2018年04月27日

2018年5月号  The Social Media とDigital Democracyの交点 - 林川眞善

はじめに:Facebookの個人情報流用

世界の経済は今、革命的とも言える情報技術の進歩を受け、大きな変化の中にあります。つまり経済のdigitalizationです。それが産業の革新を進め、それが又、新しい産業を生み出し、同時に人口減少の中にあって生産活動の在り方をも変えていく、等々新しい変化を多くが確信する処となってきています。 昨年の暮れ、日経(12月7日)コラムでも、新しいグローバリゼ―ションが始まりだした、その主役は国ではなく、巨大デジタル企業だとし、具体的には米国のアップル、アマゾン、グーグル、フェースブック、中国のアリババ、テンセントを挙げていました。彼らは普通云う処のIT企業でですが、今やdigitalizationを軸にした資本主義、Digital Capitalismの到来を象徴する存在となるものですが, かかる変化は、前回の論考でもリフアーしたボールドウインの「世界経済 大いなる収斂」が示唆していたITが齎す新次元のグローバリゼーションの文脈に、まさにぴったりはまると云うものです。

然し、そのデジタル経済に大きな落とし穴があった?という事なのでしょうか。3月17日のNew York Timesと英紙Guardianが、英コンサル企業、「ケンブリッジ・アナリテイカ社」(以下CA)の元社員による内部告発を基に、報じた情報メデイア企業Facebook(以下FB)での顧客情報の流出、無断流用問題は世界を駆け巡り、プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業によるデータ独占の在り様の如何が、一挙に浮上してきました。それはプラットフォーマーのビジネス・モデルに関わる基本問題であり、同時にそれは情報を基軸とした新たな民主主義、つまりDigital Democracyへの脅威と映ると云うものです。

その報道によるとFBを通じてユーザー調査をした英ケンブリッジ大学の心理学教授が、そこで得た約27万人の個人的嗜好や行動にまつわるデータを不正に英コンサル企業、CAに渡したと云うのが事の始まりでした。当教授が調査を通じてユーザーデータを取得するのはFBとの契約に基づき合法とされるものでしたが、それを許可なく第三者に渡す事は禁じられているのです。データはユーザーの友人情報も含まれている由で結果的には8700万人の情報がCAに流れたとされています。つまりCAへの情報の不正流出、彼らの不正取得という問題ですが、その核心は、同社はそうした情報をベースに個人の行動データをAIで分析し、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使って選挙時の投票行動に影響を与えるビジネスを運営するコンサル企業ですが、2016年の米大統領選ではトランプ陣営に有利になる様に「情報戦」を仕掛けたとされる点でした。つまり、膨大な個人情報の政治活動への利用、それも無断で、と言う点です。米議会は事の重大さに照らし、4月10~11日、FBのザッカーバーグCEOに対して米下院議会の公聴会での証言を求めるに至り、米国はもとより世界の関心は一挙に高まる処となったのです。

序でながら、英国では3月27日、アナリテイカ社の内部告発者が英下院の委員会で、2016年の英国のEU離脱を問う国民投票にも関与した事を証言したのですが、これが大きな議論を呼んだのは云うまでもありません。因みに「もしその関与がなければ?」との委員会での質問に対して「国民投票の結果は違っていたかもしれない」と応えています。

これまでもIT企業による情報の独占という事態、それが齎す問題について、折に触れ云々されてきていましたが、今次のFB事件をきっかけとししてGAFA(Google ,Apple, Facebook, Amazon)と呼ばれる巨大IT企業を巡る環境は急速に厳しくなってきています。 その様相は、革命的ともされる情報技術の進歩を背に進む経済の高度情報化、つまりDigital capitalismの健全な進化を担保していく、まさにDigital democracy の在り方を問う処になったと云うものです。

 (注)GAFA:様々のプラットフォームで個人データーの収集と活用で成功している巨大米Digital 企業
4社、Google, Apple, Facebook, Amazon を、その頭文字を以ってGAFAと呼ぶ処、いずれも元々はIT
企業で、近時自動車、金融、物流、リテール等、IT業界以外の事業領域への展開を押し進めててきて
おり、このため競合企業だけではなく、ヨーロッパ、アジア各国でも大きな脅威を感じ始めている。尚、
これまで4社の時価総額は3兆ドル超を記録するほどに在りましたが、今次のFB流用問題で時価総額
は全体の1割ほど急落し、上位独占の姿は崩れだしています。

そこで今回発覚したFBでの個人情報流用問題の実状と同社ザッカーバーグCEOの議会証言、そして、プラットフォーマーと言われる巨大デジタル企業に象徴されるDigital経済社会の今後について考察することとしたいと思います。
処で今、手許に世界的に著名な投資家、ジョージ・ソロス氏が米論壇に寄稿した論考があります。それは今次のFBの情報流出問題が明るみとなる前の2月に寄稿された、やはりソーシアル・メデイア企業の行動、つまり個人情報の独占について警鐘を鳴らし、規制することの必要性を訴えるものでした。 そこで手順としては、まずソロス論考をレビューする事から始めることとしたいと思います。そして今次のFBによる情報流用問題に潜むDigital Democracyの脅威と、それへの対応について、日本の実状とも併せ、考察することとしたいと思います。(2018/4/26)


― 目 次 ―

第1章 デジタル・デモクラシーの脅威    
         
(1)George Soros氏の警鐘
  [世界の政治の生業 ]
  [デジタル企業の業態 ]
  [高度デジタル社会に潜む脅威]

(2) デジタル・デモクラシーの基本

第2章 Facebook ,Mark Zuckerberg CEOの議会証言とIT企業
                       
(1)Facebook の個人情報流用問題
  ・FBのビジネス・モデルと成長神話
  ・デジタル経済における競争の確保

(2)EUの個人情報規制と日本の対応
  ・日・EU間の個人情報の保護

‘終章’ にかえて:いま超情報化時代の入り口にあって

(1)デジタル経済の深耕
  ・21世紀はデータの世紀

(2)Joseph Stiglitz氏の見立て

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第1章 デジタル・デモクラシーの脅威

(1) George Soros氏の警鐘

世界的な投資家、George Soros氏が米論壇Project Syndicateに投稿した2月14日付論考「The Social Media Threat to Society and Security」は巨大デジタル企業の独占を許すなと云うものですが、それはデジタル世界の中の民主主義、つまりデジタル・デモクラシーに映る脅威への警鐘となるものでした。そこで、多少長くはなりますが、以下、3点に絞って、その概要を列記したいと思います。

[世界の政治の生業]
・開かれた社会がいま危機に瀕している。プーチン・ロシアに代表されるようなマフィア国家が台頭しており、米国ではトランプ大統領がそうした国家を作ろうとしているようだが、それは無理だ。憲法や制度、活力ある市民社会が許さない。

・開かれた社会だけでなく文明全体の存続も危機にさらされている。勿論、北朝鮮の金委員長、米国におけるトランプ大統領の台頭がこの事態に大きくかかわっている。そして巨大な米 デジタル企業の台頭と独占行為は米政府の権力を脆弱にする。デジタル企業はしばしば革新的で人を開放する役割を果たしてきた。然し、Facebookや Googleが力を強めてきた結果、かえって革新の障害となり、さまざまな問題を引き起こす要因となってきている。つまり、力を持ったメデイアの傲慢さが、人々が気づかないうちに民主主義や選挙に介入し、考え方や行動に影響を及ぼす企業は特に悪質だ。

[デジタル企業の業態]
・ソーシアルメデイアのFacebook、そして検索や広告のプラットフォーム(基盤)を提供するGoogleが 事実上、デジタル広告市場の半分以上を支配している。そして支配力を維持する為にはネットワークを拡大し、利用者により注目してもらう必要がある。いくつかのデジタル企業はプラットフォーマーとも呼ばれ、利用者がビジネスや情報配信などのプラットフォームにできるサービスやシステムを提供している。要は、利用者がプラットフォームに向かう時間が長ければ長いほど、当該プラットフォームはその価値を高め、従って、当該企業の売り上げに寄与してきている。
更に、企業はプラットフォームの利用条件を受け入れなければならず、これがデジタル企業の収益に繋がる処だ。デジタル企業は情報を配信しているだけだと主張するが、独占に近く、実質的には公益事業者、public utilities、と言える。それだけにstringent regulation, 競争や革新、公正で開かれたアクセスとするために厳しく規制される必要がある。

・デジタル企業の本当の顧客は広告主だ。然しデジタル企業が製品やサービスを直接、利用者に売るビジネス・モデルが姿をあらわしている。利用者の関心を操作、誘導し、デジタル企業に頼らざるをえなくする。特に若者(adolescents)には有害だ。インターネット・プラットフォームはカジノ企業にも似たものがある。つまり、カジノは顧客を引き付ける技術を開発し結果として、客に賭けでお金を失わせるという事だ。デジタル時代にあっては、こうした事は、それは気晴らしとかいったことではなく、つまり直せない習性と言ったことではなく、ソーシアル・メデイア企業が各自の自律性すら失わせてしまうと云うもので、そうした人々の関心を形つくる能力が僅かの企業に集中するようになっている(ことが問題だ)。

[高度デジタル社会に潜む脅威]
・これにはJohn Stuart Mill(注:19世紀の英経済学者)が叫んだ「精神の自由」(the freedom of
mind)を守ることだが、これには多大な努力が必要だ。一旦失われるとなると、デジタル世
代、つまりデジタル時代に育った若者たちが、精神の自由を取り戻すのは難しくなってしまう
かもしれない。精神の自由がない人たちを操るのはたやすいことで、2016年の米大統領選で 
も重要な役割を果たした。

更に警戒すべき事態も予想される。専制主義国家と大規模豊富なデーターを持つ独占的デジタル企業が同盟により、目下と企業による監視が結びつくことだ。英国の作家、ジョージ・オーウエルも想像できなかったような、全体主義的な管理社会が生まれる可能性がある事だ。
特に中国のデジタル企業は米企業と肩を並べ、習近平政権から全面的な支援を受けている。中国政府は自国内では主要企業を守る十分な強さがある。一方、米デジタル企業は、中国のような巨大で急成長市場で活躍するために、既に彼らが云々する管理システムに妥協せんとしている。独裁的な指導者は自国の国民を管理する手段を強化し、更には米国やその他の世界でも影響力を拡大しようと喜んで協力するかもしれない。

・デジタル企業の行動から社会を守るのは規制当局だ。米国の当局はデジタル企業の政治的な影
響力に対抗できるほどには強くない。一方、EUでは、巨大デジタル企業が存在しないこともあって、より強い立場を取れることから、欧州でのプライバシーとデーター保護は米国よりはるかに厳しい。その欧州の事例として挙げられるのがEUの競争委員会がグーグルに対しEU競争法(EU独禁法)に抵触したとするケースで、なんと7年もかかっての結果だが、規制を導入する流れはこれにより大幅に加速した。いま課税なども含め欧州のような手法は米国の姿勢に影響を及ばし始めている。米デジタル企業のグローバルな支配力が壊れるのも時間の問題だ、と。

(2)デジタル・デモクラシーの基本

ソロス氏の指摘は、実は彼自身の経験からくるものと言われています。つまり、彼は投資家であると共に、世界の民主主義を支援する活動を続けており、ロシア系のサイトなどを通じて度々攻撃をうけてきたと伝えられています。なかには陰謀めいた虚偽情報も含まれていたと言われていますが、そうした意味からはネット情報の中身に無頓着だったデジタル企業の「無策」による被害者でもあると云う処でしょうか。デジタル企業の反競争的な行為を取り締ること、虚偽情報の横行を防ぐ事は極めて重要と、要はデジタル企業のネット運営と政府の規制は、共に透明性の高いものでなければならないとの信念を強くする仁と言われています。

そうした実体験から、プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業によるデータの独占が進む
事は、結果として、それらデータを駆使して、ほぼすべての商品やサービスを顧客別にカスタマイズする力をもつようになり、更にデータの不当な収集はプライバシーの侵害をも齎す処ともなれば、これはもはや単なる事業モデルの変化ではない、自由民主主義への根本的脅威を意味する変化であり、従ってこうした市民の自主性(精神の自由)を手放させんとするような事態に警鐘を鳴らさんとするのです。 又、企業が進めるビッグ・データ解析やAIを使った監視システムと、既に発展している国家主導の監視システムとが結びついた際のリスク、つまり膨大なデータを握るIT企業と国家との同盟が、ジョージ・オーウエルも想像できなかったような全体主義的管理社会の生まれる可能性、その脅威を指摘するのですが、言い換えればdigital democracyの基本を質す処というものです。

ではそうしたリスク環境にどのように向き合うべきなのか、後述のように規制対応が前面に出てくる処でしょうが、Financial Timesは、より基本的にはデータの力を理解する新世代の「市民科学者」(New generation of citizen scientist)を育てることであり、データの力を人々が本当に理解するようになれば、データに対する自分たちの所有権と、その管理する権利をもっと拡大するよう要求し始める筈と、まさにデジタル民主主義の基本を問うのです。(Rana Foroohar、Financial Times Jan.29,2018) 

今次のFBによる個人情報の流出、情報の無断流用問題こそは、そうした警鐘を現実とするものと言え、前述の通り、今や世界的広がりを持った問題となって迫る処です。勿論、日本にとってもこれが対岸の火事として収め得るものではありません。そこでソロス氏の警鐘を踏まえながら、今回、米議会で行われた公聴会でのザッカーバーグCEO証言、議員の指摘から見える今後のITビジネスの方向、更に世界は、今データの世紀に入ったと言われる折、情報を基軸とした経済、それはdigital capitalismと捉えられる処ですが、その情報資本主義の行方についてdigital democracyの切り口から考察していく事とします。


第2章 Mark Zuckerberg CEOの議会証言とIT企業
 
(1)Facebook の個人情報流用問題

4月10・11日と二日にわたって開かれた公聴会(米上院の司法委員会と商業科学運輸委員会との合同)で、議員が追求したとされるのが次の三点、一つは「ニセ」ニュースや情報流出の再燃がないか、どうか。つまりは情報管理・個人情報保護規制などへの対応について、二つは個人から得たデータをテコに広告で稼ぐFBのビジネス・モデルの在り方について、三つ目としてFBの強大さについて、集中したと伝えられています。
尚、公聴会ではザッカーバーグCEOはFBは「IT企業か、出版社か」と問われた際は、「FBはコンテンツは作っていないが、コンテンツには責任を負っている」と説明していましたが、公聴会を通して言える事は、中立なプラットフォーム(基盤)を自任することが多かったネット企業は、今、社会的な影響力を含め「ニセ」ニュースの排除等、より多くの責任を背負う局面に置かれることになったと云うものです。

・FBのビジネス・モデルと成長神話
そもそもプラットフォーマーと呼ばれる情報提供企業、FBのビジネス・モデルですが、それは、多くのユーザーに無料でサービスを使ってもらう代わりに、利用者のデータを使い魅力的な広告枠を売る事で急成長した企業で、言うなれば「場所貸し」業とも言える処です。

では具体的にはどのような運営システムとなっているか。FBの会員になるにはまず、氏名や生年月日等を登録する必要があります。そして「利用規約」と「データに関するポリシー」、「コミュニテイ規定」の三つに同意しなければなりません。尚、一旦利用を始めると規約を改めて目にする事はなくなり、半ば「自動更新」の形で規約を受け入られているのが実際です。そしてデータポリシーでは「個人を特定できる情報は利用者本人の許可がない限り、パートナー企業とは共有しません」と明記されています。言い換えれば、個人が特定されない範囲では使われる可能性があるという事です。つまり年代や趣味、どんな投稿に反応するかといった「属性」が吸いあげられ、広告ビジネスなどに多用されている(日経:2018/4/11)、というものです。

勿論この時点では、個人情報が悪用されているとは言い切れません。今回のような情報流用はFBにとっても「想定外」だった、第三者にまでデータが流れるまでは想定できなかった、としていましたが、公聴会で証言に立ったザッカーバーグCEOは冒頭、その点について規約に落とし穴があったこと、併せて管理上の責任について、その過ちを認め、謝罪すると共に管理の厳密化を目指すと証言したのです。 元よりFBから個人情報が大量に流失した事自体大きな問題とされる処、事の本質はFBから最大8700万件の個人情報が英選挙コンサル会社に不正にわたった結果、2016年の米大統領選でトランプ陣営に有利なメッセージが有権者に送り続けられたことで大統領選という民主主義の「本丸」に影響が及んだ、つまり民主主義の根幹を揺るがす事態に繋がった事にあるとされる点でした。まさにFBが「米国の民主主義を揺るがしたのではないか」との批判が集中する一方で、個人情報を独占して巨利を稼ぐビジネスモデルへの疑念を齎す処となったと云うものです。

要は、今や、利用者が20億人にも達するというマーケットの膨大さと、その影響力にも照らし、半ば「公の空間」となってきたにも拘わらず、プライバシーを守るルールは後回しとなっていたことで、SNSの先駆者の成長神話はゆがみ、今年3月にその綻びを露わとしたと云う処です。
以下で示すように各国で強まるデータ保護規制の動きとも併せてみるとき、これまでのビジネスモデルを以って高収益の維持は容易ではなくなる事が予想され、瞬時その姿は岐路に立つネットの覇者FB,フェースブックと映る処です。

・デジタル経済における競争の確保
これまで、米西海岸のIT大手企業は、起業家精神を体現し、資本主義を革新する旗手と見なされてきました。ただ最近では、こうした企業が情報や富を「独占」することに因る負の側面が指摘されことが増えてきており、これこそはデジタル経済における自由競争の在り方が問われる処、これがDigital democracyにおける脅威と映る処です。

つまり従来の産業では、市場の独占は利用者の利益を損なうもので、従ってその弊害を排除し、効率的な経済活動を担保するために独禁法があるのですが、データの世界では、大量のデータを持つことほど、利便性の高いサービスを提供できることになり、便利なサービスを提供する企業が更に、データを集め、独占が進むことになると云うものです。それでもFBのケースにも照らす時、規制は必要となる処でしょう。前述の通り、16年の米大統領選中、ロシアが関与したとされる大量の「ニセ」ニュースが流れたとされる点について、ザッカーバーグCEOは「我々はメデイアではない」と抗弁していましたが、その動向は米民主主義の根幹を揺るがす処とされ、もはや「知らない」では済まされない影響力と対峙する時、改めて厳しい規制が求められることになるものと思料される処です。確かに公聴会が終わった今、焦点はプラットフォーマーに対する「規制」に移ってきたと云う処です。

では利便性を追求しつつ、データ独占にどう歯止めをかけるか、つまり個人情報保護と競争政策とが交わる新しい分野にどのように取り組んでいくかという事ですが、それはデジタル経済における競争の確保を如何に図るか、つまり競争政策を定義し直す事であり、併せてデジタル時代の企業責任について再定義が求められる処と思料するのです。これこそはまさに‘データの世紀’と言われる今後の新たな課題とされる処です。 
もとより銘記されるべきは、当該democracyを如何に担保していくか、にあるのです。

(2) EUの個人情報規制と日本の対応

この5月、EUでは個人情報の取扱いについて厳しく規制する個人情報保護規制「一般データ保
護規則」(GDPR:General Data Protection Regulation)(注)が導入されることになっています。
これは7年をかけ、検証の上での新たなnew privacy standards と違反者への重い懲罰基準を核
とする厳しい内容となるもので、相応の斯界評価を得る処です。それでもon line ethicsの専門
家からはもっとtransparent ,fair, democratic ,and respectful of personal rightsを堅持したインタ
ーネットへの道筋を求めるべきとの指摘を残す処ですが、規制のみに頼ることなくプラットフ
ォーマーが自らを律して社会問題の発生を防ぐことに努めていくべきが本筋であり、安心や安
全の確保と技術革新を両立する道を探ることがより必要なことと思料するのです。

(注)「一般データ保護規制」(GDPR)への対応ポイント(日経2018/4/16)
・データ保護責任者(PDO)の専任:専門性と独立性を持つ必要性がある
 ・データ保護評価影響評価:データ処理が個人の権利を侵害するリスクが高いとき、実施義務
    ・当局への通知体制構築:データ漏洩などを当局に通知するのは侵害を認識後72時間

・日・EU間の個人情報の保護
尚、4月25日付日経は、EUから日本に移す個人情報の保護について、両者間で、新たな指針を設けることで合意した旨、報じていました。EUは欧州の個人情報を域外に移すことについて、情報の保護がEU波の水準に達している場合に限って認めて認めており、現在、認定を受けているのはスイス等11か国・地域で、認定のない日本は2015年からEUと交渉を続けており、このほど事実上、妥結したと云うもので、早ければ今夏にも新たなデータ移転の枠組みが発効することになっています。これにより、例えば、EUでECサービスを展開する企業の場合、現地にサーバーを置かなくてもEUの利用者情報を本社で一括管理、分析ができ、現地子会社の人事情報も本社で効率的に管理できることになると云うものです。新たな指針を設け、情報保護と円滑な企業活動の両立を目指すと云うのですが、当然と云えば当然のことですが、FBの個人情報不正利用の問題が如何に問題意識を新としたかを感じさせる処です。

序でながらFB問題さなかにあって日本企業は、個人データの活用に躍起になっていると言われていたのです。その背景は、やはり大手米IT企業がデータ市場を、いわば支配している現状への危機感に負う処と云われています。確かに、‘ネットの検索や閲覧の履歴でグーグル’、‘携帯でアップル’、‘SNSでFB’、‘買い物履歴でアマゾン’と言った具合で、便利なサービスを提供し、大量の個人データを囲い込むことで成功したGAFAの牙城に風穴を開けねば競争が成り立たなくなるとの思いがあってのこととされる処です。その点、今次FB問題はFBのビジネスモデルの見直しを不可避となる処、これがその風穴になるものか、その対応推移が注目されている処です。


‘終章’にかえて: いま超情報化時代の入り口で思う

(1)デジタル経済の深耕

FBの個人情報流用問題で改めて認識させられたことは、米大統領選で有権者の行動に影響を与えた事からも分るように、データ分析は個人の行動をも動かす領域にまで高度化したという事でした。全世界のFBの利用者は月間20億人以上といわれています。FB上での反応を分析して広告を打てば、この膨大な利用者、つまり消費者市民を大きく動かせ、更には政治をもという事です。この点、米コロンビア大、S.マッツ准教授らの研究によると、「いいね!」ボタンの押し方などから得た嗜好に沿って、その個人に合った化粧品の広告を流すと「購買数は54%増えた」由(日経4/03)、報告されています。

・21世紀はデータの世紀
つまり、ネットの検索情報や車の走行情報が新サービスを生み、経済や政治のデータがマネーを動かすというデジタル経済、新たな経済の生業が、今急速に進みだしており、米インテルやIBM、中国アリババ等、IT大手の経営者は、「データは新たな資源」、「新たな石油」と口を揃えて指摘する処です。限りある石油と違い、猛烈な勢いで膨張するデータを世界中の企業が吸い上げ、因みに、人口衛星を打ち上げ、それを通して地上のモノの動き、例えば貨物の移動を子細に、見逃すまいと目を光らせ、公式情報より早く経済動向を予測できるような状況が生まれてきています。つまりビッグ・データが支配する環境が急速に進みだしていると云うもので、この点、20世紀を石油の世紀とすれば、まさに21世紀は‘データの世紀’と呼ばれる所以です。

その先端を走るのが、前述の「GAFA」と呼ばれる米IT4社。だったのですが、前述の次第でGAFAは今や逆風の中にある処、その姿は、石油の世紀と言われた勃興期の石油産業が、その後の独禁法等、との関係で再編が進み、かつてはseven sistersと言われた巨大7社が今では4社に集約、再編されてきていますが、そうした姿と重なる処ですが、データの世紀が問いかけるのは、そうした産業構造の転換や企業間の攻防に留まらず、更に、世界的広がりを持った新たな競争秩序の見直しが迫られていく事になるもの思料するのです。
同時に、デジタル化が可能にする‘新しいグローバリゼーション’によって、今、超情報社会という新しい社会の入り口にあることを強く自覚させられる処です。 慶大教授の山本龍彦氏は「宗教や民族や国家といった従来の枠組みに代わり、情報を軸とした世界秩序の構築が始まる」(日経4/3)と予測するのです。元より、その先はnobody knowsです。

それでも20世紀と対比することで、具体的な方向が見えてくると思料するのです。つまり20世紀は「ヒト」、「モノ」、「カネ」を集約し、規模が物をいうと言った経済で、その典型を自動車産業に見る処です。一方、21世紀をどう見るかですが、ITを活用した分散型の経済が発達したことで「巨大企業の存在感が低下し、個人や小規模の事業体の役割が増していく事になる」とは、世界的文明評論家で独メルケル首相のブレーンとしてIndustry 4.0を理論的に牽引してきたJeremy Rifkin氏の指摘ですが、ここで重要なことは機動力で、規模はかえって邪魔になると云うものです。つまり、知の力で、「小」が「大」を制する時代が始まったという事で、その視点への理解を深めながら、日本経済、世界経済を俯瞰し、然るべき対応準備していく事が、求められる処と思料するのです。

(2)Joseph Stiglitz 氏の見立て

処で、周知の通り、トランプ政権が2年目に入った今年を境として、彼のAmerica firstは保護貿易行動、つまり輸入制限措置という形で具体的に動き出し、まさに事態は佳境に入ってきたと云った処です。元よりその戦略上の対抗目標は中国にあることは鮮明です。 昨年末、発表された米国の「国家安保戦略」では中国を「戦略的競争相手」と位置づけると共に、米中貿易のインバランスの解消を第一としているのですが、これは通商戦略を介した米安全保障戦略と読み替えられる処です。そしてトランプ政権の対中輸入抑制政策の内容を見て行くと、その狙いが目下中国政府が推進中の「製造強国2025年」、とりわけ彼らが目指す情報通信等技術開発に向けられていることが鮮明となってきています。

さて、Stiglitz氏は、4月5日付の寄稿論考「Trump’s Trade Confusion」で、トランプ主導の米中貿易摩擦を巡る環境について分析する中で、とりわけ先進国が中国について注目すべきことは、中国が、将来的に基幹産業において主導していく事になると指摘し、そのポイントはartificial intelligence, AIだと云うのでした。周知の通り、AIこそはビッグ・デ―タに負う、つまりデータのavailability次第という事ですが、それはprivacy ,transparency ,security に関わるもので基本的にはpolitical matter だが、中国については、世界中からデータの収集のために、経済界と政府が一体となって対応を進めており、その点で中国は大いなる優位にあるというのです。(この点は多少、引っ掛かる処ですが) そして、AIにおける有利な要因は技術分野だけの話ではなく、経済のあらゆる分野に係る話だけに、それへの対応としてAI への開発基準、或いはAI関係技術についての国際協定を検討する要があるとも云うのです。

AIと云えば筆者は4月初め、東京ビッグサイトで開催されたAI Expoを見学、まさにdeep learning の実際をじっくりと見ることが出来、まさに「シンギュラリテイ」という転換点に向かう様相を実感させられてきました。アメリカのAI研究者のレイ・カーツワイル氏が提唱し、特定した到達点、「2045年」を待つことなく進んでくるのではと、感じるものでしたが、それこそは、いつまでも従来の発想と同様な対応では、left behindとなるのではと多少恐ろしさすら感じさせられてきた次第です。

・デジタルとリアルの融合
処で、日本政府は、この5月、医療ビッグデータ法(次世代医療基盤法)の導入、施行することとしています。医療データを活用して効率的な医療サービスを提供せんとするもので、その為の環境整備が進められていると報じられています。まさに医療ビッグデータ構想です。が、どうも患者にとって必要なデータとは何なのか、ニーズが不明確なデータ集約に意味がないとか、まさに五里霧中の医療ICT構想と云った様相です。どうも国の描く構想と医療現場の実態との間には大きな乖離があるようで、どうも基本的には各病院が夫々の資料記録を出したがらない点に集約されそうです。もとより夫々当事者がビッグデータに対する理解があって初めてスタートする事になるはずですが、現実は医療の現場と行政との乖離だけが目立ち、これでは仏作って魂入れずとなってしまうというものです。折角のビッグデータといい、AIの活用と云い、これが現実の「場」に生かされるにはまだまだ時間がかかるようです。日本のAI技術は素晴らしいと言われていますが、一時が万事と思えてなりません。前述の通りで、人口頭脳でなくAI技術を理解し活用できる人材の確保に向かうべきでしょう。4月23日からドイツで開催された世界最大級の産業見本市「ハノーバメッセ」でのキワードは「デジタルとリアルの融合」だそうです。ドイツが官民挙げて推進する「インダストリー4.0」の更なる進化を目指すものです。今、求められているのは、‘ものごと’ を変えていくmanagementなのです。

以上
posted by 林川眞善 at 11:07| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする