2019年07月26日

2019年8月号  今、国際社会は分岐点に - G20大阪サミットが映す国際社会の実像、そして日本は         - 林川眞善

目   次

はじめに G20大阪サミットは安倍首相の晴れ舞台だった
    ―「大阪宣言」は自由な国際貿易の堅持をうたったが

第1章 ‘G20大阪サミット’ と 米中関係の行方

1. G20大阪サミット総括
(1) 新たな国際社会の分岐点を映すG20大阪サミット
 ・サミットの場外で展開される各国外交
(2)米中首脳会談in Osaka と世界の生業
 ・米中協議の行方
 ・貿易戦争休戦の背景   
2.もう一つの米中経済関係:Counter-flow
 ・進捗する中国金融市場の開放 
 ・米国 v 中国
           
第2章 新たな国際環境と日本の目指すべき針路
-高坂正堯の示唆

1.日本の安全保障政策とトランプ氏の日米安保条約批判
(1) 日本の安全保障政策の基本
 ・日米安保条約
 ・トランプ批判を受け止めて
(2) 日本の安全保障とグローバル化対応
 ・日本の安保体制の土台の強化
 ・国際協調主義の堅持 
 ・ホルムズ海峡の安全確保と有志連合
2.対韓輸出規制問題
  ― 日本政府が切った対韓輸出規制強化のカード
          
おわりに 令和、初の国政(参院)選挙と安倍政権

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はじめに G20サミットは安倍首相の晴れ舞台だった
            ―「大阪宣言」は自由な国際貿易の堅持をうたったが

現下の世界情勢を定義的に申せば、米トランプ政権に代表されるように自国第一主義が広がり、グローバリズムは逆風に曝され、通商摩擦で世界経済の先行きには暗雲が漂い、ロシアなど力による現状の変更を迫る勢力も存在する状況にあり、と云う処でしょうか。

さて、今年6月28/29日、大阪で開かれた「G20サミット」は、安倍首相が議長を務める、まさに日本外交の矜持を示す格好の場となるものでした。周知の通り、当サミットの前身は、アジア通貨危機後の1999年に始まったG20財務相・中銀総裁会議ですが、それが2008年のリーマン・ショック後に首脳レベルの会合に格上げされたもので、今次G20への参加は総勢37か国・機関[注1]で、彼らの世界に占める比重は、GDPベースで8割、人口で3分の2ですから、まさに世界そのものと云え、安倍首相にとって、まさにルール作りの晴れ舞台を手にしたと云うところです。

果せるかなG20大阪サミットは6月29日、「自由で公正かつ無差別な貿易・投資環境を実現し、開かれた市場を保つために努力する」との文言を盛り込んだ6項目の「大阪宣言」[注2] を採択して幕を閉じ、その直後の記者会見では、安倍首相は、「意見対立ではなく共通点に光を当てた。G20は力強い成長をけん引する決意で一致した」と、主催国としての役割を果たしたと誇らし気に語る処でした。

しかし大阪に集まった各国首脳の行動は、G20サミットが使命とする世界経済の持続的成長を目指す ‘政策討議の場 ’ たるを意に介することのないほどに、これを機会と、夫々が抱える利害事情に即し、当該関係国との協議に向かう、つまり サミットの場外での首脳会談、個別外交に向う姿こそがそのリアルと云え、G20サミットの機能の不全すら、感じさせる処でした。「大阪宣言」はそうした状況を映し、例えば温暖化対策と云った地球の未来がかかるテーマさえ足並みをそろえられない国際社会の姿を炙りだし、米中対立のあおりでG20を軸とする多国間の調整力の劣化を象徴する処、機能不全が指摘されるWTOにしても改革を目指す方針こそ打ち出したものの肝心の中身に踏み込めずじまいにあるのです。

[注1] G20参加:日米中等メンバー国19か国とEUの計20か国、国際機関9機関(UN.
IMF, OECD, WTO 世銀、ILO, FSB, ADB,WHO)、招待国8か国(オランダ他7か国)
の総計37
[注2] G20首脳宣言6つの項目(日経 6月30日)
1. 貿易摩擦がリスク、2. データ流通促す、3. インフラ開発で債務配慮
4. 税のデジタル化が進展、5. 女性の活躍不可欠、6. 環境問題は喫緊課題
こうした環境にあってトランプ米大統領は、日本が安保体制の基本軸としてきた日米安保条約は米側にとり片務協定だ、改めるべきだ、と批判を繰り返す処です。実はこれが不安定な国際環境に照らすとき、日本の今後の在り方を問うきっかけを生む処とも云えそうです。

そこで本論考ではまず、当該サミットの実態を検証、総括し、サミット後の米中関係の行方について考察する事とします。偶々、米中対立構図のなか、金融界こそは米中関係の深化が進む処とThe Economist (July 6~12)は、その状況の実際を伝えるのです。そこでこの際は併せてその概況を紹介しておきたいと思います(第1章)。そして次に、トランプ氏の日米安保条約批判を受け、この機会に、日本の安全保障対応に留意しつつ、日本の目指すべき道、針路について考察する事としたいと思います(第2章)。 

7月21日の令和初の国政選挙、参院選は、与党(自・公)が勝利し、安倍首相は 今や‘つくられた争点’とされた憲法改正に歩を進めんとする処です。ただこれがbeautiful harmony、を追求する環境づくりにつながる事か、国民が今求める事案なのか、そして、日本は政治も、経済も正しく「令和」のそれに向かう用意はできているか、その思いを痛くする処です。



第1章 ‘G20大坂サミット’ と 米中関係の行方
                            
1. G20大阪サミット総括  

(1) 新たな国際社会の分岐点を映すG20大阪サミット
        
そもそもG20サミットは前述した通り、2008年、時のリーマン危機に対峙する中、持続的成長をいかに図るべきか、世界レベルで対抗策を練るために主要20か国・地域首脳会議としてスタートしたものです。しかし、そうした流れを変えたのが2016年の英国のBREXITであり、アメリカでのトランプ台頭でした。そして両者に共通するのが自国第一主義です。

これまで国際協調こそが世界経済繁栄の枠組みと、米国主導ながら各種国際機関、協定が導入され、以って世界経済は運営されてきました。しかし‘米国第一’が謳われ、国際協調軽視のトランプ米大統領の台頭で、既存の行動様式を以ってしては、これら協調の枠組みが廻らなくなってきた一方、異質な一党独裁を以って米国に次ぐ世界第2位の経済大国となった新興中国が、習近平主席の長期ビジョン「社会主義現代強国」化の下、新たな中国圏形成を目指す政治行動とも相まって、米中2大経済大国は覇権争奪戦の様相を呈する処です。

昨年7月から始まった米中関税合戦こそはその象徴と云え、今2年目に入った処ですが、米中追加関税の発動は他の国々を巻き込み、貿易の流れに構造的な変化をもたらしてきています。と云うのも、グローバル企業は両国にまたがって築いたサプライチェーンの見直しに拍車をかけ、これが世界経済に新たなリスクを呈する処となってきています。今次G20サミットに集まった各国首脳の関心は、そうした世界的構造変化に自らの利害をいかに対応させていくかに絞られ、サミットでの多国間協議よりは、その為の個別会談に向けられるものでした。

・サミットの場外で展開される各国外交
因みに、トランプ氏は、サミットの合間を縫って、インドのモデイ首相やブラジルのボルソナロ大統領ら10人ほどの首脳との会談をこなしていますが、米政府関係者は「中国の影響力を排除する包囲網づくりが狙い」と明かす処です。 一方、習主席も負けてはいません。メルケル独首相、マクロン仏大統領ら欧州首脳と個別会談を持ち、気候変動対策等などで「多国間主義を守ろう」と接近、南アなどアフリカ3国との首脳会談では「中国とアフリカの協力関係は不変だ」と強調。その限りにおいてG20各国は米中対立のはざまで、双方の陣営作りに踏み絵を迫られる様相にあったのです。

こうした米中の動きの裏を返してみると、米中の2大大国のまさに覇権争いのすきを突いて台頭しようとするロシアとインドの姿があり、彼らは彼らで個別会談を通じて、独自の経済圏を目指さんと、自国第一の姿勢を強める処、世界はまさに液状化を映しだす処です。

つまり、プーチン氏は大阪サミットで訪日予定の直前、Financial Timesとのインタービュでは,‘The liberal idea has become obsolete ‘(自由主義は時代遅れ)[Financial Times June 28]、として、トランプ氏の保護主義的な政策を批判する一方、サミット開幕前には大阪市内でBRICS 5か国首脳と会談、「世界経済発展の公正な新しいモデルをつくろう」と呼び掛けていたのです。 一方、インドのモデイ首相もまさに米中を天秤にかける様相で、28日の安倍首相、そしてトランプ氏との会談では人口世界一の民主主義国家という面を強調し、その数時間後には習近平氏とプーチン氏との会談に臨んでいます。いずれもモデイ氏が呼び掛けたものでした。 ただG7で中心的役割を果たしてきた欧州勢は国内のナショナリズムやポピュリズムの伸長で精彩を欠く処、これもあれも自国第一と、会議が散漫になっている点で、ナポレオン戦争後の終戦処理のためのウイーン会議(1814~15)ならぬ「会議は踊る、されど進まぬ」様相が伝わる処でした。

各国が演じる行動のリアリテイとは「大国なき世界」の実像を語る処、それは新たな相関図を成す処とも言え、今次のG20こそは、国際社会の分岐点を象徴する事態です。 いまやG20サミットは劇場(アリーナ)型外交の場とも言え、「会議は踊る、されど進まず」と揶揄されたナポレオン戦争後のウイーン会議(1814~15)すら想起させる処です。

大阪宣言は、こうした経緯を経て取りまとめられたものですが、7月1日付けFinancial Times、社説「G20 meets a low bar for global co-operation」では、トランプ氏への配慮を色濃くしたG20サミットと、従ってG20を軸とする多国間の調整力はすっかり失われてきたと懸念を募らせる処でした。が、そうした中、6月28日、EUは、ブリュセルで行われていたブラジル、アルゼンチン、ウルグアイそしてパラグアイの南米4か国で構成する関税同盟、Mercosur,(南米南部共同市場:メルコスル)とFTA交渉で政治合意した旨発表、以ってこれがmost notable success, 極めて素晴らしい成果と、祝福すると同時に、NZ,豪州とのFTAの可能性もこれありで、EUのリーダシップに期待し、international co-operation is still functioningと指摘するのでした。因みにアルゼンチン、サンタフェで行われていたメルコスル首脳会議で、7月17日、マクリ・アルゼンチン大統領は「我々は国際的なバリュチエーンを作るために新たな国や地域と交渉を進める」と演説する処です。(日経7月19日)

要は、G20サミットはもはや政策協調を通じて世界経済の発展を目指す場ではなくなってきたと云う事ですが、そこで世界は、勿論日本も含め、新たな相関図に即した戦略の再構築、新たな協調体制を模索していく事が焦眉の急と、映る処です。

(2)米中首脳会談in Osakaと世界の生業

・米中協議の行方
G20サミットを機会に大阪で行われた米中首脳会談こそは世界最大の関心事とされたものでしたが、その結果は報道されている通り、5月に決裂した閣僚級の貿易協議を再開する事、米国が中国製品3千億ドル分への追加関税を当面見送ることで折り合いがついたと云う事、そしてもう一つ、米政府が安全保障上、技術漏洩につながるとして、米企業の中国通信機器大手メーカ「フアーウエイ」への輸出規制措置について、トランプ氏はその制裁の緩和を表明したことで、結果、米中貿易戦争は一端 休戦入りとなっています。

ただし、米中協議継続について、7月9日、米USTRのライトハイザー代表が中国の劉鶴副首相と電話協議をしたと報道されてはいますが、その協議結果は明らかにされることなく、対面協議の予定も未だしの様相ですし、また中国側は協議再開の条件として、フアーウエイへの制裁措置解除を優先課題に掲げていたものの、具体的条件などは十分詰め切られている様子もなく、米中それぞれの国内事情とも相まって、合意の道筋が描けぬままにあり、交渉の長期化の恐れぬぐえず、と云った処です。

・貿易戦争休戦入りの背景
米中休戦入りの事情とは周知の通りで、トランプ氏の場合、米大統領選を控えたまさに個人的政治事情の他なく、大阪での米中首脳会談で習氏との合意ができたことに加え、サミットが終るや北朝鮮に赴き、金委員長と板門店で電撃会談するなど、要は2020年の大統領選での再選に向けた不確実要素を取り除いておきたい、と云う事と云え、要はトランプ支持層受けする行動専一と云う処です。それだけに出口戦略のない、ありていに云えばマッチポンプであり、その事こそが世界が不安要因となる処です。因みに米朝首脳会談でも肝心の核開発の全面停止発言も今では、‘金委員長と会談した’こと、だけを以ってトランプ支持層へアピールすることにあり、その結論に責任を取る様相はありません。

一方、習氏の場合、国家元首として10月1日、中国建国70周年の祝賀事業を最重視する事情から、停滞が云々される中国経済の立て直しが急務とされる処(注)、貿易戦争のリスクを金融緩和で回避せんと必死にあり、更には香港での民主化運動の広がり等、政治課題真っ只中にあり、従って、暫し貿易戦争は休戦に向かったということなのでしょう。

      (注) 7月15日発表の2019年4~6月GDP成長率(実質)は前年同期比6.2%、リーマン直
後の2009年1~3月期の6.4%を下回り、四半期ベースでは1992年以降で最低。長引く貿
易戦争が重しとなり、投資、消費が振るわなかった結果と。

つまり、トランプ氏の場合、2020年選挙に備え、中国とも北朝鮮とも協議再開で結論を先送りし、習氏も経済減速などで自らの基盤を揺るがす動きが国内から強まりかねない事態を警戒し、トランプ氏と妥協せざるを得なかった事情からすれば、対立の基本構図は変わることなく、従って米中合意の機運乏しく、具体的な協議のスケジュールのないまま、合意のハードルは5月の決裂前よりも上がっているのではと危惧する処です。 というのも、巷間トランプ氏の功績?は対中姿勢を硬化させたことではなく、中国への敵意を支配階層全体に広めた事(Financial Times, July 11)とされている点で、政治・外交の指導者や企業経営者は今や、中国との長期戦を支持しているとみられるからです。

さて、今次大阪サミットは、そうした政治と外交、そして貿易が密接に絡むパワーゲームが世界を翻弄する現実をリアルとする処でしたが、改めて覇権国家とは何かを問い直し、それにいかに抗していくべきか、新たな生業への挑戦が示唆される処です。

2. もう一つの米中経済関係:Counter-flow
― America and China are at each other’s throat, but also in each other’s pockets.

上述米中貿易戦争が深まる中、この対立の流れとは180度、異にする米中経済関係の深化
が進む業界があると、金融業界の結びつきの実相を7月6日付けThe Economist誌 は指摘
するのです。これもトランプ氏が事態をどのように認識し、如何なる行動に出るかで、大変
な結果が懸念される処、まずはその概要を紹介することとします。

・進捗する中国金融市場の開放
米中貿易戦争が始まって以降、中国と欧米の金融面での結びつきはむしろ深まる処、今後更に深化していく事になるとThe Economist誌は見るのです。確かに中国政府は金融市場の開放策を進めつつあり、昨年4月10日、習近平氏はアジアを中心に政財界の要人が集まるボ-アオ・アジアフォーラムで、国内市場を外資に開放するとし、昨年6月からは外資系金融会社に51%までの出資を認めたのですが、今年7月2日には、李克強首相は2020年からは外資による全額出資を容認する旨、発表。更に7月20日、外資格付け会社の業務拡大を柱とする11項目からなる金融市場の新たな開放策を発表しています。

周知の通り、中国の資本市場は今尚、発展途上の状況ですが、巨大なだけに、欧米企業が本格的に事業展開すれば、その水準を引き上げることにつながると見る処です。と云うのも中国がもっと資本を効率的に配分し、中国人の預金を生かしていく上で最優先すべき事だからと云うのです。

加えて中国はこれまでよりも海外の資本を必要としている事情を指摘する処です。つまり、中国の経常黒字は2007年のGDP比10%から昨年には同1%未満にまで減少しており、海外から安定的に資金の流入がなければ、人民元が下落し、不安を招くことの可能性が指摘される処、元米財務長官のヘンリー・ポールソン氏などは西側諸国の金融機関の中国進出を支持するのです。もとより、これらの動きを以って中国がすぐに市場経済の国に変るわけではありませんが、中国企業が透明性を高め、市場からの反応に対応し、知財権を尊重する方向へと繋がっていくはずだとする処です。
因みに、通信機器最大手のフアーウエイがHSBCを活用したように、中国企業が海外進出にあたって欧米の銀行を使うようになれば、汚職や制裁措置を巡るさまざまな国際ルールに従うことを余儀なくされていく事になるからと期待を込めて言うのです。

(注)Goldman Sachs推計が示唆する米中金融関係の深化
Goldmanの推計では、今後10年間で海外から中国株式市場に流入する投資額は
約1兆ドルに上り、中国は世界有数の投資先になると見る処、これには中国政府
が自国民には厳しい資本規制を課す一方で、外国投資家には株を売却し、資金
を国外に移すことを禁じていないことが大きいとするものです。

・米国 v 中国
米国が国際金融システムから中国を排除しようとすれば、中国は1945年以来、国際金融市場を支配してきたドル・ベースのシステムに代わるシステムをやがて構築することになろうし、そうなれば米中は今にも増して幅広い分野で対立を深めることになると云うのです。しかし中国は、当面は米中が貿易や技術を巡って対立しても、海外の投資家や外資企業の中国市場参入を歓迎し続けるだろうと想定しつつ、トランプ氏の行動にも照らし、関係を断ち切るより、築き上げる方が得られるものは大きいと締めるのですが、然りと云う処です。



第2章 新な国際環境と日本の目指すべき針路

― 高坂正堯の示唆
今から27年前、当時京都大学の国際政治学者、高坂正堯は「日本存亡のとき」(1992年)の中で、「日本は世界に影響を与える存在となった」と云い、しかし「世界のルールに進んで貢献しようとしない」、「これでは日本の発言力は強くならないし、警戒もされる」と警鐘をならしていたのです。 それは、日本人には国際環境を「気象」のような与件としてとらえ、それに対応することを以って外交と見做すところがあり、自らも加わって変えていく事ができるものとして国際環境をとらえることが少ないためだ、と指摘していたのです。

さて、国際環境の今は、本稿冒頭「はじめに」で定義したように、急速かつ多元的変化を示す処、では日本は如何なる道を歩むべきなのか問われる処です。これまで日本は、外交・安保においては日米同盟を基軸とし、国連中心の国際協調主義を土台としてきていますが、それを見直せと云う事になってきたと云う事です。現実には前述した通り、トランプ氏は日本が外交・安全保障の基軸とする「日米安保条約」について、米国にとり片務的だと批判し、その改定を迫る処です。それは自分の安全は自分で守れとのトランプ氏の趣旨に沿うものと承知する処、であれば、本来なら日本を含むアジアの平和を保つにはどうすればいいのか、となるのでしょうが、この際は日本としてトランプ発言を目覚まし時計として、日米安保体制の土台を強めるきっかけとして、日本の外交・安保をどのように考え、対応すべきか、上記高坂の指摘を心しながら、その針路について考えてみたいと思います。

1.日本の安全保障政策とトランプ氏の日米安保条約批判
 
(1)日本の安全保障政策の基本

・日米安保条約
日本の安保政策の基本軸となるのが日米安全保障条約です。周知の通り、この現行日米安保条約についてトランプ氏は、米側に負担が偏っている、不公平だと批判し、その修正を求めています。こうもおおっぴらに不満をぶつけた大統領は近年いません

そもそも日米安保条約とは、日本が独立を回復した1951年のサンフランシスコ講和条約と同時に署名され、1960年に岸伸介首相とアイゼンハワー米大統領のもとで全面改訂され、前文と10条からなる日米同盟の基礎となる条約です。60年の改定で日本が領域内で他国から武力攻撃を受けた際、日米両国が自国の憲法の規定に従って「共通の危険に対処するよう行動する」(5条)と定められ、陸海空の領域、サイバー空間などで日本が受けた攻撃に対し、米国には集団的自衛権を行使して防衛する義務が生じる事になっています。つまりトランプ氏のクレームは、米国が日本を防衛する義務を定めている反面、日本の自衛隊は米国を守ると規定していない点で、これでは不公平だと批判する処です、

尚、在日米軍との関係について、安保条約6条では米国は「日本の安全」と「極東における国際平和と安全の維持」に寄与するため、日本国内に米軍基地(施設・区域)を設置できるとされ、在日米軍が駐留する根拠となっています。では米軍の駐留経費ですが、米軍基地の土地代や施設・区域の提供は日本が負担し、米側の要請に応じて基地従業員の人件費や光熱水料も「思いやり予算」として日本が負担、2016年度より5年間の負担総額は約9465億円に上る処です。

・トランプ批判を受け止めて
トランプ批判については、一部にはこれから再開される日米通商交渉に向けた脅しだとする向きもあります。しかしこの発言が大統領選を見据えたものとすれば相応の真剣さがあり、従って正面から受け止める要ある処と思料するのです。とすれば日本としてはこれにどう応えてくか真剣に向き合っていく事が不可避と思料する処です。それはまさにGゼロ時代の日本の課題とも言え、不安定化する世界で日本はどう生きていけばいいのかを問う事になる処です。そこで、日本の安全保障政策の在り方(考え方)、そしてグローバル経済と日本経済の合理的な取り組みについても安全保障の一環として考察したいと思います。

(2) 日本の安全保障とグローバル化対応

・日米安保体制の土台の強化
日本の安保体制は前述の通り、日米安保条約に担保された同盟関係を前提とするものですが、日本の地政学的環境に照らすとき、今後もその前提に変わることはないものと思料するのです。勿論、合理的な日米関係維持のためには、環境に応じた、当該条約の見直しは自然なことと理解でき、それは体制土台の強化につながる処とも思料するのです。

仮に安保条約改定に臨むとして、その際は限られた資源の中で日本の安全を確保するために、できる事、できない事を、はっきりさせていくことが何としても肝要と思料するのです。そして米軍に対して「何を、どこまで」協力するのか、シナリオ別に米国と詰めておく事と思料するのです。勿論簡単なことでないこと承知の処ですが、要は日本の貢献が目に見える形で示されていく事で、これがただ乗り批判に対抗し易くなるのではと思料するのです。
尤も、現実の対米外交としてトランプ氏への過度な傾斜には功罪のある処、では日本が目指すべき持続可能な外交とは何か。それは多国間主義、国際ルールに重きを置いた外交と思料する処です。

尚、序で乍ら「安保防衛の視点から、国際的な軍事協力を図るためにも、自衛隊を国の正規の軍と明記する必要がある」、これが安倍首相をはじめとする改憲派の目指す現行憲法改正の事由です。しかし2015年の安保法制の改正で、国会の承認を得て一定の範囲での軍事協力は可能となっています。そして多くの場合、防衛戦略論として出てくるのが軍備拡充論ですが、これもいくら核装備を持ったとして、使用できないのが現実です。
その点で意識を新たにしなければならないことは、現代において、攻撃は何も軍事的なものだけではないと云う事です。ビジネス的な攻撃もあり、国際的な経済ルールを日本が非常に不利に策定されてしまう事だってあるのです。つまり、日米同盟と云う事で思考停止せず、グローバルな経済対応も、安全保障の一環として戦略的に取り組んでいく、つまり防衛も、経済も全方位での外交を心がけていかねばならないと云う事です。

・国際協調主義の堅持―多極化する世界で大事なのは仲間
多極化する世界にあって仲間は大事な要素です。とりわけ日本の置かれた地政学的環境にあっては、お友達をたくさん作る事は絶対的条件です。そして彼らと組んで新しい世界秩序を模索する、これこそは多極化する世界に対峙していく姿勢であり、日本が矜持とする処と思料するのです。

先の弊論考7月号で紹介したFinancial TimesのM. Wolf氏は、米国への対抗も含め自由貿易を堅持するためにも例えばEUと日本の間で共同歩調を維持すべきと提案していましたが、その文脈において、この際は日本が主導してきたTPPとEUの大連携構想を進めてはと思料する処です。これが狙いとするのは、経済面に止まらず自由貿易や多国間の貿易体制を守り続けると云う政治的メッセージにある処です。勿論、日欧間で米国を無視するかのような貿易構想が浮上しているといった誤解を招くのは禁物ですが(上述ウルフ氏はその点、無視していますが)多国間で自由貿易を盛り立てる努力は欠かせない事と思料するのです。

加えて、日本がやらねばならないことは、世界共通の課題、グローバルイシューに対して汗をかいていく事でしょう。例えば、今次G20サミット宣言でも謳われた海洋プラステイック投棄問題、「ブルー・オーシャン・ビジョン」です。それは2050年までにプラステイックごみの海洋投棄をゼロにするというものですが、まずは日本として当該ビジョンの具体化を主導することでしょう。そうすれば日本は国際社会から尊敬され、スポイルされるような目にあうことはなくなるはずです。これら取り組みは日本のためと云うこともさることながら、地域連携の強化、グロバリイムズの堅持に貢献する処であり、世界的な広がりを持った戦略対応と云うもので、大阪宣言の有言実行を狙う処でもあるのです。

・ホルムズ海峡の安全確保と有志連合
さて時まさに、トランプ政権は2018年5月9日、イラン核合意から離脱、米・イの関係は悪化が進むさなか、トランプ大統領は7月18日、ホルムズ海峡で米強襲揚陸艦「ボクサー」がイランの小型無人機を撃墜したと明らかにする一方、自国の船は自国で守れとのトランプ大統領の持論を踏まえ、米側はホルムズ海峡の安全確保を名目に、有志連合の結成に動き出し、日本にも有志連合の一員として民間船舶を擁護するよう呼び掛けています。
要は、同盟国に安全保障の分担を求める姿勢ですが、原油の8割超を中東に依存する日本にとって待ったなしの課題です。仮に日本が有志連合に参加したとして、イランとの関係が変わるだけでなく、米中対立に巻きこまれる恐れもあります。つまりは中国や東南アジアを含むアジア全体でエネルギー安全保障をどう実現していくか、日本はこの視点を欠くわけにはいかない筈です。21日、参院選を終えてのNHK番組に出演した安倍首相はイランとの友好関係につて問われ「ホルムズ海峡が波静かになるよう日本の役割を果たしたい」と強調していました。外交・安保は現実路線で進めるべきとされる処、さて安倍政権はどのように応えようとするのか。その推移は極めて気がかりとする処です。
 
2.対韓輸出規制問題
    ―日本政府が切った対韓輸出規制強化のカード

日本政府は7月1日、韓国への半導体材料、3品目(フツ化水素、フツ化水素ポリイシド、レジスト)について輸出規制を厳しくする旨を発表。当該3品目については個別に審査・許可する方式に切り替えることとし、4日から発動しています。そして今夏中に安全保障上の友好国である「ホワイト国」の指定も、削除すると云うものです。規制対象品のレジストは日本の世界シェアが9割、フッ化水素(エッチングガス)も9割前後にあり、これら製品の日本国内での輸出手続きに時間がかかるとなると、韓国電機産業の生産への影響大なる事、言うまでもなく、図らずも韓国が誇る世界最先端機器に日本の材料や部品が欠かせない関係性が明るみに出た次第です。

これまで度重なる政治摩擦に曝されながら経済界や民間は互いに相手を認め、補い合ってきたとされていました。が、日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた判決で、三権分流を盾に実効的な対策を打とうとしない韓国政府を動かさんと、日本政府は交渉カードを切ったと思料され、とすれば、今回の決定は、日本政府は否定してはいるものの、元徴用工訴訟を
巡る韓国への事実上の対抗措置と見受けられる処です。先のG20サミットで安倍首相が議長国として公表した「大阪宣言」では自由で公正な貿易の重要性を訴えたばかりでした。
中国の台頭や北朝鮮問題に対峙する隣国が角を突き合わせているだけでよいわけはありません。米軍を交えた安全保障協力への影響も避けられないのではと思料する処、20日にはトランプ大統領は要請があれば仲介役を買ってもいいと云いだしています。

韓国は、日本が日韓請求権協定(1965年)に基づき元徴用工訴訟について要請していた仲裁委員会の設置には応じない方針を示す一方で、日本の半導体材料の輸出規制強化では、WTOへの提訴を決めたと報じられる処です。日韓関係は悪化の一途と云う処ですが、とにかく、もつれた糸をほぐすには外交しかなく、日韓の場合、首脳会談と云う事になるのでしょうが、その点で両政府は外交を取り戻す機会を探るべきと痛く思う処です。

さて、韓国中央銀行は18日、電撃的な利下げ(政策金利を0.25%引き下げ,年1.5%に)に
踏み切りました。「中国」と「半導体」への依存度の高い韓国経済は、米中貿易戦争と半導
体メモリーの市況悪化で減速感が強まっている折、日本の半導体材料の輸出規制強化が追
い打ちとなって経済の不確実性が一層強まったと、3年ぶりの金融緩和に舵を切ったと云
う事ですが、今回の措置では不十分と早くも追加利下げを求める声が上がっている由です。
とにかく上述努力を含め、日韓の友好関係の恢復を念じるばかりです。



おわりに 令和、初の国政(参院)選挙と安倍政権

さて、令和初の国政選挙、参院選も終わり今、安倍政治はbeautiful harmonyを追求する環境を得たと云う処でしょうか。選挙結果は周知の通りで、自民党は改選議席124議席中、57議席、公明党が14議席、与党としては改選過半数の63を上回る71議席を獲得、安倍自民党総裁は自民党の勝利を宣言しています。但し自民党自身、全体で57議席を得たものの、改選66議席から9議席減らして自民単独過半数を失っているのです。
とは言え、これで安倍自民党は2012年12月の衆院選から、国政に6連勝し、6年半以上続く長期政権の基盤を更に固めたとされる処です。しかし、彼が公約と掲げた改憲ですが、その改憲発議に必要な参院の3分の2の議席数には及ばずでした。序で乍ら、選挙戦の争点とされている「改憲」を公約とすることについて、実は選挙戦ぎりぎりまで様子見にあったと伝えられていましたが、その姿勢が何を意味するか、関心の沸く処、いずれにせよ9月に予定される内閣改造では、改憲を見据えた布陣となるのでしょう。

21日夕刻のNHKテレビ番組に現れた安倍首相は、今次選挙結果について意見を求められ「国民は安定した政治基盤のもとに、政策を進め、外交を展開し、国益を守れという判断をした」と応じ、以って改憲論議を深めるべきとの民意が示されたと強調するのでした。しかし、世論調査では近時国民の関心事のトップは常に社会保障問題です。しかし、超高齢化社会を見すえた社会保障制度も改革など、大胆な改革は先送りのままにあるのです。憲法改正となると、その前提として日本の国家像の明示が不可欠ですが、勿論それもないままです。

次に、残る総裁任期(21年9月)での課題は何かと問われ、安倍首相は次の3点を挙げています。一つは「北朝鮮による日本人拉致問題」、二つに「日ロ平和条約の締結」、そして三つめとして「デフレ脱却」をあげるのでした。しかし前二項は、「戦後外交の総決算」として、既に幾度となく挙げながらも聊かの前進を見ることもないままにある処です。又 デフレ脱却にしてもアベノミクス3本の矢の三つ目の矢の問題ですが、あれだけ騒いだ、経済成長のための「第3の矢」と云う言葉はほとんど聞くことはなくなっています。どう理解すればいいのでしょうか。
偶々23日、内閣府が発表した今年度の経済財政白書では日本経済の課題に切り込むよりも、既存の政策の正当性を補強する色合いが濃いものとなっています。要は不都合な事実から目をそらす現政権の姿勢を映す処と云え、これからもそれが続くことになるかと思うと、なんとも耐えがたいもの禁じ得ないのです。
以上 (2019/7/26 記)
posted by 林川眞善 at 14:37| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2019年06月27日

2019年7月号  今、米中関係次第の世界の生業 - 林川眞善

目  次
         
はじめに Phony US-China Truce
―米中貿易戦争休戦はまやかしだった
           
(1)米中貿易戦争再開
・米政権の対中関税引き上げ再開
・中国の対米報復措置と習近平主席の長期ビジョン
・米中交渉は仕切り直し
(2)今、米中次第の世界

第1章 米中貿易摩擦のリアルとその行方

(1)トランプ米政権の対中政策推移
・ペンス副大統領の対中演説
(2)中国習近平政権の対米姿勢

・米中対立の行方 ― 気がかりな米中首脳会談in Osaka
― 序で乍ら、Japan Then, China Now
       
第2章 米国の同盟国に託される行動様式

(1)米同盟国に託される戦略行動 ― M. ウルフ氏の示唆
・今は普通じゃない
・同盟国に求められる行動様式
(2)同盟国、日本の使命
・日米首脳会談と日本の責務
・安倍首相のイラン訪問 ― 何のため?

おわりに 歴代「国賓」米大統領と日米関係
       
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はじめに Phony US-China Truce
―米中貿易戦争休戦はまやかしだった

(1)米中貿易戦争再開

・米政権の対中関税引き上げ再開
5月に入り、「合意間近」と云われていた米中貿易戦争、関税合戦が、再びその激しさを映し出す処となっています。昨年9月、トランプ政権は対中関税引き上げ第3弾として2000億ドル相当、5700品目について10%の上乗せ関税を実施していますが、これが今年5月10日になって25%に引き上げる一方、5月13日には、第4弾として約3000億ドル相当、3805品目につき、最大25%の関税実施を予告したのです。尚、最終実施要領は、米通商代表部(USTR)が行う公聴会(Jun 17~25)での結果を踏まえ、6月中に決定と報じられていますが、後出、米中トップ会談が6月末の「G20大阪サミット」に合わせて行われることが決定したことで、更に、その結果如何ということになりそうです。

つまり、第4弾を発動すれば、中国からのほぼ全ての輸入品に制裁関税を課すことになる処、
その内容は、生活に身近な消費財、つまり「中国依存」製品を一気に網羅する事となり、中でも影響の大きいのがスマートフォンなどIT製品とされています。そして、中国からの輸入比率が高い衣料などの消費財は代替がきかず、米国家計を直撃する(米国のGDPに占める消費の比率は7割)事が予想され、個人消費の下振れリスクが懸念されることがあるためで、まさに自傷行為と認める一方で、その許容範囲を探る処と云えそうです。そして米国の対中高関税が維持されれば、中国の製造業の発展を支えてきた外国企業の撤退に一層拍車がかかることが予想される処です。

そもそも当該 ‘戦争’は、昨年12月1日、ブエノスアイレスでのG20サミットへの出席を機会に米中両首脳が現地で会談し、当該状況改善のため2019年1月以降90日間を前提に(その後4月中の決着にはこだわらないとトランプ氏は云うのでしたが)、閣僚レベルで協議を重ね中国側が対応案を示すこととして、一端は休戦状況にあったと云うものでした。が、中国側がこの約束に応えていないと、トランプ氏は再び関税引き上げ戦略に出たと云うものでした。トランプ氏が2017年1月、米大統領就任時、国民に示した公約、40項目中の20項目に「中国への45%関税の導入」を挙げていましたが、次期大統領選(2020年11月)を控えた今、その実績作りに向け、圧力をかけんとするものと云えそうです。

・中国の対米報復措置と習近平主席の長期ビジョン
勿論、中国側も6月1日、米国の第3弾となる制裁関税への報復措置として、LNG(液化天然ガス)など6000億ドル分の米国製品への追加関税として最大25%に引き上げたのです。尚、米国以外からの代替輸入が難しい品目については適用除外制度を新設するなど「持久戦」への覚悟を滲ませる処(日経6/1)です。尚、米国も1日以降到着する家具・家電など中国製品に25%の税率を全面適用するとしています。

さて、昨年3月、終身主席の地位を確実にした習近平氏は、中国建国100年周年を迎える2049年に、世界をリードする「社会主義現代強国」中国の実現を、と長期ビジョンを以って進むさなか、従って他国からの物言いには屈しないとの意思を強固としており、米中関税合戦は激しさを増すことはあっても、簡単に収束するとは言い難いものと思料する処です。

・米中交渉は仕切り直し
ただ、こうした状況下、6月18日になって米中両首脳は、5月以降対立激化で途絶えている米中交渉の再開につきG20大阪サミット(6月28~29日)に合わせ、両首脳会談を行う旨を発表しました。トップダウンで仕切り直しと云う事のようですが、もとより、いかような展開となるか、まさに世界が注目するイベントと映る処です。
先に、本論考2019年1月号で、米UC Barclay のB.Eichengreen 教授がこれまでの米中休戦をPhony US-China Truce (まやかし休戦)と称していたことを紹介していますが、まさにPhonyな状況が続くことになるのかどうか、世界の注目を集める処です。

(2)今、米中次第の世界

係る環境下、時を同じくして発表された二つの国際機関の世界経済の成長率予測では、先に公表された予測値が下振れする処となっています。

まず世界銀行が6月4日公表した2019年の世界成長率は2.6%としていましたが、これは1月時点での見通しから0.3ポイントの下方修正です。米中貿易戦争の激化で「リスクははっきり下振れ方向にある」と指摘する処です。
更に、5日,IMFは、米中貿易戦争による世界経済への最新の影響分析を公表しています。
それによると、米中が18年中に課した関税の影響で、世界景気は0.2ポイント減速するとし、19年分に見込まれる関税引き上げの影響を合算すると、下振れ幅は0.5ポイントに拡大すると試算する処です。そして20年の成長率は3.6%と予想するのですが、更に好不況の境目とされる3%ぎりぎりまで落ち込む不安が指摘される処です。― US-China tariff war will knock 0.5% global growth, says IMF (Financial Times, Jun.6) 

IMFのLagarde 専務理事はG20財務相・中銀総裁会議(6月8日)を前に、トランプ関税政策を非難し、関税の引き上げはself -inflicted、自傷行為であり、世界経済に悪影響をもたらす何物でもなく早急撤廃をと、批判する処でした。

さて、BREXIT問題、イランと米国の緊張など、世界にリスクは拡散し、トランプ大統領は前述の通り、中国からの全輸入品を対象に第4弾の制裁関税の可能性をちらつかせています。一方、中国の習近平主席は7日には訪問先のロシアで「反グローバル化や覇権主義、強権政治の台頭に伴い、国際社会が直面する新たな課題や試練が日々増えている」と演説しています。

そうした環境の中、6月8~9日、福岡で開催されたG20財務相・中銀総裁会議(6月28~29日大阪で開催予定のG20サミットの前座会議 )での討議の推移は気になる処でした。それは、米中貿易摩擦で世界経済に不透明が増す中、変調あればG20で強調していく事、更に2国間協議による貿易赤字の解消については、多国間の枠組みで議論すべきとなる筈の処、当該議論は「世界経済は年後半に持ち直す」との基本シナリオを踏襲するだけで、すべては「米中次第」という現実を実証するものでした。5月11日付け日経社説は「G20の議長国を務める日本は欧州やカナダ、メキシコなどと連携し、米中の自制を強く働きかけなければならない。」と叫ぶ処です。

・本稿のシナリオ
そこで、米中関税報復合戦については昨年弊論考(N0.76)で当時のトランプ政策について聊かのコメントしていますが、そのフォローアップの意味合いを含め、本稿では「米中摩擦の現実と、その行方」の一点に絞り、再び始まった米中関税合戦の現状、そして中国との全面対決が米国の経済、外交、安全保障政策の中心的関心事になってきている実情とその行方について、考察したいと思います。(第1章) そして米中摩擦が進行する中、米国の同盟諸国に求められる対応の如何について考察する事とし、併せて、偶々令和元年、初の国賓として来日したトランプ米大統領と安倍首相との会談が行われていますが、さて、どのような会談が行われ、同盟国日本の矜持の如何について、考察する事とします。(第2章)

尚、今回のトランプ大統領を含め戦後7人の米大統領が国賓として来日しています。その都度、両国首脳が演ずる対応の姿は、そのまま両国関係の実情を映す処です。そこでこの際、国賓米大統領の訪日が映し出す日米関係の現実を、レビューしておきたいと思います。(おわりに)






第1章 米中貿易摩擦のリアルとその行方
             
(1) トランプ米政権の対中政策推移

トランプ氏が2017年1月20日、大統領就任時、40項目の公約を公表していましたが、その20項目目にリストされていたのが「中国への45%関税導入」でしたが、現在の貿易戦争の実際は2018年3月対中制裁関税の発動を表明し、7月の実施に始まるものでした。

米政権の通商政策の基本として、大幅な貿易インバランスをもたらしている相手国、中国、日本、メキシコ、ドイツ等とのインバランス是正にある処ですが、中でも中国が米国のインバランスのおよそ半分を占める国と云う事で、強くその改善を求めるもので、その際は、競争の不公正さへの対応とされる通商拡大法301条の適用を以って衝にあたっていますが、もう一つ注目されるのが、安全保障対応とされる通商拡大法232条を適応している点にあるのです。つまり、貿易を安全保障問題にリンクさせる形で当該問題に対峙せんとしている点です。加えて、これまでの政策対応と異なるのが、明らかに「人種」に置いているとされる点で(注)、まさにidentity politicsとされるトランプ政治の危険さを映す処です。

    (注:Kiron Skinner, the US state department’s policy planning director, suggested
recently、rivalry with Beijing is `a fight with a really different civilization and
different ideology, and the US. hasn’t had that before. → her framing of this as a
civilization and racial war and so as an insoluble conflict. (`The 100-year fight facing
the US and China’ by M. Wolf Jun.5,2019。尚、「100年」とは米政治学者、Michael
Pillsbury氏が2015年著した「China 2049」で、中国の戦略を、米国から世界の覇権
を奪う「100年マラソン」と呼んでいるが、その引用ではと思料する処.)

もとより、トランプ氏が大統領に就任して以来、彼が明らかとしてきた安全保障政策は、まさに対中戦略にある処です。つまり、2017年12月発表の「国家安全保障戦略」では、中国を「戦略的競争相手」と位置づけ、2018年11月14日の米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障再考委員会」報告書では「覇権を目指す中国の試みは米国の安全保障や経済的利益に疑いようのないリスクとなる」(2018/11/14 日経夕刊)と指摘する処です。

・ペンス副大統領の対中演説
そして、極め付きは、2018年10月4日、ワシントン、ハドソン研究所でペンス米副大統領が行った中国政策に関する演説です。それは中国による知的財産権の侵害や軍事的拡張、米の内政への干渉等、指摘、非難し、両大国が覇権を争う対決の時代に入ったことを印象付けるものでした。言い換えれば、今の中国とは一緒にやっていけない、本格的な改革開放路線
に立ち返れという明確な意思表示だったと云うもので、まさに米国の対中政策の歴史的な転換となりうるものと評価される処です。因みに、同副大統領は米国が中国に手を差し伸べてきた日は「もう終わった」と断じたのです。そして昨年3月に始まった米中制裁関税合戦は今年2019年5月の第4弾宣言へと続く処です。

(2)中国習近平政権の対米姿勢

一方、中国政府は6月2日、米国との貿易協議に関する報告書「白書」を公表。そこで協議の決裂は「米国に完全に責任がある」と非難する一方、米国へは、原則に関わる問題では決して譲歩しない」と米国への対抗姿勢を鮮明としたのです。そしてメデイアによると習近平指導部は、米国との貿易戦争を巡り、国内に持久戦への備えを呼び掛けているとも伝えられる処です。そうした状況下、6月14日、キルギスの首都ピシケクで開かれた中国とロシアが主導する「上海協力機構(SCO)」首脳会議では、「保護主義に対抗する」と米国をけん制した共同声明を採択しています。(日経、6月15日)

では、今次「白書」が映す強硬姿勢が今後も続くと見るかは、定かではない処です。と云うのも、昨年9月末に出された初の白書では「関税という、こん棒で脅かされながらの交渉はしない」と明記し、強気ムードにあったとされていました。が、それからわずか1か月後の11月1日には米中両首脳は電話協議し、前述の通り12月1日、両者はブエノスアイレスで会談し、中国製品への追加関税を10%から25%に引き上げると、脅かされながらの交渉を受け入れているのです。中国のこの軌道修正の理由は「経済」の一言に集約される処と云われています。(日経6月3日)今、その中国経済は楽観許さぬ状況にあるのです。


・米中対立の行方 ― 気がかりな米中首脳会談in Osaka
上述米政権が、貿易戦争の形をとった対中安全保障戦略を擁し、中国を押さえ込まんとする姿勢を崩すことのない一方で、中国政権も対米持久戦の構えを崩さぬ状況からは、当分、米中の対立構図の融解は見通し難く、予想以上に当該摩擦は長期化、本格化するのではと、懸念される処です。 因みに、前述(P.3)の通り、米中両首脳は6月末のG20大阪サミットに合わせ、トップ会談を行う予定ですが、その発表の直後、米商務省は中国政府の基幹システムを手掛けるスーパーコンピュータ大手、燭光信息産業など5社に、米国製品の事実上の禁止を決定するなど、強硬策を突き付け中国に貿易問題などでの譲歩を迫る様相です。(日経、6月23日) かかる事態は、これまでの関税合戦から「技術覇権」、更にはその先の「軍事覇権」をかけた争いの可能性すらみえ隠れする処です。いずれにせよ次期大統領選を控えた、そしてイラン問題等を抱えたトランプ米大統領、一方、‘100年マラソン’ 政治へばく進する習近平主席、その両者の会談で米中対立の融解シナリオを描きうるか, その見通しは聊か疑問視せざるを得ない処です。

米NYU教授のNouriel Roubini氏は、6月21付け寄稿論考( The Coming Sino -American Bust Up )で、米中両首脳が大阪で新たな休戦に合意するか否かに関わらず、米中対立はすでに新たな危険な状況にあるとし、従って対話による現状維持等、瞬時、可能としても、sharp escalation、両経済大国の経済事情、金融、財政の実情からは、2020年にはリセッションに陥ることが予想され、最終的にはグローバル経済のバルカン化すら危惧されると云うのです。 G20大阪サミットもさることながら、米中首脳会談の行方こそは、今後のグローバル経済の生業を占うものと、注目するのです。

― 序でながら ‘Japan Then, China Now’
現下で展開される米中貿易摩擦問題への米国の政策行動をレビューするとき、かつて1980年代のレーガン政権の対日圧力を想起させられる処です。当時のレーガン大統領は、1985年9月、プラザ合意がなった直後、日本について、こう発言していたのです。― ‘ When governments permit counterfeiting or copying of American products, it is stealing our future, and it is no longer free trade. ‘

目下の米中の貿易摩擦、覇権争いは「ツキジデスの罠」として世界第2位の国が第1の国を脅かす存在になったときに必然的に生じる摩擦として話題になる処ですが、実は平成の幕開け、1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、ソ連の脅威が消滅したとたん、日本はまさにその立場、つまり米国と覇権を争う立場に置かれ、日本は米国にとって仮想敵国と云うべき存在になったのです。しかし、当時の日本にはそうした意識はなく、もとより覇権争いを行う覚悟もないままに日本は、米国の圧力が主導する形で、様々な規制改革への要求や日本封じ込めの外圧に応えていったと云うものでした。自動車の対米自主規制、金融システムの改革、国内流通システムの改善等を進め、今日に至っており、そのプロセスは、相応の犠牲を伴ったものの、国内経済の自由化推進であり、日本経済のグローバリゼーションへの対応促進の他なく、その結果は、今日の日本があると云える処です。

そうした圧力の下に置かれてきた日本のかつての立場は今や中国に移ったとイエール大学シニアーフェローのStephen Roach氏は5月27日付け論考 `Japan Then, China Now’(昨日日本、今中国)で、そうした写し絵を云々しながら、世界の経済大国となった中国の政治的思考様式に照らし, 摩擦のendingはかなり違ったものになろうと云うのでしたが・・・。
The Economist誌 (June 8-14,2019) はその巻頭言‘Weapons of mass disrupt’で、トランプ米国は新たな経済的兵器庫、`new economic arsenal’ の強化を進め、米国の力を主張しているが、それは世界経済の破壊行為に通じる処と糾弾、こうした国際環境にあって、少なくとも米国の同盟国はこれにどう応えていくべきかが、次に問われる課題とするのです。


第2章.米国の同盟国に託される行動様式
    
米中間の経済紛争が深まる中、では米国の昔からの同盟国は一体どのような立場に置かれ、そして何をなすべきか、が問われる処ですが、基本的には、自由と民主主義、ルールに基づく多国間主義、国際協調などが持つ不変の価値を主張し続けることのほかないものと思料するのです。言い換えれば、競争と協調の両方を取り入れていく事が、これからの進むべき正しい道ではと思料するのです。そして中国の台頭を何とか受け入れつつ一緒にやっていく方法はと、云えば、そうした考え方を同じくする同盟諸国と緊密に連携を図り、多国間での協調システムを築いていく事ではと思料するのです。勿論、中国を尊重する姿勢の欠かせないこと、言うまでもありません。

その点、Financial Timesの著名なColumnist Martin Wolf氏は、5月22日付けコラム `The US-China clash challenges the world ‘ で、米中対立を煽っているトランプ氏の行動様式への対抗として、同盟国間の在り方を示唆するのです。興味深く、その概要を以下に紹介したいと思います。そして、国賓として来日(5/25~28)したトランプ米大統領との両首脳会談の意義、日本に求められる対応の如何について、併せて考察したいと思います。

(1) 米同盟国に託される戦略行動 ― M.ウルフ氏の示唆

・今は普通じゃない
ウルフ氏は普通であれば同盟国は米国のそばに陣取る筈だが、今は普通じゃない。つまり、トランプ大統領指揮する米国は,ならず者超大国(rogue superpower)になってしまい、色々のことに敵意を示し、特に重要なのは、多国間の協定と拘束力のあるルールに基づく貿易システムの基本的な規範に対する敵意で、実際、同盟国でさえ、二国間関係でのいじめの標的にしていると。そして、その際厄介なのは、中国の振る舞いだけでなく、中国が台頭しているという事実に対しても敵意を強めている人たちが、米国人の間で大きな割合を占めていることだと云い、そうした環境にあって、米国の同盟国は何をなすべきか、を語るのです。

まず、M.ポンペオ国務長官の刺激的な言質を解析、米国の頭にあるのは、強者が弱者に指図する19世紀型のパワーポリテイクスだと、断じるとともに、それは貿易にも映る処、関税戦争の拡大や、中国唯一の先端技術製品メーカー、フアーウエイ(華為技術)が米国の技術を利用するのを制限する決断も、中国を恒久的に劣位に押し留めることに狙いがある、と見えると云うのです。中国側は間違いなくそう思っているともいうのですが。
そして、貿易戦争は、米国を保護貿易指向の強い国に変えてしまっており、関税の加重平均
値は、インドのそれを近々上回る可能性を指摘するのです。

こうしたトランプ氏の行動がもたらすコストは実は、米国民、とりわけ消費者と農産物輸出業者が負担する処 (因みに 5月23日、米農務省は国内農家への悪影響の広がりを受け、最大160億ドルの救済の実施を発表)、ただ皮肉にも、最大級の打撃を受けている自治体の多くは、共和党が牛耳っている地方にあると云うのです。
では多額のコストがかかるなら紛争は長続きしないと、考える向きもある処、それよりも、トランプ氏と習近平主席は、いわゆるstrongmen の指導者であり屈服したとみられるわけにはいかない、と云う展開になる公算大と見るのです。そして、この場合、米中紛争は凍結されるか、米中超大国の関係が次第に蝕まれ紛争が更に深刻なものになるか、の何方かだと云い(可能性は後者の方が高いというのですが)、その結果米国の同盟国は如何なる立場に置かれる事になるか、問うのです。

・同盟国に求められる行動様式
まず同盟国は、中国の台頭を阻止しようという米国の試みを支持すべきでない事。道理にあわない恥知らずな行為だからと云うのです。そして同盟国はむしろ、貿易と技術において米国が目指すもののどれに同意できるかを示し、可能なら、特にEUと日本の間で、そうした問題について共同歩調を維持すべきだと云うのです。 もとより各国はWTOの庇護下で、多国間貿易システムの原則を守るべきだが、もし米国がWTOの紛争解決制度を定数不足に追い込むことに成功しても、他の加盟国は代替措置として非公式のメカニズムに従うことに合意できる筈だと云うのです。そして、最も重要なことは、米国と中国を犠牲にして、自由貿易を維持することも可能なはずではと、云うのです。-Most significantly , it should be possible to sustain liberal trade, at the expense of the US and China.

かつてIMFの筆頭副専務理事を務めたAnne Krueger氏はある寄稿で、米国は、TPPからの離脱と云う愚かな決断を下したことで、TPPに取って代わった「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的協定(CPTPP / TPP-11)」加盟国への輸出について、WTOが合法と認める差別を受けていると指摘していたのです。又、EUはカナダや日本とFTAを結んでいるが、これはよい展開だとし、FTAの更なる推進をと、檄を飛ばすのです。

強固な秩序を以って貿易が行われることが利益になると考える国々は、このようなFTAを「有志によるグローバルFTA」に発展させるべきで、制度へのコミットメントを受け入れる用意があるなら「どの国でも」参加できるFTAとなる筈。将来的には、そのようなグローバルFTAの参加国が、非参加国から貿易面で違法な攻撃を受ける他の参加国を、協調報復で防衛することも考えられるかもしれないと云うのです。

トランプ米大統領は中国に対してのみならず、今や主要国に対しても高関税の発動を以って脅し、経済・外交問題を力ずくで解決せんとしています。勿論、相手国はこれに憤り、何らかの対抗に動く処ですが肝心な事は、そんな負の連鎖を断ち切る事にあると云うのです。

米中間にある敵意は世界の平和と繁栄にとって脅威となる事、云うまでもない処、これが部外者には、この紛争を止める事は出来ません。しかし、何もできないわけではなく、大国が多国間貿易システムの外側に立つのであれば、ほかの国々を内側に入ればいい事で、一つひとつの国は小さくとも、力をあわせれば巨大なプレーヤーになりうると云うのがそのポインと云うのです。つまり各国は勇気を出して、巨大プレーヤーとして振る舞うべきで、そうすることで連鎖を断ち切れると云うのです。まさに然りと、何か不意を突かれる思いです。

(2)同盟国、日本の使命

・日米首脳会談と日本の責務
5月27日、安倍首相は国賓として来日中のトランプ大統領と会談を行っています。云うまでもなく会談の焦点は日米貿易交渉問題でした。そこでは2国間協議を加速させることで、確認されると共に、トランプ氏は、今夏の日本での参院選を終えるのを待って、8月にも交渉を妥結させたいとし、米国が離脱したTPPに縛られることなく、農産物や自動車などの関税協議に臨む意向もあわせて、伝える処でした。

その背景事情は、日本が米国抜きの「TPP11」やEUとの経済連携協定(EPA)を発効させた結果、米国の農家や企業は不利な競争を強いられている点、大統領選を控えたトランプ氏は大きな成果を早く上げたい処、日本の政治情勢を配慮して参院選後に決着をと、相応の判断を示したと云うところでしょうか。ただ、米側にいくらごり押しされても、日本には飲めない一線があり、TPPの水準を上回る農産物などの自由化を迫られても、受け入れるわけにはいかない筈です。つまり、TPPは自由度の高い貿易・投資協定のモデルと広く認知される処、日本としては、この基準に沿った合意を目指すことが通商交渉の合理であり、国際貿易に優位な規範をもたらす事になるものと思料するのです。

とは云え、この際、より深刻なのが対米輸出の数量規制や相手国の通貨安誘導を封じる為替条項の導入問題です。米国は主要国の自動車に高関税を課すか否か、11月中旬まで延期していますが、いまやこれを脅しの材料に輸出や為替などに足かせをはめようとしている様相にあり、実際トランプ氏は自動車の輸入増を「米国の安全保障上の脅威だ」と断じ、日本やEUとの通商交渉を急ぐよう圧力をかけています。あまりにも乱暴で危険な行為と云わざるをえません。世界で1位と3位の経済大国である日米には貿易や投資の縮小均衡を避ける責務がある筈です。米国の同盟国としての日本は、以ってこれを矜持とし、日本も管理貿易の排除に努力することが改めて問われる処です。(注)

(注)米政府の為替「監視リスト」
米財務省は5月28日、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表。対米貿
易黒字が大きい日本や中国、更に韓国、ドイツ、イタリア、アイルランド、シンガポール、
マレーシア、ベトナムを加えた9か国を「監視リスト」に挙げています。トランプ政権が相
手国の通貨安封じ込めて貿易問題の解消に繋げる狙いを鮮明とする処、同報告書が通商協
議と密接に関係していることを実証する処です。

・安倍首相のイラン訪問 ― 何のため?
処で、トランプ氏との会談を終えた安倍首相は6月12日、イランを訪問。トランプ氏のendorseを受けたとして米イ和解の道筋を見極めるため、同盟国日本の使命とも感じてか、仲介外交に向かったのです。そのタイミンクに合わせたかのように13日、イラン沖ホルムズ海峡で不幸にも日本のタンカーが襲撃を受けてしまいました。ハメイニ師やロウハニ大統領との会談直後の事件だけに、折角の安倍仲介外交が機能しないことを露わとする処です。米英は即座に、当該事件はイランによるものと非難、6月17日、トランプ政権はその対抗として、中東地域に米兵約千名の追加派遣を決定。イラン包囲へ攻勢を強めることで、中東情勢は一層の緊張を高める処、今、まさに火に油を注ぐ様相です。
   
では安倍首相は何のためのイラン行きだったのか。米国とイランの対立は周知の通り、そもそもは、米国がイランとの核合意から離脱し、イランに経済制裁を加えたことにある処、であれば先の東京での日米首脳会談で、その‘そもそも’の事由を確認し、同時に改善への可能性について相応の事前協議があってしかるべきだった筈です。が、その種報道を耳にすることはなかったのです。因みに5月28日、ムサビ外務報道官が安倍首相受け入れにあたっての記者会見で、安倍首相の訪問は重要としながら「我々は仲介と云う言葉は使わない。懸念する地域情勢での意見交換は歓迎する」と発言していた由でした。(雑誌、Wedge 7月号)

尚、6月5日には、ロシアのプーチン大統領はモスクワで中国習近平主席と会談し、米国による対イラン制裁は「一方的」と糾弾、併せて、米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約を廃棄するとの米国の決定は軍拡競争を招くとも批判し、中ロ首脳は国際情勢や安全保障問題で足並みをそろえ、対米結束を強調していたのです。

何か、安倍首相のイラン訪問が引き金になった観です。安倍首相のイラン訪問とは一体何の為の仲介外交だったのか、疑問は深まる処です。そんな中、6月18日、トランプ氏はオーランド、フロリダで次期大統領選への出馬を正式表明。’Keep America Great ‘だそうです。

おわりに 歴代「国賓」米大統領と日米関係

5月25日、トランプ米大統領は「令和元年」、初の国賓として来日しました。戦後、7人目となる国賓大統領です。そこで、この機会に、7人の国賓大統領の来日が映す「時の日米関係」の様相を、5月28日付日経紙をベースに、レビューしておきたいと思います。

まず、初の国賓として来日したのがフォード大統領で、1974年11月の事でした。当時の日本の経済規模は西独を抜き、米国に次ぐ世界第2位となっていました。そのフォード氏を迎えたのが田中角栄首相。日米史の1ページを刻んだはずの田中首相でしたが、フォード氏来日直前、田中金脈問題が発覚、フォード氏の来日が終わった直後に退陣を発表したのです。
次に国賓となったのが1979年6月のカーター大統領、彼を迎えたのが大平正芳首相でした。その年、初の日本開催となった「東京サミット:G7」への出席と連動するものでした。当時、カーター氏はソ連のアフガニスタン侵攻への制裁措置としてモスクワ五輪のボイコットを決定し、大平首相も同調しています。

国賓3人目は1983年11月のレーガン大統領、迎えたのが中曽根康弘首相でした。二人はロン・ヤスと呼び合うなど中曽根首相は個人的な関係を築き、山荘でのお茶のもてなしなど日米新時代を印象付けたのです。当時、80年代は日米貿易摩擦まっただ中。中曽根首相はレーガン氏による日本への内需拡大要求に対応する一方で、安全保障面での日米協力を強化したのです。4人目は、1992年1月、訪日のブッシュ(父)大統領。迎えたのが宮沢喜一首相でした。ブッシュ氏は再選を控え、宮沢首相にコメ市場開放などを求めています。が、日米貿易摩擦はなお続いていたのです。

5人目は、96年4月のクリントン大統領で、迎えたのは橋本竜太郎首相でした。米軍普天間基地の返還で合意した直後でした。北朝鮮の脅威など安全保障環境の変化を踏まえ、日米は新局面為入ったとされたのでした。尚、クリントン氏は、国賓としての公式行事の合間をぬって皇居周辺をジョキングし、話題を提供するところでした。 6人目が2014年4月、オバマ大統領で、安倍晋三首相が迎えています。オバマ氏の国賓としての訪日は、韓国、マレーシア、フィリピンの歴訪の一環でした。かくして、過去6人の国賓となった米大統領は日本訪問と前後して韓国を訪問しています。

その点で際立ったのが今年、7人目の国賓、トランプ大統領でした。迎えたのは安倍晋三首相。その異例さとは、ゴルフや大相撲観戦ではなく、トランプ氏は日本に直行し、どこにもよることなく、ワシントンに戻った点でした。そして、日本国内を大統領専用車で移動するトランプ氏と安倍首相の姿は日米同盟関係が新たな次元にシフトした姿と、メデイアは報じる処でした。
5月28日、トランプ氏は安倍首相と共に海上自衛隊横須賀基地を訪問、国内最大規模の護衛艦「かが」に乗艦、視察。同艦は事実上の空母化が決まっていますが、もう一つの護衛艦「いずも」も、空母化方針が決定されています。その後トランプ氏は同じ横須賀港に待機する米軍艦「ワスプ」に移り米兵を前に「力による平和が必要」と演説。その中で日本による米国製ステルス戦闘機F35Bの購入を高く評価し、日米連携の重要性を、軍事力の強化と云う形で訴えるのでした。

しかし、安倍氏の戦略は、長期的な日米関係にはどのような意味を持つのだろうかと、元米国務副長官のJames Steinberg氏は問うなかで、次の如くに指摘するのです。
「・・・確かに、日本の国民が、引き続き強固な日米関係を支持していることは間違いないように見える。 だが、米国に対する好意的な見方と、トランプ氏への信頼感の間には乖離が見られ、懸念される事態だ。」(日経、6月15日) つまり、安倍政権の対米戦略は長期的なリスクを孕むと、極めて留意されるべき指摘です。

そんな中、日本時間25日、トランプ米大統領が日米安保条約破棄の可能性に言及した、との米ブルームバーグ通信ニュースが入ってきました。本当であれば日米関係の基本が問われることになるだけに、その真相如何と、気がかりながら、筆を置く次第です。

尚、小泉純一郎首相は、2006年、国賓として米国を訪問しています。迎えたのはブッシュ(子)大統領です。当時、アフガニスタンとイラクの二つの戦争を抱え、ブッシュ大統領は米国を離れられない事情があったためとされていましたが、そのブッシュ氏のイラク戦争に支持を表明し、ブッシュ・コイズミの個人的な関係を作ったと云われています。その小泉氏はブッシュ大統領と大統領専用機に乗りエルビス・プレスリーの旧宅のあるテネシー州メンフィスを訪問、強固な日米同盟関係を世界にアピールするものだったとされたのです。 
                             
以上 (2019/6/25 記)


posted by 林川眞善 at 08:45| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2019年05月28日

2019年6月号  ’平成アンチテーゼ’への挑戦と、Progressive capitalism - 林川眞善

目  次
 
はじめに : ‘令和’の時代を歩み出した日本 
  
第1章 平成アンチテーゼへのチャレンジ 

1. 平成のアンチテーゼ
・Jim O’Neil氏

2.日本経済「アンチテーゼへの挑戦」
・日本経済低成長からの脱却
・安倍政権の成長戦略

第2章 Joseph Stiglitz氏の標榜する資本主義のかたち、
そして、中国共産党が警戒する民主化の動き
                    
1. Progressive capitalism 
(1)New liberalismからProgressive capitalism
・Progressive capitalism
(2)A new twenty -first century social contract
・A progressive capitalist reform

2. 中国の「五・四運動」(1919)と天安門事件(1989)

おわりに:米ハーバード大、ボーゲル名誉教授  

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はじめに:‘令和’ の時代を歩み出した日本

5月1日を以って、新元号「令和」の時代がスタートしました。堅苦しい各社の社説等とは異なり、新元号の「考案者」と目される中西進氏(この点について、彼は一切のコメントはしていませんが)が日経(2019/5/1)でのインタービューで、記者から令和の時代の日本はどんな国を目指すべきか、との質問に対して、彼は以下のように応じていたのですが、その言、極めてスマートに映るものでした。

「明治の前半まで、日本は外に膨張せず、小国であれという主張もありました。中江兆民はその代表です。小国として賢く、誇りを持って振る舞おうと。ところが、日本は途中から自らが大国とだと誤解をした。いま、もう一度、小国主義の議論をしたいものです。」そして
「小国とは、いわば真珠のような国です。真珠はどこに転がされても光っています。薄暗いところでも。平和憲法にもそんな輝きがありますね。輝いているじゃないですか、9条は。」

さて、令和の時代も平成と同様、日本の企業や産業界にとっての最大の課題は、AIやビッグデータなどを包含した広義のデジタル革命にどう対応していくかにある処です。と云うのも、アナログ時代に世界を席巻した日本企業はデジタル時代に入ってズルズルと後退してきています。その大きな要因は、社会の仕組みや企業の組織文化、更には経営者をはじめとする企業リーダーのマインドセットが、デジタル技術と「不適合」をきたしたからだとされています。とすれば、令和を光輝く時代にするには、平成のアンチテーゼから出発しないといけないということになる処、それを意識した論述が多々、極める処です。

因みに、米UCバークレー校教授のステイーヴン・ヴォーゲル氏は自著「日本経済のマーケットデザイン」(2018/12)で、まず日本経済が対峙する問題への ‘なぜ’ を明示し、つまり、第1はバブル崩壊後、規制緩和、企業統治の強化が唱えられてきたが、停滞が抜け出ていないという疑問。第2に労働規制の大幅改革にもかかわらず、労働生産性が向上していないのはなぜか。3つ目は官民挙げてIT革命に取り組んでいるのに、シリコンバレーのようなイノベーションを生み出さなかったのはなぜか、としたうえで、当の著者は「市場」が「法と慣行と規範によって統治される制度」との視点に立てば3つの疑問は自然と解けるというのです。

また、在日30年の異色のアナリスト、デービッド・アトキンソン氏の「日本人の勝負」(2019・1)では、日本には金メダルを取る潜在能力があるのに、それが生かされていないとして、人口減少を直視するとき生産性向上を目標とし、最低賃金を引き上げる戦略をとることで生き抜けると強調するのです。更に米カーネギーメロン大教授のリー・ブランステッター氏は日経(2019/3/18)に投稿の論考「イノベーションを阻むもの」で、日本の過去の輝かしい実績も現在の苦境も原因は一つ。つまり戦後の日本が欧米との生産性格差を驚異的なスピードで縮めてきた背景には日本企業の経営慣行と政府の政策の一体化がイノベーションを生みだすシステムを作り上げてきたが、そのイノベーションの生業が急速に変わってきており、この変化環境に対応していくためには、これまでの成功を支えてきた戦後システムの名残を一掃すること、そして画期的イノベーションを生む新興企業を目指せと論じるのです。そこに共通する言葉はイノベーションであり生産性の向上です。

この際、思い起こすのが、1997年の山一証券の倒産を機会に、動き出した日本経済のシステム変革の様相を、当時The Economist(1999/11/27)が「Restoration in progress」と題した特集で、それまで世界的評価を得てきた日本型経営システムも環境変化への対応として、企業ガバナンスの確保、危機管理の強化等が進められ、相応の収益の基盤再構築に向かい出したというものでした。そして気になったことは、実は上記各種論述が、20年前のそれと同じようなパターンを以って論じられていることでしたが、この時間差をいかように理解すべきか、それは環境が今や構造的にまったく変質していることに、思考様式がそれに応えられていない結果ではと思料するのですが、この点については後述する処です。 
いずれにせよ、その結果、相応の回復を遂げてきた日本経済でしたが、2008年の金融危機に遭遇するや、企業経営者はリスク回避が第一と、タイト・グリップで安全志向に向いだし、企業の革新につながる投資活動は鈍化、環境の変化にダイナミックに対応することなく今日に至ったことが、日本企業の地盤沈下をもたらしたとされる処でしょう。

勿論、当の日本では云うまでもなく、新たな「令和」と云う時代をうけての進取の日本経済を目指す議論は賑わいを呈する処です。その中でもこの4月、経済同友会代表幹事を退いた三菱ケミカル・ホールデイングス会長の小林喜光氏は、平成30年の日本経済を評して「敗北と挫折の30年だった」(日経ビジネス、2019/04/01)と断じ、こうした認識なくして次のステップは進めないと、激しく指摘するのです。これが経営の現場に身を置く者としての鋭い発言だけに、上記諸論を超えた、事態の極みを強く感じさせられる処です。それは、要すれば平成を‘拘束’した企業環境の克服、つまりアンチテーゼにチャレンジを、と示唆す処です。企業家としての発言としては正解でしょう。ただ、公表される経済指標にもかかわらず、安倍政府は、景気は回復基調にあると主張しています。では消費者の反応はと云えば、日を追ってネガテイブとなっています。つまりマクロ経済の視点からみると、当該政策運営で環境変化への対応への疑問が募ると云うものです。

・本稿内容
そこで、今次論考ではまず、小林喜光氏が断じる「敗北の時代」の実像を新としながら、デジタル化によるいわゆるデジタル革命の進行と云う新たな環境下、改めて「平成のアンチテーゼへの挑戦」をキーワードに、日本経済の行方を考察し、以って第1章とします。

もとより、こうしたプロセスを通じて経済成長が回復したとして、これで終わる話ではありません。つまり、そうした経済発展の成果が広く国民に恩恵をもたらすものとなることがより大きな課題と云うものです。云うまでもなくそれは、変化する今日的経済環境に照らすとき、現代資本主義の新たな生業を追求することを意味する処です。

その点で、米コロンビア大教授でノーベル経済学賞のJoseph Stiglitz氏は、5月3日付で、論壇 Project Syndicateに投稿した論考「The Economy We Need」で、いま求められる資本主義をprogressive capitalism, 進歩資本主義と称し、その生業を語るのです。
つまり、次なる資本主義の在り方を語る、示唆深い論考で、その思考様式は上記テーマと並走するがごときと映る処です。そこで、新時代の環境にあって目指すべき経済の生業として、彼が主張するprogressive capitalismの概要について考察したいと思います。

処で、この5月4日は、1919年に中国で起きた五・四運動の100年目にあたる中国にとっては大切な記念日だった筈です。が、中国共産党は国民の反応に神経をとがらせる処と伝えられていたのです。と云うのは、同運動は反帝国主義運動であるとともに、民主化運動でもあったからとされているためです。更にこの6月は民主化を謳った例の天安門事件から30年となる敏感なタイミングもこれありで、共産党の警戒心が高まる処と伝えられていたというものです。この様相をThe Economistは5月4日付で ` Tiananmen 1919 – The anniversary of a momentous protest tests the party’s nerve ‘と題して報じていますが、上記、progressive capitalism と並べ読むとき、そのcontrastが実に興味を深める処です。
そこで、米中貿易摩擦の高まりが、今や米中覇権争奪を鮮明としだす折、第2章として、このprogressive capitalism とTiananmen 1919 をテーマに、比較考察したいと思います。



第1章 平成 アンチテーゼへのチャレンジ
    
1.平成のアンチテーゼ

前出小林氏の云う「敗北の時代」とは、どういった様相を意味するのか、その実情は、です。
具体的に、例えば、株式時価総額ランキングを見ると、平成元年(1989年)には世界の上位20社のうち、NTTを筆頭に14社が日本企業だったが今ではゼロ、トヨタの41位が最高で、上位層は米国や中国のデジタル企業が独占する処です。またマクロ経済指標でみても、1989年には世界4位だった日本の一人当たりGDPは2018には26位まで下落しています。つまり、かつて日本人が世界に誇った相対的豊かさが、ゆっくりと、だが確実に失われつつあるということのほかありません。
ではその理由はですが、経済成長に必要な要素は、技術革新と、資本と、労働力ですが、とりわけ、現下で急速に進む人口減少が最大の要因と説明される処です。注)

    (注)少子化に歯止めがかからず、高齢化は進み社会がどんどん縮んでいく。現在、1億2600万人余の人口は2040年1億1000万人になると推計される。その間、生産年齢人口は減り続け、社会保障がかさんでいくのは火を見るより明らか。財政は1000兆円をこえる公的債務を抱える。負担を増やすか、給付を呈かさせるか、その両方かしか選択肢はない。

しかし、何がその停滞を招いたかについて、小林氏は極めてシンプルに「企業の活力の衰えだ」と断じるのです。そして、彼は、世界企業がダイナミックに動く姿として次のような指摘をするのです。
つまり「売上高で3兆~4兆円規模のダウとデュポンが一緒になって、それを3分割する計画ですが、こんなことを平気でやるダイナミズムが世界の企業にはあるが、日本にはない。
そして、例えばオープンイノベーションと云いながらオープンさを欠く「自前主義」、「横並び」にどっぷりつかり動けなくなった「茹でガエル」ばかりだと云い、やはり必要なのは「戦う意志」だと指摘するのです。要は、日本企業がインパクトのある新製品や新サービスを生み出せなくなって、企業と経済の成長が止まり、日本の地盤沈下が進んだということですが、総じていえば、昭和の時代に急成長した日本企業も徐々に年老いて、リスクを嫌がる保守的な組織になったということかもしれません。要は平成と云う時代が残した、こうした事態へのアンチテーゼへ挑戦すべきが筋と、示唆する処です。

こうした指摘は企業経営と云う立場において、至極当然の指摘であり、その実行が期待される処です。が、実は日本経済と云うマクロの視点からも同様に、アンチテーゼへの挑戦が求められている処です。つまり、アベノミクスの3本の矢のうち、2本の矢、つまり、異次元ともいわれた金融緩和を実施し、大型財政の出動でインフラ整備を図るなどで、表面的には、経済はリーマン・ショックからの回復を続けてきた処です。が、その回復の成果としての賃金のアップが起きないことで、つまり消費者にはその回復実感が持ってないと云うものです。そして最大の問題は、成長戦略として打ち出されていた第3の矢が打たれることなく、いつしか停滞状態で今日に至っているというのが実情です。(注)

(注)経済指標が語る経済回復の実態:
― 5月中に発表された経済指標が語ること
(1)5月13日、内閣府が発表した景気動向指数からみた景気基調判断は6年2か月振り、「悪
化」に。これは外需の低迷で、生産や輸出が落ち込んだことが背景にあるとされています。その
輸出や生産が米中貿易摩擦の影響を受け厳しくなることを覚悟せねばならない筈。
(2)20日に発表された2019年1~3月期のGDP(速報)は、実質ベースで前期比0.5%増、年
率換算で2.1%増となっています。が、中国経済の減速を受け輸出は減退、内需の柱である個人
消費(実質で0.1%減)と設備投資(0.3%減)も減少に転じた。指数的には純輸出のプラスは計
算上、成長率を押し上げるものの、輸入の減少は内需の陰りを反映しており年率2.1%増と云う
成長率の数字ほど日本経済の現状はよくない。
(3)24日に公表された政府の5月月例経済報告では、上記指標を踏まえて5月はんだんは下方
修正、それでも「景気は穏やかに回復している」との認識を維持している。いろいろ政治的判断
があってのことと思料される処。

つまりアベノミクスの終幕は、政策運営上、需要を喚起するような成長戦略を果たすことなく、従って金融緩和が進み、日銀券がだぶだぶのまま、そのお金を持ち込む対象需要の創出もなく、又企業においても低金利の環境にあっても積極的資金需要もなく、と云った状態にあり、と云うことで、アベノミクスで強調されていた「企業に選ばれる日本」を目指すはずだったものの、今や日本は1%以下の成長にとどまる処(先進国ではそれでも2~3%の成長を維持)、結果として「企業に選ばれない地域」に転落してしまっているのです。

この30年余りの間にグローバル化の進展で世界経済の構造は劇的に変化するなか、日本はその潮流から取り残され、経済は停滞し、世界における地位も著しく低下してきたと認めざるを得ません。しかしなおの事、実践的に、日本経済の将来的生業を考えていくとき、令和の新時代、世界との競争に伍して、安定した成長を持続させていくことこそが日本としての世界貢献と思料されるだけに、その為には競争力を高めていくことが不可欠であり、それこそがアンチテーゼへの挑戦と映る処です。

・Jim O’Neil氏
因みに2001年「BRICs」を提唱したジム・オニール氏(現在英王立国際問題研究所会長)のコラム「人口減少の日本―生産性追求を」(日経2019/4/6)は, 上記文脈に同じくする処、日本は国の政策として人口減への対抗も含め、生産性の向上を目指すべきと、以下示唆するのです。
まず重要なこととして、経済規模と国民の「富」は別だとしたうえで、日本の人口は約1億2700万人から2050年までに約1億人に減少する可能性が高い。一方、名目GDPは現在とほぼ変わらない公算が大きい。人口が約20%減れば、一人当たりの富は20%以上増えることになる。これまで、自分は人口の急増と労働力人口の拡大に注目することが多かった。アジアではインドやインドネシアが潜在力の縮図だが、なぜもっと大きな経済的成功につながっていないのだろうか。一方、人口大国でないルクセンブルクやオランダなどは世界で最も豊かな部類に入る。アジアならシンガポールがそうだが、日本の政策決定者は欧州の最も豊かな社会のアジア版になることを考える時期ではないかと、するのです。

そこで、彼は日本の指導者が生産性を押し上げる政策を追求すれば、不可能ではないと考え始めていると云うのです。そして、生産性の向上は、労働人口が拡大していない時に所得水準を引き上げる唯一の手段と云えるとし、更に、日本はデジタルやロボット、先端素材、AIなどの技術によって自国経済を更に後押しできる。重要なのは、技術をどうやって自国に有利になるように利用していくかだ。日本の政策決定者は「特定の技術を利用し、真の意味で生産性を向上させるには、どのような政策が適切だろうか」と自問すべきと云うのです。いずれにせよ、令和における日本経済再生のカギは生産性の向上にありとするのです。

2.日本経済「アンチテーゼへの挑戦」

改めて、令和新時代、これからの生業を考えるとき、「アンチテーゼに挑戦」の意味することは、単に経営戦略がどうこうと云うよりも、産業の生業、延いては国民国家の生業すら視野に入れた構造変化への対応を問う事を意味する処です。
前出小林氏も同様次のように指摘するのです。 つまり、「企業も政治も然りだが、中長期を見越してそこから引き戻す、バックキャストの視点が欠かせない。2050年なり、戦後100年にあたる2045年なりに照準を合わせ、その時代にどれくらいの労働人口があり、海外の人をどれくらい入れ、どう飯を食っていくのか、あるいはどう分配し、いかにフェアーな競争社会を作るか。こういう本格的議論が不可避だ」と。

そうした、問題意識に応えてくれる好著を先般、手にしました。筆者もよく知る元内閣府次官の松元崇氏の「日本経済低成長からの脱却」です。著者の松元氏はアベノミクスの立案に役割を果たした仁ですが、日本経済復活のために必要な長期的戦略を行政の立場を超え、大局的な見地から論じたもので、その概要を紹介しておきたいと思います。

・日本経済低成長からの脱却
彼は、前述筆者同様、世界の中の日本のまさに劣化を再確認したうえで、アベノミクスによって景気は穏やかに回復したが、将来の「成長」に向けた具体的施策は明確には示されていないとし、低成長から脱却し、将来世代が豊かに暮らせるためには何をすべきか、カギとなる労働生産性の問題と、根底にある雇用システム改革の必要性に焦点を当て、日本経済復活への道筋を問うものです。

著者によると、IT化による生産構造の変化は、途上国の成長と先進国の成長鈍化をもたらしたが、それでも先進国は2~3%の成長を維持しているが、日本は1%以下の成長にとどまっていると。そして生産・投資活動の一極集中と過疎化がグローバルに進む中、日本は「企業に選ばれない過疎化地域」に転落したと指摘するのです。一部の日本企業は成長を続けてぃるが、大半は海外投資の成果に負うもの、そして低迷の最大の原因は、日本企業の強みだった終身雇用制度が、非硬直的コスト構造として企業の成長に必要なリスクテイクや投資活動の阻害要因となり、労働生産性が伸びなくなっていることにあると指摘するのです。可処分所得が増えず、多くの人々が景気回復の恩恵を実感できないのもそこに原因があるとも指摘するのです。 そこで国民の生活が豊かになるためには労働力がより生産性の高い分野に、賃金の上昇を伴って効率的に移動できる環境が必要とし、雇用システムの変革は国レベルのプロジェクトであり、社会保障制度や国民負担のあり方も、根本的に変える必要があると指摘するのです。

・安倍政権の成長戦略
では現実に、日本はこの生産性の向上と云う点で、政策運営をどう考えているかです。
5月15日、安倍首相が議長を務める「未来投資会議」が公表した成長戦略の骨格(この夏にまとめる由ですが)について、事務局の内閣官房は同会議で、米欧主要国に比べて低い日本の労働生産性の向上が最優先課題だと説明しています。そして改善のためには雇用改革が不可欠として、今年の成長戦略の柱に据える方向性を示したと報じられています。(日経2019/5/16)

2012年12月の安倍政権発足後、成長戦略は今年で7回目です。これまでの成長戦略は成長力を引き上げる抜本策に乏しく、日本の潜在成長率は1%にとどまる点はすでに指摘した処です。日本経済の政策運営の実情を見るに、アベノミクスの3本の矢のうち、金融緩和と財政出動は先述の通り十分にやってきたが、足りないのは残る成長戦略をどうするかです。要は日本を活力のある経済にしておくことが今日、我々に課された責任なのです。つまり、日銀は中銀としての独立性の堅持はともかく、安倍政権の意向に即し、日銀券をどんどん手当てし、この結果、今や日本の債務はGDPの2倍超にある処ですが、こうした緩和マネーがあふれる今の日本経済の問題はと云えば、お金が足りないのではなく、お金が回らないことなのです。つまり技術革新や規制緩和で新しい産業・サービスが誕生すればそこにお金は流れていくのです。そこで問題は、それが消費や投資を誘発する循環が起きないことなのです。単なる歳出増が答えになるなら苦労はないという処です。要はやるべきことをやり遂げることが先決なのです。が、この夏には参院選を控え、成長力の底上げにJosephつながる手が打てるか、依然その行動様式が気になる処です。



第2章 Joseph Stiglitz氏の標榜する資本主義のかたち、
中国共産党が警戒する天安門の歴史

1.Progressive capitalism

新たな時代環境,とりわけトランプ米政権の政策に象徴される世界の内向き姿勢が強まる一方、英国のEU離脱を決めた国民投票結果が映しだす経済格差問題等に照らし、米コロンビア大教授のJoseph Stiglitz氏は前述の通り5月3日付、論考「The Economy We Need」で目指すべき新たな資本主義の方向、生業について以下(概要)語るのです。

(1) New LiberalismからProgressive capitalismへ

これまでfree-market individualismの申し子とされてきた米国は、今では、より不平等な国、社会的流動性に乏しい国、になっているとし、又、英国についても、これまで世界の福祉政策では充実した英国型を示してきたものの、その英国においても賃金格差が大きくなり当該政策も維持し得なくなってきている等々、まずその厳しい現実事情を確認します。

つまり、80年代の、米国のレーガン大統領、英国のサッチャー首相が進めたnew liberalismのおかげを以って、とりわけ財政によるトリクルダウン・プロセスを通じて今日経済の発展をもたらしたこと、そしてそれは富裕層、投資家を利するような減税や、グローバル化の推進が結果として一般市民の生活水準の向上につながってきたとしながらも、そうした政策運営が続いてきた結果、米経済のわずか1%に富や所得が集中する一方で、産業の空洞化、一極集中化そして中間所得層の縮小が進んだことで経済の様相は変質、この筋書きを変えないかぎり、この経済の生業の悪化は避けられないというのです。

彼は、市場主義経済は結果的には大企業を更に大きく、弱者の低所得者層は更に弱者へと追いやられ、そうした所得格差の広がりが不平等感を高め、社会を不安定にしていく処、そうした不満、不平等感をいかに解消し、安定した経済運営を期していくかにあると、熱く語るのです。そして、彼はcapitalismなるものを、より今日的環境に適応できる姿とするprogressive capitalism,つまり進歩資本主義への修正が不可欠と主張するのです。

     (注)Progressive capitalism(進歩資本主義):カナダでは1867年設立の政党「自由保守党」
が、1946にprogressive conservative party(進歩保守党)に改称。緩やかな中道左派路線を
進めた経緯在り。progressive capitalism とは同様趣旨の表記かとも推測される。尚2003
年、同党は解散。後継政党はカナダ保守党。

・Progressive capitalism:
彼の主張するProgressive capitalismとは、政府、市場、そして市民社会の力のバランスを図る事を通じて、Free ,Fair そしてよりproductiveなシステムを目指すことと云うのです。そこでProgressive capitalism とは、選挙民と選ばれし政治家、また労働者と企業、そして富める者と恵まれない者との a new social contract、新しい社会契約を確かなものにすることを意味するとし、そして中間層のstandard of livingを改めて現実的な目標としていくこととし、そのためにも市場をより社会に貢献するものとしていく事が不可欠とするのです。

要は、progressive capitalismでは、neoliberalism, 新自由主義とは異なり、思考様式として価値創造のプロセスが中核に置かれると云うのです。そして、真に持続的とされる国家の富とは、天然資源を諸国から収奪する事でもなく、人的資源も含め、人としての創意工夫と協調にあり、多くの場合、政府や一般社会の機関の協力を得ることで、国民国家としての富の形成を目指すものと云うのです。

今でも富の創造とはしばしば富を絞りだすと云った発想に取り憑かれ、個人も企業も市場のパワー、競争価格の優位やその他収奪可能な手段等を生かすことで豊かになると思い込んでいるようだが、それは言うなれば利益誘導の市場行動にほかならず、勿論、そうした行為は社会的富の形成に貢献できるものではないと、主張するのです。とりわけ、少数企業による市場支配は、高い価格を維持し、消費者の生活水準を下げ、同時に米企業の海外転出を労働者への脅威として彼らの賃金水準の引き下げを企てようとする。それでも満足する事がない場合、更に政治家に労働者のバーゲニング・パワーを弱めるよう動くのだが、その結果は労働者の賃金は引き下げられ、結果国民所得の占める分配比率を更に引き下げていく。

時に技術の進歩、途上国の台頭、等々、色々事由を以って、中間層の相対的水準の低下が云々される処、トランプの脅迫的な貿易協定などは、米国労働者には悪影響をもたらすばかりで、企業の利益だけに焦点をあてた、一般市民には何も益する話ではないと指摘するのです。そして不平等の所得はますます不平等を増す処だと云うのです。AIやロボットの導入で今後の経済の成長が云々される処、現政権の政策や規制の枠組みの下にあっては、結局は多くの人々は、政府からの支援もなく、ただ失職していくことになるだけだとするのです。

それでも、こうした機能不全の経済が今日の政策に負うものとすれば、相応の期待は持てると云うのです。諸外国には、同じようなグローバルな力と対峙しても、ダイナミックな政策導入で、一般市民の繁栄に結び付く経済へと成功してきているケースはあるとする処です。つまりこうしたprogressive capitalismへのリフォームを通じて経済のダイナミズムを取り戻し、すべてに対して経済の質の向上と機会の平等を果たすことが可能と云うのです。つまりトップ・プライオリテイは搾取的行為を抑え、富の創造に向けるべきで、これこそが、とりわけ政府とともに、人々が協働できる最高にして唯一の枠組みだと主張するのです。

(2)A new twenty-first-century social contract
上述、各種提言は経済成長の再興を期すために必要なこと、そして中間層の生活を取り戻すためにも不可欠となるものだと云え、今必要とされるのは新しい21世紀型の社会契約、つまり、あらゆる市民がヘルス・ケア、教育、定年(退職)後の生活保障、自己資金で住宅が購入でき、decent job(人並みの仕事)、decent pay(人並みの収入)が確保される、そうした環境を担保していく事と云うのです。

こうした社会契約の項目については、部分的には実行している国はある。結局、米国は独り、先進国にあってヘルス・ケアを基本的な人権とは認めない国と云うことです。皮肉なことに、その米国のヘルス・ケアに対する支出は金額的にはper capitaベースでも対GDP比でも、他の先進国に比し多くあるのに対して、優位な民間のシステムはその成果は乏しいものにとどまっていると云うのです。

つまり、progressive-capitalist の視点からは、新しい‘社会契約’を国民にいきわたらせるカギは、wellbeing, 幸福な満足のいく生活の基本となるpublic option, 広く選択肢を通じてと、なると云うのです。つまりpublic options とは消費者の選択を広め、相応の競争を促すことになり、因みに2010年のオバマケアは健康保険についてのpublic optionを示唆する処です。が、実際はその法案は却下されています。実にそれは誤った行為というほかありません。
こうしたヘルス・ケアのみならず、今米国では年金給付、住宅担保、学生ローンなど, public option が求められていると云うものです。そうしたことは、要は民間がその補完を果たせばそれでいいということではなく、富を収奪的に確保する事業者から一般市民を守ることにあるとするのです。

・A progressive capitalist reform
今、米国では、大手でも、いずれもが繁栄を共有し、民主主義の将来を担保できなくなってきていると云うのです。近時の西欧に見る大衆の社会経済に対する不満の爆発こそは、経済成長にしても政治が果たす力の劣化と相まって、中間層の生活が蒸発していく姿を目の当たりとする処だと指摘するのです。 つまり、経済もそして政治もマネーを核にした強大な力をこの際は制御していく必要があり、progressive capitalism とはそうしたことを目指すものと云うのです。

この40年新自由主義を以って歩んできたが、結果は失敗だったと。尤も重要な指標とされてきたthe wellbeing of ordinary citizens,一般市民の豊かさ、がまさに悲惨な状況に追いやらてしまってきており、そうした状態をもたらしている資本主義を救うことが必要だと主張するのです。つまり,‘A progressive capitalist reform agenda is our best chance’ と。

2.五・四運動(1919年)と天安門事件(1989年)

5月4日付けThe Economistは「Tiananmen 1919:The anniversary of a momentous protest tests the party’s nerves」 と題して、当該「五・四運動」100年を記念した記事を掲載。共産党が恐れているという1989年の天安門広場の歴史に触れ、以下指摘するのです。そもそも五・四運動とは反帝国主義運動であるとともに民主化運動でもあったとされるものです。
ただし同じ学生による反政府運動とされた1989年の天安門事件は、検閲の圧力によって若者にはほとんど知らされてはいない由ですが、上述論考と併せ読むとき、そのコントラストが極めて興味深く映る処です。そこで、その概要を下記しておきたいと思います。

・まず、五・四運動と呼ばれるこの運動は、第一次世界大戦の戦勝国が、中国を不当に扱ったことに抗議すべく始まったもので同大戦の講和を定めたベルサイユ条約は、ドイツが中国に保有していた植民地を日本が継承すると認めている。5月4日は青年節として公式祝日となっているが、その意義については議論の分かれる処。

中国共産党は五・四運動を、その2年後に同党が誕生する背景となった出来事と捉えている。つまり天安門及びその他の場所で起きた蜂起は、中国の在り方を理性的に省みる試みというわけだと。一方、リベラル派はこの運動を、愛国者が民主主義を切に求めたものと捉えているという。愛国者らは、政治を含めて西洋流の知識を採り入れなければ、列強に伍すことはできないと信じていた。今年は五・四運動100周年、そして、同じく天安門広場を舞台として1989年に起きた天安門事件から30年と云う微妙な節目が重なる。同事件は、その年の6月4日に起きた学生たちの抗議行動で軍隊に鎮圧された。

さて中国共産党は五・四運動の大志がどこにあったか深く分析することを避けている。習近平国家主席は共産党を、中国古来の価値を擁護する存在に位置付けようとしている。19年に改革を望んだ人々がこれを知れば、さぞかし驚くことだろう。オクスフォード大のラナ・ミッター氏によれば、五・四運動に関して政府が重視したい点は、1つしかない。すなわち、中国共産党の結党につながった点だけだと云う。つまり、共産党は、独裁主義体制からの解放と云う同党の主張に支持者たちがひきつけられたことを思い出したくないのだ、と云う。

・天安門事件30周年:今年は二つの節目、五・四運動100年と天安門事件30年、を迎え、これに乗じて現状に満足しない人々が行動を起こすのではないかと共産党は神経をとがらせている。北京の治安維持体制からはそうした事態の可能性は低いが、共産党が不安を抱くにはそれなりの根拠がある。大学において活動家の行動が活発化しているのだ。
学者は臆病だが完全に勇気を失っているわけではない。勇敢な学者らは最近、許章潤教授を応援するようになった。同教授は今年初め、習近平氏の独裁主義を攻撃したとして停職処分を受けた。共産党は、五・四運動に参加した人々が訴えた夢を少なくとも1つ実現したと主張できる。中国を世界の大国にしたことだ。だが、4月30日、五・四運動100周年の式典で、不満を抱く人々に対して婉曲な警告を発した。つまり愛国心を欠くことは「不名誉」なこと、そして「国を愛することと,党と社会主義を愛することは密接に関連している」と。
 
さて、エコノミスト誌は最後にThe `spirit ‘ of the centenary looks a lot like mistrust and fear.(100周年の精神は不信と恐れが入り混じった様相)と締めるのですが、習氏の心境とでもいうところでしょうか。                     



おわりに 米ハーバード大ボーゲル名誉教授

5月4日付日経の「令和を歩む」シリーズで、 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(1979)で著名な米ハーバード大名誉教授のボーゲル氏は、新元号を以って歩み出した日本に対し、米国は世界の戦後秩序づくりに貢献してきたがトランプ政権は物足りない。日本の指導者は米国がどう考えるかを見てきたが、今度は「日本が中国、欧州、オーストラリア、インドと、どう向き合うかを自主的に考えるべきであり、将来の世界秩序にも貢献してほしい」と、そして、その為に、世界と渡り合う視野を磨けと檄を飛ばすのです。

とりわけ、新時代に中国とどう付き合うかが日本に問われる処と指摘するのです。要は中国が日本を追い越したのが2010年、それは一つの転換期を示唆する処、令和時代には、ほどなく米国をも超える事、そして米中関係は悩ましいく、特に台湾が心配だ、ともいうのです。そして、中国には人権問題や競争、科学技術で不公正な処があるが、米国の対応は過剰だ。中国は比較的抑え目だが、トランプ政権には戦略がない。日本に米中という超大国の橋渡しは難しいが、米国の過剰な反応をいさめるなど、助けることはできる。勿論日米同盟は非常に深く、中国の軍事増強を考えると米国に頼るしかないと、いうのですが、とりわけ次の指摘は日本の今と、これからを思うとき、痛く心に残る処です。

つまり、「安倍晋三首相は国際的な評価をあげたが、日本はまだまだ。豪州のラッド元首相の様に、中国語が上手く、北京とワシントンで双方の指導者と真剣に渡り合える国際派の政治家が出てほしい。戦後の日本の官僚には幅広くものを考え人がいたが、最近は視野が少し狭い。政治家は強くなったが勉強をしない。世界での経験を積み、戦略を持つリーダーを育てないといけない」と指摘するのです。

「平成」の30年は中国が台頭する時期と重なる一方で、日本はバブル経済が崩壊し、主要産業が衰退、デジタル社会でも世界に後れを取ったことで、本稿冒頭でもリフアーした小林喜光氏の言う「日本敗北の時代」だったと自覚させられる処ですが、この間、日本が得たものもあるのです。つまり、高齢化、人口減を世界最速の勢いで経験し、その結果、世界に打って出ていかなければ生き残れないという課題を直視したことだったと指摘するのです。世界は、トランプ米政権に象徴されるように、内向き志向を強めています。しかし、いずれ日本と同じ課題に直面していくはずです。

圧倒的な軍事力・経済力を背景とした米国のハードパワー、西側先進国と異なる政治体制を前提にした中国のシャープパワーのはざまで日本は世界でどんな役割を果たせるか、考えていくことが求められる処です。まさに、世界とともに生きる覚悟をと、される処です。
さて、ボーゲル氏の日本に対する忠告を関係者はどう受け止めるのでしょうか。

そんな折、5/25~28、令和初の国賓として米大統領トランプ氏が来日しました。極めて気になったのが安倍首相の彼に対する接遇ぶりでした。国賓であり、日米関係を考えれば、至極当然との向きは多い処です。勿論、ゴルフよし、大相撲よしですが、再び日本は米国の属国かと思わせる処ほどの様相に、日本外交はここまで落ちぶれたかと思わせるのです。片方ではバカ大臣を抱える安倍政権ですが、本当にBeautiful Harmonyが堅持しうるのかと、ただただ外面だけの安倍晋三氏に、不信感は募るばかりです。(2019/5/27 記)
posted by 林川眞善 at 11:13| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする