2017年05月26日

2017年6月号  欧州の潮目を変えたフランス大統領選、そして世界は今 - 林川眞善

はじめに:いま、二元化症状の世界 

・回復進む世界経済
世界経済は、北朝鮮という地政学リスクや、後述、トランプ政治が誘引するトランプ・リスクに見舞われながらも、思いのほか順調な回復を辿ってきています。

4月20日、ワシントンで行われたIMF会議の冒頭、レガルド議長は18日に公表されたIMFの2017年世界経済予測(注)をリフアーし、 ‘Spring is in the air and spring is in the economy‘(Financial Times, April, 22/23)と世界経済の回復基調を強調するのでした。

  (注) IMF、実質成長率見通し(2017年、2018年)、
       世界  日本    米国   EU  英国   中国  
2017 3.5 (0.1) 1.2(0.4) 2.3(0.0) 1.7(0.1) 2..0(0.5) 6.6(0.1)
2018  3.6(0.0) 0.6(0.1) 2.5(0.0) 1.6(0.0) 1.5(0.1) 6.2(0.2)
[単位:% カッ内は1月予測からの修正幅]

IMFが上記の通り、見通しを上昇に修正したのは過去6年間で初めての事だというのですが、その大きな要因は懸念されていた中国経済の失速が回避されたことにあると云うもので、今年1~3月期の中国経済の成長率は年率換算6.9%となっています。又、米国についてはトランプ・リスクが付きまとう処ですが、例えばペンス副大統領のおひざ元のインデイアナ州のコロンバスは多くの外国企業を誘致し成功しているとも伝えられ、かつて自動車不況に見舞われたデトロイトも今や高級マンションブームが報じられるなど、地域経済復活の様相が伝わる処です。因みに4月の米雇用統計(5月5日発表)は、景気動向を敏感に映す非農業部門の雇用者数は前月比21.1万人増、失業率も4.4%と約10年ぶりの水準に改善を示すなど、いまや労働市場には逼迫感が滲み始めている状況にある処です。

勿論、日本経済の上向き予想も、中国を起点にアジア経済全体が上向いたこと、米経済の回復が、日本の輸出の追い風に負うものであり、この輸出の持ち直しで生産が上向き、17年度の企業の設備投資計画も例年を上回る状況にある処です。因みに18日、内閣府発表の2017年第1四半期のGDPは年率で実質2.2% 増と穏やかな景気回復が続いています。 要は、米中の景気が共に底堅く、商品市況も底打ちしたと見られ、新興国、資源国も持ち直してきたとみられる処です。政治の世界では想定外のことが普通の出来事になりつつある中、経済の日常はそんな政治とは距離を置きつつあると映る処です。

・リスク一杯の国際政治
もとより、経済の安定の為には政治の安定が絶対的に不可欠であること云うまでもありません。その政治を今、不安に追いやっているのが、米トランプ政権の独善的な政策行動であり、BREXIT,英国のEU離脱という事態にあること周知の処です。それは具体的には、成長経済に取り残されたとされる市民の不平、不満が、それまでの政治の不備を批判する形でpopulismを生み、それが、今日の成長構造を支えてきた‘自由貿易’、‘グローバ化’を否定し、保護主義、孤立主義、更には人種差別的な移民拒否の行動に向かわせるなど、その在り姿は大きな政治リスクと映る処です。そして、そうしたリスクは更に、米英の事情とも呼応する形で、欧州でも蔓延しつつある処ですが、そうした環境の中、フランスで進められた今次フランス大統領選挙は、従来に増して世界的な関心を呼ぶ処となっていました。

今次フランス大統領選も周知の通り米国同様、ポピュリズムを背にグローバル化拒否、反EUを掲げる極右政党のルペン候補と,中道の旗を掲げ、EU諸国との連携強化を通じて経済の活性化を目指す若干39歳のマクロン候補との決戦となりましたが、結果は米国のケースとは対照的に中道のマクロン氏が極右のルペン氏を抑え圧勝。その圧勝こそはEUへの信頼回復を示すものと、評価されるものでした。
さてマクロン氏にとって問題はこれからですが、そのカギは分裂気味のフランスを如何に纏めていけるか、そしてEUの統合再生を如何に進めていくかにある処です。もとより、その成否のほどは今後の欧州の在り姿を規定していくことになり、更には、世界の生業にも大きく変化を促す処と思料されます。こうした事情に照らし、世界の関心は、当分欧州に向けられるというものです。因みに、6月のフランス国民議会選に続き、9月にはドイツで総選挙が、更にはイタリアでの総選挙が予想されるなど、今後の欧州の政治経済を占う大きな動きが続く処です。勿論6月の英国の総選挙を含めてです。

そこで今回は、フランス大統領選にフォーカスし、併せて、新たな潮流と対峙する世界の今について考察する事としたいと思います。
(2017/5/25)




 目 次

1.フランス国民の選択            [ P.3 ~ 7]

(1)フランス国民が選択した大統領は
弱冠39歳のE. Macron 氏            
 ・Macron who ?
(2)フランス国民の投票行動 - マクロン大統領を生んだ事情
 ・マクロン氏は消去法の大統領?
 ・傍流が本流に
(3)欧州の潮流を変えたフランス
 ・Macron’s triumph offers hope for France and EU
・欧州の潮流を変えたフランス、そして

2. フランス大統領選後の欧州と世界 [ P.7 ~ 10 ]
  
(1)Macron’s mission
   ― The Economist(2017/5/13)
(2)独仏首脳会談とユーロ改革
 ・独仏蜜月関係の演出
(3)G7サミット、シチリア会議
・`Goodbye to The West‘

おわりに:5月3日「憲法記念日」のできごと  [ P.11~13 ]
 ・安倍首相の突然の改憲提案
 ・改憲に思うこと     
 
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


1.フランス国民の選択

(1) フランス国民が選択した大統領は弱冠39歳のE. Macron氏

4月23日のフランス大統領選の第1回投票で勝利した中道系独立候補のマクロン氏が、極右政党のルペン候補と決選投票進出を決めた折、4月29日付The Economistは ` Win or lose, Emmanuel Macron has revolutionized French politics ‘ と題し、彼の第一回投票の勝利はフランス政治の改革を齎す処、仮に決選投票で負けたとしても、それだけでも意味のある事と評していたのですが、果せるかな、5月7日の決選投票でも、マクロン氏はルペン候補を抑え、勝利し、5月14日、正式に大統領に就任しました。弱冠39歳のフランス大統領の誕生です。1年前までは実質的には無名とも言える存在だった彼が(勿論オランド政権で経済大臣を張っていた仁ではありましたが)、大統領選に勝利するとは仰天動地と受け止められるほどの出来事でした。

・Macron who ?
さて、Macron, who ? ですが、メデイアによると、マクロン氏(39歳)はフランスのエリート官僚を養成する国立行政学院(ENA)を卒業。2008年から12年までロスチャイルド家で投資銀行業務に携わったのち、12年オランド大統領(社会党)の顧問に抜擢され、14年には経済産業・デジタル相に就任(36歳)。2016年4月、超党派の政治運動「En Marche !」(前進)を結成。今次選挙に備え同8月、閣僚を辞任、既成政党には属すことのなく中道主義の下、
‘欧州統合を支持し、開かれた経済を堅持する’との立場を以って選挙戦に臨み、5月7日の決選投票を経て、フランス政治史上最年少の大統領となった仁です。大政党に属さない大統領誕生は、現在の第5共和制(1958年)が始まって以来の初の出来事とされるものですが、それは同時にフランスにおける政党政治の構造変化を映す処です。 序でながら彼は25歳も年上の既婚女性と結婚していますが、これは自信の高さの証と、仏モンテーニュー研究所主席顧問ドミニック・モイジ氏は云うのです。(日経5月9日)

(2)フランス国民の投票行動 ー マクロン大統領を生んだ事情

・マクロン氏は消去法の大統領?
既成政党の、左派・右派を破り、極右の進出を止めたマクロン氏の勝利は、数字的には圧勝です。
具体的に第1回(4月23日)の投票結果は、既成政党の後退を鮮明とする一方で、右や左の極端な政策を掲げる反既成政党候補への支持が高まるといった新しい変化を映すものでしたが、その間をぬっていずれにも属さないマクロン氏が優位に立ったと云うものでした。

つまり、具体的に投票数の流れを見ると、第1回投票では無所属のマクロン氏が全投票の24%を獲得して1位に、これに対して既成政党の候補者二人、共和党の前首相、Francois Fillon氏は20%で3位、社会党のBenoit Hamon氏 は6%で第5位といずれも後退。一方、対抗馬とされる極右政党のルペン氏は21%で2位、そして共産党が支援するJean-Luc Melenchon氏が19.6%の得票で4位となっています。更に上位2人、マクロン氏とルペン氏との間で争われた決選投票でも、ルペン氏の34%に対して、マクロン氏は66%と圧勝する形となったのです。

が、実態は消去法による結果とされる処です。つまり、上述、投票結果は、これまでフランス政治を主導してきた2大政党(共和・社会)への不満が募る形で彼らの後退を余儀なくさせた一方、極右の候補が2位に、極左候補が4位に入るなど、極端な政策を掲げる候補への支持を際立たせ、まさにフランス社会が抱える既存政治への不満を浮き彫りさせるものとなっていました。そうした中、本命とされていた共和党のフィヨン候補が政治スキャンダルで失墜したことで、マクロン氏は大統領の座を手にしたとされています。
要は、「極右のルペン氏は論外だが、マクロン氏も嫌い」と云った中で、消去法の結果として生まれた大統領と言われる処です。が、それ以上に、社会党の崩壊とも言える衰退ぶりは一層鮮明となったことに、今次選挙の最大の意味があると指摘される処です。

かくして、フランスでは1958年、ドゴール将軍が大統領権限の強化を狙って敷いた第5共和制の下、保革2大政党(共和党、社会党)による政治を基本軸として行われてきましたが、その60年を経た今、長きに続く高水準の失業問題等、何も問題解決に向かわない‘政治’、つまり既成大政党の政治への不満を募らせた有権者の投票行動が、上述、大政党に属さない大統領を生んだと云うもので、そうした彼の誕生は、フランス政治の構造変化と映る処です。

・傍流が本流に
さて、こうしたマクロン氏の大統領としての登場は、まさに傍流のリーダーの登場ですが、その傍流がいまフランスで本流となるというものです。勿論、フランスでは今なお文化的、社会的な背景もあって左右の対立が強く残る処ですし、本流を確立するには依然問題多々とされる処です。ただマクロン氏は「政治に右も左もない」を信条としている点で、今後、対立軸の解消を目指す処でしょうし、これまで曲がりなりにも「左翼」の求心力となっていた社会党が右と左の細かな集合に分裂してきた状況に照らすとき、今後は文化的、社会的なアイデンテイテイとしての「左翼」も希薄化していくものと、慶大教授、竹森氏は指摘するのです。(日経5月16日)

(3)欧州の潮流を変えたフランス

・`Macron’s triumph offers hope for France and EU’
5月9日付Financial Timesは`Macron’s triumph offers hope for France and EU’と題する社説で、Macron氏の勝利は、フランスはもとより全EU にとって素晴らしい事だとし、ルーブル美術館広場で行われた祝勝会で、EUと共に歩むフランスを演出するほどに、the EU’s anthem、EUの国歌とも擬せられるベートベンの交響曲第9「歓喜の歌」が流されたと事にも言及しつつ、彼はpro -European 、つまり欧州主義者であること、そして欧州大陸の価値観を堅持し、欧州各国の人々の結びつきを再び築き上げていく事になると、書き出すものでした。そして、その筆致には、なにか興奮さえ覚える処です。その一部を以下に紹介しておきたいと思います。

「The alacrity European leaders showed in congratulating Emmanuel Macron on his emphatic victory said it all. France’s president’s -in-waiting is an assiduous advocate of openness and internationalism. He is committed pro-European, who marched on stage on Sunday night to the strains of the EU’s anthem and pledged in his first address to defend the continent’s values and rebuild its links with citizens. Above all, he is not Marine Le Pen. ・・・If he fails, Ms. Le Pen will back next time。」

さて、問題は上掲、社説でも‘ If he fails, Ms. Le Pen will back next time.’と締めていますが、通俗な言い方をするすると、彼女は彼の失政を待っているという事でしょうか。具体的には彼の政治基盤です。6月には国民会議(下院)選挙を控えています。彼が目指す政策を実行に移していく為には議会での過半数の議席確保が不可欠です。議席数ゼロからの出発で、577の議席の過半数を1か月で獲得できるか。大統領当選後直ちに「En Marche !」を政党登録し、政党名も「共和国前進(Le Republique en Marche!)」に改め、新党を軸に多数派工作に入っていると報じられていますが、17日発表されたマクロン政権の閣僚名簿では、議会選挙をにらんだバランスのとれた超党派内閣の様相にあり、世論調査では共和国前進は高い支持率にあると報じられています。 因みにルペン氏は決選投票では得票率は約34%ながら、獲得票数は1000万票超とされ、その存在感の高さを窺わせる処です。

・欧州の潮流を変えたフランス、そして・・・
勿論、フランスと云う国は、米国ほどの国際的な役割を負うものではありません。然し、マクロン氏が新大統領として成功するかどうかかは、前掲Financial Times 社説の通りで、フランスにとっては勿論のこと、欧州をも超える重要な問題と意識される処です。 戦後、進められてきた欧州統合は英国の離脱決定で大きく揺らぐ処でしたがフランスが、大統領選の結果を以ってEUと共に歩み、欧州統合の強化を目指すとしたことで、それは米国でのトランプ政権の誕生を追い風にしようとするポピュリスト政党の勢いに、ひとまず歯止めをかけることになったというものです。 昨年12月のオーストリア大統領選、今年3月に行われたオランダの総選挙でも極右政党の進出が阻止されていますが、今次のフランス大統領の選挙を以って、大陸欧州が世界を渦巻く反グローバルリズムの圧力を押し戻したという事で、フランスという国がいま世界の命運すら握るほどに潮流を変えることになったのです。 

こうした潮流変化を捉え、Financial Times のColumnist, Gideon Rachman氏は` Macron, Le Pen and the limits of nationalism ‘ (4月25日)と題する中で、 今次フランス大統領選は国際政治における新たなトレンドを裏付けるものとなったとし、具体的には、どの国においても、最も重要な政治的分断はもはや左派か右派かという構図ではなく、nationalist (国家主義者)か、internationalist (国際主義者)かという構図になったと指摘するのでした。

つまり、昨年、2016年は、英国が国民投票でEUからの離脱を決め、米大統領選ではトランプ氏が勝利したことで国家主義者にとって躍進の年とされるのでしたが、今年は、今次のフランス大統領選を以ってフランスと欧州大陸の大半の国々は、国際主義者の側に残ることになる年と見られていたということで、それだけに、マクロン対ルペンの争いは国際的なイデオロギーの対立の一部を成すものと見られ、そこで世界はフランス大統領選の行くへを極めて注目する処となったと言うのです。
今回のマクロン氏の勝利を国際政治の文脈に絡ませ整理すると、ブリュッセル在のEU本部とドイツ政府には安心を与える一方で、クレムリンとホワイトハウスでは失望を買い、そして英国は複雑な気持ちをもって、その結果を受け止める、そういった関係図が描けると云うものです。


2.フランス大統領選後の欧州と世界

(1) Macron’s mission ― The Economist(2017/5/13)

さて、そうした環境のなかThe Economist(2017/5/13)は、`Macron’s mission’ と題した巻頭言で、過去20年間、フランスは経済の停滞、人種問題、更には変化することへの抵抗等々、とにかく批判に甘んじることばかりだったが、いまフランスは`open to change’を叫ぶMacron 氏の登場で、極右政党の云うような破壊的な状況からフランスも、そして欧州も救われたと、政治環境の大きな変化を強調するのでした。・・・he created a new political movement and bested five former prime ministers and presidents. His victory saved France and Europe from the catastrophe of Marine Le Pen and her far-right National Front.と。

そして彼には、これまでのフランス大統領の失政に照らし、まず10%と云われている失業率の改善にフォーカスし、しかも早急に、またいまそれができる状況にあるとして、そのspeed and ambitionを以って行動することで欧州におけるフランスのポジションは飛躍的に上がるとし、同時に早急にベルリンに出向き、EU基盤の再構築について議論すべきとadvice するのでした。それは、1975年、当時の石油ショックで不況に見舞われていた世界経済の再生を目指し、シュミット当時西独首相と連携し、今日のG7サミットに繋がる初の先進国首脳会議(G6)を主催したジスカール・デスタン仏大統領にも擬せんとするものとも映る処です。勿論、5月26・27日イタリアで開かれるG7サミット(後述)にマクロン氏は初見参です。

5月14日、マクロン氏は大統領就任に臨み、内政、外交について次のように語っています。
まず、任期5年間を「国民の融和、自信回復にささげる」とした上で、経済の立て直しに向け、
労働市場の規制緩和、中小企業支援への取り組み、等を約すと共に、国際関係では、持論の国際協調や、EUの基盤の再構築を、改めて強調していました。そしてフランス社会を覆う「経済的、社会的、政治的な分断を克服しなければならないと決意を表明したのです。(日経、5月15日)

(2)独仏首脳会談とユーロ改革

マクロン氏は大統領就任の翌15日、初の外遊先としてベルリンを訪問し、メルケル首相との首脳会談に臨み、そこではEUを巡る課題への対応について協議を始めていますが、上掲、The Economist のアドバイスを地で行く姿と映る処です。ここで興味深いのは、メルケル首相が、マクロン氏が唱える経済危機に対応するユーロ圏共通予算の創立について「意味があるなら、(ルールを定めた)欧州条約は見直せる」と述べたと伝えられたことでした。

・独仏蜜月関係の演出
マクロン氏提案のユーロ圏共通予算とは、詳細は不明ですが、要は創設した予算を加盟国への投資や経済危機への対応に充てると云うもので、この際はギリシャに始まった債務危機を止められなかった反省もあるとも伝えられています。この案については、ドイツは財政の肥大化に繋がることなど、懐疑的な見方にあると言われていました。が、この際は、メルケル氏はあえて不協和音の出ている部分で踏み込んだ発言をすることで、独仏関係を発展させる姿勢を示したものと見受けられる処です。まさに独仏蜜月を演出する処です。
この演出の背景には、言うまでもなく英国のBREXITがあり、自由貿易や「パリ協定の軽視」と云ったトランプ米政権の動きがあり、勿論、ポピュリズム政党の台頭と云ったEU内の悩みもあっての事でしょうが、このタイミングで独仏の強い結束を示す必要があったというものです。因みにEUの結束強化に向けた中期的な行動計画を作ることで合意、7月には両国の閣僚会議を開くことになった由です。

尚、6月には英国やフランスの議会選挙が、更には9月にはドイツの総選挙を控えるところですし、イタリアは来年3月の任期満了前の総選挙を探ることになっていますが、ポピュリスト政党「5つ星運動」が政党支持率でリードしているとも伝えられており、まだリスクが消えたわけではありません。ただEUの基軸である独仏が安定しつつあることで、市場はメルケル氏とマクロン氏を中心とした欧州再生の行くへに目を向け始めた事は確かと云えそうです。ドイツでは14日行われた州議会選、地方選ですが、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が勝利し、秋の連邦議会選への弾みをつける処となっています。

(3)G7サミット、シチリア会議

さて、本稿のテーマとする ‘フランス大統領選後の世界はどのように進むと見るか’ 、それを占う格好のeventが5月26・27日、イタリアのシチリア島で開催されます。第43回 G7サミットです。そして、今回の会合はこれまでになく注目度の高いものとなりそうです。と云うのも7か国首脳の内、メルケル独首相、日本の安倍首相、カナダ゙のトルドー首相以外の4人、即ちトランプ米大統領、メイ英首相、マクロン仏大統領、イタリアのジェンテイローニ首相はいずれも初参加で、1年前の伊勢志摩サミット開催時には予想されてもいない顔ぶれと云うものです。中でも台風の目となるのは、云うまでもなくトランプ氏でしょう。

G7の生い立ちは前述(P.7)した通りで、第一次石油ショック等で、危機的な混乱にあった
西側(The West)経済の回復・改革のため先進6か国が連携、事に臨もうと1975年、フランス
のジカール・デスタン大統領が主導して開かれたトップ会合です。これまで続けられてきた背景にあるのは、冷戦期の西側同盟の連帯感と、自国の経済の安定成長は自由貿易体制と世界経済の繁栄に分かちがたく繋がっているという意識であり、中でも冷戦終結後もグローバリゼーションの進展が望ましいとする感覚が、サミットを継続させてきたと云うものです。

処が今回、問題とされるのが、戦後秩序の基軸だった米国とそれを支えてきた英国の両首脳が、サミットのこうした歴史的背景から外れた立場にあるという事です。
つまり、サミットの歴史の中で始めて、自由貿易へのコミットメントという基本的な命題について議論が分かれる可能性が出てきたという事です。その姿は有態に言えば、前述(P.6)のnationalist とinternationalist が対峙する場、つまり米英 対 EU3か国の独仏伊が、尤もイタリアは議長国ですが、対峙し、これに国際主義の下、日本とカナダが参加する構図となる処です。
こうした環境にあって自由貿易を巡る議論を進め、G7として目指すべき方向を探るとすると、
それは、欧州勢の目指す「自由貿易」と米国が主張する「公正貿易」の折衷的な合意形成を探ることになるのでしょうが、その合意形成、つまり自由かつ公正な貿易、に成功すれば、世界経済に一定の安心感を与えることにはなるのでしょう。そうした合意ができなければ、世界は偏狭な国益を優先し、正義より力が支配する無秩序に回帰しかねないと云うものです。

もう一つの問題は、安全保障問題を巡るトランプ政権と欧州3か国との間に構造的とも言えるズレが起きている事です。英独にとって安全保障上の最大の関心事はロシア、仏伊にとっては北アフリカで勢いを増すイスラム過激派の脅威を優先する処ですが、一方のトランプ大統領は初の外遊先として、イランを脅威とみるサウジアラビアを訪問、現地では「イランを孤立させねばならない」と刺激的な演説をしていますが、それが示唆するように彼の関心は中東にある処です。
もっとも彼には体系的な政策構想は感じられませんが。

さてこうした状況で、どこまで深堀した議論ができるのか、そしてG7としての結束、つまり国際秩序維持への結束を世界に示すことが出来るか、或いは、これを機会に先進7国は、nationalist
の米英、internationalist のEU、が独自の利害関係を整えながら進むことになるのか、まさにG7サミットは岐路にあると言え、明日から始まる議論の推移は、極めて気がかりとする処です。

処で、今次G7での議論について斯界の論者の多くは、安倍首相の役割を強調しています。トランプ氏とも親密な関係にある彼には、欧州との懸け橋役を果たすべきと云うものです。勿論、メルケル首相に並ぶベテラン・メンバーの彼への期待に異論を挟む要はありません。が、その役割に説得力を持たせる為には、目指すべき世界経済への展望と併せ、歴史的パースペクテイブを持って語られる何かがこの際は必要と思料するのですが、残念乍ら、そうした準備はなさそうです。

・`Goodbye to the West’
こうした欧州の政治環境を追う中、頭をよぎったのが昨年12月、元独外務大臣で副首相(1998~2005)を務めたJ. Fischer (フィッシャー)氏の論考、「Goodbye to the West」(12月5日付)でした。それはトランプ氏が第45代米大統領に選出された直後の所感です。

要は、「West」の始まりと、終わりを示唆すると云うものでした。つまり、第一次世界大戦 [Central Powers(中央同盟国:独オーストリアオスマン帝国、ブルガリア) と英仏露のEntente Powers(協商国)との戦い] が始まった1917年、米国が参戦したことで本格的世界大戦となったがその瞬間、今日云う処の「West」と云う形が成り、1941年に始まった第二次世界大戦を通してThe Westが認知され、その生業は米国の防衛コミットメントをベースとするもので、言い換えればWestern order,つまり西欧の秩序は米国なくしては成り立たない構造になっていったが、今次の
isolationist nationalismに向かうトランプ氏の台頭は、もはや米国のWest からの決別を意味することになったと云うのです。もとより、米国なくしてはWestern countries はやって行けず、従って欧州はその点を自覚した戦略を持たない限り将来は難しいと、指摘するものでした。 
然し同氏はフランス大統領選の第1回投票結果を踏まえ、再び論考「The French Election and Europe’s Future」(4月29日付)を寄せ、マクロン氏の当選を前提に、彼が仏独関係を強固とし、それを基軸とした運営を図ることで、欧州の将来は明るいものとなるとその再生可能性を断じていたのです。そこにはThe WestはなくEuropeの文字で埋められていたのです。

序でながら、‘The West’で気になるのが「欧米」という日本語です。我々はよく先進諸国を見渡すとき「欧米」と一括した表現で語る事が多くあります。それには無意識にも欧米諸国が戦後世界を先導してきた事への、いうなれば敬意にも似た何かを含むものではなかったかと思うのです。勿論、その場合「欧」が英国なのかドイツなのかフランスなのかは問題にならず、「米」がアメリカ合衆国だけでなくカナダを含む事もあります。 然し英国のBRIXITが起こり、自国主義を進めるトランプ米大統領の誕生で、これまでの欧米と云った一括りの表現では律し得ない状況が生まれてきたことで、「欧米」や「米英」の一般化がだんだん難しくなってきたと思うのです。そして、そうしたcontextにあって経済も政治も見えてくるのは欧米消滅とも云うべき風景ではと思う処です。今次のG7会議こそは、実はそうした筆者の思いを映すことになるのかと、思いは複雑とする処です。


おわりに:5月3日「憲法記念日」のできごと

・安倍首相の突然の改憲提案   
5月3日、第70回の「憲法記念日」に開らかれた「公開憲法フォーラム」(主催:民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会)で安倍首相はビデオメッセージを寄せ、具体的改憲項目二つを挙げながら「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと」と表明したのです。具体的な改憲項目とは、戦力の不保持を掲げた憲法9条の1項と2項を残しつつ、新たに自衛隊の存続を明記すること、二つは、高等教育のすべてについての無償化を明記すると云うのです。まさにこれまで衣の下に隠していた改憲プロジェクト、つまり「自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、違憲かもしれないなどの議論が生まれる余地をなくすべきだ」と、訴えると共に、その実施をオリンピック・イヤー、2020年としたいとするものでした。

メデイアによると、今回、安倍首相が ‘9条改正’ に踏み込んだ背景には、北朝鮮情勢の緊張が高まるなか自衛隊を憲法上位置付ける事に国民の理解が得られると読んだものと解説されています. が、もう一つは自身の来年、18年9月までの自民党総裁任期も延長が可能になり、21年までの長期政権への視界が広がったこともあるとも窺える、と云うものです。要は、国民が最も関心を持つ9条の改正から切り込むことで、論議を加速させ、長年の憲法論争に一気に終止符を打たんとしているというものでしょうか。周知の通り、憲法改正には、国会による改憲案の発議と、改憲案に関する国民投票で過半数の賛成という2段階のステップが必要ですが、すでに首相官邸筋では、そうした改憲プロセスを軸にした政権戦略が動き出している、つまりその舞台準備は周到に進められだしているとメデイアは伝えるのです。

然し、今回の安倍首相の発言は極めて異常に映ります。まず高等教育の無償化ですが、現行憲法には「すべての国民は法律の定める処により、ひとしく教育を受ける権利を有し、・・義務教育は、これを無償とする」(憲法26条)と既に明文化されています。従って、高等教育の無償化もこの延長線で実行できる話です。因みに、政府支出に占める教育費の比率はOECD中最低レベルにあるのですが、これなど行政の怠慢の結果と云うものです。少なくとも憲法条項を改正しなければできない話ではないはずです。遡れば、旧民主党が教育の無償化を提案した時には、彼は真っ向から反対していたのです。

ただ、現行憲法の改正となれば行き着く処は、第9条の問題にほかなりません。その9条について時限を切って、つまり東京オリンピックの2020年を目標として改正するというのですが、オリンピックとどんな関係があるのか承知しませんが、そうした今回の安倍首相の行動には大いなる疑問を禁じ得ません。
その二日前の5月1日、憲法改正に積極的な国会議員らが開いた会合(新憲法制定議員同盟の大会)で、その会長を務める中曽根元首相は改憲を目指すべき時期が来たと発言し、その際は、国民全員が参加し、全員で議論を行い、国民の為の改正を進めるべきと云うのでした。然し、今回の安倍首相の発言は、中曽根発言とはあまりにも落差のある処です。

安倍首相は、ビデオで「憲法は国の未来、理想の姿を語るもの」(安倍首相、5月3日)と云うのですが、それでは、まず日本の未来像について議論を進め、その結果としてあるべき憲法の姿が創られていくことになるわけでしょうから、いつまでにと、はじめから時限を切っての話ではないはずです。 そもそも総理大臣とは憲法遵守義務を負う行政府の長であり、従って安倍首相が国会答弁では憲法改正は「憲法審査会の議論猪委ねる」と繰り返し説明してきた処です。その彼が自ら具体的改正条項を明示し、しかも時限を切って提案するなど、言うなればレジェンドを求める彼のための改憲と映るころですし、その発言こそは、まさに違憲行為というものです。

勿論、今回の安倍発言には、外国メデイアも注目する処、因みにThe Economist、May 6thでは`Shinzo Abe sets a deadline for revising the constitution ‘ と題し、目指す2020年となるとあと3年。だが、それには膨大な政治的エネルギーを不可避とする処、その間、安倍首相が旗振りする経済改革を犠牲にする事になる。日本の改憲は、言うなれば岸信介以来、安倍家念願のプロジェクトされる処、その言動はAn attack on pacifism ,平和主義への攻撃と映ると、批判するのです。

・改憲に思うこと
現行憲法は、戦後GHQがわずか9日間で纏めた「押しつけ憲法」とし、とりわけ9条については自民党内ではhumiliation(屈辱)と見做されてきていますが、この憲法こそは平和と自由で豊かな戦後日本のつっかい棒となってきた事は間違いない処です。よくぞ70年、と云う処でしょうか。ただ問題は日本国のあり様を考えていくとき憲法は今のままでいいのか、と問われていく事でしょうし、それが改憲を構想する上でのトリガーとなるはずです。

因みに国の在りようを構想する際、まず出てくる課題は、少子高齢化と人口減少社会への対応問題です。2053年には日本の人口は1億人を切り、65年には8800万人と予測されています。勿論、人口減少は巷間言われるような日本経済、沈没か、と云った話ではありません。ただ、この人口減少は間違いなく日本の国としての構造を変えていく事になるはずです。そしてその変化は、政治の仕組みづくりに直結する問題となる処です。新生日本とも言える変化を、国家としての生業とするとき、その体制に即した憲法が、現実的に言えば改憲が必然となる処です。勿論経済の生業も構造的に変わってくるというものですし、そうした面からも憲法改革が必然となることと思料するのです。

ただそれでも、9条問題は残ります。そうした文脈でこれからの改憲は、単に改憲だ、護憲だと云ったことではなく、より構図的に問題の所在を捉え直し、より先進的な思考で取り組んでいく事を目指すべきで、時の長の思いだけで動くべき問題ではないという事です。自衛隊について言えば、重要なことは、どのような役割を求めるかの議論であって法解釈ではないと云うものです。
因みに、衆院憲法審議会の幹事を務める自民党の船田元氏は、首相が改憲時期に言及したことについて「行政の長たる首相には、もう少し慎重にあっていただきたい」(日経、5月9日)と批判しています。まさに一強と云われる安倍政権の数に物を言わせた傲慢な政治姿勢、そして右傾化に、深刻な懸念を覚える処です。

今次フランス大統領選挙ではマクロン氏はフランスの将来をどうしていくべきかを問うものと位置付けていましたが、その姿勢は今の日本にとってリアルな示唆と映るのですが。その彼、明日から始まるG7首脳会議(5/26・27)にトランプ氏らと共に初見参です。さて、どんな発信が期待できるのでしょうか。
以上



posted by 林川眞善 at 08:54| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする