2017年11月27日

2017年12月号  トランプ大統領、この秋、アジアを行く  アジアからのretreatを鮮明としたトランプ米国 - 林川眞善

はじめに: トランプ米大統領と日本

この秋、トランプ米大統領は就任後初のアジア5か国を歴訪、その最初の地として11月5日、日本にやってきました。その彼の来日を控え、日米関係に係る資料を整理していた折、ある論文が筆者の目を惹きつけたのです。それは米外交誌Foreign Affairs, Sept/Oct. 2017 ( P.21-27)に載った米コロンビア大、Takako Hikotani氏の論文 ‘Trump’s Gift to Japan’ でした。因みに副題はTime for Tokyo to invest in the Liberal Orderです。(注:Takako Hikotani is Gerald L. Curtis Associate Professor of Modern Japanese Politics and Foreign Policy at Columbia University)

「トランプ米大統領の日本への贈り物」とは、聊か皮肉っぽい表題と映る処ですが、Hikotani氏は、要はグローバル化、多国間協調と云う世界の潮流に背を向け、America First, 自国主義を貫かんとするトランプ大統領の登場は、これまでの国際経済の枠組みを否定する如くに、日本に対しては日米通商面ではその公正を、また、日米安保関係では日本の役割の見直し、強化など、圧力をかけてくることが予想され、又それへの対応を余儀なくされる処としながらも、こうしたトランプ政権の対日姿勢こそは、これまでの対米従属と批判されてきた日本の外交、安全保障政策を、自主的、主体的なものとしていく絶好のチャンスと受け止めるべきで、更には、アジア等、世界への関与後退、つまりretreatこそは経済大国日本のアジアにおける出番となるとし、そうしたトランプ氏の米大統領としての登場は日本にとって歓迎すべき機会だ、まさに‘贈り物’だというのです。そして、そのコンテクストを以って日米関係の今日的実状を分析し、日本の取るべき対外政策の今後について語る、極めて実践的な論文です。

そこで、本稿は今次のトランプ大統領のアジア歴訪のレビューと併せて日本での日米首脳会談が映す日米関係の現実と今後について考察する事を予定するものですが、その考察への備えとして、改めて上掲論文をレビューする事から始めることとしたいと思います。そして先週、Thanksgivingで沸くNYに出かけましたがその際の、安倍首相が叫ぶ‘アベノミクスの再起動’に、覚える所感を合わせ記したい思います。( 2017/11/27)
             
     目  次

第1章 Trump’s Gift to Japan --------- P.2

(1)二つの ‘トランプ取り込み’ 作戦
(2)いま日本に求められる外交戦略

第2章 トランプ米大統領、この秋、アジアを行く 
            --------- P.5
1.トランプ大統領の来日と、日本の今後
(1)日米首脳会談が映す日米関係のリアル
(2)気がかりな事

2.トランプ大統領のアジア5か国歴訪と彼の可能性
(1)トランプ大統領のアジア歴訪と首脳会談総括
(2)トランプ大統領の可能性


おわりに 滞在先のNYで思うこと
--------- P.9
(1)米景気の勢いに触発されて
(2)「改革したふり」せず、真に改革を


        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第1章 Trump’s Gift to Japan
―Time for Tokyo to invest in the Liberal Order

(1)二つの ‘トランプ取り込み’ 作戦
安倍首相とトランプ大統領との相性はよさそうだ。これがまず作戦のベースにあったと云うのです。つまり両者は共に、自国を再生し偉大な国にすると云い、どちらも強いリーダーシップに共感し、共にゴルフを楽しむと云った点で、相性がよさそうだ、フレンドリーだ、との感触の下、勿論トランプ氏が見せていた対日批判姿勢を気遣っての事でしたが、同氏を日本側に取り込むための「二つの作戦」が用意されてきたと指摘するのです。外交とは人間関係にあり、と云う事でしょうか。

その一つが「to `disarm ‘ Trump」と云うのです。(トランプ融和作戦とでも云う事でしょうか)
具体的には昨年11月、当選直後のトランプ氏を安倍首相は、黄金のゴルフ・ドライバーをお土産にトランプタワーに表敬訪問していますが、それは選挙中、トランプ氏が見せた対日批判姿勢を気遣ってのアレンジであり、両者の会話の場に娘のイバンカさんにも同席を促したこともあって、その効果は大きく、更には、今年2月にはトランプ氏の別荘、Mar-a-Lago でゴルフ、会食する等で、蜜月とも言われる関係が出来てきたと云い、二人の距離は急速に縮まり、二人の会談はより効果的なものとなってきたと指摘するのです。

もう一つの作戦が「to `disengage’ Trump from key policy matters」だと云うのです。日本政府筋はトランプ氏のtransactional dealmaking approach、つまり外交交渉をビジネス交渉まがいとする姿勢を懸念し、とりわけ経済と安全保障問題が一緒に扱われ、例えば貿易上の問題を同盟関係維持問題とすり替えられる事への懸念から、交渉チャンネルを変え、つまりはホワイトハウスから切り離すこととしたことで、これが功を奏していると評価するのです。

因みに、安保問題につぃてはスムーズに進展、米国は在日駐留軍の維持と、日米安保条約第5条(米国の集団的自衛権行使)を以って日本の防衛と日本の領土保全を約するまでに至った事、 一方、経済問題では周知の通り、TPPからの離脱という事で日本に水を浴びせ、又、自動車輸出を巡り、reciprocity 互恵の云々が持ち込まれる等、1980年代の日米交渉の再現すら思われる処ですが、日本からは日米の副総理、副大統領による日米経済対話を提案することで、トランプ氏をこうした問題から外すことに成功していると云うのです。

要は、こうした二つの対トランプ作戦、disarming Trumpと disengaging him from core issues、 が攻を奏する処、因みに2月11日、Mar-a-Lagoでの食事を挟んでのトップ会談後、その際、北朝鮮はミサイル発射実験を実施していますが、トランプ氏は` The United States of America stands behind Japan, its great ally, one hundred percentage, ‘(米国は100%日本側にある)とメッセージを発していましたが、それこそは両者の結束力の強さの証とするのです。そして、係る状況に、日本国民はかなりの比率において成果ありとしていると理解をする一方で、28%と僅かながらも、トランプに近づきすぎ ` Abe for sucking up to Trump’ (トランプにおべっかばかりの安倍)とする批判にも言及し、日本への信頼を怪うくする処と指摘するのですが、これこそは今、安倍政権が醸し出している問題と思料する処です。

(2)いま日本に求められる外交戦略
処で、こうした日本の対トランプ作戦にもその限界が鮮明となってきたと指摘するのです。
つまり、彼の行動はdisarming はともかくdisengagementと云う点では想定されいた枠組みを超え、北朝鮮問題に対しては極めて挑戦的な行動をとり、7月以来、G20などで米国製品の市場アクセスについて漏らしていた不満を荒げだしてきたという事です。これらはより基本的には、米国の外交政策上の構造的変化、つまり国際機関からの撤退、米中関係の不確実さ、高まる朝鮮半島での脅威を映すものとし、かかる変化は日本に、これまでの対トランプ政策を超えた戦略思考を求める処となってきたというのです。それは日本が如何に自主防衛の能力を高めるか、そして如何にその政策ポートホリオを拡充し、以ってinternational institutions国際機関等、諸制度の活性化を助けていくかが、求められる処と指摘するのです。

尚、北朝鮮への対応として、彼らの米本土に届くICBMの開発の成功はまさに日米同盟の在り方を変えるgame changer となるとして、巡行ミサイルを含むcounterattack 能力の確保を指摘するのですが、これはアジア地域における他国の戦略にも大いに影響を及ぼす処と云うもので、慎重を要する処と思料するのです。要は日本はこれまでとは比べようのない広域の選択を迫られる処となってきたと云い、それは経済関係で云えば米国のTPPからの離脱を問題とする事よりもアジアにおける経済秩序の在り方について主導していく立場にあると指摘するのです。

そしてアジア地域における最も重要な問題は、アジアにおける膨張する中国、とりわけ「一帯一路」構想とどう向き合っていくべきなのか、競争し、共存し、協力していけるかにあるというのです。トランプ政権のアジアにおけるリーダーシップの弱体化が進む中その分、日本は対アジア政策の再考が必要になっていると指摘するのです。因みに、この6月安倍首相は「一帯一路」構想にたいして、これまでとは姿勢を変え、協働していくと公言していますし、又、太平洋からインド洋にまたがる自由貿易圏の構築を目指したい `to see a world in which high-quality rules cover an area from the Pacific to the Indian Ocean、with free trade a force that can bring both peace and prosperity. ’ と語っています。又日本のEUとの経済連携協定もアジアを超えた通商拡大を意味しているというのですが、これらが全て、日本が米国を離れて、中国に向かうという事ではないと質した上で、トランプ氏が日本に向ける問題の基本は、liberal democratic order に関わる点であり、それこそは日本の発展、成功の規範となるもので、それこそはアジアのみならず世界における日本の役割と、主張するのです。まさに副題、Time for Tokyo to invest in the Liberal Order の示唆する処と云うものです。

アジアにあっては、TPP完成の為に日本は鋭意関係諸国と協働し,主導していくべきであり(次章P.8)、米国の将来の復帰参加を可能とすることをも考え取り組むべきで、同じ文脈で、日本はワシントン政府のパリ協定への再加盟を支援していくべきとも云うのです。又、日本はアジアのリーダーとしてアジア諸国と協調していくべき立場にあるわけで、そうした対応こそが北朝鮮危機を悲劇的結果とならないようにしていく事になる、Keeping the door open for the United States- is a role Japan should seek, not just in Asia but also worldwide. と云うのでした。


第2章 トランプ米大統領、この秋、アジアを行く

1.トランプ大統領の来日 ― 日米首脳会談と日本の今後

さて、トランプ米大統領は就任後初となるアジア歴訪の最初の地として11月5日、日本に到着、やはりShinzo-Donaldの蜜月さは、ひときわ世界の注目を引く処でした。そしてトランプ氏滞在中、行われた日米首脳会談を通して見える日米関係とは本稿冒頭紹介したHikotani 論文を地で行くがごときと映るものでした。

まず、トランプ大統領は11月5日 日本に到着するや直ちに、安倍首相招待の歓迎ゴルフ接待を受け、続く首相夫妻主催の夕食会に出席。翌6日、午前中は日本の経済人との会合に、そして皇居での天皇皇后両陛下と初会見、午後はワーキングランチを経て、大統領就任以来5回目となる日米首脳会談を果たし、これらevents での会話、会談を通じ、両国の喫緊のテーマ、北朝鮮問題について、米国と当該対応方針について認識の共有を図り、まさにShinzo-Donald の‘蜜月’を、改めて世界にアッピールするものでした。尚、余談ながら彼の日本入国は米軍横田基地経由でした。かつて72年前の1945年8月30日、マッカサー元帥が国連軍最高司令官としてコーン・パイプを咥え米軍の立川基地に降り立つ姿を想起させられたのですが、今回彼が横田基地に降り立ったことに特別な意味を持たせようとしたものかと、下衆の勘繰りと云うものでした。

(1)日米首脳会談(注)が映す日米関係のリアル
今回の日米トップ会談は、その後に続くアジア訪問各国での首脳会談への枠組み作りとも映る処、日米が主導して政治的、経済的メッセージを発する処に狙いがあったと云うものでした。
当首脳会談要旨は以下(注)の通りで、北朝鮮に対して日米の結束を打ち出し得た事、勿論、それで米朝の軍事衝突リスクが解消とはなりませんが、相応の成果があったとされる処でしょう。

 (注)11月6日行われた日米首脳会談要旨(日本政府発表)。(日経2017/11/7)
[北朝鮮問題] 日米両国が北朝鮮問題に関して100 % 共にある事と、日本の防衛に対する米国のゆるぎないコミットメントを確認。対話ではなく、北朝鮮に最大限の圧力をかける局面であるとの認識で一致
[安全保障] 法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序が国際社会の安定と繁栄の基礎であること
を確認。インド太平洋地域の重要性で一致。自由で開かれたインド太平洋戦略を共に推進する。日
米同盟の抑止力の強化に引き続き取り組む。
[貿易] 自動車、ライフサイエンス等の分野での協力を確認。日米両国間の貿易・投資見ついては、
麻生太郎副総理とペンス副大統領による日米経済対話で引き続き議論をしていく事で一致。2国間
だけではなく、アジア太平洋地域に広がる貿易、投資の高い基準作りを主導することで一致。自由
で公正な貿易の環境を作ることを確認。

そして、もう一つ成果としてあげられるのが上記‘要旨’にも記されている米国と「自由で開かれたインド太平洋戦略」の理念(注)を共有できた事だったといえそうです。そのコンセプトは日米豪印4国を軸に、アジアからインド洋を経てアフリカに至る地域の安定と成長を目指さんとするもので、大風呂敷な感は否めませんが、それでも日米共通の外交戦略とすることでトランプ氏と合意なった事は相応の成果と言えるのではと思料するのです。周知の通り、同氏はアメリカ第一主義を以って多国間協調なる戦略を忌避する立場ですが、この多国間の枠組みに理解を示した初の事例と云う点で、興味深いものでした。さて、インドはやや浮いた存在にありますが、これがつなぎとめられるかが、今後の課題と云うものと思料される処ですが、やはりトランプ氏がどこまで真剣に考え対応しようとしているかは、気になる処です。

      (注)「インド太平洋戦略」3つの狙い(日経 2017/11/7 )
     1.基本的価値の普及→ 日米豪印中心に連携
       2.経済的繁栄の追求→ アジア・アフリカの成長支援 (太平洋)
       3.平和と安定確保 → 人道・災害支援 (インド洋)

とは言え、トランプ氏のこの変化は、中国の「一帯一路」構想が、時に対米戦略の一環とも言われる処、これへの対抗ビジョンを求めていただけに、オバマ政権との差別化という点でもトランプ大統領として乗りやすかったのではと思料する処です。当該戦略とはどのような展開となるものか、具体的にはまだ分かってはいませが、今次大枠合意をみたTPP11とも併せ、日本はアジアにおける主導的な立ち位置を手にしえたのではと思料される処です。もとより、当該課題は如何にそのcomprehensive、 かつtimely なaction planを示し得るかでしょうが、暫し推移を見て行きたいと思う処です。

(2)気がかりな事
勿論、色々残された問題多々です。双方の問題への関心の在り方、そのベクトル合い難く、因みに首脳会談の冒頭、安倍首相が北朝鮮問題について言及したのに対し,トランプ大統領は対日貿易赤字にまず触れた事は、好対照と云え、両者の関心のすれ違いを鮮明とする処でした。各論については`日米経済対話’の枠組みに持ち込まれましたが、トランプ大統領としては来年の中間選挙を前に日米間の貿易交渉での成果を期待する処でしょうから、日米関係がShinzo-Donaldの蜜月とは言え今後共、貿易面では強く圧力をかけてくる事が予想される処です。

因みに、首脳会談後の共同記者会見では、貿易不均衡問題に絡めた米国製防衛装備品調達の要請が飛び出し、これに応える形で後刻、前述のように安倍首相は800億円の追加調達を明らかにしていますが、さてこの辺りになると、トランプ追随型の安倍政治と映る処、それは米軍の枠組みに取り込まれる姿とも映るだけに、極めて気がかりと云うものです。
加えて、日米関係に限る話ではありませんが、トランプ政権と付き合っていく上で、いま最も気がかりな事として云えることは「ロシアゲート」問題です。日米首脳会談を控えた5日、トランプ氏とロシアの不適切な関係を巡る「ロシアゲート」に新たな疑惑が持ちあがってきたのです。対象となったのはトランプ政権閣僚、ロス商務長官です。10月末のマナフォード元選挙対策本部長(起訴)、フリン前大統領補佐官に続く疑惑です。トランプ大統領としては米国内でのこの逆風から目をそらすため、外交面での目に見える成果に傾く公算大と云え、後述する歴訪総括報告はそういった事情を反映したものとも云えそうです。

2. トランプ大統領のアジア5か国歴訪と、彼の可能性

(1)トランプ大統領アジア歴訪と首脳会談総括 
トランプ氏は大統領就任後、初となったアジア5か国の歴訪を終え、11月14日、ワシントンに戻り、翌15日、今回の歴訪総括声明を発表したのです。今回の歴訪は、前述の日本(11/5-6)を皮切りに韓国(11/7)、中国(11/8-/9)そして、ベトナムでのAPEC首脳会議(11/10)、フィリピンでのASEAN首脳会議(11/13)に出席、夫々、安全保障問題として、北朝鮮の核・ミサイル開発停止に向けた対北朝鮮包囲網作りへの協力要請、そして経済面では公正かつreciprocal trade つまり互恵的貿易の確保を訴える旅でした。

さて15日の総括声明は、とにかく自画自賛の内容とも云うべく、とりわけ日韓中での首脳会談を通じて、安全保障との絡みで3か国への売り込みに成功した話が中心で、何か企業人の出張報告といった様相にあり、TVに映るその場の雰囲気はいささか冷めた観のあるものでした。
つまり、先々の首脳会談、多国間協議の場では、彼は米国のアジアへの関与の維持を口にすることはあっても、期待された`安保‘と`経済‘を両輪にアジアの平和と発展を主導する具体的戦略を語ることもなく、最後は必ず持論のAmerica First で終わるもので、大統領としての彼の関心が専ら二国間対米貿易の赤字削減に向けられ、何よりもこれまでの世界の指導者としての立場を投げ出し、やり過ごす姿に、もはやアジアからの共感を呼ぶことはなく、その分、後述、中国の存在感が際立つばかりと云うものでしたが、それを自ら実証したと映るものでした。

そうした状況を決定的なものと印象付けたのが10日、APEC首脳会議を前に、習近平主席のスピーチに先立ち行われたトランプ大統領のスピーチでした。トランプ大統領は「インド太平洋構想」には触れたものの、あくまで米国を縛るような多国間協定には反対と、米国第一主義を繰り返すだけで、そこで‘東’には自国主義で内向きに閉じこもるトランプ米国があり、‘西’には世界を主導せんと台頭する習近平中国がありと、両者が太平洋を挟んでせめぎ合う構図の深まりを‘実感’する、まさに世界のガバナンス構図の変化の始まりを強く印象付けるものだったのです。

(注)両首脳の発言ポイント(日経11/11)
・トランプ大統領:「我々はインド太平洋地域のパートナーであり、同盟国だ」だとしなが
らも、「米国第一」は譲らず、多国間交渉を通じて地域全体に自由貿易のルールと理念を
広げる先導者の役割には背を向けるもの。    
・習近平主席:「アジア太平洋の平和と安定、繁栄はアジアの人々に属する」「アジアで自由
貿易を作るのは私にとって長年の夢だった」と、自国優先に傾く米国のスキを突き、地域
の盟主の座を窺う様相

・‘対北朝鮮政策’と‘公正貿易’
さて、最大の課題とされた「北朝鮮政策」を巡っては、日米、米韓両トップ会談では「最大限の圧力」、「最大限の制裁と圧力」をかけることで足並みを揃え、カギを握る中国の習近平主席との会談では、北朝鮮への圧力継続を確認したと成果を誇示していましたが、北朝鮮を核放棄に追い込む包囲網には濃淡は残り、道は半ばと云った様相に終わっています。(尚、17日、中国は北朝鮮に特使を派遣し、米国との対話の可能性について協議を始めたと報じていましたが、その内容は不透明のまま。-日経、11/18)

もう一つのテーマ「貿易赤字の是正」問題では、米国との防衛防衛の拡充と云うコンテクストを以って、トランプ大統領は日本,韓国に対して米国製武器の調達を要請、既に安倍首相は800億円の迎撃ミサイル追加購入を約し、韓国では在韓米軍の平等な費用負担を絡め、FTAの再考を促し、更に中国では28兆円の商談(大半は「協議入り」や「覚書」だそうですが)と云う手土産を手にしたのですが、さながらトランプ大統領は武器を含む行商人の様相を見せる処でした。もとより米国内の軍需産業、ボーイング、ロッキード・マーチン等、は大いに恩恵を受け、業績好調が伝えられていますが、トランプ政権の主要閣僚が軍出身者(注)で固められている点からも、トランプ政権の軍産複合体の拡大を実感させると云うものですが、それは同時に、アイゼンハワー元米大統領が1956年、軍産複合体の危険性を指摘し、警鐘を鳴らしていたことを想起させる処です。

      (注)Generals & ex-generals in the Trump administration :
H.R. McMaster : National security adviser (3- stars)
James Mattis : Secretary of defence (4- stars )
John Kelly : Chief staff (4-stars)
  Joseph Dunford : Chairman of the joint chiefs of staff (4-stars)
  Michael Flynn : Former national security adviser (resigned) (3-stars)
                   ( The Economist, Nov.11-17, 2017) 

・TPP11大枠合意と日本経済
序でながら、当初、日米主導で進められてきた多国間通商協定TPP12は、今年1月トランプ大統領が就任時、米国のTPPからの離脱を決めた事で一時、その成立が危ぶまれていましたが、米国抜きのTPP11としてAPEC会議と並行して進められていましたが、11月 11日、漸く大枠合意を果たしたのです。日本が11か国の議論を主導した結果というもので、その努力は大いに評価される処、自国第一主義の高まる中での合意成立の意義は極めて大きいと云うものです。

TPPの目的は、アジアの成長市場の活力を取り込むためにルールを整備することにあります。タイ、インドネシアなどは市場も大きく、多くの日本企業はASEAN全体にわたってサプライチェーンを展開する処ですし、これら国々が参加すれば日本にとって経済的実利は大きいと云うものです。それよりも何よりも、二国間取引を前提に米国から圧力がかかってもTTP協定を以って当該圧力には対抗しうると云うものでしょう。但し、このためにも日本は一層の構造改革と同時に貿易の自由化を進めることが不可避となる処です。そして、日本経済の再生が実現していくとすれば、世界経済の成長に貢献することになると云うものです。関係国の早期批准を期待する処です。

(2)トランプ大統領の可能性
さて、米国民が異端の指導者を担いだ選挙戦から11月8日で1年、そのトランプ政権の混迷は深まる一方の状況にあります。周知の通り、ポピュリズムの台頭を許した庶民の内向き志向は根深く、かつての米国に戻る復元力は今の処乏しいと見ざるをえません。 因みに彼がアジアへ旅立つ前の10月28日、米紙、ワシントン・ポスト紙は、メリーランド大学との共同世論調査結果、トランプ政権下で「政治の停滞が危険水準に達した」と考える国民が71%に達したと報じたのです。そして、この水準について、米軍撤退等を巡り国論が2分したベトナム戦争当時と同じ水準か、それよりもひどいと感じていると回答した人が70%に達したと、伝えるものでした。

上掲エコノミスト誌(Nov. 11-17)、巻頭言は「Endangered ― American influence has dwindled under Donald Trump. It will not be simple to restore.」と、劣化したトランプ米国の世界に対する影響力の再生はもはや無理だろうと、断じると共に、By putting `America First’, he makes it weaker, and the world worse off と、極めてnegativeなコメントを伝えるものでした。上述トランプ大統領の言動からは、もはや、と云ったところかと思うばかりです。因みに米論壇,Project SyndicateでMs. Elizabeth Drewは論考(11/3)`The Fall of the President’s Men’ で、`Trump is the Target’ と指摘するのです。(Ms. Elizabeth Dew is regular contributor to New York Review Books and the Author of Washington Journal; Reporting Watergate and Richard Nixon’s Downfall)


おわりに  滞在先のNY で思うこと

(1) 米景気の勢いに触発されて
筆者は先週、Thanksgiving で賑わうNYに滞在し米経済の消費景気を実感してきました。23日にはNY最大と云われるパレードがあり翌24日はBlack Friday で街中、大セール一色で身動きの出来ぬほどの人出、今朝一番のTVニュースでは本当か嘘か、1億1千万人の人出があった由、これは日本の全人口がショッピングに集まったという事になるのですが・・・。とにかく筆者もこの活況に与かるべくパレードの大本拠たる36丁目のデパート、メーシイーズに出かけましたが、久しぶりの高揚感と熱気に疲れ、ホテルに戻りましたが、その帰りyellow cab のdriver に景気が良くていいね、と声をかけたら、戻ってきた言葉は、給料が上がらなくてね・・・。要は、自分は関係ないよと、云いたかったのでしょうか。どこかで聞くストーリでした。

さて日本経済は8月発表のGDP(四半期)ベースで6期連続のプラス、内閣府が11月8日発表した9月の景気動向指数では景気回復は戦後2位、58か月となる見込みと報じています。でもNYのタクシードライバーならぬ多くの日本国民はその経済の回復の恩恵に浴している実感がないというのです。GDPの6割を占める消費は依然低迷状況にあります。雇用者賃金が上がらず好景気でも懐は温まらないという事です。
思うに、。アベノミクスがスタートして4年。この間、日銀は異次元の通貨量を流し、政府は想定外と云われる規模の財政出動をもって経済を支えんとしてきたのですが、お陰で株式市場は好調なのですが、これが実需につながる事はなかったという事なのです。そこで安倍首相は財界幹部に一律賃金の3%アップを要請、「賃上げは企業への社会的要請だ」と云う言葉を付してです。そしてこの要請を財界は一言の異論を挟むことなく受容したのです(10月26日、経済財政諮問会議)何か変です。もはやアベノミクスは機能不全に陥ったと云うものです。

不全とする理由は経済構造が90年代以降急速に変わってきたのに、日銀も政府も昔の短期不況に対応した政策の発想から抜け出せていないことの不条理とも云うものです。
これまで日銀は通貨を発行さえすれば人々はモノを買いに走り、景気が回復するとしていました。政府も民間にお金を配る事で、つまり公共事業等財政出動ですが、そう考えてきました。まさに需要サイドの話です。一方、政府は効率化だ、競争力強化だ、無駄の排除等いわゆる成長戦略などを進めてきています。アベノミクスで云えば今一億総活躍だ、働き方改革だ、等々改革を掲げ、誘導してきています。これは日本経済の生産力の強化、つまり供給サイドでの対応です。然しお金を配っても需要は増えない。消費者は一応の必需品を完備して、そういった点で需要は増えない状況です。需要が増えなければ企業が、労働者が頑張っても効果は上がりません。それどころか、効率化によって人がいらなくなり、生産能力が更に拡大すればかえって売れ残りや失業が広がり、不況をひどくしかねないのです。

今、消費者は必要なものは十分に揃えている、飽和状況にある現状ですから、本当は何が欲しいのか見つめ直し、今企業にとどまっているお金をそのために使うようにしていく事が必要なのです。これまで生産性の向上が競争力強化に繋がり、以って企業が稼ぎその結果が賃金に反映されていくと考えられていましたがもはやそうした考えは通用しなくなっているのです。そうした認識がいま、世界的に広がってきている処です。

・技術革新が賃金を抑えていく
この5月、MIT教授のD.オーター氏が発表した論文「労働分配率の低下とスーパースター企業の興隆」が、今世界的に話題を呼んでいます。同教授は2014年8月、米ワイオミング州ジャクソンホールの経済シンポジューム向けに提出した論文で「コンピューター化により、世界中で高学歴の人や未熟練労働者への需要は高まったが、中間スキル層への需要が低下した」ことを明らかにし、コンピュータ時代の長期的な戦略は、人的資本に積極投資するこ都で「ハイテクに奪われるのではなく、ハイテクに保管されるようなスキルを持った労働者」を育てることだと、主張していたのですが、更に、当該論文は、その議論の延長として、アップルや米アマゾン・ドットコム、フェイスブックといった革新企業を取り上げ、彼らの経営行動が賃金に逆風になっていると主張するのです。(注)因みにフェイスブックの場合、利用者は世界で20億人、株式時価総額は50兆円。然し従業員数は2万人。2017年3月時点の連結で36万人いるトヨタ自動車の18分の1.企業が稼いだ利益は資本家に集中し労働者に廻りづらくなっていると云うものです。 [(注)日経( 2017/9/14):「経済教室」鶴光太郎慶大教授「労働分配率低下の真犯人」]

これまで新興国への生産移転と空洞化を経験してきた先進国は経済の停滞を、イノベーションを図ることで克服してきました。そうした革新が今や、ほんの一部の企業が主導するようになってきたことで、イノベーションが ‘競争’ではなく‘寡占’を生む処となり、従って成長の果実も寡占されていくという新事態を生んできているのです。こうした産業の在り姿が急速に変化を進める今、既成通念的な対応では、事態を律しえない状況となってきたということです。

つまり、生産システムのコンピューター化、デジタル化が進んできたことで「モノづくり」の形が急激に変りだしてきていますが、そうした技術革新の進行がシステムの変化を齎し、結果として賃金が抑えられてきているという事で、今や国際的な広がりでみられる現象です。因みに従業員の給料をGDPで割った「労働分配率」は先進各国では低下傾向にあり、日本の場合、1997年からずっと下落傾向にあると法政大学教授の水野和夫氏は雑誌NIPPON、2017/11で語る処です。(注:国民総所得における賃金・俸給の比率は1980年度には46.5%あったものが2015年度には40.5%まで低下)勿論、その分、資本家への分配が増えていると云う事なのです。

こうした変化の中、消費者の行動も構造的に変わりだしてきているのです。今次経験したNYでの消費活動の様子ですが、Thanksgiving Parade の翌24日のThe Wall Street Journalの一面には「Shoppers Flock to Phones 」、つまり混雑のデパートに行くよりはスマホで、と云った具合に消費行動も大きく変化しているのです。

(2)「改革したふり」せず、真に改革を
安倍首相は、現下の完全雇用状態で、近時株価も上昇し、これがアベノミクスの成功の賜物として、「アベノミクス再起動」を云々するのでしょうが、アベノミクスの行動様式を続ける限り、
金融、財政政策の成功の陰で、成長戦略は進まぬままとなり、もはや日本経済の体質の行き詰まりとなる事、火を見るより明らかです。これまで日本の強みとされていた「モノづくり」は近時の大企業の体たらくが象徴する処これありで、成長の可能性に繋がる設備投資もデジタル化でその伸びは鈍化する状況にあって世界的なカネ余り現象が更に深まる恐れがある処です。要は潤沢な手元資金をどのように次の成長につなげていくかが、問われているのです。

これまでも、例えば「一億総活躍」と云ったような陳腐な表現を持ち出し、改革だと叫んでいる安倍首相にいま求められる事は、いつまでも「改革したふり」をすることはやめ、自身も記者会見で喋っているように、‘少子高齢化やグローバル化に対処できる日本経済 ’ へと体質改善を加速させていく事なのです。そしてその為の論理と将来像を描きながら、一義的アクションとして、まずは国をよりオープンとすることも含め規制改革を果敢に進め、新規事業を進めやすい環境を整備していく事であり、それは同時に世界の成長を取り込むアクセスでもあるのです。安倍首相は当初これこそは一丁目一番地と云っていた筈です。
思うに一国の首相たる彼が、目標数字を示し要求する姿は、まさに「国家資本主義」の姿と映る処、これこそが日本経済の活力を乏しくしているのではと痛く思う処です。

それにしても前述、諮問委員会で、経団連会長をヘッドとする企業経営者が首相の要請を、特段の異見を挟むこともなく素直に受け入れる姿に、これって何なのと、大いなる疑問を禁じ得ない処でしたが、偶々見ていたTVニュースで、自民党の小泉進次郎衆院議員も、17日、都内での講演で、同様の疑問を呈していたのです。「首相から、お金が足りない、と言われたらお金を出す。政治の顔色をうかがう現状に甘んじていてはinnovationは生まれない」と檄を飛ばし、そして、一番ものを言えないのは経済界だと、経済界を一喝していたのですが、この若い彼の批判に経団連会長はどう応えるものか、帰路機中では、その思いは深々とする処でした。
以上
posted by 林川眞善 at 21:45| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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