2021年03月26日

2021年4月号(その2)  米中対立の構図と、「中国のトリセツ」 - 林川眞善

目 次

はじめに : 動き出すバイデン外交戦略   
1.日米豪印首脳会議(QUAD)、日米「2プラス2」協議
2.米中外交トップによるアラスカ・アンカレッジ 会談 
3.The Economist誌が示唆する「中国のトリセツ」
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はじめに : 動き出すバイデン外交戦略

(1)「米国家安全保障戦略」暫定指針
3月3日、バイデン政権は米国の安全保障政策を巡る「暫定戦略指針」(Interim National
Security Strategic Guidance )を発表し、中国やロシアに対抗するため、日本や韓国、豪州やNATOとの連携を強めていくと宣言しています。ただ当該指針では北朝鮮の非核化には言及なく、日本にとっては一部に不安の残る内容との指摘ある処です。

当該指針は、これまでバイデン政権が対外的に発信してきた理念、方針を改めて整理した
もので、中でもバイデン氏が2月に初の国際舞台として登壇したミュンヘン安全保障会議での演説を中核とするものです。
まず、前提とする国際情勢について、コロナ・パンデミックをはじめとする今日の重大な危機は国境を超えるもので集団的な対応が必用な事、自国をはじめ世界の民主主義が包囲されている事、中国の台頭など世界における力の配分が変化し新たな脅威を生み出している事、等を挙げ、その上で、米国の安全保障を確保するために経済、国家防衛、民主主義を含む米国の強さの根源を守り育てていく、とするものです。

ブリンケン国務長官によると、バイデン政権は数か月後をめどに本格的な国家安全保障戦略の策定を目指しており、暫定指針はそれまでの「つなぎ」の役割を果たすものとしていますが、今回の指針の発表に合わせて、外交政策に関する演説を行い次の8点を優先課題として挙げる処です。

① 新型コロナウイルスの収束と国際的な衛生安全保障の強化、② 経済的危機の克服とより安定的で包括的な国際経済の構築、➂ 民主主義の刷新、④ 人道的で効果的な移民制度の創設、⑤ 同盟・友好国との関係の再活性化、⑥ 景気変動への対応とグリーンエネルギー革命の推進、⑦ 技術における主導的地位の確保、⑧ 21世紀における最大の地政学的試
練である対中関係の管理。

(2)動き出したバイデン外交の実像
さて、3月12日(金)から18(木)・19(金)両日の1週間と云うもの、日米関係、そして対中関係の今後を占うeventが立て続けとなりました。

まず中国の全人代大会が11日(木)に終わるや、それを待ってたかのように、翌12日にはバイデン大統領主導によるオンラインながら、日米豪印の4首脳会議、QUAD首脳会議が、又、16日(火)には東京で日米の外務・防衛担当閣僚協議会、「2プラス2」協議が行われ、そして、18日(木)・19日には米国、アラスカ州 アンカレッジで米中外交トップによる直接協議が行われました。尚、18日には、同じ枠組みで、ソウルでも米韓「2プラス2」が開かれ、これら協議は次に控えた中国との協議に備えての行動とされる処でした。

今次連荘となった、これら会議はいずれも、中国の台頭で急速に変化する地政学的環境への対応、世界秩序の堅持の方向を探らんとするものであり、上記「暫定米国の戦略指針」の検証作業の一環とも思料される処です。 もとよりその行方の如何は、当然のこととして、米同盟国としての日本の外交のあるべき姿が問い質される処です。そこで、今次、連荘のこれら協議の実情をレビューし、今後の行方を考察することとします。


1.日米豪印首脳会議(QUAD)、そして日米「2プラス2」協議

(1)日米豪印首脳会議、QUAD (Quadrilateral Security Dialogue) 、2021年3月12日
そもそもQUAD(日米豪印戦略対話)とは、日米豪印戦略対話)2006年当時の安倍首相が4か国の戦略対話を訴えたのがきっかけ。安倍氏の首相返り咲きで計画が再浮上、2007年11月、局長級会合が始まり、19年には4か国外相会談が開催されています。
この間、インドは伝統的に「非同盟」の立場にあって、中国を含め「等距離外交」を重視してきた経緯もあり、今次の首脳級への格上げには難色を示していたとされる処でした。が、近時の中国との国境紛争問題を抱える新事態に対峙する中、日米の口説きもあって4か国の枠組みに参加することとしたというものです。更に、日米豪はインドが参加しやすくなるよう配慮し、議題も安保を前面に出すのを抑え、経済や環境、新型コロナ対策など幅広く設定されたとされたのです。

今次QUADの成果として挙げられたのが、4か国協働によるワクチンの国際的配布プロジェクトの決定でした。ワクチン供与問題は重要テーマです。が、その直後の筆者の印象は、それだけなの?と云うものでしたが上述対インド配慮を思う時、止む無しという事だったのでしょう。因みに直後の4首脳連名での共同寄稿はその辺の事情を映すものとなっていました。

つまり、4首脳連名でWashington Post紙に共同寄稿「Global Opinion」では、「We will renew strengthen our partnerships in South Asia, starting with the ASEAN Nations, work with the Pacific Islands, and engage the Indian Ocean region to meet this moment」とし、「Our foundation of democracy and a commitment to engagement unite us.」とするもので、それ以上の具体的言辞を見出すことはなかったのです。要は、中国を念頭に、4者連携とそのパワーを誇示せんとするものだったと理解する処です。

ワクチン配布プロジェクトについて云えば、中国は既に自己開発のワクチン「シノバック」を東南アジア各国に配っていて更に、東京五輪に参加する選手全員にワクチンの無償提供を提言している処です。つまりワクチン外交です。一方、QUADではワクチン提供、製造、輸送、資金提供などを4か国が分担、余剰ワクチンはインド太平洋諸国に提供しようという事で大切な合意を見ましたが、果たして、これが中国への対抗、包囲網に役立つのかと、多少懸念の残る処でした。

勿論、上述インドへの配慮あっての事とは推測する処ですが、「法の支配」といった価値観を共有する4か国が、今起こっているミヤンマーの軍事クーデターに対して糾弾声明すら出すこともなかったことはいかがなものかと思料する処でした。とにかくQUAD は、「自由で開かれたインド太平洋構想のシンボル」なはずです。アジア・太平洋の指導者がオンラインとはいえ、一堂に会したこの機会に、ミヤンマーについて何ら声明を出すことなく終わった事には、いささか看板倒れではと、残念さの残る処、次回のQUADに期待する処です。

    (注)QUADの枠組みを支える日本側の協力体制は以下3本の条約
     ・日米安保条約(1960年6月1日)・日豪安保共同宣言(2007年3月13日)、
     ・日印安保共同宣言(2008年10月22日)

(2)日米「2プラス2」:日米外務・防衛担当閣僚協議 2021年3月16日
「2プラス2」協議とは日米の外務・防衛閣僚が集まって、両国の安全保障を話し合う協議体で、正式名称は「日米安全保守協議委員会(SCC)」、1960年に発効した日米安保条約に基づくもので、同年9月に初回会合を開催。90年には出席者を当初の実務者から閣僚級に格上げされ、現在に至っています。これまで、在日米軍の再編や防衛協力の指針(ガイドライン)の改訂など日米同盟の節目となる重要なテーマを協議してきています。

さて16日の協議には、米国からはブリンケン国務長官、オーステイン国防長官が出席、日本は茂木外相、岸防衛相が出席しましたが、QUADとは違い、協議ポイントは明快。ブリンケン氏は、日本との同盟関係重視の考えを繰り返し強調、同盟を再確認するだけではなく実行をするために日本に来たと発言。またオーステイン氏も「一緒に自由で開かれたインド太平洋を守りたい」と続いたと、報じられる処です。そして、両氏が最初の訪問先に日本を選んだ背景には、中国への意識があり、今時協議の成果文書(注)でも中国の行動について「既存の国際秩序と合致しない」と厳しい表現で批判する処となっています。

(注)日米共同発表のポイント(日経2021/3/17):
・中国海警法に深刻な懸念 / ・台湾海峡の平和と安定が重要
      ・尖閣諸島へ日米安保条約5条を適用。日本の施政権を損なう行動に反対
      ・同盟強化へ「日本の能力向上」/ ・年内に2プラス2をサイド開催。

直近4回の2プラス 2の文章では中国を明示することはなく、2013年の協議の際は地域の安定や繁栄のため中国に「責任ある建設的な役割」を求める内容でしたが、この8年の変化は米国の中国観の変容を浮き彫りする処と、メデイアの報ずる処です。(日経2021/3/17)

バイデン政権はアジア太平洋での中距離ミサイルの配備、中国に頼らない半導体などのサプライチェーンの構築を目指す中、日本の役割拡大を期待する処ですが、米国が中国の尖閣周辺での領海侵入に厳しい姿勢を示すその視線の先にあるのが台湾です。今年、2月1日付けで施行された中国の海警法の強化は、台湾海峡の緊張を一段と高める処ですが、3月9日、インド太平洋軍のデービッドソン司令官は米上院軍事委員会で、「インド太平洋の軍事バランスは米国と同盟国にとって一層、不利に傾いている事」、「米軍が効果的な対応策を打つ前に中国が一方的な現状変更を試みるリスクが高まっている」と、したうえで「台湾への脅威は今後、6年以内に明白になるだろう」と証言しています。
つまり、2027年までに中国が台湾を侵攻する危険を示唆する処ですが、台湾有事となれば、沖縄の米軍基地が重要な役割を果すこととなる処です。米国が東シナ海に積極姿勢を見せるのはこうした差し迫った事情を映す処です。

勿論その際は、日本は何をなすべきか、上記 デービッドソン司令官の議会証言もこれありで、議論を急ぐ必要のある処ですが、今次「2プラス2」の共同声明に盛られた事項への具体的取組を確実に進めていく事かと思料する処です。

尚、中国外務省は16日の記者会見で、日米2プラス2に関し、「第三者を相手にしたり、利益を損ねたりしてはならない」と警告を発していましたが、こうした思考様式の相違については更に、次のアラスカでの米中協議で集約されていくものと想定される処でした。


2.米中外交トップによるアラスカ・アンカレッジ会談 、2021年3月18日/19日

当該会談は、当初中国側から東京での「2プラス2」の終了後、北京で2者会談したいとの
提案があったものでしたが、米側からcounter提案があり、北京・WSHで等距離となるア
ンカレッジでの会談と、なったというものでした。

さて、初となった米中の外交トップによる2日間の協議は異例ともいえる非難合戦で幕が
開け、19日に終了しましたが、その翌日の新聞報道は「人権や経済で同盟国と組んで中国封じ込めを狙う米国」と「軍事内政で強権を誇示する中国」、超大国の衝突は政治体制や国家理念にも立ち入る新たな次元に突入したと(日経3/21)、やや興奮気味に当該会談の様子を報道するのでした。

冒頭の両者全員の発言については、米国務省が全文を公表し、その和訳が23日付け日経に掲載されていますが、とりわけ冒頭記者団を前にしての過去に例を見ない激しい応酬が1時間以上も続いた事態に、「新冷戦」と称されるほどに悪化している米中関係をまざまざと感じさせられる処でした。そしてブリンケン氏の「新彊ウイグル(注)や香港、台湾、米国へのサイバー攻撃や同盟国への経済的威圧について深い懸念」の表明、併せて、これら中国の行動について仝氏は「世界の安全に欠かせないルールに基づく秩序を脅かしている」と激しく非難する姿に米中対立の深まりを感じさせられる処でした。

   (注)対中制裁:EU理事会は22日、中国での少数民族、ウイグル族の不当な扱いが人
権侵害に当たるとして中国に対して制裁を決定。これは1989年の天安門事件以来、30
年振りの措置です。多くのウイグル族が不当に拘束されている他、労働や不妊手術を強
制されているのを問題視しての決定ですが、更に、仝日、米英カナダもウイグル問題で、
そろって対中制裁を発表。EUに続く制裁で、主要国が足並みを揃える処です。更に、
ブリンケル氏は、23~24日、ベルギーで開催のNATO外相理事会に出席、24日には米
欧同盟について講演し、そこでも中国の脅威を訴え欧州に連携を呼びかけています。

一方、中国は主要国が参加する対中包囲網を強く警戒を示す処、楊共産党政治局員が「世界の大部分の国は米国の価値観が世界的な価値観だとは認めていない」と強く反論する処、これが、警戒感の表れとされる処です。 要は、コロナの封じ込めにいち早く成功した習近平主席を頂点とした共産党の一党支配こそ、米国式の民主主義に代わる優れた仕組みと、楊氏は言い放っていますが、米中関係の変質と中国がおかれる立場の変化が、その発言に集約される処です。中国は既に、反米対抗連合を模索し始めていると報じられる処ですが、バイデン氏のプーチン大統領に対する発言もこれありで、プーチン氏は駐米ロシア大使を帰国させる一方、急速な対中アプローチを目指すなど、中ロ連携の強化が進む状況です。
 
つまり、バイデン政権が支柱に置く人権外交(ウイグル問題)をトリガーに米欧自由諸国による対中包囲網が進む一方、中国を軸にロシア、北朝鮮との連携が進む結果、米中の対立は、
「米国の人権外交 VS 中国の反米対抗連合」を構図とした、対立関係が進む様相です。
因みに3月22~ 23日、ロシアのラブロフ外相は中国王毅外相と中国南部の桂林市で会談、共同声明では「人権問題に名を借りて他国の内政に干渉するのをやめるべきだ」と強調、ウイグル自治区を巡る米欧の対中制裁をけん制する処です。(日経3/24)

中国は先に2035年までに国力を引き上げ、中東レベルの先進国にする長期展望を示しており、今次アラスカ協議でもその一端が紹介されています。米国超えを狙う国家戦略が明らかで、中長期的な覇権争いも絡むとなると対立緩和は容易なことではないのでしょうし、世界第1位、2位の経済大国の対立が固定化すれば、コロナ禍で疲弊する世界経済への影響も大きく、今こそ、米国としては同盟重視で、中国との接点を探る必要があるのではと思料する処です。 尤も気候変動問題では協力が期待できそうな数少ない分野ですが、バイデン大統領が主宰する4月下旬の気候変動に関する首脳会議に合わせた協力が焦点になる処と思料するのです。


3.The Economist誌が示唆する「中国のトリセツ」

3月20日付けThe Economistの巻頭言 ` Dealing with China ‘ は世界経済の現状について、問題提起方々、今後の中国への向き合い方について、次のように指摘するのです。今言う処の「中国のトリセツ」です。

まず「自由主義の価値観はソ連崩壊を機に、世界で優勢を誇ってきたが、中国の揺さぶりを受け今、米ソ冷戦初期以来の試練に直面している。つまり、冷戦時代のソ連とは異なり中国は西側諸国と緊密に結びついて、この事実が、自由主義世界に大きな難問を突き付ける処
、その難問とは、「中国の台頭に伴い、経済的繁栄を維持し、戦争のリスクを抑え、同時に自由社会を守る最善の策とは何か」という問いだというのです。

因みに、西側の為政者の多くは、中国のWTO加盟を歓迎し、豊かになれば自然と民主化すると考えたが、そうはならなかった。つまり関与政策の失敗です。そのためトランプ前政権は中国に強硬姿勢で臨み、追加関税と制裁を科したが、それも効果はなかった。では西側が取れる強行策としては、中国への強硬姿勢を更に強め世界から孤立させ、方針転換を迫るという選択肢はあるが、その代償は大きいく、世界の工場である中国は世界の輸出製品の22%を生産している現状を見れば理解できる処と云うのです。それでは中国との禁輸を進めれば人権尊重を促す一助になるという見方はあるが、独裁国家は孤立すると強権を強める傾向があり、西側とビジネス面、学術面、文化面で接触を失えば、中国市民は他国の意見や情報からさらに切り離されることになる。従って、中国との関係を維持するのが唯一の賢明な策となるが、これが融和策に陥らないようにするにはどうすれば良いかだというのです。

そこで、先ず西側が始めなければならないことは防衛強化だと。つまり中国政府の介入に備え、クラウドシステム、エネルギー体制を含め様々の制度やサプライチェインの強化も必要だという。今米主導で構築し、グローバル化を支えてきたインフラは老朽化している。それらを刷新し、中国が対抗して構築している制度とは異なる選択肢を提供できるようにする必要があるというのです。その点では、平和の維持のためには「QUAD」のような日米豪印4か国の連携強化や台湾の軍事力強化が必要だと。そして、中国と対峙する力を強化すれば開かれた社会を維持し、人権問題に毅然と臨めるようになると云うのです。
今、バイデン政権は、一連の協議の成果を踏まえ、前出「暫定米安全保障戦略指針」の見直しを進めている処でしょうし、西側各国も中国にすり寄ることなく、どう付き合うか戦略の見直しを進めている処と思料するのです。

さて、菅首相は4月前半、バイデン大統領と会談の為、訪米予定です。その際 問われるのが上記の問いに応えていく、要は、米中対立の中の日本の役割を語ることと思料するのです。
米国は中国との協議で、日本をはじめとする同盟国と連携して中国と対峙する姿勢をはっきりと打ち出しています。日本はどこまで米国についていけるか。 因みに上述、エコノミスト誌も指摘していたようにQUADは地域協力を促進枠組みになりうるかが試されることでしょうし、日本は豪印だけでなく日米に他のアジアの国も加えた関係強化の方策を提供すべきと思料する処です。以上 (2021/3/25)
posted by 林川眞善 at 11:00| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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