2021年07月26日

2021年8月号  中国共産党建党100年、次なる100年への可能性 - 林川眞善

―  目  次 ―

はじめに 中国共産党建党100年      
・中国共和革命(1911)、そして 中国共産党誕生(1921)
・1949年 中華人民共和国誕生

第1章 中国共産党100年、 習近平主席の記念演説  

1. 演説にみる習近平氏の思考様式
(1)次なる100年の目標― 「社会主義現代化強国」                                                                                              
(2)軍国主義への回帰を強める習近平中国
・何より気になること / ・習近平氏にとっての新時代
2.習演説の総括に代えて
(1)習体制の特徴と課題 ― 「自由と秩序のバランス」 
(2)独裁化を辿る習政権の行方

第2章 The Economist誌のバイデン政権へのアドバイスと、
日本の対中政策構築に思うこと
     
1. Biden’s new China doctrine ― バイデン政権に求められる対中政策
               の枠組み
・習氏は独仏首脳とTV協議、バイデン氏はメルケル氏と首脳会議      
2.日本の対中政策構築に思うこと
・2021年版「防衛白書」

おわりに  バイデン氏の米再建は始まったばかり 
・米競争政策の転換 / ・国際課税ルールの変更

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はじめに 中国共産党建党100年

6月、英国で行われたG7サミットの影の主役は中国の習近平主席とされていました。その陰の主役は7月、表舞台に現れました。共産党建党百年を祝う大舞台です。その舞台で習近平主席は何を、どう語るのかと世界の耳目を集める処、本稿も、以って主題とする処ですが、その前に共産党建党100年の経過とその意義をレビューしておきたいと思います。

・中国共和革命 (1911) そして, 中国共産党誕生(1921)
今から110年前の1911年12月29日 時の革命家、孫文が上海で起こした共和革命を以って、中華民国の成立を宣言、彼は臨時中華民国大統領に選出され、清朝最後の皇帝薄儀が退位(1912/2月)し、清国は滅亡。以って4000年続く中国王朝の歴史解体となり、君主制が廃止され、アジアで初となる共和制国家、中華民国の誕生を見る処となったのでした。その革命は、その際の干支、辛亥にちなんで「辛亥革命」(注)と呼称されています。
   
(注)1911年10月, 孫文らを核とした政治結社「中国同盟会(1905)」が、 中国武昌で清朝打倒の武装蜂起(辛亥革命に発展)。1912年1月1日、南京に臨時政府(中華民国)を樹立(同盟会を「国民党」に改称)。尚、1913年、中国初の国会選挙では国民党が第一党に。

その辛亥革命勃発から10年後の1921年7月、毛沢東らの主導の下、中国共産党が上海で誕生しました。わずか50名(現在9200万人)が集まっての結党だったと、習氏は演説の中で触れています。その間、彼らは農村で支持基盤拡大に努め、今日の政治基盤を固めたというものです。

・1949年、中華人民共和国誕生
さて共産党結党後は、当時の西欧列強による対中侵害に対抗するためと同時に、共産党勢力拡充のためとして1924年には、対立する国民党との合作(第一次国共合作)を果たし、更に37年には日中戦争がはじまると、第二次合作を以って対日抗戦に臨むのでしたが、日本の世界大戦敗戦で、国共合作は再び内戦に向かい、蒋介石国民党は台湾に脱出、一方の毛沢東らは農村でのゲリラ戦を制し、1949年10月1日、天安門で「中華人民共和国」の建国を宣言、今日の共産党国家、中国の誕生を見たのです。尚、孫文らが起こした辛亥革命は今年10月、勃発110周年を迎えます。台湾で祝賀行事があったとしても中国ではないでしょう。

さて新生中国は、旧ソ連と同盟関係を組み、1950年には朝鮮戦争に参戦、米軍主体の国連軍の攻撃を食い止め、64年には核実験にも成功。しかし、その後の毛沢東指導の「大躍進」政策、つまり農業と工業の大増産政策(1958~61年)の失敗、更に、その失政回復のためとして起こした文化大革命運動(1966~76年)も失敗、国内は再び大混乱に。そんな中、76年に毛沢東は病死。その後、78年に、文革で失脚した、しかし、毛沢東の死去で復権を果したト小平が、「改革開放政策」を掲げて登場。この成長重視の路線を以って、経済の立て直しを図ったことで、とにかく経済の回復を見る処でした。

ただし、この間に起きた89年の天安門事件、つまりは武力による民主化弾圧政策ですが、これに躓き、西側諸国の制裁に遭遇、経済は一気に失速。それでもト小平は、民主化に背を向けながらも、経済政策では改革開放のアクセルを踏み続け、それまで中国が原則としてきた計画経済から市場経済への転換を加速させ、2001年にはWTO加盟を果たし、2010年には、GDPで中国は日本を抜き世界第2位の経済大国となったのです。

ただこうした経済発展が進む中、民主化か革命か、との議論と共に、共産党統治の脆弱性が云々されるのでしたが、そうした折、習近平体制の誕生を見たのです。2012年11月15日、習近平氏が第5代中華人民共和国の最高指導者に就き、彼は強固になった経済基盤を支えに、一方では民主化を求める声を封じ、一党支配を正当化せんと今日に至る処、周知の通り、今や米国とその覇を争うほどに両者の対立は日ごと深まる処です。

序で乍ら、日経本社の秋田浩之コメンテーターによれば、ト小平は晩年、次の指導者らに以下のような遺訓を残し、必ず守るようにと重ねて指示していた由です。その遺訓とは、「(米国)と信頼を増し、協力を発展させ、敵対しない」と。ところが習近平氏は、その教訓とは全く逆の方向に突き進んでいる、つまりその遺訓をはみ出し米国主導の秩序に挑む行動に、強い懸念を語るのです。(日経、2021/7/3) いずれにせよ今日ほど、世界で「共産党」が意識されることはなかったのではと思料する処です。

急ぎ、辛亥革命以降の中国現代史を駆け足でなぞってみましたが、かかる環境の中7月1日、習近平国家主席は、毛沢東が中国建国を宣言した天安門広場で開かれた中国共産党「100年」の記念式典で「共産党の下で、国家を発展させ、農村部の貧困層をなくすという目標、『小康社会の建設』という目標を達成した」と、共産党あっての中国、一党支配の中国の正当性をアッピールすると共に、その実績の下、共産党の「次の百年」は如何にと、語るのでした。

そこで以下では、主題とする彼の演説テキスト(日経7月2日掲載 「共産党100年 習氏演説要旨」)を深く読み直し、習近平氏の行動様式の合理性とその行方、等々、問題点について、考察していくこととしたいと思います。


第1章 中国共産党100年、 習近平主席の記念演説

1. 演説にみる習近平氏の思考様式

(1)次なる100年の目標 ―「社会主義現代化強国」
習近平国家主席は、7月1日、天安門広場で行われた中国共産党誕生誕百年の記念式典に毛沢東が中国建国を宣言した時の作法に倣うべく、ひとり人民服姿で登壇、「党創立時掲げた目標(小康社会)を築き、絶対的な貧困問題を歴史的に解決し、いまや、中国は後進的な状況から世界第2位の経済大国へと歴史的な躍進を達成した」と、党主導の下での経済成長の実現を強調するのでした。もとより、その心は「中国の事をうまくやるために、カギとなるのは ‘党’ だ。中国共産党がなければ、新中国はなく、中華民族の偉大な復興もない。歴史と人民は中国共産党を選んだ」とする言葉に映る処です。

併せて、次の100年の目標は「社会主義現代化強国」の実現と、宣言するのでしたが、尤も「社会主義現代化強国」とする目標は曖昧ですが、要は、経済、軍事、科学技術などあらゆる面で米国と並ぶ大国、強国への道を目指す、と云うことかと思料する処です。そして、その「強国」を目指すシナリオとして、「歴史を鏡(教訓)として」、「未来を切り開く」こととし、以下8項目の実施を進めるとするのです。

[社会主義現代化強国実現に向けた施策]
・中国共産党の強固な指導の堅持
・マルクス主義の中国化の推進 ― マルクス主義は中国共産党立党と立国の根本的指
導思想であり、党の魂と旗印。
・新しい発展パターンを構築し高品質な発展を促し科学技術の自立を推進。
・国防と軍隊の近代化を加速― 強国には強軍が必要で軍は国を安定させねばならない。
党が軍を指揮し、人民の軍隊を建設する事、これは血と火の闘争の中で党が作りだした心理。
・人類運命共同体の構築を絶えず推進する ―「一帯一路」の質の高い発展を期す。
・多くの新しい歴史的特徴を持つ偉大な闘争が必要 ―複雑な国際情勢がもたらす新 た
 な矛盾と新たな課題への挑戦。
・中国人民がより大きな団結を強化する -愛国統一戦線は、中国共産党が中華民族の偉
大な復興を達成するための重要な武器。
・党が建設する新たな偉大な工程を継続的に推進する。

(2)軍国主義への回帰を強める習近平中国
さて上述「未来を切り開く」として掲げる事案は、今日の中国経済の成長・発展の要因を以って裏付けられるものとしながら、その一方で国防、軍隊の強化、愛国統一戦線の強化等が繰り返し語られ、これまでになく強固な国家主義へカジを切らんとする姿が浮き彫りされる処です。
つまり、経済成長の原動力となった「改革開放」事態については、‘新たな道のり’ の中で全面的に進化させるとするだけで、しかもその当事者だったト小平については単に同志とリフアーするにとどまる一方で、国防と軍隊の近代化の加速が不可欠と強調する、つまり新時代の軍事戦略の指針を堅持し、人民解放軍に対する党の絶対的な指導力を維持し、中国の特色ある強大な軍隊の道を歩み続けると、するのです。繰り返される「強軍」、「強国」のキーワードからは、まさに中国共産党の軍国主義への旋回を印象づける処です。

その一方で、中国は常に世界平和の建設者であり、世界の発展の貢献者であり、国際秩序の擁護者であり、その点で「一帯一路」の質の高い発展を促し、世界に新たな機会を提供すると、「一帯一路」の発展推進方針を強調する処でした。が、それは金融協力などを通じて、中国を中心に据えたグローバル・サプライチェーンをアジアと「一帯一路」沿線国との間に構築する戦略のほかなく、これが今、途上国の‘債務の罠’(China debt trap)とされる世界的問題を醸す処、当該問題に対するフォローは見えず、さて‘国際秩序の擁護者’たるの矜持はどこに行ったのかと疑問の募る処です。

・何よりも気になること
そして、何よりも気になったことは、マルクス主義、社会主義への回帰を示唆する発言でした。と云うのも、今、国内で先鋭化する格差問題への不満に対処しながら共産党支配を維持しようとすれば、改革・開放後、希薄となっていた社会主義的イデオロギーが新しい形で前面に出てくる可能性です。習近平時代に入って国有企業重視と民間企業へ圧迫はその兆しとされる処、この7月 6日には、中国企業の海外上場の規制を強化する、つまり自国企業の海外上場の規制強化を発表する処です。

それが意味することは、冷戦時代の米ソ対立ではヒト、モノ、カネの往来は制限されていましたが、現在の米中対立については経済面での相互依存が強い分、決定的な対立には発展しにくいとの楽観論のある処でしたが、実際には、貿易、技術、人権問題に加え、今次の規制強化を以って、米中の分断はマネーにまで及ぶ処となってきたということです。米中の対立に歯止めがかからなければ、米中双方への打撃は一段と大きくなる事が想定される処です。因みに、米投資家にとって懸念される事はと云えば、中国政府の意向次第で海外投資家が株主としての権利の制約を受ける可能性があることです。(注)

     (注)米投資家が懸念することとは、海外上場する中国企業の多くは規制回避のため
     採用する「変動持ち分事業体(VIE)」と呼ぶ仕組みで、VIEでは投資家は企業の株
式を直接保有するのでなく、契約を通じて株主と同等の権利を得るという仕組み
(迂回上場)だが、法律上曖昧さが残り、中国政府の意向次第で海外投資家が株主
としての権利の制約を受ける可能性がある。(日経、2021/7/8 )
    
一方、中国が保有する米国債の扱いも焦点となる処です。4月時点で1兆961億ドルと日本に次いで2番目に多くを保有しています。(日経2021/7/8) 中国による売却観測が浮上するだけで世界の金融市場は大きく動揺する処です。
加えて、貿易戦争の再燃です。中国にとって最大の輸出先である米国との対立が深刻となれば中国外しが一段と進み、輸出で稼ぐ貿易黒字は先細りとなりかねないというものです。マネーの分断は中国企業が海外市場の開拓や人材獲得でグローバル競争に後れを取ることにもつながる処、つまり成長が鈍化すれば共産党の一党支配の正当性が揺らぎかねないとみる処、要は経済の相互依存度が高い分、切口を広げるリスクが高まると云う処です。
習近平政権には、その影響力の大きさを自覚し、世界とどう折り合いをつけていくか、熟慮する必要があるというものです。

尚、習氏が中国にとって「核心的利益」と位置づける「台湾」については、「祖国の完全な統一を実現することは、中国共産党の変わらぬ歴史的任務であり、中華の人々全体の共通の願いだ」というのでしたが、同時に核心的利益問題は中国の国内問題であり、外部からの非難はまさに内政干渉と退ける処、そこには大国としての矜持など見受けられません。

加えて、香港、マカオの統治についても彼は、「高度な自治の方針を全面的にかつ正確に徹底し香港マカオ特別行政区に対する中央の全面的な管轄権を実行する」と、断じる処です。つまり特別行政区が国家の安全を守る法律制度と執行体制を実施し、国家主権と安全、発展の利益を守り、特別行政区の社会の大局的な安定を維持し、香港、マカオの長期的な繁栄と安定を保つとする一方、2021年6月24日には反中国的な言論行為を抑え込むべく、治安法を擁して、香港における「言論の自由」の象徴的存在メデイアとされていた「Apple Daily」を事実上閉鎖に追い込みましたが、この一方的な言論統制には、言葉を失う処です。

・習近平氏にとっての ‘新時代’
今次の演説を受け、習氏を象徴するキーワードは ‘新時代’ とされる処ですが、その‘新時代’とは、まさに彼の手による独裁政治への強化を意味し、「解放」から再び「統制」への回帰を目指すものと映る処です。 これまでの中国の高成長を支えてきたのは、外資による技術導入と国内の安価な労働力でした。具体的にはアリババなど、米国の模倣もいとわずに激しい競争を繰り広げてきた民間のハイテク企業群でした。 が、これに対して国家の管理を強めるとなると、潜在力を封じかねません。加えて,安価とされた労働力は, 前号「論考」でも触れたように 少子化、高齢化の急速な進行で、その優位性が問われだす状況です。仮に成長を目指す「新時代」とは、こうした構造的な変化にどのように対峙いていくかを示していく事ではと、思料するのです。 中国の歴史上、永遠に続いた王朝はないのです。

2. 習演説の総括に代えて 

(1)習体制の特徴と課題
習体制の最大の特徴は何か。上述からは、毛沢東時代の政治運営(党への集権)と、ト小平時代の市場経済を同時に推進する点にある処(早大 青山瑠妙教授、日経2021/6/25)、前者については、党委員会を通じて党がすべての組織と社会を統制するという「頂層設計」という毛沢東時代の政治体制の復活であり、同時に後者の「市場を志向した改革も」目指すということと云えます。そして近時の彼の言動からは、毛沢東路線を一層強化せんとするものと云える処です。 もとよりこれが、習氏の中国の成功への強い自信に負うものか、逆に不安の募る政治情勢があって、それへの対抗を誇示せんとするものなのか、Nobody knowsです。が、 いずれにせよ、習体制としては、内政統治は強権の下にあって、経済については資本主義的な行動を推し進めることでしょう。ただその際のカギは、彼らが歴史に学ぶことができるか、つまり「明朝」そして、その後継「清朝」に見る盛衰の教訓を、受け止め得るか、ではと思料するのです。

・「自由と秩序のバランス」
つまり、「明朝」の場合、鎖国政策や中華イデオロギーで国内を引き締め、異論を封じ込めたのですが、そのために、末期には活性化した民間の反発が相次ぎ、統治がほころびていったとされています。そしてその後継となった「清朝」では明朝流の統制を緩めた結果、外国勢力に浸食され、結果は辛亥革命に至ったということです。そこで最大のカギは「自由と秩序のバランス」ということになるのでしょうが、さて、習政権の場合、デジタルやハイテクで身を固め、清朝を反面教師に、進むことになるのでしょうか。

尚、そこに加わる問題の一つが、習氏の価値観の一つとされる「最大公約数」という概念です。それは「社会が求める最大公約数を探しあてるのが人民民主の真理だ」と云う由で、一見民主主義のように見えますが、最大公約数に含まれない人々は、無視される状況に置かれているという点で、これは民主主義と似て非なるものと云う他ないのです。

(2) 独裁化を辿る習政権の行方
それにしても、習近平氏率いる共産党国家、「中華人民共和国」はいつまで続くと見ることができるものかと個人的には懸念を募ら得る処ですが、前述の通り、彼は共産主義政治の強化を通じて、まさに独裁政治を目指す処、次期100年を喫すべく、上述の通り国家運営のための施策を謳う処です。であれば米中の対立は増すことはあっても、解消に向かうことなど、早晩考えにくいと云ものです。因みに英誌 The Economist (2021/6/26)は その巻頭言で、Party‘s longevity (共産党の持続性)や天安門事件が映す国民のruthlessと云った点からも、「Still going strong」と評するのですが、ではその中国と、対立を深めるバイデン政権は、今後いかなる対応が求められることになるのか、問われる処です。その点、再び英誌 The Economistですが 、7月17日づけ同誌 巻頭言では「Biden’s new China doctrine」と題して、新たな環境を踏まえた対中政策をと、提言する処です。そこで以下ではその提言のレビューと併せて、日本の対中政策の在り方について、考察することとします。


第2章 The Economist誌のバイデン政権へのアドバイスと、
日本の対中政策構築に思うこと   

1.Biden’s new China doctrine ― バイデン政権に求められる対中政策の枠組み

習中国の強硬路線に照らし、米国は今後どのように対峙していくこととなるか。当初、前任トランプ氏の強硬路線に比して、バイデン政権のそれは多少緩やかになることが云々されていました。しかし政権半年を経た今、その対応姿勢はむしろより強固なものと映る処、英紙エコノミストはバイデン政権の政策対応では、‘機会’(世界経済の機会)を失することにもなりかねないと、新たなバイデン流 doctrineをと、助言する処です。

まず、バイデン政権の対中政策には、‘中国はもはやcoexistence(共存) には関心なく、dominance(世界支配)にのみに関心が向けられている’との認識が前提にあり、従ってアメリカの対中政策の基本は中国の野望を抑え込むことにあるというのです。
勿論、中国は米国にとって、環境対応についても、その他分野でも協働すべき分野はあるとしており、その点ではバイデン政権のスタンスには問題はないが、現実の中国パワーに照らすとき、そうした姿勢はすぐに砕ける処となるというのです。因みに、習政権は、南シナ海を一つの要塞と見ていて、香港については共産党ルールを適応し、台湾には脅しをかけ、インドとはあえて小競り合いを起こし、要は西欧流価値観を排除する姿勢にあって、こうした中国のwolf warrior diplomacy(戦狼外交)になやまされる国は少なくなく、バイデン・ドクトリンの現状は問題含みと云うのです。

バイデン政権が言う脅威の定義一つを取ってしても、これがワシントン政治の行き詰まりを映すなか、バイデン氏が耳障りの云い言葉を弄して米国の優位を語ろうとすればするほど、同盟諸国やインドやインドネシアと云った新興大国の心は離れていくというのです。彼はゼロ・サムを枠組として、共存を目指すというよりは ‘民主主義or 強権主義 ‘ の選択’、とするのですが、これこそは米国の影響力をいまだ過大評価し、むしろ周辺諸国が中国へ向かう可能性を過少評価するもので、経済指標をもってすれば、中国がすでにドミナントであることは自明の処、South-East Asiaでは安全保障はアメリカに、経済は中国に、との認識にあって、仮に無理に選択を求められるとすれば、中国をピックアップするというのです。そこで、今日的環境にあっては、他国にいろいろな規制をかけるということよりは、バイデン政権にはそうした諸国との競争に勝利していくことが必要だというのです。その為のvest chanceは、国内で勝利すること、そしてオープンな世界経済にとってのリーダーであることを示していくことであり、まさに目指すはバイデン流New China Doctrineの構築だというのです。

勿論、簡単なことではないでしょうが、そこで求められることは、Industrial policy, Government intervention, Planning and controlsだとするのです。具体的にはサプライチェーン問題、つまり半導体・電池・レア・アース・緊急ワクチン確保、問題があり、既に政府レポートで取り上げられている処、その具体化政策を一体的に進めることと云うのです。中にはいろいろtrade-offもある処、例えばウイグル民族への人権問題、一方温暖化問題等米中協調の要ある問題も、実は重なりあうものがあるというのです。

要は、バイデン・プランが目指すは失われたopportunitiesを回復させることにあって、それは米国がこれまで発展主導してきたglobalizationの流れを堅持することであり、その中核にある要素は自由貿易であり、グローバル経済の堅持であり、その枠組みにおいてオープンな システムを担保していくことにあり、加えて米国がアジアにおける対中対抗の存在たるを目指すのであれば、2016年にそのチャンスを失したが、もう一度その機会をレビューしてはと、当時のPan-Asia trade dealの再考を提案する処です。
そのアイデイアとは、Western orderの強化、将来のワクチン供給計画、digital payment system, cyber-security,中国の一帯一路に対抗できるインフラ・プロジェクト、等を示し、西側の力のあろう処を示していくべきと提言するのです。然りです。

・習氏は独仏首脳とTV協議、 ワシントンではメルケル首相と米独首脳会談
序で乍ら、6月のG7サミットでは、上述、米主導での中国包囲網が語られ、西側先進国の連携強化が云々され、当該一体感の高揚を覚える処でした。しかし、マクロン大統領は「G7は中国に敵対するクラブではない」と明言、これにドイツも同調の様相です。

さて、係る雰囲気を察知してか7月5日、習氏はTVを介し、マクロン大統領、メルケル首相と協議し、両者に「EU側と早期に首脳会議を開き、経済や貿易、気候変動をめぐるハイレベル対話の実施を」呼びかけたとされています。(日経 2021/7/7 )中国としては米欧の結束に揺さぶりをかけんとするものでしょうが、裏を返せば強権的と云われる習近平政権ですが、実は政権基盤が不安定にあってのこととも見える処です。 一方、7月15日,ワシントンではメルケル首相を迎え米独首脳会談が行われています。「ワシントン宣言」も発表され、人権やルールに基づく秩序重視の立場を鮮明とし併せ、米独関係の修復をアピールする処です。因みに21日、米独両政府は懸案となっていた「独露パイプライン」(ノルドストリーム2)計画の実施に米国は事実上容認したのです。(日経 7/23)

2. 日本の対中政策構築に思うこと

さて、近時のサプライチェーン問題に集約されるように、日本も経済的には中国にがっちりと組み込まれ、今日に至る処、上述、強硬路線に傾く習近平中国と日本は如何に向き合っていくべきかが、問われる処です。つまり米国の同盟国であり、同時にアジアにおける日本の矜持を保ちながら、より自律的な対中政策の構築が求められるということです。
前述の通り、6月のG7サミットで確認された米バイデン氏主導の中国包囲網構想にも照らしながら、基本的には米国とより連携を深めつつ、G7に加え、日米豪印戦略対話と云った国際的枠組みを充実させつつ、「台湾海峡の平和及び安定」を念頭に、これからの中国とどう向き合っていくか、シナリオを固め、同時に対話を進めていくことと、思料するのです。それは、世界が ‘新しいゲーム’ に突入した現実を踏まえ、日本にとってのその意味合いを再確認し、安全保障の確保、自国にとっての利益の最大化を目指すものとしていくことと、思料するのです。

・2021年版「防衛白書」
その点、7月13日、公表された2021年版 防衛白書では「強権を以って秩序を変えようとするものがあれば断固としてこれに反対いていかなければならない」としていましたが、云うまでなく威圧的な動きを繰り返す中国を念頭に、当該決意を示したものと思料するのです。そして今次、白書の特徴とされるのが米中関係の項目を設け、競争激化による日本の安保への影響を詳述していることでした。実際、米中摩擦を受け、先端技術の開発や経済活動を安保と一体でとらえる経済安全保障の重要性が増す環境にある処、更に白書は気候変動問題も安保上の問題として初めて位置付ける処です。とすれば危機を多角的にとらえ、政府一体で取り組む体制が欠かせないものと思料する処です。にも拘わらず、国会論戦は低調の極みと云え、政府や与野党は日本の置かれた現状を国民に率直に示し、広範な議論につなげていくべきと思料するばかりです。


 おわりに バイデン氏の米再建は始まったばかり

‘中国共産党100年 ’ を追っかけていたさ中、もう一方の世界では、グローバル企業の行動改革を促す二つの政策転換、一つは米国の競争政策の転換、二つは国際課税ルールの原則の転換、が進みだす処です。

・米競争政策の転換、
バイデン氏は7月9日、企業のM&Aを寛容に認めてきた米政府の姿勢を転換する旨を表明、関係省庁に当該政策作りを求める大統領令に署名したのです。つまり一握りの企業にシェアが偏りすぎないようにと規制を強化する方向にカジを切ったというものです。これが意味することは、独占に目をつぶってでも企業の国際競争力の向上を優先する1970年代以来の路線の抜本的な軌道修正と云うものです。
つまり、過去半世紀、米当局は独占行為に寛容だったと言われており、経済効率が高まり、消費者が低価格を享受できるのなら独占も容認するということでした。因みに、米国で反トラスト法(独禁法)が生まれたのは1890年。鉄鋼王カーネギーら大資本家の専横を抑える社会政策とされる処、今次動きは、機会の公平確保とする原点回帰と見る処です。

バイデン氏自身、規制強化論者と云われており、大統領選の期間中に纏めた政策文書では企業分割にも言及していますが、この6月15日には、32歳と云う若さで、アマゾン批判の論文を以ってFTC(連邦取引委員会)の姿勢を激しく糾弾する法学者、リナ・カーン氏
を同委員長に指名、続く7月20日には、司法省の反トラスト局を率いる次官補にグーグル批判で知られる弁護士のJ. カンター氏を指名、独禁法を厳しく執行する姿勢を鮮明とする処です。要は大企業が力を持ちすぎていることで、消費者や労働者、中小企業など弱者にしわ寄せがきているとの認識にあって、米国の競争政策が転機を迎えたと見る処です。

・国際課税ルールの変更
もう一つは、これまで本論考でも報告してきたように7月10日、G20財務相・中銀総裁会議で、漸く、国際的な法人課税の新たなルールが大枠で合意されたことでした。これはOECDが事務レベルで合意したものをG20として「承認する」もので、正式には10月のG20会議で最終決着となるものですが、以て「歴史的な合意に至った」と記される処です。
具体的には、企業が負担する法人税の最低限の税率を「少なくとも15%」にするというもので、その狙いは多国籍企業が税率の低い国・地域に子会社を置き、租税回避するのを防がんとするものです。要は、100年前に定められたとされる現在のルールでは、経済のグローバル化、デジタル化など、時代の変化に十分フォローしきれない為、とするもので、国際課税の原則の転換となる処です。もとより、これが新型コロナウイルス禍による各国の急速な財政悪化による財源確保のニーズも、国際合意への機運を高めたとされる処です。

・さて、バイデン政権発足当初、コロナ禍に加えトランプ支持者による連邦議事堂襲撃事件の印象も残り、「危機克服」の高揚感に包まれる中、3月に実現した1.9兆ドルの経済対策とワクチン普及で経済は回復、7%成長(IMF)も視野に入る処、上述二つの改革もその枠組みにある処です。 ただ待望していた日常が取り戻されるにつれ、皮肉にも政権の勢いは鈍ってきたやに見受けられる処です。巷間、大統領として政策を推進し易い時間の半分が過ぎたとの声も伝わる処、バイデン政権には引き続き革新的な政策対応を期待する処です。
7月21日付 日経社説のheadlineは「バイデン氏の米再建は始まったばかりだ」でした。 以上(2021/7/25)
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