2019年07月26日

2019年8月号  今、国際社会は分岐点に - G20大阪サミットが映す国際社会の実像、そして日本は         - 林川眞善

目   次

はじめに G20大阪サミットは安倍首相の晴れ舞台だった
    ―「大阪宣言」は自由な国際貿易の堅持をうたったが

第1章 ‘G20大阪サミット’ と 米中関係の行方

1. G20大阪サミット総括
(1) 新たな国際社会の分岐点を映すG20大阪サミット
 ・サミットの場外で展開される各国外交
(2)米中首脳会談in Osaka と世界の生業
 ・米中協議の行方
 ・貿易戦争休戦の背景   
2.もう一つの米中経済関係:Counter-flow
 ・進捗する中国金融市場の開放 
 ・米国 v 中国
           
第2章 新たな国際環境と日本の目指すべき針路
-高坂正堯の示唆

1.日本の安全保障政策とトランプ氏の日米安保条約批判
(1) 日本の安全保障政策の基本
 ・日米安保条約
 ・トランプ批判を受け止めて
(2) 日本の安全保障とグローバル化対応
 ・日本の安保体制の土台の強化
 ・国際協調主義の堅持 
 ・ホルムズ海峡の安全確保と有志連合
2.対韓輸出規制問題
  ― 日本政府が切った対韓輸出規制強化のカード
          
おわりに 令和、初の国政(参院)選挙と安倍政権

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はじめに G20サミットは安倍首相の晴れ舞台だった
            ―「大阪宣言」は自由な国際貿易の堅持をうたったが

現下の世界情勢を定義的に申せば、米トランプ政権に代表されるように自国第一主義が広がり、グローバリズムは逆風に曝され、通商摩擦で世界経済の先行きには暗雲が漂い、ロシアなど力による現状の変更を迫る勢力も存在する状況にあり、と云う処でしょうか。

さて、今年6月28/29日、大阪で開かれた「G20サミット」は、安倍首相が議長を務める、まさに日本外交の矜持を示す格好の場となるものでした。周知の通り、当サミットの前身は、アジア通貨危機後の1999年に始まったG20財務相・中銀総裁会議ですが、それが2008年のリーマン・ショック後に首脳レベルの会合に格上げされたもので、今次G20への参加は総勢37か国・機関[注1]で、彼らの世界に占める比重は、GDPベースで8割、人口で3分の2ですから、まさに世界そのものと云え、安倍首相にとって、まさにルール作りの晴れ舞台を手にしたと云うところです。

果せるかなG20大阪サミットは6月29日、「自由で公正かつ無差別な貿易・投資環境を実現し、開かれた市場を保つために努力する」との文言を盛り込んだ6項目の「大阪宣言」[注2] を採択して幕を閉じ、その直後の記者会見では、安倍首相は、「意見対立ではなく共通点に光を当てた。G20は力強い成長をけん引する決意で一致した」と、主催国としての役割を果たしたと誇らし気に語る処でした。

しかし大阪に集まった各国首脳の行動は、G20サミットが使命とする世界経済の持続的成長を目指す ‘政策討議の場 ’ たるを意に介することのないほどに、これを機会と、夫々が抱える利害事情に即し、当該関係国との協議に向かう、つまり サミットの場外での首脳会談、個別外交に向う姿こそがそのリアルと云え、G20サミットの機能の不全すら、感じさせる処でした。「大阪宣言」はそうした状況を映し、例えば温暖化対策と云った地球の未来がかかるテーマさえ足並みをそろえられない国際社会の姿を炙りだし、米中対立のあおりでG20を軸とする多国間の調整力の劣化を象徴する処、機能不全が指摘されるWTOにしても改革を目指す方針こそ打ち出したものの肝心の中身に踏み込めずじまいにあるのです。

[注1] G20参加:日米中等メンバー国19か国とEUの計20か国、国際機関9機関(UN.
IMF, OECD, WTO 世銀、ILO, FSB, ADB,WHO)、招待国8か国(オランダ他7か国)
の総計37
[注2] G20首脳宣言6つの項目(日経 6月30日)
1. 貿易摩擦がリスク、2. データ流通促す、3. インフラ開発で債務配慮
4. 税のデジタル化が進展、5. 女性の活躍不可欠、6. 環境問題は喫緊課題
こうした環境にあってトランプ米大統領は、日本が安保体制の基本軸としてきた日米安保条約は米側にとり片務協定だ、改めるべきだ、と批判を繰り返す処です。実はこれが不安定な国際環境に照らすとき、日本の今後の在り方を問うきっかけを生む処とも云えそうです。

そこで本論考ではまず、当該サミットの実態を検証、総括し、サミット後の米中関係の行方について考察する事とします。偶々、米中対立構図のなか、金融界こそは米中関係の深化が進む処とThe Economist (July 6~12)は、その状況の実際を伝えるのです。そこでこの際は併せてその概況を紹介しておきたいと思います(第1章)。そして次に、トランプ氏の日米安保条約批判を受け、この機会に、日本の安全保障対応に留意しつつ、日本の目指すべき道、針路について考察する事としたいと思います(第2章)。 

7月21日の令和初の国政選挙、参院選は、与党(自・公)が勝利し、安倍首相は 今や‘つくられた争点’とされた憲法改正に歩を進めんとする処です。ただこれがbeautiful harmony、を追求する環境づくりにつながる事か、国民が今求める事案なのか、そして、日本は政治も、経済も正しく「令和」のそれに向かう用意はできているか、その思いを痛くする処です。



第1章 ‘G20大坂サミット’ と 米中関係の行方
                            
1. G20大阪サミット総括  

(1) 新たな国際社会の分岐点を映すG20大阪サミット
        
そもそもG20サミットは前述した通り、2008年、時のリーマン危機に対峙する中、持続的成長をいかに図るべきか、世界レベルで対抗策を練るために主要20か国・地域首脳会議としてスタートしたものです。しかし、そうした流れを変えたのが2016年の英国のBREXITであり、アメリカでのトランプ台頭でした。そして両者に共通するのが自国第一主義です。

これまで国際協調こそが世界経済繁栄の枠組みと、米国主導ながら各種国際機関、協定が導入され、以って世界経済は運営されてきました。しかし‘米国第一’が謳われ、国際協調軽視のトランプ米大統領の台頭で、既存の行動様式を以ってしては、これら協調の枠組みが廻らなくなってきた一方、異質な一党独裁を以って米国に次ぐ世界第2位の経済大国となった新興中国が、習近平主席の長期ビジョン「社会主義現代強国」化の下、新たな中国圏形成を目指す政治行動とも相まって、米中2大経済大国は覇権争奪戦の様相を呈する処です。

昨年7月から始まった米中関税合戦こそはその象徴と云え、今2年目に入った処ですが、米中追加関税の発動は他の国々を巻き込み、貿易の流れに構造的な変化をもたらしてきています。と云うのも、グローバル企業は両国にまたがって築いたサプライチェーンの見直しに拍車をかけ、これが世界経済に新たなリスクを呈する処となってきています。今次G20サミットに集まった各国首脳の関心は、そうした世界的構造変化に自らの利害をいかに対応させていくかに絞られ、サミットでの多国間協議よりは、その為の個別会談に向けられるものでした。

・サミットの場外で展開される各国外交
因みに、トランプ氏は、サミットの合間を縫って、インドのモデイ首相やブラジルのボルソナロ大統領ら10人ほどの首脳との会談をこなしていますが、米政府関係者は「中国の影響力を排除する包囲網づくりが狙い」と明かす処です。 一方、習主席も負けてはいません。メルケル独首相、マクロン仏大統領ら欧州首脳と個別会談を持ち、気候変動対策等などで「多国間主義を守ろう」と接近、南アなどアフリカ3国との首脳会談では「中国とアフリカの協力関係は不変だ」と強調。その限りにおいてG20各国は米中対立のはざまで、双方の陣営作りに踏み絵を迫られる様相にあったのです。

こうした米中の動きの裏を返してみると、米中の2大大国のまさに覇権争いのすきを突いて台頭しようとするロシアとインドの姿があり、彼らは彼らで個別会談を通じて、独自の経済圏を目指さんと、自国第一の姿勢を強める処、世界はまさに液状化を映しだす処です。

つまり、プーチン氏は大阪サミットで訪日予定の直前、Financial Timesとのインタービュでは,‘The liberal idea has become obsolete ‘(自由主義は時代遅れ)[Financial Times June 28]、として、トランプ氏の保護主義的な政策を批判する一方、サミット開幕前には大阪市内でBRICS 5か国首脳と会談、「世界経済発展の公正な新しいモデルをつくろう」と呼び掛けていたのです。 一方、インドのモデイ首相もまさに米中を天秤にかける様相で、28日の安倍首相、そしてトランプ氏との会談では人口世界一の民主主義国家という面を強調し、その数時間後には習近平氏とプーチン氏との会談に臨んでいます。いずれもモデイ氏が呼び掛けたものでした。 ただG7で中心的役割を果たしてきた欧州勢は国内のナショナリズムやポピュリズムの伸長で精彩を欠く処、これもあれも自国第一と、会議が散漫になっている点で、ナポレオン戦争後の終戦処理のためのウイーン会議(1814~15)ならぬ「会議は踊る、されど進まぬ」様相が伝わる処でした。

各国が演じる行動のリアリテイとは「大国なき世界」の実像を語る処、それは新たな相関図を成す処とも言え、今次のG20こそは、国際社会の分岐点を象徴する事態です。 いまやG20サミットは劇場(アリーナ)型外交の場とも言え、「会議は踊る、されど進まず」と揶揄されたナポレオン戦争後のウイーン会議(1814~15)すら想起させる処です。

大阪宣言は、こうした経緯を経て取りまとめられたものですが、7月1日付けFinancial Times、社説「G20 meets a low bar for global co-operation」では、トランプ氏への配慮を色濃くしたG20サミットと、従ってG20を軸とする多国間の調整力はすっかり失われてきたと懸念を募らせる処でした。が、そうした中、6月28日、EUは、ブリュセルで行われていたブラジル、アルゼンチン、ウルグアイそしてパラグアイの南米4か国で構成する関税同盟、Mercosur,(南米南部共同市場:メルコスル)とFTA交渉で政治合意した旨発表、以ってこれがmost notable success, 極めて素晴らしい成果と、祝福すると同時に、NZ,豪州とのFTAの可能性もこれありで、EUのリーダシップに期待し、international co-operation is still functioningと指摘するのでした。因みにアルゼンチン、サンタフェで行われていたメルコスル首脳会議で、7月17日、マクリ・アルゼンチン大統領は「我々は国際的なバリュチエーンを作るために新たな国や地域と交渉を進める」と演説する処です。(日経7月19日)

要は、G20サミットはもはや政策協調を通じて世界経済の発展を目指す場ではなくなってきたと云う事ですが、そこで世界は、勿論日本も含め、新たな相関図に即した戦略の再構築、新たな協調体制を模索していく事が焦眉の急と、映る処です。

(2)米中首脳会談in Osakaと世界の生業

・米中協議の行方
G20サミットを機会に大阪で行われた米中首脳会談こそは世界最大の関心事とされたものでしたが、その結果は報道されている通り、5月に決裂した閣僚級の貿易協議を再開する事、米国が中国製品3千億ドル分への追加関税を当面見送ることで折り合いがついたと云う事、そしてもう一つ、米政府が安全保障上、技術漏洩につながるとして、米企業の中国通信機器大手メーカ「フアーウエイ」への輸出規制措置について、トランプ氏はその制裁の緩和を表明したことで、結果、米中貿易戦争は一端 休戦入りとなっています。

ただし、米中協議継続について、7月9日、米USTRのライトハイザー代表が中国の劉鶴副首相と電話協議をしたと報道されてはいますが、その協議結果は明らかにされることなく、対面協議の予定も未だしの様相ですし、また中国側は協議再開の条件として、フアーウエイへの制裁措置解除を優先課題に掲げていたものの、具体的条件などは十分詰め切られている様子もなく、米中それぞれの国内事情とも相まって、合意の道筋が描けぬままにあり、交渉の長期化の恐れぬぐえず、と云った処です。

・貿易戦争休戦入りの背景
米中休戦入りの事情とは周知の通りで、トランプ氏の場合、米大統領選を控えたまさに個人的政治事情の他なく、大阪での米中首脳会談で習氏との合意ができたことに加え、サミットが終るや北朝鮮に赴き、金委員長と板門店で電撃会談するなど、要は2020年の大統領選での再選に向けた不確実要素を取り除いておきたい、と云う事と云え、要はトランプ支持層受けする行動専一と云う処です。それだけに出口戦略のない、ありていに云えばマッチポンプであり、その事こそが世界が不安要因となる処です。因みに米朝首脳会談でも肝心の核開発の全面停止発言も今では、‘金委員長と会談した’こと、だけを以ってトランプ支持層へアピールすることにあり、その結論に責任を取る様相はありません。

一方、習氏の場合、国家元首として10月1日、中国建国70周年の祝賀事業を最重視する事情から、停滞が云々される中国経済の立て直しが急務とされる処(注)、貿易戦争のリスクを金融緩和で回避せんと必死にあり、更には香港での民主化運動の広がり等、政治課題真っ只中にあり、従って、暫し貿易戦争は休戦に向かったということなのでしょう。

      (注) 7月15日発表の2019年4~6月GDP成長率(実質)は前年同期比6.2%、リーマン直
後の2009年1~3月期の6.4%を下回り、四半期ベースでは1992年以降で最低。長引く貿
易戦争が重しとなり、投資、消費が振るわなかった結果と。

つまり、トランプ氏の場合、2020年選挙に備え、中国とも北朝鮮とも協議再開で結論を先送りし、習氏も経済減速などで自らの基盤を揺るがす動きが国内から強まりかねない事態を警戒し、トランプ氏と妥協せざるを得なかった事情からすれば、対立の基本構図は変わることなく、従って米中合意の機運乏しく、具体的な協議のスケジュールのないまま、合意のハードルは5月の決裂前よりも上がっているのではと危惧する処です。 というのも、巷間トランプ氏の功績?は対中姿勢を硬化させたことではなく、中国への敵意を支配階層全体に広めた事(Financial Times, July 11)とされている点で、政治・外交の指導者や企業経営者は今や、中国との長期戦を支持しているとみられるからです。

さて、今次大阪サミットは、そうした政治と外交、そして貿易が密接に絡むパワーゲームが世界を翻弄する現実をリアルとする処でしたが、改めて覇権国家とは何かを問い直し、それにいかに抗していくべきか、新たな生業への挑戦が示唆される処です。

2. もう一つの米中経済関係:Counter-flow
― America and China are at each other’s throat, but also in each other’s pockets.

上述米中貿易戦争が深まる中、この対立の流れとは180度、異にする米中経済関係の深化
が進む業界があると、金融業界の結びつきの実相を7月6日付けThe Economist誌 は指摘
するのです。これもトランプ氏が事態をどのように認識し、如何なる行動に出るかで、大変
な結果が懸念される処、まずはその概要を紹介することとします。

・進捗する中国金融市場の開放
米中貿易戦争が始まって以降、中国と欧米の金融面での結びつきはむしろ深まる処、今後更に深化していく事になるとThe Economist誌は見るのです。確かに中国政府は金融市場の開放策を進めつつあり、昨年4月10日、習近平氏はアジアを中心に政財界の要人が集まるボ-アオ・アジアフォーラムで、国内市場を外資に開放するとし、昨年6月からは外資系金融会社に51%までの出資を認めたのですが、今年7月2日には、李克強首相は2020年からは外資による全額出資を容認する旨、発表。更に7月20日、外資格付け会社の業務拡大を柱とする11項目からなる金融市場の新たな開放策を発表しています。

周知の通り、中国の資本市場は今尚、発展途上の状況ですが、巨大なだけに、欧米企業が本格的に事業展開すれば、その水準を引き上げることにつながると見る処です。と云うのも中国がもっと資本を効率的に配分し、中国人の預金を生かしていく上で最優先すべき事だからと云うのです。

加えて中国はこれまでよりも海外の資本を必要としている事情を指摘する処です。つまり、中国の経常黒字は2007年のGDP比10%から昨年には同1%未満にまで減少しており、海外から安定的に資金の流入がなければ、人民元が下落し、不安を招くことの可能性が指摘される処、元米財務長官のヘンリー・ポールソン氏などは西側諸国の金融機関の中国進出を支持するのです。もとより、これらの動きを以って中国がすぐに市場経済の国に変るわけではありませんが、中国企業が透明性を高め、市場からの反応に対応し、知財権を尊重する方向へと繋がっていくはずだとする処です。
因みに、通信機器最大手のフアーウエイがHSBCを活用したように、中国企業が海外進出にあたって欧米の銀行を使うようになれば、汚職や制裁措置を巡るさまざまな国際ルールに従うことを余儀なくされていく事になるからと期待を込めて言うのです。

(注)Goldman Sachs推計が示唆する米中金融関係の深化
Goldmanの推計では、今後10年間で海外から中国株式市場に流入する投資額は
約1兆ドルに上り、中国は世界有数の投資先になると見る処、これには中国政府
が自国民には厳しい資本規制を課す一方で、外国投資家には株を売却し、資金
を国外に移すことを禁じていないことが大きいとするものです。

・米国 v 中国
米国が国際金融システムから中国を排除しようとすれば、中国は1945年以来、国際金融市場を支配してきたドル・ベースのシステムに代わるシステムをやがて構築することになろうし、そうなれば米中は今にも増して幅広い分野で対立を深めることになると云うのです。しかし中国は、当面は米中が貿易や技術を巡って対立しても、海外の投資家や外資企業の中国市場参入を歓迎し続けるだろうと想定しつつ、トランプ氏の行動にも照らし、関係を断ち切るより、築き上げる方が得られるものは大きいと締めるのですが、然りと云う処です。



第2章 新な国際環境と日本の目指すべき針路

― 高坂正堯の示唆
今から27年前、当時京都大学の国際政治学者、高坂正堯は「日本存亡のとき」(1992年)の中で、「日本は世界に影響を与える存在となった」と云い、しかし「世界のルールに進んで貢献しようとしない」、「これでは日本の発言力は強くならないし、警戒もされる」と警鐘をならしていたのです。 それは、日本人には国際環境を「気象」のような与件としてとらえ、それに対応することを以って外交と見做すところがあり、自らも加わって変えていく事ができるものとして国際環境をとらえることが少ないためだ、と指摘していたのです。

さて、国際環境の今は、本稿冒頭「はじめに」で定義したように、急速かつ多元的変化を示す処、では日本は如何なる道を歩むべきなのか問われる処です。これまで日本は、外交・安保においては日米同盟を基軸とし、国連中心の国際協調主義を土台としてきていますが、それを見直せと云う事になってきたと云う事です。現実には前述した通り、トランプ氏は日本が外交・安全保障の基軸とする「日米安保条約」について、米国にとり片務的だと批判し、その改定を迫る処です。それは自分の安全は自分で守れとのトランプ氏の趣旨に沿うものと承知する処、であれば、本来なら日本を含むアジアの平和を保つにはどうすればいいのか、となるのでしょうが、この際は日本としてトランプ発言を目覚まし時計として、日米安保体制の土台を強めるきっかけとして、日本の外交・安保をどのように考え、対応すべきか、上記高坂の指摘を心しながら、その針路について考えてみたいと思います。

1.日本の安全保障政策とトランプ氏の日米安保条約批判
 
(1)日本の安全保障政策の基本

・日米安保条約
日本の安保政策の基本軸となるのが日米安全保障条約です。周知の通り、この現行日米安保条約についてトランプ氏は、米側に負担が偏っている、不公平だと批判し、その修正を求めています。こうもおおっぴらに不満をぶつけた大統領は近年いません

そもそも日米安保条約とは、日本が独立を回復した1951年のサンフランシスコ講和条約と同時に署名され、1960年に岸伸介首相とアイゼンハワー米大統領のもとで全面改訂され、前文と10条からなる日米同盟の基礎となる条約です。60年の改定で日本が領域内で他国から武力攻撃を受けた際、日米両国が自国の憲法の規定に従って「共通の危険に対処するよう行動する」(5条)と定められ、陸海空の領域、サイバー空間などで日本が受けた攻撃に対し、米国には集団的自衛権を行使して防衛する義務が生じる事になっています。つまりトランプ氏のクレームは、米国が日本を防衛する義務を定めている反面、日本の自衛隊は米国を守ると規定していない点で、これでは不公平だと批判する処です、

尚、在日米軍との関係について、安保条約6条では米国は「日本の安全」と「極東における国際平和と安全の維持」に寄与するため、日本国内に米軍基地(施設・区域)を設置できるとされ、在日米軍が駐留する根拠となっています。では米軍の駐留経費ですが、米軍基地の土地代や施設・区域の提供は日本が負担し、米側の要請に応じて基地従業員の人件費や光熱水料も「思いやり予算」として日本が負担、2016年度より5年間の負担総額は約9465億円に上る処です。

・トランプ批判を受け止めて
トランプ批判については、一部にはこれから再開される日米通商交渉に向けた脅しだとする向きもあります。しかしこの発言が大統領選を見据えたものとすれば相応の真剣さがあり、従って正面から受け止める要ある処と思料するのです。とすれば日本としてはこれにどう応えてくか真剣に向き合っていく事が不可避と思料する処です。それはまさにGゼロ時代の日本の課題とも言え、不安定化する世界で日本はどう生きていけばいいのかを問う事になる処です。そこで、日本の安全保障政策の在り方(考え方)、そしてグローバル経済と日本経済の合理的な取り組みについても安全保障の一環として考察したいと思います。

(2) 日本の安全保障とグローバル化対応

・日米安保体制の土台の強化
日本の安保体制は前述の通り、日米安保条約に担保された同盟関係を前提とするものですが、日本の地政学的環境に照らすとき、今後もその前提に変わることはないものと思料するのです。勿論、合理的な日米関係維持のためには、環境に応じた、当該条約の見直しは自然なことと理解でき、それは体制土台の強化につながる処とも思料するのです。

仮に安保条約改定に臨むとして、その際は限られた資源の中で日本の安全を確保するために、できる事、できない事を、はっきりさせていくことが何としても肝要と思料するのです。そして米軍に対して「何を、どこまで」協力するのか、シナリオ別に米国と詰めておく事と思料するのです。勿論簡単なことでないこと承知の処ですが、要は日本の貢献が目に見える形で示されていく事で、これがただ乗り批判に対抗し易くなるのではと思料するのです。
尤も、現実の対米外交としてトランプ氏への過度な傾斜には功罪のある処、では日本が目指すべき持続可能な外交とは何か。それは多国間主義、国際ルールに重きを置いた外交と思料する処です。

尚、序で乍ら「安保防衛の視点から、国際的な軍事協力を図るためにも、自衛隊を国の正規の軍と明記する必要がある」、これが安倍首相をはじめとする改憲派の目指す現行憲法改正の事由です。しかし2015年の安保法制の改正で、国会の承認を得て一定の範囲での軍事協力は可能となっています。そして多くの場合、防衛戦略論として出てくるのが軍備拡充論ですが、これもいくら核装備を持ったとして、使用できないのが現実です。
その点で意識を新たにしなければならないことは、現代において、攻撃は何も軍事的なものだけではないと云う事です。ビジネス的な攻撃もあり、国際的な経済ルールを日本が非常に不利に策定されてしまう事だってあるのです。つまり、日米同盟と云う事で思考停止せず、グローバルな経済対応も、安全保障の一環として戦略的に取り組んでいく、つまり防衛も、経済も全方位での外交を心がけていかねばならないと云う事です。

・国際協調主義の堅持―多極化する世界で大事なのは仲間
多極化する世界にあって仲間は大事な要素です。とりわけ日本の置かれた地政学的環境にあっては、お友達をたくさん作る事は絶対的条件です。そして彼らと組んで新しい世界秩序を模索する、これこそは多極化する世界に対峙していく姿勢であり、日本が矜持とする処と思料するのです。

先の弊論考7月号で紹介したFinancial TimesのM. Wolf氏は、米国への対抗も含め自由貿易を堅持するためにも例えばEUと日本の間で共同歩調を維持すべきと提案していましたが、その文脈において、この際は日本が主導してきたTPPとEUの大連携構想を進めてはと思料する処です。これが狙いとするのは、経済面に止まらず自由貿易や多国間の貿易体制を守り続けると云う政治的メッセージにある処です。勿論、日欧間で米国を無視するかのような貿易構想が浮上しているといった誤解を招くのは禁物ですが(上述ウルフ氏はその点、無視していますが)多国間で自由貿易を盛り立てる努力は欠かせない事と思料するのです。

加えて、日本がやらねばならないことは、世界共通の課題、グローバルイシューに対して汗をかいていく事でしょう。例えば、今次G20サミット宣言でも謳われた海洋プラステイック投棄問題、「ブルー・オーシャン・ビジョン」です。それは2050年までにプラステイックごみの海洋投棄をゼロにするというものですが、まずは日本として当該ビジョンの具体化を主導することでしょう。そうすれば日本は国際社会から尊敬され、スポイルされるような目にあうことはなくなるはずです。これら取り組みは日本のためと云うこともさることながら、地域連携の強化、グロバリイムズの堅持に貢献する処であり、世界的な広がりを持った戦略対応と云うもので、大阪宣言の有言実行を狙う処でもあるのです。

・ホルムズ海峡の安全確保と有志連合
さて時まさに、トランプ政権は2018年5月9日、イラン核合意から離脱、米・イの関係は悪化が進むさなか、トランプ大統領は7月18日、ホルムズ海峡で米強襲揚陸艦「ボクサー」がイランの小型無人機を撃墜したと明らかにする一方、自国の船は自国で守れとのトランプ大統領の持論を踏まえ、米側はホルムズ海峡の安全確保を名目に、有志連合の結成に動き出し、日本にも有志連合の一員として民間船舶を擁護するよう呼び掛けています。
要は、同盟国に安全保障の分担を求める姿勢ですが、原油の8割超を中東に依存する日本にとって待ったなしの課題です。仮に日本が有志連合に参加したとして、イランとの関係が変わるだけでなく、米中対立に巻きこまれる恐れもあります。つまりは中国や東南アジアを含むアジア全体でエネルギー安全保障をどう実現していくか、日本はこの視点を欠くわけにはいかない筈です。21日、参院選を終えてのNHK番組に出演した安倍首相はイランとの友好関係につて問われ「ホルムズ海峡が波静かになるよう日本の役割を果たしたい」と強調していました。外交・安保は現実路線で進めるべきとされる処、さて安倍政権はどのように応えようとするのか。その推移は極めて気がかりとする処です。
 
2.対韓輸出規制問題
    ―日本政府が切った対韓輸出規制強化のカード

日本政府は7月1日、韓国への半導体材料、3品目(フツ化水素、フツ化水素ポリイシド、レジスト)について輸出規制を厳しくする旨を発表。当該3品目については個別に審査・許可する方式に切り替えることとし、4日から発動しています。そして今夏中に安全保障上の友好国である「ホワイト国」の指定も、削除すると云うものです。規制対象品のレジストは日本の世界シェアが9割、フッ化水素(エッチングガス)も9割前後にあり、これら製品の日本国内での輸出手続きに時間がかかるとなると、韓国電機産業の生産への影響大なる事、言うまでもなく、図らずも韓国が誇る世界最先端機器に日本の材料や部品が欠かせない関係性が明るみに出た次第です。

これまで度重なる政治摩擦に曝されながら経済界や民間は互いに相手を認め、補い合ってきたとされていました。が、日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた判決で、三権分流を盾に実効的な対策を打とうとしない韓国政府を動かさんと、日本政府は交渉カードを切ったと思料され、とすれば、今回の決定は、日本政府は否定してはいるものの、元徴用工訴訟を
巡る韓国への事実上の対抗措置と見受けられる処です。先のG20サミットで安倍首相が議長国として公表した「大阪宣言」では自由で公正な貿易の重要性を訴えたばかりでした。
中国の台頭や北朝鮮問題に対峙する隣国が角を突き合わせているだけでよいわけはありません。米軍を交えた安全保障協力への影響も避けられないのではと思料する処、20日にはトランプ大統領は要請があれば仲介役を買ってもいいと云いだしています。

韓国は、日本が日韓請求権協定(1965年)に基づき元徴用工訴訟について要請していた仲裁委員会の設置には応じない方針を示す一方で、日本の半導体材料の輸出規制強化では、WTOへの提訴を決めたと報じられる処です。日韓関係は悪化の一途と云う処ですが、とにかく、もつれた糸をほぐすには外交しかなく、日韓の場合、首脳会談と云う事になるのでしょうが、その点で両政府は外交を取り戻す機会を探るべきと痛く思う処です。

さて、韓国中央銀行は18日、電撃的な利下げ(政策金利を0.25%引き下げ,年1.5%に)に
踏み切りました。「中国」と「半導体」への依存度の高い韓国経済は、米中貿易戦争と半導
体メモリーの市況悪化で減速感が強まっている折、日本の半導体材料の輸出規制強化が追
い打ちとなって経済の不確実性が一層強まったと、3年ぶりの金融緩和に舵を切ったと云
う事ですが、今回の措置では不十分と早くも追加利下げを求める声が上がっている由です。
とにかく上述努力を含め、日韓の友好関係の恢復を念じるばかりです。



おわりに 令和、初の国政(参院)選挙と安倍政権

さて、令和初の国政選挙、参院選も終わり今、安倍政治はbeautiful harmonyを追求する環境を得たと云う処でしょうか。選挙結果は周知の通りで、自民党は改選議席124議席中、57議席、公明党が14議席、与党としては改選過半数の63を上回る71議席を獲得、安倍自民党総裁は自民党の勝利を宣言しています。但し自民党自身、全体で57議席を得たものの、改選66議席から9議席減らして自民単独過半数を失っているのです。
とは言え、これで安倍自民党は2012年12月の衆院選から、国政に6連勝し、6年半以上続く長期政権の基盤を更に固めたとされる処です。しかし、彼が公約と掲げた改憲ですが、その改憲発議に必要な参院の3分の2の議席数には及ばずでした。序で乍ら、選挙戦の争点とされている「改憲」を公約とすることについて、実は選挙戦ぎりぎりまで様子見にあったと伝えられていましたが、その姿勢が何を意味するか、関心の沸く処、いずれにせよ9月に予定される内閣改造では、改憲を見据えた布陣となるのでしょう。

21日夕刻のNHKテレビ番組に現れた安倍首相は、今次選挙結果について意見を求められ「国民は安定した政治基盤のもとに、政策を進め、外交を展開し、国益を守れという判断をした」と応じ、以って改憲論議を深めるべきとの民意が示されたと強調するのでした。しかし、世論調査では近時国民の関心事のトップは常に社会保障問題です。しかし、超高齢化社会を見すえた社会保障制度も改革など、大胆な改革は先送りのままにあるのです。憲法改正となると、その前提として日本の国家像の明示が不可欠ですが、勿論それもないままです。

次に、残る総裁任期(21年9月)での課題は何かと問われ、安倍首相は次の3点を挙げています。一つは「北朝鮮による日本人拉致問題」、二つに「日ロ平和条約の締結」、そして三つめとして「デフレ脱却」をあげるのでした。しかし前二項は、「戦後外交の総決算」として、既に幾度となく挙げながらも聊かの前進を見ることもないままにある処です。又 デフレ脱却にしてもアベノミクス3本の矢の三つ目の矢の問題ですが、あれだけ騒いだ、経済成長のための「第3の矢」と云う言葉はほとんど聞くことはなくなっています。どう理解すればいいのでしょうか。
偶々23日、内閣府が発表した今年度の経済財政白書では日本経済の課題に切り込むよりも、既存の政策の正当性を補強する色合いが濃いものとなっています。要は不都合な事実から目をそらす現政権の姿勢を映す処と云え、これからもそれが続くことになるかと思うと、なんとも耐えがたいもの禁じ得ないのです。
以上 (2019/7/26 記)
posted by 林川眞善 at 14:37| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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