2018年10月27日

2018年11月号  米中貿易戦争の行方、安倍長期政権の行方 ー 林川眞善

― 目 次 -

序 章  ドナルドの強権と、世界経済

(1) 米国と世界の断絶の瞬間
          
(2)絡み合う‘貿易と安全保障’
  ・トランプ通商政策と米通商拡大法(1962)
  ・‘新たな冷戦’状況に向かう米中関係

第1章  ‘新たな冷戦’に向かう米中関係  

(1)今、米中関係は新冷戦の瀬戸際
  ・対中報復第3弾発動で、リセットの米中関係
  ・ペンス米副大統領の対中‘三行半’演説

(2) 米中経済と、米中貿易戦争の行方
  ・米中経済の実態
  ・米中貿易戦争の行方 
  ・日中首脳会談と中国企業、華為技術(フア-ウエイ)

第2章  安倍長期政権と日本の行方

(1)安倍晋三首相に問われる課題
  ・今、安倍氏に求められる行動様式

(2)日米貿易協議(FFR)の行方

おわりに 沖縄県知事選と日本のIdentity Politics


         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
序 章 ドナルドの強権と、世界経済


(1) 米国と世界、断絶の瞬間

ドナルド・トランプ米大統領は、自身就任後2回目となる、今次(9月25日)国連総会の一般討論演説に臨み「グローバリズムのイデオギーを拒絶し、愛国主義のドクトリンを尊重する」と言明し、「米国第一」の立場を改めて訴えたのです。
云うまでもなく、国連は第2次大戦の反省に立って恒久的世界平和、そのための多国間協調体制を目指すこととして創設された国際機関です。従って年次総会では加盟各国首脳が、その目的に向かって、すべき事を語る場であり、以って世界秩序の堅持を確認する場とされる場ですが、トランプ氏の発言はまさにそうした世界的規範に背を向けた、独善的な言動となる処です。元より戦後世界の秩序を支えてきた加盟各国からの非難を一斉に呼ぶ処、それはグローバル化の象徴的存在であった米国と世界との断絶を思わせる‘瞬間’でしたが、何か孤立化する我が身を楽しむが如きと映るのでした。メデイアによると国連グテレス事務総長は昼食会で「我々は皆、世界市民でもある」と、トランプ氏に忠告した由でしたが・・・。

さて、その彼は、いま米議会の中間選挙(11月6日)を控え、自分ほど大きな仕事をした大統領はこれまでいないと、意気軒高、大統領就任以来2年、政策実績を誇示する処です。
確かに2016年大統領選での公約は相応に実現されては来ています。グローバリズムを拒絶する姿としてTPP、パリ協定等、国際的枠組みからの離脱方針を相次いで表明する一方、不法移民の取り締まり強化、サウスボーダー(国境)の壁建設等々も進め、大減税をも実施、更には、‘雇用の確保’、国内産業保護を名目に、WTOルールを顧みることなく、米国と関係二国間の貿易交渉を進め、製品輸入の抑制を実行してきています。(注)

    (注) 米国との二国間交渉:「ナバロ文書」で特定された6か国 [韓国、日本、欧州(ドイツ)、
NAFTA2か国 そして中国] に対して当該国との貿易赤字解消に向けた貿易交渉を実施。但し中
国とは合意なし。中間選挙向けに「米国第一」の具体的成果として誇る様子に、因みにトランプ
大統領はNAFTA新協定が確認された10月1日、「(大統領選での)約束を守った」とアピール。

ただし、トランプ主導の二国間交渉の姿は、大国、米国の圧力を感じさせ、脅しともとれる、強権的振る舞いを露わとする処、貿易ルールは国の力関係で決まる、いわば無法状態に陥ってしまう様相すら映す処です。それは自由貿易を規範としてきた世界経済を混乱させ、深刻な打撃を与える、まさに世界経済のリスクと映る処、中でも米国が仕掛ける対中圧力は、いまや米中貿易戦争状況を齎すなど、まさに世界経済を下押しする要因となってきています。

因みに、10月4日、IMFのラガルド専務理事は日経インタビューで「世界経済は引き続き安定的に成長しているが、半年前よりもリスクは高まって居る」と語り、7月時点の2018年と19年の世界経済の成長見通し(3.9%)の下方修正の可能性を示唆していましたが(注)、その最大の懸念が米中の貿易戦争であり、制裁の応酬が拡大すれば「影響は中国だけでなく、同じ供給網を築いている近隣諸国にも及ぶ」(日経10/5)と指摘するのでしたが、果せるかな、10月9日、IMFが発表した世界経済見通しでは、2018年の成長率予測は3.7%と7月時点から0.2ポイント下方修正され、併せて、トランプ政権が仕掛ける貿易戦争が更に激しくなる場合、世界経済は19年以降に最大0.8ポイント下振れすると警告するものでした。

    (注)世界経済の見通し
序でながら9月26日、国連(国連貿易開発会議)が発表した2018年度、貿易開発
報告書では、現状のまま貿易戦争が続く場合、2023年の世界経済の成長率は2.4%
に減速すると予測。同時に雇用や投資、個人消費などあらゆる分野が低迷すると警鐘
を鳴らしている。要は、金融危機で1.8%のマイナス成長に陥った後、2017年には
3.1%まで回復してきてきたものの、世界経済は再び緊張状態にありとされる処。

(2)絡み合う‘貿易と安全保障’

・トランプ通商政策と米通商拡大法(1962)
そうしたトランプ政権が進める対外通商政策、つまりは輸入抑制のための二国間交渉の在り姿は、いまや‘貿易政策’に新たな視点を齎す処となっています。

当該輸入抑制を目指す関税交渉は、いずれも米通商拡大法232条に照らし、米国が仕掛ける形で行われてきているものです。この232条とは、輸入の増加が、‘安全保障上の脅威’ となる場合、貿易相手国に対する制裁を可能とする法律ですが、さてアルミや鉄鋼が更には俎上に上がる事が噂される自動車など、これら製品が国内の安全保障に直結するものなのかと、疑問を呼ぶ処、本来ならWTOのパネルに諮るべきとされる処です。ただ、そもそも他国の政策を勝手に判断して、不当あるいは危険と見做し、当該貿易相手国を罰する権利があると一方的に主張する事自体、問題と云うものですが、結果として通商政策は、 ‘貿易と安全保障が密接に絡み合う状況’ を反映する処となってきたのです。

更に中国に対しては、上記232条に加え、301条(不公正な貿易措置への対抗)(注)の適用をも擁し、9月24日には既に通告済みの第3弾(対象2000億ドル相当)制裁関税を発動。(これで制裁関税対象総額は2500億ドル) 更に、中国の出方如何では全輸入製品への制裁関税拡大をも示唆するなどで、今や米中報復関税合戦の状況にある処です。 232条の担当が商務省、301条の担当がUSTR(米通商交渉代表部)ですが、この両者を擁した、まさに貿易戦争とされるだけに、チキンレースの様相を呈する処です。

(注)米通商拡大法301条:301条は80年代の日米貿易摩擦でフル活用されたが、WTO発足
後は封印され「抜かずの宝刀」とされていたが、トランプ政権は同文章を基に301条を積極
活用に転じ、中国の知財権侵害を制裁する名目で中国製品に追加関税を課す根拠としている。

さて、‘貿易と安全保障’が密接に絡みあう事態が進行するなか注目すべきは、そうした傾向を助長する背景として保守的な国家主義者の存在が云々される処、ビジネス寄りのリベラル派までもが保護主義に傾いてきたことです。
例えば今年4月に起こった中国の通信機器大手企業、中興通訊(ZTE)の米企業との取引禁止を巡る米国内の政治的反応にその典型を見る処です。つまり当該取引は技術の流出につながると、米国の安全保障上「重大な脅威」として一旦、トランプ政権は米企業との取引を禁じる制裁を課しています。然し後日、同社が罰金(10億ドル)を払う事を条件に取引禁止の解除を発表すると、米共和党からも、米民主党からも反対の声が上がったのです。

こうした国家主義色が強くなる中でもう一つ懸念される事は、独占禁止を巡る政策も安全保障のための武器となるという事です。やはりトランプ政権は、シンガポールの半導体大手ブロードコムによる同業の米クアルコム買収を阻止しています。その理由は、次世代通信規格「5G」の技術で米国が競争力を維持しなければならないとするものでしたが、何か国家主義色が強くなっていく様相に聊かの懸念を禁じえないのです。(注)

     (注)外資の対米投資規制:米財務省は10月10日、外資による対米投資の規制の詳細を発表。
半導体や情報通信、軍事など27産業を規制対象に指定し、事前申告を義務づけ、11月10日
から実施予定と。ハイテク分野での覇権を狙う中国から先端技術を保護する狙いとの由。

・‘新たな冷戦’状況に向かう米中関係
処で、9月24日、上述の通り、米政権は対中報復追加関税引き上げを発動していますが、これが米中関係に一つの転機を印すものとされるのです。既に発動済みの500億ドルと合わせ2500億ドル、米国の対中全輸入額(約5000億ドル)の凡そ半分に追加関税がかかることになる処、対立終息の道筋は見えず、世界経済の大きな波乱要因になるとメデイアは書き立てています。中でもFinancial Times,Sept.24は、今次の対中追加関税の引き上げ実施は、米中間の政治・経済関係の真のリセットにつながる処、今や、trade warと云うより、the beginning of something that looks more like a cold war than a trade war、つまり冷戦とも言える状況の始まりと、指摘するのです。

・本論考の構成
そこで本稿、第1章では、今や世界経済にとって最大のリスク要因となっている米中貿易戦争にフォーカスすることとし、上掲、FT記事をリフアーしつつ、その実状と今後の行方を考察することとします。尚、目下の米経済事情については、 2005年時のFRB議長グリーンスパン氏が当時の米経済について「コナンドラム(謎)」と呼んだと同じような現象、今再びと云われる処ですが、一方、中国経済の変調も伝えられる処です。そこで、両国経済の今日的生業を踏まえ、米中摩擦、より具体的には米国の対中貿易インバランス是正の可能性
について考察することとします。

加えて、10月2日、日本では第4次安倍改造内閣が発足しました。上述の通り、内外環境は大きく変化を呈する処、それが意味することは、これまでと同じ発想、行動対応では通じなくなってきたという事です。そこで、第2章では、長期政権となった安倍内閣の行方について、米中関係、日米関係の今後にも照らしつつ、改めて考察することとします。


           第1章 ‘新たな冷戦’に向かう米中関係


(1)今、米中関係は新冷戦の瀬戸際

・対中報復第3弾発動で、リセットの米中関係
9月24日、トランプ政権は中国に対し、既に告知済みの対象額2000億ドル相応の輸入品に対する追加報復関税措置を発動しました。今回の中国向け報復措置についてFinancial Timesの Columnist, Rana Foroohar氏は、同紙Sept.24付けでTrade hawks seize their moment.(米国の通商タカ派、対中関係リセットの好機をつかむ)と題し、当該行動はトランプ氏率いるホワイトハウスが下した無分別且つ性急な政策決定であるどころか、それ以上に危険な、長期にわたって影響を及ぼす行為だと批難すると共に、これは米中の経済的、政治的関係を完全にリセットするものであり、貿易戦争と云うより冷戦の様に見える状況の始まり、と断じるのです。加えて、このリセットを支持する動きはトランプ氏周辺にとどまらず、左派、右派両方に浸透し、それゆえ‘事’は深刻だと指摘するのです。

ではその深刻さとはどういう事か? 同記事が危機感を持って指摘するのは、トランプ政権内でのタカ派とされるナバロ大統領補佐官(通商担当)そしてライトハイザーUSTR代表(通商代表部)の思考様式です。
つまり、トランプ大統領は対中貿易赤字の事しか頭にはないが、彼ら二人は、中国との経済関係を断ち切ることが長期的に米国の国益に適うとしている事だ、と云うのです。確かに「ナバロ文書」にもそうした指摘は認められる処ですが、こうした発想に賛同する人達が国防総省には大勢いると云い、進歩主義的な左派で労働運動にかかわる人の中にも該当者はいると指摘するのです。そしてトランプ氏がホワイトハウスを去った後も、彼らの多くは権限ある地位に長く残るだろうと云うのです。つまり夫々の思惑は異なるだろうが、米国と中国とは長期的には戦略的なライバル関係にある事、それ故、米国の通商政策と国家安全保障政策はもはや切り離すべきでない、とする二点で手が結ばれているというのです。

更に、対中追加関税発動についてグローバル企業の経営者が口にする、高税率の引き揚げで目に見えるインフレ圧力が生じるとか、販売価格を引き上げざるを得なくなるといった不満に対して、経済タカ派は殆ど理解を示すことはなく、それどころか、西側の根本的な価値観を共有することもなく、色々条件を付けて最終的には自国の市場への平等なアクセスも認めないと云う中国に、自社の短期的な利益を優先して米国の事業を移してきたとんでもない存在だ、裏切り者だとさえ考えていると云うのです。こうした環境が、いま囁かれだす米中冷戦状況を、更に深める処となってきている処です。そして経済タカ派こそが、こうした政治・経済の環境変化に照らし、政策の方向性や世論を牛耳っていると断じるのです。

序でながら国防総省はsupply-chainを米国内に戻すことを提言する白書を作成中とかで、近々ホワイトハウスから発表予定の由ですが、中でもトランプ政権の今後の産業政策の方向として、全てを米国内で調達する、つまり「Fortress America」(要塞アメリカ)を作り上げることをめざすとしていると云うのですが、元より政治的にも現実的にも不可能な話です。が、仮にトランプ政権が米国として、そうした産業政策を進めたいと云うのであれば、欧州などいろいろな地域の貿易相手国と同盟関係を築く必要があるとも指摘するのでしたが、元より、トランプ大統領の得意とする処ではありません。

さてそんな中、ペンス米副大統領が10月4日、米ハドソン研究所(在ワシントン)で行ったスピーチは、こうした米中関係の変化を決定的なものと、印象付けるものでした。

・ペンス米副大統領の対中 ‘三行半’ 演説
10月4日、ペンス米副大統領はハドソン研究所で、`the Administration’s Policy Towards China ‘(トランプ政権の対中政策)と題してスピーチを行ったのですが、その内容は、`mobilized covert actors’ 秘密工作員を動員して「中国は米国に内政干渉しようとし、これまでになく力を誇示している」と激しく中国政府を批判する、まさに‘三行半’ものでした。以下の引用は、そのブチ切れ様子を伝えるべく、その障り、冒頭の一部を紹介するものです。

「Beijing is employing a whole -of-government approach, using political, economic, and
military tools, as well as propaganda, to advance its influence and benefit its interests in the US. China is also applying this power in more proactive ways than ever before, to exert influence and interfere in the domestic policy and politics of our country. Under our administration, we’ve taken decisive action to respond to China with American leadership, applying the principles, and the policies, long advocated in these halls.」・・・

今次ペンス副大統領のスピーチは、要は、中国が自由や民主主義と言った概念を理解していないことを糾弾し、トランプ政権が、本格的に中国の覇権拡大にストップをかけようとしていることを明らかにするもので、スピーチ後、ホワイトハウスは公式ホ-ムページにその全文を掲載(インターネトで入手可能)、トランプ政権の対中政策の転換を公式に宣言するものとなっています。この講演は11月のアジア歴訪を前にしたトランプ政権の包括的な対中政策と位置づけられるものの由ですが、1946年3月、チャーチルが「鉄のカーテン」を語って以来の歴史的演説とも評される処、まさに「新冷戦へのsignal gun」ともいうものです。

更に8日、北京で行われたポンペオ米国務長官と中国王毅外相との会談が、互への不信感をむきだしにした異例の激しい応酬(日経10月10日)に終始したと報じられていますが、係る事態とも合わせ見るとき、米中関係は長いトネル入りかと、まさに「新冷戦」瀬戸際にありと、感じさせられる処です。加えてペンス氏の発言が象徴する米国の対中強硬姿勢が、政権だけでなく与野党を問わず議会にも根強くある事が気がかりとする処です。

(2) 米中経済と、米中貿易戦争の行方

・米中経済の実態
米中貿易戦争の推移は前述の通り、両国の権威を掛けたチキンレースと映る処ですが、その実状は先に触れたように、米中の貿易不均衡改善を事由として米国が対中圧力をかけ、中国の通商面での対米依存を抑え、併せて中国が目指す技術立国「中国製造2025」の計画を押さえ込まんとするものと言われているだけに、米中貿易戦争の本質は「テクノヘゲモニー」、つまり科学技術の覇権争いと云え、簡単には収拾するものではないと見る処です。ただ、問題の中核にある米国の対中貿易インバランスの改善の可能性だけをみれば、両国経済の生業を見て行く限りにおいては、その改善の道筋は相応、見える処かと思料するのです。そのポイントはドル高です。

まず米国経済ですが、今年の2月以降、ドル高が続いてきています。これは米国経済の腰が強い事を語る処で、因みに米国の本年4~6月期GDP成長率は年率で4.1%、2014年7~9月期以来の高い数字です。トランプ氏は、ドル高は競争力を削減する要因としてnegativeですが、現実には米企業は海外市場で価格競争はしていませんから、輸出振興のためにドル安誘導は必要のない処です。米経済について今、言われる事は2005年、グリーンスパンFRB議長が「コナンドラム(謎)」と呼んだと同じような現象が起きていると云う事です。
つまり、FRBは引き締めにあるなか、景気は良いのに物価は上がらない、失業率は低下しているのに賃金が上がらないといった状況です。因みに去る5日、米労働省が発表した9月の失業率は3.7%、1969年以来の低水準です。これは新たな産業革命、デジタル革命の深化に負うものとされる処です。

尚、トランプ氏は’ America First’、`Make America Great Again ‘と叫んでいます。これは覇権国である米国を、これまで以上に強くするという事と理解される処です。つまり、America Firstを以って、他を寄せ付けることなく独自流パワーを身に付け、世界のヘゲモニーを握ろうとするものでしょうし、とすれば覇権国家として進んでいく上では財政基盤、経済基盤が欠かせませんが、これを支えるのがドル高と思料するのです。

一方、中国経済の現状ですが、去る10月7日、中国人民銀行は、15日から市中銀行から強制的に預かる預金の比率を示す預金準備率を1ポイント引き下げると発表しました。これで金融緩和は今年で3回目となるものですが、これは指導部が米国との貿易戦争による打撃で景気の先行きに危機感を抱いていることを裏付ける処です。更に、金融緩和を決めた7日の夜、劉昆財政相は追加減税を発表しました。財政と金融が揃って景気を支える姿勢を何とか演出せんとするものと映る処です。この中国を代表する2つの経済官庁のちぐはぐぶりこそは深刻化する貿易戦争への対応に不安を予感させると云うものです。
そうした中、19日、中国政府が発表した2018年7~9月のGDP成長率(実質)は前年同期比6.5%と2期連続で減退、リーマンショック直後以来の低水準に沈んでいます。この2期連続の減速は地方政府や企業の債務削減が打撃となり、投資や消費が振るわなくなった為とされる処、米中貿易戦争の風圧も強まり、先行きは更に下押し圧力が高まる見通しです。

・米中貿易戦争の行方
こうした米中経済の実情、とりわけドル高と、元安の事情に照らし米中貿易のインバランスの行方を観察すると、早晩、改善に向かうシナリオが描かれる処と思料するのです。

その理由のひとつは中国経済で進む人件費の上昇です。元より、これが輸出競争力を押し下げる処ですが、加えて米国の対中関税引き上げを受け、輸出拠点として中国に進出した外国企業が転出を図る結果、中国からの対米輸出の鈍化は避けられません。一方、中国政府は、国内の過剰生産から脱却していく為にも産業構造のハイテク化を目指しており、その為には必要となる製品の輸入は避けられませんが、ドル高の下では、中国輸入の膨張を齎すこととなり、その結果、中国の貿易収支の悪化は避けられなくなっていく事が想定されるのです。その点では習近平主席お墨付きプロジェク「中国製造2025」はもろ刃の剣、と云うよりは、輸入拡大の大きな要因になるのではと思料する処です。

つまり、ドル高、元安が進むなか、中国の対米輸入が膨らむ一方、米側の関税引き上げで中国の対米輸出が鈍化する形で、米中貿易の不均衡改善が進む事になると見るからです。と云うよりも、前述したように米国は輸出に当たって殆ど価格競争はしていない状況にあります。例えば、航空機では米ボーイングと欧州エアバスの独断場ですし、アップルのiPhoneのブランド力に代わる存在もありません。軍事装備品も同様です。つまりドル高でも彼らは買うしかない状況にある点で、対中関係での米経済の優位が確認される処なのです。

要は、貿易を名分にドル高をテコに金融戦争を仕掛け、人民元の脆弱性を知らしめる。「マーケット」はそれで「中国危うし」とみて「株」も落ちる。こうして実体経済も悪化し、中国としては何時までも突っ張ってはいけなくなる筈、とシナリオが書ける処です。 勿論、事態はそんなシナリオ通りに進むものか、環境は極めて不確実性の残る処です。因みにFinancial Times(Oct.20~21)は、元の対ドルレートは今年末、6.9, 更に来年末では7.20と元安進行を見る処です。

さて問題は、そうした米国の対中貿易赤字改善を以ってだけで、貿易戦争が終わるかと云うと、そうは問屋は許さずと云う処です。前述したように米中貿易戦争の本質は「テクノヘゲモニー」争とされる中、もともと中国潰しを指向する経済タカ派を擁するトランプ政権の行動は ‘戦争に勝利する’ことにありとされている点で、そうした‘争い’とも併せ見るとき簡単に終焉を見ることはないものと思料されるのです。ではどのような展開が想定されるかですが、神のみぞ知る処でしょうか。折しも20日、トランプ大統領は日中ロは核戦力の増強を進めているとして、米国が旧ソ連との間で結んだ中距離核戦力廃棄条約(INF)の破棄を表明しましたが、これに応える中ロの動きを見るに、何かキナ臭さを感じさせられる処です。

・日中首脳会談と中国企業、華為技術(フア-ウエイ)
序でながら、米中関係の緊張が増す中、安倍晋三首相は10月26日、北京で習主席と首脳
会談を行い、「日中平和友好条約」40周年の節目に友好ムードを高めたいとの意向と、伝え
られています。この際は国際情勢の展望を読み違えることのないように、中国との距離の取
り方には十分な注意が求められると云う処です。
折しも、10月17日、中国通信電気大手、華為技術(フア-ウエイ)が関西地区では初めてとなる研究所の新設を検討していることが明らかとなりました。同社は既に横浜市に研究所を構えていますが、更なる日本企業との連携を深める狙いかと思料される処ですが、やはり米国の仕掛けた貿易戦争にあるのではと思料する処です。つまり日本企業との連携を高め、日本の技術基盤を活かしながら、更なるグローバル化を進め、中国企業たるを理由に華為を排除する米国に対抗する狙いがあるのではと、思料されるのです。

尤も、今次日中首脳会談では新技術や知的財産権問題で新たな対話の枠組みが合意される見通しにあることから、この機会を活かさんとの思惑も窺える処です。但し、今は米中摩擦が激しいことで、中国も日本に近づかんとする構図ですが、これとて、仮に米中関係が改善すればどうなるものかですが、かかる国際情勢にあって日本企業と強固な関係を築き上げることが出来るか、推移を見極めていきたいと思うばかりです。


            第2章 安倍長期政権と日本の行方


(1) 安倍晋三首相に問われる課題

9月20日、自民党総裁選3選を果たした安倍晋三首相は、10月2日、4回目となる改造内閣を発足させました。今後順調にいくとすると首相の在任は2021年9月まで9年に及び、連続在任日数と、第1期政権を含めた合計在任日数は、ともに日本憲政史上最長となるものです。ただ、これだけの長期政権でありながら、「安倍時代」に日本はどう変わったのか、依然としてはっきりしないように思われます。何故か? 京大教授の待鳥聡史氏は、「恐らく、安定感のある外交とは対照的に、内政面で当初は比較的明瞭だった政策の基軸が失われたことにある」のではとし、「安倍政権には内政と外交の‘二つの顔’があり、両者の違いが次第に大きくなってきた」(日経2018/9/27)ためと指摘するのです。

つまり、内政では2012年末、第2次安倍政権発足時、発表された経済政策「アベノミクス」により経済再生を目指すと言う点では、その内容や方向と言った点で相応の批判はあったにせよ財政出動と金融緩和を大胆に実施し、その後は成長戦略として構造変革に取り組むという工程表は、多くの有権者にとって期待できる処、政権は「第3の矢」に当たる社会経済構造の変革には尻込みし、短い周期での解散総選挙を繰り返して当座の政権浮揚を図るという方針に転じた事が最大の問題で、そうした彼の行動がゆえに今尚、何をどうしたいのか不明瞭なままに置かれてしまっているという事です。

一方、外交では安保法制など思い切った政策を進めるために、総選挙での勝利による政治的資源が必要だったと云う事情は理解するとして、あまりにも当座に偏った動きが続いたため、日本の社会と経済を今後どうしたいのかが不明瞭になってしまっているのです。これこそは、これまで何度も本論考で安倍首相には国家観が見えない、日本の社会と経済を今後どうしたいのか見えないと批判してきた処ですが、実はこの点こそは今後、3年間で安倍政権が何を‘目指すべきなのか’に密接に関係する処です。

・今、安倍氏に求められる行動様式
周知の通り彼は総裁選で、又、改造内閣発足時の記者会見でも、最大のテーマは憲法9条を巡っての憲法改正と主張しています。総裁選での勝利で求心力を得たからという事でしょうが、であればその発想と行動様式は結局、2015年頃から続くパターンの繰り返しとなる処でしょうか。勿論、憲法改正が望ましいとする有権者は少なくはありません。然し、都度の世論調査結果では、経済や社会保障と言った内政課題に比べ、その優先度は極めて劣位にあります。という事は、それは有権者の期待する処とは聊か乖離しているという事です。

そこでまず肝要な事は、その乖離への真摯な理解、認識を確かとする事です。そして、今トランプ政権の保護主義に振り回される中、日本は自由主義を基調とした国際秩序を維持する立場を取るとしていますが、元よりその立場を強く支持する処です。が問題は、ではそれに見合う開明的、そして多様性重視の社会を目指す国内改革を進めていく事が不可避となる処ですが、さてそれに対する用意があるかという事です。 要は、国際的な保護主義の波と国内的な少子高齢化を前に、自由で活力ある社会をどう維持するか、日本の今後への構想と、それに向けた戦略アジェンダを整備し、以って広く議論を通じて有権者に訴えていく事が求められると云うものです。

長期政権の最大の存在意義は、有権者からの信任を全面活用して、困難だが不可欠な課題に取り組む処にあるのです。言い換えれば、それを見失えば、3年後は単に安倍政権の終わりではなく、日本政治にとって深刻な危機を齎しかねないと云うものです。

(2)日米貿易協議(FFR)の行方

トランプ大統領の対日貿易赤字削減要求に端を発した日米通商問題は、9月26日、NYでの日米首脳会談でひとまず決着を見ています。今回の日米首脳会談では、米中間選挙を前に2国間交渉で成果を挙げたいトランプ大統領の意向もあって、日米間の物品貿易協定(TAG)
の交渉開始で合意された由ですが、具体的交渉は米議会との関係で年明けとの見通しです。

さて交渉に臨む日本政府に、東大教授の中川淳司氏は次の三点を提案するのです。(日経9月7日)一つは、日本の農産物市場の開放、次に、知的財産、投資、国有企業の規制、そして電子取引の4分野でTPPを実質的に復活させるルールの提案、三つ目は日本企業の対米投資拡大による米国での雇用創出、です。そして日米交渉でも米国のTPP復帰を粘り強く説得せよと後押しをするのです。つまり、TPPを「21世紀の通商協定のモデル」と位置付けたのはブッシュ(息子)政権からオバマ政権までの歴代米政権。トランプ政権にTPPへの名誉ある復帰を求めて粘り強く交渉を進めることがポストFFRの日本の対米通商政策の目標となると云うのです。それにしても、やはり日本経済成長への構想力の如何が問われる処です。


おわりに 沖縄県知事選と日本のIdentity Politics

9月30日、翁長知事の死去を受けて行われた後任知事選では、オール沖縄を掲げて立候補した玉城デニー氏が、自民党等安倍政権が全面的に支援した佐喜真氏を8万票もの大差をつけて勝利しました。周知の通り、知事選最大の争点は、普天間基地の名護市辺野古への移転の是非でした。玉城氏は「県内に新たな米軍基地はつくらせない」と訴え、8月急逝した翁長前知事が作った保革相乗りの「オール沖縄」の枠組みを再現したのでした。翁長前知事はかつて自民党に属していて、日米安保体制にも在日米軍の駐留にも賛成していたのです。ただ掲げていたのは「沖縄の過重な負担の解消」だったのです。にもかかわらず、安倍政権は翁長氏を反米主義者の様に扱い対決姿勢で臨んだのでした。振興予算を削るなど「兵糧攻め」のようなこともしています。こうしたやり方が結果として翁長氏を引き継いだ玉城氏に追い風となったと思料されるのです。

その翁長前知事を送る県民葬が10月9日行われました。会場では玉城新知事は式辞として翁長氏が主張していた「イデオロギーより、アイデンテイテイー」を繰り返し、その思いと、遺志を引き継ぐと約していました。さてその後に立った菅官房長官が代読した安倍首相からの追悼の辞は、玉城氏が8万票の大差をつけて当選した背景にあるある民意を一顧だにすることもなく、淡々と「沖縄県に大きな負担を担っているこの現状は到底是認できるものではない」、「基地負担の軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意」にあると云うものでした。その直後、参列者からは「嘘つき」などと怒りの声が飛び交い、会場は一時騒然としたのです。この県民葬で浮かび上がったのは県と政府の溝の深さでした。

さて、日米両政府が普天間基地の返還で合意したのは22年前、1996年の事です。今更白紙撤回で、改めて移設先を探すのも現実的ではないでしょう。他方、基地は作ればいいと云うものでもありません。米軍将兵にも生活があり、地元住民の協力なしには円滑な運用は難しいと云うものです。問題はこの二つを両立させるには、どう考えて行けばいいのか、つまり、そのための構想力が改めて求められる処です。12日には、安倍首相は玉城知事と官邸で会談しました。が、安倍首相の姿勢は日米運命共同体の発想から一歩も出ることもなく、17日には政府は県による埋め立て承認撤回への対抗措置を指示したのです。安倍首相はどうも「嘘つき」政治にご執心ようです。(2018/10/26記)
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2018年09月27日

2018年10月号  Identity Politics , そして Liberal Order の行方 - 林川眞善  

目 次
    
序 論   Identity Politics , WTO and Silicon Valley
  
第 1 章  Identity Politics と 民主主義   

(1)Identity Politics と米民主党の変質
  ・トランプ政治とIdentity Politics
・変質する米民主党
(2)Identity Politics は民主主義の危機
    - Francis Fukushima氏の反論

第 2 章 リベラルな国際秩序の行方       

(1) 戦後「国際秩序」生成の生業
  ・戦後国際秩序としての国連誕生
  ・国連常任理事国
  ・冷戦の終焉
  ・J.アタリ氏の信念
(2)「多様性を受け入れる秩序」
  ・リベラルな秩序
  ・JFKの示唆

 おわりに 安倍晋三氏の自民党総裁3選に思う  
  ・民主主義政治の基本は‘プロセス’ 
  ・創刊175年の英経済誌 `The Economist ‘


         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

序 論  Identity Politics , WTO and Silicon Valley


ドナルド・トランプ氏が米大統領として世にその存在を示したのが2017年1月。爾来、僅か1年8カ月、米国政治の風景は様変わりとなってしまいました。勿論、新たな大統領の登場は、新たな政治方針と政策を以って政治に臨むわけでしょうから、当然の結果として政治は変化を遂げ、進化をも示す処です。然し、殊トランプ大統領について言えば、これまでの米大統領に見る姿、つまり戦後一貫して、自由経済を支え、そして世界秩序を堅持してきた、言うなれば世界に対する‘責任’を矜持ともしてきた大統領の姿はなく、あるのはAmerica first、つまり自国利益を求めて進む姿であり、対外的にはAmerican retreatを映す処となっています。元よりこれが、米国の政治、経済、そして産業の在り方に強い変化をもたらす一方、世界経済運営の枠組みすら否定するほどになってきています。その変化はずばり‘後退’の変化と云う他なく、そうしたトランプ氏については、米国の役割、つまり国際秩序の堅持に異議を唱えた初の大統領として明記されていく事になるのでしょう。

尤も彼だけが異質と云うわけではありません。1971年8月のニクソン・ドクトリンでは、国際金融システム、金ドル交換制度の停止、輸入課徴金の実施と云う、国際秩序に背を向けた例もあるのですが、ただ基本的な違いは後述するように、大統領選を通じて、今もそうですが、いわゆるタブーとされてきたraceへの意識、Identityを鮮明として、言うなれば「人種政治」を訴えた事が功を奏する処、それを「米国第一主義」と結び付けた政治、貿易、更に産業運営が行われている点にあると云うものです。そうした米国の変化を伝えるkey words として挙げられるのが、Identity Politics (政治)、WTO(経済)そしてSilicon Valley (産業)の三つです。

まず、Identity Politics です。これはトランプ大統領の言動に刺激され、人種を意識した、これまでのliberal democracyとは次元を異にする政治、弱者集団の声を代弁する「人種政治」(アイデンテイテイー政治)とされる動きです。とりわけ米国のDemocratic Party(民主党)がこのIdentity Politicsに舵を切りだしたと云われていますが、極めて注目される変化です。元よりこれが米国の政党政治に強い影響を与えると共に他諸国でのポピュリズムにも強く反映する処です。因みに9月9日、スエーデンで行われた議会選挙では「反移民」を掲げる極右・民主党が躍進。更にリベラル思想の旗手とされるドイツで排他主義が広がってきたこと、元よりこうした政治潮流が欧州全体の政治危機に繋がると、その危うさが伝わる処です。 
(注)Identity Politics :何かの属性に起因して社会から奪われた価値を取り戻し、政党に承
 認を得られる状態を実現するための運動と定義されるもの。

次にWTOですが、それは戦後の自由主義貿易の砦とされる、米国が主導してきた多国間協議の国際機関です。にも拘わらずトランプ米政権は、国内産業の復活、雇用機会の確保を理由に、WTOに諮ることもなく輸入規制策を強硬。つまり、当該二国間交渉による関税の見直しを通じて米国の貿易赤字是正を迫るトランプ流Deal 外交戦略ですが、とりわけこれが米中間での関税報復合戦を招来する等、まさにWTOの存在を否定する如きです。戦後の国際秩序の下、培われてきた自由貿易のシステムが壊れだしたと云うべく、その点では環境変化に対応できるWTOへの改革が喫緊の課題となっており、先の論考でも指摘の通りです。

そしてSilicon Valley。世界の技術革新を圧倒的にリードしてきた米国 シリコン・バレーに陰りが出てきたという事態です。9月1日付The Economist誌の特集`Peak Valley’ は極めて刺激的なリポートでしたが、シリコン・バレーの相対的な凋落が、競合する活発な技術拠点の交流を告げるものであるなら歓迎されるべき変化でしょうが、当該陰りとは、世界中で技術革新が難しくなっているのではと、警告を発するものでした。係る事態も例のビザ発給問題に象徴されるトランプ流人種政策が影を落とす処と云うものです。

さて、世界貿易の関税報復合戦(注)は、これまでも当論考で、縷々報告してきた通りで、とりわけ米中の報復合戦はチキンレースの様子を呈し、推移しています。又‘シリコン・バレー’の翳り論も大変な問題ですが、これについてはIdentity Politicsの文脈において捉えていく事も可能です。 そこで今次論考では、三つのkey words の内、Identity Politics をテーマに論じる事とし、更に、そうした環境にあって、今後とも求められる国際秩序とはどのような姿であるべきか、ヨーロッパ最高の知恵と言われるフランスJ.アタリ氏、そしてハーバード大の政治学者G.アリソン教授の著作を介して考察する事としたいと思います。

     (注)トランプDeal 外交の現場(9/24現在):
   ・米欧協議:7月25日、自動車を除き、関税撤廃交渉入り(9月10日交渉再開)
・NAFTA協定交渉:8月27日「米墨改訂合意」、「原産地規則」改訂(実質Buy American)。
賃金条項、自動車数量規制; 8月28日「米加交渉」→ 9/11再開 → NAFTAの行方。
・日米協議:8月9・10日仕切り直し→対日赤字是正圧力とFFR協議(9月24日再開予定)
尚、9月26日、NYで日米首脳会談予定
      ・米中協議:上記通商拡大法232条(安全保障対応)に加え、301条(不公正貿易慣行対応)を
       適用。対中制裁関税の決定― 米対中制裁関税 第1弾~3弾:2,500億ドル、中国の対米
       報復関税:1,100億ドル(8月23日、制裁関税第2弾発動、9月24日、第3弾、発動)
     



            第1章 Identity Politics と 民主主義


(1)Identity Politics と 米民主党の変質

・トランプ政治とIdentity Politics
米国の指導者がいつも戦後秩序の守護神、自由貿易の旗手であって「トランプ大統領が例外」かと云えば必ずしもそうではない事、前述したとおりです。
第37代米大統領、ニクソンは1971年8月15日、「金・ドル為替制度」の廃止と一律10%の輸入課徴金導入の決定、つまりニクソンショックです。その際、彼は次の様に演説しています。「米国は過去25年、欧州やアジアの自立の為に巨額の支援をしてきた。今日、彼らは経済的に強くなったのだから世界の自由を守るために応分の負担をすべきだ。為替相場について米国が手を縛られて競争する必要は何もない」と。

一方、今年2月28日、トランプ大統領は「米国の貿易政策と年次報告」を議会に提出していますがその際のスピーチも、上記ニクソンの口調に似るものでした。つまり「中国や日本、韓国のために膨大なお金が失われた。過去25年と同じままにしてはおけない」と。そして「米国第一主義」の下、貿易赤字の原因を相手国の輸入障壁に求める論理などはまさに、戦後国際秩序に背を向ける姿勢と云うものです。

然し、そうしたトランプ流米国主義がこれまでの政治と一線を画すのが、大統領選を通じて彼が訴えてきたポイントの違いです。つまり、いずれの大統領も「自分なら経済を再建できる」と云わずして当選したリーダーはいませんし、トランプ大統領も同様、貿易戦争にその解を求める形をとっています。ただ彼が大統領選で取った戦術は(今もその延長線上にある処)、そのポイントを明らかに‘人種’(特に低所得の白人労働者)に置いていたことでした。

アメリカ国民の多くは世界と断絶したカントリーにあって幸せに生活ができ、従って友人によれば、彼らにとって中央政治はゲームでありshowでもあったと評するのですが、米国の国力が高い間はともかく、グローバル化に取り残された彼らは、国力の相対的低下に伴って不満を募らせ、それが反自由主義経済に繋がる処ともなってきたというもので、実はそのことにワシントンは鈍感であったと云われています。そこに注目してトランプ氏を当選させたのが、道徳よりも損得を振りかざし選挙参謀をやり遂げたバノン氏で、その彼が照準を合わせたのが白人の低所得労働者であったと云うものですが、その思考様式が‘現在も善’とする空気にある処です。

つまりトランプ大統領の言動に刺激され、前述したように、人種を意識した、これまでのliberal democracyとは次元を異にする政治、弱者集団の声を代弁する「人種政治」(アイデンテイテイー政治)が露わとなり、米国の政党政治に強く影響を与え出したというものです。

さて、アイデンテイテイー政治が進むとなれば、それは‘人種のるつぼ’と言われてきた米国のような国では、社会の分断を招きかねないとの懸念の高まる処、実は民主党、Democratic Partyが, このIdentity Politicsに舵を切った事で注目を呼ぶ処となっているのです。これまでの米国政治にあっては、Minorityは民主党を支持し、共和党は白人票を得てきたとされていますが、トランプ大統領の言動、更には人口構成の変化が、民主党の目を更にMinorityに向けさせていく事になると見られるからです。

・変質する米民主党
Financial TimesのCommentator, Janan Ganesh氏は、この民主党の姿勢の変化について`US Democrats are re-discovering identity politics ―Trump’s conduct in office has sapped that race could be transcended ‘(Aug 16,2018)と題し、次のように指摘するのです。

「‘人種を考慮する政治’と言う点では、共和・民主の両党とも同じスタンスにあり、これまで民族多様化を政治戦略として織り込むことは、白人労働者の支持層を失う事に繋がるとして、両党はそれぞれ「自党の」有権者に訴えてきた。それもほぼ暗黙の訴えだった。とりわけ民主党(の上層部)は、これまで米国民は米国民として扱うべきであって、複数の民族的な集団の集まりとしてみるべきではない、とする合衆国の理念に基づく信念があって、アイデンテイテイーに基づく政治と、国民を一つと捉える思想が示すベクトルは異なるとして距離を置いてきた。然し今,この二つの距離が縮まってきているが、それは選挙戦での配慮からくるものと言え、この姿はトランプ大統領のlegacy「遺産」の一つとして語られるであろう。実際、民主党の有力者の中からも、人種を大義に掲げる人達が現れれている。民主党がこれほど人種を意識する事は88年のJ.ジャクソン牧師以来の事」と云うのです。

つまり、トランプ大統領の行動が、人種の壁は乗り越えられるとする民主党の基本信念を蝕みだした結果、対象者を明示せざるを得なくなってきたことで、両党とも、各民族集団に向けて言葉を尽くして訴えだしたと云い、これこそは新たな「人種政治」と指摘するのです。ただ、「トランプ大統領が去り、共和党がトランプ以前に戻ったなら、民主党もまた、オバマ時代やクリントン時代のように人種問題に対して実務者的な抑制を利かせる姿勢に戻るかもしれないが、この国(米国)にとって恐ろしいのは、共和党と民主党のどちらもが、以前の状態に戻らない場合で、その先にあるのは細かく分断された社会でしかない」と思いつめた様子で締めています。要はこのまま「人種政治」が進むという事は国の分断を意味するばかりと危惧するのですが、やはり気がかりな事と云う他ありません。

(2)Identity Politics は民主主義の危機 - Francis Fukuyama氏の反論

さて米国際政治学者Francis Fukuyama氏 (注)は近着Foreign Affairs (Sep./Oct. 2018) に寄せた論文「Against Identity Politics ― The New Tribalism and the Crisis of Democracy」で、Identityと云う属性をベースとした云うならば同族意識に訴える政治、Identity Politicsは、民主主義にとっての危機だと批判しつつも、これが国としての一体感を図る戦略的機会と受け止めるべきと、そのスタンスは極めてユニークです。そこで以下で、当該論文をレビューすることとします。

     (注) Francis Fukuyama 氏と云えば「歴史の終わり(The End of History and the Last man,1992)」
で世界的に著名な政治学者です。そこでは1991年12月のソ連邦崩壊を以って米ソを2極と
した冷戦構造は瓦解. その結果を民主主義と自由経済の勝利とし、その後は米国を一極として
国際社会の平和と安定が無期限に維持される、とする仮設を展開するものでした。然し,そこで
語られた仮説は、21世紀に入り中国の台頭、ロシアの復権等、更には今日のトランプ政権が進
めるAmerica firstの戦略を受け、その修正が余儀なくされる処です。

まず彼は、21世紀に入ってからの世界経済は、2007-2008の世界金融危機、2009年のユー
ロ危機によって大恐慌をきたし、世界的な高失業と雇用労働者の収入の大幅減少を齎して
いった事で、欧米が主導してきた自由民主主義への信頼を損ねる結果を生んだ。そして驚く
べきは2016年の米英での選挙結果で,英国では有権者はEUからの離脱に賛成投票し、米
国ではトランプ氏が大統領選に勝利した事、つまりpopulist nationalism が勝利した事と云
い、係る展開は経済とテクノロジーの革新的発展でグローバリゼーションの流れが変化し
てきた点に負うものとし、同時に従来見られなかったような現象、rise of identity Politics、
人種政治の招来を生んだと、その経緯を総括し、そうした変化の中で進む米国の2大政党
政治の変質に触れ、次のように語るのです。

つまり、20世紀の政治の大半は経済問題に集約されてきた。 ‘左’陣営は労働組合、社会保
障、分配政策が政策の中心にあり、‘右’陣営は、小さい政府、企業の活性化に政策の中心に
あったが、今日では経済やイデオロギーが問題ではなく、identityが問題となってきたと云
うのです。確かに、多くの民主国家では今、左翼は経済的平等にはそれほど意を用いること
はなく、移民やマイノリテイや難民、女性等々に関心を集め、一方の右翼は伝統的な国家意
識と共に、時に人種や民族意識を強調するように変わってきたことで政治的な焦点がshift
し、いつしか移民問題にフォーカスされる処となっていると云うのです。

もとより、先進国における人口の減少を考えると、移民の受け入れは避けられない事であり、むしろそれを積極的に受入れていくべきで、ただ問題は受け入れた移民を単にチープ・レーバーとすることなく、成長産業に対応していける教育を戦略的に施していくべきで、従ってこれを成長の機会と捉え、移民の戦略的受容を進めていくべきで、それは同時に民主主義をかく乱させているポピュリストたちへの矯正策ともなるとして、ことさら人種にウエイトを置くidentity politics に疑問を呈するのです。 
― People will never stop thinking about themselves and their societies in the identity terms. 
But people’s identities are neither fixed nor necessarily given by birth. Identity can be used to
divide, but it can also be used to unify. That, in the end, will be the remedy for the populist
politics of the present.

要は、今見るトランプ・アメリカの政治は「小さな政府」を標榜する保守派(共和党)と「公
正な富の分配」を唱えてきたリベラル派との政策上の対立のように見えるが、Fukuyama氏
は従来のような「パイ」を巡る経済闘争でもなければ、イデオロギー闘争でもないとするも
のです。言い換えると、この政治闘争は物質的な利益を巡る対立と云うよりも自らの存在を
社会に認識させようとするアイデンテイテイ闘争だという事でしょうか。彼はこうした現実
をIdentity Politicsと表現しているという事のようですが、であればIdentity Politicsとは
「アイデンテイを巡る政治闘争」とでも訳すべきかとも思料する処です。
因みに日本でのIdentity Politicsと云えば「中央政府の意向は関係ない。要は沖縄県民の意志」として、All Okinawaのスローガンを掲げ沖縄知事選に勝利した故翁長氏こそは、その最たる事例ではと思料される処です。その後任の沖縄県知事選は9月30日に行われます。

尚、9月11日、ニューヨークでは当該論文を拡充した新著「Identity: The Demand for Dignity
and the Politics of Resentment (尊厳への要求と憤りの政治)」が発売されたとインターネッ
トで承知しました。さぞ更ななる話題を呼ぶ処かと思料するのですが、この際思い出すのは
彼の言です。「現状を改善するための特効薬薬はない。・・インターネットの登場でエリート
はその影響力を失いつつある。民主主義というものは恐らくある程度エリートがコントロ
ールしなければ正常には機能しないと思う」と。[Democracy needs Elite (民主主義はエリ
ートを必要としている)]

`Identity Politics’を巡る政治の現実を語るFinancial Times とF. Fukuyama氏のIdentity Politicsへの理解のスタンスの違いに痛く感じさせられる処です。


第2章 リベラルな国際秩序の行方


現時点で痛感される事は、政治も企業も、米国のみならず他諸国もトランプ流に振り回
され、長期の視野を見失いつつあることではと思料するのです。つまり liberal democracy
の今後をどう考えて行けばいいのか、「国際ルールに基づくリベラルな秩序」への危機感が
募る処、そうしたテーマに迫る有為な文献、二つが今、手許にあります。

一つは、フランスのジャック・アタリ氏の最近刊「新世界秩序」(山本規雄訳, 作品社2018/7)
です。彼は周知の通り、ヨーロッパ最高の知恵と言われ、ドイツ再統一、EU成立を実現さ
せた陰の立役者と言われ、ベルリンの壁崩壊後の東ヨーロッパ復興を目的とした「ヨーロッ
パ復興開発銀行」初代総裁にもあった仁です。同書でJ.アタリ氏は、グローバル化が齎した
欠陥が、不平等の拡大、環境破壊、宗教原理主義、ポピュリズムの台頭など目に見える形で
露わになったいま、どのようにして「新秩序」が形成されることになるか、「古代・中世の
世界秩序」、そして資本主義による「世界秩序の進展」について歴史的史観を以ってレビュ
ーし、「世界秩序の現在」更に「21世紀の新世界秩序」について、そのあるべき方向につい
て語るものです。

もう一つは、「リベラルな国際秩序」について、ハーバード大学のG.アリソン教授(注)が日本版フォーリン・アフェアーズ・リポート(2018,N0.8 )に寄稿した論考「多様性を受け入れる秩序へ -リベラルな国際秩序と云う幻」です。そこでは巷間、リベラルな国際秩序として指摘される三つのコンセンサスを整理し、それらの持つ誤謬を指摘した上で、1963年にJ.F.ケネデイがアメリカン大学の卒業式でおこなったスピーチをリフアーし、自由主義国家であれ、非自由主義国家であれ、「多様性を受け入れる」世界秩序を維持することで十分ではと、主張するものです。

     (注) Graham Allison : ハーバード・ケネデイ・スクール初代院長。レーガン~オバマ政権
      の歴代国防長官の顧問を務める。現在の米中関係について、‘ツキデイデスの罠’から逃れる事
は現実的に可能として、両国が戦争に落ちらないことを指摘した仁です。

そこで以下では、この二つの文献を介して、戦後(1945年~)から今日に至る国際秩序の在り姿をレビューし、トランプ米大統領の台頭が齎している、いわゆる‘混乱’が進む中、今後の秩序とはどうあるべきなか、その方向について考察することしたいと思います。

(1)戦後「国際秩序」生成の生業

・戦後国際秩序としての‘国連’誕生
第二次世界大戦終結1年前の1944年2月、米法学会が招集した専門委員会で、人間の基本的権利に関する報告書「世界人権宣言」が策定され、1944年4月19日、ローズベルト米大統領はこう宣言しています。 「持続的な平和の条件は、経済に関する制度が健全に組織され、人間的な労働、社会的地位の向上、正規雇用、然るべき生活の保障によってそれが強化されない限り、確保されない」と。ローズベルトにとって、平和の中でも経済的次元はアメリカ流のグローバル化を意味する処です。

同じ頃、ニューハンプシャー州の小さな町ブレトンウッズで、大西洋憲章(注)で予告された国際金融機関設置に関する交渉がアメリカ代表の財務次官補ハリー・デクス・ホワイト、イギルス代表団に参加していたジョン・メイナード・ケインズとの間で交渉が行われ、紆余曲折、最終的に国際金融基金(IMF)の設立が決定されています。この基金の使命は周知の通りで、世界レベルで貿易収支の均衡を促すこと、通貨に関して国際的な協働関係を作ること、為替相場の安定をはかること、多国間決済制度創設を援助すること、収支悪化に苦しんでいる国に融資すること、でした。そして世界中央銀行として国際復興開発銀行(世界銀行)が創設され、IMFと共にその本部はワシントンDC、ホワイトハウスからほんの数メートルの位置に構えることになった事で以後、世界の金融政策をワシントン・コンセンサスと称せられる処です。
        
(注) 大西洋憲章:1941年8月14日、米ローズベルト大統領と英国チャーチル首相と
の共同宣言で、第2次大戦後の平和回復のための基本原則(自由貿易の拡大、経済協力
の発展、安全保障のための仕組みの必要、等)を纏めたもので42年1月1日の連合国共
同宣言にも取り入れられた。尚、交渉が北大西洋上の英軍艦(Prince of Wales 号)と米
巡洋艦(Augusta号)上で行われた事で、一般に大西洋憲章(Atlantic Charter )と呼ぶ。

・国連常任理事国
一方、1944年8月21日ワシントンDCのダンバートンオークスという名の邸宅では、米英、ソビエト連邦、中国の間で国際連合設立のための会合が開かれています。そして新設の国際組織(国連)が十分な効力を持つよう、総会より上位に安全保障理事会を置き、その決議だけが法的拘束力を持つものとしたのです。その狙いは、手中にある世界統治が別の国に逃げていかないよう米国は安全保障理事会に拒否権を持たせる事とし、ダンバートンオークスに集まった3か国にもその権限を付与し常任理事国としたのです。果せるかな、1945年10月24日、51か国に署名され、国連憲章の発効を以って戦後世界の秩序へのシナリオがスタートしたのです。その際、フランスもなんとか常任理事国に滑り込むことに成功していますが、それは英国がソビエト連邦に対抗してヨーロッパ大陸の安全を確保するためには、フランスが必要との判断にあったと云われています。この間いくつもの国連専門機関が生まれていますが、米国は、自分たちが最も「重大」と見なす組織(IMF,世銀、GATT)については国連総会の支配下に置かないよう細心の注意を払い、それら組織の中枢に特殊な内部統制機能を残したままとして、自分達がその中枢の権力を完全に手中に収めたという事です。

・冷戦の終焉
一見、順調なスタートに見えた国連ですが、1947年スターリンがコミンテルの後身としてコミンフォルム(共産党・労働者党情報局)を新設、49年にはソビエト連邦が核保有国になるや、米国とソ連の間の「冷戦」は苛烈なまでに進行しましたが、1989年11月9日のベルリンの壁撤去に象徴されるソ連邦の崩壊で冷戦に終止符が打たれ、更に91年7月にはゴルバチョフが無策にもG7ロンドン・サミットに出席、それがモスクワでの彼の信用が失墜、保守派分子に因るクーデタを促し、更にソ連邦の解体を招くことになると共に史上初めて国際機関に「グローバル・ガバナンス」の表現が登場したのです。まさに‘冷戦’の終わりです。米国は唯一の超大国となり、「一極支配の時代」が云々され、冷戦後の世界を「新世界秩序」として語られるようになり、前述のFukuyama氏の「歴史の終わり」が始まるのですが、その仮説が修正を余儀なくされていく事情は先に見た通りです。

・J.アタリ氏の信念
J.アタリ氏は上記、世界の統治環境に照らし、なお信念を曲げずに現状を粘り強く改革していく事で、その先に将来の姿も浮かび上がってくる、「民主主義的な世界秩序」(世界統治機関)の方向に進む以外にないと、主張します。とすれば‘国際的な正当性と法の支配の象徴’である国連を強化していく事が具体的課題と映ります。ただ、実践的な力と強さを体現できる米国がトランプ政権の下、国連を忌避し、プーチン・ロシアも挑戦的姿勢にあるだけに、soft powerを発揮する民主主義の国が受け身の姿勢を取っていては、国際秩序は粗暴な力によって形作られかねません。そこで民主主義諸国が協力関係を強めることが不可避となる処です。そして何よりも重要な事は、8月に亡くなった前国連事務総長コフィー・アナン氏に代わる人物の確保です。 尤もこれら流れも、11月の米中間選挙次第ではと思うのですが。

(2)「多様性を受け入れる」秩序

・リベラルな秩序
さて、ハーバード大のG.アリソン教授は、リベラルな国際秩序を巡るコンセンサスとされる理解には誤解が多いと指摘するのです。

まず、「リベラルな秩序」を、この70年に及ぶ大国間の「長い平和」を実現した最大の前提と見なす考え方について、「長い平和」はリベラルな秩序の賜物ではなく、45年に及んだ冷戦期における米ソ間の危険なパワーバランスに負う平和であり、それは冷戦秩序だったと一刀両断です。アメリカは西ヨーロッパ再建の為にマーシャル・プランを実施し、IMFと世銀を創設し、世界の繁栄を促すためGATTを纏め、そして西ヨーロッパおよび日本との積極的な協力関係を維持するために、NATOを創設し、日米同盟を築いたが、これら構想はソビエットの打倒を最大の目的とする秩序を支える支柱となるものだったと云い、逆に言えばソビエトの脅威がなければそうした構想は必要なかったと云うのです。

そしてソビエトの崩壊、ロシアのボリス・エリツエン大統領による「共産主義を葬り去る」キャンペーンを経てアメリカは勝利し、一方、自由を手にした東欧市民は、市場経済と民主主義を受け入れ、ジョージ・H・Wブッシュは「新世界秩序」を宣言。その後アメリカは「関与と拡大」の旗印の下、リベラルな秩序への参加を求める各国を歓迎していったことで冷戦の終結がアメリカの一極支配を齎し、リベラルな秩序はその副産物だったとするのです。

ただ、冷戦終結が齎したのが「一極支配の時代」ではなく、「一極支配の瞬間」だったことが今や明らかと。つまり今日、権威主義の中国が華々しく台頭し、多くの分野でアメリカのライバルとなり、様々の領域でアメリカ以上の力を持つようになった事、また強引で非自由主義的なロシアが核の超大国として復活し、軍事力を用いてヨーロッパの国境線や中東における力の均衡を揺るがさんとする中、アメリカの衰退をそこに見ると云うもので、この衰退は「アメリカのリーダーシップ」という言葉の持つ説得力を奪っていると云うのです。前述、Fukushima氏が言う「歴史の終焉」は、終わったと云う処です。

アメリカが生き残るには外国とのより深いかかわりが必要と結論付けたのは、大恐慌と第2次世界大戦の直後だけで、ソビエトが世界の脅威となる帝国を建設しようとしていると認識したが故に、戦略家たちは冷戦を戦うための同盟と制度・機構を構築し、これを維持してきたが、それはトルーマン政権が纏めた冷戦戦略、国家安全保障政策文書、NSC-68(月例論考8月号参照)にあるように、その取り組みの目的は「基本的な制度と価値観を損なうことなく自由国家アメリカを維持していく事」にあった、つまり米国の世界関与を促したのは、自由主義を世界に拡大したい、国際秩序を構築したいと云う思いからではなく、国内でリベラルな民主主義を守るための必要性に駆られての事だったと断じるのです。

・JFKの示唆
世界におけるアメリカンパワーの衰退、米政府の機能不全が囁かれる中、民主的統治の価値を信じるアメリカ人にとって大きな課題は、まさに国内で機能する民主主義を再建することに他ならないと。幸い、その点では、中国人やロシア人、その他の国の人々にアメリカ人の自由思想を受け入れてもらう必要はなく、他国の政治制度を民主体制にと迫る必要もなくなった環境にあっては、前述したように、ケネデイが1963年、アメリカン大学で行ったスピーチ同様、「多様性を受け入れる」世界秩序を維持するだけで十分ではないかと、主張するのです。つまり、他国には統治についてアメリカと異なる考え方があり、彼ら自身のルールにもとづく国際秩序を構築しようとしている現実に合わせ、アメリカの国外での取り組みを変えて行けばいい事と、云うのです。

但しこうした多様性を受け入れることが出来る最低限の秩序を実現するにも、現在の社会通念を遥かに超える戦略的想像力が必要となると云うのです。それは米外交官、ジョージ・ケナン(注)が作り挙げた冷戦戦略が、1946年のワシントン・コンセンサスを遥かに超えていたようにと、云うのですが、さていかなる戦略が予想できると云うものでしょうか。

     (注)G. Kennan::1946年モスクワ米大使館代理大使にあったケナンは当時のソ連の行動を分
析し「長文の電報」でワシントンに報告したことで有名な外交官で、事後、以ってトルーマン
米国の冷戦外交の基本方針とされ、ソ連封じ込め政策の立役者とされる仁。

要は、アタリ氏の信念たるグローバルな秩序構築を目指すべき事。一方アリソン氏が示唆するように各国はそれぞれの事情に即した秩序対応を進めるとして、それでもやはり重要なことはグローバル秩序との合理的な接点づくりではと思料する処です。


おわりに 安倍晋三氏の自民党総裁3選に思う

         
・民主主義政治の基本は‘プロセス’
9月20日、安倍首相は自民党総裁選で3選を果たしました。安倍氏の勝利は、経済の好調、外交での実績と、党もメデイアの多くも指摘する処です。確かに、異次元緩和策に代表されるアベノミクスで市場は円安、株高となり、多くの企業は増収増益。有効求人倍率はバブル波の水準まで回復。従って安倍政権の継続は政策の安定と、市場からは大いに評価される処でしょうし、外交についてもG7では最古参リーダーとして彼への信頼感は高まっており、これが日本への信頼感に繋がってるという事でしょうか。

然し、総裁選を通じて、アベノミクスの出口戦略が取りざたされるようになった今、望ましい経済政策の議論は深まることもなく、安倍氏は唯々「戦後日本外交の総決算」だ、「憲法改正を任期中に」と叫んでいます。とりわけ憲法改正については、何故改正が必要なのか、その緊急度は?ですが、国の屋台骨たる憲法の改正ながら、そのking pinたる国家観が示される事もなく、云うならば思い込みだけで動く姿と映る処です。それは先の‘蕎麦屋談義’で終始した国会運営で見せた彼の限りなく不誠実な姿を映す処と云うものです。 因みに総裁選では、安倍氏は党員・党友による地方票と国会議員票、併せて807票中553票、7割近い得票を得たと誇示しています。然し、地方票では安倍氏の224票に対し、石破氏のそれは181票と当初の予想を上回る結果でしたが、それは在京の国会議員票はともかく、地方ではアベ批判が高まっている事を物語る処です。彼はそうした党内批判に意を介することもなく、要は不都合な事実には蓋をするが如き振舞いですが、より気になる事は、選挙戦最終日の秋葉原での街頭演説では、公共の場で行われていたにも不拘、安倍支持の市民以外はその場から排除するような整理が行われていた事です。安倍政治の不具合さを露わとする処です。

こうした安倍政治の実像に接する時、痛感させられる事は、 ‘数’が決定するのが民主主義とする姿が透けて見えてくることです。民主政治とは、国民の意見を広く重ね、万機公論を以って政策決定がなされるべきが筋であり、まさに「プロセス」にその本質があるのです。彼の政治行動は、そうした事への不安を募らせる処です。そこで、そうした事への対抗として、この際はこれまでの政策を総棚卸し、国民に見える形で政策の再整備を図り、以って日本の指針を明示していくこととすべきと、思いを痛くする次第です。

・創刊175年の英経済誌‘The Economist’
序でながら、先週届いたThe Economist( Sept. 15~21) は創刊175年(1843~2018)を祝すものでした。同誌は、1843年9月、スコトランド出身のJames Wilsonが立ち上げた経済誌ですが、その特集記事によると彼が目標としたのはfree trade, free marketsそしてlimited governmentで、その拠って立つのがliberalismだったというのです。そのliberalismから一歩も引くことなく今日に至ったその歴史が、世界が誇る経済誌たらしめてきたと云うものです。同誌はこの175年を機に、改めて創業の理念を忘れることなく、wariness, optimism, purposeの3点、つまり変化を常に注視し、常に前向きに、そして目標を曖昧とすることなきを基本原則として、次の175年に臨んでいくと、意気込みを伝えています。期待する処です。この175年の内、凡そ50余年、筆者も大いにお世話になってきました。そこで改めて祝意を表したいと思います。 `Congratulations on the Economist’s 175th anniversary ‘
                                   以 上
(2018/9/26記)
posted by 林川眞善 at 17:28| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2018年08月29日

2018年9月号  トランプDeal外交と対峙する世界 自由貿易の行方と、世界貿易体制 - 林川眞善

目  次
         
序 章  米経済とトランプDeal外交       

(1)米経済成長と自由貿易体制
 ・トランプ政策リスク
 ・グローバル経済と揺れる自由貿易
(2)トランプDeal外交の現場の今
 ・米欧貿易交渉は休戦状態              
 ・日米貿易交渉は仕切り直し
・米中’摩擦‘は今や、‘貿易戦争’            

第1章  米中貿易摩擦の実相

(1)米国の対中貿易赤字の推移
 ・米中包括経済対話メカニズム 
・対中制裁関税措置の実施             
(2)米中貿易戦争の真相 - 米国の不満と不安
 ・米中貿易戦争は無期限?

第2章  自由貿易体制と日本の針路

(1)自由貿易とWTO
 ・WTO改革へのシナリオ
(2)日本の針路

おわりに  Mr. Thomas Friedman, Again       
 ・2018年度経済白書   
                
     

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
序 章  米経済とトランプDeal外交

(1) 米経済成長と自由貿易体制

7月27日、米商務省が公表した第2四半期(4~6月期)の実質GDP(速報値)は、個人消費、設備投資の好調を映し、前期比年率換算で4.1%増、前期の2.2%から大幅に加速、約4年振りの高い成長でした。元よりトランプ政権が実施した大型減税措置に負うものですが、まさに米経済は主要国で「一人勝ち」に近い状況を呈する処です。勿論トランプ氏は、その結果に興奮、数値が発表されるや勝利宣言もどきにGDP成長の成果は全世界の垂涎の的と云い放っています。まるでTrump 商店のCEOっていった様相です。

`This is an economic turnaround of historic importance. These numbers are very, very sustainable . This isn’t a one-time shot, predicting `outstanding’ third quarter growth. We’ve turned it all around. We are the economic envy of the entire world.‘ ( Financial Times, July 28~29 )

それに先立つ7月6日、発表の6月雇用統計(速報値)では景気動向を敏感に映す非農業部門の雇用者数が前月比21.3万人増で、雇用環境に底打ち感が出たとされる処です。彼は大統領選公約に「米国に雇用を取り戻す」としていましたが、以って、今秋の中間選挙に向け勢いを得る処です。 以前、日経コメンテーターの菅野幹雄氏がAmerica firstの一言を以って、戦後米国が築いてきた秩序を崩し始めている様相を、ワシントンで目撃する ‘倒錯の構図’ とし、「深刻に感じるのは、戦後秩序の危うい変調と裏腹に、米国世論に ‘トランプ流’ への評価が芽生えているように見えることだ」(日経 5月23日)と記していた事を思い出すのですが、その状況は更に深まる様相に、極めて気がかりと云うものです。

・トランプ政策リスク
ではそうした米経済の先行きは?となると、全く予断を許す状況にはありません。問題はずばりトランプ政策リスクです。云うまでもなくトランプ政権が進める保護主義政策です。とりわけ米中二大経済大国間で、自国への打撃を顧みずに強行する関税報復合戦はまさに米中貿易戦争の様相を呈すると共に、「トランプvs習近平」の構図を一層鮮明とする処です。そして後述するように、貿易戦争がいまや第2幕入りするや、グローバル企業が築いたサプライチェーンにヒビが入り、世界の自由貿易体制を大きく揺らぐという事態を招くなどで、世界経済の先行きにも暗い影をおとす処です。

戦後、世界経済は自由貿易を通じて相互依存を高める形で発展してきました。その中核にあるのが、米国が主導してきたWTO(World Trade Organization)という枠組みです。そして、その恩恵を受けてきたのが何よりも米国でした。然しその米国は今、国家安全保障を名目に、貿易相手国を一方的な制裁で威嚇する戦術を擁し、力ずくで2国間の取引に引きずり込み自国貿易インバランスを是正せんとしています。そうした行動様式は、WTOを中心とした自由貿易体制の崩壊を意味し、世界経済の先行きに大きな不安と不確実性を高める処、まさにそれは‘揺れる自由貿易’ を映す処です。しかし、そのトランプ政策が現下の米経済の好調を齎しているとなると、まさに不合理な政策の効果に歓喜するアメリカと映る処です。

ではこの大国の身勝手な振舞いにどう歯止めを掛けることが出来るかです。まずそのためには透明な共通ルールの維持確保が欠かせません。その任にあるのがこの多国間枠組みの要であるWTOです。WTOは貿易紛争を解決し、報復措置の応酬と言った事態を防ぐ役割を担っているのですが、トランプ政権はそんなことにはお構いなく、自国が不公平な扱いを受けているとして、WTO紛争処理の最終審に相当する上級委員会の委員の任命をも阻止したままにあり(上級委員の定数は7人。各訴訟の判断は3人で決める。現在3人が任期満了で退任したままにある)、時にトランプ氏はWTOからの脱退をほのめかす状況です。 一方、中国にはWTOの強制力の弱さを見透かして、経済の自由化や知的財産侵害の対処を先送りしてきたとの見方が根強い事情をも併せ考えると、WTO機能の強化、その為の体制の見直しへの挑戦が不可避となる処です。

・グローバル経済と‘揺れる自由貿易’
序でながら、トランプ政権が進める保護主義政策の結果として、国際貿易の現状を巷間、‘揺れる自由貿易’云々と評されること多々ですが、実は、多国間貿易体制は、かなり前からグローバル経済の構造的変化が進む事で問題を抱え、今日に至っているのです。その構造変化とは、中国の台頭であり、経済のデイジタル化であり、この二つがもたらした経済的、政治的な混乱が齎している変化で、トランプ保護主義政策とはそうしたcontextの中で浮上してきたものです。従って、トランプ政権が終わったからと云って多国主義の秩序が復活するとは言い難く、とりわけ貿易政策が国家安全保障とリンクしだした点で、そう見るのはnaiveだとFinancial TimesのRana Foroohar氏は断じる処です。(`Trump trades on the protectionist mood’ The Financial Times, June 11)

言いかえれば、市場原理、民主主義、そしてテクノロジーが入り混じって創り上げられてきたグローバリズムの規範が今、大きく揺れ動く状況にあって、自由貿易もそれに共振する形で揺れているというもので、自由貿易ひとりが揺れているわけではないということです。従って自由貿易の行方を云々する上で、かかる生業への理解と認識が不可避とされるのです。とは言え気がかりは、トランプ主導のdeal 外交の現場です。

(2) トランプDeal外交の現場の今 

・米欧貿易交渉は休戦状態
まず、7月25日、米欧間の関税交渉につき、トランプ大統領はワシントンでEUユンケル委員長との首脳会談を行っています。その結果は、貿易交渉は高官協議の枠組みを設ける事、そして自動車を除く工業製品の関税撤廃や、米国産の大豆やLNGの対EU輸出拡大に向けた関税交渉を始めることで合意がなり、ひとまず米欧貿易戦争の戦線拡大は免れ、言うなれば「休戦」状態に入っています。まずは米国とEUが激突を避け、緊張緩和に動いたという事でしょうか。昨日までEUを ‘Foe’(敵) としていたトランプ氏は一夜開けた今、‘great friend’(親友)と豹変です。それはEUにとっても次なる展開を促す処です。

因みに7月16日行われたEU-China summit(李克強首相、トウースク大統領)会議では、WTO の枠組みと多国間主義を貿易政策の基本とすることで双方一致したとされています。これを米政治評論家のIan Bremmer氏はunusually sunny summitと呼び、トランプの対中貿易圧力は、一見、米生産者にプラスと見せかけており、少なくとも2020年の大統領選まではその行動は続けるだろうが、こうした対中姿勢は欧州製品にとり大いなる機会となる処、EUはトランプの貿易戦争から身を守るためにlook east、東アジアを向きだしたと評するのです。( `The EU looks east to shield itself from the fallout of Trump’s trade war ‘ ,TIME, July 30)

・日米貿易協議は仕切り直し
二国間交渉で注目されるのが日米関係の行方です。初の日米閣僚級の貿易協議(FFR:Free, Fair, Reciprocate)が8月9・10日、ワシントンで開かれています。これは今年4月の日米首脳会談で合意した枠組みを以って行われたものでしたが、当該協議は、米側が自由貿易協定(FTA)を念頭に2国間交渉入りを求めたに対し、TPPを抱え多国間協定を主張する日本の立ち場との溝は埋まらず、ただし、中国を念頭に知財の侵害問題で連携する方針では一致したのですが、9月予定の第2回会議で成果を出すことで仕切り直しとなっています。

そこで心配は、日本がこのFFRへの対応に追われ、自由貿易圏を広げる取り組みが滞りかねない点です。日本は「TPP11」やEUとのEPAの早期発効に努力し、RCEPの交渉妥結を主導する立場にある筈です。勿論、米国との摩擦を和らげ、良好な関係を維持することは重要です。が、それにとどまらず、保護貿易の世界的な拡散を防ぐ責任もある処です(後出、日本の針路)。そこで、自由貿易の原則を曲げない日米協議となるよう期待する処です。

・米中‘摩擦’は今や、‘貿易戦争’
一方、米中関係は深刻さを深めるなか、8月1日、トランプ大統領は対中制裁の第3弾として、2000億ドル相当の中国製品を対象に輸入関税率の25%への引き上げにつき検討を指示しています。(実施は9月5日)一方、この第3弾の米国の制裁措置に対して、中国は8月3日、600億ドル分の米国製品に追加関税をかけると、再び報復措置を発表しましたが、米中の貿易戦争は報復が報復を呼び泥沼の様相を呈する処です。 

が、米中の第3弾をみると、米国の2000億ドルに対し、中国が600億ドル分の報復リストしか示せなかったことは中国の手詰まり感を映す処です。 つまり、トランプ政権の制裁対象は第1~3弾を合わせて2500億ドル。これは中国からの年間輸入総額(約5000億ドル)の半分。一方、中国の制裁対象は計1100億ドルで、米国からの輸入総額(約1300億ドル)の8割を超えています。それが意味することは、米国はなお報復合戦を続ける余地がある一方、中国は撃ち返す弾が底を突き始めたと云えそうです。(注)

(注) 北載河会議:上述、撃ち返す弾が底をつき始める中、報復措置を発表した中国の政治的
事情は、実は「北載河会議」を控えていた為とされています。この会議は毎夏、河北省の保
養地、北載河で習近平主席他、共産党幹部や長老らが集まり、国政の重要課題について話し
合う場とされるものですが、非公開のため、正式に報道されることはありません。ただ要人
の動静を以って会議の開催を推測すると云ったもので、8月3日、習近平氏が北載河入りし
たことから、会議が始まったと推測される処です。要はそこで、習指導部が米国になんら対
抗策を打ち出せなければ「弱腰」批判が起きかねない、それを避けるため「弾切れ」を覚悟で
反撃に出たとの見方が流布され、であれば米中摩擦はまさにチキンレースと映る処です。

それでもトランプ陣営はもとより、習陣営も引く姿勢もなく持久戦の様相を強めるばかりです。果たせるかな8月23日、双方共に第2弾の追加関税措置の発動を実施、米中貿易戦争は実質、第2幕入りです。


そこで以下、第1章では、トランプDeal外交の現場として、米中摩擦にfocusし、その実状を改めてレビューし、第2章では、自由貿易の立て直しを探る趣旨から、WTOの改革の可能性を考察していきます。偶々The Economist(July 21~27)は「A plan to save the WTO― Global trade is in grave danger. But there is still a chance of a rescue」 と題する巻頭論考で、その改善に向けたアイデイアを示しています。そこで当該論考を読み込み、その可能性を考察することとします。まさにトランプ旋風を奇禍としてWTOの改革を目指せと云うものです。 そして、新たな国際環境に向き合う日本の針路の如何について、併せて考察することとします。要はトランプ外交と如何に対峙していくか、です。




第1章 米中貿易摩擦の実相

(1) 米国の対中貿易赤字の推移

まず、近時、今日に至る米中貿易摩擦の推移を時系列を以って簡単にレビューしておきます。
2008年以降、米国の景気の回復を受け、米国の輸入需要は急速に拡大、とりわけ中国からの輸入増による米国の対中赤字は、全赤字の5割を占めるに至り、トランプ氏はこの輸入増が米国労働者のジョッブを奪っているとして中国を敵視し、対中貿易インバランスを「不公平だ」と再三槍玉に挙げ、大統領選では、その改善を公約の一つとしていたのです。(注)

(注)米国の貿易赤字
1.米国の国別貿易赤字額(2017年4月公表、2016年の通関ベース、米商務省統計)
・対中:3470億ドル(内、自動車関連:69億ドル)
・対日:689億ドル (内、仝上:526億ドル)
・対独:649億ドル (内、仝上:236億ドル)
2.過去30年間(1990/2016)における米国貿易における赤字の国別比率(米商務省統計)
―貿易構造の構造変化が鮮明に映る処です。
 日本  中国  ドイツ メキシコ  (各%)
        1990  40.4 10.3 9.2 1.8
      2016 9.4 47.3 8.8 8.6

・米中「包括経済対話メカニズム」
2017年4月7日、習主席が訪米時、貿易不均衡解消のため「米中包括経済対話メカニズム」の立ち上げが両首脳会談で合意され、米国の対中輸出拡大100項目が取り決められたのですが、同年7月に行われた閣僚級による「包括経済対話メカニズム」での交渉はなんら進展なく頓挫。これに対して同年8月、トランプ政権は「米国通商法スーパー301条」に基づく調査を開始していますが、9月18日、R.ライトハイザーUSTR代表は講演の中で「外国企業が中国進出時、技術移転を強要し、その上で、不公正な補助金で輸出促進をしている事は国際的な貿易体制の脅威」と主張していたのです。勿論、中国政府(高峰報道官)は中国政府が企業間取引に関与することはないと反論です。 2017年11月19日、トランプ大統領訪中時、両国首脳会談で、対中貿易赤字削減の為として総額2535億ドルの商談が調印されたとされていますが、その殆どは‘覚書’や‘協議書’といった類のものとされています。

・対中制裁関税措置の実施
2018年1月12日、中国政府は2017年の対米黒字は2758億ドルと公表。(米中統計には大きな差が認められますが、過去最高を更新した事は、間違いない処です)
この事で2018年3月23日、トランプ政権は鉄鋼、アルミへの追加関税措置を発動、更に前述、2度の追加措置を進めて、今日に至っている処です。

ただこの間、米中貿易協議が米・中と2回(1回目は18年5月3・4日、於北京、2回目は18年5月17・18日、於ワシントン)行われていますが、問題は、この2国間協議の前に米側から提示された協議の「枠組み草案」に盛られた内容「米国が中国に要求する行動」(注)がまるでultimatum, 最後通告とも言え、まさに米中摩擦が貿易戦争に転じた瞬間と、映るものでした。
(注)米国が中国に要求する行動(月例論考2018年6月号)
         ・中国は2018年6月1日から12月の簡易対米貿易黒字を1000億ドル削減する事
         ・2019年6月1日から12か月お間に更に1000億ドル削減する事
         ・過剰生産を助長する「市場をゆがめる補助金」は全て即刻廃止する事。外資の対中進
出にあたって技術移転を求める慣行を撤廃する事。

果せるかな中国が米製品の輸入を増やすと表明し、米側は一旦、矛を収める形で米中貿易協議は終わり、今日に至っています。それは米側代表のムニューシン財務長官が「貿易戦争は当面留保する」と明言したことにあるのですが、当時6月12日の米朝会談を控え、金正恩氏の後見役にあった習氏の協力確保を狙った行動と云え、まさにレジームの交叉を感じさせられる処です。

(2)米中貿易戦争の真相 - 米国の不満と不安

・対中不満の真相
米中貿易戦争こそは、揺らぐ自由貿易の象徴的事件とされる処ですが、元をただせば、2001年、米国の支援を受けて中国はWTOに加盟した事に始まるもので、実は、中国のWTO加盟で欧米諸国は、中国が市場経済を指向するようになると期待していたのです。が、そうはならなかったことが、そもそもの対中不満のベースにあると云うものです。

それは自由貿易を主張する上で前提となる市場経済の基盤がどこまで整っているかという事ですが、具体的には、序章でも触れた通り、WTO加盟後の中国の行動様式が、重商主義的行動を強化する形で進んできていることにあり、具体的には中国の国有企業や不透明な巨額の補助金などが、鉄鋼などのコモデイテイーの供給過剰を齎し、市場をゆがめてきたとする点で、米国はもとより欧州諸国も批判する処です。
又、中国進出外資に対しては厳しい規制を掛けると同時に、市場参入の見返りに知的財産の譲渡を要求するなどで、そうした中国の行為が、既存のルールを以って制御できないままに今日に至っているのです。要は、そうした重商主義的行為が、市場経済国間で起きるダンピングなどを巡る紛争よりも、はるかに大きな規模で貿易を歪めてきている事、又それをWTOの設計上、処理しきれるようなものではなくなっている事で、米国のみならず他国から、深い疑念が齎されているのです。

・対中不安の真相
もう一つ、前月号月例論考でも指摘したように、トランプ政権の制裁目標が習近平主席が国家戦略として進める「中国製造2025」に向けられている点、これこそは米側が抱く対中懸念が集約される処です。つまり、トランプ政権は対中制裁の理由として、「米国のハイテク技術を盗んでいること」、「中国への進出外国企業に対して技術移転を強要していること」、「中国のハイテク企業に多額の補助金を出していること」など挙げています。こうした行為は高度な技術等開発を通じて超産業国家を目指さんとする「中国製造2025」が、その元凶にあるとして、その撤廃を求めんとするものです。つまり、米国としては、AIなどのデイジタル覇権が奪われ、産業だけでなく、軍事の優位までひっくり返されてしまう展開をおそれると云うもので、米中貿易戦争は、デイジタル帝国の米国の座を奪うとする中国に仕掛けた、まさに「覇権戦争」とも映る処です。

これも、元をただせばWTOルールに係る「不公正」な行動を映す処、中国がこの点を改めない限り、対中赤字が改善しても米国は制裁を緩めることはないと、見られる所以です。
因みに、Financial TimesのCommentater、Edward Luce氏は、トランプ政権は先の米欧交渉では関税撤廃交渉入りで合意したことで、ゆとりを持って対中攻勢をかけていく事が想定されるとしながら、次の3点を以って米国の対中圧力が進むと指摘するのです。(`Trump gives himself more leeway to engage in China-bashing’ , Financial Times July 27)

つまり、その一つは2016年の大統領選での経験から、中間選挙を控え、再び低所得白人労働者を対象に、中国批判を高めたいとする衝動に駆られていると云うのです。要は米国内政治事情です。もう一つは地政学的要因です。6月12日の米朝首脳会談で米朝関係が融解した事で、米国は対中圧力を自在に強化できるポジションを得たこと。また、トランプ氏の対イラン政策においても中国は気にくわない存在となるもので、前回イランが孤立していた時機には、中国が頼みの綱だったが、今回はトランプ氏に対してdefiance、歯向かう形になるだろうと云うのです。そして三つ目として挙げるのがlack of Chinese flexibility,柔軟性に欠ける中国のかたくなな態度のなせるわざと云うものです。つまり欧州の対米貿易黒字は中国の半分にも及ばない。両者の市場は既に比較的開かれている。つまり、その意思さえあれば、創造的な交渉を行う余地はあるが、これとは対照的に、中国のスタンスはtheological , 神学的で、トランプ政権が迫る習氏が経済戦略とする「中国製造 2025」は、中国のnational identityにとっての台湾と同様の位置づけにあり、従って交渉の余地などはない。つまり、「中国2025」の撤回に圧力をかけていくと見るのです。

では米中衝突は不可避か、となると、答えはノーだと。勿論、今ではそうした事態は想定しやすくなってきてはいる処、習氏はおそらくwaiting game, 待ちの戦術を取るだろうとして、`He will find opportunities to let Mr. Trump declare cosmetic wins.‘と云うのです。
だが ‘But his margin for error is shrinking’ 「ミスが許される範囲は小さくなっている」と、つまりトランプ氏はじっくりと好機を待つタイプの大統領ではないから、と締めるのです。米中関係の今後を計る上での視点を与えると云うものです。

・米中貿易戦争は無期限?
いずれにせよ、米景気拡大と欧州との関税合戦の休戦で、持久戦への自信を深める米国。一方、引く気配のない中国。まさに「トランプvs習近平」の構図を一層鮮明とする中、米中貿易戦争は泥沼の「チキンレース」の様相を強め、まさに ‘揺れる自由貿易’ が演出される処です。8月23日、米中双方は第2弾の制裁追加関税措置を発動したのです。
折しも、中国主導で、8月22・23日、ワシントンでは、暫し頓挫していた米中貿易協議の再開に向けた事務レベルでの協議が行われています。メデイアによると同協議は、これまでの米中間で問題とされていたテーマについて接点が見えないままに終わった由で、トランプ大統領は強硬路線を突き進むだろうとしています。

ただ関税政策を振り回し、貿易戦争を続けるとなると、中国はもとより、米国経済にとっても世界経済にとても大きくマイナス要因となる処、これが中間選挙の為という事であれば、何故にトランプ大統領は現在の景気の良さをアッピールしようとは考えないのか、政治の常道からは聊か考えにくい処です。それでも、今や持久戦入りの様相です。因みに、トランプ大統領は8月20日のインタビューでは対中貿易戦争は「無期限」と語るのです。

実は、この‘無期限’こそは、最も気がかりとなるイッシューです。と云うのも、世界経済の構造が、いまや中国の対米黒字が減らない形となっている事です。つまり、冒頭でも触れたように、いまや中国が世界のsupply chainの末端にあり、世界の製品が中国から米国に向かう構造になっているのですが、その為、米中間での関税引き上げ合戦ながら、その影響は中国に部品を輸出するすべての国に広がる処、その結果、米中はもとより世界経済全体を混乱に至らしめることが想定されるという事です。現時点では具体的な事は云えませんが、早急米中首脳会談を以って持続的発展への解決策をと、念ずる処です。





第2章 自由貿易体制と日本の針路

(1) 自由貿易とWTO

そもそも自由貿易で重要な事は、ルールをお互いに共有し、その下で効率的、透明な取引をすることです。そしてWTOはまさにそれを体系づけてきた存在です。然し、トランプ政権は、中国の行動を以って、WTOは機能しないと決めつけ、それではと、一方的にルールを無視する如くに制裁関税政策の強行を演じる処です。では彼らの政策行動をどのようにコントロールしていくか、そして全体として自由貿易をどのように堅持していくか、が問われる処と思料するのです。その答えは云うまでもなく現在の世界経済の生業に応え得る姿にWTOを変革し、WTO機能の活性化を図ることの他ありません。 そこで序章(P.5)で紹介したThe Economist(July 21~27)の巻頭論考「A plan to save the WTO」を取り挙げ、当該変革の可能性を考察することとします。

・WTO改革へのシナリオ

エコノミスト誌の当該論考は、世界の自由貿易が置かれている現状を示唆せんばかりの、興味深い、次のようなphraseで始まるものでした。
「The headquarters of the World Trade Organization (WTO), on the bank of Lake Geneva, once belonged to the League of Nations. That ill-fated body was crippled by American isolationism. The building’s occupant today is also at the mercy of decisions taken in Washington.」(ジュネーブ湖のほとりに位置するWTOの本部は、かつては国際連盟が使っていた。国際連盟はなくなってしまったが、その一因は、当時の米国の孤立主義により機能不全に陥った事にある。そして現在の入居者も、米ワシントンで下される決断に翻弄されている)
     
そもそもWTOは前述の通り、貿易紛争を解決し、報復措置の応酬といった事態を防ぐ役割を担っている筈です。処がトランプ大統領はWTOの規定をかいくぐり、鉄鋼、アルミの輸入品に対して追加関税を課すなどで、自ら監督している筈の世界貿易体制が崩れつつある処ですが、エコノミスト誌は、貿易体制を救う計画の大筋がいま見えてきたと云うのです。

まず、米国が不満を向ける中国は他国からも深い疑念を招いている点に注目します。それは前述来の通りで、中国がWTOに加盟したことで、欧米諸国は中国が市場経済を指向するようになると期待していたが、そうはならず、中国はWTOの優位さを利用する形で、自国国有企業や不透明な補助金など重商主義の行動を以って市場をゆがめているとする批判への取り組みです。中国のこうした行為の責任を既存のルールで問うのは難しいと云う事ですが、そこでEUと日本そして米国が協議して改革を進めれば多くの抜け穴を埋められる可能性がある、と云うものです。 

つまり、中国政府がどれだけ市場を歪曲しているか、判断する手段を確立し、不正行為に関する情報収集を容易にし、適切な報復措置の範囲を定めるようにと云うのです。因みに「政府機関」の定義を定め、補助金に関する禁止事項を拡大すること、更に原告側の立証責任も軽減することを挙げるのです。中国の不透明な制度を考えると現状では立証責任の負担が大きすぎるためだというのです。

更に、同誌はトランプ政権が脅威としている「中国製造2025」について、中国が何もかも国内で生産すると云うのであれば、その目標達成は何十年も先延ばしになってしまうだろうとの指摘です。要はそんなに恐れることはないと云うものでしょうか。実際7月16日、WTO改革についてEUと中国は協力することで合意している点を指摘するのです。164か国・地域に上る加盟国全てを網羅するグローバル協定を結ぶことは難しい。必要なら`plurilateral agreement’ 複数国協定を結ぶことで、問題の回避が可能ではとも云うのです。

とにかくトランプ政権の世界貿易破壊作戦よりも、a set of rules in America’s interest、米国のインタレストに応えるルールを作り、各国の賛同を得る方がよっぽど優れた戦略になると云うのです。そして中国に対して、それに従うか、否かの選択を迫ることが出来るほどの大きな経済圏を築けばいいではないかとも云うのです。そして、本来こうした発想から進められたのがTPPであり、EUと日本が7月17日締結したEPAが良い例と指摘するのです。これは筆者が予て主張している枠組みであり、ソフトパワーの強化を通じて安全保障を目指せとした国際的政治学者、米ハーバード大のJoseph Nye氏の思考様式と軌を一にする処です。
(注) WTO沿革とWTO協定の枠組み:
・WTO(World Trade Organization) : 1930年代の不況後、世界経済のブロック化が進み各国
が保護主義的貿易政策を設けた事が、第2次世界大戦の一因となったと云う反省から、1947年、
GATT(General Agreement on Tariffs & Trade)が策定され、GATT体制が1948年に発足(日
本は1955年に加入)。貿易における無差別原則等の基本的ルールを規定、多角的貿易体制の基
礎を築き、貿易の自由化促進を通じて日本経済を含む世界経済の成長に貢献してきた。ただ、 GATTは国際機関ではなく暫定的組織として運営されてきましたが1986年に開始されたウル
グアイ・ラウンド交渉で、貿易ルールの大幅拡充が行われた事で、より強固な基盤を持つ国際
機関を設立する必要性が強く認識され、1994年に設立が合意され、1995年1月1日に発足。
現在の加盟状況は、164か国 ・地域で、自由貿易の強化を政策的規範として、今日の世界経済
のグローバリゼーションへの枠組み、構築を目指す事にある。
・WTO協定の枠組み:① 既存の貿易ルールの強化、 ② 新分野のルール策定(サービス、知
的財産権に関する協定), ③ 紛争解決手続きの強化、 ④諸協定の統一的な運用確保

(2)日本の針路

戦後、日本は米国の庇護の下で、軽武装の国家を指向してきました。取り巻く環境は変わっても貿易に成長の糧を求めざるを得ないことは変わり有りません。その点、安倍首相は、「自由貿易の旗手として、新しい時代の経済秩序作りを主導していく」と発言しています。その決意良しとする処、その決意を行動で示すことが今、求められるのです。そのテーマは上記エコノミスト誌の示唆にもあるように、日本が主導して成立を見ているTPP、またTPPと同じ水準を確保した日欧FTAを擁して、加盟国の拡大等、自由経済圏の拡大に努めることです。と同時に、上記のWTO改革への積極的な参画も不可避とする処です。仄聞するに日本の経団連は、日本政府にメルコスル(南米南部共同市場)とのEPA交渉を提言する方針の由ですが、こうした時機こそ、かかる努力を通して、日本が中心となって自由な通商国家としての存在感を示すべきと思料するのです。



おわりに Mr. Thomas Friedman, Again

さて、Thomas Friedman氏と云えば、日本でも「フラット化する世界」でよく知られた、世界的に著名な米ジャーナリストですが、友人のアドバイスもあり、彼の近著「遅刻してくれてありがとう( Thank you for being late)」(伏見威蕃訳、日経出版 2018/4/24)を読みました(と言っても上巻だけですが)。彼はglobalistを任ずる仁ですが、流石に高度に発展したIT technologyをもって進むグローバリゼーションの実像をビビッドに描きだしていますが、以下の引用からは、新たなその様相を実感させられる処です。

「グローバリゼーションは40~50年の間、WTOや世銀、など大国の政府が創出した大きなプラットフォームによって形作られてきた。然し、いま世界各国を巡ると、新手のグローバライザーは、WTO等聞いたこともなく、自分たちの国のアメリカ大使が誰かも知らない・・・彼らは、ただ独力でグローバル化しているのです。アリババ、テンセント、アマゾンのようなプラットフォームを使って」(「遅刻してくれて、ありがとう」(上) T.フリードマン,伏見威藩訳、2018/4)と。そしてその際は、GEのイメルト前CEOの「こういう世界でGEは自社をMulti-National CompanyではなくMulti-Local Company と見なすようになった」との発言をリフアーするのです。そして、こうした変化こそはビッグシフトだと云い、このグローバリゼーションの時代とは、まさにそういうものとして再定義されると、云うのです。実に彼らしいrhetoricに納得するのでした。

尤も現実のGEの収益はと云えば、今次の米中貿易戦争の影響が直に表れてか、業績の下方修正を余儀なくされています。(日経7月27日)それは、基本的にはWTOルールに適わない米国が仕掛けた制裁関税措置に因るもので、その限りにおいて「国vs国」の紛争が齎す結果と云うものです。つまりビジネスは創造的シナリオを以ってダイナミックに行動するにしても、国対国を念頭に置いた制裁の応酬が企業活動に云い知れない不安感を齎す現実がある事を示唆する処です。それは企業たる‘孫悟空’がWTOと言うお釈迦様の‘手’の上で動く姿とも言え、その限りにおいて、上述WTO体制の改革、機能の再活性化への合理性がより与える処です。元よりトランプ氏のRogueとされる姿も、同様映る処です。

尚、気になるタイトルですが、彼が毎日スケジュールに追われる身ながら、ある朝、朝食のアポに遅れた友人を待つ間に、色々と周辺の動きが観察できた、何日もの間考えあぐねていた思いつきを纏められた、等々で、あなたが遅れたおかげで、自分の為の時間をつくことが出来た、だから、遅刻を謝ってもらう必要はない、それで「遅刻してくれて、ありがとう」なのだと云うのです。立ち止まることを学べという事の由ですが・・・。

・2018年度経済白書
処で、2018年度の年次経済財政白書が8月3日発表されました。そこで立ち止まり、当該白書を一瞥しましたが、それは単にアベノミクスの政策を辿るがごときで、何とも政府の政策を支持するための報告書と映るばかりです。 1947年、白書が創刊された折は、目的を国民と一緒に問題を考えて解決するためと説明していたのですが、では貿易戦争等、国民の関心の高い分野については十分な指摘もなく、因みに足元の景気回復については、過去の回復よりも外需への依存度が低い事を理由に「外的ショックに対する頑健性が高まっている」と表現するだけです。世界各国の経済の連動性は高まっているなか、中国等、他国が変調をきたせば日本も崩れる可能性は高いと見るべきと思うのですが、いかにも危機感の足りない政府分析よと、思う事しきりです。以上
                                (2018/8/26記)
posted by 林川眞善 at 12:18| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする