2020年11月26日

2020年12月号  Joe Biden President-electと国際関係の今後 - 林川眞善

目  次

はじめに 米次期大統領にジョー・バイデン氏 
・米国はトランプ氏でなくバイデン氏を選択した
・民主主義の基本とトランプ氏の行動様式
・米国の分断を実証した両者の得票数
・米国にある二つの顔 / ・トランプ氏の敗因

第1章 アメリカを破壊したトランプ氏の夢

1.トランプ経済体制の非合理な現実
(1)アメリカを貶めたトランプ氏が追う夢
(2)ステイグリッツ氏の提言

2.今求められる新たな資本主義へのシフト
 ・アメリカ資本主義の病理 /・包括的政策の導入

第2章 バイデン政権と国際関係の可能性

1.バイデン協調外交
(1)米欧関係 / (2)日米関係
 ・アジア太平洋地域と中国の存在感

2 バイデン対中政策の視点 ―習政権の行動様式の如何
(1)中国経済の現状と長期展望
(2)安定化増す習政権の現状
 ・中全会(中央委員会全体会議)

おわりに  岐路 に立つ民主主義
         

はじめに 次期米大統領にジョー・バイデン氏 

・米国はトランプ氏でなくバイデン氏を選択した
11月3日の米大統領選の結果は、11月13日、全50州の集計結果、選挙人の獲得数はバイデン氏306、トランプ氏232で、バイデン氏の勝利が、漸く確定しました。選挙日より10日を経ての結果でした。その間のトランプ氏が仕掛けた、投票の不正問題をめぐるゴタゴタ騒ぎは周知の処ですが、11月7日、バイデン氏は、複数のメデイアが伝えるバイデン勝利の報を受け、その夕刻、彼は「分断ではなく、団結させる大統領になる」と勝利演説を行い、分断の修復に取り組むと約するのでした。そのスピーチは、「結束(Unity)」,「多様性(Diversity)」、「可能性(Possibility)」,「品格(Decency)」の4つの理念を以って語られるものでしたが、その瞬間、米国本来の大統領が戻ってきたかと、感じ入ったものでした。

尤もオバマ、ブッシュ(子)、クリントン各氏も自らの大統領就任時に同じことを口にしていたのですが、全員失敗しています。ということでバイデン氏は「4度目の正直」ってとこですが、さてバイデン氏は国民を束ねることはできるのか? とにかくそれに向かって最大の政治努力を期待する処です。

さて、投票日直前、10月31日付けThe Economist のcover storyは「Why it has to be Joe Biden」(バイデン氏でなければならない理由)と題するものでした。今となっては、その表題は ‘何故米国民はトランプ氏でなくバイデン氏を選択したか’ となる処でしょうが、とにかくその記事を以って選挙戦を見守った次第でしたが、取り急ぎ、その趣旨を以下に紹介しておきたいと思います。

― 2016年、トランプ氏を大統領に選んだ米国は、不幸で分断された国だった。そして「今、トランプ氏が自分を再選するよう求めている米国は、更に不幸で、さらに分断されている」で始まる当該記事では、ほぼ4年に亘るトランプ氏のリーダーシップの下、日々の暮らしは、25万人近い死者を齎したコロナ・パンデミックによって破壊され、口論や責任転嫁、ウソが蔓延、その大半はトランプ氏によるもので、今次選挙で同氏が勝利を収めれば、こうしたことが全て是認される事になると、トランプ再任を阻止すべきと。

そして更に、トランプ氏は米政府のトップとしての役割を十分に果たしていないが、それ以上に、国家元首として失格だと断じ、トランプ氏とトランプ政権は過去の政権と同様に、政治的な勝利や敗北にどれほど尽力したかを主張する事は出来ても、米国の価値観、米国の良心、そして世界における米国の発言力、と云う3点の守護者としては、求められる基準を著しく下回る働きしかしていないと、糾弾するものでした。

つまり、彼こそは米国の価値観を冒涜した人物と断じ、強烈な拒否反応を示すものでした。

・民主主義の基本とトランプ氏の行動様式
冒頭記したように選挙が終わった10日後の13日、漸く「バイデン氏の勝利」が確認されましたが、依然トランプ氏は、具体的証拠のないままに、バイデン氏の勝利は不正投票によるものと自身の敗北を認める様子はなく、政権移行(注)の協力も今日まで拒んでいました。が、23日、トランプ氏がバイデン氏への政権移行手続きの開始を容認したとの報が伝えられ、漸く政治空白の懸念は回避に向かうことになった処ですが、依然、トランプ氏のあがきは続く様相です。なお、バイデン氏は主要人事を固める処、so far財務長官にFRB前議長のイエレン氏の起用が伝えられた事は,筆者にとって朗報です。

(注)政権移行手続きのカギを握る連邦政府一般調達局長(GSA)、ミリー・マーフィー氏
は2017年、トランプ氏が任命した、つまりはトランプ側近。尚、大統領選を巡る調査を
していた米政府委員会は既に12日、「不正があった証拠は一切ない」との結論を公表済。

こうした民主主義の基本とも言うべき選挙、投票行為を否定するという言動は、トランプ氏をアメリカの大統領に推し上げてくれた米国の民主主義を後退させ、更には否定すらする、極めて憂慮すべき事態を意味する処です。トランプ氏の開票結果を受容しようとしない一連の言動に、それは大統領選で投票した有権者の票を無効化する宣言であり、「民主主義を否定するものだ」と、共和党内からも大きな反発が出ていると伝えられる処です。序で乍ら、かかるトランプ氏の言動は、落選後に不正や腐敗で追求されることを恐れての、まさに「トランプ劇場」というリアリテイ・ショーの演出ではと、映る処です。

それにしても興味深かったのは、かなりの人が「反トランプ」だったと云う事でした。リバタリアンを主張する集団は、元来、共和党の一部のような存在とされるものでいしたが、今回の選挙では共和党とは別に大統領候補を立て、わずかながらも票を取ったことでした。
微妙な票争いをしている接戦ではありえない事ですが、それだけトランプが嫌いだったと云う事だったのしょう。

・米国の分断を実証した両者の得票数
そうした混迷する米国の状況を解説される際、よくリフアーされるのが古代ギリシャの哲学者、プラトンですが、彼はその著「国家」で次のように指摘する処です。
― 自由と平等が広く行き渡る社会では、全ての人が強い権利意識を持つようになる。すると、ほんの少しの抑圧にも我慢が出来ず、エリート層への不満を溜める。そこに大衆人気を誇るポピュリストが颯爽と現れ、不満を溜める民衆を熱狂的な渦に巻き込む。そして、独裁者が生れていく。そして、僭主独裁制が生れるのは民主制以外にはありえないと。

現下の米国社会の分断の深まる姿には、まさにプラトンが予言していた民主制の最終形に近づいているかに思えんばかりで、今次大統領選での両者の得票数は、バイデン氏がおよそ7500万票台、トランプ氏もやはり7100万票台(日経11/9)、両者の得票差の僅少さは、まさに二分化を実証する処です。

勿論、米国社会の分断化を促している要因については、色々指摘される処ですが、とりわけ経済の格差拡大が進行する中、社会の不平等化が進み、それに連動する形で、white対 nonwhiteの人種間対立が露わとなっている事情を踏まえると、バイデン政権が米国の‘unity’を掲げても、その対立が素直に解消に向かうことになるものか、むしろこの対立の構図が今次の大統領選で浮き彫りされたことで、これが人々の中にシコリとなって、今後4年にわたって更なる火種となっていくのではと危惧される処です。「分断ではなく、団結させる大統領になる」と約したバイデン氏の勝利宣言は、まさにこうしたしこりを強く意識してのことだった事は云うまでもない処です。
そもそも、米国には分断を促す二つの顔があるとされ、この二つが互に競いながら米国政治を形作ってきたとされていますが、今次選挙戦ではこの二つの対立が極端な様相を呈したことで歴史的激しさともされ、これが大きなしこりを残す処と指摘される処です。

・米国にある二つの顔
米国にある二つの顔とは、ウイルソン主義の顔とジャクソン主義の顔で、それが、時の都合でいずれかが強まり、分断を齎してきたとされてきています。前者のウイルソン主義とは、アメリカ帝国主義の真っ只中、時のプリンストン大学総長にあったウイルソンが自由と民主主義、そして人権と国際協調を理念とするnew freedomを掲げ第28代大統領(1913 ~21)に就いた際の流れ。もう一つは白人を中心とする神の国をつくると云うジャクソン主義の顔(第7代米大統領、1829~37)で、米国の平和と繁栄を優先する考え方です。

今次、バイデン氏はウイルソン主義の象徴と位置付けられ、後者の象徴がトランプ氏ということですが、その史上、尤も米国らしくない大統領であるトランプ氏の強権的な政治手法に対する怒りがバイデン氏の得票に投影されていったと理解される処です。バイデン氏は勝利宣言の中で、国内の分裂を収束させ、米国と云う国の「統一」をと、強調していましたが、それはまさにウイルソン主義を目指す処ですが、諸般の事情からはバイデン氏が向かう道は、前述の通り民主主義の葛藤の道とも言え、分断の長期化は避けられそうもない処です。

大統領選の陣取り合戦、つまり選挙人の獲得数を合衆国の地図上で見ると、太平洋、大西洋の両岸には経済の革新の恩恵に授かる成長州があって民主党の青色で染まり、その間にあって経済発展の恩恵に浴する事の少ない保守的、伝統州は共和党の赤色で染まる、その色分けされた図柄は米国の分断の姿と映る処です。分断が、経済格差拡大、White vs Nonwhiteの対立に象徴されるとなると、問題は昨日、今日の話ではなく、これが遠くは、150余年前の内戦、南北戦争に端を発する処となると、簡単には解消し得るとは思えず、バイデン氏が打ち出す重点政策として「人種」をトップに挙げるのも、その故と思料するのです。
南北戦争の結果、奴隷は自由の身となったのですが、リンカーン大統領が暗殺された後を引き継いだ大統領、アンドリュー・ジョンソンは ‘政府は白人男性のもの’と、反動的な政治姿勢を展開、黒人奴隷の存在を容認し、自らも奴隷を自家に擁したと云われています。

時は流れ、1964年人種差別を禁じる公民権法(Civil Rights Act,1964)を以って人種差別は解決をみたとされてはいますが、現実の姿は周知のとおりで、今尚、その根っこを引きずったままにある処です。トランプ氏の姿勢はまさに人種差別を肯定するものと云え、その是正には時間がかかる所以をもって、日経、コメンテータの秋田浩之氏も、南北戦争の状況、今再び?(日経10/17電子版)と論ずる処です。

(注)サミュエル・ハンチントン (「分断されるアメリカ」Who are you? 2004 ):
1965年以降における大量のヒスパニック系移民によってアメリカは言語及び文化面でま
すます二分化が進み、これが白人と黒人という人種の二分化に続くだけでなく、それにと
って代わる可能性すらあると、指摘するのでした。(2008年、没)

・トランプ氏の敗因 
さてトランプ氏は選挙戦を通じ、経済で実績を挙げた自分こそが再選されるべきと、訴えていたことは周知の処です。 確かに、新型コロナウイルスのパンデミック前の米国経済は、失業率はそれまでの50年間で最低の水準にあって、低賃金労働者の賃金も年率で5%そこそこの高い伸びを辿り、株価は上昇傾向にありました。これらのすべては、減税、規制緩和、そして強気の通商政策の3点セット、つまり「トランポノミクス」に負うものと云え、コロナ収束後はこの政策を更に進め米経済を復活させると訴え、又、有権者の多くは、こうした主張を支持していたと見受けられたのです。実際、こうした経済問題を巡る世論調査ではトランプ氏は、バイデン氏に大きなリードを許してはいません。因みに、両者の得票数は前述のとおり極めて僅差にあって、まさに米国の分断を象徴する数字です。

ではなぜ米国民はトランプ氏ではなく、バイデン氏を選択したのか、ですが冒頭紹介したエコノミスト誌がその事情の一端を解説する処ですが、より基本的にはトランプ氏が誇示する「経済」とは、健康な働き手と、健康な消費者があっての事で、であれば健康を担保するためには、コロナ対策が第一の課題であったにもかかわらず、彼はそこを全くないがしろにした事が敗因となったというものです。バイデン氏は勿論、コロナ対策第一とする処です。

そこで本稿では、冒頭引用のThe Economistのcover storyを踏まえながら経済政策の視点から、改めてトランプ政策のillogicalさを検証し、その対抗となる新たな資本主義とその可能性を考察し、併せて、この春バイデン氏がForeign Affairsに寄稿した ‘Why America Must Lead Again‘ (弊論考2020/6月号)に照らし、バイデン政権が目指す協調外交の可能性について、具体的に考察することとしたいと思います。


第1章 アメリカを破壊したトランプ氏の夢

1.トランプ経済体制の非合理な現実

今次の選挙結果は、トランプ氏の米国を世界の指針たらしめてきた‘価値観への冒涜’と、バイデン氏が示す、‘その修復と再生’ への期待、との相克の結果と見る処ですが、この際は、米コロンビア大教授のノーベル経済学賞受賞のジョセフ・ステイグリッツ氏の言を借りながら、今求められることは何か、そして想定される新しい資本主義へのシフトの可能性について考察する事としたいと思います。

(1)アメリカを貶めたトランプ氏が追う夢
トランプ氏は大統領選が近づいてきたころから「法と秩序」を盛んと口にするようになっていました。我々が必要とするのはルールのある世界ですから、法の支配なくして経済は機能しません。世界経済ではWTOが‘法の支配’の基本となっています。その限りにおいて彼の発言は正鵠を射るものと云えます。が、事態は、自身にとって都合のいい、まさにご都合主義の姿勢であって、むしろ彼の行動様式は、法の支配自体を壊さんとしており、それがカオスや不確実性を齎しているのです。彼には経済の知識は乏しく、その為、彼の政策は彼の支持者を含め、人々を窮地に追いやっていると云うのが実状です。

例えばトランプ氏がいくら喚いても製造業がアメリカに戻ってくることはありません。たとえ中国に非常に高い関税をかけたとしても、輸入先がベトナムやバングラデッシュ、スリランカなどに移るだけなのです。多少戻ってきたとしても、製造業を担うのはロボットです。つまり雇用を生むこともなければ、失業者が職場に復帰できる可能性はないのです。失業者が新たな職を得るには、新たなスキルを獲得するしかないのです。トランプ氏はアメリカが製造大国だった1950年代から1960年代の「夢」を追いかけているのです。 第2次世界大戦後、アメリカは資本主義諸国では唯一の大国でした。トランプ氏が目指すのはそのような世界の再現でしょうが、もはやそんなことは叶う事はないのです。

トランプ氏の目論見の一つは石炭産業の復興です。つまりトランプ氏は炭鉱作業員の雇用を守ろうとしていますが、石炭の時代は終わっているのです。地球温暖化の問題で石炭はもう使えなくなっているのです。因みにバイデン氏は2050年、脱炭素を宣言していますし、菅首相も同様、脱炭素、温暖化ガス排出を実質ゼロにすると宣言(10/26於国会)する処です。

一方、今では炭鉱作業員の何倍もの数の労働者がソーラーパネル設置の作業に従事する処です。言うまでもなく再生可能エネルギーの分野です。にも拘わらず、石炭産業を守ろうとすることは、成長分野の産業の成長を妨げようとすることです。つまり、トランプ氏は石炭を守るためにソーラーパネルの普及に待ったをかけようとしているのです。石炭は人体に害を及ぼし、探鉱作業員だけでなく社会全体の人々の健康を蝕む処です。

(2)ステイグリッツ氏の提言
有害なエネルギーに戻って、これまで研究を重ねコストも低下させたクリーンなエネルギーの利用を妨げるなどは馬鹿げた話で、未来社会のあるべき姿を大統領のトランプ氏が理解していないために、アメリカが損害を被っていると米コロンビア大学教授のステイグリッツ氏はトランプ政策を強く非難する処です。同時に明らかなことは、トランプ氏のような煽動政治家の登場をゆるした自分たちの社会システムにも問題があり、何かが上手くいっていないことだとし、この際は、新自由主義に基づくレーガン大統領以降の資本主義を刷新し、新たな資本主義(Progressive capitalism)へのシフトを唱道するのです。

2.今、求められる新たな資本主義へのシフト

・アメリカ資本主義の病理
ステイグリッツ氏は、アメリカ資本主義の病理として大きな問題は、経済の不平等により民主主義社会が危機にさらされている事だが、それが経済自体にも深刻な影響を与えている処、この際は格差と不平等に対処するための包括的な計画の導入を中核としたProgressive capitalism(進歩的資本主義)へのシフトを訴えるのです。

   (注)Stiglitz氏著「People, Power, and Profits:Progressive capitalism for an Age
of Discontent,2019」邦訳出版2020/1月2日

深刻な経済への影響の一つは、総需要や投資が減る事ですが、 貧困層は手にしたおカネの全てを消費に回しますが、富裕層は資産や収入の一部しか消費に回しません。ですから不平等を作り、富を富裕層に集中させると総需要が減り、投資も減ってしまうと云う事になります。しかし不平等を促す政策はレーガン時代から続けられている事態が問題と批判を呼ぶ処です。 もう一つ大きな問題は、さまざまな産業で独占企業が増えている事で、GAFAなどはその典型ですが、一極集中が進むことでアメリカ市場から激しい競争が失われてきていることで、多くの分野でも価格が高くなっていますが、それがインフレ調整後の賃金が上がっていない理由の一つですが、これらは先進資本主義国が抱える共通問題と映る処です。。

・包括的政策の導入
さて、その対抗として導入が唱道される包括的政策ですが、その基本は成長や格差縮小への障害(過大な市場支配力を持つ企業がもたらす弊害)の除去と、バランスの回復(労働者に大きな交渉力をあたえる)とを組み合わせた政策となる処で、これは前掲ステイグリッツ氏らが主張する進歩的資本主義(progressive capitalism)の中核をなすものです。 実は、弊論考(N0.94, 2020/2月号)で、ステイグリッツ再論として同書を取り上げています。今次選挙結果を論じるにあったて、改めて目を通す時、そこに盛られた「21世紀の世界で必要とされる事」「求められる政策は‘政治と経済を再建する’政策」などの指摘を新とする時、緊密につながり合った世界に生きる者として、孤立主義という選択肢はなく、政治・経済両面で、これまで以上に国際関係の管理に取り組んでいかなければならないとの警告に改めて身をただす思いです。


第2章 バイデン政権と国際関係の可能性

バイデン政権が目指す政策の形は如何と、先に、彼がForeign Affairs, (March/April,2020)に寄稿した「Why America Must Lead Again」を紹介していますが(弊月例論考N0.98 2020/6月号)、彼の基本的な政治姿勢は、民主主義の再生、中間層の復活、受け入れ寛容な移民政策とするもので、外交的には同盟国重視、国際機関との協調を訴え、通商交渉にあたっては「労働対策と環境政策の重視」を原則として、自らその前線に立つとする処です。

もともとバイデン氏は環境問題や人権課題に対して関心が高いことで知られ、政権発足後、ESG(県境・社会・企業統治)関連のルール整備や産業振興策を打ち出すものとみられていますが、まずその具体的アクションとして、大統領就任当日には、地球温暖化対策の国際的枠組みの「パリ協定」に復帰し、各国に削減目標の引き上げを働きかけると公約しています。
漸く ‘トランプ政権下で止まった時計の針が動き出す’、と云った処です。

1.バイデン協調外交

(1)米欧関係:11月10日にはバイデン氏は英独仏やアイルランドの首脳と電話連絡し、安全保障や気候変動での協力について確認しています。まずは欧州との協調関係の回復、つまり欧米関係の再構築ってところです。その前日の9日にはカナダのトルドー首相とも電話会談を果たしています。これはトランプ政権下の4年間で揺らいだ米欧関係の修復を外交の最優先課題と位置付ける姿勢を鮮明とする処です。

米欧関係修復の具体策となるのが、トランプ政権時、離脱した国際的枠組み「パリ協定」への復帰ですが、前述のとおりバイデン氏は1月20日の政権交代時、同協定への復帰を決定しており、併せて「脱炭素」経済を目指す方針を欧州の方針と共有する事が確認されたと伝えられ処、ESG関連政策で世界の先を行く欧州にとっては、‘共通言語’を持つ政権が米国で復活することになるわけで、この結果米欧の2大市場が呼応しながら競争優位な環境づくりとして、規制強化などの動きの加速が想定される処です。脱炭素社会を宣言した日本も土俵を同じくできるよう、革新的な政策対応が求められる処です。

尚、バイデン氏は、安全保障体制については、もともとNATOを米国の安全保障の要と位置づけており、未だ負担金問題では決着を見ていませんが、欧州との連携は中東政策を進める上でも不可欠として連携強化を伝える処です。

この他、バイデン氏は今次コロナ対策について、「G7を中心に公衆衛生が整っていない国々を支援する国際枠組みの創設」を提案しています。その背景には金融危機や14年に米国で広がったエボラ出血熱への対策を当時副大統領として対処した経験が映る処です。更に、ひどい打撃を受けている国に手を差し伸べるべきと、イランへの制裁緩和をも提案する処です。つまりオバマ前政権で結んだイラン核合意を破棄したトランプ氏への意趣返しともなる処ではと、思料する処です。 ただ強権姿勢の首脳が幅を利かせる現在の国際社会で、融和の主張がどこまで通用するかですが、彼が主張するアメリカに期待したいと思う処です。

(2)日米関係:菅首相は12日のバイデン氏と電話協議で、気候変動問題など国際社会共通の課題で連携していく事、また日本防衛の義務を定めた日米安保条約第5条の沖縄県・尖閣諸島防衛への適用を確認。このほか、QUADへの協力、更には脱炭素社会を目指す菅政権の方針に対して、バイデン政権の環境政策との連携を合意したと報じられていますが、暫し様子見と云った処でしょうか。 序で乍ら、バイデン政権は国内インフラ投資の拡大を経済再生のカギとしている点で、財政のひっ迫が予想され、これが米軍の財政逼迫に連動する事となれば、日本の安全保障にも影響の及ぶことが懸念される処です。その点では、QUADの体制を介しての日本の対応の如何が問われる事になる処です。今、急速に中国の体制変化が進む中、きちっと見極めての対応が求められる処です。

・アジア太平洋地域と中国の存在感
加えて注目されるのが、中国のアジア太平洋地域にみる中国の存在感の高まりです。
11月15日、東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が、ASEAN(10か国) プラス 日中韓豪NZの15か国の間でFTAが調印されています。世界貿易の3割を占める巨大経圏の誕生です。もとよりこれがアジア主導で世界の通商戦略が変わる可能性を秘める環境にあって、11月20日、中国習近平氏はAPEC 21か国首脳会議にオンラインで出席し、TPP11への参加を積極的に考えたいと、表明したのです。

トランプ米政権はすでに2017年、TPPからの離脱を宣言、今次のRCEPにも不参加です。習氏は19日の関連会議でも米国を念頭に、保護主義を強く批判すると共に、「中国は地域経済の一体化を進め、アジア太平洋の自由貿易圏を一日も早く完成させたい」(日経11/21)旨を明らかとしたのですが、習氏の一連の言動は、云う迄もなく米国の政権移行期にアジア太平洋地域で中国の存在感を高めんとの狙いが煤ける処です。さて日米関係は中国という要素を抜きにして語ることはできません。QUADを介した日本の出番の可能性が高まる中、中国政府のかかる新たな行動に、日本の備えは如何と、改めて問われることになる処です。
                                      
2 バイデン対中政策の視点 ― 習政権の行動様式の如何

さてバイデン氏は、中国の経済行動は国際ルールを逸脱するものとの認識にあって、従って国際ルールの遵守を迫る形で対中圧力の堅持を目指すと見られています。その点ではトランプ政権と同じ線上にある処、その対抗は日欧などとの多国間枠組みをテコに、労働・環境を重視した貿易ルールを中国に迫っていくとしています。となれば、これまで米中関係のバランスにおいて対中政策を進めてきた日本は、上述、新たな中国の行動様式に照らし、改めて対応の再考が求められる処です。
                   
(1)中国経済の現状と長期展望
コロナ禍の世界にあって、中国経済は今、一人勝ちの様相をたどる処です。10月19日、中国国家統計局発表の第3四半期(7~9月)のGDPは実質前年同期比4.9%の成長です。。これは投資や輸出が牽引する処、他国に先駆けて経済は正常化しつつあり、成長の加速が指摘される処です。
 
そんな環境の中、10月26~29日、北京で開かれた「5中全会(第19期中央委員会第5回全体会議)」では、二つの長期計画、「第14次5か年計画(2021~25)」と併せて、「2035年までの長期目標」の導入が公表されました。新たな5か年計画などは、米中関係が過去にないほど緊張した中での策定となるものです。周知の通り、2018年から関税合戦が勃発、貿易摩擦が激しさを増し、2020年1月には貿易協議の第一弾の合意にこぎつけていますが、コロナの蔓延、中国に因る香港国家安全維持法制定を経て、米国が対中姿勢を一段と硬化させた中でのことでした。つまり、米国との緊張関係が常態化する事も視野に入れ、新5か年計画は需要と供給の両面から国内経済の底上げを目指すものとなっており、過度の海外依存を避けて、経済成長を持続させる「自力更生」の道を探るものとなっています。そのキーワードは「自主可控」(中国が独自にコントロールできる)。

因みに「2035年目標」では基幹技術で革新的な発展を実現するとし、環境に配慮した生産の形成を通じて競争の新たな優位性を高めんとする由です。そして一人当たりのGDPが中等先進国レベル(日本の4万ドルに対し中国は1万ドル)に達し、中所得層を拡大させる一方、国防・軍隊の現代化を基本的に実現させんとするのですが(日経11/04)、14億の人口を抱える中国の巨大さがもたらす脅威を実感させられる思いです。

(2)中全会と、安定化増す習政権

・中全会(中央委員会全体会議)は共産党党大会開催の2年前に開くこととされており、これまで後継者が固まる場として注目されるものでしたが、今次の会議終了時、発表されたコミュニケには人事の記載はなく、逆に習氏の実績を誇示し、指導力を礼賛する内容となっています。(日経11/4)その限りにおいて、習政治の安定感を伝える証とも云えそうです。因みに2018年の憲法改正で、国家主席の任期を2期10年までとする規定を無くしており、残るハードルは党大会時に68歳以上は引退する党の不文律ですが、習氏は22年秋の党大会では69歳となり、通常ならば、引退する事になるのでしょうが、もはやそういった縛りはなくなったという処でしょうか。

・つまり2018年3月の憲法改正(国家主席の任期撤廃)に大きな反発があったとされ、そこでもう一度、党内の安定化を図るため ‘二つの擁護’(注:習近平氏の全党に於ける核心的地位の擁護、党中央の権威と集中統一指導の擁護 )の制度化を図ったといわれていますが、それが功を奏したとされる処、習近平の独裁体制が定着したとされる処です。今後15年間にわたる展望の提示は1995年以来で、長期政権を狙う習氏の政治的な布石と云える処です。

さて、中国は、新体制の米国と対峙しながら今後、どのような展開を図ろうとするか、再び世界の関心は習氏の行動とその行方に集まるは当然の事として、一方、バイデン流、民主国家との連携による対中けん制枠組みの構築に、日本はいかにかかわっていくことになるか、これまた関心の高まる処です。


            おわりに 岐路に立つ民主主義

処で先週、筆者が主宰する社会人のための勉強会では、時節柄、今次の米大統領選、そして中国習近平政権の政策行動について講義を行ったのですが、その際受講生から、トランプ氏が仕掛けるゴタゴタ騒ぎの民主国家 米国と5全会に見る中国のような意思決定の姿を見ていると、中国の強権体制に米国の民主主義体制がどう優位を保てるものか、更に米国の混迷は民主主義そのものの衰退を意味するのではと、侃々諤々、クラスは暫し沸く処でした。

確かに自由で民主的な国よりも、権威主義的な国の方がコロナをうまく抑えている現実があり、政策の実行力に限れば中国型モデルに有利な面のある事、否めません。つまり、指導者は素早く決定を下し、政策を進め、次の選挙を気にせず、長期の戦略を定め、実行に移しやすく、前述2035年の中国の姿を、かくあるべしと定める習近平氏の姿はその好例です。

だから中国型モデルが民主主義体制よりも優れているという話にはならず、なぜなら民主主義には強権体制にはない決定的な長所がある処、つまり一つには、民主主義体制では指導者の政策や決定はいつでも世論の監視や批判にさらされ、検証され、失敗を重ねれば選挙によって変えられてしまうことになるということ、今米国で起きているのはただの混乱ではなく、そうしたプロセスにあるというものです。そしてもう一つは、社会の軋轢は国家に問題を直視させ、法や制度を改めていく力を持っているといえるからです。

思うに米国での人種問題についていえば、南北戦争や1950~60年代の公民権運動を経て少しずつ人種差別を減らし、ついには2009年に黒人大統領の誕生を見ています。これこそは米国民主主義の健在あっての事というものです。かつて英国の元首相、W.チャーチルが発した「民主主義は最悪の政治。これまで試みられてきた民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」との言は有名ですが、民主主義は時間もコストもかかるが、国民の一人ひとりの尊厳にレスペクトを払う、言い換えれば多様性を受容する優位なシステムと云えるという事です。その点、トランプ氏の ‘米国フアースト’ には、社会の多様性を受け入れない、社会の対立を生むばかりと、危機感の募る処です。

とはいえ、それでも気になることは世界の潮流です。つまりグローバリズムと民主主義は一緒にうまく回らなくなっていることが明らかになってきていることです。米欧でみられるように社会の分断がどんどん進んでいて、そこにコロナの問題が重なったこともあり、政治体制そのものが問われかねない事態が露わとなってきています。日本も例外ではありません。問題は、そうしたことへの備えがあるか、です。 
さて、10月26日開催の日本生産性本部大会での基調討論会で、元東大学長の佐々木毅氏は「大状況の変化がどういう形で、大きな波として日本に押し寄せてくるか、それについての議論が欠如している危うさがある。何か起こった時、飲み込まれていく。体制間競争について自分たちなりにきちんと考えていくことが重要だ」と、懸念を示すのです。 以上              
(2020/11/25)
posted by 林川眞善 at 11:55
"2020年12月号  Joe Biden President-electと国際関係の今後 - 林川眞善"へのコメント
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