2021年04月26日

2021年5月号  Joe Bidenのハネムーン「100日」と世界経済 - 林川眞善  

目  次

はじめに バイデン大統領のハネムーン「100日」   

第1章  バイデン政権のBig Gambleと世界経済  

1. 二つの米経済Rescue Plans
(1)コロナ対策第5弾 ― 財政1.9兆ドルの「米国救済計画」
(2)長期的成長戦略 ― 「米国雇用計画」     
2.世界経済の回復と、新「ワシントン・コンセンサス」
(1)2021年の世界経済
・バイデン積極財政と欧州経済
(2)新「ワシントン・コンセンサス」

第2章 脱中国のバイデン政権と世界経済の生業

1.米中対立は今、広範な地政学上の対立へ
(1)バイデン政権と米中関係
・無視できなくなった対中「テールリスク」 
(2)米「2020年、人権年次報告」と、2022年北京五輪問題
2.中国包囲網 ― ‘先進自由諸国’ VS ‘中国’ 
(1)対中強化を目指す、二国間協議「2プラス2」
(2)日米首脳会談と日本外交の今後
・ 今次日米共同声明と日米関係
・ 日米の連携行動
・ 共同声明は日米同盟の羅針盤?

おわりに  改めて `Progressive Capitalism’  
            
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はじめに:バイデン大統領のハネムーン「100日」

米国では新大統領就任後の100日間を、国民・マスコミとの関係を新婚期になぞらえてハネムーンと呼び、この100日間は新政権に対する批判や性急な評価を避けることとなっています。そのハネムーン期間がこの4月29日を以って終わります。当初、ほとんど公の場に姿を見せなかったバイデン氏でしたが、就任50日が経過したころから表舞台に出てきて強気の発言や行動が目立つようになってきています。

    (注)ハネムーン「100日」:1933年、F.ルーズベル大統領が有名な炉端談義で、就
任100日程度で、後のニューデイル政策に繋がる法案を成立させた実績を以って、
「私の100日をよく見てほしい」と国民に語り掛けたことから、当該期間をそう呼ぶ。。

2020年米大統領選の結果はバイデン氏の勝利となったものの、その戦いの構図は「融和のバイデンか、分断のトランプか」ではなく、単に「トランプを選ばなかった」結果であって、圧勝を見たわけではありません。が、彼には36年間の上院議員としての政治経験があって堅実な政治家として反トランプという事よりも、世界との協調を基調として、いわゆるアメリカン・ドリームを追及する姿勢に、大方の支持を集める処です。加えて、バイデン政権での副大統領に起用されたカラマ・ハリス氏は、「女性+黒人+アジア系」という点で、民主党が求める「多様性の象徴」と、国民の支持を集める処です。

一方、バイデン氏の政策対応はと云うと、就任当日からトランプ政権の方針を軒並み反転させ、パリ協定への復帰、WTOからの脱退阻止、等々、署名した大統領令など指令文書は50件超に及ぶ処、その行動様式からはバイデン政策の実際は、従来の民主党にはなかった二つの戦略軸、一つは「新型コロナ対策」、もう一つは「対中外交」に、絞られる処です。

「新型コロナ対策」と云えば、「経済よりもまず防疫を」と映る処ですが、その心は、コロナ対策を通じて、コロナ禍で傷んだ経済の回復を期す、つまりは経済再興戦略に他なりません。その実績を以って支持を盤石にし、次の民主党政権に分断修復を託すものとも見る処ですが、同時に、対中戦略上も米国内経済の回復あってのこととする処です。

その「対中外交」ですが、バイデン氏は昨年3月、Foreign Affairsへの寄稿論文 `Why America must lead again’で示したように「外交こそ米国のパワーの源泉」として、グローバリズムの再生を目指す処ですが、今や大国となった中国と如何ように向き合っていくかが、米国にとって最重要テーマとなる処です。その米中関係は、先の米中アラスカ会議で露わとなったように、これまでの単純な経済関係から、政治体制や国家理念にも立ち入る新たなステージにシフトした、つまり戦略的忍耐が要求される米中関係にアウヘーベン(止揚)したことから、
中国のウイグル自治区での人権弾圧に強い懸念を持つバイデン氏としては、「人権」と云う視点から「中国脅威論」を前面に出し、対中圧力を強めていく戦略と見るのですが、その実状は脱中国、脱習近平戦略のほかない処です。 因みに4月8日には米上院ではバイデン政権が「唯一の競争相手」と位置付ける中国への対抗策を列挙した新法案「戦略的競争法案」を超党派で纏める処です。(日経2021/4/9)

そこで本稿では、バイデン政権がハネムーンの100日で見せた米経済回復のための戦略的政策対応の現状と今後の課題、そして上述急速に変質する米中対立の実情と、その影響について考察し、併せて今次初となった日米首脳会談をも含め、世界経済の行方について考察することとします。つまるところ「バイデン100日」の行動reviewです。


第1章 バイデン政権のBig Gambleと世界経済

1.二つの米経済Rescue Plans

(1) コロナ対策第5弾 ― 財政出動1.9兆ドルの「米国救済計画」
バイデン政権発足来、今次の新型コロナウイルスでダメージを受けてきた経済の回復を期すべく、コロナ対策として1.9兆ドルに上るの大型追加財政の出動を提案していましたが、3月10日、これが連邦議会で可決され、3月12日、バイデン氏の署名を得て成立・決定しまた。今回のコロナ対策は第5弾とされるもので、これまでの対策とも併せ、対策規模の合計は5.8兆ドルとGDPの28%に達する規模となる処です。IMF試算によると、日本の15.6%、ドイツの11.9%を超え、米国が財政出動の規模で突出する処です。

・「高圧経済」実践
この大型財政の出動はバイデン政権の公約の実現ですが、それは予てイエレン財務長官が前職FRB議長時代に主張していた「高圧経済」 論(注)の実践とも言え、その柱は一人当たり最大1400ドルの現金給付にあって、家計支援を中心に個人消費を大きく引き上げんとするものです。1.9兆ドルの財政出動は、名目GDPの9%に相当するほどに、まさに`American rescue plan’ 。今その大規模財政出動で米景気を吹かし始める処、これがバイデン財政の大いなる賭け、Big Gamble (The Economist, 2021/3/13)と評される処です。

     (注)高圧経済 ( High-pressure economy ):需要の刺激を続けると、いずれは投資 
 や労働力が回復し、経済の供給力が増すとの理論。つまり設備投資等供給能力向
上のための追加的な需要を促進し、経済の好循環につなげる考え方。需要を先に
喚起することから、インフレのリスクが伴う。

つまり、ワクチン接種が進むにつれて消費や投資が活発化し、米経済が予想以上に早く持ち直す可能性も排除できない状況があって、そこに1.9兆ドルの財政出動が加われば、景気の過熱やインフレ助長への懸念も浮上する処、以って`Big Gamble’ とされる処です。
 
因みに4月13日公表された3月の米消費者物価上昇率は前年同期比で2.6%と、2018年8月以来の高い伸びとなっていました。この伸びは新型コロナ危機で経済活動が鈍った1年前の反動に加え、巨額の財政出動による需要増が物価を押し上げたとされる処です。 既に、米連銀(FRB)はこうした状況を踏まえ、3月の公開市場委員会(FOMC)では、景気見通しを上方修正し、21年の成長率を6.5%、失業率を4%台とするシナリオを固めたと、報じられる処、世界経済の成長予想も後出(P.5)の通り、総じて上向き改善となっています。

バイデン氏は、3月25日の記者会見で、ワクチン接種について、これまでの1億回の接種目標を2倍に引き上げ、就任100日後の4月末までに2億回の接種を目指すとしたのですが、これは当初の1億回目標が早々と達成できたことで2倍に引き上げるというものですが、その思いは感染拡大を抑えて早期の経済回復につなげたいとする処です。

それにしても気になるのは経済格差の広がりです。FRBの金利政策にも映るように、彼らは「少なくとも23年末までゼロ金利の維持」にあると仄聞しますが、その心は、格差がK字型を以って広がる中、雇用改善で恩恵の薄いヒスパニック系労働者、黒人等、低賃金労働者層を支えるためにも緩和を続ける要があるとの読みを映す処です。つまり格差問題への対処です。今、米経済については大規模な財政出動で過熱懸念が云々される処、「バイデノミクス」に求められる次の一手とは、その懸念を成長期待に変えていくことであり、そのプロセスにおいて、格差是正をきちっと政策課題と位置付け、持続的成長を目指すべきと思料するのです。次項、長期的成長戦略こそはそれに応えんとする処と思料する処です。

(2)長期的成長戦略 -「米国雇用計画」
バイデン政権は、上述 総額1.9兆ドルの「米国救済計画」を成立させた3月12日から間を置くことなく、2週間後の3月31日、今度は、8年でインフラや研究開発に2兆ドル(約220兆円)を投じる長期計画「米国雇用計画」(注)をピッツバーグでの演説のなかで公表したのです。前述「バイデノミクス」に求められる次の一手は、経済の過熱懸念を成長期待に変えていく事だと指摘しましたが、これは、まさにそれに応える処です。今後は、コロナ危機対応のための一時的な財政支出から、持続的成長を狙った長期的な政策に軸足を移す、つまり、持続的な米国経済を再活性化し、足腰を鍛え上げることを政策目標とするものです。 

(注)バイデン政権のインフラ整備計画 (億ドル) (日経2021/4/1)
・道路や橋、鉄道、EV設備:6210 / ・半導体等供給網強化:3000
・AIやバイオ:1800 /・高速通信網:1000、/・クリーンエネルギー:1000 
                        
この長期計画の狙いについて、バイデン氏は 「数百万人の雇用を生み、中国との国際競争に勝てるようにする計画」たるを強調。要は「雇用を生み、中国に勝つ」と、超党派で対中強硬論が広がる議会を念頭に、中国への対抗策としての位置付けも明確にする処です。 因みに、対中の視点からは、サプライチェーンの強化等製造業の振興に3000億ドルを投じると云うのですが、元より、これら計画が格差解消につながることが期待される処です。                       
尚、コロナ対策の1.9兆ドルの財源は企業増税(法人税率:21% から28%へ引き上げ)で確保する事、又、長期計画で想定される2兆ドル超のコストについては「15年間の税収増(増税)」(約2.5兆ドル)を以って 賄うとの方針です。

序で乍ら、F/Tは7日、バイデン政権はこの機会にOECDを中心とした国際課税交渉を進展させるための新提案を各国に送ったと報じています。米国はこの4月、上記法人税の引き上げを発表していますが、更に、年央までに主要20か国と法人税の最低税率導入で合意することを目指しているとも伝えられる処ですが、欧州や新興国が求めるデジタル課税の導入事案もあり、これらが一体で、合意に至れば国際社会の協調は大きく前進する処、それを米国が主導する構図が鮮明となるものと思料するのです。

処で、今回の計画と合わせると、歳出と増税の規模は大きく膨らむことになる処、取りあえずコロナ禍の財政出動で、2月時点の予測では既に米連邦債務はGDPの130%に膨らんでおり、第2次大戦直後の最悪期(1946年、119%)を上回る状況です。(日経2021/4/2) と云うことは、中長期の成長軌道を描けなければ、膨張債務を超低金利で支える危機モードから抜け出せないことになるという事なのです。とにかく「パラダイムを変えたい」と云うバイデン氏の‘賭け’ともいわれる野心的な財政の出動は、まさに1930年代、F.ルーズベルが当時の‘大恐慌’からの脱出をめざしたNew Deal政策を想起させる処です。
ただこれが「大きすぎる政府」の危うさ、云いかえれば ‘政府の肥大化という非効率’ を社会全体に広げる恐れをはらむ点で、バイデン政権のカジ取りの難しさは増す処と思料するのです。それにしても予想以上にActiveなバイデン氏の行動に瞬時、圧倒される処です。 

2.世界経済の回復と、新「ワシントン・コンセンサス」

(1)2021年の世界経済
バイデン政権が主導する上述経済政策の効果に照らし、多くの機関では2021年の世界経済の堅調な景気回復を予想する処です。 先ず、3月9日発表のOECDの経済予測では、ワクチンの普及で経済活動の再開が進むとして、米経済の21年通年の成長率を6.5%と前回見通し(3.2%)比3.3ポイントの大幅、上方修正とする一方、これが世界経済全体の回復も後押しするとして2021年の世界経済の見通しも、20年末時点から1.4ポイント上方修正し5.6%と発表する処です。これが予想通りとなるなら、21年オイルショックの起きた1973年以来の高成長と予想される処です。

更に4月6日公表のIMFの2021年世界経済見通しでも、米国については6.4%, 中国につぃては8.4%、そして、世界経済については6.0%と、夫々上方修正、バイデン政権主導の大型財政出動を反映した、米国が牽引する世界経済の回復を示唆する処です。序で乍ら、米金融大手、JPモルガンのダイモンCEOは7日、同社年次報告に添えた株主への手紙で、米経済は「2023年まで強い基調が続く」と述べていた由ですが(日経2021/4/8)、高い貯蓄と財政出動が景気を押し上げる原動力と、指摘する処です。

・バイデン積極財政と欧州経済
処でこうした米経済の政策展開に照らし、Financial Timesの欧州経済コメンタータ、Martin SANDBU氏が、3月15日付けで語る欧州経済の実情とそれへのadvice、US stimulus package leaves Europe standing in the dust、は極めて興味深いものでした。それは、バイデン氏の積極財政に照らし、欧州経済の実情を以下のように鋭角的に論じる処です。
― In the future, Europe and the US will loom large in the global economy as emerging countries outperform their growth. That is inevitable. What we do not know is how fast that US and Europe dominance will be whittled away, as that depends in part on policy choices made today. On that score, US President Joe Biden has delayed his country’s relative decline. EU leaders, however, look set to accelerate theirs.

要は、世界経済における米欧の存在は低下していく事は避けられないが、バイデン氏の1.9兆ドルの経済対策は少なくとも米経済の相対的な凋落を遅らせることになるが、EUの指導者の現状は、自らの衰退を加速させ、欧州経済の凋落は加速していると、その凋落に警鐘を発するのです。 そして興味深いことは、その凋落にストップをかけるには、バイデン経済政策が示す教訓に目を向けるべきとの指摘です。

つまり、バイデン経済対策の心は、中国の米国追随を抑える事にあるも、コロナ対策、巨額インフラ整備計画を確実に進め、米経済の再強化が進めば、その目的は達成されるとするもので、要は中国を意識しての米国の指導力の回復も、自国経済の再強化にありとした政策姿勢を評価すると共に、欧州もバイデン氏の政策姿勢を見習うべきと指摘するのですが、納得です。 勿論、米国の大規模財政出動にはインフレや長期金利の上昇を誘発しかねない危うさの残るも、各国とも決して楽観せず、今後の経済運営に最新の注意が要請される処です。

それにつけても、気がかりはメルケル後のドイツ、というよりもEUの生業です。彼女が首相に就いたのが2005年11月。以来、安定した政権運営で国民の人気は高く、国際社会でドイツの存在感を高める原動力でした。そして2020年7月21日 欧州復興基金をマクロン氏と共に主導・創設し、ドイツにとっての欧州ではなく、欧州のドイツを鮮明とする処でした。さて、ポスト・メルケルの欧州は如何?と気になる処です。

(2)新「ワシントン・コンセンサス」
こうした世界経済のトレンドにあって、注目すべきはワシントンに本部を置く国際金融機関、IMFと世銀、そして米政府(財務省)の三者が90年代を通じて進めてきた「ワシントン・コンセンサス」と称される自由主義的な経済戦略、要は財政規律の堅持とする考え方に基本的な変化が進みだしてきたという事です。

つまり、コロナ禍対応の財政出動が進む中で、最も効果的な財政出とは何か、これまでの財政規律重視より、価値を生む分野にとにかく資金を投じるべきと云う論調に急速に変わってきたという事です。これは、新型コロナウイルスワクチンの製造とその接種を世界的に進めるためにあらゆる努力をすべきとのメッセージにも反応する処とも云え、各国政府がワクチン接種に関連した支出をすれば、それは何倍もの見返りが期待できるというものです。 勿論、IMFは財政規律の重要性を今も説く処ですが、我々が半世紀前に学んだものとは大きく異なる思考様式となる処、加えて、富裕層や、「コロナ禍による特需」で利益を上げた企業に、復興のための一時的な義援金の拠出を求める声もある処です。

こうした動きは前述、F.ルーズベル大統領が大恐慌時、実施したNew Deal政策とその方向性は一致する処ですが、IMFと世銀が今の米国と歩調を合わせるのは、米国がIMFと世銀にとって最大の資金拠出国だからという事ではなく、むしろ両機関が、米政府よりも先に世界の経済政策の在り方について発想を転換させていたというものです。まさに新しい「ワシントン・コンセンサス」と云える処ですが、以前の「コンセンサス」同様、大きな政治力を発揮する可能性があるものと思料する処です。


         第2章 脱中国のバイデン政権と世界経済の生業

1.米中対立は今、広範な地政学上の対立へ

(1)バイデン政権と米中関係
本稿「はじめに」の項で触れたようにバイデン政権のもう一つの戦略軸、対中外交とは脱習近平中国を目指す点にあって、中国のウイグル自治区における人権弾圧に照らし、「人権」を対抗軸に、自由諸国との連携強化を以って、対中圧力を強める姿勢を強める処です。
因みに、3月25日の記者会見では、バイデン氏はこの中国のウイグル自治区での人権弾圧事件に照らしながら、米中関係について「21世紀での民主主義の有用性(Utility of Democracy)と専制主義(Autocracy)との戦」と再定義し、併せて台湾や南シナ会問題にも触れる処です。(日経2021/3/26)

そして、4月8日には米上院で、前述 中国への対抗策を列挙した新法案「戦略的競争法案」を超党派で纏め、公表しています。それは日本や韓国などを「極めて重要な同盟国」と位置付け、安全保障や経済で連携を深めることを柱とするもので、尖閣諸島の防衛義務も明記された由です。そして翌9日、米国務省は台湾との政府間交流の拡大に向けた新指針を公表。この新指針についてプライス報道官は、これまで中国に配慮し、自粛していた米台の交流を大きく広げることを狙ったものと説明する処です。バイデン政権は1月に発足以来、同盟国と連携する形で中国に圧力をかける動きを加速させてきています。中国メデイアでは、当初、バイデン氏の登場で米中間の距離が縮まらんとの論調が目立っていたが、今では, それが警戒に変わりつつあると伝える処です。(日2021/4/11)

・無視出来なくなった対中「テールリスク」
因みに、3月29日付けThe Wall Street Journalは、‘New Age of Chinese Nationalism Threatens Supply Chains’と題する中で、先のアラスカでの米中非難合戦後に起きた、欧州と中国の制裁合戦に照らし、ナショナリズムの為に経済的リスクを冒すことへの中国政府の許容度が、今ほど高まったことはないと警鐘乱打する処です。

つまり、世界が注視する東アジア地域で米中の重大な衝突が起きる可能性は、依然として低いとは見るものの、それを非現実的な「テールリスク」(可能性は低いが、発生すると深刻な被害をもたらすリスク)として無視することは、もはやできなくなっていると指摘するのです。因みに中国は3月22日、欧州議会議員を直接制裁の標的とすることで、苦労して交渉してきたEUとの投資協定を危険に晒す判断を下したと、評する処です。
又、先のアラスカ会議(3/18)で、中国は米国に対して‘強国としての力’を見せつけたと中国国営メデイアが数日間かけて宣伝していた由ですが、これが指導部が国家指導体制を維持するための行為とみられるのですが、これが自ら身動きが取れなくなるリスクを冒しているとも指摘される処です。

そこで米中両国はそうした熱気を低下させるために互いが受け入れ可能な道を見つけるべきと、例えば、米中両国にはアジア地域からの半導体の供給維持という共通の重要な利益があることに照らし、‘台湾を標的とする中国軍備の削減’との引き換えに、‘中国IT大手のフアーウエイ向け半導体販売の限定的再開を認める’と云った異なる措置の組み合わせも、前向きな一歩になるかもと、提言するのです。 尤もその状況は長年、中東からの円滑な原油供給を巡って利益を共にしてきた経験にならわんとする処でしょうが、そう簡単な解決策など見当たることはなさそうです。とすれば当該地域で展開する企業には、不測の事態への備えを開始する必要があるとするのですが、ごく自然な生業です。

(2)米「2020年、人権年次報告」と2022北京五輪問題
さて3月30日、米国務省はバイデン政権で初となる世界各国の人権状況に関する2020年版、年次報告を発表しました。その中で、中国による新彊ウイグル自治区でのウイグル族への弾圧は国際法上の犯罪となるとして「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定、中国を非難する処でした。欧米と中国との制裁の応酬が続く環境にあって、ジェノサイドとなれば平和の祭典とされるオリンピックは真逆なものとなる処、以って2022年の北京冬季五輪のボイコットの可能性が取りざたされ出す状況です。

3月27日付けThe Economistは、北京五輪ボイコットは起こるかと、’ Winter of discontent ― As another Beijing Olympics draws nearer, calls for boycotts will grow ‘と題するなかで、近時の中国通信機器大手、フアーウエイの孟副会長がカナダで拘束された事を受け、中国は、中国にいたカナダ人の元外交官マイケル・コブリグ氏と企業家のマイケル・スパバ氏を拘束していますが、両氏が釈放されねばカナダはもとより、他の国々でも、中国への反発が広がると云うのです。 そして、ウイグルの人権問題を巡り対中制裁を科した欧州では、中国が3月22日、対抗措置としてEUの議会関係者や学者らに制裁を科したことに憤りの声を上げる処です。この北京五輪ボイコット運動が勢いを増すとするなら、国内での人権侵害と同様に、対外的な行動が招いた結果ともするのですが、北京五輪もさることながら、中国・新彊ウイグル自治区の人権侵害問題は欧米企業の中国ビジネスへの影響を拡大させる処です。

米国は「ボイコット」については同盟国と議論して対応したいとしていますが、さて日本の
対応は如何です。東京五輪については、国内でのコロナ感染拡大への防御対策に大わらわの中、オリンピック憲章に悖る森喜朗の老害発言も加わり、その対応にフラフラの日本政府です。仮に2022年冬季北京大会にボイコットの動きが起きるとなると、その影響は極めて深刻なものとなる処です。勿論、人権問題はウイグルだけではありません。ミヤンマーの現状の下で外資が事業を続けるとなると軍政支援にもつながりかねず、企業にもスタンスが問われていく事にもなる処、極めて要注意とされる処です。

2.中国包囲網進捗 ― ‘先進自由諸国’ VS `中国‘ 

(1)対中強化を目指す、二国間協議「2プラス2」
さて、バイデン政権が誕生した当初、中国では前述の通り、独善的な行動で世界を混乱させたトランプ氏とは違って、中国と欧米との溝が埋まると期待されていた由でしたが、現実は、米国を中心とする欧米自由諸国による中国包囲網が着実に広まってきており、両者の乖離は一層広がり、時に敵対的と見られる様相です。

因みに、日本政府は米政権と共に中国への「抑止力」強化を念頭に、QUADを擁して欧州各国にインド太平洋への関与を促す処、この4月13日にはオンラインながら、ドイツと初の外務・防衛担当閣僚協議(2 プラス2)を開いています。日本がドイツと「2プラス2」の枠組みを設けるのは英国とフランスに続き3か国目で、今回の「2プラス2」協議はドイツがインド太平洋地域の主導権争いにかかわる意思を示す事例とされる処です。尚、英国との「2プラス2」協議は今年2月開催、香港情勢に重大な懸念表明を行っています。

また、2月1日、英政府はTPP加盟申請を果たしたこと周知の処ですが、EUを離れた英国は有望市場と見定めるアジアで中国が覇権を強める姿を良しとせず、中国包囲網の性格を帯びるTPPに加盟申請したと云われています。そして3月16日、公表された英政府の外交・安保の方針では、中国を「経済安全保障上の最大の国家的脅威」と位置付ける処です。尚、フランスとは2019年を最後に開かれてはいませんが、マクロン氏はこの2月、原子力潜水艦を南シナ海に送ったことを公表する処です。各国が意識するのは勿論、中国の脅威です。まさに、民主国家で構成する対中包囲網が進む処です。

3月26日、バイデン氏は英ジョンソン氏との電話協議で、中国の「一帯一路」構想に対抗するため、民主国家で作る同様の構想をジョンソン氏に提案したと、デラウエア州で記者団に語っています。具体的内容は不明ですが、民主主義陣営として何らかの経済協力の枠組みを作る意向と推測する処ですが、まさに新冷戦が演出される処と思料する次第です。
かくして、新たな自信を見つけた中国は、新たな敵をも生み出したとも云えそうです。

(2)日米首脳会談と日本外交の今後
さて4月16日、初となる日米両首脳会談がホワイトハウスで行われました。新冷戦ともいわれる米中新環境関下での会談だけに、日米関係は、日本の行方はと、世界の耳目を集める処でした。会談内容は既に各メデイアが、多くを伝える処、ここでは直後に公表された共同声明(注)をレビューし、日米関係、日本の行動様式について以下、考察することとします。

    (注)日米共同声明のポイント(日経 2021/4/18)
    ・台湾海峡の平和と安定の重要性 /・日米安保条約5条の尖閣諸島適用を再確認
・香港や新彊ウイグル自治区の人権状況へ深刻な懸念共有
    ・半導体、等サプライチェーンで提携 /・脱炭素へ30年までに確固たる行動をとる。
・日本の今夏の五輪開催への努力を支持

・今次日米共同声明と日米関係
今回の共同声明は、これまでの米中対立事情を映す如くに、中国を強くけん制する内容となるものでした。が、同時に当該共同声明は日米関係の新たな姿を演出する処となっています。具体的には、共同声明に52年振り「台湾」を明記し、台湾マターに言及したことでした。これまで台湾については、中国が敏感に反応してきた事情を踏まえ、日本政府は台湾表記を避けてきました。が、この通念を打ち破ったという事です。

バイデン政権は、同盟国や友好国との関係再構築を図らんとする中、とりわけ日本との連携
については最優先に取り込まんとする姿勢にあるのですが、その先に見えるのが中国です。つまり大国となった中国乍ら、ルールに基づく国際秩序を逸脱するような行動を強める中国に大いなる懸念の抱かれる処、共同声明では米国に沿う形で「台湾」表記を行った事で、日本政府の外交姿勢の変化を露わとしたというものでした。

その中国は2030年代にはGDPベースで米国を凌駕するとも見られ、こうした国力を増し、自信を深める中国に、米単独で向き合うのは困難になりつつあるとの見立てにあって、中国に近いアジアの大国であり、価値観を同じくする日本との連携強化の戦略は当然の選択肢です。 会談の前に語られていた日本に対する米側の期待は、「中国との対峙へと軸足を移すバイデン政権と並走する日本」だと仄聞する処でしたが、この共同声明はそうした期待に応えるものとなったというものです。因みに会談後の共同記者会見ではバイデン氏は「我々二人は日本の安全保障を鉄壁で守ることを確認した」と強調する処でした。ただこうした事態は、菅政権の対中姿勢を問う踏み絵ともなったとも云えそうです。

・日米の連携行動
もとより、首脳会談では新興技術の開発、高速通信規格(5G)ネットワークの安全性確保、半導体を含むサプライチェーンの構築など、それぞれの分野での協力が確認されています。とりわけ足元で供給不足が深刻化している半導体に係るサプライチェーンについては、中国の脅威に直面する台湾が最大の生産地という事情もこれありで、日米共に新たな発想が求められる処です。いずれにせよ、経済発展と安保の両面からこれら分野での日米連携の強化は重要となる処です。尚、バイデン氏が目玉とする「気候変動対策 ― 脱炭素化」については、首脳会談で「気候変動に関するパートナーシップ協定」を新たに立ち上げ、脱炭素化を日米が共に目標とする2050年の脱炭素化の実現につながる2030年の目標達成へ動き出す処、4月22/23日には米政府主催で気候変動に関するサミットが行われています。

なお、中国は日本にとっては最大の貿易相手国(注)です。その点で、経済面での脱中国は現状からは困難と云え、気候変動など共通の利益に関わる課題では中国と協力していく必要があり、共同声明でも中国との協働の必要性を指摘する処です。そこで、日本としては、難しい事ではあっても中国とは、競争と協力の両立という狭い道を探るしかないのでしょうが、それだけに、日本の主体的な貢献がますます重要になってきたと、感じさせられる処です。こうした首脳会談をフォローするメデイアは、その様相を日本に覚悟を迫るものだったと評するのですが、なかなかデリケートなコメントです。

     (注)4月19日、財務省が発表した2020年度貿易統計(速報)は輸出入で中国へ
の依存を強める日本経済の現状が映る処です。日本の輸出に占める中国の比率は、
22.9%、輸入についても27.0%といずれも過去最高となっています。
   
・共同声明は日米同盟の羅針盤?
さて、菅首相は、上述新環境に照らし、日本の防衛力の強化を含め、具体的な同盟強化策の検討に入るとしています。日本がどこまでの役割を担うのか、そこでは米国と入念にすり合わせ、国民の理解を得ながら備えを固めていく事、肝要となる処ですが、もはや、この共同声明は、従来のものとは異なる、日米同盟にとっての羅針盤とも映る処です。尚、菅政権には日本の国益を突き詰め、時には強かに振舞うことが求められる事も不可避と云え、日米の役割分担を進めることで、世界経済への新たな貢献も可能となるものと思料する処です。


おわりに 改めて ‘Progressive Capitalism’

今次弊論考書き終え、それを見直す過程で目にしたMohamed A. El-Erian氏、President of
Queens’ College, University of Cambridge、が米論壇 Project Syndicate (2021/4/2)に投稿
した論考 `Ensuring a Stronger and Fairer Global Recovery’ は、筆者の頭を整理する上で極
めて有意と映るものでした。そこで、当該論考の概要、そして筆者の思いとも併せ、お伝え
し、本稿「おわりに」に代えることとしたいと思います 

筆者は、バイデン政権が積極財政を擁して、コロナで傷んだ米経済を回復させ、併せて他自由諸国との連帯強化を図りながら、中国に対峙し、それが世界経済に好影響を与えるとの視点で現状を整理し、以って世界の行方を見通す起点とする処です。が、モハメド・エラリアン氏は現状では世界経済の回復も多くの人たちにはジレンマを齎すかもしれず、この際はより包摂的な政策をと、主張するのです。以下はその要旨です

・2021年 世界経済の持続的回復を規定する5つの要因:米国と中国の高い成長に牽引され世界経済は、6%以上の成長が見込まれる処、その実現の可能性は、5つの要因の推移如何と、いう。 まず「COVID-19の感染抑制の如何」であり、従って「ワクチンの配布と接種状況」次第と。そして三つ目は「financial resilience ,財政の弾力性」と。つまり途上国の抱える債務問題への支援体制の如何にあり、要は国家間や国内の格差拡大進むことで、2021年の回復を持続させるのが難しくなると云う。更に米経済の高い成長に伴い、各国の市場金利が上昇し、中央銀行は「金融緩和の引き締め」に転じる可能性を挙げる。これはコロナ危機を受けて市場に供給された資金の流れが変わることで深刻な混乱が起きると想定される事。そしてuneven economic recovery、むらのある景気回復となると、コロナ危機で既に拡大している「所得や、機会の格差拡大の更なる拡大の可能性」を指摘する処で、特に機会に関する格差が大きいほど、疎外感や社会から取り残されている云う意識が強まり、政治的な二極化を招き、適切な政策立案を妨げる公算が大きくなると、云うのです。

・今後、持続的な回復堅持のための条件:こうした問題に折り合いをつけることは極めてタフな仕事だが、グローバル経済は,今年も来年も、堅調な回復を維持する一方、不利な立場にある国やグループ、そして地域を浮揚させるという道はある。その実現のためには国内政策と対外政策をすり合わせる必要があるが、まず国内政策について、経済対策と包摂的な成長(inclusive growth)促す措置を組み合わせた改革の加速が不可欠という。このことはhuman productivity (人的生産性)や、productivity of capital and technology(資本や技術の生産性)の向上を目指すことではなく、公正な社会を作り上げていく事にあって、climate resilience、つまり地球環境問題への取り組みが不可欠とするのです。

・包摂的な経済政策を目指す:そして今、米中両国が世界の成長をけん引していることから、世界経済はコロナ危機から脱出する機会がある。勿論多くの人たちが傷つき、貧困削減等の社会経済的な目標の達成に向けた10年の進歩が帳消しになった例もある。国内外の政策をすり合わせられなければ、不均等な回復を余儀なくされ、世界経済が切実に必要としている、より高く、より包摂的で持続可能な成長は、続かない可能性があると、云うのです。

確かに、エラリアン氏云う処の包括的な成長を目指す政策こそ、今 必要です。世界は16兆ドル(約1750兆円)超の緊急対策で危機の封じ込めを急ぎ、中長朝的に経済の底上げの為の投資を競う状況です。が、経済回復のカギは今や「格差の縮小」にあって、一連の政策をバランスよく打ち出さない限り、格差は拡大こそすれ縮小に向かう事はないと、承知する処です。以上 (2021/4/25)
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2021年03月26日

2021年4月号(その2)  米中対立の構図と、「中国のトリセツ」 - 林川眞善

目 次

はじめに : 動き出すバイデン外交戦略   
1.日米豪印首脳会議(QUAD)、日米「2プラス2」協議
2.米中外交トップによるアラスカ・アンカレッジ 会談 
3.The Economist誌が示唆する「中国のトリセツ」
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はじめに : 動き出すバイデン外交戦略

(1)「米国家安全保障戦略」暫定指針
3月3日、バイデン政権は米国の安全保障政策を巡る「暫定戦略指針」(Interim National
Security Strategic Guidance )を発表し、中国やロシアに対抗するため、日本や韓国、豪州やNATOとの連携を強めていくと宣言しています。ただ当該指針では北朝鮮の非核化には言及なく、日本にとっては一部に不安の残る内容との指摘ある処です。

当該指針は、これまでバイデン政権が対外的に発信してきた理念、方針を改めて整理した
もので、中でもバイデン氏が2月に初の国際舞台として登壇したミュンヘン安全保障会議での演説を中核とするものです。
まず、前提とする国際情勢について、コロナ・パンデミックをはじめとする今日の重大な危機は国境を超えるもので集団的な対応が必用な事、自国をはじめ世界の民主主義が包囲されている事、中国の台頭など世界における力の配分が変化し新たな脅威を生み出している事、等を挙げ、その上で、米国の安全保障を確保するために経済、国家防衛、民主主義を含む米国の強さの根源を守り育てていく、とするものです。

ブリンケン国務長官によると、バイデン政権は数か月後をめどに本格的な国家安全保障戦略の策定を目指しており、暫定指針はそれまでの「つなぎ」の役割を果たすものとしていますが、今回の指針の発表に合わせて、外交政策に関する演説を行い次の8点を優先課題として挙げる処です。

① 新型コロナウイルスの収束と国際的な衛生安全保障の強化、② 経済的危機の克服とより安定的で包括的な国際経済の構築、➂ 民主主義の刷新、④ 人道的で効果的な移民制度の創設、⑤ 同盟・友好国との関係の再活性化、⑥ 景気変動への対応とグリーンエネルギー革命の推進、⑦ 技術における主導的地位の確保、⑧ 21世紀における最大の地政学的試
練である対中関係の管理。

(2)動き出したバイデン外交の実像
さて、3月12日(金)から18(木)・19(金)両日の1週間と云うもの、日米関係、そして対中関係の今後を占うeventが立て続けとなりました。

まず中国の全人代大会が11日(木)に終わるや、それを待ってたかのように、翌12日にはバイデン大統領主導によるオンラインながら、日米豪印の4首脳会議、QUAD首脳会議が、又、16日(火)には東京で日米の外務・防衛担当閣僚協議会、「2プラス2」協議が行われ、そして、18日(木)・19日には米国、アラスカ州 アンカレッジで米中外交トップによる直接協議が行われました。尚、18日には、同じ枠組みで、ソウルでも米韓「2プラス2」が開かれ、これら協議は次に控えた中国との協議に備えての行動とされる処でした。

今次連荘となった、これら会議はいずれも、中国の台頭で急速に変化する地政学的環境への対応、世界秩序の堅持の方向を探らんとするものであり、上記「暫定米国の戦略指針」の検証作業の一環とも思料される処です。 もとよりその行方の如何は、当然のこととして、米同盟国としての日本の外交のあるべき姿が問い質される処です。そこで、今次、連荘のこれら協議の実情をレビューし、今後の行方を考察することとします。


1.日米豪印首脳会議(QUAD)、そして日米「2プラス2」協議

(1)日米豪印首脳会議、QUAD (Quadrilateral Security Dialogue) 、2021年3月12日
そもそもQUAD(日米豪印戦略対話)とは、日米豪印戦略対話)2006年当時の安倍首相が4か国の戦略対話を訴えたのがきっかけ。安倍氏の首相返り咲きで計画が再浮上、2007年11月、局長級会合が始まり、19年には4か国外相会談が開催されています。
この間、インドは伝統的に「非同盟」の立場にあって、中国を含め「等距離外交」を重視してきた経緯もあり、今次の首脳級への格上げには難色を示していたとされる処でした。が、近時の中国との国境紛争問題を抱える新事態に対峙する中、日米の口説きもあって4か国の枠組みに参加することとしたというものです。更に、日米豪はインドが参加しやすくなるよう配慮し、議題も安保を前面に出すのを抑え、経済や環境、新型コロナ対策など幅広く設定されたとされたのです。

今次QUADの成果として挙げられたのが、4か国協働によるワクチンの国際的配布プロジェクトの決定でした。ワクチン供与問題は重要テーマです。が、その直後の筆者の印象は、それだけなの?と云うものでしたが上述対インド配慮を思う時、止む無しという事だったのでしょう。因みに直後の4首脳連名での共同寄稿はその辺の事情を映すものとなっていました。

つまり、4首脳連名でWashington Post紙に共同寄稿「Global Opinion」では、「We will renew strengthen our partnerships in South Asia, starting with the ASEAN Nations, work with the Pacific Islands, and engage the Indian Ocean region to meet this moment」とし、「Our foundation of democracy and a commitment to engagement unite us.」とするもので、それ以上の具体的言辞を見出すことはなかったのです。要は、中国を念頭に、4者連携とそのパワーを誇示せんとするものだったと理解する処です。

ワクチン配布プロジェクトについて云えば、中国は既に自己開発のワクチン「シノバック」を東南アジア各国に配っていて更に、東京五輪に参加する選手全員にワクチンの無償提供を提言している処です。つまりワクチン外交です。一方、QUADではワクチン提供、製造、輸送、資金提供などを4か国が分担、余剰ワクチンはインド太平洋諸国に提供しようという事で大切な合意を見ましたが、果たして、これが中国への対抗、包囲網に役立つのかと、多少懸念の残る処でした。

勿論、上述インドへの配慮あっての事とは推測する処ですが、「法の支配」といった価値観を共有する4か国が、今起こっているミヤンマーの軍事クーデターに対して糾弾声明すら出すこともなかったことはいかがなものかと思料する処でした。とにかくQUAD は、「自由で開かれたインド太平洋構想のシンボル」なはずです。アジア・太平洋の指導者がオンラインとはいえ、一堂に会したこの機会に、ミヤンマーについて何ら声明を出すことなく終わった事には、いささか看板倒れではと、残念さの残る処、次回のQUADに期待する処です。

    (注)QUADの枠組みを支える日本側の協力体制は以下3本の条約
     ・日米安保条約(1960年6月1日)・日豪安保共同宣言(2007年3月13日)、
     ・日印安保共同宣言(2008年10月22日)

(2)日米「2プラス2」:日米外務・防衛担当閣僚協議 2021年3月16日
「2プラス2」協議とは日米の外務・防衛閣僚が集まって、両国の安全保障を話し合う協議体で、正式名称は「日米安全保守協議委員会(SCC)」、1960年に発効した日米安保条約に基づくもので、同年9月に初回会合を開催。90年には出席者を当初の実務者から閣僚級に格上げされ、現在に至っています。これまで、在日米軍の再編や防衛協力の指針(ガイドライン)の改訂など日米同盟の節目となる重要なテーマを協議してきています。

さて16日の協議には、米国からはブリンケン国務長官、オーステイン国防長官が出席、日本は茂木外相、岸防衛相が出席しましたが、QUADとは違い、協議ポイントは明快。ブリンケン氏は、日本との同盟関係重視の考えを繰り返し強調、同盟を再確認するだけではなく実行をするために日本に来たと発言。またオーステイン氏も「一緒に自由で開かれたインド太平洋を守りたい」と続いたと、報じられる処です。そして、両氏が最初の訪問先に日本を選んだ背景には、中国への意識があり、今時協議の成果文書(注)でも中国の行動について「既存の国際秩序と合致しない」と厳しい表現で批判する処となっています。

(注)日米共同発表のポイント(日経2021/3/17):
・中国海警法に深刻な懸念 / ・台湾海峡の平和と安定が重要
      ・尖閣諸島へ日米安保条約5条を適用。日本の施政権を損なう行動に反対
      ・同盟強化へ「日本の能力向上」/ ・年内に2プラス2をサイド開催。

直近4回の2プラス 2の文章では中国を明示することはなく、2013年の協議の際は地域の安定や繁栄のため中国に「責任ある建設的な役割」を求める内容でしたが、この8年の変化は米国の中国観の変容を浮き彫りする処と、メデイアの報ずる処です。(日経2021/3/17)

バイデン政権はアジア太平洋での中距離ミサイルの配備、中国に頼らない半導体などのサプライチェーンの構築を目指す中、日本の役割拡大を期待する処ですが、米国が中国の尖閣周辺での領海侵入に厳しい姿勢を示すその視線の先にあるのが台湾です。今年、2月1日付けで施行された中国の海警法の強化は、台湾海峡の緊張を一段と高める処ですが、3月9日、インド太平洋軍のデービッドソン司令官は米上院軍事委員会で、「インド太平洋の軍事バランスは米国と同盟国にとって一層、不利に傾いている事」、「米軍が効果的な対応策を打つ前に中国が一方的な現状変更を試みるリスクが高まっている」と、したうえで「台湾への脅威は今後、6年以内に明白になるだろう」と証言しています。
つまり、2027年までに中国が台湾を侵攻する危険を示唆する処ですが、台湾有事となれば、沖縄の米軍基地が重要な役割を果すこととなる処です。米国が東シナ海に積極姿勢を見せるのはこうした差し迫った事情を映す処です。

勿論その際は、日本は何をなすべきか、上記 デービッドソン司令官の議会証言もこれありで、議論を急ぐ必要のある処ですが、今次「2プラス2」の共同声明に盛られた事項への具体的取組を確実に進めていく事かと思料する処です。

尚、中国外務省は16日の記者会見で、日米2プラス2に関し、「第三者を相手にしたり、利益を損ねたりしてはならない」と警告を発していましたが、こうした思考様式の相違については更に、次のアラスカでの米中協議で集約されていくものと想定される処でした。


2.米中外交トップによるアラスカ・アンカレッジ会談 、2021年3月18日/19日

当該会談は、当初中国側から東京での「2プラス2」の終了後、北京で2者会談したいとの
提案があったものでしたが、米側からcounter提案があり、北京・WSHで等距離となるア
ンカレッジでの会談と、なったというものでした。

さて、初となった米中の外交トップによる2日間の協議は異例ともいえる非難合戦で幕が
開け、19日に終了しましたが、その翌日の新聞報道は「人権や経済で同盟国と組んで中国封じ込めを狙う米国」と「軍事内政で強権を誇示する中国」、超大国の衝突は政治体制や国家理念にも立ち入る新たな次元に突入したと(日経3/21)、やや興奮気味に当該会談の様子を報道するのでした。

冒頭の両者全員の発言については、米国務省が全文を公表し、その和訳が23日付け日経に掲載されていますが、とりわけ冒頭記者団を前にしての過去に例を見ない激しい応酬が1時間以上も続いた事態に、「新冷戦」と称されるほどに悪化している米中関係をまざまざと感じさせられる処でした。そしてブリンケン氏の「新彊ウイグル(注)や香港、台湾、米国へのサイバー攻撃や同盟国への経済的威圧について深い懸念」の表明、併せて、これら中国の行動について仝氏は「世界の安全に欠かせないルールに基づく秩序を脅かしている」と激しく非難する姿に米中対立の深まりを感じさせられる処でした。

   (注)対中制裁:EU理事会は22日、中国での少数民族、ウイグル族の不当な扱いが人
権侵害に当たるとして中国に対して制裁を決定。これは1989年の天安門事件以来、30
年振りの措置です。多くのウイグル族が不当に拘束されている他、労働や不妊手術を強
制されているのを問題視しての決定ですが、更に、仝日、米英カナダもウイグル問題で、
そろって対中制裁を発表。EUに続く制裁で、主要国が足並みを揃える処です。更に、
ブリンケル氏は、23~24日、ベルギーで開催のNATO外相理事会に出席、24日には米
欧同盟について講演し、そこでも中国の脅威を訴え欧州に連携を呼びかけています。

一方、中国は主要国が参加する対中包囲網を強く警戒を示す処、楊共産党政治局員が「世界の大部分の国は米国の価値観が世界的な価値観だとは認めていない」と強く反論する処、これが、警戒感の表れとされる処です。 要は、コロナの封じ込めにいち早く成功した習近平主席を頂点とした共産党の一党支配こそ、米国式の民主主義に代わる優れた仕組みと、楊氏は言い放っていますが、米中関係の変質と中国がおかれる立場の変化が、その発言に集約される処です。中国は既に、反米対抗連合を模索し始めていると報じられる処ですが、バイデン氏のプーチン大統領に対する発言もこれありで、プーチン氏は駐米ロシア大使を帰国させる一方、急速な対中アプローチを目指すなど、中ロ連携の強化が進む状況です。
 
つまり、バイデン政権が支柱に置く人権外交(ウイグル問題)をトリガーに米欧自由諸国による対中包囲網が進む一方、中国を軸にロシア、北朝鮮との連携が進む結果、米中の対立は、
「米国の人権外交 VS 中国の反米対抗連合」を構図とした、対立関係が進む様相です。
因みに3月22~ 23日、ロシアのラブロフ外相は中国王毅外相と中国南部の桂林市で会談、共同声明では「人権問題に名を借りて他国の内政に干渉するのをやめるべきだ」と強調、ウイグル自治区を巡る米欧の対中制裁をけん制する処です。(日経3/24)

中国は先に2035年までに国力を引き上げ、中東レベルの先進国にする長期展望を示しており、今次アラスカ協議でもその一端が紹介されています。米国超えを狙う国家戦略が明らかで、中長期的な覇権争いも絡むとなると対立緩和は容易なことではないのでしょうし、世界第1位、2位の経済大国の対立が固定化すれば、コロナ禍で疲弊する世界経済への影響も大きく、今こそ、米国としては同盟重視で、中国との接点を探る必要があるのではと思料する処です。 尤も気候変動問題では協力が期待できそうな数少ない分野ですが、バイデン大統領が主宰する4月下旬の気候変動に関する首脳会議に合わせた協力が焦点になる処と思料するのです。


3.The Economist誌が示唆する「中国のトリセツ」

3月20日付けThe Economistの巻頭言 ` Dealing with China ‘ は世界経済の現状について、問題提起方々、今後の中国への向き合い方について、次のように指摘するのです。今言う処の「中国のトリセツ」です。

まず「自由主義の価値観はソ連崩壊を機に、世界で優勢を誇ってきたが、中国の揺さぶりを受け今、米ソ冷戦初期以来の試練に直面している。つまり、冷戦時代のソ連とは異なり中国は西側諸国と緊密に結びついて、この事実が、自由主義世界に大きな難問を突き付ける処
、その難問とは、「中国の台頭に伴い、経済的繁栄を維持し、戦争のリスクを抑え、同時に自由社会を守る最善の策とは何か」という問いだというのです。

因みに、西側の為政者の多くは、中国のWTO加盟を歓迎し、豊かになれば自然と民主化すると考えたが、そうはならなかった。つまり関与政策の失敗です。そのためトランプ前政権は中国に強硬姿勢で臨み、追加関税と制裁を科したが、それも効果はなかった。では西側が取れる強行策としては、中国への強硬姿勢を更に強め世界から孤立させ、方針転換を迫るという選択肢はあるが、その代償は大きいく、世界の工場である中国は世界の輸出製品の22%を生産している現状を見れば理解できる処と云うのです。それでは中国との禁輸を進めれば人権尊重を促す一助になるという見方はあるが、独裁国家は孤立すると強権を強める傾向があり、西側とビジネス面、学術面、文化面で接触を失えば、中国市民は他国の意見や情報からさらに切り離されることになる。従って、中国との関係を維持するのが唯一の賢明な策となるが、これが融和策に陥らないようにするにはどうすれば良いかだというのです。

そこで、先ず西側が始めなければならないことは防衛強化だと。つまり中国政府の介入に備え、クラウドシステム、エネルギー体制を含め様々の制度やサプライチェインの強化も必要だという。今米主導で構築し、グローバル化を支えてきたインフラは老朽化している。それらを刷新し、中国が対抗して構築している制度とは異なる選択肢を提供できるようにする必要があるというのです。その点では、平和の維持のためには「QUAD」のような日米豪印4か国の連携強化や台湾の軍事力強化が必要だと。そして、中国と対峙する力を強化すれば開かれた社会を維持し、人権問題に毅然と臨めるようになると云うのです。
今、バイデン政権は、一連の協議の成果を踏まえ、前出「暫定米安全保障戦略指針」の見直しを進めている処でしょうし、西側各国も中国にすり寄ることなく、どう付き合うか戦略の見直しを進めている処と思料するのです。

さて、菅首相は4月前半、バイデン大統領と会談の為、訪米予定です。その際 問われるのが上記の問いに応えていく、要は、米中対立の中の日本の役割を語ることと思料するのです。
米国は中国との協議で、日本をはじめとする同盟国と連携して中国と対峙する姿勢をはっきりと打ち出しています。日本はどこまで米国についていけるか。 因みに上述、エコノミスト誌も指摘していたようにQUADは地域協力を促進枠組みになりうるかが試されることでしょうし、日本は豪印だけでなく日米に他のアジアの国も加えた関係強化の方策を提供すべきと思料する処です。以上 (2021/3/25)
posted by 林川眞善 at 11:00| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2021年4月号(その1)  世界は今、Decarbonizing - 林川眞善

目  次

はじめに Black out in Texas  
(1)米テキサス州は終末世界の様相
(2) 温暖化対策推進を目指す大統領令
    
第1章 米国の温暖化対応、世界の行動
1.テキサス州のBlack outと温暖化対策の現状
   ① バイデン政権が目指すエネルギー政策を読む
   ② 温暖化対応が競争力強化の源泉
   ➂ 米国は気候変動対策(脱炭素)へ真剣に取り組め
2. 世界は、さらに脱炭素に向かう
   ① 国連グテレス事務総長 -「石炭の時代は終わった」
   ② COP26会議と英COP26大使、ジョン・マートン氏
   ➂ 英イングランド銀行、企業の対応はSay on climate!

第2章 国際慈善事業家 ビル・ゲイツ氏と、日本の脱炭素戦略
1. ビル・ゲイツ氏
2.日本が目指す「カーボンニュートラル」の可能性
(1)菅政権のグリーン戦略
(2)脱炭素に求められる発想の転換 ―バックキャスト思考
(3)「原発」への取り組み
・The lessons of Fukushima ― エコノミスト誌が語る‘フクシマの教訓’ の意外

おわりに The world biggest test of co-operation

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    はじめに  Black out in Texas

(1)テキサス州は終末世界の様相
この冬、米国は厳しい寒波に見舞われ、とりわけテキサス州では1989年以来の記録的寒波・低温(マイナス18℉)を記録。この寒波で、水道管破裂や停電による水処理施設の停止で断水が発生、さながら終末世界の様相と報じられる処でした。 バイデン大統領は2月20日、非常事態宣言に加え同州に対する大規模災害宣言を発する処でした。

そもそも石油や天然ガスの主要産地のテキサスで、安定した供給が期待できない事態を生んだのはなぜか? こうした事の背景として、州内電力網を運営するテキサス電気信頼性評議会(ERCOT)が寒波襲来によるエネルギー需要の急増をきちんと予測できなかったことにあるとされています。つまり、今回のような寒波にはめったには襲われることはなく、従って電力会社は設備の防寒対策に投資したがらないこと、これが今回のような災害を大きくしたとされる処、3月3日には同評議会のビル・マグネスCEOは解任されています。

加えてもう一つ、テキサス電力市場の独特な仕組みが大停電の一因だともされる処です。
つまり、アラスカとハワイを除く米本土48州の内テキサス州だけがTexas Interconnection
と呼ばれる州内で完結する送配電網があり、そのシステムがあることで、州内での発電機能が停止したとしても、他州から州境を超えて電力を融通してもらえず、その点からは今次の大停電は、まさに制度上のミスによる結果であり、行政のミスによる処とも云えそうです。

更に、野党・共和党の政治家たちからは、ここぞとばかりに風力等再生可能エネルギーへの依存が計画停電を招いたと批判する処です。が、今回の供給不足の主たる原因はテキサスの電源シェアーの半分近くを占める天然ガス発電を巡る問題、つまりは自由化の進むエネルギー市場への対応が問題と云うことですがERCOTを含め、人為的な瑕疵に負うものであって、その点、大停電の主因は‘再生可能エネルギー問題ではなく、ガス発電の問題で、従って、インフラ投資なしには再発不可避とみられる処です。

   (注)テキサス州の発電源(2019年) :天然ガス47%,(全米:38%),石炭20%,(23%) 
風力20%,(7.3%)と風力の割合が大きい。特に石炭火力(2009年:3.7%)が減る一
方、風力発電(6%)が3倍以上に拡大してきた。

今次の大停電は、風力発電所に限らず、ガス火力発電所や、原子力発電所にも被害が出ていること、加えて同州の発電容量は小さい上に、送電網も貧弱なため、他の地域から電力の融通を受ける事も出来ない状況がもたらした結果と云え、要は州としての危機対応が未熟であったとされる処です。とすれば、その未整備のままに置かれてきた諸々の改善があれば、事態の解決は可能、回復へのシナリオは具体的に描けるという処です。因みに2月20日付けThe Economistは、The freeze in Texas exposes America’s infrastructural failingsと指摘する処です。

ただ、今次の大停電が示唆することは、エネルギーの送配設備の改善もさることながら、安定したエネルギーの供給を確かなものとしていく上でのポイントは、供給エネルギー源の構成にあって、それは各種エネルギー源が排出するガス、つまり地球温暖化効果問題といかに対峙していくかが問われる事になるのです。その点、バイデン大統領は政権運営の基本の一つと位置付け、以下の大統領令を以って地球温暖化問題への取り組みとする処です。

(2)温暖化対策推進を目指す大統領令
バイデン氏は大統領就任直後の1月27日、温暖化ガスの排出削減を目指す大統領令に署名し、同時に「グローバルな対策を主導する」との意向を鮮明とする処でした。その際は、
化石燃料から再生エネルギーへの移行を進めるとし、大統領令では連邦政府の管理地で石油・ガスの新規開発を止めると明記する一方、洋上風力のエネルギー生産量を30年までに倍増するとも掲げています。(注) そして協定に復帰した2月19日、バイデン氏は、ミューヘン安全保障会議にオンラインで参加、パリ協定復帰を強調すると共に、「地球の日」(4月22日)に「温暖化ガス主要排出国の首脳会議」の開催を発表、28日には菅首相との電話協議の際は、4月の気候変動サミットに首相を招待したのです。

同日、ケリー気候担当大統領特使は国連のオンライン・イベントで、4月、米主催の気候サミットを念頭に、「各国が今後10年間、又30年間のロードマップを実質的に定義しなければならない」と述べ、更に「我々は、地球の温度上昇を1.5度までに抑制するために、今後10年間に必要となる行動を決定し、2050年までのカーボンネットゼロ達成のため何ができるのか、より良いビジョンを作成していく」と発言しています。

(注)27日署名の大統領令での強調点(気候変動を外交・安保政策の中心にして)
 ・気候変動サミット開催      /・パリ協定復帰に伴う目標設定
  ・情報機関が気候変動の影響を評価 /・政府管理地での石油・ガスの新規開発停止
  ・洋上風力を30年までに2倍に /・化石燃料への補助金削減 (日経2021/1/29)

もとより、これが単に電力問題にとどまることなく全産業構造の如何に及ぶ問題です。そして、上掲The Economist誌は、バイデン政権が目指す環境対応政策、つまり脱炭素への確実な取り組みをと、米国の動きを叱咤激励する処です。 そこで本論考では米テキサス州の大寒波をトリガーに、バイデン政権の温暖化政策、脱炭素戦略の概要と問題点に絞り、夫々の実状とメデイアが伝える当該批判そして、近時、温暖化対策に取り組む国際的な慈善事業家に転身したビル・ゲイツ氏の日経紙上対談をも含め、世界の脱炭素戦略の現状について、更に日本の実際をもレビューしていく事とします。


  第1章 米国の温暖化対応、世界の行動

1. テキサス州のBlack outと温暖化対策の現状
     ― The Economist誌が叱咤激励する米国の環境対応

今次米テキサツ州で起きた大寒波の実情は上述の通りですが、異常気象の発生が米全土で続く状況は気候変動の兆しであることは誰の目にも明らかと映る処です。
さて、前掲The Economist(2/20付)は、今次テキサス州で起きた大停電は、基本的にはインフラ整備の欠落にありとしながらも、同誌「America’s better future」では、バイデン政権が定めた気候変動対策、No carbon and no blackoutをこの10年でいかに進めるかが、今後の米国の針路を左右すると見るのです。それが意味することはイノベーションが得意な国、アメリカだからこそ、2050年までの脱炭素達成を目指し、大規模な変革を起こす必要があること、そして国際社会の場でも削減に向けて野心的な目標を挙げ、影響力を与える存在であり続ける要があると、前出大統領令に照す形で、叱咤激励する処です。 そこでまず、その概要を紹介することとしておきましょう。
       
① バイデン政権が目指すエネルギー政策を読む
伝えられる処、2035年までに発電部門の温暖化ガス排出をゼロにして、50年までに「カーボンニュートラル」な経済の実現を目指さんとするものです。
米国は世界第2のCO2排出国ですが同時に、気候変動政策や技術に関する知見豊とされ、世界をリードする潜在力もある処です。それ故これからワシントンでの動きは、今後10年間、或いはその先に至るまでの米国の針路を定めるものになるだろうと指摘する処です。

このカーボンニュートラル目標は、世界の平均気温上昇を産業革命以前の水準から2度以内に抑えるという国際社会の目標に沿ったものですが、実現は至難の業と見る処です。
つまり、世界でカーボンニュートラルを達成するためには、10年間にわたって毎年7.6%
の排出削減が必要で、これは2020年のコロナ禍による石油・石炭需要の低下を上回る規模の削減となるだけに至難なこと云うまでもありません。

ただ、政治環境として気候変動対策に共和党は反対ですが、有権者の3分の2は連邦政府の対策が不十分と考えているとされ、更には共和党への大口資金提供企業の多くも積極的な温暖化対策を望んでいる由伝えられており、そうして状況からは相応に期待できると見る処です。そして、何より心強い事は、過去10年間で風力発電のコストが70%、太陽光発電では90%、下がったことだとするのです。更にイノベーション大国、米国はその力量を広く展開すべきで、そのツールの一つとして、炭素に価格をつけ、CO2を排出した企業や家庭にお金を負担してもらうカーボンプライシングがあるとも語るのです。

② 温暖化対応が競争力強化の源泉
とにかく温暖化対策に向けて行動を起こさないことによるリスクは大きいと指摘するのですが、それが意味することは、新たな「クリーンエネルギー分野」で、米国の競争力が削がれるだろうとする処です。因みに、中国は、ソーラパネル・バッテリーの生産では最有力国であり、外国の鉱山に投資し、生産に必要な鉱物を確保していること、一方、欧州はクリーンエネルギー産業振興のため、独自の「欧州グリーンデイール」を打ち出し、「国境調整メカニズム」と呼ばれる仕組みを擁して、排出量の削減を約束していない国からの輸入品に課税していく方針にある点です。

又、国際社会における気候変動問題の議論に対する影響力を失うリスクも高まるとも指摘する処です。米国が直接関与する温室効果ガス排出量は世界全体の排出量の約10%しかありませんが、気候の安定に加え、世界経済の安定、地政学的問題の安定、不利益の回避を求めるのであれば、残りの90%を排出する国々に対する影響力を保持する必要があるとも強調する処です。

➂ 米国は気候変動対策(脱炭素)へ真剣に取り組め
米国は2月19日 パリ協定に復帰、11月には英国で開催の第26回国連気候変動会(COP 26)に参加予定ですが、そこでは各国が排出削減のために新たな目標を公約することになっています。その際、米国は目標を明示し、その実現のための国内施策を示すことができれば、対外的な影響力を保持できるだろうと云うのです。とにかく米国はこれまで、景気変動対策で国際社会の信頼を得られることはなく、殊、トランプ氏は国際社会の米国に対する信頼を失墜させ、W.W.ブッシュ元大統領は京都議定書の実施を拒否、90年来、米連邦議会は本格的な気候変動関連法案の審議を行うことはなかったと、指摘する処です。今こそこうした態度は改めるべきで、バイデン氏が本気を示すチャンスは、今を逃せばもうないものと指摘するのです.

― テキサス州での大停電から分かるのは、気候変動問題を乗り越えることができれば、バイデン氏が世界と同時に米国民からも感謝されるだろうと強調する処です。

2.世界は、さらに脱炭素に向かう

① 国連グテレス事務総長 - 「石炭の時代は終わった」
3月2日、UN事務総長のグテレス氏は石炭火力発電所廃止を目指す国際組織「脱石炭連合」の会合に寄せたビデオ演説で「石炭が安価な電力を供給し、地域社会に雇用を齎した時代はもう終わった」と語り、石炭の経済的合理性は薄れているとする処です。そして「世界の死者の5人に1人は化石燃料によるものだ」とも指摘し、石炭火力への依存度の高い日本など主要国に、迅速な行動をとるよう訴えるのでした。

周知の通り今世紀末までの気温上昇を産革命前に比べ、2度未満に抑え、1.5度以下にとどまるよう努力する目標を掲げていますが、グテレス氏はこの「1.5度目標」の重要性を改めて強調し「電力部門から石炭を段階的に廃止することは最も重要なステプだ」と力説するところでした。とすれば30 年までに世界の発電における石炭の使用量を10年比で80%削減しなければならないのですが、極めてしんどい話です。因みに2月26日、「国連気候変動枠組み条約事務局」は、現状の各国が提出した2030年の温暖化ガスの排出削減などの目標について、各国の目標では「達成はほど遠い」と分析・報告する処です。

尚、同じ3月2日、国際エネルギー機構(IEA)は2020年のCO2の排出量は前年比で5.8%減ったと発表。これが第2次大戦後で最大の減少幅としながらも、削減努力を加速しなければ21年は一転、「著しく増えるリスク」があると警鐘を鳴らす処です。(日経3月3日)

② COP26会議と英国COP26 特使 ジョン・マートン氏
今年11月、英国が議長国を務めるCOP26が開催予定ですが、各国が野心的な温暖化ガス削減行動をとる環境が整ったと、云うのは英国マートン特使です。同氏は日本のエネルギー事情に理解を示しながらも、「英国はじめ多くの国は2~3年前に想定していたよりもずっと早いペースで石炭の使用を減らしてきている。近い将来、再生可能エネルギーへの新規投資額は既存の石炭火力発電所への追加費用を下回るだろう」というのです。

気候変動問題は50年前から指摘される処、対策をしない場合のコストがどれだけ膨らむかもわかっているわけで、この際は世界が一体となって気候変動対策を急ぐ必要性がますますはっきりした、と主催国としての矜持を示す処です。(日経、2021/2/25) 要は米国と力を合わせ脱炭素をと、いう処です。これまで欧州の気候変動対応には「理想論」「夢物語」との批判も多かったものの、最近は、将来の産業育成や成長力と関連付け冷静かつ現実的に戦略を練ってきており、この変化を見落とせば日本は競争力を失いかねないと見る処です。

➂ 英イングランド銀行、企業の対応は Say on climate!
序で乍ら、英国のスナク財務相は3月3日、英イングランド銀行(中銀)の金融政策運営の使命に、温暖化ガス排出量の「実質ゼロ」社会への移行を加える、と表明する処です。物価上昇率2%のインフレ目標と共に、金融政策や監督を担う中銀として気候変動問題にも積極的に対処していく責務を明確にする処ですが、政策運営の責任として具体的に脱炭素を盛り込むのは、主要中銀では英国が初めてです。 スナク氏は英下院での予算演説で、政府が指定する金融政策の使命について「今後は、環境の持続可能性と(温暖化ガス排出量の)ネットゼロへの移行の重要性も反映していく」と語る処です。(日経,夕 3/4)

一方、企業が株主総会で「脱炭素」の取り組みの賛否を株主に問う動きが欧米で広がってきています。 その動きとは、株主が総会での意思表明を通じて企業の脱炭素対策へ関与を強めるとするもので、「Say on climate」と呼ばれる動きで、これは10年前後に欧米で広がった、経営者の報酬が妥当かどうか、株主が意思表示する「Say on pay」の環境版です。
スイスの資源企業、英蘭石油企業、ロイヤルダッチシェル、等有力企業がその方向に動き出している由です。但しそこには法的拘束力はありませんで、今後は企業の温暖化ガス排出削減がどこまで進んだかの検証も必要になってくるのではと思料する処です。 序で乍ら、弊論考106号で指摘した北極圏の凍土融解が齎す問題です。つまり、永年凍土中にあった生物の死骸がウイルスの培養皿に転じることの危機を十分認識されておくべき事なのです。

     
第2章.国際慈善事業家 ビル・ゲイツ氏と、日本の脱炭素戦略

1,ビル・ゲイツ氏

2月15日付けで配信された日経電子版で目を引いたのが、米企業の巨人マイクロソフト創業者から国際的な慈善事業家に転身したビル・ゲイツ氏のインタビュー記事でした。その内容は、主に地球温暖化問題を巡って、日経記者からの質問に応える形での内容でした。いまや一国の政府をも上回る力を持つ慈善事業の巨人となった彼の言葉は光る処、以下はその概要です。

① 地球温暖化問題に取り組むきっかけ:
「2000年にゲイツ財団を設立し、アフリカを旅して電力不足で夜の照明もワクチン冷却も困難な状況を知った。その電力を供給するのに今のやり方を変えないと、地球温暖化問題が大きな制約になることがわかった」そこで、「パリ協定が採択された15年のCOP21の前に米、仏、印のトップとも話し合った結果、研究開発を含むイノベーションに焦点を充てる考えに行き着いた」と。 そして、「自分は50年の排出量ゼロ目標を支持しており、これは世界、特に先進国すべてが持つべき目標だ。日本の役割はイノベーションに貢献する事だ」とし、とりわけ日本の自動車メーカーは電気自動車(EV)だけでなく水素を燃料とする燃料電池にも力を入れているが、これは長距離を走行し、重量が大きいトラックなどにも有効かもと、水素の可能性を指摘する処です。

原発については「日本の場合、天然ガス価格が米国の3倍程度なので、(原発は)経済的には実行可能だ。重要な問題は国民が受け入れるかどうかだ」とし、「気候温暖化問題に関する限り、問題は既存の原発ではなく、次の第4世代原子炉。建設コストは、今の4分の1という驚くべきものだ」と優位性を指摘する処です。 尚、前出 The Economist,2/20によると、ゲイツ氏は新著でエネルギー貯蔵、再生可能エネルギーを保管するための高度な原子炉開発、クリーンなコンクリート製造技術など、脱炭素化が難しい分野の技術開発をはじめ、多くの分野でイノベーションが求められると主張いている由です。

② バイデン政権の取り組みについて:
選挙直後にバイデン氏とは地球温暖化とコロ対策について話した由で、「11月の英国でのCOP26に彼が出席することに期待する」とし、「バイデン政権は地球温暖化問題を政権の4つの優先事項の1つに加え、多額の財政支出を約束している。気候変動対策は長期投資なので、進んでは止まるという事ではなく超党派で進めることが重要。若い共和党員はこの問題に関心をもっている。環境関連の技術革新がこようと起業を生み出す利点がある。この問題では現実的になり,党派的になるべきではない」と強調。

➂ 温暖化対策の可能性について:
そして、温暖化対策にはあらゆる可能性を追求する必要があるとしたうえで、「先進国は過去10年間発電容量を増やしてきていない。最大のグリーン電力の水力発電は、ほとんどの国では立地の問題で増やせない。原子力は非常に安全になりうるが、それを皆に分かってもらうのが難しい。現在開発を進めているのが蓄電池、次世代原子炉、核融合炉の3つだが、これまでと劇的に違うものが必要かもしれない。今から5年後には、これらがどれぐらいうまく機能するかを示したい」と。

要は、地球温暖化問題について技術革新を通じて打開を目指さんとする処、その中核は環境にやさしいバイオ燃料と通常燃料の価格差などを示すグリーンプレミアムの引き下げで、技術革新を通じて、この価格差を限りなくゼロに近づけるのが目標だと云うのです。まさに
国家を超える課題、解決に向ける意欲の伝わる処です。

2.日本が目指す「カーボンニュートラル」の可能性

(1)菅政権のグリーン戦略
2020年10月26日、菅義偉首相は国会で、就任後初となる所信表明演説で、温暖化ガスの排出が実質ゼロとなる「カーボンニュートラル(炭素中立)」を2050年までに実現すると宣言し、続いて12月末、実現の道筋を示す「グリーン成長戦略」を発表しています。ポイントは、国内の乗用車の新車は30年代半ばまでに全て電動車とし、40年までに原発45基分の洋上発電を導入、50年までに再生可能エネルギー比率は50~60%を目安に引き上げるとする処です。

その為には、脱炭素に繋がるあらゆる技術と産業構造の「ウルトラCのイノベーション」が不可欠となる処です。それだけにという事でしょうか、専門家の多くは、これまでの経験にとらわれる形で、脱炭素化推進には口をそろえてnegativeな姿勢を呈するところでした。が、前掲ゲイツ氏の言からも伺えるように、事態を巡る環境は、「できるかより、やるかどうか」の状況へと、急速な変化を呈する処です。因みに近時、経団連中西会長も「気候変動は経済を壊しかねない」、「脱炭素は最優先テーマだ」(日経2021/2/23 & 3/9)と重ねて強調する処です。今年1月、ゲイツ氏は菅首相と電話会談の際、同首相の掲げる「2050年カーボンニュートラル」を評価し、日本にはイノベーションに貢献する事を期待すると、直言した由でした。

(2)脱炭素戦略に求められる発想の転換 ― バックキャスト思考
云うまでもなく目標達成のためにはいろいろハードルのある処です。具体的には、「水素」や「アンモニア」は、燃やしてもCO2が発生しないためとして、「グリーン成長戦略」、つまり水素社会実現への切り札とされる処ですが、それには、価格や供給面の課題に加え、製造段階のCO 2が、高い壁として立ちはだかる処です。(日経ビジネス、2021/03/08)
つまり「価格の壁」とは、水素に対する需給関係を如何に合理的に維持していけるかの問題ですし、「供給面の壁」とは水素のsupply- chain の構築問題です。更には製造時のCO2の問題です。つまり現状では、産業用の水素は天然ガスを改質して作られていっすが、その際にCO2が発生するのですが、真の脱炭素を実現するには「製造方法」がカギだとされる処です。問題所在はわかっているわけで、それに如何に取り組むか、やるかやらないかの問題とされる処です。要は発想の転換です。
環境が急激に変わる中にあって、今求められる‘発想の転換’とは、過去の経験や現状からの延長線の枠組みの中で解を求めるのでなく、未来を起点に解決策を見つける思考法「バックキャスト思考」です。それなくして将来を拓く事は出来ないのです。

(3)「原発」への取り組み 
最後に「原発」にいかに対峙していくかです。それは前出 ビル・ゲイツ氏のコメントにもあったように、日本の場合は、天然ガス価格が米国の3倍程度なので、(原発)は経済的には実行可能だが、重要な問題は、国民が受け入れるかどうかだとしていましたが、それは政府発言に映る処です。つまり、梶山弘志経産大臣は、昨年10月13日、日経とのインタビューで、原発について「今後10年間は再稼働に全勢力を注ぐ」(日経2020/10/14)としていましたが、今もその姿勢に変わることはなく、30年まで、原発10基分、相当の1000万キロワットの容量の確保を目指す方針にあって、再生可能エネルギーを最大の主力電源としていく方針に変更はないとする処です。

・The lessons of Fukushima ―エコノミスト誌が語る「フクシマの教訓」の意外
処で、手元に届いたThe Economist March 6~12,2021の特集記事「The lessons of Fukushima」は、「福島原発事故から10年。気候変動対策は急務であり、脱炭素の為に原発は欠かせない。中国とロシアは輸出を続けている。フクシマの事故が残した教訓は、原発を避ける事ではなく、賢く利用せよという事だ」と、意外な教訓、下記 (注)を以って締めるのです。

(注)「It’s critical: Nuclear power has drawbacks the size of tsunami. But with Chinese
plants being built today that will not be decommissioned until the 22nd century, it can not simply be wished away. What is more, it has a vital role to play in the fight for a stable climate. The lesson of Fukushima is not to eschew nuclear power, it is to use it wisely.」
[ 原子力には津波のように巨大な難点がある。しかし今日建設中の中国の原発は22世紀まで使われる
事から、なくなればいいと願うだけではなくなることはない。おまけに、安定した気候を取り戻す戦い
において原発は重要な役割を担う。フクシマの教訓は原発を「避けよ」ではない。「賢く使え」なのだ ]

しかし、福島第一原発(F1)の実情、つまり汚染水処理、燃料デブリの取り出しの難航から「50年での廃炉はむり」と東電関係者が認める現実にも照らす時、この意外ともいえる教訓は、筆者には届く処ではありません。読者各位はいかが受け止められるのでしょうか。


おわりに The world biggest test of co-operation

さて、2月12日、鶴首されていた米フアイザー社のワクチンが成田に着き、17日には医療従事者への先行接種が始まりました。ただ、このワクチン接種により経済活動の正常化を目指す中、これまでの新型コロナとは異なる英国型、南ア型、ブラジル型、等、変異種ウイルスが発生してきたこともあって、ワクチンの世界的配布の行方、とりわけ途上国にちゃんと行き渡っていくものか、世界経済の回復への芽が見えだしてきた(注)ときだけに、まさにglobal vaccinationを巡っての国際連携の在り方が問われる処です。

     (注)OECDが3月9日、2021年の世界の経済成長率は5.6%との予測を発表。
      前回発表(昨年12月)の予測比、1.4ポイントの上方修正となっています。これ
はコロナ・ワクチンで感染の抑制が進むこと、米国の大型追加経済対策で、見通
しを明るくしたとされる処です。

FT調べによれば、全世界には178百万個のワクチンがありその内、30%が米国、23%が中国、12%がEUに、そして9%が英国に向けられ、残り僅かがインド、他に向けられている由で、とするとワクチンの出回り方は先進国偏重となっている現実があり、先進国と途上国との格差問題が災いしているとの指摘のある処です。
つまり、世界的にワクチンの接種を進めるという事は、単に国際間の協働力を試すだけの問題でなく、世界の88百万人とも、115百万人ともいわれる極貧にある人々への支援問題とも絡んで、中々スムーズには捗らない事情を示唆する処です。 実際、欧米の製薬会社が開発し、既に承認が得られたワクチンの調達を巡っては経済力のある先進各国が争奪戦の様相を強める一方で、ブラジルやナイジェリア、アルジェリア等、低・中所得国にとっては中国やロシアからのワクチン供給を頼みの綱とする状況にあるとされる処です。

ただその実態は、中国の場合、あらゆる組織を活用してのワクチン外交と云われており、とりわけ彼らの広域経済圏構想「一帯一路」の実現に向けて築いてきた各国との協力関係を生かして売り込み攻勢をかける姿であり、一方、新ワクチン「スプートニクV」を開発したロシアはアルゼンチンやベラルーシ、更にイランについては医療従事者を対象に同ワクチンの接種を始めたと報じられる処、まさにワクチン外交の戦略性を見る処です。勿論、ワクチン外交は反発も招く処、因みに、台湾は中国からのワクチンの輸入を禁止し、ウクライナでは「スプートニクV」の受け入れを拒否する処です。

・グローバルなワクチンの供給体制
Financial Timesの有力コメンテーター、Martin Wolf氏は2021/2/17付け同紙で、こうしたワクチン外交を巡るglobalな様相を、‘The world’s biggest test of co-operation’と指摘する処です。そして、中ロのワクチン外交に比して、WHOなどの主導で共同購入したワクチンを公平に分配する国際枠組み「COVAX」(COVID -19 Vaccinees Global Access)の取り組みが、あまり進んでいないこと、西側諸国がほとんど気にかけていないこと、に問題ありと批判する処です。確かにグローバルな接種を進める事は困難な問題ですが、不可能なことではないはずですし、これこそバイデン大統領にとっての出番であり、彼の主導の下、G20を強化し、徹底した加盟国の協力を得てワクチン供給体制を早急構築すべきで、それに係るコストは、Covid-19で失ったとされる経済損失とは遥かに少ないものとする処です。要は今こそG20の強化を、とする処です。
それは上述、中ロの動きをけん制するという政治的な理由からも、西側諸国は「COVAX」を通じワクチンを安価または無償で迅速に世界に普及させるとの約束を果たす為にもです。

幸い、3月12日、オンラインで開かれた初のQUAD (日米豪印)では、インド製ワクチンの増産や各国輸送網の整備を支援し、10億回分の製造体制の整備が確認され、前出Wolf氏指摘の‘The world’s biggest test of co-operation’に応える得る処です。

が、大方の注目を呼んだこの4か国首脳会議の具体的成果はと云えば、新型コロナウイルスのワクチン対応で合意したことだけでした。勿論、重要なアジェンダです。が、協議後の4首脳連名によるワシントンポスト紙あての共同寄稿を見る限り、それ以上の指摘は見られず、不甲斐ない印象を残す処でした。(この辺の事情については、本稿「その2」として別途報告「米中対立の構図と、中国のトリセツ」を、参照願います。)  以上 2021/3/25
posted by 林川眞善 at 10:54| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする