― 目 次 ―
はじめに New omicron COVID-variant
第 1 章 米テック企業と, Global Order, 新たなかたち
1.変容する米テック企業
2. A brave new digital world
第 2 章 米McKinsey Global Institute (MGI)報告書
「The rise and rise of the global balance sheet」が問うこと
1. MGI Report概要
2.富の不動産偏在の是正は世界的課題
おわりに 2022年、日本の行方を問う重大テーマ
1. 人口減国家、日本の行方
2. The Economist誌 アドバイスを抱いて
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はじめに:New omicron COVID variant
漸くコロナも収束に向い、経済の回復が期待される中、11月末、発覚した新型コロナウイルス「Omicron(オミクロン)株」のおかげで、新年、2022年も、再び新型コロナ「Omicron(オミクロン)」騒ぎを背にしての船出となりました。因みに、日本政府は水際対策として、全世界からの新規入国を,11月30日午前0時を以って原則停止を決定。又 世界の対応として、11月29日にはG7保険相会合(オンライン)が緊急開催され、オミクロン株についての対応につき協議、又、11/30~12/3予定のWTO閣僚会議が延期、国内では開催中の国会でも連日対応策についての討議がと、大わらわの状況は今なお続く処です。
2020年のForeign Affairs 7-8月号で、Princeton 大学教授のJohn Ikenberry氏が投稿論文「The Liberal Order, The Age of Contagion Demands More Internationalism, Not Less」で、まさにウイズ コロナの時代こそはinternationalism(国際協調主義)がより必要と訴えていたのを思い出す処でしたが、2022年も,その延長線上での新年たるを、自覚させられる処です。ただ、過去2年間のコロナ感染問題に向き合ってきた日本政府には、この際は、総括があってもいいのではと、思う処です。
尚、今日の経済環境は、当時のそれとは異なり、supply shortageにあって、それが齎すインフレ懸念とそれへの対応、つまり、金融政策の如何が問われる状況でしたが、以下経緯に見るように、米FRBの政策の軌道修正を映し欧米共々、金利引き上げに向かいだす様相です。
因みに11月30日、米FRBパウエル議長は、米上院の議会証言で、「オミクロン」の出現が「インフレの不確実性を高める」とコメント。そして、インフレの方向感については両論併記で「雇用と経済活動に下振れリスクをも齎す」と需要不足を示唆しながらも、「人々の就労意欲を減退させ、労働市場の改善の遅れや供給網の混乱を増幅する可能性がある」と供給制約にも言及する処でした。
又、12月4日付、The Economist誌 は、その巻頭言で「dangers ahead」と、以下3点の懸念を表明する処でした。つまり、① 先進国での出入国の管理規制の強化が経済回復の足をひっぱる事、② オミクロンの発生がインフレ助長の要因になるのではとすること,そして、③ 世界第2の経済大国中国の景気後退とそれが齎す世界経済への懸念でした。
・軌道修正に入った米英の中銀
12月15日、こうした観測経緯をたどる中、FRBはこれまでの金融政策の軌道修正を決定。つまり、緩和を続けてきた金融政策、量的緩和縮小、テーパリングの加速を決定。つまり軌道修正ですが、そのポイントは、「資産購入の終了を3か月早める」、「利上げは22年に3回を見込む」とするものでした。(日経12/17)
(注)「量的金融緩和の縮小」とは:毎月の資産購入規模を徐々に(段階的に)縮小し、最終的に資産購入額をゼロにしていく事
12月16日 には英国中銀は利上げを発表。この結果世界の中銀は数十年ぶりの物価上昇への対応に追われる処です。尚、日銀は17日、大規模緩和策の維持を決定。欧米が利上げに向けうごきを強める処、金融政策の方向の違いは円安を招く要因。エネルギーと輸入価格が高騰する「悪いインフレ」を齎す緩和のジレンマに陥る感の強まる処です。 かくして、世界経済の情勢は一挙にnegative な様相に向かうと映る処です。そして、このnegative な状況に追い打ちをかけているのが、もとより「shortage」にある処です。(尤も、12月23日、岸田政府は2022年度成長率(実質)を年央試算の2.2%から3.2%に上方修正しましたが、「オミクロン」感染拡大、米中など海外経済の減速リスクもあり、下振れは避けられぬと見る処です。)
ウイズコロナという事では、この2年余の経験から「禍」のイメージに付き纏われる処ですが、問題の本質はポストコロナに備えて、何をどう取り組むか、つまりコロナ禍で傷んだ経済をいかに立て直し、グローバル経済の秩序をいかに取り戻すかにある処、それは競争力ある経済の再建であり、そのためには如何に生産性を堅持するか、その為にいかに技術革新を進めていくかにあった筈で、グローバルな秩序の再構築が見通せるというのも、そのプロセスにあっての事と思料する処です。
尤も現時点でも「オミクロン株」の特性について詳細には解明されていないこともあり12月3日には、WHOの専門家は、暫し静かに経過を見てくれとするのでしたが、オミクロン株の感染は収まらず、各国での移動制限が続くなかにあっては、その不確実性は経済の見通しに対するリスクとなる処です。(注)
(注)オミクロン拡大:12月16日時点での世界の新規感染者数は約62万3千人で、
この1か月で2割強増えた由(米ジョンズ・ホプキンス大発表)新型コロナウイルスの
デルタ型が流行していたところに感染力の強い「オミクロン株」が広がり始め、「ダブル
サージ(二重の波)に欧米では警戒感が強まっている。(日経12/18, 夕刊)
・テック企業
処で、旧臘12月、広告に煽られて手にした新刊「GAFA― next stage」は、NYU スターン大学院教授、スコット・ギャロウエイ氏が著すもので、前作「Four GAFA」(2017年)に続く作品でしたが、現下の憂鬱な空気をすっ飛ばすばかりとする米テック企業の革新行動が描かれていて、まさにbrain washとなるもので、パンデミックは全てを『分散化』させるとの言辞に惹かれる処でした。医療然り、飲食然り、家で働く事然り(リモートワーク)、と、まさにミクロながら世界の産業構造の変化を目の当たりとする思いでした。
更に、手にした米ユーラシア・グループ社長で国際的政治評論家のIan Bremmer氏はForeign Affairs、2021年11~12月号への投稿論文、`The Technopolar Moment―How Digital Powers Will Reshape the Global Order’ は、要はBig Tech(巨大テック企業)(注)が主導する新たなグローバル秩序、新たな国際秩序づくりの可能性を問うものでした。その発想のきっかけとなったと云うのが、先のトランプ前大統領支持派が起こした米議会襲撃で、テック企業が取った行動が、新たなミッションを感じさせ、以ってグローバル新秩序形成に向いだす可能性を示唆する処と云うのです。いささかの興味を覚える処、その結語に「Ethereum」(P.8)がreferされていますが、更なる勉強が必要と感じさせられる処です
(注)Big Tech (巨大テック企業):世界で支配的影響力を持つ超国家的IT企業群
の通称。具体的には, Alphabet (Google), Meta (Facebook), Amazon, Microsoft ,そして Apple の5社で、GAFAM /Big Fiveとも呼ぶ。
という事で、上述二つの著作は、いずれもdigital transformationが演出する変化トレンドを浮き彫りするものですが、前者はdigital技術も以って当該産業の分散化と云う、新たな構造変化を伝える一方、後者はdigital 技術の高度化を背景とした米テック企業が映し出す新たなグローバル秩序再編の可能性を問うものです。
言いかえれば、前者が描くのが、目のあたりとするミクロベースの産業の変化、一方、後者は、そうしたミクロの変化に対して上部構造として巨大テック企業が主導するグローバル・システムの変化をフォローする点で、これら一元的な変化をイメージする処でした。そこで、2022年、年初論考、第1章では、当該文献中、後者論文にフォーカスし、テック企業とglobal order形成への可能性について考察したいと思います。
・米マッキンゼー報告
加えて、そうした問題意識を刺激するreportが、先11月に、米McKinsey Global Institute
(MGI) から発表されています。タイトルは「The rise and rise of the global balance sheet (膨
張する世界のバランスシート)」です。それは世界の主要国、10か国を取り上げ、企業でい
う財務分析ともいえる手法をとりながら、資産と負債を集計し各国の富がどれくらい生産的に活用されているかを調べたものです。その結果は2020年時点で、正味資産の3分の2が家計、企業、政府が不動産(土地を含む)の形で蓄えられていることが判明したとするものです。 ではどうしてそんな事態になったのか。この現象は今後、どんな意味を持つものなのか、そこで第2章宛て、当該Reportを取り上げることとし、上述論文とも併せて、今後の世界経済の在り方を問う、その視点について考察したいと思います。
尚、最後に、11月末公表された2020年国勢調査結果は、日本の人口減時代入りを鮮明とする処、この結果は、日本経済の今後について、従来の対内、対外への発想、取り組みではやっていけなくなることを示唆する処です。そこで、先の岸田首相の所信表明演説を意識しながら、日本国の行方を考察し、本稿の締めとしたいと思います。
第1章 米テック企業と、Global Order, 新たなかたち
1.変容する米 テック企業
(1)2021年1月6日の米議会侵入事件
この400年と云うもの、Global affairs、世界が対峙する諸問題に向き合う時、その問題解決にあたっては政府がその主役を果たしてきたものですが、今それが変わりだした、多くのテック企業が、地政学的影響力を持つようになってきた、とBremmer氏は強調するのです。
周知の通り、2021年1月6日、ワシントンでは、トランプ前大統領支持者による米議事堂侵入事件が発生、責任者の処罰をと声を上げた中には最も有力な国家機関もあったものの、関心を集めたのは、一般の人たちの思いとは違って、その直後のテック企業が取った行動にあったと云うのです。 つまり、Facebook やTwitter が、トランプ氏のアカウントを一時凍結したこと、またApple ,Amazon, そしてGoogleは、トランプ支持者が利用していたWeb上での金融等、各種サービスを停止し、当該行動に向き合ったことにあって、しかもこれらテック企業の動きの速さは、米国の政府機関の動きとは比べようもない速さにあったことに向けられたと云うのでした。
1月6日の米議会襲撃に対してAmazon, Apple, Facebook, Google そして Twitterが取ったこうした行動は、単なる大企業という事ではなく社会の問題をコントロールし、経済も安全保障など国家レベルの問題をもコントロールする、その証左となったというのです。
同様なことは中国系テック企業、Alibaba, ByteDance,そしてTencentについても云える処、要は、国家とは関係ないテック企業が地政学的影響力を増す処となってきたとするのです。
尚、欧州でも同様な動きはあるものの影響力と云う点では、米国や中国のcounter partnerとはなり得ず、米中間での技術競争の分析でもstatist paradigm、国家と云う枠組みを出ることもなく、軍隊でいえば歩兵の位置づけで、テック企業は単なる政府の手足になるようなことではないと云うのです。そしてこれらテック企業は、グローバルな国際環境を整備し、その下で政府が動く、と云った状況が生れつつあると指摘する処です。
つまり彼ら、米テック企業は、いまや次代の産業革命をも誘導する技術やサービス機能に絶大な影響力を持つようになってきており、国家ベースのプロジェクトや軍事力を決定する手法を身に付け、彼らの仕事は、将来的経済社会の ‘かたち創り’ に向かい、社会的契約の書き換えをも行う力をも持つようになってきたと云うのです。 そして、こうしたテック企業は、いまや国家に匹敵する存在と化してきており、digital space、デジタル空間と云う領域にあっては、まさにa form of sovereignty、 独立国家における主権者然と行動し、更には、持てるパワーの行使については自制を図りながらも地政学的競争に対峙し、外国との諸関係を維持し、時に地政学的要素にも対処する処と云うのです。かくして、1月6日の議会襲撃事件こそは、テック企業が国家を超え、地政学的影響力を身に付け、行動し始めるきっかけとなった事件だと云うのですが、今、巨大テック企業について国家同様な存在と思われだしていると云うのです。
(2)地政学リスクに与するテック企業
と云うのも、もはや国家を超えた広がりにおいて、いうなればデジタル空間ながらまさに主権国家的に行動を展開しており、地政学的競争要因をも持ち込み、既に外交関係を維持し、そのためにshare holdersとの協調を維持しているというのです。更に彼らには、政治学者とは違って、地政学的行動を促す幅広い思考様式にあって、それこそは globalism, nationalism,そしてtechno-utopianism(注)の三つのカテゴリーを以って巨大テック企業はglobal affairsと対峙するようになっていると云うのです。
(注)Techno-utopia:目指すはあらゆるものがインターネットと繋がる社会創造。尚、英語版Wikipediaによると;Technological utopianism is any ideology
based on the premise that advances in science and technology could and should
bring about a utopia, or at least help to fulfill one or another utopian ideal.
そして、これら三つのカテゴリーが示唆することは、Internetが細分化される中、テック企業は国家の目標や国家の利害関係に貢献していく事とするのか、あるいはBig Tech が政府のコントロールから完全に脱しデジタル空間での支配権を取り込み、国家の枠組みを超え、自由に、真のglobal forcesに転じていくのか、或いは国家支配の時代が終焉に至り、そこでは国家が果たしてきた役割についてはtechno elite他がそれを補っていく世界へと進むこととするのか、選択的に前進していく事になろうと云うのです。
尚、今日のテック企業には地政学的影響を回避できる要素を備えているという。一つは、テック企業は実際の現場で動くことはなく、デジタルと云う空間を通じて、政府にはできない地政学的広がりをこれまでも進めてきたという事。 もう一つは、テック企業は今日の急速に進むdigitizing economy、つまり製品の複合的取り扱い、サービスの複合化、そして情報流を活かした経済活動を続けているという事、にあるとするのです。 具体的には4つの企業、Alibaba, Amazon, Google and Microsoftについていえば、彼らはクラウドをサービス基盤としで世界の需要に応えている。そして、伝統的な産業の将来は、5G Networks, AI やIoT(Internet -of-Things)を活用して新しい機会を追求していく事になるとするのです。とは云え、Internet companies や financial service providerは 既にクラウドベースのインフラに依存して動いているのが現実です。
2.デジタル世界の進化
(1)テック企業の進化の方向
現在、digital space, デジタル空間 を巡る規制について、テック企業と政府間で、いろいろ交渉が進んでいると言われていますが、米中の巨大テック企業についていえば、将来的には、以下3つのいずれかの地政学的環境の下で、競っていく事になると云うのです。
その一つは、国家という枠組みの下、大企業は経済の勝者ながら、当該国に支えられる形で進化する環境にあって、政府は、安全保障を担保し、規制問題、公共財について行政的に統治することし、因みにCOVID-19 pandemicや長期的脅威ともされるclimate change 等、systemic shocks に応えていくという姿。二つ目は、デジタル空間においてはとにかく政府の管理から脱し、グローバル化を進めるというもので、国家によるコントロールから離脱し、独自に活動する姿、そして三つ目は、国家と云う概念はもはや消えtechno-utopia、テクノ・ユートピア へと進化する、と云う三つの姿を想定するのです。が、三つ目のユートピアについては、IT音痴の筆者には依然H.G.オーウエルの世界と思うばかりです。
(2)デジタル新世界
さてInternetの進化は、以前までは基本的にはグローバル化を推進し、1990年代の経済学、政治学の変化を促すものとされていました。が、デジタル時代こそは情報の自由な流れを担保するものと多くは期待し、同時に、いわゆる ‘歴史の終わり’ から逃れ難い権威主義者の抵抗に向き合い、挑戦してきたが、その状況はいまや様相を異にする処だと云うのです。
つまり、デジタル・パワーが今では、ごく一部の大テク企業に集中する中、米中相互の競合干渉が進み、更にEUを中核とした欧州のブロックも加わって、デジタル世界は分断の様相を呈する処、世界最大のテク企業は、長期化する米中競合問題で、いかにグッド・ポジションを取るか、今、評定する処と云うのです。もとより米国にとって重要なことは、地政学的問題で、中国のテック企業(techno-authoritarian rival)に取って代わられることだけは避けたいとする一方、中国のtop priorityは、経済的にも技術的にも、自由民主主義諸国の協調体制が拡大する前に、自立することにあるとするのです。
ただ、米Big Tech企業は、政府間での安全保障問題が複雑化することにならないように、自分たちの問題に絞り、慎重に行動する処ですが、米中競合関係の高まりは、両国関係の溝を深めるばかりで、その点では、これら企業には先を見越した果敢な取り組みが求められると、云うのです。しかし、米中間の競合関係が進行する中では、その溝は深まる一方、今や彼らは、それへの対抗として、自身の影響力を戦略的に行使する処だと云うのです。
そして米国のglobalistsは、アジアの巨大企業や欧州企業は中国市場で、その存在感を高め、そして米国が被る被害は高々、米企業が世界最大とされる中国市場からの退出を余儀なくされる事だと云うのですが、政府がコストを先取りして、国の安全保障上のボトム・ラインを、それまでの安全保障を上回るレベルに設定するようになれば、パンデミックや気候変動と云った超国家的緊急問題にかかる米中協調が阻害されることになると、議論を呼ぶ処、その一方で、中国のglobalistsは、中国共産党の高成長持続力の如何は中国国内での正当性にかかる処、要はCCP(Chinese Communist Party)、中国共産党政府が高成長を維持し続け、中国をグローバル・イノベーションの中核ハブにしうるかにかかる処と云うのです。
・Brave new digital world とはEthereum
更に次に来るテクノ・ユートピアとは、あらゆるものがインターネットと繋がる姿で、通常、各国のチャンピオン企業とグローバル企業が競って、政府の政策を創り上げていくのに対して、テクノ・ユートピアンは、伝統的企業と分散型プロジェクトを活用して、デジタル空間で新たなフロンテイアを開発する、あるいは、現実を超越するような新たなアプローチを開発していく、まさにEthereum(イーサリアム)に象徴される世界をイメージするのです。
(注)Ethereum(イーサリアム):「分散型アプリケーション(DApps)」や「スマー
ト・コントラクト」を構築するためのプラットフォームの名称、及び関連するオー
プンソース・ソフトウエアー・プロジェクトの総称。 当該構想は2013年、カナ
ダのウオータールー大在学中の学生、ヴィタリック・ブテリン氏により示されたも
の。尚platform内で使用される仮想通貨をイーヨ(ETH)と云う。
但し、こうした変化を目指すことは、国民国家の終焉とか、政府の終わりとか、国境の消滅と云った姿を、将来的に求めていく事でもなければ、こうした事態を予想する理由もないが、ただ、巨大テック企業については、チェスボードの上で動くpawns、ポーンとなって語り続けるのではなく、彼らは地政学的存在へと変質していく事を理解していく事とするのです。 そして米中の競合関係がグローバル問題の中心にあって、ワシントンと北京の行動は如何にあるべきか見極めていく事になるであろうこと、そして地政学的パワーのあり姿への理解をよりupdateしていく事で、brave new digital worldを構築いていけるとするのですが、さて筆者には、上述Ethereumと併せ、いささか夢心地となる処です。
第2章 米McKinsey Global Institute(MGI) 報告書
―「The rise and rise of the global balance sheet」が問うこと
1. MGI Report概要
当該レポートは、企業のB/Sの考え方を借り、世界のGDPの60%を占める10カ国(豪州、カナダ、中国、仏、独、日本、メキシコ、スウエーデン、英国、米国)の資産と負債を集計し、副題とした「How productively are we using our wealth?」に照らし、各国の富がどれくらい生産的に活用されているかを調査し、その結果を教訓として、今後の合理的な経済運営に向けた提言を目指す云うものでした。 そして,家計、政府、銀行、非金融企業が保有する実物資産と金融資産、負債を計算した結果、2020年の時点で正味資産の2/3が家計、企業、政府が保有する不動産(含む土地)の形で蓄えられている事が判明したと云うのです。
・国富で世界首位は中国
尚、2020年の世界全体の純資産は510兆ドルで2000年の約3倍に膨らんでいて、国別では中国は120兆ドルと同17倍に拡大、そしてシェアは中国が首位の23%で、米国の17%,
日本の7.7%と続く処です。中国の国富は13年に初めて米国を抜き、20年には米国の1.3倍に達しています。中国の純資産が大きく増えたのは、不動産市場の過熱が背景にあると云うものです。
今の時代、上述、デジタルばかりが注目される処ですが、かくして資産は依然として実物資産が圧倒的価値を持つという事を意味する処、Financial Times のRana Foroohar氏は11月15日付 同紙 で「The oldest asset still dominates modern wealth」、つまりデジタルばかりが注目される時代にあって、資産は依然として実物資産が圧倒的価値をもつ処と評する処です。そして当該報告書は8名からなる執筆陣により書かれていますが、彼らは低金利があらゆる種類の資産の価格上昇、中でも不動産価格の上昇に決定的な役割を果たしたとみているようだともコメントする処です。加えて土地の供給に限りがあることや市街地規制、住宅市場の過度な規制も価格を押し上げる要因となっているとし、これらが重なって20年の10カ国の住宅価格は平均して00年の3倍に達しているというものです。
さらに、悩ましい問題として浮き彫りされるのが、現在の正味資産価値のGDP比が長期平均を50% 近く上回っている事ですが、世界的に見ればこれまで資産価値とGDPは、一部の国に乖離はあるものの、同調的に推移してきています。ところが今や富と成長は完全に切り離された状況にあるというものです。
この事は今日のポピュリスト政治家には市民の怒りをあおる好材料となっている処です。特に現在20代後半~30代前半のミレニアム世代にとって、手ごろな価格の住宅の供給は切実な願いとされており、彼らはこれまでの世代のように人生の早い段階で家を持つことができないため、家族を持てずにいます。勿論、この状況は消費にも逆風です。つまり家財とされるものへの需要が停滞し、しかし多くの人が家を買えないことで家賃の高騰に拍車をかけているとされる処です。このことは、我々が1970年代経験したようなスタッグフレーションに突入するのではないかという最近の懸念を裏付ける処ともされるのです。
こうした事態が起こっている事情も、前述の富と成長が完全に切り離された大きな原因は膨大な資金が不動産に流れたことにあるように、問題を別の側面から見れば経済的にもっと生産的な部門に十分な資金が投じられていないという事を意味するわけで、つまる処、富の不動産への偏在をどのように是正するかが今後の大きな課題となる処です。
2. 富の不動産偏在は世界的問題
ではどうしてこんな事態になったのか。再び上掲Financial TimesのForoohar氏の言説を借りながら考察します。
まず、2000年に150兆ドルだった正味資産(net worth)は2020年に500兆ドルに達していますが、その増加分の約4分の3は資産価格の上昇によるもので、balance sheets上、資産の増大に占める貯蓄と投資の比率は28%に過ぎませ。この事が意味することは、インフラ、設備機械さらにintangibles(無形資産)などへの投資こそが、実際には生産性の向上やイノベーションに繋がることを考えると、過少投資であり深刻な問題と云うものです。因みに、実物資産合計に占める非不動産の比率(non-real estate assets made up a lower share of total real assets)は、中国と日本を除く8カ国では20年前より下がっている事。しかもデジタル取引や情報のフローがこの期間、飛躍的に増大しているにもかかわらず、正味資産に占める無形資産の比率は4%に過ぎない点が構造的には問題と映る処です。
この点について「無形資産を保有しているのはほとんど企業で、その価値は社会にとっては長く続くものかもしれないが、企業にとっては陳腐化と競争により急速に下落すると考えられているから」ではと、するのです。つまり、ソフトウエアーなどの無形資産は次々に新しいものを出し続けなければならないからでしょうが、要は、21世紀の富が依然として人類最古の資産クラスである不動産と云う形をとっていることに驚きを禁じ得ない処です。
ではこの事実から学ぶべき教訓は何かですが、Foroohar氏は次の3点を挙げる処です。
第1には、低金利が企業の設備投資に貢献していないことが益々明らかになったという事。
第2には、ポストコロナを見据えた大規模な政府支出計画は、資金をより生産的な部門へと導く可能性であって、これは経済を元気づける見通しとなること。そしてそうなれば最終的に富と成長は再び同調して動くようになる事。第3には、手ごろな価格の住宅の供給は現時点で最も喫緊の経済的課題と。ポストコロナ時代には技術の進歩により移動方法や働き方の柔軟性が高まり、住宅市場の圧力はいくらか緩むかもしれないと。尚、不動産についても高騰した資産価値に対してだけでなく、その所有者の収入も勘案して年金生活者が割を食う事のない形で課税する方法を検討すべきで、住宅問題を解決しない限り、世界のバランスシートの均衡は回復できないと、する処です。
さて、日本経済もそうした企業経済の上にあって、今後の行方は如何、です。さて岸田首相は新しい資本主義、「分配と成長の好循環」の姿を描く処ですが、具体的にはどのような運営となるのか、次項「おわりに」では、岸田首相の施政方針演説(12月6日)をも踏まえ、日本が抱える課題について考察しておきたいと思います。
おわりに 2022年、日本の行方を問う重大テーマ
1. 人口減国家、日本の行方
11月30日、総務省が公表した2020年日本の国政調査確定数値は、そうした思いを駆り立てる処です。2020年の総人口は1億2614万6099人。この数字は5年前の調査から94万8646人の減少で、総人口の減少は2調査連続となるものです。このうち経済活動の主な担い手となる生産年齢人口(15~64歳)は7508万7865人、5年前の前回調査からは226万6232人の減少となるもので、ピークだった1995年の8716万4721人に比べ13.9%の減少で、この生産年齢人口の減少は日本経済の足かせとなる事を示唆する処です。
因みに、2010年代は景気回復などで女性や高齢者への就労は増え、人口減を補ってきたのですが、その間の企業内の合理化等、雇用制度の変更が進み、女性や高齢者の就労拡大にも限界も生まれ、生産性を高めなければいずれ生産年齢人口の減少の影響を補えなくなる事が指摘される処です。従って、人口減時代の成長は、一人ひとりの能力を高め、規制緩和にも取り組み、生産性をどう押し上げるかにかかるという事になる処です。
つまり、人口減が示唆することは、日本経済のこれからのカギは生産性にありとする処、それは人口知能(AI)など先端技術の活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて生産性を上げなければ根本的な成長に繋がらないという事です。
12月6日、岸田首相は施政方針演説で「デジタル田園都市国家構想実現会議」や「デジタル臨時行政調査会」に触れながら、社会全体のデジタル化を推進し、地方の人口減少や高齢化などの解決につなげると唱えていますが問題はその実行です。
因みに、内閣府試算によると、働く人や労働時間が増えた事による2010年代の平均的な経済成長率(潜在成長率、年平均0.7%)の押上効果はゼロポイントに留まり、1980年代の労働による押上は年平均で0.7ポイント、と対比される処です。となるとこの差をいかにカバーするかですが、人口知能(AI)など先端技術の活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて生産性を上げなければ根本的な成長に繋がらないという事です。
・人口減を日本の先進的構造改革へのトリガーに
ただ、日本では人口減に対応する無人技術にも制度の壁が邪魔をする処です。例えば、
人手不足に悩むコンビニ業界はデジタル機器や遠隔で確認する技術の進歩を踏まえ、無人店舗で酒やたばこの販売を円滑に行えるよう規制緩和を求める処、小規模な工事でも現場に管理者を置かねばならないと云った規制も見直しを促す声のある処です。更に生産性の高い業種に人材をシフトさせる政策も不可欠です。その為には終身雇用を前提とした雇用制度の見直しも必要となる処でしょう。 つまり今回の調査結果、少子高齢化が一層鮮明となり、更に中長期的に労働力不足も指摘される処、これを機会として産業の新陳代謝や労働市場の流動化を促進し、技術革新や生産性の向上につなげる政策に徹すべきで、「規制改革」こそは、その一丁目一番地です。この点、今一度、成長戦略の練り直しを期待する処です。
2.The Economist誌 アドバイスを抱いて
先週届いたThe Economist (December 11)では、‘The new era‘ と題し、日本特集を掲載する処でした。その構成は,① Foreign and security policy: Into the world, ② Climate policy: A chequered record,(市松模様) ③ Tokyo :The big city, ④ Demography : The old country , ➄ The economy :Stronger than many realize, ⑥ Looking ahead:The future , の6節からなるもので、「令和」という時代の日本の現状と課題を分析するのでした。そして、これまでも指摘されてきたような、変わらない、或いは、変われないと云われてきた、その日本の現状を分析し、もはやNumber One ではなくなった日本だが、still has plenty for the world to learn fromと、今日の日本を再評価するのでした。
しかし、同じ号の巻頭言は、「What would America fight for – If the United States pulls back, the world will become dangerous」 と問う処、要は米国に頼れない世界に備えよと、檄を飛ばすのです。実はこの点こそが、新年2022年 の重大なテーマと気の引き締まる処です。
さて末尾ながら、新年2022年も読者諸氏にとって、佳き年であらん事、祈念する次第です。 以上 (2021/12/26)