2020年02月25日

2020年3月号  世界は今、Backward Regression - 林川眞善

目 次

はじめに 後退する戦後世界の経済秩序
  ・大西洋憲章(Atlantic Charter)
             
第1章  海図なき船出のジョンソン英国

 1. 英国のEU離脱
  ・離脱後の英国の行方
 2. 英国が抜けたEUの生業
 (1)NATO(North Atlantic Treaty Organization : 北大西洋条約機構)
(2) 欧州産業政策 ( European industrial policy )
 
第2章 管理貿易指向を強めるトランプ米国

1. トランプ貿易協定と世界経済
 (1) 管理貿易指向を強めるトランプ政権
(2) Tearing up the rulebook
2. トランプ大統領の年頭教書
  ・一般教書( State of the Union Address)
  ・米大統領選

おわりに いま世界はコロナショック    
 1 コロナショックと習近平政権
  ・Wall Street Journalの警鐘
 2 日本経済の焦点は今
  ・日本は大丈夫か
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はじめに 後退する戦後世界の経済秩序

・大西洋憲章(Atlantic Charter)
現下で露とする英米の自国主義、その行動様式を観ていくとき、銘記されるべきは戦後世界のビジョンとなった「大西洋憲章」です。それは、1941年8月、F.ローズベルトとチャーチルが大西洋上で英米首脳会談を行い、第2次世界大戦後の連合国の戦後処理構想、国際協調の在り方について宣言したもので、民族の自決、自由貿易、国際的な経済協力、平和の確立、武力行使の法規と安全保障システムの確立、等8条からなるものです。(尚、これに至る経緯事情はここでは割愛)そして戦後、創設された国連は、この憲章を基礎とした安全保障システムに他なりません。 
一方、世界経済の再建を目指し、大西洋憲章の精神を映す形で、民主主義、自由主義を以って、やはり英米が主導する形で、いわゆるブレトンウッズ体制(世銀、IMF)を構築、以って世界経済のサポーテイング・システムとして今日に至った事、周知の処です。
つまりは戦後75年、良い、悪いはともかく、今日云うG7メンバーの英米が主導する形で、国際協調をキーワードに世界の秩序構築を果たし、今日の繁栄を齎してきたと云う事です。

が、こうした路線構築に努力してきた本家たる英国と米国が、いわゆるポピュリズムに応える形で自由主義、国際協調路線に背を向ける中、今年に入って、その動きが具体的、極めて先鋭的に現れて来ています。

その一つが2020年1月31日の英国のEUからの離脱です。これは欧州(EU)諸国と共に発展していくとした協調路線の忌避と云うものです。もとより欧州諸国は、これまでの秩序維持に向けつつ、独自路線の強化に向かう処です。一方米国は、「米国第一」主義を叫ぶトランプ大統領の台頭で、対外的には多国間交渉の協調路線を忌避、対米貿易関係については、デイールを前提とした二国間貿易協定を強行、これが管理貿易の様相を強め、世界的な貿易秩序の混乱を招く処、その典型を、米中貿易交渉「第一段階の合意」に見る処です。
つまりgoing my way の英国、これまでの国際秩序を守りたい欧州、新しい覇権争いに入った米国、この三すくみの構図が、世界の先行きに不確実さを高める処となっています。

そこで本稿では、海図なきまま船出したとされるジョンソン英国とその後のEU、そして管理貿易指向を強めるトランプ米国、それぞれの実態を改めて整理し、今後の行方について考察する事とします。尚、こうした環境の中、中国発のコロナウイルスによる肺炎感染が世界的広がりを見、世界経済の今後に不透明感を深める処、時に「パンデミクス」への懸念すら呼ぶ処です。 そこで、おわりにその現状、とりわけ習近平政権の行方にフォーカスすると同時に、日本経済の行くえについても併せ考察する事とします。


            第1章 海図なき船出のジョンソン英国

1.英国のEU離脱

2020年1月29日、欧州議会は英国のEUからの離脱を定めた協定案を賛成多数で可決。既に英国側では関連法案を成立させ、手続きを終えていたことで、予定通り、2020年1月31日、英国は2016年国民投票が示した民意、EUからの離脱、が3年半を経て実現しました。これで、47年間の加盟に幕を下ろすとともに、2月1日以降は単独国家として、つまりは離脱派が目指した国家主権の回復を謳歌する形で、問題は多々ながら、自らの進む方向を目指すことになったと云うものです。かかる行動は、俗に言う「グロバル化」を横に置き、「民主主義」の下、英国主義と云う「国家主義」にシフトしたと云う事であれば、ダニ・ロドリック教授の云う「グローバリゼーション・パラドックス」(2013/12/20)を実証したと云うものなのでしょうか。

英国はEUにあっては、ドイツに次ぐ第2位の経済大国です。それだけに英国が抜けたと云う事は、EU拡大戦略のとん挫を意味する処、要は欧州の戦後秩序に幕を下ろすことになったと云うもので、まさに歴史的な節目を迎えたと云うものです。そして、英国が自国優先に転じたことで、国際協調を重んじる「西洋の価値観」を傷つけ、同時に自らは欧州における発言力を失う結果となったことに、聊かの寂しさを禁じ得ない処です。離脱2日前、1月29日付けFinancial Timesで、Mr. Martin Wolf が`Britain will not be alone but will be lonelier ‘と記していましたが、そのニュアンスに、思いは尚更となる処です。
更にThe Economist, (Feb.1st )巻頭論考「Into the unknown」では、ジョンソン首相はとにかくEUからの離脱だけを目的とした行動 (Mr. Johnson was focused entirely on leaving the EU)で、実際、国として取り組むべき問題に(例えば 中国・フアーウエイ製品の使用問題も含め)真剣に対峙しようとはしていない、つまりは海図を持つことのないままに大海に船出したと、手厳しく批判する処です。
     
・ 離脱後の英国の行方
さてこれから英国が対峙していく課題、問題と云えば、何としても貿易協定の取り扱いです。今年12月末までは激変緩和のために「移行期間」が設定されており、この間に英国はEUとの間で、新たな関税や貿易ルールを定めたFTAの合意を図る事が不可避となる処です。 因みに、英国の自動車生産の半分はEU向け輸出で、これまでEU加盟国として、これまで関税なしで輸出されていたものが、FTAが締結されない場合、10%の関税がかかる事となり、英国の自動車づくりは競争力を失う一方、82万人と云われる自動車関連の雇用は、英製造業の3割を占めるだけに、その打撃は大きく、従って早期決着が喫緊のテーマとなる処、色々な要素が絡むだけに綱渡りの交渉を余儀なくされていく事になるのではと思料する処です。勿論、貿易以外で医薬品や化学品の規制問題への取り組み調整、等々問題は山積みで、仮に期限内に当該関連事項の整備が出来ない場合、無秩序な離脱となる懸念の残る処です。

さて、ジョンソン首相は2月3日、新たなFTAの交渉に向けた方針をそれぞれ発表しています。まず、EUとの間で関税復活を避ける事、FTAの在り方としては、規制の調和は求めない「カナダ方式」(注)を追求する事。(注:カナダとEUの間で2016 年2月合意したFTAでは、物品貿易について、7年以内に相方関税品目の98.6%を撤廃するとしている)そして、製品や環境基準、政府補助金等、産業政策面で、今後EUルールに従わない方針を、明言したのです。

要はEUルールに縛られずに、独自の産業政策の下、ITや金融などの成長産業を通じて経済成長を追求するものと云え、貿易でも米国や日本などとも通商交渉を進め、今後3年で貿易の8割をFTAでカバーすると語る処です(注)。

       (注)因みに、EU離脱後の戦略として英国もアジア太平洋地域との関係強化を謳う処、2月8日にはラーブ英外相が訪日、日英関係の緊密化について話し合われた由。尚、離脱後初の外国訪問先は日本の他、オーストラリア、シンガポール、マレーシアとの由。

が、ジョンソン氏の思考様式と関係諸国のそれと如何に整合されるか、なお、危惧の残る処です。因みに、「5G」の通信網で米国は、長期的な安全保障と経済的影響に照らし、中国のフアーウエイ社製品の完全排除を、英国を含む同盟国に働きかけています。が1月28日、英国はこれを容認したのですが、米国は「特別な関係」を築いてきた英国の離反と、見直しを迫る状況に、ジョンソンvsトランプのさや当てともいえる微妙な雰囲気が伝わる処です。
つまり、英国は対EUだけでなく対米でも関係悪化を甘んじて受け入れることとしたと云う、ある種国際関係における緊張感を醸成する処です。

ジョンソン政権下で果されたBREXIT、その結果として対EUでは貿易政策等、見直しが喫緊の課題にある事上述の通りですが、それ以上に重要なことは、国民投票で離脱を決めてから3年半、政治の混乱を経て迎えた歴史的な節目ですが、それだけに地域の格差や世論、様々な社会の分断を抱えたまま、新しい時代に突入したと云え、この分断状況を克服、結束し、前進することができるか、何よりも基本問題として残る処です。そして云えることは残念ながら英国は、もう民主主義の「モデル国家」ではなくなったと云う事でしょう。

それにしても上掲、エコノミスト誌、Into the unknown が、締めとして伝える下記言辞こそは、肝に銘ずべきと思料するばかりです。

― Britain’s future is full of uncertainty. To find No longer part of one of the great global blocs, it has to find a new role in the world. ----- The difficulties should not be underestimated. But when Britain previously reset its course, in 1945 and 1979, the choices it made helped reshape the world. It should aim to do that again.

2.英国が抜けたEUの生業

戦後の西欧は、英独仏三カ国の絶妙な勢力均衡が、その土台となってきました。然し、その土台を揺るがし出したのが自国主義を標榜するトランプ米政権の台頭ですが、そこに英国の離脱が重なたことで、一挙に地政学的バランスの如何が、問題として急浮上する処です。
具体的には、一つは欧州の安全保障体制、もう一つは欧州経済の競争力の問題です。

(1)NATO (North Atlantic Treaty Organization : 北大西洋条約機構)
欧州の安全保障体制は、米主導で始まったNATOに依存する処、米国第一主義を標榜するトランプ氏は、不公平な経費負担のもとで、なぜ米国が欧州の安全保障を守る必要があるのかと、侮蔑的姿勢をもってEUに対峙する近時姿勢に(注)、昨年5月にはメルケル独首相が ‘我々が他者に完全に頼る事の出来る時代は終わった’ と語り、更にマクロン仏大統領は‘欧州安全保障は米トランプ政権には頼れない’(The Economist, 2019/11/9, A continent in peril)と語るほどに、両者の亀裂を深める様相にあります。そしてマクロン氏はもはや欧州軍編成の必要性を指摘する処です。

       (注)昨年12月4日のロンドンでのNATO首脳会議では、トランプ氏は軍事費のGDP
比2%への引き上げを強硬に主張、共同防衛にはトランプ氏は絶対視しない姿勢を示唆、
するなどNATOの安全保障の枠組みの揺らぎを感じさせている。

そうした流れの中、斯界の関心を呼ぶのがEU内politics、つまり独仏のバランスです。昨年、2019年1月22日、独仏両首脳は政治経済のみならず軍事分野までも連携強化を目指す「独仏アーヘン条約」を締結していますが、それも ‘強いドイツがドイツにとっても欧州にとっても求められている’ のに、ドイツ国民の大方は,そのような役割を果たすことになお否定的であることに苛立つマクロン氏の姿を映す処とみられています。そうした状況にあって、ドイツとフランスのパワー・バランスを変化させる可能性が強い、そのポイントが英国の存在だった、と云うのが外交評論家の舟橋洋一氏です。

つまり、「東西ドイツの統一の際、ミッテラン仏大統領は統一に反対するサッチャー英首相の ‘脅威 ’を、ドイツに対するレバレッジとして用いて、コール独首相から欧州通貨統合への確約を取り付けることに成功している。が、フランスは今後、そのように英国とパワーを重ね合わせることでドイツをバランスさせる外交の妙は期待できないかも」と、云うのです。更に世界の超大国として登場しつつある中国に、英独仏がどのように対応するかも今後欧州の大きな地政学的要素となるが、さて独仏が共同歩調をとることができるか、と質す処です。が、産業政策面では後述するように、ドイツはフランス流にシフトし出す様相にあり、その点ではEUの新たな可能性を感じさせると云うものです。

とにかく、英国の離脱で大きな影響を受けそうなのが、英国の拠出が無くなるEU予算(英国の拠出比率は約1割強)であり、外交・安全保障政策です。 前者は英国の抜けた分を如何に他27メンバー国でどう分担するかですが、後者については、英国は外交・安保面での存在感が極めて大きく、防衛支出はEU内ではトップ、フランス同様国連安保理の常任理事国であり、核保有国でもある点で、EUとしての影響力を保持するため、外交・安保政策では従来通りの協力を英側に求めていく事にはなるのでしょう。もとより英国としても外交・安全保障政策に関しては、米、EU双方と等距離で臨むべきものと思料する処です。

(2)欧州産業政策(European industrial policy)
EU欧州委員会は、2月3日、ジョンソン英首相の方針表明に応える如く英国とのFTAなど将来関係を巡る交渉方針を発表しました。英国が関税ゼロの継続を追求せんとする中、一方的な規制緩和などで競争力を不当に高めることがないように「公正な競争環境」の確保を最重視するもので、それは、前出ジョンソン首相が云うように、EUのルールに合わせないのならば、英側に関税ゼロ等の通商条件は認めない姿勢を鮮明とするものです。 つまり、英国が「第三国」となった今、英国とEU加盟国の間では競争が発生する処、これまでEUの厳しい基準に合わせていた英国が、規制や補助金制度を独自に緩和すれば加盟国が不利になると、英国の抜け駆けをチェックせんとするもので、「公正な競争」最重視です。

ですが1月18日付けThe Economist は、その状況が変わりつつある、Europe is rediscovering its penchant for statist intervention(欧州の産業政策はいま、国家主導型に傾きだした)と指摘する処です。その背景にはEU各国には開かれた貿易と投資と云う政策では、世界との競争に伍していけないと云う共通認識が広がりつつあるため、と云うのです。

同誌記事は「欧州は技術開発に乗り遅れ、今や技術は米国が牛耳る。中国企業は政府からの手厚い保護と支援で今や欧州の競合と対等に戦える。欧州以外の地域では、量子コンピューターや次世代自動車など画期的な技術革新が相次ぐ。ならば国家による支援と云う諸外国と似た政策を導入すればEUの産業も再び世界トップと比肩できるようになるのでは」と。そして、英国のEU離脱が決まったことも、政府による介入への懐疑的な見方を和らげる一因となったともいうのですが、最大の理由は、ドイツの考え方の変化にあるようです。フランスは以前から大規模な公共事業と緩い競争法支持してきたが、ドイツでは政府が市場のルールだけ決め、後は企業にお任せ、としてきていますが、この方針が近年、ドイツには仇となったと云うのです。そのドイツの政策転換が、まだ途中の段階ながら、フランスの方針へと振れつつあると云うのです。

この3月にはフォンデアライエン委員長は、EUの競争力回復のため、新たな産業戦略を発表することになっていますが、その際はドイツの政策転換も明確になっていくだろうし、いまこそ欧州は産業戦略をどうすべきか考えるべき時と指摘するのです。これまでは労働者のスキルやサプライチェーン、中小企業の育成と云った陳腐なお題目を繰り返すだけでお茶を濁してきたが、今回は大幅な政策転換が期待できそうだと云うのです。

尚、この指摘はまさに今の安倍経済政策に求められる視点です。つまり、アベノミクスは
頑なにトリクルダウンに固執し、本格的な税・社会保障改革に手を付けぬままにあるのですが、今日のデジタル経済では付加価値が一部の経営者や株主に集中するためトリクルダウンは生じません。手をこまぬいているうちにAIによる労働代替効果も加わり、中間層の崩壊や格差拡大でポピュリズムを招く処です。EUの政策姿勢をreviewするにつけ今日の国家に与えられた役割、つまりは所得再分配こそ、確実に取り組むべき時と思料するのです。


第2章 管理貿易指向を強めるトランプ米国
 
1.トランプ貿易協定と世界経済

(1)管理貿易指向を強めるトランプ政権
上述、英国のEU離脱が、拡大発展を目指してきた欧州の流れを逆流させる一方、トランプ政権が主導する二国間貿易協定も、自由貿易の流れをまさに逆行させる処です。

今年に入ってからと云うもの、トランプ政権は1月15日、中国との貿易交渉を巡る「第1段階の合意」で正式署名を交わし、それとは前後して、1月1日には日米貿易協定(国会承認2019/12/4)が発効、又、1月29日には、NAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新協定「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定) 」が締結され、日本、中国、北米と立て続けに、米国第一主義に沿ったトランプ貿易協定、3連ちゃんの成立です。

勿論、いずれも大きな経済成長や雇用創出につながる枠組みと、主張される処、トランプ氏はFTAと距離を置き、例えば、NAFTAに代わるUSMCAでは、その呼称からはFree trade、自由貿易の表記は消え、現地生産については材料の現地調達比率を厳しく規定する処です。又トランプ政権が主導する二国間貿易協定では、貿易の安定的拡大を図るためとしながら、日米貿易協定の場合、商品を特定し、当該商品の輸出量、輸入量を予め両国間で取りまとめ、以って日米貿易の枠組みとするもので、その限りにおいて極めて管理的となるものです。

又、米中貿易協定は、あくまでも米国の対中貿易のインバランス是正を目的とした、従って米中貿易は双方合意の数量、金額を枠組みとするものとなっています。具体的には中国の対米黒字の縮小に向け、米国製品の追加購入分を今後2年で2000億ドル(約22兆円)、上積みすることを盛り込んだものとなっています。こうした米中と云う二大経済大国が、国家レベルで巨額の貿易額を2年にわたって設定するのは極めて異例。この趣旨の下、二次合意交渉が近々、予定されている由ですが、11月の選挙後になるかもとも言われており、関税合戦そのものの終結は依然見えてはきません。いずれにせよ管理された貿易が、日欧や新興国の対中輸出に打撃が及び、国際通商体制の動揺が続くことになる事、云う迄もない処です。

トランプ政権が標榜する米国第一主義の下、米国の利害に即した貿易協定が導入されていくことは、これまで米国が主導してきた ‘自由貿易を通じて世界経済の成長を’ とのコンセプトへの敬意もなく、まさにTrump’s Backward March on Trade (Anne O. Kruger)の態を成す処、その実態はと云えば、利己的で無礼で信用できないものと映る処です。

(2)Tearing up the rulebook 
The Economist (Jan 25),は、こうしたトランプ政権の貿易行動を「Tearing up the rulebook 
- The costs of America’s lurch towards managed trade」(ルールブックを破り捨てた米国―
管理貿易に傾く米国)と、激しくその理不尽さを突き付ける処、以下はその概要です.

―1月21日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(いわゆるダボス会議)に現れたトランプ大統領は居並ぶ世界の有名人たちを前に、米国の通商政策の抜本的な改革について豪語した。まず1月15日の中国との「第1段階の合意」によって貿易の障壁は低くなり、知的財産も守られるとし、又米国のサービス、エネルギー等々、の輸入を無効2年間2000億ドル増やすと約束したこと、について得意げに語った。実際、これは貿易ルールではなく購入額の水準について合意したことは、米国の通商政策が根本的に変わったことを伝えるも、決して良い方向への変化を語るものではない。

―トランプ氏のような重商主義者は、貿易を2通りのアプローチで管理する。外国企業の対
米輸出を抑えるか、または米国製品をもっと購入するよう外国に促すかだが、今次の中国と
の合意のように貿易相手国が米国製品の輸入拡大に合意する例は一般的でない。
最もよく知られているレーガン政権時の日米半導体協定は、日本の半導体市場での外国品
シェアーを20%に引き上げると云う約束をさせたものだが、これは米国側の貿易赤字を
減らすことよりはむしろ、不当に閉じられている市場をこじ開ける事にあった。

―今回の米中合意をつぶさに見ると、無駄やゆがみが生じるリスクが浮き彫りとなる。合意
された中国への輸入増加の規模とスピードはすさまじく、米ピーターソン国際経済研究所
によると、中国は2020年末までに特定の米農産物の輸入を17年比で60%, 工業製品の輸
入を65%増やす約束をした事になる。しかもこれは、中国の経済に関係なく実行されねば
ならないこととなっていると。かつて日本も国内需要における輸入品の割合を高める事に
同意したが、中国は金額を具体的に決めて購入を約束している。従って中国は普通であれば
必要のない、或いは他国から買い付ける品物を米国から購入すると約束した恐れがある。

―そこで、米中の合意が定着すれば、世界の貿易システムを脅かすことになる。皮肉なこと
に現在の貿易システムは、米国が1990年代に管理貿易では機能しないと判断した末の帰結
だ。つまり自分が管理貿易をやりながら、他国に自由市場の長所を解くことが難しいことと
悟った米国は、WTOの創設に向けて動いた。力ではなく、ルールに基づいたシステムに向
け舵を切ったのだが、トランプ氏はそのルールを一貫して傷つけてきた。

―今回の中国との合意も、WTOのルール等大したものではないとの見方を勢いづける処、この合意はあっさり崩れ、新たな敵意のぶつかり合いの先駆けになる恐れはあると。
つまり米国は輸出についても管理を強めており、そのことは、中国が米国から輸入する選択肢を狭めるかもしれない。従って今回の合意がどうなろうとも混乱は不可避だと思われる。それが明らかになる時、トランプ氏がまだホワイトハウスにいるかどうかわからないが、と。
(注:中国はそのタイミングを測りながら米国に対峙していくと云う事でしょうか)

さて、前世銀首席エコノミストで、現在、Johns Hopkins大教授のAnne O. Krueger氏も、1月20付けで、こうしたトランプ政府の貿易行動に「Trump’s Backward March on Trade」と題しProject Syndicateに投稿していますが、現状について、国際的協調等お構いなく、まさにポピュリズムに乗った、独善的な行動を映す結果と総括しながらも、仮に、次期大統領選でトランプ氏が再選されれば現状はより専横的になっていくのではとしながらも、彼でなくとも共和党の誰かが大統領になっても、これまでの米国民を分断してきた深い溝はすぐには埋まる事はなく、その流れは大きく変ることはないだろうと指摘するのです。

問題であった弾劾裁判も2月5日、上院での無罪評決を得た今、トランプ氏はこの結果を逆手に取る如くに、大統領選に有利な材料と、敵を誹謗、中傷しまくる事でしょうし、米国の権威を傷つけつつ、そして大統領への再選で、`あがり’となるのでしょうか。実に忌まわしい状況が続くかと思うと、居てもたってもいられない思いに駆られると云うものです。

2.トランプ大統領の3大年頭教書
そうした中、2月4日ワシントンDCではトランプ氏による3大年頭教書の内、一般教書演説が行われました。が、それは国を纏めると云う大統領の役目を、もはや放棄したかの一般演説だったと、メデイアの多くは評する処です。2月6日付け日経に掲載の「米大統領の一般教書演説要旨」をベースに当該演説をレビューしたいと思います。

・一般教書(State of the Union Address)
当該教書は定められた通りに、「経済政策」に始まり、「安全保障」、「教育・医療」、「不法移民問題」、そして「外交」で終わるものでした。本来なら、State of Union、国の現状を報告し、これからの1年の運営方針を語り、国民が一体となって前進しようと云うものの筈ですが、冒頭の経済政策では、雇用創出(ブルーカラー好況、等)や,貿易協定の締結(対中貿易交渉締結、NAFTA見直し、等)など、その実績を挙げ、「公約をまもった」と誇示し、「偉大な米国の復活」とアピールするものでした。が一方、大統領選の争点となる医療保険では「社会主義者に米国の医療制度を破壊させない」と国民皆保険を唱えるサンダース上院議員ら民主党左派候補をあてこするなど、11月の大統領選を睨んだ、事実上の選挙公約の意味合いを感じさせる異例の演説でした。 因みに昨年まで盛り込まれていた「結束」の二文字は完全に消え、加えて昨年、世界を翻弄させた北朝鮮に対する言及もないままです。

なお指標的(注)には確かに米経済は過去最長の景気局面にある処です。トランプ氏は以って「ブルーカラ―好況」と云うのでしたが、その恩恵は富裕層に集中しており、上位1% の富裕層が米国全体の所得の2割を占める処、経済格差は戦後最悪の状況にあるとされていますが、彼がどう認識し、どう考えているのか。肝心な点は伝わることはないままです。

   (注)好調を示す経済指標:
米労働省が2月7日発表の1月の雇用統計では、非農業部門の就業者数は前月比22万5千人増
で、1月の失業率は3.6%と前月比0.1ポイント悪化したが、約50年ぶりという歴史的な低水準、
雇用情勢は好調。 一方、5日商務省発表の貿易統計では、モノの貿易赤字は8529億4900万ド
ルで前年比2.5%の減少で、これは2016年以来、3年ぶりの減少。対中赤字も3年ぶりに縮小。

尚、年頭教書に続く2021会計年度(2020/10~2021/9)予算教書( Budget Message of the President)は2月10日に、又20日には、大統領経済報告( Economic Report of the President )が議会に送られています。前者は米大統領の税財政方針を示すもので、社会保障等の圧縮で、年1兆ドルの財政赤字を5年で半減すると提案する一方、国防費を増額してインフラにも1兆ドルを投じる等、選挙を前に支持基盤の保守派に強く配慮した内容です。しかも、経済成長率を3%と見込んでの試算で、極めて楽観的と映る処です。又、経済報告書でも、過去最長の景気拡大となった米経済を「大いなる成長」(Great Expansion)と名付け, 減税や規制緩和の効果の自賛と民主党への反論が大半だった(日経夕刊2/21)とされる処ですが、いずれも11月の大統領選向けのアッピール教書と評される処です。

・米大統領選
序で乍ら、2月3日のアイオワ州、11日にはニューハンプシャー州での予備選を経て2020年米大統領選が実質、始まりました。共和党はトランプ氏で決まりでしょうが、民主党は本命のないままに3月3日のスパー・チューズデーを迎える処です。 大統領選については別途の機会に論じたいと思っていますが、これからの世界の行方にとって極めて重要なeventです。それだけに見どころはとなると勝ち負けもさることながら、やはり世界共通の課題としてある、格差拡大による社会の分断、ポピュリズムの広がりなどに11月の本選までの9か月間、米国民はどう向きあっていこうとするか、にある処ではと思料するのです。 
尚、日本に関連する分野でいえば、在日米軍へのいわゆる思いやり予算の規模を定めた特別協定が来年3月に満了します。さて日米同盟の維持に必要なコストをどう考えていけばいいのか、トランプ氏の選挙目当ての手柄づくりに、手を貸すようなことのない毅然とした交渉対応をと、願う処です。


おわりに いま世界はコロナショック

(1)コロナショックと習近平政権
自国第一主義を標榜する米英を起点とする世界秩序の逆流が進み、世界経済の先行きに不透明感を募らせる中、もう一つ、中国発の「COVID-19」(コロナウイルス肺炎感染)と云う難敵が加わり、今や、後退トレンド以上に、世界経済に多大な影響を及ぼす処です。
それは製造業のサプライチェーンのハブとしての地位を固めた中国の生産停止が世界経済に与える影響の重大さで、日本経済研究センターの試算(日経 2020/2/9)では中国の生産停止で生産が100億ドル(約1兆1千憶円)減なら、海外全体での生産・販売を67億ドル押し下げ、特に韓国、日本、米国への影響は大、とするのです。まさにコロナショックです。

・Wall Street Journal の警鐘
そんな中,今次の感染を巡り中国では習近平共産党への批判の高まりが伝えられ、聊か気になる処です。Brexit, トランプ現象などのポピュリズムが民主主義、資本主義を貶めていく一方で、経済発展を遂げる「幸福な監視社会」たる中国モデルが、もてはやされる事すらありました。が、12月8日に新型肺炎の初ケースが報告されながら、対応が本格化したのが1月20日に習近平が直接指示を出してからで、初動対応の遅れが今日の混乱を招いたと、(情報の公開は共産党統治に悪影響が及ぶと隠蔽された)中国型独裁制の問題を浮き彫りする処、共産党政権の「国民の安全より、国(共産党)の安全を優先する姿勢」に不満が広がったと云うものです。(中国本土での患者:7万4185人、死亡者:2000人超, as of 2/18 )

2月7日付けWall Street Journal(電子版)が伝える‘From Washington to Wuhan, All Eyes Are on Xi ’(ワシントンから武漢まで、全ての視線が習近平に)なる記事(注)では、今次の爆発的感染は共産党政権の独裁の弱点を露呈したものと断じると共に、感染拡大は習近平政権に内外での危機を招き、同政権の存続が問われる事にもなりかねないと、1911年、武漢で起きた辛亥革命の第一段階となった武昌蜂起をリフアーしながら、最後にDon’t rule out a second Wuhan revolutionと、「第2の武漢革命」の可能性すら示唆する処です。
(注)寄稿者は米スタンフォード大 フーバー研究所のアジア問題専門家、Michael Auslin氏。

習主席はこの春、国賓として訪日予定です。それまでに新型肺炎が終息しているか、ですが、既に3月5日開催予定の全人代の延期が伝えられています。上記W.S.J.の噂も有之で、訪日の予定見直しが必要になる公算大ではと、愚考する処です。

2月14日には、米国CDC(米疾病対策センター)は季節性インフルエンザが猛威を振るう(患者:2,600万人以上、死者: 約1万4000人)なか、相当数の新型コロナ患者が見込まれると発表、世界は更に混迷感を深める処です。

(2)日本経済の焦点は今
さて日本では「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗船者3700人の防疫問題を巡り連日報道され、庶民生活への影響も気がかりとなる処、経済活動への懸念も云うまでもありません。

2月10日、日産自動車は九州の完成車工場の稼働の一時停止を決定。これも新型肺炎の影響でサプライチェーンが混乱し、中国からの部品調達が難しくなった為だと云うもので、こうした生産調整、調達先の変更等が、生産システムの世界的な構造変化を齎す処、日本の上場企業の2020年3月期決算は、大幅減益が見込まれる処です。(日経2020/2/11)

2月17日、公表の10~12月期GDPは、年率6.3%減と5四半期ぶりのマイナス成長です。このマイナスは昨年10月の消費税引き上げ、天候不順による個人消費の後退等、想定されていた事ですが、問題はその後の経済の行方です。この新型肺炎の感染拡大で消費マインドの悪化等で、国内経済の減速が心配され、2月13日,政府は景気下支えとして緊急対策(153億円規模)を決定していますが、少し前まで日本経済の焦点は、東京五輪後の景気後退懸念でしたが、時間軸が一気に前倒しになってきた様相です。

さて、その東京五輪ですが、コロナ問題で世界的イベントの見直しが喧伝される中、来月には聖火リレーも始まる処、まさに綱渡り的開催となるのではと、気がかりとする処です。

・日本は大丈夫か
さて、IMFは2月19日、コロナが齎す世界経済への悪影響を抑える為に国際協調をと、各国に協力要請の声をあげています。日本としてもこの際は、財政支援を惜しまず、政治のリーダーシップを求めていきたいと思うばかりです。
が、連日TVに映しだされる国会審議の様相、安倍首相はじめ答弁にあたる閣僚の姿は、辻元清美議員に「鯛は頭から腐る」と揶揄されるほどに、実に体たらくを露わとする処、なんともこれで大丈夫かと、不安は募るばかりです。
                               ( 2020/2/25記 )
posted by 林川眞善 at 16:41| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする