はじめに:2023年、その年頭に思うこと
― 国際`協調’ の強化と‘最先端への`挑戦’
1. 新興国が促す世界経済 ‘協調’ 行動
2.AI時代の産業力の確保 ― 最先端への`挑戦’
おわりに:米中、深まる半導体対立
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はじめに:2023年、その年頭に思うこと
― 国際協調の強化と‘最先端’への挑戦
国際社会は日進月歩と激しい変化にあって、戦後社会の安定を築いてきた米国主導の国際秩序は影を潜め、一方、ロシアのウクライナ侵攻を受ける形で今、世界は、米国を中核とした日本を含む西側陣営、中ロを中核とした強権統治国陣営、そしてその中間に位置付けられる中間パワー、の3つのグループに仕分けされる状況の進む処です。そうした環境にあって問題は、世界の秩序を安定的なものとしていくにはいか様な行動が求められるかですが、色々識者の語る処、この際は筆者の思いとも併せ、以下2点に絞り考察する事とします。
一つは国際経済の安定、発展に必要なこととは「協調」行動の強化、もう一つは、AI時代の産業力の強化、です。半導体産業の強化を通じ ‘最先端’ の世界に挑戦していく,そのための体制づくりです。そこで、今次論考ではこの2点に絞り論じていきたいと思います。その前に、二人の識者の現状認識を紹介しておきたいと思います
(1)二人の識者の見立て
まずノーベル経済受賞(2001)経済学者、Michael Spence氏、former dean of the Graduate School of Business at Stanford Univです。彼は、Project Syndicate (Nov.25, 2022)への寄稿論考「Done with deglobalization?」で、2022年11月こそは、extraordinary month, 極めて特異なひと月として回顧されることになるだろうと指摘するのでした。
周知の通り去る10月、バイデン米政権が半導体を巡って対中輸出規制の強化を発動しました。この結果、米中の対立は一層の緊張を託つ処、その11月、東アジアでは3連荘と首脳会議が開かれ、ASEAN首脳会議がカンボジアで、G20 summitがインドネシアで、APEC forum がタイで開催されましたが、これら各国首脳との一連の会議が映し出したことは、これまでになく新しい事態への対処には関係各国が話し合っていこうとの姿勢が醸成されるようになってきたと評されるものでした。
つまり、これら会議は、従来見られたような、利害を巡る対決(confrontation)ではなく、その底流には、新たに直面する問題に、共に取り組む姿勢が生れてきたことを感じさせるものがあったと、その変化に一定の評価を示すと共に、globalization saga のターニング・ポイントとして銘記されることになるだろうと記す処でした。そして、然るべき大国(米国と中国?)が当該機関の権威をrespectする事、そしてdeglobalization(反グローバル化への動き)が齎すリスクに果敢に取り組んでいくべきと付言する処です。
その後、筆者が手にした米ユーラシア・グループの創業者で、国際経済学者として著名なIan Bremmer氏の近著「危機の地政学」(日経出版)では、彼は「政治や経済、文化、又は国の価値観について意見を合わせる必要はない。しかし大国間の対立、今後起きる公衆衛生の危機、気候変動、新技術が世界的な脅威になり、人類の存亡は協調にかかっているのだと合意する必要がある」(P.307)とする主張でした。
上述二人の指摘は、グローバル経済は今、ターニング・ポイントにありとする処でしょうが、そのポイントはグローバル化に向かう姿勢の変化、つまり国際 `協調‘を基軸として進む、まさに協調という事態のアウヘーベン(止揚)と理解する処ですが、そうした変化を具体的に映し出したのが11月、ジャワ島でのG20 サミットでした。
(2)G20サミットが映す協調の行動様式
G20サミットは11月16日、首脳宣言を採択して終わりましたが、開催中の議長国インドネシアのジョコ大統領が取った行動様式は、まさに、新たなグローバリゼーションへのアプローチの可能性を強く示唆するものでした。具体的には各国国首脳と個別対話を行い、G20宣言を取り纏められたこと等、ですが、勿論、2008年の初のサミットはリーマン・ショック後の金融危機への処方箋を行動計画まで含めて示したのと比べると今回の首脳宣言は力不足とされる処、各国は必要に応じ協調行動を取る準備に同意する処となったのです。
加えて、場外での話ですが、2023年の議長国インドのモデイ首相が9月、ロシアのプーチン大統領との会談で放った一言「今は戦争の時ではない」とクギを刺した事は、まさに米中対立で翻弄される世界にあって、新興国主導の新たな‘協調’を思わせる処です。
11月19日 付 The Economist誌のカバー・ストーリーは `Asia’s Overlooked Giant、―Why Indonesia matters’ と、インドネシアの重要性について特集する処です。 そこで、この際は上記Michael Spence氏の指摘を枠組みとしつつ、まずはG20サミットで見た行動様式の現実を「新興国が促すG20の協調」としてレビューする事としたいと思います。
尚、‘協調’と云っても相手のあっての事ですから、協調するための問題点を相互に理解、認識し、当該問題へ如何様にアプローチしていくか、相応のシナリオ以って臨むことが必要となる処、そこには「世界観」が求められていく事、云うまでもないことでしょう。
更に、去る10月、バイデン政権が発動した対中「半導体輸出規制の強化」が、結果として、世界の産業構造を深く揺るがす状況を生む処となってきていますが、その背景にあるのが半導体を巡る競争環境の変化です。これまで言われてきたような半導体は産業のコメではなく、いまでは産業活動に組み込まれたインフラです。そしてその最先端の半導体造りが国内で始まろうとしています。最先端への挑戦です。そこで日本が目指す‘半導体製造とグローバル経済’をテーマに論じたいと思っています。それは最先端への挑戦プロセスとも映る処です。
という事でこの際は、上記二人の識者の言質を戴きながら、11月のG20サミットにみた新興国が促す‘協調’の実状をレビューし、今後へのあるべき国際社会の姿を描き、同時に、AI時代の産業力の強化という視点からは、半導体産業の強化を通じ ‘最先端’への世界に挑戦していく体制づくりを深く考察し、年初への論考としたいと思います。
1.新興国が促す世界経済、協調行動
(1)G20とG20首脳宣言取り纏めのプロセス
まず注目のG20サミットは、11月16日首脳宣言を採択し、閉幕しましたが、15日から始まった討議はエネルギー・食料危機への対処を中心に進み、その原因をつくったロシアに批判が向かう展開になったと報じられていました。 ただ宣言では、ロシアのウクライナ侵攻に関して、「ほとんどのメンバーは戦争を強く非難した」と明記し、「核兵器の使用や威嚇はみとめられないと」ロシアをけん制しています。一方で、「状況と制裁について他の見解や異なる評価があった」とのロシアの主張も盛り込んでいます。つまり、予想に反し、G20は首脳会議で各国の違いを乗り越え、ロシアを非難する宣言を採択したことで大きな転換を果たしたとされる処です。
・何よりも「汗をかいた」ジョコ氏
そうした背景には、今次G20の議長国としてのジョコ大統領の行動様式にあったとされる処です。G20のメンバーであるロシアがウクライナに戦争を仕掛け、他の参加国が激しい対ロ批判を繰り広げるなか、首脳宣言を採択できたこと、G20として「パンデミック基金」を創設し、14億ドル(約2000億円)を調達するなどの感染症対策や、途上国支援で具体的な成果があったともappealする処です。G20サミット前の一連の閣僚会議では共同声明を発表できず、首脳宣言も採択が危ぶまれていましたが、ジョコ氏が宣言の採択にあたり、必要な事として挙げたのは首脳間の直接対話でした。具体的には、G20サミットは新型コロナウイルス禍を経て3年ぶり、完全な対面形式で開かれましたが、ジョコ氏は「首脳間の信頼関係は財産。緊張を軽減するため直接対話が重要だ」と訴え、宣言の取り纏めには自ら他の首脳に接触し、話し合った結果とされています。
尚、ジョコ氏によると、サミットは15日にウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで参加した後、各国首脳が意見をぶつけ合い、白熱した由で、「その中でバイデン米大統領と習近平国家主席は冷静だった」と明かし、近くの席にいた両首脳の落ち着いた振る舞いが、議論を収束に向かわせたと云うのでした。
そしてジョコ氏はG20に長期的な課題として横たわる米中の対立について「競争事態は正常な事だ」と発言し、一方で「それが目立った紛争にならないよう管理し、世界と地域の平和と安定を維持することが大国の責任だ」と米中に注文を付けるのでした。(日経電子版、2022/11/17)こうした図柄はまさに新興国が促すG20協調の姿と映る処、11月19日 付 The Economist誌はそのCover storyにインドネシアを取り挙げ Asia’s Overlooked Giant―Why Indonesia mattersと、インドネシアの重要性について特集する処です。
尚、2023年1月からインドネシアはASEANの議長国に就きますが、彼らは経済を軸とした域内の協力深化を23年の議題とする由で、食料やエネルギーの安全保障、サプライチェーンの再構築などで合意を目指すと期待される処です。因みに23年のASEANの標語を「成長の中心、ASEANは重要だ」に決めた由(日経、12/19)
尚、今次G20サミットで、主要7か国の首脳の存在感の乏しかったことが気になる処でしたが、これは欧州で首脳の交代が相次いだほか、日米は支持率低迷や厳しい経済環境に直面していることが背景にあっての事でしょう。そしてGDPで見るG20内のG7のシェアは08年の5割から足元では4割強に落ち込んでおり、今後も下がる可能性が高いと見られる処です。
(2)G20の位置づけ
G20は世界のGDPの8割を占め、「国際経済協力に関する第1の協議の場」と位置づけられていますが、ウクライナ侵攻後、複数回あった閣僚会合では欧米とロシアの対立で成果となる文書を出せず、機能不全が指摘されていましたが、今次ジョコ氏の努力で、ようやく首脳宣言が採択されたことは、まさに世界経済への対応で、対話を通じて、「協調」姿勢を打ち出せた事は大いに評価され、これからの国際運営の在り方に、強い示唆を与える処です。
2.AI時代の産業力の確保 ― 最先端への挑戦
(1)バイデン政権の対中輸出の規制強化
バイデン政権が2022年10月7日発動した対中輸出規制の強化は、半導体及び関連製品の輸出、そして当該技術者の移動、技術の持ち出しの規制強化を目指すもので、要は半導体等ハイテク分野で中国による技術のキャッチアップを遅らせるものとされるものです。
つまり、米政府が特定する中国企業向けの半導体受託製造サービス、中国内で稼働済みの先端製造装置のアフターサービスを原則禁止とし、以って中国の半導体産業育成を難しくするのが狙いとする処です。(弊論考11月号)これに並行してバイデン政権は日米韓台の4カ国・地域が半導体の技術・供給網の管理で協調する、一種の技術同盟の構築を呼びかける処ですが、こうした一連の動きを捉え、Financial Timesの記者、E. Luce氏が云うように、その政策姿勢は「中国封じ込め」に向け進む処 (Containing China is Biden’s explicit goal. 2022/10/20) 自由貿易を主導してきた米国としては、真逆の方向を見せつける処です。
・バイデン政権の‘新安保戦略’
尚、10/12、バイデン政権は上記輸出規制強化宣言にfollow upする形で、政権初となる「国家安全保障戦略」を発表しています。そこでは中国を「唯一の競争相手」と定義し、「中国に打ち勝ち、ロシアを抑制する」と強調。今後 米主導の国際秩序に挑む中国との競争を「決定づける10年」とこれからの10年の重要性を強調する処です。ロシアを「差し迫った脅威」としつつも、中国の対処を最優先に据える方針、つまり中国とロシアの位置づけを明確に区分する処、2021年3月に示した戦略の暫定版でうたっていた中ロとの対話に意欲的だった表現は消えています。その限りにおいて、バイデン政権の対中政策は、トランプ前政権の行動様式を踏襲するものと云えそうです。
今次、バイデン氏の対中輸出規制強化という一連の措置は、中国への技術移転に関する米国の政策において、1990年代以降で最大の転換となる可能性があるとされるもので、実際適用措置となると、米国の技術を利用する米国内外の企業による中国の主要工場及び半導体設計業者への支援が強制的にうち切りとなり、中国の半導体製造業が立ち行かなくなる可能性があると云うものです。 以って前出Financial Timesのルース氏は米国が仕掛ける対中経済戦争の始まりと云うのですが、そのルース氏の言を借りるとすれば、このBiden’s gambleには大きなリスクがあると云うのです。
一つは、当該規制は、new restrictions are not confined to the export of high-end US semiconductor chips、つまり米国製に限定されるものではなく,台湾、韓国、或いはオランダをベースとするnon Chinese high-end exporter に及ぶ処、中国はこの規制で、受ける打撃は「半導体」という言葉が意味する以上に計りしれないほど大きいと云うのです。今回の規制強化に踏み切った背景として、いかなる先端半導体も核兵器や極超音速ミサイルの開発を含む軍事用途に利用される可能性への懸念があってのことですが、中国側からすれば米国が中国共産党を永遠に抑え込もうとしているとも映る処、そのことは米国が中国の体制転換を狙っている事とほぼ同じことを意味するものと云うのです。 そして、もう一つ、バイデン氏が規制強化という強気の姿勢に出たことで、習近平氏が台湾統一計画を加速させるかもしれないというリスクです。そこで、安全保障問題が事の中心に入っていく事を挙げるのです。そして、中国も米国と同じレンズを通して互いのライバルを見定めながら変化していく事になるとも云うのです。
さて、禁輸対象の半導体は1980年代「産業のコメ」と呼ばれていました。それから連想される事はと云えば大量生産で安価な部品だったのですが、今日社会のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が進めば、さまざまな異なる仕事をする少量生産の専用チップが必要になることで、半導体の開発の仕方、作り方はがらりと変わる事になる点で、もはや半導体は「コメ」ではないのです。
かかる環境にあって日本では注目の次世代半導体の国産化プロジェクトがスタートする処です。これは 去る22年7月、ワシントンで初の日米経済版「2プラス2」が開かれた際、「次世代半導体」の量産について共同研究をスタートさせ、2025年に国内での量産体制を進めることで合意されたものでした。そこで、この際は半導体生産の行方について集中し、話を進めることとしたいと思います。
(2)次世代半導体の国産化Project
まず、コロナ危機でDigital transformation (DX)の加速化と、ウクライナ戦争でグリーン・トランスフォーメーション(GX)の必要性が急速に高まる処、これがいずれも半導体への需要を急増させる処です。今後、AI、量子コンピューテイング、バイオ、IoT,ポスト5Gが社会実装されるにつれ、半導体への需要は劇的に高まると見られています。というのも半導体は計算能力の素であり、国力と防衛力の素でもあるからです。それ故に、半導体は、米国と中国の熾烈な覇権争いの焦点となりつつある処、今次米国の対中輸出規制は中国のみならず世界規模での重要問題となる処です。
さて、11月11日、トヨタ、NTT、ソニーグループ等日本企業8社が共同出資し(三菱銀行の3億円出資以外は、各社10億円出資)半導体企業、「ラピタス」設立を発表しました。これは2020年代後半に向けて先進半導体製造技術の確立を目指すと云うもので、西村経産相は記者会見で、「半導体は経済安全保障上、極めて重要だ。日本のアカデミアと産業界が一体となって半導体関連産業の基盤強化につなげていきたい」と発言する処です。そして、政府はこれに700億円という巨額の支援をし、「ビヨンド2ナノ」と呼ぶ 次世代の演算用半導体の製造基盤を2020年代後半の確立を目指すとするのでした。(日経2022/11/11)
(注)「ナノ」は10億分の1メートル。「ビヨンド2ナノ」とは回路線中2ナノメートル
のロジック半導体の集積化技術。
これまでの国内における半導体生産の環境に照らす時、今次の「ラピタス」設立は日本経済にとって大きな転換点となる処です。目論見通りいけば、台湾や韓国そして米国に水をあけられた日本が、半導体の先頭集団の仲間入りする、そんな野心的な構想です。が、問題は何としても量産体制に向けたヒト、モノ、カネの確保です。経済安保の観点から欧米や中国は官民一体で半導体の強化を進めており、この際は、半導体「空白の10年」挽回への確かな行動をと、期待の集まる処、まさに日本の産官学の真価が問われる処とも云えそうです。
(注)世界中の企業が不足するデジタル人材確保の切り札として活用しだしているのが「越境テレワーカー」(EOR:Employer of Record)。因みに経産省は30年に日本で最大
79万人 のIT人材が不足すると予測する処です。
ここで海外主要企業の動向を抑えておきましょう。12/6日、半導体大手の台湾積体電路製造「TSMC」は米アリゾナ州(フェニックス)に最先端半導体の工場を新設すると発表しています。それによると「3ナノメートル品」と呼ぶ製品を生産し、米国での総投資額を従来計画比3倍超の400億ドル(約5超5000億円)に拡大する由です。TSMCは先端半導体の生産で世界シェア9割をしめ、これまで全量を台湾で生産してきていますが、今次の判断は台湾有事に備えた行動とされる処です。そして6日にはバイデン氏はフェニックの工場予定地を訪問。2024年に生産が始まる同工場を軸に、米国内で完結できるサプライ・ チェーンの構築を目指す処、中国の影響を排除し、有事に備えるとする処、更に12/23、 TSMCが欧州初となる工場をドイツに建設方向で最終調整に入ったことも報じられる処です。尚、12/8、インド・タタグループも自国内生産開始を発表する処です、
さて、半導体は経済安保上、最重要の製品ですが、国内では技術不足で先端品は作れない状況とされていました。要は微細な回路の形成等、日本にない技術を米欧との連携で補い、国内で量産できるようにするとしていましたが、去る12/13, 国産を目指すラピダスはIBMとの提携を発表、スーパーコンピュータなどに使う最先端製品の技術提供を受ける事としています。その記者会見では、社長の小池氏は「IBMの基礎技術を一日でも早く自分のものにし、量産技術を確立すると」と語る処です。(日経12/14)
それでも尚、指摘される問題は、デジタル技術者の不足です。この不足に如何に対応していくかが大きな課題です。12/19付け日経では若手研究者の声、産業に貢献できるAI半導体を彼らの手で作り上げたいと、最先端に挑む様子を伝えていましたが,そのためにも最先端に挑戦できる場がなければアカデミアも産業も人材が薄くなっていくとも指摘する処です。その点で何よりもデジタル教育の充実が不可欠と云え、多くの大学に国内外の専門家を集め、デジタル学部の増設や奨学金制度などで技術者の育成を図るべきとの声の上がる処です。 半導体生産の行方は、まさにこれからの日本経済の行方を規定する処です。
[Note] 半導体とは、そして日本の問題とは?
「次世代半導体の国産化プロジェクト」に関連し、一部読者から「半導体とはどういったもの?」との照会がありました。下記はとりあえず、これに応えるものです。
・半導体:そもそも物質には電気を通す「導体」と、通さない「絶縁体」がありますが、半導体はその中間の性質を備えた物質を指しますが、ここでいう半導体とは「一定の電気的性質を備えた物質」というもので、トランジスター、ダイオード等の素子単位(デイスクリート半導体部品)やトランジスター等で構成される「回路」を集積したIC(集積回路)を総称して云うものです。この半導体製造は、ウエハー(Wafer)という半導体集積回路の重要な材料で円形の板ですが、この上に回路形成を行うのですが、この回路形成までを「前工程」と云い、最終製品としてチップにするための機械加工する「後工程」とに区分されるのです。
つまり、半導体製造工程は以下の3工程
➀ 設計:回路、レイアウトを設計し、フォトマスクの作成(回路パターン転写の
為のフォトマス)
② 前工程:ウエハに電子回路を形成するまでの工程
③ 後工程:ウエハをチップ状に切り出し、パッケージングして検査を行う工程
・日本での問題:日本の場合、電子立国と呼ばれた時代、前工程と後工程の両サイドにはリーダー企業がありましたが、バブル崩壊、金融危機、更には円ドル為替問題が加わり、グローバル化を背景に「後工程」の多くは韓国を中心に海外に転出、日本企業は「前工程」を中心に稼げるモデルを作ってきましたが、現在では「前工程」に関しても海外が伸びてきたこともあり、それへの対応強化が問われていたのです。
おわりに:米中、深まる半導体対立
弊月例論考12月号でも報告したように、米国は対中輸出規制強化発動後、日本、オランダをはじめ同盟国に規制のへの追随を要請し、中国包囲網の構築を急ぐ処ですが、こうした一連の動きにも対抗するべく中国は12月12日、米国の先端半導体などを巡る対中輸出規制が不当としてWTOに提訴しました。かくして、米中貿易摩擦はWTOの枠組みにおいて長期化が見通される事態となってきました。
周知の通り、戦後世界経済はブレトンウッズ体制にあって、米国主導の自由貿易体制の構築を通じて成長、発展してきましたが、2009年、日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位となった中国の台頭は、以降の世界経済の生業に構造的変化をもたらす処、これが米国政府の自由貿易体制に対する思考様式に変化をもたらし、とりわけ12年、中国の習近平主席の登場は、改革開放政策を修正し、経済に対する国家管理・統制を強めてきた事で、米トランプ前政権はこれに対抗する形で関税の大幅な引き上げを行い、対中姿勢の強化を進める中、後継のバイデン政権も対中政策については同じ政策路線の踏襲を処、更に今次の対中輸出規制強化が加わったことで、まさに半導体対立が米中対立をさらに深化させる処です。
かくしてglobal contextの変化は、その結果として、これまで戦後社会の安定を支えてきた米主導の秩序も終わりをみる処、冒頭、「はじめに」でも触れたように、国際社会はロシアのウクライナ侵攻に大きく影響される形で、西側諸国陣営、強権統治国家の中ロの陣営、そしてそのいずれにも与しない中立パワー、の3つの勢力に区分され、進む処ですが、問題は、この3つの陣営を以って、如何に世界の秩序を安定させられるかと云う事です。その点、前出ジョコ氏の行動様式に倣う事多々と云え、西側陣営と中立パワーがグローバルな問題で協力できるかに係る処ではと思料するのです。
中国習近平主席、ロシアのプーチン大統領からは「国民」という言葉を聞くことはありません。国の安定・繁栄とは国民、民生の安寧があって始めて成り立つものと思料するのです。
さて2023年、新年が幸多からんことを祈念する処、締めに代えて皆さんに送ります。
Merry X‘mas and A Happy New Year !
(2022/12/24)