はじめに アメリカはDisunited States ?
(1)アメリカと云う合衆国の‘かたち’
(2) 脱炭素社会を目指すバイデン米国
第1章 動き出した米国の「脱CO2」と、日本企業
1. 米カリフォルニア州が目指す「脱ガソリン車」
2.日本車メーカーのEV戦略
(1) 米マスキー法 (米環境規制)と「ホンダ」の対応
・EV開発のポイント ー 異業種との連携
(2) 日本車メーカーに見る EV戦略の検証
・ホンダのEV戦略 ・トヨタ他の戦略
第2章 米国政治を覆う強い懸念
1.米共和党予備選とリズ・チェイニー氏の敗退
2. The Economist , Aug.20, 巻頭論考のテーマは ‘Leased’
・中間選挙を巡る新事情 ・訴訟で高まる出馬意欲
・トランプ氏を止める
おわりに ゴルビーも信奉した民主主義
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はじめに アメリカ はDisunited States ?
(1)アメリカという合衆国の ‘かたち’
8月25日、米国の2週で、まさに民主主義に絡む規制法案の導入が決定されました。一つは、カリフォルニア州で、ガソリン駆動の自動車、新車の販売を、2035年以降、全面禁止とするガソリン車規制法案の導入で、カリフォルニア州の新たなゼロミッション車(ZEV)推進を目指すものです。(日経2022/8/25) 元々、同州は環境問題への取り組みには熱心な州とされ、同州ニュウーサム知事の下、2年前から取り組んできた事案です。 もう一つはテキサス州で、目下米国の世論を2分させている人工中絶に関わる一連の行為の禁止を定めた法律の成立です。これを犯した者は99年の刑務所入りとの由。
この2つは事案として直接の関係はありません。が、この二つの動きは重要なトレンドの兆候を示しているとされるのです。と云うのもワシントンDCの動きは鈍いが、州ベースでは政策行動は極めて活発で、国民は住みたいところに住み、こうしたことを担保するのが各州の規定ですが、問題は、各州議会で多数派の政党が自分たちに有利になるよう恣意的な線引きを主導する「ゲリマンダー:gerrymander」と称する「区割り」を巡って、民主、共和の対立があって、これが州の利害に絡む ‘national culture war´(注)に向かっている点で、その姿はUnited States ではなくDisunited States of Americaともされるのですが、今次の2州同時の立法行為は、こうした事態を象徴するもので、まさに中間選挙を控えて、こうした状態を避けるためには、「区割り」は州議会主導ですが、できる限り独立機関に委ねるべきで、各州とも、選挙制度の改革を進め、州の競争力強化を目指せと指摘される処です。そしてbiggest worryはかくなるパルチザン行為は「アメリカン民主主義」を危うくしかねないと、「The Economist,Sept.3」は指摘するのです。
(注)1991年、ジェームズ・デビッド・ハンターが著した「Culture wars::
Struggle to define America 」、「文化戦争:アメリカを定義するための戦争」で、
妊娠中絶、銃規制、移民等の問題点を巡りアメリカ合衆国の政治と文化が分裂し、
再編され、劇的に変容していると論じたことに始まる。要は、伝統主義・保守主
義者と、進歩主義・自由主義者間の価値観の衝突
全米ベースでは米中間選挙を前にして、「米国を再び偉大な国に(MAGA)」のスローガンを掲げるトランプ氏が誘導するpopulismが今、共和党をMAGA共和党と呼ぶほどに、世論の右傾化を促す状況があって、上記national culture warともされる文脈とも相まって、民主主義の如何が強く問われる様相です。序で乍ら同様の動きが、欧州でも高まってきていること、極めて気になる処です。(後出「おわりに」の項)
(2)脱炭素社会を目指すバイデン米国
勿論、気候変動問題への取り組みについては、カリフォルニア州のEV政策公表前の8月16日、米連邦議会で成立した新しい「歳出・歳入法」を以って、バイデン政権は、脱炭素社会を目指す方針を明らかにしています。[弊論考N0.125 (2022/9月号)]
その内容は周知の通りで、財政支出の柱をエネルギー安全保障と気候変動対策に置き、今後10年間の歳出規模は約4500億ドル(約58兆円)、この内、歳出の大半を「再生エネルギー」に向けられた事で、米国として気候変動問題に積極的に取り組む姿勢を鮮明とする一方、歳入面では納税額が利益の15%を下回る大企業に対する課税強化や, 徴税当局の機能強化を柱とするものです。そして、政府と与党民主党は、当該内容は物価を押し下げる効果ありと主張し、今次法案を [The Inflation Reduction Act (IRA)]と呼称する処です。
The Economist, Aug.13は、America’s green -plus spending bill is flawed but essential 、つまり環境対応として欠陥はあるものの、本質的に重要法案であり、Climate policy, at lastと、米国も本気で環境問題に向き合い出したと、エールを送る処です。
米中間選挙を前にバイデン政権は、とかくの評判を甘受する処でしたが、今次「歳出・歳入法」(IRA)の成立を以って、米国としての進む方向を明示し得たことで、その対応はバイデン政権への追い風と評される状況の生まれる処です。 が、追い風を真に追い風としていくにはまだまだ不確実な要素もあり、その払拭が不可避とされる処です。 因みに、米議会ではこの秋の会期で、積み残された法案、とりわけ「中国対抗法案」の再検討が予定されている由ですが、さて、バイデン氏がどこまで主導権を発揮するか、この8月、ペロシ議長が台湾を訪問したことで米中の緊張が高まり、バイデン大統領の判断に時間が掛かっていると伝えられる処、対中政策への真剣度が問われる処です。
日経、8/24コラム「中外時評」では同社、上級論説委員の菅野幹雄氏は、米世論調査の専門家、ジョン・ゾグビー氏が指摘する中間選挙の争点をリフアーし、インフレ対策や教育、人種等の問題を挙げながらも、「最重要の問題は民主主義の将来、法の支配、そして選挙の敗北を認めること」とするのですが、これがトランプ氏の、なりふり構わぬ横暴さを念頭に置いた指摘であること、言うまでもない処です。 予備選が終った今、下院は共和党が多数派を奪還する勢いを維持する一方、上院は民主の巻き返しで接戦の模様ですが、共和党候補の内、3割超がトランプ氏の推薦候補の由(日経、9/15)、気がかりとする処です。
さてかかる環境にあって、今次論考ではバイデン米国が目指す「脱炭素社会」への移行を念頭に、第1章ではサンフランシスコ州の「脱ガソリン車」政策に即した企業、とりわけ日本企業に絞り当該対応行動をフォローする事とします。更にThe Economist, Aug.20の巻頭論考は、上記 ゾグビー氏コメントに共振する如くに、2年後の米大統領選候補を見据えたトランプ氏の行動様式の実状を伝える処、第2章では、これが民主主義の根幹を揺るがす状況を映す処として、当該レポートのレビューを行います。
第1章 動き出した米国の「脱CO2」と、日本企業
1.米カリフォルニア州が目指す「脱ガソリン車」
8月25日、米カリフォルニア州政府は、2035年にガソリンのみで駆動する新車の販売を全面禁止する新たな規制案導入を発表しました。それは2026~35年にかけて段階的に電気自動車(EV)の販売比率を高めるよう各自動車メーカーに義務付けるとするものです。州内の新車販売の10%強を占めるハイブリット車(HV)も35年以降は販売禁止とする由で、後述するように、HVを得意とする日本車メーカーは戦略変更を迫られることになると云うものです。カリフォルニア州は、人口約40百万の大市場で、日本にとって重要な市場であることは云うまでもありません。
そもそもカリフォルニア州は、米国の環境規制をリードする州とされ、同州知事のニューサム氏は2020年9月, ガソリン車の新車販売を35年までに全面禁止する旨を表明していましたが、今次の決定はその方針に即し、同州大気資源局(CARB)が2年かけて規制案を検討してきた結果で、当該規制案については8月25日に2回目の公聴会を開き、州民の意見を集約し、同日会合で可決した由で、その内容は、各自動車メーカーに州内の販売台数の一定割合を環境負荷の少ないゼロミッション車(ZEV)とするよう義務付けるものです。
カリフォルニア州は連邦政府に先駆けて車の排ガス規制を導入した歴史的経緯から、独自の環境規制を定めることが認められており、他の週がカリフォルニア州の規制に倣う事も許されており、因みにニューヨーク州でも、上記2020年のカリフォリニア州法に基づき、2035年までに州内で販売するガソリン車の全廃を決定しています。かくして州の主導による自動車の脱炭素化の流れが加速する様相ですが、EVを巡っては、EUも同様の方針を打ち出す処、中国もEVシフトを推進中と仄聞され、もはや「脱ガソリン車」は世界的潮流と云え、新たな産業革新をも示唆する処です。 そして、かかる環境対応は、周知のロシアからのエネルギー供給の不足に端を発したインフレへの対抗ともなる処、前出「歳出・歳入法」をIRA(Inflation Reduction Act) とする事情です。
9月14日、バイデン米大統領は「北米国際自動車ショー」で「米国の偉大な道は、完全に電動化される」と演説し、気候変動対策中心と位置付けるEVの普及徹底の意向を表明する処です。(日経、9/16) 尚、9月2日付日経は米石油・ガス大手のオキシデンタル・ペトロリアムなどの「空気中のCO2を回収する技術(DAC)」の導入拡大状況について報じていましたが、脱炭素社会に向けたシナリオの更なる可能性を示唆する処です。
2.日本車メーカーのEV戦略
(1)米マスキー法(米環境規制法)と「ホンダ」の対応
上述、米カリフォルニア州が2035年にはガソリン車の販売を禁止する決定を下した事で、自動車生産はEVを中心とする「ゼロエミシヨン車」に移行することになるのですが、ハイブリット車(HV)に強いトヨタ等、日本車メーカーは、カリフォルニア州や、NY州では,
35年にはガソリン車の販売禁止という規制の「壁」に直面する事になるのです。そうした環境問題への対応という点で、想起されるのが「ホンダ」の取り組みです。
周知の通り米国には1970年に改正された酸性雨、オゾン層保護など都市大気防止のための厳しい法律(米大気浄化法:マスキ―法)があり、当初は達成不可能とされていました。しかし、72年、「本田」がマスキー法の基準をクリアーするエンジン「CVCC」の開発を発表、以って本田はバイクの本田からクルマ世界の「ホンダ」としてその地位を築いたとされる処です。日本車のアメリカ進出を後押ししたのは最初から環境技術だとされる所以です。
・EV開発のポイント ー 異業種提携
日本車メーカーは既に、EVの開発は進めてきており、技術の点では決して海外勢に劣るものではないと認識される処ですが、電気とモーターで動く車をつくるだけでは現在の競争力を保つことはできません。日経社説(8/27)でも指摘あるように「走る、曲がる、止まる」と云った基本性能の同質化が進むとされるのがEVです。そこで、EV車については、技術もさることながら、どのような価値を消費者に提示していくことかできるか、より創造的なものとしていけるか、が問われていく事と思料されるのです。 つまり、総論として、自動運転やサービス、エンターテイメント等ソフトの領域も含めたクルマづくりの総合力が問われると云うものでしょうし、その点ではIT企業などとの連携は不可欠となる処、異業種との提携が戦略のカギとなる処です。
20世紀の初め、米フォード社が、生産方式として、ベルトコンベア方式を導入、大量生産を可能とし、結果、米工業界全体のレベルを引き上げたように、EVの推進は、そうした産業の連鎖効果が期待でき、まさにEVが齎す産業革命が期待されると云うものです。以下は日本企業、「ホンダ」と「トヨタ」のEV戦略の検証です。
(2)日本車メーカーに見るEV戦略検証
・「ホンダ」のEV戦略
今年3月、ホンダは、ソニーとEV事業で提携する事を発表しました。共同で開発するEVを、25年を目途に発売する計画とするもので、まさに異業種との提携でEV事業に向かうというものです。 車の世界では2003年設立のテスラがEV市場を切り開き、時価総額は
トヨタなど日本車7社合計の3倍近いとされていますが、21年4月1日、社長に就任した三部氏は「このままでは日本もホンダもダメになる」(三部ホンダ社長)との危機感を披露していましたが、ソニーとの提携はその延長にある処です。序で乍ら、ホンダは、今年8月13日、2040年代半ばに二輪車を廃止し、新車をEVバイクに替えていくとしています。(日経2022/9/14)
尚、 8月29日には、同社は2022年中に韓国電池大手のLGエネルギーソリュウションと米国で電気自動車(EV)向け電池工場を新設する旨を発表しました。当該JVの概容は、投資総額は44億ドル(約6100億円)、出資比率はホンダが49%、LGエネが51%。リチウムイオン電池を製造し年間生産能力は最大で40キロワット時。標準的なEVで70万~ 80万台分に相当する由。2023年着工で25年の生産開始を目指すとし、全量をホンダの北米工場向けに出荷の計画の由。立地はオハイオ州を最有力として検討中と。更に先を見据え、30億円を投じて2024年春に全個体電池の実証ラインを稼働させるとしています。
・「トヨタ」、そして他企業のケース
8月31日、トヨタは日本国内の工場に4000億円を投じ、米国で建設予定の電池工場にも3250億円、追加投資し、日米で計7300億円を投じ、電池の増産を図るとし、2024~26年の生産開始を目指すと、する処です。今回の発表では日米合計で最大40ギガ・ワット時分の生産能力を積み増しとなるもので、当該電池は、トヨタが販売をはじめたEV「bZ4X」で換算すると60万台弱に相当する由です。
この他、スズキは乗用車シェアー首位のインドでトヨタと共同開発し、EVを2025年までに発売する予定とし、要はスズキとしては、資本業務提携するトヨタと共同開発するEV専用の小型車台を使い、インドに新車種を投入予定で、多目的スポーツ車などの品揃えが
伝えられる処です。 地場のタタ自動車はEVの増産に向け、米フォードの現地工場の取得を決めていますが、人口が世界最多となる見通しのインドは30年には、EV市場が20兆円規模に膨らむとの予想もあり、世界大手や地場を交えた競争が過熱する様相です。
尚、軽のEV車については、日産、三菱が先駆者と云われていますが、苦節十年余り、この5月の発表から3か月余りで、日産の「サクラ」が約2万5千台、三菱の「eKクロスEV」が約6100台と快走中の由です。(朝日オンライン版、9/4)
序で乍ら、自動車のみならず今、日本では鉄鋼や化学等素材産業で脱炭素に向けた移行技術への投資が本格化してきています。因みに、国内鉄鋼2位のJFEスチールは9月1日、岡山県の高炉1基を電路に転換する方針を発表2030年度までの脱炭素投資は1兆円規模を見込む処です。更には、日鉄とJFEが脱炭素のぃ利札とされる製鉄法「水素製鉄」の実用化で連携すると報じられており、脱炭素時代の生き残りへ競合同士が協調する動きが広がり始めたと報じられる処です。(日経2022/9/13) 要は脱炭素化の取り組みが成長に欠かせなくなってきたという事で、新たな形での企業の競争、更には、産業の構造変化が想定される処です。勿論、脱炭素社会の実現にはクリーンエネルギーを使った発電を増やすだけでなく、上記製鉄等CO2を多く出す産業の排出抑制がどうしても必要ですし、多額の資金も必要で、その点、地域、企業、個人のお金を脱炭素社会への移行に回す仕組みの整備も必要です。
尚、大きな問題としてあるのが、気候変動対策が生む ‘ひずみ(歪み)’への取り組みです。
つまり再生可能エネルギーやEVへのシフトが続くとなれば、アルミや銅、リチウムなど非鉄資源への需要が高まり、2030年には供給不足が解消できないとの分析も伝わる処、その結果として、インフレ圧力が強まることで、脱炭素という理想の堅持が難しくなるのではとの懸念です。一言で言って「グリーンのインフレ」問題ですが、これを解消し、世界の安定を保ちつつ脱炭素社会に到着していけるか、まさに大きな課題の残る処です。が、この点は、11月エジプトで開催予定のCOP27での議論を待つ処かと、思料するのです。
第2章 米国政治を覆う強い懸念
1. 米共和党予備選とリズ・チェイニー氏の敗退
上記、米国市場に映る企業の‘革新行動’とは裏腹に、現下の米政治事情は極めて忌々しき状況にある処です。先月論考では「ロー対ウエード裁判」を巡って、国の分断化が進む事情を報告しましたが、11月の中間選挙、更には2年後の大統領選を巡って、米政治の在り姿が、いかにも変質する様相です。とりわけ共和党の予備選では、保守同士の色合いの違いを巡る争いではなく、どの候補が、トランプ氏のスローガン、「米国を再び偉大な国に(MAGA)」に最も近いかを、比べる競争の様相を呈する様相です。
8月16日、米ワイオミング州で実施された11月の中間選挙に向けた共和党の下院議員候補予備選で現職のリズ・チェイニー議員が、トランプ氏の支持を得た候補に大敗しました。その背景は、彼女は共和党員ながらトランプ弾劾裁判に賛成の一票を投じたこととされています。つまり、これはトランプ氏による復讐とされ、一人の勇敢で筋の通った保守派議員が力を失ったという事で、大きな意味を持つ出来事でした。ワイオミング州と同様の傾向が全米のあちこちらで見始めていると懸念を呼ぶ処です。一体、民主主義とはどうなったのか、
選挙とはどういったことかと、再び基本的な問題を呈する処です。
2.The Economist, Aug.20の巻頭論考のテーマは `Leased‘
かかるトランプ氏の横暴さをThe Economist、Aug.20 は、巻頭論考「Leashed」(トランプという革ひもに繋がれた共和党)で、現下の共和党とトランプ氏の関係を、副題とした「Donald Trump’s grip on the Republican Party is tightening」が語るように、今や共和党はトランプ氏の思いのままの状況にあって、トランプ氏が前回の大統領選の屈辱を晴らすべく2024年の大統領選に再出馬するのではと、米国はもとより、西側諸国でも危惧を募らせる処と当該環境の推移を伝える処です。聊か長くなりますが以下は、その概要です。
「 ・中間選挙を巡る新事情
まず、米中間選挙に向けた共和党の予備選挙を見る限り、24年の共和党大統領候補はトランプに決まりそうだと、懸念するのです。その背景として挙げるのが、上記8月16日、米ワイオミング州で起こった、11月の中間選挙に向けた共和党の下院議員候補予備選現職のリズ・チェイニー議員がトランプの支持を得た候補に大敗した事情を挙げる処、要は、ワイオミング州と同様の傾向が全米のあちらこちらで見始めていると云うのです。
つまり、今次の共和党の予備選は、保守主義同士の色合いのの違いを巡る争いではなく、どの候補も、最もトランプ氏のスローガン、「Make America Great Again (MAGA)」に近いかを比べる競争になっていると云うのです。米議会占拠が起きた21年1月6日の事件に関し、トランプ氏を弾劾する決議に賛成した共和党下院議員10人の内、8人が今回の選挙には出なかったか、既に予備選で敗れていると云うのです。
24年の大統領候補に誰になってほしいか、早い段階で共和党有権者に尋ねた世論調査では、約50%がトランプ氏と回答していた由です。数か月前はトランプ氏にうんざりしていた共和党有権者がフロリダ州知事のロン・デサンテイス氏か、MAGAを訴える他の候補者に乗り換えると見られていたが、今ではデサンテイス氏も、ホワイトハウス入りするにはトランプ氏の副大統領候補になるのが一番の近道と考えているとも指摘する処です。
・訴追で高まる出馬意欲
勿論、大統領予備選までには時間があり、大きく変わる状況も予想される処、トランプ氏自身が出馬を断念するか、何かがトランプ氏の出馬を妨げない限り、同氏が共和党の候補指名を勝ち取りそうだと云うのです。では、彼の出馬を止める手立てはあるか? ですが、その一つの可能性は司法の力だとするのです。が、トランプ氏が裁判にかけられ有罪判決を受けても、むしろそれは彼を復活させる「追い風」となるかもと、云うのです。つまり、司法制度に迫害されたとリベンジする形で選挙運動を展開すれば、トランプ氏の能力が最も悪い形で生かされてしまい、米国の諸制度を益々疲弊させることになると云うのです。
デサンテイス氏をはじめ、多くの共和党員がトランプ氏の味方についたと云う由ですが、トランプ氏には更に、3つの件で捜査が進められていると云うのです。虚偽申告による脱税疑惑、議会占拠事件での違法行為疑惑、ジョージア州フルトン群で2020年11月の選挙結果を覆そうとする謀議に加担した疑惑、だというのですが、これらの捜査の行方もやはり不透明で、トランプ氏にも推定無罪の原則が当然適用されると云うのです。一方、反トランプ派に対し、同氏が過去のような過ちを繰り返すこと等、期待しすぎないようにとも云うのです。
彼らはこれまでも、ロバート・モラー特別検察官による検査や2度の弾劾裁判等、何かがトランプ氏を失脚させるだろうと期待した。だが、同氏は今も健在という。実際のところ、これら法的問題は、トランプ氏の出馬意欲を高める結果に繋がると云う。つまり、彼が大統領候補である限り、前回の選挙で7,400万票を集めたリーダーだと云うのです。そして、彼が出馬を表明した時点で、ガーランド司法長官をはじめ、捜査関係者は、大統領候補を裁判にかけるか、法の支配にあえて目をつむるか、難しい選択を迫られることになると云うのです。更に、彼が裁判にかけられ、有罪判決を受けても、むしろそれは彼を復活させる「追い風」となるかもしれないと。そして、司法制度に迫害されたと、リベンジする形で選挙運動を展開すれば、トランプ氏の能力が最も悪い形でいかされてしまうと云い、それは米国の諸制度を益々疲弊させるだろうと云うのです。
・トランプ氏を止める
共和党も司法も、トランプ氏を止められないとしたら、他にどんな手立てがあるか。今、チェイニー議員に決死の覚悟で大統領選に無所属候補で立候補するよう勧めるグループもあると云う。つまり、反トランプだが、民主党にはどうしても投票したくないと云う共和党支持者の票を吸い上げることを期待しての事と云うのです。もしそれで共和党の地盤の州で接戦に持ち込めれば、最終的にトランプ氏の勝利を阻止できるかもしれないと云うものです。彼の大統領就任中の4年間に、共和党は上下両院で過半数を失い、大統領選でも敗れた。多くの有権者はトランプ氏が危険で非民主主義的な人物であることを理解しているし、大半は彼の再任を望んでいないと云うのです。この際は、Better would be to depend on the good sense of the American people. つまり米国民の分別に頼る方が望ましいとする処、要は彼の対抗馬となる仁への投票を広めることだと云うのです、・・・・・。 」
前出、ジョン・ゾグビー氏は、24年の大統領選は、たとえ接戦でなくとも、結果を巡り本当のバトルが展開されるだろうとし、両党とも単純に結果を受け入れるとも思えず、それがまた対外的影響力までにも傷つけることになると懸念する処ですが、まさに民主主義の如何が問われる瞬間が続きそうです。
おわりに ゴルビーも 信奉した民主主義
2022年8月30日、旧ソ連の書記長、ミハエル・ゴルバチョフ氏がなくなりました。周知の通り、彼は1985年から1991年の6年間、旧ソ連の書記長を務めた仁で、この間、ペレストロイカ(国家の再建)、グラスノーチス(情報の公開)という2大改革を進め、1989年のベルリンの壁崩壊、その後の東西ドイツ統一の立役者となり、更に米国とは核軍縮を進め、1989年12月、当時のブッシュ米大統領と共に東西冷戦の終結を宣言し、民主主義こそロシア永遠の課題、と語るロシアの政治家でした。驚くべきは、僅か6年で、世界の共産主義国の雄たるソ連という国をまさに自由主義国に衣替えさせてしまったという事でした。しかし、残念ながら、後継のプーチン氏の姿は周知の処です。
では、西側民主主義陣営の姿はどうか。米国については前述の通りで、そこに投影されるトランプ氏の行動は傲慢なpopulismにほかなく、米国の民主主義の重症化を映す処、それに加わるのが欧州、とりわけイタリア政界の変調です。イタリアの右傾化です。
イタリアでは新型コロナ禍からの経済復興を目指し、21年2月にECB前総裁のドラギ氏を首相とする挙国一致政権の発足を見たばかりでした。が、今夏、主要与党が政府の政策に対する不満、内輪もめで連立政権は崩壊、ドラギ首相は7月21日辞任を表明、今は9月25日予定の総選挙結果を待つ処です。 仮にEU第3のイタリアに極右主導の政権が生まれたとすれば、想定さるのが、近時の物価高に苦しむ有権者の支持を集める極右主導型政党「イタリアの同胞(FDI)」(女性党首、メローニ氏)の可能性ですが、仮に右派政権が誕生しても結局は、民意が離れ短命に終るというリスクが舞戻り、欧州は‘内憂外患の時’を迎えることになりそうだと云うものです。 9月7日付 Project Syndicateで、 London Business School教授のLucrezia Reichlin氏は、「The Italian Right Is Coming」と題して、イタリアは戦後史において初めてとなるムッソリーニーのフアシスト党をルーツとするBrothers of Italyの勝利を予想しながらも、であれば欧州政治は甚大な影響を受けることになると警鐘乱打する処です。
2022年4月の仏大統領選でも物価対策を訴えた極右ルペン氏に、マクロン氏はあと一歩まで迫られる処でした。先進民主国は、今や、 物価高の元凶とされるエネルギー不安の解消に奔走するあまりに, 米トランプ氏のような自国第一主義がちらつく状況にあって、まさにインフレが試す民主主義、といった感の強まる処です。
因みにスエーデンの調査機関 「V-Dem」は、2019年、世界の民主主義国・地域が87カ国に対し、非民主主義国は92カ国と、18年ぶりに非民主主義国が多数となったと報告しています。その後、民主主義国家が勢いを盛り返していないばかりか、権威主義国家の台頭ぶりが目立ってきているのは周知の処です。 民主主義を語るとき、よくリファーされた英国、チャーチル元首相の「民主主義は最悪な政治と云える。これまで試みられてきた民主主義以外の政治体制を除けば」との言節も、もはや通じなくなってきた様相です。
では、民主主義の現実をどう受け止め、それにどう対峙すべきか? この際は世界的名著とされる1835年、出版されたフランスのアレクシ・ド・トクヴィルの「アメリカの民主政治」(De la democratie en Amerique)に`解’はないものかと、改めて目を通してみました。
トクヴィルは弁護士として、米国の刑務所の事情視察の為、仏政府から1831~32年派遣され、それを機会に米国各地を訪れ、米共和政治の実状を観察、仏に戻ってから、その際の見聞を整理し、著したとされるものです。その中で彼は、民主主義は理念として「知性に適用された平等主義」を旨とするものとし、その実際の制度としては多数決を基本とし、これが機能するには国民世論の多数派が健全な判断力を持つ場合に限られるとするのです。そして、民主政治は大衆の教養水準や生活に大きく左右されると指摘するのです。
そうした資料漁りを経て、ではその結論はですが、思っていたように、1776年7月4日の「米国の独立宣言」にあって,その序文にある「All men are created equal」(注)を原点とし、それを担保するシステムとして導入されたのが、「一人一票」の選挙制度であり、であれば民主主義の復権には、選挙制度の改革強化に尽きる事と思料するのです。
そこで、近時メデイアで露出度を高めている米イエール大学助教授の成田雄介助氏の近著、「22世紀の民主主義」を読んでみました。民主主義の「核」が選挙制度にあるなら、それが機能しなくなってきた事情、システムの劣化に対応するためにはガラッと発想を変えて、アルゴリズムを以って、無機的に対応していってはどうかと、極めて斬新な、しかし、極端
と映る提言に、彼自身は、やらずぶったくりで書いたと云うのですが、正直、簡単にはフォローしにくいものでした。ただ思うは、民主政治は大衆の教養水準に依存する、との上記指摘いま再びで、とすれば教養水準の引き上げに尽きると云うことかと思うばかりです。
さて、日本の民主政治は如何にですが、少なくとも現下の旧統一教会と自民党との癒着状況のひどさからは、残念ながら民主政治は期待薄と断じざるを得ずと思うばかりです。 かかる状況に如何に対抗していくべきか、ですが、この際は米国(トランプ氏)も欧州も含め、大きな課題は、かつて組織政党が果していた ‘機能の堅持、その再生’ の他なしと思う処です。(2022/9/25)