― 目 次 ―
はじめに いま供給制約下のグローバル経済
第 1 章 グローバル経済は今、shortage economy
第 2 章 習近平氏の「歴史決議」と、米中首脳協議
おわりに 「行政の独裁」と「新しい資本主義」
[ 別紙 ] [Outlook] 先進国経済、Today & Tomorrow
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はじめに いま供給制約下のグローバル経済
今年もあとひと月を余すばかりとなりました。そこで今回は、まず、来年の行方を探る手立てとして、10月末から11月にかけて出揃った各国経済指標を手元に置き、日米欧、先進国経済の現状、実情について別紙 [ Outlook ] (P.12)に整理してみました。(尚、中国については本稿 第2章に委ねることとします) かくして各国は経済の正常化を目指す処です。が、実は今、グローバル経済は供給不足と云う異常な事態を露わとする処、それは「Outlook」に映しだされる「人手不足」という新事態です。
新型コロナウイルス禍から2年、今、新たな新型コロナウイルスDeltaの広がりもあって、
各国はコロナ防疫の為、厳しい水際戦略、border controlやquarantinesを敷いてきた結果、
内外企業の現場は移入労働者の不足を託ち、結果としてsupply channelの断絶もあって、
消費者需要に応えていくのが難しい、つまり世界的なモノ不足状況が起きているのです。
例えば半導体等、部品調達を台湾に依存している電子製品の供給不足もその典型ですが、な
かでも問題はエネルギーです。産油国は需要動向を見極め、政治的市場対応を目指すなどで
生産をcontrolする動きがあり、足元ではガソリン価格の急上昇が進み、インフレ懸念が高
まる処、11月17にはバイデン米大統領もガソリン高への監視強化を指示する処です。
かかる状況を10月9日付The Economistは、「shortage economy」と題し、 ‘A new era of scarcity threatens global prosperity’、 Scarcity (モノ不足)が現下のグローバル経済の成長を脅かすと評し、そのsupply shortageの背後にある圧力要因としてdecarbonation(脱炭素)、protectionism(米中対立)の二つを取り上げ、それへの取り組みを強く促す処です。
そこで、本論考では、このshortage economyにフォーカスし、その実状と行方についてCOP26での討議とも併せ、論じることとし、また後段では今後の世界の行方を規定することにもなろうかとも云われる習近平氏の「歴史決議」(11月12日)、それに続く米中両首脳による協議(11月16日)を取り上げ、今後への影響について、又、日本では岸田第2次内閣の発足(11月10日)を見たこともあり、併せて「おわりに」で論じることとします。
第1章 グローバル経済は今、Shortage economy
1. 検証:Shortage Economyの実状
(1) Shortage 問題の所在
Shortageの実状については前段でも触れたように、コロナ禍で傷んだ経済の回復を図るため、財政による消費需要の回復、景気の回復を目指してきた結果、漸くその回復にメドが立つ処ですが一方、供給サイド(生産)の現場はとなると、コロナ禍で投資活動は停滞、更に雇用機会の減少で働き手不足を余儀なくされ、加えて、global supply chainの寸断が進む結果、物資が効率的に回らず, 従って供給不足、モノ不足による需給のインバランスが生じており、グローバル経済は今、shortage economyにある処です。
前掲The Economistは、そうした状況を生む圧力がdecarbonationであり、 protectionism にあるとするのですが、 そこで筆者としては、その視点を戴きながら、対象となるproducts(製品)とmarkets(価格)の生業、更に地政学要因を切口にして、supply shortageの実状と課題について考察することとしたいと思います。
① Decarbonation(脱炭素)とshortage(供給不足)
今、世界は、地球環境の保全を人類最大の目標として脱炭素対応、つまり温暖化を進めるCO2を排出する化石燃料(石油、石炭)の使用を止め、その代替として「再生可能なエネルギー」へのシフトをと、キャンペーイン中です。もとよりこれは国際公約です。
ただ、資源(化石燃料)産出国にとって、多くは開発途上国であり、資源開発は国家財政との関係もありで、簡単には脱炭素対応とはいきません。脱炭素には膨大なコスト、更には高度な技術も必要で、先進国からの資金等、支援なくしては進み得ません。勿論支援側の先進国でも同様の事情にある処、脱炭素に向かうにしても国内産業との関係もありで、中々進捗を見ることはありません。とはいえ、化石燃料への需要が先細りの様相にあっては、産出国は価格維持のため生産をcontrolする姿勢にあって結果は、供給量は減少状況にあるのです。
・米メジャーと「OPECプラス」の市場(価格)行動
具体的には米メジャーの場合、環境対応に関心の高い金融機関の圧力で、採算や環境を重視するようになり、かつてのように相場が高騰しても、すわ増産とは動かなくなってきているのです。そこに8月29日の大型ハリケーン「アイダ」の影響で、米国では想定外の減産を強いられ、その結果が原油価格の引き上げとなったというものです。
そして、この背景にあるのが旧来のOPECにロシア等を加えた「OPECプラス」による協調減産です。10月4日の「OPECプラス」の会合では、 毎月日量40万バレルずつ減産を縮小するとした従来方針を12月も維持することが再確認され、原油相場を押し上げる処ですが、現状は経済の正常化で需要が世界的に回復する中、産油国は2020 年5月に始めた協調減産の下、生産規模を縮小しながら続けており、原油は世界的供給不足にある処です。
後述の「COP26」では、脱炭素化の推進をとりわけ先進国に求める一方、産油国は市場への影響力を維持せんと石油の産出量をcontrolする方向にあり、そうした市場対応が原油価格の高騰を生む処でもあるのです。 尤もこの結果、モービルやシェブロンなど石油メジャーの業績は急速な回復を示し、因みに10月29日公表の21/7~9期決算では最終損益は前年同期比で、いずれも大幅な黒字でキャッシュ・フローも潤沢となったと報じられる処です。
② 世界的天然ガス需給逼迫と、欧州と中国の脱炭素行動
もう一つ、供給面での不安要因となっているのが、世界的な天然ガス需給の逼迫です。その事情は、天候異変で欧州の風力発電、中国での水力発電が停滞するなか、ロシアが欧州向けの天然ガス供給を削減した結果ですが、これには中国の脱炭素化が関係しての話です。
まず欧州では、再生エネルギーへのシフトの一環として、ロシアからの天然ガス輸入を計画中でしたが、米ロの対立が高まり中、ドイツの対米配慮もあって当該プロジェクトは頓挫し、従って欧州では地域的地政学リスクを託つ形で供給不足を余儀なくされ、実際、10月はじめには天然ガスの価格は60%も跳ね上がりでnatural- gas panicの様相を呈する処でした。
(注)欧州では、化石燃料の石炭から再生可能エネルギーへの転換は、天然ガス供給
の確保問題となっていて、具体的にロシア国営ガスプロムが建設するガスパイプラ
イン「ノルドストリーム2」を経て欧州(ドイツ)への供給が計画されていた処、19
年12月に米国の制裁対象となったこと、またロシアは欧州の天然ガス市場のシェ
アーを巡っても激しく対立し、スムースなガス供給は困難な状況にあるのです。
そこに加わるのが、中国が進める厳しい環境対応規制の影響です。中国では石炭発電に対して販売価格に制限がかけられており、石炭発電での増産は難しく、そこで電力会社は天然ガスでの発電にシフトしています。が、天然ガスの供給が満たされぬ状況にあって、その余波が欧州にも及び、加えて中国の買い占めもあって、欧州に天然ガスが廻りにくくなってきているのです。既に、輸送費も部品も値上がりをきたす処、その点、欧州では、脱炭素対応が供給不足の原因とされる処です。
かくして、中国では石炭、欧州では天然ガスが原因となってエネルギー危機が生じつつあるとも伝わる処です。今の処、日本ではエネルギー危機は発生していませんが今後、「世界の工場」とされる中国の生産制限でITや家電製品などの価格が上昇し、欧州の天然ガス価格の上昇と連動する形で液化天然ガスの価格上昇が懸念される状況ですが、既に来年初の電気料金引き上げが話題に上る処です。
(2)Protectionism (米中対立による供給網の分断)
次に、shortageを生む背景として指摘されるのが近時深まる保護主義の動き、とりわけ米中対立の動きです。つまり、米中の貿易対立は関税政策に映る処、これがeconomic nationalismに呼応する形で進むことで、供給網の分断が進み、更にshortage economyを誘導するものと見る処、とりわけ米中の技術覇権競争が世界を二分し、グローバル企業の調達戦略を狂わせてきており、この結果が価格高騰を誘引する処となっている点で、従来の貿易政策が、いわゆる経済の合理性に照らし進められてきたのとは様相を異にする処です。 勿論、バイデン政権にとって、グローバル化対応での問題は対中貿易の正常化です。が、米中間でのあらゆる協力が、今、滞ったままにあることが問題と指摘される処です。
尚、貿易交渉と云う点では、懸案の鉄鋼とアルミニウムに課す追加関税について、バイデン政権は10月30日、その一部を免除することを決定、EUも報復関税の取り下げを決定。トランプ前政権下で始まった米欧貿易摩擦を巡り、双方が「妥協案」で合意、当面は関係修復を優先させると伝えられる処です。又、日本も同様、米国の対EU関税政策に照らし、鉄鋼とアルミに課している追加関税の撤廃を要請。11月15日,来日したジーナ・レモンド米商務長官は、その直前の記者とのインタービューでは当該追加関税問題の解決に意欲を示しており、トランプ政権とは異なり、同盟国との協調を標榜してきたこともありで、日米間にかかる問題の早期解決の可能性が出てきたとされる処です。(日経、11/05)
2. COP26(脱炭素)とグローバル経済の行方
(1) C0P26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)
11月13日、英国グラスゴーで開かれていたCOP26会議は「グラスゴー気候合意」を採択して幕を閉じました。今次、COP首脳級会合は「パリ協定」(温暖化防止の国際枠組み)を採択した2015年の第21回会議以来6年ぶりとなるもので、2日間の首脳級会合では、100以上の締約国の首脳が、揃って脱炭素対応計画について演説するものでした。
尚、「パリ協定」とは気温上昇を産業革命前から2度未満、できれば1.5度以内に収めることを目指す。一方、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2度未満にするには2030年時点の温暖化ガス排出量を10年比25%減、1.5度以内に抑えるには45%減にする必要があるとするものです。そして、今次COP26は、これまでの地球環境問題への取り組みを、これまでの協議を踏まえ統合整理して新対応戦略を示していく事とするものでしたが、さて、その成果は如何に、です。尚、主要国首脳の演説概要は下記(注)です。
(注)今次COP26での主要国首脳の発言概要:
・ジョンソン英首相(議長国):「世界は願望から行動に移らねばならない」とし、25
年迄に気候変動分野の支援を10億ドル増額する(これまで116億ドルを約束)と。
・バイデン米大統領:「私たちに残された時間は少ない。この10年が決定的に重要で、
未来の世代を決める10年だ」と強調。24年迄に途上国への金融支援を4倍に。
・メルケル独首相:「先進国は特別な責任を負っている。途上国の排出減促進のため
1000億ドルの資金提供を約束する」と。
・モデイ印首相:2070年までに、温暖化ガス排出の実質ゼロを目指すと表明。インドが
排出ゼロ目標を示すのは初めて。(日経11/2)
・習近平中主席:(書面で声明書を発表)先進国は自国の気候変動対策だけでなく「発展
途上国が対策をより良く実施できるよう支援すべき」とし、60年までにCO2排出量
の実質ゼロ目標を掲げる。
[CO2排出量ゼロ目標年:先進国:50年、中・露・サウジ:60年、印:70年]
序で乍ら、CO2最大の排出国、中国の習近平氏は欠席でした。(排出量世界比、中国:28.4%,米国14.7% 、2018年IEA/環境省資料)これにはバイデン氏は強く批判する処、Financial Times,9the NovでもGideon Rachman氏は「Isolated China is a concern for us all」と題し、習氏の欠席は、国家的な自主隔離(China’s zero-Covid policy)の一環かもしれないが、そのことが、中国国民にかかる影響は重大と、批判する姿は極めて印象的でした。
上記首脳の演説はいうなれば、脱炭素でエネルギーシステムの移行を急ぐ世界の姿とも映る処ですが、COP会議直前の10月25日、国連事務局が発表した報告書は、上記各国が提出したCO2削減目標では、パリ協定の目標を実現するには不十分、一段の対策が必要と指摘する処でした。1992年、IPCCが提示した「気候変動」「生物多様性」への対応を進める趣旨を明記し、スタートしたCOP会議、今次COP26の最大の狙いは「パリ協定」の目標達成に筋道をつけることとされていましたが、さて、その道付けはできたのでしょうか。
(注)国連、地球温暖化対応を取り上げてきたこれまでの主要会議
・第1回 締約国会議 (COP1) 1995年 独ベルリン、合意「Berlin Mandate」
・第3回 同上 (COP3) 1997年 京都議定書(温室効果ガス削減)、採択
・第21回 同上 (COP21) 2015年 フランス・パリ 「パリ協定」採択
・第26回 同上 (COP26) 2021年 英・グラスゴー
・Glasgow会議合意書
COP26が13日、採択した成果文書「グラスゴー気候合意」(注)では、最大の焦点だった石炭火力発電の利用について、当初案の「段階的廃止(phase-out)」から「段階的削減(phase-down)」に、又、産業革命前からの気温上昇は1.5度以内に ‘抑える努力を追求する’ と聊かトーンダウンの様相にあって、Financial TimesのNewsletter「Moral money」11月17日号では、当該合意書は急速な脱炭素を求める内容でなかったため、信用リスクの押し下げ圧力は「穏やかで、対応可能な水準にとどまった」と結論付けてはいたのですが、これで当初の狙いが達成されたというのでしょうか.
(注)合意文書のポイント
・気温上昇を1.5度に抑える努力を追求
・必要に応じて22年末までに30年の削減目標を再検討
・排出削減対策の取られていない石炭火力の段階的削減へ努力
・先進国から途上国に年1000億ドルを支援する。20年までの目標未達は深い遺憾。速や
かに達成を。
・因みに、Oct.30~Nov.5, 2021のThe Economist誌は、表紙を日光東照宮の ‘3匹の猿’ をペンギンに代え「見ざる」、「聞かざる」そして「口きかず」のペンギン三態の像を掲げ「COP-out」と評する処でしたが, とりわけその締めの言葉は以下の通りで、強烈と云うものです。
「もはや化石燃料への幻想を捨てるべきだ。その時代は終わった。インドのモデイ首相、豪州のモリソン首相、更に米上院議員、Joe Manchin氏も一切、化石燃料時代の終焉を語ることがなかった。勿論、石油もガスも一晩ではなくなることはない。しかしその役割は終わり、それに代わるエネルギーを開発し、明るい世界を目指すべきだ。彼らにはこれまで指導してきた点で、その責任がある。化石燃料時代では決し創り出すことが無かったnoble futureを誘導することだったが、COPはその使命を終えた。もはやCop-out、お呼びでない」と。
(2) `shortage economy ‘ そして ‘ 脱炭素 ’ に思うこと
現下で進むshortageとは、一言で言って需要に応えうる供給力の無さにあって、そのsolutionは、上述 decarbonization、globalizationへの対応の如何と総括される処、いずれも国際協調が基調になるものと思料するのです。資源を持たない、従って国際協調を生業としてきた日本には、今こそは「頑張り処」ではと思うのです。つまり「外交力」です。
前述の通りオイルについていえば、「OPECプラス」が追加増産を見送ったことで需給逼迫が続き、原油相場は高止まりを続ける可能性があります。勿論 原油高はコロナ禍から経済回復を急ぐ消費国には重荷となる処、産油国と消費国が供給安定で協力し、双方が納得する価格水準を探る必要があるのではと思料するのです。
ただ世界のリーダーが集まり脱炭素を話合うさなかに、産油国に増産を求めるのはどう見てもちぐはぐに映る処です。それだけ原油高は脱炭素の厳しさを示している事の証左とも思料するのですが、それは長期で描くカーボンゼロの未来と、足元で起きている需給逼迫には密接な関係があるという事でもあるものと思料するのです。 とすれば、再生可能エルギーへ転換を図るまでの数十年の移行期こそ、化石燃料への投資を着実に確保し、供給を安定させていく配慮が必要ではと思料するのです。もとより産油国と消費国の対話もより重要となる処、消費国間の連携を深めていくのも重要です。これこそは「外交力」に負う処、日本こそはこうした役割の果たせる位置にあるのではと思料するばかりです。
第2章 習近平氏の「歴史決議」と、米中首脳協議
1. 「6中全会」と、習近平氏の「歴史決議」
(1)「歴史決議」採択
11月8日から北京で開かれていた中国共産党「第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)」は11日、「歴史決議」を採択して終わりました。中国共産党の最高意思決定機関は党大会にあって、開催は5年に一度とするものです。そのため5年間に7回程度、中央委員と呼ばれる約200人の党幹部が集まり、党トップの習氏が示す方針や人事案を了承する体制を取っています。さて、今次6中全会では「毛沢東」時代、「ト小平」時代に続く「習近平」時代として、共産党にとって3度目となる、結党100年の歴史と成果を総括する「歴史決議」でしたが、採択された内容は3部構成で成るもので、その概要は、以下次第です。(全文:日経11/13)
まず、1度目の歴史決議は、毛沢東が1945年、それまでの党の歩みと誤りを総括して幹部に反省を迫り、党内で絶対的な主導権を確立した「若干の歴史問題に関する決議」とするもので、毛時代を「半植民地の歴史に終止符」を打つものでした。
次に、2度目については81年、ト小平が指導して起草した「建国以来の党の若干の歴史問題に関する決議」です。毛沢東が66年に発動し10年間に亘り中国全土を大混乱に陥れた「文化大革命」を否定し、市場経済を取り入れる「改革開放」を後押しした事で、「特色ある社会主義建設」の時代とし、毛時代への決別とト時代の幕開けを打ち出すものでした。
そして、3度目となる今次歴史決議は、過去2回とは異なるもので、党の過去の歴史を肯定したうえで、習氏が主導する新しい時代の到来を強調する内容で「21世紀のマルクス主義」を目指すとするのでした。
そして、最後に、「党の指導の堅持、人民至上主義の堅持、理論刷新の堅持、独立自主の堅持、中国の道の堅持、天下を胸に抱くことの堅持、開拓革新の堅持、勇敢な闘争の堅持、統一戦線の堅持そして、自己革命の堅持」の10項目を長期的に堅持し、新時代の実戦の中で絶えず豊かにし、反転しなければならないと、次の百年に向けての決意を語るものでした。
要は、歴史を総括して今後の方針、つまり、2035年までに国家として近代化を果たすとする処、時の指導者の権威を高めるための一種のセレモニーではと見るのですが、要は、一党独裁を容認し、自己批判を繰り返すことで中国式民主主義を確実とするものと見る処です。
(3) 中国経済の現状
さて、今次の「歴史決議」が採択されたことで来年には、習近平氏の異例ともなる総書記3期目の実現がほぼ決まったと伝えられる処ですが、習指導部が発足して9年間の中国GDPはドルベースで1.7倍、米国の7割に達する処です。又、中国がWTOに加盟して、12月で20年を迎えますが、この間の貿易総額は9.1倍に拡大 、2.8倍だった世界貿易の拡大ペースを遥かに上回り、しかも輸出品目も加盟当初の労働集約的な衣料品などが主力にあったものの、最近ではパソコンやスマートフォンの出荷も伸びており、WTO報告によれば世界貿易に占める中国の比率は、2001年次の4%から20年には13%に達する処です。
ただ足元での問題は格差問題いまだ縮まらずで、日本の岸田政権同様、習氏は成長と分配の両立に苦慮することになるのではと思料する処です。いずれにせよ経済政策は社会主義の色彩を強めていく事となり、その軸は、国内の所得格差を縮める共同富裕の推進に向かうものと思料されます。同時に習近平氏への権力集中が進むことで、政治、経済、社会の急速な変化が中国、そして世界に与える影響とリスクに十分、注意を払う要ある処です。
・景気の現況
尚、10月18日、中国国家統計局が発表した7~9月のGDPは、前年同期比4.9%増でしたが、4~6月の実績7.9%に比して大幅減速で、これについては、素材高に因る収益悪化で企業の投資が伸びず、新型コロナウイルスの感染再拡大を受けた移動制限が消費を抑え込んだ結果とされており、10月31日発表の10月の製造業景気指標(PMI)でも49.2で前月より0.4ポイントの低下で、中国景気の停滞感の強まりが伝わる処です。つまり、雇用など構造問題が顕在化し、原材料と製品の価格差は拡大するため、投資や消費を抑制する要素が多いと見る処、経済のカジとりがますます難しくなっていることを物語る処です。
2.米中首脳協議
11月16日、バイデン米大統領と習近平中国国家主席はオンライン形式での首脳協議を行ないました。この協議は、9月10日の両首脳による電話協議に続くもので、その際は、バイデン氏関係者の話として、バイデン氏はインド太平洋への関与を深めるとした上で、米中衝突を防ぐため、両国が危機管理の枠組み作りに取り組むよう説いたと報じられていました。そして、11月15日のオンライン形式での米中首脳協議は、それに続くものでした。
前述、中国6全会が終わり、習氏の権威が固まって落ち着いたタイミングで協議が実現したということでしょうが、バイデン氏側としても、日本等、同盟国との関係強化で中国に対する枠組みを整えつつある処、中国との関係が悪化すれば、いずれ経済面に跳ね返ってくる恐れありという事で、まさにお互いの内政・外交上の事情から実現をみたと見る処です。ただ協議は、台湾問題、人権問題等、いずれも平行線を辿るものでした。(注)
(注)米中間の懸案への双方の立場(日経11/16)
米国 中国
台湾問題 中国の威圧的行動に懸念。台湾の
安全保障に関与 米国の関与に危機感
人権問題 新彊ウイグル自治区や香港での人権侵害を問題視 米国に対し内政干渉だと批判
貿易問題 中国に輸入拡大と国有企業の優遇など産業政策の見直しを要求 米国に追加関税や制裁の緩和を要求
それでもバイデン氏は「米中の指導者は両国の競争が衝突に変わらないようにする責務がある」と語る処でしたが、それは十分、意味ある発言と思料するのです。そして、「力」で現状を変更せんとする姿勢に歯止めをかけながら、必要な接点を引き続き探るとすれば、自由主義、民主主義陣営の確固たる結束はこれまで以上に重要になる処です。
この責務論については習氏も同意する処、今後は習外交政策のカラーが一層 強く出てくることでしょうし、貿易や安保について米中両国がどのようなやり取りを繰り広げていくものか注視したいと思う処です。とにかく台湾については中国側の一貫した姿勢が改めて明らかになった事、又、双方共にred lineを示し、衝突をしないという認識の下で、ルール作りをしていく事でしょうし、米側にとって、偶発的衝突を避けるために、双方の意見を明確にできたことが成果となったと云えそうです。 言い換えると、中国で権力が集中する習氏との協議で、偶発的衝突を避けるべきと確認できれば、これが現場レベルでも一定の抑止効果が期待できるというものです。バイデン氏が習氏とのトップ協議にこだわったのは、その点にあったと云えそうです。とにかく両首脳協議が継続され、それがnew trendを生むことを期待する処です。それにしても、TVに映し出された両者の顔の違いが気になる処です。
おわりに 「行政の独裁」と「新しい資本主義」
・11月10日、岸田第2次内閣発足
さて日本では11月10日、先の総選挙結果を受け、第2次岸田内閣がスタートしました。
ただ、選挙結果が判明した直後も、そして今もそうですが、選挙での争点は何だったのか、勿論、コロナ対策は大きな争点の一つでしたが、それ以外にはなかなか思いつくことはなかったのです。そこで、今次選挙結果についての識者のコメントを読み込んでみましたが、コロナ後を見据えて、何を最初に変えなければならないか、と云った差し迫ったことの無い中での投票行動としては、とにもかくにも現状の安定を求めた結果と、見るのがマジョリテイでした。勿論、日本維新の会や国民民主党など、自民党に考え方や政策など接近した政党が伸びましたが、これらは総体的に保守勢力の追認の枠内にありで、護憲、戦後体制の崩壊、あるいは空洞化と云う結果を齎す処と見るのです。
・行政の独裁
そうした中、筆者の関心を呼んだのが、11月 5日付、朝日新聞デジタルに現れたノンフィクション作家、保坂正康氏の対談記事にあった「行政の独裁」という言葉でした。
つまり、安倍政権は「安保関連法」で集団的自衛権を事実上解禁し、菅政権では日本学術会議の会員の任命を拒否しているが、両政権とも、野党の国会開会要求を無視し続け、憲法に則らない政治を続けたが、これこそは「行政の独裁」の表れとするのです。
更にこれまでの安倍政治には、「行政の独裁」ともいえる状況が続き、因みに安倍首相は「自分は立法府の長だ」と何度か発言していたことを取り上げるのです。つまり、司法・行政・立法の三権が分立して互いにチェックし合うのが議会制民主主義のはずで、首相は行政の長です。しかし、死んだに等しい立法府を思うがまま支配できた安倍信三氏はまさに立法の長と考えていたのだろうとし、例の森本学園問題の国会答弁についても有罪か無罪かは司法が判断することであって、自分の考えを述べることは司法への介入だと、断じるのです。
加えて、憲法が国政の大前提としている議論の大切さを考えれば、首相指名を受けた後、予算委員会も開かないで解散総選挙に打って出た岸田首相の姿勢は、安倍、菅両政権による憲法をないがしろにする政治と同種と見ざるを得ないと、厳しく指摘するのでした。要は、そうした「行政の独裁に歯止めを」と主張するのでした。
もとより、衆院選では野党もどういった社会にするのか、経済をどう立て直すのか等々、政策論をより語るべきで、いくら支給しますと云った「ばらまき論」ではなく、国民が困っているなら困らないようにする政策はこうだと、議論すべきです。「いくらばらまく」と云うのは政治ではない、有権者を侮辱しているとしか思えません。
・新経済対策と「新しい資本主義」
さて、岸田首相は11月19日、現金給付を含む新経済政策、財政支出ベースで55.7兆円という大型経済政策を決定、成長と分配の好循環を描くと強調する処です。が、気になることは、中長期的な成長力強化につなげるようなお金の使い方の視点が乏しいことです。
前述の通り、米国では、バイデン政権は1兆ドル規模の超党派インフラ法案を実現させ、以って老朽化したインフラの回収や将来の成長を見据えた次世代型インフラ投資に向かう処です。欧州でも環境投資の財源に環境債での調達や新税制を充てるなど、歳入改革も進む処です。世界は危機モードの政策から徐々に脱却、産業転換を大胆に図ろうとする処です。つまり、今の政治の有態では、日本は取り残されかねないという事になるのです。
加えて、岸田政権は法人税の優遇措置を強化し企業に賃上げを促す考えとの由ですが、云うならば「アメとムチ」で賃上げを促すのではなく、企業が自ら進んで賃上げを行う環境を創り出すことに注力すべきと思料するのです。それには企業の成長期待を高める、信頼度の高い政策を打ち出すことが不可欠です。いずれ「新しい資本主義」の中に織り込まれるものとは思料する処です。尤もこの「新しい資本主義」とは一体何なのかですが。
・新たな発想と行動を
今、内外環境は構造的変化の真っただ中です。これまでの思考様式にとらわれることの無い斬新な発想、新たな行動様式を以って、新年2022年に向かっていく事、念ずる次第です。
(2021/11/25)
[別紙]
[ Outlook ] 先進国 (米欧日) 経済, Today and Tomorrow
・米国経済:10月28日、米商務省が発表した2021/7~9月期のGDP(速報値)は年率換算で2.0%の成長で、これは新型コロナウイルスの感染が夏場にデルタ型で再拡大して個人消費が鈍り、前期4~6月期の6.7%からは大幅の減速となるものでした。そして、人手や資材の不足と云った供給制約や物価の急速な上昇も逆風になったと見られる処です。
ただ10~12月期には5%台半ばへ再加速を見込む声は多く、因みに11月5日には、懸案のバイデン政権の2つの看板政策(子育て支援・気候変動と、インフラ投資)の内、1兆ドル規模の超党派インフラ投資法案が先行して可決。(上院は既に可決済み)15日、バイデン大統領が署名したことで同法は成立。このインフラ投資法案の成立は、米景気への大きな刺激をもたらすことが見込まれる処、米大統領上級顧問のセドリック・リッチモンド氏は具体的事業が来春までに始まるとの見通しを語る処です。
尚、11月22日、バイデン大統領は来期(2022年2月)米FRB議長に、現議長のパウエル氏の再任を発表しました。米経済は、いまインフレへの懸念は強く、市場では22年には2~3回の利上げが予想される処です。要は、パウエル氏の再任を以って、緩和策の縮小に動く金融政策に転換はないとみる処です。
・欧州(EU & UK)経済:EU統計局が10月29日発表した7~9月期のユーロ圏GDP(速報値)では前期比年率換算で9.1%を記録する処でした。これはワクチンの普及で感染者が急減した春以降、個人消費の力強い回復が経済を押し上げてきたとするものですが、問題は足元で供給不足やエネルギー価格の上昇が進む中、10~12月以降も維持できるかだと云々されていますが、コロナ感染が落ち着いた21年4~6月以降、急回復しており、当面は高めの成長が続くとしています。因みに11月11日、欧州委員会が公表した成長率見通しでは、21年:5.0%, 22年:4.3%と見る処です。
一方、英国経済は、新型コロナウイルス禍で人手不足にあって、とりわけEU離脱の英国にあっては労働者不足が顕著にあって、供給網が断絶され、品物不足を託つ処、ガソリンをはじめ物価も上昇と、まさに人手不足の深刻さが伝わる処、11日英統計局が発表した7~9月期のGDP速報値では前期比1.3% 増と2四半期続けてのプラス成長となっています。新型コロナウイルス関連の行動規制が解除され、個人消費が伸びた事に負う処とされています。
・日本経済:11月15日公表の7~9月期GDPは、前期(4~6)比、0.8% 減、年率換算では3.0%の減で、2四半期ぶりのマイナス成長。7~9月期は東京五輪の開催があり、相応の需要の拡大が期待されましたが、緊急事態宣言が拡大・延長した時期と重なった点が指摘される処です。尚、10月28日開催の日銀金融政策決定会合では、供給制約に因る輸出・生産の減速、更に個人消費の低迷に照らし、今年度、2021年度の経済成長見通しを、前年度比でプラス3.4%と前回から0.4ポイント引き下げを決定、円安圧力が強まるとの見通しもありで、供給不足からくるインフレ懸念にあって、これまでの低金利政策の堅持を決定しています。
が、インフレ下での低金利政策はスタッグフレーションを招きかねずとの懸念もあるなか、11月19日、岸田政権は財政支出ベースで55.7兆円(事業規模で78.9兆円)と過去最大規模の景気対策を決定、早急な経済の回復を狙う処です。
尚、9月の鉱工業生産指数(10/29発表)は前月比5.4%低下、これも7割が自動車の減産に因る下押しで、半導体不足や新型コロナウイルスの感染拡大で東南アジアからの部品調達停滞が直撃した結果とされる処です。ただ、上場企業(1600社余)の業績は順調に持ち直して来ており、全産業の純利益は101%増の倍増。最大の懸念材料は半導体をはじめとする部品の供給不足です。