2020年03月26日

2020年4月号  COVID-19、’コロナ危機’に覆われた世界 - 林川眞善

目  次

はじめに 世界は今, 新型コロナ・パンデミック  
     ・日本政府の危機対応は

第1章  新型コロナウイルス感染拡大と世界経済
  1 新型コロナ感染拡大と習近平政権
  (1)「COVID~19」危機とグローバル経済
  (2)中国国内で高まる習近平共産党批判
                
  2.新型コロナ感染危機の実像と国際協調
  (1)コロナ感染が齎す経済的ショックとその対応
  (2)求められる国際協調とトランプ米国
  (3)‘市場’が映すコロナ恐怖に強く反応したトランプ政権

第2章 新型コロナ感染拡大と、二つのテーマ 
    ― 米中経済関係のDecuplingと、米大統領選

  1.問われる中国依存のグローバリゼーション
  (1)変わる多国籍企業のグローバル化対応
   (2)新型コロナ騒動後の世界経済

  2. 新型コロナ対策と11月米大統領選
  (1)トランプ氏を巡る政治環境
  (2)トランプ氏のCOVID-19対応策も大統領選狙い

おわりに  危機はいずれ終わる        
     ・危機はいずれ終わるのです
       
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はじめに 世界は今、新型コロナ・パンデミック

先月弊論考では、これまで世界経済の有力な在り姿として認識されてきたグローバル化の動きに、その主役とされていた米英両国が背を向け、まさにbackward regressionを呈する事態になって来た事に、世界経済の行方に大いなる懸念を記した処でしたが、もはや、そんな懸念等をすっ飛ばすような事態と対峙する処となってきました。新型コロナウイルスによる新型肺炎感染の世界的拡大です。3月11日、WHOは新型コロナ感染の拡大状況につき「パンデミック相当」、つまり現状はパンデミック状況にありと、宣言したのです。(注)

 (注)テドロスWHO事務局長は3月12日の記者会見で、新型コロナ感染状況をパンデミックとし
た判断根拠として、「過去2週間で中国の外での感染者は13倍に、感染者の見つかった国は3倍に
増加。4291人が死亡。この数字は、数週間で更に増えるとみられる」と説明。パンデミック(ある
病気が世界中で大規模に流行し、制御不能になった状態を指す)宣言自体に法的拘束力はないが、
宣言によってワクチン増産など具体的施策を促す事を狙いとする。

周知の通り新型コロナウイルス、「CODIV-19」は昨年末、中国、武漢市で確認され、1月には中国全土に、2月にアジア各国、2月下旬にはイタリアで感染が爆発、3月には欧州全域に、そして米国へと3大経済圏を網羅する状況となっています。
その感染経路は、空気伝染ではなくヒトとヒトとの直接接触、或いは乗り物などでの間接接触とされ、感染拡大の阻止には不要不急の外出を避ける事、グループや企業など、多くの人が交流する場を避ける事とされ、従って生産活動は工場閉鎖などで停滞、一方、個人の行動規制が加わったことで消費活動は急速に停滞、勿論これに伴うサービス業も窮地に置かれるなどで、世界経済は供給、需要の両面で、一挙に停滞の様相を強める処となっています。

因みに、3月18日,ILOが公表した報告書では、コロナウイルスの影響で、世界で失業者が最大2500万人増えるとしていますが、要は各地での企業の操業停止や店舗の営業の規制が相次ぎ、企業活動の停滞が深刻になってきていることを示唆する処です。

そもそもCODIV-19感染拡散の事情としては、日本総研理事の呉軍華氏も指摘するように、(日経2月28日) 「経済のグローバル化が進展した結果、危機のグローバル化が進んだこと、そして、その勝者たる民主国家とは異質体制の国、中国がグローバルパワーになった事で、これまで経験したことのない危機の発生リスクを世界は内包してしまったことの結果」と云え、とりわけ、言論統制と権力の一極集中の体制下では危機の発生は避けにくいとも指摘される処です。

・日本政府の危機対応は
さて、日本政府は2月25日、政府専門家会議の見解を擁し、新型コロナ感染対策の基本方針を出すとともに、その二日後の27日には安倍首相は、自分で今が危機状況と判断したと、突然、特別緊急措置として小中高の一斉休校の要請を出したのです。これが1300万人を超す小中高生徒とその家族を巻き込んだことで、二日前の混乱に、まさに火に油を注ぐ如くにその発言は全国を混乱に陥れる処でした。この発言については、事前の専門家会議でも全く議論されておらず、メデイアによると菅官房長官、杉田和弘官房副長官も賛成していないにも関わらず、今井尚哉首相補佐官の進言を首相が受け入れたものだった由で、安倍首相の危機対応とはそんな程度のものかと思わせるばかりです。尚 政府は3月10日、緊急対策第2弾を発表、第3弾を4月に打ち出す予定とのことです。

という事で今次論考では、CODIV-19感染拡大が齎す経済的ショックの現実、そこから窺える次の経済行動、就中、中国を核としたサプライチェーンの次の姿の可能性を考察し、以って企業、消費者の行動について考えていきます。更にコロナ感染の広がりの如何は、米国では11月の米大統領選を揺るがす可能性のある処、日本にあっては東京Olympicsのリスケも浮かぶ処です。そうした事態への見通しをも含め論述する事とします。


第1章 新型コロナウイルス感染拡大と世界経済

1.新型コロナ感染拡大と習近平政権

(1)「COVID-19」危機とグローバル経済
米英を起点とする世界秩序の逆流が進み、世界経済の先行きに不透明感を募らせる中、昨年12月以降、もう一つ、中国発の「COVID-19」(コロナウイルス肺炎感染)と云う難敵が加わり、それが「健康」だけではなく労働市場と経済への危機に繋がってくるなど、欧米の後退トレンドが齎す危機を超えた、多大な影響を世界に及ぼす処となっています。

当該拡大の事情については前述の次第ですが、中国を発症源とした新コロナウイルスの感染拡大で、工場の閉鎖や労働者、一般市民の移動の制限が進み、一方で、中国が防疫策の強化に向った結果、世界の工場と云われる中国経済は機能不全に陥り、これが世界経済を萎縮させ、アジアや欧米の株式市場では株価は軒並み急落を誘引する処です。 前述WHOのパンデミック宣言を待つことなくグローバル経済は、すでに経済的パンデミック状況にあって,中国の体制に根差した, 映画ならぬ「チャイナ・シンドローム」を現実とする処でした。

(2)中国国内で高まる習近平共産党批判
12月8日に新型肺炎の初ケースが報告されながら、対応が本格化したのが1月20日、習近平主席が直接指示を出してからの事。この初動対応の遅れは、チェルノブイリ原発事故(1986/4/26)にも比せられる処、一党独裁下で言論を封鎖する隠蔽体質が初動を誤らせ、被害を拡大したと現地市民が声をあげだすほどと、メデイアの伝える処です。これこそは前出、呉軍華氏の指摘に通ずる処で、中国型独裁制への不満、つまり「国民の安全より、国(共産党)の安全を優先する」姿勢と、習近平政権への批判が広がる処です。( 注:中国本土での患者:7万4185人、死亡者:2000人超, 2月18日現在 )

先月、弊月例論考(3月号)の「おわりに」の項で紹介しましたが、Wall Street Journal, Feb. 7が掲載した記事 ‘From Washington to Wuhan, All Eyes Are on Xi ’(ワシントンから武漢まで、全ての視線が習近平に)は、今次の爆発的感染は共産党政権の独裁の弱点を露呈したものと断じる一方で、1911年、武漢で起きた辛亥革命の第一段階となった武昌蜂起をリフアーしながら、「第2の武漢革命」の可能性を見落とすなと記していたのです。果せるかな、3月18日、中国政府は国内に駐在していた米NY Times, Wall Street Journal, Washington Postの米国記者ほぼ全員を外国に追放したのです。聊か気がかりとする処です。(注:ソ連はチェルノブイリの5年後に崩壊)

尚、3月5日開催の人民大会は感染封じ込めを優先し、先に延期が決定されていましたが、この春、習近平主席の国賓として訪日予定も延期となりました。習氏の延期については、日本側での感染状況を勘案してのこととされているようですが、今、習氏には中国を離れられない政治的事情があってのことではと勘繰られる処です。 因みに、新華社通信は3月10日、周氏は国内で新型コロナ発症以来、始めて武漢入りした旨報じていましたが、自ら陣頭指揮を執る姿勢を見せることで求心力の維持を狙う思惑がみえる処です。

2.新型コロナ感染危機の実像と国際協調 

(1)コロナ感染が齎す経済的ショックと対応
今次、新型コロナの感染ショックは、70年代の危機(注)と対比されることがよくありますが、その様相は構造的に異なるだけに、当該対応策は、その点を踏まえた対応が求められる処です。
(注)1970年代の危機:石油、食料の供給減少で経済成長が途絶え、景気悪化と物価上昇が同時
進行のstagflation発生。各国政府はインフレ抑制を重視し、その後、数十年に及ぶ中銀の役割
が築かれたとされている。

その点、The Economist, Feb.22,2020 は 「Shock therapy – The Covid-19 outbreak presents policymakers with a new sort of economic threat 」と題したコラムは、その違いを解説すると共に、その違いを踏まえた対策をと云うものです。以下はその概要を紹介するものです。

① まず、かつてF.ルーズベルトが発したと云う「我々が恐れなければならない唯一のものは、恐れる事そのものだ」との言葉は、景気悪化の多くの場合にあてはまる。恐れることそのものが引き起こす、投資や消費を避けようとする行動が、経済的な繁栄にたいする最大の脅威であるからだと云うのです。そして既に死者が2000人を超えた新型コロナウイルスによる肺炎、「COVID-19」の感染拡大も決して例外ではない。が、今次新型肺炎が齎す脅威の構造はこれまでのそれとは大いに異なるだけに、従来型の対応では通じないと。

② つまり、ウイルス封じ込めのため工場閉鎖、サプライチェーンの寸断で経済活動を制限。しかも、中国人労働者の移動が制限される限り、世界最大の輸出大国の企業の活動が出来ず、その結果、中国からの供給に依存する企業は在庫が減り、業務縮小を余儀なくされている。一方、感染拡大策が進む結果、個人消費は停滞していく。つまりSupply shock とDemand shockの複合化が進むと。 ― 因みに米アップルは2/17、供給網問題からiPhoneの生産が制限され、売り上げ予想を達成できないとの見通しを発表する処。

➂ ただ、現在の経済状況は70年代と違い、特に世界のインフレは不可解なほど低水準で
推移しており、その点では政策担当者は足元のインフレを悪化させることなく景気刺激策
が打てる。そこで、新型肺炎が世界で猛威を振るうとなると景気刺激策が必要となるが、
問題は、いま金利は既に低水準にあり、中銀の打つ手が限られている。 加えて、供給寸断
が続けば、その対策として新たなサプライヤーを探し契約を結び、新規顧客の開拓も必要と
なる。業を煮やした企業は、中国との関係を断つ時期が来たと判断するかもしれず、実際、
中国に進出の一部企業は台湾への移転を図りつつあると。

④ こうした変化を受けて中国経済が一段と低迷すれば、欧米経済のデフレ圧力が強まる可能性を指摘する処です。尤も、世界がこの20年間 低インフレにとどまった要因と、数十年に及ぶ経済統合の流れが逆に進めば(既に筆者が指摘している処ですが)、眠っていた物価上昇圧力が目を覚ましかねない。そこで政策当事者らは、再び景気低迷下でインフレ上昇と戦うべきか、苦渋の決断を求められる可能性があるとも指摘するが、未知の脅威にさらされた場合、政策当事者は、過剰反応も不十分な対応もリスクを孕むと忠告する。

➄ そして、70年代から得られる最も重要な教訓はおそらく、ショックが起きるとそれまで当たり前だった経済の在り様が、驚異的なスピードで経験したことのない状況に一変してしまう事で、世界はこの教訓を、今回の感染拡大が起きる前にきちんと理解しておくべきだった、と締めるのです。けだしと、する処です。

序で乍ら、英王立国際問題研究所所長のR.ニブレット氏は日経紙(日経 3/3)とのインタビューで「COVID-19が終息しても世界経済がV字回復するか疑問」とし、併せ、中国に依存したサプライチェーンを見直し、脱炭素を真剣に考えるきっかけとせよと、も指摘するのです。ヒトやモノの動きが続々と連鎖する新たな危機構造への対応を示唆する処です。

(2)求められる国際協調とトランプ米国
3月2日、OECDは2020年の世界実質成長率は2.4%との予測を発表しています。昨年11月発表時より0.5ポイント下方修正されています。 中国が3月末までに感染拡大のピークを越すとの前提で試算したとされるものです。前述の通り、感染拡大で生産、物流、消費などの停滞が広がり、世界経済が予想以上の停滞リスクを高め、世界需給ギャップの一層の拡大で、世界経済の長期停滞の可能性すら云々されるだけに、その回避には国際協調による柔軟な政策対応が、強く求められる処です。

まず、2月19日、IMFは世界経済を支えるため各国宛て国際協調を要請。更に2月22/23日、リヤドで 行われたG20財務相・中銀総裁会議では、財政出動を含む政策総動員を謳う処です。(共有される懸念:中国成長の落ち込み、Global Supply-chainの混乱、中国人の旅行、移動の見通し)次いで、3月3日、G7財務相・中銀総裁による緊急電話会議が、更に3月16日、G7 首脳によるTV会議が行われ「必要かつ十分な経済財政政策」の取り組みが確認されました。

ですが、気がかりは、あまりマーケットに響かないことでした。と云うのも、まずはG7の結束力の如何です。つまり、ごく最近まで米中が角を突き合わせ、トランプ大統領はG7首脳を軽んじ、国内の人気取りのために国際協調をないがしろにしてきたツケが回ってきたことが云々される処、そこでリーマン危機直後と同じ結束力が期待できるかという点、です。更には、金融緩和の余地は乏しく、財政出動の資本もおのずと限界のある点です。

それだけに、各国にはより一層の連携強化を図る一方、新型コロナの影響を見極めながら、財政出動の道を探る事が求められる処です。 更に、中長期的な経済の底上げに資するインフラ投資やデジタル投資と云った、いわゆる「賢い支出」を優先することが共通の課題です。もとより新型コロナそのものを封じ込む努力は云うまでもなく、さもなくば企業や個人の活動を正常化するのは難しくなる筈です。

(3)‘市場’が映すコロナ恐怖に強く反応したトランプ政権
そうした環境下、一挙にコロナ恐怖を高めたのは3月9日のロシアとの協調減産合意に失敗したサウジが増産に踏み切ったことでした。同日(時差関係)原油価格は前日比30%超の下落(1バレル30ドル割れ)、NY株は一時2000ドル超安(取引一時停止)、東京株式市場では2万円割れ(19473円割れ),円相場は一時101円代に上昇、等々、コロナ感染で景気減速懸念が高まる中、原油安、円高が追い打ちをかける形で一気にコロナ恐怖を高めたのです。

翌日の3月10日にはコロナ・パンデミクス宣言が出されたこともあり、それまで極めて楽観的だったトランプ大統領は、3月11日夜、ホワイトハウスからの国民向けTV演説で、コロナ感染拡大への対応策として、欧州からの入国禁止措置を発表。更に16日には英国、アイルランドをもこれに追加したのです。まさに米国の水際大作戦です。米国に呼応する如くに、欧州、カナダ、ロシア、中南米諸国も同様「外国人の入国禁止」を発表したのです。
これで地球大での人間閉じ込め作戦が一気に進む様相です。ただ、この結果、懸念されるのが消費の落ち込みです。そしてこれが企業の破綻やリストラから雇用喪失と云う不安の連鎖を呼び、消費の縮小は一時的な現象から長期的な構造問題に転じかねないと云う点です。

この点トランプ政権は、同13日、国家非常事態を宣言。同時に最大500億ドル(約5兆円超)を投じ、検査や治療の体制強化、新型コロナで打撃を受けた企業や個人の支援も強化する、方針を明らかにしたのです。そして、翌14日には議会下院が野党・民主党の経済支援策(コロナ無償検査、有給病気休暇、失業保険の拡充、低所得者向け食糧支援、等)をも可決。 更に21日、米欧の4~6期成長率のマイナス幅が前期比年率換算で10%を超す見方が浮上してきたことから、同日、クドロー米国家経済会議議長は、財政支出が1.3兆~1.4兆ドル、そしてFRBの追加対策を加えて経済対策はGDP(21兆ドル)の10 %程度規模の対策が必要と発言、25日未明、与野党議会指導部はコロナ対策を2兆ドルと合意決定。これは2008年の金融危機対策(7000億ドル)を上回る数字です。

勿論米国のみならず、欧州でも、ドイツが財政健全化政策を棚上げし、中小、零細企業への短期的な資金繰り策として1500億ユ-ロ(約18兆円)を景気対策の柱に、又英国では300億ポンド(3兆9千億円)規模の財政対策を発表するなど、経済対策拡張に、まさに向かう処です。

          第2章  新型コロナ感染拡大と、二つのテーマ
 ― 米中経済関係のDecouplingと、米大統領選

1.問われる中国依存のグローバリゼーション
            
米中貿易戦争を以って米中デカップリングが云々される中、それは神話に過ぎないと論じた米イエール大教授のS.ローチ氏のessay(1月3日付)を弊論考(2020/2月号)で紹介しましたが、それが神話ではなくなりつつある現実が生まれてきました。理由は勿論、前述の通りCOVID-19による新型肺炎で、中国と一部先進国との経済面でのデカップリングが一層の注目を集める処、つまりは対中依存の限界が俎上に乗ってきたと云うものです。

既に触れたように、工場の操業停止、消費もぱったりと止まったため、多国籍企業は中国での生産を移管させざるを得なくなっている処、米アップルも前述したように投資家に対し、コロナの影響で売り上げが落ち込むと明言する処です。日本では2月10日、日産自動車が九州の完成車工場を中国からの部品調達が困難となったとして工場の稼働の一時停止を決めましたが、まさに中国依存のサプライチェーンが新型コロナのお陰で機能しえなくなった、日本が経験した初の事例でした。

(1)変わる多国籍企業のグローバル化対応
さて、Financial Timesは2週にわたり、今次の‘コロナ事件’で多国籍企業のglobalization の様態が変る事になるとする、同社Columnist, Rana Foroohar氏によるessay,2本、‘Coronavirus speeds up global decoupling ’(Feb.24)と‘Margins are going to be squeezed’ ( Mar.2) を掲載しています。

① 前者は新型コロナ肺炎拡大で中国と一部先進国との経済面のデカップリングが一層注目を集めている事情を伝えるものでした。それは世界経済のデカップリングは数年前から徐々に進行してきたとし、その具体例として、韓国のサムスン電子は中国の工場を閉鎖し、ベトナムに新工場を立ちあげた事、一部米企業はサプライチェーンを自国に近いところに移してきたことで、メキシコはその恩恵を受ける処、こうしたデカプリングは、今後更に加速するはずとするのです。つまり、COVID-19の蔓延に対する中国政府の不透明な対応が、中国で事業を展開するリスクを浮き彫りにしているからだと云うのです。

そこで興味深いことは、「ウイルスとデカプリングの間には類似点がある」と云う彼女の指摘です。双方とも表立って見える事、見えない事があるというのです。前者についてはマスクや混乱、そしてサプライチエーンの移転や利益予想の下方修正。後者は、コロナによる犠牲者の数がどれほどになるか、或いはグローバル化が解消されて亀裂が深まった場合、5~10年後の世界は経済・政治面でどのように変わってしまうのか、と云ったことだと云うのです。そして具体的に差し迫った課題として挙げるのが台湾における半導体事業です。

台湾の地元企業が世界の半導体の大半を生産しているのですが、中国はまだ技術的に自立できていない重要分野と指定する処です。だが半導体には設備投資と研究開発が必要で、この為中国が半導体を国産化できる産業として育成する迄10年はかかるかもしれず、それまでは米企業に部品を供給しているだけでなく、民主主義へのサポートを拡大している台湾に依存していく事となるが、そこで米中双方がそれぞれ独自のハイテク産業を構築しようとする中、台湾の半導体産業は政治問題になるか、そうなる場合いつなのかと。要はいつまでも台湾が半導体を米中両国に供給し続けられないだろうと云う前提の事だと云うものですが、これらすべてが世界経済と地政学の形を根本的に変えるかもと、云うものです。

② 後者は、多国籍企業の経営行動の変化についてです。多国籍企業は、業務効率を高度に最適化し、複雑な仕組みを以って経営する企業と云え、これが好調な利益を上げてこられた背景には、中国で生産した製品を欧米で販売し香港、ダブリン、ケイマン諸島などのタックスヘイブンで富を蓄積する仕組みを構築してきたことに負うものとしながら、一方で複雑な組織構造につきものの脆弱性を回避するために事業モデルの変革を迫られる日がいずれ訪れると考えてきたが、ついにその時が来たようだと云うのです。

つまり、今次のCOVID-19の感染拡大を受け、米国経済と中国経済のデカップリングが加速し、消費地に近い場所に生産拠点を置く傾向はますます強まると云うのです。そして、Mike Pyle, BlackRock’s chief global investment strategistが云う「supply chains that are less efficient but more resilient」(効率性では劣るものの耐久性に勝るサプライチェーンができる)との指摘に通じる処とするのです。そして新型コロナ問題が一段落すれば、decoupling やdeglobalization の潮流は勢いを増すとも予測する処です。いずれにせよ消費地に比較的近い場所に拠点を置くと云った傾向が強まっていくと云えそうです。

(2)新型コロナ騒動後の世界経済
勿論、株式市場が再び回復しはじめる可能性は十分あるでしょうし、世界の中銀の追加的金融緩和措置や新型コロナの感染終息が好材料になっていくでしょう。が、これが完全なV字回復の軌道を描いていけるかと云うと多くの疑問が指摘される処です。つまり、今次のコロナ事件で、従来のシステムに内在する深刻な脆弱性が暴露されてしまったからと、云うのです。とすればこのための修復作業こそが、次の経済に係る大きな課題となる処です。

2.新型コロナ対策と11月米大統領選

(1)トランプ氏を巡る政治環境
今米国は大統領予備選の真っ盛り、と云ってもその賑わいは、民主党の候補者選びであって、民主党候補が誰に絞られるかですが、共和党については現職大統領のトランプ氏で実質的には決定されており、しかも下馬評では彼の優位が伝えられるだけに、同氏は民主党の候補者選びを、ゆとりを以って観戦する処でしょう。ただ、ここに至って新型コロナの推移の如何では、その優位が崩れかねない状況が生まれてきたのではと思われるのです。つまり彼はCOVID-19の国内感染は拡大しないと極めて楽観的で、国民に株を買ってくれることを望んでいると報じられるほどでした。が、前述の通り自らは国家非常事態宣言を発するなど、情勢は予断を許さぬ状況へと変わってきたようです。

トランプ氏にとって最も優先すべきは、11月の大統領選挙に向け、経済成長を維持することで、当局者たちはCOVID-19の脅威を割り引いて話すよう指示されていたとの由でした。と云うのもウイルス感染が広がった場合、彼は二つの点で、一つは米経済の成長が損なわれる事、もう一つは新型肺炎に楽観的見解を呈していたことで国民の信頼を失う事になると見られているからです。 

(2)トランプ氏のCOVID-19対策も大統領選狙い
その点で、トランプ氏とCOVID-19を巡る新事情について日経ビジネス(3/9)が伝えるフイナンシャル・タイムズのコメント、COVID-19がトランプ政治にもたらす影響、は極めて興味深く伝わる処、そこで、筆者の個人的見立てをも含め、その概要を以下に、紹介しておきたいと思います。

① まず「適正が重要」と云う事に有権者が改めて気づくことだと云うのです。感染症に対峙する者の適正として、科学的な知識を受け入れることが重要だとし、トランプ氏がCODIV-19対策の責任者にマイク・ペンス氏を充てたことを挙げるのです。と云うのも同氏は生涯にわたり科学を疑い続けてきたとされる人物です。トランプ氏は昨年、国土安全保障省のコーデイネータを解任すると共に、世界の健康安全保障に関する業務を廃止しています。そして、オバマケアの撤廃を主張し、CDC(米疾病対策センター)とWHOに係る予算も大幅削減を提案していますが、トランプ氏にとって医療制度の問題が大統領選の争点と浮上する可能性が出てきたと思料される処です。トランプ氏は何年もの間、専門家の価値を過少評価してきていますが、専門家を必要とする今、同氏がどういう態度をとるかだと云うのです。

② もう一つ考えうる事として、米国が掲げてきた「開放性」に及ぶ事と、云うのです。
トランプ氏は長年、グローバル化を激しく非難してきていますが、現在、多くの民主党議員がこの姿勢に倣い始めていると云うのです。民主党候補に名のりを上げていたE.ウオーレン氏は2月下旬、米国が世界のサプライチェーン、特に中国のそれに依存していたことが、今回のウイルス騒動で露呈したと指摘していたのです。そこで今、パンデミックが起きれば米国の政策が反グローバル化に大きく傾く可能性があると云うのでした。(注:民主党は本来、労働者側にあり、グローバル化が雇用機会を奪うとは予ての立場。)

➂ 最後に、COVID-19が米国に大きな被害を齎した場合、おそらく、馴染みの現象を引き起こすだろうと云う点です。つまり「インフォデミック」です。トランプ氏は事実と異なる内容を発信する傾向がある処、未だその動きはないものの、COVID-19に再選を脅かされることがあれば話は違ってくると云うのです。

いずれにせよ大統領選での焦点はコロナ拡大への対応力の如何と、なるのではと思料するのです。3月11日、トランプ大統領はホワイトハウス執務室から国家非常事態宣言を発した際、「政治や党派対立は横において一つの国家、一つの家族としてまとまらなければならない」と国民の団結を訴えていました。「怒りと分断」をエネルギーとする同氏にしては「大統領らしい」演説だったと評されていましたが、これは厳しい批判に曝されて追い込まれた末のことと云え、明らかにその辺の焦りが窺える処です。

          
おわりに  危機はいずれ終わる

今次のコロナ危機への政府対応、言い換えれば危機対応のあいまいさは、冒頭で触れた通りですがすが、安倍首相が説明の都度,政府専門家会議の権威を笠に着て、右往左往する政府の姿は、放射能漏れを起こした東電福島第一原子力発電所の事故対応とも映る処です。原発事故を受けて政府は独立性の高い原子力規制委員会を作り、専門家の見地から安全確保に万全を期す仕組みを整えたとされていますが、いま足元で政府の専門家会議がイベント自粛などと打ち出す姿は、今なお規制委が原発を動かすかどうかと揺れる様に重なる処です。

そもそも実態がよく見えない今次のようなコロナ・リスクに対抗せんとする場合、何よりもまず国民を安心させることが大前提です。そのためには、専門家の意見を束ね、‘政治’としてどのように対峙せんとするのか、まず国民に示していく事です。そして持てる情報をオープンにしながら、感染リスクにいかに取り組むか、関係諸国との連携も含め、その姿勢を素早く示していく事ではなかったかと思料するのです。安倍政権のやり方はまず小出しをしながら、つまり様子を見ながらの小出し政策です。これでは国民を惑わすだけで、まさにトランプ氏が非常事態宣言時、期待したような国民の団結等生まれるはずなく、まさに安倍首相らしいやり方と批判の集まる処です。

・危機はいずれ終わるのです
とは云え、欧米のウイルス流行拡大の様相をTVニュースで見ている限り、彼らの医療や公衆衛生が、我々が考えている以上にウイルス流行に弱いことが伝わる処です。一方、日本はどうか、勿論、まだ問題を抱えていますが、日本の死亡者数は大きくは増えていませんし、中国ほど市民行動を徹底監視せず、手洗いやマスク、企業や個人それぞれの行動の変化でウイルス蔓延を防いでいます。 これは日本社会の強さだと、語るのは阪大准教授の安田洋祐氏です(日経3/25) そして、今次のコロナで見えた日本の優位性を海外にアピールできれば、高度な技術を持つ外国人を積極的に集めることができるし、そしてこの人材を生かし、他国から遅れているデジタルシフトを進めれば、次の成長に繋がると、指摘するのです。まさに、筆者の予の思いに通じる、極めて然りとする処です。

コロナショックを契機としてTV会議が普及してきていますし、これが会社の意思決定をも変えていく事になるものと思料するのです。かつてオイルショックで日本の省エネが一気に進んだように、これをきっかけに日本企業の古い部分が一気に変わる、働き方改革にも繋がる処ではと、期待する処です。コロナ危機の拡大は続いています。そして今尚、我々を取り巻く空気は暗いものがある事否定できません。でも、その危機はいずれ終わるのです。その思いを強くし、これを機会として革新行動を目指すべきときではと痛く思う処です。

序で乍ら一言。安倍首相は一人で判断し、緊急特別措置を取る事としたと云った際、追ってこれが法的措置となるようしたいと云うのでしたが、改憲においては緊急事態条項の導入にこだわる彼だけに、悪乗りすることがなければと、気にかかる処です。と云うのも緊急事態宣言の発令は私権制限を伴う事になる点で、民主政治における大問題となる処です。(果たせるかな、13日、関係法案「新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案」は国会を通過、緊急事態宣言の発令が可能となりました。)  ( 2020/3/25記 )
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2020年02月25日

2020年3月号  世界は今、Backward Regression - 林川眞善

目 次

はじめに 後退する戦後世界の経済秩序
  ・大西洋憲章(Atlantic Charter)
             
第1章  海図なき船出のジョンソン英国

 1. 英国のEU離脱
  ・離脱後の英国の行方
 2. 英国が抜けたEUの生業
 (1)NATO(North Atlantic Treaty Organization : 北大西洋条約機構)
(2) 欧州産業政策 ( European industrial policy )
 
第2章 管理貿易指向を強めるトランプ米国

1. トランプ貿易協定と世界経済
 (1) 管理貿易指向を強めるトランプ政権
(2) Tearing up the rulebook
2. トランプ大統領の年頭教書
  ・一般教書( State of the Union Address)
  ・米大統領選

おわりに いま世界はコロナショック    
 1 コロナショックと習近平政権
  ・Wall Street Journalの警鐘
 2 日本経済の焦点は今
  ・日本は大丈夫か
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はじめに 後退する戦後世界の経済秩序

・大西洋憲章(Atlantic Charter)
現下で露とする英米の自国主義、その行動様式を観ていくとき、銘記されるべきは戦後世界のビジョンとなった「大西洋憲章」です。それは、1941年8月、F.ローズベルトとチャーチルが大西洋上で英米首脳会談を行い、第2次世界大戦後の連合国の戦後処理構想、国際協調の在り方について宣言したもので、民族の自決、自由貿易、国際的な経済協力、平和の確立、武力行使の法規と安全保障システムの確立、等8条からなるものです。(尚、これに至る経緯事情はここでは割愛)そして戦後、創設された国連は、この憲章を基礎とした安全保障システムに他なりません。 
一方、世界経済の再建を目指し、大西洋憲章の精神を映す形で、民主主義、自由主義を以って、やはり英米が主導する形で、いわゆるブレトンウッズ体制(世銀、IMF)を構築、以って世界経済のサポーテイング・システムとして今日に至った事、周知の処です。
つまりは戦後75年、良い、悪いはともかく、今日云うG7メンバーの英米が主導する形で、国際協調をキーワードに世界の秩序構築を果たし、今日の繁栄を齎してきたと云う事です。

が、こうした路線構築に努力してきた本家たる英国と米国が、いわゆるポピュリズムに応える形で自由主義、国際協調路線に背を向ける中、今年に入って、その動きが具体的、極めて先鋭的に現れて来ています。

その一つが2020年1月31日の英国のEUからの離脱です。これは欧州(EU)諸国と共に発展していくとした協調路線の忌避と云うものです。もとより欧州諸国は、これまでの秩序維持に向けつつ、独自路線の強化に向かう処です。一方米国は、「米国第一」主義を叫ぶトランプ大統領の台頭で、対外的には多国間交渉の協調路線を忌避、対米貿易関係については、デイールを前提とした二国間貿易協定を強行、これが管理貿易の様相を強め、世界的な貿易秩序の混乱を招く処、その典型を、米中貿易交渉「第一段階の合意」に見る処です。
つまりgoing my way の英国、これまでの国際秩序を守りたい欧州、新しい覇権争いに入った米国、この三すくみの構図が、世界の先行きに不確実さを高める処となっています。

そこで本稿では、海図なきまま船出したとされるジョンソン英国とその後のEU、そして管理貿易指向を強めるトランプ米国、それぞれの実態を改めて整理し、今後の行方について考察する事とします。尚、こうした環境の中、中国発のコロナウイルスによる肺炎感染が世界的広がりを見、世界経済の今後に不透明感を深める処、時に「パンデミクス」への懸念すら呼ぶ処です。 そこで、おわりにその現状、とりわけ習近平政権の行方にフォーカスすると同時に、日本経済の行くえについても併せ考察する事とします。


            第1章 海図なき船出のジョンソン英国

1.英国のEU離脱

2020年1月29日、欧州議会は英国のEUからの離脱を定めた協定案を賛成多数で可決。既に英国側では関連法案を成立させ、手続きを終えていたことで、予定通り、2020年1月31日、英国は2016年国民投票が示した民意、EUからの離脱、が3年半を経て実現しました。これで、47年間の加盟に幕を下ろすとともに、2月1日以降は単独国家として、つまりは離脱派が目指した国家主権の回復を謳歌する形で、問題は多々ながら、自らの進む方向を目指すことになったと云うものです。かかる行動は、俗に言う「グロバル化」を横に置き、「民主主義」の下、英国主義と云う「国家主義」にシフトしたと云う事であれば、ダニ・ロドリック教授の云う「グローバリゼーション・パラドックス」(2013/12/20)を実証したと云うものなのでしょうか。

英国はEUにあっては、ドイツに次ぐ第2位の経済大国です。それだけに英国が抜けたと云う事は、EU拡大戦略のとん挫を意味する処、要は欧州の戦後秩序に幕を下ろすことになったと云うもので、まさに歴史的な節目を迎えたと云うものです。そして、英国が自国優先に転じたことで、国際協調を重んじる「西洋の価値観」を傷つけ、同時に自らは欧州における発言力を失う結果となったことに、聊かの寂しさを禁じ得ない処です。離脱2日前、1月29日付けFinancial Timesで、Mr. Martin Wolf が`Britain will not be alone but will be lonelier ‘と記していましたが、そのニュアンスに、思いは尚更となる処です。
更にThe Economist, (Feb.1st )巻頭論考「Into the unknown」では、ジョンソン首相はとにかくEUからの離脱だけを目的とした行動 (Mr. Johnson was focused entirely on leaving the EU)で、実際、国として取り組むべき問題に(例えば 中国・フアーウエイ製品の使用問題も含め)真剣に対峙しようとはしていない、つまりは海図を持つことのないままに大海に船出したと、手厳しく批判する処です。
     
・ 離脱後の英国の行方
さてこれから英国が対峙していく課題、問題と云えば、何としても貿易協定の取り扱いです。今年12月末までは激変緩和のために「移行期間」が設定されており、この間に英国はEUとの間で、新たな関税や貿易ルールを定めたFTAの合意を図る事が不可避となる処です。 因みに、英国の自動車生産の半分はEU向け輸出で、これまでEU加盟国として、これまで関税なしで輸出されていたものが、FTAが締結されない場合、10%の関税がかかる事となり、英国の自動車づくりは競争力を失う一方、82万人と云われる自動車関連の雇用は、英製造業の3割を占めるだけに、その打撃は大きく、従って早期決着が喫緊のテーマとなる処、色々な要素が絡むだけに綱渡りの交渉を余儀なくされていく事になるのではと思料する処です。勿論、貿易以外で医薬品や化学品の規制問題への取り組み調整、等々問題は山積みで、仮に期限内に当該関連事項の整備が出来ない場合、無秩序な離脱となる懸念の残る処です。

さて、ジョンソン首相は2月3日、新たなFTAの交渉に向けた方針をそれぞれ発表しています。まず、EUとの間で関税復活を避ける事、FTAの在り方としては、規制の調和は求めない「カナダ方式」(注)を追求する事。(注:カナダとEUの間で2016 年2月合意したFTAでは、物品貿易について、7年以内に相方関税品目の98.6%を撤廃するとしている)そして、製品や環境基準、政府補助金等、産業政策面で、今後EUルールに従わない方針を、明言したのです。

要はEUルールに縛られずに、独自の産業政策の下、ITや金融などの成長産業を通じて経済成長を追求するものと云え、貿易でも米国や日本などとも通商交渉を進め、今後3年で貿易の8割をFTAでカバーすると語る処です(注)。

       (注)因みに、EU離脱後の戦略として英国もアジア太平洋地域との関係強化を謳う処、2月8日にはラーブ英外相が訪日、日英関係の緊密化について話し合われた由。尚、離脱後初の外国訪問先は日本の他、オーストラリア、シンガポール、マレーシアとの由。

が、ジョンソン氏の思考様式と関係諸国のそれと如何に整合されるか、なお、危惧の残る処です。因みに、「5G」の通信網で米国は、長期的な安全保障と経済的影響に照らし、中国のフアーウエイ社製品の完全排除を、英国を含む同盟国に働きかけています。が1月28日、英国はこれを容認したのですが、米国は「特別な関係」を築いてきた英国の離反と、見直しを迫る状況に、ジョンソンvsトランプのさや当てともいえる微妙な雰囲気が伝わる処です。
つまり、英国は対EUだけでなく対米でも関係悪化を甘んじて受け入れることとしたと云う、ある種国際関係における緊張感を醸成する処です。

ジョンソン政権下で果されたBREXIT、その結果として対EUでは貿易政策等、見直しが喫緊の課題にある事上述の通りですが、それ以上に重要なことは、国民投票で離脱を決めてから3年半、政治の混乱を経て迎えた歴史的な節目ですが、それだけに地域の格差や世論、様々な社会の分断を抱えたまま、新しい時代に突入したと云え、この分断状況を克服、結束し、前進することができるか、何よりも基本問題として残る処です。そして云えることは残念ながら英国は、もう民主主義の「モデル国家」ではなくなったと云う事でしょう。

それにしても上掲、エコノミスト誌、Into the unknown が、締めとして伝える下記言辞こそは、肝に銘ずべきと思料するばかりです。

― Britain’s future is full of uncertainty. To find No longer part of one of the great global blocs, it has to find a new role in the world. ----- The difficulties should not be underestimated. But when Britain previously reset its course, in 1945 and 1979, the choices it made helped reshape the world. It should aim to do that again.

2.英国が抜けたEUの生業

戦後の西欧は、英独仏三カ国の絶妙な勢力均衡が、その土台となってきました。然し、その土台を揺るがし出したのが自国主義を標榜するトランプ米政権の台頭ですが、そこに英国の離脱が重なたことで、一挙に地政学的バランスの如何が、問題として急浮上する処です。
具体的には、一つは欧州の安全保障体制、もう一つは欧州経済の競争力の問題です。

(1)NATO (North Atlantic Treaty Organization : 北大西洋条約機構)
欧州の安全保障体制は、米主導で始まったNATOに依存する処、米国第一主義を標榜するトランプ氏は、不公平な経費負担のもとで、なぜ米国が欧州の安全保障を守る必要があるのかと、侮蔑的姿勢をもってEUに対峙する近時姿勢に(注)、昨年5月にはメルケル独首相が ‘我々が他者に完全に頼る事の出来る時代は終わった’ と語り、更にマクロン仏大統領は‘欧州安全保障は米トランプ政権には頼れない’(The Economist, 2019/11/9, A continent in peril)と語るほどに、両者の亀裂を深める様相にあります。そしてマクロン氏はもはや欧州軍編成の必要性を指摘する処です。

       (注)昨年12月4日のロンドンでのNATO首脳会議では、トランプ氏は軍事費のGDP
比2%への引き上げを強硬に主張、共同防衛にはトランプ氏は絶対視しない姿勢を示唆、
するなどNATOの安全保障の枠組みの揺らぎを感じさせている。

そうした流れの中、斯界の関心を呼ぶのがEU内politics、つまり独仏のバランスです。昨年、2019年1月22日、独仏両首脳は政治経済のみならず軍事分野までも連携強化を目指す「独仏アーヘン条約」を締結していますが、それも ‘強いドイツがドイツにとっても欧州にとっても求められている’ のに、ドイツ国民の大方は,そのような役割を果たすことになお否定的であることに苛立つマクロン氏の姿を映す処とみられています。そうした状況にあって、ドイツとフランスのパワー・バランスを変化させる可能性が強い、そのポイントが英国の存在だった、と云うのが外交評論家の舟橋洋一氏です。

つまり、「東西ドイツの統一の際、ミッテラン仏大統領は統一に反対するサッチャー英首相の ‘脅威 ’を、ドイツに対するレバレッジとして用いて、コール独首相から欧州通貨統合への確約を取り付けることに成功している。が、フランスは今後、そのように英国とパワーを重ね合わせることでドイツをバランスさせる外交の妙は期待できないかも」と、云うのです。更に世界の超大国として登場しつつある中国に、英独仏がどのように対応するかも今後欧州の大きな地政学的要素となるが、さて独仏が共同歩調をとることができるか、と質す処です。が、産業政策面では後述するように、ドイツはフランス流にシフトし出す様相にあり、その点ではEUの新たな可能性を感じさせると云うものです。

とにかく、英国の離脱で大きな影響を受けそうなのが、英国の拠出が無くなるEU予算(英国の拠出比率は約1割強)であり、外交・安全保障政策です。 前者は英国の抜けた分を如何に他27メンバー国でどう分担するかですが、後者については、英国は外交・安保面での存在感が極めて大きく、防衛支出はEU内ではトップ、フランス同様国連安保理の常任理事国であり、核保有国でもある点で、EUとしての影響力を保持するため、外交・安保政策では従来通りの協力を英側に求めていく事にはなるのでしょう。もとより英国としても外交・安全保障政策に関しては、米、EU双方と等距離で臨むべきものと思料する処です。

(2)欧州産業政策(European industrial policy)
EU欧州委員会は、2月3日、ジョンソン英首相の方針表明に応える如く英国とのFTAなど将来関係を巡る交渉方針を発表しました。英国が関税ゼロの継続を追求せんとする中、一方的な規制緩和などで競争力を不当に高めることがないように「公正な競争環境」の確保を最重視するもので、それは、前出ジョンソン首相が云うように、EUのルールに合わせないのならば、英側に関税ゼロ等の通商条件は認めない姿勢を鮮明とするものです。 つまり、英国が「第三国」となった今、英国とEU加盟国の間では競争が発生する処、これまでEUの厳しい基準に合わせていた英国が、規制や補助金制度を独自に緩和すれば加盟国が不利になると、英国の抜け駆けをチェックせんとするもので、「公正な競争」最重視です。

ですが1月18日付けThe Economist は、その状況が変わりつつある、Europe is rediscovering its penchant for statist intervention(欧州の産業政策はいま、国家主導型に傾きだした)と指摘する処です。その背景にはEU各国には開かれた貿易と投資と云う政策では、世界との競争に伍していけないと云う共通認識が広がりつつあるため、と云うのです。

同誌記事は「欧州は技術開発に乗り遅れ、今や技術は米国が牛耳る。中国企業は政府からの手厚い保護と支援で今や欧州の競合と対等に戦える。欧州以外の地域では、量子コンピューターや次世代自動車など画期的な技術革新が相次ぐ。ならば国家による支援と云う諸外国と似た政策を導入すればEUの産業も再び世界トップと比肩できるようになるのでは」と。そして、英国のEU離脱が決まったことも、政府による介入への懐疑的な見方を和らげる一因となったともいうのですが、最大の理由は、ドイツの考え方の変化にあるようです。フランスは以前から大規模な公共事業と緩い競争法支持してきたが、ドイツでは政府が市場のルールだけ決め、後は企業にお任せ、としてきていますが、この方針が近年、ドイツには仇となったと云うのです。そのドイツの政策転換が、まだ途中の段階ながら、フランスの方針へと振れつつあると云うのです。

この3月にはフォンデアライエン委員長は、EUの競争力回復のため、新たな産業戦略を発表することになっていますが、その際はドイツの政策転換も明確になっていくだろうし、いまこそ欧州は産業戦略をどうすべきか考えるべき時と指摘するのです。これまでは労働者のスキルやサプライチェーン、中小企業の育成と云った陳腐なお題目を繰り返すだけでお茶を濁してきたが、今回は大幅な政策転換が期待できそうだと云うのです。

尚、この指摘はまさに今の安倍経済政策に求められる視点です。つまり、アベノミクスは
頑なにトリクルダウンに固執し、本格的な税・社会保障改革に手を付けぬままにあるのですが、今日のデジタル経済では付加価値が一部の経営者や株主に集中するためトリクルダウンは生じません。手をこまぬいているうちにAIによる労働代替効果も加わり、中間層の崩壊や格差拡大でポピュリズムを招く処です。EUの政策姿勢をreviewするにつけ今日の国家に与えられた役割、つまりは所得再分配こそ、確実に取り組むべき時と思料するのです。


第2章 管理貿易指向を強めるトランプ米国
 
1.トランプ貿易協定と世界経済

(1)管理貿易指向を強めるトランプ政権
上述、英国のEU離脱が、拡大発展を目指してきた欧州の流れを逆流させる一方、トランプ政権が主導する二国間貿易協定も、自由貿易の流れをまさに逆行させる処です。

今年に入ってからと云うもの、トランプ政権は1月15日、中国との貿易交渉を巡る「第1段階の合意」で正式署名を交わし、それとは前後して、1月1日には日米貿易協定(国会承認2019/12/4)が発効、又、1月29日には、NAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新協定「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定) 」が締結され、日本、中国、北米と立て続けに、米国第一主義に沿ったトランプ貿易協定、3連ちゃんの成立です。

勿論、いずれも大きな経済成長や雇用創出につながる枠組みと、主張される処、トランプ氏はFTAと距離を置き、例えば、NAFTAに代わるUSMCAでは、その呼称からはFree trade、自由貿易の表記は消え、現地生産については材料の現地調達比率を厳しく規定する処です。又トランプ政権が主導する二国間貿易協定では、貿易の安定的拡大を図るためとしながら、日米貿易協定の場合、商品を特定し、当該商品の輸出量、輸入量を予め両国間で取りまとめ、以って日米貿易の枠組みとするもので、その限りにおいて極めて管理的となるものです。

又、米中貿易協定は、あくまでも米国の対中貿易のインバランス是正を目的とした、従って米中貿易は双方合意の数量、金額を枠組みとするものとなっています。具体的には中国の対米黒字の縮小に向け、米国製品の追加購入分を今後2年で2000億ドル(約22兆円)、上積みすることを盛り込んだものとなっています。こうした米中と云う二大経済大国が、国家レベルで巨額の貿易額を2年にわたって設定するのは極めて異例。この趣旨の下、二次合意交渉が近々、予定されている由ですが、11月の選挙後になるかもとも言われており、関税合戦そのものの終結は依然見えてはきません。いずれにせよ管理された貿易が、日欧や新興国の対中輸出に打撃が及び、国際通商体制の動揺が続くことになる事、云う迄もない処です。

トランプ政権が標榜する米国第一主義の下、米国の利害に即した貿易協定が導入されていくことは、これまで米国が主導してきた ‘自由貿易を通じて世界経済の成長を’ とのコンセプトへの敬意もなく、まさにTrump’s Backward March on Trade (Anne O. Kruger)の態を成す処、その実態はと云えば、利己的で無礼で信用できないものと映る処です。

(2)Tearing up the rulebook 
The Economist (Jan 25),は、こうしたトランプ政権の貿易行動を「Tearing up the rulebook 
- The costs of America’s lurch towards managed trade」(ルールブックを破り捨てた米国―
管理貿易に傾く米国)と、激しくその理不尽さを突き付ける処、以下はその概要です.

―1月21日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(いわゆるダボス会議)に現れたトランプ大統領は居並ぶ世界の有名人たちを前に、米国の通商政策の抜本的な改革について豪語した。まず1月15日の中国との「第1段階の合意」によって貿易の障壁は低くなり、知的財産も守られるとし、又米国のサービス、エネルギー等々、の輸入を無効2年間2000億ドル増やすと約束したこと、について得意げに語った。実際、これは貿易ルールではなく購入額の水準について合意したことは、米国の通商政策が根本的に変わったことを伝えるも、決して良い方向への変化を語るものではない。

―トランプ氏のような重商主義者は、貿易を2通りのアプローチで管理する。外国企業の対
米輸出を抑えるか、または米国製品をもっと購入するよう外国に促すかだが、今次の中国と
の合意のように貿易相手国が米国製品の輸入拡大に合意する例は一般的でない。
最もよく知られているレーガン政権時の日米半導体協定は、日本の半導体市場での外国品
シェアーを20%に引き上げると云う約束をさせたものだが、これは米国側の貿易赤字を
減らすことよりはむしろ、不当に閉じられている市場をこじ開ける事にあった。

―今回の米中合意をつぶさに見ると、無駄やゆがみが生じるリスクが浮き彫りとなる。合意
された中国への輸入増加の規模とスピードはすさまじく、米ピーターソン国際経済研究所
によると、中国は2020年末までに特定の米農産物の輸入を17年比で60%, 工業製品の輸
入を65%増やす約束をした事になる。しかもこれは、中国の経済に関係なく実行されねば
ならないこととなっていると。かつて日本も国内需要における輸入品の割合を高める事に
同意したが、中国は金額を具体的に決めて購入を約束している。従って中国は普通であれば
必要のない、或いは他国から買い付ける品物を米国から購入すると約束した恐れがある。

―そこで、米中の合意が定着すれば、世界の貿易システムを脅かすことになる。皮肉なこと
に現在の貿易システムは、米国が1990年代に管理貿易では機能しないと判断した末の帰結
だ。つまり自分が管理貿易をやりながら、他国に自由市場の長所を解くことが難しいことと
悟った米国は、WTOの創設に向けて動いた。力ではなく、ルールに基づいたシステムに向
け舵を切ったのだが、トランプ氏はそのルールを一貫して傷つけてきた。

―今回の中国との合意も、WTOのルール等大したものではないとの見方を勢いづける処、この合意はあっさり崩れ、新たな敵意のぶつかり合いの先駆けになる恐れはあると。
つまり米国は輸出についても管理を強めており、そのことは、中国が米国から輸入する選択肢を狭めるかもしれない。従って今回の合意がどうなろうとも混乱は不可避だと思われる。それが明らかになる時、トランプ氏がまだホワイトハウスにいるかどうかわからないが、と。
(注:中国はそのタイミングを測りながら米国に対峙していくと云う事でしょうか)

さて、前世銀首席エコノミストで、現在、Johns Hopkins大教授のAnne O. Krueger氏も、1月20付けで、こうしたトランプ政府の貿易行動に「Trump’s Backward March on Trade」と題しProject Syndicateに投稿していますが、現状について、国際的協調等お構いなく、まさにポピュリズムに乗った、独善的な行動を映す結果と総括しながらも、仮に、次期大統領選でトランプ氏が再選されれば現状はより専横的になっていくのではとしながらも、彼でなくとも共和党の誰かが大統領になっても、これまでの米国民を分断してきた深い溝はすぐには埋まる事はなく、その流れは大きく変ることはないだろうと指摘するのです。

問題であった弾劾裁判も2月5日、上院での無罪評決を得た今、トランプ氏はこの結果を逆手に取る如くに、大統領選に有利な材料と、敵を誹謗、中傷しまくる事でしょうし、米国の権威を傷つけつつ、そして大統領への再選で、`あがり’となるのでしょうか。実に忌まわしい状況が続くかと思うと、居てもたってもいられない思いに駆られると云うものです。

2.トランプ大統領の3大年頭教書
そうした中、2月4日ワシントンDCではトランプ氏による3大年頭教書の内、一般教書演説が行われました。が、それは国を纏めると云う大統領の役目を、もはや放棄したかの一般演説だったと、メデイアの多くは評する処です。2月6日付け日経に掲載の「米大統領の一般教書演説要旨」をベースに当該演説をレビューしたいと思います。

・一般教書(State of the Union Address)
当該教書は定められた通りに、「経済政策」に始まり、「安全保障」、「教育・医療」、「不法移民問題」、そして「外交」で終わるものでした。本来なら、State of Union、国の現状を報告し、これからの1年の運営方針を語り、国民が一体となって前進しようと云うものの筈ですが、冒頭の経済政策では、雇用創出(ブルーカラー好況、等)や,貿易協定の締結(対中貿易交渉締結、NAFTA見直し、等)など、その実績を挙げ、「公約をまもった」と誇示し、「偉大な米国の復活」とアピールするものでした。が一方、大統領選の争点となる医療保険では「社会主義者に米国の医療制度を破壊させない」と国民皆保険を唱えるサンダース上院議員ら民主党左派候補をあてこするなど、11月の大統領選を睨んだ、事実上の選挙公約の意味合いを感じさせる異例の演説でした。 因みに昨年まで盛り込まれていた「結束」の二文字は完全に消え、加えて昨年、世界を翻弄させた北朝鮮に対する言及もないままです。

なお指標的(注)には確かに米経済は過去最長の景気局面にある処です。トランプ氏は以って「ブルーカラ―好況」と云うのでしたが、その恩恵は富裕層に集中しており、上位1% の富裕層が米国全体の所得の2割を占める処、経済格差は戦後最悪の状況にあるとされていますが、彼がどう認識し、どう考えているのか。肝心な点は伝わることはないままです。

   (注)好調を示す経済指標:
米労働省が2月7日発表の1月の雇用統計では、非農業部門の就業者数は前月比22万5千人増
で、1月の失業率は3.6%と前月比0.1ポイント悪化したが、約50年ぶりという歴史的な低水準、
雇用情勢は好調。 一方、5日商務省発表の貿易統計では、モノの貿易赤字は8529億4900万ド
ルで前年比2.5%の減少で、これは2016年以来、3年ぶりの減少。対中赤字も3年ぶりに縮小。

尚、年頭教書に続く2021会計年度(2020/10~2021/9)予算教書( Budget Message of the President)は2月10日に、又20日には、大統領経済報告( Economic Report of the President )が議会に送られています。前者は米大統領の税財政方針を示すもので、社会保障等の圧縮で、年1兆ドルの財政赤字を5年で半減すると提案する一方、国防費を増額してインフラにも1兆ドルを投じる等、選挙を前に支持基盤の保守派に強く配慮した内容です。しかも、経済成長率を3%と見込んでの試算で、極めて楽観的と映る処です。又、経済報告書でも、過去最長の景気拡大となった米経済を「大いなる成長」(Great Expansion)と名付け, 減税や規制緩和の効果の自賛と民主党への反論が大半だった(日経夕刊2/21)とされる処ですが、いずれも11月の大統領選向けのアッピール教書と評される処です。

・米大統領選
序で乍ら、2月3日のアイオワ州、11日にはニューハンプシャー州での予備選を経て2020年米大統領選が実質、始まりました。共和党はトランプ氏で決まりでしょうが、民主党は本命のないままに3月3日のスパー・チューズデーを迎える処です。 大統領選については別途の機会に論じたいと思っていますが、これからの世界の行方にとって極めて重要なeventです。それだけに見どころはとなると勝ち負けもさることながら、やはり世界共通の課題としてある、格差拡大による社会の分断、ポピュリズムの広がりなどに11月の本選までの9か月間、米国民はどう向きあっていこうとするか、にある処ではと思料するのです。 
尚、日本に関連する分野でいえば、在日米軍へのいわゆる思いやり予算の規模を定めた特別協定が来年3月に満了します。さて日米同盟の維持に必要なコストをどう考えていけばいいのか、トランプ氏の選挙目当ての手柄づくりに、手を貸すようなことのない毅然とした交渉対応をと、願う処です。


おわりに いま世界はコロナショック

(1)コロナショックと習近平政権
自国第一主義を標榜する米英を起点とする世界秩序の逆流が進み、世界経済の先行きに不透明感を募らせる中、もう一つ、中国発の「COVID-19」(コロナウイルス肺炎感染)と云う難敵が加わり、今や、後退トレンド以上に、世界経済に多大な影響を及ぼす処です。
それは製造業のサプライチェーンのハブとしての地位を固めた中国の生産停止が世界経済に与える影響の重大さで、日本経済研究センターの試算(日経 2020/2/9)では中国の生産停止で生産が100億ドル(約1兆1千憶円)減なら、海外全体での生産・販売を67億ドル押し下げ、特に韓国、日本、米国への影響は大、とするのです。まさにコロナショックです。

・Wall Street Journal の警鐘
そんな中,今次の感染を巡り中国では習近平共産党への批判の高まりが伝えられ、聊か気になる処です。Brexit, トランプ現象などのポピュリズムが民主主義、資本主義を貶めていく一方で、経済発展を遂げる「幸福な監視社会」たる中国モデルが、もてはやされる事すらありました。が、12月8日に新型肺炎の初ケースが報告されながら、対応が本格化したのが1月20日に習近平が直接指示を出してからで、初動対応の遅れが今日の混乱を招いたと、(情報の公開は共産党統治に悪影響が及ぶと隠蔽された)中国型独裁制の問題を浮き彫りする処、共産党政権の「国民の安全より、国(共産党)の安全を優先する姿勢」に不満が広がったと云うものです。(中国本土での患者:7万4185人、死亡者:2000人超, as of 2/18 )

2月7日付けWall Street Journal(電子版)が伝える‘From Washington to Wuhan, All Eyes Are on Xi ’(ワシントンから武漢まで、全ての視線が習近平に)なる記事(注)では、今次の爆発的感染は共産党政権の独裁の弱点を露呈したものと断じると共に、感染拡大は習近平政権に内外での危機を招き、同政権の存続が問われる事にもなりかねないと、1911年、武漢で起きた辛亥革命の第一段階となった武昌蜂起をリフアーしながら、最後にDon’t rule out a second Wuhan revolutionと、「第2の武漢革命」の可能性すら示唆する処です。
(注)寄稿者は米スタンフォード大 フーバー研究所のアジア問題専門家、Michael Auslin氏。

習主席はこの春、国賓として訪日予定です。それまでに新型肺炎が終息しているか、ですが、既に3月5日開催予定の全人代の延期が伝えられています。上記W.S.J.の噂も有之で、訪日の予定見直しが必要になる公算大ではと、愚考する処です。

2月14日には、米国CDC(米疾病対策センター)は季節性インフルエンザが猛威を振るう(患者:2,600万人以上、死者: 約1万4000人)なか、相当数の新型コロナ患者が見込まれると発表、世界は更に混迷感を深める処です。

(2)日本経済の焦点は今
さて日本では「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗船者3700人の防疫問題を巡り連日報道され、庶民生活への影響も気がかりとなる処、経済活動への懸念も云うまでもありません。

2月10日、日産自動車は九州の完成車工場の稼働の一時停止を決定。これも新型肺炎の影響でサプライチェーンが混乱し、中国からの部品調達が難しくなった為だと云うもので、こうした生産調整、調達先の変更等が、生産システムの世界的な構造変化を齎す処、日本の上場企業の2020年3月期決算は、大幅減益が見込まれる処です。(日経2020/2/11)

2月17日、公表の10~12月期GDPは、年率6.3%減と5四半期ぶりのマイナス成長です。このマイナスは昨年10月の消費税引き上げ、天候不順による個人消費の後退等、想定されていた事ですが、問題はその後の経済の行方です。この新型肺炎の感染拡大で消費マインドの悪化等で、国内経済の減速が心配され、2月13日,政府は景気下支えとして緊急対策(153億円規模)を決定していますが、少し前まで日本経済の焦点は、東京五輪後の景気後退懸念でしたが、時間軸が一気に前倒しになってきた様相です。

さて、その東京五輪ですが、コロナ問題で世界的イベントの見直しが喧伝される中、来月には聖火リレーも始まる処、まさに綱渡り的開催となるのではと、気がかりとする処です。

・日本は大丈夫か
さて、IMFは2月19日、コロナが齎す世界経済への悪影響を抑える為に国際協調をと、各国に協力要請の声をあげています。日本としてもこの際は、財政支援を惜しまず、政治のリーダーシップを求めていきたいと思うばかりです。
が、連日TVに映しだされる国会審議の様相、安倍首相はじめ答弁にあたる閣僚の姿は、辻元清美議員に「鯛は頭から腐る」と揶揄されるほどに、実に体たらくを露わとする処、なんともこれで大丈夫かと、不安は募るばかりです。
                               ( 2020/2/25記 )
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2020年01月27日

2020年2月号  2020年、米中関係の行方、そして日本経済のトレンド - 林川眞善

目 次
         
はじめに 2020年、国際社会の行方

 (1)2020年は国際政治の転換点
     ・転換点の国際政治
 (2)ステイグリッツの`Progressive capitalism’ (進歩資本主義) 再論
     ・本論考のシナリオ

第1章 世界貿易と米中デカップリングの 行方  

 (1)「グローバル・デカップリング」という神話
      ・米中貿易協議
     ・The Myth of Global Decoupling ― Stephen Roach氏の思考様式
 (注)GVC(Global value chains)が示唆する戦略性
 (2)China’s View of America ―貿易戦争の先を見据えた中国

第2章 日本経済のトレンドと生産性の向上    

 (1)日本経済の今後
     ・小さくなる日本の経済
 (2)日本の生産性が低いわけと、その対抗策
     ・日本の生産性はなぜ低い
     ・生産性向上に向けて

おわりに デジタル元年  
     ・デジタル・トランスフォーメーション(DX)
              ・2020年をデジタル元年と位置付ける安倍首相 

      ----------------------------------------------------------------------

はじめに 2020年、国際社会の行方

(1)2020年は国際政治の転換点
56年ぶり、東京‘五輪’開催を控えた日本の新年がスタートしました。メデイアが伝える日本企業トップの多くが表明した年頭所感に映るのは、五輪、加えて次世代通信規格「5G」の商用サービス開始など、以って国内経済活性化への期待でした。が、反面、世界の政治や経済の先行きに対する警戒感を強めるものでした。

その世界経済ですが、米中覇権争の行方が最大の変数との見立てを以って越年しましたが、この間、米国による中国はずしの動きが、更に勢いづいてきていることからは、その状況は更にきびしくなってきていることを感じさせる処です。巷間、日欧の当局者や識者の間ではもはや米中のデカップリングの危険があるかどうかではなくどこまで広がってしまうかに懸念が集まっていると、伝えられる処です。 因みに、1月8日、世銀が公表した今年、2020年の世界経済の成長率見通しは2.5%で、昨年6月時点での見通しからは0.2ポイント下方修正です。落ち込みの最大理由は関税合戦の影響で、米国は1.8%(前年2.3%),中国は5.9%(同(6.1%)といずれも前年比減速、世界全体の貿易量も大きく落ち込むと見込む処です。

・転換点の国際政治
処で6日、米リスク調査会社ユーラシア・グループが発表した2020年世界の「十大リスク」では、その第一に「誰が米国を統治するか」を挙げ、次いで米中関係もリスクに上げています。後述するように、両国は今月15日、貿易協議の「第1段階の合意」に署名しましたが、産業補助金等両国間で溝の深い問題は先送りとなり、対立は長期化が避けられないとし、米中の「デカップリング(分断)」の影響は「世界テクノロジー分野だけではなく、メデイアから学術まで多くの業界や機関に及ぶ」と指摘するのです。併せて、同社のイワン・ブレマー氏は「過去数十年にわたりグローバリゼーションは世界の貧困を減らし、平和を支えてきたと指摘。現在は米中対立や先進国の分断が進み「世界的な危機を生み出す可能性が高まっている」とし、2020年は国際政治の転換点になるだろうと語るのです。(注)

   (注)日本時間8日午前7時半、イランがイラクにある米軍基地へのミサイル攻撃を開始。(後刻イ
ラン政府は誤射だったと訂正)米国によるイランのソレイマニ司令官殺害(1月3日)に対する報
復攻撃かと思われたものの、誤射声明がイラン側から出されたことで沈静化を見ているが、今後共
これがいかなる展開となるか現時点では不透明ながら、世界の地政学的危機を覚える処。

(2) ステイグリッツの ‘Progressive capitalism’(進歩資本主義) 再論
さて筆者は、米コロンビア大 教授でノーベル経済賞のステイグリッツ氏が昨秋、著した「ステイグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM (原題:People, Power, and Profits)」(東洋経済、2020/1/2) と共に、この新年を迎えました。本書は、これまでも愛読した彼のグローバル化に関する著作「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」、「世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す」、「これから始まる‘新しい世界経済’の教科書」、等々で記された見解を纏める形で執筆されたものですが、とりわけ現下の米経済で広がる格差に焦点をあてた現状分析、そして現状改善を目指すべき方向と政策を語るもので、極めて示唆に富み、大いに刺激を受けるものでした。 実は同書の枠組みについては昨年の春、彼のレジュメを以って承知し、昨年5月次の弊論考(N0.86)でその概要を紹介していますが、その興奮いま再びとする処です。そこで敢えて今一度、そのポイントを紹介しておきたいと思います;―――  
                  
① 米経済の実態:現在、米国が抱える問題の原因の一端は、経済の失敗にあると断じ、製造業中心の経済からサービス業中心の経済への移行が上手くいかなかった事。金融産業を制御できなかった事。グローバル化やその影響を適切に管理できなかった事。そしてなによりも、格差の拡大に対応できなかったこと、そして、その結果アメリカは「1パーセントの、1パーセントによる、1パーセントのための経済や民主主義」へと変わりつつある。
② 現状改善の処方箋作りに向けた発想:まず富の創造と富の略奪を区別し、国富を真に生み出すものが何かを問う。富の略奪とは、個人が、何らかの搾取形態を通じて他人から富を奪う事。一方、「国の富」を真に生み出すのは富の創造行為である事、そしてそれは国民の創造性や生産性の相互作用の結果とし、それを支えるのは科学の発展であり、社会組織の更なる進化だと云う。つまり、理にかなった対話を通じて事の理解を深めれば、「法の支配、抑制と均衡のシステム、適正な手続き」等、制度の確立を図るべきと。
➂ 21世紀の世界で必要とされる事:要は、国富を生み出すものは何かを真に理解すること、そしてより活力にあふれた経済を実現し、豊かさを広く共有できるようにしていく事とし、そのためには政府が現在とは違う、もっと大きな役割を担う事も必要とし、複雑化する21世紀の世界では共同行動が不可欠と強調する。
④ 求められる政策とは「政治と経済を再建する」政策:そして、我々は緊密につながり合った世界に暮らしているわけで、孤立主義という選択肢はなく、政治面、経済面で、これまで以上に国際関係の管理に取り組んでいかなければならない、警告する。そして、その為の政策は、トランプや他支持者が主張する政策とは真っ向から対立する進歩的な政策となる。
⑤ 包括的政策:その際、必要となるのが包括的政策と。それは成長や格差縮小の障害(過大な市場支配力を持つ企業がもたらす弊害)の除去と、バランスの回復と(労働者に大きな交渉力をあたえる)を組み合わせた経済政策だと云う。

そして、最後に今こそ大々的な転換を遂げるときだとし、経済の転換は、過剰な富がもたらす政治力に対抗できるほど力強い民主主義がなければ実現できず、同時に経済を改革する為には政治も改革する必要があると説くのです。


・本論考のシナリオ
以上、進歩資本主義の真骨頂を感じさせられる処、改めて2016年の米大統領選挙を顧みるに、非常に多くの企業幹部がトランプ氏を財政面で支えたとされていたとされる処、更に多くの企業人が目先、減税が実現し、非生産的ながら高い利益をもたらす資産バブルが起きることが分かっていたため、トランプ氏が戦後秩序の破壊に動いても沈黙してきたと云う事ですが、そのツケは貿易戦争や移民規制の強化だけでなく、企業の事業活動の基盤であるルールに基づいた取引活動の危機となって表れているのが現状と総括される処です。トランプ再選が世界経済のリスクとされる所以です。

そこで、今次論考では、このプログレッシブ・キャピタリズムを語るステイグリッツの思考様式に照らし、とりわけ彼が主張する国際協調の堅持、そしてグローバル化構造の変化を踏まえながら、二つの資料をベースに、米中関係の行方について考察します。その一つは米中貿易戦争を巡る米中分断の可能性の行方についての米イエール大 教授のStephen Roach氏の論考「The Myth of Global Decoupling 」(Project Syndicate , Dated Jan.3rd)、二つは、今次の米中合意後の両国の在り姿を示唆する、The Economist(Jan. 4)の記事「China’s view of America」を取り上げ、両国関係’の行方を考察する(第1章)事とします。

更に、人口減少社会に向かう日本経済の可能性について、生産性向上にフォーカスする形で、再度考察する(第2章)事とします。 経済成長率、つまり[GDP伸び率=人口(就業者人口の伸び率)+生産性(一人当たり生産性の伸び率)] を前提とすると、人口が減少する日本にとっては、生産性の向上を図るほかなく、もとより、これが長期的に続くテーマとなる処です。ただ、日本経済の現実は、急速に進む経済のデジタル化に即した対応が遅れていることが大きな問題です。前回論考では、digitalizationとグローバル化と重ね「デジタル分業」戦略を云々したのもそれ故でしたが、その際、友人読者から「digital技術を活用して企業の活性化を図ることは重要であり、その通りと思うが、ITの活用で経済成長はしたとしても、勝つのはGAFAの如く業界トップだけ」であり、所得格差をどうにかしないと世界経済は低迷を続けることになるのではと、照会を受けました。要は、富める者に富が集中する今の仕組みを改めないと、持続性が危うくなるとの主張に繋がる処です。

急速な人口減少をたどる日本経済、世界における存在感が小さくなることが想定されている今、かかる事態への対抗は日本経済の競争力を高めること、そのためには生産性の向上の他なく、そこで友人の照会にも応えるべく、当該問題意識にしぼりつつ、今後の日本経済のトレンドについて考察する事とします。


第1章 世界貿易と米中デカップリングの行方

(1)「グローバル・デカップリング」という神話
・米中貿易協議
昨年12月13日、米中両政府は貿易協議の「第一段階」につき合意を見、前述の通り今年、1月15日、当該「第1段階の合意」(注)に正式署名しました。 ただ産業補助金等両国間の溝の深い問題は先送りとなっており、両国の対立は長期化が避けられないままにあり、昨年来の米中「デカップリング(分断)」論は衰えを見せません。

(注)「第1段階の合意」ポイント:① 中国による知的財産権の保護、②中国が米国からの輸入を
2年で2000億ドル積みます、➂ 金融サービス市場の開放、④人民元安誘導の制限、等7項目。
(日経2020/1/16) 尚、この結果を受けて米国は、2月中にも対中制裁関税「第4弾」(2019/9 月)
の関税を引き下げることとし一方、貿易協議は更に第2段階への合意交渉を続けると云う。
    これで米中貿易戦争は休止局面に入るが、その引き換えに米中が管理貿易に傾けば、国際通商体
    制の動揺は続くことは避けられないのではと危惧される。

この点、米イエール大 教授のStephen Roach氏は1月3日付け論考「The Myth of Global Decoupling 」で、今日的グローバル化の貿易構造に照らし、米中の分断、グローバルな分断など、今や神話の域を出るものではないとするのです。そのlogicは極めて今日的、合理的で、興味深く、そこでまずその概要を紹介する事から始めたいと思います。

・The Myth of Global Decoupling ― Stephen Roach氏の思考様式
① デカップリング論議の背景:まず、2019年に盛んに云々されたdecoupling論議の背景には、報復関税合戦も安全保障に係るテク戦争の小競り合いも、いずれもインターネットと一国主義でグローバル化に背を向けたトランプ米大統領が抱く‘ツキジデス’的恐怖を映す「新たな鉄のカーテン」のイメージがあるためで、だからと言って87兆ドルの世界経済が今後2つのブロックに分断されるなど信じられない。ただ、世界の二大経済大国間の対立の続くことは想定される処、その原因がどうあれ、現在の多角的貿易体制にあっては単に二国間の行動の如何だけで分断が進むなどありえないと。
② 統合が進む世界経済:今日のグローバル経済は以前とは比べることのできないほどに統合されており、2008-09年の金融危機のあと世界貿易の伸びは長期停滞にあり世界のGDPのおよそ28%に止まったままにあるが、それでも冷戦時代、1947-91年の平均シェアー13.5%に比して、その倍となっている。つまり、世界の経済活動が広く展開してきた結果であり、従来の製品貿易は、輸出にしろ,輸入にしろ、当該国が生産し、それを個々の国へ製品として送りだす二国間の貿易だったが、今ではその実態は部品貿易に変質してきている。その実状は、大きなネットワークの中で組み立てられ、取引が行われる状況が実態で、広大なglobal value chains (GVCs) 、グローバル・バリューチェーンを介して製品化され、取引されるようになってきている点で、グローバル・デカップリングは起こりにくくなってきている。つまり二国間貿易とは言え、色々の国のサプライチェーンを経て行われてきているだけに当該国の経済規模とは関係なく、二国間での分断が進む可能性は低く、この変化が米中貿易戦争の齎すインパクトの様相を変えてきていると。
➂ 米貿易インバラスは国内経済の不均衡が要因:米国の政治家は好んで米国の貿易問題は中国問題とする。 事実、過去6年間(2013-18)では、米国の貿易赤字の47%は対中貿易にあるが、それは米国の慢性的な国内貯蓄形成の低さに負うもので、20世紀後半の30年では対GDP比率は6.3%にあったものの、2018年ではそれが2.4%にとどまっている。
つまりマクロ的視点から、国民所得ベースでの過少な貯蓄、投資意欲の低下、一方それを補うための外資の導入、積極的投資の受け入れで、結果として経常収支は慢性的赤字を託つ処、要はマクロ経済の不均衡が米国の貿易赤字を齎している。 とすれば中国との貿易戦争は別の光を当てる必要のあり、デカップリングの見方も変える必要があるとし、近時のglobal value chainsをベースとした新たな貿易構造( trade diversion)を再考すべきと。 因みに、OECD やWTOのtrade-in-value–added data によれば、米中貿易の赤字の20%は中国主導のサプライチェーンを通じた部品の取引だと。
④ 世界貿易はGVS主導の構造に:貿易構造はいまや、伝統的な当該二国間での製品取引から、多国間での生産を基盤としたGVC主導型の貿易システムへと構造的変化が進んできた結果、今ではpan-Asian factoryという地域統合型流通システムに再編されてきている。
それは、2019/4/15付けのWorld Bank & WTOによる Global Value Chain Development Report、2019、に詳しいが、中国が2001年、WTOに加盟して以来、米中貿易の赤字幅は拡大してきており、それは先進国による対中進出に負う結果で、米政治家が好んで取り上げる中国批判とは、その様相を大きく異にする処となってきていると云う。
➄ GVC connectivity の拡大:GVDが拡大してきた結果, 中国からの対米輸出にかかる関税は中国輸出業者のみならず、中国主導のサプライ チェーンに組み込まれる第三国、東アジアにも及ぶことになり、Supply -chain linkage (サプライチェーンの結合)はいわゆる当該地域を通してChina fix の様相にある。その点で米中間のデカップリングは起こりえない事と云う。bilateral decouplingが齎すであろう貿易の構造変化とは、米国の調達が低コストの中国生産基地から広域の海外生産グループに変わることを意味するか、或いはそれがアジアのプラットフォームに映ることになるか、re-shoreとなるかであって、ボトム・ラインは確実に高コスト生産体制になることとなり、その結果、皮肉にも米企業にとり、又 就労働者や家庭の主婦にとっても増税と同じ効果をもたらすことになると、云うのです。

要は、こうしたGVC(下記:(注)参照)が齎す今日的貿易構造を踏まえるとき、今後、米中貿易戦争がグローバルな分断を齎すことはないとするもので、その限りにおいて当該分析はlogicalと映る処です。が、米中関係の行方はとなると、問題は貿易だけでは簡単には律し得ない処です。つまり中国の対米姿勢の如何ですが、以下で紹介するThe Economist (Jan.4)記事 `China’s views of America ‘からは、まさに今の中国の対米姿勢、米国への不信感と、待ちの姿勢を以って覇権を狙う姿が窺える処、とすればRoach氏が云うようには米中分断は神話とは、容易には言い切れない処です。

(注)GVC(Global value chains)が示唆する戦略性
GVCとは、国際的な価値の連鎖がどのように張り巡らされ、どの段階で、どれくらい付加
価値が生まれるか、膨大なデータを駆使して分析する最新の手法で、まさにサプライチェ
ーンの統治構造を示唆するものとされる。こうしたサプライチェーンの変貌が、グローバ
ル経済の仕組みの変化を齎す処、貿易戦争の今日的意味合いを理解する上で極めて有意な
国際貿易論として注目を呼ぶ処。因みに、iPhoneの場合、端末機の裏に記されている文言、
「Designed by Apple in California, Assembled in China」、(カリフォルニアのアップルでデ
ザインされ、中国で組み立てられた)からも理解できるように、この分業の姿こそが今日
的貿易の生業と理解される。

昨年夏、ジェトロ・アジア経済研究所上席主任研究員の猪俣哲史氏が著した「グローバル・
バリューチェーン ― 新・南北問題へのまなざし」(日経社、2019/6/28)は、「国際的な
サプライチェーンの変貌の実態と米中貿易戦争の本当の意味を教えてくれる、付加価値ベ
ースでみた新しい貿易論の枠組み」と、斯界の評価の高い作品だが、もとよりこれが日本
経済の対外戦略を考察する上で大いに資する処。先月弊論考では人口減少社会の日本にとって持続的成長を目指す視点からは、海外に乗り出すことが不可避だが、その際は「デジタル分業」戦略を目指せと指摘した。つまり、いまや新興国、途上国にはIT技術を生かし競争力を身に着けた企業多々で、彼らとの連携によるデジタル分業戦略を、との趣旨。

(2)China’s view of America (The Economist, Jan. 4)― 貿易戦争の先を見据えた中国
米中貿易戦争の現状について、まず中国政府関係者は公の場ではトランプ政権の関税を「自滅的」と呼び、中国には経済的な弾力性があると強調しているが、内心ではそれほど自信があるわけではないと指摘します。その理由は貿易戦争前から中国の景況感が悪化しているためだと云うのです。因みに1月17日発表された2019年GDP成長率は6.1%で、29年来の低水準、2018年に続き連続の減速にあります。これは勿論米国との貿易戦争で製造業が振るわなかったことが挙げられる処ですが、中国は、いまや関税での戦いよりも、他の形での競争が始まる事を懸念していると云うのです。ずばり、それは米国との技術上の争いや国際的影響力を巡る全面対決の行方だと云うのです。そして中国の国家安全保障政策に近い筋での、次のような見方を紹介するのです。 

つまり、 ‘トランプ氏が再選を果たすよう平然と彼らは声援を送る。そして彼が再選されれば引き続き米国の同盟国を混乱させるだろう。そうなれば何十年も続いたアジアにおける米国の安全保障に疑念が生じ、中国のチャンスが生まれる’ と、待ちの姿勢を云うのです。

中国はかくしていろいろな形で米国を非難するでしょうが、だからと言ってワシントンのタカ派に対抗し、両陣営の分割をしようとはしない。(new cold war, in which divided into rival camps )中国は時間を稼いでその間に国力を蓄え、ドルが支配する金融システムに象徴されるような、米国の権力を支える強力なツールに匹敵するものを作り上げようとしていると。そしてさしあたり中国は米国との対決を 避けようとするが、台頭する中国にとって米国はますます邪魔な存在に見えてくると指摘する処です。すなわち、厄介な事態がすぐそこに迫っていると云うのです。この春、習主席を国賓として迎える日本政府は、この微妙な変化を如何に見据えているのか、気がかりとする次第です。


           第2章 日本経済のトレンドと生産性の向上   

(1)日本経済の今後
さて、先月発表された人口動態統計を契機に、日本経済が活力を保つためには何が必要かと、思いを高めるところです。周知の通り、デジタル経済で先頭を走る米国は自国第一主義を先鋭化させ、追い上げる中国と対決姿勢を強める処、日本は人口減・高齢化に加え生産性も伸び悩み、GDP(実質ドル換算)は縮小を続け、経済規模で現在の3位から早晩、米,中、インド、ドイツに次ぐ5位に転落することが想定さています。勿論ランキング自体はさほど問題ではないとしても、日本経済として、持続的成長を如何に確保していくかは問題です。冒頭、「はじめに」で触れたように人口減少、とりわけ労働力人口の減少下では、なによりも生産性の向上、維持が最大の課題です。そこで日本経済研究センターの2060年経済予測(日経2019/7/26)をも踏まえ、生産性にフォーカスし、改めて考察したいと思います。

・小さくなる日本の経済
昨年12月26日、内閣府が公表した、2018年のGDP(名目)はドル換算で前年比1.8%増の4兆9564億ドルでした。世界全体に占めるシェアーは5.7%と前年に比べて0.3ポイント下がり、過去最低になっています。日本のドル換算の名目GDPは長く米国に次いで世界2位にあったが、2010年に中国に逆転され、人口の減少や成長力の低下を反映し、1990年代半ばに2割弱あった世界に占める比率も2005には10%に低下、その後も下落傾向が続いています。 又生産性の高さの目安となる一人当たり名目GDPは3万9182ドルでOECD加盟国36か国中20位。2010年代初頭は先進国の中で10位台だったが、近年は18~20位で推移しています。

因みに、2019年7月26日の日経「やさしい経済教室」で紹介されている日本経済研究センターの2060年経済予測では日本のGDPは20年代にインドに追い抜かれ、40年代にはドイツにも抜かれ日本は5位と予想されています。 つまり、こうした日本の経済的地位の低下は、人口減効果を考えると、生産性の低さが誘引した結果と思料する処です。ではなぜ日本の生産性は低いのか、そのための対抗をどう考えればいいのか、が具体的テーマとなって迫る処です。

(2)日本の生産性の低いわけと、その対抗策
なぜ日本の生産性が低くなっているか?これについては多々説明ある処、中でも第一生命の首席エコノミスト、熊野英雄氏は文芸春秋、新春特別号で極めて平易に語っています。そこで彼の言説の一部を引用しながら、話を進めることとします。

・日本の生産性はなぜ低い
まず、日本の生産性の低さの背景として、日本のパラダイム・チェンジができていなことにあると云うのです。別の云い方をすれば、「物的生産性」から「付加価値生産性」へと世界のパラダイムが変化したにも関わらず、未だに日本は物的生産性の中で停滞していると云うのです。物的生産性とは、生産数、販売量、収穫個数など、物量でとらえることができる生産効率を表す尺度です。例えば自動車部品工場で1日百個の製品を倍の2百個作れるようになれば物的生産は高まります。モノを作って海外にたくさん売るには通貨が安い方がいい。その点、円安と高い物的生産はよくなじむ処です。日本の製造業は、円安と高い物的生産性によって、高度成長を牽引してきました。 然し、付加価値生産性の考えはこれとは異なり、生産数は百個のままで、その代わり1個当たりの付加価値を上げ、高く売ることで利益を拡大しようと云う発想です。正確には、売上から原材料費を除いた粗利を労働投入量で割って付加価値生産性は計算され、一人が稼ぐ粗利が増えるほど、付加価値生産性が上昇すると云う事です。

この物的生産性から付加価値生産性へのパラダイム・チェンジを引き起こしたのはIT革命でした。グーグルやアップル等、電子部品そのものよりもサービスを提供するプラットフォームの付加価値で勝負し、覇権を拡大してきたのです。日本の場合、コスト削減しながらモノを作って安く売る発想から抜け出せていないのです。 上述事情からは、現在の世界で経済成長のカギを握るのは付加価値生産性であり、アイデイアを使って商品を高く売るビジネスモデルを構築することが必要と云うものです。経団連の中西会長も‘コモデイテイビジネスはもう死んだ’とする処、この際は発想の転換が求められると云うものです。

ただ、この付加価値生産性の上昇を阻む要因が少子化であり、高齢化です。そこで、この際は労働力人口減をカバーする意味からも、急速に進む経済のデジタル化を戦略的に取り込み、当該生産性の向上を図り、持続的可能性を確保していく事を、目指すべきと思料するのです。以下はそうした趣旨の下、生産性向上に向けた提案、3項目とするものです。

・生産性向上に向けて
― 企業における生産性向上は一義的には効率的経営の徹底に負う処、同時に中長期的に
生産性の向上(競争力の強化)を通じ、他経営要素との連携をも含め、持続的成長の確保
を命題とすることとなる。つまりはビジネスマネジメントに係る戦略提案だが、もとより
それぞれの実行と成果を上げていく上で、要すれば当該支援関連措置は不可欠となる。

① 企業経営、デジタル化の積極推進:生産性向上による競争力強化の視点から、まず経営のデジタル化を徹底推進し、併せて事業構造の見直し、産業の新陳代謝を進める。と同時に、近時の経団連中西会長の改革発言にもある通りで、賃金体系の構造的改革を通じ人材の確保を図る。尚、市場からの退出企業、雇用者に、新たな事業機会を与える仕組みの導入を目指す。
② GVCとデジタル分業:人口減少を抱える国内市場には限界があることから、海外に打って出る事が不可欠。そこで上述、いまや新興国、途上国にはITを活用した有力企業が多々であり、生産性をあげる道として前述のGVCコンセプトに即した彼らとの戦略的デジタル分業体制を図る。併せて今後10年を左右すると見る技術の潮流、とりわけソフトウエアーの動きを確実に捉え、それに備える体制整備を進める。
➂ 将来に向けた設備投資:かつて日本の製造業は積極的に設備投資を展開し、生産性を向上させてきました。然し今では大企業も販売数量の大幅アップが見込める事業にしか設備投資をしません。それには種々理由が挙げられる処この際は、付加価値生産性を高めていく上でこれまでの安全指向から脱皮し、つまり三菱化学ホールデイングスの小林会長が主張するアンチテーゼへの挑戦行動として、将来に向けた前向投資の積極的促進を図る。

・最後に、政府の出番についてです。一義的には企業がより自由に活動できるよう諸規制の改革を進めることですし、政府主導で進められている「働き方改革」についても、これが「仕事量が同じで労働時間を短くすれば、生産性が上がる」という個々人をベースとした考え方にあるようですが、生産性の向上に向けた改革とするならば「労働時間の削減→学び→生産
性の上昇→成果→賃金・待遇の改善、そして学ぶ ---」と云ったサイクルが回るよう、発想を変えトタルとして取り組んでいくべき事と思料するのです。 
ただこれがより基本的には、グローバル化やデジタル化の恩恵を存分に引き出し、経済全体のパイ拡大に努める事、そして、適切な所得再分配や安全網の拡充、教育制度の改革などを通じて庶民の生活を底上げしていく、つまり包摂的な経済や社会づくりへの努力が期待されると云うものです。


おわりに デジタル元年

・デジタル・トランスフォーメーション(DX)
昨年同様、今年も米ラスベガスで(2020/1/7~10)、世界最大のデジタル技術見本市「CES」が開かれました。昨年は「5G」、つまり高速通信時代の幕開けとされ、何よりも注目を呼んだのがプラットフォーマー主導の自動車産業の変容でした。今次のCESはそのトレンドにあって、デジタル技術の成長の柱が、スマートフォーンから自動車へと完全にシフトした様相にあり、開催前日の6日には、ソニーは自動運転システムを搭載した試作品を発表。トヨタはコネクテッドカ―などを中心に、あらゆるモノやサービスをネットでつなげる「スマートシテイー」(注)を静岡県据野市に作ると発表。いずれも、デジタル時代の企業変革に挑む姿勢を世界に示す処でした。

     (注)スマートシテイー:国土交通省などによると、先進技術を活用することにより、都市や
地域を高度化して課題を解決する事を指す。具体的には交通渋滞や環境負荷の軽減、日本な
どでは少子高齢化に伴う問題への対応尚がテーマとなる。(日経:2020/1/8)

家電の展示会からデジタル技術の見本市へと様相が変わる中、異業種も目立つたと云うのも今回の特徴と云え、CESの目玉ともいえる基調講演には、米デルタ航空、エド・バステイアンCEOが登場、50年以上続くCESで航空会社トップが基調講演をすることは初めてと、大いなる関心を集めるところでした。要は、次世代通信規格「5G」やAIの存在感が増す中、デジタル技術で事業を変革する「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」はあらゆる産業の共通課題たるを印象付ける処です。

・2020をデジタル元年と位置付ける安倍首相
では日本の現状は? メデイアによれば、政府は2020年をデジタル元年と位置付け、巨大IT企業による市場寡占を規制する新法を1月の通常国会に提出、更に次世代通信規格「5G」の整備も新法で加速させる由、伝える処です。昨年12月、安倍首相は経団連との会合で、デジタル技術の急速な進展に触れ「今まさに新しい時代へ移る真っ只中にいる。企業のイノベーションを力強く後押しする」と強調。加えて「安全で安心なインフラが安定的に供給されるようグローバルな連携の下、戦略的に取り組んでいく」(日経2020/1/4)とも語る処です。

明けて1月20日、召集された通常国会冒頭、行われた安倍首相の施政方針演説は、今後の政権運営の方針を示すものと云え、冒頭、7年間の政権実績を振り返り「諦めの壁を打ち破ることができた」と自画自賛から始まるものでした。以下はその主たるポイントです。

まず、「成長戦略」では、第4次産業革命に国家戦略として取り組む。デジタル時代の規制
改革を進めると。そして事業規模26兆円に及ぶ経済対策を紹介し、海外発の下方リスクに
も万全を期すとし、「外交・安全保障」では、戦後外交を総決算し、新時代の日本外交を確
立する「正念場の1年」と位置付け、自由貿易の旗手として21世紀の経済秩序を世界へ
広げていくとし、「締め」では、国のかたちを語るのは憲法、その案を示すのは国会議員の
責任ではと質し、その責任を果たそうと、声をかけるものでした。

以上、内容的には特段の新味を覚えることはなく、ただ改憲の発言が出たとたん、議場は一瞬、沸きましたが、メデイアは、では「国のかたち」は?と問う事もなく、通常国会の冒頭で改憲案に言及するのは18年以来のことと、その辺の事情を説明するだけで、なんとも不甲斐なさなさを禁じ得ません。ただ、個人的には、そこで示された26兆円の経済対策にさほどの熱さを感じることがなかったことが印象的でした。 つまり、かつては経済対策、景気浮揚と云えば、田中角栄元首相の政治行動に象徴するような、公共投資を巡る与党政治家の利害が絡むバトルがあったものでしたが、今では公共投資は「新規」から「継続」にシフトしてきたと云われる通りで、そうした現場の変化を映すだけの事とは云え、そこには政治的熱気が伝わることもなく、安倍政権の賞味期限を感じさせる処でした。

ただ、安倍首相は2019年のG20大阪サミットでは国際的なルール作り「大阪トラック」を提唱しています。その節目が2020年6月のWTOの閣僚会議です。となれば、日本は米国と連携し、企業活動を害さないルールづくりを進めることが求められる筈です。その際大切なのは、膨大なデータの活用を原動力にデジタル社会の競争力を高めることではと、思料するのです。安倍首相には、「桜」が散ろうが、当該プロジェクトだけは口先だけでなく、完遂されんことを願うばかりです。

以上 (2020/1/26 記)
posted by 林川眞善 at 10:36| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする