2023年02月25日

2023年3月号  日米両首脳の施政方針演説に映ること - 林川眞善

―  目 次 ―

はじめに 明るさ増す経済指標、だが、・・・ 
(1)IMFが見通す2023年世界の景気動向
(2)Financial Times 、 Gillian Tett氏のダボス会議
               
1. 日本の政治・経済の現状
(1)岸田首相の施政方針演説
  ・内閣府公表のミニ「経済白書」とも併せ
(2)日銀総裁の交代人事

2.バイデン米大統領の施政方針演説と、対中輸出規制の行方
(1)米再生に向けたバイデン米大統領の施政方針演説
     ― remake America’s economy
(2)米中貿易の現状、そして米国の輸出規制の行方

おわりに 「ブレトンウッズ体制の終焉」と、私

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はじめに  明るさ増す経済指標、だが、・・・
             
(1)IMFが見通す2023年、世界の景気動向
2023年1月30日、IMFは、今年、2023年の成長率予測を2.9%と発表、3か月前の予測値より0.2ポイント引き上げるものでした。これはウクライナ危機発生(2022/2/24)後で初の上方修正です。エネルギー等の価格高騰に米欧の急速な金融引き締めの影響で「世界の3分の1が景気後退に陥った」(ゲオルギエバ専務理事)との悲観論をにじませた昨年秋に比べ、世界景気には薄日が差すと見る処です。

当該見通し改善の最大の要因は、中国の状況変化に負う処とされています。つまり、経済活動や人の移動を制限していた「ゼロコロナ政策」を一挙に転換したことで、巨大市場の消費や企業の生産活動が活気づいてきたということで、23年の中国の経済成長率見通しは前回より、0.8ポイント高い5.2%に上げたと云うものです。(注)

(注)この点、ダボス会議(1/16~20) に登壇した中国の劉鶴副首相が世界に再び関わっていくと強調したことを受けての事とされています。が, China schoolの友人達は、これこそ中国経済の不振を裏付けるもので、中国が微笑外交に変わったとされるのも経済の不振奪回に向けて外資を呼び込もうとするものと云うのです。さて・・・。

又、米欧で懸念を呼ぶ物価上昇の勢いについてはやや鈍るとの見通しにあって、その背景として、中銀が政策金利引き下げのペースを落し、景気へのブレーキが弱まると判断する処、IMFは23年に「インフレ率低下への転換点」を向かえる可能性を指摘する処です。

つまり、内需が底堅い米国は3か月前より0.4ポイント高い1.4%, 暖冬でエネルギー高騰の圧力が緩むユーロ圏も0.2ポイント高い0.7%と見る処。英国はマイナス0.6%成長と主要国で唯一大幅悪化をみる処です。そして日本は0.2ポイント高い1.8成長との見通しです。これは昨年秋の経済対策の効果に加え、米欧と違い、金融緩和を修正していない事が追い風となっているとするもので、低位だが、米欧よりも高い成長率を保つとみる処です。以上からは、主要経済国が同時に景気後退に陥るような事態は遠のいたとの判断です。

ただThe Economist, Jan. 28,2023 は景気回復を示唆する指標が見え出したが、それでも、世界経済の現状は、Polycrisis or Polyrecovery?(複合クライシスか、複合回復か?) としながら、中国のゼロコロナ政策の解消で、中国経済の活性化はOKとしても、その結果は石油の輸入増を齎し、それが物価の上昇を招くことで世界インフレの火種となりかねずで、景気も物価も霧の中と、懸念を示す処、これこそが本音ではと思料する処です。

(2)Financial Times, Gillian Tet氏のダボス会議
序で乍ら、その‘インフレ’と云えば、Financial Timesのeditor, Gillian Tett氏が同紙、1月20日付で伝える論考は極めて興味深い指摘でした。というのも彼女は今年のダボス会議(1月16~20日)に参加し、そこに集まる世界のCEO達との会話からは、将来の成長について驚くほど楽観的だったと、そして、インフレに対する考え方ががらりと変わったことだと云うのでした。 彼女の論考のタイトルは「Four is the new two on inflation for investors.」。そこに見る楽観論の背景として、以下4点を挙げるのでした。

その1つは、前述の中国の変化で、劉鶴副首相が登壇し、中国経済の回復発言があり、2つは、長期的観点から動き出したSupply chainsの再編、更に3つ目は環境対応を挙げ、今「グリーンバッシング」が進行中だが、脱炭素への取り組みから手を引く企業はほとんどないこと、そして、4つ目として彼女の感性として、「the cultural zeitgeist」 (なんとも捉えにくい状況)を挙げるのです。

つまり、これまでのダボス会議参加者の大半は、国際競争で人件費と製品コスト抑え込める自由市場の世界に暮らしていると考えていたが、ロシアのウクライナ侵攻と米中関係の緊張、更には新型コロナウイルスのパンデミック、社会不安が世界に新たな政治経済の流れを生み出していること、そして政府の介入が増え、労使が一層対立し、保護主義の脅威が絶えない世界になってきたとし、これがいつまで続くものか誰も分からないし、そこにいたCEO達もわからないが、短期のみならず中期的にも、この新しい枠組みのあらゆる要素がインフレを齎すと感じていると、云うのです。 そしてもはやこれまでの低インフレ時代に戻ることはなく、「4%が新たな2%」と考える時期もある処、それも新たな政治経済の性質を無視したものとも云え、今は景気循環ではなく構造的な変化の節目にあるかどうかに目を向ける必要があると、強く指摘するのでした。


・日米両首脳の施政方針演説
処で、そうした上記環境にあって、日本では1月下旬、岸田首相が、そして米国では2月 始め、バイデン大統領が、夫々、所信表明演説を行っています。更に日本では10年続いた日銀総裁の交代人事も動く処です。勿論そこに映るのは、民主主義を基盤として国民に資する経済の運営を目指す筈の政治です。そこで今次論考では両首脳が語る施政方針に照らしつつ、国民に資する経済の何たるかについて考察していきたいと思います。 尚、本稿draft中の18日夕刻、防衛省が、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイル1発を発射し、日本の排他的水域(EEZ)内に落下したと推定されると発表しました。日本の安全保障問題の顕在化とも云える重大事件です。そこで、本件については別途とする事とします。


1.日本の政治・経済の現状  。

(1)岸田首相の施政方針演説
岸田首相は1月23日、第211回 国会開催の冒頭、政府が進めんとする施政方針について演説を行いました。 興味深かったのは、冒頭の発言でした。1月、5月の広島G7サミットに備えての欧米訪問の際、ある国の首脳から、何故日本では議会の事を、英語でParliamentではなく、Dietと呼ぶのかとの問いかけがあったことを紹介し、Dietとはラテン語で、それが意味する事は「国民の負託を受けた我われ議員が、この議場に集まり、国会での議論がスタートすること」と説明したことを紹介し、方針演説に向かったことでした。これは当たり前とも云える国会議論の重要性を、わざわざ冒頭に出したのは、決断と同時に説明不足と云った批判される場面が増えたためではと、メデイアは評する処です。

さて施政方針演説は「再び歴史の分岐点に立っている」と、日本の状況を説き、11項目ある各論に入るもので、今は明治維新と第2次世界大戦の習瀬に続く「転換点」だと位置づけるものでした。そして、最重視するテーマとして「少子化対策」に係る3本柱、「経済支援の拡大」、「子育てサービスの充実」そして「働き方改革」を掲げる処です。ただ筆者の最大の関心事は演説、第3項目の「防衛力の抜本的強化」でした。先の弊論考でも指摘したように国民を置き去りにして策定された安全保障政策にあったのですが、なんとも迫力のない、これが、Dietで提示される内容かと、愕然とする処でした。その点、弊論考読者の一部からの提案もあって、別途日本の安保についてミニ・ゼミを持った次第です。

一方、国民の最大関心事の一つであろう財政運営への言及も乏しく、低金利の下で規律が緩み、効果が疑問視される事業への支出が目立つ処、この際は総点検して経済成長につながる投資に国費を集中させるべきではと思う事、多々とする処でした。

・内閣府公表のミニ「経済白書」にも照らして
そうした思いを同じくするのが、2月3日、内閣府が公表したミニ経済白書「日本経済2022-2023」でした。そこでは10年来、低迷を託つ日本経済について、経済の地力を示す潜在成長率を引き上げるカギは「成長分野での投資」にあるとし、具体的には、半導体と電気自動車(EV)を挙げるのでした。

まず半導体産業については、「研究開発投資の規模が小さい」と指摘する処、世界的に、半導体は経済安保の観点から各国が重視しており、米国では527億ドル(約7兆円)、EUでは1345億ユーロ(約19億円)の投資計画が発表済みで、日本も累計2兆円規模の補助を出しているが「競争力強化のためには、更なる投資の拡大が求められる」とする処です。
 
もう一つの有望分野、EVについても「設備や研究開発投資の拡充が不可欠」と指摘する処です。因みに21年のメーカー別のシェアーを見ると、日本勢は2.9%にあって、中国(26%)や、米国(26%)と、その差の大きさを指摘する処です。世界の自動車販売に占めるEVの割合は21年に9%、30年には22%に拡大する見込みで、日本が強かったハイブリット車(HV)も「置き換えられていく」と危機感を示す処です。IT企業の参入などで競争は更に激しくなると見、手をこまねいていれば一段と埋没しかねないと警鐘を鳴らす処です。

日本は2035年までにすべての新車を電動車とするのが目標にあって、HVを含む内容の由ですが、現状は本格的なEVシフトにカジが切れていないとする処、世界に劣後する普及水準の押上は見通せないとし、白書は世界の構造変化に対応した投資が「成長経路を一段高いものとする上で重要」と総括する処です。これこそ上記施政方針で強く語られてしかるべき処ではと思料するばかりです。

それにしても足元の車生産は、コロナ感染の拡大、サプライチェーンの混乱で、大きく落ち込み、日本経済回復への重荷になっていると指摘される処、個別企業、とりわけトヨタ自動車の稼ぐ力に陰りが見えてきたことが気がかりとされる処です。因みに2022年4~12月期の原材料高の負担は前年同期から1兆1100億円増え、原価低減や車の値上げが追い付かない状況にあるとされる処です。EV専業の米テスラは純利益でトヨタを猛追。1台当たりの純利益ではトヨタがテスラの5分の1に留まっています。
この点、トヨタも2025年には米国でEV車の生産を始めるとしており、これまでの「全方位」モデルから投資の軸をEVに据えて競争の激化に備える由、報じられる処です。(日経, 2023/2/22) 尚、15日、米運輸省はテスラのEV車36万台についてリコールと認定する一方、23年1月末、米司法省が調査を始めたことを明らかにしており、暫し様子見です。

     (注)   トヨタ    vs   テスラ  
  売上高:27兆4640億円   8兆5590億円
      純利益: 1兆8990億円   1兆2600億円
      販売台数: 788万台、     100万台
      車種数:  約50        4      (日経2023/2/10)

(2)日銀総裁の交代人事
2 月10日、黒田日銀総裁の後任に、岸田政府は経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏の起用を発表しました。すわ~10年間続いた異次元緩和の見直しと、騒がれる処、直後の記者のインタビューでは植田氏は、「金融緩和の継続が必要」との考えを示していましたが、それでも新総裁に期待されるのは膨れ上がった副作用を取り除くための異次元緩和の修正、金融政策のたて直しに他ならない処です。

では現総裁の黒田氏の10年間は何だったのか、です。彼は任命権者の安倍晋三元首相が進めたアベノミクスを体現する「最後の船頭」と云われる存在でした。 確かに2013年に始まった量的緩和は最初の2年間については高く評価できるものでした。確かに強いアナウンスメント効果による円安と株価上昇により、デフレの進行を止め景気回復の基礎を作ったと云えるのでしょうが、その後8年もの緩和はいかにも長すぎたと云うものです。これが結果として財政の膨張を許し、政府が発行する国債の引き受け先、つまり政府の金庫番となって、経済成長のための資金の循環は停滞していったことで、日本経済は10年を超す低成長を余儀なくされてきたと云うものです。

その指揮官たる日銀総裁の黒田氏は2023年4月8日を以って10年の任期を終えます。同総裁は、2013年4月の総裁就任の際、日銀の資金供給量を2倍にして、2年を念頭に2%の消費者物価の上昇を目指すと、つまり「2・2・2」を掲げてデビューを飾ったものでした。が、その目標は10年経った今も達成されないままにある処です。そして2月10日、後任の総裁に経済学者で、元日銀審議委員の植田和男氏の起用が発表され、「2・2・2」の看板の書き換えが始まる処、世のスズメどもは侃々諤々、新総裁への期待を含め、新政策のあり方について、とかくの論評が行きかう処です。

黒田氏は政策変更をしなかったと云う点で、一部では「ブレない人」と前向きに評価する向きもありますが、環境の変化への対応が遅れた事、そしてその結果として日本経済を歪んだものとしてしまった事への批判は免れない処です。そして、中央銀行としての日銀の独立性が見えなくなってしまったことが挙げられる処ですが、こうした構図は、安倍氏が凶弾に倒れたことで、一段と鮮明となったと云えそうです。

つまり、途中から金融政策は完全に経済政策からポリテイカルなものに変質してしまったこと、そして、上述の通り、ゼロ金利の環境下で財政規律が失われ、つまり日銀が大量の国債を引き受け、政府は簡単に借金を重ねる、事実上の財政フアイナンスが進み、真の問題である成長戦略が見失われていった事が指摘される処です。勿論これは中銀の担うべき役割から外れる処で、その結果が今日の経済状況を生んだと云われる処です。つまりは財政が持続可能でないと金融政策の正常化は難しいという事ですが、これも「政府・日銀のコード」(注)の存在が問題とも映る処です。それだけに学者出身の植田氏には、こうした問題への合理的な説明と対応をと、期待が集まると云うものです。

    (注)「政府・日銀のコード」:2013/1/21,「デフレからの早期脱却と物価安定の下での
持続的な経済成長の実現に向け、政府および日銀の政策連携を強化し、一体となって
取り組む」と,安倍第2次政権発足翌月の2013年1月、両者で合意し、両者合意の共
同声明として発表されたものです。黒田氏は総裁就任時、当該コードを遵守し,2%の物
価安定目標を掲げ、いわゆる異次元の金融緩和を打ち出したが、その結果は周知の処。


2.バイデン米大統領の施政方針演説と、対中輸出規制の行方

・米大統領の年頭教書: 2月7日、バイデン大統領は米上下両院で2度目となる一般教書演説を行っています。米大統領が行う一般教書とは、大統領が向こう1年間、内政や外交でどのような政策に取り組むかを議会に伝えることを目的とするものです。ではその内容の如何で、以下、その概要をレビュー、考察する事とします。そして彼が対中政策として導入した輸出規制の行方についても、併せて考察する事とします。

(1)米再生を狙うバイデン米大統領の施政方針演説 
米大統領が行う一般教書とは、大統領が向こう1年間、内政や外交でどのような政策に取り組むかを議会に伝えることを目的とするものです。今次演説の趣旨はremake America’s economyとするものでしたが、2024年の大統領戦を左右する中間層へのアピールを意識して内政に軸足を置いた結果、外交に割いた時間がわずかだったのが気がかりとする処です。

さて、バイデン氏は演説で「共和党の友人たちよ、新しい議会で私たちが協力できない理由などない」と、与野党協力の実現に向けた理想をこう語るところでした。というのも先の中間選挙で野党・共和党が下院で、僅差ながら政権与党・民主党を抑えたことで議会はねじれ状態となっており、共和党の協力なくして各種法案の成立は難しい環境にある為で、メデイアによると今次演説では、共和党員への言及が12回と、前回22年の約4倍に増えたと指摘する処でしたが、超党派で政策を進めたいとするバイデン氏の願望がにじみ出たと評される処です。

・まず内政面では、「米国の魂や根幹となる中間層を立て直し、国を統合するのが目指す国家像であり、その仕事を成し遂げるためにここに我々は送りだされたとし、米国の民主主義は南北戦争以来、最大の脅威に直面したと指摘しつつ「米国の民主主義は不屈だ」と表明する処、その発言は2021年1月6日の連邦議会襲撃を念頭に置くものと思料する処です。

そこでバイデン氏は、自分の抱く国家像について、国家の魂や根幹となる中間層を立て直し、国家を結束させる事と強調、更に根本的な変化を起こすため、経済をすべての人のために機能させ、すべての人がプライドを持てるようにするために大統領に出馬したと主張、経済を上からでなく、下から創り上げ、中間層を支えると強調。そして中間層がうまくいけば貧困層のはしごとなり、富裕層もうまくいくと主張する処です。 そしてこの流れを実証するものとして雇用の回復の実績を挙げ、併せてパンデミックの影響で海外の半導体工場が止まった影響に言及し、供給網の整備を進めるとし、とりわけ世界で最も強い経済を維持するためには最高のインフラが必要と強調すると共に、自分は資本主義者だが、最も裕福な人々や大企業には、公正な分け前を払わせたいと民主党カラーを強調するのです。

・更に外交面では、ロシアの侵攻が続く中、プーチンの侵略は我々の時代と米国、そして世界への試練だと断じ、我々はウクライナの人々と共に立ち上がったと謳うのでした。
更に、中国については、米国の技術革新や将来を左右する中国政府が支配しようとしている産業に投資すると云い、同盟国に投資し、先端技術が我々に敵対する目的でつかわれないよう努力すると云うのです。そして安定を維持し、攻撃を抑止するために米軍を近代化すると、そして今日、我々は中国や世界のどの国と競争するためにも、ここ数十年で最も強い立場にあるとし、米国の国益を前進させ、世界の利益となりうる分野においては中国との協力に努めると云うのでしたが、米中の緊張関係に改善の様相は見当たらずと云った処です。
ただ、中国が我々の主権を脅かせば、我々は米国を守る為に行動すると明言する処、中国との競争に勝つ目的の下に、我々は結束すべきと訴え、これらすべてをなしとげられる一つの理由があると云い、それは米国の民主主義そのものだと、する処です。

そして「おわりに」、我々は転換の時期に集まっている。我々の決断が今後数十年の米国と世界の道筋を決めると。そして、更に我々は歴史の傍観者ではない。我々に挑む力の前に無力ではない。我々は時代の試練に直面し、選択の時を迎えていると、締めるのでした。
(日経2023/2/9掲載、「バイデン米大統領一般教書演説」、ホワイトハウス発表の草稿に基づく)

さて、The Economist.2023/2/4~10の巻頭言、‘Big ,green and mean’ ではBiden’s plan to remake the economy is ambitious, risky, confused and selfish -but it could help save the planetとやや皮肉な評価を下す処です。
バイデン氏としては 超党派で ‘米国を前に’と,したかった処でしょう。が、「ねじれ議会」が壁となって内政の停滞感が強まるとみられる中、バイデン氏が24年の大統領選で再選を目指すかどうか、未だしですが、もし続投となれば、今回の公約を1~2年で着実に実現できるかがポイントではと見る処です。

(2) 米中貿易の現状、そして米国の輸出規制の行方
・米商務省が7日発表した2022年の米中間貿易は、輸出で4年ぶりに最高を更新、輸出入の合計額は6905億ドル(約91兆円)。この内、米国の中国からの輸入額は5367億ドル、輸入額に占める比率の高まったのは玩具やプラステイック製品等の汎用品と云う。一方米国の対中輸出は1538億ドルと過去最高を更新。最も変化が大きかったのが大豆やトウモロコシ等を含む穀物類。一方、航空機や宇宙関連の輸出に占める比率は18年の14%から3%に落ち込んだ由で、米ボーイング製などの民間航空機は中国向けの最大輸出品だが、貿易戦争とコロナ危機で受注が低迷した結果とされる処です。 この点、中国は国産航空機の製造開発に力を入れると指摘される処、政治的緊張を抱えながら、企業は米中双方の巨大市場でビジネスを逃がすまいと動く姿を映す処とも云え、米ピーターソン国際経済研究所のバーグステン氏は「米国が中国を封じ込めようとしても失敗する。機能的なデカップリング戦略を模索しながらも世界経済は米中が引っ張っていくべき」とする処です。(日経 20023/2/8)

・ただ気がかりは保護主義に傾倒しだす?米国の姿勢です。
米政府は昨年10月、中国向け半導体輸出規制に強烈な縛りをかけています。これは中国の軍事デジタル化を食い止めるのが狙いとするもので、実践的には米政府は輸出管理法など矢継ぎ早に発動し、中国の個別企業を名指しして輸出を禁止しているのですが、米国が描く中国包囲網を築くには米国が呼びかける国際協調に日欧が加わる必要がある処、そこには戦後一貫して国際協調を呼びかけてきた米国が、保護主義に傾倒していく姿があって、今や戦略物資となった半導体が自由と市場原理を壊しているように見えると云うものです。まさにブレトンウッズ協定の夢遠くと、なる処です。
因みに2月15日バイデン政権はEV用充電器を巡って「バイ・アメリカン」の発動を示唆する処です。これも大統領選を視野に置いての自国製優遇政策と云う処でしょうが、米国が保護主義を強めて自国優先を貫けば欧州や日本など同盟国との摩擦がつよまり、中国に対抗する為の結束が揺るぎかねないと云うもので、事態の推移が気になる処です。


おわりに 「ブレトンウッズ体制の終焉」 と、私

この1月、待望の書を入手しました。米政府高官でイエール大学経営大学院の名誉学長、ジェフリー・ガーテン氏の手になる頭書タイトルの翻訳本です。 原題は、「Three Days Camp David (キャンプ・デービッドの3日間)」― `How a Secret Meeting in 1971 Transformed the Global Economy ’ で、 1971年8月の金・ドル交換の停止決定、世に云う「ニクソン・ショック」の顛末を記したもので、当時のニクソン大統領他、関係者の対応を巡る、言い換えればその工作裏話を綴るものです。

この著作を手にして想う事多々。とりわけ ‘終焉’ を喫した当日(日本時間、1971年8月16日)の経験ですが、その延長線上で今日に至る自分があったことを思うと、今尚、聊かの興奮を禁じ得ないのです。 と言っても学術的な話ではなく、友人仲間とワイワイやっていた夜の話で、この発表をTVで見ていた際の我々の行動でした。TVの臨時ニュースが伝える「金・ドル交換停止」という国際金融制度の変更ですが、その事の重大さに照らし、時差をも考慮し、とにかく海外の出先にいる仲間に、一報をと、全員が一斉にその店を飛び出し、会社に戻り、守衛に事情を説明しテレックスコーナーに忍び込み、さん孔テープのタイプに向かいポツリ、ポツリと打ち出し、作業を終えofficeを辞した時は、既に夜がしらけだす処でした。

その後と云うもの事態のフォローアップに連日振り回され、その翌年、筆者は米国(NY)に転勤で、東京とNYで当該ショックの対応に奔走させられる日々が続いただけに、この本を手にして聊かの興奮をもってその場を想い出させられる処です。そして本書序章に記された以下の記述こそは、筆者が身上として今日に至る行動様式の原点たるを再認識する処です。

「・・・1971年にアメリカがドルと金のリンクを断ち切った一方的かつ、強烈な政策のあと、世界経済に対するアメリカの関与が増え、国際機関に対する拠出などが大きくなり、アメリカと同盟国間の政策協調が進展した。確かに金・ドル交換停止でアメリカは西ヨーロッパ諸国と日本にショックを与えたが、ニクソンはさまざまな問題にアメリカの同盟国と共に考えながら対処しようと考えていた。 例を挙げれば、核兵器削減条約、世界の貧困問題、食料安全保障、高騰する石油価格、などなど。1971年時点でアメリカは、世界貿易の伸展が保護主義より優れていることをよく理解していたし、より良い通貨制度を追求し続けた。時間が経つにつれ経済と政治の関係は強くなっていき、間違った方向に行かなければ民主体制の国が強くなることはわかっていた。この信念は、ニクソンも彼の周りにいる専門家も理解していた。それより、西ヨーロッパ、日本との協力関係が40年以上続いたのである。1971年8月にアメリカは国際関係に大きなショックを与えたものの、拠って立つ政治哲学は、世界が直面する様々な大問題を一緒に解決する国々の利益を高める事にあった。 ・・・ 」

今から55年前、1968年、筆者は、Financial TimesのNY特派員、G・オーエン氏の著作「Industry in the U.S.A.」(Penguin Books, 1966)を翻訳出版(現代のアメリカ産業)した経緯もあり、それに重なる上記ニクソン・ショック物語は、今日に至る小生の思考形成の原点となる処です。今、この2つの本を机に並べながら、1963年春、大学を出て社会人となってからの60年という時空間に、改めてそうした想いを重ねる処です。(2023/2/24)
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