2021年01月26日

2021年2月号  世界は、二つのリスクを抱えて、’2021年’を迎えた - 林川眞善

目   次

はじめに コロナ危機、民主主義の危機  

1.終息見えぬコロナ危機
(1)コロナ対策と経済再生への ‘構’(かまえ)  
(2)コロナが放つ‘警告’と‘示唆’
2.民主主義の危機 ―米連邦議会議事堂乱入事件

第1章  バイデン政権誕生と米国の行方

1.バイデン氏、第46代米大統領就任
(1)大統領就任演説 
・就任演説 と バイデノミクスの可能性
・バイデン・コロナ対策
(2)バイデン氏の往く道は難路
・2021年十大リスク
2.バイデン政権下の米国と国際秩序
(1)欧州の対米関係と、対中関係の行方
・欧州と中国の関係
(2)日米関係と日本の役割

第2章 American Democracy の ‘暗黒の日’

1.アメリカン民主主義は何処へゆく ― Quo vadis ?
・Quo vadis? 、その現状に思うこと
2.年の始めの ‘トランプ物語 ’
・Trump’s legacy

おわりに  これから起きる変化  
  
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はじめに コロナ危機、民主主義の危機
                 
世界が迎えた新年、2021年は、二つの‘困難’を抱えてのスタートでした。一つは云うまでなく終息の見えぬ「コロナ危機」。その状況は ‘The tunnel gets darker`(The Economist,Jan.2nd )との様相です。もう一つはトランプ前米大統領が「米国第一」の主張の下、米社会の分断と、国際秩序の混沌を招いたトランプの「負のレガシー」ですが、とりわけ1月6日、ワシントンDCで起きたトランプ支持者による米議会議事堂への乱入事件は、現役大統領の彼が扇動うる事件であっただけに、すわ~「民主主義の危機」と世界は騒然となる処でした。そんな中、1月20日米国ではバイデン新大統領が誕生。さて、新政権の行方如何とする処です。

1.終息見えぬコロナ危機

さてコロナ対応については昨年末、新型コロナウイルス対抗ワクチンの開発で、コロナ収束への期待が高まる中、今度は英国、南ア等から持ち込まれた、感染力の極めて強いとされる新型コロナウイルスの変異種が確認され、世界は新たな感染拡大への危機感に覆われる処、英、独、仏などの一部では再びロックダウンの措置がとられる状況です。

では日本はどうか。昨年来の感染拡大急増に照らし、1月7日、昨年4月に続く2度目となる緊急非常事態宣言が、東京と近接3県を対象に、そして13日には近畿2府1県、更に愛知・岐阜・福岡・栃木の4府県に対しても、同様宣言が発出される一方、個人消費の維持拡大の為と、「Go To」キャンペーンが張られていたものの、感染拡大予防のためと、いきなり全面停止とするなど、およそ筋というものが見えない政府の政策行動に、不信感の募る処です。因みに、コロナ対抗ワクチン接種は欧米ではすでに始まっていますが、日本での一般人あての開始は6月というのです。

(1)コロナ対策と経済再生への ‘構’(かまえ)  
実際、‘ウイズコロナ’、 ‘コロナとの共生’、と云った曖昧な表現を以って経済もコロナもとする政府の手の打ち方は、いかにも後手に回る感否めずで、その‘構’に筆者は極めて違和感を覚える処でした。

政策当局は緊急事態宣言が発出されると、消費者心理が冷え込み、経済の足を引っ張るとの懸念から、‘経済もコロナも’と云った表現を以って政策実施が進む結果、その対応は後手後手と映り、不信感を生む処となっているのです。要は、経済を動かすのは人です。その人を健康に保つには、この際は徹底したコロナ対策に尽きる処、それなくして経済活動の堅持はあり得ません。つまり人の「健康」確保こそが現時点での経済政策の戦略ポイントなのです。
勿論、経済は重要です。その際重要なことは経済再生の為には、まず投資であり、雇用の確保にあること、そして消費はそのあとに続くもとの思考様式を確かなものにした上で、事態に向き合っていく姿勢が見えない、まさにトリアージュということですが、それが見えない事が、問題と感じさせる処です。加えて、この二つのテーマをいかに結び付けていくか、それこそが戦略となる処ですが、そうした姿勢が見えぬ‘政治’に不信感が増す処です。
 
要は、上述消費者の反応を恐れる事情は理解するとして、きちんと目標を示し、事態の推移を測りながら、一体的、戦略的な取り組みを目指す、そうした‘構’が必要と思料するのです。 
因みに、欧州ではコロナと経済対策を環境への取り組みにうまく利用しているといわれています。そのポイントは、新型コロナと持続的可能性、具体的には気候変動対応ですが、後述するように人間の経済システムと自然のシステムの衝突という点で問題の根っこが同じとの認識の下、厳しく対応されていると伝えられる処です。

(2)コロナが放つ‘警告’と‘示唆’
その点で, 新年号とした昨年12月19日付The Economistの巻頭言「The plague year」(コロナ・パンデミック年)は、およそ100年前のスペイン風邪のパンデミックでの経験に照らしながら、コロナが放つ警告、またコロナ禍への対応を通じて得られる次なる進化の方向について語る処、そのポイントは以下ですが、極めて示唆的云うものです。

・コロナが放つ警告。
食料、毛皮を取るために殺されている毎年800億個体の動物たちはウイルスやバクテリアがおよそ10年ごとに人命を危険に晒す病原体に進化する際の培養皿となっているという。そこで、動物たちを殺す代償を払えと突きつけられたのが今年で、それは天文学的な額だったとするのです。そしてロックダウンで経済が止まったことで現れた澄んだ青空こそは、コロナ危機が猛スピードで進んでいる間にも、もう一つの危機である気候変動がゆっくりと進んでいることの証だというのです。今、世界は脱炭素社会を目指す処の事情です。

もう一つは、パンデミックが浮彫する社会的不公正です。つまり、多くの子供たちは学習で後れを取り、十分な食事がとれなくなった事。学校を卒業しても若者の就職の見通しが再び遠のき、外国労働者は捨て置かれ、あるいは、故郷の村へ追い返され、それによってウイルスが広がっていくなど、人種によっても明暗が分かれる現実を指するのです。

・コロナが示唆する進むべき道
その一つはコロナ危機を技術革新の原動力とする道だというのです。例えば、米小売り売上高に占める電子商取引の割合はロックダウンが実施されていた8週間で、それまでの5年間の合計と同程度の伸びを示したが、それは在宅勤務の常態化に負うものというのです。
こうした創造的破壊は始まったばかりだが、パンデミックは医療など保守的な業界でも変化を起こせることを証明したという。AIや量子コンピューテイングなどの最新技術が原動力となり、あらゆる産業に技術革新の波を起こし、更に、パンデミックは政府をも革新的に変えていくと。そして、ポストコロナの21世紀に向け、新しい社会契約を核とした社会の創造を目指せと、以下言辞を以って締めるのです。

「--- They (people) should recast welfare and education and take on concentration of entrenched power so as to open up new thresholds for their citizens. Something good can come from the misery of the plague year. It should include a new social contract fit for the 21st century.」

2.民主主義の危機 ― 米連邦議会議事堂乱入事件

もう一つの危機は、1月6日ワシントンDCで起きた米連邦議会議事堂へのトランプ支持者による乱入事件が齎した危機というものです。これが単に米国のみならず、世界的にも民主主義の弱体化が問われる大問題であることを露わとするものでした。
それも現役大統領にあったトランプ氏が、先の大統領選が不正に行われた事、そしてその正義を取り戻すため、ホワイトハウス近くに集まったトランプ支持者に議事堂を占拠せよ(当日はバイデン氏を大統領候補とすることを正式決定する合同会議中でしたが)と扇動したことで起きた事件だけに、まさに騒乱罪該当の暴挙です。

勿論、TVに映し出される異常事態に、民主主義の総本山ともされてきた米国のその現実を目の当たりにして世界は、民主主義の破壊だ、1月6日は米民主主義の「暗黒の日」だと、騒然となる処でした。バイデン新大統領は、これまでも民主主義の再生を主張し、就任式でも同様主張する処、それが何よりも第1のテーマたるを実感させられた瞬間でした。そうした環境にあって、1月20日、2001年9月の米同時テロ以来の厳しい治安対策が打たれる中、バイデン氏の大統領就任式が行われました。米国は影響力が衰えたとはいえ依然、国際関係の支柱であり、米国内の出来事は世界の耳目を集める処です。

そこで、今次論考では、上述新型コロナ対応の基本を踏まえながら、この際は、バイデン新政権の成立に絞り、就任演説と彼の目指す政策、バイデノミクスの可能性を考察し、併せて今次の米議会議事堂乱入と今後の民主主義政治の行方についても考えてみたいと思います。


            第1章 バイデン政権誕生と米国の行方

1. バイデン氏、第46代米大統領就任

(1)大統領就任演説
昨年春、バイデン氏はForeign Affairs(March/April,2020)への寄稿論文`Why America must
lead again’ で(弊論考N0.98、2020/6月号、弊抄訳添付)、外交こそ米国のパワーの源泉
と、持論を訴えていました。そのポイントは次の4点「民主主義の再生」、「中間層に沿った外交」、「国際協調・連携の回復」、そして「世界の前線に立つ」とするものでした。

・就任演説 と バイデノミクスの可能性
今次就任演説も基本的には、その枠組みで語られていましたが、民主主義において最も掴み所のない「Unity」が必要と主張し、とりわけ現状について、「我々は新型コロナウイルスとの戦いにおいて、最も厳しく命がけとなりうる時期に突入している」との認識を示すと共に、「新型コロナウイルス対策で結束を」と訴えるのでした。そして、現状の同盟関係を修復し、もう一度世界にかかわっていくと「世界のリーダー」復活を目指すとし、自身にとり際立つものがあると云う「American anthem」(アメリカ賛歌)の一節を掲げて終わるのでした。

そして、バイデン氏は大統領就任式直後には、トランプ前政権が無視してきた国際協調の機能回復を通じて経済の回復を目指すとの趣旨に副い、早速、温暖化防止の国際協調の枠組「パリ協定」復帰のための大統領令に署名、EU更に中国が脱炭素に動く中、米国も世界の潮流に回帰する姿勢を示す処です。更には前政権が進めた閉鎖的移民政策を転換、イスラム諸国からの「入国制限」措置の破棄、又 注目されていたメキシコとの国境に「壁」を建設するために出されていた「国家非常事態」宣言を取り消し、壁建設を停止とするなど一日で15項目にわたる大統領令に、又、翌21日には包括コロナ対策関係で、10件の大統領令に署名し、トランプ前政権が残した政策からの大幅転換をアッピールする処でした。

・バイデン・コロナ対策
これより先、1月14日、バイデン氏は出身のデラウエアー州で米国の現状について演説し、「パンデミックと経済悪化の2つの危機にあり、時間を空費する余裕はない」とし、1.9兆ドル(約200兆円)規模の新たなコロナ対策を発表、2月予定の両院合同議会で、更に「インフラ投資などの経済再建を改めて表明する」(日経、1月15日)とするのでした。そして、感染拡大と、経済悪化、ワシントンDCでの暴動による社会不安という三つの危機のしわ寄せを受ける家計への支援に1兆ドルを充てるともしています。ただ、これが共和党の抵抗で最終的には1兆~1.1兆ドル程度に縮小するとの見方のある処ですが、それでも米国のGDPの5%に及ぶというものです。昨春以降のコロナ対策は累計で5兆ドル規模、GDPの25%と、主要国では断トツとなる処です。尚、15日にはコロナワクチンの接種を加速戦略として、接種拠点を全米に数千か所の設置を打ち出しており、バイデノミクスは特異な環境での戦略を鮮明とする処です。

(2)バイデン氏の往く道は難路
彼は就任演説でも何度も声高としたのが「世界のリーダー」への復活でした。それが意味することは、この20年間の徐々に進んだ米国への信頼を取り戻すことですが、そもそもは米国の信望はアフガニスタンなどへの軍事介入で崩れ始め、2008年の金融危機で悪化し、コロナの感染で地に落ちたというもので、その構造化が懸念される処ですが、そのためにはまずは、経済を立て直し、ワクチンを普及させ社会の分断を修復することで、その低下は食い止められるでしょう。が、逆にバイデン氏がつまずけば中国の強大化は必然となり、地政学的な混乱が避けられなくなっていくものと見られ当該リスクの高さが指摘される処です。

米調査会社ユーラシア・グループのイアン・ブレーマ氏は「米国は今なお世界で最強の国だが、自国が分断されている国が他国を率いることはできない。米政界が外交政策の方針や達成方法を巡り意見が分断する現状では、かつてのように国際社会の仲介役を果たすことはできず、海外では地政学的的な機能不全が増えることになる」と、そして「米国は民主主義を海外に輸出してばかりで、自国の為に残しておくのを忘れたのかもしれない。バイデン氏はこうした問題を解決しなければならないが、とてつもない難題だ」(日経2021/1/21)と総括する処です。実際、アメリカ・フアーストの孤立主義と、反体制ポピュリズムからなる「トランピズム」の組み合わせが、米国内での分断、対外的には国家間の分断を齎し、アメリカの政治に強力な圧力を残す処、バイデン体制はその「トランプ主義」の妨害に苦しむ可能性の高さがなお云々されるのですが、バイデン氏の往く道は難路といわれる所以です。

・2021年十大リスク
尚、序で乍ら、上記 ユーラシア・グループ(イアン・ブレーマ氏)は1月4日、恒例の「2021年の十大リスク」(注)を発表していますが、その筆頭に挙げるのが「米第46代大統領」でした。上述事情を以ってその事由とする処です。去り行くトランプ前大統領が残した身勝手なポピュリズムの残像がバイデン政治を邪魔することになるとの予想から筆頭に置かれたとする由ですが、6日の議事堂騒乱は、まさにそれを実証するごときです。

(注)上記他の十大リスク:第2が「長引く新型コロナの影響」、第3に「気候変動対策を巡る競
争」、第4に「米中の緊張を拡大」、第5位は「世界的データーの規制強化」、第6位サイバー紛
争の本格化」、第7位「トルコ」、第8位、「原油安の打撃を受ける中東」、9位「メルケル首相後
の欧州」、そして第10位は「中南米の失望」。

2.バイデン政権下の米国と国際秩序

さて、上記政策事情を踏まえながら現時点で、想定されるバイデン政権下での国際秩序はどのような展開を示すことになるか、考察しておきたいと思います。

(1)欧州の対米関係と、対中関係の行方
バイデン氏は早くからトラン政権下で急速に冷え込んだ欧州との関係の修復を語る処でした。12月1日、NATOに出された報告書は、米国と欧州諸国の対立を念頭に亀裂を早急に修復するよう促したと報じられる処でした。(日経12月4日)
トランプ政権下で冷え込んだといわれる背景にあったのが、トランプ氏のNATOに対する姿勢でした。欧州各国に国防費の増額を迫る一方で、2019年には欧州に事前通告なしに米軍をシリア(北東部)から撤退させ、2020年にはドイツの駐留米軍削減を決めるなどで「米国第一」は欧州首脳には「欧州軽視」と映り、マクロン大統領は、NATOは脳死状態と口にするほどで、従って同盟重視を掲げるバイデン大統領への期待は高いというものです。

因み、EUは昨年12月2日、次期米大統領としてのバイデン氏に4分野(コロナ対策、環境問題、WTO改革、民主主義の対応)での協力を提案しており(弊論考N0.105 2021/1月号)要は、国際協力に関する大西洋間の新しい議題を設定する機会とみる処です。勿論、それはバイデン大統領の琴線に触れる処でしょうし、とりわけ同盟国との連携による対中包囲網構想とも合わせ見るとき、欧米関係の回復・強化が進むと見る処です。

・欧州と中国の関係
というのも、EUと中国は、2003年「包括的戦略パートナーシップ」を結び政治・経済での関係を深めてきていました。しかしトランプ氏台頭あった2016年以降、ウイグル人権問題、あるいはギリシャの港湾を巡っての中国による投資問題等がある中、EUは中国との経済協力枠組みがEUの規制やルールに合致しないことに懸念を募らせ、時に対中スタンスはしばしば混乱を呈する処でした。そんな中、昨年12月30日、EUは中国と、包括的投資協定(CAI)に合意したのです。7年をかけての事です。一部では、「EUが中国にすり寄るもの」と報じられていましたが、これはトランプ・アメリカに痛めつけられた中国が、国の姿勢を変えるのにつながる大幅な妥協をし、むしろEUにすり寄った結果とも見る処です。

もとよりEUの最終目的は、中国に不公正な競争を終わらせることにあるのですが、そのためには国際法の「条約」という枠組みが必要であり、その枠組みに中国を入れ込み、集団的圧力をかけようとするものと云え、言い換えれば、国家資本主義を国際条約で取り込み、圧力をかける戦略とみる処ですが、米国も十分理解できるはずでしょう。いずれにせよ近時の香港問題、中国内の少数民族ウイグル族に対する人権問題、等でEUは今、中国離れの様相にあり、上記投資協定の発効も欧州議会の問題視もあって、今や不透明にある処です。 
尚、上述バイデン米国の外交姿勢に照らし、米欧関係の修復は時間の問題と云えそうです。

もとより、この結果は日本にも影響する処です。つまり、日本はトランプ・安倍の関係を以って、国際舞台で存在感を示し得てきましたが、バイデン氏が欧州との関係を深めれば、日本の「頼られる度」は相対的に下がることになることでしょうから、国際的な存在感をどう発揮していくか、菅首相に解を迫る方程式も複雑さを増す処かと思料するのです。

尚、中国については昨年10月5日の5中全会で米国など海外に依存せずとも経済を回せる体制を目指すこととして、「双循環」というコンセプトを打ち出しており、長期政権を目指す習近平氏が在任中に米国との新たな協力関係を築く方針と側聞する処、つまり米国との長期戦に備え、当面は硬軟両様で臨むものと思料されますが、今年7月、共産党結党百周年を迎え新方針も予想される処、殊、米中関係についてはそれを待ってとしたく思います。

(2)日米関係と日本の役割
上述米欧関係の復活、中国の対外姿勢の変化等を勘案するとき、当然のこととして、日本の外交の在り方も大きく変わっていく事になるものと思料する処です。それが意味することはこれまでのまず米国ありきではなく、日本して如何に世界の変化に与していくか、その上で、対米関係、対欧州関係の在り方、更に、対中関係について新たな対応が問われていく事になるはずです。この点については別途の機会に改めて話すこととしたいと思います。

が、ただ一点、バイデン政権の対中政策ですが、日本や他同盟国と提携、多国間アプローチで、中国をルールに従わせていく、つまり包囲網作戦と思料するのですが、その最善の手段は、まずは米国のTPPへの復帰と思料するのです。その点では日本の役割再びであり、新たな展開を期待する処ですが、更に前述の通り、EUの外交の軸足が中国からアジアにシフトする処では、インド太平洋構想(QUAD)を主導する日本には、更なる役割が期待できる処です。加えてバイデン大統領がホワイトハウスに新設予定の「インド太平洋調整官」のポストに知日派とされるカート・キャンベル元米国務次官補の起用が内定している由ですが、これは日米関係にとっても極めてpositive factorとなる処です。 加えて、バイデン政府がパリ協定に復帰したことで、日米間での脱炭素の実現に向けた閣僚対話の枠組みが構想される処、新たな日米関係の枠組みが期待できる様相です。

・尚、今年6月11~13日、英国コーンウオールで2年ぶりG7サミットが対面開催予定です。これこそは多国間協調回復を図る絶好の機会と云え、何よりも出席者のメンツが、独仏加を除き、日米伊そしてEUの全員がnew comerである事、又、英ジョンソン首相は主催国ながらBRXIT後、初の参加となるわけで、新たな議論の展開が期待される処です。


         第2章 American Democracyの ‘暗黒の日’

1.アメリカン 民主主義‘は何処へゆく ― Quo vadis ? ’

1月6日、米国の首都、ワシントンDCで起こった連邦議会の議事堂乱入事件は、米国そして世界にとっても民主主義の殿堂とされる議事堂への乱入だけに、世界を唖然とさせる、まさに「暗黒の一日」でした。

トランプ氏は、11月の大統領選を不正選挙であり、民主党は選挙を盗んだと叫び、バイデンひき降ろしをいろいろ画策してきたことは周知の処です。1月6日、連邦議会ではバイデン次期大統領を正式に選出する上下合同会議が開かれていました。一方、ホワイトハウス近くでは11月の選挙結果に抗議するトランプ支持者による大規模集会が行われていましたが、そこに現れたトランプ氏は集まった支持者に対して、「この国を取り戻すのに必要な誇りと大胆さを(連邦議会議員に)与えよう」と、議事堂に向かうよう促したことで、支持者は議事堂に向かい建物に侵入、約4時間占拠したという事件です。(日経1月7日,夕)暴徒は民主主義の殿堂である連邦議会の議事堂によじ登り、ガラスを割るなど狼藉を働く一方、警官の発砲で若い女性を含む5人の犠牲者を出すに至っています。

その狼藉の様子は勿論、TVでも流れ世界が知る処ですが、ここで問題は暴徒を扇動したのが、現職にあった大統領のトランプ氏自身だったということです。 全てはトランプ氏の扇動的言動に負う処、大統領選の敗北、選挙システムの否定、ジョージア州上院選での敗北、これらはトランプ氏自身が作ったものと云え、今次の騒乱暴挙はアメリカの民主主義政治に決定的汚点を残すことになったというものです。バイデン氏は就任演説では民主主義の再生を訴え、また対中、対ロについては民主主義に照らして行動するとする処、その軸が瞬時狂わんばかりでしたが、事態の重大さはますます増す処です。

1月12日、議会ではトランプ氏が騒乱を扇動したとして、まさに「反乱の扇動」を弾劾根拠とした大統領弾劾訴追の決議が行われ、13日には弾劾案が採決されました。最終的には弾劾裁判を行う上院次第ですが、裁判はいつになるか(注)、仮に有罪ともなれば、彼は一切の公職にはつけなることで、4年後の大統領選出馬の可能性は消えることになるのです。
そして20日、武装装備抗議デモの情報もあって厳戒態勢の中、バイデン大統領の就任式は無事終了したこと前述の通りです。[(注)2月9日開始で両院が同意したと報道。(日経1/24)]

米ツイター社は8日、8800万人超のフォロワーを抱えるといわれているトランプ氏のアカウントを、暴力行為を扇動する危険性ありとして、永久停止したと発表。これが発言の自由を阻害するとの批判も呼ぶ処です。
ハリウッド・スターで加州知事をつとめた共和党員でもあるシュワルツネッガー氏は、トランプ氏の行動は、アメリカ独立以来、国家の支柱に置かれてきた民主主義を否定する行為と強烈に批判する処、アメリカの民主主義は何処へゆく? まさに‘ Quo vadis ? ’ の様相です。 

・Quo vadis ? その現状に思うこと
公正な選挙で選ばれた代表を通じて権利を行使するのが民主主義の大原則です。処が、地球規模の感染拡大で世界は強権政治の力を強める処、その原則が崩れかけぬ様相です。 強権政治の背景には民衆受けするポピュリズムが生まれ、自国主義のナショナリズムが前面に出て、自国だけ安全にととじ込んでしまう状況です。ワクチン開発や分配などで国際協調がより必要なのに逆に、争奪戦争を演じてしまう。これではパンデミックには立ち迎えません。

1989年、冷戦が終わり国境を越えた経済活動や移民等、グローバリズムの波が襲い、この結果は自由主義よりも、自分たちの生活や国を守ろうというナショナリズムが活発になり、そこに、グローバリズムの旗を振っていた米国が自国第一の旗を振ってしまった。移民・難民問題や中間層の困窮などで国内の分断が進み、その不満の声を吸い上げて登場したのがトランプ氏。その姿はヒットラーが台頭した1930年代の世界と非常に似た現象と危惧する処です。ただし、その姿は民主的な手続きを経て生れてきた結果でした。
そこで、コロナ禍で吹きつのるナショナリズムの風をうまくおさえなければならずということですが、これがいかに民主主義を立て直すかに繋がる処と思料するのです。

2.年の始めの ‘トランプ物語 ’

筆者は先日、ボブ・ウッドワード氏がトランプ氏との17回に及ぶインタービューをベースに書きあげたという「怒り」(Rage)を読みました。これは2年前の「恐怖の男」に続く彼にとって2本目のトランプ物語です。 ただ前作「恐怖の男」はトランプ氏の政策決定のあり姿を追うものでしたが、最後は「2017年のアメリカは、感情的になりやすく、気まぐれで予想のつかない指導者の言動に引き回されている。・・・世界で最も強大な国の行政機構が、神経衰弱をおこしている」と評するトランプ物語でした。 それから2年、2度目のトランプ物語では、主に新型コロナ感染問題を巡ってのトランプ氏の思考様式、行動様式を、対話を通じて浮き彫りせんとするものでしたが, 締めは以下の通り相変わらずです。

「…大統領は最悪の事態や、悪い報せと、いい報せを進んで国民と分かち合わなければなら
ない。どの大統領にも、報せ、警告し、守り、目標と国家の真の利害を明確に説明する義
務がある。ことに危機に際しては、世界に向けて真実を告げるという対応が必要だ。とこ
ろが、トランプは、個人的な衝動を大統領の職務の侵し難い統治原則にしている。大統領
としてのトランプの業績全体から判断すると、結論はただ一つ。トランプはこの重職(ジ
ョッブ)には不適格だ。」と。

こんな結論は、言わずもがな。それでも彼は4年後の大統領選に向かわんとの様相です。因みに、過去に、4年のブランクを置いて、再選された大統領は一人います。 第22代(1885~89年)、第24代(1893~97年) の大統領、グロバー・クリーブランド(Grover Cleveland)です。尚、司法長官に起用されることになったガーランド氏は、トランプ氏の退任後の起訴の可能性を示唆す処です。(日経、1月9日、夕) 

昨年11月28日のThe EconomistのCover story ` How resilient is democracy ? ‘ では、何よりも、民主主義はひとびとが求めてやまないものとした上で、具体的には、トランプ大統領が投票日の11月3日以降、選挙結果を覆そうと様々な策をめぐらせてきたが、米国民の民主主義がこれに屈服するような気配は全く感じられなかった、米民主主義はresilient、つまり民主主義の原則への復帰力ありと、評する処でした。さて、バイデン新大統領は民主主義の再生を旗印としていますが、今次騒乱の実態を見ていくに、その再生への道は難路と見
る処ですが、関係者、関係諸国の理解協力を得ながら前進する事、念じる処です。

・Trump’s legacy
尚、1月9日付 The Economistは、その巻頭言でトランプ氏に誘導された議事堂乱入事件と、ジョージア州での上院選での民主党の勝利は、バイデン政権のあり姿を変えていくことになろうとしながら、トランプ氏を擁して臨んだ昨年11月の大統領選結果が共和党に示唆することは、次回選挙に勝利するには党の再編が不可欠と、つまり最も重要な再編とは、トランプ氏を追い出すことだと、以下言辞を以って締めるのでした。ただし、共和党の実情は、トランプ支持層を取り込まないと党勢の維持はおぼつかない処、彼は退任目前に「何らかの形でまた戻ってくる」と言い残していましたが、さて?

--- to become successful and ,more important, to strengthen America’s democracy once more rather than pose a threat to it, they need to cast off Mr. Trump. For, in addition to being a loser of historic proportions, he has proved himself willing to incite carnage in the Capitol.


おわりに これから起きる変化

前述の通り、米国大統領に就任したバイデン氏は、就任と同時に温暖化防止対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を国連に申請しました。この結果、国連が承認すれば、EU,中国、日本に加え、米国が加わることで、世界のBig 4が温暖化ガス削減に向けた目標で足並みをそろえることになります。先月号論考でも報告の通り、先行するEUは30年までに温暖化ガスの排出量を少なくとも55%削減すると公表、又、中国は昨年9月の国連総会で習近平氏がビデオ登場ながら、2060年に実質CO2排出をゼロにすると宣言、更に昨年10月には、菅首相は2050年までに排出量の実質ゼロを宣言、つまりカーボンニュートラルの達成、と脱炭素社会宣言をしています。そこに米国が加わることになると、まさにBig 4の揃い踏みとなるのです。

この揃い踏みを以って脱炭素、CO2ゼロに向かう姿は、本稿「はじめに」でリフアーしたエコノミスト誌が示唆するように、新たな技術開発、イノベーションの推進、結果として産業の構造的変化、それに伴う企業の在り方の変化、更には消費活動の変化、そして生活対応の変化をももたらすこととなり、まさに産業革命を誘導する要因と思料する処です。
因みに、この1月11日~14日、今年も米国ラスベガスでデジタル技術見本市「CES」が開催されました。尤も、今次はコロナ禍を受けて初のオンライン開催でしたが、それでも会期中の発表からは、これからの技術潮流が示されるものだったと報じられています。

一つは、コロナ後も見据えたテクノロジーの活用戦略の流れで、米小売り最大手のウオールマートが、危機下でも業績を伸ばした背景にはネット技術をうまく組み合わせことによる成果と紹介される処でしたが、より大きな流れとして注目されたのが、脱炭素の取り組みだったということでした。因みに、米GMでは2025年末までに高級車からピックアップトラック、商用車まで30車種の電気自動車(EV)を発売すると発表する処です。つまり、多くの国がコロナ禍からの経済復興策に脱炭素を据えるようになってきたというのです。

さて、コロナ対策の曖昧さで批判の標的となっている菅政権ですが、先に脱炭素政策を長期成長戦略と位置付け、脱炭素社会を国家目標の柱として打ち出した事は、大いに評価されるべき事と思料するのです。この脱炭素政策「2050年カーボンニュートラル」は、1960年、池田内閣の下で策定された長期経済計画「所得倍増計画」以来の長期経済計画です。そして温暖化防止行動を新たな投資と需要を生み出す成長戦略として捉える点で評価する処です。

メデイアは、この脱炭素宣言が日本経済に新しい空気を吹き込みだしたと、電力会社など既得権層を巻き込む構造改革の大きな一歩を踏み出したと指摘すると共に、脱炭素革命によって世界的に新たな成長の時代が訪れる可能性が大きくなってきたと指摘する処です。
遅れそうだった日本が先頭集団に並ぶ中、米国が「パリ協定」へ復帰することで温暖化防止に向けての主要国の足並みが揃うことで、世界経済は活気を取り戻すはずと見る処です。本稿冒頭のテーマでは「危機」を連発しましたが、そうなれば前言取り消しとなるわけですが、新年を迎え終えた今、そうあって欲しいものと、反省をも込め、強く念ずる処です。 
以上 (2021/1/25)
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2020年12月25日

2021年1月号  世界経済 2021年の針路 - 林川眞善

目  次

はじめに 2020年 ‘年の瀬 ’の国際環境    
(1) コロナワクチン 接種始まる
(2) 連呼の脱炭素社会宣言
(3) `2020・11・3 ’ 後の米国

第1章 米経済の行方と、‘失われたアメリカの20年 ’ 診断

 1.米経済の現状と今後の見通し
 2. ‘失われたアメリカの20年’ 診断
  ・米コロンビア大教授、Jeffrey Sachs氏
  ・欧米連携の復活

第2章  脱炭素社会へカジを切った菅政権と,
習近平中国の地球温暖化対策

1.菅首相の脱炭素社会宣言
(1)脱炭素化と日本経済の構造改革
    ・菅政権と「構造改革」
(2)積極的な反応を示す経済界
(3)世界は一挙に脱炭素社会を目指す
・「パリ協定採択5周年」記念会議
  ・菅首相のグリーン外交
2.中国の地球温暖化対策、そしてそこに映る狙い
(1)習近平氏のカーボンニュートラル宣言
(2)米コロンビア大教授、Adam Tooze氏の警告
   
おわりに  次代のカギを思う  
 
-----------------------------------------------------------------     
はじめに  2020年 ‘年の瀬 ’ の 国際環境

OECDは12月1日、世界の経済規模が中国の成長回復が牽引する形で「2021年末までにコロナ禍前の水準に戻る」と、世界経済の見通し(2021年:4.2%, 22年:3.7%)を公表しました。同時に、感染再拡大が成長率を押し下げるリスクは消えておらず、金融財政政策による下支え、感染対策の継続を各国に求める処ですが、ワクチンなどの研究が進んでいるほか、各国の雇用や企業支援策で経済が回復しやすい状況を保っているとして、「コロナ禍が始まって以来、初めて明るい未来に向けた希望がある」とコメントするのでした。

では日本は如何にですが、同レポートによると、日本のGDPは2020年に5.3%減少した後、21年に2.3%, 22年に1.5%のプラス成長と見通す処です。輸出が戻りつつある他、東京五輪が無事開催されれば消費を押し上げるためとする一方で、企業の投資は弱含みと見る処、日本に対して「生産性や持続性を高めるための構造改革を進めるべき」と指摘する処です。因みに12月14日 公表された日銀短観では大企業製造業の業況を示す指標(DI)は、前回(9月)調査に比し17ポイント上昇、2四半期連続の改善でしたが、総合ではマイナス10とコロナ前の状況には未だしの状況です。

そんな「年の瀬」にあって、OECDが云うような期待を膨らませる動きが際立つ処です。まずはコロナワクチンの開発・承認、そして接種が始まったこと、次に主要国による脱炭素社会宣言、つまりカーボンニュートラル宣言が連呼されたことで、SDG、世界経済の持続的成長に向けたベクトルが確かなものとなってきたということです。 そして、次期米大統領にバイデン氏が確定したことで、トランプ政治に代わる、国際政治の協調路線復活が見通されるようになったこと、も挙げられる処です。

(1)コロナワクチン接種始まる
12月2日、英国政府は米製薬大手フアイザーと独ビオンテックが共同開発する新型コロナウイルスのワクチンの使用を承認、12月 8日にはロンドンで初の接種が行われ、ジョンソン首相も誇らしげに立ち会うのでした。 メデイアによると今回、英国に承認された両社は2021年末までに約13億回分(6.5億人分相当)を世界で製造する予定とか。同じく米欧などでの月内の接種開始に期待が高まる米モデルナも21年に5億~10億回分 (2.5億~5億人分相当)の生産を計画している由で、順調に進めば両ワクチンだけでも、21年末までに最低でも9億人に行きわたるという由です。(日経、12/3)

去る8月19日、日経紙上インタービューで、ワクチンンの共同開発や供給を巡る世界的な計画を進める官民組織、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)のR.ハチェットCEOは、ワクチン供給は21年上半期になろうとの見通しを語っていましたが、今次の英国での承認はその予想をはるかに超えるスピード承認です。開発着手から1年足らずでの実用化には驚かされる処ですが、未曽有の災禍が技術革新を後押ししたと云えそうです。

ワクチンによる予防効果がどれだけ長続きするのか、ワクチンの供給には低温保管が不可欠とされる事(フアイザー製ワクチンはセ氏マイナス70度の超低温で輸送・管理することが必要とか)等々、難しい問題の残る処ですが、接種の普及で集団免疫が実現されれば、各国の経済再開の本格化につながるとの期待は云うべくもなく、各国の大規模金融緩和、財政政策も加わり、株式市場は活況を呈する処です。(注)
     
(注) 世界の上場株式時価総額が史上初めて100兆ドルを上回った(12/18日現在)。
国別では米国の21%, 42兆ドル膨らんだほか、中国も48% 増で9兆を突破。日本
は10% 増の7兆ドルにとどまり、中国との差が拡大した。(日経12/20) 

が、WTOは「パンデミックがこれで終わるわけではない」と警告する処、そもそも貧困な国に行き渡るのか? 世界が協力し、乗り越えるべき課題は多々との状況には変わりのない処です。 尚、12 月11日、米政府も、米、フアイザー社らが開発する新型コロナワクチンの緊急使用を承認、14日に接種が開始されましたが、日本ではより慎重な治験を経た上でということで、接種は来春になるとみられる由です。とにかく朗報です。
序で乍らワクチン開発で一番乗りし、世界を救おうとしている米フアイザーの経営者はギリシャ人、同社と提携する独ビオンテックの創業者はトルコ人だとか、何とも示唆的です。

(2)連呼の脱炭素社会宣言
もう一つは、世界が一斉に「脱炭素社会」に向け、動き出そうとしていることが確認されたことです。 周知のとおり8月28日,安倍前首相が持病の悪化を事由に、突然辞任。その後を襲って9月16日、菅前官房長官が後継首相に就任。そして10月26日、菅首相は初に臨んだ臨時国会での所信表明演説で、予想外に日本経済の脱炭素政策、つまり「2050年、カーボンニュートラルの達成」(注)を明言。そして12月1日、政府戦略会議が取りまとめた成長戦略実行計画に、それが盛り込まれたのです。これはパリ協定が目指す温暖化ガス規制への対応ですが、まさに「日本脱炭素社会宣言」でした。

(注)カーボンニュートラル(気候中位)とは、ライフサイクル全体で見たとき、
CO2排出量と吸収量とがプラス・マイナスゼロの状態を指す。

脱炭素についてはEUが2019年に宣言、2020年9月にはUN総会でビデオ参加した習近平氏が宣言、日本はこれに続くものでしたが、来年1月にはバイデン米政権がパリ協定に復帰することが予定されおり、これで世界は連呼する形で、一挙に脱炭素化社会に向かうことになったのです。まさに世界のトレンドとなる処です。

(3)2020・11・3 後 の米国
そしてもう一つは、米大統領選「その後」です。トランプ氏が、なお大統領選投票の無効を主張し、法廷闘争を目指す中、12月14日の選挙人による大統領選出選挙の結果、バイデン氏の勝利が確定し、2021年1月20日、同氏の第46代米大統領就任が決定したことでした。

次期大統領のバイデンス氏には、トランプ氏が強行したアイデンテイテイ政治が齎した社会の混乱の立て直し、更にはトランプ政治で壊されたグローバル協調路線の復活に向けた大仕事が待つ処です。もとより、それは彼が目指す‘民主主義の再生’のそれへの挑戦ですが、何よりもまず、コロナ禍による経済の立て直しが第一となる処、後述、12月21日に承認された9000億ドルの追加対策で一先ず、景気への不安は払拭されていく様相にある処です。

ただこの際留意されるべきは、ここで云う混乱とは、トランプ政治で露わとされた米社会の分断状況を指す処ですが、今「米国の失われた20年」とささやかれるように、過去十数年にわたる、つもり積もった経済社会の不満が構造化してきた姿の一部が、自己中心のトランプ政治、アイデンテイテイ・ポリテイックスの横行で一挙に露わとなったというもので、それだけに当該問題の根は深く、彼が目指す道のりの厳しさが想定される処、一部にはトランプ無きトランプ時代の到来とも揶揄する向きのある処です。 
そんな中、米コロンビア大教授のJeffrey Sachs氏は、そうした事情をいくつかの切り口から解析整理し、新たな国際協調をベースとした経済成長路線の復活を示唆する処です。

・Reimaging Capitalism in a world on fire
処で、この秋、邦訳出版されたハーバード大の経済学者、レベッカ・ヘンダーソン氏は10年をかけて書き上げたという「資本主義の再構築」(Reimaging Capitalism in a world on fire)で、世の中が生まれ変わっていくなかで公正で持続可能な世界をどう実現するかと問い、 「企業は可能な限り政府と連携し、開かれたフォーラムで柔軟性のある政策― 経済成長を最大化しながら汚染をコントロールし、かつ社会全般とその仕組みの健全性を強化する政策を設計することで、企業は制度改革の一翼を担い、税負担、腐敗撲滅、いつでもアクセス可能な完全な民主主義を支える」と、説く処です。 要は企業こそ変革の主役と、体制論とは異なった切り口で、実践的に資本主義の改革を提言する処ですが、それは上述(1)、(2)、(3)をも絡む包摂的なスキームへのシフトを示唆する処です。 

そこで今次論考では(i)上記ヘンダーソン氏の思考様式を体し、米経済の現状の検証と、J.サックス教授の「失われた米国の20年」克服に向けた診断とをそれに重ね、今後の可能性を考察し、(ii)国際経済社会の新たなトレンド「カーボンニュートラル」を巡る日本政府そして中国政府等、国際環境の実情とも併せ、その行方を考察していく事とします。


第1章  米経済の行方と、‘失われたアメリカの20年 ’ 診断
                
1.米経済の現状と今後の見通し

12月4日公表された11月の米雇用統計によると、注目を集めてきた失業率は前月より0.2ポイント下がって6.7%で、4月の14.7%をピークに低下は続くものの危機前の水準、3%台の水準には未だしの状況です。言うまでもなくコロナ感染の再拡大でサービス業を中心に雇用回復にブレーキがかかりかねない様相にあり、前述ワクチン接種の全面的な普及まで綱渡りが続く処かと思料するのです。ただ、この雇用統計を受けたバイデン次期大統領は12月4日、「米景気は失速しつつあり、議会は救済策の即座行動を」と演説。12月20には、超党派グループで提案中のコロナ対策 ― 失業保険の特別措置や中小企業の雇用維持策を延長するのが柱となるものですが、9千億ドル(約93兆円)の追加財政の発動が合意、21日には関連法案が採決されたことで、景気への不安は払拭されていく様相です。

では来年の見通しはとなると、勿論次期政権の政策如何ですが、バイデン氏は22日には、上述追加財政に加え更に、雇用創出、ワクチン普及などを目的とした追加経済対策を年初に用意すると発言する処です。因みに、ハーバード大教授(Kennedy School)のJason Furman氏はForeign Affairs (1月号)で、現時点での米経済全体の姿は、失業率、株式市場等、基本的にはhouse-on-fireの状況は脱してきているとして、バイデン氏には何よりも重要かつ、緊急を要することはCOVID-19の収束であり、それが彼の目指す中期的政策`building back better’ の中核だと、苦言とも言えそうな、指摘をする処です。

前述 ヘンダーソン氏は、「企業こそ変革の主役」と主張する中で、今次コロナ・パンデミックは資本主義を取り巻く議論のターニングポイントにある事、同時に、「希望の兆し」とも言い、資本主義を徹底的に見直すチャンスだと指摘する処です。つまり、ビジネス界のリーダーは経済格差や気候変動に取り組む為に、自らの方針を見直し、ともに協力すべきと語ると共にパンデミックは、ビジネス界のリーダーにアメリカの競争力、経済格差に取り組むことを迫るとするのですが、バイデン氏と共に歩む米国の今後の行方とは、まさにprogressive capitalismにありと、感じさせられる処です。

2.‘失われたアメリカの20年’ 診断

さて、‘失われたアメリカの20年’ の現実について、米コロンビア大教授のJeffrey Sachs 氏 は11月27日付け論考 ‘America’s Political Crisis and the Way Forward ’ で、その実状を以下、7つの切り口で整理・分析するとともに、その行方を示唆する処です。―
・Rapid technological change(急速な技術革新) / White backlash(人種間闘争)
・The end of social democratic politics(民主政治の終焉)/ The evangelical awakening
(福音主義の覚醒)/ Plutocracy(金権政治)
・Antiquated political institutions(守旧的政治組織) / Social media(メデイアの規律)

つまり、2000年以降、これら事態が絡みあう事で米国社会の分断が進み今日に至る、まさに「米国の失われた20年」を結果する処で、従って現下の混迷とはトランプ政権以前からの現象ですが、トランプ氏の登壇は、彼のアメリカ・フアーストの下、米国政治のシステムの乱用、例えば、対外政策については、大統領は議会に諮ることなく一存で、大統領令を出すことで実行が許されることになっていますが、その大統領令を乱発して国際的連携を拒否し、例えば地球温暖化対応のパリ協定からの離脱、コロナ対応では不可欠なWHOの協力・支援の拒否、二国間貿易では関税障壁の強化等一方的導入を以って国際秩序を混乱に陥れ、結果として国内での不平等、分断が更に進んだとするのです。

そこで、トランプ政権、4年間の現実に照らし、今後、米国にとって、そして世界にとっても、重要な事は、明らかなように次の10年、各国との協調体制の確立を進め、分断を修復するグローバルなリーダーシップの確立を目指すことと、主張するのです。そうした期待を促す事情として挙げるのが、パンデミックにあってアジア・太平洋地域では米欧経済を上回る成長を果たしている現実、更に欧州も米国との連携強化と、外交上の安全保障、防衛力の強化を目指す動きのある事を挙げるのです。
そして更に強調することは、持続的成長を確実としていくためには環境対応が不可避として、その点、当該分野で世界のリーダー格にある欧州と連携し、世界との包摂的な社会の創造に努めていくべきと主張するのです。要は覇権主義的なリーダーシップはもはや過去のものであって今、世界は環境、社会、安全保障問題が複雑に絡み合う処、地域の内外を超えた強力な連携こそが、その前提となるというのです。

これら処方はバイデン政権への期待を映す処と云え、バイデン氏は民主主義の再生を第一義に、そして外交対応では国際協調を原則として、環境問題、人権課題に強い関心を示す処です。10月29日付け日経コラム「大機小機」では、かかる行動様式を「社会的資本主義」と表していましたが、要は、より今日的に云えば、ステークホルダー資本主義へシフトする姿であり、その行動様式は米コロンビア大のStiglitz氏らが唱道するprogressive capitalism に通じる処と思料するのです。その直後、かつて経済学を修めた先輩、同僚から「社会的資本主義」ってどういったことかと、照会を受ける処でした。

・欧米連携の復活
序で乍ら、EU欧州委員会は12月2日、バイデン次期大統領あてに4分野での協力提案を行った由、伝えられています(日経12月3日) その1つは新型コロナ対策。つまりワクチンや治療方法の開発。WHOの立て直しを米欧共同で進めること。2つ目は環境問題。気候変動や生物多様性で、米欧が世界を先導すべきとし、大西洋間で環境技術連合構築の提唱。3つ目はWHO改革及びデジタル経済を討議する場の提案。4つ目は民主主義や人権と云った西側の基本的価値観。つまり多国主義を広げ、地域の安定に貢献する事、でした。その以前、EUフォンデアライエンス欧州委員長は11月の講演で、「ホワイトハウスに再び友人を持つ」とバイデン氏歓迎の意を表した由、新たな米欧関係の生業を感じさせる処です。


          第2章 脱炭素社会へカジを切った菅政権と、
習近平中国の地球温暖化対策

1.菅首相の日本脱炭素社会宣言

冒頭「はじめに」で触れたように菅首相は10月26日、臨時国会での所信表明演説で、新型コロナウイルス禍で浮き彫りとなった行政のデジタル化の遅れを解消するために「大胆な規制改革を実現する」と強調する一方、成長戦略の柱の一つとして、「経済と環境の好循環を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力する」と力説するのでした。 とりわけ注目されたのが、成長戦略とした「2050年カーボンニュートラル」、脱炭素社会の実現を宣言したことでした。それは温暖化ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにするとの宣言でした。

これまで達成目標の時期を示すことなくやり過ごしてきた事に,国際的批判を受けてきた日本でしたが、主要国が次々に脱炭素競争へと足を踏み入れる中でギリギリのタイミングでの宣言というものでした。 遅まきながら世界の批判に応えんとするのは、次世代型太陽電池やCO2を再利用するカーボンリサイクルと云った「革新的なイノベーション」が、今後成長のカギと,その実用化を急がんとしたものと云えそうですが、11月19日の国会では、地球温暖化対策に国を挙げて取り組む決意を示す「気候非常事態宣言」も採択されています。
更に、政府・与党は、2050年、脱炭素目標を法律に明記することとした由(日経12/22)ですが、勿論、異例の措置とはいえ、2021年COP26に向け、政府の意思を内外に強調する狙いと云えそうです。

(1)脱炭素化と日本経済の構造改革
さて菅首相は12月8日の臨時閣議で、事業規模73.6兆円の追加経済対策を決定しましたが、その際は、前出、菅政権の看板政策、温暖化ガス排出「実質ゼロ」や官民のデジタル化と云った成長戦略宛てに51.7兆円と全体の約7割を投じることを決定。なかでも脱炭素に向けた研究・開発支援のため5年間、2兆円規模の基金の創設を、更に官民のデジタル化促進のための費用でも1兆円を確保したのです。 同日開催の経済財政諮問会議で菅首相は「グリーンやデジタルなど新たな成長に向けた対策を盛り込んでおり、直接の経済効果はGDP換算で3.6%程度の見込み」とコメントしていましたが、18日の閣議では2021年の経済成長率見通しを4.0%と決定、民間予想よりは強気見通しとする処です。

・菅政権と「構造改革」
さて、コロナ収束後を見据えた成長率の底上げに向けては、環境やデジタルに重点を置くのは今や主要国の潮流と映る処ですが、日本の場合、安倍長期政権で手を付けることのなかった日本経済の「構造改革」に菅政権は、一歩、踏み込むこととしたものと映るのです。
つまり、構造改革とは既得権排除によってはじめて実現する長期的視野に立った政策行動ですが、安倍前政権の場合、この既得権を切り崩すのではなく、むしろ彼らを味方にすることで政権基盤を維持してきたというものでした。が、菅首相の脱炭素宣言で、社会の空気は一変したかの感ありで、企業や金融機関は温暖化防止をテーマに急速に動き出す処です。
ただ課題は、こうした巨額に見合う効果的な執行の如何です。財政の実態がとかくの問題含みの折、その推移を注視していく要あること、いうを俟たない処です。

(2)積極的な反応を示す産業界
日本は、これまで省エネや電池の技術で環境先進国と云われてきました。しかし、これからは、中国や欧州の飛躍でその地位が揺らぐ中での「温暖化ガス排出ゼロ」を競うことになる事でしょう。ただ「脱炭素社会」で競争力の源泉となるのが、再生可能エネルギーと蓄電池技術です。その点では革新的なイノベーションを期待できる技術の芽生えはすでにあって、それらをいかに育てていくか、にかかるものと思料するのですが、これこそ前出ヘンダーソン氏のいう政府と企業の連携の妙の如何となる処でしょうか。尚 、日本の産業界と行政の対応状況の幾つかを、メデイア情報をベースに、以下に取りあげてみました。

           脱炭素に向けた日本企業と行政の対応状況 
(2020/12月現在)
① 東芝:脱炭素の流れを受け、事業の軸足を再生可能エネルギーに移し、2022年までの3年間で再生可能エネルギー分野に1600億円の投資(同社エネルギー部門の年間投資額の約5倍)を決定。(日経11/11)― 東芝自身、2015年の不正会計発覚をきっかけとする経営危機で多くの事業の売却、また巨額の損失を出した海外原発事業からの撤退に加え、この11月、石炭火力発電所の新規建設からの撤退発表。車谷社長は「脱炭素をビジネスとして本格的に取り組む」と云う。脱炭素宣言をtake chanceした経営再建策とも映る処です。

② 日鉄:2050年に温暖化ガスの排出量実質ゼロにする方針を決定。2020年度中に策定する長期環境経営計画に盛り込むことを決定。最大手の日鉄が実質ゼロとする初の削減時期の設定に踏み切ることで、巷間、国内企業の脱炭素の取り組みに弾みがつきそうといわれる処です。(日経 12/11)

➂ 三菱ケミカル(小林HC会長):今次同社では外国人社長の起用を決定しましたが、その決定は自社の置かれた環境の分析と併せての決断と語る処。(日経ビジネス11/30日号)  ― つまりパリ協定に基づけば、毎年、温暖化ガスは8%ずつ減らさねばならない。今年、コロナ禍で経済が大減速してはじめて8% 減った。裏返していえば、毎年、これくらいのリセッションがないと菅首相が打ち出した2050年CO2排出量実質ゼロは達成できない。
こうした危機的状況もコロナ禍で白日の下にさらされた。だからこそ化学業界でも、石油・石炭にかかわる事業は今後、再編・縮小がもっと必要になる。相当なリストラをやる。もっと捨てなければいけない。しがらみもある。その為には外国人社長の方がぴったりと云う。

④ 行政と企業
・政府の脱炭素化支援:CO2排出量の多い企業として再生可能エネルギーの導入拡大が必要になる処、政府は「温暖化ガスの排出枠取引制度」の導入によって、2050年脱炭素目標に向けた取り組みの加速化検討。又、発電や燃料電池車(FCV)向け燃料として水素利用の拡大(目標1000万トン)を進める。
・金融庁と銀行:金融庁は気候変動リスク対応として、国内メガバンクに対して今後30年を見据えた財務分析と対策を求める。つまり、急増する自然災害への備えが金融機関の経営健全性を左右する要素に浮上してきたというもの。因みに、欧州中銀(ECB)は11月27日、気候変動や環境のリスクをどう管理し開示していくかについての指針を公表している。

― 明らかに産業界の「時代精神」が変わってきていることを感じさせる処です。

(3)世界は一挙に脱炭素社会を目指す
本稿「はじめに」(第2項)で触れたように、EUは2019年、2050年脱炭素社会を宣言し、更に今年7月「欧州クリーン水素連合」を創設、官民で研究開発やインフラ整備を推進中で、まさに環境問題へのリーダーを自認する処、中国習近平氏も後述9月の国連総会で「カーボンニュートラル」を宣言、10月には日本が、そして来年にはバイデン米国のパリ協定復帰と、世界は一挙に脱炭素社会ヘ向かう様相にある処です。 勿論、脱炭素社会に向うと云ってもそう簡単ではありません。つまり、気候変動は純粋な気象現象にとどまらず、産業政策や国際政治における主導権争いの側面もある処、(とりわけ、中国の外交姿勢の如何ですが)、温暖化対応政策は、もはや世界戦略上,不可欠な要素となってきたという事です。

・「パリ協定採択5周年」記念首脳会議 
さて12月12日、「気候野心サミット」と名付けられたオンラインでの「気候変動サミット」がロンドンで開かれました。21年11月のCOP26(英国開催)に向け、温暖化対策への意識を高めようと開かれたというものです。メデイアによるとグテレス国連事務総長は、会議冒頭「パリ協定の目標には程遠い状況だ。方向を変えなければ壊滅的な気温上昇に直面することになる」と危機感を示した由です。因みに、12月4日、日本の文科省と気象庁は、「パリ協定」の目標が達成できなかった場合、気象上昇により日本の気候に深刻な影響が出る、猛暑日が倍増すると、予測結果を発表し警鐘を鳴らす処です。 
尚、各国首脳のメーセージで目立った事は、コロナ禍で落ち込んだ経済の回復と成長を、環境政策の強化を以って目指す「グリーンリカバリー(緑の復興)」にあった由で、主催国英国のジョンソン首相は、脱炭素の推進を通じて「世界全体で数十万、数百万の雇用を生み出せる」と語り、「グリーン産業革命」の主導に意欲を示したと、報じられる処でした。

・菅首相のグリーン外交
さて、首相の本気度は来年11月、英国でのCOP26で試されることになるものと思料される処です。それだけに日本として目標達成の具体的な道筋を来年夏ごろまでに、今後10年間の新たな目標の設定が必要となることでしょう。勿論、温暖化対策は日本だけで主導できる問題ではありませんが、日本に有利な国際ルール作りを進めるためにも欧米との協調が大事となる処です。一方、バイデン氏は大統領就任後100日以内にサミットを開き、温暖化ガス削減目標の強化を呼びかけるとしています。さらに来年秋COP26の前にはG20サミットの予定があり、やはり環境問題が議題となる見通しで、菅首相にとってグリーン外交が売り(グリーンは成長の源泉)となる瞬間が続きそうです。

[参考] パリ協定と、目標年2050年のなぜ?
そもそも国連温暖化対応は1992年の国連で、温暖化による危機的影響を防ぐため、大
気中の温暖効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標とする「国連気候変動枠組
条約」が採択されたことに始まる取り組み。この条約に基づき1995年からは毎年、国連
COP会議(Conference of the Parties:気候変動枠組条約締約国会議)が開催されている
が、2015年12月、パリで開催の第21回会議(COP 21)で、2020年以降の地球温暖化
対策の枠組みとして、世界の平均気温の上昇を産業革命前の2°C未満に抑え、21世紀
後半には温暖効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とした「気候変動枠組条約」、
いわゆる「パリ協定」が採択され、その結果、達成目標年を2050年に置くようになった
と云うもの。尚 本協定に署名・批准している国は2019年7月時点で185か国。

2.中国の地球温暖化対策、そしてそこに映る狙い

(1)習近平氏のカーボンニュートラル宣言
前述の通り、9月22日のUN総会で中国習近平氏は、ビデオ出演し「2060年には実質二酸化炭素排出量をゼロにする」と、宣言しました。排出ガスを世界で最も大量に出している中国(注)のトップが、このように国際的公約を発したことは驚きを以って迎えられましたが、勿論、先行するEU他、関係諸国は歓迎する処でした。そしてこれが、10月26日の「第5中全会」で決定された「第14次5か年計画」に組み込まれています。(弊論考N0.104)

     (注)中国で生産される二酸化炭素量は、世界全体の約28%を占めるとされ、これ
     は米国、EUそしてインドの合計とほぼ同じ量とされている。

処で、この習氏のスピーチに対し、米外交誌「Foreign Policy」の電子版に投降した米コロンビア大学教授(歴史)、Adam Tooze氏は、9月25日付投稿記事「Did Xi just Save the World? 」で、中国の思惑を語っているのですが、考えさせられる処、多々です。
つまり、習近平氏のスピーチは、以下のように極めて単純な二つのsentencesからなるもので、つまり、「 China will scale up its Intended Nationally Determined Contributions by adopting more vigorous policies and measures. We [China] aim to have [carbon dioxide] emissions peak before 2030 and achieve carbon neutrality before 2060.」でしたが、この短い文章こそは「the future prospects for humanity」、つまり人類の将来を再定義した可能性があると断じる処です。そこで、そのポイントを、以下紹介することとします。

(2)Adam Tooze氏の警告
・まず、それは誇張のように聞こえるかもしれないが、急速な経済成長と石炭火力への依存で、中国は圧倒的に最大のCO2排出国になっていて、その排出量の比率は上記(注)の通りで、一人当たりの排出量ではEUより多くなるというのです。ただ地球温暖化は年間の排出量ではなく、大気中に時間と共に蓄積された温暖化ガスによって引き起こされるもので、この観点からは過剰な炭素蓄積の歴史的責任が米国とヨーロッパにある、ともいうのです。

・中国の一人当たりの排出量は現在、米国の半分以下だが、将来の排出量に関しては、中国次第としながら、温暖化の将来は、急速に成長しているアジア, 特に中国が決めることになろうが、習近平の短いスピーチは地球の将来を決定したと云い、彼の約束が完全に実行されれば、世界の気温上昇は摂氏0.2~0.3度下げると専門家筋も推測しているというのです。

・そして中国と他国との関係が米国だけでなく、EUやインドとも悪化していることを考えると習近平氏の動きは印象的と云え、香港、ウイグル自治区、人権などで、EUが中国への批判を強めようとしている時期に、中国は気候政策に関してEUと一致している点を強調するのですが、国際的な対中包囲網が構成される中、地球温暖化の旗振り役のEUに擦りよることで孤立化を回避し、併せてEUの技術及び資金の取り込みを狙っていると見る向きは強いとするのです。又、温暖化対策は南北問題の対策にもなる処、中国はすでに先進国並みにあるも、いまだに南のリーダーとして振るまっていて、世界の貧しい国に対して排出権ビジネスで資金を還流させると途上国の共感を得ようとしていると言うのです。

同時に中国は温暖化対策が膨大なビジネスチャンスを生むことに気付いていて、既に、再生可能エネルギーにおいて、中国機器の国際市場でのシェアーは支配的になりつつあること、更に、電気自動車にあっても主要バッテリーは中国が世界最大の生産者になっているとも指摘するのです。そこで語られるように、この分野で立ち遅れれば、技術覇権を中国に握られる可能性があり、その意味で安全保障上の問題になるかもしれないとするのです。新しい時代のエネルギー覇権を誰が握るのか、既に競争は始まっていると、警告するのです。
  

           おわりに  次代のカギを思う
本稿を締めるにあたり、今一度、Nouriel Roubini教授(NY University’s Stern School of Business)が、今年4月28日付けでProject Syndicate に投稿していた 論考を読み直してみました。タイトルは `The Coming Greater Depression of the 2020s’ です。それは経済停滞につながるリスク要因、下記10項目を挙げ、現在と今後の景気動向を見通すものでした。

① COVID-19対抗で財政支出の拡大で政府の効率劣化、コロナ禍で雇用労働者の収入
減と消費の減少、が重なり回復力劣化のリスク。
② Demographic time bomb(先進国共通の人口の高齢化と社会保障負担拡大リスク)
➂ Growing risk of deflation(デフレの進行―需要の減少で不稼働設備の増大)のリスク
④ Currency debasement(ドルの減価のリスク)
 ⑤ Broder digital disruption(経済のデジタル化の頓挫)
 ⑥ Deglobalization(反グローバル化の進行) ― パンデミックの進行はBalcanization
(小国化)誘発リスク、
 ⑦ The backlash against democracy(反民主主義と人種対立リスクの高まり)
➇ The geostrategic standoff between The US and China(米中対立の深化)
⑨ Diplomatic breakup (米中に加え、ロシア、イラン、北朝鮮との関係悪化リスク)
⑩ Environment disruption(これまで軽視されていた環境問題リスク)

その際の結論は、今年、2020年は主に上記①を踏まえ、U字型の景気回復を辿るも、その後は上記要因への改善取り組みなければ、L字型のgreater depressionに見舞われると見立るのでした。尤もそれらリスクはCOVID-19以前から承知されてきた事と云い、そこで彼は、これまで軽視されてきた10項目目の環境問題対応こそが、何よりも今後のカギであること、そして2030年代までにはtechnology and more competent political leadershipを擁することで、事態の改善が期待されるとするのでした。実に‘今’、世界が目指さんとする姿に符合する処、新しい資本主義経済の核心は環境対応にありと、思いを新たにする処でした。

さて、この1年、コロナ禍の癒えることのないままに、皆様には毎月、長編論考にお付き合い頂き深謝申し上げます。今、再び、コロナ感染拡大、第3波が報じられる処ですが、各位には、メルケル首相がドイツ連邦議会(12/10)で行った、感情を露わとして、国民により厳しい措置への協力を懇請したあの感動のスピーチを肝に銘じ、お元気で佳き新年を迎えられん事、祈念する次第です。 (2020/12/25)

A Happy New Year to You all !       

posted by 林川眞善 at 11:03| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2020年11月26日

2020年12月号  Joe Biden President-electと国際関係の今後 - 林川眞善

目  次

はじめに 米次期大統領にジョー・バイデン氏 
・米国はトランプ氏でなくバイデン氏を選択した
・民主主義の基本とトランプ氏の行動様式
・米国の分断を実証した両者の得票数
・米国にある二つの顔 / ・トランプ氏の敗因

第1章 アメリカを破壊したトランプ氏の夢

1.トランプ経済体制の非合理な現実
(1)アメリカを貶めたトランプ氏が追う夢
(2)ステイグリッツ氏の提言

2.今求められる新たな資本主義へのシフト
 ・アメリカ資本主義の病理 /・包括的政策の導入

第2章 バイデン政権と国際関係の可能性

1.バイデン協調外交
(1)米欧関係 / (2)日米関係
 ・アジア太平洋地域と中国の存在感

2 バイデン対中政策の視点 ―習政権の行動様式の如何
(1)中国経済の現状と長期展望
(2)安定化増す習政権の現状
 ・中全会(中央委員会全体会議)

おわりに  岐路 に立つ民主主義
         

はじめに 次期米大統領にジョー・バイデン氏 

・米国はトランプ氏でなくバイデン氏を選択した
11月3日の米大統領選の結果は、11月13日、全50州の集計結果、選挙人の獲得数はバイデン氏306、トランプ氏232で、バイデン氏の勝利が、漸く確定しました。選挙日より10日を経ての結果でした。その間のトランプ氏が仕掛けた、投票の不正問題をめぐるゴタゴタ騒ぎは周知の処ですが、11月7日、バイデン氏は、複数のメデイアが伝えるバイデン勝利の報を受け、その夕刻、彼は「分断ではなく、団結させる大統領になる」と勝利演説を行い、分断の修復に取り組むと約するのでした。そのスピーチは、「結束(Unity)」,「多様性(Diversity)」、「可能性(Possibility)」,「品格(Decency)」の4つの理念を以って語られるものでしたが、その瞬間、米国本来の大統領が戻ってきたかと、感じ入ったものでした。

尤もオバマ、ブッシュ(子)、クリントン各氏も自らの大統領就任時に同じことを口にしていたのですが、全員失敗しています。ということでバイデン氏は「4度目の正直」ってとこですが、さてバイデン氏は国民を束ねることはできるのか? とにかくそれに向かって最大の政治努力を期待する処です。

さて、投票日直前、10月31日付けThe Economist のcover storyは「Why it has to be Joe Biden」(バイデン氏でなければならない理由)と題するものでした。今となっては、その表題は ‘何故米国民はトランプ氏でなくバイデン氏を選択したか’ となる処でしょうが、とにかくその記事を以って選挙戦を見守った次第でしたが、取り急ぎ、その趣旨を以下に紹介しておきたいと思います。

― 2016年、トランプ氏を大統領に選んだ米国は、不幸で分断された国だった。そして「今、トランプ氏が自分を再選するよう求めている米国は、更に不幸で、さらに分断されている」で始まる当該記事では、ほぼ4年に亘るトランプ氏のリーダーシップの下、日々の暮らしは、25万人近い死者を齎したコロナ・パンデミックによって破壊され、口論や責任転嫁、ウソが蔓延、その大半はトランプ氏によるもので、今次選挙で同氏が勝利を収めれば、こうしたことが全て是認される事になると、トランプ再任を阻止すべきと。

そして更に、トランプ氏は米政府のトップとしての役割を十分に果たしていないが、それ以上に、国家元首として失格だと断じ、トランプ氏とトランプ政権は過去の政権と同様に、政治的な勝利や敗北にどれほど尽力したかを主張する事は出来ても、米国の価値観、米国の良心、そして世界における米国の発言力、と云う3点の守護者としては、求められる基準を著しく下回る働きしかしていないと、糾弾するものでした。

つまり、彼こそは米国の価値観を冒涜した人物と断じ、強烈な拒否反応を示すものでした。

・民主主義の基本とトランプ氏の行動様式
冒頭記したように選挙が終わった10日後の13日、漸く「バイデン氏の勝利」が確認されましたが、依然トランプ氏は、具体的証拠のないままに、バイデン氏の勝利は不正投票によるものと自身の敗北を認める様子はなく、政権移行(注)の協力も今日まで拒んでいました。が、23日、トランプ氏がバイデン氏への政権移行手続きの開始を容認したとの報が伝えられ、漸く政治空白の懸念は回避に向かうことになった処ですが、依然、トランプ氏のあがきは続く様相です。なお、バイデン氏は主要人事を固める処、so far財務長官にFRB前議長のイエレン氏の起用が伝えられた事は,筆者にとって朗報です。

(注)政権移行手続きのカギを握る連邦政府一般調達局長(GSA)、ミリー・マーフィー氏
は2017年、トランプ氏が任命した、つまりはトランプ側近。尚、大統領選を巡る調査を
していた米政府委員会は既に12日、「不正があった証拠は一切ない」との結論を公表済。

こうした民主主義の基本とも言うべき選挙、投票行為を否定するという言動は、トランプ氏をアメリカの大統領に推し上げてくれた米国の民主主義を後退させ、更には否定すらする、極めて憂慮すべき事態を意味する処です。トランプ氏の開票結果を受容しようとしない一連の言動に、それは大統領選で投票した有権者の票を無効化する宣言であり、「民主主義を否定するものだ」と、共和党内からも大きな反発が出ていると伝えられる処です。序で乍ら、かかるトランプ氏の言動は、落選後に不正や腐敗で追求されることを恐れての、まさに「トランプ劇場」というリアリテイ・ショーの演出ではと、映る処です。

それにしても興味深かったのは、かなりの人が「反トランプ」だったと云う事でした。リバタリアンを主張する集団は、元来、共和党の一部のような存在とされるものでいしたが、今回の選挙では共和党とは別に大統領候補を立て、わずかながらも票を取ったことでした。
微妙な票争いをしている接戦ではありえない事ですが、それだけトランプが嫌いだったと云う事だったのしょう。

・米国の分断を実証した両者の得票数
そうした混迷する米国の状況を解説される際、よくリフアーされるのが古代ギリシャの哲学者、プラトンですが、彼はその著「国家」で次のように指摘する処です。
― 自由と平等が広く行き渡る社会では、全ての人が強い権利意識を持つようになる。すると、ほんの少しの抑圧にも我慢が出来ず、エリート層への不満を溜める。そこに大衆人気を誇るポピュリストが颯爽と現れ、不満を溜める民衆を熱狂的な渦に巻き込む。そして、独裁者が生れていく。そして、僭主独裁制が生れるのは民主制以外にはありえないと。

現下の米国社会の分断の深まる姿には、まさにプラトンが予言していた民主制の最終形に近づいているかに思えんばかりで、今次大統領選での両者の得票数は、バイデン氏がおよそ7500万票台、トランプ氏もやはり7100万票台(日経11/9)、両者の得票差の僅少さは、まさに二分化を実証する処です。

勿論、米国社会の分断化を促している要因については、色々指摘される処ですが、とりわけ経済の格差拡大が進行する中、社会の不平等化が進み、それに連動する形で、white対 nonwhiteの人種間対立が露わとなっている事情を踏まえると、バイデン政権が米国の‘unity’を掲げても、その対立が素直に解消に向かうことになるものか、むしろこの対立の構図が今次の大統領選で浮き彫りされたことで、これが人々の中にシコリとなって、今後4年にわたって更なる火種となっていくのではと危惧される処です。「分断ではなく、団結させる大統領になる」と約したバイデン氏の勝利宣言は、まさにこうしたしこりを強く意識してのことだった事は云うまでもない処です。
そもそも、米国には分断を促す二つの顔があるとされ、この二つが互に競いながら米国政治を形作ってきたとされていますが、今次選挙戦ではこの二つの対立が極端な様相を呈したことで歴史的激しさともされ、これが大きなしこりを残す処と指摘される処です。

・米国にある二つの顔
米国にある二つの顔とは、ウイルソン主義の顔とジャクソン主義の顔で、それが、時の都合でいずれかが強まり、分断を齎してきたとされてきています。前者のウイルソン主義とは、アメリカ帝国主義の真っ只中、時のプリンストン大学総長にあったウイルソンが自由と民主主義、そして人権と国際協調を理念とするnew freedomを掲げ第28代大統領(1913 ~21)に就いた際の流れ。もう一つは白人を中心とする神の国をつくると云うジャクソン主義の顔(第7代米大統領、1829~37)で、米国の平和と繁栄を優先する考え方です。

今次、バイデン氏はウイルソン主義の象徴と位置付けられ、後者の象徴がトランプ氏ということですが、その史上、尤も米国らしくない大統領であるトランプ氏の強権的な政治手法に対する怒りがバイデン氏の得票に投影されていったと理解される処です。バイデン氏は勝利宣言の中で、国内の分裂を収束させ、米国と云う国の「統一」をと、強調していましたが、それはまさにウイルソン主義を目指す処ですが、諸般の事情からはバイデン氏が向かう道は、前述の通り民主主義の葛藤の道とも言え、分断の長期化は避けられそうもない処です。

大統領選の陣取り合戦、つまり選挙人の獲得数を合衆国の地図上で見ると、太平洋、大西洋の両岸には経済の革新の恩恵に授かる成長州があって民主党の青色で染まり、その間にあって経済発展の恩恵に浴する事の少ない保守的、伝統州は共和党の赤色で染まる、その色分けされた図柄は米国の分断の姿と映る処です。分断が、経済格差拡大、White vs Nonwhiteの対立に象徴されるとなると、問題は昨日、今日の話ではなく、これが遠くは、150余年前の内戦、南北戦争に端を発する処となると、簡単には解消し得るとは思えず、バイデン氏が打ち出す重点政策として「人種」をトップに挙げるのも、その故と思料するのです。
南北戦争の結果、奴隷は自由の身となったのですが、リンカーン大統領が暗殺された後を引き継いだ大統領、アンドリュー・ジョンソンは ‘政府は白人男性のもの’と、反動的な政治姿勢を展開、黒人奴隷の存在を容認し、自らも奴隷を自家に擁したと云われています。

時は流れ、1964年人種差別を禁じる公民権法(Civil Rights Act,1964)を以って人種差別は解決をみたとされてはいますが、現実の姿は周知のとおりで、今尚、その根っこを引きずったままにある処です。トランプ氏の姿勢はまさに人種差別を肯定するものと云え、その是正には時間がかかる所以をもって、日経、コメンテータの秋田浩之氏も、南北戦争の状況、今再び?(日経10/17電子版)と論ずる処です。

(注)サミュエル・ハンチントン (「分断されるアメリカ」Who are you? 2004 ):
1965年以降における大量のヒスパニック系移民によってアメリカは言語及び文化面でま
すます二分化が進み、これが白人と黒人という人種の二分化に続くだけでなく、それにと
って代わる可能性すらあると、指摘するのでした。(2008年、没)

・トランプ氏の敗因 
さてトランプ氏は選挙戦を通じ、経済で実績を挙げた自分こそが再選されるべきと、訴えていたことは周知の処です。 確かに、新型コロナウイルスのパンデミック前の米国経済は、失業率はそれまでの50年間で最低の水準にあって、低賃金労働者の賃金も年率で5%そこそこの高い伸びを辿り、株価は上昇傾向にありました。これらのすべては、減税、規制緩和、そして強気の通商政策の3点セット、つまり「トランポノミクス」に負うものと云え、コロナ収束後はこの政策を更に進め米経済を復活させると訴え、又、有権者の多くは、こうした主張を支持していたと見受けられたのです。実際、こうした経済問題を巡る世論調査ではトランプ氏は、バイデン氏に大きなリードを許してはいません。因みに、両者の得票数は前述のとおり極めて僅差にあって、まさに米国の分断を象徴する数字です。

ではなぜ米国民はトランプ氏ではなく、バイデン氏を選択したのか、ですが冒頭紹介したエコノミスト誌がその事情の一端を解説する処ですが、より基本的にはトランプ氏が誇示する「経済」とは、健康な働き手と、健康な消費者があっての事で、であれば健康を担保するためには、コロナ対策が第一の課題であったにもかかわらず、彼はそこを全くないがしろにした事が敗因となったというものです。バイデン氏は勿論、コロナ対策第一とする処です。

そこで本稿では、冒頭引用のThe Economistのcover storyを踏まえながら経済政策の視点から、改めてトランプ政策のillogicalさを検証し、その対抗となる新たな資本主義とその可能性を考察し、併せて、この春バイデン氏がForeign Affairsに寄稿した ‘Why America Must Lead Again‘ (弊論考2020/6月号)に照らし、バイデン政権が目指す協調外交の可能性について、具体的に考察することとしたいと思います。


第1章 アメリカを破壊したトランプ氏の夢

1.トランプ経済体制の非合理な現実

今次の選挙結果は、トランプ氏の米国を世界の指針たらしめてきた‘価値観への冒涜’と、バイデン氏が示す、‘その修復と再生’ への期待、との相克の結果と見る処ですが、この際は、米コロンビア大教授のノーベル経済学賞受賞のジョセフ・ステイグリッツ氏の言を借りながら、今求められることは何か、そして想定される新しい資本主義へのシフトの可能性について考察する事としたいと思います。

(1)アメリカを貶めたトランプ氏が追う夢
トランプ氏は大統領選が近づいてきたころから「法と秩序」を盛んと口にするようになっていました。我々が必要とするのはルールのある世界ですから、法の支配なくして経済は機能しません。世界経済ではWTOが‘法の支配’の基本となっています。その限りにおいて彼の発言は正鵠を射るものと云えます。が、事態は、自身にとって都合のいい、まさにご都合主義の姿勢であって、むしろ彼の行動様式は、法の支配自体を壊さんとしており、それがカオスや不確実性を齎しているのです。彼には経済の知識は乏しく、その為、彼の政策は彼の支持者を含め、人々を窮地に追いやっていると云うのが実状です。

例えばトランプ氏がいくら喚いても製造業がアメリカに戻ってくることはありません。たとえ中国に非常に高い関税をかけたとしても、輸入先がベトナムやバングラデッシュ、スリランカなどに移るだけなのです。多少戻ってきたとしても、製造業を担うのはロボットです。つまり雇用を生むこともなければ、失業者が職場に復帰できる可能性はないのです。失業者が新たな職を得るには、新たなスキルを獲得するしかないのです。トランプ氏はアメリカが製造大国だった1950年代から1960年代の「夢」を追いかけているのです。 第2次世界大戦後、アメリカは資本主義諸国では唯一の大国でした。トランプ氏が目指すのはそのような世界の再現でしょうが、もはやそんなことは叶う事はないのです。

トランプ氏の目論見の一つは石炭産業の復興です。つまりトランプ氏は炭鉱作業員の雇用を守ろうとしていますが、石炭の時代は終わっているのです。地球温暖化の問題で石炭はもう使えなくなっているのです。因みにバイデン氏は2050年、脱炭素を宣言していますし、菅首相も同様、脱炭素、温暖化ガス排出を実質ゼロにすると宣言(10/26於国会)する処です。

一方、今では炭鉱作業員の何倍もの数の労働者がソーラーパネル設置の作業に従事する処です。言うまでもなく再生可能エネルギーの分野です。にも拘わらず、石炭産業を守ろうとすることは、成長分野の産業の成長を妨げようとすることです。つまり、トランプ氏は石炭を守るためにソーラーパネルの普及に待ったをかけようとしているのです。石炭は人体に害を及ぼし、探鉱作業員だけでなく社会全体の人々の健康を蝕む処です。

(2)ステイグリッツ氏の提言
有害なエネルギーに戻って、これまで研究を重ねコストも低下させたクリーンなエネルギーの利用を妨げるなどは馬鹿げた話で、未来社会のあるべき姿を大統領のトランプ氏が理解していないために、アメリカが損害を被っていると米コロンビア大学教授のステイグリッツ氏はトランプ政策を強く非難する処です。同時に明らかなことは、トランプ氏のような煽動政治家の登場をゆるした自分たちの社会システムにも問題があり、何かが上手くいっていないことだとし、この際は、新自由主義に基づくレーガン大統領以降の資本主義を刷新し、新たな資本主義(Progressive capitalism)へのシフトを唱道するのです。

2.今、求められる新たな資本主義へのシフト

・アメリカ資本主義の病理
ステイグリッツ氏は、アメリカ資本主義の病理として大きな問題は、経済の不平等により民主主義社会が危機にさらされている事だが、それが経済自体にも深刻な影響を与えている処、この際は格差と不平等に対処するための包括的な計画の導入を中核としたProgressive capitalism(進歩的資本主義)へのシフトを訴えるのです。

   (注)Stiglitz氏著「People, Power, and Profits:Progressive capitalism for an Age
of Discontent,2019」邦訳出版2020/1月2日

深刻な経済への影響の一つは、総需要や投資が減る事ですが、 貧困層は手にしたおカネの全てを消費に回しますが、富裕層は資産や収入の一部しか消費に回しません。ですから不平等を作り、富を富裕層に集中させると総需要が減り、投資も減ってしまうと云う事になります。しかし不平等を促す政策はレーガン時代から続けられている事態が問題と批判を呼ぶ処です。 もう一つ大きな問題は、さまざまな産業で独占企業が増えている事で、GAFAなどはその典型ですが、一極集中が進むことでアメリカ市場から激しい競争が失われてきていることで、多くの分野でも価格が高くなっていますが、それがインフレ調整後の賃金が上がっていない理由の一つですが、これらは先進資本主義国が抱える共通問題と映る処です。。

・包括的政策の導入
さて、その対抗として導入が唱道される包括的政策ですが、その基本は成長や格差縮小への障害(過大な市場支配力を持つ企業がもたらす弊害)の除去と、バランスの回復(労働者に大きな交渉力をあたえる)とを組み合わせた政策となる処で、これは前掲ステイグリッツ氏らが主張する進歩的資本主義(progressive capitalism)の中核をなすものです。 実は、弊論考(N0.94, 2020/2月号)で、ステイグリッツ再論として同書を取り上げています。今次選挙結果を論じるにあったて、改めて目を通す時、そこに盛られた「21世紀の世界で必要とされる事」「求められる政策は‘政治と経済を再建する’政策」などの指摘を新とする時、緊密につながり合った世界に生きる者として、孤立主義という選択肢はなく、政治・経済両面で、これまで以上に国際関係の管理に取り組んでいかなければならないとの警告に改めて身をただす思いです。


第2章 バイデン政権と国際関係の可能性

バイデン政権が目指す政策の形は如何と、先に、彼がForeign Affairs, (March/April,2020)に寄稿した「Why America Must Lead Again」を紹介していますが(弊月例論考N0.98 2020/6月号)、彼の基本的な政治姿勢は、民主主義の再生、中間層の復活、受け入れ寛容な移民政策とするもので、外交的には同盟国重視、国際機関との協調を訴え、通商交渉にあたっては「労働対策と環境政策の重視」を原則として、自らその前線に立つとする処です。

もともとバイデン氏は環境問題や人権課題に対して関心が高いことで知られ、政権発足後、ESG(県境・社会・企業統治)関連のルール整備や産業振興策を打ち出すものとみられていますが、まずその具体的アクションとして、大統領就任当日には、地球温暖化対策の国際的枠組みの「パリ協定」に復帰し、各国に削減目標の引き上げを働きかけると公約しています。
漸く ‘トランプ政権下で止まった時計の針が動き出す’、と云った処です。

1.バイデン協調外交

(1)米欧関係:11月10日にはバイデン氏は英独仏やアイルランドの首脳と電話連絡し、安全保障や気候変動での協力について確認しています。まずは欧州との協調関係の回復、つまり欧米関係の再構築ってところです。その前日の9日にはカナダのトルドー首相とも電話会談を果たしています。これはトランプ政権下の4年間で揺らいだ米欧関係の修復を外交の最優先課題と位置付ける姿勢を鮮明とする処です。

米欧関係修復の具体策となるのが、トランプ政権時、離脱した国際的枠組み「パリ協定」への復帰ですが、前述のとおりバイデン氏は1月20日の政権交代時、同協定への復帰を決定しており、併せて「脱炭素」経済を目指す方針を欧州の方針と共有する事が確認されたと伝えられ処、ESG関連政策で世界の先を行く欧州にとっては、‘共通言語’を持つ政権が米国で復活することになるわけで、この結果米欧の2大市場が呼応しながら競争優位な環境づくりとして、規制強化などの動きの加速が想定される処です。脱炭素社会を宣言した日本も土俵を同じくできるよう、革新的な政策対応が求められる処です。

尚、バイデン氏は、安全保障体制については、もともとNATOを米国の安全保障の要と位置づけており、未だ負担金問題では決着を見ていませんが、欧州との連携は中東政策を進める上でも不可欠として連携強化を伝える処です。

この他、バイデン氏は今次コロナ対策について、「G7を中心に公衆衛生が整っていない国々を支援する国際枠組みの創設」を提案しています。その背景には金融危機や14年に米国で広がったエボラ出血熱への対策を当時副大統領として対処した経験が映る処です。更に、ひどい打撃を受けている国に手を差し伸べるべきと、イランへの制裁緩和をも提案する処です。つまりオバマ前政権で結んだイラン核合意を破棄したトランプ氏への意趣返しともなる処ではと、思料する処です。 ただ強権姿勢の首脳が幅を利かせる現在の国際社会で、融和の主張がどこまで通用するかですが、彼が主張するアメリカに期待したいと思う処です。

(2)日米関係:菅首相は12日のバイデン氏と電話協議で、気候変動問題など国際社会共通の課題で連携していく事、また日本防衛の義務を定めた日米安保条約第5条の沖縄県・尖閣諸島防衛への適用を確認。このほか、QUADへの協力、更には脱炭素社会を目指す菅政権の方針に対して、バイデン政権の環境政策との連携を合意したと報じられていますが、暫し様子見と云った処でしょうか。 序で乍ら、バイデン政権は国内インフラ投資の拡大を経済再生のカギとしている点で、財政のひっ迫が予想され、これが米軍の財政逼迫に連動する事となれば、日本の安全保障にも影響の及ぶことが懸念される処です。その点では、QUADの体制を介しての日本の対応の如何が問われる事になる処です。今、急速に中国の体制変化が進む中、きちっと見極めての対応が求められる処です。

・アジア太平洋地域と中国の存在感
加えて注目されるのが、中国のアジア太平洋地域にみる中国の存在感の高まりです。
11月15日、東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が、ASEAN(10か国) プラス 日中韓豪NZの15か国の間でFTAが調印されています。世界貿易の3割を占める巨大経圏の誕生です。もとよりこれがアジア主導で世界の通商戦略が変わる可能性を秘める環境にあって、11月20日、中国習近平氏はAPEC 21か国首脳会議にオンラインで出席し、TPP11への参加を積極的に考えたいと、表明したのです。

トランプ米政権はすでに2017年、TPPからの離脱を宣言、今次のRCEPにも不参加です。習氏は19日の関連会議でも米国を念頭に、保護主義を強く批判すると共に、「中国は地域経済の一体化を進め、アジア太平洋の自由貿易圏を一日も早く完成させたい」(日経11/21)旨を明らかとしたのですが、習氏の一連の言動は、云う迄もなく米国の政権移行期にアジア太平洋地域で中国の存在感を高めんとの狙いが煤ける処です。さて日米関係は中国という要素を抜きにして語ることはできません。QUADを介した日本の出番の可能性が高まる中、中国政府のかかる新たな行動に、日本の備えは如何と、改めて問われることになる処です。
                                      
2 バイデン対中政策の視点 ― 習政権の行動様式の如何

さてバイデン氏は、中国の経済行動は国際ルールを逸脱するものとの認識にあって、従って国際ルールの遵守を迫る形で対中圧力の堅持を目指すと見られています。その点ではトランプ政権と同じ線上にある処、その対抗は日欧などとの多国間枠組みをテコに、労働・環境を重視した貿易ルールを中国に迫っていくとしています。となれば、これまで米中関係のバランスにおいて対中政策を進めてきた日本は、上述、新たな中国の行動様式に照らし、改めて対応の再考が求められる処です。
                   
(1)中国経済の現状と長期展望
コロナ禍の世界にあって、中国経済は今、一人勝ちの様相をたどる処です。10月19日、中国国家統計局発表の第3四半期(7~9月)のGDPは実質前年同期比4.9%の成長です。。これは投資や輸出が牽引する処、他国に先駆けて経済は正常化しつつあり、成長の加速が指摘される処です。
 
そんな環境の中、10月26~29日、北京で開かれた「5中全会(第19期中央委員会第5回全体会議)」では、二つの長期計画、「第14次5か年計画(2021~25)」と併せて、「2035年までの長期目標」の導入が公表されました。新たな5か年計画などは、米中関係が過去にないほど緊張した中での策定となるものです。周知の通り、2018年から関税合戦が勃発、貿易摩擦が激しさを増し、2020年1月には貿易協議の第一弾の合意にこぎつけていますが、コロナの蔓延、中国に因る香港国家安全維持法制定を経て、米国が対中姿勢を一段と硬化させた中でのことでした。つまり、米国との緊張関係が常態化する事も視野に入れ、新5か年計画は需要と供給の両面から国内経済の底上げを目指すものとなっており、過度の海外依存を避けて、経済成長を持続させる「自力更生」の道を探るものとなっています。そのキーワードは「自主可控」(中国が独自にコントロールできる)。

因みに「2035年目標」では基幹技術で革新的な発展を実現するとし、環境に配慮した生産の形成を通じて競争の新たな優位性を高めんとする由です。そして一人当たりのGDPが中等先進国レベル(日本の4万ドルに対し中国は1万ドル)に達し、中所得層を拡大させる一方、国防・軍隊の現代化を基本的に実現させんとするのですが(日経11/04)、14億の人口を抱える中国の巨大さがもたらす脅威を実感させられる思いです。

(2)中全会と、安定化増す習政権

・中全会(中央委員会全体会議)は共産党党大会開催の2年前に開くこととされており、これまで後継者が固まる場として注目されるものでしたが、今次の会議終了時、発表されたコミュニケには人事の記載はなく、逆に習氏の実績を誇示し、指導力を礼賛する内容となっています。(日経11/4)その限りにおいて、習政治の安定感を伝える証とも云えそうです。因みに2018年の憲法改正で、国家主席の任期を2期10年までとする規定を無くしており、残るハードルは党大会時に68歳以上は引退する党の不文律ですが、習氏は22年秋の党大会では69歳となり、通常ならば、引退する事になるのでしょうが、もはやそういった縛りはなくなったという処でしょうか。

・つまり2018年3月の憲法改正(国家主席の任期撤廃)に大きな反発があったとされ、そこでもう一度、党内の安定化を図るため ‘二つの擁護’(注:習近平氏の全党に於ける核心的地位の擁護、党中央の権威と集中統一指導の擁護 )の制度化を図ったといわれていますが、それが功を奏したとされる処、習近平の独裁体制が定着したとされる処です。今後15年間にわたる展望の提示は1995年以来で、長期政権を狙う習氏の政治的な布石と云える処です。

さて、中国は、新体制の米国と対峙しながら今後、どのような展開を図ろうとするか、再び世界の関心は習氏の行動とその行方に集まるは当然の事として、一方、バイデン流、民主国家との連携による対中けん制枠組みの構築に、日本はいかにかかわっていくことになるか、これまた関心の高まる処です。


            おわりに 岐路に立つ民主主義

処で先週、筆者が主宰する社会人のための勉強会では、時節柄、今次の米大統領選、そして中国習近平政権の政策行動について講義を行ったのですが、その際受講生から、トランプ氏が仕掛けるゴタゴタ騒ぎの民主国家 米国と5全会に見る中国のような意思決定の姿を見ていると、中国の強権体制に米国の民主主義体制がどう優位を保てるものか、更に米国の混迷は民主主義そのものの衰退を意味するのではと、侃々諤々、クラスは暫し沸く処でした。

確かに自由で民主的な国よりも、権威主義的な国の方がコロナをうまく抑えている現実があり、政策の実行力に限れば中国型モデルに有利な面のある事、否めません。つまり、指導者は素早く決定を下し、政策を進め、次の選挙を気にせず、長期の戦略を定め、実行に移しやすく、前述2035年の中国の姿を、かくあるべしと定める習近平氏の姿はその好例です。

だから中国型モデルが民主主義体制よりも優れているという話にはならず、なぜなら民主主義には強権体制にはない決定的な長所がある処、つまり一つには、民主主義体制では指導者の政策や決定はいつでも世論の監視や批判にさらされ、検証され、失敗を重ねれば選挙によって変えられてしまうことになるということ、今米国で起きているのはただの混乱ではなく、そうしたプロセスにあるというものです。そしてもう一つは、社会の軋轢は国家に問題を直視させ、法や制度を改めていく力を持っているといえるからです。

思うに米国での人種問題についていえば、南北戦争や1950~60年代の公民権運動を経て少しずつ人種差別を減らし、ついには2009年に黒人大統領の誕生を見ています。これこそは米国民主主義の健在あっての事というものです。かつて英国の元首相、W.チャーチルが発した「民主主義は最悪の政治。これまで試みられてきた民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」との言は有名ですが、民主主義は時間もコストもかかるが、国民の一人ひとりの尊厳にレスペクトを払う、言い換えれば多様性を受容する優位なシステムと云えるという事です。その点、トランプ氏の ‘米国フアースト’ には、社会の多様性を受け入れない、社会の対立を生むばかりと、危機感の募る処です。

とはいえ、それでも気になることは世界の潮流です。つまりグローバリズムと民主主義は一緒にうまく回らなくなっていることが明らかになってきていることです。米欧でみられるように社会の分断がどんどん進んでいて、そこにコロナの問題が重なったこともあり、政治体制そのものが問われかねない事態が露わとなってきています。日本も例外ではありません。問題は、そうしたことへの備えがあるか、です。 
さて、10月26日開催の日本生産性本部大会での基調討論会で、元東大学長の佐々木毅氏は「大状況の変化がどういう形で、大きな波として日本に押し寄せてくるか、それについての議論が欠如している危うさがある。何か起こった時、飲み込まれていく。体制間競争について自分たちなりにきちんと考えていくことが重要だ」と、懸念を示すのです。 以上              
(2020/11/25)
posted by 林川眞善 at 11:55| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする