2020年07月26日

2020年8月号  コロナ禍の世界秩序の行方、日本に求められる行動様式 - 林川眞善

目  次

はじめに  世界秩序のかたち
 ・世界秩序は新たな流儀で
 ・民主主義国の連帯体制の構築

第1章 日本経済 コロナ禍からの脱出戦略

1.国民の不安解消こそが最優先の経済対策
 ・小林慶一郎氏の提言
2.脱出戦略のリアル
 ・コロナ危機は変革へのチャンス

第2章 日本経済 持続可能な成長への戦略

1.` Great reset ‘ of capitalism
・三つのAgenda
2.日本の ‘かたち’はSDGs対応がカギ
(1)「令和2年7月豪雨」が再び示唆すること
  ・環境立国たるの宣言を
(2)中期展望を欠いた「骨太方針」

おわりに 世界の指導者の優劣をはっきりさせたコロナ危機
 
(1)安倍政府のコロナ対応は上手くいったのか  
  ・モヤモヤ感の背景
  ・コロナ対策検証会議発足
(2)メルケル首相は民主主義の実践者

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はじめに 世界秩序のかたち

世界では行動制限を緩めて経済活動の再開を目指す動きが広がる中、感染ペースはむしろ早まっている様相にあります。6月28日、米ジョンズ・ホプキンス大によると、世界の新型コロナウイルスの累計感染者数は1000万人を超えたと発表。ブラジルなど新興国で新規感染が急増しているほか、先進国では米国で感染者が再拡大の様相です。翌29日に発表された世界のコロナによる死者数は累計で50万人を超えたとの由です。
序で乍ら、これまで新型コロナウイルスに負けない、強い大統領を誇示すべくマスクの着用を忌避してきたトランプ氏も、かかる状況に、マスク着用で公の場に現れる一方、多数の支持者を集める党集会は取りやめると方針の転換を示す処です。

OECDは6月10日、年内に感染が再び拡大した場合、2020年の世界の実質経済成長がマイナス7.6%に落ち込むとの予想を公表する処です。こうした世界経済のトレンドを高めているのが米中対立の激化であり、前号でも取り上げた通りですが、とりわけコロナウイルスとの闘いが、マスク、防護器具、人口呼吸器、ワクチン等を巡る戦いでもある点で、多くの国では、自国第一主義でそれらを奪い合う、言うなれば地経学的、即ち経済安全保障的な衝動すら露わとなる処、グローバル経済の核となってきたグローバル・サプライチェーンの国内回帰等が云々され、以ってglobalizationの終焉と総括されることの多い状況です。が、果してそうなのか。いやコロナ対応で各国は自身の防衛に向かい出したものの、パンデミクスの解決には国際的協力なくして在りえず、つまりinternationalな協調が不可欠と云う事で、事態は、いまそれに向かい出しているのではと思料するのです。

・世界秩序は新たな流儀で
英誌 The Economist ,Jun. 20のcover storyはThe new world disorder と題するものでした。その内容は、これまで世界の安定秩序の基盤とされてきた国際機関の機能不全が、深刻化する米中対立の煽りを受ける形で進み、同時に関係諸国間の分断が進んできたこともあって、グローバル経済の無秩序化が進み出す様相にある処、仮に米国が国際機関から身を引くとしても、関係諸国は‘前進’をと、檄を飛ばしながら、変調ながらの秩序作りの可能性を指摘するものでした。世界秩序は新たな流儀でと云った様相です。

つまり、75年前、国連創設にあった当時の世界の生業をレビューしながら、危機にある現状、global 秩序の混乱が齎す恐怖は米国自身を含め、各国に及ぶ処、仮に米国が外れることがあったとして、関係諸国が一緒になって、とりわけmiddle powerとしての日本、ドイツそして新興のインド、インドネシア等、積極対応していかねば事態をほぐすことにはならないと警鐘を鳴らすものでした。まさに経済のグローバル化に支えられてきた日本にとって、それは日本の出番を示唆する処と云え、筆者が前号論考で日本は自立する外交を目指せ、としたそれ文脈を同じくする処です。

上述、米中の対立が国際機関(global bodies)の機能をも低下させ、安全保障体制の停滞を誘引するなか、多国間協定無視のトランプ氏の破壊行動は、それを更にエスカレートする様相にあり、先のパリ協定からの脱退声明に引き続き、来年7月WHO脱退を国連に通告した他、WTOに対する軽視態度、又、欧州安全保障体制の基盤たるNATOの機能低下につながるドイツ駐留米軍の一部撤退表明等、世界のこれまでの秩序をなし崩しする様相にあり、大いなる懸念の強まる処です。もとより、今次のコロナパンデミックと云うグローバルな問題解決には、治療とかワクチン開発と云った点で、国際的な協調・協力なくして解決を見ることはなく、これが地域社会の安全保障にとっても大きな問題を提起する処です。

・民主主義国の連帯体制の構築
こうした状況にどう対抗していくべきか。前掲The Economist誌は続けて下記指摘するのです。 つまり、それでも世界はいわゆるポイント・オブ・ノリターンを迎えてはいない。これまでの数十年間、米国に次ぐ、第2のパワーとして、言うなれば米国に追従する形で今日まで歩んできたフランス、ドイツは多国主義の下、連携強化を目指し他国との自由経済の関係強化に向かい始めている。更に、日本、ドイツ、豪州、カナダを含む9か国による民主主義国の連帯体制(これらは世界のGDPの3割を占める)の構築の可能性も指摘し、「世界秩序救済のための会議」(committee to save the world order)の導入すら示唆するのです。 勿論米国がドミナントなポジションを握るだろうが、他メンバーが結束すればできない話ではないと云うのです。トランプ米国がTPPから降りた後、関係諸国はそれぞれに地域的な経済協力、双務的貿易協定などを擁して貿易拡大を進めてきている事、更に日本とEUとの通商協定は、その最たるものと、指摘する処です。

序で乍ら、国際秩序を守ることは必要な事とも云いながら、中国の露出度の近時の高まりに懸念を示すのです。つまり、国連における中国の露出度の高まりです。例えば、彼らの国連経費負担は、2000年ではわずかに全経費の1%を負担するだけでしたが今や、その負担は12%に拡大、しかも今や、国連専門機関、15機関の内、FAO等4機関のトップが中国人、米国はと云うとトップを占めるのは僅かに1機関という状況で、国家の主権や人権をめぐって中国の影響が諸に出てくることへの懸念、隠せぬ状況です。

さて、前回論考で筆者は、今後日本が目指すべき政策の方向は「自立する外交」としましたが、それは上述状況を踏まえての主張ですが、これが一種、危機管理対応とも言え、その意味では「チャイナ・プラス・ワン」(注)にも通じる処です。

    (注)「チャイナ・プラス・ワン」:2005年小泉純一郎首相(当時)の靖国参拝問題で日中関係が
急速に悪化したことをきっかけとして、中国への集中を避け、他アジア諸国との連携をと、議論
が起こったことを指す。が、その後の日本側の政変も加わり萎む処、今再びとする処。

勿論、現実に国際社会で存在感を示していくためには、もとより強い経済が求められる処、言い換えれば、それは強靭な日本経済の確立です。ただ、これが新型コロナウイルス禍の現状にあって、どのような対抗を構想し、実施していくかですが、結論を先に言えば、政府諮問会議委員に招聘された東京財団政策研究所研究主幹の小林慶一郎氏の言う「第三の道」、つまり、感染防止と経済回復が両立する道を追求する事と思料するのです。 そこで、今次論考ではこの第三の道の実際をコロナ禍からの脱出戦略とし、更にコロナ禍を超える、急速に進み出した経済の新展開を、日本経済の再生戦略として改めて考察する事とします。


