2023年04月24日

2023年5月号  The Global Zeitenwende (転換点) - 林川眞善

― 目 次 ― 
はじめに 今、世界は歴史的Zeitenwende(転換点)
第1章 Global Southと日印関係 そして、    
     英国のTPP加盟  
第2章  アジアと欧州で進む地政学的対立の行方
おわりに アベノミクスの悲劇



はじめに 今、世界は歴史的Zeitenwende(転換点)

(1)オラフ・ショルツ独首相(Olaf Scholz, Chancellor of Germany)
独ショルツ首相はForeign Affairs ,Jan/Feb. 2023に「The Global Zeitenwende」(historic turning point)と題した論文を投稿、その副題として掲げる ‘How to avoid a new cold war in a multipolar era’ への‘解’は、西側諸国の協調対応の強化にありと訴えるものでした。

まず、ロシアによるウクライナ侵攻が齎している忌まわしい状況をZeitenwende(ツアイトヴェンデ:ドイツ流思考で云う悪魔のような忌まわしい変化)と断じた上で、ウクライナ侵攻がその引き金だが、技術革新がそれを一層深める様相にあって、その結果、世界はMultipolar Era、多極化の時代が進む状況にあるが、そうした中、 米中対立の進行が新たな冷戦状態に向かうとみる向きのある処、そうした事態に陥ることは絶対に回避すべきと訴え、これまでの世界秩序の来し方を振り返るのです。

これまでの30年、北米や欧州は、安定的な成長を維持し、高雇用、低インフレを堅持し、この間 米国は世界の主導者として行動し、その役割は21世紀も続くものと見られていた。しかしglobalizationの動きが終焉に向かいだす中、中国がglobal playerとして新たに台頭してきたこと、そして彼らがアジアに於ける覇権追求を露わとしてきたことで、国際的な協調関係が崩れ出している。この点,自分は先の中国訪問時、彼らには、‘力’によるのではなく、‘法の支配’の下での国際秩序の維持をと提言し、国連でも同様声を上げたが、中国はそれには貸す耳持たずで、今日に至っている。しかし、もはや後戻りはできずと, 力による侵攻の抑止、帝国主義の抑止を主張、今日のcomplex, multipolar worldにあって、その意義の大きさを指摘し、その実践を図るため、ドイツやEU諸国、米国、G7国さらにNATOに対して、共にシェアーできるdemocratic value や、同盟関係、連携による強化を進めるべきで、それこそはZeitenwendeへの究極のツールとし、以って本稿副題への解とする処です。

実は、昨年2022年2月27日、彼はドイツ連邦議会でZeitenwende speech(注)と称される演説を行っています。当該論文は、その演説をベースにグローバルに広がる時代の転換点として、再編されたものでした。 その際の内容は上記の次第ですが、 Zeitenwende (英語では,end of era: turning point) とはロシアによるウクライナ侵攻で悲惨な状況を露わとする処、技術革新がそれを一層深め、世界はMultipolar Era、多極化が進むようになったと指摘する処、同時に、嘗てのような冷戦構造に陥ることのないよう、その為には西側陣営で共有されている理念、つまりfreedom ,equality, the rule of law, and the dignity of every human being are value not exclusive to what has been traditionally understood as the West を確実たらしめ、強権的権威主義との決別をと、示唆するものでした。

尚、Zeitenweende, ドイツ語で悪霊を呼び込むほどに忌まわしい変化という由ですが、ショルツ首相は、‘the new political situation on the continent as a “ historic turning point” ’と再定義する処です。そしてZeitenwendは2022年の「ドイツ語大賞」にもなるものでした。

    (注)シヨルツ首相の議会演説(英訳抜粋):
    We are living through a watershed era. And that means that the world afterwards will
no longer be the same as the world before. The issue at the heart of this is whether
power is allowed to prevail over the law. Whether we permit Putin to attack back the
clock to the nineteenth century and the age of great powers. Or whether we have it in us to keep warmongers like Putin in check. That requires strength of our own.

序で乍ら、3月18日、シヨルツ首相、来日の際、日独政府間で新しい定期協議「日独政府間協議」が立ち上げられ、もとより、これが対中牽制で両国が接近したと云うものですが、この際は「自由で開かれたインド太平洋」の実現についても申し合わせが行われています。

(注)日独初の政府間協議:日独政府は3月18日、経済安保を軸に初の政府間協議を
開き、重要物資の脱中国依存といったサプライチェーンの強化やサイバー攻撃からの
防御などで協力を深めんとする処です。

ショルツ氏の対ロ政策路線は今では、中国・ロシアに対抗する西側の一致した政策姿勢と云え、4月4日、北欧のフィンランドが、ロシアが敵視するNATOに加盟したのも、これまで北欧で堅持されてきた対ロ政策、中立政策の放棄となる点で大きな転換点となる処です。この結果、NATOのロシアと接する国境は1200キロから2500キロに延びる事で、NATOの対ロ抑止力強化となる処です。この変更でロシアは国境警備で人的、経済的資源の手当を余儀なくされ、ロシアが戦争を続けるためには当該戦争コスト全般を引き上げることにならざるを得ず、この点、ウクライナ支援国には、ロシアが戦争を続けるコスト全般を引き上げさせ停戦につなげる戦略の可能性も指摘されると云うものです。以って、民主主義と自由主義の西側と、中国・ロシアの専制主義国家との対立を益々鮮明とする処です。

(2)もう一つのGlobal trend
欧州にみる対ロ政策上の一元化が進む一方、新たなトレンドも生まれる処です。 ロシアのウクライナ侵攻もあってグローバル化の逆回転が加速する中、今次(3月31日)決定を見た英国のTPP加盟は、欧州のアジア太平洋経済圏との新たな交流機会の拡大、自由貿易圏の拡大と、期待の高まる処です。
そうした中、注目を呼ぶのが中東での地政学的変化です。中東ではアメリカを支えとしてきたサウジとイランとの対立を基軸としていた緊張関係に緩和の兆しが出てきたことでした。
3月6日、サウジとイランが中国で外相会談を開き、同日付で正式外交関係を再開、更にサウジとシリアも12日、国交正常化で合意(日経、4/14)を見る処です。こうした外交関係の新展開は、中国主導の秩序再編ともされ、この三者を接近させた共通項は米国への不信感と伝えられる処、これまで中東に深く関与してきた米国の弱体化を印象付ける処です。 
さてイラク戦争からちょうど20年、対米不信を強める中東の指導者たちは「盟主」不在の新しい時代へ、備えを急ぐ状況と伝えられる処です。

一方、Financial TimesのChief Commentater ,Gideon Rachman氏は、「China ,Japan and the Ukraine war 」と題した論考(3/28)で、欧州とインド太平洋地域でみる戦略的なライバル関係が、a single geopolitical struggle, 地政学的対立の様相を強める処、その行方について西側も中ロ陣営もそして、Global Southも全ての陣営は責任ある対応をと,叫ぶ処です。そのGlobal Southこそは今、強いインパクトを以って動き出す処、それを主導するのがモデイ政権下のインドです。今、手元に届いたThe Economist,April15-21の巻頭言では「Can the West win over the rest?」と、西側陣営はグローバルサウスに対抗しうるか問う処です。

そこで今次本稿では、上記事情を大きな枠組みとして、まずGlobal South にフォーカスし、Global Southの盟主 インドと日本との新たな結びつきを検証すると共に、前述英国のTPP加盟で期待される新たな欧州のアジア太平洋経済圏との交流、自由貿易圏拡大の可能性を考察し、上記Rachman記者の現状分析を検証する事とします。そして今次の銀総裁の10年ぶりの交代に合わせ「アベノミクス」の意義を問い質し、締めとしたいと思います。


第1章 Global Southと日印関係 そして、英国のTPP加盟

(1) Global Southと, 日印関係の深化
上記西側陣営と中ロ両陣営の行動様式はまさに、アジアと欧州における地政学的対立関係を高める処、欧米とは一線を画す独自の行動様式を示す陣営として今、注目を呼ぶのがGlobal Southです。 Global southについては、定まった定義はありません。が、かつて「第三世界」とも云われた南半球を中心とした新興国、途上国を指す処です。その代表格を任じるのがモデイ政権下のインド、しかもこの秋のG20サミットの議長国です。

そのインドは今年、1月12~13日、ワシントンでの米印二国間通商会議(1月11日)に引き続き、「グローバルサウスの声サミット」( Voice of Global South Summit)と呼ぶオンライン国際会議を開催 、そこには世界の3分の2に当る125カ国が参加したのです。その会議でインドのモデイ首相は、食料・エネルギー危機、インフレ、気候変動などに触れ、「問題の大半は途上国が作り出したものではないが、われわれは多大な影響を受けている」と指摘し、併せて「途上国の優先事項はインドの優先事項」と語り、「グローバルサウスの声の増幅を目指すのは当然だ」と国際的なリーダーシップに意欲を示したと報じられる処です。(日経2023/1/30) 一方、岸田首相は1月23日の施政方針演説で、「世界が直面する課題に、国際社会全体が協力して対応していくためにも、G7が結束し、いわゆるグローバルサウスに関与していく」と強調する処です。

尚、Global Southとは上記の次第で、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの新興国、等「途上国」を指す概念と云え、彼らの可能性については昨年、2022年12月25日付日経は、global economics trendsとして長期見通しを掲げていましたが、それによると 日米など先進国の成長は鈍化し、一方、インドなど新興国は高い成長が続くとする処です。 序で乍ら、米大手金融機関(ゴールドマンサックス)が12月発表した「2075年のGDPランキング」では次の通りで、[1.中国、2.インド, 3.米 国. 4.インドネシア、5. ナイジェリア、6.パキスタン、7.エジプト、8.ブラジル,9.ドイツ,10.英国 ]という事ですが、先進国の3カ国に対し,Global Southが7か国とglobal southの存在感を感じさせる処です。

・深化する日印関係:
さて、先にG7 サミットに備え、メンバー6か国の首脳との事前の腹合せを終えた岸田首相は3月20日、上記 事情を踏まえインドを訪問、global south の雄、モデイ首相と会談、G7議長国日本とG20との連携を演出する処、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」の実現に向けた新たな推進計画を明らかとするのでした。

The Economist , 3/25~31,2023は今次岸田首相のインド訪問を、「global southの重要性に照らした積極的な行動」と評すると共に、日印関係の深まる背景を詳しく語るものでした。
そもそも、「インド太平洋」とは、2007年安倍晋三首相(当時)がインド議会で行った演説にあって、その際の彼の発言に負うものと指摘する処です。
つまり「India and Pacific ocean to be seen as one strategic space, and for Japan and India to recognize their shared interests.」と訴えたこと、そして、こうしたidea がベースとなって今日云うan expansive Indo-Pacific view of Asian securityが広く人口に膾炙する処、前駐印米国大使(2017~2021)Kenneth Juster氏のコメントを引用し、日印のこうした関係なくしてIndo-Pacific というコンセプトは成り立ちえないと伝える処です。

当該エコノミスト誌はこうした日印関係の深化について、’ Under a bodhi tree’ つまり、菩提樹の下で語り合い、深化する日印関係と云うことですが、その副題にあるのが、`Fear of China has made India and Japan close. They could be much closer’、つまり中国の脅威を事由として、日印両国の関係の深まりを語る処、両国関係の深化に期待すると云うものでした。上記の通り、インドは次期G20サミットの議長国、そしてGlobal Southの盟主を自任するインドとG7サミットの議長国、日本が連携を深める点で、これが途上国支援を強める中国に対抗するものと見られる点でも、世界の注目を呼ぶ処です。 そしてAsia’s democracies stand increasingly united across the region’s two great seas. India and Japan sit at their south -western and north-eastern extremes – and fear of Chinese assertiveness lies at the confluence. と、締める処です。

  (注)世界の中のインド:4月19日、国連人口基金(UNFPA)が公表した世界人口白
書では、2023年7月1日時点でインドは14億2863万人、中国は14億2567万人で
インドが約290万人上回り、世界最多人口国になると云う。(日経4/20)

・日本の対途上国インフラ支援計画
岸田首相は、3月20日、訪問先のインドで演説し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた新たな推進計画を明らかとするのでした。具体的にはglobal southと呼ばれる途上国のインフラ整備等を支えるため日本は2030年までに官民で750億ドル(約9兆億円)以上を投じると云うものでしたが要は、インドを通じて日米欧が重視する国際秩序を保つべくグローバルサウスを促し、伝統的にロシアと友好関係にあるインドからも協力を得たいとの思惑も映る処です。 4月10日付日経では、「目覚めた巨象をとりこめ」とする記事の掲載がありましたが、これが今の日本への檄とも映る処です。

そして当該演説ではFOIPのビジョンを共有する範囲について米欧豪そして韓国だけでなくASEANや中東、アフリカ場度にも拡大し「共創」の輪を広げると唱える処でしたが、このFOIPを軸にしてグローバルサウスと安保面でも結びつきを強めることは、中国と対峙する米戦略の下支えとなる処です。かくして日印の関係はまさにグローバルサウスとの協調の試金石とも思料する処です。 

岸田首相は、広島サミットでアウトリーチ(拡大会合)に8カ国の首脳を招待しています。その内、インド、ブラジルなど6か国がグローバルサウスにあたると云うものです。
サミットでの拡大会合では食料・エネルギー安全保障などの問題が取り上げられることになるものとされるのですが、要は、岸田首相としては広島サミットで、経済安保をサミットの主要議題と位置付けたい意向の伝わる処です。岸田首相は、4月末から大型連休に、エジプト、ガーナ等アフリカ訪問を予定していますが、これも同様趣旨を映す処です。

尚、4月14日、中国の習近平主席は北京に滞在中のブラジルのルラ大統領と会談していますが、同主席はブラジルへの投資と貿易拡大を伝え、両者の蜜月を誇示する処と報じられています。(日経,4/15)米中の対立の長期化を見据え、まさに「グローバルサウス」の取り込みを図らんとする処、習氏はブラジルを「共通の利益をもつ戦略パートナー」と位置づけ、外交において優先的に扱うと伝えた由です。こうした中国のアプローチに対して、新興国のつなぎ留めを図るG7も一枚岩でいられるものか、先のマクロン仏大統領の発言もあるだけに懸念の残る処です。 中国抑止に向けたG7の結束が緩めばグローバルサウスに対する求心力を失うと云うものです。

(2)英国のTPP加盟は、新たな欧州とアジアの結節点
さて、3月31日、自由貿易体制が危機にあるとされるなか、TPPに参加している11か国は英国のTPP加盟を認めると発表しました。ここで云う危機とは、「米国第一」を掲げたトランプ前政権が2017年、TPPから離脱し、中国からの輸入品に高関税を×等保護主義に傾いたのがきっかけでした。 一方、英国にとってEU離脱後の「インド太平洋地域への関与強化」の目玉政策としてきたのがTPP加盟でした。

今次、TPP加盟国の閣僚会議で英国の加盟が承認され、7月予定されている11カ国と英国との閣僚級会合で協定に署名し、その後、各国の国内手続きを経て加盟が正式に決まるのですが、これで日本、豪州、シンガポール等インド太平洋地域が中心だったTPPは、先の米国の脱退で二国間自由貿易協定、The Compressive and Progressive Agreement for TPPとなるのが実態でしたが、欧州を含めた自由貿易圏の拡大に弾みになると云うものです。

因みに、英国政府によると、同国の加盟で世界のGDPに占めるTPP加盟国の合計は12%から15%に拡大し、併せて貿易総額では、6.6兆ドルから7.8兆ドルに拡大するとみられる処、この英国の加盟によって、日本やオーストラリア、シンガポール等太平洋を囲む国が中心だった枠組みが、欧州も巻き込んだ経済圏になると云う点で英国の加盟の意義があると云うものです。もとより英国はTPPの加盟を通じて今後のアジアの成長力を取り込んでいくとするのでしょうが、 EU離脱後に国際社会で改めて存在感を示す意図も伝わる処、要はアジアと欧州の新たな結節点の誕生とみる処です。今次ロシアのウクライナ侵攻もあってグローバル化の逆回転が加速する中、TPPに英国が加わることの意義は極めて大きく、これが経済安保にも配慮しつつ、自由貿易を立て直す契機とすべきと思料するのです。

偶々来日中の英国ビジネス貿易省のドミニク・ジョンソン投資担当閣外相は4月3日、日経記者とのインタビューで、英国のTPP加盟が認められたことについて「インド太平洋地域は地政学的に重要であり、英国の戦略の根幹をなす」と発言していましたが、TPPへの参加を通じて、加盟国の多いアジアへの関与を深める姿勢を強調する処です。(日経4/4)

バイデン米政権は国際協調を重視する一方で、中国への輸出規制は強化する状況にあって、力による現状変更を試みる中国を抑止するには已むえぬ面もある処、それを理由に規制を強め過ぎれば世界経済の深刻な分断を招きかねずで、TPPの今後については、中国と台湾の申請をどう扱うかが焦点になるものと思料される処ですが、この際は英国の加盟を奇貨として、米国にTPPへの復帰を強く働きかける責務があるのではと思料する処です。

・フィンランドのNATO加盟
序で乍ら4月4日、前述したように北欧のフィンランドはNATOに正式に加盟しました。対ロ戦略上フィンランドのNATO加盟は、ロシアのウクライナ攻撃に始まる安全保障の確保が難しくなったことで、これまでの中立政策、旧ソ連との戦争の歴史などを踏まえて保ってきた軍事的中立を放棄せざるを得ず、NATOの安全体制に逃げ込まざるを得なくなった政治事情を映すものとされ、歴史的な意義があると云うものです。ただ、「ロシアの脅威」を上回る最大の理由は2021年12月にロシアが米国とNATOに提示した安全保障に関する条約案にあって、そこにはロシアは「NATOが更なる東方拡大をおこなわない」ことを約束し、法的に保障するよう求めたことにあって、これはフィンランドにとって受け入れ難い話と、伝えられていたのです。 

ロシアはこれまでNATOの拡大を軍事的脅威と捉え、外交を展開してきており、今次フィンランドの加盟はロシアとNATOとの境界線の延長となるだけに(1200キロから2500キロと1300キロメートル増える)、このことはウクライナ侵攻前より安全保障環境の悪化は間違いないと思料される処です。つまりNATO加盟国との国境に近い地域の軍備増強は財政面での窮状は必至となる処、ロシアはベラルーシ領内に戦術各野配備を公表し、NATOへのけん制を強める処です。4月4日、ロシアのペスコフ大統領報道官は記者団に対して「NATOの拡大はロシアの安全保障や国益への侵害であり、我々は対抗策を講じる」と対抗心を露わとする処です。


第2章 アジアと欧州で進む地政学的対立の行方

(1)Financial Times Chief Commentater、Gideon Rachman氏の大いなる懸念
世界の今日的状況は前述の通りで、ロシアによるウクライナ侵攻を巡っての地政学的対立構図が深まるなか、このトレンドが世界的な悲劇へと発展することを阻止すべきとし、西側も中ロ陣営も、そして第3陣営としてのグローバルサウスも共にそれを食い止める責任があると声を挙げるのが上掲、Gideon Rachman 氏です。

同氏は3月28日付Financial Timesに掲載の論考、 `China, Japan and the Ukraine war‘ で、岸田首相と中国習近平主席が時を同じくして(3/21)、片やウクライナ、片やモスクワを訪問したことの意味を問いながら、改めてウクライナ侵攻が世界的問題であることを再認識する一方、そこに見る欧州地域とインド太平洋地域で蠢く二つの地政学的動きの行方について、The emergence of two rival global blocs has sparked inevitable talk of anew cold war. There are clear echoes of that conflict with a Russia-China alliance once again squaring off against a US-led coalition of democracies – while a large group of non-aligned nations, now labelled the `global south’, hovers on the sidelines. と現状を分析し、1930年代のような対立を繰り返すなと、訴える処です。
つまり、西側と中ロ、更にはグローバルサウスを含め全ての陣営は、欧州とアジアで展開される対立構図が、30年代、アジアで起きた日本を巡っての世界的悲劇に発展しないよう食い止める責任があるとするもので、極めて緊張の論考です。下記はその概要です。

・まず、日本と中国は東アジアで激しくしのぎを削っているライバル関係だが、どちらも欧州での紛争の行方が自分たちの今後に大きな影響を与えると認識している。
・ウクライナを巡っては日本と中国は互いに相手の動きを読みながら動いているが、「Euro-Atlantic and Indo-Pacific regions」における戦略的ライバル関係は、益々互いに重なりつつある処、こうした動きは最近, 一段とひとつの地政学的対立の様相にある。
・習氏のモスクワ訪問(3/21)は、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授の見立てをリフアーし、中ロの間には `the most consequential undeclared alliance in the world’ (世界
で最も重要な宣言なき同盟) 、つまりユーラシア大陸を横断する中ロの枢軸関係が存在することが明白になった。
・この中ロ同盟に対抗するのが、米国と密接な同盟関係を結ぶ複数の民主主義国家だが、
この陣営は、大西洋を股にかけた軍事同盟NATOと、日本を筆頭とするIndo-Pacificのアジア諸国と米国の同盟関係によって強固な関係を築いている。
・バイデン米政権は、米国とアジアそして欧州との二つの同盟関係の連携強化を進め、昨
年には日本、韓国、オーストラリア、NZのNATO首脳会議への出席を主導した。
・ロシアと中国はこうした動きの全てを苦々しく思っている。因みに3/21の中ロ共同声
明では、NATOがアジア太平洋諸国と軍事的安全保障の強化を図り続けているとし、併せて米国の動きをすべて「冷戦時代の発想」に根差すものと批判する。
・対立する二つの陣営が世界に出現してきた事で新たな冷戦が始まったとの議論も高まる
 中、中ロが米国を中心とする民主主義を敵視する一方、いずれの陣営にも与しない多く
の途上国(グローバルサウス)が両陣営の動きを伺う状況がある。
・そこで西側も中ロもそしてグローバルサウスの全ての陣営は、欧州とアジアでの西側と
中ロ陣営の対立が結び付き、世界的な悲劇へと発展させないよう食い止める責任がある。

まさに、グローバル経済の現状を総括するがごとくですが、さて問題は、こうした指摘に,
いかような具体的対応を示せるかです。

(2) 結束を演出したG7 外相会合
5月のG7サミットの前座とされる頭書G7外相会合は4月16~18日、法の支配に基づく国際秩序の堅持を軸とした共同声明を以って、そしてその結束を演出するが如くに閉幕しました。従って次に来るのは共同声明に盛り込まれた事項(対中国・インド太平洋、ウクライナ侵攻への対抗、そして各軍縮・不拡散)をいかに具体的に対応していくかですが、とりわけ上記「法の支配」に基づく国際秩序を立て直すには、新興・途上国を引き込む具体策が課題となる処、これこそは5月のG7サミットに求められるテーマと云え、勿論これが上述Rachman氏への回答に繋がること、云うまでもない処です。
序で乍ら4月13日、IMF春季総会でギオルギエバ専務理事は、上記事情に照らし、各国に対して「第2の冷戦」を避けるべしと、具体的には、増大する軍事費やサプライチェーン等の分断が経済的コストに係ると警鐘を鳴らす一方、「(様々な人々の)才能や世界への貢献が失われた」とし、「このようなことが繰り返されるのを‘見たくない’」と強調、同時に「防衛費を増やさねばならないと云う国際社会への‘メッセージ’ になったのは悲劇だ」と懸念を示す処です。(日経4/14 夕)

さて、課題てんこ盛りの「5月G7サミット」、議長国日本の出番一杯と期待される処です。


おわりに アベノミクスの悲劇

4月8日付を以って日銀、黒田総裁は退任、代わって9日、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏が新総裁に就任しました。何と10年ぶりの交代です。この間の黒田金融政策は、結局は日本経済の後退を印象付けるものの他なく、目下は黒田前総裁の10年間の金融行政への論評がにぎにぎしく飛び交う処、筆者も市井の政策watcherの一人として、改めて手元のメデイア情報スクラップを読み直し、彼の金融政策の足取りをreviewしてみました。

2012年、自民党総裁と首相への返り咲きを果たした安倍晋三氏が切り札としたのがデフレからの脱却。そして同時に日銀に大胆な金融緩和を求め、その大転換を担う新総裁に元財務官の黒田氏を起用し、当の黒田氏は2013年4月、国債の大量購入を軸とする異次元緩和を始動させ、アベノミクス3本柱(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)の中核を担うようになり、異次元緩和の10年が経過したと云うものでした。 その結果は周知の通りで、異次元緩和は当初こそ円安・株高を通して目覚ましい成果を上げたものの結局、「2年で2%の物価上昇」の約束は果たされず、だが、緩和の維持が自己目的になり、政策修正を余儀なくされても安倍氏の信頼は揺らぐことはなかったとされる処、その安倍氏は2022年凶弾に倒れたことで、大きな後ろ盾を失った黒田氏は漂流の色を濃くしつつ、この4月、任期満了となったと云うものでした。

10年に及ぶ黒田氏の異次元の金融緩和策の結論は失敗。そもそも金融政策を以って経済の回復を狙う事は能わずで、中央銀行、日銀の使命は「物価の安定」と「金融システムの安定」にあって、守備範囲を超えた経済の再生等は、構造改革があってなし得ることを逆説的に実証したと云うものでした。 加えて、時の政権との癒着を深め、結果、中銀の政治化を進めていった事も大きな問題と云え、それを象徴するのが2013年1月、政府と日銀との間で取り交わされた「政策アコード」(デフレ脱却と持続的経済成長の実現のため政府と日銀との政策連携を確認した共同声明 )の存在ですが、それが結果的には自縄自縛になったと映る処です。 因みに黒田体制の10年間で日銀が市場から買い上げた国債は963兆円に達し、勿論この一部は償還されたものの保有する長期国債は3月20日時点で575兆円と異次元緩和前と比べ約6倍、全体に占める日限の保有率は54%に達する処、その結果は、黒田日銀は政府の為の銀行と化し、国の財政規律を緩める処ともなったと云うものです。まさに「アベノミクスの悲劇」と、映す処です。

かくして黒田日銀の10年は、超金融緩和の長期化で経済の新陳代謝は進まず成長力は鈍化、金融政策は日本経済が抱える課題解決の脇役にすぎないことを立証したと云うもので、その副作用として官民の生産性向上に対する規律を弱める処となったとされる処です。成長戦略も十分ではなかったという事もありで、日本経済をどう押し上げていくか、経済再生に向けた政策の再構築が求められる処ですが、その前に、まずこの実験的な金融政策の総括が求められる処、それは同時に、日銀が中央銀行としての独立を回復するプロセスとも思料する処です。(2023/4/24)                             
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