2020年01月27日

2020年2月号  2020年、米中関係の行方、そして日本経済のトレンド - 林川眞善

目 次
         
はじめに 2020年、国際社会の行方

 (1)2020年は国際政治の転換点
     ・転換点の国際政治
 (2)ステイグリッツの`Progressive capitalism’ (進歩資本主義) 再論
     ・本論考のシナリオ

第1章 世界貿易と米中デカップリングの 行方  

 (1)「グローバル・デカップリング」という神話
      ・米中貿易協議
     ・The Myth of Global Decoupling ― Stephen Roach氏の思考様式
 (注)GVC(Global value chains)が示唆する戦略性
 (2)China’s View of America ―貿易戦争の先を見据えた中国

第2章 日本経済のトレンドと生産性の向上    

 (1)日本経済の今後
     ・小さくなる日本の経済
 (2)日本の生産性が低いわけと、その対抗策
     ・日本の生産性はなぜ低い
     ・生産性向上に向けて

おわりに デジタル元年  
     ・デジタル・トランスフォーメーション(DX)
              ・2020年をデジタル元年と位置付ける安倍首相 

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はじめに 2020年、国際社会の行方

(1)2020年は国際政治の転換点
56年ぶり、東京‘五輪’開催を控えた日本の新年がスタートしました。メデイアが伝える日本企業トップの多くが表明した年頭所感に映るのは、五輪、加えて次世代通信規格「5G」の商用サービス開始など、以って国内経済活性化への期待でした。が、反面、世界の政治や経済の先行きに対する警戒感を強めるものでした。

その世界経済ですが、米中覇権争の行方が最大の変数との見立てを以って越年しましたが、この間、米国による中国はずしの動きが、更に勢いづいてきていることからは、その状況は更にきびしくなってきていることを感じさせる処です。巷間、日欧の当局者や識者の間ではもはや米中のデカップリングの危険があるかどうかではなくどこまで広がってしまうかに懸念が集まっていると、伝えられる処です。 因みに、1月8日、世銀が公表した今年、2020年の世界経済の成長率見通しは2.5%で、昨年6月時点での見通しからは0.2ポイント下方修正です。落ち込みの最大理由は関税合戦の影響で、米国は1.8%(前年2.3%),中国は5.9%(同(6.1%)といずれも前年比減速、世界全体の貿易量も大きく落ち込むと見込む処です。

・転換点の国際政治
処で6日、米リスク調査会社ユーラシア・グループが発表した2020年世界の「十大リスク」では、その第一に「誰が米国を統治するか」を挙げ、次いで米中関係もリスクに上げています。後述するように、両国は今月15日、貿易協議の「第1段階の合意」に署名しましたが、産業補助金等両国間で溝の深い問題は先送りとなり、対立は長期化が避けられないとし、米中の「デカップリング(分断)」の影響は「世界テクノロジー分野だけではなく、メデイアから学術まで多くの業界や機関に及ぶ」と指摘するのです。併せて、同社のイワン・ブレマー氏は「過去数十年にわたりグローバリゼーションは世界の貧困を減らし、平和を支えてきたと指摘。現在は米中対立や先進国の分断が進み「世界的な危機を生み出す可能性が高まっている」とし、2020年は国際政治の転換点になるだろうと語るのです。(注)

   (注)日本時間8日午前7時半、イランがイラクにある米軍基地へのミサイル攻撃を開始。(後刻イ
ラン政府は誤射だったと訂正)米国によるイランのソレイマニ司令官殺害(1月3日)に対する報
復攻撃かと思われたものの、誤射声明がイラン側から出されたことで沈静化を見ているが、今後共
これがいかなる展開となるか現時点では不透明ながら、世界の地政学的危機を覚える処。

(2) ステイグリッツの ‘Progressive capitalism’(進歩資本主義) 再論
さて筆者は、米コロンビア大 教授でノーベル経済賞のステイグリッツ氏が昨秋、著した「ステイグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM (原題:People, Power, and Profits)」(東洋経済、2020/1/2) と共に、この新年を迎えました。本書は、これまでも愛読した彼のグローバル化に関する著作「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」、「世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す」、「これから始まる‘新しい世界経済’の教科書」、等々で記された見解を纏める形で執筆されたものですが、とりわけ現下の米経済で広がる格差に焦点をあてた現状分析、そして現状改善を目指すべき方向と政策を語るもので、極めて示唆に富み、大いに刺激を受けるものでした。 実は同書の枠組みについては昨年の春、彼のレジュメを以って承知し、昨年5月次の弊論考(N0.86)でその概要を紹介していますが、その興奮いま再びとする処です。そこで敢えて今一度、そのポイントを紹介しておきたいと思います;―――  
                  
① 米経済の実態:現在、米国が抱える問題の原因の一端は、経済の失敗にあると断じ、製造業中心の経済からサービス業中心の経済への移行が上手くいかなかった事。金融産業を制御できなかった事。グローバル化やその影響を適切に管理できなかった事。そしてなによりも、格差の拡大に対応できなかったこと、そして、その結果アメリカは「1パーセントの、1パーセントによる、1パーセントのための経済や民主主義」へと変わりつつある。
② 現状改善の処方箋作りに向けた発想:まず富の創造と富の略奪を区別し、国富を真に生み出すものが何かを問う。富の略奪とは、個人が、何らかの搾取形態を通じて他人から富を奪う事。一方、「国の富」を真に生み出すのは富の創造行為である事、そしてそれは国民の創造性や生産性の相互作用の結果とし、それを支えるのは科学の発展であり、社会組織の更なる進化だと云う。つまり、理にかなった対話を通じて事の理解を深めれば、「法の支配、抑制と均衡のシステム、適正な手続き」等、制度の確立を図るべきと。
➂ 21世紀の世界で必要とされる事:要は、国富を生み出すものは何かを真に理解すること、そしてより活力にあふれた経済を実現し、豊かさを広く共有できるようにしていく事とし、そのためには政府が現在とは違う、もっと大きな役割を担う事も必要とし、複雑化する21世紀の世界では共同行動が不可欠と強調する。
④ 求められる政策とは「政治と経済を再建する」政策:そして、我々は緊密につながり合った世界に暮らしているわけで、孤立主義という選択肢はなく、政治面、経済面で、これまで以上に国際関係の管理に取り組んでいかなければならない、警告する。そして、その為の政策は、トランプや他支持者が主張する政策とは真っ向から対立する進歩的な政策となる。
⑤ 包括的政策:その際、必要となるのが包括的政策と。それは成長や格差縮小の障害(過大な市場支配力を持つ企業がもたらす弊害)の除去と、バランスの回復と(労働者に大きな交渉力をあたえる)を組み合わせた経済政策だと云う。

そして、最後に今こそ大々的な転換を遂げるときだとし、経済の転換は、過剰な富がもたらす政治力に対抗できるほど力強い民主主義がなければ実現できず、同時に経済を改革する為には政治も改革する必要があると説くのです。


・本論考のシナリオ
以上、進歩資本主義の真骨頂を感じさせられる処、改めて2016年の米大統領選挙を顧みるに、非常に多くの企業幹部がトランプ氏を財政面で支えたとされていたとされる処、更に多くの企業人が目先、減税が実現し、非生産的ながら高い利益をもたらす資産バブルが起きることが分かっていたため、トランプ氏が戦後秩序の破壊に動いても沈黙してきたと云う事ですが、そのツケは貿易戦争や移民規制の強化だけでなく、企業の事業活動の基盤であるルールに基づいた取引活動の危機となって表れているのが現状と総括される処です。トランプ再選が世界経済のリスクとされる所以です。

そこで、今次論考では、このプログレッシブ・キャピタリズムを語るステイグリッツの思考様式に照らし、とりわけ彼が主張する国際協調の堅持、そしてグローバル化構造の変化を踏まえながら、二つの資料をベースに、米中関係の行方について考察します。その一つは米中貿易戦争を巡る米中分断の可能性の行方についての米イエール大 教授のStephen Roach氏の論考「The Myth of Global Decoupling 」(Project Syndicate , Dated Jan.3rd)、二つは、今次の米中合意後の両国の在り姿を示唆する、The Economist(Jan. 4)の記事「China’s view of America」を取り上げ、両国関係’の行方を考察する(第1章)事とします。

更に、人口減少社会に向かう日本経済の可能性について、生産性向上にフォーカスする形で、再度考察する(第2章)事とします。 経済成長率、つまり[GDP伸び率=人口(就業者人口の伸び率)+生産性(一人当たり生産性の伸び率)] を前提とすると、人口が減少する日本にとっては、生産性の向上を図るほかなく、もとより、これが長期的に続くテーマとなる処です。ただ、日本経済の現実は、急速に進む経済のデジタル化に即した対応が遅れていることが大きな問題です。前回論考では、digitalizationとグローバル化と重ね「デジタル分業」戦略を云々したのもそれ故でしたが、その際、友人読者から「digital技術を活用して企業の活性化を図ることは重要であり、その通りと思うが、ITの活用で経済成長はしたとしても、勝つのはGAFAの如く業界トップだけ」であり、所得格差をどうにかしないと世界経済は低迷を続けることになるのではと、照会を受けました。要は、富める者に富が集中する今の仕組みを改めないと、持続性が危うくなるとの主張に繋がる処です。

急速な人口減少をたどる日本経済、世界における存在感が小さくなることが想定されている今、かかる事態への対抗は日本経済の競争力を高めること、そのためには生産性の向上の他なく、そこで友人の照会にも応えるべく、当該問題意識にしぼりつつ、今後の日本経済のトレンドについて考察する事とします。


第1章 世界貿易と米中デカップリングの行方

(1)「グローバル・デカップリング」という神話
・米中貿易協議
昨年12月13日、米中両政府は貿易協議の「第一段階」につき合意を見、前述の通り今年、1月15日、当該「第1段階の合意」(注)に正式署名しました。 ただ産業補助金等両国間の溝の深い問題は先送りとなっており、両国の対立は長期化が避けられないままにあり、昨年来の米中「デカップリング(分断)」論は衰えを見せません。

(注)「第1段階の合意」ポイント:① 中国による知的財産権の保護、②中国が米国からの輸入を
2年で2000億ドル積みます、➂ 金融サービス市場の開放、④人民元安誘導の制限、等7項目。
(日経2020/1/16) 尚、この結果を受けて米国は、2月中にも対中制裁関税「第4弾」(2019/9 月)
の関税を引き下げることとし一方、貿易協議は更に第2段階への合意交渉を続けると云う。
    これで米中貿易戦争は休止局面に入るが、その引き換えに米中が管理貿易に傾けば、国際通商体
    制の動揺は続くことは避けられないのではと危惧される。

この点、米イエール大 教授のStephen Roach氏は1月3日付け論考「The Myth of Global Decoupling 」で、今日的グローバル化の貿易構造に照らし、米中の分断、グローバルな分断など、今や神話の域を出るものではないとするのです。そのlogicは極めて今日的、合理的で、興味深く、そこでまずその概要を紹介する事から始めたいと思います。

・The Myth of Global Decoupling ― Stephen Roach氏の思考様式
① デカップリング論議の背景:まず、2019年に盛んに云々されたdecoupling論議の背景には、報復関税合戦も安全保障に係るテク戦争の小競り合いも、いずれもインターネットと一国主義でグローバル化に背を向けたトランプ米大統領が抱く‘ツキジデス’的恐怖を映す「新たな鉄のカーテン」のイメージがあるためで、だからと言って87兆ドルの世界経済が今後2つのブロックに分断されるなど信じられない。ただ、世界の二大経済大国間の対立の続くことは想定される処、その原因がどうあれ、現在の多角的貿易体制にあっては単に二国間の行動の如何だけで分断が進むなどありえないと。
② 統合が進む世界経済:今日のグローバル経済は以前とは比べることのできないほどに統合されており、2008-09年の金融危機のあと世界貿易の伸びは長期停滞にあり世界のGDPのおよそ28%に止まったままにあるが、それでも冷戦時代、1947-91年の平均シェアー13.5%に比して、その倍となっている。つまり、世界の経済活動が広く展開してきた結果であり、従来の製品貿易は、輸出にしろ,輸入にしろ、当該国が生産し、それを個々の国へ製品として送りだす二国間の貿易だったが、今ではその実態は部品貿易に変質してきている。その実状は、大きなネットワークの中で組み立てられ、取引が行われる状況が実態で、広大なglobal value chains (GVCs) 、グローバル・バリューチェーンを介して製品化され、取引されるようになってきている点で、グローバル・デカップリングは起こりにくくなってきている。つまり二国間貿易とは言え、色々の国のサプライチェーンを経て行われてきているだけに当該国の経済規模とは関係なく、二国間での分断が進む可能性は低く、この変化が米中貿易戦争の齎すインパクトの様相を変えてきていると。
➂ 米貿易インバラスは国内経済の不均衡が要因:米国の政治家は好んで米国の貿易問題は中国問題とする。 事実、過去6年間(2013-18)では、米国の貿易赤字の47%は対中貿易にあるが、それは米国の慢性的な国内貯蓄形成の低さに負うもので、20世紀後半の30年では対GDP比率は6.3%にあったものの、2018年ではそれが2.4%にとどまっている。
つまりマクロ的視点から、国民所得ベースでの過少な貯蓄、投資意欲の低下、一方それを補うための外資の導入、積極的投資の受け入れで、結果として経常収支は慢性的赤字を託つ処、要はマクロ経済の不均衡が米国の貿易赤字を齎している。 とすれば中国との貿易戦争は別の光を当てる必要のあり、デカップリングの見方も変える必要があるとし、近時のglobal value chainsをベースとした新たな貿易構造( trade diversion)を再考すべきと。 因みに、OECD やWTOのtrade-in-value–added data によれば、米中貿易の赤字の20%は中国主導のサプライチェーンを通じた部品の取引だと。
④ 世界貿易はGVS主導の構造に:貿易構造はいまや、伝統的な当該二国間での製品取引から、多国間での生産を基盤としたGVC主導型の貿易システムへと構造的変化が進んできた結果、今ではpan-Asian factoryという地域統合型流通システムに再編されてきている。
それは、2019/4/15付けのWorld Bank & WTOによる Global Value Chain Development Report、2019、に詳しいが、中国が2001年、WTOに加盟して以来、米中貿易の赤字幅は拡大してきており、それは先進国による対中進出に負う結果で、米政治家が好んで取り上げる中国批判とは、その様相を大きく異にする処となってきていると云う。
➄ GVC connectivity の拡大:GVDが拡大してきた結果, 中国からの対米輸出にかかる関税は中国輸出業者のみならず、中国主導のサプライ チェーンに組み込まれる第三国、東アジアにも及ぶことになり、Supply -chain linkage (サプライチェーンの結合)はいわゆる当該地域を通してChina fix の様相にある。その点で米中間のデカップリングは起こりえない事と云う。bilateral decouplingが齎すであろう貿易の構造変化とは、米国の調達が低コストの中国生産基地から広域の海外生産グループに変わることを意味するか、或いはそれがアジアのプラットフォームに映ることになるか、re-shoreとなるかであって、ボトム・ラインは確実に高コスト生産体制になることとなり、その結果、皮肉にも米企業にとり、又 就労働者や家庭の主婦にとっても増税と同じ効果をもたらすことになると、云うのです。

要は、こうしたGVC(下記:(注)参照)が齎す今日的貿易構造を踏まえるとき、今後、米中貿易戦争がグローバルな分断を齎すことはないとするもので、その限りにおいて当該分析はlogicalと映る処です。が、米中関係の行方はとなると、問題は貿易だけでは簡単には律し得ない処です。つまり中国の対米姿勢の如何ですが、以下で紹介するThe Economist (Jan.4)記事 `China’s views of America ‘からは、まさに今の中国の対米姿勢、米国への不信感と、待ちの姿勢を以って覇権を狙う姿が窺える処、とすればRoach氏が云うようには米中分断は神話とは、容易には言い切れない処です。

(注)GVC(Global value chains)が示唆する戦略性
GVCとは、国際的な価値の連鎖がどのように張り巡らされ、どの段階で、どれくらい付加
価値が生まれるか、膨大なデータを駆使して分析する最新の手法で、まさにサプライチェ
ーンの統治構造を示唆するものとされる。こうしたサプライチェーンの変貌が、グローバ
ル経済の仕組みの変化を齎す処、貿易戦争の今日的意味合いを理解する上で極めて有意な
国際貿易論として注目を呼ぶ処。因みに、iPhoneの場合、端末機の裏に記されている文言、
「Designed by Apple in California, Assembled in China」、(カリフォルニアのアップルでデ
ザインされ、中国で組み立てられた)からも理解できるように、この分業の姿こそが今日
的貿易の生業と理解される。

昨年夏、ジェトロ・アジア経済研究所上席主任研究員の猪俣哲史氏が著した「グローバル・
バリューチェーン ― 新・南北問題へのまなざし」(日経社、2019/6/28)は、「国際的な
サプライチェーンの変貌の実態と米中貿易戦争の本当の意味を教えてくれる、付加価値ベ
ースでみた新しい貿易論の枠組み」と、斯界の評価の高い作品だが、もとよりこれが日本
経済の対外戦略を考察する上で大いに資する処。先月弊論考では人口減少社会の日本にとって持続的成長を目指す視点からは、海外に乗り出すことが不可避だが、その際は「デジタル分業」戦略を目指せと指摘した。つまり、いまや新興国、途上国にはIT技術を生かし競争力を身に着けた企業多々で、彼らとの連携によるデジタル分業戦略を、との趣旨。

(2)China’s view of America (The Economist, Jan. 4)― 貿易戦争の先を見据えた中国
米中貿易戦争の現状について、まず中国政府関係者は公の場ではトランプ政権の関税を「自滅的」と呼び、中国には経済的な弾力性があると強調しているが、内心ではそれほど自信があるわけではないと指摘します。その理由は貿易戦争前から中国の景況感が悪化しているためだと云うのです。因みに1月17日発表された2019年GDP成長率は6.1%で、29年来の低水準、2018年に続き連続の減速にあります。これは勿論米国との貿易戦争で製造業が振るわなかったことが挙げられる処ですが、中国は、いまや関税での戦いよりも、他の形での競争が始まる事を懸念していると云うのです。ずばり、それは米国との技術上の争いや国際的影響力を巡る全面対決の行方だと云うのです。そして中国の国家安全保障政策に近い筋での、次のような見方を紹介するのです。 

つまり、 ‘トランプ氏が再選を果たすよう平然と彼らは声援を送る。そして彼が再選されれば引き続き米国の同盟国を混乱させるだろう。そうなれば何十年も続いたアジアにおける米国の安全保障に疑念が生じ、中国のチャンスが生まれる’ と、待ちの姿勢を云うのです。

中国はかくしていろいろな形で米国を非難するでしょうが、だからと言ってワシントンのタカ派に対抗し、両陣営の分割をしようとはしない。(new cold war, in which divided into rival camps )中国は時間を稼いでその間に国力を蓄え、ドルが支配する金融システムに象徴されるような、米国の権力を支える強力なツールに匹敵するものを作り上げようとしていると。そしてさしあたり中国は米国との対決を 避けようとするが、台頭する中国にとって米国はますます邪魔な存在に見えてくると指摘する処です。すなわち、厄介な事態がすぐそこに迫っていると云うのです。この春、習主席を国賓として迎える日本政府は、この微妙な変化を如何に見据えているのか、気がかりとする次第です。


           第2章 日本経済のトレンドと生産性の向上   

(1)日本経済の今後
さて、先月発表された人口動態統計を契機に、日本経済が活力を保つためには何が必要かと、思いを高めるところです。周知の通り、デジタル経済で先頭を走る米国は自国第一主義を先鋭化させ、追い上げる中国と対決姿勢を強める処、日本は人口減・高齢化に加え生産性も伸び悩み、GDP(実質ドル換算)は縮小を続け、経済規模で現在の3位から早晩、米,中、インド、ドイツに次ぐ5位に転落することが想定さています。勿論ランキング自体はさほど問題ではないとしても、日本経済として、持続的成長を如何に確保していくかは問題です。冒頭、「はじめに」で触れたように人口減少、とりわけ労働力人口の減少下では、なによりも生産性の向上、維持が最大の課題です。そこで日本経済研究センターの2060年経済予測(日経2019/7/26)をも踏まえ、生産性にフォーカスし、改めて考察したいと思います。

・小さくなる日本の経済
昨年12月26日、内閣府が公表した、2018年のGDP(名目)はドル換算で前年比1.8%増の4兆9564億ドルでした。世界全体に占めるシェアーは5.7%と前年に比べて0.3ポイント下がり、過去最低になっています。日本のドル換算の名目GDPは長く米国に次いで世界2位にあったが、2010年に中国に逆転され、人口の減少や成長力の低下を反映し、1990年代半ばに2割弱あった世界に占める比率も2005には10%に低下、その後も下落傾向が続いています。 又生産性の高さの目安となる一人当たり名目GDPは3万9182ドルでOECD加盟国36か国中20位。2010年代初頭は先進国の中で10位台だったが、近年は18~20位で推移しています。

因みに、2019年7月26日の日経「やさしい経済教室」で紹介されている日本経済研究センターの2060年経済予測では日本のGDPは20年代にインドに追い抜かれ、40年代にはドイツにも抜かれ日本は5位と予想されています。 つまり、こうした日本の経済的地位の低下は、人口減効果を考えると、生産性の低さが誘引した結果と思料する処です。ではなぜ日本の生産性は低いのか、そのための対抗をどう考えればいいのか、が具体的テーマとなって迫る処です。

(2)日本の生産性の低いわけと、その対抗策
なぜ日本の生産性が低くなっているか?これについては多々説明ある処、中でも第一生命の首席エコノミスト、熊野英雄氏は文芸春秋、新春特別号で極めて平易に語っています。そこで彼の言説の一部を引用しながら、話を進めることとします。

・日本の生産性はなぜ低い
まず、日本の生産性の低さの背景として、日本のパラダイム・チェンジができていなことにあると云うのです。別の云い方をすれば、「物的生産性」から「付加価値生産性」へと世界のパラダイムが変化したにも関わらず、未だに日本は物的生産性の中で停滞していると云うのです。物的生産性とは、生産数、販売量、収穫個数など、物量でとらえることができる生産効率を表す尺度です。例えば自動車部品工場で1日百個の製品を倍の2百個作れるようになれば物的生産は高まります。モノを作って海外にたくさん売るには通貨が安い方がいい。その点、円安と高い物的生産はよくなじむ処です。日本の製造業は、円安と高い物的生産性によって、高度成長を牽引してきました。 然し、付加価値生産性の考えはこれとは異なり、生産数は百個のままで、その代わり1個当たりの付加価値を上げ、高く売ることで利益を拡大しようと云う発想です。正確には、売上から原材料費を除いた粗利を労働投入量で割って付加価値生産性は計算され、一人が稼ぐ粗利が増えるほど、付加価値生産性が上昇すると云う事です。

この物的生産性から付加価値生産性へのパラダイム・チェンジを引き起こしたのはIT革命でした。グーグルやアップル等、電子部品そのものよりもサービスを提供するプラットフォームの付加価値で勝負し、覇権を拡大してきたのです。日本の場合、コスト削減しながらモノを作って安く売る発想から抜け出せていないのです。 上述事情からは、現在の世界で経済成長のカギを握るのは付加価値生産性であり、アイデイアを使って商品を高く売るビジネスモデルを構築することが必要と云うものです。経団連の中西会長も‘コモデイテイビジネスはもう死んだ’とする処、この際は発想の転換が求められると云うものです。

ただ、この付加価値生産性の上昇を阻む要因が少子化であり、高齢化です。そこで、この際は労働力人口減をカバーする意味からも、急速に進む経済のデジタル化を戦略的に取り込み、当該生産性の向上を図り、持続的可能性を確保していく事を、目指すべきと思料するのです。以下はそうした趣旨の下、生産性向上に向けた提案、3項目とするものです。

・生産性向上に向けて
― 企業における生産性向上は一義的には効率的経営の徹底に負う処、同時に中長期的に
生産性の向上(競争力の強化)を通じ、他経営要素との連携をも含め、持続的成長の確保
を命題とすることとなる。つまりはビジネスマネジメントに係る戦略提案だが、もとより
それぞれの実行と成果を上げていく上で、要すれば当該支援関連措置は不可欠となる。

① 企業経営、デジタル化の積極推進:生産性向上による競争力強化の視点から、まず経営のデジタル化を徹底推進し、併せて事業構造の見直し、産業の新陳代謝を進める。と同時に、近時の経団連中西会長の改革発言にもある通りで、賃金体系の構造的改革を通じ人材の確保を図る。尚、市場からの退出企業、雇用者に、新たな事業機会を与える仕組みの導入を目指す。
② GVCとデジタル分業:人口減少を抱える国内市場には限界があることから、海外に打って出る事が不可欠。そこで上述、いまや新興国、途上国にはITを活用した有力企業が多々であり、生産性をあげる道として前述のGVCコンセプトに即した彼らとの戦略的デジタル分業体制を図る。併せて今後10年を左右すると見る技術の潮流、とりわけソフトウエアーの動きを確実に捉え、それに備える体制整備を進める。
➂ 将来に向けた設備投資:かつて日本の製造業は積極的に設備投資を展開し、生産性を向上させてきました。然し今では大企業も販売数量の大幅アップが見込める事業にしか設備投資をしません。それには種々理由が挙げられる処この際は、付加価値生産性を高めていく上でこれまでの安全指向から脱皮し、つまり三菱化学ホールデイングスの小林会長が主張するアンチテーゼへの挑戦行動として、将来に向けた前向投資の積極的促進を図る。

・最後に、政府の出番についてです。一義的には企業がより自由に活動できるよう諸規制の改革を進めることですし、政府主導で進められている「働き方改革」についても、これが「仕事量が同じで労働時間を短くすれば、生産性が上がる」という個々人をベースとした考え方にあるようですが、生産性の向上に向けた改革とするならば「労働時間の削減→学び→生産
性の上昇→成果→賃金・待遇の改善、そして学ぶ ---」と云ったサイクルが回るよう、発想を変えトタルとして取り組んでいくべき事と思料するのです。 
ただこれがより基本的には、グローバル化やデジタル化の恩恵を存分に引き出し、経済全体のパイ拡大に努める事、そして、適切な所得再分配や安全網の拡充、教育制度の改革などを通じて庶民の生活を底上げしていく、つまり包摂的な経済や社会づくりへの努力が期待されると云うものです。


おわりに デジタル元年

・デジタル・トランスフォーメーション(DX)
昨年同様、今年も米ラスベガスで(2020/1/7~10)、世界最大のデジタル技術見本市「CES」が開かれました。昨年は「5G」、つまり高速通信時代の幕開けとされ、何よりも注目を呼んだのがプラットフォーマー主導の自動車産業の変容でした。今次のCESはそのトレンドにあって、デジタル技術の成長の柱が、スマートフォーンから自動車へと完全にシフトした様相にあり、開催前日の6日には、ソニーは自動運転システムを搭載した試作品を発表。トヨタはコネクテッドカ―などを中心に、あらゆるモノやサービスをネットでつなげる「スマートシテイー」(注)を静岡県据野市に作ると発表。いずれも、デジタル時代の企業変革に挑む姿勢を世界に示す処でした。

     (注)スマートシテイー:国土交通省などによると、先進技術を活用することにより、都市や
地域を高度化して課題を解決する事を指す。具体的には交通渋滞や環境負荷の軽減、日本な
どでは少子高齢化に伴う問題への対応尚がテーマとなる。(日経:2020/1/8)

家電の展示会からデジタル技術の見本市へと様相が変わる中、異業種も目立つたと云うのも今回の特徴と云え、CESの目玉ともいえる基調講演には、米デルタ航空、エド・バステイアンCEOが登場、50年以上続くCESで航空会社トップが基調講演をすることは初めてと、大いなる関心を集めるところでした。要は、次世代通信規格「5G」やAIの存在感が増す中、デジタル技術で事業を変革する「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」はあらゆる産業の共通課題たるを印象付ける処です。

・2020をデジタル元年と位置付ける安倍首相
では日本の現状は? メデイアによれば、政府は2020年をデジタル元年と位置付け、巨大IT企業による市場寡占を規制する新法を1月の通常国会に提出、更に次世代通信規格「5G」の整備も新法で加速させる由、伝える処です。昨年12月、安倍首相は経団連との会合で、デジタル技術の急速な進展に触れ「今まさに新しい時代へ移る真っ只中にいる。企業のイノベーションを力強く後押しする」と強調。加えて「安全で安心なインフラが安定的に供給されるようグローバルな連携の下、戦略的に取り組んでいく」(日経2020/1/4)とも語る処です。

明けて1月20日、召集された通常国会冒頭、行われた安倍首相の施政方針演説は、今後の政権運営の方針を示すものと云え、冒頭、7年間の政権実績を振り返り「諦めの壁を打ち破ることができた」と自画自賛から始まるものでした。以下はその主たるポイントです。

まず、「成長戦略」では、第4次産業革命に国家戦略として取り組む。デジタル時代の規制
改革を進めると。そして事業規模26兆円に及ぶ経済対策を紹介し、海外発の下方リスクに
も万全を期すとし、「外交・安全保障」では、戦後外交を総決算し、新時代の日本外交を確
立する「正念場の1年」と位置付け、自由貿易の旗手として21世紀の経済秩序を世界へ
広げていくとし、「締め」では、国のかたちを語るのは憲法、その案を示すのは国会議員の
責任ではと質し、その責任を果たそうと、声をかけるものでした。

以上、内容的には特段の新味を覚えることはなく、ただ改憲の発言が出たとたん、議場は一瞬、沸きましたが、メデイアは、では「国のかたち」は?と問う事もなく、通常国会の冒頭で改憲案に言及するのは18年以来のことと、その辺の事情を説明するだけで、なんとも不甲斐なさなさを禁じ得ません。ただ、個人的には、そこで示された26兆円の経済対策にさほどの熱さを感じることがなかったことが印象的でした。 つまり、かつては経済対策、景気浮揚と云えば、田中角栄元首相の政治行動に象徴するような、公共投資を巡る与党政治家の利害が絡むバトルがあったものでしたが、今では公共投資は「新規」から「継続」にシフトしてきたと云われる通りで、そうした現場の変化を映すだけの事とは云え、そこには政治的熱気が伝わることもなく、安倍政権の賞味期限を感じさせる処でした。

ただ、安倍首相は2019年のG20大阪サミットでは国際的なルール作り「大阪トラック」を提唱しています。その節目が2020年6月のWTOの閣僚会議です。となれば、日本は米国と連携し、企業活動を害さないルールづくりを進めることが求められる筈です。その際大切なのは、膨大なデータの活用を原動力にデジタル社会の競争力を高めることではと、思料するのです。安倍首相には、「桜」が散ろうが、当該プロジェクトだけは口先だけでなく、完遂されんことを願うばかりです。

以上 (2020/1/26 記)
posted by 林川眞善 at 10:36| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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