第5次共和制政治制度を逆転させることになるというのです。そして、更に同氏は、大統領に勝利する事は最初のステップに過ぎず、問題は大統領と議会とのハイブリドな、混成体制の統治運営にあるとして、その為にはと二つのアドバイスをするのですが、それはフランス政治の現状を映す処です。

一つは、マクロンは速やかに議会のマジョリテイを確保する事。6月に予定の下院選挙では有権者の多くは彼に投票することになる事、十分考えられることだが、不確実な要因もある。それは組織だった政治運動が不足している点がマクロンにとって弱い点でその強化を目指す事。もう一つは、議会内派閥との連立です。因みに、右の小派閥、大所帯の中核派閥、そして影がうすくなった左の派閥。こうした組み合わせは欧州ではよく見られるケースであり、これはフランスにとって独自の革命と映ると云うのです。

左右双方からの政治的パワーを得たとしても、これまでフランスの有権者も政治家も実質的には国が抱える問題をイデオロギーとして作り上げてきた。フランス国民も政治家も広がりの大きい連携協定をベースとした政府を頂いた経験がほとんどない。とにかくルペンになろうが、マクロンがなろうが、フランスは今、on the verge of a political revolution 、政治革命の寸前にあると、云うのです。
 
さて、翻って日本の現状はですが、安倍一強と云われる日本の政治状況にあって、それゆえの弛みと映る議員の拙劣な言動にあんぐりとなる処、その刷新の要、痛感させられる処です。 
以上 
posted by 林川眞善 at 17:25| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2017年03月26日

2017年4月号  Donald Trump 政権2か月、そして日米新対話 - 林川眞善

はじめに  GEORGE ORWELL と DONALD TRUMP

(1) George Orwell (1903-1950)

英国作家、G.オーウエル が凡そ70年前に著した2つの作品、「動物農場」と「1984年」が、今再び脚光を浴びています。いずれもスターリン体制下のソビエト連邦の全体主義、スターリン主義を強烈に風刺、批判する内容ですが、中でも「1984年」で描かれる主人公、ビッグ・ブラザーがしく管理社会の様相が、現下のトランプ氏のそれに映るとして関心を呼ぶ処です。

つまり「1984年」で描かれる舞台は、イングソック(イギリス社会主義)を掲げる独裁者、ビッグ・ブラザー(スターリンをイメージ)が圧政をしくオセアニア国で、人々はテレスクリーン(双方向のテレビ)で監視され、情報は真理省(Ministry of True) が改ざんする、こうした状況に疑問を抱く男の物語で、言うなれば情報管理社会を痛烈に批判するものですが、その姿が現下のトランプ政治に映るというのものです。
因みに、大統領就任式の観客数を巡って、オバマ前大統領の就任式より少ないとしたマスコ報道に対して、大統領側は「オールタナテイブ・フアクト」と強弁したり、自分に都合の悪い報道についてはfake 情報と退けてしまうなど、事実を都合よく変える様が1984年で描かれるビッグ・ブラザーの姿に擬するというものです。 要は、愚かな革命はかえって独裁的な政治体制を生む原因となる事を示唆する処、その証左として、権力を獲得し維持する為独裁制はスパイ行為を奨励し、報道・娯楽の統制等、ありとあらゆる手段を駆使し、真実をゆがめ、隠蔽し、抹殺するなど、そうした様相を描き、今言う情報管理社会を批判するものだったのです。(注:‘84’には特別な意味はなく、執筆時の48年を単純に置き換えたanagram )

その4年前に出された「動物農場」も、1917年の2月革命に始まり、1943年11月のテヘラン会談(米英ソの三首脳初会談)に至るまでのソビエト連邦の歴史、つまりスターリン体制下のソビエトの全体主義、スターリン主義を強烈に風刺したもので、農場に囲われた動物(庶民に見立て)が為政者たる農場主が彼らの利益を搾取しているとして起こす反乱・革命の顛末を描いた、ロシア革命の憂鬱な末路を題材としたわかりやすい寓話です。次元も、環境も全く異なる中、現下で進むトランプショックに通じるものを感じさせられる処です。 (概要は下記注照)

尚、1984年は文字通り「国際オーウエル年」と云った観にあった由で、その年「1984年」がまず取り上げられ、それに付随して「動物農場」が取り上げられていたというものでしたが、訳者、高畠文夫氏(巻末解説)は、1983年12月30日付日経新聞の「春秋」欄で「・・・いよいよ1984年がくる。オーウエルが「1984年」で予言した年だ。・・・実はその前編に当る「動物農場」の方が面白い。・・・」としていたと紹介しています。上述したように全体主義社会を痛烈に批判する「動物農場」は、まさに西側自由主義国も情報過剰や科学技術の異常な発達などの為に将来行き着くはずの逆ユートピア的管理社会の未来像という点で、より面白いと、いうのですが、筆者も実に同感とする処です。

(注)「動物農場、1945」 (Animal Farm)概要:
1917年のロシア革命イメージしながら、20世紀前半に台頭した全体主義やスターリン主義へ
の痛烈な批判を寓話的に描いたもの。あら筋は、人間の農場主が動物たちの利益を搾取しているこ
とに気づいた「荘園農場」の動物達が、偶発的に起きた革命で人間を追い出し、ナポレオンと称す
る「豚」ーヨシフ・スターリンを意味するーの指揮の下に「動物主義」に基づく「動物農場」を作
りあげ、動物達の仲間社会は安定を得たが、時間の経過の中、不和や争いが絶えず、最後は理解で
きない混乱と恐怖に陥っていき、結果的には支配者が入れ替わっただけで、人間が支配していた時
より、圧倒的で過酷な農場となったというもの。そして最後は動物が人間と握手し、どたばたパー
テイーに。1917年の2月革命に始まるスターリン体制下のソビエトの歴史に対する風刺。

作家オーウエルは1936年の暮れ、当時のスペイン市民戦争取材の為、バルセローナに向かっていますが、その際、POUM(マルクス主義統一労働党)に加わり、ナチス・ドイツやフアシスト・イタリアの援助の下に内乱を起こしたフランコ将軍のフアシスト軍との戦いにPOUM市民軍の一員となって従軍しています。その際の経験がこれら2冊の背景となっているのです。つまり共産主義者、ことにスターリン独裁体制下のソビエト連邦のやり口に、深い疑惑と反感を抱き共産主義は決して社会主義ではなく、社会主義という仮面こそかぶっているが、その実態はまさしくフアシズムに他ならないとして、うわべは旧来の支配者を打倒し民衆を援助するように見せかけながら、結局は、自分たちは支配者の後釜にまんまと収まらんとする様に強い疑問を持ったという事で、その思いが「動物農場」に、そして「1984年」に映ると云うものですが、低所得者の不満を受け止めて大統領になったトランプ氏、彼は実に1%クラス、いや0.1%クラスにある大富豪ですが、真に彼らの不満を受け止め、その意向に応えていけるものなのか、今疑心暗鬼が生まれんとする処です。

(2) Donald Trump

さて、「動物農場」、「1984年」が再び注目された事情は前述の通りで、トランプと云う極めて特異なキャラクターの持ち主が大統領として登場したことにあるのですが、その彼は、彼の支持基盤とも目される低所得者の不満に応えるためとして、所得格差につながる現行システム、つまりこれまでの世界秩序となってきた自由通商、グローバル化を否定し、米国流のシステムの導入を図るべく、まさに傍若無人な振る舞いを以って政治を行いだしています。

・トランプはサイコパス
そうしたトランプ氏を、東大名誉教授佐々木健一氏は中央公論(2月号)で「最後のアバンギャルド」(前衛)と呼び、結局はアジテーターであり、危機感を引き出すアーチストに留まる存在と分析していた事、先月論考で紹介しましたが、更に脳科学者の中野信子氏は、彼こそはサイコパスな男(注)と精神病理学から分析し、サイコパスには飽きっぽい人が多く、長期的な人間関係を築くのができない、また、利害のみが物事の判断基準となっている為、大統領職が「自分の価値を発揮できない」、「メリットがない」と判断すれば、躊躇なく辞任するのではと観測するのです。
(注)psychopathy (精神病質)の特徴 [ 中野信子著「サイコパス」文春新書]
・外見や語りが過剰に魅力的で、ナルシステイック
  ・恐怖や不安、緊張感を感じにくく、大舞台でも堂々として見える。
・多くの人が倫理的理由でためらいを感じたり危険に思ってやらなかったりすることを平然と
行う為挑戦的で勇気があるように見える
・常習的にウソをつき、話を盛る。自分をよく見せようと、主張をコロコロと変える
・傲慢で尊大であり、批判されても折れない、懲りない。等々

一方、米国を拠点とする論壇World’s Opinion Page ― Project Syndicate の論客は同氏を巡っての批判を高める処にあります。因みに米コロンビア大のJeffrey Sachs 氏はThe Tree Trump (Mar.1,2017)と題し、トランプにはfriend of Putin, wealth maximizer, and demagogueの三つの顔があり、それが一つとなって動く姿に危機感を禁じ得ないというのです。 トランプ氏はプーチン氏を尊敬しており、それは彼の強い指導力にあると言われていますが、実は彼の経営破たんを救ってくれたのはロシア財閥に負うとも云われており、ロシアン・マネーとの結びつきが強い事、ビジネス人としてとにかくgreedyな人間と言われている事、更に、彼のデマゴギーの背景には大統領首席戦略補佐官として強烈な右翼思想の持主Stephen Bannon氏(注)の存在があり、その彼に操られているとし、それら三つ要素を抱えた存在だけに、その言動を危険視するのです。

  (注)バノン首席戦略補佐官(The Great Manipulator, Steve Bannon 
― The second most powerful man in the world? Time Feb.13)
     ・彼は戦後の世界は、西洋文明の盟主である米国と西欧諸国が仕切ってきた。ところが、グロ
      ーバル化で国際資本に市場が食い荒らされ、米欧の社会が荒廃した。イスラム文化圏などか
らからの移民の流入でテロの脅威が膨らみ、伝統的な価値観も薄まっている。この流れを止
め、米西欧主導の世界を再建しなければならないとする。
・つまり、グローバル化の流れをせき止め、薄まった米国と西欧諸国のアイデンテイーを取り
戻そうというもの。その為には国連や国際機関の弱体化も辞さないという、革命に近い発想
の持ち主。 -トランプ氏も概ねこの思想を共有し,だからこそ、メキシコとの「壁」に拘り、
NAFTA、TPP、そして移民にも敵意を燃やす。理由は何も貿易赤字だけではないというもの。

さて、そんなトランプ氏に対する支持率ですが、就任直後(1月22日)は(米調査会社ギャラップ)45%、これは1953年以来の最低という事でしたが、直近(3月16日)では41%と更に低下、不支持率は54%と高い水準となっています。(日経3月20日) このギャラップ調査の結果は、就任直後から始まったトランプ政権の政策の混乱を映すものと云え、その様相は前月論考でも紹介したように ‘An insurgent in the White House’(The Economist Feb.4)と称せられる処です。

この実態は、大統領就任100日のハネムーン期間中に実績作りと、ダッシュし大統領令を連発してきた行動経緯に映る処です。つまり2度も執行停止を受けたイスラム圏からの入国を制限する大統領令発令に典型を見るように政策決定のProcessの軽視、またロシアへのスタンスを巡り露呈した政権内側近や閣僚間のズレ、つまり大統領としてのマネジメントシップの欠如、更には政策の優先順位、Priorityのなさ、に求められるというものです。今なお政権スタッフが整備されていない状況をも併せ見るとき、こうした状態はしばらく続くことになりそうです。

かかる政権事情にある中、2月28日、トランプ氏による初の議会演説、大統領施政方針演説が行われました。その内容は、これまでの発言の繰り返しという事で正直、新鮮味に乏しく、食傷気味というものでした。ただ一つ違った事はこれまでの攻撃的な口調を抑えたものであった事で、その点では米国内では一安心と云った評価の声も上がったようでした。尤も、これで国民に安心感を与えたというものではないのですが。
そしてもう一つ、この報告の中で注目されたのが、トランプ氏としては初めてcitizenという言葉を擁して、America first ではなく「citizen first」と呼びかけた事でした。
― America must put its own citizens first, because only then , can we truly MAKE AMERICA GREAT AGAIN. -----
そこで、施政方針を読み直し、改めてそこに見る問題の検証を行うと共に、4月に始まるとされている日米経済対話について目指すべき方向につき考察していきたいと思います。(2017/3/26)


                 目   次

1.トランプ米大統領の施政方針     ・・・・P.5

(1)大統領施政方針演説を読むー 国際ルールの変更
 ・2017年米通商政策と世界通商秩序(WTO)
 ・国境調整措置税
(2)G20会議とトランプ政権
         
2. 日米経済関係の新展開         ・・・・P.9

(1)トランプ政権の対日批判と日米経済協議
 ・過去の日米経済協議
(2)日米新対話に求められる発想の転換
 ・日米新対話のテーマ
 ・日米FTA交渉は新たな発想で

おわりに : いまそこにある政治資源     ・・・・P.11

 ・国粋の枢軸
 ・いまそこにある政治資源の活用を

          -------------------------------------------------


1. トランプ米大統領の施政方針

(1) 大統領施政方針演説を読む ー 国際ルールの変更

当日の大統領施政方針演説は、トランプ氏自らフォードなどの大企業と直談判し、メキシコへの工場移転を防いだという自慢話からはじまるもので、大統領就任式の演説でも言及した定番ものと云うものでしたが、要は米国民の雇用を守る姿勢を演出したかったという事でしょうか。
また大規模なインフラ投資(1兆ドル)、法人税減税、オバマ・ケアー撤廃など力説していましたが、それをどう進めるのか、「何を」「どこまで」やるのか、具体的な目標を語ることなく終わるものでした。とは言え、これら政策が具体化されていくとなると世界経済への影響の大変さは言うまでもありません。

例えば、これまで環境問題への対応として抑制されていた国内エネルギー資源開発を今後自給体制確保のため推進するとの方針を打ち出し、関連するパイプラインの建設のゴーサインを出しています。それは‘環境よりは成長を’とするもので、America firstの下で温暖化問題はfakeと一蹴、米国が主導してきたパリ協定(2016年11月発効した温暖化対策の国際枠組み)からの離脱姿勢を鮮明とする処です。因みに3月9日のエネルギー業界の集まりに登壇した新任のスコット・プルイット米環境保護局(EPA)長官は、パリ協定は「悪い契約」と断じると共にEPA内の温暖化対策部門の大幅縮小を示唆したのです。(日経2017/3/13 )既に米大統領府のホームページからは温暖化に関する多くの情報が消えた由で、温暖化対策の後退は避けがたい処です。それは世界との協調よりも自国利益優先とする姿を鮮明とするものです。

・America firstで目指すは国際ルールの変更
こうしたトランプ氏の行動様式、つまりAmerica firstの下で目指すことは何かですが、彼を支持した低所得者層の不満に応えるため、その背景となる経済格差を齎しているグローバル化を否定する中、これまで世界の規範となってきた国際的なルールを変更し、アメリカにとって都合の良いルールの導入を目指すという事でしょうが、その矛先は通商政策に向けられる処と思料するのです。

施政方針演説の中で彼はこう言っています。I believe strongly in free trade but it also to be FAIR TRADE.と。そしてAmerica is willing to find new friends, and to forge new partnerships, where shared interests align. 米国の利益に一致すれば新たな友好関係を図ると云うものです。つまり二国間での通商交渉をベースとし、自国経済にとって利益にならない交渉には乗らないという事ですが、気になるのがFAIR TRADEをと、改めて言い出している事情です。

・2017年米通商政策と世界通商秩序(WTO)
と云うのも、その翌日の3月1日、USTR(米通商代表部)は「大統領の2017年通商政策」と題する報告書を議会に送っています。 そこではWTOの紛争解決メカニズムによる決定がアメリカにとり不利益を伴うものと判明した場合は、当該手続きに「そのまま従う事はない」と主張するのです。つまり、WTOが海外の不公正な貿易措置に甘く、米国が不利益を被むってきたと指摘するのですが、従って、不公正な措置には米国の国内法に基づく対抗措置を取るとし、米国の利益を損なうようなWTO(WTOの紛争解決メカニズム)の決定には従わないとするものです。これは戦後、米国自らが主導してきた国際貿易のルールを軽視し、国内法を優先する路線への転換を鮮明とするものです。

1995年に発足したWTOのメカニズムは世界貿易の円滑な拡大を目指し機能してきた、言うなれば世界貿易の安定剤として機能してきたと言うものです。そしてこれまで貿易秩序の守護神であるWTO体制を擁護する立場を貫いてきたのは米国でした。その方針転換を示唆する今回の報告書は国際的な貿易・通商の枠組みの転機を示唆するものと憂慮される処です。

・国境調整措置税
なお、その点で注目されるのが大型税制改革の一環として検討されている国境調整措置、つまり「国境調整税」導入問題です。「国境調整」税とは、輸出で得た収益には課税を免除する一方、海外から仕入れた製品や部品には、これまでのような費用控除は認めず課税するという税制措置です。これが企業にとっては輸出促進、輸入抑制に作用することになり、貿易収支の改善に寄与することになるというもので、その限りにおいてトランプ氏の「米国に企業と雇用を取り戻す」とする主張に沿う事にはなるものです。然し、国内経済への影響もさること乍ら、WTOルールでは法人税のような直接税での国境調整は輸出補助金として禁じるルールがあり、これに抵触する可能性が否定できません。この点で仮に、米国がAmerica firstとして一蹴するような事態ともなれば、まさにフェアートレードが消えることになるというものです。勿論、法案が実現を見るか、その見通しは不透明なままにある処ですが。

序でながら今、この国境調整措置を巡るハーバード大のマンキュー教授(G.W.ブッシュ政権でのCEA委員長)の指摘が注目されています。つまり「税制改革案にある国境調整措置は、実質的には消費税の導入、法人税の撤廃、給与税の減税措置という3セットに等しい」と云うのです。輸入品が課税される一方、輸出を免除するとしている点は日本や欧州の消費税と同じで、課税対象は限りなく消費税に近いものになるとするものです。つまり、輸入課税だけ見れば保護主義と見える処、経済のグローバル化に対応した法人課税の在り方を突き詰めると消費税に近づくという事ですが、さて、国境調整の問題は税制としての良し悪しより、導入時の経済への影響が大きい点や実務上の難しさにある事ですが、これが世界の税制論議に一石を投じた事は間違いなく暫し、米議会での審議とも併せ、その推移を見極めていく要ある処です。(日経3月24日)

何れにせよAmerica first、米国が自国の利益を損なうルールには従わなくてもよいとする姿勢を見せていく限り、結果としては自国経済のみならず世界的に大きなマイナスを残す事になる事、前述したとおりですが、これが安全保障秩序までにも影響が及ぶことになる事いうまでもありません。こうした事情の上で、彼が「FAIR TRADE」と叫んでいる事は、言い換えれば、本当に公正で自由か否かを判断するのは米国だと、言わんばかりと映るのですが、極めて違和感を禁じえないというものです。明らかに国際通商問題を考える次元が変わってきた事を実感させられる処です。

(2) G20会議とトランプ政権

トランプ政権発足後、初の国際会議となるG20財務相・中銀総裁会議が3月17・18日、ドイツで行われました。米側からはムニューシン財務長官の初見参でしたが注目された事は、当該共同声明づくりを通してトランプ色が鮮明となった事でした。 つまり、会議での合意を確認する形で共同声明が成るものですが、前回までの‘声明’にあった「保護主義に対抗する」との記述は米国の反対で削除され、代わりに「経済に対する貿易の貢献の強化」と指摘するにとどめ、また地球温暖化対策を巡る記述も削除され、トランプ色を鮮明とする処となっています。まさに国際協調に向けた結束に大きな亀裂を残したとの印象はぬぐえません。この点、現地でのぶら下がりインタビューに麻生財務相は‘自由貿易には変化はないということでしょう’と、フラットに応えていましたが、なんとも能天気というものです。

Rust beltの労働者の支持を受けて登壇したトランプ政権にとって、最優先課題は貿易赤字の解消と雇用の回復に在ることは理解される処ですが、保護主義を以って、貿易赤字の解消や米国の雇用を回復させることは米国経済の構造変化に対応することなくしては無理な話であることは先月論考でも述べた通りで、製造業の米国への回帰戦略も言うなれば「昔の米国に戻る」以上の意味がなく、従って彼が主張するような大幅の雇用回復は期待できないというものです。
そうしたアメリカですが、それでも自由貿易を口にしていることもあり、彼らがまさかWTOから脱退することはないでしょうが、世界の通商秩序を自国に有利なように変えようと仕掛け続けることは、ほぼ間違いないものと思うのです。

と云うのも米国には自国本位で動く大国であると云う認識があるためと思料するのです。その点でトランプ政権は、世界の面倒は見ないよと、リーダーシップの放棄を示唆していますが、それに代わる手立ては必ず打ってくるはずです。力は衰えたとはいえアメリカは今でも世界に影響を及ぼすことが出来るほとんど唯一の国です。1929年の大恐慌のときには高関税政策をやってみたり、1971年にはニクソン大統領が1ドル360円という約束をほうりだした事など、思い出しておくべきかもしれません。尤もその結果は米国自体、大きなダメージを余儀なくされてきた処ですが、それは自国経済の構造変化、等当該環境変化を無視した合理性に欠く政策だった結果というものです。言うまでもなくトランプ政権の現実も今同じ様相にある処です。

Financial Times(Mar.21)は社説で、‘Watching and waiting for Trump’s protectionism’ と、暫しトランプ政権からでてくるものを見極めるのが得策と云うのですが、現状からは然りとされる処です。とは言え、公正なルールに基づく自由貿易の在り方について、各首脳自ら討議していくべきでしょうし、それこそ次は各国首脳の出番となる処と思料するのです。

序でながら3月16日、トランプ政権は2018 年度(17年10月~18年9月)予算方針を発表しています。 基本的には「米国第一」に向けて国防・安保中心に増額、非国防費の大幅削減と予算を大きく組み替えることとしていますが、米国内外で反発や混乱も予想され、議会との調整は難航が必至と見られ、前述、政治の混迷が続きそうです。 処で、そうした国防強化を目指すトランプ氏が手本としているのがレーガン元大統領(スターウオーズ計画)とされていますが、そのレーガンこそは一国単位での経済運営ではやっていけないとして、ドルをフロートにして小さな政府へカジをきり、そして製造業から金融に重点を移し、まさに一国単位の経済からグローバル経済へ国の経済体制を変えた人物なのです。 とにかく、大統領としての整合されたコンセプトが語られる事のないまま、脈絡なく打ち出される政策にいささかあんぐりですが、その限りにおいてトランプ氏は前出、‘最後のアバンギャルド’で終わると云うものでしょう。


2.日米経済関係の新展開

(1) トランプ政権の対日批判と日米経済協議

さてトランプ氏を始めナバロNTC委員長、ロス商務長官ら、政権閣僚らは日米間の経済にかかる問題、貿易インバランス、円ドル問題等を巡り、対日批判を繰り返していますが、3月8日にはトランプ政権は日本の自動車と農業分野の市場開放を求める意見書(自動車:「重大な非関税障壁が残っている」、農業:「高関税によって保護れている」)をWTOに提出しています。いうまでもなくその狙いは4月に予定されている日米新対話に向けての事と思料する処です。
周知の通りトランプ氏は大統領就任直後、TPPからの離脱とNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を打ち出しています。これを真っ先に持ってきたのには通商交渉を多国間から2国間交渉に移すという「貿易観」の転換を印象付けるためであること、そして2国間交渉でこそ経済大国米国の強みが発揮できるとトランプ氏は考えている為と、政権移行チーム元幹部、Mr. Ado Machidaは日経紙上インタビュー(2017/3/15)で語っていましたが、日米新対話はこの発想の延長線において進められる事になると云うものでしょう。

・過去の日米経済協議
ではこれまでの日米間協議はどうだったのか。それは貿易摩擦が起こる度に米側が求める形で繰り返されて来ました。当初は1960年代からの繊維や鉄鋼、70年代の自動車、80年代では半導体など日本企業が強みを持つ産業分野で、対米輸出や日本の輸入シェアーに一定の基準を設ける協議が中心でした。ただ、85年のプラザ合意後は米国の対日貿易赤字が膨らんだため、貿易不均衡の是正に向けて幅広い分野にわたる日米の市場構造や日本の市場開放について話し合う枠組の始まりとなるものでした。
具体的には1989年には貿易不均衡の是正に向けた「日米構造協議」、93年には、その構造協議を拡大した「日米包括経済協議」、更に内容を変え97年には、規制緩和政策を扱う「日米規制緩和協議」、2001年では規制緩和協議の流れをくむ「成長のための日米経済パートナーシップ」に関する専門家会合の設置を以って、具体的協議を図るというものでした。その経過はまさに日本経済成長の証ともいえる処です。そして今再び米国の貿易赤字拡大に歯止めをかける激しい通商協議が始まろうというものです。

(2)日米新対話に求められる発想の転換

・日米新対話のテーマ
「新対話」のテーマは既に三つの分野、「財政・金融のマクロ政策」、「経済協力」、「2国間の貿
易体制」とされていますが、これまでの経過からは日米の貿易不均衡問題、つまり米国の対日貿易赤字是正にフォーカスされる処でしょう。そしてそれは上記WTO宛て意見書にもあるように自動車、農産品を軸に日本市場の開放へと圧力をかけてくるものと推測される処です。
つまり非関税障壁問題という事ですが、同時に米国の貿易赤字の背景として円安為替操作問題にも及ぶものかと推測される処です。まさにそれらは今再びとする処です。

この内、自動車については、輸入関税は既に日本は「ゼロ」、一方米国は「2.5%」ですから日本側には関税障壁はありません。それでも日本市場の閉鎖性を云々するのですが、その閉鎖性についてはドイツ車の成功が反証する処です。因みにメルセデス・ベンツの販売台数はトヨタの高級車「レクサス」を上回り、BMWなどの人気も高く、つまりは製品の差別化で一定の市場浸透に成功しているという事です。米国車が日本に浸透しなかったのは事実ですが、それは車の魅力や投資の不足に起因するものと云え、従って米国車を売り込むためには営業努力を傾け、日本の消費者に米国車の良さを売り込む努力がなお求められる処です。その点、日本としてはそのための支援することはあっても、輸入数量義務を負わされるようなことは絶対に避けるべきと思料する処です。もう一つの農業製品については、基本的に日本側に問題があること周知されており、関税など国境措置による農業保護は、国内補助金制度に切り替えるなど政策体系を思い切って見直す事が求められるという事でしょう。

尚、米国は対日貿易赤字は為替操作に起因するものとして批判していますが、3月17日のG20財務相・中銀総裁会議の共同声明では、結果的には従来から踏襲してきたルールを盛り込んだだけで批判は消えていました。いずれにせよ為替問題を国際通商政策から切り離すべきテーマであり、要は後述するように経済政策の中で考えられてしかるべきものと思料するのです。

・日米FTA交渉は新たな発想で
さて、個別商品を巡る事情への基本認識は上述の通りですが、要は米政府は日米FTAに持ち込みたいという事でしょうから、むしろ日本としては米政府の圧力に応えるという姿勢ではなく、この際は、新しい環境にある米国との協議である点を強調しながら結果として、日米双方にとりwin-winとなるよう発想を新たにし、同時に日本経済の基盤強化を図る機会となるような協議戦略を目指すべきと思料するのです。

既に2月の日米首脳会談では安倍首相からは対米投資の拡大、インフラ投資への協力を約したと伝えられている処ですが、こうした対米協力の視点から、米国の対日赤字削減、日本側の対米黒字削減に向けた日本にできることがあるとすれば、経済政策として円安是正を通じて輸入促進を図ることもありうるものと思料するのです。その点で今、円の対ドルレートは購買力平価に比べて1割強の円安にあると言われています。であればこれを是正すれば対米黒字を3割程度削減する効果が期待できると言われています。勿論円安是正は消費の回復にも資する事、いうまでもありません。
もう一つ、日本経済はいま穏やかな回復過程に入ってきており、先月発表されたGDP速報、又今月発表の改訂値でも、4半期連続のプラス、年率で1.2%増にあります。が、それでも依然消費等内需がさえないことが問題となっています。そこには構造的な要因が云々されるのですが、とすれば、そうした構造問題への取り組みを鮮明とし、内需拡大による黒字削減を図る姿勢を打ち出すべきでしょう。(いつか通った道ですが)それは日本経済の基盤強化を図る機会と捉え直すという事とし、同時にこれが米経済再生への戦略的協力に繋がる処と思料するのです。
更に想定される日米FTA交渉を日本の対米協力への枠組み作りの場と位置付けると同時に、交渉を通じて自由な貿易・投資の促進が重要との日本のメッセージを発信していく事とし、これが国際ルール作りの原型を提示していくという点に問題意識を集めていくべきと思料するのです。

ただここで留意しておかねばならないことは、米国と中国の関係です。これまでもトランプ政権にとって最大の懸案は中国と指摘してきました。近時トランプ氏の対中姿勢が変化してきています。従って、先の日米首脳会談で確認できたという日米関係も、トランプ政権が対中関係を模索する過程で揺れ動く可能性は否定できません。その点、日米首脳会談で手にした政治資源を今後、国際環境に反映できるよう日本としての世界における自らの役割の再定義を進め、同時にそれに即した戦略の再構築を以って、その機に望むべきと思料する処です。


おわりに:今そこにある政治資源

・国粋の枢軸
3月10日付日経Opinionの欄に寄せられた同紙コメンテーターの秋田浩之氏の論評、そのタイトルの「国粋の枢軸」という文言に筆者はハットさせられるものを感じたのです。
それは、米国第一主義を突き進むトランプ政権が、平和と成長を支えてきた国際的な協調体制を壊そうとしている事への警鐘ですが、それに共鳴する欧州の右翼政党があり、別々に行動しているように見える米政権と欧州の極右勢力が寄り添い「国粋の枢軸」という危ない糸で結ばれつつあると、指摘し、係る事態への危機感を示唆するものでした。筆者も同じ問題意識を以ってこれまでもトランプ政治を批判してきました。そして同氏は、欧州外交筋の話として、今フランスで勢力を高める反EUのルペン氏が大統領選で勝利するようにでもなれば「EU統合は本当に死ぬ」と続けるのです。そしてその下りを次のように締めるものでした。― 「米英仏中ロ」は、国連で拒否権を持つ安保理常任理事国。この大国クラブが「国粋の枢軸」に占められたら・・・。戦前には、米英仏が主導する秩序に反発した日本、ドイツ、イタリアが枢軸を組み、戦争に走った。皮肉なことに、今度は日本とドイツが現行体制の砦にならなければならない、と。

さて、極右の台頭が注目されていたオランダ下院選が3月15日に行われ、果せるかな極右・自由党は第一党には届かず一方、既存の政治にNOを突きつける批判票が左右に割れたため、ルッテ首相率いる連立与党も大きく後退しています。1か月後のフランス大統領選など欧州の政治をポピュリズムが襲う恐れはなお燻ぶってはいるも、「極右勝利」が避けられたことで欧州緒国ではひとまず安堵が広がっているとされています。自由党が勝ちきれなかったのは、オランダ自由党の公約が過激すぎ有権者はその実現は難しく支持出来ないと判断したものと云われています。が何よりも過激な発言を繰り返すトランプ氏が米大統領に就いたことで起きている米国社会の混乱に照らし、オランダ国民は一定の距離を置くようになってきたものと云えそうです。
4~5月に大統領選を控える仏のエロー外相はツイッターで極右台頭を食い止めたと祝福したと報じられていますし、9月に連邦議会選のあるドイツのメルケル首相はルッテ氏との電話協議で「友人、隣人、欧州人として協力を続けられることを楽しみにている」と述べたと言われています。因みに、3月9日、ブリュセルで行われたEU加盟国28か国の首脳会議では「開かれたルールに基づく貿易」を堅持する姿勢で一致したことが、伝えられています。

・いまそこにある政治資源の活用を
一方、安倍首相は、5月のG7、7月のG20各首脳会議に向けた環境整備のためとして3月21日~22日欧州を歴訪し、各首脳と自由貿易体制の維持、反保護主義で結束することを確認し、併せて「日欧EPA交渉」を年内に大枠合意する事も確認されたことで現地インタビューでは、これこそが「世界に発する象徴的なメッセージになる」と安倍首相は訴えていました。そのTimingに合わせ3月19日、ドイツ、ハノーバーで日独両政府はIoT関連技術、AI技術等第4次産業革命に関する両国協力の枠組みを定めた「ハノーバー宣言」に署名を交わしています。
日独協力による新たな発展に向けたベクトル作りへの有力な基盤が整備されたという事ですが、これが日米関係の新たな発展を誘導する上でも格好の事例とも思料する処です。勿論、楽観を許すものではありませんが、上記、秋田氏が期待する日本とドイツが自由主義経済の砦となる可能性を担保する具体的事例が一つ見えてきたというものです。同時に、サミットを外交の拠点と位置付けてきた日本として、5月のG7サミットでこれら成果が如何に活かされるか、が問われることになる処です。 一方、かかる変化をencourage していく為にも,いまそこにある政治資源を改めて日本経済の持続的成長の基盤再構築に向けられていくべきと思料するのです。言葉はともかくこの4月、アベノミクスは5年目に入るのです。 
                       
                                        以上 
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2017年02月25日

2017年3月号  ’大統領令’を通してみ見るトランプ政治のリアルと、日米関係 - 林川眞善

はじめに:American democracy

トランプ・ショックは留まる処を知りません。トランプ氏は大統領に就任するや矢継ぎ早に大統領令(注)を発動、以ってこれまでの米国、そして国際関係における秩序の一変を期さんとする彼の行動に世界は、連日のメデイア報道と共に一憂、一憂です。
実は、これまでも各大統領は、就任後にいくつもの大統領令を出しています。オバマ前大統領の場合、就任直後の3週間で29本の発動がありました。が、ほとんどメデイアでも取り上げられる事はなかったのです。しかしトランプ氏の場合、24本と5本も少ないにも拘わらず内外の関心は極めて高いものと云え、というのもその内容がアメリカ社会の生業を大きく変えていく可能性と同時に、それが外交関係に直結する、そのインパクトの大きさにあるというものです。

(注) 大統領令(Executive Order):米大統領が連邦政府や軍に出す行政命令。議会の承認を得
なくても即座に法的拘束力を持つ。通商政策、移民政策、規制の改廃、等幅広い分野に権限は及ぶ。

当のトランプ氏はAmerica first を旗印に選挙中行った公約を、その勝者として実行するだけと大統領令を連発していますが、そこに見る彼の言動はまさに傍若無人、自身に不都合な情報はfakeだとか、alternative factとして切り捨て、自身の思惑だけをむき出しにした、時には恫喝的な様相で、政治を押し進めんとしています。
例えば、雇用の創造をと叫んで大統領に就いた彼ですが、その‘創造’とは、例えばメキシコで事業拡大を目指す企業に対して口先介入という政治圧力をもって国内に呼び戻す、国内回帰を進め、これに応えない場合は高関税を課すと云った、まさに恫喝政策ですが、それで解決する話ではない筈です。因みに、オハイオ州立大学のエドワード・ヒル教授(注)は、雑誌Wedge2月号で、保護主義によって米国の製造業が大幅に雇用を回復させるのはほとんど不可能だと喝破しています。が、そもそも問題は米製造業への回帰という戦略が「昔の米国に戻る」以上の意味のない点にある事です。

(注)ヒル教授:米国は1979年から2015年までの間に製造業で約7000万人の雇用を失ったが、そのうち8割強はオートメーション化によるもので、国外に流れたのは十数パーセントにすぎないというのです。そして、トランプ氏は高校さえ卒業すれば誰でも仕事を手に得られるという古い常識に従った語り掛けをした。60年代の工場労働者の復活を夢見ているようだが、今の米国で、スキルのない労働者はだぶついている一方、スキルノのある労働力の不足に悩まされている。従ってトランプ氏の約束の実現は「ノー」だというのです。

就任演説では選挙の終わった今、合衆国はノー・サイド、国民は一丸となってと、叫んでいました。が、そうした彼の姿勢からは‘合衆国’の分断を深めることはあっても、解消するなど到底思えぬ状況にある処です。いや、今や彼はそこを狙い、その結果として、自身への権力の集中、絶対的掌握を狙っているのではと映る処です。これが世界にもたらす影響の重大さは云うべくもありません。

そうした様相を2月4日付The Economistはその巻頭言で`An insurgent in the White House’ (ホワイトハウスの中の暴徒)と題し、Washington is the grasp of revolution 、つまり、ワシントンは今、革命に見舞われているとするものでした。そして相次ぐ大統領令というMolotov cocktail (火炎瓶)を投げつけるなどの狼藉を働き、その勢いはおさまる様子はないというのです。ではどうすればいいのか。同誌は、過激な政策を進言する側近、上級顧問のステイーブン・バノン氏、大統領補佐官のステイーブ・ミラー氏をイメージしてのことでしょうが、側近を追放して方向転換をすべきであり、世界はそれを期待すべきとも云うのです。

一体、米国の民主主義政治はどうなってしまっているのか、と思わざるを得ません。尤も彼は民主主義のルールに則った選挙で勝利したという事ですが、かのヒットラーも、当時、世界で最も民主的とされたワイマール憲法の下での選挙で勝利し、その後の顛末は周知の処です。

・American Democracy
そこで思い起こさせるのが今から182年前、フランスの若き政治学者トクビル(1805~ 1859 )が、当時のアメリカ旅行での体験を下に、アメリカの政治について著した「アメリカの民主主義」(American Democracy,1835 by Alexis de Tocqueville )です。

彼はベルサイユで陪審判事を務めた後、1931~32年、仏政府の命を受け米国の行刑制度研究を主たる目的として米国を旅行していますが、当時のアメリカは世界の最先端を行く近代社会国家で、この機会に共和制の議会民主主義がなぜアメリカではうまくいっているかについて取り纏めたもので、今なお民主政治の入門書ともされるものです。そのポイントは、democracyが米国を支配する原理と指摘し、その中軸に「地位の平等」があって、多数者の幸福を目指すことにあるとするものです。が、同時に彼は、democracyには「多数者の専制」を生む可能性を指摘していたのですが、トランプ大統領を生んだポピュリズムこそはそれに通じる処です。そうした事態の解決のためにはいわゆる「知識人」の存在が重要と指摘しているのですが、さて、その知識人の声がトランプ大統領の登場以降、聞こえてこなくなっているのが気がかり云うものです。

そこで、トランプ後を見据える意味合いも含め、既に発動の大統領令うち世界的注目を呼んでいる3件をピックアップし、それらに透ける「トランプ政治のリアル」を検証することとし、併せて2月10日の日米首脳会談と日米関係の今後について、以下目次に沿い考察する事としたいと思います。 (2017・2・24)


                   目  次

1. 検証 トランプ政治のリアル
  
(1)大統領令を通して見るトランプ政治 ----- P.4

 [大統領令が語る経済政策のリアル]
 ・化石燃料へ逆流シフトを進めるエネルギー政策
 ・金融規制の緩和、税制の改革

 [移民管理政策と米経済の可能性]
 ・イスラム圏7か国市民の米入国一時禁止令

(2)トランプ通商政策の誤謬  ------- P.7

 [ 二国間貿易インバランス批判と、その論理]
 ・対米貿易インバランス批判の実状
 ・貿易インバランスは経済の構造問題

 [トランプ通商政策を総括する]
 ・R. Baldwin氏の指摘 

2.トランプ政権と日米関係
            
(1)日米首脳会談 ------P.10
 ・「新経済対話」枠組み

(2)日米関係の深化、そして進化を ------ P.11

おわりに:最後のアバンギャルド       ------P.11
         
・・・・・・・・・・・・・・・・
1.検証:トランプ政治のリアル

(1)大統領令を通して見るトランプ政治

大統領に就任したトランプ氏は前述のとおり大統領令を連発、選挙中の公約の実施を目指して
います。これら大統領令は「米国第一主義」の下に進められる点で、その多くは今日的経済の生
業を無視した独善的とも言える様相を呈しており、瞬時の効果はともかく、持続可能な経済運営
が可能なのか、その疑問は禁じ得ません。 
そこで、既に発動されている大統領令の内、経済政策(産業・金融・税制)、そして今、最も非
難の的とされている人種差別的な移民管理政策、つまり米国への入国規制措置にフォーカスし、
それらから透けるトランプ政治の姿を、実践的な視点から検証していく事とします。

[大統領令に映る経済政策のリアル]

・化石燃料へ逆流シフトを進めるエネルギー政策
中東に依存しないエネルギー供給体制の構築を旗印として、シェールガス開発を軸に米国内の原油増産を狙うこととし、1月24日、トランプ大統領は、環境保全の趣旨から、これまで抑えられていた「ダコタのキーストンパイプライン」、「キーストーンXLパイプライン」(カナダから米メキシコ湾)の建設を許可する大統領令に署名しました。米石油大手はトランプ大統領の政策を歓迎し、原油価格が持ち直すなか、今後投資の拡大が見込まれる処と云われています。

これまで世界的合意として、化石燃料が排出するCO2等、温暖化を制御し、クリーンな燃料に向かうこと、その為に自然エネルギーへのシフト、低炭素エネルギーの開発を各国とも進めてきています。2年前のCOP21で採択され、昨年、米国が中国と一緒に主導し、批准発効したパリ協定(注)はその象徴的な国際的合意行動です。

     (注)2015年12 月12日、パリで開催のCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国
会議)で合意(世界195か国)された2020年以降、全ての国が参加する枠組み.先進国
には数値目標の設定を義務付けるもの。(途上国はその義務なし)2016年11月 4日発効。

しかし、今回の大統領令は、こうした合意には構う事なく、まさに化石燃料への回帰を決定するもので、つまりは「環境よりは成長を」鮮明とするものです。因みに、彼は当該プロジェクトの推進で雇用の増大が期待でき、2万8千の雇用創出につながると説明しています。尤も、この数字の根拠など示されることはありません。元々トランプ氏はパリ協定には否定的で選挙中もそうした発言をしていました。つまりは産業政策として米国は化石燃料路線への復帰を図るという事で、America firstの下では環境問題は二の次という事なのです。新たに環境保護局長官に就任するスコット・プルイット氏はエネルギー産業の集積地、オクラホマ州の出身で温暖化懐疑派で、温暖化に関する前政権の規制を撤廃すると主張する仁です。更にエネルギー長官に指名されているリック・ペリー氏も温暖化懐疑派とされており、米国のパリ協定からの離脱が現実味を帯びてきたという事ですが、トランプ政権の一連の対応には聊かの懸念を禁じえない処です。

尚、ここで留意すべきは、現時点では前述の通り、企業は歓迎し積極投資に向かうものとされていますが、米大統領の任期は長くて8年、これに対して温暖化対策はけた違いに長期の取り組みになるものです。環境対策をおろそかにすれば、いずれしっぺ返しを受けかねないという点です。つまりトランプ流にのることは中長期的にはリスクの高いもの、という事で、さて当該産業の責任者はどう考え対応することになるのか、改めてその見識が問われるというものです。何れにせよ銘記されるべきは、持続可能な成長は環境対応があってのこと、そして各国との連携があって成り立つという事ですが、その限りにおいてAmerica firstでは通じなくなるという事なのです。

・金融規制の緩和・税制の改革
2月3日トランプ大統領は金融規制を抜本的に見直す大統領令に署名しました。オバマ政権が金融危機の再発を防ぐ目的で導入した「米金融規制改革法」(ドット・フランク法、2010)を主たる対象とするものです。これで厳格化の方向だった米国の金融規制が、成長促進に比重を置いたものへと変質していく事が想定される処です。リーマン後の金融行政については、過剰規制はお金の流れを鈍らせ成長を阻害しかねないとの主張が強く伝えられていましたし、その点ではドット・フランク法の見直しそのものに大きな違和感はない処です。ただ、見直しの如何は日本、欧州とも直接関係する処であり、その点では広い視野に立った見直しを願う処です。

当該大統領令では「米国民の資産形成を可能にする」、「金融機関の救済に公的資金を投じない」、「米企業の競争力を保つ」など、基本原則が記されており、それに照らして現行ルールが原則に沿ったものか財務長官が点検し、大統領に報告する(日経、2017/2/4)こととなっています。基本的には常識的な内容と思料されるのですが、「国際的な交渉や会合で米国の利益を追求す」と云った部分がある事は気になる処です。つまり、貿易交渉などと同様、新たな金融規制作りにおいても国際協調に消極的な大統領の姿勢を映す点で気がかりとする処です。つまり、America firstに基づく規制作りが孕む危険性です。そして伝えられる処、これまで非難してきたウオール街寄りとなることに、彼の政治姿勢の曖昧さを禁じえないというものです。

・国境調整税
もう一つ、ムニューチン氏の財務長官就任(2月13日)で一気に進むのではと予想されるのがトランプ政策目玉の税制改革ですが、焦点となるのが輸出課税を免除し、輸入は課税強化するという「法人税の国境調整」です。尚、これは昨年6月から下院共和党が検討してきたもので、トランプ氏が就任式で触れた「国境税」とは似て非なるものです。 
伝えられる処、輸出への課税がなくなれば米企業の国際競争力は高まり、工場を海外に移転する動機も薄れ、その点では国境調整は「米国に企業と雇用を取り戻す」とするトランプ主張に沿う処と云うものでしょう。が、これは対外的には影響は甚大です。中国や日本からの輸入品は大幅な値上がりを余儀なくされ、輸入品を売る米小売り業者の利益が圧縮されたり、価格転嫁で消費者の負担が急増する恐れがある事です。因みに、日本の場合、輸出の減少でGDPを0.6%押し下げるとの予想(SNBC日光証券)もある処です。
問題は税制を舞台にした貿易戦争に直結しかねない点です。加えて、WTOルールでは法人税のような直接税での国境調整は輸出補助金として禁じており、このルールに抵触する可能性ですが、仮に米国第一としてトランプ氏がこれを一蹴するようなことにでもなれば、まさにフェアートレードは消えてしまうことにもなりかねません。トランプ政権は未だ国境調整措置について明確な見解を示していませんが、仮に国内経済の活性化を目指すなら、他にある特異な税制の見直しを急ぐべきで、内外経済を揺るがす国境調整に拘るときではないのではと思料するのです。

[移民管理政策と米経済の可能性]

・イスラム圏7か国市民のアメリカ入国一時禁止令
世界が今最も注目しているのが1月27日、署名された「イスラム圏7か国」(イラク、イラン、リビア、ソマリア、イエメン、スーダン、シリア)市民の米入国の一時禁止令です。2月3日、ワシントン州連邦地裁は、この禁止令は「憲法違反」として差し止めの仮処分を決定。この決定に対し政権は不服として高裁に上告しましたが2月9日、連邦高裁がその上告を却下。トランプ氏は最高裁に持ち込むと息巻いていますが、法廷闘争となれば時間はかかりそうです。
    
トランプ大統領は、要は米国家のセキュリテイの為、「テロ懸念国」からの入国を一時禁止するものとしています。さて、問題はその対象国指定の論拠ですが、仮にNYの9・11事件の犯人の出身国はと云えばサウジでありエジプトですが、この対象国にはなく、7か国規定の根拠が不明ですが、何よりも国家権力が国籍を以って当該市民の全てを差別し、入国を禁ずることが許されるかという点です。まさに基本的な人権問題に抵触すると云うもので、この措置を巡り米国内はもとより世界各国でも重大な人権問題としてトランプ政権への批判が渦巻いています。

・米経済の可能性
周知のとおり、米国の国家としての生業は自由や平等の旗の下に様々な出自を持つ人々が結束する移民国家とするものです。つまり、自らの祖先が移民である事、多種多様な人々が人口増を支え成長エネルギーの供給源になってきたこと、そして豊富な物質やサービスやマネーが流入して繁栄したこと、を忘れて排他的になってきたと云うものですが、この保護主義への急傾斜は、米国経済の強さを支えてきた自己増殖システムを破壊させるリスクを高めることはあっても減じることはありません。
いまグーグル、アップル、アマゾン・ドット・コム、フェイースブック等、大統領令に反旗を翻す企業が相次いでいることが報じられていますが、これら企業は世界中から受け入れる多様な才能、これを土台として変革と飛躍を遂げ、米国経済の成長を支えてきただけに、極自然な動きと云うものです。そして、懸念されることはこの移民排斥によって「H1B」ビザを取って米国のハイテク企業や研究所に吸収されていたハイテク人材が中国に向かう事になるのではという事ですが、トランプ政権はどう考えているのでしょうか。
現時点では上述米入国禁止令の差し止めとなったため、通常の入国措置が取られていますが、最高裁での裁定如何では、再び入国制限が行われるとなると米国への世界の信頼は崩れ、トランプ大統領が目指す「偉大な米国」の復活どころではなくなっていくこと云うべくもありません。
因みに、FRBのイエレン議長は2月14日の上院銀行委員会で「移民の流入が減少すれば、米経済の成長も鈍化する」と指摘するのでした。

今回のワシントン州地裁による差し止め決定、その決定に対する大統領の抗告を棄却した控訴裁の決定は、米国の民主主義の健在を示すものと世論は評価する処ですが、トランプ氏が現職大統領として、当該訴訟判決を国家の治安を無視する行為として、行政と立法のチェック機能を果たす司法に対し批判・攻撃する姿は、三権分立の観点からその異例さに、もっと注目すべきと云うものです。それにしても、大統領令に司法が差し止め命令を出した事は、トランプ政権による「大統領令頼み」の政策遂行の危うさを浮き彫りにする処です。
因みに2月17日のギャラップ調査ではトランプ大統領支持率は就任直後の45%から40%と歴史的低支持率となっています。その要因は移民の入国規制令にあるとされているのです。

(2)トランプ通商政策の誤謬

[二国間貿易インバランス批判とその論理]

・対米貿易インバランス批判の実状
さて周知のとおりトランプ氏の対外姿勢は「米国第一」、そして外交交渉は二国間対応を生業とするのですが、その点でトランプ氏が執着するのが対米貿易インバランスの是正です。具体的には大幅の対米黒字を抱える中国そして日本、更にはドイツに対して、通貨操作による結果と再三主張してきています。彼のこの戦略圧力の前提には「一国の得は必ず相手国の損」と云う、二国間の貿易黒字を尺度にしたゼロサムの世界観がある由ですが問題は、この勘違いの下に、トランプ氏は対米貿易黒字国に対し根拠なき攻撃を続けているという事です。

勿論日本の場合は、国内経済浮揚のための金融政策として現状維持を続けているもので、通貨操作をしているものでもありませんし、現実に対米黒字は縮小にあります。(下記注)一方、中国については1月の始め、トランプ政権は中国の為替操作国指定を見合わせるともしてもいるのです。(前月号、弊論考)更に、国家通商会議のナヴァロ氏のドイツ批判も然りで、ドイツはユーロ安を誘導して貿易黒字を膨らませ、世界から需要を奪い、ユーロ圏他国の成長を阻害したと非難するものですが、このドイツ批判こそは明らかに間違っています。というのもドイツはユーロを管轄する立場にはなく、ユーロ圏各国政府も2000年以降はユーロへの介入は行っていません。強いて言えば、ドイツは長年、国内需要や賃金を抑制して国際競争力を強化し、ユーロ圏の中で貿易黒字を積み上げてきた経緯はありますが、これをあえて為替政策に結び付けるには無理があると云うものです。いずれにしても現実を無視した非論理的な批判という処です。

(注)2月7日、米商務省発表の2016年の米貿易統計(通関ベース)では、モノの貿易赤字は全体で7343億ドル、前年比1.5%減でしたが、米国の貿易赤字を最も計上しているのが中国で、3470億ドル、赤字全体の47%を占め、日本は2位で、689億ドル、3位はドイツ、4位がメキシコ。

・貿易インバランスは経済の構造問題
そもそも二国間の貿易赤字問題は基本的には当該国の経済構造に係る問題です。というのも国の経済活動(規模)を示すGDPは消費と投資、そして貿易バランスの和で表記され、以下(注)の恒等式から、対外バランスは国内の貯蓄と投資の関係で決まるという経済の構造上の問題であり、言い古されたI・S問題として理解されるべき問題です。つまり、制度的手法で貿易収支をコントロールするにしてもまず、この構造の実状理解が必須というものです。
米国の場合、米国内の貯蓄が投資に比べて少ないことが対外貿易赤字を結果しているということで、このインバランスをどのように解消していくべきかが一義的な問題となるのです。

(注)「貿易バランスは、国内の貯蓄(S)と投資(I)のバランスとして定義される」
国の経済は「生産=支出」の恒等式として表記され、生産は「国内生産(Y)と輸入(Im)」、 
支出は「消費(C)と投資(I)そして 輸出(Ex)」 Y+Im.= C+I+Ex.
S(貯蓄)=Y(所得)-C(消費), S-I=Ex-Im

ここで問題はトランプ大統領の思考様式です。彼はロス次期商務長官の考え方に負うものとされています。つまり一国のGDPは国内での経済活動プラス純輸出(貿易黒字)であり、貿易赤字は逆に純輸入なので、これを式に当てはめるとGDPを減らす要因になる、とするのですが、そこでは輸出入の増減要因に係る分析の言及がないままに、貿易インバランスの結果だけを取り上げ云々する論理が問題と云うものです。いずれにせよ彼はそうしたロス氏の論理に即す形で具体的には、輸入を制限し、国内産業振興や輸出促進で貿易収支の改善を図るというのですが、まさに18世紀の重商主義を彷彿とさせる処です。そしてその上で、事実誤認をベースに誤った為替操作の批判を繰り返してきているというのが実状というものです。

輸入を抑えることで貿易赤字が減り、黒字に転じれば目先、米国のGDPは増えるかもしれません。が、米国への輸入を制限していくとすると、米国が成長しても世界経済はこれまでのように成長しなくなるという事です。勿論、米国からの輸出も伸び悩むことになるのです。その点1930年に導入された保護関税法とされる米スムート・ホーリ法の経験が語る処です。
今、重商主義を支える感情が愛国心であり、ナショナリズムとされるのですが、こうした点に照らしてみるとき、なにか世界の分断統治を狙っているかのように見えてなりません。

そもそも一国の貿易収支の赤字を是正すべきとする経済理論は存在しません。又、貿易収支の均衡を政策目標に掲げている先進国もありません。トランプ氏は貿易赤字のことをインバランス(不均衡)ともデフィッシット(赤字)とも言わずロス(損失)と表現するのですが、あたかも企業を経営するような目で貿易を見るが如きで、貿易を商売の目で見るのは非常に危険と云うものです。超大国の指導者が誤った経済認識にある事は世界にとって大きな懸念要因と云うものです。

因みにFinancial TimesのColumnist、Martin Wolf氏は同紙1月25日付で、こうしたトランプ戦略について、国内の競争力のない一部の企業を保護するが、(消費者がその競争力のない商品を高く買わされることで)他の企業製品が売れなくなることを意味する。Trump proposals seem to aim at resurrection of the economically dead, つまりトランプ提案は、本来なら市場から退出すべきゾンビ企業の再生を目指しているように見え、到底まともな戦略とは思えない、と激しく批判するのです。

[トランプ通商政策を総括する]

・R. Baldwin氏の指摘
トランプ大統領は、グローバル化を批判し、閣僚に保護貿易主義を起用し、保護政策に転じ、労働者を保護すると云うが、21世紀の現在の問題を20世紀の方法で解決しようとしていることが問題と、ジュネーブ国際高等問題研究所教授のRichard Baldwin 氏は断じるのです。(日経2/20)例えば、関税を引き上げ、海外からの製品の輸入を抑え、米国内のジョッブを維持することは、それは結果として米製造業にとってコスト高を齎すことになり、勿論、企業が生産の一部を米国に戻すきっかけとなるかもしれないが、企業は外国企業と米国以外で競争できるように輸出を狙った海外生産の意欲を高めることになると云うのです。そしてトランプ氏は、21世紀のグローバル化は知識主導であって、貿易主導ではないという単純な点を見逃していると指摘するのですが、まさに正鵠を得る処です。

つまり、技術、マーケテイング、経営管理のノウハウの海外移転等、「知識のオフショア化」が米労働者の状況を根本から変えた事にあるとし、その点ではトランプ氏は個々の雇用ではなく、個々の労働者を守るべきと指摘するのです。そして具体的には労働者の再訓練、生涯教育、所得支援プログラムなど、労働者のための政策を取ることが米国を「再び偉大にする」機会を拡大することになる、というのです。けだし至言です。


2.トランプ政権と日米関係

(1)日米首脳会談

欧州ほか米同盟諸国がアラブ7か国からの入国制限措置を打ち出したことで一挙にトランプ嫌悪が深まる世界環境(How America’s allies see it. The Economist, Feb.4,2017)の中、2月10日、安倍首相とトランプ大統領との初の両国首脳会談がホワイトハウスで行われました。           

当初想定されていたトランプ大統領のこれまでの対日批判において、その最大の焦点と見られていた自動車貿易や為替問題についての注文や批判は表面化せず、それら経済問題については今回、安倍首相が持ち込んだ新たな日米対話の枠組み「新経済対話」の場で討議していく事で合意され、一方、安全保障でも米軍による沖縄県尖閣の防衛義務の確認や、在日米軍駐留経費の日本側負担増要求もなく、結果として安全保障でも強固な同盟関係が確認され、通商や為替で目立った摩擦を避けた無難な初会談だったとされるものでした。 これは日本政府が戦略的に封じ込めに動いた結果で、とにかく上手く乗り切ったと云え、その後はフロリダでのゴルフ外交と、「日米蜜月」を演出する事ができたというもので、結果だけを見れば日本にとって出来すぎの内容とされる処です。が、就任最初にピークを迎えてしまったとの感すらあり、今後の具体論に入るときに、今以上の良好な関係を演出する事はなかなか難しくなるかもと、思えるほどです。

・「新経済対話」
それは、具体的には今回新しい交渉の枠組みとなった「新経済対話」の場を如何に効果的に運営していけるかが問われていく事というものです。当該「対話」で話し合われる分野は三つ、つまり財政・金融のマクロ政策、経済協力、そして2国間の貿易体制について話し合われていく由ですが、so far 日本からは麻生副総理、米側からはペンス副大統領のナンバー2同志が仕切る以外は、詳細は不明です。勿論安倍首相はトランプ氏に、これまでの日米経済関係、そして米雇用への貢献の現状を説明し、彼の理解を促せたと伝えられていますから、そうした文脈からは経済協力は歩み寄り安いテーマという事でしょう。とすれば、問題は残りの二つです。

まず、財政金融政策については、日米がどのように協調することができるのか、です。その内容は日米二国間貿易のバランス問題に直結する、つまり、それらテーマは円・ドル問題と同一線上にあるだけにcomprehensive な協調関係を模索していくということになるのでしょうが、かなりの難題と思料します。加えて、fair trade 、公正な貿易推進で両者が合意したとされている点です。つまり、 安倍首相にとってはfaireとは、競争‘プロセス’における公正をイメージしているのでしょうが、トランプ氏は‘結果’の公正を目指すとしている点で、そのギャップを如何に詰めていけるかが、引き続く問題と思料するのです。

(2)日米関係の深化、そして進化を

もとより、日米同盟は共通の利益と民主主義の価値という二つの柱に支えられてきたとされるものですが、今次、首脳会談では少なくとも共通の利益に向かう事で再確認されたという点では更なる深化が期待できるという事でしょう。とすれば、次のステップは後者の部分をどのように固めていけるかですが、それは日米関係の進化に繋がる処と云うものです。ただその点では、必ずしもお構いのないトランプ氏の事でしょうから、そんな彼との道中は長いものになる事は間違いなく、相応の覚悟が必要ではと思料する処です。 そして、欧州との間にある不況和音もさることながら、トランプ政権にとって最大の懸案は中国です。それだけに、今回、確認できたという日米関係も、トランプ政権が対中関係を模索する過程で揺れ動く可能性も否定できません。その点、今回の日米首脳会談で手にした政治資源を今後の国際環境に反映できるよう日本として改めて世界における自らの役割の再定義とその戦略の再構築を図り、以って次機を期すべきと思料するのです。


おわりに:最後のアヴァンギャルド 

中央公論2月号に載った東大名誉教授、佐々木健一氏のトランプ大統領誕生に係る論考「最後のアヴァンギャルド、―トランプ大統領誕生の意味」は、なかなか興味深いものでした。

・最後のAvant-garde
まず佐々木氏は、トランプ政権誕生の予兆を2011年に起きた「ウオール街を占拠せよ」(OWS)の運動に見出すというのです。OWS運動は、リーマンショック後、3年目に起きたものですが、富める1%に対して残る99%の人々の怒りが動かしたもので、その際の「我々は99%だ」としたスローガンからはこの運動が国全体の富が上位1%に集中している事の告発であったとする一方、彼らが求めたのは、社会的な平等、経済的な正義で、理念的な主張であり、極論すれば、体制を顛倒させなければやまないような計画のものだったとするのです。そして、行政経験のないトランプ氏を大統領に選んだのは、その時、果されなかった革命の様に見えると指摘するのですが、興味深いことは、そこで、佐々木氏はトランプ政権の誕生を芸術運動であるアバンギャルド(前衛)と重ね合わせるのでした。

つまり、アバンギャルドとは、既存の何かに挑み、それを破壊しようとする戦闘的な精神が根底にあり、怒りの実験場とも言える運動だったが、トランプ政権はその怒りが、まるで直接現実の中に入り込む形で現れたと指摘するのです。尤も、彼自身が怒っていたようには思われない。億万長者であるこのひとに、真に怒るべきことなど、想像することは難しい。怒りは民衆の中に、鬱積した形で潜在し、トランプ氏はそれに火をつけるアジテーターだったと云い、怒りを演じることにおいてトランプ氏はアーテイストだと断じ、以って最後のアヴァンギャルドと見る所以とするのでした。そして最後に「トランプ大統領は近代にまつわるパンドラの箱を開けたことで哲学の季節が始まるほかはない」と結ぶのでしたが、要は、彼にはそれに備える思想的準備がないことが問題と云うのです。

・動物農場 (Animal Farm)
さて、上記論考にあった「アジテーター」の言葉で連想させられるのが世界的な風刺小説、George OrwellのAnimal Farm (1945)です。そのあら筋はよく知られる処で、人間の農場主が動物たちの利益を搾取していることに気づいた「荘園農場」の動物達が、偶発的に起きた革命で人間を追い出し、ナポレオンと称する「豚」の指揮の下に「動物主義」に基づく「動物農場」を作りあげ、動物達の仲間社会は安定を得たのですが、不和や争いが絶えず、最後は理解できない混乱と恐怖に陥っていき、結果的には支配者が入れ替わっただけで、人間が支配していた時より、圧倒的で過酷な農場となったというものです。この小説は当時のソ連をイメージした風刺小説ですが、次元も環境も全く異なるものの、なぜか現下のトランプショックに通じるものを感じるのです。と云うのも、確かに貧困や低所得者から多くの支持を得たトランプ氏ですが、彼が目指す減税策等は結局は、彼に投票した白人労働者を裏切るものになるものと、思えるからです。

そして、 Financial Times (2017/2/17)に寄せた政治コラムニスト、Philip Stephens氏の記事、これはフリン大統領補佐官(国家安全保障担当)の辞任を巡るホワイトハウス事情を書き立てるものですが(辞任の背景は、補佐官が駐米ロシア大使館と対ロ制裁問題でトランプ大統領就任前に情報活動をしていた事)、その締めの言葉は極めて重く響くのです - What has it come to when the world view of a US president seems as fanciful as the notion of Mr.Trump as the Siberian candidate ? つまり、トランプ氏は(大統領選挙中)「シベリアから来た候補」ではないかと見られたのと同じように、世界が今、米大統領たる同氏を懐疑的に見ている。なんと嘆かわしいことかと。そのタイトルは`Trump, Putin and a fatal attraction ‘

以上
posted by 林川眞善 at 10:01| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする