2021年02月26日

2021年3月号  ’対中国で再結束目指す’バイデン政権下の米国と国際関係 - 林川眞善

目  次

はじめに 2021年は多国間主義の転換点    

(1)バイデン米国主導の多国間会議は国際協調
(2)新生英国が標榜するは`Global Britain’

第1章  バイデン米政権と国際協調

1. バイデン外交の姿勢
・米国は戻ってきた
2. バイデン政権の対中政策の枠組み
(1)対中政策はOne-China policy
  ・二人のCommentator:P. Stephens & M. Wolf
(2) ‘インド太平洋調整官’ の新設
3. 対中政策に映るバイデン政権、二つの戦略思考
(1)戦略的競争(Strategic Competition)
(2)戦略的忍耐(Strategic Patience)

第2章  Post-Brexit、新生英国の行方
 
1.‘Britain‘s place in the world’(新生英国の世界の居場所)
(1) Global Britainが目指す役割、そして今、対峙する問題
  ・ジョンソン政権の課題
(2)終焉 迎えつつある英・中「蜜月関係」
・Anglo American alliance 再生
2.英国のTPP参加申請と日本

おわりに 「大観」を思う         
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はじめに 2021年は 多国間主義の転換点

(1)バイデン米国主導の多国間会議は国際協調
2月19日、G7サミットが、オンラインで開かれました。その会議は、トランプ米大統領の下で深まったG7の亀裂を修復し、新型コロナウイルス危機や気候変動問題、そして脅威を振りまく中国に対して、協調して対応する決意を明確にするものだったと、国際協調再出発を記す処です。
尚、国際協調を掲げる米国バイデン大統領、日本の菅首相、イタリアのドラギ首相の3人が初参加、議長は2021年のG7議長国を務める英国ジョンソン首相。6月英南西部コーンウオールで対面開催予定のG7首脳会議に先立つ会となるものでした。尚、EU中銀総裁として国際協調の最前線に立ってきたドラギ氏の首相就任は、バイデン政権誕生後の国際協調機運の拡大に一段の追い風となる処、因みに17日の所信表明演説では、彼はコロナ危機下「EUの視点を共有し、新たな復興を目指す機会だ」と連帯を訴えるのでした。又、19日のG7と並行して開かれていた「ミューヘン安全保障会議」に、バイデン大統領は、これにもオンラインで特別出演し、画面越しに見つめるメルケル首相、マクロン大統領を前に「米国の米欧同盟(大西洋同盟)への復帰」を宣言したと報じられる処です。(日経2/21)

上記、G7に先立つ17日には バイデン米政権発足後 初のNATO閣僚会合となる国防相理事会が開かれています。これも、高まる中国の脅威への対抗を柱とした会合とされています。勿論、トランプ政権以来の国防費負担率問題、等問題を抱えての会合でしたが、今次会合は米欧同盟の修復へ2030年に向けた新しい改革構想の検討をするものと報じられています。

一方18日には、日米豪印4か国外相会議が電話協議ながら行われています。これも周知の通り当該4か国が、中国の影響力拡大を意識して立上がったもので、2017年マニラで4者局長級会議を開いたのが始まりとするものです。従って中国がそのテーマの中心となるものですが、自由や民主主義、法の支配等、価値観を共有する国同士で経済や安全保障上の協力を進めんとする枠組みで、近時「QUAD」(4者会)の通称で定着する処です。

・中国依存のsupply chainからの脱却:バイデン大統領は、こうした国際協調を進める中、半導体や電池等重要部材4品目の安定した調達体制を整えるべく、期限100日として当該supply chainの見直しを、同盟国や地域と連携して加速させることとして2月24日、大統領令を発令しています。云うまでもなく中国依存の供給網からの脱却を目指す処です。

(2)新生英国が標榜するは‘Global Britain’
加えて注目されるのが英国の生業です。周知の通り英国は2020年12月31日、移行期間を終え、EUから離脱し、EUの束縛からの解放、主権の回復と、歓喜するところです。尤も筆者には何か異様に映る処でしたが、とにかく英国とEUの両者は12月24日、通商協定にも合意し、「合意無き離脱」の大混乱を回避したのです。 そして新生英国は、メイ前首相同様、Global Britainを標榜する処ですが、さてEUの制約から解放たれた英国は、国際的に如何に影響力を振うこととするのか。 そんな中、2月1日、英国はTPPへの加盟申請を行いました。英国のTPP加盟は自由化の水準が高いとされる貿易圏をアジア太平洋地域の枠を超えて拡大することは世界経済に新たなインパクトを齎すものと歓迎される処です。ただ今、英中「蜜月」関係の終焉が取り沙汰されていますが、気になる処です。

そこで、今次論考では、これら多国間会議の流れを枠組みとしながら、トランプ氏退場後、世界を国際協調へと主導するバイデン米国の外交姿勢、米中関係の行方、そしてEUを離脱したジョンソン英国が掲げるGlobal Britainの行方、更に、上述、英中「蜜月」関係の終焉について考察することとします。まさに「新たな世界の中の米英の生業」フォローです。


第1章  バイデン米政権と国際協調

1.バイデン外交の姿勢

「世界の中でアジアほど米国の国益にとって重要な地域は他になく、米国の関与が薄れることで多大な損害を受ける地域も他にない」(No part of the world matters more to America’s interests than Asia, and no part stands to lose so much from an American retreat.) これはThe Economist、Jan.30の掲載記事「America in Asia:Free not to choose – In its rivalry with China, America should not force Asians to pick sides」の冒頭のフレーズです。

米国は戦後、アジアの安全を保障してきただけでなく、貿易や比較的開かれた市場を保つ政策を通じて、この地域の繁栄を支え、地域内の国際秩序を維持する存在と位置付けられてきました。しかし、わずか4年ながら自己中心的なトランプ政治は、米国の地位に打撃を与え、同時に米国を頼ることが果して賢明な事かと、アジアの一部の人々に疑問を植え付ける結果となった事に、米国にとってのアジアの重要さへの思いと、それを台無しにしたトランプ政治への恨み節がないまぜとなって語られる処です。

ただトランプ氏のスタッフは一つ大事なことを理解していたとする処です。それは権威主義的な中国の存在は、西太平洋地域での米国の優越的地位だけでなく、米国が支えてきた経済秩序にとっても脅威になっているという点だったと云うのです。ただ、中国が南シナ海で強引に勢力圏を主張し、その影響力を高める一方、米国はその地位の低下を余儀なくされてきている現実に照らすとき、バイデン氏が目指すべきは、アジア諸国に反中路線を掲げるよう求める事よりも、米国に対する信頼の回復が第一であり、中国を睨んだ安全保障上の防護壁以上の存在になることだ、と云うのでしたが、自然な生業かとは思料する処です。

・米国は戻ってきた: さて、バイデン米大統領は2月4日、外交政策に関する初の演説を行い、その中で「米国は戻ってきた。対外政策の中心に外交が戻ってきた」と、同盟関係を修復し、再び世界に関与すると宣言するのでした。つまり、同盟国との連携を通じて、存在感を増す中国やロシアの脅威に対抗する姿勢を強調するものの由でした。

では、バイデン政権の対中政策は如何?ですが、2月5日、新任ブリンケン米国務長官は、中国外交担当トップのヤン・ジェチー共産党政治局員との電話協議で、「台湾海峡を含むインド太平洋の安定を脅かす試み」については、同盟国と共に中国の責任を追及すると強調した由、報じられる処でした。 そして2月10日には、初となる米中首脳による電話協議が行われています。2時間に及ぶものだった由でしたが、バイデン氏からは「自由で開かれたインド太平洋」の維持が米国にとって最優先との立場を強調したとされる一方、習氏は中国共産党が最も重視する「核心的利益」の問題では一切譲歩しない考え方を表明したと、報じられる処です。(日経、2/12)

具体的な取り組みについては、各種メデイアの伝える処ですが、注目はFinancial Times のコメンテーター、Philip Stephens氏の提言です。1月21日付同紙で、新たにホワイトハウスに新設された「インド太平洋調整官」のポストに起用されたカート・キャンベル氏(後述)をリフアーしながら、バイデン大統領の就任を機に、前政権の強権的ともされた対中政策の修正と、同盟国との協調、連携をベースに、一つに束ねた対中政策の再構築、one-China policyをと、主張するものです。実際、バイデン政権としては、オバマ時代のような米中戦略・経済対話と云った枠組みを設ける事には慎重で、先ずは、同盟国と協議し、対中政策を密にすり合わせることを優先する模様で、つまる処、対中国包囲網づくりです。

2.バイデン政権の対中政策の枠組み

(1)対中政策はOne-China policy
ではその包囲網づくりの如何ですが、上記Stephens氏は、その高い関心の背景事情と併せて次のように語る処です。つまり、ワシントンと北京の関係について、この先十数年の地政学的生業を定義していくことになる、との見方があって、バイデン政権の誕生は、その可能性を測る格好の機会と見ているためだと指摘したうえで、それ故に対中政策は一貫性を持った one China policyとしていくべきと主張するのです。― The right answer to Xi Jinping is a one -China policy to counter Beijing’s strategy of divided and rule, the US and its allies need consistent policies。(Financial Times Jan.,21st Philip Stephens) 以下はその概要です。

・Stephens氏の提言:これまで西側の対中国へのアプローチを巡っては、最も問題とされていた事は、中国を経済のパートナーとして扱うのか、それとも競い合う大国と見るか、でした。西側は、経済関係を重視する立場と、戦略的競争に重きを置く立場を、いい加減に使い分けてきた、腰の定まらない対応を続けてきた結果が、中国政府を勝者としてきたと指摘する一方、今、中国政府は、誰はばかることなく独善的に振る舞い、世界の最重要国としての立場を声高に求める状況にあっては、西側世界は新たな対中政策が必要であり、バイデン政権誕生はその枠組みを決める機会を手にしたとするのです。

つまり同氏は、バイデン氏の大統領就任を機に、米国をはじめとする民主主義諸国は、新たなアプローチを軸に団結すべきであり、その際は、経済、安全保障、外交、軍事等、一連の政策について、同じ方向に向けた、一貫性あるものとしていく事が必要と云うのです。トランプ氏は、習近平氏に対して強硬な姿勢をとっていると自賛していましたが、実際には、その喧嘩腰の態度と、農産物の対中輸出を増やし国内の支持層を満足させようとする取り組みとは相反するもので、ボルトン氏などは、トランプ外交政策は全て自らの再選のための選挙運動だったとする処です。 そこで、中国政府が台湾の位置づけについて、「一つの中国」の表現を以って‘事態’に向かうように、この際は、米政権もこれをもじって「一つの中国政策」を目指すべきと云うのです。つまり、中国及びその近隣諸国との間にある数々の関係を明確な目的に向けた一つの政策に纏め上げ、一つの対中政策、one -China policyの下に結束し、中国に対峙すべきとするのです。

・Martin Wolf氏の助言:一方Financial TimesのMartin Wolf氏は2月3日付け同紙で、‘Containing China is not a feasible option’、つまり「封じ込め」は得策ではなく、先ず現在の米国の置かれた現実を認識することが第一とするのでした。実は、米国はかつて中国に対して、「責任あるステークホルダー」になる必要があると説く処でしたが、トランプ政権の4年間を経験した米国は今、責任あるステークホルダーなのかと問うと同時に、今日の現状に照らし、西側諸国として取り組むべきプロジェクトとして、次の5点を挙げるのです。

第1は、米国とその同盟国はそれぞれの民主政治と経済を復興させること。
第2は、真実を曲げないこと、そして言論の自由を認めるという中核的な価値観の堅持
第3は、世界経済の制度の再構築、中国の振る舞いに制限を加える新多国間ルールの提案
第4は、米国とその同盟国は、絶対に守る中核的利益がなんであるかを明確にする事。
最後に、バイデン氏が今やっているように、全人類の為にglobal commons(国際公共財)
を保護する共同プロジェクトに注力する事。

こうした提案は、米中の関係は旧ソ連との関係とは異なり、今後も両者間での争いが数多く起きるとの想定があって、一方では密接な協力も必要になる、との観点のからの提案と思料されるのですが、であればStephens氏、Wolf氏のいずれも中国への対抗を目指す趣旨にあるとすれば、各国の頑張りの成果を、one-China policyに組み込んでいくシステムが考えられないものかと思う処です。

(2) ‘インド太平洋調整官’ の新設
さて、バイデン政権は国家安全保障会議(NSC)にインド太平洋調整官を新設し、そのポストにアジア政策に詳しいカート・キャンベル(Kurt M. Campbell)氏を充てました。まさにバイデン政権での注目人事の一つです。つまり、オバマ政権で東アジア・太平洋担当の国務次官補を務め、調整能力に定評あるキャンベル氏を起用したことは、彼を軸に、同盟国との連携強化を通じて中国に対峙していかんとのバイデン氏の狙いが鮮明となる処です。
もとよりこれが、インド太平洋重視の表れのほかなく、日米に豪州、インドを加えた4か国協力対話「クアッド(QUAD:Quadrilateral Security Dialogue)」が一段と重要な基盤になっていくものと思料される処、前述の通り、18日には、日米豪印4か国外相会議が電話協議ながら行われています。

そのキャンベル氏はForeign Affairsに今年1月12日付で「How America can shore up Asia order ― A strategy for restoring balance and legitimacy」(アジアの秩序強化に果たす米国の使命)と題するpaperを投稿、その中で米国の戦略目標は「永続性のある力の均衡を東アジアで再構築する」事と、明示する処です。そして、ルールに基づくシステムにあっては、中国に責任あるステークホルダーとしての使命を果たすよう、米政府は働きかけるべきも、その際は「同盟国、友好国はとの強力な連携」が不可欠と指摘する処です。尚、その骨子(注)を以下に紹介することとしておきます。

(注)Kurt M. Campbell 氏の主張ポイント
・Europe’s Past, Asia’s Future (インド・太平洋地域にある進化続けるoperating systemと、戦後の持続的米国の支援体制)
・Regional orders work best when they sustain both balance and legitimacy
―Restoring balance (永続性のある力の均衡を東アジアで再構築する)
―Restoring Legitimacy (法に基づく経済行動の確保)
・The combination of Chinese assertiveness and US ambivalence has left the region in
flux ―Forging coalition (同盟関係の強化)

3.対中政策に映るバイデン政権, 二つの戦略思考
―「戦略的競争」(Strategic Competition)と「戦略的忍耐」(Strategic Patience)

処で、サキ米大統領報道官が対中政策についてBriefingの際、‘戦略的競争’と‘戦略的忍耐’の言葉を使っています。とりわけ‘忍耐’は事態への対処の難しさを示唆する処とされ、日本の対中政策にも影響を齎すことにもなるだけに留意されるべき言辞と思料するのです。

(1)戦略的競争:バイデン政権は米中関係を「戦略的競争」と捉え、対決する分野と協力する分野を区別する様相です。つまり米中の完全なデカプリングは非現実的で、望ましくないととするものです。アジアでの地域的経済提携(RCEP)の妥結を見れば、中国を製造拠点から排除するのは難しくなっている現実が認められる処です。とすれば、日本は米国に「選択的な競争」、すなわちどの分野で中国と競争するかを示す一方で、尖閣諸島の問題では断固とした態度をとりながら経済関係の維持を探る、そうした点で日米が協調するのが効果的ではと思料される処、友好国との連携もそうした戦略的発想を以って臨む事で、中国への圧力は一段と威力を発揮することになるのではと思料する処です。

(2)戦略的忍耐:一方、ホワイトハウスでサキ大統領報道官がBriefingの際、よく使う言葉に「戦略的忍耐」という言葉があります。これまでの政策の検証や各省間の調整がすぐには進まないと云う意味があるとされ、例えば米国のTPP復帰問題は国内での組合問題との兼ね合いから、時間がかかりそうで、22年秋の中間選挙までは難しく、従って当面は国内問題に注力し、貿易は優先課題とはならないことを暗示するとされるのです。とすれば複雑化する内外環境に照らすとき、バイデン政権の対中政策の基本は「戦略的忍耐」にありとなるのではと思料するのです。

尚、 中国側には、確固たる信念と意志を以って目標を戦略的に達成するという心構えとして「戦略的定力」という言葉があると仄聞しますが、予て習近平氏が主張し、以って米国と対峙する姿勢を示す言葉とされる処です。1月25日、オンラインで開催のダボス会議アジェンダ・フォーラムに登壇した習近平氏は、世界の進むべき方向を示しながら「新冷戦」や「デカプリング」と云った状況を強い調子で糾弾し、西側参加者を驚かせる処でしたが、これが習指導部の自信を窺わせる、まさに「戦略的定力」とされる処です。 とすれば新しい対立構図は、米国の「戦略的忍耐」対 中国の「戦略的定力」と、見る処です。

序で乍ら、「自由貿易の番人」とされるWTOの事務局長ポストが昨年8月末以来、空席のままでしたが、2月5日、米バイデン政権は、予て有力候補とされていたナイジェリア出身のオコンジョイウエアラ元財務相を支持する旨を公表したことで、漸く後任事務局長人事が決着、3月1日、就任予定の由です。これも、アフリカ出身者は中国寄りと、トランプ政権が反対していた米中対立を象徴する事案の一つでした。これで通商紛争処理の再開等、機能不全にあったWTOの機能回復、更にはWTOのルールの近代化が期待される処、バイデン政権もWTOに積極的に関わっていく構えと伝えられる処です。


 第2章 Post-Brexit、新生英国の行方
 
1.‘Britain‘s place in the world’(新生英国の世界の居場所)

周知の通り英国は、2020年12月31日、移行期間を終え、EUから完全に離脱しました。その直前の24日、両者は通商協定に合意し、「合意無き離脱」の大混乱を回避されています。が、協定の対象は最小限にとどまっており、とりわけサービス部門についてはほとんど触れられておらず、今後、果てしない議論が続くことになるものと思料される処です。しかも英国側の主張で、外交と防衛の分野の案件にも手が付けられてはいないのです。

さて、他人となった欧州大陸、それを背に孤立した英国が海の彼方に目をやるとき、「これから英国は世界の中でどのような役割を果たすべきか」が、問われていくことになるのです。
この点、The Economist, Jan.2nd,2021は ‘Britain‘s place in the world’と題して、以下指摘する処でした。
つまり、このテーマは、英国が過去何世紀もの間、取り組んできたテーマである事、そしてこの数十年、失われた帝国や超大国の立場を懐かしむ思いに駆られることが多かったが、EUの一員という立場が、ある種の答えを与えてくれていたとし、ブレア元首相の言葉を借りるなら、英国は米国と欧州の「架け橋」になることができたし、米政府にもEUにも影響力を持ち得た。が今、英国は一から考え直さねばならなくなったと指摘するのです。
そして、新生英国の旗印、‘Global Britain ‘は良いアイデイアだが、欧州大陸とは再びいろいろ厳しい取り決めに忙殺されることになろうとコメントしたうえで、「英国が欧州に目を向けない姿勢を克服するのが早ければ早いほど、グローバルな英国への見通しも明るくなる」と総括するのす。なんともcynicalに映る処です。[`Global Britain’ is a fine idea, but it requires hard choices and re-engagement with Europe .( The Economist, Jan.2,2021)]

(1)Global Britainが目ざす役割、そして今、対峙する問題
・英調査会社「イプソス・モリ社」: 同社が9月に行った世論調査では、英国民の38%が「英国は世界の主要な大国であるかのような振る舞いをやめるべき」と考える一方、これに同意しない人は28%だった由です。 では、英国民が取りうる一つの道は、国際的な立場の低下を受け入れ、国内問題に集中する事、つまり少し大きなデンマークになることかと、質す一方、英国民は、国が影響力を持つことで得られる恩恵を当たり前のことと考えてはいなかったか と、貿易問題であれ、気候変動問題であれ、民主主義の問題であれ、英国の国益に沿うよう世界に影響力を振うことは、英国民の為になっている事を知るべしと云うのです。その点では、保守党政権は「Global Britain」のスローガンを掲げてはいるものの、EU離脱を決めた国民投票から4年以上を経った今なお、この考えはスローガンの域をほとんど出ていないとの批判に結びつく処です。

さて英国が果たすべきグローバルな役割とは、周知の通りで、いろいろ俎上に乗る処です。NATO、G7, G20、英連邦の加盟国の立場や国連安保理事会の常任理事国の地位にあって、いずれも影響力を行使できる処、英国は核保有国であり、軍事力も高く、ソフトパワーにも恵まれ、英国の科学力は、新型コロナウイルスのワクチン開発や治療法の確認でも卓越しています。今年はG7の議長国であり、気候変動に関する「COP26」の開催国ともなる処、いずれも英国が力を発揮する好機に恵まれる処です。 
更に、世界に呼びかける力を正義のために用いる、例えば、途上国へのワクチン普及を支援する国際組織「GAVI(ワクチンアライアンス)」へと90億ドル近い資金集めにも成功する処、同じ考えを持つ国々と協力して圧力を働かせることも可能です。欧州で果てしなく続く話し合いから解放された英国の閣僚や外交官は、欧州の外で活動する時間を増やせる筈で、例えば「インド太平洋地域に力を傾ける」こともできる筈と云うものです。

・Global Britain掲げるジョンソ政権の課題 : ただこうしたグローバルな役割を果たしていくためには国内事情の安定が不可欠です。が、今それが不確実な様相にある事が問題です。つまり経済の停滞であり、国内政治の混乱です。

先ずその現状ですが、コロナ対策では、近時、順調に進みだしたコロナワクチン接種で、これまでのnegativeな評価の挽回を果す処ですが、何としても英国経済の不振が問題とされ(注)、BREXITの結果として更に悪化が進む様相にある事です。加えて、スコットランドの独立問題、アイルランド統一への声が再び高まる処、国内が纏まらぬ様相では他国に、まともに扱ってはもらえなくなる事への恐れが云々される処ですが、暫しジョンソン首相の対応を見定めていくしかないのでしょうか。

(注)2020年の英国GDP(速報値)は前年比 9.9%の落ち込み。減少率は1709年以
来311年ぶりの大きさ。

・序で乍ら、コロナがジョンソン首相を救った? : メイ前首相は外交・安全保障政策の面でEUと「野心的パートナー関係」を結ぶことを望んでいたと伝えられていました。が、ジョンソン首相は、その場その場の対応でやり過ごしていると批判のある処、ある時はNATO、ある時は各国との2国間関係、更には仏、独との3か国関係を通じて対処すると云った様相に、彼の評判は今一にある処、このジョンソン氏を救ったのが1 月29日、EUのワクチン戦略の失政。つまり、ワクチン輸出に係るEU内での対応の不手際の発生で、英国にとってEUの外にいる方が上手くやっていけると云っていたジョンソン氏の主張の信ぴょう性を高める事になった由。まさにコロナが彼に命綱を投げてくれた格好です。 

(2)終焉迎えつつある英中「蜜月関係」
処で、今、英中関係の悪化に歯止めがかかりません。英中関係は最近まで「黄金時代」と称され、2015年には中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に英国は、先進7国で最初に参加していますし、中国企業による英国内の原子力発電所への出資や鉄鋼大手の買収など基幹産業での結びつきも強める処でした。

しかし、中国国内での新型コロナウイルスへの初動遅れへの懸念から英国内では対中懐疑論が台頭、2020年6月末、習近平指導部が香港で統制を強める香港国家安法を制定すると英中関係の悪化は決定的となったのです。―― この間、英政府は高速通信規格「5G」に準拠した通信システムに華為技術(フアーウエイ)の参入を、2020年1月、条件付きで認めたものの、6月には、国家機密情報漏洩懸念から、トランプ前政権の積極的な働きかけを受けて、その方針を転換、英国の5Gネットワークから締め出しています。

・Anglo American alliance再生:中国政府による香港弾圧に対し、英国政府は断固とした反中姿勢を展開、本年1月31日、香港市民及びその扶養家族290万人を対象とする新たなビザ制度を導入、将来の英国定住に道を開いたのですが、中国外務省は当該旅券無効とする措置をとるとする処です。更にロンドンが香港の反体制活動の新たな拠点となる可能性すら云々される状況です。かくして「蜜月関係」とされた英中関係は今、急速に終焉に向かう様相です。英国のこうした対中姿勢はバイデン政権の方針と協調する処です。

バイデン政権もトランプ前政権と同じく、新彊ウイグル自治区における少数民族ウイグル族らへの弾圧を「ジェノサイド」と非難する処ですが、トランプ政権と異なるのは、同盟国と協力して中国に対抗していく点です。バイデン政権の同盟国重視は、英ジョンソン首相にとって格好の機会と映る処です。まさにAnglo American alliance再生という処です。

2.英国のTPP参加申請と日本

その英国は2月1日、TPPへの参加を申請しました。自由化の水準が高い貿易圏がアジア太平洋地域の枠組みを超えて拡大されていくことは大いに歓迎される処です。周知の通り、TPPは2018年末、日本を含む11か国でスタートしました。関税の撤廃率が総じて高く、知財権の保護や技術移転強要の禁止、国有企業規律といったルールも厳しいもののある処です。世界のGDPに占めるTPP加盟国の比率は英国の参加によって13%から16%にわずかながら高まる処ですが、それでもTPPの趣旨に賛同し、保護主義に対抗する仲間が増える意味は極めて大きいというものです。

周知のとおり、コロナ禍による経済の停滞もあって、自由貿易圏の拡大は後回しになりがちですが、TPPが齎す貿易や投資の活性化は、この先の経済発展の糧となるものと云え、EUから完全に離脱した英国も、TPPへの参加に新たな成長の道を求めたということです。TPPを主導してきた日本は今年21年の議長国です。ここでも指導力を発揮し、TPPの価値を損なうことなく、今春にも始まる交渉を早急に纏められんことを期待する処です。

尚、第4回RCEP(地域的包括的経済連携:ASEAN 10か国)会議では、そのFTA Partners 5か国との間で2020年11月15日、署名され、当該EPAが成立。この結果アジア太平洋地域では、日本が主導してきたTPP11と今次のEPAが並び立つ処、この構図にかけるのが米国のTPP復帰です。この米国の復帰は日本にとお手の課題とされる処ですが、今次の英国のTPP加盟が米国の復帰に力を貸すことになればと、期待する処です。(2/24、日本政府はRCEP協定案を閣議決定し、次は国会承認です)尚、当該EPAが発効すれば、世界のGDPの3割を占める最大の広域自由貿易圏の誕生となる処です。


  おわりに 「大観」を思う

上述、多国間協調を標榜するバイデン米大統領の登場で、まさに西側諸国は彼に同調する形で、トランプ前大統領の残した負の遺産の整理に進みだす処です。しかし世界の生業の現実は、新型コロナウイルス危機が超大国・米国の衰えに拍車をかけ、その一方で、世界の重心は力を増す中国に傾く様相です。 米国の衰えとは、コロナ下の財政出動と金融緩和で株価が上がり、持つ者と持たざる者との差が更に拡大し、政治への不満、不信の高まりを誘う一方、経済はと云えばGDPベースで中国が米経済を凌駕する、力の逆転が、下記(注)の通り、現実味を帯びだす状況にあり、新たな米中利害の対立の可能性を、感じさせる処です。

(注)中国経済予測(日本経済研究センター):2035年までのアジア・太平洋地域の経
済予測で、中国は2028年にも‘米国超え’と予測される処です. (日経2020/12/11)

因みに先週、手元に届いた2月20日付けThe Economistでは、台湾を巡る米中の対立につ
いて、`America is losing its ability to deter a Chinese attack on Taiwan’ とし, `To many
Chinese, Taiwan’s recovery is not just a sacred national mission. Its fulfilment would also
signal that American global leadership is coming to an end.’と、米国のグローバル社会での
リーダーシップの終焉を示唆し、Allies are in denialと、同盟役立たずと断じる処ですが、
さて迫りくる世界の地政学的構造の変化を感じさせられる処です。

さてこうしたダイナミズムを映す世界にあって、変化はチャンスながら、日米関係を基本軸に置く日本は、国際協調を大前提として、今後の行動はどうあるべきか、改めて迫られる処です。そこに求められるのは、まさに当事者の ‘大観 ’ の如何と、思料するのです。


それにしても今思うことは、先の東京五輪組織委員会会長人事を巡っての、あのドタバタ騒ぎは何だったのか、です。 森喜朗会長の老害発言と云い、引責辞任する本人が自らの後継者を指名せんとした姿は、醜態と云うほかなく、「五輪ムラ」自体の旧弊を露わとする処でした。その様相は世界にも伝播され、日本政治の古い任侠的体質と糾弾され、もはや多様性云々の言葉などお呼びでなく、ガバナンス欠如の日本社会の後進性を実感させられ、日本は大丈夫?と、失望感深まる処です。森氏を会長に推したのは安倍前首相でした。

さて米紙ワシントン・ポストのコメンテーター、F.ザカリア氏は、氏の近著「パンデミック後の世界 10の教訓」で、「政治の質」が最大問題の一つと挙げていましたが、上述事情にも照らす時、今の日本にとって政治改革こそは百年の計と痛感するばかりです。以上                                       (2021/2/25)
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2021年01月26日

2021年2月号  世界は、二つのリスクを抱えて、’2021年’を迎えた - 林川眞善

目   次

はじめに コロナ危機、民主主義の危機  

1.終息見えぬコロナ危機
(1)コロナ対策と経済再生への ‘構’(かまえ)  
(2)コロナが放つ‘警告’と‘示唆’
2.民主主義の危機 ―米連邦議会議事堂乱入事件

第1章  バイデン政権誕生と米国の行方

1.バイデン氏、第46代米大統領就任
(1)大統領就任演説 
・就任演説 と バイデノミクスの可能性
・バイデン・コロナ対策
(2)バイデン氏の往く道は難路
・2021年十大リスク
2.バイデン政権下の米国と国際秩序
(1)欧州の対米関係と、対中関係の行方
・欧州と中国の関係
(2)日米関係と日本の役割

第2章 American Democracy の ‘暗黒の日’

1.アメリカン民主主義は何処へゆく ― Quo vadis ?
・Quo vadis? 、その現状に思うこと
2.年の始めの ‘トランプ物語 ’
・Trump’s legacy

おわりに  これから起きる変化  
  
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はじめに コロナ危機、民主主義の危機
                 
世界が迎えた新年、2021年は、二つの‘困難’を抱えてのスタートでした。一つは云うまでなく終息の見えぬ「コロナ危機」。その状況は ‘The tunnel gets darker`(The Economist,Jan.2nd )との様相です。もう一つはトランプ前米大統領が「米国第一」の主張の下、米社会の分断と、国際秩序の混沌を招いたトランプの「負のレガシー」ですが、とりわけ1月6日、ワシントンDCで起きたトランプ支持者による米議会議事堂への乱入事件は、現役大統領の彼が扇動うる事件であっただけに、すわ~「民主主義の危機」と世界は騒然となる処でした。そんな中、1月20日米国ではバイデン新大統領が誕生。さて、新政権の行方如何とする処です。

1.終息見えぬコロナ危機

さてコロナ対応については昨年末、新型コロナウイルス対抗ワクチンの開発で、コロナ収束への期待が高まる中、今度は英国、南ア等から持ち込まれた、感染力の極めて強いとされる新型コロナウイルスの変異種が確認され、世界は新たな感染拡大への危機感に覆われる処、英、独、仏などの一部では再びロックダウンの措置がとられる状況です。

では日本はどうか。昨年来の感染拡大急増に照らし、1月7日、昨年4月に続く2度目となる緊急非常事態宣言が、東京と近接3県を対象に、そして13日には近畿2府1県、更に愛知・岐阜・福岡・栃木の4府県に対しても、同様宣言が発出される一方、個人消費の維持拡大の為と、「Go To」キャンペーンが張られていたものの、感染拡大予防のためと、いきなり全面停止とするなど、およそ筋というものが見えない政府の政策行動に、不信感の募る処です。因みに、コロナ対抗ワクチン接種は欧米ではすでに始まっていますが、日本での一般人あての開始は6月というのです。

(1)コロナ対策と経済再生への ‘構’(かまえ)  
実際、‘ウイズコロナ’、 ‘コロナとの共生’、と云った曖昧な表現を以って経済もコロナもとする政府の手の打ち方は、いかにも後手に回る感否めずで、その‘構’に筆者は極めて違和感を覚える処でした。

政策当局は緊急事態宣言が発出されると、消費者心理が冷え込み、経済の足を引っ張るとの懸念から、‘経済もコロナも’と云った表現を以って政策実施が進む結果、その対応は後手後手と映り、不信感を生む処となっているのです。要は、経済を動かすのは人です。その人を健康に保つには、この際は徹底したコロナ対策に尽きる処、それなくして経済活動の堅持はあり得ません。つまり人の「健康」確保こそが現時点での経済政策の戦略ポイントなのです。
勿論、経済は重要です。その際重要なことは経済再生の為には、まず投資であり、雇用の確保にあること、そして消費はそのあとに続くもとの思考様式を確かなものにした上で、事態に向き合っていく姿勢が見えない、まさにトリアージュということですが、それが見えない事が、問題と感じさせる処です。加えて、この二つのテーマをいかに結び付けていくか、それこそが戦略となる処ですが、そうした姿勢が見えぬ‘政治’に不信感が増す処です。
 
要は、上述消費者の反応を恐れる事情は理解するとして、きちんと目標を示し、事態の推移を測りながら、一体的、戦略的な取り組みを目指す、そうした‘構’が必要と思料するのです。 
因みに、欧州ではコロナと経済対策を環境への取り組みにうまく利用しているといわれています。そのポイントは、新型コロナと持続的可能性、具体的には気候変動対応ですが、後述するように人間の経済システムと自然のシステムの衝突という点で問題の根っこが同じとの認識の下、厳しく対応されていると伝えられる処です。

(2)コロナが放つ‘警告’と‘示唆’
その点で, 新年号とした昨年12月19日付The Economistの巻頭言「The plague year」(コロナ・パンデミック年)は、およそ100年前のスペイン風邪のパンデミックでの経験に照らしながら、コロナが放つ警告、またコロナ禍への対応を通じて得られる次なる進化の方向について語る処、そのポイントは以下ですが、極めて示唆的云うものです。

・コロナが放つ警告。
食料、毛皮を取るために殺されている毎年800億個体の動物たちはウイルスやバクテリアがおよそ10年ごとに人命を危険に晒す病原体に進化する際の培養皿となっているという。そこで、動物たちを殺す代償を払えと突きつけられたのが今年で、それは天文学的な額だったとするのです。そしてロックダウンで経済が止まったことで現れた澄んだ青空こそは、コロナ危機が猛スピードで進んでいる間にも、もう一つの危機である気候変動がゆっくりと進んでいることの証だというのです。今、世界は脱炭素社会を目指す処の事情です。

もう一つは、パンデミックが浮彫する社会的不公正です。つまり、多くの子供たちは学習で後れを取り、十分な食事がとれなくなった事。学校を卒業しても若者の就職の見通しが再び遠のき、外国労働者は捨て置かれ、あるいは、故郷の村へ追い返され、それによってウイルスが広がっていくなど、人種によっても明暗が分かれる現実を指するのです。

・コロナが示唆する進むべき道
その一つはコロナ危機を技術革新の原動力とする道だというのです。例えば、米小売り売上高に占める電子商取引の割合はロックダウンが実施されていた8週間で、それまでの5年間の合計と同程度の伸びを示したが、それは在宅勤務の常態化に負うものというのです。
こうした創造的破壊は始まったばかりだが、パンデミックは医療など保守的な業界でも変化を起こせることを証明したという。AIや量子コンピューテイングなどの最新技術が原動力となり、あらゆる産業に技術革新の波を起こし、更に、パンデミックは政府をも革新的に変えていくと。そして、ポストコロナの21世紀に向け、新しい社会契約を核とした社会の創造を目指せと、以下言辞を以って締めるのです。

「--- They (people) should recast welfare and education and take on concentration of entrenched power so as to open up new thresholds for their citizens. Something good can come from the misery of the plague year. It should include a new social contract fit for the 21st century.」

2.民主主義の危機 ― 米連邦議会議事堂乱入事件

もう一つの危機は、1月6日ワシントンDCで起きた米連邦議会議事堂へのトランプ支持者による乱入事件が齎した危機というものです。これが単に米国のみならず、世界的にも民主主義の弱体化が問われる大問題であることを露わとするものでした。
それも現役大統領にあったトランプ氏が、先の大統領選が不正に行われた事、そしてその正義を取り戻すため、ホワイトハウス近くに集まったトランプ支持者に議事堂を占拠せよ(当日はバイデン氏を大統領候補とすることを正式決定する合同会議中でしたが)と扇動したことで起きた事件だけに、まさに騒乱罪該当の暴挙です。

勿論、TVに映し出される異常事態に、民主主義の総本山ともされてきた米国のその現実を目の当たりにして世界は、民主主義の破壊だ、1月6日は米民主主義の「暗黒の日」だと、騒然となる処でした。バイデン新大統領は、これまでも民主主義の再生を主張し、就任式でも同様主張する処、それが何よりも第1のテーマたるを実感させられた瞬間でした。そうした環境にあって、1月20日、2001年9月の米同時テロ以来の厳しい治安対策が打たれる中、バイデン氏の大統領就任式が行われました。米国は影響力が衰えたとはいえ依然、国際関係の支柱であり、米国内の出来事は世界の耳目を集める処です。

そこで、今次論考では、上述新型コロナ対応の基本を踏まえながら、この際は、バイデン新政権の成立に絞り、就任演説と彼の目指す政策、バイデノミクスの可能性を考察し、併せて今次の米議会議事堂乱入と今後の民主主義政治の行方についても考えてみたいと思います。


            第1章 バイデン政権誕生と米国の行方

1. バイデン氏、第46代米大統領就任

(1)大統領就任演説
昨年春、バイデン氏はForeign Affairs(March/April,2020)への寄稿論文`Why America must
lead again’ で(弊論考N0.98、2020/6月号、弊抄訳添付)、外交こそ米国のパワーの源泉
と、持論を訴えていました。そのポイントは次の4点「民主主義の再生」、「中間層に沿った外交」、「国際協調・連携の回復」、そして「世界の前線に立つ」とするものでした。

・就任演説 と バイデノミクスの可能性
今次就任演説も基本的には、その枠組みで語られていましたが、民主主義において最も掴み所のない「Unity」が必要と主張し、とりわけ現状について、「我々は新型コロナウイルスとの戦いにおいて、最も厳しく命がけとなりうる時期に突入している」との認識を示すと共に、「新型コロナウイルス対策で結束を」と訴えるのでした。そして、現状の同盟関係を修復し、もう一度世界にかかわっていくと「世界のリーダー」復活を目指すとし、自身にとり際立つものがあると云う「American anthem」(アメリカ賛歌)の一節を掲げて終わるのでした。

そして、バイデン氏は大統領就任式直後には、トランプ前政権が無視してきた国際協調の機能回復を通じて経済の回復を目指すとの趣旨に副い、早速、温暖化防止の国際協調の枠組「パリ協定」復帰のための大統領令に署名、EU更に中国が脱炭素に動く中、米国も世界の潮流に回帰する姿勢を示す処です。更には前政権が進めた閉鎖的移民政策を転換、イスラム諸国からの「入国制限」措置の破棄、又 注目されていたメキシコとの国境に「壁」を建設するために出されていた「国家非常事態」宣言を取り消し、壁建設を停止とするなど一日で15項目にわたる大統領令に、又、翌21日には包括コロナ対策関係で、10件の大統領令に署名し、トランプ前政権が残した政策からの大幅転換をアッピールする処でした。

・バイデン・コロナ対策
これより先、1月14日、バイデン氏は出身のデラウエアー州で米国の現状について演説し、「パンデミックと経済悪化の2つの危機にあり、時間を空費する余裕はない」とし、1.9兆ドル(約200兆円)規模の新たなコロナ対策を発表、2月予定の両院合同議会で、更に「インフラ投資などの経済再建を改めて表明する」(日経、1月15日)とするのでした。そして、感染拡大と、経済悪化、ワシントンDCでの暴動による社会不安という三つの危機のしわ寄せを受ける家計への支援に1兆ドルを充てるともしています。ただ、これが共和党の抵抗で最終的には1兆~1.1兆ドル程度に縮小するとの見方のある処ですが、それでも米国のGDPの5%に及ぶというものです。昨春以降のコロナ対策は累計で5兆ドル規模、GDPの25%と、主要国では断トツとなる処です。尚、15日にはコロナワクチンの接種を加速戦略として、接種拠点を全米に数千か所の設置を打ち出しており、バイデノミクスは特異な環境での戦略を鮮明とする処です。

(2)バイデン氏の往く道は難路
彼は就任演説でも何度も声高としたのが「世界のリーダー」への復活でした。それが意味することは、この20年間の徐々に進んだ米国への信頼を取り戻すことですが、そもそもは米国の信望はアフガニスタンなどへの軍事介入で崩れ始め、2008年の金融危機で悪化し、コロナの感染で地に落ちたというもので、その構造化が懸念される処ですが、そのためにはまずは、経済を立て直し、ワクチンを普及させ社会の分断を修復することで、その低下は食い止められるでしょう。が、逆にバイデン氏がつまずけば中国の強大化は必然となり、地政学的な混乱が避けられなくなっていくものと見られ当該リスクの高さが指摘される処です。

米調査会社ユーラシア・グループのイアン・ブレーマ氏は「米国は今なお世界で最強の国だが、自国が分断されている国が他国を率いることはできない。米政界が外交政策の方針や達成方法を巡り意見が分断する現状では、かつてのように国際社会の仲介役を果たすことはできず、海外では地政学的的な機能不全が増えることになる」と、そして「米国は民主主義を海外に輸出してばかりで、自国の為に残しておくのを忘れたのかもしれない。バイデン氏はこうした問題を解決しなければならないが、とてつもない難題だ」(日経2021/1/21)と総括する処です。実際、アメリカ・フアーストの孤立主義と、反体制ポピュリズムからなる「トランピズム」の組み合わせが、米国内での分断、対外的には国家間の分断を齎し、アメリカの政治に強力な圧力を残す処、バイデン体制はその「トランプ主義」の妨害に苦しむ可能性の高さがなお云々されるのですが、バイデン氏の往く道は難路といわれる所以です。

・2021年十大リスク
尚、序で乍ら、上記 ユーラシア・グループ(イアン・ブレーマ氏)は1月4日、恒例の「2021年の十大リスク」(注)を発表していますが、その筆頭に挙げるのが「米第46代大統領」でした。上述事情を以ってその事由とする処です。去り行くトランプ前大統領が残した身勝手なポピュリズムの残像がバイデン政治を邪魔することになるとの予想から筆頭に置かれたとする由ですが、6日の議事堂騒乱は、まさにそれを実証するごときです。

(注)上記他の十大リスク:第2が「長引く新型コロナの影響」、第3に「気候変動対策を巡る競
争」、第4に「米中の緊張を拡大」、第5位は「世界的データーの規制強化」、第6位サイバー紛
争の本格化」、第7位「トルコ」、第8位、「原油安の打撃を受ける中東」、9位「メルケル首相後
の欧州」、そして第10位は「中南米の失望」。

2.バイデン政権下の米国と国際秩序

さて、上記政策事情を踏まえながら現時点で、想定されるバイデン政権下での国際秩序はどのような展開を示すことになるか、考察しておきたいと思います。

(1)欧州の対米関係と、対中関係の行方
バイデン氏は早くからトラン政権下で急速に冷え込んだ欧州との関係の修復を語る処でした。12月1日、NATOに出された報告書は、米国と欧州諸国の対立を念頭に亀裂を早急に修復するよう促したと報じられる処でした。(日経12月4日)
トランプ政権下で冷え込んだといわれる背景にあったのが、トランプ氏のNATOに対する姿勢でした。欧州各国に国防費の増額を迫る一方で、2019年には欧州に事前通告なしに米軍をシリア(北東部)から撤退させ、2020年にはドイツの駐留米軍削減を決めるなどで「米国第一」は欧州首脳には「欧州軽視」と映り、マクロン大統領は、NATOは脳死状態と口にするほどで、従って同盟重視を掲げるバイデン大統領への期待は高いというものです。

因み、EUは昨年12月2日、次期米大統領としてのバイデン氏に4分野(コロナ対策、環境問題、WTO改革、民主主義の対応)での協力を提案しており(弊論考N0.105 2021/1月号)要は、国際協力に関する大西洋間の新しい議題を設定する機会とみる処です。勿論、それはバイデン大統領の琴線に触れる処でしょうし、とりわけ同盟国との連携による対中包囲網構想とも合わせ見るとき、欧米関係の回復・強化が進むと見る処です。

・欧州と中国の関係
というのも、EUと中国は、2003年「包括的戦略パートナーシップ」を結び政治・経済での関係を深めてきていました。しかしトランプ氏台頭あった2016年以降、ウイグル人権問題、あるいはギリシャの港湾を巡っての中国による投資問題等がある中、EUは中国との経済協力枠組みがEUの規制やルールに合致しないことに懸念を募らせ、時に対中スタンスはしばしば混乱を呈する処でした。そんな中、昨年12月30日、EUは中国と、包括的投資協定(CAI)に合意したのです。7年をかけての事です。一部では、「EUが中国にすり寄るもの」と報じられていましたが、これはトランプ・アメリカに痛めつけられた中国が、国の姿勢を変えるのにつながる大幅な妥協をし、むしろEUにすり寄った結果とも見る処です。

もとよりEUの最終目的は、中国に不公正な競争を終わらせることにあるのですが、そのためには国際法の「条約」という枠組みが必要であり、その枠組みに中国を入れ込み、集団的圧力をかけようとするものと云え、言い換えれば、国家資本主義を国際条約で取り込み、圧力をかける戦略とみる処ですが、米国も十分理解できるはずでしょう。いずれにせよ近時の香港問題、中国内の少数民族ウイグル族に対する人権問題、等でEUは今、中国離れの様相にあり、上記投資協定の発効も欧州議会の問題視もあって、今や不透明にある処です。 
尚、上述バイデン米国の外交姿勢に照らし、米欧関係の修復は時間の問題と云えそうです。

もとより、この結果は日本にも影響する処です。つまり、日本はトランプ・安倍の関係を以って、国際舞台で存在感を示し得てきましたが、バイデン氏が欧州との関係を深めれば、日本の「頼られる度」は相対的に下がることになることでしょうから、国際的な存在感をどう発揮していくか、菅首相に解を迫る方程式も複雑さを増す処かと思料するのです。

尚、中国については昨年10月5日の5中全会で米国など海外に依存せずとも経済を回せる体制を目指すこととして、「双循環」というコンセプトを打ち出しており、長期政権を目指す習近平氏が在任中に米国との新たな協力関係を築く方針と側聞する処、つまり米国との長期戦に備え、当面は硬軟両様で臨むものと思料されますが、今年7月、共産党結党百周年を迎え新方針も予想される処、殊、米中関係についてはそれを待ってとしたく思います。

(2)日米関係と日本の役割
上述米欧関係の復活、中国の対外姿勢の変化等を勘案するとき、当然のこととして、日本の外交の在り方も大きく変わっていく事になるものと思料する処です。それが意味することはこれまでのまず米国ありきではなく、日本して如何に世界の変化に与していくか、その上で、対米関係、対欧州関係の在り方、更に、対中関係について新たな対応が問われていく事になるはずです。この点については別途の機会に改めて話すこととしたいと思います。

が、ただ一点、バイデン政権の対中政策ですが、日本や他同盟国と提携、多国間アプローチで、中国をルールに従わせていく、つまり包囲網作戦と思料するのですが、その最善の手段は、まずは米国のTPPへの復帰と思料するのです。その点では日本の役割再びであり、新たな展開を期待する処ですが、更に前述の通り、EUの外交の軸足が中国からアジアにシフトする処では、インド太平洋構想(QUAD)を主導する日本には、更なる役割が期待できる処です。加えてバイデン大統領がホワイトハウスに新設予定の「インド太平洋調整官」のポストに知日派とされるカート・キャンベル元米国務次官補の起用が内定している由ですが、これは日米関係にとっても極めてpositive factorとなる処です。 加えて、バイデン政府がパリ協定に復帰したことで、日米間での脱炭素の実現に向けた閣僚対話の枠組みが構想される処、新たな日米関係の枠組みが期待できる様相です。

・尚、今年6月11~13日、英国コーンウオールで2年ぶりG7サミットが対面開催予定です。これこそは多国間協調回復を図る絶好の機会と云え、何よりも出席者のメンツが、独仏加を除き、日米伊そしてEUの全員がnew comerである事、又、英ジョンソン首相は主催国ながらBRXIT後、初の参加となるわけで、新たな議論の展開が期待される処です。


         第2章 American Democracyの ‘暗黒の日’

1.アメリカン 民主主義‘は何処へゆく ― Quo vadis ? ’

1月6日、米国の首都、ワシントンDCで起こった連邦議会の議事堂乱入事件は、米国そして世界にとっても民主主義の殿堂とされる議事堂への乱入だけに、世界を唖然とさせる、まさに「暗黒の一日」でした。

トランプ氏は、11月の大統領選を不正選挙であり、民主党は選挙を盗んだと叫び、バイデンひき降ろしをいろいろ画策してきたことは周知の処です。1月6日、連邦議会ではバイデン次期大統領を正式に選出する上下合同会議が開かれていました。一方、ホワイトハウス近くでは11月の選挙結果に抗議するトランプ支持者による大規模集会が行われていましたが、そこに現れたトランプ氏は集まった支持者に対して、「この国を取り戻すのに必要な誇りと大胆さを(連邦議会議員に)与えよう」と、議事堂に向かうよう促したことで、支持者は議事堂に向かい建物に侵入、約4時間占拠したという事件です。(日経1月7日,夕)暴徒は民主主義の殿堂である連邦議会の議事堂によじ登り、ガラスを割るなど狼藉を働く一方、警官の発砲で若い女性を含む5人の犠牲者を出すに至っています。

その狼藉の様子は勿論、TVでも流れ世界が知る処ですが、ここで問題は暴徒を扇動したのが、現職にあった大統領のトランプ氏自身だったということです。 全てはトランプ氏の扇動的言動に負う処、大統領選の敗北、選挙システムの否定、ジョージア州上院選での敗北、これらはトランプ氏自身が作ったものと云え、今次の騒乱暴挙はアメリカの民主主義政治に決定的汚点を残すことになったというものです。バイデン氏は就任演説では民主主義の再生を訴え、また対中、対ロについては民主主義に照らして行動するとする処、その軸が瞬時狂わんばかりでしたが、事態の重大さはますます増す処です。

1月12日、議会ではトランプ氏が騒乱を扇動したとして、まさに「反乱の扇動」を弾劾根拠とした大統領弾劾訴追の決議が行われ、13日には弾劾案が採決されました。最終的には弾劾裁判を行う上院次第ですが、裁判はいつになるか(注)、仮に有罪ともなれば、彼は一切の公職にはつけなることで、4年後の大統領選出馬の可能性は消えることになるのです。
そして20日、武装装備抗議デモの情報もあって厳戒態勢の中、バイデン大統領の就任式は無事終了したこと前述の通りです。[(注)2月9日開始で両院が同意したと報道。(日経1/24)]

米ツイター社は8日、8800万人超のフォロワーを抱えるといわれているトランプ氏のアカウントを、暴力行為を扇動する危険性ありとして、永久停止したと発表。これが発言の自由を阻害するとの批判も呼ぶ処です。
ハリウッド・スターで加州知事をつとめた共和党員でもあるシュワルツネッガー氏は、トランプ氏の行動は、アメリカ独立以来、国家の支柱に置かれてきた民主主義を否定する行為と強烈に批判する処、アメリカの民主主義は何処へゆく? まさに‘ Quo vadis ? ’ の様相です。 

・Quo vadis ? その現状に思うこと
公正な選挙で選ばれた代表を通じて権利を行使するのが民主主義の大原則です。処が、地球規模の感染拡大で世界は強権政治の力を強める処、その原則が崩れかけぬ様相です。 強権政治の背景には民衆受けするポピュリズムが生まれ、自国主義のナショナリズムが前面に出て、自国だけ安全にととじ込んでしまう状況です。ワクチン開発や分配などで国際協調がより必要なのに逆に、争奪戦争を演じてしまう。これではパンデミックには立ち迎えません。

1989年、冷戦が終わり国境を越えた経済活動や移民等、グローバリズムの波が襲い、この結果は自由主義よりも、自分たちの生活や国を守ろうというナショナリズムが活発になり、そこに、グローバリズムの旗を振っていた米国が自国第一の旗を振ってしまった。移民・難民問題や中間層の困窮などで国内の分断が進み、その不満の声を吸い上げて登場したのがトランプ氏。その姿はヒットラーが台頭した1930年代の世界と非常に似た現象と危惧する処です。ただし、その姿は民主的な手続きを経て生れてきた結果でした。
そこで、コロナ禍で吹きつのるナショナリズムの風をうまくおさえなければならずということですが、これがいかに民主主義を立て直すかに繋がる処と思料するのです。

2.年の始めの ‘トランプ物語 ’

筆者は先日、ボブ・ウッドワード氏がトランプ氏との17回に及ぶインタービューをベースに書きあげたという「怒り」(Rage)を読みました。これは2年前の「恐怖の男」に続く彼にとって2本目のトランプ物語です。 ただ前作「恐怖の男」はトランプ氏の政策決定のあり姿を追うものでしたが、最後は「2017年のアメリカは、感情的になりやすく、気まぐれで予想のつかない指導者の言動に引き回されている。・・・世界で最も強大な国の行政機構が、神経衰弱をおこしている」と評するトランプ物語でした。 それから2年、2度目のトランプ物語では、主に新型コロナ感染問題を巡ってのトランプ氏の思考様式、行動様式を、対話を通じて浮き彫りせんとするものでしたが, 締めは以下の通り相変わらずです。

「…大統領は最悪の事態や、悪い報せと、いい報せを進んで国民と分かち合わなければなら
ない。どの大統領にも、報せ、警告し、守り、目標と国家の真の利害を明確に説明する義
務がある。ことに危機に際しては、世界に向けて真実を告げるという対応が必要だ。とこ
ろが、トランプは、個人的な衝動を大統領の職務の侵し難い統治原則にしている。大統領
としてのトランプの業績全体から判断すると、結論はただ一つ。トランプはこの重職(ジ
ョッブ)には不適格だ。」と。

こんな結論は、言わずもがな。それでも彼は4年後の大統領選に向かわんとの様相です。因みに、過去に、4年のブランクを置いて、再選された大統領は一人います。 第22代(1885~89年)、第24代(1893~97年) の大統領、グロバー・クリーブランド(Grover Cleveland)です。尚、司法長官に起用されることになったガーランド氏は、トランプ氏の退任後の起訴の可能性を示唆す処です。(日経、1月9日、夕) 

昨年11月28日のThe EconomistのCover story ` How resilient is democracy ? ‘ では、何よりも、民主主義はひとびとが求めてやまないものとした上で、具体的には、トランプ大統領が投票日の11月3日以降、選挙結果を覆そうと様々な策をめぐらせてきたが、米国民の民主主義がこれに屈服するような気配は全く感じられなかった、米民主主義はresilient、つまり民主主義の原則への復帰力ありと、評する処でした。さて、バイデン新大統領は民主主義の再生を旗印としていますが、今次騒乱の実態を見ていくに、その再生への道は難路と見
る処ですが、関係者、関係諸国の理解協力を得ながら前進する事、念じる処です。

・Trump’s legacy
尚、1月9日付 The Economistは、その巻頭言でトランプ氏に誘導された議事堂乱入事件と、ジョージア州での上院選での民主党の勝利は、バイデン政権のあり姿を変えていくことになろうとしながら、トランプ氏を擁して臨んだ昨年11月の大統領選結果が共和党に示唆することは、次回選挙に勝利するには党の再編が不可欠と、つまり最も重要な再編とは、トランプ氏を追い出すことだと、以下言辞を以って締めるのでした。ただし、共和党の実情は、トランプ支持層を取り込まないと党勢の維持はおぼつかない処、彼は退任目前に「何らかの形でまた戻ってくる」と言い残していましたが、さて?

--- to become successful and ,more important, to strengthen America’s democracy once more rather than pose a threat to it, they need to cast off Mr. Trump. For, in addition to being a loser of historic proportions, he has proved himself willing to incite carnage in the Capitol.


おわりに これから起きる変化

前述の通り、米国大統領に就任したバイデン氏は、就任と同時に温暖化防止対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を国連に申請しました。この結果、国連が承認すれば、EU,中国、日本に加え、米国が加わることで、世界のBig 4が温暖化ガス削減に向けた目標で足並みをそろえることになります。先月号論考でも報告の通り、先行するEUは30年までに温暖化ガスの排出量を少なくとも55%削減すると公表、又、中国は昨年9月の国連総会で習近平氏がビデオ登場ながら、2060年に実質CO2排出をゼロにすると宣言、更に昨年10月には、菅首相は2050年までに排出量の実質ゼロを宣言、つまりカーボンニュートラルの達成、と脱炭素社会宣言をしています。そこに米国が加わることになると、まさにBig 4の揃い踏みとなるのです。

この揃い踏みを以って脱炭素、CO2ゼロに向かう姿は、本稿「はじめに」でリフアーしたエコノミスト誌が示唆するように、新たな技術開発、イノベーションの推進、結果として産業の構造的変化、それに伴う企業の在り方の変化、更には消費活動の変化、そして生活対応の変化をももたらすこととなり、まさに産業革命を誘導する要因と思料する処です。
因みに、この1月11日~14日、今年も米国ラスベガスでデジタル技術見本市「CES」が開催されました。尤も、今次はコロナ禍を受けて初のオンライン開催でしたが、それでも会期中の発表からは、これからの技術潮流が示されるものだったと報じられています。

一つは、コロナ後も見据えたテクノロジーの活用戦略の流れで、米小売り最大手のウオールマートが、危機下でも業績を伸ばした背景にはネット技術をうまく組み合わせことによる成果と紹介される処でしたが、より大きな流れとして注目されたのが、脱炭素の取り組みだったということでした。因みに、米GMでは2025年末までに高級車からピックアップトラック、商用車まで30車種の電気自動車(EV)を発売すると発表する処です。つまり、多くの国がコロナ禍からの経済復興策に脱炭素を据えるようになってきたというのです。

さて、コロナ対策の曖昧さで批判の標的となっている菅政権ですが、先に脱炭素政策を長期成長戦略と位置付け、脱炭素社会を国家目標の柱として打ち出した事は、大いに評価されるべき事と思料するのです。この脱炭素政策「2050年カーボンニュートラル」は、1960年、池田内閣の下で策定された長期経済計画「所得倍増計画」以来の長期経済計画です。そして温暖化防止行動を新たな投資と需要を生み出す成長戦略として捉える点で評価する処です。

メデイアは、この脱炭素宣言が日本経済に新しい空気を吹き込みだしたと、電力会社など既得権層を巻き込む構造改革の大きな一歩を踏み出したと指摘すると共に、脱炭素革命によって世界的に新たな成長の時代が訪れる可能性が大きくなってきたと指摘する処です。
遅れそうだった日本が先頭集団に並ぶ中、米国が「パリ協定」へ復帰することで温暖化防止に向けての主要国の足並みが揃うことで、世界経済は活気を取り戻すはずと見る処です。本稿冒頭のテーマでは「危機」を連発しましたが、そうなれば前言取り消しとなるわけですが、新年を迎え終えた今、そうあって欲しいものと、反省をも込め、強く念ずる処です。 
以上 (2021/1/25)
posted by 林川眞善 at 16:29| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2020年12月25日

2021年1月号  世界経済 2021年の針路 - 林川眞善

目  次

はじめに 2020年 ‘年の瀬 ’の国際環境    
(1) コロナワクチン 接種始まる
(2) 連呼の脱炭素社会宣言
(3) `2020・11・3 ’ 後の米国

第1章 米経済の行方と、‘失われたアメリカの20年 ’ 診断

 1.米経済の現状と今後の見通し
 2. ‘失われたアメリカの20年’ 診断
  ・米コロンビア大教授、Jeffrey Sachs氏
  ・欧米連携の復活

第2章  脱炭素社会へカジを切った菅政権と,
習近平中国の地球温暖化対策

1.菅首相の脱炭素社会宣言
(1)脱炭素化と日本経済の構造改革
    ・菅政権と「構造改革」
(2)積極的な反応を示す経済界
(3)世界は一挙に脱炭素社会を目指す
・「パリ協定採択5周年」記念会議
  ・菅首相のグリーン外交
2.中国の地球温暖化対策、そしてそこに映る狙い
(1)習近平氏のカーボンニュートラル宣言
(2)米コロンビア大教授、Adam Tooze氏の警告
   
おわりに  次代のカギを思う  
 
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はじめに  2020年 ‘年の瀬 ’ の 国際環境

OECDは12月1日、世界の経済規模が中国の成長回復が牽引する形で「2021年末までにコロナ禍前の水準に戻る」と、世界経済の見通し(2021年:4.2%, 22年:3.7%)を公表しました。同時に、感染再拡大が成長率を押し下げるリスクは消えておらず、金融財政政策による下支え、感染対策の継続を各国に求める処ですが、ワクチンなどの研究が進んでいるほか、各国の雇用や企業支援策で経済が回復しやすい状況を保っているとして、「コロナ禍が始まって以来、初めて明るい未来に向けた希望がある」とコメントするのでした。

では日本は如何にですが、同レポートによると、日本のGDPは2020年に5.3%減少した後、21年に2.3%, 22年に1.5%のプラス成長と見通す処です。輸出が戻りつつある他、東京五輪が無事開催されれば消費を押し上げるためとする一方で、企業の投資は弱含みと見る処、日本に対して「生産性や持続性を高めるための構造改革を進めるべき」と指摘する処です。因みに12月14日 公表された日銀短観では大企業製造業の業況を示す指標(DI)は、前回(9月)調査に比し17ポイント上昇、2四半期連続の改善でしたが、総合ではマイナス10とコロナ前の状況には未だしの状況です。

そんな「年の瀬」にあって、OECDが云うような期待を膨らませる動きが際立つ処です。まずはコロナワクチンの開発・承認、そして接種が始まったこと、次に主要国による脱炭素社会宣言、つまりカーボンニュートラル宣言が連呼されたことで、SDG、世界経済の持続的成長に向けたベクトルが確かなものとなってきたということです。 そして、次期米大統領にバイデン氏が確定したことで、トランプ政治に代わる、国際政治の協調路線復活が見通されるようになったこと、も挙げられる処です。

(1)コロナワクチン接種始まる
12月2日、英国政府は米製薬大手フアイザーと独ビオンテックが共同開発する新型コロナウイルスのワクチンの使用を承認、12月 8日にはロンドンで初の接種が行われ、ジョンソン首相も誇らしげに立ち会うのでした。 メデイアによると今回、英国に承認された両社は2021年末までに約13億回分(6.5億人分相当)を世界で製造する予定とか。同じく米欧などでの月内の接種開始に期待が高まる米モデルナも21年に5億~10億回分 (2.5億~5億人分相当)の生産を計画している由で、順調に進めば両ワクチンだけでも、21年末までに最低でも9億人に行きわたるという由です。(日経、12/3)

去る8月19日、日経紙上インタービューで、ワクチンンの共同開発や供給を巡る世界的な計画を進める官民組織、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)のR.ハチェットCEOは、ワクチン供給は21年上半期になろうとの見通しを語っていましたが、今次の英国での承認はその予想をはるかに超えるスピード承認です。開発着手から1年足らずでの実用化には驚かされる処ですが、未曽有の災禍が技術革新を後押ししたと云えそうです。

ワクチンによる予防効果がどれだけ長続きするのか、ワクチンの供給には低温保管が不可欠とされる事(フアイザー製ワクチンはセ氏マイナス70度の超低温で輸送・管理することが必要とか)等々、難しい問題の残る処ですが、接種の普及で集団免疫が実現されれば、各国の経済再開の本格化につながるとの期待は云うべくもなく、各国の大規模金融緩和、財政政策も加わり、株式市場は活況を呈する処です。(注)
     
(注) 世界の上場株式時価総額が史上初めて100兆ドルを上回った(12/18日現在)。
国別では米国の21%, 42兆ドル膨らんだほか、中国も48% 増で9兆を突破。日本
は10% 増の7兆ドルにとどまり、中国との差が拡大した。(日経12/20) 

が、WTOは「パンデミックがこれで終わるわけではない」と警告する処、そもそも貧困な国に行き渡るのか? 世界が協力し、乗り越えるべき課題は多々との状況には変わりのない処です。 尚、12 月11日、米政府も、米、フアイザー社らが開発する新型コロナワクチンの緊急使用を承認、14日に接種が開始されましたが、日本ではより慎重な治験を経た上でということで、接種は来春になるとみられる由です。とにかく朗報です。
序で乍らワクチン開発で一番乗りし、世界を救おうとしている米フアイザーの経営者はギリシャ人、同社と提携する独ビオンテックの創業者はトルコ人だとか、何とも示唆的です。

(2)連呼の脱炭素社会宣言
もう一つは、世界が一斉に「脱炭素社会」に向け、動き出そうとしていることが確認されたことです。 周知のとおり8月28日,安倍前首相が持病の悪化を事由に、突然辞任。その後を襲って9月16日、菅前官房長官が後継首相に就任。そして10月26日、菅首相は初に臨んだ臨時国会での所信表明演説で、予想外に日本経済の脱炭素政策、つまり「2050年、カーボンニュートラルの達成」(注)を明言。そして12月1日、政府戦略会議が取りまとめた成長戦略実行計画に、それが盛り込まれたのです。これはパリ協定が目指す温暖化ガス規制への対応ですが、まさに「日本脱炭素社会宣言」でした。

(注)カーボンニュートラル(気候中位)とは、ライフサイクル全体で見たとき、
CO2排出量と吸収量とがプラス・マイナスゼロの状態を指す。

脱炭素についてはEUが2019年に宣言、2020年9月にはUN総会でビデオ参加した習近平氏が宣言、日本はこれに続くものでしたが、来年1月にはバイデン米政権がパリ協定に復帰することが予定されおり、これで世界は連呼する形で、一挙に脱炭素化社会に向かうことになったのです。まさに世界のトレンドとなる処です。

(3)2020・11・3 後 の米国
そしてもう一つは、米大統領選「その後」です。トランプ氏が、なお大統領選投票の無効を主張し、法廷闘争を目指す中、12月14日の選挙人による大統領選出選挙の結果、バイデン氏の勝利が確定し、2021年1月20日、同氏の第46代米大統領就任が決定したことでした。

次期大統領のバイデンス氏には、トランプ氏が強行したアイデンテイテイ政治が齎した社会の混乱の立て直し、更にはトランプ政治で壊されたグローバル協調路線の復活に向けた大仕事が待つ処です。もとより、それは彼が目指す‘民主主義の再生’のそれへの挑戦ですが、何よりもまず、コロナ禍による経済の立て直しが第一となる処、後述、12月21日に承認された9000億ドルの追加対策で一先ず、景気への不安は払拭されていく様相にある処です。

ただこの際留意されるべきは、ここで云う混乱とは、トランプ政治で露わとされた米社会の分断状況を指す処ですが、今「米国の失われた20年」とささやかれるように、過去十数年にわたる、つもり積もった経済社会の不満が構造化してきた姿の一部が、自己中心のトランプ政治、アイデンテイテイ・ポリテイックスの横行で一挙に露わとなったというもので、それだけに当該問題の根は深く、彼が目指す道のりの厳しさが想定される処、一部にはトランプ無きトランプ時代の到来とも揶揄する向きのある処です。 
そんな中、米コロンビア大教授のJeffrey Sachs氏は、そうした事情をいくつかの切り口から解析整理し、新たな国際協調をベースとした経済成長路線の復活を示唆する処です。

・Reimaging Capitalism in a world on fire
処で、この秋、邦訳出版されたハーバード大の経済学者、レベッカ・ヘンダーソン氏は10年をかけて書き上げたという「資本主義の再構築」(Reimaging Capitalism in a world on fire)で、世の中が生まれ変わっていくなかで公正で持続可能な世界をどう実現するかと問い、 「企業は可能な限り政府と連携し、開かれたフォーラムで柔軟性のある政策― 経済成長を最大化しながら汚染をコントロールし、かつ社会全般とその仕組みの健全性を強化する政策を設計することで、企業は制度改革の一翼を担い、税負担、腐敗撲滅、いつでもアクセス可能な完全な民主主義を支える」と、説く処です。 要は企業こそ変革の主役と、体制論とは異なった切り口で、実践的に資本主義の改革を提言する処ですが、それは上述(1)、(2)、(3)をも絡む包摂的なスキームへのシフトを示唆する処です。 

そこで今次論考では(i)上記ヘンダーソン氏の思考様式を体し、米経済の現状の検証と、J.サックス教授の「失われた米国の20年」克服に向けた診断とをそれに重ね、今後の可能性を考察し、(ii)国際経済社会の新たなトレンド「カーボンニュートラル」を巡る日本政府そして中国政府等、国際環境の実情とも併せ、その行方を考察していく事とします。


第1章  米経済の行方と、‘失われたアメリカの20年 ’ 診断
                
1.米経済の現状と今後の見通し

12月4日公表された11月の米雇用統計によると、注目を集めてきた失業率は前月より0.2ポイント下がって6.7%で、4月の14.7%をピークに低下は続くものの危機前の水準、3%台の水準には未だしの状況です。言うまでもなくコロナ感染の再拡大でサービス業を中心に雇用回復にブレーキがかかりかねない様相にあり、前述ワクチン接種の全面的な普及まで綱渡りが続く処かと思料するのです。ただ、この雇用統計を受けたバイデン次期大統領は12月4日、「米景気は失速しつつあり、議会は救済策の即座行動を」と演説。12月20には、超党派グループで提案中のコロナ対策 ― 失業保険の特別措置や中小企業の雇用維持策を延長するのが柱となるものですが、9千億ドル(約93兆円)の追加財政の発動が合意、21日には関連法案が採決されたことで、景気への不安は払拭されていく様相です。

では来年の見通しはとなると、勿論次期政権の政策如何ですが、バイデン氏は22日には、上述追加財政に加え更に、雇用創出、ワクチン普及などを目的とした追加経済対策を年初に用意すると発言する処です。因みに、ハーバード大教授(Kennedy School)のJason Furman氏はForeign Affairs (1月号)で、現時点での米経済全体の姿は、失業率、株式市場等、基本的にはhouse-on-fireの状況は脱してきているとして、バイデン氏には何よりも重要かつ、緊急を要することはCOVID-19の収束であり、それが彼の目指す中期的政策`building back better’ の中核だと、苦言とも言えそうな、指摘をする処です。

前述 ヘンダーソン氏は、「企業こそ変革の主役」と主張する中で、今次コロナ・パンデミックは資本主義を取り巻く議論のターニングポイントにある事、同時に、「希望の兆し」とも言い、資本主義を徹底的に見直すチャンスだと指摘する処です。つまり、ビジネス界のリーダーは経済格差や気候変動に取り組む為に、自らの方針を見直し、ともに協力すべきと語ると共にパンデミックは、ビジネス界のリーダーにアメリカの競争力、経済格差に取り組むことを迫るとするのですが、バイデン氏と共に歩む米国の今後の行方とは、まさにprogressive capitalismにありと、感じさせられる処です。

2.‘失われたアメリカの20年’ 診断

さて、‘失われたアメリカの20年’ の現実について、米コロンビア大教授のJeffrey Sachs 氏 は11月27日付け論考 ‘America’s Political Crisis and the Way Forward ’ で、その実状を以下、7つの切り口で整理・分析するとともに、その行方を示唆する処です。―
・Rapid technological change(急速な技術革新) / White backlash(人種間闘争)
・The end of social democratic politics(民主政治の終焉)/ The evangelical awakening
(福音主義の覚醒)/ Plutocracy(金権政治)
・Antiquated political institutions(守旧的政治組織) / Social media(メデイアの規律)

つまり、2000年以降、これら事態が絡みあう事で米国社会の分断が進み今日に至る、まさに「米国の失われた20年」を結果する処で、従って現下の混迷とはトランプ政権以前からの現象ですが、トランプ氏の登壇は、彼のアメリカ・フアーストの下、米国政治のシステムの乱用、例えば、対外政策については、大統領は議会に諮ることなく一存で、大統領令を出すことで実行が許されることになっていますが、その大統領令を乱発して国際的連携を拒否し、例えば地球温暖化対応のパリ協定からの離脱、コロナ対応では不可欠なWHOの協力・支援の拒否、二国間貿易では関税障壁の強化等一方的導入を以って国際秩序を混乱に陥れ、結果として国内での不平等、分断が更に進んだとするのです。

そこで、トランプ政権、4年間の現実に照らし、今後、米国にとって、そして世界にとっても、重要な事は、明らかなように次の10年、各国との協調体制の確立を進め、分断を修復するグローバルなリーダーシップの確立を目指すことと、主張するのです。そうした期待を促す事情として挙げるのが、パンデミックにあってアジア・太平洋地域では米欧経済を上回る成長を果たしている現実、更に欧州も米国との連携強化と、外交上の安全保障、防衛力の強化を目指す動きのある事を挙げるのです。
そして更に強調することは、持続的成長を確実としていくためには環境対応が不可避として、その点、当該分野で世界のリーダー格にある欧州と連携し、世界との包摂的な社会の創造に努めていくべきと主張するのです。要は覇権主義的なリーダーシップはもはや過去のものであって今、世界は環境、社会、安全保障問題が複雑に絡み合う処、地域の内外を超えた強力な連携こそが、その前提となるというのです。

これら処方はバイデン政権への期待を映す処と云え、バイデン氏は民主主義の再生を第一義に、そして外交対応では国際協調を原則として、環境問題、人権課題に強い関心を示す処です。10月29日付け日経コラム「大機小機」では、かかる行動様式を「社会的資本主義」と表していましたが、要は、より今日的に云えば、ステークホルダー資本主義へシフトする姿であり、その行動様式は米コロンビア大のStiglitz氏らが唱道するprogressive capitalism に通じる処と思料するのです。その直後、かつて経済学を修めた先輩、同僚から「社会的資本主義」ってどういったことかと、照会を受ける処でした。

・欧米連携の復活
序で乍ら、EU欧州委員会は12月2日、バイデン次期大統領あてに4分野での協力提案を行った由、伝えられています(日経12月3日) その1つは新型コロナ対策。つまりワクチンや治療方法の開発。WHOの立て直しを米欧共同で進めること。2つ目は環境問題。気候変動や生物多様性で、米欧が世界を先導すべきとし、大西洋間で環境技術連合構築の提唱。3つ目はWHO改革及びデジタル経済を討議する場の提案。4つ目は民主主義や人権と云った西側の基本的価値観。つまり多国主義を広げ、地域の安定に貢献する事、でした。その以前、EUフォンデアライエンス欧州委員長は11月の講演で、「ホワイトハウスに再び友人を持つ」とバイデン氏歓迎の意を表した由、新たな米欧関係の生業を感じさせる処です。


          第2章 脱炭素社会へカジを切った菅政権と、
習近平中国の地球温暖化対策

1.菅首相の日本脱炭素社会宣言

冒頭「はじめに」で触れたように菅首相は10月26日、臨時国会での所信表明演説で、新型コロナウイルス禍で浮き彫りとなった行政のデジタル化の遅れを解消するために「大胆な規制改革を実現する」と強調する一方、成長戦略の柱の一つとして、「経済と環境の好循環を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力する」と力説するのでした。 とりわけ注目されたのが、成長戦略とした「2050年カーボンニュートラル」、脱炭素社会の実現を宣言したことでした。それは温暖化ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにするとの宣言でした。

これまで達成目標の時期を示すことなくやり過ごしてきた事に,国際的批判を受けてきた日本でしたが、主要国が次々に脱炭素競争へと足を踏み入れる中でギリギリのタイミングでの宣言というものでした。 遅まきながら世界の批判に応えんとするのは、次世代型太陽電池やCO2を再利用するカーボンリサイクルと云った「革新的なイノベーション」が、今後成長のカギと,その実用化を急がんとしたものと云えそうですが、11月19日の国会では、地球温暖化対策に国を挙げて取り組む決意を示す「気候非常事態宣言」も採択されています。
更に、政府・与党は、2050年、脱炭素目標を法律に明記することとした由(日経12/22)ですが、勿論、異例の措置とはいえ、2021年COP26に向け、政府の意思を内外に強調する狙いと云えそうです。

(1)脱炭素化と日本経済の構造改革
さて菅首相は12月8日の臨時閣議で、事業規模73.6兆円の追加経済対策を決定しましたが、その際は、前出、菅政権の看板政策、温暖化ガス排出「実質ゼロ」や官民のデジタル化と云った成長戦略宛てに51.7兆円と全体の約7割を投じることを決定。なかでも脱炭素に向けた研究・開発支援のため5年間、2兆円規模の基金の創設を、更に官民のデジタル化促進のための費用でも1兆円を確保したのです。 同日開催の経済財政諮問会議で菅首相は「グリーンやデジタルなど新たな成長に向けた対策を盛り込んでおり、直接の経済効果はGDP換算で3.6%程度の見込み」とコメントしていましたが、18日の閣議では2021年の経済成長率見通しを4.0%と決定、民間予想よりは強気見通しとする処です。

・菅政権と「構造改革」
さて、コロナ収束後を見据えた成長率の底上げに向けては、環境やデジタルに重点を置くのは今や主要国の潮流と映る処ですが、日本の場合、安倍長期政権で手を付けることのなかった日本経済の「構造改革」に菅政権は、一歩、踏み込むこととしたものと映るのです。
つまり、構造改革とは既得権排除によってはじめて実現する長期的視野に立った政策行動ですが、安倍前政権の場合、この既得権を切り崩すのではなく、むしろ彼らを味方にすることで政権基盤を維持してきたというものでした。が、菅首相の脱炭素宣言で、社会の空気は一変したかの感ありで、企業や金融機関は温暖化防止をテーマに急速に動き出す処です。
ただ課題は、こうした巨額に見合う効果的な執行の如何です。財政の実態がとかくの問題含みの折、その推移を注視していく要あること、いうを俟たない処です。

(2)積極的な反応を示す産業界
日本は、これまで省エネや電池の技術で環境先進国と云われてきました。しかし、これからは、中国や欧州の飛躍でその地位が揺らぐ中での「温暖化ガス排出ゼロ」を競うことになる事でしょう。ただ「脱炭素社会」で競争力の源泉となるのが、再生可能エネルギーと蓄電池技術です。その点では革新的なイノベーションを期待できる技術の芽生えはすでにあって、それらをいかに育てていくか、にかかるものと思料するのですが、これこそ前出ヘンダーソン氏のいう政府と企業の連携の妙の如何となる処でしょうか。尚 、日本の産業界と行政の対応状況の幾つかを、メデイア情報をベースに、以下に取りあげてみました。

           脱炭素に向けた日本企業と行政の対応状況 
(2020/12月現在)
① 東芝:脱炭素の流れを受け、事業の軸足を再生可能エネルギーに移し、2022年までの3年間で再生可能エネルギー分野に1600億円の投資(同社エネルギー部門の年間投資額の約5倍)を決定。(日経11/11)― 東芝自身、2015年の不正会計発覚をきっかけとする経営危機で多くの事業の売却、また巨額の損失を出した海外原発事業からの撤退に加え、この11月、石炭火力発電所の新規建設からの撤退発表。車谷社長は「脱炭素をビジネスとして本格的に取り組む」と云う。脱炭素宣言をtake chanceした経営再建策とも映る処です。

② 日鉄:2050年に温暖化ガスの排出量実質ゼロにする方針を決定。2020年度中に策定する長期環境経営計画に盛り込むことを決定。最大手の日鉄が実質ゼロとする初の削減時期の設定に踏み切ることで、巷間、国内企業の脱炭素の取り組みに弾みがつきそうといわれる処です。(日経 12/11)

➂ 三菱ケミカル(小林HC会長):今次同社では外国人社長の起用を決定しましたが、その決定は自社の置かれた環境の分析と併せての決断と語る処。(日経ビジネス11/30日号)  ― つまりパリ協定に基づけば、毎年、温暖化ガスは8%ずつ減らさねばならない。今年、コロナ禍で経済が大減速してはじめて8% 減った。裏返していえば、毎年、これくらいのリセッションがないと菅首相が打ち出した2050年CO2排出量実質ゼロは達成できない。
こうした危機的状況もコロナ禍で白日の下にさらされた。だからこそ化学業界でも、石油・石炭にかかわる事業は今後、再編・縮小がもっと必要になる。相当なリストラをやる。もっと捨てなければいけない。しがらみもある。その為には外国人社長の方がぴったりと云う。

④ 行政と企業
・政府の脱炭素化支援:CO2排出量の多い企業として再生可能エネルギーの導入拡大が必要になる処、政府は「温暖化ガスの排出枠取引制度」の導入によって、2050年脱炭素目標に向けた取り組みの加速化検討。又、発電や燃料電池車(FCV)向け燃料として水素利用の拡大(目標1000万トン)を進める。
・金融庁と銀行:金融庁は気候変動リスク対応として、国内メガバンクに対して今後30年を見据えた財務分析と対策を求める。つまり、急増する自然災害への備えが金融機関の経営健全性を左右する要素に浮上してきたというもの。因みに、欧州中銀(ECB)は11月27日、気候変動や環境のリスクをどう管理し開示していくかについての指針を公表している。

― 明らかに産業界の「時代精神」が変わってきていることを感じさせる処です。

(3)世界は一挙に脱炭素社会を目指す
本稿「はじめに」(第2項)で触れたように、EUは2019年、2050年脱炭素社会を宣言し、更に今年7月「欧州クリーン水素連合」を創設、官民で研究開発やインフラ整備を推進中で、まさに環境問題へのリーダーを自認する処、中国習近平氏も後述9月の国連総会で「カーボンニュートラル」を宣言、10月には日本が、そして来年にはバイデン米国のパリ協定復帰と、世界は一挙に脱炭素社会ヘ向かう様相にある処です。 勿論、脱炭素社会に向うと云ってもそう簡単ではありません。つまり、気候変動は純粋な気象現象にとどまらず、産業政策や国際政治における主導権争いの側面もある処、(とりわけ、中国の外交姿勢の如何ですが)、温暖化対応政策は、もはや世界戦略上,不可欠な要素となってきたという事です。

・「パリ協定採択5周年」記念首脳会議 
さて12月12日、「気候野心サミット」と名付けられたオンラインでの「気候変動サミット」がロンドンで開かれました。21年11月のCOP26(英国開催)に向け、温暖化対策への意識を高めようと開かれたというものです。メデイアによるとグテレス国連事務総長は、会議冒頭「パリ協定の目標には程遠い状況だ。方向を変えなければ壊滅的な気温上昇に直面することになる」と危機感を示した由です。因みに、12月4日、日本の文科省と気象庁は、「パリ協定」の目標が達成できなかった場合、気象上昇により日本の気候に深刻な影響が出る、猛暑日が倍増すると、予測結果を発表し警鐘を鳴らす処です。 
尚、各国首脳のメーセージで目立った事は、コロナ禍で落ち込んだ経済の回復と成長を、環境政策の強化を以って目指す「グリーンリカバリー(緑の復興)」にあった由で、主催国英国のジョンソン首相は、脱炭素の推進を通じて「世界全体で数十万、数百万の雇用を生み出せる」と語り、「グリーン産業革命」の主導に意欲を示したと、報じられる処でした。

・菅首相のグリーン外交
さて、首相の本気度は来年11月、英国でのCOP26で試されることになるものと思料される処です。それだけに日本として目標達成の具体的な道筋を来年夏ごろまでに、今後10年間の新たな目標の設定が必要となることでしょう。勿論、温暖化対策は日本だけで主導できる問題ではありませんが、日本に有利な国際ルール作りを進めるためにも欧米との協調が大事となる処です。一方、バイデン氏は大統領就任後100日以内にサミットを開き、温暖化ガス削減目標の強化を呼びかけるとしています。さらに来年秋COP26の前にはG20サミットの予定があり、やはり環境問題が議題となる見通しで、菅首相にとってグリーン外交が売り(グリーンは成長の源泉)となる瞬間が続きそうです。

[参考] パリ協定と、目標年2050年のなぜ?
そもそも国連温暖化対応は1992年の国連で、温暖化による危機的影響を防ぐため、大
気中の温暖効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標とする「国連気候変動枠組
条約」が採択されたことに始まる取り組み。この条約に基づき1995年からは毎年、国連
COP会議(Conference of the Parties:気候変動枠組条約締約国会議)が開催されている
が、2015年12月、パリで開催の第21回会議(COP 21)で、2020年以降の地球温暖化
対策の枠組みとして、世界の平均気温の上昇を産業革命前の2°C未満に抑え、21世紀
後半には温暖効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とした「気候変動枠組条約」、
いわゆる「パリ協定」が採択され、その結果、達成目標年を2050年に置くようになった
と云うもの。尚 本協定に署名・批准している国は2019年7月時点で185か国。

2.中国の地球温暖化対策、そしてそこに映る狙い

(1)習近平氏のカーボンニュートラル宣言
前述の通り、9月22日のUN総会で中国習近平氏は、ビデオ出演し「2060年には実質二酸化炭素排出量をゼロにする」と、宣言しました。排出ガスを世界で最も大量に出している中国(注)のトップが、このように国際的公約を発したことは驚きを以って迎えられましたが、勿論、先行するEU他、関係諸国は歓迎する処でした。そしてこれが、10月26日の「第5中全会」で決定された「第14次5か年計画」に組み込まれています。(弊論考N0.104)

     (注)中国で生産される二酸化炭素量は、世界全体の約28%を占めるとされ、これ
     は米国、EUそしてインドの合計とほぼ同じ量とされている。

処で、この習氏のスピーチに対し、米外交誌「Foreign Policy」の電子版に投降した米コロンビア大学教授(歴史)、Adam Tooze氏は、9月25日付投稿記事「Did Xi just Save the World? 」で、中国の思惑を語っているのですが、考えさせられる処、多々です。
つまり、習近平氏のスピーチは、以下のように極めて単純な二つのsentencesからなるもので、つまり、「 China will scale up its Intended Nationally Determined Contributions by adopting more vigorous policies and measures. We [China] aim to have [carbon dioxide] emissions peak before 2030 and achieve carbon neutrality before 2060.」でしたが、この短い文章こそは「the future prospects for humanity」、つまり人類の将来を再定義した可能性があると断じる処です。そこで、そのポイントを、以下紹介することとします。

(2)Adam Tooze氏の警告
・まず、それは誇張のように聞こえるかもしれないが、急速な経済成長と石炭火力への依存で、中国は圧倒的に最大のCO2排出国になっていて、その排出量の比率は上記(注)の通りで、一人当たりの排出量ではEUより多くなるというのです。ただ地球温暖化は年間の排出量ではなく、大気中に時間と共に蓄積された温暖化ガスによって引き起こされるもので、この観点からは過剰な炭素蓄積の歴史的責任が米国とヨーロッパにある、ともいうのです。

・中国の一人当たりの排出量は現在、米国の半分以下だが、将来の排出量に関しては、中国次第としながら、温暖化の将来は、急速に成長しているアジア, 特に中国が決めることになろうが、習近平の短いスピーチは地球の将来を決定したと云い、彼の約束が完全に実行されれば、世界の気温上昇は摂氏0.2~0.3度下げると専門家筋も推測しているというのです。

・そして中国と他国との関係が米国だけでなく、EUやインドとも悪化していることを考えると習近平氏の動きは印象的と云え、香港、ウイグル自治区、人権などで、EUが中国への批判を強めようとしている時期に、中国は気候政策に関してEUと一致している点を強調するのですが、国際的な対中包囲網が構成される中、地球温暖化の旗振り役のEUに擦りよることで孤立化を回避し、併せてEUの技術及び資金の取り込みを狙っていると見る向きは強いとするのです。又、温暖化対策は南北問題の対策にもなる処、中国はすでに先進国並みにあるも、いまだに南のリーダーとして振るまっていて、世界の貧しい国に対して排出権ビジネスで資金を還流させると途上国の共感を得ようとしていると言うのです。

同時に中国は温暖化対策が膨大なビジネスチャンスを生むことに気付いていて、既に、再生可能エネルギーにおいて、中国機器の国際市場でのシェアーは支配的になりつつあること、更に、電気自動車にあっても主要バッテリーは中国が世界最大の生産者になっているとも指摘するのです。そこで語られるように、この分野で立ち遅れれば、技術覇権を中国に握られる可能性があり、その意味で安全保障上の問題になるかもしれないとするのです。新しい時代のエネルギー覇権を誰が握るのか、既に競争は始まっていると、警告するのです。
  

           おわりに  次代のカギを思う
本稿を締めるにあたり、今一度、Nouriel Roubini教授(NY University’s Stern School of Business)が、今年4月28日付けでProject Syndicate に投稿していた 論考を読み直してみました。タイトルは `The Coming Greater Depression of the 2020s’ です。それは経済停滞につながるリスク要因、下記10項目を挙げ、現在と今後の景気動向を見通すものでした。

① COVID-19対抗で財政支出の拡大で政府の効率劣化、コロナ禍で雇用労働者の収入
減と消費の減少、が重なり回復力劣化のリスク。
② Demographic time bomb(先進国共通の人口の高齢化と社会保障負担拡大リスク)
➂ Growing risk of deflation(デフレの進行―需要の減少で不稼働設備の増大)のリスク
④ Currency debasement(ドルの減価のリスク)
 ⑤ Broder digital disruption(経済のデジタル化の頓挫)
 ⑥ Deglobalization(反グローバル化の進行) ― パンデミックの進行はBalcanization
(小国化)誘発リスク、
 ⑦ The backlash against democracy(反民主主義と人種対立リスクの高まり)
➇ The geostrategic standoff between The US and China(米中対立の深化)
⑨ Diplomatic breakup (米中に加え、ロシア、イラン、北朝鮮との関係悪化リスク)
⑩ Environment disruption(これまで軽視されていた環境問題リスク)

その際の結論は、今年、2020年は主に上記①を踏まえ、U字型の景気回復を辿るも、その後は上記要因への改善取り組みなければ、L字型のgreater depressionに見舞われると見立るのでした。尤もそれらリスクはCOVID-19以前から承知されてきた事と云い、そこで彼は、これまで軽視されてきた10項目目の環境問題対応こそが、何よりも今後のカギであること、そして2030年代までにはtechnology and more competent political leadershipを擁することで、事態の改善が期待されるとするのでした。実に‘今’、世界が目指さんとする姿に符合する処、新しい資本主義経済の核心は環境対応にありと、思いを新たにする処でした。

さて、この1年、コロナ禍の癒えることのないままに、皆様には毎月、長編論考にお付き合い頂き深謝申し上げます。今、再び、コロナ感染拡大、第3波が報じられる処ですが、各位には、メルケル首相がドイツ連邦議会(12/10)で行った、感情を露わとして、国民により厳しい措置への協力を懇請したあの感動のスピーチを肝に銘じ、お元気で佳き新年を迎えられん事、祈念する次第です。 (2020/12/25)

A Happy New Year to You all !       

posted by 林川眞善 at 11:03| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする