2020年10月25日

2020年11月号  分断の世界、いま日本の出番?そして‘More Internationalism‘ - 林川眞善

目  次

はじめに ‘コロナ禍の国連、機能せず ’   

・「自由で開かれたインド太平洋」構想
・菅首相、初の外遊
・Internationalismの勧め
      
第1章 QUAD, 日米豪印、新たな国際協調枠組み
 
 (1)中国vs 中国の周辺国、と云う対立構図
 (2) QUAD会議(4か国外相会議)とポンペオ米国務長官
  ①「インド太平洋」構想
   ・クアッド4か国の思惑
  ② ポンペオ米国務長官 訪日の真相
         
第2章  Contagionsの世界で、今求められるのは
    国際協調主義 ― More Internationalism, Not Less

 (1)今、Contagions (伝染病症状)の世界
 (2) The Roosevelt revolution(ルーズベルト大統領の革命)
   ・Clubs and shopping malls

おわりに  脱炭素社会を目指す菅政権

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はじめに ‘コロナ禍の国連、機能せず ’

このキャッチフレーズは、9月26日付け日経紙が、今年創設75年を迎えた国連総会での米中等各首脳のスピーチが映す国連の‘今の姿’を評するものでした。

1945年10月24日、第2次大戦を防げなかった国際連盟の様々の反省を踏まえ、51か国の参加を得て創設された国連は今年で75周年を迎えました。本来ならいろいろなお祝いの行事があって賑わいを呈する処でしょうが、今年は新型コロナ感染拡大で、そういったイベントもなく、各首脳はVTRでの参加と云う事で、殊更寂しい姿を呈するばかりでした。

振り返るに世界は10年に一度、100年に一度とも云われるような危機に際しては、主要国による国際的な協調体制が組まれてきました。1970年代の石油危機の後にはG7の枠組みがつくられ、リーマン・ショック後にはG20の枠組みが強化されてきました。然し、新型コロナ・パンデミックは世界経済に戦後最大の衝撃を与えていますが、国際的な協調体制が組まれる機運は一向に高まりません。それどころか、パンデミックを機に、世界は分断傾向を強めています。

目下は、投票日(11/3)の迫った米大統領選に向けたトランプ氏のプロパガンダ、対中批判
の高まりがクローズ・アップされ、これが分断を刺激する処と、大方の理解する処ですが、これが近時、中国とその周辺諸国との摩擦環境を見ていくとき、どうも米中対立だけでは語れないような状況が生まれてきているものと思料する処です。

これまで「米中対立」こそは地政学上の最大の問題とさてきていますが、米戦略国際問題研究所上級顧問のエドワード・ルトワック氏は、こうした捉え方は、もはや過去の話だと、断じる処です。(文春、10月号)そして、現在進行しているのは「(米国主導の)海洋同盟と中国との闘いであり、米国は、中国との対立最前線に立っているわけではなく、一歩引いた場所にいる」とも云うのです。
確かに経済面、貿易面では「米中関係」は厳しい問題を託つ処です。然し「戦略」の世界にあるのは「米中対立」ではなく「海洋同盟と中国との対立」であり、それは最近の国際ニュースを見れば、すぐに理解できると云うのですが、極めて興味深い視点です。

・「自由で開かれたインド太平洋」構想
そうした中、10月5/6日、日米豪印4か国の外相会議が東京で開かれています。会議の目的は「自由で開かれたインド太平洋」構想(注:本文P.5参照)推進のための4か国会議です。もともと、2016年、横浜で開かれたTICAD(Tokyo International Conference on Africa Development::アフリカ開発会議)で日本が提案した構想で、航行の自由や法の支配を礎にアジア地域の平和と繁栄をめざすとするものですが、まさに上述 新環境への対抗としての行動とも映る処です。

そこで、当該構想の可能性を改めて考察しておきたいと思うのですが、この際、強い関心を呼んだのは、米大統領戦の緊迫した状況、トランプ氏自身を巡っての緊迫した状況にあって、ポンペオ国務長官が態々アメリカの地を離れる事の意味合いでした。 周知のように終盤に入った米大統領戦の緊迫な状況に関わらず、ポンペオ国務長官が態々アメリカの地を離れ、日本に出向き、4か国会議に出席した事の意味合いが問われる処ですが、その趣旨からは、自国主義にあった米外交政策の変化と云う処でしょうか。

そして、米大統領選がどのように決着を見るかで、国際環境は大きく影響を受ける処ですが、この構想の大きなポイントは、参加4か国のいずれもが中国を極めて意識していると云う事、そしてこれまでの経緯から、日本が主導的な役割を担う事になると云う処です。勿論、色々問題ある処ですが、当該構想の可能性と推移の如何は、混迷を深める世界の生業にあって同時に、日本の針路を規定する処と思料するのです。

・菅首相、初の外遊
10月19日、菅首相は就任後、初の外遊先としてベトナム、そしてインドネシアを表敬訪問しましたが、主たる目的は‘インド太平洋’構想への協力要請でした。同時に、「日本は供給網の強靭化を進め、危機に強い経済を構築するために東南アジア諸国連合(ASEAN)と協力を深める」(日経、10/20)と強調する処でした。(注)

    (注)20日、インドネシア、ジョコ大統領との会談席上、同大統領よりは「世界の大国同士の競争により多国間協力が脅かされている」と協力を呼びかけられた由。
     尚、この際はコロナ禍での経済打撃を踏まえ、500億円の円借款の供与を表明。

今後の菅外交は米中対立下で、各国とどのように首脳会談を組み立てるかが、重要になると云うものですが、今回の両国への訪問は、日本外交の方向性、ASEAN重視を国内外にはっきりと示す効果があったと云うものです。

処で、21世紀に入って、資本主義が独り勝ちするなか、グローバルと云う言葉の存在感が強まり、それとは対称的にインターナショナル(国際的な)という言葉はすっかり耳にしなくなっています。然し、自国主義を謳うトランプ米政権の台頭、英国のBrexitなどに刺激され自国主義が高まるなか、国家間の分断が進み、更にはコロナ禍がその傾向を促進する処、いつしかグローバリゼーションの終焉すら云々されるようになってきています。

・ Internationalismの勧め
そうした状況にあって、米プリンストン大教授(国際政治)のJ. Ikenberry氏は、かつて1930年代の不況克服にあたって時の大統領、F.D.ルーズベルトが、当時の政治的、経済的混迷の事態を`contagions’(伝染病症状)と称して対峙した事例に倣い、現下のコロナ禍に覆われた現状を再びcontagionsと再定義すると共に、持続的経済の成長のため、これまでのglobalizationとは異なるliberal internationalismを以って、国家間の連携を高め、新しい世界秩序の下、持続的な成長を目指せと云うのです。久しぶりに目にするinternationalism、筆者が口にする日本が目指すべきは独立した外交とはまさにその文脈を同じくする処です。

そこで、本稿では、(1)米中対立を巡る変化の実状を、国際関係における地政学的変化として分析し、その変化の文脈において、日本はどのような対応を以って持続的成長を目指すことになるのか、広い視点から考察し、併せて、(2)アイケンベリー氏が提唱する次なる思考様式’ More Internationalism ‘について考察する事としたいと思います。


         第1章 QUAD, 日米豪印、新たな国際協調枠組み
 
米大統領選まであと僅かとなった10月2日、トランプ氏は新型コロナウイルス感染発症を公表、直ちにウオルター・リード米軍医療センターに入院したものの、コロナの感染克服を有権者に誇示すべくその3日後には退院し、大統領選挙戦に復帰。10日にはホワイトハウスで対面での選挙イベントを開催、12日には南部フロリダ州で選挙演説を開催と、バイデン氏にあけられている‘水’を取り戻さんと、がむしゃらな選挙活動を再開する処です。

そんな異常な事態にあるトランプ氏を抱え、米国を離れることなど考えられないとされる中、前述4か国外相会議への出席を目的としてポンペオ国務長官が来日。それは「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた4か国の連携強化を再確認するのが狙いとされるものでした。が、それは同時に、より直近の目的は、トランプ大統領のコロナ感染で生じたワシントンの「権力の空白時期」を利用しようと、虎視眈々と狙っている敵対・競争勢力に、米国と同盟国の団結を誇示する事にあったものと見られる処です。

そのポンペオ氏の行動は前出エドワード・ルトワック氏の指摘に重なる処です。ではどういった動きか起きているのか、以下でその状況をチェックしておくこととします。

(1)中国 vs 中国の周辺国、という対立構図
まず中国との戦いの最前線をリードしているのは、豪州だと云う事です。事のきっかけは、新型 コロナ・ウイルスの発生源と、中国の初期対応に関し、国際的な独立調査委員会の設立を豪州が提案したことに始まるもので、これに中国が強く反発、豪州産大麦に80.5%もの関税を上乗せし、留学や旅行も含めて豪州行きを避けるよう国民に呼びかけたと云うものです。 中国は、豪州にとり輸出の3分の1を占める最大の貿易相手国。そこで北京政府は「経済的にどれほど依存しているのかわからないのか」とばかりに圧力を懸けてきたと云うのですが、キャンベラのエリートは屈することなく、WHOでは中国はずしを狙らったり、インドを国連の安保理の常任理事国にするためのロビー活動を始めるなどで、豪州は「反中包囲網」をリードし始めているとされる処です。つまり、こうした豪州と中国との関係の冷え込みが日豪接近の背景にあると云うものです。

又、4月上旬には中国海警局の船舶が、南シナ海の西沙諸島付近でベトナム漁船に体当たりをして沈没させる事件が起きていますし、南沙諸島でも中国とフィリピンとの対立が本格化し始めています。更に4月中旬、北京政府は突然、この二つの諸島を新たな行政区に編入し、西沙諸島に「南海省三沙市」の「西沙区」を、南沙諸島に「南沙区」を設置すると一方的に発表する処、これに対してベトナムは一歩も引かず、これを支援しているのが米国とインドで、日本も、ベトナムに艦を寄港させている処です。

つまり、事態は、もはや「中国vs 米国」ではなく、「中国vs 中国の周辺国」と云う構図になってきていると云う事ですが、そこに豪州、インド、日本と云った「海洋同盟」の国々も加わり、これを支えているのが米国であって、後方支援にあるとされると云うものです。このところ緊張の高まる中国とインドの国境紛争も同様の形勢にあると指摘される処です。

(2)QUAD 会議(4か国外相会議)とポンペオ米国務長官

さて、ポンペオ国務長官が、緊急事態にある米国を置いてまで来日し、インド太平洋会議に出席したことの真の理由については次項②に譲るとして、取り急ぎ「インド太平洋」構想とはどういったものか、改めてその概要と可能性について、検証しておきたいと思います。

①「インド太平洋」構想
10月6日、東京で日米豪印、4か国外相会議が開かれました。勿論、その際のテーマは、「自由で開かれたインド太平洋」構想(注)。そこでは中国を意識した経済や安保について提携協力強化に話題が集中したと、報じられていますが、今、異常事態にある米国大統領戦の最中、ポペイオ米国務長官の来日は何を意味するか、はまさにこの点の確認にあったと云うものです。

   (注)インド太平洋構想:2016年、横浜で開催のTICAD(アフリカ開発会議)で日本が
打ち出した構想で、地域の平和と安定、繁栄に貢献し、経済と安全保障の両面で連携を
目指すとされている。経済面では東南アジアやアフリカでの道路、橋梁など都市インフ
ラの整備の推進。尚、中国が広域経済圏構想「一帯一路」を掲げ、同地域でインフラ投
資を拡大するのに対抗する。一方、安保分野では中国の海洋進出を念頭に、アジアと中
東を結ぶシーレーンを守る狙いがある。

そもそもは、当該構想は上述(注)のとおり、日本が2016年のTICADで打ち出したものです。既に日米同盟関係にインド太平洋を囲むオーストラリアとインドの参加を得て、4か国が中核となってインド太平洋での日米豪印の安全保障協力の体制を構築せんとするアイデイアで、当該会議の呼称は「クアッド(4か国)」(Quad)とされています。尚、昨年9月にはNYで初の4者、クアッド外相会議が持たれていますが、具体的テーマをもって集まった今回こそが第1回会議とされる処です。

尚、4か国の関係ですが、日米はともかく日本と他2か国との関係を見るに、①インドとの間では9月9日には自衛隊とインド軍の役務の相互協定が結ばれ、②日豪間では同様協定は2017年9月に結ばれている処です。尚、オーストラリアとインドの間でもこの6月に同様締結されていて、日豪印は言うなればツーカーにあるとされる処です。
因みに、4か国を地図上でみると、横軸として、東(太平洋)に米国、西(インド洋)にインド、縦軸でみると、北に日本、南に豪州がありで、価値観を共有しうる東西南北4か国の行動様式が注目される処です。

・クアッド4か国の思惑
尤も、クアッド4か国の思惑が全て一致しているわけではなさそうです。インドは伝統的に非同盟の道にあり、きっちりした同盟とするには抵抗がありそうです。インドは新興国であり有名無実化したとはいえブラジル、ロシア、中国、南アと共にBRICSサミットの参加国です。一方、中国との対抗を強く意識する米国は、クアッドを核にインド太平洋版のNATOの形成を狙うものとも云われています。

更に対中戦略の共通点で、日豪共に頭痛の種とされるのが年内合意を目指しているRCEP(アセアン諸国連合10か国に日本、中国、韓国、豪州、NZ、インドの6か国が加わった地域連携)ですが、インドがそっぽを向いてしまったことです。世界のGDPの3割を占めるRCEPで中国の突出を防ぐために、日豪としてはインドをバランス役にしたかった処、貿易赤字が膨らむ中、関税引き下げを嫌うインドは、RCEPから離れようとしているのです。

ですが、クアッド4か国は、海洋進出を加速させる中国を意識しており、日本はクワッド仲間とスクラムを組み中国と対峙する事で、豪印という自由や民主主義を共有する準同盟国を得たことで、足元はずっと安定する事になる筈で、それは日本の同盟国が米国だけとなると、外交で踏み絵を踏まされかねない事への対抗措置ともいえる処です。4か国には、夫々2国間協力の枠組みはありますが、同構想は地域の安全保障協力を「線」から「面」に広げられることになると云うものです。

となれば、日本としては、本構想に火をつけてきた立場から、又TPPを誘導してきた経験をも踏まえ、メイン・キャスターの立場となって当該構想の実現に向かう事となるでしょうし、それは新たな国際環境の創造に繋がる処ですが、同時にその変化への対応として、日本経済の合理的あり方が求められることになる処です。つまりコロナ禍を抱え混迷する世界経済にあって、日本はQUADを通じて、日本そして全アジアの広がりにおいて、持続的発展に主導的な役割を果たしていく事を使命とする事になる、それこそは日本の出番と思料する処です。

② ポンペオ米国務長官 訪日の真相
さて、10月5日、ポンペオ長官は、上述会議への出席を目的に来日しました。大統領選投票日まで28日。この投票1か月を切った時点で、有事でもない限り、通常、国務長官は動き回らないものです。然しこの段階で彼が動いたことは、、世論調査が示すトランプ氏劣勢の挽回にある処、そのための切り札の一つが対中強硬策であり、その目に見える具体策が,インド太平洋構想と位置づける処です。
つまり、東京での4か国外相会議は、中国の海洋利権拡大を狙う軍事的・政治的脅威を阻止することとし、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた4か国の連携強化を再確認するのが狙いと云う事で、右目で中国、左目で米有権者をにらんだトランプ再選戦略と云うものです。

然し、同時に、ポンペオ長官は、トランプ氏の再選はなく、バイデン氏が大統領になるのはほぼ確実と見ているようで、そこでバイデン政権になっても直ちに修正されたり、放棄されたりしない「レガシー」を残そうと慌しく動きまわっているともされ(注)、更にポンペオ氏は2024年の大統領選出馬を視野に入れているとも評される処です。つまりその為には彼として、トランプ氏の意向通りに動いていても、客観的に見て、共和党にとっても国家的利益から見ても、正しいことをしてきたという業績を残したいはずで、彼の行動はそうした発想にある処とメデイアは興味深く伝える処です。

(注)バイデン氏の対中姿勢:弊月例論考6月号でも紹介したように、バイデン氏は、フ
ォーリン・アフェアーズへの寄稿論文で「中国の脅威に対してはグローバルな脅威と捉え
て同盟国やパートナーと集団行動を結集して対処する」と記す処です。 

さて、11月3日まであと10日、敗北を認めないリスクを抱えた米大統領選は如何なる展開を見せるのか、伝えられる処では、選挙当日の夜には勝負は決することはなく、数日、或いは数週間と結果を待つこともありうるべく、政治の空白が気がかりとなる処です。


   第2章  Contagionsの世界で、今求められるのは
国際協調主義 ― More Internationalism, Not Less

今次のコロナ・ウイルスとの闘いが、マスク、防護器具、人口呼吸器、ワクチン等を巡る戦いともされる点で、多くの国では、自国第一主義を以ってそれらを奪い合う、言うなれば地経学的、即ち経済安全保障的な衝動すら露わとなる処、グローバル経済の核となってきたグローバル・サプライチェーンの国内回帰等が云々され、以ってglobalizationの終焉と総括されることの多い状況です。 確かにコロナ対応では各国は、自国の防衛に向かいだす様相にある処ですが、然しパンデミクスの解決は、ウイルスという事の性質からは国際的協力なくしてはなし得ず、従ってinternationalな連携・協調が不可欠とされる処、米プリンストン大教授のJohn Ikenberry氏はForeign Affairs(July/Augst,2020)への寄稿論文 `The Next Liberal Order ‘ で、改めてmore internationalismをと、主張する処です。今更の感、拭えぬ中、上述 ` QUAD’ も同じ文脈にあると思料される処、意外に新鮮さを感じさせられ、そこでその概要を簡単に紹介する事としたいと思います。
             
(1)今、contagions(伝染病症状)の世界

まず、将来歴史家が ‘自由主義世界の秩序’(the liberal world order)終焉のタイミングを問われたら間違いなく、それは2020年の春だと、云うだろうとしたうえで、今日、世界を席巻しているコロナ・パンデミックが露わとする問題は、将来にも必ず引き継がれ発生することが十分予想される処、国民の健康、貿易、人権や環境等、問題について政府は関係当事国間で協力・協働し合い、対峙する事に無頓着でやり過ごしてきた点で、聊かの信頼を失ってきたと、指摘する処です。

そして今、liberal world order,自由主義世界の秩序は、米国を筆頭として、そうした思考様式を放棄し始めたことで壊れだしているが、それはトランプ米大統領が2016年、「グローバリズムと云う誤った歌声に駆られている限り、このアメリカと云う国を明け渡すことになる」と公言していた事態を映す処、この発言は75年に亘る米国のリーダーシップを過小評価するもののほかなく、一方、米外交政策を担うエスタブリッシュメントはもはや店じまいし、次なるグローバル時代、つまり大国間の軍事力競争の時代に向けた対応を目指す様相にある処、かかる事態を回避していくためには Frank D. Roosevelt(FDR)の治世に学ぶべきと主張するのです。

どういったことか。ルーズベルトは、1930年代の混迷した世界を、ウイルスの伝染する状況になぞらえ `contagions‘(伝染病症状)と称し、かかる事態は単に一国で処理しうる事ではなく、その解決にはglobal infrastructure of institutions and partnershipsの構築が不可欠と結論し、以って対峙したが、要はinternationalismに尽きると云うのです。
つまりinternationalismとは、国境を排除しようと云うものでもなければ、世界をglobalizingしようとするものでもなく、それはそれぞれ国家の安寧秩序を確保していくため、経済成長と相互安全保障を担保していくためのmanagementにほかならないと云うのです。今日云う自由民主主義とはこうした政策の積み重ねの上に成り立っているもので、それだけに米国のリーダーシップをもってすれば、それはなお元の状態に戻すことは可能とするのです。

そこで、まずThe problems of modernity、現代経済の問題点についてfact findingを行った上で、The Roosevelt revolutionとされる30年代、大恐慌を克服したFDRの政策を学習し、その取り組みをupdateし、internationalismをコアーコンセプトとして 、その推進のための国際組織(Clubs)とその 協調・協力者( shopping malls)を以って国際的な協力体制の構築を提唱するのです。そこで、以下ではそのThe Roosevelt revolutionにフォーカスし、彼が提唱するliberal orderについて考察しておきたいたと思います。 

(2)The Roosevelt revolution (ルーズベルト大統領の革命)

伝統的にliberal internationalismは、しばしば、1913年の28代米大統領Woodrow Wilsonにさかのぼるものとされる処、自由主義と云う思考様式に革命をもたらしたのは1933年の第32代大統領、F. Rooseveltだと云うのです。つまり、ルーズベルト大統領は、当時、暴力、略奪、圧制に苦しむ世界を見てきた経験から、現代化への力はリベラルにあるのではなく、science, technology そしてindustryが、経済社会の装備となって進歩を促すものと理解していたと云われる一方、ルーズベルト大統領が目指すliberal democratic worldの核心にあったのは国内基盤の強化であり、有名なNew Dealは国内経済復興の政策だったと云うが、結果として、それは世界に影響を及ぶものだったと云うのです。

元々ルーズベルトはinterdependenceとは新たな弱さを生むことになるとしており,1944年Bretton Woods会議に向けた彼のメッセージでは、制度的欠陥などは話し合いで終わらせるもので、各国経済の健全性などは、それぞれの国の問題で、多国が関与する話ではないとしていたと指摘する処です。ただこの相互依存関係をマネージするためには恒久的な多国間調整機関の導入が必要としており、ルーズベル個人は、世界の新秩序の核心に、International agreements, institutions, and agencies を配する事を意識していたと云われる処です。実際、金融、農業、国民健康等々、多国間行政機関の導入が続き、国際共同の枠組みができてきたというものです。

もう一つのイノベーション(新機軸)は、安全保障概念を再定義したことだと云うのです。。 米国では大恐慌とNew Dealが「社会保障」概念を植え付け、第二次世界大戦時の暴挙と国家の崩壊が「国家安全保障」概念を定着させ、そして今日言う処の「社会保障」は、国としての社会的安全網(social safety net)を築くことを意味する事になったと云うのです。

「国家安全保障」とは対外環境を整備する事で、将来を見据えた計画を進め、自国政策を他国家との整合性をはかりながら同盟を堅持していく事ですが、各国は対内的には社会保障政策、対外的には安全保障対応の二つの目標を以って進むことになるが、ルーズベルトの目指すinternationalismの特徴は、big liberal democracies、自由主義大国の間にあっては、各国の安全保障体制と結び付けられる処にあるとするのです。そして、1919年後に進んだ秩序崩壊は大西洋両側の諸国に、自由資本主義民主主義の防衛のためには共通した防衛政策が必要と、自覚させる処となったと云うのです。

自由主義社会と安全保障とは、政治と云うコインの裏表に当たるものだが、ルーズベルト時代のinternationalistは、米国と同じ思考様式の国々が集まり、その際は米国を「偉大な民主主義の集積場」と見做していたとされる処、それも米ソ冷戦が始まるや、米国は他民主主義国と共に、ソ連をチェックするため、同盟を組み、国際機関や連携体制、など矢継ぎ早、制度設計し、自らがその中核に収まってきたというのです。

・Clubs and shopping malls
ソ連崩壊後の世界では、liberal order は、それまでの2極体制から、まさに真にglobal order へとシフトしたが、その結果としてliberal order の社会はそれまでのClub, 有志クラブと云ったものではなくなり、今日みるliberal international orderは驚くほどに枝葉を広げ、安全保障協力、経済的協力、政治的協力は、今や身勝手な行動を起こし、それぞれの成果について責任を明確にすることもなく、またその価値を共有する努力もないままに今や、liberal international order の姿はまさにshopping mallsの様相を呈しており、こうした環境こそが中国やロシアの行動を許すことになってきたとも指摘するのです。例えばWTOの加盟によって中国は欧米市場へのアプローチが可能となったが、中国側はそれに見合う対応をすることなく、知財権の取り扱いなどはその典型だとし、法の下の支配を強調するのです。

そして、こうした動きを回避するためにも、米国と関係自由民主主義国家とが一貫した連帯が取れるよう体制の再編が必要である事、そしてこの点こそ、次期米国大統領に世界のliberal democraciesの結集を呼び掛けることが求められる処とし、併せて、この際は自由民主主義の強化とグローバルな統治の在り方を示した大西洋憲章の精神に立ち戻る事を示唆する処です。

因みに、現在米国を筆頭としたG7に、豪州、韓国等を加えてG10と拡充し、この新グループのリーダーにより、共通の行動基準を導入し、それを規範とした貿易制度を再編する事だとするのです。また気候変動問題についてグローバルな協調体制を再稼働させるアジェンダとし、次なるウイルス・パンデミックに備えての対抗策を整備していく事も必要となる。そして中国が国際機関に協調していく努力をモニターして行く事も必要と云うのです。(尤もこの提言には、俄かには与し得ませんが)

そもそも民主主義国のクラブとは、large multilateral organizations, 包括的多国籍的機関と共存する事にあって、国連をその頂上として国際関係に絡む問題を有効に処理していく事だが、この際のカギは国際協力を如何に国内事情に貢献していくかにあると云うのです。
そこでLiberal internationalismは単にglobalizationに代わる言葉ではなく、つまり、globalization は国家間の障害をはずし、経済や社会を一元化していく事を目指す処、liberal internationalismとはmanaging interdependence つまり相互依存関係を合理的な姿で維持する事にあると、断じるのです。そして、今日の自由民主主義は破綻状態にはあるが、米国のリーダーシップを戴くことで、未だ取り返すことはできるとも云うのです。 であればこれも今次の米大統領選次第と云うことになるのでしょうが、もはやQUADと共に日本の出番かも、と思うばかりです。

            おわりに 脱炭素社会を目指す菅政権

菅政権が発足したのが9月16日、それから僅か1か月余、政府のデジタル庁の創設準備、携帯電話料金の引き下げ検討、不妊治療の保険適用、行政手続きからのハンコ追放、再生可能エネルギーの主力電源化など、多くの政策が一気に動き始めています。その多くは規制改革を伴うため、難度が高いと思われていたものです。アベ政権では未完だった国内における改革に矢継ぎ早、着手する処ですが、なぜこのようなスタートダッシュができるのか? 巷間、それは国家組織を十二分に動かしているからだとされています。尤も学術院会員認証拒否問題もあって近時、支持率は降下気味。さて10月26日召集の臨時国会での所信演説では、これら政策テーマを以って臨むことが伝えられる処ですが、中でも、脱炭素社会の実現を目指すとの政策表明が予定されている由で、これこそは筆者の強い関心を呼ぶ処です。

菅首相は温暖化ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする目標を掲げ、脱炭素社会の実現を目指すと表明する見通しだと云うのです。ゼロ目標とは2050年に二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出量と、森林などで吸収される涼を差し引きで、ゼロにする目標ですが、言うまでもなく長期的産業政策となる処、これが日本の産業構造の転換を迫る処となるだけに、極めてexcitingなテーマと映る処です。

政府はこれまで、「2050年に80%削減」、「脱炭素社会を今世紀に後半に実現」と説明してきていますが、ゼロ迄減らす年限を示さない曖昧な対応で「環境問題に消極的だ」と批判を受けてきていました。温暖化ガス排出量を実質ゼロとする目標をあげるのは、世界で「脱炭素」の流れが加速している(注)ことを映す処ですが、目標を達成するには、社会や経済の在り方を根本から見直す大改革が避けられない処です。 

  (注)海外の対応:EUは既に「2050年に実質ゼロ」の目標を掲げているが更に、「パ
リ協定」が示す「産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える」目標を早期達成
のため、前倒しも検討している由。なお、英国、フランス、ドイツは温暖化ガスの排
出量が多い石炭火力の全廃を決定。又、排出量削減を巡っては消極的だった中国は
「60年より前に実質ゼロ」を表明。米国は周知の通りで、今次大統領選結果次第。

新目標の設定を受け、経産相は26日にも再生エネルギーの拡大を柱とする政策の公表を示唆しており、温暖化対策を通じて産業構造の転換を促さんと云う処、太陽光・風力発電の普及のため大容量蓄電地の開発援助、水素ステーションの設置拡大策も示す見通しと、報じられており期待される処です。ただコロナ後の経済回復を脱炭素社会に繋げられるかがカギとなる事でしょうから、国民や企業もこれが齎す変革への覚悟が求められると云うものです。元より高い目標を掲げることで、新たなビジネスが生れ、生活もより便利で豊かなになる、そうした発想で、社会と経済を根本から作り変える覚悟が必要と、痛感する処です。
                               以上 (2020/10/24)
posted by 林川眞善 at 17:25| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする