2023年06月25日

2023年7月号  広島サミット ‘後’ の世界の行方 - 林川眞善

目次

[ はじめに ] 広島サミットで特筆される三つの イッシュー  

[1] 今次サミトで合意された対中戦略の行動基準  

(1)行動基準はDe-risking、not de-coupling
      ・‘The risks of de-risking trade with China’ – Rachman FT記者
 
(2)対中脅威への対抗多国間枠組み, 米中首脳会談の可能性
      ・「インド太平洋経済枠組み」そして「日米豪比4カ国 防衛相会議」
      ・米中関係 改善の可能性

[ 2 ] Global South(GS)の盟主「モデイ・インド」の今 
     
(1)「Upside of Rivalry:India’s Great-Power Opportunity 」
by 元インド外務次官 Nirupama Rao氏

(2)モデイ・インドの行動様式

[ おわりに ]  世界経済の ‘重心’



[はじめに] 広島サミットで特筆される三つのイッシュー

今次G7広島サミットは5月21日、幕を下ろしました。その最大の評価に繋がったのはサミット、三つの行動でした。その一つは、インドやインドネシアと云ったグローバルサウス(G.S.)の有力新興諸国をサミットに招き、特に中国を念頭に今後の世界における経済安全保障問題について、まさに彼らと対等かつ忌憚ない討議を重ね、互いの思考様式、行動様式への理解を深め、更にはウクライナのレジンスキー大統領のサプライズ登場もありで、G 7と新興国との距離が一挙に縮まった事でした。

そして対中戦略を巡って、新たな行動基準とも云える概念がG7として示されたことも大いに評価される処でした。つまり米国が主導してきた、とりわけトランプ前政権下で顕著となった米政府の対中戦略、米中de-couplingと叫ばれた対決姿勢に代え、新たにde-risking、つまりリスクの低減化をベースとした行動様式を以って進む趣旨が、下記 サミット首脳宣言(序文)(注)に組み込まれた事でした。
そして、それ以上にG7首脳 全員が揃って「広島平和記念資料館」を訪れたこと、そして全首脳がそこに展示された遺品、写真等を通じて ‘核の脅威’をまさに目にしたことでした。

(注) 広島サミット首脳宣言: G7 Hiroshima Leaders’ Communique 、May 20,2023
[Preamble] (序文) ― We are taking concrete steps to :
・support Ukraine for as it takes in the face of Russia’s illegal war of aggression;
・strengthen disarmament and non-proliferation efforts, towards the ultimate goal of a
world without nuclear weapons with undiminished security for all;
・coordinate our approach to economic resilience and economic security that is based on
diversifying and deepening partnerships and de-risking, not de-coupling;
・drive the transition to clean energy economies of the future through cooperation within
and beyond the G7;
・launch the Hiroshima Action Statement for Resilient Global Food Security with
partner countries to address needs today and into the future; and
・deliver our goal of mobilizing up to 600 billion dollars in financing for quality
infrastructure through the Partnership for Global Infrastructure Investment (PGII)

資料館で語られる核の脅威、更にde-riskingという概念については種々議論のある処です。が、本稿ではとりわけこのDe-riskingは、国際環境の変容を踏まえたG7が目指す行動様式の表れとして、その周辺事情をまずレビューし、今次特筆されたGSの盟主、モデイ・インドの今を考察し、併せて今後のグローバル世界の行方を考察としたいと思います。


[1] 今次サミトで合意された対中戦略 行動基準

(1)対中行動基準はDe-risking、not de-coupling
今次広島サミットで目を引くのが上記首脳宣言(序文)に見る対中姿勢に係る表記の変化
でした。勿論、そこには「中国」の文字は見られませんが、当該表記の変化からは今次サ
ミットは中国との向きあい方を巡る新たな共通認識形成の場になった事を伺わせる処です。
具体的には中国を巡る米国の戦略対応について、とりわけトランプ前政権でのそれは、対
中切り離しを目指すde-couplingとする戦略にありましたが、今次サミットでは国際環境
の変化への対応として、徒に対立を煽るような表現は避け、代えてde-risking、つまり‘リ
スクの低減化’ を行動基準に据えた事で、G7として危機管理の発想を採用し、多様化する
環境への対応基準(?)に据えたことでした。つまり『デリスキング (de-risking)』を行
動の軸としながら、経済的強靭性及び経済安全保障へのアプローチを以って 協調・対峙し
ていくとしたことで、実質 中国対応を意識したものと理解する処です。

つまり、対中貿易・投資規制は結果として経済を冷やし、逆効果を生む処、そこで「安全保障面では中国を抑止するが、自国の経済的利益も追及する」とし、以って中国への向き合い方とする処です。 となると今後、globalな競合の視点は民主主義や法の基盤、人権と云った方向へとシフトしていく事になるのではと見る処です。

因みにEUのフォンデアライエン欧州委員長は3月30日、ブラッセルでの講演で「中国との関係を切り 離すことは可能でなくEUの利益にもならない」と、de-riskingを重視する方向を示唆する一方、イエレン米財務長官 も4月「(米国は)中国とのde-couplingを目指していない」と明言する処です。更に、5月12日、スエーデンのストックホルムで開かれたEU非公式外相会合では、重要資源や物資の中国への依存度を減らして行く方針を合意していますが、中でも対中戦略について「デカップリング(分断)」でなく、「デリスキング」だとする処です。(日経 5/14)

加えて、G7としては世界経済における自らの影響力の衰退を実感する中(世界のGDPに占めるG7の割合はかつて7割あったものの08年のリーマンショックを経て、現在では4割を切る状況)、独自外交(戦略的自律)を以って中立的立場を堅持するインドやインドネシア等、G.S.勢の影響力の高まるなか、これが米中、米ロの対立が続く中にあって、どちらに就くかは明確にすることなく、要はうまく付き合い、自国の経済的利益と安全を確保しようとする立場を堅持する処ですが、G7としては自らの衰退をカバーするためにも彼らとの連携が不可避とし、その為にもデリスキングを基本軸として連携を進めていく事は、双方にとって利することにもなるとする処です。
 
つまり今、世界で進んでいるのはバイデン大統領が云う「民主主義と専制主義」の二極化ではなく、独自の判断で行動する新興国の存在が目立つ世界秩序の多極化ですが、そうした行動様式をG7として容認する事になった点で、今次サミットは中国との向き合い方を巡る新たな共通認識を形成する場となったと云え,同時にサミットは再びG7結束を固める場となったと思料する処です。

勿論、De-riskingについてはまだまだ詰められるべき点のある処、例えば新興・途上国の「グローバルサウス」は重要鉱物の宝庫ですが、米国が彼らからの調達体制を確立できれば中国依存のリスクを軽減できるのでしょうが、国内ではバイデン政権の支持基盤の一つである労働団体などは調達先の拡大には反対にあって、バイデン政権は世界の供給網から強制労働を排除すると訴えていますが、その点、政策に矛盾を生じかねずで、当該議論は慎重に進める必要があると云う処です。

・「The risks of de-risking trade with China」
Financial Timesのコメンテーター、ギデオン・ラックマン記者は、5月30日付、Financial Timesで「The risks of de-risking trade with China」と題し、対中取引を巡るde-riskingとする行動様式には、なお問題のある処と、下記指摘するのです。参考まで、その概要を以下に紹介いておきたいと思います。

「・・・ 中国との関係で、西側はDe-coupling(分断)を進める必要があるとしたこの表現は、どう考えても不可能かつ極端な考え方だとして激しく非難されるケースが多かった。それに比べDe-riskingはもう少し慎重で、非常に的 を得た印象を与える。西側の企業には、安全を期すために一定のルールさえ守れば従来通り中国と貿易を続けてよいと云うメッセージとして伝わっている。

中国との関係で米国と欧州が懸念しているリスクは大きく分けて二種類。第一は西側が中国から受けとるものについて、第2は中国が西側から受け取るものについてだが、とりわけ懸念されることは、第2の「中国が米国から受け取るもの」についてだ。第2の「中国が米国から受け取るもの」で最も懸念されているのが、軍事転用が可能な米国の先端技術だ。日本も先端半導体の製造装置等23品目の輸出には友好国・地域向け以外では個別許可が必要になると発表したが、これらもまさに第2のカテゴリーに該当するものだ。

G7各国は、中国が自分たちの重要な技術にアクセスするのを制限すると同時に、中国に危険なまでに依存する事態からの脱却も図っている。電池の開発や環境負荷削減に向けた取り組みに不可欠なレアアースや重要鉱物などは、その最たる例だ。EUは電池生産の要であるリチュウムの97%を中国からの輸入に頼っている。西側諸国が依存度を減らそうとしているもう一つが、台湾から90%以上を輸入している先端半導体だ。米国で2022年に成立した半導体補助金法は、米国での半導体生産を復活させるべく約520億ドル(約7兆3000億円)の補助金を投じる計画だ。

デリスキングという考え方の骨格はそれなりに明白になってきたが、いざこれをどう実行するかとなると、まだはっきりしない部分は多く既に3つの難題が浮上している。第一は
企業と国の関心が相対立する点。第二は中国への依存を軽減する難しさと、これに伴うコスト。第三はリスクの本質が依然として判然としないことだ。 我々が危険視しているのは、中国が他国を自国の思い通りに強引に動かそうとすることなのか、それとも戦争に至るリスクなのかと云う点だ。

普通なら西側各国政府の重要目標は、自国企業の輸出拡大支援だ。だがデリスキングを追求するとなると必ずしもそうはならない。半導体大手エヌビデイアのジェンスン・フアンCEOは5月末、米企業が中国への先端半導体の輸出を禁じられれば「非常に大きな打撃」を被ると訴えた。だが、米政府は、同社の半導体はAIの開発に不可欠なだけに、輸出規制を見直す姿勢は全く見せない、と。

・・・更に、西側のデリスキングへの進め方は今、3つの柱に集約されつつある。中国への依存度の軽減、技術輸出の制限を図る、そして西側企業の中国市場との取引を促進することだ、という。中国の海外諸国・地域に対する強引な動きへのリスクに備えると云うのであれば、それは一つの一貫した政策と云える。だが備えるべきリスクが台湾などを巡る米中間の競争となると、この対中政策は一気に崩れ始める。恐ろしい事に、米政府高官の中には米中間で軍事衝突が起きる確率を今や50 %以上と見る向きもある。実際に戦争となれば、西側企業は中国からの即時撤退を余儀なくされるだろう。
製品の大半を中国南部で生産している米アップルや利益の半分以上を中国で稼ぐ独フォルクスワーゲンのような企業にとって、これは死を意味するかもしれない。一方、西側のある国家安全保障担当はこう言う。「もし中国との戦争が起きたら、世界自動車市場への影響など気にする余裕もない小さな問題でしかなくなる」・・・・と、締める処です。
さてこうしたde-risking、リスク回避を以って対中関係がスムースに進むものか?ですが。

・日本の外交課題
さて、G7後の日本の外交は如何?ですが、要は2点に集約される処ではと思料するのです。つまり、サミットではウクライナへの力強い支援と厳しい対ロ制裁の継続を確認し、21日サミットは幕を閉じましたがその際の記者会見で岸田首相は「対ロ制裁を維持・強化し、その効果を確かなものとする為に制裁の回避・迂回防止に向けた取り組みを強化していく」と発言し、以って自らの課題としたようです。となれば、その着実な実践が課題となる処です。 もう一点はやはり難しい課題ですが、岸田首相が云う、そしてG7サミットの首脳宣言でも盛り込んだ「核なき世界」に向けて、どのように取り組んでいくかです。サミット・メンバーの米英仏、そしてアウトリーチに参加のインドはいずれも核保有国です。その目標とする「核なき世界」に向けた策はとなると、具体的には見えることはないままです。岸田首相は2022年5月、国連NPT検討会では「核なき世界」を目指す行動計画、「ヒロシマ・アクション・プラン」(注)を打ち出してはいるのですが。

    (注)「ヒロシマ・アクション・プラン:22年5月, 国連で開催の核兵器不拡散条(NPT)運用検討会議に出席した岸田首相は、5本柱とした行動プランを提示―
        ➀ 核兵器不使用の継続、② 透明性の向上、③ 核兵器数の減少傾向の維持、
④ 核兵器不拡散と原子力の平和利用, ➄ 各国指導者らの被爆地訪問の促進。
但しウクライナを巡る問題を理由にロシアが反対、採択されずに終っています。

勿論、今次発表された「広島ビジョン」はこのプランに沿ったものですが、この際は一足飛びに核廃絶を目標とするのではなく、前月号論考でも指摘した通りで、「核なき世界」を目指すとい云い続けること、そしてその発信や気運をG7だけでなく、枠外の国も含めた具体的な行動に結びつける働きがけを、続ける事ではと思料する処です。

(2)対中脅威に対抗する多国間枠組み、と 米中首脳会談の可能性
上記G7サミットで示された対中行動基準に応じる形で, 対中多国間連携の枠組みは多忙を喫す一方、米中首脳会談の可能性も浮上する処です。以下その実情をレビューします。

➀ 動き出した米主導、二つの対中 多国間連携の枠組み
・「インド太平洋経済枠組み」:IPEF (インド太平洋経済枠組み)の閣僚会議がサミット後の5月27日デトロイトで開催されています。IPEFは、日米や東南アジア諸国等14カ国が参加し、2022年5月米国が主導する形で、東京で発足した経済連携の枠組み作りで、①貿易、②サプライチェーン、③エネルギー安全保障を含むクリーン経済、④脱汚職等公正な経済、の4分野を協議対象とするものです。今次会合では、サプライチェーンの協定で合意の目途が立った由で、要は中国への依存の高い重要鉱物などの供給網の強化を目指すと云うものです。 同会議に出席した西村経産相は「何か危機が起きた時にカバーし合う、協力し合う枠組みと。そして供給網の多国間協定は世界で初」と語る処です。(日経 5/28) 序で乍ら6月8日、英スナク首相は米バイデン大統領とホワイトハウスで会談し、supply chain 構築、防衛分野での貿易促進の「大西洋宣言」に合意していますが、これがIPEFを枠組みとした連携の実際とされる処です。

・日米豪比4カ国 防衛相会議:6月3日、日米豪比4カ国は、シンガポールで初の防衛相会議を開き、南シナ海や台湾を念頭に、中国脅威に対しインド太平洋の実現に向け協力することを確認するものでしたが、これまで日米豪の3カ国で協力を進めてきたが、今次フィリピンが参加したことに新しさがあると云うものです。周知の通り、対中多国間枠組みでは「Quad(日米豪印)」がありますが、インドが「中立」を指向している為、4カ国が揃って中国を名指しする事のないままにあって, この辺の事情については、後述「モデイ・インドの行動様式」(P8)に委ねる事とします。

② 浮上してきた米中関係 改善の可能性 
上記環境の中 6月18日、米国務省の事前発表の通り、ブリンケン米国務長官が訪中。これが2018年のポンペオ国務長官(当時)以来約5年ぶりとなるものですが、19日には外交部門トップの王毅共産党政治局員、秦剛国務剣外相と会談、引き続き短時間ながら北京の人民大会堂で習近平主席と面会、双方米中関係の安定化に向けた基本方針を伝える共に、習氏はブリンケン氏に対して、「両国の間にある共通の利益を重視すべきだ。その成功は互いにとって脅威ではなくチャンスだ」と指摘した由 伝えられる処でした。ただ、ブリンケン長官によれば、米中の軍事対話の再開では合意できなかった由で、最も重要な衝突回避に向けた措置で具体的な進展がなかったことは問題といえ、両国は危機管理の仕組みづくりを急がなければならないものと思料する処です。19日の米CBS TVのインタービューでブリンケン氏は11月、米国で予定のAPEC首脳会議に合わせ米中首脳会談を開く可能性があると明言する処でした。(日経6/21/2023,夕刊)

尚、習近平氏のブリンケン氏への応接作法に一部からは批判の声も上がる一方、バイデン氏が習近平氏を独裁者と発言したことで中国側の猛反発を招くなどで、瞬時ギクシャクする処、とにかく同氏の今次訪中が冷静な議論に移行するシグナルではと思料する処です。
G7サミット後の世界は益々、西側陣営と中ロ陣営との間の溝が広がる様相にある処、仮に米中首脳会談が実現すこととなれば、今次サミット宣言で打ち出されたde-riskingを超えた、要は世界が期待する安全保障環境の確保は進むものかと思料する処、その姿勢は、まさにDe-riskingを地で行く処と云え、Cross fingerする処です。


       [ 2 ] Global South (GS)の盟主、「モデイ・インド」の今

(1)Nonaligned Worldと、元インド外務次官ラオ氏の寄稿
米外交専門誌、Foreign Affairs ,May/June,2023号の冒頭特集は「The Nonaligned World(非同盟の世界)」で、新興国、途上国の新たな姿を伝える多数の論考を掲載する処でした。いうまでもなく5月の広島サミットでは、G7メンバーに加えインド、インドネシア等、グローバルサウス(GS)が招待され、彼らとの連携強化への討議が進むことを映す処という事でしょう。

さて、上記Foreign Affairs誌で筆者の目を引いたのが元インド外務次官、Nirupama Rao女史の寄稿「The Upside of Rivalry ― India’s Great-Power Opportunity」でした。要はインドという国について、そしてモデイ首相が目指す世界の中のインドについて力強く語る処です。尚 Nirupama Rao女史は上記 元インド外務次官で、駐中国インド大使、駐米国インド大使を歴任した仁で、7月6日 デリーで開催予定の日印両国の第3回「2プラス2」対話に出席予定との由、報じられる処です。

周知の通りインドは民主主義の価値観を共有する、今では大国の条件を備える国で, 人口では今年中には中国を抜いて第1位(人口大国)となることが予想され、しかも経済を支える若年層労働者が豊富、外交はgoing my way, 独自路線を堅持し、因みにロシアとは兵器の購入やエネルギー調達で良好な関係を維持し、ウクライナ侵攻でも直接ロシアを批判することを控え、G7が続ける対ロ政策とは一定の距離を保ち、ロシアのウクライナ侵攻についても「ロシアがウクライナで人権侵害をしているとの欧米の主張は正しいかもしれない。だが、西側はベトナムやイラクなどで似たような暴力的不当な介入をしてきた。だからインドはロシアの孤立を求める西側の声に関心がない」と断じる処です。

これは上記Foreign Affairsに寄せたラオ氏の論考の一節ですが、彼女は続けて ‘We are not pro-Russian, nor for the matter are we pro—American’ と、初代インド首相のネルーが掲げていた `We are pro-India’ を繰り返すと共に、今インドはIndia of Modiに沸く処と強調するのです。そして彼女が語るインドとは「Go your own way」であり、「Have your cake and eat it, too」と、その行動は自主的判断に負うものと語るのです。そしてインド国民は西側政府からの干渉には極端に反応するも、要は西側諸国とのsolid relationship, 賢明な連携関係の堅持にあって、とりわけ米国に対してはそうした関係の堅持を目指すとする処です。尚、インドの魅力は内需です。23年には人口は中国を抜き世界首位に、又、per head GDPでは23年に2600ドル、25年には3000ドルを超えると予想される処です。
今少しその内容をモデイ・インドの行動様式としてレビューしておきたいと思います。

(2)モデイ・インドの行動様式
モデイ首相率いるインド人民党(BJP)が政権を担ったのが2014年、任期は5年。BJPは2019年の連邦下院選で勝利を収め、現在2期目で、モデイ政権は2024年迄続く事になっています。さて、インドはこれまでの30年間、堅実な経済成長を果たし、今では経済のトップランナーにあって、周知の通り、今年1月には「Voice of the Global South」と称した大規模な国際会議を主導、新興国・途上国が求める不公正な分配の是正を求め、又グローバル・サプライチェーンの整備統合を働きかける一方、今や、国際機関についてもglobal southを入れた組織改革の必要性を訴える等、国連については安全保障理事会の組織改革を、又IMF等、国際金融機関についても改革を迫る処、西側諸国の中でも、特異な存在にあると彼女は語る処です。勿論、色々問題はあるものの西側の外交政策が ‘human rights and democracy ’ にあることが支えだとも指摘する処です。

・インドと多国間連携の実状、そして対米関係の今
インドは自国の防衛について60%をロシアに依存してきたこと、そして、エネルギーについては、インドにとってロシアは安価な輸入先となってきたこともありで、地政学的リスク環境から対ロ政策については友好関係を基本とする処、因みに先の国連総会でのロシアへの非難決議にはインドは棄権に回り、まさに独自の行動を取る処です。

が、こうしたインドの行動様式は多国間連携に多大な影響を与える処、日米印豪の間には2006年の安倍元首相の提唱を受ける形で、「法に基づく自由で開かれた国際秩序の強化にコミットした4カ国首脳会議」、QUADがありますが、もとより中国を念頭とするものですが、その現実はインドが『中立』を目指す事で4カ国が揃って中国を名指しで非難するケースはなく、その点 米国は中国が外交攻勢をかける太平洋諸国とも防衛協力を固めることが不可欠と、6月3日には、インドに代えフィリッピンを呼び込み日米豪比の4カ国による初の防衛相会談をシンガポールで開く次第です。(日経6月4日)

又、インドは、大国として中国に対峙する米国とのバランサーとなる構えはなく、米中競合の中に入って両サイドに働きかける事になると云うのです。そしてネルー時代以上にインドはインドの利害に照らしながら多くの国々との付き合いを構築していくと云うのです。ただ、世界が多極化する中、考え方の違う民主主義国家同士が困難を抱えながら協力関係を結び双方が経済や安全保障の面でメリットを享受していけるものか、問われる処です。
が、それ以上にモデイ・インドに付き合っていくうえで気がかりは、経済成長やデジタル技術の導入でダイナミクな変貌を遂げつつあるインドですが、これが必ずしも「リベラル」なものではないと云う現実です。つまり現政権下で強権的なヒンズー第一主義が進められていると云う点です。( 「これからのインド」堀本武功、他、東大出版会、2021)

6月17日付The Economist は巻頭言「America’s new best friend – India dose not love the West. Even so, America needs it」で、こうしたモデイ・インドとバイデン米国との行動について次のように語る処でした。・・・・To work, the relationship will have to function like a long-term business partnership : India and America may not like everything about it, but think of the huge upside. It may be the most important transaction of the 21st century. (インドと米国は互いの全てを好きなわけではないが、両国の関係が齎す大きな利点に目を向けよう。21世紀で最も重要な「取引」となるかもしれない) 
まさに21世紀の先を見据えた米印関係かくあるべしとする処、その言然りと思う処です。

果せるかな6月22日、モデイ首相は国賓として米国を訪問。その国賓待遇は米国にとって非同盟国ながら初となるものでした。米印両国は中国と対立関係にあり、両首脳会談は防衛協力が主たるテーマーにあって、モデイ首相は米両院議会での演説では「両国の連携が21世紀を決める」と語る処です。(日経、6/23/2023夕)確かにモデイ・インドの台頭は世界に新たな潮流を生む処、両国関係の今後の展開に更なる関心の高まる処です。

[ おわりに ] 世界経済の `重心’

G7広島サミットを契機に確実にGlobal South (GS)は世界経済における地歩を固めたと云える処です。そうした変化は、欧米による支配が後退し、それに伴い世界の重心に変化が起きている事を示唆する処です。そして今後は多極化した混乱の世界に、とって代わられると断じるのがFinancial TimesのChief Commenterの Martin Wolf氏です。彼は6月7日付 Financial Timesで、今進み出したアジアを中心とした変化を「The myth of the `Asian Century」と題し、その副題に「A rebalancing is taking place as European and American hegemony dwindles away」を掲げる処、要はユーラシアにおける米欧覇権のRebalance (リバランス) が進み、その重心はアジアに向かうとみるのです。(注:Eurasia:アジア州とヨーロッパ州を一続きの大陸と考えた時の呼称)
つまり、上記変化を含め、足元で起きている変化とは過去200年の欧米による支配が衰退しつつあるのに伴い、世界の重心に変化が起きているという事、そして今後は多極化した混乱の世界にとって代られるが、アジアはその中で確実に大きな位置を占め、中国とインドが主な役割を担うようになる。そしてアジアは役者というより舞台となると云うのです。 

かの有名な英経済学者 故アンガス・マデイソンによる世界経済(実質GDP)の長期予測値をリフアーし、1820年の西欧の人口一人当たりの実質GDPは東アジアの2倍強で、その差は1950年には6.5倍に広がったが、2018年には2.4倍と2世紀前とほぼ同水準に戻したが、ここで重要なのはアジアが19~20世紀初めにかけて経済的地位を相対的に急落させたにも拘らず、東アジアが牽引役となってそれを回復させた点で、その過程でユーラシアにおける重心が変化しつつあるというのですが、重要な事はこれが自然な流れだとするのです。そして米欧が享受してきた凄まじいまでの勢力は衰退しつつあって、世界人口の半数近くを抱え、世界的かつ歴史的な文明を複数育んだアジアが、この変化を率いているのは驚きではなく、大災害や大惨事が起きない限りこうした状況は続くと説く処です。

かくして、世界経済の重心が東にシフトしつつあることから、アジアは政治と経済の両面で極めて重要な存在となると断じるのです。ただアジアは、域内で各国間の深刻な対立に加え、同地域ならではの問題も抱えており、その為アジアとしての「総意」を持つことはなく、各国がそれぞれの路線を追求していく事になるだろう、とも断じる処です。
そして、「世界の他の誰がどう思うとも、特に個人の自由と民主主義という自分たちの最高の価値を何としても守らねばならない」と、締めるのでしたが、まさに至言と感じ入る処です。(2023/6/24)
posted by 林川眞善 at 21:53| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする