2021年03月26日

2021年4月号(その1)  世界は今、Decarbonizing - 林川眞善

目  次

はじめに Black out in Texas  
(1)米テキサス州は終末世界の様相
(2) 温暖化対策推進を目指す大統領令
    
第1章 米国の温暖化対応、世界の行動
1.テキサス州のBlack outと温暖化対策の現状
   ① バイデン政権が目指すエネルギー政策を読む
   ② 温暖化対応が競争力強化の源泉
   ➂ 米国は気候変動対策(脱炭素)へ真剣に取り組め
2. 世界は、さらに脱炭素に向かう
   ① 国連グテレス事務総長 -「石炭の時代は終わった」
   ② COP26会議と英COP26大使、ジョン・マートン氏
   ➂ 英イングランド銀行、企業の対応はSay on climate!

第2章 国際慈善事業家 ビル・ゲイツ氏と、日本の脱炭素戦略
1. ビル・ゲイツ氏
2.日本が目指す「カーボンニュートラル」の可能性
(1)菅政権のグリーン戦略
(2)脱炭素に求められる発想の転換 ―バックキャスト思考
(3)「原発」への取り組み
・The lessons of Fukushima ― エコノミスト誌が語る‘フクシマの教訓’ の意外

おわりに The world biggest test of co-operation

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    はじめに  Black out in Texas

(1)テキサス州は終末世界の様相
この冬、米国は厳しい寒波に見舞われ、とりわけテキサス州では1989年以来の記録的寒波・低温(マイナス18℉)を記録。この寒波で、水道管破裂や停電による水処理施設の停止で断水が発生、さながら終末世界の様相と報じられる処でした。 バイデン大統領は2月20日、非常事態宣言に加え同州に対する大規模災害宣言を発する処でした。

そもそも石油や天然ガスの主要産地のテキサスで、安定した供給が期待できない事態を生んだのはなぜか? こうした事の背景として、州内電力網を運営するテキサス電気信頼性評議会(ERCOT)が寒波襲来によるエネルギー需要の急増をきちんと予測できなかったことにあるとされています。つまり、今回のような寒波にはめったには襲われることはなく、従って電力会社は設備の防寒対策に投資したがらないこと、これが今回のような災害を大きくしたとされる処、3月3日には同評議会のビル・マグネスCEOは解任されています。

加えてもう一つ、テキサス電力市場の独特な仕組みが大停電の一因だともされる処です。
つまり、アラスカとハワイを除く米本土48州の内テキサス州だけがTexas Interconnection
と呼ばれる州内で完結する送配電網があり、そのシステムがあることで、州内での発電機能が停止したとしても、他州から州境を超えて電力を融通してもらえず、その点からは今次の大停電は、まさに制度上のミスによる結果であり、行政のミスによる処とも云えそうです。

更に、野党・共和党の政治家たちからは、ここぞとばかりに風力等再生可能エネルギーへの依存が計画停電を招いたと批判する処です。が、今回の供給不足の主たる原因はテキサスの電源シェアーの半分近くを占める天然ガス発電を巡る問題、つまりは自由化の進むエネルギー市場への対応が問題と云うことですがERCOTを含め、人為的な瑕疵に負うものであって、その点、大停電の主因は‘再生可能エネルギー問題ではなく、ガス発電の問題で、従って、インフラ投資なしには再発不可避とみられる処です。

   (注)テキサス州の発電源(2019年) :天然ガス47%,(全米:38%),石炭20%,(23%) 
風力20%,(7.3%)と風力の割合が大きい。特に石炭火力(2009年:3.7%)が減る一
方、風力発電(6%)が3倍以上に拡大してきた。

今次の大停電は、風力発電所に限らず、ガス火力発電所や、原子力発電所にも被害が出ていること、加えて同州の発電容量は小さい上に、送電網も貧弱なため、他の地域から電力の融通を受ける事も出来ない状況がもたらした結果と云え、要は州としての危機対応が未熟であったとされる処です。とすれば、その未整備のままに置かれてきた諸々の改善があれば、事態の解決は可能、回復へのシナリオは具体的に描けるという処です。因みに2月20日付けThe Economistは、The freeze in Texas exposes America’s infrastructural failingsと指摘する処です。

ただ、今次の大停電が示唆することは、エネルギーの送配設備の改善もさることながら、安定したエネルギーの供給を確かなものとしていく上でのポイントは、供給エネルギー源の構成にあって、それは各種エネルギー源が排出するガス、つまり地球温暖化効果問題といかに対峙していくかが問われる事になるのです。その点、バイデン大統領は政権運営の基本の一つと位置付け、以下の大統領令を以って地球温暖化問題への取り組みとする処です。

(2)温暖化対策推進を目指す大統領令
バイデン氏は大統領就任直後の1月27日、温暖化ガスの排出削減を目指す大統領令に署名し、同時に「グローバルな対策を主導する」との意向を鮮明とする処でした。その際は、
化石燃料から再生エネルギーへの移行を進めるとし、大統領令では連邦政府の管理地で石油・ガスの新規開発を止めると明記する一方、洋上風力のエネルギー生産量を30年までに倍増するとも掲げています。(注) そして協定に復帰した2月19日、バイデン氏は、ミューヘン安全保障会議にオンラインで参加、パリ協定復帰を強調すると共に、「地球の日」(4月22日)に「温暖化ガス主要排出国の首脳会議」の開催を発表、28日には菅首相との電話協議の際は、4月の気候変動サミットに首相を招待したのです。

同日、ケリー気候担当大統領特使は国連のオンライン・イベントで、4月、米主催の気候サミットを念頭に、「各国が今後10年間、又30年間のロードマップを実質的に定義しなければならない」と述べ、更に「我々は、地球の温度上昇を1.5度までに抑制するために、今後10年間に必要となる行動を決定し、2050年までのカーボンネットゼロ達成のため何ができるのか、より良いビジョンを作成していく」と発言しています。

(注)27日署名の大統領令での強調点(気候変動を外交・安保政策の中心にして)
 ・気候変動サミット開催      /・パリ協定復帰に伴う目標設定
  ・情報機関が気候変動の影響を評価 /・政府管理地での石油・ガスの新規開発停止
  ・洋上風力を30年までに2倍に /・化石燃料への補助金削減 (日経2021/1/29)

もとより、これが単に電力問題にとどまることなく全産業構造の如何に及ぶ問題です。そして、上掲The Economist誌は、バイデン政権が目指す環境対応政策、つまり脱炭素への確実な取り組みをと、米国の動きを叱咤激励する処です。 そこで本論考では米テキサス州の大寒波をトリガーに、バイデン政権の温暖化政策、脱炭素戦略の概要と問題点に絞り、夫々の実状とメデイアが伝える当該批判そして、近時、温暖化対策に取り組む国際的な慈善事業家に転身したビル・ゲイツ氏の日経紙上対談をも含め、世界の脱炭素戦略の現状について、更に日本の実際をもレビューしていく事とします。


  第1章 米国の温暖化対応、世界の行動

1. テキサス州のBlack outと温暖化対策の現状
     ― The Economist誌が叱咤激励する米国の環境対応

今次米テキサツ州で起きた大寒波の実情は上述の通りですが、異常気象の発生が米全土で続く状況は気候変動の兆しであることは誰の目にも明らかと映る処です。
さて、前掲The Economist(2/20付)は、今次テキサス州で起きた大停電は、基本的にはインフラ整備の欠落にありとしながらも、同誌「America’s better future」では、バイデン政権が定めた気候変動対策、No carbon and no blackoutをこの10年でいかに進めるかが、今後の米国の針路を左右すると見るのです。それが意味することはイノベーションが得意な国、アメリカだからこそ、2050年までの脱炭素達成を目指し、大規模な変革を起こす必要があること、そして国際社会の場でも削減に向けて野心的な目標を挙げ、影響力を与える存在であり続ける要があると、前出大統領令に照す形で、叱咤激励する処です。 そこでまず、その概要を紹介することとしておきましょう。
       
① バイデン政権が目指すエネルギー政策を読む
伝えられる処、2035年までに発電部門の温暖化ガス排出をゼロにして、50年までに「カーボンニュートラル」な経済の実現を目指さんとするものです。
米国は世界第2のCO2排出国ですが同時に、気候変動政策や技術に関する知見豊とされ、世界をリードする潜在力もある処です。それ故これからワシントンでの動きは、今後10年間、或いはその先に至るまでの米国の針路を定めるものになるだろうと指摘する処です。

このカーボンニュートラル目標は、世界の平均気温上昇を産業革命以前の水準から2度以内に抑えるという国際社会の目標に沿ったものですが、実現は至難の業と見る処です。
つまり、世界でカーボンニュートラルを達成するためには、10年間にわたって毎年7.6%
の排出削減が必要で、これは2020年のコロナ禍による石油・石炭需要の低下を上回る規模の削減となるだけに至難なこと云うまでもありません。

ただ、政治環境として気候変動対策に共和党は反対ですが、有権者の3分の2は連邦政府の対策が不十分と考えているとされ、更には共和党への大口資金提供企業の多くも積極的な温暖化対策を望んでいる由伝えられており、そうして状況からは相応に期待できると見る処です。そして、何より心強い事は、過去10年間で風力発電のコストが70%、太陽光発電では90%、下がったことだとするのです。更にイノベーション大国、米国はその力量を広く展開すべきで、そのツールの一つとして、炭素に価格をつけ、CO2を排出した企業や家庭にお金を負担してもらうカーボンプライシングがあるとも語るのです。

② 温暖化対応が競争力強化の源泉
とにかく温暖化対策に向けて行動を起こさないことによるリスクは大きいと指摘するのですが、それが意味することは、新たな「クリーンエネルギー分野」で、米国の競争力が削がれるだろうとする処です。因みに、中国は、ソーラパネル・バッテリーの生産では最有力国であり、外国の鉱山に投資し、生産に必要な鉱物を確保していること、一方、欧州はクリーンエネルギー産業振興のため、独自の「欧州グリーンデイール」を打ち出し、「国境調整メカニズム」と呼ばれる仕組みを擁して、排出量の削減を約束していない国からの輸入品に課税していく方針にある点です。

又、国際社会における気候変動問題の議論に対する影響力を失うリスクも高まるとも指摘する処です。米国が直接関与する温室効果ガス排出量は世界全体の排出量の約10%しかありませんが、気候の安定に加え、世界経済の安定、地政学的問題の安定、不利益の回避を求めるのであれば、残りの90%を排出する国々に対する影響力を保持する必要があるとも強調する処です。

➂ 米国は気候変動対策(脱炭素)へ真剣に取り組め
米国は2月19日 パリ協定に復帰、11月には英国で開催の第26回国連気候変動会(COP 26)に参加予定ですが、そこでは各国が排出削減のために新たな目標を公約することになっています。その際、米国は目標を明示し、その実現のための国内施策を示すことができれば、対外的な影響力を保持できるだろうと云うのです。とにかく米国はこれまで、景気変動対策で国際社会の信頼を得られることはなく、殊、トランプ氏は国際社会の米国に対する信頼を失墜させ、W.W.ブッシュ元大統領は京都議定書の実施を拒否、90年来、米連邦議会は本格的な気候変動関連法案の審議を行うことはなかったと、指摘する処です。今こそこうした態度は改めるべきで、バイデン氏が本気を示すチャンスは、今を逃せばもうないものと指摘するのです.

― テキサス州での大停電から分かるのは、気候変動問題を乗り越えることができれば、バイデン氏が世界と同時に米国民からも感謝されるだろうと強調する処です。

2.世界は、さらに脱炭素に向かう

① 国連グテレス事務総長 - 「石炭の時代は終わった」
3月2日、UN事務総長のグテレス氏は石炭火力発電所廃止を目指す国際組織「脱石炭連合」の会合に寄せたビデオ演説で「石炭が安価な電力を供給し、地域社会に雇用を齎した時代はもう終わった」と語り、石炭の経済的合理性は薄れているとする処です。そして「世界の死者の5人に1人は化石燃料によるものだ」とも指摘し、石炭火力への依存度の高い日本など主要国に、迅速な行動をとるよう訴えるのでした。

周知の通り今世紀末までの気温上昇を産革命前に比べ、2度未満に抑え、1.5度以下にとどまるよう努力する目標を掲げていますが、グテレス氏はこの「1.5度目標」の重要性を改めて強調し「電力部門から石炭を段階的に廃止することは最も重要なステプだ」と力説するところでした。とすれば30 年までに世界の発電における石炭の使用量を10年比で80%削減しなければならないのですが、極めてしんどい話です。因みに2月26日、「国連気候変動枠組み条約事務局」は、現状の各国が提出した2030年の温暖化ガスの排出削減などの目標について、各国の目標では「達成はほど遠い」と分析・報告する処です。

尚、同じ3月2日、国際エネルギー機構(IEA)は2020年のCO2の排出量は前年比で5.8%減ったと発表。これが第2次大戦後で最大の減少幅としながらも、削減努力を加速しなければ21年は一転、「著しく増えるリスク」があると警鐘を鳴らす処です。(日経3月3日)

② COP26会議と英国COP26 特使 ジョン・マートン氏
今年11月、英国が議長国を務めるCOP26が開催予定ですが、各国が野心的な温暖化ガス削減行動をとる環境が整ったと、云うのは英国マートン特使です。同氏は日本のエネルギー事情に理解を示しながらも、「英国はじめ多くの国は2~3年前に想定していたよりもずっと早いペースで石炭の使用を減らしてきている。近い将来、再生可能エネルギーへの新規投資額は既存の石炭火力発電所への追加費用を下回るだろう」というのです。

気候変動問題は50年前から指摘される処、対策をしない場合のコストがどれだけ膨らむかもわかっているわけで、この際は世界が一体となって気候変動対策を急ぐ必要性がますますはっきりした、と主催国としての矜持を示す処です。(日経、2021/2/25) 要は米国と力を合わせ脱炭素をと、いう処です。これまで欧州の気候変動対応には「理想論」「夢物語」との批判も多かったものの、最近は、将来の産業育成や成長力と関連付け冷静かつ現実的に戦略を練ってきており、この変化を見落とせば日本は競争力を失いかねないと見る処です。

➂ 英イングランド銀行、企業の対応は Say on climate!
序で乍ら、英国のスナク財務相は3月3日、英イングランド銀行(中銀)の金融政策運営の使命に、温暖化ガス排出量の「実質ゼロ」社会への移行を加える、と表明する処です。物価上昇率2%のインフレ目標と共に、金融政策や監督を担う中銀として気候変動問題にも積極的に対処していく責務を明確にする処ですが、政策運営の責任として具体的に脱炭素を盛り込むのは、主要中銀では英国が初めてです。 スナク氏は英下院での予算演説で、政府が指定する金融政策の使命について「今後は、環境の持続可能性と(温暖化ガス排出量の)ネットゼロへの移行の重要性も反映していく」と語る処です。(日経,夕 3/4)

一方、企業が株主総会で「脱炭素」の取り組みの賛否を株主に問う動きが欧米で広がってきています。 その動きとは、株主が総会での意思表明を通じて企業の脱炭素対策へ関与を強めるとするもので、「Say on climate」と呼ばれる動きで、これは10年前後に欧米で広がった、経営者の報酬が妥当かどうか、株主が意思表示する「Say on pay」の環境版です。
スイスの資源企業、英蘭石油企業、ロイヤルダッチシェル、等有力企業がその方向に動き出している由です。但しそこには法的拘束力はありませんで、今後は企業の温暖化ガス排出削減がどこまで進んだかの検証も必要になってくるのではと思料する処です。 序で乍ら、弊論考106号で指摘した北極圏の凍土融解が齎す問題です。つまり、永年凍土中にあった生物の死骸がウイルスの培養皿に転じることの危機を十分認識されておくべき事なのです。

     
第2章.国際慈善事業家 ビル・ゲイツ氏と、日本の脱炭素戦略

1,ビル・ゲイツ氏

2月15日付けで配信された日経電子版で目を引いたのが、米企業の巨人マイクロソフト創業者から国際的な慈善事業家に転身したビル・ゲイツ氏のインタビュー記事でした。その内容は、主に地球温暖化問題を巡って、日経記者からの質問に応える形での内容でした。いまや一国の政府をも上回る力を持つ慈善事業の巨人となった彼の言葉は光る処、以下はその概要です。

① 地球温暖化問題に取り組むきっかけ:
「2000年にゲイツ財団を設立し、アフリカを旅して電力不足で夜の照明もワクチン冷却も困難な状況を知った。その電力を供給するのに今のやり方を変えないと、地球温暖化問題が大きな制約になることがわかった」そこで、「パリ協定が採択された15年のCOP21の前に米、仏、印のトップとも話し合った結果、研究開発を含むイノベーションに焦点を充てる考えに行き着いた」と。 そして、「自分は50年の排出量ゼロ目標を支持しており、これは世界、特に先進国すべてが持つべき目標だ。日本の役割はイノベーションに貢献する事だ」とし、とりわけ日本の自動車メーカーは電気自動車(EV)だけでなく水素を燃料とする燃料電池にも力を入れているが、これは長距離を走行し、重量が大きいトラックなどにも有効かもと、水素の可能性を指摘する処です。

原発については「日本の場合、天然ガス価格が米国の3倍程度なので、(原発は)経済的には実行可能だ。重要な問題は国民が受け入れるかどうかだ」とし、「気候温暖化問題に関する限り、問題は既存の原発ではなく、次の第4世代原子炉。建設コストは、今の4分の1という驚くべきものだ」と優位性を指摘する処です。 尚、前出 The Economist,2/20によると、ゲイツ氏は新著でエネルギー貯蔵、再生可能エネルギーを保管するための高度な原子炉開発、クリーンなコンクリート製造技術など、脱炭素化が難しい分野の技術開発をはじめ、多くの分野でイノベーションが求められると主張いている由です。

② バイデン政権の取り組みについて:
選挙直後にバイデン氏とは地球温暖化とコロ対策について話した由で、「11月の英国でのCOP26に彼が出席することに期待する」とし、「バイデン政権は地球温暖化問題を政権の4つの優先事項の1つに加え、多額の財政支出を約束している。気候変動対策は長期投資なので、進んでは止まるという事ではなく超党派で進めることが重要。若い共和党員はこの問題に関心をもっている。環境関連の技術革新がこようと起業を生み出す利点がある。この問題では現実的になり,党派的になるべきではない」と強調。

➂ 温暖化対策の可能性について:
そして、温暖化対策にはあらゆる可能性を追求する必要があるとしたうえで、「先進国は過去10年間発電容量を増やしてきていない。最大のグリーン電力の水力発電は、ほとんどの国では立地の問題で増やせない。原子力は非常に安全になりうるが、それを皆に分かってもらうのが難しい。現在開発を進めているのが蓄電池、次世代原子炉、核融合炉の3つだが、これまでと劇的に違うものが必要かもしれない。今から5年後には、これらがどれぐらいうまく機能するかを示したい」と。

要は、地球温暖化問題について技術革新を通じて打開を目指さんとする処、その中核は環境にやさしいバイオ燃料と通常燃料の価格差などを示すグリーンプレミアムの引き下げで、技術革新を通じて、この価格差を限りなくゼロに近づけるのが目標だと云うのです。まさに
国家を超える課題、解決に向ける意欲の伝わる処です。

2.日本が目指す「カーボンニュートラル」の可能性

(1)菅政権のグリーン戦略
2020年10月26日、菅義偉首相は国会で、就任後初となる所信表明演説で、温暖化ガスの排出が実質ゼロとなる「カーボンニュートラル(炭素中立)」を2050年までに実現すると宣言し、続いて12月末、実現の道筋を示す「グリーン成長戦略」を発表しています。ポイントは、国内の乗用車の新車は30年代半ばまでに全て電動車とし、40年までに原発45基分の洋上発電を導入、50年までに再生可能エネルギー比率は50~60%を目安に引き上げるとする処です。

その為には、脱炭素に繋がるあらゆる技術と産業構造の「ウルトラCのイノベーション」が不可欠となる処です。それだけにという事でしょうか、専門家の多くは、これまでの経験にとらわれる形で、脱炭素化推進には口をそろえてnegativeな姿勢を呈するところでした。が、前掲ゲイツ氏の言からも伺えるように、事態を巡る環境は、「できるかより、やるかどうか」の状況へと、急速な変化を呈する処です。因みに近時、経団連中西会長も「気候変動は経済を壊しかねない」、「脱炭素は最優先テーマだ」(日経2021/2/23 & 3/9)と重ねて強調する処です。今年1月、ゲイツ氏は菅首相と電話会談の際、同首相の掲げる「2050年カーボンニュートラル」を評価し、日本にはイノベーションに貢献する事を期待すると、直言した由でした。

(2)脱炭素戦略に求められる発想の転換 ― バックキャスト思考
云うまでもなく目標達成のためにはいろいろハードルのある処です。具体的には、「水素」や「アンモニア」は、燃やしてもCO2が発生しないためとして、「グリーン成長戦略」、つまり水素社会実現への切り札とされる処ですが、それには、価格や供給面の課題に加え、製造段階のCO 2が、高い壁として立ちはだかる処です。(日経ビジネス、2021/03/08)
つまり「価格の壁」とは、水素に対する需給関係を如何に合理的に維持していけるかの問題ですし、「供給面の壁」とは水素のsupply- chain の構築問題です。更には製造時のCO2の問題です。つまり現状では、産業用の水素は天然ガスを改質して作られていっすが、その際にCO2が発生するのですが、真の脱炭素を実現するには「製造方法」がカギだとされる処です。問題所在はわかっているわけで、それに如何に取り組むか、やるかやらないかの問題とされる処です。要は発想の転換です。
環境が急激に変わる中にあって、今求められる‘発想の転換’とは、過去の経験や現状からの延長線の枠組みの中で解を求めるのでなく、未来を起点に解決策を見つける思考法「バックキャスト思考」です。それなくして将来を拓く事は出来ないのです。

(3)「原発」への取り組み 
最後に「原発」にいかに対峙していくかです。それは前出 ビル・ゲイツ氏のコメントにもあったように、日本の場合は、天然ガス価格が米国の3倍程度なので、(原発)は経済的には実行可能だが、重要な問題は、国民が受け入れるかどうかだとしていましたが、それは政府発言に映る処です。つまり、梶山弘志経産大臣は、昨年10月13日、日経とのインタビューで、原発について「今後10年間は再稼働に全勢力を注ぐ」(日経2020/10/14)としていましたが、今もその姿勢に変わることはなく、30年まで、原発10基分、相当の1000万キロワットの容量の確保を目指す方針にあって、再生可能エネルギーを最大の主力電源としていく方針に変更はないとする処です。

・The lessons of Fukushima ―エコノミスト誌が語る「フクシマの教訓」の意外
処で、手元に届いたThe Economist March 6~12,2021の特集記事「The lessons of Fukushima」は、「福島原発事故から10年。気候変動対策は急務であり、脱炭素の為に原発は欠かせない。中国とロシアは輸出を続けている。フクシマの事故が残した教訓は、原発を避ける事ではなく、賢く利用せよという事だ」と、意外な教訓、下記 (注)を以って締めるのです。

(注)「It’s critical: Nuclear power has drawbacks the size of tsunami. But with Chinese
plants being built today that will not be decommissioned until the 22nd century, it can not simply be wished away. What is more, it has a vital role to play in the fight for a stable climate. The lesson of Fukushima is not to eschew nuclear power, it is to use it wisely.」
[ 原子力には津波のように巨大な難点がある。しかし今日建設中の中国の原発は22世紀まで使われる
事から、なくなればいいと願うだけではなくなることはない。おまけに、安定した気候を取り戻す戦い
において原発は重要な役割を担う。フクシマの教訓は原発を「避けよ」ではない。「賢く使え」なのだ ]

しかし、福島第一原発(F1)の実情、つまり汚染水処理、燃料デブリの取り出しの難航から「50年での廃炉はむり」と東電関係者が認める現実にも照らす時、この意外ともいえる教訓は、筆者には届く処ではありません。読者各位はいかが受け止められるのでしょうか。


おわりに The world biggest test of co-operation

さて、2月12日、鶴首されていた米フアイザー社のワクチンが成田に着き、17日には医療従事者への先行接種が始まりました。ただ、このワクチン接種により経済活動の正常化を目指す中、これまでの新型コロナとは異なる英国型、南ア型、ブラジル型、等、変異種ウイルスが発生してきたこともあって、ワクチンの世界的配布の行方、とりわけ途上国にちゃんと行き渡っていくものか、世界経済の回復への芽が見えだしてきた(注)ときだけに、まさにglobal vaccinationを巡っての国際連携の在り方が問われる処です。

     (注)OECDが3月9日、2021年の世界の経済成長率は5.6%との予測を発表。
      前回発表(昨年12月)の予測比、1.4ポイントの上方修正となっています。これ
はコロナ・ワクチンで感染の抑制が進むこと、米国の大型追加経済対策で、見通
しを明るくしたとされる処です。

FT調べによれば、全世界には178百万個のワクチンがありその内、30%が米国、23%が中国、12%がEUに、そして9%が英国に向けられ、残り僅かがインド、他に向けられている由で、とするとワクチンの出回り方は先進国偏重となっている現実があり、先進国と途上国との格差問題が災いしているとの指摘のある処です。
つまり、世界的にワクチンの接種を進めるという事は、単に国際間の協働力を試すだけの問題でなく、世界の88百万人とも、115百万人ともいわれる極貧にある人々への支援問題とも絡んで、中々スムーズには捗らない事情を示唆する処です。 実際、欧米の製薬会社が開発し、既に承認が得られたワクチンの調達を巡っては経済力のある先進各国が争奪戦の様相を強める一方で、ブラジルやナイジェリア、アルジェリア等、低・中所得国にとっては中国やロシアからのワクチン供給を頼みの綱とする状況にあるとされる処です。

ただその実態は、中国の場合、あらゆる組織を活用してのワクチン外交と云われており、とりわけ彼らの広域経済圏構想「一帯一路」の実現に向けて築いてきた各国との協力関係を生かして売り込み攻勢をかける姿であり、一方、新ワクチン「スプートニクV」を開発したロシアはアルゼンチンやベラルーシ、更にイランについては医療従事者を対象に同ワクチンの接種を始めたと報じられる処、まさにワクチン外交の戦略性を見る処です。勿論、ワクチン外交は反発も招く処、因みに、台湾は中国からのワクチンの輸入を禁止し、ウクライナでは「スプートニクV」の受け入れを拒否する処です。

・グローバルなワクチンの供給体制
Financial Timesの有力コメンテーター、Martin Wolf氏は2021/2/17付け同紙で、こうしたワクチン外交を巡るglobalな様相を、‘The world’s biggest test of co-operation’と指摘する処です。そして、中ロのワクチン外交に比して、WHOなどの主導で共同購入したワクチンを公平に分配する国際枠組み「COVAX」(COVID -19 Vaccinees Global Access)の取り組みが、あまり進んでいないこと、西側諸国がほとんど気にかけていないこと、に問題ありと批判する処です。確かにグローバルな接種を進める事は困難な問題ですが、不可能なことではないはずですし、これこそバイデン大統領にとっての出番であり、彼の主導の下、G20を強化し、徹底した加盟国の協力を得てワクチン供給体制を早急構築すべきで、それに係るコストは、Covid-19で失ったとされる経済損失とは遥かに少ないものとする処です。要は今こそG20の強化を、とする処です。
それは上述、中ロの動きをけん制するという政治的な理由からも、西側諸国は「COVAX」を通じワクチンを安価または無償で迅速に世界に普及させるとの約束を果たす為にもです。

幸い、3月12日、オンラインで開かれた初のQUAD (日米豪印)では、インド製ワクチンの増産や各国輸送網の整備を支援し、10億回分の製造体制の整備が確認され、前出Wolf氏指摘の‘The world’s biggest test of co-operation’に応える得る処です。

が、大方の注目を呼んだこの4か国首脳会議の具体的成果はと云えば、新型コロナウイルスのワクチン対応で合意したことだけでした。勿論、重要なアジェンダです。が、協議後の4首脳連名によるワシントンポスト紙あての共同寄稿を見る限り、それ以上の指摘は見られず、不甲斐ない印象を残す処でした。(この辺の事情については、本稿「その2」として別途報告「米中対立の構図と、中国のトリセツ」を、参照願います。)  以上 2021/3/25
posted by 林川眞善 at 10:54| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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