2019年01月26日

2019年2月号  2019年、世界の行方を測る’政治と産業’2元論 - 林川眞善

― 目  次 -

はじめに 今、世界が対峙する二つのテーマ
    
  ● テーマその1:世界の行方とトランプ政治
  ● テーマその2:新産業革命

第1章 トランプ政治の行方

1.米経済の現状とトランプリスク
  ・Trump vs Economy
2.次期大統領選、トランプ氏の可能性
  ・トランプ氏の行方

第2章 第4次産業革命始動
 
1.二つの進化が示唆する新産業革命
 (1)資本主義のコンセプトをも変えるAIの進化
  ・AIとAI技術
 (2)「5G元年」を告げる米CES(家電・技術国際見本市)
 
2.検証:変革への対応の現場
 (1)`Tech tinkers under the hood’ 
 ・自動車会社トヨタの場合
 (2)5Gと政治リスク

おわりに 平成という時代の終わりに思う

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はじめに 今、世界が対峙する2つのテーマ


● テーマ その1:世界の行方とトランプ政治

1989年11月9日、東西冷戦の象徴、ベルリンの壁が崩壊、翌12月のマルタ島での米ソ両首脳による冷戦終結宣言がなされ、爾来今日まで、世界は米国を要とし成長発展してきました。その冷戦終結から30年、くしくも平成の終わりを迎える今年、2019年は、「新冷戦」の足音の高まりを感じさせられながらの幕開けとなりました。新冷戦とは大方が見るように、二大経済大国米中の貿易戦争をトリガーに、ハイテク等に絡む覇権争いが齎す新たな地政学的変化を意味する処、以って世界経済や金融市場の大きな不安要因となってきたと云うものです。

では、今後の世界の政治経済の行方はどのような展開と見ていくべきか、そのカギは?ですが、何としても世界が関心を集めるのが就任2年を終えた米大統領トランプ氏が、2020年の次期大統領選を視野に入れていかなる行動にでるか、その一点にありと思料する処です。

周知のとおり、過去1年で世界の様相、秩序は、すっかり変貌してしまいました。その変化は云うまでもなく、「米国第一主義」と「偉大な米国の再生」を旗印とする彼の言動が齎した結果と云うものです。因みに先の1年間、G7では6対1の「1」に、更にG20でも19対1と自らを「1」に置き、更には米国の利害に絡め自由主義、国際協調を否定し、友好国とも対峙する姿勢を頑なにする処、目下の米中貿易戦争も、元を質せば、そうした文脈において、トランプ氏が中国に仕掛けた戦争です。

いまや世界を混迷に貶めてきたトランプ大統領、その彼と世界は、暫し何が起ころうと、向き合っていかねばなりませんし、少なくとも次期大統領選(2020年11月)を背にした彼がどのような行動に出るか、関心の高まる処です。つまり世界のトレンドを規定する、そのカギはトランプ政治と云うより、ずばり「トランプ」にある処です。もはや国際社会は米国の軌道修正を粘り強く説き続けていくほかない、そうした思いこそが問題と思う処です。

● テーマ その2:新産業革命

もう一つ、そうした不確実、後ろ向きと映る世界政治とは対照的に、世界の産業では、まさに現代産業革命すら感じさせる動きが、今、鮮明となってきています。因みに、年頭メデイアの一面に踊った言葉はAIであり、1月米国で開かれたCES見本市は5G元年を告げる処です。つまり、Digital 技術の急速な進化と、それが促すDigital transformationが進む事で産業の革新、産業構造の変革を実感させる処となってきた事ですが、その変化は、新たな産業革命の始動と映る処です。

そこで、今次論考では、この2つをテーマとして、第1章では「トランプ政治の行方」と題し、米経済の現状、そして次期を狙うトランプ氏の可能性について検証し、第2章では「第4次産業革命始動」と題し、高度情報社会に向かう産業の生業と、自動車産業の在り様について考察します。要は、negativeな政治、positiveな産業、を以ってする二元論です。

尚、自動車産業にfocusする個人的事由は、以下次第です。
まず一つは、2018年1月、 豊田トヨタ社長は米国で「トヨタは自動車メーカーからモビリテイ・カンパニーになる」と宣言し、同年5月のトヨタの決算発表時、「まさに‘未知の世界’での‘生死を掛けた闘い’が始まっている」ともコメントしていた事でした。過去最高の利益を更新する社長の言です。それは人工知能(AI)や全ゆるモノがネットに繋がるIoT等、新しいテクノロジーの進化によりクルマの概念やクルマを取り巻く社会構造が大きく変わろうとしている事への挑戦を示唆する処と、感じ入った事でした。

もう一つは11月19日の日産ゴーン元会長の逮捕で同社の先行き如何?と、その迷走の姿に危機感すら抱いていた折、偶々目にしたのが12月3日付Financial Times、に寄せたRana Foroohar記者の記事 ‘Tech tinkers under the hood’でした。周知の通り12月初め、GMはトランプ関税政策への対抗として、米国とカナダの5つの工場を閉鎖し、操業拠点を他に移す事を決定。これにトランプ氏も労組も、雇用の流失だと非難する中、同記事は、GMがいま直面している最大の課題は、労働コストやアウトソーシングや鉄鋼関税の問題ではない、真の問題はクルマが高度な情報機器へと変わろうとしている時代に、自動車業界全体の経済的価値の大きな部分を押さえることが出来るのかと、問うものでした。
更に12月、筆者が所属する研究会でのテーマが某大学教授によるAI、そして、この年頭のメデイアに踊った文字がAIだったと云う経緯もこれありと云う事情です。


・平成という時代の終わりに
2019年4月30日を以って平成と云う時代の幕が降り、5月からは新元号の下、日本は新たなスタートを切ります。これは、新たな局面に向けてマインドセットを転換させるにふさわしい機会と云え、そこで、昭和、平成と70余年の時代を顧みながらも、新時代への思いを所感として「おわりに」の項に記し、年初論考の締めとしたいと思います。



 第 1章 トランプ政治の行方
 

1.米経済の現状とトランプリスク

今月20日でトランプ大統領は就任2年を終え、任期4年の折返し点を迎えました。氏の大統領就任1年目では、大幅減税、規制緩和等、企業や株主に有利な政策を取り挙げて行った結果、岩盤と言われる支持層の支持を確かなものとすることが出来、各メデイアが指摘するように、以ってトランプ氏には相応のluckが続いたとされる処です。

しかし大型財政出動は財政の赤字拡大を結果し、政策の選択幅が狭ばまってきた事もこれありで、昨年2018年末にはその好調さに陰りが出てくるなか、11月、12月にそれが表面化する処となっています。
因みに、この年明け、株式市場の混乱がそれを語る処です。年初、1月2日、米アップルが昨年第4四半期の売上高が当初予想より5~10%低い840億ドル(約9兆円)にとどまる見込みと発表したことは市場に大きなインパクト与え、3日のNYダウ平均は急落、翌4日オーップンのTOK市場でも、一時700円を超える大幅安となり、日米共に先行き不安に煽られる新年の幕開けとなっています。そして注目されたことは、アップルのテイム・クックCEOが「予測を超える中華経済圏の経済減速」を理由に挙げていた事で、米中の緊張の高まりを販売不振の理由とした事でした。それは、米中貿易摩擦が目に見える形で企業収益の足を引っ張り始めた、その可能性を映す処ですが、より基本的には前述「はじめに」の項で触れたように、中国のリスクもさることながら、トランプ氏自身の政策、そしてそれを映す行動に負うものと言え、まさにトランプリスク満開とも映る処です。

因みに、8日、世界銀行が公表した2019年の世界経済見通し(成長率)は2.9%で、昨年6月時点から0.1ポイント下方修正していますが、元より米中貿易戦争などの影響で世界の輸出入の減速を映すもので、同時に減速への警鐘を鳴らす処です。(注)

    (注) 米中景気の現状:
①12月31中国政府の発表によると2018年12月のPMI(製造業者購買担当者景気指標)
は前月比0.6ポイント低い49.4だった。4か月連続の低下で、2年10か月振りの水準に沈み、
好不況の節目とされる50を割り込んだ。(日経、1月1日)
②一方、4日米労働省が発表した12月米雇用統計では市場の予想を大幅上回り、31万人の増加
で景気後退との予想は次期尚早との米国での見方を伝えている。(同1月5日)

そうした米経済の現状に照らし、昨年12月28日付英紙、Financial Timesはその社説で、また1月5日付英誌The Economistも巻頭言「The Trump Show, season two」で、いずれもトランプ米大統領が目指す次期大統領選の可能性については、以下、指摘する処です。
まず、残されたこの2年、volatile、つまり乱高下の激しい状況を余儀なくされる一方で、2018年11月の中間選挙で与党共和党が下院で敗北を喫した事で転換点を迎えたと指摘。今では2020年の敗北を恐れ、共和党内でもトランプ氏と一線を画す動きが出てきたとも云うのです。とりわけ先のシリアからの米軍撤退を一方的に決めた事への反発、加えてトランプ最大の公約、メキシコ国境での壁建設も、当該予算成立の見込みも立たず、一部政府機関の閉鎖が続く中、政府職員の給与支払いが滞る等、彼を巡る環境は日毎厳しさを増す処です。The Economist誌 は、近々出されるマーラ特別検察官のトランプ疑惑の調査報告(注)も加わりchaos危機的状況が続くとし、同盟国はplan Bを準備しておくべきとすら言うのです。

    (注)英Financial Times (Dec.28,2018)は、2019年の世界情勢について恒例の予想、20項目を
行っているがその5位で、米民主党によるトランプ氏の弾劾手続開始の可能性を指摘。尤も、
民主党が占める下院はともかく、上院で3分の2以上の議員が有罪と判定する必要がある処。

一方、米国論壇、Project Syndicateでも、日を同じくしてNYU Stern School of BusinessのNouriel Roubini教授が論考「Trump vs the Economy」を以ってトランプ経済政策の行方について、トランプ評を含め、極めて厳しい見方を展開しています。そこで、この際は同論考 をベースに、そこに展開されるトランプ批判を通じて、トランプ政策のリアルを浮き彫りし、併せて次期大統領への可能性を検証する事とします。

・Trump vs the Economy
まず、米経済の現状から、真っ先に挙げるのがstagflationへの懸念です。 つまり米経済にとって今必要なことは民間セクターでの生産性の向上と、指摘される処、そのためにも労働者の確保は不可欠です。その点で問題は移民の移入規制です。周知の通りこれまでの米経済の成長は、米国に移入する外国人労働者に負う処、大なのでした。が、移入規制の結果は労働力の不足を結果する一方、熟練工と高齢化のミスマッチで既に成長をチェックしだしていると云うものです。それも、ロボット工学やAI,人工知能(後述)の発展で、米国はじめ西欧諸国の生産性の伸びに再び火が付く可能性が云々されだしている中でのことと批判するのです。 つまり、トランプ政策の下では、成長が低下する一方で高いインフレが不可避となる、つまりはstagflationの懸念が高まるとするのです。加えてトランプ氏は外資の対米直接投資の制限をも検討中と伝えられていますが、これも成長の足を引っ張る要因と批判する処です。

もう一つは米連銀(FRB)の金融政策へのトランプ介入の問題です。先にFRBが予定していた金利引き上げについて、FRBの金利引き上げは不適切と発言していた件です。
Powell議長は1月4日の講演で、実施は見送り、2019年の金融政策の枠組み再検討する旨、発言していましたが、要は中銀たるもの政治的に独立したものであるべきと強く批判する処です。至極当然な話ですが、それを理解できないトランプの資質の問題を指摘する処です。

そして、近時、激しく動くホワイトハウス高官の異動は、政権運営の不安定さを際立たせると批判する処です。因みにトランプ政権発足2年の時点で高官離職率は65%、オバマ政権の24%、ブッシュ(子)政権の33%に比して突出しています。(日経12/22)
とりわけ国際協調、同盟を重視する最後の砦とも言われたマチス国防長官が去った後の政策がどうなるか、お構いないトランプ氏の様相に、市場をかき回すだけの無責任な行為と批判する処です。その結果、ホワイトハウスには、経済政策ではナショナリストが、また外交政策ではタカ派だけが残るだけと云い、要はトランプ好みのスタッフだけで政策運営を進めることの危険さを指摘するのですが、今やトランプ政権とはマフィアまがいの集団と映る処、Roubini氏は次のように締めるのです。面白いので紹介しておきましょう。

Trump is now the Dr. Strangelove of financial markets. Like the paranoid madman in Stanley Kubrick’s classic film, he is flirting with mutually assured economic destruction. Now that markets see the danger, the risk of a financial crisis and global recession has grown.

要は、トランプ氏はもはや金融マーケットのDr. Strangelove [映画`Dr. Strangelove ,1964’
に出てくる狂人の核戦戦争推論者]であり、更にStanley Kubrickの映画に出てくる偏執的気違い男のように、経済の破滅を共に楽しんでいるがごとくにあり、もはやマーケットは危険が一杯、金融危機リスク、そしてグローバルリセッション・リスクは進みだしていると、断じる処です。

2.次期大統領選、トランプ氏の可能性

かくも批判を受けるトランプ氏ですが、次期大統領選を狙う彼にとってまさに逆風と映る処、かと言って彼の可能性が即、失せたとは言えないのも現実です。

確かに次期大統領選挙への出馬を目指すトランプ氏にとって上述環境は逆風と映る処です。実際、トランプ政策の下では、格差は縮小することなく、むしろ拡大してきている処です。となれば格差拡大はエリート層への怒りを掻き立てる構図となる処、トランプ氏は、そうした人々の怒りを利用する点で天才と言われ、実際彼が2年前、大統領に推されたのもそれ故と、されるのです。先の中間選挙では与党共和党は下院で大敗、景気も陰りが出てきた、等で状況は彼にとって不利と映る処ですが、彼には痛くも痒くもない様相と映るのです。

実際、係る状況を齎したのはトランプ政策に反対する民主党の所為だと、民主党を敵に廻し、徹底した口撃作戦で打ち負かす戦法に出るものと見られているからです。政策論争はともかく、徹底したnegative campaignで生き延びてきた仁だけに、安心できないという事です。

加えて、現在の共和党にはトランプ氏以外には本命となる仁がいないと云う事情も彼を勇気づける処です。そして、これからの話ではあるのでしょうが、民主党でトランプ氏を脅かす候補が現時点では見当たらない、本命不在という事情も加わっての事と思料する処ですが、既に、トランプ氏は中間選挙で激戦州を行脚し、大量に資金を集めるなど再選に向けた布石を打っているとも報じられている処です。さて、こうした徹底的なnegative campaignerとしてある一方、建設的な政策を語る事もない仁を、有権者は本当に選択することになるのかと、聊かの疑問の残る処です。
尚、現在メキシコ国境での壁建設費の予算計上を巡り、連邦議会の審議はとん挫、その結果、予算の失効で、一部政府機関の閉鎖、政府職員の給与支払いが滞る等、市民生活にも影響が出始めています。このテーマは彼が大統領として公約40項目のうち、トップに掲げた
テーマという事もあり、彼は大統領権限の国家非常事態宣言の発動すら口にする処ですが、さて、終結の様相如何ではトランプ氏への影響(打撃)、甚大なる事、予想される処です。

・トランプ氏の行方
更に留意すべきは、上記でもreferした良識派最後の砦とされていたマチス国防長官が12月31日を以ってホワイトハウスを去った事です。彼は同盟関係とは米国にとって安全保障上の「保険」と認識し、「同盟に敬意」を払い、同盟関係を大切にしてきた仁です。然しトランプ氏の行動様式は、同盟国とは米国に利益をもたらす賭けの相手と見做す、つまり同盟の価値を損得で割り切る様にあり、2020年の大統領選が近づくにつれそうした行動が強まる事はあっても弱まる事はなさそうです。つまり、内政的にはpowerを失いつつある今、大統領にはほぼfree handの権限が与えられている外交面で点数を稼ぐべく、例えばNAFTA協定を新協定USMCAに強引に変更させ、その成果を国内岩盤支持層にアッピールしたように、America firstの強硬姿勢を以って外交を押し進めていくのではと思料されるからです。さて、「当たり前ではなくなった同盟」で、トランプべったりで日米関係を誇示してきた安倍首相も安心できない処、同盟国日本として米国にどのように向き合っていくか、その責任の重さは云うまでもない処です。
ともあれ、政治の方向性、経済の先行き、いずれをしても不透明化の増す処、トランプ氏にとり2019年はこれまでにない困難な年になること間違いなく、従って国際情勢の更なる混迷は、不可避と思料する処です。



第2章 第4次産業革命始動


1.二つの進化が示唆する新産業革命

現下で進むICT,高度情報通信テクノロジーの進化は、かつて英国で起きた産業革命すら想起させる処です。それは18世紀中頃から19世紀にかけて機械制工場と蒸気力の利用を中心とした技術革新が起こり、それに伴う社会の変化が起こった、この一連の変化を以って第1次そして第2次産業革命とされ、今、我々が対峙するその姿は、20世紀中頃からのコンピューター導入で人の限界を超えた演算が可能となり、最新の技術が数年で入れ替わる第3次革命とされる処、更に今、AIや高度な5Gの進化を受け動き出した産業等の変化は、まさに新たな革命、第4次産業革命すら思わせる処です。因みに、1月22日開催のダボス会議のテーマは「第4次産業革命時代におけるグローバル構造の形成」でした。

(1)資本主義のコンセプトをも変えるAIの進化

本稿冒頭で触れたように2019年元旦のメデイアを飾った言葉の一つが「AI」(Artificial Intelligence:人工知能)でした。 1960年代そして80年代と、2度のブームを経ていま、AIが開花していると云うものです。過去のブームでは、未来的な世界を実現だけの技術が手に入らず研究が萎んでしまったと、メデイアの伝える処ですが、今次の開花とは、インターネット上を大量のデータが行き交い、これを用いたデイープ・ラーニンブ、深層学習で、AIを磨けるようになったことに因るものとされています。これが意味することは、これまでマシン(機械)と云う筋力を使って人は可能性を切り開いてきましたが、今後は知力においてもマシンが伴奏者になることを意味する処です。そして、その革新とは、価値の創出に知恵を絞っていく、つまりこれからの資本主義は、脳が価値であり対価となる「頭脳資本主義」(日経2019/1/1)になるとされる処です。

元より、高度に開発されるAI技術が産業に応用され、またAIロボットとして導入されていく事で、当該産業の生産性の向上が促され、産業全体も構造的に変わっていく、つまりは、digital transformation(創造的破壊)が進み、その過程では新たな産業も現れてくる処です。云うまでもなく、AIロボットの導入は産業に留まることなく、医療、介護、教育等々、広く民生に及ぶ処、当該職場の効率化、生産性の向上等々、実践的に理解しやすい存在となる処です。尚1月15日、厚労省が公表した就業者の長期推計によると、AI等新技術の進展で2017~2040年の間に年率0.8%程度の生産性が見込めるとしています。

・AIとAI技術
尚、新聞等で見る記事にはAI(人工知能)とAI技術、つまりAI開発に向けた技術開発とごっちゃ混ぜにした議論が目につきます。この点、数学者で国立情報学研究所教授の新井紀子氏は同氏近刊「AI vs 教科書が読めない子どもたち」で、次元を異にする話と明快に指摘した上で、AI、人工知能とはそれ自体が独立した「AIロボット」と云う存在であること、AI技術とはAIを進化開発させていく上での技術であること、この違いを理解しておくことが今後へのカギだと指摘するのです。つまりAIはコンピューターであり、つまりコンピューターは計算機であり、計算しかできないし、ましてや人間の脳を超えるという、まさにAIが‘頭脳’になるという転換点を意味する「シンギユラリテイ」(注)に達することは起りえないと断じるのです。つまり「真の意味でのAI」が人間と同等の知能を得るには、我々が認識している事をすべて計算可能な数式に置き換えることが出来ることを意味することで、今の処、数学で数式に置き換えることが出来るのは、論理的に云える事、統計的に云えること、確率的に云えることの3つだけで、われわれの認識を、全て論理、統計、確率に還元することはできないからというのです。議論はまだまだ続く処でしょう。

(注)シンギュラリテイ(singularity:特異点):人間の知性をAI(人工知能)が超え、加速度的
に進化する転換点を意味する言葉。米国の未来学者、レイ・カーツワイル氏が、その時期の到来
を2045年と予想するもので、人間が担ってきた高度で複雑な知的作業の大半をAIが代替する
ようになり、経済や社会に多大なインパクトを齎すと考えられている転換点を指す。

(2)「5G元年」を告げる2019年米CES (家電・技術国際見本市)

今年1月8~11日、米ラスベガスで開かれた米CES(International Consumer Electronics Show)は「5G」、つまり高速通信システム時代の幕開けとされる処、何よりも注目を呼ぶのがプラットフォーマー主導の自動車産業の変容でした。つまり、現在の通信の100倍もの速度でデータをやり取り出来る高速通信規格「5G」は今年から実用化され、クルマへの活用などデータにまつわるビジネスに大きな商機を生み出すことが想定される一方、これがDigital Transformationを促進させ、産業構造をも大きく変える可能性を示唆する処です。

周知の通り、現行4Gの通信速度は携帯電話をスマホに進化させてきました。米アップルやグーグル等クラウド技術を活用したIT大手が急成長し、情報の価値が競争力を決める「データ経済」を拓いてきました。然し、5Gはこれを更に加速させると云うものです。5Gの時代は、様々な産業が「場所」という制約から解放される一方で、通信の遅延の少なさは、これまでITとは縁の薄かった産業の変革も促すことになっていく処です。その姿はまさにdisruptionと呼称される革命的な変容を齎すことになる処です。まさに「5G元年」(注)です。 

    (注) 通信システム技術の進化:GはGeneration の略
1 G:アナログ携帯電話(80~90年代)
2 G:デイジタル化とデータ通信(90年代)
    3 G:国際電気通信連合(国連ITU)が国際標準化を推進
4 G:モバイルネットワークの第4世代技術
5 G:「モバイルネットワークの第5世代技術」で、「第5世代移動通信システム」

先のトヨタ社長の発言ではありませんが、未知の世界への挑戦が可能となってきたと云う事といえるのですが、今次の米国際家電見本市CES(International Consumer Electronics Show) は、それをリアルに見せつける場となった事で、企業にとって2019年は、AI,人工知能時代に適応できる経営の具体化が問われる年になったというものです。

2.検証:変革への対応の現場

では現場の反応はどうか。その点では「はじめに」の項で触れたFinancial Times、Rana Foroohar氏の自動車産業に向けた鋭い記事 ‘Tech tinkers under the hood’(自動車大手の技術者は鋳掛屋?)は極めて示唆的と云え、そこで‘トヨタの動き’をも含め、同記事をレビューし、同時に当該進化が誘発する新たな地政学的リスクについて考察します。

(1)‘Tech tinkers under the hood’ 

当該記事は先に触れたように、GMがトランプ関税政策に対抗して、操業拠点を米国内から他国に移転させると決定した事について、これを批判するトランプ氏や労組とも併せ、両者、GMも労組も問題の視点がずれていると指摘するのです。つまり、GMがいま直面している最大の課題は、労働コストや鉄鋼関税の問題ではなく、クルマが高度な情報機器へと変わろうとしている時代に、自動車業界全体の経済的価値の大きな部分を押さえることが出来るか、と質すものでした。

その為には、自動車メーカーながら同業の自動車各社からではなく、携帯電話メーカー、ノキアの失敗に学ぶべきとアドバイスするのです。ノキアはかつて大成功を納めた企業。然し、同社の業績は2011年に急落、その後回復することはなかった。その最大の原因は機器の価値が「ハード中心からソフト中心へと転換していく動き」に迅速に対応することが出来なかった為と、同社説明だったが、それはそのとおりとしながらも、同社はもっと深い処で起きている変化を見落としていた為だったと指摘するのです。それは価値の大部分がハードからソフトにシフトしていくだけでなく、様々なソフトがその上で動くプラットフォームに価値が移っていくと言う点を、見過ごしていた事にあったと言うのです。

現時点ではクルマの価値の約90%はハードが占めているが、自動運転やいろいろのデジタルアプリがクルマの価値を高めていくようになるに従い、このハードとソフトの価値の比率は劇的に変わっていく筈と云うのです。因みに金融大手モルガン・スタンレーの予測ではautonomous vehicles(自動運転車)の場合、the value of an automobile(自動車価値)の40%がハード、40%がソフト、残りの20%が外から流れ込むコンテンツが占めることになる処、そのコンテンツとは、ソフトを通じて得られるゲームや広告、ニュース等だと云うのです。

そこでGMにとっての課題とは、この変革の時代に、自動車メーカーとして意味ある存在であり続けられるかと、質すのです。つまり、クルマ関連のソフトやアプリで今最も進んだ技術を持つのはグーグルやアップルなどIT企業である事、実際、彼らは自動運転技術とその基盤となるプラットフォームの開発に巨額の資金を投じている処、当該分野は自動車メーカー各社が現在、開発を進めている領域でもあり、こうした情報を新たな商品やサービスを通じてクルマに提供できるようになれば、自動車メーカーは大きな対価を得るようになると指摘する処です。

更に、プラットフォームを持つ強みは、その企業がユーザーの30~40%を握って、ようやく発揮することが可能になる処、多くのソフト開発者は、そのくらいの規模のユーザーがいなければそのエコシステムを利用しようとはならない。従って、その規模のシェアーを確保する為には、世界の自動車各社は手を結ぶ必要があると云い、こうした共同開発は、国や業界をも超えて進めるのが理想だと云うのですが、面白いのが、この記事の締めでした。
「・・・But such collaboration, which ideally should happen across geographies and even sectors, will not be made easier by the US president putting up trade barriers and looking to play the blame game.」 と。 つまり貿易に様々な障壁を設け、自国の問題を他国の所為にしているような大統領がいるのでは、そうした協力関係を進める事は容易ではないと、ささやかなトランプ批判を残すのです。

要は、自動車メーカーが産業の「主役」で居続ける時代はおわり、業種の垣根を超えた連携で付加価値を高めなければ生き残れない時代に移りつつあることへの警鐘なのです。
尚、GMのメアリー・バーラCEOはリストラを進め、モビリテイーサービス会社への転換を目指すとしていますが、トランプ氏が足枷となっていると、伝えられる処です。

・自動車会社トヨタの場合
これまでトヨタはモノづくりの「技術」、トヨタ生産方式と徹底した合理化で競争優位を維持し続けてきています。然し、先に触れた通り、AIやIoT等、新たなテクノロジーの進化によって、クルマの概念やクルマを取り巻く社会構造が大きく変わろうとしている環境に照らし、もはやトヨタといえど過去の延長線上に未来を描くことが難しくなってきたと、自動車メーカー・トヨタはモビリテイ(移動)に関わるあらゆるサービスを提供する会社「モビリテイ・カンパニー」になると宣言する処です。そして、かかる分脈において今次の「CES」開催に合わせ7日、トヨタがラスベガスで開いた記者会見では、人工知能(AI)研究子会社、トヨタ・リサーチ・インステイチュート(TRI)のギル・プラットCEOが登壇「トヨタは自動運転で多くの命を救う義務がある」と語り、自社の車両に搭載予定だったガーデイアン(注)を「自動車業界に提供する」旨を、明らかにする処です。(日経 1月9日)

     (注)ガーデイアン:各種センサーなどドライバーの状況を観察し、危険な状況では
      運転を代わり、事故を防ぐ技術。

(2)5Gと政治リスク

さて、各時代で先端だった技術はマイクロソフトやグーグルを成長させ、産業の新陳代謝を促してきました。が、産業構造を変えかねない5G技術は国家をも巻き込み始めています。5Gの通信基地局開発では中国の華為技術(フアーウエイ)と北欧のエリクソン、ノキアが先行していますが、トランプ米政権は新たな社会インフラとも言える5Gを中国企業に押さえられることを強く警戒してきており、フアーウエイ製品の締め出しや幹部のカナダでの逮捕の底流には「5G」があるとされる処です。
その華為技術は1月24日,「5G」向けの半導体を開発したと発表。米企業に技術で先行しシェアー拡大を狙うものでしょうが、現下の米中対立が先鋭化する中、まさに「テクノ冷戦」(イアン・ブレマー氏)と云う新たな地政学的リスクの高まりを痛感する処です。



おわりに 平成という時代の終わりに思う

2019年4月30日を以って、平成の時代に幕が降り、5月からは新元号の下、日本は新たな歩みを始めることになります。いま‘平成とはどんな時代だったのか’ 、各種メデイアは賑わいを呈する処です。

戦後74年、時代は昭和から平成へと移る中、まず、昭和という時代は、「明日は今日より豊かになる」として成長一本で進んできた日本は、お陰で大国メンバーの一員となり日本型成長パターンを世界にアッピールするまでに発展しましたが、その結果は、バブル崩壊を以って終焉を見、平成はその修復の時代だった筈でした。が、結局は修復を果たすことなく次代に引き継ぐ事で、平成と云う時代は幕を下ろすことになったと、総括される処です。

さて、新時代に向かう日本としては、こうした来し方の姿を見直しながらも、情報化が齎す進化とグローバル化を如何に融合させ、日本そして世界の発展につなげていくか、が課題となる処と思料するのです。同時に、自由主義、世界経済の価値観、多国主義に基づく国際秩序の枠組みを如何に守っていくか、その為にもマインドのリセットも必要となる処です。
TPP (Trans Pacific Partnership)協定が12月30日付でスタートしました。日本が米国に代わって主導してきたアジア11か国による多国間経済提携協定の実現です。まさに多国主義に基づく国際秩序作りへの一歩と云うべく、今後の発展に期待する処です。

処で、友人曰く。高度情報通信技術の時代には、所有よりシェアー(共同利用)、競争よりケアー(いたわり)、売買よりもアクセス(接続)、固定よりモバイル(携帯)、機能分解よりワンセット(総合性)、分業よりセルフサービス(自前)といったコンセプトが重視されると。そして日本のカルチャーは、実はそうしたコンセプトにマッチしており、その点で、どの先進国よりも早くポスト資本主義に移行する可能性を秘めていると。
GDPで経済発展を測る時代が終わるとされるいま、新たな視点を与えてくれる処です。

以上 (2019/1/26, 記)
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