2019年03月14日

2019年3月特別号  深まるデジタル革命、そしてクルマは社会のデバイスに - 林川眞善

― 目  次 -

はじめに 歴史の中に見る産業 ‘革命’のかたち

(1)‘革命’のかたち/ ・デジタル革命
(2)本稿テーマに至る思考回路


第1章 デジタル革命と産業の構造変化   
    - 自動車メーカの場合

1. デジタル革命 、そのトリガーの進化

(1)AI(人工知能)の進化 
・{AI}の開花 / ・AIとAI技
・「量子コンピューター」の登場
(2)「5G元年」を告げる米CES(家電・技術国際見本市)
・次世代スーパー・コンピュータ(ポスト京)

2.産業の現場に見るデジタル革命対応、自動車メーカーの場合
      -クルマは、社会のデバイスに

(1)`Tech tinkers under the hood ‘
         - Financial Times, Rana Foroohar氏
(2)日独 2大自動車メーカの取り組み
 ①「トヨタ」の場合
 ② ダイムラー、ツエッチェCEOの「CASE」戦略
(3)クルマは、社会のデバイス(情報機器)


第2章 デジタル革命が齎す課題  
            
1.AI技術はdual use ― 今、必要な‘安全保障’の再定義
・華為技術(フアーウエイ)と、5G時代の地政学リスク

2. New Monopolyの出現と、競争政策
・competition revolution
・独シーメンス、ジョー・ケーザーCEO


おわりに 平成という時代の終わりに
・マインドのリセット
・日本のカルチャー
(2019/3/10記)
     
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


はじめに 歴史の中に見る‘革命’のかたち

(1)‘革命’のかたち

これまでの歴史の中では、いろいろな‘革命’が云々されてきました。「宗教革命」があり、「市民革命」があり、その後に起きた「産業革命」があり、そして‘今’がその延長線上にあると云うものです。それぞれの革命には相応のトリガー(技術革新)があり、それが経済社会のシステムを大きく変化させていく、その生業こそが `革命‘とされる処です。

云うまでもなく、前者、宗教革命と市民革命のトリガーとなったと云われるのがグーテンベルグの活版印刷技術。以ってこれが仕掛ける変化であった事は周知の処です。聖書などの「思想」を紙に印刷し、広くバラマキ、その結果は当時の「神」を中心とした思想から、人間を中心とした思想へと、思想そのものが大きく変化する中、そこから生まれたのが「民主主義」でした。この民主主義の登場は、社会システムまでもが大きく変化して行ったと云うもので、フランス革命、然り、アメリカ合衆国の独立しかりとされる処です。

そして次に起きた「産業革命」は周知の通り、エンジンやモーターの発明がトリガーとなるもので、それによって「生産物流システム」が大きく塗り変えられていったと云うものです。
つまりエンジンやモーターの登場で、巨大工場が生まれ、それが鉄道や自動車によって世界中で繋がり、グローバルな生産物流システムへと発展して行ったものです。そしてそれを推進する力となったのが「資本主義」であり、そこから「大企業」が生まれ台頭していった姿をそこに見る処です。 つまり、産業革命とは「生産物流システム」をグローバルに変えた出来事だったと総括できる処です。

・デジタル革命
そして今、Digital transformation、Digital disruptionと言った言葉が連日飛び交う処ですが、これが情報通信技術、高度デジタル技術の急速な進化に誘導される産業構造の変化といえ、以ってデジタル革命と称される処、その革命を背にした新たな産業の革命始動を感じさせられると云うものです。因みに、本年、年頭のメデイアを飾った言葉は、デジタル革命の核心たる人工知能「AI」でした。そし 今年1月8、米ラスベガスで開かれた米CESで発表された高速通信規格「5G」の実用化は、更なるデジタル革命を促進させる要因となる処です。

その変化は、後述するように、システムとして、時間的制約、距離的制約を受けることなく、自由自在に情報交流が可能となるだけに、これまでの様な企業におけるタテの流れだけでなく、フラットな情報流の広がりが想定され、人口減少、労働力人口の減少への対抗ともなる事、云うまでもなく、社会と個人の結び付き方にも構造的変化を齎す処です。
勿論、これまでなれ親しんだ産業論や競争政策の在り方等、資本主義経済の論理基盤すら変更を促す処、更には安全保障の在り姿にも大きな変革が不可避となると云うものです。

そこで、デジタル革命は、今後何をどう変えていく事になるのか、その変化を促す核心たるAI事情をレビューしながら「デジタル革命」とはどういったことか、この際は、進化する高度情報化と産業革新に絞り、当該新環境の本質をただしながら、その実証として革新的変化を露わとする自動車メーカーに的を絞り、現状とその行方を追う事としたいと思います。

(2)本稿テーマに至る思考回路

尚、自動車産業にフォーカスするに至った経緯は、この1年、以下メデイアを通じて承知
する自動車産業の変化こそは、デジタル革命の実践者と認識したためで、それは同時に、筆者が抱いてきた予ての産業論の変革を促すプロセスともなるものでした。

まず一つは、2018年1月、 豊田トヨタ社長は米国で「トヨタは自動車メーカーからモビリテイ・カンパニーになる」と宣言し、同年5月のトヨタの決算発表時、「まさに‘未知の世界’での‘生死を掛けた闘い’が始まっている」ともコメントしていた事でした。過去最高の利益を更新する社長の言です。それは人工知能(AI)や、あらゆるモノがネットに繋がるIoT等、新しいテクノロジーの進化によりクルマの概念やクルマを取り巻く社会構造が大きく変わろうとしている事への挑戦を示唆する処と、感じ入った事でした。

序でながら、そもそも近代的な自動車産業の始まりをT型フォード(1908年)とすれば、この百年余、世界戦争の時間を外し、産業の生業は、大量生産、大量消費経済が進むなか、自動車メーカーを頂点とする産業構造が出来上がってきた事周知の処です。そして自動車産業を巡る環境変化への対応には、競争維持の視点からは大規模投資を不可避とし、しかもそれがclosedlyに進められてきたわけで、従ってこのクローズド・アーキテクチャーでは、規模が最大の競争力とされる処です。つまり規模に成長を循環させる仕組みがあり、それこそが自動車産業が装置産業と言われる所以です。処が、自動車産業はいま異業種から最も攻撃される産業となってきたと云うものです。

つまり自動車がデジタル化から取り残された巨大市場であるという事で、それが意味するのは、掘り起こせる大量のデーターと、生み出される価値が、最期に残された‘大油田’に見えるからで、米IT大手企業が当該市場に参入をしてきていることに象徴される処です。
そうした情報化が齎す新たな環境に、当事者たる自動車メーカーは危機感を強め、新たな革新を目指さんとすることにある処と思料するのです。

もう一つは11月19日の日産ゴーン元会長の逮捕で同社の先行きは如何?と危機感すら抱いていた折、偶々目にしたのが12月3日付Financial Timesに掲載あったRana Foroohar記者の投稿記事 ‘Tech tinkers under the hood’ でした。その内容は、筆者にとって極めて問題意識を鮮明とさせるものでした。周知の通り12月初め、GMはトランプ関税政策への対抗として、米国とカナダの5つの工場を閉鎖し、操業拠点を他に移す事を決定。これにトランプ氏も労組も、雇用の流失だと非難する中、同記事は、GMがいま直面している最大の課題は、労働コストやアウトソーシングや鉄鋼関税の問題ではない、真の問題はクルマが高度な情報機器へと変わろうとしている時代に、自動車業界全体の経済的価値の大きな部分を押さえることが出来るのかと、問うものでした。

そして今年、年頭のメデイアに踊った文字がAI(人工知能)でしたが、更に1月に米国で開催された二つのeventsの持つ意義でした。つまり1月7日、米ラスベガスでスタートしたCES (International Consumer Electronics Show)で、「5G」、つまり高速通信システム時代の幕開けが語られ、プラットフォーマー主導の自動車メーカーの変容が注目を呼ぶ処だったことでした。
加えて、これまで毎年1月、デトロイトで行われてきた「北米国際オートショウー(North American International Auto Show)」の開催が来年、2020年からは6月開催と決定された事です。と云うのもクルマとITの融合が進み、自動運転やAI等の新技術を披露する場がCESに移ったとの認識が高まるなか、CESとの競合を避けるため今後は自動車だけではなくIT企業なども広く呼び込もうという事で、開催時期を変更するということで、その‘変更’自体、デジタル革命の何であるかを、強く感じさせられたという事にあったのです。


第 1章 デジタル革命と産業の構造変化
         - 自動車メーカーの場合

1.デジタル革命、そのトリガーの進化

現下で進むICT,高度情報通信テクノロジーの進化が促す ‘変革’とは、前述、「はじめに」で指摘したこれまでの革命の「かたち」とは聊か異なる様相にあります。つまり、18世紀中頃から19世紀にかけて起きた ‘革命のかたち’は、機械制工場と蒸気力の利用を中心とした技術革新が起こり、それに伴う社会の変化が起こってきたということで、言うなればその変革はlinearな形で進んできたというものです。然し今、我々が対峙するその姿は、20世紀中頃からのコンピューター(AI)の導入で人の限界を超えた演算が可能となり、更に大量のデーター、情報が、高度に発達した情報通信技術を経て産業横断的に伝達されていく事が可能となった事で、いわゆる全産業横断的、multiな形での変化が進む、まさにデジタル革命を演出する処、そこでまず、当該革命を促すAIと5Gの実際をレビューしたいと思います。

(1)AI(人工知脳)の進化

・「AI」の開花
前述したように2019年元旦のメデイアを飾った言葉の一つが「AI」(Artificial Intelligence:人工知能)でした。 1960年代そして80年代と、2度のブームを経ていま、AIが開花していると云うものです。過去のブームでは、未来的な世界を実現だけの技術が手に入らず研究が萎んでしまったと、メデイアの伝える処ですが、今次、云々されるAIの開花とは、インターネット上を大量のデータが行き交い、これを用いた深層学習(デイープ・ラーニンブ)で、AIを磨けるようになったことと云うものです。つまり、人工知能とはデータ処理のツールであり、「機械学習」と「深層学習」に代表されるものですが、わかりやすく言えば、大量のデータのなかから、パッターンを見つけ出す学習方法で、これが半導体の処理速度の向上とともに、人間の脳の構造をまねたニューラルネットワーク(神経回路網)を利用することで磨きがかかっているという事です。

そして、これが意味することは、これまでマシン(機械)と云う筋力を使って人は可能性を切り開いてきましたが今後は知力においてもマシンが伴奏者になることを意味する処となり、その革新とは、価値の創出に知恵を絞っていく、つまりこれからの資本主義は、脳が価値であり対価となる「頭脳資本主義」(日経2019/1/1)になるともされ、資本主義のコンセプトを変える進化と云う処です。。

元より、高度に開発されるAI技術が産業に応用され、またAIロボットとして導入されていく事で、当該産業の生産性の向上が促され、産業の構造的変化を促す処となり、それは、digital transformation(創造的破壊)が進む一方で、その過程では新たな産業も現れてくるとされる変化です。云うまでもなく、AIロボットの導入は産業に留まることなく、医療、介護、教育等々、広く民生に及ぶ処、当該職場の効率化、生産性の向上等々、実践的に理解しやすい存在となる処です。尚1月15日、厚労省が公表した就業者の長期推計によると、AI等新技術の進展で2017~2040年の間に年率0.8%程度の生産性が見込めるとしています。

・AIとAI技術
尚、新聞等で見る記事にはAI(人工知能)とAI技術、つまりAI開発に向けた技術開発とごっちゃ混ぜにした議論が目につきます。この点、数学者で国立情報学研究所教授の新井紀子氏は同氏近刊「AI vs 教科書が読めない子どもたち」で、次元を異にする話と明快に指摘した上で、AI、人工知能とはそれ自体が独立した「AIロボット」と云う存在であること、AI技術とはAIを進化開発させていく上での技術であること、この違いを理解しておくことが今後へのカギだと指摘するのです。つまりAIはコンピューターであり、つまりコンピューターは計算機であり、計算しかできない、ましてや人間の脳を超えるという、まさにAIが‘頭脳’になるという転換点を意味する「シンギユラリテイ」(注)に達することは起りえないと断じるのです。

(注)シンギュラリテイ(singularity:特異点):人間の知性をAI(人工知能)が超え、加速度的
に進化する転換点を意味する言葉。米国の未来学者、レイ・カーツワイル氏が、その時期の到来
を2045年と予想するもので、人間が担ってきた高度で複雑な知的作業の大半をAIが代替する
ようになり、経済や社会に多大なインパクトを齎すと考えられている転換点を指す。

つまり「真の意味でのAI」が人間と同等の知能を得るには、我々が認識している事をすべて計算可能な数式に置き換えることが出来ることを意味することで、今の処、数学で数式に置き換えることが出来るのは、論理的に云える事、統計的に云えること、確率的に云えることの3つだけで、われわれの認識を、全て論理、統計、確率に還元することはできないからというのですが、議論はまだまだ続く処です。

・‘量子コンピューター’の登場
ただ、「量子コンピューター」の登場で、その様相は変わってきたようです。つまり、デジタル革命を一変させると見られてきた「量子コンピュータ」の実用化が、2011年、カナダのベンチャー企業D.ウエーブ・システムズによって開始され、更に、米グーグルが「この量子コンピューターの処理速度はスパコンの1億倍、消費電力はスパコンの500分の1」と検証したことで、米国ではグーグル、やマイクロソフト、インテルなどが、そして、中国では政府と共同でアリババ、百度(バイドオ)が、量子コンピューター開発に参戦する処と報じられています。(日経2019/2/18)

この量子コンピューターは、極微の世界の物理法則を示す量子力学をヒントに、開発が進められているもので、D.ウエーブの量子コンピューターは現在のコンピューターでは解くことが難しい「組み合わせ最適化問題」を解くための専用マシンとされるものですが、この量子コンピューターと人工知能(AI)が結べば、上述AIが人間の知性を超える「シンギュラリテイ」の達成が早まると見られる処です。その限りにおいてシンギュラリテイ問題は ‘量子’の世界にシフトする処と云え、唯々その推移を注視するばかりです。

(2)「5G元年」を告げる2019年米CES (家電・技術国際見本市)

更に、今年1月8~11日、米ラスベガスで開かれた米CES(International Consumer Electronics Show)は、「5G」、つまり高速通信システム時代の幕開けを告知するものでしたが、その場で何よりも注目を呼んだのがプラットフォーマー主導の自動車産業の変容でした。
つまり、現在の通信の100倍もの速度でデータのやり取りが出来る高速通信規格「5G」が、今年から実用化に向かうとされ、クルマへの活用などデータにまつわるビジネスに大きな商機が生み出されることが想定される処、これがDigital Transformationを促進させ、産業構造を大きく変える可能性を鮮明とする処です。周知の通り、現行4Gの通信速度は携帯電話をスマホに進化させてきました。米アップルやグーグル等クラウド技術を活用したIT大手が急成長し、情報の価値が競争力を決める「データ経済」を拓いてきましたが、5Gはこれを更に加速させると云うものです。

5Gの時代は、様々な産業が「場所」という制約から解放される一方で、通信の遅延の少なさは、これまでITとは縁の薄かった産業の変革も促すことになっていく処ですし、前述したように、その姿は全産業wiseに進むdisruptionと呼称される革命的な変容を齎すことになる処です。まさに「5G元年」(注)です。 

    (注) 通信システム技術の進化:GはGeneration の略
1 G:アナログ携帯電話(80~90年代)
2 G:デイジタル化とデータ通信(90年代)
    3 G:国際電気通信連合(国連ITU)が国際標準化を推進
4 G:モバイルネットワークの第4世代技術
5 G:「モバイルネットワークの第5世代技術」で、「第5世代移動通信システム」

先のトヨタ社長の発言ではありませんが、未知の世界への挑戦が可能となってきたと云う事といえるのですが、今次の米国際家電見本市CES(International Consumer Electronics Show) は、それをリアルに見せつける場となった事で、企業にとって2019年は、AI,人工知能時代に適応できる経営の具体化が問われる年になったというものです。

・次世代 スーパー・コンピュータ(ポスト京) 
序でながら、日本では、国産スパコン「京」の後継機で、2019年度から設置に着手し、21年度にも運用開始予定と報じられています。(日経、2019/2/18) 大量のデータを活用する経済活動が活発になる中、スパコンで人工的なデータを無尽蔵に生み出して画期的な新薬や革新的な生産技術の開発につなげると云うものです。(官民で約1300億円を投じて、先行する米中を追うというもので、開発は理研と富士通が担当すると云うものです。)

人工データとは、シミユレーション技術によって実際には存在しない仮想的なデータを新たに作りだす事になると云うもので、「通常は現実の実験データ等を大量に集めて分析するが、ポスト京によるシミュレーションは今までにないデータを生成できる強力なツール
になる」と、加藤千幸東大教授は語る処です。つまり、人工データで大量に仮想的なデータを生み出してAIで学習・分析すれば従来にない新しい知見が得られる。米国の「GAFA」によるデータの独占が問題視される中、人工データは有力な対抗手段にもなり得ると云うものです。そして、期待される分野として挙げられるのが、薬の開発、自然災害研究(大量データが得にくい)、自動車、飛行機の開発で、実機を使った試験などを代替でき、開発期間やコストの大 幅削減が可能と言われており、期待される処です。

2.産業の現場にみるデジタル革命対応、自動車メーカーの場合
     -クルマは社会のデバイスに

こうした「AIの進化」、「5G元年」を受け、産業の現場はどう反応するのか。そこで、前述の通り、この際は自動車メーカーにフォーカスし、変化への対応状況を追うこととします。
その点では「はじめに」の項で触れたFinancial Times、Rana Foroohar氏の自動車産業に向けた鋭い記事 ‘Tech tinkers under the hood’(自動車大手の技術者は鋳掛屋?)は、当該メーカーが対峙する問題点を極めて鮮明とする処、そこで改めて同記事をレビューし、トヨタの取り組み戦略、そしてその姿に映るダイムラーの選択を、考察することとします。

(1)‘Tech tinkers under the hood’ 

当該記事は先に触れたように、GMがトランプ関税政策に対抗して、操業拠点を米国内から他国に移転させると決定した事について、これを批判するトランプ氏や労組とも併せ、両者、GMも労組も問題の視点がずれていると指摘するのです。つまり、GMがいま直面している最大の課題は、労働コストや鉄鋼関税の問題ではなく、クルマが高度な情報機器 (a smart device ) へと変わろうとしている時代に、自動車業界全体の経済的価値の大きな部分を押さえることが出来るか、と質すものでした。

その為には、自動車メーカーながら同業の自動車各社からではなく、携帯電話メーカー、ノキアの失敗に学ぶべきとアドバイスするのです。ノキアはかつて大成功を納めた企業。然し、同社の業績は2011年に急落、その後回復することはなかった。その最大の原因は機器の価値が「ハード中心からソフト中心へと転換していく動き」に迅速に対応することが出来なかった為とする、同社説明にたいして、それはそのとおりとしながらも、同社はもっと深い処で起きている変化を見落としていた為だったと指摘するのです。それは価値の大部分がハードからソフトにシフトしていくだけでなく、様々なソフトがその上で動くプラットフォームに価値が移っていくと言う点を、見過ごしていた事にあったと言うのです。

現時点ではクルマの価値の約90%はハードが占めているが、自動運転やいろいろのデジタルアプリがクルマの価値を高めていくようになるに従い、このハードとソフトの価値の比率は劇的に変わっていく筈と云うのです。因みに金融大手モルガン・スタンレーの予測ではautonomous vehicles(自動運転車)の場合、the value of an automobile(自動車価値)の40%がハード、40%がソフト、残りの20%が外から流れ込むコンテンツが占めることになる処、そのコンテンツとは、ソフトを通じて得られるゲームや広告、ニュース等だと指摘する処です。

そこでGMにとっての課題とは、この変革の時代に、自動車メーカーとして意味ある存在であり続けられるかと質すのです。つまり、クルマ関連のソフトやアプリで今最も進んだ技術を持つのはグーグルやアップルなどIT企業である事、実際、彼らは自動運転技術とその基盤となるプラットフォームの開発に巨額の資金を投じている処、当該分野は自動車メーカー各社が現在、開発を進めている領域でもあり、こうした情報を新たな商品やサービスを通じてクルマに提供できるようになれば、自動車メーカーは大きな対価を得るようになると指摘する処です。

更に、プラットフォームを持つ強みは、その企業がユーザーの30~40%を握って、ようやく発揮することが可能になる処、多くのソフト開発者は、そのくらいの規模のユーザーがいなければそのエコシステムを利用しようとはならない。従って、その規模のシェアーを確保する為には、世界の自動車各社は手を結ぶ必要があると云い、こうした共同開発は、国や業界をも超えて進めるのが理想だと云うのでした。
そこで 興味深かったのは、当該記事に対する挿絵でした。それは携帯スマホオをChassis(シャーシ)と見立てて、その上にBody(車体)が載る図でした。

加えて面白いのが、この記事を締める以下のphraseでした。
「・・・But such collaboration, which ideally should happen across geographies and even sectors, will not be made easier by the US president putting up trade barriers and looking to play the blame game.」 と。 つまり、貿易に様々な障壁を設け、自国の問題を他国の所為にしているような大統領がいる限り、そうした協力関係を進める事は難しいと、細やか乍らのトランプ批判を残すのです。

要は、自動車メーカーが産業の「主役」で居続ける時代はおわり、業種の垣根を超えた連携で付加価値を高めなければ生き残れない時代に移りつつあることへの警鐘を鳴らすものでした。尚、GMのメアリー・バーラCEOはリストラを進め、モビリテイーサービス会社への転換を目指すとしていますが、トランプ氏が足枷となっていると、伝えられる処です。

(2)日独、2大自動車メーカーの取り組み

① 「トヨタ」の場合

これまでトヨタはモノづくりの「技術」、トヨタ生産方式と徹底した合理化で競争優位を維持し続けてきています。然し、既に「はじめに」の項で記した通り、AIやIoT等、新たなテクノロジーの進化によって、クルマの概念やクルマを取り巻く社会構造が大きく変わろうとしている環境に照らし、もはやトヨタといえど過去の延長線上に未来を描くことが難しくなってきたと、自動車メーカー・トヨタはモビリテイ(移動)に関わるあらゆるサービスを提供する会社「モビリテイ・カンパニー」になると昨年1月の米モーターショウで宣言し、その具体化を推進中の事、周知の処です。

更に、今次の「CES」開催に合わせ7日、トヨタがラスベガスで開いた記者会見では、人工知能(AI)研究子会社、トヨタ・リサーチ・インステイチュート(TRI)のギル・プラットCEOが登壇「トヨタは自動運転で多くの命を救う義務がある」と語り、自社の車両に搭載予定だったガーデイアン[各種センサーなどドライバーの状況を観察し、危険な状況では運転を代わり、事故を防ぐ技術] を「自動車業界に提供する」旨を、明らかにする処です。(日経 1月9日)

確かに、トヨタのデジタル社会への対応は筆者の心をとらえる処でしたが、実はその2年前の2016年9月、ダイムラーのデイーター・ツエッチエCEOは、パリサロン(Mondial de L’Automobile:国際自動車展示会)で、デジタル革命を見据えたツエッチエ戦略(次項)を発表し、斯界の注目を引く処でした。そして今年、2月22日、ダイムラーは、2018年3月、独BWMとの統合で合意したモビリテイサービス事業の稼働開始を発表したのです。
そして、ツエッチエCEOは事業開始発表時の記者会見で「時代は変化している。新分野でも開拓者になる必要がある」(日経 2019/2/24)と発言していたのです。そこで、改めて、ダイムラーの選択をレビューする事としたいと思います。

②  ダイムラー、ツエッチエCEOの「CASE」戦略

さて、ツエッチエ氏は2006年、ダイムラーの取締役会会長に就任した仁です。就任当時の同社の営業利益は、28億ユーロに過ぎなかったそれを、2017年には163億ユーロにと大きく改善を喫し、営業利益ではトヨタに次いで自動車メーカー世界第2位となったのですが、唯一の問題は、株価の低迷が続いていることだったとされていたのです。それは、要は「伝統的自動車は破壊される」との評価が株式市場に定着していたためだとされていた由で、そこで、それから脱皮するためにはと、新しいクルマ社会、未来型モビリテイへの道筋を示すべきと、上記2016年9月のパリサロンでツエッチエ氏は新たな戦略を発表したという経緯があったのです。それは「CASE」戦略とするものです。
「CASE」とは、「C=Connected (コネクテッド)」「A=Autonomous(自動運転)」「S=Shared & Service (シェアリング&サービス)」「E=Electric (電動化)」の自動車産業の4つの重要なトレンドの頭文字を取った言葉ですが、これはダイムラーによる造語です。

・CASEの世界 (注)
クルマがネットワークに常時接続されたIoT端末となり、自動運転技術の普及でドライバーは運転タスクから解放され、一方、クルマの価値は所有者だけではなくなり、共有し利用する価値を生み出していく。そして全く新しいモビリテイ価値を支える原動力は、排ガスのないクリーンな電気が支えていく。これが「CASE」の世界だとするものです。元よりこれら4つのトレンドを個別に見据えることではなく、4つのトレンドが複合的に継ぎ目なくパッケージされたとき、クルマの価値に革命的な変化が起こるというのです。

こうした革命的変化を自動車メーカーのダイムラー自らが主導する、破壊者側に立つと云うメッセージだったと云え、同時に、ダイムラー自らの存在意義を見直し、破壊者としてその主導者の地位を確立したいとの決意表明だったと云うものです。電動化とデジタル化が誘導した世界は自動車メーカー、関連産業の在り方、価値、概念を根本から変えてしまうデジタル革命に繋がると云うものです。 (注:この項、中西孝樹「CASE 革命」に負う)

(3)クルマは社会のデバイス(情報機器)

かくして、クルマから得られる移動や渋滞の走行データはビッグデータとなり、分析・利用すれば様々なモビリテイ・サービスを生み出すことが可能となり、以って誰もが自由に移動できる都市や社会が再設計され、社会インフラとしてのクルマの価値や交通システムにも大きな変化が起き、最終的に、前掲Foroohar氏が指摘していたように、クルマは社会のデバイスになっていく事になると云うものです。そして、AIを基にした超スマートシテイが築かれ、社会課題の解決を可能とする処、これらの総ての基盤がコネクテッドにある点で、まさに新しいかたちの革命、デジタル革命を理解する処です。


第2章.深化するDigitalizationに係る課題

1.AI技術はdual use ― 今必要な安全保障再定義

AI技術はDual Useとの指摘のある処、ロボットと云えば日本では産業、生活分野ですが、米国では軍備装備の強化と言った防衛分野を連想する場合が多い処です。各時代で先端だった技術はマイクロソフトやグーグルを成長させ、産業の新陳代謝を促してきましたが、産業構造を変えかねない5G技術は国家をも巻き込み始める処です。

・華為技術(フアーウエイ)と、5G時代の地政学的リスク
5Gの通信基地局開発では中国の華為技術(フアーウエイ)と北欧のエリクソン、ノキア
が先行しているが、トランプ米政権は新たな社会インフラとも言える5Gを中国企業に押さえられることを強く警戒。フアーウエイ製品の締め出しや幹部(フアーウエイ孟副会長)のカナダでの逮捕の底流には「5G」があるとされている。その華為技術は1月24日,「5G」向けの半導体を開発したと発表。米企業に技術で先行しシェアー拡大を狙うものでしょうが、現下の米中対立が先鋭化する中、まさに「テクノ冷戦」(イアン・ブレマー氏)と云う、新たな地政学的リスクの高まる処です。改めて5G時代の安全保障の在り方、再定義が不可避となってきているのです。

(注) 日米の安保姿勢:
① ハーバード大ベルフアー科学・国際関係研究所報告書「人工知能と安全保障」2017年
      -将来(20~30年後の)戦闘イメージ:無人の物資搬送用の航空機のほか、AI戦闘服、無人
戦闘車両の活用を列挙。
Assessing and Strengthening the Manufacturing and Defense Industrial Base and Supply Chain
Resiliency of the United States ( トランプ タスクフォース Sept. 2018)
② 日本政府は2018年12月18日、防衛計画大綱にAI活用や無人機の導入、推進を明記。
   ―防衛力拡大は専守防衛の変容を映す処。

2.New Monopolyの出現と、競争政策

もう一つ、高度な情報化が進む事で懸念されているのが経済における競争政策の在り方で、とりわけ独占という問題です。情報システムと云うと、これまでは企業内システムの事を意味していましたが、今後は企業の垣根を超えて広がり、バリューチエン全体をカバーするようになっていく事が想定される処です。例えば、GAFAの一つ、アマゾンの情報システムは商品の買い手から、メーカーや物流業者、等々バリューチェーン上あらゆる人・企業が利用するシステムになっていくのでしょう。このように1つの情報システムがバリューチエーン全体をコントロールするようになるとと、次に大きく変わるのはバリューチエーンそのものとなるでしょうし、バリューチェーンの中で価値を出せなくなっていく機能はスクラップされ、逆に新たな価値を生む機能がビルトインされていく事になるのでしょう。そこから台頭してくるのが「プラットフォーマー」で、その周りに生まれた「大企業がタテに繋がる産業構造」から、「プラットフォーマーを中心としたエコシステム」ヘと、大きく経済基盤がシフトしていくことで、これが新たな独占、New Monopolyを呼ぶ処ですが、これが需要家(消費者)に便益を与えているだけに、従来型の独禁法では律し得ず、さて消費者の便益性を踏まえた、競争政策の在り方、独禁法改正の見直しが焦眉の急となる処です。

つまり、従来の独禁法の考え方では、供給者(企業)が市場を独占すると、市場が彼らの意向によって運営される結果、需要家(消費者)に不利に働くとして、独占行為を禁じてきています。
ですが、IT企業の場合、プラットフォーマーの彼らは、無料で(対価を支払うことなく)大量に集める(集まる)情報を、需要家(消費者)に無料で提供するという点で、その行為は需要家にとって便益の高いものとなる一方で、企業にとっては需要(市場)の囲い込みとなり、一種独占的行為と映るというものです。つまり、IT企業による情報独占は、消費者にとって高い便益となっている点で、歓迎される処ですが、では独占という経済行為をどう規定していくべきか、が問われ出していると云うものです。一見、伝統的monopoly(供給独占)に対する、monopsony(需要独占)の議論と映る処ですが、要は競争を活性化する環境の整備が喫緊の問題となっているというものです。

・Competition revolution
序でながら、今、米国ではIT産業だけではなく、多くの産業で寡占化が進み、結果、少数の企業に利益が集中し、投資や新規参入は勢いを失ってきているとされており、このままでは資本主義の健全な発展が脅かされることになりかねないと指摘ある処です。昨秋、The Economist誌(2018/11/17)はその巻頭言で、参入障壁の排除、独禁法を21世紀型に、等々、競争環境の整備の必要を強く叫んでいました。勿論、彼らが云う市場環境の整備ですべてが解決するわけではないでしょう。但し、市場を広く捉え、合理的な競争環境が生成されていくとすれば、それがマーケットのパワーに転じ、更なるグローバル化の可能性が期待でき、企業のみならず、消費者もより多くの選択肢を持つ処にと思料するのです。まさにcompetition revolution,競争革命こそが、資本主義に対する信頼を取り戻す上で大きく貢献する処と思料するのです。

いずれにせよ、人の命を預かる移動のプラットフォームがGAFAに占拠されるとは考えにくく、従って自動車市場について言えば、クルマメーカーが持つ製造・販売・メンテナンス
と言ったリアルなプラットフォームを構築する自動車メーカーとGAFAが協調する世界が現実的と思料する処です。今回、日産・ルノー連合が自動運転でグーグル陣営(自動運転開発会社ウエイモ)に参画を決めたのも、そうしたデジタル革命の文脈を成す処と云うものです。

・独 シーメンス , ジョー・ケーザーCEO
因みに独総合重電メーカー、シ-メンスのジョー・ケーザーCEOは日経紙とのインタービュー
で, 以下のようなコメントをしていたのです。
「GAFAが産業分野に事業領域を広げてきたが、彼らは戦い方を分っていないかもしれない。消費者から無料で収集するデータと、産業現場から集めるデータの性質は異なる。ここが(競争を左右する)重要な点だ」(日経2月20日)と。優れて示唆深い処です。


おわりに 平成という時代の終わりに

2019年4月30日を以って、平成の時代に幕が降り、5月からは新元号の下、日本は新たな歩みを始めることになります。戦後74年、時代は昭和から平成へと移る中、まず、昭和という時代は、「明日は今日より豊かになる」として成長一本で進んできた日本は、お陰で大国メンバーの一員となり日本型成長パターンを世界にアッピールするまでに発展しましたが、その結果は、バブル崩壊を以って終焉を見、平成はその修復の時代だった筈でした。が、結局は修復を果たすことなく次代に引き継ぐ事で、平成と云う時代は幕を下ろすことになったと、総括される処です。

・マインドのリセット
さて、新時代に向かう日本としては、こうした来し方の姿を見直しながらも、情報化が齎す進化とグローバル化を如何に融合させ、日本そして世界の発展につなげていくか、が課題となる処と思料するのです。同時に、自由主義、世界経済の価値観、多国主義に基づく国際秩序の枠組みを如何に守っていくか、その為にもマインドのリセットも必要となる処です。

処で、日本政府の成長戦略には公共サービスのスマート化が挙げられています。住民サービスや国・地方の業務の自動化推進や、人工知能の等を活用したインフラの整備なども挙げられています。また、スマートシテイやスーパーシテイと銘打ち、AIやビッグデータを活用して未来都市を作ろうと云う構想も浮上してきています。町の抱える課題を解決し、住民の暮らしを向上させるために、様々な施設やインフラのデータを連携させ、有効活用していこうとする試みは、既に世界の様々な都市で始まっています。ただし、日本でこうした構想が打ち出されるたびに懸念されるのは、新たな「箱モノ」整備に終わるのではという事です。
これまでもICT,情報通信技術の自治体への導入やICTによる地域活性化の事象実験が行われ、予算も付けられてきましたが、カネの切れ目が縁の切れ目と、継続されずに終わっている場合が多くある処です。そこでマインドのリセットです。AIやビッグデータと言ったテクノロジーはあくまで、そのプラットフォームでの合意形成によって生まれる具体的なプランやプロジェクトを支える存在だと云う事を再確認したうえで、それに続く、次の行動を期待する処です。

序でながら、1月22日に始まったダボス会議に5年振り、出席した安倍首相の演説は大きな注目を集めたとメデイアは伝えていました。そのポイントは、「成長のエンジンはもはやガソリンではなくデジタルデータで回っている」とし、信頼ある自由なデータ流通(Data, Free, Flow, with Trust)の頭文字を取り「DFFTの為の体制を作り上げる。6月大阪G20で‘大阪トラック’とでも名付けてWTOの屋根の下、始めたい」(日経1月24日)と呼びかけるものでした。これも同じことで、まずは合意作りを明確として、それに即した実行計画をtimelyに策定されん事、期待する処です。

・日本のカルチャー
さて、 高度情報通信技術の時代には、所有よりシェアー(共同利用)、競争よりケアー(いたわり)、売買よりもアクセス(接続)、固定よりモバイル(携帯)、機能分解よりワンセット(総合性)、分業よりセルフサービス(自前)といったコンセプトが重視されるとの指摘ある処です。日本のカルチャーは、実はそうしたコンセプトにマッチしており、その点で、どの先進国よりも早くポスト資本主義に移行する可能性を秘めている、と指摘される処です。であれば、その可能性に大いに期待する処です。
同時に、5Gの情報社会を背にしていくとき、その在り様は急速に変化することでしょうから、その変化に向き合っていけるよう、企業も個人も、勿論、政治も、常にその用意が求められていく処と思うのです。 以上

posted by 林川眞善 at 17:36| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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