1. 世界の変容を演出する「点」と「線」
2.バイデン政権の対中輸出規制強化と新安保戦略
3. 習近平氏が目指す「中国式現代化」
4. 総括にかえて
(1)「アジア安保への関与」を目指す米政権
― 東アジアでの首脳会議3連荘を経て
(2)そして、日本の使命
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1.世界の変容を演出する「点」と「線」
Financial Times、Oct.20に掲載の同社、Edward Luce氏が寄せた記事は、10月7日、米バイデン政権が打ち出した半導体を中心とした対中輸出規制の強化(半導体輸出規制)策の重大さを語るものでした。当初、世界の関心が中国共産党大会に集まっていたこともあって、この対中規制問題への反応は鈍かったとされる処、その強化策は実に多岐にわたる、実質、米国による対中経済戦争の宣言だと、その影響の広がりを強くアピールするものでした。
10月7日の発表内容とは後述、スーパーコンピューター等、先端技術を巡り中国との取引を幅広く制限する措置で、半導体単体だけでなく、製造装置や設計ソフト、人材も対象に含めて許可制とするものです。商務省は企業の許可申請を原則拒否の方針の由で、規制対象の中国事業が事実上できなくなると云うものです。そして当該規制の動向は「台湾有事」を招来することになるとも指摘する処です。彼の10/20の論考のタイトルはContaining China is Biden’s explicit goal 、バイデン氏の目指すは「中国封じ込め」だと。
そこで今次論考は、上記ルース氏が指摘する問題点をフォローする形で考察する事とし,
ただこの際は、先の中国共産党大会で3選を得た習近平中国を「点」と見立てる一方、上記バイデン対中規制強化が放射的に関係諸国を巻き込んで進む「線」の広がりと見立て、今後の世界経済の在り姿をこの「点」と「線」の絡みと定義し、考察する事とします。
2.バイデン政権の対中輸出規制強化と新安保戦略
(1)バイデン政権の対中輸出規制強化
まず、10月7日発表のバイデン氏が目指すとされる「中国封じ込め」策は、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的措置とされるもので、米商務省は、世界的に有力な半導体製造装置メーカーであるKLA Corporation、ラム・リサーチ(Lam Research)、アプライド・マテリアルズ(AMAT)に対しては文書で輸出規制について通知され由で、一部の措置は即時適用なった由です。 10月8日付ロイターによれば、「これには米国の半導体製造装置を使って世界各地で製造された特定の半導体チップを中国が入手できないようにする措置が含まれている」由です。
そして、今回の一連の措置は、中国への技術移転に関する米国の政策において1990年代以降で最大の転換となる可能性があるとするのですが、実際適用措置となると、米国の技術を利用する米国内外の企業による中国の主要工場及び半導体設計業者への支援が強制的にうち切りとなり、中国の半導体製造業が立ち行かなくなる可能性があると云うものです。以ってルース氏は、米国が仕掛ける対中経済戦争の始まりと云うのですが、そのルース氏の言を借りるとすれば、このBiden’s gambleには二つの大きなリスクがあると云うのです。
一つは、当該規制は、new restrictions are not confined to the export of high-end US semiconductor chips、つまり米国製に限定されるものではなく,台湾、韓国、或いはオランダをベースとするnon Chinese high-end exporter に及ぶ処、中国はこの規制で、受ける打撃は「半導体」という言葉が意味する以上に計りしれないほど大きいと云うのです。今回の規制強化に踏み切った背景として、いかなる先端半導体も核兵器や極超音速ミサイルの開発を含む軍事用途に利用される可能性への懸念があってのことですが、中国側からすれば米国が中国共産党を永遠に抑え込もうとしているやに映る処、そのことは米国が中国の体制転換を狙っている事とほぼ同じことを意味するものと云うのです。
もう一つのリスクはバイデン氏が規制強化という強気の姿勢に出たことで、習近平氏が台湾統一計画を加速させるかもしれないというリスクです。そこで、安全保障問題が事の中心に入っていく事を挙げるのです。そして、中国も米国と同じレンズを通して互いのライバルを見定めながら変化していく事になるとも云うのです。
10 月28日付 日経社説は、バイデン政権の今次の措置は、かつてなく厳しいかつ広範な規制を敷くものとの認識を語り、「米国の技術を使う世界中の半導体関連企業の対中取引が対象になる事」に照らし、日本の半導体関連企業も、米中の技術デカップリングの進行を前提に経営戦略の再構築を急ぐ必要があると警鐘を鳴らす処です。 つまり、新規制は企業の利益機会を犠牲にしてでも、米国発技術の転用によって中国の軍事的脅威が増していくサイクルを断ち切ろうとするのが狙いだが、日本、韓国、台湾にも規制の抜け道を塞ぐための協力を求める見通しで、日韓台の半導体関連企業も自らへの規制の波及は避けられないと考えるべきと、するのでした。
実際、レモンド米商務長官は、米国が始めた先端半導体の対中輸出規制について、11月3日の米NBCのインタビューで、「日本とオランダが当該規制に追随するだろう」と具体的に国名を明らかにする処です。 当該矛先が日本とオランダに向かったのは、米の規制が及ばない半導体製造装置で両国が強みを持っているとされる為で、両国企業は米技術に頼らず造れる製品があると見られているためとされています。 そして、先端半導体の優劣は「極超音速ミサイル」や精密誘導兵器など、最新軍事装備品の開発競争に直結する問題とされる処、同レモンド氏は「我々は中国に先んじる必要がある。彼らの軍事的進歩に必要なこの技術を与えてはならない」と規制の意義を説く処です。(日経夕、11/5)
新規制が対象とするのは、核弾頭、ミサイル、自立運航兵器、監視用AIの開発に利用できる高性能半導体とその製造技術です。具体的には高度な人工知能(AI)システムやスパコンに使われる半導体と、微細度の高い半導体製造装置とその部品について、対中輸出を実質的に全面禁止するものです。モノやソフトだけでなくサービスにも網をかける処です。つまり、米政府が特定する中国企業向けの半導体受託製造サービス、中国内で稼働済みの先端製造装置のアフターサービスを原則禁止とし、以って中国の半導体産業育成を難しくするのが狙いという事です。並行してバイデン政権は米日韓台の4カ国・地域が半導体の技術・供給網の管理で協調する、一種の技術同盟の構築を呼びかける処、まさにルース氏が云う「中国封じ込め」に向け進む処です。
(2)バイデン政権の‘新安保戦略’
尚、上記事情を抱えたバイデン政権は10/7の輸出規制強化宣言をfollowする形で、10月12日、政権初となる「国家安全保障戦略」を発表しましたが、そこでは中国を「唯一の競争相手」と定義し、「中国に打ち勝ち、ロシアを抑制する」と強調。今後 米主導の国際秩序に挑む中国との競争を「決定づける10年」とこれからの10年の重要性を強調する処です。ロシアを「差し迫った脅威」としつつも、中国の対処を最優先に据える方針、つまり中国とロシアの位置づけを明確に区分する処、2021年3月に示した戦略の暫定版でうたっていた中ロとの対話に意欲的だった表現は消えています。その限りにおいて、バイデン政権の対中政策は、トランプ前政権の行動様式を踏襲するものとも云えそうです。
トランプ前政権では、その前政権のオバマ政権の対中政策を「弱腰」、「宥和的」と一刀両断、権威主義(米国第一主義)の立場から対中強硬路線へとカジを切り、「新冷戦」とも称される米中の覇権争いを鮮明とする処でした。そして、その際トランプ氏は、TPPなどの多国間枠組みや、同盟関係への不信から米中二国間による取引型外交を指向し、結果的に米中間で制裁関税の応酬がエスカレートする「貿易戦争」の様相を濃くするものでした。
かくしてバイデン政権も対中強硬路線を継承する処、今回は中国を「国際秩序をつくり替える意思と能力を持つ唯一の競争相手」と見なし、これからの10年が中国との競争を決定づけるとの認識を示す処です。 そして対中関係について、「対立」(人権、民主主義、安保など)、「競争」(貿易、知財、先端技術など)、「協力」(気候変動、感染症、核不拡散など)の3つの領域にわけ、各領域内で取引する「個別管理」の手法を以って対応せんとする処です。が、交渉の手法を巡って、中々かみ合わない状況が続く処です。いずれにせよ、ロシアを「差し迫った脅威」としつつも、中国の対処を最優先に据える方針を明確にしたと云うものです。
尚、バイデン政権はトランプ時代と異なり、同盟国との連携強化を重視し、同盟国を「最も重要な戦略的資産」と位置付けていますが、これこそはバイデン政権の特徴を表す処、米英豪による新たな安全保障の枠組み「AUKUS」や、米日豪印4カ国による「QUAD」、更には、新たな経済連携「IPEF」(後述)の新構想を打ち出している事、周知の処です。
・互恵関係実現に向かう中独関係
ただ、こうしたバイデン氏が主導する対中包囲体制に風穴を開けるような動きが現れています。具体的にはショルツ独首相の中国訪問です。主要7カ国の首脳の訪中は、コロナが世界で流行し始めた 2020年以降で初めてでしたが、今回のショルツ訪中は習近平氏が要請したものと伝えられています。(日経11/5)勿論、中国はドイツとの経済連携を足掛かりにG7の対中包囲網の突破口を探る戦略と云え、習氏は「中独は相互に尊重し、互いの核心的利益に配慮し、対話と連携を堅持すべき」と強調する処です。中国の習近平主席とドイツのショルツ首相の会談は、米欧がドイツの中国接近に懸念を深める中で、政治・経済両面で距離感を探り合う展開となったと報じられる処、ショルツ氏の訪中はわずか11時間に留め、宿泊しない日程を組んだのもその辺のバランスに苦慮した結果ともされるのですが、来年には「対中政策の基本指針」を取りまとめるとも報じられており、推移が注目される処です。
―― さて、バイデン氏による中国向け半導体の輸出規制は、前述基本的なリスクを抱えながらも、物理的には進むことにはなるのでしょうし、そのプロセスにあっては、バイデン政権がこれまで支持してきた自由貿易への姿勢の後退を齎し、代わって安全保障優先へと、新しい段階へ進む事と思料するのです。一方、中国のこれからは、習近平主席が目指す「中国式現代化」に向かうとする処です。では「中国式」とはどういったことか。そこで習氏の共産党大会での党活動報告、その後に語った内容とも併せ、今一度、レビューする事とします。
3.習近平氏が目指す「中国式現代化」
(1)習総書記の報告に見る政策姿勢の変化
10月の共産党大会で、習総書記が行った党活動報告で指摘される変化は、何としても「改革」や「市場」への言及が急減したことでした。一方、使用頻度の増加が目立ったのは、共産党主導の独自の発展モデルトを指す「現代化」そして、「安全保障」がこれに続くものでした。この用語の語数の変化は、共産党の統治におけるこれら用語の持つ意味の重要性が増してきた事と云え、「国家の安全保障と社会の安定がより重要になった」と読む処です。(日経,10月 21日)
つまり、1970年代末に始動した改革開放は西側に向けての開放であり、西側を近代化のモデルとするものでした。しかし、これからについては「社会と経済に対する党の統制強化が改革の目的」となる処、西側の資本や先端技術に向けたドアが閉ざされることはないとしても、解放はあくまでも「一帯一路」や「グローバル発展イニシアチブ」、「グローバル安全保障イニシアチブ」といった習氏が提唱する枠組みを中心に進められるものと見るのです。
そして、改革開放と表裏一体とされてきた経済成長第一という国策は改められていくことになるものと思料するのです。というのも習氏の報告では、「安全」を何度も連呼しており、政策の優先度が経済から政治にシフトしたのは明らかです。 そして、一党支配の合法性の根拠が「経済成長とそれに伴う生活水準の上昇」から、「共産党、中でも習総書記がいるから ‘安全と安定’ が保たれる」との方向に変わったことが指摘される処です。
(2)「中国式」が意味する事
言い換えれば、かつてのような高成長が望めなくなってきたことで、政策の優先度のシフトがより重要な意味を持つようになってきたという事、そしてそれはliberalな`個人‘の否定に繋がる処と思料するのです。因みに、中国では今、立法改正の手続き中ですが、11月8日付日経紙は「改革開放も堅持する」との記述を削除し、習近平氏の政治思想を順守するように明記する、とも伝える処です。前出ルース氏は、バイデン氏の対中輸出の規制強化は台湾有事を招くとしていましたが、「中国式現代化」は中華民族の復興を目的とするものとすれば、その文脈において台湾の統一は当然の帰結となるのでしょうか。ただ銘記すべきは、習氏は「マルクス主義の中国化、現代化を推進し新時代の中国の特色ある社会主義の新しい章を書き続ける」と主張していますが、まさにこの点こそが米主導の世界秩序とは相いれない処、この先続く対立を示唆する処です。
こうした「中国式現代化」を指向する習中国にどう対応していくべきか? もっとも、これと云った答えの用意はありません。が、とにかく為政者が対面で会うこと、そして忌憚なく意見をぶつけ合う、そうしたプロセスの中で、合理的な交点を見出すことの他ないのではと思料するのです。その為にも、異なる価値観が異なる合理性判断を形成するという事実にも目を向けていく必要があるのではと思う処です。
4. 総括にかえて
1.「アジア安保への関与」を目指す米政権
― 東アジアでの首脳会議3連荘を経て
‘点と線‘の絡み合う合理的な機会が、この11月、アジアでは満載でした。まず、11月11日からは「ASEAN プラス3(日米韓)首脳会議」がカンボジアで、続いて、15日にはインドネシアのバリ島でG20首脳会議(15~16)が、そして18日にはタイ・バンコックでAPEC首脳会議(18~19)が行われ、これらの機会を捉え、各国個別首脳会談が持たれました。
これら首脳会議や対面個別会談の全てについて考察する事は、この紙面を以ってしては困難と云え、そこでこの際はバリ島でのG20を機会に14日、行われた米中首脳会談にフォーカスしつつ、バイデン米政権の対アジア政策の変化について、レビューする事とします。
(1)米中首脳会談
米中首脳会談は、バイデン政権発足後初となるものでしたが、先に触れた通り、米国は中国を「唯一の競争相手」と見なし、先端半導体の輸出規制にも踏み切る一方、国家安全保障戦略では中ロに向けて「この10年間が決定的に重要だ」と訴えていた点で、どこまで掘り下げた話がなるものか、懸念のある処でした。
・米中間の問題の核心は「台湾問題」
メデイアによれば、両首脳は気候変動、世界経済の安定、衛生、食料分野で高官対話維持と取り組みの深化で合意し、その合意事項の進捗について、ブリンケン米国務長官が中国を訪問し確認する事でも確認されたのでした。 ただ今次の最大のテーマは云うまでもなく台湾問題でした。この8月ペロシ米下院議長が訪台したことに、中国側が猛反発し、台湾周辺で大規模軍事演習に踏み切り、緊迫状態が続いていることは周知の処です。
その台湾問題について、14日の会談ではバイデン氏は、「台湾海峡の一方的な現状変更」や「威圧的、攻撃的になっている中国の行動」への反対姿勢を表明、一方習氏は「台湾問題は中国の核心であり、超えてはならない一線」と強調、と両者の応酬があった由、報じられる処です。(日経、11/15) が、ゼロコロナ政策の影響で、中国国内経済は今、急速な減速にあって、米国とこれ以上の関係悪化は望ましくないとするのが本音とみられ、上記協議の進捗を確認するなどは、まさに対中圧力の緩和狙いとみられる処です。
それでも両者が直接対面し、そして意見を交わした事,その事自体こそ十分な意義のあった事と思料するのです。因みに、G20で議長を務めたインドネシアのジョコ大統領は、17日、当該会議を振り返り、各国が衝突を避けるため「首脳同士の直接対話が重要だ」、「直接会ってみて初めて分かることもある」とインタビューで語っていましたが、筆者も予ねて指摘する処、そのためにも外交力の強化をと、云う処です。
尚この際留意すべきは、G20でのG7首脳の存在感の乏しさでした。それは欧州では3首脳の交代があり、日米は支持率低迷が続く事情を映す結果でしょうが、これが例えばGDPで見ると、G20内のG7の比率は08年の5割から足元では4割に落ち込んでいて、その比率は今後も下がる可能性が高いという事です。そして2023年のG7の議長国は日本です。
(2)バイデン政権が進める「アジア安保への関与」
さて、バイデン政権は上記の通り、今後10年を決定的に重要な期間と位置づけており、今次トップ会談を突破口に不測の事態を生まぬよう対話継続の道を探ったとされる処でした。
具体的には、日米、米韓の二国間の首脳会談が連続して開催、最後に岸田首相と韓国のイ大統領とのトップ会談(11月13日)が行われたわけですが、その纏めとして、米国を起点として3カ国の安保上の結びつきを描く三角形の構図を際立たせたことでした。つまり中国と対峙していく上で、当該3カ国の連携が不可欠との認識があって、日韓の関係改善にも米国がひと肌脱いだとされる処です。
尚11月17日、バンコックでは3年ぶり日中首脳会談が持たれましたが、会談後、岸田首相は習氏と「安保分野での意思疎通の強化で一致した」とし、「ホットライン」の早期開設を申し合わせたとも語る処です。そして中国側からは「サプライチェーンの安定での協力強化」を求めたという由ですが、要は, 脱中国依存の動きに警戒感を示したものと映る処です。
ただ、本稿執筆中、手にしたThe Economist, Nov. 12はそのコラム、` Who wins from the unravelling of Sino-America trade? (米中貿易摩擦で得するのはだれか?) で、「今後、地政学的諸問題の影響が積み重なるにつれ、アジアのサプライチェーンの価値は中国以外の国、地域にこれまで以上に集中していく事になりそうだ」と、各種貿易指標を手掛かりに分析、指摘するのでしたが、上述G”20におけるG7の比率の低下とも併せ、地政学的構造変化が動き出しているものと、気になる指摘です。
かくして、米国は今次、東アジアを舞台とした一連の外交機会を利用し、アジアの安全保障への関与強化に動いたと云うもので、バイデン氏は日米韓の異例の連続首脳会談を演出した上で、習近平氏との直接会談に臨んだと云うものでした。もとより、今次の米中間選挙では議会上院の多数派を保ったことを追い風として、同盟国の連携をテコに中国抑止を目指す処と思料するのです。以って米国のアジ安保への関与(Engagement)が新たに進む様相です。2000年まで続いた米国の対中関与政策、今一度となる処でしょうか。
繰り返しになりますが、バイデン安保戦略では、中国とロシアを念頭に「米国は2030年代までに初めて2つの核大国を抑止する必要がある」と指摘し、米国も核戦力の近代化を推進すると唱える処です。そして日本や韓国等の同盟国に対する拡大抑止を強化すると明記し、加えて、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮については「拡大抑止を強化しつつ、朝鮮半島の完全な非核化に向けて具体的な進展に向けた‘外交’を模索する」と明記する処です。
・日米関係の強化
序で乍ら、米国の同盟国、日本に求められることは何か? 云うまでもなく同盟関係の強化です。その点では、この先10年、バイデン氏の云う友好国との連携を強化し、東アジアにおける安保体制の確立強化に向け、日本がひと肌脱いでいく事と思料するのです。
具体的には台頭する中国を念頭に、米国は周知の通り、インド太平洋地域に関与を強める意向にあります。当該地域はアジアを含むインド太平洋地域は経済的な成長も期待される処ですし、大いに関与を強めたいとする地域です。バイデン政権としては安定した政権運営を実現せんと新たな経済連携の枠組みとして昨年10月、東アジア首脳会議で、IPEF(Indo-Pacific Economic Framework)(注)を打ち上げ、今次18日バンコックでのAPEC首脳会議でも、バイデン氏に代わって出席したハリス副大統領が「米国はインド太平洋地域に永続的な関与を果たしてきている」と強調し、IPEFにも言及するところでした。
(注)IPEFは以下4つを柱とし、中国への対抗を念頭に経済連携を目指すもの。
➀ デジタル経済を含む貿易(関税引き下げは除く)、➁ 半導体等の供給網=サプ
ライチェーンの強化、 ③ 質の高いインフラや脱炭素、クリーンエネルギー, ④
公正な経済を促進するための税・汚職対策
日本政府はこの4つの柱、すべてに参加方針ですが、ただ、この4つの枠組みで経済連携を目指すとしては、大きな効果は期待し得ないも、それでもアジアを含むインド太平洋地域で同盟国米国が参加することは日本にとっては大きな強みと見る由です。そして、バイデン政権の中国向け輸出規制の強化は対中国ということですが、結局はglobalな自由貿易を委縮させ、世界経済のshrinkに繋がることになりかねません。つまり、そうした事態とならないよう、まさに友好国との連携の強化を通じて、アジアの日本としての強い立場、強い役割を示していく事と思料するのです。 既にバイデン政権も指摘している国際連携の枠組みに日本も積極的役割を果たしていく事ですが、そのために必要なことは前述、外交力の強化であり、その為のシナリオを整備し、実践していく事と思料するのです。
処で世界が注目した米中間選挙は、先にも触れたように選挙前の予想に反し、上院では民主党が現勢力を維持、一方、下院は野党共和党の勝利でしたが、その勝利が、僅差に留まったことに、同じ共和党内からはトランプ氏の出張りすぎ、身勝手な言動に負うものと批判が集まりだす処です。今次中間選挙についても再び「不正があった」と、根拠に乏しい主張を繰り返す処です。以って有権者をアジる姿勢は民主主義の基盤である選挙制度の正当性を損なうほかなく、今次中間選挙は民主主義の先行きに影を落とす処と云えそうです。それでも11月15日、トランプ氏は2024年の大統領選に立候補すると宣言する次第ですが、さて彼のrudeな言質に米国民は何処までフォローできるものか、同時にこの際は、民主主義を守るためには日欧等、米国の同盟国は緊密に連携し、政権を支えていくべきではと思うのです。
2.そして、日本経済の可能性
(1)日本経済の現状
こうした国際事情にあって、日本経済の課題は何としても、失われた20年、或いは30年とされる長期停滞からの脱出です。日本経済の現状はと云えば周知の処、円安が続く中、物価の上昇は止むこともなく消費者の不満は募るばかり、一方、旧統一教会問題に終始する政治があって、内閣を構成する大臣の舌禍事件が続くなど、岸田内閣のdisciplineは何処にと問われる状況が続き、岸田内閣の支持率は最低を託つ処、彼が首相として登壇した際、掲げた「新しい資本主義」追求の姿はいつしか消え失せ、結局、‘黄金の3年’ を活かすことの無いままに幕を下ろすことになるのではと愚考するばかりです。
・岸田政権の‘22年度総合経済対策
さて、内閣府が11月15日発表した7~9月期の実質GDP(速報値)は、前期比で0.3%減、年率換算で1.2%減、このマイナス成長は4四半期ぶりとなるもので、要は個人消費や設備投資等 内需の伸びの鈍さが底流にあるとされる処です。
係る現状への対応として、岸田政権は10月28日、臨時閣議で物価高への対処等を盛り込んだ総合経済対策を決定、以って日本経済の再生に向かうと云うようですが・・・。
当該対策のポイントは、① 経済浮揚策としての事業規模は71.6兆円、それを支える財政支出は39兆円。➁ 財源の裏付けとなる2022年度第2次補正予算案の一般会計では29.1兆円と、経済対策8割が借金政府の大盤振る舞いが続く様相です。何かお金を出せば事は終りとも映るのです。 云うまでもなく、政府の大盤振る舞いの背景には、政府の発行する国債を大量購入する日銀の金融政策があってのことですが、2年限定で始めた金融緩和は既に10年目に入り、28日にはその継続を決めています。が、これが財源なき財政出動と評され、英国トラス前政権の二の舞いかと揶揄される処です。 周知の通り、トラス前政権は財源の裏付けのない約450億ポンド(約7.6兆円)の大規模減税を柱とした経済対策を9月に打ち出し、その財源として国債発行の意向を示したものの、財政悪化などを懸念した市場は債権・通貨・株の「トリプル安」で厳しく反応され、トラス前首相は就任から44日で辞任に追い込まれています。
先進国で唯一、低金利から抜け出せず、見せかけの対策規模への固執がつづく日本の現状について、その基本問題とそれへの対抗策につき、 慶大教授の小林慶一郎氏は10月12日付日経で対処療法からの脱却をと、長期停滞の原因として、少子高齢化、不良債権処理の後遺症、低金利の副作用、人的資本の劣化の4点を挙げ、少子高齢化以外は今後の経済政策で対応できる課題と断じる処、「今後10年」どう生き抜いていくか、への視座を与える処です。
(2)日本経済の競争力への期待
そうした不安克服へのprojectの話が舞い込んできました。次世代半導体の国産化プロジェクトです。 11月11日の記者発表によると、トヨタ、NTT、ソニーグループ等日本企業8社が共同出資して新会社「ラピタス」を設立し、2020年代後半に向けて製造技術の確立を目指すと云うもので、西村経産大臣は同記者会見で「半導体は経済安全保障上、極めて重要だ。日本のアカデミアと産業界が一体となって半導体関連産業の基盤強化につなげていきたい」と発言。政府はこれに700億円を助成し、「ビヨンド2ナノ」と呼ぶ 次世代の演算用半導体の製造基盤を2020年代後半の確立を目指すとする処です。(日経2022/11/11)
目論見通りいけば、台湾や韓国そして米国に水をあけられた日本が、半導体の先頭集団の仲間入りする、そんな野心的な構想です。が、問題は何としても量産体制に向けたヒト、モノ、カネの確保です。経済安保の観点から欧米や中国は官民一体で半導体の強化を進めており、この際は、半導体「空白の10年」挽回への確かな行動をと、期待される処です。
― 上述、内外の事情にあって、改めて日本に問われる事は、日本として米国と協調しつつ、西側諸国連合をどう強化していくか、自らを守る能力をいつまでにどれだけ強化するか、そして、国としてこの状況にどう備えるか、の議論を加速させることではと、深く思う処です。が、ここで留意すべきは、今次一連の首脳会議が、カンボジア、インドネシア、タイで、更にCOP27がエジプトで、そしてFIFA World Cupがカタールでと、偶然ながらこれら全てがアジア、中東で開かれた事ですが、まさに世界の主役はGlobal Southへシフトしつつあることを実感させられる処です。(2022/11/24)、