はじめに 酷暑のこの夏、世界は新展開に向かう
・米欧が目指す行動は、Zeitenwende超え
・強権主義国家、他の動きも
1.検証 「バイデノミクス」と、日米韓首脳会談
(1)BIDENOMICS – バイデン大統領が語るニュー経済政策
・Financial Times. Gilian Tett記者
・新局面を迎えた米国の対中規制
(2)初の日米韓、三首脳会談
(3)序で乍ら ― 日本経済の現状、成長の活路
・2024年度の政府見通しが意味すること
2.マクロン仏大統領の矜持 ― 欧州の`Le Zeitenwende’
(1)‘欧州自由主義’の行方
・Scot Moton 氏の人事と欧州主義
(2)EUの向かう方向 ―「戦略的自律」
おわりに:「地球沸騰の時代が来た」
・グリーントランスフォーメーション(GX)
はじめに 酷暑のこの夏、世界は新展開に向かう
・米欧の行動はZeitenwende超え
サミットが終わって3か月。広島では米欧7か国の首脳が集まり、ウクライナ戦争と戦争当事国、ロシアにどのように対峙していくかが議論され、併せてG7メンバーの西側諸国の結束の強化が確認され、目下の世界はその合意を枠組みとして運営されてきている処です。ドイツのショルツ首相が米外交専門誌、Foreign Affairs、Jan~Feb,2023に寄稿した論文「The Global Zeitenwende (世界は歴史的転換点)」は、その対応として西側諸国の協調を強く訴えるものでしたが、上記合意はその主張をendorseする処です。(弊論考2023/5月号)
さてこの3か月、上記枠組みには特段の変化はありませんが、この「Zeitenwende」に応えんとする動きは顕著と云え、時にそれは現状へのアンチテーゼの様相を呈する処です。
以下、バイデン大統領が近時発動した経済政策、欧州では、これまで主流とされてきた欧州自由主義が後退しつつあって欧州第一主義が主流になってきたことが指摘される処です。
➀ バイデン氏が進める政策行動は米国のsupremacy追求
・6月28日、バイデン大統領は、シカゴでの講演では、中間層を拡大させ、インフラを強
化し、製造業を国内に回帰させる政策のすべてを「バイデノミクス」と称し、以って,その
合理性を主張するものでした。尤も、その内容は古くて新しい産業政策の到来を思わせる
処ながら、その狙いは米国のsupremacy 確保。
・8月9日、バイデン政府は、半導体やAI、量子技術といった先端技術分野で幅広く投資を禁じると対中規制強化発表。予ねて(2023年2月、大統領施政方針)バイデン氏の頭には米国のsupremacyの思い強く、それゆえに近時の中国の台頭許し難いとして、規制の網をヒト・モノだけでなく、直接投資というカネにも本格的に広がる処です。更に、
・8月18日には 日米韓、首脳会談を米国・キャンプデービッドで開催。これは先の広島サ
ミット時、バイデン氏から提案のあったもので、今後年1回の定期開催とする由。そして
対中を意識して「日米韓パートナーシップの新時代」と宣言する処、その狙いはアジアに於
ける米国のsupremacyの確保。
② 欧州では欧州主義への動きが進行
一方、欧州EU本部で起きた人事指名を巡るトラブルはマクロン大統領が主張する欧州主
義、国家主義的考え方が主流となってきたと云う新事態を映す処です。
具体的には、7月11日EU委員会は、米国籍でYale大学の経済学者のScott Morton氏を
EU競争政策の委員長に指名したことに始まるごたごた話です。一言で言って当該ポストに
何故米国人が ? と云った批判で、人種差別かと思わせるのですが、結局本人は7月19日
辞任したことで一件落着を見ましたが、これが、マクロン仏大統領が目指す欧州主義の変質
とする処です。つまり、これまで主流とされていた経済のglobalismを拒否するような動
きが顕在化してきたと云うものですが、 近時 欧州ではマクロン大統領が主張する、国家主
義的考え方が、主流に変質してきたことの証左とされる処、The Economist、July 22~28,
は ’ An American v Paris’と題して語る処です。(後述、第2項参照)
・強権主義国家, 他の動きも
勿論、注目される事案は多々とする処、とりわけ中国経済の不調が云々される処、一義的には不動産投資の不調にあって、8月17日、恒大集団の倒産が象徴する中国経済の不振は、世界経済の視点からも大きなリスク要因と映る処です。それが今や、中国経済の「日本化」(注)の兆しが出てきたと指摘されだす処です。
(注)中国経済の日本化:正しくは「日本病化」とすべきでしょうが、要は需要不足によ
るデフレ懸念が台頭してきたと云うことで、中国経済の3割を占めるとされる不動産の
停滞が、全体的需要不足を誘引する処、これが需要不足で物価が伸び悩む状況をバブル
崩壊後の長期停滞に苦しんだ日本に重ねられるとするもの。
加えて、北朝鮮を巡ってのロシアと中国の動きが誘引する地政学的リスクの高まりも大きな問題です。7月27日は朝鮮戦争休戦から70年、北朝鮮ではその日を「祖国解放戦争の勝利の日」と位置づけ大々的祝賀パレードを展開していましたが、金正恩総書記 はロシアのジョイグ国防相を、中国からは李鴻忠政治局員を招待し、これに応える形でジョイグ国防相、李政治局員、夫々がプーチン大統領、習近平国家主席のメッセージを伝え、北朝鮮を介した新たな外交展開の場となったことで注目を呼ぶ処、とり分け北朝鮮が軍備の点で、ロシアへの接近が報じられる処です(日経7/28) 勿論,BRICSもGlobal Southも、です。
かくして、これらいわゆる強権国家の動きについても引き続きフォローが不可欠と思料する処、今次弊論考では当該問題については紙数の都合で、別の機会としたいと思います。
従って、今次論考は、日本を含めた米欧西側に見る新たな動きに焦点をあてる事とし、改めて「バイデノミクス」を検証し、欧州で進む自由主義の変質について、考察していく事としたいと思います。 この二つが映すのがzeitgeist、つまり「時代思潮」と云えそうです。
1.検証「バイデノミクス」と、日米韓首脳会談
(1) BIDENOMICS – バイデン大統領が語るニュー経済政策
6月28日、バイデン大統領がシカゴで行ったスピーチでは初に「バイデノミクス」というフレーズを採用したことに注目の呼ぶ処でした。40年以上前、当時のレーガン大統領が自由市場と自由貿易を推進する政策にカジを切っています。これが「レーガノミクス」と呼ばれ、政府が市場や通商を手厚く支援してきた戦後の混合経済の反動と定義される処です。
今次の「バイデノミクス」スピーチは、そうしたこれまでの米政権が目指してきた政策について、「富裕層と大企業のために減税すべきと云うトリクルダウン経済学(注)は結局うまくいかなかった」、「中西部等の地域で、コミュニテイーから尊厳や誇り、希望が奪われた」と指摘し、レーガノミクス 以降の新自由主義経済政策は結果として、アメリカ国内の工業地域を空洞化させ、中間層が衰退し、民主主義の危機に繋がっているとするもので、そうした事態への対抗として、改めて3本柱からなる政策、 ➀ インフラ投資の拡大、② 教育による労働者の能力向上, ③ 競争促進に伴うコスト減で中小企業の支援 ― を目指す下記3法を以って `Remake America’s economy ‘を訴えるものでした。
(注)トリクルダウン経済学:トリクルダウン経済学とは富裕者がより豊かになると、経
済活動が活発になり、その結果、低所得者や貧困者にもその効果が浸透していく事で、経
済の全体が豊かになっていくと云う論理。現実は期待されたほどの効果はなく経済格差
の拡大を招いただけと、バイデン氏はまさにアメリカが推し進めてきた政策を全面的に
否定する処です。「アベノミクス」もそのトリクルダウンを目指していたが、実際には期
待されたほどの効果はなく経済格差の拡大を招いただけと認識される処。勿論バイデン
氏は、それに代わる政策とし昨年末、議会で採択された「インフラ投資・雇用法」「イン
フレ抑制法」そして「半導体・科学法(CHIPs法)」の3法を以って既に新政策実施を目
指す処。( 弊論考N0 131 ,2023/3月号、「バイデン大統領の施政方針演説と・・・」参照)
この3法を以って目指すことは、アメリカやカナダ、メキシコで最終組み立てされた電気自動車購入への実質補助金にあたる税控除、米国内の半導体産業を強化の為、5年間で約7兆円の補助金制度そして、国内雇用創出の為1.2兆ドルに及ぶインフラ投資などが含まれる内容で、つまる処バイデン政権の政策は、膨大な財政出動による国内産業振興、企業誘致、と云った内容で、要は、「下から創り上げ、中間層を支えていく」とするものでしたが、これが長く米国自身が他国に対して否定や批判してきた 保護主義とも映る処、意外な事に今次のバイデン発言は欧米メデイアでは大きな騒ぎとなる事はなかったのです。
・Financial Times. Gilian Tett記者
ただFT米国版Editor at largeのジリアン・テット 氏は、今次のバイデン・スピーチについて以下のコメントをよこす処でしたが、極めてrealisticであり、時に示唆的(FT Jun.30)とも映る処、この際は当該記事の概要を以下に紹介しておきます。
第1に、バイデン政策は大統領選が実施される24年までの短期の景気浮揚が主な狙いではなく長期的な経済構造の転換を目指している。つまり、「多くの雇用を今生み出すのではなく、将来に向けた道をつくる」のが狙いとするもの。
第2に、レーガノミクスを否定する事情は、いわば現実的な政策の寄せ集めにある点にあって、green innovation への支援があり、インフラ投資、企業独占の抑制、労働者の再訓練があり、更には ‘America first’に基づく通商政策による重要なサプライチェーンの強化などがごった盛りされていると。
第3に、バイデノミクスは西側諸国における潮流の変化の原因であり、その結果のひとつでもある処とも云え、構想の多くは過去10年のESG (環境・社会・企業統治)推進で主張されてきた内容。そもそも、米国第一主義に基づく通商政策と国家安全保障を理由にした政府のサプライチェーンへの介入に乗り出したのはトランプ前米政権。
第4に、バイデノミクスの明確な輪郭はまだ定まっていないが、この政策転換は既に経済で予想外の効果を生み出している。因みに22年の歳出・歳入法(インフレ抑制法)が予想外に施行にこぎに漕ぎつけ、製造業への投資がこの2年でほぼ倍増したことを銘記すべきと。
そして、I suspect that the phrase “Bidenomics” could shape the zeitgeist for some time-and even outlast Biden’s political career. Welcome to the new (old) world of American policymaking. Investors ignore it at their peril. と、「まさに古くて新しい米国の産業政策の世界が到来した」と、以ってバイデノミクスをzeitgeist(時代思潮)にかなうものと締めるのですが、このzeitgeistこそは、その際の決め言葉とする処です。
それでも、今次「バイデノミクス」で盛られた内容はずばり、前政権のトランプ氏が訴えていたトランポリズム、市場重視の経済政策、を踏襲するものとの批判も伝わる処ですが、要はすべてタブー破り、非論理のトランプ氏とは同列には語れない、つまり、バイデノミクスは論理的に整備されたものとして受け止められ、意外なほどにバイデン氏の発言は欧米メデイアで大きな騒ぎにはなっていないのも、そうした新しい環境整備があって、まさにZeitgeist(時代思潮)として仕切られる処です。
言い換えればトランピニズムとの根本的な違いは政策実行の仕方の違いでしかないとする処ですが、8月8日付FTコラム欄では、同社chief commentator のラックマン氏も同様コメントする処、そのタイトルは ‘Why Baiden is the heir to Trump’と、トランプ流をバイデノミクス化したものと評する処、中国の台頭阻止を狙うバイデン氏は対中貿易収支に拘ることなく、次項対中輸出規制強化の下、基幹技術の対中輸出を制限する取り組みを体系的に進めている事、更に米産業の再活性化に向け前政権より多くの資金を投じている点でも強く背中を押す処です。
とは云え、バイデン氏が、過去の巨額の経済対策と物価高騰の関係を説明し、又「大きな政府」ではなく、物価高にも配慮し、健全化の方向を伴う財政政策を示さない限り、「バイデノミクス」は有権者の心には響かないのではと、個人的には危惧する処です。
つまり最悪、「大きな政府」への回帰が単に国内産業重視や自由貿易の否定等、一国中心主義、保護主義に走るような事になると、世界の政治や経済に与える影響は少なくなく、では米経済政策が具体的にどういう方向に向かっていくのか、やはり友好国との連携も固めつつ、当該推移を見守っていく事、不可欠と思料するばかりです。
・新局面を迎えた米国の対中規制
そうこうする中、バイデン米政府は8月9日、半導体やAI、量子技術といった先端技術分野で幅広く投資を禁ずる旨を発表。規制の網がヒト・モノだけでなく、直接投資というカネにも本格的に広がる様相です。 投資分野の規制では従来、軍事や監視技術に絡む特定の中国企業への株式投資を制限していましたが、今回は直接投資に踏み込んだほか、対象領域を横断して幅広く網をかけたのが特徴となる処です。勿論、中国は反発する処、先端技術の覇権を米中どちらが握るのかが、今後の世界秩序を決める事になるものと見られるだけに、バイデン政権の対中規制が新局面に入ったとして、世界の注目が集まる処,です。
因みに8月12日号、The Economist 巻頭言では、バイデン政権の今次対中規制について、まず 規制の対象について「米政府は規制対象を絞って厳重に管理する、‘small yard and high fence ‘ 戦略で米国をうまく中国から守りたいと考えているようだが、中国を対象とする関税や規制を導入する事に伴うマイナス面を正確に理解しない限り、安全保障上の理由から規制を強化するたびに その対象が拡大し、管理が強化されることになりかねない。これまでの処、想定していた効果を実現できていない一方で、コストの上昇を含めマイナス面が予想以上に大きい」とし、この点でも米政府は規制対象の的をもっと絞る必要があるのではと‘costly and dangerous` と評する処です。要は、米国の置かれた現状からみて、今次の規制は、‘costly and dangerousとなるだけで、Joe Biden’s China strategy is not working と評するのです。そして米国のデリスキングによって、世界はより安全どころか、むしろより危機になるばかりだと評する処、では日本の対応は如何にと問われる処です。
(2)初の日米韓、三首脳会談
さて、8月18日、5月のG7広島サミットでバイデン氏から提案あった日米韓3首脳による会談が米大統領の山荘「キャンプデービット」で行われました。今次首脳会談は初のことでしたが、要は北朝鮮のミサイル対応やサイバー防衛、経済安保等についての協力の強化について話し合ったというものでしたが、その特徴は日米韓の安保協力を新たな高みに引き上げると云うもので、日米韓が協力する領域を大幅に広げたことでした。そして「日米韓パートナーシップの新時代」が宣言され、今後、この三者会談は年1回の定例開催とする由です。ただ、気になるのは「パートナーシップ」と呼ぶその実態の如何です。
日米同盟、米韓同盟は密接に関係する処、朝鮮半島有事となれば在韓米軍と韓国軍を後方で支えるのは在日米軍でしょうが、自衛隊も米軍などの後方支援を想定される処です。最近では米国が主導して中国や北朝鮮などに政治力や軍事力を発揮するための枠組みが増える状況にあって、その狙いは米国のsupremacy確保と思料する処です。
一方、米政権内では岸田氏へのバイデン氏の信頼が高まっている背景として、ロシア制裁に参加したこと更に、防衛費増額に踏み切ったことで、日本の安保政策の転換を評価する形で去る1月、岸田氏の訪米を受け入れてきたとされる経緯もありで、では当該会談の先にはNATOのような集団的防衛体制を目指すことになるのかと、気になる処です。
(3)序で乍ら ― 日本政府の効率化問題と、成長の活路
・スイスのビジネススクール(IMD)が6月20日公表した2023年「世界競争力ランキング」では日本は64カ国中、35位と過去最低の水準でした。1989年の第1回目のランキングは、日本は世界第1位、その後、低下はしたものの96年までは5位以内を保っていましたが、それ以降、順位を下げ、2023年は過去最低の順位に沈んでいますが、ランキング評価項目の内、とりわけ政府の政策が適切でないためにビジネスの効率性が低下していることが指摘され、その結果、日本全体として競争力は低下にあると云うものです。 つまり、一言で言って「国力の低下」の何ものでもない話です。 90年代中頃まで世界でトップを争っていた日本が何故にここまで凋落したか ? 人口減少が進み財政難が続く中、生産性や潜在成長力をどう高めていくか問われる処です。
・2024年度の政府GDP見通しが意味すること
さて上記事情の中、7月20日、内閣府は2024年度のGDP見通しを、601.3兆円と公表しました。この600兆円と云えば15年に当時の安倍首相が打ち出した新3本の矢の大目標の数字です。15年度の名目GDPは540.7兆円、22年度も561.9兆円と21兆円余りの増加に留まる処、それが23年度には586.4兆円と前年度比24兆円余り増え、24年度には600兆円に乗せるというのですが、要は物価が上がりだしたことで名目GDPが押し上げられる事になる処、因みに8/15、内閣が発表した4~6月期のGDP速報値(名目)は年率12.0%の成長に加速。デフレで長く低迷していた名目GDPが世界的物価上昇を契機に動きだしつつある処です。
そこで留意されるべきは、バブル崩壊後の日本は経済が軌道に乗りかけると、財政政策か金融政策かでブレーキを踏み、経済を失速させてきた経験のある処、その轍を踏むことのないよう細心の注意が求められる処です。
2 マクロン仏大統領の矜持 - 欧州の ’ Le Zeitenwende’
(1) ‘欧州自由主義’の行方
前述の通り、7月11日、EUの欧州委員会は競争政策部門のchief economistに米国籍でエール大学教授のFiona Scott Morton 氏を指名しましたが、その後、EUの要職に外国人、米国人の助言を仰ぐことに抗議の声が、フランスを中心に上がり出し、翌週の19日、当人が就任を辞退した事で、一件落着を見る処でした。本来ならEUの要職に外国人が就任すれば欧州が持つ 称賛すべき開放性を世界にアピールし得たのではと云うものでしょうが、結局浮彫りになったのは、欧州第一主義の勢いが増していることを語る処、マクロン大統領が指向する欧州主義の浸透が進む様相を映す処です。
つまり近時、フランスが中心となってEUの統合を進めるべきとの声が高まるなか、対ロでもEUの結束を強調する処、NATOについても、欧州の安保に不可欠な存在として高く評価する処です。そしてフランスの政治事情も既成政党の退潮で嘗ての「左派対右派」の図式はなくなり、「国際主義」対「自国主義」の構図に変わってきたとされる処です。
・Moton女史の人事と欧州主義
今次のMorton人事を巡って、The Economist, July 22~28 は、「An American V Paris」と題し、副題を「A spat in Brussels pits an open vision of Europe against an insular one 」(ブリュッセルの ‘人事のごたごた騒ぎ ’は、島国根性を忌避する欧州ビジョンに風穴を齎すか)として、今回のモートン騒動について、以下 指摘する処です。
まずScot Morton氏を指名したEUは、選択のプロセスに於いて、国籍に拘わらず最も適切で優れた人材を、自信を以って採用する組織との印象を与えたとし、米国のIT大手が牛耳るこの世界で、米国人の知見を活用するのは当然の事と評する処です。しかしフランス政府の目にはScot Morton氏の資質は不適切と映った由で、マクロン大統領は欧州委員会について ‘ autonomy of thought’ 「思考の自律性」を失うつもりかと疑問を呈する処、多くの欧州議会議員や欧州委員の内5人も、この指名を批判した由で、同氏を擁護する学者も多かったが、主だった政治家からは同氏を擁護する声は上がらなかった由。そして、今日では明らかにフランス的な考え方が主流にあり、基本的には以下文脈にあるとするのです。
つまり、「EUが自由主義に拘るのは単純すぎる。他国はそんなやり方をとうの昔に捨てている。例えば、米国や中国は事あるごとに自国の為に貿易障壁を高めているのに、なぜEUはあらゆる貿易に対して開放的な姿勢を維持しなければならないのか」、また「中国や米国は国内企業にたっぷりと施しを与えているが、欧州は国を代表する企業への補助金を禁じている。米中は恥ずかしげもなく自国第一主義を貫いているのだから、欧州もそうすべきだ。自由主義のルール等かまうものか」と云うのです。
こうしたことの推移は、EUの考え方の転換を目指すフランスが、成果を収めつつあることをも示唆する処です。フランスは予ねてグローバル化や自由すぎる市場に懐疑的で、その考え方はEU内の自由主義的な声との間でつり合いが取れていたが、ただ自由主義的な政策は、北欧や中欧の小国の後押しを受け、EUの一部機関が推進してきた結果と云うのです。
・更に今回のMorton騒動は4年前に起きた事件を想起させる処と云うのです。
つまり、マルグレーテ・ベステアー氏(欧州委員会と競争政策担当委員)が欧州の二つの巨大企業、独シーメンスと仏アルストムの鉄道事業統合計画を正当に却下し、フランス政府を困惑させた話ですが、その決定は自由市場を支持する陣営の暗黙の支援を受け、維持されたものでしたが、今振り返ると、この時期が、欧州が最も自由主義的な瞬間だったと云え、その後、新型コロナ禍により、グローバル化と国際供給網の魅力が低下。ウクライナ戦争で、天然ガス等必須の資源を他国に頼ることの危険性が露わになったことで、今日では、こうした主張が主流となっているとし、そうした結果は積みあがり始めていると指摘する処、欧州経済は益々国家主義的、つまりフランス的様相を強めていると見る処です。
(2)EUの 向かう方向 ― 「戦略的自律」
マクロン氏は貿易でも防衛でも、他地域に頼れない場合の対処計画を策定すべきと「戦略的自律」の必要性を訴える処、米国でトランプ主義が復活しそうなことも、欧州の神経を高ぶらせていると見る処、今ではこうした主張が主流と指摘される処です。そして24年には欧州委員会の新委員が何人も指名され、マクロン大統領にとって経済統制政策への影響を強める好機と指摘するのです。 つまり、EUが向かう方向は明らかだが、それは懸念すべき方向でもあると指摘するのです。欧州が直ちに計画経済へと変質する事はないだろうが、経済的活力を失った欧州大陸には、あらゆる政策助言は必要で、時には外国からの助言もと、付言し締めるのです。 G7が終わった今、フランスではマクロン氏が目指す,そして主導せんとする 欧州第一主義が進む様相にあって、これがこれからの世界にいか様なインパクトを齎していくか、その流れを注意深くフォローしていきたいと思う処です。
おわりに 「地球沸騰の時代が来た」
連日の異常気温に晒されたこの夏、世界気象機関(WMO)とEUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス(C3S)」は7月27日、7月の世界の平均気温が観測史上 最も高くなることが確実になった旨を発表。 国連グテーレス事務総長はWMOの報告を受け、「気候変動はここにある。恐ろしいことだ。そして、始まりに過ぎない。地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が来た」と語る処、ペッテリ・ターラス事務局長は「残念だが、異常気象は新しい日常になりつつある」とその言にフォローする処、メデイアも同様,
8月2日付日経社説は「酷暑の日常化へ対応を急げ」と檄を飛ばす処です。
欧州では、夏の過ごし方を再考する議論が始まったと伝えられる処ですが、進行する地球温暖化は、節電や省エネと云った従来の小手先での対応では止められないものと思料するのです。つまり経済社会を抜本的に変革する対策が必要です。生活習慣を大きく変えると同時に、脱炭素化社会の実現に向けて新しい産業を生み出していく覚悟が求められるというものですが、具体的には、そうした要請に応える政策の中核となるのが、日本の場合、グリー
ントランスフォーメーション(GX)です。
・グリーントランスフォーメーション(GX)
昨年7月、岸田首相を議長とするGX実行会議が開催され、今年2月、次の2点、「徹底した省エネ等、取り組みを中心とした推進策」、加えて「GXの実現に向けた先行投資支援」を中心とした取り組みが、閣議決定を見る処です。もとよりGX投資の成否は、今や企業・国家の競争力を決定づけるとされています。が、足元でのGXの状況は聊か心もとない状況と報じられる処です。この種 問題には何としても政府の強力な指導力が求められる処です。
今、岸田政府が主導するマイナンバーカードと保健証の統合化問題で前述の通り、岸田政治は混乱状態にある処、これもdigitalizationと云いながら、それに向かい合う行政府の取り組みの曖昧さにあって、要は政府のガバナビリテイーの欠如とされる処です。因みに、7月の報道各社の調査では、その結果を映すごとく内閣支持率は各社とも、「不支持」が「支持」を上回る状況です(日経、8/1) 岸田政権には今一度グリップを握り直し、原点に立ち戻る事ではと愚考するのです。つまり番号制度とそのツールとしてのマイナカードを真に国民の利器にするための知恵を絞り、総意工夫を発揮すべきではと思うばかりです。
(2023 / 08/ 25)