2019年09月27日

2019年10月号  世界はGlobal Supply Shocks、企業はNew Mantra - 林川眞善

はじめに Japanification

・日本型景気後退に向かう? グローバル経済
8月28日付け英紙 Financial Times は`Investors fear Japan’s stagflation malaise is spreading globally’ と題して、世界経済は今、日本が過去30年にわたり経験してきた今に及ぶ経済の停滞、異次元と云われた金融刺激策にもかかわらず、デフレと弱々しい経済成長を余儀なくされてきた日本型stagflationに向かい出したようだ、Japanification in action と、紙面一杯を飾る特集を組んでいました。それより先、8月17日付けThe Economist誌の巻頭論考では ‘Market in an Age of Anxiety’ と題し、債権市場の長・短逆転の動向に注目した投資家たちが、世界経済の行方、景気悪化に身構える様子を伝えていたのです。

つまり、米国債市場では10年物利回りの方が3か月物利回りよりも低い「逆イールド」が発生していることです。逆イールドは景気後退の前兆とされる特異な現象です。不安感が表面化しているのは国債市場だけではありません。為替市場では、資金の安全な逃避先とされる米ドルが多くの通貨に対して値上がりし、金地金も2013年4月以来、6年ぶりの高値をつけています。価格が逆方向に動くことが多いドルと金、これがいま同時に上がるのは異例のこととされる処、これが意味することは、ドル高を跳ね返すほど安全資産として金への投資需要が強いと云う事でしょうが、要は市場の不安心理の強さを裏付けると云うものです。加えて米国とイランの近時の対立は、国際情勢への大きな不安要因となってきています。つまり、景気はいつ悪化してもおかしくない様相です。金利がすでにかなり低いことから(注)、次の景気悪化に対抗する手段は限られている処、投資家たちの間では世界が「日本化」しているのではと、その恐怖感すら伝わる処です。

      (注) 米FRBは9月18日、7月に続き0.25%の利下げを決定、これを受け18~19日に追
随利下げを決定する中銀が相次いでいる。尚、日銀は19日、現状緩和の維持決定(後出)。

そうした環境下、米NY大学のRoubini 教授は、米論壇 Project Syndicateで、6月14日付論考 `The Growing Risk of a 2020 Recession and Crisis ‘で、そうした不況到来のリスクを指摘、更に8月22日付で ‘The Anatomy of the Coming Recession’と題し、当該不況が米中の貿易摩擦、技術を巡る覇権争いがコスト上昇を招き景気後退を引き起こす可能性をoil shock ならぬsupply shockとして解析する処です。そこで、この際は当該Anatomy of the Coming Recessionを, 第1章で取り上げ、その概要をレビューすることとします。

そうした環境の中8月19日、米主要企業の経営者団体、Business Roundtable(BRT) は、今後の企業経営は従来の「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重
した事業運営に取り組むと宣言したのです。筆者が手にする声明文(コピー) `Statement on the Purpose of a Corporation‘ は181名の経営トップが自筆署名で名を連ねたもので、それ自体興味を呼ぶ処、企業の行動指針ともいうべき言うなればNew Mantraです。

企業とは、イノベーションを起こし、新たな生活空間を創造していく責務があり、その際の原動力は、animal spiritsだとケンインズが繰り返すところでしたが、このマントラが如何に反映されていくものか、米経済の根幹をなす「資本主義のかたち」を大きく見直すことになるものだけに関心呼ぶ処です。勿論、これが大企業への批判をかわすためのジェスチャーではと、賛否のある処ですが、この際は、近時の日産のトップ人事も有之で、後学議論に備えるべく、その概要を第2章として取りあげ、レビューすることとします。

そして最後に一言。9月11日安倍首相は内閣改造を果たし、「安定と挑戦」を旗印に、トランプ米大統領と歩みを共にする様相です。実際、先のG7を機にフランスで行われた貿易交渉で見せた‘安倍氏のトランプ迎合’には聊かの安倍不信感を募らせる処、マクロン仏大統領の気遣いとも併せ、コメントしたいと思います。
                 
目 次
                 
第1章 迫りくるglobal recession, その構図

1.Anatomy of the Coming Recession

(1)景気後退を誘引する Supply Shocks
  ・deglobalization
(2)2008年の世界金融危機 vs 想定される現下の供給ショック

2.日本経済のリアルと政策の現場

(1) 日本経済のリアル
  ・生産活動 / ・設備投資
(2)政策の現場

第2章 「脱・株主第一主義」を宣言する米企業、
では日本企業は?

1.A new corporate purpose
(1)米Business Roundtable (BRT) の New Mantra
  ・今、米企業も業績試練に
(2)J. Stiglitz教授の疑問
・M. フリードマン vs J. ステイグリッツ
・企業の本当の責任
2.問われる日産の統治能力、再び
  ・社外取締役の使命

おわりに トランプ氏への二つの配慮
  ・マクロン仏大統領の配慮
  ・安倍首相の配慮


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           第1章 迫りくるGlobal Recession、その構図       

1.The Anatomy of the Coming Recession

米NYU’s Stern School of Business 教授のN. Roubini 氏は、前述したように8月22日付け論考 ‘ The Anatomy of the Coming Recession’ で、2020 年までに世界的な景気後退を引き起こす可能性のある「Negative supply shock :負の供給ショック」が3つあると指摘すると共にそのいずれもは、国際関係に影響する政治的要素を反映したもので、しかもこの3つの供給ショックが誘引する景気後退は、従来型の景気変動抑制的なマクロ経済政策ではどうにもならないものばかりだとするのです。

(1)景気後退を誘引するSupply Shocks 
まず考えられるショックとは、米中間の貿易・通貨戦争から生じるもので、その対立構造は8月初めの、トランプ米大統領が対中輸入品に新たな関税を課すと脅し、中国を公式に為替操作国と呼んだことで更に悪化の様相です。第2はテクノロジーを巡り、徐々に進行しつつある米中間の冷戦。そして3つ目のリスクは石油の供給に関わるものだとするのです。普通、貿易や通貨、テクノロジーを巡る戦争に因る景気後退により、エネルギーの需要と価格は低下するものだが、米国とイランの対立次第では、逆の現象が起きると見る処、現実原油価格は急騰を見せる処です。(注:9月14日、サウジの石油施設への無人機による攻撃を受け、生産の半減を公表。原油供給リスクが広がりだしている。)

これらリスク要因が、グローバルに広がり、複合的に絡み合っていく事で、輸入品や中間財、エネルギーの価格を引き上げ、経済活動のコスト上昇を招き、景気後退を引き起こすことになる、まさにオイル・ショック(1973年)ならぬサプライ・ショックに因る景気後退、stagflationの可能性を指摘する処です。

・Deglobalization
スタッグフレーションとは消費者向け輸入品の価格や中間財、ハイテク部品、エネルギーの価格が上昇する一方で、世界のサプライチェーンが混乱し、生産活動が落ち込む現象ですが、厄介なことは、そこに広い意味でのdeglobalization (脱グローバル化)に向けた動きが始まりだしているとも指摘するのです。つまり、米中対立によって世界の国々と企業は、これまでのように統合されたバリューチェーンの長期的な安定はもはや期待できないとして、脱グローバル化の動きが進む結果、それが貿易活動の分断を進め、世界の生産コストはあらゆる産業で上昇するとの見立です。しかもこの貿易戦争と通貨戦争そして、テクノロジー戦争は、影響し合うことで負の連鎖が起こりやすい構造となってきていると云うのです。

そこで問題となるのが対応政策です。70年代を襲った複数のショックがスタッグフレーションを起こした際は、インフレ抑制のため金融引き締め策がとられていました。たが、今日、米連銀(FRB)など主要中銀は、インフレとインフレ期待が共に低水準であるため既に緩和政策に走っている事、オイル・ショックからくるインフレ圧力についても、中銀はインフレを持続的上昇要因というより、単に価格上昇としか見做さないのではと、する処です。

時間の経過と共に負の供給ショックは、消費と設備投資を減少させ、経済成長とインフレの両方を鈍らせる一時的な負の「需要」ショックと化すかもしれず、実際、現在の条件のもとで米国および世界の企業の設備投資は大幅に押し下げられている処です。その理由は以上の3つのショックの可能性や事の重大性等、不確実であるためだとしながらも、こうした現象が世界的な不況となって広がっていないのには、ひとえに個人消費が強さを維持しているためで、仮に3つの負の供給ショックのいずれかが原因で輸入品の価格が更に上昇すれば、消費活動は打撃を受け、世界経済は後退局面に突入すると見るのです。

そうした負の総需要ショックが短期的に発生する可能性を考えると、中銀が政策金利を緩和することも、財政についても短期的対応策を取るのも、適切な対応としながらも、中期的には、負の供給ショックに対応するのではなく、追加の緩和をせずにショックに順応することが最善だとするのです。と云うのも貿易やテクノロジー戦争から生じるこうした供給ショックは、潜在的成長の鈍化と同様、永久に続くものだからと云うのです。

要はこうした中期的な潜在成長の低下につながるショックは、金融・財政政策で覆せるものではない、つまり短期的に何とかなっても、そのままの対策を続ければ、財政規律は乱れ、最終的には中銀の目標を遥かに上回るインフレとインフレ期待を招くことになると警鐘を鳴らすのです。

(2)2008年の世界金融危機 vs 今回想定される供給ショク
尚、ここで留意すべきは、2008年のglobal financial crisis と現在のglobal economyを襲うかもしれない負の供給ショックとの間には重要な違いがある事です。前者は、主に経済成長とインフレを抑圧した大規模な負の総「需要」ショックであったため、金融刺激策及び財政刺激策による適切な対応がとられたとするのですが、今回、世界が直面することになるのは長期間続く負の「供給」ショックであり、これに対しては全く別の政策をもって中期に亘る対策を講じる必要があると云うのです。つまり、受けた損害を取り戻そうとして金融・財政刺激策を長引かせるのは賢明な選択ではないと警鐘を鳴らす処です。

さて、冒頭Japanificationと称された当該日本経済を預かる責任者はその実態を何と認識しているものか。9月11日、内閣改造を果たした直後の記者会見で安倍首相が発した言葉は「安定」と「挑戦」でした。

2.日本経済のリアルと政策の現場

(1) 日本経済のリアル
米中貿易摩擦による世界経済の減速が国内製造業の重荷となってきたことを示唆する指標が続いていますがその姿はまさに上述ルービニ氏の指摘を検証する処です。

・生産活動
まず8月30日、経産省発表の7月の工業生産指数では、2か月振りに上向いていましたが、電子部品・デバイスなど輸出業種を中心に回復は鈍く在庫も高止まり、高水準で積みあがる局面が続く様相です。とりわけ世界経済の減速で各国の金融緩和の流れが強まれば、円高圧力が高まり輸出に逆風となる悪循環も懸念されるなか、堅調とされてきた雇用情勢も軟化の兆しがみられる処です。同日発表の厚労省有効求人倍率は1.59倍で前月比0.02ポイントの低下、リーマン・ショック後の09年以来の3か月連続の低下です。米中の貿易戦争の長期化となると外需の変調が内需の変調に及ぶリスクも高まろうかというものです。

・設備投資
更に注目されるのが、9月2日、財務省が発表した4~6月期の法人企業統計(設備投資)です。それによると全産業の設備投資は非製造業の設備投資(金額では全産業のうち7割を占める)の7.0%の増加があったことで前年同期比1.9 %増、10兆8687億円と、11四半期連続の増加となっています。が、製造業の設備投資は、前年同期比で6.9%減の3兆6156億円と、2017年4~6月期以来、2年ぶりに前年を下回わるもので、この2年ぶりのマイナスは米中貿易戦争の余波を受ける処、製造業の失速を鮮明とする処です。

設備投資を業種別にみると、情報通信機械が43%減と落ち込みが目立つ。世界的に巨額の投資と休止を繰り返す傾向のある半導体市場は、年初から調整局面に入っていたとの指摘の多い処です。更に上述、米トランプ政権が中国の通信機器大手、フアーウエイ製品の締め出しを強めており、両国の貿易戦争が長引くことで日本でもスマートフォーン向け部品の受注が減り、企業は新たな設備投資は慎重に見極めようとの構えにあるとされています。製造業の能力増強や生産性向上につながる省力化投資が滞れば、将来の成長力にも影響しかねずと、懸念される処です。従って、今後の焦点は製造業を中心とする設備投資の鈍化が一時的流れにとどまるかどうかですが、米中の対立が長期化し、企業マインドの悪化が雇用や消費に影を落とすようになると、非製造業にも余波が広がるおそれはあり、まさにルービニ氏が云う新たな政策対応が痛感される処です。

(2) 政策の現場
尚、日銀は9月19日の金融政策決定会合では、現行の金融緩和策の維持が決定されました。
米FRBをはじめ世界の中銀が金融緩和に向かう中、今後の円高リスクなどを踏まえ、言うなれば貴重な緩和カードを温存したと云うものでしょうか。 OECDが同19日発表した2019年の世界経済の成長率(実質)見通しでは2.9%で、前回5月より0.3ポイント下方修正でした。日銀が今回動かなかったのは、国内の景気や物価にまだ波及していないと判断したものと報じられていますが、超低金利が地方銀行などの収益圧迫や年金基金の運用難を招くと云った副作用も顕在化しつつあり、日銀としては可能なら緩和カードを温存しておきたいと云うのが本音(日経9/20)の由ですが、その推移極めて要注視です。


第2章 「脱・株主第一主義」を宣言する米企業、
では日本企業は?

1.Anew corporate purpose 

(1)米「Business Roundtable (BRT)」のNew Mantra
8月19日、米主要企業の経営者団体「Business Roundtable」は従来の「株主第一主義」を見直し、企業がより幅広いステークホルダーに配慮する事を旨とする5項目に係る声明(注)を出したのです。この声明には同団体の会長を務めるJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOの他、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEO、GMのメアリー・バーバラCEOなど180人の経営トップが直筆署名を以って名を連ねるものでした。そして、賛同企業は顧客、従業員、取引先、地域社会、株主と云ったすべての利害関係者の利益に配慮し、長期的な企業価値向上に取り組むというものです。

米BRTは1978年以降、定期的にコーポレートガバナンス原則を公表し、97年からは「企業は主に株主のために存在する」と明記してきましたが、今次の声明は、投資家の利益を優先してきた米国型の資本主義にとって大きな転換点となる処です。因みに、JPモルガンのダイモンCEOはpress releaseで「The American dream is alive, but fraying (アメリカンドリームは存在するが、揺らいでいる)」と指摘した上で、行動原則の見直しは従業員や地域社会への投資継続を約束するものとしており、言うなれば新しいマントラという処です。

(注)[Statement on the Purpose of a Corporation]
      ― While each of our individual companies serves its own corporate purpose ,
we share a fundamental commitment to all of our stakeholders. We commit to:
(1) Delivering value to our customers (顧客:顧客の期待に応えてきた伝統を前進させる)
(2) Investing in our employees (従業員:公正な報酬の支払い、福利厚生の提供)
(3) Dealing fairly and ethically with our suppliers(取引先:規模の大小問わずよきパートナ
ーとして扱う)
(4) Supporting the communities in which we work(地域社会:持続可能な事業運営で、環境を保護する)
(5) Generating long-term value for shareholders, who provide the capital that allows
companies to innovate, grow and innovate(株主:長期的な株主価値の創造に取り組む)

・今、米企業も業績試練に
では、今なぜという事ですが、米大企業は、上述三つの要因を背に、2四半期連続の減益を余儀なくされ、まさに企業は業績試練を迎えている(The Economist, `Corporate earnings reprieve ’, July 20,2019)とされる状況にある処ですが、加えて、所得格差の拡大で、大企業にも批判の矛先が向かってきており、行動原則の修正を迫られてきた、そう云った事情に応えんとの思惑あってのことではと思料する処です。

(2)J. Stiglitz教授の疑問
そんな中、ノーベル経済学賞の米コロンビア大教授、J. Stiglitz氏は、米論壇 Project Syndicateへの投稿論考 `Is Stakeholder Capitalism Really back? (Aug.27)’で、これまで主流をなしていた株主第一主義からの大転換に、本心からの行動かと、素早く反応するのです。

同氏は過去40年間、米企業にとって最大の使命は株主価値を最大化する事、つまり利益を拡大し、株価を押し上げる事で、それも労働者や顧客、サプライヤー、社会に及ぼす影響を顧みることなしに行われてきたが、それが、BRTが「利害関係者」の利益を尊重する資本主義の実現を目指す `--business is about more than the bottom line.(企業の使命は利益を上げるだけではない)‘と、企業の総意として宣言したことに、大きな方向転換としながらも、That is quite an about-face. Or is it? 本当にそうなのと、疑問視するのです。 その指摘はもちろん日本企業(後出の)にも及ぶ処、そこで多少長くなりますが、以下にその概要を紹介しておきたいと思います。

・M.フリードマン vs J.ステイグリッツ
まず、「株主第一主義の原則」を普及させるのに一役買った、同じノーベル経済学賞のミルトン・フリードマンの主張、「企業の果たすべき唯一無二の社会的責任は利益を増大すべく資源を使用し、事業活動に従事する事だ」に言及しながらも、70年代後半に展開してきた自説「株主第一を基本とする資本主義は社会の幸福や繁栄を最大化しない」ことの合理性を、例えば、気候変動などの重要な外部性が存在するときや、我々が吸う空気や飲む水を企業が汚染するときだと指摘し、更に、より一般的に云えることは、市場は企業を近視眼的にし、労働者や社会への投資を不足させる可能性があるとするのです。

このため経済が果たす機能について卓越した洞察力を持っているであろう企業のリーダー達がようやく光明を見出し、近代経済の実態に追いついたことに安堵すると云うのです。之が40年の歳月を要したとしてもだと云うのです。しかし、これらの企業リーダーたちは、株主第一主義を見直すと本心から言っているのか、それとも、これまでの数々の悪しき行いに対し人々が強い不満をあらわにしているのに直面して、改めるふりをしているに過ぎないのではとし、本心からの行動ではないと信じるに足る理由がいくつもあるとするのです。

・企業の本当の責任
企業がまず果たすべき第一の責任は税金を納めることだが、今次理念に署名した企業の中には、租税回避策を率先している企業が含まれている事。その一つが「アップル」であり、同社は、巷間英王室属領のジャージー島などの租税回避地を利用し続けていると指摘するのです。一方、トランプ大統領が2017年の減税法案、これは大企業や大金持ちの税金を引き下げるものだが、を提出した際は、これを支持した企業も多く含まれていると云うのです。そしてリーダー達は、減税は投資促進と賃金上昇につながるとの主張を支持しているが、労働者はほんのわずかなおこぼれしか与っていない。減税により浮いた資金のほとんどは自社株買いに向けられており、これが株主や株価に連動する報酬を受け取るCEOの懐を肥やすだけとなっていると、指摘するのです。

では巨大銀行はどうなのか。2008年のグローバル金融危機を引き起こした元凶にもかかわらず、銀行はドッド・フランク法(米金融規制改革法)が10年に成立するや、同法は、金融危機が再来する可能性を低めるべく規制を強化するものだが、主要条項を無効にする動きを始めた経緯があると云うのです。この様な動きを取った銀行の一つが米JPモルガン・チェースであり、そのCEOダイモン氏がBRTのトップにいると指摘するのです。つまり、
米国の最もパワフルなCEOらが新たな姿勢で社会的責任に取り組み始めているのは、喜ばしいことだが、だがそれがポーズに過ぎないのか、それとも言葉通りのことを意味しているのか、見守る必要がある、とするのです。

前出フリードマン氏の考えは、欲深いCEO達に対して、欲望のまま行動してよいとの口実を与え、更に、米国やその他多くの国の法体系に株主資本主義を組み込んだ企業統治法を齎したが、この状況を改める必要があると、ステイグリッツ氏は語気を強める処です。そして、自らが取った行動が他の利害関係者に及ぼす影響について、企業が配慮するのみならず、配慮することを義務にしなければならないと、主張するのです。

因みに、Financial Times (Aug.20) 社説は、この4月、JPMorgangが株主宛に出しているAnnual letterの中でダイモンCEOが教育、移民問題、税制改革、そしてJPMorganがこれら問題を更に次の次元に高めていく事を約束していたことにも照らし、この際はBusiness must act on a new corporate purposeと、行動を起こせと云うのですが。

2.問われる日産の統治能力、再び

9月16日付で日産自動車の社長兼CEOの西川氏が辞任しました。前会長のゴーン被告が解任されてからわずか10か月後の辞任劇、それも取締役会(9月9日開催)での辞任要請を西川社長が受け入れたとされているもので、実質社長解任です。その最大の理由は各メデイアが伝えるように一意義的には西川社長の‘報酬かさ上げ’ 問題です。株価連動型報酬で、本来より4700万円多く受け取っていたと云う事です。メデイアによると、6月に社外から指摘された段階では「疑惑」だった由でしたが、これが社内調査で事実関係が認定されたと云うものです。西川社長は自身の指示によるものでないとしていましたが、トップが千万円単位の不適切な報酬を得て、それが返納に至った事態は「ガバナンスに重大な問題がある」(木村康、取締役会議長)とした事実上の解任です。

・社外取締役の使命
ここで注目すべきは、今回の人事を主導したのが、社外取締役が多数を占める同社の取締役会だった事でした。日産はゴーン被告らの一連の不正を受け、西川社長は指名委員会等設置会社への移行など、企業統治改革の歯車は進めていました。が、一部の人間だけで決める体質は変え切れず、社長の独善的指揮が今次の不正をもたらしたと、評される処です。言うまでもなく、社外取締役の最大の仕事は、「ダメな経営者の首に鈴をつける事」と云われていますが、日本では社外取締役がトップの交代に深く関与した例は少なく、その点では、日産のケースは日本の企業統治を考える上で、一つのモデルになるのではと思料する処です。 ただ、日産の社外取締役にはもう一つ重要な仕事が残されています。西川氏の後継者選びです。同社指名委員会の委員長である豊田正和社外取締役は「世界の自動車産業に精通し、アライアンスやルノー、三菱自動車への深い理解と大きな関心がある事」(日経、9月10日)を後任者の条件、としています。もとより企業の未来は経営者が決めるわけで、この条件はどの企業にも通じる処、言うまでもないことと思料するのですが。

かくして日産については、企業統治の不全ばかりに注目が集まり「日産統治不備再び」とされる処ですが、実は日産の業績は悪化の一途にあり、「収益力の低下」というより寝深い問題を抱える処です。因みに7月に発表された19 年4~6月の連結営業利益は前年同期比99%減で、同日、日産は23年3月末までに生産14拠点でライン停止や縮小、更にグループ従業員の1割に当たる従業員1万2500人の削減に着手する旨を発表しています。

一方、現在、生産体制の見直し、新型車投入を新たな再建の柱としていますが、新車開発には自動運転等、先端技術が求められると同時に新車開発資金もかさむ処、さて、この先、顧客に支持され、従業員が前を向いて動き、株式市場で評価される会社となれるのか、まさに前述、BRTのMantraが語る、顧客・従業員・取引先・地域社会、そして株主、のステークホルダーとの好関係の確立に、応えていく事でしょうが、その限りにおいて、次のトップの歩む道のりは極めて険しいものと云え、その推移に更なる関心の高まる処です。


          おわりに トランプ氏を巡る二つの配慮

・マクロン仏大統領の配慮
フランス・ビアリッツで開かれたG7サミット(8月25~26日)は結局、世界が抱える問題を十分討議すこともなく、ただ5つの課題項目を列記する1枚の紙きれを以って幕を閉じたのですが、それもトランプ米大統領への気遣いあっての事で、因みに閉会後の記者会見は通常議長国の、今回でいえばフランス、マクロン大統領が対応する処、今回はトランプ米大統領に同席をと,マクロン氏が慫慂したことで、異例の二人会見となっていました。配慮の効果?とでもいう処でしょうか。

そもそも国際協調、自由貿易をベースに世界経済の発展を目指し、スタートしたG7サミットでしたがトランプ氏のような米国第一主義、自国主義者が入ってきたことで意見の一致が見にくくなってきた事で、もはやG7は機能を失い、形骸化した存在たるを認識させられたというもので、予想されていたこととは云え、今次サミットも同様な様相です。
昨年カナダで行われたサミットでは、米国対他メンバー国、つまり1:6という、分裂状態を見せつけられ、これがトランプ米国の孤立する姿と映るばかりだったのです。

序で乍ら、トランプ氏は孤立したかというと、そうではなさそうです。まず、以下列挙の仁を見ていただきたいのです。 オーストラリアの「モリソン首相」、インド「モデイ首相」、ブラジルの「ボルソナロ大統領」、イタリア与党の極右「同盟」の党首の「サルビーニ前副首相」、アルゼンチン「マクリ大統領」、英国の「ジョンソン首相」、トルコの「エルドアン大統領」、サウジの「ムハンマド皇太子」等々。

彼らは風聞、トランプ氏を好むとされる首脳たちですがが、彼らがトランプ氏に感じている魅力とは、「民主主義国家の首脳にとっては、トランプ氏のポピュリズムであり、ずっと疎外感を抱いてきた有権者層の心をつかむ能力、独裁主義者にとっては、トランプ氏のdeal重視の考え方であり、人権侵害などの問題を見過ごすことも辞さない姿勢」にあると、米国際政治評論家、イアン・ブレーマー氏の評する処です。(日経8/15)

つまり、トランプ大統領の「米国第一主義」の外交政策はdealを重視し、歴史をないがしろにし、米国はかつてないほどに孤立し、カナダや、ドイツ、フランスなどの友好国との関係を損なってきています。だが、米国は今までと違うタイプの国を味方につけてきたというものです。米国第一主義は米国を孤立させはしなかったが、外交関係の質を変えるようになってきたこと、或いは、世界がトランプ氏に象徴される政治スタイルに向かっている可能性を窺わせる処、危うい異端の連鎖が続く様相と映るのです。その中で、米国は新たな友好国と敵対国に向き合う事になるのでしょうし、日本は、その文脈において安保戦略の再考が迫られる処、まさに外交戦略の立て直しが喫緊の課題となってきたというものです。

・安倍首相の配慮
さて、前述ビアリッツ・サミットに合わせ、25日、現地で日米両首脳間での通商交渉が行われ、当該基本合意が成立、9月下旬に協定案に署名の方針が確認されたのです。当該交渉は昨年の9月の首脳会談に始まったものですが。わずか1年程度と、異例のスピードで決着を見ることになったのですが、それには早期に範囲を絞って妥結し、過度な要求を避けたい日本政府と、来年の大統領選を控え成果を急ぐ米政府の思惑が一致したためとメデイア(日経8/26)は伝える処ですが、驚かされたのは、その報道からは、安倍首相の、トランプ氏に対する迎合ぶりでした。

同報道によれば、トランプ氏が基本合意成立で、急遽公式発表の場を設けるよう安倍首相に求めて、対日協定の大枠合意を確認するだけでなく、安倍首相に「トウモロコシの輸入拡大を決めたことを話したらどうか」と促し、首相は日本が緊急措置として米国産トウモロコシの購入を前倒しすることを表明したことでした。トランプ氏は嬉嬉としてその成果を強調する処、中国ではうまくいかなかったものをあっさりと安倍首相が認めてくれたと評価するものでした。つまり大統領は来年の再選に不可欠なトウモロコシ生産州(アイオワ、ウスコンシンなど)の票を稼げるという事で、これが安倍首相のトランプ迎合というものです。

尤も今回の交渉では日本側が主眼としていたのは自動車の追加関税の回避でしたが、交渉の最終場面で、その流れを後押したのがトウモロコシの緊急輸入だったと云うことで、まさにトウモロコシで車を守った、っていうところです。勿論、国内生産者からのブーイングは言うまでもありません。なにせ、その輸入量は約270万トン、日本の年間輸入量の4分の一相当、これだけの量のトウモロコシを買ってどうするの?ですが。

それでも8月27日、日本では菅官房長官が記者会見で、態々「トウモロコシ」の前倒し購入に触れ、国内での害虫被害が理由だと説明していましたが、要は大統領選を控え、トランプ氏は余剰トウモロコシの対日輸出で農家に成果を訴えられるというもので、安倍のトランプ大統領選支援という事ですが、その見え見えの、過剰ともいえる配慮が齎す日米関係のゆがみすら感じさせる処です。トランプ氏は加えて「日本の民間は米国と異なり、政府に非常によく耳を傾ける」とコメントしていたようですが、実になめられたものです。 そして、日米通商交渉は上記の通り、9月25日、NYでの国連総会出席を機に行われた両首脳の署名を以って一件落着(?)で、 両者はwin・winと叫んでいたのですが。
      以上(2019/9/26記)
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2019年08月26日

2019年9月号  日本の安全保障を巡る二つの論理・・・日米同盟の論理、日韓対立の論理 - 林川眞善

今、日本は国の安全保障を巡っての、二つの大きな問題に直面しています。
・日米安全保障条約は不公平?
まずその一つは日米安全保障に係るトランプ批判です。先のG20大阪サミットを前後して彼は日米安全保障条約は片務協定だ、「米国が攻撃されても日本は必ずしも助けてくれない」、日米安保は「不公平」だと(日経6月30日)、同じフレーズを繰り返し非難する処です。更にこれが「日本防衛のために米国の若者が死ぬことはあるが、逆がないのはおかしい」との発言となると米国民には「極めて当然の話」と映る処、2020年の大統領選対策も有之、これが繰り返されるとなると日本は窮地に追い込まれること必定と思料する処です。

実際、日本は「自国の防衛はひたすら米国依存」以外の選択肢を持ち合せない事情からは、遠からずトランプ氏の云い分を受け入れざるを得ないことになるのではと思料するのですが、彼のこの批判は日米同盟の今日的意味合いを問い質す契機ともなる処です。 つまり、戦後、日本の安全保障体制は日米同盟という名の下に語られ、その体制を担保するのが日米安全保障条約にほかならず、従ってトランプ氏の批判にどう応えていくかは、日米同盟の在り方を見直す一大政治プロジェクトにもなろうかというものです。

・日韓対立は韓国政府による日韓軍事協定破棄で
もう一つは深刻さ増す日韓の対立です。日本政府が韓国向け輸出に実施した規制の厳格化と更に8月2日には韓国をホワイト国対象から外したことで、文韓国大統領は、後述するように、この一連の対韓措置は、元徴用工訴訟の韓国大法院(最高裁)判決に対する安倍政権主導の「経済報復」と日本批判を繰り返す一方、文大統領主導型の反日運動が勢いづき、日韓関係は「政冷経冷」の状況すら呈する処、8月22日、韓国政府が日韓軍事協定(GSOMIA)の破棄を決定したことで、日韓対立は東アジアの安全保障問題にシフトされる処です。

そこで今回はこの2題に集中し、これまでの論考で触れてきたことのフォローアップを兼ね、以下の要領にて、論述することとします。まず、第1章ではトランプ氏の日米安保条約批判への対抗準備として、日米安保条約の成立の経緯と特異性、そして安全保障と米政権の政策選択との関係をレビューし、併せてトランプ氏の台頭が日米同盟を揺るがし出している現実をレビューすると共に、過半入手の防衛大教授の武田康弘氏の近著「日米同盟のコスト」を背に、グローバルな視点から今後の日本の安全保障の方向を探ることとします。第2章では、上述、日韓対立の構造を現地のメデイア情報にも照らしレビューし、今や韓国政府のGSOMIAの破棄決定で、日米韓の三角連携による安保体制が崩れかねない事態にある処、今後の推移について考察する事とします。処で8月1日、参院選後の国会が開催されました。安倍政権は如何なる責任ある政治を目指すのか、改めて問う事とします。


― 目  次 -

第1章 日米同盟の論理と、その行方    

1. 日米同盟という名の日本の安全保障体制
(1)日米安保条約成立の経緯とその特異性
(2)日本の安全保障は米政権の政策選択の函数
2. 日米同盟を揺るがすトランプ政権
(1)「適正な防衛の対価」要求
(2)トランプ政権による拡大抑止の信頼性
3. 多国間連携強化こそ最大の安保戦略
・人口減少を見据えて
 ・TPP11の経験を踏まえて

第2章 日韓対立の論理と,その行方

1. 日韓対立の構図
(1)朝鮮日報が伝える日韓対立の真相
(2)‘安倍晋三vs 文在寅’が齎す日韓「政冷経冷」の危機
2.揺れる日米韓の安保連携             
(1)日米韓の安保連携から逸脱(?)目指す文政権
(2)日韓関係の行方を占う三つのポイント

おわりに 参院選後の日本の政治
  -MMTとアベノミクス

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  第1章 日米同盟の論理と,その行方

1. 日米同盟という名の日本の安全保障体制

― 国の安全保障とは? 伝統的な思考様式としては、安保とは国家の領土や政治的独立、外部からの脅威を軍事的手段による牽制によって守ることを主眼とするものとされ、一言でいえば 国防に該当する処です。因みに大平正芳総理(1980年)主導の「総合安全保障問題研究会」報告書では、「脅威に対する手段を軍事的なものに限らず、非軍事的なものも最大限に取り入れ、同時に対象となる脅威も国外だけでなく国内や自然の脅威をも対象とする安全保障」を総合安全保障として理論づけ、その翌年の1981年5月、鈴木善幸首相(当時)は日米安保条約に裏打ちされた関係を日米同盟と初めて表現したのです。

(1)日米安保条約成立の経緯とその特異性
戦後、日本は1951年9月8日、サンフランシスコ対日講和条約を以って国際社会への復帰、独立を果たしましたがその際、米国との連携において日本の国体を堅持する趣旨で、日米安全保障条約が署名されました。これが当時台頭しつつあった社会主義、具体的にはソ連の台頭に対抗する趣旨から導入されたものと云え、因みに講和条約はソ連など社会主義諸国を含めた全面的な講話でなく、米英仏など西側諸国だけとの片面講話でした。従って日米安保に基づいて米軍の駐留継続を認めることで、日本は主権を回復し、西側陣営の一角として国際社会に復帰することとなったのですが、この二つ条約が同日に調印されたことは、両条約が不可分一体であることを象徴する処です。

爾来1960年の改訂(岸伸介首相とアイゼンハワー米大統領)を経て日本の安保体制が整備され今日に至る処、この日米安全保障条約こそは日本にとって唯一、他国と結ぶ同盟関係で、今日の日米同盟の根幹をなすものです。

尚、通常、条約を結ぶ国は、武力攻撃をうければ共同で対処する「相互防衛」が基本となっており、NATO条約では第5条で加盟国に対する攻撃を全加盟国に対する攻撃とみなすと想定し、集団的自衛権の発動を義務付けていますし、米韓相互防衛条約でも第3条で、太平洋におけるいずれかへの攻撃に対する共同対処が謳われていますが、日米安保ではそうはなっていません。51年署名の条約では、防衛義務も特に明記なく、米国が「援助を与えることができる」ことだけが示されていたのですが、60年改訂条約ではこれが見直され、共同対処するのは日本の施政下にある領域に限り、領域外で日本が米国支援のために戦う義務はないとなっています。つまり、日米の役割分担は以下の通りで、攻撃と守備に仕分、規定(条約第5条&第6条)されており、その仕分けこそが異色とされる処、日米の双務性を問う問題として今に及ぶ処です。以下はその実状です。

・安保条約第5条と第6条が規定する日米の役割
つまり ‘60年の改定では、日本が領域内で他国から武力攻撃を受けた際、日米両国が自国の憲法の規定に従って「共通の危険に対処するよう行動する」(5条)と定められ、陸海空の領域、サイバー空間などで日本が受けた攻撃に対し、米国には集団的自衛権を行使して防衛する義務が生じる事になっています。トランプ批判とは、その点を突く処、米国が日本を防衛する義務を定めているに対して、日本の自衛隊は米国を守るとは規定されていない点で、これは片務的、不公平だとするのです。

又、在日米軍との関係について、安保条約6条では、米国は「日本の安全」と「極東における国際平和と安全の維持」に寄与することが規定され、その為に日本国内に米軍基地(施設・区域)を設置できるとされ、在日米軍が駐留する根拠となっています。 尚、当該経費負担(注)が問題となるのですが、防衛省試算では、日本は2015年度の在日米軍の駐留経費総額 2210億円のうち86.4%を負担しています。それでもトランプ政権は日本の防衛負担増を求める処です。(日経8/16)

(注)駐留経費の分担:米軍基地の土地代や施設・区域の提供は日本が負担、更に米側の要請に応じ
て基地従業員の人件費や光熱水料も「思いやり予算」として、これも日本が負担。2016年度より
は特別協定もあり、5年間の負担総額は約9465億円に上っている。

従って、トランプ批判に応えていく事は、安保条約第5条規定の日米の役割分担の見直し、第6条の経費負担の見直し、という事ですが、前者の問題は日米同盟の構造問題と云え、日本国憲法(第9条)との関係有之で、結論を得るまでには時間を要する処でしょうが、後者の問題、経費負担という事であれば、この際はコストの合理性追求として見直し、相応の結論は出しうるものと思料するのです。その為にも、まずは日米関係を、変化する国際環境に即して再定義すること、そしてその下で日米同盟関係の合理的な在り方について見直していく事で、米軍の駐留経費の合理性を再評価する事が可能になると思料するのです。
   
尚、平和憲法の下で専守防衛に徹する日本の安全保障は、拡大抑止を規範とする日米同盟に決定的に依存する処です。その点で、自助努力や米国以外の国家との協力で代替できることは極めて難しいと云わざるをえないのが現実です。が、そのことは米国による拡大抑止が如何に機能するかにか、つまり対外脅威に対して米国は如何に対応してくれるかという点で、日本の安全保障は米国歴代政権の政策選択の函数ともされ、それが日米安保条約の特異性を成す処、日米関係推移の実際でもある処です。以下は、その実際をレビューするものです。

(2)日本の安全保障は米政権の政策選択の函数

① 1960年1月の安保改定で、米国の日本防衛義務が明示され、内乱条項(日本で内乱が起きた際の米軍による鎮圧)は撤廃。行政協定は地位協定に変更され、防衛分担金も廃止。更に事前協議制の導入で、日本は極東有事の際の米軍基地使用に関して一定の発言権を確保。そして1971年までに自衛隊の規模は287千人となり現在の自衛隊の骨格がおおむね整備されたのです。 尚、1967~69年の沖縄返還交渉は日米同盟に変化をもたらす契機となるものでした。つまり、沖縄返還は、日米の共同防衛区域を拡大すると共に、在沖縄米軍の抑止力が日本及び極東の安全保障に果たす役割を確認する処でした。

② 1970年2月のニクソン・ドクトリンに続く米地上軍のアジア撤退、そして米中和解に象徴されるデタントは、日米同盟を共産主義の封じ込めから地域の平和と安定化の装置へと変化させる処、それは同時に同盟国に対する米国の防衛公約の信頼性を低下させ、日本に「見捨てられ」リスクを意識させるようになったとされるのです。そしてこのリスクが進行する中での軍備抑制策の帰結として、日米防衛協力を強化する必要性が高まり、1978年11月に策定された「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)では米国の核抑止を明記すると共に、日本有事の際の米軍の来援と日米の役割分担を確認する処でした。但し、極東有事の際の日米協力については随時協議と研究の推進を謳うにとどまるものでしたが、これを機に日米のシーレーン共同防衛や共同演習・訓練が拡充されていったのです。

③ 2017年1月、誕生したトランプ政権のアジア政策、対中政策や対北朝鮮政策が、歴代政権のそれとは大きく変化を見せる一方で、対日政策はおおむね伝統的な路線が維持されてきていて、外交・安保面では同盟重視の対日政策が採用されていますが、経済面では公約通りの保護主義的な通商政策が影を落す処です。
実際、2017年1月にTPPから離脱し、NAFTAの再交渉を宣言したトランプ政権は、同年2月の日米首脳会談で、「二国間の枠組みで経済対話に従事する」ことが謳われています。そして2018年6月の日米首脳会談では麻生副総理とペンス副大統領による日米経済対話の下に、茂木内閣府特命担当大臣とライトハイザーUSTR代表との間で、「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議(FFR)」が設置され、目下日米通商交渉が進められている事、周知の処です。(注)8月23日、ワシントンでの協議で重要品目の扱いに付き、大枠で合意したと発表。

2.日米同盟を揺るがすトランプ政権

トランプ政権の安保条約への不公平批判とは前述の通りで、在日米軍駐留経費の負担増、GDPに占める防衛費の割合拡大要求等、要は防衛に対する「適正な対価」への要求ですが、その一方で、米国が孤立主義、単独主義に傾斜することで日本に提供される「拡大抑止の信頼性」の低下懸念が圧力ともなって今、日米同盟を揺るがす処です。

(1)「適正な防衛の対価」要求
70年代、米国の経済的優位が相対的に低下し、財政赤字が拡大するたびに、米国は同盟国への分担を求めてきています。因みに、NATO首脳会議で当時のオバマ大統領が「自由はただではない」と訴え、加盟国に国防費の増額を求めていますし、2016年7月のワルシヤワ首脳会議では、加盟国の防衛費をGDP比2%にまで増額することで確認されているのです。そして、今トランプ政権は対日負担増要求を強めていますが、それもこれまでと同じ路線にあるというものです。

さて米国が日本に求める「適正な防衛の対価」とは前述の通りで,具体的には現在のGDP比1%、約5兆1251億円の防衛費を2%つまり2倍にするか、在日米軍駐留経費(2017年度予算:約5,288億円) を増額する形で米国の防衛負担の拡大要求に応えることを意味するのですが、そうした対応が日本の国益に適うことになるものか、疑問の残る処です。その点では、コスト負担構造の見直し(コスト分担の合理性)が不可欠と云え、その際は日本の貢献が見える形としていく事がより肝要と思料するのです。

・‘日本の貢献’の見える化
日本国の経営にとって、前述事由から今後とも現行安保体制の堅持が前提となる処でしょうが、上述日米同盟のコスト対効果に照らしていくとき、同盟の発展的改善への「のりしろ」は狭まることはあっても、広がる可能性は難いのが実情です。ましてや互いに従来型発想を以ってする限り、「非対称な双務性」の改善は極めて困難なことと思料するのです。

そこで、限られた資源の中で日本の安全を担保していくためにも、まず対米関係において、
改めて日本として「できる事、できない事」を、はっきりさせていくこと、そして、米軍に対して「何を、どこまで」協力できるのか、或いは、することとするのか、そのシナリオを整備し、以って個々に米国と詰めていく事が肝要と思料するのです。つまり、日米同盟に係るコストとその効果について再確認し、同盟環境の変化にも照らし、当該分担の合理性を確認していく事です。それは日本の貢献を目に見える形にしていくプロセスをなす処、これこそがただ乗り批判に対抗し易くなるものと思料するのです。

尚、‘見える化’のためにも、同盟コスト分担の合理性をいかに確保していくかは依然重要な問題です。日米同盟のコストとは、下記(注)にあるように ① 経費の分担と② 任務の分担で構成される防衛コストと、➂ 主権の制約と④ 駐留経費負担で構成される自律性コストで構成され、日米間の経費分担については、米国が負担する在日米軍の維持・作戦経費と、日本が負担する在日米軍関係経費との対比で論じられてきていますが、過去5年の平均は人件費を含めれば概ね1対1の分担比率にあるのです。

にもかかわらず、日米双方に不満の残るのは②の任務の分担を米国が一方的に負担していることと、➂の主権の制約を日本だけが被っているとの被害意識があるとされ、従って、仮に在日米軍駐留経費の全額を負担したとしても不満の解消にはなりません。また、トランプ政権が求める防衛費のGDP比2%要求にしても、その経費をどのような任務の分担に充てるのか、それがどのような自律性コストの軽減に繋がるか、細かく詰めて検討していく事が不可避ですが、となればコスト負担の合理性見直しのためのシステムの導入の必要性が指摘される処です。

偶々、日経(8 月6日)が報じた防衛省2020年度予算概要要求では米軍再編関連経費を含め5兆3千億円超、過去最大規模となっていますが、これも「対米」次第で増額見通しと云うのです。この在日米軍駐留経費(注)の負担増は自律性コストの拡大を意味し日本の防衛に間接的に資するものであっても、直接的に貢献するものではありません。‘金を出すから日本を守ってね’と云った処でしょうが、これこそトランプ大統領のクレームが映す処です。

   (注)同盟のコスト:① 防衛コスト(共同防衛という軍事的貢献に伴うコスト)と、②
自律性コスト(防衛協力を得る見返りに「主権の制約」と「駐留経費の負担」)からなる。

(2) トランプ政権による拡大抑止の信頼性
もう一つ日本が直面する問題は、米国による拡大抑止の信頼性の低下です。つまり、トランプ政権が米国第一主義を掲げ、孤立主義、単独主義に傾斜する限りにおいて、トランプ政権による拡大抑止の信頼性が低下する事の可能性です。従って、その信頼性をいかに堅持していくか、そのためにも案件ごとに常に問いただすことのできるシステム作りが不可欠となる処です。 因みに、尖閣諸島の領有権侵犯や北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対する米国の対日防衛コミットメントは、随時確認できるよう、当該システムの整備が不可欠となる処です。 そして留意すべきは、トランプ政権を生んだ米国社会の構造的変化が今後も続き、米国がもはや世界の警察官に復帰できないとすれば、拡大抑止の信頼性は今後の日米同盟が直面する深刻な課題であり続ける筈という点です。

3. 多国間連携強化こそ最大の安保戦略

上述、トランプ大統領の台頭で、日米安保条約の、言うなれば威力の低下が懸念される中、では、今後とも日本の安全保障はどのように確保されていくべきかが問われる処です。言うなれば日米同盟を基軸としながらも、今後とも自らのsustainableな成長をいかに図っていくかがテーマとなりますが、その際のポイントは色々ある処ですが、何よりも問題は致命的に進む人口減少です。勿論、国内的には産業の競争力強化、社会保障等々、の視点から縷々語られる処ですが、これが国際的連携の強化なくして解決を見ないことが現実です。

・人口減少を見据えて
いうまでもなく、人口は国力を示す有力指標の一つです。その急速な減少は極めてseriousな問題です。内閣府によると、2053年には人口は1億人を割り込むことが想定されています。(2018年版「高齢社会白書」)その数字が意味することは、欧州の一国が消滅することと云え、労働力人口が減少していく中、いかに競争力を維持するか、そしていかに労働力の確保を図っていくか、が問われる処です。

この点、まずは高度情報化を進めることで、生産性の向上、競争力の確保を図ることが方向付けられる処、同時に、これに対応できる人材の確保を図ることとされていますが、それ以上に問題は、減少する労働力については、外国労働者の戦略的移入を進めることなくしてはカバーできなくなっている事情です。つまり、その戦略推進のためには雇用制度の改革等関連諸制度の見直し、改革が不可避であり、まさに革命的変化となる処です。要は、国内問題にしても現実は独りでこなせる状況にはなく、いまや国内的問題も、第三国との連携によって初めて成り立つ話となってきているのです。

・TPP11の経験を踏まえて
近時、日本は米国と同盟関係にある国と安保協力を深めてきています。ただ条約としてはあくまで米国を介した形で進められており、直接条約で同盟関係を結んではいません。むしろそれは現在の日本にとって幸いなことと思うのです。とい云うのも目指すべきは、基本的には多国間の連携強化による安定した経済の発展であり、これこそは現代における安全保障に資する戦略と位置付け得るものなのです。多国間主義、国際ルール重視を基本軸に置いた行動こそが、持続的成長戦略であり、同時にそれは安全保障対応となるのです。

その点、TPP11は政策対応の見本となる先例です。このTP11で見せた日本のリーダーシップを足掛かりに、開かれた世界貿易のシステムを推進していく事で、日本の立場はより強固となる筈です。勿論、これが米国を軽視することではなく、日米同盟の基盤強化につながる処です。 この際は、伝統的な日米同盟と云う事で思考停止せず、安全保障の一環としてグローバルな経済対応を戦略的に図る、防衛も経済も全方位での外交を目指すべきと思料する処です。



第2章 日韓対立の論理と,その行方

1. 日韓対立の構図

日本政府は7月1日、韓国への輸出管理を厳格化すると発表、7月4日に「フッ化ポリイミド」、「EUVレジスト」「フッ化水素」の3種類の半導体材料について輸出規制を発動しました。この規制により、これら3材料の輸出には経産省の審査に最大3か月の時間がかかる事になるとのことです。6月末、G20サミットが大阪で行われ、曲がりなりにも自由貿易を標榜する声明文が出た直後だっただけに、この輸出規制は韓国企業への奇襲攻撃と映る処でした。更に、8月2日、日本政府は韓国を「ホワイト国」(注)対象から除外することを閣議決定。この一連の対韓措置について日本政府は、韓国側の安全保障対応の不備さに向けた対抗措置と説明する処、韓国文大統領は、元徴用工訴訟の韓国大法院(最高裁)判決に対する安倍政権主導の「経済報復だ」と批判を繰り返す一方、韓国内では文氏主導の反日運動が勢いづき、いまや日韓対立は決定的となる状況です。

[注:ホワイト国とは、安全保障上の信頼関係がある国を輸出管理で優遇する対象国。 韓国は2004年から優遇対象国だったが今回の輸出管理の厳格化で8月28日から対象国から外れる。尚2日からホワイト国と非ホワイト国の通称を「グループA~D」の4段階に細分化した。現時点では26か国 ]

尚、世耕経産相は8月8日、先に指定した当該3品目の一部(レジスト)の中国企業(サムスン電子)への輸出を許可したと公表しました。1か月で輸出を許可したのは、今回の対韓輸出厳格化を対韓「禁輸措置」だとする韓国批判の沈静化を図らんとの由でしたが、韓国側はそんな事には意を介することなく、元徴用工判決に端を発した日韓対立は日を追うごと、激化の様相を呈する処です。

(1)朝鮮日報が伝える日韓対立の真相
現下の日韓対立の背景にあるのが、韓国側が「徴用工」と呼ぶ戦時中の朝鮮人労働者に対する賠償を巡る問題ですが、筆者の友人が提供してくれた朝鮮日報、日本語版(2019/07/17)は、以下の通り、徴用工賠償問題は日韓請求権協定で終了したとする事情、そして、その後、司法府と行政府の判断が衝突する中、大法院は、その結論を覆す判決を確定したことで、日本との8か月の「にらみ合い」が日本の経済報復に繋がったとするものでした。以下はその概要です。(当該記事を提供してくれた友人は、韓国最大の新聞ながら国賊扱いされそうと、漏らすのです.)

・日韓請求権協定と徴用工賠償問題
2005年8月、当時の蘆武絃(ノ・ムヒョン)政権は、2005年1月、40年間非公開だった請求権協定文書が公開されることとなったのを契機に、首相及び閣僚など政府関係者と各界の専門家を集め、民官共同委員会を発足させていますが、その際の争点の一つが「国家間の交渉で個人の請求権が消滅するか」でした。そして、民官共同委の結論は、強制徴用に関して「政府が日本に再度法的な被害補償を要求することは信義則の上で問題がある」とし、個人の請求権は生きているが、1965年の協定(注)によって行使は難しいとするものでした。

その代わりに蘆政権は被害者への補償に力を注ぎ、2007年には特別法で追加補償に着手し、2015年までに徴用被害者7万2631人に6184億ウオン(現在レートで約567億円)が支払われたと云うのです。ここで興味深いことは、民官共同委に現大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏が、当時大統領府民生主席の政府委員として参加、同結論に同意していたのです。
かくして韓国政府も「強制徴用問題は、1965年の請求権協定で終了した」との立場を維持し、裁判所も関連の訴訟で同じ趣旨の判決を下したと云うのです。

      (注)1965年、佐藤栄作政権と朴正煕政権の間で、日韓基本条約と日韓請求権協定が締結。
その際、問題となった日本による植民地支配の位置づけについては、両国が歩み寄る為と
して日韓基本条約では、植民地支配前の条約について「もはや無効」と明記された。
尚、当該請求権協定では、その1条で韓国への5億ドルの経済支援、2条では、賠償請求権
問題の「完全かつ最終的」な解決、3条では、紛争時の協議や仲裁を規定し、徴用された
労働者についての賠償は、韓国政府が行い、日本政府はその資金を援助することで合意。
以って日本政府は一貫して賠償を拒否してきたが、韓国の裁判所は2018年、国内にある新
日鉄住金などの資産を差し押さえ、その売却を認める逆転判決を下した。

ところが、2012年5月、大法院は新日鉄に賠償責任があると判断、「協定があるとしても個人の請求権を行使できる」という破棄差し戻し判決を下したのです。当時の朴クネ政権はこの訴訟を5年以上「凍結」、文大統領になって、それは「故意に判決を遅らせている」と批判され、大法院の当局者を逮捕したことで、18年10月、大法院は急いで同趣旨の判決、日本企業に賠償を命ずる判決を出したのです。この逆転に文氏からのコメントはなく、まあ、それは当然という処でしょうか。

‘ 安倍晋三 vs 文在寅 ’ が齎す 日韓「政冷経冷」の危機
これまでの日韓関係は、度重なる政治摩擦に曝されながら経済界や民間は互いに相手を認め、補い合ってきました。が、日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた判決が出たことで日本政府は韓国政府に対して再審を請求したものの、三権分立を盾に実効的な対策を打とうとしない韓国政府を動かさんと、我慢の末に、今次の輸出管理の厳格化という交渉カードを切ったものと思料するのですが、文大統領の激しい対日批判は止むことはなく、安倍首相は8月6日には訪問先の広島での記者会見で、「日韓請求権協定(上記)に違反する行為を一方的に行い、国交正常化の基盤となった国際条約を破っている」とし、「請求権協定をはじめ国と国との関係の根本に係る約束をきちんと守ってほしい」(日経 8月6日、夕刊)と厳しく迫る処です。
     
勿論そのコメントは、ずばり文大統領に向けられたものですが、過去に結んだ国家間の合意や協定を守ってほしという当たり前の主張も、革命政権を自認する文在寅大統領には届く由はなく、8月15日の演説では、45年までに朝鮮半島の南北統一を目指すと「南北平和経済」の推進を謳う(注)処です。それは韓国の対日依存からの脱皮を目指す姿であり、日本への挑戦の姿と映る処、日韓両国の関係は、今や政治のみならず経済においても、まさに「政冷経冷」(日経8/16)を醸しだす処です。

(注) 文大統領のラブコールながら、本質的に異なる政治思想, political governanceの下で平和統
合が叶うものか。因みに北朝鮮は米韓合同軍事演習に対抗、7月25日以降今日まで6度に亘る
ミサイル実験を行っており、そうした彼らに韓国へのrespectなど感じられることはありません。

2. 揺れる日米韓の安保連携

(1) 日米韓の安保連携から逸脱 (?) 目指す文政権
文政権の政治姿勢は「積弊清算」、つまり過去のあらゆる不正腐敗を批判(否定)し、自身の正当性を主張するという事ですが、これは人民委員会のようだとする声もある処、文大統領としては、その線上で、反日姿勢を鮮明にすることで、支持率上昇につなげていると指摘されています。とりわけ2020年4月の韓国総選挙では反日感情の高まりに便乗して支持率を更に高めんとする処で、日本との関係改善などはほとんど問題とする様子はありません。仮に徴用工賠償問題で日本が批判行動をとるとなれば、それは文氏の思うツボとなり、更なる日本依存からの脱皮、韓国の北朝鮮シフトが喧伝され、日米韓の安全保障連携からの逸脱が進むとされ、改めてアジアにおける日米韓安全保障体制の見直しが不可避となる処です。

さて、日韓関係が悪化すると米国が仲介し、収めてきたのが伝統でした。従軍慰安婦を巡る日韓対立ではオバマ前大統領が仲介し、2015年の日韓合意につながっています。が、今回は、韓国の最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟問題が絡むだけに、トランプ政権の対応はこれまでとは様相を異にする処です。つまり差し押さえられた企業の資産が売却され原告に支払われれば、先の完全で最終的な解決と謳った1965年の日韓請求権協定を根底から覆すことになるからで、要は自分のことは自分でという事でしょうが、上述事情に加え後出GSOMIA破棄問題も有之、トランプ政権は何時までそうした姿勢でいられるかです。

(2)日韓関係の行方を占う三つのポイント
韓国は、日本が日韓請求権協定(1965年)に基づき元徴用工訴訟について要請していた仲裁委員会の設置には応じない方針を示す一方で、日本の半導体材料の輸出規制強化では、WTOへの提訴を進めつつある処です。しかし自由主義、民主主義を標榜している先進二か国が互いに角突き合わせる事は両国国民にとって不幸の何物でもありません。とにかく、もつれた糸をほぐすには外交しかなく、日韓の場合、首脳会談と云う事になるのでしょうが、
その点で両政府は外交を取り戻す機会を探るべきと痛く思う処です。ただ韓国文政権が、北に向かう姿勢を対日関係において鮮明としている点で、それこそは韓国における日本の優位が減退していることの証左ですが、そうした変化を以下三点として見る限り、両者融解の可能性はまさに遠のくばかりかと思いを痛くする処です。

まず一つは中国の台頭です。韓国の輸出に占める中国の依存度は2000年に入ってからは日本を抜き、03年には米中も逆転し、07年からは中国だけで日米合計を上回るまでになっており、18年には中国(26.8%)が日本(5%)、米国(12%)を大きく引き離す処です。つまり実経済面で中国の重要性が日本を遥かに凌ぐようになってきたという事です。
次に、日韓の対北朝鮮路線が真逆になってきていることです。つまり、日本は核の脅威に対応するため米国と組み北朝鮮を封じ込める方向に動くも、韓国は核戦争を防ぐことを最優先として北朝鮮との融和を急ぐ方向にあり、従ってそうした韓国にすれば南北融和を応援してくれる中国が日本より大切な相手となる処です。 8月23日、韓国政府は、一連の安倍政権による対韓措置への報復として日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定しましたが、この決定は、東アジア安保の要となってきた日米韓連携と距離を置く革新政権の姿勢を鮮明とする処ですし、それは北アジア情勢に逆行する処と思料するのです。
そして、もう一つは韓国内事情の変化です。世代交代と民主化が進むにつれ、軍事政権が1965年に結んだ日韓請求権利協定は不平等と考える世論が広がっていることです。

では現状、どうするか? ですが即効薬はありません。要は今以上事態を悪化させないよう対処療法に務めるほかなく、普通の関係にするよう努力を続けていく事ではと思料するのです。それができない限り、その漁夫の利を手にするのは、日米韓を分断したい北朝鮮と北東アジアを自分の勢力圏に染めたい中国ではと、思料するのです。それは韓国にとっても国益にはならない筈です。 要は、日韓関係の悪化で韓国が北朝鮮に向かい、更には中国に接近していくとなると、そこには新たな地政学的環境が生まれ、もとよりこれが日本の安全保障にはマイナスとなる筈。米国が日韓対立に懸念を表明しているのもそのためです。

・序で乍ら、この週末フランスではG7サミットが開かれています。1975年のスタート以来、世界経済の安定、自由貿易の推進、北朝鮮の非核化など等、幅広く取り上げ共通のメッセージを発信してきました。今、機能の劣化が云々されるサミットですが、上述安保環境の改善に資する議論・行動を期待する処です。因みに安倍首相は最古参メンバーの一人です。



            おわりに 参院選後の安倍政治
                   ―MMTとアベノミクス

8月9日、政府は2019/4~6月GDP速報値を公表しました。 結果は年率2.2%の高い成長率を記録したというものです。異次元な財政出動と異次元の金融緩和を続けてきた結果と云う事なのでしょうか。まさにMMT(現代貨幣理論)の提唱者、NY州立大学のステフアニー・ケルトン教授によると、日本経済(アベノミクス)の今の姿こそは、その理論を実践するものと指摘する処です。

そのケルトン教授が7月16日、来日し、衆院議員会館でMMT論について講演を行ったのですが、それには多数の聴講者が集まったことが報じられました。
メデイアによると、彼女はお金を水に喩えて説くものだった由。つまり、水がたまるシンクが経済と云い、政府を示す蛇口から水が財政出動で、排水口から出ていってしまう水は税金を指す。そこで、経済を活気づけるには、財政をふかして減税するほど良いことになる。シンクから水があふれだす現象をインフレになぞらえ、以って財政出動の限界を表しているのだというものです。これではまるで中央銀行は政府の一付属機関にすぎなくなり、通貨の価値をだれが維持管理するのか、財政のdisciplineはどうなるのか、等々疑問の沸く処ですが、そのMMT理論を実践しているのが日本のアベノミクスだと評するのです。

アベノミクスがMMT理論と重なって映るのは、デフレ脱却を目指した日銀の金融緩和と政府の財政出動を組み合わせた手法です。2013年1月、安倍政権と日銀が合意した共同声明(アコード)では、日銀は物価上昇率2%をできるだけ早く実現するために金融緩和を進める、政府は機動的なマクロ経済運営を打ち出し、財政をふかすと宣言し、今日に至っています。ただ一点、MMTと一線を画すのが、財政再建の着実な推進を当該声明には含められている点です。確かに財政の規律ポイントとしてPB(プライマリー・バランス)の黒字化を挙げていましたが、残念ながらPB目標は延期が繰り返されている状況です。そう言ったこともこれありで政府関係者は財政を意識しないMMT理論とは全く関係ないと、冷ややかな態度です。

さて日本経済の現状は、遠のく2%目標を追う日銀の金融緩和に支えられ、緩んだ財政に浸る姿を演出する処ですが、となると繰り返されるのが、子や孫の世代へのツケは膨らむばかりとする批判です。ではこうした状態を克服する道はどこにあるのか? もはや言い尽くされた感のある処ですが、企業や社会の生産性を高め、経済を強くすることに尽きるものと思料するのです。この点こそはアベノミクスが積み残した主題であり、その為の施策の実行です。それはまさに王道に戻ることと思料するのです。

序で乍ら、ケルトン教授を日本に招聘したグループの一人が内閣参与で京大の藤井聡教授で、彼は内閣府参与としてアベノミクスに関わってきた仁です。その彼と3年前、ある研究会でGDP論争をしたことを思い出すのです。彼は当時536兆円のGDPは、前提を置きながら2020年には600兆円になると断じたのです。その結論はいうまでもない処です。

                      以上 (2019/8/25記)


posted by 林川眞善 at 11:19| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2019年07月26日

2019年8月号  今、国際社会は分岐点に - G20大阪サミットが映す国際社会の実像、そして日本は         - 林川眞善

目   次

はじめに G20大阪サミットは安倍首相の晴れ舞台だった
    ―「大阪宣言」は自由な国際貿易の堅持をうたったが

第1章 ‘G20大阪サミット’ と 米中関係の行方

1. G20大阪サミット総括
(1) 新たな国際社会の分岐点を映すG20大阪サミット
 ・サミットの場外で展開される各国外交
(2)米中首脳会談in Osaka と世界の生業
 ・米中協議の行方
 ・貿易戦争休戦の背景   
2.もう一つの米中経済関係:Counter-flow
 ・進捗する中国金融市場の開放 
 ・米国 v 中国
           
第2章 新たな国際環境と日本の目指すべき針路
-高坂正堯の示唆

1.日本の安全保障政策とトランプ氏の日米安保条約批判
(1) 日本の安全保障政策の基本
 ・日米安保条約
 ・トランプ批判を受け止めて
(2) 日本の安全保障とグローバル化対応
 ・日本の安保体制の土台の強化
 ・国際協調主義の堅持 
 ・ホルムズ海峡の安全確保と有志連合
2.対韓輸出規制問題
  ― 日本政府が切った対韓輸出規制強化のカード
          
おわりに 令和、初の国政(参院)選挙と安倍政権

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   
はじめに G20サミットは安倍首相の晴れ舞台だった
            ―「大阪宣言」は自由な国際貿易の堅持をうたったが

現下の世界情勢を定義的に申せば、米トランプ政権に代表されるように自国第一主義が広がり、グローバリズムは逆風に曝され、通商摩擦で世界経済の先行きには暗雲が漂い、ロシアなど力による現状の変更を迫る勢力も存在する状況にあり、と云う処でしょうか。

さて、今年6月28/29日、大阪で開かれた「G20サミット」は、安倍首相が議長を務める、まさに日本外交の矜持を示す格好の場となるものでした。周知の通り、当サミットの前身は、アジア通貨危機後の1999年に始まったG20財務相・中銀総裁会議ですが、それが2008年のリーマン・ショック後に首脳レベルの会合に格上げされたもので、今次G20への参加は総勢37か国・機関[注1]で、彼らの世界に占める比重は、GDPベースで8割、人口で3分の2ですから、まさに世界そのものと云え、安倍首相にとって、まさにルール作りの晴れ舞台を手にしたと云うところです。

果せるかなG20大阪サミットは6月29日、「自由で公正かつ無差別な貿易・投資環境を実現し、開かれた市場を保つために努力する」との文言を盛り込んだ6項目の「大阪宣言」[注2] を採択して幕を閉じ、その直後の記者会見では、安倍首相は、「意見対立ではなく共通点に光を当てた。G20は力強い成長をけん引する決意で一致した」と、主催国としての役割を果たしたと誇らし気に語る処でした。

しかし大阪に集まった各国首脳の行動は、G20サミットが使命とする世界経済の持続的成長を目指す ‘政策討議の場 ’ たるを意に介することのないほどに、これを機会と、夫々が抱える利害事情に即し、当該関係国との協議に向かう、つまり サミットの場外での首脳会談、個別外交に向う姿こそがそのリアルと云え、G20サミットの機能の不全すら、感じさせる処でした。「大阪宣言」はそうした状況を映し、例えば温暖化対策と云った地球の未来がかかるテーマさえ足並みをそろえられない国際社会の姿を炙りだし、米中対立のあおりでG20を軸とする多国間の調整力の劣化を象徴する処、機能不全が指摘されるWTOにしても改革を目指す方針こそ打ち出したものの肝心の中身に踏み込めずじまいにあるのです。

[注1] G20参加:日米中等メンバー国19か国とEUの計20か国、国際機関9機関(UN.
IMF, OECD, WTO 世銀、ILO, FSB, ADB,WHO)、招待国8か国(オランダ他7か国)
の総計37
[注2] G20首脳宣言6つの項目(日経 6月30日)
1. 貿易摩擦がリスク、2. データ流通促す、3. インフラ開発で債務配慮
4. 税のデジタル化が進展、5. 女性の活躍不可欠、6. 環境問題は喫緊課題
こうした環境にあってトランプ米大統領は、日本が安保体制の基本軸としてきた日米安保条約は米側にとり片務協定だ、改めるべきだ、と批判を繰り返す処です。実はこれが不安定な国際環境に照らすとき、日本の今後の在り方を問うきっかけを生む処とも云えそうです。

そこで本論考ではまず、当該サミットの実態を検証、総括し、サミット後の米中関係の行方について考察する事とします。偶々、米中対立構図のなか、金融界こそは米中関係の深化が進む処とThe Economist (July 6~12)は、その状況の実際を伝えるのです。そこでこの際は併せてその概況を紹介しておきたいと思います(第1章)。そして次に、トランプ氏の日米安保条約批判を受け、この機会に、日本の安全保障対応に留意しつつ、日本の目指すべき道、針路について考察する事としたいと思います(第2章)。 

7月21日の令和初の国政選挙、参院選は、与党(自・公)が勝利し、安倍首相は 今や‘つくられた争点’とされた憲法改正に歩を進めんとする処です。ただこれがbeautiful harmony、を追求する環境づくりにつながる事か、国民が今求める事案なのか、そして、日本は政治も、経済も正しく「令和」のそれに向かう用意はできているか、その思いを痛くする処です。



第1章 ‘G20大坂サミット’ と 米中関係の行方
                            
1. G20大阪サミット総括  

(1) 新たな国際社会の分岐点を映すG20大阪サミット
        
そもそもG20サミットは前述した通り、2008年、時のリーマン危機に対峙する中、持続的成長をいかに図るべきか、世界レベルで対抗策を練るために主要20か国・地域首脳会議としてスタートしたものです。しかし、そうした流れを変えたのが2016年の英国のBREXITであり、アメリカでのトランプ台頭でした。そして両者に共通するのが自国第一主義です。

これまで国際協調こそが世界経済繁栄の枠組みと、米国主導ながら各種国際機関、協定が導入され、以って世界経済は運営されてきました。しかし‘米国第一’が謳われ、国際協調軽視のトランプ米大統領の台頭で、既存の行動様式を以ってしては、これら協調の枠組みが廻らなくなってきた一方、異質な一党独裁を以って米国に次ぐ世界第2位の経済大国となった新興中国が、習近平主席の長期ビジョン「社会主義現代強国」化の下、新たな中国圏形成を目指す政治行動とも相まって、米中2大経済大国は覇権争奪戦の様相を呈する処です。

昨年7月から始まった米中関税合戦こそはその象徴と云え、今2年目に入った処ですが、米中追加関税の発動は他の国々を巻き込み、貿易の流れに構造的な変化をもたらしてきています。と云うのも、グローバル企業は両国にまたがって築いたサプライチェーンの見直しに拍車をかけ、これが世界経済に新たなリスクを呈する処となってきています。今次G20サミットに集まった各国首脳の関心は、そうした世界的構造変化に自らの利害をいかに対応させていくかに絞られ、サミットでの多国間協議よりは、その為の個別会談に向けられるものでした。

・サミットの場外で展開される各国外交
因みに、トランプ氏は、サミットの合間を縫って、インドのモデイ首相やブラジルのボルソナロ大統領ら10人ほどの首脳との会談をこなしていますが、米政府関係者は「中国の影響力を排除する包囲網づくりが狙い」と明かす処です。 一方、習主席も負けてはいません。メルケル独首相、マクロン仏大統領ら欧州首脳と個別会談を持ち、気候変動対策等などで「多国間主義を守ろう」と接近、南アなどアフリカ3国との首脳会談では「中国とアフリカの協力関係は不変だ」と強調。その限りにおいてG20各国は米中対立のはざまで、双方の陣営作りに踏み絵を迫られる様相にあったのです。

こうした米中の動きの裏を返してみると、米中の2大大国のまさに覇権争いのすきを突いて台頭しようとするロシアとインドの姿があり、彼らは彼らで個別会談を通じて、独自の経済圏を目指さんと、自国第一の姿勢を強める処、世界はまさに液状化を映しだす処です。

つまり、プーチン氏は大阪サミットで訪日予定の直前、Financial Timesとのインタービュでは,‘The liberal idea has become obsolete ‘(自由主義は時代遅れ)[Financial Times June 28]、として、トランプ氏の保護主義的な政策を批判する一方、サミット開幕前には大阪市内でBRICS 5か国首脳と会談、「世界経済発展の公正な新しいモデルをつくろう」と呼び掛けていたのです。 一方、インドのモデイ首相もまさに米中を天秤にかける様相で、28日の安倍首相、そしてトランプ氏との会談では人口世界一の民主主義国家という面を強調し、その数時間後には習近平氏とプーチン氏との会談に臨んでいます。いずれもモデイ氏が呼び掛けたものでした。 ただG7で中心的役割を果たしてきた欧州勢は国内のナショナリズムやポピュリズムの伸長で精彩を欠く処、これもあれも自国第一と、会議が散漫になっている点で、ナポレオン戦争後の終戦処理のためのウイーン会議(1814~15)ならぬ「会議は踊る、されど進まぬ」様相が伝わる処でした。

各国が演じる行動のリアリテイとは「大国なき世界」の実像を語る処、それは新たな相関図を成す処とも言え、今次のG20こそは、国際社会の分岐点を象徴する事態です。 いまやG20サミットは劇場(アリーナ)型外交の場とも言え、「会議は踊る、されど進まず」と揶揄されたナポレオン戦争後のウイーン会議(1814~15)すら想起させる処です。

大阪宣言は、こうした経緯を経て取りまとめられたものですが、7月1日付けFinancial Times、社説「G20 meets a low bar for global co-operation」では、トランプ氏への配慮を色濃くしたG20サミットと、従ってG20を軸とする多国間の調整力はすっかり失われてきたと懸念を募らせる処でした。が、そうした中、6月28日、EUは、ブリュセルで行われていたブラジル、アルゼンチン、ウルグアイそしてパラグアイの南米4か国で構成する関税同盟、Mercosur,(南米南部共同市場:メルコスル)とFTA交渉で政治合意した旨発表、以ってこれがmost notable success, 極めて素晴らしい成果と、祝福すると同時に、NZ,豪州とのFTAの可能性もこれありで、EUのリーダシップに期待し、international co-operation is still functioningと指摘するのでした。因みにアルゼンチン、サンタフェで行われていたメルコスル首脳会議で、7月17日、マクリ・アルゼンチン大統領は「我々は国際的なバリュチエーンを作るために新たな国や地域と交渉を進める」と演説する処です。(日経7月19日)

要は、G20サミットはもはや政策協調を通じて世界経済の発展を目指す場ではなくなってきたと云う事ですが、そこで世界は、勿論日本も含め、新たな相関図に即した戦略の再構築、新たな協調体制を模索していく事が焦眉の急と、映る処です。

(2)米中首脳会談in Osakaと世界の生業

・米中協議の行方
G20サミットを機会に大阪で行われた米中首脳会談こそは世界最大の関心事とされたものでしたが、その結果は報道されている通り、5月に決裂した閣僚級の貿易協議を再開する事、米国が中国製品3千億ドル分への追加関税を当面見送ることで折り合いがついたと云う事、そしてもう一つ、米政府が安全保障上、技術漏洩につながるとして、米企業の中国通信機器大手メーカ「フアーウエイ」への輸出規制措置について、トランプ氏はその制裁の緩和を表明したことで、結果、米中貿易戦争は一端 休戦入りとなっています。

ただし、米中協議継続について、7月9日、米USTRのライトハイザー代表が中国の劉鶴副首相と電話協議をしたと報道されてはいますが、その協議結果は明らかにされることなく、対面協議の予定も未だしの様相ですし、また中国側は協議再開の条件として、フアーウエイへの制裁措置解除を優先課題に掲げていたものの、具体的条件などは十分詰め切られている様子もなく、米中それぞれの国内事情とも相まって、合意の道筋が描けぬままにあり、交渉の長期化の恐れぬぐえず、と云った処です。

・貿易戦争休戦入りの背景
米中休戦入りの事情とは周知の通りで、トランプ氏の場合、米大統領選を控えたまさに個人的政治事情の他なく、大阪での米中首脳会談で習氏との合意ができたことに加え、サミットが終るや北朝鮮に赴き、金委員長と板門店で電撃会談するなど、要は2020年の大統領選での再選に向けた不確実要素を取り除いておきたい、と云う事と云え、要はトランプ支持層受けする行動専一と云う処です。それだけに出口戦略のない、ありていに云えばマッチポンプであり、その事こそが世界が不安要因となる処です。因みに米朝首脳会談でも肝心の核開発の全面停止発言も今では、‘金委員長と会談した’こと、だけを以ってトランプ支持層へアピールすることにあり、その結論に責任を取る様相はありません。

一方、習氏の場合、国家元首として10月1日、中国建国70周年の祝賀事業を最重視する事情から、停滞が云々される中国経済の立て直しが急務とされる処(注)、貿易戦争のリスクを金融緩和で回避せんと必死にあり、更には香港での民主化運動の広がり等、政治課題真っ只中にあり、従って、暫し貿易戦争は休戦に向かったということなのでしょう。

      (注) 7月15日発表の2019年4~6月GDP成長率(実質)は前年同期比6.2%、リーマン直
後の2009年1~3月期の6.4%を下回り、四半期ベースでは1992年以降で最低。長引く貿
易戦争が重しとなり、投資、消費が振るわなかった結果と。

つまり、トランプ氏の場合、2020年選挙に備え、中国とも北朝鮮とも協議再開で結論を先送りし、習氏も経済減速などで自らの基盤を揺るがす動きが国内から強まりかねない事態を警戒し、トランプ氏と妥協せざるを得なかった事情からすれば、対立の基本構図は変わることなく、従って米中合意の機運乏しく、具体的な協議のスケジュールのないまま、合意のハードルは5月の決裂前よりも上がっているのではと危惧する処です。 というのも、巷間トランプ氏の功績?は対中姿勢を硬化させたことではなく、中国への敵意を支配階層全体に広めた事(Financial Times, July 11)とされている点で、政治・外交の指導者や企業経営者は今や、中国との長期戦を支持しているとみられるからです。

さて、今次大阪サミットは、そうした政治と外交、そして貿易が密接に絡むパワーゲームが世界を翻弄する現実をリアルとする処でしたが、改めて覇権国家とは何かを問い直し、それにいかに抗していくべきか、新たな生業への挑戦が示唆される処です。

2. もう一つの米中経済関係:Counter-flow
― America and China are at each other’s throat, but also in each other’s pockets.

上述米中貿易戦争が深まる中、この対立の流れとは180度、異にする米中経済関係の深化
が進む業界があると、金融業界の結びつきの実相を7月6日付けThe Economist誌 は指摘
するのです。これもトランプ氏が事態をどのように認識し、如何なる行動に出るかで、大変
な結果が懸念される処、まずはその概要を紹介することとします。

・進捗する中国金融市場の開放
米中貿易戦争が始まって以降、中国と欧米の金融面での結びつきはむしろ深まる処、今後更に深化していく事になるとThe Economist誌は見るのです。確かに中国政府は金融市場の開放策を進めつつあり、昨年4月10日、習近平氏はアジアを中心に政財界の要人が集まるボ-アオ・アジアフォーラムで、国内市場を外資に開放するとし、昨年6月からは外資系金融会社に51%までの出資を認めたのですが、今年7月2日には、李克強首相は2020年からは外資による全額出資を容認する旨、発表。更に7月20日、外資格付け会社の業務拡大を柱とする11項目からなる金融市場の新たな開放策を発表しています。

周知の通り、中国の資本市場は今尚、発展途上の状況ですが、巨大なだけに、欧米企業が本格的に事業展開すれば、その水準を引き上げることにつながると見る処です。と云うのも中国がもっと資本を効率的に配分し、中国人の預金を生かしていく上で最優先すべき事だからと云うのです。

加えて中国はこれまでよりも海外の資本を必要としている事情を指摘する処です。つまり、中国の経常黒字は2007年のGDP比10%から昨年には同1%未満にまで減少しており、海外から安定的に資金の流入がなければ、人民元が下落し、不安を招くことの可能性が指摘される処、元米財務長官のヘンリー・ポールソン氏などは西側諸国の金融機関の中国進出を支持するのです。もとより、これらの動きを以って中国がすぐに市場経済の国に変るわけではありませんが、中国企業が透明性を高め、市場からの反応に対応し、知財権を尊重する方向へと繋がっていくはずだとする処です。
因みに、通信機器最大手のフアーウエイがHSBCを活用したように、中国企業が海外進出にあたって欧米の銀行を使うようになれば、汚職や制裁措置を巡るさまざまな国際ルールに従うことを余儀なくされていく事になるからと期待を込めて言うのです。

(注)Goldman Sachs推計が示唆する米中金融関係の深化
Goldmanの推計では、今後10年間で海外から中国株式市場に流入する投資額は
約1兆ドルに上り、中国は世界有数の投資先になると見る処、これには中国政府
が自国民には厳しい資本規制を課す一方で、外国投資家には株を売却し、資金
を国外に移すことを禁じていないことが大きいとするものです。

・米国 v 中国
米国が国際金融システムから中国を排除しようとすれば、中国は1945年以来、国際金融市場を支配してきたドル・ベースのシステムに代わるシステムをやがて構築することになろうし、そうなれば米中は今にも増して幅広い分野で対立を深めることになると云うのです。しかし中国は、当面は米中が貿易や技術を巡って対立しても、海外の投資家や外資企業の中国市場参入を歓迎し続けるだろうと想定しつつ、トランプ氏の行動にも照らし、関係を断ち切るより、築き上げる方が得られるものは大きいと締めるのですが、然りと云う処です。



第2章 新な国際環境と日本の目指すべき針路

― 高坂正堯の示唆
今から27年前、当時京都大学の国際政治学者、高坂正堯は「日本存亡のとき」(1992年)の中で、「日本は世界に影響を与える存在となった」と云い、しかし「世界のルールに進んで貢献しようとしない」、「これでは日本の発言力は強くならないし、警戒もされる」と警鐘をならしていたのです。 それは、日本人には国際環境を「気象」のような与件としてとらえ、それに対応することを以って外交と見做すところがあり、自らも加わって変えていく事ができるものとして国際環境をとらえることが少ないためだ、と指摘していたのです。

さて、国際環境の今は、本稿冒頭「はじめに」で定義したように、急速かつ多元的変化を示す処、では日本は如何なる道を歩むべきなのか問われる処です。これまで日本は、外交・安保においては日米同盟を基軸とし、国連中心の国際協調主義を土台としてきていますが、それを見直せと云う事になってきたと云う事です。現実には前述した通り、トランプ氏は日本が外交・安全保障の基軸とする「日米安保条約」について、米国にとり片務的だと批判し、その改定を迫る処です。それは自分の安全は自分で守れとのトランプ氏の趣旨に沿うものと承知する処、であれば、本来なら日本を含むアジアの平和を保つにはどうすればいいのか、となるのでしょうが、この際は日本としてトランプ発言を目覚まし時計として、日米安保体制の土台を強めるきっかけとして、日本の外交・安保をどのように考え、対応すべきか、上記高坂の指摘を心しながら、その針路について考えてみたいと思います。

1.日本の安全保障政策とトランプ氏の日米安保条約批判
 
(1)日本の安全保障政策の基本

・日米安保条約
日本の安保政策の基本軸となるのが日米安全保障条約です。周知の通り、この現行日米安保条約についてトランプ氏は、米側に負担が偏っている、不公平だと批判し、その修正を求めています。こうもおおっぴらに不満をぶつけた大統領は近年いません

そもそも日米安保条約とは、日本が独立を回復した1951年のサンフランシスコ講和条約と同時に署名され、1960年に岸伸介首相とアイゼンハワー米大統領のもとで全面改訂され、前文と10条からなる日米同盟の基礎となる条約です。60年の改定で日本が領域内で他国から武力攻撃を受けた際、日米両国が自国の憲法の規定に従って「共通の危険に対処するよう行動する」(5条)と定められ、陸海空の領域、サイバー空間などで日本が受けた攻撃に対し、米国には集団的自衛権を行使して防衛する義務が生じる事になっています。つまりトランプ氏のクレームは、米国が日本を防衛する義務を定めている反面、日本の自衛隊は米国を守ると規定していない点で、これでは不公平だと批判する処です、

尚、在日米軍との関係について、安保条約6条では米国は「日本の安全」と「極東における国際平和と安全の維持」に寄与するため、日本国内に米軍基地(施設・区域)を設置できるとされ、在日米軍が駐留する根拠となっています。では米軍の駐留経費ですが、米軍基地の土地代や施設・区域の提供は日本が負担し、米側の要請に応じて基地従業員の人件費や光熱水料も「思いやり予算」として日本が負担、2016年度より5年間の負担総額は約9465億円に上る処です。

・トランプ批判を受け止めて
トランプ批判については、一部にはこれから再開される日米通商交渉に向けた脅しだとする向きもあります。しかしこの発言が大統領選を見据えたものとすれば相応の真剣さがあり、従って正面から受け止める要ある処と思料するのです。とすれば日本としてはこれにどう応えてくか真剣に向き合っていく事が不可避と思料する処です。それはまさにGゼロ時代の日本の課題とも言え、不安定化する世界で日本はどう生きていけばいいのかを問う事になる処です。そこで、日本の安全保障政策の在り方(考え方)、そしてグローバル経済と日本経済の合理的な取り組みについても安全保障の一環として考察したいと思います。

(2) 日本の安全保障とグローバル化対応

・日米安保体制の土台の強化
日本の安保体制は前述の通り、日米安保条約に担保された同盟関係を前提とするものですが、日本の地政学的環境に照らすとき、今後もその前提に変わることはないものと思料するのです。勿論、合理的な日米関係維持のためには、環境に応じた、当該条約の見直しは自然なことと理解でき、それは体制土台の強化につながる処とも思料するのです。

仮に安保条約改定に臨むとして、その際は限られた資源の中で日本の安全を確保するために、できる事、できない事を、はっきりさせていくことが何としても肝要と思料するのです。そして米軍に対して「何を、どこまで」協力するのか、シナリオ別に米国と詰めておく事と思料するのです。勿論簡単なことでないこと承知の処ですが、要は日本の貢献が目に見える形で示されていく事で、これがただ乗り批判に対抗し易くなるのではと思料するのです。
尤も、現実の対米外交としてトランプ氏への過度な傾斜には功罪のある処、では日本が目指すべき持続可能な外交とは何か。それは多国間主義、国際ルールに重きを置いた外交と思料する処です。

尚、序で乍ら「安保防衛の視点から、国際的な軍事協力を図るためにも、自衛隊を国の正規の軍と明記する必要がある」、これが安倍首相をはじめとする改憲派の目指す現行憲法改正の事由です。しかし2015年の安保法制の改正で、国会の承認を得て一定の範囲での軍事協力は可能となっています。そして多くの場合、防衛戦略論として出てくるのが軍備拡充論ですが、これもいくら核装備を持ったとして、使用できないのが現実です。
その点で意識を新たにしなければならないことは、現代において、攻撃は何も軍事的なものだけではないと云う事です。ビジネス的な攻撃もあり、国際的な経済ルールを日本が非常に不利に策定されてしまう事だってあるのです。つまり、日米同盟と云う事で思考停止せず、グローバルな経済対応も、安全保障の一環として戦略的に取り組んでいく、つまり防衛も、経済も全方位での外交を心がけていかねばならないと云う事です。

・国際協調主義の堅持―多極化する世界で大事なのは仲間
多極化する世界にあって仲間は大事な要素です。とりわけ日本の置かれた地政学的環境にあっては、お友達をたくさん作る事は絶対的条件です。そして彼らと組んで新しい世界秩序を模索する、これこそは多極化する世界に対峙していく姿勢であり、日本が矜持とする処と思料するのです。

先の弊論考7月号で紹介したFinancial TimesのM. Wolf氏は、米国への対抗も含め自由貿易を堅持するためにも例えばEUと日本の間で共同歩調を維持すべきと提案していましたが、その文脈において、この際は日本が主導してきたTPPとEUの大連携構想を進めてはと思料する処です。これが狙いとするのは、経済面に止まらず自由貿易や多国間の貿易体制を守り続けると云う政治的メッセージにある処です。勿論、日欧間で米国を無視するかのような貿易構想が浮上しているといった誤解を招くのは禁物ですが(上述ウルフ氏はその点、無視していますが)多国間で自由貿易を盛り立てる努力は欠かせない事と思料するのです。

加えて、日本がやらねばならないことは、世界共通の課題、グローバルイシューに対して汗をかいていく事でしょう。例えば、今次G20サミット宣言でも謳われた海洋プラステイック投棄問題、「ブルー・オーシャン・ビジョン」です。それは2050年までにプラステイックごみの海洋投棄をゼロにするというものですが、まずは日本として当該ビジョンの具体化を主導することでしょう。そうすれば日本は国際社会から尊敬され、スポイルされるような目にあうことはなくなるはずです。これら取り組みは日本のためと云うこともさることながら、地域連携の強化、グロバリイムズの堅持に貢献する処であり、世界的な広がりを持った戦略対応と云うもので、大阪宣言の有言実行を狙う処でもあるのです。

・ホルムズ海峡の安全確保と有志連合
さて時まさに、トランプ政権は2018年5月9日、イラン核合意から離脱、米・イの関係は悪化が進むさなか、トランプ大統領は7月18日、ホルムズ海峡で米強襲揚陸艦「ボクサー」がイランの小型無人機を撃墜したと明らかにする一方、自国の船は自国で守れとのトランプ大統領の持論を踏まえ、米側はホルムズ海峡の安全確保を名目に、有志連合の結成に動き出し、日本にも有志連合の一員として民間船舶を擁護するよう呼び掛けています。
要は、同盟国に安全保障の分担を求める姿勢ですが、原油の8割超を中東に依存する日本にとって待ったなしの課題です。仮に日本が有志連合に参加したとして、イランとの関係が変わるだけでなく、米中対立に巻きこまれる恐れもあります。つまりは中国や東南アジアを含むアジア全体でエネルギー安全保障をどう実現していくか、日本はこの視点を欠くわけにはいかない筈です。21日、参院選を終えてのNHK番組に出演した安倍首相はイランとの友好関係につて問われ「ホルムズ海峡が波静かになるよう日本の役割を果たしたい」と強調していました。外交・安保は現実路線で進めるべきとされる処、さて安倍政権はどのように応えようとするのか。その推移は極めて気がかりとする処です。
 
2.対韓輸出規制問題
    ―日本政府が切った対韓輸出規制強化のカード

日本政府は7月1日、韓国への半導体材料、3品目(フツ化水素、フツ化水素ポリイシド、レジスト)について輸出規制を厳しくする旨を発表。当該3品目については個別に審査・許可する方式に切り替えることとし、4日から発動しています。そして今夏中に安全保障上の友好国である「ホワイト国」の指定も、削除すると云うものです。規制対象品のレジストは日本の世界シェアが9割、フッ化水素(エッチングガス)も9割前後にあり、これら製品の日本国内での輸出手続きに時間がかかるとなると、韓国電機産業の生産への影響大なる事、言うまでもなく、図らずも韓国が誇る世界最先端機器に日本の材料や部品が欠かせない関係性が明るみに出た次第です。

これまで度重なる政治摩擦に曝されながら経済界や民間は互いに相手を認め、補い合ってきたとされていました。が、日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた判決で、三権分流を盾に実効的な対策を打とうとしない韓国政府を動かさんと、日本政府は交渉カードを切ったと思料され、とすれば、今回の決定は、日本政府は否定してはいるものの、元徴用工訴訟を
巡る韓国への事実上の対抗措置と見受けられる処です。先のG20サミットで安倍首相が議長国として公表した「大阪宣言」では自由で公正な貿易の重要性を訴えたばかりでした。
中国の台頭や北朝鮮問題に対峙する隣国が角を突き合わせているだけでよいわけはありません。米軍を交えた安全保障協力への影響も避けられないのではと思料する処、20日にはトランプ大統領は要請があれば仲介役を買ってもいいと云いだしています。

韓国は、日本が日韓請求権協定(1965年)に基づき元徴用工訴訟について要請していた仲裁委員会の設置には応じない方針を示す一方で、日本の半導体材料の輸出規制強化では、WTOへの提訴を決めたと報じられる処です。日韓関係は悪化の一途と云う処ですが、とにかく、もつれた糸をほぐすには外交しかなく、日韓の場合、首脳会談と云う事になるのでしょうが、その点で両政府は外交を取り戻す機会を探るべきと痛く思う処です。

さて、韓国中央銀行は18日、電撃的な利下げ(政策金利を0.25%引き下げ,年1.5%に)に
踏み切りました。「中国」と「半導体」への依存度の高い韓国経済は、米中貿易戦争と半導
体メモリーの市況悪化で減速感が強まっている折、日本の半導体材料の輸出規制強化が追
い打ちとなって経済の不確実性が一層強まったと、3年ぶりの金融緩和に舵を切ったと云
う事ですが、今回の措置では不十分と早くも追加利下げを求める声が上がっている由です。
とにかく上述努力を含め、日韓の友好関係の恢復を念じるばかりです。



おわりに 令和、初の国政(参院)選挙と安倍政権

さて、令和初の国政選挙、参院選も終わり今、安倍政治はbeautiful harmonyを追求する環境を得たと云う処でしょうか。選挙結果は周知の通りで、自民党は改選議席124議席中、57議席、公明党が14議席、与党としては改選過半数の63を上回る71議席を獲得、安倍自民党総裁は自民党の勝利を宣言しています。但し自民党自身、全体で57議席を得たものの、改選66議席から9議席減らして自民単独過半数を失っているのです。
とは言え、これで安倍自民党は2012年12月の衆院選から、国政に6連勝し、6年半以上続く長期政権の基盤を更に固めたとされる処です。しかし、彼が公約と掲げた改憲ですが、その改憲発議に必要な参院の3分の2の議席数には及ばずでした。序で乍ら、選挙戦の争点とされている「改憲」を公約とすることについて、実は選挙戦ぎりぎりまで様子見にあったと伝えられていましたが、その姿勢が何を意味するか、関心の沸く処、いずれにせよ9月に予定される内閣改造では、改憲を見据えた布陣となるのでしょう。

21日夕刻のNHKテレビ番組に現れた安倍首相は、今次選挙結果について意見を求められ「国民は安定した政治基盤のもとに、政策を進め、外交を展開し、国益を守れという判断をした」と応じ、以って改憲論議を深めるべきとの民意が示されたと強調するのでした。しかし、世論調査では近時国民の関心事のトップは常に社会保障問題です。しかし、超高齢化社会を見すえた社会保障制度も改革など、大胆な改革は先送りのままにあるのです。憲法改正となると、その前提として日本の国家像の明示が不可欠ですが、勿論それもないままです。

次に、残る総裁任期(21年9月)での課題は何かと問われ、安倍首相は次の3点を挙げています。一つは「北朝鮮による日本人拉致問題」、二つに「日ロ平和条約の締結」、そして三つめとして「デフレ脱却」をあげるのでした。しかし前二項は、「戦後外交の総決算」として、既に幾度となく挙げながらも聊かの前進を見ることもないままにある処です。又 デフレ脱却にしてもアベノミクス3本の矢の三つ目の矢の問題ですが、あれだけ騒いだ、経済成長のための「第3の矢」と云う言葉はほとんど聞くことはなくなっています。どう理解すればいいのでしょうか。
偶々23日、内閣府が発表した今年度の経済財政白書では日本経済の課題に切り込むよりも、既存の政策の正当性を補強する色合いが濃いものとなっています。要は不都合な事実から目をそらす現政権の姿勢を映す処と云え、これからもそれが続くことになるかと思うと、なんとも耐えがたいもの禁じ得ないのです。
以上 (2019/7/26 記)
posted by 林川眞善 at 14:37| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする