2023年05月28日

2023年6月号   G7 広島サミットとグローバル秩序の行方 - 林川眞善

目 次

[はじめに] 戦時下 開催の ‘G7広島サミット’      

(1)G7サミットを蘇らせた男、ゼレンスキー大統領
・友人から届いた興奮の所感
(2)今日に至るG7サミットの歴史

[ 1 ] 2023年G7 広島サミットとグローバルサウス    

(1)広島サミット、主催国 日本の思考様式
(2)アウトリーチ会合

[ 2 ] 半導体を巡る米政府の対中規制強化と日本の安保対応 

・半導体輸出規制強化の波紋
・経済安保対応に向かう日本の半導体政策

[おわりに] G7 広島サミットが終わって想う事    



    [ はじめに ] 戦時下の開催となった ‘G7広島サミット’

(1) G7サミットを蘇らせたゼレンスキー大統領
去る5月19~21日、広島で開催された「G7広島サミット」は、まさに世界の変化をreal に映し出す、いろいろな意味合いを持った会合でした。その歴史はおよそ半世紀、時にG7サミット不要論もあった処、今次の広島サミットは発足時のジスカール・ジスタンスが目指した「G7の結束」を目の当たりとするものでした。そして、それを演出したのが戦時下にあるウクライナから突然にサミット会合の場に姿を現したゼレンスキー大統領でした。
5月20日、サミットの会合の場に現れ、その場に集まった各国首脳に、ウクライナの窮状を訴え、強く支援を求める処でした。その行動にG7は全面的な支援を与える処、それ以上に一瞬にして彼は世界を味方につけ、時の人となったのです。その感動の様子は筆者友人 I氏が伝える下記 所感からもうかがえると云うものでした。彼は長年フランス、イタリアで活躍した同僚ビジネスマンで、まさに80を超えてなお熱血漢と云った処、とにかくその所感の一部を紹介しておきたいと思います。

・友人から届いた所感
―「 今日(5月20日)午後3時過ぎウクライナのゼレンスキー大統領がサウジから到着、草鞋を脱ぐ間もなくG7を始め招待国のインド他「GLOBAL SOUTH」の国々の首脳と次々に会談を重ねています。首脳たちはゼレンスキー氏を暖かく歓迎し抱擁し合ったり固い握手を交わしたりしている。暴虐な野蛮国ロシアに餌食にされて堪るかと、一致団結必死に戦っているウクライナ国民の誇り高く勇気溢れるリーダーを目の当たりにして、各国首脳たちも心中高揚している様子。最初に会談したインドのモディ首相は「ウクライナでの戦争は世界の大問題。その解決のためインド及び私個人、特に私個人としては出来ることは全てやります」と数回明言、一方ゼレンスキー氏来日にあたり政府専用機を提供したフランスのマクロン大統領は「on-lineでなく今日あなた自身がここにshow upしたことは大変な意味合いを持つ、あなたは今まさに “GAME CHANGER”だ」とゼ氏を鼓舞称賛しています。

“GAME CHANGER”とはご承知の通り「試合の流れを一気に変えてしまうビッグプレイヤー」を指しますが、マクロン氏の表現は正鵠を射ていると思います。小生はゼレンスキー氏が今回、G7招待国の首脳一人一人の心に直接訴え掛けていること、更にその映像が世界中に拡散することで、これまで支持に余り積極的ではなかった「GLOBAL SOUTH」の国々の中にもウクライナ支援のうねりが生じG7、EU、NATO諸国、豪州、韓国などと共にゼ大統領とウクライナ国民の背中を強く押し続ける結果、近い将来ロシア軍の領内からの一掃とクリミア半島を含む「失地回復」が実現すると見ています。この結果プーチン体制は崩壊するでしょう。「ゼレンスキー大統領の広島でのshow up」がその端緒となれば「2023年5月20日」は「歴史転換の日」として将来刻まれることでしょう」

(2) ‘G7サミット、50年の歩み’
さて、今次論考は「G7広島サミット」をテーマとする処、序で乍らこの際は ‘今日にいたるサミット’ の歴史を簡単に、以下レビューしておきたいと思います。

今から50年前(1973年10月)、第4次中東戦争を機に起こった第1次オイルショックを受け世界経済は大きな混乱にあって、この状況への対抗をと、1975年5月、仏大統領に就任したジスカール・ジスタンス氏が米、英、西独そして日本の各首脳に声をかけ世界経済への対応を検討するため首脳会議を提案したことに始まるもので当初G5とされるものでしたが、これにイタリアのモロ首相が、自国が外されたことに不満を持ち、その会議に追っ付け参加したことで、G6でスタートとなり、翌76年にはカナダの参加があって、今日いう「G7」( The Group of Seven)の呼称が定着する処です。 尚、77年のロンドン・サミット以降、ECの欧州委員会委長が加わっています。

 (注) 第1回G7サミット 出席者(1976年)
ヴァレリー・ジスカールデスタン仏大統領、ジェラルド・フォード米大統領
ハロルド・ウイルソン英首相、ヘルムート・シュミッツ西独首相、
三木武夫日本国首相、アルド・モロ伊首相, ジャステイン・トルドーカナダ首相 

・ロシアのサミット・メンバーシップ、出たり、入ったり   
かくして西側先進国の枠組みとなるG7でしたが、その転機は冷戦の終わりでした。つまり、1989年、ベルリンの壁の崩壊、同年12月、米ブッシュ大統領(41代)とソ連ゴルバチョフ書記長がマルタで会談し、終結を宣言したことでした。そして91年7月のロンドン・サミット後にゴルバチョフ氏がG7首脳と初の協議を持っています。更にソ連が同年12月に崩壊するとサミット会合後にロシアとG7首脳が会議を開くことが定着し、当時は制裁を含むロシアの抑止が議題となる今の状況とは対照的に、協調に向かうものでした。

    (注)ソ連邦崩壊(1988~1991年):ソ連邦が内部分裂し主権国家としての存続を
     終えた事件。(1991年12月25日ゴルバチョフ書記長辞任)

ロシアは94年7月のイタリアのナポリ・サミットで政治問題の討議に加わり、98年の英バーミンガム・サミットでは「G8」と呼ぶようになっています。いま日本ではG7の枠組みを主要7か国と表現するようになっていますが、経済状況が発展途上国に近いロシアの参加で「主要国」を使うようになったとされています。 更に2003年の仏エビアン・サミットからロシアは経済分野を含む全日程に出席するようになったのです。G7各国は民主主義や基本的人権などを重視する国になるものと期待されていたのです。 因みに2006年ロシアは初の議長国としてサンクトペテルブルグでG8サミットを開催しています。しかし、亀裂が広がったのがその8年後の2014年。ロシアがウクライナ南部のクリミア半島の併合を宣言したことでした。勿論他の7か国はロシアが方針を転換しない限りG8から事実上除外する事を決定し、今日に至る処です。

さて今次の広島サミットはいか様な思考の下、manageされ、いか様な成果を上げ得たのか、そこに見る問題は如何と、メデイア情報をベースに、その概要を検証していく事とします。

[ 1 ] 2023年 G7 広島サミットと、グローバルサウス

1. 広島サミットと、主催国 日本の思考様式

今次サミットは広島で、しかもロシアのウクライナ侵攻という戦時下での開催ということもあって、そのミッションは「核のない世界」を目指すとされるものでした。そして、議長国日本として、いか様にふるまうべきか、日本にできることは何か、政府内では重ねての議論があって、そのベースにあった一つが、4月11日林芳正外相が閣議で報告した2023年外交青書と伝えられる処でした。

(1)2023年「外交青書」と、議長国日本の対応作法
今次青書ではロシアによるウクライナ侵攻を機に「ポスト冷戦期が終焉した」と表し、日本周辺で中国とロシアが共同で軍事演習を重ねる状況に重大な懸念を示すと共に、軍事力強化を進める中国の動向を「最大の戦略的な挑戦」と位置づける処です。(日経4/11)

そして、世界の地政学的対立の構図はウクライナ侵攻をきっかけに、先進国の民主主義勢力、中ロを中心とした強権統治国勢力、そしてそのいずれにも与しない中立的な姿勢を保つインド、アフリカ諸国等、グローバルサウスと称される陣営、の3勢力に仕分けされる様相にあって、そうした新たな国際環境に先進7カ国は如何に与していくかが問われる処でしたが、青書は「できるだけ多くの新興国・途上国と連携していく事が極めて重要」と説く処でした。これこそは議長国、日本のとるべきサミット対応作法とする処、具体的には、「南半球を中心とした途上国 ‘グローバルサウス’対策」とされた由で、これが議長国日本にとって合理ともされる処、国内法の縛りで軍事的に貢献できない事情があって、それに代わる苦肉の策とも云えそうでした。
つまり岸田氏の思いとは裏腹に、ウクライナ支援で日本には国内規則の制約で紛争地に殺傷能力のある武器を提供できず、防弾チョッキの供与、財政面での支援に留まり、日本以外のG7各国が戦車などを拠出するのとは対照的だったという事だったのでしょう。

さて、岸田首相はこうしたsuggestionに照らす如くに3月19日、グローバルサウスの雄、インドのモデイ首相を訪問、今次サミットへの招待を伝え、加えてブラジル、インドネシア、オーストラリア、韓国、ベトナム、コモロ(アフリカ連合代表)、クック諸島国(太平洋諸島フォーラム議長国)を サミット・アウトリーチ会合(サミット拡大会合)へ招待を伝えるのでした。 更に4月29日には、エジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークを訪問, 各国首脳と意見交換を果たす処です。 もとよりここうした訪問はグローバルサウスの国々をG7側に 引き寄せる目的にあって、5月4日、モザンビークでの記者会見では「法の支配に基づく国際秩序の重要性」を訴える処でした。

・グローバルサウスとの協調
周知の通り,グローバルサウスの国々は米欧とも中ロとも一定に距離を置く処、米欧との橋渡し役を自任する日本が主導してうまくG7側に取り込めば中ロへの抑止力となりうるとの判断もあり以って、今次サミットではG7首脳による本会合に加え、outreachと称した拡大会合に、グローバルサウスとされる途上国・新興国の8カ国、更に国連等7つの国際機関の代表を招待し、G7との新しい連帯を巡っての重要な機会とする処でした。実際、これまでG7を牽引してきた米国の力が衰え、嘗てG7はGDPベースで世界経済の6割を占めていましたが、リーマン事件を経てその実力は後退、現在では5割を切る状況で、その分、グローバルサウスのような成長国と組むことの選択に向かうと云う新事態を見る処です。 

尚、招待8カ国の内、グローバルサウスの3カ国、インドネシア、インド、ブラジルはG20の22, 23, 24年の議長国で、世界の注目を呼ぶ処です。ただインドは核拡散防止条約(NPT)に加盟せず、条約の枠外で核兵器を保有する国です。そして、今や国連安保理事会の改変を通じてインドの常任理事国入りを言い出す処です。もとより留意すべきは、G7は米英仏の核保有国に加え、米国の「核の傘」に守られている日本とドイツ、イタリア、そしてカナダで構成する点です。

    (注)アウトリーチ(拡大会合)への招待国、国際機関
     招待国:インドネシア、インド、ブラジル、オーストラリア、韓国、ベトナム、
コモロ(アフリカ連合)、クック諸島(太平洋諸国フォーラム議長国)
     国際機関:UN, IEA, IMF, OECD, 世銀、WHO,WTO

(2) 広島 ‘サミット’ の行動様式
こうした事情を映すG7サミットでの中心議題は周知のとおりで、 ① ウクライナ問題への対応つまり、中国・ロシアに対する規制強化問題、②サプライチェーンの分断と混乱への対応の如何、更に ③ 食料とエネルギー安全保障の問題への取り組み等、にあって、中でも地政学的取り組み姿勢として、Hottest geopolitical slogan(The Economist, April 15)とされる「自由で開かれたインド太平洋」に係る安全保障問題、つまりアジア諸国等との取り組みについて、とされていました。そして日米共にグローバルサウスの取り込みに奔走する姿が注目を呼ぶところでしたが、これこそはグローバルサウスが迫る世界情勢の変化とも云え、議長国、日本に求められる新たな取り組みとなる処でした。

サミット第1日目の5月19日午前、平和記念公園ではG7各国首脳は岸田首相の案内の下、犠牲者の霊に対し冥福を祈り、献花を行い、その後、原爆資料館を訪問し、その際、核軍
縮に焦点を当てたG7首脳による初の共同文書「広島ビジョン」を発表するのでした。
尚、「広島ビジョン」とは、核のない世界を「究極の目標」と位置づけ「安全が損なわれな
い形で、現実的で実践的な責任あるアプローチ」に関与すると確認する処、ウクライナへ侵
攻するロシアを巡り「核兵器の使用の威嚇、いかなる使用も許されない」と強調し、核拡散
防止条約(NPT)体制の堅持を唱えるものでした。

・サミット首脳宣言
さて会議の推移は以下次第で、19日、ワーキングランチを含め3つのセッション(世界経済、ウクライナ、外交・安全保障)、そして20日には、2つのセッションと2つの拡大会合(グローバルサウスへの関与、経済安全保障、そして拡大会合での食料、保険、開発、ジェンダー、そして気候、エネルギー、環境)をこなし、同日,これら 討議の成果を首脳宣言、10項目に取り纏め、予定より一日繰り上げ発表する処でした。つまりG7のみでの討議が概ね終わったことを受けて発表されたものの由ですが、21日には前述、ゼレンスキー大統領との対面での討議で、ウクライナ情勢に関する協議が中心となる事への配慮でした。 

首脳宣言は上記の次第ですが、内容的には中国やロシアに対抗し、「法の支配」に基づく国際秩序を維持する為、結束を強化すると明記する処、「核兵器のない世界」については究極的な目標と位置づけ、現実的な方法で各軍縮を進めると強調する処です。一方、G7が国際秩序を主導する力が低下したことを踏まえ、国際的な「パートナー」との協力を深める、つまり国際秩序維持へ結束強化を図る意思を、示す処でした。

・21日行われた拡大会合(アウトリーチ)での議論の中心は、先進国と途上国との協調関係の在り方、具体的には経済支援の在り方についてで、要は先進国による途上国への経済開発支援は従来の行動様式では通じにくくなった事情を再認識するもので、つまりは、先進国主導の開発支援はいうなれば‘上からの目線’にあって、その点で途上国としては近時、自国の利益が損なわれているとの批判・不満を募らせる処、これが先進国主導の国際秩序に向けられる様相にあって、いわゆる先進国による対途上国開発支援といったこれまでの構図が急速に変化してきている点への理解と、その上に立っての新たな取り組みを目指さんとするものでした。

つまり、この不満がひとたび吹き出せば、グローバルサウスは権威主義勢力に接近し、西側先進国と新興国全体との闘いの構図が世界で強まる可能性があるという事への配慮とされ、 言い換えれば、西側先進国は多様な価値観を認めながら、グローバルサウスが自ら持続的に成長できる環境を整えていく事の重要性と、そのためには戦後、先進国が形成してきた政治経済、安全保障、などの国際秩序を柔軟に見直していく姿勢が求められる処です。

今次G7サミットでは「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く」という行動様式をG7の意思として世界に向け発信すると云うのでしたが、法の支配とは、「グローバルサウス」の新興国・途上国とも共有できる原則と云うもので、具体的な取り組みとしては、新興国や途上国の苦境を打開し、世界のサプライチェーンに組み込む国際協力を深めることと思料するのです。そしてこの協力をいかに進めていくかが、先進国に課された課題とされる処、5月12日、G7の財務相・中銀総裁会議では、脱炭素分野のサプライチェーン強化に向けた途上国・新興国の支援策の議論があり、世銀や有志国と連携し、新たな枠組みを「年内に立ち上げる」と明記する処(日経5/13)、これが全サミットの問題となる処でした。

・G7に求められる新たな新興国対応
こうした新興国の協力を打ち出す背景には、金融のデジタル化や気候変動問題等、影響力を増す中国への対応等、先進国だけで解決できない問題には、新興国の協力が不可欠との認識があって、これが世界経済の牽引役を担ってきたG7には、これまでとは異にする「協調型」への脱皮が迫られている状況を映す処です。 つまり、現状「日米」と「中ロ」のGDPの世界シェアーは20%前後で並ぶ処、この点で、米国はG7に韓国、オーストラリア等友好国を広く束ねなければ中国を圧倒する未来図は描けないことを意味するという事ですが、グローバルサウスを含めた今次のサミット会議は21世紀の秩序を左右する要因を浮き彫りする処だったと云うものでした。

さて、21日、G7サミットは幕を閉じました。日本は議長国として現在の世界が直面している問題への認識・理解の共有を図ることに成功したとされる処、サミット直前の5月20日付エコノミスト誌では ‘Reviving the G7’ と日本の努力を評価するのでしたが、これからは、当事者間での歩み寄りをはかり、どう平和を実現していくかが問題と、言い換えればサミット後の対応如何と云う事です。議長の岸田首相にはよくやったとの賛辞が送られ第1幕が終了し、今、第2幕の開演が待たれる処、その準備は如何が問われる処です。

・識者が指摘する次への行動
その準備のためには何をどう考えればいいのか、当該識者、学者はG7が世界経済のリーダーであるためには、結束と共に力強い経済を確保していく事と説く処、米コロンビア大のG.ハバード教授はその為に必要なことは、成長・機会・参加を柱とする政策であり、この3本柱の政策は開かれた経済へのより広い社会的関与を可能とし、グローバル人材を引き付けるG7の地位堅持に寄与するだろうとするのです。(日経、5月11日「経済教室」)ただ、開かれた経済への支持は世界的に危うくなっています。その点でサミットを、グローバル化と技術変化への支持を呼び掛ける機会とする事に期待を寄せる処です。

・G7サミットでヒーローとなったゼレンスキー大統領,
それにしても、G7サミット後半の主役は前述、20~21日に突如広島を訪問したウクライナのゼレンスキー大統領でした。戦時下にあって、その場を潜り抜け、訪日した目的はG7サミットを機に、広くウクライナの現状への理解を高め、同時に支援を求めんとするものでした。その直前にはサウジアラビアのジェッダに立ち寄り、アラブ首脳会議に出席、ウクライナの現状への理解を求める処でしたが、フランス政府の協力を得て勇躍 広島入りし, G7の首脳会議に出席したものでした。勿論そこでは、ウクライナの現状を訴え、それへの理解と支援の強化を求める処でした。具体的には二つ。一つは新興国を反ロシアの立場に引き寄せ、同国の継戦能力を落とすこと、もう一つは西側の支援拡大に向けたG7各国との結束を強める事、でした。 滞在30時間、彼は各国の立場にも配慮しながら、集まった各国首脳との連帯を深め、因みに彼が広島入りして最初にあった人物は、ロシアからエネルギー輸入を増やしているインドのモデイ首相だったのですが、インドネシアのジョコ大統領とも会話をするなど、つまりは巧みな外交巧者と評される処でした。 そして、21日夕刻、世界の支持を一身に浴びながら,広島を出発して帰途についたゼレンスキー氏でしたが、仏専用機内で収録した動画声明で「世界は私たちの立場に耳を傾けてくれた」と今次の外遊の成果を強調した由です。そして、広島平和記念資料館では「現代の世界に核による脅しの居場所はない」と記帳した由でした。(日経5/23)

序で乍ら,G7首脳が原爆資料館訪問時の 記帳(一部)紹介しましょう:
・バイデン米大統領:世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。信念を貫きましょう!
・マクロン仏大統領:感情と共感の念を以って広島で犠牲となった方々を追悼する責務に貢
献し、平和の為に行動する事だけが、私たちに課せられた使命です。
・ショルツ独首相:私たちは今日ここでパートナーたちと共に、この上なく強い決意で平和
と自由を守っていくとの約束を新たにする。核の戦争は決して繰り返されてはならない。
・スナク英首相:広島と長崎の人々の恐怖と苦しみは、どんな言葉を用いても言い表すこと
ができない。しかし私たちが、永久になくせる日に向けて、共に歩んでいきましょう。
・トルドー加首相:多数の犠牲になった命、被爆者の声にならない悲嘆、広島と長崎の人々
 の測りしれない苦悩に、カナダは厳粛なる弔意と敬意を表します。
・メローニ伊首相:本日、少し立ち止まり、祈りを捧げましょう。本日、闇が凌駕するもの
は何もないという事を覚えておきましょう。本日、希望に満ちた未来を共に描きましょう
・岸田日本国首相:歴史に残るG7サミットの機会に議長として各国首脳と共に「核兵器の
ない世界」を目指すためここに集う


[2] 半導体を巡る米政府の対中規制強化と日本の安保対応

さて、G7サミット、アウトリーチ会合を通して、各国間での価値観の共有が確認され今、次の次元へコマを進めんとする環境にある処ですが、気がかりは米政府の対中輸出規制が齎す影響です。これまでG7の結束は揺るぎないものとされてきていますし、今次サミットではその強固さが改めて語られる処でしたが、ロシアによるウクライナ侵攻への対抗策が、ロシアや 中国を念頭に置いた戦略の強化となってきたことで、その結果、G7として結束が問われる事態が生じてきていると云う事です。そしてその対象となるのが半導体です。

➀ 米政府の対中輸出規制強化
西側の結束は中ロへの対峙の視点ら不可欠な要素とされる処、これが 米国の対中規制強化問題と絡む形で結束が緩みかねないところが気にかかる処です。どういったことかですが、米政府は昨年10月、半導体の中国向け輸出に強烈な縛りをかけてきています。その意図は中国が加速させる軍事のデジタル化を食い止めるのが狙いとされています。米国とNATO加盟国は数か月以内に米国を追って数か月以内に同レベルの輸出規制講じることになるのでしょうが、その結果、日本企業はこれまで依存してきた巨大な中国市場を失う事になると見るのです。

米国の技術政策の中核にある国防総省の国防高等研究計画局は中国軍のデジタルトランスフォーメーション(DX)に危機感を高めていると云われているのですが、それは中国のAIの技術が、米国と同水準、或いはそれ以上の実力をつけているためとされています。そして、
規制の焦点はずばり半導体の製造装置です。AIの軍事利用は自律型の攻撃ドローン、戦闘ロボット、SNSによって扇動する情報戦システムなど、多岐に亘る処です。 これらには高度な半導体が欠かせず、半導体の開発・生産には日米欧の最先端の製造装置が必要なのです。
軍事転用できる米国製AI用チップの対中輸出を止めるだけでなく、製造装置の貿易にも制限を掛ける必要があったと云うものです。

装置業界の世界4強は、米アプライドマテリアルズ、ラムリサーチ、オランダのASML,そして日本の東京エレクトロンで、日本にはこのほかキャノン、ニコンなど露光装置の有力メーカーがあります。日本製の海外販売の33%が中国向けとされており、米国の対中規制に沿う事となると、その結果、日本企業はこれまで依存してきた巨大な中国市場を失う事になるのですが、その途端に冷戦時代に導入された対共産圏輸出規制(COCOM:1949~1994)の悪夢がよみがえる処です。

さて、米政府は輸出管理法などを矢継ぎ早に発動し、中国の個別企業を名指しして輸出を禁止していますが、日本、やEU各国には企業を特定して輸出規制する制度はありません。米国が描く中国包囲網を築くには、米国が呼びかける国際協調に日欧が加わる必要があるのです。一方、米国では昨年8月、半導体の国内生産に527億ドルの補助金を投じる「CHIPS・科学法」を成立させていますが、企業が補助金を得る条件として、今後10年間は中国での生産に投資できなくなる縛りがあるのです。それは、戦後世界の経済秩序構築のためと当時国際協調を呼びかけた米国が、保護主義に傾斜していく姿を映す処です。つまり戦略物資となった半導体が、自由貿易と市場原理を壊しているように見える(日経、2/5)とは然りですが、今次のG7サミットでは不問のままとなっていたのは大いなる疑問です。

尚、米連邦議会では中国との覇権争いを優位に進めるためとして「中国対抗法案」の策定を始めたと伝えられる処です。法案の柱は ①中国への先端技術の流出阻止と投資抑制、②国内の先端技術への資金拡充、などとされています。(日経5/17) 法案が成立すれば日本にも影響が及ぶこと当然で、日本企業も規制に対応したり、日本でも同様の規制導入を迫られたりする可能性もあり得 べく、事の推移は要注意とされる処です。

② 経済安保対応に向かう日本の半導体政策
もう一つ同じ半導体ながら、岸田政権はサミットに合わせて5月18日、米インテルや韓国サムスン電子など世界の半導体メーカーのトップを首相官邸に招き、「政府を挙げて半導体産業への支援に取り組みたい」と、日本への投資拡大を呼びかけた事でした。勿論これは補助金が出る話でしょうが、米中の対立が後戻りできない地点を越え、いまや経済の安全保障が何よりも優先されるようになってきた事態を示唆する処です。 つまり、中国を念頭に価値観を共有する国々で半導体の供給網を整備し東南アジアの経済安全保障を強化せんとする処、これがグローバル化の波で世界に展開したサプライチェーンが猛烈な勢いで巻戻されることになる処、これが自動車や機械を国内で生産し、世界市場で売って稼ぐ、これまでの経済モデルが崩れんとみる処、ではこれからの日本は何を輸出する国になるのか、日本の本質的な価値への問いが始まる処です。さて経済安保最優先の行く先はと、なる処です。


[おわりに] G7 広島サミットが終わって想うこと

本論考の締めに当って今一度、G7広島サミットの生業について振り返ってみました。広島サミット開催について岸田首相は「広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はない」と、広島でのサミット開催の意義をそう表現していました。そこで筆者は、そうした真にサミットとしてのコミットメントを発信できたものかと、暫し思うのでした。

というのも広島で語られてきたスローガンとは「日本と世界の明るい未来」でしたが、その核心は、「核兵器そのものはあってはならない」と訴えるものの筈です。しかし、その現実は如何?です。広島出身で朝日新聞を経て独立したジャーナリスト、宮崎園子氏がJB press(5/11)で指摘するのでしたが、「核兵器は作って持ってもいいが、使うな」ではない筈とする点でした。Time magazine’s online edition May 22/29 では、岸田首相との対談をベースとした特集記事「Japan’s choice 」で軍事予算の増大にも照らし、`Kishida has set about
turning the world’s No. 3 economy back into a global power with a military presence.とする処です。

実際、その現実は「核兵器のない世界」ではなく「核兵器によって抑止力が保たれた世界」にあって、結局、G7広島サミットは、核抑止力によって平和が保たれる未来を選択して幕を閉じたことで、「平和」を掛け声にした政治ショーの舞台であって、この舞台の生業は変わる事はない、真に平和は永遠に手にできないことを実証する舞台と、思うばかりでした。そして、その後、広島出身で工学博士号を持つ筆者友人とも話した結論は、「核なき世界の実現は起きないだろう。しかし『核廃絶』は言い続けるべき」とするものでした。 (2023/5/27)
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2023年04月24日

2023年5月号  The Global Zeitenwende (転換点) - 林川眞善

― 目 次 ― 
はじめに 今、世界は歴史的Zeitenwende(転換点)
第1章 Global Southと日印関係 そして、    
     英国のTPP加盟  
第2章  アジアと欧州で進む地政学的対立の行方
おわりに アベノミクスの悲劇



はじめに 今、世界は歴史的Zeitenwende(転換点)

(1)オラフ・ショルツ独首相(Olaf Scholz, Chancellor of Germany)
独ショルツ首相はForeign Affairs ,Jan/Feb. 2023に「The Global Zeitenwende」(historic turning point)と題した論文を投稿、その副題として掲げる ‘How to avoid a new cold war in a multipolar era’ への‘解’は、西側諸国の協調対応の強化にありと訴えるものでした。

まず、ロシアによるウクライナ侵攻が齎している忌まわしい状況をZeitenwende(ツアイトヴェンデ:ドイツ流思考で云う悪魔のような忌まわしい変化)と断じた上で、ウクライナ侵攻がその引き金だが、技術革新がそれを一層深める様相にあって、その結果、世界はMultipolar Era、多極化の時代が進む状況にあるが、そうした中、 米中対立の進行が新たな冷戦状態に向かうとみる向きのある処、そうした事態に陥ることは絶対に回避すべきと訴え、これまでの世界秩序の来し方を振り返るのです。

これまでの30年、北米や欧州は、安定的な成長を維持し、高雇用、低インフレを堅持し、この間 米国は世界の主導者として行動し、その役割は21世紀も続くものと見られていた。しかしglobalizationの動きが終焉に向かいだす中、中国がglobal playerとして新たに台頭してきたこと、そして彼らがアジアに於ける覇権追求を露わとしてきたことで、国際的な協調関係が崩れ出している。この点,自分は先の中国訪問時、彼らには、‘力’によるのではなく、‘法の支配’の下での国際秩序の維持をと提言し、国連でも同様声を上げたが、中国はそれには貸す耳持たずで、今日に至っている。しかし、もはや後戻りはできずと, 力による侵攻の抑止、帝国主義の抑止を主張、今日のcomplex, multipolar worldにあって、その意義の大きさを指摘し、その実践を図るため、ドイツやEU諸国、米国、G7国さらにNATOに対して、共にシェアーできるdemocratic value や、同盟関係、連携による強化を進めるべきで、それこそはZeitenwendeへの究極のツールとし、以って本稿副題への解とする処です。

実は、昨年2022年2月27日、彼はドイツ連邦議会でZeitenwende speech(注)と称される演説を行っています。当該論文は、その演説をベースにグローバルに広がる時代の転換点として、再編されたものでした。 その際の内容は上記の次第ですが、 Zeitenwende (英語では,end of era: turning point) とはロシアによるウクライナ侵攻で悲惨な状況を露わとする処、技術革新がそれを一層深め、世界はMultipolar Era、多極化が進むようになったと指摘する処、同時に、嘗てのような冷戦構造に陥ることのないよう、その為には西側陣営で共有されている理念、つまりfreedom ,equality, the rule of law, and the dignity of every human being are value not exclusive to what has been traditionally understood as the West を確実たらしめ、強権的権威主義との決別をと、示唆するものでした。

尚、Zeitenweende, ドイツ語で悪霊を呼び込むほどに忌まわしい変化という由ですが、ショルツ首相は、‘the new political situation on the continent as a “ historic turning point” ’と再定義する処です。そしてZeitenwendは2022年の「ドイツ語大賞」にもなるものでした。

    (注)シヨルツ首相の議会演説(英訳抜粋):
    We are living through a watershed era. And that means that the world afterwards will
no longer be the same as the world before. The issue at the heart of this is whether
power is allowed to prevail over the law. Whether we permit Putin to attack back the
clock to the nineteenth century and the age of great powers. Or whether we have it in us to keep warmongers like Putin in check. That requires strength of our own.

序で乍ら、3月18日、シヨルツ首相、来日の際、日独政府間で新しい定期協議「日独政府間協議」が立ち上げられ、もとより、これが対中牽制で両国が接近したと云うものですが、この際は「自由で開かれたインド太平洋」の実現についても申し合わせが行われています。

(注)日独初の政府間協議:日独政府は3月18日、経済安保を軸に初の政府間協議を
開き、重要物資の脱中国依存といったサプライチェーンの強化やサイバー攻撃からの
防御などで協力を深めんとする処です。

ショルツ氏の対ロ政策路線は今では、中国・ロシアに対抗する西側の一致した政策姿勢と云え、4月4日、北欧のフィンランドが、ロシアが敵視するNATOに加盟したのも、これまで北欧で堅持されてきた対ロ政策、中立政策の放棄となる点で大きな転換点となる処です。この結果、NATOのロシアと接する国境は1200キロから2500キロに延びる事で、NATOの対ロ抑止力強化となる処です。この変更でロシアは国境警備で人的、経済的資源の手当を余儀なくされ、ロシアが戦争を続けるためには当該戦争コスト全般を引き上げることにならざるを得ず、この点、ウクライナ支援国には、ロシアが戦争を続けるコスト全般を引き上げさせ停戦につなげる戦略の可能性も指摘されると云うものです。以って、民主主義と自由主義の西側と、中国・ロシアの専制主義国家との対立を益々鮮明とする処です。

(2)もう一つのGlobal trend
欧州にみる対ロ政策上の一元化が進む一方、新たなトレンドも生まれる処です。 ロシアのウクライナ侵攻もあってグローバル化の逆回転が加速する中、今次(3月31日)決定を見た英国のTPP加盟は、欧州のアジア太平洋経済圏との新たな交流機会の拡大、自由貿易圏の拡大と、期待の高まる処です。
そうした中、注目を呼ぶのが中東での地政学的変化です。中東ではアメリカを支えとしてきたサウジとイランとの対立を基軸としていた緊張関係に緩和の兆しが出てきたことでした。
3月6日、サウジとイランが中国で外相会談を開き、同日付で正式外交関係を再開、更にサウジとシリアも12日、国交正常化で合意(日経、4/14)を見る処です。こうした外交関係の新展開は、中国主導の秩序再編ともされ、この三者を接近させた共通項は米国への不信感と伝えられる処、これまで中東に深く関与してきた米国の弱体化を印象付ける処です。 
さてイラク戦争からちょうど20年、対米不信を強める中東の指導者たちは「盟主」不在の新しい時代へ、備えを急ぐ状況と伝えられる処です。

一方、Financial TimesのChief Commentater ,Gideon Rachman氏は、「China ,Japan and the Ukraine war 」と題した論考(3/28)で、欧州とインド太平洋地域でみる戦略的なライバル関係が、a single geopolitical struggle, 地政学的対立の様相を強める処、その行方について西側も中ロ陣営もそして、Global Southも全ての陣営は責任ある対応をと,叫ぶ処です。そのGlobal Southこそは今、強いインパクトを以って動き出す処、それを主導するのがモデイ政権下のインドです。今、手元に届いたThe Economist,April15-21の巻頭言では「Can the West win over the rest?」と、西側陣営はグローバルサウスに対抗しうるか問う処です。

そこで今次本稿では、上記事情を大きな枠組みとして、まずGlobal South にフォーカスし、Global Southの盟主 インドと日本との新たな結びつきを検証すると共に、前述英国のTPP加盟で期待される新たな欧州のアジア太平洋経済圏との交流、自由貿易圏拡大の可能性を考察し、上記Rachman記者の現状分析を検証する事とします。そして今次の銀総裁の10年ぶりの交代に合わせ「アベノミクス」の意義を問い質し、締めとしたいと思います。


第1章 Global Southと日印関係 そして、英国のTPP加盟

(1) Global Southと, 日印関係の深化
上記西側陣営と中ロ両陣営の行動様式はまさに、アジアと欧州における地政学的対立関係を高める処、欧米とは一線を画す独自の行動様式を示す陣営として今、注目を呼ぶのがGlobal Southです。 Global southについては、定まった定義はありません。が、かつて「第三世界」とも云われた南半球を中心とした新興国、途上国を指す処です。その代表格を任じるのがモデイ政権下のインド、しかもこの秋のG20サミットの議長国です。

そのインドは今年、1月12~13日、ワシントンでの米印二国間通商会議(1月11日)に引き続き、「グローバルサウスの声サミット」( Voice of Global South Summit)と呼ぶオンライン国際会議を開催 、そこには世界の3分の2に当る125カ国が参加したのです。その会議でインドのモデイ首相は、食料・エネルギー危機、インフレ、気候変動などに触れ、「問題の大半は途上国が作り出したものではないが、われわれは多大な影響を受けている」と指摘し、併せて「途上国の優先事項はインドの優先事項」と語り、「グローバルサウスの声の増幅を目指すのは当然だ」と国際的なリーダーシップに意欲を示したと報じられる処です。(日経2023/1/30) 一方、岸田首相は1月23日の施政方針演説で、「世界が直面する課題に、国際社会全体が協力して対応していくためにも、G7が結束し、いわゆるグローバルサウスに関与していく」と強調する処です。

尚、Global Southとは上記の次第で、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの新興国、等「途上国」を指す概念と云え、彼らの可能性については昨年、2022年12月25日付日経は、global economics trendsとして長期見通しを掲げていましたが、それによると 日米など先進国の成長は鈍化し、一方、インドなど新興国は高い成長が続くとする処です。 序で乍ら、米大手金融機関(ゴールドマンサックス)が12月発表した「2075年のGDPランキング」では次の通りで、[1.中国、2.インド, 3.米 国. 4.インドネシア、5. ナイジェリア、6.パキスタン、7.エジプト、8.ブラジル,9.ドイツ,10.英国 ]という事ですが、先進国の3カ国に対し,Global Southが7か国とglobal southの存在感を感じさせる処です。

・深化する日印関係:
さて、先にG7 サミットに備え、メンバー6か国の首脳との事前の腹合せを終えた岸田首相は3月20日、上記 事情を踏まえインドを訪問、global south の雄、モデイ首相と会談、G7議長国日本とG20との連携を演出する処、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」の実現に向けた新たな推進計画を明らかとするのでした。

The Economist , 3/25~31,2023は今次岸田首相のインド訪問を、「global southの重要性に照らした積極的な行動」と評すると共に、日印関係の深まる背景を詳しく語るものでした。
そもそも、「インド太平洋」とは、2007年安倍晋三首相(当時)がインド議会で行った演説にあって、その際の彼の発言に負うものと指摘する処です。
つまり「India and Pacific ocean to be seen as one strategic space, and for Japan and India to recognize their shared interests.」と訴えたこと、そして、こうしたidea がベースとなって今日云うan expansive Indo-Pacific view of Asian securityが広く人口に膾炙する処、前駐印米国大使(2017~2021)Kenneth Juster氏のコメントを引用し、日印のこうした関係なくしてIndo-Pacific というコンセプトは成り立ちえないと伝える処です。

当該エコノミスト誌はこうした日印関係の深化について、’ Under a bodhi tree’ つまり、菩提樹の下で語り合い、深化する日印関係と云うことですが、その副題にあるのが、`Fear of China has made India and Japan close. They could be much closer’、つまり中国の脅威を事由として、日印両国の関係の深まりを語る処、両国関係の深化に期待すると云うものでした。上記の通り、インドは次期G20サミットの議長国、そしてGlobal Southの盟主を自任するインドとG7サミットの議長国、日本が連携を深める点で、これが途上国支援を強める中国に対抗するものと見られる点でも、世界の注目を呼ぶ処です。 そしてAsia’s democracies stand increasingly united across the region’s two great seas. India and Japan sit at their south -western and north-eastern extremes – and fear of Chinese assertiveness lies at the confluence. と、締める処です。

  (注)世界の中のインド:4月19日、国連人口基金(UNFPA)が公表した世界人口白
書では、2023年7月1日時点でインドは14億2863万人、中国は14億2567万人で
インドが約290万人上回り、世界最多人口国になると云う。(日経4/20)

・日本の対途上国インフラ支援計画
岸田首相は、3月20日、訪問先のインドで演説し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた新たな推進計画を明らかとするのでした。具体的にはglobal southと呼ばれる途上国のインフラ整備等を支えるため日本は2030年までに官民で750億ドル(約9兆億円)以上を投じると云うものでしたが要は、インドを通じて日米欧が重視する国際秩序を保つべくグローバルサウスを促し、伝統的にロシアと友好関係にあるインドからも協力を得たいとの思惑も映る処です。 4月10日付日経では、「目覚めた巨象をとりこめ」とする記事の掲載がありましたが、これが今の日本への檄とも映る処です。

そして当該演説ではFOIPのビジョンを共有する範囲について米欧豪そして韓国だけでなくASEANや中東、アフリカ場度にも拡大し「共創」の輪を広げると唱える処でしたが、このFOIPを軸にしてグローバルサウスと安保面でも結びつきを強めることは、中国と対峙する米戦略の下支えとなる処です。かくして日印の関係はまさにグローバルサウスとの協調の試金石とも思料する処です。 

岸田首相は、広島サミットでアウトリーチ(拡大会合)に8カ国の首脳を招待しています。その内、インド、ブラジルなど6か国がグローバルサウスにあたると云うものです。
サミットでの拡大会合では食料・エネルギー安全保障などの問題が取り上げられることになるものとされるのですが、要は、岸田首相としては広島サミットで、経済安保をサミットの主要議題と位置付けたい意向の伝わる処です。岸田首相は、4月末から大型連休に、エジプト、ガーナ等アフリカ訪問を予定していますが、これも同様趣旨を映す処です。

尚、4月14日、中国の習近平主席は北京に滞在中のブラジルのルラ大統領と会談していますが、同主席はブラジルへの投資と貿易拡大を伝え、両者の蜜月を誇示する処と報じられています。(日経,4/15)米中の対立の長期化を見据え、まさに「グローバルサウス」の取り込みを図らんとする処、習氏はブラジルを「共通の利益をもつ戦略パートナー」と位置づけ、外交において優先的に扱うと伝えた由です。こうした中国のアプローチに対して、新興国のつなぎ留めを図るG7も一枚岩でいられるものか、先のマクロン仏大統領の発言もあるだけに懸念の残る処です。 中国抑止に向けたG7の結束が緩めばグローバルサウスに対する求心力を失うと云うものです。

(2)英国のTPP加盟は、新たな欧州とアジアの結節点
さて、3月31日、自由貿易体制が危機にあるとされるなか、TPPに参加している11か国は英国のTPP加盟を認めると発表しました。ここで云う危機とは、「米国第一」を掲げたトランプ前政権が2017年、TPPから離脱し、中国からの輸入品に高関税を×等保護主義に傾いたのがきっかけでした。 一方、英国にとってEU離脱後の「インド太平洋地域への関与強化」の目玉政策としてきたのがTPP加盟でした。

今次、TPP加盟国の閣僚会議で英国の加盟が承認され、7月予定されている11カ国と英国との閣僚級会合で協定に署名し、その後、各国の国内手続きを経て加盟が正式に決まるのですが、これで日本、豪州、シンガポール等インド太平洋地域が中心だったTPPは、先の米国の脱退で二国間自由貿易協定、The Compressive and Progressive Agreement for TPPとなるのが実態でしたが、欧州を含めた自由貿易圏の拡大に弾みになると云うものです。

因みに、英国政府によると、同国の加盟で世界のGDPに占めるTPP加盟国の合計は12%から15%に拡大し、併せて貿易総額では、6.6兆ドルから7.8兆ドルに拡大するとみられる処、この英国の加盟によって、日本やオーストラリア、シンガポール等太平洋を囲む国が中心だった枠組みが、欧州も巻き込んだ経済圏になると云う点で英国の加盟の意義があると云うものです。もとより英国はTPPの加盟を通じて今後のアジアの成長力を取り込んでいくとするのでしょうが、 EU離脱後に国際社会で改めて存在感を示す意図も伝わる処、要はアジアと欧州の新たな結節点の誕生とみる処です。今次ロシアのウクライナ侵攻もあってグローバル化の逆回転が加速する中、TPPに英国が加わることの意義は極めて大きく、これが経済安保にも配慮しつつ、自由貿易を立て直す契機とすべきと思料するのです。

偶々来日中の英国ビジネス貿易省のドミニク・ジョンソン投資担当閣外相は4月3日、日経記者とのインタビューで、英国のTPP加盟が認められたことについて「インド太平洋地域は地政学的に重要であり、英国の戦略の根幹をなす」と発言していましたが、TPPへの参加を通じて、加盟国の多いアジアへの関与を深める姿勢を強調する処です。(日経4/4)

バイデン米政権は国際協調を重視する一方で、中国への輸出規制は強化する状況にあって、力による現状変更を試みる中国を抑止するには已むえぬ面もある処、それを理由に規制を強め過ぎれば世界経済の深刻な分断を招きかねずで、TPPの今後については、中国と台湾の申請をどう扱うかが焦点になるものと思料される処ですが、この際は英国の加盟を奇貨として、米国にTPPへの復帰を強く働きかける責務があるのではと思料する処です。

・フィンランドのNATO加盟
序で乍ら4月4日、前述したように北欧のフィンランドはNATOに正式に加盟しました。対ロ戦略上フィンランドのNATO加盟は、ロシアのウクライナ攻撃に始まる安全保障の確保が難しくなったことで、これまでの中立政策、旧ソ連との戦争の歴史などを踏まえて保ってきた軍事的中立を放棄せざるを得ず、NATOの安全体制に逃げ込まざるを得なくなった政治事情を映すものとされ、歴史的な意義があると云うものです。ただ、「ロシアの脅威」を上回る最大の理由は2021年12月にロシアが米国とNATOに提示した安全保障に関する条約案にあって、そこにはロシアは「NATOが更なる東方拡大をおこなわない」ことを約束し、法的に保障するよう求めたことにあって、これはフィンランドにとって受け入れ難い話と、伝えられていたのです。 

ロシアはこれまでNATOの拡大を軍事的脅威と捉え、外交を展開してきており、今次フィンランドの加盟はロシアとNATOとの境界線の延長となるだけに(1200キロから2500キロと1300キロメートル増える)、このことはウクライナ侵攻前より安全保障環境の悪化は間違いないと思料される処です。つまりNATO加盟国との国境に近い地域の軍備増強は財政面での窮状は必至となる処、ロシアはベラルーシ領内に戦術各野配備を公表し、NATOへのけん制を強める処です。4月4日、ロシアのペスコフ大統領報道官は記者団に対して「NATOの拡大はロシアの安全保障や国益への侵害であり、我々は対抗策を講じる」と対抗心を露わとする処です。


第2章 アジアと欧州で進む地政学的対立の行方

(1)Financial Times Chief Commentater、Gideon Rachman氏の大いなる懸念
世界の今日的状況は前述の通りで、ロシアによるウクライナ侵攻を巡っての地政学的対立構図が深まるなか、このトレンドが世界的な悲劇へと発展することを阻止すべきとし、西側も中ロ陣営も、そして第3陣営としてのグローバルサウスも共にそれを食い止める責任があると声を挙げるのが上掲、Gideon Rachman 氏です。

同氏は3月28日付Financial Timesに掲載の論考、 `China, Japan and the Ukraine war‘ で、岸田首相と中国習近平主席が時を同じくして(3/21)、片やウクライナ、片やモスクワを訪問したことの意味を問いながら、改めてウクライナ侵攻が世界的問題であることを再認識する一方、そこに見る欧州地域とインド太平洋地域で蠢く二つの地政学的動きの行方について、The emergence of two rival global blocs has sparked inevitable talk of anew cold war. There are clear echoes of that conflict with a Russia-China alliance once again squaring off against a US-led coalition of democracies – while a large group of non-aligned nations, now labelled the `global south’, hovers on the sidelines. と現状を分析し、1930年代のような対立を繰り返すなと、訴える処です。
つまり、西側と中ロ、更にはグローバルサウスを含め全ての陣営は、欧州とアジアで展開される対立構図が、30年代、アジアで起きた日本を巡っての世界的悲劇に発展しないよう食い止める責任があるとするもので、極めて緊張の論考です。下記はその概要です。

・まず、日本と中国は東アジアで激しくしのぎを削っているライバル関係だが、どちらも欧州での紛争の行方が自分たちの今後に大きな影響を与えると認識している。
・ウクライナを巡っては日本と中国は互いに相手の動きを読みながら動いているが、「Euro-Atlantic and Indo-Pacific regions」における戦略的ライバル関係は、益々互いに重なりつつある処、こうした動きは最近, 一段とひとつの地政学的対立の様相にある。
・習氏のモスクワ訪問(3/21)は、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授の見立てをリフアーし、中ロの間には `the most consequential undeclared alliance in the world’ (世界
で最も重要な宣言なき同盟) 、つまりユーラシア大陸を横断する中ロの枢軸関係が存在することが明白になった。
・この中ロ同盟に対抗するのが、米国と密接な同盟関係を結ぶ複数の民主主義国家だが、
この陣営は、大西洋を股にかけた軍事同盟NATOと、日本を筆頭とするIndo-Pacificのアジア諸国と米国の同盟関係によって強固な関係を築いている。
・バイデン米政権は、米国とアジアそして欧州との二つの同盟関係の連携強化を進め、昨
年には日本、韓国、オーストラリア、NZのNATO首脳会議への出席を主導した。
・ロシアと中国はこうした動きの全てを苦々しく思っている。因みに3/21の中ロ共同声
明では、NATOがアジア太平洋諸国と軍事的安全保障の強化を図り続けているとし、併せて米国の動きをすべて「冷戦時代の発想」に根差すものと批判する。
・対立する二つの陣営が世界に出現してきた事で新たな冷戦が始まったとの議論も高まる
 中、中ロが米国を中心とする民主主義を敵視する一方、いずれの陣営にも与しない多く
の途上国(グローバルサウス)が両陣営の動きを伺う状況がある。
・そこで西側も中ロもそしてグローバルサウスの全ての陣営は、欧州とアジアでの西側と
中ロ陣営の対立が結び付き、世界的な悲劇へと発展させないよう食い止める責任がある。

まさに、グローバル経済の現状を総括するがごとくですが、さて問題は、こうした指摘に,
いかような具体的対応を示せるかです。

(2) 結束を演出したG7 外相会合
5月のG7サミットの前座とされる頭書G7外相会合は4月16~18日、法の支配に基づく国際秩序の堅持を軸とした共同声明を以って、そしてその結束を演出するが如くに閉幕しました。従って次に来るのは共同声明に盛り込まれた事項(対中国・インド太平洋、ウクライナ侵攻への対抗、そして各軍縮・不拡散)をいかに具体的に対応していくかですが、とりわけ上記「法の支配」に基づく国際秩序を立て直すには、新興・途上国を引き込む具体策が課題となる処、これこそは5月のG7サミットに求められるテーマと云え、勿論これが上述Rachman氏への回答に繋がること、云うまでもない処です。
序で乍ら4月13日、IMF春季総会でギオルギエバ専務理事は、上記事情に照らし、各国に対して「第2の冷戦」を避けるべしと、具体的には、増大する軍事費やサプライチェーン等の分断が経済的コストに係ると警鐘を鳴らす一方、「(様々な人々の)才能や世界への貢献が失われた」とし、「このようなことが繰り返されるのを‘見たくない’」と強調、同時に「防衛費を増やさねばならないと云う国際社会への‘メッセージ’ になったのは悲劇だ」と懸念を示す処です。(日経4/14 夕)

さて、課題てんこ盛りの「5月G7サミット」、議長国日本の出番一杯と期待される処です。


おわりに アベノミクスの悲劇

4月8日付を以って日銀、黒田総裁は退任、代わって9日、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏が新総裁に就任しました。何と10年ぶりの交代です。この間の黒田金融政策は、結局は日本経済の後退を印象付けるものの他なく、目下は黒田前総裁の10年間の金融行政への論評がにぎにぎしく飛び交う処、筆者も市井の政策watcherの一人として、改めて手元のメデイア情報スクラップを読み直し、彼の金融政策の足取りをreviewしてみました。

2012年、自民党総裁と首相への返り咲きを果たした安倍晋三氏が切り札としたのがデフレからの脱却。そして同時に日銀に大胆な金融緩和を求め、その大転換を担う新総裁に元財務官の黒田氏を起用し、当の黒田氏は2013年4月、国債の大量購入を軸とする異次元緩和を始動させ、アベノミクス3本柱(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)の中核を担うようになり、異次元緩和の10年が経過したと云うものでした。 その結果は周知の通りで、異次元緩和は当初こそ円安・株高を通して目覚ましい成果を上げたものの結局、「2年で2%の物価上昇」の約束は果たされず、だが、緩和の維持が自己目的になり、政策修正を余儀なくされても安倍氏の信頼は揺らぐことはなかったとされる処、その安倍氏は2022年凶弾に倒れたことで、大きな後ろ盾を失った黒田氏は漂流の色を濃くしつつ、この4月、任期満了となったと云うものでした。

10年に及ぶ黒田氏の異次元の金融緩和策の結論は失敗。そもそも金融政策を以って経済の回復を狙う事は能わずで、中央銀行、日銀の使命は「物価の安定」と「金融システムの安定」にあって、守備範囲を超えた経済の再生等は、構造改革があってなし得ることを逆説的に実証したと云うものでした。 加えて、時の政権との癒着を深め、結果、中銀の政治化を進めていった事も大きな問題と云え、それを象徴するのが2013年1月、政府と日銀との間で取り交わされた「政策アコード」(デフレ脱却と持続的経済成長の実現のため政府と日銀との政策連携を確認した共同声明 )の存在ですが、それが結果的には自縄自縛になったと映る処です。 因みに黒田体制の10年間で日銀が市場から買い上げた国債は963兆円に達し、勿論この一部は償還されたものの保有する長期国債は3月20日時点で575兆円と異次元緩和前と比べ約6倍、全体に占める日限の保有率は54%に達する処、その結果は、黒田日銀は政府の為の銀行と化し、国の財政規律を緩める処ともなったと云うものです。まさに「アベノミクスの悲劇」と、映す処です。

かくして黒田日銀の10年は、超金融緩和の長期化で経済の新陳代謝は進まず成長力は鈍化、金融政策は日本経済が抱える課題解決の脇役にすぎないことを立証したと云うもので、その副作用として官民の生産性向上に対する規律を弱める処となったとされる処です。成長戦略も十分ではなかったという事もありで、日本経済をどう押し上げていくか、経済再生に向けた政策の再構築が求められる処ですが、その前に、まずこの実験的な金融政策の総括が求められる処、それは同時に、日銀が中央銀行としての独立を回復するプロセスとも思料する処です。(2023/4/24)                             
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2023年03月25日

2023年4月号  世界の異常と、日本の安全保障体制 - 林川眞善

― 目  次 ―

はじめに:今 世界は安全保障環境の異常と対峙して
[ 1 ] 岸田内閣の新安保政策と、日米関係  
[ 2 ] 現代流、防衛のかたち            
[ 3 ] 進化する世界の安保環境           
おわりに:「新冷戦」というRhetoricに想う





はじめに: 今 世界は、安全保障環境の異常と対峙して 

昨年12月16日、現下の異常ともされる安全保障環境にあって、岸田政府は既承のとおり、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」(座長、佐々江賢一郎元外務次官)の報告書を受け(2022/11/22)、‘国を守る安全保障政策’を策定、これを閣議決定、更に2023年1月13日、ワシントンで開かれた日米首脳会談では今次策定の新安全保障政策(防衛3文書)について意見交換があり、バイデン大統領からは当該安全保障戦略につぃて高い評価があり、同時に新国家安全保障戦略を踏まえ、日米の軍事同盟の現代化(Modernizing)を進めるべきと示唆があり、以って戦略の日米統合を前提とした我が国の新防衛体制が確認されたのです。

さて、上記 異常な安保環境とは、云うまでもなく2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻です。そして、このウクライナ侵攻が過去の例と決定的に異なるのが、戦後世界の安全保障に係る統治機構、つまり国連安全保障理事会ですが、その常任理事国で、核保有を認められているロシアが国際秩序を侵す暴挙に出たことです。そして3月21日には米国との新戦略兵器削減条約(新START条約)の履行停止を宣言したことで、核抑止の均衡が揺らぐ不安を世界全域に広げる処となったと云うものです。

(注1)戦後世界の安全保障体制(1945 ~ )
・世界の政治・社会 :国連 安保理事会 (常任理事国 [核保有を容認されている5か国])
    核抑止力の確保はウクライナ侵攻の教訓。
・経済(金融政策) :IMF(先進国) World Bank(開発途上国)

そして世界はいま、専制国家、ロシアと、ウクライナを支援する米欧そして日本を含む西側陣営との対立構図を深める処です。因みに3月13日、米英豪首脳会議で豪州に原潜配備計画を発表。インド太平洋地域の防衛能力を強化し、海外進出を図る中国を牽制せんとするものですが、中国は14日の記者会見で豪州の原潜計画に断固反対と批判する処です。
 
一方、日本も同様、この種事件に見舞われています。2月18日の夕刻、防衛省は北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイル1発を発射し、日本の排他的水域(EEZ)内に落下したと推定されるとの発表がありで、この北朝鮮からのミサイル発射が日本のEZZ内に届いたことで、これは初めてのことですが、日本にとって、米中同様、北朝鮮がしかける対日侵攻というリスクを改めて可視化されたと云うものでした。その後数回にわたり同様事件が続いて起こっています。3月16日の朝、北朝鮮が午前7時9分ごろICBM級の弾道弾ミサイル1発を東方向に発射したと防衛省が発表しましたが、2023年に入って、これで6回目となるものでした。こうした事態への取り組みとして岸田政府は昨年暮れ、前出新たに日本の安全保障に係る政策を決定する処です。

偶々、文芸春秋3月号では「防衛費大論争」の特集を組み相変わらずの面子、自民党政調会長の荻生田光一氏、京大名誉教授の中西輝政氏、自衛隊元陸将の山下裕貴氏が、GDP比2%論、日本を守るために必要な装備は何か、とい紙上討論を掲載する処でしが、中でも今必要なことは「富国強兵」のスローガンだとする時代錯誤した指摘に、まさに「あんぐり」 。

そうした状況に照らし今月論考は今一度、日本の安全保障対応の実状にフォーカスする事とし、昨年12月策定された「日本の安全保障政策の概要」と、それによる「日米安保関係」の変化について、そしてこの際は、 ‘安全保障問題対応の基本’ について触れながら、今後の日本を取り囲む環境に照らした日本の安全保障対応の在り方について、ごく直近には解決の見通しが出てきた日韓関係の行方とも併せ、考察していく事としたいと思います。加えて21日の朝、岸田総理のウクライナ電撃訪問のニューズが入ってきました。


  [1] 岸田内閣の 新 ‘安保政策`と 日米関係

1. 今日に至る戦後日本の安保体制と新安保政策

(1)日米安保体制の推移:1949年サンフランシスコ講和条約と同時に、日本における安全保障の為、米国が関与し、米軍を日本国内に駐留させることを定めた二国間条約(旧日米安保条約)が締結され、その後、1960年に見直しが行われ、「日米間の相互協力及び安全保障条約」(新日米安保条約)の発効を以って今日に至る処です。そして、当該条約の下、対日攻撃に対しては米軍が対抗、日本は専守防衛の立場からは米軍への便宜供与を専らとする、いわゆる日米間のsecurity commitmentとされ、以って今日に至る処です。つまり日本の主権回復を引き換えに、米国に日本の防衛権を委譲するものでした。 

(2)防衛3文書と日米新安保体制:しかし2022年2月以降の異常な国際環境に与すべく、岸田政府は、2022年12月16日、政府有識者会議の報告書を受け、国家安全保障戦略など防衛政策に係る新たな方針となる防衛3文書、「①国家安全保障戦略、➁国家防衛戦略、③防衛力整備計画」を策定し、閣議決定を以って日本の新安全保障戦略とする処、更に、この3文書をベースに、後述1月予定の日米首脳会談に備えて、別途、日米間では「中国との戦略的競争」と記す文章が作成され、以って日米新安保戦略とする処、そこに日本の自主防衛能力の向上と、米国の防衛義務を明記し、日米同盟の基礎とする処です。以下はその概要です。(日経、2月28日)

[日米の新安保戦略] 
➀ 日米同盟の現代化(Modernizing):日米同盟は日本の安保政策の基礎と明記。反撃能力の保有を閣議決定し、自立した防衛を宣言。加えて、抜本的な防衛力の強化と新たな戦い方の推進で抑止を担保する事とし、以って日米関係は新安保戦略の下、米軍と自衛隊の統合運用(サイバー・宇宙といった新領域の現代戦への対処協力を含め)を目指す。
➁ 態勢の最適化(Optimizing Posture):南西防衛への態勢 (台湾、尖閣諸島へ備え)、米軍再編の推進(辺野古への基地移設)
③ 協力関係の拡大(Expanding Partnerships):協力枠組みの拡大(韓国、クワッド、NATO)、装備品移転や能力構築(東南アジアなど)

                                
2. 新安保体制で、何がどう変わるのか

(1)日米関係の変質 ―自立した防衛体制
これまでの日本の安保体制は米国と共にあって、上記「安全保障条約」(1960/1/19)の下、日米両国は武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従う事を条件として、維持し発展させる(第3条)とされていています。(従って平和憲法を守る日本には武力攻撃に抵抗する能力は持たない)、そして第6条で「日本の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため米国は陸軍、空軍及び海軍が日本において施設及び区域を使用する事を許される」と規定され、日本は専守防衛の「盾」、米国は他国への攻撃を担う「矛」の日米役割分担(Security commitment)の下、今日に至る処でした。

しかし、今次策定の安保戦略では日米共同で抑止力を強化する、つまり日米統合防衛を目指すことになり、以って米国従属型の日本の安保体制が修正され、日本の安保政策の大転換となる処です。そしてそれを象徴するのが相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有を閣議決定した事ですが、以って「自立した防衛」へ大転換となる処です。

(注)この際の問題は「反撃能力」の行使のタイミング。2023年1月30日の衆院予算
委員会では岸田首相は「反撃能力」に関し、日本と密接な関係にある他国への武力攻撃
で日本に危険が及ぶ「存立危機事態」にも発動可能とし、安保関連法が定める条件に基
づき「具体的に対応する」とも語る処。なお、22年末計画では23~27年度、防衛費は
43兆円と決定、19~23年計画比6割増。最終年度GDP比2% を目指す由。

・日米統合防衛を決定づけた日米首脳会談
日米統合防衛を方向付けたのが、1月13日のワシントンでの日米首脳会談でした。つまり、岸田首相はG7サミットに向けた腹合わせの為として訪米の際の日米首脳会談で、日米新安保戦略について意見交換があり、バイデン大統領からは「日本の歴史的防衛費の増額と新国家安全戦略を踏まえ、日米の軍事同盟の現代化(modernizing)を進めたい」と言及があり、以って日米が統合防衛に向かう事が確認され、メデイア(日経2023/1/14)は以って日米同盟関係の深化と評する処です。
ただ、その深化とは日米が一緒になって戦う事を意味する処、特に明記はないものの、前述の「反撃能力」保有の決定とも併せ、実質的には集団的自衛権を容認するものと云え その点では日本の安保政策は、より自主的なものへと方向づけられ、まさに方針の大転換となる処です。 尚、13日の日米首脳会談を終えた岸田首相は、米ジョンズ・ホプキンス大学で講演し、そこでも日米同盟を基軸に中ロなどへの抑止力を高めると訴え、今次改定の安保関連3文書を以って「米国、世界に対する日本の強い覚悟を明確にした」とする一方、これがインド太平洋地域の利益に繋がると強調、今次の防衛力強化を「日米同盟の歴史上、最も重要な決定の一つ」と(日経1/14)と位置付けるのでした。

(2)今後、日本に問われていく事 ― 外交力の強化
これまでの日本の安保体制は米国と共にあって、上記 日米間の「安全保障条約」(1960/1/19)の下、日米間のいわゆるsecurity commitmentを以って今日に至ってきたその関係が,今次の新安保戦略を以って修正され、今後の取り組みについては、より自主的、自律的なものとしていくことが期待される処ですが、同時に、日本の置かれた環境に照らす時、対外的に友好国等との連携、協調を深めていく事が不可避となる処です。そして、そこに求められることは、外交力の強化であり、戦略的な外交の推進となる処と思料するのです。

日本外交の推移を見るに、その規範は多国間主義にあって、それこそは日本としての現実への対応とも云え、中国ともそうした枠組みの中で対応してきています。そして日本にとり重要なことは、この「多国間主義政策」を根本で支えているのが「日米安保体制」という現実ですが、上記の次第で、日本の使命への期待も変わりつつある処、それだけに新安保と並行して、より重要となるのが外交力の強化となる処です。

さてこれまでの防衛論議の基本は軍事装備の拡充にあって、防衛費の増額や反撃能力の保有などについての議論ばかりでした。しかし、上記岸田講演でも指摘あったように、当該地域への貢献を念頭とする防衛となると、多元化する今日的環境にあっては何よりも侵攻が仕掛けられないよう国家運営を固める事であり、であれば敵対陣営に ‘今、攻めれば勝てる’と云った想いを抱かせない状況を堅持していくことになる処です。 その為にも、日本への理解を深め、隣人、友好国を作り、その輪を広げていくことが殊の重要になってくるのです。つまり`外交‘ こそは 日本‘防衛’の基本軸と、改めて思料する処です。

因みに、1月 23日付、日経コラム「私見-卓見」に、元教員と称する坂本満氏なる仁が「戦争抑止に外交は無効か」と題し、要は、‘頼れるのは外交’ にありと訴える投稿記事の掲載がありました。勿論一部にはこれが`古典的議論’と忌避する向きのあること承知する処ですが、投稿者の今日的感性に極めて納得する処です。 ただこれが30年代のブロック経済となるようなことは絶対に避けるべきで、現代では経済的繋がりは保ちつつ、先端技術など経済安保に絞った経済圏をつくる視点を失わないことが緊要と思料する処です。

そもそも敵対する相手に、上述「今、攻めると勝てる」との思いを抱かせるような事態を起こさないようにすること、それこそが「防衛」への心構えと云え、そのためには多くの友人、友好国の輪を広める、つまり戦略的外交の展開を図ること、と同時にこれが情報力の強化に繋がる処、日本の外交力の強化とは、まさにその一点にある処と思料するのです。 そして今、その路線を支持する協調環境が生れてきていると思料する処です。そしてそれが示唆するのが、現代流、国の守り方ではと思う処です。



              [ 2 ] 現代流、防衛のかたち
               
1. 安保対応の基本は外交

前出日米首脳会談の内容は,米国主導の安全保障の枠組みにおける日本の役割が、単なる口先支援から潜在的侵略の抑制への能動的な関与へとシフトしたことを印象づけるものでしたが, 同時に、日本をバックアップする、或いは日本との協調を目指す、国や地域が広がりつつある現実を映す処とも思料するのです。
つまり日本を取り巻く安保環境は多様化、多極化しつつあって、直近の世論調査でも日本の抑止力への期待が増す処、そうした期待に応えていく事は、防衛力のみならず経済など各分野を含む、今日的防衛のあり方、現代流防衛の形と思料する処、今年1月の国会では岸田首相も、施政方針演説で「防衛力の抜本的強化」として外交を取り挙げ同様、訴える処でした。

(1)世界の安全保障体制の中心は「インド太平洋」
さて、そうした思考様式に照らすとき、今 世界の潮流、ダイナミズムは、地政学的変化を映す「インド太平洋」に向う処です。そして、この多様化、多極化する環境に如何に対応していくかは、必然的に防衛上のテーマとなる処です。  つまり、日本は当該regionにあって、この新しい時代の当事者として総力を傾け、インド太平洋時代を主導していく事、つまり経済的連携の強化と国際秩序の安定化に向け働きかけていく事、更には経済安定の枠組みの強化を目指す事、が期待される処ですが、その際のカギはやはり上記外交力の強化にほかなりません。 世界はいずれ「米国か中国か」の2者覇権主義の時代に代わり、「3大勢力のバランス時代」が来るのではと思料され、日本がこの第3勢力のリーダーになる事が期待される処と思料するのです。そしてその可能性を実感させるのが、アジア太平洋を中心に進む多国間連携による下記(注)取り組みへの対応です。

  (注)今、世界が注目するアジア経済圏の動き
➀ 日本政府の対応方向(日米中3国間の連携構築を主導)
・済的連携実状―ASEAN地域フォ-ラム
 ・アジア地域の安全保障体制 ―ASEAN,RCEP,新興国が促す協調
 ・米国の対中抑止策(IPEF)
   ② 「インド太平洋」時代の連携の広がり
   ・アジア日本の優位さ(G7議長国、G20議長国インド、ASEAN議長国ネシア)
   ・日英関係 ― 英国は既に日本を公式に同盟国という。日英包括経済連携協定
(FTA/EPA)加えて「日英円滑化協定(RAA)」。更に日英イタリア3カ国の連携で
戦闘機開発。米中やEUもASEANに接近中。
   
勿論、上記環境における問題は、米国の台湾支援と対中経済制裁の推移の如何でしょうが、日本としては長期的スパンを以って上記地政学的環境を優位とした行動様式の下、米中関係に振り回されない硬軟合わせた外交交流を以って中国との話し合いを増やしていくことで、間違いなく米中の仲介、バランサとなり得るのではと期待する処です。そしてその際は、より基本的には‘中国を封じ込める「自由で開かれたインド太平洋」’をと云うより、‘中国を変える「自由で開かれたアジア太平洋」を目指すべき’で、それこそが平和戦略であり成長戦略と、思料する処です。

(2)今夏、NATO首脳会議とアジア4カ国首脳との協働
そうした折、2月16日付日経記事「日韓豪NZと首脳声明へ」は極めて刺激的と云え、同記事によれば、この7月、NATO首脳会議に日本や韓国等、アジア4カ国の首脳を招待し、アジア諸国との首脳声明の発出を検討していると報道する処です。そして、このニューズは、ロシアのウクライナ侵攻が欧州を超えた世界の危機だと訴えるだけでなく、中国へのメッセージも大きいと云うのです。 つまり、「米国民は民主主義陣営の結束を示し、武力行使に代償がある」との立場を発信することで、台湾海峡や南シナ海を巡り中国への抑止につながるとする処です。この共同声明がどういった内容になるか興味は深々ですが、要は民主主義陣営の団結を鮮明とし、中国とロシアに対抗せんとするものと見る処です。

2.今後の日本の安保戦略の在り方

(1)「NATOの教訓」
昨年の春、ウクライナ出身の在日国際政治学者、グレンコ・アンドリー氏の手になる「NATOの教訓」(PHP新書)を読み、そこに展開されていた日本が世界最強の軍事同盟NATOと手を結んではとの提言が,頭を離れないままにあるのです。
周知の通り2022年6月、スペイン・マドリッドで開催されたNATO首脳会議には、岸田首相が、豪州、N.Z.そして韓国の大統領らと共に、招待を受け出席しています。初めての事で異例となるものでした。 そして今年1月30日、NATOのストルテンベルグ事務総長の来日時、NATOとの間でサイバーや宇宙での協力強化で合意を見る処でしたが, NATOのインド太平洋地域への関与を深めることは歓迎すべきものと思料する処です。

そうした折、2月20日付 日経は更に、ドイツや英国では、安全保障戦略の見直しの動きが高まって来たとも報ずる処でした。 つまり、ドイツは3月に初となる国家安保戦略を取りまとめると云い、英国もこの春を目途に外交方針を改めると云うのです。ロシアだけではなく、覇権主義的動きを強める中国の位置づけも軌道修正する見通しとする処です。まさに当該変化が英国とドイツの両国で足並みを揃えた形で進むと云うものです。尚3月16日には経済安保を軸とした日独政府間協議が開かれ、両国間の関係が新たな段階にあるとみる処、まさに日本とNATO間の連携強化が平和維持を可能にする動きと期待する処です。

(2)環太平洋圏とNATOとの協調
上記アンドリー氏は更に、太平洋における集団防衛体制の確立は極めて重要と説く処です。 周知の通り、太平洋の周辺には自由・民主主義の価値観を共有する国がかなりある事、日・湾・豪・NZ・チリ・メキシコ・米国、カナダ他にも中米や太平洋の島国で自由・民主主義の価値観が通じる国は多々とする処です。勿論厳密にいえば北大西洋条約機構は名前からして「大西洋」であり、太平洋までは拡大できないが、実際の方法論としては、NATOと同じ 方式で環太平洋地域の軍事同盟を形成し、その同盟がNATOと合併して世界規模の巨大な事業同盟を築くという事になると、つまりシュミュレーションする処です。 

そして、環太平洋の軍事同盟を実現する最も現実的な方法はTPPをベースにすることだと云うのです。TPPは経済同盟であり、TPPが本格稼働するためには米国に復帰、参加してもらう必要があるのですが、そこで、日本を始め、TPPの現参加国は将来の集団防衛体制の構築を見据え米国にTPPに戻るように働きかけるべきと云うのです。勿論、それは米国の国内問題であり、2024年の大統領選を控え、どこまで許されるものか、シミュレーションながら、いささか困難とみる処です。

が、アンドリー氏は、独裁陣営に最も近い自由・民主主義国の存在は極めて重要とし、そこで「最前線」の防衛が堅固でないと、自由・民主主義陣営の全体に影響を及ぼすことになると主張するのですが、岸田政権がウクライナ侵攻に向き合う際、強調するのも、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」との認識に基づくものとされており、その点では 欧州とアジアの安全保障環境の不可分性が指摘される処です。この点を以って、米国を納得させうるか、簡単なことではないとは思料するのですが。


              [ 3 ] 進化する世界の安保環境

1.日韓関係改善への新展開

さて、日本にとって、安全保障問題の一つとしてあったのが戦後最悪とされていた日韓関係問題でした。3月6日、韓国政府は予ねて懸案の日本政府による戦時中の「徴用工」を巡る問題解決への強い意思表明が届きました。これから具体的な手続きが進むことと想定するのですが、云うまでもなく、これが日韓関係に係る安全保障問題解決への大きな前進となる処です。 きっかけは、韓国の尹大統領が3月1日、ソウルでの演説で、日本との安全保障協力を推進する姿勢を示した事でした。

韓国にとって3月1日は、日本統治下の1919年に起きた「三・一独立運動」の記念日で、韓国大統領が演説で日韓関係に言及するのが恒例とされていたのが、今次、その内容は北朝鮮の脅威を念頭に「安保危機を克服するための韓米日の協力が、いつもに増して重要になった」との発言でした。そして日本に関しては「過去の軍国主義侵略者から、普遍的価値を共有し安保や経済、グローバルの課題で協力するパートナーになった」との認識を示したのです。(日経3/2)まさに歓迎すべきmessage です。3月16日には、尹大統領は単独来日、12年ぶり、日韓首脳会談が行われたのです。韓国政府は経済安保の観点から両国の経済協力が重要と捉え、日本とサプライチェーンの協力を目指すとする処です。この機会に岸田首相は5月のG7広島サミットに招待する事とし、一挙に日韓関係の改善が動く処です。

2. 米主導のIPEF(インド太平洋経済枠組み)と国際協調の広がり

一方、3月1日、米USTRは通商政策の年次報告書を公表する中で、日米14カ国が参加するIPEFについて米国は積極的に主導すると主張、その際は中国への対応をも念頭に「高水準で包括的、且つ公平な貿易政策」を目指すとする処、既に交渉官会合が行われる処です。3/13~19), この5月には日本が議長国となってG7首脳会議の予定ある処、岸田首相は、これに韓国、豪州、インド等、8カ国の首脳及び後述ウクライナのゼレンスキー大統領の招待を考えている由で、新たな国際秩序に向けたシナリオが期待される処です。

更に11月には米国が議長国を務めるAPEC首脳会議が続く処ですが、この際は、前述したように「自由で開かれたインド太平洋」と云うよりは「自由で開かれたアジア太平洋」として、日本が主導し当該地域のリーダー達と共に、アジアにおける安保戦略策定を目指してはどうかと思う処です。 尚、韓国尹大統領は、4/26日、国賓として訪米予定で、迎えるバイデン大統領は首脳会談を経て、日本を加えた日米韓3か国での安全保障協力を深めることが想定される処です。(日経,2023/3/8 夕)


おわりに 「新冷戦」という`Rhetoric’に想う

今年2/24日付日経が特集連載した「20世紀型大国の落日」を読み直し、この1年を振り返り見るとき、20世紀後半の冷戦期の枠組みに当てはめ、「西側自由民主主義同盟 対 中ロ専制主義」の新冷戦時代と云った西側メデイアでみられるレトリックですが、バイデン氏も近時よく使うのですが、現代の今では、不十分ではと感じるようになる処です。

周知の通り、近時の国連総会でのロシアの侵略非難決議での賛否票の推移を見ると、中・印やアフリカ諸国の約半数が棄権もしくは欠席。その一方で対ロ制裁に加わる国は主として西側諸国に限られていて、ロシアの侵略を認めつつも西側と共闘歩調を取らない国が多数あって、そして気になるのが「グローバルサウス」と称される地域は冷戦期の非同盟諸国よりはるかに多様で、且つ影響力の大きさが気になる処です。つまり、そのグローバルサウスの大半は主体的に判断し、行動していると見る処ですが、北半球に偏し、冷戦を主導してきた西側諸国やロシアは軍事的・経済的には依然として強力ですが、冷戦期ほどには、世界の支配力はなく、中国も政権の国内強権化を見ると、その国際的影響力の拡大は峠を越えたのではとも思う処です。尤も今、習近平主席はロシア訪問中(3/20~22)で、目的は対ウクライナ「和平協議」の可能性を探るものの由ですが、さてどのような展開となるものか?

岸田首相はこの5月のG7の議長国として上記 国際事情に照らし、去る3月19日、「グローバルサウス」との安保や経済面で協力する方策を協議すべくインドを訪問、この秋開催のG20では議長を務めるモデイ首相との会談に臨み、その帰路では隠密裏に(完全な情報管制の下、空路と鉄道経由で)ウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談を行い、「G7としての支援」を伝え、激励を果たす処です。日本の首相が、戦闘の続く国・地域を訪れるのは、戦後初となる出来事でした。

こうした、これまでにない文脈で語られる変化、地政学的変化を指して、Mohamed A. El-Erian氏 (President of Queens’ College at The University of Cambridge) は論壇、Project Syndicate, Mar.8 ,2023 への寄稿では、Fragmented Globalizationの言葉を以って総括する一方、京大教授の中西寛氏は2023年2月9日付日経では、ロシアの中・印への依存やインド太平洋諸国と欧州の接近は、今次戦争の行方に拘わらず、国際政治の重心が大西洋からインド太平洋へ、北半球から南半球へと移行しつつあること、そしてグローバリゼーションや地球環境の命運もこうした地域により左右されることを示唆している、とする処ですが、 要はこうした地政学的変動への洞察力が問われる処、安保政策はどうあるべきかが、実はこうした深い文脈で考えられて然るべきものと自身の反省を含め、思う処です。

それにつけても気がかりは,なお続く日本経済のゼロ成長です。3月9日、内閣府公表の2022年10~12月期GDP改定値は、前期比年率で0.1%と、速報値(0.6%増)から下方修正されるものでした。安保政策を固めた今、「新しい資本主義」を標榜する岸田政権が急ぐべきは、経済先進国の再建ではと思料するばかりです。
以上(2023/3/25)
posted by 林川眞善 at 16:41| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする