2017年07月26日

2017年8月号  世界は今、ニューノーマルを探り始めた - G20ハンブルグ・サミットと国際システムの今後      林川眞善

はじめに:二つの‘終わり’

5月イタリアで行われたG7サミットが「1対6」の様相に、また7月ドイツで開かれたG20サミットでのそれは「1対19」の様相にあったと言われています。それが意味することは、トランプ米国を「1」として、これに対峙した他メンバー国との亀裂の深まる様相を語るものでした。さて、その‘亀裂’をどう理解し、今後の世界経済の可能性を如何に考えていくべきか、その備えとして過般、今、人気の世界経済論、二つを読んでみました。

一つは法政大学教授の水野和夫氏による「閉じてゆく帝国と逆説の21世紀」(2017・5、集英社)、もう一つは、国際ジアーナリストのビル・エモット氏の「西洋の終わりー世界の繁栄を取り戻すために」(2017・7、日経出版)(原題:The Fate of The West)です。

まず水野氏は、イギリスの歴史家、ジョン・エルスナー(J. Elsner)とロジャー・カーデイナル(R. Cardinal)の共著「蒐集」をリフアーし、西欧には歴史を「蒐集(collection)」の歴史と捉える考え方があり、「蒐集」することで社会秩序を維持してきたのが西欧文明だとした上で、現代に至る世界経済発展の生業を、歴史的perspectiveを以って分析するのです。

つまり、その蒐集する対象は、最初は土地だったが、13世紀初頭に資本の概念が誕生したことで、その対象は資本に移り、その蒐集活動はグローバルに進み、経済の拡大を見てきたというのです。ただその‘場’の広がりに限界が出てきたことで資本の「蒐集」が困難な状況が生まれ、その困難な状況を定義上、「資本主義の終焉」とみるのです。同時に、こうしたグローバル資本に振り回されるのはたくさんだとして、世界に対して自分たちの社会や市場を「閉じる」方向に向かおうとする意識が広まってきたと言うのです。そして、イギリスのBREXIT、米国では排他的とも言える自国主義を唱えるトランプ氏の台頭でグローバリゼーションを否定する潮流が明確になったとし、これが世界に対して「閉じる」と云う選択を迫る、つまり経済ナショナリズムにその解を求めることとなったとし、世界経済の現状を解析するのです。つまり、自由と平等を前提としてきた資本主義はその歴史を終え、現行の資本主義というシステムは ‘閉じた帝国’ としてポスト近代システムを探ることになると分析するのです。

確かに複雑に変化する世界経済を、歴史的パースペクテイブと共にダイナミックに分析された本書は、彼の3年前の「資本主義の終焉と歴史の危機」に続き、評価される処ですが、さて、これがポスト・モダンの姿を‘閉じた’経済システムに求めることになるとの発想には正直、組することはできません。新たな技術革新が急速に起こってきている今、新しいもの、異なったものを結び付けることによって新しい収益機会、つまり新たな蒐集の場が創造される時代にあるだけに、です。

そ点では、エモット氏の論理は、より建設的であり、示唆的と思料する処です。つまり彼はシュペングラーの大著「西洋の没落」をリフアーしながら、筆者も学生時代、のめり込んで読んだものですが、戦後70年以上ずっと西洋諸国は繁栄を続け、この繁栄する西洋に参加する国がどんどん増え、現代性を齎す思想に群がってきたということですが、今、そのシュペングラーにどこか似ている質問者が、私たちの前に立ちはだかって、指を振り、首を傾げて、この繁栄の時期は終わったのか、それとも終わろうとしているのか、と問いかけていると云うのです。そして、今の時代は、待遇とさまざまな権利の平等が、何十年もの間、なかったような強い疑念にさらされ、社会の信頼が揺らいでいるように思われること、そして更に、現在と今後十数年の西洋の命運は、その進化の能力に委ねられるとした上で、西洋諸国の市民として、まず、ドア、国境、心を閉ざそうとする動きに抵抗し、進化によって変わるのを拒んでいる大きな障害を突き止め、異見を一致させ、障害を除去しなければならないと警鐘を発するのです。

序でながら彼は、米国でよく引き合いに出されるトーマス・ジェフアーソンが云ったとされる「自由の代償は、永遠の警戒である」に照らし、外部の脅威と、内なる脅威の両方に、警戒する要があるとし、現在、そうした脅威の最大原因は、不平等だと指摘するのです。だから、億万長者であることをひけらかし、自分の名前を大書したけばけばしいビルが気に入っている人物が、平等の為にたたかっていると思われているのは、皮肉としか言いようがないというのですが、まこと共感、覚える処です。

かくして、トランプ氏が云う「デイール」をベースとしたアメリカ・フアーストとは、トランプ・フアーストであり、一国のトップとしてのスローガンとは決して言えるものではありません。
つまり、「世界を止めろ。俺は降りる」と云うような経済ナショナリズムは正しい手法とは言えず、要は、我々は民主主義と経済システムを修理、整備することなくしては成り立たなくなっていくというのです。 その点ではトランプが言っているように「腐敗を一掃する」必要がある処でしょうが、しかし、逆にドアを閉ざし、貿易と競争の障壁を高めたら、独占企業、カルテル、過度の政治力を持つものによる被害が甚大になると云うものです。同時に利己主義と、それを追求する能力は弱まるどころか、強まっていく事になる処です。 アメリカや欧州でポピュリストの党が提案する閉ざされた独裁主義的な社会は動きに乏しく、極端な場合にはゼリー状に固まったものになる筈と云え、機会は増えるどころか減らされることになるとは歴史が示す処です。
それは‘開かれた社会が優位に立てる’事を語る処と、エモット氏は云うのです。

さて、この優位をどのように堅持していくかが、2008年の金融危機以降の世界経済に課せられたテーマとしてあり続けてきた処です。そして、そこにある問題を克服し、持続的な成長を担保していく為にと導入された世界活動の一つがG20サミット(注)です。そのサミットがドイツ・ハンブルグで今年も行われましたが、そこで見る討議の展開は、当初の理念とは聊かのギャップを実感させるものでした。

   (注)G20サミット:日米欧主要7か国(G7)の財務相・中銀総裁会議に、1999年、
     アジア通貨危機に対処するため、米国が主導して中印など13か国を加え、G20財務相会
議を創設したことに起源をもつ。首脳会議は2008年のリーマンショックを受け、当時の
ブッシュ米大統領が主導して開催。2009年に定例化が決まった。G20では世界経済や
自由貿易拡大への議論を通じて国際秩序の堅持を図る事都してきたが、現状では米国が輸入
制限をちらつかせ、中-印・露などBRICS首脳が保護主義反対を訴える構図に変わってきた。

そこで、この際はエモット氏のコンテクストにも照らしながら、今次のG20サミットが映し出した現下の国際情勢、とりわけ自由貿易を巡るトランプ米国と、欧州、とりわけメルケル・ドイツとの関係、そして蜜月とも瞬時、評された米中関係の変容にフォーカスし、その実態を確認しつつ、同時に係る新潮流の中、日本としてはどういったポジションを目指していくべきか、改めて考察しておきたいと思います。(7月25日)
         
                   目 次

1. 再び「1対19」のG20ハンブルグ・サミット ・・・P.4
 -世界は、rogueな指導者の下で、「ニューノーマル」を探り始めた?

(1)自由貿易を巡る対立構図「1対19」のリアル
  ・鉄鋼輸入関税発動の意味
(2)米中関係:始まりの終わり
  ・米中包括経済対話

2. G20サミット後の世界と、日本のミッション  ・・・P.8

(1)米国抜きという世界のニューノーマル
  ・欧州の自立
  ・今、指摘されるドイツの黒字問題
(2)日本の目指すべき方向とミッション
  ・日本の自主外交

おわりに:国民から「ノー」を突きつけられた安倍首相 ・・・P.11

  ・安倍政権支持率はいま急降下
  ・「都民フアースト」の勝利が意味すること 
  ・今求められるゲームチェンジャー

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1.再び「1対19」のG20 ハンブルグ・サミット
    - 世界は、rogueな指導者の下で、「ニューノーマル」を探り始めた?

7月7・8日、ドイツのメルケル首相を議長とするG20サミット会議はハンブルグで開かれましたが、それは、先のG7サミット同様、再び「1対19」の様相を鮮明とするものでした。つまり、地球温暖化対策や反保護主義などを巡り、保護貿易を主張するトランプ米国と自由貿易推進派のメルケル・ドイツ、他メンバー国との亀裂を鮮明とする処となったというものです。

G20サミト終了時、公表された首脳共同宣言はまさにそうした状況を映す内容となっています。と云うのも、そこでは「開かれた市場を維持する」と、反保護主義の大原則を打ち出していましたが、同時にトランプ氏が主張する不公正な貿易相手国に対しては関税の引き上げなど「不公正な貿易への対抗措置」を採ることを容認、併記したのです。国際協調の象徴ともいえる環境対策の国際的枠組み「パリ協定」についても、既にトランプ政権は協定離脱を宣言していることもありで、先のG7宣言同様、併記されています。勿論G20の宣言としても異例の措置と云うものです。そして内容的にも、とりわけトランプ氏が主張する不公正貿易への対抗措置を、「不公正」の定義を示すこともないままに、容認したと云う点は極めて問題の残る処ですが、そうした対応が示唆することは、rogue (異常者)とも言われる指導者の下で、世界は「ニューノーマル(新常態)」を探り始めたという事かと、その思いを致す処です。

7月20日で、就任から半年を経たトランプ米大統領、この間、曲折はあっても「米国第一」の原点を揺るがすことはなく従って、グローバル化や自由主義を主導してきた超大国、アメリカの変質は覆い隠すべくもなく、その姿勢はG7サミット,G20サミットを通じて鮮明としてきています。一方、米国内においては、議会との折り合いがうまく行かず、更にはロシアゲート問題も加わったことで、公約もままならぬ状況にあるトランプ大統領としては、政治的成果を期すべく、その矛先は、大統領にフリーハンドの権限が与えられている通商貿易問題に向けられる処、従来の多国間連携は二国間交渉に益々シフトしていく事で、自由貿易の後退が予想され、その限りに於いて、世界経済の縮小も危惧される状況です。勿論、その様相はG20での協議に強く映る処でした。

(1) 自由貿易を巡る対立構図「1対19」のリアル

トランプ氏は自由貿易について、‘貿易’が公正であるためには収支が均衡しなくてはいけないと主張するのですが、これが「1対19」つまり、トランプ米国と他メンバー19か国の対立構図をなす原点となる処です。これは云うまでもなく経済学的にはナンセンスな事であり、関税を課せば競争条件が公平になるという信念も、あまりにも単純で危険なことと云わざるを得ません。

今次G20サミットの首脳宣言では「正当な貿易対抗措置」の採用を容認しましたが、そこで注目されるのが、米通商拡大法232条(注)の発動による輸入制限措置に向かう動きですが、その発動が国家安全保障を事由とする点で問題です。もとより、その念願にあるのは中国の対米鉄鋼輸出ですが、仮にトランプ政府が中国からの鉄鋼輸入が不公正なものと認定した場合、当該輸入制限措置が取られることになるでしょうが、その際の問題は、国家安全保障を事由としている点で、その対象が中国だけにとどまることなく日欧をも巻き添えを喰らいかねないという事です。EUはこの措置が発動されれば対抗措置を講じるとしていますが、とすると世界貿易は報復合戦に見舞われることとなり、経済の大混乱は避けられないと云うものです。

 (注) 通商拡大法232条:トランプ政権が輸入制限の根拠とするこの国内法は、安全保障
       を理由に貿易を指し止める権限を大統領にもたせている。鉄鋼であればm中国などのダンピングで国内供給力が落ち、武器製造や防衛技術の維持が難しくなるという理由。

7月3日付Financial Times はその社説‘President Trump’s destructive path on steel’で、米政権
が通商拡大法による輸入制限措置を検討していることについて、「開かれた貿易と同盟国との良
好な関係の維持を大事にするなら、トランプ政権は計画を全面的に撤回すべきだ。誤った国家安
全保障上の根拠に基づく素材輸入の制限は、経済的に無意味であり、政治的に破壊的なダメージ
を引き起こす」と指摘し、「トランプ氏の一つの行動で米国経済に損害を与え、貿易戦争を引き
起こし、同盟国を離反させ、70年にわたり世界貿易を治めてきたルールに基づく体制を弱めよ
うとしている。トランプ政権は直ちに針路を反転させるべきだ」と警鐘を鳴らしています。さて
トランプ氏に、こうした声が届くのでしょうか。

勿論、オバマ前政権下でも反ダンピング課税を連発して対抗措置をとっていましたが、 WTOルールに基づいたのもので、その限りにおいて国際秩序は保たれていたという事です。然し、不振の製造業白人労働者らに強く支持されたトランプ政権としてWTOルールは効果が乏しいとして、通商拡大法232条の援用で、より強力な輸入制限措置を目指すと云うものです。

元より鉄鋼問題の根源は、世界シェア―の半分を占める中国の過剰生産にある処です。従って
その是正に当るべきは中国であり、従って本来なら日米欧が結束し、中国への圧力を強化して然
るべきはずです。実際、G20の宣言でも早急に具体案をと、要求されているのです。

然し、実際の討議の場は、中国が責められるような状況にはなかったと報じられています。と云
うのもトランプ氏が声高に保護主義的な発言を繰り返したことから、米国が検討しているとさ
れる保護主義的手段に批判が集まった結果、欧州を中心とする自由貿易派とトランプ氏との間
で亀裂が起こり、欧米間の対立構図が前面に出てきた結果、その陰に問題児としての中国の存在
感が薄められる結果となったとの由ですが、それはトランプ米国がもう少し、冷静に議論をする
ことが出来ればG20における「1対19」の構図での「1」の座は中国に入れ替わっていたの
ではと、云わんばかりと映るものです。が、この際は、近時の米中関係の変化 [次項(2)]にその
ヒントがある処です。

・鉄鋼輸入関税発動の意味
尚、トランプ氏は不公正な国際競争が故に後塵を拝している産業と当該産業に身を置く労働者の生活確保のためとして、中国やメキシコ等からの輸入製品に関税を課すと主張していますが、この際の基本的な問題は、「公正」の定義はここでは置くとして、輸入製品に関税を課すことが米産業にどのような影響を齎すことになるのか、十分に理解されていないと云うことです。

6月26日、BIS(国際決済銀行)が発表した年次報告書では、仮に米政府がメキシコや中国からの輸入品に10%の関税を課した場合のシミュレーションを行っていますが、それによると課税で米国内産業が受ける生産コストへの影響は比較的大きく、最も悪影響を受けるのが、輸送機器分野で、石油、織物、電気機器の分野が続くと云うのです。そして興味深いのは米国の労働コストに及ぼす影響です。試算によると自動車メーカーなど輸送関連企業が、競争力を維持しながら予想される関税によるコスト増を吸収したいのであれば、人件費を6%削減する必要があるというのです。他の業種でも2~4%の人件費の削減が必要と云うのです。つまり輸入される鉄鋼に関税をかけるとすると、米国の賃金は下がる可能性があるというものです。

ただ企業の対応としては、むしろ労働者の替わりにロボットの導入を増やす可能性の方が高いでしょうし、実際、今の米国産業は驚くほどの規模で労働者をロボットに置き換えられてきています。因みに米経済学者のローラ・タイソン氏によると、過去20~30年間、製造業では毎年40万人分の仕事がロボットに置き換えられてきたと云っています。トランプ政権はこの分析結果から、彼らがしようとしている事が何を意味することになっているのか、真剣に見直されて然るべきではと思料するのです。

同時に、変化の激しい昨今の産業構造にあっては、産業が復活するという事と、雇用が創出される事とは同じではないという事を理解しておく必要があると云うものです。つまり、関税導入が米国の多くの労働者の為にあると、してはならないという事なのです。この際は、「勝ち組」はロボットだと皮肉られる(Financial Times. Jun 30. ‘Trump’s tariffs would do little for workers’ by Gillian Tett )処ですが、トランプ氏のそれは、どこまで理解した上での行動なのでしょうか。

(2)米中関係:始まりの終わり

7月8日付The Economist は、[China and America-The end of the beginning]と題する中で、
4月のマイアミでの米中両首脳会談(the sweetness of their citrus summit)以降、蜜月関係が 
云々されていた米中関係は、今次サミット直前の2週間に米国政府が見せた対中批判行動(注)
で傷んでしまっていたというのです。

(注)サミット直前の2週間で米政府(国務省、財務省、国防総省)が発した対中批判行動
    ・国務省:「人身売買」年次報告では中国の評価を最低ランクに。
    ・財務省:中国の丹東銀行を制裁(北朝鮮ミサイル開発の資金調達を支援)
    ・国防総省:南シナ海、トリトンから12カイリ以内海域での「航行の自由作戦」に駆逐艦1隻を派遣

そして驚くべきは、米中の蜜月が終わってしまったことではなく、蜜月が存在したことだと云う
のです。中国側はトランプ氏を普通の米国大統領だと考えていたということ、一方トランプ氏は
北朝鮮政府を交渉のテーブルに着かせるよう習近平氏を説得できると考えていたふしがあり、
その二つのズレが露呈してきたと言うものです。そして最も重要なことは、トランプ政権が再び
鉄鋼製品をはじめとする米国への輸入品に関税をかけると脅し、中国にとって最も堪える対策
をちらつかせたちょうどその時に蜜月が終わってしまったことだと云うのです。とすれば中国
としては、輸入規制問題は欧米に任せ、あえて火中の栗を拾う事は避けた、という事でしょうか。
兎に角、一時漂った米中協調ムードは急速に薄れ一転、軋みが鮮明となってきているのです。

・米中包括経済対話
7月19日、初の米中両政府による閣僚級の包括経済対話が、米側からはムニューシン財務長官、
ロス商務長官らが出席、中国側からは汪洋副首相、肖捷財務相らが参加して、ワシントンで開か
れています。米中は4月にトランプ氏と習近平国家主席との初の首脳会談で、貿易不均衡の是正
に向けた「100日計画」の策定で合意しています。今月16日に100日目を迎え、今回の対
話では中国の市場開放策など具体的な内容を詰めることになっていたものです。然し、上述米中
間の軋みを反映してか、赤字削減策など具体的な成果を見せることなく、想定外とも言える展開
で幕を閉じたのです。

トランプ政権としては看板公約の実現が難しい環境にあってロシアゲート問題を抱え、支持率
も歴代政権で最低水準に沈んでおりこの点、貿易不均衡の是正に活路を探るべく、中国に対して
は鉄鋼の過剰生産問題や金融の改革や市場開放を迫ったと伝えられていましたが、具体策は引
き出せぬままに終わっています。やはり、北朝鮮問題で中国への圧力を強めたことも裏目に出た
のではと推測される処です。
トランプ氏には上述、彼なりの事由があり、習近平氏には秋の党大会を控えて、安易な妥協はで
きないとする事情があったと推測されるのですが、とにかく共同声明も出せず、米中蜜月関係は
消えた事で、この結果、米政権が新たな鉄鋼の輸入制限を講じる恐れが現実味を帯びてきたとメ
デイアは伝える処です。であれば、米中間の貿易摩擦が一気に世界規模に広がるリスクを感じさ
せられる処ですが、これがニューノーマルとした新たな対応が求められるという処です。


2 G20サミット後の世界と、日本のミッション
 
(1) 米国抜きという世界のニューノーマル

「米国抜きの世界が本当にやってきた」。これは7月20日付日経社説のタイトルです。まさに、
ニューノーマルともいうべきこの新しい秩序、いや無秩序にどう向き合っていけばいいのかと
いう事になるのですが、それでも問われるのは、トランプ政権の正義です。トランプ政権は言う
なれば政治の素人が中枢にあって、しかも内輪もめし、共和党主流派とも折り合いが悪く、政策
の推進力は覚束ないという処です。しかもロシアゲート疑惑に足を取られ、もはや暴走すらしな
いかもしれないと云った状況です。大統領任期はあと3年半、何もせずに下降線をたどることに
なっていくものかと、思うことしきりですし、この米国の迷走が「欧州の自立」を促す処となっ
てきています。とは言え米国抜きで世界の秩序つくりを目指すには自ずと限界のある処です。こ
の際は、この限界を超えた、持続的世界経済に向けたシナリオを今から準備すべきと思料するの
です。

勿論、中国やロシアと云った、既存の秩序を塗り替えたい勢力はこうした国際統治の空白をつく
ような行動を展開している事は周知の処です。中国の習近平主席は広域経済圏構想「一帯一路」
を以って、欧州や東南アジアの囲い込みに本腰を入れていくでしょうし、先のパナマと国交を結
び台湾と断交させたのも、米国への挑戦とされる処です。ロシア、プーチン大統領は旧ソ連諸
国と作る「ユーラシア経済連合」構想などを通じて影響力の拡大を窺う様相にある処です。ト
ランプ時代の真の勝者は中国とロシアと云われるのもむべなるかな、と云う処です。

・欧州の自立    
さて、G20サミット閉会後、議長役のドイツ・メルケル首相は、米国第一主義をタテに国際協調に背を向けるトランプ氏の相入れない考え方を、どう取り繕うかに腐心したと語っていましたが、そこでは、欧州はもはや米国とのすれ違いを隠すこともなく、今後、トランプ政権とは是々非々でお茶を濁していく事になるのでしょうが、その分、両者の溝は深まるばかりの状況になってきたと言えそうです。その事は、同時に欧州の自立指向を促進する処となっているのです。

それは、先のG7直後の5月28日、ミューヘンで行ったメルケル首相の発言(月例論考7月号)が示唆するように、目指す方向は、米国には、防衛以外では頼らないという事で、その限りにおいて、それは「欧州の自立」路線を鮮明とする処となっていますが、EU再生を通じてフランス経済の再生を目指すマクロン氏の登場が、一層にその自立のベクトルを強化する処となってきています。いま欧州には「メルケクロン」の言葉が走っていると言われています。メルケルドイツとマクロンフランスの連携を核に、米国なき国際秩序を念頭に置いた、EU行動様式が進むことが想定されると云うものです。

尚、貿易黒字問題を巡る議論の中で、ドイツの黒字問題が浮上してきている点は要注意です。実は、これはトランプ氏には少なくとも一つの真実として指摘される問題です。そして、The Economist, Jun 8th も、Why Germany’s current-account surplus is bad for the world economy.と題して、ドイツの貿易黒字が世界経済を脅かす要因になっていると指摘し、その解決には、賃金の上げをと、提言するのです。そこでエコノミスト記事の概要を簡単に見ておく事とします。

・今、指摘されるドイツの黒字問題
まず、トランプ氏はドイツの昨年の貿易黒字が世界最大の3000億ドル(約34兆円)弱に上ったと批判しています。(中国の黒字は2000億ドル)確かにドイツは貯蓄過剰で支出不足です。しかも貯蓄額が巨大で簡単には減らないことを考えると、ドイツが自由貿易の旗を振るのは釈然としないというものです。ドイツの黒字は、輸出産業の競争力を維持するための賃金抑制を容認した数十年来の労使協定に起因するものと云われていますが、戦後復興以降、輸出主導型経済を支え、1990年代後半は「欧州の病人」だった同国を筋骨隆々の勝者へと変貌させたと云うものです。こうしたドイツモデルの特徴とは、労使協調のお陰で企業は組合の意向を気にせず投資が出来たこと、一方の職業訓練については政府が支援していったというものです。その結果が、ドイツ経済も国際貿易も極めてバランスを欠くものとしてきているというものです。

つまり、これまでの賃金抑制策は国内支出と輸入の減少を齎してきており、実際、ドイツのGDPに占める消費の比率は54%まで低下し、米国の69%、英国の65%を下回る状況です。そして輸出企業は利益を国内投資に回さず、デンマーク、オランダ同様、黒字を大幅に積み上げていると云うのです。
確かに70~80年代の高インフレ時代には貯蓄を膨らませてきたドイツの存在は安定をもたらしていたが、現在は世界経済にとって成長の足かせであり、トランプ氏のような保護主義者の格好の標的となっていると指摘するのです。

では、この問題は解決できるか、ですが、それには賃金を引き上げれば徐々に減る事にはなるだろうというのです。尤もドイツ国民には慎重さがこびりついていて、昨年の賃金上昇率はわずか2,3%で、それまでの2年間より鈍化しているのです。とすれば、黒字削減に向けては政府も行動し、支出を増やすべきと云うものです。ドイツの財政収支は2010年にはGDP比3%超の赤字だったが、現在は小幅ながら黒字にある処、一部政府筋はこれを堅実と呼ぶのですが、民間部門の高貯蓄率を考えるとなかなか同意しがたいとするのです。要は、国内には投資すべき案件が多いと云うのですが、例えば、これまでの引き締め政策で公共投資を圧縮したお陰で、学校の校舎や道路は老朽化している事、また労働力確保の視点からは女性の労働参加率を高める事であり、そのためには国が学童保育の提供を増やせば母親のフルタイム就労も増えるはずと云うのです。経済が完全雇用にある為、雇用拡大は不可能との見方もあるが、それへの対応は、再び賃金の引き上げを図る事であり、それは既に実証済みだと云うのです。

メルケル氏が自由貿易の旗を掲げることとは無論、正しい事ですが、ドイツはもっと前に過剰貯蓄が問題だと気付くべきだったと、そして自国の黒字が自由貿易を脅かしていることを理解する必要があると、忠告するのです。もとより、マクロン氏とタッグを組みEU再生を目指す視点からは黒字問題を含め、トランプ政権の批判への対応と云うよりも、全EUワイドの戦略対応を図っていく事でしょうし、その結果が世界経済に及ぶであろう影響をも踏まえ、日本も注意深いフォロー、然るべき処と思料するのです。

(2)日本の目指すべき方向とミッション

処で、2年後の2019年のG20サミットの議長国は日本となっています。今次G20サミットは先のG7サミット同様、いやそれ以上にトランプ旋風にかき回された格好で終始したこと、また、会議の運営も北朝鮮問題、ウクライナ問題、等々関係首脳間での個別会談が主流となっていた点でも、今後の運営についての見直しが必要になってきたのではと思料される処です。今次の会議では日本の出番が乏しかったようでしたが、さてどのような仕切り方をしていくべきか、今から国際環境の変化を踏まえた建設的な会議となるための準備が求められる処です。

その点では、静かに進むであろう「欧州の自立」にも資す、世界経済の運営システムの再構築を目指すべき時と思料するのです。幸いにも、今次サミット開催直前の6日、日欧経済連携協定(EPA)が大枠で合意を見ていますし、更には米国抜きながら、日本が主導する形でTPPの具体化が進みつつある処です。とすれば、この二つの自由貿易構想を以って、新しい世界貿易のベクトルづくりを目指す旗を、掲げるべきではと思料するのです。

因みに、7月5日付Financial Times は、その社説で「An EU-Japan pact shows how free trade strides on : As America and Britain turns inward, the rest of the world integrates.」と題し、日欧EPAがタイミングよく合意ができれば(7月7日のG20サミット開催までに合意することを前提にしていた)、これが、トランプ氏が主張するような保護主義への強力なタテとなり、併せて、BRXITの英国にとっても大きな挑戦となる一方、米英を除く世界の統合に弾みをつけるものと、強い支持を示すのです。

・日本の自主外交
加えて、昨年のG20サミットの首脳宣言では、現在のトランプ政権の姿勢からは考えにくいことですが、はじめてInclusive growth (包括的成長)の表現を以って世界経済の持続的成長を目指すことを謳いあげていました(弊論考No. 54、2016/ 10月号)が、とすれば、二つの自由貿易協定、日欧EPAとTPPの確実な実施と、自由貿易を通じての世界経済の活性化をはかり、従って世界の内向き志向からの脱皮を目指す戦略を擁したダイナミックなシナリオを今から作り挙げていくべきではと思料するのです。それは、これまで米国を後ろ盾としてきた日本の外交を、自主的な日本外交へと再構築する機会でもあるのです。

これは前回の月例論考で紹介した米プリンストン大教授のG.J.アイケンベリー氏が提言していたLiberal international order構想に通じる処です。彼はその際は、当該構想の成否は日本の安倍首相とドイツのメルケル首相の双肩にかかっているとしていました。当初、日本については、いささか買いかぶりの発言ではと思えたものですが、もはやその提言をリアルに受け止めうる環境が出てきたのではと思いを巡らす処です。まさにそこにある日本のミッションと映る処です。問題はこの新しい現実を当事者たちが、どれほどにリアルに理解し、どれほどに、そのテーマに立ち向かう気概があるか、ですが・・・。


おわりに:国民から「ノー」を突きつけられた安倍首相。

・安倍政権支持率はいま急降下
これまで安倍一強とされてきた、その背景にあったのが支持率の高さでした。その支持率(注)が7月に入ってからは一気に下落を始めています。それは安倍政権に対して国民は「ノー」を突きつけているというものです。そして、まさに安倍晋三氏の進退の如何にも繋がる状況です

(注)安倍政権への支持率:直近(7月7~9日)の世論調査では、その支持率は一斉に40% 
 を切って(日本TV:31%、朝日:33%、NHK:35%、読売:36%)いましたが、
7月17日公表された時事通信の調査では危機ラインとされる30%を切って29.9%と
なっています。しかも、その事由が、安倍晋三と云う人物が信頼できない、とするのが50%
に達している点、極めて問題と云うものです

これまで、安倍首相は2012年の政権交代の衆院選を含め、国政選4連勝と圧倒的な強さを誇ってきましたし、選挙の強さが党内での首相の求心力とされていました。その結果は安倍一強状況を生み、その下で強気の政権運営を続けてきたと言うものです。「野党には対案がない」として与党の政策を押し切り、世論も前の民主党よりはましだと容認してきたというものでした。

然しこうした状況は今、一変してしまっています。その事情は周知の通りで、先の国会終盤で見せた担当大臣の法案を巡る能天気な答弁、それを強行採決する自民党の強硬姿勢、更には憲法改正に係る予算委員会での質問に対し、安倍首相は‘自分の考えは読売新聞を読んでもらえればわかる’と、国会無視とも言える答弁に、世論も受け入れがたいほどに、政権の強引な体質を実感させられたというものです。加えて、頻発する場外での目に余る自民党議員の規律に欠けた言動、そして、その極め付きは、なんと都議選で見せた自民党幹部の振舞いでした。

因みに、投票日前日の7月1日、安倍首相は秋葉原で自民党候補の応援演説を行っていますが、その際、安倍反対を叫ぶ市民に向かって、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と市民を分断するような発言を発した事でした。実におごり高いものを感じさせる処、一気に反自民、いや反安倍の強風が吹きだしたというものでした。そして7月2日の都議選では自民党は歴史的惨敗を喫したのですが、まさに自明とする処です。

・「都民フアースト」の 勝利が意味すること
さてその都議選結果の内容ですが、小池百合子東京都知事率いる地方政党「都民フアースト」が擁立した50人の内49名が当選と完勝。他小池支持勢力と併せて79名と過半数(64議席)を上回る結果です。一方、これまで57席と第1党にあった自民党の議席は23議席と半数を割る激減です。地方選挙とは言え東京都議会選の推移は、そのまま中央政治に直結するものだけに、この自民党の歴史的とされる惨敗は、安倍一強と云われてきた自民党政治の基盤を大きく揺るがす処となっています。ただ、実際の姿は、自民党と対峙できる、政治信条に捉われない新政治団体「都民フアースト」が生まれた結果、それが自民党への不満の受け皿となり大勝に繋がったとされるのですが、民進党も大きく後退したこととも併せて考えると、「都民フアースト」の勝利とは、自民と民進という既成二大政党の敗北と同義語であり、政権を担ってきた既成政党の否定こそが都民の判断だったいう事ですが、これはフランス大統領選で見たマクロン現象の東京版と云う処です。

・今求められるゲームチェンジャー

安倍首相は、こうした傷んだ現状の修復、その失地回復、政権基盤の立て直しを図るべく、8月3日を目途に内閣改造、つまり一部大臣の首のすげ替えで一時の批判を潜り抜けようとしています。が、これまでと同様な内閣改造で支持率の回復、政権基盤の立て直しなど、はもはや覚束ないのが現状であり、要は、近時の世論調査も語るように、問題の本質は彼自身にある処です。

つまりは、都議選惨敗の背景について自ら分析し、そして今日に至った状況を総括し、その上で目指す政治を彼自身が語り直す以外に、新たな展開は期待できないと思料する処、いずれにせよ政策で政権浮揚を図るには、もはや弾が尽きてきているのです。
ただ安倍首相にとって唯一の救いは、民進党が都議選での「都民フアースト」の様に政権の受け皿になりえないという現実だと云われていますが、であれば、日本政治の流れを変えるゲームチェンジャーが待たれる処、つまりは ‘日本のマクロン’の登場です。
以上
posted by 林川眞善 at 17:48| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2017年06月26日

2017年7月号  いま顕在化する欧米の相克、そしてトランプ政治の行方 - 林川眞善

はじめに: われわれは ‘6対1’ の状況だった’
― タオルミナ・サミットのリアル
      
5月26・27日、イタリア、タオルミナで行われたG7サミットは初参加のトランプ氏を巡る事前の懸念を実に鮮明とするものでした。タオルミナはヨーロッパ最大の活火山エトナの麓にある町ですが、その活火山エトナの動きを反映したとでもいう事なのでしょうか。

今次タオルミナ・サミットでの主たる討議テーマは3つ、世界経済と貿易、北朝鮮問題を含む安全保障問題、そしてパリ協定を核としたクリーンエネルギーと気候変動問題でしたが、メデイアが伝える通り討議の主要部分で‘米と欧日加’の間で意見の対立が鮮明となるなど異例の展開を呈し、結局先進7か国の結束を示す事のないままに終えたのです。
因みに、ドイツは、ドイツの対米貿易黒字問題でトランプ氏の不合理なアーギュメントに遭い、温暖化対策について取り纏め役に廻ったフランスは「パリ協定への残留」をトランプ氏に説得に回ったが徒労におわってメンツを失ったこと、更にイタリアは難民支援への協調を求めたが不問にされるなどで、EU3カ国と米国との亀裂を鮮明とする処となっています。

そうした状況を語るのが首脳共同宣言のあり姿でした。共同声明はこれまで全会一致を建前として纏められてきています。然し今回、温暖化対策の国際的枠組みとなるパリ協定の取り組みについて、トランプ大統領が目下検討中で合意不可としたため、米国をはずし他6カ国首脳が同意する、つまり両論併記の異例の措置を余儀なくされ、極めて不満の残る結果となるものでした。
因みに首脳宣言の分量をみても、前回「伊勢志摩サミット」では、A4英文で32ページでしたが、今次サミットのそれは6ページと大幅減となっているのです。 各国が自国優先、多国間より2国間での取引といった傾向を強めていけばG7の政策協調はどんどん後退していく事ともなり、それは世界経済の縮みすら齎すものと危惧されるというものです。

会議直後、メルケル首相が「我々は6対1の状況だった」と、不満を漏らしたことに象徴されるように、今次サミットでの議論は詰まる処、トランプ氏がAmerica firstの下、あらゆる事案について、アメリカ主義を貫くことに拘ったため、日欧加6か国が米国と対峙する形になったというもので、要は、独善的な行動をとったトランプ氏一人にサミット会議はかき回されて終わったというものです。それは、先進国としての結束に向けたベクトルの希薄化を感じさせる、まさに‘欧米の相克’を露わにするものだったのです。そもそも何のためのG7サミットだったのか、と質したくなる処です。そして、その文脈は消えることなく、深まる形で今日に至っている処です。

・「危機の二十年」
序でながら、‘欧米の相克’の言葉に関連して、友人からの勧めもあり、E.H.カーの「危機の二十年」(原彬久訳、岩波文庫、2011)を読み直して見ました。このテーマの20年は、第一次大戦が終結してヴエルサイユ条約が結ばれて(1919年)から、ナチスのポーランド侵攻が始まり、第2次大戦開始(1939年)までのいわゆる‘危機の時代’と云われた戦間期の20年間です。

(注)「危機の二十年」:戦間期の国際環境とは、まず、ウイルソン米大統領が発表した「14条の平和原則」に即し、1920年には国際連盟が成立し、ただし米国自身、米議会のモンロー主義に遭い加盟せぬままにありました。そして1929年の大恐慌で各国が孤立主義に向かうなか、その解決のため1933年、ロンドンで国際連盟の主催で開いた世界経済会議では英米仏など利害が対立し、連盟が機能しえなくなっていった、まさに‘危機の時代’とされる期間です。
尚、本書オリジナルは1939年に上梓され、更に1981年に改訂版が出ていますが、日本語訳は1952年に出版され、更に第2版をベースに、2011年に再出版されています。

そうした危機の時代をE.H.カーは政治的に丹念に解剖することで、現在の国際政治学という学問体系が生まれてきたと言われていますが、確かにそこに示される国際政治、戦争と平和学の主要な基礎概念、分析手法を駆使すると現代国際政治危機の諸要素が見えてくるというものです。

そして、そうした作業を通じて彼は、政治とは結局、ユートピアニズム(理想)と、リアリズ(現実)との永遠の相克だと喝破するものですが、実はそうした状況が戦後70年たった今も続いているのです。因みに、先進国に広がるポピュリズム、北朝鮮問題を巡る関係国の相克、等々、国際危機蔓延を承知する処です。元より、今次パリ協定からの離脱を決めたトランプ政権の存在もその線上に位置づけられる処、Rogueとも言われているトランプ政権の独自性や揺れ動くヨーロッパの姿などがよく理解できるということで、今なお示唆深いというものです。

さて、かつてG7は世界のGDPの7割を占めていました。然し中国やインドの新興国の台頭でその比率は今や5割を下回る状況です。その点では自由貿易や温暖化対策も先進国だけで仕切れる時代は終わったという事でしょうし、上述サミットの新しい状況に照らすとき、実効性のある政策協調には中国やインドも含むG20首脳会議の役割は一層重要と思料される処です。そのG20サミットは7月、ドイツ、ハンブルグで 開催予定で、メルケル氏が議長を務めることになっています。さて、米国も中国も、そしてロシアも加わる会合で、どのような成果を出せるかですが、要はトランプ氏次第と云えそうです。

そこで、G7タオルミナ・サミット後について、つまり、更なる‘欧米の相克’を演出する背景として、とりわけメルケル氏の言動を通して見る欧州の状況と、米国の現状、つまりパリ協定からの離脱表明で内外の批判に晒される米トランプ政権、更にロシアゲート問題で行政の行き詰まり等、混乱にあるトランプ政治の ‘今’ にフォーカスし、併せて世界の生業の今後について考察していきたいと思います。 (2017/6/25)


目  次

1.タオルミナ・サミット後の欧州       ・・・・(P.4)

(1)メルケル氏のミューヘン発言
(2)Professor Joseph E. Stiglitz のエールと欧州の実状
  ・欧州の実状

2.内外の亀裂を深めるトランプ政治の実状   ・・・・ (P.6) 
 -パリ協定離脱、そして大型減税と予算教書

(1)パリ協定離脱とAmerica Only
  ・気候変動問題はhoax?
  ・トランプ氏は、明日ではなく、昨日の為に行動する
(2)中間層を裏切るトランプ2018年度予算教
 ―Trump’s epic betrayal of the middle class
  ・アメリカの現状を象徴する予算案
  ・トランプ大統領は何時まで?

おわりに: 国際協調秩序再生と日本への期待  ・・・・(P.10)
 ―米Princeton 大学. Professor Ikenberryの提言

  ・安倍首相とメルケル首相への期待
  ・問題は政治家の資質


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1. タオルミナ・サミット後の欧州

(1)メルケル氏のミューヘン発言
               
サミットが終わった翌日の5月28日、メルケル氏はミューヘンで行った選挙演説で、西側同盟はもはや終わった、とも取れる発言をしたのです。 [(注)メルケル首相率いるCDU(ドイツ・キリスト教民主同盟)の姉妹政党CSU(バイエルン・キリスト教社会同盟)が主催する選挙集会]

その発言のポイントは、英国のEU離脱が決まり、欧州事態も大きく変わろうとする中、メルケル氏は「米英やロシアを含む他の近隣諸国との友好関係が重要」との考えを示しながらも、今次サミットの二日間を通して感じた事として、「われわれが他者(米英を意味する処ですが)に頼れる時代はある程度終わった。我々欧州は自分たちの運命を自分たちで握るべきだ」(注)と云うものでした。この発言は欧州の‘脱米国’を示唆するものと、たちまちに世界を駆け巡ったこと云うまでもありません。

(注)Having alluded to Donald Trump and Brexit she concluded ` The Times in
which we could totally rely on others are to some extent over, as I have experienced
in the past two days.’ For good measure she added: `We Europeans must really
take our fate into our own hands.’  [ Financial Times May 28, `What’s brewing
in Germany? -How to understand Angela Merkel’s comments about America
and Britain.’]

こうした発言の背景には、今次サミットでのトランプ氏の行動はもとより、その直前に開かれたNATOサミットでトランプ氏がNATO条約第5条(いわゆる集団的自衛権の行使)への支持をなんら示さなかった(注)ことへの強い不満があったと、される処です。こうした事情を背景としたメルケル首相の ‘In our own hands’ 、事態を自ら掌握する必要がある、との発言は、欧州外交の転換点を示唆するものと映ると云うものです。

(注)6月9日、トランプ大統領はルーマニアのヨハニス大統領との共同記者会見で、「米国
はNATO条約、第5条を支持する」と、改めて表明したのです。

60年代のドイツ政界は対米同盟を重んじる「大西洋派」と、フランスとの連携を探る「ド・ゴール派」に割れていましたが、彼女はまさに‘Atlanticist’(大西洋派)で、頻繁にオバマ氏や G.W.ブシュ氏と今でも電話し、アドバイスを求める関係にある処ですが、トランプ氏については3月、ワシントンでの会談後、飛行機の中では彼に対する不信感を赤裸々にし、又英国のEU離脱についても世界舞台からの撤退だと軽蔑的批判を露わにしていたと伝えられていますが、トランプ氏の態度やBrexit問題が進行する中、フランスではマクロン大統領の登場をうけ、今後、ドイツが主導する欧州ではなく、continental Europeans (大陸欧州)としての一体化を進めていく事、そして防衛統合(注)やEU条約の改正、等、これら問題については、より大胆に、よりオープンにしていくことを確信したと言われています。そしてミューヘンでの発言はそれを規範として行われたとされるものでした。

    (注)ユンケル欧州委員長は6月9日、プラハの講演で「欧州防衛はもう外国に任せにはできな
い」と発言。その前、7日には、EUは武器の研究開発や調達など共同実施し、防衛力向上と支
出効率化を図る「欧州防衛基金」の設立計画を発表したのです。(6月10日,日経夕)

ミューヘンでの演説は云うまでもなく、一つはメルケル氏率いるCDUのバイエルン地区の姉妹政党CSU向けに、CDUとの一体化を強調すること、二つは9月24日のドイツの総選挙に向けての国内有権者へのアッピール、三つ目はその他EUメンバーに向けに、結束を訴える事、にあったと云われていますが、もう一つは米国と英国向けにあったというものでした。

ドイツでは多くがトランプ選出の事情も英国のEU離脱、BREXITも同一線上にあるAnglo-Saxonの身勝手な行為として、これをTrumpandbrexit と呼び、これにはアメと鞭をもって臨むというのですが、殊、安全保障については米軍に代わる「欧州軍」の構想のある処、今は米国と決別するというより、振り回されたくないというのが本音と見られ、そこで「米国離れ」を口にすることで、トランプ政権にブレーキをかけんとの思惑があってのことと見られているのです。とにかく彼女はEuropean wayを語り、以って行動せんとするものと云うのです。

・尚、トランプとメルケル両氏の言動は、ロシアに対して西側同盟の分裂を狙う機会を与えるこ
とになると警鐘を鳴らしながら、メルケル氏がTrumpandbrexit とBREXIT とトランプ氏とを
一括りにする点について、英国はパリ協定では米国サイドではなく、EU側に立っている事を承
知しながらも、ミューヘンのビアホールで英国や米国との決別を語り、しかもその二か国とロシ
アを同列に論じる姿は、歴史が繰り返される(第2次世界大戦では米英ロが共に戦った)ようで
背筋が寒くなると、5月30日付Financial Times(「Merkel、Trump and the end of the west」)は指摘するのでしたが、さてメルケル氏には如何ように届いていたことでしょうか。
こうした欧米の亀裂は、いま新たな世界のリスクとされる処ですが、現下の騒ぎは、欧州統合
と静かに進んできた「脱米国」の流れが、トランプ政権誕生をきっかけに表面化してきたもの
であり、この流れは、独仏を軸としたEuropeの再生となり、Anglo-Saxon,の英米に代わり、世
界の良識を主導する流れを誘導していく事になる、と見る向きは多く、とすればそれは前号で紹
介した‘Goodbye to the West’(J. Fischer)への回答ともなる処です。

(2)Professor Joseph E. Stiglitz のエールと欧州の実状

米論壇、Project Syndicateでステイグリッツ氏は6月2日付論考「Trump’s Rogue America」のなかで、rogue(ならず者)と化した米国のトランプ政権が進める「米国第一」政策は、地球環境を破壊する、無知蒙昧な政策であり、放置するわけにはいかないと、断じる一方、ミューヘンでのメルケル発言を最大限に評価し、今こそ欧州が一つになるべき時とエールを送るのです。 加えて、米国のパリ協定離脱に関して、気候変動が社会の存続に与える脅威に対処するにあたっては、米国には頼れないこと誰もが承知する処、欧州と中国が環境保護で未来に向けて努力する旨を約した(注)ことに触れ、地球にとっても、経済にとっても素晴らしい事と評価するのです。

(注)6月1日、トランプ氏がパリ協定離脱を宣言した当日、中国の李克強首相はベルリンで
メルケル首相との会談に臨み「中国はパリ協定の義務を果たしていく」と表明、更にG20では
「成功のために中国の支援を当てにしてくれてよい」(日経6月2日)と語った由ですが、これな
ど見えなくなった米国に代わって国際ルールを主導したいとの思惑一杯と云う処でしょうか。

・欧州の実状
さてステイグリッツ発言、‘今こそ欧州が一つになるべき時’ですが、その準備はもはや出来ていると言えそうです。つまり、EUの執行機関である欧州委員会では既にユーロ圏の統合深化と改革のたたき台を示しています。ユーロ圏の危機はひとまず遠のいていますし、国際環境の変化は再びユーロ圏の改革の再起動を促す処です。欧州委のたたき台は、ユーロ圏の共通予算を管理するユーロ圏財務省や常任のユーロ圏財務相、更に欧州通貨基金の設置を盛り込んだもので、難度の高そうな内容も敢えて掲げるものとなっています。要は財政面での統合がどこまで進められるかにかかる処でしょうが、そのカギを握るのは、改革に意欲的なマクロン新大統領の登場です。

彼は大統領就任直後のメルケル首相との会談でEU改革推進につき話を持ち出しています。勿論、EU改革を目指す彼女も前向きに応じていた事は周知の処です。又、マクロン氏率いる新党 La Republique en Marche ! (共和国前進)は6月18日、フランス国民議会(下院)選挙の決選投票で単独過半数を獲得し、彼の政治基盤を確かなものとしてきています。
そうしたマクロン・フランスとEUを主導してきたメルケル・ドイツ、この両者を中心に強いEUを目指す体制が整いつつあるというものです。これまで逆風ばかりが目立った欧州統合の風向きが、いま変わりだした事を感じさせる処です。近着、The Economist, Jun 17 の表紙は ‘ Europe’s savior’ の言葉と併せ、マクロン氏の写真で飾られています。


2.内外の亀裂を深めるトランプ政治の実状
― パリ協定離脱、そして大型減税と予算教書

(1) パリ協定離脱とAmerica Only

今次G7タオルミナ・サミットでは、「パリ協定」の実行について米国は留保した事、上述の通りでしたが、果せるかな6月1日、トランプ大統領はその「パリ協定」(注)からの離脱を正式表明しました。その決定が内外に与える影響の大きさは云うまでもない処です。

(注)パリ協定:2015年12月12日、パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組み条約締
約国会議)で採択された気候変動抑制に関する多国間の国際的協定(合意)。その内容は2020
年以降の国際的な地球温暖化対策の枠組みで、温暖化による気温上昇を「産業革命前と比べ2度
より十分低く保つ」ことを目標として、国の大小を問わず温暖化ガスの排出削減を目指す国際合
意。2016年11月4日、国連会議の議を経て、発効したが、その引き金を引いたのが最大排
出国の米国、オバマ米大統領と中国、習近平主席との連携動作に誘導されたもので、米中協調の
象徴ともされていた。参加国は197カ国・地域(2016年11月現在)。然し今回の米国の離
脱で非参加国は米国、シリアそしてニカラグアの3か国となる。

・気候変動問題はhoax ?
トランプ氏は予て気候変動に係る指摘は米国の雇用を破壊するための`hoax’ (でっち上げ)と非難し、「協定は米国にとって不公正、他国が米国を経済的に利用する仕組みだ。米国と米国民を守るため、協定から離脱する」と云うのです。彼は元々、環境規制に批判的な米経済研究協会(NERA)の試算に負うものと伝えられています。[(注):NERAの試算では「2040年までにGDP3兆ドル分が失なわれ、製造業から650万の雇用が消える」としている]

問題は、彼はパリ協定を「米国にとって不公正」と云うのですが、そもそも排出削減目標は米国自身が策定したもので、押し付けられた目標ではありません。つまり、パリ協定は各国がそれぞれの判断で目標を設定する、つまり国内政策を縛るものではないのです。従って、仮に公正でないというなら離脱することなく目標を引き下げればいいことで、仮に米国にとって不具合なことがあるなら協定の中にとどまり世界と共に環境問題に取り組むことの合理性を理解すべきだったはずです。その姿勢はとにかく米国第一で、それも公約の実行で人気挽回を狙っただけの政治行動と云うものです。

この5月、中東・欧州を巡る初外遊したトランプ氏に各国首脳は、G7サミットでもそうでしたが、パリ協定に留まるよう要請していたのです。ローマ法王フランシスコまでもが環境保護の重要性を説いた自著を贈り、残留を促していたのですが、それにもかかわらず、と云う処です。
オバマ前政権では温暖化ガスを「2025年までに05年比で26~28%削減する」との国別目標を表明し、途上国の温暖化対策支援の‘緑の気候基金’に30億ドルの拠出を約していましたが、これも白紙に戻ることになります。因みに、途上国は支援と引き換えにパリ協定に合意した経緯があり、米国の方針転換を受けて温暖化ガスの削減努力をやめる国が出かねず、地球の未来を守るという国際社会の努力に冷や水を浴びせることになったというものです。 

・トランプ氏は、明日ではなく、昨日の為に行動する
トランプ氏は、自分はパリではなくピッツバーグの人たちに選ばれた(Pittsburgh, not Paris ) と云い、この協定離脱の看板公約を有言実行することで、脱石炭に歯止めを掛け、炭鉱労働者の雇用を維持すると、その決定について自己弁護しています。それを聞いたピッツバーグ市長は直ちに、トランプ発言を否定。事実、ピッツバーグは既に重工業経済から先進クリーン・テック経済に転換し、`smart, fair ,and sustainable ‘な経済状況にあるのです。(注)

(注)米コロンビア大 Jeffrey D. Sachs教授は ‘Trump’s Climate-Change Sociopathy, Jun 7‘
でピッツバーグについてのトランプ発言は根拠のない`alternative facts’と批難しています。

因みに同市周辺一帯では今、クリーンエネルギー関連の雇用が鉄鋼とガス・石炭関連の雇用のほぼ2倍に達していると報じられています。温暖化対策として進められる技術革新、つまり温暖化ガスの排出削減への革新的な製造・物流技術や新エネ技術は、新たな産業や雇用の創出につながっているのです。米経済の重要な担い手であるITやエネルギー業界はそれに気づき、パリ協定離脱に異を唱える処です。 実際の処、米国民の多くはパリ協定残留を求めており、5月8日にエール大学が発表した世論調査では69%が残留を支持、離脱派は13%に留まっている由です。とすれば、彼は「明日ではなく、昨日の為に行動している」というもので、このままでは米産業の競争力の劣化は避けられず、経済成長の停滞にも繋がりかるものと危惧される処です。

一方、自治体ベースでもパリ協定に基づく温暖化対策を独自に実行しようとする動きが相次いでおり、メデイアによるとニューヨーク、カリフォルニア、ワシントン州の3州の知事は協定の内容を遵守する同盟(United States Climate Alliance)を結成し、全米85都市の市長も同様の措置を取ると発表しています。(Financial Times, Jun. 5)
米国では州政府は中央政府の方針に捉われることはなく、基本的には独自に行動する事が認められていますが、これまでこうした政府の方針と州政府の行動が異なるような事態は起こってはいません。その点で、今次は、まさに異例の様相と云え、国の分断症状とも映る処です。 

今回のパリ協定からの離脱、先のTPPからの離脱、NATOの軽視、そして5月のタオルミナ・サミットでの独善的振る舞いも含め、言うなれ米国第一主義の下、戦後70年間、米国が主導してきた国際協調の枠組みをないがしろにする、自分の為だけの行動様式にあるトランプ氏の姿は、もはやAmerica First と云うよりAmerica Onlyと映る処です。

米外交問題評議会のリチャード・ハース会長はこうしたトランプ氏の外交政策について「この最大の受益者はロシアと中国だ。米国はその代償を真っ先に払う事になる」と指摘するのですが、
冒頭 ‘はじめに’で触れたように、そのロシアや中国、勿論トランプ氏も、出席するG20サミット会議が7月ドイツ、ハンブルグで開催され、メルケル首相が議長を務めます。そこでの議論の帰趨の如何は今後の世界の生業を規定していく事になる処ではと思料すると共に、緊張感を禁じ得ません。。

(2)中間層を裏切るトランプ2018年度予算教書
―Trump’s epic betrayal of the middle class (Financial Times, May 25) 

上述環境のなか5月23日、トランプ政権は2018年度(2017年10月~2018年9月)予算教書を上下両院に送付しました。マルバニー米行政管理予算局長によれば「予算案にはトランプ政権の経済政策のすべてが詰まっている」(日経5月31日)のだそうです。尤も、税財政の立案・決定権は全て議会にあり、アメリカの大統領には予算編成権はありません。その点では、トランプ予算教書は「タタキ台」にすぎ、今後の議会での審議の如何となる処ですが、その概要が発表されるや様々な波紋を投げかけています。

・アメリカの現状を象徴する予算案
今次予算教書の内容は、税制改革を軸に4年後の2021年度(20年10月~21年9月)以降は安定的に3%成長に誘導していくとするものです。(注:足元の景気は平均成長率が2%と戦後の回復期で最も低い) そして‘成長’を以って2兆ドルの歳入増を見込む一方、歳出については最大規模3.6兆ドルの削減とし、10年で財政収支の黒字転換を図る設計となっているのです。

然し、歳入に直結する税制改革、つまり大型減税措置ですが、これがトランプ氏の最大の公約であり、本教書の最大の焦点となるものですが、財源確保の見通しからは、その実現は困難な様相にある処です。一方、3.6兆ドルの歳出削減の内容を見ると、貧困層保護や開発援助、環境対策、 基礎科学研究などの予算が大幅に削られる一方で、軍事費などは大幅増額となっているのです。つまり、彼が売りとしていた‘低所得者の底上げ’公約は極めて難しく、彼を支持してきた低所得者等中間層を裏切る内容となっているのです。いま少し、具体的に見て行きまでょう。

まず法人税減税です。現行35%の税率を15%に大幅引き下げ、企業の国内投資を後押しし「偉大な米国を取り戻す」とするのですが、これには議会が税収減を懸念しだしている事情があることです。つまり、議会共和党が検討中の「国境調整税」(月例論考N60)ですがこれが輸入課税の強化となり、10年で1兆ドル超の税収増の見込める処、目下、「税制改革は歳入の中立が求められる」とする議会の強い反対に遭って、国境調整税は見送りなる公算が出てきたという事です。となると機会損失となる1兆ドル分を確保する為にも法人税率の決着点は15%でなく25%程度にとどまる可能性があり、トランプ氏の云うような「低税率国並み」の税率引き下げは難しいというものです。

企業減税以上に問題なのは個人所得税の引き下げです。個人所得税については現行7段階(最高税率39.6%)を、3段階に簡素化し、10%、25%、35%に引き下げるというのです。ただ、所得税の最高税率を引き下げるとは言っていますが、それで「中間層を大胆に減税する」という公約は果たせそうはありません。周知の通り労働者は、金融危機(2008年)以降、格差拡大に不満を強め、これに応えてトランプ氏は大型減税で労働者を底上げすると公約し今日に至っていますが、実は低中所得層の減税余地は乏しく、公約は空手形となる様相にあるのです。
 
つまり、最高税率の引き下げなどはそのまま富裕層減税となり、米調査機関によると減税の8割は所得上位2割の層に向けられると云うのです。(日経6月3日) 更に先に触れたように、予算教書では低所得者向けの医療保険や生活保障などを10年で1兆ドルの規模でカットする事とされており、大統領選でトランプ氏に投票した支持層が打撃を受ける内容と云うものです。

かくしてトランプ政権の改革は、富裕層減税と低所得者層の給付カットによる「小さな政府」路線へと一気に傾きつつある処、前掲Financial Times の云う ‘epic betrayal of the middle class’ つまりトランプ予算教書は、彼を支持した「中間層を裏切る」内容となっていると云うものです。
‘金持ちは一段と金持ちに、低所得者は更に生活が困窮していく’ 、まさにアメリカの現状を象徴する予算案であり、それはトランプ氏の公約とは真逆の姿を呈する処です。そして、それは又彼の政治に対する無知さを実証する処でもあるのです。

・トランプ大統領は何時まで?
さて、6月12日、ホワイトハウスで初の全閣僚が集まった閣議が行われ、その様子がTV放映されました。そこに見る絵は、居並ぶ閣僚全員が大統領を‘よいしょする’ばかりの図であり、トランプ氏は、この約5か月の実績を自画自賛するだけで、何か一家団欒と云った様相です。
然し、ホワイトハウスの外では、上述(1)、(2)の通り内外共にトランプ政治への批判が強まる中、ロシア疑惑に係るトランプ政権への不信感は益々深まるばかりで底なし沼の状況です。
因みに、「ロシア疑惑」に絡む調査対象者がトランプ大統領をはじめ、セッションズ司法長官、フリン前大統領補佐官、クシュナー上級顧問、マナフォード元選対会長というトランプ現政権のbig nameと向き合うとき、さてトランプ大統領は何時まで持つものかと、ついつい思う処です。 


おわりに: 国際協調秩序再生と日本への期待
―米Princeton Univ. Professor G. John Ikenberryの提言

上述、欧米の深まる亀裂、とりわけrogueと言われるトランプ米国がAmerica first 主義の下、閉鎖的な政策を展開することで、世界はいま不確実性を高めるばかりにあります。それだけに自由な活動が担保され、秩序ある国際経済を如何に取り戻すか、切迫感をもって議論される処ですが、米Foreign Affairs 5月号の巻頭に載った米プリンストン大学ウッドロー・ウイルソン・スクール、G.J.アイケンベリー教授の論考 ‘ The Plot Against American Foreign Policy – Can the Liberal order survive? ’ は、まさに斯界の関心を集める処です。

その趣旨は、戦後70年間、これまで米国が主導してきた国際協調の枠組みを壊していくトランプ外交政策のリアルを地政学的切り口から解析、批判し、その対抗として、Liberal international order( LIO:自由で開かれた国際協調秩序)を取り戻せというものです。 つまり、America first を掲げるトランプ政権の誕生で、米国は戦後果たしてきた‘Liberal international order’ ( LIO:自由で開かれた国際協調主義)を守る役割を放棄してしまったように振舞っているが、おそらくそれは失敗に終わるだろうから、世界のnew leaderは連携して、Liberal international order(LIO)の再生を目指せというのです。

つまり、クリントン政権やブッシュ政権の押しつけがましい民主主義推進外交の失敗の経験にも照らしながら、それでも民主主義体制が共有する自由主義、国際主義、多角的ルールと国際機構などは、それを維持できれば平和と繁栄の礎となりうるし、実際その機能を果たしてきたこと、そして、それをユーザ・フレンドリーに運営してきたのが米国だったが、その米国が姿を消した今、早急にLIOの再生を目指せと、云うものです。

・安倍首相とメルケル首相への期待
ここで興味深いことは、アイケンベリー教授は、日本の安倍首相とドイツのメルケル首相を特定して、米国がその責任を放棄した今、LIOの再生、つまり民主主義促進外交は、この二人の双肩にかかると云うのです。そして、具体的には、米国の後退政策でアジアは米国抜きの地域秩序に向かうだろうから安倍首相はTPPをモデルに自由貿易を進めること、またメルケル首相には、道徳的な旗印を掲げ続けるべしと、主張している事です。(注)

(注)Abe should keep promoting liberal trade agreements, modeled on the TPP, and
Merkel, as the leader of the country that perhaps most embodies the virtues and
accomplishments of the postwar liberal order, is uniquely positioned to speak as the moral
voice of the liberal democratic world. 

殊、日本については、周知の通りTPP対応は米国抜きで、目下、日本が主導する形で具体化が進みつつある処ですが、米国不在をむしろ歴史的機会と捉えることで、彼が指摘するように、より積極的なアジア外交を探求するときと受け止められる処と思料されるのです。尤もこうした期待は、日本にとって荷のかちすぎる処かもしれません。然し、アジアの秩序形成にLIOを根付かせていくことは、日本の通商と安全保障、そして地域秩序の長期的な戦略を構築していく上で、不可欠なことと思料される処です。であれば、この際は、日中首脳の相互訪問も俎上に上る環境にも照らし、中国をも包み込む長期ビジョンを描くとき、とも思料するのです。まこと結構なご託宣と云うものです。とすれば、この際は、世界の日本たるの矜持を新とし、以ってこれら期待に応えていくよう、戦略準備を目指すべきと思料するのです。

・問題は政治家の資質
それにしても、気がかりな事は、日本の政治です。と云うよりも政治家の資質と云うべきでしょうか。昨今、目の当たりにする彼らの言動は、安倍一強と云われる政治環境に胡坐をかいた、‘たるみ’、‘ゆるみ’満載の状況にあり、まさに危機をばらまく様相と映るのです。 6月18日で通常国会は閉会となりましたがそれまで連日、TVに映りだされる国会運営の姿は、蕎麦屋談義ならぬ、かけ(加計学園)だ、もり(森友学園)だと、審議は踊り、共謀罪法案を巡っては、担当大臣が自らの無能さを曝け出すような答弁に終始する等々、全く緊張感を欠く様相に日本の政治は大丈夫かと、思いは募るばかりです。

そうした事の本質は、やはり歴史的パースペクテイブを持ち合わすこともない、己を見つけることのないままにあるという事と思料するのです。それはまさにジャパン・リスクと云う処でしょうが、このリスク克服には、高い自覚と豊かな歴史的パースペクテイブを如何に持ち続けるかに尽きるものと思料するのです。さもなければアイケンベリー教授のリクエストに応えることはできないでしょう。
その点、冒頭でリフアーしたH.E.カー「危機の二十年」を彼らには今一度、読み返してみてはと、思うことしきりです。

以上

posted by 林川眞善 at 18:33| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2017年05月26日

2017年6月号  欧州の潮目を変えたフランス大統領選、そして世界は今 - 林川眞善

はじめに:いま、二元化症状の世界 

・回復進む世界経済
世界経済は、北朝鮮という地政学リスクや、後述、トランプ政治が誘引するトランプ・リスクに見舞われながらも、思いのほか順調な回復を辿ってきています。

4月20日、ワシントンで行われたIMF会議の冒頭、レガルド議長は18日に公表されたIMFの2017年世界経済予測(注)をリフアーし、 ‘Spring is in the air and spring is in the economy‘(Financial Times, April, 22/23)と世界経済の回復基調を強調するのでした。

  (注) IMF、実質成長率見通し(2017年、2018年)、
       世界  日本    米国   EU  英国   中国  
2017 3.5 (0.1) 1.2(0.4) 2.3(0.0) 1.7(0.1) 2..0(0.5) 6.6(0.1)
2018  3.6(0.0) 0.6(0.1) 2.5(0.0) 1.6(0.0) 1.5(0.1) 6.2(0.2)
[単位:% カッ内は1月予測からの修正幅]

IMFが上記の通り、見通しを上昇に修正したのは過去6年間で初めての事だというのですが、その大きな要因は懸念されていた中国経済の失速が回避されたことにあると云うもので、今年1~3月期の中国経済の成長率は年率換算6.9%となっています。又、米国についてはトランプ・リスクが付きまとう処ですが、例えばペンス副大統領のおひざ元のインデイアナ州のコロンバスは多くの外国企業を誘致し成功しているとも伝えられ、かつて自動車不況に見舞われたデトロイトも今や高級マンションブームが報じられるなど、地域経済復活の様相が伝わる処です。因みに4月の米雇用統計(5月5日発表)は、景気動向を敏感に映す非農業部門の雇用者数は前月比21.1万人増、失業率も4.4%と約10年ぶりの水準に改善を示すなど、いまや労働市場には逼迫感が滲み始めている状況にある処です。

勿論、日本経済の上向き予想も、中国を起点にアジア経済全体が上向いたこと、米経済の回復が、日本の輸出の追い風に負うものであり、この輸出の持ち直しで生産が上向き、17年度の企業の設備投資計画も例年を上回る状況にある処です。因みに18日、内閣府発表の2017年第1四半期のGDPは年率で実質2.2% 増と穏やかな景気回復が続いています。 要は、米中の景気が共に底堅く、商品市況も底打ちしたと見られ、新興国、資源国も持ち直してきたとみられる処です。政治の世界では想定外のことが普通の出来事になりつつある中、経済の日常はそんな政治とは距離を置きつつあると映る処です。

・リスク一杯の国際政治
もとより、経済の安定の為には政治の安定が絶対的に不可欠であること云うまでもありません。その政治を今、不安に追いやっているのが、米トランプ政権の独善的な政策行動であり、BREXIT,英国のEU離脱という事態にあること周知の処です。それは具体的には、成長経済に取り残されたとされる市民の不平、不満が、それまでの政治の不備を批判する形でpopulismを生み、それが、今日の成長構造を支えてきた‘自由貿易’、‘グローバ化’を否定し、保護主義、孤立主義、更には人種差別的な移民拒否の行動に向かわせるなど、その在り姿は大きな政治リスクと映る処です。そして、そうしたリスクは更に、米英の事情とも呼応する形で、欧州でも蔓延しつつある処ですが、そうした環境の中、フランスで進められた今次フランス大統領選挙は、従来に増して世界的な関心を呼ぶ処となっていました。

今次フランス大統領選も周知の通り米国同様、ポピュリズムを背にグローバル化拒否、反EUを掲げる極右政党のルペン候補と,中道の旗を掲げ、EU諸国との連携強化を通じて経済の活性化を目指す若干39歳のマクロン候補との決戦となりましたが、結果は米国のケースとは対照的に中道のマクロン氏が極右のルペン氏を抑え圧勝。その圧勝こそはEUへの信頼回復を示すものと、評価されるものでした。
さてマクロン氏にとって問題はこれからですが、そのカギは分裂気味のフランスを如何に纏めていけるか、そしてEUの統合再生を如何に進めていくかにある処です。もとより、その成否のほどは今後の欧州の在り姿を規定していくことになり、更には、世界の生業にも大きく変化を促す処と思料されます。こうした事情に照らし、世界の関心は、当分欧州に向けられるというものです。因みに、6月のフランス国民議会選に続き、9月にはドイツで総選挙が、更にはイタリアでの総選挙が予想されるなど、今後の欧州の政治経済を占う大きな動きが続く処です。勿論6月の英国の総選挙を含めてです。

そこで今回は、フランス大統領選にフォーカスし、併せて、新たな潮流と対峙する世界の今について考察する事としたいと思います。
(2017/5/25)




 目 次

1.フランス国民の選択            [ P.3 ~ 7]

(1)フランス国民が選択した大統領は
弱冠39歳のE. Macron 氏            
 ・Macron who ?
(2)フランス国民の投票行動 - マクロン大統領を生んだ事情
 ・マクロン氏は消去法の大統領?
 ・傍流が本流に
(3)欧州の潮流を変えたフランス
 ・Macron’s triumph offers hope for France and EU
・欧州の潮流を変えたフランス、そして

2. フランス大統領選後の欧州と世界 [ P.7 ~ 10 ]
  
(1)Macron’s mission
   ― The Economist(2017/5/13)
(2)独仏首脳会談とユーロ改革
 ・独仏蜜月関係の演出
(3)G7サミット、シチリア会議
・`Goodbye to The West‘

おわりに:5月3日「憲法記念日」のできごと  [ P.11~13 ]
 ・安倍首相の突然の改憲提案
 ・改憲に思うこと     
 
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


1.フランス国民の選択

(1) フランス国民が選択した大統領は弱冠39歳のE. Macron氏

4月23日のフランス大統領選の第1回投票で勝利した中道系独立候補のマクロン氏が、極右政党のルペン候補と決選投票進出を決めた折、4月29日付The Economistは ` Win or lose, Emmanuel Macron has revolutionized French politics ‘ と題し、彼の第一回投票の勝利はフランス政治の改革を齎す処、仮に決選投票で負けたとしても、それだけでも意味のある事と評していたのですが、果せるかな、5月7日の決選投票でも、マクロン氏はルペン候補を抑え、勝利し、5月14日、正式に大統領に就任しました。弱冠39歳のフランス大統領の誕生です。1年前までは実質的には無名とも言える存在だった彼が(勿論オランド政権で経済大臣を張っていた仁ではありましたが)、大統領選に勝利するとは仰天動地と受け止められるほどの出来事でした。

・Macron who ?
さて、Macron, who ? ですが、メデイアによると、マクロン氏(39歳)はフランスのエリート官僚を養成する国立行政学院(ENA)を卒業。2008年から12年までロスチャイルド家で投資銀行業務に携わったのち、12年オランド大統領(社会党)の顧問に抜擢され、14年には経済産業・デジタル相に就任(36歳)。2016年4月、超党派の政治運動「En Marche !」(前進)を結成。今次選挙に備え同8月、閣僚を辞任、既成政党には属すことのなく中道主義の下、
‘欧州統合を支持し、開かれた経済を堅持する’との立場を以って選挙戦に臨み、5月7日の決選投票を経て、フランス政治史上最年少の大統領となった仁です。大政党に属さない大統領誕生は、現在の第5共和制(1958年)が始まって以来の初の出来事とされるものですが、それは同時にフランスにおける政党政治の構造変化を映す処です。 序でながら彼は25歳も年上の既婚女性と結婚していますが、これは自信の高さの証と、仏モンテーニュー研究所主席顧問ドミニック・モイジ氏は云うのです。(日経5月9日)

(2)フランス国民の投票行動 ー マクロン大統領を生んだ事情

・マクロン氏は消去法の大統領?
既成政党の、左派・右派を破り、極右の進出を止めたマクロン氏の勝利は、数字的には圧勝です。
具体的に第1回(4月23日)の投票結果は、既成政党の後退を鮮明とする一方で、右や左の極端な政策を掲げる反既成政党候補への支持が高まるといった新しい変化を映すものでしたが、その間をぬっていずれにも属さないマクロン氏が優位に立ったと云うものでした。

つまり、具体的に投票数の流れを見ると、第1回投票では無所属のマクロン氏が全投票の24%を獲得して1位に、これに対して既成政党の候補者二人、共和党の前首相、Francois Fillon氏は20%で3位、社会党のBenoit Hamon氏 は6%で第5位といずれも後退。一方、対抗馬とされる極右政党のルペン氏は21%で2位、そして共産党が支援するJean-Luc Melenchon氏が19.6%の得票で4位となっています。更に上位2人、マクロン氏とルペン氏との間で争われた決選投票でも、ルペン氏の34%に対して、マクロン氏は66%と圧勝する形となったのです。

が、実態は消去法による結果とされる処です。つまり、上述、投票結果は、これまでフランス政治を主導してきた2大政党(共和・社会)への不満が募る形で彼らの後退を余儀なくさせた一方、極右の候補が2位に、極左候補が4位に入るなど、極端な政策を掲げる候補への支持を際立たせ、まさにフランス社会が抱える既存政治への不満を浮き彫りさせるものとなっていました。そうした中、本命とされていた共和党のフィヨン候補が政治スキャンダルで失墜したことで、マクロン氏は大統領の座を手にしたとされています。
要は、「極右のルペン氏は論外だが、マクロン氏も嫌い」と云った中で、消去法の結果として生まれた大統領と言われる処です。が、それ以上に、社会党の崩壊とも言える衰退ぶりは一層鮮明となったことに、今次選挙の最大の意味があると指摘される処です。

かくして、フランスでは1958年、ドゴール将軍が大統領権限の強化を狙って敷いた第5共和制の下、保革2大政党(共和党、社会党)による政治を基本軸として行われてきましたが、その60年を経た今、長きに続く高水準の失業問題等、何も問題解決に向かわない‘政治’、つまり既成大政党の政治への不満を募らせた有権者の投票行動が、上述、大政党に属さない大統領を生んだと云うもので、そうした彼の誕生は、フランス政治の構造変化と映る処です。

・傍流が本流に
さて、こうしたマクロン氏の大統領としての登場は、まさに傍流のリーダーの登場ですが、その傍流がいまフランスで本流となるというものです。勿論、フランスでは今なお文化的、社会的な背景もあって左右の対立が強く残る処ですし、本流を確立するには依然問題多々とされる処です。ただマクロン氏は「政治に右も左もない」を信条としている点で、今後、対立軸の解消を目指す処でしょうし、これまで曲がりなりにも「左翼」の求心力となっていた社会党が右と左の細かな集合に分裂してきた状況に照らすとき、今後は文化的、社会的なアイデンテイテイとしての「左翼」も希薄化していくものと、慶大教授、竹森氏は指摘するのです。(日経5月16日)

(3)欧州の潮流を変えたフランス

・`Macron’s triumph offers hope for France and EU’
5月9日付Financial Timesは`Macron’s triumph offers hope for France and EU’と題する社説で、Macron氏の勝利は、フランスはもとより全EU にとって素晴らしい事だとし、ルーブル美術館広場で行われた祝勝会で、EUと共に歩むフランスを演出するほどに、the EU’s anthem、EUの国歌とも擬せられるベートベンの交響曲第9「歓喜の歌」が流されたと事にも言及しつつ、彼はpro -European 、つまり欧州主義者であること、そして欧州大陸の価値観を堅持し、欧州各国の人々の結びつきを再び築き上げていく事になると、書き出すものでした。そして、その筆致には、なにか興奮さえ覚える処です。その一部を以下に紹介しておきたいと思います。

「The alacrity European leaders showed in congratulating Emmanuel Macron on his emphatic victory said it all. France’s president’s -in-waiting is an assiduous advocate of openness and internationalism. He is committed pro-European, who marched on stage on Sunday night to the strains of the EU’s anthem and pledged in his first address to defend the continent’s values and rebuild its links with citizens. Above all, he is not Marine Le Pen. ・・・If he fails, Ms. Le Pen will back next time。」

さて、問題は上掲、社説でも‘ If he fails, Ms. Le Pen will back next time.’と締めていますが、通俗な言い方をするすると、彼女は彼の失政を待っているという事でしょうか。具体的には彼の政治基盤です。6月には国民会議(下院)選挙を控えています。彼が目指す政策を実行に移していく為には議会での過半数の議席確保が不可欠です。議席数ゼロからの出発で、577の議席の過半数を1か月で獲得できるか。大統領当選後直ちに「En Marche !」を政党登録し、政党名も「共和国前進(Le Republique en Marche!)」に改め、新党を軸に多数派工作に入っていると報じられていますが、17日発表されたマクロン政権の閣僚名簿では、議会選挙をにらんだバランスのとれた超党派内閣の様相にあり、世論調査では共和国前進は高い支持率にあると報じられています。 因みにルペン氏は決選投票では得票率は約34%ながら、獲得票数は1000万票超とされ、その存在感の高さを窺わせる処です。

・欧州の潮流を変えたフランス、そして・・・
勿論、フランスと云う国は、米国ほどの国際的な役割を負うものではありません。然し、マクロン氏が新大統領として成功するかどうかかは、前掲Financial Times 社説の通りで、フランスにとっては勿論のこと、欧州をも超える重要な問題と意識される処です。 戦後、進められてきた欧州統合は英国の離脱決定で大きく揺らぐ処でしたがフランスが、大統領選の結果を以ってEUと共に歩み、欧州統合の強化を目指すとしたことで、それは米国でのトランプ政権の誕生を追い風にしようとするポピュリスト政党の勢いに、ひとまず歯止めをかけることになったというものです。 昨年12月のオーストリア大統領選、今年3月に行われたオランダの総選挙でも極右政党の進出が阻止されていますが、今次のフランス大統領の選挙を以って、大陸欧州が世界を渦巻く反グローバルリズムの圧力を押し戻したという事で、フランスという国がいま世界の命運すら握るほどに潮流を変えることになったのです。 

こうした潮流変化を捉え、Financial Times のColumnist, Gideon Rachman氏は` Macron, Le Pen and the limits of nationalism ‘ (4月25日)と題する中で、 今次フランス大統領選は国際政治における新たなトレンドを裏付けるものとなったとし、具体的には、どの国においても、最も重要な政治的分断はもはや左派か右派かという構図ではなく、nationalist (国家主義者)か、internationalist (国際主義者)かという構図になったと指摘するのでした。

つまり、昨年、2016年は、英国が国民投票でEUからの離脱を決め、米大統領選ではトランプ氏が勝利したことで国家主義者にとって躍進の年とされるのでしたが、今年は、今次のフランス大統領選を以ってフランスと欧州大陸の大半の国々は、国際主義者の側に残ることになる年と見られていたということで、それだけに、マクロン対ルペンの争いは国際的なイデオロギーの対立の一部を成すものと見られ、そこで世界はフランス大統領選の行くへを極めて注目する処となったと言うのです。
今回のマクロン氏の勝利を国際政治の文脈に絡ませ整理すると、ブリュッセル在のEU本部とドイツ政府には安心を与える一方で、クレムリンとホワイトハウスでは失望を買い、そして英国は複雑な気持ちをもって、その結果を受け止める、そういった関係図が描けると云うものです。


2.フランス大統領選後の欧州と世界

(1) Macron’s mission ― The Economist(2017/5/13)

さて、そうした環境のなかThe Economist(2017/5/13)は、`Macron’s mission’ と題した巻頭言で、過去20年間、フランスは経済の停滞、人種問題、更には変化することへの抵抗等々、とにかく批判に甘んじることばかりだったが、いまフランスは`open to change’を叫ぶMacron 氏の登場で、極右政党の云うような破壊的な状況からフランスも、そして欧州も救われたと、政治環境の大きな変化を強調するのでした。・・・he created a new political movement and bested five former prime ministers and presidents. His victory saved France and Europe from the catastrophe of Marine Le Pen and her far-right National Front.と。

そして彼には、これまでのフランス大統領の失政に照らし、まず10%と云われている失業率の改善にフォーカスし、しかも早急に、またいまそれができる状況にあるとして、そのspeed and ambitionを以って行動することで欧州におけるフランスのポジションは飛躍的に上がるとし、同時に早急にベルリンに出向き、EU基盤の再構築について議論すべきとadvice するのでした。それは、1975年、当時の石油ショックで不況に見舞われていた世界経済の再生を目指し、シュミット当時西独首相と連携し、今日のG7サミットに繋がる初の先進国首脳会議(G6)を主催したジスカール・デスタン仏大統領にも擬せんとするものとも映る処です。勿論、5月26・27日イタリアで開かれるG7サミット(後述)にマクロン氏は初見参です。

5月14日、マクロン氏は大統領就任に臨み、内政、外交について次のように語っています。
まず、任期5年間を「国民の融和、自信回復にささげる」とした上で、経済の立て直しに向け、
労働市場の規制緩和、中小企業支援への取り組み、等を約すと共に、国際関係では、持論の国際協調や、EUの基盤の再構築を、改めて強調していました。そしてフランス社会を覆う「経済的、社会的、政治的な分断を克服しなければならないと決意を表明したのです。(日経、5月15日)

(2)独仏首脳会談とユーロ改革

マクロン氏は大統領就任の翌15日、初の外遊先としてベルリンを訪問し、メルケル首相との首脳会談に臨み、そこではEUを巡る課題への対応について協議を始めていますが、上掲、The Economist のアドバイスを地で行く姿と映る処です。ここで興味深いのは、メルケル首相が、マクロン氏が唱える経済危機に対応するユーロ圏共通予算の創立について「意味があるなら、(ルールを定めた)欧州条約は見直せる」と述べたと伝えられたことでした。

・独仏蜜月関係の演出
マクロン氏提案のユーロ圏共通予算とは、詳細は不明ですが、要は創設した予算を加盟国への投資や経済危機への対応に充てると云うもので、この際はギリシャに始まった債務危機を止められなかった反省もあるとも伝えられています。この案については、ドイツは財政の肥大化に繋がることなど、懐疑的な見方にあると言われていました。が、この際は、メルケル氏はあえて不協和音の出ている部分で踏み込んだ発言をすることで、独仏関係を発展させる姿勢を示したものと見受けられる処です。まさに独仏蜜月を演出する処です。
この演出の背景には、言うまでもなく英国のBREXITがあり、自由貿易や「パリ協定の軽視」と云ったトランプ米政権の動きがあり、勿論、ポピュリズム政党の台頭と云ったEU内の悩みもあっての事でしょうが、このタイミングで独仏の強い結束を示す必要があったというものです。因みにEUの結束強化に向けた中期的な行動計画を作ることで合意、7月には両国の閣僚会議を開くことになった由です。

尚、6月には英国やフランスの議会選挙が、更には9月にはドイツの総選挙を控えるところですし、イタリアは来年3月の任期満了前の総選挙を探ることになっていますが、ポピュリスト政党「5つ星運動」が政党支持率でリードしているとも伝えられており、まだリスクが消えたわけではありません。ただEUの基軸である独仏が安定しつつあることで、市場はメルケル氏とマクロン氏を中心とした欧州再生の行くへに目を向け始めた事は確かと云えそうです。ドイツでは14日行われた州議会選、地方選ですが、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が勝利し、秋の連邦議会選への弾みをつける処となっています。

(3)G7サミット、シチリア会議

さて、本稿のテーマとする ‘フランス大統領選後の世界はどのように進むと見るか’ 、それを占う格好のeventが5月26・27日、イタリアのシチリア島で開催されます。第43回 G7サミットです。そして、今回の会合はこれまでになく注目度の高いものとなりそうです。と云うのも7か国首脳の内、メルケル独首相、日本の安倍首相、カナダ゙のトルドー首相以外の4人、即ちトランプ米大統領、メイ英首相、マクロン仏大統領、イタリアのジェンテイローニ首相はいずれも初参加で、1年前の伊勢志摩サミット開催時には予想されてもいない顔ぶれと云うものです。中でも台風の目となるのは、云うまでもなくトランプ氏でしょう。

G7の生い立ちは前述(P.7)した通りで、第一次石油ショック等で、危機的な混乱にあった
西側(The West)経済の回復・改革のため先進6か国が連携、事に臨もうと1975年、フランス
のジカール・デスタン大統領が主導して開かれたトップ会合です。これまで続けられてきた背景にあるのは、冷戦期の西側同盟の連帯感と、自国の経済の安定成長は自由貿易体制と世界経済の繁栄に分かちがたく繋がっているという意識であり、中でも冷戦終結後もグローバリゼーションの進展が望ましいとする感覚が、サミットを継続させてきたと云うものです。

処が今回、問題とされるのが、戦後秩序の基軸だった米国とそれを支えてきた英国の両首脳が、サミットのこうした歴史的背景から外れた立場にあるという事です。
つまり、サミットの歴史の中で始めて、自由貿易へのコミットメントという基本的な命題について議論が分かれる可能性が出てきたという事です。その姿は有態に言えば、前述(P.6)のnationalist とinternationalist が対峙する場、つまり米英 対 EU3か国の独仏伊が、尤もイタリアは議長国ですが、対峙し、これに国際主義の下、日本とカナダが参加する構図となる処です。
こうした環境にあって自由貿易を巡る議論を進め、G7として目指すべき方向を探るとすると、
それは、欧州勢の目指す「自由貿易」と米国が主張する「公正貿易」の折衷的な合意形成を探ることになるのでしょうが、その合意形成、つまり自由かつ公正な貿易、に成功すれば、世界経済に一定の安心感を与えることにはなるのでしょう。そうした合意ができなければ、世界は偏狭な国益を優先し、正義より力が支配する無秩序に回帰しかねないと云うものです。

もう一つの問題は、安全保障問題を巡るトランプ政権と欧州3か国との間に構造的とも言えるズレが起きている事です。英独にとって安全保障上の最大の関心事はロシア、仏伊にとっては北アフリカで勢いを増すイスラム過激派の脅威を優先する処ですが、一方のトランプ大統領は初の外遊先として、イランを脅威とみるサウジアラビアを訪問、現地では「イランを孤立させねばならない」と刺激的な演説をしていますが、それが示唆するように彼の関心は中東にある処です。
もっとも彼には体系的な政策構想は感じられませんが。

さてこうした状況で、どこまで深堀した議論ができるのか、そしてG7としての結束、つまり国際秩序維持への結束を世界に示すことが出来るか、或いは、これを機会に先進7国は、nationalist
の米英、internationalist のEU、が独自の利害関係を整えながら進むことになるのか、まさにG7サミットは岐路にあると言え、明日から始まる議論の推移は、極めて気がかりとする処です。

処で、今次G7での議論について斯界の論者の多くは、安倍首相の役割を強調しています。トランプ氏とも親密な関係にある彼には、欧州との懸け橋役を果たすべきと云うものです。勿論、メルケル首相に並ぶベテラン・メンバーの彼への期待に異論を挟む要はありません。が、その役割に説得力を持たせる為には、目指すべき世界経済への展望と併せ、歴史的パースペクテイブを持って語られる何かがこの際は必要と思料するのですが、残念乍ら、そうした準備はなさそうです。

・`Goodbye to the West’
こうした欧州の政治環境を追う中、頭をよぎったのが昨年12月、元独外務大臣で副首相(1998~2005)を務めたJ. Fischer (フィッシャー)氏の論考、「Goodbye to the West」(12月5日付)でした。それはトランプ氏が第45代米大統領に選出された直後の所感です。

要は、「West」の始まりと、終わりを示唆すると云うものでした。つまり、第一次世界大戦 [Central Powers(中央同盟国:独オーストリアオスマン帝国、ブルガリア) と英仏露のEntente Powers(協商国)との戦い] が始まった1917年、米国が参戦したことで本格的世界大戦となったがその瞬間、今日云う処の「West」と云う形が成り、1941年に始まった第二次世界大戦を通してThe Westが認知され、その生業は米国の防衛コミットメントをベースとするもので、言い換えればWestern order,つまり西欧の秩序は米国なくしては成り立たない構造になっていったが、今次の
isolationist nationalismに向かうトランプ氏の台頭は、もはや米国のWest からの決別を意味することになったと云うのです。もとより、米国なくしてはWestern countries はやって行けず、従って欧州はその点を自覚した戦略を持たない限り将来は難しいと、指摘するものでした。 
然し同氏はフランス大統領選の第1回投票結果を踏まえ、再び論考「The French Election and Europe’s Future」(4月29日付)を寄せ、マクロン氏の当選を前提に、彼が仏独関係を強固とし、それを基軸とした運営を図ることで、欧州の将来は明るいものとなるとその再生可能性を断じていたのです。そこにはThe WestはなくEuropeの文字で埋められていたのです。

序でながら、‘The West’で気になるのが「欧米」という日本語です。我々はよく先進諸国を見渡すとき「欧米」と一括した表現で語る事が多くあります。それには無意識にも欧米諸国が戦後世界を先導してきた事への、いうなれば敬意にも似た何かを含むものではなかったかと思うのです。勿論、その場合「欧」が英国なのかドイツなのかフランスなのかは問題にならず、「米」がアメリカ合衆国だけでなくカナダを含む事もあります。 然し英国のBRIXITが起こり、自国主義を進めるトランプ米大統領の誕生で、これまでの欧米と云った一括りの表現では律し得ない状況が生まれてきたことで、「欧米」や「米英」の一般化がだんだん難しくなってきたと思うのです。そして、そうしたcontextにあって経済も政治も見えてくるのは欧米消滅とも云うべき風景ではと思う処です。今次のG7会議こそは、実はそうした筆者の思いを映すことになるのかと、思いは複雑とする処です。


おわりに:5月3日「憲法記念日」のできごと

・安倍首相の突然の改憲提案   
5月3日、第70回の「憲法記念日」に開らかれた「公開憲法フォーラム」(主催:民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会)で安倍首相はビデオメッセージを寄せ、具体的改憲項目二つを挙げながら「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと」と表明したのです。具体的な改憲項目とは、戦力の不保持を掲げた憲法9条の1項と2項を残しつつ、新たに自衛隊の存続を明記すること、二つは、高等教育のすべてについての無償化を明記すると云うのです。まさにこれまで衣の下に隠していた改憲プロジェクト、つまり「自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、違憲かもしれないなどの議論が生まれる余地をなくすべきだ」と、訴えると共に、その実施をオリンピック・イヤー、2020年としたいとするものでした。

メデイアによると、今回、安倍首相が ‘9条改正’ に踏み込んだ背景には、北朝鮮情勢の緊張が高まるなか自衛隊を憲法上位置付ける事に国民の理解が得られると読んだものと解説されています. が、もう一つは自身の来年、18年9月までの自民党総裁任期も延長が可能になり、21年までの長期政権への視界が広がったこともあるとも窺える、と云うものです。要は、国民が最も関心を持つ9条の改正から切り込むことで、論議を加速させ、長年の憲法論争に一気に終止符を打たんとしているというものでしょうか。周知の通り、憲法改正には、国会による改憲案の発議と、改憲案に関する国民投票で過半数の賛成という2段階のステップが必要ですが、すでに首相官邸筋では、そうした改憲プロセスを軸にした政権戦略が動き出している、つまりその舞台準備は周到に進められだしているとメデイアは伝えるのです。

然し、今回の安倍首相の発言は極めて異常に映ります。まず高等教育の無償化ですが、現行憲法には「すべての国民は法律の定める処により、ひとしく教育を受ける権利を有し、・・義務教育は、これを無償とする」(憲法26条)と既に明文化されています。従って、高等教育の無償化もこの延長線で実行できる話です。因みに、政府支出に占める教育費の比率はOECD中最低レベルにあるのですが、これなど行政の怠慢の結果と云うものです。少なくとも憲法条項を改正しなければできない話ではないはずです。遡れば、旧民主党が教育の無償化を提案した時には、彼は真っ向から反対していたのです。

ただ、現行憲法の改正となれば行き着く処は、第9条の問題にほかなりません。その9条について時限を切って、つまり東京オリンピックの2020年を目標として改正するというのですが、オリンピックとどんな関係があるのか承知しませんが、そうした今回の安倍首相の行動には大いなる疑問を禁じ得ません。
その二日前の5月1日、憲法改正に積極的な国会議員らが開いた会合(新憲法制定議員同盟の大会)で、その会長を務める中曽根元首相は改憲を目指すべき時期が来たと発言し、その際は、国民全員が参加し、全員で議論を行い、国民の為の改正を進めるべきと云うのでした。然し、今回の安倍首相の発言は、中曽根発言とはあまりにも落差のある処です。

安倍首相は、ビデオで「憲法は国の未来、理想の姿を語るもの」(安倍首相、5月3日)と云うのですが、それでは、まず日本の未来像について議論を進め、その結果としてあるべき憲法の姿が創られていくことになるわけでしょうから、いつまでにと、はじめから時限を切っての話ではないはずです。 そもそも総理大臣とは憲法遵守義務を負う行政府の長であり、従って安倍首相が国会答弁では憲法改正は「憲法審査会の議論猪委ねる」と繰り返し説明してきた処です。その彼が自ら具体的改正条項を明示し、しかも時限を切って提案するなど、言うなればレジェンドを求める彼のための改憲と映るころですし、その発言こそは、まさに違憲行為というものです。

勿論、今回の安倍発言には、外国メデイアも注目する処、因みにThe Economist、May 6thでは`Shinzo Abe sets a deadline for revising the constitution ‘ と題し、目指す2020年となるとあと3年。だが、それには膨大な政治的エネルギーを不可避とする処、その間、安倍首相が旗振りする経済改革を犠牲にする事になる。日本の改憲は、言うなれば岸信介以来、安倍家念願のプロジェクトされる処、その言動はAn attack on pacifism ,平和主義への攻撃と映ると、批判するのです。

・改憲に思うこと
現行憲法は、戦後GHQがわずか9日間で纏めた「押しつけ憲法」とし、とりわけ9条については自民党内ではhumiliation(屈辱)と見做されてきていますが、この憲法こそは平和と自由で豊かな戦後日本のつっかい棒となってきた事は間違いない処です。よくぞ70年、と云う処でしょうか。ただ問題は日本国のあり様を考えていくとき憲法は今のままでいいのか、と問われていく事でしょうし、それが改憲を構想する上でのトリガーとなるはずです。

因みに国の在りようを構想する際、まず出てくる課題は、少子高齢化と人口減少社会への対応問題です。2053年には日本の人口は1億人を切り、65年には8800万人と予測されています。勿論、人口減少は巷間言われるような日本経済、沈没か、と云った話ではありません。ただ、この人口減少は間違いなく日本の国としての構造を変えていく事になるはずです。そしてその変化は、政治の仕組みづくりに直結する問題となる処です。新生日本とも言える変化を、国家としての生業とするとき、その体制に即した憲法が、現実的に言えば改憲が必然となる処です。勿論経済の生業も構造的に変わってくるというものですし、そうした面からも憲法改革が必然となることと思料するのです。

ただそれでも、9条問題は残ります。そうした文脈でこれからの改憲は、単に改憲だ、護憲だと云ったことではなく、より構図的に問題の所在を捉え直し、より先進的な思考で取り組んでいく事を目指すべきで、時の長の思いだけで動くべき問題ではないという事です。自衛隊について言えば、重要なことは、どのような役割を求めるかの議論であって法解釈ではないと云うものです。
因みに、衆院憲法審議会の幹事を務める自民党の船田元氏は、首相が改憲時期に言及したことについて「行政の長たる首相には、もう少し慎重にあっていただきたい」(日経、5月9日)と批判しています。まさに一強と云われる安倍政権の数に物を言わせた傲慢な政治姿勢、そして右傾化に、深刻な懸念を覚える処です。

今次フランス大統領選挙ではマクロン氏はフランスの将来をどうしていくべきかを問うものと位置付けていましたが、その姿勢は今の日本にとってリアルな示唆と映るのですが。その彼、明日から始まるG7首脳会議(5/26・27)にトランプ氏らと共に初見参です。さて、どんな発信が期待できるのでしょうか。
以上



posted by 林川眞善 at 08:54| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする