2020年06月26日

2020年7月号  深まる米中の対立とグローバル経済 - 林川眞善

― 目 次 -

はじめに 問われるグローバル経済のかたち
 ・そろり動き出した世界経済
 ・Goodbye globalization

第1章 深まる米中対立と世界経済

1.米中対立の実状
 (1)「トウキデイデスの罠」を映す米中対立の実際
 (2)米中対立の構図はイデオロギー対立へ 
 (3)米中対立を激化させた香港問題
    ・2020G7サミット会議、9月延期開催の真相
2.米中対立の行方

第2章 差別抗議デモと、米大統領選の行方

1.米各地で広がる抗議デモとトランプ氏の行動様式
  ・トランプ氏、選挙集会再開
2.民主党に求められる課題
  ・有権者の行動
3.中国に映るトランプ/バイデン両氏の実像

おわりに これからの日本を考える
 ・自立する外交
 ・佐伯啓思氏の主張

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はじめに 問われるグローバル経済のかたち

・そろり動き出した世界経済
コロナ・パンデミックに覆われた2020年の前半、半年が過ぎるなか、世界は、それまでのコロナ対策として進めてきた行動規制を緩和し、そろり経済活動再開を目指す処です。勿論、パンデミックの第2波、第3波の襲来可能性が想定される処です。と云う事はコロナ菌が完全消滅したわけでなく、従って、当分、各国とも「感染拡大防御の体制」を固めながら「経済活動の再稼働」を目指す、つまりdouble standardの堅持が求められる処です。その際のkey wordがsocial distance。ただ生活、経済の両面でそれが行動規範となると、仮にコロナが収束したとしても、経済はコロナ以前の状態には戻ることはなさそうです。

つまり、市民生活面では感染拡大防御のためとして、人と人との直接接触を回避することが、また外出時にはソーシャル・デイスタンス(social distance:社会的距離)の確保が求められる事で消費活動、生活パターンの変更が起こり、これがGDPで云う消費需要の減退で景気の急激な停滞を促す一方、経済活動でもソーシャル・デイスタンスを確保しながらとすると、これこそは経済の在り方に構造的変化を促すことになる処です。つまり経済活動の基本は人と人とのcontactの上に成り立ってきました。が、その回避を目指すソーシャル・デイスタンスが行動基準となると、産業的には航空、レジャー、旅行、飲食等、対面営業を旨とするサービス分野が直、影響を受ける処、関連する自動車、航空機、などの製造業は規模と裾野が大きいだけに需要蒸発の影響は甚大となる処で、現下の世界経済の低迷はまさにかかる状況を映す処です。(注)

     (注)6月8日、世銀が公表した2020年の世界経済はコロナ感染拡大でマイナス5.2%に落ち
込むと予測する処です。1月時点の予測から7.7ポイントも引き下げとなっています、但し、
21年の世界の成長率は4.2%のプラスに戻ると予測する処ですが、問題は、世界全体に成長
のドライバーが見当たらない事。(日経-20/6/9)

そしてこれがglobal経済の視点からは、人の移動を規制するためとして一斉に国境の壁を高くし、多くは自国主義に走る、まさにBalkanization バルカン化現象が進むことで、世界経済の繁栄を齎してきたglobal化は緊急停止となり、グローバル企業にはその体制の見直しが不可避となる処、グローバル化の流れを逆流させる、革命的変革を誘引する処です。

・Goodbye globalization
英経済誌、The Economist(2020/5/16~22)はcover storyで、こうした状況をGoodbye globalizationと題して、以下のように描くのです

即ち、上述balkanizationが進む結果、グローバル化の核にあったサプライ・チェーンのあり様が問われ、気が付けば、世界の経済が中国を中心に動いてきたことに脅威を感じ、国内回帰が強まる処、これがリスクの一点集中を呼び、規模の経済のメリットを失う事になると、懸念されると云うのです。(注:国内回帰は一方で、問題は国内雇用の保護問題に加え、合理化投資が進むことで、賃金のより抑制でポピュリズムを助長する危険性が潜む事)
そして、5月12日インドのモデイ首相が新しい自国主義、自立経済の時代が始まったと語った由ですが、小国乱立の下では、ワクチンの開発も含め、グローバルな問題を解決していく場がなくなっていくことを危惧すると云うのです。更に、危機対応で大量財政の出動で各国政府は財政赤字拡大を余儀なくされ、その対抗として外資の海外逃避を抑えることとなり、各国の経済回復は早晩期待できないことになるとも指摘するのです。 

つまり、この3要素、自国主義&国内回帰の進行、サプライチェーンの見直し、そして経済回復の如何、がbody-blowsとなって自由貿易システム(open system of the trade)は機能停止となり、グローバル化への動きも従って停止する事になる処と云うのです。が、その次にどのような変化が来るものかと、危惧を強める処です。
要は、選択と集中や効率第一で加速されてきたglobal な企業展開が、コロナ禍でゆり戻される事になっていくとの見立てから globalizationのUターンが云々されると云う処です。

確かに今次コロナ禍は戦後世界経済発展の行動様式の修正を迫り、地政学的に国際関係の構造変化を誘引する処です。かつて学んだ国ごとに強みのある製品に集中し、国境を跨いで売り買いすることが夫々の利益を最大化する(D. リカードの自由貿易論)との発想の下、各企業はグローバルなsupply chainを築いてきたものですが、新型コロナウイルスはそうした前提を覆すことになったと云うものです。

こうした構造変化を指してThe Economist,( May 16~22 ) はそのcover storyで、Goodbye to the greatest era of globalization とするのですが、今後どういった形に収まっていくかは、見遠しえないがとしながらも、自国主義への誘惑にかられる姿に危機感を示す処です。
そして、こうしたグローバルな変化を更に刺激しているのが現下で進む急激な米中関係の悪化であり、かかる事態からは、仮にコロナが終息しても、コロナ前の状態に戻ることはないとするのですが、頷ける処です。

周知の通り上述事情は、今秋の米大統領選再選を狙うトランプ氏自身の事情による、つまりコロナ対応の初期動作の遅れへの非難を交わさんと、とにかくウイルスの発生源は中国にありとして対中批判を強めてきた結果ですが、その火種は従来の貿易や安全保障から更なる広がりを見せる状況です。世界のGDPの4割強を占める米中が報復措置の連鎖を招けば、コロナで痛む世界経済の回復を遅らせ、グローバル経済の縮小が懸念される処です。
つまり、世界経済の行方はまさに、米中関係の行方次第という処です。

そこで、以下本稿では「深まる米中対立と世界経済」をテーマに、米中関係の実状と、米中関係を通してみる世界経済の行方について、と同時に米国は当然のこと、世界の安全保障にも係る米大統領選を巡る状況について、併せて考察する事としたいと思います。


第1章 深まる米中対立と世界経済

1.米中対立の実状

米中の対立とは、2017年、トランプ氏が大統領として登場するや、米国の対中貿易インバランス(トランプ氏はこれを米国の赤字と呼ぶのですが)の是正のためとして2018年7月米国が追加関税措置を発動したことで先鋭化した米中貿易摩擦を映すものですが、そこには中国の産業政策「中国製造2025」への対抗もあってのことで、まさにトランプ政権が仕掛ける対中外交戦略とされるものでした。この間、米中間で3度に亘る貿易交渉がもたれ2019年12月14日には「第一段階の合意」に達し、翌年2020年1月15日に米中両政府は署名、以って一端問題は沈静化した、筈でした。が、両国間の合意への認識に齟齬が見られ、両国の思惑で真に対立が緩和に向かうか不透明に置かれていた処、新型コロナウイルス蔓延を機に再び激しさを増す状況となって来たというものです。

そもそも中国が1979年の米中国交正常化を経て、世界経済の秩序に参加したのが2001年のWTO加盟でした。これは米国の支援に負うものでしたが、これを機に中国経済は急速に拡大、今日世界第2位の経済大国となり、米中はグローバル化と共に経済の相互依存を深め、今や習近平政権下で米国と覇権を争うまでになってきたのです。その状況は、経済が急拡大する中国と19世紀から世界に君臨する米国の覇権争いと映る処です。
序で乍ら、その米中対立の姿を、米ハーバード大のアリソン教授は、歴史上、新旧大国の間で戦争が不可避とする見方に与して、「トウキデイデスの罠」(注)と呼ぶ処です。

(注)米ハーバード大のG.アリソン教授は米中の対立構造を「ツキギデスの罠」と己称したもの。 
古代アテナイナの歴史家、ツキデイデスに因んだ言葉、約2400年前、スパルタとアテイナイに
よる構造的緊張関係に言及したと伝えられる話、を米中関係に適応したもの

(1)「トウキデイデスの罠」を映す米中対立の実際

・米中対立は以下の三つの事案を契機として強化されてきたと云うものです。

 ① ペンス副大統領がワシントンで行った対中国批判(2018/10/4)
   ・政治、経済、軍事のあらゆる分野で中国が掲げる価値観、そのものを批判。以って、米国の対中
    政策の大転換を鮮明に。つまり、外交、安全保障にも広がる「新冷戦」の瀬戸際を示唆する処。

② トランプのコロナ対中批判 (2020/1~ ) ― 米中はストレステスト中 
   ・今年2020年に入って新型コロナと云う新たなストレスで強化される状況が発生。因みに、中
国は早く感染を抑えたが、米欧はまだ苦戦している。これは米欧の民主主義システムより、共
産党体制がすぐれている証と、中国はしきりにこんな言説を流す処。これがトランプ政権にとり
ストレステストと映る処。(注)

(注)大きな危機は政治や社会の耐性を問う一種のストレステスト(stress test:耐久試験)とされる。
ストレステストは、テスト前の状態を帳消しするのではなく、それまでにあった傾向を後押しする
もの。中国についていえば、感染の封じ込めを通じて国内体制を引き締め、テクノロジーを用いた
一党独裁を更に進める、一方の米国ではトランプ以降、共和・民主の支持者の分断がより激しくな
っており、こうした事情を踏まえると米中関係はコロナ以前の姿に戻ることは考えにくい。

③ フアーウエイーへの事実上の禁輸措置(2020/5/17)―米中技術覇権争い
・5月17日には米中対立の主戦場ともいわれるハイテク分野で華為技術(フアーウエイ)への
事実上の禁輸措置を決定、米中技術覇権争いに拍車がかかる処。

(2)米中の対立構図はイデオロギー対立へ
コロナ以前に見られた米中の対立は、通商、海洋の覇権争いにフォーカスされていました。
その限りにあっては交渉を以って解決に向う余地が残されていた処ですが、上述次第で、ス
トレステストに向き合う米中の対立が示唆することは、イデオロギー対立に向かい出して
きたと云うものです。

貿易摩擦から始まった米中衝突は,新型コロナや香港問題を経て、政治的な価値観などで、
米中対立の口喧嘩は、もはや真の敵対関係に陥ってきた(The Economist ,2020/5/9) とされ
る処、とりわけコロナによる米国の死者がベトナム戦争を越えたことで、その怒りは中国
共産党の体質に向けられだしているというのですが、それこそ根本は習近平政権の最強国
路線にある処と云うものでしょう。そしてその様相は、まさに新たな冷戦入りのプロセ
スと映る処、これまでの中国依存型となったグローバル企業の行動様式の見直しは不可避
となり、国際経済の枠組みも大きく変更を余儀なくされていく事になると云うものです。そ
れこそは、世界経済の新常態、云々とされるのでしょうが、この新環境にどう向かうべきか、
その備えが、もはや問われる処です。

(3)米中対立を激化させた香港問題
上述、米中関係を更に激化させる処となったのが、今次中国全人代(5月28日)で「香港国家安全法」の制定方針が採択されたことでした。(7月1日までには策定と伝えられる処です。)周知の通り、中国政府が国家安全に関する機関を香港に設置して直接取り締まりができるようすると云うもので、要は「一国二制度」(中英共同宣言、1984年)を形骸化させ、香港政府や立法会を飛び越えた「直接統治」に乗り出すというものです。香港には投資銀行など米企業1300社が進出しているとされ、うち300社近くが地域の統括拠点と位置付けられているとされています。であれば、中国の香港経済への監視体制が強まる事で、グローバル化を逆転させていく事が想定される処です。

トランプ氏は29日には、今次の中国の政策決定に対して素早く反応、安全保障そして金融
やビジネスに関し幅広い対抗措置を打ち出す一方、米国の香港優遇の廃止など対中強硬姿
勢を再び鮮明とする処です。が、これはまさに天にツバする処です。そしてトランプ氏は中
国絡みでWHOからの脱退をも明言するのでした。

米中はグローバル化と共に経済の相互依存を深めてきました。然し、新型コロナはその前
提を崩すことになったと云うものです。加えて、世界経済と密接につながっている香港問題
が加わってきたことで、米中の対立激化に世界も否応なく巻き込まれつつあると云うもの
です。言い換えれば、香港はまさに米中対立の矢面に立たされたと云う処です。

・2020 G7サミット会議、9月に延期開催の真相
処で、米国が議長国となる2020年Gサミットは、当初、6月下旬にワシントンで開催予定
の処、トランプ氏は9月に延期するとの意向を明らかとしました。直接の要因は、メルケル
首相が国内でのコロナ対策を理由に欠席するとしたことにある由で、彼女のいないG7は意
味がないとして延期する事にした由、伝えられる処です。
トランプ氏としては、この機会に中国にどう対処するかを議論したいと考えている由で、併
せて、秋のG7ではロシア、韓国、オーストラリア、インドの招聘を計画している旨を公表
しています.

要は、香港問題や新型コロナウイルスへの対応などで対立する中国への包囲網作りのため
にサミットを活用したいとする処でしょうか。何か思い付き的行動と映るのです。因みに
The Economist,Jun.6,は`Trump is right that the G7 needs updating. But what for ? と多少
からかい気味に彼の国際会議への対応を評する処です。

尤も、トランプ氏は、「(G7について)世界を適切に代表しているとは思えない。時代遅れの集まりだ」(日経2020/6/1)とし、枠組みの拡大が必要としている由ですが、これが米国内での党派を問わず対中強硬論が加速する様相に応えんとするものとされる処です。これも大統領選向けのジェスチャーかと云えそうです。

ただ、プーチン氏は予て中国が参加しないG7の議論は効果的でないと主張しており、中・ロが主導する上海協力機構(SCO)やBRICSの枠組み,G20を重視する立場を示してきています。また、2014年、クリミア半島併合への対抗措置としてG8から追放されたロシアを復帰させる事にはG7メンバーからは異論の出る処、例えば英国はG7への復帰は支持しないと、又カナダは国際的規範を軽視続けているとして、反対意向が伝わる処です。
安倍首相は6月時開催のG7サミットにいち早く出席と返事をしていましたが、上述事情から彼の次の行動は如何と、習近平の国賓訪日のリスケ案件とも併せ、注目される処です。

2.米中対立の行方

米中の対立は、米国の対中姿勢に照らし当分改善は見込めず、そんな中で米国は世界での軍事プレゼンスを縮小し、当該負担の軽減を図ると云う姿勢は変わることはなさそうです。
因みにトランプ氏はドイツに対して、NATO軍事費負担(GDP2%)の未達の故を以って駐独米軍の3割削減を明示(6月15日)していますが、負担の軽減化に向かう流れは変わることはないと見る処、となれば世界は更に無秩序な様相を呈する事になるのでしょうか。

世界はこれまで強大になり、過剰な自信にあふれた中国にどう向き合い、どう対処するか,
で苦しんできたと云うものですが、これからは強大で、大きな野心を抱き続ける一方で、
内憂も深刻になる中国への対応に悩む時代にシフトしてきたと云う事でしょうか。尚、ここで留意すべきは中国の外交、つまり近時「戦狼外交(Wolf of War)」と称される過激な外交の展開です。2015年、2017年に登場した勇猛果敢なaction映画のタイトルからの引用だそうですが、Financial Timesのラックマン氏は中国が東アジアに公船を配する行動は、コロナ対応、全米デモ(次項)にとらわれる米国の姿を中国にとって好機と見ている結果であって、彼らの東アジアにおける行動に目をそらさず、注視せよと警鐘を発する処です。

        
第2章 差別抗議デモと 、米大統領選の行方

今秋の2020米大統領戦は周知の通り、民主党バイデン氏が現職大統領のトランプ氏に挑戦する構図にある処、両者を巡る環境は構造的ともいえるほどに変化を辿るところです。そこで現時点で留意すべき事として、5月末から起きた人種抗議デモの推移とトランプ氏の対応、そして、こうした動きを背にした民主党支持層の変化についてレビューしたいと思います。

1.米各地で広がる抗議デモとトランプ氏の行動様式

黒人男性が警官の拘束の下で死亡した事件(5 月25日)をきっかけに、全米各地で発生している抗議デモや暴動の拡大は、人種による米社会の分断を浮き彫りとする処、この秋の大統領選に及ぼす影響は重大なものと云う処です。
これはコロナ・ショックが、非白人等マイノリテイの差別、格差問題を改めて浮かびあがらせたその結果ですが、彼らは感染リスクにより曝される一方、解雇の対象ともなりやすく、こうしたことへの鬱積した不満が、一気に噴き出したと云え、抗議行動は人種問題がコロナで増幅した姿と云える処です。その点で想起させるのが、1968年の公民権運動です。

1968年4月、公民権運動の指導者キング牧師暗殺への怒りが全米に広がり100件以上の暴動が発生。当時はベトナム戦争の長期化が社会の閉塞感を齎し、公民権運動に火をつけたと云うものです。 今次の抗議デモは新型コロナウイルスの感染拡大により、差別や格差と云った米国社会が抱える闇を改めて浮き彫りにしたと云うもので、この抗議デモはロンドン等米国外でも広がる状況です。デモを通じて再び感染が広がれば、経済活動の再開が遅れて失業者が更に増え社会不安が一段と高まる可能性が懸念される処です。 向かえるトランプ氏は、その鎮圧に米軍を投入する用意ありと公言、しかも国民を守るべき軍隊に、自国民に向かって発砲も辞さないと、暴動をあおるような言葉を吐くに至っては愕然です。それも再選のため‘戦時大統領’としての強さを示すものの由ですが、もはやついてはいけません。

6月6日付けThe Economistは` Far worse than Nixon ‘と題し、ニクソン氏が68年の大統領選で遭遇した黒人デモに対して「法と秩序」という戦略を掲げ勝利した経験に倣わんとするトランプの行動について、彼の力量はニクソンに及ばないだけに、今次の抗議運動がトランプに有利に働くことはないとし、その背景にある正当な怒りも民主党に追い風と指摘する処です。そして民主党陣営は、トランプ氏にはできない多数派を形成しつつあると指摘する処です。 つまり警察は白人より黒人の容疑者にたいして過剰に実力行使する可能性が高いと正しく答えた米国民の割合が、この4年間で2倍近くに増えたと云う。このリベラルへのシフトは、民主党がトランプ氏への対抗措置として人種間の平等への訴えを強化した結果であり、それは多様な人々が抗議活動に参加している事に表れていると云うのです。

・トランプ氏、選挙集会再開
尚、6月20日、トランプ氏は、オクラホマ州で、3月初旬以来初となる全面的な選挙集会を開きました。Financial TimesのE. Luce記者は6月12日付け紙面で「Americans are losing the stomach to continue virus battle」(コロナと戦う意欲を失う)と題し,これは米国人に何の咎めも受けずに大勢で群がってもいいとのサインを送る事になると、トランプ陣営の行動を厳しく指摘する処でした。そして、米国科学の顔とされるアンソニー・フアウチ博士(国立アレルギー感染症研究所長)はもう、トランプ氏の前に現れることもないだろとも云うのです。彼はその数日前、コロナ・パンデミックは「まだ終わりに近づいていない」と発言していたのです。(注:フアウチ所長は6月23日の米議会証言で、感染状況について「気がかりな急増が起きている」と警告しています。)
以って、ルース記者は、ホワイトハウスは戦争遂行への関心をすっかり失ったと云うのです。

コロナとの闘いは今、州の領分とされてしまっていますが、米国は引き続き、1日当たり約1000人の死者をだしていること、そして、social distancingの規則を緩和している一部の州では、感染者と入院患者の増加ペースが高まっているのにと、ラスベガスのカジノに集まるギャンブラーの様子を引き合いに出し、批判する処です。そして、今次の州都に殺到する武装自衛団と同じように「the Black Lives Matter(黒人の命は大切)」の抗議活動にも当てはまることと云うのです。一方、民主党にしても、スタジアムを埋める事についてトランプ氏を批判しづらくなっているとも言うのです。そして新型コロナウイルス感染症は「まっとうな人たちと白人ナショナリストを区別しない。ひどく二極化した国においては、イデオロギーが科学に勝るのだ」と皮肉くる処です。

2.民主党に求められる課題

これまで民主党の問題は? それは結束力だと云われてきました。が、その環境はいま、バイデン氏にとってpositiveな様相と映る処です。つまり、オバマ前大統領、ヒラリー・クリントン上院議員、サンダース上院議員、等民主党有力議員がバイデン支持を表明、反トランプで党内の結束が進み出した、と云う事ですが、更に上述の人種差別抗議デモへのトランプの強硬姿勢に、ブッシュ政権時の国務長官、パウエル氏、更には前国防長官、マテイス氏までも、トランプ批判を展開、バイデン支持を表明、共和党内からも反トランプの声が高まってきています。勿論、これがバイデン氏に1票と云う事ではないのですが。

あと5か月。民主党には、同党の主張以上に左傾化政策を進めるトランプに対抗できる独自色ある政策が打ち出せるか、と云う処ですが、6月8日, CNNが纏めた世論調査ではバイデン氏の支持率は55%とトランプ氏の41%を大きく上回り、その差は5月の5ポイントから14ポイントと、これまででの最大です。尤も、米国の大統領選挙の実際は、大統領を選ぶ選挙人( electoral college )を選ぶ制度で、上掲、The Economist, June 6も、その選挙人団の構成は共和党に有利な現状にあり、世論調査通りにはすんなりとは行かないだろうと指摘する処です。[(注)各州に割り当てられる選挙人数は、上下両院の数と同じで、535名,これに
両院には代表を送っていないDCからの3名を加えて計538名]

・有権者の投票行動
さて、有権者の投票行動はどうかですが、上記世論調査に見る限り、トランプ氏は全体的に2桁の差を付けられています。又、トランプ氏の岩盤支持層の中核にある非大卒白人の支持率は3月時の66%から5月には47%に急落を示しています。だが有権者は、どちらの候補が経済を復活させるのに好位置につけているか、まだ決めかねているのが実情のようですが、人種差別デモは相応に影響し出したと見る処です。

尚、人種問題と云えば、もう一つ留意しおくべき問題があります。それは白人と非白人の構成問題です。今から20年後の2040年には米国における白人の比率は50%を割ることが予想されています。つまり白人がマイノリテイーになると云う事です。この変化こそは米国における政治経済を揺るがす処となるものです。さて今回の選挙にどう影響しだすか興味、深々です。

3.中国に映るトランプ/バイデン両氏の実像

さて中国はトランプ氏とバイデン氏をどのように捉えているのか?関心の持たれる処、6月13日付けThe EconomistはPondering America’s electionと題して、中国にとって望ましい米大統領は誰か、中国の政策当局者が観る二人の実像を伝えています。それは中国の視点に立って両者を比較描写するものです。極めて興味深く、以下はその概要です。

まず、トランプ評です。彼は新彊ウイグル自治区での弾圧行為にあまり関心がないこと。今では再選しか関心がなく要は自己利益にしか関心のないナルシストと断じるのです。そして彼の関心は中国に政策転換を強いる以上に中国マネーにあると中国政府は見抜いていると云うのです。 人民日報系の「環球時報」では今、彼のことをChuan Jiango = Build- up the Country Trump (国づくりトランプ)と云うそうですが、要は、トランプは中国をより強くするために米国を破壊する仁だというのだそうですが、それはダブルスパイだとも云うのです。極めて皮肉な表現です。同時に、米国の衰退が加速する事は、中国にとってプラスなのかと、議論を始めているというのです。

一方のバイデン氏については、オバマ路線を踏襲すると見られていると云うのです。そして彼は経済において中国と相互依存関係にある事を危険視するのではなく、むしろ安定の基盤と位置づけていたし、パリ協定など世界的課題について中国との連携を重視し、オバマ政権では重要な役割を担っていたが、当時を懐かしむ空気は今はまるでないと。むしろ、オバマ流の関与政策は「中国が豊かになるにつれ西側の政治ルールを受け入れていく」と云う誤った考えに基づいたものと批判的に見ているようだと伝える処です。

米国では、台頭する中国への脅威論を巡って共和党と民主党が意見を同じくしていると同様に、北京でも、指導層の間でコンセンサスが出来つつあると云うのです。つまり、彼らは米国を斜陽国家と呼ぶようになったと云うのです。米国は富裕ではあるが、過度の分断と利己主義、人種差別のゆえに市民の安全を守る事の出来ない国と云う由です。そこで、中国の指導者層は、トランプ氏は米国の衰退を示す兆候であり、かつ、衰退を促す存在だと見ていると云うのです。

ただそうした評価はトランプ再選を中国が望んでいることを意味しているか、となると中国指導者層の意見は分かれる処。上述のとおり、米国の衰退が加速する事は、中国にとってプラスなのか? 議論を始めているという由ですが、安全保障の視点からは、トランプ政権になって混乱が更に4年続く方がよいと考える向きは多いと云うのです。一方、世界秩序があまりに早く崩壊することを恐れる陣営は、バイデン氏の当選を切望していると。つまり、バイデン氏を、経済面での米中デカップリングを抑える穏健派と捉え、中国が多様化し自立を進めるための時間を与えてくれると考えている為だと云うのです。勿論、バイデン氏を警戒する人の多くは中国の人権問題に対する彼の姿勢だと云うのです。
いずれの論を支持する陣営も、極めて「守りの姿勢」にある点で一致していると云い、‘Whoever becomes America’s next president, China does not expect to be friend’ つまり、
次の大統領が誰であれ、友人になれると中国が期待することはないだろうと、締めるのです。


おわりに これからの日本を考える

・自立する外交
過去30年、日本外交の柱は米国と同盟関係を深化させながら、中国と協調するものでした。もとより、これは現実的な選択肢だったものの、相対的な日本の国力低下と共に、米中への依存度を強め、米国からは防衛装備を気前よく購入し、中国からは投資や観光客の受け入れ
を促してきました。但し、その費用対効果はパンデミックの以前から悪化していたのです。

さて、その米中は前述の通り対立を深める中、今次見せた習近平中国の香港対応は強権指向を決定づける一方、米国は、世界での軍事プレゼンスを縮小し、当該負担の削減方針にあって、時に同盟国、欧州とも利害を争う状況は「消える西側(westlessness)」への懸念を呼ぶ処です。つまり世界は新たな地政学的混乱(The new world disorder、The Economist, June 20)と向き合う事になると云うものです。 とすれば今作られつつある「コロナ後の国際秩序」の行方を冷静に見極め、この際は、国益を意識した自立する外交、つまり東南アジアなど米中以外の諸国との関係強化を通じた国際環境の構築、を目指すことが日本にとって極めて重要になってきたと実感する処です。

・佐伯啓思氏の主張
処で、友人から送られてきた5月31日付け産経新聞掲載の佐伯啓思氏、京大名誉教授、のコラム[`公共的資本主義’へ転換を]は、コロナ後の世界を考えていく上で示唆深いものでした。そこでその主張のポイントを、弊コメントと併せ、下記紹介し、本稿の締めとします。

「・・・既に、グローバルな市場競争は持たない処まで来ていた。そこへコロナ・ショックが生じた。コロナ禍は、これらのグローバリズムのもたらした問題を更に明るみに出し、もっと深刻な次元へと推し進めた。一国中心主義は一層進み、米中対立は深刻となる。民主主義国家も、国家や政府の権力を強化する事になる。EUはますます脆弱になり、人の移動は経済の重荷になる。・・・極端なまでの財政、金融政策や支援金のバラまきにも拘らず、経済成長は期待できない。これはグローバリズムへの挑戦ではなく、過度なグローバル競争の帰結である。だからグローバリズムの立て直しによる経済成長主義というような価値観はもはや破綻している。その事を今回のコロナ禍が顕在化させたのだ。」とし、更に、もしポスト・コロナの社会像があるとすれば、それは、医療、福祉、介護、地域、人のつながりなどの「公共的な社会基盤」の強靭化を高めるものでなければならないとし「それは効率至上主義のグローバルな競争的資本主義と云うよりも、安定重視のナショナルな公共的資本主義と云うべきものであろう」とするのです。

勿論、納得する点、多々です。が、上記筆者の主張に重ねて思うとき、佐伯氏はグローバリズムを批判する思想家として知られる仁で無理な話でしょうが、この際は、グローバル化の終焉を云々するのではなく、それが齎してきた世界経済への貢献について謙虚に評価されて良いのではと思料するのです。そして、「変調グローバル化」の時代に入ったとされる今、その形は変わっていくとしてもなお、グローバルな対応の必要性、有為性が失われることはない筈です。この点、筆者も改めて、考えていきたいと思う処です。以上 (2020/6/25記)
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