2019年08月26日

2019年9月号  日本の安全保障を巡る二つの論理・・・日米同盟の論理、日韓対立の論理 - 林川眞善

今、日本は国の安全保障を巡っての、二つの大きな問題に直面しています。
・日米安全保障条約は不公平?
まずその一つは日米安全保障に係るトランプ批判です。先のG20大阪サミットを前後して彼は日米安全保障条約は片務協定だ、「米国が攻撃されても日本は必ずしも助けてくれない」、日米安保は「不公平」だと(日経6月30日)、同じフレーズを繰り返し非難する処です。更にこれが「日本防衛のために米国の若者が死ぬことはあるが、逆がないのはおかしい」との発言となると米国民には「極めて当然の話」と映る処、2020年の大統領選対策も有之、これが繰り返されるとなると日本は窮地に追い込まれること必定と思料する処です。

実際、日本は「自国の防衛はひたすら米国依存」以外の選択肢を持ち合せない事情からは、遠からずトランプ氏の云い分を受け入れざるを得ないことになるのではと思料するのですが、彼のこの批判は日米同盟の今日的意味合いを問い質す契機ともなる処です。 つまり、戦後、日本の安全保障体制は日米同盟という名の下に語られ、その体制を担保するのが日米安全保障条約にほかならず、従ってトランプ氏の批判にどう応えていくかは、日米同盟の在り方を見直す一大政治プロジェクトにもなろうかというものです。

・日韓対立は韓国政府による日韓軍事協定破棄で
もう一つは深刻さ増す日韓の対立です。日本政府が韓国向け輸出に実施した規制の厳格化と更に8月2日には韓国をホワイト国対象から外したことで、文韓国大統領は、後述するように、この一連の対韓措置は、元徴用工訴訟の韓国大法院(最高裁)判決に対する安倍政権主導の「経済報復」と日本批判を繰り返す一方、文大統領主導型の反日運動が勢いづき、日韓関係は「政冷経冷」の状況すら呈する処、8月22日、韓国政府が日韓軍事協定(GSOMIA)の破棄を決定したことで、日韓対立は東アジアの安全保障問題にシフトされる処です。

そこで今回はこの2題に集中し、これまでの論考で触れてきたことのフォローアップを兼ね、以下の要領にて、論述することとします。まず、第1章ではトランプ氏の日米安保条約批判への対抗準備として、日米安保条約の成立の経緯と特異性、そして安全保障と米政権の政策選択との関係をレビューし、併せてトランプ氏の台頭が日米同盟を揺るがし出している現実をレビューすると共に、過半入手の防衛大教授の武田康弘氏の近著「日米同盟のコスト」を背に、グローバルな視点から今後の日本の安全保障の方向を探ることとします。第2章では、上述、日韓対立の構造を現地のメデイア情報にも照らしレビューし、今や韓国政府のGSOMIAの破棄決定で、日米韓の三角連携による安保体制が崩れかねない事態にある処、今後の推移について考察する事とします。処で8月1日、参院選後の国会が開催されました。安倍政権は如何なる責任ある政治を目指すのか、改めて問う事とします。


― 目  次 -

第1章 日米同盟の論理と、その行方    

1. 日米同盟という名の日本の安全保障体制
(1)日米安保条約成立の経緯とその特異性
(2)日本の安全保障は米政権の政策選択の函数
2. 日米同盟を揺るがすトランプ政権
(1)「適正な防衛の対価」要求
(2)トランプ政権による拡大抑止の信頼性
3. 多国間連携強化こそ最大の安保戦略
・人口減少を見据えて
 ・TPP11の経験を踏まえて

第2章 日韓対立の論理と,その行方

1. 日韓対立の構図
(1)朝鮮日報が伝える日韓対立の真相
(2)‘安倍晋三vs 文在寅’が齎す日韓「政冷経冷」の危機
2.揺れる日米韓の安保連携             
(1)日米韓の安保連携から逸脱(?)目指す文政権
(2)日韓関係の行方を占う三つのポイント

おわりに 参院選後の日本の政治
  -MMTとアベノミクス

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  第1章 日米同盟の論理と,その行方

1. 日米同盟という名の日本の安全保障体制

― 国の安全保障とは? 伝統的な思考様式としては、安保とは国家の領土や政治的独立、外部からの脅威を軍事的手段による牽制によって守ることを主眼とするものとされ、一言でいえば 国防に該当する処です。因みに大平正芳総理(1980年)主導の「総合安全保障問題研究会」報告書では、「脅威に対する手段を軍事的なものに限らず、非軍事的なものも最大限に取り入れ、同時に対象となる脅威も国外だけでなく国内や自然の脅威をも対象とする安全保障」を総合安全保障として理論づけ、その翌年の1981年5月、鈴木善幸首相(当時)は日米安保条約に裏打ちされた関係を日米同盟と初めて表現したのです。

(1)日米安保条約成立の経緯とその特異性
戦後、日本は1951年9月8日、サンフランシスコ対日講和条約を以って国際社会への復帰、独立を果たしましたがその際、米国との連携において日本の国体を堅持する趣旨で、日米安全保障条約が署名されました。これが当時台頭しつつあった社会主義、具体的にはソ連の台頭に対抗する趣旨から導入されたものと云え、因みに講和条約はソ連など社会主義諸国を含めた全面的な講話でなく、米英仏など西側諸国だけとの片面講話でした。従って日米安保に基づいて米軍の駐留継続を認めることで、日本は主権を回復し、西側陣営の一角として国際社会に復帰することとなったのですが、この二つ条約が同日に調印されたことは、両条約が不可分一体であることを象徴する処です。

爾来1960年の改訂(岸伸介首相とアイゼンハワー米大統領)を経て日本の安保体制が整備され今日に至る処、この日米安全保障条約こそは日本にとって唯一、他国と結ぶ同盟関係で、今日の日米同盟の根幹をなすものです。

尚、通常、条約を結ぶ国は、武力攻撃をうければ共同で対処する「相互防衛」が基本となっており、NATO条約では第5条で加盟国に対する攻撃を全加盟国に対する攻撃とみなすと想定し、集団的自衛権の発動を義務付けていますし、米韓相互防衛条約でも第3条で、太平洋におけるいずれかへの攻撃に対する共同対処が謳われていますが、日米安保ではそうはなっていません。51年署名の条約では、防衛義務も特に明記なく、米国が「援助を与えることができる」ことだけが示されていたのですが、60年改訂条約ではこれが見直され、共同対処するのは日本の施政下にある領域に限り、領域外で日本が米国支援のために戦う義務はないとなっています。つまり、日米の役割分担は以下の通りで、攻撃と守備に仕分、規定(条約第5条&第6条)されており、その仕分けこそが異色とされる処、日米の双務性を問う問題として今に及ぶ処です。以下はその実状です。

・安保条約第5条と第6条が規定する日米の役割
つまり ‘60年の改定では、日本が領域内で他国から武力攻撃を受けた際、日米両国が自国の憲法の規定に従って「共通の危険に対処するよう行動する」(5条)と定められ、陸海空の領域、サイバー空間などで日本が受けた攻撃に対し、米国には集団的自衛権を行使して防衛する義務が生じる事になっています。トランプ批判とは、その点を突く処、米国が日本を防衛する義務を定めているに対して、日本の自衛隊は米国を守るとは規定されていない点で、これは片務的、不公平だとするのです。

又、在日米軍との関係について、安保条約6条では、米国は「日本の安全」と「極東における国際平和と安全の維持」に寄与することが規定され、その為に日本国内に米軍基地(施設・区域)を設置できるとされ、在日米軍が駐留する根拠となっています。 尚、当該経費負担(注)が問題となるのですが、防衛省試算では、日本は2015年度の在日米軍の駐留経費総額 2210億円のうち86.4%を負担しています。それでもトランプ政権は日本の防衛負担増を求める処です。(日経8/16)

(注)駐留経費の分担:米軍基地の土地代や施設・区域の提供は日本が負担、更に米側の要請に応じ
て基地従業員の人件費や光熱水料も「思いやり予算」として、これも日本が負担。2016年度より
は特別協定もあり、5年間の負担総額は約9465億円に上っている。

従って、トランプ批判に応えていく事は、安保条約第5条規定の日米の役割分担の見直し、第6条の経費負担の見直し、という事ですが、前者の問題は日米同盟の構造問題と云え、日本国憲法(第9条)との関係有之で、結論を得るまでには時間を要する処でしょうが、後者の問題、経費負担という事であれば、この際はコストの合理性追求として見直し、相応の結論は出しうるものと思料するのです。その為にも、まずは日米関係を、変化する国際環境に即して再定義すること、そしてその下で日米同盟関係の合理的な在り方について見直していく事で、米軍の駐留経費の合理性を再評価する事が可能になると思料するのです。
   
尚、平和憲法の下で専守防衛に徹する日本の安全保障は、拡大抑止を規範とする日米同盟に決定的に依存する処です。その点で、自助努力や米国以外の国家との協力で代替できることは極めて難しいと云わざるをえないのが現実です。が、そのことは米国による拡大抑止が如何に機能するかにか、つまり対外脅威に対して米国は如何に対応してくれるかという点で、日本の安全保障は米国歴代政権の政策選択の函数ともされ、それが日米安保条約の特異性を成す処、日米関係推移の実際でもある処です。以下は、その実際をレビューするものです。

(2)日本の安全保障は米政権の政策選択の函数

① 1960年1月の安保改定で、米国の日本防衛義務が明示され、内乱条項(日本で内乱が起きた際の米軍による鎮圧)は撤廃。行政協定は地位協定に変更され、防衛分担金も廃止。更に事前協議制の導入で、日本は極東有事の際の米軍基地使用に関して一定の発言権を確保。そして1971年までに自衛隊の規模は287千人となり現在の自衛隊の骨格がおおむね整備されたのです。 尚、1967~69年の沖縄返還交渉は日米同盟に変化をもたらす契機となるものでした。つまり、沖縄返還は、日米の共同防衛区域を拡大すると共に、在沖縄米軍の抑止力が日本及び極東の安全保障に果たす役割を確認する処でした。

② 1970年2月のニクソン・ドクトリンに続く米地上軍のアジア撤退、そして米中和解に象徴されるデタントは、日米同盟を共産主義の封じ込めから地域の平和と安定化の装置へと変化させる処、それは同時に同盟国に対する米国の防衛公約の信頼性を低下させ、日本に「見捨てられ」リスクを意識させるようになったとされるのです。そしてこのリスクが進行する中での軍備抑制策の帰結として、日米防衛協力を強化する必要性が高まり、1978年11月に策定された「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)では米国の核抑止を明記すると共に、日本有事の際の米軍の来援と日米の役割分担を確認する処でした。但し、極東有事の際の日米協力については随時協議と研究の推進を謳うにとどまるものでしたが、これを機に日米のシーレーン共同防衛や共同演習・訓練が拡充されていったのです。

③ 2017年1月、誕生したトランプ政権のアジア政策、対中政策や対北朝鮮政策が、歴代政権のそれとは大きく変化を見せる一方で、対日政策はおおむね伝統的な路線が維持されてきていて、外交・安保面では同盟重視の対日政策が採用されていますが、経済面では公約通りの保護主義的な通商政策が影を落す処です。
実際、2017年1月にTPPから離脱し、NAFTAの再交渉を宣言したトランプ政権は、同年2月の日米首脳会談で、「二国間の枠組みで経済対話に従事する」ことが謳われています。そして2018年6月の日米首脳会談では麻生副総理とペンス副大統領による日米経済対話の下に、茂木内閣府特命担当大臣とライトハイザーUSTR代表との間で、「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議(FFR)」が設置され、目下日米通商交渉が進められている事、周知の処です。(注)8月23日、ワシントンでの協議で重要品目の扱いに付き、大枠で合意したと発表。

2.日米同盟を揺るがすトランプ政権

トランプ政権の安保条約への不公平批判とは前述の通りで、在日米軍駐留経費の負担増、GDPに占める防衛費の割合拡大要求等、要は防衛に対する「適正な対価」への要求ですが、その一方で、米国が孤立主義、単独主義に傾斜することで日本に提供される「拡大抑止の信頼性」の低下懸念が圧力ともなって今、日米同盟を揺るがす処です。

(1)「適正な防衛の対価」要求
70年代、米国の経済的優位が相対的に低下し、財政赤字が拡大するたびに、米国は同盟国への分担を求めてきています。因みに、NATO首脳会議で当時のオバマ大統領が「自由はただではない」と訴え、加盟国に国防費の増額を求めていますし、2016年7月のワルシヤワ首脳会議では、加盟国の防衛費をGDP比2%にまで増額することで確認されているのです。そして、今トランプ政権は対日負担増要求を強めていますが、それもこれまでと同じ路線にあるというものです。

さて米国が日本に求める「適正な防衛の対価」とは前述の通りで,具体的には現在のGDP比1%、約5兆1251億円の防衛費を2%つまり2倍にするか、在日米軍駐留経費(2017年度予算:約5,288億円) を増額する形で米国の防衛負担の拡大要求に応えることを意味するのですが、そうした対応が日本の国益に適うことになるものか、疑問の残る処です。その点では、コスト負担構造の見直し(コスト分担の合理性)が不可欠と云え、その際は日本の貢献が見える形としていく事がより肝要と思料するのです。

・‘日本の貢献’の見える化
日本国の経営にとって、前述事由から今後とも現行安保体制の堅持が前提となる処でしょうが、上述日米同盟のコスト対効果に照らしていくとき、同盟の発展的改善への「のりしろ」は狭まることはあっても、広がる可能性は難いのが実情です。ましてや互いに従来型発想を以ってする限り、「非対称な双務性」の改善は極めて困難なことと思料するのです。

そこで、限られた資源の中で日本の安全を担保していくためにも、まず対米関係において、
改めて日本として「できる事、できない事」を、はっきりさせていくこと、そして、米軍に対して「何を、どこまで」協力できるのか、或いは、することとするのか、そのシナリオを整備し、以って個々に米国と詰めていく事が肝要と思料するのです。つまり、日米同盟に係るコストとその効果について再確認し、同盟環境の変化にも照らし、当該分担の合理性を確認していく事です。それは日本の貢献を目に見える形にしていくプロセスをなす処、これこそがただ乗り批判に対抗し易くなるものと思料するのです。

尚、‘見える化’のためにも、同盟コスト分担の合理性をいかに確保していくかは依然重要な問題です。日米同盟のコストとは、下記(注)にあるように ① 経費の分担と② 任務の分担で構成される防衛コストと、➂ 主権の制約と④ 駐留経費負担で構成される自律性コストで構成され、日米間の経費分担については、米国が負担する在日米軍の維持・作戦経費と、日本が負担する在日米軍関係経費との対比で論じられてきていますが、過去5年の平均は人件費を含めれば概ね1対1の分担比率にあるのです。

にもかかわらず、日米双方に不満の残るのは②の任務の分担を米国が一方的に負担していることと、➂の主権の制約を日本だけが被っているとの被害意識があるとされ、従って、仮に在日米軍駐留経費の全額を負担したとしても不満の解消にはなりません。また、トランプ政権が求める防衛費のGDP比2%要求にしても、その経費をどのような任務の分担に充てるのか、それがどのような自律性コストの軽減に繋がるか、細かく詰めて検討していく事が不可避ですが、となればコスト負担の合理性見直しのためのシステムの導入の必要性が指摘される処です。

偶々、日経(8 月6日)が報じた防衛省2020年度予算概要要求では米軍再編関連経費を含め5兆3千億円超、過去最大規模となっていますが、これも「対米」次第で増額見通しと云うのです。この在日米軍駐留経費(注)の負担増は自律性コストの拡大を意味し日本の防衛に間接的に資するものであっても、直接的に貢献するものではありません。‘金を出すから日本を守ってね’と云った処でしょうが、これこそトランプ大統領のクレームが映す処です。

   (注)同盟のコスト:① 防衛コスト(共同防衛という軍事的貢献に伴うコスト)と、②
自律性コスト(防衛協力を得る見返りに「主権の制約」と「駐留経費の負担」)からなる。

(2) トランプ政権による拡大抑止の信頼性
もう一つ日本が直面する問題は、米国による拡大抑止の信頼性の低下です。つまり、トランプ政権が米国第一主義を掲げ、孤立主義、単独主義に傾斜する限りにおいて、トランプ政権による拡大抑止の信頼性が低下する事の可能性です。従って、その信頼性をいかに堅持していくか、そのためにも案件ごとに常に問いただすことのできるシステム作りが不可欠となる処です。 因みに、尖閣諸島の領有権侵犯や北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対する米国の対日防衛コミットメントは、随時確認できるよう、当該システムの整備が不可欠となる処です。 そして留意すべきは、トランプ政権を生んだ米国社会の構造的変化が今後も続き、米国がもはや世界の警察官に復帰できないとすれば、拡大抑止の信頼性は今後の日米同盟が直面する深刻な課題であり続ける筈という点です。

3. 多国間連携強化こそ最大の安保戦略

上述、トランプ大統領の台頭で、日米安保条約の、言うなれば威力の低下が懸念される中、では、今後とも日本の安全保障はどのように確保されていくべきかが問われる処です。言うなれば日米同盟を基軸としながらも、今後とも自らのsustainableな成長をいかに図っていくかがテーマとなりますが、その際のポイントは色々ある処ですが、何よりも問題は致命的に進む人口減少です。勿論、国内的には産業の競争力強化、社会保障等々、の視点から縷々語られる処ですが、これが国際的連携の強化なくして解決を見ないことが現実です。

・人口減少を見据えて
いうまでもなく、人口は国力を示す有力指標の一つです。その急速な減少は極めてseriousな問題です。内閣府によると、2053年には人口は1億人を割り込むことが想定されています。(2018年版「高齢社会白書」)その数字が意味することは、欧州の一国が消滅することと云え、労働力人口が減少していく中、いかに競争力を維持するか、そしていかに労働力の確保を図っていくか、が問われる処です。

この点、まずは高度情報化を進めることで、生産性の向上、競争力の確保を図ることが方向付けられる処、同時に、これに対応できる人材の確保を図ることとされていますが、それ以上に問題は、減少する労働力については、外国労働者の戦略的移入を進めることなくしてはカバーできなくなっている事情です。つまり、その戦略推進のためには雇用制度の改革等関連諸制度の見直し、改革が不可避であり、まさに革命的変化となる処です。要は、国内問題にしても現実は独りでこなせる状況にはなく、いまや国内的問題も、第三国との連携によって初めて成り立つ話となってきているのです。

・TPP11の経験を踏まえて
近時、日本は米国と同盟関係にある国と安保協力を深めてきています。ただ条約としてはあくまで米国を介した形で進められており、直接条約で同盟関係を結んではいません。むしろそれは現在の日本にとって幸いなことと思うのです。とい云うのも目指すべきは、基本的には多国間の連携強化による安定した経済の発展であり、これこそは現代における安全保障に資する戦略と位置付け得るものなのです。多国間主義、国際ルール重視を基本軸に置いた行動こそが、持続的成長戦略であり、同時にそれは安全保障対応となるのです。

その点、TPP11は政策対応の見本となる先例です。このTP11で見せた日本のリーダーシップを足掛かりに、開かれた世界貿易のシステムを推進していく事で、日本の立場はより強固となる筈です。勿論、これが米国を軽視することではなく、日米同盟の基盤強化につながる処です。 この際は、伝統的な日米同盟と云う事で思考停止せず、安全保障の一環としてグローバルな経済対応を戦略的に図る、防衛も経済も全方位での外交を目指すべきと思料する処です。



第2章 日韓対立の論理と,その行方

1. 日韓対立の構図

日本政府は7月1日、韓国への輸出管理を厳格化すると発表、7月4日に「フッ化ポリイミド」、「EUVレジスト」「フッ化水素」の3種類の半導体材料について輸出規制を発動しました。この規制により、これら3材料の輸出には経産省の審査に最大3か月の時間がかかる事になるとのことです。6月末、G20サミットが大阪で行われ、曲がりなりにも自由貿易を標榜する声明文が出た直後だっただけに、この輸出規制は韓国企業への奇襲攻撃と映る処でした。更に、8月2日、日本政府は韓国を「ホワイト国」(注)対象から除外することを閣議決定。この一連の対韓措置について日本政府は、韓国側の安全保障対応の不備さに向けた対抗措置と説明する処、韓国文大統領は、元徴用工訴訟の韓国大法院(最高裁)判決に対する安倍政権主導の「経済報復だ」と批判を繰り返す一方、韓国内では文氏主導の反日運動が勢いづき、いまや日韓対立は決定的となる状況です。

[注:ホワイト国とは、安全保障上の信頼関係がある国を輸出管理で優遇する対象国。 韓国は2004年から優遇対象国だったが今回の輸出管理の厳格化で8月28日から対象国から外れる。尚2日からホワイト国と非ホワイト国の通称を「グループA~D」の4段階に細分化した。現時点では26か国 ]

尚、世耕経産相は8月8日、先に指定した当該3品目の一部(レジスト)の中国企業(サムスン電子)への輸出を許可したと公表しました。1か月で輸出を許可したのは、今回の対韓輸出厳格化を対韓「禁輸措置」だとする韓国批判の沈静化を図らんとの由でしたが、韓国側はそんな事には意を介することなく、元徴用工判決に端を発した日韓対立は日を追うごと、激化の様相を呈する処です。

(1)朝鮮日報が伝える日韓対立の真相
現下の日韓対立の背景にあるのが、韓国側が「徴用工」と呼ぶ戦時中の朝鮮人労働者に対する賠償を巡る問題ですが、筆者の友人が提供してくれた朝鮮日報、日本語版(2019/07/17)は、以下の通り、徴用工賠償問題は日韓請求権協定で終了したとする事情、そして、その後、司法府と行政府の判断が衝突する中、大法院は、その結論を覆す判決を確定したことで、日本との8か月の「にらみ合い」が日本の経済報復に繋がったとするものでした。以下はその概要です。(当該記事を提供してくれた友人は、韓国最大の新聞ながら国賊扱いされそうと、漏らすのです.)

・日韓請求権協定と徴用工賠償問題
2005年8月、当時の蘆武絃(ノ・ムヒョン)政権は、2005年1月、40年間非公開だった請求権協定文書が公開されることとなったのを契機に、首相及び閣僚など政府関係者と各界の専門家を集め、民官共同委員会を発足させていますが、その際の争点の一つが「国家間の交渉で個人の請求権が消滅するか」でした。そして、民官共同委の結論は、強制徴用に関して「政府が日本に再度法的な被害補償を要求することは信義則の上で問題がある」とし、個人の請求権は生きているが、1965年の協定(注)によって行使は難しいとするものでした。

その代わりに蘆政権は被害者への補償に力を注ぎ、2007年には特別法で追加補償に着手し、2015年までに徴用被害者7万2631人に6184億ウオン(現在レートで約567億円)が支払われたと云うのです。ここで興味深いことは、民官共同委に現大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏が、当時大統領府民生主席の政府委員として参加、同結論に同意していたのです。
かくして韓国政府も「強制徴用問題は、1965年の請求権協定で終了した」との立場を維持し、裁判所も関連の訴訟で同じ趣旨の判決を下したと云うのです。

      (注)1965年、佐藤栄作政権と朴正煕政権の間で、日韓基本条約と日韓請求権協定が締結。
その際、問題となった日本による植民地支配の位置づけについては、両国が歩み寄る為と
して日韓基本条約では、植民地支配前の条約について「もはや無効」と明記された。
尚、当該請求権協定では、その1条で韓国への5億ドルの経済支援、2条では、賠償請求権
問題の「完全かつ最終的」な解決、3条では、紛争時の協議や仲裁を規定し、徴用された
労働者についての賠償は、韓国政府が行い、日本政府はその資金を援助することで合意。
以って日本政府は一貫して賠償を拒否してきたが、韓国の裁判所は2018年、国内にある新
日鉄住金などの資産を差し押さえ、その売却を認める逆転判決を下した。

ところが、2012年5月、大法院は新日鉄に賠償責任があると判断、「協定があるとしても個人の請求権を行使できる」という破棄差し戻し判決を下したのです。当時の朴クネ政権はこの訴訟を5年以上「凍結」、文大統領になって、それは「故意に判決を遅らせている」と批判され、大法院の当局者を逮捕したことで、18年10月、大法院は急いで同趣旨の判決、日本企業に賠償を命ずる判決を出したのです。この逆転に文氏からのコメントはなく、まあ、それは当然という処でしょうか。

‘ 安倍晋三 vs 文在寅 ’ が齎す 日韓「政冷経冷」の危機
これまでの日韓関係は、度重なる政治摩擦に曝されながら経済界や民間は互いに相手を認め、補い合ってきました。が、日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた判決が出たことで日本政府は韓国政府に対して再審を請求したものの、三権分立を盾に実効的な対策を打とうとしない韓国政府を動かさんと、我慢の末に、今次の輸出管理の厳格化という交渉カードを切ったものと思料するのですが、文大統領の激しい対日批判は止むことはなく、安倍首相は8月6日には訪問先の広島での記者会見で、「日韓請求権協定(上記)に違反する行為を一方的に行い、国交正常化の基盤となった国際条約を破っている」とし、「請求権協定をはじめ国と国との関係の根本に係る約束をきちんと守ってほしい」(日経 8月6日、夕刊)と厳しく迫る処です。
     
勿論そのコメントは、ずばり文大統領に向けられたものですが、過去に結んだ国家間の合意や協定を守ってほしという当たり前の主張も、革命政権を自認する文在寅大統領には届く由はなく、8月15日の演説では、45年までに朝鮮半島の南北統一を目指すと「南北平和経済」の推進を謳う(注)処です。それは韓国の対日依存からの脱皮を目指す姿であり、日本への挑戦の姿と映る処、日韓両国の関係は、今や政治のみならず経済においても、まさに「政冷経冷」(日経8/16)を醸しだす処です。

(注) 文大統領のラブコールながら、本質的に異なる政治思想, political governanceの下で平和統
合が叶うものか。因みに北朝鮮は米韓合同軍事演習に対抗、7月25日以降今日まで6度に亘る
ミサイル実験を行っており、そうした彼らに韓国へのrespectなど感じられることはありません。

2. 揺れる日米韓の安保連携

(1) 日米韓の安保連携から逸脱 (?) 目指す文政権
文政権の政治姿勢は「積弊清算」、つまり過去のあらゆる不正腐敗を批判(否定)し、自身の正当性を主張するという事ですが、これは人民委員会のようだとする声もある処、文大統領としては、その線上で、反日姿勢を鮮明にすることで、支持率上昇につなげていると指摘されています。とりわけ2020年4月の韓国総選挙では反日感情の高まりに便乗して支持率を更に高めんとする処で、日本との関係改善などはほとんど問題とする様子はありません。仮に徴用工賠償問題で日本が批判行動をとるとなれば、それは文氏の思うツボとなり、更なる日本依存からの脱皮、韓国の北朝鮮シフトが喧伝され、日米韓の安全保障連携からの逸脱が進むとされ、改めてアジアにおける日米韓安全保障体制の見直しが不可避となる処です。

さて、日韓関係が悪化すると米国が仲介し、収めてきたのが伝統でした。従軍慰安婦を巡る日韓対立ではオバマ前大統領が仲介し、2015年の日韓合意につながっています。が、今回は、韓国の最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟問題が絡むだけに、トランプ政権の対応はこれまでとは様相を異にする処です。つまり差し押さえられた企業の資産が売却され原告に支払われれば、先の完全で最終的な解決と謳った1965年の日韓請求権協定を根底から覆すことになるからで、要は自分のことは自分でという事でしょうが、上述事情に加え後出GSOMIA破棄問題も有之、トランプ政権は何時までそうした姿勢でいられるかです。

(2)日韓関係の行方を占う三つのポイント
韓国は、日本が日韓請求権協定(1965年)に基づき元徴用工訴訟について要請していた仲裁委員会の設置には応じない方針を示す一方で、日本の半導体材料の輸出規制強化では、WTOへの提訴を進めつつある処です。しかし自由主義、民主主義を標榜している先進二か国が互いに角突き合わせる事は両国国民にとって不幸の何物でもありません。とにかく、もつれた糸をほぐすには外交しかなく、日韓の場合、首脳会談と云う事になるのでしょうが、
その点で両政府は外交を取り戻す機会を探るべきと痛く思う処です。ただ韓国文政権が、北に向かう姿勢を対日関係において鮮明としている点で、それこそは韓国における日本の優位が減退していることの証左ですが、そうした変化を以下三点として見る限り、両者融解の可能性はまさに遠のくばかりかと思いを痛くする処です。

まず一つは中国の台頭です。韓国の輸出に占める中国の依存度は2000年に入ってからは日本を抜き、03年には米中も逆転し、07年からは中国だけで日米合計を上回るまでになっており、18年には中国(26.8%)が日本(5%)、米国(12%)を大きく引き離す処です。つまり実経済面で中国の重要性が日本を遥かに凌ぐようになってきたという事です。
次に、日韓の対北朝鮮路線が真逆になってきていることです。つまり、日本は核の脅威に対応するため米国と組み北朝鮮を封じ込める方向に動くも、韓国は核戦争を防ぐことを最優先として北朝鮮との融和を急ぐ方向にあり、従ってそうした韓国にすれば南北融和を応援してくれる中国が日本より大切な相手となる処です。 8月23日、韓国政府は、一連の安倍政権による対韓措置への報復として日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定しましたが、この決定は、東アジア安保の要となってきた日米韓連携と距離を置く革新政権の姿勢を鮮明とする処ですし、それは北アジア情勢に逆行する処と思料するのです。
そして、もう一つは韓国内事情の変化です。世代交代と民主化が進むにつれ、軍事政権が1965年に結んだ日韓請求権利協定は不平等と考える世論が広がっていることです。

では現状、どうするか? ですが即効薬はありません。要は今以上事態を悪化させないよう対処療法に務めるほかなく、普通の関係にするよう努力を続けていく事ではと思料するのです。それができない限り、その漁夫の利を手にするのは、日米韓を分断したい北朝鮮と北東アジアを自分の勢力圏に染めたい中国ではと、思料するのです。それは韓国にとっても国益にはならない筈です。 要は、日韓関係の悪化で韓国が北朝鮮に向かい、更には中国に接近していくとなると、そこには新たな地政学的環境が生まれ、もとよりこれが日本の安全保障にはマイナスとなる筈。米国が日韓対立に懸念を表明しているのもそのためです。

・序で乍ら、この週末フランスではG7サミットが開かれています。1975年のスタート以来、世界経済の安定、自由貿易の推進、北朝鮮の非核化など等、幅広く取り上げ共通のメッセージを発信してきました。今、機能の劣化が云々されるサミットですが、上述安保環境の改善に資する議論・行動を期待する処です。因みに安倍首相は最古参メンバーの一人です。



            おわりに 参院選後の安倍政治
                   ―MMTとアベノミクス

8月9日、政府は2019/4~6月GDP速報値を公表しました。 結果は年率2.2%の高い成長率を記録したというものです。異次元な財政出動と異次元の金融緩和を続けてきた結果と云う事なのでしょうか。まさにMMT(現代貨幣理論)の提唱者、NY州立大学のステフアニー・ケルトン教授によると、日本経済(アベノミクス)の今の姿こそは、その理論を実践するものと指摘する処です。

そのケルトン教授が7月16日、来日し、衆院議員会館でMMT論について講演を行ったのですが、それには多数の聴講者が集まったことが報じられました。
メデイアによると、彼女はお金を水に喩えて説くものだった由。つまり、水がたまるシンクが経済と云い、政府を示す蛇口から水が財政出動で、排水口から出ていってしまう水は税金を指す。そこで、経済を活気づけるには、財政をふかして減税するほど良いことになる。シンクから水があふれだす現象をインフレになぞらえ、以って財政出動の限界を表しているのだというものです。これではまるで中央銀行は政府の一付属機関にすぎなくなり、通貨の価値をだれが維持管理するのか、財政のdisciplineはどうなるのか、等々疑問の沸く処ですが、そのMMT理論を実践しているのが日本のアベノミクスだと評するのです。

アベノミクスがMMT理論と重なって映るのは、デフレ脱却を目指した日銀の金融緩和と政府の財政出動を組み合わせた手法です。2013年1月、安倍政権と日銀が合意した共同声明(アコード)では、日銀は物価上昇率2%をできるだけ早く実現するために金融緩和を進める、政府は機動的なマクロ経済運営を打ち出し、財政をふかすと宣言し、今日に至っています。ただ一点、MMTと一線を画すのが、財政再建の着実な推進を当該声明には含められている点です。確かに財政の規律ポイントとしてPB(プライマリー・バランス)の黒字化を挙げていましたが、残念ながらPB目標は延期が繰り返されている状況です。そう言ったこともこれありで政府関係者は財政を意識しないMMT理論とは全く関係ないと、冷ややかな態度です。

さて日本経済の現状は、遠のく2%目標を追う日銀の金融緩和に支えられ、緩んだ財政に浸る姿を演出する処ですが、となると繰り返されるのが、子や孫の世代へのツケは膨らむばかりとする批判です。ではこうした状態を克服する道はどこにあるのか? もはや言い尽くされた感のある処ですが、企業や社会の生産性を高め、経済を強くすることに尽きるものと思料するのです。この点こそはアベノミクスが積み残した主題であり、その為の施策の実行です。それはまさに王道に戻ることと思料するのです。

序で乍ら、ケルトン教授を日本に招聘したグループの一人が内閣参与で京大の藤井聡教授で、彼は内閣府参与としてアベノミクスに関わってきた仁です。その彼と3年前、ある研究会でGDP論争をしたことを思い出すのです。彼は当時536兆円のGDPは、前提を置きながら2020年には600兆円になると断じたのです。その結論はいうまでもない処です。

                      以上 (2019/8/25記)


posted by 林川眞善 at 11:19| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする