2023年01月26日

2023年2月号  新時代の「国の防衛」を問う - 林川眞善

―  目  次  ―

はじめに Martin Wolf, Financial Times と共に

[1] 2023年5月、G7広島サミット、そして日本の新安保政策
 1. G7広島サミットを前に, 欧米行脚の岸田首相
 2.日本の新たな安保政策と日米同盟の変質
             
[2] 中国経済はどう動く             
 (1) 中国経済の変質?を示唆する二つの指標
 (2) The Economistの見る、中国経済回復の行方

おわりに.この冬、旅先で思う       
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はじめに Martin Wolf, Financial Times と共に思う

昨年2022年の暮れ、F.T.のMartin Wolf記者の2023年につなぐ言葉は、我々にとってエールとなるものでした。そのタイトルは、Glimmers of flight in a terrible year ― From the return of the west to the triumph of democracy, not everything that happened in 2022 was bad. by Martin Wolf( Financial Times 2022/12/21) そこでまず、その概要を以下に紹介する事から始めたいと思います。― 
      
➀ 昨年のレビュー総括:失敗だらけの2022年、
・邪悪な独裁者の侵攻、インフレの高進と実質所得の低下。IMFによると低所得国の60%は債務返済が無理か、これからそうなるリスクは高い。
・米中の関係解消、2大大国を軸とした経済ブロック化に向かう動きは顕在化
・COP27は失敗に終わった。
・パンデミックからの完全回復は見られず。世界の最貧国の状況は深刻。

➁ ウクライナ侵攻が民主主義の価値観を共有する国々を結束させた。
NATOにとって再生の時に,ドイツにとっては「時代の変わり目」に。フィンランドとスエーデンにとっては中立を拒絶すると時なった。ゼレンスキーはプロパガンダ戦争にあっさ
り勝利し西側の英雄に。一方、強権的指導者のプーチンそして習近平も弱くなったし,彼の
ゼロコロナは屈辱の内に終わった。― つまり、堕落した民主主義よりも古代中国の専制政治の方が立派な統治が行えるとの主張は崩れた。

③ トランプ衰退と英国で見えた民主主義の価値 
米中間選挙でトランプの推薦候補がすべて落選。今、トランプが国家への反乱を試みたことが白日の下に。一方苦境の英国ではジョンソンを首相の座から引きずり下ろし、能力のないリズ・トラスを在任44日で官邸から追い出した。が、その過程で誰かが命を落とすことはなかった。なお、世論調査では英国民の51%はBrexit を悔やんでおり、世論の変化により、将来の政権は再びEUに接近させられるはずだ。

④ 2023年の経済
インフレ「期待」は制御されている。2023年は米国、その他国々でインフレ制御の公算あ
りで、その後には成長への回復が続くと見る。そしてグローバル化も死んではいない。
つまり、脱グローバル化というより、ペースの鈍化だ。米国はともかくそのほかの世界では、繁栄するには貿易の活発化が必要であることを、理解していると。
そして、IMFは世界の財・サービスの貿易量は2022年4.3%増と予想。これが興味深いことは財の貿易量の伸び率2.9%よりも高いことだ。つまり、サービスの貿易が伸びを牽引し
ているわけで、因みに2021年は財・サービスの貿易の伸び率が10.1%で、そのうち財の
伸び率が10.8%だった。又、世界のGDPの伸び率は2021年が6%だったに対して、2022年は3.2%に留まると予想されている。従って世界は脱グローバル化しているわけではない。以前ほどには貿易は伸びていないだけだ。つまり、グローバル化はもう以前のようなペースでは拡大できない。だが機能しているし、世界経済も成長し続けている。

➄ 最後に、コロナ禍がついに過去のものに
めちゃくちゃで統制の取れないやり方にせよ、世界は新型コロナを過去のものにしつつあ
る。これはワクチンに負う処大。ワクチンはもっと世界に行き渡らせるべきだ。悪性の
変異株が登場する公算は大きく、新たなパンデミックが始まる可能性もある。それでもこ
れは進歩だ。世界の危険や不正、紛争、失敗を目の当たりにして途方に暮れてしまうのは
たやすい。確かにそうした問題は十分にある。だが、今年(2022年)起きたことがすべて
災難だったわけではない。民主主義、法の支配、経済の進歩の継続、世界の経済的統合、
健全な金融市場、そして通貨安定などの価値を信じる我々にとって、2022年は完全に悪い
年だったわけではない。それでも2023年がもっと良い年になることを祈願しよう。


さて、上記、M.ウルフ氏描く環境変化を拝しながら、新年、2023年がスタートしました。
プーチンが仕掛けたウクライナ侵攻は未だ止むことはありませんが、そうした中、2023年5月には広島でG7Summitの開催が予定され、議長国日本の岸田首相には、G7として結束し、如何ように世界を誘導していく事とするのか、極めて重責を託つ処ですが、それは日本として外交力の「抜本的強化」に動く年とも映る処です。 その視点は、先の弊論考で提唱したキワード、国際秩序に向けた「協調」行動の確立と、符合する処、次世代への「挑戦」に向けた行動とも符号する処です。 勿論、それは世界の中の日本の在り方を問うプロセスとも云え、上記ウルフ氏の祈願にも応える処ではと思料するのです。そこで、この際は広島サミットを中心としながら日本を取まく安全保障環境、とりわけ日米関係について考察する事とします。

そして、もう一つ気がかりは、「ゼロコロナ」政策を打ち切った中国の動きです。1月17日、中国政府が同時発表した二つの経済指標、2022年末の総人口統計と中国経済GDP指標ですが、いずれもnegativeにあって、時に中国経済の行方が世界経済のリスク要因とも映る処、その現状についても併せて、考察したいと思っています。


[1] 2023年5月、G7広島サミットと、日本の新安保政策

1. G7広島サミットを前に、欧米行脚に向かった岸田首相

上述5月19日からの3日間、広島でG7サミットが開催予定ですが、開催国日本の岸田首相は議長としてG7の連帯を確実なものとし、以って揺るぎない国際秩序の構築に向け、取り仕切っていく事が期待される処です。 1月9日、その重責を全うするための準備として、22年に首脳が相互に訪問したドイツを除き、フランス、イタリア、英国、カナダ、米国の順で各首脳を歴訪、サミットを前に個別に信頼関係を築き、腹合わせを進める処です。
 
その概要は、都度、各メデイアの報じる処、その成果は5月の広島サミットでの議論の主題となる処、当該議論を経て、これからの世界、自由主義諸国の運営シナリオが示されていくことになるものと思料する処です。ただ今次サミットでの最大の課題はウクライナ情勢への対応であり、ロシアへの制裁やウクライナ支援の継続を申し合わせることになるものと思料する処、更に岸田首相は、ロシアの核による脅威を受け止め、自身の出身地、唯一の被爆地・広島を今次、サミットの拠点とすることで、「核兵器のない世界」の気運を高める機会ともする様相です。

勿論、岸田首相が狙うのがG7で唯一のアジアの国という立場から、東アジアの激しい安全保障環境への対応協力を取り付ける事、更に日米が主導する「自由で開かれたインド太平洋」の実現にも理解と具体的協力を求めんとする処、世界のリスクが今や当該地域に集中する事態に欧州諸国も強く理解する処、今次の欧州首脳との事前のすり合わせは、日欧安保を一挙に近づける結果となったと認識され、そのタイミングにも評価の集まる処でした。

そして1月13日、ワシントンで行われた日米首脳会談はそうしたスケジュールのハイライトとなるものでした。つまり岸田首相は、昨年12月16日、閣議決定した新たな安全保障政策となる防衛3文書を携え日米首脳会談に臨み、戦後安保の転換を示唆する「反撃能力の保有」を明示したことで、バイデン氏からは当該新安保政策を以って日米同盟の現代化となるものと高い評価を得、同盟関係の一層の強化が確認されたとする処, 以って5月の広島サミットへの対応準備が整ったと,いう処でしょうか。

  (注)歴訪5か国首脳との確認事項,等
  ・フランス:マクロン大統領(9~10日) 日仏安保協力推進
  ・イタリア:メローニ首相(10~11日)19年の中国「一帯一路」への参加は間違いと。
  ・英国:スナク首相(11~12) 日英「円滑化協定(RAA)」締結、英国のTPP加盟 
  ・カナダ:トルドー首相(12~13)両国関係の一層の強化に向け協力したい。
  ・米国:バイデン大統領 (13~15) 同盟関係の更なる強化(別記)

尚、もう一つ岸田首相が重視するテーマは、途上国を意味するglobal southとの結束だとしていましたが、それは中国やロシア等の覇権主義に国際社会として対抗するには途上国との関係が重要とのなるためとの認識を映す処です。因みに、1月4日の記者会見では「対立や分断が顕在化する国際社会を結束させるためにグローバルサウスとの関係を一層強化し、食料・エネルギー危機に対応していく」と語る処でした。

果せるかな1月12・13日、インド政府の主導による「グローバルサウスの声サミット」会合がオンラインで開かれ、モデイ氏は以下のような発言をしているのです。―「私たち『グローバルサウス』は、未来に関して最大の利害関係を有している。人類の4分の3が私たちの国に暮らしている」とし、現在対峙しているグローバルな課題は南半球がつくりだしたものではないが、私たちに大きな影響を齎している」と、そして「その解決策の模索には私たちの役割や声が考慮されていない」と主張。予定される次期G20サミットの議長国として「グローバルサウスの声を増幅させる」と。(日経1/14)とすれば、広島サミットに向け途上国の関心の高い分野でいかなる対処策を示せるか問われる処です。

因みに、グローバルサウスへの対応として、イエレン米財務長官は18日、アフリカ訪問の途次、スイス・チューリッヒに立ち寄り、ダボス会議に出席中の中国 劉鶴副首相と会談、両者は経済・金融面での対話強化や気候変動対応を巡る途上国への金融支援で協力する事で合意を得た由で、とりわけアフリカ諸国が直面する過剰債務の再編には最大の貸し手である中国の協力が不可欠とし、米国が途上国への金融支援に協力することで、当該問題解決に向けた前進が期待される処です。
 
かくして、岸田首相のG7メンバー国首脳との事前の腹合わせを通じ、民主主義国家への挑戦を仕掛ける強権国家、中国やロシア等に、いかに対峙していくか、つまり安全保障をいかに担保していくかが共通問題である事、そして、そのための国際連携が一層のテーマとなってきていることが認識され、まさにグローバル経済の在り方、課題への取り組みに新たなトレンドを生む処とも云え、以って外交も抜本的強化に動く年と整理され、広島サミットへの期待を膨らませる処です。

・違和感に晒された日米首脳会談
処で、国際社会の激変に向き合うには、国を不安定にする拙速な政治姿勢こそは大きなリスクです。その点で気がかりだったのが13日の日米首脳会談でした。当日岸田首相は、昨年の12月. 閣議決定された新安保に係る3文書を引っ提げ、日米首脳会談に臨んでいますが、そこで日本の安保政策の変更、自立した安保体制への変更、について説明をし、これに対しバイデン氏は、この新安保政策を以って ‘日米同盟の現代化’と高く評価したという事で、新たな形の安保体制へ大きく前進となったとするのですが、そのシナリオ、プロセスに、極めて違和感を禁じえなかったという事でした。

勿論、日米首脳会談を控えた11日、その前座となる日米外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2会議)が行われ、そこでは「反撃能力」に関し日米が共同で対処する事が確認され、そして、その旨が明記され、以って、日米の同盟関係が新たな次元に向かったとされる処ですが、日本の将来を規定していく事となるこの種事項に、国民の声が映らないことに、当該政策決定のプロセスに違和感を禁じ得なかったのです。そこで改めて、岸田欧米行脚のハイライトなった日米首脳会談に絞り、新に語られた日本の安全保障政策の概要と変質する日米同盟関係の行方について以下、考察する事とします。

2.日本の新たな安保政策と日米同盟の変質

(1)日本の新安保政策、関係3文書の「トリセツ」
周知の通り、長期化するウクライナ侵攻で国際社会から孤立したロシアが、核兵器やサイバー攻撃を用いて欧米諸国への脅しをエスカレートさせる状況がなお続く処です。そうした状況に与すべく日本政府は、昨年12月16日、岸田内閣は国家安全保障戦略など防衛政策に係る3文書(国家安全保障戦略、防衛力整備計画、国家防衛戦略)を閣議決定し、以って「自立した防衛」へ、新たな一歩を踏み出すとする処です。それは、ともすれば米国頼みだった防衛論が、世界情勢の変化と、そうした変化を背にした世論が、変えたとされる処ですが、その変化を象徴するのが、相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有を閣議決定したことでした。

(注)日本の防衛政策:これまでの防衛政策は、米軍が駆け付けるまでの間「必要最小限」の戦力で持ちこたえる基盤的防衛力構想を基軸としてきましたが、この構想は観念的で具体性に乏しいとされてきたことは周知の処です。そして防衛費についても然りで、これまでGDP比1%をその上限としてきた論理も、いつしか装備の「買い物計画」だけに目が向く効果をもたらしてきたものの、何が脅威で、何に備えなければならないか、その基本を長く置き去りにしたまま日本の防衛論は進んできたのです。今次防衛3文章の一つ「国家安保戦略」(日経2022/12/17掲載)では、優先する戦略的なアプローチとして、まず「外交を中心とした取り組みの展開」を挙げ、これまでの国防は米国任せ、日本は経済重視の姿勢を廃し、防衛力の強化は抑止にあって何としても戦争を避け、国の安全を守るのが経済成長の前提と記す処です。

もとより、今次新たに策定された日本政府の安全保障政策は、強権政権の中ロ等が引き起こす無謀な安全保障上の脅威に対抗せんとするもので、まさに国民の生命を守る自立した防衛を目指すとして策定された従って、それは究極の危機管理となるものですが、上述13日の日米首脳会談でこの3文書が披露され、バイデン氏からは日米同盟の現代化が進んだとの評価があり日米が統合防衛に向かいだしたとメデイアは伝える処です。

・問われる今日的 ‘防衛’ と岸田政府の取り組み姿勢
ただ前述したように、これが日本国の将来を規定していく代物だけに、問題は、そこに国民の声が映っていないこと、ましてや、これまでの安保法制や装備予算等の差異についての説明等、一切の説明もないままに過ごされてきた点でした。早速に防衛費の増額がどうのこうのと議論は沸く処ですが、そう言ったレビューの点でも、国民はお呼びではないようです。

勿論、防衛予算の具体的な執行内容等は機密事項になる処かと思料するのですが、決定から数年を経た現行安保3文書の検証は見ることはありません。特に多次元統合防衛構想を唱えた防衛計画の大綱に即した中期防衛力整備計画が目標を達成できたのかも判然としていません。今次防衛3文書の最大の目玉は、「反撃能力」の保有の如何でしたが、それが閣議決定されたことで、防衛費の増額の云々が活発化する処ですが、要は、防衛とはどういった行動を意味するのか、この際は問われてしかるべきと思料するのです。偶々、今、手元に届いた1月21日付The Economistは、今次の安保政策の新方針について、日本がmilitarismに向かいだしたと思う国民は多いとしながら、`Japan is making tough choices in order to improve its defences‘ と、日本は国防強化のため厳しい政策選択を始めたとする処です。

これまで防衛と云った場合、その基本は軍事装備の拡充にありました。が、今日的環境にあっては何よりも戦闘が仕掛けられないように国家運営を固めることこそが防衛とされ、そのためには、積極外交を通じて多くの仲間、友好国をつくる事と、思考様式、行動様式が変化してきている処です。 因みに、1月 23日付、日経コラム「私見-卓見」に、元教員と称する坂本満氏なる仁が「戦争抑止に外交は無効か」と題し、要は、‘頼れるのは外交’ と訴える記事が掲載されていましたが、筆者と同様、極めて納得する処です。
     
さて、13日には岸田首相は米ジョンズ・ホプキンス大学(SAIS)で講演し、日米同盟を基軸に中ロなどへの抑止力を高めると訴え、今次改定の安保関連3文書を以って「米国、世界に対する日本の強い覚悟を明確に示した」と述べ、インド太平洋地域の利益に繋がると強調し、今次の防衛力強化を「日米同盟の歴史上、最も重要な決定の一つと位置付ける処でした。(日経1/14)

尚、繰り返しとなりますが、問題はこうした政策の変更について、政府による国民への説明がないままにあって、しかも防衛費の増額や反撃能力の保有などについての議論ばかりが先行するのでしたが、今日的な防衛の在り姿は、あり態に云えば敵陣営に ‘今、攻めれば勝てる’ そう云った想いを抱かせない状況をいかに堅持していくか、にあると思料するのです。

(2)防衛に係る発想の転換
筆者は予ねて外交力の強化を主張してきていますが、防衛とは今日的には、外交力の強化を通じて、そうした状況を担保し続けることであって、その為には友好国をつくりその輪を広げていく事こそが ‘防衛’と思料する処です。但し、これも30年代のブロック経済となるようなことは絶対に避けるべきで、現代では経済的つながりは保ちつつ、先端技術など経済安保に絞った経済圏をつくろうとしている視点を失わないこと肝要です。

が、上述の通り、そもそも相手に「今、攻めると勝てる」と云った、そうした思いを抱かせるような事態を起こさないようにすること、それこそが「防衛」と云え、従ってそうした状況を堅持していくためにも、多くの友人、友好国を整えていく事、つまり外交にありと思料するのですが、それは同時に情報力の強化につながる処です。

筆者が予ねて云う処の日本の外交力の強化とは、まさにその一点にありとする処です。そして、決して容易な事とは思いませんが、まずは‘防衛’に対する発想を変える事、そして、とにかく外交力が一層のパワーとなる事、銘記されるべきと思料するのです。そして、今次の日本の安保政策の一大転換について、不意打ちのような一方的宣言と行政の決定だけで突き進んでも,国民の理解や協力の無い政策はいずれ行き詰まる事、銘記されるべきなのです。

     (注)1月23日、召集された第211回通常国会での冒頭、岸田首相は施政方針演説で、
     始めて防衛政策について言及しましたが、その実の無さに、暫しあんぐり。今後の国
会での与野党の論戦をじっくり見守りたいと思う次第です。


[2] 中国経済はどう動くか

(1)中国経済の変質?を示唆する二つの指標
1月17日 中国国家統計局が発表した二つの経済指標は中国経済の変質を示唆する処です。一つは2022年末の総人口統計、もう一つは2022年10~12月期のGDPです。前者、中国の2022年の総人口が14億1175万人、2021年比で85万人の減少で、61年ぶりの減少ですが、2022年の出生数は106万人の減少で956万人と、2年連続で1949年以来の最小を記録したことでした。同時に発表された22年通年の実質成長率は3.0%で、政府目標の「5.5%前後」を大幅に下廻る処です。(日経、1/17夕刊)

上記、二つの指標は、中国が長く謳歌してきた経済成長を支える構造が揺らいでいることを示唆する処です。2022年の成長率(実質)は3%に留まっていましたが、これは新型コロナウイルス感染症を厳しく抑えこんだ「ゼロコロナ」を含む複合的な政策不況と見る処です。
ただ、17日、ダボス会議(1/16~20)で登壇した中国、劉鶴副首相は講演で、2023年の経済成長はかなりの確率で正常なレベルに戻ると自信を示した事で、IMFは中国の成長上振れなどを踏まえ、世界経済の成長率見通しを上方修正する考えを示したというのでしたが、要は先行き不安を高めていた厳しい行動規制がなくなったことで企業の投資や家計の消費等内需が回復するとの見立てですが、それでも中国の政策姿勢に不信感の伝わる処です。

つまり、13日に中国税関総署が発表した貿易統計では、四半期ごとに見ると輸出は22年7~9月まで2桁の増加が続いていたが、10~12月では前年同期比では7%の減少と2年半ぶりのマイナス。これはインフレ対策で急速に利上げを進めた米欧向け出荷が減ったためとされています。問題はこの外需の行方です。20年以降、経済成長の2~3割が外需による押上で説明できたのですが、この外需の追い風が急速に弱まっている点で,先行きの見方は分かれる処なのです。

(2)The Economistの見る中国経済回復の行方
さて、2023/1/7~13のThe Economistの巻頭論考「Exit wave」(ゼロコロナ解除の出口波)では、How China’s reopening will disrupt the world economyとその極端な政策変更に、アンチ中国の感すら伝わる処です。

― 1月8日、中国が国境を再開し「ゼロコロナ」政策が完全に撤廃された時、経済的、文化的、そして知的交流の再開は非常に大きな結果を齎すとする処、経済活動は急回復を遂げ、そのインパクトは、タイの海岸でもアップルやテスラと云った企業でも、そして世界各地の中央銀行でも感知され、中国の活動再開は2023年最大の経済イベントになるだろうとする処、GDPでは2023年第1四半期は落ち込むが、2024年第1四半期には前年比で10%に達すると見る向きもあると云うのです。中国のような巨大経済がそうした急回復を遂げることは、中国だけでその時期の世界の経済成長の大半を齎すことを意味することになるからと云うものです。

ただ、ゼロコロナ政策をあれほど情け容赦なく実行してきた中国政府が相応の準備もなく止めてしまった様子を目の当たりにして、多くの投資企業は、中国にかけるのは危険だと考えるようになっていると云うのです。複数の情報筋によると、新たに工場を建設する外国からの新規投資が減速する一方、中国から他国に事業移転する企業の数は急増していると。

因みに、中国の前回の大開放は毛沢東時代の無意味な隔離の後に実施され、ヒト、モノ、投資、アイデイアの国際交流を盛んにし、爆発的な繁栄に至った。北京とワシントンの政治家はほとんど認めていないが、中国とそれ以外の世界の双方が、そのような交流から利益を享受した。運が良ければ、今回の国境開放も究極的には成功するだろう。だが、中国共産党がパンデミックの間に煽った、偏執的で外国を嫌うムードの一部は間違いなく残っているとし、新しい中国がどの程度開かれたものになるかは、まだしばらく分からないとする処です。

さて、1月21日、中国では春節に伴う大型連休が始まりました。4年ぶりに行動制限がなくなり、国内旅行の人気がたまったと報じられる処ですが、しかし、これで個人消費が急回復するかはまだ予断を許さないとの様相です。18日習近平主席は、この人の移動について、「私が一番心配なのは農村と農民の皆さんだ。農村の医療は脆弱で、防疫の難易度は高い」と率直に語る処でした。(日経1/22)
 

 おわりに この冬、旅先で思う

筆者はこの年末、年始、京都で過ごしたのですが、元日、部屋に届いたlocal紙、京都新聞の社説の一節は、旅先で読んだこともあってか、今も頭に残るものでした。当該社説の内容は4月の統一地方選挙を控え、国からのお仕着せでない政策を提示すべき時ではないか、地に足をつけて考えようと云うものでしたが、そこで引用されていた一節でした。

つまり、「人類の祖先が獲得した直立二足歩行は、移動速度の低下や骨への負荷など短所が多く、引き継いだのはホモサピエンスだけだった。それ故、声を出しやすくなり言葉が発達し、手が空いたことで道具利用だけでなく、仲間の手を取って助け合う『協力』を強めた」と、米人類学者ジェレミー・デシルヴァ氏の近著での記述を紹介しながら、「言葉と協力こそが地球で人類を繁栄させた武器なら、私たちは民主主義や対話外交をあきらめず、支え合いを広げることを止めてはなるまい。明日へ希望の1秒を刻むために」と締めるものでした。

東京に戻って手にした1月9日付Financial Timesは、米シンクタンク、Atlantic Council の最新の調査をベースに、世界はこの先10年間は激動の時代になりそうだと伝える処です。この調査は167人のexpertsからの回答を得て行われたものの由で、専門家の多くはと2033年までにロシアが破綻または崩壊すると予想。また大多数は中国が武力で台湾統一に動くと見ており、その武力行使のtimingについては、米軍高官は中国人民解放軍創設100年にあたる27年と見る処です。― Russia at risk of becoming failed state, say foreign policy experts . Atlantic Council report also forecasts China will invade Taiwan in decade of tumult. 

とすれば、この先10年は世界にとって激動の時代という事と見ざるをえず、その点では上記、社説の趣旨を改めて、反芻する処です。(2023/1/25)
posted by 林川眞善 at 17:40| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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