            第1章 日本経済 コロナ禍からの脱出戦略

さて日本では5月末、緊急事態宣言が全国で解除され、コロナ禍は新たな局面に差し掛かってきています。ではこれから先、日本の対抗政策は如何にと、まさに「コロナ禍からの脱出戦略」が問われる処です。言い換えれば、政治も経済も何を成すべきかですが、それは上述、経済回復と感染防止が両立する「第3の道」を目指す事になる処です。

人類が感染症を完全に「制圧する」ことは不可能とされています。そこで巷間、「コロナとの共生」が話題となるのですが (筆者は決して「共生」とは云わず、常に「対峙しながら」とするのですが)、その議論は、「外出自粛・休業要請」で不況を甘受するか、経済を再開して感染拡大にリスクを受け入れるか、の二者択一の政策に陥りかねません。これではどちらを選んでも犠牲は大きいと云うものです。従って、今後は「経済の回復と感染防止」が両立する「第三の道」を目指す事が求められる処、その帰結は、小林氏の云う、感染を恐れない社会の創造に向かう事と思料するのです。

1.国民の不安解消こそが最優先の経済対策

現下の世界的経済不振は、コロナ感染防御策として取られてきた人々の行動様式の変容に負うものです。つまり感染予防対策として、人と人の直接的接触を回避するソーシャル・デイスタンスの確保です。そのためには「外出自粛・休業要請」を通じて拡大防衛を目指す、まさに人の行動様式の変容が求められての事と云うものです。かくして市民は外出を自粛し、従ってGDPの6割超を占める消費活動の萎縮を生み、これが生産活動の停滞を誘引し、経済全体が停滞を示す処となっています。 この背景にあるのが消費者の感染への不安で、これこそが経済低迷の本質と云え、「外出自粛・休業要請」で感染症による死者数を減らしても、経済苦による自殺者がそれを上回っては、政策としては失敗です。そこで経済回復と感染防止が両立する政策が求められる事になると云うものです。

・小林慶一郎氏の提言
今次政府諮問委員に招聘された前出、小林慶一郎氏は就任直前、国民の感染不安をなくことが、最優先の経済対策だと強調するのでした。そして、その為には、次の感染拡大に対応しうる十分な量の医療体制と、市中感染を抑え込む検査体制の拡充が必要と強調し、その為のシステムを「検査・追跡・待機」の3セットとして示す処です。そしてその際は、検査の目的は「医療のため」だけではなく「社会の不安を取り除くため」でもある、という新しい考え方に転換すべきと主張するのでしたが、実に頷ける処です。

3セットの内容とは、まず段階的に「PCR検査」を拡大すること。第2に接触者追跡のための人員を大量に雇用して濃厚接触者を追跡すること。そして第3に陽性者は隔離して一定期間、待機・療養生活を送ってもらい新規感染者を抑え込むこと、とするのです。そしてこの3セットを実施した場合、トータル・コストは2兆円と試算するのですが、不安を払拭することで経済の本格的な再開を早めることができれば、2兆円のコストがかかったとしても、現在、想定される経済停止による損失(年間25兆円~50兆円に達すると想定)を大きく低減させることができるのではと強調する処です。(文芸春秋、2020年7月号)

2.脱出戦略のリアル

さて、これまで、「外出自粛・休業要請」とひたすら我慢をお願いする、いわば受け身の戦略でしたが、今求められているのは、感染リスクを積極的にコントロールした上で、経済の回復を目指す攻めの戦略ではと思料するのです。その点、医療関係者との交流を図りながら、社会として、経済として、いかに対応すべきかを考えていくシステムが必要となる処です。そしてsocial distanceを図りながら、と云う新たな行動様式を擁して経済活動を図るとなると、まず経済のオンライン化を進めることであり以って、前出感染を恐れない社会の創造に向かうべきとされる処です。
要は、検査体制に道筋をつけ、消費者の不安を払拭できるかですが、日本経済の未来は、まさにここに係っていると云うのですが、然りとする処です。従って、景気回復に向けた本格的な経済対策は、上記の通り、感染症の拡大に一定程度、歯止めがかかったと見極めが得られた段階で導入されていく事、と思料する処です。

今米国では、経済優先で、早期に経済活動を再開に踏み出した結果、コロナ感染の再来に曝される処です。これもトランプ氏の再選目当ての政治行動の結果と云え、ノーベル賞経済学者のP. Krugman氏はNY Times(July 2)で、トランプ政策を批判し「ロックダウンで救われる人の命の経済的価値は、経済活動停止による損失を大幅に上回る」と語る処です。

一方、経済対策と云う側面では、「雇用を守る」「中小企業を倒産させない」と云った力強いメッセージを発信して、国民の生活保障に力点を置くことも不可欠です。具体的には雇用調整助成金の拡充に加え、本当に困っている個人や中小企業、個人事業主に対象を絞った迅速な現金給付などが必要です。又、中小企業の資金繰り倒産を防ぐ意味で、無利子・無担保の融資拡充と共に、税金の支払い猶予・減税等、政策を総動員されるべきと云うものです。

・コロナ危機は変革へのチャンス
つまり脱出戦略とは、まず医療体制の確立と併せて、コロナ禍で痛手を受けた事業への政府による支援で雇用を維持させ安心感を与え、その上で企業の改革を進めると云う構図が生まれる処です。実はコロナ感染拡大回避の為、導入されたsocial distanceが結果として産業・組織・個人に大きく変わる覚悟を求める事となった事で、コロナは危機だが企業変革ができるチャンスたるの自覚を生んだのです。働き方が変わり、DX( Digital Transformation )にも様々な企業が取り組む等、このチャンスをうまく活かせる企業がこれからも新しい価値を生んでいくと見られ、結果、産業構造の変化が進むと見られるようになってきたと云うものです。(注)

 (注1)「デジタル・トランスフォーメーション (DX) ―価値の協創で未来を拓く」
経団連は、timingよく、5月19日、頭書提言を発表しています。その趣旨はデジタル技術を活用し
て企業に変化を促すことを通じて情報化を中核に置いた新しい社会の創造を目指さんとするのです。
具体的には、テレワーク、オンライン診療、オンライン授業、インターネット選挙の実現等を通じて
「ソサエテイ5.0」を推進し、リモート社会を構築していくと云う。[ ① 産業構造DX―Society 5.0
時代の産業、②企業DX―協創、➂新たなルール、 ガバナンスの確立 -産官学協創による国際展開 ]-

(注2)「ソサエテイ5.0」:狩猟社会(Society 1.0),農耕社会(Society 2.0),工業社会(Society 3.0)、
  情報社会(Society 4.0)、と云った人類がこれまで歩んできた社会に次ぐ第5次の新たな社会を、デ
ジタル革新、イノベーションを最大活用して実現すると云う意味でSociety 5.0 と称する。

尚、留意すべきは、オフィスワークとテレワークが代替的でなく補完的に機能するようにする事が肝要と云え、それにはICT環境を進化させるだけでなく、常態において2つの働き方が相互に補い合うように、企業内、企業間、および企業を取り巻く社会のシステムを変革する事が必要となる処です。

さて上記を総括するに、社会・経済活動の持続性回復に舵を切る為の条件は、一つは「治療体制」、つまり重症化リスクの高い高齢者等に対して重点的に高度医療を提供することが可能であり、「医療崩壊」のリスクがない状況が実現できている事、二つは「リモート社会」を実現させる事そして、企業の新陳代謝を進めることと、なるのです。 更に理想的には、世界的にSDGsが推進されて環境破壊や所得格差の拡大に歯止めがかかっている事が必要となるのですが、この点は日本経済の将来への取り組み、再生戦略として、次章で触れる事としたいと思います。


第2章 日本経済 持続可能な成長への戦略

1.` Great reset ‘ of capitalism

コロナショックを経て今後、日本を含めて世界は、どのように進むことになるのか。
今年の初め、スイスで行われた World Economic Forum(WEF:いわゆるダボス会議)のテーマはグレ-ト・リセット、つまり新しくなる世界を巡っての議論、とりわけステークホルダーが作る持続可能で、結束した世界の創造を目指す議論が多々行われた由ですが、200以上のセッションの内、4割程度が「環境」に関連した内容だったと報じられています。
その主催者のWEF会長、シュワブ氏は、再び米論壇、Project Syndicateに6月3日付けで「Time for a Great reset 」と題し、エッセイを投稿しています。その趣旨は、現下のCOVID-19に対するlockdowns(都市封鎖)は緩和されていくだろうが、世界の経済社会の見通しはただただ厳しく、急速な経済の落ち込みは既に始まっている。但し、これが1930年代来の大不況に向かう事になるかは、避けられないことではない。要は世界が一体となって速やかに、社会・経済のあらゆる活動様式、教育や社会契約、働き方を変革することで避けられると云い、つまりは資本主義のリセット(Great Reset of capitalism)が必要と主張し、そのためのアジェンダとして以下の三つを挙げるのです。

・三つのAgenda
一つは公正な市場創造への政策誘導です。この為には政府の調整機能の強化、税制制度の見直しや財政政策の強化等、が求められ更には、貿易協定の改善やまさにステークホルダーを中心とした経済の創造、確立が求められると云うのです。そしてより公正さを担保するための政府機能の強化をもと、するのです。つまりこれまでの資本主義が効率をベースとした市場主義にあったものから、より公平な所得を保証する経済に誘導するstake-holder capitalismにシフトしていく事。
二つには、機会の平等、経済の持続性確保を共有の目標として、投資活動の促進を図る事。つまり、米国、日本、そしてEUでの7500億ユーロの欧州復興基金構想等、多くの国ではいま大規模な支出計画があって、旧来からの制度の不具合を埋め合わせることも含め、新たな持続的、強い耐性の経済を再生に向けた新たな経済の構築に向けられる、それこそが進歩への大きな機会だと云うのです。これこそは彼流にいうgreen urban infrastructure の創造であり、産業の環境対応、社会的対応を促す要因となると云うのです。
そして最後に、最も優先すべきAgendaとして、公共財とも云うべき健康や社会的挑戦に資するよう第4次産業革命の更なる革新を図っていく事、と云うのです。

以って、これからの進むべき経済社会のシナリオは、「グローバル資本主義」からSDGsを中心に据えた「ステークホルダー資本主義」への転換だと云うのです。即ち「新常態(ニューノーマル)」と呼ばれる新しい世界が始まると云う事を意味するのですが、巷間、コロナ禍後の経済が、それ以前の状態に戻ることがないだろうと云々されていますが、それは、かかる事態の変化を意味すると云う事なのです。因みに2019年8月、米国の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が株主第一主義を見直し、従業員や顧客、地域社会などにも配慮すべきだとする共同声明を発表していますが(弊「論考」2019/10月号)、こうした一連の出来事を踏まえると、伝統的な経済学は「成長」や「効率性」ばかりを重視し、「分配」や「格差」に関する分析を怠っていたとも云え、そこでシュワブ氏指摘のように、コロナ以前の世界を一旦リセットし、新しい社会システムの再構築を目指すことが求められていることを、改めて自覚させられる処です。

2.日本の‘かたち’はSDGs対応がカギ

(1)「令和2年7月豪雨」が再び示唆すること
この7月、日本は九州地区を中心に大豪雨に見舞われ、気象庁は「令和2年7月豪雨」と命名する処です。おととしは「平成30年7月豪雨」、その前年には「平成29年7月、九州北部豪雨」と、毎年のように豪雨災害が起きています。もはや一国の治山治水政策を超えた地球大の気候変動が齎すものと指摘される処です。気象関係の専門家によると、積乱雲が次々と発生する「線状降水帯」が引き金だったと云うのですが、梅雨前線に向かって海面から上昇した暖かい空気がぶつかり大雨になったと云うものですが、地球温暖化によって海水温が上昇すれば、今後も日本列島は豪雨に見舞われる危険性が高いと云うのです。
気候変動と云えば、近年の南極圏の凍土の融解が問題となっています。つまりそこにとじ込められていたウイルスが凍土融解の過程で他生物を介して再生することが指摘され、気候変動が続く限り、ウイルスが死滅することはなく、従ってコロナ問題は続くとされる処です。

更に温暖化問題に直結する問題がエネルギー問題、とりわけ石炭問題です。つまり温暖化を促進させる二酸化炭素の排出量の高い石炭火力ですが、その石炭火力への依存度の高い日本への批判は高まることはあっても収まることはなさそうです。と云うのも今世界ではコロナ感染拡大をきっかけに「脱石炭」の動きが加速しているのです。 経済活動の停滞で電力需要が減少し、気候変動の対策を意識する各国の経済政策もエネルギーの転換を後押しする状況にあります。コロナ後は新しいエネルギーの時代をどう生きていくかが試される処、欧州を中心に各国は脱炭素を柱とする経済対策「グリーン・リカバリー」に知恵を絞る状況と伝えられています。こうした現実にも照らすとき、まさにSDGs(注)として盛られた環境政策対応こそが、日本の行方を規定する事になると、改めて知らされる処です。

(注)国連サミットのSDGs合意と日本政府
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、1999年のダボス会議で、当時の国連事
務総長、コフィ・アナン氏が持続可能な成長実現のための世界的枠組みを提唱、これ
が2015年9月の国連サミトで採択され、「世界を変革する-持続可能とする開発の
為の2030 Agenda(17のゴールと169個のターゲット)」とされるもの。日本政府は
翌年、2016年12 月22日に全国務大臣で構成する「持続可能な開発目標(SDGs)推
進本部」を立ち上げ、「SDPs実施指針」を決定、2030年Agendaに掲げられた5つ
のP( People, Planet, Prosperity, Peace, Partnership ) に対応、日本政府が目指す8
項目を掲げ、今日に至っている。

・環境立国たるの宣言を
現状は、一部の企業が、その実行プランを公開し、ネットを介し、interfaceを図っていますが特段、何の響きもありません。欧米企業では周知の通り、トップが社会のあるべき姿を描き、それに向かって現場が進む処、日本では現状の技術レベルを前提にボトムアップで計画が進むため、SDGsへの取り組みが遅々として進まぬ事情にある処でしょう。然し、不透明感深まる今こそ、より良い未来の構築に取り組む姿勢が重要です。上述日本の対峙している問題、世界の構えにも照らし、この際は「環境立国」を宣言し、SDGsの大きな柱である環境問題への取り組み姿勢を、世界に発信していく事とすべきを思う事、今再びとする処です。

そこで問題は発想の転換です。つまり現状からの延長ではなく当該目標から逆に、それに向かってどういったことが求められるかを追求する行動様式で、要は「フォアキャステイング」から「バックキャステイング」への思考転換が必要と云う事ですが、その事が日本の生きざまを進化させていくはずです。その点、筆者が主宰する勉強会でも大いに沸く処です。
 
(2)中期展望を欠いた「骨太方針」
安倍首相は、6月18日の記者会見で「ポストコロナの新しい日本の建設に着手すべき時は今だ」と訴え、アベノミクスで掲げた目標のいくつかは、2021年9月までとなる総裁任期中の実現は難しくなる中、7月3日には、「アベノミクスで掲げた目標のいくつかは、2021年9月までとなる総裁任期中の実現は難しくなる中、強靭性や持続可能性を持った長期的視点に立って社会像を追求する」と発言する処でした。 そして、首相が議長を務める未来投資会議を拡大し、「コロナ後」の社会像を構想する新会議を立ち上げ、経済諮問会議の民間議員や感染症の有識者などを入れて議論を始めるとも、伝えられる処でした。

が、7月17日閣議決定された経済財政運営と基本方針(骨太方針)では、ウイルス感染防止と正常な経済社会活動の両立を謳い、デジタル化の加速や医療体制の拡充などに取り組む方針を示したものの、残念ながらコロナで一変した世界に向き合う経済・財政の中期的展望を見ることはありません。その事は安倍晋三首相の何を意味する事か、関心の募る処です。


       おわりに 世界の指導者の優劣をはっきりさせたコロナ危機

(1)安倍政府のコロナ対応は上手くいったのか
周知の通り、安倍政府は5月25日、4月7日以来の緊急事態宣言を全面解除とし、経済活動再開に向け動き出しました。解除決定の論拠とされたのが「再生産数」(注1)で、 いずれも感染拡大が防げるレベル(新感染者が直近1週間の合計で10万人当たり0.5人以下に抑えられている状況)に達したとするものでした。

(注)「再生産数」:これは1人の感染者が何人にうつすかを示す数値で、感染雄拡大が続くのか収束
するのかを知る物差しとなるもの。これには「基本」と「実効」指標があり、特に実効はパンデミ
ック後に各国がとった対策の巧拙を知るバロメーターとなる。これは1人の感染者が何人にうつす
かを示す数値で、感染雄拡大が続くのか収束するのかを知る物差しとなるもの。

かくして、当初恐れられていた感染爆発は逃れ、日本の流行は一端、収まりつつありました。が、現状は感染拡大、再びの様相です。何ともモヤモヤ感、募る処です。

・モヤモヤ感の背景
日本は人口10万人当たりの死者が0.65人と、欧米に比べて大幅に少ないことを評価する声はあります。然し、パンデミック第1ラウンドでは各国の医療体制や対策への巧拙が感染者数や志望者数を左右したと云われています。情報テクノロジーをうまく使いこなした台湾、徹底した検査と追求、隔離で感染を抑え込んだ韓国、官学一体で合理性ある戦略に拘ったドイツ等、いずれも「台湾モデル」、「韓国モデル」「ドイツモデル」として他国は手本にする処です。然し「日本モデル」という言葉は聞こえては来ません。 何故か? ウイルスとの闘いはこれからが本番とされる処です。そこで感染の拡大を抑えつつ経済活動を戻し、予想される第2波に備える為にもと、そのモヤモヤ感の所在を、以下に整理してみました。

① 自粛要請という日本型規制の曖昧さです。日本の場合、対策はデータを重んじる合理性や一貫性を下記、「自粛要請」と云う矛盾した言葉を国民の行動に強いてきたからで、まねしようにもまねできません。因みに、6月9日付けFinancial Timesは、今次の日本の成果は国民のmindo(民度)の高さによるものとした麻生太郎氏のコメントに、`Japanese pride in the end of lockdown can swell too much’ と、強く反応する処、要は国としての政策のなさを示唆する処です。同じ線上にある問題として指摘できるのが、外出制限の前提となった「8割」自粛の数値です。本来は人と人との接触を減らす数値目標です。然し、緊急事態宣言下でいつのまにか主要ターミナル駅や繁華街と云った都市部への人出(人の流れ)の削減に焦点が移っていたのです。人出が減るのと、人と人の接触が減るのとはイコールではありません。そもそも接触機会をどう定量的に示すかも定まった手法はありません。この科学的根拠の希薄な「8割目標」はモヤモヤの温床となるものでした。
② もう一つはPCR検査不足に対する説明の不十分さです。これが言うなれば社会に不安や不信を掻き立てたと云う事です。疫学調査を優先し医療崩壊を防ぐのが目的なら、過少検査でも問題がないとする根拠を丁寧に説明すべきだった処、そうした機会はないままに終わってしまった事でした。検査数が十分でなく、国内の感染状況を正しく反映していない可能性もありで、各国が出口戦略に活用した「実効再生産数」(前出注参照)と呼ぶ流行を映す数値を採用することができていなかったと云う事です。そして宣言解除に向けた基準作りは難航し、「感染状況」、「医療体制、「監視体制」の三つから判断せざるを得なくなり、結局「総合的に判断する」と云う、聞こえはいいが、政策に情緒や思惑が入り込む余地を作ってしまったのです。データを軽視する結論にはやはりどこかに疑念の目が向く処です。今次の検証会議では「科学的根拠」が云々されており、期待できそうですが。
➂ 更に、専門家会議の迷走が対策への信頼を損なう事になった事です。同会議はあくまで医学的な見地から政府に助言を行う組織で、政策の決定者ではありません。にも拘わらず時に大いなる存在感を示す処、その極め付きは専門家会議が5月4日に公表した「新しい生活様式」でした。手元にある資料では生活の場面ごとにきめ細かく実践例が示されていますが、医学的助言とは程遠いものと云え、責任を取りたくない政治や行政が、専門家という権威を巧みに利用したともいえる処です。

日本では同調圧力が強く、人目を気にして行動を控えるひとも多いことでしょうが、外出しても何ら罰則があるわけでもなく、それでいて緊急事態宣言が海外の都市封鎖よりも威力を発揮したとされ、又、多くの人たちは日本人の特性と語るのですが、これこそはお上任せの態度と映る処です。現状、第2波の到来が予想される処、政府は第1波で感染者と死亡者数が比較的少なくすんだ「要因」をきちんと分析し明らかにする必要が求められると云うものです。いずれにせよ、当該専門家会議は、6月28日、任務終了となったのですが、なんともいい加減な顛末に安倍内閣の無責任さ再びと、云う処です。

・コロナ対策検証会議発足
政府はこれまでの新型コロナウイルス感染症対策の効果を科学的に検証する会議(新型コロナ対策効果分析会議:委員長 黒川清氏 )を発足させ、その初会議が7月1日、内閣府内で開催されました。メデイアによると検証テーマは外部の専門家から公募し、研究結果を踏まえ、9月をメドにこれら対策の効果や課題等、調査、取り纏めるとの由ですが、さて。

(2)メルケル首相は民主主義の実践者
そんな折、在ベルリンの作家、多和田葉子氏の文芸春秋、7月号に寄せられたコラム「民主主義と透明感」は、筆者が4月号論考でも取り上げたメルケル首相の3月18日のコロナ対応への協力を訴えたTV演説を見ての感想でしたが、極めて清々しささえ覚えるのでした。
つまり多和田氏によると「この人(メルケルさん)はいい加減なことは言わない人で自然科学を重視していると云う印象と、この人は子供を守ろうとするお母さんライオンのように強い人だという印象がミックスされて、みんなの信頼を一瞬にして得た」と記し、「社会の弱者を守るためにみんなで力を合わせましょう」という強くて暖かい呼びかけだったと、云うのです。メルケル首相はテレビに出て人間的な演説をして皆の不安を減少させたと云う事ですが、彼女こそは危機に直面した時に人間らしい顔を見せる人だとも云うのです。

2011年の福島原発事故が起こった時、彼女はすぐにドイツの脱原発を宣言して国民の支持を得たが、2015年、大量の難民すべてを受け入れようと発言し、人間的な顔は見えたが、それによって支持者を失い受け入れに制限が設けられたのですが、つまり彼女が独裁的に自分の意見を通しているわけではないが、「首相が何を考えているのか、国民がそれをどれだけ支持しているのかが常に透けて見える、この透明感が良いなと私は思う」と。そして「政府が何をしようとしているのか、よく見えなかったり、国民の過半数が考えている事が政治にまったく反映されないのでは、民主主義が機能しているとは言えない」とし、メルケル首相は石礫のように飛んでくる反対意見に丁寧に答え、自分の方針を説得力あるやり方で説明し、すぐに実行し国民の信頼を得る,とも指摘するのでした。

コロナ危機ほど世界の指導者の優劣をはっきりさせた例はないと云われるなか、メルケル首相こそ、まさにその‘優’を行く存在たるを実感させられる処です。どこかのリーダーに聞かせたい処です。 以上 ( 2020/7/24記)
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