2020年03月26日

2020年4月号  COVID-19、’コロナ危機’に覆われた世界 - 林川眞善

目  次

はじめに 世界は今, 新型コロナ・パンデミック  
     ・日本政府の危機対応は

第1章  新型コロナウイルス感染拡大と世界経済
  1 新型コロナ感染拡大と習近平政権
  (1)「COVID~19」危機とグローバル経済
  (2)中国国内で高まる習近平共産党批判
                
  2.新型コロナ感染危機の実像と国際協調
  (1)コロナ感染が齎す経済的ショックとその対応
  (2)求められる国際協調とトランプ米国
  (3)‘市場’が映すコロナ恐怖に強く反応したトランプ政権

第2章 新型コロナ感染拡大と、二つのテーマ 
    ― 米中経済関係のDecuplingと、米大統領選

  1.問われる中国依存のグローバリゼーション
  (1)変わる多国籍企業のグローバル化対応
   (2)新型コロナ騒動後の世界経済

  2. 新型コロナ対策と11月米大統領選
  (1)トランプ氏を巡る政治環境
  (2)トランプ氏のCOVID-19対応策も大統領選狙い

おわりに  危機はいずれ終わる        
     ・危機はいずれ終わるのです
       
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はじめに 世界は今、新型コロナ・パンデミック

先月弊論考では、これまで世界経済の有力な在り姿として認識されてきたグローバル化の動きに、その主役とされていた米英両国が背を向け、まさにbackward regressionを呈する事態になって来た事に、世界経済の行方に大いなる懸念を記した処でしたが、もはや、そんな懸念等をすっ飛ばすような事態と対峙する処となってきました。新型コロナウイルスによる新型肺炎感染の世界的拡大です。3月11日、WHOは新型コロナ感染の拡大状況につき「パンデミック相当」、つまり現状はパンデミック状況にありと、宣言したのです。(注)

 (注)テドロスWHO事務局長は3月12日の記者会見で、新型コロナ感染状況をパンデミックとし
た判断根拠として、「過去2週間で中国の外での感染者は13倍に、感染者の見つかった国は3倍に
増加。4291人が死亡。この数字は、数週間で更に増えるとみられる」と説明。パンデミック(ある
病気が世界中で大規模に流行し、制御不能になった状態を指す)宣言自体に法的拘束力はないが、
宣言によってワクチン増産など具体的施策を促す事を狙いとする。

周知の通り新型コロナウイルス、「CODIV-19」は昨年末、中国、武漢市で確認され、1月には中国全土に、2月にアジア各国、2月下旬にはイタリアで感染が爆発、3月には欧州全域に、そして米国へと3大経済圏を網羅する状況となっています。
その感染経路は、空気伝染ではなくヒトとヒトとの直接接触、或いは乗り物などでの間接接触とされ、感染拡大の阻止には不要不急の外出を避ける事、グループや企業など、多くの人が交流する場を避ける事とされ、従って生産活動は工場閉鎖などで停滞、一方、個人の行動規制が加わったことで消費活動は急速に停滞、勿論これに伴うサービス業も窮地に置かれるなどで、世界経済は供給、需要の両面で、一挙に停滞の様相を強める処となっています。

因みに、3月18日,ILOが公表した報告書では、コロナウイルスの影響で、世界で失業者が最大2500万人増えるとしていますが、要は各地での企業の操業停止や店舗の営業の規制が相次ぎ、企業活動の停滞が深刻になってきていることを示唆する処です。

そもそもCODIV-19感染拡散の事情としては、日本総研理事の呉軍華氏も指摘するように、(日経2月28日) 「経済のグローバル化が進展した結果、危機のグローバル化が進んだこと、そして、その勝者たる民主国家とは異質体制の国、中国がグローバルパワーになった事で、これまで経験したことのない危機の発生リスクを世界は内包してしまったことの結果」と云え、とりわけ、言論統制と権力の一極集中の体制下では危機の発生は避けにくいとも指摘される処です。

・日本政府の危機対応は
さて、日本政府は2月25日、政府専門家会議の見解を擁し、新型コロナ感染対策の基本方針を出すとともに、その二日後の27日には安倍首相は、自分で今が危機状況と判断したと、突然、特別緊急措置として小中高の一斉休校の要請を出したのです。これが1300万人を超す小中高生徒とその家族を巻き込んだことで、二日前の混乱に、まさに火に油を注ぐ如くにその発言は全国を混乱に陥れる処でした。この発言については、事前の専門家会議でも全く議論されておらず、メデイアによると菅官房長官、杉田和弘官房副長官も賛成していないにも関わらず、今井尚哉首相補佐官の進言を首相が受け入れたものだった由で、安倍首相の危機対応とはそんな程度のものかと思わせるばかりです。尚 政府は3月10日、緊急対策第2弾を発表、第3弾を4月に打ち出す予定とのことです。

という事で今次論考では、CODIV-19感染拡大が齎す経済的ショックの現実、そこから窺える次の経済行動、就中、中国を核としたサプライチェーンの次の姿の可能性を考察し、以って企業、消費者の行動について考えていきます。更にコロナ感染の広がりの如何は、米国では11月の米大統領選を揺るがす可能性のある処、日本にあっては東京Olympicsのリスケも浮かぶ処です。そうした事態への見通しをも含め論述する事とします。


第1章 新型コロナウイルス感染拡大と世界経済

1.新型コロナ感染拡大と習近平政権

(1)「COVID-19」危機とグローバル経済
米英を起点とする世界秩序の逆流が進み、世界経済の先行きに不透明感を募らせる中、昨年12月以降、もう一つ、中国発の「COVID-19」(コロナウイルス肺炎感染)と云う難敵が加わり、それが「健康」だけではなく労働市場と経済への危機に繋がってくるなど、欧米の後退トレンドが齎す危機を超えた、多大な影響を世界に及ぼす処となっています。

当該拡大の事情については前述の次第ですが、中国を発症源とした新コロナウイルスの感染拡大で、工場の閉鎖や労働者、一般市民の移動の制限が進み、一方で、中国が防疫策の強化に向った結果、世界の工場と云われる中国経済は機能不全に陥り、これが世界経済を萎縮させ、アジアや欧米の株式市場では株価は軒並み急落を誘引する処です。 前述WHOのパンデミック宣言を待つことなくグローバル経済は、すでに経済的パンデミック状況にあって,中国の体制に根差した, 映画ならぬ「チャイナ・シンドローム」を現実とする処でした。

(2)中国国内で高まる習近平共産党批判
12月8日に新型肺炎の初ケースが報告されながら、対応が本格化したのが1月20日、習近平主席が直接指示を出してからの事。この初動対応の遅れは、チェルノブイリ原発事故(1986/4/26)にも比せられる処、一党独裁下で言論を封鎖する隠蔽体質が初動を誤らせ、被害を拡大したと現地市民が声をあげだすほどと、メデイアの伝える処です。これこそは前出、呉軍華氏の指摘に通ずる処で、中国型独裁制への不満、つまり「国民の安全より、国(共産党)の安全を優先する」姿勢と、習近平政権への批判が広がる処です。( 注:中国本土での患者:7万4185人、死亡者:2000人超, 2月18日現在 )

先月、弊月例論考(3月号)の「おわりに」の項で紹介しましたが、Wall Street Journal, Feb. 7が掲載した記事 ‘From Washington to Wuhan, All Eyes Are on Xi ’(ワシントンから武漢まで、全ての視線が習近平に)は、今次の爆発的感染は共産党政権の独裁の弱点を露呈したものと断じる一方で、1911年、武漢で起きた辛亥革命の第一段階となった武昌蜂起をリフアーしながら、「第2の武漢革命」の可能性を見落とすなと記していたのです。果せるかな、3月18日、中国政府は国内に駐在していた米NY Times, Wall Street Journal, Washington Postの米国記者ほぼ全員を外国に追放したのです。聊か気がかりとする処です。(注:ソ連はチェルノブイリの5年後に崩壊)

尚、3月5日開催の人民大会は感染封じ込めを優先し、先に延期が決定されていましたが、この春、習近平主席の国賓として訪日予定も延期となりました。習氏の延期については、日本側での感染状況を勘案してのこととされているようですが、今、習氏には中国を離れられない政治的事情があってのことではと勘繰られる処です。 因みに、新華社通信は3月10日、周氏は国内で新型コロナ発症以来、始めて武漢入りした旨報じていましたが、自ら陣頭指揮を執る姿勢を見せることで求心力の維持を狙う思惑がみえる処です。

2.新型コロナ感染危機の実像と国際協調 

(1)コロナ感染が齎す経済的ショックと対応
今次、新型コロナの感染ショックは、70年代の危機(注)と対比されることがよくありますが、その様相は構造的に異なるだけに、当該対応策は、その点を踏まえた対応が求められる処です。
(注)1970年代の危機:石油、食料の供給減少で経済成長が途絶え、景気悪化と物価上昇が同時
進行のstagflation発生。各国政府はインフレ抑制を重視し、その後、数十年に及ぶ中銀の役割
が築かれたとされている。

その点、The Economist, Feb.22,2020 は 「Shock therapy – The Covid-19 outbreak presents policymakers with a new sort of economic threat 」と題したコラムは、その違いを解説すると共に、その違いを踏まえた対策をと云うものです。以下はその概要を紹介するものです。

① まず、かつてF.ルーズベルトが発したと云う「我々が恐れなければならない唯一のものは、恐れる事そのものだ」との言葉は、景気悪化の多くの場合にあてはまる。恐れることそのものが引き起こす、投資や消費を避けようとする行動が、経済的な繁栄にたいする最大の脅威であるからだと云うのです。そして既に死者が2000人を超えた新型コロナウイルスによる肺炎、「COVID-19」の感染拡大も決して例外ではない。が、今次新型肺炎が齎す脅威の構造はこれまでのそれとは大いに異なるだけに、従来型の対応では通じないと。

② つまり、ウイルス封じ込めのため工場閉鎖、サプライチェーンの寸断で経済活動を制限。しかも、中国人労働者の移動が制限される限り、世界最大の輸出大国の企業の活動が出来ず、その結果、中国からの供給に依存する企業は在庫が減り、業務縮小を余儀なくされている。一方、感染拡大策が進む結果、個人消費は停滞していく。つまりSupply shock とDemand shockの複合化が進むと。 ― 因みに米アップルは2/17、供給網問題からiPhoneの生産が制限され、売り上げ予想を達成できないとの見通しを発表する処。

➂ ただ、現在の経済状況は70年代と違い、特に世界のインフレは不可解なほど低水準で
推移しており、その点では政策担当者は足元のインフレを悪化させることなく景気刺激策
が打てる。そこで、新型肺炎が世界で猛威を振るうとなると景気刺激策が必要となるが、
問題は、いま金利は既に低水準にあり、中銀の打つ手が限られている。 加えて、供給寸断
が続けば、その対策として新たなサプライヤーを探し契約を結び、新規顧客の開拓も必要と
なる。業を煮やした企業は、中国との関係を断つ時期が来たと判断するかもしれず、実際、
中国に進出の一部企業は台湾への移転を図りつつあると。

④ こうした変化を受けて中国経済が一段と低迷すれば、欧米経済のデフレ圧力が強まる可能性を指摘する処です。尤も、世界がこの20年間 低インフレにとどまった要因と、数十年に及ぶ経済統合の流れが逆に進めば(既に筆者が指摘している処ですが)、眠っていた物価上昇圧力が目を覚ましかねない。そこで政策当事者らは、再び景気低迷下でインフレ上昇と戦うべきか、苦渋の決断を求められる可能性があるとも指摘するが、未知の脅威にさらされた場合、政策当事者は、過剰反応も不十分な対応もリスクを孕むと忠告する。

➄ そして、70年代から得られる最も重要な教訓はおそらく、ショックが起きるとそれまで当たり前だった経済の在り様が、驚異的なスピードで経験したことのない状況に一変してしまう事で、世界はこの教訓を、今回の感染拡大が起きる前にきちんと理解しておくべきだった、と締めるのです。けだしと、する処です。

序で乍ら、英王立国際問題研究所所長のR.ニブレット氏は日経紙(日経 3/3)とのインタビューで「COVID-19が終息しても世界経済がV字回復するか疑問」とし、併せ、中国に依存したサプライチェーンを見直し、脱炭素を真剣に考えるきっかけとせよと、も指摘するのです。ヒトやモノの動きが続々と連鎖する新たな危機構造への対応を示唆する処です。

(2)求められる国際協調とトランプ米国
3月2日、OECDは2020年の世界実質成長率は2.4%との予測を発表しています。昨年11月発表時より0.5ポイント下方修正されています。 中国が3月末までに感染拡大のピークを越すとの前提で試算したとされるものです。前述の通り、感染拡大で生産、物流、消費などの停滞が広がり、世界経済が予想以上の停滞リスクを高め、世界需給ギャップの一層の拡大で、世界経済の長期停滞の可能性すら云々されるだけに、その回避には国際協調による柔軟な政策対応が、強く求められる処です。

まず、2月19日、IMFは世界経済を支えるため各国宛て国際協調を要請。更に2月22/23日、リヤドで 行われたG20財務相・中銀総裁会議では、財政出動を含む政策総動員を謳う処です。(共有される懸念:中国成長の落ち込み、Global Supply-chainの混乱、中国人の旅行、移動の見通し)次いで、3月3日、G7財務相・中銀総裁による緊急電話会議が、更に3月16日、G7 首脳によるTV会議が行われ「必要かつ十分な経済財政政策」の取り組みが確認されました。

ですが、気がかりは、あまりマーケットに響かないことでした。と云うのも、まずはG7の結束力の如何です。つまり、ごく最近まで米中が角を突き合わせ、トランプ大統領はG7首脳を軽んじ、国内の人気取りのために国際協調をないがしろにしてきたツケが回ってきたことが云々される処、そこでリーマン危機直後と同じ結束力が期待できるかという点、です。更には、金融緩和の余地は乏しく、財政出動の資本もおのずと限界のある点です。

それだけに、各国にはより一層の連携強化を図る一方、新型コロナの影響を見極めながら、財政出動の道を探る事が求められる処です。 更に、中長期的な経済の底上げに資するインフラ投資やデジタル投資と云った、いわゆる「賢い支出」を優先することが共通の課題です。もとより新型コロナそのものを封じ込む努力は云うまでもなく、さもなくば企業や個人の活動を正常化するのは難しくなる筈です。

(3)‘市場’が映すコロナ恐怖に強く反応したトランプ政権
そうした環境下、一挙にコロナ恐怖を高めたのは3月9日のロシアとの協調減産合意に失敗したサウジが増産に踏み切ったことでした。同日(時差関係)原油価格は前日比30%超の下落(1バレル30ドル割れ)、NY株は一時2000ドル超安(取引一時停止)、東京株式市場では2万円割れ(19473円割れ),円相場は一時101円代に上昇、等々、コロナ感染で景気減速懸念が高まる中、原油安、円高が追い打ちをかける形で一気にコロナ恐怖を高めたのです。

翌日の3月10日にはコロナ・パンデミクス宣言が出されたこともあり、それまで極めて楽観的だったトランプ大統領は、3月11日夜、ホワイトハウスからの国民向けTV演説で、コロナ感染拡大への対応策として、欧州からの入国禁止措置を発表。更に16日には英国、アイルランドをもこれに追加したのです。まさに米国の水際大作戦です。米国に呼応する如くに、欧州、カナダ、ロシア、中南米諸国も同様「外国人の入国禁止」を発表したのです。
これで地球大での人間閉じ込め作戦が一気に進む様相です。ただ、この結果、懸念されるのが消費の落ち込みです。そしてこれが企業の破綻やリストラから雇用喪失と云う不安の連鎖を呼び、消費の縮小は一時的な現象から長期的な構造問題に転じかねないと云う点です。

この点トランプ政権は、同13日、国家非常事態を宣言。同時に最大500億ドル(約5兆円超)を投じ、検査や治療の体制強化、新型コロナで打撃を受けた企業や個人の支援も強化する、方針を明らかにしたのです。そして、翌14日には議会下院が野党・民主党の経済支援策(コロナ無償検査、有給病気休暇、失業保険の拡充、低所得者向け食糧支援、等)をも可決。 更に21日、米欧の4~6期成長率のマイナス幅が前期比年率換算で10%を超す見方が浮上してきたことから、同日、クドロー米国家経済会議議長は、財政支出が1.3兆~1.4兆ドル、そしてFRBの追加対策を加えて経済対策はGDP(21兆ドル)の10 %程度規模の対策が必要と発言、25日未明、与野党議会指導部はコロナ対策を2兆ドルと合意決定。これは2008年の金融危機対策(7000億ドル)を上回る数字です。

勿論米国のみならず、欧州でも、ドイツが財政健全化政策を棚上げし、中小、零細企業への短期的な資金繰り策として1500億ユ-ロ(約18兆円)を景気対策の柱に、又英国では300億ポンド(3兆9千億円)規模の財政対策を発表するなど、経済対策拡張に、まさに向かう処です。

          第2章  新型コロナ感染拡大と、二つのテーマ
 ― 米中経済関係のDecouplingと、米大統領選

1.問われる中国依存のグローバリゼーション
            
米中貿易戦争を以って米中デカップリングが云々される中、それは神話に過ぎないと論じた米イエール大教授のS.ローチ氏のessay(1月3日付)を弊論考(2020/2月号)で紹介しましたが、それが神話ではなくなりつつある現実が生まれてきました。理由は勿論、前述の通りCOVID-19による新型肺炎で、中国と一部先進国との経済面でのデカップリングが一層の注目を集める処、つまりは対中依存の限界が俎上に乗ってきたと云うものです。

既に触れたように、工場の操業停止、消費もぱったりと止まったため、多国籍企業は中国での生産を移管させざるを得なくなっている処、米アップルも前述したように投資家に対し、コロナの影響で売り上げが落ち込むと明言する処です。日本では2月10日、日産自動車が九州の完成車工場を中国からの部品調達が困難となったとして工場の稼働の一時停止を決めましたが、まさに中国依存のサプライチェーンが新型コロナのお陰で機能しえなくなった、日本が経験した初の事例でした。

(1)変わる多国籍企業のグローバル化対応
さて、Financial Timesは2週にわたり、今次の‘コロナ事件’で多国籍企業のglobalization の様態が変る事になるとする、同社Columnist, Rana Foroohar氏によるessay,2本、‘Coronavirus speeds up global decoupling ’(Feb.24)と‘Margins are going to be squeezed’ ( Mar.2) を掲載しています。

① 前者は新型コロナ肺炎拡大で中国と一部先進国との経済面のデカップリングが一層注目を集めている事情を伝えるものでした。それは世界経済のデカップリングは数年前から徐々に進行してきたとし、その具体例として、韓国のサムスン電子は中国の工場を閉鎖し、ベトナムに新工場を立ちあげた事、一部米企業はサプライチェーンを自国に近いところに移してきたことで、メキシコはその恩恵を受ける処、こうしたデカプリングは、今後更に加速するはずとするのです。つまり、COVID-19の蔓延に対する中国政府の不透明な対応が、中国で事業を展開するリスクを浮き彫りにしているからだと云うのです。

そこで興味深いことは、「ウイルスとデカプリングの間には類似点がある」と云う彼女の指摘です。双方とも表立って見える事、見えない事があるというのです。前者についてはマスクや混乱、そしてサプライチエーンの移転や利益予想の下方修正。後者は、コロナによる犠牲者の数がどれほどになるか、或いはグローバル化が解消されて亀裂が深まった場合、5~10年後の世界は経済・政治面でどのように変わってしまうのか、と云ったことだと云うのです。そして具体的に差し迫った課題として挙げるのが台湾における半導体事業です。

台湾の地元企業が世界の半導体の大半を生産しているのですが、中国はまだ技術的に自立できていない重要分野と指定する処です。だが半導体には設備投資と研究開発が必要で、この為中国が半導体を国産化できる産業として育成する迄10年はかかるかもしれず、それまでは米企業に部品を供給しているだけでなく、民主主義へのサポートを拡大している台湾に依存していく事となるが、そこで米中双方がそれぞれ独自のハイテク産業を構築しようとする中、台湾の半導体産業は政治問題になるか、そうなる場合いつなのかと。要はいつまでも台湾が半導体を米中両国に供給し続けられないだろうと云う前提の事だと云うものですが、これらすべてが世界経済と地政学の形を根本的に変えるかもと、云うものです。

② 後者は、多国籍企業の経営行動の変化についてです。多国籍企業は、業務効率を高度に最適化し、複雑な仕組みを以って経営する企業と云え、これが好調な利益を上げてこられた背景には、中国で生産した製品を欧米で販売し香港、ダブリン、ケイマン諸島などのタックスヘイブンで富を蓄積する仕組みを構築してきたことに負うものとしながら、一方で複雑な組織構造につきものの脆弱性を回避するために事業モデルの変革を迫られる日がいずれ訪れると考えてきたが、ついにその時が来たようだと云うのです。

つまり、今次のCOVID-19の感染拡大を受け、米国経済と中国経済のデカップリングが加速し、消費地に近い場所に生産拠点を置く傾向はますます強まると云うのです。そして、Mike Pyle, BlackRock’s chief global investment strategistが云う「supply chains that are less efficient but more resilient」(効率性では劣るものの耐久性に勝るサプライチェーンができる)との指摘に通じる処とするのです。そして新型コロナ問題が一段落すれば、decoupling やdeglobalization の潮流は勢いを増すとも予測する処です。いずれにせよ消費地に比較的近い場所に拠点を置くと云った傾向が強まっていくと云えそうです。

(2)新型コロナ騒動後の世界経済
勿論、株式市場が再び回復しはじめる可能性は十分あるでしょうし、世界の中銀の追加的金融緩和措置や新型コロナの感染終息が好材料になっていくでしょう。が、これが完全なV字回復の軌道を描いていけるかと云うと多くの疑問が指摘される処です。つまり、今次のコロナ事件で、従来のシステムに内在する深刻な脆弱性が暴露されてしまったからと、云うのです。とすればこのための修復作業こそが、次の経済に係る大きな課題となる処です。

2.新型コロナ対策と11月米大統領選

(1)トランプ氏を巡る政治環境
今米国は大統領予備選の真っ盛り、と云ってもその賑わいは、民主党の候補者選びであって、民主党候補が誰に絞られるかですが、共和党については現職大統領のトランプ氏で実質的には決定されており、しかも下馬評では彼の優位が伝えられるだけに、同氏は民主党の候補者選びを、ゆとりを以って観戦する処でしょう。ただ、ここに至って新型コロナの推移の如何では、その優位が崩れかねない状況が生まれてきたのではと思われるのです。つまり彼はCOVID-19の国内感染は拡大しないと極めて楽観的で、国民に株を買ってくれることを望んでいると報じられるほどでした。が、前述の通り自らは国家非常事態宣言を発するなど、情勢は予断を許さぬ状況へと変わってきたようです。

トランプ氏にとって最も優先すべきは、11月の大統領選挙に向け、経済成長を維持することで、当局者たちはCOVID-19の脅威を割り引いて話すよう指示されていたとの由でした。と云うのもウイルス感染が広がった場合、彼は二つの点で、一つは米経済の成長が損なわれる事、もう一つは新型肺炎に楽観的見解を呈していたことで国民の信頼を失う事になると見られているからです。 

(2)トランプ氏のCOVID-19対策も大統領選狙い
その点で、トランプ氏とCOVID-19を巡る新事情について日経ビジネス(3/9)が伝えるフイナンシャル・タイムズのコメント、COVID-19がトランプ政治にもたらす影響、は極めて興味深く伝わる処、そこで、筆者の個人的見立てをも含め、その概要を以下に、紹介しておきたいと思います。

① まず「適正が重要」と云う事に有権者が改めて気づくことだと云うのです。感染症に対峙する者の適正として、科学的な知識を受け入れることが重要だとし、トランプ氏がCODIV-19対策の責任者にマイク・ペンス氏を充てたことを挙げるのです。と云うのも同氏は生涯にわたり科学を疑い続けてきたとされる人物です。トランプ氏は昨年、国土安全保障省のコーデイネータを解任すると共に、世界の健康安全保障に関する業務を廃止しています。そして、オバマケアの撤廃を主張し、CDC(米疾病対策センター)とWHOに係る予算も大幅削減を提案していますが、トランプ氏にとって医療制度の問題が大統領選の争点と浮上する可能性が出てきたと思料される処です。トランプ氏は何年もの間、専門家の価値を過少評価してきていますが、専門家を必要とする今、同氏がどういう態度をとるかだと云うのです。

② もう一つ考えうる事として、米国が掲げてきた「開放性」に及ぶ事と、云うのです。
トランプ氏は長年、グローバル化を激しく非難してきていますが、現在、多くの民主党議員がこの姿勢に倣い始めていると云うのです。民主党候補に名のりを上げていたE.ウオーレン氏は2月下旬、米国が世界のサプライチェーン、特に中国のそれに依存していたことが、今回のウイルス騒動で露呈したと指摘していたのです。そこで今、パンデミックが起きれば米国の政策が反グローバル化に大きく傾く可能性があると云うのでした。(注:民主党は本来、労働者側にあり、グローバル化が雇用機会を奪うとは予ての立場。)

➂ 最後に、COVID-19が米国に大きな被害を齎した場合、おそらく、馴染みの現象を引き起こすだろうと云う点です。つまり「インフォデミック」です。トランプ氏は事実と異なる内容を発信する傾向がある処、未だその動きはないものの、COVID-19に再選を脅かされることがあれば話は違ってくると云うのです。

いずれにせよ大統領選での焦点はコロナ拡大への対応力の如何と、なるのではと思料するのです。3月11日、トランプ大統領はホワイトハウス執務室から国家非常事態宣言を発した際、「政治や党派対立は横において一つの国家、一つの家族としてまとまらなければならない」と国民の団結を訴えていました。「怒りと分断」をエネルギーとする同氏にしては「大統領らしい」演説だったと評されていましたが、これは厳しい批判に曝されて追い込まれた末のことと云え、明らかにその辺の焦りが窺える処です。

          
おわりに  危機はいずれ終わる

今次のコロナ危機への政府対応、言い換えれば危機対応のあいまいさは、冒頭で触れた通りですがすが、安倍首相が説明の都度,政府専門家会議の権威を笠に着て、右往左往する政府の姿は、放射能漏れを起こした東電福島第一原子力発電所の事故対応とも映る処です。原発事故を受けて政府は独立性の高い原子力規制委員会を作り、専門家の見地から安全確保に万全を期す仕組みを整えたとされていますが、いま足元で政府の専門家会議がイベント自粛などと打ち出す姿は、今なお規制委が原発を動かすかどうかと揺れる様に重なる処です。

そもそも実態がよく見えない今次のようなコロナ・リスクに対抗せんとする場合、何よりもまず国民を安心させることが大前提です。そのためには、専門家の意見を束ね、‘政治’としてどのように対峙せんとするのか、まず国民に示していく事です。そして持てる情報をオープンにしながら、感染リスクにいかに取り組むか、関係諸国との連携も含め、その姿勢を素早く示していく事ではなかったかと思料するのです。安倍政権のやり方はまず小出しをしながら、つまり様子を見ながらの小出し政策です。これでは国民を惑わすだけで、まさにトランプ氏が非常事態宣言時、期待したような国民の団結等生まれるはずなく、まさに安倍首相らしいやり方と批判の集まる処です。

・危機はいずれ終わるのです
とは云え、欧米のウイルス流行拡大の様相をTVニュースで見ている限り、彼らの医療や公衆衛生が、我々が考えている以上にウイルス流行に弱いことが伝わる処です。一方、日本はどうか、勿論、まだ問題を抱えていますが、日本の死亡者数は大きくは増えていませんし、中国ほど市民行動を徹底監視せず、手洗いやマスク、企業や個人それぞれの行動の変化でウイルス蔓延を防いでいます。 これは日本社会の強さだと、語るのは阪大准教授の安田洋祐氏です(日経3/25) そして、今次のコロナで見えた日本の優位性を海外にアピールできれば、高度な技術を持つ外国人を積極的に集めることができるし、そしてこの人材を生かし、他国から遅れているデジタルシフトを進めれば、次の成長に繋がると、指摘するのです。まさに、筆者の予の思いに通じる、極めて然りとする処です。

コロナショックを契機としてTV会議が普及してきていますし、これが会社の意思決定をも変えていく事になるものと思料するのです。かつてオイルショックで日本の省エネが一気に進んだように、これをきっかけに日本企業の古い部分が一気に変わる、働き方改革にも繋がる処ではと、期待する処です。コロナ危機の拡大は続いています。そして今尚、我々を取り巻く空気は暗いものがある事否定できません。でも、その危機はいずれ終わるのです。その思いを強くし、これを機会として革新行動を目指すべきときではと痛く思う処です。

序で乍ら一言。安倍首相は一人で判断し、緊急特別措置を取る事としたと云った際、追ってこれが法的措置となるようしたいと云うのでしたが、改憲においては緊急事態条項の導入にこだわる彼だけに、悪乗りすることがなければと、気にかかる処です。と云うのも緊急事態宣言の発令は私権制限を伴う事になる点で、民主政治における大問題となる処です。(果たせるかな、13日、関係法案「新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案」は国会を通過、緊急事態宣言の発令が可能となりました。)  ( 2020/3/25記 )
posted by 林川眞善 at 10:28| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする