2020年02月25日

2020年3月号  世界は今、Backward Regression - 林川眞善

目 次

はじめに 後退する戦後世界の経済秩序
  ・大西洋憲章(Atlantic Charter)
             
第1章  海図なき船出のジョンソン英国

 1. 英国のEU離脱
  ・離脱後の英国の行方
 2. 英国が抜けたEUの生業
 (1)NATO(North Atlantic Treaty Organization : 北大西洋条約機構)
(2) 欧州産業政策 ( European industrial policy )
 
第2章 管理貿易指向を強めるトランプ米国

1. トランプ貿易協定と世界経済
 (1) 管理貿易指向を強めるトランプ政権
(2) Tearing up the rulebook
2. トランプ大統領の年頭教書
  ・一般教書( State of the Union Address)
  ・米大統領選

おわりに いま世界はコロナショック    
 1 コロナショックと習近平政権
  ・Wall Street Journalの警鐘
 2 日本経済の焦点は今
  ・日本は大丈夫か
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はじめに 後退する戦後世界の経済秩序

・大西洋憲章(Atlantic Charter)
現下で露とする英米の自国主義、その行動様式を観ていくとき、銘記されるべきは戦後世界のビジョンとなった「大西洋憲章」です。それは、1941年8月、F.ローズベルトとチャーチルが大西洋上で英米首脳会談を行い、第2次世界大戦後の連合国の戦後処理構想、国際協調の在り方について宣言したもので、民族の自決、自由貿易、国際的な経済協力、平和の確立、武力行使の法規と安全保障システムの確立、等8条からなるものです。(尚、これに至る経緯事情はここでは割愛)そして戦後、創設された国連は、この憲章を基礎とした安全保障システムに他なりません。 
一方、世界経済の再建を目指し、大西洋憲章の精神を映す形で、民主主義、自由主義を以って、やはり英米が主導する形で、いわゆるブレトンウッズ体制(世銀、IMF)を構築、以って世界経済のサポーテイング・システムとして今日に至った事、周知の処です。
つまりは戦後75年、良い、悪いはともかく、今日云うG7メンバーの英米が主導する形で、国際協調をキーワードに世界の秩序構築を果たし、今日の繁栄を齎してきたと云う事です。

が、こうした路線構築に努力してきた本家たる英国と米国が、いわゆるポピュリズムに応える形で自由主義、国際協調路線に背を向ける中、今年に入って、その動きが具体的、極めて先鋭的に現れて来ています。

その一つが2020年1月31日の英国のEUからの離脱です。これは欧州(EU)諸国と共に発展していくとした協調路線の忌避と云うものです。もとより欧州諸国は、これまでの秩序維持に向けつつ、独自路線の強化に向かう処です。一方米国は、「米国第一」主義を叫ぶトランプ大統領の台頭で、対外的には多国間交渉の協調路線を忌避、対米貿易関係については、デイールを前提とした二国間貿易協定を強行、これが管理貿易の様相を強め、世界的な貿易秩序の混乱を招く処、その典型を、米中貿易交渉「第一段階の合意」に見る処です。
つまりgoing my way の英国、これまでの国際秩序を守りたい欧州、新しい覇権争いに入った米国、この三すくみの構図が、世界の先行きに不確実さを高める処となっています。

そこで本稿では、海図なきまま船出したとされるジョンソン英国とその後のEU、そして管理貿易指向を強めるトランプ米国、それぞれの実態を改めて整理し、今後の行方について考察する事とします。尚、こうした環境の中、中国発のコロナウイルスによる肺炎感染が世界的広がりを見、世界経済の今後に不透明感を深める処、時に「パンデミクス」への懸念すら呼ぶ処です。 そこで、おわりにその現状、とりわけ習近平政権の行方にフォーカスすると同時に、日本経済の行くえについても併せ考察する事とします。


            第1章 海図なき船出のジョンソン英国

1.英国のEU離脱

2020年1月29日、欧州議会は英国のEUからの離脱を定めた協定案を賛成多数で可決。既に英国側では関連法案を成立させ、手続きを終えていたことで、予定通り、2020年1月31日、英国は2016年国民投票が示した民意、EUからの離脱、が3年半を経て実現しました。これで、47年間の加盟に幕を下ろすとともに、2月1日以降は単独国家として、つまりは離脱派が目指した国家主権の回復を謳歌する形で、問題は多々ながら、自らの進む方向を目指すことになったと云うものです。かかる行動は、俗に言う「グロバル化」を横に置き、「民主主義」の下、英国主義と云う「国家主義」にシフトしたと云う事であれば、ダニ・ロドリック教授の云う「グローバリゼーション・パラドックス」(2013/12/20)を実証したと云うものなのでしょうか。

英国はEUにあっては、ドイツに次ぐ第2位の経済大国です。それだけに英国が抜けたと云う事は、EU拡大戦略のとん挫を意味する処、要は欧州の戦後秩序に幕を下ろすことになったと云うもので、まさに歴史的な節目を迎えたと云うものです。そして、英国が自国優先に転じたことで、国際協調を重んじる「西洋の価値観」を傷つけ、同時に自らは欧州における発言力を失う結果となったことに、聊かの寂しさを禁じ得ない処です。離脱2日前、1月29日付けFinancial Timesで、Mr. Martin Wolf が`Britain will not be alone but will be lonelier ‘と記していましたが、そのニュアンスに、思いは尚更となる処です。
更にThe Economist, (Feb.1st )巻頭論考「Into the unknown」では、ジョンソン首相はとにかくEUからの離脱だけを目的とした行動 (Mr. Johnson was focused entirely on leaving the EU)で、実際、国として取り組むべき問題に(例えば 中国・フアーウエイ製品の使用問題も含め)真剣に対峙しようとはしていない、つまりは海図を持つことのないままに大海に船出したと、手厳しく批判する処です。
     
・ 離脱後の英国の行方
さてこれから英国が対峙していく課題、問題と云えば、何としても貿易協定の取り扱いです。今年12月末までは激変緩和のために「移行期間」が設定されており、この間に英国はEUとの間で、新たな関税や貿易ルールを定めたFTAの合意を図る事が不可避となる処です。 因みに、英国の自動車生産の半分はEU向け輸出で、これまでEU加盟国として、これまで関税なしで輸出されていたものが、FTAが締結されない場合、10%の関税がかかる事となり、英国の自動車づくりは競争力を失う一方、82万人と云われる自動車関連の雇用は、英製造業の3割を占めるだけに、その打撃は大きく、従って早期決着が喫緊のテーマとなる処、色々な要素が絡むだけに綱渡りの交渉を余儀なくされていく事になるのではと思料する処です。勿論、貿易以外で医薬品や化学品の規制問題への取り組み調整、等々問題は山積みで、仮に期限内に当該関連事項の整備が出来ない場合、無秩序な離脱となる懸念の残る処です。

さて、ジョンソン首相は2月3日、新たなFTAの交渉に向けた方針をそれぞれ発表しています。まず、EUとの間で関税復活を避ける事、FTAの在り方としては、規制の調和は求めない「カナダ方式」(注)を追求する事。(注:カナダとEUの間で2016 年2月合意したFTAでは、物品貿易について、7年以内に相方関税品目の98.6%を撤廃するとしている)そして、製品や環境基準、政府補助金等、産業政策面で、今後EUルールに従わない方針を、明言したのです。

要はEUルールに縛られずに、独自の産業政策の下、ITや金融などの成長産業を通じて経済成長を追求するものと云え、貿易でも米国や日本などとも通商交渉を進め、今後3年で貿易の8割をFTAでカバーすると語る処です(注)。

       (注)因みに、EU離脱後の戦略として英国もアジア太平洋地域との関係強化を謳う処、2月8日にはラーブ英外相が訪日、日英関係の緊密化について話し合われた由。尚、離脱後初の外国訪問先は日本の他、オーストラリア、シンガポール、マレーシアとの由。

が、ジョンソン氏の思考様式と関係諸国のそれと如何に整合されるか、なお、危惧の残る処です。因みに、「5G」の通信網で米国は、長期的な安全保障と経済的影響に照らし、中国のフアーウエイ社製品の完全排除を、英国を含む同盟国に働きかけています。が1月28日、英国はこれを容認したのですが、米国は「特別な関係」を築いてきた英国の離反と、見直しを迫る状況に、ジョンソンvsトランプのさや当てともいえる微妙な雰囲気が伝わる処です。
つまり、英国は対EUだけでなく対米でも関係悪化を甘んじて受け入れることとしたと云う、ある種国際関係における緊張感を醸成する処です。

ジョンソン政権下で果されたBREXIT、その結果として対EUでは貿易政策等、見直しが喫緊の課題にある事上述の通りですが、それ以上に重要なことは、国民投票で離脱を決めてから3年半、政治の混乱を経て迎えた歴史的な節目ですが、それだけに地域の格差や世論、様々な社会の分断を抱えたまま、新しい時代に突入したと云え、この分断状況を克服、結束し、前進することができるか、何よりも基本問題として残る処です。そして云えることは残念ながら英国は、もう民主主義の「モデル国家」ではなくなったと云う事でしょう。

それにしても上掲、エコノミスト誌、Into the unknown が、締めとして伝える下記言辞こそは、肝に銘ずべきと思料するばかりです。

― Britain’s future is full of uncertainty. To find No longer part of one of the great global blocs, it has to find a new role in the world. ----- The difficulties should not be underestimated. But when Britain previously reset its course, in 1945 and 1979, the choices it made helped reshape the world. It should aim to do that again.

2.英国が抜けたEUの生業

戦後の西欧は、英独仏三カ国の絶妙な勢力均衡が、その土台となってきました。然し、その土台を揺るがし出したのが自国主義を標榜するトランプ米政権の台頭ですが、そこに英国の離脱が重なたことで、一挙に地政学的バランスの如何が、問題として急浮上する処です。
具体的には、一つは欧州の安全保障体制、もう一つは欧州経済の競争力の問題です。

(1)NATO (North Atlantic Treaty Organization : 北大西洋条約機構)
欧州の安全保障体制は、米主導で始まったNATOに依存する処、米国第一主義を標榜するトランプ氏は、不公平な経費負担のもとで、なぜ米国が欧州の安全保障を守る必要があるのかと、侮蔑的姿勢をもってEUに対峙する近時姿勢に(注)、昨年5月にはメルケル独首相が ‘我々が他者に完全に頼る事の出来る時代は終わった’ と語り、更にマクロン仏大統領は‘欧州安全保障は米トランプ政権には頼れない’(The Economist, 2019/11/9, A continent in peril)と語るほどに、両者の亀裂を深める様相にあります。そしてマクロン氏はもはや欧州軍編成の必要性を指摘する処です。

       (注)昨年12月4日のロンドンでのNATO首脳会議では、トランプ氏は軍事費のGDP
比2%への引き上げを強硬に主張、共同防衛にはトランプ氏は絶対視しない姿勢を示唆、
するなどNATOの安全保障の枠組みの揺らぎを感じさせている。

そうした流れの中、斯界の関心を呼ぶのがEU内politics、つまり独仏のバランスです。昨年、2019年1月22日、独仏両首脳は政治経済のみならず軍事分野までも連携強化を目指す「独仏アーヘン条約」を締結していますが、それも ‘強いドイツがドイツにとっても欧州にとっても求められている’ のに、ドイツ国民の大方は,そのような役割を果たすことになお否定的であることに苛立つマクロン氏の姿を映す処とみられています。そうした状況にあって、ドイツとフランスのパワー・バランスを変化させる可能性が強い、そのポイントが英国の存在だった、と云うのが外交評論家の舟橋洋一氏です。

つまり、「東西ドイツの統一の際、ミッテラン仏大統領は統一に反対するサッチャー英首相の ‘脅威 ’を、ドイツに対するレバレッジとして用いて、コール独首相から欧州通貨統合への確約を取り付けることに成功している。が、フランスは今後、そのように英国とパワーを重ね合わせることでドイツをバランスさせる外交の妙は期待できないかも」と、云うのです。更に世界の超大国として登場しつつある中国に、英独仏がどのように対応するかも今後欧州の大きな地政学的要素となるが、さて独仏が共同歩調をとることができるか、と質す処です。が、産業政策面では後述するように、ドイツはフランス流にシフトし出す様相にあり、その点ではEUの新たな可能性を感じさせると云うものです。

とにかく、英国の離脱で大きな影響を受けそうなのが、英国の拠出が無くなるEU予算(英国の拠出比率は約1割強)であり、外交・安全保障政策です。 前者は英国の抜けた分を如何に他27メンバー国でどう分担するかですが、後者については、英国は外交・安保面での存在感が極めて大きく、防衛支出はEU内ではトップ、フランス同様国連安保理の常任理事国であり、核保有国でもある点で、EUとしての影響力を保持するため、外交・安保政策では従来通りの協力を英側に求めていく事にはなるのでしょう。もとより英国としても外交・安全保障政策に関しては、米、EU双方と等距離で臨むべきものと思料する処です。

(2)欧州産業政策(European industrial policy)
EU欧州委員会は、2月3日、ジョンソン英首相の方針表明に応える如く英国とのFTAなど将来関係を巡る交渉方針を発表しました。英国が関税ゼロの継続を追求せんとする中、一方的な規制緩和などで競争力を不当に高めることがないように「公正な競争環境」の確保を最重視するもので、それは、前出ジョンソン首相が云うように、EUのルールに合わせないのならば、英側に関税ゼロ等の通商条件は認めない姿勢を鮮明とするものです。 つまり、英国が「第三国」となった今、英国とEU加盟国の間では競争が発生する処、これまでEUの厳しい基準に合わせていた英国が、規制や補助金制度を独自に緩和すれば加盟国が不利になると、英国の抜け駆けをチェックせんとするもので、「公正な競争」最重視です。

ですが1月18日付けThe Economist は、その状況が変わりつつある、Europe is rediscovering its penchant for statist intervention(欧州の産業政策はいま、国家主導型に傾きだした)と指摘する処です。その背景にはEU各国には開かれた貿易と投資と云う政策では、世界との競争に伍していけないと云う共通認識が広がりつつあるため、と云うのです。

同誌記事は「欧州は技術開発に乗り遅れ、今や技術は米国が牛耳る。中国企業は政府からの手厚い保護と支援で今や欧州の競合と対等に戦える。欧州以外の地域では、量子コンピューターや次世代自動車など画期的な技術革新が相次ぐ。ならば国家による支援と云う諸外国と似た政策を導入すればEUの産業も再び世界トップと比肩できるようになるのでは」と。そして、英国のEU離脱が決まったことも、政府による介入への懐疑的な見方を和らげる一因となったともいうのですが、最大の理由は、ドイツの考え方の変化にあるようです。フランスは以前から大規模な公共事業と緩い競争法支持してきたが、ドイツでは政府が市場のルールだけ決め、後は企業にお任せ、としてきていますが、この方針が近年、ドイツには仇となったと云うのです。そのドイツの政策転換が、まだ途中の段階ながら、フランスの方針へと振れつつあると云うのです。

この3月にはフォンデアライエン委員長は、EUの競争力回復のため、新たな産業戦略を発表することになっていますが、その際はドイツの政策転換も明確になっていくだろうし、いまこそ欧州は産業戦略をどうすべきか考えるべき時と指摘するのです。これまでは労働者のスキルやサプライチェーン、中小企業の育成と云った陳腐なお題目を繰り返すだけでお茶を濁してきたが、今回は大幅な政策転換が期待できそうだと云うのです。

尚、この指摘はまさに今の安倍経済政策に求められる視点です。つまり、アベノミクスは
頑なにトリクルダウンに固執し、本格的な税・社会保障改革に手を付けぬままにあるのですが、今日のデジタル経済では付加価値が一部の経営者や株主に集中するためトリクルダウンは生じません。手をこまぬいているうちにAIによる労働代替効果も加わり、中間層の崩壊や格差拡大でポピュリズムを招く処です。EUの政策姿勢をreviewするにつけ今日の国家に与えられた役割、つまりは所得再分配こそ、確実に取り組むべき時と思料するのです。


第2章 管理貿易指向を強めるトランプ米国
 
1.トランプ貿易協定と世界経済

(1)管理貿易指向を強めるトランプ政権
上述、英国のEU離脱が、拡大発展を目指してきた欧州の流れを逆流させる一方、トランプ政権が主導する二国間貿易協定も、自由貿易の流れをまさに逆行させる処です。

今年に入ってからと云うもの、トランプ政権は1月15日、中国との貿易交渉を巡る「第1段階の合意」で正式署名を交わし、それとは前後して、1月1日には日米貿易協定(国会承認2019/12/4)が発効、又、1月29日には、NAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新協定「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定) 」が締結され、日本、中国、北米と立て続けに、米国第一主義に沿ったトランプ貿易協定、3連ちゃんの成立です。

勿論、いずれも大きな経済成長や雇用創出につながる枠組みと、主張される処、トランプ氏はFTAと距離を置き、例えば、NAFTAに代わるUSMCAでは、その呼称からはFree trade、自由貿易の表記は消え、現地生産については材料の現地調達比率を厳しく規定する処です。又トランプ政権が主導する二国間貿易協定では、貿易の安定的拡大を図るためとしながら、日米貿易協定の場合、商品を特定し、当該商品の輸出量、輸入量を予め両国間で取りまとめ、以って日米貿易の枠組みとするもので、その限りにおいて極めて管理的となるものです。

又、米中貿易協定は、あくまでも米国の対中貿易のインバランス是正を目的とした、従って米中貿易は双方合意の数量、金額を枠組みとするものとなっています。具体的には中国の対米黒字の縮小に向け、米国製品の追加購入分を今後2年で2000億ドル(約22兆円)、上積みすることを盛り込んだものとなっています。こうした米中と云う二大経済大国が、国家レベルで巨額の貿易額を2年にわたって設定するのは極めて異例。この趣旨の下、二次合意交渉が近々、予定されている由ですが、11月の選挙後になるかもとも言われており、関税合戦そのものの終結は依然見えてはきません。いずれにせよ管理された貿易が、日欧や新興国の対中輸出に打撃が及び、国際通商体制の動揺が続くことになる事、云う迄もない処です。

トランプ政権が標榜する米国第一主義の下、米国の利害に即した貿易協定が導入されていくことは、これまで米国が主導してきた ‘自由貿易を通じて世界経済の成長を’ とのコンセプトへの敬意もなく、まさにTrump’s Backward March on Trade (Anne O. Kruger)の態を成す処、その実態はと云えば、利己的で無礼で信用できないものと映る処です。

(2)Tearing up the rulebook 
The Economist (Jan 25),は、こうしたトランプ政権の貿易行動を「Tearing up the rulebook 
- The costs of America’s lurch towards managed trade」(ルールブックを破り捨てた米国―
管理貿易に傾く米国)と、激しくその理不尽さを突き付ける処、以下はその概要です.

―1月21日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(いわゆるダボス会議)に現れたトランプ大統領は居並ぶ世界の有名人たちを前に、米国の通商政策の抜本的な改革について豪語した。まず1月15日の中国との「第1段階の合意」によって貿易の障壁は低くなり、知的財産も守られるとし、又米国のサービス、エネルギー等々、の輸入を無効2年間2000億ドル増やすと約束したこと、について得意げに語った。実際、これは貿易ルールではなく購入額の水準について合意したことは、米国の通商政策が根本的に変わったことを伝えるも、決して良い方向への変化を語るものではない。

―トランプ氏のような重商主義者は、貿易を2通りのアプローチで管理する。外国企業の対
米輸出を抑えるか、または米国製品をもっと購入するよう外国に促すかだが、今次の中国と
の合意のように貿易相手国が米国製品の輸入拡大に合意する例は一般的でない。
最もよく知られているレーガン政権時の日米半導体協定は、日本の半導体市場での外国品
シェアーを20%に引き上げると云う約束をさせたものだが、これは米国側の貿易赤字を
減らすことよりはむしろ、不当に閉じられている市場をこじ開ける事にあった。

―今回の米中合意をつぶさに見ると、無駄やゆがみが生じるリスクが浮き彫りとなる。合意
された中国への輸入増加の規模とスピードはすさまじく、米ピーターソン国際経済研究所
によると、中国は2020年末までに特定の米農産物の輸入を17年比で60%, 工業製品の輸
入を65%増やす約束をした事になる。しかもこれは、中国の経済に関係なく実行されねば
ならないこととなっていると。かつて日本も国内需要における輸入品の割合を高める事に
同意したが、中国は金額を具体的に決めて購入を約束している。従って中国は普通であれば
必要のない、或いは他国から買い付ける品物を米国から購入すると約束した恐れがある。

―そこで、米中の合意が定着すれば、世界の貿易システムを脅かすことになる。皮肉なこと
に現在の貿易システムは、米国が1990年代に管理貿易では機能しないと判断した末の帰結
だ。つまり自分が管理貿易をやりながら、他国に自由市場の長所を解くことが難しいことと
悟った米国は、WTOの創設に向けて動いた。力ではなく、ルールに基づいたシステムに向
け舵を切ったのだが、トランプ氏はそのルールを一貫して傷つけてきた。

―今回の中国との合意も、WTOのルール等大したものではないとの見方を勢いづける処、この合意はあっさり崩れ、新たな敵意のぶつかり合いの先駆けになる恐れはあると。
つまり米国は輸出についても管理を強めており、そのことは、中国が米国から輸入する選択肢を狭めるかもしれない。従って今回の合意がどうなろうとも混乱は不可避だと思われる。それが明らかになる時、トランプ氏がまだホワイトハウスにいるかどうかわからないが、と。
(注:中国はそのタイミングを測りながら米国に対峙していくと云う事でしょうか)

さて、前世銀首席エコノミストで、現在、Johns Hopkins大教授のAnne O. Krueger氏も、1月20付けで、こうしたトランプ政府の貿易行動に「Trump’s Backward March on Trade」と題しProject Syndicateに投稿していますが、現状について、国際的協調等お構いなく、まさにポピュリズムに乗った、独善的な行動を映す結果と総括しながらも、仮に、次期大統領選でトランプ氏が再選されれば現状はより専横的になっていくのではとしながらも、彼でなくとも共和党の誰かが大統領になっても、これまでの米国民を分断してきた深い溝はすぐには埋まる事はなく、その流れは大きく変ることはないだろうと指摘するのです。

問題であった弾劾裁判も2月5日、上院での無罪評決を得た今、トランプ氏はこの結果を逆手に取る如くに、大統領選に有利な材料と、敵を誹謗、中傷しまくる事でしょうし、米国の権威を傷つけつつ、そして大統領への再選で、`あがり’となるのでしょうか。実に忌まわしい状況が続くかと思うと、居てもたってもいられない思いに駆られると云うものです。

2.トランプ大統領の3大年頭教書
そうした中、2月4日ワシントンDCではトランプ氏による3大年頭教書の内、一般教書演説が行われました。が、それは国を纏めると云う大統領の役目を、もはや放棄したかの一般演説だったと、メデイアの多くは評する処です。2月6日付け日経に掲載の「米大統領の一般教書演説要旨」をベースに当該演説をレビューしたいと思います。

・一般教書(State of the Union Address)
当該教書は定められた通りに、「経済政策」に始まり、「安全保障」、「教育・医療」、「不法移民問題」、そして「外交」で終わるものでした。本来なら、State of Union、国の現状を報告し、これからの1年の運営方針を語り、国民が一体となって前進しようと云うものの筈ですが、冒頭の経済政策では、雇用創出(ブルーカラー好況、等)や,貿易協定の締結(対中貿易交渉締結、NAFTA見直し、等)など、その実績を挙げ、「公約をまもった」と誇示し、「偉大な米国の復活」とアピールするものでした。が一方、大統領選の争点となる医療保険では「社会主義者に米国の医療制度を破壊させない」と国民皆保険を唱えるサンダース上院議員ら民主党左派候補をあてこするなど、11月の大統領選を睨んだ、事実上の選挙公約の意味合いを感じさせる異例の演説でした。 因みに昨年まで盛り込まれていた「結束」の二文字は完全に消え、加えて昨年、世界を翻弄させた北朝鮮に対する言及もないままです。

なお指標的(注)には確かに米経済は過去最長の景気局面にある処です。トランプ氏は以って「ブルーカラ―好況」と云うのでしたが、その恩恵は富裕層に集中しており、上位1% の富裕層が米国全体の所得の2割を占める処、経済格差は戦後最悪の状況にあるとされていますが、彼がどう認識し、どう考えているのか。肝心な点は伝わることはないままです。

   (注)好調を示す経済指標:
米労働省が2月7日発表の1月の雇用統計では、非農業部門の就業者数は前月比22万5千人増
で、1月の失業率は3.6%と前月比0.1ポイント悪化したが、約50年ぶりという歴史的な低水準、
雇用情勢は好調。 一方、5日商務省発表の貿易統計では、モノの貿易赤字は8529億4900万ド
ルで前年比2.5%の減少で、これは2016年以来、3年ぶりの減少。対中赤字も3年ぶりに縮小。

尚、年頭教書に続く2021会計年度(2020/10~2021/9)予算教書( Budget Message of the President)は2月10日に、又20日には、大統領経済報告( Economic Report of the President )が議会に送られています。前者は米大統領の税財政方針を示すもので、社会保障等の圧縮で、年1兆ドルの財政赤字を5年で半減すると提案する一方、国防費を増額してインフラにも1兆ドルを投じる等、選挙を前に支持基盤の保守派に強く配慮した内容です。しかも、経済成長率を3%と見込んでの試算で、極めて楽観的と映る処です。又、経済報告書でも、過去最長の景気拡大となった米経済を「大いなる成長」(Great Expansion)と名付け, 減税や規制緩和の効果の自賛と民主党への反論が大半だった(日経夕刊2/21)とされる処ですが、いずれも11月の大統領選向けのアッピール教書と評される処です。

・米大統領選
序で乍ら、2月3日のアイオワ州、11日にはニューハンプシャー州での予備選を経て2020年米大統領選が実質、始まりました。共和党はトランプ氏で決まりでしょうが、民主党は本命のないままに3月3日のスパー・チューズデーを迎える処です。 大統領選については別途の機会に論じたいと思っていますが、これからの世界の行方にとって極めて重要なeventです。それだけに見どころはとなると勝ち負けもさることながら、やはり世界共通の課題としてある、格差拡大による社会の分断、ポピュリズムの広がりなどに11月の本選までの9か月間、米国民はどう向きあっていこうとするか、にある処ではと思料するのです。 
尚、日本に関連する分野でいえば、在日米軍へのいわゆる思いやり予算の規模を定めた特別協定が来年3月に満了します。さて日米同盟の維持に必要なコストをどう考えていけばいいのか、トランプ氏の選挙目当ての手柄づくりに、手を貸すようなことのない毅然とした交渉対応をと、願う処です。


おわりに いま世界はコロナショック

(1)コロナショックと習近平政権
自国第一主義を標榜する米英を起点とする世界秩序の逆流が進み、世界経済の先行きに不透明感を募らせる中、もう一つ、中国発の「COVID-19」(コロナウイルス肺炎感染)と云う難敵が加わり、今や、後退トレンド以上に、世界経済に多大な影響を及ぼす処です。
それは製造業のサプライチェーンのハブとしての地位を固めた中国の生産停止が世界経済に与える影響の重大さで、日本経済研究センターの試算(日経 2020/2/9)では中国の生産停止で生産が100億ドル(約1兆1千憶円)減なら、海外全体での生産・販売を67億ドル押し下げ、特に韓国、日本、米国への影響は大、とするのです。まさにコロナショックです。

・Wall Street Journal の警鐘
そんな中,今次の感染を巡り中国では習近平共産党への批判の高まりが伝えられ、聊か気になる処です。Brexit, トランプ現象などのポピュリズムが民主主義、資本主義を貶めていく一方で、経済発展を遂げる「幸福な監視社会」たる中国モデルが、もてはやされる事すらありました。が、12月8日に新型肺炎の初ケースが報告されながら、対応が本格化したのが1月20日に習近平が直接指示を出してからで、初動対応の遅れが今日の混乱を招いたと、(情報の公開は共産党統治に悪影響が及ぶと隠蔽された)中国型独裁制の問題を浮き彫りする処、共産党政権の「国民の安全より、国(共産党)の安全を優先する姿勢」に不満が広がったと云うものです。(中国本土での患者:7万4185人、死亡者:2000人超, as of 2/18 )

2月7日付けWall Street Journal(電子版)が伝える‘From Washington to Wuhan, All Eyes Are on Xi ’(ワシントンから武漢まで、全ての視線が習近平に)なる記事(注)では、今次の爆発的感染は共産党政権の独裁の弱点を露呈したものと断じると共に、感染拡大は習近平政権に内外での危機を招き、同政権の存続が問われる事にもなりかねないと、1911年、武漢で起きた辛亥革命の第一段階となった武昌蜂起をリフアーしながら、最後にDon’t rule out a second Wuhan revolutionと、「第2の武漢革命」の可能性すら示唆する処です。
(注)寄稿者は米スタンフォード大 フーバー研究所のアジア問題専門家、Michael Auslin氏。

習主席はこの春、国賓として訪日予定です。それまでに新型肺炎が終息しているか、ですが、既に3月5日開催予定の全人代の延期が伝えられています。上記W.S.J.の噂も有之で、訪日の予定見直しが必要になる公算大ではと、愚考する処です。

2月14日には、米国CDC(米疾病対策センター)は季節性インフルエンザが猛威を振るう(患者:2,600万人以上、死者: 約1万4000人)なか、相当数の新型コロナ患者が見込まれると発表、世界は更に混迷感を深める処です。

(2)日本経済の焦点は今
さて日本では「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗船者3700人の防疫問題を巡り連日報道され、庶民生活への影響も気がかりとなる処、経済活動への懸念も云うまでもありません。

2月10日、日産自動車は九州の完成車工場の稼働の一時停止を決定。これも新型肺炎の影響でサプライチェーンが混乱し、中国からの部品調達が難しくなった為だと云うもので、こうした生産調整、調達先の変更等が、生産システムの世界的な構造変化を齎す処、日本の上場企業の2020年3月期決算は、大幅減益が見込まれる処です。(日経2020/2/11)

2月17日、公表の10~12月期GDPは、年率6.3%減と5四半期ぶりのマイナス成長です。このマイナスは昨年10月の消費税引き上げ、天候不順による個人消費の後退等、想定されていた事ですが、問題はその後の経済の行方です。この新型肺炎の感染拡大で消費マインドの悪化等で、国内経済の減速が心配され、2月13日,政府は景気下支えとして緊急対策(153億円規模)を決定していますが、少し前まで日本経済の焦点は、東京五輪後の景気後退懸念でしたが、時間軸が一気に前倒しになってきた様相です。

さて、その東京五輪ですが、コロナ問題で世界的イベントの見直しが喧伝される中、来月には聖火リレーも始まる処、まさに綱渡り的開催となるのではと、気がかりとする処です。

・日本は大丈夫か
さて、IMFは2月19日、コロナが齎す世界経済への悪影響を抑える為に国際協調をと、各国に協力要請の声をあげています。日本としてもこの際は、財政支援を惜しまず、政治のリーダーシップを求めていきたいと思うばかりです。
が、連日TVに映しだされる国会審議の様相、安倍首相はじめ答弁にあたる閣僚の姿は、辻元清美議員に「鯛は頭から腐る」と揶揄されるほどに、実に体たらくを露わとする処、なんともこれで大丈夫かと、不安は募るばかりです。
                               ( 2020/2/25記 )
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2020年01月27日

2020年2月号  2020年、米中関係の行方、そして日本経済のトレンド - 林川眞善

目 次
         
はじめに 2020年、国際社会の行方

 (1)2020年は国際政治の転換点
     ・転換点の国際政治
 (2)ステイグリッツの`Progressive capitalism’ (進歩資本主義) 再論
     ・本論考のシナリオ

第1章 世界貿易と米中デカップリングの 行方  

 (1)「グローバル・デカップリング」という神話
      ・米中貿易協議
     ・The Myth of Global Decoupling ― Stephen Roach氏の思考様式
 (注)GVC(Global value chains)が示唆する戦略性
 (2)China’s View of America ―貿易戦争の先を見据えた中国

第2章 日本経済のトレンドと生産性の向上    

 (1)日本経済の今後
     ・小さくなる日本の経済
 (2)日本の生産性が低いわけと、その対抗策
     ・日本の生産性はなぜ低い
     ・生産性向上に向けて

おわりに デジタル元年  
     ・デジタル・トランスフォーメーション(DX)
              ・2020年をデジタル元年と位置付ける安倍首相 

      ----------------------------------------------------------------------

はじめに 2020年、国際社会の行方

(1)2020年は国際政治の転換点
56年ぶり、東京‘五輪’開催を控えた日本の新年がスタートしました。メデイアが伝える日本企業トップの多くが表明した年頭所感に映るのは、五輪、加えて次世代通信規格「5G」の商用サービス開始など、以って国内経済活性化への期待でした。が、反面、世界の政治や経済の先行きに対する警戒感を強めるものでした。

その世界経済ですが、米中覇権争の行方が最大の変数との見立てを以って越年しましたが、この間、米国による中国はずしの動きが、更に勢いづいてきていることからは、その状況は更にきびしくなってきていることを感じさせる処です。巷間、日欧の当局者や識者の間ではもはや米中のデカップリングの危険があるかどうかではなくどこまで広がってしまうかに懸念が集まっていると、伝えられる処です。 因みに、1月8日、世銀が公表した今年、2020年の世界経済の成長率見通しは2.5%で、昨年6月時点での見通しからは0.2ポイント下方修正です。落ち込みの最大理由は関税合戦の影響で、米国は1.8%(前年2.3%),中国は5.9%(同(6.1%)といずれも前年比減速、世界全体の貿易量も大きく落ち込むと見込む処です。

・転換点の国際政治
処で6日、米リスク調査会社ユーラシア・グループが発表した2020年世界の「十大リスク」では、その第一に「誰が米国を統治するか」を挙げ、次いで米中関係もリスクに上げています。後述するように、両国は今月15日、貿易協議の「第1段階の合意」に署名しましたが、産業補助金等両国間で溝の深い問題は先送りとなり、対立は長期化が避けられないとし、米中の「デカップリング(分断)」の影響は「世界テクノロジー分野だけではなく、メデイアから学術まで多くの業界や機関に及ぶ」と指摘するのです。併せて、同社のイワン・ブレマー氏は「過去数十年にわたりグローバリゼーションは世界の貧困を減らし、平和を支えてきたと指摘。現在は米中対立や先進国の分断が進み「世界的な危機を生み出す可能性が高まっている」とし、2020年は国際政治の転換点になるだろうと語るのです。(注)

   (注)日本時間8日午前7時半、イランがイラクにある米軍基地へのミサイル攻撃を開始。(後刻イ
ラン政府は誤射だったと訂正)米国によるイランのソレイマニ司令官殺害(1月3日)に対する報
復攻撃かと思われたものの、誤射声明がイラン側から出されたことで沈静化を見ているが、今後共
これがいかなる展開となるか現時点では不透明ながら、世界の地政学的危機を覚える処。

(2) ステイグリッツの ‘Progressive capitalism’(進歩資本主義) 再論
さて筆者は、米コロンビア大 教授でノーベル経済賞のステイグリッツ氏が昨秋、著した「ステイグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM (原題:People, Power, and Profits)」(東洋経済、2020/1/2) と共に、この新年を迎えました。本書は、これまでも愛読した彼のグローバル化に関する著作「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」、「世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す」、「これから始まる‘新しい世界経済’の教科書」、等々で記された見解を纏める形で執筆されたものですが、とりわけ現下の米経済で広がる格差に焦点をあてた現状分析、そして現状改善を目指すべき方向と政策を語るもので、極めて示唆に富み、大いに刺激を受けるものでした。 実は同書の枠組みについては昨年の春、彼のレジュメを以って承知し、昨年5月次の弊論考(N0.86)でその概要を紹介していますが、その興奮いま再びとする処です。そこで敢えて今一度、そのポイントを紹介しておきたいと思います;―――  
                  
① 米経済の実態:現在、米国が抱える問題の原因の一端は、経済の失敗にあると断じ、製造業中心の経済からサービス業中心の経済への移行が上手くいかなかった事。金融産業を制御できなかった事。グローバル化やその影響を適切に管理できなかった事。そしてなによりも、格差の拡大に対応できなかったこと、そして、その結果アメリカは「1パーセントの、1パーセントによる、1パーセントのための経済や民主主義」へと変わりつつある。
② 現状改善の処方箋作りに向けた発想:まず富の創造と富の略奪を区別し、国富を真に生み出すものが何かを問う。富の略奪とは、個人が、何らかの搾取形態を通じて他人から富を奪う事。一方、「国の富」を真に生み出すのは富の創造行為である事、そしてそれは国民の創造性や生産性の相互作用の結果とし、それを支えるのは科学の発展であり、社会組織の更なる進化だと云う。つまり、理にかなった対話を通じて事の理解を深めれば、「法の支配、抑制と均衡のシステム、適正な手続き」等、制度の確立を図るべきと。
➂ 21世紀の世界で必要とされる事:要は、国富を生み出すものは何かを真に理解すること、そしてより活力にあふれた経済を実現し、豊かさを広く共有できるようにしていく事とし、そのためには政府が現在とは違う、もっと大きな役割を担う事も必要とし、複雑化する21世紀の世界では共同行動が不可欠と強調する。
④ 求められる政策とは「政治と経済を再建する」政策:そして、我々は緊密につながり合った世界に暮らしているわけで、孤立主義という選択肢はなく、政治面、経済面で、これまで以上に国際関係の管理に取り組んでいかなければならない、警告する。そして、その為の政策は、トランプや他支持者が主張する政策とは真っ向から対立する進歩的な政策となる。
⑤ 包括的政策:その際、必要となるのが包括的政策と。それは成長や格差縮小の障害(過大な市場支配力を持つ企業がもたらす弊害)の除去と、バランスの回復と(労働者に大きな交渉力をあたえる)を組み合わせた経済政策だと云う。

そして、最後に今こそ大々的な転換を遂げるときだとし、経済の転換は、過剰な富がもたらす政治力に対抗できるほど力強い民主主義がなければ実現できず、同時に経済を改革する為には政治も改革する必要があると説くのです。


・本論考のシナリオ
以上、進歩資本主義の真骨頂を感じさせられる処、改めて2016年の米大統領選挙を顧みるに、非常に多くの企業幹部がトランプ氏を財政面で支えたとされていたとされる処、更に多くの企業人が目先、減税が実現し、非生産的ながら高い利益をもたらす資産バブルが起きることが分かっていたため、トランプ氏が戦後秩序の破壊に動いても沈黙してきたと云う事ですが、そのツケは貿易戦争や移民規制の強化だけでなく、企業の事業活動の基盤であるルールに基づいた取引活動の危機となって表れているのが現状と総括される処です。トランプ再選が世界経済のリスクとされる所以です。

そこで、今次論考では、このプログレッシブ・キャピタリズムを語るステイグリッツの思考様式に照らし、とりわけ彼が主張する国際協調の堅持、そしてグローバル化構造の変化を踏まえながら、二つの資料をベースに、米中関係の行方について考察します。その一つは米中貿易戦争を巡る米中分断の可能性の行方についての米イエール大 教授のStephen Roach氏の論考「The Myth of Global Decoupling 」(Project Syndicate , Dated Jan.3rd)、二つは、今次の米中合意後の両国の在り姿を示唆する、The Economist(Jan. 4)の記事「China’s view of America」を取り上げ、両国関係’の行方を考察する(第1章)事とします。

更に、人口減少社会に向かう日本経済の可能性について、生産性向上にフォーカスする形で、再度考察する(第2章)事とします。 経済成長率、つまり[GDP伸び率=人口(就業者人口の伸び率)+生産性(一人当たり生産性の伸び率)] を前提とすると、人口が減少する日本にとっては、生産性の向上を図るほかなく、もとより、これが長期的に続くテーマとなる処です。ただ、日本経済の現実は、急速に進む経済のデジタル化に即した対応が遅れていることが大きな問題です。前回論考では、digitalizationとグローバル化と重ね「デジタル分業」戦略を云々したのもそれ故でしたが、その際、友人読者から「digital技術を活用して企業の活性化を図ることは重要であり、その通りと思うが、ITの活用で経済成長はしたとしても、勝つのはGAFAの如く業界トップだけ」であり、所得格差をどうにかしないと世界経済は低迷を続けることになるのではと、照会を受けました。要は、富める者に富が集中する今の仕組みを改めないと、持続性が危うくなるとの主張に繋がる処です。

急速な人口減少をたどる日本経済、世界における存在感が小さくなることが想定されている今、かかる事態への対抗は日本経済の競争力を高めること、そのためには生産性の向上の他なく、そこで友人の照会にも応えるべく、当該問題意識にしぼりつつ、今後の日本経済のトレンドについて考察する事とします。


第1章 世界貿易と米中デカップリングの行方

(1)「グローバル・デカップリング」という神話
・米中貿易協議
昨年12月13日、米中両政府は貿易協議の「第一段階」につき合意を見、前述の通り今年、1月15日、当該「第1段階の合意」(注)に正式署名しました。 ただ産業補助金等両国間の溝の深い問題は先送りとなっており、両国の対立は長期化が避けられないままにあり、昨年来の米中「デカップリング(分断)」論は衰えを見せません。

(注)「第1段階の合意」ポイント:① 中国による知的財産権の保護、②中国が米国からの輸入を
2年で2000億ドル積みます、➂ 金融サービス市場の開放、④人民元安誘導の制限、等7項目。
(日経2020/1/16) 尚、この結果を受けて米国は、2月中にも対中制裁関税「第4弾」(2019/9 月)
の関税を引き下げることとし一方、貿易協議は更に第2段階への合意交渉を続けると云う。
    これで米中貿易戦争は休止局面に入るが、その引き換えに米中が管理貿易に傾けば、国際通商体
    制の動揺は続くことは避けられないのではと危惧される。

この点、米イエール大 教授のStephen Roach氏は1月3日付け論考「The Myth of Global Decoupling 」で、今日的グローバル化の貿易構造に照らし、米中の分断、グローバルな分断など、今や神話の域を出るものではないとするのです。そのlogicは極めて今日的、合理的で、興味深く、そこでまずその概要を紹介する事から始めたいと思います。

・The Myth of Global Decoupling ― Stephen Roach氏の思考様式
① デカップリング論議の背景:まず、2019年に盛んに云々されたdecoupling論議の背景には、報復関税合戦も安全保障に係るテク戦争の小競り合いも、いずれもインターネットと一国主義でグローバル化に背を向けたトランプ米大統領が抱く‘ツキジデス’的恐怖を映す「新たな鉄のカーテン」のイメージがあるためで、だからと言って87兆ドルの世界経済が今後2つのブロックに分断されるなど信じられない。ただ、世界の二大経済大国間の対立の続くことは想定される処、その原因がどうあれ、現在の多角的貿易体制にあっては単に二国間の行動の如何だけで分断が進むなどありえないと。
② 統合が進む世界経済:今日のグローバル経済は以前とは比べることのできないほどに統合されており、2008-09年の金融危機のあと世界貿易の伸びは長期停滞にあり世界のGDPのおよそ28%に止まったままにあるが、それでも冷戦時代、1947-91年の平均シェアー13.5%に比して、その倍となっている。つまり、世界の経済活動が広く展開してきた結果であり、従来の製品貿易は、輸出にしろ,輸入にしろ、当該国が生産し、それを個々の国へ製品として送りだす二国間の貿易だったが、今ではその実態は部品貿易に変質してきている。その実状は、大きなネットワークの中で組み立てられ、取引が行われる状況が実態で、広大なglobal value chains (GVCs) 、グローバル・バリューチェーンを介して製品化され、取引されるようになってきている点で、グローバル・デカップリングは起こりにくくなってきている。つまり二国間貿易とは言え、色々の国のサプライチェーンを経て行われてきているだけに当該国の経済規模とは関係なく、二国間での分断が進む可能性は低く、この変化が米中貿易戦争の齎すインパクトの様相を変えてきていると。
➂ 米貿易インバラスは国内経済の不均衡が要因:米国の政治家は好んで米国の貿易問題は中国問題とする。 事実、過去6年間(2013-18)では、米国の貿易赤字の47%は対中貿易にあるが、それは米国の慢性的な国内貯蓄形成の低さに負うもので、20世紀後半の30年では対GDP比率は6.3%にあったものの、2018年ではそれが2.4%にとどまっている。
つまりマクロ的視点から、国民所得ベースでの過少な貯蓄、投資意欲の低下、一方それを補うための外資の導入、積極的投資の受け入れで、結果として経常収支は慢性的赤字を託つ処、要はマクロ経済の不均衡が米国の貿易赤字を齎している。 とすれば中国との貿易戦争は別の光を当てる必要のあり、デカップリングの見方も変える必要があるとし、近時のglobal value chainsをベースとした新たな貿易構造( trade diversion)を再考すべきと。 因みに、OECD やWTOのtrade-in-value–added data によれば、米中貿易の赤字の20%は中国主導のサプライチェーンを通じた部品の取引だと。
④ 世界貿易はGVS主導の構造に:貿易構造はいまや、伝統的な当該二国間での製品取引から、多国間での生産を基盤としたGVC主導型の貿易システムへと構造的変化が進んできた結果、今ではpan-Asian factoryという地域統合型流通システムに再編されてきている。
それは、2019/4/15付けのWorld Bank & WTOによる Global Value Chain Development Report、2019、に詳しいが、中国が2001年、WTOに加盟して以来、米中貿易の赤字幅は拡大してきており、それは先進国による対中進出に負う結果で、米政治家が好んで取り上げる中国批判とは、その様相を大きく異にする処となってきていると云う。
➄ GVC connectivity の拡大:GVDが拡大してきた結果, 中国からの対米輸出にかかる関税は中国輸出業者のみならず、中国主導のサプライ チェーンに組み込まれる第三国、東アジアにも及ぶことになり、Supply -chain linkage (サプライチェーンの結合)はいわゆる当該地域を通してChina fix の様相にある。その点で米中間のデカップリングは起こりえない事と云う。bilateral decouplingが齎すであろう貿易の構造変化とは、米国の調達が低コストの中国生産基地から広域の海外生産グループに変わることを意味するか、或いはそれがアジアのプラットフォームに映ることになるか、re-shoreとなるかであって、ボトム・ラインは確実に高コスト生産体制になることとなり、その結果、皮肉にも米企業にとり、又 就労働者や家庭の主婦にとっても増税と同じ効果をもたらすことになると、云うのです。

要は、こうしたGVC(下記:(注)参照)が齎す今日的貿易構造を踏まえるとき、今後、米中貿易戦争がグローバルな分断を齎すことはないとするもので、その限りにおいて当該分析はlogicalと映る処です。が、米中関係の行方はとなると、問題は貿易だけでは簡単には律し得ない処です。つまり中国の対米姿勢の如何ですが、以下で紹介するThe Economist (Jan.4)記事 `China’s views of America ‘からは、まさに今の中国の対米姿勢、米国への不信感と、待ちの姿勢を以って覇権を狙う姿が窺える処、とすればRoach氏が云うようには米中分断は神話とは、容易には言い切れない処です。

(注)GVC(Global value chains)が示唆する戦略性
GVCとは、国際的な価値の連鎖がどのように張り巡らされ、どの段階で、どれくらい付加
価値が生まれるか、膨大なデータを駆使して分析する最新の手法で、まさにサプライチェ
ーンの統治構造を示唆するものとされる。こうしたサプライチェーンの変貌が、グローバ
ル経済の仕組みの変化を齎す処、貿易戦争の今日的意味合いを理解する上で極めて有意な
国際貿易論として注目を呼ぶ処。因みに、iPhoneの場合、端末機の裏に記されている文言、
「Designed by Apple in California, Assembled in China」、(カリフォルニアのアップルでデ
ザインされ、中国で組み立てられた)からも理解できるように、この分業の姿こそが今日
的貿易の生業と理解される。

昨年夏、ジェトロ・アジア経済研究所上席主任研究員の猪俣哲史氏が著した「グローバル・
バリューチェーン ― 新・南北問題へのまなざし」(日経社、2019/6/28)は、「国際的な
サプライチェーンの変貌の実態と米中貿易戦争の本当の意味を教えてくれる、付加価値ベ
ースでみた新しい貿易論の枠組み」と、斯界の評価の高い作品だが、もとよりこれが日本
経済の対外戦略を考察する上で大いに資する処。先月弊論考では人口減少社会の日本にとって持続的成長を目指す視点からは、海外に乗り出すことが不可避だが、その際は「デジタル分業」戦略を目指せと指摘した。つまり、いまや新興国、途上国にはIT技術を生かし競争力を身に着けた企業多々で、彼らとの連携によるデジタル分業戦略を、との趣旨。

(2)China’s view of America (The Economist, Jan. 4)― 貿易戦争の先を見据えた中国
米中貿易戦争の現状について、まず中国政府関係者は公の場ではトランプ政権の関税を「自滅的」と呼び、中国には経済的な弾力性があると強調しているが、内心ではそれほど自信があるわけではないと指摘します。その理由は貿易戦争前から中国の景況感が悪化しているためだと云うのです。因みに1月17日発表された2019年GDP成長率は6.1%で、29年来の低水準、2018年に続き連続の減速にあります。これは勿論米国との貿易戦争で製造業が振るわなかったことが挙げられる処ですが、中国は、いまや関税での戦いよりも、他の形での競争が始まる事を懸念していると云うのです。ずばり、それは米国との技術上の争いや国際的影響力を巡る全面対決の行方だと云うのです。そして中国の国家安全保障政策に近い筋での、次のような見方を紹介するのです。 

つまり、 ‘トランプ氏が再選を果たすよう平然と彼らは声援を送る。そして彼が再選されれば引き続き米国の同盟国を混乱させるだろう。そうなれば何十年も続いたアジアにおける米国の安全保障に疑念が生じ、中国のチャンスが生まれる’ と、待ちの姿勢を云うのです。

中国はかくしていろいろな形で米国を非難するでしょうが、だからと言ってワシントンのタカ派に対抗し、両陣営の分割をしようとはしない。(new cold war, in which divided into rival camps )中国は時間を稼いでその間に国力を蓄え、ドルが支配する金融システムに象徴されるような、米国の権力を支える強力なツールに匹敵するものを作り上げようとしていると。そしてさしあたり中国は米国との対決を 避けようとするが、台頭する中国にとって米国はますます邪魔な存在に見えてくると指摘する処です。すなわち、厄介な事態がすぐそこに迫っていると云うのです。この春、習主席を国賓として迎える日本政府は、この微妙な変化を如何に見据えているのか、気がかりとする次第です。


           第2章 日本経済のトレンドと生産性の向上   

(1)日本経済の今後
さて、先月発表された人口動態統計を契機に、日本経済が活力を保つためには何が必要かと、思いを高めるところです。周知の通り、デジタル経済で先頭を走る米国は自国第一主義を先鋭化させ、追い上げる中国と対決姿勢を強める処、日本は人口減・高齢化に加え生産性も伸び悩み、GDP(実質ドル換算)は縮小を続け、経済規模で現在の3位から早晩、米,中、インド、ドイツに次ぐ5位に転落することが想定さています。勿論ランキング自体はさほど問題ではないとしても、日本経済として、持続的成長を如何に確保していくかは問題です。冒頭、「はじめに」で触れたように人口減少、とりわけ労働力人口の減少下では、なによりも生産性の向上、維持が最大の課題です。そこで日本経済研究センターの2060年経済予測(日経2019/7/26)をも踏まえ、生産性にフォーカスし、改めて考察したいと思います。

・小さくなる日本の経済
昨年12月26日、内閣府が公表した、2018年のGDP(名目)はドル換算で前年比1.8%増の4兆9564億ドルでした。世界全体に占めるシェアーは5.7%と前年に比べて0.3ポイント下がり、過去最低になっています。日本のドル換算の名目GDPは長く米国に次いで世界2位にあったが、2010年に中国に逆転され、人口の減少や成長力の低下を反映し、1990年代半ばに2割弱あった世界に占める比率も2005には10%に低下、その後も下落傾向が続いています。 又生産性の高さの目安となる一人当たり名目GDPは3万9182ドルでOECD加盟国36か国中20位。2010年代初頭は先進国の中で10位台だったが、近年は18~20位で推移しています。

因みに、2019年7月26日の日経「やさしい経済教室」で紹介されている日本経済研究センターの2060年経済予測では日本のGDPは20年代にインドに追い抜かれ、40年代にはドイツにも抜かれ日本は5位と予想されています。 つまり、こうした日本の経済的地位の低下は、人口減効果を考えると、生産性の低さが誘引した結果と思料する処です。ではなぜ日本の生産性は低いのか、そのための対抗をどう考えればいいのか、が具体的テーマとなって迫る処です。

(2)日本の生産性の低いわけと、その対抗策
なぜ日本の生産性が低くなっているか?これについては多々説明ある処、中でも第一生命の首席エコノミスト、熊野英雄氏は文芸春秋、新春特別号で極めて平易に語っています。そこで彼の言説の一部を引用しながら、話を進めることとします。

・日本の生産性はなぜ低い
まず、日本の生産性の低さの背景として、日本のパラダイム・チェンジができていなことにあると云うのです。別の云い方をすれば、「物的生産性」から「付加価値生産性」へと世界のパラダイムが変化したにも関わらず、未だに日本は物的生産性の中で停滞していると云うのです。物的生産性とは、生産数、販売量、収穫個数など、物量でとらえることができる生産効率を表す尺度です。例えば自動車部品工場で1日百個の製品を倍の2百個作れるようになれば物的生産は高まります。モノを作って海外にたくさん売るには通貨が安い方がいい。その点、円安と高い物的生産はよくなじむ処です。日本の製造業は、円安と高い物的生産性によって、高度成長を牽引してきました。 然し、付加価値生産性の考えはこれとは異なり、生産数は百個のままで、その代わり1個当たりの付加価値を上げ、高く売ることで利益を拡大しようと云う発想です。正確には、売上から原材料費を除いた粗利を労働投入量で割って付加価値生産性は計算され、一人が稼ぐ粗利が増えるほど、付加価値生産性が上昇すると云う事です。

この物的生産性から付加価値生産性へのパラダイム・チェンジを引き起こしたのはIT革命でした。グーグルやアップル等、電子部品そのものよりもサービスを提供するプラットフォームの付加価値で勝負し、覇権を拡大してきたのです。日本の場合、コスト削減しながらモノを作って安く売る発想から抜け出せていないのです。 上述事情からは、現在の世界で経済成長のカギを握るのは付加価値生産性であり、アイデイアを使って商品を高く売るビジネスモデルを構築することが必要と云うものです。経団連の中西会長も‘コモデイテイビジネスはもう死んだ’とする処、この際は発想の転換が求められると云うものです。

ただ、この付加価値生産性の上昇を阻む要因が少子化であり、高齢化です。そこで、この際は労働力人口減をカバーする意味からも、急速に進む経済のデジタル化を戦略的に取り込み、当該生産性の向上を図り、持続的可能性を確保していく事を、目指すべきと思料するのです。以下はそうした趣旨の下、生産性向上に向けた提案、3項目とするものです。

・生産性向上に向けて
― 企業における生産性向上は一義的には効率的経営の徹底に負う処、同時に中長期的に
生産性の向上(競争力の強化)を通じ、他経営要素との連携をも含め、持続的成長の確保
を命題とすることとなる。つまりはビジネスマネジメントに係る戦略提案だが、もとより
それぞれの実行と成果を上げていく上で、要すれば当該支援関連措置は不可欠となる。

① 企業経営、デジタル化の積極推進:生産性向上による競争力強化の視点から、まず経営のデジタル化を徹底推進し、併せて事業構造の見直し、産業の新陳代謝を進める。と同時に、近時の経団連中西会長の改革発言にもある通りで、賃金体系の構造的改革を通じ人材の確保を図る。尚、市場からの退出企業、雇用者に、新たな事業機会を与える仕組みの導入を目指す。
② GVCとデジタル分業:人口減少を抱える国内市場には限界があることから、海外に打って出る事が不可欠。そこで上述、いまや新興国、途上国にはITを活用した有力企業が多々であり、生産性をあげる道として前述のGVCコンセプトに即した彼らとの戦略的デジタル分業体制を図る。併せて今後10年を左右すると見る技術の潮流、とりわけソフトウエアーの動きを確実に捉え、それに備える体制整備を進める。
➂ 将来に向けた設備投資:かつて日本の製造業は積極的に設備投資を展開し、生産性を向上させてきました。然し今では大企業も販売数量の大幅アップが見込める事業にしか設備投資をしません。それには種々理由が挙げられる処この際は、付加価値生産性を高めていく上でこれまでの安全指向から脱皮し、つまり三菱化学ホールデイングスの小林会長が主張するアンチテーゼへの挑戦行動として、将来に向けた前向投資の積極的促進を図る。

・最後に、政府の出番についてです。一義的には企業がより自由に活動できるよう諸規制の改革を進めることですし、政府主導で進められている「働き方改革」についても、これが「仕事量が同じで労働時間を短くすれば、生産性が上がる」という個々人をベースとした考え方にあるようですが、生産性の向上に向けた改革とするならば「労働時間の削減→学び→生産
性の上昇→成果→賃金・待遇の改善、そして学ぶ ---」と云ったサイクルが回るよう、発想を変えトタルとして取り組んでいくべき事と思料するのです。 
ただこれがより基本的には、グローバル化やデジタル化の恩恵を存分に引き出し、経済全体のパイ拡大に努める事、そして、適切な所得再分配や安全網の拡充、教育制度の改革などを通じて庶民の生活を底上げしていく、つまり包摂的な経済や社会づくりへの努力が期待されると云うものです。


おわりに デジタル元年

・デジタル・トランスフォーメーション(DX)
昨年同様、今年も米ラスベガスで(2020/1/7~10)、世界最大のデジタル技術見本市「CES」が開かれました。昨年は「5G」、つまり高速通信時代の幕開けとされ、何よりも注目を呼んだのがプラットフォーマー主導の自動車産業の変容でした。今次のCESはそのトレンドにあって、デジタル技術の成長の柱が、スマートフォーンから自動車へと完全にシフトした様相にあり、開催前日の6日には、ソニーは自動運転システムを搭載した試作品を発表。トヨタはコネクテッドカ―などを中心に、あらゆるモノやサービスをネットでつなげる「スマートシテイー」(注)を静岡県据野市に作ると発表。いずれも、デジタル時代の企業変革に挑む姿勢を世界に示す処でした。

     (注)スマートシテイー:国土交通省などによると、先進技術を活用することにより、都市や
地域を高度化して課題を解決する事を指す。具体的には交通渋滞や環境負荷の軽減、日本な
どでは少子高齢化に伴う問題への対応尚がテーマとなる。(日経:2020/1/8)

家電の展示会からデジタル技術の見本市へと様相が変わる中、異業種も目立つたと云うのも今回の特徴と云え、CESの目玉ともいえる基調講演には、米デルタ航空、エド・バステイアンCEOが登場、50年以上続くCESで航空会社トップが基調講演をすることは初めてと、大いなる関心を集めるところでした。要は、次世代通信規格「5G」やAIの存在感が増す中、デジタル技術で事業を変革する「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」はあらゆる産業の共通課題たるを印象付ける処です。

・2020をデジタル元年と位置付ける安倍首相
では日本の現状は? メデイアによれば、政府は2020年をデジタル元年と位置付け、巨大IT企業による市場寡占を規制する新法を1月の通常国会に提出、更に次世代通信規格「5G」の整備も新法で加速させる由、伝える処です。昨年12月、安倍首相は経団連との会合で、デジタル技術の急速な進展に触れ「今まさに新しい時代へ移る真っ只中にいる。企業のイノベーションを力強く後押しする」と強調。加えて「安全で安心なインフラが安定的に供給されるようグローバルな連携の下、戦略的に取り組んでいく」(日経2020/1/4)とも語る処です。

明けて1月20日、召集された通常国会冒頭、行われた安倍首相の施政方針演説は、今後の政権運営の方針を示すものと云え、冒頭、7年間の政権実績を振り返り「諦めの壁を打ち破ることができた」と自画自賛から始まるものでした。以下はその主たるポイントです。

まず、「成長戦略」では、第4次産業革命に国家戦略として取り組む。デジタル時代の規制
改革を進めると。そして事業規模26兆円に及ぶ経済対策を紹介し、海外発の下方リスクに
も万全を期すとし、「外交・安全保障」では、戦後外交を総決算し、新時代の日本外交を確
立する「正念場の1年」と位置付け、自由貿易の旗手として21世紀の経済秩序を世界へ
広げていくとし、「締め」では、国のかたちを語るのは憲法、その案を示すのは国会議員の
責任ではと質し、その責任を果たそうと、声をかけるものでした。

以上、内容的には特段の新味を覚えることはなく、ただ改憲の発言が出たとたん、議場は一瞬、沸きましたが、メデイアは、では「国のかたち」は?と問う事もなく、通常国会の冒頭で改憲案に言及するのは18年以来のことと、その辺の事情を説明するだけで、なんとも不甲斐なさなさを禁じ得ません。ただ、個人的には、そこで示された26兆円の経済対策にさほどの熱さを感じることがなかったことが印象的でした。 つまり、かつては経済対策、景気浮揚と云えば、田中角栄元首相の政治行動に象徴するような、公共投資を巡る与党政治家の利害が絡むバトルがあったものでしたが、今では公共投資は「新規」から「継続」にシフトしてきたと云われる通りで、そうした現場の変化を映すだけの事とは云え、そこには政治的熱気が伝わることもなく、安倍政権の賞味期限を感じさせる処でした。

ただ、安倍首相は2019年のG20大阪サミットでは国際的なルール作り「大阪トラック」を提唱しています。その節目が2020年6月のWTOの閣僚会議です。となれば、日本は米国と連携し、企業活動を害さないルールづくりを進めることが求められる筈です。その際大切なのは、膨大なデータの活用を原動力にデジタル社会の競争力を高めることではと、思料するのです。安倍首相には、「桜」が散ろうが、当該プロジェクトだけは口先だけでなく、完遂されんことを願うばかりです。

以上 (2020/1/26 記)
posted by 林川眞善 at 10:36| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2019年12月26日

2020年1月号  Olympic Year、2020年を前に日本のこれからを考える - 林川眞善

はじめに:急激な人口減少と向き合って

11月26日、厚労省発表の人口動態統計では1~9月に生まれた子供の数は67万3800人、前年同期比5.6%の減少でした。この減少は、直近では1989年以来の大幅減少だそうです。既に年間の出生数がゼロという自治体も出始めているとか。そして近く公表される2019年の年間出生率は90万人を下回るとの予想で、人口減少社会が鮮明となる処です。(注)

    (注)12月24日、厚労省が発表した2019年の日本人国内出生数は86万4千人、前年比5.92%
と急減し、1899年統計開始以来、初めて90万人を下回った。(人口動態統計の年間推計)

ここで注目しておくべきは日本の少子高齢化の質的特徴で、日本の高齢化率が特に高くなっていくのは、長寿が要因ではなく、少子化が大きな要因だと云う事です。勿論長寿化、つまり平均寿命の延びも高齢化率を高める方向に働くわけですが、実際の処は先進諸国の平均寿命の相違はさほど大きなものでなく、特に大きいのは出生率の違いであって、その在り様が高齢化率を左右することになるのです。
そして、少子化進行の問題は、社会保障の支え手の減少に直結するほか、潜在成長率の低迷を招く恐れがある事です。人口減が予想より早く進む事態への備えが求められると云うものですが、その点、子供を安心して産み、育てやすい社会を作ることは勿論ですが、働き手が減少する社会が持続的な可能性を堅持していくためには、一人当たりの生産性の向上が官民とも、より重要なイッシューとなってくる処です。

・Japan’s Burden
今から9年前、The Economist(2010/11/20号)が日本の「少子高齢化」についてJapan’s burden(日本の負担)と題し,cover storyに取り上げていましたが、その特集記事今再びと、筆者は在庫棚から取り出し、この古証文ならぬ古雑誌の記事に見入る処です。その特集記事は、現在、日本が直面している問題の本質は「高齢化」と「人口減少」に集約されるとするものでしたが、この問題はある意味で他の国々も同じようにやがて経験していくことになる問題として、key wordを「Japan’s syndrome」とし、日本がこのテーマにどう対応していくべきか、将来同じ問題を抱える国にとってモデルとなるとして、色々提言するものでした。因みに、項目的に見ていくと、労働人口減については、女性の労働市場への積極的参画、移入外国労働者の促進、高齢者対応として外国人介護者の導入等、加えて規制緩和による生産性の向上、等々指摘していたのですが、実に今再びと、感じさせられる処です。そして少子高齢化の下での人口減こそは経済にとって致命的要因だとするものでした。

確かに高齢化や人口減少は多くの困難な課題を突き付ける処前述の通りですが、今我々が迎えつつある人口減少社会という新たな状況と対峙していくとして、その為には発想や対応を転換し、新たなスタンスで臨んでいく事が不可避となる処です。それは経済環境の変化を構造的に捉えなおし、そして、その変化に果敢に挑戦していく事で新たな発展への機会と、受け止められるべきと思料するのです。

・「元号」でみる戦後75年の日本経済
戦後期を通じてレビューするに、「昭和」という時代は人口の増加と共に経済の拡大、成長を目指した時代でした。そして続く「平成」という時代はバブル崩壊や人口減少社会への移行を含めた変容の時代となり、今日に至る処です。本論稿6月号で取り上げた三菱ケミカルホールデイング会長の小林喜光氏、はそうした平成30年を総括し「敗北と挫折の30年」(日経ビジネス、2019/4/1)と断じると共に、平成に続く「令和」と云う新しい時代は、本格的な人口減少社会に向かう処、この際は平成を拘束してきた企業環境を克服し、つまりアンチテーゼにチャレンジすることで、様々な可能性が期待できると檄を飛ばすのでした。

一方、京都大学教授の広井良典氏は、近刊「人口減少社会のデザイン」(東洋経済、2019/10/3)では、高齢化と少子化の二つの要素を歴史的な流れのなかで位置づけ、その意味を再確認しながら、併せて3つの問題意識、① 膨大な借金を将来世代にツケ回している姿、②人口減少の背景にある格差拡大問題の構造化、更に、➂人口減の背景にある社会的 孤立化(つながり)、に照らしながら、2050 年に向けて持続可能であるための条件や、そのために取られるべき政策を「人口減少社会のデザイン」として提言するのです。

又、在野のエコノミストとして知られるデービッド・アトキンス氏は「日本人の勝負」(東洋経済、2019/1/24)で、騒がれる人口減少とは、実質的には少子化と、高齢化の二点であり、この認識の下、それら問題への取り組みの行方を展望すると共に併せて、人口減少社会へシフトする日本経済について、持続的可能性を堅持していく方途としてHigh road capitalism、要は「高付加価値・高所得高資本主義」への道をと、提唱するのです。言い換えれば現状にあった資本主義のアップデート化という処です。

    (注)デービッド・アトキンス氏:
アトキンス氏は1965年、英国生まれ。現在小西美術工芸社社長、92年、ゴールドマン・サッ
クス入社、金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し、注目された仁
で、各種日本経済論にて受賞多数の、在日30年のエコノミスト。

そこで、上記3つの思考様式を踏まえながら、人口減少社会の日本の行方について暫し考察することとし、新たな年に備える事としたいと考えます。

尚、12月15日、マドリッドでのCOP25は各国が温暖化ガス削減目標を引き上げることで合意し、次回COP26で目標数値を提示することとなっています。今日的世界環境に照らすとき、もはや温暖化対策は国の今後を規定しかねないほどに重要なテーマとなってきており、従って環境対応こそ、日本が積極的、戦略的に対峙していかなければならない課題となる処です。併せて考察する事とします。


目 次

第1章  人口減少社会と日本の行方

(1)人口減少社会が意味すること
   ・広井良典氏の思考様式
   ・人口減に健全な危機感を
(2)人口減少下、持続可能な経済への道
・人口減少、労働力人口減少への対応
   ・「デジタル革命」-「K」と「L」の相乗効果追求
(3)D. アトキンソン氏のアドバイス

第2章 新たなグローバル化と生産性、そして日本の行方
                              
(1)新たなグローバル化のはじまりと生産性向上
   ・デジタル分業
(2)COP25、マドリッド会議と日本の立ち位置
・英中銀カーニー総裁のCOP特使就任
           
おわりに  新年を迎えるにあたって   


 ――――――――――――――――――――――――


1章 人口減少社会と日本の行方

(1)人口減少社会が意味すること

日本が今、完全に人口減少社会に向かっている事、周知の処ですが、その背景を成すのが「少子化」であり「高齢化」です。前掲、広井良典教授は「人口減少社会のデザイン」において、当該要素を抱えて人口減少社会に向かう日本の変化を、「黒船ショック」を起点とした変化として、今日に至る日本の工程を以下のように語るのです。

・広井良典氏の思考様式
つまり欧米列強の軍事力、そしてその背景にある科学技術力にいわば、度胆をぬかれ、これでは日本が占領され支配されてしまうという意識のもと、強力な富国強兵があって、それに応える形で人口が増えていったという歴史的背景を語るのです。言い換えれば、17世紀前後から勃興した「世界資本主義の大きな渦」にアジアの辺境にあった日本という国が巻き込まれていったプロセスそのものだったともいうものです。

そして第2次世界大戦を経て、今度は「経済成長」という国を挙げての目標となり、それとパラレルに人口増加の道をたどっていったことになるのですが、20世紀から21世紀へと世紀の転換点とほぼ重なる時期に、状況は根本的に変化したと再定義します。
つまり、2005年に初めて前年より人口が減ると云う事態が起こり、その後数年、人口が上下する年が続くも、2011年以降は完全な人口減少社会に入ったとし、現在の合計特殊出生率(2018年で1・42)が続いていけば人口は減少を続け、2050年過ぎには1億人を割り、その後、更に減少していく事が予測されると云うのです。

かくして、我々が現在立っているのは文字通りのターニングポイントにある処、これがむしろ様々なチャンスの時代、或いは「真の豊さ」に向けた新たな出発の時代とも云えそうで、またその様に位置付けていくべきと、するのです。 即ち、急速な人口の増加を見、急速な成長を果たしてきた時代は、ある意味で相当な無理を重ねてきた時代とも云えるのですが,そこでは教育や人生のルートなども含めて多様性と云ったことはあまり考慮されず、文字通り画一化が進み、それと並行していわゆる集団の「同調圧力」と云ったものも強固なものにしていったと、観るのです。

そうした一元的なベクトルから人々が解放され、いわば坂道を上った後の広いスペースで各人が自由な創造性を発揮していける、そうした時代がまさに「人口減少社会」と捉え得るのではと、広井氏は総括するのです。それは、本格化する人口減少に向かいつつある中、そこに様々なポジテイブな可能性を招き、成熟社会の真の豊かさを実現していく時代として捉えていくべきとするもので、それこそ前出小林会長が目指す文脈にも通じる処です。

・人口減に健全な危機感を
2年前、2017年12月27日の日経社説は、日経平均が2 万2千円台にのぼり、労働市場は完全雇用を達成して余りある状況にあってその陰で「日本の経済社会を蝕む構造問題にはほとんど手が付けられていない。それは人口減少だ」として人口減に健全な危機感をもって、個人、企業、政府・地方自治体が三位一体になって強化すべきと訴えていたのです。
序で乍ら、当時、安倍首相は「少子化」を「国難」と称していたのですが。

言うまでもなく、そうした変化への取り組みの結果、資本主義の在り様も変化することになる筈でしょうから、その変容についても触れなければなりません。が、当該問題はよこにおき、とりあえず、人口減少社会という新しい局面にあって、いかに持続可能な経済に持っていくか、その課題に絞り、実践的に考察していく事とします。

(2)人口減少下、持続的可能な経済への道
少子高齢化を背景とした人口の減少はマクロ的には需要の減少を齎し、従って強いデフレ圧力となっていく処、従ってこれが単に緩和措置を取ったからと云ってもはや改善は期待できず、日本のデフレ状況に改善が見られないのはそうした事情に負う結果です。従って、強力なデフレ圧力が続くとなれば結局、経済は破綻に追い込まれることになる処です。そこで人口減少経済にあって如何に持続可能な経済に持っていくか、つまりいかに需要を生んでいくか、いかに生産性を高めていくかと、なるのですが、そこで発想を変え、これをチャンスとして新たな発展を目指せてと言う事になる処です。

企業または経済全体でどれだけの資源・原材料を投入すれば、どれだけの生産を行えるか、言い換えれば、労働Lや資本Kなどの生産要素を必要とするかは、Y=f (K,L)の生産函数として表記され、人口(労働力人口)Lの減少の下では、この関数が示す通り、資本Kを高めることが必須となる事自明の処です。つまり、要素Lの減少を、要素Kの強化を以ってカバーし、生産活動の維持拡大を進めることになると云う事です。それは言うまでもなく、基本的には各要素の生産性の向上に尽きる処、それこそは持続可能性の確保であり、それぞれの要素特性に合った対応が不可避で、企業の努力もさることながら、問題によっては政府の取り組み、支援が不可避となる処です。

・人口減少、労働力人口減少への対応
日本の場合、人口減少の真の意味とは、急速に進む少子化、急速に進む高齢化とが重なる結果としての労働力人口の減少を意味する処ですが、これがよりリアルな問題は前述の通り、社会保障の支え手の減少、具体的には労働力人口の減少であり、以って潜在成長率の低迷を招く恐れある点で、日本の労働力人口の減少が致命的な問題と映る処です。要は、当該労働力を如何に確保していくか、或いはその「減」をいかようにカバーしていくか、まさに労働力の確保が問題となる処、日本の人口減問題とは、労働力人口の減少問題と思料するのです。

まず、労働力(人口)確保への対応として、女性の労働市場への参画ですが、それを促す環境整備が喫緊の課題です。そして労働力人口をカバーする上で、外国労働者の戦略的移入も不可欠となる処、その受け入れの整備も早急に整備されることが不可欠です。米ジョージ・メイソン大教授のタイラー・コーエン氏は「外国人材の受け入れという変革も始まっている」と指摘するのですが。加えて、高齢化の日本事情を映し、元気な高齢者の企業活動へのリエントリーも課題となる処ですが、以上についてはいずれも、企業側の理解とそれへの具体的受け入が体制の整備が問われる処、行政においても支援、支持が不可避と思料される処です。つまり、これらの対応促進とは個別企業に任される問題でなく、政府の政策対応が必要となる処、これには、従来の日本型企業行動の発想からの絶対的脱皮なくしてなせる所業でないこと、銘記されるべきと云うものです。

今政府が推進する「働き方改革」とは、まさに人手不足といた労働環境改善への政策対応と云え、つまりは、生産要素たるLの効率化推進ですが、その本丸は云うまでもなく、労働生産性の引き上げにある処です。仮に残業時間を削減したとしても、無駄な会議を減らすなどの改革が並行して行われなければ、労働時間削減のツケがどこかに回るだけで、そうした改革の効果を上げるには、業務プロセスの見直しを並行して進めることが不可欠なのです。そして何よりも若者の働き方を支える視点が求められる処ですが、これら対応には、上記、関係者の意識改革が絶対に不可欠となる処です。

・「デジタル革命」―「K」と「L」の相乗効果の追求
上述「K」への企業対応とは関係技術の強化、生産設備の整備拡充の対応ですが、同時に従業員のスキル・アップも不可欠となる処です。具体的には、生産性を引き上げ、新商品やサービスを生み出すべく、デジタル革命への対応を進めていく事ですが、日本企業はハードだけでなくソフトも含めITへの積極投資で業務の自動化・省力化を進めています。それにも拘わらず労働生産性は低位にとどまったままにある事が問題とされる処です。なぜ投資が生産性向上に結びつかないのか?ですが、新技術の導入や開発を生産性向上につなげるためには、企業組織の在り方をも同時に変える必要があるのです。この点は上述の業務プロセス改革とも併せて企業組織の在り方も同時に変えていく事が求められる処です。いずれも企業経営トップの問題ですが、政府としてそれに向けた支援も不可欠となる処です。

これまでも言われてきたことですが、イノベーションを容易にし、スピードを上げるためには、ピラミッド型の大組織から、組織をオープンで柔軟なものに変えていく事が肝要となる一方、人材活用の面でもメンバーシップ型と云われる日本型雇用慣行を、採用からキャリア形成、雇用形態、処遇まで、多様性を許容するシステにしていく事が求められるのです。
まさにこの2大テーマへの果敢な挑戦が今、現実問題として迫られる処、従って発想の転換なくしては有為な改革等、期待できないと云う事です。

(3)D.アトキンソン氏のアドバイス
尚、前出アトキンソン氏は、日本の人口減は多国との比較において、異次元の問題だとし、つまり、米国は2060年までに、人口が25.2%増え、日本を除くG7では14.9%増。これに対して韓国も日本と同様人口減が進んでいるがそれでも5.6%減。一方、日本の場合は32.1%減でまったく次元が違うと指摘したうえで、次のように指摘するのです。

―「日本の産業構造があまりにも非効率。従業員30人未満の企業で働く労働人口が高すぎる。労働力が集約されていないので大幅な生産性向上はほぼ不可能だ」とし、包括的な経済政策の下、「小規模企業を合併させて数を減らし、労働者を中堅企業と大企業に集約させる。それには企業に合併するメリットを提供すると同時に、最低賃金を引き上げて生産性の低い企業を刺激することだ」と。

一見乱暴ともいえる発言ですが、真に構造的変化を期すための興味深いアドバイスとする処です。最低賃金の引き上げによって減少する消費をカバーし、経済の活性化を目指せと云う事ですが、経団連も12月23日、2020年、春の労使交渉に臨むにあたり、賃上げに加え、年功型賃金や終身雇用を柱とする日本型雇用制度の見直しを経営側の重点課題としたのです。つまり、今のままでは経済のデジタル化などに対応できないとの「強い危機感」(中西会長)を映すものとされていますが、彼らも日本型雇用制度を前提の経営は時代に合わないと自覚したと云うものでしょう。2020年は日本型経営の大転換の年となるのでしょうか。

ここで、その危機感に触発され、新たに気づかされたことがあります。つまり経済のグローバル化が進む中、同時に進むデジタル化の急速な変化流が、モノではなく知識やデーダが価値を生む経済に転化し、その新たなグローバル化の流れは、新たな分業の可能性を高める処となっていることです。アダム・スミスが富を増やす方法は分業だと説いていたことを思い出すのですが、それは役割の分担が生産性を高めるからと云うものです。巷間、新たなグローバリゼーションの形として、世界を結ぶネット空間では国や企業の垣根を越えた「デジタル分業」が進み、それが生産性の向上を齎す処と云々されています。とすればそれは人口減少、より厳密に言えば労働力人口減少への有効、かつ戦略的な対応として、デジタル分業を目指すことになるものと思料するのです。そこで、章を改め、digitalizationを内包して進む新たなグローバリゼーションとそれに対峙する企業戦略に付き考察します。


 第2章 新たなグローバル化と生産性、そして日本の行方
          
(1)新たなグローバル化のはじまり、そして生産性向上
近時、国際的な動きとして目立つものと云えば、やはり英国のEU離脱を巡る動きであり、米国のいわゆる「トランプ現象」という事でしょう。(注:12月12日の総選挙結果、EU離脱を主張したジョンション保守党の勝利で2020年1月末までのEUからの離脱が決定。)

これまで云う処の「グローバル化」とは、最初に本格化させたのは英国でした。例えば1600年創設の東インド会社に象徴されるように、英国は国際貿易の拡大を牽引し、さらに産業革命が起こって以降の19世紀には「世界の工場」と呼ばれた工業生産力と共に、植民地支配に乗り出していったと云うものですが、そうした他でもない「グローバル化を始めた国」である英国が、経済の不振や移民問題等のなかで、グローバル化にNOのメッセージを発信するに至ったと云うのが今回のEU離脱の基本でした。勿論、トランプ現象も似た面を強くする処、20世紀は英国に代わって米国が世界の経済・政治の中心となり、強大な軍事力と共に「世界市場」から大きな富を獲得してきたと云うものです。しかし新興国が台頭し、国内経済にも多くの問題が生じはじめる中、TPP離脱や移民規制等、まさに「グローバル化」に背を向ける政策を本格化させています。

しかし米国が去った後のTPPを日本は誘導し、積極的、成果を上げてきました。その経験に照らすとき、更なる経済の連携強化を進めることで、当該国での競争市場の創造が進み、それが同時に競争を通じた生産性向上の機会となる処です。そして、国際連携システムを強化し、その枠組みを活用することで、新たな分業関係を創造し、生産性向上につながる、まさに新たなウイン・ウインの関係が生まれてくる処です。然しその事態も、更なるデジタル化の進行で、今や構造的に変わろうとしています。Digitalizationのトレンドがグローバル化の姿を変えていくと云うものです。

・デジタル分業
これまでのグローバリゼーションとされてきた企業の対外進出は言うなればコスト軽減化を目的に、かつ当該市場への食い込みを目指すものでした。しかし、近時、上述トランプ現象に見るように、世界で排外主義が広がり、因みに、米国の5年ごとの移民の純流入数は2000年の886万人をピークに15年には496万人にまで落ちこんだ由です。そうした物理的な人の移動の停滞を補うように、世界を結ぶネット空間では、国や企業の垣根を超えた「デジタル分業」が広がってきており、この変化が、これまでのグローバリゼーションの在り姿とは異にする、新たなグローバリゼーションの姿を齎す処となって来たのです。そして、そのトレンドに伍していく事こそが、労働力人口の減少という日本経済にとって致命的と言われる事態克服のカギとなる処、同時に生産性向上へのチャンスと映る処です。
言い換えると、単純なグローバル化の終わりの始まりへの対応こそがデフレ脱却への道筋を示唆する処かと、思料するのですが、同時に産業構造の変化を齎す処です。

実際、米国では「アマゾン・エフェクト」により百貨店等が閉鎖に追い込まれ、卸と小売りをつなぐ伝統的な流通業の構造は変わってきたと云われています。こうした米アマゾン・ドットコムのようなIT企業が新しい流通基盤を築く中、日本でも、三菱商事が食品などの流通のデジタル化支援でNTTと手を組むと云った動きが広がる様相にあり、また伊藤忠は既に7月に傘下のフアミリーマートやクレジットカード、食品卸等束ねる組織を立ち上げ、縦割りを打破し、あらゆる商流で新事業の創出を目指すとされています。つまり、従来の延長線線上にあるビジネスでは対抗できないとの危機感が強まり、デジタル改革のスピードが試されだしていると云うものです。 12月20日の記者会見で、三菱商事の垣内社長はアマゾンを例に、「日本では在来型のビジネスモデルから効率化が進んでいない」(日経12/22)と日本の遅れた現状に危機感を示した由、報じられている処です。

日本の場合、流通業の生産性の低さが、産業界の競争力の足を引っ張る一因とされてきましたが、商社による流通デジタル化の挑戦の成否は幅広い産業に影響を与える事にはなる筈、その推移を注視していきたいと思います。

なお、これまで内需企業とされてきた小売りや外食企業でも、海外事業が成長の柱になってきたと云われてきています。因みに、三菱商事傘下のローソンの中国事業が2020年にも営業黒字に転換、イタリアンレストランを運営するサイゼリアはアジア事業が連結営業利益の過般に迫ると伝えられています。(日経、12月12日) 人口が減少する国内市場は拡大が望めないということで、国内依存からの脱却を目指して先行投資してきた海外事業が収穫期に入ってきたと云う事でしょう。自動車など製造業が主体だった日本の産業構造を高度化するには非製造業のグローバル化は、その重要なステップと云えそうです。

(2)COP 25 マドリード会議と日本の立ち位置
12月2日 マドリードで開催の気候変動に関する国連会議「COP25」は、温暖化ガス削減目標引き上げる事、そしてその数値を次回COP26に提出する事として15日、閉会されています。 本会議の主たる目的は、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」(2015年採択)の実施が2020年1月に始まるのを前にして、約190の国と地域が温暖化ガスの排出削減に向けた詳細ルールの最終合意を目指す予定でした。然し、中国に次ぐ排出量、世界第2位のアメリカはパリ協定からの離脱手続きを始める等のうごきもあり、その影響で途上国などの削減機運がそがれるのは避けなければならず、結局各国の温暖化ガス削減目標を引き上げる事は合意したものの、上積み幅は2020年会議で提出することで合意するなどの経緯もあり、「パリ協定」の詳細なルールづくりは次のCOP26に持ち越しとなっています。

パリ協定は気温上昇を2度より十分小さく、できれば1.5度以下に留める目標を掲げています。しかし、その目標の達成は聊か難しい状況で、1.5度以下にするには20~30年の世界の温暖化ガス排出量を毎年7.6%ずつ減らす必要があるとされており、その実現はなみ大抵とされる処です。
余談ながら、トランプ氏は大統領選を控え、岩盤固めと居住住所をNYからフロリダに移していますが、現地では、今夏のフロリダ・ハリケーン災害などは環境対応を軽視してきた結果だと、思いもしれない反トランプの洗礼を受ける処となった由です。
 
では日本はどうか。日本は温暖化ガスを多く輩出する石炭火力発電所の建設を続けていて、今の処、30年に13年比で26%削減の目標を変える予定はなさそうです。因みに12月11日、初の国際舞台にデビューした小泉進次郎環境相は、日本の石炭政策にについて、「世界的な批判は認識している。今以上の行動が必要だ」と述べたものの、脱石炭に舵を切ることは表明する事はありませんでした。(日経12/12) おかげを以って、世界環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」は地球温暖化対策に消極的な国に贈る「化石賞」にブラジルと並んで日本を選んだと発表したのです。

・英中銀カーニー総裁のCOP特使就任
そんな折、国連グテレス事務総長は12月1日、英イングランド銀行(英中銀)総裁のカーニー氏を気候変動問題担当の特使に任命すると発表しました。これまで中銀トップとして気候変動が齎す金融リスクなどに積極的に発言してきており、国連に舞台を移して地球温暖化対策を主導することになる由です。

カナダ出身のカーニー氏は、カナダ銀行(中銀)総裁を経て13年に外国人として初めてイングランド銀行総裁に就いた仁で、世界の金融当局者でつくる金融安定理事会(FSB)の議長を18年まで務め、気候変動に関する分析・開示を企業に求める「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の設置などに力を注いだ仁で、グテレス氏はカーニー氏について「気候変動対応を金融業界で推進してきた素晴らしい先駆者」と評する処です。

尚、上記、TCFDは、気候変動が業績や財務に及ぼす影響の分析・開示を企業に求める処、日本でも企業200以上の企業・機関が賛同しており、因みにキリンホールデイングスは2018年に日本食品業界で初めてTCFDに賛同。気候変動が原料の農作物に与える影響等を分析し、情報を公開しているのです。(日経2019/12/02)同社は30年までに温暖化ガスを15年比で30%削減するなど、環境面の目標を経営計画に反映させる処です。 つまり、環境対策と経営を結び付け、持てる技術で新事業を創出しようと云う動きが生まれてきたと云う事です。事業の利害関係者がグローバル化する中、企業はTCFDのような国際的な要請を無視できなくなってきた、というより新たな事業機会が生まれてきたと云う事ではないでしょうか。

序で乍ら米経済学者J. Stiglitz氏は、米論壇、Project Syndicateへの投稿 論考 ‘Is Growth the Passe ? ’ dated Dec.9で、気候変動問題への対策は待ったなしの状態だが、問題を軽視したり、楽観視したり動きはいまだになくならない。将来のリスクを甘く見積もるのではなく、イノベーションや投資を加速させる好機として捉えるべきと説く処です。要は、持続可能な経済成長のためにも、公共部門が断固たる意思を持って規制強化や技術革新を進める必要があると指摘するのです。

一方、英紙Financial Timesの米国版編集次長、Gillian Tett氏は同紙(Sept.27)で
多くの投資家と政治家がフロリダのハリケーン被害にも照らし、気候変動に伴う金融リスクにつぃてそれほど気に留めていない様子に大きなショックだと警鐘を鳴らしています。つまり、金融業界と政策立案者が、10年以上前にサブプライムローンが齎す危険を大半の投資家が理解できなかったのと同様の構造的パターンに陥っていると指摘するのですが、前述カーニー総裁のCOP特使就任は、その点で、より意味づける処と思料するのです。とすれば、日本を含めた世界的な温暖化対策の実状に照らし、まずは日本として温暖化対策に舵を切ることとし、新年2020年を、その具体的アクションを起こす始まりの年として、国家的キャンペーンを図っていく事としてはと、思料する処です。


           おわりに  新年を迎えるにあたって

今、2019年の世界を顧みるに、印象深い事案の一つが月例論考11月号でリフアーした、米英両トップが、同じ日(9月24日)、同じ場所(NY)で、法律違反を犯したと断罪された話です。トランプ大統領は職権乱用の故を以って弾劾訴追調査開始の宣告を受け、ジョンソン首相は勝手に英議会を閉鎖し、審議をボイコットした件で、最高裁より違憲の裁定を受けた事で、すわ~ Anglo American democracyの危機とメデイアは騒ぐ処でした。

云うまでもなく両国は民主主義国家として,その民主主義を以って世界をリードしてきた国です。然し、今や両国トップが共に法律違反を意に返すこともなく、自分の都合で政治を進める姿に、いずれの市民も民主主義の危機と怒りをあらわとすることもなく、もはや日常茶飯事の如くに受け止めていた姿に脅威を感じ、まさに「民主主義の死に方」(ステイーブン・レビッキ、他、新潮社)を学習させられる思いでした。12月20日の日経コラムは哲学者、西田幾多郎をリフアーしながら、国際秩序が不明、不確実なこの時代、リアル・ポリテイックスの鋭敏な感覚、状況判断力を研ぎ澄ますことが強く求められると説くのでしたが、月例論考を物する者として、その示唆を大切に、新たな年を迎えたいと思う処です。

さて末尾ながら、読者の皆様には、この1年、弊論考にお付き合いいただきお礼申し上げます。そしてその節、色々ご支援、アドバイスをいただき有難く感謝すると共に、佳き新年を迎えられんことを祈念する次第です。
以上 (2019/12/25記)
posted by 林川眞善 at 14:15| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする