2020年06月26日

2020年7月号  深まる米中の対立とグローバル経済 - 林川眞善

― 目 次 -

はじめに 問われるグローバル経済のかたち
 ・そろり動き出した世界経済
 ・Goodbye globalization

第1章 深まる米中対立と世界経済

1.米中対立の実状
 (1)「トウキデイデスの罠」を映す米中対立の実際
 (2)米中対立の構図はイデオロギー対立へ 
 (3)米中対立を激化させた香港問題
    ・2020G7サミット会議、9月延期開催の真相
2.米中対立の行方

第2章 差別抗議デモと、米大統領選の行方

1.米各地で広がる抗議デモとトランプ氏の行動様式
  ・トランプ氏、選挙集会再開
2.民主党に求められる課題
  ・有権者の行動
3.中国に映るトランプ/バイデン両氏の実像

おわりに これからの日本を考える
 ・自立する外交
 ・佐伯啓思氏の主張

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


はじめに 問われるグローバル経済のかたち

・そろり動き出した世界経済
コロナ・パンデミックに覆われた2020年の前半、半年が過ぎるなか、世界は、それまでのコロナ対策として進めてきた行動規制を緩和し、そろり経済活動再開を目指す処です。勿論、パンデミックの第2波、第3波の襲来可能性が想定される処です。と云う事はコロナ菌が完全消滅したわけでなく、従って、当分、各国とも「感染拡大防御の体制」を固めながら「経済活動の再稼働」を目指す、つまりdouble standardの堅持が求められる処です。その際のkey wordがsocial distance。ただ生活、経済の両面でそれが行動規範となると、仮にコロナが収束したとしても、経済はコロナ以前の状態には戻ることはなさそうです。

つまり、市民生活面では感染拡大防御のためとして、人と人との直接接触を回避することが、また外出時にはソーシャル・デイスタンス(social distance:社会的距離)の確保が求められる事で消費活動、生活パターンの変更が起こり、これがGDPで云う消費需要の減退で景気の急激な停滞を促す一方、経済活動でもソーシャル・デイスタンスを確保しながらとすると、これこそは経済の在り方に構造的変化を促すことになる処です。つまり経済活動の基本は人と人とのcontactの上に成り立ってきました。が、その回避を目指すソーシャル・デイスタンスが行動基準となると、産業的には航空、レジャー、旅行、飲食等、対面営業を旨とするサービス分野が直、影響を受ける処、関連する自動車、航空機、などの製造業は規模と裾野が大きいだけに需要蒸発の影響は甚大となる処で、現下の世界経済の低迷はまさにかかる状況を映す処です。(注)

     (注)6月8日、世銀が公表した2020年の世界経済はコロナ感染拡大でマイナス5.2%に落ち
込むと予測する処です。1月時点の予測から7.7ポイントも引き下げとなっています、但し、
21年の世界の成長率は4.2%のプラスに戻ると予測する処ですが、問題は、世界全体に成長
のドライバーが見当たらない事。(日経-20/6/9)

そしてこれがglobal経済の視点からは、人の移動を規制するためとして一斉に国境の壁を高くし、多くは自国主義に走る、まさにBalkanization バルカン化現象が進むことで、世界経済の繁栄を齎してきたglobal化は緊急停止となり、グローバル企業にはその体制の見直しが不可避となる処、グローバル化の流れを逆流させる、革命的変革を誘引する処です。

・Goodbye globalization
英経済誌、The Economist(2020/5/16~22)はcover storyで、こうした状況をGoodbye globalizationと題して、以下のように描くのです

即ち、上述balkanizationが進む結果、グローバル化の核にあったサプライ・チェーンのあり様が問われ、気が付けば、世界の経済が中国を中心に動いてきたことに脅威を感じ、国内回帰が強まる処、これがリスクの一点集中を呼び、規模の経済のメリットを失う事になると、懸念されると云うのです。(注:国内回帰は一方で、問題は国内雇用の保護問題に加え、合理化投資が進むことで、賃金のより抑制でポピュリズムを助長する危険性が潜む事)
そして、5月12日インドのモデイ首相が新しい自国主義、自立経済の時代が始まったと語った由ですが、小国乱立の下では、ワクチンの開発も含め、グローバルな問題を解決していく場がなくなっていくことを危惧すると云うのです。更に、危機対応で大量財政の出動で各国政府は財政赤字拡大を余儀なくされ、その対抗として外資の海外逃避を抑えることとなり、各国の経済回復は早晩期待できないことになるとも指摘するのです。 

つまり、この3要素、自国主義&国内回帰の進行、サプライチェーンの見直し、そして経済回復の如何、がbody-blowsとなって自由貿易システム(open system of the trade)は機能停止となり、グローバル化への動きも従って停止する事になる処と云うのです。が、その次にどのような変化が来るものかと、危惧を強める処です。
要は、選択と集中や効率第一で加速されてきたglobal な企業展開が、コロナ禍でゆり戻される事になっていくとの見立てから globalizationのUターンが云々されると云う処です。

確かに今次コロナ禍は戦後世界経済発展の行動様式の修正を迫り、地政学的に国際関係の構造変化を誘引する処です。かつて学んだ国ごとに強みのある製品に集中し、国境を跨いで売り買いすることが夫々の利益を最大化する(D. リカードの自由貿易論)との発想の下、各企業はグローバルなsupply chainを築いてきたものですが、新型コロナウイルスはそうした前提を覆すことになったと云うものです。

こうした構造変化を指してThe Economist,( May 16~22 ) はそのcover storyで、Goodbye to the greatest era of globalization とするのですが、今後どういった形に収まっていくかは、見遠しえないがとしながらも、自国主義への誘惑にかられる姿に危機感を示す処です。
そして、こうしたグローバルな変化を更に刺激しているのが現下で進む急激な米中関係の悪化であり、かかる事態からは、仮にコロナが終息しても、コロナ前の状態に戻ることはないとするのですが、頷ける処です。

周知の通り上述事情は、今秋の米大統領選再選を狙うトランプ氏自身の事情による、つまりコロナ対応の初期動作の遅れへの非難を交わさんと、とにかくウイルスの発生源は中国にありとして対中批判を強めてきた結果ですが、その火種は従来の貿易や安全保障から更なる広がりを見せる状況です。世界のGDPの4割強を占める米中が報復措置の連鎖を招けば、コロナで痛む世界経済の回復を遅らせ、グローバル経済の縮小が懸念される処です。
つまり、世界経済の行方はまさに、米中関係の行方次第という処です。

そこで、以下本稿では「深まる米中対立と世界経済」をテーマに、米中関係の実状と、米中関係を通してみる世界経済の行方について、と同時に米国は当然のこと、世界の安全保障にも係る米大統領選を巡る状況について、併せて考察する事としたいと思います。


第1章 深まる米中対立と世界経済

1.米中対立の実状

米中の対立とは、2017年、トランプ氏が大統領として登場するや、米国の対中貿易インバランス(トランプ氏はこれを米国の赤字と呼ぶのですが)の是正のためとして2018年7月米国が追加関税措置を発動したことで先鋭化した米中貿易摩擦を映すものですが、そこには中国の産業政策「中国製造2025」への対抗もあってのことで、まさにトランプ政権が仕掛ける対中外交戦略とされるものでした。この間、米中間で3度に亘る貿易交渉がもたれ2019年12月14日には「第一段階の合意」に達し、翌年2020年1月15日に米中両政府は署名、以って一端問題は沈静化した、筈でした。が、両国間の合意への認識に齟齬が見られ、両国の思惑で真に対立が緩和に向かうか不透明に置かれていた処、新型コロナウイルス蔓延を機に再び激しさを増す状況となって来たというものです。

そもそも中国が1979年の米中国交正常化を経て、世界経済の秩序に参加したのが2001年のWTO加盟でした。これは米国の支援に負うものでしたが、これを機に中国経済は急速に拡大、今日世界第2位の経済大国となり、米中はグローバル化と共に経済の相互依存を深め、今や習近平政権下で米国と覇権を争うまでになってきたのです。その状況は、経済が急拡大する中国と19世紀から世界に君臨する米国の覇権争いと映る処です。
序で乍ら、その米中対立の姿を、米ハーバード大のアリソン教授は、歴史上、新旧大国の間で戦争が不可避とする見方に与して、「トウキデイデスの罠」(注)と呼ぶ処です。

(注)米ハーバード大のG.アリソン教授は米中の対立構造を「ツキギデスの罠」と己称したもの。 
古代アテナイナの歴史家、ツキデイデスに因んだ言葉、約2400年前、スパルタとアテイナイに
よる構造的緊張関係に言及したと伝えられる話、を米中関係に適応したもの

(1)「トウキデイデスの罠」を映す米中対立の実際

・米中対立は以下の三つの事案を契機として強化されてきたと云うものです。

 ① ペンス副大統領がワシントンで行った対中国批判(2018/10/4)
   ・政治、経済、軍事のあらゆる分野で中国が掲げる価値観、そのものを批判。以って、米国の対中
    政策の大転換を鮮明に。つまり、外交、安全保障にも広がる「新冷戦」の瀬戸際を示唆する処。

② トランプのコロナ対中批判 (2020/1~ ) ― 米中はストレステスト中 
   ・今年2020年に入って新型コロナと云う新たなストレスで強化される状況が発生。因みに、中
国は早く感染を抑えたが、米欧はまだ苦戦している。これは米欧の民主主義システムより、共
産党体制がすぐれている証と、中国はしきりにこんな言説を流す処。これがトランプ政権にとり
ストレステストと映る処。(注)

(注)大きな危機は政治や社会の耐性を問う一種のストレステスト(stress test:耐久試験)とされる。
ストレステストは、テスト前の状態を帳消しするのではなく、それまでにあった傾向を後押しする
もの。中国についていえば、感染の封じ込めを通じて国内体制を引き締め、テクノロジーを用いた
一党独裁を更に進める、一方の米国ではトランプ以降、共和・民主の支持者の分断がより激しくな
っており、こうした事情を踏まえると米中関係はコロナ以前の姿に戻ることは考えにくい。

③ フアーウエイーへの事実上の禁輸措置(2020/5/17)―米中技術覇権争い
・5月17日には米中対立の主戦場ともいわれるハイテク分野で華為技術(フアーウエイ)への
事実上の禁輸措置を決定、米中技術覇権争いに拍車がかかる処。

(2)米中の対立構図はイデオロギー対立へ
コロナ以前に見られた米中の対立は、通商、海洋の覇権争いにフォーカスされていました。
その限りにあっては交渉を以って解決に向う余地が残されていた処ですが、上述次第で、ス
トレステストに向き合う米中の対立が示唆することは、イデオロギー対立に向かい出して
きたと云うものです。

貿易摩擦から始まった米中衝突は,新型コロナや香港問題を経て、政治的な価値観などで、
米中対立の口喧嘩は、もはや真の敵対関係に陥ってきた(The Economist ,2020/5/9) とされ
る処、とりわけコロナによる米国の死者がベトナム戦争を越えたことで、その怒りは中国
共産党の体質に向けられだしているというのですが、それこそ根本は習近平政権の最強国
路線にある処と云うものでしょう。そしてその様相は、まさに新たな冷戦入りのプロセ
スと映る処、これまでの中国依存型となったグローバル企業の行動様式の見直しは不可避
となり、国際経済の枠組みも大きく変更を余儀なくされていく事になると云うものです。そ
れこそは、世界経済の新常態、云々とされるのでしょうが、この新環境にどう向かうべきか、
その備えが、もはや問われる処です。

(3)米中対立を激化させた香港問題
上述、米中関係を更に激化させる処となったのが、今次中国全人代(5月28日)で「香港国家安全法」の制定方針が採択されたことでした。(7月1日までには策定と伝えられる処です。)周知の通り、中国政府が国家安全に関する機関を香港に設置して直接取り締まりができるようすると云うもので、要は「一国二制度」(中英共同宣言、1984年)を形骸化させ、香港政府や立法会を飛び越えた「直接統治」に乗り出すというものです。香港には投資銀行など米企業1300社が進出しているとされ、うち300社近くが地域の統括拠点と位置付けられているとされています。であれば、中国の香港経済への監視体制が強まる事で、グローバル化を逆転させていく事が想定される処です。

トランプ氏は29日には、今次の中国の政策決定に対して素早く反応、安全保障そして金融
やビジネスに関し幅広い対抗措置を打ち出す一方、米国の香港優遇の廃止など対中強硬姿
勢を再び鮮明とする処です。が、これはまさに天にツバする処です。そしてトランプ氏は中
国絡みでWHOからの脱退をも明言するのでした。

米中はグローバル化と共に経済の相互依存を深めてきました。然し、新型コロナはその前
提を崩すことになったと云うものです。加えて、世界経済と密接につながっている香港問題
が加わってきたことで、米中の対立激化に世界も否応なく巻き込まれつつあると云うもの
です。言い換えれば、香港はまさに米中対立の矢面に立たされたと云う処です。

・2020 G7サミット会議、9月に延期開催の真相
処で、米国が議長国となる2020年Gサミットは、当初、6月下旬にワシントンで開催予定
の処、トランプ氏は9月に延期するとの意向を明らかとしました。直接の要因は、メルケル
首相が国内でのコロナ対策を理由に欠席するとしたことにある由で、彼女のいないG7は意
味がないとして延期する事にした由、伝えられる処です。
トランプ氏としては、この機会に中国にどう対処するかを議論したいと考えている由で、併
せて、秋のG7ではロシア、韓国、オーストラリア、インドの招聘を計画している旨を公表
しています.

要は、香港問題や新型コロナウイルスへの対応などで対立する中国への包囲網作りのため
にサミットを活用したいとする処でしょうか。何か思い付き的行動と映るのです。因みに
The Economist,Jun.6,は`Trump is right that the G7 needs updating. But what for ? と多少
からかい気味に彼の国際会議への対応を評する処です。

尤も、トランプ氏は、「(G7について)世界を適切に代表しているとは思えない。時代遅れの集まりだ」(日経2020/6/1)とし、枠組みの拡大が必要としている由ですが、これが米国内での党派を問わず対中強硬論が加速する様相に応えんとするものとされる処です。これも大統領選向けのジェスチャーかと云えそうです。

ただ、プーチン氏は予て中国が参加しないG7の議論は効果的でないと主張しており、中・ロが主導する上海協力機構(SCO)やBRICSの枠組み,G20を重視する立場を示してきています。また、2014年、クリミア半島併合への対抗措置としてG8から追放されたロシアを復帰させる事にはG7メンバーからは異論の出る処、例えば英国はG7への復帰は支持しないと、又カナダは国際的規範を軽視続けているとして、反対意向が伝わる処です。
安倍首相は6月時開催のG7サミットにいち早く出席と返事をしていましたが、上述事情から彼の次の行動は如何と、習近平の国賓訪日のリスケ案件とも併せ、注目される処です。

2.米中対立の行方

米中の対立は、米国の対中姿勢に照らし当分改善は見込めず、そんな中で米国は世界での軍事プレゼンスを縮小し、当該負担の軽減を図ると云う姿勢は変わることはなさそうです。
因みにトランプ氏はドイツに対して、NATO軍事費負担(GDP2%)の未達の故を以って駐独米軍の3割削減を明示(6月15日)していますが、負担の軽減化に向かう流れは変わることはないと見る処、となれば世界は更に無秩序な様相を呈する事になるのでしょうか。

世界はこれまで強大になり、過剰な自信にあふれた中国にどう向き合い、どう対処するか,
で苦しんできたと云うものですが、これからは強大で、大きな野心を抱き続ける一方で、
内憂も深刻になる中国への対応に悩む時代にシフトしてきたと云う事でしょうか。尚、ここで留意すべきは中国の外交、つまり近時「戦狼外交(Wolf of War)」と称される過激な外交の展開です。2015年、2017年に登場した勇猛果敢なaction映画のタイトルからの引用だそうですが、Financial Timesのラックマン氏は中国が東アジアに公船を配する行動は、コロナ対応、全米デモ(次項)にとらわれる米国の姿を中国にとって好機と見ている結果であって、彼らの東アジアにおける行動に目をそらさず、注視せよと警鐘を発する処です。

        
第2章 差別抗議デモと 、米大統領選の行方

今秋の2020米大統領戦は周知の通り、民主党バイデン氏が現職大統領のトランプ氏に挑戦する構図にある処、両者を巡る環境は構造的ともいえるほどに変化を辿るところです。そこで現時点で留意すべき事として、5月末から起きた人種抗議デモの推移とトランプ氏の対応、そして、こうした動きを背にした民主党支持層の変化についてレビューしたいと思います。

1.米各地で広がる抗議デモとトランプ氏の行動様式

黒人男性が警官の拘束の下で死亡した事件(5 月25日)をきっかけに、全米各地で発生している抗議デモや暴動の拡大は、人種による米社会の分断を浮き彫りとする処、この秋の大統領選に及ぼす影響は重大なものと云う処です。
これはコロナ・ショックが、非白人等マイノリテイの差別、格差問題を改めて浮かびあがらせたその結果ですが、彼らは感染リスクにより曝される一方、解雇の対象ともなりやすく、こうしたことへの鬱積した不満が、一気に噴き出したと云え、抗議行動は人種問題がコロナで増幅した姿と云える処です。その点で想起させるのが、1968年の公民権運動です。

1968年4月、公民権運動の指導者キング牧師暗殺への怒りが全米に広がり100件以上の暴動が発生。当時はベトナム戦争の長期化が社会の閉塞感を齎し、公民権運動に火をつけたと云うものです。 今次の抗議デモは新型コロナウイルスの感染拡大により、差別や格差と云った米国社会が抱える闇を改めて浮き彫りにしたと云うもので、この抗議デモはロンドン等米国外でも広がる状況です。デモを通じて再び感染が広がれば、経済活動の再開が遅れて失業者が更に増え社会不安が一段と高まる可能性が懸念される処です。 向かえるトランプ氏は、その鎮圧に米軍を投入する用意ありと公言、しかも国民を守るべき軍隊に、自国民に向かって発砲も辞さないと、暴動をあおるような言葉を吐くに至っては愕然です。それも再選のため‘戦時大統領’としての強さを示すものの由ですが、もはやついてはいけません。

6月6日付けThe Economistは` Far worse than Nixon ‘と題し、ニクソン氏が68年の大統領選で遭遇した黒人デモに対して「法と秩序」という戦略を掲げ勝利した経験に倣わんとするトランプの行動について、彼の力量はニクソンに及ばないだけに、今次の抗議運動がトランプに有利に働くことはないとし、その背景にある正当な怒りも民主党に追い風と指摘する処です。そして民主党陣営は、トランプ氏にはできない多数派を形成しつつあると指摘する処です。 つまり警察は白人より黒人の容疑者にたいして過剰に実力行使する可能性が高いと正しく答えた米国民の割合が、この4年間で2倍近くに増えたと云う。このリベラルへのシフトは、民主党がトランプ氏への対抗措置として人種間の平等への訴えを強化した結果であり、それは多様な人々が抗議活動に参加している事に表れていると云うのです。

・トランプ氏、選挙集会再開
尚、6月20日、トランプ氏は、オクラホマ州で、3月初旬以来初となる全面的な選挙集会を開きました。Financial TimesのE. Luce記者は6月12日付け紙面で「Americans are losing the stomach to continue virus battle」(コロナと戦う意欲を失う)と題し,これは米国人に何の咎めも受けずに大勢で群がってもいいとのサインを送る事になると、トランプ陣営の行動を厳しく指摘する処でした。そして、米国科学の顔とされるアンソニー・フアウチ博士(国立アレルギー感染症研究所長)はもう、トランプ氏の前に現れることもないだろとも云うのです。彼はその数日前、コロナ・パンデミックは「まだ終わりに近づいていない」と発言していたのです。(注:フアウチ所長は6月23日の米議会証言で、感染状況について「気がかりな急増が起きている」と警告しています。)
以って、ルース記者は、ホワイトハウスは戦争遂行への関心をすっかり失ったと云うのです。

コロナとの闘いは今、州の領分とされてしまっていますが、米国は引き続き、1日当たり約1000人の死者をだしていること、そして、social distancingの規則を緩和している一部の州では、感染者と入院患者の増加ペースが高まっているのにと、ラスベガスのカジノに集まるギャンブラーの様子を引き合いに出し、批判する処です。そして、今次の州都に殺到する武装自衛団と同じように「the Black Lives Matter(黒人の命は大切)」の抗議活動にも当てはまることと云うのです。一方、民主党にしても、スタジアムを埋める事についてトランプ氏を批判しづらくなっているとも言うのです。そして新型コロナウイルス感染症は「まっとうな人たちと白人ナショナリストを区別しない。ひどく二極化した国においては、イデオロギーが科学に勝るのだ」と皮肉くる処です。

2.民主党に求められる課題

これまで民主党の問題は? それは結束力だと云われてきました。が、その環境はいま、バイデン氏にとってpositiveな様相と映る処です。つまり、オバマ前大統領、ヒラリー・クリントン上院議員、サンダース上院議員、等民主党有力議員がバイデン支持を表明、反トランプで党内の結束が進み出した、と云う事ですが、更に上述の人種差別抗議デモへのトランプの強硬姿勢に、ブッシュ政権時の国務長官、パウエル氏、更には前国防長官、マテイス氏までも、トランプ批判を展開、バイデン支持を表明、共和党内からも反トランプの声が高まってきています。勿論、これがバイデン氏に1票と云う事ではないのですが。

あと5か月。民主党には、同党の主張以上に左傾化政策を進めるトランプに対抗できる独自色ある政策が打ち出せるか、と云う処ですが、6月8日, CNNが纏めた世論調査ではバイデン氏の支持率は55%とトランプ氏の41%を大きく上回り、その差は5月の5ポイントから14ポイントと、これまででの最大です。尤も、米国の大統領選挙の実際は、大統領を選ぶ選挙人( electoral college )を選ぶ制度で、上掲、The Economist, June 6も、その選挙人団の構成は共和党に有利な現状にあり、世論調査通りにはすんなりとは行かないだろうと指摘する処です。[(注)各州に割り当てられる選挙人数は、上下両院の数と同じで、535名,これに
両院には代表を送っていないDCからの3名を加えて計538名]

・有権者の投票行動
さて、有権者の投票行動はどうかですが、上記世論調査に見る限り、トランプ氏は全体的に2桁の差を付けられています。又、トランプ氏の岩盤支持層の中核にある非大卒白人の支持率は3月時の66%から5月には47%に急落を示しています。だが有権者は、どちらの候補が経済を復活させるのに好位置につけているか、まだ決めかねているのが実情のようですが、人種差別デモは相応に影響し出したと見る処です。

尚、人種問題と云えば、もう一つ留意しおくべき問題があります。それは白人と非白人の構成問題です。今から20年後の2040年には米国における白人の比率は50%を割ることが予想されています。つまり白人がマイノリテイーになると云う事です。この変化こそは米国における政治経済を揺るがす処となるものです。さて今回の選挙にどう影響しだすか興味、深々です。

3.中国に映るトランプ/バイデン両氏の実像

さて中国はトランプ氏とバイデン氏をどのように捉えているのか?関心の持たれる処、6月13日付けThe EconomistはPondering America’s electionと題して、中国にとって望ましい米大統領は誰か、中国の政策当局者が観る二人の実像を伝えています。それは中国の視点に立って両者を比較描写するものです。極めて興味深く、以下はその概要です。

まず、トランプ評です。彼は新彊ウイグル自治区での弾圧行為にあまり関心がないこと。今では再選しか関心がなく要は自己利益にしか関心のないナルシストと断じるのです。そして彼の関心は中国に政策転換を強いる以上に中国マネーにあると中国政府は見抜いていると云うのです。 人民日報系の「環球時報」では今、彼のことをChuan Jiango = Build- up the Country Trump (国づくりトランプ)と云うそうですが、要は、トランプは中国をより強くするために米国を破壊する仁だというのだそうですが、それはダブルスパイだとも云うのです。極めて皮肉な表現です。同時に、米国の衰退が加速する事は、中国にとってプラスなのかと、議論を始めているというのです。

一方のバイデン氏については、オバマ路線を踏襲すると見られていると云うのです。そして彼は経済において中国と相互依存関係にある事を危険視するのではなく、むしろ安定の基盤と位置づけていたし、パリ協定など世界的課題について中国との連携を重視し、オバマ政権では重要な役割を担っていたが、当時を懐かしむ空気は今はまるでないと。むしろ、オバマ流の関与政策は「中国が豊かになるにつれ西側の政治ルールを受け入れていく」と云う誤った考えに基づいたものと批判的に見ているようだと伝える処です。

米国では、台頭する中国への脅威論を巡って共和党と民主党が意見を同じくしていると同様に、北京でも、指導層の間でコンセンサスが出来つつあると云うのです。つまり、彼らは米国を斜陽国家と呼ぶようになったと云うのです。米国は富裕ではあるが、過度の分断と利己主義、人種差別のゆえに市民の安全を守る事の出来ない国と云う由です。そこで、中国の指導者層は、トランプ氏は米国の衰退を示す兆候であり、かつ、衰退を促す存在だと見ていると云うのです。

ただそうした評価はトランプ再選を中国が望んでいることを意味しているか、となると中国指導者層の意見は分かれる処。上述のとおり、米国の衰退が加速する事は、中国にとってプラスなのか? 議論を始めているという由ですが、安全保障の視点からは、トランプ政権になって混乱が更に4年続く方がよいと考える向きは多いと云うのです。一方、世界秩序があまりに早く崩壊することを恐れる陣営は、バイデン氏の当選を切望していると。つまり、バイデン氏を、経済面での米中デカップリングを抑える穏健派と捉え、中国が多様化し自立を進めるための時間を与えてくれると考えている為だと云うのです。勿論、バイデン氏を警戒する人の多くは中国の人権問題に対する彼の姿勢だと云うのです。
いずれの論を支持する陣営も、極めて「守りの姿勢」にある点で一致していると云い、‘Whoever becomes America’s next president, China does not expect to be friend’ つまり、
次の大統領が誰であれ、友人になれると中国が期待することはないだろうと、締めるのです。


おわりに これからの日本を考える

・自立する外交
過去30年、日本外交の柱は米国と同盟関係を深化させながら、中国と協調するものでした。もとより、これは現実的な選択肢だったものの、相対的な日本の国力低下と共に、米中への依存度を強め、米国からは防衛装備を気前よく購入し、中国からは投資や観光客の受け入れ
を促してきました。但し、その費用対効果はパンデミックの以前から悪化していたのです。

さて、その米中は前述の通り対立を深める中、今次見せた習近平中国の香港対応は強権指向を決定づける一方、米国は、世界での軍事プレゼンスを縮小し、当該負担の削減方針にあって、時に同盟国、欧州とも利害を争う状況は「消える西側(westlessness)」への懸念を呼ぶ処です。つまり世界は新たな地政学的混乱(The new world disorder、The Economist, June 20)と向き合う事になると云うものです。 とすれば今作られつつある「コロナ後の国際秩序」の行方を冷静に見極め、この際は、国益を意識した自立する外交、つまり東南アジアなど米中以外の諸国との関係強化を通じた国際環境の構築、を目指すことが日本にとって極めて重要になってきたと実感する処です。

・佐伯啓思氏の主張
処で、友人から送られてきた5月31日付け産経新聞掲載の佐伯啓思氏、京大名誉教授、のコラム[`公共的資本主義’へ転換を]は、コロナ後の世界を考えていく上で示唆深いものでした。そこでその主張のポイントを、弊コメントと併せ、下記紹介し、本稿の締めとします。

「・・・既に、グローバルな市場競争は持たない処まで来ていた。そこへコロナ・ショックが生じた。コロナ禍は、これらのグローバリズムのもたらした問題を更に明るみに出し、もっと深刻な次元へと推し進めた。一国中心主義は一層進み、米中対立は深刻となる。民主主義国家も、国家や政府の権力を強化する事になる。EUはますます脆弱になり、人の移動は経済の重荷になる。・・・極端なまでの財政、金融政策や支援金のバラまきにも拘らず、経済成長は期待できない。これはグローバリズムへの挑戦ではなく、過度なグローバル競争の帰結である。だからグローバリズムの立て直しによる経済成長主義というような価値観はもはや破綻している。その事を今回のコロナ禍が顕在化させたのだ。」とし、更に、もしポスト・コロナの社会像があるとすれば、それは、医療、福祉、介護、地域、人のつながりなどの「公共的な社会基盤」の強靭化を高めるものでなければならないとし「それは効率至上主義のグローバルな競争的資本主義と云うよりも、安定重視のナショナルな公共的資本主義と云うべきものであろう」とするのです。

勿論、納得する点、多々です。が、上記筆者の主張に重ねて思うとき、佐伯氏はグローバリズムを批判する思想家として知られる仁で無理な話でしょうが、この際は、グローバル化の終焉を云々するのではなく、それが齎してきた世界経済への貢献について謙虚に評価されて良いのではと思料するのです。そして、「変調グローバル化」の時代に入ったとされる今、その形は変わっていくとしてもなお、グローバルな対応の必要性、有為性が失われることはない筈です。この点、筆者も改めて、考えていきたいと思う処です。以上 (2020/6/25記)
posted by 林川眞善 at 16:11| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2020年05月25日

2020年6月号  ジョー・バイデンJr. 見参 - 林川眞善

目 次
  
はじめに  ジョー・バイデン Who ?

第 1 章 2020 米大統領戦、戦いの構図  
             
1.‘危機’に便乗した再選足固めのトランプ・コロナ対策

2.今次大統領戦で求められるは ‘有事の指導力’

第 2 章 バイデン政策の基本と可能性

1. ‘アメリカを取り戻す’

(1)バイデン政策の枠組み
① 外交政策
② 経済政策 ―・無保険者救済 /・雇用の回復
(2)問われる民主党政策の独自色

2. メデイアに映るバイデン氏の可能性 

おわりに 緊急事態宣言延長で思うこと

・緊急事態宣言/・政策のトリアージ

[ 付属資料 ] 抄訳 バイデン外交政策
― 「アメリカを取り戻す」  
(Foreign Affairs, March/April 2020)

            ---------------------------------------------------

はじめに  ジョー・バイデン who ?

コロナ災禍で世界の生業が大きく変わる中、あと半年に迫った米大統領選の行方は世界にとって最大の関心事です。1971年、ニクソン大統領が金・ドル交換の停止を決定し、世界経済のシステムを変更させたように、又2017年、トランプ大統領の台頭は新たな米中対立時代を演出するほどに、米大統領選は言うまでも世界最大の権力者を選択するものです。

さて、今次選挙では、共和党候補は勿論現職大統領のトランプ氏。その対抗馬となる民主党の候補は、4月8日、最強のライバルとされていたバーニー・サンダース上院議員が撤退を表明したことで、バイデン前副大統領のprimaryでの候補指名が確実となり、その結果、2020米大統領戦は、バイデン氏が民主党候補としてトランプ氏に挑戦する構図が整いました。(最終的には8月の民主党員集会で決定)
そこで前号で約束した通り、本論考はバイデン特集としました。トランプ氏は云うまでもなく現職大統領として毎日、メデイアに現れ米国、世界にあまねく知られる存在です。が、バイデン氏についてはオバマ政権での副大統領と云うことの他、正直、バイデン who? です。

・バイデン Who ?
ではバイデン氏とは、どのような政治家か、彼の実像を探る事とします。バイデン氏(1942年生、77歳、デラウエアー大、シラキュース大ロースク-ル)は、1973年、被選挙権ぎりぎりの30歳の若さで上院議員に。議会の主要ポストを歴任し、2009年からは、オバマ前大統領の副大統領として8年間仕える実績をもつ国政44年のベテラン政治家で、その政治姿勢は労働者層に寄り添う「ミドルクラス・ジョー」をアピールする処です。
 
その原点は、生まれ故郷のペンシルベニア州の地方都市スクラントンにあり、石炭業が衰退し、ボイラー掃除や中古車販売で生計を立てた父親の背中を見て育ったと云われています。民主党中道派として自由貿易を支持するなど、共和党に近い側面を持つ、「超党派の政治家」と評される一方で、民主リベラル派からは「妥協的」、「変化を期待できない」との懸念の声も伝わる処です。尚、彼は1987年、2008年の大統領予備選に立候補したものの途中、撤退しています。

さて、そうした折、彼が3月号の米外交誌 Foreign Affairsに‘ Why America Must Lead Again ’ と題した論文を寄稿していたこと、承知しました。その内容は予て彼が主張する ‘この国を取り戻す’ を映す論文です。オバマ大統領と歩んだ8年間をレビューし、民主主義の再生、中間層の再生を訴え、外交面では同盟国重視を訴えるもので、バイデン氏こそが世界をオバマ時代に戻すことができるとの期待を、広く抱かせる処です。まさにポスト・トランプのアメリカに期待する政策論です。勿論、トランプ氏が大統領を務めたこの4年間、米国自身、そして世界各国との関係は根本から変わってきました。国内ではこの間に進んだ社会的、政治的分断は極めて深く、仮にバイデン氏 が大統領となったとして、次の4年でこの分断が、改善に向かうものか、見通し難いともされる処です。(後出 Financial Times)

ただ、そうしたバイデン氏の言説等を巡る批判も今、急速に変化し出す処です。 と云うのも、これまで、トランプ氏の絶対有利を裏付けてきた ‘経済’ が急速に悪化、後退しだしてきたからです。つまり、今年1月末以降、COVID-19感染が急速に拡大、その拡大抑制策としてヒトの移動が規制されたことで、市民生活はもとより、米経済は急激な減滞、危機すら呈する状況(注)となり、現職大統領トランプ氏の絶対有利とされてきた環境は遠のき、今では危機下の選挙戦として,バイデンVトランプは互角の戦いになる様相です。

(注)減速米経済の実際:4月3日、米労働省発表の3月雇用統計では景気動向を敏感に映す
非農業部門就業者数は前月比70万1千人減少。就業者の減少は2010 年9月以来,9年半ぶり。
新型コロナで米経済は大幅な活動制限を強いられてきた結果で、過去に例のない雇用と景気の
悪化に、経済対策の執行が追い付かない様相。因みに、4月29日、米商務省が発表した
1~3月期GDPは、前期比年率換算、4.8%の減少、更に4~6月期は年率40%の減少が予測される処です。一方、4月29日、米FRBのパウエル議長は新型コロナウイルスによる失業急増で、経済の復元には時間がかかると、長期停滞のリスクを指摘する処です

さて本稿は、バイデン特集を意図する処、上述事情を踏まえ、第1章では大統領戦を巡る環境変化として、トランプ氏のコロナ戦略対応の現状をレビューし、第2章で、バイデン論文を下敷きに、トランプ氏との対比において、バイデン氏が目指す政策の可能性、問題、課題を整理し、併せてメデイアが伝える、バイデン氏の可能性を考察すすることとします。 尚、バイデン論文については抄訳ながら付属資料として末尾に付す事としました。


第1章 2020 米大統領戦、戦いの構図

1.‘危機’に便乗した再選足固めのトランプ・コロナ対策

上述環境にあって、大統領選挙を秋に控え、再選を目指すトランプ氏は、彼の最大の支持要因とされてきた‘経済’の停滞は何としても打ち止め、回復させ、自らの支持回復を焦眉の急とする処、2兆ドル超の規模の経済支援(注1)を持って、コロナ災禍で経営危機に陥った企業、所得危機に直面した消費者の支援に大車輪の状況です。その内容は、彼のこれまでの主義、主張とは相いれないほどに、まさに「急ごしらえの社会主義」(米コロンビア大、ウイレム・ブイター客員教授)に道を譲るが如きで、‘あのトランプが左傾化’ と巷間、関心の呼ぶ処です。とは言えその実態は、今次危機に便乗した再選のための足固めと云う処です。

  (注1)トランプ政権のコロナ対抗戦略推移
・3月6日:ワクチン開発支援等、83億ドル規模の支援対策 (尚、トランプ大統領は3月13日、
国家非常事態を宣言。)
・3月18日:総額1000億ドル規模の経済支援策 (コロナ無償検査、有給病気休暇、失業保健の
拡充、低所得者向け食糧支援、等)を決定
・3月27日:2兆ドル(約220兆円)規模の, 家計と企業に向けた大型経済対策を決定。これは
2008年の金融危機支援策(7000億ドル)を上回る数字。
・4月23日、中小企業の就労対策を柱とした4800億ドル(約52兆円)規模の追加対策決定、

とにかく経済の回復を、とするトランプ氏は、4月16日には、早くも市民の行動規制を緩和することとし,感染者が少ない地域から経済活動の再開を3段階で進める新方針を発表。
3月中旬からの厳しい外出規制の緩和に踏み切ったほか、 ムニューシン財務長官は合計2兆億ドル超の支援策をもって「6000万人分の雇用が維持できる」と強調、その受け皿となるインフラ投資等、検討開始を表明する処です。勿論、経済活動の再開はコロナの感染拡大のリスクと隣り合わせとなるだけに、緩和のタイミングには厳しい批判のある処ですが、あれもこれも‘再選’のためとする処です。

彼は自らを「戦時大統領」(War President)と位置付け、コロナの収束と早期の景気回復に向けた強い指導力をアピールする戦略を描く処、吹く風は冷たさを増すばかり。因みに5月8日発表の4月失業率は戦後最悪の14.7%と、大恐慌以来の水準。1か月で8人に1人が離職した計算で、米経済は雇用危機突入の様相です。この状態が長引けば世界経済も深刻な打撃を受ける事になるだけに、同氏にとって雇用の受け皿維持が焦眉の急となる処です。

2.今次大統領戦で求められるは ‘有事の指導力’

処で、トランプ、バイデン両者の戦いは、早くから「自国第一か、国際協調か」を基本的対立軸とされていました。(注2)

     (注2)現時点での両者のスタンスの違い
        [ バイデン氏(77)]        [トランンプ氏(73)]
      選挙スローガン: 民主主義の再生、中間層の復活   米国を偉大に(一般教書,2020/2)
      外交 :     国際協調重視 (パリ協定復活)    米国第一(パリ協定2020/11離脱)
     移民政策 :    受け入れ寛容           不法移民対策重視

が、今秋の大統領戦は上述、新型コロナ災禍の下で行われる事情を映し、伝統的な二項対立を以ってされる争いではなく、ずばり‘有事の指導力’を問う戦となってきています。つまり、コロナ対策の如何と云う事ですが、これが今次の大統領戦に向けての看板となる処です。

その点では、現職大統領として連日コロナ対策に向き合うトランプ氏には有利なポジション再びと、映る処です。とにかくトランプ氏にとってのテーマは、一にも二にも、足元の経済回復・再建。だが、現実に展開される景気回復への取り組みは上述(注1)の次第ですが、そこには ‘トランプ慣れ’ の手あかまみれの政治があるのみです。問題は、この行き詰まりを如何に克服するかでしょうが、まさに有事の指導力が問われる処です。

勿論、バイデン氏にとっても足元の回復はもとよりでしょうが、当然の事として彼には「トランプ後」の政策の如何が問われる処です. その点、前述 バイデン氏の政策は「トランプ後」のアメリカの姿として、責任あるアメリカ、国際協調を以って有事に応えるアメリカを体現せんとする、ものとなっています。そこで、当該論文と足元の実際とも併せ、選挙戦でのバイデン氏の可能性を探ることとします。

・民主党の結束力
尚、これまで民主党の結束力の如何が問題視されてきましたが、近時こうした環境は、バイデン氏にとってpositiveな様相に転じてきたようです。つまり、ここにきてオバマ前大統領、ヒラリー・クリントン上院議員、サンダース上院議員、等々民主党有力議員がバイデン支持を表明し出したことです。いうまでもなく反トランプで党内の結束が進み出した、と云う事でしょうか。選挙まで、6か月。その空気を更に高めていけるか、です。


第2章 バイデン政策の基本と可能性

1. ‘アメリカを取り戻す’

(1)バイデン政策の枠組み
バイデン氏政策は当然の事、「ポスト・トランプ」に照準を合わせる処、その基本軸は前述の通り、民主主義の再生を謳い、世界の規範としてSummit for Democracyを通じて民主主義の強化、そして国家間の連携強化を通じて成長を目指す事、外交については米国パワーの源泉として、中間層に添ったものとし、以って`アメリカを取り戻す’とするものです。
そこで、彼が目指す外交政策、そして今次の危機が浮き彫りした‘消えた雇用’の回復、そして国民皆保険問題への取り組みに絞り、トランプ氏との対比において考察する事とします。

① 外交政策: バイデン氏はトランプ外交に対抗する如くに論文一杯に、同盟国重視、国際機関との協調を訴え、自らその前線に立つと宣言しています。これが示唆するのは、云うまでもなく、トランプ慣れに浸った政治からの脱皮です。

トランプ外交は周知の通り、いわゆるdealを建前に、America firstとする点でトランプ米国との同盟関係は不安定と云え、例えば、日米関係について見れば、安倍・トランプ関係は良好とは言え、同盟自体は不安定と映る処です。例えば在日米軍駐留経費の日本側負担の交渉は、2021年3月末が特別協定の期限で、その後トランプ政権との協議開始が予定されていますが、諸般の事情に照らし、厳しいものとなること予想される処です。 尚、バイデン氏の ‘稼働’ で米国のTPP復帰が期待される処、トランプ氏が雇用面では米国にマイナスとのイメージを作ってしまっており、その辺りを如何に克服できるかが、課題と映る処です。

一方、欧州では米国との同盟関係の立て直しに、外交経験豊富なバイデン氏が必要とする声は強く、トランプ氏が忌避するNATOについては、バイデン氏は米国の安全保障の要と位置付ける処です。 尚、中国については、両者とも強硬姿勢にあり、トランプ、ライデンのどちらが大統領になっても米中の確執が和らぐことはないだろうとは大方の見方です。
つまり「不公正なことをして大国になった」との見方は民主党内でも共有されているとはいえ、根本は、習近平政権の最強国路線にあるとされその点、特段の変化はないと見る処です

尚、バイデン氏は今次コロナ対策について、「G7を中心に公衆衛生が整っていない国々を支援する国際枠組みの創設」を提案しています。その背景には金融危機や14年に米国で広がったエボラ出血熱への対策を当時副大統領として対処した経験が映る処です。更に、ひどい打撃を受けている国に手を差し伸べるべきと、イランへの制裁緩和をも提案する処です。つまりオバマ前政権で結んだイラン核合意を破棄したトランプ氏への意趣返しともなる処ではと、思料する処です。 ただ強権姿勢の首脳が幅を利かせる現在の国際社会で、融和の主張がどこまで通用するかですが、彼が主張するアメリカに期待したいと思う処です。

② 経済政策:コロナ危機で新たに大統領戦での争点となって来たのが経済再建。バイデン氏は再生可能エネルギー、高速通信網などに10年で1.7兆ドルを投資すると公約する処、急増が予想される失業者の受け皿とする狙いとも伝えられる処です。この点は前出トランプ政策と対抗するものですが、両者とも、経済の推移の如何次第では更なる政策の見直しがあるものと伝えられる処ですが、この際は、危機を象徴する失業問題、雇用の回復問題、これにリンクする形で指摘されだしている医療保険問題の二点に絞り考察します。

・無保険者救済:米国では全国民を対象とした公的保険制度はありません。雇用先の企業が提供する民間医療保険への加入が一般的で、今次の危機で不振に陥って企業が解雇するとなると、保険費用は自己負担となり、無保険者に転落する事ともなるのです。今次の危機で問題が露わとなったのが無保険者問題で、現在無保険者は約 2900万人と報じられています。その点で、11月の大統領戦ではオバマケアの扱いが焦点となると見られる処です。

その点、バイデン氏はオバマ政権で、同政権が推進した医療保険制度(オバマケア)に関わってきたこともあり、その拡充を公約する処、その目玉は不法移民を含むすべての米国民に開かれた公的保険制度の創設を狙う処です。この問題では国民皆保険をと、大胆な改革を掲げる民主党急進左派のサンダース氏の存在感は大きく、バイデン氏はサンダース氏と政策調整を図るとしており、その行方は極めて注目される処です。 尚、トランプ氏はオバマケア撤廃を主張し、疾病対策センター(CDC)の予算を削減してきており、不利な風の吹く処です。 ただ、トランプ政権は無保険者でも治療を原則無料で受けられる制度作りを進めていますが、これは特例措置としており、医療保険への公的関与を縮小するトランプ氏の考えは変わらずと、見られています。

・「消えた雇用」の回復:今次のコロナ危機で、消えた雇用の回復が大きなテーマとなっています。既にみたように、米経済の6月期、GDPは40%の減少、失業率が20%に達するとされる中、バイデン氏はこれまでトランプ大統領に対し、格差問題をぶっつけ「恩恵が中間層に行き渡っていない」と迫ってきました。然し、好調な経済環境の下では盛り上がる事もなく推移してきましたが、今次のコロナ危機で消えた雇用の回復が大きなテーマとなって来たのです。 

バイデン氏は、そこで朝鮮戦争下で成立した国防生産法をよみがえらせる構想を打ち出す処です。これは困窮する中小企業への融資を政府が金融機関に命ずると云うものです。そして、これは民間活動に介入したくない、として医療品調達で国防生産法を適用するのに否定的だったトランプ氏との差別化を狙いとするものでした。処が、トランプ氏はGMに人口呼吸器の増産を命じてからは、ためらいなく国防生産法を使い、企業に指示を出すようになっています。それはバイデン氏の独自色を見えにくくする処、それこそはトランプ氏が現職の強みを生かしコロナ対策を選挙の看板とする処です。

いずれにせよ、金融危機時の最悪期(2009年10月には10%)を超える激しい雇用環境の中で、選挙戦は展開される事になるだけに、経済再建が最大の争点となる処、両者の評価は、今後の税制、投資と通商も絡めた政策の再構築の行方如何とみられる処です。

(2)問われる民主党政策の独自色
処で、コロナ危機対策としてトランプ政権が打ち出す支援策の多くは、先に触れたように、トランプ政治の左傾化を示唆する処です。3月上旬には考えられなかった事でしたが、トランプ氏は低所得層への支援、医療保険等、社会保障面に多くを配慮するものとしてきており、彼自身、忌み嫌う社会民主主義に近い政策を次々に打ち出してきています。以ってトランプ政治の左傾化、とされる処です。もとより彼への支持票集めの作業と映る処ですが、まさにコロナ危機によって米国は、民主党、とりわけサンダース上院議員らリベラル派が考える世界のあるべき姿へと変貌する様相にあるとも言え、危機が齎した与党共和党のリベラル化とされる処です。さて、この点、民主党として共和党との差別化を如何に明示していけるか、上述 国防生産法の対応も含め、基本問題と映る処です。

序で乍ら、トランプ氏が全米に対して国家非常事態を宣言した3月13日以降、選挙活動がデジタル空間に移っています。つまりコロナ対策として、選挙のためのイベントも個別訪問もできず、オンラインイベントとか、スマホ重視とか、要は、選挙のデジタル化で、SNSではトランプ氏の発信力が絶大ともされている事、周知の処です。勿論、今後の「デジタル選挙」でどう集票に結び付くかは未知数ですが、当該選挙の在り方が変わっていくことは間違いなく、つまりデジタル選挙に備えた選挙戦の再考が、求められる処です。

2.メデイアに映るバイデン氏の可能性

さてメデイアが映すバイデン評ですが、その一つ、Financial Timesのcommentator, Gideon Rachman 氏は3月10付同紙で、バイデン氏が仮に大統領になっても、それは新型コロナに負うもので、共和党員はその勝利は正統な選挙の結果ではないとして一蹴するか、陰で米国を操っているデイーブステートによる陰謀の産物だとさえ云う可能性がある、と云うのです。Biden cannot turn back the clock、つまりバイデン氏が大統領に就いたとして、トランプ氏が4年間で変えてしまった米国、そして米国と世界各国との関係は、変わることはないと指摘するのです。バイデン政治の可能性を質す処、 その内容をフォローします。

まず米中関係です。今、米中関係は世界秩序の中心だが、トランプ政権はその関係を大きく変えてしまったが、バイデン氏が大統領になったとしても、その米中関係が根本的に修復される事はないと断じるのです。トランプ前の米国で保護主義を主張するのは民主党でした。が今では民主党も共和党も保護主義に傾いていて、中国を単に経済的 ライバルであるだけではなく、テクノロジーと地政学の側面から世界の覇権国としての米国の地位を脅かす存在と、ますます認識しつつあると云うのです。従ってトランプ前のようなグローバル化の流れは大統領が変わっても復活することはないと見るのです。 そしてバイデン氏が大統領に就いた場合、民主党政権として人権問題と南シナ海を巡る領有権問題もクローズアップされてくると見込むと、両国の緊張は一層高まるとみられるというのです。

もう一つは中東への関与の可能性です。中東や欧州では、米国が中東での指導力を発揮することが期待されているが、バイデンが大統領に就いたとして、これに応えることはないだろうと云うのです。と云うのも米国の中東におけるプレゼンスの低下は、オバマ政権がイラクからの米軍撤退を決め、シリア内戦には介入しないとの方針を決めた時から始まっていたことで、バイデン氏は中東にもっと慎重で、アフガニスタンへの増派にも反対していた経緯があり、又トランプ政権が離脱を決めた、2015年に成立したイラン核合意への復活も、イラン政府の対米警戒感の強さからは難しいというのです。と云う事でバイデン氏が大統領に就いたとしてもトランプ時代の課題、弊害は続く、と見るのです。

バイデン氏が大統領になれば、人権と民主主義の重要性を改めて強調する事で、米国は再びリーダーシップを発揮していこうとするだろうが、世界で人権を主張しようとも、すぐに信念よりも利害重視の現実的な政治とぶつかり、妥協を余儀なくされるだろうと、云うのです。

世界的にナショナリズムと反自由主義の勢いが増す処、ナショナリズムはトランプ政権誕生前からはじまっていたもので、トランプが退任したとしてもそのトレンドは続くだろうとした上で、中国、ロシア、ブラジル、インド、トルコ、サウジでは依然として反自由主義的国家主義の指導者による国の支配が続き、米国の相対的支配力の低下も続くと指摘するのです。そしてバイデン氏が大統領執務室に座った時、そこから見える世界が、オバマ氏が去った時から大きく変わったことを実感するだろう、と云うのです。

さて彼はテーマ通り、バイデン氏でも時計の針を戻すことはできない(Biden cannot turn back the clock)と云うのですが、コロナ禍後の世界経済の姿を思う時、バイデン氏の基本軸はより戦略性を担っていく事になるのではと思料するのです。


おわりに 緊急事態宣言延長で思うこと

・緊急事態宣言:5月4日、安倍首相は4月7日の緊急事態宣言を5月31日まで延長する旨を決定、併せて、感染拡大予防のためにはヒトとヒトの接触を回避する事必定と、5月中のstay homeを国民に要請しました。勿論筆者もstay homeを続ける処です。が、思うに、これまでは国内感染を抑制し、医療現場の逼迫を招かないための方策を最優先してきましたが、今後は感染を抑え込みつつ、企業の事業継続や就学、文化活動などとの両立を探る段階に入っていくはずです。つまりは出口戦略ですが、安倍首相のコメントでは何ら触れられることのなかった、その姿勢に極めて違和感を覚えるのでした。
 
この点、当日の諮問委員会が終わっての記者会見で記者に問われた尾身会長は、‘自分たちはあくまで医療の立場で提言するもので、経済や社会学の専門家らを加えて幅広い知見を活かす体制とすべきとは云ってきた’ ・・・と、云うだけで、要は、stay homeの提言を安倍首相が決定したもので、その結果、企業のこと等、我々には関係ない事と云わんばかりと映るのでした。筆者の友人読者からも、もはや首相のピンチ・ヒッター、諮問員会メンバーの入れ替えが必要ではと、声の届く処です。

序で乍ら、同「諮問員会」メンバーは16名、そのうち14名が男性医療専門家、残る2人は女性で弁護士です。この数字も問題です。因みに、5月3日の日経が伝える国連事務総長、グテレス氏の「コロナ危機:私の提言」は、今の諮問委員会の姿を批判するが如きでした。
つまり「・・新型コロナ・パンデミックは男女間の不平等など、あらゆる種類の不公平を明らかにし、助長している」と。そして、「パンデミックが引き起こす深刻な経済の苦境の最も明確な被害者は女性だろう。働く女性に対する不公正で不平等な処遇は、私が政治の世界に身を投じた理由の一つだ」と云い、「感染の第2波や深刻な人手不足、社会不安など最悪の状況を防ぐための政策決定が行われる場に、女性がいるべき」とも訴えるのでした。

・政策のトリアージ:その前日の5月3日、憲法記念日には、安倍首相は例年の通り、憲法改正を進める民間団体に向け、改憲への挑戦は必ずややり遂げるとメッセージを送り、その際、緊急事態の国家や国民の役割を憲法にどのように位置づけるかは極めて重要で大切な課題と、緊急事態条項に言及するのでしたが、その心は2018年自民党改憲案に盛り込まれた「緊急事態条項の創設」です。つまり、今次のコロナ対応で関連法案の審議が進まず、そこでこの際は、コロナ対応として出された緊急事態宣言を、改憲論議を進めるきっかけとならないかと、探る動きを映すものとされるのですが、コロナが問う改憲と、云った‘様’です。
憲法を時代に即したものとしていく為の議論は良としても、スケジュールありきで、国民が納得しうる十分な議論も示されないまま、take chanceで動こうとする姑息な姿は、今次国会審議見送りとなった「検察庁法案」をも含め、‘私’のための政治行動のほかなく、安倍首相への不信、安倍政治の危険さを痛感させられる処です。今、日本には何が必要か。決して改憲にかまけていられる時機ではない筈です。 

そこで、ある意味、動きの止まった 今、有事とされる今次の危機にも照らし、政策のトリアージ、つまり政策の優先順位を見直し、国家百年の計を打ち出し、国民を勇気づけるべき時ではと、痛く思う処です。(2020/5/23 記)






[ 付属資料 ]   抄訳 バイデン外交政策 -「アメリカを取り戻す」

                   出典:Why America Must Lead Again
                    By Joseph R. Biden, Jr. 
[Foreign Affairs, March /April,2020 (P.64 ~76)]
                   
0.はじめに 

2017年1月20日以降、米国はあらゆる側面でその権威を失ってしまった。トランプ大統領はけなす事(belittle)しかせず、安全保障面では当該専門家、外交団等々を追い払い、時には同盟国をも忌避し、北朝鮮からイラン、シリア、更にはアフガン、ベネズエラ と対峙していくとは言え、徒に時間を浪費する様にある。

トランプは米国の友好国に対して貿易戦争を仕掛け、結局は米国国民、とりわけ中間層を傷つける一方で、民主主義が持つ価値、それは国家に力を与え、国民の一体化をもたらすものだが、それを大きく毀損させてしまった。気候温暖化問題、移民受け入れ問題、世界に拡散する伝染病問題等々、米国が直面するグローバルな問題を軽視し、米国が貢献してきた国際的民主主義システムを崩壊させてきた。そのため後継大統領は、そうした問題を取り上げていかなければならない。それは、まさにサルベーションとも云うほかなく、もはや時間は待っていない。 
民主主義、自由主義こそが、フアシズムや独裁政治を乗り超え、自由に満ちた世界を創造した。まさに民主主義の勝利であり、この民主主義こそが、我々の将来を規定していく。


1.民主主義の再生 ― Renewing democracy at home

・最初に手掛けること:  まず、しなければならないことは、民主主義の修復とその活性化(repair and reinvigorate our own democracy)であり、我々と共にある民主国家との同盟関係の強化だ。米国の力は世界の進歩を勇気づけ、国内にあっては労働者の社会参画の強化を図る処にある。そのためには必要な制度の強化を進め、例えば、教育制度の強化を通じて人材の育成を図り、法治国家として人権の確保、Voting Right Act(投票権法, 1965;公民権法の一つ)の見直しを通じて国民の知る権利を担保していく。

勿論、民主主義こそが米国社会の土台であるばかりか、我々の力の源泉となるものだ。国家として、米国は再び指導的役割を果たす十分な用意がある。その点、大統領として、その目的のために、これまで我々が堅持してきた民主主義が持つ価値の再生を目指し、前進を図る。そのためにも、トランプが進めてきたナンセンスな行為、例えば国境で家族を離反させるような容赦ない非情な政策を廃止し、有害な収容政策や、移動の禁止を取り消し、併せて、Temporary Protected Status制度( 2014年、不法移民に対する一時的滞在許可、トランプはこれを停止している)や、弱者擁護政策の見直しをも進める。つまり、年間難民の受け入れを12万5000人とし、滞在期間延長の引上げについても、我々の責任と価値観に照らし見直す。軍事行動についても、拷問の禁止、行動の透明性を守り、オバマ・バイデン政権で取り上げてきた一般市民の犠牲をなくす一方、全政府レベルで世界の女性や少女の人権保護を図る。

これらのアジェンダを確実にするため、ホワイトハウが再び偉大な擁護者となって、民主主義の価値を維持し、報道の自由、参政権の確保、遵法精神を敬い、法的独立を高めていく。 こうした取り組みは、今始まったばかりだ。時間はかかるが、民主主義の価値向上、生活の向上を目指し、まず足元の国内から始めていく。

トランプのような特定社会のための政治ではなく、法律の強化と、国境の安全を図り、移民の人たちの尊厳に敬意を払い、彼らが求める権利保障等を確実とする。副大統領だった当時、エルサルバドール、グアテマラ等、中米各国の政府のリーダーの支持を得ながら7億5千万ドル規模の基金を以って、社会の荒廃、貧困への支援を果たしてきた。これからは大統領としての4年間、自ら先頭に立ち、40億ドルをもって、地域戦略の展開を図っていく。
更には、個人的利害にそった取引、ダーク・マネー、闇資金と云われるカネの流れ等、民主主義を蹂躙するような行為に果敢に対峙していく。また、米国の選挙における、不条理な資金の介入はもとより、外国からの資金が導入されていく事を、連邦倫理委員会を通じてチェックし、排除していく。要は選挙活動において不合理な資金の流れをふさいでいく。

・民主主義は世界のアジェンダ :米国の民主主義の基盤を強化するため、民主主義を世界のアジェンダとしていく。民主主義は1930年代以来今日まで、極めて厳しい状況に置かれている。米シンクタンクのFreedom House の調査では、1985年から2005年にかけて一貫して民主主義を堅持している国は僅か41か国、過去5年で自由主義を放棄した国は22か国だ。狡猾な政治の広がり(Insidious pandemic)は火に油を注ぐ様で、強権的為政者は分断を図り、人間の尊厳、民主主義を破壊する。近代米国史を見ていくとき、トランプこそは各地にクレプトクラート(Kleptocrat:泥棒政治家)のライセンスを振りまいてきた。
そこで、自分がホワイトハウス入りした最初の1年目には、米国がホストとなって「Global Summit for Democracy」を主催し、自由世界の諸国と共に民主主義の精神を確認しつつ、国家目標を相互に確認し、共に世界の民主主義と、世界の民主主義組織の強化を図っていく。

オバマ・バイデン政権が進めたNuclear Security Summitの経験に照らし、秩序崩壊への対抗、強権政治への対抗、人権尊重の堅持(Fighting corruption, Defending against authoritarianism, Advancing human rights)の三点についての取り組みを最優先する。この米国のサミット公約は、大統領令を以って担保し、国家安全保障と民主主義の責任の中核に置くこととし、国際金融システムの透明化を進め、国際的連携の下、不法なタックスヘブンを追求し、隠匿された資産を捕獲し、同時に国家リーダーの不法行為を追求することとする。
 
民主主義のためのサミット会議(The Summit for Democracy)には、世界中から市民社会の協議組織をも呼び込み、民主主義を防衛する事とする。当該メンバーには技術系企業、有力なメデイアにも声を懸け、責任ある組織を組成し、民主主義社会が備える利点を押さえ、言論の自由を確保する事とし、企業もメデイアにもそれぞれ持てる機能の有効な取り組みを図る事とする。 もとより、関係企業の行動が、結果として、中国のような監視国家を生むことになってはならい。


2. 中間層に添った外交政策 ― A foreign policy for the middle class

二つ目は、バイデン政権の使命として、米国がグローバル経済の中で成功を果たしていけるようにしていく事にある。そのためには中間層の利害に添う外交政策が必要だ。とりわけ、将来共、中国等に競争力と云った点で勝利していくためには、イノベーションを高め、競争力を高めていく事が欠かせない。その点では、世界の民主諸国と力を合わせ、無謀な経済行動を抑え、不公正な状況を制御していく。

経済の安全確保とは国家安全保障に繋がる。米国の通商政策は国内に根差すものとなる処で、それは国内にある膨大な資産とも云える中間層の強化を意味する。そして国家の成功の果実を平等に分かち合え、人種、性別、居住地、宗教、身体条件、等々に関係なく享受できる事を意味する。そのためには、膨大なインフラ、道路、エネルギー供給システム、更には教育への投資が必要だが、そのためには、現在の学生に21世紀の仕事に必要とされる技術取得の機会を提供する。それは独身米国人が質の高い健康保険に加入する事を可能にし、最低賃金の引き上げであり、具体的には時給15ドルの引き上げだが、新たに1千万の雇用創出につながる。それは環境対応を含めた、米国経済のまさにclean economy revolution、を促すこととなる。

それは大統領を目指すにあたって基礎(cornerstone)となる処、調査・開発に向けた投資の推進、つまりはイノベーションに注力していく事で、中国の後塵を拝するような懸念を消し、クリーン・エネルギー、コンピューテイング、AI、更には5G通信、ガン克服競争にも一歩先んじる処となる。そして中間層に添った米外交政策とは国際経済のルールを確かなものとしていく事で、米国ビジネスの成長に寄与する処となる。

世界人口の95%超の人々が国境を越え、生活している状況を鑑みるとき、これに蓋をすることではなく、米国内で最高の状況で製品を作り、最高の条件で世界に供給していく事が求められる。つまり、米国製品を毀損するような貿易障壁を引きさげ、保護主義に向かうような事態を食い止める事だ。それこそは、第一次世界大戦後の不況が、第2次世界大戦に繋がっていったことを想起しなければならない。
問題は、誰が世界貿易を規定するルールを作り、誰が労働者の権利を守り、環境や透明性を担保し、中間層の賃金を確保していく事だが、勿論、これを主導できるのは中国ではなく米国だ。大統領として、米国民への投資を進めていく。そしてグローバル経済維持のため、然るべきシステムを確保するまでは、新たな通商協定の必要はなく、労働者や環境団体の協力なくして交渉などする用意もない。

・中国対応: 今、中国は新たな挑戦を仕掛けてきている。中国はglobal reachを更に伸ばし、中国化を進めんとしている。トランプは国家安全保障の視点から、米国の友好国たるカナダやEUまでも、無責任な輸入関税をかけ、まさに米国経済自身に脅威を与えている。勿論、こうした厳しい環境には、きちんと向き合っていく必要がある。

中国は、勝手に米国や米国企業の技術を奪っていく一方で、自らの国営企業への補助金を進めるが、もとより不公正な取り組みだ。こうした挑戦に対峙するためにも、米国は友好国との連携を高め、中国のこうした行為に対峙せんとする仲間とも連携し、人権擁護の視点をも含め、気候温暖化問題、核拡散防止等に向け、民主主義国家の矜持として、共に我々の持てる力を拡充していく。中国はグローバル経済を無視することはできない。我々は労働、貿易、技術、そしてそれらについての透明性ある規則を作っていく。それこそは民主主義の利害と価値を反映していく事になる。


3.国際協議の場に復帰して ― Back at the head of the table

バイデン外交政策のアジェンダは、米国が主導するテーブルに同盟国、友好国が一堂に会し、世界の脅威と映る事態への対応を考え、その行動に向けてのシステムを作る事にある。過去70年間、米国は、民主党、共和党の大統領の下、各種規則を整備し、協定を図り、今日迄、各国間の関係を律する集団安全保障や、繁栄維持のために国際機関を支持してきた。それもトランプまではだ。

仮に、トランプのような責任放棄の状況が続く事となれば、いずれか二つの事態を生ずることになる。 一つは、どこかの国が米国にとって代わるか、或いは、誰もそんなことに関与することなく、従って危機的状況の続くままに置かれていく事だ。いずれの場合も米国にとって好ましいことではない。勿論、米国のリーダッシップが絶対確実なものでもなく、間違いも犯してきた。米国の軍事力に依存してきこともあったし、間違った軍事力の行使もあった。ただトランプの外交政策は破滅的で、全くバランスに欠けた矛盾だらけの展開にあり、それは外交の役割を侮蔑する他ないものだ。

自分の使命は、米国民を保護し、必要とあれば軍の力も利用することもあろう。これこそは米国大統領の使命であり、誰しもこの国家最高軍司令官の機能を超えられるものではない。米国は世界で最強の軍隊を持ち、米国大統領として、その地位を確保するため必要あれば米軍援用の用意はある。その拡充のためにも投資を図り、今世紀に迫る挑戦に対応していく。勿論、軍隊の動員は最後の手段とするべきものでも、又最初の手段でもない。要は、米国にとって決定的な状況になり、力が必要となった場合は、その目的を明確にし、国民が納得する説明を果たしていく。

・外交こそ米国パワーの源泉 : これまで戦争を終わらせるため、我々は語られることもない血を流し、私財をも傾け、長い議論を重ねながら、アフガン戦争、中東戦争から米軍の引き揚げを進めてきた。勿論アルカイダも,そしてイエメンでのサウジが主導した戦争をも停止させてきた。

世界で、国内で、反テロリズムを貫かねばならない。然し、勝利なき戦いのために、米軍を徒に駐留させ続けることは、米軍の強化、再構築にとって障害となる事から、今後は有力なスマート体制を構築することとする。 規模的には、米軍の戦闘部隊1000人を10倍にし、その力を活用する一方で、地域共通の敵には地域部隊と情報技術を駆使、対峙していく事とし、少なからず軍の経済的、政治的維持を図りながら、国家利益のための進歩を図る事を考えていく。

以上はオバマ・バイデン政権の外交姿勢を映すものであり、その成功に誇りを持つ処、パリ協定、西アフリカのエボラ危機の抑制、イランとの核拡散禁止条例はまさに象徴的成果だ。外交とは単に握手をするだけではない。要は、地域を特定しながら関係を深め協働し、一貫した政策の下で進める、こうした考え方を原則として、米国外交の更なる向上に努めていく。

・NATO : 外交には信頼が求められる。トランプはその点では我々の信頼を裏切ってきた。外交政策の実行に当たっては、とりわけ危機の中では、‘国家(nation)‘の生業が極めて重要となる。トランプのように条約を次々と放り出し、政策を次々と裏切る行為は、世界における米国の名を傷つけた。

同時に彼は民主主義同盟国から米国を離反させてしまった。NATO同盟国に対して、ボールを打ちこんでいるのはその証左だ。 NATOは米国の安全保障にとって,その中核に位置付けられるもの。まさに自由民主主義の防波堤(bulwark)であり、強権、或いは経済的利害による連帯ではなく、忍耐、信頼、力、を与えるものだ。 大統領としては、我々の歴史的パートナーシップを再生させ、それを世界に根ざさせていく。

外交こそは、米国パワーの強化に欠かすことのできない第一の手段だ。クレムリンは強いNATOを世界の脅威と感じ、歴史上最強の政治的軍事連携とみている。 そうしたロシアの侵攻を阻むためにはこの軍事同盟を堅持せねばならないし、また、ロシアに対して国際協定を無視するような行動に対して示しを付けていく必要がある。プーチン大統領の泥棒政治(Kleptocracy)とも云える専制政治にも対抗していく。

要は、我々の価値や目標をシェアーできる国々、つまり北米、欧州の民主主義諸国、更に豪州、日本、韓国、更にはインド、インドネシアと関係を深め、米国の成功やパワー、グローバルな責任をもシェアーしていく。それは米国の将来をも決めていく事にもなる。勿論イスラエルとの関係も大切にする。南米諸国、アフリカ等、広く民主主義の輪を広め、それぞれの地域で相互協力も進めていく。

・米国の世界との約束 :再び世界の信頼を確実にするためには、米国がこれまで主張してきたことの実行がカギだ。具体的には2050年までに排気ガスゼロを目指すこと、つまりクリーン・エネルギー経済の達成だ。そのためには膨大な投資資金が必要だが、色々の手立てを擁してその目標に向かう。重要なことは,米国の排気ガスが世界の15%を占めており、この引き下げの公約を実施する事で、あらゆる手立てを通じて目標に向かう。併せてパリ協定に戻る事だ。そして世界の排気ガス規制のためのサミット会議を主催し、その目標達成のため強力な取り決めを進める。同時に、世界最大の温暖化ガス排出国、中国は、この化石燃料に補助金を出しており、この行動を規制していく事が不可欠だ。

一方、非核拡散、核安全保障については、今、米国は、その廃棄について交渉中で、声を上げるわけにはいかない。しかし、イランから北朝鮮、ロシア、更にはサウジアラビアに至る広がりにおいて、トランプは核拡散を広げてきた。新核兵器競争、核兵器使用については、大統領に就いたら、新時代にふさわしい武器規制協定の更新を進める。オバマ・バイデン政権はイランの核兵器入手を規制すべく非核拡散協定を以って臨んできた。しかし、トランプは軽率にもイランが核開発に向かう方向に誘導してしまっている。

トランプは、近時、イランのソレイマニ将軍を暗殺し、それで危険人物を排除したとしている。そして当該地域での暴動も止まると云う。だが今、テヘランには核の廃棄基準を廃止する動きがある。北朝鮮については、同盟国や他関係国とも連携し、交渉に当たっては権限を与え、ジャンプスタートを目指す。テーマは非核化であり、New START条約の延長問題だが、米ロ間の戦略的安定の礎石となる新兵器の制限に通じるもので、更に核兵器削減に向け、北朝鮮と交渉を進めていく。

今後の技術開発について、5GやAIは、各国それぞれの事情に応じて開発、活用しているが、 米国は、これら技術が将来的に民主主義と世界の繁栄に貢献するよう目指していく。新技術は我々の経済・社会の再設計を促す処で、法律やより高い倫理観をも持って進められるべきで、デジタル規則が中国やロシアによって書き換えられることは絶対に阻止すべきと考える。そして、米国は責任を持って、それら技術が将来的に民主主義社会をより豊かなものとしていく事を目指す。まさに野心的な目標と云え、如何なる国も米国なしでは達成できない。
 

4.世界の前線に立って ― Prepared to lead 

プーチンはliberal ideaなど、もはや陳腐なものと云う。それが持つ力に彼が脅威を感じている事の証左だ。  
今、自由世界が直面しているあらゆる挑戦に対峙していくため、国力を高め、その結束を図ることが求められる処、それこそは米国に課された使命であり、米国を置いて、如何なる国も担えるものではない。米国こそは自由と民主主義のチャンピオンで居続けねばならない。 国家の信頼を高め、将来に向け希望を絶やすことなく、強い決意を持って前進していく。
以上
posted by 林川眞善 at 15:22| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2020年04月26日

2020年5月号  ’危機’が変えた’世界の秩序’と,日本の選択 - 林川眞善

目  次 

はじめに No country is an island 

・安倍首相、緊急事態宣言
・米国政治のトレンド・シフト/ ・問題は`危機後’の対応

第1章 危機が齎すグローバル経済新常態
 
1.今、世界経済は「緊急停止」
(1)進み出す国家主義への回帰  
(2)メルケル首相メッセージのこと
2.無極化に向かう世界

第2章 米国政治のトレンド・シフト、米大統領選の行方

1.‘危機’ 対応に映る米政治のニュー・トレンド     
(1)米政権のコロナ危機対策
(2)危機が齎す米政治の左傾化
2.トランプ政権のresilience & vulnerability
(1)トランプ政権の‘強さ’と‘弱さ’
(2)今「断崖」に向かう米中関係 
・「国民とある」ということ
 ・J. バイデン氏、参上

おわりに  日本の選択    

・終焉遂げたアベノミクス / ・‘危機後’の世界で日本は

----------------------------------------------------------------------

はじめに No country is an island

・安倍首相、緊急事態宣言
3月末から始まったコロナ感染者の急増に照らし、4月7日、安倍首相は、緊急事態宣言を発出、同時に、事業規模108兆円の緊急経済対策を閣議決定しました。緊急事態宣言の‘狙い’は云うまでもなく、新型コロナ菌による肺炎感染拡大にストップをかける事、そしてコロナ対策が結果として齎している経済活動停滞、それと並行して深まる国民生活の不安解消への取り組み、です。が、感染拡大が今尚続く現状からは、イタリア等欧米で起きたような「医療崩壊」を防ぐためにも、この際は経済悪化をある程度覚悟してでも、コロナ封じ込めこそが最優先である事、云うまでもありません。

今、世界の総人口の4割が外出禁止の状況にあると伝えられています。この数字は感染拡大防止のため人の移動を規制してきた結果ですが、これが需要、供給両面での活動にブレーキをかけ、世界経済が急速な停滞状況を託つ証左とされる処です。

巷間、2008年の世界的金融危機、リーマンショックと比較して語られること多々ですが、リーマンの場合は、金融機関間の間でカネの動きが止まり、ヒトとモノの動きも止まったのに対し、今次コロナ危機は、感染拡大防止策によってヒトとモノの動きが止まり、それがカネの動きを止めるまさに、危機発生のプロセスが逆流しており、しかも大企業のみならず中小・零細企業をも同時に巻き込み、事態は複雑化している点で大きく異にする処です。

つまり、リーマンの場合、大幅な金融緩和や金融機関への財政資金の注入でカネの動きが回復し、ヒトやモノの動きも戻ってきたのに対し、今次危機の場合、各国で利下げや収入を失った家計への融資や財政資金による支援など打ち出されていますが、カネを動かしても外出規制など活動が制限されている間はヒトの動きは戻らず、危機構造が複雑化している点で、実体経済の回復は相当遅れるものと見ざるを得ません。因みに、4月14日、IMFが発表した2020年の世界経済の成長率見通しでは、マイナス3.0% に引き下げています。

この際は、何としても新型コロナウイルス撲滅が第一ですが、これが目に見えないウイルスとの闘いとなる点で、一国だけでは対処しきれず、国際間の連携が不可避となる処(注)、想起するのはThe Economist , 2007/12/1 の巻頭言No country is an island(如何なる国も、孤島では在りえない)です。

(注)リーマン後、中国が4兆元(約60兆円)の景気対策を打ちだし、世界経済を土俵
際で支えたことは銘記されるべき処です。尤も今の中国にそうした力はありませんが、
国際間の連携効果と云うものです。序で乍らG7ではワクチン開発支援で、実績あるノル
ウエーに拠点を置く国際研究機関、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)に数十億ドル
規模の資金拠出を予定とか。(日経2020/3/27)

・米国政治のトレンド・シフト
然し、一体感を以ってグローバルな危機に対峙していけるかとなると、置かれた現実からはいささか疑問は禁じ得ません。つまり、欧米諸国は、自国安全のためと国境封鎖等に向かうことで、自国主義、国家主義への回帰の姿を強く映し出す処です。

そうした環境の中、世界が注目するのは、やはりトランプ米国の行動様式です。トランプ大統領はWHOのパンデミック宣言が出たあと国家非常事態宣言を発し、3月27日には約2兆ドルと、極めて大規模な対策を打ち出し、更に今、想定越えの雇用悪化に照らし、3月27日と同規模の追加策、第4弾の検討を始めたと報じられています。それは今秋の大統領選を睨んでの彼の焦りを映す処ともされるのですが、ここで注目されることは、その対策策定の過程で露わとなってきた米国政治のトレンドの変化です。

つまり、連日更新の進む感染者の増大(3月26日には、米国のコロナ感染者は世界最多の8万3507人)に照らし、彼は今次の危機を保険危機、医療危機と理解してきたとされ、以って低所得者の救済に向かう処です。これは、民主党左派のリベラルが目指す方向と重なる処、つまりは米国政治のトレンドがトランプ氏の忌み嫌う社会主義的な色合いを強める一方で、これがトランプ米国第一主義とも絡んで、国家主義への回帰を現実とする様相になってきたと云う処です。‘米国よ、前もか’ です。

・問題は`危機後’の対応
世界経済は今、緊急停止の状況です。収縮する経済への対処と同時に、感染症対策に迫られ、財政面でも医療提供体制の整備や治療薬の開発が求められる状況です。そして危機回避に向けては、各国の利害を超えた結果が求められる処です。ただ、各国の努力で危機が過ぎたとして、世界が危機前の姿に戻れるかと云えば、それは極めてnegativeとなる処です。

つまり、緊急対策を以って臨むとしても単なる需要対策だけではなく、供給能力の削減といった構造対策が求められ、その結果は産業構造の変化、多くの企業で事業転換が不可避となると見るからです。加えてこれまで過剰投資を支えてきた過剰債務の処理も伴う事もこれありで、かかる事態の変化からは相応の時間を要するというものです。加えて、日本がこれまで拠り所としてきた世界の秩序が、危機を契機に急速な構造変化を辿りだしている事も有之で、問題は‘危機後’の世界をどう捉え、これにどう向き合っていくかとなる処です。 

そこで、今次論考では危機後の可能性を探る意味を含め、① 世界経済の生業の行方を検証し、② 危機を契機に進む米国政治のトレンド・シフトの現実と大統領選を控えたトランプ氏の行動様式、そして ➂ 危機後, 日本の目指すべき方向について、考察する事とします。


第1章 危機が齎すグローバル経済新常態

1.今、世界経済は「緊急停止」

前述の通り、新型コロナの拡散防止作戦として各国の進める水際作戦は、ヒトの出入りの管理強化に向かうことで、まさに国境が高くなり、往来が不自由になり、経済と企業活動の停滞をもたらし、それこそがグローバル経済の新常態と映る処です。それは自由で開かれた世界を目指すグローバル化は緊急停止の様相を呈する処、グローバル化が大きな壁に当たりつつあることを意味し、もはやその転換点をも示唆する処です。

(1)進み出す国家主義への回帰
その「緊急停止」を巡って、 Financial TimesのコラムニストGideon Rachman氏は、同紙(2020/3/24) にて ‘Nationalism is a side effect of corona virus’ (コロナ・パンデクスが齎す副作用は危険なナショナリズムの台頭)と題し ‘今、ボーダー(国境)がすさまじい勢いで復活しつつある。それは新型コロナウイルスに因るものだが、仮にそれが止まったとして、もはやウイルス発生前のグローバルな世界に戻る可能性は低い’ と、以下三つの事由をもって Return of the Nation State、国民国家 [国家内部の全住民を一つのまとまった構成員(国民)として結合する事によって成り立つ国家] への回帰トレンドを指摘すると共に、その変化に懸念を語るのです。

 ① 緊急事態下では人々は国民国家に頼ろうとする事。国民国家にはグローバル機関に
はない財政的、組織的な強みがあり、人々の感情に訴える力も強い事。
 ② グローバルなサプライチェーンが脆弱だと分かったこと。(revealing the fragility of global supply chains )
 ③ 危機発生前から顕著だった保護主義や自国回帰、国家管理の厳格化を求める声がよ
   り高まったこと。

 (注)サプライチェーンの脆弱性:かつてはきれいな棲み分けが出来ていた国際分業体系
にあって、それぞれが支配を目論むサプライチェーン上の部位が徐々に重なり合い、互い
の領域を侵食し始めた結果と云え、サプライチェーンの統治構造の変化を意味する処。

彼が語る危険な事とは、国民国家の復活で制御不能な国家主義が頭をもたげ、世界貿易の急減や国際協力の有名無実化の進行であり、最悪のシナリオとしてEUの崩壊、米中関係の断絶、更には、戦争へエスカレートする事態をもと、する処です。

そして、国民国家への回帰の動きは特に欧州で目立つとし、3月18日、メルケル首相がコロナ対応への協力を国民に訴えたTV演説をreferし、その際、EUに関して一言も触れられていなかったこと、また本来国境管理はなかったはずが突如復活(独・仏間)したこと、更に企業や失業者への経済支援の多くは、EUからではなく欧州各国からきているとも指摘し、これら一国主義への回帰を映すものではと、懸念を示すのです。

(2)メルケル首相メッセージのこと
そこで一言。 確かにラックマン指摘にあるように近時、EU諸国の中には自国主義に走る動きは出てきていますし、コロナ危機への経済対策を巡って加盟国間の亀裂が深まり、EU南北の対立(イタリアやスペイン vs オランダ)と報じられる処です。ただ、メルケル首相のTV演説の中にEUの文言が見えなかったと云うことだけで即、一国主義への回帰云々としうるものか、その指摘には聊かのバイアスを禁じ得ません。

国内が分断しているようでは外交で力を発揮することはできません。当時のメルケル首相を巡る政治環境は次の通りでした。つまりメルケル首相が、自らの後継者として推薦していたメルケル氏所属のCDU党首クランプカレンバウア氏が2月10日、政治的な失言や選挙での相次ぐ敗北を事由にその指名から降板、その後、ぎくしゃくしていた連立相手の社会民主党とCDUとの間で改めて和解が進み、メルケル首相の再登板が合意され今日に至っている事情これありで、この際はとにかく国内政治の立て直しをと、メルケル氏にとって初となるTV演説に臨んだものと推測するのです。

因みに、今年7~12月はドイツがEUの議長国です。従ってドイツの政権が瓦解すれば欧州全体が混乱するとの認識があって,まずは国内の引き締めとの思いがあっての結果ではと,推測するのです。更に、トランプ米国とは距離を置く処、トランプによる「ドイツたたき」の可能性も否定しえぬ状況にある一方で、9月にはEU27国首脳と共にドイツで中国習近平主席との会談が予定されています。いま欧州景気が低迷傾向にある中、大黒柱のドイツが冷え込めば総崩れになりかねず、その点で、まずはドイツがしっかりせねばと手綱を引き締め、統合に臨まんとの思いが、そうさせたのではと、忖度する処です

2.無極化に向かう世界

さて、ラックマン氏の指摘は、要は、不安と恐怖を乗り越えて国際社会が結束できるかを質すものと思料するのですが、上述国家主義への回帰トレンドと、世界秩序のkingpinたる
トランプ米国の行動様式と重ねるとき、それにはnegativeとならざるを得ません。
米国はトランプ氏が大統領に就任以来、America firstの下、国際間の協調、協定を軽視し、自国利益を優先しながら覇権国家を演じてきています。然し、今次COVID-19危機は、そうした体制をも揺るがす状況にあります。つまり、前述のように各国は、危機対応を通じ、自国の安全に向かう中、米国も、後述するような危機対応強化を通じて更なる米国主義を図らんとする処、その結果は他国を率いる力を弱体化させる処です。

因みに今秋の米大統領選では現職のトランプ氏の優位が喧伝されていました。それは、戦後最長を謳歌した好景気と低失業率を以ってする予測でした。然し、そのシナリオは新型コロナ危機で剥げ落ち、いまトランプ氏はコロナの収束と早期の景気回復に向けた強い指導力をアピールする戦略を描く処です。そこには、既存の大国としての米国はなく、されど競合国の中国が米国にとって代われるほどの実力も信頼をも欠く状況で、それは世界の無極化、いわゆるGゼロへの動きを鮮明とする処です。(注)

(注) Coronavirus reveals the dread of `non-polar’ world.- The two great powers cannot lead and there is no persuasive coalition to replace them. By Janan Ganesh, Financial Times , 2020/04/02

世界は今、国家主義への回帰が進む一方で無極化が進む、時に脅威とも映る新環境にあって、問題は、各国の近視眼的な指導者がどう対応していくか、見通し難いことです。そうした中、やはり注目されるのが、米大統領選を控えたトランプ氏の行動様式です。


第2章 米国政治のトレンド・シフト、米大統領選の行方

1.`危機’ 対応に映る米政治のニュー・トレンド

今次危機は金融危機ではなく、保険危機、医療危機とも指摘される中、トランプ政権の危機対策はその色合いを濃く映す処です。以下は、その経緯をレビューするものです。

(1)米政権のコロナ危機対策
トランプ氏は、3月10日のコロナ・パンデミクス宣言に呼応する如くに、それまで極めて楽観的だった彼は、3月11日夜、ホワイトハウスからの国民向けTV演説で、コロナ感染拡大への対応策として、欧州からの入国禁止措置を発表。更に16日には英国、アイルランドをもこれに追加したのです。まさに米国の水際大作戦です。米国に呼応する如くに、欧州、カナダ、ロシア、中南米諸国も同様「外国人の入国禁止」を発表する処、これで地球大での人間閉じ込め作戦が一気に進む様相です。 そして問題は、こうした水際作戦の結果は消費の落ち込を誘発、それが企業の破綻やリストラを呼び、雇用喪失と云う不安の連鎖を呼ぶ処、消費の縮小は一時的な現象から長期的な構造問題に転じてきたことです。

さてトランプ大統領は3月13日、国家非常事態を宣言。同時に最大500億ドル(約5兆円超)を投じ、検査や治療の体制強化、新型コロナで打撃を受けた企業や個人の支援強化の方針を明示、翌14日には議会下院が野党・民主党の経済支援策(コロナ無償検査、有給病気休暇、失業保険の拡充、低所得者向け食糧支援、等)をも可決。更に21日、米欧の4~6期成長率のマイナス幅が前期比年率換算で10%を超すとの見方が浮上したことから、同日、クドロー米国家経済会議議長は、財政支出では1.3兆~1.4兆ドル、更にFRBの追加対策を加えて経済対策はGDP(21兆ドル)の10 %程度規模の対策が必要とし、3月25日未明、与野党議会指導部との合意を経て27日、米議会で2兆ドル(約220兆円)の大型経済対策を決定(注)したのです。これは2008年の金融危機対策(7000億ドル)を上回る数字です。

(注)2兆ドル経済対策の内容:家計と企業に直接送り込むもの。医療整備(1400億ド
ル)、航空会社等(750億ドル)事業会社(4250億ドル)、中小企業(3500億ドル)、家
計(5000 億ドル)尚、同時にトランプ氏は米自動車大手のGMに対して呼吸器生産命
令を国防生産法の適用を以って発令した。

(2)危機が齎す米政治の左傾化
処で、トランプ氏は連日更新が進む感染者数の増大に照らし、今次危機を保険危機、医療危機と、理解を深めたようで、医療や低所得層への支援に多くを配慮するものとしています。そして、3月上旬には考えられなかったことですが、注目すべきは、米政府は、ここにきて本来トランプ氏が忌み嫌う社会民主主義に近い政策を次々に打ち出してきた事でした。

これまで大企業、富裕層を対象とするような減税策等で支持を得てきたトランプ氏ですが、大統領就任以来忌避してきた低所得層支援、教育無償化問題、更には国民皆保険問題等も俎上に乗ってくる処、まさにコロナ危機によって民主党、とりわけサンダース氏らリベラル派が考える世界のあるべき姿へ変貌する様相を露わとするのです。危機が齎した与党共和党のリベラル化とされる処、瞬時振り子が右から左へと揺れる姿を見る思いです。勿論、人気取りもこれありでしょうが、2017年の大統領就任以来の姿勢の変化を映す処です。

序で乍ら、英国においても保守政権ながら 3/11, 17, 20日と3弾の経済政策を発表する処、大規模な財政出動を決め、又、どちらかと云えば企業寄りとされる大統領が率いるフランスも同じ様相にある処です。とすれば財政支援の点ではもはや米欧は一体化していると云えそうです。ただ米国にあっては、家計や企業への支援と云う短期の議論に止まることなく根本的な富の再分配の問題にまで、今や議論されつつある事が大きな違いを見せる処です。

尚、3月11日、トランプ氏がホワイトハウスから国民向けに感染拡大への対応策を発表した際、「政治や党派の対立は横において一つの国家、一つの家族としてまとまらなければならない」と、国民に団結を訴えています。「怒りと分断」をエネルギーとする同氏にしては「大統領らしい」初の演説だったと評されていましたが、これが厳しい批判に曝された末のことと云え、明らかに自らの再選に向けた焦りを映す処です。

因みに、3月24日、TVインタービューではトランプ氏はコロナ対応で停滞する経済活動の再開は復活祭(4月12日)までにと、していました。が結局、4月16日 ,感染者が少ない地域から経済活動の再開を3段階で進める新方針を発表。3月中旬からの厳しい外出規制の緩和に踏み切ったのです。勿論、緩和のタイミングに厳しい批判のある処、どこまで経済が戻るか不透明で、TVに映し出されるNYの街の様子は、まるで1930年代の大不況とも見紛う光景ですが、トランプ氏の行動は、あれもこれも大統領選のため、と云った様相です。 
尤も、これまでトランプ氏の絶対優位の証とされてきた経済は急激な減速にあり(注)、内外環境の急速な構造変化、更にはこの危機を契機に有権者のトランプ観も厳しくなってき事情もあり、楽観し難い状況にはなってきています。

    (注)減速の米経済:4月3日、米労働省発表の3月雇用統計では景気動向を敏感に映
す非農業部門就業者数は前月比70万1千人減少。就業者の減少は2010 年9月以来,
9年半ぶり。新型コロナで米経済は大幅な活動制限を強いられてきた結果で、過去に
例のない雇用と景気の悪化に、経済対策の執行が追い付かない状況。

いずれにせよ、今次のコロナ経済対策が映し出すことは、トランプ氏の行動様式の変化、米国政治の左傾化トレンドです。そこで、改めて彼の可能性を検証します。

2.トランプ政権のresilience & vulnerability

(1)トランプ政権の‘強さ’と‘弱さ’
処で、コロナ危機もさることながら、近時の金融市場の動揺で不安が生じているのは、トランプ政権の経済・金融危機に対する管理能力にありと、されていますが、要は、従来の米政権には危機の火消し役になる顔があったが、今はそれが見当たらないと云うものです。

つまり、クリントン政権時のルービン氏、ブッシュ政権時のポールソン氏、オバマ政権ではガイトナー氏と云った財務長官や国家経済会議委員長等、主要経済閣僚の存在です。しかし、今のムニューシン財務長官にしても、クドローNEC委員長にも、そうした威信は感じられません。トランプ氏は安全保障ではマテイス前国務長官、経済ではコーヘン前NEC委員長ら、大統領への苦言も辞さない専門家を排除してきています。今のトランプ政権にはそうした人物は見当りません。今後の危機対応では、そのツケが回ってくることもありうると云うものです。 更に、トランプ氏が今次のCOVID19対策の責任者に副大統領のマイク・ペンスを指名したことです。彼は科学を疑い続けてきた人物とされる仁で、まさに感染症に対峙する者の適性に、有権者のトランプ氏に対する見方が変わってきたとされる処です。

加えて、国民に添う政治と云う点で、とりわけ問題となるのが無保険者もいる米国の医療制度です。この問題では、国民皆保険を掲げる民主党左派のサンダース上院議員はもとより、中道のバイデン氏もオバマ政権で実施した医療制度改革(オバマケア)の更なる改革案をも主張しており、オバマケアの撤廃を主張しCDC(Center for Disease Control & Prevention:米疾病管理予防センター)の予算を削減してきたトランプ氏にとって、不利な展開の可能性が指摘される処です。 因みに、3月次FT・米財団協働世論調査では、コロナ感染拡大で「所得が減った」との回答が73%に上った由。 他事情についてもトランプ再選に逆風が吹く様子が伝わる処です。(日経2020/4/8)

もう一つ、問われるリスクはトランプ政権下で進んだ多国間協調や国際機関の軽視です。とりわけパンデミックスの状況にあって問題となるのが国際的な危機対応です。自国優先を掲げるトランプ政権はコロナ問題でも欧州や中国との亀裂を深める処、とりわけ米中では感染拡大の経緯を巡り、非難の応酬で、その関係は再び悪化を見せる処です。 壊滅的な被害を及ぼすパンデミックは、世界の二つの経済大国、米中が立場を棚上げにして、協調する好機と思えるのですが、その関係は1989年の「天安門事件」で中国政府が軍を投入し民主化運動を弾圧した時と同様に、この危機のさなか、パンデミックの原因を巡って両国は醜い中傷合戦を展開する処です。ではその実状は、です。

(2)今「断崖」に向かう米中関係
まず、震源地、中国の実状はと云えば、感染都市の封鎖や強制的な隔離で封じ込めを進めると同時に、メデイア統制で批判の声を排除し政府の対策の成果を内外に印象付けようとしていると伝えられる処です。 因みに3月18日、中国政府は国内に駐在していた米NY Times, Wall Street Journal, Washington Postの米国記者ほぼ全員を外国に追放したこと、前号論考でも触れましたが、米中関係は新たな緊張関係を呈する処です。

3月19日付けFinancial Timesは、中国駐在の米ジャーナリストが中国からの追放を受けたことで、US-China ties worst in decades after expulsionsと題し、目下の米中間のパンデミック論争は旧ソ連の戦時体制を思い起こすとしながら、今次の米記者の中国からの追放は、中国情報への道を断つもの、world access to true information about China と、報道の自由を叫ぶのです。更には、新型コロナウイルスの感染が更に拡大すれば、米中の責任転嫁も一段と激しくなり「既に恐ろしいほどに険悪な両国関係に深刻な影響を及ぼすことになる」(The Economist, 2020/3/21)と、新たな事態の展開を危惧する処です。

同紙24日付けでは、米シンクタンク、ブルキングス研究所のライアン・ハス氏は「新型コロナウイルスの感染拡大は両国関係の現状を鏡のように映し出している。そこに浮かび上がる像は醜い。両国の指導者は今、蔓延を止めるために共に何をすべきかを話すことなく、ウイルスがどこから出現し、感染拡大の責任が誰にあるのかという議論に終始している」と、指摘する処です。周知の通りトランプ大統領は新型ウイルスについて「中国ウイルス」と呼び、中国外務省からは強い非難を受ける処、更に、中国国営メデイアはウイルスの感染爆発に対処するには独裁的統治体制の方が民主主義体制よりも適しているとまで主張する処です。今 ‘危機’に協力して対応すべき局面で、二大国の振る舞いは何とも情けない限りです。

いずれにせよ重要なのは政府と国民の信頼関係です。その為には、納得できる正確な説明と情報の開示が求められる処、この点で親和性の高いのは民主主義の他ないのです。

・「国民とある」ということ
序で乍ら、政府と国民の信頼関係維持の視点で、Financial Times ,2020/03/19が掲載した論考、「Donald Trump and the need to lead by example – The president should look to Roman history and Ireland on how to act in a crisis 」(トランプ大統領は、ローマの賢帝、アウレリウスに習い、アイルランドのバラッカー首相に習え)は極めて興味深く迫る処です。

その概要ですが、まず「他の災厄と同じく、感染症の拡大は人の性格を、中でも指導者の性
格を露わとする。重要な事は誠実さ、勇気、品位。新型コロナウイルスが齎す脅威が如何に
大きいか、トランプ大統領はこの数日の間に漸く把握したようだが、残念乍ら同大統領はず
~と理解している振りをすることにエネルギーを費やしてきた。そして自らが発するメッ
セージ自体の価値を引き下げてしまった。メッセージは信頼されていてこそ価値を持つ」と
し、その上で、トランプ大統領が学ぶべきは、ローマの賢帝とされたアウレリウス帝が当時
の疫病対応で見せた国民とある姿を、又、3月17日、アイルランド国民に向けた演説で、
バラッカー首相が感染拡大に苦しむ国の人々と「共にいる」姿勢を打ち出していたことを取
り上げ、まさに見習うべきと示唆するものでした。

「国民とある」、それこそは政治の基本姿勢と云え、これがトランプ氏にいかに届くものか、
大統領選を控えた彼の行動様式に斯界の関心が深まる処です。現時点でのトランプ支持率
は各種世論調査で相次ぎ就任以来最高を更新しているようですが、これが国家的危機に対
処する米大統領の支持率上昇の通例に照らすと押し上げ効果は勢いを欠くとされていま
す。深まる党派の分断が影を落とし、野党の支持層を取り込めていないことが指摘される
処、11月大統領選へまさに綱渡りの政権運営を余儀なくされていく事と思料するのです。

・J. バイデン氏、参上
処で、4月8日、民主党候補の指名を争っていたバーニー・サンダース上院議員が挙党体制構築のためと、大統領予備戦からの撤退を表明。これでバイデン前副大統領の民主党候補が確定し、秋の米大統領選はバイデン氏がトランプ氏に挑む構図に固まったようです。

バイデン氏を巡る詳細は別の機会としますが、彼がForeign Affairs , March/April,2020 に寄稿した論文では、民主主義の再興、中間層の強化を、外交面では同盟国重視を訴え、自分こそが世界をオバマ時代に戻すことができるとの期待を、人々に抱かせる様相です。 然し、トランプ時代の4年間、米国自身、そして米国と世界各国との関係は根本から変わってきたこと、国内ではこの4年間に進んだ社会的、政治的分断は極めて深く、仮に彼が大統領となったとして、では次の4年でこの分断が改善に向かうものかと、質す処です。いずれにせよ、トランプ氏の絶対優位は消え、両者互角の選挙戦となるのではと思料する処です。


おわりに 日本の選択

・終焉遂げたアベノミクス
4月23日, 政府が纏めた4月「月例経済報告」は、3月に続き景気判断を更に下方修正、一段と厳しい状況との判断を示す処です。3月報告(3/26)では、それまで「穏やかな回復基調」としてきた景況判断から「回復」の文字が消え、2012年末の安倍第2次政権発足以来、6年9か月振り、‘アベノミクス景気の途切れ’と評される処でした。それが今次報告では「悪化」となり、コロナ危機とともに、まさにアベノミクスの‘終焉’を告げる処です。

さて、「この3か月で世界は劇的に変わった」(IMF)とされるなか、コロナの影響で生活に困る家計や、資金繰りに窮する企業の救済は一刻を争う状況となってきています。
安倍政府は3月28日、GDPの1割、56兆円を上回る大規模の緊急対策を、4月7日には‘緊急事態宣言’の発出と併せ、事業規模108兆円の緊急経済対策を決定しましたが、4月20日には、一人当たりの支援給付を盛り込んで組み替えた補正予算,117兆1千億円を決定しましたが、その間の姿はまさにバタバタ劇。 4月17日、記者会見に臨んだ安倍首相の口からは、一国のリーダーとして現下の‘非常事態’をどう捉え、どう取り組もうとするのか、一向に伝わる事なく、更には対策実行のスピード感のなさが指摘されるや、かかる事態に彼は陳謝するのでした。国家の‘緊急事態’の何たるかの認識の欠落を映す処、まさに危機に向かうリーダーとしての資質が問われる瞬間の続く処です。

・‘危機後’の世界で日本は
さて先に、強制的な分断が解ける、その‘あと’「コロナ後」の対応が問題と指摘してきました。先行きの見えない中、未来のことなど今は考えられないとの批判のある処かとは思います。が、筆者はある機会を経て、以下趣旨のコメントを繰り返す処です。

―  (本稿冒頭で触れたように)産業調整といった構造問題もさる事ながら、現下で進む世界秩序の構造変化で、これまで日本が拠り所としてきたグローバリゼーションは今、‘試されるグローバリゼーション’と揶揄される状況にある。それでも、厳しい危機対応をくぐりぬけたとき、これまで以上にネットを活用し、より世界と密接につながった社会が現出しているかもしれない。そこで芽吹き始めた新秩序に備えない手はないのではと。

さて、3月31日付日経に載った世界的ベストセラー「サピエンス全史」の著者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏の投稿は、新型コロナウイルスの脅威に直面する世界に今後の指針を示すのでした。同氏はその中で、感染拡大も、それに伴う経済危機もグローバルな問題であり、これを効果的に解決するには、国を超えた協力以外に道なく、自国の事だけを考え、他国のことを全く考慮しないままに行動すれば、混乱と、より深刻な危機を招くことになると看破するものでした。 人口減少と対峙し進む日本、これまでの世界における日本の生業に照らし、なお今後の日本の行方を思うとき、進むべきはグローバル化の道と再認識する処です。

但し、それはJ.ステイグリッツ氏が「Globalization and its Discontents」(2002)で批判した市場主義グローバリゼーションではなく、国民を幸せにするグローバリゼーション、progressive capitalism(弊論考、2月号)を映すグローバリゼーションへの取り組みです。
そして、実践的にはValue Chainをキーワードとした取り組みをイメージする処ですが、そのプロセスこそは日本経済にイノベーションやビジネスモデルを生み出す処と思料するのです。その心、No Country Is An Island いま再び です。 (2020/4/25記) 
                         
posted by 林川眞善 at 11:32| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする