2017年10月27日

2017年11月号  この秋、日本の政変、欧州の政変 - 林川眞善

はじめに:日欧政治の潮流変化

・日本政治のトレンド
10月22日、日本の衆院総選挙の結果は自民党の圧勝で、安倍晋三政権の続投が決まりました。自民党勝利の構図は、当初反安倍勢力として最有力視されていた新党「希望の党」が同党を率いる小池百合子氏の言動を映す形で失墜、因みにその結果は野党陣営では第2位に、それと同時に進んだ野党勢力の分散で、反安倍での結集が出来ず、結局は安倍政権再登場を許す処となったと云うものです。今次、自民党勝利は、2012年(衆院選)、13年(参院選)、14年(衆院選)、16年(参院選)に続く、実に5連勝となるものです。

彼の再登場は、これまでの延長線にあるという意味では自民党政治の安定化と目される処でしょうが、それは従来の自民党勝利とは基本的に異なる重大な意味を持つ処です。それは、今次選挙で自民党は選挙公約に初めて‘憲法改正’を掲げ、勝利したという事です。以って国民の容認を得たとして今後、安倍政治は改憲路線の具体化を進めていくことでしょうが、それは当然として安倍政治の更なる保守化、右傾化を深める処と危惧される処です。つまり日本政治のトレンドが大きく変わるという事です。従来のそれとは異なる重大な意味を持つとは、そうした事なのです。勿論、彼は‘アベノミクスの再起動‘も挙げていますが、その‘再’という言葉も気になる処です。

・独・仏のパワーバランス
一方、目を欧州に転じると欧州政治の潮流にも、いま大きな変化が起こりだしています。
9月24日、ドイツ(連邦議会:下院)、フランス(上院選)で行われた議会選挙の結果は、これまで欧州を牽引してきた両国のパワーバランス、政治力学に変化を齎し、欧州(EU)統治の生業に一大変化を齎す処となってきているというものです。

まずドイツですが、メルケル首相、自身は4選を果たしたものの、これまでの連立政党が敗退、、メルケル与党は大きく票を減らし、代わって極右政党が初議席を獲得、第3政党として躍り出るという構造変化に直面、彼女としては政権維持のために新たな連携を模索することを余儀なくされ、その威光に影を落とす状況にある処です。これまでポピュリズムにはさほど縁がないとされてきたドイツですが、近時の難民の急増への不満、メルケル財政の引き締めへの不満の高まりを受けての結果とされる処、いまや「The end of German exceptionalism」(Financial Times, Sept.25)、と囁かれる状況です。

一方、同日行われたフランス上院議会選挙では、マクロン大統領主導の「共和国前進」も僅少ながら議席数を減らしたことで彼への求心力が瞬時云々されましたが、上院より権限の大きい下院の過半数を握っている点で彼が進めんとする公務員削減や労働市場改革等すぐに滞る状況にはありません。それよりもメルケル氏の政権基盤が緩んできたことで、いわゆる「メルクロン」主導のEU改革はどうなるのか、疑問符が付く処ですが、26日にはマクロン氏はリベラルな姿勢を基調に、再びEU強化について熱弁を振るい、もって、29日のEU首脳会議に臨み、まさにEU統合深化についての論陣を張り、メルケル氏に代わって、マクロン氏の存在感が急速に高まる処となっています。そして、そのあり姿は、Europe’s new order (The Economist.Sept.30)と語られる処です。

つまり、今、日本では政治の保守化、右傾化が懸念される一方、欧州ではマクロン・リベラリズムを基調にEU統合の深化が語られる等、対照的な様相を呈しているのです。

そこで本稿は2部構成とし、第1部では今次、選挙結果を巡る事情、特に選挙の流れを決定づけた新党「希望の党」の顛末をレビューし、一方、再登場の「安倍政権」の‘改憲路線’を質すと共に、今後の経済政策について考察し、第2部では、流動化する欧州事情について検証していきたいと思います。 (2017/10/26)           


― 目 次 -

第1 部 2017年10月、衆院総選挙

第1章 新党「希望の党」とは何だったのか

(1) 不発に終わった「希望の党」
(2)小池ポピュリズムと政党政治の実相

第2章 安倍晋三政権再び
 
(1)安倍政権の「改憲路線」を質す
・憲法は国家百年の計
(2)アベノミクスと安倍経済政策の今後
・アベノミクスのリアル
(3)潜在成長率引き上げに向けた構造改革を
・英誌「エコノミスト」の警鐘
・いま必要なことは労働市場改革
          
第2部 欧州は今、新秩序へ

第1章 シフトする独仏の政治力学 
(1)ドイツよ、お前もか
(2)そしてマクロン氏台頭

第2章 マクロン大統領の挑戦 ― Future of Europe


おわりに:「米中逆転」が現実味を帯びる中で

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第1部 2017年10月、衆院総選挙


第1章 新党「希望の党」とは何だったのか

(1) 不発に終わった「希望の党」
小池百合子氏率いる「希望の党」の絶対的優位が伝わる中、その結果は前述の通りで、野党陣営
の中でも新党「立憲民主党」の後塵を拝するものでした。小池代表の地盤、都内25選挙区(擁
立候補22人)での獲得議席は僅か1議席。では希望の党の敗因は何か。安倍自民党政治との対
峙と云いながら、その政治姿勢を政策の裏付けを以って明確に訴えることが出来なかった、一言
で言って‘政治’に対する未熟さにあったと云うものです。

まず政治姿勢です。小池代表は「希望の党」は‘改革保守’を標榜し、政権公約では原発ストップ、
消費増税見送りと、一見改革姿勢を打ち出すも、それ以外では改憲容認、安保法制容認とまさに
自民党と同じ路線を語るものでした。そこで自民保守との違いを問われると彼女はゴルフ・プレ
ーを引き合いに出し、既成政党は右のラフに打ち込んだり、左のラフに打ち込んだりするが、希
望の党は、フェアーウエーに打ち込み、真っすぐに政策を進めると語るだけで具体的説明もなく、
極めて分かりにくく、又、政権政党選択の選挙と云いながら党代表の彼女の出馬はなく、ではそ
れに代わる総理候補は、と問えばそれも拒否し全ては選挙結果を見てから考えると応えるだけ
で、有権者には極めて曖昧と映り、同党に対する支持は後退、加えて前述彼女の言動、「排除の
論理」を翳した事が、小池代表のおごりだとして「希望の党」の失墜を招いたと云うものでした。
「言葉は政治の武器」、その武器の使い方が問われたと云うものです。

また経済政策にしても然りと云うものでした。まず、アベノミクスの向こうを張って「ユリノミ
クス」を掲げたのですが、ユリノミクスとは何かと問えば、「消費者に寄り添いマーケテイング
などをベースに進める」と応えるだけで、「AI(人口知能)からBI(ベーシックインカム)へ」
ともいうのでしたが、これには巨額の財源が必要なのですが何ら具体性もないままです。更に増
収策について、消費増税は見合わせ、代えて企業の内部留保への課税を挙げるのですが、内部留
保金は企業内に取り崩せる塊として存在するわけでなく、投資に回しても、現金預金で保有して
も内部留保の額は同じです。等々、経済政策としても、財源確保策としても問題のある政策と云
うものです。

経済の活性化を云うのであれば、業績好調な企業がもっと賃上げや、投資に向かうよう促すこと
にある筈の処、内部留保課税はそれを阻害することになる一方、法人税は景気に左右されるだけ
に、消費税ほどには恒久財源にはなりえない等々、問題意識の浅さ、論理的詰めの浅さ、等々、
政党としての未熟さを感じさせるばかりと云うものでした。

尚、小池氏の「排除の論理」がトリガーとなり、政治集団の再編が進み、その結果は新党「立憲
民主党」を生み、これがリベラルとしての政策統一が進んだ事で有権者には、政治が分かりやす
くなったと云うもので、これが怪我の功名とも言え、立憲民主党が野党第1党に躍進した背景と
云うものです。因みに出口調査によれば、無党派層の3割が立憲民主党に投票した由ですが、ま
さに政策対応で筋を通した事への評価という処でしょうか。

(2)小池ポピュリズムと政党政治の実相

処で、今次選挙でダメージを受けた「希望の党」の姿とは、それは小池劇場とも言われるポピュ
リズムをベースに置く政治が故のなせる業と映る処ですが、雑誌、中央公論、10月号の特集「政
党が信じられない」での二人の学者(一橋大教授 中北浩爾氏、京大教授 待鳥聡史氏)の対談、
それは先の東京都議選で圧勝の小池都知事と大阪維新との違い、そしてそこから見える政治課題つまり、政党の在り方について語るものでしたが、今回の「希望の党」に映る小池流ポピュリズム政治を考えていく上で興味深いものでした。

まず、ポピュリズムの特徴を、「体系的な政策の欠如」と「短期間で出現することにある」とした上で、都民フアーストの場合はまさにそうした政党であったと断じ、維新は大阪の課題に取り組む際の基軸が比較的明確だったというのです。つまり大阪の場合、市内や府南部等本当に深刻な課題を抱えていて、維新の台本はある種の必然性があったが、一方の東京について言えば、築地市場の移転問題があったが、大阪の課題と比べると何が争点なのかよくわからない。ただ、大阪の選挙は市長選、市議選、府知事選、府議会と4つあるのに対し東京の場合は知事選と都議選の二つで、勢いがあれば東京の方が ‘短期間’で支配的になれると指摘するのです。
確かに都民フアーストの会が支える小池都知事の構図は、首都東京とは言え地方自治におけるポピュリズム政治であり、都議選での勝利パターン、つまり小池流ポピュリズム戦略を以って国政に臨んだことの限界を実証するものだったと云える処です。

(注)ポピュリズムについての定義は大まかに言ってつぎの二つとされている;
① 「固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル」と捉える定義。つまり、リーダーの政治手法として、大衆に直接訴える政治手法としてのポピュリズム
② ‘人民’の立場から「既成政治やエリートを批判する政治運動」と捉える定義。即ち、政治変革を目指す勢力が、既成の権力構造やエリート層を批判し、‘人民’に訴えてその主張の実現を目指す運動としてのポピュリズムされるもの。(水島次郎「ポピュリズムとは何か」、中公新書2016/12)

尚、興味深いのは、小選挙区制(1994/1導入)と無党派の動きに係る指摘でした。つまり、小選挙区制は、選挙前の第1党が有利なのではなく、選挙前に最も勢いのある党に有利に働く制度だと指摘するのです。因みに2009年衆院での民主党、2012年衆院選での自民党の圧勝がまさにそれだとするのです。更に、無党派の風は8年周期で起きているとの指摘です。1993年の細川政権、2001年の小泉政権、2009年の(旧)民主党政権だったと云うものです。では今回の選挙ではどうだったか。無党派の反乱のほどは不詳ですが、少なくとも彼らの3割が新党「立憲民主党」に向いた結果、「立憲民主党」が野党第1党になった事で、相応の政治的意義はあったものと思料するのです。

さて、ポピュリズムの高まる中、政党の存在意義が問われています。その点で、彼らは次にように指摘するのです。かつて政党政治における対立軸は経済の再分配にあって、従って政党は支持者の為にパイを取ってきて、それを分配できたが今はそれができない。有権者は新しい政党ができると飛びつき、期待ほどの効果を出せないとすぐに離れる。政党は使い捨ての存在となってしまっているというのです。ならば、どう存在意義を出すか。政党は解決策を与えられるわけではない点で、有権者の困りごとを聞き、課題を認識してくれる、そう言った場としての存在たれと云うのです。つまり、‘使い捨てカイロではなく湯たんぽのような政党になるべき’と、その為には支持者が政党の意思決定にかかわる事の出来るシステムが大事と云うのです。言えて妙の表現です。それは政党が一般有権者と政治のパイプになる事の重要性を示唆するのですが、さてそれはポピュリズムと共生する政党の新しい姿となるものか、考えさせられる処です。

第2章 安倍晋三政権再び
   
(1)安倍政権の「改憲路線」を質す
今回の自民党の勝利は、政権公約として掲げた憲法改正を国民が容認したという事で、再登場の安倍政権は‘改憲’中心の政治を進めることが想定される処、連立の公明党に加え、憲法改正に前向きな希望の党、維新の会を合わせた「改憲勢力」は国会発議に必要な3分の2(310議席)を大きく上回ったことで、‘発議’が現実味を帯びてきたと云うものです。

具体的には今回公約として掲げた改憲案4項目、「①自衛隊の明記、②教育の無償化・充実強化、③緊急事態対応、 ④ 参院の合区解消」を中心に、改憲審議が進められていくことになるものと思料される処です。ただその際は、現下の北朝鮮動向に照らし、いたずらに危機を煽っていると受け取られることのないよう時間をかけ、国民が納得できる慎重な審議を求めていきたいと思うのです。勿論、そのプロセスは彼の身上思想とも併せ見るとき危惧されるのは、政治の保守化、右傾化の進む事です。そこで、この際は公約にあった上記4項目につき筆者の思う処を、記しておきたいと思います。

・憲法は国家百年の計
そもそも憲法とは国家の根幹をなすものであり、国家百年の計と云うものです。その現行憲法を改正しようと云うのであれば、まず、戦後70年の変化を踏まえ、それは「国のかたち」までも改めるものでなければならないと思料するのです。そして、そのための前提となる国家観を国民に示していく事が求められる処です。然し未だ、安倍晋三氏からそうした話を聞くことはありません。とすれば彼が宿願とする改憲とは、単に、改憲を果たした政治家として、歴史にその名を残したいと云うものかと、そう思えてならないのです。

・4つの改正点に思う
もとより憲法を改正する事、自体を否定するものではありません。がとりあえずは公約にある改憲項目案について、筆者の思う処を記しておきたいと思います。

まず、条文に触らなければできないものは明文改憲で、基本法や個別法で対応可能なものは立法措置で、対応すべきと思料しますが、この際は、それらを合わせた憲法改革の視点の必要性を指摘しておきたいと思います。因みに、「教育の無償化等」は、まさに政策判断により法律で対応が可能なはずで、これがなぜに改憲に繋がる事なのか釈然としない処です。一方「参院の合区解消」については、議員定数の問題はともかく、これを機会に、よく話題に上がる衆参両院制度問題への取り組みと併せ考えるとき、役割分担をはっきりさせるためとして、参院を行政チェックに徹する「行政監視院」にするなども考えられますが、それは立法改革で可能なはずですし、議員の選び方を変えるのは勿論立法でできるのですから、それらをセットにした取り組みを目指すべきと思料するのです。つまり、それは憲法改革路線を目指す処です。

さて、改憲のキモは何といっても「自衛隊の憲法明記」にある処でしょうがそれは当然のこととして安保体制との絡みで考えられるべきイッシューです。実は、それは憲法解釈を見直して集団的自衛権の行使を限定解除したことで、現在の国際情勢に即した安保体制はそれなりにできており、9条を抜本的に書き直す必要性はかなり薄らいだと云え、あとは自衛隊をどう法的に位置づけるか、だけと思料するのです。仮に憲法の明文化で自衛隊に正当性を持たせるなら、それに見合うシビリアン・コントロールの枠組みも一体で盛り込まねば、最悪の改憲提案になるものと思料するのです。とすれば、この際は9条にばかり拘る不毛な憲法論争は卒業すべきで、そのエネルギーを外交力の強化、つまり今日的国際安全保障環境に即した重層的、構造的外交戦略の構築に向けていくべきものと思料するのです。時に、そんなことは何ら力にならないとの批判が起こる処ですが、とにかく言い続けることなのです。因みに、本26日、日経朝刊一面では、河野外相は日経紙のインタビューで「日本も戦略的に大きな絵を描いて外交努力をしていかねばならない」と強調し、自由貿易推進、防衛協力を念頭に置いた「日米豪印で戦略対話」構想を語っていました。大いに支持されるべき構想と痛く思う処です。 尚、「緊急事態対応」問題については、ワイマール憲法の下での独裁者台頭という歴史の事実に照らし、弊論考でも何度も指摘してきた処であり、危険な代物の他ないのです。

日本の平和憲法は日本国家のブランドです。そのブランドを壊してまでも何故今、改憲なのか、その疑問は依然消えません。今後の議論の推移を注視していきたいと思う処です。

(2) アベノミクスと安倍経済政策の今後
9月20日、安倍晋三氏は国連総会に出席したのを機会に、NY証券取引所で金融関係者ら約200
人を前に日本経済の現状について講演をしています。同所で講演するのは‘ Buy my Abenomics
(私の経済政策は買いだ)’と訴えた2013年9月以来のものです。今回の講演では「この4年
間日本経済構造を根本から改革するため、ひたすらにアクションを続けてきた」とアッピール。
9月9日、10秒の壁を破った桐生祥秀選手を引き合いに出し、私も2020年に向かって‘壁’に挑
戦すると力説。「いかなる‘壁’も打ち破り、新たな成長軌道を描く。これこそがアベノミクスの使
命だ」(日経 9月21日)と再びアベノミクスを標榜していました。10月3日発表された選挙
公約の第2項には「アベノミクスの再起動」が掲げられていました。が、その‘再’には、4年間
のアベノミクスへの反省が含まれてのことかと思うのですが・・・。さてその実状は如何。

・アベノミクスのリアル
安倍首相は上述の次第で、アベノミクスによって景気は回復したと主張し、内閣府の景気判断で
も回復基調が続き、いざなぎ景気超えと云う声まで出ています。確かに異次元金融緩和、財政出
動で株価や地価もこれに呼応する形で上昇し、景気回復感を煽る処です。が、問題はこの回復が
実感されることがないという事ですが、その背景にある事情こそが基本的問題とされる処です。

安倍政権4年間(2013~16)の経済成長(実質GDP)は4年連続プラス成長で年平均1.1
%ですが、その前の3年間(旧民主党政権下)の平均1.8% より低く、また消費も同様にありま
す。その消費の鈍化を結果しているのが雇用環境にあるのです。つまり、安倍政権下の4年間
で雇用者数は230万人増えたと誇っていますが、その内訳は非正規が殆どで約210万人増えた
というものです。GDPがあまり変わらないのに雇用が大幅増なのは、雇用が劣化していること
のほかありません。本当に労働環境が改善していれば賃金も上がるはずです。政府は今、盛んに
企業に対し賃上げを要請しているのもそうした事情を映すものですが、未だしと云う処です。

少子高齢化が急速に進み、日本経済はいまや人手不足の状況にあり、上述消費の動向も含め、先行きへの不安、つまりコンフィデンスが持てないという事情これありで、企業も安易には賃上げに応じ得ない状況と云われています。つまり異次元金融緩和で数字上金融資産を大きく増やし財政の大幅出動を以って景気を維持してはきたものの実体経済は伴っていないという事なです。こうした不安を克服し、経済の持続的回復を図っていくには、何としても環境の変化に即した経済改革、構造改革が必要なのです。その点、これまでも安倍政権はお題目としては掲げてきましたが、その歩みは極めて鈍く、アベノミクスが今批判を集める処です。‘再’起動とは自らの政策の失敗を認めた言質と云うものです。

(3) 潜在成長率引き上げに向けた構造改革を

・英誌「エコノミスト」の警鐘
この4月、OECDが対日経済審査報告で、また7月にはIMFが日本経済2017年次審査報告で、アベノミクスを巡って縷々指摘していましたが、そんな中、興味深いのが9月30日付英エコノミスト誌のアドバイスでした。まず、北朝鮮の暴走危機の中での解散に疑問を呈しながらも、日本の安全保障の核心は経済にあり、「A vital part of Japan’s national security is its economy」と警鐘を鳴らすものでした。要は、安倍政権は不人気な経済構造改革に踏み込む意思はなさそうだが、これは極めて問題だと云うものです。日本の国民の関心は、今北朝鮮問題にあり、経済から安全保障に向けられている処、勿論それは重要な問題だが、それはトランプ米大統領との連携の下で、対応されるべきことで、長期的な視点に立つとき、経済停滞からの回復に遅れをとること自体、日本の安全保障にとって大きな脅威に繋がると、‘-----, in the long run, a failure to economic decline will pose as great a threat to Japan’s security ’というのです。さてこうした次元で経済の重要性を指摘するのは流石、エコノミスト誌と、痛く感じさせられる処です。

要は構造改革を進め持続的成長への基盤固めを今こそと云うものですが、筆者流に言えば、それは潜在成長率の引き上げに徹した成長戦略の取り組みに他なりません。言い換えると、今言われる日本経済の最大の壁「急速に進む少子高齢化、人口減少」への対応の如何となる処です。

・いま必要なことは労働市場改革
2017年度の経済財政白書によると、1986~91年のバブル期には時間当たりの労働生産性の伸びが年平均3.8%であったのに対し、12~16年では0.7%にとどまっています。生産性の低下を反映し一人当たり名目賃金の年平均上昇率もバブル期の3.6%に対し12~16年は0.4%となっています。このままでは進行中の経済構造変化を日本企業が乗り切るのは難しいという事になる処です。労働力の減少は今後本格化することが見えています。とすれば企業に迫る課題とは、働き手一人の付加価値を高めること、つまり生産性の向上です。 それへの企業対応は有望分野への経営資源の集中であり、研究開発の強化であり、ITの積極活用、等々でしょうが、政策面では企業が活動しやすい環境の整備が求められる処です。現在、「働き方改革」では脱時間給や残業規制、など生産性向上を後押しする施策は進んではいますが、経済の新陳代謝に繋がる柔軟に仕事を移っていける「流動性の高い労働市場」の整備は、未だしの状況です。

因みに、前掲、2017年OECD対日経済報告書ではこう指摘しています。
「・・・労働生産性は、依然、OECD諸国の上位半数の国の平均値から約4分の1下回っている。企業の参入、退出に係る障害により、革新的な新たな企業の数は抑制され、労働と資本は生産性の低い活動に閉じ込められている。サービス業と製造業の間、先端企業と遅れた企業間の生産格差は拡大し、賃金格差、所得格差の一因となっている。労働市場の二極化は更に固定化が進んできており、非正規労働者は今や雇用の38%を占め、相対的貧困率を高めている。」と。

とすれば必要なのは労働市場改革です。これこそは日本の成長力を高める基礎となる処です。選挙の終わった今、その重要性を再認識し、それに向けた具体的施策を整備し、その実現に向けた果敢な取り組みこそが喫緊の課題なのです。



第2部 欧州は今、新秩序へ

第1章 シフトする独仏の政治力学

(1)ドイツよ、お前もか
9月末のドイツ連邦議会(下院)選挙の結果は、これまでEU欧州を引張って来たアンジェラ・メルケル首相の威光に影を落とす状況が生まれてきている事、前出「はじめに」で触れた処ですが、その実状は次の通りです。

つまり、メルケル首相は今回の選挙でも勝利し、4選を果しましたが、自身が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は議席を前回から65議席も減らす一方で、これまで連立を組んできたドイツ社会民主党(SPD)が歴史的敗北を喫したことで連立を離脱。一方、極右とされる「ドイツの為の選択(AfD:Alternative for Germany)」が初の議席を獲得して第3党に躍り出たのです。これまでポピュリズムにはさほど関係がないとされてきたドイツですが、近時の難民の急増への不満、メルケル財政の引き締めへの不満の高まりを受けての結果とされており、近時の英国やオランダの選挙結果と類似する処、時に「ドイツよ、お前もか」と云う処です。

要はドイツ政治の支持基盤構造が変化したということですが、この結果メルケル首相は政権維持のため新に自由民主党(FDP)、緑の党、との連立の模索を余儀なくされています。いずれも穏健派ではあるものの、メルケル氏とは政策スタンスに隔たりがあり調整は難航必至と見られ、その分、彼女の求心力の低下は避けられないとされる処です。つまりメルケル首相の立場は、親EUで、グローバルな市場主義を遵守し、共通の価値観の国々との連携にしかドイツの未来はないとするリベラルな立場です。これに対してFDPは自国ビジネスを最優先する立場にあり、マクロン氏が主張するユーロ圏共通予算に反発しており、また環境政党の緑の党はグローバリズムに懐疑的である事から、その調整に時間がかかると見られています。

Financial Times (Sept.25)は「The end of German exceptionalism」と、これまで欧州の盟主とされてきたメルケル首相は自身の難民政策とユーロ圏を巡る政策のツケを払う事になった、もはやドイツも怒れる大衆のポピュリズムとは無縁ではなくなったとして、German now looks more like a `normal’ western country. And that, ironically, is not something to be welcomed.つまり、ドイツも普通の西側の国に近づいたかに見える。が、皮肉なことに、それは歓迎すべき事ではないのではと云うのでしたが、然りです。因みに10月9日、メルケル首相は難民の受け入れを、年間20万人を上限とすると、これまでの方針を変えたのです。

尚、選挙中メルケル首相は連立の社会民主党のガブリエル外相との話の中で、北朝鮮問題に関連し、珍しく「ドイツは外交的な解決に全力を尽くす」(日経25日)と発言した由ですが、これが映すこととは、ナチスへの反省から沈黙する国家であるべきとする戦後ドクトリンは捨て、外交や安全保障でも世界をけん引しようとの意気込みとされるのですが、以って、ドイツの戦後に幕が降りたという事なのでしょうか。

(2)そしてマクロン氏台頭
一方、フランスでも上院選挙の結果は、マクロン大統領主導の「共和国前進」も議席数では非改選の9名を含む議席は29から28に減らしたことで、彼への求心力が云々されるのですが、上院より権限の大きい下院の過半数を握っている点で彼が進めんとする公務員削減、労働市場改革等目玉政策がすぐに滞るわけではありません。むしろ問題は、メルケル氏の政権基盤が緩んできたことで共に進めんとする、いわゆる「メルクロン」主導のEU改革に疑問符が付くほどに様相は変わってきたとみられる事でした。
然し、マクロン氏は、9月26日、パリで再びEU統合深化策(次項)について熱弁を振るい多くの支持を改めて得ると共に、続く9月29日のEU首脳会議ではEU改革を巡る議論で彼は「主役」を取ったと報じられ、因みに、会議終了後の記者会見では、「独仏がリーダー選びの選挙を終え、難題に真正面から取り組む来年こそ、EU改革を一気に加速させるべきと、力説した」(日経、10月3日)と伝えられています。

さて、これまで「メルケル頼み」一色だった欧州統合の構図が薄らぎ、マクロン氏の存在感が高まったことで、ドイツ議会選後のEUの如何が云々される状況になってきたと云うものです。つまり「フランスには欧州域内の覇権国としての意思はあるが、国力が伴わず、ドイツには国力はあるが意思が伴わない」(日経10月9日)と言われる両国ですが、今回の選挙を契機に欧州における独仏間に見る政治力学に変化が生まれ、新しい秩序がささやかれる処、これが欧州の実相として、9月30日付The Economist の巻頭言では、‘Europe’s new order-A dynamic Emmanuel Macron and a diminished Angela Merkel point to a new balance in Europe‘ (次項)と指摘し、新たな独仏基軸が果たせる役割は少なくないと期待するものです。

第2章 マクロン大統領の挑戦 - Future of Europe

9月26日、マクロン大統領は、パリ、ソルボンヌでEUの立て直しに向けた改革案(Eurozone、Tax, Democracy, Labor Market, Security, Migration)に熱弁を振るい、脚光を浴び、一方、国内においてはこれまでの規制の多い統制経済(dirigisme) も大きく変えようとしています。さて、ここ10年間、EUという舞台でバックコーラスに甘んじてきたフランスが再び中央に立てるか否か、それは同氏の欧州政策次第であり、長年不可能と思われてきた国内での改革の如何にも負う、と云うのは英誌エコノミスト誌(9月30日)です。そこで、以下では、同誌論ずるマクロン論をベースに今後の欧州の行くへを検証したいと思います。

・欧州政策:9月26日マクロン氏が行った欧州政策についてのスピーチでは‘shared military budget and an agency for ` radical innovation ‘ , as well as the desire to strengthen the euro zone. つまり、各国共通の防衛予算、急進的な技術革新を担う専門機関の創設などを主張し、ユーロ圏強化に向けて熱弁を振るったと云うものでした。更に、税制についてマクロン氏は、域内への輸入品に炭素税を課す事、域外IT企業のタックスヘブンを使った税逃れ阻止のため利益を上げった国で課税する必要性を力説。法人税率を統一し、低賃金や劣悪な労働条件で生産された商品を安く輸出するsocial dumping の徹底した取り締まりも訴えるものでした。 更に、スピーチではデイジタル経済の潜在成長力の向上を狙う為として、各国の規制を取り除き「デイジタル市場の完全統合」(Digital Single market) も訴えたのです。勿論ユーロ圏が実現すれば、欧州は新たな金融危機への備えをより確かなものにできる筈です。

・内政(労働市場改革):マクロン氏の内政への狙いはポピュリズムの抑え込みにあるとエコノミスト誌は指摘するのです。つまり技術革新を進める中、雇用の安定に力を入れることで労働者に技術革新を受け入れても仕事が無くならことを示し、失業への不安を和らげようとしているというのです。実は、それほど注目を集めなかったが、実はこの夏、驚くようなことがあったちうのです。つまり、大半の国民が休暇を楽しんでいるさ中、マクロン氏は労働組合と交渉し、広範な労働市場改革への同意を取り付けた由です。大した批判も出ないまま、合意内容は9月22日に法制化されたのです。戦闘的な労組、過激な極左グループによる講義運動も想定されたほどには盛り上がらず、因みに労働改革を支持すると答えた国民は実に59%に達している由です。


ドイツでの例が示しているように、労働改革で雇用が創出されるには時間がかかるうえ、政治的には評価されるのは通常、議会に改革案を通す仕事をした当人ではなく、その後継者となるも、マクロン氏は改革を進めようとしている点で胆力のある仁だというのです。そして、彼が規律正しいというのは、大統領選の前に政策を明確に提示し、その公約の実現に向けて努力しているからだと評価するのです。実際、労組とは十分に協議し、主要な3労組の内2労組は改革案を受け入れたそうです。これは前任者とは好対照だと指摘するのです。そして、彼の思慮深さについて、政策をバラバラではなく総合的に打ち出そうとしている点に見て取れるというのです。そして、エコノミスト誌は、こう締めるのです。
「マクロン氏はドイツに自身のユーロ圏改革案を受け入れさせるのにも苦労するだろうが、今年明らかになった事は、同氏を過少評価してはいけない」と。- if this year has shown anything, it is that it is a mistake to bet against the formidable Mr. Macron.


おわりに:「米中逆転」が現実味を帯びる中で

10月18日、5年に一度開催の中国共産党大会の冒頭、習近平総書記は「建国100年の2049年に米国に並ぶ強国になる」長期目標を示しました。米国の相対的な衰えが指摘され「米中逆転」が現実味を帯びてきたと云うものです。その変化は日本に対し、どんな立ち位置を取ることになるのか、大きな問題を投げかける処です。安全保障問題への対応然り、少子高齢化の進む日本経済への対応然り、等々、既に上述した処ですが、いまやあらゆる面で、これまでのモデルでは律しえなくなってきたことが実感される処、今次総選挙は今後10年、20年先の時代に向けた節目と自覚し、そのフォローを確実にしていきたいと思う次第です。

そんな折、ドナルド・トランプ氏が11月5日、米国大統領として初の来日予定です。先の「パリ協定」からの離脱に続き、ユネスコからの脱退、米欧など6か国とイランが2015年に結んだ核合意の破棄をも発言するなど、国際協調の枠組みを壊しにかかっている彼ですが、そこにはどんな展開があるのか、興味は深々と云う処です・・・。
以上  
posted by 林川眞善 at 14:31| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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