2018年02月26日

2018年3月号  いまアメリカは’不都合な真実を抱きしめて’ - 林川眞善

はじめに:二つのトランプ ‘教書’

・米大統領一般教書と予算教書
1月30日、トランプ米大統領は、自身、初となる「2018年、一般教書(State of the Union Address)」を米議会に送りました。当該教書は、国の現状(State of the Union)について大統領としての意見を述べ、主要な政治課題を説明するもので、慣例として1月最後の火曜日となっています。そうした位置づけを得る教書ですが、今次の‘それ’は聊か様相を異にするものでした。
つまり、今秋の中間選挙強く意識した、とにかく少ない成果(数字)を誇示するばかりのそれと云え、その姿は一国の大統領と言うよりは、まるで企業の株主総会で業績を報告するCEOの姿と映るものでした。そして、それはこの1年、Snow jobと揶揄されるほどの言動でアメリカ社会を分断し、同時に米国への信頼性を失墜させ ― その点では彼のスピーチの特徴として必ずやbelieve meという言葉を入れていますが ― その結果として「不都合な真実を抱きしめて」暴走せんとするアメリカの姿を浮き彫りする、というものでした。

そして2月12日 年頭教書にフォローする形で議会に提出された予算教書は、景気の底上げを狙った大規模財政の出動を織り込んだーこれも中間選挙狙いですがーまさにトランプ流予算です。もとより、この放漫とも映る財政出動が結果として米経済の運営を困難なものにしていく事になるのではとの懸念を呼ぶ処、以ってトランプ氏は賭けに出たやに映る処です。

・トランプ氏が目指す安全保障戦略
賭けと云えば、今回の教書で多くを割いていたのが安全保障政策でした。今日の北朝鮮状況からは米国として極自然な言及と云う処でしょうが、北朝鮮問題以上に、今回は中国、ロシアを「戦略上の競争相手」と位置づけ、それに向けた米軍の体制強化を訴えるのでしたが、その点では「安全保障環境の急激な変化」を実感させられるというものです。 因みに一般教書と前後して公表された「国家防衛戦略」(1月19日)、そして「核体制の見直し」(2月2日)は、時に「新冷戦体制入り」か、との声も届く処、英誌、エコノミスト(1月27日)はThe Next Warと題した特集を以って、いまや地政学の変化が新たな脅威をもたらしていると、大国間の衝突、次なる戦争の可能性を指摘すると共にそれに備える準備ができていないと警鐘を鳴らしているのです。もとより、こうした動きは日米同盟の在り方の如何を問うていく事にもなる処と思料するのです。

という事で、本稿ではこの2つをテーマに取り挙げ、これが日本のinterestにも重ねながら、当該問題点等、論じてみたいと思います。 尚、折しも米経済学者ステイグリッツ氏が公開した、1月下旬、ダボス会議に出席した際の彼の所感を手にしました。それは同会議に出席していた大企業のCEO連中の不甲斐なさを糾弾するものでしたが、極めて示唆深い内容です。そこで本稿の終わりに添え、各位の参考に供したいと思います。(2018/2/26)

                   目  次
 
第1章 二つの米大統領 ‘教書’ とそのリアル
  ―トランプ米国は ‘不都合な真実を抱きしめて

1.トランプ一般教書に映ること
 ・2019年度予算教書
2.トランプ成長政策のリアル -そこに映る‘不都合な真実’
 ・問題は放漫財政、経験不足のスタッフ
 ・パウエルFRB議長の判断

第2章 米国の安全保障戦略、高まる大国間衝突の可能性

1.トランプ政権の安全保障戦略の枠組みと日米同盟
(1) トランプ安保戦略の枠組み
   ー「米国家安保戦略」と「核体制の見直し」
 ・核体制の見直し(NPR: National Public Radio)
(2)問われる日米同盟の在り方
2.The next war - 大国同士の紛争勃発の危険性
 ・朝鮮半島での戦争勃発の可能性         
 ・既存国際秩序に異を唱える中国とロシア
 ・アメリカと言う名の砦
     
おわりに:Joseph Stiglitz氏、ダボスに集まるCEOsを叱る
    
 ・Post-Davos Depression
 ・経団連会長の交代

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第1章 米大統領の二つの‘教書’ とそのリアル
  ― トランプ米国は ‘不都合な真実を抱きしめて’

1. トランプ一般教書に映ること

昨年1月20日,トランプ氏は就任演説で ` Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs will be made to benefit American workers and American families’ And to the `forgotten men and women of our country’ ・・・と宣誓し、その故を以ってAmerica firstの旗印の下、異端ともされる政治が進められてきました。そして就任1年を経た1月30日、トランプ氏は自身、初となる大統領一般教書を議会に送りました。

その内容は如何です。つまり、グローバリゼーションの煽りで没落した白人中間層、労働者の支持を受け誕生した経緯もあり、これらに応えるべく雇用労働者の対外競争からの保護を名目に、「米国第一主義」を標榜、対外的には自由貿易レジームではなく二国間交渉を通じた是々非々的な貿易・投資レジームを追求する方向を打ち出してきた結果、選挙後の1年間で製造業の20万人を含む240万人の雇用が新たに生み出され、賃金も漸く上がりだしたと訴えるものでした。そして、9年目に入った経済の拡大、彼の唯一ともされる公約、大型減税法案の成立(昨年12月20日)をもって、その成果を誇示するものでした。 云うまでもなくトランプ氏を巡る不評を回避し、この秋の中間選挙対応の支持層を繋ぎ止める狙いと映る処です。そこで彼は`This is our new American moment. There has never been a better time to start living the American Dream.’(米国の新しい時代が来た。アメリカンドリームの実現に最高の時だと)と訴えるのでした。
[尚、今次教書では安全保障政策についてrogue regimes, terrorist groups and rivals like China
and Russiaを米国の国益に挑戦する「競争勢力」と位置づけ、対抗方針を改めて打ち出すものでしたが、この点については次章2に譲ることとします]

ただ、教書で指摘した雇用の増大、等の成果は前任のオバマ政権が打った手が効果してきた結果であり、決してトランプ政権の政策効果と云うものではありません。但し、政治は結果だとすれば、彼の唯一ともされる公約の実現、昨年末成立(12月20日)を見た大型減税法案とも併せみるとき、その限りにおいてトランプ政治は評価されるべきとなる処かもしれません。然し彼に対する支持率はと云えば昨年来、38%と歴代大統領中、最低の水準で推移している事をどう考えるかですが、要はトランプ氏の異端な言動が国内を分断させ、政治への不信を高める等、そうした結果を映すものと云え、もはや彼に対する信頼性の回復は覚束なく、そうした要素が、経済の先行きを難しくしていくものと思料する処です。

つまり、今次の減税措置とは、法人税率については35%から21%へと大幅引き下げ、大型企業減税を以って景気の底上げを狙うものとしています。(注:日本企業で影響が見込まれているのは米国で事業規模の大きい自動車で、アナリストの試算では、トヨタ等3社の2018年3月期の純利益を計8000億円程度押し上げる効果があるという。日経2月3日) 一方、個人所得については最高税率を39.6%から37%に引き下げるものですが、実施に当たっては制度上、高所得者には大きく恩恵をもたらすも、肝心の低所得者へのメリットは乏しい事が云々され、当初の約束とは違って「富裕層優遇」との批判を呼ぶ処となっています。 

一般教書ではトランプ氏は、景気拡大策第2弾として今後10年で1.5兆ドル規模のインフラ投資計画を発表しており、実際19年度予算教書にその一部が既に組み込まれていますが、これもそうしたトランプ批判を回避せんとするものである事、云うまでもありません。ただ、このインフラ投資は生産性の押し上げ効果も大きく、中間選挙を前に幅広い支持を得やすいと思料され、また民主党もインフラ投資を経済政策の柱においている点で、トランプ氏にとっては野党支持層の切り崩しにも繋がると見込む処なのでしょう。

問題は制度設計も白紙状態、財源も投資計画も定かでない中、大型減税、大型インフラ投資が加わることで景気の過熱と財政悪化の大きなリスクが高まり、更には金融市場に及ぼす先行き不安(この点は教書は素通りでしたが)も加わることで経済運営がおかしくなりかねない事、危惧される処ですが、要は秋の中間選挙向けのものと言え、今次一般教書は結果的には、そうした不都合な真実一杯の米経済の姿を映し出すものだったと云えそうです。その限りにおいて、ますますトランプ米国の経済政策の如何に世界の注視が集まるというものです。

・2019年度予算教書
因みに、2月 12日、年頭教書をフォローする形で議会に提出された2019年度(2018/10~2019/9)予算教書[4兆4000億ドル(約478兆円)規模]は、大型減税で歳入が頭打ちになる一方、国防費や公共事業費の積み増しで歳出が膨張。財政赤字は9840億ドル(約107兆円)と7年ぶりの水準、昨年のほぼ倍増の赤字を見込むものとなっています。その特徴はトラン大統領が以前から無駄遣いだと指摘してきた環境、研究開発、外交プログラムの大幅縮小する他、メデイケアー等のセフテイネット・プログラムの削減も求める一方で、これらプログラムの予算削減で捻出した分の一部はメキシコ国境の壁建設や国防費拡大に充てる計画となっています。
尚、10年間では計7兆1000億ドルの赤字で、国の債務は30兆ドル近くまで膨らむ見通しで、10年間で収支均衡を目指すという共和党の目標については、達成断念を示唆する形となっています。まさにトランプ予算です。 問題は議会が、これら予算内容を容認する可能性の如何ですが、既に議員らは新たな予算上限を満たす歳出法案を準備中にある由で、現行暫定予算が失効する3月23日までにトランプ大統領に提示する計画と報じられている処です。ここで問題なのは政府と議会に漂う財政収支に無頓着な空気だと、されている点なのです。

2. トランプ成長政策のリアル - そこに映る‘不都合な真実’

2月10日付The Economist誌は、まさにそうした空気を読み取る一方で、トランプ氏が進める財政出動による経済拡大策は、まさに危険なかけだと指摘するのです。同誌 ‘Running hot’ と題する巻頭論考でThe United States is taking an extra- ordinary economic gamble’ つまり、トランプが目指す政策行動を異常なほどに危険なギャンブルだ、‘Volatility is back’と云い、証券市場では価格が大きく変動する環境が続きそうだと警鐘を鳴らしているのです。

Volatility is backのきっかけとなったのが2月2日発表された雇用増を示す雇用統計でしたが、その指数が同時に米国の賃金上昇の加速を示していたことにあったというものでした。つまり、世界経済の好調のお陰で、停滞していた景気がインフレ局面に変わろうとしていた矢先、前述のトランプ政権んの大型減税に加え、大規模財政出動による景気拡大へと動き出したことで経済は複雑な様相を呈する処、これが投資家の懸念を増幅させ、経済の先行き不安を一挙に高め、その結果株式市場の乱高下となったというものですが、まさに市場のvolatility の高まりは、今後の経済運営に対する不信感を募らせる処となってきたというものです。 当該 The Economist誌は、この実状を量と質の両方から分析するのですが、要はトランプ政権にとって「不都合な真実」を覆い隠せない、言い換えればトランプ経済運営の枠組みの限界が見えてきたと云う事なのでしょうが、暫し、彼らの指摘をレビューしておきたいと思います。

・問題は放漫財政、経験不足のスタッフ
まず、量的な側面という点では、今次の大型減税に加え、インフラ整備等、大規模財政刺激策が加わることで公的債務は来年度には倍増し、1兆ドル(約109兆円)、GDPの5%に達すると見込まれているのですが、これが政府と議会に漂う財政収支に無頓着さにあると叱るのです。1945年以降、80年代前半の深刻な景気後退期と2008年を除けば、これほど放漫な予算を組んだことはないというのです。まさに財政規律の欠如と指摘する処です。

そうした事情に加え、こうした経済実験のかじ取りを務めるのが、近年で最も経験のない人たちによるチームであることが問題と指摘するのです。それはホワイトハウス然り、米連銀(FRB)然りとするのです。そして更に問題は、財政政策を動かしているのはthe mantra that deficits don’t matter. つまり「赤字は問題ではない」という呪文を容認する人たちだというのです。因みにパウエルFRB議長は前任のイエレン氏とは違い、金融政策を学問的に学んだ人物ではないと不安を隠しません。ではこの賭けの結果を左右する決め手は何かですが、米国として中期的にはこの財政赤字に対処する必要がある処でしょうが、短期的にはやはりパウエル氏の判断が最も大きく影響する筈です。ではどんな判断となるのか、です。

・パウエルFRB議長の判断
そこで、パウエル議長は2つの相反する危険の間で難しいかじ取りを迫られることになろうと指摘するのです。一つの危険は、金融引き締めに慎重なハト派に寄りすぎること。もう一つの危険は、経済の過熱を恐れるあまり、FRBが性急かつ過度の引き締めに走る事だというのです。就任したばかりだからとしてインフレと戦う姿勢を印象付ける衝動に駆られる可能性もあるという事でしょうか。 それでも、どちらかと言えば、性急な引き締めの方がリスクは大きいと言うのです。 つまり、完全雇用と言うがその実態は明白でない事、インフレ進行の度合いもすぐに爆発するような状況にない事、さらに労働市場を逼迫させることには大きな利点(低所得者の賃金上昇)がある、としてこれら実状を的確に把握した上で政策判断を、と言うのです。

が、いまトランプがやろうとしている膨大な財政出動による景気刺激策には反対だというのです。なぜなら、設計が不十分であり、無謀なまでに規模が大きいことで、金融市場の変動は一層拡大するだろうというものです。既にトランプ政権はこの実験を始めているわけで`Fed does not lose its head’ 、FRBには冷静を保てと忠告するのです。[(注)2月21日、公表されたFOMC議事要旨では大型減税が景気を押し上げると見て「上向きの利上げ軌道が適切である公算が大」との見方が示されており引き締めペースの加速化可能性を伝えています。(日経夕、2月22日)]

さて、この4月、黒田日銀総裁は任期を延長、次の5年間、金融政策のかじ取りに当ることになっています。この人事が示唆することは、いうまでもなく「アベノミクス」を支える大規模な金融緩和を維持して、デフレ脱却の実現を目指すという事でしょうが、安倍首相の政権維持に備えた対応、つまり19年10月予定されている増税、それによる景気の下支えとしての歳出拡大構想を絡ませた、言うなれば‘緩和の出口’を封じた人事と云えそうですが、なにか米国の実状に似てきているのが気になる処です。


第2章 米国の安全保障戦略、高まる大国間衝突の可能性

1.トランプ政権の安全保障戦略の枠組みと日米同盟
      
12月18日トランプ政権が発表した「米国家安全保障戦略」に続き、その基本は年頭教書でも触れられた処ですが、1月19日には、それを枠組みとして国防総省で取り纏められた実践米軍事戦略計画「国防戦略」が公表され、更に、2月2日には、トランプ政権として新たな核戦略の指針となる「核体制の見直し」が公表されています。まさにトランプ安保戦略3連発です。そこに共通するコンセプトは「強い米国」、「力による平和」。そして1月19日、「国防戦略」の発表(国防総省)に当たり、マチス国防長官が行ったブリーフィングは事態の緊急度の高さを実感させるものでした。つまり「テロ(ジハード)ではなく大国間の競争が米の国家安全保障の最優先課題だ」(日経夕、1月20日)と述べ、中国やロシアを「戦略上の競争相手」と位置づけ米軍の体制強化の必要性を訴えるものでした。

(1)トランプ安保戦略の枠組みー「米国家安保戦略」と「核体制の見直し」
当該戦略のポイントは中国とロシアを米国や戦後の国際秩序に挑む「修正主義勢力」と捉え、軍事・経済の両面で力を背景にした強硬姿勢で対峙し、米国の利益を守る方針を鮮明とする点にある処です。。冷戦後、中ロを国際社会に取り込む努力を続けてきた従来の姿勢の大きな転換を意味する処です。米国の対中ロ姿勢はトランプ氏がタカ派という事よりは中ロの近時の強硬な行動、つまり中国のアジア海域での強硬な振舞い、ロシアの西側の選挙への介入など民主制度を揺さぶると云った行動、が米国の警戒心を高めた結果と云えそうです。そこでこれら行動に対峙するために強い米軍の再建となるのでしょうが、この「力による平和」追求とは、決して「世界の警察」になる事でなく、そこでも米国の安全と繁栄を目指す、つまりはAmerica firstなのです。
 
具体的には、共通の脅威に対しては、より大きな責任を担うよう、同盟国に求めていく方針が明記されており、トランプ政権はおそらく中ロに単独で対応するつもりはなく、同盟国である日本やオーストラリア、欧州諸国にも一層の貢献を求めていくものと予想される処です。もとより今回の戦略は米国の内政とも密に絡む処、今秋の中間選挙が近づくにつれ、内向き姿勢が強まり対外的対応もより米国第一になっていくものと思われ、その点で、日本として日米同盟の在り方を再考していく事が不可避となる処と思料するのです。

・核体制の見直し(NPR:National Public Radio)
上述戦略に加え、トランプ政権は2月2日、これから5~10年の新たな核戦略の指針となる「核体制の見直し」を公表しました。その見直しのポイントは、一つに「核の使用条件の緩和」、もう一つは「新たな核兵器の開発」にあり、オバマ前大統領が敷いた核軍縮方針を転換し、核兵器の抑止力を強めることにある処、要は核戦力の強化と領土的な野心を隠さない中国、ロシア、核開発を止めない北朝鮮への危機感、のそれらがその背景にあるとされるところです。もとより、上述国家安保戦略の枠組みの中にあり、核開発競争の再燃が懸念されるのですが、既にトランプ氏は前述年頭教書の演説で「核兵器を近代化し、再建しなければいけない」と核軍備増強の意欲を明らかとしています。偶々、2月18日までミュヘンで行われた「ミュヘン安全保障会議」では核戦略が主題に浮上した由で、北朝鮮の核開発に加え、ロシアの抑止を念頭に、米国が核兵器を重視する方向に転換。ロシアによる米大統領選への介入を巡る対立も相まって、東西冷戦以来、「核抑止」、「核使用のハードル」と言った言葉が安保の表舞台を再び覆いつつあると、メデイアは報じるのですが。(日経2月19日) それは新冷戦時代の始まりとなるのでしょうか。

(2)問われる日米同盟の在り方
処で日本の安全保障は周知の通り、これまで日米安全保障条約(注)の下、言うなれば米国の核の傘の下にあって、従って、米軍事力により日本国の安全が担保されてきているというもので、この限りにおいて日本は米国の安全保障戦略に組み込まれてきたと云うものです。

[注:1951年9月8日、第2次世界大戦後、連合国49か国と日本との間で取り交わされた
平和条約(サンフランシスコ平和条約)の6条に基づき二国間条約、つまり日米安全保障条
約(旧協定)が締結され、1960年1月19日ワシントンで、改訂日米安全保障条約(新協
定)が締結され、以って現行日米安保体制が準拠する処となっている]

然し、トランプ氏のAmerica firstの軍事戦略に照らす時、現実問題としてこれまでの様に日本の安全保障をアメリカ任せで済まされるものか、まさに基本姿勢が問われる処です。例えば、目下、日本政府は北朝鮮問題もあり、日米同盟強化の名の下、イージス・アショア(弾道ミサイル迎撃システム)の配備(対米輸入調達)に熱心ですが、問題はその同盟強化の在り姿です。つまり、日本がアメリカの国益に寄与することにより、アメリカ側の歓心を得て、アメリカに見捨てられないようにすることが同盟関係の強化と、まさに揶揄される状況にある処、つまりはAmerica firstの軍事戦略を押し付けられていく日米同盟の強化が定着していく事が問題で、因みに、近時高額な米国製兵器の買い付けが加速していると伝えられている処です。

そこでこの際は、‘今’ をTrump’s gift to Japanとし、つまり 米国抜きと言う新たな世界経済にあって日本の役割とその可能性を見直し、日本として、経済安全保障を切り口とした外交戦略の再構築を目指すべきと思料するのです。勿論、日米同盟は依然その基本にある事には変わりなく一方、中国の世界経済における台頭、中国効果を踏まえながらという事は云うまでもない処です。
そしてその作業は、ポスト平成という新時代を迎える日本として、そうした新たな世界環境にあって、安全保障を含め、いかなる形で発展していくべきか、新時代に向けた日本の自画像づくりに向かう事が不可避となる処と思料するのです。そうした新しい行動が今求められるおり、定番の「革命」ごっごに終始し、満足する政府に、如何ともしがたい不安さえ禁じえないのです。

そうした折、「核体制の見直し」が米国より発表されるや河野太郎外務大臣は、トランプ氏の姿勢は日本の一層の安全を保障するものと高く評価する旨の談話を公表したのです。それは米国の「核の傘」に依存する日本の姿勢を一層鮮明とするものですが、上述、問題意識に照らす時、かかる発言と思考様式に瞬時、日本の外交は一体どうなっているのと、たじろぐばかりでした。これがDonald -Shinzo蜜月関係を映すものとすると、トランプ戦略に応じていく日本の、まさにAmerica firstと心中する蓋然性を高めるものと言うほかないのですが。

2.The next war - 大国同士の紛争勃発の危険性
  ― Shift in geopolitics and technology are renewing the threat of great-power conflict:
Conflict on a scale and intensity not seen since the second world war is once again
plausible. The world is not prepared (The Economist 2018/1/27)

前述マチス国防長官が示唆した事態に通じる話として、1月27日付The Economistは特集記事 `The next war ’において、この25年というものシリア、アフガニスタン、イラク等で、激しい内戦や宗教対立が続いてはいますが、世界の大国同士が直接衝突するといった壊滅的な事態はほとんど想像できなかったが、今後は違う。第2次世界大戦以降生じていない規模と激しさの紛争が、再び起こり得る状況にってきた。世界には、それに対する備えがいないと警鐘を鳴らすのです。そこで、暫しその概要を紹介しておきたいと思います。―

・朝鮮半島での戦争勃発の可能性
今、最も差し迫っているのは朝鮮半島での戦争勃発の危険性で、ひょっとしたら今年始まるかもしれないというのです。トランプ大統領は金正恩(キム・ジョンウン)氏には核爆弾搭載の弾道ミサイルで米国を攻撃する能力を持たせないと断言していますが、最近の実験の様子からは、未だreadyではなくとも数か月以内には、その能力を手にできる可能性はあると云うのです。 そして今、Pentagon(米国防総省)では、数ある Contingency plans の内でも北朝鮮の核施設を無力化する先制攻撃を考えている、つまり大統領の命令が下れば実行する準備はできている、というのです。云うまでもなく限定的な攻撃でも、全面的な戦争の引き金を引く恐れのある処です。

尚、外交努力の継続を前提としながらも、戦争の方は現実に起こり得る可能性だというのですが、そこで、トランプ側は核兵器を有する北朝鮮は無謀で核兵器を拡散させる可能性も高いと判断し、米国の都市が将来核攻撃を受けるくらいなら朝鮮半島での戦争に今にも打って出る方が良策と結論付けるかもしれないというのですが、トランプ氏の戦争指向に留意する処です。

    (注)アナリストによれば北朝鮮には、韓国の首都ソウルに1分間で1万発の砲弾を打
ち込む力がある由で、Drone ,Midget submarines, Tunneling commandos 等で生物
化学兵器を、下手すれば核兵器をも使ってくるかもしれないが、そうなれば何万人もの
人が非業の死を遂げることになるというのです。

・既存国際秩序に異を唱える中国とロシア
仮に、中国が第2次朝鮮戦争に関わらないとしても、中国はロシアと共に、西側諸国と新たな勢力争いを始めつつあり、中ロ両国の野心は、北朝鮮のそれよりも扱いにくいもと云うものです。
まず米国主導の下、構築されてきた現在の国際秩序について、中国もロシアもそれからの恩恵を享受してきた筈の処、その秩序の柱である普遍的人権、民主主義、法の支配の3点について、外国からの干渉を正当化したり、自分達の正統性に傷をつけたりするペテンだとするのです。つまり、彼らは今や、現状に異議を唱え、周辺の国々を将来の自国の勢力圏と見なす、まさに修正主義国家(revisionist states)とされる処、中国は東アジアを、ロシアは東欧と中央アジアを自分の庭にしたがっているということです。
そして、中国もロシアも、実行すれば確実に負ける米国との直接的な軍事衝突は望んでいないが、強化しているハードパワーを別の方法で利用しているというのです。特に目立つのは、西側諸国との軍事衝突のリスクがぎりぎり生じない程度の攻撃や威圧が有効に作用する「グレーゾーン」を活用するやり方だと云うのです。 例えばロシアの場合、ウクライナで軍事力、偽情報、サイバー戦争、経済的な恐喝等、色々と組み合わせて繰り出しており、又中国の場合、係争中の海域にあるサンゴ礁や浅瀬の領有権を主張し、占領し軍隊を駐留させているというのです。

更に両国とも「接近禁止(anti-access)・領域拒否(area denial)」ネットワークを作るために非対称戦略を用いているとも云うのです。つまり中国が米海軍を太平洋まで押し返すことを目指すのも、米軍が安全に東シナ海や南シナ海に戦力投射できないようにするためで、一方、ロシアは北極地方から黒海に至る地域で敵国を上回る火力を有していること、そしてその使用をためらわないことを、世界に知らしめたいと思っているからだという事です。 中国とロシアによる地域的な覇権の確立を米国が許容すれば、それが意図的か或いは、政治の機能不全により対応しきれなかったためかに関係なく、両国が腕力で国益を追求する事を了承したことになると云うのですが、同じことが前回起きたときには、その結果として第1次世界大戦が勃発しているのです。

・アメリカと言う名の砦
では米国はどうすべきなのか。同誌はこれまで米国の20年に及ぶ戦略の漂流は中国、ロシアにとって思うツボだったと指摘するのです。ジョージ・W・ブッシュ氏のunsuccessful wars のせいでこの2国への対応は疎かになり、米国が世界で果たす役割に対する国内の支持も損なわれ、バラク・オバマ氏は外交で縮小政策を推進し、ハードパワーの価値について懐疑的な見方を隠す事はなかったが、現職のトランプ氏は米国を再び偉大な国にしたいと云いながら、retreatを以って、それとはまったく間違った方向に進んでいるとも指摘するのです。

周知の通り、トランプ米国は国際機関を遠ざけ、同盟国をお荷物扱いし、敵対する国々の権威主義的な指導者たちをおおっぴらに称賛し、あたかも、米国が自ら作ったシステムの防衛を断念することを、そして好戦的な修正主義者の大国、ロシアや中国の仲間になる事を望んでいるかのようだが、改めて、米国は自らが国際的なシステムの主要な受益者である事、そしてそのシステムを継続的な攻撃から守る能力と資源を有する唯一の大国でもある事を、より自覚すべしというのです。勿論、辛抱強く一貫性ある外交のソフトパワーも重要だが、それには中国とロシアが重視しているハードパワーの裏付けが不可欠というのです。ただ米国にはまだかなりのハードパワーがあるものの、同盟国を安心させる一方で敵国には恐怖心を抱かせる軍事技術での優位性は、急速に失われつつあり、ハードパワーを外交と調和のとれたものにするために、米国はロボット工学、人口知能、ビッグデータ、指向性エネルギー兵器を基盤とした新しいシステムへの投資が必要だとも指摘するのです。

かくして、世界平和の最高の守護神は、強い米国の他なく、幸いにもこの国には未だいくつかの優位性があるというのです。因みに裕福で能力ある同盟国があり、いまだ他国を大きく凌駕する世界最強の軍隊を抱え、どの国よりも豊富な戦争経験があり、トップクラスのシステムエンジニアたちを有する上に、世界最大級のハイテク企業をいくつも抱えていると。然し、こうした優位性はあっと云う間に無駄遣いされる恐れがある。米国が国際秩序にしっかり関与しなければ、そして強力な挑戦者たちからこの秩序を守るハードパワーにコミットしなければ、危険性は更に高まることになるだろうし、そうなれば、戦争と云う未来は思った以上に早くやってきてしまうと、同誌は警鐘を鳴らすのです。要は米国よ、しっかりせい!という事でしょうか。 


思うに、戦後の世界が「統合と収斂」を重ねて進歩してきたこの動きが大きく後退し、「分離と発散」への傾向が顕著となってきた今、米国が発してきた世界的メッセージ(自由、民主主義、人権等)が殆ど機能停止にあっては、一国でグローバリゼーションを管理することは到底不可能と云え、であれば、Gゼロ時代の大国関係とは、安全保障問題も含め、単なる覇権大国の対峙よりはむしろ、大国が一方では、持ちつ持たれつの相互依存を通じて相手を適宜けん制しつつ、国際政治、国際関係での実利を確保する、或いは争っていく方向が現実的な在り姿ではと、思えてならないのです、が。


おわりに:Joseph Stiglitz氏、ダボスに集まるCEOsを叱る
 
本稿の執筆に当たり、1月末行われたダボス会議に関する資料を漁っていた折、冒頭触れた通り、
Joseph Stiglitz氏(ノーベル経済学受賞の米コロンビア大教授)が米論壇(Project Syndicate)
に投稿した2月1日付論考「Post-Davos Depression (ダボス会議を終えて覚える憂欝)」
を目にしました。彼は1995年来、ダボス会議に参加してきた仁ですが、今年ほど、憂
鬱に思えた会議はなかったというのですが、その要因がダボスに集まる大企業のCEOたち
の不甲斐なさにあると、彼らを叱るものでした。これは今の日本の経済界(経団連幹部)に
も当てはまる処、そこで、その概要を紹介するものです。

・Post-Davos Depression 
ステイグリッツ氏の問題意識は、世界に広がる格差問題であり、不平等問題でした。またDigital 革命についても、膨大なポテンシャルの可能性秘めているも、プライバシー、セキュリテイ、ジョッブ(雇用)、そして民主主義に対して深刻なリスクを突きつけていることも然り、更には気候変動問題もグローバル経済全体に対して現実的な脅威となるまでに差し迫ってきていることにあったというのです。然しそうした問題よりは、彼を滅入らせたことは、ダボスに集まったCEO達のそうした問題に対する反応だったというのでした。

つまり、彼らの話はいずれも普遍的価値の重要さを口にする。確かに、彼らは単に株主の為にという事ではなく、労働者の為、彼らが共に働く社会コミュニテイの為、更にはより広く世界のためにと、素晴らしい未来の創造を口にするも、彼らのスピーチの最後に出てくる言葉で、冒頭で触れた価値に関する幻想はもろくも崩れ去ったというのです。つまり、彼らが最も気にしていたことは、彼らが大いに享受してきたグローバリゼーションに対するポピュリストからの反抗の高まりだったというのです。

これら経済エリートは多大な恩恵(富)を手にしているが、その一方で、多くの人たちがその犠牲を余儀なくされ、因みに、実質個人所得は停滞し弾まで労働所得分配率は大幅に低下していること、米国では、life expectancy, 期待寿命は短くなり、とりわけ高校教育しか受けていない人々はその傾向にあると訴えるのです。そしてダボスでスピーチを行った人たちの誰一人、偏狭な、女性差別、或いはトランプのような人種差別主義が語られることはなく、人権無視の容赦ない発言も、公然と嘘をつくような人、或いは世界の米国大統領の立場を侵害するような衝撃的な行動もなかったが一方で、アメリカの巨大企業の誰も、政府が進める科学振興のための財源の削減について、これこそは米国の競争力の根っこにあるものだが、言及する者もなく又、誰もトランプ政権の国際機関からの離脱について言及する者もなく、国内で起こっているメデイアと司法への大統領による攻撃に対しても、―これこそは米国デモクラシーの支柱となるcheck and balanceのシステムへの挑戦だがー 言及する者もいなかったと指摘するのです。

そして、何よりもダボスに集まったCEO連中は、今次成立の大型減税を大歓迎するのだが―これは大企業と富裕所得者に恩恵をもたらすだけで、トランプ氏もそうした大金持ちだがー、これが法案通りに進められるとなると、過去30年と云うもの所得の目減りを余儀なくされてきた多くの中間層の人たちには結果として増税となるのだが、そんなことなど気に留める様子もない。結局は不平等を齎すだけだと断じるのです。。
一方、知識やイノベーションの源泉でもあるハーバードやプリンストンといった大学も課税されることになっている。結局、それはこれまでの繁栄を支えてきた地方政府が進めてきた教育投資とインフラ投資の削減にもつながっていく。つまりトランプ政権は21世紀に求められる、教育こそは成功の源泉たるを無視するものだと批判するのです。

ダボスに集まったCEO達は、規制緩和とも併せて、高所得者と大企業あての減税措置は、あらゆる国の問題解決に繋がる措置だ、としているかのようで、それこそはトリクルダウン(trickle down) 経済が最終的に国民全体を幸福にするものと信じているようだが、そうしたトリクルダウン経済が機能しないことは実証済みである事、そして我々を取り巻く環境が、とにかく危険な状況になってきた理由が‘企業の社会的責任’が果たされていないことにあると断じるのです。

要は、ダボスに集まるCEO達は経済が成長軌道に乗れば企業も彼らの報酬も増大すると、極めて楽観的に成長を追う連中であること、とすればCEO連中には彼らが演説する際のオープニングメッセージで使う月並みな価値創造云々とは、忘れるべきだと忠告するのです。つまり、彼らは1987年の映画「Wall Street」に出てくるマイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーのように「Greed is good」(欲望は善)とは、あからさまな物言いはしないものの、そのメッセージは同じことだと。そして筆者(ステイグリッツ氏)を憂欝にさせることは、そのメッセージは明らかに間違っているのに、そこに集まるトップの多くが、それが正しいと信じている事だ。― と、厳しく叱咤するのです。 どうもその場に集まるCEO連中は、もはやトランプのやり方に慣れてしまい、批判精神などはお呼びでないと云った処でしょうか。

・経団連会長の交代
序でながらステイグリッツ氏の批判は、日本の経済界を代弁?する 経団連の会長や幹部にも通じる処です。つまりその姿は、企業家としての自負を感じさせることもなく、安倍政権の御用聞き、とまでに揶揄される処です。ただこの5月、経団連会長は日立製作の中西宏明氏に交代が予定されています。彼は前述ダボス会議にも出席し、科学技術に関する討論会に出席し、IoTを活用して新ビジネスをつくるラボを東京に作ると発表しています。米サンフランシスコに次ぐ2都市目で、経済界で誘致を主導したのが中西氏だそうです。彼のそうした行動様式からは、製造業偏重の経済界に ‘変わる潮目’ を送り込むことになるものと、その‘変化’に期待する処です。 
以上                
posted by 林川眞善 at 17:03| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする