2018年07月26日

2018年8月号  トランプ米国の対中制裁行動と習中国の構え、そして日本は - 林川眞善

目  次
          
はじめに  米安全保障政策文書「NSC-68」   

・「NSC-68」とトランプ大統領
・米中関税報復合戦

1.   トランプ政権の対中制裁行動

(1)トランプ大統領の思考様式
・保護主義関税は自傷行為
(2)トランプ政権が中国を標的とする事情
 
2. 習近平中国の国家戦略

(1) 習近平主席の構え
(2) 習中国の目指す外交戦略

3. American Retreat と日本の戦略

(1)日本はLiberal International Orderの再生を目指す
(2)保護主義の対抗軸

おわりに : Barry Eichengreen氏の証言    
         ―この夏、民主主義を思う
     
                 
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はじめに : 米安全保障政策文書「NSC-68」

・「NSC-68」とトランプ大統領
1950年にトルーマン米大統領の為に書かれたと云う文書がいま改めて関心を呼ぶ処です。その文書とは国家安全保障会議、NSCで準備された「NSC-68」と呼ばれる文書です。(1975年、機密指定を解除されている。) その中核にあるのは米ソ冷戦期にあって、米国の国益は国際的なリーダーシップを通じて追及するのが一番だと云う信念だとされるものですが、この土台石を、トランプ大統領はタタキ壊そうとしていると云うのは、ColumnistのPhillip Stephens氏です。(Trump has sounded US global retreat: Financial Times、2018/7/6 )

同氏によると、その文書には「現時点における我々の全体的な政策は、米国の体制が存続し、繁栄できる国際環境を育むよう設計された政策と表現できるかもしれない。このため政策は孤立の概念を拒絶し、国際社会に前向きに参加する必要性を是認する」とあるのです。そしてこれが、冷戦を超えて続き、われわれがいう西側諸国に米国を織り込ませた戦略だった、と云うのです。然し、トランプ氏の言動が鮮明としている事は、世界的なリーダーシップ、同盟関係、国際機関についてNSC-68の執筆者たちが立てた前提を受け入れないということで、彼の本能は、むしろ、米国は世界最強国として、相手が同盟国であれ敵国であれ、独自に2国間の条件を定めた方が良いと告げている事、だと云うのです。

このレンズを通して見ると、プーチン氏に対してトランプ氏が抱く敬意は容易に説明できると。つまり2人とも、強い指導者を自認していること。そして貴重なものは、強者が手に入れるべきであり、多国間の機関と規則は自分達を罠にかけるよう計算されており、それに「彼らが道徳主義と呼ぶものは国家観の関係には入り込む余地はないとする見方を共有していて、弱者については知った事ではない」との考にあると云うのです。

こうした考え方からは、イラン合意の破棄も、プーチン氏の言い分にも一理ある処、マクロン仏大統領には米国とのFTA協定のためにEU離脱を進言し、習近平氏から貿易問題で譲歩を引き出す見返りに、東アジアに対する米国の安全保障の確約を捨ててもいいと示唆するまでになっていると指摘するのです。そして、トランプ氏の向かう行き着く先は、西側の概念の喪失だと云うのです。そこで欧州のみならずアジアでも、米国の同盟国は自国の安全を守る方法を見つけねばならないとアドバイスするのです。

更に、かかる環境にあって大きな利益を得る勝者は、勿論、プーチン氏と習氏で、両者が共有する戦略的目標は予てトルーマン元大統領が描いた米国主導の秩序に終止符を打つことだったが、二人とも米国の大統領がこれほど貴重なものを米国自ら渡してくれる事になるとは絶対、想像できなかったはずだ、と断じるのです。因みに、トランプ大統領は7月16日、ヘルシンキでプーチン大統領と会談、米ロ関係の改善を演出しています。そもそも通商、安保政策を巡り、NATO首脳会議(7月11/12日)では欧州の同盟国と亀裂を広げている中での米ロ接近です。これがロシアを利し、世界を一段と不安に追い立てる処と、友人から届いたJ.McCAIN米上院議員の米ロ首脳会談へのコメントは、‘悲惨なもの、tragic mistake’と、同じ共和党員乍らの酷評です。

・米中関税報復合戦
さて、7月6日、トランプ米政権は、先の鉄鋼、アルミへの関税引き上げに続き、中国を特定した同国よる知財権侵害への制裁措置として、産業用ロボット等340億ドル分の中国製品(818品目)に対して、25%の輸入関税実施を発動しました。中国も同日、これに対抗、数時間後、同規模の米国製品(自動車、大豆等、545品目)に25%の関税の上乗せ実施を決定しました。更に7月10日には、トランプ政権は6日の中国の報復行為に対して再び制裁関税の追加措置(内容は衣料品や食料品等2千億ドル相当の6031品目の輸入に対して10%の追加関税を課すとするもの)を公表。発動は9月以降との由ですが、これに対しても、中国は更なる報復に出る構えを示していますが、まさに米中の二大経済大国が高関税をかけあう貿易戦争の様相すら呈する処です。

戦後、米国(Nixon、Reagan、Bush Sr. 時代)で起きた貿易戦争は短期間、しかも全て米国の優位を受け入れた相手国が譲歩しているのですが、今次のそれは、揃って報復行動に出ている点で、米主導の覇権秩序に順応しないと云った意思表明ともとれ、米国を巡る力関係の変化を目の当たりとする処です。 尚、ここで留意すべきは‘摩擦’の質的変化です。つまり米中摩擦は、かつての日米摩擦とは相似形ではないと云う事です。米国が赤字相手国、中国に制裁で圧力をかける点では同じですが、後述するようにサプライチェーンが複雑に走る構造や、互いの市場を必要とする米中の依存関係は、当時の日米のそれとは次元を異にする処です。加えて、政府と企業が同一線上にあるとは限らない点で、言い換えれば政権から遠い企業が淘汰される国内戦争の側面のある事も留意していくべきとされる処です。

いずれにせよ、この戦争が、誰の勝利に終わり、どのように妥協がなされようとも、もはやこれまでの自由貿易秩序は以前とは変わった姿になるであろうし、米中関係、米国とEUなど同盟国の関係も調整されていく事になるものと思料するのです。実は、今次の貿易戦争の本当の深刻さはここにあるのではと思料する処です。
 
そこで以下では、トランプ米政権の仕掛ける対中制裁行動の内実と、これを受けて立つ習近平中国の姿勢、更に新環境の下、日本が目指すべき外交政策について考察することとします。


1. トランプ政権の対中制裁行動
(1)トランプ大統領の思考様式
周知の通りトランプ氏は、外国からの大量輸入が米国の産業を衰退させ、雇用を奪ってきたとし、それを象徴するのが米国の貿易赤字だとし、その赤字を「悪」とも呼び、従ってその悪の解消のためには当該国との二国間貿易のインバランスの是正、輸入の抑制が不可欠と、今年3月以来、関係国に対して関税の引き上げを繰り返してきています。そもそも当該国の貿易収支は当該国の貯蓄(S)と投資(I)の関係で決まってくる話であって(マクロ経済理論で云うI-S均衡理論)、関税操作で貿易インバランスを改善させ得る話ではないのです。
そうした論理にはお構いなく、トランプ氏は輸入関税を引き上げ、その事で相手国に市場開放を促し、輸出を増す事で米国の経済・労働者はメリットを受けるはずと、固く信じているようです。勿論、そうした思考様式は、戦後一貫して米国が主導してきた自由主義貿易に背を向ける行動の他なく、先のカナダでのG7首脳会議でのトランプ米国と他の自由主義メンバー6か国との離反も、そうした事情を映す処です。

・保護主義関税は自傷行為
それでも、国内産業保護の為には輸入の抑制が必要と、トランプ氏が輸入関税を引き上げる行為は、結果として相手国の報復措置を生み、自国内経済を傷める、まさに自傷行為となる処です。今日のグローバル化経済にあってはサプライ・チェインの多国化で、例えば中国製品であっても中国進出の米企業が作るケースが多く、これが米国に輸入される場合、中国製品として高関税措置が実施されるわけで、その結果は米企業の収益構造を傷つけることになる一方、中国の報復措置で米国を拠点として対中取引を目指す企業も大きなダメージを受けることで、新たに生産拠点の見直しが不可避となる処です。 因みに米国のシンボルとも言われるオートバイ、ハーレー・ダビッドソンは米国輸出の目玉商品ですが、中国や欧州での対米製品への報復関税のリスクを避けるべく、米国での生産を他国にシフトする事を決定していますが、云うまでもなく雇用機会の減少に繋がる処です。

勿論、今次の米中貿易摩擦は、製造業のみならず米国農家をも直撃する処です。つまり米国の大豆や綿花などは中国輸出での最大の戦略アイテムですが、中国の報復関税措置では、それ等、農産物を標的としており、従って市場では中国向け輸出が減少するとの見方が広がり、大豆先物は直近高値から20%近く下落したと報じられています。9月からの収穫期まで、価格低迷が続けば生産者の収入が減り、トランプ氏への支持が揺るぎかねないのではと観測される処、既にこうした打撃を受ける米農業団体と一部経済団体からは抗議の声が上がっている処です。(日経夕、7月7日)

然し、いま輸入関税の引き上げを通じて、外国企業から国内企業を保護し、雇用を確保すると強硬に振舞うトランプ氏の姿は、まさにBull in a china shopの如きと映る処、それは今秋の中間選挙に備えたTrump first行動の他ならないのです。
今日のグローバル化が進み各国の相互依存が増した世界では、関税の引き上げ合戦は国内産業や雇用の保護にはつながる事はなく、結果として自らの経済をも傷付ける事になる、上述した通り、彼の制裁行動は自傷行為なのです。関税の報復合戦では、敗者はあっても勝者はないとされる所以です。

勿論これが米国内だけの話ではありません。中国に進出している米国企業についても、同様な結果を余儀なくされる処です。Financial Times (2018/6/21)が伝える同社コラムニスト、Mr. James Kynge のレポート‘ Increased tariffs will raise risks for US companies in China’ はまさにそれを検証せんばかりと云うものです。

Kynge氏は米企業が中国に進出して40年近く、現法として現地消費者向けに製品、サービスを販売し、非常に潤っていると云うのです。そして英系資産運用会社Aberdeen Standard Investmentの話として米企業のナイキ、スターバックス等の現地子会社の売り上げは貿易収支や経常収支には現れないが米国の対中輸出額を大幅に上回っていると指摘するのです。

更に、米国の直近統計では、米企業の中国現法の2015年の総売り上げは2219億ドル、これら成果は170万もの現地従業員に負うものとされ、米国での中国企業の存在感は薄さに比し、言うなればそのexposureが指摘される処、貿易を巡り米中の緊張が高まれば、中国内の米企業は格好の攻撃対象となる可能性があると、以前、日本や韓国との関係が悪化したとき中国では日本製品や韓国製品の不買運動が起きた事をリファーし、指摘するのです。
つまり、中国現法を持つ米企業にとって目下の懸念は、中国が貿易制限措置だけでなくナショナリズムに訴えて報復してきそうなこと、と云うのでした。そして特に影響の出そうなのは、米国への中国人観光客だと云うのです。つまり、中国人観光客が昨年、米国で使った金額は、大豆や航空機、電気機械など米国のどの品目の対中輸出額を上回ったと云う事でしたが、問題はトランプ政権のこうした事実に対する理解の如何という事なのですが。

更に、貿易の本丸商品 ‘自動車 ’へのインパクトは、よりglobalな問題としてある処です。中国は今次のトランプ対中制裁関税に対抗して米国から輸入する自動車に対して40%の高関税を課すこととしています。これが米国を対中輸出の拠点として米国に進出している独BMWとダイムラーが大きく影響を受ける処、中国企業傘下で復活したスエーデンのボルボも米国でのシェア拡大と併せ新たな輸出拠点とすべく、昨年9月,トランプ氏の要求に応える形で、サウス・カロナイナ州に工場の新設を行っていますが、トランプ政権が示唆する輸入車への追加関税のリスクは下がるものの、「貿易戦争」が始まれば欧州や中国への輸出戦略に狂いが生じる事ともなり、トランプ氏の強硬姿勢とそれに応じた企業の対米投資が「もろ刃の刃」であることを示す処です。

因みに、Financial Times, Jun.22,2018, でも‘ Daimler and BMW face hard road in trade wars ’と題する特集で、米国最大の自動車輸出企業となっているBMWとダイムラーの両社は過去何十年も、トランプ大統領率いる共和党を支持する諸州に投資してきたが、今回の中国の対米報復関税が決まった事で、彼らは40%の関税の対象となってしまった。米中貿易戦争が齎す厄介な、皮肉のひとつは、BMWとダイムラーが最大の負け組になる事と、指摘するのです。
更にこうも指摘するのです。「関税や保護貿易主義を以って強力な自動車産業を育成する国はこれまでも存在していた。韓国、日本、中国などだ。これらの国は自国の産業が世界と伍す競争力を付けた段階で、障壁を引き下げた。従って、こうしたやり方はありだが、トランプ氏のやっている事はこれとは異なる。彼は基盤の確立した極めて強固な産業を関税で保護しようとしている。こうしたやり方が雇用創出に結びついた実証的な証拠はない」と。

(2)トランプ政権が中国を標的とする事情

処で、トランプ政権の制裁政策がなぜに中国をターゲットとするかです。
トランプ氏は上記の通りかたくなまでの貿易インバランスに対する思いにあって、米国の対中赤字幅の大きさにある処、殊、対中政策についてはトランプ政権の通商ブレーンを担う大統領補佐官で対中強硬派とされるピーター・ナバロ氏が中心となって取りまとめられた、通商戦略指針「ナバロ文書」(注)が下敷きとなっているとされています。

  (注)ナバロ文書のポイント(日経、2018/7/2)
    ・世界貿易はペテン師にやり込められれている。中国は最大のペテン師であり、米国にとって最大
の貿易赤字国でもある。
  ・1947年から2001年までの米経済の平均成長率は3.5%. 02年以降は1.9%だ。その一因は、2001
年の中国によるWTO加盟だ。
  ・トランプ政権は我慢しない。貿易の不正が続くなら、防衛的な関税を課す。
    尚、2018年1~6月期の中国の対米黒字は最大の1,337億ドル、前年同期比14%増。(7/13発表)

序で乍ら、このナバロ氏についてハーバード大教授のケネス・ロゴフ氏は、トランプ政権が仕掛ける米中貿易戦争に係る日経記者とのインタビュで、「米国ほど自由貿易の恩恵を受けている国はない。ナバロ大統領補佐官はハーバード大の博士号を持つが、巨額の貿易黒字で中国が米国から搾取しているという理論は強烈な無知だ」(日経7月10日)と一刀両断です。

・狙いは「中国製造2025」の阻止
しかしその本丸とするのは、実は習近平中国が進める産業政策「中国製造2025」の阻止にあると伝えられています。つまり、米国は、ハイテク分野で猛追を続ける中国の現状に強い懸念を覚え、企業は、そうしたハイテクや知財権が生み出す経済的権益が失われていく事を悔やむ一方、国家安全保障を重視するタカ派は、米国のハイテクの牙城が崩れたときに起こり得る地政学的結果を不安がっている為と、指摘される処です。中国製品への関税政策はこうした懸念を反映するものであり、中国企業による米ハイテク企業の買収を差し止めるのも、そうした潜在的脅威に対する直接的な反応だと云われる処です。

・遅きに失したハイテク狙いの対中制裁措置
だが、こうした米国の対中制裁はもはやout of timingと云うのはMr. Adair Turner(a former chairman of the UK’s Financial Services Authority)です。彼は自身の論考「Trade Barriers Will Not Stop China’s Rise」 (July 9,2018,Project Syndicate )で次のように指摘するのです。
つまり、1980年代や90年代に米政府が米企業に中国への投資を禁じていれば、中国の隆盛はずっと遅くなっていた筈だと。だが現実はそうした事態の起こる事もなかったことで、中国の隆盛は今では自律的なものになっていると云うのです。
因みに、中国企業はAIや電気自動車、再生可能エネルギー分野で最先端のイノベーターとなりつつあると云うのです。「中国製造2025」計画は、国内で進むR&Dに支えられた高付加価値製造業へのシフトを促すだろうし、今になって米国が貿易や投資の門戸を閉じたとしても、中国が経済的、政治的に力を付けていくことに、殆ど影響することもなく、巨大な国内市場がますます豊かになっていくとすれば、成長の原動力としての輸出の必要性は薄れていくと云うのです。元より、それは更なる世界貿易構造の変化を示唆する処です。

・もう一つの事情
もう一つ留意されるべきは、米大企業の間で、対中不満が高まりだしてきていると云う事情です。これまで米大企業はSino-infatuation、中国一辺倒にあって、中国ビジネスで好業績を上げており、恩恵を受けてきたとされる処です。が、近時、中国での事業投資を巡っての不満が高まってきたことで、そうしたムードが一変してきたと云うものです。

当初中国は、巨大な国内市場を開放すると約束していました。が、今では一部産業から外資企業は締め出されていることの問題、中国企業との合弁を組む際の知財権の扱いの問題、中国企業に与えられる政府からの低利融資問題等、自分たちが中国から不当な扱いを受けていると、考えるようになってきた事が米中貿易戦争を暗に支持する処、事によっては米中貿易戦争がより政治主導でエスカレートしていくのではと、The Economist (2018/6/30) は論考`Raging against Beijing’を以って、経営者はより冷静な対応をと警鐘を鳴らすのです。

要は、大企業が今、タカ派に転じてきたことでホワイトハウスが勢いづいてしまい、財務省、商務省よりも好戦的になってしまったことを問題とする処ですが、米政府が制裁関税を更に広げていくとなると、米国に比して輸入量の少ない中国としては、もはや報復関税の対象にできそうな米国からの輸入製品の選択肢がなくなりつつあり、報復合戦の次のスッテプは米国企業の中国子会社をたたく事になるのではと憶測される処です。とすれば貿易戦争は更に政治主導となってエスカレート、長期化することになるのではと憂慮される処、既にトランプ氏は成果が得られない限りこの制裁措置は無期限だと広言するのです。


ではトランプ政権が繰り出す攻撃的な措置にどう対抗すべきか。もはや、個別対抗云々よりは、この際は世界経済の実情に即したWTOの構造改革に向かうべきではと思料するのです。近着The Economist(7/21~27号)では、` to save the WTO’ と題して、Global tradeは今、死に体にあるがそれでも救済の機会はある`there is still a chance of rescue’と、後出(P.11)「日欧EPA協定」をリフアーし、そこには米国の対中批判と共有できる要素が含まれているとして、以ってWTOの改革、再生の道の可能性を指摘しています。別途、研究を進めたいと思う処です。


2. 習近平中国の国家戦略
(1)習近平主席の構え

さて中国は7月6日の米側の制裁措置を受け、同じ日、報復関税措置を決定したことは前述の通りですが、筆者が注目したのは、決定に当たって映る中国側(商務省)の姿勢でした。つまり、「中国は先に引き金を引かない約束をした。(7月5日の記者会見で、中国は米国よりけっして先に引き金を引かないと発言) ただ、国家の核心利益と人民の利益を守るために必要な反撃をせざるを得ない」(日経夕2018/7/6)とする声明を出していましたが、その報復決定の時間差に感じられるのは、中国当局の習氏に対する配慮が、米中関係への配慮と重なる瞬間があってのことと推測するのです。

周知の通り、今年2月、国家主席の任期撤廃の憲法改正で長期政権が担保された習主席は、いま「中華民族の偉大な復興」を掲げると共に、人民共和国、建国100年を迎える2049年に「世界の製造強国の先頭グループ入り」を目指す長期戦略を擁し、トランプ政権が最も気にする「中国製造2025」をその長期戦略の第一歩と位置付け、邁進する処です。
つまり、トランプ氏は特段の理念を語ることなく、唯々Trump first, 自身の支持票田firstの中間選挙目当ての政治であるのに対し、習氏は上述、国家理念を掲げ、「中国製造2025」を擁した中長期の視点に立った政治に自信を持つ処、ゆとりすら感じさせられると云うものです。勿論、共産主義と云う特異な政治環境がそれを担保する処です。

そして、その習氏については今、 ‘the hallowed status in China of Mr. Xi himself ’(習氏の神格化)(Why the Communist Party wants to dial down the hype: The Economist ,July 14)が取りざたされる処です。従ってそれに傷が付くことのないように、とりわけ対米関係において、当局は国内で非難の起こることのないよう「冷静さと理性」をと、指導していると報じられている処、従って当該時間差は、そうした文脈の交叉を映す処ではと思料するのです。

(2)習中国が目指す外交戦略

そうした習氏を巡る環境下、6月22・23日、北京では「中国中央外事工作会議」が開催されています。この会議の目的は、中国の新たな対外戦略や外交政策の目標を打ち出すことにあり、これまで2006年と2014年の2回しか開かれてはいないものですが、今回の会議には、中国共産党政治局常務委員7人の全員の他、王岐山国家副主席や人民解放軍、党中央宣伝部、商務省の最高幹部らも出席。米駐在中国大使も含まれていた由で、超大国米国を強く意識した会議であったことを伺わせる処です。

さて習主席はこれからの外交政策について3つに分けて説明したと云われています。
① 大国関係はうまく整え、安定的でバランスよい関係に向けた枠組み作り:要は、中国はグローバルな統治を刷新し、同時に世界における影響力の増大を目指すというもの、
② 周辺外交に取り組み:中国は自国の主権、安全保障、発展的利益を守り、現在よりもグローバルなパートナーシップ関係の良い輪をつくっていく事、
③ 発展途上国対応:途上国は「同盟軍」であり、強力と団結に取り組む。そして、新たな国際秩序構築のため、巨大経済圏構想「一帯一路」や「AIIB」を更に発展させる。新しいスタイルの国際関係は「ウイン・ウイン」であり、互恵である事、と云う。
(日経2018/7/11 & China Daily 2018/6/28)

これまで習指導部は「対米関係を重視するあまり、米国の動きに対処する‘反応式外交’に陥っている」と指摘されていたようですが、何か安倍政治に似る処ですが、トランプ政権が対中強硬政策に転じた事で、習政権も対抗路線を明確にする処となったと云える処です。それはいずれ中国の時代が来る。ただ現時点では米国の力が強大であり、従って周辺諸国や発展途上国と連携して国力を高め、機が熟すのを待つ、と言った姿勢と思料されるのです。

これまで中国は、太平洋を巡り米国との二分統治の発想を訴えていました。が、トランプ政
権の対中攻勢を受けるなか、この「米中二分論」を修正し、友好国を増やして長期的に米国
と対峙していこうとする、つまりは中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると宣言したよ
うなものとも言えそうです。 因みに、先のG7首脳カナダ会議(6月8・9日)とtiming
を同じくする如くに6月10日、中国山東省では中国、ロシア等8か国による「上海協力機
構(SCO)首脳会議」(注)が行われ、議長国の習近平氏は反保護主義を掲げ、亀裂が深まる
G7への対抗軸として中ロ主導の枠組みをアッピールする処です。

 (注)上海協力機構:ソ連崩壊後、1996年4月に初めて集まった上海フアイブ(中国、ロシア、カ
ザフスタン、キルギス、タジキスタン)を前身とする協力機構で、2001年にウズベキスタンが加
わり「上海協力機構」となったもの。現在、地域の安全保障、経済協力について話し合う場に。


3.American Retreatと日本の戦略

(1)日本はLiberal International Order(LIO)の再生を目指す

本稿、冒頭で紹介したStephens氏は新たな国際環境に照らし、つまりAmerican retreatの
現実に照らし欧州のみならずアジアでも米国抜きで自国の安全を守る方法を見つけるべしとアドバイスしていました。そこで思い起こされるのが昨年の5月、米Princeton 大教授のG. John Ikenberry氏が「The Plot against American foreign policy-Can the Liberal order survive?」(Foreign Affairs, May/June,2017)で展開していた提言です。

その趣旨は、戦後70年間、これまで米国が主導してきた国際協調の枠組みを壊していくトランプ外交政策のリアルを地政学的切り口から解析、批判し、その対抗として、Liberal international order( LIO:自由で開かれた国際協調秩序)を取り戻せというものでした。つまり、America first を掲げるトランプ政権の誕生で、米国は戦後果たしてきた‘Liberal international order’ ( LIO)を守る役割を放棄したやに振舞っているが、おそらくそれは失敗に終わるだろうから、世界のnew leaderは連携して「LIO」の再生を目指せというものでした。そしてその際、アイケンベリー教授は、日本の安倍首相とドイツのメルケル首相を特定し、米国がその責任を放棄した今、LIOの再生、つまり民主主義促進外交は、この二人の双肩にかかると云い、具体的には、米国のretreatでアジアは米国抜きの地域秩序に向かうだろうから安倍首相はTPPをモデルに自由貿易を進め、一方メルケル首相には道徳的な旗印を掲げ続けるべしと、主張するものでした。

果たせるかな、こうした提言に応える形で今、二つの自由貿易協定が生まれました。一つは,日本が主導した「TPP協定」(Trans-Pacific Partnership)で、この3月、各国の調印を得、国内的には6月29日、国会批准を終えています。もう一つは日本と欧州の連携による広域自由貿易協定「日欧EPA協定」(Japan-EU Economic Partnership Agreement)で 7月17日、,東京で調印。これら二つの協定が齎す自由貿易圏規模は世界GDPの4割強です。

前者はまさにアイケンベリー氏の提案に応えるものと言うべく、日本の通商と安全保障、そして地域秩序の長期的な戦略を構築していく上で不可欠となる処です。一方、後者は民主主義を基軸とする先進国が一体となる一大自由貿易圏の形成です。いずれもトランプ米国が主導する保護主義への明確な対抗軸となる処、とりわけ日欧EPAについては、前述(P.8)の通りで、WTO改革機運にも繋がる要素も指摘される処、その進化が期待される処です。

(2)保護主義の対抗軸

今次の上記締結を弾みに、南米諸国との自由貿易協定交渉他、多国間協定の交渉が加速する状況が生まれてきています。

7月1日、安倍首相はRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership)の貿易関係閣僚会合を東京で主催していますが、以って、日本としてRCEPへの参加意向を公式に示す処となっています。この大規模会合がASEAN非加盟国で開かれたのは初めてとの由で、活動の活発化を示唆する処です。

さて、RCEP(東アジア地域包括経済連携)の構成はASEAN加盟10か国に加え、ASEANが2国間貿易協定を結んでいるアジア太平洋地域のオーストラリア、インド、中国、日本、ニュージランド、韓国が参加するものです。このRCEPはTPPに比べ緩やかな枠組みですが、基本的には中国が入っている点がこれまでも問題となってきていました。つまり、米政権では開かれた貿易への姿勢に疑問符が付く中国によって弱体化されることを嫌って、TPPで築きたいとの意図を明確にしていたものでしたが、その米国が開かれた貿易を敵視する今、地域統合に資するものとして推進されるようになっています。交易により繁栄してきた国々にとっては、どんな貿易協定であっても新たな価値があると云うものでしょうか。

勿論、それでも彼らの構えには違和感を禁じ得ません。そこでこの際は、日中首脳の相互訪問が具体的俎上に上る環境にも照らし、日本として改めて中国をも包み込む対アジア長期ビジョンを描くときではと思料するのです。つまり世界の日本たるの矜持を新とし、以ってこうした期待に応えていくよう戦略整備を図るべきと思料するのです。

・日本にとって有為な安全保障
アジアでは様々な形で深く結びついています。こうした動きは貿易の流れを抜本的に見直す好機とも言え、そこには新たな可能性の伝わる処です。そして、何よりもこうした連携の深まりこそは、日本にとって極めて有為な安全保障と思料するのです。


おわりに : Barry Eichengreen氏の証言
         ―この夏、民主主義を思う

筆者は毎月、経済時事解析と称して定例の論考を書き続けていますが今年、半年を終えた今、それらを読み返すに、世界の変化の激しさを改めて痛感させられる処です。

その変化は、一言で言えば今日までの世界を支えてきた経済、政治の枠組みの破壊プロセスの他なく、この変化を助長するのが超大国米国の大統領として登場したドナルド・トランプ氏のAmerica firstとする言動にある事は云うまでもありません。そして、それが映しだす現実は、基本的に寛容な民主主義を標榜してきたはずの先進国の多くで浮彫されるポピュリズムの台頭であり、政治の流れは「反エスタブリッシュ」、「反移民・難民」に傾き強権的な手法を掲げる政権が増加する姿です。そうした流れが民主国家間の連携に亀裂を深めるなか、その恩恵(?)を映す形で、中国そしてロシアが覇権国家としての地歩を固める様相にあります。まさに、本稿冒頭のStephens氏コメントを目の当たりとする思いです。

これら変化は、今後も民主主義と云う政治体制がベストだとする日米欧の伝統的な価値観を揺さぶりつづけることでしょうし、伝統的な価値観を信奉する人々とそうでもない若い世代などの間で先鋭的な政治対立が生じる場面がこれからも頻繁にみられるに違いないものと思料させる処です。その点で、日本としても、自らの政治のあるべき姿をより具体的に明示していく事が不可避となっていくものと、改めてその思いを深くする処です。


処で、そうした中、筆者が主宰する社会人のための勉強会で塾生の一人が、今次の米中摩擦の現状に照らしながら、「今の安倍政治には、政治の何たるかのdiscipline もなく、議論は深まることなく、非生産的で無駄ばかりだ。その点、習近平政治は目標、手法において明快であり、イデオロギーはともかく、それを見習っていくべきでは」とコメントするのでした。

確かに中国経済の現状は、問題を抱えてはいるものの、その躍進ははっきり見て取れ、今後20年以内にGDPで米国を凌駕することになる事も理解される処です。既に中国は世界で1、2を競う貿易大国です。また例の新シルクロード経済圏構想「一帯一路」を推進する中、対外投資は更に活発化しており、ユーラシア大陸に位置する国々との経済関係も深める等、何よりも中国を魅力付けているのが経済的な成功を続けている事にある処です。 

こうした状況を目の当たりとするとき、新興の諸国にとって中国は見習うべき手本と映る処でしょう。とりわけ上述、西側民主主義陣営が経験している昨今の混乱を見るにつけ、民主主義のプロセスはコストがかかり、結果も信頼できないと映る一方で、中国のアプローチは相応に魅力をよぶ処、中央集権的な統治を取り入れている中国の政治体制に魅力を感じる向きが多くなってきていると言えそうです。

  
然し、そうなれば民主主義の未来は危ぶまれると叫ぶのは、米UC Berkeley教授のアイケングリーン氏です。彼は自身の論考「China and the Future of Democracy」 (May 10, 2018 , Project Syndicate) で,その懸念と併せ、重要な要素が見落されていると警鐘を鳴らすのです。

つまり、民主主義は確かに面倒なものかもしれない。然し、そこには軌道修正メカニズムが生来備わっている。政策がうまくいかなかった場合、その責任を負う政治家はその後の選挙で再選されない可能性があり、実際、そうなることは多いし、少なくとも建前上は、もっと能力のある人物に取って代わられる筈と。然し、独裁的な政治体制ではこうした自動調整メカニズムが働かない。失敗した政策についてイチかバチかの賭けにでることもあるが、彼らに別の政策を選ばせる正当な手順は存在しないことが問題と指摘するのです。筆者流に言えば check & balanceの機能のないことが最大の問題とされる処です。

中国が世界の大国としてその存在の重みを増しているのは明らかです。が、アイケングリーン氏は今後も長期的に中国が経済成長を続けるにしても、いずれ問題に直面することになるだろうが、その際、中国の指導者は自らの過ちを認め、政策を修正する保証はどこにもない事が問題だと云うのです。つまり、そうなった時、中国の強権的な政治スタイルは魅力を失うだろうし、政権が市民社会を厳しく弾圧するなら尚のことと云い、そう考えるとやはり民主主義に未来はあるのかもしれないと云うのです。勿論、その未来を信じたいと思うばかりです。以って、民主主義の再定義がこの夏、筆者にとっての課題となる処です。
以上 (2018/7/26記)
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2018年06月28日

2018年7月号  グローバリゼーションの行方 - 林川眞善 

目  次

はじめに `Post Trump’ に備える     

1. トランプ米国 対 中堅国家   

(1)Middle powers of the world must unite  
(2)日欧関係の進化が意味する事
              
2.世界経済は新たなグローバル化に向かう ・・P.7

(1) グローバリゼーションは新時代
(2) Digitalization と地勢環境
(3) 新時代のグローバル化とその課題

おわりに グローバリゼーション、民主主義、国家主権
                                
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はじめに ‘Post Trump’ に備える

・壊し屋トランプ
6月11日付、夕刊各紙に掲載されたメルケル独首相がトランプ米大統領を説きふせんと迫る状況写真は、カナダで行われたG7サミット会議(6月8・9日)での場面写真ですが(実際は9日午前にドイツ政府が提供し、APが流したものの由)、まさに映画の一コマを思わせんばかりとするものでしたが、これが何よりも自由貿易の危機を映す姿と、世界を駆け巡ったとされるものでした。そして、その直後、議長国カナダのトルドー首相が取り纏めて発表したサミットの共同声明について、トランプ氏は「保護主義と戦い続ける」との文言が盛り込まれているとして、当該声明を拒否するとツイッターに書き込んだという由ですが、全会一致でない首脳宣言は初めてというものでした。
1975年11月、’73年のオイルショックによる混乱の収拾、それに続く世界的不況への対策等について話し合うため、自由主義陣営の主要先進国による初のサミット会議が仏ランブイエで行われていますが、それから40余年、それがトランプ米大統領によって混沌の淵につき落とされた、まさにそんな様相を映す処です。

米国がEU諸国や日本、カナダなどと維持してきた同盟関係は、世界の安定に欠かせない「国際公共財」と云うものですし、もとよりそれは米国の国益の支えでもある筈です。が、残念ながらトランプ氏にはそういった発想はうかがえません。
つまり,トランプ政権が進める保護主義貿易政策は、結局は同盟国に対してまでも貿易インバランス解消の為として高関税の実施を始めるなどで、先進国仲間に深い亀裂を齎し、今やG7もG6プラス1と言われるほどに「西側同盟の終焉」かと思わせるような状況を露わとしてきています。これまで戦後世界は大国米国が主導する自由主義貿易を枠組みとして成長発展してきたものですが、その米国が180度異にした、後ろ向きの保護主義的行動に転じたため、グローバル経済の枠組みが変調をきたし、自由貿易の基本的枠組みと云うべきWTO体制をも揺るがすほどになってきたと云うものです。 序でながら、そうした事態は、廻りまわって中国の覇権主義に力を貸す処です。

先の‘パリ協定からの離脱’、‘イラン核合意’からの離脱‘、‘TPPからの離脱’、‘NAFTA協定の改正’、更には国連人権委員会からの離脱、等々トランプ氏はアメリカ・フアーストをもって国際的連携体制を忌避し、それでなお「尊敬されるアメリカの再生を目指す」と豪語?していますが、エコノミスト誌(6月9日)は、そうした彼を`Demolition man’(壊しや)と称し、彼の行為は取り壊し作業で使う鉄球を同盟国にぶち当てる様だが、コスト・ベネフィットから見て米国や世界にとって極めて不合理かつ危険なことと、訴えていたのです。(注)

   (注)・・・ From a man who exults in breaking foreign -policy taboos, they would be
truly remarkable. But are they likely? And when Mr. Trump seeks to bring them
about with a wrecking ball aimed at allies and global institutions, what is the balance
of costs and benefits to America and the world?

こうした中、6月14日IMFが公表した対米審査概要では、米国の中期経済見通しについて大型減税と歳出拡大で2018年、2019年ではトランプ政権が目指す3% 近い成長を予想するも2020年以降、実質成長率が大きく減速するとの予想を示しています。(2018:2.9% 2019:2.7%, 2020:1.9%,2021:1.7%, 2022: 1.5%,2023: 1.4%)そしてトランプ政権が仕掛ける「貿易戦争」も米経済のリスク要因と強調していたのです。勿論、米財務省はこれに反論するところです。

同様に世銀も世界経済の来年以降の減速を予想していますが、さて、いまリーマン危機時、世界は団結して、政策協調や反保護主義を打ち上げ、危機脱出を図ってきましたが、トランプ氏にかき回される環境にあって、世界が不況に陥った時、世界は一つになれるかと不安の大きくよぎる処です。トランプ旋風でかき回される世界経済を如何にmanageすべきか、まさにAmerica first への対抗に世界はいま苦悶する処です。

・ポスト・トランプに備える
そうした環境ながら、もはや考えておかねばならないのがポスト・トランプ、トランプ後の米国経済であり世界経済の在り姿です。

つまり、世界経済の公共財とも言える自由主義貿易を基軸としたグローバル・システムがトランプ大統領の出現で否定され、彼が仕掛けた関税引き上げは貿易戦争の様相を呈し始めるなど、世界経済はいまstand-stillの様相にありますが、ではトランプ後、つまり最長2期、6年として、彼が去る2023年後には、元のグローバル経済に戻ることになるのかと言うと、そうは考えにくいのではと思料するのです。というのも世界経済はトランプ登場前からDigitalizationの急速な進行で構造変化が進むなか、新経済大国の中国が世界経済にフルに参加してきたことで更なる変化の中にある処ですが、従って今起きているトランプ現象も、そうした構造変化の流れの上での表出と思料されるからです。

もう一つは、東アジアを巡る国際政治環境の構造的変化が進みだした事です。先の米朝首脳会談の結果(弊論考特別号、6月13日付)、米朝の対立関係の解消が進み、米朝首脳のダイレクト対話が可能になってきた事で、これまでの様に、北朝鮮対応について中国に気遣いする必要がなくなった環境が生まれた一方、中国習主席が米朝会談を通じて北朝鮮金委員長の後見人役を果たしたことで中朝関係の急速な改善が進んできた事で、東アジアを巡っての新たな覇権構図が生まれてきたことです。つまり米中共に、自在の戦略を以って行動ができるようになってきたと云うもので、かつての「米ソ対立」に代わる「米中対立」の構図が指摘されるようになってきたと云うものです。因みに、目下世界的な貿易戦争に広がるのではと懸念されている米中貿易摩擦の実相とは、そうした環境変化で対中関税を控える理由がなくなった事で、トランプ政権が仕掛けた結果と云うものです。

こうした環境変化を踏まえるとき、トランプ後の世界経済がこれまでのように経験してきたグローバル経済に戻る事は考えにくいと思料するのです。とすれば、トランプ対抗戦略もさることながら、ポスト・トランプへの対応戦略が同時に求められる処と思料するのです。もとより、米中のはざまにあってこれから日本はどういった形を以って明日を切り開いていくか、大きな問題であること、予て筆者の問う処です。

さて、6月11日付Financial Times はその社説`President Trump goes rogue at the G7’で、G7で見せたトランプ大統領の‘狼藉’な振舞いについて、事態は想像していた以上に最悪だと評した上で ‘Other democracies must band together to resist global trade war’と、民主主義の先進諸国に向けて、グローバル貿易戦争に対抗して団結すべきと檄を飛ばしていたのです。 それに先立つ5月29日、偶々手にしたFinancial Timesが伝えるコラム` Middle powers of the world must unite ‘(中堅国家は団結を)は、そうした檄に応えうる一つと映る処、世界経済の構造変化への対応と云う視点を踏まえながら、America firstへの対抗軸としてG7の再生を視野に入れた、自由陣営の連携強化への道を提唱するものでした。

更に‘Globalization’、いまや忘れられかけた感のある言葉ですが、その‘Globalization’の行方を示唆する論考にも対面したのです。Foreign Affairs(May/Jun2018)に掲載あった元米クリントン政権で経済諮問員会議長のLaura Tyson 氏とMcKinsey のパートナーであるSusan Lunda氏の両者による‘Globalization is not in retreat’(グローバリゼーションはなお前進する)と題する論稿でした。それは現下のトランプ米国が指向する内向き姿勢を批判しつつ、急速に進むDigitalizationによりグローバル化の流れは止まる事はなく、同時にそれへの対応準備をと、提言するものでした。要は ‘トランプ後の世界に向けた準備を’ と云うものです。

そこでこの際は、現実の動向に触れながら、この二つの文献をレビューすることとし、今後の変化を見通す上でのlogicに寄与していきたいと思料するのです。


1. トランプ米国 対 中堅国家

・いま世界は関税報復合戦で貿易戦争の様相
3月8日、米政府がEU、日本を含む貿易相手国に対し貿易インバラランス解消のためと、鉄鋼とアルミ製品への輸入に高関税を適用、輸入制限措置を取っていますが、その狙いは中国にあったとされるものでした。果せるかな、前述、米中関係の環境の変化もあり、6月15日には中国の知財権侵害への制裁措置だとして500億ドル分の中国製品に25%の追加関税の7月からの実施を決定したのです。その際、トランプ氏は中国が巨額補助金を拠出してハイテク産業を育成する「中国2025」を名指しで批判し、「中国は不公正な手法で米国の知財や技術を得ており、もはや耐えられな」(日経6月16日)との声明を出しています。これに対して中国政府は翌6月16日、農産品などに同規模で高関税をかける報復措置を発表。EUも22日には先の鉄鋼・アルミ輸入制限への対抗措置として、28億ユーロ(約3600億円)規模の米国からの輸入品に対して報復関税を発動しましたが、ロシアも対米関税の発動が伝えられる処です。かくして、米中のみならず米欧間の貿易を巡る対立、貿易摩擦が一段と先鋭化してきてきたというものです。勿論、関税の引き上げは安価な輸入品を減らし、物価高の要因となる処ですし、供給網が集中するアジアに飛び火することで、世界経済は深刻なリスクに晒される処となってきています。今世界は、まさに貿易戦争の様相です。

(1) Middle power of the world must unite

さて英紙Financial Times, May 29に投稿された同紙コラムニスト,Gideon Rachman氏の
‘ Middle power of the world must unite ’は、上述事情を踏まえ大国の暴走を止めるためには新たな非公式な同盟・団結をと、提唱するものでした。以下はその概要を紹介するものです。
 
・・・・・・・・米国と中国は国際合意の制約から抜け出し、力を振るって自らの目標を一方的に成就させたいという野望を強めている。ロシアも超大国と呼べるほどの経済力こそないが、核兵器を保有しており、領土拡張を進めている。そして、世界が少しずつ無法地帯化していく状況に大きく加担しているとした上で、こうした状況に対抗していく為には、以下、6か国による非公式な同盟関係をと、提唱するのです。中堅諸国よ立て!と云う処です

これまでの数十年間、先進自由諸国は、二つの柱に沿って国際社会での立場を固めてきた。その一つは、米国との強固な同盟関係であり、もう一つはEU、APEC,そしてNAFTAといった強力な地域集合体への加盟だったと云うのです。然し、トランプ氏が米国大統領に就いたことで世界はこうした前提がひっくり返る事態を迎え、欧州諸国とオーストラリア、日本、カナダは公にどんな声明を出したとしても、本音では米国が目指す方向に動揺している。
トランプ政権が推進する保護主義は、これらの国にとって経済的な利益を損なう脅威だ。何をしでかすかわからない上に孤立主義を取り始めた米国が、同盟国に対して十分な安全保障政策を実行できるのか、という疑問も生じてきているとし、そこで、利害を共通する国として6か国を挙げ、非公式な同盟関係を築くべきと提唱するのです。

つまり、こうした現状はドイツ、フランス、日本、英国等「中堅国家」にとってはジレンマで、彼らには超大国のように力で他国を威嚇することが出来ない。だが世界経済と安全保障に利害関係を持つ国際的ナプレーヤーの一員であり、ルールに基づく世界を必要とする。そして、中堅国家がこうした共通の課題を抱えている事実は、一つのチャンスであり、ルールを基本とする世界秩序を支えたいと考えるこれらの国々は、今こそ非公式な同盟を組むべきと云うのです。WTOの存続や、国際的な人権法及びグローバルな環境基準の持続といった課題に対し、一国で対応する事は不可能だが、集団でかかれば国力や軍事力ではなく、ルールと権利を軸とする世界を守ることが出来るかもしれない、と云うものです。。

中堅国家は自らの立場の調整と、貿易や気候変動、中東やアジアにおける平和実現への努力等、グローバルな問題に関する働きかけを強化すべきと云うのです。ただ、調整内容は「米国が平常に戻るまでの間、既存の国際秩序を維持する」ことになるかもしれず、また状況が芳しくなければ「自由主義的価値を守る為、代わりの仕組み作りに着手する」ことになるかもしれないとは云うのですが。

・グループ構成については、日本、ドイツ、英国、フランス、カナダ、オーストラリア(人口の多い順)の6か国をベースに対抗勢力を築くべきと云うのです。いずれも裕福な民主主義国家である事から、利害と価値観も似通っているだろう。また、主要な貿易国である事と、実質的な軍事力を持ち、自国軍を海外に派遣する意欲がある(日本は除く)ことも共通している。貿易や投資の範囲を超え、国際的な人権基準の保護をも含む国際規定の順守に関心を持つ点でも共通するものがあると云うのです。尚、中堅国同盟のメンバー候補は他にもある。韓国、南ア、イタリア、ブラジル等。然し、南アとブラジルは既にBRICSの一員である事、イタリアはトランプ流の愛国主義と保護主義に傾く可能性があること。韓国は足元で抱えている問題のせいで余裕がないとするのですが。

・中堅国家の纏め役は? 欧州とアジアには中堅国の利益を守るため、中国とロシアの支援を取り付けたいと考える向きもあるが、これは有望な手段にはならない。つまりプーチン大統領は武力を以って国際秩序の転覆をいとわない仁であり、信頼できるパートナーとは云えない。一方習近平主席の中国は、気候変動、貿易問題に対しては中堅国家に近い立場を取るが、中国は一党独裁国家で、自らの権威主義的価値観を国外で推し進めるようになってきた点で問題含みと。
従って、中堅国家を纏める上で、EUの役割は潜在的に重要だと云うのですが、ただし不確かなものでもあると云うのです。独・仏は、EUが一つの「超大国」として今後、中国や米国と肩を並べることも可能だろうとはしながらも、EU圏内には独裁色を帯びた政権やポピュリスト政権が出現してきている転移照らし、政治的な問題に関し、EUが共通の立場をとることはこれからどんどん難しくなるだろうとも云うのです。だが、殊、貿易となるとEUは一つの単位として機能している。つまり、トランプ政権が進める保護主義への強力な対抗勢力となり得ると云うものです。 ・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、「世界の中堅国家による同盟」等は実に奇妙なものであり、それを構築するのも難しいが、新しい時代には斬新な発想が求められている」・・・・と云うのです。さて、この発想に照らす時、彼の提唱は大いに考えられてしかるべきではと思う処です。

(2)日欧関係の進化が意味する事

さて、日本は7月 11日、ベルギー・ブラッセルで日本とEUの経済連携協定(EPA)に署名の見通しにあります。日欧EPAは2017年12月に妥結したものでこれには日本とEUで兄29か国が参加することになっています。これが実現されれば、人口で約6億人、世界GDPの約3割を占める自由貿易圏の誕生となるのです。日欧EPAの署名を急ぐのは、保護主義的な動きを強める米国の存在が大きく作用していると云うものです。この日欧EPA署名の実績と例のTPP11と合わせ、米国に対抗して自由貿易を推進していく姿勢を示していかんとするもので、上述、ラックマン氏提唱のcontextと同じくする処です。

既に先の特別号論考(6/13)では、EU外交安保上級代表のメゲリーニ氏から7月の日・EUのEPA調印を控え、経済協力・提携強化を通じて安保体制の強化を訴えてきたことを紹介しましたが、加えて驚くべきニューズが届いたのです。それは6月6日のドイツの連邦議会(下院)でのメルケル首相の発言で、耳を疑うほどに刺激的なものでした。(日経、2018/6/21)

その発言とは「ロシアを挟んで西にドイツ、東に日本。距離は離れているが日本とドイツは親密なパ-トナー」と、‘米ロより日本を重視する’ 考えを発信したことでした。当該記事によると、これはキリスト教民主同盟(CDU)のキーゼウエッタ議員の質問「傍若無人な米国と、中国の脅威と云う難局に直面するのは欧州も日本も同じ。ならば連携してはどうかか」へのリアクションだった由ですが、メルケル首相は単にリップサービスではなく本当に関係を深めたいと考えているとCDU筋は証言している由でした。さて、2012年、第2次安倍内閣が発足してからの彼女の対日観は極めて厳しいものがあった事は周知の処でした。

筆者は、こうした経済の提携強化こそが日本の実状に即した安全保障対応だと提唱してきましたが、今その思考様式が充填されてきたと認識する処です。太平洋を跨ぐ経済連携、TPPはまさにその象徴的存在と思料する処です。


2.世界経済は新たなグローバル化に向かう

クリントン政権で経済諮問委員会議長を務め現在、米UC Berkeley 大学院特別教授のLaura Tyson氏は、McKinsey & CompanyのPartner, Susan Lund 氏との論考‘Globalization is not in retreat’で、デイジタル技術の進歩とそれが齎す貿易の新たな姿を「新時代を迎えたグローバリゼーション」として展望し、グローバル化の後退はなく更に深化し、従ってそれへの備えに挑戦すべきと檄を飛ばすのです。まさにPost Trumpの在り姿を示唆する処です。
そこで、以下では当該論考をレビューすると共に、新しく現出が想定される事態に如何に備えていくか考察することとしたいと思います。

(1)グローバリゼーションは新時代

The New Era :米国は内向きになる一方EUと英国は離反する等、いま世界経済のリーダーシップが聊かの変調をきたしているが、これが即、グローバリゼーションが非グローバル化に向かっている事を意味するものではなく、変化の背景には急速に進むdigitalizationがあり、それが世界経済を新たな局面に向かわせている、つまり新時代に入ってきたと云うのです。そこでは、イノベーションや生産性の向上が進み、各種情報へのアクセスを高め、それが消費者と生産者の距離を縮める等、経済社会は大きく進化することになるが、一部には消えて行く産業、喪失するジョッブ等、崩壊現象は起り得べく、その点では企業も政府もそれへの対応準備が欠かせなくなっていくと云うのです。

因みに、1980年代から始まった輸送・通信のコストの急激な低減は、多角的自由貿易協定とも合わさって世界の貿易は急速に拡大、1986年~2008年ではモノ・サービスの貿易額は全世界のGDPの2倍もの速さで拡大してきました。が、以降の5年間は当時の不況を映す結果、その伸びは世界のGDPを凌ぐことはなく推移してきています。つまりGlobal value chainは部品製品の貿易取引に貢献してきましたが、当該効率化が成熟の域に達した事で、その効果は吸収されてしまったためだと云うのです。生産拠点は今後も労働賃金や生産要素価格の相対的に低い処を狙って移動していく事だろうがそれは単に貿易のパターンを変えるだけで、貿易全体の拡大にはつながっていないと云うのです。

然し、digital flowsの拡大、つまりe-mail やvideo streaming 、IoTが進む事でグローバル経済での結ばれ方が従来とは異にする構造的変化をきたし、しかもこのdigital flowはもっぱら先進国での動きだったのが新興国に蔓延しつつあることで今や、世界貿易の半分がdigital technology に依存する形となっていると云うのです。企業では商品の動きを追跡する情報機能を導入することで30%までも輸送時のロスをなくし得たと云い、世界の消費者は態々小売店に出向くことなく必要品を手にでき、2020年までにはe-commerce利用者は10数億人、年商は年1兆ドルに達すると見込まれているというのです。

処で、これまでグローバル化と云えば、大国が誘導するものとされてきたが、例えばEstoniaという僅か130万人の小国でもdigital化のお陰で、大国と伍していける状況が生まれてきており、いま注目されているのがe-government の成功であり、その枠組みの下でSkyepeの開発国としてEUの中の急成長国と位置付けられていると云うのです。勿論、こうしたDigital flows は世界企業の位置づけも反転させる処、巨大グローバル企業は長年経済の分野で支配的に動いていたが、digital platforms は小規模企業にも出番を与えるようになってきた事で、つまりはmicro -multinationalsが生まれてきたことでon-line market の拡大が予想されていると云うのです。

(2) Digitalizationと地勢環境

グローバリゼーションがdigital化に即した形で進む結果、そのcenter of gravityがシフトしてきたと云うのです。つまり2000年のFortune Global 500にリストされた企業の内、新興国にheadquarterを置いていた企業は僅か5%だったが、2025年までにはMcKinsey調べでは、それが45%に達する事、しかも中国は欧米企業を上回る、年商10億ドル超の企業をいくつも抱えることが予想されていると云うのです。つまり,世界で消費されるdigital contentの多くは米国が作り続けるとして、アマゾン、フェースブックやグーグルと言った米企業のライバルである中国のインターネット企業、アリババ、やテンセント等に取って代わられると云うのです。

現在、global e-commerce transaction に占める中国のシェアーは42%との由ですが、グローバリゼーションの地勢は新興国レベルでも変化していると云うのです。つまり次の10年、世界のGDPの半分が新興国経済に負う事になると予想される処、これらは地図では見出しにくい440ほどの都市に負う事が予想されているのです。因みに今や南・南貿易が2000年ではglobal total の7%に過ぎなかったものが、2016では18%にまで拡大していると云うのです。世界経済も既にこうしたnew reality,新事態に適応始めていると云うのです。

ワシントンがglobal trade agreements に背を向けるとしても、例えば米国以外の自由諸国ではTPP11の前進があり、更にはASEAN諸国と日中豪印NZ韓国を含めたRCEP(Regional
Comprehensive Economic Partnership)が進められるとなると、これで世界貿易の40%をカバーでき、人口では世界人口の半分を占める経済圏が誕生することになる処、中でも注目すべきはワシントンベースの世銀等、各種経済機関に対抗するが如くに、中国が進めるNew Development BankやChina-Africa Investment Forum, 更には「一帯一路」構想等は全アジア的な経済成長を促す処、いわゆるグローバル化に後れを取った国々との結び付きが新たに進む事で、新たな発展が期待できると云うのです。

(3)新時代のグローバル化とその課題

Digitalization を映して進むグローバリゼーションは新時代を演出する処、同時に色々な弊害も避けられず、これにどう向き合っていくかが重要な問題となってきている事、周知の処です。

まず、開放政策が対峙する最大の問題は移入労働者問題です。具体的にはJobを巡りwinner とloserの対立構図がうまれ、つまりはグローバル化が当該国の社会や労働環境を痛める結果、それがpopulismやprotectionismを誘引する事情は周知の処です。勿論、人種差別問題等々質的ともいうべき大きな問題が潜在する事、云うまでもありません。そこに見る基本問題は競争構造の変化、つまり、低コストの新興国の市場参入で先進国型企業の競争力が傷つき、雇用の削減も余儀なくされると云った問題です。が、それこそはdigital flowsの強化を通じて知識集約型分野での競争関係の改善が期待でき、intellectual property(知的資産)の重要性を高め、特許を巡る新たな競争関係の構築も可能となると云うものです。 尚、Digital technologies は更に企業の工場の新設地の決定に大きな影響を与える処、、労働市場環境、エネルギー・輸送コスト、更には消費者との距離も含めて言える事は、新たな生産体制は多くの場合、新興市場から再び先進国市場に回帰していくのではと云うのです。

かくしてNew eraにあってはdigital capabilities, デイジタル力が経済のロケット発進の燃料の役割を果たす処、企業トップの使命は「high-speed broadband networks」の構築に求められ、政府にあっても企業がnew digital technologiesと、それに必要とされる人材への投資等、worker-training も含め、必要とされる項目の整備と、それへの具体的準備が求められるというものです。 そして、‘Rather than relitigating old debates, it is time to accept the reality of the new era of globalization and work to maximize its benefits, minimize its costs, and distribute the gains inclusively. Only then can its true promise be realized‘ と。つまり、過去をグタグタ云う事ではなく、グローバリゼーションが齎す新時代の現実を受け入れ、ベネフィットの最大化、コストの最小化に努め、広く収穫が行き渡るようにすること、これこそが本当の公約実現となる、と締めるのです・・・・。

さて、トランプ大統領は秋の中間選挙目当ての政治行動に明け暮れているようですが、その結果は自由諸国を混乱の淵に追い込む一方で、日本の安倍首相も‘明日の日本’を語る事もなく、秋の自民党総裁選に照準を合わせたかの政治行動と、似たもの同志の日米関係に聊かの危機感を覚える処です。
序でながら、米朝首脳会談の結果について筆者は、6月13日付で友人ら関係者に当該所感論考を送りましたが、それに対するリアクションは総じて日本を案じ、安倍首相のトランプ氏に盲目的な追従型の姿勢に本当に大丈夫かと、思いを暗くしたと、するものでした。


おわりに グローバリゼーション、民主主義、国家主権

本論考を書き終え、ふと思い起こすのが、ハーバード大のDani Rodrik教授の‘The Globalization Paradox’(2011)で示されていた仮設です。それは「グローバリゼーション」を促進することは経済的な国境である関税や自由な資本移動の規制をなくすことで、従って「グローバリゼーション」と「民主主義」、或いは「国家主権」との組み合わせはあっても、三要素が同時に成り立たつことはないないと云うもので、要はグローバリゼーションを進めるには民主主義か、国家主義のどちらかを犠牲にする必要があるとする仮説ですが、近時digitalizationの進化が三要素の関係が不鮮明となってきた点で、依然仮説に留まる処です。

さて、近時、目の当たりとするトランプ氏の政治行動は、いわゆるリベラルな良識派からは許し難い行動と映る処です。その彼の行動の背景にあるのが、いわゆるグローバル化がもたらした負の効果としての労働者の格差問題と理解されています。そこで、彼は、自国の利害を担保していく為として、その流れを断ち切り、これまで米国が中心となって進めてきた国際秩序、リベラルな自由主義をまさに否定するAmerica firstを行動規範としてきています。然し、各国の産業は相互に依存しあう、その深度を深める形で成長し、世界は発展してきたことは厳然たる事実です。そして今、危険なのは資本主義が強くなりすぎてバランスが崩れることと思料される処です。従って、基本的な政策対応は、これまでの負の効果を如何に軽減、改善し、これまでのグローバル化の論理を如何に堅持していくか、にあるべきと思料するのです。

我々は既にグローバル化された世界に住んでいます。従ってグローバル化の道を閉ざしては、言うなれば大きな経済危機の起こることも予想される処です。勿論民主主義も必要です。政治に対して意見が言える事が必要です。それには健全なメデイアの強化も必要です。トランプ氏は自分にとって面白くない事につぃては、全てフェーク情報だと斥けていますが、言うなればそれは独裁者の姿勢そのものと云うほかありません。勿論、国家も必要ですし、その枠組みを超える試みもあります。要は、ロドリックの仮説はともかく、グローバリゼーション、国、そして民主主義の三つを今よりずっとうまく調和させる方法はまだまだある筈と思いますし、このような解決策を探るべきではと思うばかりです。 資本主義だけではシステムは機能しません。民主主義だけでもシステムはきのうしません。二つが両立するシステムを築くことが必要です。民主主義が資本主義を制御するツールとしての役割を果たすようなシステムです。繰り返しますが、グローバリゼーションを放棄するのではなくその影響を緩和することを考えていく事と思料するのです。

序で乍ら、過般手にしたイアン・ブレマーの最近刊「対立の世紀―グローバリズムの破綻」(US VS、THEM-われわれ対彼ら;The Failure of Globalism)は興味深いものでした。その副題にある、「われわれ」とはポピュリズムの原動力となっている様々の力を指し、一方「彼ら」とはそうした動きを軽視する政府のエリートたちであり、「大企業」、金融エリートを指す処ですが、要は自分の属するグループとそれ以外を峻別し、対立構造を作り上げることを含意とするものです。その上で南ア、中国等、新興国12か国を取り挙げ、彼らが抱える構造的問題を解析した上で、世界人口の半分を優に超える人口、若手人口となると更に高い比率となる事情に照らし、21世紀の世界経済の運命は、彼らが握っていると云うのでしたが・・・。   
 
以上 ( 20018/6/27記)
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2018年06月14日

2018年6月特別号  検証 米朝首脳会談 - Facts & Impact - 林川眞善

- 目 次 -

はじめに:史上初の米朝首脳会談

1.検 証、シンガポール米朝首脳会談

2.米朝首脳会談と‘戦後日本’の総括   

おわりに:過去のサミットの教訓と米朝首脳会談

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はじめに:史上初の米朝首脳会談

6月12日は、TV特番中継放送にクギ付けとなる一日でした。云うまでもなく、その日、シンガポールのリゾート地、サントーサ島のカペラ・ホテルで行われた、史上初となる米大統領、トランプ氏と北朝鮮委員長、金正恩氏との米朝首脳会談の様相を伝えるものでした。それも今尚、交戦状態にあり、外交関係もないままの両国トップの会談です。

さて、北朝鮮の金正恩委員長は、「新年の辞」で平昌五輪への参加に言及して以降、周辺国との関係改善に舵を切ったものと見られる中、3月5日、韓国のチョン・ウイヨン国家安保室長が、韓国文大統領の特使として北朝鮮金委員長と南北朝鮮統一問題について平壌で会談した際、同委員長からトランプ大統領と早期に直接会談したいとの意向表明があり、その要請を受け同特使は3月8日、ホワイトハウスを訪問、トランプ氏にその旨を伝えた処、彼からは即座に応諾があり、途中の経過(注)はともかく、今回、シンガポールでの開催となったものでした。

(注)一旦、中止宣言された米朝首脳会談は先に予定の6月12日で再設定、開催。
3月8日:トランプ大統領は朝鮮金正恩委員長から申し入れの「米朝首脳会談」に応諾、
5月10日:「米朝首脳会談」、6月12日、シンガポールで開催の旨発表。
5月24日:「今は不適切」としてトランプ氏は中止を表明
6月1日:北朝鮮、金英哲(キム・ヨンチヨル)党副委員長との会談(於、ホウィトハウス)
で予定通り開催される旨発表。僅か1週間の心変わりは何故?

・トランプ氏の米朝首脳会談応諾
周知の通り、これまで、金北朝鮮とトランプ米国との間では‘核・ミサイル開発’を巡り、時には一触即発の様相をも呈する状況にありましたが、今秋の中間選挙を控え、この際は、金委員長の提案を受けることで、一矢を迎えんとの読みがあったと思料されるものでした。

大統領就任1年をほとんど空費したトランプ氏にとって政治的ターゲットはまさに今秋の中間選挙一本にあり、そこで金委員長の申し入れを受け入れ、これを成功に導ければ彼は有能な勝者となり、選挙戦を勝ち抜けると瞬時、直感したものと言えそうです。そして序でながら、その推移如何では、ノーベル平和賞ものとの野次馬の声も聞かれるだけに、トランプ氏の姿勢はまさに前のめりにあったと伝えられる処でした。つまり、トランプ大統領は「それは過去の米政権が出来なかった偉業」となると、一貫して乗り気になっていったということですが、加えて3人の米国人人質の解放が実現した事は、北朝鮮への米国が仕掛けてきた圧力の成果だと、自らの業績としてアッピールする処、これが中間選挙対応の他なく、まさにTrump firstの真骨頂と云う処です。

・トランプ大統領 vs 金委員長
さて、トランプ氏は米朝首脳会談に臨むにあたっては「朝鮮半島の完全な非核化」、つまり「完全で検証可能且つ不可逆的な非核化(CVID:Complete, Verifiable, Irreversible and Denuclearization)」の実現を主題としていました。つまり、非核化を一気に進めること、その上で北朝鮮が求める「体制の保証」や1953年に結ばれた朝鮮戦争休戦協定の「平和協定への転換」等、問題に応えていく事になると明言していました。一方、北朝鮮金正恩氏は、米側の云う一括放棄は受け入れ難くとし、非核化に向けて段階的な措置をとるたびに見返りを受ける方式を訴えていたのです。

つまり、非核化を巡っては、米側のスタンスは、北朝鮮がまず完全に核を放棄し、それが検証されたのちに保証があるという、言うなれば、非核化は全ての交渉の「入り口」とするものですが、一方の北朝鮮は、一応「非核化」を受け入れる姿勢を示すも、その先に「非核化」があると云うこととなり、ここでは「非核化」は、「出口」に位置すると云うもので、トランプ氏の「‘完全’な非核化とその短期実現」と云う命題とは聊かの乖離がありました。

にも拘わらず途中からは、トランプ氏は首脳会談を重ねることも視野に、完全な非核化に向けた具体措置の合意をめざしていく構えに修正、つまりはトランプ氏が金氏に歩み寄ったというものでした。 6月1日、金正恩氏の使者、金英哲氏をホワイトハウスに迎えたトランプ氏は、同氏に対し、非核化の進め方について「ゆっくり進めてください」と伝えた由ですが、加えて、これまで言い続けてきた北への「最大限の圧力」と云う表現はもう使わない、とまでコメントするまでに変化を露わとするのでしたが、これは段階的な非核化を訴える北朝鮮のシナリオに乗ってでも会談を実現させ、中間選挙に臨まんとするもので、その姿は上述のTrump firstと映る処ですが、同時にトランプ氏の戦略のなさを暴露するものと云えそうです。

・「最大限の圧力」の旗を降ろすトランプ氏
尚、「最大限の圧力」を降ろしたことで、金正恩包囲網の弛みは否定できず、周辺の視線は、既に経済協力に向いている様相にあり、言い換えればトランプの心変わりで、北朝鮮は対話路線に乗る事で着々と果実を得ようとしているといえそうです。

因みに、メデイア情報によると、中国国際航空は6日には、昨秋から運休の北京―平壌間定期便の運航再開した由ですが、これは人の往来を後押しせんとするものと思料される処です。また、中国政府は国連制裁決議を履行する姿勢を取りつつも、制裁対象外の交易や民間交流は拡大する構えにあるともされています。習近平・金正恩の2度の会談で関係改善を演出していましたが、国境の出入り現場では取り締まり機運も薄れ気味と報じられています。
又、韓国も国連制裁を維持しつつも解除後をにらみ走り始めたようで、先の‘板門店宣言’を踏まえ、鉄道の連結・補修事業等話し合う高官協議を開催予定と伝えられています。更にはロシアも北朝鮮に接近中にある処、プーチン大統領はかねて極東地域と朝鮮半島をつなぐガスパイプラインや鉄道建設を提唱しています。6月下旬に訪ロ予定の文韓国大統領とは、北朝鮮との経済協力が主要テーマとなりそうと伝えられている。

そして何よりも、その象徴的な変化は、6月3日、シンガポールで開かれた日米韓防衛相会議の共同声明から「圧力」の文言が落ちていた事でした。


・Disciplineを失った米朝会談
さて、これまでの経緯はともかく、トランプ米大統領は、前述の通り、朝鮮半島の平和のためには北朝鮮の完全な非核化が不可避とするスタンスにあった処、言うなれば中間選挙への支持浮揚を狙うばかりに、とにかく金正恩氏との会談の機会を持つことに意義ありとし、非核化を段階的にとする金氏の意向に応じることととした事で、当該会談は実質的には金氏のシナリオにはまった形で進み、従って当初、描かれた会談のdisciplineが見失われた格好となったと思料されるのです。

因みに会談後発表された会談内容の確認書ともいうべき「合意文章」(ポイント)は以下の通りですが、極めて包括的で、何ら具体的な行動に繋がるものは見当たりません。更に、合意文書のフォローアップの記者会見ではトランプ氏が最も強調していた「CVID」の言葉が抜けているとの記者からの指摘に、時間がなかったためとの言い訳に終始、要は準備不足、勉強不足を露わとする処です。会談直前にはポンペイオ国務長官は、完全な非核化が確認できない限りは何も合意はできないと釘を刺していたのですが。

[米朝合意文章]―新たな関係を構築 
1.米朝両国民は両国民の平和と繁栄への要望に基づき新たな関係を構築
2.米朝は永続し、安定した平和な体制を朝鮮半島に構築するよう努力
3.先の板門店宣言に基づき北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に努力
4.米朝は捕虜(POW),行方不明兵(MIA)の遺骨発見に努め、直ちに米国に。

ではこの合意をトランプ氏が得意とするdealに照らすと、何と何を取引したことになっているのか、全く見えてこないのが実状ですが、金氏にとっては金体制の保証を得たという点で勝利したことになったと云えそうです。それでもトランプ氏はツィターで大いに成功だったと再び中間選挙向けにアッピールし、同時に次の米朝会談を云々する処です。

さて、今次の首脳会談を契機に、各国首脳が金委員長と会談したがっている環境が生まれてきていると一部マスコミは指摘するのですが、そうした機運の高まりは北朝鮮に正当性を与え、実質的に‘核保有国としての北朝鮮’と関係の正常化を進めることになりかねず、新たな懸念の生じる処です。尤も、トランプ氏はそれでも完全な非核化が進まない限り、制裁措置を緩めることはないと繰り返す処ですが、そこで改めて北朝鮮の完全非核化の可能性の如何を検証することとし、併せて、首脳会談の結果として想定される米国のretreatが齎す東アジアに於ける安全保障環境の変化、そしてそれが日本に及ぼす影響、更にそれへの対応の如何について考察したいと思います。云うまでもなく米朝会談の検証ともなる処です。


1.検証、シンガポール米朝首脳会談

(1)「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」の可能性
   ― CVID:Complete, Verifiable and Irreversible Denuclearization

現地特設のプレスセンターに集まる記者たちの多くは合意文章について、本命のCVIDと云う言葉が抜けている、リフアーがないことが問題と指摘していました。尤もこれを因数分解し合意文章に照らすと、「C」と「D」は確認されているのですが、そのプロセスとなる「V」と「I」が抜けている事が問題となる処です。それはまさに非核化に向けた具体的手順、工程表とされる処です。それが現時点では何も見えていないことがもんだいであり、その点では非核化は本当に進むのかと疑念を呼ぶ処です。

ではその手順とは、ですが、まずCVIDの目標と期限を共有した上で、核関連施設を全て明らかにする申告やその検証、濃縮ウランやプルトニウムなどの核物質や施設の廃棄・搬出、核開発に後戻りできないことを確認するIAEAなどによる査察と言った手順を詰めておくのが柱となる筈です。元より、これには時間を要する処、最長10年はかかると見る向き(米ロスアラモス国立研究所)もあり、その点では段階的取り組みもやむをえない処かと思料されると云うものです。とは言え、核放棄要求をのらりくらりとかわし、結局は逃げ切るのではとの懸念の残る処です。つまり今回のような重要な会談に臨むに当たっては、通常以上に準備を重ねることが必要なはずですし、入念に準備や分析をしたうえで臨むべきと云うものです。が、こうしたプロセスを欠いていることが極めて重大な問題と思料する処です。

今回、非核化を進めることだけは約束したわけですが、それも4月27日の南北首脳会談で非核化についての目標を確認したピョンヤン宣言を単にリフアーすることでやり過ごしている点が極めて不信感を呼ぶ処ですが、とにかく北朝鮮には徹底的な査察を受け入れることが第一であると云う事、そしてその上で制裁緩和について判断すべきではと思料される処です。そして何よりも、問題はトランプ政権内に北朝鮮の中枢をきちんと分析ができる人材が乏しい事かと思われるのです。然し、こうしたポイントにトランプ氏は気づくことなく、自身の政治日程だけで、つまり11月の中間選挙からの逆算で動く彼のまさにトランプ・リスクの高さが、結局は前述のような北朝鮮を利するばかりと、危惧される処です。

(2) 「北朝鮮の体制保証」の意味する事

トランプ氏は北朝鮮に対し非核化に応じた場合は「体制保証の用意がある」と明言してきています。この点は合意文章にも映る処ですが、それが意味することは北朝鮮の安全保障を米国が担保していくという事でしょうが、その場合、北朝鮮にとって安全保障が成立する唯一の条件と云えば、米軍が北朝鮮軍を撃破する戦力(特に核戦力)を持たないという事にあると云うものでしょう。

仮に米朝間で平和条約の話が進むことともなれば、米国としては北への脅威解消の視点から在韓米軍の見直しが始まる事が予想され、つまりは米国のretreatであり、その結果は米国のアジアにおける地位の低下を余儀なくすること、先に触れたとおりです。既にトランプ氏は記者会見で在韓米軍の見直しはあり得ると示唆していますし、米韓合同軍事演習についても同様指摘しています。一方、そうした事態は中国にとって東アジアでの支配的な、経済も含めた大国になっていく機会ともなると云うものです。つまりは中国こそは、その恩恵に浴することになると云うものです。これは国際的に新たな安全保障環境の創出を意味することになるのですが、それは、アジア市場が赤色に染まっていくこと、つまり世界経済の競争関係が自由陣営の思考様式から中国共産党の思考様式に塗り変えられていく事であり、その危険性を意味する処です。

実際、中国習近平氏はかねて北朝鮮が求める「体制保証」や「段階的な非核化」に理解を示し、金正恩氏の後ろ盾としての存在を強調し、米主導の国際秩序に対抗しうる中国流の勢力圏の形成をも目論んでおり、とりわけ今次のカナダG7サミットで鮮明となったG7の分裂含みの状況を好機とみている様相が伝わる処です。
とすれば、そうした新たな国際環境に自由陣営諸国は如何に向き合っていくか、その自覚と覚悟を以って、明確な対抗軸の構築が求められると云うものです。それは朝鮮半島の安全保障体制をどう構築するかですが、この際はG7の再生を視野に入れ、自由陣営の連携強化への道を改めて模索すべきと思料するのですが、以下で指摘するように、これこそは日本の出番とする処ではと思料するのです。(尚この項については別途論じる予定)

かくして現時点でのレビューからは前述のとおり、米朝首脳会談は結果的には北朝鮮の描くシナリオを行くものとなったと云うものですが、その際留意すべきは、前述したように
核放棄要求をのらりくらりとかわし、結局は逃げ切るのではとの懸念を完全に払しょくできるシステムの導入が不可欠と云うものです。
一方、これら新展開の波及効果として、東アジアを囲む形で中国の覇権拡大が進む事が想定される処、日本の今後の姿については、これらをcontextにおいて考えられていく事が必然となったという事です。


2. 米朝首脳会談と‘戦後日本’の総括

(1)迫られる ‘戦後日本’の総括
  
戦後日本は前述の通り、一貫して米国の核の傘の下、日米同盟関係を基軸とした生業を以って、今日に至っています。つまり戦後70年余、米国と共にあったわけですが、朝鮮半島における平和体制が醸成され、それに合わせて米国が在韓米軍等、朝鮮半島における安全保障体制の見直を必然とし、つまりは米国のretreatが進むとなると、当然として日本にとっての安全保障体制には空白が生じていく事になり、新たに日本としての自律的な安保体制の構築が求められる事になると云うものです。つまり、今次の米朝会談を契機として、米国の行動様式に変化が起こり、これまでの日本のあり方では通じなくなっていく可能性が出てきたきたと云う事です。勿論、日米の同盟関係が即解消となる事はないでしょうし、相応に堅持されるべきとは思料するのですが、新な日本としての安全保障を念頭に置く外交戦略の構築が不可避となってきたと云う事です。それは、まさに戦後日本の総括としての新体制の構築を意味する処です。 

・求められる日本という国の「かたち」
では、何を以って日本の安保・外交戦略の基本軸とされるのかですが、その点では、日本と云う国のかたち、これからの姿を描きだす事なくしては、議論はできませんが、ここでは暫し横に置いて議論を進めることしたいと思います。

尚、ここで留意すべきは、安全保障の問題となると往々にして国の防衛、軍備の拡充だ、軍事費の拡大をと、声が上がる処で、安倍首相に至っては北朝鮮の脅威を煽り、防衛政策の転換や防衛力の増強を進めてきた事は周知の処です。因みに5月29日、自民党政務調査会では防衛費をこれまでのGDP比1%から2%への拡充を提案しています。これは米・英などは2%超だからという事のようですが、その必然性は不明のままにあるのです。考えておかねばならないことは、防衛費の2倍とは5兆円が10兆円ということですが、まだまだ防衛費の効率化の余地があるとされる点です。例えば、米国から輸入する高額の装備製品についてみると、米政府から直接契約して調達する優勝軍事援助(FMS)での取得が増えていますが、調達価格は米政府主導となっているのです。
勿論、国を守る事は当然であり、そのために必要な国防措置は不可避です。ただそのためには、環境が変わってきた今、国の在り方、国際関係の在り方についての展望を持つことが不可欠ですし、それこそ、上述のように国のかたち論も必要とされる処です。更には有事という事態も構造的に変わってきています。つまり、大きく変化していく現実にあって、単に軍備費予算を増やし、戦闘用機器を調達すれば事が済むなどその発想は余りにも古典的であり、あまリにも先進さに欠くと云うものです。まさに発想の転換が不可欠なのですが、その自覚に欠けていることが問題です。

・日本の戦略軸は多元的経済連携の強化
さて、近年、日本の成長、発展の在り姿は周知の通り、高度technologyとグローバル化の深耕に負うものであり、多国間での重厚な連携に於いて成り立ってきている事、周知の処です。この経験に照らす時、つまりグローバル化が更に構造的な変化を伴いながら進行していく世界にあって日本としては、その生業からは、より新たな連携を以って臨むことが極めて重要になってきており、それこそは日本の戦略軸となる処と思料するのです。
因みに元米大統領国防担当補佐官で、ハーバード大教授のJoseph Nye氏は`Asia After Trump’(Apri.9)で、もはや世界の抱える問題は一国だけでは解決できない状況にあることを理解し、米国と云えども、日本、中国、インド、更には欧州との高度な連携強化を図っていく事が世界の安全保障に資するとし、再び持論の人口の流動化、エネルギ開発、新技術、教育の高度化等々、soft powerの戦略的活用をと、主導する処です。

・メゲリーニEU外交安保上級代表
さて、日本と欧州との間でも、今そうしたコンテクストをもった動きが鮮明となってきています。日本はEUと経済連携協定(EPA)の調印を7月に、そして2019年初めには発効予定ですが、そのEU外交安全保障上級代表メゲリーニ氏は、近時の欧州とアジアの行動に鑑み、両者がこれほどまでに近い存在だったことがあったであろうかとして、日経(5月30日)への寄稿の中で、EU外相理事会(5月28日)での包括的なEU・アジア戦略についての討議内容をリフアーしながら、日本,アジアと安全保障関与の強化を訴えています。

つまり、「欧州とアジア・日本との関係では経済的側面が馴染みの多い部分だが、両者の協力関係拡大では安全保障分野における取り組みが一番進展している。そして、いま両者の間で最も差し迫った問題はおそらく非核化であろう。双方は、イラン核合意を維持し、朝鮮半島の非核化に向けた協議を支援する事に共通の利益を見出している」とするものでした。

・TPPは自由貿易の象徴そして、「自由で開かれたインド太平洋戦略」も
米国が抜けた後、日本が主導して完成させたTPP11は、いまや自由貿易の象徴的存在と評価をされていますし、それは日本が身をもって演出できる自由な民主的経済活動の舞台と云うものです。当初、TPP11の戦略的推進を指摘する度、それは甘い発想と批判を受けてきましたが、今ではインドネシアが参加を希望し、英国までもが関心を示し出すほどです。

加えて日本が発想し、トランプ大統領の理解も得て、日米豪印の四者による戦略「自由で開かれたインド太平洋戦略」があります。これなど、極めて安全保障戦略をなす処、既に四者間協議が始まっています。序でながらマテイス米国防長官は5月30日、米太平洋軍の名称を「インド太平洋軍(INDO-PACOM)」に変更しています。当該軍の管轄地域は以前と変わらず太平洋からインド洋にまたがるものですが、今回はトランプ政権が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進しているのに伴って名称を変更したもので、北朝鮮問題や中国の海洋進出に対処するものとされているのです。

(2)懸念される安倍政治の対米姿勢

今次の米朝首脳会談を契機として、上述の通り、日本には今後の在り方が問われることになってきたという事ですが、それが日本に自立した外交戦略の構築を求めることになってきた事、つまり米国頼みを脱する時である事を、確認させられる処です。その点で気になるのが安倍首相の対米姿勢、いや対トランプ姿勢です。安倍首相はトランプ氏との蜜月関係を築き、十分なコミュニケーションを図ることで豊かな協調関係を誇示しています。このことは評価できる処でしょう。然しその実態にはいまや疑問の積もる処です

6月7日、安倍首相は4月に続いて再び訪米し、トランプ氏と会談しています。その趣旨は云うまでもなく、12日の米朝首脳会談を前に、対北朝鮮政策をすり合わせる狙いとされるものでした。 然し、トランプ氏が安倍首相との会談後の共同記者会見では、朝鮮戦争の終結に向けた合意文書への署名を調整中と明かしていましたし、当面は制裁を排除しないとは言いながらも、金正恩氏のシナリオに乗り、北朝鮮を取り込む方向に舵を切った事は間違いない処でしたし、実際にそうでした。これでは、安倍首相の米国一辺倒、圧力一辺倒の外交は、はしごを外された格好となったと云うものです。

とにかく、トランプ氏が会談中止を発表した際は、世界で一国だけ安倍首相は「支持する」と表明したのですが、会談の予定通りの開催が決定されるや「会談の実現を強く期待する。その勇気を称賛したい」と一変。米国の動きに応じて態度を変える姿が鮮明となったというものですが、これでは地域の平和と安定を築く当事者としての自覚が問われる処です。

更に、安全保障に経済を絡めるトランプ氏は、対日貿易赤字の縮小にも照準を合わせ、巨額の兵器などの購入を日本に迫っています。北朝鮮問題で、対米依存を強めれば、足元を見られるばかりと云うものでしょう。因みに、北朝鮮への見返りとする経済支援は日中韓で、としているのも、とりわけ日本については安倍首相が要請した拉致問題を会談での俎上に乗せると約した見返りとして、日本には経済支援をと云うのですが、まさにデイールに乗せられたと云うことでしょうか。これを機に,安倍政権にはこれまでの対米外交の効果と、限界を冷徹に分析し、新たな現実に即した戦略の練り直しと云う課題を抱えることになったと云うものです。


おわりに 過去のサミットの教訓と米朝首脳会談

処で、いろいろ資料を漁っていた折、極めて興味深い記事に出会ったのです。Financial Times (2018/6/11) にあった同紙Columnist、Gideon Rachman氏の記事 「Past summits offer lessons for Singapore showdown ― From Munich to Yalta, Beijing to Reykjavik, top -level meetings have a patchy record」です。Rachman氏は「伝統的に歴史を作るサミット発言大国の商品欧者間で行われ、戦争と平和の問題に対処してきた。そして、いくつかのサミットが歴史の流れを変えてきた。そしてそれぞれのサミットにそれぞれの教訓が込められている」として、以下の歴史的なサミット(注)を取り挙げ、当該サミットが示唆する教訓について解説するものでした。
(注)歴史的サミットと関係首脳
1938年ミューヘン会談:独ヒットラー、英チェンバレン、仏ダラデイエ、伊ムッソリーニ
1945年のヤルタ会談:米ルーズベルト、英チャーチル、ソ連スターリン
1972年の米中首脳会談:米ニクソン、中毛沢東
1986年のレイキャビック首脳会談:米レーガン、ソ連ゴルバチョフ

例えば、「ミューヘン会談」の場合、ナチスに対する宥和政策の失敗の極みを告げた場面として悪名を馳せるようになったと云うものですが、英チェンバレン氏は、後に無価値であることが判明する将来の平和の確約の見返りに、チェコ領を明け渡したことで、今日に至るまで「ミューヘン」という言葉は、目先の事しか考えない弱さの代名詞となっていると云うのです。然し、あの当時は、ミューヘン会談は英国内の多くのひとから勝利とみなされ、チェンバレンはロンドンで喝采する群衆にむかえられ、帰途に就く前のミューヘンでも拍手を浴びていたと云うのです。つまりそこから得られる教訓とは、歴史の評価は、サミット翌日の評価とは大きく異なることがある、と云うのです。

又、ヤルタ会談では、戦後秩序の形成に於いて決定的に重要な瞬間となったが、年老いたルーズベルトは対ナチ連合の結束維持から、ソ連が1939年に併合したポーランド領を保持したいと云うソ連側の要求を飲んだことで、今日に至るまでポーランド国内外の多くのひとは、ヤルタと云う言葉を裏切りの同意語と見なされていると云うのです。
そこで、自らが交渉のテーブルに就いていないのなら、自国の利益が取引で譲り渡されることを心配すべきと云うのが、教訓だと云うのです。今次のトランプ氏と金氏が会談に向かう中、これは日本政府が特に懸念していた事だったと云うのです。では、安倍首相が直前、ワシントンでトランプ大統領と会談したことはその教訓を体現するものだったという事なのでしょうか。

Rachman氏は今次の米朝会談について、予測不能なことが起こる可能性はトランプ政権の準備不足で高まっていると指摘していました。‘包括さ’が際立つた「合意文書」。トランプ氏はそれを以って成功だとご機嫌の様子でしたが、それはまさにトランプ氏の準備不足に負う処、尤も金氏にとっては都合の良い様相にあるとされるのですが、それだけに今後の作業プロセスでは認識のズレの顕在化に注意せよという事なのでしょうか。

以上
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