2022年11月26日

2022年12月号  2022年この秋, 世界を動揺させた‘点’と‘線’ - 林川眞善

― 目  次― 

1. 世界の変容を演出する「点」と「線」
2.バイデン政権の対中輸出規制強化と新安保戦略
3. 習近平氏が目指す「中国式現代化」  
4. 総括にかえて                  
(1)「アジア安保への関与」を目指す米政権
 ― 東アジアでの首脳会議3連荘を経て
(2)そして、日本の使命     
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           1.世界の変容を演出する「点」と「線」

Financial Times、Oct.20に掲載の同社、Edward Luce氏が寄せた記事は、10月7日、米バイデン政権が打ち出した半導体を中心とした対中輸出規制の強化(半導体輸出規制)策の重大さを語るものでした。当初、世界の関心が中国共産党大会に集まっていたこともあって、この対中規制問題への反応は鈍かったとされる処、その強化策は実に多岐にわたる、実質、米国による対中経済戦争の宣言だと、その影響の広がりを強くアピールするものでした。

10月7日の発表内容とは後述、スーパーコンピューター等、先端技術を巡り中国との取引を幅広く制限する措置で、半導体単体だけでなく、製造装置や設計ソフト、人材も対象に含めて許可制とするものです。商務省は企業の許可申請を原則拒否の方針の由で、規制対象の中国事業が事実上できなくなると云うものです。そして当該規制の動向は「台湾有事」を招来することになるとも指摘する処です。彼の10/20の論考のタイトルはContaining China is Biden’s explicit goal 、バイデン氏の目指すは「中国封じ込め」だと。  

そこで今次論考は、上記ルース氏が指摘する問題点をフォローする形で考察する事とし,
ただこの際は、先の中国共産党大会で3選を得た習近平中国を「点」と見立てる一方、上記バイデン対中規制強化が放射的に関係諸国を巻き込んで進む「線」の広がりと見立て、今後の世界経済の在り姿をこの「点」と「線」の絡みと定義し、考察する事とします。


2.バイデン政権の対中輸出規制強化と新安保戦略
  
(1)バイデン政権の対中輸出規制強化
まず、10月7日発表のバイデン氏が目指すとされる「中国封じ込め」策は、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的措置とされるもので、米商務省は、世界的に有力な半導体製造装置メーカーであるKLA Corporation、ラム・リサーチ(Lam Research)、アプライド・マテリアルズ(AMAT)に対しては文書で輸出規制について通知され由で、一部の措置は即時適用なった由です。 10月8日付ロイターによれば、「これには米国の半導体製造装置を使って世界各地で製造された特定の半導体チップを中国が入手できないようにする措置が含まれている」由です。

そして、今回の一連の措置は、中国への技術移転に関する米国の政策において1990年代以降で最大の転換となる可能性があるとするのですが、実際適用措置となると、米国の技術を利用する米国内外の企業による中国の主要工場及び半導体設計業者への支援が強制的にうち切りとなり、中国の半導体製造業が立ち行かなくなる可能性があると云うものです。以ってルース氏は、米国が仕掛ける対中経済戦争の始まりと云うのですが、そのルース氏の言を借りるとすれば、このBiden’s gambleには二つの大きなリスクがあると云うのです。

一つは、当該規制は、new restrictions are not confined to the export of high-end US semiconductor chips、つまり米国製に限定されるものではなく,台湾、韓国、或いはオランダをベースとするnon Chinese high-end exporter に及ぶ処、中国はこの規制で、受ける打撃は「半導体」という言葉が意味する以上に計りしれないほど大きいと云うのです。今回の規制強化に踏み切った背景として、いかなる先端半導体も核兵器や極超音速ミサイルの開発を含む軍事用途に利用される可能性への懸念があってのことですが、中国側からすれば米国が中国共産党を永遠に抑え込もうとしているやに映る処、そのことは米国が中国の体制転換を狙っている事とほぼ同じことを意味するものと云うのです。 
もう一つのリスクはバイデン氏が規制強化という強気の姿勢に出たことで、習近平氏が台湾統一計画を加速させるかもしれないというリスクです。そこで、安全保障問題が事の中心に入っていく事を挙げるのです。そして、中国も米国と同じレンズを通して互いのライバルを見定めながら変化していく事になるとも云うのです。

10 月28日付 日経社説は、バイデン政権の今次の措置は、かつてなく厳しいかつ広範な規制を敷くものとの認識を語り、「米国の技術を使う世界中の半導体関連企業の対中取引が対象になる事」に照らし、日本の半導体関連企業も、米中の技術デカップリングの進行を前提に経営戦略の再構築を急ぐ必要があると警鐘を鳴らす処です。 つまり、新規制は企業の利益機会を犠牲にしてでも、米国発技術の転用によって中国の軍事的脅威が増していくサイクルを断ち切ろうとするのが狙いだが、日本、韓国、台湾にも規制の抜け道を塞ぐための協力を求める見通しで、日韓台の半導体関連企業も自らへの規制の波及は避けられないと考えるべきと、するのでした。

実際、レモンド米商務長官は、米国が始めた先端半導体の対中輸出規制について、11月3日の米NBCのインタビューで、「日本とオランダが当該規制に追随するだろう」と具体的に国名を明らかにする処です。 当該矛先が日本とオランダに向かったのは、米の規制が及ばない半導体製造装置で両国が強みを持っているとされる為で、両国企業は米技術に頼らず造れる製品があると見られているためとされています。 そして、先端半導体の優劣は「極超音速ミサイル」や精密誘導兵器など、最新軍事装備品の開発競争に直結する問題とされる処、同レモンド氏は「我々は中国に先んじる必要がある。彼らの軍事的進歩に必要なこの技術を与えてはならない」と規制の意義を説く処です。(日経夕、11/5)

新規制が対象とするのは、核弾頭、ミサイル、自立運航兵器、監視用AIの開発に利用できる高性能半導体とその製造技術です。具体的には高度な人工知能(AI)システムやスパコンに使われる半導体と、微細度の高い半導体製造装置とその部品について、対中輸出を実質的に全面禁止するものです。モノやソフトだけでなくサービスにも網をかける処です。つまり、米政府が特定する中国企業向けの半導体受託製造サービス、中国内で稼働済みの先端製造装置のアフターサービスを原則禁止とし、以って中国の半導体産業育成を難しくするのが狙いという事です。並行してバイデン政権は米日韓台の4カ国・地域が半導体の技術・供給網の管理で協調する、一種の技術同盟の構築を呼びかける処、まさにルース氏が云う「中国封じ込め」に向け進む処です。

(2)バイデン政権の‘新安保戦略’
尚、上記事情を抱えたバイデン政権は10/7の輸出規制強化宣言をfollowする形で、10月12日、政権初となる「国家安全保障戦略」を発表しましたが、そこでは中国を「唯一の競争相手」と定義し、「中国に打ち勝ち、ロシアを抑制する」と強調。今後 米主導の国際秩序に挑む中国との競争を「決定づける10年」とこれからの10年の重要性を強調する処です。ロシアを「差し迫った脅威」としつつも、中国の対処を最優先に据える方針、つまり中国とロシアの位置づけを明確に区分する処、2021年3月に示した戦略の暫定版でうたっていた中ロとの対話に意欲的だった表現は消えています。その限りにおいて、バイデン政権の対中政策は、トランプ前政権の行動様式を踏襲するものとも云えそうです。

トランプ前政権では、その前政権のオバマ政権の対中政策を「弱腰」、「宥和的」と一刀両断、権威主義(米国第一主義)の立場から対中強硬路線へとカジを切り、「新冷戦」とも称される米中の覇権争いを鮮明とする処でした。そして、その際トランプ氏は、TPPなどの多国間枠組みや、同盟関係への不信から米中二国間による取引型外交を指向し、結果的に米中間で制裁関税の応酬がエスカレートする「貿易戦争」の様相を濃くするものでした。

かくしてバイデン政権も対中強硬路線を継承する処、今回は中国を「国際秩序をつくり替える意思と能力を持つ唯一の競争相手」と見なし、これからの10年が中国との競争を決定づけるとの認識を示す処です。 そして対中関係について、「対立」(人権、民主主義、安保など)、「競争」(貿易、知財、先端技術など)、「協力」(気候変動、感染症、核不拡散など)の3つの領域にわけ、各領域内で取引する「個別管理」の手法を以って対応せんとする処です。が、交渉の手法を巡って、中々かみ合わない状況が続く処です。いずれにせよ、ロシアを「差し迫った脅威」としつつも、中国の対処を最優先に据える方針を明確にしたと云うものです。

尚、バイデン政権はトランプ時代と異なり、同盟国との連携強化を重視し、同盟国を「最も重要な戦略的資産」と位置付けていますが、これこそはバイデン政権の特徴を表す処、米英豪による新たな安全保障の枠組み「AUKUS」や、米日豪印4カ国による「QUAD」、更には、新たな経済連携「IPEF」(後述)の新構想を打ち出している事、周知の処です。

・互恵関係実現に向かう中独関係
ただ、こうしたバイデン氏が主導する対中包囲体制に風穴を開けるような動きが現れています。具体的にはショルツ独首相の中国訪問です。主要7カ国の首脳の訪中は、コロナが世界で流行し始めた 2020年以降で初めてでしたが、今回のショルツ訪中は習近平氏が要請したものと伝えられています。(日経11/5)勿論、中国はドイツとの経済連携を足掛かりにG7の対中包囲網の突破口を探る戦略と云え、習氏は「中独は相互に尊重し、互いの核心的利益に配慮し、対話と連携を堅持すべき」と強調する処です。中国の習近平主席とドイツのショルツ首相の会談は、米欧がドイツの中国接近に懸念を深める中で、政治・経済両面で距離感を探り合う展開となったと報じられる処、ショルツ氏の訪中はわずか11時間に留め、宿泊しない日程を組んだのもその辺のバランスに苦慮した結果ともされるのですが、来年には「対中政策の基本指針」を取りまとめるとも報じられており、推移が注目される処です。

―― さて、バイデン氏による中国向け半導体の輸出規制は、前述基本的なリスクを抱えながらも、物理的には進むことにはなるのでしょうし、そのプロセスにあっては、バイデン政権がこれまで支持してきた自由貿易への姿勢の後退を齎し、代わって安全保障優先へと、新しい段階へ進む事と思料するのです。一方、中国のこれからは、習近平主席が目指す「中国式現代化」に向かうとする処です。では「中国式」とはどういったことか。そこで習氏の共産党大会での党活動報告、その後に語った内容とも併せ、今一度、レビューする事とします。


3.習近平氏が目指す「中国式現代化」

(1)習総書記の報告に見る政策姿勢の変化
10月の共産党大会で、習総書記が行った党活動報告で指摘される変化は、何としても「改革」や「市場」への言及が急減したことでした。一方、使用頻度の増加が目立ったのは、共産党主導の独自の発展モデルトを指す「現代化」そして、「安全保障」がこれに続くものでした。この用語の語数の変化は、共産党の統治におけるこれら用語の持つ意味の重要性が増してきた事と云え、「国家の安全保障と社会の安定がより重要になった」と読む処です。(日経,10月 21日)

つまり、1970年代末に始動した改革開放は西側に向けての開放であり、西側を近代化のモデルとするものでした。しかし、これからについては「社会と経済に対する党の統制強化が改革の目的」となる処、西側の資本や先端技術に向けたドアが閉ざされることはないとしても、解放はあくまでも「一帯一路」や「グローバル発展イニシアチブ」、「グローバル安全保障イニシアチブ」といった習氏が提唱する枠組みを中心に進められるものと見るのです。
そして、改革開放と表裏一体とされてきた経済成長第一という国策は改められていくことになるものと思料するのです。というのも習氏の報告では、「安全」を何度も連呼しており、政策の優先度が経済から政治にシフトしたのは明らかです。 そして、一党支配の合法性の根拠が「経済成長とそれに伴う生活水準の上昇」から、「共産党、中でも習総書記がいるから ‘安全と安定’ が保たれる」との方向に変わったことが指摘される処です。

(2)「中国式」が意味する事
言い換えれば、かつてのような高成長が望めなくなってきたことで、政策の優先度のシフトがより重要な意味を持つようになってきたという事、そしてそれはliberalな`個人‘の否定に繋がる処と思料するのです。因みに、中国では今、立法改正の手続き中ですが、11月8日付日経紙は「改革開放も堅持する」との記述を削除し、習近平氏の政治思想を順守するように明記する、とも伝える処です。前出ルース氏は、バイデン氏の対中輸出の規制強化は台湾有事を招くとしていましたが、「中国式現代化」は中華民族の復興を目的とするものとすれば、その文脈において台湾の統一は当然の帰結となるのでしょうか。ただ銘記すべきは、習氏は「マルクス主義の中国化、現代化を推進し新時代の中国の特色ある社会主義の新しい章を書き続ける」と主張していますが、まさにこの点こそが米主導の世界秩序とは相いれない処、この先続く対立を示唆する処です。

こうした「中国式現代化」を指向する習中国にどう対応していくべきか? もっとも、これと云った答えの用意はありません。が、とにかく為政者が対面で会うこと、そして忌憚なく意見をぶつけ合う、そうしたプロセスの中で、合理的な交点を見出すことの他ないのではと思料するのです。その為にも、異なる価値観が異なる合理性判断を形成するという事実にも目を向けていく必要があるのではと思う処です。


4. 総括にかえて

1.「アジア安保への関与」を目指す米政権
    ― 東アジアでの首脳会議3連荘を経て

‘点と線‘の絡み合う合理的な機会が、この11月、アジアでは満載でした。まず、11月11日からは「ASEAN プラス3(日米韓)首脳会議」がカンボジアで、続いて、15日にはインドネシアのバリ島でG20首脳会議(15~16)が、そして18日にはタイ・バンコックでAPEC首脳会議(18~19)が行われ、これらの機会を捉え、各国個別首脳会談が持たれました。
これら首脳会議や対面個別会談の全てについて考察する事は、この紙面を以ってしては困難と云え、そこでこの際はバリ島でのG20を機会に14日、行われた米中首脳会談にフォーカスしつつ、バイデン米政権の対アジア政策の変化について、レビューする事とします。

(1)米中首脳会談
米中首脳会談は、バイデン政権発足後初となるものでしたが、先に触れた通り、米国は中国を「唯一の競争相手」と見なし、先端半導体の輸出規制にも踏み切る一方、国家安全保障戦略では中ロに向けて「この10年間が決定的に重要だ」と訴えていた点で、どこまで掘り下げた話がなるものか、懸念のある処でした。

・米中間の問題の核心は「台湾問題」
メデイアによれば、両首脳は気候変動、世界経済の安定、衛生、食料分野で高官対話維持と取り組みの深化で合意し、その合意事項の進捗について、ブリンケン米国務長官が中国を訪問し確認する事でも確認されたのでした。 ただ今次の最大のテーマは云うまでもなく台湾問題でした。この8月ペロシ米下院議長が訪台したことに、中国側が猛反発し、台湾周辺で大規模軍事演習に踏み切り、緊迫状態が続いていることは周知の処です。

その台湾問題について、14日の会談ではバイデン氏は、「台湾海峡の一方的な現状変更」や「威圧的、攻撃的になっている中国の行動」への反対姿勢を表明、一方習氏は「台湾問題は中国の核心であり、超えてはならない一線」と強調、と両者の応酬があった由、報じられる処です。(日経、11/15) が、ゼロコロナ政策の影響で、中国国内経済は今、急速な減速にあって、米国とこれ以上の関係悪化は望ましくないとするのが本音とみられ、上記協議の進捗を確認するなどは、まさに対中圧力の緩和狙いとみられる処です。

それでも両者が直接対面し、そして意見を交わした事,その事自体こそ十分な意義のあった事と思料するのです。因みに、G20で議長を務めたインドネシアのジョコ大統領は、17日、当該会議を振り返り、各国が衝突を避けるため「首脳同士の直接対話が重要だ」、「直接会ってみて初めて分かることもある」とインタビューで語っていましたが、筆者も予ねて指摘する処、そのためにも外交力の強化をと、云う処です。
 
尚この際留意すべきは、G20でのG7首脳の存在感の乏しさでした。それは欧州では3首脳の交代があり、日米は支持率低迷が続く事情を映す結果でしょうが、これが例えばGDPで見ると、G20内のG7の比率は08年の5割から足元では4割に落ち込んでいて、その比率は今後も下がる可能性が高いという事です。そして2023年のG7の議長国は日本です。

(2)バイデン政権が進める「アジア安保への関与」
さて、バイデン政権は上記の通り、今後10年を決定的に重要な期間と位置づけており、今次トップ会談を突破口に不測の事態を生まぬよう対話継続の道を探ったとされる処でした。

具体的には、日米、米韓の二国間の首脳会談が連続して開催、最後に岸田首相と韓国のイ大統領とのトップ会談(11月13日)が行われたわけですが、その纏めとして、米国を起点として3カ国の安保上の結びつきを描く三角形の構図を際立たせたことでした。つまり中国と対峙していく上で、当該3カ国の連携が不可欠との認識があって、日韓の関係改善にも米国がひと肌脱いだとされる処です。
尚11月17日、バンコックでは3年ぶり日中首脳会談が持たれましたが、会談後、岸田首相は習氏と「安保分野での意思疎通の強化で一致した」とし、「ホットライン」の早期開設を申し合わせたとも語る処です。そして中国側からは「サプライチェーンの安定での協力強化」を求めたという由ですが、要は, 脱中国依存の動きに警戒感を示したものと映る処です。

ただ、本稿執筆中、手にしたThe Economist, Nov. 12はそのコラム、` Who wins from the unravelling of Sino-America trade? (米中貿易摩擦で得するのはだれか?) で、「今後、地政学的諸問題の影響が積み重なるにつれ、アジアのサプライチェーンの価値は中国以外の国、地域にこれまで以上に集中していく事になりそうだ」と、各種貿易指標を手掛かりに分析、指摘するのでしたが、上述G”20におけるG7の比率の低下とも併せ、地政学的構造変化が動き出しているものと、気になる指摘です。

かくして、米国は今次、東アジアを舞台とした一連の外交機会を利用し、アジアの安全保障への関与強化に動いたと云うもので、バイデン氏は日米韓の異例の連続首脳会談を演出した上で、習近平氏との直接会談に臨んだと云うものでした。もとより、今次の米中間選挙では議会上院の多数派を保ったことを追い風として、同盟国の連携をテコに中国抑止を目指す処と思料するのです。以って米国のアジ安保への関与(Engagement)が新たに進む様相です。2000年まで続いた米国の対中関与政策、今一度となる処でしょうか。

繰り返しになりますが、バイデン安保戦略では、中国とロシアを念頭に「米国は2030年代までに初めて2つの核大国を抑止する必要がある」と指摘し、米国も核戦力の近代化を推進すると唱える処です。そして日本や韓国等の同盟国に対する拡大抑止を強化すると明記し、加えて、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮については「拡大抑止を強化しつつ、朝鮮半島の完全な非核化に向けて具体的な進展に向けた‘外交’を模索する」と明記する処です。

・日米関係の強化
序で乍ら、米国の同盟国、日本に求められることは何か? 云うまでもなく同盟関係の強化です。その点では、この先10年、バイデン氏の云う友好国との連携を強化し、東アジアにおける安保体制の確立強化に向け、日本がひと肌脱いでいく事と思料するのです。

具体的には台頭する中国を念頭に、米国は周知の通り、インド太平洋地域に関与を強める意向にあります。当該地域はアジアを含むインド太平洋地域は経済的な成長も期待される処ですし、大いに関与を強めたいとする地域です。バイデン政権としては安定した政権運営を実現せんと新たな経済連携の枠組みとして昨年10月、東アジア首脳会議で、IPEF(Indo-Pacific Economic Framework)(注)を打ち上げ、今次18日バンコックでのAPEC首脳会議でも、バイデン氏に代わって出席したハリス副大統領が「米国はインド太平洋地域に永続的な関与を果たしてきている」と強調し、IPEFにも言及するところでした。
        
(注)IPEFは以下4つを柱とし、中国への対抗を念頭に経済連携を目指すもの。
➀ デジタル経済を含む貿易(関税引き下げは除く)、➁ 半導体等の供給網=サプ
ライチェーンの強化、 ③ 質の高いインフラや脱炭素、クリーンエネルギー, ④
公正な経済を促進するための税・汚職対策

日本政府はこの4つの柱、すべてに参加方針ですが、ただ、この4つの枠組みで経済連携を目指すとしては、大きな効果は期待し得ないも、それでもアジアを含むインド太平洋地域で同盟国米国が参加することは日本にとっては大きな強みと見る由です。そして、バイデン政権の中国向け輸出規制の強化は対中国ということですが、結局はglobalな自由貿易を委縮させ、世界経済のshrinkに繋がることになりかねません。つまり、そうした事態とならないよう、まさに友好国との連携の強化を通じて、アジアの日本としての強い立場、強い役割を示していく事と思料するのです。 既にバイデン政権も指摘している国際連携の枠組みに日本も積極的役割を果たしていく事ですが、そのために必要なことは前述、外交力の強化であり、その為のシナリオを整備し、実践していく事と思料するのです。 

処で世界が注目した米中間選挙は、先にも触れたように選挙前の予想に反し、上院では民主党が現勢力を維持、一方、下院は野党共和党の勝利でしたが、その勝利が、僅差に留まったことに、同じ共和党内からはトランプ氏の出張りすぎ、身勝手な言動に負うものと批判が集まりだす処です。今次中間選挙についても再び「不正があった」と、根拠に乏しい主張を繰り返す処です。以って有権者をアジる姿勢は民主主義の基盤である選挙制度の正当性を損なうほかなく、今次中間選挙は民主主義の先行きに影を落とす処と云えそうです。それでも11月15日、トランプ氏は2024年の大統領選に立候補すると宣言する次第ですが、さて彼のrudeな言質に米国民は何処までフォローできるものか、同時にこの際は、民主主義を守るためには日欧等、米国の同盟国は緊密に連携し、政権を支えていくべきではと思うのです。 

2.そして、日本経済の可能性

(1)日本経済の現状
こうした国際事情にあって、日本経済の課題は何としても、失われた20年、或いは30年とされる長期停滞からの脱出です。日本経済の現状はと云えば周知の処、円安が続く中、物価の上昇は止むこともなく消費者の不満は募るばかり、一方、旧統一教会問題に終始する政治があって、内閣を構成する大臣の舌禍事件が続くなど、岸田内閣のdisciplineは何処にと問われる状況が続き、岸田内閣の支持率は最低を託つ処、彼が首相として登壇した際、掲げた「新しい資本主義」追求の姿はいつしか消え失せ、結局、‘黄金の3年’ を活かすことの無いままに幕を下ろすことになるのではと愚考するばかりです。

・岸田政権の‘22年度総合経済対策
さて、内閣府が11月15日発表した7~9月期の実質GDP(速報値)は、前期比で0.3%減、年率換算で1.2%減、このマイナス成長は4四半期ぶりとなるもので、要は個人消費や設備投資等 内需の伸びの鈍さが底流にあるとされる処です。

係る現状への対応として、岸田政権は10月28日、臨時閣議で物価高への対処等を盛り込んだ総合経済対策を決定、以って日本経済の再生に向かうと云うようですが・・・。
当該対策のポイントは、① 経済浮揚策としての事業規模は71.6兆円、それを支える財政支出は39兆円。➁ 財源の裏付けとなる2022年度第2次補正予算案の一般会計では29.1兆円と、経済対策8割が借金政府の大盤振る舞いが続く様相です。何かお金を出せば事は終りとも映るのです。 云うまでもなく、政府の大盤振る舞いの背景には、政府の発行する国債を大量購入する日銀の金融政策があってのことですが、2年限定で始めた金融緩和は既に10年目に入り、28日にはその継続を決めています。が、これが財源なき財政出動と評され、英国トラス前政権の二の舞いかと揶揄される処です。 周知の通り、トラス前政権は財源の裏付けのない約450億ポンド(約7.6兆円)の大規模減税を柱とした経済対策を9月に打ち出し、その財源として国債発行の意向を示したものの、財政悪化などを懸念した市場は債権・通貨・株の「トリプル安」で厳しく反応され、トラス前首相は就任から44日で辞任に追い込まれています。

先進国で唯一、低金利から抜け出せず、見せかけの対策規模への固執がつづく日本の現状について、その基本問題とそれへの対抗策につき、 慶大教授の小林慶一郎氏は10月12日付日経で対処療法からの脱却をと、長期停滞の原因として、少子高齢化、不良債権処理の後遺症、低金利の副作用、人的資本の劣化の4点を挙げ、少子高齢化以外は今後の経済政策で対応できる課題と断じる処、「今後10年」どう生き抜いていくか、への視座を与える処です。

(2)日本経済の競争力への期待
そうした不安克服へのprojectの話が舞い込んできました。次世代半導体の国産化プロジェクトです。 11月11日の記者発表によると、トヨタ、NTT、ソニーグループ等日本企業8社が共同出資して新会社「ラピタス」を設立し、2020年代後半に向けて製造技術の確立を目指すと云うもので、西村経産大臣は同記者会見で「半導体は経済安全保障上、極めて重要だ。日本のアカデミアと産業界が一体となって半導体関連産業の基盤強化につなげていきたい」と発言。政府はこれに700億円を助成し、「ビヨンド2ナノ」と呼ぶ 次世代の演算用半導体の製造基盤を2020年代後半の確立を目指すとする処です。(日経2022/11/11)
 
目論見通りいけば、台湾や韓国そして米国に水をあけられた日本が、半導体の先頭集団の仲間入りする、そんな野心的な構想です。が、問題は何としても量産体制に向けたヒト、モノ、カネの確保です。経済安保の観点から欧米や中国は官民一体で半導体の強化を進めており、この際は、半導体「空白の10年」挽回への確かな行動をと、期待される処です。

― 上述、内外の事情にあって、改めて日本に問われる事は、日本として米国と協調しつつ、西側諸国連合をどう強化していくか、自らを守る能力をいつまでにどれだけ強化するか、そして、国としてこの状況にどう備えるか、の議論を加速させることではと、深く思う処です。が、ここで留意すべきは、今次一連の首脳会議が、カンボジア、インドネシア、タイで、更にCOP27がエジプトで、そしてFIFA World Cupがカタールでと、偶然ながらこれら全てがアジア、中東で開かれた事ですが、まさに世界の主役はGlobal Southへシフトしつつあることを実感させられる処です。(2022/11/24)、
posted by 林川眞善 at 14:24| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2022年10月26日

2022年11月号  大きな節目を迎えた、総書記3期目入りの習近平中国と世界 - 林川眞善

―  目  次 ―

はじめに 習近平総書記3期目の環境と、世界経済 

・Financial Times , Martin Wolf氏の警告
・世界経済は今、米国も中国も、下降トレンド

第1章 総書記3期目入りの習近平中国、
     これに対峙する米欧の事情

1.第20回共産党大会と習近平氏
(1)3期目を迎えた習近平政権
  ・習近平氏の党活動報告、彼の行動様式
(2)中国経済の今後 ― 米中経済逆転劇の行方

2. バイデン米政権の‘新安保戦略’と対中政策
(1)バイデン米政権の‘新安保戦略’  
(2)`Danger Zone’ ― 米中の軍事衝突はいつ訪れる
・逆流する中国の成長要因

第2章 日中経済関係の今後

1.日中関係の現状
・日本の対中支援(ODA)とその実態
2.台湾有事と日本の構え

おわりに 民主主義を鍛え直す    

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はじめに 習近平総書記3期目の環境と、世界経済

(1) Financial Times, Martin Wolf氏の警告
世界的コラムニスト、Martin Wolf氏が, 10月16日からの共産党大会を前に、Financial Times(10/5)に寄せた、習近平氏の人事を巡っての論考は、まさにジャーナリスト魂を示すものでした。タイトルは「Xi’s third term is a dangerous error ― China’s macroeconomic, microeconomic and environmental difficulties remain largely unaddressed」。つまり、習近平氏は揺るぎない権力を手にするわけだが、これは中国そして世界にとっていいことか、と強く訴えるものでした。以下にその文節を紹介しましょう。

「― 自分が選んだ人々に囲まれ、自分が作り上げた功績を守り続けている専制君主は、ますます孤立し、防衛的になり、偏執的にさえなる。改革が止まる。意思決定は進まない。間違った政策も修正されない。ゼロコロナ政策がその典型だ。そして長期政権が続いた結果、強権化してしまった例が、プーチン・ロシアであり、中国でも、毛沢東が今のロシアと同じ状況をつくり上げていった。しかし、理性と常識をト小平という人物がいたからこそ、国家主席のポストに任期制を導入しえた。しかし、習氏はこのルールを破ろうとしている。・・・ト小平氏が唱えた「折衷主義」は少なくとも中国が発展途上国である間は有効だったが、非常に複雑な社会構造となった現在の中国に古いレーニン思想を再び押し付けるのは行き詰まりを意味する。習氏がいつまでもトップに留まれば、自身のみならず世界を今以上に危険にさらしかねないと。 」

勿論、こうした叫びが共産党一党独裁国家に響くことはなく、10月16日に始まった第20回共産党大会は22日に閉幕、23日の人事の発表をもって幕を閉じました。その人事とは、習近平氏の、党トップの「総書記」、軍トップの「中央軍事委員会主席」、更に、対外的な国家元首である「国家主席」の、3つのポストへの就任です。これで習近平総書記は異例の3期目入り、最高指導部メンバーも皆、自らに近い人物で固め、すべて自分で決める異様な体制を選択する処、習氏の全権掌握の完成図とも云え、以って中国と世界は大きな節目を迎えたと見る処です。
ただ、後述、彼が党活動報告で話した自らの功績を支えてきた要因、つまり経済環境は、今、急速な下降状況にあって習政権の運営に影を落とす処、 ‘経済’こそが習氏の足をひっぱるのではと囁き出される状況です。

(2) 世界経済は今、米国も中国も、下降トレンド
因みに、10月11日、IMFが発表した2023年の世界経済の見通しは2.7%、これは前回7月時の見通しからは、0.2ポイントの下方修正。そして米国と欧州、中国の経済を「失速」と表現する処、世界はインフレへの懸念から、経済の落ち込みを警戒する局面に移る様相と見る処です。(日経、10/12) 因みに米国は22年が1.6%で0.7ポイントの下方修正、23年も1.0%へ減速。中国は22年3.2%、23年も4.4%に留まる見通しです。
こうした経済の下方トレンドはロシアのウクライナ侵攻を主たる要因とみる処、更に新興国についてはドルを中心とした外貨建て債務の比率が高く、金利上昇とドル高で返済負担が重くなってきており、世界の景気回復シナリオの軌道修正は不可避と、更なる下振れリスクにある処です。(注)

    (注)10月12日 開催のG20での焦点の一つが債務問題。新興国31カ国の債務残高は2022年6月時点で98.8兆ドル、GDPの2.5倍。新興国経済や低所得国を巡る国際協調が行き詰まれば世界経済の混乱に拍車がかかりかねない状況と。(日経10/13)

ロシアによるウクライナ侵攻こそが、その中核的要因ですが、これに対抗する西側諸国の対ロ制裁、一方、ロシアによる西側向けエネルギー供給の抑制と、双方の制裁合戦は、結果として世界経済はshortage economy,つまり、需給インバランスによる物価高騰でインフレ昂進を余儀なくされ、今ではそのインフレが世界的、とりわけ西側経済の最大の問題となる処です。一方、ロシアは自らへの支持を集めるべく、新興国向け資金援助等、強化を進めることで、強いロシア寄り磁場を醸成、米欧を中心としてきた世界経済の運営システムの構造変化を促す処です。更に、9月29日にはプーチン氏はウクライナの4州(ドネック、ルガンスク、サボロジェ、ヘルソン)をロシアへの併合を強行したことでロシアを巡る西側と、そして新興国との分断が進む状況が生れ、要は地政学リスクの高まる状況が進む処です。戦後一貫して世界のガバナンスを国連常任理事国5か国に委ねられてきた、そのあり方に大きく疑問符が突きつけられる処です。

こんな折、10月12日、バイデン米政権は政権初となる「国家安全保障戦略」を公表、その中で中国を「国際秩序をつくり替える意思と能力を持つ唯一の競争相手」と見なし、今後の10年が中国との競争を決定づけるとの認識を示す処、新たな米中関係の可能性を感じさせる処です。 尚、米中関係の行方について、今、米ワシントン辺りでは、二人の米geostrategistが著した「Danger zone」が、米中戦闘の可能性は今が最も危険な状況にありとする由で、話題を呼ぶ処です。(The Economist 9/3,The perils of `peak China )
勿論、総書記3期目の習氏を戴く中国との対日姿勢も大きな関心を呼ぶ処です。9月29日、日中国交正常化50周年を迎えた両国ですが、当日、現地では記念式典が「釣魚台国賓館」で行われたのですが、それは格下げとの批判の出るほどに(前回は北京人民大会堂)、中国で勤務する、かつての同僚からは、それでも「よく開かれたものだ」と感想を伝えてきてくれましたが、そう感じさせるほどに冷え込んだ日中関係ですが、2019年12月以来、両国首脳の対面会談のない異常事態にあって、世界の中の日中関係の如何が問い直される処です。

かくして今次論考は、上述国際事情を受け、3期目を迎えた習政権が目指す‘中国’の可能性、そして世界の軸を取る米中関係、更には日中関係の今後について、考察する事とします。


第1章 総書記3期目入りの習近平中国、
                    これに対峙する米欧の事情

1. 第20回 共産党大会と習近平氏の活動報告

(1)3期目を迎えた習近平政権
10月16日、北京で開かれた中国共産党大会では、前述の通り、習近平氏の3期目となる党総書記就任が決定。これで今後5年間、或いは10年間、中国共産党は習近平氏指導の下、運営されることになったのです。もともと党総書記のポストは2期10年とされていましたが2018年、この制限をなくしています。これは習近平氏の長期政権を担保するために取られた措置ともされている処です。(尚、1921年7月、結党のために開かれたのが第1回党大会、1980年以降は5年毎の開催に変更)

まず、今次党大会直前の10月9日に始まった共産党、7中全会では党規約の改正議論があって、「二つの確立」、「二つの擁護」が確認され、つまり前者の「二つの確立」とは、習氏の党の核心としての地位と、習氏の政治思想の指導的地位を確実とする事、又、後者の「二つの擁護」とは、習氏の党の核心としての地位と、習氏を中心とする党中央の権威を順守するとするもの(日経10/10)ですが、それは前述、習近平氏への権力集中を確実とするための仕掛けとも映る処です。そして党大会終了後の23日の中央委員会第1回全体会議で、習氏は正式に総書記に選出され、併せて3期指導部の発足をみましたが、まさに習近平一強、独裁体制へのドラマと映る処です。

・習近平氏の党活動報告、その思考様式
習近平氏のトップ就任は2012年、2期目に入ったのが2017年、翌年の2018年には共産党トップの矜持として当時、10項目からなる指針を発表、そのトップに挙げていたのが
`maintaining authority of the party‘ (中国共産党の権威の堅持) 、2番目が ` realizing the rejuvenation of the Chinese nation’(中国国家の若返り)で、習氏はこれ等を指針としてRestore China、中国の再興を目指してきたとされています。実際、2012年以降の中国は、急速な発展を辿り、中間所得者層の拡大、民間企業の成長、更には市民のメデイア登場の多さも指摘される処, 彼の今次党活動報告は、その延長にあらん事を強調するものでした。

まず今次党活動報告では、「2035年までに社会主義の現代化をほぼ実現し、35年から今世紀半ばまでの期間で、『社会主義現代化強国』にしていくとし、今後の5年が、社会主義現代化国家の全面的な構築が始まる重要な時期だ」と語り、今後については、自らが主導する「共同富裕」を追求していくとし、低所得者の所得を増やし、中間層を拡大し、所得分配機能をルール化していくともするのでした。尚、台湾統一問題については「中国人自身のことで、中国人が自分で決めていかねばならない」としながら、台湾統一は「必ず実現する。武力行使の放棄はしない」と強硬姿勢を示す処です。(日経10/17)
 
勿論、これまで習氏が進めてきた広域経済圏「一帯一路」構想や、他国を容赦なく威嚇する「戦狼外交」は今後も続けるものと思料される処です。というのも彼がこれまでの10年間、「強軍建設」を進め、加えて広大な空間を安全保障の対象とする概念を構築してきた事もあって、あらゆる資源を活用する挙国体制を取ってきており、国防と民間のイノベーションの相乗効果を図る「軍民融合」を進めんとしているからです。ただこの政策の強化推進は、結局は国内経済の閉鎖に向かう事になるものと、懸念の残る処です。

一方、新型コロナの感染者をゼロに近づける「ゼロコロナ」政策の影響が尾を引く中にあって、人口減少問題、電力不足、不動産の過剰投資など、まさに構造的問題の顕在化があって、今年に入ってからの中国経済は低調を託つ処、その状況は深刻さを増す様相です。
因みに16日の活動報告では成長の数値目標を示すことはなく (前総書記の胡錦濤氏は12年の党大会で20年のGDPを10年比で2倍するとしていた)、翌17日、予定されていた中国GDP 7~9月期の数値発表も突然延期となったのですが(注)、この二つの事例は、期待通りの数値が出ず、そのことは「成長第一」路線が限界に差し掛かったことを意味し、以って政策不況の批判を警戒しての事ではと、メデイアは伝える処です。実際、次項で触れる通りでIMF公表のGDP予測数値では、米中経済の逆転ストーリーに疑問符が付く処です。

(注)中国GDP発表:24日、追っかけ発表された2022/7~9GDP(実質)では前年同期
比3.9%増で、前期比0.4%像からは持ち直したようだが、コロナ対応の移動制限が経済活動を妨げたとする処、政府が通年目標に置く5.5%成長の達成は極めて厳しいと見る。

習氏は「経済発展の重点を実体経済に置く」と云うのでしたが、今次の彼の活動報告では、「改革」や「市場」への言及が急減する一方、共産党主導の発展モデルを指す「中国式現代化」の用語が目立つおり、これが国家の安全保障と社会の安定がより重要と、政策視点のシフトを映す処です。減速が鮮明となってきた現状からは、政権を揺るがすのは、 ‘経済’にあるのではと囁かれるのも故ある処です。 序で乍ら、習氏は上記の通り、「共同富裕」の追求を掲げていますが、そのためにはパイが大きくなっていく事が(成長)必要ですが、その限りにおいて、共同富裕というテーマは難しいというものでしょう。

(2)中国経済の今後 ― 米中経済の逆転劇のゆくえ
その経済の姿は、IMF統計では2021年名目GDPは、米国が23.0兆ドル、中国は17.5兆ドルと米国の76%まで追い上げています。IMFは27年まで予測していて、その時点で米国は31.0兆ドル、中国は29.1兆ドルと94%の水準に迫る処です。そこで28年以降もIMF予測のトレンド線を延長していくとすると、29年の名目GDPは米国が33.3兆ドル、中国は33.5兆ドルで、中国がわずかに米国を上回ることになっています。30年には、米国の34.5兆ドルに対して中国は35.9兆ドルと米中経済の逆転は明らかとなる処、以って、米中逆転が云々されてきたというものです。 

が、IMFは7月時点では、中国経済について、4月時点での見通し4.4%に対して3.3%と大幅下方修正していました。その事由は、前述の通りで、電力不足、共同富裕政策によるIT企業の締め付け、不動産の過剰投資などと、されていて、今次発表の数字では事態は更に落ち込む様相で、その逆転劇は更に先延ばしとなると見る処です。 加えてドルの全面高で元安が手伝って、ドルベースでみる中国経済は規模の縮小と映る処、つまりは米国の背中が遠くになっていく様相です。(日経9/19)

2.バイデン米政権の ‘新安保戦略’ と対中政策

かかる環境下、10月12日、バイデン米政権は、政権初となる「国家安全保障戦略」を公表しました。前述「はじめに」の項でも触れたように、中国を「唯一の競争相手」と定義し、今後米主導の国際秩序に挑む中国との競争を「決定づける10年になる」と定める処です。以下では、今次の戦略をベースにした米中関係の可能性について考察します。

(1)バイデン米政権の ‘新安保戦略’
10月12日のバイデン政権初の国家安保戦略では、中ロが「権威主義的な統治と修正主義的な外交政策」を取っているとした上で、「中国に打ち勝ち、ロシアを抑制する」と強調する、つまり、2017年12月、トランプ前政権で記した「権威主義」、「修正主義努力」の表現を概ね踏襲する処です。(日経、10月14日) 

トランプ前政権は、その前政権のオバマ政権の対中政策を「弱腰」、「宥和的」と一刀両断、権威主義(米国第一主義)の立場から対中強硬路線へとカジを切り、「新冷戦」とも称される米中の覇権争いを鮮明とする処でした。その際トランプ氏は、TPPなどの多国間枠組みや、同盟関係への不信から米中二国間による取引型外交を指向。結果的に米中間で制裁関税の応酬がエスカレートする「貿易戦争」の様相を濃くするものでした。

バイデン政権も対中強硬路線を継承する処、今回は中国を「国際秩序をつくり替える意思と能力を持つ唯一の競争相手」と見なし、これからの10年が中国との競争を決定づけるとの認識を示す処です。そして、対中関係について、「対立」(人権、民主主義、安保など)、「競争」(貿易、知財、先端技術など)、「協力」(気候変動、感染症、核不拡散など)の3つの領域にわけ、各領域内で取引する「個別管理」の手法を以って対応せんとする処です。が、交渉の手法を巡って、中々かみ合わない状況が続く処です。いずれにせよ、ロシアを「差し迫った脅威」としつつも、中国の対処を最優先に据える方針を明確にする処です。

尚、バイデン政権はトランプ時代とは異なり、同盟国との連携強化を重視し、同盟国を「最も重要な戦略的資産」と位置付けていますが、これこそはバイデン政権の特徴を表す処と云え、米英豪による新たな安全保障の枠組み「AUKUS」や、米日豪印4カ国による「QUAD」、更には、新たな経済連携「IPEF」等の新構想を打ち出している事、周知の処です。

・欧州でも進む対中戦略の見直し
そして欧州でも、21日のEU首脳会議では、今次習近平氏の3期目の党総書記を踏まえ、とりわけ経済面での対中依存の現状、資源調達などの分野での中国依存を見直し、調達先の多角化を目指すとフォンデアライエン欧州委員長の語る処です。

(2)‘Danger Zone:’ – 米中の軍事衝突はいつ訪れる
処で、米中の軍事衝突の可能性について、米国の二人の地政学者、米ジョンズ・ホプキンス大学のハル・ブランズ教授、タフツ大学のマイケル・ベックリー教授の共著、‘Danger Zone: The Coming Conflict with China ’が、話題となっているとのThe Economist誌評を紹介しましたが、そこで、その概要を参考まで、以下に紹介する事とします。

まず、米中間での戦争が起きると想定されるタイミングには三つあるとするのです。 一つは中国共産党指導部が「中華民族の偉大な復興」と「世界一流の軍隊」の実現を約した2049年頃。 二つは「国防及び軍隊の現代化を基本的に完了する」ことを目指すとした2035年。それとも、米軍幹部が「中国が台湾武力統一の手立てを整える事を目指す」とする2027年か、としながらも、二人の学者は、差し迫った危険、`The perils of peak China’ は、「今」だと云うのです。そして 米中二大大国が競っているのは、10年間の短距離走であって、100年マラソンではないと断じ、中国はまもなく「急降下するか、そうでなければ既に衰退過程に入っているかもしれない」と主張するのです。(注)

(注)中国の2022年のGDP伸び率は、中国エコノミスト調査の平均値では3.2%、
これはADBが予測するアジア新興国の22年成長率5.3%を下回る。(日経10/8)

ブランズ氏とベックリー氏の二人の主張は、いわゆる「トウキジデスの罠」をひっくり返さんばかりで、彼らによると、トウキジデスのアテネは新興国ではなく、衰退を避けようとして戦っていた大国だと云うのです。そして、二人の仮設を支える要素が、「中国がピークを迎えつつある事」、「戦争が近くに迫っているという事」とするもので、これには色々批判のある処、英誌 エコノミスト誌は,これはワシントンの時代思潮のようなものと肯定的に捉えるのです。そしてそれは、ハーバード大のグレアム・アリソン氏が広めた「トウキジデスの罠」説をひっくり返す処とも云うのです。

・逆流する中国の成長要因 
まず、著者の両氏は、中国の成長を齎してきた複数の要因が、ここにきて逆回転しだしていると云うのです。その問題とは、「人口が急減に転じたこと」、「市場改革の動きは、再び中央統制経済にとって代わられたこと」の2点を挙げ、政府はイノベーションを生み出すテック企業を抑え込み債務管理に苦労していると云うのです。そして、政治的支配をやや緩めた「Smarter autocracy(賢明な独裁)」は圧倒的な独裁へと逆戻りし、技術を使って社会を監視する国家を生んだと云い、先進国は中国の台頭を喜ばず、貿易を制限し始めているとも云うのです。 ただ中国が衰退に向かうとしても、それは徐々に進む可能性を指摘する一方、軍事力は拡大を続け、台湾統一への意図は持ち続けるとするのです。そして、中国は隆盛を続けるにせよ、攻撃性を強めるだろうと両氏は考えているようで、これに対しては「米国は自国の長期的な競争力を損なうような短期的解決を避けるべき」と云うのです。

尚、バイデン氏は、中国は米国の優位性に対する最大の脅威としながらも、現時点では主に経済的、政治的な脅威と見ているようで、来年度の国防予算要求からは、中国の軍事的脅威が差し迫るのは30年代を想定していることがうかがえると云うものです。一方、安全保障枠組み「AUKUS」の下で、豪州に原子力潜水艦を供与できるのは、おそらく40年以降と見る処です。 ただ、米シンクタンク、ジャーマン・マーシャル財団のグレーザー氏は、紛争が起こるとしたら軍事バランスの変化よりも政治的変化が原因になる可能性が高いと見る処、習近平氏が、台湾が独立に動き中国共産党のメンツが失われたと感じたなら、たとえ軍の準備が不十分でもためらわずに戦争に踏み切るだろうと云うのです。 

そうした事情にあって、次の危機を生むのは政治日程かもしれないとしながら、その際のポイントはこの秋、アジアで開催予定の一連の首脳会議を通じて、中国とロシアがどの程度、目的を共有できるかが見えてくだろうとするのです。 そして11月の米中間選挙での結果、更に24年の米政権の交代の可能性も含め、そして台湾の総選挙の結果次第で、新総統が独立を推進し、米国の承認を得ることにでもなれば、それが本当に戦争の引き金になり得ると、前出グレ-ザー氏の言を以って締とするのです。

さて中国は経済の拡大を軍事力の強化に振り向けてきたわけですが、成長の限界がハッキリしてきた結果、向こう数年単位でみれば、かえって事態は厳しさを増す恐れもあると云うものです。その点で求められることは前項2-(1)の通りで、徹底した外交力の強化です。


第2章 日中経済関係の今後

では日本は、です。米政権の方針の如何を問わず、日本が外交・安保戦略の基軸となる日米同盟の不断の強化に努めるのは当然です。が、「世界の警察官」の役割を放棄した米国だけをもはや頼りにはできません。その点で、日本自身の防衛力の抜本的な強化にとどまらず、他の西側諸国との安保協力を更に進化すべきと思料する処です。

1. 日中関係の現状

2022年9月29日は、50年前、日本と中国が国交を樹立した記念日でした。メデイア的に言えば、‘日中国交正常化から今年9月29日で50年を迎えた、さあ次の50年は’ と、ポジテイブな表記となる処です。隣国の成長する巨大市場を取り込みつつ、安全保障面では米国と協調して東アジアの安定を保つ、そんな日本の当初の目論見は中国の軍事的な台頭で崩れたとされるのですが、現在の日中関係は、まさにその延長線上にある処です。

そうした事情を露わとするのが50周年の記念行事の在り姿でした。経団連は29日には都内ホテルで開いていますが、岸田首相の出席はなく、一方、中国側も同日、北京の釣魚台国賓館で記念式典が開催されたものの、日本と同様、両国首脳の出席はなく、これが45周年の人民大会堂での式典に比し、実質格下げ扱いと映る処、現地で働くかつての同僚からは、「よくぞ記念式典など開けたもの」との現地実感を伝えてくれる処でした。日中首脳の対面会談は2019年12月 以来行われていません。これこそがかかる事態を象徴する処です。

・日本の対中支援(ODA)とその実態
この50年間の日中関係の特徴は何だったか、です。まず、71年9月、関西財界代表団が、翌年の8月には当時の新日鉄(現日鉄)社長、稲山氏を団長とする財界人が相次ぎ訪中し、周恩来首相と歓談したことに始まる交流で、政治の流れをあと押ししたと云うものでした。
因みに、当時の新日鉄稲山氏が全面協力して出来上がったのが宝山鋼鉄の製鉄所建設で、まさにそれは、日中国交正常化のシンボルとされるものでした。1979年には日本は西側で初めて中国に対してODA(政府開発援助)を供与し、89年の天安門事件後の対応でもG7でいち早く経済制裁を解除したのです。そうした支援を受けた中国経済は、GDPで見て2010年には日本を抜いて世界第2位となり、今ではGDPは日本の3.5倍です。ただ問題はODA資金の中国での活用の在り方でした。

JICAによると、ODAの内、「無償資金協力」は約1600億円、「円借款」は約3兆3千億円、「技術支援」の約1900億円で、計3兆6千億円余りを支援してきたのですが、中国が急速な経済発展を遂げ、国防費も多額になってきた中、日本から援助を受けている中国が、他の途上国に戦略的な支援を行うようになってきたことから、日本政府はODAが役割を終えたと判断。無償資金協力06年、円借款07年の時点で、新規供与を終え、技術支援で継続事業も今年3月をもって終わりとなっています。 結果論ですが、日本の対中ODAは中国の軍事に寄与したが、民政に寄与することはなかったという事で日本政府の援助姿勢が問われる処です。 ともかく経済と安保で、相反する課題を抱え、日中双方は関係改善に向けた一歩を踏み出せずにあると云うのが実状です。今、政府はODAの基本指針「開発協力大綱」の見直しを始めたと伝えられる処ですが、軍事力に依存した外交とは距離を置く日本にとってODAは重要な対外的ツールです。より国益に資する改革を期待する処です。

2. 台湾有事と日本の構え

周知の通り、1972年の日中国交正常化の際は、日本は台湾(中華民国)と国交を断絶し、中国の経済発展のあと押しへとカジを切り、未来志向の関係を目指すはずの処、現状は前述の取りで、期待通りにはなっていません。 10年前の国交正常化40年の直前には、尖閣諸島の国有化をきっかけに、中国では激しい抗議デモが起き祝賀会も中止となっています。10年がたち日中関係は最悪期こそ脱したとは言え、50周年を心から祝う雰囲気に乏しい事情も理解する処です。そしてその原因の一つは台湾問題です。この8月、ペロシ米下院議長の訪台に強く反発する中国は軍事演習を名目に日本の排他的経済水域(EEZ)にも弾道ミサイル5発を撃ち込む次第です。

中国は、武力による台湾統一を放棄せずとし、今次、10年間の活動報告では、習氏はそれを明確に謳う処です。米国と同盟を組む日本をけん制するミサイルによる威嚇が今後あり得べく、であれば関係修復は遠のく処、これが中国を念頭に置く経済安全保障の強化につながり、経済関係の停滞を招きかねず、このままでは中国に進出している日本企業も安心して活動できないという事になるのではと危惧する処です。両国共、相手国に対する好感度が下がっているのも気になる処、この悪循環を断つには安全保障を中心に新たな知恵が必要です。その為には首相と習氏が対面で会う機会が是非とも必要です。経済規模で世界2位、3位の両首脳が、新たな日中関係を議論するのは大きな意味あると思料する処です。


おわりに  民主主義を鍛え直す

10月6日、チェコのプラハで欧州の40カ国以上で構成する欧州政治共同体(EPC)の初会合が開かれました。ロシアのウクライナ侵攻を機に分断が深まる世界で欧州の結束を強める狙いとされ、フランスのマクロン大統領の主導に負うものの由で、一言でいえばロシア包囲網で結束した欧州というものです。中ロへの対抗軸としてEUに非加盟の英国やトルコ、東部のバルカン諸国も参加。まずエネルギーや、サイバーセキュリテイ等協力できる分野で議論を始め、緩やかな連合体を目指す由伝えられる処です。(日経10/7) 

前述、アジア地域では、米中の対立構図に加え、新たな日中間の対立構図もあるなか、欧州では対ロEPCが動き出したことで、全地球的に「民主国家群」と「強権主義国家群」との対立構図が明確となる処です。同時に第2次世界大戦での戦勝国、米英仏中ロを常任理事国とする現在の世界のガバナンス(国連)体制の在り方が問い直され、まさにブレトン・ウッズ体制とは異にした、新体制の創造が不可避となったことを実感させられる処です。

10月1日付日経が伝えるスエーデンの民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)による調査では、2016年以降、ジンバブエやベネズエラなど20カ国が権威主義国に変わったことが指摘され、併せて9月の国連総会の一般討論演説では欧米首脳から民主主義の「退潮」に懸念が相次いだと指摘するのです。加えて、西側が進めるウクライナ支援は「民主主義を守る戦い」と強調するも、新興国にはそれが響いていないとも指摘する処です。そして、米欧日が民主主義を鍛え直すことができなければ、国連の漂流も続きそうだとも警鐘を鳴らす処です。

民主主義を鍛え直せという事ですが、それはトクヴィルがいう教養レベルの引き上げに通じる話とも云えそうです。トックヴィルが浮き彫りした「アメリカの民主政治」とは、米国の独立宣言や憲法を基本とするもので、それは、自由・平等・人民主権・法の支配と云った、より普遍性の高い理念に根差している点を特徴とする処、つまりは「近代啓蒙思想」にあると云うものです。慶大教授の渡辺靖氏は、近著「アメリカとは何か」で、自らは旧世界とは異なる「新世界」であり、「あるべき世界」と云う強烈な自負心にあると分析する処、それこそは、トクヴィルがいう教養レベルの引き上げに通じる発想とも云えそうです。

さて、戦後、日本は民主主義を日本の矜持とし、その繁栄を享受してきました。そんな日本に、「民主主義を鍛え直す」とは具体的にはどういったことかと、しばし考える処でした。今では、色々問題を抱えてはいるものの、日本はインド太平洋地域でのリベラルな国際秩序を守るリーダー的存在にあることは周知される処です。 であれば、民主主義の危機が広く取りざたされ、時に、現状をnegativeに受け止めがちですが、この際、日本は人権と民主主義に強力にコミットし、リベラルな国際秩序の先頭に立って国際的枠組みを作っていくべく行動を取ることではと、思料するのです。そして、その決意とその決意に即した行動のプロセスこそが、民主主義を鍛え直すことになるのではと, 強く思うのです。

序で乍ら、筆者大学の同期で、長く経済哲学を講じてきた友人がいます。その彼が好んで口にするのが福沢諭吉の語る「一身独立して一国独立する」(「学問のすすめ」、1872)でした。今、筆者もその言葉を復誦するばかりです。(2022/10/25)
posted by 林川眞善 at 10:59| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2022年09月26日

2022年10月号  高まるPopulism、問われるDemocracy - 林川眞善

目  次

はじめに アメリカはDisunited States ?

(1)アメリカと云う合衆国の‘かたち’ 
(2) 脱炭素社会を目指すバイデン米国

第1章  動き出した米国の「脱CO2」と、日本企業

1. 米カリフォルニア州が目指す「脱ガソリン車」

2.日本車メーカーのEV戦略
(1) 米マスキー法 (米環境規制)と「ホンダ」の対応
・EV開発のポイント ー 異業種との連携
(2) 日本車メーカーに見る EV戦略の検証
・ホンダのEV戦略  ・トヨタ他の戦略

第2章  米国政治を覆う強い懸念    

1.米共和党予備選とリズ・チェイニー氏の敗退

2. The Economist , Aug.20, 巻頭論考のテーマは ‘Leased’
・中間選挙を巡る新事情 ・訴訟で高まる出馬意欲
・トランプ氏を止める

おわりに ゴルビーも信奉した民主主義   

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はじめに アメリカ はDisunited States ?

(1)アメリカという合衆国の ‘かたち’
8月25日、米国の2週で、まさに民主主義に絡む規制法案の導入が決定されました。一つは、カリフォルニア州で、ガソリン駆動の自動車、新車の販売を、2035年以降、全面禁止とするガソリン車規制法案の導入で、カリフォルニア州の新たなゼロミッション車(ZEV)推進を目指すものです。(日経2022/8/25) 元々、同州は環境問題への取り組みには熱心な州とされ、同州ニュウーサム知事の下、2年前から取り組んできた事案です。 もう一つはテキサス州で、目下米国の世論を2分させている人工中絶に関わる一連の行為の禁止を定めた法律の成立です。これを犯した者は99年の刑務所入りとの由。

この2つは事案として直接の関係はありません。が、この二つの動きは重要なトレンドの兆候を示しているとされるのです。と云うのもワシントンDCの動きは鈍いが、州ベースでは政策行動は極めて活発で、国民は住みたいところに住み、こうしたことを担保するのが各州の規定ですが、問題は、各州議会で多数派の政党が自分たちに有利になるよう恣意的な線引きを主導する「ゲリマンダー:gerrymander」と称する「区割り」を巡って、民主、共和の対立があって、これが州の利害に絡む ‘national culture war´(注)に向かっている点で、その姿はUnited States ではなくDisunited States of Americaともされるのですが、今次の2州同時の立法行為は、こうした事態を象徴するもので、まさに中間選挙を控えて、こうした状態を避けるためには、「区割り」は州議会主導ですが、できる限り独立機関に委ねるべきで、各州とも、選挙制度の改革を進め、州の競争力強化を目指せと指摘される処です。そしてbiggest worryはかくなるパルチザン行為は「アメリカン民主主義」を危うくしかねないと、「The Economist,Sept.3」は指摘するのです。

    (注)1991年、ジェームズ・デビッド・ハンターが著した「Culture wars::
Struggle to define America 」、「文化戦争:アメリカを定義するための戦争」で、
妊娠中絶、銃規制、移民等の問題点を巡りアメリカ合衆国の政治と文化が分裂し、
再編され、劇的に変容していると論じたことに始まる。要は、伝統主義・保守主
義者と、進歩主義・自由主義者間の価値観の衝突

全米ベースでは米中間選挙を前にして、「米国を再び偉大な国に(MAGA)」のスローガンを掲げるトランプ氏が誘導するpopulismが今、共和党をMAGA共和党と呼ぶほどに、世論の右傾化を促す状況があって、上記national culture warともされる文脈とも相まって、民主主義の如何が強く問われる様相です。序で乍ら同様の動きが、欧州でも高まってきていること、極めて気になる処です。(後出「おわりに」の項)

(2)脱炭素社会を目指すバイデン米国
勿論、気候変動問題への取り組みについては、カリフォルニア州のEV政策公表前の8月16日、米連邦議会で成立した新しい「歳出・歳入法」を以って、バイデン政権は、脱炭素社会を目指す方針を明らかにしています。[弊論考N0.125 (2022/9月号)]

その内容は周知の通りで、財政支出の柱をエネルギー安全保障と気候変動対策に置き、今後10年間の歳出規模は約4500億ドル(約58兆円)、この内、歳出の大半を「再生エネルギー」に向けられた事で、米国として気候変動問題に積極的に取り組む姿勢を鮮明とする一方、歳入面では納税額が利益の15%を下回る大企業に対する課税強化や, 徴税当局の機能強化を柱とするものです。そして、政府と与党民主党は、当該内容は物価を押し下げる効果ありと主張し、今次法案を [The Inflation Reduction Act (IRA)]と呼称する処です。
The Economist, Aug.13は、America’s green -plus spending bill is flawed but essential 、つまり環境対応として欠陥はあるものの、本質的に重要法案であり、Climate policy, at lastと、米国も本気で環境問題に向き合い出したと、エールを送る処です。

米中間選挙を前にバイデン政権は、とかくの評判を甘受する処でしたが、今次「歳出・歳入法」(IRA)の成立を以って、米国としての進む方向を明示し得たことで、その対応はバイデン政権への追い風と評される状況の生まれる処です。 が、追い風を真に追い風としていくにはまだまだ不確実な要素もあり、その払拭が不可避とされる処です。 因みに、米議会ではこの秋の会期で、積み残された法案、とりわけ「中国対抗法案」の再検討が予定されている由ですが、さて、バイデン氏がどこまで主導権を発揮するか、この8月、ペロシ議長が台湾を訪問したことで米中の緊張が高まり、バイデン大統領の判断に時間が掛かっていると伝えられる処、対中政策への真剣度が問われる処です。

日経、8/24コラム「中外時評」では同社、上級論説委員の菅野幹雄氏は、米世論調査の専門家、ジョン・ゾグビー氏が指摘する中間選挙の争点をリフアーし、インフレ対策や教育、人種等の問題を挙げながらも、「最重要の問題は民主主義の将来、法の支配、そして選挙の敗北を認めること」とするのですが、これがトランプ氏の、なりふり構わぬ横暴さを念頭に置いた指摘であること、言うまでもない処です。 予備選が終った今、下院は共和党が多数派を奪還する勢いを維持する一方、上院は民主の巻き返しで接戦の模様ですが、共和党候補の内、3割超がトランプ氏の推薦候補の由(日経、9/15)、気がかりとする処です。

さてかかる環境にあって、今次論考ではバイデン米国が目指す「脱炭素社会」への移行を念頭に、第1章ではサンフランシスコ州の「脱ガソリン車」政策に即した企業、とりわけ日本企業に絞り当該対応行動をフォローする事とします。更にThe Economist, Aug.20の巻頭論考は、上記 ゾグビー氏コメントに共振する如くに、2年後の米大統領選候補を見据えたトランプ氏の行動様式の実状を伝える処、第2章では、これが民主主義の根幹を揺るがす状況を映す処として、当該レポートのレビューを行います。


第1章 動き出した米国の「脱CO2」と、日本企業

1.米カリフォルニア州が目指す「脱ガソリン車」

8月25日、米カリフォルニア州政府は、2035年にガソリンのみで駆動する新車の販売を全面禁止する新たな規制案導入を発表しました。それは2026~35年にかけて段階的に電気自動車(EV)の販売比率を高めるよう各自動車メーカーに義務付けるとするものです。州内の新車販売の10%強を占めるハイブリット車(HV)も35年以降は販売禁止とする由で、後述するように、HVを得意とする日本車メーカーは戦略変更を迫られることになると云うものです。カリフォルニア州は、人口約40百万の大市場で、日本にとって重要な市場であることは云うまでもありません。

そもそもカリフォルニア州は、米国の環境規制をリードする州とされ、同州知事のニューサム氏は2020年9月, ガソリン車の新車販売を35年までに全面禁止する旨を表明していましたが、今次の決定はその方針に即し、同州大気資源局(CARB)が2年かけて規制案を検討してきた結果で、当該規制案については8月25日に2回目の公聴会を開き、州民の意見を集約し、同日会合で可決した由で、その内容は、各自動車メーカーに州内の販売台数の一定割合を環境負荷の少ないゼロミッション車(ZEV)とするよう義務付けるものです。
 
カリフォルニア州は連邦政府に先駆けて車の排ガス規制を導入した歴史的経緯から、独自の環境規制を定めることが認められており、他の週がカリフォルニア州の規制に倣う事も許されており、因みにニューヨーク州でも、上記2020年のカリフォリニア州法に基づき、2035年までに州内で販売するガソリン車の全廃を決定しています。かくして州の主導による自動車の脱炭素化の流れが加速する様相ですが、EVを巡っては、EUも同様の方針を打ち出す処、中国もEVシフトを推進中と仄聞され、もはや「脱ガソリン車」は世界的潮流と云え、新たな産業革新をも示唆する処です。 そして、かかる環境対応は、周知のロシアからのエネルギー供給の不足に端を発したインフレへの対抗ともなる処、前出「歳出・歳入法」をIRA(Inflation Reduction Act) とする事情です。

9月14日、バイデン米大統領は「北米国際自動車ショー」で「米国の偉大な道は、完全に電動化される」と演説し、気候変動対策中心と位置付けるEVの普及徹底の意向を表明する処です。(日経、9/16) 尚、9月2日付日経は米石油・ガス大手のオキシデンタル・ペトロリアムなどの「空気中のCO2を回収する技術(DAC)」の導入拡大状況について報じていましたが、脱炭素社会に向けたシナリオの更なる可能性を示唆する処です。 
     
2.日本車メーカーのEV戦略

(1)米マスキー法(米環境規制法)と「ホンダ」の対応
上述、米カリフォルニア州が2035年にはガソリン車の販売を禁止する決定を下した事で、自動車生産はEVを中心とする「ゼロエミシヨン車」に移行することになるのですが、ハイブリット車(HV)に強いトヨタ等、日本車メーカーは、カリフォルニア州や、NY州では,
35年にはガソリン車の販売禁止という規制の「壁」に直面する事になるのです。そうした環境問題への対応という点で、想起されるのが「ホンダ」の取り組みです。

周知の通り米国には1970年に改正された酸性雨、オゾン層保護など都市大気防止のための厳しい法律(米大気浄化法:マスキ―法)があり、当初は達成不可能とされていました。しかし、72年、「本田」がマスキー法の基準をクリアーするエンジン「CVCC」の開発を発表、以って本田はバイクの本田からクルマ世界の「ホンダ」としてその地位を築いたとされる処です。日本車のアメリカ進出を後押ししたのは最初から環境技術だとされる所以です。

・EV開発のポイント ー 異業種提携
日本車メーカーは既に、EVの開発は進めてきており、技術の点では決して海外勢に劣るものではないと認識される処ですが、電気とモーターで動く車をつくるだけでは現在の競争力を保つことはできません。日経社説(8/27)でも指摘あるように「走る、曲がる、止まる」と云った基本性能の同質化が進むとされるのがEVです。そこで、EV車については、技術もさることながら、どのような価値を消費者に提示していくことかできるか、より創造的なものとしていけるか、が問われていく事と思料されるのです。 つまり、総論として、自動運転やサービス、エンターテイメント等ソフトの領域も含めたクルマづくりの総合力が問われると云うものでしょうし、その点ではIT企業などとの連携は不可欠となる処、異業種との提携が戦略のカギとなる処です。

20世紀の初め、米フォード社が、生産方式として、ベルトコンベア方式を導入、大量生産を可能とし、結果、米工業界全体のレベルを引き上げたように、EVの推進は、そうした産業の連鎖効果が期待でき、まさにEVが齎す産業革命が期待されると云うものです。以下は日本企業、「ホンダ」と「トヨタ」のEV戦略の検証です。

(2)日本車メーカーに見るEV戦略検証
・「ホンダ」のEV戦略
今年3月、ホンダは、ソニーとEV事業で提携する事を発表しました。共同で開発するEVを、25年を目途に発売する計画とするもので、まさに異業種との提携でEV事業に向かうというものです。 車の世界では2003年設立のテスラがEV市場を切り開き、時価総額は 
トヨタなど日本車7社合計の3倍近いとされていますが、21年4月1日、社長に就任した三部氏は「このままでは日本もホンダもダメになる」(三部ホンダ社長)との危機感を披露していましたが、ソニーとの提携はその延長にある処です。序で乍ら、ホンダは、今年8月13日、2040年代半ばに二輪車を廃止し、新車をEVバイクに替えていくとしています。(日経2022/9/14)

尚、 8月29日には、同社は2022年中に韓国電池大手のLGエネルギーソリュウションと米国で電気自動車(EV)向け電池工場を新設する旨を発表しました。当該JVの概容は、投資総額は44億ドル(約6100億円)、出資比率はホンダが49%、LGエネが51%。リチウムイオン電池を製造し年間生産能力は最大で40キロワット時。標準的なEVで70万~ 80万台分に相当する由。2023年着工で25年の生産開始を目指すとし、全量をホンダの北米工場向けに出荷の計画の由。立地はオハイオ州を最有力として検討中と。更に先を見据え、30億円を投じて2024年春に全個体電池の実証ラインを稼働させるとしています。

・「トヨタ」、そして他企業のケース
8月31日、トヨタは日本国内の工場に4000億円を投じ、米国で建設予定の電池工場にも3250億円、追加投資し、日米で計7300億円を投じ、電池の増産を図るとし、2024~26年の生産開始を目指すと、する処です。今回の発表では日米合計で最大40ギガ・ワット時分の生産能力を積み増しとなるもので、当該電池は、トヨタが販売をはじめたEV「bZ4X」で換算すると60万台弱に相当する由です。

この他、スズキは乗用車シェアー首位のインドでトヨタと共同開発し、EVを2025年までに発売する予定とし、要はスズキとしては、資本業務提携するトヨタと共同開発するEV専用の小型車台を使い、インドに新車種を投入予定で、多目的スポーツ車などの品揃えが
伝えられる処です。 地場のタタ自動車はEVの増産に向け、米フォードの現地工場の取得を決めていますが、人口が世界最多となる見通しのインドは30年には、EV市場が20兆円規模に膨らむとの予想もあり、世界大手や地場を交えた競争が過熱する様相です。
尚、軽のEV車については、日産、三菱が先駆者と云われていますが、苦節十年余り、この5月の発表から3か月余りで、日産の「サクラ」が約2万5千台、三菱の「eKクロスEV」が約6100台と快走中の由です。(朝日オンライン版、9/4)

序で乍ら、自動車のみならず今、日本では鉄鋼や化学等素材産業で脱炭素に向けた移行技術への投資が本格化してきています。因みに、国内鉄鋼2位のJFEスチールは9月1日、岡山県の高炉1基を電路に転換する方針を発表2030年度までの脱炭素投資は1兆円規模を見込む処です。更には、日鉄とJFEが脱炭素のぃ利札とされる製鉄法「水素製鉄」の実用化で連携すると報じられており、脱炭素時代の生き残りへ競合同士が協調する動きが広がり始めたと報じられる処です。(日経2022/9/13) 要は脱炭素化の取り組みが成長に欠かせなくなってきたという事で、新たな形での企業の競争、更には、産業の構造変化が想定される処です。勿論、脱炭素社会の実現にはクリーンエネルギーを使った発電を増やすだけでなく、上記製鉄等CO2を多く出す産業の排出抑制がどうしても必要ですし、多額の資金も必要で、その点、地域、企業、個人のお金を脱炭素社会への移行に回す仕組みの整備も必要です。

尚、大きな問題としてあるのが、気候変動対策が生む ‘ひずみ(歪み)’への取り組みです。
つまり再生可能エネルギーやEVへのシフトが続くとなれば、アルミや銅、リチウムなど非鉄資源への需要が高まり、2030年には供給不足が解消できないとの分析も伝わる処、その結果として、インフレ圧力が強まることで、脱炭素という理想の堅持が難しくなるのではとの懸念です。一言で言って「グリーンのインフレ」問題ですが、これを解消し、世界の安定を保ちつつ脱炭素社会に到着していけるか、まさに大きな課題の残る処です。が、この点は、11月エジプトで開催予定のCOP27での議論を待つ処かと、思料するのです。


第2章 米国政治を覆う強い懸念

1. 米共和党予備選とリズ・チェイニー氏の敗退

上記、米国市場に映る企業の‘革新行動’とは裏腹に、現下の米政治事情は極めて忌々しき状況にある処です。先月論考では「ロー対ウエード裁判」を巡って、国の分断化が進む事情を報告しましたが、11月の中間選挙、更には2年後の大統領選を巡って、米政治の在り姿が、いかにも変質する様相です。とりわけ共和党の予備選では、保守同士の色合いの違いを巡る争いではなく、どの候補が、トランプ氏のスローガン、「米国を再び偉大な国に(MAGA)」に最も近いかを、比べる競争の様相を呈する様相です。

8月16日、米ワイオミング州で実施された11月の中間選挙に向けた共和党の下院議員候補予備選で現職のリズ・チェイニー議員が、トランプ氏の支持を得た候補に大敗しました。その背景は、彼女は共和党員ながらトランプ弾劾裁判に賛成の一票を投じたこととされています。つまり、これはトランプ氏による復讐とされ、一人の勇敢で筋の通った保守派議員が力を失ったという事で、大きな意味を持つ出来事でした。ワイオミング州と同様の傾向が全米のあちこちらで見始めていると懸念を呼ぶ処です。一体、民主主義とはどうなったのか、
選挙とはどういったことかと、再び基本的な問題を呈する処です。

2.The Economist, Aug.20の巻頭論考のテーマは `Leased‘
       
かかるトランプ氏の横暴さをThe Economist、Aug.20 は、巻頭論考「Leashed」(トランプという革ひもに繋がれた共和党)で、現下の共和党とトランプ氏の関係を、副題とした「Donald Trump’s grip on the Republican Party is tightening」が語るように、今や共和党はトランプ氏の思いのままの状況にあって、トランプ氏が前回の大統領選の屈辱を晴らすべく2024年の大統領選に再出馬するのではと、米国はもとより、西側諸国でも危惧を募らせる処と当該環境の推移を伝える処です。聊か長くなりますが以下は、その概要です。

「 ・中間選挙を巡る新事情
まず、米中間選挙に向けた共和党の予備選挙を見る限り、24年の共和党大統領候補はトランプに決まりそうだと、懸念するのです。その背景として挙げるのが、上記8月16日、米ワイオミング州で起こった、11月の中間選挙に向けた共和党の下院議員候補予備選現職のリズ・チェイニー議員がトランプの支持を得た候補に大敗した事情を挙げる処、要は、ワイオミング州と同様の傾向が全米のあちらこちらで見始めていると云うのです。

つまり、今次の共和党の予備選は、保守主義同士の色合いのの違いを巡る争いではなく、どの候補も、最もトランプ氏のスローガン、「Make America Great Again (MAGA)」に近いかを比べる競争になっていると云うのです。米議会占拠が起きた21年1月6日の事件に関し、トランプ氏を弾劾する決議に賛成した共和党下院議員10人の内、8人が今回の選挙には出なかったか、既に予備選で敗れていると云うのです。

24年の大統領候補に誰になってほしいか、早い段階で共和党有権者に尋ねた世論調査では、約50%がトランプ氏と回答していた由です。数か月前はトランプ氏にうんざりしていた共和党有権者がフロリダ州知事のロン・デサンテイス氏か、MAGAを訴える他の候補者に乗り換えると見られていたが、今ではデサンテイス氏も、ホワイトハウス入りするにはトランプ氏の副大統領候補になるのが一番の近道と考えているとも指摘する処です。

・訴追で高まる出馬意欲
勿論、大統領予備選までには時間があり、大きく変わる状況も予想される処、トランプ氏自身が出馬を断念するか、何かがトランプ氏の出馬を妨げない限り、同氏が共和党の候補指名を勝ち取りそうだと云うのです。では、彼の出馬を止める手立てはあるか? ですが、その一つの可能性は司法の力だとするのです。が、トランプ氏が裁判にかけられ有罪判決を受けても、むしろそれは彼を復活させる「追い風」となるかもと、云うのです。つまり、司法制度に迫害されたとリベンジする形で選挙運動を展開すれば、トランプ氏の能力が最も悪い形で生かされてしまい、米国の諸制度を益々疲弊させることになると云うのです。

デサンテイス氏をはじめ、多くの共和党員がトランプ氏の味方についたと云う由ですが、トランプ氏には更に、3つの件で捜査が進められていると云うのです。虚偽申告による脱税疑惑、議会占拠事件での違法行為疑惑、ジョージア州フルトン群で2020年11月の選挙結果を覆そうとする謀議に加担した疑惑、だというのですが、これらの捜査の行方もやはり不透明で、トランプ氏にも推定無罪の原則が当然適用されると云うのです。一方、反トランプ派に対し、同氏が過去のような過ちを繰り返すこと等、期待しすぎないようにとも云うのです。

彼らはこれまでも、ロバート・モラー特別検察官による検査や2度の弾劾裁判等、何かがトランプ氏を失脚させるだろうと期待した。だが、同氏は今も健在という。実際のところ、これら法的問題は、トランプ氏の出馬意欲を高める結果に繋がると云う。つまり、彼が大統領候補である限り、前回の選挙で7,400万票を集めたリーダーだと云うのです。そして、彼が出馬を表明した時点で、ガーランド司法長官をはじめ、捜査関係者は、大統領候補を裁判にかけるか、法の支配にあえて目をつむるか、難しい選択を迫られることになると云うのです。更に、彼が裁判にかけられ、有罪判決を受けても、むしろそれは彼を復活させる「追い風」となるかもしれないと。そして、司法制度に迫害されたと、リベンジする形で選挙運動を展開すれば、トランプ氏の能力が最も悪い形でいかされてしまうと云い、それは米国の諸制度を益々疲弊させるだろうと云うのです。

・トランプ氏を止める
共和党も司法も、トランプ氏を止められないとしたら、他にどんな手立てがあるか。今、チェイニー議員に決死の覚悟で大統領選に無所属候補で立候補するよう勧めるグループもあると云う。つまり、反トランプだが、民主党にはどうしても投票したくないと云う共和党支持者の票を吸い上げることを期待しての事と云うのです。もしそれで共和党の地盤の州で接戦に持ち込めれば、最終的にトランプ氏の勝利を阻止できるかもしれないと云うものです。彼の大統領就任中の4年間に、共和党は上下両院で過半数を失い、大統領選でも敗れた。多くの有権者はトランプ氏が危険で非民主主義的な人物であることを理解しているし、大半は彼の再任を望んでいないと云うのです。この際は、Better would be to depend on the good sense of the American people. つまり米国民の分別に頼る方が望ましいとする処、要は彼の対抗馬となる仁への投票を広めることだと云うのです、・・・・・。 」

前出、ジョン・ゾグビー氏は、24年の大統領選は、たとえ接戦でなくとも、結果を巡り本当のバトルが展開されるだろうとし、両党とも単純に結果を受け入れるとも思えず、それがまた対外的影響力までにも傷つけることになると懸念する処ですが、まさに民主主義の如何が問われる瞬間が続きそうです。


おわりに  ゴルビーも 信奉した民主主義 

2022年8月30日、旧ソ連の書記長、ミハエル・ゴルバチョフ氏がなくなりました。周知の通り、彼は1985年から1991年の6年間、旧ソ連の書記長を務めた仁で、この間、ペレストロイカ(国家の再建)、グラスノーチス(情報の公開)という2大改革を進め、1989年のベルリンの壁崩壊、その後の東西ドイツ統一の立役者となり、更に米国とは核軍縮を進め、1989年12月、当時のブッシュ米大統領と共に東西冷戦の終結を宣言し、民主主義こそロシア永遠の課題、と語るロシアの政治家でした。驚くべきは、僅か6年で、世界の共産主義国の雄たるソ連という国をまさに自由主義国に衣替えさせてしまったという事でした。しかし、残念ながら、後継のプーチン氏の姿は周知の処です。

では、西側民主主義陣営の姿はどうか。米国については前述の通りで、そこに投影されるトランプ氏の行動は傲慢なpopulismにほかなく、米国の民主主義の重症化を映す処、それに加わるのが欧州、とりわけイタリア政界の変調です。イタリアの右傾化です。

イタリアでは新型コロナ禍からの経済復興を目指し、21年2月にECB前総裁のドラギ氏を首相とする挙国一致政権の発足を見たばかりでした。が、今夏、主要与党が政府の政策に対する不満、内輪もめで連立政権は崩壊、ドラギ首相は7月21日辞任を表明、今は9月25日予定の総選挙結果を待つ処です。 仮にEU第3のイタリアに極右主導の政権が生まれたとすれば、想定さるのが、近時の物価高に苦しむ有権者の支持を集める極右主導型政党「イタリアの同胞(FDI)」(女性党首、メローニ氏)の可能性ですが、仮に右派政権が誕生しても結局は、民意が離れ短命に終るというリスクが舞戻り、欧州は‘内憂外患の時’を迎えることになりそうだと云うものです。 9月7日付 Project Syndicateで、 London Business School教授のLucrezia Reichlin氏は、「The Italian Right Is Coming」と題して、イタリアは戦後史において初めてとなるムッソリーニーのフアシスト党をルーツとするBrothers of Italyの勝利を予想しながらも、であれば欧州政治は甚大な影響を受けることになると警鐘乱打する処です。

2022年4月の仏大統領選でも物価対策を訴えた極右ルペン氏に、マクロン氏はあと一歩まで迫られる処でした。先進民主国は、今や、 物価高の元凶とされるエネルギー不安の解消に奔走するあまりに, 米トランプ氏のような自国第一主義がちらつく状況にあって、まさにインフレが試す民主主義、といった感の強まる処です。
因みにスエーデンの調査機関 「V-Dem」は、2019年、世界の民主主義国・地域が87カ国に対し、非民主主義国は92カ国と、18年ぶりに非民主主義国が多数となったと報告しています。その後、民主主義国家が勢いを盛り返していないばかりか、権威主義国家の台頭ぶりが目立ってきているのは周知の処です。 民主主義を語るとき、よくリファーされた英国、チャーチル元首相の「民主主義は最悪な政治と云える。これまで試みられてきた民主主義以外の政治体制を除けば」との言節も、もはや通じなくなってきた様相です。

では、民主主義の現実をどう受け止め、それにどう対峙すべきか? この際は世界的名著とされる1835年、出版されたフランスのアレクシ・ド・トクヴィルの「アメリカの民主政治」(De la democratie en Amerique)に`解’はないものかと、改めて目を通してみました。
トクヴィルは弁護士として、米国の刑務所の事情視察の為、仏政府から1831~32年派遣され、それを機会に米国各地を訪れ、米共和政治の実状を観察、仏に戻ってから、その際の見聞を整理し、著したとされるものです。その中で彼は、民主主義は理念として「知性に適用された平等主義」を旨とするものとし、その実際の制度としては多数決を基本とし、これが機能するには国民世論の多数派が健全な判断力を持つ場合に限られるとするのです。そして、民主政治は大衆の教養水準や生活に大きく左右されると指摘するのです。

そうした資料漁りを経て、ではその結論はですが、思っていたように、1776年7月4日の「米国の独立宣言」にあって,その序文にある「All men are created equal」(注)を原点とし、それを担保するシステムとして導入されたのが、「一人一票」の選挙制度であり、であれば民主主義の復権には、選挙制度の改革強化に尽きる事と思料するのです。

そこで、近時メデイアで露出度を高めている米イエール大学助教授の成田雄介助氏の近著、「22世紀の民主主義」を読んでみました。民主主義の「核」が選挙制度にあるなら、それが機能しなくなってきた事情、システムの劣化に対応するためにはガラッと発想を変えて、アルゴリズムを以って、無機的に対応していってはどうかと、極めて斬新な、しかし、極端
と映る提言に、彼自身は、やらずぶったくりで書いたと云うのですが、正直、簡単にはフォローしにくいものでした。ただ思うは、民主政治は大衆の教養水準に依存する、との上記指摘いま再びで、とすれば教養水準の引き上げに尽きると云うことかと思うばかりです。

さて、日本の民主政治は如何にですが、少なくとも現下の旧統一教会と自民党との癒着状況のひどさからは、残念ながら民主政治は期待薄と断じざるを得ずと思うばかりです。 かかる状況に如何に対抗していくべきか、ですが、この際は米国(トランプ氏)も欧州も含め、大きな課題は、かつて組織政党が果していた ‘機能の堅持、その再生’ の他なしと思う処です。(2022/9/25)
posted by 林川眞善 at 17:27| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする