2022年06月25日

2022年7月号  安全保障環境の構造変化と、日本の行動様式 - 林川眞善

目 次

はじめに  今、新たな安全保障環境

・外交の季節入りを演じた日本の5月
・北欧2カ国のNATO加盟申請

第 1 章  QUADに映る‘新たな地政学的環境’

1.日米主導で動き出すQuad
(1)Quadの歩み
(2)Quad首脳会議とメンバー国の抱える安保事情
2.米主導のインド太平洋経済枠組み(IPEF)と、日本の役割

第 2 章 欧州の新安全保障体制   

1.北欧3カ国の新安保政策
(1)スエーデンとフィンランドのNATO加盟申請
(2)デンマークはEUの安全保障政策に参加
 ・注目の6月末NATO首脳会議
2.When and how might the fighting end?

おわりに 「経済先進国」再建の決意      

・岸田政権、初の「骨太方針」
・「経済先進国」再建の決意を
                                      〆


はじめに 今、新たな安全保障環境

戦後、日本は米国の同盟国として、国防コストを抑え、その一方で経済はグローバル化の
波に乗ることで世界の経済大国へと成長してきました。つまり、資源小国日本の生きる道は、
いずれの国とも重大な敵対関係を作らず、お互いがお互いを必要とする関係を築くことに
ありとして、以ってこれが国是ともしながら歩んできた結果が、今日の日本の姿とされてき
ました。
が、今年、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、これまでのそう
した思考様式の通じない世界へと変貌させ、その姿は中ロの専制主義国家VS民主主義の
西側諸国との対立構図として、その深化の進む処です。その変化は日本にとり、経済成長の
前提とされてきた諸条件が覆され、今後日本はいかに生きていく事となるのか、問われ出す
処です。筆者はこの点、この‘論考’を通じて日本の外交力の強化を訴え、その外交力を擁し
て持続的発展を目指すべきを訴えてきましたが、はたせるかなこの5月、日本を巡って慌し
く展開を見せた一連の外交対応に、その可能性を感じさせられる処でした。

・ ‘外交の季節入り’を演じた日本の5月
具体的には、5月5日のロンドン・シテイーでの講演を終えた岸田首相は、帰国後の23日、
東京でバイデン大統領を迎え日米首脳会談を行い併せて、同大統領が表明した「インド太平
洋経済枠組み(IPEF)」の発足に合わせたオンライン会議にも対応、翌24日には日米豪印
4カ国首脳とのQUAD (日米豪印戦略対話)首脳会議を仕切ると共に、来年議長国として
開催のG7サミットの広島開催を決定する処です。その事情は周知の処、広島は岸田氏の出
身地、そして世界で唯一の原爆被災地であり、世界平和への象徴とされる広島から世界に向
けた発信を目指さんとする処です。

云うまでもなく、それら国際会議に共通するテーマは「ロシアのウクライナ侵攻」であり、
「対中牽制」ですが、バイデン米政権の一連の対応を見ていくとき、これが2月発表した「イ
ンド太平洋戦略」に即した、米国のまさにAsian Pivotシナリオとなる処ですが、その戦略
の前提には各国との連携があって、それこそは米国の実状を映す処、同時にそのあり姿から
は、日本の出番を感じさせられ、とりわけ日米関係が今次Quad活動を通じて新しい時代を
迎えた様相が映る処です。因みに弊論考2022/3月号では、「かつては米国の処方箋とリー
ダーシップに頼ることもできた。しかしバイデン政権はコロナ対策にも、インフレ対策にも、
ロシアの抑止にも手こずっている。その点、日米欧が共に緊張緩和の道を探るべきは重要な
責務」と記す処でした。

尚、同じ趣旨をもって、4月28日には就任直後のドイツ、ショルツ首相が訪日、5月11日
にはフィンラド首相のマリン氏が、12日にはEUのミッシェル大統領と欧州委員長のフ
ォンデアライエン氏ら、欧州首脳の訪日がありで、勿論、岸田氏もこの間、欧州各国を訪問、
各国首脳との会談を持ち、彼らとの共同声明を発表する処、これら一連の外交日程は岸田氏
が年初、標榜した「新時代のリアリズム外交」(注)の具現化とも映る処です。

  (注)「新しい時代のリアリズム外交」:岸田首相は今年1月召集された通常国会の所信表
   明演説で外交に関して打ち出した概念。言葉の説明として、「自由、民主主義、人権、法
の支配と云った普遍的価値や原則の重視」、「気候変動問題等、地球規模課題への積極的取
り組み」、「国民の命と暮らしを断固とし守り抜く取り組み」という三つの柱を挙げる処。

・北欧2カ国のNATO加盟申請
もう一つ、ロシアによるウクライナ侵攻でこれまで中立を国是ともしてきた北欧のフィンランドとスエーデンの2カ国が、5月18日、米欧の軍事同盟たるNATOへの加盟を申請、 更にはデンマークのEU安全保障政策への参加もありで、その結果、欧州安保体制の一変を必至とする処、日本の安保政策にも相応の影響を齎す処、具体的には、台湾を絡めた対中政策の在り様がこれまで以上に問われることになってきたと云う事です。

かかる環境にあって日本では5月11日、衆院で「経済安保推進法」が可決・成立したのです。もとより当該推進法は、ウクライナ侵攻、中国の覇権主義的行動を受け、産業や技術を国家戦略として守る重要性が高まってきたことを映す処です。そして5月31日には、先に紹介した「新資本主義」の実行計画案とされる「骨太の方針」が公表され、6月7日には閣議決定されましたが、ここにきて一気に内外環境の構造的変化が進む中、それへの対抗が求められる処です。 尤も、そこに列挙される一連の施策は実現への突破力に欠け、財源の確保や抜本的な制度改革も不透明にあって、未だ項目の羅列と云った感は拭えません。因みに、日経論説委員長の藤井章夫氏が6月8日付同紙で「言葉遊びより改革断行を」と指摘する処、当該実践の推移に注目していきたいと思う処です。

そこで本稿では、ウクライナ侵攻で世界の安全保障環境が急速に変化する中、今次東京で
開かれたQUAD、日米豪印4カ国首脳会議を取り上げ、参加各国が映すnational interestと
協調課題をレビューし、更にQUADとの協調を旨とした米主導の「インド太平洋経済枠組
み(IPEF)」を取り挙げ,そこに映る米国の対アジア安保戦略、当該関係4カ国に映る安保事
情の現実、そして、それに向き合う日本の対応について考察する事としたいと思います。
偶々手にした近着The Economist誌 (5/28 ~ 6/3)はウクライナ戦争をどう終わらせようと
しているのか、最新の状況を伝える処、併せて報告しておきたいと思います。



第1章 QUADに映る ‘新たな地政学的環境’

1 日米主導で動き出すQuad (Quadrilateral Security Dialogue)

(1) Quadの歩み
先月の弊論考でreferしたように、イエーレン米財務長官はロシアのウクライナ侵攻に照らし、国連の現体制は「時代遅れ」であり、戦略的改革が不可避としていましたが、それは東西間の勢力の移り変わりを巡る指摘と理解する処でした。それだけに5月24日、東京で開かれた日米豪印4カ国の首脳によるQUAD会議の重要性が浮き彫りされる処でした。

QUADは、民主主義などの価値観を共有する4カ国(に比米豪印)が、夫々連携を強めることで、インド太平洋地域で存在感を高める中国の行動を抑えることを狙いとする場とするのです。トランプ前政権では中国に対抗していくためにはと、4カ国外相会議としてスタートさせたのですが、バイデン政権は中国のアジアにおける行動に危機感を強め、これを首脳レベルに格上げしたのです。つまり、Quadは同盟というよりは、中国の台頭など地政学的な変化によって芽生えたパートナーシップに近いものと理解される処、Quadが目指すものとしては「サプライチェーンの強化」に加え、「自由かつ開かれたインド太平洋地域」に向けた全般的な取り組みが挙げられる処です。
実際、今次Quad首脳会議で纏められた共同声明 (注)では、中国を念頭に海上警備の体制強化の方針を記す一方、経済に力点を置いてきた協力分野を安全保障に広げています。

(注)共同声明の要旨(日経、5/25)
     ・平和と安定 / ・新型コロナウイルス感染症 / ・インフラ / ・気候
・重要・新興技術 /・宇宙 / 海洋状況把握及び人道支援・災害救援 / ・結語

そもそも2004年のスマトラ沖地震と津波に被害の現地支援を機に、日米豪印4カ国の主導で立ち上げられた支援体制で、10年以上に亘って足ふみが続いていましたが、2018年に支援活動を再開、ただ中国の王毅外相は「海の泡」と消えるだろうとも指摘する処でしたが、こうした中国政府の敵対的な態度は、むしろ4カ国の結束を強めたと云うものです。
2019年に初の外相レベルの会合が開かれていますが2021年、バイデン大統領は就任後、中国が覇権主義的動きを強めていることもあって、この枠組みを重視、格上げをし、4首脳によるサミット会議とする処、昨年3月にはon lineでの首脳会議が行われ、その半年後には対面での会談が行われ、対面での会議としては今回が2回目となるものでした。

(2)Quad首脳会議とメンバー国が抱える安保事情
今次会議では、ロシアによるウクライナ侵攻に加え、インド太平洋地域で覇権主義的な行動を強める中国とどう対峙していくかが重要な議題でしたが、その要旨は共同声明に記されたように、南シナ海や東シナ海での国際法順守を求め、軍事拠点化、海上保安機関や民兵の危険な使用への反対、が明記され、中国に照準を合わせる姿勢を色濃くする処でした。
ただ、対中ロの具体像となると以下各国の事情を映し、まだまだ見えにくいと云った処です。

・[米国の事情] 今次のQuad会議では、バイデン氏は「米国はインド太平洋地域における強力で安定した永続的なパートナーでありたい」と表明、「民主主義と権威主義の戦い」とも発言、要は、インド太平洋地域との関係再構築を目指すこととし、以って中国とロシアに対抗する姿勢を明確にする処(日経5/25)、それこそは米国のアジア戦略、Asian pivot、への回帰を示唆する処です。そもそも米国のアジアに対する安保戦略は、基地を構える同盟国の日本や韓国など2国間の枠組みに軸足を置くものです。が、2021年誕生のバイデン政権は多国間の協力を通じて中国抑止を目指さんとする処にあって、同年、バイデン氏はオンラインでQuad首脳協議を開催、同時に英豪との軍事枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設、これとの両輪で中国に対抗する多国間の枠組みを目指すとする処です。ただ、アジアでの安保体制構築は未だ手探り状況と見られる処、そのポイントはインドにありとされる処です。

・[インドの事情] ロシアによるウクライナへの軍事進攻は世界の安全保障環境を大きく変える処、ロシアと密接な防衛協力関係にあるインドの姿勢に相応の影響を与えたとされる処です。つまり、インドは、過去5年間、全兵器の約半分をロシアから調達してきており、その点ではインドのロシアへの防衛面での過度の依存の引き下げは喫緊の課題となっているのですが、メデイアによれば、ロシアを強く非難したバイデン氏に対して、モデイ氏は明確な非難は避けたと伝えられる処です。 加えて、中国と共にインドはロシア原油の調達を増やしてきており、これが欧米の輸入禁止で買い手の減少でロシア産原油は国際価格より大幅安くなってきている点では調達の経済的メリットの拡大となる処、中印の買い支えでロシアはエネルギー輸出による歳入を確保する状況にあって、欧米の制裁の実効性が薄れていると報じられる処です。(日経6/8) 勿論、ウクライナ侵攻をきっかけにインドとしてはこれまでの対ロ方針の変更は避けられぬ事と自覚する処ですが、ただ軍備面での問題も有之で、板挟みの状況とも伝わる処です。 ・・・ であれば、中国をけん制するために同盟のような枠組みにインドを引き込もうとしても、彼らは中国を安保上の脅威と見做すことがあっても、同盟に頼らない立場を誇ってきた国柄に照らすとき、この際はインドを同盟国とする事より、パートナーとしての可能性を大切に、対応すべきではと思料する処です。

・[豪州の事情] 豪州からは5月23日の政権交代で、首相に就いたアルバニージー首相は「豪州にとってQuadは 絶対的な優先事項」(日経5/23)として初参加。今後、実績作りに協調姿勢で臨むものと見る処です。因みに、太平洋諸国に外交攻勢をかける中国に対抗し、発足まもない豪州新政権はその巻き返しを図る処、ウオン豪外相は、就任10日あまりで地域の3カ国を訪問。5月23日には日本のQuad首脳会議にも出席、6月に入ってからはほぼ立て続けにサモア、トンガを訪問、その背景には太平洋地域で中国が外交攻勢を強めていることへの危機感があると報じられる処です。「地域の安全保障は太平洋島しょう国全体の問題であり、そこには豪州も含まれる」と、ウオン外相は、中国が進める地域の安保協力強化の合意阻止に向けた意欲をにじませる処です。(日経6/4) 序で乍ら、中国の王毅外相も5月26日のソロモン諸島を皮切りにサモア、トンガ等、7つの「島しょ国」を訪問、いずれもウオン外相の先を行く処、太平洋を巡る中豪の唾競り合いが激しさを増す処です。

・[日本の事情] さて日本ですが米国との同盟関係を強固にしながら、Quadをキー・ステーションとして、多角的な連携による成長の可能性を体感しうる様相にあって、今、日本の再生シナリオが描けそうではと思料する処です。
因みに、Financial Times前編集長のライオネル・パーバー氏は、上記事情をレビューし、現状を、自信を深めるインド、インド太平洋地域との関係を深めたい米国、実績を作りたい豪州首相、そして「自己主張を始めた日本」と分析し、Quadの前進が東京から加速する兆し十分にありと総括する処です。

2.米主導のインド太平洋経済枠組み(IPEF)と日本の役割

Quadと並行してバイデン氏は5月23日、米主導の新経済圏構想 「インド太平洋経済枠組み( IPEF)」の始動を表明。日米と韓国、インド等計13国を創設メンバーとし、中国に対抗してサプライチェーンの再構築やデジタル貿易のルール作りなどで連携すると云うものです。同日、発表式典では「米国はインド太平洋に深く関与している。21世紀の競争に共に勝つことができる」と語る処です。(日経 5/24) 

IPEFの協議分野は「貿易」、「供給網」、「インフラ・脱炭素」、「税・脱炭素」の4つ、そして分野ごとに参加国が変わることになるというのです。ただ、バイデン政権はIPEFに関税交渉を含めず、従って議会の承認は不要としており、その分、参加国にとっては米市場の開放と云う魅力に欠けるとの指摘のある処ですが、米国がこの地域に経済的に関与する姿勢を示した事は評価されるべきで、IPEFを介した米国の関与はルール重視の経済秩序を補強し、中国流国家資本主義の広がりに歯止めをかける点で、歓迎されるべきと思料する処です。

とりわけ米国抜きで発足した11カ国によるTPPに未加盟のインド、韓国、インドネシアが参加を表明したことは意義深いと云うものです。上述したように貿易自由化を伴わない枠組みに批判も多い処ですが、米国内では製造業の衰退と経済格差の広がりでグローバル化への不満が高まり、市場開放を約束できる状況にはないのも現実です。その点で、まずはIPEFを地域経済の安定と発展に役立てるのが現実的とも言え、この点で、日本の役割が俄然指摘される処です。つまり、IPEFは米中の覇権争いと自由貿易への逆風という制約下で生み出された苦肉の策と云われています。言い換えれば、有益な枠組みに育てる余地があると云うものです。今後IPEFの中身をつめる中で、中国と周辺国の分業体制について米国と連携し、過度な分断を防ぐよう努めるべきで、まさに日本の出番ではと思料する処です。


第2章 欧州の新安全保障体制

1. 北欧3カ国の新安保政策

5月18日、フィンランドとスウエーデンの北欧2カ国は、伝統的な軍事的中立政策を放棄し、米欧の軍事同盟であるNATOへの加盟を申請したのです。それが意味することは、長年守ってきたバランス外交への決別です。そして、同じタイミングで北欧のデンマークが、同国はEU加盟国ですが、これまで域内共通の安保・防衛政策に加わることはなかったのですが、6月1日行われた国民投票結果は、域内共通の「安保・防衛政策」への参加然るべしとなり、7月1日からEUの安保政策に参加の予定です。

(1) スエーデンとフィンランドのNATO加盟申請、
まず、スエーデンのアンデション首相は、5月16日の記者会見で、200年の中立政策に終止符を打つ考えを語るところでした。スエーデンはナポレオン戦争で多くの命と領土を失ったのを機に中立政策を志向。戦争に主体的に関与せず、約200年に亘って中立を保ってきた国です。序で乍ら、平壌にあるスエーデン大使館は北朝鮮と国交のない米国などの利益代表をつとめるなど、中立や非同盟を同国の国是ともする処でした。

フィンランドも長年、軍事的中立政策を保ってきた国でした。その背景には、ロシアと約1300キロの国境と複雑な歴史があっての処、フィンランドは700年に及ぶスエーデン支配の後、約100年に亘るロシアの統治を受け、1917年にロシア革命に乗じて独立しましたが、
第2次世界大戦では旧ソ連の侵攻を受け、戦後は旧ソ連への刺激を避ける意味もあり、中立政策をとってきたと云うものです。

こうした事情を背する両国は、冷戦終結後、95年、共にEUに加盟を果たすものの、NATOへの加盟には反対の立場を続けてきたのです。がウクライナ侵攻で安全保障環境の急変に照らし、中立を以って安全を確保できる保障はなくなったとし、同時に行われた3月下旬の世論調査では6割弱が加盟支持を示した結果を踏まえ、中立政策を破棄、NATO加盟の申請を行うこととしたものです。 加盟が実現すれば、NATOが接するロシアとの境界線は現在の約2倍に達するのですが、NATOとロシアを隔てていた「緩衝地帯」がなくなることで、両陣営が直接対峙する構図が強まることになるのですが、北欧2カ国の加盟はNATOにとって軍事作戦上、極めて重要なポイントとされる処です。

つまり、バルト海に面する両国が加わればロシアの飛び地カリーニングラードを拠点とするロシアのバルト艦隊への圧力を強め得ることとなり、加えてロシア本土とカリーニングラード、ベラルーシに囲まれたバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の安全保障にも資することになると云うものです。ウクライナ侵攻で欧州の安全保障環境が揺らぐ中、冷戦後、東方への拡大を進めてきたNATOは、更に、北方にも拡大することになるというものです。 尚、NATO加盟にはNATO全加盟国の承認が必要とされる処、トルコのエルドアン大統領が、彼らはクルド人武装組織を支援しているとして、難色を示していることもありで、加盟実現までには多少の時間はかかりそうです。
一方,6月23日開かれた欧州理事会(EU首脳会議)では、ウクライナとモルドバを「EU加盟候補国」として認めることが合意されたのです。(Bloomberg報) ただこれで「NATO同様の安全保障」が約束されるものか、疑問は残るところです。

(2)デンマークはEU共通安全保障・防衛政策に参加
デンマークは北欧にあって、EU加盟国ですが、人口は約580万人。領内にはバルト海の要衝、ボーンホルム島もあり、1949年創設のNATOの原加盟国でもあるのです。 ただ、EU加盟国ながら、域内共通の安保・防衛政策に加わらなくてもよい適用除外権をもつ国でしたが、ウクライナ侵攻を機に、フレデリクセン首相が、この3月、当該権利の放棄の如何を問う国民投票を6月1日に実施していますが、その結果は、域内共通の「安保・防衛政策」への参加が支持され、当該民意を反映する形で7月1日からEUの安保政策議論に参加の見通しで、国内とEUの手続きが完了すれば軍事協力にも加わることになる筈です。

上記北欧諸国のNATO加盟申請、ウクライナとモルドバのEU準加盟国と、ロシアのウクライナ侵攻が齎した安全への意識を高めた結果ながら、NATOやEUを軸とした安保面での欧州統合が一段と深まると見る処です。

・注目の6月末NATO首脳会議
そのNATO首脳会議が6月29~30日、スペインのマドリッドで開かれます。その首脳会議には、非加盟の日本、韓国、豪州そしてニュージランドの首脳も招待されており(注)、彼らは東アジアとインド太平洋での中国を警戒する国々で、従って、民主主義陣営の結束を示す場となる処、「新・冷戦」の誕生で分断が深まる世界を象徴する場とも云えそうです。

更に、世界秩序が次の点で歴史的な転換点にある事を露わとする処とも思料するのです。
つまり、一つは、外交・安全保障の重心が、これまでの「対話」から「力の均衡」にシフトしていく見られる事、もう一つは、現代というこの時点で、国家同士の武力衝突が現実に起ったことで、各国は戦車や戦闘機などの戦争に再び備えることになったという事、でまさに「20世紀型戦争」の再燃と思料する処です。尚、NATO首脳会議の展開等、その行方については、別の機会に論じてみたいと思っています。

(注)岸田首相は上記NATO首脳会議に出席予定ですが、とすれば日本の首相として初
参加となるもので、日本がNATOに接近するのは台湾有事の可能性を意識したものとメ
デイアは評する処。2014年、当時の安倍首相はNATO本部で演説をし、日本とNATO
との協力計画に署名しているのです。

2.When and how might the fighting end?

ロシアの侵攻が始まって4カ月、時に「ウクライナ疲れ」といった言葉も走る処、早期停戦か、ロシアに報いを受けさせるか ―ウクライナでの戦争の終わらせ方を巡って西側が割れだしていると、5月28日付 The Economist誌は、「When and how might the fighting endo?」と題し、その状況を伝える処です。ウクライナ大統領、Zelensky氏は「 The war in Ukraine will be won on the battlefield but can end only through negotiations ( 戦争で勝利するには戦争で勝つしかないが、戦争を終えるには交渉を通じて実現するしかない)」と語るのですが、以下はその概要です。・・・

―「和平派」と「強硬派」に分かれた西側陣営の対応
3か月が経過し西側諸国は戦争の終わらせ方についてそれぞれの立場を明確にし始めたとしながら、当該西側の対応は、交渉を始めることを望む「和平派」、もう一つはロシアに多大の代償を迫る「強硬派」。の二つに分かれると云う。そして問題は「領土」。これまで占領された地域をロシアのものとするのか、2月24日の侵攻開始時点の境界線に戻すのか。それとも、国際的に認められた国境まで押し戻して、2014年に占拠された地域の回復を図るのか。要は戦争が長期化した場合の損害とリスク、メリットの有無についてだと云う。

まず和平派は行動に出始めているという。ドイツは停戦を呼びかけ、イタリアは政治的調停に向け4項目なる計画を提案し。フランスはロシアに「屈辱」を与えない形で和平合意を纏めることが必要という。これに反対しているのが、ポーランドとバルト3国、そして、その筆頭にあるのが英国。さて、ウクライナにとって最も重要な後ろ盾の米国は未だ立場を明確にしてないことが問題とも云う。米国はこれまでウクライナが強い交渉力を持てるようにと、140億ドル近くをつぎ込んできた。が、ウクライナが求める長距離ロケットシステムは提供していない。更に、米国の立場が曖昧な点はオーステイン米国防長官の発言が一層際立たせると。つまり、この4月、オーステイン長官はキーウ(キエフ)訪問後、西側ウクライナの「勝利」とロシアの「弱体化」に向けて支援すべきと強硬派の立場を支持していたが、3週間後のロシアのセルゲイ・ショイグ国防相との電話会談後は「即時停戦」を呼びかけ和平派に近寄る姿勢を見せたことを指摘する。

この他、元米国務長官のキッシンジャー氏が、ダボスで開催の世界経済フォーラム(WEF)の年次総会で、ロシアとウクライナの境界線を2月24日時点に戻すのが理想だとし、「それ以上を求めて戦争を続けると、ウクライナの自由の為の戦争ではなく、ロシア本国に対する新たな戦争となる」と断言し、ロシアには欧州パワーバランスの中で果たすべき重要な役割があり、この国を中国との「恒久的な同盟に押しやってはならない」と語ったと云う。
同じ、WEFではゼレンスキ―大統領は「欧州、そして世界全体は団結しなければならない。我が国の強さはあなた方の団結の強さなのだ」と語り、「ウクライナは領土をすべて取り戻すまで戦う」と決意を示す処。その一方で、ロシアが2月24日の線まで撤退すれば対話を始められるとも発言し、譲歩の余地をも残しているという。西側のウクライナへの姿勢がはっきりしないのは、戦況がはっきりしない点も関係しているとも、・・・。

― さて、戦争がいつ終わるか。総じてロシア次第と云え、ロシアは停戦を急いではいない。ただ、東部ドンバス地方全域を掌握する決意を固めているように見え、更に西部でも占領地域を拡大する意思を示す処と云う。そこで、キーウの政治評論家、ウオロデイミル・フェセンコ氏の以下の語りを引用して、締めるのです。つまり、「この状況が奇妙なのは、双方ともに、自分たちが勝てると今でも信じていることだ。本当に手詰まりになり、両国政府もそれを認めた時にのみ、停戦についての話し合いが実現する。だがその場合でさえ、一時的な和平にしかならないだろう」と。

要は、侵攻の長期化が十分想定される状況にあっては、まず「停戦する事」を合意、決定する事、そして、その決定に沿い具体的詰めを図っていく事しかないのではと愚考する処です。


          おわりに 「経済先進国」再建の決意

・岸田政権、初の「骨太方針」
この6月7日、岸田政権は予ねての「新しい資本主義」の実行計画ともされる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定しました。今次「骨太の方針」に盛られた政策事案こそは、「新しい資本主義」を創造していくものとし、岸田首相は「計画的で重点的な投資や規制改革を行い、成長と分配の好循環を実現していく」とし、その重点は「人への投資」にあって、3年間で4千億円を投じると強調する処です。

しかし、「骨太の方針」(「方針要旨」日経、6/8)、第2章「新しい資本主義にむけた改革」で挙げられている15の事案は、既存の延長線上にあるように映るメニューが多く、どこが‘新しいの? です。そして第3章の「内外の環境変化への対応」では「新たな国家安保戦略等の検討を加速し、防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と、聊か斯界の連中を喜ばせんばかりの文言の続く処、これが新資本主義より安保優先かと映る処です。勿論、目下の世界の安保環境に照らし、自然な政策対応かとは思料する処、これが国会周辺の議論として、国防費は現行の2倍増とする数字先行の姿は、いかがなものか、まず国防の質的検討が国民の前で行われるべきで、数字はその結果であるべきと思料するのです。

序で乍ら安保優先の政治と云えば、The Economist, May 28~June 3rdのコラム Banyanは ‘The Abe era‘と題し、日本の政界に依然大きな影響力を持つ超タカ派の実力者として安倍晋三氏を取りあげ、彼が「invasions are possible in the modern era」、現代の今でも武力侵攻は起こるものとした発言を捉え、プーチンとは27回の会談を持ちながら、何ら外連なく語る姿、台湾有事への防衛を公言し、更に米核兵器を支持する姿に、‘危険さ’を禁じ得ずとしていたのですが、実に頷ける処です。

・「経済先進国」再建の決意を
さて、今、急速に進む円安に日本は如何に向き合っていくかが大問題となっています。(6月22日, 対ドル円相場は136円台後半まで下落)今次の円安は1998年10月以来の円安水準という事ですが、当時は日本長銀が破綻し、金融危機下の日本売りが激しかった事情を映す処でした。現在、金融システムは強さを保ち、金融不安に根差す日本売りは見られません。円安の齎す効果にはマイナス面、プラス面と両方の効果があるのですが、そもそも今次の円安の根本的な問題は、円安を活かすための産業競争力が失われている点にあるのです。

つまり円安を招く構図、環境が急速に様変わりする中、産業競争力を底上げしてこなかったことにあって、問題の所在は周知の処です。日本経済は資源がなくても人材や最新鋭の工場が頼りと云われてきましたが、それはもはや昔話し。従って、企業の競争力や日本の成長力を高める実効的な具体策が打ち出せるかにある処、この際は、新しい資本主義の云々はともかく、目指すべきは「経済先進国」の再建であり、それを決意し、その為の行動を起こすことと思料するのです。

さて6月22日、第26回参院選が公示されました。岸田文雄政権の信任を問う選挙となるものです。以上 (2022/6/25)
posted by 林川眞善 at 11:17| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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