2021年08月25日

2021年9月号  その熱狂は消え、’感染に溢れる日本’だけが残った - 林川眞善

目 次

はじめに 「東京オリンピック2020」が残したメッセージ
第1章 ‘多様性’ 理念の東京五輪と、菅政治の実像  
第2章  コロナ後の経済社会とDiversity  
おわりに 女子サッカー「なでしこ」の抗議行動

-------------------------------------------------------------------
        
はじめに  「東京オリンピック2020」が残したメッセージ

パンデミック非常事態宣言下の東京、57年ぶりに開催された「東京オリンピック 2020」は8月8日、幕を下ろし、今、後続のパラリンピック(8/24-9/5)を待つ処です。
今次オリンピックで掲げられた理念は「多様性と調和」。そもそも「多様性」(ダイバーシテイ:Diversity )とは、国籍、性別、年齢、宗教など様々な違いがある人たちで成り立っている環境を意味する言葉ですが、とりわけ企業経営や人事の分野においては、多様な人材を積極的に活用していこうという考え方にあって、もともとアメリカで、女性や人種の差別を撤廃し、積極的に採用していく事を目指して広がったとされる考え方です。要は共生社会の活力をもって社会の進化を目指さんとするものです。
さて、そうした理念を戴いた東京オリンピック(五輪)、個々の競技には感動を覚えながら
も、振り返えるとき、国民の五輪熱が高まらないままに終わってしまったとの感、拭いきれません。因みに開会式に出席した菅首相の様子からは、その場は晴れがましい‘場’であった筈も、いささかの高揚感を感じさせるものは全くなかったのです。なぜか? 

8年前、東京開催が決まって以来、色々問題や不祥事が絶えず、そのつどの対応に迫られ、とかくの議論を呼ぶ処でした。国立競技場のデザイン変更、エンブレムの使用中止、招致をめぐる贈賄疑惑。大会組織委員会会長の女性蔑視発言。開会式まで1週間を切った時点で、楽曲担当の音楽家が学生時代のいじめ行為などで降板。更に土壇場になってショーの演出担当者が、過去にユダヤ人の大量虐殺をコントの題材にしたとして解任。これは人権上、重大な問題ですが、どのような基準で入選させたか、その経緯等の検証の必要性を残す処です。

これら不祥事は、云うまでもなく「多様性」尊重の精神に悖る処、問題の発覚とその後の対応にも照らし、多くは「またか」の感を深め、こうした事の積み重ねが国民の五輪熱を冷やしたものではと見る処です。勿論、‘多様性’は今後の経済社会の進化を律するキーワードと云え、英政府は今年の2月、これからの経済を考えていくうえでの指針として「Economics of Biodiversity」(生物多様性の経済学)なるレポートを公表する処です。

そこで今次論考では「東京五輪 2020」に照準を合わせ、五輪を巡る問題、課題等を、`東京五輪2020’ が残したメッセージとして、‘多様性’を切口に総括方レビューし、方々、オリンピックを主導するIOCの在り方についても同様、レビューし、併せて、持続可能な経済発展へのシナリオを、上記英政府レポートにも照らし、考察することとします。



第1章 ‘多様性’理念の東京五輪と菅政治の実像

1. 東京五輪開催までの8年と、菅政権のガバナンスの実態

(1)東京五輪招致の経緯と菅首相の役割
今次東京五輪は前述の通り、「多様性」の追求を理念として開催されました。さてこれがオリンピックの場でどのように体現化されていったかレビューするためにも、改めてオリンピック東京招致の経緯と都度、語られた理念の推移を見ておきたいと思います。

・大会招致の流れ
招致の流れを作ったのは、2011年の東日本大震災の後の都議会で、当時の石原東京都知事が「大震災から立ち直った日本の姿」を示す意義を表明したことに始まる処、その後、2012年12月に首相に就いた安倍信三氏がその流れを引き継ぎ、13年9月、アルゼンチン・ブエノスアイレスでのIOC総会で東京招致を勝ち取り、20年1月の施政方針では「まさに復興五輪だ」と叫ぶ処でした。が、これは新型コロナ感染が広がる直前までの話。

その直後の3月、コロナの世界的拡大でIOCに延期論が高まるなか、安倍氏は中止シナリオの回避を最優先して延期に傾き、当時のトランプ米大統領の支持を取り付け、その後のサミットでも東京五輪実現への合意も取り付け、3月24日、IOCバッハ会長と協議し、安倍氏は‘延期1年’を選択(2021年7月23日-8月23日)、今次の開催に至ったのです。

延期決定は、開催理念の変更を促す処でした。つまり、政府はそれまでの「復興五輪」の看板を下ろし、目指すは「人類がコロナに打ち勝った証し」としての五輪開催と、その趣旨を変え、最後には「安全・安心の大会を開く」ことが目標になったのです。 つまり感染拡大を抑え込んだうえで実現させるということでしたが、それは政府のコロナ対応が、国民の安全のためと云う事よりも、五輪開催の為にとの趣旨に変質した瞬間でした。
そして20年9月、安倍氏の後継となった菅氏は、この路線を踏襲し、今日に至る処です。

・菅首相の役割
尚、五輪が「緊急事態宣言」下で強行実施されたことで、菅総理には「コロナ感染拡大抑止への確実な対応」を図る事、同時に、五輪を「安全・安心な大会」とする事、そして「多様性の尊重」といった運動をも前進させていく、という重い役割を担うことになったのです。 が、コロナ感染拡大抑止への対応の曖昧さ、に加え、五輪運営の中核組織たる組織委員会の不祥事の連発は、いずれも菅政権のガバナンスの無さを映す処、国民の不信、不満を募らせ、自らも五輪への高揚感を覚える処ではなかったのではと推察する処です。

(注)今次五輪誘致への経過と当該理念の変遷
2011年、「大震災から立ち直った日本の姿」(石原東京都知事)
13年9月、「復興五輪と銘打った姿を世界に発信」(安倍首相、IOC総会)
(20年1月、安倍氏「復興五輪」表明、直後の3月、コロナ禍で開催1年延期決定)
20年10月、「人類がウイルスに打ち勝った証」として開催 (菅首相、所信演説)
21年4月、「世界の団結の象徴」(バイデン米大統領に説明)
21年7月、「困難に直面する今だからこそ団結」(IOC総会で菅首相演説)

(2)菅政権の「ガバナンス」欠如の実態

① 五輪組織委員会の行動原理
上述組織委員会を巡る不祥事の全ては、まさに菅政権の本質を晒す処、森喜朗氏が引き起こした組織委員会会長辞任劇に、その典型を見る処でした。それは ‘内輪の論理’で進められてきたことが引き起こした結果と云え、要は、同質性の強い運営体制、意思決定のプロセスの不透明さ等々、まさに‘五輪の理念’に悖る処、国民の五輪への高揚感の足をひっぱる処となったのです。
加えて、ショーデイレクターを務めていた小林賢太郎氏がユダヤ人の‘ホロコースト’ をコントで扱ったことが発覚、土壇場で解任された騒動も火に油を注ぐ処でした。つまりナチスが犯した人類への究極の罪は永久に消えず、協力者たちは戦後ずっと追及を受けてきたのです。この絶対悪に向き合う意識の欠落は断じて許される処ではない筈ですが、組織の長にあった森氏にはそうした意味など、理解の及ぶ処ではなかったのでしょう。

五輪開催直前でのこれら右往左往の顛末は、大会理念「多様性と調和」の実現は既に難しい状態にあったという事を示唆する処でした。そもそも、菅首相の下で組織された委員会でしたが、タテ割社会に育った日本人による、日本人のためのガバナンスを以って衝にあたる組織であったことからは、そもそも多様性の追求など、お呼びではなかったと云えそうです。
更に、コロナ下での五輪開催に、何のための五輪かと問う声には、「復興五輪」、「ウイルスに打ち勝った証」などのスロー ガンを、関係トップは口にはするものの、飲食・観光業が苦境にあえぐ中、開催の意義について人々が心から納得のできるような明快な発信は最後までなく、政府に対する国民の不信感は深まるばかりで、五輪熱などはひく処でした。

② コロナ対応の推移に映る菅政権の危機感の無さ
一方、前述、菅首相は五輪開催に当たってはコロナ感染の抑制を前提に臨むとしていましたが、五輪後の今も感染者の増加の勢いは収まる様子はなく、むしろ増加の一途にある処です。その都度、政府は緊急事態制限を発出し、国民には抑制協力を要請するものの、政権の事態に対する危機感は伝わらず、危機管理の無さを露呈するばかりで、繰り返し発出される緊急事態宣言こそは、そうした事態を象徴する処です。因みに、すでに解除となっていた第3回目の緊急事態宣言(2021年4月25日から5月11日までの17日間)に次いで、菅氏は2021年7月8日、4度目の緊急事態宣言(期間:7/12~8/22)の発出を決定したものの、収まらない感染拡大状況に鑑み、五輪開催中ながら7月30日、当該宣言の8月31日までの延長を再度決定。菅氏は、まさに異常なパンデミック下の五輪推進者と映る処です。

7月30日の記者会見では「ワクチン接種が更なる効果を発揮するまで今しばらくの間」と期限を切って対策を呼びかけるばかり。そして「今回の宣言が最後となるような覚悟を以って全力で対策を講じる」とし、「最後の宣言」にすると公言する処。(日経、2021/7/31)
が、今年1月からの2回目の宣言、4月からの3回目の宣言は、東京では新規感染者数がピークを打ってから解除まで1か月半~2か月半の期間を要していますが、過去に例のない感染悪化の途上にある今、あと1か月で宣言解除できるものかと、具体的対策が示されることのないままのこの半年間を見るに、多くは菅発言への信頼を失う結果となる処でした。

・問題は「危機感の共有」
政府のコロナ対策分科会の尾身会長他、専門家は、こうした政府の姿勢に強い警鐘を鳴らす一方、7月29日の参院内閣委員会では「今の最大の危機は、社会の中で危機感が共有されていないことだ」と訴えると同時に、高まるコロナ危機の現状に照らし、国は国民に対して具体的に丁寧な現状の説明をと迫る処でした。危機感を共有するためにはもはやは「五輪中止」宣言しかないのではと思料するばかりでしたが、コロナ蔓延下で、開かれる‘五輪’は誰のため、何のためとの国民の問いに、政府は最後まで語ることはなかったのです。

五輪競技を見るため自宅でのTV観戦が進む結果、人の流れは減ったと「安全・安心な大会」を掲げる政府、一方、感染拡大に危機感を強め、危機感の共有をと主張する医療関係の専門家たち、両者のギャップが深まる中、尾身会長は7月30日、その日予定されていた菅首相の記者会見に先立ち、「検査体制の整備と医療提供体制の強化、国民へのメセージ」の三つを要望したと伝えられる処でしたが、これまでもコロナ対応で国民にさまざまの「約束」をしながら結果として果たすことないままにやり過ごしてきた菅氏の言葉への信頼は無く、要は事態の重大性への認識の欠如と、国民の政府不信を招くばかり。因みに8月7~9日、実施のアンケト調査(注)では、内閣支持率はいわゆる危険水域、30%に迫る処、まさに菅内閣は逆風にあって、このまま ‘秋の政治日程 ’ に向かっていけるのか・・・です。

     (注)NHK:29%(前回7月:33%)、朝日:29% (同31%)、読売:35% (同
37%)JNN:32.6% (同48.1%) (日経2021/8/11)

2.「多様性と調和」を映す五輪競技の現場

上述、政府側の行動様式とは対照的に五輪競技の現場では、この「多様性」は広く体現される処でした。

(1)Diversity を映す開会式
7月23日の開会式では、全体の要所で次々に女性が登場、最後は「大阪なおみ選手」が聖火を点灯し、日本は女性や多様なルーツを持つ人達を応援する国だというイメージが繰り広げられていましたし、日本チームの旗手の一人として父親がアフリカ・ペナン出身のバスケット選手「八村塁選手」も起用され、また最終トーチ点火ランナーにテニスの大阪なおみ選手が起用されるなどで、上述の‘震災復興’でもない、‘パンデミック克服’でもない、まさに「ダイバーシテイ」の展開でした。

7月24日付The Economist はThe changing face of Japan と題して、この二人の登場は変貌する日本の今を語る処、従来、日本は人種的に純粋主義を矜持ともしてきた、ある種排他的ともされてきた、そうした日本人社会へのStigma, 汚名ともいえそうな神話は、もはや消滅していることの証左だと語る処です。勿論この二人は、夫々のフィールドで優秀な成績を残してきた結果が評価され、選ばれたわけで、以て、八村塁選手の旗手起用が多文化共生につながるかと云うと、結局、傑出した選手個人の成果のつまみ食いに終わりかねないのではと愚考する処です。尤も国籍だけでは分からない日本社会の多様化はかなり進んでいると思われるのです。
尚、男女平等、機会均等の点で女性競技者の参加は増え、その全参加者に占める比率は48.8%と報告される処、1964年の東京五輪ではその比率は13.2 %にすぎなかったとされていますがその数字の広がりは57年もの年月を要したということでしょうか。7月29日付日経は「五輪を女性の力伸ばす契機に」と題する社説で、女性選手の活躍を、運営や育成など他の分野でも徹底することの大切さを主張する処でしたが、要は、「多様性の活用」を強みとしていくことへの意識の転換を主張する処です。
また競技種目でも男女混成による競技も増え, 更にはこれまで考えられることもなかったBMX自転車競技など、いわゆる都市型競技が加わるなど、国民生活の変化に応える競技が加わるなど、競技の在り方さえも変えそうな変化が取り入れられてきたことでした。
(2)トランスジェンダーの競技参加
同時に、競技を巡る新たな問題として浮上したテーマの一つが、トランスジェンダーの競技参加問題でした。つまり、男性から女性に性別変更した選手の競技参加問題にどう向き合っていくかですが、今回、NZのトランスジェンダー選手が8月2日、女子重量挙げ87キロ超級競技に参加したことで、改めて俎上に乗ってきたというものでした。結果は敗退でしたが、競技前には‘彼女’の五輪出場について、競技の公平性か、人権かと、これまた多様性に照らした意見は多々伝えられる処でした。実はジェンダー問題については2015年、IOCガイドラインが出てはいますが、IOCは今次関心の高まりに照らし年中に、「トランスジェンダー選手に関する新たな枠組みを各国競技連盟(IF)に提示する」と約しましたが、多様性を受け入れる時代の流れにどう対応していくか、スポーツの在り方そのものが問われることになってきたと思料する次第です。


3.「東京五輪2020」を総括して思う事

東京五輪はコロナ感染の拡大収まることのないままに幕を下ろしました。8月14日の新規
感染者数は、全国で2万147人、2日連続の2万人超、東京では5,094人,各地で過去最高
を更新する状況です。(日経、8/15)まさに感染爆発です。
政府は8月17日、こうした現状を災害状況と認定、現行事態宣言の対象期間を更に9月12
日までの延長を決定しました。係る事態の招来は五輪開催前から医療関係者から指摘され
ていた処でしたが、今に至っても首相はじめ関係閣僚からも、五輪とは関係ないと強弁す
る処、菅政権には国民の健康、安全など全く眼中にないほどに、もはや不遜の内閣と映る処
です。

さて商業化路線の下、肥大化したオリンピックですが、コロナ禍の下で開催された事情もこれありで、その姿は一気に変わった様相ですが、今後も国際社会において担う役割は大きい筈です。とすれば持続可能な運営のためには何が必要か、まずは、オリンピック運営についての基本を見直し、組織改革を進める事が不可避と思料する処です。

(1)IOC、国内組織員会に、迫られる改革
IOC組織の見直しこそは、その象徴的テーマです。今次五輪の理念「ダイバーシテイ」に照らすとき、東京大学副学長の林香里教授も指摘するように、極めて相性の悪い組織と云わざるを得ません。IOCの会長は、初代からの約130年ものの間、バッハ現会長を含めて9名しかおらず、全員白人男性で、1人のアメリカ人を除いて全員ヨーロッパ出身者で固められてきたことに象徴されると云うのです。そして同教授は、NY TimesのJohn Branch記者の記事`Let the Games --- Be Gone ‘(NY Times 電子版、7月17日)に照らし、IOCと云うシステムは21世紀に漂流する19世紀の遺物であり、驕奢の上に成り立ち、地政学的に偏り、汚職や不正が蔓延する改革不能な組織だとも断じる処です。(朝日新聞Digital、7/29)
とりわけバッハ会長の東京での言動は、まさに改革は不可避と思わせる処です。

勿論、同様の趣旨からは、国内の組織委員会についても、今次の経験に照らし、「多様性」への対応を可能とする組織への改革も不可避と云うものです。つまりDiversityを掲げた「東京五輪2020」は結果として、IOCと云う組織のガバナンスの見直し、そして日本が内在させてきた問題の見直しをも迫る契機となったと、総括される処です。 五輪が終わった今,「その熱狂は消え、我に返ると、感染に溢れる日本があった」との想い、募るばかりです。

(2)菅首相への詰問 
8 月11日付朝日新聞、DIGITAL、掲載の社説「コロナ下の首相、菅氏に任せて大丈夫か」は、上述筆者批判と文脈を同じくする処、そこでその概要を以下に紹介し、本章の締めとしたいと思います。

「・・・首相は9月の就任当初からコロナ対策を最優先課題に挙げ、最初の所信表明では「爆発的な感染は絶対に防ぐと」誓った。だが、感染の波は断続的に訪れ、今年に入ってからは、宣言やまん延防止等重点措置がほぼずっと続いている。 未知のウイルスへの対応に、試行錯誤はやむを得ないとしても、これだけの経験を重ねてなお、迷走が続く根っこには、首相の政治手法や政権の体質があると見るべきだろう。まず、首相の根拠なき楽観論である。一昨日(9日)の記者会見でも、ワクチン普及の成果を強調するばかりで、それでも爆発的な感染拡大に至っている現状への危機感は伝わってこない。
・・・こうした傾向に拍車をかけるのが異論を受け付けない首相の姿勢だ。複数の閣僚や周辺が五輪の中止を進言したが、聞く耳を持たなかったという。首相が「裸の王様」となって独善的にふるまうなら、専門家を含む周知を集めた対策など生まれようがない。
・・・強制力に頼らず国民の自発的な協力に負う日本のコロナ対策では、政治指導者の発信は極めて重要な役割を持つ。五輪を開催しながら、国民に外出や外食を控えるよう求めることが、矛盾したメセージになるという自覚もないまま、自らの正当性ばかりをアッピールされても、聴く者を得心させることはでいない。コロナ禍で」「最大の危機」を乗り切り、国民の安全・安心を取り戻せるか。首相がこれまでの対応を根本的に改めなければ、信頼回復はおぼつかない」



第2章 コロナ後の経済社会とDiversity 

1. ポストコロナで求められる経済のかたち

(1) Sustainable development のカギはDiversityの実践
「五輪」が掲げた理念「Diversity」が意味することは、前述の通り「違いを認めあい、受け入れる」ことで新たな発展が期待できるとする処、従ってdiversityを基軸とした政策こそはポストコロナと云う新しい時代への指針となる処です。つまり「持続可能な開発」を図るためにはdiversityを中核概念とした、創造的対応の実践にありとされる処です。

そうした思考様式に応える報告書が今年2月2日、英政府(財務省)より公表されました。ケンブリッジ大学名誉教授 パーサ・ダスグブタ氏(Sir Partha Dasgupta)率いるチーム(注)が纏めた報告書、「Dasgupta Review:Economics of Biodiversity」です。これは「生物の多様性と経済」の関係性を包括的に分析したレポート(下記(2)項)で、今後の経済政策を考えていくうえでの指針と、注目される処です。

    (注)ダスグプタ委員会:英財務省支援の下、2019年に発足。大学教授、国際機関、
NGOの多数が集結。レポート作成には世銀,IDB,世界経済フォーラム(WEF),OECD,
イングランド銀行、等々が協力。尚、1992年の国連 Earth Summitでは、地球上に
生息するは3000万種の生物の保全を目指す「生物多様性条約」が合意されています。

(2)Economics of Biodiversity (生物多様性の経済学)
当該報告書は、具体的には地球環境問題への対応、とりわけ脱炭素への取り組みへの提言ですが、その取り組みの在り方、思考様式に変化を与えるものとされる処です。 つまり、経済学者は自然が経済活動で果たす役割を見過ごし、環境破壊が成長や人間の生活に如何にリスクをもたらしているかを過少評価していると指摘するのですが、以て、今後の英政府および世界にとっての生物多様性と経済に関する羅針盤となるとされています。

同レポートでは、人間社会の需要は、持続可能な自然アセットの供給を超えるべきではなく、その為に自然保護区面積の拡大、自然を軸としたソリューションへの投資の拡大、消費や生産によるダメージの防止等を通じて、自然アセットの供給量そのものも増やしていく必要があること、又 会計制度の中に、自然資本の考え方を導入するなどの大きな測定手法の変化を進め、特に金融と教育の変化の必要性をも訴えるのです。 
当該研究は環境保護団体が長年行ってきた「人類は自然資本を管理できておらず、人類の自然に対する需要は、今や自然の供給レベルを超えている」との主張を裏付けるものとされ、英国政府は今後、このレビュー内容に基づき、政策や法規の検討を進めると言うのです。

本報告を受けたB.ジョンソン首相は、「ダスグプタ調査により、自然の保護と改善のためには強い意志だけでは足りないことが明らかになった。お互い連携し、調整された行動が必要だ。英国はCOP26の共同主催者として、更に(6月の)G7議長国として、世界的議題の第一に自然環境があることを確認した。まずは昨秋提示したTen-Points Plan (「グリーン産業革命」のための10か条)(注)を進め、英国のグリーンな復興をこれまで以上に行うことで例を示し、リードしていく」とする処です。

   (注)英国「グリーン産業革命」(2020/11/18公表):気候中立目標の達成に向け、電気自動車や洋上風力発電、クリーン水素等10項目の計画に総額120億ポンドを投じる計画を公表。その一環として2030年までにデイーゼル車の新車販売の禁止方針を
打ち出す処、「グリーン産業革命」により最大25万人の雇用創出を見込む処。ジョン
ソン首相は「10項目の計画により、50年までにCO2排出量を実質ゼロとする目標へ
向かうことで、何十万のグリーン雇用を創出・支援・保護できる」と云う。尚, 
2021/7/14、EUは温暖化ガス排出ゼロへの包括案を公表。その中で2035年には、
ガソリン車の販売を禁止する方針と。要は「化石燃料に依存する経済は限界に達
した」との認識を伝える処です。(日経 2021/7/15)

2.自然を経済的視点から捉え、行動すること

(1)「自然資本」という発想
ダスグプタ・レポートを受け、The Economist(2021/2/6)は、「The natural question - A new report puts the eco into economics」と題した同誌コラムで、自然の経済への貢献度とはどのようなものか?としながら、自然も生産要素に含めることで独自の生産関数を提示することで、成長に対する自然の貢献度を説明しうるとし、従って環境を大局的な視点でとらえ「自然資本」の蓄積とみなし、人間がその自然の「調節」と「その維持サービス」を利用していると見立て、要は、GDP重視では持続不可能で、自然資本を経済成長の指標にしていくことでと、それこそが環境政策の本質を見出す処ではと指摘する処です。

つまり、空気を浄化し、廃棄物を分解して養分に変え、世界の気温を生存に適した水準に保つといった環境サイクルの働きを人間が利用しているわけで、この新しい生産関数の発想を取り入れれば、成長に対する自然の貢献度を正しく理解できるようになると、示唆するのです。かくして自然資本を加味すれば、現在の経済成長がどこまで持続可能かも分析でき、経済学者が経済への自然の貢献度を把握することが環境問題を考える上で、不可欠と指摘するのです。
自然を経済学的視点から捉え直す必要があるというのですが、まさにsubtitleにある‘ A new report puts the eco into economics’ 、つまり自然を経済要素として、それを従来型経済学に組み込み、以って環境分析のより合理的対応が可能になると主張する処です。要は、修復不可能なまでに環境に打撃を与えている状況を食い止めていく政治的な意識を築く上で、経済学的視点を超えた自然の価値を訴えていくことの必要性を示唆する処です。
 
(2)地球規模の環境対応、二つのテーマ 
・多様性の確保:上述、「ダスグプタ・レビュー」を映すごとくに、いま生物多様性は、
気候変動問題(以下)と並ぶ地球規模の環境課題となりつつある処、金融機関などの投資家の運用基準にも採用され、企業行動に影響しだす処です。
その生物多様性の維持については、2010年、名古屋市で開かれた会合で、各国は2020年までに陸・海の10~17%を保全・保護する「愛知目標」を纏めていますが、今年、10月、中国・昆明で条約国会議を開き、30年までの新しい目標を再討議することになっています。(日経8/8) 尚、生物多様性の維持を徹底する手段としては、自然保護区への指定があり、日本は陸地の20%、海洋の13%を保護区としていますが、近時の安全保障問題 (注) がどのようにかかわってくるものか、注目する処です。

(注)「重要土地利用規制法」:今年の通常国会では自衛隊拠点や原発施設の周辺、国境
離島など土地利用を規制する当該法律が成立。以って、経済活動と安保が結び付く「経
済安保」の課題と位置づけ、600か所を候補に監視の強化、を始めている。(日経8/12)

・気候変動への取り組み:8月9日、国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021~40に1.5度に達するとの予測を公表しました。これは2018年時点での想定より10年ほど早いとされる処、同報告書では、人間活動の温暖化への影響は「疑う余地がない」と断定。自然災害を増やす温暖化を抑えるにはCO2の排出を目標の2050年、実質ゼロにする必要があると強調する処です。(日経、8/10)
日本の削減目標は、30年度に13度比46% 減。 温暖化の抑制に力を注ぐと同時に、気温上昇に備えた現実的な対策が求められる処、実際は具体策に乏しいままにあるのです。

国連のグテレス事務総長はIPCCの報告を受けた同日、地球温暖化を抑えるために「即時に努力を強め、最も野心的な行動をとるほかない」と強調。その報告は「人類にとっての警報だ」と指摘する処です。気候変動リスクが切迫する中、国も企業にも、その対策はますます重い責任になってきたということですが、この際は、旧来の発想を超えた取り組み、そして「多様性」をも配慮した取り組みが求められていくことを実感させられる処です。



       おわりに 女子サッカー「なでしこ」の抗議行動

7 月24日、札幌ドームで行われた「なでしこ ジャパン」と「英女子チーム」とのサッカー戦で、そのキックオフ直前、英チームの選手が片ひざをつくのと同時に、日本選手も片ひざをついたのです。それは、2016年米フットボール(NFL)選手が国家斉唱時、起立せずに片ひざをついて黒人差別に抗議の意思を表した行為に倣うものでしたが、日本のスポーツで選手が自分の意思で人種差別に抗議を表明した瞬間でした。その映像を見た瞬間、得も言えぬ、感慨すら覚える処でした。

オリンピック憲章第50条ではオリンピックの競技会場などで政治、宗教、人種に関する宣伝活動を禁じる処、昨年の6月頃から、米国他の国からIOCに対して50条ルールの撤廃要求があり、今年7月に入って当該ルールの緩和で、片ひざをつくことが容認されることになった処、英国チームからの同調要請を受けた「なでしこ」は、英国チームのactionへのrespect と云う意味を含め、「なでしこ」全員で24日には、英国チームと共に片ひざをついての抗議行為に臨んだというものでした。 後日、野間文芸賞作家の星野智幸氏が朝日新聞 (Digital、7/30)に投稿したエッセイ「欺瞞に満ちた東京五輪 ―フアンだからこそ考える参加選手の責任」で、その行為は極めて重要な行為と評価しながらも、「その姿は、コロナ禍の五輪開催の正当化に利用されてしまう」ことへの懸念を伝えていたのです。

同氏によれば、人種差別をスルーしたら、サッカーの現場が差別の応酬になって、サッカーが成り立たなくなるからで、自分たちが人生をかけるサッカーを守るためには、人種差別への反対を人任せにするのではなく、選手が個人として意思表示することがカギとなるとし、彼らは当該行為に臨んだと、高く評価する処、ただし五輪と云う舞台づくりを根本から批判することは彼らには難しい。結局は排除されることになるからで、そこで星野氏は次のように云うのです。

「現役中に難しいなら、せめて引退してからでも五輪の在り方を変えるよう努めてほしい。多大な犠牲と不公正の上で成り立っている五輪に参加した選手達には、それを変える責任がある。この欺瞞に満ちた五輪を支えてきた運営の責任者達は、かつて栄光を誇った実績ある五輪アスリートたちばかりなのだ」と、「なでしこ」の行為を介して、現在の国内組織委員会の改革を主張するのでした。先に国内組織委員会の改革然るべしと指摘しましたが、スポーツ選手とプロテストの権利をめぐる議論は、今も世界中で続く処です。

世界の進歩を律するキーワードは「多様性」と確認しながら、再び考えさせられる処です。
以上(2021/8/25)
posted by 林川眞善 at 15:07| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2021年07月26日

2021年8月号  中国共産党建党100年、次なる100年への可能性 - 林川眞善

―  目  次 ―

はじめに 中国共産党建党100年      
・中国共和革命(1911)、そして 中国共産党誕生(1921)
・1949年 中華人民共和国誕生

第1章 中国共産党100年、 習近平主席の記念演説  

1. 演説にみる習近平氏の思考様式
(1)次なる100年の目標― 「社会主義現代化強国」                                                                                              
(2)軍国主義への回帰を強める習近平中国
・何より気になること / ・習近平氏にとっての新時代
2.習演説の総括に代えて
(1)習体制の特徴と課題 ― 「自由と秩序のバランス」 
(2)独裁化を辿る習政権の行方

第2章 The Economist誌のバイデン政権へのアドバイスと、
日本の対中政策構築に思うこと
     
1. Biden’s new China doctrine ― バイデン政権に求められる対中政策
               の枠組み
・習氏は独仏首脳とTV協議、バイデン氏はメルケル氏と首脳会議      
2.日本の対中政策構築に思うこと
・2021年版「防衛白書」

おわりに  バイデン氏の米再建は始まったばかり 
・米競争政策の転換 / ・国際課税ルールの変更

       -----------------------------------------------------------------------

はじめに 中国共産党建党100年

6月、英国で行われたG7サミットの影の主役は中国の習近平主席とされていました。その陰の主役は7月、表舞台に現れました。共産党建党百年を祝う大舞台です。その舞台で習近平主席は何を、どう語るのかと世界の耳目を集める処、本稿も、以って主題とする処ですが、その前に共産党建党100年の経過とその意義をレビューしておきたいと思います。

・中国共和革命 (1911) そして, 中国共産党誕生(1921)
今から110年前の1911年12月29日 時の革命家、孫文が上海で起こした共和革命を以って、中華民国の成立を宣言、彼は臨時中華民国大統領に選出され、清朝最後の皇帝薄儀が退位(1912/2月)し、清国は滅亡。以って4000年続く中国王朝の歴史解体となり、君主制が廃止され、アジアで初となる共和制国家、中華民国の誕生を見る処となったのでした。その革命は、その際の干支、辛亥にちなんで「辛亥革命」(注)と呼称されています。
   
(注)1911年10月, 孫文らを核とした政治結社「中国同盟会(1905)」が、 中国武昌で清朝打倒の武装蜂起(辛亥革命に発展)。1912年1月1日、南京に臨時政府(中華民国)を樹立(同盟会を「国民党」に改称)。尚、1913年、中国初の国会選挙では国民党が第一党に。

その辛亥革命勃発から10年後の1921年7月、毛沢東らの主導の下、中国共産党が上海で誕生しました。わずか50名(現在9200万人)が集まっての結党だったと、習氏は演説の中で触れています。その間、彼らは農村で支持基盤拡大に努め、今日の政治基盤を固めたというものです。

・1949年、中華人民共和国誕生
さて共産党結党後は、当時の西欧列強による対中侵害に対抗するためと同時に、共産党勢力拡充のためとして1924年には、対立する国民党との合作(第一次国共合作)を果たし、更に37年には日中戦争がはじまると、第二次合作を以って対日抗戦に臨むのでしたが、日本の世界大戦敗戦で、国共合作は再び内戦に向かい、蒋介石国民党は台湾に脱出、一方の毛沢東らは農村でのゲリラ戦を制し、1949年10月1日、天安門で「中華人民共和国」の建国を宣言、今日の共産党国家、中国の誕生を見たのです。尚、孫文らが起こした辛亥革命は今年10月、勃発110周年を迎えます。台湾で祝賀行事があったとしても中国ではないでしょう。

さて新生中国は、旧ソ連と同盟関係を組み、1950年には朝鮮戦争に参戦、米軍主体の国連軍の攻撃を食い止め、64年には核実験にも成功。しかし、その後の毛沢東指導の「大躍進」政策、つまり農業と工業の大増産政策(1958~61年)の失敗、更に、その失政回復のためとして起こした文化大革命運動(1966~76年)も失敗、国内は再び大混乱に。そんな中、76年に毛沢東は病死。その後、78年に、文革で失脚した、しかし、毛沢東の死去で復権を果したト小平が、「改革開放政策」を掲げて登場。この成長重視の路線を以って、経済の立て直しを図ったことで、とにかく経済の回復を見る処でした。

ただし、この間に起きた89年の天安門事件、つまりは武力による民主化弾圧政策ですが、これに躓き、西側諸国の制裁に遭遇、経済は一気に失速。それでもト小平は、民主化に背を向けながらも、経済政策では改革開放のアクセルを踏み続け、それまで中国が原則としてきた計画経済から市場経済への転換を加速させ、2001年にはWTO加盟を果たし、2010年には、GDPで中国は日本を抜き世界第2位の経済大国となったのです。

ただこうした経済発展が進む中、民主化か革命か、との議論と共に、共産党統治の脆弱性が云々されるのでしたが、そうした折、習近平体制の誕生を見たのです。2012年11月15日、習近平氏が第5代中華人民共和国の最高指導者に就き、彼は強固になった経済基盤を支えに、一方では民主化を求める声を封じ、一党支配を正当化せんと今日に至る処、周知の通り、今や米国とその覇を争うほどに両者の対立は日ごと深まる処です。

序で乍ら、日経本社の秋田浩之コメンテーターによれば、ト小平は晩年、次の指導者らに以下のような遺訓を残し、必ず守るようにと重ねて指示していた由です。その遺訓とは、「(米国)と信頼を増し、協力を発展させ、敵対しない」と。ところが習近平氏は、その教訓とは全く逆の方向に突き進んでいる、つまりその遺訓をはみ出し米国主導の秩序に挑む行動に、強い懸念を語るのです。(日経、2021/7/3) いずれにせよ今日ほど、世界で「共産党」が意識されることはなかったのではと思料する処です。

急ぎ、辛亥革命以降の中国現代史を駆け足でなぞってみましたが、かかる環境の中7月1日、習近平国家主席は、毛沢東が中国建国を宣言した天安門広場で開かれた中国共産党「100年」の記念式典で「共産党の下で、国家を発展させ、農村部の貧困層をなくすという目標、『小康社会の建設』という目標を達成した」と、共産党あっての中国、一党支配の中国の正当性をアッピールすると共に、その実績の下、共産党の「次の百年」は如何にと、語るのでした。

そこで以下では、主題とする彼の演説テキスト(日経7月2日掲載 「共産党100年 習氏演説要旨」)を深く読み直し、習近平氏の行動様式の合理性とその行方、等々、問題点について、考察していくこととしたいと思います。


第1章 中国共産党100年、 習近平主席の記念演説

1. 演説にみる習近平氏の思考様式

(1)次なる100年の目標 ―「社会主義現代化強国」
習近平国家主席は、7月1日、天安門広場で行われた中国共産党誕生誕百年の記念式典に毛沢東が中国建国を宣言した時の作法に倣うべく、ひとり人民服姿で登壇、「党創立時掲げた目標(小康社会)を築き、絶対的な貧困問題を歴史的に解決し、いまや、中国は後進的な状況から世界第2位の経済大国へと歴史的な躍進を達成した」と、党主導の下での経済成長の実現を強調するのでした。もとより、その心は「中国の事をうまくやるために、カギとなるのは ‘党’ だ。中国共産党がなければ、新中国はなく、中華民族の偉大な復興もない。歴史と人民は中国共産党を選んだ」とする言葉に映る処です。

併せて、次の100年の目標は「社会主義現代化強国」の実現と、宣言するのでしたが、尤も「社会主義現代化強国」とする目標は曖昧ですが、要は、経済、軍事、科学技術などあらゆる面で米国と並ぶ大国、強国への道を目指す、と云うことかと思料する処です。そして、その「強国」を目指すシナリオとして、「歴史を鏡(教訓)として」、「未来を切り開く」こととし、以下8項目の実施を進めるとするのです。

[社会主義現代化強国実現に向けた施策]
・中国共産党の強固な指導の堅持
・マルクス主義の中国化の推進 ― マルクス主義は中国共産党立党と立国の根本的指
導思想であり、党の魂と旗印。
・新しい発展パターンを構築し高品質な発展を促し科学技術の自立を推進。
・国防と軍隊の近代化を加速― 強国には強軍が必要で軍は国を安定させねばならない。
党が軍を指揮し、人民の軍隊を建設する事、これは血と火の闘争の中で党が作りだした心理。
・人類運命共同体の構築を絶えず推進する ―「一帯一路」の質の高い発展を期す。
・多くの新しい歴史的特徴を持つ偉大な闘争が必要 ―複雑な国際情勢がもたらす新 た
 な矛盾と新たな課題への挑戦。
・中国人民がより大きな団結を強化する -愛国統一戦線は、中国共産党が中華民族の偉
大な復興を達成するための重要な武器。
・党が建設する新たな偉大な工程を継続的に推進する。

(2)軍国主義への回帰を強める習近平中国
さて上述「未来を切り開く」として掲げる事案は、今日の中国経済の成長・発展の要因を以って裏付けられるものとしながら、その一方で国防、軍隊の強化、愛国統一戦線の強化等が繰り返し語られ、これまでになく強固な国家主義へカジを切らんとする姿が浮き彫りされる処です。
つまり、経済成長の原動力となった「改革開放」事態については、‘新たな道のり’ の中で全面的に進化させるとするだけで、しかもその当事者だったト小平については単に同志とリフアーするにとどまる一方で、国防と軍隊の近代化の加速が不可欠と強調する、つまり新時代の軍事戦略の指針を堅持し、人民解放軍に対する党の絶対的な指導力を維持し、中国の特色ある強大な軍隊の道を歩み続けると、するのです。繰り返される「強軍」、「強国」のキーワードからは、まさに中国共産党の軍国主義への旋回を印象づける処です。

その一方で、中国は常に世界平和の建設者であり、世界の発展の貢献者であり、国際秩序の擁護者であり、その点で「一帯一路」の質の高い発展を促し、世界に新たな機会を提供すると、「一帯一路」の発展推進方針を強調する処でした。が、それは金融協力などを通じて、中国を中心に据えたグローバル・サプライチェーンをアジアと「一帯一路」沿線国との間に構築する戦略のほかなく、これが今、途上国の‘債務の罠’(China debt trap)とされる世界的問題を醸す処、当該問題に対するフォローは見えず、さて‘国際秩序の擁護者’たるの矜持はどこに行ったのかと疑問の募る処です。

・何よりも気になること
そして、何よりも気になったことは、マルクス主義、社会主義への回帰を示唆する発言でした。と云うのも、今、国内で先鋭化する格差問題への不満に対処しながら共産党支配を維持しようとすれば、改革・開放後、希薄となっていた社会主義的イデオロギーが新しい形で前面に出てくる可能性です。習近平時代に入って国有企業重視と民間企業へ圧迫はその兆しとされる処、この7月 6日には、中国企業の海外上場の規制を強化する、つまり自国企業の海外上場の規制強化を発表する処です。

それが意味することは、冷戦時代の米ソ対立ではヒト、モノ、カネの往来は制限されていましたが、現在の米中対立については経済面での相互依存が強い分、決定的な対立には発展しにくいとの楽観論のある処でしたが、実際には、貿易、技術、人権問題に加え、今次の規制強化を以って、米中の分断はマネーにまで及ぶ処となってきたということです。米中の対立に歯止めがかからなければ、米中双方への打撃は一段と大きくなる事が想定される処です。因みに、米投資家にとって懸念される事はと云えば、中国政府の意向次第で海外投資家が株主としての権利の制約を受ける可能性があることです。(注)

     (注)米投資家が懸念することとは、海外上場する中国企業の多くは規制回避のため
     採用する「変動持ち分事業体(VIE)」と呼ぶ仕組みで、VIEでは投資家は企業の株
式を直接保有するのでなく、契約を通じて株主と同等の権利を得るという仕組み
(迂回上場)だが、法律上曖昧さが残り、中国政府の意向次第で海外投資家が株主
としての権利の制約を受ける可能性がある。(日経、2021/7/8 )
    
一方、中国が保有する米国債の扱いも焦点となる処です。4月時点で1兆961億ドルと日本に次いで2番目に多くを保有しています。(日経2021/7/8) 中国による売却観測が浮上するだけで世界の金融市場は大きく動揺する処です。
加えて、貿易戦争の再燃です。中国にとって最大の輸出先である米国との対立が深刻となれば中国外しが一段と進み、輸出で稼ぐ貿易黒字は先細りとなりかねないというものです。マネーの分断は中国企業が海外市場の開拓や人材獲得でグローバル競争に後れを取ることにもつながる処、つまり成長が鈍化すれば共産党の一党支配の正当性が揺らぎかねないとみる処、要は経済の相互依存度が高い分、切口を広げるリスクが高まると云う処です。
習近平政権には、その影響力の大きさを自覚し、世界とどう折り合いをつけていくか、熟慮する必要があるというものです。

尚、習氏が中国にとって「核心的利益」と位置づける「台湾」については、「祖国の完全な統一を実現することは、中国共産党の変わらぬ歴史的任務であり、中華の人々全体の共通の願いだ」というのでしたが、同時に核心的利益問題は中国の国内問題であり、外部からの非難はまさに内政干渉と退ける処、そこには大国としての矜持など見受けられません。

加えて、香港、マカオの統治についても彼は、「高度な自治の方針を全面的にかつ正確に徹底し香港マカオ特別行政区に対する中央の全面的な管轄権を実行する」と、断じる処です。つまり特別行政区が国家の安全を守る法律制度と執行体制を実施し、国家主権と安全、発展の利益を守り、特別行政区の社会の大局的な安定を維持し、香港、マカオの長期的な繁栄と安定を保つとする一方、2021年6月24日には反中国的な言論行為を抑え込むべく、治安法を擁して、香港における「言論の自由」の象徴的存在メデイアとされていた「Apple Daily」を事実上閉鎖に追い込みましたが、この一方的な言論統制には、言葉を失う処です。

・習近平氏にとっての ‘新時代’
今次の演説を受け、習氏を象徴するキーワードは ‘新時代’ とされる処ですが、その‘新時代’とは、まさに彼の手による独裁政治への強化を意味し、「解放」から再び「統制」への回帰を目指すものと映る処です。 これまでの中国の高成長を支えてきたのは、外資による技術導入と国内の安価な労働力でした。具体的にはアリババなど、米国の模倣もいとわずに激しい競争を繰り広げてきた民間のハイテク企業群でした。 が、これに対して国家の管理を強めるとなると、潜在力を封じかねません。加えて,安価とされた労働力は, 前号「論考」でも触れたように 少子化、高齢化の急速な進行で、その優位性が問われだす状況です。仮に成長を目指す「新時代」とは、こうした構造的な変化にどのように対峙いていくかを示していく事ではと、思料するのです。 中国の歴史上、永遠に続いた王朝はないのです。

2. 習演説の総括に代えて 

(1)習体制の特徴と課題
習体制の最大の特徴は何か。上述からは、毛沢東時代の政治運営(党への集権)と、ト小平時代の市場経済を同時に推進する点にある処(早大 青山瑠妙教授、日経2021/6/25)、前者については、党委員会を通じて党がすべての組織と社会を統制するという「頂層設計」という毛沢東時代の政治体制の復活であり、同時に後者の「市場を志向した改革も」目指すということと云えます。そして近時の彼の言動からは、毛沢東路線を一層強化せんとするものと云える処です。 もとよりこれが、習氏の中国の成功への強い自信に負うものか、逆に不安の募る政治情勢があって、それへの対抗を誇示せんとするものなのか、Nobody knowsです。が、 いずれにせよ、習体制としては、内政統治は強権の下にあって、経済については資本主義的な行動を推し進めることでしょう。ただその際のカギは、彼らが歴史に学ぶことができるか、つまり「明朝」そして、その後継「清朝」に見る盛衰の教訓を、受け止め得るか、ではと思料するのです。

・「自由と秩序のバランス」
つまり、「明朝」の場合、鎖国政策や中華イデオロギーで国内を引き締め、異論を封じ込めたのですが、そのために、末期には活性化した民間の反発が相次ぎ、統治がほころびていったとされています。そしてその後継となった「清朝」では明朝流の統制を緩めた結果、外国勢力に浸食され、結果は辛亥革命に至ったということです。そこで最大のカギは「自由と秩序のバランス」ということになるのでしょうが、さて、習政権の場合、デジタルやハイテクで身を固め、清朝を反面教師に、進むことになるのでしょうか。

尚、そこに加わる問題の一つが、習氏の価値観の一つとされる「最大公約数」という概念です。それは「社会が求める最大公約数を探しあてるのが人民民主の真理だ」と云う由で、一見民主主義のように見えますが、最大公約数に含まれない人々は、無視される状況に置かれているという点で、これは民主主義と似て非なるものと云う他ないのです。

(2) 独裁化を辿る習政権の行方
それにしても、習近平氏率いる共産党国家、「中華人民共和国」はいつまで続くと見ることができるものかと個人的には懸念を募ら得る処ですが、前述の通り、彼は共産主義政治の強化を通じて、まさに独裁政治を目指す処、次期100年を喫すべく、上述の通り国家運営のための施策を謳う処です。であれば米中の対立は増すことはあっても、解消に向かうことなど、早晩考えにくいと云ものです。因みに英誌 The Economist (2021/6/26)は その巻頭言で、Party‘s longevity (共産党の持続性)や天安門事件が映す国民のruthlessと云った点からも、「Still going strong」と評するのですが、ではその中国と、対立を深めるバイデン政権は、今後いかなる対応が求められることになるのか、問われる処です。その点、再び英誌 The Economistですが 、7月17日づけ同誌 巻頭言では「Biden’s new China doctrine」と題して、新たな環境を踏まえた対中政策をと、提言する処です。そこで以下ではその提言のレビューと併せて、日本の対中政策の在り方について、考察することとします。


第2章 The Economist誌のバイデン政権へのアドバイスと、
日本の対中政策構築に思うこと   

1.Biden’s new China doctrine ― バイデン政権に求められる対中政策の枠組み

習中国の強硬路線に照らし、米国は今後どのように対峙していくこととなるか。当初、前任トランプ氏の強硬路線に比して、バイデン政権のそれは多少緩やかになることが云々されていました。しかし政権半年を経た今、その対応姿勢はむしろより強固なものと映る処、英紙エコノミストはバイデン政権の政策対応では、‘機会’(世界経済の機会)を失することにもなりかねないと、新たなバイデン流 doctrineをと、助言する処です。

まず、バイデン政権の対中政策には、‘中国はもはやcoexistence(共存) には関心なく、dominance(世界支配)にのみに関心が向けられている’との認識が前提にあり、従ってアメリカの対中政策の基本は中国の野望を抑え込むことにあるというのです。
勿論、中国は米国にとって、環境対応についても、その他分野でも協働すべき分野はあるとしており、その点ではバイデン政権のスタンスには問題はないが、現実の中国パワーに照らすとき、そうした姿勢はすぐに砕ける処となるというのです。因みに、習政権は、南シナ海を一つの要塞と見ていて、香港については共産党ルールを適応し、台湾には脅しをかけ、インドとはあえて小競り合いを起こし、要は西欧流価値観を排除する姿勢にあって、こうした中国のwolf warrior diplomacy(戦狼外交)になやまされる国は少なくなく、バイデン・ドクトリンの現状は問題含みと云うのです。

バイデン政権が言う脅威の定義一つを取ってしても、これがワシントン政治の行き詰まりを映すなか、バイデン氏が耳障りの云い言葉を弄して米国の優位を語ろうとすればするほど、同盟諸国やインドやインドネシアと云った新興大国の心は離れていくというのです。彼はゼロ・サムを枠組として、共存を目指すというよりは ‘民主主義or 強権主義 ‘ の選択’、とするのですが、これこそは米国の影響力をいまだ過大評価し、むしろ周辺諸国が中国へ向かう可能性を過少評価するもので、経済指標をもってすれば、中国がすでにドミナントであることは自明の処、South-East Asiaでは安全保障はアメリカに、経済は中国に、との認識にあって、仮に無理に選択を求められるとすれば、中国をピックアップするというのです。そこで、今日的環境にあっては、他国にいろいろな規制をかけるということよりは、バイデン政権にはそうした諸国との競争に勝利していくことが必要だというのです。その為のvest chanceは、国内で勝利すること、そしてオープンな世界経済にとってのリーダーであることを示していくことであり、まさに目指すはバイデン流New China Doctrineの構築だというのです。

勿論、簡単なことではないでしょうが、そこで求められることは、Industrial policy, Government intervention, Planning and controlsだとするのです。具体的にはサプライチェーン問題、つまり半導体・電池・レア・アース・緊急ワクチン確保、問題があり、既に政府レポートで取り上げられている処、その具体化政策を一体的に進めることと云うのです。中にはいろいろtrade-offもある処、例えばウイグル民族への人権問題、一方温暖化問題等米中協調の要ある問題も、実は重なりあうものがあるというのです。

要は、バイデン・プランが目指すは失われたopportunitiesを回復させることにあって、それは米国がこれまで発展主導してきたglobalizationの流れを堅持することであり、その中核にある要素は自由貿易であり、グローバル経済の堅持であり、その枠組みにおいてオープンな システムを担保していくことにあり、加えて米国がアジアにおける対中対抗の存在たるを目指すのであれば、2016年にそのチャンスを失したが、もう一度その機会をレビューしてはと、当時のPan-Asia trade dealの再考を提案する処です。
そのアイデイアとは、Western orderの強化、将来のワクチン供給計画、digital payment system, cyber-security,中国の一帯一路に対抗できるインフラ・プロジェクト、等を示し、西側の力のあろう処を示していくべきと提言するのです。然りです。

・習氏は独仏首脳とTV協議、 ワシントンではメルケル首相と米独首脳会談
序で乍ら、6月のG7サミットでは、上述、米主導での中国包囲網が語られ、西側先進国の連携強化が云々され、当該一体感の高揚を覚える処でした。しかし、マクロン大統領は「G7は中国に敵対するクラブではない」と明言、これにドイツも同調の様相です。

さて、係る雰囲気を察知してか7月5日、習氏はTVを介し、マクロン大統領、メルケル首相と協議し、両者に「EU側と早期に首脳会議を開き、経済や貿易、気候変動をめぐるハイレベル対話の実施を」呼びかけたとされています。(日経 2021/7/7 )中国としては米欧の結束に揺さぶりをかけんとするものでしょうが、裏を返せば強権的と云われる習近平政権ですが、実は政権基盤が不安定にあってのこととも見える処です。 一方、7月15日,ワシントンではメルケル首相を迎え米独首脳会談が行われています。「ワシントン宣言」も発表され、人権やルールに基づく秩序重視の立場を鮮明とし併せ、米独関係の修復をアピールする処です。因みに21日、米独両政府は懸案となっていた「独露パイプライン」(ノルドストリーム2)計画の実施に米国は事実上容認したのです。(日経 7/23)

2. 日本の対中政策構築に思うこと

さて、近時のサプライチェーン問題に集約されるように、日本も経済的には中国にがっちりと組み込まれ、今日に至る処、上述、強硬路線に傾く習近平中国と日本は如何に向き合っていくべきかが、問われる処です。つまり米国の同盟国であり、同時にアジアにおける日本の矜持を保ちながら、より自律的な対中政策の構築が求められるということです。
前述の通り、6月のG7サミットで確認された米バイデン氏主導の中国包囲網構想にも照らしながら、基本的には米国とより連携を深めつつ、G7に加え、日米豪印戦略対話と云った国際的枠組みを充実させつつ、「台湾海峡の平和及び安定」を念頭に、これからの中国とどう向き合っていくか、シナリオを固め、同時に対話を進めていくことと、思料するのです。それは、世界が ‘新しいゲーム’ に突入した現実を踏まえ、日本にとってのその意味合いを再確認し、安全保障の確保、自国にとっての利益の最大化を目指すものとしていくことと、思料するのです。

・2021年版「防衛白書」
その点、7月13日、公表された2021年版 防衛白書では「強権を以って秩序を変えようとするものがあれば断固としてこれに反対いていかなければならない」としていましたが、云うまでなく威圧的な動きを繰り返す中国を念頭に、当該決意を示したものと思料するのです。そして今次、白書の特徴とされるのが米中関係の項目を設け、競争激化による日本の安保への影響を詳述していることでした。実際、米中摩擦を受け、先端技術の開発や経済活動を安保と一体でとらえる経済安全保障の重要性が増す環境にある処、更に白書は気候変動問題も安保上の問題として初めて位置付ける処です。とすれば危機を多角的にとらえ、政府一体で取り組む体制が欠かせないものと思料する処です。にも拘わらず、国会論戦は低調の極みと云え、政府や与野党は日本の置かれた現状を国民に率直に示し、広範な議論につなげていくべきと思料するばかりです。


 おわりに バイデン氏の米再建は始まったばかり

‘中国共産党100年 ’ を追っかけていたさ中、もう一方の世界では、グローバル企業の行動改革を促す二つの政策転換、一つは米国の競争政策の転換、二つは国際課税ルールの原則の転換、が進みだす処です。

・米競争政策の転換、
バイデン氏は7月9日、企業のM&Aを寛容に認めてきた米政府の姿勢を転換する旨を表明、関係省庁に当該政策作りを求める大統領令に署名したのです。つまり一握りの企業にシェアが偏りすぎないようにと規制を強化する方向にカジを切ったというものです。これが意味することは、独占に目をつぶってでも企業の国際競争力の向上を優先する1970年代以来の路線の抜本的な軌道修正と云うものです。
つまり、過去半世紀、米当局は独占行為に寛容だったと言われており、経済効率が高まり、消費者が低価格を享受できるのなら独占も容認するということでした。因みに、米国で反トラスト法(独禁法)が生まれたのは1890年。鉄鋼王カーネギーら大資本家の専横を抑える社会政策とされる処、今次動きは、機会の公平確保とする原点回帰と見る処です。

バイデン氏自身、規制強化論者と云われており、大統領選の期間中に纏めた政策文書では企業分割にも言及していますが、この6月15日には、32歳と云う若さで、アマゾン批判の論文を以ってFTC(連邦取引委員会)の姿勢を激しく糾弾する法学者、リナ・カーン氏
を同委員長に指名、続く7月20日には、司法省の反トラスト局を率いる次官補にグーグル批判で知られる弁護士のJ. カンター氏を指名、独禁法を厳しく執行する姿勢を鮮明とする処です。要は大企業が力を持ちすぎていることで、消費者や労働者、中小企業など弱者にしわ寄せがきているとの認識にあって、米国の競争政策が転機を迎えたと見る処です。

・国際課税ルールの変更
もう一つは、これまで本論考でも報告してきたように7月10日、G20財務相・中銀総裁会議で、漸く、国際的な法人課税の新たなルールが大枠で合意されたことでした。これはOECDが事務レベルで合意したものをG20として「承認する」もので、正式には10月のG20会議で最終決着となるものですが、以て「歴史的な合意に至った」と記される処です。
具体的には、企業が負担する法人税の最低限の税率を「少なくとも15%」にするというもので、その狙いは多国籍企業が税率の低い国・地域に子会社を置き、租税回避するのを防がんとするものです。要は、100年前に定められたとされる現在のルールでは、経済のグローバル化、デジタル化など、時代の変化に十分フォローしきれない為、とするもので、国際課税の原則の転換となる処です。もとより、これが新型コロナウイルス禍による各国の急速な財政悪化による財源確保のニーズも、国際合意への機運を高めたとされる処です。

・さて、バイデン政権発足当初、コロナ禍に加えトランプ支持者による連邦議事堂襲撃事件の印象も残り、「危機克服」の高揚感に包まれる中、3月に実現した1.9兆ドルの経済対策とワクチン普及で経済は回復、7%成長(IMF)も視野に入る処、上述二つの改革もその枠組みにある処です。 ただ待望していた日常が取り戻されるにつれ、皮肉にも政権の勢いは鈍ってきたやに見受けられる処です。巷間、大統領として政策を推進し易い時間の半分が過ぎたとの声も伝わる処、バイデン政権には引き続き革新的な政策対応を期待する処です。
7月21日付 日経社説のheadlineは「バイデン氏の米再建は始まったばかりだ」でした。 以上(2021/7/25)
posted by 林川眞善 at 15:01| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2021年06月25日

2021年7月号  バイデノミクスが変える’経済学’の論理 - 林川眞善

― 目  次 ―
 
はじめに  バイデノミクスと世界経済  

(1)活気づく米経済
(2)バイデノミクスが主導する西側外交

第 1 章  コーンウオール G7サミット  

1. 英、コーンウオール G7サミットの風景

2. G7 ‘共同宣言’ のEvaluation, そしてそれが映す変化
(1)‘中国への対抗’ を軸としたテーマ
(2)総括にかえて- G7「共同宣言」が映す環境変化
・追認された「法人税改革案」と、その意味

第 2 章  バイデン政権の対中政策の実際 ----- P.9

1.中国対抗政策の実際
(1)米国 イノベーション・競争法
(2)バイデン政権の対中投資規制

2.The Longer Telegram: Toward A New American China Strategy

おわりに  米中対立の行方を占う

-----------------------------------------------------

       

はじめに  バイデノミクスと世界経済


(1) 活気づく米経済
先月論考で報告の通り、巨額の財政出動と大胆な金融緩和を組み合わせたバイデノミクスが今、世界で猛威を振るう様相です。因みに、米国の2021年の成長率予測は新興国並みの6%台へと跳ね上がり、インフレへの警戒も高まろうかといった状況です。

にわかに活気づく米経済は世界の成長をけん引する一方、ドル安や金利上昇を通じて各国経済や市場をかく乱しつつある処です。というのもバイデノミクスは財政・金融政策をフル動員し、経済の過熱を一時的に容認するもので、高圧経済と呼ばれる処、高まった圧力は海外にも猛烈な勢いで噴き出さんばかりといった処でしょうか。 そして、当該政策対応の現実は、これまでの資本の論理、民間の競争力に信を置いたSmall governmentから、積極的に政府財政を擁して民間では仕切れない経済開発に取り組む Big governmentへと、シフトを見る処です。

具体的には1930年代のNew Deal政策に倣わんばかりに、雇用創造のためと道路建設等インフラの再構築に向かうとき、バイデン政権は、その財源を大企業への増税を以って臨む一方で、機会の平等、所得の公平を目指すと 超富裕層あて増税をベースに低所得者への所得補償を行うなど、自由な資本主義を標榜する米国経済の‘通念’を大きく変質させる処です。後述「法人税率」改革論もその延長にある処です。つまり今次のコロナ禍への対抗として大幅財政出動を果たし、その結果として各国は財政の赤字を余儀なくされ、これを増税をもって事態に臨まんとする図柄です。
さて、こうした景気の進展に照らし、6月16日,FRBで開催のFOMC(公開市場委員会)では、米経済の回復と物価上昇の加速を受けて、これまで24年以降としてきた利上げ時期の想定を前倒し、2023年中にゼロ金利政策を解除する方針を示すほどの様相です。

かくして、革新的とも映るバイデン氏の行動様式は、従来の経済学の概念を大きく変え、Big governmentの発想の下、大企業への増税を以ってインフラ投資など、経済の再生を目指すほか、超富裕層への増税を以って低所得者が対面している経済格差の是正を目指すなど、従来の発想とは異にする、まさにバイデン革命の様相です。ついでながら、近時の米ピュウー・リサーチ・センターの調査では、バイデン政権の好感度はトランプ時代の34%に比し、62%と急上昇になっていると報じられる処です。(日経2021/6/12,夕)

(2)バイデノミクスが主導する西側外交
この6月11~13日、英国コーンウオールで2年ぶり、対面でのG7サミット会議が開かれましたが、西側外交でもバイデノミクスが主導する様相です。

周知の通りG7サミット、先進主要国首脳会議は、1975年11月15日、フランス、ランブイエに日米英仏独伊の6か国首脳が集まり第1回 6カ国首脳会議(G6サミット会議)が開かれ、(翌年カナダが参加、G7となる)今日に至る国際会議です。当時、フランス大統領のデイスカールデイスタンが、石油危機後の世界経済の運営について、先進主要国間での話し合いが必要ではと提案したことに始まり爾来、G7サミットは世界経済運営について討議を重ねる場とされてきました。( 尤もその起源は冷戦下の世界不況に対応するため,1973年に米ホワイトハウスで開かれた財務相会議とされるのです。)

しかし2017年、トランプ前米大統領の台頭を受けたG7サミット会議は、彼の標榜するAmerica firstを以って翻弄され、時にG7は「時代遅れ」と断じられるなどで、G7は実質機能不全となり、先進国間の一体感は失われる中、コロナパンデミクスが絡み、2020年のサミットはオン・ラインでの開催となり雰囲気はますますnegativeとなる処でした。

あけて2021年、トランプ氏に代り、国際主義者とされるバイデン米大統領の誕生は、彼の同盟国重視とする思考様式と西側諸国の対中批判とも重なり、欧米先進国間の協調・連携強化への意識を新たとする処、今次の英コーンウオール・サミットは、その変化を実証する場となる処でした。 25年前、フランスで生まれた民主国家の連帯秩序はトランプ台頭と共にその第一幕を下ろし、バイデン台頭と共に主要民主国家の連帯秩序への新たな幕あけとなったというものです。

勿論、G7サミットには、かつてほどの国際秩序をけん引する力はなく、世界は、権威主義の国々、とりわけ中国が、 ‘民主主義や自由経済 ’を標榜する西側諸国に対抗せんとする様相にあって、そのあり姿は、バイデン主導のもとに集まる「先進7か国」と、習近平主導の ‘一帯一路’ 政策 を介しての「親中国グループ」との対立構図を新とする処です。

・Biden’s Grand Tour to Europe :
さて、バイデン氏は上記6月11日に始まる英国でのサミットに出席のため英国を訪問、それに続く欧州での一連の首脳会議に出席のため欧州歴訪を果たしたのですが、その出発を控えた6月5日、ワシントンで、次なるメッセージを発するのでした。

まずG7出席に臨むにあたっては「新型コロナパンデミックを終わらせ、すべての国の保健分野での安全保障を強化し、世界経済の着実かつ包括的な回復を実現させることが最優先課題だ」と訴えるのでした。もとより、そこには前述のようにバイデノミクスで活気づく米経済への自信もあってのことと思料される処でした。 更に、14日のベルギーでのNATO首脳会議に向けては、加盟国の集団防衛を定めたNATO条約5条の順守を改めて明言するほか、NATO が「重要インフラへのサイバー攻撃などをも含め、あらゆる脅威に決して負けないようにする」とも語る処、加えて16日、スイス ジュネーブではプーチン大統領との初の対面会談については、対立を目指すのではなく、軍縮など協力可能な分野で「安定した予測可能な関係を望む」との趣旨をすでに電話会談で伝えたとも説明するのでした。

今回のG7サミット会議は、中国が民主国家への対抗を強める中での開催だけに、価値観を共有するグループとしての立場を強調しながら、中国をめぐる事案に集中、討議することで、G 7としての共通認識を確認する場となるものでした。その点では、サミット第2幕の幕開けと映る処、ただ中国という特定の国について重点的に協議するのは、冷戦下の旧ソ連以来というものです。

そして、これが冷戦期と異なるのは各国とも中国との経済的なつながりを大部分で維持している点です。経済圏は分断されてはいませんし、中国は世界経済の中に組み込まれています。気候変動対策でも世界最大の温暖化ガス排出国である中国との協調はかかせない処です。G7は中国と価値観でぶつかりながら経済や温暖化対策での実利も目指すといった新たな次元での対中戦略が求められることになってきたというものです。

6月7日付ワシントン・ポスト(電子版)はバイデン氏の欧州行脚について‘Biden heads to Europe this week. Some Europeans are wary ’としていましたが、その「wary」がとても気になる処でした。 因みに、6月10日 パリで、マクロン仏大統領は、中国の海洋進出が緊張を生んでいるインド太平洋地域の安全保障について、「フランスは中国に従うことも、米国になびくこともしない。第3の独立した道を進みたい」と語る処です。(日経,夕、6/11)

かくして巷間、G7サミトの復権、再起動と騒がれる処、そこで本稿ではG7英コーンウオール・サミットにフォーカスすることとし、勿論、サミットでの概要は既に多くのメデイの報じる処ですが、この際は閉会時公表の共同声明を自己流深読みすることとし、そこで中核とされた対中問題の実情をレビューし、そこに見る問題、課題について考察することとしたいと思います。


処で、菅首相は(6月7日)、今次のG7出席に当たって「普遍的価値を共有するG7のリーダーと率直に議論し、日本の立場を発信していく」としていましたが、その成果は?



第1章 G7コーンウオール・ サミット

1.英、コーンウオール G7サミットの風景 

(1)G7サミット再起動
6月11日、英国南西部のコーンウオールで開催されたG7サミット会議は13日、中国や新型コロナウイルスなどへの対応で広範な協力を確認(共同宣言の採択)して、幕を閉じました。(注) 上述事情を踏まえればG7サミット再起動と云った処です。尚、今次サミットはバイデン氏にとり、大統領就任後初の外国訪問であり、初のサミット出席ですが、菅首相、イタリアのドラギ首相、EUのフォンデアライエン委員長も初の対面参加となる処でした。

(注)13日公表のG7共同宣言での主なるポイント。(日経・夕6/14,)
① 対中国:市場をゆがめる政策に対し、(G7が)集団的に対応。開かれた社会、経済として結束 / 新彊ウイグル、香港の人権尊重を要求 / 台湾海峡の平和と安定の重要性を強調。東・南シナ海での現状変更と緊張を高める試みに
② ②新型コロナ:2022年までにパンデミックを収束 / 来年にかけてワクチン10億回分を供与
③ 経 済:質の高いインフラ投資への取り組みで、経済の再活性化を図る / G7財務相会合での法人税の最低税率を15%以上とする合意を追認 / 半導体等、サプライチエーンのリスクに対処するメカニズムの検討
④ 気候変動:各国30年のCO2削減目標、50年までの「実質ゼロ」目標への対応を約束。/ 排出削減対策のない石炭火力への新規の国際支援を年内に終了
➄ 東京五輪:安全・安心な形での開催を改めて支持

(2)結束立て直しの軸は中国への対抗  
さて、G7は自由や民主主義、市場経済、法の支配など共通の理念を持つ国の集まりですが、中国はこうした理念とは合わない振る舞いを露わとする処、今次サミットでは、こうした中国にどのように対峙していくべきかを念頭に、従って、新型コロナウイルス問題、安全保障や人権、経済問題など、中国の行動にからめる形で集中・討議が行われ、日米欧で結束して中国に対処する姿勢を鮮明とする場となるものでした。
     
周知の通り、こうした理念を否定してきたのがトランプ前米大統領で、それまで標榜してきた反保護主義や自由貿易推進について確認できず、更には安全保障など多くの議題で意見が対立し、足並みの乱れを曝け出すなどで、米欧の溝は深まる中、トランプ前米大統領のもとで機能不全に陥ったG 7が再び協調して国際社会を主導できるかと、懸念の高まる処でした。 が、平和主義者とも称されるバイデン氏の登壇は、その懸念を一掃、同氏の国際協調主義の思考様式と共にサミット・メンバーは再び、国際協調の強化を目指し、とりわけ急速に覇権主義的動きを広げる中国に、共に対峙する姿勢を鮮明とする処でした。言い換えれば、トランプ前米政権の下で機能不全に陥ったG7ながら、結束立て直しの軸として浮かびあがったのが中国への対抗だったと言えそうです。そして、再起動したG7とは新たな‘対中同盟’と、実感させられる処です。

尚、注目されたのは、サミット開催直前の6月10日、バイデン米大統領とジョンソン英首相とのトップ会談が行われ、今次サミット会議の主要テーマとなる民主主義の擁護など、国際課題に取り組む行動目標をまとめた「新大西洋憲章」が合意されたことでした。これがモデルとなっているのが第2次大戦後の国際秩序を構想した1941年の「大西洋憲章」(注)ですが、であれば80年ぶりの刷新となるものです。新憲章では「人類の利益のため」の行動目標を8項目定めています。そして、今次G7サミットでの話し合いは、まさにこの新憲章に沿う形で進む処でした。まさに‘Anglo America’ 再生ということでしょうか。

   (注)「大西洋憲章」:英国がドイツナチスと戦っていた第2次大戦下の1941年8月、ル-
ズベルト米大統領とチャーチル英首相が戦後秩序を構想し、纏めたもので、領土の不拡大、民族自決など8項目から成るもので、これが後の国連創設に繋がったとされている。
尚、「新憲章」も民主主義の擁護、集団安全保障の重要性、公正な世界貿易の維持、サイ
バー攻撃への対抗、気候変動対策、コロナウイルス危機からの脱却、等8項目からなる由。

2.G7 ‘共同宣言’ のEvaluation、そしてそれが映す変化

今次G7での討議の様相は上掲、共同宣言に映る処、世界経済や新型コロナワクチンの途上国支援、気候変動など幅広く話し合われましたが、いずれも‘中国への対抗’ を念頭において、行われたとされています。そして、その際、注目されたことは、欧州が中国問題に厳しい態度で臨むようになってきたということでした。

これまで欧州は中国との経済的な結びつきを重視し、東アジアの安全保障問題と距離を置いてきています。が、足元では香港での国家安全維持法制定を機に欧州の対中感は厳しくなり、新彊ウイグル自治区での人権侵害で不信感を強め、中国を脅威とみなす認識が浸透し始め、英国やフランスなどは安保面でも対中国で、日米との連携に傾く処です。要は、各国の事情を踏まえつつ、大きな方向で足並みをそろえていくことではと、思料するのです。
そこで、そうした趣旨を踏まえつつ、詳細は当該関係報道に委ねることとしますが、サミットの共同宣言に盛られた、中国への対抗を軸としたテーマにフォーカスし、その実際をレビューし、今後の課題について考察することとします。

(1)`中国への対抗 ’を軸にしたテーマ      
① 新型コロナ対抗ワクチン提供
新型コロナ・ウイルス対策で、途上国への10億回分のワクチン提供についてサミットとして合意しましました。もともと、米英両政府はコロナ危機にある途上国などへの寄付を検討していたもので、6月10日の米英トップ会談で10億回分のワクチン提供を合意、サミット会議で議長国の英ジョンソン首相から正式提案され、7か国が合意したものです。この背景には中国の「一帯一路」を介して進められる‘融資’が誘発する「債務のわな」のリスクが途上国を苦しめているとして、民主主義国家による一帯一路の対抗策作りともされる処です。ワクチン外交は実質、中国対抗策となる処です。

    (注)G7のワクチン寄付予定:米国、5.8億回分、英国、1億回分、日本、3000万回
分、カナダ、1億回分表明、ドイツ、フランス、イタリアはEUで少なくとも1億回
分(日経2021/6/13)

② 持続的経済成長に向けた対応
経済面でも中国を名指しし、世界経済の公正性や透明性を傷つける慣行や市場をゆがめる政策に対して(G7が)集団的に対応すると明言。もう一つは上質で透明性の高いインフラ投資に取り組む方針を示す処、これが中国の「一帯一路」を意識したもののほかならず、G7で作業部会を立ち上げ、秋には具体策を報告する由ですが、その推移が注目される処です。

③ 安全保障対応
共同宣言では中国の海洋進出を念頭に、「自由で開かれたインド太平洋の維持の重要性」が謳われ、併せて東・南シナ海の状況についても、当該地域での中国の行動に深刻な懸念を示すと共に、新彊ウイグル自治区の人権問題、や香港の統制強化にも触れ要は、「中国に人権と基本的自由を尊重するよう求めるなど、G7が共有する価値観を推進していく」と、明記する処ですが、とりわけ後者については、中国側は中国国家の核心的利益として外部からの批判を退ける処です。そしてG7として初めて「台湾海峡安定の重要性」を明記したことについて巷間、これが日米の主導による結果と囃される処ですが、では日本自身、これに応える準備はあるのか、問われる処です。

(2) 総括にかえて ― G7「共同宣言」が映す環境変化
今回のサミットは、バイデン政権が自由経済や民主主義という共通の価値観を前面に出すことで、G7が結束して中国に対抗する土台を作ったとされる処です。が、前述の通り、G7の議論が中国への脅威に取りつかれている点で、それが「正義」ということかと愚考する処でした。もとより、人権や民主的な行動にも独善的に拒否する中国の姿勢は受容できるものではありませんが。

というのも、例えば、ドイツの場合、最大の貿易相手国は中国で、対中関係の極度の悪化は雇用や経済に深刻な悪影響を与えかねず、又欧州では地球温暖化対策では中国の関与が欠かせず、中国と対峙するだけでは問題は解決しないとの見方が広まる処で、要は各国が受ける中国の脅威や影響力は同じではない点で、グローバル化した状況下では、事案への対応も、よりInclusive、より包摂的な姿勢が求められる処と思料するのです。

序でながら、世界の半導体生産が台湾に集中していることが問題となっています。そうした状況を許してきた事には、一言で云えば戦略的ミスと云うことになるのでしょうが、さて
自由な経済活動を標榜するG7として、global 経済の今日的構造とsupply chainの在り方を見直す要のある処ではと思料するのです。と云うのも、昨年4月、習近平主席は自らの講話で、①広大な中国市場の「引力場」、②中国のグローバル・サプライチェーンの中に外国企業を組み込み、離れられなくする、と発言しています。これは国際経済アナリストの船橋洋一氏も「文春、7月特別号」で指摘していたように「外国の対中供給遮断に対する反撃力と抑止力」の二点を地経学的戦略課題と強調するものです。であれば対中戦略の視点からも、経済のglobal化とsupply chainのあり方はますます、問われていくこと必至となる処です。

バイデノミクスは前述したように今や、Big Government主導の経済運営にシフトし、世界の至る処で経済学の定義も変わりつつあり、次項の「法人税改革」問題などはその最たるものと云え、「環境」や「保健」など、これまで経済学では不経済要因として扱われてきた社会的要因などを重視する方向へシフトしだす処です。であれば、その際、経済活動にもとめられていくことはと云えばInclusiveな対応と思料するのですが、さてG7として、こうした環境変化をどう受け止め、どう行動しようとするのか、関心の高まる処です。

・追認された「法人税改革案」と、その背景
処で、G7サミットが始まる直前、主要7か国(G7)財務相会合(6月4~5日)が開かれていましたが、ようやく法人税の国際ルールの導入をめぐり、G7財務相会合は基本合意に達したのです。具体的には法人税の最低税率を「少なくとも15%」とすることが合意され、サミット会議ではこれを追認しています。法人税の国際的な最低税率の導入です。
そもそも事務局たるOECDでの議論では、次の2点、① デジタル企業などによる活動地と納税地との乖離への対応、② 軽課税国への利益移転への対抗措置、が議論されていたものでしたが、6月の財務相会合では、これが米国主導で ① 大規模で高利益の多国籍「超過利潤(利益率10%超)」の部分について少なくとも20%を市場国に配分する、② についてはグローバル・ミニマムタックスを最低15%とすることで合意されたというものです。(日経 2021/6/17 、立教大関口智教授「転機迎えた法人減税競争」)

これまで‘法人税の引き下げ競争’が税収減を招いてきたと、当該危機感の募る処でした。
実際、トランプ政権では法人税を引き下げると企業活動が活発となり、最終的に税収増につながるという「法人税のパラドックス」を以て、法人税率の大幅引き下げが断行されてきました。しかし結果は、その効果を見ることなく、逆にその結果は経済格差拡大への誘因ともなる処でした。 つまり、税負担の軽減で実際に増えたのは ‘自社株買いによる投資家への還元’ となり、これが貧富の格差を広げる一因となり、株主を最優先に置く資本主義の限界を露呈する処とも指摘される処です。もとより、米IT4社の税負担率は平均約15%にとどまっていたことにも照らし、社会経済のデジタル化に既存の税制が対応できていないとする問題意識が議論の出発点にあるとされるものでした。

そうした環境にあって、バイデン政権が米経済回復への戦略として進めるインフラ等、大規模事業推進への財源について、企業増税をその中核に位置付けたことが、今次のコロナ財政で税収減に直面する各国の危機感とも共鳴し、当該合意に漕ぎつけたものと見る処です。
新ルールについてはOECDで纏められ、7月のG20財務相・中銀総裁会議で最終合意となる予定です。格差拡大と税収減を生んだ法人税の引き下げによる「底辺への競争」(イエレン米財務長官)からの転換は、資本主義の在り方について、根本からの見直しを迫ることになるものと思料する処です。もとより、それは低税率地を求めて動く企業の資本行動、つまり企業のグローバル化戦略の在り方の再考が進むことになるものと思料するのです。

上述の通りバイデノミクスは、これまでの通念を覆すほどにギア・チェンジとなる処、当該変化と、その意味合いを十分理解し、合理的に対応していくことが求められる処です。
序で乍ら、こうした経済政策の根底をなすのがケインズの「一般理論」(1936)と思料するのですが、この際は ‘ 経済の分析、思考方法を大きく変化させ、かつ経済政策の実施による資本主義経済を変質させた ’ と論じたノーベル賞経済学者、ローレンス・R・クラインの「Keynesian revolution (ケインズ革命)」(1947)を想起する処です。



            第2章 バイデン政権の対中政策の実際

1. 中国対抗政策の実際

(1)米国イノベーション・競争法( 米国の‘中国対抗法案’ )
G7サミットでの中国非難はともかく、米国自身、中国との覇権争いで、米国の競争力を高めるための包括的対抗法案「米国イノベーション・競争法案」を6月8日、上院で、超党派の賛成多数で可決しました。ハイテク分野への巨額投資や中国の不公正な国家主導の経済政策に制裁を科すことなどを求め、新彊ウイグル自治区などでの人権問題を重視し、北京冬季五輪で外交団を派遣しない「外交的ボイコット」を提唱する処です。

・法案の内容と、その背景
当該法案では、自動車、スマートフォンなど幅広い分野で重要となる半導体の国内製造補助のため、5年で520億ドルを充てるほか、AIや漁師などの研究開発に政府機関の新組織を通じて290億ドルを投じること、又、中国企業に頼らない高速通信規格「5G」の開発支援に15億ドルを充てることとしています。更に、知財の窃盗や技術移転の強制など不公正な慣行を続ける中国企業のリストを公表し、米国の企業秘密を盗んで利益を得た個人や団体に、あらゆる範囲の権限を行使することを大統領に求める処です。

背景にあるのは2015年、中国習近平指導部が打ち出した「中国製造2025」にあって、これに対抗するため米国も政府が関与を強めるべきとの議論が盛り上がったことにあるのですが、民間活力を重視して政府介入を控えてきた米国の産業政策が転換点を迎えたと言えそうです。因みに政府の資金支援に否定的だった共和党のコーニン上院議員は米メデイアに「経済安保政策において見方を変えなければいけない」とした善伝えられるところです。(日経、2021/6/10) 米国は中国の産業補助金を不公正だと批判してきていますが、今回は皮肉にも、中国に対抗するため、中国と同じ政策を取り入れる形になったという処です。
いずれにせよ上院に続き、下院でも同様の法案を審議し、上下両院で一本化したうえでバイデン大統領が署名すれば、成立するというものですが、中国への強硬姿勢は与野党で共通しており、法案成立に向かう公算大とみられるところです。

尚、中国全人代常務委員会は、G7サミット開催直前の6月10日、「反外国制裁法案」を可決・成立をみています。4月下旬の審議入りから1か月余りのスピード可決でしたが、欧米諸国の対中制裁が相次ぐなか、反撃のための法的根拠を明確にして置かんとの狙いとされる処、もとよりこれがG7を意識した動きです。ただ、これが結果として報復の連鎖に陥る可能性が指摘されるのですが。

(2) バイデン政権の対中投資規制
さて、上記議会の動向に先んじて6月3日、バイデン政権は通信など59社の中国企業への米国人による株式投資の禁止を発表したのです。これは中国政府の軍事開発や人権侵害に関わる企業への資金の流れを阻止するのが狙いで、その点ではトランプ前政権の政策を引き継ぐ形ですが、これが軍事企業だけではなく、中国の国内外で監視技術を提供する企業も禁止対象とする処、航空関連の対象企業も増える処です。トランプ前政権が中国共産党への圧力を強める一環で導入したものでしたが、バイデン政権では人権侵害に使われる監視技術の企業も対象に含めることで、中国への強硬姿勢を一段と鮮明にする処です。

尚、これに先立つ5月28日、公表されたバイデン政権の2022年度の予算教書では、米国防費の要求は7530億ドル、前年度比1.6%増で、これについてオーステイン国防長官は5月27日の米議会公聴会で「中国がもたらす試練への対処に注力した予算」と, 政策の主眼は対中国だと説明、米国防費の対中シフトを鮮明とする処です。

2.The Longer Telegram:Toward A New American China Strategy

処で、米シンクタンク「Atlantic Council」(大西洋評議会) が1月27日付で発表した興味深い論文「より長文の電報」(The Longer Telegram:Toward A New American China Strategy)の存在を承知しました。ただし、なぜか著者はBy Anonymous, 匿名表示です。
このタイトルにある`longer telegram’とは1946年、米外交官、ジョージ・ケナンがモスクワより米国務省あての公電で、旧ソ連への封じ込め戦略を提言した秘密文章、俗に言われるlong telegram に倣うべく、longer telegram と表して米国の対中戦略を提言するのです。

要はケナンの分析力、インテリジェンスに倣い,米国の対中戦略は議会の全面的支持の下、米国体の支柱たる「米軍事力、米ドル、米技術力、そして自由の価値」を基礎として(下記第1項)、以下の9項目に即し、対中戦略構築に向けたシナリオの策定を提言するのです。
全文、78頁、この際はExecutive Summaryで示された当該ポイントを参考まで紹介します。

「1.US strategy must be based on the four fundamental pillars of American power:
2.US strategy must begin by attending to domestic economic and institutional weakness.
3. The US’ China strategy must be anchored in both national values and national interests
4. US strategy must be fully coordinated with major allies so that action is taken in unity in
response to China.
5. The U.S’ China strategy also must address the wider political and economic needs of its
principal allies and partners.
6. The US must rebalance its relationship with Russia whether it likes it or not.
7. The central focus of an effective US and allies China strategy must be at the internal
fault lines of domestic Chinese politics in general and concerning XI’s leadership in
particular.
8. Us strategy must never forget the innately realist nature of the Chinese strategy that it is seeking to defeat.
9. US strategy must understand that China remains for the time being highly anxious about
military conflict with the United States.」

要は、米中対立の行方を見極めていく要領として、上述米国体の支柱をなす4つの条件に照らし、軍事的、政治的に阻止しなければいけない事態と、協調できる、あるいは、協調していかねばならない事態を中長期的に見極め、つまり、線引きをし、戦略的競争関係の維持を目指せと云い、同時にG7, NATOさらにアジア諸国と、米国の対中政策と重ねた連携が必要と謳うのです。そして今世紀半ばには, 米国と主要同盟国との連携で、regionalにもglobal にもbalance of powerを堅持することで、rules-based liberal international order が再生され、習近平政権はよりmoderate party leadershipに譲ることになるとするのです。
尚、習近平政権が ‘こける’ 事がある’とすれば、それは大失業が発生し、国民の生活水準が急速な低下が起きる、つまりは経済運営の失敗だとするのですが(For XI, too,` it’s the economy, stupid ‘ )

さて、対中関係は複雑ながらも、敵対的部分、競合する部分、協力的部分がある点では、前述、‘長い電報’も含め、米外交筋も認める処、今次のバイデン外遊の「成果」を踏まえ、早期に米中首脳会談の機会を模索することになるのではと思料する処です。



おわりに 米中対立の行方を占う

さて、米中対立関係の深まる中で行われた今次のG7サミット会議は、同盟関係・国際協調重視を以ってするバイデン氏主導の中国包囲網つくりの場と位置付けられる処、一方、中国はG7サミットの行動に対し、‘内政に介入する’ ものと批判を繰り返す処です。勿論、両者の対立が収束に向かう可能性など現状では見えません。それでも、その対立の行方を見通す上で重要なのが時間軸にありと思料する処、その時間軸に影響を与えていくことになるとみるのが少子・高齢化のペースです。

偶々、4月2 6日 米国勢調査局が発表した2020年の米国の人口は3億3144万人と、10年前の前回調査(7.3%の増加)と比べて7.4%と史上2番目に低い伸び率に留まっていました。(日経 夕、2021/4/27)これが米国の競争上の優位を支えてきた「人口成長」の土台が揺らぐ姿を浮かびあがらせる処です。この背景にあるのが、白人層の高齢化で出生数が鈍り、更に移民の流入が細っていることです。これが意味することは、移民受け入れで人口が安定的に増え、社会の多様性と若さが新たな成長を生む基盤となるものでしたが、これがむしばまれてきたことを示唆する処、バイデン政権は移民問題に積極姿勢で臨む処です。

一方、14億の人口を抱える中国が米国の覇権に挑むのですが、実は今、中国は米国以上に少子化による人口減少、そして高齢化という構造問題との対峙を余儀なくされている処です。 因みに「一人っ子」政策に代え、今では「三人っ子」政策を以って指導する処ですが、もはやそれを以って少子化対抗となるのか問われる処です。

日経(2021/4/29)が転載したFinancial Times記事によると、中国では2020年12月に最新の国政調査が完了しており、結果はまだ発表されていませんが、毛沢東の大躍進政策の失敗が招いた大飢饉の時代以来となる人口の減少を発表するとの由ですが、2019年時点では中国の総人口は14億人を突破としたしていましたが、14億人弱と発表される見込みと伝えるのです。中国の人口が減少すれば、現時点で推計13.8億人のインドが早々に人口世界一となる可能性も指摘されるとも云うのです。

中国は既に生産年齢人口(15~64歳)が減り続け、米国より状況は厳しいと伝えられる処です。米国にとって移民問題が人口政策上の課題なら、中国にとっては高齢化と人口減少が重くのしかかる処です。 勿論、いずれも解決のための特効薬はありません。米中ともに、労働力の投入量が鈍る分、生産性をより高めることが、長期の勝負を制するための前提になるものと思料するのです。

加えて、中国の場合、高齢化が進む2030年には、中国の成長率は3%台に低下すると予測さており、軍事費の伸びも抑制せざるを得ず、高齢化に伴って増える社会保障費、何せ3億人から4億人の高齢者を養うことを考慮するとなると、いつまでも軍事費偏重は続けられないのではと思料する処です。であれば今、求められる‘可能性’へのヒントとは、そうしたトレンドの中にあるのではと愚考するのです。

さて、1921年7月、上海で建党された中国共産党はこの7月で百年を迎えます。(人民共和国建国は1949年10月1日) 彼らは、次の百年をいかに発展させていくか、習近平氏は語ることでしょう。で、この際は、日本も百年というタイム・スパンで自らの行方を考察し、併せて、発展的日中関係の姿を描いてみてはと、思料する処です。 以上 (2021/6/25)
posted by 林川眞善 at 11:41| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする