2017年10月27日

2017年11月号  この秋、日本の政変、欧州の政変 - 林川眞善

はじめに:日欧政治の潮流変化

・日本政治のトレンド
10月22日、日本の衆院総選挙の結果は自民党の圧勝で、安倍晋三政権の続投が決まりました。自民党勝利の構図は、当初反安倍勢力として最有力視されていた新党「希望の党」が同党を率いる小池百合子氏の言動を映す形で失墜、因みにその結果は野党陣営では第2位に、それと同時に進んだ野党勢力の分散で、反安倍での結集が出来ず、結局は安倍政権再登場を許す処となったと云うものです。今次、自民党勝利は、2012年(衆院選)、13年(参院選)、14年(衆院選)、16年(参院選)に続く、実に5連勝となるものです。

彼の再登場は、これまでの延長線にあるという意味では自民党政治の安定化と目される処でしょうが、それは従来の自民党勝利とは基本的に異なる重大な意味を持つ処です。それは、今次選挙で自民党は選挙公約に初めて‘憲法改正’を掲げ、勝利したという事です。以って国民の容認を得たとして今後、安倍政治は改憲路線の具体化を進めていくことでしょうが、それは当然として安倍政治の更なる保守化、右傾化を深める処と危惧される処です。つまり日本政治のトレンドが大きく変わるという事です。従来のそれとは異なる重大な意味を持つとは、そうした事なのです。勿論、彼は‘アベノミクスの再起動‘も挙げていますが、その‘再’という言葉も気になる処です。

・独・仏のパワーバランス
一方、目を欧州に転じると欧州政治の潮流にも、いま大きな変化が起こりだしています。
9月24日、ドイツ(連邦議会:下院)、フランス(上院選)で行われた議会選挙の結果は、これまで欧州を牽引してきた両国のパワーバランス、政治力学に変化を齎し、欧州(EU)統治の生業に一大変化を齎す処となってきているというものです。

まずドイツですが、メルケル首相、自身は4選を果たしたものの、これまでの連立政党が敗退、、メルケル与党は大きく票を減らし、代わって極右政党が初議席を獲得、第3政党として躍り出るという構造変化に直面、彼女としては政権維持のために新たな連携を模索することを余儀なくされ、その威光に影を落とす状況にある処です。これまでポピュリズムにはさほど縁がないとされてきたドイツですが、近時の難民の急増への不満、メルケル財政の引き締めへの不満の高まりを受けての結果とされる処、いまや「The end of German exceptionalism」(Financial Times, Sept.25)、と囁かれる状況です。

一方、同日行われたフランス上院議会選挙では、マクロン大統領主導の「共和国前進」も僅少ながら議席数を減らしたことで彼への求心力が瞬時云々されましたが、上院より権限の大きい下院の過半数を握っている点で彼が進めんとする公務員削減や労働市場改革等すぐに滞る状況にはありません。それよりもメルケル氏の政権基盤が緩んできたことで、いわゆる「メルクロン」主導のEU改革はどうなるのか、疑問符が付く処ですが、26日にはマクロン氏はリベラルな姿勢を基調に、再びEU強化について熱弁を振るい、もって、29日のEU首脳会議に臨み、まさにEU統合深化についての論陣を張り、メルケル氏に代わって、マクロン氏の存在感が急速に高まる処となっています。そして、そのあり姿は、Europe’s new order (The Economist.Sept.30)と語られる処です。

つまり、今、日本では政治の保守化、右傾化が懸念される一方、欧州ではマクロン・リベラリズムを基調にEU統合の深化が語られる等、対照的な様相を呈しているのです。

そこで本稿は2部構成とし、第1部では今次、選挙結果を巡る事情、特に選挙の流れを決定づけた新党「希望の党」の顛末をレビューし、一方、再登場の「安倍政権」の‘改憲路線’を質すと共に、今後の経済政策について考察し、第2部では、流動化する欧州事情について検証していきたいと思います。 (2017/10/26)           


― 目 次 -

第1 部 2017年10月、衆院総選挙

第1章 新党「希望の党」とは何だったのか

(1) 不発に終わった「希望の党」
(2)小池ポピュリズムと政党政治の実相

第2章 安倍晋三政権再び
 
(1)安倍政権の「改憲路線」を質す
・憲法は国家百年の計
(2)アベノミクスと安倍経済政策の今後
・アベノミクスのリアル
(3)潜在成長率引き上げに向けた構造改革を
・英誌「エコノミスト」の警鐘
・いま必要なことは労働市場改革
          
第2部 欧州は今、新秩序へ

第1章 シフトする独仏の政治力学 
(1)ドイツよ、お前もか
(2)そしてマクロン氏台頭

第2章 マクロン大統領の挑戦 ― Future of Europe


おわりに:「米中逆転」が現実味を帯びる中で

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第1部 2017年10月、衆院総選挙


第1章 新党「希望の党」とは何だったのか

(1) 不発に終わった「希望の党」
小池百合子氏率いる「希望の党」の絶対的優位が伝わる中、その結果は前述の通りで、野党陣営
の中でも新党「立憲民主党」の後塵を拝するものでした。小池代表の地盤、都内25選挙区(擁
立候補22人)での獲得議席は僅か1議席。では希望の党の敗因は何か。安倍自民党政治との対
峙と云いながら、その政治姿勢を政策の裏付けを以って明確に訴えることが出来なかった、一言
で言って‘政治’に対する未熟さにあったと云うものです。

まず政治姿勢です。小池代表は「希望の党」は‘改革保守’を標榜し、政権公約では原発ストップ、
消費増税見送りと、一見改革姿勢を打ち出すも、それ以外では改憲容認、安保法制容認とまさに
自民党と同じ路線を語るものでした。そこで自民保守との違いを問われると彼女はゴルフ・プレ
ーを引き合いに出し、既成政党は右のラフに打ち込んだり、左のラフに打ち込んだりするが、希
望の党は、フェアーウエーに打ち込み、真っすぐに政策を進めると語るだけで具体的説明もなく、
極めて分かりにくく、又、政権政党選択の選挙と云いながら党代表の彼女の出馬はなく、ではそ
れに代わる総理候補は、と問えばそれも拒否し全ては選挙結果を見てから考えると応えるだけ
で、有権者には極めて曖昧と映り、同党に対する支持は後退、加えて前述彼女の言動、「排除の
論理」を翳した事が、小池代表のおごりだとして「希望の党」の失墜を招いたと云うものでした。
「言葉は政治の武器」、その武器の使い方が問われたと云うものです。

また経済政策にしても然りと云うものでした。まず、アベノミクスの向こうを張って「ユリノミ
クス」を掲げたのですが、ユリノミクスとは何かと問えば、「消費者に寄り添いマーケテイング
などをベースに進める」と応えるだけで、「AI(人口知能)からBI(ベーシックインカム)へ」
ともいうのでしたが、これには巨額の財源が必要なのですが何ら具体性もないままです。更に増
収策について、消費増税は見合わせ、代えて企業の内部留保への課税を挙げるのですが、内部留
保金は企業内に取り崩せる塊として存在するわけでなく、投資に回しても、現金預金で保有して
も内部留保の額は同じです。等々、経済政策としても、財源確保策としても問題のある政策と云
うものです。

経済の活性化を云うのであれば、業績好調な企業がもっと賃上げや、投資に向かうよう促すこと
にある筈の処、内部留保課税はそれを阻害することになる一方、法人税は景気に左右されるだけ
に、消費税ほどには恒久財源にはなりえない等々、問題意識の浅さ、論理的詰めの浅さ、等々、
政党としての未熟さを感じさせるばかりと云うものでした。

尚、小池氏の「排除の論理」がトリガーとなり、政治集団の再編が進み、その結果は新党「立憲
民主党」を生み、これがリベラルとしての政策統一が進んだ事で有権者には、政治が分かりやす
くなったと云うもので、これが怪我の功名とも言え、立憲民主党が野党第1党に躍進した背景と
云うものです。因みに出口調査によれば、無党派層の3割が立憲民主党に投票した由ですが、ま
さに政策対応で筋を通した事への評価という処でしょうか。

(2)小池ポピュリズムと政党政治の実相

処で、今次選挙でダメージを受けた「希望の党」の姿とは、それは小池劇場とも言われるポピュ
リズムをベースに置く政治が故のなせる業と映る処ですが、雑誌、中央公論、10月号の特集「政
党が信じられない」での二人の学者(一橋大教授 中北浩爾氏、京大教授 待鳥聡史氏)の対談、
それは先の東京都議選で圧勝の小池都知事と大阪維新との違い、そしてそこから見える政治課題つまり、政党の在り方について語るものでしたが、今回の「希望の党」に映る小池流ポピュリズム政治を考えていく上で興味深いものでした。

まず、ポピュリズムの特徴を、「体系的な政策の欠如」と「短期間で出現することにある」とした上で、都民フアーストの場合はまさにそうした政党であったと断じ、維新は大阪の課題に取り組む際の基軸が比較的明確だったというのです。つまり大阪の場合、市内や府南部等本当に深刻な課題を抱えていて、維新の台本はある種の必然性があったが、一方の東京について言えば、築地市場の移転問題があったが、大阪の課題と比べると何が争点なのかよくわからない。ただ、大阪の選挙は市長選、市議選、府知事選、府議会と4つあるのに対し東京の場合は知事選と都議選の二つで、勢いがあれば東京の方が ‘短期間’で支配的になれると指摘するのです。
確かに都民フアーストの会が支える小池都知事の構図は、首都東京とは言え地方自治におけるポピュリズム政治であり、都議選での勝利パターン、つまり小池流ポピュリズム戦略を以って国政に臨んだことの限界を実証するものだったと云える処です。

(注)ポピュリズムについての定義は大まかに言ってつぎの二つとされている;
① 「固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル」と捉える定義。つまり、リーダーの政治手法として、大衆に直接訴える政治手法としてのポピュリズム
② ‘人民’の立場から「既成政治やエリートを批判する政治運動」と捉える定義。即ち、政治変革を目指す勢力が、既成の権力構造やエリート層を批判し、‘人民’に訴えてその主張の実現を目指す運動としてのポピュリズムされるもの。(水島次郎「ポピュリズムとは何か」、中公新書2016/12)

尚、興味深いのは、小選挙区制(1994/1導入)と無党派の動きに係る指摘でした。つまり、小選挙区制は、選挙前の第1党が有利なのではなく、選挙前に最も勢いのある党に有利に働く制度だと指摘するのです。因みに2009年衆院での民主党、2012年衆院選での自民党の圧勝がまさにそれだとするのです。更に、無党派の風は8年周期で起きているとの指摘です。1993年の細川政権、2001年の小泉政権、2009年の(旧)民主党政権だったと云うものです。では今回の選挙ではどうだったか。無党派の反乱のほどは不詳ですが、少なくとも彼らの3割が新党「立憲民主党」に向いた結果、「立憲民主党」が野党第1党になった事で、相応の政治的意義はあったものと思料するのです。

さて、ポピュリズムの高まる中、政党の存在意義が問われています。その点で、彼らは次にように指摘するのです。かつて政党政治における対立軸は経済の再分配にあって、従って政党は支持者の為にパイを取ってきて、それを分配できたが今はそれができない。有権者は新しい政党ができると飛びつき、期待ほどの効果を出せないとすぐに離れる。政党は使い捨ての存在となってしまっているというのです。ならば、どう存在意義を出すか。政党は解決策を与えられるわけではない点で、有権者の困りごとを聞き、課題を認識してくれる、そう言った場としての存在たれと云うのです。つまり、‘使い捨てカイロではなく湯たんぽのような政党になるべき’と、その為には支持者が政党の意思決定にかかわる事の出来るシステムが大事と云うのです。言えて妙の表現です。それは政党が一般有権者と政治のパイプになる事の重要性を示唆するのですが、さてそれはポピュリズムと共生する政党の新しい姿となるものか、考えさせられる処です。

第2章 安倍晋三政権再び
   
(1)安倍政権の「改憲路線」を質す
今回の自民党の勝利は、政権公約として掲げた憲法改正を国民が容認したという事で、再登場の安倍政権は‘改憲’中心の政治を進めることが想定される処、連立の公明党に加え、憲法改正に前向きな希望の党、維新の会を合わせた「改憲勢力」は国会発議に必要な3分の2(310議席)を大きく上回ったことで、‘発議’が現実味を帯びてきたと云うものです。

具体的には今回公約として掲げた改憲案4項目、「①自衛隊の明記、②教育の無償化・充実強化、③緊急事態対応、 ④ 参院の合区解消」を中心に、改憲審議が進められていくことになるものと思料される処です。ただその際は、現下の北朝鮮動向に照らし、いたずらに危機を煽っていると受け取られることのないよう時間をかけ、国民が納得できる慎重な審議を求めていきたいと思うのです。勿論、そのプロセスは彼の身上思想とも併せ見るとき危惧されるのは、政治の保守化、右傾化の進む事です。そこで、この際は公約にあった上記4項目につき筆者の思う処を、記しておきたいと思います。

・憲法は国家百年の計
そもそも憲法とは国家の根幹をなすものであり、国家百年の計と云うものです。その現行憲法を改正しようと云うのであれば、まず、戦後70年の変化を踏まえ、それは「国のかたち」までも改めるものでなければならないと思料するのです。そして、そのための前提となる国家観を国民に示していく事が求められる処です。然し未だ、安倍晋三氏からそうした話を聞くことはありません。とすれば彼が宿願とする改憲とは、単に、改憲を果たした政治家として、歴史にその名を残したいと云うものかと、そう思えてならないのです。

・4つの改正点に思う
もとより憲法を改正する事、自体を否定するものではありません。がとりあえずは公約にある改憲項目案について、筆者の思う処を記しておきたいと思います。

まず、条文に触らなければできないものは明文改憲で、基本法や個別法で対応可能なものは立法措置で、対応すべきと思料しますが、この際は、それらを合わせた憲法改革の視点の必要性を指摘しておきたいと思います。因みに、「教育の無償化等」は、まさに政策判断により法律で対応が可能なはずで、これがなぜに改憲に繋がる事なのか釈然としない処です。一方「参院の合区解消」については、議員定数の問題はともかく、これを機会に、よく話題に上がる衆参両院制度問題への取り組みと併せ考えるとき、役割分担をはっきりさせるためとして、参院を行政チェックに徹する「行政監視院」にするなども考えられますが、それは立法改革で可能なはずですし、議員の選び方を変えるのは勿論立法でできるのですから、それらをセットにした取り組みを目指すべきと思料するのです。つまり、それは憲法改革路線を目指す処です。

さて、改憲のキモは何といっても「自衛隊の憲法明記」にある処でしょうがそれは当然のこととして安保体制との絡みで考えられるべきイッシューです。実は、それは憲法解釈を見直して集団的自衛権の行使を限定解除したことで、現在の国際情勢に即した安保体制はそれなりにできており、9条を抜本的に書き直す必要性はかなり薄らいだと云え、あとは自衛隊をどう法的に位置づけるか、だけと思料するのです。仮に憲法の明文化で自衛隊に正当性を持たせるなら、それに見合うシビリアン・コントロールの枠組みも一体で盛り込まねば、最悪の改憲提案になるものと思料するのです。とすれば、この際は9条にばかり拘る不毛な憲法論争は卒業すべきで、そのエネルギーを外交力の強化、つまり今日的国際安全保障環境に即した重層的、構造的外交戦略の構築に向けていくべきものと思料するのです。時に、そんなことは何ら力にならないとの批判が起こる処ですが、とにかく言い続けることなのです。因みに、本26日、日経朝刊一面では、河野外相は日経紙のインタビューで「日本も戦略的に大きな絵を描いて外交努力をしていかねばならない」と強調し、自由貿易推進、防衛協力を念頭に置いた「日米豪印で戦略対話」構想を語っていました。大いに支持されるべき構想と痛く思う処です。 尚、「緊急事態対応」問題については、ワイマール憲法の下での独裁者台頭という歴史の事実に照らし、弊論考でも何度も指摘してきた処であり、危険な代物の他ないのです。

日本の平和憲法は日本国家のブランドです。そのブランドを壊してまでも何故今、改憲なのか、その疑問は依然消えません。今後の議論の推移を注視していきたいと思う処です。

(2) アベノミクスと安倍経済政策の今後
9月20日、安倍晋三氏は国連総会に出席したのを機会に、NY証券取引所で金融関係者ら約200
人を前に日本経済の現状について講演をしています。同所で講演するのは‘ Buy my Abenomics
(私の経済政策は買いだ)’と訴えた2013年9月以来のものです。今回の講演では「この4年
間日本経済構造を根本から改革するため、ひたすらにアクションを続けてきた」とアッピール。
9月9日、10秒の壁を破った桐生祥秀選手を引き合いに出し、私も2020年に向かって‘壁’に挑
戦すると力説。「いかなる‘壁’も打ち破り、新たな成長軌道を描く。これこそがアベノミクスの使
命だ」(日経 9月21日)と再びアベノミクスを標榜していました。10月3日発表された選挙
公約の第2項には「アベノミクスの再起動」が掲げられていました。が、その‘再’には、4年間
のアベノミクスへの反省が含まれてのことかと思うのですが・・・。さてその実状は如何。

・アベノミクスのリアル
安倍首相は上述の次第で、アベノミクスによって景気は回復したと主張し、内閣府の景気判断で
も回復基調が続き、いざなぎ景気超えと云う声まで出ています。確かに異次元金融緩和、財政出
動で株価や地価もこれに呼応する形で上昇し、景気回復感を煽る処です。が、問題はこの回復が
実感されることがないという事ですが、その背景にある事情こそが基本的問題とされる処です。

安倍政権4年間(2013~16)の経済成長(実質GDP)は4年連続プラス成長で年平均1.1
%ですが、その前の3年間(旧民主党政権下)の平均1.8% より低く、また消費も同様にありま
す。その消費の鈍化を結果しているのが雇用環境にあるのです。つまり、安倍政権下の4年間
で雇用者数は230万人増えたと誇っていますが、その内訳は非正規が殆どで約210万人増えた
というものです。GDPがあまり変わらないのに雇用が大幅増なのは、雇用が劣化していること
のほかありません。本当に労働環境が改善していれば賃金も上がるはずです。政府は今、盛んに
企業に対し賃上げを要請しているのもそうした事情を映すものですが、未だしと云う処です。

少子高齢化が急速に進み、日本経済はいまや人手不足の状況にあり、上述消費の動向も含め、先行きへの不安、つまりコンフィデンスが持てないという事情これありで、企業も安易には賃上げに応じ得ない状況と云われています。つまり異次元金融緩和で数字上金融資産を大きく増やし財政の大幅出動を以って景気を維持してはきたものの実体経済は伴っていないという事なです。こうした不安を克服し、経済の持続的回復を図っていくには、何としても環境の変化に即した経済改革、構造改革が必要なのです。その点、これまでも安倍政権はお題目としては掲げてきましたが、その歩みは極めて鈍く、アベノミクスが今批判を集める処です。‘再’起動とは自らの政策の失敗を認めた言質と云うものです。

(3) 潜在成長率引き上げに向けた構造改革を

・英誌「エコノミスト」の警鐘
この4月、OECDが対日経済審査報告で、また7月にはIMFが日本経済2017年次審査報告で、アベノミクスを巡って縷々指摘していましたが、そんな中、興味深いのが9月30日付英エコノミスト誌のアドバイスでした。まず、北朝鮮の暴走危機の中での解散に疑問を呈しながらも、日本の安全保障の核心は経済にあり、「A vital part of Japan’s national security is its economy」と警鐘を鳴らすものでした。要は、安倍政権は不人気な経済構造改革に踏み込む意思はなさそうだが、これは極めて問題だと云うものです。日本の国民の関心は、今北朝鮮問題にあり、経済から安全保障に向けられている処、勿論それは重要な問題だが、それはトランプ米大統領との連携の下で、対応されるべきことで、長期的な視点に立つとき、経済停滞からの回復に遅れをとること自体、日本の安全保障にとって大きな脅威に繋がると、‘-----, in the long run, a failure to economic decline will pose as great a threat to Japan’s security ’というのです。さてこうした次元で経済の重要性を指摘するのは流石、エコノミスト誌と、痛く感じさせられる処です。

要は構造改革を進め持続的成長への基盤固めを今こそと云うものですが、筆者流に言えば、それは潜在成長率の引き上げに徹した成長戦略の取り組みに他なりません。言い換えると、今言われる日本経済の最大の壁「急速に進む少子高齢化、人口減少」への対応の如何となる処です。

・いま必要なことは労働市場改革
2017年度の経済財政白書によると、1986~91年のバブル期には時間当たりの労働生産性の伸びが年平均3.8%であったのに対し、12~16年では0.7%にとどまっています。生産性の低下を反映し一人当たり名目賃金の年平均上昇率もバブル期の3.6%に対し12~16年は0.4%となっています。このままでは進行中の経済構造変化を日本企業が乗り切るのは難しいという事になる処です。労働力の減少は今後本格化することが見えています。とすれば企業に迫る課題とは、働き手一人の付加価値を高めること、つまり生産性の向上です。 それへの企業対応は有望分野への経営資源の集中であり、研究開発の強化であり、ITの積極活用、等々でしょうが、政策面では企業が活動しやすい環境の整備が求められる処です。現在、「働き方改革」では脱時間給や残業規制、など生産性向上を後押しする施策は進んではいますが、経済の新陳代謝に繋がる柔軟に仕事を移っていける「流動性の高い労働市場」の整備は、未だしの状況です。

因みに、前掲、2017年OECD対日経済報告書ではこう指摘しています。
「・・・労働生産性は、依然、OECD諸国の上位半数の国の平均値から約4分の1下回っている。企業の参入、退出に係る障害により、革新的な新たな企業の数は抑制され、労働と資本は生産性の低い活動に閉じ込められている。サービス業と製造業の間、先端企業と遅れた企業間の生産格差は拡大し、賃金格差、所得格差の一因となっている。労働市場の二極化は更に固定化が進んできており、非正規労働者は今や雇用の38%を占め、相対的貧困率を高めている。」と。

とすれば必要なのは労働市場改革です。これこそは日本の成長力を高める基礎となる処です。選挙の終わった今、その重要性を再認識し、それに向けた具体的施策を整備し、その実現に向けた果敢な取り組みこそが喫緊の課題なのです。



第2部 欧州は今、新秩序へ

第1章 シフトする独仏の政治力学

(1)ドイツよ、お前もか
9月末のドイツ連邦議会(下院)選挙の結果は、これまでEU欧州を引張って来たアンジェラ・メルケル首相の威光に影を落とす状況が生まれてきている事、前出「はじめに」で触れた処ですが、その実状は次の通りです。

つまり、メルケル首相は今回の選挙でも勝利し、4選を果しましたが、自身が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は議席を前回から65議席も減らす一方で、これまで連立を組んできたドイツ社会民主党(SPD)が歴史的敗北を喫したことで連立を離脱。一方、極右とされる「ドイツの為の選択(AfD:Alternative for Germany)」が初の議席を獲得して第3党に躍り出たのです。これまでポピュリズムにはさほど関係がないとされてきたドイツですが、近時の難民の急増への不満、メルケル財政の引き締めへの不満の高まりを受けての結果とされており、近時の英国やオランダの選挙結果と類似する処、時に「ドイツよ、お前もか」と云う処です。

要はドイツ政治の支持基盤構造が変化したということですが、この結果メルケル首相は政権維持のため新に自由民主党(FDP)、緑の党、との連立の模索を余儀なくされています。いずれも穏健派ではあるものの、メルケル氏とは政策スタンスに隔たりがあり調整は難航必至と見られ、その分、彼女の求心力の低下は避けられないとされる処です。つまりメルケル首相の立場は、親EUで、グローバルな市場主義を遵守し、共通の価値観の国々との連携にしかドイツの未来はないとするリベラルな立場です。これに対してFDPは自国ビジネスを最優先する立場にあり、マクロン氏が主張するユーロ圏共通予算に反発しており、また環境政党の緑の党はグローバリズムに懐疑的である事から、その調整に時間がかかると見られています。

Financial Times (Sept.25)は「The end of German exceptionalism」と、これまで欧州の盟主とされてきたメルケル首相は自身の難民政策とユーロ圏を巡る政策のツケを払う事になった、もはやドイツも怒れる大衆のポピュリズムとは無縁ではなくなったとして、German now looks more like a `normal’ western country. And that, ironically, is not something to be welcomed.つまり、ドイツも普通の西側の国に近づいたかに見える。が、皮肉なことに、それは歓迎すべき事ではないのではと云うのでしたが、然りです。因みに10月9日、メルケル首相は難民の受け入れを、年間20万人を上限とすると、これまでの方針を変えたのです。

尚、選挙中メルケル首相は連立の社会民主党のガブリエル外相との話の中で、北朝鮮問題に関連し、珍しく「ドイツは外交的な解決に全力を尽くす」(日経25日)と発言した由ですが、これが映すこととは、ナチスへの反省から沈黙する国家であるべきとする戦後ドクトリンは捨て、外交や安全保障でも世界をけん引しようとの意気込みとされるのですが、以って、ドイツの戦後に幕が降りたという事なのでしょうか。

(2)そしてマクロン氏台頭
一方、フランスでも上院選挙の結果は、マクロン大統領主導の「共和国前進」も議席数では非改選の9名を含む議席は29から28に減らしたことで、彼への求心力が云々されるのですが、上院より権限の大きい下院の過半数を握っている点で彼が進めんとする公務員削減、労働市場改革等目玉政策がすぐに滞るわけではありません。むしろ問題は、メルケル氏の政権基盤が緩んできたことで共に進めんとする、いわゆる「メルクロン」主導のEU改革に疑問符が付くほどに様相は変わってきたとみられる事でした。
然し、マクロン氏は、9月26日、パリで再びEU統合深化策(次項)について熱弁を振るい多くの支持を改めて得ると共に、続く9月29日のEU首脳会議ではEU改革を巡る議論で彼は「主役」を取ったと報じられ、因みに、会議終了後の記者会見では、「独仏がリーダー選びの選挙を終え、難題に真正面から取り組む来年こそ、EU改革を一気に加速させるべきと、力説した」(日経、10月3日)と伝えられています。

さて、これまで「メルケル頼み」一色だった欧州統合の構図が薄らぎ、マクロン氏の存在感が高まったことで、ドイツ議会選後のEUの如何が云々される状況になってきたと云うものです。つまり「フランスには欧州域内の覇権国としての意思はあるが、国力が伴わず、ドイツには国力はあるが意思が伴わない」(日経10月9日)と言われる両国ですが、今回の選挙を契機に欧州における独仏間に見る政治力学に変化が生まれ、新しい秩序がささやかれる処、これが欧州の実相として、9月30日付The Economist の巻頭言では、‘Europe’s new order-A dynamic Emmanuel Macron and a diminished Angela Merkel point to a new balance in Europe‘ (次項)と指摘し、新たな独仏基軸が果たせる役割は少なくないと期待するものです。

第2章 マクロン大統領の挑戦 - Future of Europe

9月26日、マクロン大統領は、パリ、ソルボンヌでEUの立て直しに向けた改革案(Eurozone、Tax, Democracy, Labor Market, Security, Migration)に熱弁を振るい、脚光を浴び、一方、国内においてはこれまでの規制の多い統制経済(dirigisme) も大きく変えようとしています。さて、ここ10年間、EUという舞台でバックコーラスに甘んじてきたフランスが再び中央に立てるか否か、それは同氏の欧州政策次第であり、長年不可能と思われてきた国内での改革の如何にも負う、と云うのは英誌エコノミスト誌(9月30日)です。そこで、以下では、同誌論ずるマクロン論をベースに今後の欧州の行くへを検証したいと思います。

・欧州政策:9月26日マクロン氏が行った欧州政策についてのスピーチでは‘shared military budget and an agency for ` radical innovation ‘ , as well as the desire to strengthen the euro zone. つまり、各国共通の防衛予算、急進的な技術革新を担う専門機関の創設などを主張し、ユーロ圏強化に向けて熱弁を振るったと云うものでした。更に、税制についてマクロン氏は、域内への輸入品に炭素税を課す事、域外IT企業のタックスヘブンを使った税逃れ阻止のため利益を上げった国で課税する必要性を力説。法人税率を統一し、低賃金や劣悪な労働条件で生産された商品を安く輸出するsocial dumping の徹底した取り締まりも訴えるものでした。 更に、スピーチではデイジタル経済の潜在成長力の向上を狙う為として、各国の規制を取り除き「デイジタル市場の完全統合」(Digital Single market) も訴えたのです。勿論ユーロ圏が実現すれば、欧州は新たな金融危機への備えをより確かなものにできる筈です。

・内政(労働市場改革):マクロン氏の内政への狙いはポピュリズムの抑え込みにあるとエコノミスト誌は指摘するのです。つまり技術革新を進める中、雇用の安定に力を入れることで労働者に技術革新を受け入れても仕事が無くならことを示し、失業への不安を和らげようとしているというのです。実は、それほど注目を集めなかったが、実はこの夏、驚くようなことがあったちうのです。つまり、大半の国民が休暇を楽しんでいるさ中、マクロン氏は労働組合と交渉し、広範な労働市場改革への同意を取り付けた由です。大した批判も出ないまま、合意内容は9月22日に法制化されたのです。戦闘的な労組、過激な極左グループによる講義運動も想定されたほどには盛り上がらず、因みに労働改革を支持すると答えた国民は実に59%に達している由です。


ドイツでの例が示しているように、労働改革で雇用が創出されるには時間がかかるうえ、政治的には評価されるのは通常、議会に改革案を通す仕事をした当人ではなく、その後継者となるも、マクロン氏は改革を進めようとしている点で胆力のある仁だというのです。そして、彼が規律正しいというのは、大統領選の前に政策を明確に提示し、その公約の実現に向けて努力しているからだと評価するのです。実際、労組とは十分に協議し、主要な3労組の内2労組は改革案を受け入れたそうです。これは前任者とは好対照だと指摘するのです。そして、彼の思慮深さについて、政策をバラバラではなく総合的に打ち出そうとしている点に見て取れるというのです。そして、エコノミスト誌は、こう締めるのです。
「マクロン氏はドイツに自身のユーロ圏改革案を受け入れさせるのにも苦労するだろうが、今年明らかになった事は、同氏を過少評価してはいけない」と。- if this year has shown anything, it is that it is a mistake to bet against the formidable Mr. Macron.


おわりに:「米中逆転」が現実味を帯びる中で

10月18日、5年に一度開催の中国共産党大会の冒頭、習近平総書記は「建国100年の2049年に米国に並ぶ強国になる」長期目標を示しました。米国の相対的な衰えが指摘され「米中逆転」が現実味を帯びてきたと云うものです。その変化は日本に対し、どんな立ち位置を取ることになるのか、大きな問題を投げかける処です。安全保障問題への対応然り、少子高齢化の進む日本経済への対応然り、等々、既に上述した処ですが、いまやあらゆる面で、これまでのモデルでは律しえなくなってきたことが実感される処、今次総選挙は今後10年、20年先の時代に向けた節目と自覚し、そのフォローを確実にしていきたいと思う次第です。

そんな折、ドナルド・トランプ氏が11月5日、米国大統領として初の来日予定です。先の「パリ協定」からの離脱に続き、ユネスコからの脱退、米欧など6か国とイランが2015年に結んだ核合意の破棄をも発言するなど、国際協調の枠組みを壊しにかかっている彼ですが、そこにはどんな展開があるのか、興味は深々と云う処です・・・。
以上  
posted by 林川眞善 at 14:31| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2017年09月25日

2017年10月号  この夏 暴走する北朝鮮と国際社会の相克、そして「地経学」(Geoeconomics)の台頭 - 林川眞善

はじめに: 北朝鮮の暴走

2014年、米政治学者,Walter Russel Mead氏が Foreign Affairs (May/June)に発表した論文「The Return of Geopolitics」(地政学の復活)は、―「地政学」とはもともと国の政治行動を、地理的環境、条件と結びつけて考える学問の事をいいますが ― 時の国際競争環境が旧来の「ゼロサム」関係に戻ったとするもので、斯界の注目を呼ぶものでした。その論文の内容は概略、以下の通りです。

― 冷戦の終結を経て、国際関係の基本は、領土問題や軍事力への依存など、国家間の勝ち負けがはっきりする「ゼロサム」関係から脱却し、世界秩序の構築、通商の自由化、核不拡散、等々世界全体が利益を得られる「ウインウイン」関係へと質的変化を遂げたと各国の政府関係者、政策関係者は思っていたが、しかし、実はそれが幻想に過ぎず、ロシアのクリミア進攻や中国の東シナ海、南シナ海での自己主張の展開、それに対する日本の反応、等々に照らし、世界は再び「ゼロサム」関係に戻った、とするものです。。

これは競争の構図が、欧米等いわゆる「西側諸国」と、ロシアや中国と云った現存秩序に異議を唱え、挑戦するrevisionistとの対立になったとする見方です。因みに、中国は、日米同盟を中心とする、アメリカ主導の同盟ネットワークを「冷戦思考」の残滓と批判し、「ウインウイン」関係を構築しようと主張しています。然し、東シナ海、南シナ海で起きていることを見ても、日本等中国の周辺諸国にとって「ウインウイン」の関係にはなっていないことは明らかです。

そんな中、この夏、北朝鮮は、ミサイル発射を繰り返し、加えて核実験を強行するなどで、世界を震撼させ、今尚その脅威は続く処です。そして、彼らが目指す軍事強国化が齎すリスクと、北朝鮮を巡る国際社会、とりわけ米・中・ロの相克とも相まって、朝鮮半島を巡る伝統的な地政学的状況は一変する処となっています。

つまり、朝鮮半島におけるパワーバランスが今や、通常戦力では韓国が優位に立つものの、「核」では北が優位に立つという非対称のいびつな形となってきている処、ミサイル技術等は、従来の地政学が前提としてきた固定的な国境を容赦なく越えることが出来る点で、その‘形’は更に深化する状況にあるという事です。加えて、朝鮮半島では中国の経済的影響力の増大で、南北関係、更には朝鮮半島全体の地政学的構図が影響を受けだし、経済的要因が優越する「地‘経’学」(geoeconomics) 的リスクが生じるという新たな状況が生まれてきたというものです。後述する今次、国連安保理での制裁決議案を巡る関係国の対応こそは、地政学だけでない「地経学の台頭」を映す処です。

とすれば、かかる新たな環境にあって、これまで日米同盟を軸に米国だよりの政策行動にあった日本は、世界とどう向き合っていくべきか、再考が迫られる処です。というのも、新たな「地政学」、「地経学」の時代に向き合っていく為には、単なる連携の政治学では太刀打ちが出来なくなる可能性があるとみられるからです。
そうした折、9月21日、北朝鮮のリ・ヨンホ外務大臣がNYで行った太平洋上での水爆実験の可能性を示唆する発言は、北朝鮮の脅威を一挙に極める処となっています。

さて、以上の状況を踏まえながら、改めて、この夏起きた‘北’の暴走の実状と国際社会の対応状況について、勿論 彼らの挑発行為はこれからも続くことが予想される処ですが、この際はメデイア情報をベースに整理し、従来の地政学を超える地経学の台頭という新たな時代感性の下、日本の進むべき方向について考察してみたいと思います。(2017/9/25)


                 目   次

第1章 この夏、北朝鮮の暴走と国際社会    ---------- P.3

1.北朝鮮の暴走、その実相
(1)ミサイル発射・核実験と、‘北’の狙い
(2)挑発行為を許してきたアメリカの対北朝鮮政策
2.北朝鮮問題と 中・ロのスタンス
(1)習近平中国
(2)プーチンロシア
          
第2章 「地経学」の台頭と、日本の目指すべき方向 ----- P.7

1.「地経学」の台頭が意味すること
2.新しいリスク環境と、日本の目指すべき方向

おわりに:アジアの未来、そして日本政治の明日は  ----- P.10.

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第1章 この夏、北朝鮮の暴走と国際社会

1. 北朝鮮の暴走、その実相

(1)ミサイル発射・核実験と、‘北’の狙い

8月29日、北朝鮮は日本の北海道上空を越える弾道ミサイルを発射、襟裳岬東1180キロに着弾と報じられました。今年に入って13回目の発射だそうです。安倍首相は「これまでにない脅威」として即、同盟国米トランプ大統領にコンタクト、「今は対話の時ではない」との認識で一致し、圧力の強化を高めていく事で連携する方針を確認すると共に、米韓と共に緊急国連安保理で北朝鮮に対し、ミサイル発射の即時停止を求める議長声明の採択に動きました。これには予て北のサイドにあった「中・ロ」から、彼らは常任理事国として拒否権を持つ立場ですが、反対もなく全会一致で合意したのです。(注:議長声明は国連の公式文書として残る為、非公式の報道声明より格上の位置づけとなる)

そうした中、9月3日には、北朝鮮は2006年10月来、通算6度目となる核実験(ICBM用水爆実験と発表)を強行、防衛省によると核実験規模は160キロトン、その爆発規模は従来の10倍(広島原爆の10倍)ともいわれるものです。これまでの国際社会の制止を聞かずに核・ミサイル開発を強行する北朝鮮は、従って国際社会への脅威を一段と高める存在となってきましたが、日本にとって、その姿は、戦後最大の危機を目の当たりとするものです。

9月4日には再び緊急安保理が公開で開かれ、後述するように、11日には米国より提案の追加制裁案が、一部、ロシア、中国からの修正提案を受けたものの、全会一致で採択(注)、以って国際社会として北朝鮮に制裁を課すこととしていますが、彼らは全く意に介すことなく15日には、再び北海道上空を通過する中距離弾道ミサイル「火星12」の発射を強行、制裁決議はどこ吹く風の様相にある処です。ただ、そのミサイルは北朝鮮が「包囲射撃」計画を発表した米領グアムを射程に入れたものだけに、北朝鮮リスクは危うい一線に近づいていることを感じさせるものでした。因みに16日、朝鮮中央通信の報じる処では、15日のミサイル発射について金正恩委員長は「戦力化が実現した」と評し、実践配備への準備を指示した由です。(17日付日経)

(注)追加制裁決議(9月11日):
 ・貿易規制:原油、石油製品は上限を設定、天然ガスは禁輸、繊維製品の全面禁輸、
 ・主要外貨獲得手段:北朝鮮労働者の受け入れ禁止、
(要は、「ヒト・モノ・カネ」を断つことにあったが、中ロの異見に配慮。「最強の決議案」からは後
 退。尚、過去の制裁と併せると、北朝鮮からの輸出の9割が断たれることになると見られている)

‘北’の狙い - では、そもそも金委員長は何を目指し、そうした行動に出ているのか、です。
巷間伝えられることは、国内経済が疲弊する中、三代続く金独裁政治体制を維持していく為には、米国との平和協定をテコとした国際社会の制裁解除が不可欠としており、その為には軍事力の強化を以ってしかなく、つまり合法的な「核保有国」(注)となることで、米国と対等な立場を堅持し、朝鮮半島での米国の影響力を弱化させることが必須と、2006年以来核兵器開発に邁進してきているというもので、今回のミサイル発射も米領周辺への実行をちらつかせて米国の危機感を煽り、有利な条件で米朝対話に持ち込む狙いがあると言われています。

(注)現在の核保有国は、NPT(核拡散防止条約、1963年)で認められた米英仏中ロの常任 
  理事国、5か国、に加え、NPT非批准国のインド、パキスタン、そして未確認のイスラエ
ル、 そして北朝鮮、保有が疑われているのがイラン、シリア、ミヤンマ。

もう一つ、開発に猛進する事情として語られることは、2000年代に入ってイラクのフセイン、リビアのカダフィら独裁者が倒れたのも「米国の圧力に屈し、核を放棄したから」と思い込んでいることがあるとされ、殊三代目委員長は、その点を強く意識していると伝えられている処です。とすれば、世界が北朝鮮を核保有国であることを認めない限り、つまりは米国がそれを容認しない限りという事ですが、北朝鮮の暴走はとまることはなさそう、という事でしょう。

では彼らの挑発行為を止めさせるためにはどうするか。基本的には「対話」、「圧力の強化」、「軍事力の行使」の三つしかないのでしょうが、国際社会としては、これまでも国連安保理を介して北朝鮮包囲網を築くことし都度、非難声明、制裁措置を打ってきていますが、今回の追加制裁決議に対しても北朝鮮はすぐさま「全面的に排撃する」と非難し、前述の通り15日にはミサイルの発射を強行しています。現下のトップ2人の挑発言動は、双方不信を深め、その決着は不透明を極める状況です。それだけに外交経験の乏しいトップ2人によるチキンゲームが過熱した結末が危惧される処、とにかく「ツキジデスの罠」(注)に陥らないことを念ずるばかりです。

     (注)歴史家、ツキジデスが、紀元5世紀、古代ギリシャ世界で、当時の覇権国家スパルタが、
急激に勃興する都市国家アテナイに恐怖心を抱き戦争(ペロポネス戦争)に至った経緯を記  
述する中、新興国の台頭が覇権国家に与える恐怖が、戦争を不可避とするとしたもの。

(2)挑発行為を許してきたアメリカの対北朝鮮政策

処で、そうした動きを助長し、現在のような北朝鮮の暴走を許してきた要因が、歴代米政権がおかした誤算の連鎖にあるとされています。

まず、クリントン政権では、1994年の第1次核危機で一時は核施設への限定的空爆を検討した経緯があったのですが、韓国の反対もあって最後は対話路線に転換し、核開発の凍結と経済支援を組み合わせた「米朝枠組み合意」を纏め、以って対北朝鮮政策としていましたが、2003年に北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)から脱退を表明したことで当該合意は完全に崩壊してしまっています。
次に、オバマ前大統領は、「戦略的忍耐」を掲げ、核放棄に向けた北朝鮮の自主的な取り組みを待つというものでした。それは「核」というものへの過小評価に負う結果と言われていますが、同時に北朝鮮に開発の時間を稼がせてしまったという事でした。ブッシュ大統領もそうでしたが、いずれも北朝鮮が崩壊するのは時間の問題と考えていたと言われていたのです。

そしてトランプ大統領です。彼は就任時、米本土に届く核弾頭を積んだICBMの完成には2年はかかると、つまり危機は少し先よりと見ていたようだと伝えられており加えて、トランプ氏は大統領就任以来、北朝鮮問題はとりあえず中国にまかせてきた事情もこれありで、その結果が、米国が軍事行動に踏み切る「レッドライン」の一つと見られていた核実験を許す事態に至ったというものです。9月4日、公開で行われた緊急安保理では、米国は「可能な限り最強の制裁措置を採択すべき」(ヘイリー国連大使)としていたのはそうした事情への焦りを示唆する処でした。

が、実はNYTimesは、この春から米国は急速に北朝鮮に対する取り組みを本格させだしたと報じていたのです。つまり専門家や情報機関の報告をベースに「現状が変わらなければ北朝鮮の核兵器はトランプ大統領が任期を終えるまでに、50個に達するかもしれない」(2017/4/26付)というのでしたが、既に、繰り返されるミサイル・核実験で、いまやその危機が現実となってきた事を認識し、要は北朝鮮の「核の脅威」が米本土に及ぶかもしれないと、米国は真剣に考え始めたと、いうものだったのです。

9月19日、トランプ大統領は、初登板となったNY、国連総会で「米国と北朝鮮の問題ではなく、世界と北朝鮮の問題だ」と強調し、国際社会が協力し、経済的な圧力を加える必要を訴えていますが、その協力という点では、北朝鮮と深い経済関係にある中・ロの対応の如何が大きなポイントとなる処です。つまり、現状、中国、ロシアそして米国が演じる国際社会のパワーゲームが、対米戦略が絡む図式となってきている点で、対北朝鮮政策についても、この図式の中でどう解を求めていくかが大きなポイントとなる処です。序でながら、北朝鮮に対して日米韓は敵対国であり、中ロは友好国です。以下は、直近での中・ロのスタンスの如何を観るものです。

2. 北朝鮮問題と中・ロのスタンス

(1)習近平中国(中朝友好協力相互援助条約)

中国は、北朝鮮にどう向き合おうとしているのか。北朝鮮との緊密化した経済関係に照らし、基本的には制裁には反対の立場にあったはずです。因みに当初制裁案にあった原油禁輸措置は北朝鮮の生殺与奪権を奪うものとして、ロシアと共に反対しています。尤もそれによる北朝鮮からの難民流入を警戒しての事とも言われているのですが。

然し、今回の北朝鮮の核実験が、習主席が主催してアモイで開く「BRICS首脳会議」開催(9月3日)の当日であったことは、彼にとっては極めて大きなショックを齎したとされる処です。つまり、習近平氏は主席に就任以来「中華民族の偉大な復興」を掲げ、大国を意識した外交を展開してきています。2014年、北京でAPEC、2016年には杭州でG20首脳会議を開催。今年のBRICS首脳会議は10月の共産党大会でアピールとなる筈だったと云われていました。が、北朝鮮のミサイル・核実験はそれまで積み重ねてきた成果、効果を帳消にしてしまったと、中国政府にとって大きなショックを与え、つまりは習主席の顔にドロを塗るがごときというものです。因みに、BRICS会議では北朝鮮の核実験に触れることはなかったと伝えられています。

加えて、米国との関係については、これまで中国は一帯一路構想等、「西」に目を向け、米国と対立することなく大国の地位を目指す道を進んできたとされるなか、同盟国北朝鮮の暴走が、同時に米国の対中圧力を生む処となってきたわけで、この圧力の大きさ如何では「党主席」につくと云われてきた習近平氏の「中国の夢」は壊されかねない状況と、報じられるなどで、いまや条件を付けながらも制裁には前向きになったと伝えられている処です。
因みに11日の制裁決議で禁輸が決まった北朝鮮の外貨獲得源と言われる衣料品貿易について、中国は決議採決前の8月下旬から停止していた可能性が伝えられていますが(日経9月14日)、原油の全面禁輸には反対したものの、中国が自国企業への影響を犠牲にしてでも衣料品の禁輸に踏み切ったとすれば、北朝鮮へのいら立ちのほどが映る処です。

尚、序でながら、トランプ大統領就は就任当初、中国が目指す米国との大国関係にrespect する姿勢を見せ、併せて北朝鮮問題については前述、中国に任せることとしていたものの、その期待に応えてくれない中国に不満を鮮明とする処、米通商法301条に基づいて中国による知財間侵害の調査を始めると云い、更に中国をイメージしての事と思料されるのですが「北朝鮮とビジネスをするすべての国との貿易停止を検討している」というのです。
つまり、トランプ氏の行動で注目すべきは、安全保障上の問題が経済に飛び火してきている点で、後述、「地経学」的リスクの高まりを実感させる処です。(第2章、P.9参照)

(2)プーチン ロシア(ロシア・北朝鮮友好善隣協力条約)

ロシアはどうか。ロシア国連大使は緊急会合後の記者会見で、「制裁だけではどのような禁止措置が導入されたとしても問題解決にはならない」と主張、併せて米国の決議案にロシアの経済的利益に関わる事項が入っていれば反対する(日経9月5日)と明言していましたし、北朝鮮との経済関係、つまりロシア経済は5万人超とも言われる北朝鮮労働者に依存する事情からも、制裁には反対、あくまでも話し合いをとしています。原油の禁輸措置については中国と共に同様趣旨で反対しています。
偶々、その直前の9月7日、ロシア極東のVladivostokで開かれた「東方経済フォーラム」に出席した安倍首相は、現地で行われたプーチン大統領との首脳会談で、改めて追加制裁案に賛成をと要請していますが首を縦に振ることなく、あくまで対話で解決すべきと主張、両者の溝は埋まる事はなかったと報じられていました。プーチン・安倍の親密さが喧伝される割にはと云った処です。さて安倍首相はトランプ大統領の飛脚なのかと云いたくなる処ですが、要は、彼らは政治よりは経済をと、具体的にはユーラシア地域でロシアが主導する経済開発に北朝鮮を組み込んでいかんとしている由で、中国の一帯一路戦略を意識した、新たな世界戦略を示唆する処です。

その他、英国、フランス、ドイツの欧州勢は制裁措置に大賛成にあり、核保有国を認めれば核拡散の懸念を指摘する等で、メルケル独首相は「仲介外交」に意欲を示すほか、スイスのロイハルト大統領も米国と北朝鮮の間の仲介役を買って出てもいいとの声も伝えられているのですが・・・。

さて、上述、新たな変化にある国際社会の生業を理解するとき、前述の通り、米国べったりできた日本の政策行動は再考が不可避となる処ですが、それには相応の哲学が求められると云うものです。因みに、安倍首相は各国首脳を訪れ、北朝鮮への圧力強化をと唱えています。が、単調に唱えるだけでは外交努力を尽くしているとは言えません。 今、日本は多国間の対話を呼びかけるにふさわしい立場にある処、先の国連総会での安倍首相の発言は、単にトランプ大統領の激しい北朝鮮批判に油を注ぐが如きで、さて彼の感性は如何なものか、と問いたくなる処です。


第2章 「地経学」の台頭と、日本の目指すべき方向

1.「地経学」の台頭が意味すること

本稿冒頭、旧来の力の衝突が国際関係に戻ってきたとする論文「地政学の復活」を紹介しましたが、北朝鮮問題も含め世界で起きていることを更によく見ると「復活」したのは「地政学」だけではなく、もう一つ言えるのが「地経学」の復活です。この「地経学」という言葉が生まれたのは米国の戦略研究家、エドワード・ルトワックが1990年に発表した「地政学から地経学へ」と題する論文で初めて使われたとされるものです。発表前年の1989年に起きたベルリンの壁崩壊、更に西ドイツ、日本という当時の新興国が米国の経済的優位を脅かしつつある新状況に照らし、軍事的脅威や軍事同盟の意味が薄れ、地経的な順位や、その方法が支配的になってきたとして、その時代を「地経学」の時代と呼んだものでしたが、その後、米国経済が勢いを増してきたことで、その言葉も消えて行ったというものですが、いま再びと云うものです。因みに、朝鮮半島を巡る現下の国際社会の生業こそは、新たな地政学的状況を生む処とされるのですが、つまりは「地経学」の復活を意味する処です。

尚、今日的には「地経学」は下記(注)の通り定義される処ですが、要は、地政学的な利益を、経済的手法で実現しようという政治・外交手法の事ですが、その具体的事例とし、よくリフアーされるのが、2010年9月、尖閣列島沖での中国漁船衝突事件後に起きた日中間の通商紛争です。

つまり、日本政府はこの衝突事件で中国漁船の船長を逮捕したのですが、中国側はレアアースの「対日輸出の禁止」を以って、日本に対して漁船船長を釈放させようと圧力をかけた事件です。当時、中国は世界のレアアース生産の97%を占めていただけに、その衝撃は日本に留まる事なく世界を走ったのです。これは漁船衝突事件を巡る一連の中国側の反応の一コマに過ぎなかったものの、経済手段を戦略的に使うという意味で、極めて画期的な出来事であり、まさに「地経学」的行動の典型的とされるのです。

(注)「地経学」:「国益の増進と防衛、更に地政学的に有益な結果をもたらす為に経済的手段を
行使すること」― By Robert D. Blackwill and Jennifer M. Harris,「War by Other
Means :Geoeconomics and Statecraft」(Harvard University Press, 2016 )
    
この地経学の台頭は実は、いわゆる liberal international order (自由で開かれた国際秩序)に対する挑戦が進むなかでの現象と言え、一言で言えば、「安全保障の地理、geography」は縮小し、「経済の地理」が戦略性を強めながら拡大する現象(慶大神保謙准教授「地経学の台頭と日本の針路」、2017.7)と見ることが出来るものです。もとより、この二つ現象は同時並行的に起こっているのです。

嘗て世界の安全保障問題、世界経済の秩序ある成長、等への対応は軍事大国、経済大国として米国が主導し、必ずや一定の落としどころを得て運営が可能とされてきました。然し、いわゆるG7に対抗できる新興国、とりわけロシア、中国が名実共に大国として台頭してきた一方で、米国が孤立主義に向かい、世界のリーダーとしての立場を放てきしだした事で、従来のような多国間の協調連携を容易とすることが難しい状況が出てきていますが、今回の国連追加制裁を巡る各国の対応推移は、まさにそうした現状を映すものと云えるのです。
 
序でながら、「地経学」の現象を、上述「経済的手法を用いた地政学的目標の追求」とする時、トランプ氏の大統領としての登場は、この「地経学の復活」を印象付ける処とも言えそうです。つまり彼は、周知の通り、民主主義、人権等を訴えるいわゆる「価値外交」を拒否しています。そして、これを嫌がる中国などに押し付けてもしようがない、それよりも、西側の経済発展と繁栄を見せつける方が遥かに中国を民主化に導く効果がある、との考え方にもあるものですが、それはまさに「普遍的価値」より「経済利益」を目指すという点で「地経学」の復活を印象付けると云うものです。尤も、それで大国米国を一つに纏め、政治することは極めて難しい処であり、現下の米国の実状が、それを語る処です。

さて、地政学と地経学の復活を受けて変化する国際環境は、今後、日本にどのようないリスクを齎し、従っていかなる戦略を以って臨むべきか、以下はその考察です。

2.新しいリスク環境と、日本の目指すべき方向

日本をはじめとする多くの地域諸国にとって、中国は最大の貿易相手国となっています。つまり通商、経済は中国に大きく依存しているのです。一方で、日本、韓国、オーストラリアなど、米国の同盟国、友好国は、自国の安全保障を米国に大きく依存しています。つまり経済は中国、安全保障は米国と、股裂け状況にある処です。だからと言ってどちらか片方を選ぶというわけにはいかないというものでしょう。

経済的な相互依存はグローバリゼーションが進んだ結果であり、更に進化することでしょう。それは世界経済を「ウインウイン」関係に導くための決め手でもあるのですが、同時に各国経済の脆弱性を大きくするマイナス効果をも招く処です。それは言い換えれば、先に触れたように自由で国際秩序への挑戦が進んできたことで、「安全保障の地理」は縮小し、「経済の地理」が戦略性を強めながら拡大する新たな環境を生む処、地経学的な外交は、経済的な依存を「人質」にとって、政治・安全保障上の譲歩、政策変更を迫るといった事が、常態化するのではとも危惧される処です。まさに新たなリスク環境と言える処です。

では今後の方向は、ですが ー これまで日本は民主主義等普遍的価値を米国と共有することで同盟関係を強いものとし、「自由で開かれた国際秩序」を維持せんとしてきました。が、上述してきたように「地政学的」、「地経学的」な大きな変化を齎す国際情勢にあっては、そうした日本に深刻なリスクをも齎す処です。つまり、グローバルなパワーシフトが起こり、中国やロシアと云った国家資本主義の台頭があり、民主主義と自由な価値の後退という挑戦を受け、同時に、これら変化は安全保障環境を厳しいものにする処です。こうした変化が示唆することはこれまでのような、単なる連携の政治学だけでは太刀打ちできなくなる可能性を示唆する処ですし、まさに地経学の重要性が増す処です。

そこで、考えられていくべきアジェンダですが、それは、現状の「米国主導への協調」策を含め、日本国内における経済、政治、安全保障を如何にバランスしたものとしていくか、にある処です。つまり、米国以外の地域連携を如何に考えていくか、とりわけ中国主導のAIIB等への対応、一方、ユーラシではロシア主導の経済圏の拡大で、地経学が急速に重要性を増してきていると伝えられていますが、これら対応を如何に考えていくべきか、が問われていく処と思料するのです。

かかる思考様式をコンテクストとするとき、日本に必要とされるのは、やはり開かれた国際秩序の基盤を守りつつ、新しい潮流に積極的に参加し、先進国と新興国が複合体として共存するシステムの構築を目指すことと思料するのです。弊論考7月号で紹介した、米プリンストン大学のG.J. アイケンベリー教授がLiberal international order(自由で開かれた国際秩序) の再生を目指せと主張していたこと、再び想起する処です。


おわりに:アジアの未来、そして日本政治の明日は

The Economist(2017/9/9)に載った ‘Asia’s Reckoning : China, Japan and the Fate of US Power in the Pacific Century by Richard McGregor , 2017’ の書評は、というより、書評を通じた評者のコメントは、今回の論考にも絡み、非常に筆者の興味を引くものでした。

まず、本書著者、マクグレガー氏は、シドニー生まれのジャーナリスト(the Australian and the Financial Times)で東京、北京で活躍し、日本語、中国語の二か国語に通じる仁で、かかるバックグランドをもつだけに、戦後の時代から今日に至る日本と中国の関係、さらには日米中、3国間の関係についての記述は、現場で手にするarchive(公文書)への豊かな解釈が加わって、極めて魅力的と評するのです。

因みに、日本と中国は少なくとも千年もの間、地域のライバル関係にあった事。双方が戦争を始めたのは19世紀の後半で、それまでは絵画、書家等芸術の分野では交流があったが、他の近隣諸国の様に中国の皇帝に貢物をするようなことはなかった事。そして、1895年から1945年の間、日中はしばしば戦争を繰り返してきた事、そして、1945年以降は、今日のような甘酸っぱい関係を引きずってきているというのです。とりわけ日本の植民地であった朝鮮半島については戦後解放されたものの、米・ソ(旧)が仕掛けた分断国家となり、その後に起きた朝鮮戦争(1950~53)では米国と中国軍が交戦し、その結果は今尚和解(平和条約)ないままの状況が続いていること、等々、その語り口は魅力に富むものだったというのでした。

こうした国際情勢の分析を課しながら、エコノミスト誌評者は、日中両国は20世紀を通して戦った交戦国として和解しきれないままにあり、しかもその関係が更に開く様相にあると、指摘するのです。そして、仮に、東アジアで戦争が起こった場合、北朝鮮は9月3日の核実験の成果を駆使するだろうし、そうなれば東シナ海の諸島はもとより、韓国の崩壊すら示唆するのです。
そこでifですが、中国が北朝鮮による核戦争勃発を阻止する口実で、北朝鮮を占拠ないし政権交代を力で行い、北朝鮮を自らの核傘下に入れることとすれば、東アジア地域における戦略的なパワーバランスを、米日中心から中国側へとシフトさせられるであろうし、それこそは一番手っとり早い方法であり、であれば、これはアジアにとって本当のfinal judgementになるだろう、Asia’s truest ‘reckoning’だというのです。さて、これは評者の勝手な推論でしょうが、何故かその可能性を感じさせるもののある処です。

来る10月、5年ぶりに開催される中国共産党大会では習近平氏が毛沢東以来の党主席に就任し、11月にはトランプ大統領の訪日、そしてアジア諸国訪問が伝えられていますが、これがアジアの安全保障の今後のり方再考への大きなモーメントとなる事間違いなく、日本政府には前述のように日本のみならずアジアの日本として、今後どう考えているか、その確実な対応準備が求められる処と思料するのです。という事で早速に「Asia reckoning」を発注しました。楽しみです


処で、9月17日(日)付日経朝刊一面には「早期解散強まる- 首相、来月衆院選模索」の言葉が躍り、え~と、思わせるものでした。事後、10月22日を投開票日とするスケジュールで、政界は動き出しています。何故、いま?って処です。北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射は、まさに日本国にとって戦後最大の危機とされる処です。一刻たりとも政治を休ませることはできないはずですが、そうした状況にも拘わらずです。
では国民に何を問うとするのでしょうか。つまり解散の大義、争点は、です。本来、与野党の論戦を通じて定まっていくものです。が、そんなことにはお構いなく、下り坂の安倍人気挽回の為には対抗勢力が全く弱体の今が・・・、という事のようです。党利党略、政権与党の損得だけで宝刀を振り回されては国民としては、たまったものではありません。あれだけ成長戦略の中核法案と安倍首相自身、しこってきた「働き方改革法案」など、結局は先送りとなるのですから。

近時、際立つ低レベルの国会議員の登場こそは、そうした政治風土を映すものでしょうが、勝手な都合で国政をいじくりまわし、政治の空転をも良しとする輩に、もはやred cardと、思う事しきりです。
                                        以上
posted by 林川眞善 at 14:29| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2017年08月27日

2017年9月号  混迷する世界に克つGlobal企業の論理と、混迷を助長するTrump's America リスク - 林川眞善

はじめに:いま混迷する世界にあって

(1) Anti-globalization に克つ経営

周知の通り、多くの企業は戦後システムの下、グローバル化を通じて成長してきました。だが、そのシステムは、米国第一主義、反グローバル主義を掲げるトランプ氏の登場で、大きく転換を余儀なくされ、今、まさに混迷の様相にある処です。かかる中、ゴーイング・コンサーンたる企業には、如何に持続的可能性を図っていくか、つまり、この変化を、どのように理解し、それにどう対応していく事がしかるべきか、が問われていく処ですが、それは言い換えれば、‘反グローバル化に克つ’ 経営の如何が問われると云うものです。 

その点、Harvard Business Review, July-August 2017、掲載のNew York大学、Stern School of Business 教授、Pankaj Ghemawat 氏の論考「Globalization in the age of Trump」は極めてpracticalな行動原理を示唆するものでした。つまり、ゲマワット氏は、トランプ政権の登場で、米国企業が目指すグローバル化政策は新たな挑戦を受けているが、それでもグローバリゼーションから後退すると云う事が、この不確実な時代環境にあって正しいアプローチなのかと、企業のグローバル化対応について問うものです。そして、グローバル戦略を擁することで、新たな価値創造の機会が生まれ、それが将来への一層の可能性を担保していくことになるとした上で、今、おかれている混沌の状況とは、多国籍企業にとって、その戦略の見直しと、組織構造の再検討、そして社会とのかかわり方について再考を促すもので、とりわけ企業環境としての政府対応、マクロ政策への取り組み等、いわゆる‘対境’への取り組みを確実なものとし、新たなglobalizationの推進を期待するというものです。

その際、筆者の関心を呼んだのは、イメルトGEの経営をモデルとしてリフアーしていた事でした。実は、トランプ大統領就任直後に出た、1月28日付The Economistの特集記事、「The Retreat of the Global Company」(グローバル化の旗を降ろす企業)でリフアーされていたのもイメルトGEでした。そこでは、「過去30年来の大企業が目指してきた規模の優位さ、等の企業活動の基本は深刻化を極める処となっていること」、そして「規模の優位とか、裁定取引など、もはや意味を持たなくなってしまった」と強調すると共に、保護主義者のトランプ大統領の登場以前から、つまり2016年のポピュリストの台頭以前から、既に多国籍企業はコスト削減や税制等の視点に照らし、現地競合企業との在り方を考えるようになり、トランプ政権が主導する反グローバル化政策には関わらず、本国への回帰は始まっていたと指摘するのでした。つまり、あくまで経済の合理性に照らした動きを映すものと云うのです。そして、そこでは、GEのイメルトCEO(当時)が、グローバル化から現地化(from globalization to localization)へと、これまでの経営の基本軸、`bold pivot’を シフトさせようとしているのも、そうした経営行動の一環と、リフアーするのでした。

序でながらGEイメルト氏について、もう一つ興味深い記事が手元にあります。6月26日付、Financial Times(デイジタル版)が掲載する同紙columnist、Rana Foroohar氏の記事「Jeffrey Immelt--Why US big business listens to Barnie Sanders ―GE’s chief agrees with leftwing populist’s approach to connect with workers 」(J. Immelt ー 大企業経営者がバニー・サンダースの言葉に聞き入る理由)です。このサンダース氏とは、米大統領選の民主党候補としてヒラリー・クリントン氏と争った、自ら民主社会主義者を任じる政治家です。

ですが、共和党員であるGE、イメルト氏は多国籍企業のトップらしからぬ、サンダース氏のスピーチに熱狂する若者と同じように、同氏の主張に一部ながらも賛同すると語ったと云うものでした。周知の通り、サンダース氏は米国の極端な所得格差を糾弾する立場から、「ごく少数の人間があまりに多くのものを手に入れる状況に正義はない。あまりに多くの人間が、ごくわずかのものしか手に入れられない状況に正義はない。」と主張するのですが、こうした考え方に理解を示すイメルト氏が打ち出す経営戦略には、それなりにサンダース色が映るとも評される処、要は、グローバル企業の経営者としての環境変化への認識とそれに応える発想があり、それは同時に企業の対外オペレーションに係るアドバイスともなると指摘するものでした。尚、そうした事情を踏まえ、イメルトGEが進める経営戦略はポピュリスト台頭後のグローバル企業にとって手本ともなるとして、Financial Times紙上では当該記事のタイトルは‘A post-populist playbook for capitalists’ に変更されています。

という次第で、改めて上記ゲマワット論考他をベースにglobal business、つまりグローバル企業の行動の論理を手短に整理、考察することとし、併せて上記文献で共通して引用されていたイメルトGEの経営の実際を、彼がこの2月、株主に送った手紙をベースに検証することとしたいと思います。(→ 第1章)
尚、彼はこの7月31日付で16年間のGE、CEOを引き、8月1日付でジョン・フラナリー氏(M&Aの巧者だそうです)が後任CEOに就いています。その背景にはGEの低迷する株価問題へのアクテイビストの批判があったとされていますが、詳しくは本論に委ねる事としたいと思います。

(2)混迷の元凶なすトランプ大統領

さて、前述の通りトランプ大統領を元凶として進む世界の混迷は更に深まる様相にあります。
要は、8月12日、バージーニイア州、シャーロットで起きた白人至上主義者と反対派の対立抗
争を巡ってのトランプ大統領の人種差別を容認するかの発言が米国社会の基本的生業を否定す
る、言うなれば一線を越えた発言として、反トランプデモが各地で起こりだしている事です。そ
して近時、厳しさを増す、北朝鮮やアフガニスタンへの軍事行動威嚇をにおわせるなどで、国内
の分断化が云々されだすなど、時にトランプ米国はDangerous nation かと、指摘される状況に
ある処です。まさにアメリカ・リスクの顕在化です。今後の動きは正直読めませんが、諸般の
事情からは、トランプ政権の不確実さは深まる方向にあるものと思料される処です。そこで、上
記、グローバル企業論と併せ企業の戦略環境として、その実状を分析しておきたいと思います。
(→ 第2章)
尚、日本の政治も国民の批判を映した安倍改造内閣が発足しましたが、この先行きも不透明な
ままにあります。この際は、これら事情も併せ、以下目次に即し、論じてみたいと思います。(2017/8/26)

             
目  次

第1章 混迷する世界の中、問われるGlobal企業の行動の論理 --- P.4

1. ゲマワット教授の示唆するGlobal Business の行動原理
―Globalization in the age of Trump        
2. 実証:イメルトGEが映す‘反グローバル化に克つ’ 経営
(1) ジェフ・イメルト氏のGE経営の実相
(2)A post-populist playbook for capitalists
[資料] Letter to shareowners ‘Leading a digital industrial era’
from Jeffrey R. Immelt , Feb.. 24, 2017 -- P.8


第2章 トランプ米国は地政学リスク            - - P.10

1.‘危険な国’になってきたトランプ米国
2.トランプ通商政策が齎す地政学リスクの高まり

おわりに:第3次安倍改造内閣 
―日本経済と「人づくり革命」 --- P.12
     
(1)「経済最優先」の‘仕事人内閣’に望むこと
(2)看板政策「人づくり革命」に思うこと

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第1章 混迷する世界の中、問われるグローバル企業の行動の論理

1.ゲマワット教授の示唆するGlobal 企業の行動原理
― Globalization in the age of Trump

グローバリゼーションから身をひく戦略は、正しい対応なのか?トランプ政権の登場で高まる反グローバル化の中、Pankaj Ghemawat 氏は論考「globalization in the age of Trump」を以って、グローバル企業の行動の如何を問うのです。

その趣旨は、いま保護主義の圧力を感じ、即グローバリゼーションからの回帰行動を起こすことなどは過剰反応であること、又、過剰なローカリゼーションへのこだわりも同様で、いずれも結果として企業が持つ価値創造の機能を阻害するものと指摘する一方、有効なグローバル戦略を擁することで、新たな価値創造が可能となり、将来への一層の可能性を担保することになる、と云うのです。そして、いわゆるトランプノミクスが齎している今日の混乱は、多国籍企業に、その戦略の見直し、組織構造の再検討、そして社会とのかかわり方の再考、を促すものであり、従って、これら課題への対応プロセスについて以下アドバイスするのです。要は、グローバリゼーションは終焉を迎えたと論じることは早計だ、と云うものです。

具体的には、①今日に及ぶglobalizationの変遷、trajectory of globalizationの現実をレビューした上で、グローバル対応を図るにあたっては、その‘深度と広がり’、つまり経済活動の国内と外国とのバランス、depth of globalization について、当該政府の政策も含め、明示的にしていく事、併せて、経済活動の広がり、breadth of globalization についても、地理的距離問題も含め対応指針を整備していく事とし、そこで二つの法則(注)を提示するのです。

(注)globalizationの‘depth & breadth’に係る法則:
 ・The law of semi-globalization: International business activity, while significant, is much
less intense than domestic activity. (半グローバル化の法則:国際事業活動は、その重要性はともかく、国内のそれ以上には重きを置かない)
 ・The law of distance: International interactions are dampened by distance along cultural,
administrative, geographic, and often, economic dimensions. (距離の法則:国際間の相互作用は、距離と文化、行政と地理的事情、更にしばしば経済関係に負う)

その上で、②企業がどこで、如何に競争をしていくべきか、where to compete and how to compete、まさにGE、イメルト氏の戦略(後出)にも照らし、現下の新たな環境での経営戦略の規範を提示するのですが、とりわけ、企業家にとってより大切な事として、③今日的な事情からは企業を巡る環境への対応の強化、engaging with society、が重要とするものです。
つまり、上記①,②をマトリックスとして当該ビジネスのポジションを捉え直し、今日の企業にとっては企業間の競争力問題以上に政府との関係や、マクロ経済政策に強く影響されることが大きくなってきているという点に照らし、当該企業を巡る政治、経済、社会環境への問題、例えば、規制問題、競争規制問題、更には環境問題等々に積極的に関わっていくべきで、それこそはbusiness leadersに求められるagendaとも云うのです。嘗て我々身辺においても喧伝されていた「対境政策」の強化かと理解される処です。

ただ、現下の米国の状況は後述(第2章)する通り、白人至上主義を巡って展開されるトランプ政権下での対立構図は、いまや‘国の分断’すら感じさせる状況にある処、先進国としては初めて、アメリカが地政学リスクと見なされるほどの環境変化にあり、それは企業レベルにあっても先進国では経験することのなかった人種差別リスクが経営リスクに加わってきた事を意味する処です。そこで、これら米国内で起こっている事象への対応としての新たなグローバル化戦略の準備が急がれる処でしょうが、それはengaging with societyとして、新たな次元へのシフトを示唆する処です。

2.実証:イメルトGEが映す‘反グローバル化に克つ‘ 経営
      
前述、GE Jeffrey Immelt氏はこの7月31日付で CEOを離れていますが、今年2月、CEOとして株主に送った最後の手紙、Letter to shareowners ,`Leading a digital industrial era’ February 24,2017(後出P8、資料)は、GE経営について、急速な変化を辿る経営環境の中、digital化とinnovationを基本軸とする戦略対応を以って、持続的可能性の確保を図っていく、その枠組みを語るものでした。ただそこで注目されるのが新たな産業構造に組する上でのイメルト氏のperception というものです。それは、金融危機とその危機に因る経済的打撃が続く中、政治的ポピュリズムの台頭で、グローバルなビジネスの基本的考え方は根本的に変わってきた事への明確な自覚でした。彼は、近時の変化に照らし、欧米先進国経済を成長させる上では「消費を伸ばそうと考えているだけではだめだ」と発言するのですが、それは彼の経済の生業、構造変化への認識を映すもので、その自覚こそが前述、バーニー氏と、一部思考を共有する処ともなっているというものです。こうしたイメルト氏の感性は金融危機後のGE経営で培われたものとされるのですが、そこで彼のGE経営の姿をいま少しレビューしておきたいと思います。

(1)ジェフ・イメルト氏のGE経営の実相

2001年9月、「20世紀最高のCEO」と云われたウエルチ氏の後継者としてCEOに就任したイメルト氏の経営者としての人生は、前任ウエルチ氏との比較において厳しいものでした。

まず、そのウエルチGEは、「脱・製造業」戦略を推進し、金融事業、放送事業を推進・拡大を果たし、在任期間の20年間で売り上げは約5倍、株式時価総額で40倍にも拡大しています。
これに対してイメルトGEの16年間は、売り上げ高は増えず、株式時価総額は3分の1にまで減少しています。ウエルチ氏の業績と比較すると、どうしても霞んで見えると云うものです。
それでもイメルト氏はGEに大きな財産を残したと言われています。それはウエルチ氏が諦めた製造業ビジネスを復活させた事でした。イメルト氏が就任する前年の2000年のGEの売り上げは1299億ドル、うち製造業売上は約570億ドル、一方、2016年の売り上げは、1237億ドルで製造業のそれは1132億ドルで、2000年と2016年比では前者の売り上げは減ってはいますが、製造業部門のそれは約2倍となっているのです。営業利益についても00年の61億ドルに対して16年には174億ドルと3倍増となっています。この間、2011年にはあらゆるモノがネットに繋がる「Industrial Internet」を実現させ、製造業のdigital化に成功しています。そして2015年にはソフト開発部門を事業部として独立させ、「GEDigital」は現在2万8千人の従業員を抱えるまでになり、20年までに売上を現在の36億ドルから150億ドルに伸ばし、ソフト会社として世界トップ10入りを目指すとしていたのですが・・・。

こうしたイメルト氏でしたが、やはり彼にとっての課題は常に株価にあった由です。リーマンショック後の2009年から回復基調にあった株価も、2016年末を境に失速、彼にとって最後の決算となった最後の四半期決算(2017年4~6月期)では純利益は前年同期比で57%の減少、決算発表のあった7月21日のGE株価は15年10月以来の水準に下落しています。(7月22日、日経、夕刊)これを受けてアクテイビストなどは圧力を強める様相にあったと云うもので、因みに米著名投資家ウオーレン・バフエット氏は、GE保有株約1060万株、金額では約3億1544万ドル(約345億円)を6月末までに全て売却した(日経8月15日、夕)との由です。業績悪化が止まらないGEに見切りをつけたと云う処でしょうか。
それでもGEの株式時価総額は6月19日の時点では2506億ドル(約28兆円)、三菱電機の3兆5000億円や日立製作所の3兆3000億円を大きく上回る処です。

ただ、彼が推進、実現してきたGE改革は、例えば日本では今、「society 5.0 の実現に向けた未
来投資戦略」としてAIや、あらゆるモノがネットに繋がる「IoT」、ロボットなど新技術の活用
が標榜されていますが、そうした事情にも照らすとき、むしろこれからこそが、参考となる処と
云え、それは云うまでもなく反グローバル化に克つ経営に繋がる処とも言え、それだけに彼の経
営思想、経営行動は斯界の評価を集める処なのです。

(2)A post-populist playbook for capitalists ( P.2 参照)

過去40年、米国の経済モデルは、米国内で賃金水準にはお構いなく、生産を含め海外に出せる
ものは外国に移すというグローバル化を基本としてきたと云うのです。と云うのも、グローバル
化が進む結果、米国内での物価が下がれば、失業しても、低賃金のままでもでも、その影響は相
殺できるとされてきたというものですが、しかし米国のGDPの70%が消費で占められるよう
になった状況にあって労働者の賃金が上がらないとなれば、その理屈はもはや成り立たなくな
ってきたと云うものです。となると、これまでのように海外に外注するだけして、米国の賃
金水準は低いままでいいなどという、そうした形でのグローバル化の考え方は通じなくな
ってきたという事です。そして、前述「消費を伸ばそうと考えているだけではだめだ」とす
る彼の認識と併せみるとき、経済のグローバル化対応の形がより具体的にイメージできる
処です。

つまり、本稿冒頭で記したように、今、GEは高まる保護主義をかわす「地産地消」の経営を打ち上げていますが、輸出に頼るのではなく、顧客の近くでモノを作る戦略に転じようとしており、これこそはGEの経営基本軸のシフト、グローバル化から現地化(from globalization to localization)ということですが、かくして反グローバル化に克つ経営を目指す処ですが、それは又、前述ゲマワット論理に適う処と思料するのです。

更に、彼は続けます。グローバル化の中身や一般の人々への影響を十分に考えずにグローバル化は競争力強化のためには絶対必要な投資と理解し、海外への外注を進めることは優れたビジネス手法として、労働者の事よりも企業にとって有利との理由から様々な貿易協定を支持し、社会への大きな経済的影響には目をつむってきたと批判し、自分たちが実際に生活する人々の目にどう映っているかをまるで理解しない経営者が多すぎると、警鐘を鳴らすのです。イメルト氏自身の身上として、社会的な共感を呼ばない経営は、短期的な株主を喜ばせても長続きするとは思えないとも云うのですが、殊、グローバル競争に「勝つ」ことの意味は、外国に嫌われない経営を図ることと云うのです。併せて、企業の事業は何の支えもない自由放任主義の環境下では成功するものではないと主張するのですが、なにかサンダース氏との距離感を感じさせる処です。こうした彼の発想と、戦略姿勢こそが、「ポピュリズム台頭後の今の世界で、グローバル・ビジネスを展開する際の指針」になると見る所以と、思料するのです。


[ 資料 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Letter to shareowners , ‘Leading a digital industrial era’ , Feb.. 24, 2017
from Jeffrey R. Immelt, Chairman of the Board and CEO, GE

―イメルト氏が株主に送ったGE経営に係る手紙は、Executing a pivot, Winning in the environment, A simple more power portfolio, Leading the digital industrial future, A resilient culture の5つの文節から成るが、この際は、経営戦略の基本を語る第2項、Winning in the environment(環境変化に克つ)に絞り、当該骨子を紹介する。(原文はインターネット「GEドットコム」で入手可能)

[環境変化に克つ経営]

(二つの変化)いかなる組織も今、2つの変化の中にあり,それからいかなる企業も逃げられない。一つはグローバリゼーションに対する考え方の変化。二つは産業界に於けるdigital化の役割の変化だ。

(グローバル企業GE)GEは今日も、そして将来に亘り、グローバル企業であり続ける。決して「国
籍のない多国籍企業」とは思うものではなく、世界で成功を収めるアメリカ企業であることに誇り
を持つ。 2000年当時、GEの収益の約70%はアメリカ国内にあったが、今日では受注の60%
以上が世界市場にある。この間、GEのグローバルな成長は年間平均5~10%を記録。例えば、
航空機エンジンやガスタービンはその85%が海外で販売されている。そして、グローバル市場で
成功を納めることで、GEは米国内で何千もの雇用を生み出している。ただ、グローバリゼーショ
ンに係る見方が変化しつつあり、GEも又機敏に対応していく事が重要と考える。

(米国の競争政策)米国は中国やドイツと同じ前提の下で、グローバル競争をしているわけではない。
米国の関税政策は、輸出でなく輸入促進に置かれてきたし、インフラ整備は今では基準以下の状態
にあり、関連法規は既にズタズタな状況にある。競争相手は変化を受け入れているのに対して、米
国はもはや世界で稀有の存在となり、大半の政策は時代遅れにある。一方、他国は「政府対政府」で
売り込みをかけ、競争優位を更に図るべく貿易協定を締結して成長を図り静止することはない。G
Eは、新政権がアメリカ企業にとってlevel the playing field for US companies, つまり競争基盤の地
ならしをしてくれる事を期]待する。

(Outsourcing & Globalization )Outsourcing と云う考え方はもう過去のもの。80年代、90年代
のそれは、安価な労働力を求めて途上国に進出してきた。その結果、仕事を失ったものも事実。 然
し、今日のGlobalizationとは、急速な成長を遂げる世界市場へアクセスするとの考え方だ。GEは
事業を行う世界中の国々で投資を行い、事業運営を進め、関係を築けば成長のチャンスは確実にある
と考えている。GEは独創的な金融ソリューションの提供、ジョイント・ベンチャーの展開を通じ、
成長機会の大きい市場で、決定的な優位を享受していく。グローバルである事、又ローカルである事
は、GEが事業を行う世界180か国の国々で成功を納めるための能力。様々な市場で、実際にGE
が成功を納めるという事は、同時にアメリカにとっても利益をもたらすことになる。

こうした国々には、中国が含まれる。どの企業も、この世界第2の経済大国とビジネスを進める事を
望んでいるが、GEも相応の戦略、Localizing capability , building partnership, and creating a
productive digital framework for the local market、を備え中国経済の成長に貢献していく。因みに、
複数の中国建設会社と提携し、アフリカとアジア市場で成功を納める為、彼らの資金調達も後押しす
る。GEの投資は中国とアメリカで雇用を生み、更に自社の競争力も高めている。

(イノベーション)GEのイノベーションは、また世界で最も難しい課題の解決を齎している。例え
ば。クリーン・エネルギー開発の先駆的存在であり、医療用技術の提供も進めている。またGEの
機関車はいまや南ア、ブラジル、インドネシアで目にすることが出来るし、イラク、アルゼンチン、
ナイジエリアでは電気を普及させ、軍用機で搭載されるGEのジェットエンジンは世界の平和を守
っている。ローカルの課題対応は地元に根付いたものでなくてはできないという事だ。GEは世界
中のどの企業よりも価値ある実績を残している、と自信をもって言える。そして、GEはこれまで
以上に重要となるleadershipを発揮し、将来ある人々を新たに惹きつけていくこととし、単一の企
業として、差別をせず、未来を恐れず、成果主義の集団として活動をする。イノベーションは仕事
や作業者を一層スマートにしてくれる.

低賃金を求めるだけのアウトソーシングは安易に過ぎる。近時目にする大規模企業統合も、イノベーションを絶やし、競争力ある人材への投資を減らし、その結果は米国の競争力向上にはつながっていない。GEは産業界のdigital化への投資が生産性という課題解決への手段と考えている。生産性向上に寄与すると見込む2つの技術がIndustrial Internetと積層造形(3Dプリンテイング)だ。要はdigital化とグローバリゼーションが交わることで、GEはよりスキルが高く、給与水準にも見合った人材を惹きつけ、より競争力の高い企業となる。

(グローバリゼーションはチャンス)我々は今、グローバリゼーションの終焉に立ち合っているの
か? 私はそうは思わない。金融センターから、或いはウエッブサイトからしか世界を見ていない
「グローバル・エリート」が終わるだけだ。そして、いまほとんどのグローバル機関は70年も経
ったままにあり、現代のグローバル・チャレンジに向き合うには近代化が必須となっている。グロ
ーバリゼーションを諦める企業を多く見るが、それはGEにとってチャンスを意味する。
― Globalization is fresh- it changes every day.


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第2章 トランプ米国は地政学リスク 

1.‘危険な国’になってきたトランプ米国

処で、トランプ氏が北朝鮮との間で脅威と挑発の応酬を繰り返し、南米ベネズエラには軍事介入の可能性を示唆さするなど、無責任な言動で煽っている国際危機が、いまやトランプ政権を悩ます国内問題と益々不可分な状況となってきていますが、とりわけ国内で拡大しつある白人至上主義を巡る対立は、国家の分断を助長する様相にあり極めて気がかりと云うものです。

8月12日、バージニア州シャーロットビルで起きた白人至上主義者と反対派との衝突を巡りトランプ大統領が人種差別に寛容な発言を繰り返したことから、トランプ米国は危険な国との様相を呈する処となってきています。そうした発言を繰り返すトランプ氏に、まず経済界は一斉に抗議、批判の声を上げ、同時にトランプ政権への助言機関とされていた戦略・政策評議会と製造業評議会の大手企業経営者メンバーが辞任を表明。つまり多民族で構成する米社会では人種差別は最大のタブーです。米大手企業にはさまざまの人種・国籍の従業員を抱え、顧客も多様です。つまり、その抗議は、米国の強さの源泉は多様性にあることを強烈に訴える処ですし、米産業界の健全性を感じさせる処です。トランプ発言に抗議の声を挙げねば、社内外から人種差別を黙認する企業だと受け止められかねないという事もあるのでしょうが、トランプ発言は一線を越えたという事で、経済界は公然と異を唱え出したと云うものです。
トランプ氏は、こうした経済人の批判に対抗する如くに、二つの諮問委員会を解散してしまいましたが、この瞬間、産業界とトランプ政権との蜜月に幕が降りた(注)とされる処です。

    (注)`Executive exodus ‘ -Encouraged by Donald Trump’s pro-business agenda, corporate America took a pragmatic view of working with the administration. But it has shunned the president after his comments on white nationalists. (Financial Times, Aug. 19/20, 2017)

勿論、経済界のみならず、与党・共和党指導部、更には陸海空と海兵隊の4軍トップまでもが、トランプ氏の人種差別主義者に組する発言に批判の声を上げています。とりわけ軍トップが大統領にグギを刺すが如き発言をするのは異常な事態と云わざるを得ません。これでGEなど自由貿易を指向する企業の経営者がトランプ氏の周囲から居なくなれば更に内向き志向が強まる可能性が痛感され、まさに国民生活はリスクに晒されて行くことになると云うものです。

・バノン首席戦略官解任
こうしたさ中、トランプ氏は最側近とされたステイーブ・バノン首席戦略官を解任したのです。周知の通り、彼はトランプ候補の選挙対策本部長を務めた仁です。そして白人至上主義に傾倒した思想の持ち主で、移民排斥や保護貿易など、トランプ氏当選の原動力になった「米国第一主義」を推進してきた陰の大統領と言われた仁で、これまでのトランプ氏の右翼的言動は全てバノン氏に負うものとされていました。その彼を解任した理由は、上記事件を含め、これまでのトランプ政権に対する批判をかわすためとメデイアは報じていますが、実際は彼を巡る政権内での対立解消の為と云われていますが、とにかく、一連のトランプ発言の後の解任では遅きに失したというものです。ただ、政権内の不協和音、議会との対立は、依然解消見えぬままにあり、もはやトランプ政権の政策実行能力に疑問符が打たれる状況にある処です。因みに、バノン氏はホワイトハウスを去るにあたって「トランプ政権の終わりの始まりだ」(日経8月20日)と、捨て台詞まがいでしたが、問題なのは更迭よりも、その後の政権の方向性が見えないことです。そこでバノン氏去ったあとのトランプ氏の言動に関心の集まる処ですが、結論的には彼はバノン氏が主導してきた政策を、これからは自身の言葉を以って、それこそは彼の本音となるのでしょうが、更に強調していく事になろうかと思料するのです。ではその読みは、です。

トランプ氏のスローガン「偉大なアメリカ」については、時にレーガン大統領のスローガン「アメリカの復権」に擬せて語られることがあります。が、レーガンの場合ベトナム戦争後に蔓延した退却主義を跳ね返し、強靭なアメリカの再生を目指す、その為には、強靭かつ逞しい国際主義(robust and muscular internationalism) が不可欠とする、まさに明確な問題意識があったとされていますが、トランプ氏にはこのような外に向かうベクトルはありません。つまり、レーガンのそれとは対極にあると云うものです。
この点、慶大、中山敏弘教授は近著(「現代の地政学」、2017・8)の中で、「現在のアメリカは、異物を過剰に体内に取り込んでしまいおかしなことになっている。健康をとり戻すためにはアメリカの体内に蝕む‘世界’を吐き出さねばならない。そうすることでアメリカは偉大さを回復する事ができる」とするのがトランプ思考様式と解析していますが、とすれば、これが外の世界を遮断しようとする動機づけとなって行動していくわけでしょうから、バノン氏のいない分、トランプ氏の言動は益々内向きとなり、分断化を刺激していく事になる、と見る所以です。

トランプ氏が政治するそうした米国はいま危険な国になってきた、とはFinancial Times ,chief
commentater, G. Rachman氏(注)の言ですが、それこそは前述した通り先進国では経験することのなかった米国が地政学リスクになってきたと云う事であり、その点では、今後の推移如何でしょうが、緊張感を持った日米関係の見直しが迫られる処です。
   
(注)‘Under Donald Trump, America looks like a dangerous nation.’
by Gideon Rachman , Financial Times, Aug.15, 2017

2.トランプ通商政策が齎す地政学リスクの高まり

8月14日、トランプ氏は中国による米企業の知的財産権の侵害が深刻だとして、米通商代表部(USTR)に対して、制裁措置を含む通商法301条の適用を視野に調査開始を指示したと報じられています。(日経8月15日、夕) その目的は、米企業が中国進出時に技術移転などを求められる事例を調べ、中国の貿易制度が正当かどうか判断するものとされています。トランプ氏は、外国による知財の侵害は、年間で数百万人の雇用喪失と数十億ドルの損失を齎している、としていますが、問題は仮に高関税などの制裁を脅しに使って中国に迫っても効果が期待できないことです。実際に一方的な制裁に踏み切れば、WTOルールに抵触するのは明白で、中国はWTO提訴や報復で応じるでしょうし、何よりも時間のかかる話です。

さて、トランプ政権は具体的に動き出せるのか?メデイアは、ミサイル発射など挑発行動を繰り返す北朝鮮にいら立ちを強めるトランプ政権としては、同国に影響力を持つ中国に、通商面から圧力をかける狙いは明らかとしていますが、7月実施を検討してきた中国鉄鋼輸入制限の発動は見合わせており、今回も発動の可能性はいずれも見通しにくい様相にある処です。ただトランプ政権が通貨を含め通商を材料に北朝鮮問題を解決しようとすれば、貿易や為替など民間経済への地政学リスクは更に重くなることにもなる処です。
その点、トランプ通商政策は、保護主義にとどまらないリスクを孕むことになる処とも云え、その点では、推移を注視していくほかない処で、責めてゲマワット論理、depth & breadthに照らした対応の整備が求められると云う処でしょうか。


おわりに:第3次安倍改造内閣 ― 日本経済と「人づくり革命」

8月3日、第3次安倍改造内閣が発足しました。この内閣改造は周知の通り、前期国会終盤に見せつけられた安倍首相自身をも含む国会内外での自民党議員の無責任な一連の言動に、国民の不満、不信が一挙に噴出、政権支持率は危機水準まで降下、その極みは7月の東京都議選での自民党の歴史的惨敗でしたが、かくして求心力の低下に晒された安倍首相はその支持率回復、政権基盤の立て直しを図らんとするものでした。

直前の7月29日付、The Economistは,安倍首相は、いまdogfightの様相と、今回の内閣改造で、瞬時息を吹き返すことになるだろうが、これで現在のdifficulties が解消するものではない、極めてvulnerable になっている、と評していたのですが、さて・・・。
批判の的にあった安倍晋三氏の「お友達」閣僚は一掃、替えて安倍氏と距離を置いていた議員の入閣を図るなどで、支持率は下げ止まったものの、安倍不支持率が支持率を上回る状況には変わりなく、もはや「安倍一強」の基盤は崩れたというものです。

元々、内閣不信の原因は奈辺にあったか? 国民の多くは一連の問題の根本に、4年半を超えた長期政権の奢りや緩みがあったと感じており、個別の政策への賛否ではなく、政権そのものへの不信感の高まりと云う点で、状況はより深刻だと云うものです。因みに、8月15日付Financial Times 社説でも、次のように指摘しており、内外が見る目は同じと云うものです。
― Mr. Abe’s popularity has dropped sharply this year. To be fair, this mainly reflects his inept handling of a corruption scandal rather than resentment against his economic policies.

要は、事の元凶は安倍晋三氏自身に帰する処、従ってその責任の取り方は、頭をさげ謝罪すれば済むと云ったことではなく、彼自身が身を引くことしかなかったはずです。が、ただただ自身の総理ポスト堅持のための改造であったという点で、国民からの信頼ない内閣の下、日本の政治は暫し進むという不幸を、承知せざるを得ないと云うものです。

(1)経済最優先」の仕事人内閣に望むこと

その彼は、今回の改造内閣を仕事人内閣と云うのですが、ではこれまでの閣僚は仕事をしなかったのか、と云いたくもなる処です。ではその目指す仕事とは何か? 安倍首相は記者会見で 「この改造を機に、経済再生を最優先に、アベノミクスを更に加速させる」と強調しています。安倍政権が発足して4年8か月、経済政策「アベノミクス」を擁して、雇用や企業業績はそれなりの改善を示してきており、8月14日、政府が公表したGDPの四半期ベース成長(速報値)は、11年ぶり6期連増のプラスとなっています。然し、途中、国民の多くが望むことのない方向に政治資源が向けられていった結果、成長力の底上げ、財政健全化への取り組み、は置き去りのままにあり、中長期の持続的な経済成長に繋がる改革、構造改革は道半ばにあるのです。

その点では、初心に返り「経済最優先」でと云っても、それは単にアベノミクスの残り部分のフォロ-と云ったことではない筈です。ましてや支持率低迷に悩む安倍政権が目先の人気回復を狙ってバラマキ政策に向かう事のない事、まず肝に銘ずべきでしょう。そしてこの際は、政策の基本軸を変えるべきと思料するのです。つまり日本経済は2020年のオリンピックまでは財政出動と金融緩和でそれなりの状況は続くとみられますが、問題はオリンピック後の経済です。そこで、日本経済の持続可能性をキーワードとして、10年スパンでの大きな構想と、それに沿った政策作りを目指すべきと思料するのですが、既にこれが現実的な問題となって迫ってきて
いる処です。つまり、Post-Olympic日本経済新開発と銘打って、早急Action Planの議論を始めるべきで、これこそは経済最優先が意味する処と思料するのです。

(2)看板政策「人づくり革命」で思うこと

さて、安倍政権は今回も看板政策を打ち出し、担当大臣を配しています。「人づくり革命」だそうです。そもそも「革命」とは支配者と被支配が逆転すること(政治学者、日大岩井教授)で、いわば、茶ぶ台返しですが、なぜ革命?と違和感を禁じえない処です。が、人的投資を核とした生産性向上、社会人のリカレント教育等々、要は、人材の力を底上げし、以って潜在成長力の引き上げを図る、まさに成長戦略と云う由ですが、これが財政と絡むだけに、これまでの看板政策同様、お題目に終わることにならないか危惧される処です。

処で、人材教育と云えば昨今、世界に通用するグローバル人材の育成が喧伝されています。そこで「人づくり革命」からは多少離れるかもしれませんが、以前、目にしたFinancial Times(2017/3/17)に掲載のエッセイ‘Why I left my liberal London tribe’ (by David Goodhart) と、それによせた英オックスフォード大教授の刈谷剛彦氏のエッセイ(東洋経済、2017/4/15)を交え、筆者の感ずる所を記し、締めとしたいと思います。

Goodhart 氏のエッセイ「リベラルのロンドン部族を離れた理由」はエリートとしてリベラルな思想の下に育った自分の生い立ち、そして左派的価値観を共有してきた仲間(ロンドン部族と云う)からなぜ離別したのかと、BREXITを機会として、話題とする話です。彼は、名門私学イートン校を卒業した後、ヨーク大学で学んだ仁です。そして自分を含め英国で大学教育を終えた人達を「どこでも行ける者たち(Anywhere)」と呼び、大学教育を受ける機会のなかった人達を「どこかに留まる者たち(Somewhere)」と区別するのです。そして、生きる場所の選択肢と重なる学歴の違いが、EU離脱を巡る反対派と賛成派の分断となって表れたというのです。
この議論で興味深いのは、英語で高等教育を終えた人々にとって有利な職業を獲得できるチャンスや国境を越えた移動の範囲が、我々日本人が想像する以上に大きい事だ、と刈谷氏は云うのです。筆者もその大きさは、頷ける処です。そして更に彼は続けるのです。

つまり「分断か統合か。英米でそれが深刻となるのは、国外脱出が可能な、個人の利益を優先できるグローバル人材と、とどまる者との対立が隠れているからだ。日本で推進されるグローバル人材教育にそのような視点はない。皮肉なことに、人材のグローバル化がこうした脱出や社会の分断と結びつくほどには成功していないお陰かもしれない」と刈谷氏は云うのです。極めて皮肉ながら示唆的とも云うべく、改めて、グローバル人材の育成とは?と再考の要、痛感する処です。                                  
以 上
posted by 林川眞善 at 10:16| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする