2018年02月26日

2018年3月号  いまアメリカは’不都合な真実を抱きしめて’ - 林川眞善

はじめに:二つのトランプ ‘教書’

・米大統領一般教書と予算教書
1月30日、トランプ米大統領は、自身、初となる「2018年、一般教書(State of the Union Address)」を米議会に送りました。当該教書は、国の現状(State of the Union)について大統領としての意見を述べ、主要な政治課題を説明するもので、慣例として1月最後の火曜日となっています。そうした位置づけを得る教書ですが、今次の‘それ’は聊か様相を異にするものでした。
つまり、今秋の中間選挙強く意識した、とにかく少ない成果(数字)を誇示するばかりのそれと云え、その姿は一国の大統領と言うよりは、まるで企業の株主総会で業績を報告するCEOの姿と映るものでした。そして、それはこの1年、Snow jobと揶揄されるほどの言動でアメリカ社会を分断し、同時に米国への信頼性を失墜させ ― その点では彼のスピーチの特徴として必ずやbelieve meという言葉を入れていますが ― その結果として「不都合な真実を抱きしめて」暴走せんとするアメリカの姿を浮き彫りする、というものでした。

そして2月12日 年頭教書にフォローする形で議会に提出された予算教書は、景気の底上げを狙った大規模財政の出動を織り込んだーこれも中間選挙狙いですがーまさにトランプ流予算です。もとより、この放漫とも映る財政出動が結果として米経済の運営を困難なものにしていく事になるのではとの懸念を呼ぶ処、以ってトランプ氏は賭けに出たやに映る処です。

・トランプ氏が目指す安全保障戦略
賭けと云えば、今回の教書で多くを割いていたのが安全保障政策でした。今日の北朝鮮状況からは米国として極自然な言及と云う処でしょうが、北朝鮮問題以上に、今回は中国、ロシアを「戦略上の競争相手」と位置づけ、それに向けた米軍の体制強化を訴えるのでしたが、その点では「安全保障環境の急激な変化」を実感させられるというものです。 因みに一般教書と前後して公表された「国家防衛戦略」(1月19日)、そして「核体制の見直し」(2月2日)は、時に「新冷戦体制入り」か、との声も届く処、英誌、エコノミスト(1月27日)はThe Next Warと題した特集を以って、いまや地政学の変化が新たな脅威をもたらしていると、大国間の衝突、次なる戦争の可能性を指摘すると共にそれに備える準備ができていないと警鐘を鳴らしているのです。もとより、こうした動きは日米同盟の在り方の如何を問うていく事にもなる処と思料するのです。

という事で、本稿ではこの2つをテーマに取り挙げ、これが日本のinterestにも重ねながら、当該問題点等、論じてみたいと思います。 尚、折しも米経済学者ステイグリッツ氏が公開した、1月下旬、ダボス会議に出席した際の彼の所感を手にしました。それは同会議に出席していた大企業のCEO連中の不甲斐なさを糾弾するものでしたが、極めて示唆深い内容です。そこで本稿の終わりに添え、各位の参考に供したいと思います。(2018/2/26)

                   目  次
 
第1章 二つの米大統領 ‘教書’ とそのリアル
  ―トランプ米国は ‘不都合な真実を抱きしめて

1.トランプ一般教書に映ること
 ・2019年度予算教書
2.トランプ成長政策のリアル -そこに映る‘不都合な真実’
 ・問題は放漫財政、経験不足のスタッフ
 ・パウエルFRB議長の判断

第2章 米国の安全保障戦略、高まる大国間衝突の可能性

1.トランプ政権の安全保障戦略の枠組みと日米同盟
(1) トランプ安保戦略の枠組み
   ー「米国家安保戦略」と「核体制の見直し」
 ・核体制の見直し(NPR: National Public Radio)
(2)問われる日米同盟の在り方
2.The next war - 大国同士の紛争勃発の危険性
 ・朝鮮半島での戦争勃発の可能性         
 ・既存国際秩序に異を唱える中国とロシア
 ・アメリカと言う名の砦
     
おわりに:Joseph Stiglitz氏、ダボスに集まるCEOsを叱る
    
 ・Post-Davos Depression
 ・経団連会長の交代

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第1章 米大統領の二つの‘教書’ とそのリアル
  ― トランプ米国は ‘不都合な真実を抱きしめて’

1. トランプ一般教書に映ること

昨年1月20日,トランプ氏は就任演説で ` Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs will be made to benefit American workers and American families’ And to the `forgotten men and women of our country’ ・・・と宣誓し、その故を以ってAmerica firstの旗印の下、異端ともされる政治が進められてきました。そして就任1年を経た1月30日、トランプ氏は自身、初となる大統領一般教書を議会に送りました。

その内容は如何です。つまり、グローバリゼーションの煽りで没落した白人中間層、労働者の支持を受け誕生した経緯もあり、これらに応えるべく雇用労働者の対外競争からの保護を名目に、「米国第一主義」を標榜、対外的には自由貿易レジームではなく二国間交渉を通じた是々非々的な貿易・投資レジームを追求する方向を打ち出してきた結果、選挙後の1年間で製造業の20万人を含む240万人の雇用が新たに生み出され、賃金も漸く上がりだしたと訴えるものでした。そして、9年目に入った経済の拡大、彼の唯一ともされる公約、大型減税法案の成立(昨年12月20日)をもって、その成果を誇示するものでした。 云うまでもなくトランプ氏を巡る不評を回避し、この秋の中間選挙対応の支持層を繋ぎ止める狙いと映る処です。そこで彼は`This is our new American moment. There has never been a better time to start living the American Dream.’(米国の新しい時代が来た。アメリカンドリームの実現に最高の時だと)と訴えるのでした。
[尚、今次教書では安全保障政策についてrogue regimes, terrorist groups and rivals like China
and Russiaを米国の国益に挑戦する「競争勢力」と位置づけ、対抗方針を改めて打ち出すものでしたが、この点については次章2に譲ることとします]

ただ、教書で指摘した雇用の増大、等の成果は前任のオバマ政権が打った手が効果してきた結果であり、決してトランプ政権の政策効果と云うものではありません。但し、政治は結果だとすれば、彼の唯一ともされる公約の実現、昨年末成立(12月20日)を見た大型減税法案とも併せみるとき、その限りにおいてトランプ政治は評価されるべきとなる処かもしれません。然し彼に対する支持率はと云えば昨年来、38%と歴代大統領中、最低の水準で推移している事をどう考えるかですが、要はトランプ氏の異端な言動が国内を分断させ、政治への不信を高める等、そうした結果を映すものと云え、もはや彼に対する信頼性の回復は覚束なく、そうした要素が、経済の先行きを難しくしていくものと思料する処です。

つまり、今次の減税措置とは、法人税率については35%から21%へと大幅引き下げ、大型企業減税を以って景気の底上げを狙うものとしています。(注:日本企業で影響が見込まれているのは米国で事業規模の大きい自動車で、アナリストの試算では、トヨタ等3社の2018年3月期の純利益を計8000億円程度押し上げる効果があるという。日経2月3日) 一方、個人所得については最高税率を39.6%から37%に引き下げるものですが、実施に当たっては制度上、高所得者には大きく恩恵をもたらすも、肝心の低所得者へのメリットは乏しい事が云々され、当初の約束とは違って「富裕層優遇」との批判を呼ぶ処となっています。 

一般教書ではトランプ氏は、景気拡大策第2弾として今後10年で1.5兆ドル規模のインフラ投資計画を発表しており、実際19年度予算教書にその一部が既に組み込まれていますが、これもそうしたトランプ批判を回避せんとするものである事、云うまでもありません。ただ、このインフラ投資は生産性の押し上げ効果も大きく、中間選挙を前に幅広い支持を得やすいと思料され、また民主党もインフラ投資を経済政策の柱においている点で、トランプ氏にとっては野党支持層の切り崩しにも繋がると見込む処なのでしょう。

問題は制度設計も白紙状態、財源も投資計画も定かでない中、大型減税、大型インフラ投資が加わることで景気の過熱と財政悪化の大きなリスクが高まり、更には金融市場に及ぼす先行き不安(この点は教書は素通りでしたが)も加わることで経済運営がおかしくなりかねない事、危惧される処ですが、要は秋の中間選挙向けのものと言え、今次一般教書は結果的には、そうした不都合な真実一杯の米経済の姿を映し出すものだったと云えそうです。その限りにおいて、ますますトランプ米国の経済政策の如何に世界の注視が集まるというものです。

・2019年度予算教書
因みに、2月 12日、年頭教書をフォローする形で議会に提出された2019年度(2018/10~2019/9)予算教書[4兆4000億ドル(約478兆円)規模]は、大型減税で歳入が頭打ちになる一方、国防費や公共事業費の積み増しで歳出が膨張。財政赤字は9840億ドル(約107兆円)と7年ぶりの水準、昨年のほぼ倍増の赤字を見込むものとなっています。その特徴はトラン大統領が以前から無駄遣いだと指摘してきた環境、研究開発、外交プログラムの大幅縮小する他、メデイケアー等のセフテイネット・プログラムの削減も求める一方で、これらプログラムの予算削減で捻出した分の一部はメキシコ国境の壁建設や国防費拡大に充てる計画となっています。
尚、10年間では計7兆1000億ドルの赤字で、国の債務は30兆ドル近くまで膨らむ見通しで、10年間で収支均衡を目指すという共和党の目標については、達成断念を示唆する形となっています。まさにトランプ予算です。 問題は議会が、これら予算内容を容認する可能性の如何ですが、既に議員らは新たな予算上限を満たす歳出法案を準備中にある由で、現行暫定予算が失効する3月23日までにトランプ大統領に提示する計画と報じられている処です。ここで問題なのは政府と議会に漂う財政収支に無頓着な空気だと、されている点なのです。

2. トランプ成長政策のリアル - そこに映る‘不都合な真実’

2月10日付The Economist誌は、まさにそうした空気を読み取る一方で、トランプ氏が進める財政出動による経済拡大策は、まさに危険なかけだと指摘するのです。同誌 ‘Running hot’ と題する巻頭論考でThe United States is taking an extra- ordinary economic gamble’ つまり、トランプが目指す政策行動を異常なほどに危険なギャンブルだ、‘Volatility is back’と云い、証券市場では価格が大きく変動する環境が続きそうだと警鐘を鳴らしているのです。

Volatility is backのきっかけとなったのが2月2日発表された雇用増を示す雇用統計でしたが、その指数が同時に米国の賃金上昇の加速を示していたことにあったというものでした。つまり、世界経済の好調のお陰で、停滞していた景気がインフレ局面に変わろうとしていた矢先、前述のトランプ政権んの大型減税に加え、大規模財政出動による景気拡大へと動き出したことで経済は複雑な様相を呈する処、これが投資家の懸念を増幅させ、経済の先行き不安を一挙に高め、その結果株式市場の乱高下となったというものですが、まさに市場のvolatility の高まりは、今後の経済運営に対する不信感を募らせる処となってきたというものです。 当該 The Economist誌は、この実状を量と質の両方から分析するのですが、要はトランプ政権にとって「不都合な真実」を覆い隠せない、言い換えればトランプ経済運営の枠組みの限界が見えてきたと云う事なのでしょうが、暫し、彼らの指摘をレビューしておきたいと思います。

・問題は放漫財政、経験不足のスタッフ
まず、量的な側面という点では、今次の大型減税に加え、インフラ整備等、大規模財政刺激策が加わることで公的債務は来年度には倍増し、1兆ドル(約109兆円)、GDPの5%に達すると見込まれているのですが、これが政府と議会に漂う財政収支に無頓着さにあると叱るのです。1945年以降、80年代前半の深刻な景気後退期と2008年を除けば、これほど放漫な予算を組んだことはないというのです。まさに財政規律の欠如と指摘する処です。

そうした事情に加え、こうした経済実験のかじ取りを務めるのが、近年で最も経験のない人たちによるチームであることが問題と指摘するのです。それはホワイトハウス然り、米連銀(FRB)然りとするのです。そして更に問題は、財政政策を動かしているのはthe mantra that deficits don’t matter. つまり「赤字は問題ではない」という呪文を容認する人たちだというのです。因みにパウエルFRB議長は前任のイエレン氏とは違い、金融政策を学問的に学んだ人物ではないと不安を隠しません。ではこの賭けの結果を左右する決め手は何かですが、米国として中期的にはこの財政赤字に対処する必要がある処でしょうが、短期的にはやはりパウエル氏の判断が最も大きく影響する筈です。ではどんな判断となるのか、です。

・パウエルFRB議長の判断
そこで、パウエル議長は2つの相反する危険の間で難しいかじ取りを迫られることになろうと指摘するのです。一つの危険は、金融引き締めに慎重なハト派に寄りすぎること。もう一つの危険は、経済の過熱を恐れるあまり、FRBが性急かつ過度の引き締めに走る事だというのです。就任したばかりだからとしてインフレと戦う姿勢を印象付ける衝動に駆られる可能性もあるという事でしょうか。 それでも、どちらかと言えば、性急な引き締めの方がリスクは大きいと言うのです。 つまり、完全雇用と言うがその実態は明白でない事、インフレ進行の度合いもすぐに爆発するような状況にない事、さらに労働市場を逼迫させることには大きな利点(低所得者の賃金上昇)がある、としてこれら実状を的確に把握した上で政策判断を、と言うのです。

が、いまトランプがやろうとしている膨大な財政出動による景気刺激策には反対だというのです。なぜなら、設計が不十分であり、無謀なまでに規模が大きいことで、金融市場の変動は一層拡大するだろうというものです。既にトランプ政権はこの実験を始めているわけで`Fed does not lose its head’ 、FRBには冷静を保てと忠告するのです。[(注)2月21日、公表されたFOMC議事要旨では大型減税が景気を押し上げると見て「上向きの利上げ軌道が適切である公算が大」との見方が示されており引き締めペースの加速化可能性を伝えています。(日経夕、2月22日)]

さて、この4月、黒田日銀総裁は任期を延長、次の5年間、金融政策のかじ取りに当ることになっています。この人事が示唆することは、いうまでもなく「アベノミクス」を支える大規模な金融緩和を維持して、デフレ脱却の実現を目指すという事でしょうが、安倍首相の政権維持に備えた対応、つまり19年10月予定されている増税、それによる景気の下支えとしての歳出拡大構想を絡ませた、言うなれば‘緩和の出口’を封じた人事と云えそうですが、なにか米国の実状に似てきているのが気になる処です。


第2章 米国の安全保障戦略、高まる大国間衝突の可能性

1.トランプ政権の安全保障戦略の枠組みと日米同盟
      
12月18日トランプ政権が発表した「米国家安全保障戦略」に続き、その基本は年頭教書でも触れられた処ですが、1月19日には、それを枠組みとして国防総省で取り纏められた実践米軍事戦略計画「国防戦略」が公表され、更に、2月2日には、トランプ政権として新たな核戦略の指針となる「核体制の見直し」が公表されています。まさにトランプ安保戦略3連発です。そこに共通するコンセプトは「強い米国」、「力による平和」。そして1月19日、「国防戦略」の発表(国防総省)に当たり、マチス国防長官が行ったブリーフィングは事態の緊急度の高さを実感させるものでした。つまり「テロ(ジハード)ではなく大国間の競争が米の国家安全保障の最優先課題だ」(日経夕、1月20日)と述べ、中国やロシアを「戦略上の競争相手」と位置づけ米軍の体制強化の必要性を訴えるものでした。

(1)トランプ安保戦略の枠組みー「米国家安保戦略」と「核体制の見直し」
当該戦略のポイントは中国とロシアを米国や戦後の国際秩序に挑む「修正主義勢力」と捉え、軍事・経済の両面で力を背景にした強硬姿勢で対峙し、米国の利益を守る方針を鮮明とする点にある処です。。冷戦後、中ロを国際社会に取り込む努力を続けてきた従来の姿勢の大きな転換を意味する処です。米国の対中ロ姿勢はトランプ氏がタカ派という事よりは中ロの近時の強硬な行動、つまり中国のアジア海域での強硬な振舞い、ロシアの西側の選挙への介入など民主制度を揺さぶると云った行動、が米国の警戒心を高めた結果と云えそうです。そこでこれら行動に対峙するために強い米軍の再建となるのでしょうが、この「力による平和」追求とは、決して「世界の警察」になる事でなく、そこでも米国の安全と繁栄を目指す、つまりはAmerica firstなのです。
 
具体的には、共通の脅威に対しては、より大きな責任を担うよう、同盟国に求めていく方針が明記されており、トランプ政権はおそらく中ロに単独で対応するつもりはなく、同盟国である日本やオーストラリア、欧州諸国にも一層の貢献を求めていくものと予想される処です。もとより今回の戦略は米国の内政とも密に絡む処、今秋の中間選挙が近づくにつれ、内向き姿勢が強まり対外的対応もより米国第一になっていくものと思われ、その点で、日本として日米同盟の在り方を再考していく事が不可避となる処と思料するのです。

・核体制の見直し(NPR:National Public Radio)
上述戦略に加え、トランプ政権は2月2日、これから5~10年の新たな核戦略の指針となる「核体制の見直し」を公表しました。その見直しのポイントは、一つに「核の使用条件の緩和」、もう一つは「新たな核兵器の開発」にあり、オバマ前大統領が敷いた核軍縮方針を転換し、核兵器の抑止力を強めることにある処、要は核戦力の強化と領土的な野心を隠さない中国、ロシア、核開発を止めない北朝鮮への危機感、のそれらがその背景にあるとされるところです。もとより、上述国家安保戦略の枠組みの中にあり、核開発競争の再燃が懸念されるのですが、既にトランプ氏は前述年頭教書の演説で「核兵器を近代化し、再建しなければいけない」と核軍備増強の意欲を明らかとしています。偶々、2月18日までミュヘンで行われた「ミュヘン安全保障会議」では核戦略が主題に浮上した由で、北朝鮮の核開発に加え、ロシアの抑止を念頭に、米国が核兵器を重視する方向に転換。ロシアによる米大統領選への介入を巡る対立も相まって、東西冷戦以来、「核抑止」、「核使用のハードル」と言った言葉が安保の表舞台を再び覆いつつあると、メデイアは報じるのですが。(日経2月19日) それは新冷戦時代の始まりとなるのでしょうか。

(2)問われる日米同盟の在り方
処で日本の安全保障は周知の通り、これまで日米安全保障条約(注)の下、言うなれば米国の核の傘の下にあって、従って、米軍事力により日本国の安全が担保されてきているというもので、この限りにおいて日本は米国の安全保障戦略に組み込まれてきたと云うものです。

[注:1951年9月8日、第2次世界大戦後、連合国49か国と日本との間で取り交わされた
平和条約(サンフランシスコ平和条約)の6条に基づき二国間条約、つまり日米安全保障条
約(旧協定)が締結され、1960年1月19日ワシントンで、改訂日米安全保障条約(新協
定)が締結され、以って現行日米安保体制が準拠する処となっている]

然し、トランプ氏のAmerica firstの軍事戦略に照らす時、現実問題としてこれまでの様に日本の安全保障をアメリカ任せで済まされるものか、まさに基本姿勢が問われる処です。例えば、目下、日本政府は北朝鮮問題もあり、日米同盟強化の名の下、イージス・アショア(弾道ミサイル迎撃システム)の配備(対米輸入調達)に熱心ですが、問題はその同盟強化の在り姿です。つまり、日本がアメリカの国益に寄与することにより、アメリカ側の歓心を得て、アメリカに見捨てられないようにすることが同盟関係の強化と、まさに揶揄される状況にある処、つまりはAmerica firstの軍事戦略を押し付けられていく日米同盟の強化が定着していく事が問題で、因みに、近時高額な米国製兵器の買い付けが加速していると伝えられている処です。

そこでこの際は、‘今’ をTrump’s gift to Japanとし、つまり 米国抜きと言う新たな世界経済にあって日本の役割とその可能性を見直し、日本として、経済安全保障を切り口とした外交戦略の再構築を目指すべきと思料するのです。勿論、日米同盟は依然その基本にある事には変わりなく一方、中国の世界経済における台頭、中国効果を踏まえながらという事は云うまでもない処です。
そしてその作業は、ポスト平成という新時代を迎える日本として、そうした新たな世界環境にあって、安全保障を含め、いかなる形で発展していくべきか、新時代に向けた日本の自画像づくりに向かう事が不可避となる処と思料するのです。そうした新しい行動が今求められるおり、定番の「革命」ごっごに終始し、満足する政府に、如何ともしがたい不安さえ禁じえないのです。

そうした折、「核体制の見直し」が米国より発表されるや河野太郎外務大臣は、トランプ氏の姿勢は日本の一層の安全を保障するものと高く評価する旨の談話を公表したのです。それは米国の「核の傘」に依存する日本の姿勢を一層鮮明とするものですが、上述、問題意識に照らす時、かかる発言と思考様式に瞬時、日本の外交は一体どうなっているのと、たじろぐばかりでした。これがDonald -Shinzo蜜月関係を映すものとすると、トランプ戦略に応じていく日本の、まさにAmerica firstと心中する蓋然性を高めるものと言うほかないのですが。

2.The next war - 大国同士の紛争勃発の危険性
  ― Shift in geopolitics and technology are renewing the threat of great-power conflict:
Conflict on a scale and intensity not seen since the second world war is once again
plausible. The world is not prepared (The Economist 2018/1/27)

前述マチス国防長官が示唆した事態に通じる話として、1月27日付The Economistは特集記事 `The next war ’において、この25年というものシリア、アフガニスタン、イラク等で、激しい内戦や宗教対立が続いてはいますが、世界の大国同士が直接衝突するといった壊滅的な事態はほとんど想像できなかったが、今後は違う。第2次世界大戦以降生じていない規模と激しさの紛争が、再び起こり得る状況にってきた。世界には、それに対する備えがいないと警鐘を鳴らすのです。そこで、暫しその概要を紹介しておきたいと思います。―

・朝鮮半島での戦争勃発の可能性
今、最も差し迫っているのは朝鮮半島での戦争勃発の危険性で、ひょっとしたら今年始まるかもしれないというのです。トランプ大統領は金正恩(キム・ジョンウン)氏には核爆弾搭載の弾道ミサイルで米国を攻撃する能力を持たせないと断言していますが、最近の実験の様子からは、未だreadyではなくとも数か月以内には、その能力を手にできる可能性はあると云うのです。 そして今、Pentagon(米国防総省)では、数ある Contingency plans の内でも北朝鮮の核施設を無力化する先制攻撃を考えている、つまり大統領の命令が下れば実行する準備はできている、というのです。云うまでもなく限定的な攻撃でも、全面的な戦争の引き金を引く恐れのある処です。

尚、外交努力の継続を前提としながらも、戦争の方は現実に起こり得る可能性だというのですが、そこで、トランプ側は核兵器を有する北朝鮮は無謀で核兵器を拡散させる可能性も高いと判断し、米国の都市が将来核攻撃を受けるくらいなら朝鮮半島での戦争に今にも打って出る方が良策と結論付けるかもしれないというのですが、トランプ氏の戦争指向に留意する処です。

    (注)アナリストによれば北朝鮮には、韓国の首都ソウルに1分間で1万発の砲弾を打
ち込む力がある由で、Drone ,Midget submarines, Tunneling commandos 等で生物
化学兵器を、下手すれば核兵器をも使ってくるかもしれないが、そうなれば何万人もの
人が非業の死を遂げることになるというのです。

・既存国際秩序に異を唱える中国とロシア
仮に、中国が第2次朝鮮戦争に関わらないとしても、中国はロシアと共に、西側諸国と新たな勢力争いを始めつつあり、中ロ両国の野心は、北朝鮮のそれよりも扱いにくいもと云うものです。
まず米国主導の下、構築されてきた現在の国際秩序について、中国もロシアもそれからの恩恵を享受してきた筈の処、その秩序の柱である普遍的人権、民主主義、法の支配の3点について、外国からの干渉を正当化したり、自分達の正統性に傷をつけたりするペテンだとするのです。つまり、彼らは今や、現状に異議を唱え、周辺の国々を将来の自国の勢力圏と見なす、まさに修正主義国家(revisionist states)とされる処、中国は東アジアを、ロシアは東欧と中央アジアを自分の庭にしたがっているということです。
そして、中国もロシアも、実行すれば確実に負ける米国との直接的な軍事衝突は望んでいないが、強化しているハードパワーを別の方法で利用しているというのです。特に目立つのは、西側諸国との軍事衝突のリスクがぎりぎり生じない程度の攻撃や威圧が有効に作用する「グレーゾーン」を活用するやり方だと云うのです。 例えばロシアの場合、ウクライナで軍事力、偽情報、サイバー戦争、経済的な恐喝等、色々と組み合わせて繰り出しており、又中国の場合、係争中の海域にあるサンゴ礁や浅瀬の領有権を主張し、占領し軍隊を駐留させているというのです。

更に両国とも「接近禁止(anti-access)・領域拒否(area denial)」ネットワークを作るために非対称戦略を用いているとも云うのです。つまり中国が米海軍を太平洋まで押し返すことを目指すのも、米軍が安全に東シナ海や南シナ海に戦力投射できないようにするためで、一方、ロシアは北極地方から黒海に至る地域で敵国を上回る火力を有していること、そしてその使用をためらわないことを、世界に知らしめたいと思っているからだという事です。 中国とロシアによる地域的な覇権の確立を米国が許容すれば、それが意図的か或いは、政治の機能不全により対応しきれなかったためかに関係なく、両国が腕力で国益を追求する事を了承したことになると云うのですが、同じことが前回起きたときには、その結果として第1次世界大戦が勃発しているのです。

・アメリカと言う名の砦
では米国はどうすべきなのか。同誌はこれまで米国の20年に及ぶ戦略の漂流は中国、ロシアにとって思うツボだったと指摘するのです。ジョージ・W・ブッシュ氏のunsuccessful wars のせいでこの2国への対応は疎かになり、米国が世界で果たす役割に対する国内の支持も損なわれ、バラク・オバマ氏は外交で縮小政策を推進し、ハードパワーの価値について懐疑的な見方を隠す事はなかったが、現職のトランプ氏は米国を再び偉大な国にしたいと云いながら、retreatを以って、それとはまったく間違った方向に進んでいるとも指摘するのです。

周知の通り、トランプ米国は国際機関を遠ざけ、同盟国をお荷物扱いし、敵対する国々の権威主義的な指導者たちをおおっぴらに称賛し、あたかも、米国が自ら作ったシステムの防衛を断念することを、そして好戦的な修正主義者の大国、ロシアや中国の仲間になる事を望んでいるかのようだが、改めて、米国は自らが国際的なシステムの主要な受益者である事、そしてそのシステムを継続的な攻撃から守る能力と資源を有する唯一の大国でもある事を、より自覚すべしというのです。勿論、辛抱強く一貫性ある外交のソフトパワーも重要だが、それには中国とロシアが重視しているハードパワーの裏付けが不可欠というのです。ただ米国にはまだかなりのハードパワーがあるものの、同盟国を安心させる一方で敵国には恐怖心を抱かせる軍事技術での優位性は、急速に失われつつあり、ハードパワーを外交と調和のとれたものにするために、米国はロボット工学、人口知能、ビッグデータ、指向性エネルギー兵器を基盤とした新しいシステムへの投資が必要だとも指摘するのです。

かくして、世界平和の最高の守護神は、強い米国の他なく、幸いにもこの国には未だいくつかの優位性があるというのです。因みに裕福で能力ある同盟国があり、いまだ他国を大きく凌駕する世界最強の軍隊を抱え、どの国よりも豊富な戦争経験があり、トップクラスのシステムエンジニアたちを有する上に、世界最大級のハイテク企業をいくつも抱えていると。然し、こうした優位性はあっと云う間に無駄遣いされる恐れがある。米国が国際秩序にしっかり関与しなければ、そして強力な挑戦者たちからこの秩序を守るハードパワーにコミットしなければ、危険性は更に高まることになるだろうし、そうなれば、戦争と云う未来は思った以上に早くやってきてしまうと、同誌は警鐘を鳴らすのです。要は米国よ、しっかりせい!という事でしょうか。 


思うに、戦後の世界が「統合と収斂」を重ねて進歩してきたこの動きが大きく後退し、「分離と発散」への傾向が顕著となってきた今、米国が発してきた世界的メッセージ(自由、民主主義、人権等)が殆ど機能停止にあっては、一国でグローバリゼーションを管理することは到底不可能と云え、であれば、Gゼロ時代の大国関係とは、安全保障問題も含め、単なる覇権大国の対峙よりはむしろ、大国が一方では、持ちつ持たれつの相互依存を通じて相手を適宜けん制しつつ、国際政治、国際関係での実利を確保する、或いは争っていく方向が現実的な在り姿ではと、思えてならないのです、が。


おわりに:Joseph Stiglitz氏、ダボスに集まるCEOsを叱る
 
本稿の執筆に当たり、1月末行われたダボス会議に関する資料を漁っていた折、冒頭触れた通り、
Joseph Stiglitz氏(ノーベル経済学受賞の米コロンビア大教授)が米論壇(Project Syndicate)
に投稿した2月1日付論考「Post-Davos Depression (ダボス会議を終えて覚える憂欝)」
を目にしました。彼は1995年来、ダボス会議に参加してきた仁ですが、今年ほど、憂
鬱に思えた会議はなかったというのですが、その要因がダボスに集まる大企業のCEOたち
の不甲斐なさにあると、彼らを叱るものでした。これは今の日本の経済界(経団連幹部)に
も当てはまる処、そこで、その概要を紹介するものです。

・Post-Davos Depression 
ステイグリッツ氏の問題意識は、世界に広がる格差問題であり、不平等問題でした。またDigital 革命についても、膨大なポテンシャルの可能性秘めているも、プライバシー、セキュリテイ、ジョッブ(雇用)、そして民主主義に対して深刻なリスクを突きつけていることも然り、更には気候変動問題もグローバル経済全体に対して現実的な脅威となるまでに差し迫ってきていることにあったというのです。然しそうした問題よりは、彼を滅入らせたことは、ダボスに集まったCEO達のそうした問題に対する反応だったというのでした。

つまり、彼らの話はいずれも普遍的価値の重要さを口にする。確かに、彼らは単に株主の為にという事ではなく、労働者の為、彼らが共に働く社会コミュニテイの為、更にはより広く世界のためにと、素晴らしい未来の創造を口にするも、彼らのスピーチの最後に出てくる言葉で、冒頭で触れた価値に関する幻想はもろくも崩れ去ったというのです。つまり、彼らが最も気にしていたことは、彼らが大いに享受してきたグローバリゼーションに対するポピュリストからの反抗の高まりだったというのです。

これら経済エリートは多大な恩恵(富)を手にしているが、その一方で、多くの人たちがその犠牲を余儀なくされ、因みに、実質個人所得は停滞し弾まで労働所得分配率は大幅に低下していること、米国では、life expectancy, 期待寿命は短くなり、とりわけ高校教育しか受けていない人々はその傾向にあると訴えるのです。そしてダボスでスピーチを行った人たちの誰一人、偏狭な、女性差別、或いはトランプのような人種差別主義が語られることはなく、人権無視の容赦ない発言も、公然と嘘をつくような人、或いは世界の米国大統領の立場を侵害するような衝撃的な行動もなかったが一方で、アメリカの巨大企業の誰も、政府が進める科学振興のための財源の削減について、これこそは米国の競争力の根っこにあるものだが、言及する者もなく又、誰もトランプ政権の国際機関からの離脱について言及する者もなく、国内で起こっているメデイアと司法への大統領による攻撃に対しても、―これこそは米国デモクラシーの支柱となるcheck and balanceのシステムへの挑戦だがー 言及する者もいなかったと指摘するのです。

そして、何よりもダボスに集まったCEO連中は、今次成立の大型減税を大歓迎するのだが―これは大企業と富裕所得者に恩恵をもたらすだけで、トランプ氏もそうした大金持ちだがー、これが法案通りに進められるとなると、過去30年と云うもの所得の目減りを余儀なくされてきた多くの中間層の人たちには結果として増税となるのだが、そんなことなど気に留める様子もない。結局は不平等を齎すだけだと断じるのです。。
一方、知識やイノベーションの源泉でもあるハーバードやプリンストンといった大学も課税されることになっている。結局、それはこれまでの繁栄を支えてきた地方政府が進めてきた教育投資とインフラ投資の削減にもつながっていく。つまりトランプ政権は21世紀に求められる、教育こそは成功の源泉たるを無視するものだと批判するのです。

ダボスに集まったCEO達は、規制緩和とも併せて、高所得者と大企業あての減税措置は、あらゆる国の問題解決に繋がる措置だ、としているかのようで、それこそはトリクルダウン(trickle down) 経済が最終的に国民全体を幸福にするものと信じているようだが、そうしたトリクルダウン経済が機能しないことは実証済みである事、そして我々を取り巻く環境が、とにかく危険な状況になってきた理由が‘企業の社会的責任’が果たされていないことにあると断じるのです。

要は、ダボスに集まるCEO達は経済が成長軌道に乗れば企業も彼らの報酬も増大すると、極めて楽観的に成長を追う連中であること、とすればCEO連中には彼らが演説する際のオープニングメッセージで使う月並みな価値創造云々とは、忘れるべきだと忠告するのです。つまり、彼らは1987年の映画「Wall Street」に出てくるマイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーのように「Greed is good」(欲望は善)とは、あからさまな物言いはしないものの、そのメッセージは同じことだと。そして筆者(ステイグリッツ氏)を憂欝にさせることは、そのメッセージは明らかに間違っているのに、そこに集まるトップの多くが、それが正しいと信じている事だ。― と、厳しく叱咤するのです。 どうもその場に集まるCEO連中は、もはやトランプのやり方に慣れてしまい、批判精神などはお呼びでないと云った処でしょうか。

・経団連会長の交代
序でながらステイグリッツ氏の批判は、日本の経済界を代弁?する 経団連の会長や幹部にも通じる処です。つまりその姿は、企業家としての自負を感じさせることもなく、安倍政権の御用聞き、とまでに揶揄される処です。ただこの5月、経団連会長は日立製作の中西宏明氏に交代が予定されています。彼は前述ダボス会議にも出席し、科学技術に関する討論会に出席し、IoTを活用して新ビジネスをつくるラボを東京に作ると発表しています。米サンフランシスコに次ぐ2都市目で、経済界で誘致を主導したのが中西氏だそうです。彼のそうした行動様式からは、製造業偏重の経済界に ‘変わる潮目’ を送り込むことになるものと、その‘変化’に期待する処です。 
以上                
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2018年01月27日

2018年2月号  習近平中国の台頭と、レジーム変転の中の日中関係 - 林川眞善

はじめに:Trump’s Abominable Snow Job と習近平中国の台頭 

トランプ米大統領はこの1月21日で政権運営,2年目に入りました。さてトランプ政治の1年とは何だったのか。選挙戦で見せつけたあの暴言虚言、それは選挙に勝つ為の方便であり、政権に就けば現実志向になるとよく耳にしたものでした。然し、こうした楽観論は当て外れ。威圧的な政治手法を改める兆しのないまま、America first を以って進める内向きで排他的な政策は、米国民はもとより世界の国々をも右往左往させ、これが齎した重大な事は、これまでの「リベラルな国際秩序」を揺るがし始めた事でした。

America first の下、決定されたTPPやパリ協定からの離脱は,要はアメリカは自国のInterestに見合わない(cost performance)国際的関わりからは身を引く、retreatするというものですが、このAmerican retreatが世界秩序を担保してきた既存システムを壊し出したと云う事です。昨年12月18日、トランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」にしても、本来なら世界秩序の指針たるべき文書とされるものですが、米国第一を繰り返すにとどまるだけのもので、それは「リベラルな国際秩序」の守護者の役割からの降板を映す、「America first」対応の‘極み’と映るものでした。勿論、米国は軍事力だけで世界をleadしてきたわけではありません。人権尊重、民主主義、市場経済等、普遍的価値こそが米国の支配力の源泉だった筈です。然しトランプ氏はそれを手放していったという事で米国の国際的地位の低下を加速させる処です。

つまり2017年は、米国そして世界にとって 米論壇が云うTrump’s Abominable Snow Job (忌まわしいほどにはったりの政治)に振り回された1年であり、トランプ氏の姿はオバマ前大統領を全否定する、言うなれば‘壊し屋’のそれで終始した1年であり、故に米国政治における最大の不確定要素が大統領自身との認識が定着した極めて異常な1年だったと云えそうです。

さて、迎えた新年2018年は、世界的に株式市場への資金流入が加速する様相を以ってスタートを切りました。年初4日のNY市場はダウ平均で2万5000ドル台にのせ、東京市場でも日経平均は連日、昨年来高値を更新しています。これが、米国で大型減税法案の成立(2017/12/22)もあって世界景気が一段と拡大するとの見方が株価をあと押ししていると見られる処です。因みに米国景気の回復はいまや9年にも及ぶ処です。

然し、世界の安全保障環境に目をやると、依然トランプ氏と北朝鮮金委員長との間での挑発合戦は衰えることはなく、1月9日、2年ぶり再開された南北朝鮮閣僚級会談は最大の核開発問題には及ぶこともなく、北への圧力強化で連携を組む日米韓3か国の枠組みが揺らぐのではとの懸念も出るなど、危機感の消えることはありません。 一方、国内では大幅減税が決まったとはいえ、減税による財政赤字の拡大が再び云々され出すなか、大企業や高所得層の税負担は軽減なるものの、オバマケアーの一部廃止等で所得再分配は後退したことから、米世論調査では、今次減税に賛成の有権者は3割に過ぎない状況が伝えられています。そこでトランプ氏は、その対抗として24日、インフラ計画の具体案を30日の年頭教書で言及する旨を明らかにする処です。
そして、ダボス会議出席のため滞在中のスイスで25 日、TPP復帰の可能性を語っていますが、これが国内のTPP復帰を期待する業界の声に応えんとする国内向けactionと云え、要は、秋の中間選挙をにらんだ変心ともされる処です。いずれにせよトランプ氏の行動様式からは、有権者目当ての人気取りで、益々内向きになっていくものと危惧される処です。
   
・習近平中国の台頭
さて、そうした米国の内向き姿勢が、世界の統治システムに構造的不確実さを齎す中、近時世界が注目するのが‘習近平中国’の台頭です。その中国について12月26日付日経社説は、時代遅れになりがちな中国認識に、以下のように警鐘を鳴らしています。
「世界の人々にとって刻々と変化を遂げる中国を等身大で捉えるのは大変な作業である。ある人は10年前に住んだ経験から、今の中国を語る。また、ある人は5年前に出張した時の見分から中国の現状を分析する。残念ながらいずれも今の中国の実状を捉えることはできない。中国全土に伸びる高速鉄道網や地方都市に広がる地下鉄網は10年前になかった。誰もがスマートフォーンを持ちキャシュレスで生活する「スマホ経済」は5年前には影も形もなかった。・・・」と。確かに2005年頃までは中国のGDPは日本の約半分しかなく、それが2010年には追い抜かれ今は日本の3倍近くとなっています。近く米国すら追い越そうと云われる状況にあって議論の前提が明らかに変わっているという事ですから、昔ながらの感覚で中国に接することは‘危険さ’すら呼び込むことになる、と云うものです。

年明けの1月2日、国際政治学者、Ian Bremmer氏が主宰するユーラシア・グループが発表した2018年世界の「10大リスク」では中国を第1位としていましたが、それは存在感の低下する米国の間隙を突くように台頭する中国の影響力の拡大が齎すリスクを意味するものでした。
その要因として、Bremmer氏は、一つは習近平国家主席が昨年10月の共産党大会で権力基盤を強化し、毛沢東・トウ小平(ドンシャオピン)以来とも言われる近代中国で最も強力な指導者になった事。二つに中国が経済・軍事両面で国力を増している事、そして、米トランプ政権の「米国第一主義」により、中国が世界で重要な役割を果たす機会が増えてきた事, を挙げるのです。

そして、こうした変化を受けて「世界は2018年、中国に注目し、中国と欧米のモデルを比較し、欧米にとってはともかく、他の地域の大多数の国に対しては、中国モデルはもっともらしい、欧米に代わる選択肢を提供することになる処、習氏が選択肢を進んで提供する準備ができていること(注)が最大の地政学リスクだ」(日経2018/1/19)とBremmer氏は断じるのです。もとよりこの変化こそは「戦後レジームの変転」を語る処と云うものです。[(注)昨年の共産党大会での習氏発言をリフアーしたものと思われる]

ではそうした習中国に日本はどのように向き合っていこうとしているのか。今年は日中平和友好条約締結(1978/8/12)40周年を迎えます。昨年来、両国の政界,財界幹部の交流も進み出し、日中関係改善への環境も醸成されつつあるやに見受けられる処、二階堂自民党幹事長は12月訪中時、「互恵を超え、未来を共に創る‘共創‘の関係に深化させて行きたい」(日経12/28)と発言しています。勿論、日米同盟を基軸に中国との力関係のバランスを図ってきた日本の安全保障戦略にも影響する処、現実の政治はどう動こうとしているのか、気になる処です。

そこで、本年最初の本論考では「中国」を取り挙げ、以下を枠組として論述する事とします。
まず第1章では前述の通り、「10大リスク」のトップに「中国」が挙げられていますが、その
背景確認の意味も含め、米論壇、project syndicateに掲載あった前世銀のChief economist, Mr.
Justin Yifu Linの12月1日付論考` The Economics of China’s New Era‘ を下敷に、中国経済の
現状と今後の行くへについて考察し、併せて中国の台頭でレジームの変転の進む中、日中関係
の合理的な在り方について考察します。(注:世銀のChief economistには元米財務長官、L.サマーズ
氏、ノーベル経済賞のJ.ステイグリッツ氏ら有力economistが務めている.) 
次に、第2章では、中国経済の対外拡張路線が齎している問題について、二つのテーマ、その一
つは進出著しいアジア経済での中国化現象について、もう一つは今話題のThe new shape of
Chinese Influenceとされ、「Sharp power」(The Economist、2017/12/6)と称される、中国政府
筋による経済活動に係る一種諜報活動まがいの行動について、その現状を把握しその対抗措置
について考察します。そして「おわりに」では、5年を終えた安倍政権の政策運営について改め
て論評し、新年最初の論考としたいと思います。(2018/1/26)


                  目 次

第1章 習近平主席と中国経済       -----------P.4

1. The Economics of China’s New Era
― 習氏が目指す中国経済のかたち

(1)中国経済の成長のかたち
 ・習氏が目指す「復興」に必要なこと
(2) 日本経済の成長様式をフォローする? 中国
           
2.日中関係再考 -戦後レジームの変転する中で
 ・習中国との関係を考える基本軸

第2章 アジア経済の中国化と、新たな中国脅威 --------P.8

1. 中国化が進むアジア経済
           
2.Sharp power - 新たな中国脅威 
             -China is manipulating debate in Western democracies
 ・世界ルールへの中国の不満
 ・三つの対抗措置

おわりに:年初、気がかりな二題を思う -------------P..11
          
 ・改めて問う成長持続への改革
 ・いま「不愉快」転じて「不気味」強まる

---------------------------------------------------------------------

第1章 習近平主席と中国経済

1. ‘The Economics of China‘s New Era’
   -習氏の目指す経済のかたち

前世銀Chief Economist、J. Y. Lin氏の中国経済の実情を伝える論考 ‘The Economics of China‘s New Era’(2017/12/1)は色々の意味で興味深いものですが、そのタイトルにあるNew eraとは、昨年10月19日、中国共産党大会での冒頭、習近平主席が`China had crossed the threshold into a new era.’ と謳ったことに絡めたものです。

習主席はその際「現代化した偉大な社会主義国家」(great modern social country)の建設を目指すとし、具体的には建国100年の2049年までに経済、軍事、文化のあらゆる面で世界の頂きに立つ「社会主義強国」を築くと、宣言しています。そして「中国は完全な社会主義には程遠い。だから資本主義の要素も大胆に採り入れて経済を発展させなければならない。共産党の指導さえ徹底していれば社会主義からそれることはない」(日経2017/10/20)とするのでしたが、要は、党主導の「中国流資本主義」の深化を目指すものと思料する処です。

さてLin氏は当該論考で,こうした経済発展をprosperous, strong, democratic, culturally advanced, harmonious and beautiful by mid-century, led by an empowered CPC but open to the worldをキーワードとした中国社会の再興を目指すものと定義し、そうした新たな時代に入った中国経済の可能性を分析するのです。暫し、同氏論考を擁し、改めてその可能性を見て行きたいと思います。もとよりそれは上述ブレマー氏指摘の検証にも繋がる処です。

(1)中国経済の成長のかたち
2017年の中国経済は、実質GDPで6.9%増、成長率が前年を上回るのは7年ぶりで、その牽引役は堅調な個人消費ですが、輸出も伸び、焦点の対米貿易黒字はトランプ大統領の批判を受けつつも過去最高を記録する処です。
さて、1979年以来の38年間、中国経済は相応の成長(平均9.6%)を結果してきていますが、個人所得面では先進国との開きは極めて大きく、その原因は労働生産性の低さにある処、技術革新、産業の高度化に向けて今日に至ってきたとし、その結果、高速鉄道や再生エネルギー等の分野ではglobal frontier、つまり世界一流の立場になったと評価します。更にe-commerce, mobile deviceなどの成長も期待される処、労働者、とりわけ技術者も不足はないとするのです。
更に、これまで問題とされてきた国有企業(SOE: State-owned enterprise)については、経営の合理化が進み、競争力ある、持続可能なentityに転換し得た評価するのです。

残る課題は需給バランスの是正にある処、これがsupply-side innovation政策とdemand-side efforts を促し、これまでの投資・輸出主導型成長から消費主導型へと転換してきたとLin氏は指摘するのです。(注)

(注)確かに習政府は消費拡大を重要視し、国家目標としています。が、リン氏のrhetoricは正確
さを欠く処、過去30年間(1987~2016年)の中国GDP成長への投資と消費の貢献度を見ると,
投資が消費を上回っているのが20回と3分の2は消費に負うものでした。つまりもともと消費
主導だった経済が深刻な投資依存に陥り、足元で再び消費主導に戻ってきというのが正しい理解。

勿論その為には、更なる生産性の向上、雇用の創出、賃金水準の引き上げ、中間層の支援、等々が必要となる処、その際は、透明性の確保、統治システムの確立、更には言論の自由を如何に担保していくかに焦点は当てられてきているというのです。が、俄かには納得し難い処です。

・習氏が目指す「復興」に必要なこと
更に先進諸国、とりわけ日本経済に照らしながら中国経済の現状を確認するのです。 つまり、バブル後の26年間、日本を始めとする先進諸国は低成長に甘んじてきたのが、そのいずれもが、とりわけ日本を意識しつつ、不可避とされる構造改革に失敗してきたことにある事、そしてそれは、政治家は短期的な事象に目が奪われ、難しい競争力の堅持、強化問題に取り組むことを二の次としてきたためと指摘するのです。そして、これが一見安定しているやに見られる点について、political stabilityに負うものとの見方はあるが、それは必ずしも合理的とはいえず、つまり活力に欠けたままに続く経済回復が意味することは、失業の増大であり、不平等への不満の高まりで、国民は従って変化を期待することになると云うのです。そして中国については、その辺を十分理解しており、この点forward- looking policies を以って臨むべきだが、習氏にはそれがある(後述)と‘ヨイショ‘するのです。

そしてその際は、米国との関係にも配慮しつつ、国際的な枠組みに積極的に参加していく事が不可避とも指摘するのです。つまり米国はretreat、つまり国際的な指導役から降りようとしているが今尚、唯一世界最大の経済大国であり、中国はその最も重要なeconomic partnerとしてある処、習近平氏が描く`great rejuvenation‘ (中国の復興)の達成を目指すにしても、その際は米中経済の相互補完性を高め、貿易摩擦(注)を含む両国間の摩擦を避ける努力が不可欠と指摘するのです。
    (注)1月12日,中国税関総署が発表した2017年の中国の対米貿易黒字は2758億ドル、前年比
10%増です。中国の貿易黒字全体の内、対米は65%を占める。貿易不均衡を問題視するトラン
プ大統領批判を意識して資源を中心に輸入拡大に努めたが、好調な米景気を受けた輸出拡大が
それを打ち消したというもの。通商を巡る米中対立が激しくなるのではと懸念呼ぶ指処です。

要は、経済的のみならず政治的要因も含め、とにかく相互有為な貿易関係を蝕むようなことはすべきではないという事でしょうが、さてトランプ氏にはどう伝わるのでしょうか。

(2) 日本経済の成長様式をフォローする? 中国
さて、中国は2030年までには名目で世界一の経済大国となる事が予想されていますが、その成長こそはglobal governance に大きな影響を齎すことになる処です。現下の国際秩序は戦後、西欧先進国によって築かれ、それが世界の平和と安定に資してきた処、その枠組みがneoliberalと云われたWashington consensusをベースとする点で、全世界の為と云うよりは先進国指向にあった事で、新興国は先進国流の開発様式を以っては成長することはなかったとして、予てステイグリッツ氏(注)等、世銀エコノミストが指摘してきたと同様、Lin氏も新興国は先進国が進める開発様式に捉われない独自の発想が必要と、云うのです。

(注)J.ステイグリッツ著「ラーニング・ソサイエテイー生産性を上昇させる社会」(原題:
Leading Society;東洋経済新報社、2017年9月)では「ワシントン・コンセンサス」に縛られ
た途上国開発の政策の在り方を厳しく批判する処です。

因みに戦後、多くの国々はWashington consensusにフォローし、自由で制約のない市場、政府
の最善の策は何もしないこととしてきたが殆どは失敗。一方日本は、このアドバイスにフォロー
する形で、政府主導型の産業調整、民営化の推進、規制緩和そして貿易の自由化へと政策を選択
してきたが、その間、国内事情に即して労働集約的、かつ小規模な伝統産業を輸入代替産業とし
て強化してきたことで成功してきたとし、その点で、中国もその様式を取り入れ、これまでの計
画経済から市場経済に移行してきたが、その結果として今があると評価するのです。
序で乍ら、ヴェトナム、カンボデイアも然り、東欧地域で云えばbest economic performerはポ
ーランド、ソルベニア、ウズベキスタン等々、かつてのソ連邦国だとも指摘するのです。

要は、経済開発のパターンは一つだけでなく、何を持つことで何ができるか、当該産業の拡大のために何が求められるのか、その条件を整えていく事であり、実は中国がやってきた事はそうした事だったというのです。そうした経験をベースに国際経済で地歩を固め更に他新興国への支援を図ることにあるとするのです。習近平氏の「一帯一路」構想はまさにユーラシアとアフリカにおけるインフラ開発プロジェクト構想だが、こうした構想主導こそ、習近平叫ぶ処のChinese Dream だというのです。さて、これが世界制覇を目指す独裁者のイメージを呼ぶ処、そこにBremmer氏の指摘する中国リスクが成すところではと思料するのです。

2.日中関係再考 -戦後レジームの変転する中で
福田康夫元総理は雑誌‘文春’新年特集号で、日本としては「中国経済が今後もどんどん大きくなるから仲良くしなければ、と云うような態度で接するべきではない。日中はこれだけ近い距離にあるあるから、経済に限らず、あらゆる面で意思疎通を密にし、お互いに協力し合うのが当たり前と自然に考えるような関係になりたい」と語るのです。そして、この際、銘記しおくべきは国民が不安な状況を解消するのは、軍事力ではない、外交の役割だ、とも強調するのです。

ではその可能性は、です。本稿冒頭でも触れた通り昨年暮、自民党二階俊博、公明党井上義久、両党幹事長の中国訪問時、習近平主席との会談席上、日中両首脳の相互往来の実現を要請していますが、実は日中首脳の相互訪問については、以下の通り頻繁に話しあわれてきています。
まず、昨年5月29日来日した楊氏と安倍首相、谷内正太郎国家安全保障局長との会談時、日本側から18年に首脳の相互訪問を実現したい意向を伝え、11月11にはマニラで開かれたAPEC首脳会議を機会に安倍首相は習近平主席と会談、「互いに日中関係を前進させていく新しいスタートとする」ことを約したと伝えられています.(日経11 月14日) 一方この間の6月5日、安倍首相は東京で開かれた国際交流会議で、中国の「一帯一路」はポテンシャルある構想と評価し、‘協力していきたい’ 旨を明らかにし、積極的な対中理解を示してきています。こうした経過を以って日中友好関係の気運が双方に生まれてきたと観測される処です。1月22日の通常国会開催の初日、安倍首相は施政方針演説で、今年中の訪中の用意がある事、「中国とも協力して増大するアジアのインフラ需要に応えていく」と、再び日中関係強化への意気込みを明言しています。

・習中国との関係を考える基本軸
勿論、問題の所在は周知の通りで、中国の経済と政治が一体化している点をどうマネージしていくかにある処です。一帯一路への協力にしても民間ビジネスマターとしてだけでは割り切れないリスクがあり、どこまでこれを切り離し対応できるかにある処です。習氏としては中国主導の舞台に日本が参加する構図を描いているとも言われる処、日本政府はとにかく当該案件については案件ごと判断し取り組む方針としていますが、その機会を創造的日中関係の構築に資する形に仕向けうるか、そう楽観し得ることではないものと思料するのです。それだけに、この際は
日中関係の改善・進化の視点に立ちつつも、二つの点でそのスタンスを明確にしておくことが肝要ではと思料するのです。

つまり我々は法の支配や個人の自由等、いわゆる自由民主主義を信奉する立場にあり、国際的なルールを守ることを前提とする処、中国はイデオロギー上、手ごわい対抗相手である事、そして中国自身もそう認識している事を、肝に銘じておくことが、まず肝要と思料するのです。そしてその為にも、習氏率いる中国と極端に敵対することは避け(前出:P.6. Forward-looking police)、技術的にも経済的にも優位を保っていくことを、心掛けていくべきと思料するのです。
加えて、習氏は「中国の偉大な復興」を掲げています。我々にも復興は必要です。然し彼はそれを独裁政治の強化を通じて実現せんとしていますが、思うに独裁政治を指向しても何も解決することにはなりません。が、米国のretreatが進む中、代わって社会主義市場経済を標榜する中国が台頭していく事は、まさに「戦後世界のレジーム変転」を語る処、この際はこの新たな事態を理解し(P.3)、それに耐えうる日本の政策、国民世論の柔軟性を高めることが何よりも必要であり、日中の連携強化もその枠組みを以って考えられていくべきではと思料するのです。


第2章 アジア経済の中国化と、新たな中国脅威

1. 中国化が進むアジア経済

処で上述、中国経済の成長は対外経済関係の拡大を促す処、中でもアジアそして日本に及ぼす経済波及効果に今、斯界の注目が集まる処です。つまり、域内経済の「中国化」の加速という事ですが、これまで米国依存だったアジアの経済構造が大きな転換期を迎えているというものですが、1月6日付日経記事はその現状を示唆的に分析し、かつ警鐘を鳴らす処です。

同記事は、アジア諸国にとって永らく輸出先のトップは米国だったがリーマン後、2010年には対中輸出が米国向けを逆転、16年には1430億ドルと米国向けを9%も上回ったとし、日本だけで見ても、昨年11月までを累計した対中輸出は13兆3842億円とこれまでのピークだった14年の実績を上回り最高を更新していると指摘します。そして、そこで引用されている日本経済研究センターの試算では、それは対中貿易の勢いが続いた場合アジアにおける米中の影響はどのように変化するかを測るものですが、「2030年に中国の東南アジアや日本への経済波及効果は15年の1.8倍となり、米国より4 割も大きくなる」との由で、中国が米国を大きく引き離していく姿が浮かんでくる処です。

勿論、この逆転現象が問題と云うことではありません。つまり、中国化のお陰でアジア関係国は相応の恩恵を受ける処、人件費増が進む中国においては省力化投資の潜在需要は日本にとっては資本財の出番が増えることが期待され、又、中国進出の日本企業の現地子会社の利益として国内に還流し、日本での賃金や投資に回る可能性も指摘されるのです。

問題は、前述(P.7 「日中関係再考」)指摘したように中国は経済と政治が一体化しているという点です。中国経済が変調をきたした場合、域内に及ぼす影響も大きくなろうという事です。これが大きなリスクとしてあるのは、経済力を外交の武器にすることを厭わない中国の姿勢です。 加えて、アジア諸国と中国とのtradeの拡大が、近隣諸国の中国への求心力を強める中で、米国の影響力の低下で民主主義を促す力が低下する恐れが強まる事です。その点では各国は中国以外との経済の結びつきを更に強めていく必要がある処、日本こそは、それを主導しうる立場にあるものと思料するのです。まさにトランプのギフトへの取り組みです。

2. Sharp power - 新たな中国脅威 

かくして中国との経済関係が深まる中、彼らの個々の行動様式に今、国際的に脅威と映る問題が指摘されだしています。state capitalism と称される中国経済の常として、陰に陽に政府のビジネスへの介入が云々される処ですが、近時のそれは、自国、中国の方針を飲ませようと強引な手段に出たり、海外の世論を操作せんと積極的に行動するようになってきており、欧米ではこうした中国の動きに如何に対応していくべきか、が問題となってきていると伝えられています。
米ワシントン在のシンクタンク、National Endowment for Democracy (NED)(全米民主主義基金)は、中国によるこうした動きを、ソフトパワーに比肩する新造語で「シャープパワー (Sharp power)」と称し、その脅威を指摘するのですが、まさに新たな中国リスクという処です。
12月16日付、The Economist誌は、近時活発化するシャープパワーを映す事案(注)に照らし[Sharpe Power – China is manipulating debate in Western democracies ] と題する巻頭論考を以って欧米諸国に、このシャープパワーへの対抗措置を取るべきと警鐘を鳴らすのです。

(注)12月5日、オーストラリア政府は、中国によるオーストラリアの政界、大学等への介入疑惑
が発生、外国によるこうした取り組みに対処するべく新法案を提出。12日にはオーストラリアの
国会議員が中国から資金を受け取り、中国に肩入れするような発言が起こった由で、同議員は辞職。
英国やニュージランドでも同様の事件があり、ドイツでは10日、中国がカネを使ってドイツの政
治家、官僚を取り込むという工作活動が露見、又、13日には米議会でも中国の新たな影響力につ
いて公聴会が開かれたとの由。

とは言え、いまや中国はグローバル経済に深く組み込まれている点で、単に当事者間だけの問題としては律しえず、また交渉で事態を打開できる政治的手腕を持つ国際的指導者を欠く現状においては、対応措置をと云っても実状は窮する処と思料されるというものです。その点、エコノミスト誌はまず、シャープパワーとその仕組みを理解しなければならないとして、そのパワーの現実を以下の様に指摘するのです。
「中国は多くの国と同様、ビザや補助金、投資、文化などを通じて自国の利益を追求してきた。だがその行動は最近、威嚇的で幅広い範囲に及びつつある。中国のシャープパワーは、取り入った後に抵抗できなくさせる工作活動、嫌がらせ、圧力の3要素を連動させることで、対象者が自分の行動を自制するよう追い込んでいく、まさにmanipulateする処、究極の狙いは、その目標とする人物が最後には、資金や情報などへのアクセスや影響力を失う事を恐れて、中国側が頼まずとも、自分達にへつらうように転向させていく事だ」と。何か「007」を想起させる処です。

因みに、中国経済の急速な拡大(中国のGDPは11兆ドル、米国の18兆ドルに次ぐ世界第2位、人口では米国の3.2億人を遥かに凌駕する13.8億人)を受ける形で、政治も文化もと、その役割は急速に拡大を増すなか、欧米は中国の圧力に屈しやすくなってきていることが問題と云うのです。
昨年6月EUが中国の人権侵害を批判する採択しようとした際、ギリシャは中国企業が同国のピレウス港への出資を決めた直後だったため、拒否権を発動、採択は見送られていますが、中国経済の規模があまりに大きい為、求められずとも中国の思惑通りに動く企業も少なくないというものです。つまり、今や中国はあらゆる処で世界とつながっていることだということですが、中国企業は国外のさまざまな資源や戦略上重要なインフラ、農地などに投資をし、中国海軍は今や自国遠くからも国力を誇示できる状況にあると指摘するのです。

・世界ルールへの中国の不満
そして最も気がかりなことは、新興大国として国際関係のルールを変えたいとの思いが強いことだとの指摘です。その背景には、そうしたルールは、主に米国と欧州諸国が定めたものであり、事あるごとに欧米諸国は自分たちの行動を正当化するために引き合いに出してくる点で不満があるとするのです。その点では、中国の台頭を確実に平和なものとするためには、欧米諸国は中国に彼らの野心を実現できるような余地を作る必要があるのではと、云うのです。勿論だからと云って中国にやりたい放題を許しては更に危険と強調し、その為の具体的対抗措置を講じることが必要と、三つの措置を示唆するのです。

・三つの対抗措置
その対抗措置とは、中国に負けない「防諜活動の展開」、その為の「法の整備」、そして中国に影響されない「独立したメデイアの確保」とし、これが中国による手の込んだ介入を阻止する最善の策に繋がるというのです。この3つを実行、実現するには中国語が話せて、中国の政界と産業界の繋がりを把握している人材が必要だともいうのです。中国共産党は表現の自由や開かれた議論、市民が独自の思想を持つことを抑えることで支配を固める処、中国のシャープパワーの手口を白日の下にさらし、中国にこびへつらう者を糾弾するだけでも、その威力を大いに鈍らせることになると云うのです。
そして、中国が将来友好的になるだろうと期待して、今の中国の行為を無視していては次の一撃を食らう事になるだけとも云うのです。そこで欧米は自分たちの理念を守り、可能なら各国で協力し合う体制の整備を示唆すスルのです。そして、それは古代ギリシャの歴史家、ツキデイデスにちなんだ「ツキデイデスの罠」、つまり新興大国が既存の大国を脅かすようになると、直接的な軍事的抗争に発展するとされた‘罠’を、回避するための第一歩は、欧米が自らの価値観を生かして、中国のシャープパワーを鈍らせることだと強調するのです。

序でながら、元ハーバード・ケネデイスクール教授のJoseph Nye氏 [クリントン政権(1993~2001)で国防次官補] は1990年、当時のハードパワー(軍事)に対峙するソフトパワーと云う概念を導入した仁ですが、その彼は当時から30年近く経た今、高度情報化の時代にあって今一度、ソフトパワー概念を見直す必要はあるとしながら、シャープパワーへの対抗はopennessに尽きると云うのです。(「Chin’s Soft and Sharp Power」by J. Nye, 2018/1/4)

さて今、第4次情報革命と云われる環境にあって、上述事情に対し日本はどのような認識をもって対応せんとしているのか、創造的日中関係の再構築を目指す安倍政権には、この現実が如何ように映っているものか、やはり気になる処です。


おわりに:年初、気がかりな二題を思う

・改めて問う成長持続への改革
ところで、越年を境に人口減少、高齢化が齎す影響の重大性が、これまで以上に叫ばれだしています。安倍首相は、それを戦後日本にとっての最大の国難だとし、国難克服のためにと「人づくり革命」だ、「生産性革命」だといろいろな「革命」プロジェクトを掲げ、なんとかの一つ覚えよろしく危機感を煽るが如くに叫んでいますが、その姿や、あんぐりさせられる処です。勿論、人口減少と高齢化問題は大問題ですし、国民の理解と支持を得て進められる政策である限り異論のある処ではありません。

然し現下で急速に進むデイジタルテクノロジーが、これまで無縁と思われてきた暮らしやビジネスの隅々にまで入り込む時代が今そこまで来ている現実に照らす時、こうした技術革新の波にうまく対応できるかが、経済や社会の今後を左右する処です。つまり、新技術をうまく生かせば、人口減により市場の縮小や労働力不足が進む中でも、企業の成長や生活の質の向上を実現できることになるのです。言い換えれば、日本の持続的経済にとって人口減少と高齢化は致命的な問題とはならないという事です。つまり生産性の継続的な上昇を可能にするような経済改革を実現する事で日本経済は成長を続けることが出来るのです。それが出来ていないことが問題なのです。問題の所在は明らかなのです。

・いま「不愉快」転じて「不気味」強まる
1月5日付日経「経済教室」にあった東大の御厨貴氏の論考は筆者と思いを同じくする処でした。同氏は2年前、同じこのコラムで当時の不安、自然災害、国際的テロリズム、社会不安を3点セットして「不愉快な時代」の到来と、当時の政権環境について論評していたそうです。同氏はそれを引き合いに出しながら「安倍政権の現状は2年前と変わっていない。安倍首相自身が ‘右’ 的イデオロギーの持ち主だったため各国にみられた‘極右’的要素の強い政治家を生み出すことは無かったが、それが政権内に蓄積されていった結果、これまでタブー視されていた歴史解釈や世界認識が安倍政権下で、どんどん当たり前のことの様になっていった」と、その在り姿に危機感を募らせながら「不愉快」転じてまさに「不気味」な現象が強まっていると警告していたのです。まさに然りと云うものです。

以上
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2017年12月26日

2018年1月号  'America First'と'American Retreat'に揺れた世界、この1年 - 林川眞善

はじめに トランプ現象

今から20年前、米国の代表的哲学者Richard Rorty (1931~2007)が著した「Archieving our Country,- Leftist thought in twentieth century America,1998」は現下のトランプ現象を理解する上で示唆的と云うので、先般、新装の日本語版「アメリカ未完のプロジェクト ー 20世紀アメリカにおける左翼思想」(小澤照彦訳、晃洋書房)を読んでみました。それは3部構成(「アメリカ国家の誇り」、「改良主義左翼の衰退」、「文化左翼」)で、‘現代’アメリカが抱える深い闇(差別、暴動、偏見)をnew left思想からその現実を解析するものでしたが、今日のトランプ現象を予測したかのようで極めて興味深いものでした。

要は、雇用が奪われ、最低賃金も上がらない、ミドルクラスが縮小した社会において、ある日、反エスタブリッシュメントを自負する政治家が現れて、「労働者が報われないのはお金持ちのせいだ、lobbyistのせいだ、政治家、media、intellectualのせいだ」と糾弾する。そして「自分が指導者になったら、それを叩きつぶしてやる」と豪語する。その人物は熱狂を以って迎えられるが、やがてアメリカ社会がそれまで勝ちとってきたマイノリテイや女性の権利が後退するようになる、・・・という趣旨のことを記すものですが、けだし慧眼と云うものです。

ミドルクラスが縮小してくると社会全体としての余裕がなくなってくる為、どうしても排外的となり、国際的な課題に関与するより、自国第一主義のような考え方が出てくると云う事ですが、その面でトランプ現象というのはミドルクラスが縮小したアメリカにおいて生まれるべくして生まれた現象と言え、仮にトランプが当選していなくても、第二、第三のトランプが生まれる素地はあったのではと思うのです。その点では、トランプ現象はアメリカだけに留まらず、ミドルクラスが先細りしつつある先進国に共通してみられる現象と、思料する処です。
そして、先の大統領予備選で自ら社会主義民主党員と名乗って若者の人気を一身に集めた上院議員のBurnie Sanders氏 を想起させるのですが、実はRichard Rortyも自らを、米国に夢としての民主主義を追求する「左翼」と任じる仁でした。因みに彼が日本語版宛てに寄せた2000年1月21日付序文で「・・・自分の関心はアメリカや日本のような民主主義国家に革命的変化を起こす事ではなく、そうした国々の有権者の想像力を捉えて、その票を獲得していく左翼的な社会政策を考案することにある。」と記しているのですが、興味深いところです。


さて、そうした論理を実証するが如くに登場したトランプ米大統領のこの1年は、彼が主張する米国第一主義、America Firstを基本軸に、これまでの米国そして世界と共に創りあげてきた生業を否定する如くに、「迷走する世界」を演出する1年だったと云える処です

そんな折、示唆に富む二つの文献に遭遇したのです。一つは米MIT名誉教授、ジョン・W・ダワー氏の新著「アメリカ 暴力の世紀」(田中利幸訳、岩波書店、2017/11)、もう一つは、阪大名誉教授、猪木武徳氏の論考「歴史から学べるのか、歴史は繰り返すだけなのかー経済学から見たトランプ氏の通商政策」(中央公論、12月号)です。いずれも著名な歴史学者であり、経済学者です。前者は、戦後から今日に至る米国の姿を米国が関与してきた国際事件を通して今日を照射するものであり、後者はトランプ米国の今、そしてその可能性を、経済学的論理を以って問うていくというもので、いずれも示唆に富むものでした。

そこで今回論考では、第1章として、この二つの文献を下敷きとして、トランプ氏が主張するAmerica Firstの1年を総括方レビューすることとし、新年に備えることとしたいと思います。
そして第2章では、先のトランプ大統領アジア歴訪中、日本がinitiateした、そしてトランプ氏も取りあえず同意したとされる「自由で開かれたインド太平洋戦略」、そのproject の可能性を握るのがインドと見られる処、 Foreign Affairs, Nov./Dec. 2017.(P.83~92)が掲載するAlyssa Ayres 氏、Senior Fellow for India and South Asia at the Council on Foreign Relation ,の論文「Will India Start Acting Like a Global Power ? ―New Delhi’s New Role 」はglobal power たらんことを目指すインドの現実の姿を描くもので、それは新年の可能性を占う上で有為の材料と映るものでした。そこでこの際は、その概要を紹介しておきたいと思います。

処で、12月6日、米トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都と認定すると共に米大使館を現在のテルアビブから移転すことを発表しました。この決定は「米国の国益」だとも発言、再び「アメリカ・フアースト」です。勿論、このトランプ認定にアラブ諸国は猛反発、世界の主要国からも一斉に反対の意見が伝えられる等、中東情勢は緊迫の度を増す処です。そうした新たな問題を抱えたまま、世界は新年を迎えるのですが、では世界経済はいかなる推移を辿ることになるのか。そこで ‘おわりに’ として、NYU Stern School of Business 教授でノーベル経済学賞のMichael Spence氏が米論壇Project Syndicateに投稿したessay、The Global Econmy in 2018, Nov.28にも照らしながら、日本経済のあるべき論に触れ、今年の締めとしたいと思います。
(2017/12/25)

                                      
           目  次
                                             
第1章 この1年、Trump’s America First は何をもたらしたか ---- P.3

1. Trump’s America First
 ・世界の潮流 / ダワー氏VSトランプ氏

2.検証:トランプ通商政策の合理性と、WTO対応 
(1)米中二国間貿易インバランスの是正と 保護主義政策の帰結
 ・保護主義政策の帰結/ Trump’s next trade turget             
(2) 米国の世界覇権からのretreat
     - トランプの「国家安全保障戦略」と日本の対応

第2章 「自由で開かれたインド太平洋戦略」        ------P.7

1.「インド太平洋戦略」構想は、Trump’s gift to Japan

2.世界の「グローバル・パワー」を目指す新生インド
   ― Will India Start Acting Like a Global Power
(1)インド経済とNew Delhi’s New Role
 ・インドの外交姿勢
(2)米印関係の強化
 ・インド経済のグローバル化と安全保障対応

おわりに The Global Economy in 2018、そして日本は ------ P.11
 ・TheGlobal Economy in 2018 /日本経済のこれからを考える

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第1章 この1年、Trump’s America Firstは何をもたらしたか

1. Trump’s America First

・世界の潮流
今年1月米大統領に就任したトランプ氏は「America First」を強調、対外的には「自由貿易によって米国は一方的に損をしてきた。従って米国の手足を縛るような多国間の貿易協定には参加しない」と、保護主義、排外主義を前面に押し出す諸政策を打ち出し今日に至っています。実際、トランプ米国は「TPP」協定からの離脱、環境保護を巡る「パリ協定」からも離脱、そしてUNESCOからの脱退決定、更にはイランとの核合意など多国間協定や合意についても次々と離脱、一対一の力による交渉の枠組みへと米国の位置をシフトさせてきています。

さて、こうした動きに照らしながら世界情勢を振り返る時、この数年、ゆっくりと進行してきた「統合と収斂」の動きが大きく後退し、「分離と発散」への傾向が再び顕著になってきたことに気付くとは、阪大名誉教授の猪木武徳氏の指摘する処です。(中央公論12月号) 昨年、英国が国民投票によってEUからの離脱を決め、スペインではカタルーニア州独立の声が上がるほどに、今次トランプ氏の言動は、まさにそれらを援護射撃するかのように映る処です。文明が「共存の意志」を意味するのであれば、こうした分離・発散の傾向は、文明の進歩とは相反する野蛮への回帰という事になる、とも猪木氏は断じるのです。

・ダワー氏 VSトランプ氏
先月(11月)、ジョン・W・ダワー氏の最近刊「アメリカ 暴力の世紀 ―第二次大戦以降の戦争とテロ」(田中利幸訳、岩波書店)[原題:The Violent American Century—War and Terror since World War Ⅱ, 2017] を手にしました。ダワーと云えば、思い出されるのが1999年のピューリッツア賞受賞作品「敗北を抱きしめて」(Embracing Defeat ― Japan in the Wake of World War Ⅱ )です。これは戦後直後の日本にスポットを当て、日本に民主主義が定着する過程を日米の視点から書かれたものでしたが、今次のそれは、第2次世界大戦の遺物を抱えた世界と歩んできたアメリカの現状、軍事を巡る歴史、テロなどの不安定の連鎖拡大の現状を描くものものです。そして、今次の日本語版に寄せられた2017年8月5日付序文はトランプ時代を危惧する、短いものでしたが、それだけにトランプ氏の米国大統領としての存在に,一層の ‘危険さ’を感じさせるものでした。因みにダワー氏のトランプ評の一部を紹介しておきましょう。
「・・・多くのアメリカ人と世界の大部分がトランプを不安の目で見ている。彼は国家を指導するにふさわしい知性も気質も備えていない。彼は読書をしない物事の詳細を知ろうとする忍耐力もなく、物事の正確さや真実を尊重することもない。・・・もっとも重要なのは、彼が世界のリーダーとして、「支配」以外にアメリカの将来について明確な展望を何ら持ち合わせていないという、非常に不安な状況にあるという事だ。」( J・ダワー「アメリカ 暴力の世紀」)

さて、こうした二つの論評を前にする時、以前リフアーしたThe Economist,(Nov.11/17)の巻頭言‘Endangered’ でBy putting `America First’ , he makes it weaker, and the world worse off. つまり「米国第一主義」を実践することで、米国を貧しくし、世界を貧しくすることになる、という事態に思いを深くする処です。

ただ、それでも頭をよぎるのは先月NYで会った知人との会話でした。つまり、そうした発想は、NYを中心とした東部、又西部ではカリフォルニアぐらいで、中西部に出かけるとトランプの当選を齎したエスタブリッシュメントへの国民の怒りという草の根の潮流は変わっていないとの指摘でしたが、それは冒頭引用のRortyの文脈に通じる処です。確かにメデイアは共和党の動きとして、2018年の中間選挙に向けて、移民受入れや自由貿易に否定的な「ミニ・トランプ候補」が続々名乗りを上げていると報じています。一方の民主党でも反自由貿易を唱えるサンダース氏の主張が影響力を強めているとも報じています。そして12月12日、長年与党の地盤とされてきたアラバマ州での米上院補選では民主党ジョーンズ候補が僅差ながら25年振り勝利したのです。勿論、現状は未だまだ不透明な要素一杯で、メデイア風に言えば、トランプイズムはアメリカの亀裂をさらに深めている, という事になる処です。とすれば仮にトランプ氏が一期で終わったとして、その後は万事平穏と見るのは楽観的に過ぎると云うものでしょうか。

2. 検証;トランプ通商政策の合理性と、WTO対応

(1) 米中二国間貿易インバランスの是正と保護主義政策の帰結
さて周知の通り、トランプ氏はAmerica Firstの下、選挙戦を通じて中国や日本との貿易収支の赤字が米国の製造業の雇用を奪ってきた, と二国間貿易の均衡化を主張し、先のアジア歴訪の折も同様言動を繰り返し、因みに中国からの輸入については高関税で阻止し、中国との貿易赤字を是正し、米国の製造業の雇用を回復させることが当面の米国の重要な貿易政策としています。

こうしたトランプ氏が主張する「中国からの輸入急増が米国の製造業の雇用を奪った」という点
についてはMIT Autor教授、Dorn教授 他による2014年、更に2016年の学術的検証(注)によ
れば2000年以降、中国からの輸入増が齎した米国経済への影響としては大まかに言って「米国
の製造業雇用者の減少分の内、中国ショックによるのは1割から2割程度」と推定される処です。
が、これら製造業から排除された労働者を他のセクターが十分吸収できなかった点も指摘され
る処です。 [(注)China Syndrome : Local Labor Market offsets and Import Competition in the United
States ,by Autor,Dorn,Hanson,他 (2014) & (2016) ]

そこで、中国に向かって輸入抑制措置を取ったとして中国からの輸入が減少し米中二国間貿易の赤字是正が進んだとしても、だからと云ってマクロ経済的に米国内の雇用が回復することになるかと云うと、そうはなりません。と云うのも一国の対外収支(貿易バランス)は会計学的に成立する恒等式によってマクロ経済的に制約されているからです。つまり、一国の「民間投資と政府の財政赤字分」をフアイナンスするためには結果として同額の「民間貯蓄と経常収支の黒字」を必要とするという事で、この恒等式が教えることは「対外収支は一国全体の貯蓄(S)と投資(I)のバランスに依存する」という事ですから、米国民が消費支出を抑え、民間貯蓄が投資を上回るようにしない限り貿易収支を改善することはできないのです。俗にいうISバランス理論です。

因みに、2000年以降、米国では資産価格の高騰等を背景に消費の増加に加え、財政収支の赤字の悪化等で国内の貯蓄率は低下傾向にあるなか、投資率はやや上昇したことから貯蓄不足が拡大してきており、この点を改善しない限り、保護主義的措置をとっても何らの解決にはならず、ましてやアメリカ国内の基幹産業の復活に繋がる事はないのです。ノーベル経済学賞のJ.Stiglitz氏も、12月5日付のEssay ‘The Globaization of Our Discontent’ で、ISバランス理論を擁してトランプ貿易政策の矛盾を批判する処です。

・保護主義政策の帰結
処でトランプ氏が尊敬すると云われるレーガン元大統領は、まさに80年代初頭、日本の自動
車、鉄鋼等の対米輸出を抑え国内産業を保護する為と輸入制限策を取ったのですが結果は「川
下」産業に高コストを強い、競争力の低下と同時に物価高で低所得者を困難に至らしめた経験が
あるのです。レーガン大統領はこの失敗を認め自由化に向かったのですが、こうした失敗をトラ
ンプ政権が認識しない限り、米国経済はここ数年内には先進国の優等生の地位から滑り落ちる
可能性は否めないというものです。もとより日本経済にとっても極めて重大問題と映る処です。

かくしてトランプ政権の貿易政策、つまりそうしたlogic無視の貿易均衡策、保護主義的措置は結果として、米経済の競争力の低下、委縮、延いては世界経済の停滞すら招く事になりかねないという事で、それはフーバー大統領時代の経験(1930年6月「スムート・ホーリー関税法」)が教える処です。つまり、米経済の構造的改革なくしてはトランプ氏が目指す健全な貿易バランスは期待できず、保護主義政策は経済の停滞をもたらすことになると云うものです。

・Trump’s next trade turget
加えてトランプ政権は、自由貿易の本山ともされるWTOの基本までをも槍玉に挙げだしており、これ又憂慮される処です。12月7日付、Finanncial Times はTrump’s next trade target と題した一大記事を以って、The World Trade Organization faces an identity crisis because of the suspicion of the Trump administration. とし、しかも皮肉なことに、The irony is many countries want to work with the US to deal with China’s modelと、トランプ流の行動様式を取らんとする国が多くなってきているとも指摘していたのです。

実際12月10日からブエノスアイレスで開かれたWTO閣僚会議で、米通商代表部のライトハイザー代表は、WTOルールは途上国に有利になっており、現状を維持することはできないと主張し、「多角的貿易」の文言の削除すら求めたと伝えられています。(日経‣夕、12/12)つまり、米国がWTO体制における被害者だというトランプ氏のこれまでの主張に沿った姿勢を鮮明とするものです。そして当該閣僚会議は米国のWTO批判にかき回され議論が錯綜する中、閣僚宣言の採択ないままに13日閉会となっていますが、大国のリーダーシップ不在の結果で、WTOの漂流する姿が印象付けられるばかりです。さて次の一手は?です。繰り返すに、トランプ貿易政策の最大のリスクは、戦後世界が営々と築いてきたGATT、そしてWTOの多角的かつ自由な貿易体制が崩れ、報復関税の応酬を引き起こしかねないという点にある事です。

(2) 米国の世界覇権からのretreat
   - トランプの「国家安全保障戦略」と日本の対応

ただそれ以上に問題と映る事は、こうした米国の政策行動は、米国の世界経済における覇権からのretreat 、つまり‘後退’の何物でもなく米国のlocal 化すら懸念される処です。そして、かかる事態が中国の世界経済における覇権国家としての台頭を許す処ともなってきていることで、因みに先のAPEC首脳会でも、保護主義という守りに入ったトランプ米国とは対称的に、習近平主席は「通商戦争には勝者なし」としつつ、グローバル化や自由貿易の重要性を強調していましたが、何かドラマでも観ていると云った感じです。
現状多くの識者は、そうした世界経済の化学反応を容認してはいる処ですが、中国が一度も民主主義を経験していないことにも照らし、近代国家としての持続性に聊かの疑問を禁じ得ない(ジャレド・ダイアモンド氏、米UCLA教授、日経11/ 28)と、総括される処です。

さて12月18日、トランプ大統領は「国家安保戦略」を発表しました。本来なら世界秩序の指針たるべきものですが、持論の「米国第一」を繰り返すに留まるもので、米国のretreat宣言とも映る処です。日本の安全保障政策の基軸が日米同盟にある事には変わりないでしょうが、これでは心許ないと云うものです。従って、安倍政権には、自由主義、市場経済を掲げる国々と、幅広く安保ネットワークを構築していく事が求められる処、その点では日米豪印による言うなれば広域安全保障体制の構築を目指す「自由で開かれたインド太平洋戦略」構想(後述)があり、又、12月14日ロンドンで開かれた日英外務・防衛担当閣僚協議では「グローバルな戦略的パートナーシップ」の拡大が謳われ、準同盟国として協力していく事、とりわけ英国のEU離脱に向けた経済関係強化の方針がが合意されており、これを機に、米だけに頼ることのない、幅広い日本としての安全保障網をしっかりと構築していくべきを改めて目指すべきと、思料する処です。


第2章.「自由で開かれたインド太平洋戦略」

1.「インド太平洋戦略」構想は‘Trump’s gift to Japann’

トランプ米国が「国際的な枠組みやルールはアメリカにとっての足かせだ」とする中、日本としてどのようにアメリカを繋ぎとめておくことが出来るかが課題となる処でしょうが、もとよりアメリカと世界は言うなれば一蓮托生の安全保障上、政治、経済上のステークホルダーであり、日本としては不可分の存在である事を強調するほかないものと思料するのです。

その点で、今次トランプ氏のアジア歴訪時、明らかとされた「自由で開かれたインド太平洋戦略」構想は極めて有為なものと云え、つまりは太平洋とインド洋を結ぶ地域全体で法の支配や市場経済を重視する国際秩序の維持を狙いとするものです。実は日本がinitiateした構想と云われていて、これにトランプ米国を巻き込み、同時にオーストラリア、インドをも巻き込み日米豪印4か国が共同して、新たな海洋安全保障協力体制づくりを目指す、まさに不可分を強調する処となるものですが、これこそは前号論考で紹介したTrump’s gift to Japanと映る処です。

11月12日、その四者会合がマニラで行われていますが、そこで出された各国声明文を分析したインドのネルー大のコンダパリ教授によると、日米豪は法の秩序、核不拡散など同戦略に関する主要9項目のうち、ほぼ全項目で一致した由ですが、インドは海洋安保等3項目で言及を避け、意見の相違をうかがわせたと、12月4日付日経は伝えています。そして、同紙はインドは軍拡を通じて独自の「インド洋戦略」を優先し、その延長線上でのみインド太平洋戦略に加わる安保外交を展開していく事になるのではと、指摘するのです。

もとより、内向きを強める米国の影響力が衰えることを睨んでいくとき、日米にオーストラリアとインドなどを加えた枠組みでアジアの安全保障の変化に対処していかんとする方向は高く評価できると云うものですが、そのカギは従って、インドにありと思料される処です。 その点で、
米外交誌Foreign Affairs(Nov./Dec.,2017)が伝えるAlyssa Ayres氏論文 `Will India Start Acting like a Global Power ’ は、その可能性を測る上での格好の資料と思料するのです。そこでその概要を以下に紹介しておきたいと思います。

2. 世界の「グローバル・パワー」を目指す新生インド
 ― Will India Start Acting Like a Global Power

(1)インド経済とNew Delhi’s New Role 
まず、インドは軍事力(軍人の数)で世界第3位、国防予算で世界第5位、そして経済力では世界第7位の民主主義国でありながら、国連安保理のメンバーでも、先進工業国G7のメンバーでもなく、major global playerとは認知されてきていないことに疑問を呈するのです。然し、現在のモデイ政権下ではleading power として世界的にも位置付けされてきているというのです。

その背景にあるのがインド経済の成長です。つまりインド経済はGDPで2兆ドル超。G7メンバーのカナダやイタリアを凌駕する処、米政府は更にインドは2029年までには世界第3位、米中に続く経済大国になると予想しているのです。BRICSにあって、中国がスローダウン、ブラジル、ロシアの経済が縮んで来た今、インドのグローバル経済におけるウエイトは高まり、IMFは2020年までには8%を超えるものとみているというのです。これは1995年の日本、2000年の中国を上回るもので、2016年米コンサル企業KPMGの予測ではインドは今後3年間で経済大国になるとしています。そして、その可能性を担保するのが大規模な若年人口の存在と云うのです。国連見通しでは、インドは2024年には中国を捉え、世界最大の人口大国になる事が予想されており、この若手労働者の成長は2050年まで想定されるというものです。因みに日本の平均年齢は53歳、中国は50、欧州では47歳、一方インドでは37歳と予想されているというのです。

・インドの外交姿勢
ここ数年、こうした成長を背景に自信を深めたインドは単にグローバルな動きに反応するというよりも、積極的に役割を果たしてきているとも指摘するのです。その一つは、国際気候変動問題への対応だと指摘するのです。これまで炭酸ガス排出削減協定に拒否してきたが、それは先進国が排出量の少ない新興国のインドに削減を求めることは不公平だと考えてきたためで、その辺の事情が変わってきた今、2015年のパリの国際気候変動会議ではインドはこれに参加、New Indiaの顔を鮮明としたと云うのです。そしてフランスと共にモデイ首相は新たな国際ソーラーパワー開発機構の拠点をインドへと訴えているのも、当該開発でインドは国際的なリーダーシップを目指さんとするもので、こうした ‘パリ協定への参加はインド外交の新たな姿、従来の姿勢とは違った問題解決型の新たなインドの姿を示すもの’ だと強調するのです。

もとよりインドは西欧への依存を深めながらも、これまで過去数十年に亘り、既存の国際機関を補強する機関の創設に努めてきており、BRICsメンバー国として2012年にはNew Development Bankを創設、既に2016年には初のローンを実施していること、2014年にはBRICSのContingent Reserve Arrangementを確認していますが、これは経済危機の際のIMF支援に代わるものとしていく事を目指とするのです。2017年にはインドは上海協力機構にも参加していますが、これも米国の枠組みとは異なるConference on Interaction and Confidence Building Measures in Asiaを通じて広くアジア諸国との連携を深める処と云うのです。勿論インドは中国主導のAIIBをも支援する立場にあり、今では当該銀行の第2位の出資者となっています。勿論、ニューデリーのトップ・プライオリテイは西欧が主導する伝統的なグローバル機構に留まり、米国のインタレストに見合う形で協力していく事にはあるとも強調するのです。

(2)米印関係の強化
処で、こうしたインドの実状に対するトランプ米大統領の理解が乏しいと、米国に対インド政策の見直しを迫る処です。それはグローバル・ガバナンスたる主要国際機関から外されている不公平な事情を改善し、対等に迎えられるべきであり、インドはそれに応えていく用意、十分にありというのです。
では、米政府はどうか。引き続き米政府はインドとの関係を有力な戦略機会の一つとして見ていることには変わりなく、インドについては歴史的な齟齬を超え、成長市場として、関係の強化を、また中国に対する防波堤として、注目してきたと云うのです。それでも、ジョージW.ブッシュとは2005年の核共同開発について、オバマ政権では防衛、経済、外交協力面で、いろいろ努力してきてはいるが、双方の目標とそれへのアプローチはかみ合う事はなく、例えばロシアのクリミア侵攻問題を巡っての対応の違いがそれだったというのです。

いずれにせよインドとしての戦略上の課題はグローバル・パワーとして認知されることで、これまで長年時間をかけ政策の独立性を維持しながら現在のインド政府のビジョン「世界は一つの家族」へとシフトを図ってきたと云うのです。ただ、独立性と同盟関係という点で、時に双方の理解に齟齬をきたす等、衝突する事情があったものの、昨年、米国は重要防衛パートナーと定義づけた事で、新しい動きが始まりだしたとする処です。

・インド経済のグローバル化と安全保障対応
尚、インドは目下、グローバル化を推進中で、2014年には貿易手続きの簡素化を含む貿易促進に取り組み、近時ではインドが最有力とする情報技術分野についてtop priorityを置き、人材の交流を含め、これには米国でのビザ発給手数料の引き上げ問題はあったが、当該ビジネスの拡大を図ってきており、こうしたグローバル化対応はインド経済の持続的成長に寄与する処、その点では更なる改革を自覚する処と云うのです。尤も、インド独自の政治的枠組みだけではその努力にも限界のある処、国際的ネットワーク、つまりAPEC,OECD,IEAなどを通じて、経済成長と雇用創造を進めていくとも主張する処です。
近時アフリカ資金援助でインドは大いなる貢献を果たしてきており、OECDではインド、ブラジル、中国、インドネシアをKey partnersと称し、経済成長を誘導させんとしており、G7を世界経済の中核としながら、インドを外してはやっていけなくなってきている点、強調する処です。

そして最後に安全保障対応では、人口とUN Peacekeeping(国連平和維持軍) への資金援助額から見て、国連安保理への招聘がないのはunfairと主張するのです。2010年、オバマ当時米大統領はインド議会でインドの為に「組織の再編・拡充」を約していると指摘、従って米国はそれを履行すべきと云うのです。そして欧州のメンバー同様、米国はインドの台頭に応え、世界の秩序再生に努めてほしい、世界のステージは今、our time has come.と主張するのです。


さて、世界のベクトルが今、「分離と発散」ヘとシフトを見せる中、まさにトランプがくれた贈り物としてのこの機会を効果的、戦略的に活かすこととし、日本が主導する形で具体的に進めていくべきで、うまく進めば地域の均衡と安定に役立つ処と思料される処です。ただ、この際は米国の対中姿勢にも関わる処でしょうがそれでも、中国封じ込めが狙いでは安定は覚束ないと思料するのです。と云うよりは中国を引き込んだ「均衡と協調」(注)の体制を作る必要性すら思う処です。 [(注)慶大教授 細谷雄一氏は国際秩序とは、「均衡」「協調」「共同体」という3つの体系の結びつきで形つくられると指摘するのです。(同氏著「国際秩序」中公新書、2013 )]


おわりに The Global Economy in 2018、そして日本は

12月20日、米議会は10年間で1.5兆ドルという巨額な減税法案を可決しました。トランプ
大統領、初の大型公約の実現です。メデイアは総じてこれが景気の起爆剤となると伝えていますが、巨額減税は財政の悪化に繋がる恐れある処、さて潜在成長率の引き上にどこまで結びつくか、その副作用は否めず、中期的効果は今後試されることになると云う処です。因みに今次大型減税法案に賛成票を投じたのは共和党だけ、民主党は「大企業、金持ち優遇だ」として全員が反対に回った由で、そうした議会の様相は分断の広がる「トランプ米国」を象徴する姿と映る処です。

・The Global Economy in 2018,
さて、ノーベル経済学賞の米NYU Stern School of Businessの Michael Spence教授は、米論壇に寄稿した11月28日付エッセイ「The Global Economy in 2018,」で、今次世界経済の現状を鳥瞰した上で、成長のカギは、technology, とりわけdigital technology にあるとして、世界経済の新たな生業について以下(概要)語るのです。

まず2017年の先進国を回顧し、経済成長は加速する一方で、政治的には分裂、分極化が齎す緊張に晒された、対照的な年となったが、長期的にはそうした経済も、政治的、社会的な分離主義の流れに影響を受けていく事になろうというのです。尤も、市場も経済も政治的無秩序さにはゆとりある対応を取ってきており、当面、景気後退のリスクは低いと指摘するのです。但し例外はBREXITを抱えるイギリス、そして連立政権候補の調整に問題を抱えるドイツ、メルケル首相の影響力の低下で、EU統合強化への影響を危惧するのです。一方、斯界が注目するのが金融政策の推移。先進国経済の良好なperformanceに照らし、引き締めに向かう事が予想される処、それは経済の本格回復を示唆するものと積極的に受け止めるのです。
一方アジアについて、中国では習近平主席一強の様相を強めるなか、経済構造のゆがみ是正問題が進み、同時に、消費とイノベーション主導の成長が期待されること、またインドも成長の持続性と構造改革に向かっていると指摘するのです。そしてこれらの経済成長に刺激され、他諸国も地域での発展を目指すことになると予想するのです。

こうしたperspective に立ってSpence氏は、世界経済の成長のカギはtechnology、とりわけdigital technologyで、今後、中国と米国がその中心となって、膨大な情報量を背景に経済と社会の交流の場となる各種プラットフォームを形成し、イノベーション推進、実用化、AI活用等で、新しい機会が創造されていく事で、経済社会は新しい局面に入っていくと見るのです。とりわけ同氏は中国の11月11日のSingles’ Day、独身者の日という名の世界最大のショッピングイベントに注目、中国最有力のon line payment platform 、Alipayでの取り扱いが一秒間でなんと256,000件と驚異的な結果であったこと、これによる金融サービスの拡大とそれが齎す経済活動の広がりに注目するのです。今後、先進国、新興国は共に、そうした機能を擁して、より包摂的成長を目指すことになると指摘するのです。 尚、トランプ米国が進めるretreatの動きの如何で、グローバル経済はserious challengeに向き合う事になると警鐘を鳴らすのです。

・日本経済のこれからを考える
さて、そうしたグローバルなperspectiveの下にあって、では日本経済はどうあるべきか、です。12月8日、安倍政府は再び「生産性革命」と「人づくり革命」を2本柱とする新たな経済政策を発表しました。そして「生産性革命と、人づくり革命を車の両輪として、少子高齢化と云う大きな壁に立ち向かう」と強調するのですが、何とも相変わらずの謳い文句です。12月9日付日経社説は「日本経済の最大の課題は潜在成長力の底上げと、先進国で最悪の財政の立て直しの両立だ。その姿が(新政策には)見えず、勿論「革命」の名に値しない新政策だ」と断じる処です。

あと1年4か月で「平成」の時代が終わります。であれば、この際はポスト平成を期すべく、これまで日本経済が対峙してきた問題を繰り返す事のよう、今後の経済をどう運営していくべきか、考えることが肝要であり、それは未来の日本や企業の望ましい姿をまずは描くことで始まるものと思料するのです。具体的には10年後の日本の姿は人口統計からある程度分かる処です。2025には団塊世代が全員後期高齢者に仲間入りです。これが意味することは医療・介護費用が膨らむのは確実です。一方健康寿命を延ばし、稼げる高齢者を増やせば社会保障費の膨張を抑えることもできると云うものです。財政についても同様です。日本は平成の間だけで国債発行残高は5倍以上に増えています。なのに、利払い費はピークの10兆円台が8兆円台にまで減っています。経済の低迷が皮肉にも財政破たんのタイマーを遅らせたと云うものです。然し、現状の超緩和が続けば金融機関の体力が衰え、金融危機の再来すら危惧される処です。等々、10年後の姿を描き出し、来たる新年に備えていくべきと思うのです。

それにしても、11月28日、経団連榊原会長の出身会社、東レで品質改ざん、品質不正が明らかになっています。その前日、同会長は,東芝をはじめとする企業の不祥事について強く非難していたばかりでした。まさに「東レよ、お前もか!」です。次々に起こる日本の大企業の不正事件、一体どうしたものなのか。かつて「財界の総理」と呼ばれた経団連会長、いまやその面影はいずこと、財界のretreat だけが痛く感じさせられる年の瀬です。
以上
posted by 林川眞善 at 18:37| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする