2021年03月26日

2021年4月号(その1)  世界は今、Decarbonizing - 林川眞善

目  次

はじめに Black out in Texas  
(1)米テキサス州は終末世界の様相
(2) 温暖化対策推進を目指す大統領令
    
第1章 米国の温暖化対応、世界の行動
1.テキサス州のBlack outと温暖化対策の現状
   ① バイデン政権が目指すエネルギー政策を読む
   ② 温暖化対応が競争力強化の源泉
   ➂ 米国は気候変動対策(脱炭素)へ真剣に取り組め
2. 世界は、さらに脱炭素に向かう
   ① 国連グテレス事務総長 -「石炭の時代は終わった」
   ② COP26会議と英COP26大使、ジョン・マートン氏
   ➂ 英イングランド銀行、企業の対応はSay on climate!

第2章 国際慈善事業家 ビル・ゲイツ氏と、日本の脱炭素戦略
1. ビル・ゲイツ氏
2.日本が目指す「カーボンニュートラル」の可能性
(1)菅政権のグリーン戦略
(2)脱炭素に求められる発想の転換 ―バックキャスト思考
(3)「原発」への取り組み
・The lessons of Fukushima ― エコノミスト誌が語る‘フクシマの教訓’ の意外

おわりに The world biggest test of co-operation

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    はじめに  Black out in Texas

(1)テキサス州は終末世界の様相
この冬、米国は厳しい寒波に見舞われ、とりわけテキサス州では1989年以来の記録的寒波・低温(マイナス18℉)を記録。この寒波で、水道管破裂や停電による水処理施設の停止で断水が発生、さながら終末世界の様相と報じられる処でした。 バイデン大統領は2月20日、非常事態宣言に加え同州に対する大規模災害宣言を発する処でした。

そもそも石油や天然ガスの主要産地のテキサスで、安定した供給が期待できない事態を生んだのはなぜか? こうした事の背景として、州内電力網を運営するテキサス電気信頼性評議会(ERCOT)が寒波襲来によるエネルギー需要の急増をきちんと予測できなかったことにあるとされています。つまり、今回のような寒波にはめったには襲われることはなく、従って電力会社は設備の防寒対策に投資したがらないこと、これが今回のような災害を大きくしたとされる処、3月3日には同評議会のビル・マグネスCEOは解任されています。

加えてもう一つ、テキサス電力市場の独特な仕組みが大停電の一因だともされる処です。
つまり、アラスカとハワイを除く米本土48州の内テキサス州だけがTexas Interconnection
と呼ばれる州内で完結する送配電網があり、そのシステムがあることで、州内での発電機能が停止したとしても、他州から州境を超えて電力を融通してもらえず、その点からは今次の大停電は、まさに制度上のミスによる結果であり、行政のミスによる処とも云えそうです。

更に、野党・共和党の政治家たちからは、ここぞとばかりに風力等再生可能エネルギーへの依存が計画停電を招いたと批判する処です。が、今回の供給不足の主たる原因はテキサスの電源シェアーの半分近くを占める天然ガス発電を巡る問題、つまりは自由化の進むエネルギー市場への対応が問題と云うことですがERCOTを含め、人為的な瑕疵に負うものであって、その点、大停電の主因は‘再生可能エネルギー問題ではなく、ガス発電の問題で、従って、インフラ投資なしには再発不可避とみられる処です。

   (注)テキサス州の発電源(2019年) :天然ガス47%,(全米:38%),石炭20%,(23%) 
風力20%,(7.3%)と風力の割合が大きい。特に石炭火力(2009年:3.7%)が減る一
方、風力発電(6%)が3倍以上に拡大してきた。

今次の大停電は、風力発電所に限らず、ガス火力発電所や、原子力発電所にも被害が出ていること、加えて同州の発電容量は小さい上に、送電網も貧弱なため、他の地域から電力の融通を受ける事も出来ない状況がもたらした結果と云え、要は州としての危機対応が未熟であったとされる処です。とすれば、その未整備のままに置かれてきた諸々の改善があれば、事態の解決は可能、回復へのシナリオは具体的に描けるという処です。因みに2月20日付けThe Economistは、The freeze in Texas exposes America’s infrastructural failingsと指摘する処です。

ただ、今次の大停電が示唆することは、エネルギーの送配設備の改善もさることながら、安定したエネルギーの供給を確かなものとしていく上でのポイントは、供給エネルギー源の構成にあって、それは各種エネルギー源が排出するガス、つまり地球温暖化効果問題といかに対峙していくかが問われる事になるのです。その点、バイデン大統領は政権運営の基本の一つと位置付け、以下の大統領令を以って地球温暖化問題への取り組みとする処です。

(2)温暖化対策推進を目指す大統領令
バイデン氏は大統領就任直後の1月27日、温暖化ガスの排出削減を目指す大統領令に署名し、同時に「グローバルな対策を主導する」との意向を鮮明とする処でした。その際は、
化石燃料から再生エネルギーへの移行を進めるとし、大統領令では連邦政府の管理地で石油・ガスの新規開発を止めると明記する一方、洋上風力のエネルギー生産量を30年までに倍増するとも掲げています。(注) そして協定に復帰した2月19日、バイデン氏は、ミューヘン安全保障会議にオンラインで参加、パリ協定復帰を強調すると共に、「地球の日」(4月22日)に「温暖化ガス主要排出国の首脳会議」の開催を発表、28日には菅首相との電話協議の際は、4月の気候変動サミットに首相を招待したのです。

同日、ケリー気候担当大統領特使は国連のオンライン・イベントで、4月、米主催の気候サミットを念頭に、「各国が今後10年間、又30年間のロードマップを実質的に定義しなければならない」と述べ、更に「我々は、地球の温度上昇を1.5度までに抑制するために、今後10年間に必要となる行動を決定し、2050年までのカーボンネットゼロ達成のため何ができるのか、より良いビジョンを作成していく」と発言しています。

(注)27日署名の大統領令での強調点(気候変動を外交・安保政策の中心にして)
 ・気候変動サミット開催      /・パリ協定復帰に伴う目標設定
  ・情報機関が気候変動の影響を評価 /・政府管理地での石油・ガスの新規開発停止
  ・洋上風力を30年までに2倍に /・化石燃料への補助金削減 (日経2021/1/29)

もとより、これが単に電力問題にとどまることなく全産業構造の如何に及ぶ問題です。そして、上掲The Economist誌は、バイデン政権が目指す環境対応政策、つまり脱炭素への確実な取り組みをと、米国の動きを叱咤激励する処です。 そこで本論考では米テキサス州の大寒波をトリガーに、バイデン政権の温暖化政策、脱炭素戦略の概要と問題点に絞り、夫々の実状とメデイアが伝える当該批判そして、近時、温暖化対策に取り組む国際的な慈善事業家に転身したビル・ゲイツ氏の日経紙上対談をも含め、世界の脱炭素戦略の現状について、更に日本の実際をもレビューしていく事とします。


  第1章 米国の温暖化対応、世界の行動

1. テキサス州のBlack outと温暖化対策の現状
     ― The Economist誌が叱咤激励する米国の環境対応

今次米テキサツ州で起きた大寒波の実情は上述の通りですが、異常気象の発生が米全土で続く状況は気候変動の兆しであることは誰の目にも明らかと映る処です。
さて、前掲The Economist(2/20付)は、今次テキサス州で起きた大停電は、基本的にはインフラ整備の欠落にありとしながらも、同誌「America’s better future」では、バイデン政権が定めた気候変動対策、No carbon and no blackoutをこの10年でいかに進めるかが、今後の米国の針路を左右すると見るのです。それが意味することはイノベーションが得意な国、アメリカだからこそ、2050年までの脱炭素達成を目指し、大規模な変革を起こす必要があること、そして国際社会の場でも削減に向けて野心的な目標を挙げ、影響力を与える存在であり続ける要があると、前出大統領令に照す形で、叱咤激励する処です。 そこでまず、その概要を紹介することとしておきましょう。
       
① バイデン政権が目指すエネルギー政策を読む
伝えられる処、2035年までに発電部門の温暖化ガス排出をゼロにして、50年までに「カーボンニュートラル」な経済の実現を目指さんとするものです。
米国は世界第2のCO2排出国ですが同時に、気候変動政策や技術に関する知見豊とされ、世界をリードする潜在力もある処です。それ故これからワシントンでの動きは、今後10年間、或いはその先に至るまでの米国の針路を定めるものになるだろうと指摘する処です。

このカーボンニュートラル目標は、世界の平均気温上昇を産業革命以前の水準から2度以内に抑えるという国際社会の目標に沿ったものですが、実現は至難の業と見る処です。
つまり、世界でカーボンニュートラルを達成するためには、10年間にわたって毎年7.6%
の排出削減が必要で、これは2020年のコロナ禍による石油・石炭需要の低下を上回る規模の削減となるだけに至難なこと云うまでもありません。

ただ、政治環境として気候変動対策に共和党は反対ですが、有権者の3分の2は連邦政府の対策が不十分と考えているとされ、更には共和党への大口資金提供企業の多くも積極的な温暖化対策を望んでいる由伝えられており、そうして状況からは相応に期待できると見る処です。そして、何より心強い事は、過去10年間で風力発電のコストが70%、太陽光発電では90%、下がったことだとするのです。更にイノベーション大国、米国はその力量を広く展開すべきで、そのツールの一つとして、炭素に価格をつけ、CO2を排出した企業や家庭にお金を負担してもらうカーボンプライシングがあるとも語るのです。

② 温暖化対応が競争力強化の源泉
とにかく温暖化対策に向けて行動を起こさないことによるリスクは大きいと指摘するのですが、それが意味することは、新たな「クリーンエネルギー分野」で、米国の競争力が削がれるだろうとする処です。因みに、中国は、ソーラパネル・バッテリーの生産では最有力国であり、外国の鉱山に投資し、生産に必要な鉱物を確保していること、一方、欧州はクリーンエネルギー産業振興のため、独自の「欧州グリーンデイール」を打ち出し、「国境調整メカニズム」と呼ばれる仕組みを擁して、排出量の削減を約束していない国からの輸入品に課税していく方針にある点です。

又、国際社会における気候変動問題の議論に対する影響力を失うリスクも高まるとも指摘する処です。米国が直接関与する温室効果ガス排出量は世界全体の排出量の約10%しかありませんが、気候の安定に加え、世界経済の安定、地政学的問題の安定、不利益の回避を求めるのであれば、残りの90%を排出する国々に対する影響力を保持する必要があるとも強調する処です。

➂ 米国は気候変動対策(脱炭素)へ真剣に取り組め
米国は2月19日 パリ協定に復帰、11月には英国で開催の第26回国連気候変動会(COP 26)に参加予定ですが、そこでは各国が排出削減のために新たな目標を公約することになっています。その際、米国は目標を明示し、その実現のための国内施策を示すことができれば、対外的な影響力を保持できるだろうと云うのです。とにかく米国はこれまで、景気変動対策で国際社会の信頼を得られることはなく、殊、トランプ氏は国際社会の米国に対する信頼を失墜させ、W.W.ブッシュ元大統領は京都議定書の実施を拒否、90年来、米連邦議会は本格的な気候変動関連法案の審議を行うことはなかったと、指摘する処です。今こそこうした態度は改めるべきで、バイデン氏が本気を示すチャンスは、今を逃せばもうないものと指摘するのです.

― テキサス州での大停電から分かるのは、気候変動問題を乗り越えることができれば、バイデン氏が世界と同時に米国民からも感謝されるだろうと強調する処です。

2.世界は、さらに脱炭素に向かう

① 国連グテレス事務総長 - 「石炭の時代は終わった」
3月2日、UN事務総長のグテレス氏は石炭火力発電所廃止を目指す国際組織「脱石炭連合」の会合に寄せたビデオ演説で「石炭が安価な電力を供給し、地域社会に雇用を齎した時代はもう終わった」と語り、石炭の経済的合理性は薄れているとする処です。そして「世界の死者の5人に1人は化石燃料によるものだ」とも指摘し、石炭火力への依存度の高い日本など主要国に、迅速な行動をとるよう訴えるのでした。

周知の通り今世紀末までの気温上昇を産革命前に比べ、2度未満に抑え、1.5度以下にとどまるよう努力する目標を掲げていますが、グテレス氏はこの「1.5度目標」の重要性を改めて強調し「電力部門から石炭を段階的に廃止することは最も重要なステプだ」と力説するところでした。とすれば30 年までに世界の発電における石炭の使用量を10年比で80%削減しなければならないのですが、極めてしんどい話です。因みに2月26日、「国連気候変動枠組み条約事務局」は、現状の各国が提出した2030年の温暖化ガスの排出削減などの目標について、各国の目標では「達成はほど遠い」と分析・報告する処です。

尚、同じ3月2日、国際エネルギー機構(IEA)は2020年のCO2の排出量は前年比で5.8%減ったと発表。これが第2次大戦後で最大の減少幅としながらも、削減努力を加速しなければ21年は一転、「著しく増えるリスク」があると警鐘を鳴らす処です。(日経3月3日)

② COP26会議と英国COP26 特使 ジョン・マートン氏
今年11月、英国が議長国を務めるCOP26が開催予定ですが、各国が野心的な温暖化ガス削減行動をとる環境が整ったと、云うのは英国マートン特使です。同氏は日本のエネルギー事情に理解を示しながらも、「英国はじめ多くの国は2~3年前に想定していたよりもずっと早いペースで石炭の使用を減らしてきている。近い将来、再生可能エネルギーへの新規投資額は既存の石炭火力発電所への追加費用を下回るだろう」というのです。

気候変動問題は50年前から指摘される処、対策をしない場合のコストがどれだけ膨らむかもわかっているわけで、この際は世界が一体となって気候変動対策を急ぐ必要性がますますはっきりした、と主催国としての矜持を示す処です。(日経、2021/2/25) 要は米国と力を合わせ脱炭素をと、いう処です。これまで欧州の気候変動対応には「理想論」「夢物語」との批判も多かったものの、最近は、将来の産業育成や成長力と関連付け冷静かつ現実的に戦略を練ってきており、この変化を見落とせば日本は競争力を失いかねないと見る処です。

➂ 英イングランド銀行、企業の対応は Say on climate!
序で乍ら、英国のスナク財務相は3月3日、英イングランド銀行(中銀)の金融政策運営の使命に、温暖化ガス排出量の「実質ゼロ」社会への移行を加える、と表明する処です。物価上昇率2%のインフレ目標と共に、金融政策や監督を担う中銀として気候変動問題にも積極的に対処していく責務を明確にする処ですが、政策運営の責任として具体的に脱炭素を盛り込むのは、主要中銀では英国が初めてです。 スナク氏は英下院での予算演説で、政府が指定する金融政策の使命について「今後は、環境の持続可能性と(温暖化ガス排出量の)ネットゼロへの移行の重要性も反映していく」と語る処です。(日経,夕 3/4)

一方、企業が株主総会で「脱炭素」の取り組みの賛否を株主に問う動きが欧米で広がってきています。 その動きとは、株主が総会での意思表明を通じて企業の脱炭素対策へ関与を強めるとするもので、「Say on climate」と呼ばれる動きで、これは10年前後に欧米で広がった、経営者の報酬が妥当かどうか、株主が意思表示する「Say on pay」の環境版です。
スイスの資源企業、英蘭石油企業、ロイヤルダッチシェル、等有力企業がその方向に動き出している由です。但しそこには法的拘束力はありませんで、今後は企業の温暖化ガス排出削減がどこまで進んだかの検証も必要になってくるのではと思料する処です。 序で乍ら、弊論考106号で指摘した北極圏の凍土融解が齎す問題です。つまり、永年凍土中にあった生物の死骸がウイルスの培養皿に転じることの危機を十分認識されておくべき事なのです。

     
第2章.国際慈善事業家 ビル・ゲイツ氏と、日本の脱炭素戦略

1,ビル・ゲイツ氏

2月15日付けで配信された日経電子版で目を引いたのが、米企業の巨人マイクロソフト創業者から国際的な慈善事業家に転身したビル・ゲイツ氏のインタビュー記事でした。その内容は、主に地球温暖化問題を巡って、日経記者からの質問に応える形での内容でした。いまや一国の政府をも上回る力を持つ慈善事業の巨人となった彼の言葉は光る処、以下はその概要です。

① 地球温暖化問題に取り組むきっかけ:
「2000年にゲイツ財団を設立し、アフリカを旅して電力不足で夜の照明もワクチン冷却も困難な状況を知った。その電力を供給するのに今のやり方を変えないと、地球温暖化問題が大きな制約になることがわかった」そこで、「パリ協定が採択された15年のCOP21の前に米、仏、印のトップとも話し合った結果、研究開発を含むイノベーションに焦点を充てる考えに行き着いた」と。 そして、「自分は50年の排出量ゼロ目標を支持しており、これは世界、特に先進国すべてが持つべき目標だ。日本の役割はイノベーションに貢献する事だ」とし、とりわけ日本の自動車メーカーは電気自動車(EV)だけでなく水素を燃料とする燃料電池にも力を入れているが、これは長距離を走行し、重量が大きいトラックなどにも有効かもと、水素の可能性を指摘する処です。

原発については「日本の場合、天然ガス価格が米国の3倍程度なので、(原発は)経済的には実行可能だ。重要な問題は国民が受け入れるかどうかだ」とし、「気候温暖化問題に関する限り、問題は既存の原発ではなく、次の第4世代原子炉。建設コストは、今の4分の1という驚くべきものだ」と優位性を指摘する処です。 尚、前出 The Economist,2/20によると、ゲイツ氏は新著でエネルギー貯蔵、再生可能エネルギーを保管するための高度な原子炉開発、クリーンなコンクリート製造技術など、脱炭素化が難しい分野の技術開発をはじめ、多くの分野でイノベーションが求められると主張いている由です。

② バイデン政権の取り組みについて:
選挙直後にバイデン氏とは地球温暖化とコロ対策について話した由で、「11月の英国でのCOP26に彼が出席することに期待する」とし、「バイデン政権は地球温暖化問題を政権の4つの優先事項の1つに加え、多額の財政支出を約束している。気候変動対策は長期投資なので、進んでは止まるという事ではなく超党派で進めることが重要。若い共和党員はこの問題に関心をもっている。環境関連の技術革新がこようと起業を生み出す利点がある。この問題では現実的になり,党派的になるべきではない」と強調。

➂ 温暖化対策の可能性について:
そして、温暖化対策にはあらゆる可能性を追求する必要があるとしたうえで、「先進国は過去10年間発電容量を増やしてきていない。最大のグリーン電力の水力発電は、ほとんどの国では立地の問題で増やせない。原子力は非常に安全になりうるが、それを皆に分かってもらうのが難しい。現在開発を進めているのが蓄電池、次世代原子炉、核融合炉の3つだが、これまでと劇的に違うものが必要かもしれない。今から5年後には、これらがどれぐらいうまく機能するかを示したい」と。

要は、地球温暖化問題について技術革新を通じて打開を目指さんとする処、その中核は環境にやさしいバイオ燃料と通常燃料の価格差などを示すグリーンプレミアムの引き下げで、技術革新を通じて、この価格差を限りなくゼロに近づけるのが目標だと云うのです。まさに
国家を超える課題、解決に向ける意欲の伝わる処です。

2.日本が目指す「カーボンニュートラル」の可能性

(1)菅政権のグリーン戦略
2020年10月26日、菅義偉首相は国会で、就任後初となる所信表明演説で、温暖化ガスの排出が実質ゼロとなる「カーボンニュートラル(炭素中立)」を2050年までに実現すると宣言し、続いて12月末、実現の道筋を示す「グリーン成長戦略」を発表しています。ポイントは、国内の乗用車の新車は30年代半ばまでに全て電動車とし、40年までに原発45基分の洋上発電を導入、50年までに再生可能エネルギー比率は50~60%を目安に引き上げるとする処です。

その為には、脱炭素に繋がるあらゆる技術と産業構造の「ウルトラCのイノベーション」が不可欠となる処です。それだけにという事でしょうか、専門家の多くは、これまでの経験にとらわれる形で、脱炭素化推進には口をそろえてnegativeな姿勢を呈するところでした。が、前掲ゲイツ氏の言からも伺えるように、事態を巡る環境は、「できるかより、やるかどうか」の状況へと、急速な変化を呈する処です。因みに近時、経団連中西会長も「気候変動は経済を壊しかねない」、「脱炭素は最優先テーマだ」(日経2021/2/23 & 3/9)と重ねて強調する処です。今年1月、ゲイツ氏は菅首相と電話会談の際、同首相の掲げる「2050年カーボンニュートラル」を評価し、日本にはイノベーションに貢献する事を期待すると、直言した由でした。

(2)脱炭素戦略に求められる発想の転換 ― バックキャスト思考
云うまでもなく目標達成のためにはいろいろハードルのある処です。具体的には、「水素」や「アンモニア」は、燃やしてもCO2が発生しないためとして、「グリーン成長戦略」、つまり水素社会実現への切り札とされる処ですが、それには、価格や供給面の課題に加え、製造段階のCO 2が、高い壁として立ちはだかる処です。(日経ビジネス、2021/03/08)
つまり「価格の壁」とは、水素に対する需給関係を如何に合理的に維持していけるかの問題ですし、「供給面の壁」とは水素のsupply- chain の構築問題です。更には製造時のCO2の問題です。つまり現状では、産業用の水素は天然ガスを改質して作られていっすが、その際にCO2が発生するのですが、真の脱炭素を実現するには「製造方法」がカギだとされる処です。問題所在はわかっているわけで、それに如何に取り組むか、やるかやらないかの問題とされる処です。要は発想の転換です。
環境が急激に変わる中にあって、今求められる‘発想の転換’とは、過去の経験や現状からの延長線の枠組みの中で解を求めるのでなく、未来を起点に解決策を見つける思考法「バックキャスト思考」です。それなくして将来を拓く事は出来ないのです。

(3)「原発」への取り組み 
最後に「原発」にいかに対峙していくかです。それは前出 ビル・ゲイツ氏のコメントにもあったように、日本の場合は、天然ガス価格が米国の3倍程度なので、(原発)は経済的には実行可能だが、重要な問題は、国民が受け入れるかどうかだとしていましたが、それは政府発言に映る処です。つまり、梶山弘志経産大臣は、昨年10月13日、日経とのインタビューで、原発について「今後10年間は再稼働に全勢力を注ぐ」(日経2020/10/14)としていましたが、今もその姿勢に変わることはなく、30年まで、原発10基分、相当の1000万キロワットの容量の確保を目指す方針にあって、再生可能エネルギーを最大の主力電源としていく方針に変更はないとする処です。

・The lessons of Fukushima ―エコノミスト誌が語る「フクシマの教訓」の意外
処で、手元に届いたThe Economist March 6~12,2021の特集記事「The lessons of Fukushima」は、「福島原発事故から10年。気候変動対策は急務であり、脱炭素の為に原発は欠かせない。中国とロシアは輸出を続けている。フクシマの事故が残した教訓は、原発を避ける事ではなく、賢く利用せよという事だ」と、意外な教訓、下記 (注)を以って締めるのです。

(注)「It’s critical: Nuclear power has drawbacks the size of tsunami. But with Chinese
plants being built today that will not be decommissioned until the 22nd century, it can not simply be wished away. What is more, it has a vital role to play in the fight for a stable climate. The lesson of Fukushima is not to eschew nuclear power, it is to use it wisely.」
[ 原子力には津波のように巨大な難点がある。しかし今日建設中の中国の原発は22世紀まで使われる
事から、なくなればいいと願うだけではなくなることはない。おまけに、安定した気候を取り戻す戦い
において原発は重要な役割を担う。フクシマの教訓は原発を「避けよ」ではない。「賢く使え」なのだ ]

しかし、福島第一原発(F1)の実情、つまり汚染水処理、燃料デブリの取り出しの難航から「50年での廃炉はむり」と東電関係者が認める現実にも照らす時、この意外ともいえる教訓は、筆者には届く処ではありません。読者各位はいかが受け止められるのでしょうか。


おわりに The world biggest test of co-operation

さて、2月12日、鶴首されていた米フアイザー社のワクチンが成田に着き、17日には医療従事者への先行接種が始まりました。ただ、このワクチン接種により経済活動の正常化を目指す中、これまでの新型コロナとは異なる英国型、南ア型、ブラジル型、等、変異種ウイルスが発生してきたこともあって、ワクチンの世界的配布の行方、とりわけ途上国にちゃんと行き渡っていくものか、世界経済の回復への芽が見えだしてきた(注)ときだけに、まさにglobal vaccinationを巡っての国際連携の在り方が問われる処です。

     (注)OECDが3月9日、2021年の世界の経済成長率は5.6%との予測を発表。
      前回発表(昨年12月)の予測比、1.4ポイントの上方修正となっています。これ
はコロナ・ワクチンで感染の抑制が進むこと、米国の大型追加経済対策で、見通
しを明るくしたとされる処です。

FT調べによれば、全世界には178百万個のワクチンがありその内、30%が米国、23%が中国、12%がEUに、そして9%が英国に向けられ、残り僅かがインド、他に向けられている由で、とするとワクチンの出回り方は先進国偏重となっている現実があり、先進国と途上国との格差問題が災いしているとの指摘のある処です。
つまり、世界的にワクチンの接種を進めるという事は、単に国際間の協働力を試すだけの問題でなく、世界の88百万人とも、115百万人ともいわれる極貧にある人々への支援問題とも絡んで、中々スムーズには捗らない事情を示唆する処です。 実際、欧米の製薬会社が開発し、既に承認が得られたワクチンの調達を巡っては経済力のある先進各国が争奪戦の様相を強める一方で、ブラジルやナイジェリア、アルジェリア等、低・中所得国にとっては中国やロシアからのワクチン供給を頼みの綱とする状況にあるとされる処です。

ただその実態は、中国の場合、あらゆる組織を活用してのワクチン外交と云われており、とりわけ彼らの広域経済圏構想「一帯一路」の実現に向けて築いてきた各国との協力関係を生かして売り込み攻勢をかける姿であり、一方、新ワクチン「スプートニクV」を開発したロシアはアルゼンチンやベラルーシ、更にイランについては医療従事者を対象に同ワクチンの接種を始めたと報じられる処、まさにワクチン外交の戦略性を見る処です。勿論、ワクチン外交は反発も招く処、因みに、台湾は中国からのワクチンの輸入を禁止し、ウクライナでは「スプートニクV」の受け入れを拒否する処です。

・グローバルなワクチンの供給体制
Financial Timesの有力コメンテーター、Martin Wolf氏は2021/2/17付け同紙で、こうしたワクチン外交を巡るglobalな様相を、‘The world’s biggest test of co-operation’と指摘する処です。そして、中ロのワクチン外交に比して、WHOなどの主導で共同購入したワクチンを公平に分配する国際枠組み「COVAX」(COVID -19 Vaccinees Global Access)の取り組みが、あまり進んでいないこと、西側諸国がほとんど気にかけていないこと、に問題ありと批判する処です。確かにグローバルな接種を進める事は困難な問題ですが、不可能なことではないはずですし、これこそバイデン大統領にとっての出番であり、彼の主導の下、G20を強化し、徹底した加盟国の協力を得てワクチン供給体制を早急構築すべきで、それに係るコストは、Covid-19で失ったとされる経済損失とは遥かに少ないものとする処です。要は今こそG20の強化を、とする処です。
それは上述、中ロの動きをけん制するという政治的な理由からも、西側諸国は「COVAX」を通じワクチンを安価または無償で迅速に世界に普及させるとの約束を果たす為にもです。

幸い、3月12日、オンラインで開かれた初のQUAD (日米豪印)では、インド製ワクチンの増産や各国輸送網の整備を支援し、10億回分の製造体制の整備が確認され、前出Wolf氏指摘の‘The world’s biggest test of co-operation’に応える得る処です。

が、大方の注目を呼んだこの4か国首脳会議の具体的成果はと云えば、新型コロナウイルスのワクチン対応で合意したことだけでした。勿論、重要なアジェンダです。が、協議後の4首脳連名によるワシントンポスト紙あての共同寄稿を見る限り、それ以上の指摘は見られず、不甲斐ない印象を残す処でした。(この辺の事情については、本稿「その2」として別途報告「米中対立の構図と、中国のトリセツ」を、参照願います。)  以上 2021/3/25
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2021年02月26日

2021年3月号  ’対中国で再結束目指す’バイデン政権下の米国と国際関係 - 林川眞善

目  次

はじめに 2021年は多国間主義の転換点    

(1)バイデン米国主導の多国間会議は国際協調
(2)新生英国が標榜するは`Global Britain’

第1章  バイデン米政権と国際協調

1. バイデン外交の姿勢
・米国は戻ってきた
2. バイデン政権の対中政策の枠組み
(1)対中政策はOne-China policy
  ・二人のCommentator:P. Stephens & M. Wolf
(2) ‘インド太平洋調整官’ の新設
3. 対中政策に映るバイデン政権、二つの戦略思考
(1)戦略的競争(Strategic Competition)
(2)戦略的忍耐(Strategic Patience)

第2章  Post-Brexit、新生英国の行方
 
1.‘Britain‘s place in the world’(新生英国の世界の居場所)
(1) Global Britainが目指す役割、そして今、対峙する問題
  ・ジョンソン政権の課題
(2)終焉 迎えつつある英・中「蜜月関係」
・Anglo American alliance 再生
2.英国のTPP参加申請と日本

おわりに 「大観」を思う         
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はじめに 2021年は 多国間主義の転換点

(1)バイデン米国主導の多国間会議は国際協調
2月19日、G7サミットが、オンラインで開かれました。その会議は、トランプ米大統領の下で深まったG7の亀裂を修復し、新型コロナウイルス危機や気候変動問題、そして脅威を振りまく中国に対して、協調して対応する決意を明確にするものだったと、国際協調再出発を記す処です。
尚、国際協調を掲げる米国バイデン大統領、日本の菅首相、イタリアのドラギ首相の3人が初参加、議長は2021年のG7議長国を務める英国ジョンソン首相。6月英南西部コーンウオールで対面開催予定のG7首脳会議に先立つ会となるものでした。尚、EU中銀総裁として国際協調の最前線に立ってきたドラギ氏の首相就任は、バイデン政権誕生後の国際協調機運の拡大に一段の追い風となる処、因みに17日の所信表明演説では、彼はコロナ危機下「EUの視点を共有し、新たな復興を目指す機会だ」と連帯を訴えるのでした。又、19日のG7と並行して開かれていた「ミューヘン安全保障会議」に、バイデン大統領は、これにもオンラインで特別出演し、画面越しに見つめるメルケル首相、マクロン大統領を前に「米国の米欧同盟(大西洋同盟)への復帰」を宣言したと報じられる処です。(日経2/21)

上記、G7に先立つ17日には バイデン米政権発足後 初のNATO閣僚会合となる国防相理事会が開かれています。これも、高まる中国の脅威への対抗を柱とした会合とされています。勿論、トランプ政権以来の国防費負担率問題、等問題を抱えての会合でしたが、今次会合は米欧同盟の修復へ2030年に向けた新しい改革構想の検討をするものと報じられています。

一方18日には、日米豪印4か国外相会議が電話協議ながら行われています。これも周知の通り当該4か国が、中国の影響力拡大を意識して立上がったもので、2017年マニラで4者局長級会議を開いたのが始まりとするものです。従って中国がそのテーマの中心となるものですが、自由や民主主義、法の支配等、価値観を共有する国同士で経済や安全保障上の協力を進めんとする枠組みで、近時「QUAD」(4者会)の通称で定着する処です。

・中国依存のsupply chainからの脱却:バイデン大統領は、こうした国際協調を進める中、半導体や電池等重要部材4品目の安定した調達体制を整えるべく、期限100日として当該supply chainの見直しを、同盟国や地域と連携して加速させることとして2月24日、大統領令を発令しています。云うまでもなく中国依存の供給網からの脱却を目指す処です。

(2)新生英国が標榜するは‘Global Britain’
加えて注目されるのが英国の生業です。周知の通り英国は2020年12月31日、移行期間を終え、EUから離脱し、EUの束縛からの解放、主権の回復と、歓喜するところです。尤も筆者には何か異様に映る処でしたが、とにかく英国とEUの両者は12月24日、通商協定にも合意し、「合意無き離脱」の大混乱を回避したのです。 そして新生英国は、メイ前首相同様、Global Britainを標榜する処ですが、さてEUの制約から解放たれた英国は、国際的に如何に影響力を振うこととするのか。 そんな中、2月1日、英国はTPPへの加盟申請を行いました。英国のTPP加盟は自由化の水準が高いとされる貿易圏をアジア太平洋地域の枠を超えて拡大することは世界経済に新たなインパクトを齎すものと歓迎される処です。ただ今、英中「蜜月」関係の終焉が取り沙汰されていますが、気になる処です。

そこで、今次論考では、これら多国間会議の流れを枠組みとしながら、トランプ氏退場後、世界を国際協調へと主導するバイデン米国の外交姿勢、米中関係の行方、そしてEUを離脱したジョンソン英国が掲げるGlobal Britainの行方、更に、上述、英中「蜜月」関係の終焉について考察することとします。まさに「新たな世界の中の米英の生業」フォローです。


第1章  バイデン米政権と国際協調

1.バイデン外交の姿勢

「世界の中でアジアほど米国の国益にとって重要な地域は他になく、米国の関与が薄れることで多大な損害を受ける地域も他にない」(No part of the world matters more to America’s interests than Asia, and no part stands to lose so much from an American retreat.) これはThe Economist、Jan.30の掲載記事「America in Asia:Free not to choose – In its rivalry with China, America should not force Asians to pick sides」の冒頭のフレーズです。

米国は戦後、アジアの安全を保障してきただけでなく、貿易や比較的開かれた市場を保つ政策を通じて、この地域の繁栄を支え、地域内の国際秩序を維持する存在と位置付けられてきました。しかし、わずか4年ながら自己中心的なトランプ政治は、米国の地位に打撃を与え、同時に米国を頼ることが果して賢明な事かと、アジアの一部の人々に疑問を植え付ける結果となった事に、米国にとってのアジアの重要さへの思いと、それを台無しにしたトランプ政治への恨み節がないまぜとなって語られる処です。

ただトランプ氏のスタッフは一つ大事なことを理解していたとする処です。それは権威主義的な中国の存在は、西太平洋地域での米国の優越的地位だけでなく、米国が支えてきた経済秩序にとっても脅威になっているという点だったと云うのです。ただ、中国が南シナ海で強引に勢力圏を主張し、その影響力を高める一方、米国はその地位の低下を余儀なくされてきている現実に照らすとき、バイデン氏が目指すべきは、アジア諸国に反中路線を掲げるよう求める事よりも、米国に対する信頼の回復が第一であり、中国を睨んだ安全保障上の防護壁以上の存在になることだ、と云うのでしたが、自然な生業かとは思料する処です。

・米国は戻ってきた: さて、バイデン米大統領は2月4日、外交政策に関する初の演説を行い、その中で「米国は戻ってきた。対外政策の中心に外交が戻ってきた」と、同盟関係を修復し、再び世界に関与すると宣言するのでした。つまり、同盟国との連携を通じて、存在感を増す中国やロシアの脅威に対抗する姿勢を強調するものの由でした。

では、バイデン政権の対中政策は如何?ですが、2月5日、新任ブリンケン米国務長官は、中国外交担当トップのヤン・ジェチー共産党政治局員との電話協議で、「台湾海峡を含むインド太平洋の安定を脅かす試み」については、同盟国と共に中国の責任を追及すると強調した由、報じられる処でした。 そして2月10日には、初となる米中首脳による電話協議が行われています。2時間に及ぶものだった由でしたが、バイデン氏からは「自由で開かれたインド太平洋」の維持が米国にとって最優先との立場を強調したとされる一方、習氏は中国共産党が最も重視する「核心的利益」の問題では一切譲歩しない考え方を表明したと、報じられる処です。(日経、2/12)

具体的な取り組みについては、各種メデイアの伝える処ですが、注目はFinancial Times のコメンテーター、Philip Stephens氏の提言です。1月21日付同紙で、新たにホワイトハウスに新設された「インド太平洋調整官」のポストに起用されたカート・キャンベル氏(後述)をリフアーしながら、バイデン大統領の就任を機に、前政権の強権的ともされた対中政策の修正と、同盟国との協調、連携をベースに、一つに束ねた対中政策の再構築、one-China policyをと、主張するものです。実際、バイデン政権としては、オバマ時代のような米中戦略・経済対話と云った枠組みを設ける事には慎重で、先ずは、同盟国と協議し、対中政策を密にすり合わせることを優先する模様で、つまる処、対中国包囲網づくりです。

2.バイデン政権の対中政策の枠組み

(1)対中政策はOne-China policy
ではその包囲網づくりの如何ですが、上記Stephens氏は、その高い関心の背景事情と併せて次のように語る処です。つまり、ワシントンと北京の関係について、この先十数年の地政学的生業を定義していくことになる、との見方があって、バイデン政権の誕生は、その可能性を測る格好の機会と見ているためだと指摘したうえで、それ故に対中政策は一貫性を持った one China policyとしていくべきと主張するのです。― The right answer to Xi Jinping is a one -China policy to counter Beijing’s strategy of divided and rule, the US and its allies need consistent policies。(Financial Times Jan.,21st Philip Stephens) 以下はその概要です。

・Stephens氏の提言:これまで西側の対中国へのアプローチを巡っては、最も問題とされていた事は、中国を経済のパートナーとして扱うのか、それとも競い合う大国と見るか、でした。西側は、経済関係を重視する立場と、戦略的競争に重きを置く立場を、いい加減に使い分けてきた、腰の定まらない対応を続けてきた結果が、中国政府を勝者としてきたと指摘する一方、今、中国政府は、誰はばかることなく独善的に振る舞い、世界の最重要国としての立場を声高に求める状況にあっては、西側世界は新たな対中政策が必要であり、バイデン政権誕生はその枠組みを決める機会を手にしたとするのです。

つまり同氏は、バイデン氏の大統領就任を機に、米国をはじめとする民主主義諸国は、新たなアプローチを軸に団結すべきであり、その際は、経済、安全保障、外交、軍事等、一連の政策について、同じ方向に向けた、一貫性あるものとしていく事が必要と云うのです。トランプ氏は、習近平氏に対して強硬な姿勢をとっていると自賛していましたが、実際には、その喧嘩腰の態度と、農産物の対中輸出を増やし国内の支持層を満足させようとする取り組みとは相反するもので、ボルトン氏などは、トランプ外交政策は全て自らの再選のための選挙運動だったとする処です。 そこで、中国政府が台湾の位置づけについて、「一つの中国」の表現を以って‘事態’に向かうように、この際は、米政権もこれをもじって「一つの中国政策」を目指すべきと云うのです。つまり、中国及びその近隣諸国との間にある数々の関係を明確な目的に向けた一つの政策に纏め上げ、一つの対中政策、one -China policyの下に結束し、中国に対峙すべきとするのです。

・Martin Wolf氏の助言:一方Financial TimesのMartin Wolf氏は2月3日付け同紙で、‘Containing China is not a feasible option’、つまり「封じ込め」は得策ではなく、先ず現在の米国の置かれた現実を認識することが第一とするのでした。実は、米国はかつて中国に対して、「責任あるステークホルダー」になる必要があると説く処でしたが、トランプ政権の4年間を経験した米国は今、責任あるステークホルダーなのかと問うと同時に、今日の現状に照らし、西側諸国として取り組むべきプロジェクトとして、次の5点を挙げるのです。

第1は、米国とその同盟国はそれぞれの民主政治と経済を復興させること。
第2は、真実を曲げないこと、そして言論の自由を認めるという中核的な価値観の堅持
第3は、世界経済の制度の再構築、中国の振る舞いに制限を加える新多国間ルールの提案
第4は、米国とその同盟国は、絶対に守る中核的利益がなんであるかを明確にする事。
最後に、バイデン氏が今やっているように、全人類の為にglobal commons(国際公共財)
を保護する共同プロジェクトに注力する事。

こうした提案は、米中の関係は旧ソ連との関係とは異なり、今後も両者間での争いが数多く起きるとの想定があって、一方では密接な協力も必要になる、との観点のからの提案と思料されるのですが、であればStephens氏、Wolf氏のいずれも中国への対抗を目指す趣旨にあるとすれば、各国の頑張りの成果を、one-China policyに組み込んでいくシステムが考えられないものかと思う処です。

(2) ‘インド太平洋調整官’ の新設
さて、バイデン政権は国家安全保障会議(NSC)にインド太平洋調整官を新設し、そのポストにアジア政策に詳しいカート・キャンベル(Kurt M. Campbell)氏を充てました。まさにバイデン政権での注目人事の一つです。つまり、オバマ政権で東アジア・太平洋担当の国務次官補を務め、調整能力に定評あるキャンベル氏を起用したことは、彼を軸に、同盟国との連携強化を通じて中国に対峙していかんとのバイデン氏の狙いが鮮明となる処です。
もとよりこれが、インド太平洋重視の表れのほかなく、日米に豪州、インドを加えた4か国協力対話「クアッド(QUAD:Quadrilateral Security Dialogue)」が一段と重要な基盤になっていくものと思料される処、前述の通り、18日には、日米豪印4か国外相会議が電話協議ながら行われています。

そのキャンベル氏はForeign Affairsに今年1月12日付で「How America can shore up Asia order ― A strategy for restoring balance and legitimacy」(アジアの秩序強化に果たす米国の使命)と題するpaperを投稿、その中で米国の戦略目標は「永続性のある力の均衡を東アジアで再構築する」事と、明示する処です。そして、ルールに基づくシステムにあっては、中国に責任あるステークホルダーとしての使命を果たすよう、米政府は働きかけるべきも、その際は「同盟国、友好国はとの強力な連携」が不可欠と指摘する処です。尚、その骨子(注)を以下に紹介することとしておきます。

(注)Kurt M. Campbell 氏の主張ポイント
・Europe’s Past, Asia’s Future (インド・太平洋地域にある進化続けるoperating systemと、戦後の持続的米国の支援体制)
・Regional orders work best when they sustain both balance and legitimacy
―Restoring balance (永続性のある力の均衡を東アジアで再構築する)
―Restoring Legitimacy (法に基づく経済行動の確保)
・The combination of Chinese assertiveness and US ambivalence has left the region in
flux ―Forging coalition (同盟関係の強化)

3.対中政策に映るバイデン政権, 二つの戦略思考
―「戦略的競争」(Strategic Competition)と「戦略的忍耐」(Strategic Patience)

処で、サキ米大統領報道官が対中政策についてBriefingの際、‘戦略的競争’と‘戦略的忍耐’の言葉を使っています。とりわけ‘忍耐’は事態への対処の難しさを示唆する処とされ、日本の対中政策にも影響を齎すことにもなるだけに留意されるべき言辞と思料するのです。

(1)戦略的競争:バイデン政権は米中関係を「戦略的競争」と捉え、対決する分野と協力する分野を区別する様相です。つまり米中の完全なデカプリングは非現実的で、望ましくないととするものです。アジアでの地域的経済提携(RCEP)の妥結を見れば、中国を製造拠点から排除するのは難しくなっている現実が認められる処です。とすれば、日本は米国に「選択的な競争」、すなわちどの分野で中国と競争するかを示す一方で、尖閣諸島の問題では断固とした態度をとりながら経済関係の維持を探る、そうした点で日米が協調するのが効果的ではと思料される処、友好国との連携もそうした戦略的発想を以って臨む事で、中国への圧力は一段と威力を発揮することになるのではと思料する処です。

(2)戦略的忍耐:一方、ホワイトハウスでサキ大統領報道官がBriefingの際、よく使う言葉に「戦略的忍耐」という言葉があります。これまでの政策の検証や各省間の調整がすぐには進まないと云う意味があるとされ、例えば米国のTPP復帰問題は国内での組合問題との兼ね合いから、時間がかかりそうで、22年秋の中間選挙までは難しく、従って当面は国内問題に注力し、貿易は優先課題とはならないことを暗示するとされるのです。とすれば複雑化する内外環境に照らすとき、バイデン政権の対中政策の基本は「戦略的忍耐」にありとなるのではと思料するのです。

尚、 中国側には、確固たる信念と意志を以って目標を戦略的に達成するという心構えとして「戦略的定力」という言葉があると仄聞しますが、予て習近平氏が主張し、以って米国と対峙する姿勢を示す言葉とされる処です。1月25日、オンラインで開催のダボス会議アジェンダ・フォーラムに登壇した習近平氏は、世界の進むべき方向を示しながら「新冷戦」や「デカプリング」と云った状況を強い調子で糾弾し、西側参加者を驚かせる処でしたが、これが習指導部の自信を窺わせる、まさに「戦略的定力」とされる処です。 とすれば新しい対立構図は、米国の「戦略的忍耐」対 中国の「戦略的定力」と、見る処です。

序で乍ら、「自由貿易の番人」とされるWTOの事務局長ポストが昨年8月末以来、空席のままでしたが、2月5日、米バイデン政権は、予て有力候補とされていたナイジェリア出身のオコンジョイウエアラ元財務相を支持する旨を公表したことで、漸く後任事務局長人事が決着、3月1日、就任予定の由です。これも、アフリカ出身者は中国寄りと、トランプ政権が反対していた米中対立を象徴する事案の一つでした。これで通商紛争処理の再開等、機能不全にあったWTOの機能回復、更にはWTOのルールの近代化が期待される処、バイデン政権もWTOに積極的に関わっていく構えと伝えられる処です。


 第2章 Post-Brexit、新生英国の行方
 
1.‘Britain‘s place in the world’(新生英国の世界の居場所)

周知の通り英国は、2020年12月31日、移行期間を終え、EUから完全に離脱しました。その直前の24日、両者は通商協定に合意し、「合意無き離脱」の大混乱を回避されています。が、協定の対象は最小限にとどまっており、とりわけサービス部門についてはほとんど触れられておらず、今後、果てしない議論が続くことになるものと思料される処です。しかも英国側の主張で、外交と防衛の分野の案件にも手が付けられてはいないのです。

さて、他人となった欧州大陸、それを背に孤立した英国が海の彼方に目をやるとき、「これから英国は世界の中でどのような役割を果たすべきか」が、問われていくことになるのです。
この点、The Economist, Jan.2nd,2021は ‘Britain‘s place in the world’と題して、以下指摘する処でした。
つまり、このテーマは、英国が過去何世紀もの間、取り組んできたテーマである事、そしてこの数十年、失われた帝国や超大国の立場を懐かしむ思いに駆られることが多かったが、EUの一員という立場が、ある種の答えを与えてくれていたとし、ブレア元首相の言葉を借りるなら、英国は米国と欧州の「架け橋」になることができたし、米政府にもEUにも影響力を持ち得た。が今、英国は一から考え直さねばならなくなったと指摘するのです。
そして、新生英国の旗印、‘Global Britain ‘は良いアイデイアだが、欧州大陸とは再びいろいろ厳しい取り決めに忙殺されることになろうとコメントしたうえで、「英国が欧州に目を向けない姿勢を克服するのが早ければ早いほど、グローバルな英国への見通しも明るくなる」と総括するのす。なんともcynicalに映る処です。[`Global Britain’ is a fine idea, but it requires hard choices and re-engagement with Europe .( The Economist, Jan.2,2021)]

(1)Global Britainが目ざす役割、そして今、対峙する問題
・英調査会社「イプソス・モリ社」: 同社が9月に行った世論調査では、英国民の38%が「英国は世界の主要な大国であるかのような振る舞いをやめるべき」と考える一方、これに同意しない人は28%だった由です。 では、英国民が取りうる一つの道は、国際的な立場の低下を受け入れ、国内問題に集中する事、つまり少し大きなデンマークになることかと、質す一方、英国民は、国が影響力を持つことで得られる恩恵を当たり前のことと考えてはいなかったか と、貿易問題であれ、気候変動問題であれ、民主主義の問題であれ、英国の国益に沿うよう世界に影響力を振うことは、英国民の為になっている事を知るべしと云うのです。その点では、保守党政権は「Global Britain」のスローガンを掲げてはいるものの、EU離脱を決めた国民投票から4年以上を経った今なお、この考えはスローガンの域をほとんど出ていないとの批判に結びつく処です。

さて英国が果たすべきグローバルな役割とは、周知の通りで、いろいろ俎上に乗る処です。NATO、G7, G20、英連邦の加盟国の立場や国連安保理事会の常任理事国の地位にあって、いずれも影響力を行使できる処、英国は核保有国であり、軍事力も高く、ソフトパワーにも恵まれ、英国の科学力は、新型コロナウイルスのワクチン開発や治療法の確認でも卓越しています。今年はG7の議長国であり、気候変動に関する「COP26」の開催国ともなる処、いずれも英国が力を発揮する好機に恵まれる処です。 
更に、世界に呼びかける力を正義のために用いる、例えば、途上国へのワクチン普及を支援する国際組織「GAVI(ワクチンアライアンス)」へと90億ドル近い資金集めにも成功する処、同じ考えを持つ国々と協力して圧力を働かせることも可能です。欧州で果てしなく続く話し合いから解放された英国の閣僚や外交官は、欧州の外で活動する時間を増やせる筈で、例えば「インド太平洋地域に力を傾ける」こともできる筈と云うものです。

・Global Britain掲げるジョンソ政権の課題 : ただこうしたグローバルな役割を果たしていくためには国内事情の安定が不可欠です。が、今それが不確実な様相にある事が問題です。つまり経済の停滞であり、国内政治の混乱です。

先ずその現状ですが、コロナ対策では、近時、順調に進みだしたコロナワクチン接種で、これまでのnegativeな評価の挽回を果す処ですが、何としても英国経済の不振が問題とされ(注)、BREXITの結果として更に悪化が進む様相にある事です。加えて、スコットランドの独立問題、アイルランド統一への声が再び高まる処、国内が纏まらぬ様相では他国に、まともに扱ってはもらえなくなる事への恐れが云々される処ですが、暫しジョンソン首相の対応を見定めていくしかないのでしょうか。

(注)2020年の英国GDP(速報値)は前年比 9.9%の落ち込み。減少率は1709年以
来311年ぶりの大きさ。

・序で乍ら、コロナがジョンソン首相を救った? : メイ前首相は外交・安全保障政策の面でEUと「野心的パートナー関係」を結ぶことを望んでいたと伝えられていました。が、ジョンソン首相は、その場その場の対応でやり過ごしていると批判のある処、ある時はNATO、ある時は各国との2国間関係、更には仏、独との3か国関係を通じて対処すると云った様相に、彼の評判は今一にある処、このジョンソン氏を救ったのが1 月29日、EUのワクチン戦略の失政。つまり、ワクチン輸出に係るEU内での対応の不手際の発生で、英国にとってEUの外にいる方が上手くやっていけると云っていたジョンソン氏の主張の信ぴょう性を高める事になった由。まさにコロナが彼に命綱を投げてくれた格好です。 

(2)終焉迎えつつある英中「蜜月関係」
処で、今、英中関係の悪化に歯止めがかかりません。英中関係は最近まで「黄金時代」と称され、2015年には中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に英国は、先進7国で最初に参加していますし、中国企業による英国内の原子力発電所への出資や鉄鋼大手の買収など基幹産業での結びつきも強める処でした。

しかし、中国国内での新型コロナウイルスへの初動遅れへの懸念から英国内では対中懐疑論が台頭、2020年6月末、習近平指導部が香港で統制を強める香港国家安法を制定すると英中関係の悪化は決定的となったのです。―― この間、英政府は高速通信規格「5G」に準拠した通信システムに華為技術(フアーウエイ)の参入を、2020年1月、条件付きで認めたものの、6月には、国家機密情報漏洩懸念から、トランプ前政権の積極的な働きかけを受けて、その方針を転換、英国の5Gネットワークから締め出しています。

・Anglo American alliance再生:中国政府による香港弾圧に対し、英国政府は断固とした反中姿勢を展開、本年1月31日、香港市民及びその扶養家族290万人を対象とする新たなビザ制度を導入、将来の英国定住に道を開いたのですが、中国外務省は当該旅券無効とする措置をとるとする処です。更にロンドンが香港の反体制活動の新たな拠点となる可能性すら云々される状況です。かくして「蜜月関係」とされた英中関係は今、急速に終焉に向かう様相です。英国のこうした対中姿勢はバイデン政権の方針と協調する処です。

バイデン政権もトランプ前政権と同じく、新彊ウイグル自治区における少数民族ウイグル族らへの弾圧を「ジェノサイド」と非難する処ですが、トランプ政権と異なるのは、同盟国と協力して中国に対抗していく点です。バイデン政権の同盟国重視は、英ジョンソン首相にとって格好の機会と映る処です。まさにAnglo American alliance再生という処です。

2.英国のTPP参加申請と日本

その英国は2月1日、TPPへの参加を申請しました。自由化の水準が高い貿易圏がアジア太平洋地域の枠組みを超えて拡大されていくことは大いに歓迎される処です。周知の通り、TPPは2018年末、日本を含む11か国でスタートしました。関税の撤廃率が総じて高く、知財権の保護や技術移転強要の禁止、国有企業規律といったルールも厳しいもののある処です。世界のGDPに占めるTPP加盟国の比率は英国の参加によって13%から16%にわずかながら高まる処ですが、それでもTPPの趣旨に賛同し、保護主義に対抗する仲間が増える意味は極めて大きいというものです。

周知のとおり、コロナ禍による経済の停滞もあって、自由貿易圏の拡大は後回しになりがちですが、TPPが齎す貿易や投資の活性化は、この先の経済発展の糧となるものと云え、EUから完全に離脱した英国も、TPPへの参加に新たな成長の道を求めたということです。TPPを主導してきた日本は今年21年の議長国です。ここでも指導力を発揮し、TPPの価値を損なうことなく、今春にも始まる交渉を早急に纏められんことを期待する処です。

尚、第4回RCEP(地域的包括的経済連携:ASEAN 10か国)会議では、そのFTA Partners 5か国との間で2020年11月15日、署名され、当該EPAが成立。この結果アジア太平洋地域では、日本が主導してきたTPP11と今次のEPAが並び立つ処、この構図にかけるのが米国のTPP復帰です。この米国の復帰は日本にとお手の課題とされる処ですが、今次の英国のTPP加盟が米国の復帰に力を貸すことになればと、期待する処です。(2/24、日本政府はRCEP協定案を閣議決定し、次は国会承認です)尚、当該EPAが発効すれば、世界のGDPの3割を占める最大の広域自由貿易圏の誕生となる処です。


  おわりに 「大観」を思う

上述、多国間協調を標榜するバイデン米大統領の登場で、まさに西側諸国は彼に同調する形で、トランプ前大統領の残した負の遺産の整理に進みだす処です。しかし世界の生業の現実は、新型コロナウイルス危機が超大国・米国の衰えに拍車をかけ、その一方で、世界の重心は力を増す中国に傾く様相です。 米国の衰えとは、コロナ下の財政出動と金融緩和で株価が上がり、持つ者と持たざる者との差が更に拡大し、政治への不満、不信の高まりを誘う一方、経済はと云えばGDPベースで中国が米経済を凌駕する、力の逆転が、下記(注)の通り、現実味を帯びだす状況にあり、新たな米中利害の対立の可能性を、感じさせる処です。

(注)中国経済予測(日本経済研究センター):2035年までのアジア・太平洋地域の経
済予測で、中国は2028年にも‘米国超え’と予測される処です. (日経2020/12/11)

因みに先週、手元に届いた2月20日付けThe Economistでは、台湾を巡る米中の対立につ
いて、`America is losing its ability to deter a Chinese attack on Taiwan’ とし, `To many
Chinese, Taiwan’s recovery is not just a sacred national mission. Its fulfilment would also
signal that American global leadership is coming to an end.’と、米国のグローバル社会での
リーダーシップの終焉を示唆し、Allies are in denialと、同盟役立たずと断じる処ですが、
さて迫りくる世界の地政学的構造の変化を感じさせられる処です。

さてこうしたダイナミズムを映す世界にあって、変化はチャンスながら、日米関係を基本軸に置く日本は、国際協調を大前提として、今後の行動はどうあるべきか、改めて迫られる処です。そこに求められるのは、まさに当事者の ‘大観 ’ の如何と、思料するのです。


それにしても今思うことは、先の東京五輪組織委員会会長人事を巡っての、あのドタバタ騒ぎは何だったのか、です。 森喜朗会長の老害発言と云い、引責辞任する本人が自らの後継者を指名せんとした姿は、醜態と云うほかなく、「五輪ムラ」自体の旧弊を露わとする処でした。その様相は世界にも伝播され、日本政治の古い任侠的体質と糾弾され、もはや多様性云々の言葉などお呼びでなく、ガバナンス欠如の日本社会の後進性を実感させられ、日本は大丈夫?と、失望感深まる処です。森氏を会長に推したのは安倍前首相でした。

さて米紙ワシントン・ポストのコメンテーター、F.ザカリア氏は、氏の近著「パンデミック後の世界 10の教訓」で、「政治の質」が最大問題の一つと挙げていましたが、上述事情にも照らす時、今の日本にとって政治改革こそは百年の計と痛感するばかりです。以上                                       (2021/2/25)
posted by 林川眞善 at 12:48| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2021年01月26日

2021年2月号  世界は、二つのリスクを抱えて、’2021年’を迎えた - 林川眞善

目   次

はじめに コロナ危機、民主主義の危機  

1.終息見えぬコロナ危機
(1)コロナ対策と経済再生への ‘構’(かまえ)  
(2)コロナが放つ‘警告’と‘示唆’
2.民主主義の危機 ―米連邦議会議事堂乱入事件

第1章  バイデン政権誕生と米国の行方

1.バイデン氏、第46代米大統領就任
(1)大統領就任演説 
・就任演説 と バイデノミクスの可能性
・バイデン・コロナ対策
(2)バイデン氏の往く道は難路
・2021年十大リスク
2.バイデン政権下の米国と国際秩序
(1)欧州の対米関係と、対中関係の行方
・欧州と中国の関係
(2)日米関係と日本の役割

第2章 American Democracy の ‘暗黒の日’

1.アメリカン民主主義は何処へゆく ― Quo vadis ?
・Quo vadis? 、その現状に思うこと
2.年の始めの ‘トランプ物語 ’
・Trump’s legacy

おわりに  これから起きる変化  
  
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はじめに コロナ危機、民主主義の危機
                 
世界が迎えた新年、2021年は、二つの‘困難’を抱えてのスタートでした。一つは云うまでなく終息の見えぬ「コロナ危機」。その状況は ‘The tunnel gets darker`(The Economist,Jan.2nd )との様相です。もう一つはトランプ前米大統領が「米国第一」の主張の下、米社会の分断と、国際秩序の混沌を招いたトランプの「負のレガシー」ですが、とりわけ1月6日、ワシントンDCで起きたトランプ支持者による米議会議事堂への乱入事件は、現役大統領の彼が扇動うる事件であっただけに、すわ~「民主主義の危機」と世界は騒然となる処でした。そんな中、1月20日米国ではバイデン新大統領が誕生。さて、新政権の行方如何とする処です。

1.終息見えぬコロナ危機

さてコロナ対応については昨年末、新型コロナウイルス対抗ワクチンの開発で、コロナ収束への期待が高まる中、今度は英国、南ア等から持ち込まれた、感染力の極めて強いとされる新型コロナウイルスの変異種が確認され、世界は新たな感染拡大への危機感に覆われる処、英、独、仏などの一部では再びロックダウンの措置がとられる状況です。

では日本はどうか。昨年来の感染拡大急増に照らし、1月7日、昨年4月に続く2度目となる緊急非常事態宣言が、東京と近接3県を対象に、そして13日には近畿2府1県、更に愛知・岐阜・福岡・栃木の4府県に対しても、同様宣言が発出される一方、個人消費の維持拡大の為と、「Go To」キャンペーンが張られていたものの、感染拡大予防のためと、いきなり全面停止とするなど、およそ筋というものが見えない政府の政策行動に、不信感の募る処です。因みに、コロナ対抗ワクチン接種は欧米ではすでに始まっていますが、日本での一般人あての開始は6月というのです。

(1)コロナ対策と経済再生への ‘構’(かまえ)  
実際、‘ウイズコロナ’、 ‘コロナとの共生’、と云った曖昧な表現を以って経済もコロナもとする政府の手の打ち方は、いかにも後手に回る感否めずで、その‘構’に筆者は極めて違和感を覚える処でした。

政策当局は緊急事態宣言が発出されると、消費者心理が冷え込み、経済の足を引っ張るとの懸念から、‘経済もコロナも’と云った表現を以って政策実施が進む結果、その対応は後手後手と映り、不信感を生む処となっているのです。要は、経済を動かすのは人です。その人を健康に保つには、この際は徹底したコロナ対策に尽きる処、それなくして経済活動の堅持はあり得ません。つまり人の「健康」確保こそが現時点での経済政策の戦略ポイントなのです。
勿論、経済は重要です。その際重要なことは経済再生の為には、まず投資であり、雇用の確保にあること、そして消費はそのあとに続くもとの思考様式を確かなものにした上で、事態に向き合っていく姿勢が見えない、まさにトリアージュということですが、それが見えない事が、問題と感じさせる処です。加えて、この二つのテーマをいかに結び付けていくか、それこそが戦略となる処ですが、そうした姿勢が見えぬ‘政治’に不信感が増す処です。
 
要は、上述消費者の反応を恐れる事情は理解するとして、きちんと目標を示し、事態の推移を測りながら、一体的、戦略的な取り組みを目指す、そうした‘構’が必要と思料するのです。 
因みに、欧州ではコロナと経済対策を環境への取り組みにうまく利用しているといわれています。そのポイントは、新型コロナと持続的可能性、具体的には気候変動対応ですが、後述するように人間の経済システムと自然のシステムの衝突という点で問題の根っこが同じとの認識の下、厳しく対応されていると伝えられる処です。

(2)コロナが放つ‘警告’と‘示唆’
その点で, 新年号とした昨年12月19日付The Economistの巻頭言「The plague year」(コロナ・パンデミック年)は、およそ100年前のスペイン風邪のパンデミックでの経験に照らしながら、コロナが放つ警告、またコロナ禍への対応を通じて得られる次なる進化の方向について語る処、そのポイントは以下ですが、極めて示唆的云うものです。

・コロナが放つ警告。
食料、毛皮を取るために殺されている毎年800億個体の動物たちはウイルスやバクテリアがおよそ10年ごとに人命を危険に晒す病原体に進化する際の培養皿となっているという。そこで、動物たちを殺す代償を払えと突きつけられたのが今年で、それは天文学的な額だったとするのです。そしてロックダウンで経済が止まったことで現れた澄んだ青空こそは、コロナ危機が猛スピードで進んでいる間にも、もう一つの危機である気候変動がゆっくりと進んでいることの証だというのです。今、世界は脱炭素社会を目指す処の事情です。

もう一つは、パンデミックが浮彫する社会的不公正です。つまり、多くの子供たちは学習で後れを取り、十分な食事がとれなくなった事。学校を卒業しても若者の就職の見通しが再び遠のき、外国労働者は捨て置かれ、あるいは、故郷の村へ追い返され、それによってウイルスが広がっていくなど、人種によっても明暗が分かれる現実を指するのです。

・コロナが示唆する進むべき道
その一つはコロナ危機を技術革新の原動力とする道だというのです。例えば、米小売り売上高に占める電子商取引の割合はロックダウンが実施されていた8週間で、それまでの5年間の合計と同程度の伸びを示したが、それは在宅勤務の常態化に負うものというのです。
こうした創造的破壊は始まったばかりだが、パンデミックは医療など保守的な業界でも変化を起こせることを証明したという。AIや量子コンピューテイングなどの最新技術が原動力となり、あらゆる産業に技術革新の波を起こし、更に、パンデミックは政府をも革新的に変えていくと。そして、ポストコロナの21世紀に向け、新しい社会契約を核とした社会の創造を目指せと、以下言辞を以って締めるのです。

「--- They (people) should recast welfare and education and take on concentration of entrenched power so as to open up new thresholds for their citizens. Something good can come from the misery of the plague year. It should include a new social contract fit for the 21st century.」

2.民主主義の危機 ― 米連邦議会議事堂乱入事件

もう一つの危機は、1月6日ワシントンDCで起きた米連邦議会議事堂へのトランプ支持者による乱入事件が齎した危機というものです。これが単に米国のみならず、世界的にも民主主義の弱体化が問われる大問題であることを露わとするものでした。
それも現役大統領にあったトランプ氏が、先の大統領選が不正に行われた事、そしてその正義を取り戻すため、ホワイトハウス近くに集まったトランプ支持者に議事堂を占拠せよ(当日はバイデン氏を大統領候補とすることを正式決定する合同会議中でしたが)と扇動したことで起きた事件だけに、まさに騒乱罪該当の暴挙です。

勿論、TVに映し出される異常事態に、民主主義の総本山ともされてきた米国のその現実を目の当たりにして世界は、民主主義の破壊だ、1月6日は米民主主義の「暗黒の日」だと、騒然となる処でした。バイデン新大統領は、これまでも民主主義の再生を主張し、就任式でも同様主張する処、それが何よりも第1のテーマたるを実感させられた瞬間でした。そうした環境にあって、1月20日、2001年9月の米同時テロ以来の厳しい治安対策が打たれる中、バイデン氏の大統領就任式が行われました。米国は影響力が衰えたとはいえ依然、国際関係の支柱であり、米国内の出来事は世界の耳目を集める処です。

そこで、今次論考では、上述新型コロナ対応の基本を踏まえながら、この際は、バイデン新政権の成立に絞り、就任演説と彼の目指す政策、バイデノミクスの可能性を考察し、併せて今次の米議会議事堂乱入と今後の民主主義政治の行方についても考えてみたいと思います。


            第1章 バイデン政権誕生と米国の行方

1. バイデン氏、第46代米大統領就任

(1)大統領就任演説
昨年春、バイデン氏はForeign Affairs(March/April,2020)への寄稿論文`Why America must
lead again’ で(弊論考N0.98、2020/6月号、弊抄訳添付)、外交こそ米国のパワーの源泉
と、持論を訴えていました。そのポイントは次の4点「民主主義の再生」、「中間層に沿った外交」、「国際協調・連携の回復」、そして「世界の前線に立つ」とするものでした。

・就任演説 と バイデノミクスの可能性
今次就任演説も基本的には、その枠組みで語られていましたが、民主主義において最も掴み所のない「Unity」が必要と主張し、とりわけ現状について、「我々は新型コロナウイルスとの戦いにおいて、最も厳しく命がけとなりうる時期に突入している」との認識を示すと共に、「新型コロナウイルス対策で結束を」と訴えるのでした。そして、現状の同盟関係を修復し、もう一度世界にかかわっていくと「世界のリーダー」復活を目指すとし、自身にとり際立つものがあると云う「American anthem」(アメリカ賛歌)の一節を掲げて終わるのでした。

そして、バイデン氏は大統領就任式直後には、トランプ前政権が無視してきた国際協調の機能回復を通じて経済の回復を目指すとの趣旨に副い、早速、温暖化防止の国際協調の枠組「パリ協定」復帰のための大統領令に署名、EU更に中国が脱炭素に動く中、米国も世界の潮流に回帰する姿勢を示す処です。更には前政権が進めた閉鎖的移民政策を転換、イスラム諸国からの「入国制限」措置の破棄、又 注目されていたメキシコとの国境に「壁」を建設するために出されていた「国家非常事態」宣言を取り消し、壁建設を停止とするなど一日で15項目にわたる大統領令に、又、翌21日には包括コロナ対策関係で、10件の大統領令に署名し、トランプ前政権が残した政策からの大幅転換をアッピールする処でした。

・バイデン・コロナ対策
これより先、1月14日、バイデン氏は出身のデラウエアー州で米国の現状について演説し、「パンデミックと経済悪化の2つの危機にあり、時間を空費する余裕はない」とし、1.9兆ドル(約200兆円)規模の新たなコロナ対策を発表、2月予定の両院合同議会で、更に「インフラ投資などの経済再建を改めて表明する」(日経、1月15日)とするのでした。そして、感染拡大と、経済悪化、ワシントンDCでの暴動による社会不安という三つの危機のしわ寄せを受ける家計への支援に1兆ドルを充てるともしています。ただ、これが共和党の抵抗で最終的には1兆~1.1兆ドル程度に縮小するとの見方のある処ですが、それでも米国のGDPの5%に及ぶというものです。昨春以降のコロナ対策は累計で5兆ドル規模、GDPの25%と、主要国では断トツとなる処です。尚、15日にはコロナワクチンの接種を加速戦略として、接種拠点を全米に数千か所の設置を打ち出しており、バイデノミクスは特異な環境での戦略を鮮明とする処です。

(2)バイデン氏の往く道は難路
彼は就任演説でも何度も声高としたのが「世界のリーダー」への復活でした。それが意味することは、この20年間の徐々に進んだ米国への信頼を取り戻すことですが、そもそもは米国の信望はアフガニスタンなどへの軍事介入で崩れ始め、2008年の金融危機で悪化し、コロナの感染で地に落ちたというもので、その構造化が懸念される処ですが、そのためにはまずは、経済を立て直し、ワクチンを普及させ社会の分断を修復することで、その低下は食い止められるでしょう。が、逆にバイデン氏がつまずけば中国の強大化は必然となり、地政学的な混乱が避けられなくなっていくものと見られ当該リスクの高さが指摘される処です。

米調査会社ユーラシア・グループのイアン・ブレーマ氏は「米国は今なお世界で最強の国だが、自国が分断されている国が他国を率いることはできない。米政界が外交政策の方針や達成方法を巡り意見が分断する現状では、かつてのように国際社会の仲介役を果たすことはできず、海外では地政学的的な機能不全が増えることになる」と、そして「米国は民主主義を海外に輸出してばかりで、自国の為に残しておくのを忘れたのかもしれない。バイデン氏はこうした問題を解決しなければならないが、とてつもない難題だ」(日経2021/1/21)と総括する処です。実際、アメリカ・フアーストの孤立主義と、反体制ポピュリズムからなる「トランピズム」の組み合わせが、米国内での分断、対外的には国家間の分断を齎し、アメリカの政治に強力な圧力を残す処、バイデン体制はその「トランプ主義」の妨害に苦しむ可能性の高さがなお云々されるのですが、バイデン氏の往く道は難路といわれる所以です。

・2021年十大リスク
尚、序で乍ら、上記 ユーラシア・グループ(イアン・ブレーマ氏)は1月4日、恒例の「2021年の十大リスク」(注)を発表していますが、その筆頭に挙げるのが「米第46代大統領」でした。上述事情を以ってその事由とする処です。去り行くトランプ前大統領が残した身勝手なポピュリズムの残像がバイデン政治を邪魔することになるとの予想から筆頭に置かれたとする由ですが、6日の議事堂騒乱は、まさにそれを実証するごときです。

(注)上記他の十大リスク:第2が「長引く新型コロナの影響」、第3に「気候変動対策を巡る競
争」、第4に「米中の緊張を拡大」、第5位は「世界的データーの規制強化」、第6位サイバー紛
争の本格化」、第7位「トルコ」、第8位、「原油安の打撃を受ける中東」、9位「メルケル首相後
の欧州」、そして第10位は「中南米の失望」。

2.バイデン政権下の米国と国際秩序

さて、上記政策事情を踏まえながら現時点で、想定されるバイデン政権下での国際秩序はどのような展開を示すことになるか、考察しておきたいと思います。

(1)欧州の対米関係と、対中関係の行方
バイデン氏は早くからトラン政権下で急速に冷え込んだ欧州との関係の修復を語る処でした。12月1日、NATOに出された報告書は、米国と欧州諸国の対立を念頭に亀裂を早急に修復するよう促したと報じられる処でした。(日経12月4日)
トランプ政権下で冷え込んだといわれる背景にあったのが、トランプ氏のNATOに対する姿勢でした。欧州各国に国防費の増額を迫る一方で、2019年には欧州に事前通告なしに米軍をシリア(北東部)から撤退させ、2020年にはドイツの駐留米軍削減を決めるなどで「米国第一」は欧州首脳には「欧州軽視」と映り、マクロン大統領は、NATOは脳死状態と口にするほどで、従って同盟重視を掲げるバイデン大統領への期待は高いというものです。

因み、EUは昨年12月2日、次期米大統領としてのバイデン氏に4分野(コロナ対策、環境問題、WTO改革、民主主義の対応)での協力を提案しており(弊論考N0.105 2021/1月号)要は、国際協力に関する大西洋間の新しい議題を設定する機会とみる処です。勿論、それはバイデン大統領の琴線に触れる処でしょうし、とりわけ同盟国との連携による対中包囲網構想とも合わせ見るとき、欧米関係の回復・強化が進むと見る処です。

・欧州と中国の関係
というのも、EUと中国は、2003年「包括的戦略パートナーシップ」を結び政治・経済での関係を深めてきていました。しかしトランプ氏台頭あった2016年以降、ウイグル人権問題、あるいはギリシャの港湾を巡っての中国による投資問題等がある中、EUは中国との経済協力枠組みがEUの規制やルールに合致しないことに懸念を募らせ、時に対中スタンスはしばしば混乱を呈する処でした。そんな中、昨年12月30日、EUは中国と、包括的投資協定(CAI)に合意したのです。7年をかけての事です。一部では、「EUが中国にすり寄るもの」と報じられていましたが、これはトランプ・アメリカに痛めつけられた中国が、国の姿勢を変えるのにつながる大幅な妥協をし、むしろEUにすり寄った結果とも見る処です。

もとよりEUの最終目的は、中国に不公正な競争を終わらせることにあるのですが、そのためには国際法の「条約」という枠組みが必要であり、その枠組みに中国を入れ込み、集団的圧力をかけようとするものと云え、言い換えれば、国家資本主義を国際条約で取り込み、圧力をかける戦略とみる処ですが、米国も十分理解できるはずでしょう。いずれにせよ近時の香港問題、中国内の少数民族ウイグル族に対する人権問題、等でEUは今、中国離れの様相にあり、上記投資協定の発効も欧州議会の問題視もあって、今や不透明にある処です。 
尚、上述バイデン米国の外交姿勢に照らし、米欧関係の修復は時間の問題と云えそうです。

もとより、この結果は日本にも影響する処です。つまり、日本はトランプ・安倍の関係を以って、国際舞台で存在感を示し得てきましたが、バイデン氏が欧州との関係を深めれば、日本の「頼られる度」は相対的に下がることになることでしょうから、国際的な存在感をどう発揮していくか、菅首相に解を迫る方程式も複雑さを増す処かと思料するのです。

尚、中国については昨年10月5日の5中全会で米国など海外に依存せずとも経済を回せる体制を目指すこととして、「双循環」というコンセプトを打ち出しており、長期政権を目指す習近平氏が在任中に米国との新たな協力関係を築く方針と側聞する処、つまり米国との長期戦に備え、当面は硬軟両様で臨むものと思料されますが、今年7月、共産党結党百周年を迎え新方針も予想される処、殊、米中関係についてはそれを待ってとしたく思います。

(2)日米関係と日本の役割
上述米欧関係の復活、中国の対外姿勢の変化等を勘案するとき、当然のこととして、日本の外交の在り方も大きく変わっていく事になるものと思料する処です。それが意味することはこれまでのまず米国ありきではなく、日本して如何に世界の変化に与していくか、その上で、対米関係、対欧州関係の在り方、更に、対中関係について新たな対応が問われていく事になるはずです。この点については別途の機会に改めて話すこととしたいと思います。

が、ただ一点、バイデン政権の対中政策ですが、日本や他同盟国と提携、多国間アプローチで、中国をルールに従わせていく、つまり包囲網作戦と思料するのですが、その最善の手段は、まずは米国のTPPへの復帰と思料するのです。その点では日本の役割再びであり、新たな展開を期待する処ですが、更に前述の通り、EUの外交の軸足が中国からアジアにシフトする処では、インド太平洋構想(QUAD)を主導する日本には、更なる役割が期待できる処です。加えてバイデン大統領がホワイトハウスに新設予定の「インド太平洋調整官」のポストに知日派とされるカート・キャンベル元米国務次官補の起用が内定している由ですが、これは日米関係にとっても極めてpositive factorとなる処です。 加えて、バイデン政府がパリ協定に復帰したことで、日米間での脱炭素の実現に向けた閣僚対話の枠組みが構想される処、新たな日米関係の枠組みが期待できる様相です。

・尚、今年6月11~13日、英国コーンウオールで2年ぶりG7サミットが対面開催予定です。これこそは多国間協調回復を図る絶好の機会と云え、何よりも出席者のメンツが、独仏加を除き、日米伊そしてEUの全員がnew comerである事、又、英ジョンソン首相は主催国ながらBRXIT後、初の参加となるわけで、新たな議論の展開が期待される処です。


         第2章 American Democracyの ‘暗黒の日’

1.アメリカン 民主主義‘は何処へゆく ― Quo vadis ? ’

1月6日、米国の首都、ワシントンDCで起こった連邦議会の議事堂乱入事件は、米国そして世界にとっても民主主義の殿堂とされる議事堂への乱入だけに、世界を唖然とさせる、まさに「暗黒の一日」でした。

トランプ氏は、11月の大統領選を不正選挙であり、民主党は選挙を盗んだと叫び、バイデンひき降ろしをいろいろ画策してきたことは周知の処です。1月6日、連邦議会ではバイデン次期大統領を正式に選出する上下合同会議が開かれていました。一方、ホワイトハウス近くでは11月の選挙結果に抗議するトランプ支持者による大規模集会が行われていましたが、そこに現れたトランプ氏は集まった支持者に対して、「この国を取り戻すのに必要な誇りと大胆さを(連邦議会議員に)与えよう」と、議事堂に向かうよう促したことで、支持者は議事堂に向かい建物に侵入、約4時間占拠したという事件です。(日経1月7日,夕)暴徒は民主主義の殿堂である連邦議会の議事堂によじ登り、ガラスを割るなど狼藉を働く一方、警官の発砲で若い女性を含む5人の犠牲者を出すに至っています。

その狼藉の様子は勿論、TVでも流れ世界が知る処ですが、ここで問題は暴徒を扇動したのが、現職にあった大統領のトランプ氏自身だったということです。 全てはトランプ氏の扇動的言動に負う処、大統領選の敗北、選挙システムの否定、ジョージア州上院選での敗北、これらはトランプ氏自身が作ったものと云え、今次の騒乱暴挙はアメリカの民主主義政治に決定的汚点を残すことになったというものです。バイデン氏は就任演説では民主主義の再生を訴え、また対中、対ロについては民主主義に照らして行動するとする処、その軸が瞬時狂わんばかりでしたが、事態の重大さはますます増す処です。

1月12日、議会ではトランプ氏が騒乱を扇動したとして、まさに「反乱の扇動」を弾劾根拠とした大統領弾劾訴追の決議が行われ、13日には弾劾案が採決されました。最終的には弾劾裁判を行う上院次第ですが、裁判はいつになるか(注)、仮に有罪ともなれば、彼は一切の公職にはつけなることで、4年後の大統領選出馬の可能性は消えることになるのです。
そして20日、武装装備抗議デモの情報もあって厳戒態勢の中、バイデン大統領の就任式は無事終了したこと前述の通りです。[(注)2月9日開始で両院が同意したと報道。(日経1/24)]

米ツイター社は8日、8800万人超のフォロワーを抱えるといわれているトランプ氏のアカウントを、暴力行為を扇動する危険性ありとして、永久停止したと発表。これが発言の自由を阻害するとの批判も呼ぶ処です。
ハリウッド・スターで加州知事をつとめた共和党員でもあるシュワルツネッガー氏は、トランプ氏の行動は、アメリカ独立以来、国家の支柱に置かれてきた民主主義を否定する行為と強烈に批判する処、アメリカの民主主義は何処へゆく? まさに‘ Quo vadis ? ’ の様相です。 

・Quo vadis ? その現状に思うこと
公正な選挙で選ばれた代表を通じて権利を行使するのが民主主義の大原則です。処が、地球規模の感染拡大で世界は強権政治の力を強める処、その原則が崩れかけぬ様相です。 強権政治の背景には民衆受けするポピュリズムが生まれ、自国主義のナショナリズムが前面に出て、自国だけ安全にととじ込んでしまう状況です。ワクチン開発や分配などで国際協調がより必要なのに逆に、争奪戦争を演じてしまう。これではパンデミックには立ち迎えません。

1989年、冷戦が終わり国境を越えた経済活動や移民等、グローバリズムの波が襲い、この結果は自由主義よりも、自分たちの生活や国を守ろうというナショナリズムが活発になり、そこに、グローバリズムの旗を振っていた米国が自国第一の旗を振ってしまった。移民・難民問題や中間層の困窮などで国内の分断が進み、その不満の声を吸い上げて登場したのがトランプ氏。その姿はヒットラーが台頭した1930年代の世界と非常に似た現象と危惧する処です。ただし、その姿は民主的な手続きを経て生れてきた結果でした。
そこで、コロナ禍で吹きつのるナショナリズムの風をうまくおさえなければならずということですが、これがいかに民主主義を立て直すかに繋がる処と思料するのです。

2.年の始めの ‘トランプ物語 ’

筆者は先日、ボブ・ウッドワード氏がトランプ氏との17回に及ぶインタービューをベースに書きあげたという「怒り」(Rage)を読みました。これは2年前の「恐怖の男」に続く彼にとって2本目のトランプ物語です。 ただ前作「恐怖の男」はトランプ氏の政策決定のあり姿を追うものでしたが、最後は「2017年のアメリカは、感情的になりやすく、気まぐれで予想のつかない指導者の言動に引き回されている。・・・世界で最も強大な国の行政機構が、神経衰弱をおこしている」と評するトランプ物語でした。 それから2年、2度目のトランプ物語では、主に新型コロナ感染問題を巡ってのトランプ氏の思考様式、行動様式を、対話を通じて浮き彫りせんとするものでしたが, 締めは以下の通り相変わらずです。

「…大統領は最悪の事態や、悪い報せと、いい報せを進んで国民と分かち合わなければなら
ない。どの大統領にも、報せ、警告し、守り、目標と国家の真の利害を明確に説明する義
務がある。ことに危機に際しては、世界に向けて真実を告げるという対応が必要だ。とこ
ろが、トランプは、個人的な衝動を大統領の職務の侵し難い統治原則にしている。大統領
としてのトランプの業績全体から判断すると、結論はただ一つ。トランプはこの重職(ジ
ョッブ)には不適格だ。」と。

こんな結論は、言わずもがな。それでも彼は4年後の大統領選に向かわんとの様相です。因みに、過去に、4年のブランクを置いて、再選された大統領は一人います。 第22代(1885~89年)、第24代(1893~97年) の大統領、グロバー・クリーブランド(Grover Cleveland)です。尚、司法長官に起用されることになったガーランド氏は、トランプ氏の退任後の起訴の可能性を示唆す処です。(日経、1月9日、夕) 

昨年11月28日のThe EconomistのCover story ` How resilient is democracy ? ‘ では、何よりも、民主主義はひとびとが求めてやまないものとした上で、具体的には、トランプ大統領が投票日の11月3日以降、選挙結果を覆そうと様々な策をめぐらせてきたが、米国民の民主主義がこれに屈服するような気配は全く感じられなかった、米民主主義はresilient、つまり民主主義の原則への復帰力ありと、評する処でした。さて、バイデン新大統領は民主主義の再生を旗印としていますが、今次騒乱の実態を見ていくに、その再生への道は難路と見
る処ですが、関係者、関係諸国の理解協力を得ながら前進する事、念じる処です。

・Trump’s legacy
尚、1月9日付 The Economistは、その巻頭言でトランプ氏に誘導された議事堂乱入事件と、ジョージア州での上院選での民主党の勝利は、バイデン政権のあり姿を変えていくことになろうとしながら、トランプ氏を擁して臨んだ昨年11月の大統領選結果が共和党に示唆することは、次回選挙に勝利するには党の再編が不可欠と、つまり最も重要な再編とは、トランプ氏を追い出すことだと、以下言辞を以って締めるのでした。ただし、共和党の実情は、トランプ支持層を取り込まないと党勢の維持はおぼつかない処、彼は退任目前に「何らかの形でまた戻ってくる」と言い残していましたが、さて?

--- to become successful and ,more important, to strengthen America’s democracy once more rather than pose a threat to it, they need to cast off Mr. Trump. For, in addition to being a loser of historic proportions, he has proved himself willing to incite carnage in the Capitol.


おわりに これから起きる変化

前述の通り、米国大統領に就任したバイデン氏は、就任と同時に温暖化防止対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を国連に申請しました。この結果、国連が承認すれば、EU,中国、日本に加え、米国が加わることで、世界のBig 4が温暖化ガス削減に向けた目標で足並みをそろえることになります。先月号論考でも報告の通り、先行するEUは30年までに温暖化ガスの排出量を少なくとも55%削減すると公表、又、中国は昨年9月の国連総会で習近平氏がビデオ登場ながら、2060年に実質CO2排出をゼロにすると宣言、更に昨年10月には、菅首相は2050年までに排出量の実質ゼロを宣言、つまりカーボンニュートラルの達成、と脱炭素社会宣言をしています。そこに米国が加わることになると、まさにBig 4の揃い踏みとなるのです。

この揃い踏みを以って脱炭素、CO2ゼロに向かう姿は、本稿「はじめに」でリフアーしたエコノミスト誌が示唆するように、新たな技術開発、イノベーションの推進、結果として産業の構造的変化、それに伴う企業の在り方の変化、更には消費活動の変化、そして生活対応の変化をももたらすこととなり、まさに産業革命を誘導する要因と思料する処です。
因みに、この1月11日~14日、今年も米国ラスベガスでデジタル技術見本市「CES」が開催されました。尤も、今次はコロナ禍を受けて初のオンライン開催でしたが、それでも会期中の発表からは、これからの技術潮流が示されるものだったと報じられています。

一つは、コロナ後も見据えたテクノロジーの活用戦略の流れで、米小売り最大手のウオールマートが、危機下でも業績を伸ばした背景にはネット技術をうまく組み合わせことによる成果と紹介される処でしたが、より大きな流れとして注目されたのが、脱炭素の取り組みだったということでした。因みに、米GMでは2025年末までに高級車からピックアップトラック、商用車まで30車種の電気自動車(EV)を発売すると発表する処です。つまり、多くの国がコロナ禍からの経済復興策に脱炭素を据えるようになってきたというのです。

さて、コロナ対策の曖昧さで批判の標的となっている菅政権ですが、先に脱炭素政策を長期成長戦略と位置付け、脱炭素社会を国家目標の柱として打ち出した事は、大いに評価されるべき事と思料するのです。この脱炭素政策「2050年カーボンニュートラル」は、1960年、池田内閣の下で策定された長期経済計画「所得倍増計画」以来の長期経済計画です。そして温暖化防止行動を新たな投資と需要を生み出す成長戦略として捉える点で評価する処です。

メデイアは、この脱炭素宣言が日本経済に新しい空気を吹き込みだしたと、電力会社など既得権層を巻き込む構造改革の大きな一歩を踏み出したと指摘すると共に、脱炭素革命によって世界的に新たな成長の時代が訪れる可能性が大きくなってきたと指摘する処です。
遅れそうだった日本が先頭集団に並ぶ中、米国が「パリ協定」へ復帰することで温暖化防止に向けての主要国の足並みが揃うことで、世界経済は活気を取り戻すはずと見る処です。本稿冒頭のテーマでは「危機」を連発しましたが、そうなれば前言取り消しとなるわけですが、新年を迎え終えた今、そうあって欲しいものと、反省をも込め、強く念ずる処です。 
以上 (2021/1/25)
posted by 林川眞善 at 16:29| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする