2020年10月25日

2020年11月号  分断の世界、いま日本の出番?そして‘More Internationalism‘ - 林川眞善

目  次

はじめに ‘コロナ禍の国連、機能せず ’   

・「自由で開かれたインド太平洋」構想
・菅首相、初の外遊
・Internationalismの勧め
      
第1章 QUAD, 日米豪印、新たな国際協調枠組み
 
 (1)中国vs 中国の周辺国、と云う対立構図
 (2) QUAD会議(4か国外相会議)とポンペオ米国務長官
  ①「インド太平洋」構想
   ・クアッド4か国の思惑
  ② ポンペオ米国務長官 訪日の真相
         
第2章  Contagionsの世界で、今求められるのは
    国際協調主義 ― More Internationalism, Not Less

 (1)今、Contagions (伝染病症状)の世界
 (2) The Roosevelt revolution(ルーズベルト大統領の革命)
   ・Clubs and shopping malls

おわりに  脱炭素社会を目指す菅政権

         ----------------------------------------------------------

    
はじめに ‘コロナ禍の国連、機能せず ’

このキャッチフレーズは、9月26日付け日経紙が、今年創設75年を迎えた国連総会での米中等各首脳のスピーチが映す国連の‘今の姿’を評するものでした。

1945年10月24日、第2次大戦を防げなかった国際連盟の様々の反省を踏まえ、51か国の参加を得て創設された国連は今年で75周年を迎えました。本来ならいろいろなお祝いの行事があって賑わいを呈する処でしょうが、今年は新型コロナ感染拡大で、そういったイベントもなく、各首脳はVTRでの参加と云う事で、殊更寂しい姿を呈するばかりでした。

振り返るに世界は10年に一度、100年に一度とも云われるような危機に際しては、主要国による国際的な協調体制が組まれてきました。1970年代の石油危機の後にはG7の枠組みがつくられ、リーマン・ショック後にはG20の枠組みが強化されてきました。然し、新型コロナ・パンデミックは世界経済に戦後最大の衝撃を与えていますが、国際的な協調体制が組まれる機運は一向に高まりません。それどころか、パンデミックを機に、世界は分断傾向を強めています。

目下は、投票日(11/3)の迫った米大統領選に向けたトランプ氏のプロパガンダ、対中批判
の高まりがクローズ・アップされ、これが分断を刺激する処と、大方の理解する処ですが、これが近時、中国とその周辺諸国との摩擦環境を見ていくとき、どうも米中対立だけでは語れないような状況が生まれてきているものと思料する処です。

これまで「米中対立」こそは地政学上の最大の問題とさてきていますが、米戦略国際問題研究所上級顧問のエドワード・ルトワック氏は、こうした捉え方は、もはや過去の話だと、断じる処です。(文春、10月号)そして、現在進行しているのは「(米国主導の)海洋同盟と中国との闘いであり、米国は、中国との対立最前線に立っているわけではなく、一歩引いた場所にいる」とも云うのです。
確かに経済面、貿易面では「米中関係」は厳しい問題を託つ処です。然し「戦略」の世界にあるのは「米中対立」ではなく「海洋同盟と中国との対立」であり、それは最近の国際ニュースを見れば、すぐに理解できると云うのですが、極めて興味深い視点です。

・「自由で開かれたインド太平洋」構想
そうした中、10月5/6日、日米豪印4か国の外相会議が東京で開かれています。会議の目的は「自由で開かれたインド太平洋」構想(注:本文P.5参照)推進のための4か国会議です。もともと、2016年、横浜で開かれたTICAD(Tokyo International Conference on Africa Development::アフリカ開発会議)で日本が提案した構想で、航行の自由や法の支配を礎にアジア地域の平和と繁栄をめざすとするものですが、まさに上述 新環境への対抗としての行動とも映る処です。

そこで、当該構想の可能性を改めて考察しておきたいと思うのですが、この際、強い関心を呼んだのは、米大統領戦の緊迫した状況、トランプ氏自身を巡っての緊迫した状況にあって、ポンペオ国務長官が態々アメリカの地を離れる事の意味合いでした。 周知のように終盤に入った米大統領戦の緊迫な状況に関わらず、ポンペオ国務長官が態々アメリカの地を離れ、日本に出向き、4か国会議に出席した事の意味合いが問われる処ですが、その趣旨からは、自国主義にあった米外交政策の変化と云う処でしょうか。

そして、米大統領選がどのように決着を見るかで、国際環境は大きく影響を受ける処ですが、この構想の大きなポイントは、参加4か国のいずれもが中国を極めて意識していると云う事、そしてこれまでの経緯から、日本が主導的な役割を担う事になると云う処です。勿論、色々問題ある処ですが、当該構想の可能性と推移の如何は、混迷を深める世界の生業にあって同時に、日本の針路を規定する処と思料するのです。

・菅首相、初の外遊
10月19日、菅首相は就任後、初の外遊先としてベトナム、そしてインドネシアを表敬訪問しましたが、主たる目的は‘インド太平洋’構想への協力要請でした。同時に、「日本は供給網の強靭化を進め、危機に強い経済を構築するために東南アジア諸国連合(ASEAN)と協力を深める」(日経、10/20)と強調する処でした。(注)

    (注)20日、インドネシア、ジョコ大統領との会談席上、同大統領よりは「世界の大国同士の競争により多国間協力が脅かされている」と協力を呼びかけられた由。
     尚、この際はコロナ禍での経済打撃を踏まえ、500億円の円借款の供与を表明。

今後の菅外交は米中対立下で、各国とどのように首脳会談を組み立てるかが、重要になると云うものですが、今回の両国への訪問は、日本外交の方向性、ASEAN重視を国内外にはっきりと示す効果があったと云うものです。

処で、21世紀に入って、資本主義が独り勝ちするなか、グローバルと云う言葉の存在感が強まり、それとは対称的にインターナショナル(国際的な)という言葉はすっかり耳にしなくなっています。然し、自国主義を謳うトランプ米政権の台頭、英国のBrexitなどに刺激され自国主義が高まるなか、国家間の分断が進み、更にはコロナ禍がその傾向を促進する処、いつしかグローバリゼーションの終焉すら云々されるようになってきています。

・ Internationalismの勧め
そうした状況にあって、米プリンストン大教授(国際政治)のJ. Ikenberry氏は、かつて1930年代の不況克服にあたって時の大統領、F.D.ルーズベルトが、当時の政治的、経済的混迷の事態を`contagions’(伝染病症状)と称して対峙した事例に倣い、現下のコロナ禍に覆われた現状を再びcontagionsと再定義すると共に、持続的経済の成長のため、これまでのglobalizationとは異なるliberal internationalismを以って、国家間の連携を高め、新しい世界秩序の下、持続的な成長を目指せと云うのです。久しぶりに目にするinternationalism、筆者が口にする日本が目指すべきは独立した外交とはまさにその文脈を同じくする処です。

そこで、本稿では、(1)米中対立を巡る変化の実状を、国際関係における地政学的変化として分析し、その変化の文脈において、日本はどのような対応を以って持続的成長を目指すことになるのか、広い視点から考察し、併せて、(2)アイケンベリー氏が提唱する次なる思考様式’ More Internationalism ‘について考察する事としたいと思います。


         第1章 QUAD, 日米豪印、新たな国際協調枠組み
 
米大統領選まであと僅かとなった10月2日、トランプ氏は新型コロナウイルス感染発症を公表、直ちにウオルター・リード米軍医療センターに入院したものの、コロナの感染克服を有権者に誇示すべくその3日後には退院し、大統領選挙戦に復帰。10日にはホワイトハウスで対面での選挙イベントを開催、12日には南部フロリダ州で選挙演説を開催と、バイデン氏にあけられている‘水’を取り戻さんと、がむしゃらな選挙活動を再開する処です。

そんな異常な事態にあるトランプ氏を抱え、米国を離れることなど考えられないとされる中、前述4か国外相会議への出席を目的としてポンペオ国務長官が来日。それは「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた4か国の連携強化を再確認するのが狙いとされるものでした。が、それは同時に、より直近の目的は、トランプ大統領のコロナ感染で生じたワシントンの「権力の空白時期」を利用しようと、虎視眈々と狙っている敵対・競争勢力に、米国と同盟国の団結を誇示する事にあったものと見られる処です。

そのポンペオ氏の行動は前出エドワード・ルトワック氏の指摘に重なる処です。ではどういった動きか起きているのか、以下でその状況をチェックしておくこととします。

(1)中国 vs 中国の周辺国、という対立構図
まず中国との戦いの最前線をリードしているのは、豪州だと云う事です。事のきっかけは、新型 コロナ・ウイルスの発生源と、中国の初期対応に関し、国際的な独立調査委員会の設立を豪州が提案したことに始まるもので、これに中国が強く反発、豪州産大麦に80.5%もの関税を上乗せし、留学や旅行も含めて豪州行きを避けるよう国民に呼びかけたと云うものです。 中国は、豪州にとり輸出の3分の1を占める最大の貿易相手国。そこで北京政府は「経済的にどれほど依存しているのかわからないのか」とばかりに圧力を懸けてきたと云うのですが、キャンベラのエリートは屈することなく、WHOでは中国はずしを狙らったり、インドを国連の安保理の常任理事国にするためのロビー活動を始めるなどで、豪州は「反中包囲網」をリードし始めているとされる処です。つまり、こうした豪州と中国との関係の冷え込みが日豪接近の背景にあると云うものです。

又、4月上旬には中国海警局の船舶が、南シナ海の西沙諸島付近でベトナム漁船に体当たりをして沈没させる事件が起きていますし、南沙諸島でも中国とフィリピンとの対立が本格化し始めています。更に4月中旬、北京政府は突然、この二つの諸島を新たな行政区に編入し、西沙諸島に「南海省三沙市」の「西沙区」を、南沙諸島に「南沙区」を設置すると一方的に発表する処、これに対してベトナムは一歩も引かず、これを支援しているのが米国とインドで、日本も、ベトナムに艦を寄港させている処です。

つまり、事態は、もはや「中国vs 米国」ではなく、「中国vs 中国の周辺国」と云う構図になってきていると云う事ですが、そこに豪州、インド、日本と云った「海洋同盟」の国々も加わり、これを支えているのが米国であって、後方支援にあるとされると云うものです。このところ緊張の高まる中国とインドの国境紛争も同様の形勢にあると指摘される処です。

(2)QUAD 会議(4か国外相会議)とポンペオ米国務長官

さて、ポンペオ国務長官が、緊急事態にある米国を置いてまで来日し、インド太平洋会議に出席したことの真の理由については次項②に譲るとして、取り急ぎ「インド太平洋」構想とはどういったものか、改めてその概要と可能性について、検証しておきたいと思います。

①「インド太平洋」構想
10月6日、東京で日米豪印、4か国外相会議が開かれました。勿論、その際のテーマは、「自由で開かれたインド太平洋」構想(注)。そこでは中国を意識した経済や安保について提携協力強化に話題が集中したと、報じられていますが、今、異常事態にある米国大統領戦の最中、ポペイオ米国務長官の来日は何を意味するか、はまさにこの点の確認にあったと云うものです。

   (注)インド太平洋構想:2016年、横浜で開催のTICAD(アフリカ開発会議)で日本が
打ち出した構想で、地域の平和と安定、繁栄に貢献し、経済と安全保障の両面で連携を
目指すとされている。経済面では東南アジアやアフリカでの道路、橋梁など都市インフ
ラの整備の推進。尚、中国が広域経済圏構想「一帯一路」を掲げ、同地域でインフラ投
資を拡大するのに対抗する。一方、安保分野では中国の海洋進出を念頭に、アジアと中
東を結ぶシーレーンを守る狙いがある。

そもそもは、当該構想は上述(注)のとおり、日本が2016年のTICADで打ち出したものです。既に日米同盟関係にインド太平洋を囲むオーストラリアとインドの参加を得て、4か国が中核となってインド太平洋での日米豪印の安全保障協力の体制を構築せんとするアイデイアで、当該会議の呼称は「クアッド(4か国)」(Quad)とされています。尚、昨年9月にはNYで初の4者、クアッド外相会議が持たれていますが、具体的テーマをもって集まった今回こそが第1回会議とされる処です。

尚、4か国の関係ですが、日米はともかく日本と他2か国との関係を見るに、①インドとの間では9月9日には自衛隊とインド軍の役務の相互協定が結ばれ、②日豪間では同様協定は2017年9月に結ばれている処です。尚、オーストラリアとインドの間でもこの6月に同様締結されていて、日豪印は言うなればツーカーにあるとされる処です。
因みに、4か国を地図上でみると、横軸として、東(太平洋)に米国、西(インド洋)にインド、縦軸でみると、北に日本、南に豪州がありで、価値観を共有しうる東西南北4か国の行動様式が注目される処です。

・クアッド4か国の思惑
尤も、クアッド4か国の思惑が全て一致しているわけではなさそうです。インドは伝統的に非同盟の道にあり、きっちりした同盟とするには抵抗がありそうです。インドは新興国であり有名無実化したとはいえブラジル、ロシア、中国、南アと共にBRICSサミットの参加国です。一方、中国との対抗を強く意識する米国は、クアッドを核にインド太平洋版のNATOの形成を狙うものとも云われています。

更に対中戦略の共通点で、日豪共に頭痛の種とされるのが年内合意を目指しているRCEP(アセアン諸国連合10か国に日本、中国、韓国、豪州、NZ、インドの6か国が加わった地域連携)ですが、インドがそっぽを向いてしまったことです。世界のGDPの3割を占めるRCEPで中国の突出を防ぐために、日豪としてはインドをバランス役にしたかった処、貿易赤字が膨らむ中、関税引き下げを嫌うインドは、RCEPから離れようとしているのです。

ですが、クアッド4か国は、海洋進出を加速させる中国を意識しており、日本はクワッド仲間とスクラムを組み中国と対峙する事で、豪印という自由や民主主義を共有する準同盟国を得たことで、足元はずっと安定する事になる筈で、それは日本の同盟国が米国だけとなると、外交で踏み絵を踏まされかねない事への対抗措置ともいえる処です。4か国には、夫々2国間協力の枠組みはありますが、同構想は地域の安全保障協力を「線」から「面」に広げられることになると云うものです。

となれば、日本としては、本構想に火をつけてきた立場から、又TPPを誘導してきた経験をも踏まえ、メイン・キャスターの立場となって当該構想の実現に向かう事となるでしょうし、それは新たな国際環境の創造に繋がる処ですが、同時にその変化への対応として、日本経済の合理的あり方が求められることになる処です。つまりコロナ禍を抱え混迷する世界経済にあって、日本はQUADを通じて、日本そして全アジアの広がりにおいて、持続的発展に主導的な役割を果たしていく事を使命とする事になる、それこそは日本の出番と思料する処です。

② ポンペオ米国務長官 訪日の真相
さて、10月5日、ポンペオ長官は、上述会議への出席を目的に来日しました。大統領選投票日まで28日。この投票1か月を切った時点で、有事でもない限り、通常、国務長官は動き回らないものです。然しこの段階で彼が動いたことは、、世論調査が示すトランプ氏劣勢の挽回にある処、そのための切り札の一つが対中強硬策であり、その目に見える具体策が,インド太平洋構想と位置づける処です。
つまり、東京での4か国外相会議は、中国の海洋利権拡大を狙う軍事的・政治的脅威を阻止することとし、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた4か国の連携強化を再確認するのが狙いと云う事で、右目で中国、左目で米有権者をにらんだトランプ再選戦略と云うものです。

然し、同時に、ポンペオ長官は、トランプ氏の再選はなく、バイデン氏が大統領になるのはほぼ確実と見ているようで、そこでバイデン政権になっても直ちに修正されたり、放棄されたりしない「レガシー」を残そうと慌しく動きまわっているともされ(注)、更にポンペオ氏は2024年の大統領選出馬を視野に入れているとも評される処です。つまりその為には彼として、トランプ氏の意向通りに動いていても、客観的に見て、共和党にとっても国家的利益から見ても、正しいことをしてきたという業績を残したいはずで、彼の行動はそうした発想にある処とメデイアは興味深く伝える処です。

(注)バイデン氏の対中姿勢:弊月例論考6月号でも紹介したように、バイデン氏は、フ
ォーリン・アフェアーズへの寄稿論文で「中国の脅威に対してはグローバルな脅威と捉え
て同盟国やパートナーと集団行動を結集して対処する」と記す処です。 

さて、11月3日まであと10日、敗北を認めないリスクを抱えた米大統領選は如何なる展開を見せるのか、伝えられる処では、選挙当日の夜には勝負は決することはなく、数日、或いは数週間と結果を待つこともありうるべく、政治の空白が気がかりとなる処です。


   第2章  Contagionsの世界で、今求められるのは
国際協調主義 ― More Internationalism, Not Less

今次のコロナ・ウイルスとの闘いが、マスク、防護器具、人口呼吸器、ワクチン等を巡る戦いともされる点で、多くの国では、自国第一主義を以ってそれらを奪い合う、言うなれば地経学的、即ち経済安全保障的な衝動すら露わとなる処、グローバル経済の核となってきたグローバル・サプライチェーンの国内回帰等が云々され、以ってglobalizationの終焉と総括されることの多い状況です。 確かにコロナ対応では各国は、自国の防衛に向かいだす様相にある処ですが、然しパンデミクスの解決は、ウイルスという事の性質からは国際的協力なくしてはなし得ず、従ってinternationalな連携・協調が不可欠とされる処、米プリンストン大教授のJohn Ikenberry氏はForeign Affairs(July/Augst,2020)への寄稿論文 `The Next Liberal Order ‘ で、改めてmore internationalismをと、主張する処です。今更の感、拭えぬ中、上述 ` QUAD’ も同じ文脈にあると思料される処、意外に新鮮さを感じさせられ、そこでその概要を簡単に紹介する事としたいと思います。
             
(1)今、contagions(伝染病症状)の世界

まず、将来歴史家が ‘自由主義世界の秩序’(the liberal world order)終焉のタイミングを問われたら間違いなく、それは2020年の春だと、云うだろうとしたうえで、今日、世界を席巻しているコロナ・パンデミックが露わとする問題は、将来にも必ず引き継がれ発生することが十分予想される処、国民の健康、貿易、人権や環境等、問題について政府は関係当事国間で協力・協働し合い、対峙する事に無頓着でやり過ごしてきた点で、聊かの信頼を失ってきたと、指摘する処です。

そして今、liberal world order,自由主義世界の秩序は、米国を筆頭として、そうした思考様式を放棄し始めたことで壊れだしているが、それはトランプ米大統領が2016年、「グローバリズムと云う誤った歌声に駆られている限り、このアメリカと云う国を明け渡すことになる」と公言していた事態を映す処、この発言は75年に亘る米国のリーダーシップを過小評価するもののほかなく、一方、米外交政策を担うエスタブリッシュメントはもはや店じまいし、次なるグローバル時代、つまり大国間の軍事力競争の時代に向けた対応を目指す様相にある処、かかる事態を回避していくためには Frank D. Roosevelt(FDR)の治世に学ぶべきと主張するのです。

どういったことか。ルーズベルトは、1930年代の混迷した世界を、ウイルスの伝染する状況になぞらえ `contagions‘(伝染病症状)と称し、かかる事態は単に一国で処理しうる事ではなく、その解決にはglobal infrastructure of institutions and partnershipsの構築が不可欠と結論し、以って対峙したが、要はinternationalismに尽きると云うのです。
つまりinternationalismとは、国境を排除しようと云うものでもなければ、世界をglobalizingしようとするものでもなく、それはそれぞれ国家の安寧秩序を確保していくため、経済成長と相互安全保障を担保していくためのmanagementにほかならないと云うのです。今日云う自由民主主義とはこうした政策の積み重ねの上に成り立っているもので、それだけに米国のリーダーシップをもってすれば、それはなお元の状態に戻すことは可能とするのです。

そこで、まずThe problems of modernity、現代経済の問題点についてfact findingを行った上で、The Roosevelt revolutionとされる30年代、大恐慌を克服したFDRの政策を学習し、その取り組みをupdateし、internationalismをコアーコンセプトとして 、その推進のための国際組織(Clubs)とその 協調・協力者( shopping malls)を以って国際的な協力体制の構築を提唱するのです。そこで、以下ではそのThe Roosevelt revolutionにフォーカスし、彼が提唱するliberal orderについて考察しておきたいたと思います。 

(2)The Roosevelt revolution (ルーズベルト大統領の革命)

伝統的にliberal internationalismは、しばしば、1913年の28代米大統領Woodrow Wilsonにさかのぼるものとされる処、自由主義と云う思考様式に革命をもたらしたのは1933年の第32代大統領、F. Rooseveltだと云うのです。つまり、ルーズベルト大統領は、当時、暴力、略奪、圧制に苦しむ世界を見てきた経験から、現代化への力はリベラルにあるのではなく、science, technology そしてindustryが、経済社会の装備となって進歩を促すものと理解していたと云われる一方、ルーズベルト大統領が目指すliberal democratic worldの核心にあったのは国内基盤の強化であり、有名なNew Dealは国内経済復興の政策だったと云うが、結果として、それは世界に影響を及ぶものだったと云うのです。

元々ルーズベルトはinterdependenceとは新たな弱さを生むことになるとしており,1944年Bretton Woods会議に向けた彼のメッセージでは、制度的欠陥などは話し合いで終わらせるもので、各国経済の健全性などは、それぞれの国の問題で、多国が関与する話ではないとしていたと指摘する処です。ただこの相互依存関係をマネージするためには恒久的な多国間調整機関の導入が必要としており、ルーズベル個人は、世界の新秩序の核心に、International agreements, institutions, and agencies を配する事を意識していたと云われる処です。実際、金融、農業、国民健康等々、多国間行政機関の導入が続き、国際共同の枠組みができてきたというものです。

もう一つのイノベーション(新機軸)は、安全保障概念を再定義したことだと云うのです。。 米国では大恐慌とNew Dealが「社会保障」概念を植え付け、第二次世界大戦時の暴挙と国家の崩壊が「国家安全保障」概念を定着させ、そして今日言う処の「社会保障」は、国としての社会的安全網(social safety net)を築くことを意味する事になったと云うのです。

「国家安全保障」とは対外環境を整備する事で、将来を見据えた計画を進め、自国政策を他国家との整合性をはかりながら同盟を堅持していく事ですが、各国は対内的には社会保障政策、対外的には安全保障対応の二つの目標を以って進むことになるが、ルーズベルトの目指すinternationalismの特徴は、big liberal democracies、自由主義大国の間にあっては、各国の安全保障体制と結び付けられる処にあるとするのです。そして、1919年後に進んだ秩序崩壊は大西洋両側の諸国に、自由資本主義民主主義の防衛のためには共通した防衛政策が必要と、自覚させる処となったと云うのです。

自由主義社会と安全保障とは、政治と云うコインの裏表に当たるものだが、ルーズベルト時代のinternationalistは、米国と同じ思考様式の国々が集まり、その際は米国を「偉大な民主主義の集積場」と見做していたとされる処、それも米ソ冷戦が始まるや、米国は他民主主義国と共に、ソ連をチェックするため、同盟を組み、国際機関や連携体制、など矢継ぎ早、制度設計し、自らがその中核に収まってきたというのです。

・Clubs and shopping malls
ソ連崩壊後の世界では、liberal order は、それまでの2極体制から、まさに真にglobal order へとシフトしたが、その結果としてliberal order の社会はそれまでのClub, 有志クラブと云ったものではなくなり、今日みるliberal international orderは驚くほどに枝葉を広げ、安全保障協力、経済的協力、政治的協力は、今や身勝手な行動を起こし、それぞれの成果について責任を明確にすることもなく、またその価値を共有する努力もないままに今や、liberal international order の姿はまさにshopping mallsの様相を呈しており、こうした環境こそが中国やロシアの行動を許すことになってきたとも指摘するのです。例えばWTOの加盟によって中国は欧米市場へのアプローチが可能となったが、中国側はそれに見合う対応をすることなく、知財権の取り扱いなどはその典型だとし、法の下の支配を強調するのです。

そして、こうした動きを回避するためにも、米国と関係自由民主主義国家とが一貫した連帯が取れるよう体制の再編が必要である事、そしてこの点こそ、次期米国大統領に世界のliberal democraciesの結集を呼び掛けることが求められる処とし、併せて、この際は自由民主主義の強化とグローバルな統治の在り方を示した大西洋憲章の精神に立ち戻る事を示唆する処です。

因みに、現在米国を筆頭としたG7に、豪州、韓国等を加えてG10と拡充し、この新グループのリーダーにより、共通の行動基準を導入し、それを規範とした貿易制度を再編する事だとするのです。また気候変動問題についてグローバルな協調体制を再稼働させるアジェンダとし、次なるウイルス・パンデミックに備えての対抗策を整備していく事も必要となる。そして中国が国際機関に協調していく努力をモニターして行く事も必要と云うのです。(尤もこの提言には、俄かには与し得ませんが)

そもそも民主主義国のクラブとは、large multilateral organizations, 包括的多国籍的機関と共存する事にあって、国連をその頂上として国際関係に絡む問題を有効に処理していく事だが、この際のカギは国際協力を如何に国内事情に貢献していくかにあると云うのです。
そこでLiberal internationalismは単にglobalizationに代わる言葉ではなく、つまり、globalization は国家間の障害をはずし、経済や社会を一元化していく事を目指す処、liberal internationalismとはmanaging interdependence つまり相互依存関係を合理的な姿で維持する事にあると、断じるのです。そして、今日の自由民主主義は破綻状態にはあるが、米国のリーダーシップを戴くことで、未だ取り返すことはできるとも云うのです。 であればこれも今次の米大統領選次第と云うことになるのでしょうが、もはやQUADと共に日本の出番かも、と思うばかりです。

            おわりに 脱炭素社会を目指す菅政権

菅政権が発足したのが9月16日、それから僅か1か月余、政府のデジタル庁の創設準備、携帯電話料金の引き下げ検討、不妊治療の保険適用、行政手続きからのハンコ追放、再生可能エネルギーの主力電源化など、多くの政策が一気に動き始めています。その多くは規制改革を伴うため、難度が高いと思われていたものです。アベ政権では未完だった国内における改革に矢継ぎ早、着手する処ですが、なぜこのようなスタートダッシュができるのか? 巷間、それは国家組織を十二分に動かしているからだとされています。尤も学術院会員認証拒否問題もあって近時、支持率は降下気味。さて10月26日召集の臨時国会での所信演説では、これら政策テーマを以って臨むことが伝えられる処ですが、中でも、脱炭素社会の実現を目指すとの政策表明が予定されている由で、これこそは筆者の強い関心を呼ぶ処です。

菅首相は温暖化ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする目標を掲げ、脱炭素社会の実現を目指すと表明する見通しだと云うのです。ゼロ目標とは2050年に二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出量と、森林などで吸収される涼を差し引きで、ゼロにする目標ですが、言うまでもなく長期的産業政策となる処、これが日本の産業構造の転換を迫る処となるだけに、極めてexcitingなテーマと映る処です。

政府はこれまで、「2050年に80%削減」、「脱炭素社会を今世紀に後半に実現」と説明してきていますが、ゼロ迄減らす年限を示さない曖昧な対応で「環境問題に消極的だ」と批判を受けてきていました。温暖化ガス排出量を実質ゼロとする目標をあげるのは、世界で「脱炭素」の流れが加速している(注)ことを映す処ですが、目標を達成するには、社会や経済の在り方を根本から見直す大改革が避けられない処です。 

  (注)海外の対応:EUは既に「2050年に実質ゼロ」の目標を掲げているが更に、「パ
リ協定」が示す「産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える」目標を早期達成
のため、前倒しも検討している由。なお、英国、フランス、ドイツは温暖化ガスの排
出量が多い石炭火力の全廃を決定。又、排出量削減を巡っては消極的だった中国は
「60年より前に実質ゼロ」を表明。米国は周知の通りで、今次大統領選結果次第。

新目標の設定を受け、経産相は26日にも再生エネルギーの拡大を柱とする政策の公表を示唆しており、温暖化対策を通じて産業構造の転換を促さんと云う処、太陽光・風力発電の普及のため大容量蓄電地の開発援助、水素ステーションの設置拡大策も示す見通しと、報じられており期待される処です。ただコロナ後の経済回復を脱炭素社会に繋げられるかがカギとなる事でしょうから、国民や企業もこれが齎す変革への覚悟が求められると云うものです。元より高い目標を掲げることで、新たなビジネスが生れ、生活もより便利で豊かなになる、そうした発想で、社会と経済を根本から作り変える覚悟が必要と、痛感する処です。
                               以上 (2020/10/24)
posted by 林川眞善 at 17:25| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2020年09月25日

2020年10月号  2020年米大統領選 前夜 - 林川眞善

目  次

はじめに  米大統領選 前夜       

第1章  前夜 その(1 )- D. Trump VS J. Biden
                
1.トランプ氏の再選狙いの行動様式
(1)‘売り’を失ったトランプ氏の再選への戦略
(2)トランプ氏の選挙(郵便投票)介入の可能性

2.バイデン民主党の公約(Build back better)と、 Running mate ハリス上院議員
(1)バイデン氏の大統領候補受諾演説
(2)Running mate Kamala Harris上院議員
   
第2章  前夜 その(2)- Black lives matterと大統領選が招く危機

1. Black Lives Matter (BLM)
(1)選挙戦の潮目を変える人種差別抗議デモ
 ・BLMとコロナ・ショック
 ・’Democrats cannot rule out Trump Victory’
(2)トランプ政治に激怒のJoseph Stiglitz 教授

2.敗北を認めないリスク― America’s ugly election
 ・FT-Peterson US Economic monitor
 ・トランプ vs バイデンTV debateの行方

おわりに  ‘前夜‘ に思うこと     
 ・Visionの語られる事のない米大統領選
 ・安倍晋三氏のレガシー         
---------------------------------------------------------------------
はじめに:米大統領選 前夜

8月20日、民主党はバイデン氏を、8月27日には共和党のトランプ氏を夫々正式に大統領候補に指名しました。これで予備選を含め1年超に亘った米大統領選(投票日,11月3日)は、まさに終盤入りです。トランプ氏の再選か、バイデン氏の勝利となるか、世界の注目は日ごと高まる処です。

さて、8月1日付け日経では同社コメンテーターの菅野幹雄氏が「新型コロナウイルスで15万人もの米国民が命を奪われながら『中国発の大疫病だ』と責任逃れを続けるドナルド・トランプ米大統領の姿はもはや痛々しい」と指摘するのでした。それは、毎回発表される世論調査では、トランプ氏がバイデン氏に水をあけられる状況が続く中、その‘水’ を呼び戻さんと、あがくトランプ氏の姿を映す処と思料するのです。 
つまり、感染拡大が始まった今年1月頃からの新型コロナウイルスに対し、専門家医師のアドバイスを聴くこともなく無頓着にやり過ごしてきた結果、経済の極端な停滞を招き、大統領選を控えた彼として、経済の早期復活をと、焦る姿と云うものでしょう。コロナによる死亡者がもはや20万人近くに達する(注)今、新型コロナ対策を巡って繰り返されるトランプ氏の不誠実な対応に、もはや現職大統領は正統性に欠けるとんでもない人物との見方(The Economist, Sept.5)が有権者の間に広まっていることで、選挙戦の実態は「トランプ VSバイデン」でなく、「トランプ VS アメリカ」の様相を呈する処です。

    (注)9月17日、米ジョンズ・ホプキンス大の発表では、16日現在、累計死者数が世
界で最も多かったのが米国で、19万6千人と。更に23日、同大学の発表では世界の
累計感染者は約3142万人、死者は96万6千人に上ぼり、感染者数の国別では最多
が米国で、新規感染者数が9日連続で増加。22日には死者が20万人を超えた由。

かかる状況にあってはバイデン氏の優位が云々される処です。が、それでも尚、懸念される事は、トランプ氏が勝利する事ではなく、同氏が投票を妨害したり、敗北を認めなかったりして、不正に勝利を奪うのではないかとの不安だとされているのですが、その懸念が今急速に高まってきていると云う事です。
民主党のペロシ下院議長は、とにかく絶対的勝利を期すことが必要と檄を飛ばしていますが、そうした懸念を克服するためには、とにかくトランプ氏に、その結果に口出しさせるような隙間を与えない事であり、その為には絶対的勝利が必要と云うものです。

もう一つ、周知の通り5月25日、米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性が白人警官による暴行で死亡した事件が起きました。爾来、全米各地ではこれが人種差別問題として、 ‘Black lives matter’を掲げた抗議デモが頻発。警察との対立、そしてこれを機に人種差別問題に絡めたトランプ支持派と反トランプ派との間での対立抗争が広がりを見る処となり、今やこれら問題は、‘公共の秩序’ 問題として、大統領選での争点に押し上げんばかりの様相となってきています。 それは、まさに大統領戦の潮目を変える処とも云え、これが‘法と秩序’ を標榜するトランプ氏にとっては、窮地にあるとされるだけに、この潮目の変化は再選へのbigチャンスと映ると云う処です。

そこで今次大統領選の行方を見極めていくため、まず「痛々しい姿」と指摘されたトランプ氏の選挙戦に見せる行動の実像を、対抗馬のバイデン候補との対比においてレビューし、以って選挙前夜「その(1)」とし、加えて今、選挙戦の新たな潮目ともされる急浮上の‘Black lives matter’(人種差別)問題について、「その(2)」として、レビューする事とし、この2点の考察を以って、米大統領選の展望を図る事としたいと思います。


             第1章 前夜 その(1)
              ― Donald Trump VS Joe Biden

1. トランプ氏の再選狙いの行動様式
(1)‘売り’を失ったトランプ氏の再選への戦略
まず前出、菅野コメンテーターが指摘していた、‘あがき’の背景にある最大の要因は米経済の停滞です。トランプ氏は昨年6月、好調な米国経済を背景に、悠々再選への立候補を宣言しました。その時多くは、彼の再選を疑う事はない、そうした環境にありました。

然し2020年に入るや、中国を発生源とされる新型コロナウイルスの感染拡大で、10年8か月続いた米景気が突然終焉を見たのです。云うまでもなく、それは彼にとって何よりも選挙での「売り」を失う事を意味する処です。そこでコロナで失われた雇用の回復をと、4月には総額3兆ドル超の財政を出動させ、経済の下支えを図ると同時に、雇用の喪失は中国を発生源とするコロナウイルスにあって、従って中国に、その責任を取らせると、対中圧力を強め今日に至るのですが、以ってトランプ氏の選挙戦略とする処です。

つまり、雇用回復と対中圧力は今や同一線上にあって、米国第一の戦略を対中姿勢の強化を以って示す処、すべてを中国のせいにして奪われたとする雇用(ジョッブ)の米国回帰を誘導せんとし、併せて 当該企業への減税を以って米国への回帰を促進させ、世界の製造大国、中国への依存を終わらせんとするのです。 以って「Keep America great」の旗印の下、再選への戦略とするのですが、あれもこれも全ては‘再選のため’と、あがくその姿は、結果として今次選挙戦の異常さを映しだす処です。

周知の通り2017年1月の就任以来トランプ氏は米国第一を標榜し、今日に至っています。何事もデイールをベースに自己の利益を考える一方、国際機関や同盟国との協調を軽視、更に専門家や科学者の意見をまともに聞かない、敵と味方をはっきりさせ、分断を煽ることで自からの力を高める、そうした行動様式を以って、僅か3年ながら世界の秩序を一変させんばかりの状況を生み出す処です。

そして内政的には米国第一主義の下、「法と秩序」の政治を徹底せんと、例えば後述するよ
うに、この5月以降、各地で頻発する「Black lives better」人種差別抗議デモに対しては、
「法と秩序」を以って、厳しく取り締まると、強権的行動すら宣言するのですが、警察の強
化等、監視社会へのシフトすら覚える処です。又、今次の選挙では後出、第(2)項で 指
摘するように郵便投票が注目される処、自分にとって 勝ち目のないこの種選挙制度につい
ては 異論をぶつけ、妨害を画策する様相にあるのですが、まるでどこか途上国の政治の様
相すら想起させる処です。
一方、インフラ投資で雇用創出に努めると,訴えるのですが云うまでもなく選挙対策の他な
く、それは「小さな政府」が看板だった共和党の変心を浮き彫りする処です。
 
・異例さ、異常さを放った「共和党全国大会」
更に異常さを放ったのは今次の共和党大会でした。党大会はコロナ感染を軽減させるべく会場は、ホワイトハウスを始めとして、各所に分散しての開催でしたが、大会初日の8月25日にはメラニア大統領夫人が登壇、続いて二人の息子(長男:トランプ・ジュニアー、次男:エリック)も登壇し、夫々がスピーチするのでした。

そして、最終日の27日、ホワイトハウスの広場で開かれた大会では、1500人に上る閣僚とトランプ支持者を前に、彼は大統領候補指名の受諾演説を行っていますが、そこでは「この選挙はアメリカン・ドリームを救うか、社会主義者の計画で米国の大切な運命を破壊するのを許すか、が決まる。つまりバイデンは米国の偉大さの破壊者だ」と断じ、彼のキー・ワード、`made in China , or made in America’ を以って、「分断を進める」姿勢を強調するものでした。 そしてその場には大会向に準備されたVTRに続き、長女のイバンカ氏が登場していますが、一族が大統領の実績と指導力を吹聴する、もはやトランプ教団の大会もどきとメデイアは伝える処です。まさに27日のホワイトハウスの光景は「トランプ家の、トランプ家による、トランプ家のための舞台」(日経9/1)と印象付けるほどに異常な光景だったと報じる処です。もとより政党のイベントに政府施設を使う事は政治利用と、批判の集まる処です。   
尚、今回の党大会では大統領選の公約となる政策綱領の発表は見送られています。これこそは異例とされる処、それに代えて「大統領の米国第一の政策を熱狂的に支持し続ける」との党声明を以ってトランプ氏の政策を推進するとの方針を強調するのでしたが、それはまさにトランプ党を体現するものと云う処です。

(2)トランプ氏の選挙(郵便投票)介入の可能性
もう一つ、異常さを語るのが投票様式を巡るトランプ氏による介入の可能性です。今次感染防止のため郵便投票が急増する見通しですが、トランプ氏はその投票の利用を抑え込もうと動きだしている事です。つまり、郵便投票を決めている有権者は、コロナを警戒して外出を敬遠すると云う事ですが、その当該有権者は「反トランプ」の傾向にあるとされ、米WSJの世論調査ではバイデン支持者の47%が郵便投票を活用するとしているのに対し、トランプ支持者は11% に留まる由で、そこで、トランプ氏は郵便投票の利用抑制へ動いているとされているのです。

郵便公社は7月末、「大統領選開票日までに間に合うかは保証できない」と全米46州に警告文を出しています。この背景は、公社の赤字経営改善の為として夜間配送や、郵便の仕分け機を10%減らすと云うリストラ策ですが、これがトランプ氏による郵便投票の妨害の片棒を担ぐものと、民主党から非難が出、公社のリストラを指揮するデジョイ総裁は(彼はトランプ氏に極めて近い人物)、「郵便投票への影響を避けるため、大統領選が終わるまで停止すると」と、18日、この批判を受けてリストラを先送りしています。
「法と秩序」を目指さんとするトランプ氏ですが、大統領選を左右する郵便投票を巡る攻防にも米国の分断が投影される処です。(日経、8月20日) 

・現職のオーナ
現職の再選を懸けた大統領選は1期目の実績への信任投票の色彩を帯びるのが常ですが、今回ほど、そうではない、それがはっきりした例は珍しく、まさに異例とされる処です。業績を評価される「現職のボーナス」が伴う処、次々と対応のまずさを露呈し、「現職のオーナ(重荷)」を抱えるようになってきたと云うことと思料するのですが、仮にトランプ氏が負けるとすれば、本人の権威主義的傾向に因るのではなく、コロナ禍と云う事態への対応の悪さにあって、米国の死者の大量な報告がありながら、これに対して人任せのアプローチにあったことで、要は事態を把握できていないことが許せないとするもので、言い換えれば「国民が守られている感覚」を提供できていないことが、彼が国民の信頼を失った問題の本質と、思料するのです。 

前述、トランプ氏のコロナを巡る不誠実な対応を映し、今回の選挙は「トランプか否か」を巡る選挙、つまり、「トランプ対バイデン」ではなく、「トランプ対アメリカ」の様相となり、候補者選びも「誰ならトランプに勝てるか」が主要論点だった事も異常と映る処です。

それでも、依然、消えないのがオクトーバー・サプライズです。現状、世論調査を見る限り、バイデン氏優位とされるのですが、それでも気になるのが、トランプ氏が仕掛けるオクトーバー・サプライズの可能性・・・です。

2.バイデン民主党の公約(Build back better)と、Running mateハリス上院議員
(1)バイデン氏の大統領候補受諾演説
バイデン氏は、民主党大統領候補指名受諾演説で(8月20日)、この選挙運動は票を勝ち取る事だけではなく、米国の心と魂を勝ち取るためのものだとし、併せて、今直面している4つの歴史的な危機、つまり、「100年来の最悪の感染症大流行」、「大恐慌以来の最悪の経済危機」、「1960年代以来、最も切迫した人種平等の要求」そして「気候変動の否定できない現実と加速する脅威」という4点を掲げ、これらを体し、インフラ整備、医療保険制度の整備、同盟国等との協力連携の推進、人種差別問題への取り組みを目指すとするのでした。

バイデノミクスの論理は極めて分かりやすく、要は必要なら、なんでもやる実利優先の哲学を体すると云うものですが、それだけにトランプ氏に比して迫力に欠けると、される処です。
が、バイデン氏の戦略は、当初より11月3日に向けstealth campaign、つまり敵失狙いの戦略にあって、それは相応に成功だったとされる処です。が、では彼は「どのような大統領となるか」については不明だとの声も上がる処です。が、今次副大統領候補に指名されたカマラ・ハリス上院議員こそは、巷間その点をカバーする存在と、される処です。
      
・民主党と米マーケット
バイデン氏が民主党大統領候補をほぼ確実としてからは、米ウオール街の反応をフォローしてきましたが、今一つ、関心の高まりを感じることもなく、又、この間、各地世論調査はバイデン氏が現職のトランプ大統領に対して優位に立つことを示してきていましたが、特別な反応を見出す事もないままに推移してきましした。

一般に言って、マーケットは、企業よりも労働者、富裕者よりも低所得者を重視する民主党政権を嫌う傾向にあります。従って、通常の大統領選の年なら民主党優位の情勢に気をもむ処、そうした懸念もないままに過ぎてきたと云うものでした。その違いは、バイデン氏が中道左派で、極端に左寄りの経済政策は取らないとの安心感があったためではと思料されますが、バイデン氏が自らのrunning mate,副大統領候補にカマラ・ハリス氏(55)を選んだことが大きくプラスしていると思料される処です。

(2)Running mate ,Kamala Harris上院議員
8月12日の党員大会にバイデン氏と現れた副大統領候補に指名されたハリス氏は、白人中間層を意識した発言を繰り返すなか、勿論、マイノリテイーへのアピールも忘れてはいませんが、19日の副大統領候補受諾演説では、「出自にとらわれない、すべての人を歓迎する最愛の共同体であるビジョンの実現を」強調し、政策面での中道・穏健派の色彩を鮮明にする処、こうした彼女の言動がマーケットに安心感を与えていると云えそうです。まさにハリス効果です。

そして選挙戦略上、彼女を選択したことの優位さは彼女の経歴にありとされ、サンフランシスコ地方検事、カリフォルニア州司法長官を歴任した後、上院議員となった経歴が、トランプ氏が主張する「法と秩序」を求める選挙では、十分に対抗できると云う事で、まさにバイデン公約の「援護射撃」となる存在とされる処です。トランプ氏の資質を補うためと、信仰心の熱い福音派のマイク・ペンス氏を副大統領に据えたのとは好対照をなす処です。

米国では今、人種差別に関わる懸念が急速に強まっていますが、多くの点で、ハリス氏は安全で無難な選択と捉えられ、これこそ進歩の兆し( a sign of progress )と受け止められる処です。(The Economist、8/15~21) 加えて、トランプ氏の自国第一主義が修正されれば、企業にも追い風となり、政権交代によるマイナス面とプラス面とがおおむね拮抗するとの見方があるためではと推測する処です。

先走って言えば、バイデン政権が成立すれば、米国が国際協調路線に戻っていくと期待され、因みにバイデン氏は地球温暖化対策の「パリ協定」に復帰するとしています。又、貿易政策では、トランプ政権の追加関税を強く批判する一方、TPPへの復帰にも意欲を示す処です。 安全保障政策でも、同盟国との結束は再び強化される事と思います。こうした米国の政策転換は、勿論、日本にとっても大いに歓迎される処です。 とすれば今予想されている以上に、マーケットには追い風となるのではと思料される処です。仮に政権交代があっても、コロナ対策が最優先であることは変わらず、左寄りの政策は打ち出しにくい環境が当面続くことになるのではと思料するのです。

そして、バイデン氏が掲げる法人増税、富裕者増税も、景気への悪影響を考えれば当面封じ込めでしょう。コロナ対策で財政環境が急速に悪化したため、歳出拡大を伴う医療拡大を伴う医療保険制度の拡充等も制約される事にはなるのではと思料する処です。つまり、コロナ問題によってマーケットが警戒する民主党本来の政策は取られにくい状況になったと云う事です。勿論、トランプ氏のドル安政策が無くなれば、ドルへの信認が高まり海外からの資金流入が促されることもマーケットには追い風と思料する処です。

問題はトランプ氏が、前述の郵便による不在者投票に不正が多く含まれたとして、自らに不利な選挙結果を受け入れない可能性が浮上していることです。冒頭触れたように、政権交代への懸念よりも政権交代が円滑に進まない一種の政治空白への警戒を今後マーケットは徐々に強めていくのではと、思料される処です。 因みに、元独外務大臣のSigmar Gabriel氏は8月26日付で米論壇Project Syndicateに寄稿の論考 [The Global Risk of the US Election]で、トランプ氏の大統領選に見る画策は単に米国のみならず世界に及ぶ忌々しき行為と厳しく評する処です。

・党大会と選挙戦の潮目
尚、民主党々大会はトランプ氏のコロナ対策を批判する立場から感染拡大に繋がる集会は避け「バーチャル」方式に特化、重要イベントもオンライン開催とし、これまでインターネットを活用した選挙運動に徹し、共和党と同様に熱を帯びる処でした。がそれも、2か月を切った今、両候補は有権者と直接向き合っての「リアル」の選挙活動を広げ、バーチャル主体の攻防も今や、転換点にある処です。そして、では次の展開の如何ですが、選挙投票日まで僅かひと月余りの今、その潮目が急速に変わりだしてきていることが注目される処です。前述の人種差別抗議(Black lives matter)デモの広がりです。


第2章 前夜 その(2)
―` Black lives matter ‘ と 大統領選が招く危機

1.Black Lives Matter (BLM)

(1)選挙戦の潮目を変える人種差別抗議デモ
5月5日、米ミネソタ州ミネアポィスで起きた事件、黒人男性(ジョージ・フロイト)が警官の拘束の下で死亡した事件をきっかけに、` Black Lives Matter’(黒人の命を軽んじるな! )のプラカードを掲げた人種差別への抗議デモが続発、急速に全米に広がってきています。
7月25日にはワシントン・シアトルで、又テキサス・オースティンで、8月23日にはウインスコンシン・ケノシャーで、29日にはオレゴン・ポートランドで暴動が発生、ケノシャーでは丸腰の黒人が警官の発砲を受け下半身付随になったほか抗議デモに参加の2人が死亡したと報じられています。

・BLMとコロナ・ショック
こうした抗議デモは、コロナ・ショックが、非白人等、マイノリテイーの差別、格差問題を改めて浮かびあがらせた、その結果を映すと云うものです。 彼らは感染リスクに、より曝される一方、解雇の対象ともなりやすく、こうしたことへの鬱積した不満が、一気に噴き出したというもので、抗議行動は人種問題がコロナで増幅した姿と映る処です。

トランプ氏は8月末、ケノシャーに飛び、暴動で燃えた建物の前で写真を撮らせています。ケノシャーの事件とは、丸腰の黒人男性が警官に背後から7発撃たれたと云うものでした。
社会不安をテコに選挙戦を有利に展開せんとするトランプ氏にとって、そうした現場に立ち、不安をあおることで得点に繋がるとする処と推察される処です。そして今、その人種差別抗議に絡める形で、トランプ支持者と反トランプ支持者との対立行動が暴動に発展してきており、もはや ‘公共の秩序’ が大統領選での争点に押し上げる様相です。もとより、かかる事態は、‘法と秩序’を標榜するトランプ氏にとって絶好のチャンスと映る処です。

選挙まであと1か月余。これまで政権のコロナ対応のまずさを問う事で良かったはずの選挙戦が、人種差別問題の急浮上で、今や争点が公共の秩序に移ってきたことで、窮地にあったトランプ氏にbigチャンスの到来、つまり潮目が変わったと思われる処です。
 
・Democrats cannot rule out Trump victory
実は、Financial Times のチーフ・コメンテーター, Gideon Rachman氏は、8月25日付同紙で「Democrats cannot rule out Trump victory」(民主党はトランプ氏の勝利を阻止できない)と題し、頻発する人種差別抗議デモは「法と秩序」を目指すトランプ氏には勝利のチャンスを齎す事になるだろうと指摘する処でした。
つまり、2016年の大統領選での敗北を受け、民主党は当初、白人労働者の苦悩に真剣に取り組むこととしていたが、その決意はトランプ氏の振る舞いへの怒りへと変わり、人種差別問題こそ強く取り組むべき課題へと変身していったが、この変化こそが逆にトランプ氏にチャンスを与える可能性が出てきたと云うのです。と云うのもトランプ氏の選挙戦略は、まさに白人有権者の怒りと敵意を掻き立てるのが狙いだからだと云うのです。そして人種問題が争点となれば彼の思うツボだろうと指摘するのでした。

(2)トランプ政治に激怒のJoseph Stiglitz教授
一方、ケノシャーで殺害された黒人男性の母親が叫んだ `America is great when we behave greatly’ の言葉に痛く反応して、米コロンビア大教授でノーベル経済学賞のJ. Stiglitz氏は、再びトランプ批判へ掻き立てられる処です。

つまり、J. Stiglitz氏は、米論壇Syndicate Projectに9月14日付けで投稿した論考「Reclaiming American Greatness」(偉大なアメリカを取り戻そう)で、ケノシャーで殺害された黒人男性の母親が叫んだ `America is great when we behave greatly’ の言葉に痛く反応し、悲しいかな、この4年間、トランプ政治のお陰で米国は、彼女の云うような方向とは180度、違った方向に進んでしまっていると断じ、米16代大統領A・リンカーンの警告 ‘ A house divided against itself cannot stand ‘(家は建材が一体化して成る)を持ち出し、トランプ政権はあらゆるものを分断し、しかもそれを広めていると、厳しく批判するのでした。

つまり、トランプ政権下では、富める者がより富み、米国の10%の富裕層が株式の92%を保有する処、株式市場の好調は、経済の好循環を映すものと評価しているが、雇用環境は劣悪、米国で生活する人口の内、3千万人は十分な食料もなく、彼らは全米所得階層では最下層にあって、その日暮らしの状況にあると云い、かくも不平等な所得格差が進むこの国で、トランプ共和党はbillionaires(億万長者)や企業に対して減税を進めるが、中間層にある国民に対しては増税を予定していると、所得格差拡大に繋がる政策姿勢に憤慨するのです。

そして57年前、ワシントンでの人種差別反対デモでキング牧師の発した`I have a dream’ スピーチ、に強く感じ` We shall overcome someday ‘としてきたが、そのsomedayは消え失せ、トランプ政権下ではパンデミックに因る経済の停滞が被保険労働者の増大を齎す処、健康な労働者があってhealthy economy が期待できるもののそれが叶わず、今や米国は科学や専門家の意見など忌避し、自分の利害だけに照準を合わすボスを戴く米国はなす術を失っている。気候変動危機、社会経済危機、更に民主主義の危機、人種差別等、危機環境に伍していかねばならないアメリカにとって、best hopeはバイデン氏とするのです。

要は、健全な経済活動の確保には、健康な労働者の確保が不可避であり、まずはコロナ対策が優先されるべきで、その点で、バイデン氏は、対トランプ戦略上、彼の新型コロナウイルスに対する無頓着さに再び焦点を絞り、9月末から始まる両候補によるDebateに臨むことになると伝えられていますが、さて勝者は、バイデン氏か、或いはトランプ氏か。

2.敗北を認めないリスク – America’s ugly election

ただ、前述の通り、米国特有ともされる選挙制度事情もこれありで、11月3日に結論が出るものか、その行方に関心の呼ぶ処です。と云うのも米国の大統領選は、必ず最後に敗者が負けを認めることで戦いを決着させてきた歴史があります。だが、新型コロナの流行や格差拡大で社会が混乱する今、開票結果が僅差さとなれば大きな混乱が起こりそうだとする懸念です。つまり敗北を認めないリスクの高まりです。これこそは本稿冒頭「はじめに」の項で触れた不安です。実際トランプ氏は、もし選挙で負けてもpeaceful transfer of powerは行わないと会見で発言しており、加えて米最高裁判事死去に伴う後任選び問題も絡む処、巷間,トランプ氏は「負けても勝つシナリを持っている」とも噂される処です。

9月5日付けThe Economist は `America’s ugly election ‘(米大統領選、醜い争い)と題し、上述への懸念を指摘しながら、今次選挙には極めて複雑な事象が絡むが、11月3日の選挙結果を巡って政府関係者(states officials )が忠誠(loyalty)を尽くすべきは、支持政党ではなく、合衆国憲法だと云う事を肝に銘じるべき事、そして当該投票とその後の展開が円滑に進むよう全力を尽くすべきと、指摘する処です。そして、それが実現できなければ、民主主義は危機に陥る事になると、強く警鐘を鳴らす処です。何とか法に則した、健全な投票行動が担保されんことを念じる処です。

・FT-Peterson US Economic Monitor (August 20,2020 )
尚、英フィナンシャル・タイムズと米ピーター・G・ピーターソン財団が、大統領選を前に、米経済は4年前に比べbetter off, よくなってきたか、どうか、有権者に、以下(注)内容のアンケート調査を 8月5日と9日の2度にわたり行なっています。このbetter offへの反応こそは、これまでの経験に照らし再選上のcrucial litmus、決定的指標と見る処です。

(注:アンケート内容)
     ① Have Trump’s economic policies helped or hurt the US economy?
    ② Coronavirus has realigned voters’ concerns and behavior

ではその結果ですが、①について8月時点では、有権者の48%が、トランプ政策は「経済を改善させた」と回答していましたが、ごく直近の9月調査ではこれが3ポイント下がって45%となった由で、トランプ氏にとって経済回復の実感が得られないままでは再選にマイナスとなる処でしょう。一方、②についてはコロナ危機以降、グローバル経済の先行きに警戒感を強める処、現時点では回答者の3割がグローバル経済の後退こそがtop concernとしており要は、世界経済の減速が米国内の雇用・投資に逆風になると見る一方、同時に米国民の感染拡大への懸念の根強さを示す処です。

・トランプvs バイデン TV討論の行方
とすると以上からは、両者とも雇用の回復、経済再生を目指すとしながら、バイデン氏は「所得格差拡大の解消」、「新型コロナ対策」、「米製造業復権のための税制案」を以って、一方、トランプ氏は景気回復に向けた「減税政策」と「公共の秩序」、更には「対中政策、中東での国交正常化」を以って自らの政治手腕を誇示しながら、今月29日のTV討論に臨むものと見る処です。が、要はTV debateを通じて有権者に「国民が守られている感覚」を提供できるか否か、その次第ではと思料する処です。

     
おわりに  ‘前夜’ に思うこと

・Visionの語られることのない米大統領選
今次大統領選でいずれの候補が勝利するにしても、何よりも求められるのはコロナ対策であり、これが最優先の政策となることは云うまでもありません。となると経済のV字型回復は当分無理でしょうし、L字型回復となることが想定される処です。因みに9月16日米FRBはゼロ金利政策を少なくとも2023年末まで続ける方針を表明しており、もって瞑すべき処です。とすれば当面、米経済は暗い様相を余儀なくされる事となるでしょうし、それへの覚悟が求められる事になるのでしょう。それだけに何とか明日に繋がる前向きの姿勢が期待される処ですが、両候補の言動をレビューしていくなかで、気になることは、彼らの主張が何としても後ろ向きの様相にある事です。

トランプ氏は「偉大な米国の復活」と云い、バイデン氏は「異端のトランプ時代と決別して、オバマ時代に戻る」としています。トランプ氏の場合は自国主義、孤立指向で内向きが深まることは周知の処ですが、バイデン氏についても、その主張は、自分が仕えたオバマ政権の政策再現とも云え、ではその上で、どういった社会の創造を目指すのか、両者negative campaignもこれありで、次へのビジョンが見えてこないことが気になると云うものです。

言うまでもなく、理想化した過去に逃避してもグローバル化やデイジタルの波は止められるわけはありません。ましてやトランプ氏が掲げる時代錯誤の経済外交政策で米国を真に再生することは難しいと云う事です。期待すべきは「過去よりも現在、そして未来を競う論争」の筈です。さて、米国民はその辺をどう判断し、選択するのでしょうか。No country is an islandを身上とする筆者にあっては、その選択は云うまでもない処です。

・安倍晋三氏のレガシー
序で乍ら一言。8月28日、安倍晋三氏は持病の潰瘍性大腸炎の再発を事由に首相の座を辞する旨を表明しました。在任7年8か月、健康上の辞任とあれば致し方ないものの、任期途中から目立ったことは政権の私物化でした。‘売り’であったアベノミクスは短期的にはともかく、第3の矢である規制緩和等成長戦略は全くの不発、政権に係る人事の不詳問題については、任命権は自分にある以上責任は自分にあると公言しつつも一度たりとも責任を取ることもなく、森友問題、加計問題、桜問題、等々、国民の疑問に答えることもなく、それまで積み上げてきたレガシーを自ら帳消しする形で安倍政治を終焉させてしまいました。まさに緩みっぱなしの政権との印象を残しての退陣でした。後継首相には9月16日、前官房長官の菅義偉氏が前政権の‘継承を売り’として就任しましたが、二度と前者の轍を踏むことのないこと念じ、詳細は別の機会に論じる事としたいと思います。
                                (2020/9/25)
posted by 林川眞善 at 15:49| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2020年08月26日

2020年9月号  財政の統合化へギアチェンジした欧州 - 林川眞善

目  次

はじめに  欧州政治 大転換     

第1章 コロナ禍の欧州経済 再建策

1.欧州の競争政策
               
【注】メルケル・ドイツのEU議長国就任 

2.欧州経済復興基金創設と、欧州の統合

(1)EUサミット(7月17~21日)と欧州復興基金
  ・基金構想を巡る争点
(2)メルケル首相の翻意の真相
(3)Europe’s Hamiltonian Moment 
    (欧州のハミルトン的瞬間)

第2章 コロナ後の財政を考える
 ・経済の実状認識
 ・国債の安定消化
 ・明確な時間軸をもって

おわりに 「狂騒の20年代」の再来?
 ・世界の第2四半期GDP                    
 ・ざわつく米ウオール街

-----------------------------------------------------------


 はじめに 欧州政治 大転換

7月31日、EU統計局が発表した2020年4~6月期のユーロ圏の域内GDP速報値は、実質年率換算で40.3%の減と、1~3月期に続き過去最悪を更新、25年振りの落ち込みを示すものでした。(Financial Times, Aug.1-2)

欧州各国は新型コロナの感染拡大を受けて、3月頃から厳しい規制を導入した結果、店舗の営業停止や移動の制限の影響が統計の数値に現れたと云うものです。国別ではスペインやイタリア等、南欧の落ち込みが大きく、それは新型コロナの打撃が製造業よりも、観光等サービス業の方が大きい事情を映す処です。各国は外出等の制限を5月から徐々に緩和し、経済は再び動き始めており、7~9月期には前期4~6月期の反動で大きく改善見込みとされてはいますが、それでも景気の先行きには以下の不安材料、つまり感染の再拡大であり、雇用の確保の如何です。

感染の再拡大については、スペインやドイツでは感染者数が増えつつあり、第2波への警戒感は強く、イタリアでは拡大の懸念ありとして非常事態宣言を10月まで延長しています。もう一つは雇用ですが、6月のユーロ圏の失業率は7.8%. 米国と比べて低いのは雇用支援の政策効果に負うものとされていますが、この支援策は時限措置である点で問題であり、更に、中長期的に財政悪化が懸念材料とされる処です。欧州委員会によると、20年通年でのユーロ圏の公的債務の対GDP比は、102.7%に膨らむ見通しで、特に南欧は財政状況がもともと悪い処に新型コロナの感染が広がったことが追い打ちをかける処です。

さてそうした環境下、ブラッセルでは、7 月17日、メルケル独首相を議長としてEU首脳会議が開かれ(議長は6か月の輪番制で、2020年7月からはドイツが担当)、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済の再生に向けたEU中期予算(2021~27)が、5日間と云う長時間審議を経て21日、合意されたのですが、high lightは、その一部を成す新型コロナ対策の復興基金(7500億ユーロ)の創設でした。と云うのも、基金の運営はEU一体として債券を発行し、資金調達を図るとするものでまさに`A big fiscal deal’(The Economist, July 25)とされる処、この決定は欧州政治の大転換と、世界の注目を呼ぶ処です。

これまでドイツは、統一通貨 「ユーロ」をベースに全EUベースの金融政策を支持する一方で、財政については、各国の主権に係る問題として、反対の立場を堅持してきました。が、今次の復興基金の導入はこれまでのそうした姿勢を翻し、財政統合への道筋をつけることになったという事で、これがEU統合への流れを本格化するものとして、つまり、新たな欧州の誕生に繋がるものと、世界はこの新しい変化に注目する処です。

そこで、今次、復興基金の創設にフォーカスし、メルケル氏の云うならば翻意に至った事情を時系列でフォローしながら、今後の行方について考察する事とします。つまり新たな欧州の可能性検証です。尚、周知の通り、メルケル氏は来秋、政界から引退予定と伝えられています。とすると彼女のコロナとの闘い、EU統合強化の推進は、まさに彼女のレガシーとなる処ではと思料する処です。


第1章 コロナ禍の欧州経済再建

1.EUの競争政策

EUは加盟国に自国の産業や企業に対して補助金の提供を禁じていますが、新型コロナウイルス感染拡大で各国経済に混乱が生じてきたことで、この「国家補助」提供を禁じる規制の適用除外を求める要請が急増していると云われています。
The Economist (May 30~June 5,2020)の記事「The visible hand」によると、既に承認された補助金提供や企業救済は200件近くに達し、金額にして計2兆ユーロ(約240兆円)強に上る由で、その額, イタリアのGDPに匹敵する規模と云うものです。

欧州経済の中核を成す単一市場は、ある部分、各国政府に自国の産業や企業を不当に支援してはならないと云う前提の上に成り立つており、このEUが加盟各国に産業、企業への支援を禁じる規制(state-aid rule)は珍しいルールとされる処です。例えば米国では、各州が企業誘致のために優遇税制や低利融資等を提示し、互いに競う事が認められていますが、EUは軍縮条約のように補助金を撤廃する道を選んでいるのです。従ってEUが明確に承認しない限り、対象が国有企業でも補助金を提供する事は禁じられているのです。因みに、各国政府が自国サッカークラブの用地取得に補助金を出したり、外国企業誘致のために税優遇策を提供する度に、EUに忠告されてきています。ただ今年の初めには、英国がEUから離脱したことをきっかけに欧州委のフォン・デア・ライエン委員長は、EUの競争力回復の為、新たな産業戦略を明示していきたいとしていました。(弊論考2020/3月号)

こうしたEUの、支援を規制する政策の起源は、欧州統合の出発点にさかのぼるとされるものですが、実は2014年以来、新たに競争政策担当として就任したMargrethe Vestager女史(デンマーク)率いる欧州委員会の一部と、一部加盟国の間に長い緊張が続いていたと云われています。とりわけドイツとフランスは「世界に誇れる欧州を代表する企業」の育成のために、競争を巡る規制の緩和を、繰り返し求めていたのですが、昨年、2019年2月6日、独仏は、独シーメンスと仏アルストムの鉄道車両事業の統合計画をベステアー氏が、競争を阻害し、消費者に不利益をもたらすことになる、として却下したことで、欧州委員会に対し、一気に怒りが露わになったと伝えられる処です。鉄道車両業界は規模では中国中車が最大手で、当時、当該事業が承認されれば技術面で最先端の世界第2位の企業誕生と期待されていたのです。

世界的企業を生み出す一つの方法は企業合併を進める事でしょうし、一時的には当該企業に国が支援を与えることは容認される処です。が、今日の政府支援は世界的企業を誕生させると云うより、不必要な倒産や失業を防ぐのが狙いとなっているのが大方の実状です。
この欧州委が却下したのを機に競争法(独禁法)を見直す動きが出てきたと云うものです。
そして、こうした流れが更にEUの構造的変化に結びつけられていったのが、7月からのメルケル・ドイツのEU議長国への就任でした。

【注】メルケル・ドイツのEU議長国就任 
こうした欧州経済環境の中、ドイツが7月1日EU理事会の議長国に就任しました。
そして、議長国就任に先立つ6月30日、ドイツはウエブサイトで「欧州の復興を共
に」と題する実践プログラムを公表し、以下の5項目を重視するとするのでした。 
― ① 長期的な新型コロナウイルス危機の克服および経済復興、 ② より強力で革新
的な欧州、 ➂ 公正で持続可能な欧州、 ④ 欧州の安全保障と共通価値、 ➄ 世界にお
ける強い欧州。

尚、外交面では、米国をEUの外交・安全保障上の最も緊密なパートナーであると強調
し、より包括的かつ意欲的な協力関係を築く意向であるとする一方、英国のEU離脱に
伴う将来関係の交渉においては、EU 27加盟国の結束を高めながら合意済みの政治宣
言に基づく野心的かつ包括的なパートナーシップの締結に向けて、積極的な役割を果
たすとしています。尚、中国との関係については、EUの長期的な利益や共有価値に基
づき、全EU期間と全加盟国が団結するべきとした上で、中国との更なる協力関係促進
のため、早期の首脳会議の開催を目指すとし、9月にEU・中国の首脳会議を予定して
いたが、新型コロナの影響で延期を余儀なくされる処です。

2.欧州経済復興基金創設と、欧州の統合

(1)EUサミット(7月17~21日)と欧州復興基金
さて、7 月17日、メルケル議長の下、ブラッセルで開催されたEU首脳会議では、コロナ禍への対抗戦略として、先に独仏間で合意された7500億ユーロ規模の復興基金案(注)と、同案を含む2021~27年の次期中期予算計画, MFF(多年度財政枠組み:Multiannual Financial Framework)が諮られ、5日間の長時間審議を経て、21日早朝、当該事案は合意され、何とかEUの結束を示すことになったと云うものです。

と云うのも、これまでの彼女とは、180度の変更を映す行動の結果とは言え、そこには後述するメルケル氏の欧州経済への危機感と、それへの対抗としての欧州の一体化推進が不可避との強い思いがあっての事とされるのです。いずれにせよその結果は財政の統合化に向けた布石を打つ事になったと云う事で、EUは統合化に向けた新たな段階にシフトしたと云えそうです。

    (注)当該基金案は、5月18日、独仏両首脳が新型コロナ感染で打撃を受けた欧州経
済の復興のため5000億ユーロ(約60兆円)規模の基金設立で合意したものを、フ
ォンデアライエン欧州委員長がEU構想として7500億ユーロに拡大し、今次のMFF
に組み込んだと云うものです。

・基金構想を巡る争点
今次の審議が時間を要した背景は、基金の使途、つまり返済不要の補助金と返済が必要な融資の比率の問題でした。当初、EUは、基金規模7500億ユーロ(約92兆円)の内、5000億ユーロを補助金(grant)、2500億ユーロは融資(loan)のかたちで、加盟国を支援するとの案を提示する処、前者につては主に上述、新型コロナで被害の大きいイタリアやスペインと云った南欧等の支援に充てることとし、同時に環境やデジタル等の分野に投資し、景気回復に繋げんとするものとしていたのです。まさに欧州復興の目玉となる処です。
尚、基金はEU欧州委員会が全額を市場から調達するものとなっていますが、EUが大規模な債券を発行するのは初めての事です。(尚、EUの予算規模は次期MFFの改定案1兆1000億ユーロと合わせ、1兆8500億ユーロに上るものとなっています)

然し、財政負担に消極的な、いわゆる「倹約4か国」 (Frugal country4か国)と称されるオランダ、オーストリア、デンマーク、スエーデンは 融資を主体とすべきと主張したため、その調整に時間を要したと云う事でしたが、最終的にはメルケル議長が復興基金(7500億ユーロ)の使途を、補助金3900億ユーロ、融資3600億ユーロと修正する事で決着をみた次第です。

そもそもは財政規律の重しとなっていた大国がドイツと英国でした。が今や英国はなく、EU議長国となって合意を纏める側に回ったドイツ、メルケル首相としては、予てEUの統合推進派のマクロン仏大統領と共にEU案の原案を作り、財政再建を一時棚上げして合意の旗振り役となったと云うものです。コロナ禍で世界のほとんどが、国の経済を支えるための財政出動に動くなか、財政規律派の旗色が悪い事情もあってのことかと思料する処です。

いずれにせよ基金構想は「次世代のEU」と名付けられ、新しいEU像を誘導するものと世界の関心を呼ぶ処です。そしてEUサミットで見せたメルケル氏の翻意を映す復興基金導入への思考様式こそは「欧州におけるドイツ」を再定義するプロセスとも映る処です。(注)

    (注)ノーベル賞作家、トーマス・マンは1953年、ドイツの将来について、自国を
近隣諸国と結びつけて「欧州のドイツ」を築く処に未来があると、力説するのでした。

この際は、上記当該事情として、メルケル首相の欧州統一に対する思考様式の如何をレビューしておきたいと思います。

(2)メルケル首相の翻意の真相
これまでドイツなどはEU全体で借金をすれば結果的に他国の借金を肩代わりする事になると強く反対してきていました。又、ドイツはイタリアなどへの支援は補助金ではなく融資にすべきだとも主張していました。その点では大きく譲歩したことになります。が、その翻意の結果は、基金創設の実現をみることになり、このことでEUは富の再分配と云う財政政策の領域に大きく踏み込むことになったと云うものです。

財政の統合を強く呼びかけてきたのはマクロン仏大統領でした。彼は2008年の金融危機やその後の欧州債務危機で苦しむ南欧をドイツなどが積極的に財政で支援しなかったことが、EUの亀裂を深め、ポピュリズムの台頭を招いたとの認識に立つのです。彼が大統領に就任した2017年からはEUの財政改革を訴えてきていますが、マクロン提案は長くたなざらしされてきました。と云うのも、ドイツ等で「自分たちの税金が他国のために使われる」との警戒が強かったためだったと云われています。

マクロン提案から3年を経てメルケル氏が翻意した理由は、まず不況と財政悪化の悪循環に陥るとされている南欧諸国の苦境があり、その深刻な状況を放置すればEUの存続が脅かされるとの危機感が強まったことにあったとされるのです。 加えてあるのが、5月5日に独連邦憲法裁判所がECBの量的緩和を一部違憲とした判決でした。ECBのコロナ対策を否定するならば、ドイツが独自の貢献策を示すべきとの圧力が強まったとされており、これがマクロン氏との共同での復興基金導入提案に収斂する事になったというもので、EUの結束を維持するためにも一定の譲歩は必要と判断したと伝えられる処です。メルケル氏としては厳格な財政規律を棚上げすることで欧州復興を加速させんとの考えに至ったといわれる処です。

加えて云うならば、ドイツにとってEU加盟国は主要な輸出先、投資先であると同時に米国や中国と渡り合っていく上でも欠かせないパートナーということです。上記18日の記者会見でメルケル首相は、「目的はこの危機を通じて欧州をより強く団結させることだ」と強調する処です。

ユーロ圏は前述の通り、金融政策は共通ですが、財政政策がバラバラである事が構造問題とされてきたわけですが、共通債務が実現すれば、危機対応に新たな可能性を開くことにもなる処です。 戦後ドイツでは、リーダーが重要なものを捨てさることで成果を引き寄せてきた歴史があると云われています。旧西独のブラント元首相は大戦で失った領土の一部を放棄することで東方外交を成功させたと評され、又、コール元首相は通貨マルクを捨てて再統一を実現しています。

しかし、メルケル氏は時折、EU加盟国であることがドイツの国益に適うという論陣を張ることはあっても、コール氏が欧州統合に向けたような思いを見せるようなことはあまりなかったと評されていました。が、その姿勢の変化を示唆したのは5月18日の記者会見でした。メルケル氏はEU史上最大の危機に対して「反撃」する時がきたと宣言し、「ドイツとフランスは欧州の理念のために一緒に戦っている」と述べていました。今次の復興基金への取り組みが、新たに「欧州のドイツ」を再定義する事になるのなら、これこそは来秋、政界引退予定の彼女にとってレジェンドとなるものと思料される処です。

(3)Europe’s Hamiltonian Moment(欧州のハミルトン的瞬間)
前述の通り、今次のEU中期計画に盛り込まれたコロナ復興基金構想は、5月18日の独仏首脳の合意案をベースとするものですが、その独仏の合意に巷間、メルケル氏の180度の方向転換と驚くとともに、この合意をかつて独立戦争後の米国で、各州の借金を連邦政府が肩代わりする事で、弱体だった連邦政府の力を一気に高めたハミルトン初代合衆国財務長官の手法に倣ったメルケル氏の「ハミルトン的瞬間」だと、もてはやされる処です。

尤も、EUが米国ほどに統合されることはないでしょうが、基金の推進は、第2次大戦後のドル支配体制を固めたマーシャル・プラン級のインパクトを持つであろうし、従ってドイツが欧州の盟主として登場する事になるだろうとは大方の見る処でしょう。 もとより、このメルケル氏の方針転換の裏には、欧州経済に係る合理的な懸念とは異なる、トランプ米大統領の執拗な圧力に対する反発がある処と思料するのですが。

ドイツとフランスは、EUを足場に「アメリカでも中国でもロシアでもない勢力、それも民主主義を守る中軸勢力となる」ことを目指すことでしょうが、とすればこれからの国際政治では米中に並んで、独仏主導のEUが存在感を増す事になると思料するばかりです。因みに、外為相場はユーロがドルや円に対して高値を試す展開になりそうだと観測されていますが、欧州の景気回復が米国より早いとの見方がある処、今次の欧州復興基金の創設で合意したのを機に騰勢を強めたとされる処です。

尚、この際、留意すべきは、The Economist July 25~31が、政府の歳出能力の拡大する状況を、「Free money – When governments spending knows no limits」と評していましたが、要は、最近の財政支出には規律が働かなくなってきている事態への警鐘です。コロナ禍は従来の経済政策の常識をも揺さぶる処、「大借金」と「大歳出」はどこまで続けられるのか、借金先進国の日本はどうなるのかです。

1年ほど前、世界で論争が起きたMMT(現代貨幣理論)主導者の一人、米学者ステファニー・ケルトン氏は昨年の来日時に「日本では財政赤字が自動的な金利上昇に繋がらず量的緩和も機能している」と述べ、既にMMTを実践していると指摘していました。当時、中銀や主流派学者は猛反発していましたが、コロナ禍を前に今や、先進国の多くが日本の後を追う処です。 勿論、コロナ禍の非常時には必要な対策を取るのは当然ですが、それでも効率的とは言えないカネの使い方が目立つのは極めて気がかりと云うものです。アベノマスク、10万円の特別給付金・・・。

さて、8月14日付け日経では上智大准教授の中里透氏が、コロナ後の財政の在り方を考えていく上で、これまでの30年を振り返り、日本財政のいうなれば、繰り返されてきた赤字化の経緯にも照らし、国債暴落やハイパーインフレと云った極端な議論からは十分な距離を保ち、中長期の視点から、落ち着いた環境の下で財政の問題を考えていく方が良いのではないか、重要なのは、どのタイミングで、いかなる対応をしていくかという明確な時間軸の視点を持つことだとし、そうした観点から経済財政運営の今後を展望するのです。極めて示唆ある処、その概要を紹介しておきたいと思います


             第2章 コロナ後の財政を考える

・財政の実状
まず、現在の局面で求められることは、企業の倒産が増え本格的な雇用調整の実施で経済が長期の停滞に陥るのを回避する事だとするのです。景気はこの4~6月期に底を打ち、回復に向かいつつあると見られるが、足元の消費の動向を観ると、回復のペースは穏やかだと。世界経済の減速と消費増税の影響で景気はコロナ前から既に落ち込んでおり、新型コロナの感染再拡大が懸念される現状を併せ考慮すると、景気回復の足取りは緩慢となろうとする処、当面は財政と金融の両面から景気の下支えに万全の措置を講じていく事の必要性を指摘すると同時に、デフレへの逆戻りが生じないよう、物価の動向にも十分な目配りが必要とするのです。

つまり、デフレが齎す効果について、日本政府が発行している国債のほとんどは物価連動債となっていないことから、物価の下落は実質的な債務の増加を齎すことになること、所得税などの税制についてもインデクセーション(物価変動に応じた負担調整)がなされていないことから、デフレ下では税収の伸びが抑えられ、財政収支の改善にマイナスの影響を齎すことになるからと云うことです。

これらを踏まえると、当面は性急な増税などの緊縮的な措置により景気に下押しの圧力を生じさせないよう、慎重な態度で政策運営を進めていく事が必要と云うのですが、銘記すべきは名目金利の実効下限制約が存在する下、金融政策による対応の余地が既に大きく狭まっており、緊縮的な財政運営により景気にマイナスの影響が生じても、それを金融緩和では相殺できないと云う事だと云うのです。

そして、やや長い目で見ると、社会保障費の増加への対応が大きな課題となる処、この点については、22年から24年にかけて、団塊の世代が75歳に到達し、医療費、介護費の増加が生じる「2025年問題」として、大きな懸念材料として捉えられがちだが、この問題はやや強調されすぎというきらいがあると云うのです。と云うのもこの期間中に65~74歳人口は大きく減り、年金給付などの伸びが鈍化するため、社会保障費全体の増加のペースはこれまでと同程度に抑えられるからと云うのです。
実際、内閣府の中長期試算を基に社会保障の今後の推移をみても、20年代半ばには社会保障費の急増は生じないことが確認出来る処、社会保障費の大幅な増加が懸念されるのは団塊ジュニアが高齢者になる30年代半ばの事で、この局面に備えては、30年代前半にかけて消費税率を15%程度まで段階的に引き上げていく事は避けて通れないかも、と云うのです。

・国債の安定消化
さて当面の政策対応について、注目されることの一つとして、国債の安定消化が引き続き確保していけるかを、挙げるのです。
20年度の2次補正後の一般会計予算での公債全収入(新規国債発行額)は90.2兆円で、国債依存度は56.3%に達する。しかも現時点では20年度の税収の減収分が予算に反映されていないから、国債依存度は更に高まることが見込まれる。ただこの際の議論、つまり国債の累増と国債の消化余力の関係については、家計金融資産残高と政府債務残高の大小関係とその推移に着目する議論が見られるが、この議論では日本の資金循環の大きな特徴、即ち企業部門が資金余剰(貯蓄超過)である事実が見落とされていると指摘するのです。つまり、
過去30年ほどを振り返ると、政府部門が資金不足に転じ(財政赤字が発生)、家計部門の貯蓄が減少傾向をたどる中で、企業部門は資金余剰に転じ、このことが安定的な国債消化を支えてきたと云うのです。

勿論コロナ禍の下で、この構造がどのように変化するかは見通し難いが、金融システムの不安定化が生じた97~98の局面と08~09年の局面では、いずれも政府部門の資金不足の拡大と企業部門の資金余剰の拡大が生じ、結果的に国債の安定化が確保されてきたとするのです。 それでも政府支出が野放図に拡大するようなことがあれば、財政の持続可能性への懸念から長期金利に上昇圧力が働くこともありうると云うのですが、2次補正に計上された10兆円の予備費については、経済動向をよく見極めて、必要な範囲内での機動的な予算執行に努めることが求められるとする処です。

・明確な時間軸をもって
コロナ後の財政収支の改善に向けた取り組みでは、大幅な増税は避け、景気の回復と穏やかな物価上昇の継続により生じる税収の増加と、歳出の十分な抑制により対処する事が望ましいと。これは絵空事ではなく、財政赤字の大幅な縮小が生じた13~18年の局面で実際に達成された事だと、指摘する処です。 そして、早期の感染収束が難しくなる中、先行きは見通しにくいが、明確な時間軸の下で、堅実な対応がなされていく事が求められると、力説する処です。


おわりに 「狂騒の20年代」の再来 ?  

・世界の第2四半期(年率)GDP
8月17日、内閣府が発表した2020年4~6月期の実質GDP(速報値)は、年率換算で27.8%のマイナス、戦後最大の下げとなるものでした。云うまでもなく、コロナ禍の拡大で内外需が打撃を受けた結果で、経済活動が広く停滞し、GDPは統計を遡れる1955年以来で、かつてない落ち込みとなるもので、年率換算での実質GDPは485.1兆円、7年半振りに500兆円割れ、リーマン時の3.5倍の落ち込みということで、コロナ禍の傷の深さを鮮明とする処です。 米欧中も既に4~6期のGDPを発表しており、いずれもマイナス。米国は前期比年率で32.9%の減、ユ-ロー圏は40.3%と夫々最大の減少率、唯一プラス成長となったのは中国(3.2%増)でした。前期比年率で、欧米諸国は2期連続の減少に対して日本は3期連続のマイナスです。
英経済誌エコノミストのEconomist Intelligence Unitによれば、日米欧7か国(G7)は7~9月期には、全て前期比プラスに戻る見通しですが、それでもGDPの規模は、米国が17年、英独仏とカナダが16年、日本が12年、イタリアに至っては1997年の水準に止まると見る処、正常化には時間がかかりそうです。

感染抑制と経済活動の両立の重要性が改めて浮き彫りにされる中、西村経財相は「成長軌道に戻す」と力む処ですが、そこにはアベノミクスを以って経済の回復を主導してきたはずの安倍首相の姿は見えず、さて、西村氏のその手腕、如何にとみる処です。

・ざわつく米ウオール街
そんな中、米ウオール街の一部からは「狂騒の20年代」の再来か?の声が伝わる処です。 つまり、経験則的には8月相場は下落しやすいとされる中、NY株式市場は今、楽観ムードに覆われ出し、特にハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数はアップルやマイクロソフト等の巨大ITが牽引する処、8月19日には、アップルが米企業として初めて時価総額、2兆ドル超をマーク(注)した他、株式分割で投資家の裾野が拡大するとの期待を集める電気自動車(VE)大手テスラも買われるなどテクノロジー株も買われ、今から100年前、米国で技術革新が経済成長を牽引した‘狂騒の20年代’が取り沙汰されだしたと云うものです。尤も、コロナ対応の大幅金融緩和でカネ余りが映す処かと、思料するのですが。

    (注)世界企業で最も高い時価総額はサウジアラビアの国営企業、サウジアラムコで
2019年12月には2兆264億ドルを付けていますが、その後は、原油安と業績悪化
懸念から株価は低迷、足元の時価総額は1兆8000億ドル台で推移している。

序で乍ら、8月25日の東京市場では、米市場の上述動きに呼応する如く、日経平均株価は一時23,419円をマーク、コロナ急落の前日の終値、23,386円を約6か月振りに上回っています。

その狂騒の20年代とは、20年代の米国を表する言葉で、当時の社会、芸術及び文化の力強さが強調される時代でした。第一次大戦の後で「ノーマルシー(Normalcy)」(常態に復すること、米大統領ウオーレン・ハーデイングが1920年の選挙スローガンに使った)が政治に戻り、文化的にはジャズが花開き、フラッパー(flapper)が現代の女性を再定義し、アール・デコが頂点を迎えたのです。が、最後は1929年のウオール街の暴落が、この時代の終わりを告げ、世界恐慌の時代に入ったことは、周知の処です。 
一方、この時代の繁栄を支えたのが1908年に売り出されたフォードのT型車に象徴されるように、大量生産技術が開発され、贅沢品であった車は一気に普及を見たように、製造技術の革新、つまりイノベーションによる経済の発展を見、高速道路が建設されたほか、いわゆるインフラの整備が進んだことで人々の日常生活は大きく変化していった時代でした。

そうした米経済が繁栄した1920年代と、その100年後の現代の2020年代と、重ね見る時、まず2020年代の今は、新型コロナウイルスのパンデミックを以って幕が開きましたが、1920年代も1918年に発生して4000万人が犠牲となったスペイン風邪を経て突入しています。そしてイノベーションを通じて経済成長を果たしていったのです。ただその繁栄は、1929年の世界恐慌によって幕が下ろされた事は周知の処です。

そこで2020年代を支える技術革新の如何ですが、その一つは、間違いなく新型コロナによって急加速する医療分野でしょうし、実際、新型コロナのワクチン開発は異例のスピードで進んでいます。因みに、メデイアによれば、ワクチン治験は今や最終段階にある処、米フアイザーは2020年末までに最大1億回接種分、21年には13億回分のワクチン供給を目指すとする処です。又、富士フィルムの米子会社による新型コロナワクチン生産計画に対して米政府は約2億6500万ドル(約280万円)を拠出する由です。(日経7/28、夕刊)

勿論、医療分野にとどまらず、技術革新の加速に向けた土壌も整ってきています。 そこで2020年代が「狂騒の20年代」の轍を踏むことのないためにも、国際的連携を含め、技術革新の堅持、更なる推進が求められる処です。もとよりそれは、コロナ後の新たな経済の生業を求めるトレンドに符合する処です。と同時に、科学を理解できない政治家に、この‘革新’を政治の具にされないことを願うばかりです。


処で、今、米国では共和党の全国大会が開催中で、25日、トランプ大統領とペンス副大統領を正副大統領候補に正式に指名しました。一方、民主党は、既に8月20日の党大会で、
バイデン前副大統領、ハリス上院議員を正副大統領候補に正式指名を終えており、いよいよ米大統領選、本格稼働です。そこで次号論考では、米大統領選 前夜と題し、報告予定です。 [2020/8/26記]
posted by 林川眞善 at 13:45| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする