2020年07月26日

2020年8月号  コロナ禍の世界秩序の行方、日本に求められる行動様式 - 林川眞善

目  次

はじめに  世界秩序のかたち
 ・世界秩序は新たな流儀で
 ・民主主義国の連帯体制の構築

第1章 日本経済 コロナ禍からの脱出戦略

1.国民の不安解消こそが最優先の経済対策
 ・小林慶一郎氏の提言
2.脱出戦略のリアル
 ・コロナ危機は変革へのチャンス

第2章 日本経済 持続可能な成長への戦略

1.` Great reset ‘ of capitalism
・三つのAgenda
2.日本の ‘かたち’はSDGs対応がカギ
(1)「令和2年7月豪雨」が再び示唆すること
  ・環境立国たるの宣言を
(2)中期展望を欠いた「骨太方針」

おわりに 世界の指導者の優劣をはっきりさせたコロナ危機
 
(1)安倍政府のコロナ対応は上手くいったのか  
  ・モヤモヤ感の背景
  ・コロナ対策検証会議発足
(2)メルケル首相は民主主義の実践者

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はじめに 世界秩序のかたち

世界では行動制限を緩めて経済活動の再開を目指す動きが広がる中、感染ペースはむしろ早まっている様相にあります。6月28日、米ジョンズ・ホプキンス大によると、世界の新型コロナウイルスの累計感染者数は1000万人を超えたと発表。ブラジルなど新興国で新規感染が急増しているほか、先進国では米国で感染者が再拡大の様相です。翌29日に発表された世界のコロナによる死者数は累計で50万人を超えたとの由です。
序で乍ら、これまで新型コロナウイルスに負けない、強い大統領を誇示すべくマスクの着用を忌避してきたトランプ氏も、かかる状況に、マスク着用で公の場に現れる一方、多数の支持者を集める党集会は取りやめると方針の転換を示す処です。

OECDは6月10日、年内に感染が再び拡大した場合、2020年の世界の実質経済成長がマイナス7.6%に落ち込むとの予想を公表する処です。こうした世界経済のトレンドを高めているのが米中対立の激化であり、前号でも取り上げた通りですが、とりわけコロナウイルスとの闘いが、マスク、防護器具、人口呼吸器、ワクチン等を巡る戦いでもある点で、多くの国では、自国第一主義でそれらを奪い合う、言うなれば地経学的、即ち経済安全保障的な衝動すら露わとなる処、グローバル経済の核となってきたグローバル・サプライチェーンの国内回帰等が云々され、以ってglobalizationの終焉と総括されることの多い状況です。が、果してそうなのか。いやコロナ対応で各国は自身の防衛に向かい出したものの、パンデミクスの解決には国際的協力なくして在りえず、つまりinternationalな協調が不可欠と云う事で、事態は、いまそれに向かい出しているのではと思料するのです。

・世界秩序は新たな流儀で
英誌 The Economist ,Jun. 20のcover storyはThe new world disorder と題するものでした。その内容は、これまで世界の安定秩序の基盤とされてきた国際機関の機能不全が、深刻化する米中対立の煽りを受ける形で進み、同時に関係諸国間の分断が進んできたこともあって、グローバル経済の無秩序化が進み出す様相にある処、仮に米国が国際機関から身を引くとしても、関係諸国は‘前進’をと、檄を飛ばしながら、変調ながらの秩序作りの可能性を指摘するものでした。世界秩序は新たな流儀でと云った様相です。

つまり、75年前、国連創設にあった当時の世界の生業をレビューしながら、危機にある現状、global 秩序の混乱が齎す恐怖は米国自身を含め、各国に及ぶ処、仮に米国が外れることがあったとして、関係諸国が一緒になって、とりわけmiddle powerとしての日本、ドイツそして新興のインド、インドネシア等、積極対応していかねば事態をほぐすことにはならないと警鐘を鳴らすものでした。まさに経済のグローバル化に支えられてきた日本にとって、それは日本の出番を示唆する処と云え、筆者が前号論考で日本は自立する外交を目指せ、としたそれ文脈を同じくする処です。

上述、米中の対立が国際機関(global bodies)の機能をも低下させ、安全保障体制の停滞を誘引するなか、多国間協定無視のトランプ氏の破壊行動は、それを更にエスカレートする様相にあり、先のパリ協定からの脱退声明に引き続き、来年7月WHO脱退を国連に通告した他、WTOに対する軽視態度、又、欧州安全保障体制の基盤たるNATOの機能低下につながるドイツ駐留米軍の一部撤退表明等、世界のこれまでの秩序をなし崩しする様相にあり、大いなる懸念の強まる処です。もとより、今次のコロナパンデミックと云うグローバルな問題解決には、治療とかワクチン開発と云った点で、国際的な協調・協力なくして解決を見ることはなく、これが地域社会の安全保障にとっても大きな問題を提起する処です。

・民主主義国の連帯体制の構築
こうした状況にどう対抗していくべきか。前掲The Economist誌は続けて下記指摘するのです。 つまり、それでも世界はいわゆるポイント・オブ・ノリターンを迎えてはいない。これまでの数十年間、米国に次ぐ、第2のパワーとして、言うなれば米国に追従する形で今日まで歩んできたフランス、ドイツは多国主義の下、連携強化を目指し他国との自由経済の関係強化に向かい始めている。更に、日本、ドイツ、豪州、カナダを含む9か国による民主主義国の連帯体制(これらは世界のGDPの3割を占める)の構築の可能性も指摘し、「世界秩序救済のための会議」(committee to save the world order)の導入すら示唆するのです。 勿論米国がドミナントなポジションを握るだろうが、他メンバーが結束すればできない話ではないと云うのです。トランプ米国がTPPから降りた後、関係諸国はそれぞれに地域的な経済協力、双務的貿易協定などを擁して貿易拡大を進めてきている事、更に日本とEUとの通商協定は、その最たるものと、指摘する処です。

序で乍ら、国際秩序を守ることは必要な事とも云いながら、中国の露出度の近時の高まりに懸念を示すのです。つまり、国連における中国の露出度の高まりです。例えば、彼らの国連経費負担は、2000年ではわずかに全経費の1%を負担するだけでしたが今や、その負担は12%に拡大、しかも今や、国連専門機関、15機関の内、FAO等4機関のトップが中国人、米国はと云うとトップを占めるのは僅かに1機関という状況で、国家の主権や人権をめぐって中国の影響が諸に出てくることへの懸念、隠せぬ状況です。

さて、前回論考で筆者は、今後日本が目指すべき政策の方向は「自立する外交」としましたが、それは上述状況を踏まえての主張ですが、これが一種、危機管理対応とも言え、その意味では「チャイナ・プラス・ワン」(注)にも通じる処です。

    (注)「チャイナ・プラス・ワン」:2005年小泉純一郎首相(当時)の靖国参拝問題で日中関係が
急速に悪化したことをきっかけとして、中国への集中を避け、他アジア諸国との連携をと、議論
が起こったことを指す。が、その後の日本側の政変も加わり萎む処、今再びとする処。

勿論、現実に国際社会で存在感を示していくためには、もとより強い経済が求められる処、言い換えれば、それは強靭な日本経済の確立です。ただ、これが新型コロナウイルス禍の現状にあって、どのような対抗を構想し、実施していくかですが、結論を先に言えば、政府諮問会議委員に招聘された東京財団政策研究所研究主幹の小林慶一郎氏の言う「第三の道」、つまり、感染防止と経済回復が両立する道を追求する事と思料するのです。 そこで、今次論考ではこの第三の道の実際をコロナ禍からの脱出戦略とし、更にコロナ禍を超える、急速に進み出した経済の新展開を、日本経済の再生戦略として改めて考察する事とします。


            第1章 日本経済 コロナ禍からの脱出戦略

さて日本では5月末、緊急事態宣言が全国で解除され、コロナ禍は新たな局面に差し掛かってきています。ではこれから先、日本の対抗政策は如何にと、まさに「コロナ禍からの脱出戦略」が問われる処です。言い換えれば、政治も経済も何を成すべきかですが、それは上述、経済回復と感染防止が両立する「第3の道」を目指す事になる処です。

人類が感染症を完全に「制圧する」ことは不可能とされています。そこで巷間、「コロナとの共生」が話題となるのですが (筆者は決して「共生」とは云わず、常に「対峙しながら」とするのですが)、その議論は、「外出自粛・休業要請」で不況を甘受するか、経済を再開して感染拡大にリスクを受け入れるか、の二者択一の政策に陥りかねません。これではどちらを選んでも犠牲は大きいと云うものです。従って、今後は「経済の回復と感染防止」が両立する「第三の道」を目指す事が求められる処、その帰結は、小林氏の云う、感染を恐れない社会の創造に向かう事と思料するのです。

1.国民の不安解消こそが最優先の経済対策

現下の世界的経済不振は、コロナ感染防御策として取られてきた人々の行動様式の変容に負うものです。つまり感染予防対策として、人と人の直接的接触を回避するソーシャル・デイスタンスの確保です。そのためには「外出自粛・休業要請」を通じて拡大防衛を目指す、まさに人の行動様式の変容が求められての事と云うものです。かくして市民は外出を自粛し、従ってGDPの6割超を占める消費活動の萎縮を生み、これが生産活動の停滞を誘引し、経済全体が停滞を示す処となっています。 この背景にあるのが消費者の感染への不安で、これこそが経済低迷の本質と云え、「外出自粛・休業要請」で感染症による死者数を減らしても、経済苦による自殺者がそれを上回っては、政策としては失敗です。そこで経済回復と感染防止が両立する政策が求められる事になると云うものです。

・小林慶一郎氏の提言
今次政府諮問委員に招聘された前出、小林慶一郎氏は就任直前、国民の感染不安をなくことが、最優先の経済対策だと強調するのでした。そして、その為には、次の感染拡大に対応しうる十分な量の医療体制と、市中感染を抑え込む検査体制の拡充が必要と強調し、その為のシステムを「検査・追跡・待機」の3セットとして示す処です。そしてその際は、検査の目的は「医療のため」だけではなく「社会の不安を取り除くため」でもある、という新しい考え方に転換すべきと主張するのでしたが、実に頷ける処です。

3セットの内容とは、まず段階的に「PCR検査」を拡大すること。第2に接触者追跡のための人員を大量に雇用して濃厚接触者を追跡すること。そして第3に陽性者は隔離して一定期間、待機・療養生活を送ってもらい新規感染者を抑え込むこと、とするのです。そしてこの3セットを実施した場合、トータル・コストは2兆円と試算するのですが、不安を払拭することで経済の本格的な再開を早めることができれば、2兆円のコストがかかったとしても、現在、想定される経済停止による損失(年間25兆円~50兆円に達すると想定)を大きく低減させることができるのではと強調する処です。(文芸春秋、2020年7月号)

2.脱出戦略のリアル

さて、これまで、「外出自粛・休業要請」とひたすら我慢をお願いする、いわば受け身の戦略でしたが、今求められているのは、感染リスクを積極的にコントロールした上で、経済の回復を目指す攻めの戦略ではと思料するのです。その点、医療関係者との交流を図りながら、社会として、経済として、いかに対応すべきかを考えていくシステムが必要となる処です。そしてsocial distanceを図りながら、と云う新たな行動様式を擁して経済活動を図るとなると、まず経済のオンライン化を進めることであり以って、前出感染を恐れない社会の創造に向かうべきとされる処です。
要は、検査体制に道筋をつけ、消費者の不安を払拭できるかですが、日本経済の未来は、まさにここに係っていると云うのですが、然りとする処です。従って、景気回復に向けた本格的な経済対策は、上記の通り、感染症の拡大に一定程度、歯止めがかかったと見極めが得られた段階で導入されていく事、と思料する処です。

今米国では、経済優先で、早期に経済活動を再開に踏み出した結果、コロナ感染の再来に曝される処です。これもトランプ氏の再選目当ての政治行動の結果と云え、ノーベル賞経済学者のP. Krugman氏はNY Times(July 2)で、トランプ政策を批判し「ロックダウンで救われる人の命の経済的価値は、経済活動停止による損失を大幅に上回る」と語る処です。

一方、経済対策と云う側面では、「雇用を守る」「中小企業を倒産させない」と云った力強いメッセージを発信して、国民の生活保障に力点を置くことも不可欠です。具体的には雇用調整助成金の拡充に加え、本当に困っている個人や中小企業、個人事業主に対象を絞った迅速な現金給付などが必要です。又、中小企業の資金繰り倒産を防ぐ意味で、無利子・無担保の融資拡充と共に、税金の支払い猶予・減税等、政策を総動員されるべきと云うものです。

・コロナ危機は変革へのチャンス
つまり脱出戦略とは、まず医療体制の確立と併せて、コロナ禍で痛手を受けた事業への政府による支援で雇用を維持させ安心感を与え、その上で企業の改革を進めると云う構図が生まれる処です。実はコロナ感染拡大回避の為、導入されたsocial distanceが結果として産業・組織・個人に大きく変わる覚悟を求める事となった事で、コロナは危機だが企業変革ができるチャンスたるの自覚を生んだのです。働き方が変わり、DX( Digital Transformation )にも様々な企業が取り組む等、このチャンスをうまく活かせる企業がこれからも新しい価値を生んでいくと見られ、結果、産業構造の変化が進むと見られるようになってきたと云うものです。(注)

 (注1)「デジタル・トランスフォーメーション (DX) ―価値の協創で未来を拓く」
経団連は、timingよく、5月19日、頭書提言を発表しています。その趣旨はデジタル技術を活用し
て企業に変化を促すことを通じて情報化を中核に置いた新しい社会の創造を目指さんとするのです。
具体的には、テレワーク、オンライン診療、オンライン授業、インターネット選挙の実現等を通じて
「ソサエテイ5.0」を推進し、リモート社会を構築していくと云う。[ ① 産業構造DX―Society 5.0
時代の産業、②企業DX―協創、➂新たなルール、 ガバナンスの確立 -産官学協創による国際展開 ]-

(注2)「ソサエテイ5.0」:狩猟社会(Society 1.0),農耕社会(Society 2.0),工業社会(Society 3.0)、
  情報社会(Society 4.0)、と云った人類がこれまで歩んできた社会に次ぐ第5次の新たな社会を、デ
ジタル革新、イノベーションを最大活用して実現すると云う意味でSociety 5.0 と称する。

尚、留意すべきは、オフィスワークとテレワークが代替的でなく補完的に機能するようにする事が肝要と云え、それにはICT環境を進化させるだけでなく、常態において2つの働き方が相互に補い合うように、企業内、企業間、および企業を取り巻く社会のシステムを変革する事が必要となる処です。

さて上記を総括するに、社会・経済活動の持続性回復に舵を切る為の条件は、一つは「治療体制」、つまり重症化リスクの高い高齢者等に対して重点的に高度医療を提供することが可能であり、「医療崩壊」のリスクがない状況が実現できている事、二つは「リモート社会」を実現させる事そして、企業の新陳代謝を進めることと、なるのです。 更に理想的には、世界的にSDGsが推進されて環境破壊や所得格差の拡大に歯止めがかかっている事が必要となるのですが、この点は日本経済の将来への取り組み、再生戦略として、次章で触れる事としたいと思います。


第2章 日本経済 持続可能な成長への戦略

1.` Great reset ‘ of capitalism

コロナショックを経て今後、日本を含めて世界は、どのように進むことになるのか。
今年の初め、スイスで行われた World Economic Forum(WEF:いわゆるダボス会議)のテーマはグレ-ト・リセット、つまり新しくなる世界を巡っての議論、とりわけステークホルダーが作る持続可能で、結束した世界の創造を目指す議論が多々行われた由ですが、200以上のセッションの内、4割程度が「環境」に関連した内容だったと報じられています。
その主催者のWEF会長、シュワブ氏は、再び米論壇、Project Syndicateに6月3日付けで「Time for a Great reset 」と題し、エッセイを投稿しています。その趣旨は、現下のCOVID-19に対するlockdowns(都市封鎖)は緩和されていくだろうが、世界の経済社会の見通しはただただ厳しく、急速な経済の落ち込みは既に始まっている。但し、これが1930年代来の大不況に向かう事になるかは、避けられないことではない。要は世界が一体となって速やかに、社会・経済のあらゆる活動様式、教育や社会契約、働き方を変革することで避けられると云い、つまりは資本主義のリセット(Great Reset of capitalism)が必要と主張し、そのためのアジェンダとして以下の三つを挙げるのです。

・三つのAgenda
一つは公正な市場創造への政策誘導です。この為には政府の調整機能の強化、税制制度の見直しや財政政策の強化等、が求められ更には、貿易協定の改善やまさにステークホルダーを中心とした経済の創造、確立が求められると云うのです。そしてより公正さを担保するための政府機能の強化をもと、するのです。つまりこれまでの資本主義が効率をベースとした市場主義にあったものから、より公平な所得を保証する経済に誘導するstake-holder capitalismにシフトしていく事。
二つには、機会の平等、経済の持続性確保を共有の目標として、投資活動の促進を図る事。つまり、米国、日本、そしてEUでの7500億ユーロの欧州復興基金構想等、多くの国ではいま大規模な支出計画があって、旧来からの制度の不具合を埋め合わせることも含め、新たな持続的、強い耐性の経済を再生に向けた新たな経済の構築に向けられる、それこそが進歩への大きな機会だと云うのです。これこそは彼流にいうgreen urban infrastructure の創造であり、産業の環境対応、社会的対応を促す要因となると云うのです。
そして最後に、最も優先すべきAgendaとして、公共財とも云うべき健康や社会的挑戦に資するよう第4次産業革命の更なる革新を図っていく事、と云うのです。

以って、これからの進むべき経済社会のシナリオは、「グローバル資本主義」からSDGsを中心に据えた「ステークホルダー資本主義」への転換だと云うのです。即ち「新常態(ニューノーマル)」と呼ばれる新しい世界が始まると云う事を意味するのですが、巷間、コロナ禍後の経済が、それ以前の状態に戻ることがないだろうと云々されていますが、それは、かかる事態の変化を意味すると云う事なのです。因みに2019年8月、米国の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が株主第一主義を見直し、従業員や顧客、地域社会などにも配慮すべきだとする共同声明を発表していますが(弊「論考」2019/10月号)、こうした一連の出来事を踏まえると、伝統的な経済学は「成長」や「効率性」ばかりを重視し、「分配」や「格差」に関する分析を怠っていたとも云え、そこでシュワブ氏指摘のように、コロナ以前の世界を一旦リセットし、新しい社会システムの再構築を目指すことが求められていることを、改めて自覚させられる処です。

2.日本の‘かたち’はSDGs対応がカギ

(1)「令和2年7月豪雨」が再び示唆すること
この7月、日本は九州地区を中心に大豪雨に見舞われ、気象庁は「令和2年7月豪雨」と命名する処です。おととしは「平成30年7月豪雨」、その前年には「平成29年7月、九州北部豪雨」と、毎年のように豪雨災害が起きています。もはや一国の治山治水政策を超えた地球大の気候変動が齎すものと指摘される処です。気象関係の専門家によると、積乱雲が次々と発生する「線状降水帯」が引き金だったと云うのですが、梅雨前線に向かって海面から上昇した暖かい空気がぶつかり大雨になったと云うものですが、地球温暖化によって海水温が上昇すれば、今後も日本列島は豪雨に見舞われる危険性が高いと云うのです。
気候変動と云えば、近年の南極圏の凍土の融解が問題となっています。つまりそこにとじ込められていたウイルスが凍土融解の過程で他生物を介して再生することが指摘され、気候変動が続く限り、ウイルスが死滅することはなく、従ってコロナ問題は続くとされる処です。

更に温暖化問題に直結する問題がエネルギー問題、とりわけ石炭問題です。つまり温暖化を促進させる二酸化炭素の排出量の高い石炭火力ですが、その石炭火力への依存度の高い日本への批判は高まることはあっても収まることはなさそうです。と云うのも今世界ではコロナ感染拡大をきっかけに「脱石炭」の動きが加速しているのです。 経済活動の停滞で電力需要が減少し、気候変動の対策を意識する各国の経済政策もエネルギーの転換を後押しする状況にあります。コロナ後は新しいエネルギーの時代をどう生きていくかが試される処、欧州を中心に各国は脱炭素を柱とする経済対策「グリーン・リカバリー」に知恵を絞る状況と伝えられています。こうした現実にも照らすとき、まさにSDGs(注)として盛られた環境政策対応こそが、日本の行方を規定する事になると、改めて知らされる処です。

(注)国連サミットのSDGs合意と日本政府
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、1999年のダボス会議で、当時の国連事
務総長、コフィ・アナン氏が持続可能な成長実現のための世界的枠組みを提唱、これ
が2015年9月の国連サミトで採択され、「世界を変革する-持続可能とする開発の
為の2030 Agenda(17のゴールと169個のターゲット)」とされるもの。日本政府は
翌年、2016年12 月22日に全国務大臣で構成する「持続可能な開発目標(SDGs)推
進本部」を立ち上げ、「SDPs実施指針」を決定、2030年Agendaに掲げられた5つ
のP( People, Planet, Prosperity, Peace, Partnership ) に対応、日本政府が目指す8
項目を掲げ、今日に至っている。

・環境立国たるの宣言を
現状は、一部の企業が、その実行プランを公開し、ネットを介し、interfaceを図っていますが特段、何の響きもありません。欧米企業では周知の通り、トップが社会のあるべき姿を描き、それに向かって現場が進む処、日本では現状の技術レベルを前提にボトムアップで計画が進むため、SDGsへの取り組みが遅々として進まぬ事情にある処でしょう。然し、不透明感深まる今こそ、より良い未来の構築に取り組む姿勢が重要です。上述日本の対峙している問題、世界の構えにも照らし、この際は「環境立国」を宣言し、SDGsの大きな柱である環境問題への取り組み姿勢を、世界に発信していく事とすべきを思う事、今再びとする処です。

そこで問題は発想の転換です。つまり現状からの延長ではなく当該目標から逆に、それに向かってどういったことが求められるかを追求する行動様式で、要は「フォアキャステイング」から「バックキャステイング」への思考転換が必要と云う事ですが、その事が日本の生きざまを進化させていくはずです。その点、筆者が主宰する勉強会でも大いに沸く処です。
 
(2)中期展望を欠いた「骨太方針」
安倍首相は、6月18日の記者会見で「ポストコロナの新しい日本の建設に着手すべき時は今だ」と訴え、アベノミクスで掲げた目標のいくつかは、2021年9月までとなる総裁任期中の実現は難しくなる中、7月3日には、「アベノミクスで掲げた目標のいくつかは、2021年9月までとなる総裁任期中の実現は難しくなる中、強靭性や持続可能性を持った長期的視点に立って社会像を追求する」と発言する処でした。 そして、首相が議長を務める未来投資会議を拡大し、「コロナ後」の社会像を構想する新会議を立ち上げ、経済諮問会議の民間議員や感染症の有識者などを入れて議論を始めるとも、伝えられる処でした。

が、7月17日閣議決定された経済財政運営と基本方針(骨太方針)では、ウイルス感染防止と正常な経済社会活動の両立を謳い、デジタル化の加速や医療体制の拡充などに取り組む方針を示したものの、残念ながらコロナで一変した世界に向き合う経済・財政の中期的展望を見ることはありません。その事は安倍晋三首相の何を意味する事か、関心の募る処です。


       おわりに 世界の指導者の優劣をはっきりさせたコロナ危機

(1)安倍政府のコロナ対応は上手くいったのか
周知の通り、安倍政府は5月25日、4月7日以来の緊急事態宣言を全面解除とし、経済活動再開に向け動き出しました。解除決定の論拠とされたのが「再生産数」(注1)で、 いずれも感染拡大が防げるレベル(新感染者が直近1週間の合計で10万人当たり0.5人以下に抑えられている状況)に達したとするものでした。

(注)「再生産数」:これは1人の感染者が何人にうつすかを示す数値で、感染雄拡大が続くのか収束
するのかを知る物差しとなるもの。これには「基本」と「実効」指標があり、特に実効はパンデミ
ック後に各国がとった対策の巧拙を知るバロメーターとなる。これは1人の感染者が何人にうつす
かを示す数値で、感染雄拡大が続くのか収束するのかを知る物差しとなるもの。

かくして、当初恐れられていた感染爆発は逃れ、日本の流行は一端、収まりつつありました。が、現状は感染拡大、再びの様相です。何ともモヤモヤ感、募る処です。

・モヤモヤ感の背景
日本は人口10万人当たりの死者が0.65人と、欧米に比べて大幅に少ないことを評価する声はあります。然し、パンデミック第1ラウンドでは各国の医療体制や対策への巧拙が感染者数や志望者数を左右したと云われています。情報テクノロジーをうまく使いこなした台湾、徹底した検査と追求、隔離で感染を抑え込んだ韓国、官学一体で合理性ある戦略に拘ったドイツ等、いずれも「台湾モデル」、「韓国モデル」「ドイツモデル」として他国は手本にする処です。然し「日本モデル」という言葉は聞こえては来ません。 何故か? ウイルスとの闘いはこれからが本番とされる処です。そこで感染の拡大を抑えつつ経済活動を戻し、予想される第2波に備える為にもと、そのモヤモヤ感の所在を、以下に整理してみました。

① 自粛要請という日本型規制の曖昧さです。日本の場合、対策はデータを重んじる合理性や一貫性を下記、「自粛要請」と云う矛盾した言葉を国民の行動に強いてきたからで、まねしようにもまねできません。因みに、6月9日付けFinancial Timesは、今次の日本の成果は国民のmindo(民度)の高さによるものとした麻生太郎氏のコメントに、`Japanese pride in the end of lockdown can swell too much’ と、強く反応する処、要は国としての政策のなさを示唆する処です。同じ線上にある問題として指摘できるのが、外出制限の前提となった「8割」自粛の数値です。本来は人と人との接触を減らす数値目標です。然し、緊急事態宣言下でいつのまにか主要ターミナル駅や繁華街と云った都市部への人出(人の流れ)の削減に焦点が移っていたのです。人出が減るのと、人と人の接触が減るのとはイコールではありません。そもそも接触機会をどう定量的に示すかも定まった手法はありません。この科学的根拠の希薄な「8割目標」はモヤモヤの温床となるものでした。
② もう一つはPCR検査不足に対する説明の不十分さです。これが言うなれば社会に不安や不信を掻き立てたと云う事です。疫学調査を優先し医療崩壊を防ぐのが目的なら、過少検査でも問題がないとする根拠を丁寧に説明すべきだった処、そうした機会はないままに終わってしまった事でした。検査数が十分でなく、国内の感染状況を正しく反映していない可能性もありで、各国が出口戦略に活用した「実効再生産数」(前出注参照)と呼ぶ流行を映す数値を採用することができていなかったと云う事です。そして宣言解除に向けた基準作りは難航し、「感染状況」、「医療体制、「監視体制」の三つから判断せざるを得なくなり、結局「総合的に判断する」と云う、聞こえはいいが、政策に情緒や思惑が入り込む余地を作ってしまったのです。データを軽視する結論にはやはりどこかに疑念の目が向く処です。今次の検証会議では「科学的根拠」が云々されており、期待できそうですが。
➂ 更に、専門家会議の迷走が対策への信頼を損なう事になった事です。同会議はあくまで医学的な見地から政府に助言を行う組織で、政策の決定者ではありません。にも拘わらず時に大いなる存在感を示す処、その極め付きは専門家会議が5月4日に公表した「新しい生活様式」でした。手元にある資料では生活の場面ごとにきめ細かく実践例が示されていますが、医学的助言とは程遠いものと云え、責任を取りたくない政治や行政が、専門家という権威を巧みに利用したともいえる処です。

日本では同調圧力が強く、人目を気にして行動を控えるひとも多いことでしょうが、外出しても何ら罰則があるわけでもなく、それでいて緊急事態宣言が海外の都市封鎖よりも威力を発揮したとされ、又、多くの人たちは日本人の特性と語るのですが、これこそはお上任せの態度と映る処です。現状、第2波の到来が予想される処、政府は第1波で感染者と死亡者数が比較的少なくすんだ「要因」をきちんと分析し明らかにする必要が求められると云うものです。いずれにせよ、当該専門家会議は、6月28日、任務終了となったのですが、なんともいい加減な顛末に安倍内閣の無責任さ再びと、云う処です。

・コロナ対策検証会議発足
政府はこれまでの新型コロナウイルス感染症対策の効果を科学的に検証する会議(新型コロナ対策効果分析会議:委員長 黒川清氏 )を発足させ、その初会議が7月1日、内閣府内で開催されました。メデイアによると検証テーマは外部の専門家から公募し、研究結果を踏まえ、9月をメドにこれら対策の効果や課題等、調査、取り纏めるとの由ですが、さて。

(2)メルケル首相は民主主義の実践者
そんな折、在ベルリンの作家、多和田葉子氏の文芸春秋、7月号に寄せられたコラム「民主主義と透明感」は、筆者が4月号論考でも取り上げたメルケル首相の3月18日のコロナ対応への協力を訴えたTV演説を見ての感想でしたが、極めて清々しささえ覚えるのでした。
つまり多和田氏によると「この人(メルケルさん)はいい加減なことは言わない人で自然科学を重視していると云う印象と、この人は子供を守ろうとするお母さんライオンのように強い人だという印象がミックスされて、みんなの信頼を一瞬にして得た」と記し、「社会の弱者を守るためにみんなで力を合わせましょう」という強くて暖かい呼びかけだったと、云うのです。メルケル首相はテレビに出て人間的な演説をして皆の不安を減少させたと云う事ですが、彼女こそは危機に直面した時に人間らしい顔を見せる人だとも云うのです。

2011年の福島原発事故が起こった時、彼女はすぐにドイツの脱原発を宣言して国民の支持を得たが、2015年、大量の難民すべてを受け入れようと発言し、人間的な顔は見えたが、それによって支持者を失い受け入れに制限が設けられたのですが、つまり彼女が独裁的に自分の意見を通しているわけではないが、「首相が何を考えているのか、国民がそれをどれだけ支持しているのかが常に透けて見える、この透明感が良いなと私は思う」と。そして「政府が何をしようとしているのか、よく見えなかったり、国民の過半数が考えている事が政治にまったく反映されないのでは、民主主義が機能しているとは言えない」とし、メルケル首相は石礫のように飛んでくる反対意見に丁寧に答え、自分の方針を説得力あるやり方で説明し、すぐに実行し国民の信頼を得る,とも指摘するのでした。

コロナ危機ほど世界の指導者の優劣をはっきりさせた例はないと云われるなか、メルケル首相こそ、まさにその‘優’を行く存在たるを実感させられる処です。どこかのリーダーに聞かせたい処です。 以上 ( 2020/7/24記)
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2020年06月26日

2020年7月号  深まる米中の対立とグローバル経済 - 林川眞善

― 目 次 -

はじめに 問われるグローバル経済のかたち
 ・そろり動き出した世界経済
 ・Goodbye globalization

第1章 深まる米中対立と世界経済

1.米中対立の実状
 (1)「トウキデイデスの罠」を映す米中対立の実際
 (2)米中対立の構図はイデオロギー対立へ 
 (3)米中対立を激化させた香港問題
    ・2020G7サミット会議、9月延期開催の真相
2.米中対立の行方

第2章 差別抗議デモと、米大統領選の行方

1.米各地で広がる抗議デモとトランプ氏の行動様式
  ・トランプ氏、選挙集会再開
2.民主党に求められる課題
  ・有権者の行動
3.中国に映るトランプ/バイデン両氏の実像

おわりに これからの日本を考える
 ・自立する外交
 ・佐伯啓思氏の主張

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はじめに 問われるグローバル経済のかたち

・そろり動き出した世界経済
コロナ・パンデミックに覆われた2020年の前半、半年が過ぎるなか、世界は、それまでのコロナ対策として進めてきた行動規制を緩和し、そろり経済活動再開を目指す処です。勿論、パンデミックの第2波、第3波の襲来可能性が想定される処です。と云う事はコロナ菌が完全消滅したわけでなく、従って、当分、各国とも「感染拡大防御の体制」を固めながら「経済活動の再稼働」を目指す、つまりdouble standardの堅持が求められる処です。その際のkey wordがsocial distance。ただ生活、経済の両面でそれが行動規範となると、仮にコロナが収束したとしても、経済はコロナ以前の状態には戻ることはなさそうです。

つまり、市民生活面では感染拡大防御のためとして、人と人との直接接触を回避することが、また外出時にはソーシャル・デイスタンス(social distance:社会的距離)の確保が求められる事で消費活動、生活パターンの変更が起こり、これがGDPで云う消費需要の減退で景気の急激な停滞を促す一方、経済活動でもソーシャル・デイスタンスを確保しながらとすると、これこそは経済の在り方に構造的変化を促すことになる処です。つまり経済活動の基本は人と人とのcontactの上に成り立ってきました。が、その回避を目指すソーシャル・デイスタンスが行動基準となると、産業的には航空、レジャー、旅行、飲食等、対面営業を旨とするサービス分野が直、影響を受ける処、関連する自動車、航空機、などの製造業は規模と裾野が大きいだけに需要蒸発の影響は甚大となる処で、現下の世界経済の低迷はまさにかかる状況を映す処です。(注)

     (注)6月8日、世銀が公表した2020年の世界経済はコロナ感染拡大でマイナス5.2%に落ち
込むと予測する処です。1月時点の予測から7.7ポイントも引き下げとなっています、但し、
21年の世界の成長率は4.2%のプラスに戻ると予測する処ですが、問題は、世界全体に成長
のドライバーが見当たらない事。(日経-20/6/9)

そしてこれがglobal経済の視点からは、人の移動を規制するためとして一斉に国境の壁を高くし、多くは自国主義に走る、まさにBalkanization バルカン化現象が進むことで、世界経済の繁栄を齎してきたglobal化は緊急停止となり、グローバル企業にはその体制の見直しが不可避となる処、グローバル化の流れを逆流させる、革命的変革を誘引する処です。

・Goodbye globalization
英経済誌、The Economist(2020/5/16~22)はcover storyで、こうした状況をGoodbye globalizationと題して、以下のように描くのです

即ち、上述balkanizationが進む結果、グローバル化の核にあったサプライ・チェーンのあり様が問われ、気が付けば、世界の経済が中国を中心に動いてきたことに脅威を感じ、国内回帰が強まる処、これがリスクの一点集中を呼び、規模の経済のメリットを失う事になると、懸念されると云うのです。(注:国内回帰は一方で、問題は国内雇用の保護問題に加え、合理化投資が進むことで、賃金のより抑制でポピュリズムを助長する危険性が潜む事)
そして、5月12日インドのモデイ首相が新しい自国主義、自立経済の時代が始まったと語った由ですが、小国乱立の下では、ワクチンの開発も含め、グローバルな問題を解決していく場がなくなっていくことを危惧すると云うのです。更に、危機対応で大量財政の出動で各国政府は財政赤字拡大を余儀なくされ、その対抗として外資の海外逃避を抑えることとなり、各国の経済回復は早晩期待できないことになるとも指摘するのです。 

つまり、この3要素、自国主義&国内回帰の進行、サプライチェーンの見直し、そして経済回復の如何、がbody-blowsとなって自由貿易システム(open system of the trade)は機能停止となり、グローバル化への動きも従って停止する事になる処と云うのです。が、その次にどのような変化が来るものかと、危惧を強める処です。
要は、選択と集中や効率第一で加速されてきたglobal な企業展開が、コロナ禍でゆり戻される事になっていくとの見立てから globalizationのUターンが云々されると云う処です。

確かに今次コロナ禍は戦後世界経済発展の行動様式の修正を迫り、地政学的に国際関係の構造変化を誘引する処です。かつて学んだ国ごとに強みのある製品に集中し、国境を跨いで売り買いすることが夫々の利益を最大化する(D. リカードの自由貿易論)との発想の下、各企業はグローバルなsupply chainを築いてきたものですが、新型コロナウイルスはそうした前提を覆すことになったと云うものです。

こうした構造変化を指してThe Economist,( May 16~22 ) はそのcover storyで、Goodbye to the greatest era of globalization とするのですが、今後どういった形に収まっていくかは、見遠しえないがとしながらも、自国主義への誘惑にかられる姿に危機感を示す処です。
そして、こうしたグローバルな変化を更に刺激しているのが現下で進む急激な米中関係の悪化であり、かかる事態からは、仮にコロナが終息しても、コロナ前の状態に戻ることはないとするのですが、頷ける処です。

周知の通り上述事情は、今秋の米大統領選再選を狙うトランプ氏自身の事情による、つまりコロナ対応の初期動作の遅れへの非難を交わさんと、とにかくウイルスの発生源は中国にありとして対中批判を強めてきた結果ですが、その火種は従来の貿易や安全保障から更なる広がりを見せる状況です。世界のGDPの4割強を占める米中が報復措置の連鎖を招けば、コロナで痛む世界経済の回復を遅らせ、グローバル経済の縮小が懸念される処です。
つまり、世界経済の行方はまさに、米中関係の行方次第という処です。

そこで、以下本稿では「深まる米中対立と世界経済」をテーマに、米中関係の実状と、米中関係を通してみる世界経済の行方について、と同時に米国は当然のこと、世界の安全保障にも係る米大統領選を巡る状況について、併せて考察する事としたいと思います。


第1章 深まる米中対立と世界経済

1.米中対立の実状

米中の対立とは、2017年、トランプ氏が大統領として登場するや、米国の対中貿易インバランス(トランプ氏はこれを米国の赤字と呼ぶのですが)の是正のためとして2018年7月米国が追加関税措置を発動したことで先鋭化した米中貿易摩擦を映すものですが、そこには中国の産業政策「中国製造2025」への対抗もあってのことで、まさにトランプ政権が仕掛ける対中外交戦略とされるものでした。この間、米中間で3度に亘る貿易交渉がもたれ2019年12月14日には「第一段階の合意」に達し、翌年2020年1月15日に米中両政府は署名、以って一端問題は沈静化した、筈でした。が、両国間の合意への認識に齟齬が見られ、両国の思惑で真に対立が緩和に向かうか不透明に置かれていた処、新型コロナウイルス蔓延を機に再び激しさを増す状況となって来たというものです。

そもそも中国が1979年の米中国交正常化を経て、世界経済の秩序に参加したのが2001年のWTO加盟でした。これは米国の支援に負うものでしたが、これを機に中国経済は急速に拡大、今日世界第2位の経済大国となり、米中はグローバル化と共に経済の相互依存を深め、今や習近平政権下で米国と覇権を争うまでになってきたのです。その状況は、経済が急拡大する中国と19世紀から世界に君臨する米国の覇権争いと映る処です。
序で乍ら、その米中対立の姿を、米ハーバード大のアリソン教授は、歴史上、新旧大国の間で戦争が不可避とする見方に与して、「トウキデイデスの罠」(注)と呼ぶ処です。

(注)米ハーバード大のG.アリソン教授は米中の対立構造を「ツキギデスの罠」と己称したもの。 
古代アテナイナの歴史家、ツキデイデスに因んだ言葉、約2400年前、スパルタとアテイナイに
よる構造的緊張関係に言及したと伝えられる話、を米中関係に適応したもの

(1)「トウキデイデスの罠」を映す米中対立の実際

・米中対立は以下の三つの事案を契機として強化されてきたと云うものです。

 ① ペンス副大統領がワシントンで行った対中国批判(2018/10/4)
   ・政治、経済、軍事のあらゆる分野で中国が掲げる価値観、そのものを批判。以って、米国の対中
    政策の大転換を鮮明に。つまり、外交、安全保障にも広がる「新冷戦」の瀬戸際を示唆する処。

② トランプのコロナ対中批判 (2020/1~ ) ― 米中はストレステスト中 
   ・今年2020年に入って新型コロナと云う新たなストレスで強化される状況が発生。因みに、中
国は早く感染を抑えたが、米欧はまだ苦戦している。これは米欧の民主主義システムより、共
産党体制がすぐれている証と、中国はしきりにこんな言説を流す処。これがトランプ政権にとり
ストレステストと映る処。(注)

(注)大きな危機は政治や社会の耐性を問う一種のストレステスト(stress test:耐久試験)とされる。
ストレステストは、テスト前の状態を帳消しするのではなく、それまでにあった傾向を後押しする
もの。中国についていえば、感染の封じ込めを通じて国内体制を引き締め、テクノロジーを用いた
一党独裁を更に進める、一方の米国ではトランプ以降、共和・民主の支持者の分断がより激しくな
っており、こうした事情を踏まえると米中関係はコロナ以前の姿に戻ることは考えにくい。

③ フアーウエイーへの事実上の禁輸措置(2020/5/17)―米中技術覇権争い
・5月17日には米中対立の主戦場ともいわれるハイテク分野で華為技術(フアーウエイ)への
事実上の禁輸措置を決定、米中技術覇権争いに拍車がかかる処。

(2)米中の対立構図はイデオロギー対立へ
コロナ以前に見られた米中の対立は、通商、海洋の覇権争いにフォーカスされていました。
その限りにあっては交渉を以って解決に向う余地が残されていた処ですが、上述次第で、ス
トレステストに向き合う米中の対立が示唆することは、イデオロギー対立に向かい出して
きたと云うものです。

貿易摩擦から始まった米中衝突は,新型コロナや香港問題を経て、政治的な価値観などで、
米中対立の口喧嘩は、もはや真の敵対関係に陥ってきた(The Economist ,2020/5/9) とされ
る処、とりわけコロナによる米国の死者がベトナム戦争を越えたことで、その怒りは中国
共産党の体質に向けられだしているというのですが、それこそ根本は習近平政権の最強国
路線にある処と云うものでしょう。そしてその様相は、まさに新たな冷戦入りのプロセ
スと映る処、これまでの中国依存型となったグローバル企業の行動様式の見直しは不可避
となり、国際経済の枠組みも大きく変更を余儀なくされていく事になると云うものです。そ
れこそは、世界経済の新常態、云々とされるのでしょうが、この新環境にどう向かうべきか、
その備えが、もはや問われる処です。

(3)米中対立を激化させた香港問題
上述、米中関係を更に激化させる処となったのが、今次中国全人代(5月28日)で「香港国家安全法」の制定方針が採択されたことでした。(7月1日までには策定と伝えられる処です。)周知の通り、中国政府が国家安全に関する機関を香港に設置して直接取り締まりができるようすると云うもので、要は「一国二制度」(中英共同宣言、1984年)を形骸化させ、香港政府や立法会を飛び越えた「直接統治」に乗り出すというものです。香港には投資銀行など米企業1300社が進出しているとされ、うち300社近くが地域の統括拠点と位置付けられているとされています。であれば、中国の香港経済への監視体制が強まる事で、グローバル化を逆転させていく事が想定される処です。

トランプ氏は29日には、今次の中国の政策決定に対して素早く反応、安全保障そして金融
やビジネスに関し幅広い対抗措置を打ち出す一方、米国の香港優遇の廃止など対中強硬姿
勢を再び鮮明とする処です。が、これはまさに天にツバする処です。そしてトランプ氏は中
国絡みでWHOからの脱退をも明言するのでした。

米中はグローバル化と共に経済の相互依存を深めてきました。然し、新型コロナはその前
提を崩すことになったと云うものです。加えて、世界経済と密接につながっている香港問題
が加わってきたことで、米中の対立激化に世界も否応なく巻き込まれつつあると云うもの
です。言い換えれば、香港はまさに米中対立の矢面に立たされたと云う処です。

・2020 G7サミット会議、9月に延期開催の真相
処で、米国が議長国となる2020年Gサミットは、当初、6月下旬にワシントンで開催予定
の処、トランプ氏は9月に延期するとの意向を明らかとしました。直接の要因は、メルケル
首相が国内でのコロナ対策を理由に欠席するとしたことにある由で、彼女のいないG7は意
味がないとして延期する事にした由、伝えられる処です。
トランプ氏としては、この機会に中国にどう対処するかを議論したいと考えている由で、併
せて、秋のG7ではロシア、韓国、オーストラリア、インドの招聘を計画している旨を公表
しています.

要は、香港問題や新型コロナウイルスへの対応などで対立する中国への包囲網作りのため
にサミットを活用したいとする処でしょうか。何か思い付き的行動と映るのです。因みに
The Economist,Jun.6,は`Trump is right that the G7 needs updating. But what for ? と多少
からかい気味に彼の国際会議への対応を評する処です。

尤も、トランプ氏は、「(G7について)世界を適切に代表しているとは思えない。時代遅れの集まりだ」(日経2020/6/1)とし、枠組みの拡大が必要としている由ですが、これが米国内での党派を問わず対中強硬論が加速する様相に応えんとするものとされる処です。これも大統領選向けのジェスチャーかと云えそうです。

ただ、プーチン氏は予て中国が参加しないG7の議論は効果的でないと主張しており、中・ロが主導する上海協力機構(SCO)やBRICSの枠組み,G20を重視する立場を示してきています。また、2014年、クリミア半島併合への対抗措置としてG8から追放されたロシアを復帰させる事にはG7メンバーからは異論の出る処、例えば英国はG7への復帰は支持しないと、又カナダは国際的規範を軽視続けているとして、反対意向が伝わる処です。
安倍首相は6月時開催のG7サミットにいち早く出席と返事をしていましたが、上述事情から彼の次の行動は如何と、習近平の国賓訪日のリスケ案件とも併せ、注目される処です。

2.米中対立の行方

米中の対立は、米国の対中姿勢に照らし当分改善は見込めず、そんな中で米国は世界での軍事プレゼンスを縮小し、当該負担の軽減を図ると云う姿勢は変わることはなさそうです。
因みにトランプ氏はドイツに対して、NATO軍事費負担(GDP2%)の未達の故を以って駐独米軍の3割削減を明示(6月15日)していますが、負担の軽減化に向かう流れは変わることはないと見る処、となれば世界は更に無秩序な様相を呈する事になるのでしょうか。

世界はこれまで強大になり、過剰な自信にあふれた中国にどう向き合い、どう対処するか,
で苦しんできたと云うものですが、これからは強大で、大きな野心を抱き続ける一方で、
内憂も深刻になる中国への対応に悩む時代にシフトしてきたと云う事でしょうか。尚、ここで留意すべきは中国の外交、つまり近時「戦狼外交(Wolf of War)」と称される過激な外交の展開です。2015年、2017年に登場した勇猛果敢なaction映画のタイトルからの引用だそうですが、Financial Timesのラックマン氏は中国が東アジアに公船を配する行動は、コロナ対応、全米デモ(次項)にとらわれる米国の姿を中国にとって好機と見ている結果であって、彼らの東アジアにおける行動に目をそらさず、注視せよと警鐘を発する処です。

        
第2章 差別抗議デモと 、米大統領選の行方

今秋の2020米大統領戦は周知の通り、民主党バイデン氏が現職大統領のトランプ氏に挑戦する構図にある処、両者を巡る環境は構造的ともいえるほどに変化を辿るところです。そこで現時点で留意すべき事として、5月末から起きた人種抗議デモの推移とトランプ氏の対応、そして、こうした動きを背にした民主党支持層の変化についてレビューしたいと思います。

1.米各地で広がる抗議デモとトランプ氏の行動様式

黒人男性が警官の拘束の下で死亡した事件(5 月25日)をきっかけに、全米各地で発生している抗議デモや暴動の拡大は、人種による米社会の分断を浮き彫りとする処、この秋の大統領選に及ぼす影響は重大なものと云う処です。
これはコロナ・ショックが、非白人等マイノリテイの差別、格差問題を改めて浮かびあがらせたその結果ですが、彼らは感染リスクにより曝される一方、解雇の対象ともなりやすく、こうしたことへの鬱積した不満が、一気に噴き出したと云え、抗議行動は人種問題がコロナで増幅した姿と云える処です。その点で想起させるのが、1968年の公民権運動です。

1968年4月、公民権運動の指導者キング牧師暗殺への怒りが全米に広がり100件以上の暴動が発生。当時はベトナム戦争の長期化が社会の閉塞感を齎し、公民権運動に火をつけたと云うものです。 今次の抗議デモは新型コロナウイルスの感染拡大により、差別や格差と云った米国社会が抱える闇を改めて浮き彫りにしたと云うもので、この抗議デモはロンドン等米国外でも広がる状況です。デモを通じて再び感染が広がれば、経済活動の再開が遅れて失業者が更に増え社会不安が一段と高まる可能性が懸念される処です。 向かえるトランプ氏は、その鎮圧に米軍を投入する用意ありと公言、しかも国民を守るべき軍隊に、自国民に向かって発砲も辞さないと、暴動をあおるような言葉を吐くに至っては愕然です。それも再選のため‘戦時大統領’としての強さを示すものの由ですが、もはやついてはいけません。

6月6日付けThe Economistは` Far worse than Nixon ‘と題し、ニクソン氏が68年の大統領選で遭遇した黒人デモに対して「法と秩序」という戦略を掲げ勝利した経験に倣わんとするトランプの行動について、彼の力量はニクソンに及ばないだけに、今次の抗議運動がトランプに有利に働くことはないとし、その背景にある正当な怒りも民主党に追い風と指摘する処です。そして民主党陣営は、トランプ氏にはできない多数派を形成しつつあると指摘する処です。 つまり警察は白人より黒人の容疑者にたいして過剰に実力行使する可能性が高いと正しく答えた米国民の割合が、この4年間で2倍近くに増えたと云う。このリベラルへのシフトは、民主党がトランプ氏への対抗措置として人種間の平等への訴えを強化した結果であり、それは多様な人々が抗議活動に参加している事に表れていると云うのです。

・トランプ氏、選挙集会再開
尚、6月20日、トランプ氏は、オクラホマ州で、3月初旬以来初となる全面的な選挙集会を開きました。Financial TimesのE. Luce記者は6月12日付け紙面で「Americans are losing the stomach to continue virus battle」(コロナと戦う意欲を失う)と題し,これは米国人に何の咎めも受けずに大勢で群がってもいいとのサインを送る事になると、トランプ陣営の行動を厳しく指摘する処でした。そして、米国科学の顔とされるアンソニー・フアウチ博士(国立アレルギー感染症研究所長)はもう、トランプ氏の前に現れることもないだろとも云うのです。彼はその数日前、コロナ・パンデミックは「まだ終わりに近づいていない」と発言していたのです。(注:フアウチ所長は6月23日の米議会証言で、感染状況について「気がかりな急増が起きている」と警告しています。)
以って、ルース記者は、ホワイトハウスは戦争遂行への関心をすっかり失ったと云うのです。

コロナとの闘いは今、州の領分とされてしまっていますが、米国は引き続き、1日当たり約1000人の死者をだしていること、そして、social distancingの規則を緩和している一部の州では、感染者と入院患者の増加ペースが高まっているのにと、ラスベガスのカジノに集まるギャンブラーの様子を引き合いに出し、批判する処です。そして、今次の州都に殺到する武装自衛団と同じように「the Black Lives Matter(黒人の命は大切)」の抗議活動にも当てはまることと云うのです。一方、民主党にしても、スタジアムを埋める事についてトランプ氏を批判しづらくなっているとも言うのです。そして新型コロナウイルス感染症は「まっとうな人たちと白人ナショナリストを区別しない。ひどく二極化した国においては、イデオロギーが科学に勝るのだ」と皮肉くる処です。

2.民主党に求められる課題

これまで民主党の問題は? それは結束力だと云われてきました。が、その環境はいま、バイデン氏にとってpositiveな様相と映る処です。つまり、オバマ前大統領、ヒラリー・クリントン上院議員、サンダース上院議員、等民主党有力議員がバイデン支持を表明、反トランプで党内の結束が進み出した、と云う事ですが、更に上述の人種差別抗議デモへのトランプの強硬姿勢に、ブッシュ政権時の国務長官、パウエル氏、更には前国防長官、マテイス氏までも、トランプ批判を展開、バイデン支持を表明、共和党内からも反トランプの声が高まってきています。勿論、これがバイデン氏に1票と云う事ではないのですが。

あと5か月。民主党には、同党の主張以上に左傾化政策を進めるトランプに対抗できる独自色ある政策が打ち出せるか、と云う処ですが、6月8日, CNNが纏めた世論調査ではバイデン氏の支持率は55%とトランプ氏の41%を大きく上回り、その差は5月の5ポイントから14ポイントと、これまででの最大です。尤も、米国の大統領選挙の実際は、大統領を選ぶ選挙人( electoral college )を選ぶ制度で、上掲、The Economist, June 6も、その選挙人団の構成は共和党に有利な現状にあり、世論調査通りにはすんなりとは行かないだろうと指摘する処です。[(注)各州に割り当てられる選挙人数は、上下両院の数と同じで、535名,これに
両院には代表を送っていないDCからの3名を加えて計538名]

・有権者の投票行動
さて、有権者の投票行動はどうかですが、上記世論調査に見る限り、トランプ氏は全体的に2桁の差を付けられています。又、トランプ氏の岩盤支持層の中核にある非大卒白人の支持率は3月時の66%から5月には47%に急落を示しています。だが有権者は、どちらの候補が経済を復活させるのに好位置につけているか、まだ決めかねているのが実情のようですが、人種差別デモは相応に影響し出したと見る処です。

尚、人種問題と云えば、もう一つ留意しおくべき問題があります。それは白人と非白人の構成問題です。今から20年後の2040年には米国における白人の比率は50%を割ることが予想されています。つまり白人がマイノリテイーになると云う事です。この変化こそは米国における政治経済を揺るがす処となるものです。さて今回の選挙にどう影響しだすか興味、深々です。

3.中国に映るトランプ/バイデン両氏の実像

さて中国はトランプ氏とバイデン氏をどのように捉えているのか?関心の持たれる処、6月13日付けThe EconomistはPondering America’s electionと題して、中国にとって望ましい米大統領は誰か、中国の政策当局者が観る二人の実像を伝えています。それは中国の視点に立って両者を比較描写するものです。極めて興味深く、以下はその概要です。

まず、トランプ評です。彼は新彊ウイグル自治区での弾圧行為にあまり関心がないこと。今では再選しか関心がなく要は自己利益にしか関心のないナルシストと断じるのです。そして彼の関心は中国に政策転換を強いる以上に中国マネーにあると中国政府は見抜いていると云うのです。 人民日報系の「環球時報」では今、彼のことをChuan Jiango = Build- up the Country Trump (国づくりトランプ)と云うそうですが、要は、トランプは中国をより強くするために米国を破壊する仁だというのだそうですが、それはダブルスパイだとも云うのです。極めて皮肉な表現です。同時に、米国の衰退が加速する事は、中国にとってプラスなのかと、議論を始めているというのです。

一方のバイデン氏については、オバマ路線を踏襲すると見られていると云うのです。そして彼は経済において中国と相互依存関係にある事を危険視するのではなく、むしろ安定の基盤と位置づけていたし、パリ協定など世界的課題について中国との連携を重視し、オバマ政権では重要な役割を担っていたが、当時を懐かしむ空気は今はまるでないと。むしろ、オバマ流の関与政策は「中国が豊かになるにつれ西側の政治ルールを受け入れていく」と云う誤った考えに基づいたものと批判的に見ているようだと伝える処です。

米国では、台頭する中国への脅威論を巡って共和党と民主党が意見を同じくしていると同様に、北京でも、指導層の間でコンセンサスが出来つつあると云うのです。つまり、彼らは米国を斜陽国家と呼ぶようになったと云うのです。米国は富裕ではあるが、過度の分断と利己主義、人種差別のゆえに市民の安全を守る事の出来ない国と云う由です。そこで、中国の指導者層は、トランプ氏は米国の衰退を示す兆候であり、かつ、衰退を促す存在だと見ていると云うのです。

ただそうした評価はトランプ再選を中国が望んでいることを意味しているか、となると中国指導者層の意見は分かれる処。上述のとおり、米国の衰退が加速する事は、中国にとってプラスなのか? 議論を始めているという由ですが、安全保障の視点からは、トランプ政権になって混乱が更に4年続く方がよいと考える向きは多いと云うのです。一方、世界秩序があまりに早く崩壊することを恐れる陣営は、バイデン氏の当選を切望していると。つまり、バイデン氏を、経済面での米中デカップリングを抑える穏健派と捉え、中国が多様化し自立を進めるための時間を与えてくれると考えている為だと云うのです。勿論、バイデン氏を警戒する人の多くは中国の人権問題に対する彼の姿勢だと云うのです。
いずれの論を支持する陣営も、極めて「守りの姿勢」にある点で一致していると云い、‘Whoever becomes America’s next president, China does not expect to be friend’ つまり、
次の大統領が誰であれ、友人になれると中国が期待することはないだろうと、締めるのです。


おわりに これからの日本を考える

・自立する外交
過去30年、日本外交の柱は米国と同盟関係を深化させながら、中国と協調するものでした。もとより、これは現実的な選択肢だったものの、相対的な日本の国力低下と共に、米中への依存度を強め、米国からは防衛装備を気前よく購入し、中国からは投資や観光客の受け入れ
を促してきました。但し、その費用対効果はパンデミックの以前から悪化していたのです。

さて、その米中は前述の通り対立を深める中、今次見せた習近平中国の香港対応は強権指向を決定づける一方、米国は、世界での軍事プレゼンスを縮小し、当該負担の削減方針にあって、時に同盟国、欧州とも利害を争う状況は「消える西側(westlessness)」への懸念を呼ぶ処です。つまり世界は新たな地政学的混乱(The new world disorder、The Economist, June 20)と向き合う事になると云うものです。 とすれば今作られつつある「コロナ後の国際秩序」の行方を冷静に見極め、この際は、国益を意識した自立する外交、つまり東南アジアなど米中以外の諸国との関係強化を通じた国際環境の構築、を目指すことが日本にとって極めて重要になってきたと実感する処です。

・佐伯啓思氏の主張
処で、友人から送られてきた5月31日付け産経新聞掲載の佐伯啓思氏、京大名誉教授、のコラム[`公共的資本主義’へ転換を]は、コロナ後の世界を考えていく上で示唆深いものでした。そこでその主張のポイントを、弊コメントと併せ、下記紹介し、本稿の締めとします。

「・・・既に、グローバルな市場競争は持たない処まで来ていた。そこへコロナ・ショックが生じた。コロナ禍は、これらのグローバリズムのもたらした問題を更に明るみに出し、もっと深刻な次元へと推し進めた。一国中心主義は一層進み、米中対立は深刻となる。民主主義国家も、国家や政府の権力を強化する事になる。EUはますます脆弱になり、人の移動は経済の重荷になる。・・・極端なまでの財政、金融政策や支援金のバラまきにも拘らず、経済成長は期待できない。これはグローバリズムへの挑戦ではなく、過度なグローバル競争の帰結である。だからグローバリズムの立て直しによる経済成長主義というような価値観はもはや破綻している。その事を今回のコロナ禍が顕在化させたのだ。」とし、更に、もしポスト・コロナの社会像があるとすれば、それは、医療、福祉、介護、地域、人のつながりなどの「公共的な社会基盤」の強靭化を高めるものでなければならないとし「それは効率至上主義のグローバルな競争的資本主義と云うよりも、安定重視のナショナルな公共的資本主義と云うべきものであろう」とするのです。

勿論、納得する点、多々です。が、上記筆者の主張に重ねて思うとき、佐伯氏はグローバリズムを批判する思想家として知られる仁で無理な話でしょうが、この際は、グローバル化の終焉を云々するのではなく、それが齎してきた世界経済への貢献について謙虚に評価されて良いのではと思料するのです。そして、「変調グローバル化」の時代に入ったとされる今、その形は変わっていくとしてもなお、グローバルな対応の必要性、有為性が失われることはない筈です。この点、筆者も改めて、考えていきたいと思う処です。以上 (2020/6/25記)
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2020年05月25日

2020年6月号  ジョー・バイデンJr. 見参 - 林川眞善

目 次
  
はじめに  ジョー・バイデン Who ?

第 1 章 2020 米大統領戦、戦いの構図  
             
1.‘危機’に便乗した再選足固めのトランプ・コロナ対策

2.今次大統領戦で求められるは ‘有事の指導力’

第 2 章 バイデン政策の基本と可能性

1. ‘アメリカを取り戻す’

(1)バイデン政策の枠組み
① 外交政策
② 経済政策 ―・無保険者救済 /・雇用の回復
(2)問われる民主党政策の独自色

2. メデイアに映るバイデン氏の可能性 

おわりに 緊急事態宣言延長で思うこと

・緊急事態宣言/・政策のトリアージ

[ 付属資料 ] 抄訳 バイデン外交政策
― 「アメリカを取り戻す」  
(Foreign Affairs, March/April 2020)

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はじめに  ジョー・バイデン who ?

コロナ災禍で世界の生業が大きく変わる中、あと半年に迫った米大統領選の行方は世界にとって最大の関心事です。1971年、ニクソン大統領が金・ドル交換の停止を決定し、世界経済のシステムを変更させたように、又2017年、トランプ大統領の台頭は新たな米中対立時代を演出するほどに、米大統領選は言うまでも世界最大の権力者を選択するものです。

さて、今次選挙では、共和党候補は勿論現職大統領のトランプ氏。その対抗馬となる民主党の候補は、4月8日、最強のライバルとされていたバーニー・サンダース上院議員が撤退を表明したことで、バイデン前副大統領のprimaryでの候補指名が確実となり、その結果、2020米大統領戦は、バイデン氏が民主党候補としてトランプ氏に挑戦する構図が整いました。(最終的には8月の民主党員集会で決定)
そこで前号で約束した通り、本論考はバイデン特集としました。トランプ氏は云うまでもなく現職大統領として毎日、メデイアに現れ米国、世界にあまねく知られる存在です。が、バイデン氏についてはオバマ政権での副大統領と云うことの他、正直、バイデン who? です。

・バイデン Who ?
ではバイデン氏とは、どのような政治家か、彼の実像を探る事とします。バイデン氏(1942年生、77歳、デラウエアー大、シラキュース大ロースク-ル)は、1973年、被選挙権ぎりぎりの30歳の若さで上院議員に。議会の主要ポストを歴任し、2009年からは、オバマ前大統領の副大統領として8年間仕える実績をもつ国政44年のベテラン政治家で、その政治姿勢は労働者層に寄り添う「ミドルクラス・ジョー」をアピールする処です。
 
その原点は、生まれ故郷のペンシルベニア州の地方都市スクラントンにあり、石炭業が衰退し、ボイラー掃除や中古車販売で生計を立てた父親の背中を見て育ったと云われています。民主党中道派として自由貿易を支持するなど、共和党に近い側面を持つ、「超党派の政治家」と評される一方で、民主リベラル派からは「妥協的」、「変化を期待できない」との懸念の声も伝わる処です。尚、彼は1987年、2008年の大統領予備選に立候補したものの途中、撤退しています。

さて、そうした折、彼が3月号の米外交誌 Foreign Affairsに‘ Why America Must Lead Again ’ と題した論文を寄稿していたこと、承知しました。その内容は予て彼が主張する ‘この国を取り戻す’ を映す論文です。オバマ大統領と歩んだ8年間をレビューし、民主主義の再生、中間層の再生を訴え、外交面では同盟国重視を訴えるもので、バイデン氏こそが世界をオバマ時代に戻すことができるとの期待を、広く抱かせる処です。まさにポスト・トランプのアメリカに期待する政策論です。勿論、トランプ氏が大統領を務めたこの4年間、米国自身、そして世界各国との関係は根本から変わってきました。国内ではこの間に進んだ社会的、政治的分断は極めて深く、仮にバイデン氏 が大統領となったとして、次の4年でこの分断が、改善に向かうものか、見通し難いともされる処です。(後出 Financial Times)

ただ、そうしたバイデン氏の言説等を巡る批判も今、急速に変化し出す処です。 と云うのも、これまで、トランプ氏の絶対有利を裏付けてきた ‘経済’ が急速に悪化、後退しだしてきたからです。つまり、今年1月末以降、COVID-19感染が急速に拡大、その拡大抑制策としてヒトの移動が規制されたことで、市民生活はもとより、米経済は急激な減滞、危機すら呈する状況(注)となり、現職大統領トランプ氏の絶対有利とされてきた環境は遠のき、今では危機下の選挙戦として,バイデンVトランプは互角の戦いになる様相です。

(注)減速米経済の実際:4月3日、米労働省発表の3月雇用統計では景気動向を敏感に映す
非農業部門就業者数は前月比70万1千人減少。就業者の減少は2010 年9月以来,9年半ぶり。
新型コロナで米経済は大幅な活動制限を強いられてきた結果で、過去に例のない雇用と景気の
悪化に、経済対策の執行が追い付かない様相。因みに、4月29日、米商務省が発表した
1~3月期GDPは、前期比年率換算、4.8%の減少、更に4~6月期は年率40%の減少が予測される処です。一方、4月29日、米FRBのパウエル議長は新型コロナウイルスによる失業急増で、経済の復元には時間がかかると、長期停滞のリスクを指摘する処です

さて本稿は、バイデン特集を意図する処、上述事情を踏まえ、第1章では大統領戦を巡る環境変化として、トランプ氏のコロナ戦略対応の現状をレビューし、第2章で、バイデン論文を下敷きに、トランプ氏との対比において、バイデン氏が目指す政策の可能性、問題、課題を整理し、併せてメデイアが伝える、バイデン氏の可能性を考察すすることとします。 尚、バイデン論文については抄訳ながら付属資料として末尾に付す事としました。


第1章 2020 米大統領戦、戦いの構図

1.‘危機’に便乗した再選足固めのトランプ・コロナ対策

上述環境にあって、大統領選挙を秋に控え、再選を目指すトランプ氏は、彼の最大の支持要因とされてきた‘経済’の停滞は何としても打ち止め、回復させ、自らの支持回復を焦眉の急とする処、2兆ドル超の規模の経済支援(注1)を持って、コロナ災禍で経営危機に陥った企業、所得危機に直面した消費者の支援に大車輪の状況です。その内容は、彼のこれまでの主義、主張とは相いれないほどに、まさに「急ごしらえの社会主義」(米コロンビア大、ウイレム・ブイター客員教授)に道を譲るが如きで、‘あのトランプが左傾化’ と巷間、関心の呼ぶ処です。とは言えその実態は、今次危機に便乗した再選のための足固めと云う処です。

  (注1)トランプ政権のコロナ対抗戦略推移
・3月6日:ワクチン開発支援等、83億ドル規模の支援対策 (尚、トランプ大統領は3月13日、
国家非常事態を宣言。)
・3月18日:総額1000億ドル規模の経済支援策 (コロナ無償検査、有給病気休暇、失業保健の
拡充、低所得者向け食糧支援、等)を決定
・3月27日:2兆ドル(約220兆円)規模の, 家計と企業に向けた大型経済対策を決定。これは
2008年の金融危機支援策(7000億ドル)を上回る数字。
・4月23日、中小企業の就労対策を柱とした4800億ドル(約52兆円)規模の追加対策決定、

とにかく経済の回復を、とするトランプ氏は、4月16日には、早くも市民の行動規制を緩和することとし,感染者が少ない地域から経済活動の再開を3段階で進める新方針を発表。
3月中旬からの厳しい外出規制の緩和に踏み切ったほか、 ムニューシン財務長官は合計2兆億ドル超の支援策をもって「6000万人分の雇用が維持できる」と強調、その受け皿となるインフラ投資等、検討開始を表明する処です。勿論、経済活動の再開はコロナの感染拡大のリスクと隣り合わせとなるだけに、緩和のタイミングには厳しい批判のある処ですが、あれもこれも‘再選’のためとする処です。

彼は自らを「戦時大統領」(War President)と位置付け、コロナの収束と早期の景気回復に向けた強い指導力をアピールする戦略を描く処、吹く風は冷たさを増すばかり。因みに5月8日発表の4月失業率は戦後最悪の14.7%と、大恐慌以来の水準。1か月で8人に1人が離職した計算で、米経済は雇用危機突入の様相です。この状態が長引けば世界経済も深刻な打撃を受ける事になるだけに、同氏にとって雇用の受け皿維持が焦眉の急となる処です。

2.今次大統領戦で求められるは ‘有事の指導力’

処で、トランプ、バイデン両者の戦いは、早くから「自国第一か、国際協調か」を基本的対立軸とされていました。(注2)

     (注2)現時点での両者のスタンスの違い
        [ バイデン氏(77)]        [トランンプ氏(73)]
      選挙スローガン: 民主主義の再生、中間層の復活   米国を偉大に(一般教書,2020/2)
      外交 :     国際協調重視 (パリ協定復活)    米国第一(パリ協定2020/11離脱)
     移民政策 :    受け入れ寛容           不法移民対策重視

が、今秋の大統領戦は上述、新型コロナ災禍の下で行われる事情を映し、伝統的な二項対立を以ってされる争いではなく、ずばり‘有事の指導力’を問う戦となってきています。つまり、コロナ対策の如何と云う事ですが、これが今次の大統領戦に向けての看板となる処です。

その点では、現職大統領として連日コロナ対策に向き合うトランプ氏には有利なポジション再びと、映る処です。とにかくトランプ氏にとってのテーマは、一にも二にも、足元の経済回復・再建。だが、現実に展開される景気回復への取り組みは上述(注1)の次第ですが、そこには ‘トランプ慣れ’ の手あかまみれの政治があるのみです。問題は、この行き詰まりを如何に克服するかでしょうが、まさに有事の指導力が問われる処です。

勿論、バイデン氏にとっても足元の回復はもとよりでしょうが、当然の事として彼には「トランプ後」の政策の如何が問われる処です. その点、前述 バイデン氏の政策は「トランプ後」のアメリカの姿として、責任あるアメリカ、国際協調を以って有事に応えるアメリカを体現せんとする、ものとなっています。そこで、当該論文と足元の実際とも併せ、選挙戦でのバイデン氏の可能性を探ることとします。

・民主党の結束力
尚、これまで民主党の結束力の如何が問題視されてきましたが、近時こうした環境は、バイデン氏にとってpositiveな様相に転じてきたようです。つまり、ここにきてオバマ前大統領、ヒラリー・クリントン上院議員、サンダース上院議員、等々民主党有力議員がバイデン支持を表明し出したことです。いうまでもなく反トランプで党内の結束が進み出した、と云う事でしょうか。選挙まで、6か月。その空気を更に高めていけるか、です。


第2章 バイデン政策の基本と可能性

1. ‘アメリカを取り戻す’

(1)バイデン政策の枠組み
バイデン氏政策は当然の事、「ポスト・トランプ」に照準を合わせる処、その基本軸は前述の通り、民主主義の再生を謳い、世界の規範としてSummit for Democracyを通じて民主主義の強化、そして国家間の連携強化を通じて成長を目指す事、外交については米国パワーの源泉として、中間層に添ったものとし、以って`アメリカを取り戻す’とするものです。
そこで、彼が目指す外交政策、そして今次の危機が浮き彫りした‘消えた雇用’の回復、そして国民皆保険問題への取り組みに絞り、トランプ氏との対比において考察する事とします。

① 外交政策: バイデン氏はトランプ外交に対抗する如くに論文一杯に、同盟国重視、国際機関との協調を訴え、自らその前線に立つと宣言しています。これが示唆するのは、云うまでもなく、トランプ慣れに浸った政治からの脱皮です。

トランプ外交は周知の通り、いわゆるdealを建前に、America firstとする点でトランプ米国との同盟関係は不安定と云え、例えば、日米関係について見れば、安倍・トランプ関係は良好とは言え、同盟自体は不安定と映る処です。例えば在日米軍駐留経費の日本側負担の交渉は、2021年3月末が特別協定の期限で、その後トランプ政権との協議開始が予定されていますが、諸般の事情に照らし、厳しいものとなること予想される処です。 尚、バイデン氏の ‘稼働’ で米国のTPP復帰が期待される処、トランプ氏が雇用面では米国にマイナスとのイメージを作ってしまっており、その辺りを如何に克服できるかが、課題と映る処です。

一方、欧州では米国との同盟関係の立て直しに、外交経験豊富なバイデン氏が必要とする声は強く、トランプ氏が忌避するNATOについては、バイデン氏は米国の安全保障の要と位置付ける処です。 尚、中国については、両者とも強硬姿勢にあり、トランプ、ライデンのどちらが大統領になっても米中の確執が和らぐことはないだろうとは大方の見方です。
つまり「不公正なことをして大国になった」との見方は民主党内でも共有されているとはいえ、根本は、習近平政権の最強国路線にあるとされその点、特段の変化はないと見る処です

尚、バイデン氏は今次コロナ対策について、「G7を中心に公衆衛生が整っていない国々を支援する国際枠組みの創設」を提案しています。その背景には金融危機や14年に米国で広がったエボラ出血熱への対策を当時副大統領として対処した経験が映る処です。更に、ひどい打撃を受けている国に手を差し伸べるべきと、イランへの制裁緩和をも提案する処です。つまりオバマ前政権で結んだイラン核合意を破棄したトランプ氏への意趣返しともなる処ではと、思料する処です。 ただ強権姿勢の首脳が幅を利かせる現在の国際社会で、融和の主張がどこまで通用するかですが、彼が主張するアメリカに期待したいと思う処です。

② 経済政策:コロナ危機で新たに大統領戦での争点となって来たのが経済再建。バイデン氏は再生可能エネルギー、高速通信網などに10年で1.7兆ドルを投資すると公約する処、急増が予想される失業者の受け皿とする狙いとも伝えられる処です。この点は前出トランプ政策と対抗するものですが、両者とも、経済の推移の如何次第では更なる政策の見直しがあるものと伝えられる処ですが、この際は、危機を象徴する失業問題、雇用の回復問題、これにリンクする形で指摘されだしている医療保険問題の二点に絞り考察します。

・無保険者救済:米国では全国民を対象とした公的保険制度はありません。雇用先の企業が提供する民間医療保険への加入が一般的で、今次の危機で不振に陥って企業が解雇するとなると、保険費用は自己負担となり、無保険者に転落する事ともなるのです。今次の危機で問題が露わとなったのが無保険者問題で、現在無保険者は約 2900万人と報じられています。その点で、11月の大統領戦ではオバマケアの扱いが焦点となると見られる処です。

その点、バイデン氏はオバマ政権で、同政権が推進した医療保険制度(オバマケア)に関わってきたこともあり、その拡充を公約する処、その目玉は不法移民を含むすべての米国民に開かれた公的保険制度の創設を狙う処です。この問題では国民皆保険をと、大胆な改革を掲げる民主党急進左派のサンダース氏の存在感は大きく、バイデン氏はサンダース氏と政策調整を図るとしており、その行方は極めて注目される処です。 尚、トランプ氏はオバマケア撤廃を主張し、疾病対策センター(CDC)の予算を削減してきており、不利な風の吹く処です。 ただ、トランプ政権は無保険者でも治療を原則無料で受けられる制度作りを進めていますが、これは特例措置としており、医療保険への公的関与を縮小するトランプ氏の考えは変わらずと、見られています。

・「消えた雇用」の回復:今次のコロナ危機で、消えた雇用の回復が大きなテーマとなっています。既にみたように、米経済の6月期、GDPは40%の減少、失業率が20%に達するとされる中、バイデン氏はこれまでトランプ大統領に対し、格差問題をぶっつけ「恩恵が中間層に行き渡っていない」と迫ってきました。然し、好調な経済環境の下では盛り上がる事もなく推移してきましたが、今次のコロナ危機で消えた雇用の回復が大きなテーマとなって来たのです。 

バイデン氏は、そこで朝鮮戦争下で成立した国防生産法をよみがえらせる構想を打ち出す処です。これは困窮する中小企業への融資を政府が金融機関に命ずると云うものです。そして、これは民間活動に介入したくない、として医療品調達で国防生産法を適用するのに否定的だったトランプ氏との差別化を狙いとするものでした。処が、トランプ氏はGMに人口呼吸器の増産を命じてからは、ためらいなく国防生産法を使い、企業に指示を出すようになっています。それはバイデン氏の独自色を見えにくくする処、それこそはトランプ氏が現職の強みを生かしコロナ対策を選挙の看板とする処です。

いずれにせよ、金融危機時の最悪期(2009年10月には10%)を超える激しい雇用環境の中で、選挙戦は展開される事になるだけに、経済再建が最大の争点となる処、両者の評価は、今後の税制、投資と通商も絡めた政策の再構築の行方如何とみられる処です。

(2)問われる民主党政策の独自色
処で、コロナ危機対策としてトランプ政権が打ち出す支援策の多くは、先に触れたように、トランプ政治の左傾化を示唆する処です。3月上旬には考えられなかった事でしたが、トランプ氏は低所得層への支援、医療保険等、社会保障面に多くを配慮するものとしてきており、彼自身、忌み嫌う社会民主主義に近い政策を次々に打ち出してきています。以ってトランプ政治の左傾化、とされる処です。もとより彼への支持票集めの作業と映る処ですが、まさにコロナ危機によって米国は、民主党、とりわけサンダース上院議員らリベラル派が考える世界のあるべき姿へと変貌する様相にあるとも言え、危機が齎した与党共和党のリベラル化とされる処です。さて、この点、民主党として共和党との差別化を如何に明示していけるか、上述 国防生産法の対応も含め、基本問題と映る処です。

序で乍ら、トランプ氏が全米に対して国家非常事態を宣言した3月13日以降、選挙活動がデジタル空間に移っています。つまりコロナ対策として、選挙のためのイベントも個別訪問もできず、オンラインイベントとか、スマホ重視とか、要は、選挙のデジタル化で、SNSではトランプ氏の発信力が絶大ともされている事、周知の処です。勿論、今後の「デジタル選挙」でどう集票に結び付くかは未知数ですが、当該選挙の在り方が変わっていくことは間違いなく、つまりデジタル選挙に備えた選挙戦の再考が、求められる処です。

2.メデイアに映るバイデン氏の可能性

さてメデイアが映すバイデン評ですが、その一つ、Financial Timesのcommentator, Gideon Rachman 氏は3月10付同紙で、バイデン氏が仮に大統領になっても、それは新型コロナに負うもので、共和党員はその勝利は正統な選挙の結果ではないとして一蹴するか、陰で米国を操っているデイーブステートによる陰謀の産物だとさえ云う可能性がある、と云うのです。Biden cannot turn back the clock、つまりバイデン氏が大統領に就いたとして、トランプ氏が4年間で変えてしまった米国、そして米国と世界各国との関係は、変わることはないと指摘するのです。バイデン政治の可能性を質す処、 その内容をフォローします。

まず米中関係です。今、米中関係は世界秩序の中心だが、トランプ政権はその関係を大きく変えてしまったが、バイデン氏が大統領になったとしても、その米中関係が根本的に修復される事はないと断じるのです。トランプ前の米国で保護主義を主張するのは民主党でした。が今では民主党も共和党も保護主義に傾いていて、中国を単に経済的 ライバルであるだけではなく、テクノロジーと地政学の側面から世界の覇権国としての米国の地位を脅かす存在と、ますます認識しつつあると云うのです。従ってトランプ前のようなグローバル化の流れは大統領が変わっても復活することはないと見るのです。 そしてバイデン氏が大統領に就いた場合、民主党政権として人権問題と南シナ海を巡る領有権問題もクローズアップされてくると見込むと、両国の緊張は一層高まるとみられるというのです。

もう一つは中東への関与の可能性です。中東や欧州では、米国が中東での指導力を発揮することが期待されているが、バイデンが大統領に就いたとして、これに応えることはないだろうと云うのです。と云うのも米国の中東におけるプレゼンスの低下は、オバマ政権がイラクからの米軍撤退を決め、シリア内戦には介入しないとの方針を決めた時から始まっていたことで、バイデン氏は中東にもっと慎重で、アフガニスタンへの増派にも反対していた経緯があり、又トランプ政権が離脱を決めた、2015年に成立したイラン核合意への復活も、イラン政府の対米警戒感の強さからは難しいというのです。と云う事でバイデン氏が大統領に就いたとしてもトランプ時代の課題、弊害は続く、と見るのです。

バイデン氏が大統領になれば、人権と民主主義の重要性を改めて強調する事で、米国は再びリーダーシップを発揮していこうとするだろうが、世界で人権を主張しようとも、すぐに信念よりも利害重視の現実的な政治とぶつかり、妥協を余儀なくされるだろうと、云うのです。

世界的にナショナリズムと反自由主義の勢いが増す処、ナショナリズムはトランプ政権誕生前からはじまっていたもので、トランプが退任したとしてもそのトレンドは続くだろうとした上で、中国、ロシア、ブラジル、インド、トルコ、サウジでは依然として反自由主義的国家主義の指導者による国の支配が続き、米国の相対的支配力の低下も続くと指摘するのです。そしてバイデン氏が大統領執務室に座った時、そこから見える世界が、オバマ氏が去った時から大きく変わったことを実感するだろう、と云うのです。

さて彼はテーマ通り、バイデン氏でも時計の針を戻すことはできない(Biden cannot turn back the clock)と云うのですが、コロナ禍後の世界経済の姿を思う時、バイデン氏の基本軸はより戦略性を担っていく事になるのではと思料するのです。


おわりに 緊急事態宣言延長で思うこと

・緊急事態宣言:5月4日、安倍首相は4月7日の緊急事態宣言を5月31日まで延長する旨を決定、併せて、感染拡大予防のためにはヒトとヒトの接触を回避する事必定と、5月中のstay homeを国民に要請しました。勿論筆者もstay homeを続ける処です。が、思うに、これまでは国内感染を抑制し、医療現場の逼迫を招かないための方策を最優先してきましたが、今後は感染を抑え込みつつ、企業の事業継続や就学、文化活動などとの両立を探る段階に入っていくはずです。つまりは出口戦略ですが、安倍首相のコメントでは何ら触れられることのなかった、その姿勢に極めて違和感を覚えるのでした。
 
この点、当日の諮問委員会が終わっての記者会見で記者に問われた尾身会長は、‘自分たちはあくまで医療の立場で提言するもので、経済や社会学の専門家らを加えて幅広い知見を活かす体制とすべきとは云ってきた’ ・・・と、云うだけで、要は、stay homeの提言を安倍首相が決定したもので、その結果、企業のこと等、我々には関係ない事と云わんばかりと映るのでした。筆者の友人読者からも、もはや首相のピンチ・ヒッター、諮問員会メンバーの入れ替えが必要ではと、声の届く処です。

序で乍ら、同「諮問員会」メンバーは16名、そのうち14名が男性医療専門家、残る2人は女性で弁護士です。この数字も問題です。因みに、5月3日の日経が伝える国連事務総長、グテレス氏の「コロナ危機:私の提言」は、今の諮問委員会の姿を批判するが如きでした。
つまり「・・新型コロナ・パンデミックは男女間の不平等など、あらゆる種類の不公平を明らかにし、助長している」と。そして、「パンデミックが引き起こす深刻な経済の苦境の最も明確な被害者は女性だろう。働く女性に対する不公正で不平等な処遇は、私が政治の世界に身を投じた理由の一つだ」と云い、「感染の第2波や深刻な人手不足、社会不安など最悪の状況を防ぐための政策決定が行われる場に、女性がいるべき」とも訴えるのでした。

・政策のトリアージ:その前日の5月3日、憲法記念日には、安倍首相は例年の通り、憲法改正を進める民間団体に向け、改憲への挑戦は必ずややり遂げるとメッセージを送り、その際、緊急事態の国家や国民の役割を憲法にどのように位置づけるかは極めて重要で大切な課題と、緊急事態条項に言及するのでしたが、その心は2018年自民党改憲案に盛り込まれた「緊急事態条項の創設」です。つまり、今次のコロナ対応で関連法案の審議が進まず、そこでこの際は、コロナ対応として出された緊急事態宣言を、改憲論議を進めるきっかけとならないかと、探る動きを映すものとされるのですが、コロナが問う改憲と、云った‘様’です。
憲法を時代に即したものとしていく為の議論は良としても、スケジュールありきで、国民が納得しうる十分な議論も示されないまま、take chanceで動こうとする姑息な姿は、今次国会審議見送りとなった「検察庁法案」をも含め、‘私’のための政治行動のほかなく、安倍首相への不信、安倍政治の危険さを痛感させられる処です。今、日本には何が必要か。決して改憲にかまけていられる時機ではない筈です。 

そこで、ある意味、動きの止まった 今、有事とされる今次の危機にも照らし、政策のトリアージ、つまり政策の優先順位を見直し、国家百年の計を打ち出し、国民を勇気づけるべき時ではと、痛く思う処です。(2020/5/23 記)






[ 付属資料 ]   抄訳 バイデン外交政策 -「アメリカを取り戻す」

                   出典:Why America Must Lead Again
                    By Joseph R. Biden, Jr. 
[Foreign Affairs, March /April,2020 (P.64 ~76)]
                   
0.はじめに 

2017年1月20日以降、米国はあらゆる側面でその権威を失ってしまった。トランプ大統領はけなす事(belittle)しかせず、安全保障面では当該専門家、外交団等々を追い払い、時には同盟国をも忌避し、北朝鮮からイラン、シリア、更にはアフガン、ベネズエラ と対峙していくとは言え、徒に時間を浪費する様にある。

トランプは米国の友好国に対して貿易戦争を仕掛け、結局は米国国民、とりわけ中間層を傷つける一方で、民主主義が持つ価値、それは国家に力を与え、国民の一体化をもたらすものだが、それを大きく毀損させてしまった。気候温暖化問題、移民受け入れ問題、世界に拡散する伝染病問題等々、米国が直面するグローバルな問題を軽視し、米国が貢献してきた国際的民主主義システムを崩壊させてきた。そのため後継大統領は、そうした問題を取り上げていかなければならない。それは、まさにサルベーションとも云うほかなく、もはや時間は待っていない。 
民主主義、自由主義こそが、フアシズムや独裁政治を乗り超え、自由に満ちた世界を創造した。まさに民主主義の勝利であり、この民主主義こそが、我々の将来を規定していく。


1.民主主義の再生 ― Renewing democracy at home

・最初に手掛けること:  まず、しなければならないことは、民主主義の修復とその活性化(repair and reinvigorate our own democracy)であり、我々と共にある民主国家との同盟関係の強化だ。米国の力は世界の進歩を勇気づけ、国内にあっては労働者の社会参画の強化を図る処にある。そのためには必要な制度の強化を進め、例えば、教育制度の強化を通じて人材の育成を図り、法治国家として人権の確保、Voting Right Act(投票権法, 1965;公民権法の一つ)の見直しを通じて国民の知る権利を担保していく。

勿論、民主主義こそが米国社会の土台であるばかりか、我々の力の源泉となるものだ。国家として、米国は再び指導的役割を果たす十分な用意がある。その点、大統領として、その目的のために、これまで我々が堅持してきた民主主義が持つ価値の再生を目指し、前進を図る。そのためにも、トランプが進めてきたナンセンスな行為、例えば国境で家族を離反させるような容赦ない非情な政策を廃止し、有害な収容政策や、移動の禁止を取り消し、併せて、Temporary Protected Status制度( 2014年、不法移民に対する一時的滞在許可、トランプはこれを停止している)や、弱者擁護政策の見直しをも進める。つまり、年間難民の受け入れを12万5000人とし、滞在期間延長の引上げについても、我々の責任と価値観に照らし見直す。軍事行動についても、拷問の禁止、行動の透明性を守り、オバマ・バイデン政権で取り上げてきた一般市民の犠牲をなくす一方、全政府レベルで世界の女性や少女の人権保護を図る。

これらのアジェンダを確実にするため、ホワイトハウが再び偉大な擁護者となって、民主主義の価値を維持し、報道の自由、参政権の確保、遵法精神を敬い、法的独立を高めていく。 こうした取り組みは、今始まったばかりだ。時間はかかるが、民主主義の価値向上、生活の向上を目指し、まず足元の国内から始めていく。

トランプのような特定社会のための政治ではなく、法律の強化と、国境の安全を図り、移民の人たちの尊厳に敬意を払い、彼らが求める権利保障等を確実とする。副大統領だった当時、エルサルバドール、グアテマラ等、中米各国の政府のリーダーの支持を得ながら7億5千万ドル規模の基金を以って、社会の荒廃、貧困への支援を果たしてきた。これからは大統領としての4年間、自ら先頭に立ち、40億ドルをもって、地域戦略の展開を図っていく。
更には、個人的利害にそった取引、ダーク・マネー、闇資金と云われるカネの流れ等、民主主義を蹂躙するような行為に果敢に対峙していく。また、米国の選挙における、不条理な資金の介入はもとより、外国からの資金が導入されていく事を、連邦倫理委員会を通じてチェックし、排除していく。要は選挙活動において不合理な資金の流れをふさいでいく。

・民主主義は世界のアジェンダ :米国の民主主義の基盤を強化するため、民主主義を世界のアジェンダとしていく。民主主義は1930年代以来今日まで、極めて厳しい状況に置かれている。米シンクタンクのFreedom House の調査では、1985年から2005年にかけて一貫して民主主義を堅持している国は僅か41か国、過去5年で自由主義を放棄した国は22か国だ。狡猾な政治の広がり(Insidious pandemic)は火に油を注ぐ様で、強権的為政者は分断を図り、人間の尊厳、民主主義を破壊する。近代米国史を見ていくとき、トランプこそは各地にクレプトクラート(Kleptocrat:泥棒政治家)のライセンスを振りまいてきた。
そこで、自分がホワイトハウス入りした最初の1年目には、米国がホストとなって「Global Summit for Democracy」を主催し、自由世界の諸国と共に民主主義の精神を確認しつつ、国家目標を相互に確認し、共に世界の民主主義と、世界の民主主義組織の強化を図っていく。

オバマ・バイデン政権が進めたNuclear Security Summitの経験に照らし、秩序崩壊への対抗、強権政治への対抗、人権尊重の堅持(Fighting corruption, Defending against authoritarianism, Advancing human rights)の三点についての取り組みを最優先する。この米国のサミット公約は、大統領令を以って担保し、国家安全保障と民主主義の責任の中核に置くこととし、国際金融システムの透明化を進め、国際的連携の下、不法なタックスヘブンを追求し、隠匿された資産を捕獲し、同時に国家リーダーの不法行為を追求することとする。
 
民主主義のためのサミット会議(The Summit for Democracy)には、世界中から市民社会の協議組織をも呼び込み、民主主義を防衛する事とする。当該メンバーには技術系企業、有力なメデイアにも声を懸け、責任ある組織を組成し、民主主義社会が備える利点を押さえ、言論の自由を確保する事とし、企業もメデイアにもそれぞれ持てる機能の有効な取り組みを図る事とする。 もとより、関係企業の行動が、結果として、中国のような監視国家を生むことになってはならい。


2. 中間層に添った外交政策 ― A foreign policy for the middle class

二つ目は、バイデン政権の使命として、米国がグローバル経済の中で成功を果たしていけるようにしていく事にある。そのためには中間層の利害に添う外交政策が必要だ。とりわけ、将来共、中国等に競争力と云った点で勝利していくためには、イノベーションを高め、競争力を高めていく事が欠かせない。その点では、世界の民主諸国と力を合わせ、無謀な経済行動を抑え、不公正な状況を制御していく。

経済の安全確保とは国家安全保障に繋がる。米国の通商政策は国内に根差すものとなる処で、それは国内にある膨大な資産とも云える中間層の強化を意味する。そして国家の成功の果実を平等に分かち合え、人種、性別、居住地、宗教、身体条件、等々に関係なく享受できる事を意味する。そのためには、膨大なインフラ、道路、エネルギー供給システム、更には教育への投資が必要だが、そのためには、現在の学生に21世紀の仕事に必要とされる技術取得の機会を提供する。それは独身米国人が質の高い健康保険に加入する事を可能にし、最低賃金の引き上げであり、具体的には時給15ドルの引き上げだが、新たに1千万の雇用創出につながる。それは環境対応を含めた、米国経済のまさにclean economy revolution、を促すこととなる。

それは大統領を目指すにあたって基礎(cornerstone)となる処、調査・開発に向けた投資の推進、つまりはイノベーションに注力していく事で、中国の後塵を拝するような懸念を消し、クリーン・エネルギー、コンピューテイング、AI、更には5G通信、ガン克服競争にも一歩先んじる処となる。そして中間層に添った米外交政策とは国際経済のルールを確かなものとしていく事で、米国ビジネスの成長に寄与する処となる。

世界人口の95%超の人々が国境を越え、生活している状況を鑑みるとき、これに蓋をすることではなく、米国内で最高の状況で製品を作り、最高の条件で世界に供給していく事が求められる。つまり、米国製品を毀損するような貿易障壁を引きさげ、保護主義に向かうような事態を食い止める事だ。それこそは、第一次世界大戦後の不況が、第2次世界大戦に繋がっていったことを想起しなければならない。
問題は、誰が世界貿易を規定するルールを作り、誰が労働者の権利を守り、環境や透明性を担保し、中間層の賃金を確保していく事だが、勿論、これを主導できるのは中国ではなく米国だ。大統領として、米国民への投資を進めていく。そしてグローバル経済維持のため、然るべきシステムを確保するまでは、新たな通商協定の必要はなく、労働者や環境団体の協力なくして交渉などする用意もない。

・中国対応: 今、中国は新たな挑戦を仕掛けてきている。中国はglobal reachを更に伸ばし、中国化を進めんとしている。トランプは国家安全保障の視点から、米国の友好国たるカナダやEUまでも、無責任な輸入関税をかけ、まさに米国経済自身に脅威を与えている。勿論、こうした厳しい環境には、きちんと向き合っていく必要がある。

中国は、勝手に米国や米国企業の技術を奪っていく一方で、自らの国営企業への補助金を進めるが、もとより不公正な取り組みだ。こうした挑戦に対峙するためにも、米国は友好国との連携を高め、中国のこうした行為に対峙せんとする仲間とも連携し、人権擁護の視点をも含め、気候温暖化問題、核拡散防止等に向け、民主主義国家の矜持として、共に我々の持てる力を拡充していく。中国はグローバル経済を無視することはできない。我々は労働、貿易、技術、そしてそれらについての透明性ある規則を作っていく。それこそは民主主義の利害と価値を反映していく事になる。


3.国際協議の場に復帰して ― Back at the head of the table

バイデン外交政策のアジェンダは、米国が主導するテーブルに同盟国、友好国が一堂に会し、世界の脅威と映る事態への対応を考え、その行動に向けてのシステムを作る事にある。過去70年間、米国は、民主党、共和党の大統領の下、各種規則を整備し、協定を図り、今日迄、各国間の関係を律する集団安全保障や、繁栄維持のために国際機関を支持してきた。それもトランプまではだ。

仮に、トランプのような責任放棄の状況が続く事となれば、いずれか二つの事態を生ずることになる。 一つは、どこかの国が米国にとって代わるか、或いは、誰もそんなことに関与することなく、従って危機的状況の続くままに置かれていく事だ。いずれの場合も米国にとって好ましいことではない。勿論、米国のリーダッシップが絶対確実なものでもなく、間違いも犯してきた。米国の軍事力に依存してきこともあったし、間違った軍事力の行使もあった。ただトランプの外交政策は破滅的で、全くバランスに欠けた矛盾だらけの展開にあり、それは外交の役割を侮蔑する他ないものだ。

自分の使命は、米国民を保護し、必要とあれば軍の力も利用することもあろう。これこそは米国大統領の使命であり、誰しもこの国家最高軍司令官の機能を超えられるものではない。米国は世界で最強の軍隊を持ち、米国大統領として、その地位を確保するため必要あれば米軍援用の用意はある。その拡充のためにも投資を図り、今世紀に迫る挑戦に対応していく。勿論、軍隊の動員は最後の手段とするべきものでも、又最初の手段でもない。要は、米国にとって決定的な状況になり、力が必要となった場合は、その目的を明確にし、国民が納得する説明を果たしていく。

・外交こそ米国パワーの源泉 : これまで戦争を終わらせるため、我々は語られることもない血を流し、私財をも傾け、長い議論を重ねながら、アフガン戦争、中東戦争から米軍の引き揚げを進めてきた。勿論アルカイダも,そしてイエメンでのサウジが主導した戦争をも停止させてきた。

世界で、国内で、反テロリズムを貫かねばならない。然し、勝利なき戦いのために、米軍を徒に駐留させ続けることは、米軍の強化、再構築にとって障害となる事から、今後は有力なスマート体制を構築することとする。 規模的には、米軍の戦闘部隊1000人を10倍にし、その力を活用する一方で、地域共通の敵には地域部隊と情報技術を駆使、対峙していく事とし、少なからず軍の経済的、政治的維持を図りながら、国家利益のための進歩を図る事を考えていく。

以上はオバマ・バイデン政権の外交姿勢を映すものであり、その成功に誇りを持つ処、パリ協定、西アフリカのエボラ危機の抑制、イランとの核拡散禁止条例はまさに象徴的成果だ。外交とは単に握手をするだけではない。要は、地域を特定しながら関係を深め協働し、一貫した政策の下で進める、こうした考え方を原則として、米国外交の更なる向上に努めていく。

・NATO : 外交には信頼が求められる。トランプはその点では我々の信頼を裏切ってきた。外交政策の実行に当たっては、とりわけ危機の中では、‘国家(nation)‘の生業が極めて重要となる。トランプのように条約を次々と放り出し、政策を次々と裏切る行為は、世界における米国の名を傷つけた。

同時に彼は民主主義同盟国から米国を離反させてしまった。NATO同盟国に対して、ボールを打ちこんでいるのはその証左だ。 NATOは米国の安全保障にとって,その中核に位置付けられるもの。まさに自由民主主義の防波堤(bulwark)であり、強権、或いは経済的利害による連帯ではなく、忍耐、信頼、力、を与えるものだ。 大統領としては、我々の歴史的パートナーシップを再生させ、それを世界に根ざさせていく。

外交こそは、米国パワーの強化に欠かすことのできない第一の手段だ。クレムリンは強いNATOを世界の脅威と感じ、歴史上最強の政治的軍事連携とみている。 そうしたロシアの侵攻を阻むためにはこの軍事同盟を堅持せねばならないし、また、ロシアに対して国際協定を無視するような行動に対して示しを付けていく必要がある。プーチン大統領の泥棒政治(Kleptocracy)とも云える専制政治にも対抗していく。

要は、我々の価値や目標をシェアーできる国々、つまり北米、欧州の民主主義諸国、更に豪州、日本、韓国、更にはインド、インドネシアと関係を深め、米国の成功やパワー、グローバルな責任をもシェアーしていく。それは米国の将来をも決めていく事にもなる。勿論イスラエルとの関係も大切にする。南米諸国、アフリカ等、広く民主主義の輪を広め、それぞれの地域で相互協力も進めていく。

・米国の世界との約束 :再び世界の信頼を確実にするためには、米国がこれまで主張してきたことの実行がカギだ。具体的には2050年までに排気ガスゼロを目指すこと、つまりクリーン・エネルギー経済の達成だ。そのためには膨大な投資資金が必要だが、色々の手立てを擁してその目標に向かう。重要なことは,米国の排気ガスが世界の15%を占めており、この引き下げの公約を実施する事で、あらゆる手立てを通じて目標に向かう。併せてパリ協定に戻る事だ。そして世界の排気ガス規制のためのサミット会議を主催し、その目標達成のため強力な取り決めを進める。同時に、世界最大の温暖化ガス排出国、中国は、この化石燃料に補助金を出しており、この行動を規制していく事が不可欠だ。

一方、非核拡散、核安全保障については、今、米国は、その廃棄について交渉中で、声を上げるわけにはいかない。しかし、イランから北朝鮮、ロシア、更にはサウジアラビアに至る広がりにおいて、トランプは核拡散を広げてきた。新核兵器競争、核兵器使用については、大統領に就いたら、新時代にふさわしい武器規制協定の更新を進める。オバマ・バイデン政権はイランの核兵器入手を規制すべく非核拡散協定を以って臨んできた。しかし、トランプは軽率にもイランが核開発に向かう方向に誘導してしまっている。

トランプは、近時、イランのソレイマニ将軍を暗殺し、それで危険人物を排除したとしている。そして当該地域での暴動も止まると云う。だが今、テヘランには核の廃棄基準を廃止する動きがある。北朝鮮については、同盟国や他関係国とも連携し、交渉に当たっては権限を与え、ジャンプスタートを目指す。テーマは非核化であり、New START条約の延長問題だが、米ロ間の戦略的安定の礎石となる新兵器の制限に通じるもので、更に核兵器削減に向け、北朝鮮と交渉を進めていく。

今後の技術開発について、5GやAIは、各国それぞれの事情に応じて開発、活用しているが、 米国は、これら技術が将来的に民主主義と世界の繁栄に貢献するよう目指していく。新技術は我々の経済・社会の再設計を促す処で、法律やより高い倫理観をも持って進められるべきで、デジタル規則が中国やロシアによって書き換えられることは絶対に阻止すべきと考える。そして、米国は責任を持って、それら技術が将来的に民主主義社会をより豊かなものとしていく事を目指す。まさに野心的な目標と云え、如何なる国も米国なしでは達成できない。
 

4.世界の前線に立って ― Prepared to lead 

プーチンはliberal ideaなど、もはや陳腐なものと云う。それが持つ力に彼が脅威を感じている事の証左だ。  
今、自由世界が直面しているあらゆる挑戦に対峙していくため、国力を高め、その結束を図ることが求められる処、それこそは米国に課された使命であり、米国を置いて、如何なる国も担えるものではない。米国こそは自由と民主主義のチャンピオンで居続けねばならない。 国家の信頼を高め、将来に向け希望を絶やすことなく、強い決意を持って前進していく。
以上
posted by 林川眞善 at 15:22| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする