2018年01月27日

2018年2月号  習近平中国の台頭と、レジーム変転の中の日中関係 - 林川眞善

はじめに:Trump’s Abominable Snow Job と習近平中国の台頭 

トランプ米大統領はこの1月21日で政権運営,2年目に入りました。さてトランプ政治の1年とは何だったのか。選挙戦で見せつけたあの暴言虚言、それは選挙に勝つ為の方便であり、政権に就けば現実志向になるとよく耳にしたものでした。然し、こうした楽観論は当て外れ。威圧的な政治手法を改める兆しのないまま、America first を以って進める内向きで排他的な政策は、米国民はもとより世界の国々をも右往左往させ、これが齎した重大な事は、これまでの「リベラルな国際秩序」を揺るがし始めた事でした。

America first の下、決定されたTPPやパリ協定からの離脱は,要はアメリカは自国のInterestに見合わない(cost performance)国際的関わりからは身を引く、retreatするというものですが、このAmerican retreatが世界秩序を担保してきた既存システムを壊し出したと云う事です。昨年12月18日、トランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」にしても、本来なら世界秩序の指針たるべき文書とされるものですが、米国第一を繰り返すにとどまるだけのもので、それは「リベラルな国際秩序」の守護者の役割からの降板を映す、「America first」対応の‘極み’と映るものでした。勿論、米国は軍事力だけで世界をleadしてきたわけではありません。人権尊重、民主主義、市場経済等、普遍的価値こそが米国の支配力の源泉だった筈です。然しトランプ氏はそれを手放していったという事で米国の国際的地位の低下を加速させる処です。

つまり2017年は、米国そして世界にとって 米論壇が云うTrump’s Abominable Snow Job (忌まわしいほどにはったりの政治)に振り回された1年であり、トランプ氏の姿はオバマ前大統領を全否定する、言うなれば‘壊し屋’のそれで終始した1年であり、故に米国政治における最大の不確定要素が大統領自身との認識が定着した極めて異常な1年だったと云えそうです。

さて、迎えた新年2018年は、世界的に株式市場への資金流入が加速する様相を以ってスタートを切りました。年初4日のNY市場はダウ平均で2万5000ドル台にのせ、東京市場でも日経平均は連日、昨年来高値を更新しています。これが、米国で大型減税法案の成立(2017/12/22)もあって世界景気が一段と拡大するとの見方が株価をあと押ししていると見られる処です。因みに米国景気の回復はいまや9年にも及ぶ処です。

然し、世界の安全保障環境に目をやると、依然トランプ氏と北朝鮮金委員長との間での挑発合戦は衰えることはなく、1月9日、2年ぶり再開された南北朝鮮閣僚級会談は最大の核開発問題には及ぶこともなく、北への圧力強化で連携を組む日米韓3か国の枠組みが揺らぐのではとの懸念も出るなど、危機感の消えることはありません。 一方、国内では大幅減税が決まったとはいえ、減税による財政赤字の拡大が再び云々され出すなか、大企業や高所得層の税負担は軽減なるものの、オバマケアーの一部廃止等で所得再分配は後退したことから、米世論調査では、今次減税に賛成の有権者は3割に過ぎない状況が伝えられています。そこでトランプ氏は、その対抗として24日、インフラ計画の具体案を30日の年頭教書で言及する旨を明らかにする処です。
そして、ダボス会議出席のため滞在中のスイスで25 日、TPP復帰の可能性を語っていますが、これが国内のTPP復帰を期待する業界の声に応えんとする国内向けactionと云え、要は、秋の中間選挙をにらんだ変心ともされる処です。いずれにせよトランプ氏の行動様式からは、有権者目当ての人気取りで、益々内向きになっていくものと危惧される処です。
   
・習近平中国の台頭
さて、そうした米国の内向き姿勢が、世界の統治システムに構造的不確実さを齎す中、近時世界が注目するのが‘習近平中国’の台頭です。その中国について12月26日付日経社説は、時代遅れになりがちな中国認識に、以下のように警鐘を鳴らしています。
「世界の人々にとって刻々と変化を遂げる中国を等身大で捉えるのは大変な作業である。ある人は10年前に住んだ経験から、今の中国を語る。また、ある人は5年前に出張した時の見分から中国の現状を分析する。残念ながらいずれも今の中国の実状を捉えることはできない。中国全土に伸びる高速鉄道網や地方都市に広がる地下鉄網は10年前になかった。誰もがスマートフォーンを持ちキャシュレスで生活する「スマホ経済」は5年前には影も形もなかった。・・・」と。確かに2005年頃までは中国のGDPは日本の約半分しかなく、それが2010年には追い抜かれ今は日本の3倍近くとなっています。近く米国すら追い越そうと云われる状況にあって議論の前提が明らかに変わっているという事ですから、昔ながらの感覚で中国に接することは‘危険さ’すら呼び込むことになる、と云うものです。

年明けの1月2日、国際政治学者、Ian Bremmer氏が主宰するユーラシア・グループが発表した2018年世界の「10大リスク」では中国を第1位としていましたが、それは存在感の低下する米国の間隙を突くように台頭する中国の影響力の拡大が齎すリスクを意味するものでした。
その要因として、Bremmer氏は、一つは習近平国家主席が昨年10月の共産党大会で権力基盤を強化し、毛沢東・トウ小平(ドンシャオピン)以来とも言われる近代中国で最も強力な指導者になった事。二つに中国が経済・軍事両面で国力を増している事、そして、米トランプ政権の「米国第一主義」により、中国が世界で重要な役割を果たす機会が増えてきた事, を挙げるのです。

そして、こうした変化を受けて「世界は2018年、中国に注目し、中国と欧米のモデルを比較し、欧米にとってはともかく、他の地域の大多数の国に対しては、中国モデルはもっともらしい、欧米に代わる選択肢を提供することになる処、習氏が選択肢を進んで提供する準備ができていること(注)が最大の地政学リスクだ」(日経2018/1/19)とBremmer氏は断じるのです。もとよりこの変化こそは「戦後レジームの変転」を語る処と云うものです。[(注)昨年の共産党大会での習氏発言をリフアーしたものと思われる]

ではそうした習中国に日本はどのように向き合っていこうとしているのか。今年は日中平和友好条約締結(1978/8/12)40周年を迎えます。昨年来、両国の政界,財界幹部の交流も進み出し、日中関係改善への環境も醸成されつつあるやに見受けられる処、二階堂自民党幹事長は12月訪中時、「互恵を超え、未来を共に創る‘共創‘の関係に深化させて行きたい」(日経12/28)と発言しています。勿論、日米同盟を基軸に中国との力関係のバランスを図ってきた日本の安全保障戦略にも影響する処、現実の政治はどう動こうとしているのか、気になる処です。

そこで、本年最初の本論考では「中国」を取り挙げ、以下を枠組として論述する事とします。
まず第1章では前述の通り、「10大リスク」のトップに「中国」が挙げられていますが、その
背景確認の意味も含め、米論壇、project syndicateに掲載あった前世銀のChief economist, Mr.
Justin Yifu Linの12月1日付論考` The Economics of China’s New Era‘ を下敷に、中国経済の
現状と今後の行くへについて考察し、併せて中国の台頭でレジームの変転の進む中、日中関係
の合理的な在り方について考察します。(注:世銀のChief economistには元米財務長官、L.サマーズ
氏、ノーベル経済賞のJ.ステイグリッツ氏ら有力economistが務めている.) 
次に、第2章では、中国経済の対外拡張路線が齎している問題について、二つのテーマ、その一
つは進出著しいアジア経済での中国化現象について、もう一つは今話題のThe new shape of
Chinese Influenceとされ、「Sharp power」(The Economist、2017/12/6)と称される、中国政府
筋による経済活動に係る一種諜報活動まがいの行動について、その現状を把握しその対抗措置
について考察します。そして「おわりに」では、5年を終えた安倍政権の政策運営について改め
て論評し、新年最初の論考としたいと思います。(2018/1/26)


                  目 次

第1章 習近平主席と中国経済       -----------P.4

1. The Economics of China’s New Era
― 習氏が目指す中国経済のかたち

(1)中国経済の成長のかたち
 ・習氏が目指す「復興」に必要なこと
(2) 日本経済の成長様式をフォローする? 中国
           
2.日中関係再考 -戦後レジームの変転する中で
 ・習中国との関係を考える基本軸

第2章 アジア経済の中国化と、新たな中国脅威 --------P.8

1. 中国化が進むアジア経済
           
2.Sharp power - 新たな中国脅威 
             -China is manipulating debate in Western democracies
 ・世界ルールへの中国の不満
 ・三つの対抗措置

おわりに:年初、気がかりな二題を思う -------------P..11
          
 ・改めて問う成長持続への改革
 ・いま「不愉快」転じて「不気味」強まる

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第1章 習近平主席と中国経済

1. ‘The Economics of China‘s New Era’
   -習氏の目指す経済のかたち

前世銀Chief Economist、J. Y. Lin氏の中国経済の実情を伝える論考 ‘The Economics of China‘s New Era’(2017/12/1)は色々の意味で興味深いものですが、そのタイトルにあるNew eraとは、昨年10月19日、中国共産党大会での冒頭、習近平主席が`China had crossed the threshold into a new era.’ と謳ったことに絡めたものです。

習主席はその際「現代化した偉大な社会主義国家」(great modern social country)の建設を目指すとし、具体的には建国100年の2049年までに経済、軍事、文化のあらゆる面で世界の頂きに立つ「社会主義強国」を築くと、宣言しています。そして「中国は完全な社会主義には程遠い。だから資本主義の要素も大胆に採り入れて経済を発展させなければならない。共産党の指導さえ徹底していれば社会主義からそれることはない」(日経2017/10/20)とするのでしたが、要は、党主導の「中国流資本主義」の深化を目指すものと思料する処です。

さてLin氏は当該論考で,こうした経済発展をprosperous, strong, democratic, culturally advanced, harmonious and beautiful by mid-century, led by an empowered CPC but open to the worldをキーワードとした中国社会の再興を目指すものと定義し、そうした新たな時代に入った中国経済の可能性を分析するのです。暫し、同氏論考を擁し、改めてその可能性を見て行きたいと思います。もとよりそれは上述ブレマー氏指摘の検証にも繋がる処です。

(1)中国経済の成長のかたち
2017年の中国経済は、実質GDPで6.9%増、成長率が前年を上回るのは7年ぶりで、その牽引役は堅調な個人消費ですが、輸出も伸び、焦点の対米貿易黒字はトランプ大統領の批判を受けつつも過去最高を記録する処です。
さて、1979年以来の38年間、中国経済は相応の成長(平均9.6%)を結果してきていますが、個人所得面では先進国との開きは極めて大きく、その原因は労働生産性の低さにある処、技術革新、産業の高度化に向けて今日に至ってきたとし、その結果、高速鉄道や再生エネルギー等の分野ではglobal frontier、つまり世界一流の立場になったと評価します。更にe-commerce, mobile deviceなどの成長も期待される処、労働者、とりわけ技術者も不足はないとするのです。
更に、これまで問題とされてきた国有企業(SOE: State-owned enterprise)については、経営の合理化が進み、競争力ある、持続可能なentityに転換し得た評価するのです。

残る課題は需給バランスの是正にある処、これがsupply-side innovation政策とdemand-side efforts を促し、これまでの投資・輸出主導型成長から消費主導型へと転換してきたとLin氏は指摘するのです。(注)

(注)確かに習政府は消費拡大を重要視し、国家目標としています。が、リン氏のrhetoricは正確
さを欠く処、過去30年間(1987~2016年)の中国GDP成長への投資と消費の貢献度を見ると,
投資が消費を上回っているのが20回と3分の2は消費に負うものでした。つまりもともと消費
主導だった経済が深刻な投資依存に陥り、足元で再び消費主導に戻ってきというのが正しい理解。

勿論その為には、更なる生産性の向上、雇用の創出、賃金水準の引き上げ、中間層の支援、等々が必要となる処、その際は、透明性の確保、統治システムの確立、更には言論の自由を如何に担保していくかに焦点は当てられてきているというのです。が、俄かには納得し難い処です。

・習氏が目指す「復興」に必要なこと
更に先進諸国、とりわけ日本経済に照らしながら中国経済の現状を確認するのです。 つまり、バブル後の26年間、日本を始めとする先進諸国は低成長に甘んじてきたのが、そのいずれもが、とりわけ日本を意識しつつ、不可避とされる構造改革に失敗してきたことにある事、そしてそれは、政治家は短期的な事象に目が奪われ、難しい競争力の堅持、強化問題に取り組むことを二の次としてきたためと指摘するのです。そして、これが一見安定しているやに見られる点について、political stabilityに負うものとの見方はあるが、それは必ずしも合理的とはいえず、つまり活力に欠けたままに続く経済回復が意味することは、失業の増大であり、不平等への不満の高まりで、国民は従って変化を期待することになると云うのです。そして中国については、その辺を十分理解しており、この点forward- looking policies を以って臨むべきだが、習氏にはそれがある(後述)と‘ヨイショ‘するのです。

そしてその際は、米国との関係にも配慮しつつ、国際的な枠組みに積極的に参加していく事が不可避とも指摘するのです。つまり米国はretreat、つまり国際的な指導役から降りようとしているが今尚、唯一世界最大の経済大国であり、中国はその最も重要なeconomic partnerとしてある処、習近平氏が描く`great rejuvenation‘ (中国の復興)の達成を目指すにしても、その際は米中経済の相互補完性を高め、貿易摩擦(注)を含む両国間の摩擦を避ける努力が不可欠と指摘するのです。
    (注)1月12日,中国税関総署が発表した2017年の中国の対米貿易黒字は2758億ドル、前年比
10%増です。中国の貿易黒字全体の内、対米は65%を占める。貿易不均衡を問題視するトラン
プ大統領批判を意識して資源を中心に輸入拡大に努めたが、好調な米景気を受けた輸出拡大が
それを打ち消したというもの。通商を巡る米中対立が激しくなるのではと懸念呼ぶ指処です。

要は、経済的のみならず政治的要因も含め、とにかく相互有為な貿易関係を蝕むようなことはすべきではないという事でしょうが、さてトランプ氏にはどう伝わるのでしょうか。

(2) 日本経済の成長様式をフォローする? 中国
さて、中国は2030年までには名目で世界一の経済大国となる事が予想されていますが、その成長こそはglobal governance に大きな影響を齎すことになる処です。現下の国際秩序は戦後、西欧先進国によって築かれ、それが世界の平和と安定に資してきた処、その枠組みがneoliberalと云われたWashington consensusをベースとする点で、全世界の為と云うよりは先進国指向にあった事で、新興国は先進国流の開発様式を以っては成長することはなかったとして、予てステイグリッツ氏(注)等、世銀エコノミストが指摘してきたと同様、Lin氏も新興国は先進国が進める開発様式に捉われない独自の発想が必要と、云うのです。

(注)J.ステイグリッツ著「ラーニング・ソサイエテイー生産性を上昇させる社会」(原題:
Leading Society;東洋経済新報社、2017年9月)では「ワシントン・コンセンサス」に縛られ
た途上国開発の政策の在り方を厳しく批判する処です。

因みに戦後、多くの国々はWashington consensusにフォローし、自由で制約のない市場、政府
の最善の策は何もしないこととしてきたが殆どは失敗。一方日本は、このアドバイスにフォロー
する形で、政府主導型の産業調整、民営化の推進、規制緩和そして貿易の自由化へと政策を選択
してきたが、その間、国内事情に即して労働集約的、かつ小規模な伝統産業を輸入代替産業とし
て強化してきたことで成功してきたとし、その点で、中国もその様式を取り入れ、これまでの計
画経済から市場経済に移行してきたが、その結果として今があると評価するのです。
序で乍ら、ヴェトナム、カンボデイアも然り、東欧地域で云えばbest economic performerはポ
ーランド、ソルベニア、ウズベキスタン等々、かつてのソ連邦国だとも指摘するのです。

要は、経済開発のパターンは一つだけでなく、何を持つことで何ができるか、当該産業の拡大のために何が求められるのか、その条件を整えていく事であり、実は中国がやってきた事はそうした事だったというのです。そうした経験をベースに国際経済で地歩を固め更に他新興国への支援を図ることにあるとするのです。習近平氏の「一帯一路」構想はまさにユーラシアとアフリカにおけるインフラ開発プロジェクト構想だが、こうした構想主導こそ、習近平叫ぶ処のChinese Dream だというのです。さて、これが世界制覇を目指す独裁者のイメージを呼ぶ処、そこにBremmer氏の指摘する中国リスクが成すところではと思料するのです。

2.日中関係再考 -戦後レジームの変転する中で
福田康夫元総理は雑誌‘文春’新年特集号で、日本としては「中国経済が今後もどんどん大きくなるから仲良くしなければ、と云うような態度で接するべきではない。日中はこれだけ近い距離にあるあるから、経済に限らず、あらゆる面で意思疎通を密にし、お互いに協力し合うのが当たり前と自然に考えるような関係になりたい」と語るのです。そして、この際、銘記しおくべきは国民が不安な状況を解消するのは、軍事力ではない、外交の役割だ、とも強調するのです。

ではその可能性は、です。本稿冒頭でも触れた通り昨年暮、自民党二階俊博、公明党井上義久、両党幹事長の中国訪問時、習近平主席との会談席上、日中両首脳の相互往来の実現を要請していますが、実は日中首脳の相互訪問については、以下の通り頻繁に話しあわれてきています。
まず、昨年5月29日来日した楊氏と安倍首相、谷内正太郎国家安全保障局長との会談時、日本側から18年に首脳の相互訪問を実現したい意向を伝え、11月11にはマニラで開かれたAPEC首脳会議を機会に安倍首相は習近平主席と会談、「互いに日中関係を前進させていく新しいスタートとする」ことを約したと伝えられています.(日経11 月14日) 一方この間の6月5日、安倍首相は東京で開かれた国際交流会議で、中国の「一帯一路」はポテンシャルある構想と評価し、‘協力していきたい’ 旨を明らかにし、積極的な対中理解を示してきています。こうした経過を以って日中友好関係の気運が双方に生まれてきたと観測される処です。1月22日の通常国会開催の初日、安倍首相は施政方針演説で、今年中の訪中の用意がある事、「中国とも協力して増大するアジアのインフラ需要に応えていく」と、再び日中関係強化への意気込みを明言しています。

・習中国との関係を考える基本軸
勿論、問題の所在は周知の通りで、中国の経済と政治が一体化している点をどうマネージしていくかにある処です。一帯一路への協力にしても民間ビジネスマターとしてだけでは割り切れないリスクがあり、どこまでこれを切り離し対応できるかにある処です。習氏としては中国主導の舞台に日本が参加する構図を描いているとも言われる処、日本政府はとにかく当該案件については案件ごと判断し取り組む方針としていますが、その機会を創造的日中関係の構築に資する形に仕向けうるか、そう楽観し得ることではないものと思料するのです。それだけに、この際は
日中関係の改善・進化の視点に立ちつつも、二つの点でそのスタンスを明確にしておくことが肝要ではと思料するのです。

つまり我々は法の支配や個人の自由等、いわゆる自由民主主義を信奉する立場にあり、国際的なルールを守ることを前提とする処、中国はイデオロギー上、手ごわい対抗相手である事、そして中国自身もそう認識している事を、肝に銘じておくことが、まず肝要と思料するのです。そしてその為にも、習氏率いる中国と極端に敵対することは避け(前出:P.6. Forward-looking police)、技術的にも経済的にも優位を保っていくことを、心掛けていくべきと思料するのです。
加えて、習氏は「中国の偉大な復興」を掲げています。我々にも復興は必要です。然し彼はそれを独裁政治の強化を通じて実現せんとしていますが、思うに独裁政治を指向しても何も解決することにはなりません。が、米国のretreatが進む中、代わって社会主義市場経済を標榜する中国が台頭していく事は、まさに「戦後世界のレジーム変転」を語る処、この際はこの新たな事態を理解し(P.3)、それに耐えうる日本の政策、国民世論の柔軟性を高めることが何よりも必要であり、日中の連携強化もその枠組みを以って考えられていくべきではと思料するのです。


第2章 アジア経済の中国化と、新たな中国脅威

1. 中国化が進むアジア経済

処で上述、中国経済の成長は対外経済関係の拡大を促す処、中でもアジアそして日本に及ぼす経済波及効果に今、斯界の注目が集まる処です。つまり、域内経済の「中国化」の加速という事ですが、これまで米国依存だったアジアの経済構造が大きな転換期を迎えているというものですが、1月6日付日経記事はその現状を示唆的に分析し、かつ警鐘を鳴らす処です。

同記事は、アジア諸国にとって永らく輸出先のトップは米国だったがリーマン後、2010年には対中輸出が米国向けを逆転、16年には1430億ドルと米国向けを9%も上回ったとし、日本だけで見ても、昨年11月までを累計した対中輸出は13兆3842億円とこれまでのピークだった14年の実績を上回り最高を更新していると指摘します。そして、そこで引用されている日本経済研究センターの試算では、それは対中貿易の勢いが続いた場合アジアにおける米中の影響はどのように変化するかを測るものですが、「2030年に中国の東南アジアや日本への経済波及効果は15年の1.8倍となり、米国より4 割も大きくなる」との由で、中国が米国を大きく引き離していく姿が浮かんでくる処です。

勿論、この逆転現象が問題と云うことではありません。つまり、中国化のお陰でアジア関係国は相応の恩恵を受ける処、人件費増が進む中国においては省力化投資の潜在需要は日本にとっては資本財の出番が増えることが期待され、又、中国進出の日本企業の現地子会社の利益として国内に還流し、日本での賃金や投資に回る可能性も指摘されるのです。

問題は、前述(P.7 「日中関係再考」)指摘したように中国は経済と政治が一体化しているという点です。中国経済が変調をきたした場合、域内に及ぼす影響も大きくなろうという事です。これが大きなリスクとしてあるのは、経済力を外交の武器にすることを厭わない中国の姿勢です。 加えて、アジア諸国と中国とのtradeの拡大が、近隣諸国の中国への求心力を強める中で、米国の影響力の低下で民主主義を促す力が低下する恐れが強まる事です。その点では各国は中国以外との経済の結びつきを更に強めていく必要がある処、日本こそは、それを主導しうる立場にあるものと思料するのです。まさにトランプのギフトへの取り組みです。

2. Sharp power - 新たな中国脅威 

かくして中国との経済関係が深まる中、彼らの個々の行動様式に今、国際的に脅威と映る問題が指摘されだしています。state capitalism と称される中国経済の常として、陰に陽に政府のビジネスへの介入が云々される処ですが、近時のそれは、自国、中国の方針を飲ませようと強引な手段に出たり、海外の世論を操作せんと積極的に行動するようになってきており、欧米ではこうした中国の動きに如何に対応していくべきか、が問題となってきていると伝えられています。
米ワシントン在のシンクタンク、National Endowment for Democracy (NED)(全米民主主義基金)は、中国によるこうした動きを、ソフトパワーに比肩する新造語で「シャープパワー (Sharp power)」と称し、その脅威を指摘するのですが、まさに新たな中国リスクという処です。
12月16日付、The Economist誌は、近時活発化するシャープパワーを映す事案(注)に照らし[Sharpe Power – China is manipulating debate in Western democracies ] と題する巻頭論考を以って欧米諸国に、このシャープパワーへの対抗措置を取るべきと警鐘を鳴らすのです。

(注)12月5日、オーストラリア政府は、中国によるオーストラリアの政界、大学等への介入疑惑
が発生、外国によるこうした取り組みに対処するべく新法案を提出。12日にはオーストラリアの
国会議員が中国から資金を受け取り、中国に肩入れするような発言が起こった由で、同議員は辞職。
英国やニュージランドでも同様の事件があり、ドイツでは10日、中国がカネを使ってドイツの政
治家、官僚を取り込むという工作活動が露見、又、13日には米議会でも中国の新たな影響力につ
いて公聴会が開かれたとの由。

とは言え、いまや中国はグローバル経済に深く組み込まれている点で、単に当事者間だけの問題としては律しえず、また交渉で事態を打開できる政治的手腕を持つ国際的指導者を欠く現状においては、対応措置をと云っても実状は窮する処と思料されるというものです。その点、エコノミスト誌はまず、シャープパワーとその仕組みを理解しなければならないとして、そのパワーの現実を以下の様に指摘するのです。
「中国は多くの国と同様、ビザや補助金、投資、文化などを通じて自国の利益を追求してきた。だがその行動は最近、威嚇的で幅広い範囲に及びつつある。中国のシャープパワーは、取り入った後に抵抗できなくさせる工作活動、嫌がらせ、圧力の3要素を連動させることで、対象者が自分の行動を自制するよう追い込んでいく、まさにmanipulateする処、究極の狙いは、その目標とする人物が最後には、資金や情報などへのアクセスや影響力を失う事を恐れて、中国側が頼まずとも、自分達にへつらうように転向させていく事だ」と。何か「007」を想起させる処です。

因みに、中国経済の急速な拡大(中国のGDPは11兆ドル、米国の18兆ドルに次ぐ世界第2位、人口では米国の3.2億人を遥かに凌駕する13.8億人)を受ける形で、政治も文化もと、その役割は急速に拡大を増すなか、欧米は中国の圧力に屈しやすくなってきていることが問題と云うのです。
昨年6月EUが中国の人権侵害を批判する採択しようとした際、ギリシャは中国企業が同国のピレウス港への出資を決めた直後だったため、拒否権を発動、採択は見送られていますが、中国経済の規模があまりに大きい為、求められずとも中国の思惑通りに動く企業も少なくないというものです。つまり、今や中国はあらゆる処で世界とつながっていることだということですが、中国企業は国外のさまざまな資源や戦略上重要なインフラ、農地などに投資をし、中国海軍は今や自国遠くからも国力を誇示できる状況にあると指摘するのです。

・世界ルールへの中国の不満
そして最も気がかりなことは、新興大国として国際関係のルールを変えたいとの思いが強いことだとの指摘です。その背景には、そうしたルールは、主に米国と欧州諸国が定めたものであり、事あるごとに欧米諸国は自分たちの行動を正当化するために引き合いに出してくる点で不満があるとするのです。その点では、中国の台頭を確実に平和なものとするためには、欧米諸国は中国に彼らの野心を実現できるような余地を作る必要があるのではと、云うのです。勿論だからと云って中国にやりたい放題を許しては更に危険と強調し、その為の具体的対抗措置を講じることが必要と、三つの措置を示唆するのです。

・三つの対抗措置
その対抗措置とは、中国に負けない「防諜活動の展開」、その為の「法の整備」、そして中国に影響されない「独立したメデイアの確保」とし、これが中国による手の込んだ介入を阻止する最善の策に繋がるというのです。この3つを実行、実現するには中国語が話せて、中国の政界と産業界の繋がりを把握している人材が必要だともいうのです。中国共産党は表現の自由や開かれた議論、市民が独自の思想を持つことを抑えることで支配を固める処、中国のシャープパワーの手口を白日の下にさらし、中国にこびへつらう者を糾弾するだけでも、その威力を大いに鈍らせることになると云うのです。
そして、中国が将来友好的になるだろうと期待して、今の中国の行為を無視していては次の一撃を食らう事になるだけとも云うのです。そこで欧米は自分たちの理念を守り、可能なら各国で協力し合う体制の整備を示唆すスルのです。そして、それは古代ギリシャの歴史家、ツキデイデスにちなんだ「ツキデイデスの罠」、つまり新興大国が既存の大国を脅かすようになると、直接的な軍事的抗争に発展するとされた‘罠’を、回避するための第一歩は、欧米が自らの価値観を生かして、中国のシャープパワーを鈍らせることだと強調するのです。

序でながら、元ハーバード・ケネデイスクール教授のJoseph Nye氏 [クリントン政権(1993~2001)で国防次官補] は1990年、当時のハードパワー(軍事)に対峙するソフトパワーと云う概念を導入した仁ですが、その彼は当時から30年近く経た今、高度情報化の時代にあって今一度、ソフトパワー概念を見直す必要はあるとしながら、シャープパワーへの対抗はopennessに尽きると云うのです。(「Chin’s Soft and Sharp Power」by J. Nye, 2018/1/4)

さて今、第4次情報革命と云われる環境にあって、上述事情に対し日本はどのような認識をもって対応せんとしているのか、創造的日中関係の再構築を目指す安倍政権には、この現実が如何ように映っているものか、やはり気になる処です。


おわりに:年初、気がかりな二題を思う

・改めて問う成長持続への改革
ところで、越年を境に人口減少、高齢化が齎す影響の重大性が、これまで以上に叫ばれだしています。安倍首相は、それを戦後日本にとっての最大の国難だとし、国難克服のためにと「人づくり革命」だ、「生産性革命」だといろいろな「革命」プロジェクトを掲げ、なんとかの一つ覚えよろしく危機感を煽るが如くに叫んでいますが、その姿や、あんぐりさせられる処です。勿論、人口減少と高齢化問題は大問題ですし、国民の理解と支持を得て進められる政策である限り異論のある処ではありません。

然し現下で急速に進むデイジタルテクノロジーが、これまで無縁と思われてきた暮らしやビジネスの隅々にまで入り込む時代が今そこまで来ている現実に照らす時、こうした技術革新の波にうまく対応できるかが、経済や社会の今後を左右する処です。つまり、新技術をうまく生かせば、人口減により市場の縮小や労働力不足が進む中でも、企業の成長や生活の質の向上を実現できることになるのです。言い換えれば、日本の持続的経済にとって人口減少と高齢化は致命的な問題とはならないという事です。つまり生産性の継続的な上昇を可能にするような経済改革を実現する事で日本経済は成長を続けることが出来るのです。それが出来ていないことが問題なのです。問題の所在は明らかなのです。

・いま「不愉快」転じて「不気味」強まる
1月5日付日経「経済教室」にあった東大の御厨貴氏の論考は筆者と思いを同じくする処でした。同氏は2年前、同じこのコラムで当時の不安、自然災害、国際的テロリズム、社会不安を3点セットして「不愉快な時代」の到来と、当時の政権環境について論評していたそうです。同氏はそれを引き合いに出しながら「安倍政権の現状は2年前と変わっていない。安倍首相自身が ‘右’ 的イデオロギーの持ち主だったため各国にみられた‘極右’的要素の強い政治家を生み出すことは無かったが、それが政権内に蓄積されていった結果、これまでタブー視されていた歴史解釈や世界認識が安倍政権下で、どんどん当たり前のことの様になっていった」と、その在り姿に危機感を募らせながら「不愉快」転じてまさに「不気味」な現象が強まっていると警告していたのです。まさに然りと云うものです。

以上
posted by 林川眞善 at 15:13| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする