2021年11月25日

2021年12月号   `Shortage’に覆われたGlobal経済と、米中関係 - 林川眞善

― 目  次 ―

はじめに  いま供給制約下のグローバル経済   
第 1 章  グローバル経済は今、shortage economy
第 2 章  習近平氏の「歴史決議」と、米中首脳協議
おわりに  「行政の独裁」と「新しい資本主義」   
    
[ 別紙 ]   [Outlook] 先進国経済、Today & Tomorrow

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はじめに いま供給制約下のグローバル経済

今年もあとひと月を余すばかりとなりました。そこで今回は、まず、来年の行方を探る手立てとして、10月末から11月にかけて出揃った各国経済指標を手元に置き、日米欧、先進国経済の現状、実情について別紙 [ Outlook ] (P.12)に整理してみました。(尚、中国については本稿 第2章に委ねることとします) かくして各国は経済の正常化を目指す処です。が、実は今、グローバル経済は供給不足と云う異常な事態を露わとする処、それは「Outlook」に映しだされる「人手不足」という新事態です。

新型コロナウイルス禍から2年、今、新たな新型コロナウイルスDeltaの広がりもあって、
各国はコロナ防疫の為、厳しい水際戦略、border controlやquarantinesを敷いてきた結果、
内外企業の現場は移入労働者の不足を託ち、結果としてsupply channelの断絶もあって、
消費者需要に応えていくのが難しい、つまり世界的なモノ不足状況が起きているのです。
例えば半導体等、部品調達を台湾に依存している電子製品の供給不足もその典型ですが、な
かでも問題はエネルギーです。産油国は需要動向を見極め、政治的市場対応を目指すなどで
生産をcontrolする動きがあり、足元ではガソリン価格の急上昇が進み、インフレ懸念が高
まる処、11月17にはバイデン米大統領もガソリン高への監視強化を指示する処です。

かかる状況を10月9日付The Economistは、「shortage economy」と題し、 ‘A new era of scarcity threatens global prosperity’、 Scarcity (モノ不足)が現下のグローバル経済の成長を脅かすと評し、そのsupply shortageの背後にある圧力要因としてdecarbonation(脱炭素)、protectionism(米中対立)の二つを取り上げ、それへの取り組みを強く促す処です。

そこで、本論考では、このshortage economyにフォーカスし、その実状と行方についてCOP26での討議とも併せ、論じることとし、また後段では今後の世界の行方を規定することにもなろうかとも云われる習近平氏の「歴史決議」(11月12日)、それに続く米中両首脳による協議(11月16日)を取り上げ、今後への影響について、又、日本では岸田第2次内閣の発足(11月10日)を見たこともあり、併せて「おわりに」で論じることとします。



第1章 グローバル経済は今、Shortage economy

1. 検証:Shortage Economyの実状

(1) Shortage 問題の所在
Shortageの実状については前段でも触れたように、コロナ禍で傷んだ経済の回復を図るため、財政による消費需要の回復、景気の回復を目指してきた結果、漸くその回復にメドが立つ処ですが一方、供給サイド(生産)の現場はとなると、コロナ禍で投資活動は停滞、更に雇用機会の減少で働き手不足を余儀なくされ、加えて、global supply chainの寸断が進む結果、物資が効率的に回らず, 従って供給不足、モノ不足による需給のインバランスが生じており、グローバル経済は今、shortage economyにある処です。

前掲The Economistは、そうした状況を生む圧力がdecarbonationであり、 protectionism にあるとするのですが、 そこで筆者としては、その視点を戴きながら、対象となるproducts(製品)とmarkets(価格)の生業、更に地政学要因を切口にして、supply shortageの実状と課題について考察することとしたいと思います。

① Decarbonation(脱炭素)とshortage(供給不足)
今、世界は、地球環境の保全を人類最大の目標として脱炭素対応、つまり温暖化を進めるCO2を排出する化石燃料(石油、石炭)の使用を止め、その代替として「再生可能なエネルギー」へのシフトをと、キャンペーイン中です。もとよりこれは国際公約です。

ただ、資源(化石燃料)産出国にとって、多くは開発途上国であり、資源開発は国家財政との関係もありで、簡単には脱炭素対応とはいきません。脱炭素には膨大なコスト、更には高度な技術も必要で、先進国からの資金等、支援なくしては進み得ません。勿論支援側の先進国でも同様の事情にある処、脱炭素に向かうにしても国内産業との関係もありで、中々進捗を見ることはありません。とはいえ、化石燃料への需要が先細りの様相にあっては、産出国は価格維持のため生産をcontrolする姿勢にあって結果は、供給量は減少状況にあるのです。
 
・米メジャーと「OPECプラス」の市場(価格)行動
具体的には米メジャーの場合、環境対応に関心の高い金融機関の圧力で、採算や環境を重視するようになり、かつてのように相場が高騰しても、すわ増産とは動かなくなってきているのです。そこに8月29日の大型ハリケーン「アイダ」の影響で、米国では想定外の減産を強いられ、その結果が原油価格の引き上げとなったというものです。
そして、この背景にあるのが旧来のOPECにロシア等を加えた「OPECプラス」による協調減産です。10月4日の「OPECプラス」の会合では、 毎月日量40万バレルずつ減産を縮小するとした従来方針を12月も維持することが再確認され、原油相場を押し上げる処ですが、現状は経済の正常化で需要が世界的に回復する中、産油国は2020 年5月に始めた協調減産の下、生産規模を縮小しながら続けており、原油は世界的供給不足にある処です。

後述の「COP26」では、脱炭素化の推進をとりわけ先進国に求める一方、産油国は市場への影響力を維持せんと石油の産出量をcontrolする方向にあり、そうした市場対応が原油価格の高騰を生む処でもあるのです。 尤もこの結果、モービルやシェブロンなど石油メジャーの業績は急速な回復を示し、因みに10月29日公表の21/7~9期決算では最終損益は前年同期比で、いずれも大幅な黒字でキャッシュ・フローも潤沢となったと報じられる処です。
   
② 世界的天然ガス需給逼迫と、欧州と中国の脱炭素行動
もう一つ、供給面での不安要因となっているのが、世界的な天然ガス需給の逼迫です。その事情は、天候異変で欧州の風力発電、中国での水力発電が停滞するなか、ロシアが欧州向けの天然ガス供給を削減した結果ですが、これには中国の脱炭素化が関係しての話です。

まず欧州では、再生エネルギーへのシフトの一環として、ロシアからの天然ガス輸入を計画中でしたが、米ロの対立が高まり中、ドイツの対米配慮もあって当該プロジェクトは頓挫し、従って欧州では地域的地政学リスクを託つ形で供給不足を余儀なくされ、実際、10月はじめには天然ガスの価格は60%も跳ね上がりでnatural- gas panicの様相を呈する処でした。

(注)欧州では、化石燃料の石炭から再生可能エネルギーへの転換は、天然ガス供給
の確保問題となっていて、具体的にロシア国営ガスプロムが建設するガスパイプラ
イン「ノルドストリーム2」を経て欧州(ドイツ)への供給が計画されていた処、19
年12月に米国の制裁対象となったこと、またロシアは欧州の天然ガス市場のシェ
アーを巡っても激しく対立し、スムースなガス供給は困難な状況にあるのです。

そこに加わるのが、中国が進める厳しい環境対応規制の影響です。中国では石炭発電に対して販売価格に制限がかけられており、石炭発電での増産は難しく、そこで電力会社は天然ガスでの発電にシフトしています。が、天然ガスの供給が満たされぬ状況にあって、その余波が欧州にも及び、加えて中国の買い占めもあって、欧州に天然ガスが廻りにくくなってきているのです。既に、輸送費も部品も値上がりをきたす処、その点、欧州では、脱炭素対応が供給不足の原因とされる処です。

かくして、中国では石炭、欧州では天然ガスが原因となってエネルギー危機が生じつつあるとも伝わる処です。今の処、日本ではエネルギー危機は発生していませんが今後、「世界の工場」とされる中国の生産制限でITや家電製品などの価格が上昇し、欧州の天然ガス価格の上昇と連動する形で液化天然ガスの価格上昇が懸念される状況ですが、既に来年初の電気料金引き上げが話題に上る処です。

(2)Protectionism (米中対立による供給網の分断)
次に、shortageを生む背景として指摘されるのが近時深まる保護主義の動き、とりわけ米中対立の動きです。つまり、米中の貿易対立は関税政策に映る処、これがeconomic nationalismに呼応する形で進むことで、供給網の分断が進み、更にshortage economyを誘導するものと見る処、とりわけ米中の技術覇権競争が世界を二分し、グローバル企業の調達戦略を狂わせてきており、この結果が価格高騰を誘引する処となっている点で、従来の貿易政策が、いわゆる経済の合理性に照らし進められてきたのとは様相を異にする処です。 勿論、バイデン政権にとって、グローバル化対応での問題は対中貿易の正常化です。が、米中間でのあらゆる協力が、今、滞ったままにあることが問題と指摘される処です。

尚、貿易交渉と云う点では、懸案の鉄鋼とアルミニウムに課す追加関税について、バイデン政権は10月30日、その一部を免除することを決定、EUも報復関税の取り下げを決定。トランプ前政権下で始まった米欧貿易摩擦を巡り、双方が「妥協案」で合意、当面は関係修復を優先させると伝えられる処です。又、日本も同様、米国の対EU関税政策に照らし、鉄鋼とアルミに課している追加関税の撤廃を要請。11月15日,来日したジーナ・レモンド米商務長官は、その直前の記者とのインタービューでは当該追加関税問題の解決に意欲を示しており、トランプ政権とは異なり、同盟国との協調を標榜してきたこともありで、日米間にかかる問題の早期解決の可能性が出てきたとされる処です。(日経、11/05)

2. COP26(脱炭素)とグローバル経済の行方

(1) C0P26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)
11月13日、英国グラスゴーで開かれていたCOP26会議は「グラスゴー気候合意」を採択して幕を閉じました。今次、COP首脳級会合は「パリ協定」(温暖化防止の国際枠組み)を採択した2015年の第21回会議以来6年ぶりとなるもので、2日間の首脳級会合では、100以上の締約国の首脳が、揃って脱炭素対応計画について演説するものでした。

尚、「パリ協定」とは気温上昇を産業革命前から2度未満、できれば1.5度以内に収めることを目指す。一方、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2度未満にするには2030年時点の温暖化ガス排出量を10年比25%減、1.5度以内に抑えるには45%減にする必要があるとするものです。そして、今次COP26は、これまでの地球環境問題への取り組みを、これまでの協議を踏まえ統合整理して新対応戦略を示していく事とするものでしたが、さて、その成果は如何に、です。尚、主要国首脳の演説概要は下記(注)です。

  (注)今次COP26での主要国首脳の発言概要:
    ・ジョンソン英首相(議長国):「世界は願望から行動に移らねばならない」とし、25
     年迄に気候変動分野の支援を10億ドル増額する(これまで116億ドルを約束)と。
・バイデン米大統領:「私たちに残された時間は少ない。この10年が決定的に重要で、
未来の世代を決める10年だ」と強調。24年迄に途上国への金融支援を4倍に。
・メルケル独首相:「先進国は特別な責任を負っている。途上国の排出減促進のため
1000億ドルの資金提供を約束する」と。
・モデイ印首相:2070年までに、温暖化ガス排出の実質ゼロを目指すと表明。インドが
排出ゼロ目標を示すのは初めて。(日経11/2)
・習近平中主席:(書面で声明書を発表)先進国は自国の気候変動対策だけでなく「発展
途上国が対策をより良く実施できるよう支援すべき」とし、60年までにCO2排出量
の実質ゼロ目標を掲げる。
[CO2排出量ゼロ目標年:先進国:50年、中・露・サウジ:60年、印:70年]

序で乍ら、CO2最大の排出国、中国の習近平氏は欠席でした。(排出量世界比、中国:28.4%,米国14.7% 、2018年IEA/環境省資料)これにはバイデン氏は強く批判する処、Financial Times,9the NovでもGideon Rachman氏は「Isolated China is a concern for us all」と題し、習氏の欠席は、国家的な自主隔離(China’s zero-Covid policy)の一環かもしれないが、そのことが、中国国民にかかる影響は重大と、批判する姿は極めて印象的でした。
  
上記首脳の演説はいうなれば、脱炭素でエネルギーシステムの移行を急ぐ世界の姿とも映る処ですが、COP会議直前の10月25日、国連事務局が発表した報告書は、上記各国が提出したCO2削減目標では、パリ協定の目標を実現するには不十分、一段の対策が必要と指摘する処でした。1992年、IPCCが提示した「気候変動」「生物多様性」への対応を進める趣旨を明記し、スタートしたCOP会議、今次COP26の最大の狙いは「パリ協定」の目標達成に筋道をつけることとされていましたが、さて、その道付けはできたのでしょうか。

(注)国連、地球温暖化対応を取り上げてきたこれまでの主要会議
  ・第1回 締約国会議 (COP1) 1995年  独ベルリン、合意「Berlin Mandate」
    ・第3回 同上   (COP3) 1997年 京都議定書(温室効果ガス削減)、採択
    ・第21回  同上   (COP21) 2015年 フランス・パリ 「パリ協定」採択
    ・第26回  同上 (COP26) 2021年 英・グラスゴー

・Glasgow会議合意書
COP26が13日、採択した成果文書「グラスゴー気候合意」(注)では、最大の焦点だった石炭火力発電の利用について、当初案の「段階的廃止(phase-out)」から「段階的削減(phase-down)」に、又、産業革命前からの気温上昇は1.5度以内に ‘抑える努力を追求する’ と聊かトーンダウンの様相にあって、Financial TimesのNewsletter「Moral money」11月17日号では、当該合意書は急速な脱炭素を求める内容でなかったため、信用リスクの押し下げ圧力は「穏やかで、対応可能な水準にとどまった」と結論付けてはいたのですが、これで当初の狙いが達成されたというのでしょうか. 
 
(注)合意文書のポイント
   ・気温上昇を1.5度に抑える努力を追求
   ・必要に応じて22年末までに30年の削減目標を再検討
   ・排出削減対策の取られていない石炭火力の段階的削減へ努力
   ・先進国から途上国に年1000億ドルを支援する。20年までの目標未達は深い遺憾。速や
かに達成を。

・因みに、Oct.30~Nov.5, 2021のThe Economist誌は、表紙を日光東照宮の ‘3匹の猿’ をペンギンに代え「見ざる」、「聞かざる」そして「口きかず」のペンギン三態の像を掲げ「COP-out」と評する処でしたが, とりわけその締めの言葉は以下の通りで、強烈と云うものです。

「もはや化石燃料への幻想を捨てるべきだ。その時代は終わった。インドのモデイ首相、豪州のモリソン首相、更に米上院議員、Joe Manchin氏も一切、化石燃料時代の終焉を語ることがなかった。勿論、石油もガスも一晩ではなくなることはない。しかしその役割は終わり、それに代わるエネルギーを開発し、明るい世界を目指すべきだ。彼らにはこれまで指導してきた点で、その責任がある。化石燃料時代では決し創り出すことが無かったnoble futureを誘導することだったが、COPはその使命を終えた。もはやCop-out、お呼びでない」と。

(2) `shortage economy ‘ そして ‘ 脱炭素 ’ に思うこと
現下で進むshortageとは、一言で言って需要に応えうる供給力の無さにあって、そのsolutionは、上述 decarbonization、globalizationへの対応の如何と総括される処、いずれも国際協調が基調になるものと思料するのです。資源を持たない、従って国際協調を生業としてきた日本には、今こそは「頑張り処」ではと思うのです。つまり「外交力」です。

前述の通りオイルについていえば、「OPECプラス」が追加増産を見送ったことで需給逼迫が続き、原油相場は高止まりを続ける可能性があります。勿論 原油高はコロナ禍から経済回復を急ぐ消費国には重荷となる処、産油国と消費国が供給安定で協力し、双方が納得する価格水準を探る必要があるのではと思料するのです。 
ただ世界のリーダーが集まり脱炭素を話合うさなかに、産油国に増産を求めるのはどう見てもちぐはぐに映る処です。それだけ原油高は脱炭素の厳しさを示している事の証左とも思料するのですが、それは長期で描くカーボンゼロの未来と、足元で起きている需給逼迫には密接な関係があるという事でもあるものと思料するのです。 とすれば、再生可能エルギーへ転換を図るまでの数十年の移行期こそ、化石燃料への投資を着実に確保し、供給を安定させていく配慮が必要ではと思料するのです。もとより産油国と消費国の対話もより重要となる処、消費国間の連携を深めていくのも重要です。これこそは「外交力」に負う処、日本こそはこうした役割の果たせる位置にあるのではと思料するばかりです。



         第2章 習近平氏の「歴史決議」と、米中首脳協議

1. 「6中全会」と、習近平氏の「歴史決議」

(1)「歴史決議」採択
11月8日から北京で開かれていた中国共産党「第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)」は11日、「歴史決議」を採択して終わりました。中国共産党の最高意思決定機関は党大会にあって、開催は5年に一度とするものです。そのため5年間に7回程度、中央委員と呼ばれる約200人の党幹部が集まり、党トップの習氏が示す方針や人事案を了承する体制を取っています。さて、今次6中全会では「毛沢東」時代、「ト小平」時代に続く「習近平」時代として、共産党にとって3度目となる、結党100年の歴史と成果を総括する「歴史決議」でしたが、採択された内容は3部構成で成るもので、その概要は、以下次第です。(全文:日経11/13)

まず、1度目の歴史決議は、毛沢東が1945年、それまでの党の歩みと誤りを総括して幹部に反省を迫り、党内で絶対的な主導権を確立した「若干の歴史問題に関する決議」とするもので、毛時代を「半植民地の歴史に終止符」を打つものでした。
次に、2度目については81年、ト小平が指導して起草した「建国以来の党の若干の歴史問題に関する決議」です。毛沢東が66年に発動し10年間に亘り中国全土を大混乱に陥れた「文化大革命」を否定し、市場経済を取り入れる「改革開放」を後押しした事で、「特色ある社会主義建設」の時代とし、毛時代への決別とト時代の幕開けを打ち出すものでした。
そして、3度目となる今次歴史決議は、過去2回とは異なるもので、党の過去の歴史を肯定したうえで、習氏が主導する新しい時代の到来を強調する内容で「21世紀のマルクス主義」を目指すとするのでした。
そして、最後に、「党の指導の堅持、人民至上主義の堅持、理論刷新の堅持、独立自主の堅持、中国の道の堅持、天下を胸に抱くことの堅持、開拓革新の堅持、勇敢な闘争の堅持、統一戦線の堅持そして、自己革命の堅持」の10項目を長期的に堅持し、新時代の実戦の中で絶えず豊かにし、反転しなければならないと、次の百年に向けての決意を語るものでした。

要は、歴史を総括して今後の方針、つまり、2035年までに国家として近代化を果たすとする処、時の指導者の権威を高めるための一種のセレモニーではと見るのですが、要は、一党独裁を容認し、自己批判を繰り返すことで中国式民主主義を確実とするものと見る処です。

(3) 中国経済の現状
さて、今次の「歴史決議」が採択されたことで来年には、習近平氏の異例ともなる総書記3期目の実現がほぼ決まったと伝えられる処ですが、習指導部が発足して9年間の中国GDPはドルベースで1.7倍、米国の7割に達する処です。又、中国がWTOに加盟して、12月で20年を迎えますが、この間の貿易総額は9.1倍に拡大 、2.8倍だった世界貿易の拡大ペースを遥かに上回り、しかも輸出品目も加盟当初の労働集約的な衣料品などが主力にあったものの、最近ではパソコンやスマートフォンの出荷も伸びており、WTO報告によれば世界貿易に占める中国の比率は、2001年次の4%から20年には13%に達する処です。

ただ足元での問題は格差問題いまだ縮まらずで、日本の岸田政権同様、習氏は成長と分配の両立に苦慮することになるのではと思料する処です。いずれにせよ経済政策は社会主義の色彩を強めていく事となり、その軸は、国内の所得格差を縮める共同富裕の推進に向かうものと思料されます。同時に習近平氏への権力集中が進むことで、政治、経済、社会の急速な変化が中国、そして世界に与える影響とリスクに十分、注意を払う要ある処です。

・景気の現況
尚、10月18日、中国国家統計局が発表した7~9月のGDPは、前年同期比4.9%増でしたが、4~6月の実績7.9%に比して大幅減速で、これについては、素材高に因る収益悪化で企業の投資が伸びず、新型コロナウイルスの感染再拡大を受けた移動制限が消費を抑え込んだ結果とされており、10月31日発表の10月の製造業景気指標(PMI)でも49.2で前月より0.4ポイントの低下で、中国景気の停滞感の強まりが伝わる処です。つまり、雇用など構造問題が顕在化し、原材料と製品の価格差は拡大するため、投資や消費を抑制する要素が多いと見る処、経済のカジとりがますます難しくなっていることを物語る処です。

2.米中首脳協議
11月16日、バイデン米大統領と習近平中国国家主席はオンライン形式での首脳協議を行ないました。この協議は、9月10日の両首脳による電話協議に続くもので、その際は、バイデン氏関係者の話として、バイデン氏はインド太平洋への関与を深めるとした上で、米中衝突を防ぐため、両国が危機管理の枠組み作りに取り組むよう説いたと報じられていました。そして、11月15日のオンライン形式での米中首脳協議は、それに続くものでした。

前述、中国6全会が終わり、習氏の権威が固まって落ち着いたタイミングで協議が実現したということでしょうが、バイデン氏側としても、日本等、同盟国との関係強化で中国に対する枠組みを整えつつある処、中国との関係が悪化すれば、いずれ経済面に跳ね返ってくる恐れありという事で、まさにお互いの内政・外交上の事情から実現をみたと見る処です。ただ協議は、台湾問題、人権問題等、いずれも平行線を辿るものでした。(注)
   
        (注)米中間の懸案への双方の立場(日経11/16)
米国 中国
台湾問題 中国の威圧的行動に懸念。台湾の
安全保障に関与 米国の関与に危機感
人権問題 新彊ウイグル自治区や香港での人権侵害を問題視 米国に対し内政干渉だと批判
貿易問題 中国に輸入拡大と国有企業の優遇など産業政策の見直しを要求 米国に追加関税や制裁の緩和を要求
                           
それでもバイデン氏は「米中の指導者は両国の競争が衝突に変わらないようにする責務がある」と語る処でしたが、それは十分、意味ある発言と思料するのです。そして、「力」で現状を変更せんとする姿勢に歯止めをかけながら、必要な接点を引き続き探るとすれば、自由主義、民主主義陣営の確固たる結束はこれまで以上に重要になる処です。

この責務論については習氏も同意する処、今後は習外交政策のカラーが一層 強く出てくることでしょうし、貿易や安保について米中両国がどのようなやり取りを繰り広げていくものか注視したいと思う処です。とにかく台湾については中国側の一貫した姿勢が改めて明らかになった事、又、双方共にred lineを示し、衝突をしないという認識の下で、ルール作りをしていく事でしょうし、米側にとって、偶発的衝突を避けるために、双方の意見を明確にできたことが成果となったと云えそうです。 言い換えると、中国で権力が集中する習氏との協議で、偶発的衝突を避けるべきと確認できれば、これが現場レベルでも一定の抑止効果が期待できるというものです。バイデン氏が習氏とのトップ協議にこだわったのは、その点にあったと云えそうです。とにかく両首脳協議が継続され、それがnew trendを生むことを期待する処です。それにしても、TVに映し出された両者の顔の違いが気になる処です。



         おわりに 「行政の独裁」と「新しい資本主義」

・11月10日、岸田第2次内閣発足
さて日本では11月10日、先の総選挙結果を受け、第2次岸田内閣がスタートしました。 
ただ、選挙結果が判明した直後も、そして今もそうですが、選挙での争点は何だったのか、勿論、コロナ対策は大きな争点の一つでしたが、それ以外にはなかなか思いつくことはなかったのです。そこで、今次選挙結果についての識者のコメントを読み込んでみましたが、コロナ後を見据えて、何を最初に変えなければならないか、と云った差し迫ったことの無い中での投票行動としては、とにもかくにも現状の安定を求めた結果と、見るのがマジョリテイでした。勿論、日本維新の会や国民民主党など、自民党に考え方や政策など接近した政党が伸びましたが、これらは総体的に保守勢力の追認の枠内にありで、護憲、戦後体制の崩壊、あるいは空洞化と云う結果を齎す処と見るのです。

・行政の独裁
そうした中、筆者の関心を呼んだのが、11月 5日付、朝日新聞デジタルに現れたノンフィクション作家、保坂正康氏の対談記事にあった「行政の独裁」という言葉でした。
つまり、安倍政権は「安保関連法」で集団的自衛権を事実上解禁し、菅政権では日本学術会議の会員の任命を拒否しているが、両政権とも、野党の国会開会要求を無視し続け、憲法に則らない政治を続けたが、これこそは「行政の独裁」の表れとするのです。 

更にこれまでの安倍政治には、「行政の独裁」ともいえる状況が続き、因みに安倍首相は「自分は立法府の長だ」と何度か発言していたことを取り上げるのです。つまり、司法・行政・立法の三権が分立して互いにチェックし合うのが議会制民主主義のはずで、首相は行政の長です。しかし、死んだに等しい立法府を思うがまま支配できた安倍信三氏はまさに立法の長と考えていたのだろうとし、例の森本学園問題の国会答弁についても有罪か無罪かは司法が判断することであって、自分の考えを述べることは司法への介入だと、断じるのです。
加えて、憲法が国政の大前提としている議論の大切さを考えれば、首相指名を受けた後、予算委員会も開かないで解散総選挙に打って出た岸田首相の姿勢は、安倍、菅両政権による憲法をないがしろにする政治と同種と見ざるを得ないと、厳しく指摘するのでした。要は、そうした「行政の独裁に歯止めを」と主張するのでした。

もとより、衆院選では野党もどういった社会にするのか、経済をどう立て直すのか等々、政策論をより語るべきで、いくら支給しますと云った「ばらまき論」ではなく、国民が困っているなら困らないようにする政策はこうだと、議論すべきです。「いくらばらまく」と云うのは政治ではない、有権者を侮辱しているとしか思えません。

・新経済対策と「新しい資本主義」
さて、岸田首相は11月19日、現金給付を含む新経済政策、財政支出ベースで55.7兆円という大型経済政策を決定、成長と分配の好循環を描くと強調する処です。が、気になることは、中長期的な成長力強化につなげるようなお金の使い方の視点が乏しいことです。 
前述の通り、米国では、バイデン政権は1兆ドル規模の超党派インフラ法案を実現させ、以って老朽化したインフラの回収や将来の成長を見据えた次世代型インフラ投資に向かう処です。欧州でも環境投資の財源に環境債での調達や新税制を充てるなど、歳入改革も進む処です。世界は危機モードの政策から徐々に脱却、産業転換を大胆に図ろうとする処です。つまり、今の政治の有態では、日本は取り残されかねないという事になるのです。
加えて、岸田政権は法人税の優遇措置を強化し企業に賃上げを促す考えとの由ですが、云うならば「アメとムチ」で賃上げを促すのではなく、企業が自ら進んで賃上げを行う環境を創り出すことに注力すべきと思料するのです。それには企業の成長期待を高める、信頼度の高い政策を打ち出すことが不可欠です。いずれ「新しい資本主義」の中に織り込まれるものとは思料する処です。尤もこの「新しい資本主義」とは一体何なのかですが。

・新たな発想と行動を
今、内外環境は構造的変化の真っただ中です。これまでの思考様式にとらわれることの無い斬新な発想、新たな行動様式を以って、新年2022年に向かっていく事、念ずる次第です。       
(2021/11/25)






[別紙]


[ Outlook ]  先進国 (米欧日) 経済, Today and Tomorrow

・米国経済:10月28日、米商務省が発表した2021/7~9月期のGDP(速報値)は年率換算で2.0%の成長で、これは新型コロナウイルスの感染が夏場にデルタ型で再拡大して個人消費が鈍り、前期4~6月期の6.7%からは大幅の減速となるものでした。そして、人手や資材の不足と云った供給制約や物価の急速な上昇も逆風になったと見られる処です。
ただ10~12月期には5%台半ばへ再加速を見込む声は多く、因みに11月5日には、懸案のバイデン政権の2つの看板政策(子育て支援・気候変動と、インフラ投資)の内、1兆ドル規模の超党派インフラ投資法案が先行して可決。(上院は既に可決済み)15日、バイデン大統領が署名したことで同法は成立。このインフラ投資法案の成立は、米景気への大きな刺激をもたらすことが見込まれる処、米大統領上級顧問のセドリック・リッチモンド氏は具体的事業が来春までに始まるとの見通しを語る処です。

尚、11月22日、バイデン大統領は来期(2022年2月)米FRB議長に、現議長のパウエル氏の再任を発表しました。米経済は、いまインフレへの懸念は強く、市場では22年には2~3回の利上げが予想される処です。要は、パウエル氏の再任を以って、緩和策の縮小に動く金融政策に転換はないとみる処です。

・欧州(EU & UK)経済:EU統計局が10月29日発表した7~9月期のユーロ圏GDP(速報値)では前期比年率換算で9.1%を記録する処でした。これはワクチンの普及で感染者が急減した春以降、個人消費の力強い回復が経済を押し上げてきたとするものですが、問題は足元で供給不足やエネルギー価格の上昇が進む中、10~12月以降も維持できるかだと云々されていますが、コロナ感染が落ち着いた21年4~6月以降、急回復しており、当面は高めの成長が続くとしています。因みに11月11日、欧州委員会が公表した成長率見通しでは、21年:5.0%, 22年:4.3%と見る処です。

一方、英国経済は、新型コロナウイルス禍で人手不足にあって、とりわけEU離脱の英国にあっては労働者不足が顕著にあって、供給網が断絶され、品物不足を託つ処、ガソリンをはじめ物価も上昇と、まさに人手不足の深刻さが伝わる処、11日英統計局が発表した7~9月期のGDP速報値では前期比1.3% 増と2四半期続けてのプラス成長となっています。新型コロナウイルス関連の行動規制が解除され、個人消費が伸びた事に負う処とされています。


・日本経済:11月15日公表の7~9月期GDPは、前期(4~6)比、0.8% 減、年率換算では3.0%の減で、2四半期ぶりのマイナス成長。7~9月期は東京五輪の開催があり、相応の需要の拡大が期待されましたが、緊急事態宣言が拡大・延長した時期と重なった点が指摘される処です。尚、10月28日開催の日銀金融政策決定会合では、供給制約に因る輸出・生産の減速、更に個人消費の低迷に照らし、今年度、2021年度の経済成長見通しを、前年度比でプラス3.4%と前回から0.4ポイント引き下げを決定、円安圧力が強まるとの見通しもありで、供給不足からくるインフレ懸念にあって、これまでの低金利政策の堅持を決定しています。
が、インフレ下での低金利政策はスタッグフレーションを招きかねずとの懸念もあるなか、11月19日、岸田政権は財政支出ベースで55.7兆円(事業規模で78.9兆円)と過去最大規模の景気対策を決定、早急な経済の回復を狙う処です。

尚、9月の鉱工業生産指数(10/29発表)は前月比5.4%低下、これも7割が自動車の減産に因る下押しで、半導体不足や新型コロナウイルスの感染拡大で東南アジアからの部品調達停滞が直撃した結果とされる処です。ただ、上場企業(1600社余)の業績は順調に持ち直して来ており、全産業の純利益は101%増の倍増。最大の懸念材料は半導体をはじめとする部品の供給不足です。


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2021年10月25日

2021年11月号  バイデン政権が目指す対中包囲網と、その本気度 - 林川眞善

目  次

はじめに  今、アジアの海は波高し
第一章 AUKUSが映すNew Geopolitics of Asia
第2章 日本の抑止力とアジアの安定     
おわりに  岸田文雄新総理誕生と所信表明に思う
       ------------------------------------------------------------------------

はじめに 今、アジアの海は波高し

・バイデン政権のPivot to Asia
バイデン米国は、先のアフガンからの駐留米軍の撤収後、急速にアジア展開を進めてきていること、前月号論考でも触れた通り、その狙いは中国への対抗、云うまでもなく「対中国包囲網」作りとされる処です。 因みに、バイデン氏にとって初となった9月21日の国連一般演説では「新冷戦を志向しない」と明言、一方、米国の外交戦略の姿勢として、アジア志向を明快とする処、それは、まさに米国のPivot to Asian (アジア重視への回帰)を宣言する処でした。そしてその姿勢をバックアップするのが二つの国際合意です。

一つは3年前にスタートした日米豪印4カ国の協定「QUAD」(Quadrilateral Security Dialogue:日米豪印戦略対話)、もう一つは今年9月15日,突如公表された米英豪3カ国安保協定「AUKUS」(Trilateral security pact between Australia, UK & USA:米英豪安全保障協定)です。前者, QUADは「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現するための4カ国戦略対話の枠組みで、内容的には中国を念頭に、外交面や経済安全保障に重きを置くのに対し、後者AUKUSは、中国との軍事力の均衡をとるために米英が豪州の軍事力を強化し、中国の軍事力に対抗することを目的とした、やはり中国を念頭に置いた軍事同盟的性格を強く映す処、その点ではアジア近隣諸国には軍拡競争への懸念が広がる処です。

そして、この二つの国際合意が同時に動きだすことでアジアを軸に、世界の地政学が一挙に動きだす、まさにThe new geopolitics of Asia (The Economist,Sept.25) とされる処です。
もとより、この二つの協定は中国への対抗を基本とした経済安保の確保にあること云うまでもありません。が、安全保障を切口に合意したAUKUSの登場を以って、前掲エコノミスト誌は巻頭言で「Resurfacing : America in Asia 」(米国のアジア再浮上)」と表する処です。

・AUKUS(米英豪安全保障協定)
ただ、9月15日に公表されたAUKUSは上述のとおりで聊かQUAD(注)の目指す処とは趣を異にした、まさに軍事同盟の趣を打ち出す処、従って同盟諸国への影響が云々される処ですが、エコノミスト誌は、以って米国は中国包囲網で本気になってきたと評する処です。 

実は15日、バイデン大統領は、英ジョンソン首相、豪州モリソン首相と共に、まさに「自由で開かれたインド太平洋の継続」の為、3カ国の頭文字を配した同盟、「AUKUS」を創設したと突如発表し、併せて米英は豪州が原子力潜水艦を導入することを支持すると発表したのです。この合意に伴い、豪州は米英の技術支援を受けて原潜の開発に臨むこととし、突如、豪州は、フランスと結んでいた原子力潜水艦調達契約を破棄したのです。 この結果は云うまでもなく仏・豪二国間の関係に亀裂をもたらし、更にこれが米仏の対立に発展、目下米政府はその対立解消に躍起となる処です。

  (注)QUAD(日米豪印戦略対話):日米豪印4カ国が合意した「QUAD」とは覇権主
義的行動を強める中国を念頭に、経済安保の視点から「自由で開かれたインド太平洋」
の確保を目指す趣旨で合意された枠組み。(2019年9月NYで第1回会合開催。2020年
10月、東京で第2回のQUAD初の首脳会議開催、2021年9月24日にはバイデン主導
の下、ホワイトハウスで開催) 
勿論、4カ国が囲むのは中国ではなく、東南アジアであり、台湾です。9月のワシントン
会議の共同声明が語っているように、南シナ海周辺は半導体等「サプライチェーン」の中
心であり、従って台湾海峡と南シナ海での有事は米国のデジタル産業の崩壊を意味する
だけに、QUADはバイデン政権にとって中国に対抗する多国間協力の中核をなす処。

尚、AUKUSはアジアにおける米国の再浮上を示唆するものである事、そして米国が対中包囲網に本気になってきたことの証(The Economist)とされる処、この騒動のためにAUKUSが持つ真の意義が見失うことのないようにと強くアドバイスする処です。まさにアジア地政学の新展開を予想させる処です。

実は、この発表が行われた5日前の9月10日、バイデン氏は習近平氏と電話協議を行っています。中国側の話では、この電話協議はバイデン氏からの声がかりとの事でしたが、とにかく両首脳は電話協議において、米中の緊張緩和に向けて努力する事で一致したこと又 南シナ海などでの偶発的な衝突を避ける為、様々な方法による対話の継続でも合意した由、報じられる処(日経 2021/9/11)でしたが、更に10月6日、両国首脳が年内オンライン形式で協議することで原則合意されたと報じられています。(日経夕, 2021/10/7)
まさに米中の緊張下での接点の探り合いと云った様相ながら、「中国との衝突回避の責任で合意しながら中国包囲網の強化を図る」のは、和戦両様の構えを映す外交戦略とも取れるのですが、とにかく対中包囲網に向けたバイデン政権の本気度を感じさせる処です。

序で乍ら上記二つの協定(AUKUSとQUAD)に米英豪とカナダ、NZによる機密情報共有の枠組み「フアイブ・アイズ」を加え、米国主導の対中抑止策「3・4・5包囲網」とされる処ですが、この機にあって中国(9/16)と台湾(9/22)は、TPP加盟申請を発表する処です。もとより、両国の加盟申請は、通商だけの意味合いにとどまるとは言えず、加盟審査に当たっては単純に経済の観点で判断できる事情にはありません。
もとよりTPP加盟には加盟国全員の賛成が前提です。しかし、夫々が中国、台湾との利害関係を異にするだけに、現加盟国間での意思統一が難しい状況を生む処、殊、日本にとってTPPの在り方は、日本の対外戦略、経済安保のほか、ポストコロナを見据えた世界経済の回復にも関係するだけに、中台の申請は原則重視で議論が進むことが望まれる処です。

そこで今次論考は,前掲、The Economist, Sept.25,2021の巻頭言「Resurfacing」(米国のア
ジア再浮上)が示唆するバイデン政権の対中包囲網への本気度、そして新たな地政学
「The new geopolitics of Asia」の実情について、この際はAUKUSにフォーカスし、考察
す事としたいと思います。実は、これが先月論考、10月号(第1章)のフォローアップとも
位置付ける処です。尚、当該協定は、衝突リスクの回避を目指す、つまりはその抑止力の強
化対応とも云え、そこで、戦略としての抑止力とは何かを質し、併せ、日本のポジションに
ついて考察することとします。


第1章 AUKUSが映すNew Geopolitics of Asia

1.Resurfacing ― 米国のアジア再浮上 

9月25日、公表された米英豪3者の合意協定「AUKUS」(米英豪安全保障協定」)は、3カ国がインド太平洋地域の‘平和と安定’を図る為として合意された、勿論中国を念頭に置いた安全保障の新しい枠組みです。それには、米英が支援し、豪州が最低8隻の原子力潜水艦を配備するとの合意があり、それこそは中国への抑止力を高め、東南アジアに新たな軍事バランスをもたらす点で、極めてsensitive となる処です。

勿論、この枠組みについては、東南アジアの各国は地域の軍拡競争と緊張の高まりを招く恐れありと懸念も伝わる処ですが、AUKUSは太平洋地域に新たな力の均衡を築く施策として意義があるとされる処です。つまり、この地域では、時に同盟関係が脆弱に見えることがありました。トランプ政権当時はとりわけそうだったという事ですが、この枠組みがバイデン米国の主導においてなされた点で、漸く米国の対中姿勢が自らの責任において進められることとなったことで、まさに、米国のアジア再浮上、resurfacingとされる処です。

尚 、AUKUSの発動に伴い、豪州とフランスが結んでいた原潜調達契約が破棄された(注)ことで、両国の関係に亀裂が入った事、前述の通りですが、AUKUSの持つ真の意義に照らし、この騒動を以ってAUKUSの持つ真の意義を見失わないようにと前掲、The Economist誌はその意義について分析する処です。そこで、当該分析を改めて学習することとします。

    (注)豪州は今年9月、潜水艦配備に向けた協力国を当初予定していたフランスか
ら米英に突然切り替えました。これはAUKUSあっての話ですが、豪州側が2016
年から仏政府系造船会社と進めていた計画を撤回したことにフランス政府が猛反
発、豪仏はもとより、米仏の関係に亀裂が生じ、目下米政府はブリンケン国務長官、
ケリー米大統領特使らを派遣、両国関係の修復にあたる状況が続く処です。

(1) AUKUSの意義
まず当該分析では、AUKUSは米国が太平洋地域に新たな力の均衡を築く施策として意義があると、この地域では、時に同盟関係が脆弱に見えることがあったし、とりわけトランプ政権当時はそうだったとし、今次3国協定は米国が太平洋地域に厳しい姿勢で臨むことを示唆するものだと云うのです。原潜の開発は数十年単位の取り組みであり、膨大な努力が求められる処、米国と英国は最も機微な技術でさえ、ある程度豪州に供与しようとしていること、また3カ国は、サイバー能力、人口知能、量子コンピューテイングなどの分野でも協力するとするものです。 

ただ、この枠組みの構築は米戦略にあって、その片面にすぎないと指摘する処、それは前述の通り、対中関係は軍事的に対峙するだけでは済まないからで、米国は中国との共存を図るため、協調する必要もあるからで、一つには気候変動において、また一つにはルールに基づく経済競争においてであると云うのです。この図式には、東南アジアが全く登場していません。この地域には、中国の圧力に対して脆弱な国々が存在するだけに、米国は、今尚、その対応に悩んでいるとも指摘する処です。

つまり、オバマ大統領が2011年11月、Asian Pivot戦略を打ち出した以降、アジアにおける米国の友好国は10年間、失望し続けてきたというのです。この間、中国は南シナ海の岩礁に対するフィリピンやベトナムの主張を押し切り、これらを占領、要塞化してきたことを挙げ、更に中国は、昨年、20年にはインドとの国境で軍同士の小競り合いを起こしてきており、また台湾に対しては、中国の軍用機や戦艦が圧力を強め、武力行使の可能性を繰り返し示威する一方、在韓米軍によるミサイル配備を中国に対する侮辱行為とみなし、韓国製品のボイコットで破壊的な損害が喫したというものです。そうした事情を受け、アジアの多くの国は、米国の対中姿勢が一貫しないため、中国に本気で対抗する気はないのではとの疑念を抱き始めていたというのですが、そこに現れたKUSはこの疑念に対する反証となると、下記2点を挙げる処です。

一つは軍事的側面においてです。中国と一触即発の状況にあるシーレーンや島々を巡って、原潜はデイーゼル駆動の潜水艦よりはるかに応用が利くという。太平洋やインド洋の海域で情報を集める。特殊部隊を展開する。何か月も深海に潜む。中国の戦略立案者は、こうした動きを脅威として考慮せざるを得なくなる。また、AUKUSによって米軍は、脅威の度を高める中国のミサイルが届きにくい豪州近海で作戦行動をとれるようになる。豪州がフランスとの契約を破棄しAnglo-American one 、米英の原潜を選んだ事実が、米軍の行動範囲を広げることがいかに重要であるかを示しているとも云うのです。
もう一つは外交にあると云うのです。豪州は近時、中国の攻撃的な行動の矢面に立たされてきています。新型コロナウイルスが中国の研究所から漏れ出た可能性について調査を求めて以降、とりわけ中国の攻撃が激しくなったとされています。この件やその他の不満の種への懲らしめとして、中国は多くの豪州製品を非公式に禁輸対象としてきています。これらは、中国の「戦狼」外交にみる典型的な行動と云え、こうした姿勢に東南アジアなどの国々は戦々恐々、米国はAUKUSで合意し豪州に肩入れすることで、中国の圧力に屈しない同盟国への支援をためらわないとのメッセージをこの地域に送っているというのです。

問題は、AUKUSが持つ強硬な側面と、中国との貿易や協調に必要な努力との折り合いを米国は如何につけていくかにある、と締めるのですが、言い換えればそれは「抑止戦略」のあり方を問う処ではとも思料するのです。

(2)バイデン米国の対中政策に求められること
バイデン大統領は前述した通り、9月21日の国連演説で、中国との冷戦(中国と云う名前は出さなかったが)は望んでいないとしたうえで、世界が抱える問題を解決するには「冷徹な外交」が必要とアピールする処でした。

一見する処、AUKUSはこの目標に反するように見えますが、中国も長期的には地球温暖化との世界的な戦いに加わるはずです。米国に譲歩するのではなく、温暖化対策が結局は中国の国益につながると判断するからだとする処です。因みに中国は9月21日、海外で建設する石炭火力発電所への資金提供を停止すると発表しています。尤もこの種の資金提供は既に縮小しており、中国は容易に守れる約束を下したにすぎないのですが。

更に、通商上の争いでバランスをとることは更に、難しい課題と指摘するのです。バイデン大統領の対中経済政策は、国内の雇用を創出することで国家安全保障を高めるとの意図に基づいて設定されていて、具体的には、産業の目標設定と規制、政府の介入と云う手段を講じる処です。又、バイデン氏が提唱する途上国向けインフラ支援構想「ビルド・バック・ベター・ワールド」は中国が進める一帯一路構想の焼き直しにすぎないとも云う処です。

一方、中国は、世界の経済通商構造を変化させるだけの力をつけつつある処、実際、東南アジアではすでに、大半の国にとって中国は最大の貿易相手国であり、国際機関の要職に自国の担当者を送り込んでいます。同様に、中国の国内の規則を海外でも標準として適応させようとしているとも指摘する処。前述の通り、16日には中国はTPP11への加盟を正式申請しましたが、TPPは元をただせば中国への対抗として米国が推進した協定で、ただしトランプ政権下で米国は離脱したものです。いずれにせよ、東南アジア諸国は、自国の経済発展のため中国に目を向ける処、それ故に、米国が中国に対抗するには巧みに、創造性をもって立ち回る必要性があるとするのです。

が、米国はこの点において大きく後れを取っていて、更に懸念されることは、バイデン大統領に外交手腕が欠けていることだというのです。 AUKUSを巡ってはフランスを怒らせ、アフガンからの米軍撤退でも欧州同盟諸国への配慮に欠けていた点を挙げる処、だからこそAUSKUSが大切と云うのです。そしてAUKUSという枠組は、「主張を強めるならば報いがある」と、中国に伝えることで、東南アジアの安全を図る役割を果たすことになると云うのです。もとより攻撃を仕掛け、黙らせることではなく、それは抑止力のあり方を問う処でもあるのです。
2. How AUKUS is viewed from Beijing ― 北京政府に映るAUKUS
前述の通り9月15日、米英豪は中国を念頭にした安全保障協力の新たな国際的な枠組み「AUKUS」を公表し、中国への対抗姿勢を見せましたが、更に米国は10月2~3日、沖縄南西海域で6か国に因る合同軍事演習を実施しています。こうした一連の行動に、10月4日、中国共産党系メデイア 環球時報(電子版)は「台湾海峡を巡る情勢は一触即発の緊迫性を帯びている。台湾が米国の封じ込め(containment)戦略の陣地となることを決して認めない」と強い不満を示す処です。中国の軍事関係筋も、台湾への最近の大量の軍機侵入について「米英日など6か国の合同演習に対抗し、対等の軍事力を示す狙いがあった。台湾に独立の幻想を抱かせるわけにはいかない」と猛反発を示す処です。(日経、10/6)

中国が台湾への圧力を強める背景のもう一つは、最高指導部人事があるとされています。
5年に一度の党大会が来秋に迫り、異例の3期目を目指す習近平氏にとって、国内の引き締め、安定が何よりも欠かせない処です。だが足元では中国経済に不透明感が増す処、習氏の悲願とされる台湾統一も逆に遠のいているとの危機感が広がり初めているともされ、そこには香港の民主派の弾圧をきっかけに、台湾や国際社会の「中国離れ」が加速する様相もある処、今後、台湾や南シナ海周辺での軍事的緊張は更に高まる可能性があると云うところでしょうか。因みに南シナ海でAUKUS初の軍事演習の可能性も云々され、周辺諸国は当該緊張感を禁じ得ない処です。(注)

    (注)10月9日、北京で行われた辛亥革命110周年記念大会で、習近平氏は、台
湾問題について再び、「祖国の完全な統一は、必ず実現しなければならない歴史的任
務」と述べ、「台湾問題は中国の内政問題でありいかなる干渉も許さない」とも指摘
し、台湾への関与を強め、対中網を敷く米国を批判する処です。(日経、2021/10/10)

さて、バイデン氏がアフガンから米軍撤退させた際の発言は、そのまま日本の実情を問う処と云えそうです。つまり、自国の安全を確保する意思がなければ米軍の駐留は意味を持たない、という事です。では、上述新環境にあって日本の防衛、抑止力の在り姿は如何なものか。そこで以下、第2章で日本の防衛、抑止力について考察することとします。


   第2章 日本の抑止力とアジアの安定

1. 抑止力とその構成要素

・抑止力とは
まず「抑止力」とは、「抑えつけて行動などをやめさせる力。他者の行動を制御する力」です。軍事関係でよく耳にする言葉ですが、他国が侵略してくることを未然に防ぐ目的で、相手を上回る戦略を保持することを「軍事抑止力」と云い、代表的な「軍事抑止力」は核兵器であり、核を持たない国が、持つ国へ侵略戦争を仕掛ければ、核による報復によって壊滅的なダメージを返されるのがわかりきっているという状況が生まれます。それゆえ核兵器は所持するだけで他国を制御し、自国を侵略される可能性をなくす「抑止力」となるのです。

そこで、抑止力とは「相手に対して、ある行動をとることによって、生じるコストが利益を上回るであろうと考えさせることによって、その行動を思いとどまらせること」と定義され、従って、相手にとってのコストを吊り上げる行動は、すべて抑止力の一部となるのです。 
しかし、「抑止力」という名目で、軍事拡大を行うと、どんどん際限がなくなってきます。
「核抑止力」の拡大は特に深刻な問題であり、開発競争の激化によって、世界中の核兵器を合わせると人類を複数回滅ぼすことができるほどの破壊力となると云われていますが、「抑止力」を抑える力もまた必要と,云う皮肉な状態になってしまっているのが実情でしょうか。

・抑止力を構成する要素
さて、月刊誌「VOICE」9月号に掲載された政策研究大学院大学教授の岩間陽子氏と米ハドソン研究所の村野将氏による論考「日本の『抑止力』とアジアの安定」では、その抑止力について、一つは、ある行動に対して耐え難い報復を行うという脅しによる抑止、つまり「懲罰的抑止」とされるもの、もう一つ、エネルギーや食糧を含めた継戦能力、占領した場合の現地住民の抵抗の可能性など、相手の軍事目標の達成を妨げる能力も抑止の重要な構成要素として、これを「拒否的抑止」呼び、興味深い実話を紹介する処です。

例えばフィンランドは、小さなロシアの隣国だが、第2次大戦初期、フィンランド対ソ連の冬戦争で、フィンランド人はスキーを履いて森に潜み、モロトフ・カクテルを手にもって、ソ連の戦車に対して抵抗を継続し、スターリンを苦しませた。その記憶は、戦後、他の周辺諸国が完全にソ連の勢力圏に組み込まれたのに対して、フィンランドが中立国家として民主主義体制を守った関係を保つうえで、大きな要素の一つであったというのです。

また、民間防衛の充実も同様要素とされる処だとし、第2次大戦末期、英国ではドイツが開発した世界初の弾道ミサイルであるV2ロケットによる攻撃にさらさロンドンを中心に多くの死傷者を出したが、同時に、遮蔽物や地下鉄への退避など、組織的な民間防衛が図られたことで、英国の継戦意欲を削ごうとするドイツの試みは失敗し、その後の戦線縮小と敗戦へと繋がったと云うのです。つまり国民の団結や抵抗の意思は、抑止力を構成する要素になりうるとするのです。

現在の日米の安全保障体制において、米国の拡大核抑止、つまり「核の傘」の保証は、最終的な歯止めとして機能しているとは言え、核報復の脅しは、あらゆる挑戦を思いとどまらせる万能薬ではないとするのです。 つまり、中国の場合、軍による武力行使には至らないグレーゾーンの行動に象徴されるように、相手の出方を見極める低烈度の挑発から始まって、徐々に相手の利益に浸食し、既成事実を積み上げていくような機会主義的かつ斬新的な拡張行動を取ることが多く、こうした行動を抑止するには、「核の傘」だけでは不十分だとするのです。
つまり、東シナ海で領海侵入を繰り返す中国公船や、南シナ海での埋め立てを続ける浚渫船に対して、これらを核攻撃すると云った脅しには信憑性がないからで、他方、中国の低烈度の現状変更行動は、海空戦力やミサイル戦力、更には核戦力の近代化による自信に裏打ちされるにしたがって、より大胆になってきているとし、だからこそ、中国の漸進的な現状変更を思いとどまらせるには、海上保安庁の巡視能力だけではなく、自衛隊による各種通常戦対処能力を経て、最終的には米国の核戦力まで連なる「切れ目のない」さまざまな抑止手段を以っていなければならないとするのです。

もとより、現代において防衛力の最も重要な目的は戦争を仕掛けることではなく、戦争を抑止することにある処、もし抑止に失敗し、相手が現状変更を仕掛けてきた場合、その目標達成を阻み、元の状態を回復しなければならいとき、その過程で最も重要となるのが、状況のエスカレーションを、自らが主体的に管理できるかどうかだと、指摘するのです。

2. 日本の抑止力とアジアの安定

さて、日本の防衛はあくまで日米両者の持つアセットの総体による抑止力によって達成されるものと思料するのですが、その点で、上掲 岩間論文では次のように指摘するのです。
まず総体による抑止力と云う点では、日米の計画立案レベルでの連携の深化を指摘するのです。つまり連携が深まれば、米軍の負担を減らすことができ、その分移動目標への攻撃など、より高度な任務に集中できるようになる。更に中国が日米を分断(デカプリング)できると誤認するのを防ぎ、抑止力の強化にも貢献することになると指摘する処です。 そして、抑止力とは、軍事力のみによって達成されるものではないとする点では、危機に至るまでの緊張のエスカレーションの段階に日本社会が耐えうる能力、戦略的レジリエンスの強化も必要とするのです。もとより、そこには「緊急事態」への法的・制度的準備も含まれるとし、民間防衛能力を上げることも含まれるとするのです。

・東アジア安定のために日本が果たすべきは
目的は戦争を防ぐことです。その為には、まずは力を以って均衡させる抑止も考える必要がある処、それも双方が高度な軍事力を保ったまま緊張関係が続くのは、それ自体がリスクです。そこで 偶発戦争の危機を管理するために、中国との間はもとより、台湾、韓国などを含めて、危機時のコミュニケーションの円滑化のためのメカニズムを考えるべきと云うのですが、地域レベルにおいても平和的紛争解決の原則を確認し、均衡に配慮しながら、軍備管理・軍縮の可能性を探ることも必要だとし、東アジア地域で安定のための対話を行うフォーラムを日本が率先して形成していくべきとするのですが、まさに然りとする処です。言い換えれば、「外交」こそ、究極の抑止力となるのです。

ただ上述、中国による台湾進攻の可能性が、もはや云々される近時状況にあっては、日本周辺の緊迫度も増す処、仮に中国が台湾を攻めれば沖縄県の南西諸島も戦域になりかねず、在日米軍が対処すれば基地のある日本が変わることになる筈です。米国は日米安保条約で日本防衛の責務を約束する処ですが、その履行には台湾への姿勢が重要になるはずで、それは中国、北鮮の攻撃能力への抑止力をどう向上させるかが喫緊の課題と思料する処です。


おわりに 岸田文雄新総理誕生と所信表明に思う

・言語道断の国会運営                   
さて、9月29日、自民党総裁に選出された岸田文雄氏は、10月4日の国会で首班指名を受け、ただちに組閣、そして10月8日、衆参両院本会議で、就任後初となる所信表明演説に臨む処、この間、なんとも云えぬ日本政治の不合理さを痛感させられるばかりでした。
まず10月4日の臨時国会召集です。それまで野党の臨時国会召集の要求を拒否しておきながら、急遽、やめていく総理大臣が召集し、あとは上記の次第で岸田内閣が誕生、そして最も無責任なこと映るのが、新内閣が成立して10日前後で、解散総選挙に入るというものでした。(14日解散、そして19日衆院選公示、31日投開票)
本来解散総選挙は任期中の成果を踏まえて今後の政権運営の信を問うべき処、新政権は未来の空手形を切って「信用してくれ」と云うのですから言語道断です。その空手形こそは10月8日の所信表明ですが、以下はその手形の検証です。

・岸田新総理が切った手形
まず手形の内容は、第一に「新型コロナウイルス対応」(医療政策)、第二に「新しい資本主義の実現」(経済政策)そして第三に「国民を守り抜く、外交・安全保障」(外交政策)の重点政策3本柱とするものでした。この内、コロナ対策については、これを危機対応として位置付け、取り組むとしていたことは、それなりに評価される処ですが、岸田氏が多くの時間を割いた経済政策、そして外交政策については、緊張感の無さにいかがなものかと懸念を覚える処でした。

その懸念とは、日本が直面している内外環境の変化への認識とそれへの対応です。国内経済についていえば、急速に進む少子・高齢化問題です。云うまでもなくこれが日本経済の成長を支えてきた労働力の縮小をもたらす一方で、消費需要の減少と相まって、日本経済の後退が余儀なくされ、同時に日本社会の生業そのものに構造変化をももたらし、更には世界経済における日本の存在意義も希薄となっていく事が云々される等、要は、日本経済は今一大転換の「機」にあるのです。

こうした「機」にあって、語られる岸田経済政策は如何にですが、衆院選挙後に策定する経済対策の下、当面のコロナ対応と景気刺激に万全を期すとし、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」を目指すと云い、「『成長も、分配も』の実現のためにあらゆる政策を総動員する」とし、「健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく」と謳うのです。 加えて、その前提となるマクロ経済運営について、「最大の目標であるデフレからの脱却を成しとげる」とし、その為には「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の推進につとめる。そして危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期す」とするのでした。

これはまさに「アベノミクス3本の矢」にほかならず、8年弱続いたアベノミクスの下では「トリクルダウン」は生じず、中間層の二極化が進み、コロナ禍で将来不安も増す処、今では格差拡大をもたらした元凶とされる代物です。それだけにアベノミクスの引用にアレルギーを覚える処です。とにかく岸田政権は分配優先で成長戦略を封じ込め、賃上げ企業への減税で更なる賃上げを期待するとする処、中間層の所得を手厚くするには経済成長を通じた賃上げしかない筈です。その点では、アベノミクスが不全となった原因を果敢にレビューし、その対抗としての成長戦略を示していくべきで、そのプロセスこそは岸田氏が目指す「新しい資本主義」実現へのシナリオに繋がる処ではと思料するのです。

序で乍ら過般、手にした「人新世の『資本論』」(斎藤幸平著、集英社, 2021/6)で、著者、の斎藤氏は上述、構造変化に伍し、持続的繁栄の確保を目指しいくためにも、まず「生産や分配をどのように組織し、社会的リソースをどのように配置するか」を考えていくべきで、その事で社会の繁栄は大きく変わる筈と、指摘する処です。つまり、いくら経済成長をしても、その成果を一部の人々が独占し、再分配を行わないなら大勢の人々は潜在能力を実現できず不幸になっていくというものですが、この事は逆に言えば、経済成長しなくても既存のリソースをうまく分配さえできれば、社会は今以上に繁栄できる可能性があるという事でもあるというのですが、極めて惹かれる指摘で、真剣に考えてみたいと思う次第です。

そして三つ目の重点政策「外国・安全保障」については、日米同盟を基軸として外交戦略を進め、日米同盟の更なる高見への引き上げを強調するのでしたが、その米国が上記のQUAD, AUKUSといった多国間の枠組みに積極的なのは、単独で中国に対峙するのが困難になってきたことの裏返しとも言え、その点で、日本の対米依存の安保体制の見直しは不可避となる処です。 つまり、日本が主体的に安保環境の構築を目指すべき事態になってきた事への認識が重要となる処、それは又、バイデン大統領が声を上げた‘自国を守る意思’ に通じる処と思料するのです。そして、その際のカギは前述の「抑止力」にあって、まさに日本の自律性が問われる処、そうしたことへの覚悟が見えないことが問題と映る処です。

序で乍ら上記、「所信表明」を総括し、思う事は、改革を断行し潜在成長力を高めることで、持続的な成長と分配が可能となる処、従って「改革→成長→分配」の好循環こそ今の日本が目指す道と思料するのですが、「改革」と云う言葉は結局、見出すことはなかったのです。さて目下の総選挙は、これら議論を体する処、いか様な展開を辿る事でしょうか。以上(2021/10/25)
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2021年09月25日

2021年10月号  急速に深まる米中デカップリングの新事情 バイデン米国の事情、習中国の事情 - 林川眞善

― 目  次 ― 

はじめに キシンジャー秘密訪中から50年、米中関係は今   
第1章 バイデン米経済の現状と、今後の課題      
1.バイデン経済政策の‘かたち’と、三つの懸念
2.バイデン政権の安全保障への新たな対応
第2章  習政権が進める「共同富裕」策と「規制強化」の真相
1.「中国、国家統制強まる」
2.習政権がすすめる規制強化の本質
おわりに 新たな競争環境にあって、日本の役割を思う

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はじめに キッシンジャー秘密訪中から50年、米中関係は今

この夏、手にした佐橋亮著「米中対立」(中公新書)は、いまや抜き差しならぬ米中の対立に至った経緯について、米側の対中観の変化を切り口に詳しく読み説く良書でした。
周知の通り、米中関係の起点となったのが71年7月、キッシンジャーの秘密訪中で、今年はその50年を記す処、翌72年2月にはニクソン大統領が訪中、外交関係を切り開くと(上海コミュニケ)、79年、正式に国交を樹立、爾来、米国は40年に亘り、中国に大規模な支援を与え、今日に至る処です。つまり中国を育てたのが、ほかならぬ米国という事でした。

その米国の対中政策の姿を「関与政策」と称されるものでしたが、そこには中国に対する米国の三つの期待、①中国が政治改革を進め、②市場化改革を行い、③既存の国際秩序を受け入れその中で貢献するとの期待、があってのこととされ、2001年の中国のWTO加盟こそは、そうした期待が結びついた一つの終着点とされる処でした。 しかしその後、米中関係を巡る環境は急速に変化し、とりわけ習近平氏が中国 第5代最高指導者に就いた2012年11月以降、強権的政治行動が顕著となるなどで、これまでの関与政策はもとより、米国の対中政策の根本的見直しが不可避とされる処です。

「関与と支援の時代に中国の近代化は歓迎されるべきものでもあったが、今や、中国の成長への焦り、そして中国の内政・外交への不信が米国の対中政策となりつつある処、中国も米国との長期的な対立関係に備えるように国内経済対応や技術開発を急いいでいる。米国と中国が相手への不信を深め、自らの死活的な利益を守るために、相手との関係の維持・管理よりも相手との関係への依存を解消するように対外政策、国内政策の再編を優先させる、そう言った米中対立が前提となる世界が迫っている」(前掲「米中対立」P.15 )とされる処、そうした事態を実感させられる変化が、今、米中同時に進む処です。

具体的には、格差是正に向けた米中両政権が進める政策対応の違いに映る処、とりわけ8月17日 開催の中国共産党中央財経委員会で習近平氏が示した格差是正策は、富裕層、大企業幹部らを狼狽させる処と報じられ、時にその変化は、文革2.0あるいは、共産主義革命2.0とも云々される処、これが米国の対応とも重ね見る時、米中デカップリングの更なる進行を感じさせる処です。(注) 慶大教授、中山俊宏氏が指摘するように(三田評論、2021/8・9)、かつての米ソ関係にあった「対立の安定性」は、米中対立には見ることはなく、その対立関係はより複雑な様相を呈し、しかもそれが長期化するともみる処です。

   (注)デカップリング: 英語で云う Decouplingとは「分離」、「切り離し」を意味するが、
政治・経済の分野においては、いわゆる親密・緊密な関係を解消して非連動的なものにし
ていく動きとされ、今日的には専ら「米国経済と中国経済の緊密な関係の解消、希薄化」
を指す言葉として用いられる処、要は「組み合わせの解消」が進む際に使われる言葉。

そこで、今次論考では、米中関係のデカップリングを促す事情としての米国経済の現状と、中国側の事情、とりわけ上述「共産主義革命2.0」を想起させる、急速に進みだした習政権の毛沢東イズムへの回帰の動き、そして圧力を強める規制強化の実情とも併せ、その意味する処、グローバル経済の視点から考察することとしたいと思います。



第1章 バイデン米経済の現状と、今後の課題

1. バイデン経済政策の‘かたち’ と、三つの懸念

(1)バイデン政権の経済政策
米NYU, Stern School of Business教授、Nouriel Roubini氏は、米論壇(Project Syndicate)に8月3日付で投稿した論考「Biden’s Neo-Populist Economic Doctrine」で、今日に至るバイデン氏が推進する政策を、トランプ前政権のそれと比較レビューし、民主党政権ながら、クリントン、オバマの新自由主義(neo -liberal)の信条から決別した、つまりトランプ政権の下で現れたneo populism(新ポピュリズム)が、バイデン政権下で形を整えつつあるとし、巨額の財政出動など、その変化は必然的なものと政策のシフトの合理性を語る処です。尤も色々な変化要因、脱グローバル化がもたらす供給ショック、米中デカップリング、企業への規制強化等々で、経済はvulnerable、脆弱さを呈する様相とも指摘するのです。

まずその一つは、バイデン政権の保護主義対応です。バイデン政権はナショナリズムに基づく国内重視の貿易政策を進めており、トランプ政権が中国に課した関税を、現在も維持しているとし、とりわけ政府調達における「バイ・アメリカン」の規制強化や重要産業分野での国内回帰策の強化を推進している点を、指摘するのです。

実際バイデン氏は「製造業の未来はすべて米国でつくり、高賃金の雇用を生むことだ」と、7月28日、遊説先のペンシルベニアで「バイ・アメリカン」法の運用強化、国産優遇をアピールする処です。(日経7/30)そして広範な分野で中国とのデカップリングを継続し、貿易、技術、データー、情報等、「未来の産業」の各分野で覇権争いを続けている点も重要な動きと指摘する処です。

又、金融政策面では、トランプ政権はドル安を志向、その政策の実行のため生じた巨額の財
政赤字をFRBに圧力をかけてフアイナンスさせてきましたが、バイデン政権でも同様、
FRBに緊密な協力を求めている点を挙げ、実際、バイデン政権でも政府債務を常にマネタ
イズする状態に移行したと指摘する処です。 因みに、バイデン政権はトランプ政権より
も累進課税に積極的ですが、トランプ政権と同様に、巨額の財政赤字を主に国債で賄う事と
している点では同じ行動様式にあって、その国債はいずれFRBがマネタイズせざるを得ず、
とすればその点では同じ道を辿る処と、するのです。
 
更に格差縮小への政策も同じ線上にあるというのです。バイデン大統領は、所得や富の格差縮小のために、労働者、失業者、貧困層を対象とする巨額の現金給付や減税を進めることとしています。(注)これもトランプ大統領が最初に実施した、Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security (CARES) Actに基づく2兆ドル規模の支援や、20年12月に成立した9000億ドルの景気刺激策を実施に倣う処、バイデン政権も1兆9000億ドルの景気対策を成立させている事情を指摘する処です。

(注)具体的には、8月24日、米下院は子育て・教育支援や気候変動対策などに
10年で3.5兆ドルの財政支出を目指す予算決議を可決。先に8月10日、上院での超
党派ベースで、可決した1兆ドル規模のインフラ投資法案とも合わせ、バイデン政権
の成長戦略となる2柱の成立を見る処です。尤も予算決議は財政の枠組みを定めるだ
けで、議会民主党は歳出・歳入の関連法案作りを急ぐ処、2022年の中間選挙を控え、
政権の看板政策の実現はなお波乱含みの展開となりそうです。

尚、企業の規制問題についてバイデン政権は,前政権時代に始まった巨大企業やテック大手に対する一般の反発にも対応、既に反トラスト法の執行や規制の修正、最終的には立法措置により企業の力を抑える為の手順を始めており、ただそれぞれの措置の目的は、国民所得の一部を資本から労働へ、そして企業利益から賃金へと再分配を目指すとするもので、この点こそは、トランプとの違いです。

かくしてバイデン政権は、オバマ政権よりむしろトランプ政権に近い新ポピュリズムの経済政策に取り組む様相にあり、米国の経済政策の振り子がneoliberal(新自由主義)からneo-populist(新ポピュリズム)に振れるのは不可避だったとするのですが同時に、それ自体がリスクを伴うとも指摘する処です。

つまり、民間セクターと公的セクターが共に巨額の債務を抱える現状は、FRBが債務のわなから抜け出せないことを意味するも、更に、経済は、様々な要因、negative supply shocks from de-globalization, US-China decoupling, societal aging, migration restriction, cyber- attacks, climate change, and the COVID-19 pandemic, に対して脆弱になってきているとも指摘するのです。そして、財政・金融政策を緩和すれば差し当たり、所得の労働分配率を高める役に立つかもしれないが、いずれ同じ要因が高インフレを招き、場合によっては,指摘されている供給不安とも重なり、スタッグフレーションを起しかねないと警鐘を鳴らすのです。

(2)米経済の現状、GDPが映す ‘三つの懸念’

では足元の米経済の動向の如何ですが、 米商務省が7月29日公表した本年第2四半期のGDP(速報値)は前期比年率換算で6.5%成長との由ですが、この数字は、コロナ危機前の19年10~12月期水準への回復を示唆する処です。この回復の背景にあるのはコロナ禍対策のための大型財政の支出、そしてコロナ接種の進捗とされる処です。が、世界経済を主導する米経済の行方を見通す時、現状からはなかなか楽観許されぬ状況にあって、なお残る問題と映るのが 次の3点への懸念です。

① 一つは景気を下支えしてきた金融政策の如何です。つまり、今次米経済の第2四半期
GDPの結果を受けて、米FRBが金融緩和の縮小に向かうとの見方が広がる中、これが景気に与えるネガテイブな影響への懸念と、加えて、新型コロナウイルスの感染拡大が新種ウイルスの発見で、再燃懸念が高まってきていることです。
② 二つは、供給不安の高まりです。つまり、米中対立、技術の覇権争いなどの変化が、米
国による半導体の国産化を促し、供給網からの中国の締め出しに繋がり、中国の対抗措置をもたらし、バリューチェーンの寸断が生じ、バイデン政権の中国の人権侵害への厳しい対応が加わり、価値観の対立では米中が譲歩できず、まさにデカップリングが止まらない状況にあることです。
③ そして、三つ目は、今、急速に進みだす中国習政権の毛沢東イズムへの回帰問題です。
それは時に「共産主義革命2.0」ともされる処ですが、これがIT企業を中核にした民間企業への規制の強化とも相まってまさに、米中のデカップリングを促進させ、結果、世界の経済システムの構造変化すら、予想させるというものです。

まず ① 「金融政策」については、8月27日の米カンザスシテイー連銀主催の経済フォーラム(ジャクソンホール会議)での講演で、米FRBのパウエル議長は、雇用回復や新型コロナウイルスの感染再拡大の影響を見極め、大規模な金融緩和の修正に踏み切る姿勢を打ち出す処、米国債など資産の購入を減らすテーパリングについて年内開始が妥当と言明(日経、8月28日)する処でした。そして9月22日、同議長は、インフレは目標の2%を上回る水準が続き、もう一つの目標の雇用回復に関しても、条件を「ほぼ達成した」と断言、量的緩和の縮小開始を11月に決めると表明、更に2022年末までに利上げする可能性も視野に入れると、メデイアは伝える処です。(日経9/23 電子版)

新型コロナウイルス禍が続き、インフレが加速する恐れのある中、中国発の市場不安がくすぶり、しかも米政府の債務上限問題も解決されていない状況にあって、異例の緩和路線の修正に、対応を誤れば世界の金融市場に動揺が広がると、いささかの懸念の広がる処です。
序で乍ら欧州でも9月9日のECB理事会で、コロナ対応で実施してきた債券購入のペース
の縮小を決定。景気回復に自信を深めたしるし(第2四半期、実質成長率は、8.3%と高水
準)とされ、海外の中央銀行が金融政策の修正に動き始めたとされる処です。(日経、9/14)

いずれにせよ次に来る問題は、米の金融引き締めでドル高となれば新興国は自国通貨安でドル建ての債務負担が重くなってくること、更には、緩和マネーの膨張鈍化に景気減速が加わり、企業や市場の心理が一気に冷え込む恐れなしとせず、従ってそうした事態への十分な備えが求められる状況と見る処ですが、 前出N.Roubini氏は、もはやその姿に`stagflation threat is real’ ,スタッグフレーションの脅威を目の当たりとする状況、とするのです。

尚、② の問題は‘グローバル経済の構造的問題’ 、③ の問題はいうなれば `中国と云う国の行方をうかがう問題’ である点で、早急に「解」が得られるわけではありません。その点では、中長期な視点を以って当該トレンドを注視し、戦略対応を目指すことが不可避となる処、これら動向については、次の第2章にて中国政府の動きと合わせ, 論じることとします。

さて周知の通り8月末、バイデン政権は突如、アフガンに駐留する米軍を撤収しました。このバイデン政権の決定は、これまで20年間に及ぶイラクとアフガンでの戦時対応に疲弊した米国として「背に腹変えられぬ」決定と見る処ですが、安全保障を米国に頼る国々の信頼を傷付付けるものと指摘される処でした。その点で、米国を核とした安全保障のあるべき姿は如何にと、される処、そこで改めて、バイデン政権が目指す安全保障対応について、新たな国際秩序に向けた動きとして以下、考察することとします。

2. バイデン政権の安全保障への新たな対応

(1)アフガン駐留米軍の撤収
8月30日、上記の通り、バイデン氏は突然、アフガンに駐留の米軍の撤収を決行しました。その結果、安全保障を米国に頼る国々の信頼を傷付付ける結果となったとされる処、まさに自由諸国間での新たなデカップリング動向とも映るのでした。

米軍のアフガン駐留は、2001年9月に起きた米同時多発テロの首謀者・組織の制圧を目指したイラク、アフガンでの20年にわたるものたでしたが、その結果は膨大な資金や兵力を投入したもののアフガンでの民主国家の建設は失敗と、米政府は終結宣言を出し、撤収を果たしたという事でしたが、米国の疲弊は覆うべくもなく、米国が「世界の警察官」の座を降り始めたというもので、改めて、新たな国際秩序の再建が問われる処となっています。
因みに、米軍の撤収は、NATO同盟諸国に米軍なき欧州安保体制への危機感を高め、EUの判断で行動できる部隊の創設等、自立の道を探る動きが伝えられ、9月15 日、EUのフォンデアライエン欧州委員長はEU欧州委員会で米軍のアフガン撤収に照らし、安全保障分野の統合を進めEUとしての兵力も展開できるようにする意向を表明する処です。

(2)アジアシフトを高めるバイデン政権
かかる折、ワシントンでは9月15日、米・英・豪州は、インド太平洋の安定に向けた3カ国による新たな安全保障協力の枠組み(AUKUS)を創設したこと、そしてその第一弾として、米英が豪州の原子力艦船の配備を支援すると、バイデン氏は発表したのです。いうまでもなくこれが多国間連携を重視するバイデン政権の取り組みの一環とされるものであり、同時に、中国を念頭に抑止力の強化を狙う処です。
 
更に9月24日 予定された日・米・豪・印の4カ国(Quad)首脳会議では、4者協力の重点分野として半導体など戦略物資を対象に、その供給網の構築・安全性の強化について協議する予定とされており、云うまでもなくこれは中国を意識した動きです。もはや、バイデン政権の外交の軸足は、これまでの「資源」を一義としてきた中東から、アジアにシフトする処、既にバイデン政権は中国の台頭に照準を合わせた米軍の態勢見直しを近く終える予定とも伝えられる処です。

そうした中、9月21日、バイデン氏は国連総会の一般討論演説に臨み、「いまも今後も最も重要なインド太平洋に焦点を移す」とし、中国への対抗に一段と注力する考えを明示すると共に、「新冷戦を志向しない」と演説したのです。これは先のアフガニスタン戦争を終結に導いたことを踏まえてのことと理解する処ですが、まさに米国のアジアシフト宣言でした。 となるとアジアにある日本として、地域の安全保障について、同盟国米国と協調しながらも、如何に自律的に向き合っていくかが、問われていくことになる処です。



第2章 習政権が進める「共同富裕」策と「規制強化」の真相

1. 「中国、国家統制強まる」

この「中国、国家統制強まる」のフレーズは、9月8日付日経紙の第1面を飾った記事の大見出し、big headlineです。
日経中国総局発の当該記事は、中国の習指導部が社会や思想への統制を強める様子を報じ、とりわけ若者の思想形成に影響力を持つ分野、芸能や教育分野への介入が相次ぎ、にわかに「文化大革命」の様相も帯びてきたとする処です。 因みに9月の新学期からは小中高で「習近平思想」が必修化されることとなった由で、個人の名を冠した思想教育は個人崇拝と隣り合わせで、習指導部の‘学習’とは、まさに「習を学ぶ」となる処、毛沢東に権限が集中しすぎた故に招いた文革の再来すら想起させる処です。そして、米国に迫る経済大国となった中国が内向きに転じれば世界も無傷ではいられないと警鐘を鳴らすのでした。

さて、習近平主席は本年7月1日の共産党結党100周年記念大会で、「小康社会の全面的実現」が達成され、次なる100年(建国100周年の2049年)の目標は「共同富裕(みんなが豊かな社会)の実現」にありと、していましたが、8月17日に開かれた中国共産党中央財経委員会・第10回会議で、習氏はその「共同富裕」実現に向けた政策を発表したのです。 その趣旨は、「中間(所得層)が分厚く、両端(の富裕層と貧困層)が少ない分配構造を作る」とするものですが、共同富裕実現の方法として習氏が示した「三次分配(三度分配)」こそは、中国の富裕層、大企業幹部らを狼狽させていると伝わる処です。

そこで、以下ではこの「三次分配」にフォーカスし、その際は、21 August 2021,Financial Times 掲載のGlobal China Editor、James Kynge氏の寄稿記事「Xi is taking aim at the gross inequalities of China’s `gilded age’(中国の富裕な時代)」、そして、中国問題専門のジャーナリスト、福島香織氏が8月26日付JBP (Japan Business Press)に寄せた論考とも併せ、適宜referしながら、今次習氏提案の内容とその問題点を考察していくこととします。

(1) 「共同富裕」実現に向けた「三次分配」政策
8月17日の会議で習近平氏は、「共同富裕は社会主義の本質的要求であり、中国式現代化の重要な特徴である」とし、「質の高い発展の中で共同富裕を促進していかねばならない」と訴え、初めて「高すぎる収入は合理的に調整し、高収入層と企業に更に多くの社会に報いることを奨励する」と、寄付・慈善事業などの富の分配方法、「三次分配」の導入を指示しするものでした。

「三次分配」とは、具体的には市場を通じて個人や集団に分配される「一次分配」、一旦分配された資源を政府が必要度に応じて税制や社会保障を通じて再び分配し直す「再分配」、そして企業や個人の慈善活動や寄付等による「三次分配」といった分配機能を適切に組み合わせることで格差を是正していくとするものですが、要は低所得層の収入を増加させ、高所得層を合理的に調節し、違法収入を取り締まり、中間層を拡大して、低所得と高所得を減らしてラグビーボール型の分配構造構築を目指し、社会の公正・正義を目指すというのです。

中国の調査会社 Huran のGlobal Rich List(世界長者番付)によると2020年に10億ドル超の資産を持つ中国人は1058人に達し、米国の696人を上回ったがその一方で、中国には月収1000元(約17千円)ほどで暮らす人が約6億人にも上る由で、そうした事情からは最富裕層の民間起業家の何人かが標的にされていることは確かとされています。
因みに、この会議の直後、大手インターネットプラットフォーム企業、テンセントは「共同富裕」の実現のためにと、77億ドルの基金の設立を発表しています。これがどう見ても習近平体制の下で示唆される「道徳の力による自主的な慈善事業」と云うよりは、共産党からの制裁を恐れて慈善事業をやらされた感の伝わる処です。 かくしてこの三次分配政策は、社会に一種の緊張感を呼ぶ処と、日経中国総局長の桃井裕理氏は現地から発信するのです。つまり「高収入は合理的に調整し、不法収入は取り締まる」としている点ですが、人治の国、中国でのこの言葉の威力の持つ大きさは云うまでもないと、する処です。

(2)「三次分配」政策とは富裕層から富を奪取する口実
この「三次分配」という言葉が中央の政策の中で出現したのは昨年、2019年10月の第19期中央委員会第4回全体会議(4中全会)で、その際、三次分配が収入分配制度における重要な要素と明確に言及され、中国経済と社会発展の中で慈善事業に重要な地位を確立させるべきとされています。
ただ問題は、この拠出された寄付金を必要とする人々の元に誰が公平に届けるのか、企業がたとえ慈善事業基金を設立してもそれをどういう形で運用し、うまく分配するシステムを構築するのか、そのノウハウが中国にあるのか、と云う点です。自由な民主国家に見る慈善家による寄付が社会の再分配機能の中で大きな役割を担ってきた背景に照らす時、今の中国に慈善事業をうまく機能させるメカニズムはあるのかという事ですが、今の習近平政権にあるとは思えません。仮に、そう言った人間や組織、企業が台頭してきたら、恐れをなして潰すのが今の習近平体制ではと思うのです。

具体的にどんな方策がとられるにせよ、大きな政策の方向性はもはや変わる事はないだろとみる処、前出の福島香織氏は、米政府系メデイア「ボイス・オブ・アメリカ」でNY市立大政治学部の夏明教授が語ったとされる次の言葉をリフアーするのです。
「西側国家において企業が行う慈善活動方式と違い、中国では企業が社会において柔軟な影響を発揮する事を最終的に抑制する方向にある。と云うのも中国は、企業と公民運動とが結びつき、一つの公民社会パワーになることを恐れているからだ」。

となると習近平政権が打ち出す「三次分配」政策とは、早い話が、富裕層や大企業から堂々と党が収奪する口実にすぎないのではないか、とすれば富裕層達が怯えるのも無理からぬ事と云うものです。とすれば「共同富裕」どころか、いじめられた民営企業がモチベーションを失い、経済のパイが縮小し、一部の富裕層は富を失うかもしれないが、中間層は更に富を失い、貧困層より貧しくなる「共同貧困」時代が来るのではないか、いやそれよりも、富裕層に向けられる大衆の敵意がより煽動され、最悪、文革のような階級闘争時代が帰ってくるかもしれないと、愚考する処です。 そして次項で触れる民間企業への規制強化もこれありで、要は「文革2.0」が発動されるような事態にでもなれば、中国の地殻変動に繋がる恐れなしとせず、内向きの中国こそは、まさに世界のリスクと映る処です。

2. 習政権が進める規制強化の本質

(1)習政権とネット業界の統制強化
昨年来、中国政府はIT業界に対する統制強化を強めています。その起点となったのはアリババグループ傘下で決済アプリのアリペイを提供する「アント・グループ」の昨年11月の上場延期でした。その後、アント・グループの金融ビジネスは、事実上解体されようとしています。また7月24日には国家市場監督局が、国内ネット音楽配信市場における独占行為で、テンセントに対し独占禁止法違反で是正措置と罰金50万元の支払いを命じています。
そして、9月14日にはインターネット空間の統制を強化すると発表。併せて「ネット文明建設の強化に関する意見」という方針を公表する処です。

国内のネット人口は10億人を突破しており、ネット空間の虚偽情報などが社会不安を招きかねないとみて、監視を強めんとするものでしょうが、要は習近平思想に基づき、共産党指導部などの批判を徹底的に監視するとされ、新たな方針では、共産党政権が「習思想をもとにコンテンツの構築を統率する」と明記され、具体的には「党史教育の徹底」と、党の指導などを否定する「歴史ニヒリズム」を容認しないとする処です。(日経、9/15)

この方針は、ネット業界に指導部の意向を徹底させるうえでの基盤とされる処ですが、政府の規制・統制強化は別の業界にも及び始めており、先に指摘した教育、学習塾を非営利団体化することを柱とする規制策が公表され、今後は不動産業界や医療業界などにも当局の統制強化が広がると、観測される処です。

習近平主席がかつて断行した腐敗取り締まりキャンペーンにも似たものならともかく、ネ
ット企業への統制強化は、国民の利便性を直接低下させる可能性に加え、イノベーションを
阻害することで、中国経済の潜在力を低下させてしまう可能性もある処、国民にとっては大
きな不利益となるはずです。The Economist, Aug 14~20は、当該巻頭言「China’s attack on
tech」で、習近平政権が進める企業への介入、規制の強化について、経済の発展の源泉は創
造的破壊にある処、中国の専横的な企業への規制介入はその成長の源となる創造的破壊の
機能を抑え込み、中国経済の自壊につながる、「Xi Jinping’s assault on his country ‘s tech
titans is likely to prove self-defeating」と警鐘を鳴らす処です。

(2) チヤイナリスク
これまでチャイナリスクとは、IT関連の中国企業が米政府によって米国や先進国市場から締め出され、また、半導体など中国企業のサプライチェーンを遮断されることを意味してきました。が、現在では、中国当局による中国企業への統制強化の方が、より深刻な「チャイナリスク」と映る処です。ただ、そのリスクの高まりについて、Financial TimesのCommentator ,Gideon Rachman氏は、9/14付け同紙で「Xi‘s personality cult (個人崇拝)is a danger to China」と題し、習氏こそは中国のリスクだと指摘するのです。

つまり、習中国は、経済成長を達成したことで、世界が見習うべき発展モデルとして「中国モデル」を宣伝するようになっているが、「中国モデル」と「習モデル」は区別すべきで、ト小平が軌道に乗せた改革開放の中国モデルは個人崇拝の否定を基本としていたが、これに対し、習モデルは個人崇拝を高め、共産党支配と組み合わせた専横的政治を進める処、そこで、スターリン統治下のソ連、チャウシエスク大統領のルーマニア、金一族の北挑戦等、独裁国家の例に照らし、今の習中国のリスクは、習氏こそが中国のリスクだとするのです。 ― In a country such as China, -- without independent courts, elections or a free media- there are no real constraints on a leadership cult. That is why Xi is now a danger to his own country.

おわりに 新たな競争環境にあって、日本の役割を思う

(1)米中の現実をレビューして
上述米中の経済、外交の現実をレビューして思うことは、米中の関係を安定させる方法を見つけ出すことは、もはや現状からは不可能と思うばかりです。中国は「米国は中国の台頭を何としても妨げようとしている」 と考える一方で、米国は 「中国は米国に取って代わり、世界制覇を目指している」とみる,そうした両者の状況にあっては、まさにゼロサムの視点から相手を見ていると云え、信頼関係は生まれることは期待できないと思料するからです。 それでも、競争と同時に協力をする以外に選択肢はないのも現実です。 
その点、大掛かりな難しい問題に取り組むより、少しずつ信頼関係を築いていく方が実現の可能性は高いのではないか、もっと控えめな試みの方がより生産的ではと、云った声(米クレアモント・マッケナ大学教授のミンシン・ペイ氏、日経8月21日)も届く処ですが、思いは多々と巡る処です。

(2)日本の役割
前述、米同時テロから20年、この間に最も大きく変わったのは何か、といえば「抑止力」(deterrence)です。その点、米国は前出国連演説で示したように、アジアへのシフトを通じて中国への対抗を意識した ‘新たな抑止力’ としての国際連携の枠組み作りを進める処です。
では、こうした新たな環境にあって日本の役割は如何ですが、この際はアジアの雄として、抑止力の再定義を図ること、そして当該地域の安全確保のため米国の同盟国として、米政権との協調の下、より安全な世界の建設に向け貢献していく事と、思料するのです。尚、その際銘記されるべきは、バイデン氏が米軍のアフガン撤収の際に発した、「自国を守る意思がなければ米軍が駐留しても意味がない」との言葉です。言いかえれば、日本が独自の抑止力を強化してこそ、日米同盟も機能するという事になるのでしょうが、米国の庇護の下、繁栄してきた日本には、その言葉は強く迫る処と思料するのです。

もとより日本は世界に覇を唱えるような国ではありません。できる事は多くの国と交流を深め、自由や平等と云った人類普遍の価値を共有し、それによって世界の安定を目指す一翼を担う事であり以って、新たな抑止力の確保を目指すべきと思料するのです。殊、米中の対立深まる中では、そうした基本に立った日本の役割は益々高まる処と見るのです。 ただ、その日本の現実はと云えば、最大の同盟国・米国、最大の貿易相手国・中国との狭間で、まさに米中新冷戦にただ身構えるしかすべがない様相です。が、やはり、多くの国、多くの人たちと対話を通じて新冷戦防止を目指す事であり、日本の使命とは、それに尽きる処ではと思料するのです。 以上(2021/9/25)
posted by 林川眞善 at 17:11| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする