2018年06月14日

2018年6月特別号  検証 米朝首脳会談 - Facts & Impact - 林川眞善

- 目 次 -

はじめに:史上初の米朝首脳会談

1.検 証、シンガポール米朝首脳会談

2.米朝首脳会談と‘戦後日本’の総括   

おわりに:過去のサミットの教訓と米朝首脳会談

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はじめに:史上初の米朝首脳会談

6月12日は、TV特番中継放送にクギ付けとなる一日でした。云うまでもなく、その日、シンガポールのリゾート地、サントーサ島のカペラ・ホテルで行われた、史上初となる米大統領、トランプ氏と北朝鮮委員長、金正恩氏との米朝首脳会談の様相を伝えるものでした。それも今尚、交戦状態にあり、外交関係もないままの両国トップの会談です。

さて、北朝鮮の金正恩委員長は、「新年の辞」で平昌五輪への参加に言及して以降、周辺国との関係改善に舵を切ったものと見られる中、3月5日、韓国のチョン・ウイヨン国家安保室長が、韓国文大統領の特使として北朝鮮金委員長と南北朝鮮統一問題について平壌で会談した際、同委員長からトランプ大統領と早期に直接会談したいとの意向表明があり、その要請を受け同特使は3月8日、ホワイトハウスを訪問、トランプ氏にその旨を伝えた処、彼からは即座に応諾があり、途中の経過(注)はともかく、今回、シンガポールでの開催となったものでした。

(注)一旦、中止宣言された米朝首脳会談は先に予定の6月12日で再設定、開催。
3月8日:トランプ大統領は朝鮮金正恩委員長から申し入れの「米朝首脳会談」に応諾、
5月10日:「米朝首脳会談」、6月12日、シンガポールで開催の旨発表。
5月24日:「今は不適切」としてトランプ氏は中止を表明
6月1日:北朝鮮、金英哲(キム・ヨンチヨル)党副委員長との会談(於、ホウィトハウス)
で予定通り開催される旨発表。僅か1週間の心変わりは何故?

・トランプ氏の米朝首脳会談応諾
周知の通り、これまで、金北朝鮮とトランプ米国との間では‘核・ミサイル開発’を巡り、時には一触即発の様相をも呈する状況にありましたが、今秋の中間選挙を控え、この際は、金委員長の提案を受けることで、一矢を迎えんとの読みがあったと思料されるものでした。

大統領就任1年をほとんど空費したトランプ氏にとって政治的ターゲットはまさに今秋の中間選挙一本にあり、そこで金委員長の申し入れを受け入れ、これを成功に導ければ彼は有能な勝者となり、選挙戦を勝ち抜けると瞬時、直感したものと言えそうです。そして序でながら、その推移如何では、ノーベル平和賞ものとの野次馬の声も聞かれるだけに、トランプ氏の姿勢はまさに前のめりにあったと伝えられる処でした。つまり、トランプ大統領は「それは過去の米政権が出来なかった偉業」となると、一貫して乗り気になっていったということですが、加えて3人の米国人人質の解放が実現した事は、北朝鮮への米国が仕掛けてきた圧力の成果だと、自らの業績としてアッピールする処、これが中間選挙対応の他なく、まさにTrump firstの真骨頂と云う処です。

・トランプ大統領 vs 金委員長
さて、トランプ氏は米朝首脳会談に臨むにあたっては「朝鮮半島の完全な非核化」、つまり「完全で検証可能且つ不可逆的な非核化(CVID:Complete, Verifiable, Irreversible and Denuclearization)」の実現を主題としていました。つまり、非核化を一気に進めること、その上で北朝鮮が求める「体制の保証」や1953年に結ばれた朝鮮戦争休戦協定の「平和協定への転換」等、問題に応えていく事になると明言していました。一方、北朝鮮金正恩氏は、米側の云う一括放棄は受け入れ難くとし、非核化に向けて段階的な措置をとるたびに見返りを受ける方式を訴えていたのです。

つまり、非核化を巡っては、米側のスタンスは、北朝鮮がまず完全に核を放棄し、それが検証されたのちに保証があるという、言うなれば、非核化は全ての交渉の「入り口」とするものですが、一方の北朝鮮は、一応「非核化」を受け入れる姿勢を示すも、その先に「非核化」があると云うこととなり、ここでは「非核化」は、「出口」に位置すると云うもので、トランプ氏の「‘完全’な非核化とその短期実現」と云う命題とは聊かの乖離がありました。

にも拘わらず途中からは、トランプ氏は首脳会談を重ねることも視野に、完全な非核化に向けた具体措置の合意をめざしていく構えに修正、つまりはトランプ氏が金氏に歩み寄ったというものでした。 6月1日、金正恩氏の使者、金英哲氏をホワイトハウスに迎えたトランプ氏は、同氏に対し、非核化の進め方について「ゆっくり進めてください」と伝えた由ですが、加えて、これまで言い続けてきた北への「最大限の圧力」と云う表現はもう使わない、とまでコメントするまでに変化を露わとするのでしたが、これは段階的な非核化を訴える北朝鮮のシナリオに乗ってでも会談を実現させ、中間選挙に臨まんとするもので、その姿は上述のTrump firstと映る処ですが、同時にトランプ氏の戦略のなさを暴露するものと云えそうです。

・「最大限の圧力」の旗を降ろすトランプ氏
尚、「最大限の圧力」を降ろしたことで、金正恩包囲網の弛みは否定できず、周辺の視線は、既に経済協力に向いている様相にあり、言い換えればトランプの心変わりで、北朝鮮は対話路線に乗る事で着々と果実を得ようとしているといえそうです。

因みに、メデイア情報によると、中国国際航空は6日には、昨秋から運休の北京―平壌間定期便の運航再開した由ですが、これは人の往来を後押しせんとするものと思料される処です。また、中国政府は国連制裁決議を履行する姿勢を取りつつも、制裁対象外の交易や民間交流は拡大する構えにあるともされています。習近平・金正恩の2度の会談で関係改善を演出していましたが、国境の出入り現場では取り締まり機運も薄れ気味と報じられています。
又、韓国も国連制裁を維持しつつも解除後をにらみ走り始めたようで、先の‘板門店宣言’を踏まえ、鉄道の連結・補修事業等話し合う高官協議を開催予定と伝えられています。更にはロシアも北朝鮮に接近中にある処、プーチン大統領はかねて極東地域と朝鮮半島をつなぐガスパイプラインや鉄道建設を提唱しています。6月下旬に訪ロ予定の文韓国大統領とは、北朝鮮との経済協力が主要テーマとなりそうと伝えられている。

そして何よりも、その象徴的な変化は、6月3日、シンガポールで開かれた日米韓防衛相会議の共同声明から「圧力」の文言が落ちていた事でした。


・Disciplineを失った米朝会談
さて、これまでの経緯はともかく、トランプ米大統領は、前述の通り、朝鮮半島の平和のためには北朝鮮の完全な非核化が不可避とするスタンスにあった処、言うなれば中間選挙への支持浮揚を狙うばかりに、とにかく金正恩氏との会談の機会を持つことに意義ありとし、非核化を段階的にとする金氏の意向に応じることととした事で、当該会談は実質的には金氏のシナリオにはまった形で進み、従って当初、描かれた会談のdisciplineが見失われた格好となったと思料されるのです。

因みに会談後発表された会談内容の確認書ともいうべき「合意文章」(ポイント)は以下の通りですが、極めて包括的で、何ら具体的な行動に繋がるものは見当たりません。更に、合意文書のフォローアップの記者会見ではトランプ氏が最も強調していた「CVID」の言葉が抜けているとの記者からの指摘に、時間がなかったためとの言い訳に終始、要は準備不足、勉強不足を露わとする処です。会談直前にはポンペイオ国務長官は、完全な非核化が確認できない限りは何も合意はできないと釘を刺していたのですが。

[米朝合意文章]―新たな関係を構築 
1.米朝両国民は両国民の平和と繁栄への要望に基づき新たな関係を構築
2.米朝は永続し、安定した平和な体制を朝鮮半島に構築するよう努力
3.先の板門店宣言に基づき北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に努力
4.米朝は捕虜(POW),行方不明兵(MIA)の遺骨発見に努め、直ちに米国に。

ではこの合意をトランプ氏が得意とするdealに照らすと、何と何を取引したことになっているのか、全く見えてこないのが実状ですが、金氏にとっては金体制の保証を得たという点で勝利したことになったと云えそうです。それでもトランプ氏はツィターで大いに成功だったと再び中間選挙向けにアッピールし、同時に次の米朝会談を云々する処です。

さて、今次の首脳会談を契機に、各国首脳が金委員長と会談したがっている環境が生まれてきていると一部マスコミは指摘するのですが、そうした機運の高まりは北朝鮮に正当性を与え、実質的に‘核保有国としての北朝鮮’と関係の正常化を進めることになりかねず、新たな懸念の生じる処です。尤も、トランプ氏はそれでも完全な非核化が進まない限り、制裁措置を緩めることはないと繰り返す処ですが、そこで改めて北朝鮮の完全非核化の可能性の如何を検証することとし、併せて、首脳会談の結果として想定される米国のretreatが齎す東アジアに於ける安全保障環境の変化、そしてそれが日本に及ぼす影響、更にそれへの対応の如何について考察したいと思います。云うまでもなく米朝会談の検証ともなる処です。


1.検証、シンガポール米朝首脳会談

(1)「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」の可能性
   ― CVID:Complete, Verifiable and Irreversible Denuclearization

現地特設のプレスセンターに集まる記者たちの多くは合意文章について、本命のCVIDと云う言葉が抜けている、リフアーがないことが問題と指摘していました。尤もこれを因数分解し合意文章に照らすと、「C」と「D」は確認されているのですが、そのプロセスとなる「V」と「I」が抜けている事が問題となる処です。それはまさに非核化に向けた具体的手順、工程表とされる処です。それが現時点では何も見えていないことがもんだいであり、その点では非核化は本当に進むのかと疑念を呼ぶ処です。

ではその手順とは、ですが、まずCVIDの目標と期限を共有した上で、核関連施設を全て明らかにする申告やその検証、濃縮ウランやプルトニウムなどの核物質や施設の廃棄・搬出、核開発に後戻りできないことを確認するIAEAなどによる査察と言った手順を詰めておくのが柱となる筈です。元より、これには時間を要する処、最長10年はかかると見る向き(米ロスアラモス国立研究所)もあり、その点では段階的取り組みもやむをえない処かと思料されると云うものです。とは言え、核放棄要求をのらりくらりとかわし、結局は逃げ切るのではとの懸念の残る処です。つまり今回のような重要な会談に臨むに当たっては、通常以上に準備を重ねることが必要なはずですし、入念に準備や分析をしたうえで臨むべきと云うものです。が、こうしたプロセスを欠いていることが極めて重大な問題と思料する処です。

今回、非核化を進めることだけは約束したわけですが、それも4月27日の南北首脳会談で非核化についての目標を確認したピョンヤン宣言を単にリフアーすることでやり過ごしている点が極めて不信感を呼ぶ処ですが、とにかく北朝鮮には徹底的な査察を受け入れることが第一であると云う事、そしてその上で制裁緩和について判断すべきではと思料される処です。そして何よりも、問題はトランプ政権内に北朝鮮の中枢をきちんと分析ができる人材が乏しい事かと思われるのです。然し、こうしたポイントにトランプ氏は気づくことなく、自身の政治日程だけで、つまり11月の中間選挙からの逆算で動く彼のまさにトランプ・リスクの高さが、結局は前述のような北朝鮮を利するばかりと、危惧される処です。

(2) 「北朝鮮の体制保証」の意味する事

トランプ氏は北朝鮮に対し非核化に応じた場合は「体制保証の用意がある」と明言してきています。この点は合意文章にも映る処ですが、それが意味することは北朝鮮の安全保障を米国が担保していくという事でしょうが、その場合、北朝鮮にとって安全保障が成立する唯一の条件と云えば、米軍が北朝鮮軍を撃破する戦力(特に核戦力)を持たないという事にあると云うものでしょう。

仮に米朝間で平和条約の話が進むことともなれば、米国としては北への脅威解消の視点から在韓米軍の見直しが始まる事が予想され、つまりは米国のretreatであり、その結果は米国のアジアにおける地位の低下を余儀なくすること、先に触れたとおりです。既にトランプ氏は記者会見で在韓米軍の見直しはあり得ると示唆していますし、米韓合同軍事演習についても同様指摘しています。一方、そうした事態は中国にとって東アジアでの支配的な、経済も含めた大国になっていく機会ともなると云うものです。つまりは中国こそは、その恩恵に浴することになると云うものです。これは国際的に新たな安全保障環境の創出を意味することになるのですが、それは、アジア市場が赤色に染まっていくこと、つまり世界経済の競争関係が自由陣営の思考様式から中国共産党の思考様式に塗り変えられていく事であり、その危険性を意味する処です。

実際、中国習近平氏はかねて北朝鮮が求める「体制保証」や「段階的な非核化」に理解を示し、金正恩氏の後ろ盾としての存在を強調し、米主導の国際秩序に対抗しうる中国流の勢力圏の形成をも目論んでおり、とりわけ今次のカナダG7サミットで鮮明となったG7の分裂含みの状況を好機とみている様相が伝わる処です。
とすれば、そうした新たな国際環境に自由陣営諸国は如何に向き合っていくか、その自覚と覚悟を以って、明確な対抗軸の構築が求められると云うものです。それは朝鮮半島の安全保障体制をどう構築するかですが、この際はG7の再生を視野に入れ、自由陣営の連携強化への道を改めて模索すべきと思料するのですが、以下で指摘するように、これこそは日本の出番とする処ではと思料するのです。(尚この項については別途論じる予定)

かくして現時点でのレビューからは前述のとおり、米朝首脳会談は結果的には北朝鮮の描くシナリオを行くものとなったと云うものですが、その際留意すべきは、前述したように
核放棄要求をのらりくらりとかわし、結局は逃げ切るのではとの懸念を完全に払しょくできるシステムの導入が不可欠と云うものです。
一方、これら新展開の波及効果として、東アジアを囲む形で中国の覇権拡大が進む事が想定される処、日本の今後の姿については、これらをcontextにおいて考えられていく事が必然となったという事です。


2. 米朝首脳会談と‘戦後日本’の総括

(1)迫られる ‘戦後日本’の総括
  
戦後日本は前述の通り、一貫して米国の核の傘の下、日米同盟関係を基軸とした生業を以って、今日に至っています。つまり戦後70年余、米国と共にあったわけですが、朝鮮半島における平和体制が醸成され、それに合わせて米国が在韓米軍等、朝鮮半島における安全保障体制の見直を必然とし、つまりは米国のretreatが進むとなると、当然として日本にとっての安全保障体制には空白が生じていく事になり、新たに日本としての自律的な安保体制の構築が求められる事になると云うものです。つまり、今次の米朝会談を契機として、米国の行動様式に変化が起こり、これまでの日本のあり方では通じなくなっていく可能性が出てきたきたと云う事です。勿論、日米の同盟関係が即解消となる事はないでしょうし、相応に堅持されるべきとは思料するのですが、新な日本としての安全保障を念頭に置く外交戦略の構築が不可避となってきたと云う事です。それは、まさに戦後日本の総括としての新体制の構築を意味する処です。 

・求められる日本という国の「かたち」
では、何を以って日本の安保・外交戦略の基本軸とされるのかですが、その点では、日本と云う国のかたち、これからの姿を描きだす事なくしては、議論はできませんが、ここでは暫し横に置いて議論を進めることしたいと思います。

尚、ここで留意すべきは、安全保障の問題となると往々にして国の防衛、軍備の拡充だ、軍事費の拡大をと、声が上がる処で、安倍首相に至っては北朝鮮の脅威を煽り、防衛政策の転換や防衛力の増強を進めてきた事は周知の処です。因みに5月29日、自民党政務調査会では防衛費をこれまでのGDP比1%から2%への拡充を提案しています。これは米・英などは2%超だからという事のようですが、その必然性は不明のままにあるのです。考えておかねばならないことは、防衛費の2倍とは5兆円が10兆円ということですが、まだまだ防衛費の効率化の余地があるとされる点です。例えば、米国から輸入する高額の装備製品についてみると、米政府から直接契約して調達する優勝軍事援助(FMS)での取得が増えていますが、調達価格は米政府主導となっているのです。
勿論、国を守る事は当然であり、そのために必要な国防措置は不可避です。ただそのためには、環境が変わってきた今、国の在り方、国際関係の在り方についての展望を持つことが不可欠ですし、それこそ、上述のように国のかたち論も必要とされる処です。更には有事という事態も構造的に変わってきています。つまり、大きく変化していく現実にあって、単に軍備費予算を増やし、戦闘用機器を調達すれば事が済むなどその発想は余りにも古典的であり、あまリにも先進さに欠くと云うものです。まさに発想の転換が不可欠なのですが、その自覚に欠けていることが問題です。

・日本の戦略軸は多元的経済連携の強化
さて、近年、日本の成長、発展の在り姿は周知の通り、高度technologyとグローバル化の深耕に負うものであり、多国間での重厚な連携に於いて成り立ってきている事、周知の処です。この経験に照らす時、つまりグローバル化が更に構造的な変化を伴いながら進行していく世界にあって日本としては、その生業からは、より新たな連携を以って臨むことが極めて重要になってきており、それこそは日本の戦略軸となる処と思料するのです。
因みに元米大統領国防担当補佐官で、ハーバード大教授のJoseph Nye氏は`Asia After Trump’(Apri.9)で、もはや世界の抱える問題は一国だけでは解決できない状況にあることを理解し、米国と云えども、日本、中国、インド、更には欧州との高度な連携強化を図っていく事が世界の安全保障に資するとし、再び持論の人口の流動化、エネルギ開発、新技術、教育の高度化等々、soft powerの戦略的活用をと、主導する処です。

・メゲリーニEU外交安保上級代表
さて、日本と欧州との間でも、今そうしたコンテクストをもった動きが鮮明となってきています。日本はEUと経済連携協定(EPA)の調印を7月に、そして2019年初めには発効予定ですが、そのEU外交安全保障上級代表メゲリーニ氏は、近時の欧州とアジアの行動に鑑み、両者がこれほどまでに近い存在だったことがあったであろうかとして、日経(5月30日)への寄稿の中で、EU外相理事会(5月28日)での包括的なEU・アジア戦略についての討議内容をリフアーしながら、日本,アジアと安全保障関与の強化を訴えています。

つまり、「欧州とアジア・日本との関係では経済的側面が馴染みの多い部分だが、両者の協力関係拡大では安全保障分野における取り組みが一番進展している。そして、いま両者の間で最も差し迫った問題はおそらく非核化であろう。双方は、イラン核合意を維持し、朝鮮半島の非核化に向けた協議を支援する事に共通の利益を見出している」とするものでした。

・TPPは自由貿易の象徴そして、「自由で開かれたインド太平洋戦略」も
米国が抜けた後、日本が主導して完成させたTPP11は、いまや自由貿易の象徴的存在と評価をされていますし、それは日本が身をもって演出できる自由な民主的経済活動の舞台と云うものです。当初、TPP11の戦略的推進を指摘する度、それは甘い発想と批判を受けてきましたが、今ではインドネシアが参加を希望し、英国までもが関心を示し出すほどです。

加えて日本が発想し、トランプ大統領の理解も得て、日米豪印の四者による戦略「自由で開かれたインド太平洋戦略」があります。これなど、極めて安全保障戦略をなす処、既に四者間協議が始まっています。序でながらマテイス米国防長官は5月30日、米太平洋軍の名称を「インド太平洋軍(INDO-PACOM)」に変更しています。当該軍の管轄地域は以前と変わらず太平洋からインド洋にまたがるものですが、今回はトランプ政権が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進しているのに伴って名称を変更したもので、北朝鮮問題や中国の海洋進出に対処するものとされているのです。

(2)懸念される安倍政治の対米姿勢

今次の米朝首脳会談を契機として、上述の通り、日本には今後の在り方が問われることになってきたという事ですが、それが日本に自立した外交戦略の構築を求めることになってきた事、つまり米国頼みを脱する時である事を、確認させられる処です。その点で気になるのが安倍首相の対米姿勢、いや対トランプ姿勢です。安倍首相はトランプ氏との蜜月関係を築き、十分なコミュニケーションを図ることで豊かな協調関係を誇示しています。このことは評価できる処でしょう。然しその実態にはいまや疑問の積もる処です

6月7日、安倍首相は4月に続いて再び訪米し、トランプ氏と会談しています。その趣旨は云うまでもなく、12日の米朝首脳会談を前に、対北朝鮮政策をすり合わせる狙いとされるものでした。 然し、トランプ氏が安倍首相との会談後の共同記者会見では、朝鮮戦争の終結に向けた合意文書への署名を調整中と明かしていましたし、当面は制裁を排除しないとは言いながらも、金正恩氏のシナリオに乗り、北朝鮮を取り込む方向に舵を切った事は間違いない処でしたし、実際にそうでした。これでは、安倍首相の米国一辺倒、圧力一辺倒の外交は、はしごを外された格好となったと云うものです。

とにかく、トランプ氏が会談中止を発表した際は、世界で一国だけ安倍首相は「支持する」と表明したのですが、会談の予定通りの開催が決定されるや「会談の実現を強く期待する。その勇気を称賛したい」と一変。米国の動きに応じて態度を変える姿が鮮明となったというものですが、これでは地域の平和と安定を築く当事者としての自覚が問われる処です。

更に、安全保障に経済を絡めるトランプ氏は、対日貿易赤字の縮小にも照準を合わせ、巨額の兵器などの購入を日本に迫っています。北朝鮮問題で、対米依存を強めれば、足元を見られるばかりと云うものでしょう。因みに、北朝鮮への見返りとする経済支援は日中韓で、としているのも、とりわけ日本については安倍首相が要請した拉致問題を会談での俎上に乗せると約した見返りとして、日本には経済支援をと云うのですが、まさにデイールに乗せられたと云うことでしょうか。これを機に,安倍政権にはこれまでの対米外交の効果と、限界を冷徹に分析し、新たな現実に即した戦略の練り直しと云う課題を抱えることになったと云うものです。


おわりに 過去のサミットの教訓と米朝首脳会談

処で、いろいろ資料を漁っていた折、極めて興味深い記事に出会ったのです。Financial Times (2018/6/11) にあった同紙Columnist、Gideon Rachman氏の記事 「Past summits offer lessons for Singapore showdown ― From Munich to Yalta, Beijing to Reykjavik, top -level meetings have a patchy record」です。Rachman氏は「伝統的に歴史を作るサミット発言大国の商品欧者間で行われ、戦争と平和の問題に対処してきた。そして、いくつかのサミットが歴史の流れを変えてきた。そしてそれぞれのサミットにそれぞれの教訓が込められている」として、以下の歴史的なサミット(注)を取り挙げ、当該サミットが示唆する教訓について解説するものでした。
(注)歴史的サミットと関係首脳
1938年ミューヘン会談:独ヒットラー、英チェンバレン、仏ダラデイエ、伊ムッソリーニ
1945年のヤルタ会談:米ルーズベルト、英チャーチル、ソ連スターリン
1972年の米中首脳会談:米ニクソン、中毛沢東
1986年のレイキャビック首脳会談:米レーガン、ソ連ゴルバチョフ

例えば、「ミューヘン会談」の場合、ナチスに対する宥和政策の失敗の極みを告げた場面として悪名を馳せるようになったと云うものですが、英チェンバレン氏は、後に無価値であることが判明する将来の平和の確約の見返りに、チェコ領を明け渡したことで、今日に至るまで「ミューヘン」という言葉は、目先の事しか考えない弱さの代名詞となっていると云うのです。然し、あの当時は、ミューヘン会談は英国内の多くのひとから勝利とみなされ、チェンバレンはロンドンで喝采する群衆にむかえられ、帰途に就く前のミューヘンでも拍手を浴びていたと云うのです。つまりそこから得られる教訓とは、歴史の評価は、サミット翌日の評価とは大きく異なることがある、と云うのです。

又、ヤルタ会談では、戦後秩序の形成に於いて決定的に重要な瞬間となったが、年老いたルーズベルトは対ナチ連合の結束維持から、ソ連が1939年に併合したポーランド領を保持したいと云うソ連側の要求を飲んだことで、今日に至るまでポーランド国内外の多くのひとは、ヤルタと云う言葉を裏切りの同意語と見なされていると云うのです。
そこで、自らが交渉のテーブルに就いていないのなら、自国の利益が取引で譲り渡されることを心配すべきと云うのが、教訓だと云うのです。今次のトランプ氏と金氏が会談に向かう中、これは日本政府が特に懸念していた事だったと云うのです。では、安倍首相が直前、ワシントンでトランプ大統領と会談したことはその教訓を体現するものだったという事なのでしょうか。

Rachman氏は今次の米朝会談について、予測不能なことが起こる可能性はトランプ政権の準備不足で高まっていると指摘していました。‘包括さ’が際立つた「合意文書」。トランプ氏はそれを以って成功だとご機嫌の様子でしたが、それはまさにトランプ氏の準備不足に負う処、尤も金氏にとっては都合の良い様相にあるとされるのですが、それだけに今後の作業プロセスでは認識のズレの顕在化に注意せよという事なのでしょうか。

以上
posted by 林川眞善 at 10:12| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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