2023年02月25日

2023年3月号  日米両首脳の施政方針演説に映ること - 林川眞善

―  目 次 ―

はじめに 明るさ増す経済指標、だが、・・・ 
(1)IMFが見通す2023年世界の景気動向
(2)Financial Times 、 Gillian Tett氏のダボス会議
               
1. 日本の政治・経済の現状
(1)岸田首相の施政方針演説
  ・内閣府公表のミニ「経済白書」とも併せ
(2)日銀総裁の交代人事

2.バイデン米大統領の施政方針演説と、対中輸出規制の行方
(1)米再生に向けたバイデン米大統領の施政方針演説
     ― remake America’s economy
(2)米中貿易の現状、そして米国の輸出規制の行方

おわりに 「ブレトンウッズ体制の終焉」と、私

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はじめに  明るさ増す経済指標、だが、・・・
             
(1)IMFが見通す2023年、世界の景気動向
2023年1月30日、IMFは、今年、2023年の成長率予測を2.9%と発表、3か月前の予測値より0.2ポイント引き上げるものでした。これはウクライナ危機発生(2022/2/24)後で初の上方修正です。エネルギー等の価格高騰に米欧の急速な金融引き締めの影響で「世界の3分の1が景気後退に陥った」(ゲオルギエバ専務理事)との悲観論をにじませた昨年秋に比べ、世界景気には薄日が差すと見る処です。

当該見通し改善の最大の要因は、中国の状況変化に負う処とされています。つまり、経済活動や人の移動を制限していた「ゼロコロナ政策」を一挙に転換したことで、巨大市場の消費や企業の生産活動が活気づいてきたということで、23年の中国の経済成長率見通しは前回より、0.8ポイント高い5.2%に上げたと云うものです。(注)

(注)この点、ダボス会議(1/16~20) に登壇した中国の劉鶴副首相が世界に再び関わっていくと強調したことを受けての事とされています。が, China schoolの友人達は、これこそ中国経済の不振を裏付けるもので、中国が微笑外交に変わったとされるのも経済の不振奪回に向けて外資を呼び込もうとするものと云うのです。さて・・・。

又、米欧で懸念を呼ぶ物価上昇の勢いについてはやや鈍るとの見通しにあって、その背景として、中銀が政策金利引き下げのペースを落し、景気へのブレーキが弱まると判断する処、IMFは23年に「インフレ率低下への転換点」を向かえる可能性を指摘する処です。

つまり、内需が底堅い米国は3か月前より0.4ポイント高い1.4%, 暖冬でエネルギー高騰の圧力が緩むユーロ圏も0.2ポイント高い0.7%と見る処。英国はマイナス0.6%成長と主要国で唯一大幅悪化をみる処です。そして日本は0.2ポイント高い1.8成長との見通しです。これは昨年秋の経済対策の効果に加え、米欧と違い、金融緩和を修正していない事が追い風となっているとするもので、低位だが、米欧よりも高い成長率を保つとみる処です。以上からは、主要経済国が同時に景気後退に陥るような事態は遠のいたとの判断です。

ただThe Economist, Jan. 28,2023 は景気回復を示唆する指標が見え出したが、それでも、世界経済の現状は、Polycrisis or Polyrecovery?(複合クライシスか、複合回復か?) としながら、中国のゼロコロナ政策の解消で、中国経済の活性化はOKとしても、その結果は石油の輸入増を齎し、それが物価の上昇を招くことで世界インフレの火種となりかねずで、景気も物価も霧の中と、懸念を示す処、これこそが本音ではと思料する処です。

(2)Financial Times, Gillian Tet氏のダボス会議
序で乍ら、その‘インフレ’と云えば、Financial Timesのeditor, Gillian Tett氏が同紙、1月20日付で伝える論考は極めて興味深い指摘でした。というのも彼女は今年のダボス会議(1月16~20日)に参加し、そこに集まる世界のCEO達との会話からは、将来の成長について驚くほど楽観的だったと、そして、インフレに対する考え方ががらりと変わったことだと云うのでした。 彼女の論考のタイトルは「Four is the new two on inflation for investors.」。そこに見る楽観論の背景として、以下4点を挙げるのでした。

その1つは、前述の中国の変化で、劉鶴副首相が登壇し、中国経済の回復発言があり、2つは、長期的観点から動き出したSupply chainsの再編、更に3つ目は環境対応を挙げ、今「グリーンバッシング」が進行中だが、脱炭素への取り組みから手を引く企業はほとんどないこと、そして、4つ目として彼女の感性として、「the cultural zeitgeist」 (なんとも捉えにくい状況)を挙げるのです。

つまり、これまでのダボス会議参加者の大半は、国際競争で人件費と製品コスト抑え込める自由市場の世界に暮らしていると考えていたが、ロシアのウクライナ侵攻と米中関係の緊張、更には新型コロナウイルスのパンデミック、社会不安が世界に新たな政治経済の流れを生み出していること、そして政府の介入が増え、労使が一層対立し、保護主義の脅威が絶えない世界になってきたとし、これがいつまで続くものか誰も分からないし、そこにいたCEO達もわからないが、短期のみならず中期的にも、この新しい枠組みのあらゆる要素がインフレを齎すと感じていると、云うのです。 そしてもはやこれまでの低インフレ時代に戻ることはなく、「4%が新たな2%」と考える時期もある処、それも新たな政治経済の性質を無視したものとも云え、今は景気循環ではなく構造的な変化の節目にあるかどうかに目を向ける必要があると、強く指摘するのでした。


・日米両首脳の施政方針演説
処で、そうした上記環境にあって、日本では1月下旬、岸田首相が、そして米国では2月 始め、バイデン大統領が、夫々、所信表明演説を行っています。更に日本では10年続いた日銀総裁の交代人事も動く処です。勿論そこに映るのは、民主主義を基盤として国民に資する経済の運営を目指す筈の政治です。そこで今次論考では両首脳が語る施政方針に照らしつつ、国民に資する経済の何たるかについて考察していきたいと思います。 尚、本稿draft中の18日夕刻、防衛省が、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイル1発を発射し、日本の排他的水域(EEZ)内に落下したと推定されると発表しました。日本の安全保障問題の顕在化とも云える重大事件です。そこで、本件については別途とする事とします。


1.日本の政治・経済の現状  。

(1)岸田首相の施政方針演説
岸田首相は1月23日、第211回 国会開催の冒頭、政府が進めんとする施政方針について演説を行いました。 興味深かったのは、冒頭の発言でした。1月、5月の広島G7サミットに備えての欧米訪問の際、ある国の首脳から、何故日本では議会の事を、英語でParliamentではなく、Dietと呼ぶのかとの問いかけがあったことを紹介し、Dietとはラテン語で、それが意味する事は「国民の負託を受けた我われ議員が、この議場に集まり、国会での議論がスタートすること」と説明したことを紹介し、方針演説に向かったことでした。これは当たり前とも云える国会議論の重要性を、わざわざ冒頭に出したのは、決断と同時に説明不足と云った批判される場面が増えたためではと、メデイアは評する処です。

さて施政方針演説は「再び歴史の分岐点に立っている」と、日本の状況を説き、11項目ある各論に入るもので、今は明治維新と第2次世界大戦の習瀬に続く「転換点」だと位置づけるものでした。そして、最重視するテーマとして「少子化対策」に係る3本柱、「経済支援の拡大」、「子育てサービスの充実」そして「働き方改革」を掲げる処です。ただ筆者の最大の関心事は演説、第3項目の「防衛力の抜本的強化」でした。先の弊論考でも指摘したように国民を置き去りにして策定された安全保障政策にあったのですが、なんとも迫力のない、これが、Dietで提示される内容かと、愕然とする処でした。その点、弊論考読者の一部からの提案もあって、別途日本の安保についてミニ・ゼミを持った次第です。

一方、国民の最大関心事の一つであろう財政運営への言及も乏しく、低金利の下で規律が緩み、効果が疑問視される事業への支出が目立つ処、この際は総点検して経済成長につながる投資に国費を集中させるべきではと思う事、多々とする処でした。

・内閣府公表のミニ「経済白書」にも照らして
そうした思いを同じくするのが、2月3日、内閣府が公表したミニ経済白書「日本経済2022-2023」でした。そこでは10年来、低迷を託つ日本経済について、経済の地力を示す潜在成長率を引き上げるカギは「成長分野での投資」にあるとし、具体的には、半導体と電気自動車(EV)を挙げるのでした。

まず半導体産業については、「研究開発投資の規模が小さい」と指摘する処、世界的に、半導体は経済安保の観点から各国が重視しており、米国では527億ドル(約7兆円)、EUでは1345億ユーロ(約19億円)の投資計画が発表済みで、日本も累計2兆円規模の補助を出しているが「競争力強化のためには、更なる投資の拡大が求められる」とする処です。
 
もう一つの有望分野、EVについても「設備や研究開発投資の拡充が不可欠」と指摘する処です。因みに21年のメーカー別のシェアーを見ると、日本勢は2.9%にあって、中国(26%)や、米国(26%)と、その差の大きさを指摘する処です。世界の自動車販売に占めるEVの割合は21年に9%、30年には22%に拡大する見込みで、日本が強かったハイブリット車(HV)も「置き換えられていく」と危機感を示す処です。IT企業の参入などで競争は更に激しくなると見、手をこまねいていれば一段と埋没しかねないと警鐘を鳴らす処です。

日本は2035年までにすべての新車を電動車とするのが目標にあって、HVを含む内容の由ですが、現状は本格的なEVシフトにカジが切れていないとする処、世界に劣後する普及水準の押上は見通せないとし、白書は世界の構造変化に対応した投資が「成長経路を一段高いものとする上で重要」と総括する処です。これこそ上記施政方針で強く語られてしかるべき処ではと思料するばかりです。

それにしても足元の車生産は、コロナ感染の拡大、サプライチェーンの混乱で、大きく落ち込み、日本経済回復への重荷になっていると指摘される処、個別企業、とりわけトヨタ自動車の稼ぐ力に陰りが見えてきたことが気がかりとされる処です。因みに2022年4~12月期の原材料高の負担は前年同期から1兆1100億円増え、原価低減や車の値上げが追い付かない状況にあるとされる処です。EV専業の米テスラは純利益でトヨタを猛追。1台当たりの純利益ではトヨタがテスラの5分の1に留まっています。
この点、トヨタも2025年には米国でEV車の生産を始めるとしており、これまでの「全方位」モデルから投資の軸をEVに据えて競争の激化に備える由、報じられる処です。(日経, 2023/2/22) 尚、15日、米運輸省はテスラのEV車36万台についてリコールと認定する一方、23年1月末、米司法省が調査を始めたことを明らかにしており、暫し様子見です。

     (注)   トヨタ    vs   テスラ  
  売上高:27兆4640億円   8兆5590億円
      純利益: 1兆8990億円   1兆2600億円
      販売台数: 788万台、     100万台
      車種数:  約50        4      (日経2023/2/10)

(2)日銀総裁の交代人事
2 月10日、黒田日銀総裁の後任に、岸田政府は経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏の起用を発表しました。すわ~10年間続いた異次元緩和の見直しと、騒がれる処、直後の記者のインタビューでは植田氏は、「金融緩和の継続が必要」との考えを示していましたが、それでも新総裁に期待されるのは膨れ上がった副作用を取り除くための異次元緩和の修正、金融政策のたて直しに他ならない処です。

では現総裁の黒田氏の10年間は何だったのか、です。彼は任命権者の安倍晋三元首相が進めたアベノミクスを体現する「最後の船頭」と云われる存在でした。 確かに2013年に始まった量的緩和は最初の2年間については高く評価できるものでした。確かに強いアナウンスメント効果による円安と株価上昇により、デフレの進行を止め景気回復の基礎を作ったと云えるのでしょうが、その後8年もの緩和はいかにも長すぎたと云うものです。これが結果として財政の膨張を許し、政府が発行する国債の引き受け先、つまり政府の金庫番となって、経済成長のための資金の循環は停滞していったことで、日本経済は10年を超す低成長を余儀なくされてきたと云うものです。

その指揮官たる日銀総裁の黒田氏は2023年4月8日を以って10年の任期を終えます。同総裁は、2013年4月の総裁就任の際、日銀の資金供給量を2倍にして、2年を念頭に2%の消費者物価の上昇を目指すと、つまり「2・2・2」を掲げてデビューを飾ったものでした。が、その目標は10年経った今も達成されないままにある処です。そして2月10日、後任の総裁に経済学者で、元日銀審議委員の植田和男氏の起用が発表され、「2・2・2」の看板の書き換えが始まる処、世のスズメどもは侃々諤々、新総裁への期待を含め、新政策のあり方について、とかくの論評が行きかう処です。

黒田氏は政策変更をしなかったと云う点で、一部では「ブレない人」と前向きに評価する向きもありますが、環境の変化への対応が遅れた事、そしてその結果として日本経済を歪んだものとしてしまった事への批判は免れない処です。そして、中央銀行としての日銀の独立性が見えなくなってしまったことが挙げられる処ですが、こうした構図は、安倍氏が凶弾に倒れたことで、一段と鮮明となったと云えそうです。

つまり、途中から金融政策は完全に経済政策からポリテイカルなものに変質してしまったこと、そして、上述の通り、ゼロ金利の環境下で財政規律が失われ、つまり日銀が大量の国債を引き受け、政府は簡単に借金を重ねる、事実上の財政フアイナンスが進み、真の問題である成長戦略が見失われていった事が指摘される処です。勿論これは中銀の担うべき役割から外れる処で、その結果が今日の経済状況を生んだと云われる処です。つまりは財政が持続可能でないと金融政策の正常化は難しいという事ですが、これも「政府・日銀のコード」(注)の存在が問題とも映る処です。それだけに学者出身の植田氏には、こうした問題への合理的な説明と対応をと、期待が集まると云うものです。

    (注)「政府・日銀のコード」:2013/1/21,「デフレからの早期脱却と物価安定の下での
持続的な経済成長の実現に向け、政府および日銀の政策連携を強化し、一体となって
取り組む」と,安倍第2次政権発足翌月の2013年1月、両者で合意し、両者合意の共
同声明として発表されたものです。黒田氏は総裁就任時、当該コードを遵守し,2%の物
価安定目標を掲げ、いわゆる異次元の金融緩和を打ち出したが、その結果は周知の処。


2.バイデン米大統領の施政方針演説と、対中輸出規制の行方

・米大統領の年頭教書: 2月7日、バイデン大統領は米上下両院で2度目となる一般教書演説を行っています。米大統領が行う一般教書とは、大統領が向こう1年間、内政や外交でどのような政策に取り組むかを議会に伝えることを目的とするものです。ではその内容の如何で、以下、その概要をレビュー、考察する事とします。そして彼が対中政策として導入した輸出規制の行方についても、併せて考察する事とします。

(1)米再生を狙うバイデン米大統領の施政方針演説 
米大統領が行う一般教書とは、大統領が向こう1年間、内政や外交でどのような政策に取り組むかを議会に伝えることを目的とするものです。今次演説の趣旨はremake America’s economyとするものでしたが、2024年の大統領戦を左右する中間層へのアピールを意識して内政に軸足を置いた結果、外交に割いた時間がわずかだったのが気がかりとする処です。

さて、バイデン氏は演説で「共和党の友人たちよ、新しい議会で私たちが協力できない理由などない」と、与野党協力の実現に向けた理想をこう語るところでした。というのも先の中間選挙で野党・共和党が下院で、僅差ながら政権与党・民主党を抑えたことで議会はねじれ状態となっており、共和党の協力なくして各種法案の成立は難しい環境にある為で、メデイアによると今次演説では、共和党員への言及が12回と、前回22年の約4倍に増えたと指摘する処でしたが、超党派で政策を進めたいとするバイデン氏の願望がにじみ出たと評される処です。

・まず内政面では、「米国の魂や根幹となる中間層を立て直し、国を統合するのが目指す国家像であり、その仕事を成し遂げるためにここに我々は送りだされたとし、米国の民主主義は南北戦争以来、最大の脅威に直面したと指摘しつつ「米国の民主主義は不屈だ」と表明する処、その発言は2021年1月6日の連邦議会襲撃を念頭に置くものと思料する処です。

そこでバイデン氏は、自分の抱く国家像について、国家の魂や根幹となる中間層を立て直し、国家を結束させる事と強調、更に根本的な変化を起こすため、経済をすべての人のために機能させ、すべての人がプライドを持てるようにするために大統領に出馬したと主張、経済を上からでなく、下から創り上げ、中間層を支えると強調。そして中間層がうまくいけば貧困層のはしごとなり、富裕層もうまくいくと主張する処です。 そしてこの流れを実証するものとして雇用の回復の実績を挙げ、併せてパンデミックの影響で海外の半導体工場が止まった影響に言及し、供給網の整備を進めるとし、とりわけ世界で最も強い経済を維持するためには最高のインフラが必要と強調すると共に、自分は資本主義者だが、最も裕福な人々や大企業には、公正な分け前を払わせたいと民主党カラーを強調するのです。

・更に外交面では、ロシアの侵攻が続く中、プーチンの侵略は我々の時代と米国、そして世界への試練だと断じ、我々はウクライナの人々と共に立ち上がったと謳うのでした。
更に、中国については、米国の技術革新や将来を左右する中国政府が支配しようとしている産業に投資すると云い、同盟国に投資し、先端技術が我々に敵対する目的でつかわれないよう努力すると云うのです。そして安定を維持し、攻撃を抑止するために米軍を近代化すると、そして今日、我々は中国や世界のどの国と競争するためにも、ここ数十年で最も強い立場にあるとし、米国の国益を前進させ、世界の利益となりうる分野においては中国との協力に努めると云うのでしたが、米中の緊張関係に改善の様相は見当たらずと云った処です。
ただ、中国が我々の主権を脅かせば、我々は米国を守る為に行動すると明言する処、中国との競争に勝つ目的の下に、我々は結束すべきと訴え、これらすべてをなしとげられる一つの理由があると云い、それは米国の民主主義そのものだと、する処です。

そして「おわりに」、我々は転換の時期に集まっている。我々の決断が今後数十年の米国と世界の道筋を決めると。そして、更に我々は歴史の傍観者ではない。我々に挑む力の前に無力ではない。我々は時代の試練に直面し、選択の時を迎えていると、締めるのでした。
(日経2023/2/9掲載、「バイデン米大統領一般教書演説」、ホワイトハウス発表の草稿に基づく)

さて、The Economist.2023/2/4~10の巻頭言、‘Big ,green and mean’ ではBiden’s plan to remake the economy is ambitious, risky, confused and selfish -but it could help save the planetとやや皮肉な評価を下す処です。
バイデン氏としては 超党派で ‘米国を前に’と,したかった処でしょう。が、「ねじれ議会」が壁となって内政の停滞感が強まるとみられる中、バイデン氏が24年の大統領選で再選を目指すかどうか、未だしですが、もし続投となれば、今回の公約を1~2年で着実に実現できるかがポイントではと見る処です。

(2) 米中貿易の現状、そして米国の輸出規制の行方
・米商務省が7日発表した2022年の米中間貿易は、輸出で4年ぶりに最高を更新、輸出入の合計額は6905億ドル(約91兆円)。この内、米国の中国からの輸入額は5367億ドル、輸入額に占める比率の高まったのは玩具やプラステイック製品等の汎用品と云う。一方米国の対中輸出は1538億ドルと過去最高を更新。最も変化が大きかったのが大豆やトウモロコシ等を含む穀物類。一方、航空機や宇宙関連の輸出に占める比率は18年の14%から3%に落ち込んだ由で、米ボーイング製などの民間航空機は中国向けの最大輸出品だが、貿易戦争とコロナ危機で受注が低迷した結果とされる処です。 この点、中国は国産航空機の製造開発に力を入れると指摘される処、政治的緊張を抱えながら、企業は米中双方の巨大市場でビジネスを逃がすまいと動く姿を映す処とも云え、米ピーターソン国際経済研究所のバーグステン氏は「米国が中国を封じ込めようとしても失敗する。機能的なデカップリング戦略を模索しながらも世界経済は米中が引っ張っていくべき」とする処です。(日経 20023/2/8)

・ただ気がかりは保護主義に傾倒しだす?米国の姿勢です。
米政府は昨年10月、中国向け半導体輸出規制に強烈な縛りをかけています。これは中国の軍事デジタル化を食い止めるのが狙いとするもので、実践的には米政府は輸出管理法など矢継ぎ早に発動し、中国の個別企業を名指しして輸出を禁止しているのですが、米国が描く中国包囲網を築くには米国が呼びかける国際協調に日欧が加わる必要がある処、そこには戦後一貫して国際協調を呼びかけてきた米国が、保護主義に傾倒していく姿があって、今や戦略物資となった半導体が自由と市場原理を壊しているように見えると云うものです。まさにブレトンウッズ協定の夢遠くと、なる処です。
因みに2月15日バイデン政権はEV用充電器を巡って「バイ・アメリカン」の発動を示唆する処です。これも大統領選を視野に置いての自国製優遇政策と云う処でしょうが、米国が保護主義を強めて自国優先を貫けば欧州や日本など同盟国との摩擦がつよまり、中国に対抗する為の結束が揺るぎかねないと云うもので、事態の推移が気になる処です。


おわりに 「ブレトンウッズ体制の終焉」 と、私

この1月、待望の書を入手しました。米政府高官でイエール大学経営大学院の名誉学長、ジェフリー・ガーテン氏の手になる頭書タイトルの翻訳本です。 原題は、「Three Days Camp David (キャンプ・デービッドの3日間)」― `How a Secret Meeting in 1971 Transformed the Global Economy ’ で、 1971年8月の金・ドル交換の停止決定、世に云う「ニクソン・ショック」の顛末を記したもので、当時のニクソン大統領他、関係者の対応を巡る、言い換えればその工作裏話を綴るものです。

この著作を手にして想う事多々。とりわけ ‘終焉’ を喫した当日(日本時間、1971年8月16日)の経験ですが、その延長線上で今日に至る自分があったことを思うと、今尚、聊かの興奮を禁じ得ないのです。 と言っても学術的な話ではなく、友人仲間とワイワイやっていた夜の話で、この発表をTVで見ていた際の我々の行動でした。TVの臨時ニュースが伝える「金・ドル交換停止」という国際金融制度の変更ですが、その事の重大さに照らし、時差をも考慮し、とにかく海外の出先にいる仲間に、一報をと、全員が一斉にその店を飛び出し、会社に戻り、守衛に事情を説明しテレックスコーナーに忍び込み、さん孔テープのタイプに向かいポツリ、ポツリと打ち出し、作業を終えofficeを辞した時は、既に夜がしらけだす処でした。

その後と云うもの事態のフォローアップに連日振り回され、その翌年、筆者は米国(NY)に転勤で、東京とNYで当該ショックの対応に奔走させられる日々が続いただけに、この本を手にして聊かの興奮をもってその場を想い出させられる処です。そして本書序章に記された以下の記述こそは、筆者が身上として今日に至る行動様式の原点たるを再認識する処です。

「・・・1971年にアメリカがドルと金のリンクを断ち切った一方的かつ、強烈な政策のあと、世界経済に対するアメリカの関与が増え、国際機関に対する拠出などが大きくなり、アメリカと同盟国間の政策協調が進展した。確かに金・ドル交換停止でアメリカは西ヨーロッパ諸国と日本にショックを与えたが、ニクソンはさまざまな問題にアメリカの同盟国と共に考えながら対処しようと考えていた。 例を挙げれば、核兵器削減条約、世界の貧困問題、食料安全保障、高騰する石油価格、などなど。1971年時点でアメリカは、世界貿易の伸展が保護主義より優れていることをよく理解していたし、より良い通貨制度を追求し続けた。時間が経つにつれ経済と政治の関係は強くなっていき、間違った方向に行かなければ民主体制の国が強くなることはわかっていた。この信念は、ニクソンも彼の周りにいる専門家も理解していた。それより、西ヨーロッパ、日本との協力関係が40年以上続いたのである。1971年8月にアメリカは国際関係に大きなショックを与えたものの、拠って立つ政治哲学は、世界が直面する様々な大問題を一緒に解決する国々の利益を高める事にあった。 ・・・ 」

今から55年前、1968年、筆者は、Financial TimesのNY特派員、G・オーエン氏の著作「Industry in the U.S.A.」(Penguin Books, 1966)を翻訳出版(現代のアメリカ産業)した経緯もあり、それに重なる上記ニクソン・ショック物語は、今日に至る小生の思考形成の原点となる処です。今、この2つの本を机に並べながら、1963年春、大学を出て社会人となってからの60年という時空間に、改めてそうした想いを重ねる処です。(2023/2/24)
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2023年01月26日

2023年2月号  新時代の「国の防衛」を問う - 林川眞善

―  目  次  ―

はじめに Martin Wolf, Financial Times と共に

[1] 2023年5月、G7広島サミット、そして日本の新安保政策
 1. G7広島サミットを前に, 欧米行脚の岸田首相
 2.日本の新たな安保政策と日米同盟の変質
             
[2] 中国経済はどう動く             
 (1) 中国経済の変質?を示唆する二つの指標
 (2) The Economistの見る、中国経済回復の行方

おわりに.この冬、旅先で思う       
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はじめに Martin Wolf, Financial Times と共に思う

昨年2022年の暮れ、F.T.のMartin Wolf記者の2023年につなぐ言葉は、我々にとってエールとなるものでした。そのタイトルは、Glimmers of flight in a terrible year ― From the return of the west to the triumph of democracy, not everything that happened in 2022 was bad. by Martin Wolf( Financial Times 2022/12/21) そこでまず、その概要を以下に紹介する事から始めたいと思います。― 
      
➀ 昨年のレビュー総括:失敗だらけの2022年、
・邪悪な独裁者の侵攻、インフレの高進と実質所得の低下。IMFによると低所得国の60%は債務返済が無理か、これからそうなるリスクは高い。
・米中の関係解消、2大大国を軸とした経済ブロック化に向かう動きは顕在化
・COP27は失敗に終わった。
・パンデミックからの完全回復は見られず。世界の最貧国の状況は深刻。

➁ ウクライナ侵攻が民主主義の価値観を共有する国々を結束させた。
NATOにとって再生の時に,ドイツにとっては「時代の変わり目」に。フィンランドとスエーデンにとっては中立を拒絶すると時なった。ゼレンスキーはプロパガンダ戦争にあっさ
り勝利し西側の英雄に。一方、強権的指導者のプーチンそして習近平も弱くなったし,彼の
ゼロコロナは屈辱の内に終わった。― つまり、堕落した民主主義よりも古代中国の専制政治の方が立派な統治が行えるとの主張は崩れた。

③ トランプ衰退と英国で見えた民主主義の価値 
米中間選挙でトランプの推薦候補がすべて落選。今、トランプが国家への反乱を試みたことが白日の下に。一方苦境の英国ではジョンソンを首相の座から引きずり下ろし、能力のないリズ・トラスを在任44日で官邸から追い出した。が、その過程で誰かが命を落とすことはなかった。なお、世論調査では英国民の51%はBrexit を悔やんでおり、世論の変化により、将来の政権は再びEUに接近させられるはずだ。

④ 2023年の経済
インフレ「期待」は制御されている。2023年は米国、その他国々でインフレ制御の公算あ
りで、その後には成長への回復が続くと見る。そしてグローバル化も死んではいない。
つまり、脱グローバル化というより、ペースの鈍化だ。米国はともかくそのほかの世界では、繁栄するには貿易の活発化が必要であることを、理解していると。
そして、IMFは世界の財・サービスの貿易量は2022年4.3%増と予想。これが興味深いことは財の貿易量の伸び率2.9%よりも高いことだ。つまり、サービスの貿易が伸びを牽引し
ているわけで、因みに2021年は財・サービスの貿易の伸び率が10.1%で、そのうち財の
伸び率が10.8%だった。又、世界のGDPの伸び率は2021年が6%だったに対して、2022年は3.2%に留まると予想されている。従って世界は脱グローバル化しているわけではない。以前ほどには貿易は伸びていないだけだ。つまり、グローバル化はもう以前のようなペースでは拡大できない。だが機能しているし、世界経済も成長し続けている。

➄ 最後に、コロナ禍がついに過去のものに
めちゃくちゃで統制の取れないやり方にせよ、世界は新型コロナを過去のものにしつつあ
る。これはワクチンに負う処大。ワクチンはもっと世界に行き渡らせるべきだ。悪性の
変異株が登場する公算は大きく、新たなパンデミックが始まる可能性もある。それでもこ
れは進歩だ。世界の危険や不正、紛争、失敗を目の当たりにして途方に暮れてしまうのは
たやすい。確かにそうした問題は十分にある。だが、今年(2022年)起きたことがすべて
災難だったわけではない。民主主義、法の支配、経済の進歩の継続、世界の経済的統合、
健全な金融市場、そして通貨安定などの価値を信じる我々にとって、2022年は完全に悪い
年だったわけではない。それでも2023年がもっと良い年になることを祈願しよう。


さて、上記、M.ウルフ氏描く環境変化を拝しながら、新年、2023年がスタートしました。
プーチンが仕掛けたウクライナ侵攻は未だ止むことはありませんが、そうした中、2023年5月には広島でG7Summitの開催が予定され、議長国日本の岸田首相には、G7として結束し、如何ように世界を誘導していく事とするのか、極めて重責を託つ処ですが、それは日本として外交力の「抜本的強化」に動く年とも映る処です。 その視点は、先の弊論考で提唱したキワード、国際秩序に向けた「協調」行動の確立と、符合する処、次世代への「挑戦」に向けた行動とも符号する処です。 勿論、それは世界の中の日本の在り方を問うプロセスとも云え、上記ウルフ氏の祈願にも応える処ではと思料するのです。そこで、この際は広島サミットを中心としながら日本を取まく安全保障環境、とりわけ日米関係について考察する事とします。

そして、もう一つ気がかりは、「ゼロコロナ」政策を打ち切った中国の動きです。1月17日、中国政府が同時発表した二つの経済指標、2022年末の総人口統計と中国経済GDP指標ですが、いずれもnegativeにあって、時に中国経済の行方が世界経済のリスク要因とも映る処、その現状についても併せて、考察したいと思っています。


[1] 2023年5月、G7広島サミットと、日本の新安保政策

1. G7広島サミットを前に、欧米行脚に向かった岸田首相

上述5月19日からの3日間、広島でG7サミットが開催予定ですが、開催国日本の岸田首相は議長としてG7の連帯を確実なものとし、以って揺るぎない国際秩序の構築に向け、取り仕切っていく事が期待される処です。 1月9日、その重責を全うするための準備として、22年に首脳が相互に訪問したドイツを除き、フランス、イタリア、英国、カナダ、米国の順で各首脳を歴訪、サミットを前に個別に信頼関係を築き、腹合わせを進める処です。
 
その概要は、都度、各メデイアの報じる処、その成果は5月の広島サミットでの議論の主題となる処、当該議論を経て、これからの世界、自由主義諸国の運営シナリオが示されていくことになるものと思料する処です。ただ今次サミットでの最大の課題はウクライナ情勢への対応であり、ロシアへの制裁やウクライナ支援の継続を申し合わせることになるものと思料する処、更に岸田首相は、ロシアの核による脅威を受け止め、自身の出身地、唯一の被爆地・広島を今次、サミットの拠点とすることで、「核兵器のない世界」の気運を高める機会ともする様相です。

勿論、岸田首相が狙うのがG7で唯一のアジアの国という立場から、東アジアの激しい安全保障環境への対応協力を取り付ける事、更に日米が主導する「自由で開かれたインド太平洋」の実現にも理解と具体的協力を求めんとする処、世界のリスクが今や当該地域に集中する事態に欧州諸国も強く理解する処、今次の欧州首脳との事前のすり合わせは、日欧安保を一挙に近づける結果となったと認識され、そのタイミングにも評価の集まる処でした。

そして1月13日、ワシントンで行われた日米首脳会談はそうしたスケジュールのハイライトとなるものでした。つまり岸田首相は、昨年12月16日、閣議決定した新たな安全保障政策となる防衛3文書を携え日米首脳会談に臨み、戦後安保の転換を示唆する「反撃能力の保有」を明示したことで、バイデン氏からは当該新安保政策を以って日米同盟の現代化となるものと高い評価を得、同盟関係の一層の強化が確認されたとする処, 以って5月の広島サミットへの対応準備が整ったと,いう処でしょうか。

  (注)歴訪5か国首脳との確認事項,等
  ・フランス:マクロン大統領(9~10日) 日仏安保協力推進
  ・イタリア:メローニ首相(10~11日)19年の中国「一帯一路」への参加は間違いと。
  ・英国:スナク首相(11~12) 日英「円滑化協定(RAA)」締結、英国のTPP加盟 
  ・カナダ:トルドー首相(12~13)両国関係の一層の強化に向け協力したい。
  ・米国:バイデン大統領 (13~15) 同盟関係の更なる強化(別記)

尚、もう一つ岸田首相が重視するテーマは、途上国を意味するglobal southとの結束だとしていましたが、それは中国やロシア等の覇権主義に国際社会として対抗するには途上国との関係が重要とのなるためとの認識を映す処です。因みに、1月4日の記者会見では「対立や分断が顕在化する国際社会を結束させるためにグローバルサウスとの関係を一層強化し、食料・エネルギー危機に対応していく」と語る処でした。

果せるかな1月12・13日、インド政府の主導による「グローバルサウスの声サミット」会合がオンラインで開かれ、モデイ氏は以下のような発言をしているのです。―「私たち『グローバルサウス』は、未来に関して最大の利害関係を有している。人類の4分の3が私たちの国に暮らしている」とし、現在対峙しているグローバルな課題は南半球がつくりだしたものではないが、私たちに大きな影響を齎している」と、そして「その解決策の模索には私たちの役割や声が考慮されていない」と主張。予定される次期G20サミットの議長国として「グローバルサウスの声を増幅させる」と。(日経1/14)とすれば、広島サミットに向け途上国の関心の高い分野でいかなる対処策を示せるか問われる処です。

因みに、グローバルサウスへの対応として、イエレン米財務長官は18日、アフリカ訪問の途次、スイス・チューリッヒに立ち寄り、ダボス会議に出席中の中国 劉鶴副首相と会談、両者は経済・金融面での対話強化や気候変動対応を巡る途上国への金融支援で協力する事で合意を得た由で、とりわけアフリカ諸国が直面する過剰債務の再編には最大の貸し手である中国の協力が不可欠とし、米国が途上国への金融支援に協力することで、当該問題解決に向けた前進が期待される処です。
 
かくして、岸田首相のG7メンバー国首脳との事前の腹合わせを通じ、民主主義国家への挑戦を仕掛ける強権国家、中国やロシア等に、いかに対峙していくか、つまり安全保障をいかに担保していくかが共通問題である事、そして、そのための国際連携が一層のテーマとなってきていることが認識され、まさにグローバル経済の在り方、課題への取り組みに新たなトレンドを生む処とも云え、以って外交も抜本的強化に動く年と整理され、広島サミットへの期待を膨らませる処です。

・違和感に晒された日米首脳会談
処で、国際社会の激変に向き合うには、国を不安定にする拙速な政治姿勢こそは大きなリスクです。その点で気がかりだったのが13日の日米首脳会談でした。当日岸田首相は、昨年の12月. 閣議決定された新安保に係る3文書を引っ提げ、日米首脳会談に臨んでいますが、そこで日本の安保政策の変更、自立した安保体制への変更、について説明をし、これに対しバイデン氏は、この新安保政策を以って ‘日米同盟の現代化’と高く評価したという事で、新たな形の安保体制へ大きく前進となったとするのですが、そのシナリオ、プロセスに、極めて違和感を禁じえなかったという事でした。

勿論、日米首脳会談を控えた11日、その前座となる日米外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2会議)が行われ、そこでは「反撃能力」に関し日米が共同で対処する事が確認され、そして、その旨が明記され、以って、日米の同盟関係が新たな次元に向かったとされる処ですが、日本の将来を規定していく事となるこの種事項に、国民の声が映らないことに、当該政策決定のプロセスに違和感を禁じ得なかったのです。そこで改めて、岸田欧米行脚のハイライトなった日米首脳会談に絞り、新に語られた日本の安全保障政策の概要と変質する日米同盟関係の行方について以下、考察する事とします。

2.日本の新たな安保政策と日米同盟の変質

(1)日本の新安保政策、関係3文書の「トリセツ」
周知の通り、長期化するウクライナ侵攻で国際社会から孤立したロシアが、核兵器やサイバー攻撃を用いて欧米諸国への脅しをエスカレートさせる状況がなお続く処です。そうした状況に与すべく日本政府は、昨年12月16日、岸田内閣は国家安全保障戦略など防衛政策に係る3文書(国家安全保障戦略、防衛力整備計画、国家防衛戦略)を閣議決定し、以って「自立した防衛」へ、新たな一歩を踏み出すとする処です。それは、ともすれば米国頼みだった防衛論が、世界情勢の変化と、そうした変化を背にした世論が、変えたとされる処ですが、その変化を象徴するのが、相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有を閣議決定したことでした。

(注)日本の防衛政策:これまでの防衛政策は、米軍が駆け付けるまでの間「必要最小限」の戦力で持ちこたえる基盤的防衛力構想を基軸としてきましたが、この構想は観念的で具体性に乏しいとされてきたことは周知の処です。そして防衛費についても然りで、これまでGDP比1%をその上限としてきた論理も、いつしか装備の「買い物計画」だけに目が向く効果をもたらしてきたものの、何が脅威で、何に備えなければならないか、その基本を長く置き去りにしたまま日本の防衛論は進んできたのです。今次防衛3文章の一つ「国家安保戦略」(日経2022/12/17掲載)では、優先する戦略的なアプローチとして、まず「外交を中心とした取り組みの展開」を挙げ、これまでの国防は米国任せ、日本は経済重視の姿勢を廃し、防衛力の強化は抑止にあって何としても戦争を避け、国の安全を守るのが経済成長の前提と記す処です。

もとより、今次新たに策定された日本政府の安全保障政策は、強権政権の中ロ等が引き起こす無謀な安全保障上の脅威に対抗せんとするもので、まさに国民の生命を守る自立した防衛を目指すとして策定された従って、それは究極の危機管理となるものですが、上述13日の日米首脳会談でこの3文書が披露され、バイデン氏からは日米同盟の現代化が進んだとの評価があり日米が統合防衛に向かいだしたとメデイアは伝える処です。

・問われる今日的 ‘防衛’ と岸田政府の取り組み姿勢
ただ前述したように、これが日本国の将来を規定していく代物だけに、問題は、そこに国民の声が映っていないこと、ましてや、これまでの安保法制や装備予算等の差異についての説明等、一切の説明もないままに過ごされてきた点でした。早速に防衛費の増額がどうのこうのと議論は沸く処ですが、そう言ったレビューの点でも、国民はお呼びではないようです。

勿論、防衛予算の具体的な執行内容等は機密事項になる処かと思料するのですが、決定から数年を経た現行安保3文書の検証は見ることはありません。特に多次元統合防衛構想を唱えた防衛計画の大綱に即した中期防衛力整備計画が目標を達成できたのかも判然としていません。今次防衛3文書の最大の目玉は、「反撃能力」の保有の如何でしたが、それが閣議決定されたことで、防衛費の増額の云々が活発化する処ですが、要は、防衛とはどういった行動を意味するのか、この際は問われてしかるべきと思料するのです。偶々、今、手元に届いた1月21日付The Economistは、今次の安保政策の新方針について、日本がmilitarismに向かいだしたと思う国民は多いとしながら、`Japan is making tough choices in order to improve its defences‘ と、日本は国防強化のため厳しい政策選択を始めたとする処です。

これまで防衛と云った場合、その基本は軍事装備の拡充にありました。が、今日的環境にあっては何よりも戦闘が仕掛けられないように国家運営を固めることこそが防衛とされ、そのためには、積極外交を通じて多くの仲間、友好国をつくる事と、思考様式、行動様式が変化してきている処です。 因みに、1月 23日付、日経コラム「私見-卓見」に、元教員と称する坂本満氏なる仁が「戦争抑止に外交は無効か」と題し、要は、‘頼れるのは外交’ と訴える記事が掲載されていましたが、筆者と同様、極めて納得する処です。
     
さて、13日には岸田首相は米ジョンズ・ホプキンス大学(SAIS)で講演し、日米同盟を基軸に中ロなどへの抑止力を高めると訴え、今次改定の安保関連3文書を以って「米国、世界に対する日本の強い覚悟を明確に示した」と述べ、インド太平洋地域の利益に繋がると強調し、今次の防衛力強化を「日米同盟の歴史上、最も重要な決定の一つと位置付ける処でした。(日経1/14)

尚、繰り返しとなりますが、問題はこうした政策の変更について、政府による国民への説明がないままにあって、しかも防衛費の増額や反撃能力の保有などについての議論ばかりが先行するのでしたが、今日的な防衛の在り姿は、あり態に云えば敵陣営に ‘今、攻めれば勝てる’ そう云った想いを抱かせない状況をいかに堅持していくか、にあると思料するのです。

(2)防衛に係る発想の転換
筆者は予ねて外交力の強化を主張してきていますが、防衛とは今日的には、外交力の強化を通じて、そうした状況を担保し続けることであって、その為には友好国をつくりその輪を広げていく事こそが ‘防衛’と思料する処です。但し、これも30年代のブロック経済となるようなことは絶対に避けるべきで、現代では経済的つながりは保ちつつ、先端技術など経済安保に絞った経済圏をつくろうとしている視点を失わないこと肝要です。

が、上述の通り、そもそも相手に「今、攻めると勝てる」と云った、そうした思いを抱かせるような事態を起こさないようにすること、それこそが「防衛」と云え、従ってそうした状況を堅持していくためにも、多くの友人、友好国を整えていく事、つまり外交にありと思料するのですが、それは同時に情報力の強化につながる処です。

筆者が予ねて云う処の日本の外交力の強化とは、まさにその一点にありとする処です。そして、決して容易な事とは思いませんが、まずは‘防衛’に対する発想を変える事、そして、とにかく外交力が一層のパワーとなる事、銘記されるべきと思料するのです。そして、今次の日本の安保政策の一大転換について、不意打ちのような一方的宣言と行政の決定だけで突き進んでも,国民の理解や協力の無い政策はいずれ行き詰まる事、銘記されるべきなのです。

     (注)1月23日、召集された第211回通常国会での冒頭、岸田首相は施政方針演説で、
     始めて防衛政策について言及しましたが、その実の無さに、暫しあんぐり。今後の国
会での与野党の論戦をじっくり見守りたいと思う次第です。


[2] 中国経済はどう動くか

(1)中国経済の変質?を示唆する二つの指標
1月17日 中国国家統計局が発表した二つの経済指標は中国経済の変質を示唆する処です。一つは2022年末の総人口統計、もう一つは2022年10~12月期のGDPです。前者、中国の2022年の総人口が14億1175万人、2021年比で85万人の減少で、61年ぶりの減少ですが、2022年の出生数は106万人の減少で956万人と、2年連続で1949年以来の最小を記録したことでした。同時に発表された22年通年の実質成長率は3.0%で、政府目標の「5.5%前後」を大幅に下廻る処です。(日経、1/17夕刊)

上記、二つの指標は、中国が長く謳歌してきた経済成長を支える構造が揺らいでいることを示唆する処です。2022年の成長率(実質)は3%に留まっていましたが、これは新型コロナウイルス感染症を厳しく抑えこんだ「ゼロコロナ」を含む複合的な政策不況と見る処です。
ただ、17日、ダボス会議(1/16~20)で登壇した中国、劉鶴副首相は講演で、2023年の経済成長はかなりの確率で正常なレベルに戻ると自信を示した事で、IMFは中国の成長上振れなどを踏まえ、世界経済の成長率見通しを上方修正する考えを示したというのでしたが、要は先行き不安を高めていた厳しい行動規制がなくなったことで企業の投資や家計の消費等内需が回復するとの見立てですが、それでも中国の政策姿勢に不信感の伝わる処です。

つまり、13日に中国税関総署が発表した貿易統計では、四半期ごとに見ると輸出は22年7~9月まで2桁の増加が続いていたが、10~12月では前年同期比では7%の減少と2年半ぶりのマイナス。これはインフレ対策で急速に利上げを進めた米欧向け出荷が減ったためとされています。問題はこの外需の行方です。20年以降、経済成長の2~3割が外需による押上で説明できたのですが、この外需の追い風が急速に弱まっている点で,先行きの見方は分かれる処なのです。

(2)The Economistの見る中国経済回復の行方
さて、2023/1/7~13のThe Economistの巻頭論考「Exit wave」(ゼロコロナ解除の出口波)では、How China’s reopening will disrupt the world economyとその極端な政策変更に、アンチ中国の感すら伝わる処です。

― 1月8日、中国が国境を再開し「ゼロコロナ」政策が完全に撤廃された時、経済的、文化的、そして知的交流の再開は非常に大きな結果を齎すとする処、経済活動は急回復を遂げ、そのインパクトは、タイの海岸でもアップルやテスラと云った企業でも、そして世界各地の中央銀行でも感知され、中国の活動再開は2023年最大の経済イベントになるだろうとする処、GDPでは2023年第1四半期は落ち込むが、2024年第1四半期には前年比で10%に達すると見る向きもあると云うのです。中国のような巨大経済がそうした急回復を遂げることは、中国だけでその時期の世界の経済成長の大半を齎すことを意味することになるからと云うものです。

ただ、ゼロコロナ政策をあれほど情け容赦なく実行してきた中国政府が相応の準備もなく止めてしまった様子を目の当たりにして、多くの投資企業は、中国にかけるのは危険だと考えるようになっていると云うのです。複数の情報筋によると、新たに工場を建設する外国からの新規投資が減速する一方、中国から他国に事業移転する企業の数は急増していると。

因みに、中国の前回の大開放は毛沢東時代の無意味な隔離の後に実施され、ヒト、モノ、投資、アイデイアの国際交流を盛んにし、爆発的な繁栄に至った。北京とワシントンの政治家はほとんど認めていないが、中国とそれ以外の世界の双方が、そのような交流から利益を享受した。運が良ければ、今回の国境開放も究極的には成功するだろう。だが、中国共産党がパンデミックの間に煽った、偏執的で外国を嫌うムードの一部は間違いなく残っているとし、新しい中国がどの程度開かれたものになるかは、まだしばらく分からないとする処です。

さて、1月21日、中国では春節に伴う大型連休が始まりました。4年ぶりに行動制限がなくなり、国内旅行の人気がたまったと報じられる処ですが、しかし、これで個人消費が急回復するかはまだ予断を許さないとの様相です。18日習近平主席は、この人の移動について、「私が一番心配なのは農村と農民の皆さんだ。農村の医療は脆弱で、防疫の難易度は高い」と率直に語る処でした。(日経1/22)
 

 おわりに この冬、旅先で思う

筆者はこの年末、年始、京都で過ごしたのですが、元日、部屋に届いたlocal紙、京都新聞の社説の一節は、旅先で読んだこともあってか、今も頭に残るものでした。当該社説の内容は4月の統一地方選挙を控え、国からのお仕着せでない政策を提示すべき時ではないか、地に足をつけて考えようと云うものでしたが、そこで引用されていた一節でした。

つまり、「人類の祖先が獲得した直立二足歩行は、移動速度の低下や骨への負荷など短所が多く、引き継いだのはホモサピエンスだけだった。それ故、声を出しやすくなり言葉が発達し、手が空いたことで道具利用だけでなく、仲間の手を取って助け合う『協力』を強めた」と、米人類学者ジェレミー・デシルヴァ氏の近著での記述を紹介しながら、「言葉と協力こそが地球で人類を繁栄させた武器なら、私たちは民主主義や対話外交をあきらめず、支え合いを広げることを止めてはなるまい。明日へ希望の1秒を刻むために」と締めるものでした。

東京に戻って手にした1月9日付Financial Timesは、米シンクタンク、Atlantic Council の最新の調査をベースに、世界はこの先10年間は激動の時代になりそうだと伝える処です。この調査は167人のexpertsからの回答を得て行われたものの由で、専門家の多くはと2033年までにロシアが破綻または崩壊すると予想。また大多数は中国が武力で台湾統一に動くと見ており、その武力行使のtimingについては、米軍高官は中国人民解放軍創設100年にあたる27年と見る処です。― Russia at risk of becoming failed state, say foreign policy experts . Atlantic Council report also forecasts China will invade Taiwan in decade of tumult. 

とすれば、この先10年は世界にとって激動の時代という事と見ざるをえず、その点では上記、社説の趣旨を改めて、反芻する処です。(2023/1/25)
posted by 林川眞善 at 17:40| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2022年12月26日

2023年1月号  2023年, キーワードは「協調」と「挑戦」 - 林川眞善

― 目  次 ―

はじめに:2023年、その年頭に思うこと 
― 国際`協調’ の強化と‘最先端への`挑戦’

1. 新興国が促す世界経済 ‘協調’ 行動   

2.AI時代の産業力の確保 ― 最先端への`挑戦’

おわりに:米中、深まる半導体対立

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はじめに:2023年、その年頭に思うこと
― 国際協調の強化と‘最先端’への挑戦

国際社会は日進月歩と激しい変化にあって、戦後社会の安定を築いてきた米国主導の国際秩序は影を潜め、一方、ロシアのウクライナ侵攻を受ける形で今、世界は、米国を中核とした日本を含む西側陣営、中ロを中核とした強権統治国陣営、そしてその中間に位置付けられる中間パワー、の3つのグループに仕分けされる状況の進む処です。そうした環境にあって問題は、世界の秩序を安定的なものとしていくにはいか様な行動が求められるかですが、色々識者の語る処、この際は筆者の思いとも併せ、以下2点に絞り考察する事とします。
一つは国際経済の安定、発展に必要なこととは「協調」行動の強化、もう一つは、AI時代の産業力の強化、です。半導体産業の強化を通じ ‘最先端’ の世界に挑戦していく,そのための体制づくりです。そこで、今次論考ではこの2点に絞り論じていきたいと思います。その前に、二人の識者の現状認識を紹介しておきたいと思います

(1)二人の識者の見立て
まずノーベル経済受賞(2001)経済学者、Michael Spence氏、former dean of the Graduate School of Business at Stanford Univです。彼は、Project Syndicate (Nov.25, 2022)への寄稿論考「Done with deglobalization?」で、2022年11月こそは、extraordinary month, 極めて特異なひと月として回顧されることになるだろうと指摘するのでした。

周知の通り去る10月、バイデン米政権が半導体を巡って対中輸出規制の強化を発動しました。この結果、米中の対立は一層の緊張を託つ処、その11月、東アジアでは3連荘と首脳会議が開かれ、ASEAN首脳会議がカンボジアで、G20 summitがインドネシアで、APEC forum がタイで開催されましたが、これら各国首脳との一連の会議が映し出したことは、これまでになく新しい事態への対処には関係各国が話し合っていこうとの姿勢が醸成されるようになってきたと評されるものでした。
つまり、これら会議は、従来見られたような、利害を巡る対決(confrontation)ではなく、その底流には、新たに直面する問題に、共に取り組む姿勢が生れてきたことを感じさせるものがあったと、その変化に一定の評価を示すと共に、globalization saga のターニング・ポイントとして銘記されることになるだろうと記す処でした。そして、然るべき大国(米国と中国?)が当該機関の権威をrespectする事、そしてdeglobalization(反グローバル化への動き)が齎すリスクに果敢に取り組んでいくべきと付言する処です。

その後、筆者が手にした米ユーラシア・グループの創業者で、国際経済学者として著名なIan Bremmer氏の近著「危機の地政学」(日経出版)では、彼は「政治や経済、文化、又は国の価値観について意見を合わせる必要はない。しかし大国間の対立、今後起きる公衆衛生の危機、気候変動、新技術が世界的な脅威になり、人類の存亡は協調にかかっているのだと合意する必要がある」(P.307)とする主張でした。

上述二人の指摘は、グローバル経済は今、ターニング・ポイントにありとする処でしょうが、そのポイントはグローバル化に向かう姿勢の変化、つまり国際 `協調‘を基軸として進む、まさに協調という事態のアウヘーベン(止揚)と理解する処ですが、そうした変化を具体的に映し出したのが11月、ジャワ島でのG20 サミットでした。

(2)G20サミットが映す協調の行動様式
G20サミットは11月16日、首脳宣言を採択して終わりましたが、開催中の議長国インドネシアのジョコ大統領が取った行動様式は、まさに、新たなグローバリゼーションへのアプローチの可能性を強く示唆するものでした。具体的には各国国首脳と個別対話を行い、G20宣言を取り纏められたこと等、ですが、勿論、2008年の初のサミットはリーマン・ショック後の金融危機への処方箋を行動計画まで含めて示したのと比べると今回の首脳宣言は力不足とされる処、各国は必要に応じ協調行動を取る準備に同意する処となったのです。

加えて、場外での話ですが、2023年の議長国インドのモデイ首相が9月、ロシアのプーチン大統領との会談で放った一言「今は戦争の時ではない」とクギを刺した事は、まさに米中対立で翻弄される世界にあって、新興国主導の新たな‘協調’を思わせる処です。

11月19日 付 The Economist誌のカバー・ストーリーは `Asia’s Overlooked Giant、―Why Indonesia matters’ と、インドネシアの重要性について特集する処です。 そこで、この際は上記Michael Spence氏の指摘を枠組みとしつつ、まずはG20サミットで見た行動様式の現実を「新興国が促すG20の協調」としてレビューする事としたいと思います。
尚、‘協調’と云っても相手のあっての事ですから、協調するための問題点を相互に理解、認識し、当該問題へ如何様にアプローチしていくか、相応のシナリオ以って臨むことが必要となる処、そこには「世界観」が求められていく事、云うまでもないことでしょう。

更に、去る10月、バイデン政権が発動した対中「半導体輸出規制の強化」が、結果として、世界の産業構造を深く揺るがす状況を生む処となってきていますが、その背景にあるのが半導体を巡る競争環境の変化です。これまで言われてきたような半導体は産業のコメではなく、いまでは産業活動に組み込まれたインフラです。そしてその最先端の半導体造りが国内で始まろうとしています。最先端への挑戦です。そこで日本が目指す‘半導体製造とグローバル経済’をテーマに論じたいと思っています。それは最先端への挑戦プロセスとも映る処です。

という事でこの際は、上記二人の識者の言質を戴きながら、11月のG20サミットにみた新興国が促す‘協調’の実状をレビューし、今後へのあるべき国際社会の姿を描き、同時に、AI時代の産業力の強化という視点からは、半導体産業の強化を通じ ‘最先端’への世界に挑戦していく体制づくりを深く考察し、年初への論考としたいと思います。


           1.新興国が促す世界経済、協調行動

(1)G20とG20首脳宣言取り纏めのプロセス
まず注目のG20サミットは、11月16日首脳宣言を採択し、閉幕しましたが、15日から始まった討議はエネルギー・食料危機への対処を中心に進み、その原因をつくったロシアに批判が向かう展開になったと報じられていました。 ただ宣言では、ロシアのウクライナ侵攻に関して、「ほとんどのメンバーは戦争を強く非難した」と明記し、「核兵器の使用や威嚇はみとめられないと」ロシアをけん制しています。一方で、「状況と制裁について他の見解や異なる評価があった」とのロシアの主張も盛り込んでいます。つまり、予想に反し、G20は首脳会議で各国の違いを乗り越え、ロシアを非難する宣言を採択したことで大きな転換を果たしたとされる処です。

・何よりも「汗をかいた」ジョコ氏
そうした背景には、今次G20の議長国としてのジョコ大統領の行動様式にあったとされる処です。G20のメンバーであるロシアがウクライナに戦争を仕掛け、他の参加国が激しい対ロ批判を繰り広げるなか、首脳宣言を採択できたこと、G20として「パンデミック基金」を創設し、14億ドル(約2000億円)を調達するなどの感染症対策や、途上国支援で具体的な成果があったともappealする処です。G20サミット前の一連の閣僚会議では共同声明を発表できず、首脳宣言も採択が危ぶまれていましたが、ジョコ氏が宣言の採択にあたり、必要な事として挙げたのは首脳間の直接対話でした。具体的には、G20サミットは新型コロナウイルス禍を経て3年ぶり、完全な対面形式で開かれましたが、ジョコ氏は「首脳間の信頼関係は財産。緊張を軽減するため直接対話が重要だ」と訴え、宣言の取り纏めには自ら他の首脳に接触し、話し合った結果とされています。

尚、ジョコ氏によると、サミットは15日にウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで参加した後、各国首脳が意見をぶつけ合い、白熱した由で、「その中でバイデン米大統領と習近平国家主席は冷静だった」と明かし、近くの席にいた両首脳の落ち着いた振る舞いが、議論を収束に向かわせたと云うのでした。
そしてジョコ氏はG20に長期的な課題として横たわる米中の対立について「競争事態は正常な事だ」と発言し、一方で「それが目立った紛争にならないよう管理し、世界と地域の平和と安定を維持することが大国の責任だ」と米中に注文を付けるのでした。(日経電子版、2022/11/17)こうした図柄はまさに新興国が促すG20協調の姿と映る処、11月19日 付 The Economist誌はそのCover storyにインドネシアを取り挙げ Asia’s Overlooked Giant―Why Indonesia mattersと、インドネシアの重要性について特集する処です。

尚、2023年1月からインドネシアはASEANの議長国に就きますが、彼らは経済を軸とした域内の協力深化を23年の議題とする由で、食料やエネルギーの安全保障、サプライチェーンの再構築などで合意を目指すと期待される処です。因みに23年のASEANの標語を「成長の中心、ASEANは重要だ」に決めた由(日経、12/19)

尚、今次G20サミットで、主要7か国の首脳の存在感の乏しかったことが気になる処でしたが、これは欧州で首脳の交代が相次いだほか、日米は支持率低迷や厳しい経済環境に直面していることが背景にあっての事でしょう。そしてGDPで見るG20内のG7のシェアは08年の5割から足元では4割強に落ち込んでおり、今後も下がる可能性が高いと見られる処です。

(2)G20の位置づけ
G20は世界のGDPの8割を占め、「国際経済協力に関する第1の協議の場」と位置づけられていますが、ウクライナ侵攻後、複数回あった閣僚会合では欧米とロシアの対立で成果となる文書を出せず、機能不全が指摘されていましたが、今次ジョコ氏の努力で、ようやく首脳宣言が採択されたことは、まさに世界経済への対応で、対話を通じて、「協調」姿勢を打ち出せた事は大いに評価され、これからの国際運営の在り方に、強い示唆を与える処です。


2.AI時代の産業力の確保 ― 最先端への挑戦
        
(1)バイデン政権の対中輸出の規制強化
バイデン政権が2022年10月7日発動した対中輸出規制の強化は、半導体及び関連製品の輸出、そして当該技術者の移動、技術の持ち出しの規制強化を目指すもので、要は半導体等ハイテク分野で中国による技術のキャッチアップを遅らせるものとされるものです。

つまり、米政府が特定する中国企業向けの半導体受託製造サービス、中国内で稼働済みの先端製造装置のアフターサービスを原則禁止とし、以って中国の半導体産業育成を難しくするのが狙いとする処です。(弊論考11月号)これに並行してバイデン政権は日米韓台の4カ国・地域が半導体の技術・供給網の管理で協調する、一種の技術同盟の構築を呼びかける処ですが、こうした一連の動きを捉え、Financial Timesの記者、E. Luce氏が云うように、その政策姿勢は「中国封じ込め」に向け進む処 (Containing China is Biden’s explicit goal. 2022/10/20) 自由貿易を主導してきた米国としては、真逆の方向を見せつける処です。

・バイデン政権の‘新安保戦略’
尚、10/12、バイデン政権は上記輸出規制強化宣言にfollow upする形で、政権初となる「国家安全保障戦略」を発表しています。そこでは中国を「唯一の競争相手」と定義し、「中国に打ち勝ち、ロシアを抑制する」と強調。今後 米主導の国際秩序に挑む中国との競争を「決定づける10年」とこれからの10年の重要性を強調する処です。ロシアを「差し迫った脅威」としつつも、中国の対処を最優先に据える方針、つまり中国とロシアの位置づけを明確に区分する処、2021年3月に示した戦略の暫定版でうたっていた中ロとの対話に意欲的だった表現は消えています。その限りにおいて、バイデン政権の対中政策は、トランプ前政権の行動様式を踏襲するものと云えそうです。

今次、バイデン氏の対中輸出規制強化という一連の措置は、中国への技術移転に関する米国の政策において、1990年代以降で最大の転換となる可能性があるとされるもので、実際適用措置となると、米国の技術を利用する米国内外の企業による中国の主要工場及び半導体設計業者への支援が強制的にうち切りとなり、中国の半導体製造業が立ち行かなくなる可能性があると云うものです。 以って前出Financial Timesのルース氏は米国が仕掛ける対中経済戦争の始まりと云うのですが、そのルース氏の言を借りるとすれば、このBiden’s gambleには大きなリスクがあると云うのです。

一つは、当該規制は、new restrictions are not confined to the export of high-end US semiconductor chips、つまり米国製に限定されるものではなく,台湾、韓国、或いはオランダをベースとするnon Chinese high-end exporter に及ぶ処、中国はこの規制で、受ける打撃は「半導体」という言葉が意味する以上に計りしれないほど大きいと云うのです。今回の規制強化に踏み切った背景として、いかなる先端半導体も核兵器や極超音速ミサイルの開発を含む軍事用途に利用される可能性への懸念があってのことですが、中国側からすれば米国が中国共産党を永遠に抑え込もうとしているとも映る処、そのことは米国が中国の体制転換を狙っている事とほぼ同じことを意味するものと云うのです。 そして、もう一つ、バイデン氏が規制強化という強気の姿勢に出たことで、習近平氏が台湾統一計画を加速させるかもしれないというリスクです。そこで、安全保障問題が事の中心に入っていく事を挙げるのです。そして、中国も米国と同じレンズを通して互いのライバルを見定めながら変化していく事になるとも云うのです。

さて、禁輸対象の半導体は1980年代「産業のコメ」と呼ばれていました。それから連想される事はと云えば大量生産で安価な部品だったのですが、今日社会のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が進めば、さまざまな異なる仕事をする少量生産の専用チップが必要になることで、半導体の開発の仕方、作り方はがらりと変わる事になる点で、もはや半導体は「コメ」ではないのです。
かかる環境にあって日本では注目の次世代半導体の国産化プロジェクトがスタートする処です。これは 去る22年7月、ワシントンで初の日米経済版「2プラス2」が開かれた際、「次世代半導体」の量産について共同研究をスタートさせ、2025年に国内での量産体制を進めることで合意されたものでした。そこで、この際は半導体生産の行方について集中し、話を進めることとしたいと思います。

(2)次世代半導体の国産化Project
まず、コロナ危機でDigital transformation (DX)の加速化と、ウクライナ戦争でグリーン・トランスフォーメーション(GX)の必要性が急速に高まる処、これがいずれも半導体への需要を急増させる処です。今後、AI、量子コンピューテイング、バイオ、IoT,ポスト5Gが社会実装されるにつれ、半導体への需要は劇的に高まると見られています。というのも半導体は計算能力の素であり、国力と防衛力の素でもあるからです。それ故に、半導体は、米国と中国の熾烈な覇権争いの焦点となりつつある処、今次米国の対中輸出規制は中国のみならず世界規模での重要問題となる処です。

さて、11月11日、トヨタ、NTT、ソニーグループ等日本企業8社が共同出資し(三菱銀行の3億円出資以外は、各社10億円出資)半導体企業、「ラピタス」設立を発表しました。これは2020年代後半に向けて先進半導体製造技術の確立を目指すと云うもので、西村経産相は記者会見で、「半導体は経済安全保障上、極めて重要だ。日本のアカデミアと産業界が一体となって半導体関連産業の基盤強化につなげていきたい」と発言する処です。そして、政府はこれに700億円という巨額の支援をし、「ビヨンド2ナノ」と呼ぶ 次世代の演算用半導体の製造基盤を2020年代後半の確立を目指すとするのでした。(日経2022/11/11) 

   (注)「ナノ」は10億分の1メートル。「ビヨンド2ナノ」とは回路線中2ナノメートル
のロジック半導体の集積化技術。

これまでの国内における半導体生産の環境に照らす時、今次の「ラピタス」設立は日本経済にとって大きな転換点となる処です。目論見通りいけば、台湾や韓国そして米国に水をあけられた日本が、半導体の先頭集団の仲間入りする、そんな野心的な構想です。が、問題は何としても量産体制に向けたヒト、モノ、カネの確保です。経済安保の観点から欧米や中国は官民一体で半導体の強化を進めており、この際は、半導体「空白の10年」挽回への確かな行動をと、期待の集まる処、まさに日本の産官学の真価が問われる処とも云えそうです。

   (注)世界中の企業が不足するデジタル人材確保の切り札として活用しだしているのが「越境テレワーカー」(EOR:Employer of Record)。因みに経産省は30年に日本で最大
79万人 のIT人材が不足すると予測する処です。

ここで海外主要企業の動向を抑えておきましょう。12/6日、半導体大手の台湾積体電路製造「TSMC」は米アリゾナ州(フェニックス)に最先端半導体の工場を新設すると発表しています。それによると「3ナノメートル品」と呼ぶ製品を生産し、米国での総投資額を従来計画比3倍超の400億ドル(約5超5000億円)に拡大する由です。TSMCは先端半導体の生産で世界シェア9割をしめ、これまで全量を台湾で生産してきていますが、今次の判断は台湾有事に備えた行動とされる処です。そして6日にはバイデン氏はフェニックの工場予定地を訪問。2024年に生産が始まる同工場を軸に、米国内で完結できるサプライ・ チェーンの構築を目指す処、中国の影響を排除し、有事に備えるとする処、更に12/23、 TSMCが欧州初となる工場をドイツに建設方向で最終調整に入ったことも報じられる処です。尚、12/8、インド・タタグループも自国内生産開始を発表する処です、

さて、半導体は経済安保上、最重要の製品ですが、国内では技術不足で先端品は作れない状況とされていました。要は微細な回路の形成等、日本にない技術を米欧との連携で補い、国内で量産できるようにするとしていましたが、去る12/13, 国産を目指すラピダスはIBMとの提携を発表、スーパーコンピュータなどに使う最先端製品の技術提供を受ける事としています。その記者会見では、社長の小池氏は「IBMの基礎技術を一日でも早く自分のものにし、量産技術を確立すると」と語る処です。(日経12/14)

それでも尚、指摘される問題は、デジタル技術者の不足です。この不足に如何に対応していくかが大きな課題です。12/19付け日経では若手研究者の声、産業に貢献できるAI半導体を彼らの手で作り上げたいと、最先端に挑む様子を伝えていましたが,そのためにも最先端に挑戦できる場がなければアカデミアも産業も人材が薄くなっていくとも指摘する処です。その点で何よりもデジタル教育の充実が不可欠と云え、多くの大学に国内外の専門家を集め、デジタル学部の増設や奨学金制度などで技術者の育成を図るべきとの声の上がる処です。 半導体生産の行方は、まさにこれからの日本経済の行方を規定する処です。
          
[Note] 半導体とは、そして日本の問題とは?
「次世代半導体の国産化プロジェクト」に関連し、一部読者から「半導体とはどういったもの?」との照会がありました。下記はとりあえず、これに応えるものです。

・半導体:そもそも物質には電気を通す「導体」と、通さない「絶縁体」がありますが、半導体はその中間の性質を備えた物質を指しますが、ここでいう半導体とは「一定の電気的性質を備えた物質」というもので、トランジスター、ダイオード等の素子単位(デイスクリート半導体部品)やトランジスター等で構成される「回路」を集積したIC(集積回路)を総称して云うものです。この半導体製造は、ウエハー(Wafer)という半導体集積回路の重要な材料で円形の板ですが、この上に回路形成を行うのですが、この回路形成までを「前工程」と云い、最終製品としてチップにするための機械加工する「後工程」とに区分されるのです。
つまり、半導体製造工程は以下の3工程
 ➀ 設計:回路、レイアウトを設計し、フォトマスクの作成(回路パターン転写の
為のフォトマス)
 ② 前工程:ウエハに電子回路を形成するまでの工程
 ③ 後工程:ウエハをチップ状に切り出し、パッケージングして検査を行う工程

・日本での問題:日本の場合、電子立国と呼ばれた時代、前工程と後工程の両サイドにはリーダー企業がありましたが、バブル崩壊、金融危機、更には円ドル為替問題が加わり、グローバル化を背景に「後工程」の多くは韓国を中心に海外に転出、日本企業は「前工程」を中心に稼げるモデルを作ってきましたが、現在では「前工程」に関しても海外が伸びてきたこともあり、それへの対応強化が問われていたのです。

おわりに:米中、深まる半導体対立

弊月例論考12月号でも報告したように、米国は対中輸出規制強化発動後、日本、オランダをはじめ同盟国に規制のへの追随を要請し、中国包囲網の構築を急ぐ処ですが、こうした一連の動きにも対抗するべく中国は12月12日、米国の先端半導体などを巡る対中輸出規制が不当としてWTOに提訴しました。かくして、米中貿易摩擦はWTOの枠組みにおいて長期化が見通される事態となってきました。

周知の通り、戦後世界経済はブレトンウッズ体制にあって、米国主導の自由貿易体制の構築を通じて成長、発展してきましたが、2009年、日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位となった中国の台頭は、以降の世界経済の生業に構造的変化をもたらす処、これが米国政府の自由貿易体制に対する思考様式に変化をもたらし、とりわけ12年、中国の習近平主席の登場は、改革開放政策を修正し、経済に対する国家管理・統制を強めてきた事で、米トランプ前政権はこれに対抗する形で関税の大幅な引き上げを行い、対中姿勢の強化を進める中、後継のバイデン政権も対中政策については同じ政策路線の踏襲を処、更に今次の対中輸出規制強化が加わったことで、まさに半導体対立が米中対立をさらに深化させる処です。

かくしてglobal contextの変化は、その結果として、これまで戦後社会の安定を支えてきた米主導の秩序も終わりをみる処、冒頭、「はじめに」でも触れたように、国際社会はロシアのウクライナ侵攻に大きく影響される形で、西側諸国陣営、強権統治国家の中ロの陣営、そしてそのいずれにも与しない中立パワー、の3つの勢力に区分され、進む処ですが、問題は、この3つの陣営を以って、如何に世界の秩序を安定させられるかと云う事です。その点、前出ジョコ氏の行動様式に倣う事多々と云え、西側陣営と中立パワーがグローバルな問題で協力できるかに係る処ではと思料するのです。
中国習近平主席、ロシアのプーチン大統領からは「国民」という言葉を聞くことはありません。国の安定・繁栄とは国民、民生の安寧があって始めて成り立つものと思料するのです。

さて2023年、新年が幸多からんことを祈念する処、締めに代えて皆さんに送ります。

         Merry X‘mas and A Happy New Year !
(2022/12/24)
posted by 林川眞善 at 10:59| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする