2022年02月26日

2022年3月号  「経済安全保障政策」構築に向かう岸田政権、プーチンロシア主導のウクライナ危機と戦後秩序 - 林川眞善

目 次

はじめに  経済安全保障            

第1章  日本の「経済安全保障戦略」考   

1.経済安全保障、そして外交力の強化
2.日本が「経済安保」と対峙する事情
               ・地経学(Geoeconomics)
・企業経営と経済安保
― APIの「地経学ブリーフィング」

第2章  岸田政権の「経済安全保障」政策
             
1.「経済安全保障推進」法案
2.経済安保政策取りまとめの基本

おわりに代えて  中国、ロシア そして 米欧

1.中国の変容、ロシアが仕掛けるウクライナ危機
(1)2月4日の中ロ首脳会談 
― 中ロ新型大国関係の模索
(2)プーチン・ロシアとウクライナ危機、
2.米バイデン政権の 新「インド太平洋戦略」
                  
  ----------------------------------------------------------------------


はじめに 経済安全保障

岸田文雄総理は1月17日の通常国会で岸田政権が目指す成長戦略では「経済安保は待ったなしの課題」だとし、「新しい資本主義」の重要な柱だと、発言するのでした。そして2月1日開催の有識者会議では、頭書、政策に向けた提言(法案)が取りまとめられ、政府は2月中にも法案としてまとめ、国会に提出、成立を目指すとする処です。 その法案の枠組みは、巷間伝えられる処、「サプライチェーンの強化」、「先端技術での官民協力」、「基幹インフラの安全性・信頼性確保」、「重要分野の特許非公開化措置」の4点を柱とするものです。日本政府として「経済安保」、経済と安全保障を重ねて、政策を語るのは初めての事です。そうした事態を象徴するのが、過去2年間、コロナ禍でサプライチェーンの脆弱性リスクの顕在化でした。そして同時に、その為にも外交力の強化をと、思う処です。

さて、コロナパンデミックの広がる中、それへの対抗が世界的広がりを以って進んできた結果、経済は供給要因と需要要因が予期せぬ形で押したり引き合ったりする状態が続き、いま、世界はsupply shortage economy状態にあって、Game Changeの進む処です。そして、このshortage を促すものとしてあるのがdecarbonization と protectionismの二つの要因とされる処、decarbonization は、脱CO2から再生可能エネルギーへのシフトで産業構造の変化を伴う問題、protectionismは詰まる処、米中対立の深化に負う話ですが、こうした変化対応を経て生まれてきた新たな経済の仕組みや行動様式は、従来の制度、思考様式にはそぐわない、まさに資本主義経済の根幹を揺るがすほどに、環境変化を呈する処です。英経済誌、The Economist(Dec.18~31,2021)は、こうした新たな状態を、new normalと称し、かつThe era of predictable unpredictability と記す処です。

・日本の目指すべき方向 は` Internationalism ‘
疾風怒涛(シュトウルム・ウント・ドランク)ともいえる変化の進む世界経済にあって、では資源等、パワーを持たない日本が、いかに生き延びていくかが問われる処、先月の論考でも指摘したように日本が目指すべきは、「自由貿易と安全保障が両立する経済安保」の確立であり、その為にも‘外交力’の強化と同時に、仲間を多く募り、しぶとく生き延びる手立てを作りあげていく事と記す処でした。それは、米Princeton 大学教授のJohn Ikenberry氏が論文「The Liberal Order, The Age of Contagion Demands More Internationalism, Not Less」(2020年Foreign Affairs 7-8月号)で、ウイズ コロナの時代こそはinternationalism (国際協調主義)が、より必要と訴えるものでしたが、まさに、その言辞を反芻する処でした。

偶々、2月3日、内閣府が「世界経済の潮流」と題して、主要国と中国の貿易構造の分析結果を公表していましたが、それによると日本は米独に比べて中国からの輸入に頼る品目がより多い姿が浮き彫りとなっていました。因みに日米独の3カ国で輸入先が中国に集中している比率(品目数)は、2019年では日本が23.3%と最も高く、米国は8.1%、ドイツは8.5%で、供給網の中国依存を鮮明とする処、これが同時に日本の経済安全保障問題として位置づけられる処です。内閣府は「仮に中国で何らかの供給ショックや輸送の停滞が生じて輸入が滞った場合、日本では多くの品目で他の輸入先国への代替が難しく、金額の規模でも影響が大きい」とする(日経 2022/2/4)処です。それはまさに日本経済にかかる安全保障問題です。そこで今回の論考では‘経済安保’を中心に論じることとしたいと思っています。

・中ロ連携
処で2月4日、北京五輪、開会の直前、習近平主席とプーチン・ロシア大統領の会談が行われています。ウクライナ侵攻を巡る米ロの対立も含め、世界の地政学関係構図の変容を印象づける処でしたが、果たせるかな、プーチン大統領は21日、ウクライナへの実質的侵攻を開始したのです。勿論、プーチンの行動に対する米側の対応は、中国の台湾に対する行動を左右すると、みる処でした。 そのバイデン米大統領は11日、自身初となるインド太平洋戦略を発表したのです。要は、強権的行動を取る中国と対峙していくためには、同盟国との協調の下、「統合抑止力」が基礎になると強調する処です。もとより米中関係の今後を占うポイントとなる処、そこで、中国と同時発進するロシアと米欧の対立、ウクライナ危機の行方について「おわりに代えて」として、併せて論じたいと思います。

        
第1章  日本の「経済安全保障戦略」考

1. 経済安全保障、そして外交力の強化

・経済安保:一般に、技術革新、サプライチェーンの確保と云った経済・産業政策の面から国家の安全保障を捉える考え方だが、米国と中国が先端技術や経済活動で覇権を争う中に、日本でも与党内では「日本も国際的なルール形成を主導すべき」との意見が強まりを受け、岸田文雄総理は「経済安全保障」を「新しい資本主義」の重要な柱だとして、政府の重要政策に位置付ける処です。 安全保障といえば、これまで政治的、軍事的側面を中心に議論されてきたが、これに「経済」が結びつくようになったのは、ひとえに ‘中国’ にあって、先端技術分野で高まる彼らの存在感に世界的警戒感が高まっている事情を映す処です。

周知の通り、中国は2015にハイテク産業育成策「中国製造2025」を策定、5G,やAIなど先端分野に力を入れてきたものの、近時、先端技術に欠かせない、半導体の世界的な不足にあって、中国政府は半導体の先端技術の移転を狙って、海外の半導体大手を巻き込んだ、米インテルなどとの連携を想定した、専門組織を立ち上げんと策動中と、報じられ(日経2月2日)るなか、近時、2030年には中国の世界生産能力は現在の15%から30%と倍増、首位に立つと予想される様相に、中国に自国の製造業の命運を握られかねないとの危機感が米国を中心に広がってきており、経済安保にとっての中核テーマと位置づけられる処です。

・尚、外交力の強化をもと指摘しましたが、国の外交力と云った場合、国が外交交渉に使えるカードの総和を意味する処、その政府が持つカードとは「情報力」、「経済力」、「軍事力」の3点です。安全保障問題に強いとされる豪州調査機関、Lowy Institute (2003年4月設立)の2019年調査では、外交拠点数は1位が中国で276 、2位が米国で273、3位が仏国で267、4位が日本で247、5位がロシアで242。 Lowy 研究所は、外交拠点数で中国がアメリカを抑えてN0.1となったことについて、過去10年で如何に中国が急速に台頭してきたかを示唆するものとし、国務省の予算を削減し、重要な外交関係のポジションを埋めるのに苦労してきたトランプ政権下でアメリカの外交政策が世界に及ぼす影響力が弱まってきている証とし、以って外交力の低下と指摘するのです。つまり、外交力を担保する有力手段の一つが「情報力」にありとすれば、情報拠点の数は、当該国の外交力を示唆すると云う事になるのでしょう。

2.日本が「経済安保」と対峙する事情

さて、日本は、安全保障では同盟国、米国を最重要視しつつ、最大の貿易相手国である中国との経済協力も重視してきました。その政府が「経済安全保障」に本腰を入れる背景には何があったかですが、日本が経済安保を真剣に考えるようになったのは、米国のトランプ前政権と中国の習近平指導部が最先端のハイテク技術を巡って対立を深めた事にありました。米国は同盟国にも中国通信機器大手、華為技術(フアーウエイ)などの危機を排除するよう求め、日本は対応をせまられた経緯がありました。何を規制の対象とするかは、これからも米中対立の行方や米国の意向に左右されることが避けられことと思料するのです。

So far、バイデン政権が中国への厳しい姿勢を緩める気配はありません。米国主導の国際秩序に挑戦する習指導部をけん制するため、経済面を中心に制裁の対象を広げる流れは続くとみる処、日本も米国と連携し、安全保障を脅かす技術や情報が中国に渡らないよう体制を強化する努力は欠かせない処です。ただ大事なことは、政府がそれを大義名分として疑わしきは全て排除するやり方を取らないことではと思料するばかりです。

軍事・経済・技術力の各分野での中国の台頭への警戒感が増し、新型コロナウイルスで露呈したマスク不足など、サプライチェ-ンの一国依存のリスクを体感する処ですが、「安保は米国、経済は中国」路線できた日本に対して、中国を「戦略的競争相手」と見据える米国が、経済・技術でも同調を促している事情も指摘される処です。国を挙げて先端技術の軍事転用を促す「軍民融合」を掲げる中国への機微技術の流失や、強い経済力を背景とした外交・安保での揺さぶりを防ぐ、その為には、ある程度の規制は必要と思料する処です。

が、米国主導で新設された「経済版2プラス2」(注)など、とにかく対中牽制で米国と一体化すればそれで良し、と云うことではない筈ですし、当の米国も、政治的には対立しながら対中貿易は拡大させるなど、したたかにある処です。 因みに、経団連の十倉会長も1月の会見で、「経済版日米2プラス2」立ち上げを歓迎しつつ、「日中は、東アジアの経済の繁栄と平和のために安定的で建設的な関係を築いていく必要がある」と強調。「世界は中国なしではやっていけず、中国も世界なしでは立ち行かない」と指摘する処です。

貿易戦争に勝者はいない。経済競争力を競うつもりが、報復合戦になれば、日本が相対的に力を失う結果になりかねません。経済安保戦略は、日本では交わりの薄かった「安保」と「経済」をいかに融合させ、日本の国益を最大化させるかにその本質があり、対立でなく、武力衝突等、緊張を招かぬよう経済も加味した「抑制」手段をどう練るかが重要と云うものです。
   
(注)1月21日オンラインでの日米首脳協議では、合意された新設の経済版「2プ
ラス2」では、半導体などのハイテクとサプライチェーンそして 輸出管理が主な
議題となる見込みと報じられていますが、世界で需要の増える半導体は安定調達が最
大の課題と映る処です。 かくして経済安保の連携深化へ踏み出すと云うことですが、
中でも対中姿勢で、強硬路線を進める米国に日本はどこまで合わせていけるかですが、
となると経済安保での日米連携強化では、成長と安保をどうバランスさせていくかが
問われる処と思料するのです。

・「地経学(Geoeconomics)」
処で、経済安全保障を考える際、重要になってくるのが「地経学(Geoeconomics)」と云う視点です。 その地経学の手本として挙げられるのが、R.ブラックウイール元米国家安全保障会議(NSC)補佐官と外交政策と経済学者のJ.ハリスとの共著「War by other means、(2016)」(他の手段による戦争)ですが、要は今の時代、イラク戦争の失敗等に照らし、軍事手段を使って影響を拡大することは難しく、従って経済的手段で地政学的目的を実現するしかなく、その際は ➀経済・金融制裁、②貿易管理、③投資管理、④経済援助、➄財政金融制裁、⑥エネルギー政策、⑦サイバー、の7つが地経学の具体的手段とするのです。
最近ではEconomic statecraftと云う言葉が使われていますが、要は、この7つを具体的政策としてどう履行していくかという事ですが、どちらかと云えば、自己防衛、安全保障あるいは経済的影響力の確保・保持と云った受け身の形が多い印象です。

上記事情を踏まえ、後出、API(Asia Pacific Initiative) 理事長の船橋洋一氏は、「地経学とは何か」(文春新書、2020/2/20)で、「国家が、地政学的な目的のために、経済を手段として使う事」を「地経学」と定義する処です。詰まる処、具体的地経学の手段も経済政策に集約され、とにかく力強い経済成長が必要となる処、トップがそれを表明し、国として目指すべき方向性を国民に明示することが必要となる処です。

もとより経済安保にかかる取り組みの基本は、自国経済安保の確保にある事いうまでもありません。が、今日的国際環境に照らすとき、当該行動は互恵主義、協調主義で臨むべきものと思料するのです。 つまり、いまや平時を前提とした「効率優先の集中・管理」型モデルでは立ち行かなくなってきています。周知の気候変動対応、感染症の拡大、更には日本では首都圏直下地震など、これらが同時多発的に起きる最悪事態をも想定したモデルへの転換が急がれる処です。 加えて、我が国の産業界を巻き込む経済安保上の最大の懸念はやはり米中の覇権争いです。

そこで、岸田政府が目指すべき経済安全保障政策構築のポイントは、「外交・安保」、「貿易・投資」、「脱炭素・エネルギー」、「デジタル・データ」等の政策、産業政策とどのような整合性を以って構築されるかにある処、具体的には「国産と輸入の代替」、「安全保障と企業主益・経済成長」、「イノベーションと格差」、「抑止力とレジリエンス」、といった経費対効果を明確にした政策を確立していかねばならないと思料するのです。 
さて、政府が提出予定の推進法案は、こうした点を映したものとなるのか、また罰則など政府による民間への規制強化や介入で、民主主義を構成する「自由な経済活動」を阻害する恐れがないか、注視していく事、緊要となる処です。

・企業経営と経済安保 ― API の「地経学ブリーフィング」
次に企業は経済安保をどう受け止めているか、も問題です。その点、昨年12月、日本の主要企業100社に対してAPI (Asia Pacific Initiative)(注)が行った「経済安全保障」についてのアンケート調査結果は、以下の3点に、彼らの本音を映し出す処です。

・100社の内、74%が「米中関係の不透明性」を「最大の課題」と足らえていること、
・にも拘わらず、企業はこうした中国の経済安全保障上のリスクに備えながらも、当面はむしろ、米国の対中政策に伴うリスクの方をより強く意識しているように見えること、
・中国市場への依存を減らしたいと考えつつも、生産拠点の日本回帰や第3国への移転を本格的に検討するところまでは踏み出せない日本企業のジレンマが色濃く映し出されている、ことでした。

[ (注)「API (Asia Pacific Initiative)」はアジア太平洋の平和と繁栄を追求し、当該地域
に自由で開かれた国際秩序を構築するビジョンを描くことを目指すフォーラムであり
シンクタンク。理事長:船橋洋一(元朝日新聞主筆)、2017年設立 ]

つまり、大方の「経済安保」への取り組とは、日米関係を大前提とした取り組みを目指す姿勢の強さを示唆する処、前述、1月21日の日米首脳協議では、バイデン大統領の対中姿勢がいまいちの印象ぬぐい切れず(後述P.11参照)、であれば、日本として今後の外交及び通商政策の基礎に置くべきは、米中対立の狭間で悩む国々と共に、二項対立の議論を乗り越え、皆で恩恵(経済的利益)を分かち合える「開かれた 互恵主義」を目指すことではと、思料するのです。そして大切なことは、多くの国が共生に軸足を置き目の前の地球規模の課題に一緒に取り組んでいく世界を実現する事ではと、思料するのです。そしてしぶとく生き抜くこと、これこそ、日本の経済安保にとって必要なことと強く思う処です。

因みに、今年1月1日付で発効したRCEP(当初10カ国でスタート)には韓国が加盟しており、韓国も2月1日、韓国国会で承認、発効したのです。日本にとっては3番目に大きい貿易相手国との初のFTAで、関税の大幅撤廃等で両国間の貿易は大幅拡大が予想される処、何よりも日韓関係は戦後最悪の状態(注)とされてきた中でのことだけに、その改善への大きな一歩と期待される処です。

    (注)日韓関係は慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した2015年
の日韓合意を事実上反故にしたのがきっかけで、その後の元徴用工訴訟等もあって
対立が長期化し、外交・防衛上の意思疎通は希薄のままに推移してきています。


第2章  岸田政権の「経済安全保障政策」

1.「経済安保推進」法案

さて、本稿冒頭で触れたように、岸田総理は1月17日の通常国会で、目指す成長戦略では「経済安保は待ったなしの課題」とし、「新しい資本主義」の重要な柱だとも発言する処、2月1日開催の有識者会議では、当該政策に向けた提言(法案)が取りまとめられ、2月4日の関係閣僚会議では、岸田総理は「経済安保はグローバルルールの中核になる」として、経済安保推進法案の2月中の提出を急ぐよう指示する処です。

伝えられる当該法案概要は、「サプライチェーンの強化」、「基幹インフラの安全確保」、「先端技術の研究開発」、「重要分野の特許非公開」の4点を柱とするもので、米国が2021年6月に纏めた「サプライチェーンに関する報告書」で重要とされたものです。(注)
 
(注)[4本柱の概要 ]
➀ サプライチェーン強靭化
    ― 滞れば国民生活や産業に重大な影響を及ぼす半導体などを「特定重要物資」に
指定し、国が供給網の強化に向け、事業者が作成し、資金を支援する。
② 基幹インフラの安全性・信頼性の確保
    ― 情報通信やエネルギーなどのインフラ事業者が重要な設備で安全保障上の脅
威になりうる外国製の設備を新たに導入する際、政府が事前審査する。
  ③ 先端的な重要技術の官民協力
― 技術流出防止へ国内研究を国が支援、官民研究で秘密を洩らせば罰則も検討。
④ 特許出願の非公開制度
  ― 機微技術の公開を防ぐ事を狙いとするの。対象を原子力技術や武器だけに使用
される技術の内、「我が国の安全保障上、極めて機微な発明」に限定し、これによ
ることに伴う損失を国が補償する。(以上、月例報告「2月号」より)
   
尚、特に半導体、医療品、先端分野の電池、レアアースを含む重要鉱物について、政府は4つの戦略物資と位置づけ、国内生産能力の強化や多元的な調達に取り組む方針とする処、産業界には「経済安保政策を徹底すれば、先端製品の製造拠点を持ち、巨大市場でもある中国との関係の悪化にならないか」と云った懸念も強く、推進法案の確定までには産業界での配慮と実効性の確保の2面での調整が続きそうです。その点、2月9 日、小林鷹之経済安全保障相は経団連幹部と面談。経済界が懸念する国の過度な関与や企業秘密の開示にかかる関与等、これまで指摘されてきた企業への規制について、最小限にすると説明する処です。

日本としては今後、当該新法をベースに、外交・通商政策を進めることになるのでしょうが、その際、留意すべきは、米中対立の狭間で悩む国々と共に、二項対立の議論を乗り越え、皆で恩恵(経済的利益)を分かち合える前述(P.6)「開かれた 互恵主義」を目指すことではと思料する処、大切なことは、多くの国が共生に軸足を置き目の前の地球規模の課題に一緒に取り組んでいく世界を実現する事、そして、しぶとく生き抜くこと、これこそ、日本の経済安保にとって必要なことと強く思う処です。

2.経済安保政策、取りまとめの留意点
政府が目指すべき経済安全保障政策の構築は、前述(P5)の通り、外交・安保、貿易・投資、脱炭素・エネルギー、デジタル・データなどの政策、産業政策とどのような整合性を以って構築されるべきものと、思料するのですが、その際は中国に対して如何に向き合っていくか、がカギとなる処と思料するのです。

中国経済は2030年ごろには米国を抜き世界一の大国になると予想されています。その中国はGDPでいえば、今から30年前、日本のわずか8分の1でした。2010 年には日中は逆転し、今や日本が中国の3分の1となっています。そうしたダイナミックな変貌が想定される中国、そして世界経済にあって、日本はどのように変貌が想定でき、その展望の下、如何に対峙していくかが問われことになると思料するのですが、結局それは、日本経済の長期展望にかかる処です。その点を含め、しばし当該推移を注視して行きたいと思うのです。

         
       おわりに代えて  中国、ロシア そして 米欧

 ― 北京五輪の幕が下りるのを待っていたかのように、中国、ロシアの連携が確認され、その一方では、これまで同盟関係にありながらも米国追随型を「良」とせず、時にkeep stanceにあった欧州が、プーチン主導のウクライナ危機に反応し、一挙に米国との距離をちじめ、新たな自由諸国対中ロのブロック対決構造を生み出す様相です。以下ではそうした中ロ、そして米国の動きにフォーカスし、考察することとしました。

1. 中国の変容、ロシアが仕掛けるウクライナ危機

(1)2月4日の中ロ首脳会談—中ロ新型大国関係の模索
さて北京冬季五輪は2月20日、色々な問題を発信しながら幕を下ろしました。とりわけ、
2月4日、開会式直前に行われた中国習近平氏とロシアのプーチン氏との首脳会談は、政治体制が異なる核保有国同士が直接対話をすると云う冷戦期(1945~89)以来の事態で、まさに世界が注目するホットイッシューでした、

メデイアによると、周知のウクライナ情勢と台湾問題で、中ロ両首脳は、互いの立場を支持し合い、連携を強調。中国へ天然ガスを追加供給する事でも合意、天然ガスをロシアに頼る欧州を揺さぶったとされる処、会談後、NATO拡大に反対する共同声明(注)を出し、プーチン氏はその足で開会式に臨んだ由で、見下ろす位置にいるプーチン氏を感じつつ入場行進したウクライナ選手は心がざわついたに違いないとメデイアは云うのでしたが、然りです。そして、「ひたすら技を競い合うべき平和の祭典に軍靴の音さえ聞こえかねない国際政治上の対決を持ち込んだ責任は重い」(日経2/6 ,社説)とメデイアは糾弾する処でした。

    (注)共同声明:「新時代の国際関係と持続可能なグローバル発展に関する共同声明」と
題した、下記、4つの文節から成る声明で、ウクライナへの言及はなかった由。
     ➀ 中ロとも民主を肯定し、国際社会の共通の価値観は「民主」と。
     ➁ 中国主導の「一帯一路」と、ロシア主導の「ユーラシア経済連合」のリンクを提唱、
③ 中国の主張「一つの中国」、ロシアの主張「NATOの拡張反対」に両首脳は同意
④ 中ロは国連の2大常任理事国として、戦後の国際秩序の堅持を強調。その中でウ
インウインの新型大国関係の構築を提唱(中ロの新型国際関係は冷戦期の軍事・
政治同盟を超えるものと確認。米欧と対峙する姿勢を打ち出すもの)    
      
そもそもロシアは国家ぐるみのドービング違反で制裁を受け、プーチン氏は主要な国際大会への出席が禁じられている中、今回は例外規定を用いた習近平氏の計らいで北京五輪に出席できた由ですが、見過ごせないのは、北京五輪が強権的統治が特徴の権威主義国家と、民主主義国との分断を浮き彫りとしたことと、各種メデイアは指摘するのでしたが、そこに映し出される中国、かつて米国主導の下で形成され戦後の国際秩序のフォロワーであった中国が、今や新たな秩序形成に向けた、ルールメーカーともなりつつある、そんな姿を感じさせる処でした。

因みに米国など民主主義国は外交的ボイコットの名の下、彼ら首脳陣の参加はなく、中国の孤立感が云々される処、プーチン氏をはじめ、グテレス国連事務総長ら24人の首脳や国際機関トップが北京に駆け付けたことは中国主導の下で、ある種のブロックのひな型さえ感じさせる処でした。が、習氏が会談したのは18人、五輪外交としてはその広がりは乏しく、とりわけ中国最大の原油輸入国、サウジのムハンマド氏の突然の欠席は習氏にとり痛手と評される処、インドも然りで、五輪外交は目算崩れとみられる処でした。そして足元の五輪競技の場では判定を巡る、トラブルを目の当たりとする時、[fairness]を大前提とする国際競技にあって、これが中国開催故の結果かと、聊か冷めた印象の残る処でした。

(2)プーチン・ロシアと彼が仕掛けるウクライナ危機
元米国務次官補のダニエル・ラッセル氏は上記中ロ共同声明について「制裁に耐え、米国の世界的なリーダーシップに対抗する覚悟だ。中国とロシアは自国の利益と権威主義体制を米欧の圧力から守る共通の目的がある」(日経2/6)と分析する一方、サリバン米大統領補佐官は2月6日、米ABCのTVインタビューで、ロシアのウクライナ再侵攻の可能性が「非常に明確にある」と発言。(日経夕、2022/2/7)そして米政府は東欧などへ3000人規模の米軍を独自に派兵すると報じられる処でした。まさに米ロ危機、東西分断の可能性を感じさせる処です。

果たせるかな、2月21日、プーチン大統領は安全保障会議を開き、ウクライナ東部の親ロシア派が占領する東部地域、ルガンスク、ドネック両州の独立を承認し、直ちに、当該地域の安全保障の提供として、ロシア軍の派遣を、大統領令を以って指示する処、2月24日には、ウクライナ東部への侵攻を始める処です。(注)

   (注)ウクライナの独立:1991年、ソ連邦崩壊、その一部のウクライナは独立を果たし、
この時、ウクライナ領内に約1,900発の核弾頭が取り残された由。但し、ウクライナに
対してNPTの加盟と核兵器の撤廃が求められ、その条件として「領土保全、政治的独
立」に対する安全保障を米・英・ロシアが提供することで合意。(ブタペスト覚書、
1994/12/5)しかし2014年3月、クリミア半島はロシアに併合され、ブタペスト覚書
きは反故とされ、更に、2014年のクリミア半島を巡る紛争に対し、ロシア、ウクライ
ナ、独、仏の首脳間で交わされた停戦合意(ミンスク合意、2015年2月)も、今回の
事件で、白紙とされる処です。

・米国との一層の一体感を強める欧州
尚、欧州で渦巻くロシアへの憤り、失望は外交・安保で3つの大転換を促すとされる処です。
一つは、NATO同盟の姿勢です。これまで対米追随にあった姿から、欧米の結束強化に向かいだした事です。二つに、軍備増強に向かいだした事、そして3つ目が経済安保にかかる取り組みです。つまり欧州は米国に同調してロシアに制裁を科す処、経済界も「対ロ制裁やむなし」とし、当面、対ロシア新規投資を控えるとするのです。ドイツは22日、ロシアとの新しいガスパイプライン計画の棚上げを決定したのです。こうした流れは東にシフトした鉄のカーテンが再び欧州に出現したと見る処です。

一方、ウクライナ情勢を巡り、米国は日本に経済制裁で足並みを揃えるよう求める処、
北方領土問題を抱える日本には、G7の枠組みと対ロ外交とのバランスをいかに図るか、と苦慮する中、9日、日本政府は、just in case、欧州がエネルギー不足にならないようLNGを欧州に融通できないかとの米政府の打診に対応することを決定、まさに日本の経済安保政策の一環とされる処、要は、ロシアのウクライナ侵攻を傍観すれば、台湾、尖閣諸島等を巡って、覇権主義を鮮明とする中国に誤ったメッセージを与える懸念もありで、日本政府も、これが対岸の火事と済まされない処なのです。
                               
2. 米バイデン政権の新「インド太平洋戦略」

2月11日, バイデン政権が初めて纏めたと云う安全保障・経済政策の指針となる「インド太平洋戦略」を発表したのです。その内容は、中国の抑止を最重要と位置づけ、軍事と経済の両面で対抗する方針を打ち出すものでした。そして同盟国と築く「統合抑止力」が基礎になると強調する処、日米同盟にも深化を迫る内容とされる処です。ウクライナ情勢が緊迫する中での公表で、対中抑止を重視する政権の姿勢を明確にする狙いがある処と、メデイアは指摘する処(日経2/14)、世界の課題に、同時並行で対処する決意を示したものと云えそうです。その概要は以下ですが、もとより、「中国を変えること」ではなく、米国や同盟国に有利な戦略環境を整えることにあるものと思料する処です。

・米が目指す戦略ポイント:「安保」と「経済」
「安保」では地域の同盟国である日本やオーストラリア、韓国、フィリピン、タイとの関係を一段と強化すると掲げ、日本の自衛隊などとのの相互運用性を高めると記している由です。これは日米による有事を想定した作戦の共有や装備の配備、最新技術の共同研究などを念頭に置いたものとされています。1月の日米外務・防衛担当閣僚協議では台湾有事を念頭に置いた「緊急事態に関する共同計画作業」について協議がされています。あらかじめ日米共通の作戦と対処能力を持つことで抑止力を高める狙いがあると見る処です。
そして「経済」でも、近く立ち上げ予定の「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を戦略の柱に据える処、その詳細は近く公表予定とか。要は米国単独では、中国抑止は限界とするもので、その点で、日米同盟の深化が迫られていく事と思料するのです。これに日本はどのように応えていくか、前述(P.6),予ねてのテーマとは言え岸田政権にとって重い仕事となる事でしょうが同時に、見せ場となる処です。

同時に、上述、既存秩序に挑戦する中ロと対峙しつつ緊張緩和の道を探るとなると、それもやはり、日米欧の重要な責務ではと思料するのです。今、コロナ禍の長期化、インフレの高進、更にはウクライナ問題などが重なり、複合的な不安にさいなまされる処です。
かつては米国の処方箋とリーダーシップに頼ることもできました。しかしバイデン政権はコロナ対策にも、インフレ対策にも、ロシアの抑止にも、手こずっています。その点では国際統治の再建を目指すべきで、つまり、ここが世界統治の正念場、日米欧が共に緊張緩和の道を探るべきは重要な責務と思料するばかリです。 2月19日G7緊急外相会議が開かれ、G7が一致してロシアに立ち向かう姿勢を示した事の意味は大きく、高く評価される処でした。つまり、 米欧がロシアに曖昧な対応を取り続ければ中国の抑止にも隙を与え日本や台湾の安保環境にも影を落としかねません。

今、手にする最新The Economist、2022/2/19 は、「Putin’s botched job ― War or not, he has miscalculated」と題し、プーチン大統領は、ウクライナ情勢 を読み違え、侵攻するにせよ引き下がるにせよ、既にロシアを傷付けていると、極めて冷たく評する処です。 国際環境は今まさに、‘疾風怒涛’の大混乱を呈する処です。 以上 (2022/2/26)
posted by 林川眞善 at 16:25| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2022年01月28日

2022年2月号  「新しい資本主義」考 そして今、日本に求められる視点 - 林川眞善

目  次

はじめに  The era of predictable unpredictability

第1章 「新しい資本主義」考

1.岸田文雄総理が目指す資本主義
              
(1) 文春寄稿 私が目指す「新しい資本主義」の
        グランドデザイン
(2)「新しい資本主義」とは、社会主義シフト?

2. 日本の経済安全保障対応と、日米首脳オンライン協議

(1) 日本と経済安保環境
・経済安保、4つの柱
(2)日本の経済安全保障対応と、日米首脳オンライン協議

第2章  国と企業の「二人三脚」、その合理 

1.米政権とインテルのタッグマッチ
2.Bossy state, 問われる`政府と企業’ の関係

おわりに 北京冬季五輪と習政権のメンツ

---------------------------------------------------------------------------------



はじめに  The era of predictable unpredictability

昨年暮れのThe Economist(Dec.18~31,2021)は、その巻頭言で、来たる2022年をNew normal始まりの年、The era of predictable unpredictability 、つまり予測するにも、‘予測できないと予測すること’ と断じるのでした。それは複数の供給要因と需要要因が予期せぬ形で押したり引き合ったりする様相にあって、その落ち着く先が見通せない状態が続くと見る処、この現象を英投資調査会社、TSロンバートは、それをバイフレーション(biflation)と称する処です。

過去2年というもの、新型コロナウイルス、「デルタ株」が齎したコロナ禍への対抗に明け暮れ、その行動は、いつしかこれまでnormalと信じられてきた行動や秩序の破壊を生み、更に昨年暮れには新型コロナウイルス「オミクロン株」の出現で、その収束の行方が見通せない、予測不能の新年に入りましたが、biflation効果もあって、世界は今、急速に進み出すインフレへの懸念を高める処です。

そうした中、日本では岸田総理が、この1月11日で政権発足100日を迎え、米国では、バイデン大統が、1月21日で2年目を迎えました。

そして、1月17日 、岸田首相にあっては、召集された通常国会で就任後初の施政方針演説に臨み、2050年温暖化ガス実質ゼロに向けた「経済社会全体の大変革」を強調する処でした。そして経済再生の要は、自説の成長と分配の好循環を生む「新しい資本主義」にありとし、この春に実行計画をまとめる方針を明らかにする処でした。その直後の21日には、オンライでバイデン大統領と1時間半の協議を行っており、そこでは地域情勢への対応や経済分野で両国の幅広い連会を確認した由、報じられています。

そこで、岸田氏が持論とする「新しい資本主義」とは、どういったものか。文芸春秋2月特別号に寄稿の論考「新しい資本主義」のグランドデザイン、を取り上げ、上記日米首脳会談の内容とも併せ、この際は日本の世界におけるposition(注)を踏まえ、日本の経済安全保障に焦点を合わせて論じたいと思います。
  
(注)日本経済の世界におけるポジション(2020)  
    
   Japan (rank)  USA 中国     
GDP (兆ドル)     5.0 (3位)    20.9 (1位) 14.9(2位)
貿易(輸出 兆ドル) 0.8 (4位) 1.5 (2位) 2.0(1位)
人口 (億人)  1.2 (4位) 3.3 (3位) 14.1(1位)

と同時に、パンデミック以来、少なくとも経済活動は政府の支援、あるいは協調なくて進まぬ状況が続く処、これまでも幾度も弊論考では指摘してきた問題ですが、これが市場における自由競争、更には民主主義の在り姿を問う処です。そこで、併せて民主主義堅持を意識しながら、The Economist,(Jan.15/21)が指摘摘するBossy state(高圧的な政府の企業介入)の実状について考察することとしたいと思います。



第1章 「新しい資本主義」考

1.岸田文雄総理の目指す「新しい資本主義」のグランドデザイン

(1)文春寄稿「新しい資本主義」
岸田文雄氏は、自身の標榜する「新しい資本主義」について、月間雑誌「文芸春秋」2月特別号に寄稿しています。早速 取り寄せて読んでみました。新しい資本主義?

寄稿文の全体構成は、以下 10の文節からなるものです。
(1)今こそ資本主義のバージョンアップが必要
(2)「人」重視で資本主義のバージョンアップを
(3) 何よりも大切なのは人への投資
(4)新たな「官民連携」で付加価値を引き上げていく
(5)スタートアップが日本を救う
(6)大胆な投資の実現
(7)地方こそ主役、デジタル田園都市国家構想の実現へ
(8)気候変動問題への対応
(9)若者世代・子育て世帯の所得の引き上げに向けて
(10)まとめ

まず、(1)、(2)、(3)を通じて「成長と分配の好循環」実現のために、「モノから人へ」の流れが重要と説き、次に(4)、(5)、(6)を通じて「モノから人へ」に続く新しい資本主義のキーワードとして「官民連携」を挙げ、連携を以って終戦後に続く、第2の創業時代をつくろうと、呼びかけるのです。更に(7)、(8)、(9)ではもう一つの重要なキーワードとして「地方」を挙げ、デジタル技術の活用により、地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現するとデジタル田園都市国家構想の実現を目指すと云い、気候変動問題に2050年カーボンニュウートラルの実現を目指し、あわせて2010年代の日本の経済成長を米国と比較して家計消費の伸び低いことが問題でこれを改善するために可処分所得の増加を図りたい、これこそ令和版所得倍増だと主張するものでした。

(2)「新しい資本主義」とは、社会主義シフト?
さて、読み終わっての感想は、「新しい資本主義」とは何か? 依然よくつかめないというものでした。つまり、上記内容からは、資本主義論ではなく、岸田首相の在任中のお仕事予定表としか映らないのです。勿論 政策論であれば、それはそれで問題はないのでしょうが、一国の総理大臣が使う「新しい」と云う言葉には、根本的変革を予知させるものがある処、それが感じ取れないと云うものでした。

つまり、総理大臣の云う「新しい資本主義」論には当事者の理念が映ってこないこと、明確な国家戦略も見えないという事で、むなしささえ覚える処でした。つまり岸田氏が実行したいとする政策を集めても、即「新しい資本主義」とはならないのです。新しい資本主義を語る以上、月並みのレトリックでは意味がなく、日本の経済社会に関するしっかりとした分析が必要です。

そもそも、資本主義とは、資本が主体の生産体制を意味する処、それを否定したマルクスの造語で、彼は競争と云う経済的圧力が生産の為の生産に追い立て、失業と貧困の広がりが、格差社会を生み、繰り返される不況等、あらゆるものが投機の対象になることを明らかにし、利潤第一のシステムがこの巨大な生産力をコントロールできなくなったとし、そこで、国民が主人公となる未来社会への前進が必然と説くものでした。が、仮に格差や独占を生みだし、自然を破壊する資本主義にどう立ち向かうかという事であれば、東大教授の松井彰彦氏が言うように(日経、2022/1/15),「資本主義と市場経済と混同されやすいが、その区別を明らかにしなければ対抗策が見えてこない」処、今次の岸田氏主張は、そうした整理がなされないままに、賃上げだ、格差是正だと云うのですが、であれば「社会主義」への接近ではと映る処です。

序で乍ら、米国のノーベル経済学賞のポール・サムエルソンは、市場の自由と政府による規制を併せ持つ中道主義を目指す処でした。つまり、サムエルソンは、市場の自由を重視する古典派経済学思想と、政府の規制を重要視する新古典派経済学思想とを合体させ、「新古典派総合」と云う新しい概念を生みだし、その下で「公的秩序を保つための規制」と「市場の競争の自由」のバランスを取った経済政策を主導、戦後、60年代から80 年代の民主主義国家の経済政策に多大の影響をもたらすものでした。要は、不況時にはケインズ経済学、軌道に戻れば、自由放任を志向すると云うものでした。なおサムエルソンの名著「Economics」と云えば、60年前、好学社のリプリント版を以って苦労したことを想起させられる処です。

さて、1月17日召集された通常国会での岸田文雄首相の施政方針演説では、まさに「新しい資本主義」に全文の3割を割く処、これまで批判の多かった「改革」と云う言辞については、今回は「経済社会変革」と打ち出していましたが、日本経済の問題はアベノミクスでいえば3本目の矢、生産性を上げる改革など成長戦略が足りないことに尽きる処です。今後この点は、岸田イズムの下で見直されていく事でしょうが、ここは修正ではなく改革の断行を目指すべきと思料するのです。つまりは抜本的変革への意思を明確にし、そして何よりも、日本経済の成長のためにも、行政全体を統率するリーダーシップが求められる処ではと、思料する処です。

かつて、同様趣旨の表題(和訳語)で、2020年10月、ハーバード大学のMBAコースで人気を集めるレベッカ・ヘンダーソン氏の「資本主義の再構築」(Reimagining Capitalism)を手にしました。そこでは企業のパーパス(存在意義)の再定義があり、非財務情報の開示を通じて、株主に偏在する富の分配を見直そうという内容ですが、ステークホルダー主義に基づいたもので、ビジネスの力を使った社会問題の解決や公正な分配を考えるうえで大いに参考となるものでした。

・日本の課題
上述、国際環境を拝する日本の行く道はどうあるべきかを考える時、2020年のForeign Affairs 7-8月号で、Princeton 大学教授のJohn Ikenberry氏が投稿論文「The Liberal Order, The Age of Contagion Demands More Internationalism, Not Less」で、まさにウイズ コロナの時代こそはinternationalism(国際協調主義)がより必要と訴えていたことを想起する処、2022年も尚その延長線上にあって、資源等、パワーを持たない日本が目指すべきは、安全保障と自由貿易が両立する「経済安保」の確立にある処、その為にも‘外交力’の強化が日本にとって喫緊の課題とも思料するのです。


2.日本の経済安全保障対応と、日米首脳オンライン協議

(1) 日本の経済安保環境
1月17日の通常国会では岸田首相は、「新しい資本主義」を語る中、目指す成長戦略では経済安保は、待ったなしの課題であり、新しい資本主義の重要な柱だとする処です。
安全保障といえばこれまでは政治的、軍事的側面を中心に議論されてきていましたが、これに「経済」が、結び就くようになった背景には、先端技術分野で存在感を増す中国に対し、世界的に警戒感が高まっている事情があっての事とされる処です。

つまり、中国は、2015にハイテク産業育成策「中国製造2025」を策定し、5G,やAIなど先端分野に力を入れてきている処、ただ先端技術に欠かせない、あらゆる技術の基盤となっている半導体は、目下の処、世界的な不足で、部品などのサプライチェーンへの関心が高まる処で、経済安保上の目玉とも映る処です。 尚、足元での半導体の生産能力は、中国が世界の15%程度と日本とほぼ同水準で、台湾、韓国に次ぐと見られているのですが、近時、2030年には中国は倍増の30%と首位に立つと予想される処です。このため、中国に自国の製造業の命運を握られかねないという危機感が、米国を中心に広がっているとされる処です。

・経済安保、4つの柱
上述、日本を取り巻く環境を念頭に、政府が目指すべき経済安全保障政策の構築は、国際経済評論家の船橋洋一氏が言うように、外交・安保、貿易・投資、脱炭素・エネルギー、デジタル・データなどの政策、そして産業政策とどのような整合性を以って構築されるというものか、つまりは国産と輸入の代替、安全保障と企業主益・経済成長、イノベーションと格差、抑止力とレジリエンス、といった経費対効果を明確にした政策を確立していかねばならないのですが、それらが新しい資本主義にどのように組み込まれていくものか。側聞する処、現状、以下の4点があげられる処、しばし当該推移を注視して行きたいと思います。

・4つの柱:
➀ サプライチェーン強靭化への支援、
  ― 滞れば国民生活や産業に重大な影響を及ぼす半導体などを「特定重要物資」に指定
し、国が供給網の強化に向け、事業者が作成し、資金を支援する。半導体の他、レアア
ースなどを想定する。
② 電力、通信、金融等の基幹インフラにおける重要機器・システムの事前安全性審査制度
  ― 情報通信やエネルギーなどのインフラ事業者が重要な設備で安全保障上の脅威になりうる外国製の設備を新たに導入する際、政府が事前審査する。
③ 安全保障上機微な発明の特許非公開制度等の整備推進
   ― 機微技術の公開を防ぐ狙いとするもので、対象を原子力技術や武器だけに使用さ
れる技術の内、「我が国の安全保障上、極めて機微な発明」に限定されることに伴う
損失を国が補償する。
④ 半導体工場の設備投資やAI等新分野に対する官民の研究開発投資の後押し、
   ― 量子技術やAIなど「特定重要技術」の開発促進に向け、資金支援仕組みの導入
   
(注)岸田政権は2021年暮れの臨時国会で、先端半導体工場の誘致を後押しするため
 の関連改正法案と補正予算を成立させており、台湾・積体電路製造(TSMC)が
ソニーグループと熊本県で建設する新工場がその適用第一号になる見込み。これも
実質的に経済安保法案の一部先取りと云う位置づけ。

・現実の対応に思う事
こうした経済安保への取り組みは、勿論、相応の意味を持つ処と思料するのですが、ただその実践的対応は自国安保の確保にある処、今日的環境に照らすとき、互恵主義で臨むべきではと思料するのです。つまり、もはや平時を前提とした「効率優先の集中・管理」型モデルでは立ち行かなくなってきているのではと思料されるからです。

気候変動や感染症、更には日本においては首都圏直下地震など、これらが同時多発的に起きる最悪事態も想定したモデルへの転換が急がれる処です。そして、何よりも我が国の産業界を巻き込む経済安保上の最大の懸念は米中の覇権争いです。民主主義と専制主義と云った国家理念の対立とも云われる処ですが、バイデン大統領の対中姿勢がいまいち、シャキッとしないことが問題です。
であれば、日本として今後の外交及び通商政策の基礎に置くべきは、米中対立の狭間で悩む国々とともに、二項対立の議論を乗り越え、皆で恩恵(経済的利益)を分かち合える「開かれた互恵主義」を目指すことではないかと思料するのです。そして大切なことは、多くの国が共生に軸足を置き目の前の地球規模の課題に一緒に取り組んでいく世界を実現する事、ではと思料するのです。そしてしぶとく生き抜くこと、これこそ、日本の経済安保にとって必要なことではと強く思う処です。

(2)日米首脳協議
1月21日 、日米両首脳はオンライン協議を行い、経済安保で米国との連携重視と云う岸田政権の基本スタンスが確認されたと発表すると共に、この春のバイデン大統領の訪日が決定したと発表しています。 さて協議の内容ですが、ホワイトハウスの声明によると、米国が提唱する「インド太平洋経済枠組み」の創設について両首脳は確認。同時に米国と緊密に協力し、同構想への支持を地域に広めていくと約束する処、米国は経済面でアジアへの関与を強化する方針にあること、そして中国の「一帯一路」を意識していく事、同時に経済版の「2プラス2」の新設でも合意したとする処です。

尚、新設「2プラス2」については、半導体などのハイテクとサプライチェーン、そして輸出管理が主な議題となるとしています。世界で需要の増える半導体は安定調達が最大の課題です。かくして経済安保の連携深化へ踏み出す処ですが、ズレも大きいと指摘される処です。具体的にはTPPへの米国の不参加。日米協調で焦点となっているのが輸出管理を巡っての温度差です。 更に、岸田路線とバイデン路線の間で未だズレを感じさせるのが米国の対中姿勢です。強硬路線を進める米国ですが、日本はどこまでその強硬路線に合わせていけるのか、問題は続く処です。となると経済安保での日米連携強化では、成長と安保をどうバランスさせていくかが問われる処と思料するのです。



第2章  国と企業の「二人三脚」、その合理性は

1. 米政権とインテルのタッグマッチ

米バイデン政権とインテルは1月21日、2兆円超を投じて米国内に半導体工場新設の計画を共同発表したのです。周知の通り、まさに上記経済安保で述べたように、世界的な半導体不足を受け、国産半導体を目指す動きが世界に広がる処です。バイデン大統領も、21日、ホワイトハウスで「米国の半導体帯分野で過去最大となる歴史的な投資だ」とコメントするも、今回の投資が国と企業の「二人三脚」であることを印象づける処です。(日経2022/1/23)

米政府は、昨年起きた深刻な半導体不足で、自動車、電子機器の生産混乱を招いた経験に照らし、インテルなどに投資を促し、同様の混乱が起きないためと、国内生産基礎の構築を進めると伝えられる処、先端半導体を確保できるかは、自動運転や次世代通信などデジタル領域の競争力に直結する処です。
更に、米国が対抗心を露わとするのは半導体産業の育成に巨費を投じる中国の存在です。米国内では、華為技術(フアーウエイ)を筆頭とした企業群が存在感を増す処、米半導体工業会(SIA)によると20年には約1万5000の中国企業が半導体企業として登録され、先端分野だけで10億ドル近い売り上げを挙げた由です。この他、台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムソン電子も米国内で工場建設に動いていると報じられる処です。 尤も、補助金で足元の半導体不足を解消できるわけではないとは指摘される処、商務省調査によれば企業の半導体不足の解消には「最低半年」を要するとしていて、各社の新工場が立ち上がるのは24年以降とみられ、「供給過剰に陥るリスク」があるとの見方は少なくないとされる処です。

いずれにせよ、こうした過度とも映る国策投資政策、政府の介入にはいろいろ懸念も浮上する処、ある意味、ダッコに、おんぶの政府の介入は間違った取り組みであり、長期的に見れば3つのリスクがあると、The Economist ( Jan.15~21)は評するのです。以下にその趣旨を紹介することとします。

2.Bossy state, 改めて問われる政府と企業の関係

まず、80年代のそれとは違い、企業と政府の関係は変質し、これまでグローバル市場で民間企業が競い合うためのルールに目を引からせる審判役に回っていたが、今や波乱含みの新局面が進行していると云うのです。つまり、市民は社会正義から気候変動に至るまで、諸問題への対応を政府に求め、政府は企業に指示を出すことで、より安全で公正な社会へ導こうとしているが、つまり国は車の後部座席で運転手に指図するようになった。このBossy business interventionism(企業への高圧的な介入主義)には悪意はないが、しかしそれは究極的には間違いだとBeware the bossy stateと断じるのです。

バイデン氏は中間層のために米国の自由市場を守ろうと穏健な保護主義、補助金による産業支援等、推進しているし、中国でも「共同富裕」の名のもとに企業への監視を強めている。又、EUは自由市場から距離を置き、産業政策や「戦略的自律」を重視するようになったと云い、英国やインドやメキシコ等も同様にある処、致命的なのは、ほとんどの民主国家で介入の魅力が党派を超えて政治家に浸透していることと云うのです。

それは自国市場や審判が十分な働きをしていないのではと、懸念する市民が多いからだと云うのです。 また現在の地政学的情勢は、貿易の拡大とともに民主主義が広がると見込まれていた90年代とも、冷戦時代のそれともかけ離れているが、今では西側諸国と全体主義的中国とは競い合っているが、経済的には切っても切り離せぬ関係にあること、そして、
こうした介入主義的な動きには国有化の発想はないものの、広義には一連の政策は安全保障を強化すると謳うのです。前述した米インテルのケースの場合は、まさに米政府の提案を受けての行動であり、結果、インテルの投資額も5年前の倍に膨らむと見る一因となっていると云うのです。つまり中国を除き、高圧的な政府が企業心理を痛めてはいない。が、そうした行為は長期的に見れば3つのリスクがあると云うのです。

その一つは、相反する目標に直面した国家や企業が進むべき最善の方向性を見いだせないこと, そして二つは、効率性とイノベーションの低下です。つまり、世界規模のサプライチェーンの二重化には膨大なコストがかかること。そして将来より致命的なのは、競争が弱まることを挙げるのです。つまり多額の補助金を受けた企業の力は衰える事になると云うのです。
最後のリスクは、縁故主義(Cronyism)がやがて経済界と政界の腐敗をまねくことと云うのです。企業は政府を思い通りに動かし、優位に立とうとする。米国では既に境界があいまいとなり、企業の選挙への介入が増えている。一方、政治家や官僚は資金をつぎ込み希望を託した特定企業を引き立てるようになると。つまり、何らかの事態が起きるたびに介入して衝撃を和らげたいと思っても、政財界の関係者を断ち切ることはできないと指摘するのです。

つまり、高圧的な政府と云う新スタイルにこの信奉者が願うのは繁栄や公正さ、安全だが、手に入るのは非効率や既得権益、そして孤立だけという結果を招く可能性の方が高いと云うのですが、自立した企業こそが尊敬されるという事でしょうか。まさにThe Economist魂って処です。

・米巨大IT企業とバイデン政権
序で乍ら、デジタル化が進むと企業の投資は工場・店舗と云った有形資産からソフトなど無形資産に重点が移り、一方、M&Aを繰り返し, 事業領域を拡げているも、雇用を生む力は小さくなっているとされる処です。つまりデジタル革命はアイデイアを生む少数に利益が集中する「勝者総取り」を招き勝ちで、まさに資本主義の基本的な見直しが不可避となる処です。

ただ、かつて独占が問題視された石油や電力とは異なり、今や、高度Digital technology を以ってテック大企業は意思疎通の手段を握る処、周知の通り昨年1月6日、トランプ支持者が米議事堂を襲撃した際、彼らの情報発信を封じたのはフェイスブックやツイターなどSNS(交流サイト)でした。勿論SNSが広げる偽情報は民主主義をむしばんでもいる処、今や民主主義の意思決定で、民間企業が政府に匹敵する影響力を持つに至っています。つまり、巨大企業と大きな政府の争いは、誰が富を集め、誰が言論を主導するのかと云う根源的な問いを発する状況にある処です。その点では、民主主義を守るために政府や巨人企業とどう向き合っていくべきか、問われだしている処です。 

因みに、バイデン政権は、M&Aを繰り返して事業領域を広げている米グーグルなどITテック企業に対する監視の目を厳しくする処、1月18日、米FTCと司法省は企業のM&A審査に関する指針の改定を発表しました。つまりIT企業の巨大化が進む中、競争が乏しくなり、消費者や労働者が不利を被っているとして、実状に沿った指針に見直し、厳しく審査すると云うのです。(日経、1/19、夕)彼らはM&Aによって、より魅力的な製品やサービスを消費者に提供してきていると主張するのですが。勿論、上述、bossy state問題とは異なる話しながら、要は「政府と企業の関係」が今の米国で注目される事情に関心が向く処です。



おわりに 北京冬季五輪と習政権のメンツ

北京冬季五輪は2月4日(土)から20日(日)で、開催まであと一週間です。無事の開催を念じる処です。が、現地からは、中国政府による大会関係者への統制強化の報が連日伝わる処です。勿論、コロナ禍に覆われての開催とあって、関係者はその防疫に大わらわという処でしょうが、観客は中国居住者のみとする方針が公表された以外、今なお観客動員規模、チケットの販売方法、コロナワクチン接種の有無などの入場条件は正式には公表されておらず、統制色が日ごと強化される様相です。

詳細を決定できない背景には、感染力の強い変異型「オミクロン型」などの拡大懸念があるためで、中国政府は「ゼロ・コロナ」政策の徹底を進める処、足元では感染が拡大し、地域によってはロックダウンに追い込まれてきている処もある由。一方、無観客やごく少数の観客を入れる形式となれば自らが誇ったコロナ対策で感染を抑え込めていない、とのイメージが広がり、国威の失墜につながりかねないとの危機感もある為で、当局は観客動員と「ゼロコロナ」を両立させるため徹底した感染抑制策を打ち出していると云うものです。

こうした状況に加え、周知の新彊ウイグル自治区などを巡る人権問題で世界的に対中批判を呼ぶ処、以って米、英、カナダ、豪州、などは政府外交団を五輪に派遣しない、つまり外交ボイコットの決定を発表する処です。又、いわゆるアクテイビストによる政治的発言に対しては処罰を科すとしていることもあって極めて厳しい環境となっているとの由ですが、更に、ここに至ってロシアのウクライナ侵攻の可能性も出てきたことで、緊張感の高まる処です。
そんな中、IOCのバッハ会長が25日北京入りした由ですが、彼の宿泊先は公表されず、これもアクテイビスト等の彼への接近回避のための中国政府の措置でしょうか。
日本政府も閣僚らによる政府代表団の派遣はなしとの決定ですが、習指導部にとっては欧米への対抗という観点からも、成功裏の開催を演出する必要が高まる処ですが、まさに摩訶不思議の政治色一色に染まる北京五輪。これが平和の祭典と呼べるのでしょうか。

そんな中、中国政府が17日発表した2021/10~12月期のGDP(実質)は前年同期比4.0%,前期からは0.9ポイント減速です。これは「ゼロ・コロナ」政策を受けて消費が伸び悩んだほか、石炭高騰に伴う電力供給不足で、各地の工場が操業停止を余儀なくされたことの影響とするのです。
1月14日、デンマーク、オランダ両政府はそれぞれ政府外交団の派遣は、しない決定をした旨発表しています。 以上 (2022/1/27)
posted by 林川眞善 at 21:36| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2021年12月27日

2022年1月号  Digital powerとGlobal Order - 林川眞善

― 目  次 ―

はじめに  New omicron COVID-variant     

第 1 章 米テック企業と, Global Order, 新たなかたち
1.変容する米テック企業
2. A brave new digital world

第 2 章 米McKinsey Global Institute (MGI)報告書                     
        「The rise and rise of the global balance sheet」が問うこと 
1. MGI Report概要
2.富の不動産偏在の是正は世界的課題

おわりに  2022年、日本の行方を問う重大テーマ
1. 人口減国家、日本の行方   
2. The Economist誌 アドバイスを抱いて

         ------------------------------------------------------------


はじめに:New omicron COVID variant

漸くコロナも収束に向い、経済の回復が期待される中、11月末、発覚した新型コロナウイルス「Omicron(オミクロン)株」のおかげで、新年、2022年も、再び新型コロナ「Omicron(オミクロン)」騒ぎを背にしての船出となりました。因みに、日本政府は水際対策として、全世界からの新規入国を,11月30日午前0時を以って原則停止を決定。又 世界の対応として、11月29日にはG7保険相会合(オンライン)が緊急開催され、オミクロン株についての対応につき協議、又、11/30~12/3予定のWTO閣僚会議が延期、国内では開催中の国会でも連日対応策についての討議がと、大わらわの状況は今なお続く処です。

2020年のForeign Affairs 7-8月号で、Princeton 大学教授のJohn Ikenberry氏が投稿論文「The Liberal Order, The Age of Contagion Demands More Internationalism, Not Less」で、まさにウイズ コロナの時代こそはinternationalism(国際協調主義)がより必要と訴えていたのを思い出す処でしたが、2022年も,その延長線上での新年たるを、自覚させられる処です。ただ、過去2年間のコロナ感染問題に向き合ってきた日本政府には、この際は、総括があってもいいのではと、思う処です。

尚、今日の経済環境は、当時のそれとは異なり、supply shortageにあって、それが齎すインフレ懸念とそれへの対応、つまり、金融政策の如何が問われる状況でしたが、以下経緯に見るように、米FRBの政策の軌道修正を映し欧米共々、金利引き上げに向かいだす様相です。

因みに11月30日、米FRBパウエル議長は、米上院の議会証言で、「オミクロン」の出現が「インフレの不確実性を高める」とコメント。そして、インフレの方向感については両論併記で「雇用と経済活動に下振れリスクをも齎す」と需要不足を示唆しながらも、「人々の就労意欲を減退させ、労働市場の改善の遅れや供給網の混乱を増幅する可能性がある」と供給制約にも言及する処でした。 
又、12月4日付、The Economist誌 は、その巻頭言で「dangers ahead」と、以下3点の懸念を表明する処でした。つまり、① 先進国での出入国の管理規制の強化が経済回復の足をひっぱる事、② オミクロンの発生がインフレ助長の要因になるのではとすること,そして、③ 世界第2の経済大国中国の景気後退とそれが齎す世界経済への懸念でした。

・軌道修正に入った米英の中銀
12月15日、こうした観測経緯をたどる中、FRBはこれまでの金融政策の軌道修正を決定。つまり、緩和を続けてきた金融政策、量的緩和縮小、テーパリングの加速を決定。つまり軌道修正ですが、そのポイントは、「資産購入の終了を3か月早める」、「利上げは22年に3回を見込む」とするものでした。(日経12/17)

(注)「量的金融緩和の縮小」とは:毎月の資産購入規模を徐々に(段階的に)縮小し、最終的に資産購入額をゼロにしていく事

12月16日 には英国中銀は利上げを発表。この結果世界の中銀は数十年ぶりの物価上昇への対応に追われる処です。尚、日銀は17日、大規模緩和策の維持を決定。欧米が利上げに向けうごきを強める処、金融政策の方向の違いは円安を招く要因。エネルギーと輸入価格が高騰する「悪いインフレ」を齎す緩和のジレンマに陥る感の強まる処です。 かくして、世界経済の情勢は一挙にnegative な様相に向かうと映る処です。そして、このnegative な状況に追い打ちをかけているのが、もとより「shortage」にある処です。(尤も、12月23日、岸田政府は2022年度成長率(実質)を年央試算の2.2%から3.2%に上方修正しましたが、「オミクロン」感染拡大、米中など海外経済の減速リスクもあり、下振れは避けられぬと見る処です。)

ウイズコロナという事では、この2年余の経験から「禍」のイメージに付き纏われる処ですが、問題の本質はポストコロナに備えて、何をどう取り組むか、つまりコロナ禍で傷んだ経済をいかに立て直し、グローバル経済の秩序をいかに取り戻すかにある処、それは競争力ある経済の再建であり、そのためには如何に生産性を堅持するか、その為にいかに技術革新を進めていくかにあった筈で、グローバルな秩序の再構築が見通せるというのも、そのプロセスにあっての事と思料する処です。
尤も現時点でも「オミクロン株」の特性について詳細には解明されていないこともあり12月3日には、WHOの専門家は、暫し静かに経過を見てくれとするのでしたが、オミクロン株の感染は収まらず、各国での移動制限が続くなかにあっては、その不確実性は経済の見通しに対するリスクとなる処です。(注)

  (注)オミクロン拡大:12月16日時点での世界の新規感染者数は約62万3千人で、
この1か月で2割強増えた由(米ジョンズ・ホプキンス大発表)新型コロナウイルスの
デルタ型が流行していたところに感染力の強い「オミクロン株」が広がり始め、「ダブル
   サージ(二重の波)に欧米では警戒感が強まっている。(日経12/18, 夕刊)

・テック企業
処で、旧臘12月、広告に煽られて手にした新刊「GAFA― next stage」は、NYU スターン大学院教授、スコット・ギャロウエイ氏が著すもので、前作「Four GAFA」(2017年)に続く作品でしたが、現下の憂鬱な空気をすっ飛ばすばかりとする米テック企業の革新行動が描かれていて、まさにbrain washとなるもので、パンデミックは全てを『分散化』させるとの言辞に惹かれる処でした。医療然り、飲食然り、家で働く事然り(リモートワーク)、と、まさにミクロながら世界の産業構造の変化を目の当たりとする思いでした。

更に、手にした米ユーラシア・グループ社長で国際的政治評論家のIan Bremmer氏はForeign Affairs、2021年11~12月号への投稿論文、`The Technopolar Moment―How Digital Powers Will Reshape the Global Order’ は、要はBig Tech(巨大テック企業)(注)が主導する新たなグローバル秩序、新たな国際秩序づくりの可能性を問うものでした。その発想のきっかけとなったと云うのが、先のトランプ前大統領支持派が起こした米議会襲撃で、テック企業が取った行動が、新たなミッションを感じさせ、以ってグローバル新秩序形成に向いだす可能性を示唆する処と云うのです。いささかの興味を覚える処、その結語に「Ethereum」(P.8)がreferされていますが、更なる勉強が必要と感じさせられる処です
    
   (注)Big Tech (巨大テック企業):世界で支配的影響力を持つ超国家的IT企業群
の通称。具体的には, Alphabet (Google), Meta (Facebook), Amazon, Microsoft ,そして Apple の5社で、GAFAM /Big Fiveとも呼ぶ。

という事で、上述二つの著作は、いずれもdigital transformationが演出する変化トレンドを浮き彫りするものですが、前者はdigital技術も以って当該産業の分散化と云う、新たな構造変化を伝える一方、後者はdigital 技術の高度化を背景とした米テック企業が映し出す新たなグローバル秩序再編の可能性を問うものです。 
言いかえれば、前者が描くのが、目のあたりとするミクロベースの産業の変化、一方、後者は、そうしたミクロの変化に対して上部構造として巨大テック企業が主導するグローバル・システムの変化をフォローする点で、これら一元的な変化をイメージする処でした。そこで、2022年、年初論考、第1章では、当該文献中、後者論文にフォーカスし、テック企業とglobal order形成への可能性について考察したいと思います。

・米マッキンゼー報告
加えて、そうした問題意識を刺激するreportが、先11月に、米McKinsey Global Institute
(MGI) から発表されています。タイトルは「The rise and rise of the global balance sheet (膨
張する世界のバランスシート)」です。それは世界の主要国、10か国を取り上げ、企業でい
う財務分析ともいえる手法をとりながら、資産と負債を集計し各国の富がどれくらい生産的に活用されているかを調べたものです。その結果は2020年時点で、正味資産の3分の2が家計、企業、政府が不動産(土地を含む)の形で蓄えられていることが判明したとするものです。 ではどうしてそんな事態になったのか。この現象は今後、どんな意味を持つものなのか、そこで第2章宛て、当該Reportを取り上げることとし、上述論文とも併せて、今後の世界経済の在り方を問う、その視点について考察したいと思います。

尚、最後に、11月末公表された2020年国勢調査結果は、日本の人口減時代入りを鮮明とする処、この結果は、日本経済の今後について、従来の対内、対外への発想、取り組みではやっていけなくなることを示唆する処です。そこで、先の岸田首相の所信表明演説を意識しながら、日本国の行方を考察し、本稿の締めとしたいと思います。


第1章 米テック企業と、Global Order, 新たなかたち

1.変容する米 テック企業

(1)2021年1月6日の米議会侵入事件
この400年と云うもの、Global affairs、世界が対峙する諸問題に向き合う時、その問題解決にあたっては政府がその主役を果たしてきたものですが、今それが変わりだした、多くのテック企業が、地政学的影響力を持つようになってきた、とBremmer氏は強調するのです。

周知の通り、2021年1月6日、ワシントンでは、トランプ前大統領支持者による米議事堂侵入事件が発生、責任者の処罰をと声を上げた中には最も有力な国家機関もあったものの、関心を集めたのは、一般の人たちの思いとは違って、その直後のテック企業が取った行動にあったと云うのです。 つまり、Facebook やTwitter が、トランプ氏のアカウントを一時凍結したこと、またApple ,Amazon, そしてGoogleは、トランプ支持者が利用していたWeb上での金融等、各種サービスを停止し、当該行動に向き合ったことにあって、しかもこれらテック企業の動きの速さは、米国の政府機関の動きとは比べようもない速さにあったことに向けられたと云うのでした。

1月6日の米議会襲撃に対してAmazon, Apple, Facebook, Google そして Twitterが取ったこうした行動は、単なる大企業という事ではなく社会の問題をコントロールし、経済も安全保障など国家レベルの問題をもコントロールする、その証左となったというのです。
同様なことは中国系テック企業、Alibaba, ByteDance,そしてTencentについても云える処、要は、国家とは関係ないテック企業が地政学的影響力を増す処となってきたとするのです。

尚、欧州でも同様な動きはあるものの影響力と云う点では、米国や中国のcounter partnerとはなり得ず、米中間での技術競争の分析でもstatist paradigm、国家と云う枠組みを出ることもなく、軍隊でいえば歩兵の位置づけで、テック企業は単なる政府の手足になるようなことではないと云うのです。そしてこれらテック企業は、グローバルな国際環境を整備し、その下で政府が動く、と云った状況が生れつつあると指摘する処です。

つまり彼ら、米テック企業は、いまや次代の産業革命をも誘導する技術やサービス機能に絶大な影響力を持つようになってきており、国家ベースのプロジェクトや軍事力を決定する手法を身に付け、彼らの仕事は、将来的経済社会の ‘かたち創り’ に向かい、社会的契約の書き換えをも行う力をも持つようになってきたと云うのです。 そして、こうしたテック企業は、いまや国家に匹敵する存在と化してきており、digital space、デジタル空間と云う領域にあっては、まさにa form of sovereignty、 独立国家における主権者然と行動し、更には、持てるパワーの行使については自制を図りながらも地政学的競争に対峙し、外国との諸関係を維持し、時に地政学的要素にも対処する処と云うのです。かくして、1月6日の議会襲撃事件こそは、テック企業が国家を超え、地政学的影響力を身に付け、行動し始めるきっかけとなった事件だと云うのですが、今、巨大テック企業について国家同様な存在と思われだしていると云うのです。

(2)地政学リスクに与するテック企業
と云うのも、もはや国家を超えた広がりにおいて、いうなればデジタル空間ながらまさに主権国家的に行動を展開しており、地政学的競争要因をも持ち込み、既に外交関係を維持し、そのためにshare holdersとの協調を維持しているというのです。更に彼らには、政治学者とは違って、地政学的行動を促す幅広い思考様式にあって、それこそは globalism, nationalism,そしてtechno-utopianism(注)の三つのカテゴリーを以って巨大テック企業はglobal affairsと対峙するようになっていると云うのです。

(注)Techno-utopia:目指すはあらゆるものがインターネットと繋がる社会創造。尚、英語版Wikipediaによると;Technological utopianism is any ideology
based on the premise that advances in science and technology could and should
bring about a utopia, or at least help to fulfill one or another utopian ideal.

そして、これら三つのカテゴリーが示唆することは、Internetが細分化される中、テック企業は国家の目標や国家の利害関係に貢献していく事とするのか、あるいはBig Tech が政府のコントロールから完全に脱しデジタル空間での支配権を取り込み、国家の枠組みを超え、自由に、真のglobal forcesに転じていくのか、或いは国家支配の時代が終焉に至り、そこでは国家が果たしてきた役割についてはtechno elite他がそれを補っていく世界へと進むこととするのか、選択的に前進していく事になろうと云うのです。

尚、今日のテック企業には地政学的影響を回避できる要素を備えているという。一つは、テック企業は実際の現場で動くことはなく、デジタルと云う空間を通じて、政府にはできない地政学的広がりをこれまでも進めてきたという事。 もう一つは、テック企業は今日の急速に進むdigitizing economy、つまり製品の複合的取り扱い、サービスの複合化、そして情報流を活かした経済活動を続けているという事、にあるとするのです。 具体的には4つの企業、Alibaba, Amazon, Google and Microsoftについていえば、彼らはクラウドをサービス基盤としで世界の需要に応えている。そして、伝統的な産業の将来は、5G Networks, AI やIoT(Internet -of-Things)を活用して新しい機会を追求していく事になるとするのです。とは云え、Internet companies や financial service providerは 既にクラウドベースのインフラに依存して動いているのが現実です。

2.デジタル世界の進化

(1)テック企業の進化の方向
現在、digital space, デジタル空間 を巡る規制について、テック企業と政府間で、いろいろ交渉が進んでいると言われていますが、米中の巨大テック企業についていえば、将来的には、以下3つのいずれかの地政学的環境の下で、競っていく事になると云うのです。

その一つは、国家という枠組みの下、大企業は経済の勝者ながら、当該国に支えられる形で進化する環境にあって、政府は、安全保障を担保し、規制問題、公共財について行政的に統治することし、因みにCOVID-19 pandemicや長期的脅威ともされるclimate change 等、systemic shocks に応えていくという姿。二つ目は、デジタル空間においてはとにかく政府の管理から脱し、グローバル化を進めるというもので、国家によるコントロールから離脱し、独自に活動する姿、そして三つ目は、国家と云う概念はもはや消えtechno-utopia、テクノ・ユートピア へと進化する、と云う三つの姿を想定するのです。が、三つ目のユートピアについては、IT音痴の筆者には依然H.G.オーウエルの世界と思うばかりです。

(2)デジタル新世界
さてInternetの進化は、以前までは基本的にはグローバル化を推進し、1990年代の経済学、政治学の変化を促すものとされていました。が、デジタル時代こそは情報の自由な流れを担保するものと多くは期待し、同時に、いわゆる ‘歴史の終わり’ から逃れ難い権威主義者の抵抗に向き合い、挑戦してきたが、その状況はいまや様相を異にする処だと云うのです。

つまり、デジタル・パワーが今では、ごく一部の大テク企業に集中する中、米中相互の競合干渉が進み、更にEUを中核とした欧州のブロックも加わって、デジタル世界は分断の様相を呈する処、世界最大のテク企業は、長期化する米中競合問題で、いかにグッド・ポジションを取るか、今、評定する処と云うのです。もとより米国にとって重要なことは、地政学的問題で、中国のテック企業(techno-authoritarian rival)に取って代わられることだけは避けたいとする一方、中国のtop priorityは、経済的にも技術的にも、自由民主主義諸国の協調体制が拡大する前に、自立することにあるとするのです。

ただ、米Big Tech企業は、政府間での安全保障問題が複雑化することにならないように、自分たちの問題に絞り、慎重に行動する処ですが、米中競合関係の高まりは、両国関係の溝を深めるばかりで、その点では、これら企業には先を見越した果敢な取り組みが求められると、云うのです。しかし、米中間の競合関係が進行する中では、その溝は深まる一方、今や彼らは、それへの対抗として、自身の影響力を戦略的に行使する処だと云うのです。

そして米国のglobalistsは、アジアの巨大企業や欧州企業は中国市場で、その存在感を高め、そして米国が被る被害は高々、米企業が世界最大とされる中国市場からの退出を余儀なくされる事だと云うのですが、政府がコストを先取りして、国の安全保障上のボトム・ラインを、それまでの安全保障を上回るレベルに設定するようになれば、パンデミックや気候変動と云った超国家的緊急問題にかかる米中協調が阻害されることになると、議論を呼ぶ処、その一方で、中国のglobalistsは、中国共産党の高成長持続力の如何は中国国内での正当性にかかる処、要はCCP(Chinese Communist Party)、中国共産党政府が高成長を維持し続け、中国をグローバル・イノベーションの中核ハブにしうるかにかかる処と云うのです。

・Brave new digital world とはEthereum
更に次に来るテクノ・ユートピアとは、あらゆるものがインターネットと繋がる姿で、通常、各国のチャンピオン企業とグローバル企業が競って、政府の政策を創り上げていくのに対して、テクノ・ユートピアンは、伝統的企業と分散型プロジェクトを活用して、デジタル空間で新たなフロンテイアを開発する、あるいは、現実を超越するような新たなアプローチを開発していく、まさにEthereum(イーサリアム)に象徴される世界をイメージするのです。

    (注)Ethereum(イーサリアム):「分散型アプリケーション(DApps)」や「スマー
ト・コントラクト」を構築するためのプラットフォームの名称、及び関連するオー
プンソース・ソフトウエアー・プロジェクトの総称。 当該構想は2013年、カナ
ダのウオータールー大在学中の学生、ヴィタリック・ブテリン氏により示されたも
の。尚platform内で使用される仮想通貨をイーヨ(ETH)と云う。

但し、こうした変化を目指すことは、国民国家の終焉とか、政府の終わりとか、国境の消滅と云った姿を、将来的に求めていく事でもなければ、こうした事態を予想する理由もないが、ただ、巨大テック企業については、チェスボードの上で動くpawns、ポーンとなって語り続けるのではなく、彼らは地政学的存在へと変質していく事を理解していく事とするのです。 そして米中の競合関係がグローバル問題の中心にあって、ワシントンと北京の行動は如何にあるべきか見極めていく事になるであろうこと、そして地政学的パワーのあり姿への理解をよりupdateしていく事で、brave new digital worldを構築いていけるとするのですが、さて筆者には、上述Ethereumと併せ、いささか夢心地となる処です。


第2章 米McKinsey Global Institute(MGI) 報告書
     ―「The rise and rise of the global balance sheet」が問うこと 

1. MGI Report概要
     
当該レポートは、企業のB/Sの考え方を借り、世界のGDPの60%を占める10カ国(豪州、カナダ、中国、仏、独、日本、メキシコ、スウエーデン、英国、米国)の資産と負債を集計し、副題とした「How productively are we using our wealth?」に照らし、各国の富がどれくらい生産的に活用されているかを調査し、その結果を教訓として、今後の合理的な経済運営に向けた提言を目指す云うものでした。 そして,家計、政府、銀行、非金融企業が保有する実物資産と金融資産、負債を計算した結果、2020年の時点で正味資産の2/3が家計、企業、政府が保有する不動産(含む土地)の形で蓄えられている事が判明したと云うのです。

・国富で世界首位は中国
尚、2020年の世界全体の純資産は510兆ドルで2000年の約3倍に膨らんでいて、国別では中国は120兆ドルと同17倍に拡大、そしてシェアは中国が首位の23%で、米国の17%,
日本の7.7%と続く処です。中国の国富は13年に初めて米国を抜き、20年には米国の1.3倍に達しています。中国の純資産が大きく増えたのは、不動産市場の過熱が背景にあると云うものです。

今の時代、上述、デジタルばかりが注目される処ですが、かくして資産は依然として実物資産が圧倒的価値を持つという事を意味する処、Financial Times のRana Foroohar氏は11月15日付 同紙 で「The oldest asset still dominates modern wealth」、つまりデジタルばかりが注目される時代にあって、資産は依然として実物資産が圧倒的価値をもつ処と評する処です。そして当該報告書は8名からなる執筆陣により書かれていますが、彼らは低金利があらゆる種類の資産の価格上昇、中でも不動産価格の上昇に決定的な役割を果たしたとみているようだともコメントする処です。加えて土地の供給に限りがあることや市街地規制、住宅市場の過度な規制も価格を押し上げる要因となっているとし、これらが重なって20年の10カ国の住宅価格は平均して00年の3倍に達しているというものです。

さらに、悩ましい問題として浮き彫りされるのが、現在の正味資産価値のGDP比が長期平均を50% 近く上回っている事ですが、世界的に見ればこれまで資産価値とGDPは、一部の国に乖離はあるものの、同調的に推移してきています。ところが今や富と成長は完全に切り離された状況にあるというものです。

この事は今日のポピュリスト政治家には市民の怒りをあおる好材料となっている処です。特に現在20代後半~30代前半のミレニアム世代にとって、手ごろな価格の住宅の供給は切実な願いとされており、彼らはこれまでの世代のように人生の早い段階で家を持つことができないため、家族を持てずにいます。勿論、この状況は消費にも逆風です。つまり家財とされるものへの需要が停滞し、しかし多くの人が家を買えないことで家賃の高騰に拍車をかけているとされる処です。このことは、我々が1970年代経験したようなスタッグフレーションに突入するのではないかという最近の懸念を裏付ける処ともされるのです。

こうした事態が起こっている事情も、前述の富と成長が完全に切り離された大きな原因は膨大な資金が不動産に流れたことにあるように、問題を別の側面から見れば経済的にもっと生産的な部門に十分な資金が投じられていないという事を意味するわけで、つまる処、富の不動産への偏在をどのように是正するかが今後の大きな課題となる処です。

2. 富の不動産偏在は世界的問題

ではどうしてこんな事態になったのか。再び上掲Financial TimesのForoohar氏の言説を借りながら考察します。
まず、2000年に150兆ドルだった正味資産(net worth)は2020年に500兆ドルに達していますが、その増加分の約4分の3は資産価格の上昇によるもので、balance sheets上、資産の増大に占める貯蓄と投資の比率は28%に過ぎませ。この事が意味することは、インフラ、設備機械さらにintangibles(無形資産)などへの投資こそが、実際には生産性の向上やイノベーションに繋がることを考えると、過少投資であり深刻な問題と云うものです。因みに、実物資産合計に占める非不動産の比率(non-real estate assets made up a lower share of total real assets)は、中国と日本を除く8カ国では20年前より下がっている事。しかもデジタル取引や情報のフローがこの期間、飛躍的に増大しているにもかかわらず、正味資産に占める無形資産の比率は4%に過ぎない点が構造的には問題と映る処です。

この点について「無形資産を保有しているのはほとんど企業で、その価値は社会にとっては長く続くものかもしれないが、企業にとっては陳腐化と競争により急速に下落すると考えられているから」ではと、するのです。つまり、ソフトウエアーなどの無形資産は次々に新しいものを出し続けなければならないからでしょうが、要は、21世紀の富が依然として人類最古の資産クラスである不動産と云う形をとっていることに驚きを禁じ得ない処です。

ではこの事実から学ぶべき教訓は何かですが、Foroohar氏は次の3点を挙げる処です。
第1には、低金利が企業の設備投資に貢献していないことが益々明らかになったという事。
第2には、ポストコロナを見据えた大規模な政府支出計画は、資金をより生産的な部門へと導く可能性であって、これは経済を元気づける見通しとなること。そしてそうなれば最終的に富と成長は再び同調して動くようになる事。第3には、手ごろな価格の住宅の供給は現時点で最も喫緊の経済的課題と。ポストコロナ時代には技術の進歩により移動方法や働き方の柔軟性が高まり、住宅市場の圧力はいくらか緩むかもしれないと。尚、不動産についても高騰した資産価値に対してだけでなく、その所有者の収入も勘案して年金生活者が割を食う事のない形で課税する方法を検討すべきで、住宅問題を解決しない限り、世界のバランスシートの均衡は回復できないと、する処です。

さて、日本経済もそうした企業経済の上にあって、今後の行方は如何、です。さて岸田首相は新しい資本主義、「分配と成長の好循環」の姿を描く処ですが、具体的にはどのような運営となるのか、次項「おわりに」では、岸田首相の施政方針演説(12月6日)をも踏まえ、日本が抱える課題について考察しておきたいと思います。


         おわりに 2022年、日本の行方を問う重大テーマ

1. 人口減国家、日本の行方

11月30日、総務省が公表した2020年日本の国政調査確定数値は、そうした思いを駆り立てる処です。2020年の総人口は1億2614万6099人。この数字は5年前の調査から94万8646人の減少で、総人口の減少は2調査連続となるものです。このうち経済活動の主な担い手となる生産年齢人口(15~64歳)は7508万7865人、5年前の前回調査からは226万6232人の減少となるもので、ピークだった1995年の8716万4721人に比べ13.9%の減少で、この生産年齢人口の減少は日本経済の足かせとなる事を示唆する処です。

因みに、2010年代は景気回復などで女性や高齢者への就労は増え、人口減を補ってきたのですが、その間の企業内の合理化等、雇用制度の変更が進み、女性や高齢者の就労拡大にも限界も生まれ、生産性を高めなければいずれ生産年齢人口の減少の影響を補えなくなる事が指摘される処です。従って、人口減時代の成長は、一人ひとりの能力を高め、規制緩和にも取り組み、生産性をどう押し上げるかにかかるという事になる処です。

つまり、人口減が示唆することは、日本経済のこれからのカギは生産性にありとする処、それは人口知能(AI)など先端技術の活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて生産性を上げなければ根本的な成長に繋がらないという事です。
12月6日、岸田首相は施政方針演説で「デジタル田園都市国家構想実現会議」や「デジタル臨時行政調査会」に触れながら、社会全体のデジタル化を推進し、地方の人口減少や高齢化などの解決につなげると唱えていますが問題はその実行です。

因みに、内閣府試算によると、働く人や労働時間が増えた事による2010年代の平均的な経済成長率(潜在成長率、年平均0.7%)の押上効果はゼロポイントに留まり、1980年代の労働による押上は年平均で0.7ポイント、と対比される処です。となるとこの差をいかにカバーするかですが、人口知能(AI)など先端技術の活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて生産性を上げなければ根本的な成長に繋がらないという事です。

・人口減を日本の先進的構造改革へのトリガーに
ただ、日本では人口減に対応する無人技術にも制度の壁が邪魔をする処です。例えば、
人手不足に悩むコンビニ業界はデジタル機器や遠隔で確認する技術の進歩を踏まえ、無人店舗で酒やたばこの販売を円滑に行えるよう規制緩和を求める処、小規模な工事でも現場に管理者を置かねばならないと云った規制も見直しを促す声のある処です。更に生産性の高い業種に人材をシフトさせる政策も不可欠です。その為には終身雇用を前提とした雇用制度の見直しも必要となる処でしょう。 つまり今回の調査結果、少子高齢化が一層鮮明となり、更に中長期的に労働力不足も指摘される処、これを機会として産業の新陳代謝や労働市場の流動化を促進し、技術革新や生産性の向上につなげる政策に徹すべきで、「規制改革」こそは、その一丁目一番地です。この点、今一度、成長戦略の練り直しを期待する処です。

2.The Economist誌 アドバイスを抱いて

先週届いたThe Economist (December 11)では、‘The new era‘ と題し、日本特集を掲載する処でした。その構成は,① Foreign and security policy: Into the world, ② Climate policy: A chequered record,(市松模様) ③ Tokyo :The big city, ④ Demography : The old country , ➄ The economy :Stronger than many realize, ⑥ Looking ahead:The future , の6節からなるもので、「令和」という時代の日本の現状と課題を分析するのでした。そして、これまでも指摘されてきたような、変わらない、或いは、変われないと云われてきた、その日本の現状を分析し、もはやNumber One ではなくなった日本だが、still has plenty for the world to learn fromと、今日の日本を再評価するのでした。
 
しかし、同じ号の巻頭言は、「What would America fight for – If the United States pulls back, the world will become dangerous」 と問う処、要は米国に頼れない世界に備えよと、檄を飛ばすのです。実はこの点こそが、新年2022年 の重大なテーマと気の引き締まる処です。

さて末尾ながら、新年2022年も読者諸氏にとって、佳き年であらん事、祈念する次第です。  以上 (2021/12/26)
posted by 林川眞善 at 09:29| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする