2017年04月27日

2017年5月号  Jacksonian Politicsとトランプ大統領リスク - 林川眞善

はじめに いま窮地の中のトランプ氏

就任100日というハネムーンの終わりを目前にして、なおトランプ政権への不信感は深まる状況にあります。これまでトランプ氏が大統領として執る行動様式に見る論理の欠如、それらが齎す結果としての政治の現実と、選挙中の声高に叫んできた公約との落差に、彼の大統領としての資質に疑問ありと、批判の高まるなか、4月1日付The Economist誌はその巻頭言で ‘The Trump presidency is in a hole . That is bad for America – and the world’とトランプ政権を極めて厳しく評する処となっています。そんな折、手にしたWalter Russell Mead, Professor at Bard Collegeの論考「Jacksonian Revolt」(米Foreign Affairs3月号)は、トランプ革命がなぜ起きたか、彼を支える草の根の思想運動がどこにあるか、が解説され併せて、これからの世界経済の戦略の在り方を問うという、興味深いものでした。

そもそも、英国のEU離脱もそうですが、グローバル化を活かしながら繁栄してきた米国ですが、その結果は経済格差拡大と云う社会的矛盾を晒す処、そうした繫栄から取り残された人たちの声が政治批判となって、それがアメリカン・ポピュリズムを生み、トランプ氏はこれに乗ることで大統領への道を拓いたと理解される処です。
が、そうしたトランプ氏の台頭をMead氏は、単に現状への批判行動と云うよりは、戦後米国の経済政策、とりわけ対外戦略に見る思考様式の変遷の中に捉え直すと同時に、トランプ氏が、これまで繰り返し公言してきた「America First」、「グローバル化拒否」をミッションとする背景を語ると云うもので、まさにトランプ現象の深部に迫ると云うものでした。

ただ、それでも過去70年で初めて米国民は戦後外交政策の核心にあった政策、理念そして諸制度をdisparageする、つまりそれらを貶めるような仁を大統領に選択したとも指摘するのですが、それこそが、彼の行動をして世界が一喜一憂する、いや一憂一憂する環境が演出される処となっていると云うものです。

そこで、今回は、まずMead氏が分析するトランプ氏の行動様式の背景を改めて読み解く事とし、以って一連の国際会議、G20会議、とりわけ米中首脳会談、更には日米新対話に映る新たな世界情勢に日本は如何に向かい合っていくべきか、考察したいと考えます。
(2017/4/26)
目   次
       
1.Jacksonian Revolt by Walter Russell Mead,
(1)戦後米国対外政策を規定した二つの思潮
(2)トランプ氏の変節が意味すること

2 .米中首脳会談と日米経済新対話に映るトランプ政権の生業
(1)米中首脳会談
(2)日米経済新対話

3.トランプ ‘ハネムーン’ 政治 総括
(1)トランプ氏の「就任100日行動計画」
(2)トランプ大統領リスク

おわりに:もう一つのフランス革命?

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1. Jacksonian Revolt by Walter Russel Mead

(1)戦後米国対外政策を規定した二つの思潮

まずMead氏は、第2次世界大戦以降の米国のgrand strategy (大戦略)は二つのmajor schools of thought(主要な思想学派)によって形成されてきたと言うのです。

その一つは、Hamiltonian 派、或いはWilsonian 派と云われるリベラルな思考様式を取るグループだというのです。 このHamiltonian 派とは初代米財務長官(1789~1795)、Hamiltonが世界経済の再生を重視したことを映す思考様式ですが、一方のWilsonian派とは第28代米大統領(1913~1921)、Wilsonのことで、第一次大戦後、国際連盟を提唱した仁であり、経済より人権や民主主義といった価値観を重視する仁ですが、両者は共にリベラルな世界秩序を維持するグローバル主義という点で共通するグループとされる処です。

もう一つは、こうしたグローバル主義にはコストがかるということで、その反動として台頭してきたのがnationalismとanti-globalismを旨とする流れで、これにはJefferson主義とJackson主義の2つに分類されるというのです。
Jefferson主義とは第3代米大統領、Jefferson(1801~1809)の名を頂く処ですが、これは世界に関与するコストとリスクを最小限にして国益を守る立場とするもので、共和党のSenator Rand Paul & Ted Cruzなどがそれに分類される仁であり、彼らは共和党の予備選挙ではJefferson主義の波に乗れるとしていたというのでした。もう一つのJackson主義とは第7代米大統領のJackson(1829~1837)の名を頂くものですが、彼は政治家としてのidentityを庶民(commons)の味方に置く、とする仁でしたが、トランプはライバルが把握できないものを感じ取っていたというのです。つまり、それは米国政治に本当に台頭しているのは、Jeffersonian minimalism(最小の投資で最大の成果を得る)ではなく、Jacksonian populist nationalism だったと云うのでした。

・Jacksonian Populism
では彼が描くジャクソン派ポピュリズムの特徴とはMead によれば、Identity Politics Bite Back(アイデンテイテイ政治の復権)にあるように、彼らは米国のエスタブリッシュメントはもはや米国の価値観に忠実な、信頼できる愛国者ではないと考えるようになっているというのです。国際主義を旨とする人は人権の改善のために働くことを義務と考え、ジャクソン主義者を遅れた利己主義者とみなすが、ジャクソン主義者は自国を第一に考えることに道義上の疑問を投げかけるような国際主義者を裏切り者に近い存在とみなす、というのです。そして近時こうしたエリートに対する不信はますます高まってきているというのです。

今日の米国には、多様な民族、人種、性と宗教の動きが溢れており、エリートたちは文化的な認知を求めるアフリカ系やヒスパニック系、女性やLGBTQの人たち、更に先住民やイスラム教徒の要求を喜んで受け入れるようになったが、こういう状態はジャクソン主義者たちにとってはより複雑で、彼らは、自分たちがどのカテゴリーにも適応しないと考えていると云うのです。
多くの白人有権者たちの間にはいわゆるポリテイカル・コレクトネス(政治的正しさ)に対する抵抗が強くなり、自分たちの所属意識を高めようという意思も高まったというのですが、これが時として人種差別主義として現れることがあるというのです。人々は常に、自分たちのアイデンテイテイを積極的な意味に考えることを人種差別だとしてきているのですが、彼らは,自分たちはまさに人種主義者であり、そのことを最大限に利用するのは当然だとし、いわゆるアルトライト(もう一つの右翼)の興隆は、少なくとも部分的にこういったダイナミックスに源を発するものと見るのです。

そして移民問題についてはこう指摘しています。つまり、低賃金労働者への影響とか反イスラム感情が議論されていますが、ジャクソン主義者はこの問題を、自分たちを自国の主流から排斥する意図的、意識的な試みの一環と見ているというのです。民主党員の間では有権者人口の変化で民主党多数派の期待が云々されていますが、ジャクソン主義者はこれを米国の人口構成の意図的な変革と受け止めるのです。エリートたちが移民のレベルを上げることに熱心で、不法移民に関心を払わない様子を見聞きするとき、彼らは経済問題に引き付けて考えるのではなく、彼らを文化的、政治的、人口構成的に権力から締め出そうとしているともみているというのです。要するに、昨年の選挙で米国民は、特定の政党と云うよりは、広く統治者と彼らが関係する国際主義的イデオロギーへの不信を表明するものだったと分析するのです。以って、トランプ革命をJacksonian Revoltとする処です。

・The Road ahead ― 今後の課題
では、係る状況が今後の米国の外交政策にどう反映していくと見るのか。就任後に考えを修正した大統領は過去には多くいたし、トランプも例外ではなかろうとはしています。因みに、
ジャクソン主義者は、ブッシュ元大統領を英雄として支持したものの失望して背を向けたが、トランプにも起こり得ると見るのです。現在の処、ジャクソン主義者は、米国が地球規模での関与やリベラル秩序の建設には懐疑的ですが、それは特定の政策への期待と云うよりは外交政策の策定者への信頼欠如の為だというのです。

この25年間、西側の政策担当者は危険なほど単純化された考えに夢中になってきた。資本主義は制御されているから、もはや全般的な経済的、社会的、政治的激変は起こらないと考えてきた。が、9・11後に起きた多くの出来事、対テロ戦争から金融危機、欧米の両方で起こった怒りにみちた国家主義的ナショナリズムのうねりは大きな驚きであった。そして日増し、明らかになっている事はグローバル化とオートメーションが繁栄と社会の安定を支えてきた社会経済モデルを破壊している事というのです。そして資本主義の次の発展段階では、地球規模のリベラル秩序と国家の支柱の基本軸の如何が問題となるというのです。

従って今後の課題は、通常の路線に沿ったリベラルな国際秩序建設の任務を完了するというよりはむしろ、リベラル秩序の融解を止め、グローバルシステムをより維持可能な基礎の上に据え直す方策を探すことと云うのです。そして、国際秩序はelite やbalance of powerだけでなく、国民共同体による自由な選択、すなわち世界に関わることで利益を引き出すのと同じくらい、外部の世界から守られていると感じられる共同体の選択に据えられる必要がある、というのです。

・・・The challenge for international politics in the days ahead is therefore less to complete the task of liberal world order building along conventional lines than to find a way to stop the liberal order’s erosion and reground the global system on a more sustainable basis.
International order needs to rest not just on elite consensus and balance of power and policy but also on the free choices of national communities – communities that need to feel protected from the outside world as much as they want to benefit from engaging with it.

勿論、彼がイメージする具体的な事態とは、当該論考を見る限りでは検証不可ですが、いま相対的優位な政治資源を手にしていると言われる日本こそは具体的シナリオを以って当該テーマに取り組むべき時ではないか、と思料するのです。崩れそうな世界環境の中、ドイツに実績を持ち得た日本に「日独が協力して自由貿易の砦になれ」と、コラムニストの秋田浩之氏はその主張を展開(3月10日付日経)していましたが、まさに時宜をえたものと云え、それをより確実にしていく為にも、今日本経済の成長基盤再構築への行動が求められている事、間違いない処です。

(2)トランプ氏の変節が意味すること

これまでAmerica First,一点張りで進んでいるトランプ氏、これまでのJacksonian like ともされてきた主張は、政権内部の意見の相違、政権と議会との関係、更には政権を取り巻く外部環境の変化、等々から、時に修正を余儀なくされる場面が顕著となってきています。それはグローバル化の深化が政治経済の生業を根本から変えてきたという事で、旧来のJacksonian流ではいかなくなっていることを語る処ともいえ、因みに、トランプ氏が否定的な態度を示していたNATO については支援姿勢に転じ、米連銀のイエレン議長についても再選を示唆する他、米輸銀に対する姿勢にしても極めて好意的に変わり、更には中国の為替慣行を不当なものと激しく非難し、大統領就任初日には中国を為替操作国に認定すると公言していましたが、後述、米中首脳会談後の4月14日の財務省報告では、中国を為替操作国と認定することを撤回したのです。

つまり、トランプ氏を巡る外交戦略については取り巻きの軍人出身者らがトランプ氏の「米国第一」の外交政策を締め出している一方で、ウオール街が経済の議論を有利に進めていることを示唆するものであり、つまりは政府の政策は急速に、昨年の有権者があれほど激しく拒絶した事態に戻りつつある事を示唆する処と思料するのです。

こうした変節とも言える行動はトランプ政治にとって大きな後退とも言える処ですが、外交や安全保障などを巡る発言の修正が目立つようになったという事は、後述する北朝鮮やシリアを巡る情勢が緊迫し、国際社会との協調が不可欠との認識に至ったという事なのでしょうか。もとより、これが現実としては全く賢明な動きと云うことなのですが、これでトランプ政権が国際経済の分野で破壊的な対決を引き起こす可能性が消えたとは思えないのが悩ましい処です。と云うのもこうした変節が、気まぐれから起きているように見えてならないからです。4月18日、ウイスコンシ州で行った演説では、自国産業と雇用を優先し自由貿易に反対する姿勢、米国第一主義、を曲げることのないことを再び明言するのでした。

・Steve Bannon氏のこと
序でながら、この‘変節’と云う点で触れておかねばならない状況があります。それはトランプ氏の側近、大統領上級顧問で国家安全保障会議(NSC)の常任委員にあったSteve Bannon氏、彼については2月13日付TIME誌では‘The second most powerful man in the world’とまで評された仁ですが、その彼が4月はじめにNSCメンバーから外されたという事です。なぜか、それは政権内の確執(バノン氏と、トランプ娘婿のクシュナー上級顧問、マクマスター大統領補佐官との確執)によるものと伝えられています。バノン氏は極右の立場にあって人種差別、女性蔑視の激しい過激な人物とされる処、トランプ氏の政策、言動は彼の誘導によるものとされています。それだけに彼が外れたことで、欧州の同盟国は安堵しているとも伝えられる処です。序でながら、トランプ氏のシリア向けミサイル攻撃を彼は反対していた由。

そこで興味深いことは、Financial Timesのcolumnist、Mr. Edward Luceのコメント` Why Trump
still needs Bannon’(April 13) でした。つまり「バノン氏は姿を消したわけではない。実際、
彼は政権内では唯一戦略的頭脳に近いものを持った人物。米国の政治は変革する必要がある。ト
ランプ氏に一票を投じた人々は中産階級に再び光を当てるという同氏の公約を信じて投票した
が、この選挙の立役者はバノン氏。そこでバノン氏の処遇がこの先どうなるかでトランプ氏が、
自分が大統領にえらばれた理由を忘れていないかが分かるだろう」というのでした。


2.米中首脳会談と日米経済新対話に映るトランプ政権の生業

(1)初の米中首脳会談(4月6・7日)

上述環境のなか、4月6・7日、世界が注目するトランプ大統領と中国習近平主席との初の首脳会談が米国フロリダのトランプ氏別荘で行われました。当初、色々の憶測が伝えられていましたがメデイアによると、結論的には‘中国の挑戦に苛立つ米国の巻き返しのドラマ’と映ったというのです。 そして、何よりも興味を引くこととなったのはトランプ大統領就任直後、わずか76日後の出来事ということで、体面を重んじる中国としては異例の速さに関心が集まったというものでしたが、それには習氏には急がねばならない事情があったためだとされています。

その事情の一つは経済です。中国は2001年にWTOに加盟していますが、それ以降米国が主導するグローバル化の波に乗って成長してきたとされています。その成長が相対的に鈍ってきた今、そこにトランプ政権の保護主義の矛先が中国に向かうとなれば、中国の世界戦略も破たんしかねない。とにかく対米関係の安定が最優先とする事情があっての事都いわれています。
もう一つは内政への対応問題と云われています。と云うのも、この秋、中国では最高指導部を入れ替える共産党大会が予定されており、既にいろいろの闘いが始まっていると伝えられる処ですが、習氏としては対米関係の安定を成果に共産党大会に臨みたいとしていると観測されているのです。つまり、‘対米外交は内政の延長にあり’と云うところでしょうか。

さてトランプ氏は習氏との会談には国務、国防、商務の各長官ら主要閣僚を揃えて望んでおり、日米首脳会談時よりも重い陣容だったとされ、中国は体面を保ち得たと云う一方、トランプ氏も安全保障から通商、為替まで全て話し合っていると国内にアピールできたとするものでした。 ただ、2日間の会談後、米中共同の発表や中国側の記者会見も一切なかったという点で、新たな米中関係を示すこともなく、以って深刻な対立があったのではと勘繰る向きもある処です。

尚、そうしたことで当該会談内容は不明ですが、米中高官の発言からは、「朝鮮半島情勢問題」「東・南シナ海問題」「貿易不均衡是正問題」等、更には「米中課題を話し合う対話枠組み」について話し合いがおこなわれたとされていますが、特段の具体的成果は見られず、ただ貿易不均衡の是正に向けた政策策定「100日計画」(注)について合意を見ただけでしたが、それでもトランプ氏が先手を取り、主導力をアッピールするものだったと云うのでした。ただ、言えることは、仮に米中が貿易戦争にでも陥れば日本にも悪影響が及ぶこと間違いなく、とにかく貿易不均衡是正に向けて動いたことは日本にとって好影響と云う処でしょうか。

    (注)「100日計画」:7日行われた米中経済対話では、ロス商務長官、ムニューシン財務長
     官は中国の汪洋副首相との対話において、100日内に両国の貿易不均衡を分析し、この改善
     策を取纏める事で合意。米国は航空機やエネルギー、農産物の対中輸出拡大を求めるとしてる。
因みに、オバマ前政権時の2015年9月、習氏の訪米時には、中国有力企業が米ボーイング
社から航空機300機を買う契約を結んでいる。この差をどう読むか。トランプ氏は習氏に核・
ミサイル開発をやめない北朝鮮への制裁強化を迫っており、この点で習氏にすれば北朝鮮への
カードを切る前に経済協力の持ち駒を使うのは得策でない。その代わりに出したのが「100
日計画」ではとの憶測もある処。要は秋への時間稼ぎではと見られているが。

とにかく初の顔合わせという事で、トランプ大統領にとって今次首脳会談は、協力できる相手か見極める場とするものだったと報じられており、とりわけ近時北朝鮮問題への中国の関与協力をと公言していますが、「中華民族の偉大な復興という夢」を掲げる習氏、一方「アメリカを再び偉大に」とするトランプ氏。この二つを戦略路線として進む限りにおいては、激突する危険性は否定しえず、その端緒が貿易摩擦と云うものか、それともほかにあるのか、という事でしょうが、今後の世界経済における米中関係の重要性に鑑みた場合、言える事はと云えば、二人が対立していてはどちらもその目標は達成できないことを互いに納得し合わなければならないという事でしょうから、つまる処、目標達成の為に、どこまで歩み寄れるかが問われていく事になるという事でしょうが、その難所は今、新たに始まったばかりと云えそうです。その点、日本としてもそうした新たな視点をもって、その推移を見極めていくこと肝要と思料する処です。

(2)日米経済新対話 (4月17・18日)

日米両政府は18日、麻生福総理・財政相とペンス副大統領をヘッドとして日米経済対話の初会合を首相官邸で開催しましたが、対話終了後に公表された共同プレスリリースによれば、今後の協議は「貿易・投資ノルール」・「経済財政・構造政策」・「個別分野」の三つ柱で進める事で合意し、年内に次回会合を米国で開くこととしたとするだけで、どうも視界不良の対話と映る処です。

そもそもこの対話は、2月の首脳会談で安倍首相から、言うなれば先制攻撃とも言うべく提案を行い、これにトランプ氏が合意したと云うもので、その点では日本側は周到な準備で臨んだと言われ、実際その枠組みづくりは日本の思惑通りに進んだように見られる処です。然し、一方の米側は人事の遅れなどで本格協議の態勢が整っていない事もこれありで、特段の進捗は見られなかったというものでした。ではなぜ米側は、そんな様で日本まで来て?と云う処です。
それと云うのも、周知の通り、日本としては米国のTPP回帰を期待しての対話を進めたいとする処、ペンス副大統領は多国間協議ではなく2国間交渉を重視し、FTAへの意欲を明確にしている点で双方のスタンスがスタートラインにおいてズレがある中で、 前述、中国の為替操作国認定をあっさりと撤回したようにトランプ大統領の立ち位置も見にくいという事、それに政権内の対立もあって、先が見通しにくいという事情を映すものだったからと思料するのですが。

・対話の目指すべき方向
いずれにせよ今後の対話にあったって日本は、2国間協定の交渉に応じるにしても、TPP交渉での日米合意をベースに議論を進めるべきで、併せて米国の離脱後のTPPが空中分解しないよう、米国を除く11か国での発効を探っていくべきと思料する処です。そして日米両国がとくに問われることは、短期的な得点稼ぎではなく真に両国が必要とする構造改革に繋がる議論ができるか、であるはずです。トランプ政権は雇用創出を掲げ、失われた製造業の復活に力を入れるとしています。又日本も、金融・財政政策など景気刺激策に頼らない自律的な経済成長の実現が求められる処、そのためには国内の抵抗の強い構造改革が欠かせない処です。せっかく始めたからには、志の高い日米対話にしていく事を期待する処です。


3.トランプ ‘ハネムーン’政治 総括

― 米大統領の就任から100日間はハネムーン(蜜月期間)とされ、議会やメデイアも厳し批判を控えるのが通例です。さてトランプ氏にとってのハネムーンはこの4月29日で終わります。ではその間の実績はどうだったか。そこで彼が選挙中打ち出した公約、つまり「就任100日行動計画」の実績、そしてそこに残されている問題、今後の課題についてレビューし、以って100日行動計画の総括に代える事とするものです。

(1)トランプ氏の「就任100日行動計画」の現実(弊月例論考、2016年12月号)

ここで示されていたのが、就任初日に実行する18項目、そして立法措置を伴う10の事案ですが、その成果は如何と云う処ですが、まず初日実行の18項目については、初日に限らなければ、実行したものは多く、大統領令だけで実行出来る‘TPPからの離脱宣言’、‘NAFTAの再交渉宣言’、或いは‘エネルギー開発の許可’などがありますが、これに対して‘減税’や‘インフラ投資’と云った政権公約の実現に欠かせない10の法案作成は全て失敗か未着手の状態にあります。

とりわけ‘オバマケアの代替法案’を作ったものの、野党民主党どころか、与党共和党内を取りまとめきれず、撤回を余儀なくされており、オバマケア見直しを最優先策と位置付けてきただけに、その撤回インパクトは大きく、他の政策の遅れに繋がっている処です。尚、その他テーマについての進捗状況は、通商関係では「中国の為替操作国認定」については前述の通りでひとまず見送りとされており、移民問題については2度の大統領令が出されたものの、周知の通り人権問題に絡めた裁判所裁定で実施差し止め、国境の壁建設も予算取り出来ずに先送りとされています。

尚、21日、トランプ大統領は、オバマ前政権下の税制や金融関連規制(ドット・フランク法)について見直しを指示する大統領令に署名、26日には大型減税案を公表する旨発表しています。まさに就任100日の節目を29日に控え、経済対策の目玉である税制分野で実績作りを急ぐというものの由でしょうが、問題は下院共和党が提案する「法人税の国境調整」の扱いで、理論的には貿易収支の改善を映し急激にドル高が進む可能性も指摘され、ムニューシン財務長官は、通貨への影響を懸念し、導入に慎重な姿勢にある処、このほか減税規模や財源などを巡って関係者らの意見の隔たりは大きく、調整は難航する可能性が今から指摘されている処です。
ただ、減税等政策への期待は大きく、それがはげ落ちることにでもなれば企業や個人が投資や消費に踏み切れず、続く景気回復の限界論も余儀なくされる処、さてアメリカ第一主義で通し切れるか、改めて問われる処です。それにしても100日の直前、28日には暫定予算の期限も到来する処、議会で期限延長などの合意が得られなければ、100日目を政府機関の閉鎖という異常事態で迎える可能性も否定できず、政策実現に向け政権は大きな岐路に立たされる処です。

(2)トランプ大統領リスク

さて、上記政策対応の現状は、Jacksonian populism like に、しかし移民や環境など世界が抱える問題には背を向け、更には世界の警察であることを拒否する、言うなればトランプ大統領の単独主義のなせる業とも云うべく、そこにはそれ相応のリスク、つまりトランプ大統領リスクを認識していく必要があるという事です。

因みに、4月6日のトランプ政権によるシリアへのミサイル攻撃は、議会や同盟国との相談もなしに実行されています。そしてその動きは特段の戦略を持っての話と云うよりは、化学兵器で苦しむ子供たちの姿を見て、言うなれば感情的、衝動的に走った行為と説明される処です。但し、それも、トランプ氏がこれまでロシア、プーチン氏との密接な関係が取りざたされてきたことで、この点を払しょくするために敢えてロシアが支援するシリア、アサドを攻撃した、つまり国内政治要因で動いたともされています。

いずれにせよ、身勝手に動く、一言で言って何をしでかすかわからない、自らの行動に対する制限が少ない人物だけに、この100日の経過の中、彼の単独主義がもたらすリスクをこの際は十分理解しておく必要を改めて痛感させられた処です。こうしたトランプ大統領のリスクは当初は意識されていたはずですが、何時しか世界的な景気回復やトランプ政権の経済政策が焦点となっている点で、それが忘れがちになっているのですが、まさにシリア攻撃でそのリスクの顕在化を自覚させられたという事です。 そして今、北朝鮮情勢の緊迫化は地政学リスクの拡大を余儀なくさせています。具体的には北朝鮮の核実験をやめさせるため、米中日韓が一体になって圧力をかけていますが、北朝鮮にはそれを受け入れる様子は見られません。緊張緩和に進まなければ、米国単独による攻撃も予想される処、日本としては、トランプ政権との付き合い方を改めて検討していく事の必要性、痛感する処です。


おわりに:もう一つのフランス革命?

本稿執筆中の4月24日早朝、フランス大統領選挙第1回投票の結果が伝わってきました。4人の候補の内、首位は元経済産業デジタル相で中道の立場を取る親EUのエマヌエル・マクロン(Emmanuel Macron)候補、2位が極右政党、国民戦線(FN)党首で、反EUのマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)候補。いずれも過半数には至らず、従って5月7日予定の第2回投票で、この二人による決選投票が行われることになります。まさに、リベラルなEU主導者対極右の一騎打ちということです。さて、フランス国民はいずれを選択するものか。アメリカでトランプが想定外の勝利を収めたようにフランスでも同じようなことが起こるのでしょうか。とにかく2大政党の左派と右派の候補者が第1回で負けたという事は過去60年間で初の出来事で、まさにフランス政治の転機とされる処です。

実は、第1回投票で首位争いをした4人の候補のうち2人、極右のルペン氏も急進左派のメランション氏はポピュリズムで支持を伸ばしたとされています。その理由は、経済不振やグローバル化への反動だけではなく、とりわけ反移民感情については、その根っ子が1954~62年のアルジェリア独立戦争にあるというもので、その植民地政策の失敗が結果として極右勢力を生み、一方急進左派は政府による統制色の濃い経済政策で格差是正を図るとしたものの、結果として産業の育成が出来ず、雇用が伸びず、それが左派の後退に繋がってきたというもので、要は戦後の2大政党政治の下で、積もり積もった不満が今回の結果を生んだとされる処です。そして既成政党を離れ、独立した中道の立場でそうした政治環境を有利に自分のものにしていった結果、マクロン候補が首位に上ったという事です。従って、当然のことながら米国のケースとは本質的に異なる動きと読める処です。

・`The Coming French Revolution ‘
米論壇、PROJECT SYNDICATEに現れた4月17日付Mr. ZAKI LAIDI、Professor at L’Institut d’etudes politiques de Parisの論考`The Coming French Revolution ‘は、そうした選挙戦の流れを分析する中で、マクロン候補のインサイト、洞察力の豊かさを評価し、以って第一回投票に勝利を収めた事、そしてマクロン候補の最終勝利を前提に、大統領当選後の議会対応について以下、提言するのです。

マクロン候補は豊かなインサイト、洞察力を以って、当初あまり理解されていなかった右派、左派の2大政党政治が政治の進歩を阻害していると、読み取っていたというのです。実際フランス国民は伝統的政党を拒否するようになってきており、その点で、当初弱いと見られていたが、それがかえって強みになったと指摘するのです。そして、若き独立系中道候補のマクロン氏の大統領選出の可能性の高さに照らし、5月7日には第5次共和制政治制度を逆転させることになるというのです。そして、更に同氏は、大統領に勝利する事は最初のステップに過ぎず、問題は大統領と議会とのハイブリドな、混成体制の統治運営にあるとして、その為にはと二つのアドバイスをするのですが、それはフランス政治の現状を映す処です。

一つは、マクロンは速やかに議会のマジョリテイを確保する事。6月に予定の下院選挙では有権者の多くは彼に投票することになる事、十分考えられることだが、不確実な要因もある。それは組織だった政治運動が不足している点がマクロンにとって弱い点でその強化を目指す事。もう一つは、議会内派閥との連立です。因みに、右の小派閥、大所帯の中核派閥、そして影がうすくなった左の派閥。こうした組み合わせは欧州ではよく見られるケースであり、これはフランスにとって独自の革命と映ると云うのです。

左右双方からの政治的パワーを得たとしても、これまでフランスの有権者も政治家も実質的には国が抱える問題をイデオロギーとして作り上げてきた。フランス国民も政治家も広がりの大きい連携協定をベースとした政府を頂いた経験がほとんどない。とにかくルペンになろうが、マクロンがなろうが、フランスは今、on the verge of a political revolution 、政治革命の寸前にあると、云うのです。
 
さて、翻って日本の現状はですが、安倍一強と云われる日本の政治状況にあって、それゆえの弛みと映る議員の拙劣な言動にあんぐりとなる処、その刷新の要、痛感させられる処です。 
以上 
posted by 林川眞善 at 17:25| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする