2018年10月27日

2018年11月号  米中貿易戦争の行方、安倍長期政権の行方 ー 林川眞善

― 目 次 -

序 章  ドナルドの強権と、世界経済

(1) 米国と世界の断絶の瞬間
          
(2)絡み合う‘貿易と安全保障’
  ・トランプ通商政策と米通商拡大法(1962)
  ・‘新たな冷戦’状況に向かう米中関係

第1章  ‘新たな冷戦’に向かう米中関係  

(1)今、米中関係は新冷戦の瀬戸際
  ・対中報復第3弾発動で、リセットの米中関係
  ・ペンス米副大統領の対中‘三行半’演説

(2) 米中経済と、米中貿易戦争の行方
  ・米中経済の実態
  ・米中貿易戦争の行方 
  ・日中首脳会談と中国企業、華為技術(フア-ウエイ)

第2章  安倍長期政権と日本の行方

(1)安倍晋三首相に問われる課題
  ・今、安倍氏に求められる行動様式

(2)日米貿易協議(FFR)の行方

おわりに 沖縄県知事選と日本のIdentity Politics


         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
序 章 ドナルドの強権と、世界経済


(1) 米国と世界、断絶の瞬間

ドナルド・トランプ米大統領は、自身就任後2回目となる、今次(9月25日)国連総会の一般討論演説に臨み「グローバリズムのイデオギーを拒絶し、愛国主義のドクトリンを尊重する」と言明し、「米国第一」の立場を改めて訴えたのです。
云うまでもなく、国連は第2次大戦の反省に立って恒久的世界平和、そのための多国間協調体制を目指すこととして創設された国際機関です。従って年次総会では加盟各国首脳が、その目的に向かって、すべき事を語る場であり、以って世界秩序の堅持を確認する場とされる場ですが、トランプ氏の発言はまさにそうした世界的規範に背を向けた、独善的な言動となる処です。元より戦後世界の秩序を支えてきた加盟各国からの非難を一斉に呼ぶ処、それはグローバル化の象徴的存在であった米国と世界との断絶を思わせる‘瞬間’でしたが、何か孤立化する我が身を楽しむが如きと映るのでした。メデイアによると国連グテレス事務総長は昼食会で「我々は皆、世界市民でもある」と、トランプ氏に忠告した由でしたが・・・。

さて、その彼は、いま米議会の中間選挙(11月6日)を控え、自分ほど大きな仕事をした大統領はこれまでいないと、意気軒高、大統領就任以来2年、政策実績を誇示する処です。
確かに2016年大統領選での公約は相応に実現されては来ています。グローバリズムを拒絶する姿としてTPP、パリ協定等、国際的枠組みからの離脱方針を相次いで表明する一方、不法移民の取り締まり強化、サウスボーダー(国境)の壁建設等々も進め、大減税をも実施、更には、‘雇用の確保’、国内産業保護を名目に、WTOルールを顧みることなく、米国と関係二国間の貿易交渉を進め、製品輸入の抑制を実行してきています。(注)

    (注) 米国との二国間交渉:「ナバロ文書」で特定された6か国 [韓国、日本、欧州(ドイツ)、
NAFTA2か国 そして中国] に対して当該国との貿易赤字解消に向けた貿易交渉を実施。但し中
国とは合意なし。中間選挙向けに「米国第一」の具体的成果として誇る様子に、因みにトランプ
大統領はNAFTA新協定が確認された10月1日、「(大統領選での)約束を守った」とアピール。

ただし、トランプ主導の二国間交渉の姿は、大国、米国の圧力を感じさせ、脅しともとれる、強権的振る舞いを露わとする処、貿易ルールは国の力関係で決まる、いわば無法状態に陥ってしまう様相すら映す処です。それは自由貿易を規範としてきた世界経済を混乱させ、深刻な打撃を与える、まさに世界経済のリスクと映る処、中でも米国が仕掛ける対中圧力は、いまや米中貿易戦争状況を齎すなど、まさに世界経済を下押しする要因となってきています。

因みに、10月4日、IMFのラガルド専務理事は日経インタビューで「世界経済は引き続き安定的に成長しているが、半年前よりもリスクは高まって居る」と語り、7月時点の2018年と19年の世界経済の成長見通し(3.9%)の下方修正の可能性を示唆していましたが(注)、その最大の懸念が米中の貿易戦争であり、制裁の応酬が拡大すれば「影響は中国だけでなく、同じ供給網を築いている近隣諸国にも及ぶ」(日経10/5)と指摘するのでしたが、果せるかな、10月9日、IMFが発表した世界経済見通しでは、2018年の成長率予測は3.7%と7月時点から0.2ポイント下方修正され、併せて、トランプ政権が仕掛ける貿易戦争が更に激しくなる場合、世界経済は19年以降に最大0.8ポイント下振れすると警告するものでした。

    (注)世界経済の見通し
序でながら9月26日、国連(国連貿易開発会議)が発表した2018年度、貿易開発
報告書では、現状のまま貿易戦争が続く場合、2023年の世界経済の成長率は2.4%
に減速すると予測。同時に雇用や投資、個人消費などあらゆる分野が低迷すると警鐘
を鳴らしている。要は、金融危機で1.8%のマイナス成長に陥った後、2017年には
3.1%まで回復してきてきたものの、世界経済は再び緊張状態にありとされる処。

(2)絡み合う‘貿易と安全保障’

・トランプ通商政策と米通商拡大法(1962)
そうしたトランプ政権が進める対外通商政策、つまりは輸入抑制のための二国間交渉の在り姿は、いまや‘貿易政策’に新たな視点を齎す処となっています。

当該輸入抑制を目指す関税交渉は、いずれも米通商拡大法232条に照らし、米国が仕掛ける形で行われてきているものです。この232条とは、輸入の増加が、‘安全保障上の脅威’ となる場合、貿易相手国に対する制裁を可能とする法律ですが、さてアルミや鉄鋼が更には俎上に上がる事が噂される自動車など、これら製品が国内の安全保障に直結するものなのかと、疑問を呼ぶ処、本来ならWTOのパネルに諮るべきとされる処です。ただ、そもそも他国の政策を勝手に判断して、不当あるいは危険と見做し、当該貿易相手国を罰する権利があると一方的に主張する事自体、問題と云うものですが、結果として通商政策は、 ‘貿易と安全保障が密接に絡み合う状況’ を反映する処となってきたのです。

更に中国に対しては、上記232条に加え、301条(不公正な貿易措置への対抗)(注)の適用をも擁し、9月24日には既に通告済みの第3弾(対象2000億ドル相当)制裁関税を発動。(これで制裁関税対象総額は2500億ドル) 更に、中国の出方如何では全輸入製品への制裁関税拡大をも示唆するなどで、今や米中報復関税合戦の状況にある処です。 232条の担当が商務省、301条の担当がUSTR(米通商交渉代表部)ですが、この両者を擁した、まさに貿易戦争とされるだけに、チキンレースの様相を呈する処です。

(注)米通商拡大法301条:301条は80年代の日米貿易摩擦でフル活用されたが、WTO発足
後は封印され「抜かずの宝刀」とされていたが、トランプ政権は同文章を基に301条を積極
活用に転じ、中国の知財権侵害を制裁する名目で中国製品に追加関税を課す根拠としている。

さて、‘貿易と安全保障’が密接に絡みあう事態が進行するなか注目すべきは、そうした傾向を助長する背景として保守的な国家主義者の存在が云々される処、ビジネス寄りのリベラル派までもが保護主義に傾いてきたことです。
例えば今年4月に起こった中国の通信機器大手企業、中興通訊(ZTE)の米企業との取引禁止を巡る米国内の政治的反応にその典型を見る処です。つまり当該取引は技術の流出につながると、米国の安全保障上「重大な脅威」として一旦、トランプ政権は米企業との取引を禁じる制裁を課しています。然し後日、同社が罰金(10億ドル)を払う事を条件に取引禁止の解除を発表すると、米共和党からも、米民主党からも反対の声が上がったのです。

こうした国家主義色が強くなる中でもう一つ懸念される事は、独占禁止を巡る政策も安全保障のための武器となるという事です。やはりトランプ政権は、シンガポールの半導体大手ブロードコムによる同業の米クアルコム買収を阻止しています。その理由は、次世代通信規格「5G」の技術で米国が競争力を維持しなければならないとするものでしたが、何か国家主義色が強くなっていく様相に聊かの懸念を禁じえないのです。(注)

     (注)外資の対米投資規制:米財務省は10月10日、外資による対米投資の規制の詳細を発表。
半導体や情報通信、軍事など27産業を規制対象に指定し、事前申告を義務づけ、11月10日
から実施予定と。ハイテク分野での覇権を狙う中国から先端技術を保護する狙いとの由。

・‘新たな冷戦’状況に向かう米中関係
処で、9月24日、上述の通り、米政権は対中報復追加関税引き上げを発動していますが、これが米中関係に一つの転機を印すものとされるのです。既に発動済みの500億ドルと合わせ2500億ドル、米国の対中全輸入額(約5000億ドル)の凡そ半分に追加関税がかかることになる処、対立終息の道筋は見えず、世界経済の大きな波乱要因になるとメデイアは書き立てています。中でもFinancial Times,Sept.24は、今次の対中追加関税の引き上げ実施は、米中間の政治・経済関係の真のリセットにつながる処、今や、trade warと云うより、the beginning of something that looks more like a cold war than a trade war、つまり冷戦とも言える状況の始まりと、指摘するのです。

・本論考の構成
そこで本稿、第1章では、今や世界経済にとって最大のリスク要因となっている米中貿易戦争にフォーカスすることとし、上掲、FT記事をリフアーしつつ、その実状と今後の行方を考察することとします。尚、目下の米経済事情については、 2005年時のFRB議長グリーンスパン氏が当時の米経済について「コナンドラム(謎)」と呼んだと同じような現象、今再びと云われる処ですが、一方、中国経済の変調も伝えられる処です。そこで、両国経済の今日的生業を踏まえ、米中摩擦、より具体的には米国の対中貿易インバランス是正の可能性
について考察することとします。

加えて、10月2日、日本では第4次安倍改造内閣が発足しました。上述の通り、内外環境は大きく変化を呈する処、それが意味することは、これまでと同じ発想、行動対応では通じなくなってきたという事です。そこで、第2章では、長期政権となった安倍内閣の行方について、米中関係、日米関係の今後にも照らしつつ、改めて考察することとします。


           第1章 ‘新たな冷戦’に向かう米中関係


(1)今、米中関係は新冷戦の瀬戸際

・対中報復第3弾発動で、リセットの米中関係
9月24日、トランプ政権は中国に対し、既に告知済みの対象額2000億ドル相応の輸入品に対する追加報復関税措置を発動しました。今回の中国向け報復措置についてFinancial Timesの Columnist, Rana Foroohar氏は、同紙Sept.24付けでTrade hawks seize their moment.(米国の通商タカ派、対中関係リセットの好機をつかむ)と題し、当該行動はトランプ氏率いるホワイトハウスが下した無分別且つ性急な政策決定であるどころか、それ以上に危険な、長期にわたって影響を及ぼす行為だと批難すると共に、これは米中の経済的、政治的関係を完全にリセットするものであり、貿易戦争と云うより冷戦の様に見える状況の始まり、と断じるのです。加えて、このリセットを支持する動きはトランプ氏周辺にとどまらず、左派、右派両方に浸透し、それゆえ‘事’は深刻だと指摘するのです。

ではその深刻さとはどういう事か? 同記事が危機感を持って指摘するのは、トランプ政権内でのタカ派とされるナバロ大統領補佐官(通商担当)そしてライトハイザーUSTR代表(通商代表部)の思考様式です。
つまり、トランプ大統領は対中貿易赤字の事しか頭にはないが、彼ら二人は、中国との経済関係を断ち切ることが長期的に米国の国益に適うとしている事だ、と云うのです。確かに「ナバロ文書」にもそうした指摘は認められる処ですが、こうした発想に賛同する人達が国防総省には大勢いると云い、進歩主義的な左派で労働運動にかかわる人の中にも該当者はいると指摘するのです。そしてトランプ氏がホワイトハウスを去った後も、彼らの多くは権限ある地位に長く残るだろうと云うのです。つまり夫々の思惑は異なるだろうが、米国と中国とは長期的には戦略的なライバル関係にある事、それ故、米国の通商政策と国家安全保障政策はもはや切り離すべきでない、とする二点で手が結ばれているというのです。

更に、対中追加関税発動についてグローバル企業の経営者が口にする、高税率の引き揚げで目に見えるインフレ圧力が生じるとか、販売価格を引き上げざるを得なくなるといった不満に対して、経済タカ派は殆ど理解を示すことはなく、それどころか、西側の根本的な価値観を共有することもなく、色々条件を付けて最終的には自国の市場への平等なアクセスも認めないと云う中国に、自社の短期的な利益を優先して米国の事業を移してきたとんでもない存在だ、裏切り者だとさえ考えていると云うのです。こうした環境が、いま囁かれだす米中冷戦状況を、更に深める処となってきている処です。そして経済タカ派こそが、こうした政治・経済の環境変化に照らし、政策の方向性や世論を牛耳っていると断じるのです。

序でながら国防総省はsupply-chainを米国内に戻すことを提言する白書を作成中とかで、近々ホワイトハウスから発表予定の由ですが、中でもトランプ政権の今後の産業政策の方向として、全てを米国内で調達する、つまり「Fortress America」(要塞アメリカ)を作り上げることをめざすとしていると云うのですが、元より政治的にも現実的にも不可能な話です。が、仮にトランプ政権が米国として、そうした産業政策を進めたいと云うのであれば、欧州などいろいろな地域の貿易相手国と同盟関係を築く必要があるとも指摘するのでしたが、元より、トランプ大統領の得意とする処ではありません。

さてそんな中、ペンス米副大統領が10月4日、米ハドソン研究所(在ワシントン)で行ったスピーチは、こうした米中関係の変化を決定的なものと、印象付けるものでした。

・ペンス米副大統領の対中 ‘三行半’ 演説
10月4日、ペンス米副大統領はハドソン研究所で、`the Administration’s Policy Towards China ‘(トランプ政権の対中政策)と題してスピーチを行ったのですが、その内容は、`mobilized covert actors’ 秘密工作員を動員して「中国は米国に内政干渉しようとし、これまでになく力を誇示している」と激しく中国政府を批判する、まさに‘三行半’ものでした。以下の引用は、そのブチ切れ様子を伝えるべく、その障り、冒頭の一部を紹介するものです。

「Beijing is employing a whole -of-government approach, using political, economic, and
military tools, as well as propaganda, to advance its influence and benefit its interests in the US. China is also applying this power in more proactive ways than ever before, to exert influence and interfere in the domestic policy and politics of our country. Under our administration, we’ve taken decisive action to respond to China with American leadership, applying the principles, and the policies, long advocated in these halls.」・・・

今次ペンス副大統領のスピーチは、要は、中国が自由や民主主義と言った概念を理解していないことを糾弾し、トランプ政権が、本格的に中国の覇権拡大にストップをかけようとしていることを明らかにするもので、スピーチ後、ホワイトハウスは公式ホ-ムページにその全文を掲載(インターネトで入手可能)、トランプ政権の対中政策の転換を公式に宣言するものとなっています。この講演は11月のアジア歴訪を前にしたトランプ政権の包括的な対中政策と位置づけられるものの由ですが、1946年3月、チャーチルが「鉄のカーテン」を語って以来の歴史的演説とも評される処、まさに「新冷戦へのsignal gun」ともいうものです。

更に8日、北京で行われたポンペオ米国務長官と中国王毅外相との会談が、互への不信感をむきだしにした異例の激しい応酬(日経10月10日)に終始したと報じられていますが、係る事態とも合わせ見るとき、米中関係は長いトネル入りかと、まさに「新冷戦」瀬戸際にありと、感じさせられる処です。加えてペンス氏の発言が象徴する米国の対中強硬姿勢が、政権だけでなく与野党を問わず議会にも根強くある事が気がかりとする処です。

(2) 米中経済と、米中貿易戦争の行方

・米中経済の実態
米中貿易戦争の推移は前述の通り、両国の権威を掛けたチキンレースと映る処ですが、その実状は先に触れたように、米中の貿易不均衡改善を事由として米国が対中圧力をかけ、中国の通商面での対米依存を抑え、併せて中国が目指す技術立国「中国製造2025」の計画を押さえ込まんとするものと言われているだけに、米中貿易戦争の本質は「テクノヘゲモニー」、つまり科学技術の覇権争いと云え、簡単には収拾するものではないと見る処です。ただ、問題の中核にある米国の対中貿易インバランスの改善の可能性だけをみれば、両国経済の生業を見て行く限りにおいては、その改善の道筋は相応、見える処かと思料するのです。そのポイントはドル高です。

まず米国経済ですが、今年の2月以降、ドル高が続いてきています。これは米国経済の腰が強い事を語る処で、因みに米国の本年4~6月期GDP成長率は年率で4.1%、2014年7~9月期以来の高い数字です。トランプ氏は、ドル高は競争力を削減する要因としてnegativeですが、現実には米企業は海外市場で価格競争はしていませんから、輸出振興のためにドル安誘導は必要のない処です。米経済について今、言われる事は2005年、グリーンスパンFRB議長が「コナンドラム(謎)」と呼んだと同じような現象が起きていると云う事です。
つまり、FRBは引き締めにあるなか、景気は良いのに物価は上がらない、失業率は低下しているのに賃金が上がらないといった状況です。因みに去る5日、米労働省が発表した9月の失業率は3.7%、1969年以来の低水準です。これは新たな産業革命、デジタル革命の深化に負うものとされる処です。

尚、トランプ氏は’ America First’、`Make America Great Again ‘と叫んでいます。これは覇権国である米国を、これまで以上に強くするという事と理解される処です。つまり、America Firstを以って、他を寄せ付けることなく独自流パワーを身に付け、世界のヘゲモニーを握ろうとするものでしょうし、とすれば覇権国家として進んでいく上では財政基盤、経済基盤が欠かせませんが、これを支えるのがドル高と思料するのです。

一方、中国経済の現状ですが、去る10月7日、中国人民銀行は、15日から市中銀行から強制的に預かる預金の比率を示す預金準備率を1ポイント引き下げると発表しました。これで金融緩和は今年で3回目となるものですが、これは指導部が米国との貿易戦争による打撃で景気の先行きに危機感を抱いていることを裏付ける処です。更に、金融緩和を決めた7日の夜、劉昆財政相は追加減税を発表しました。財政と金融が揃って景気を支える姿勢を何とか演出せんとするものと映る処です。この中国を代表する2つの経済官庁のちぐはぐぶりこそは深刻化する貿易戦争への対応に不安を予感させると云うものです。
そうした中、19日、中国政府が発表した2018年7~9月のGDP成長率(実質)は前年同期比6.5%と2期連続で減退、リーマンショック直後以来の低水準に沈んでいます。この2期連続の減速は地方政府や企業の債務削減が打撃となり、投資や消費が振るわなくなった為とされる処、米中貿易戦争の風圧も強まり、先行きは更に下押し圧力が高まる見通しです。

・米中貿易戦争の行方
こうした米中経済の実情、とりわけドル高と、元安の事情に照らし米中貿易のインバランスの行方を観察すると、早晩、改善に向かうシナリオが描かれる処と思料するのです。

その理由のひとつは中国経済で進む人件費の上昇です。元より、これが輸出競争力を押し下げる処ですが、加えて米国の対中関税引き上げを受け、輸出拠点として中国に進出した外国企業が転出を図る結果、中国からの対米輸出の鈍化は避けられません。一方、中国政府は、国内の過剰生産から脱却していく為にも産業構造のハイテク化を目指しており、その為には必要となる製品の輸入は避けられませんが、ドル高の下では、中国輸入の膨張を齎すこととなり、その結果、中国の貿易収支の悪化は避けられなくなっていく事が想定されるのです。その点では習近平主席お墨付きプロジェク「中国製造2025」はもろ刃の剣、と云うよりは、輸入拡大の大きな要因になるのではと思料する処です。

つまり、ドル高、元安が進むなか、中国の対米輸入が膨らむ一方、米側の関税引き上げで中国の対米輸出が鈍化する形で、米中貿易の不均衡改善が進む事になると見るからです。と云うよりも、前述したように米国は輸出に当たって殆ど価格競争はしていない状況にあります。例えば、航空機では米ボーイングと欧州エアバスの独断場ですし、アップルのiPhoneのブランド力に代わる存在もありません。軍事装備品も同様です。つまりドル高でも彼らは買うしかない状況にある点で、対中関係での米経済の優位が確認される処なのです。

要は、貿易を名分にドル高をテコに金融戦争を仕掛け、人民元の脆弱性を知らしめる。「マーケット」はそれで「中国危うし」とみて「株」も落ちる。こうして実体経済も悪化し、中国としては何時までも突っ張ってはいけなくなる筈、とシナリオが書ける処です。 勿論、事態はそんなシナリオ通りに進むものか、環境は極めて不確実性の残る処です。因みにFinancial Times(Oct.20~21)は、元の対ドルレートは今年末、6.9, 更に来年末では7.20と元安進行を見る処です。

さて問題は、そうした米国の対中貿易赤字改善を以ってだけで、貿易戦争が終わるかと云うと、そうは問屋は許さずと云う処です。前述したように米中貿易戦争の本質は「テクノヘゲモニー」争とされる中、もともと中国潰しを指向する経済タカ派を擁するトランプ政権の行動は ‘戦争に勝利する’ことにありとされている点で、そうした‘争い’とも併せ見るとき簡単に終焉を見ることはないものと思料されるのです。ではどのような展開が想定されるかですが、神のみぞ知る処でしょうか。折しも20日、トランプ大統領は日中ロは核戦力の増強を進めているとして、米国が旧ソ連との間で結んだ中距離核戦力廃棄条約(INF)の破棄を表明しましたが、これに応える中ロの動きを見るに、何かキナ臭さを感じさせられる処です。

・日中首脳会談と中国企業、華為技術(フア-ウエイ)
序でながら、米中関係の緊張が増す中、安倍晋三首相は10月26日、北京で習主席と首脳
会談を行い、「日中平和友好条約」40周年の節目に友好ムードを高めたいとの意向と、伝え
られています。この際は国際情勢の展望を読み違えることのないように、中国との距離の取
り方には十分な注意が求められると云う処です。
折しも、10月17日、中国通信電気大手、華為技術(フア-ウエイ)が関西地区では初めてとなる研究所の新設を検討していることが明らかとなりました。同社は既に横浜市に研究所を構えていますが、更なる日本企業との連携を深める狙いかと思料される処ですが、やはり米国の仕掛けた貿易戦争にあるのではと思料する処です。つまり日本企業との連携を高め、日本の技術基盤を活かしながら、更なるグローバル化を進め、中国企業たるを理由に華為を排除する米国に対抗する狙いがあるのではと、思料されるのです。

尤も、今次日中首脳会談では新技術や知的財産権問題で新たな対話の枠組みが合意される見通しにあることから、この機会を活かさんとの思惑も窺える処です。但し、今は米中摩擦が激しいことで、中国も日本に近づかんとする構図ですが、これとて、仮に米中関係が改善すればどうなるものかですが、かかる国際情勢にあって日本企業と強固な関係を築き上げることが出来るか、推移を見極めていきたいと思うばかりです。


            第2章 安倍長期政権と日本の行方


(1) 安倍晋三首相に問われる課題

9月20日、自民党総裁選3選を果たした安倍晋三首相は、10月2日、4回目となる改造内閣を発足させました。今後順調にいくとすると首相の在任は2021年9月まで9年に及び、連続在任日数と、第1期政権を含めた合計在任日数は、ともに日本憲政史上最長となるものです。ただ、これだけの長期政権でありながら、「安倍時代」に日本はどう変わったのか、依然としてはっきりしないように思われます。何故か? 京大教授の待鳥聡史氏は、「恐らく、安定感のある外交とは対照的に、内政面で当初は比較的明瞭だった政策の基軸が失われたことにある」のではとし、「安倍政権には内政と外交の‘二つの顔’があり、両者の違いが次第に大きくなってきた」(日経2018/9/27)ためと指摘するのです。

つまり、内政では2012年末、第2次安倍政権発足時、発表された経済政策「アベノミクス」により経済再生を目指すと言う点では、その内容や方向と言った点で相応の批判はあったにせよ財政出動と金融緩和を大胆に実施し、その後は成長戦略として構造変革に取り組むという工程表は、多くの有権者にとって期待できる処、政権は「第3の矢」に当たる社会経済構造の変革には尻込みし、短い周期での解散総選挙を繰り返して当座の政権浮揚を図るという方針に転じた事が最大の問題で、そうした彼の行動がゆえに今尚、何をどうしたいのか不明瞭なままに置かれてしまっているという事です。

一方、外交では安保法制など思い切った政策を進めるために、総選挙での勝利による政治的資源が必要だったと云う事情は理解するとして、あまりにも当座に偏った動きが続いたため、日本の社会と経済を今後どうしたいのかが不明瞭になってしまっているのです。これこそは、これまで何度も本論考で安倍首相には国家観が見えない、日本の社会と経済を今後どうしたいのか見えないと批判してきた処ですが、実はこの点こそは今後、3年間で安倍政権が何を‘目指すべきなのか’に密接に関係する処です。

・今、安倍氏に求められる行動様式
周知の通り彼は総裁選で、又、改造内閣発足時の記者会見でも、最大のテーマは憲法9条を巡っての憲法改正と主張しています。総裁選での勝利で求心力を得たからという事でしょうが、であればその発想と行動様式は結局、2015年頃から続くパターンの繰り返しとなる処でしょうか。勿論、憲法改正が望ましいとする有権者は少なくはありません。然し、都度の世論調査結果では、経済や社会保障と言った内政課題に比べ、その優先度は極めて劣位にあります。という事は、それは有権者の期待する処とは聊か乖離しているという事です。

そこでまず肝要な事は、その乖離への真摯な理解、認識を確かとする事です。そして、今トランプ政権の保護主義に振り回される中、日本は自由主義を基調とした国際秩序を維持する立場を取るとしていますが、元よりその立場を強く支持する処です。が問題は、ではそれに見合う開明的、そして多様性重視の社会を目指す国内改革を進めていく事が不可避となる処ですが、さてそれに対する用意があるかという事です。 要は、国際的な保護主義の波と国内的な少子高齢化を前に、自由で活力ある社会をどう維持するか、日本の今後への構想と、それに向けた戦略アジェンダを整備し、以って広く議論を通じて有権者に訴えていく事が求められると云うものです。

長期政権の最大の存在意義は、有権者からの信任を全面活用して、困難だが不可欠な課題に取り組む処にあるのです。言い換えれば、それを見失えば、3年後は単に安倍政権の終わりではなく、日本政治にとって深刻な危機を齎しかねないと云うものです。

(2)日米貿易協議(FFR)の行方

トランプ大統領の対日貿易赤字削減要求に端を発した日米通商問題は、9月26日、NYでの日米首脳会談でひとまず決着を見ています。今回の日米首脳会談では、米中間選挙を前に2国間交渉で成果を挙げたいトランプ大統領の意向もあって、日米間の物品貿易協定(TAG)
の交渉開始で合意された由ですが、具体的交渉は米議会との関係で年明けとの見通しです。

さて交渉に臨む日本政府に、東大教授の中川淳司氏は次の三点を提案するのです。(日経9月7日)一つは、日本の農産物市場の開放、次に、知的財産、投資、国有企業の規制、そして電子取引の4分野でTPPを実質的に復活させるルールの提案、三つ目は日本企業の対米投資拡大による米国での雇用創出、です。そして日米交渉でも米国のTPP復帰を粘り強く説得せよと後押しをするのです。つまり、TPPを「21世紀の通商協定のモデル」と位置付けたのはブッシュ(息子)政権からオバマ政権までの歴代米政権。トランプ政権にTPPへの名誉ある復帰を求めて粘り強く交渉を進めることがポストFFRの日本の対米通商政策の目標となると云うのです。それにしても、やはり日本経済成長への構想力の如何が問われる処です。


おわりに 沖縄県知事選と日本のIdentity Politics

9月30日、翁長知事の死去を受けて行われた後任知事選では、オール沖縄を掲げて立候補した玉城デニー氏が、自民党等安倍政権が全面的に支援した佐喜真氏を8万票もの大差をつけて勝利しました。周知の通り、知事選最大の争点は、普天間基地の名護市辺野古への移転の是非でした。玉城氏は「県内に新たな米軍基地はつくらせない」と訴え、8月急逝した翁長前知事が作った保革相乗りの「オール沖縄」の枠組みを再現したのでした。翁長前知事はかつて自民党に属していて、日米安保体制にも在日米軍の駐留にも賛成していたのです。ただ掲げていたのは「沖縄の過重な負担の解消」だったのです。にもかかわらず、安倍政権は翁長氏を反米主義者の様に扱い対決姿勢で臨んだのでした。振興予算を削るなど「兵糧攻め」のようなこともしています。こうしたやり方が結果として翁長氏を引き継いだ玉城氏に追い風となったと思料されるのです。

その翁長前知事を送る県民葬が10月9日行われました。会場では玉城新知事は式辞として翁長氏が主張していた「イデオロギーより、アイデンテイテイー」を繰り返し、その思いと、遺志を引き継ぐと約していました。さてその後に立った菅官房長官が代読した安倍首相からの追悼の辞は、玉城氏が8万票の大差をつけて当選した背景にあるある民意を一顧だにすることもなく、淡々と「沖縄県に大きな負担を担っているこの現状は到底是認できるものではない」、「基地負担の軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意」にあると云うものでした。その直後、参列者からは「嘘つき」などと怒りの声が飛び交い、会場は一時騒然としたのです。この県民葬で浮かび上がったのは県と政府の溝の深さでした。

さて、日米両政府が普天間基地の返還で合意したのは22年前、1996年の事です。今更白紙撤回で、改めて移設先を探すのも現実的ではないでしょう。他方、基地は作ればいいと云うものでもありません。米軍将兵にも生活があり、地元住民の協力なしには円滑な運用は難しいと云うものです。問題はこの二つを両立させるには、どう考えて行けばいいのか、つまり、そのための構想力が改めて求められる処です。12日には、安倍首相は玉城知事と官邸で会談しました。が、安倍首相の姿勢は日米運命共同体の発想から一歩も出ることもなく、17日には政府は県による埋め立て承認撤回への対抗措置を指示したのです。安倍首相はどうも「嘘つき」政治にご執心ようです。(2018/10/26記)
posted by 林川眞善 at 08:32| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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