2019年06月27日

2019年7月号  今、米中関係次第の世界の生業 - 林川眞善

目  次
         
はじめに Phony US-China Truce
―米中貿易戦争休戦はまやかしだった
           
(1)米中貿易戦争再開
・米政権の対中関税引き上げ再開
・中国の対米報復措置と習近平主席の長期ビジョン
・米中交渉は仕切り直し
(2)今、米中次第の世界

第1章 米中貿易摩擦のリアルとその行方

(1)トランプ米政権の対中政策推移
・ペンス副大統領の対中演説
(2)中国習近平政権の対米姿勢

・米中対立の行方 ― 気がかりな米中首脳会談in Osaka
― 序で乍ら、Japan Then, China Now
       
第2章 米国の同盟国に託される行動様式

(1)米同盟国に託される戦略行動 ― M. ウルフ氏の示唆
・今は普通じゃない
・同盟国に求められる行動様式
(2)同盟国、日本の使命
・日米首脳会談と日本の責務
・安倍首相のイラン訪問 ― 何のため?

おわりに 歴代「国賓」米大統領と日米関係
       
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はじめに Phony US-China Truce
―米中貿易戦争休戦はまやかしだった

(1)米中貿易戦争再開

・米政権の対中関税引き上げ再開
5月に入り、「合意間近」と云われていた米中貿易戦争、関税合戦が、再びその激しさを映し出す処となっています。昨年9月、トランプ政権は対中関税引き上げ第3弾として2000億ドル相当、5700品目について10%の上乗せ関税を実施していますが、これが今年5月10日になって25%に引き上げる一方、5月13日には、第4弾として約3000億ドル相当、3805品目につき、最大25%の関税実施を予告したのです。尚、最終実施要領は、米通商代表部(USTR)が行う公聴会(Jun 17~25)での結果を踏まえ、6月中に決定と報じられていますが、後出、米中トップ会談が6月末の「G20大阪サミット」に合わせて行われることが決定したことで、更に、その結果如何ということになりそうです。

つまり、第4弾を発動すれば、中国からのほぼ全ての輸入品に制裁関税を課すことになる処、
その内容は、生活に身近な消費財、つまり「中国依存」製品を一気に網羅する事となり、中でも影響の大きいのがスマートフォンなどIT製品とされています。そして、中国からの輸入比率が高い衣料などの消費財は代替がきかず、米国家計を直撃する(米国のGDPに占める消費の比率は7割)事が予想され、個人消費の下振れリスクが懸念されることがあるためで、まさに自傷行為と認める一方で、その許容範囲を探る処と云えそうです。そして米国の対中高関税が維持されれば、中国の製造業の発展を支えてきた外国企業の撤退に一層拍車がかかることが予想される処です。

そもそも当該 ‘戦争’は、昨年12月1日、ブエノスアイレスでのG20サミットへの出席を機会に米中両首脳が現地で会談し、当該状況改善のため2019年1月以降90日間を前提に(その後4月中の決着にはこだわらないとトランプ氏は云うのでしたが)、閣僚レベルで協議を重ね中国側が対応案を示すこととして、一端は休戦状況にあったと云うものでした。が、中国側がこの約束に応えていないと、トランプ氏は再び関税引き上げ戦略に出たと云うものでした。トランプ氏が2017年1月、米大統領就任時、国民に示した公約、40項目中の20項目に「中国への45%関税の導入」を挙げていましたが、次期大統領選(2020年11月)を控えた今、その実績作りに向け、圧力をかけんとするものと云えそうです。

・中国の対米報復措置と習近平主席の長期ビジョン
勿論、中国側も6月1日、米国の第3弾となる制裁関税への報復措置として、LNG(液化天然ガス)など6000億ドル分の米国製品への追加関税として最大25%に引き上げたのです。尚、米国以外からの代替輸入が難しい品目については適用除外制度を新設するなど「持久戦」への覚悟を滲ませる処(日経6/1)です。尚、米国も1日以降到着する家具・家電など中国製品に25%の税率を全面適用するとしています。

さて、昨年3月、終身主席の地位を確実にした習近平氏は、中国建国100年周年を迎える2049年に、世界をリードする「社会主義現代強国」中国の実現を、と長期ビジョンを以って進むさなか、従って他国からの物言いには屈しないとの意思を強固としており、米中関税合戦は激しさを増すことはあっても、簡単に収束するとは言い難いものと思料する処です。

・米中交渉は仕切り直し
ただ、こうした状況下、6月18日になって米中両首脳は、5月以降対立激化で途絶えている米中交渉の再開につきG20大阪サミット(6月28~29日)に合わせ、両首脳会談を行う旨を発表しました。トップダウンで仕切り直しと云う事のようですが、もとより、いかような展開となるか、まさに世界が注目するイベントと映る処です。
先に、本論考2019年1月号で、米UC Barclay のB.Eichengreen 教授がこれまでの米中休戦をPhony US-China Truce (まやかし休戦)と称していたことを紹介していますが、まさにPhonyな状況が続くことになるのかどうか、世界の注目を集める処です。

(2)今、米中次第の世界

係る環境下、時を同じくして発表された二つの国際機関の世界経済の成長率予測では、先に公表された予測値が下振れする処となっています。

まず世界銀行が6月4日公表した2019年の世界成長率は2.6%としていましたが、これは1月時点での見通しから0.3ポイントの下方修正です。米中貿易戦争の激化で「リスクははっきり下振れ方向にある」と指摘する処です。
更に、5日,IMFは、米中貿易戦争による世界経済への最新の影響分析を公表しています。
それによると、米中が18年中に課した関税の影響で、世界景気は0.2ポイント減速するとし、19年分に見込まれる関税引き上げの影響を合算すると、下振れ幅は0.5ポイントに拡大すると試算する処です。そして20年の成長率は3.6%と予想するのですが、更に好不況の境目とされる3%ぎりぎりまで落ち込む不安が指摘される処です。― US-China tariff war will knock 0.5% global growth, says IMF (Financial Times, Jun.6) 

IMFのLagarde 専務理事はG20財務相・中銀総裁会議(6月8日)を前に、トランプ関税政策を非難し、関税の引き上げはself -inflicted、自傷行為であり、世界経済に悪影響をもたらす何物でもなく早急撤廃をと、批判する処でした。

さて、BREXIT問題、イランと米国の緊張など、世界にリスクは拡散し、トランプ大統領は前述の通り、中国からの全輸入品を対象に第4弾の制裁関税の可能性をちらつかせています。一方、中国の習近平主席は7日には訪問先のロシアで「反グローバル化や覇権主義、強権政治の台頭に伴い、国際社会が直面する新たな課題や試練が日々増えている」と演説しています。

そうした環境の中、6月8~9日、福岡で開催されたG20財務相・中銀総裁会議(6月28~29日大阪で開催予定のG20サミットの前座会議 )での討議の推移は気になる処でした。それは、米中貿易摩擦で世界経済に不透明が増す中、変調あればG20で強調していく事、更に2国間協議による貿易赤字の解消については、多国間の枠組みで議論すべきとなる筈の処、当該議論は「世界経済は年後半に持ち直す」との基本シナリオを踏襲するだけで、すべては「米中次第」という現実を実証するものでした。5月11日付け日経社説は「G20の議長国を務める日本は欧州やカナダ、メキシコなどと連携し、米中の自制を強く働きかけなければならない。」と叫ぶ処です。

・本稿のシナリオ
そこで、米中関税報復合戦については昨年弊論考(N0.76)で当時のトランプ政策について聊かのコメントしていますが、そのフォローアップの意味合いを含め、本稿では「米中摩擦の現実と、その行方」の一点に絞り、再び始まった米中関税合戦の現状、そして中国との全面対決が米国の経済、外交、安全保障政策の中心的関心事になってきている実情とその行方について、考察したいと思います。(第1章) そして米中摩擦が進行する中、米国の同盟諸国に求められる対応の如何について考察する事とし、併せて、偶々令和元年、初の国賓として来日したトランプ米大統領と安倍首相との会談が行われていますが、さて、どのような会談が行われ、同盟国日本の矜持の如何について、考察する事とします。(第2章)

尚、今回のトランプ大統領を含め戦後7人の米大統領が国賓として来日しています。その都度、両国首脳が演ずる対応の姿は、そのまま両国関係の実情を映す処です。そこでこの際、国賓米大統領の訪日が映し出す日米関係の現実を、レビューしておきたいと思います。(おわりに)






第1章 米中貿易摩擦のリアルとその行方
             
(1) トランプ米政権の対中政策推移

トランプ氏が2017年1月20日、大統領就任時、40項目の公約を公表していましたが、その20項目目にリストされていたのが「中国への45%関税導入」でしたが、現在の貿易戦争の実際は2018年3月対中制裁関税の発動を表明し、7月の実施に始まるものでした。

米政権の通商政策の基本として、大幅な貿易インバランスをもたらしている相手国、中国、日本、メキシコ、ドイツ等とのインバランス是正にある処ですが、中でも中国が米国のインバランスのおよそ半分を占める国と云う事で、強くその改善を求めるもので、その際は、競争の不公正さへの対応とされる通商拡大法301条の適用を以って衝にあたっていますが、もう一つ注目されるのが、安全保障対応とされる通商拡大法232条を適応している点にあるのです。つまり、貿易を安全保障問題にリンクさせる形で当該問題に対峙せんとしている点です。加えて、これまでの政策対応と異なるのが、明らかに「人種」に置いているとされる点で(注)、まさにidentity politicsとされるトランプ政治の危険さを映す処です。

    (注:Kiron Skinner, the US state department’s policy planning director, suggested
recently、rivalry with Beijing is `a fight with a really different civilization and
different ideology, and the US. hasn’t had that before. → her framing of this as a
civilization and racial war and so as an insoluble conflict. (`The 100-year fight facing
the US and China’ by M. Wolf Jun.5,2019。尚、「100年」とは米政治学者、Michael
Pillsbury氏が2015年著した「China 2049」で、中国の戦略を、米国から世界の覇権
を奪う「100年マラソン」と呼んでいるが、その引用ではと思料する処.)

もとより、トランプ氏が大統領に就任して以来、彼が明らかとしてきた安全保障政策は、まさに対中戦略にある処です。つまり、2017年12月発表の「国家安全保障戦略」では、中国を「戦略的競争相手」と位置づけ、2018年11月14日の米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障再考委員会」報告書では「覇権を目指す中国の試みは米国の安全保障や経済的利益に疑いようのないリスクとなる」(2018/11/14 日経夕刊)と指摘する処です。

・ペンス副大統領の対中演説
そして、極め付きは、2018年10月4日、ワシントン、ハドソン研究所でペンス米副大統領が行った中国政策に関する演説です。それは中国による知的財産権の侵害や軍事的拡張、米の内政への干渉等、指摘、非難し、両大国が覇権を争う対決の時代に入ったことを印象付けるものでした。言い換えれば、今の中国とは一緒にやっていけない、本格的な改革開放路線
に立ち返れという明確な意思表示だったと云うもので、まさに米国の対中政策の歴史的な転換となりうるものと評価される処です。因みに、同副大統領は米国が中国に手を差し伸べてきた日は「もう終わった」と断じたのです。そして昨年3月に始まった米中制裁関税合戦は今年2019年5月の第4弾宣言へと続く処です。

(2)中国習近平政権の対米姿勢

一方、中国政府は6月2日、米国との貿易協議に関する報告書「白書」を公表。そこで協議の決裂は「米国に完全に責任がある」と非難する一方、米国へは、原則に関わる問題では決して譲歩しない」と米国への対抗姿勢を鮮明としたのです。そしてメデイアによると習近平指導部は、米国との貿易戦争を巡り、国内に持久戦への備えを呼び掛けているとも伝えられる処です。そうした状況下、6月14日、キルギスの首都ピシケクで開かれた中国とロシアが主導する「上海協力機構(SCO)」首脳会議では、「保護主義に対抗する」と米国をけん制した共同声明を採択しています。(日経、6月15日)

では、今次「白書」が映す強硬姿勢が今後も続くと見るかは、定かではない処です。と云うのも、昨年9月末に出された初の白書では「関税という、こん棒で脅かされながらの交渉はしない」と明記し、強気ムードにあったとされていました。が、それからわずか1か月後の11月1日には米中両首脳は電話協議し、前述の通り12月1日、両者はブエノスアイレスで会談し、中国製品への追加関税を10%から25%に引き上げると、脅かされながらの交渉を受け入れているのです。中国のこの軌道修正の理由は「経済」の一言に集約される処と云われています。(日経6月3日)今、その中国経済は楽観許さぬ状況にあるのです。


・米中対立の行方 ― 気がかりな米中首脳会談in Osaka
上述米政権が、貿易戦争の形をとった対中安全保障戦略を擁し、中国を押さえ込まんとする姿勢を崩すことのない一方で、中国政権も対米持久戦の構えを崩さぬ状況からは、当分、米中の対立構図の融解は見通し難く、予想以上に当該摩擦は長期化、本格化するのではと、懸念される処です。 因みに、前述(P.3)の通り、米中両首脳は6月末のG20大阪サミットに合わせ、トップ会談を行う予定ですが、その発表の直後、米商務省は中国政府の基幹システムを手掛けるスーパーコンピュータ大手、燭光信息産業など5社に、米国製品の事実上の禁止を決定するなど、強硬策を突き付け中国に貿易問題などでの譲歩を迫る様相です。(日経、6月23日) かかる事態は、これまでの関税合戦から「技術覇権」、更にはその先の「軍事覇権」をかけた争いの可能性すらみえ隠れする処です。いずれにせよ次期大統領選を控えた、そしてイラン問題等を抱えたトランプ米大統領、一方、‘100年マラソン’ 政治へばく進する習近平主席、その両者の会談で米中対立の融解シナリオを描きうるか, その見通しは聊か疑問視せざるを得ない処です。

米NYU教授のNouriel Roubini氏は、6月21付け寄稿論考( The Coming Sino -American Bust Up )で、米中両首脳が大阪で新たな休戦に合意するか否かに関わらず、米中対立はすでに新たな危険な状況にあるとし、従って対話による現状維持等、瞬時、可能としても、sharp escalation、両経済大国の経済事情、金融、財政の実情からは、2020年にはリセッションに陥ることが予想され、最終的にはグローバル経済のバルカン化すら危惧されると云うのです。 G20大阪サミットもさることながら、米中首脳会談の行方こそは、今後のグローバル経済の生業を占うものと、注目するのです。

― 序でながら ‘Japan Then, China Now’
現下で展開される米中貿易摩擦問題への米国の政策行動をレビューするとき、かつて1980年代のレーガン政権の対日圧力を想起させられる処です。当時のレーガン大統領は、1985年9月、プラザ合意がなった直後、日本について、こう発言していたのです。― ‘ When governments permit counterfeiting or copying of American products, it is stealing our future, and it is no longer free trade. ‘

目下の米中の貿易摩擦、覇権争いは「ツキジデスの罠」として世界第2位の国が第1の国を脅かす存在になったときに必然的に生じる摩擦として話題になる処ですが、実は平成の幕開け、1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、ソ連の脅威が消滅したとたん、日本はまさにその立場、つまり米国と覇権を争う立場に置かれ、日本は米国にとって仮想敵国と云うべき存在になったのです。しかし、当時の日本にはそうした意識はなく、もとより覇権争いを行う覚悟もないままに日本は、米国の圧力が主導する形で、様々な規制改革への要求や日本封じ込めの外圧に応えていったと云うものでした。自動車の対米自主規制、金融システムの改革、国内流通システムの改善等を進め、今日に至っており、そのプロセスは、相応の犠牲を伴ったものの、国内経済の自由化推進であり、日本経済のグローバリゼーションへの対応促進の他なく、その結果は、今日の日本があると云える処です。

そうした圧力の下に置かれてきた日本のかつての立場は今や中国に移ったとイエール大学シニアーフェローのStephen Roach氏は5月27日付け論考 `Japan Then, China Now’(昨日日本、今中国)で、そうした写し絵を云々しながら、世界の経済大国となった中国の政治的思考様式に照らし, 摩擦のendingはかなり違ったものになろうと云うのでしたが・・・。
The Economist誌 (June 8-14,2019) はその巻頭言‘Weapons of mass disrupt’で、トランプ米国は新たな経済的兵器庫、`new economic arsenal’ の強化を進め、米国の力を主張しているが、それは世界経済の破壊行為に通じる処と糾弾、こうした国際環境にあって、少なくとも米国の同盟国はこれにどう応えていくべきかが、次に問われる課題とするのです。


第2章.米国の同盟国に託される行動様式
    
米中間の経済紛争が深まる中、では米国の昔からの同盟国は一体どのような立場に置かれ、そして何をなすべきか、が問われる処ですが、基本的には、自由と民主主義、ルールに基づく多国間主義、国際協調などが持つ不変の価値を主張し続けることのほかないものと思料するのです。言い換えれば、競争と協調の両方を取り入れていく事が、これからの進むべき正しい道ではと思料するのです。そして中国の台頭を何とか受け入れつつ一緒にやっていく方法はと、云えば、そうした考え方を同じくする同盟諸国と緊密に連携を図り、多国間での協調システムを築いていく事ではと思料するのです。勿論、中国を尊重する姿勢の欠かせないこと、言うまでもありません。

その点、Financial Timesの著名なColumnist Martin Wolf氏は、5月22日付けコラム `The US-China clash challenges the world ‘ で、米中対立を煽っているトランプ氏の行動様式への対抗として、同盟国間の在り方を示唆するのです。興味深く、その概要を以下に紹介したいと思います。そして、国賓として来日(5/25~28)したトランプ米大統領との両首脳会談の意義、日本に求められる対応の如何について、併せて考察したいと思います。

(1) 米同盟国に託される戦略行動 ― M.ウルフ氏の示唆

・今は普通じゃない
ウルフ氏は普通であれば同盟国は米国のそばに陣取る筈だが、今は普通じゃない。つまり、トランプ大統領指揮する米国は,ならず者超大国(rogue superpower)になってしまい、色々のことに敵意を示し、特に重要なのは、多国間の協定と拘束力のあるルールに基づく貿易システムの基本的な規範に対する敵意で、実際、同盟国でさえ、二国間関係でのいじめの標的にしていると。そして、その際厄介なのは、中国の振る舞いだけでなく、中国が台頭しているという事実に対しても敵意を強めている人たちが、米国人の間で大きな割合を占めていることだと云い、そうした環境にあって、米国の同盟国は何をなすべきか、を語るのです。

まず、M.ポンペオ国務長官の刺激的な言質を解析、米国の頭にあるのは、強者が弱者に指図する19世紀型のパワーポリテイクスだと、断じるとともに、それは貿易にも映る処、関税戦争の拡大や、中国唯一の先端技術製品メーカー、フアーウエイ(華為技術)が米国の技術を利用するのを制限する決断も、中国を恒久的に劣位に押し留めることに狙いがある、と見えると云うのです。中国側は間違いなくそう思っているともいうのですが。
そして、貿易戦争は、米国を保護貿易指向の強い国に変えてしまっており、関税の加重平均
値は、インドのそれを近々上回る可能性を指摘するのです。

こうしたトランプ氏の行動がもたらすコストは実は、米国民、とりわけ消費者と農産物輸出業者が負担する処 (因みに 5月23日、米農務省は国内農家への悪影響の広がりを受け、最大160億ドルの救済の実施を発表)、ただ皮肉にも、最大級の打撃を受けている自治体の多くは、共和党が牛耳っている地方にあると云うのです。
では多額のコストがかかるなら紛争は長続きしないと、考える向きもある処、それよりも、トランプ氏と習近平主席は、いわゆるstrongmen の指導者であり屈服したとみられるわけにはいかない、と云う展開になる公算大と見るのです。そして、この場合、米中紛争は凍結されるか、米中超大国の関係が次第に蝕まれ紛争が更に深刻なものになるか、の何方かだと云い(可能性は後者の方が高いというのですが)、その結果米国の同盟国は如何なる立場に置かれる事になるか、問うのです。

・同盟国に求められる行動様式
まず同盟国は、中国の台頭を阻止しようという米国の試みを支持すべきでない事。道理にあわない恥知らずな行為だからと云うのです。そして同盟国はむしろ、貿易と技術において米国が目指すもののどれに同意できるかを示し、可能なら、特にEUと日本の間で、そうした問題について共同歩調を維持すべきだと云うのです。 もとより各国はWTOの庇護下で、多国間貿易システムの原則を守るべきだが、もし米国がWTOの紛争解決制度を定数不足に追い込むことに成功しても、他の加盟国は代替措置として非公式のメカニズムに従うことに合意できる筈だと云うのです。そして、最も重要なことは、米国と中国を犠牲にして、自由貿易を維持することも可能なはずではと、云うのです。-Most significantly , it should be possible to sustain liberal trade, at the expense of the US and China.

かつてIMFの筆頭副専務理事を務めたAnne Krueger氏はある寄稿で、米国は、TPPからの離脱と云う愚かな決断を下したことで、TPPに取って代わった「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的協定(CPTPP / TPP-11)」加盟国への輸出について、WTOが合法と認める差別を受けていると指摘していたのです。又、EUはカナダや日本とFTAを結んでいるが、これはよい展開だとし、FTAの更なる推進をと、檄を飛ばすのです。

強固な秩序を以って貿易が行われることが利益になると考える国々は、このようなFTAを「有志によるグローバルFTA」に発展させるべきで、制度へのコミットメントを受け入れる用意があるなら「どの国でも」参加できるFTAとなる筈。将来的には、そのようなグローバルFTAの参加国が、非参加国から貿易面で違法な攻撃を受ける他の参加国を、協調報復で防衛することも考えられるかもしれないと云うのです。

トランプ米大統領は中国に対してのみならず、今や主要国に対しても高関税の発動を以って脅し、経済・外交問題を力ずくで解決せんとしています。勿論、相手国はこれに憤り、何らかの対抗に動く処ですが肝心な事は、そんな負の連鎖を断ち切る事にあると云うのです。

米中間にある敵意は世界の平和と繁栄にとって脅威となる事、云うまでもない処、これが部外者には、この紛争を止める事は出来ません。しかし、何もできないわけではなく、大国が多国間貿易システムの外側に立つのであれば、ほかの国々を内側に入ればいい事で、一つひとつの国は小さくとも、力をあわせれば巨大なプレーヤーになりうると云うのがそのポインと云うのです。つまり各国は勇気を出して、巨大プレーヤーとして振る舞うべきで、そうすることで連鎖を断ち切れると云うのです。まさに然りと、何か不意を突かれる思いです。

(2)同盟国、日本の使命

・日米首脳会談と日本の責務
5月27日、安倍首相は国賓として来日中のトランプ大統領と会談を行っています。云うまでもなく会談の焦点は日米貿易交渉問題でした。そこでは2国間協議を加速させることで、確認されると共に、トランプ氏は、今夏の日本での参院選を終えるのを待って、8月にも交渉を妥結させたいとし、米国が離脱したTPPに縛られることなく、農産物や自動車などの関税協議に臨む意向もあわせて、伝える処でした。

その背景事情は、日本が米国抜きの「TPP11」やEUとの経済連携協定(EPA)を発効させた結果、米国の農家や企業は不利な競争を強いられている点、大統領選を控えたトランプ氏は大きな成果を早く上げたい処、日本の政治情勢を配慮して参院選後に決着をと、相応の判断を示したと云うところでしょうか。ただ、米側にいくらごり押しされても、日本には飲めない一線があり、TPPの水準を上回る農産物などの自由化を迫られても、受け入れるわけにはいかない筈です。つまり、TPPは自由度の高い貿易・投資協定のモデルと広く認知される処、日本としては、この基準に沿った合意を目指すことが通商交渉の合理であり、国際貿易に優位な規範をもたらす事になるものと思料するのです。

とは云え、この際、より深刻なのが対米輸出の数量規制や相手国の通貨安誘導を封じる為替条項の導入問題です。米国は主要国の自動車に高関税を課すか否か、11月中旬まで延期していますが、いまやこれを脅しの材料に輸出や為替などに足かせをはめようとしている様相にあり、実際トランプ氏は自動車の輸入増を「米国の安全保障上の脅威だ」と断じ、日本やEUとの通商交渉を急ぐよう圧力をかけています。あまりにも乱暴で危険な行為と云わざるをえません。世界で1位と3位の経済大国である日米には貿易や投資の縮小均衡を避ける責務がある筈です。米国の同盟国としての日本は、以ってこれを矜持とし、日本も管理貿易の排除に努力することが改めて問われる処です。(注)

(注)米政府の為替「監視リスト」
米財務省は5月28日、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表。対米貿
易黒字が大きい日本や中国、更に韓国、ドイツ、イタリア、アイルランド、シンガポール、
マレーシア、ベトナムを加えた9か国を「監視リスト」に挙げています。トランプ政権が相
手国の通貨安封じ込めて貿易問題の解消に繋げる狙いを鮮明とする処、同報告書が通商協
議と密接に関係していることを実証する処です。

・安倍首相のイラン訪問 ― 何のため?
処で、トランプ氏との会談を終えた安倍首相は6月12日、イランを訪問。トランプ氏のendorseを受けたとして米イ和解の道筋を見極めるため、同盟国日本の使命とも感じてか、仲介外交に向かったのです。そのタイミンクに合わせたかのように13日、イラン沖ホルムズ海峡で不幸にも日本のタンカーが襲撃を受けてしまいました。ハメイニ師やロウハニ大統領との会談直後の事件だけに、折角の安倍仲介外交が機能しないことを露わとする処です。米英は即座に、当該事件はイランによるものと非難、6月17日、トランプ政権はその対抗として、中東地域に米兵約千名の追加派遣を決定。イラン包囲へ攻勢を強めることで、中東情勢は一層の緊張を高める処、今、まさに火に油を注ぐ様相です。
   
では安倍首相は何のためのイラン行きだったのか。米国とイランの対立は周知の通り、そもそもは、米国がイランとの核合意から離脱し、イランに経済制裁を加えたことにある処、であれば先の東京での日米首脳会談で、その‘そもそも’の事由を確認し、同時に改善への可能性について相応の事前協議があってしかるべきだった筈です。が、その種報道を耳にすることはなかったのです。因みに5月28日、ムサビ外務報道官が安倍首相受け入れにあたっての記者会見で、安倍首相の訪問は重要としながら「我々は仲介と云う言葉は使わない。懸念する地域情勢での意見交換は歓迎する」と発言していた由でした。(雑誌、Wedge 7月号)

尚、6月5日には、ロシアのプーチン大統領はモスクワで中国習近平主席と会談し、米国による対イラン制裁は「一方的」と糾弾、併せて、米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約を廃棄するとの米国の決定は軍拡競争を招くとも批判し、中ロ首脳は国際情勢や安全保障問題で足並みをそろえ、対米結束を強調していたのです。

何か、安倍首相のイラン訪問が引き金になった観です。安倍首相のイラン訪問とは一体何の為の仲介外交だったのか、疑問は深まる処です。そんな中、6月18日、トランプ氏はオーランド、フロリダで次期大統領選への出馬を正式表明。’Keep America Great ‘だそうです。

おわりに 歴代「国賓」米大統領と日米関係

5月25日、トランプ米大統領は「令和元年」、初の国賓として来日しました。戦後、7人目となる国賓大統領です。そこで、この機会に、7人の国賓大統領の来日が映す「時の日米関係」の様相を、5月28日付日経紙をベースに、レビューしておきたいと思います。

まず、初の国賓として来日したのがフォード大統領で、1974年11月の事でした。当時の日本の経済規模は西独を抜き、米国に次ぐ世界第2位となっていました。そのフォード氏を迎えたのが田中角栄首相。日米史の1ページを刻んだはずの田中首相でしたが、フォード氏来日直前、田中金脈問題が発覚、フォード氏の来日が終わった直後に退陣を発表したのです。
次に国賓となったのが1979年6月のカーター大統領、彼を迎えたのが大平正芳首相でした。その年、初の日本開催となった「東京サミット:G7」への出席と連動するものでした。当時、カーター氏はソ連のアフガニスタン侵攻への制裁措置としてモスクワ五輪のボイコットを決定し、大平首相も同調しています。

国賓3人目は1983年11月のレーガン大統領、迎えたのが中曽根康弘首相でした。二人はロン・ヤスと呼び合うなど中曽根首相は個人的な関係を築き、山荘でのお茶のもてなしなど日米新時代を印象付けたのです。当時、80年代は日米貿易摩擦まっただ中。中曽根首相はレーガン氏による日本への内需拡大要求に対応する一方で、安全保障面での日米協力を強化したのです。4人目は、1992年1月、訪日のブッシュ(父)大統領。迎えたのが宮沢喜一首相でした。ブッシュ氏は再選を控え、宮沢首相にコメ市場開放などを求めています。が、日米貿易摩擦はなお続いていたのです。

5人目は、96年4月のクリントン大統領で、迎えたのは橋本竜太郎首相でした。米軍普天間基地の返還で合意した直後でした。北朝鮮の脅威など安全保障環境の変化を踏まえ、日米は新局面為入ったとされたのでした。尚、クリントン氏は、国賓としての公式行事の合間をぬって皇居周辺をジョキングし、話題を提供するところでした。 6人目が2014年4月、オバマ大統領で、安倍晋三首相が迎えています。オバマ氏の国賓としての訪日は、韓国、マレーシア、フィリピンの歴訪の一環でした。かくして、過去6人の国賓となった米大統領は日本訪問と前後して韓国を訪問しています。

その点で際立ったのが今年、7人目の国賓、トランプ大統領でした。迎えたのは安倍晋三首相。その異例さとは、ゴルフや大相撲観戦ではなく、トランプ氏は日本に直行し、どこにもよることなく、ワシントンに戻った点でした。そして、日本国内を大統領専用車で移動するトランプ氏と安倍首相の姿は日米同盟関係が新たな次元にシフトした姿と、メデイアは報じる処でした。
5月28日、トランプ氏は安倍首相と共に海上自衛隊横須賀基地を訪問、国内最大規模の護衛艦「かが」に乗艦、視察。同艦は事実上の空母化が決まっていますが、もう一つの護衛艦「いずも」も、空母化方針が決定されています。その後トランプ氏は同じ横須賀港に待機する米軍艦「ワスプ」に移り米兵を前に「力による平和が必要」と演説。その中で日本による米国製ステルス戦闘機F35Bの購入を高く評価し、日米連携の重要性を、軍事力の強化と云う形で訴えるのでした。

しかし、安倍氏の戦略は、長期的な日米関係にはどのような意味を持つのだろうかと、元米国務副長官のJames Steinberg氏は問うなかで、次の如くに指摘するのです。
「・・・確かに、日本の国民が、引き続き強固な日米関係を支持していることは間違いないように見える。 だが、米国に対する好意的な見方と、トランプ氏への信頼感の間には乖離が見られ、懸念される事態だ。」(日経、6月15日) つまり、安倍政権の対米戦略は長期的なリスクを孕むと、極めて留意されるべき指摘です。

そんな中、日本時間25日、トランプ米大統領が日米安保条約破棄の可能性に言及した、との米ブルームバーグ通信ニュースが入ってきました。本当であれば日米関係の基本が問われることになるだけに、その真相如何と、気がかりながら、筆を置く次第です。

尚、小泉純一郎首相は、2006年、国賓として米国を訪問しています。迎えたのはブッシュ(子)大統領です。当時、アフガニスタンとイラクの二つの戦争を抱え、ブッシュ大統領は米国を離れられない事情があったためとされていましたが、そのブッシュ氏のイラク戦争に支持を表明し、ブッシュ・コイズミの個人的な関係を作ったと云われています。その小泉氏はブッシュ大統領と大統領専用機に乗りエルビス・プレスリーの旧宅のあるテネシー州メンフィスを訪問、強固な日米同盟関係を世界にアピールするものだったとされたのです。 
                             
以上 (2019/6/25 記)


posted by 林川眞善 at 08:45| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする