2019年03月14日

2019年3月特別号  深まるデジタル革命、そしてクルマは社会のデバイスに - 林川眞善

― 目  次 -

はじめに 歴史の中に見る産業 ‘革命’のかたち

(1)‘革命’のかたち/ ・デジタル革命
(2)本稿テーマに至る思考回路


第1章 デジタル革命と産業の構造変化   
    - 自動車メーカの場合

1. デジタル革命 、そのトリガーの進化

(1)AI(人工知能)の進化 
・{AI}の開花 / ・AIとAI技
・「量子コンピューター」の登場
(2)「5G元年」を告げる米CES(家電・技術国際見本市)
・次世代スーパー・コンピュータ(ポスト京)

2.産業の現場に見るデジタル革命対応、自動車メーカーの場合
      -クルマは、社会のデバイスに

(1)`Tech tinkers under the hood ‘
         - Financial Times, Rana Foroohar氏
(2)日独 2大自動車メーカの取り組み
 ①「トヨタ」の場合
 ② ダイムラー、ツエッチェCEOの「CASE」戦略
(3)クルマは、社会のデバイス(情報機器)


第2章 デジタル革命が齎す課題  
            
1.AI技術はdual use ― 今、必要な‘安全保障’の再定義
・華為技術(フアーウエイ)と、5G時代の地政学リスク

2. New Monopolyの出現と、競争政策
・competition revolution
・独シーメンス、ジョー・ケーザーCEO


おわりに 平成という時代の終わりに
・マインドのリセット
・日本のカルチャー
(2019/3/10記)
     
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


はじめに 歴史の中に見る‘革命’のかたち

(1)‘革命’のかたち

これまでの歴史の中では、いろいろな‘革命’が云々されてきました。「宗教革命」があり、「市民革命」があり、その後に起きた「産業革命」があり、そして‘今’がその延長線上にあると云うものです。それぞれの革命には相応のトリガー(技術革新)があり、それが経済社会のシステムを大きく変化させていく、その生業こそが `革命‘とされる処です。

云うまでもなく、前者、宗教革命と市民革命のトリガーとなったと云われるのがグーテンベルグの活版印刷技術。以ってこれが仕掛ける変化であった事は周知の処です。聖書などの「思想」を紙に印刷し、広くバラマキ、その結果は当時の「神」を中心とした思想から、人間を中心とした思想へと、思想そのものが大きく変化する中、そこから生まれたのが「民主主義」でした。この民主主義の登場は、社会システムまでもが大きく変化して行ったと云うもので、フランス革命、然り、アメリカ合衆国の独立しかりとされる処です。

そして次に起きた「産業革命」は周知の通り、エンジンやモーターの発明がトリガーとなるもので、それによって「生産物流システム」が大きく塗り変えられていったと云うものです。
つまりエンジンやモーターの登場で、巨大工場が生まれ、それが鉄道や自動車によって世界中で繋がり、グローバルな生産物流システムへと発展して行ったものです。そしてそれを推進する力となったのが「資本主義」であり、そこから「大企業」が生まれ台頭していった姿をそこに見る処です。 つまり、産業革命とは「生産物流システム」をグローバルに変えた出来事だったと総括できる処です。

・デジタル革命
そして今、Digital transformation、Digital disruptionと言った言葉が連日飛び交う処ですが、これが情報通信技術、高度デジタル技術の急速な進化に誘導される産業構造の変化といえ、以ってデジタル革命と称される処、その革命を背にした新たな産業の革命始動を感じさせられると云うものです。因みに、本年、年頭のメデイアを飾った言葉は、デジタル革命の核心たる人工知能「AI」でした。そし 今年1月8、米ラスベガスで開かれた米CESで発表された高速通信規格「5G」の実用化は、更なるデジタル革命を促進させる要因となる処です。

その変化は、後述するように、システムとして、時間的制約、距離的制約を受けることなく、自由自在に情報交流が可能となるだけに、これまでの様な企業におけるタテの流れだけでなく、フラットな情報流の広がりが想定され、人口減少、労働力人口の減少への対抗ともなる事、云うまでもなく、社会と個人の結び付き方にも構造的変化を齎す処です。
勿論、これまでなれ親しんだ産業論や競争政策の在り方等、資本主義経済の論理基盤すら変更を促す処、更には安全保障の在り姿にも大きな変革が不可避となると云うものです。

そこで、デジタル革命は、今後何をどう変えていく事になるのか、その変化を促す核心たるAI事情をレビューしながら「デジタル革命」とはどういったことか、この際は、進化する高度情報化と産業革新に絞り、当該新環境の本質をただしながら、その実証として革新的変化を露わとする自動車メーカーに的を絞り、現状とその行方を追う事としたいと思います。

(2)本稿テーマに至る思考回路

尚、自動車産業にフォーカスするに至った経緯は、この1年、以下メデイアを通じて承知
する自動車産業の変化こそは、デジタル革命の実践者と認識したためで、それは同時に、筆者が抱いてきた予ての産業論の変革を促すプロセスともなるものでした。

まず一つは、2018年1月、 豊田トヨタ社長は米国で「トヨタは自動車メーカーからモビリテイ・カンパニーになる」と宣言し、同年5月のトヨタの決算発表時、「まさに‘未知の世界’での‘生死を掛けた闘い’が始まっている」ともコメントしていた事でした。過去最高の利益を更新する社長の言です。それは人工知能(AI)や、あらゆるモノがネットに繋がるIoT等、新しいテクノロジーの進化によりクルマの概念やクルマを取り巻く社会構造が大きく変わろうとしている事への挑戦を示唆する処と、感じ入った事でした。

序でながら、そもそも近代的な自動車産業の始まりをT型フォード(1908年)とすれば、この百年余、世界戦争の時間を外し、産業の生業は、大量生産、大量消費経済が進むなか、自動車メーカーを頂点とする産業構造が出来上がってきた事周知の処です。そして自動車産業を巡る環境変化への対応には、競争維持の視点からは大規模投資を不可避とし、しかもそれがclosedlyに進められてきたわけで、従ってこのクローズド・アーキテクチャーでは、規模が最大の競争力とされる処です。つまり規模に成長を循環させる仕組みがあり、それこそが自動車産業が装置産業と言われる所以です。処が、自動車産業はいま異業種から最も攻撃される産業となってきたと云うものです。

つまり自動車がデジタル化から取り残された巨大市場であるという事で、それが意味するのは、掘り起こせる大量のデーターと、生み出される価値が、最期に残された‘大油田’に見えるからで、米IT大手企業が当該市場に参入をしてきていることに象徴される処です。
そうした情報化が齎す新たな環境に、当事者たる自動車メーカーは危機感を強め、新たな革新を目指さんとすることにある処と思料するのです。

もう一つは11月19日の日産ゴーン元会長の逮捕で同社の先行きは如何?と危機感すら抱いていた折、偶々目にしたのが12月3日付Financial Timesに掲載あったRana Foroohar記者の投稿記事 ‘Tech tinkers under the hood’ でした。その内容は、筆者にとって極めて問題意識を鮮明とさせるものでした。周知の通り12月初め、GMはトランプ関税政策への対抗として、米国とカナダの5つの工場を閉鎖し、操業拠点を他に移す事を決定。これにトランプ氏も労組も、雇用の流失だと非難する中、同記事は、GMがいま直面している最大の課題は、労働コストやアウトソーシングや鉄鋼関税の問題ではない、真の問題はクルマが高度な情報機器へと変わろうとしている時代に、自動車業界全体の経済的価値の大きな部分を押さえることが出来るのかと、問うものでした。

そして今年、年頭のメデイアに踊った文字がAI(人工知能)でしたが、更に1月に米国で開催された二つのeventsの持つ意義でした。つまり1月7日、米ラスベガスでスタートしたCES (International Consumer Electronics Show)で、「5G」、つまり高速通信システム時代の幕開けが語られ、プラットフォーマー主導の自動車メーカーの変容が注目を呼ぶ処だったことでした。
加えて、これまで毎年1月、デトロイトで行われてきた「北米国際オートショウー(North American International Auto Show)」の開催が来年、2020年からは6月開催と決定された事です。と云うのもクルマとITの融合が進み、自動運転やAI等の新技術を披露する場がCESに移ったとの認識が高まるなか、CESとの競合を避けるため今後は自動車だけではなくIT企業なども広く呼び込もうという事で、開催時期を変更するということで、その‘変更’自体、デジタル革命の何であるかを、強く感じさせられたという事にあったのです。


第 1章 デジタル革命と産業の構造変化
         - 自動車メーカーの場合

1.デジタル革命、そのトリガーの進化

現下で進むICT,高度情報通信テクノロジーの進化が促す ‘変革’とは、前述、「はじめに」で指摘したこれまでの革命の「かたち」とは聊か異なる様相にあります。つまり、18世紀中頃から19世紀にかけて起きた ‘革命のかたち’は、機械制工場と蒸気力の利用を中心とした技術革新が起こり、それに伴う社会の変化が起こってきたということで、言うなればその変革はlinearな形で進んできたというものです。然し今、我々が対峙するその姿は、20世紀中頃からのコンピューター(AI)の導入で人の限界を超えた演算が可能となり、更に大量のデーター、情報が、高度に発達した情報通信技術を経て産業横断的に伝達されていく事が可能となった事で、いわゆる全産業横断的、multiな形での変化が進む、まさにデジタル革命を演出する処、そこでまず、当該革命を促すAIと5Gの実際をレビューしたいと思います。

(1)AI(人工知脳)の進化

・「AI」の開花
前述したように2019年元旦のメデイアを飾った言葉の一つが「AI」(Artificial Intelligence:人工知能)でした。 1960年代そして80年代と、2度のブームを経ていま、AIが開花していると云うものです。過去のブームでは、未来的な世界を実現だけの技術が手に入らず研究が萎んでしまったと、メデイアの伝える処ですが、今次、云々されるAIの開花とは、インターネット上を大量のデータが行き交い、これを用いた深層学習(デイープ・ラーニンブ)で、AIを磨けるようになったことと云うものです。つまり、人工知能とはデータ処理のツールであり、「機械学習」と「深層学習」に代表されるものですが、わかりやすく言えば、大量のデータのなかから、パッターンを見つけ出す学習方法で、これが半導体の処理速度の向上とともに、人間の脳の構造をまねたニューラルネットワーク(神経回路網)を利用することで磨きがかかっているという事です。

そして、これが意味することは、これまでマシン(機械)と云う筋力を使って人は可能性を切り開いてきましたが今後は知力においてもマシンが伴奏者になることを意味する処となり、その革新とは、価値の創出に知恵を絞っていく、つまりこれからの資本主義は、脳が価値であり対価となる「頭脳資本主義」(日経2019/1/1)になるともされ、資本主義のコンセプトを変える進化と云う処です。。

元より、高度に開発されるAI技術が産業に応用され、またAIロボットとして導入されていく事で、当該産業の生産性の向上が促され、産業の構造的変化を促す処となり、それは、digital transformation(創造的破壊)が進む一方で、その過程では新たな産業も現れてくるとされる変化です。云うまでもなく、AIロボットの導入は産業に留まることなく、医療、介護、教育等々、広く民生に及ぶ処、当該職場の効率化、生産性の向上等々、実践的に理解しやすい存在となる処です。尚1月15日、厚労省が公表した就業者の長期推計によると、AI等新技術の進展で2017~2040年の間に年率0.8%程度の生産性が見込めるとしています。

・AIとAI技術
尚、新聞等で見る記事にはAI(人工知能)とAI技術、つまりAI開発に向けた技術開発とごっちゃ混ぜにした議論が目につきます。この点、数学者で国立情報学研究所教授の新井紀子氏は同氏近刊「AI vs 教科書が読めない子どもたち」で、次元を異にする話と明快に指摘した上で、AI、人工知能とはそれ自体が独立した「AIロボット」と云う存在であること、AI技術とはAIを進化開発させていく上での技術であること、この違いを理解しておくことが今後へのカギだと指摘するのです。つまりAIはコンピューターであり、つまりコンピューターは計算機であり、計算しかできない、ましてや人間の脳を超えるという、まさにAIが‘頭脳’になるという転換点を意味する「シンギユラリテイ」(注)に達することは起りえないと断じるのです。

(注)シンギュラリテイ(singularity:特異点):人間の知性をAI(人工知能)が超え、加速度的
に進化する転換点を意味する言葉。米国の未来学者、レイ・カーツワイル氏が、その時期の到来
を2045年と予想するもので、人間が担ってきた高度で複雑な知的作業の大半をAIが代替する
ようになり、経済や社会に多大なインパクトを齎すと考えられている転換点を指す。

つまり「真の意味でのAI」が人間と同等の知能を得るには、我々が認識している事をすべて計算可能な数式に置き換えることが出来ることを意味することで、今の処、数学で数式に置き換えることが出来るのは、論理的に云える事、統計的に云えること、確率的に云えることの3つだけで、われわれの認識を、全て論理、統計、確率に還元することはできないからというのですが、議論はまだまだ続く処です。

・‘量子コンピューター’の登場
ただ、「量子コンピューター」の登場で、その様相は変わってきたようです。つまり、デジタル革命を一変させると見られてきた「量子コンピュータ」の実用化が、2011年、カナダのベンチャー企業D.ウエーブ・システムズによって開始され、更に、米グーグルが「この量子コンピューターの処理速度はスパコンの1億倍、消費電力はスパコンの500分の1」と検証したことで、米国ではグーグル、やマイクロソフト、インテルなどが、そして、中国では政府と共同でアリババ、百度(バイドオ)が、量子コンピューター開発に参戦する処と報じられています。(日経2019/2/18)

この量子コンピューターは、極微の世界の物理法則を示す量子力学をヒントに、開発が進められているもので、D.ウエーブの量子コンピューターは現在のコンピューターでは解くことが難しい「組み合わせ最適化問題」を解くための専用マシンとされるものですが、この量子コンピューターと人工知能(AI)が結べば、上述AIが人間の知性を超える「シンギュラリテイ」の達成が早まると見られる処です。その限りにおいてシンギュラリテイ問題は ‘量子’の世界にシフトする処と云え、唯々その推移を注視するばかりです。

(2)「5G元年」を告げる2019年米CES (家電・技術国際見本市)

更に、今年1月8~11日、米ラスベガスで開かれた米CES(International Consumer Electronics Show)は、「5G」、つまり高速通信システム時代の幕開けを告知するものでしたが、その場で何よりも注目を呼んだのがプラットフォーマー主導の自動車産業の変容でした。
つまり、現在の通信の100倍もの速度でデータのやり取りが出来る高速通信規格「5G」が、今年から実用化に向かうとされ、クルマへの活用などデータにまつわるビジネスに大きな商機が生み出されることが想定される処、これがDigital Transformationを促進させ、産業構造を大きく変える可能性を鮮明とする処です。周知の通り、現行4Gの通信速度は携帯電話をスマホに進化させてきました。米アップルやグーグル等クラウド技術を活用したIT大手が急成長し、情報の価値が競争力を決める「データ経済」を拓いてきましたが、5Gはこれを更に加速させると云うものです。

5Gの時代は、様々な産業が「場所」という制約から解放される一方で、通信の遅延の少なさは、これまでITとは縁の薄かった産業の変革も促すことになっていく処ですし、前述したように、その姿は全産業wiseに進むdisruptionと呼称される革命的な変容を齎すことになる処です。まさに「5G元年」(注)です。 

    (注) 通信システム技術の進化:GはGeneration の略
1 G:アナログ携帯電話(80~90年代)
2 G:デイジタル化とデータ通信(90年代)
    3 G:国際電気通信連合(国連ITU)が国際標準化を推進
4 G:モバイルネットワークの第4世代技術
5 G:「モバイルネットワークの第5世代技術」で、「第5世代移動通信システム」

先のトヨタ社長の発言ではありませんが、未知の世界への挑戦が可能となってきたと云う事といえるのですが、今次の米国際家電見本市CES(International Consumer Electronics Show) は、それをリアルに見せつける場となった事で、企業にとって2019年は、AI,人工知能時代に適応できる経営の具体化が問われる年になったというものです。

・次世代 スーパー・コンピュータ(ポスト京) 
序でながら、日本では、国産スパコン「京」の後継機で、2019年度から設置に着手し、21年度にも運用開始予定と報じられています。(日経、2019/2/18) 大量のデータを活用する経済活動が活発になる中、スパコンで人工的なデータを無尽蔵に生み出して画期的な新薬や革新的な生産技術の開発につなげると云うものです。(官民で約1300億円を投じて、先行する米中を追うというもので、開発は理研と富士通が担当すると云うものです。)

人工データとは、シミユレーション技術によって実際には存在しない仮想的なデータを新たに作りだす事になると云うもので、「通常は現実の実験データ等を大量に集めて分析するが、ポスト京によるシミュレーションは今までにないデータを生成できる強力なツール
になる」と、加藤千幸東大教授は語る処です。つまり、人工データで大量に仮想的なデータを生み出してAIで学習・分析すれば従来にない新しい知見が得られる。米国の「GAFA」によるデータの独占が問題視される中、人工データは有力な対抗手段にもなり得ると云うものです。そして、期待される分野として挙げられるのが、薬の開発、自然災害研究(大量データが得にくい)、自動車、飛行機の開発で、実機を使った試験などを代替でき、開発期間やコストの大 幅削減が可能と言われており、期待される処です。

2.産業の現場にみるデジタル革命対応、自動車メーカーの場合
     -クルマは社会のデバイスに

こうした「AIの進化」、「5G元年」を受け、産業の現場はどう反応するのか。そこで、前述の通り、この際は自動車メーカーにフォーカスし、変化への対応状況を追うこととします。
その点では「はじめに」の項で触れたFinancial Times、Rana Foroohar氏の自動車産業に向けた鋭い記事 ‘Tech tinkers under the hood’(自動車大手の技術者は鋳掛屋?)は、当該メーカーが対峙する問題点を極めて鮮明とする処、そこで改めて同記事をレビューし、トヨタの取り組み戦略、そしてその姿に映るダイムラーの選択を、考察することとします。

(1)‘Tech tinkers under the hood’ 

当該記事は先に触れたように、GMがトランプ関税政策に対抗して、操業拠点を米国内から他国に移転させると決定した事について、これを批判するトランプ氏や労組とも併せ、両者、GMも労組も問題の視点がずれていると指摘するのです。つまり、GMがいま直面している最大の課題は、労働コストや鉄鋼関税の問題ではなく、クルマが高度な情報機器 (a smart device ) へと変わろうとしている時代に、自動車業界全体の経済的価値の大きな部分を押さえることが出来るか、と質すものでした。

その為には、自動車メーカーながら同業の自動車各社からではなく、携帯電話メーカー、ノキアの失敗に学ぶべきとアドバイスするのです。ノキアはかつて大成功を納めた企業。然し、同社の業績は2011年に急落、その後回復することはなかった。その最大の原因は機器の価値が「ハード中心からソフト中心へと転換していく動き」に迅速に対応することが出来なかった為とする、同社説明にたいして、それはそのとおりとしながらも、同社はもっと深い処で起きている変化を見落としていた為だったと指摘するのです。それは価値の大部分がハードからソフトにシフトしていくだけでなく、様々なソフトがその上で動くプラットフォームに価値が移っていくと言う点を、見過ごしていた事にあったと言うのです。

現時点ではクルマの価値の約90%はハードが占めているが、自動運転やいろいろのデジタルアプリがクルマの価値を高めていくようになるに従い、このハードとソフトの価値の比率は劇的に変わっていく筈と云うのです。因みに金融大手モルガン・スタンレーの予測ではautonomous vehicles(自動運転車)の場合、the value of an automobile(自動車価値)の40%がハード、40%がソフト、残りの20%が外から流れ込むコンテンツが占めることになる処、そのコンテンツとは、ソフトを通じて得られるゲームや広告、ニュース等だと指摘する処です。

そこでGMにとっての課題とは、この変革の時代に、自動車メーカーとして意味ある存在であり続けられるかと質すのです。つまり、クルマ関連のソフトやアプリで今最も進んだ技術を持つのはグーグルやアップルなどIT企業である事、実際、彼らは自動運転技術とその基盤となるプラットフォームの開発に巨額の資金を投じている処、当該分野は自動車メーカー各社が現在、開発を進めている領域でもあり、こうした情報を新たな商品やサービスを通じてクルマに提供できるようになれば、自動車メーカーは大きな対価を得るようになると指摘する処です。

更に、プラットフォームを持つ強みは、その企業がユーザーの30~40%を握って、ようやく発揮することが可能になる処、多くのソフト開発者は、そのくらいの規模のユーザーがいなければそのエコシステムを利用しようとはならない。従って、その規模のシェアーを確保する為には、世界の自動車各社は手を結ぶ必要があると云い、こうした共同開発は、国や業界をも超えて進めるのが理想だと云うのでした。
そこで 興味深かったのは、当該記事に対する挿絵でした。それは携帯スマホオをChassis(シャーシ)と見立てて、その上にBody(車体)が載る図でした。

加えて面白いのが、この記事を締める以下のphraseでした。
「・・・But such collaboration, which ideally should happen across geographies and even sectors, will not be made easier by the US president putting up trade barriers and looking to play the blame game.」 と。 つまり、貿易に様々な障壁を設け、自国の問題を他国の所為にしているような大統領がいる限り、そうした協力関係を進める事は難しいと、細やか乍らのトランプ批判を残すのです。

要は、自動車メーカーが産業の「主役」で居続ける時代はおわり、業種の垣根を超えた連携で付加価値を高めなければ生き残れない時代に移りつつあることへの警鐘を鳴らすものでした。尚、GMのメアリー・バーラCEOはリストラを進め、モビリテイーサービス会社への転換を目指すとしていますが、トランプ氏が足枷となっていると、伝えられる処です。

(2)日独、2大自動車メーカーの取り組み

① 「トヨタ」の場合

これまでトヨタはモノづくりの「技術」、トヨタ生産方式と徹底した合理化で競争優位を維持し続けてきています。然し、既に「はじめに」の項で記した通り、AIやIoT等、新たなテクノロジーの進化によって、クルマの概念やクルマを取り巻く社会構造が大きく変わろうとしている環境に照らし、もはやトヨタといえど過去の延長線上に未来を描くことが難しくなってきたと、自動車メーカー・トヨタはモビリテイ(移動)に関わるあらゆるサービスを提供する会社「モビリテイ・カンパニー」になると昨年1月の米モーターショウで宣言し、その具体化を推進中の事、周知の処です。

更に、今次の「CES」開催に合わせ7日、トヨタがラスベガスで開いた記者会見では、人工知能(AI)研究子会社、トヨタ・リサーチ・インステイチュート(TRI)のギル・プラットCEOが登壇「トヨタは自動運転で多くの命を救う義務がある」と語り、自社の車両に搭載予定だったガーデイアン[各種センサーなどドライバーの状況を観察し、危険な状況では運転を代わり、事故を防ぐ技術] を「自動車業界に提供する」旨を、明らかにする処です。(日経 1月9日)

確かに、トヨタのデジタル社会への対応は筆者の心をとらえる処でしたが、実はその2年前の2016年9月、ダイムラーのデイーター・ツエッチエCEOは、パリサロン(Mondial de L’Automobile:国際自動車展示会)で、デジタル革命を見据えたツエッチエ戦略(次項)を発表し、斯界の注目を引く処でした。そして今年、2月22日、ダイムラーは、2018年3月、独BWMとの統合で合意したモビリテイサービス事業の稼働開始を発表したのです。
そして、ツエッチエCEOは事業開始発表時の記者会見で「時代は変化している。新分野でも開拓者になる必要がある」(日経 2019/2/24)と発言していたのです。そこで、改めて、ダイムラーの選択をレビューする事としたいと思います。

②  ダイムラー、ツエッチエCEOの「CASE」戦略

さて、ツエッチエ氏は2006年、ダイムラーの取締役会会長に就任した仁です。就任当時の同社の営業利益は、28億ユーロに過ぎなかったそれを、2017年には163億ユーロにと大きく改善を喫し、営業利益ではトヨタに次いで自動車メーカー世界第2位となったのですが、唯一の問題は、株価の低迷が続いていることだったとされていたのです。それは、要は「伝統的自動車は破壊される」との評価が株式市場に定着していたためだとされていた由で、そこで、それから脱皮するためにはと、新しいクルマ社会、未来型モビリテイへの道筋を示すべきと、上記2016年9月のパリサロンでツエッチエ氏は新たな戦略を発表したという経緯があったのです。それは「CASE」戦略とするものです。
「CASE」とは、「C=Connected (コネクテッド)」「A=Autonomous(自動運転)」「S=Shared & Service (シェアリング&サービス)」「E=Electric (電動化)」の自動車産業の4つの重要なトレンドの頭文字を取った言葉ですが、これはダイムラーによる造語です。

・CASEの世界 (注)
クルマがネットワークに常時接続されたIoT端末となり、自動運転技術の普及でドライバーは運転タスクから解放され、一方、クルマの価値は所有者だけではなくなり、共有し利用する価値を生み出していく。そして全く新しいモビリテイ価値を支える原動力は、排ガスのないクリーンな電気が支えていく。これが「CASE」の世界だとするものです。元よりこれら4つのトレンドを個別に見据えることではなく、4つのトレンドが複合的に継ぎ目なくパッケージされたとき、クルマの価値に革命的な変化が起こるというのです。

こうした革命的変化を自動車メーカーのダイムラー自らが主導する、破壊者側に立つと云うメッセージだったと云え、同時に、ダイムラー自らの存在意義を見直し、破壊者としてその主導者の地位を確立したいとの決意表明だったと云うものです。電動化とデジタル化が誘導した世界は自動車メーカー、関連産業の在り方、価値、概念を根本から変えてしまうデジタル革命に繋がると云うものです。 (注:この項、中西孝樹「CASE 革命」に負う)

(3)クルマは社会のデバイス(情報機器)

かくして、クルマから得られる移動や渋滞の走行データはビッグデータとなり、分析・利用すれば様々なモビリテイ・サービスを生み出すことが可能となり、以って誰もが自由に移動できる都市や社会が再設計され、社会インフラとしてのクルマの価値や交通システムにも大きな変化が起き、最終的に、前掲Foroohar氏が指摘していたように、クルマは社会のデバイスになっていく事になると云うものです。そして、AIを基にした超スマートシテイが築かれ、社会課題の解決を可能とする処、これらの総ての基盤がコネクテッドにある点で、まさに新しいかたちの革命、デジタル革命を理解する処です。


第2章.深化するDigitalizationに係る課題

1.AI技術はdual use ― 今必要な安全保障再定義

AI技術はDual Useとの指摘のある処、ロボットと云えば日本では産業、生活分野ですが、米国では軍備装備の強化と言った防衛分野を連想する場合が多い処です。各時代で先端だった技術はマイクロソフトやグーグルを成長させ、産業の新陳代謝を促してきましたが、産業構造を変えかねない5G技術は国家をも巻き込み始める処です。

・華為技術(フアーウエイ)と、5G時代の地政学的リスク
5Gの通信基地局開発では中国の華為技術(フアーウエイ)と北欧のエリクソン、ノキア
が先行しているが、トランプ米政権は新たな社会インフラとも言える5Gを中国企業に押さえられることを強く警戒。フアーウエイ製品の締め出しや幹部(フアーウエイ孟副会長)のカナダでの逮捕の底流には「5G」があるとされている。その華為技術は1月24日,「5G」向けの半導体を開発したと発表。米企業に技術で先行しシェアー拡大を狙うものでしょうが、現下の米中対立が先鋭化する中、まさに「テクノ冷戦」(イアン・ブレマー氏)と云う、新たな地政学的リスクの高まる処です。改めて5G時代の安全保障の在り方、再定義が不可避となってきているのです。

(注) 日米の安保姿勢:
① ハーバード大ベルフアー科学・国際関係研究所報告書「人工知能と安全保障」2017年
      -将来(20~30年後の)戦闘イメージ:無人の物資搬送用の航空機のほか、AI戦闘服、無人
戦闘車両の活用を列挙。
Assessing and Strengthening the Manufacturing and Defense Industrial Base and Supply Chain
Resiliency of the United States ( トランプ タスクフォース Sept. 2018)
② 日本政府は2018年12月18日、防衛計画大綱にAI活用や無人機の導入、推進を明記。
   ―防衛力拡大は専守防衛の変容を映す処。

2.New Monopolyの出現と、競争政策

もう一つ、高度な情報化が進む事で懸念されているのが経済における競争政策の在り方で、とりわけ独占という問題です。情報システムと云うと、これまでは企業内システムの事を意味していましたが、今後は企業の垣根を超えて広がり、バリューチエン全体をカバーするようになっていく事が想定される処です。例えば、GAFAの一つ、アマゾンの情報システムは商品の買い手から、メーカーや物流業者、等々バリューチェーン上あらゆる人・企業が利用するシステムになっていくのでしょう。このように1つの情報システムがバリューチエーン全体をコントロールするようになるとと、次に大きく変わるのはバリューチエーンそのものとなるでしょうし、バリューチェーンの中で価値を出せなくなっていく機能はスクラップされ、逆に新たな価値を生む機能がビルトインされていく事になるのでしょう。そこから台頭してくるのが「プラットフォーマー」で、その周りに生まれた「大企業がタテに繋がる産業構造」から、「プラットフォーマーを中心としたエコシステム」ヘと、大きく経済基盤がシフトしていくことで、これが新たな独占、New Monopolyを呼ぶ処ですが、これが需要家(消費者)に便益を与えているだけに、従来型の独禁法では律し得ず、さて消費者の便益性を踏まえた、競争政策の在り方、独禁法改正の見直しが焦眉の急となる処です。

つまり、従来の独禁法の考え方では、供給者(企業)が市場を独占すると、市場が彼らの意向によって運営される結果、需要家(消費者)に不利に働くとして、独占行為を禁じてきています。
ですが、IT企業の場合、プラットフォーマーの彼らは、無料で(対価を支払うことなく)大量に集める(集まる)情報を、需要家(消費者)に無料で提供するという点で、その行為は需要家にとって便益の高いものとなる一方で、企業にとっては需要(市場)の囲い込みとなり、一種独占的行為と映るというものです。つまり、IT企業による情報独占は、消費者にとって高い便益となっている点で、歓迎される処ですが、では独占という経済行為をどう規定していくべきか、が問われ出していると云うものです。一見、伝統的monopoly(供給独占)に対する、monopsony(需要独占)の議論と映る処ですが、要は競争を活性化する環境の整備が喫緊の問題となっているというものです。

・Competition revolution
序でながら、今、米国ではIT産業だけではなく、多くの産業で寡占化が進み、結果、少数の企業に利益が集中し、投資や新規参入は勢いを失ってきているとされており、このままでは資本主義の健全な発展が脅かされることになりかねないと指摘ある処です。昨秋、The Economist誌(2018/11/17)はその巻頭言で、参入障壁の排除、独禁法を21世紀型に、等々、競争環境の整備の必要を強く叫んでいました。勿論、彼らが云う市場環境の整備ですべてが解決するわけではないでしょう。但し、市場を広く捉え、合理的な競争環境が生成されていくとすれば、それがマーケットのパワーに転じ、更なるグローバル化の可能性が期待でき、企業のみならず、消費者もより多くの選択肢を持つ処にと思料するのです。まさにcompetition revolution,競争革命こそが、資本主義に対する信頼を取り戻す上で大きく貢献する処と思料するのです。

いずれにせよ、人の命を預かる移動のプラットフォームがGAFAに占拠されるとは考えにくく、従って自動車市場について言えば、クルマメーカーが持つ製造・販売・メンテナンス
と言ったリアルなプラットフォームを構築する自動車メーカーとGAFAが協調する世界が現実的と思料する処です。今回、日産・ルノー連合が自動運転でグーグル陣営(自動運転開発会社ウエイモ)に参画を決めたのも、そうしたデジタル革命の文脈を成す処と云うものです。

・独 シーメンス , ジョー・ケーザーCEO
因みに独総合重電メーカー、シ-メンスのジョー・ケーザーCEOは日経紙とのインタービュー
で, 以下のようなコメントをしていたのです。
「GAFAが産業分野に事業領域を広げてきたが、彼らは戦い方を分っていないかもしれない。消費者から無料で収集するデータと、産業現場から集めるデータの性質は異なる。ここが(競争を左右する)重要な点だ」(日経2月20日)と。優れて示唆深い処です。


おわりに 平成という時代の終わりに

2019年4月30日を以って、平成の時代に幕が降り、5月からは新元号の下、日本は新たな歩みを始めることになります。戦後74年、時代は昭和から平成へと移る中、まず、昭和という時代は、「明日は今日より豊かになる」として成長一本で進んできた日本は、お陰で大国メンバーの一員となり日本型成長パターンを世界にアッピールするまでに発展しましたが、その結果は、バブル崩壊を以って終焉を見、平成はその修復の時代だった筈でした。が、結局は修復を果たすことなく次代に引き継ぐ事で、平成と云う時代は幕を下ろすことになったと、総括される処です。

・マインドのリセット
さて、新時代に向かう日本としては、こうした来し方の姿を見直しながらも、情報化が齎す進化とグローバル化を如何に融合させ、日本そして世界の発展につなげていくか、が課題となる処と思料するのです。同時に、自由主義、世界経済の価値観、多国主義に基づく国際秩序の枠組みを如何に守っていくか、その為にもマインドのリセットも必要となる処です。

処で、日本政府の成長戦略には公共サービスのスマート化が挙げられています。住民サービスや国・地方の業務の自動化推進や、人工知能の等を活用したインフラの整備なども挙げられています。また、スマートシテイやスーパーシテイと銘打ち、AIやビッグデータを活用して未来都市を作ろうと云う構想も浮上してきています。町の抱える課題を解決し、住民の暮らしを向上させるために、様々な施設やインフラのデータを連携させ、有効活用していこうとする試みは、既に世界の様々な都市で始まっています。ただし、日本でこうした構想が打ち出されるたびに懸念されるのは、新たな「箱モノ」整備に終わるのではという事です。
これまでもICT,情報通信技術の自治体への導入やICTによる地域活性化の事象実験が行われ、予算も付けられてきましたが、カネの切れ目が縁の切れ目と、継続されずに終わっている場合が多くある処です。そこでマインドのリセットです。AIやビッグデータと言ったテクノロジーはあくまで、そのプラットフォームでの合意形成によって生まれる具体的なプランやプロジェクトを支える存在だと云う事を再確認したうえで、それに続く、次の行動を期待する処です。

序でながら、1月22日に始まったダボス会議に5年振り、出席した安倍首相の演説は大きな注目を集めたとメデイアは伝えていました。そのポイントは、「成長のエンジンはもはやガソリンではなくデジタルデータで回っている」とし、信頼ある自由なデータ流通(Data, Free, Flow, with Trust)の頭文字を取り「DFFTの為の体制を作り上げる。6月大阪G20で‘大阪トラック’とでも名付けてWTOの屋根の下、始めたい」(日経1月24日)と呼びかけるものでした。これも同じことで、まずは合意作りを明確として、それに即した実行計画をtimelyに策定されん事、期待する処です。

・日本のカルチャー
さて、 高度情報通信技術の時代には、所有よりシェアー(共同利用)、競争よりケアー(いたわり)、売買よりもアクセス(接続)、固定よりモバイル(携帯)、機能分解よりワンセット(総合性)、分業よりセルフサービス(自前)といったコンセプトが重視されるとの指摘ある処です。日本のカルチャーは、実はそうしたコンセプトにマッチしており、その点で、どの先進国よりも早くポスト資本主義に移行する可能性を秘めている、と指摘される処です。であれば、その可能性に大いに期待する処です。
同時に、5Gの情報社会を背にしていくとき、その在り様は急速に変化することでしょうから、その変化に向き合っていけるよう、企業も個人も、勿論、政治も、常にその用意が求められていく処と思うのです。 以上

posted by 林川眞善 at 17:36| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2019年02月26日

2019年3月号  2019米大統領ー一般教書演説と混迷の米国、そして日本は - 林川眞善

-目 次― 
         
はじめに:「スローバル化」する世界     
・Slowbalization (スローバル化)
・スローバル化する世界のゆくへ
・本論考のシナリオ

第1章 2019年、米大統領一般教書演説、
 混迷のトランプ政治

1.米大統領、一般教書演説
・融和姿勢を演出したトランプ演説
・「非常事態」宣言―それは世界の民主主義全体にとっての危機
2. Americans’ new threat 
―米国を覆い出した?新たな脅威
・New Callsの内実

第2章 米中対立構造の行方、日本の使命

1.米中対立構造はハイテク覇権戦争
・An iron curtain in tech supply chains is a real risk
・中国企業「華為技術」の起訴    
・China will not overtake America any time soon
2.メルケル独首相訪日の意味、日本の使命
・日独関係強化 /・日本の使命

おわりに 極めて気がかりな安倍晋三氏の行動様式
・the uses of nostalgia

        ----------------------------------------------------------------        
はじめに 「スローバル化」する世界

2月5日付日経、第1面では製造業の国内回帰が進んでいる旨を報じる記事が走っていました。内容は、これまで日本の製造業が海外で販売するには現地に工場や販売網を築く必要があったが、ネット通販や越境ECの普及で、現地に資産を持たなくても販売できる環境整備が進んできたことがその背景にあると云うのです。これはあらゆるモノがネットに繋がる「IoT」など最先端の生産技術を導入し、生産性を高めれば国内賃金水準でも国際的な競争力を維持できるとの判断に負うものと指摘する処です。そして、近時のアジア、とりわけ中国からの訪日旅行者の帰国後も続く需要の拡大を見込んだ、日用品や食品メーカー、資生堂、ライオン、花王、日清食品、等々が国内での増産体制に入った、「日本製」のアジア輸出加速と書きたてるものでした。
これまで日本企業は人件費の安い新興国に生産を移してきたが、海外の人件費上昇や消費市場への転換を受け、国内工場に再投資を行い、輸出拠点とする動きが広がってきた結果とするのですが、新たな国際環境に照らした、日本企業の機敏な戦略対応と云う処でしょうか。

・Slowbalization(スローバル化)
しかし、The Economist, Jan. 26-Feb.1,2019の論調は聊か、こうした日本企業の行動とは似て非なるトレンドを浮き彫りにすると共に、それが故の問題に警鐘を鳴らすのです。それと云うのも、反グローバル主義が台頭し、経済が内向きになっていく流れが世界的に広がっている事への警鐘でした。

今日起きている貿易面での緊張、具体的には米国が中国を狙って起こしている関税の引き上げ問題であり、世界中で進捗する貿易ルールが書き換えられている事情ですが、それは2008-09の金融危機から続く変化を悪化させ、例えば、世界のGDPに対するcross-border investment, trade, bank loans and supply chains の比率は全て縮小しているか横ばいにあり、そこでグローバル化の時代は終わり、新たな停滞の時代が始まっていると指摘するのです。そしてこの状態を、オランダの評論家が作ったったと云う造語を借りて ‘slowbalization’(スローバル化)と呼ぶのです。

実際、モノの輸送コストはもはや下がらない、多国籍企業は、世界展開には無駄なコストがかかり、現地の競合企業にいいように利用されるだけの事と気が付いた事、また経済は国境を超えて売る事が難しい「サービス」に移行した事、中国の製造業は部品自給率を高めた事、等々を映し、この10年でグローバル化に急ブレーキがかかり、そのスピードは光の速度からカタツムリの歩みへと落ちたと云うのです。つまり、サービスの貿易には限界があり、海外投資や貿易の鈍る、この「スローバル化」の時代の世界は、今までと違った形で動くだろうとも云うのです。問題は、こうしたスローバル化が、これまでのグローバル化が齎してきた不都合な問題を残したまま進む状況にあるだけに、不満を拡大するだけと懸念される処ですが、まさにトランプ大統領が貿易戦争を仕掛けてる今日の現実は、こうした脆弱な環境だと改めて指摘する処です。

・スローバル化する世界のゆくへ
こうした流れにあって、エコノミスト誌は本当の問題は企業の長期投資計画にあるとするのです。それは地政学的リスクが高かったり、ルールが揺らいだりする国や産業への投資を控え始めた事が新たな事態を映す処とするのです。尤も、その兆候は既に現れており、中国の対欧・米への投資は18年には73%減少、一方多国籍企業による海外投資(全世界総額)は約20%縮小したとも指摘する処です。

では、スローバル化する世界はどう動いていくかですが、具体的には、地域的な経済圏内でのつながりを強めるであろうし、北米、欧州、アジアのサプライチェーンはそれぞれ、近場での資源調達を目指すことになると見る処、実際欧州とアジアでは既に域内貿易が殆どを占め、その比率は2011年以降上昇傾向にあり、世界的なルールが崩れてきた為、貿易についても投資についても、地域における取引と影響力が支配を強めつつあるとみる処です。

つまり、スローバル化の下では、貿易を通じて国を豊かにすると云った発想はなじまなくなり、貿易は地域間にシフトする一方で、国際金融システムは世界的に統一されたままにあるため、この間での緊張が生じることが十分に想定でき、とりわけ米国との通商関係が薄らいでも、金利はなお米金利の影響を受けるという事で、ここから金融面での混乱が生じることになるとも云うのです。
もう一つは、スローバル化では、グローバル化が残した問題の解決ができない事が問題と云うのです。欧米では自動化が進み、ブルーカラーの仕事が再び増えることはなく、そこで企業はそれぞれの地域内で、人件費の安い非熟練労働者を雇うこととするでしょうし、国際協調が失われる為、気候変動や移民、課税逃れの解決は一層難しくなるというものです。そして、スローバル化は中国の動きを押しとどめ、封じ込めるどころか、中国が地域的覇権を掌握するのを加速させることになるとも見る処です。

つまり、グローバル化は世界のほぼすべての地域で人々の暮らしを向上させてきたが、それが齎してきたマイナス要因への対応努力が欠いてきたことで、統合された世界が目を向けずにきた様々な問題が今、人々の目に大きく映り始めており、しかも世界秩序が齎す恩恵が忘れ去られるほどに拡大していると警鐘を鳴らすのです。そしてスローバル化はグローバル化にも劣る姿と糾弾する処です。もとより、その背景にあるのが、米国第一主義を掲げ、自国主義を進めるトランプ米大統領の存在だと云わんばかりです。

・本論考のシナリオ
そのトランプ氏は2月5日、就任2回目となる大統領一般教書演説を行っています。それは、米大統領は合衆国憲法に基づき、内政・外交の状況を分析して議会に報告すると共に、自身の政策を議会に提案し、必要な立法措置を講じるよう要請する義務を負うこととされているのです。当初1月29日の予定が、野党民主党との政策対立で、異例の1週間遅れの一般教書となるものでしたが、スローバル化トレンドの中、彼は何を考え、何をしようとしているのか、任期4年の半分を経た今、彼の発言に世界の関心の集まる処でした。

さて、その演説ではトランプ氏は与野党融和姿勢を強調するのでしたが、その後、メキシコ国境での壁建設に係る費用を連邦議会が要望通りに認めないことに立腹し、他の予算を流用する為にと、大統領権限を発動したのです。国家非常事態の宣言です。勿論、その行為は格段の問題を引き起こす処、そこで、第1章では、演説のフアクトと国家非常事態宣言を背にしたトランプ米国の行方を測ることとします。更に、3月1日を期限とする米中協議の如何は世界経済の生業を規定するものと見られる処、この際は、当該協議の行方を測ることとします。次に第2章では、偶々ドイツのメルケル首相が来日、日独首脳会談を通じて両国の関係強化が確認されましたが、このタイミングでの会談は、とりわけ日本にとり意義深いものと言え、この際は日本の国益確保のためにも、その使命として更なる国際間の連携拡大が求められる処です。併せてその行方につき考察することとしたいと思います。

  
第1章 2019年米大統領一般教書演説、混迷のトランプ政治

1. 米大統領、一般教書演説

・融和姿勢を演出したトランプ演説
2月5日、トランプ大統領が行った就任2回目となる‘一般教書’演説の内容は、これまでの彼の言動とは似ても似つかぬほどに意外なものと映るものでした。その内容は、まず、「今夜、提示するAgendaは共和党でも、民主党でもなく、米国民のAgendaだ」とした上で、これまでも約束してきたものだとして、以下5項目を掲げ、始まるものでした。

(1)To defend American jobs and demand fair trade for American workers (雇用と公正な貿易)
(2) To rebuild and revitalize our nation’s infrastructure (インフラ整備)
(3) To reduce the price of healthcare and prescription drugs (薬価、診療費改革)
(4) To create an immigration system that is safe, lawful, modern and secure, (移民制度)
(5) To pursue a foreign policy that puts America’s interests first (国益第一主義の外交)

Full textを読む限り、例えばtogether(皆と一緒に)の言葉が7回、unite(共に結束を) の言葉が3回と、一貫して結束をと、融和姿勢を以って終始し、何とも敵を作り、分断を煽って支持層を惹きつける日常の政治手法の対極とも思わせるものでした。中間選挙で下院の過半数を野党民主党に奪われ、メキシコ国境の壁建設に固執して、長期の政府機関の閉鎖を招き、支持率を下げてきた事情に照らす時、その真意はともかく、2020年での再選を狙うトランプ氏としては、やむなしの姿勢と云う処でしょうか。

従って、米経済と雇用の好調を全面出し、その成果をアピールするも、世界が知りたい米外交の行方については、残念ながら多くを語られることはなく、ただ2回目となる米朝首脳会談を2月27・28日ヴェトナムで開催を明らかにしたことだけでした。また結束と言う点では、超党派で協力できるインフラ投資の拡大や薬価引き下げの道筋でも具体的な姿を示せぬままに終わっています。上院・下院の「ねじれ議会」の状況で任期の後半に入ったトランプ氏の政策の展望は開けなくなっているという事でしょう。

そこで今後のトランプ政治の行方の如何となると、自らの求める方向に法律や予算を通していくとすれば、やはり民主党と折り合いをつけていく事しかないのでしょうが、その推移の如何は彼を勝利に導いた岩盤の支持層の離反を予想させる処です。もっとも内政の益々の苦境の打開にと、外交面で火を噴くことも想定される処です。因みに3月1日を期限とする米中協議の推移の如何は、世界貿易の在り様にも影響を与えることになるでしょうし、次に控える日米通商協議にももろに影響してくる処です。

・「非常事態」宣言 ―それは世界の民主主義全体にとっての危機
さて、5日の超党派協力を呼び掛けた一般教書演説から一転、「国境の壁」を巡り、再びトランプ節で民主党やメデイア攻撃を始めたのです。そして2月15日、彼は議会の承認を得ずに国境の壁建設のための予算を確保する為、国家「非常事態」を宣言したのです。

つまり、昨年12月に提出された予算案では彼の目指す壁建設のための費用が含まれてていないとしてこれを拒否。その結果今年1月まで35日間の政府関係機関の閉鎖を引き起こし、約80万人の政府職員が無給となるなど、行政に混乱を生じさせ、支持率も落ちてきたというものです。彼の最大の目標は次期大統領選です。そこでトランプ氏は再編成の予算案を承認し、閉鎖中の政府機関の再開を果たすのですが、新予算には壁の建設予算は14億ドルと彼が目指す57億ドルには程遠く、そこでトランプ氏は議会を通さず資金を確保する可能性を探ってきた結果、「国家非常事態法」に基づき非常事態を宣言し、使途の決まっていない米軍予算を振り向けられる法律等を持ち出し、壁の建設費の確保を狙う事としたと云うものです。要は、今回は批判の多い政府閉鎖を避けつつ、支持者に公約を守ったと(彼の公約40項目の筆頭にあるのが壁建設)主張できる、まさに「禁じ手」に傾いたという事です。

勿論、野党民主党は「今は非常事態ではない」として、あらゆる手段を擁し、非常事態宣言の無効を目指す処です。元より、与野党の対立は米連邦政府の債務問題にもつながる処です。つまり、債務の法定上限は3月1日に期限を迎えるのですが、与野党が新たな上限で合意できないとなると米財務省は米国債の新規発行が難しくなるわけで、やがて利払いの手当ても窮し、夏にも米国債の債務不履行(デフォルト)に陥る懸念が高まる処(注)、トランプ氏は事態を現実的に判断し、民主党との歩み寄りを目指すべきと云うものです。

   (注) 米国債の買い手(保有国)の中心は中国。これまで、防衛的理由で巨額の外貨準備を蓄えていたことに加え、輸出を大きく伸ばしいた中国は、投資に回すためドルを確保する必要があった。
それが、昨年5月から11月の間に中国の米国債保有量は減ってきている。米中の政治的関係はと
もかく、米国債保有額が減少している背景には経済的要因、つまり輸出が減速している事と、人口
動態に変化が起きていることが挙げられている。中国のみならず世界各国の外貨準備高は減少して
きており、そこで、海外の買いに頼るには限界があるとして、借り入れを減らし、国債発行を抑え
なければ、米国民自らが国債の買い手に回らざるを得ないし、その為のアイデイア、改革が必要と、
TBAC(米国債発行諮問委員会)のハマック委員長が1月29日付でムニューシン財務長官に送っ
た書簡が注目されている。2月5日の一般教書ではこの債務には言及することはなかったが、この
対応に失敗すれば、米国の金利は急騰し、債権価格が暴落する危険性が高くなると見る。
(Financial Times, 2019/2/8)

‘宣言’の妥当性は今後司法の場で争われることになるのでしょうが、どういった結論になるにせよ、米国の世論が更に分断され、2020年の次期大統領選に向けて米社会の混乱が深まるのは避けがたい処です。ひとたび国家元首の座に就けば何をしても構わない、と言った風潮がますます世界に拡散され、ポピュリズムを助長することも懸念される等で、そうした意味で、今回の非常事態宣言は、世界の民主主義全体にとっての危機と映る処です。

序でながら、日本にとっても他人ごとではなく、米国と同じような緊急事態制度の導入が検討課題になっている憲法改正の論議にも影響は必至と思料するのですが、要は使い手による乱用が起きないための歯止めもしっかり考えねばならない事、自覚させられる処です。

2. Americans’ new threat ― 米国を覆い出した?新たな脅威

処で今回の演説で筆者が最も印象付けられたphraseはトランプ氏が民主党左派のいわゆる
socialistを以って「Americans’ new threat」と断じた事でした。勿論、2020年を前提と
した例の政敵づくりとも云え、それに映るのがベネズエラの政治混乱です。.

つまり、かつて産油大国であったベネズエラですが、2014年以降、世界的原油価格の下落
でベネズエラは超インフレ経済となる中、大統領に就いた反米左派のMaduro(マドウーロ)大統領が独裁政治を強行、経済の立て直しがないままに、国民生活は窮乏化し、そこでJuan Guaido (グアイド)国会議長が、暫定大統領になると宣言。結果、国内は2分される一方、国際的にも、独裁を続けるマドウーロ現大統領を押すロシアや中国に対して、グアイド暫定大統領を支持する米欧、等との2極化の状況にあり、とりわけ米国は経済制裁を以って反政府支援を続ける状況にある処です。

そこで、左翼政治は国民を貧困に貶めていくという事で、2020年を視野に置くと、anti勢力として目下の民主党左派連中を社会主義者と断じることで優位に事を運ばんと、ベネズエラのマドウーロ大統領の社会主義政策は国を`into a state of abject poverty and despair ‘(絶望的な貧困におとしめる)と名指しで非難し、 米国は決して社会主義国になる事はないと、トランプ氏は次のように声高に云うのでした。
 
 `Here in the United States, we are alarmed by new calls to adopt socialism in our country.
  (Audience: Booo---) We are born free and we will stay free. Tonight, we renew our
resolve that America will never be a socialist country ‘

勿論、socialismの脅威は何も目新しい事ではありません。とは言え、2016年の「不法移入の労働者」をアッピールして当選した、そのレトリックを、次期大統領選で再び活用せんと
するものと思料する処ですが、問題は彼がここで云うnew callsの中身です。

・New Callsの内実
つまり、2020年の大統領選に向け、格差問題を重視する急進左派,の議員から富裕層税等,
富の再分配を促す政策を求める声が強まっていると云われています。つまり2018年は大幅
減税を含む税制改革が米経済を支え、3%前後の高い成長率になったものと見られていますが2019年に入ってその様相は異なってきています。つまり年後半には減税効果は薄まる一方、「財政の崖」が発生し、20年には成長率は1%台にまで減速すると見られており、これに米中貿易戦争が齎す不透明な事情が景気悪化への不安材料として、加わる処です。

こうした経済事情は格差を広げるものとして、民主党の大統領選出馬予定者からは富裕層への増税が叫ばれる処です。因みに民主党のエリザベス・ウオーレン上院議員は資産額5000万ドル以上の世帯の資産に毎年2~3%の税を課す法案を検討していると伝えられるほか、史上最年少の女性下院議員で急進派のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏も超富裕層に最大70%の所得税を科すことを提案。大統領選再出馬が噂されるバーニー・サンダース上院議員も相続税の大幅引き上げを提案中です。かくして富裕層税への支持が高まってきていると伝えられるなか、実は、トランプ支持者の間でも税制改革で恩恵を受けたのは大企業や富裕層、との意見が根強く、急進的な政策もトランプ支持基盤の労働者にも響く可能性があるとも観測される状況です。5日の一般教書演説で「国内で社会主義の採用を求める声に警戒している」と発言していたのもそうした事情を映すと言うものです。

周知の通りトランプ氏はウオール街等のエリート層を批判する大衆迎合政治で労働者層の支持を得て逆転勝利しましたが、今トランプ氏と同様、ソーシアルメデイアを駆使し幅広い層に呼びかけているオカシオコルテス氏などの新鋭が世論を変えるシナリオも排除できなくなってきたと云う事ですが、資本主義の信条の下で発展してきた米国だけに、こうした「反資本主義」とも映る極端な「大きな政府論」の台頭は今や、 ‘対トランプ政治’の次元を超えた、米国資本主義の構造変化を映すものと言え、これに如何に向き合うかが問われだしていると云えそうです。そして気がかりなのはリベラル層の一段の「左傾化」は民主党の分断も誘いかねないという事なのですが。


第2章  米中対立構図の行方、日本の使命

1.米中対立構図はハイテク覇権戦争

・An iron curtain in tech supply chains is a real risk
2月12日トランプ氏は、3月1日を期限として交渉中の米中貿易協議について「真の合意に近づけば、若干の延長の可能性はある」と発言していましが、さてそれが意味することは合意できる可能性を示唆したものか、譲歩を引き出すための演出なのか、色々憶測の呼ぶ処です。目下は米側からはUSTRのライトハイザー代表と中国の劉鶴副首相との間で協議が行われていますが、実は当該協議は米中の戦いの半分でしかないと認識されるようになっていると、Financial TimesのGillian Tett氏は2月1日付寄稿記事(An iron curtain in tech supply chains is a real risk)で、そう指摘するのでした。

つまり、トランプ政権は鉄鋼や大豆だけでなく、中国が政府主導で進めている産業振興策を進めていることが米製造業の雇用を不当に奪っていると主張し問題視しているが、トランプ氏の政策は経済競争を巡るものだけではなく、国家安全保障上の懸念に対応するものもあり、これが今後、supply chainに長期に影響を及ぼしていく事になると云うものです。
そして、目下の協議で当時者の二人、劉氏とライトハイザー氏が次に何をしようとも、安全保障の問題は、それで消えるものではないと指摘し、併せてその判断のベースとして挙げるのが、昨年9月ホワイトハウスが発表した報告書、「Assessing and Strengthening the Manufacturing and Defense Industrial Base and Supply Chain Resiliency of the United States」(米国の製造業及び防衛産業の基盤とサプライチェーンに対する評価と強化)でした。

同報告書(インターネットで入手可)は、米国の軍産複合体は 軍事物資から電子機器など幅広い分野で、調達先がたった一つの企業だけに依存している、あるいは、中国企業に依存しているケースが多数あり、危険なほど脆弱だと警告するものです。
ただ、この報告書については、トランプ政権内ではナバロ補佐官のような対中強硬派が纏めたものと反応する向きのある処、米産業の脆弱性に対する懸念は、いまやワシントンのエスタブリシュメントと呼ばれる連中の間では急速に広まってきていると伝えられています。この点で米政府は昨年、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)に制裁を科して経営危機に追い込んでいますし、現在では、中国の同業、華為技術(フアーウエイ)の製品や部品を使わないよう指示するまでになっている事(次項 ‘中国企業’)、周知の処です。

もはや貿易問題はIT,ハイテク覇権の争いと、構図は完全に転じてきているという事ですが、さてTett氏は、米IT企業が中国企業から部品を調達することも、中国に機器を輸出することもできなくなった世界となると、それはまさに新しい「鉄のカーテン」の他ならず、であれば世界経済の成長にどう影響することになるか、早急検討しかるべしと、警鐘を鳴らすのです。目下の米中協議が、いかなる結論となるか。貿易不均衡是正については合意の可能性が伝えられる処ですが、米国が最も関心を向ける上述、中国の成長モデルの根幹をなす補助金政策等については難航が伝えられており、まさに当該推移の如何が注目される処です。

・中国企業「華為技術」の起訴
1月28日、米司法省は制裁違反、企業秘密の窃盗、司法妨害を含む23件の容疑を以って華為技術(フアーウエイ)を起訴しています。また同社が現代社会を支える基盤である通信ネットワークを構築していることから、フアーウエイを国家安全保障に対する脅威と捉えていることを明らかにしたのです。そして、2月16日の独ミューヘン安全保障会議では、ペンス米副大統領が名指し、同社への警戒感を露わとしたことは周知の処です。

2月2日付The Economistは巻頭言‘How to handle Huawe’ (ファーウエイの扱い方)で、同社と取引することの安全性について、「中国で最も成功しているグローバル企業」ながら、「利益のためには法を犯すことをいとわないgrubby enterprise(卑劣な企業)という事」そして「最も憂慮すべき、しかしその真実を突き止め難い、中国政府の為にスパイ行動を働く機関であるという事」に照らし、その判断は極めてむずかしい事と指摘したうえで、同社に対する最終手段は同社製品の使用を禁じる事ではと云うのでした。

と同時に、何よりも大きな代償は世界貿易システムが分裂することだと、再度警鐘を鳴らすと共に、指導者は冷戦に向かうのではなく、不信感を最低限に抑え、貿易を支持する仕組みや、ルール作りを進めるべきで、とりわけ中国については、自らが信頼に足る存在であることを外国に対して本気で示す必要があると強調するのです。そしてフアーウエイの例は、習近平主席が独裁を強めことで海外における中国企業の利益が損なわれていることを語るものと締めるのでしたが、まさにThe Economist like の論評と理解する処です。

・China will not overtake America any time soon
序でながら、2月20日付Financial Timesで、ハーバード大のJoseph Nye氏は、トランプ氏が仕掛ける米中貿易戦争絡みで、今、ワシントンの共和、民主両党の間で広まっているとされている懸念、中国の台頭は米国の時代の終焉ではと恐れていることについて、最近の北京訪問で得た現地経済人との対話をリフアーし、次のように指摘する処です。

2030年から2040年には中国は米国越えが予想されているが、彼らによると、実際の経済成長指標はofficial figureの半分で、実際、公的指標はslowになってきている。勿論、経済だけが地政学的尺度ではなく、中国は軍事力、ソフトパワーいずれにおいても米国の後塵を拝していて、近時、中国も軍事力強化を進めてはいるものの米国をwestern Pacific から排除することはできないと云うのです。そして中国を含め世界における米国の位置を超す国は他にはないと繰り返し、アジアにおける経済成長が、アジアにおける中国の勢力は、日本、インド、オーストラリアとの関係で均衡を保ち、米国はその中にあって均衡のカギを握る存在であり続ける、その為にも、liberal とかAmericanとかでなく、`open international and rules-based international order’ を堅持すべきと主張するのです。米国の世界シェアーは中国、インド他の国々の成長で、相対的に減少することにはなろうが、それも今日の世界に在ってはnetworks, connectedness 次第ともする処です。問題は、トランプ氏が同盟関係を弱体化させている事とも指摘するのですが、要は、同盟関係の堅持が見えないことに尽きるように思える処です。

2. メルケル独首相の訪日の意味、日本の使命

・日独関係強化
2月4日、ドイツのメルケル首相が約3年ぶり5回目の来日、安倍首相との首脳会談を行っています。メルケル氏は2005年の首相就任以来、中国に11回訪れており、これまで中国を優先し、経済成長で、存在感を高める中国にアジア外交の軸を移してきたと映る処でした。然し、米国が保護主義に傾倒するなかで、自由貿易を守る連携先として日本に秋波を送る狙いがあったものとされる処です。

つまり、欧州にとって最重要のパートナーである米国はトランプ政権の発足後、中国だけでなくEUにも鉄鋼などの関税引き上げを突きつける等、すべてをdealの材料として、相対で譲歩を迫る手法は、欧州が重視するルールに基づいた秩序とは相いれない処です。
又、関係強化を目指してきた中国にあっては、同国に進出したドイツ企業などに技術移転を強要する状況だと云うのです。勿論、中国当局によるスパイ活動への警戒も強まり、不信感を深める状況と言われています。

世界経済をけん引してきたG7,然し、英国のメイ首相はBREXITを巡り国内政治は混乱、フランスはマクロン大統領の求心力が低下。トランプ政権と対等に意見交換できる首脳は限られている事情を踏まえるとき、2月1日付で批准なった日・EU経済連携協定(EPA)
を機会に、多国間主義、自由貿易と言った価値観を共有する日本との関係の強化を目指さんという事でしょうし、米中欧がみつどもえの構図になる中、ドイツは日本を米中の間にいる者同士として組安いと考え接近を目指す処と思料するのです。日本としても対トランプ政権へのバランサーと云うより、日独連携の強化を以って新たな日本を示していく好機でもあるのです。

更に次世代の競争力を確保する為にはインターネット等膨大なデータを如何に収集し、それを制度の高いAIの開発にどうつなげていくかがカギとなる処、日独はこの分野で米中に出遅れており、両国にとって、その巻き返しも連携の課題です。元よりこれが目的は米中を敵に廻す事でなく、彼らの注意を引き寄せる事にある事、云うまでもありません。

・日本の使命
序でながら,日本、中国、インド等16か国によるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉が正念場を迎えていると伝えられています。RCEPの実現は、参加国の経済を底上げし、ヒト・モノ・カネの磁力を高め、同時にトランプ政権が拡散する保護貿易の防波堤を固め、世界経済の安定を支える効果も期待できる処です。日本はTPP11, EUとのEPAを相次いで発効させた実績と,その経験も活かし、RCEPの妥結を主導していくべきと思料するのです。

おわりに 極めて気がかりな安倍晋三氏の行動様式

1月22日、5年振りに出席したダボス会議での安倍晋三首相の演説は、大きな注目を集めたとメデイアは伝えていました。そのポイントは「成長のエンジンはもはやガソリンではなくデジタルデータで回っている」とし、信頼ある自由なデータ流通(Data, Free, Flow, with Trust)の頭文字を取り「DFFTの為の体制を作り上げる。6月大阪G20で‘大阪トラック’とでも名付けてWTOの屋根の下、始めたい」(日経1月24日)と呼び掛けるものでした。

その彼が、1月28日に召集された通常国会で行った施政方針演説(全文日経1月29に掲載)は前述トランプのそれと同様、え?と疑念を呼ぶものでした。その内容は「1.はじめに、2.全世代型社会保障への転換、3.成長戦略、4.地方創生、5.戦後日本外交の総決算、6.おわりに」と成るものです。2,3,4,5はこれまでも国会議論で対象となっていたもので、とりたて云々すべき内容ではありませんが気になったのが「1.はじめに」で引用されていた短歌「しきしまの 大和心のををしさは ことある時ぞ あらはれにける」でした。調べてみると「日本人の大和魂の勇ましは、何が起った時こそ現れるものだと」いう意味だそうですが、日露戦争真っただ中の1904年に、明治天皇が国民を鼓舞激励する趣旨を以って詠まれたものの由です。どうして、北方領土問題が難航しているこのタイミングで‘対露戦争’に号令をかける意味の短歌を引用したのか、理解に苦しむ処ですが、この機に至って、何よりも明治の帝国主義日本を美化するような復古主義を打ち出す彼の政治感覚は余りにもお粗末、The Economist誌(2018/12/22~2019/01/04)巻頭言`The uses of nostalgia’ (懐古主義が台頭する意味)をまさに映す処と云うものです。

・ The uses of nostalgia
つまり、トランプ大統領が「米国を再び偉大に」と誓ったかと思えば、習近平主席は、100年に及ぶ屈辱を乗り越えて黄金時代へ回帰する「中国の夢」を口にする、更にはメキシコのロペスオブラドール新大統領がグローバルな資本主義と闘い、経済的主権を回復するのが使命だと叫んでいます。ポーランドでは最も影響力を誇る「法と正義」を率いるカチンスキ党首はソ連共産主義時代の最後の遺物を一掃し、それ以前のポーランド的価値を復活させようとしていると云い、先進国のノスタルジアは新興国のとは対照的に「あらゆる場所で意識させられる恐ろしい衰退の感覚」が背景にあると分析するのです。そして、こうした時代に人々は、安心と自尊心を再確認しようとノスタルジアに吸い寄せられる結果、懐古主義を映すポピュリズムが目立つと、警鐘を鳴らすのです。 
勿論、過去としっかりと向き合えば、偏見を克服し、新たな発想につながっていくはずです。歴史を的確に理解すれば、難しい選択に正面から取り組むことが進歩に繋がると理解でき、新たな着想を得ることもできると云うのですが、安倍晋三氏の昔を懐かしむ‘懐古’主義にはそうした確固たる信念があっての事か、聊かの疑念を禁じ得ないのです。

さて、上述施政方針演説に続く国会審議で見せつられた厚労省の統計不正問題、無教養を曝け出す安倍政権の閣僚のいい加減なやり取り、それをかばい続ける浅薄とも言える安倍氏の姿勢に、上述経済問題に対する熱意とリテラシーにおいて、あまりのギャップにあんぐり、人間、安倍晋三への不信感は深まるばかりです。加えて、彼は、上述ご乱行のトランプ氏をノーベル平和賞候補に推薦した由、報じられていますが(日経2月16日、夕刊)、一体どういう事?と、唖然とさせられるばかりです。以上  (2019/2/25 記)
posted by 林川眞善 at 11:07| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2019年01月26日

2019年2月号  2019年、世界の行方を測る’政治と産業’2元論 - 林川眞善

― 目  次 -

はじめに 今、世界が対峙する二つのテーマ
    
  ● テーマその1:世界の行方とトランプ政治
  ● テーマその2:新産業革命

第1章 トランプ政治の行方

1.米経済の現状とトランプリスク
  ・Trump vs Economy
2.次期大統領選、トランプ氏の可能性
  ・トランプ氏の行方

第2章 第4次産業革命始動
 
1.二つの進化が示唆する新産業革命
 (1)資本主義のコンセプトをも変えるAIの進化
  ・AIとAI技術
 (2)「5G元年」を告げる米CES(家電・技術国際見本市)
 
2.検証:変革への対応の現場
 (1)`Tech tinkers under the hood’ 
 ・自動車会社トヨタの場合
 (2)5Gと政治リスク

おわりに 平成という時代の終わりに思う

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はじめに 今、世界が対峙する2つのテーマ


● テーマ その1:世界の行方とトランプ政治

1989年11月9日、東西冷戦の象徴、ベルリンの壁が崩壊、翌12月のマルタ島での米ソ両首脳による冷戦終結宣言がなされ、爾来今日まで、世界は米国を要とし成長発展してきました。その冷戦終結から30年、くしくも平成の終わりを迎える今年、2019年は、「新冷戦」の足音の高まりを感じさせられながらの幕開けとなりました。新冷戦とは大方が見るように、二大経済大国米中の貿易戦争をトリガーに、ハイテク等に絡む覇権争いが齎す新たな地政学的変化を意味する処、以って世界経済や金融市場の大きな不安要因となってきたと云うものです。

では、今後の世界の政治経済の行方はどのような展開と見ていくべきか、そのカギは?ですが、何としても世界が関心を集めるのが就任2年を終えた米大統領トランプ氏が、2020年の次期大統領選を視野に入れていかなる行動にでるか、その一点にありと思料する処です。

周知のとおり、過去1年で世界の様相、秩序は、すっかり変貌してしまいました。その変化は云うまでもなく、「米国第一主義」と「偉大な米国の再生」を旗印とする彼の言動が齎した結果と云うものです。因みに先の1年間、G7では6対1の「1」に、更にG20でも19対1と自らを「1」に置き、更には米国の利害に絡め自由主義、国際協調を否定し、友好国とも対峙する姿勢を頑なにする処、目下の米中貿易戦争も、元を質せば、そうした文脈において、トランプ氏が中国に仕掛けた戦争です。

いまや世界を混迷に貶めてきたトランプ大統領、その彼と世界は、暫し何が起ころうと、向き合っていかねばなりませんし、少なくとも次期大統領選(2020年11月)を背にした彼がどのような行動に出るか、関心の高まる処です。つまり世界のトレンドを規定する、そのカギはトランプ政治と云うより、ずばり「トランプ」にある処です。もはや国際社会は米国の軌道修正を粘り強く説き続けていくほかない、そうした思いこそが問題と思う処です。

● テーマ その2:新産業革命

もう一つ、そうした不確実、後ろ向きと映る世界政治とは対照的に、世界の産業では、まさに現代産業革命すら感じさせる動きが、今、鮮明となってきています。因みに、年頭メデイアの一面に踊った言葉はAIであり、1月米国で開かれたCES見本市は5G元年を告げる処です。つまり、Digital 技術の急速な進化と、それが促すDigital transformationが進む事で産業の革新、産業構造の変革を実感させる処となってきた事ですが、その変化は、新たな産業革命の始動と映る処です。

そこで、今次論考では、この2つをテーマとして、第1章では「トランプ政治の行方」と題し、米経済の現状、そして次期を狙うトランプ氏の可能性について検証し、第2章では「第4次産業革命始動」と題し、高度情報社会に向かう産業の生業と、自動車産業の在り様について考察します。要は、negativeな政治、positiveな産業、を以ってする二元論です。

尚、自動車産業にfocusする個人的事由は、以下次第です。
まず一つは、2018年1月、 豊田トヨタ社長は米国で「トヨタは自動車メーカーからモビリテイ・カンパニーになる」と宣言し、同年5月のトヨタの決算発表時、「まさに‘未知の世界’での‘生死を掛けた闘い’が始まっている」ともコメントしていた事でした。過去最高の利益を更新する社長の言です。それは人工知能(AI)や全ゆるモノがネットに繋がるIoT等、新しいテクノロジーの進化によりクルマの概念やクルマを取り巻く社会構造が大きく変わろうとしている事への挑戦を示唆する処と、感じ入った事でした。

もう一つは11月19日の日産ゴーン元会長の逮捕で同社の先行き如何?と、その迷走の姿に危機感すら抱いていた折、偶々目にしたのが12月3日付Financial Times、に寄せたRana Foroohar記者の記事 ‘Tech tinkers under the hood’でした。周知の通り12月初め、GMはトランプ関税政策への対抗として、米国とカナダの5つの工場を閉鎖し、操業拠点を他に移す事を決定。これにトランプ氏も労組も、雇用の流失だと非難する中、同記事は、GMがいま直面している最大の課題は、労働コストやアウトソーシングや鉄鋼関税の問題ではない、真の問題はクルマが高度な情報機器へと変わろうとしている時代に、自動車業界全体の経済的価値の大きな部分を押さえることが出来るのかと、問うものでした。
更に12月、筆者が所属する研究会でのテーマが某大学教授によるAI、そして、この年頭のメデイアに踊った文字がAIだったと云う経緯もこれありと云う事情です。


・平成という時代の終わりに
2019年4月30日を以って平成と云う時代の幕が降り、5月からは新元号の下、日本は新たなスタートを切ります。これは、新たな局面に向けてマインドセットを転換させるにふさわしい機会と云え、そこで、昭和、平成と70余年の時代を顧みながらも、新時代への思いを所感として「おわりに」の項に記し、年初論考の締めとしたいと思います。



 第 1章 トランプ政治の行方
 

1.米経済の現状とトランプリスク

今月20日でトランプ大統領は就任2年を終え、任期4年の折返し点を迎えました。氏の大統領就任1年目では、大幅減税、規制緩和等、企業や株主に有利な政策を取り挙げて行った結果、岩盤と言われる支持層の支持を確かなものとすることが出来、各メデイアが指摘するように、以ってトランプ氏には相応のluckが続いたとされる処です。

しかし大型財政出動は財政の赤字拡大を結果し、政策の選択幅が狭ばまってきた事もこれありで、昨年2018年末にはその好調さに陰りが出てくるなか、11月、12月にそれが表面化する処となっています。
因みに、この年明け、株式市場の混乱がそれを語る処です。年初、1月2日、米アップルが昨年第4四半期の売上高が当初予想より5~10%低い840億ドル(約9兆円)にとどまる見込みと発表したことは市場に大きなインパクト与え、3日のNYダウ平均は急落、翌4日オーップンのTOK市場でも、一時700円を超える大幅安となり、日米共に先行き不安に煽られる新年の幕開けとなっています。そして注目されたことは、アップルのテイム・クックCEOが「予測を超える中華経済圏の経済減速」を理由に挙げていた事で、米中の緊張の高まりを販売不振の理由とした事でした。それは、米中貿易摩擦が目に見える形で企業収益の足を引っ張り始めた、その可能性を映す処ですが、より基本的には前述「はじめに」の項で触れたように、中国のリスクもさることながら、トランプ氏自身の政策、そしてそれを映す行動に負うものと言え、まさにトランプリスク満開とも映る処です。

因みに、8日、世界銀行が公表した2019年の世界経済見通し(成長率)は2.9%で、昨年6月時点から0.1ポイント下方修正していますが、元より米中貿易戦争などの影響で世界の輸出入の減速を映すもので、同時に減速への警鐘を鳴らす処です。(注)

    (注) 米中景気の現状:
①12月31中国政府の発表によると2018年12月のPMI(製造業者購買担当者景気指標)
は前月比0.6ポイント低い49.4だった。4か月連続の低下で、2年10か月振りの水準に沈み、
好不況の節目とされる50を割り込んだ。(日経、1月1日)
②一方、4日米労働省が発表した12月米雇用統計では市場の予想を大幅上回り、31万人の増加
で景気後退との予想は次期尚早との米国での見方を伝えている。(同1月5日)

そうした米経済の現状に照らし、昨年12月28日付英紙、Financial Timesはその社説で、また1月5日付英誌The Economistも巻頭言「The Trump Show, season two」で、いずれもトランプ米大統領が目指す次期大統領選の可能性については、以下、指摘する処です。
まず、残されたこの2年、volatile、つまり乱高下の激しい状況を余儀なくされる一方で、2018年11月の中間選挙で与党共和党が下院で敗北を喫した事で転換点を迎えたと指摘。今では2020年の敗北を恐れ、共和党内でもトランプ氏と一線を画す動きが出てきたとも云うのです。とりわけ先のシリアからの米軍撤退を一方的に決めた事への反発、加えてトランプ最大の公約、メキシコ国境での壁建設も、当該予算成立の見込みも立たず、一部政府機関の閉鎖が続く中、政府職員の給与支払いが滞る等、彼を巡る環境は日毎厳しさを増す処です。The Economist誌 は、近々出されるマーラ特別検察官のトランプ疑惑の調査報告(注)も加わりchaos危機的状況が続くとし、同盟国はplan Bを準備しておくべきとすら言うのです。

    (注)英Financial Times (Dec.28,2018)は、2019年の世界情勢について恒例の予想、20項目を
行っているがその5位で、米民主党によるトランプ氏の弾劾手続開始の可能性を指摘。尤も、
民主党が占める下院はともかく、上院で3分の2以上の議員が有罪と判定する必要がある処。

一方、米国論壇、Project Syndicateでも、日を同じくしてNYU Stern School of BusinessのNouriel Roubini教授が論考「Trump vs the Economy」を以ってトランプ経済政策の行方について、トランプ評を含め、極めて厳しい見方を展開しています。そこで、この際は同論考 をベースに、そこに展開されるトランプ批判を通じて、トランプ政策のリアルを浮き彫りし、併せて次期大統領への可能性を検証する事とします。

・Trump vs the Economy
まず、米経済の現状から、真っ先に挙げるのがstagflationへの懸念です。 つまり米経済にとって今必要なことは民間セクターでの生産性の向上と、指摘される処、そのためにも労働者の確保は不可欠です。その点で問題は移民の移入規制です。周知の通りこれまでの米経済の成長は、米国に移入する外国人労働者に負う処、大なのでした。が、移入規制の結果は労働力の不足を結果する一方、熟練工と高齢化のミスマッチで既に成長をチェックしだしていると云うものです。それも、ロボット工学やAI,人工知能(後述)の発展で、米国はじめ西欧諸国の生産性の伸びに再び火が付く可能性が云々されだしている中でのことと批判するのです。 つまり、トランプ政策の下では、成長が低下する一方で高いインフレが不可避となる、つまりはstagflationの懸念が高まるとするのです。加えてトランプ氏は外資の対米直接投資の制限をも検討中と伝えられていますが、これも成長の足を引っ張る要因と批判する処です。

もう一つは米連銀(FRB)の金融政策へのトランプ介入の問題です。先にFRBが予定していた金利引き上げについて、FRBの金利引き上げは不適切と発言していた件です。
Powell議長は1月4日の講演で、実施は見送り、2019年の金融政策の枠組み再検討する旨、発言していましたが、要は中銀たるもの政治的に独立したものであるべきと強く批判する処です。至極当然な話ですが、それを理解できないトランプの資質の問題を指摘する処です。

そして、近時、激しく動くホワイトハウス高官の異動は、政権運営の不安定さを際立たせると批判する処です。因みにトランプ政権発足2年の時点で高官離職率は65%、オバマ政権の24%、ブッシュ(子)政権の33%に比して突出しています。(日経12/22)
とりわけ国際協調、同盟を重視する最後の砦とも言われたマチス国防長官が去った後の政策がどうなるか、お構いないトランプ氏の様相に、市場をかき回すだけの無責任な行為と批判する処です。その結果、ホワイトハウスには、経済政策ではナショナリストが、また外交政策ではタカ派だけが残るだけと云い、要はトランプ好みのスタッフだけで政策運営を進めることの危険さを指摘するのですが、今やトランプ政権とはマフィアまがいの集団と映る処、Roubini氏は次のように締めるのです。面白いので紹介しておきましょう。

Trump is now the Dr. Strangelove of financial markets. Like the paranoid madman in Stanley Kubrick’s classic film, he is flirting with mutually assured economic destruction. Now that markets see the danger, the risk of a financial crisis and global recession has grown.

要は、トランプ氏はもはや金融マーケットのDr. Strangelove [映画`Dr. Strangelove ,1964’
に出てくる狂人の核戦戦争推論者]であり、更にStanley Kubrickの映画に出てくる偏執的気違い男のように、経済の破滅を共に楽しんでいるがごとくにあり、もはやマーケットは危険が一杯、金融危機リスク、そしてグローバルリセッション・リスクは進みだしていると、断じる処です。

2.次期大統領選、トランプ氏の可能性

かくも批判を受けるトランプ氏ですが、次期大統領選を狙う彼にとってまさに逆風と映る処、かと言って彼の可能性が即、失せたとは言えないのも現実です。

確かに次期大統領選挙への出馬を目指すトランプ氏にとって上述環境は逆風と映る処です。実際、トランプ政策の下では、格差は縮小することなく、むしろ拡大してきている処です。となれば格差拡大はエリート層への怒りを掻き立てる構図となる処、トランプ氏は、そうした人々の怒りを利用する点で天才と言われ、実際彼が2年前、大統領に推されたのもそれ故と、されるのです。先の中間選挙では与党共和党は下院で大敗、景気も陰りが出てきた、等で状況は彼にとって不利と映る処ですが、彼には痛くも痒くもない様相と映るのです。

実際、係る状況を齎したのはトランプ政策に反対する民主党の所為だと、民主党を敵に廻し、徹底した口撃作戦で打ち負かす戦法に出るものと見られているからです。政策論争はともかく、徹底したnegative campaignで生き延びてきた仁だけに、安心できないという事です。

加えて、現在の共和党にはトランプ氏以外には本命となる仁がいないと云う事情も彼を勇気づける処です。そして、これからの話ではあるのでしょうが、民主党でトランプ氏を脅かす候補が現時点では見当たらない、本命不在という事情も加わっての事と思料する処ですが、既に、トランプ氏は中間選挙で激戦州を行脚し、大量に資金を集めるなど再選に向けた布石を打っているとも報じられている処です。さて、こうした徹底的なnegative campaignerとしてある一方、建設的な政策を語る事もない仁を、有権者は本当に選択することになるのかと、聊かの疑問の残る処です。
尚、現在メキシコ国境での壁建設費の予算計上を巡り、連邦議会の審議はとん挫、その結果、予算の失効で、一部政府機関の閉鎖、政府職員の給与支払いが滞る等、市民生活にも影響が出始めています。このテーマは彼が大統領として公約40項目のうち、トップに掲げた
テーマという事もあり、彼は大統領権限の国家非常事態宣言の発動すら口にする処ですが、さて、終結の様相如何ではトランプ氏への影響(打撃)、甚大なる事、予想される処です。

・トランプ氏の行方
更に留意すべきは、上記でもreferした良識派最後の砦とされていたマチス国防長官が12月31日を以ってホワイトハウスを去った事です。彼は同盟関係とは米国にとって安全保障上の「保険」と認識し、「同盟に敬意」を払い、同盟関係を大切にしてきた仁です。然しトランプ氏の行動様式は、同盟国とは米国に利益をもたらす賭けの相手と見做す、つまり同盟の価値を損得で割り切る様にあり、2020年の大統領選が近づくにつれそうした行動が強まる事はあっても弱まる事はなさそうです。つまり、内政的にはpowerを失いつつある今、大統領にはほぼfree handの権限が与えられている外交面で点数を稼ぐべく、例えばNAFTA協定を新協定USMCAに強引に変更させ、その成果を国内岩盤支持層にアッピールしたように、America firstの強硬姿勢を以って外交を押し進めていくのではと思料されるからです。さて、「当たり前ではなくなった同盟」で、トランプべったりで日米関係を誇示してきた安倍首相も安心できない処、同盟国日本として米国にどのように向き合っていくか、その責任の重さは云うまでもない処です。
ともあれ、政治の方向性、経済の先行き、いずれをしても不透明化の増す処、トランプ氏にとり2019年はこれまでにない困難な年になること間違いなく、従って国際情勢の更なる混迷は、不可避と思料する処です。



第2章 第4次産業革命始動


1.二つの進化が示唆する新産業革命

現下で進むICT,高度情報通信テクノロジーの進化は、かつて英国で起きた産業革命すら想起させる処です。それは18世紀中頃から19世紀にかけて機械制工場と蒸気力の利用を中心とした技術革新が起こり、それに伴う社会の変化が起こった、この一連の変化を以って第1次そして第2次産業革命とされ、今、我々が対峙するその姿は、20世紀中頃からのコンピューター導入で人の限界を超えた演算が可能となり、最新の技術が数年で入れ替わる第3次革命とされる処、更に今、AIや高度な5Gの進化を受け動き出した産業等の変化は、まさに新たな革命、第4次産業革命すら思わせる処です。因みに、1月22日開催のダボス会議のテーマは「第4次産業革命時代におけるグローバル構造の形成」でした。

(1)資本主義のコンセプトをも変えるAIの進化

本稿冒頭で触れたように2019年元旦のメデイアを飾った言葉の一つが「AI」(Artificial Intelligence:人工知能)でした。 1960年代そして80年代と、2度のブームを経ていま、AIが開花していると云うものです。過去のブームでは、未来的な世界を実現だけの技術が手に入らず研究が萎んでしまったと、メデイアの伝える処ですが、今次の開花とは、インターネット上を大量のデータが行き交い、これを用いたデイープ・ラーニンブ、深層学習で、AIを磨けるようになったことに因るものとされています。これが意味することは、これまでマシン(機械)と云う筋力を使って人は可能性を切り開いてきましたが、今後は知力においてもマシンが伴奏者になることを意味する処です。そして、その革新とは、価値の創出に知恵を絞っていく、つまりこれからの資本主義は、脳が価値であり対価となる「頭脳資本主義」(日経2019/1/1)になるとされる処です。

元より、高度に開発されるAI技術が産業に応用され、またAIロボットとして導入されていく事で、当該産業の生産性の向上が促され、産業全体も構造的に変わっていく、つまりは、digital transformation(創造的破壊)が進み、その過程では新たな産業も現れてくる処です。云うまでもなく、AIロボットの導入は産業に留まることなく、医療、介護、教育等々、広く民生に及ぶ処、当該職場の効率化、生産性の向上等々、実践的に理解しやすい存在となる処です。尚1月15日、厚労省が公表した就業者の長期推計によると、AI等新技術の進展で2017~2040年の間に年率0.8%程度の生産性が見込めるとしています。

・AIとAI技術
尚、新聞等で見る記事にはAI(人工知能)とAI技術、つまりAI開発に向けた技術開発とごっちゃ混ぜにした議論が目につきます。この点、数学者で国立情報学研究所教授の新井紀子氏は同氏近刊「AI vs 教科書が読めない子どもたち」で、次元を異にする話と明快に指摘した上で、AI、人工知能とはそれ自体が独立した「AIロボット」と云う存在であること、AI技術とはAIを進化開発させていく上での技術であること、この違いを理解しておくことが今後へのカギだと指摘するのです。つまりAIはコンピューターであり、つまりコンピューターは計算機であり、計算しかできないし、ましてや人間の脳を超えるという、まさにAIが‘頭脳’になるという転換点を意味する「シンギユラリテイ」(注)に達することは起りえないと断じるのです。つまり「真の意味でのAI」が人間と同等の知能を得るには、我々が認識している事をすべて計算可能な数式に置き換えることが出来ることを意味することで、今の処、数学で数式に置き換えることが出来るのは、論理的に云える事、統計的に云えること、確率的に云えることの3つだけで、われわれの認識を、全て論理、統計、確率に還元することはできないからというのです。議論はまだまだ続く処でしょう。

(注)シンギュラリテイ(singularity:特異点):人間の知性をAI(人工知能)が超え、加速度的
に進化する転換点を意味する言葉。米国の未来学者、レイ・カーツワイル氏が、その時期の到来
を2045年と予想するもので、人間が担ってきた高度で複雑な知的作業の大半をAIが代替する
ようになり、経済や社会に多大なインパクトを齎すと考えられている転換点を指す。

(2)「5G元年」を告げる2019年米CES (家電・技術国際見本市)

今年1月8~11日、米ラスベガスで開かれた米CES(International Consumer Electronics Show)は「5G」、つまり高速通信システム時代の幕開けとされる処、何よりも注目を呼ぶのがプラットフォーマー主導の自動車産業の変容でした。つまり、現在の通信の100倍もの速度でデータをやり取り出来る高速通信規格「5G」は今年から実用化され、クルマへの活用などデータにまつわるビジネスに大きな商機を生み出すことが想定される一方、これがDigital Transformationを促進させ、産業構造をも大きく変える可能性を示唆する処です。

周知の通り、現行4Gの通信速度は携帯電話をスマホに進化させてきました。米アップルやグーグル等クラウド技術を活用したIT大手が急成長し、情報の価値が競争力を決める「データ経済」を拓いてきました。然し、5Gはこれを更に加速させると云うものです。5Gの時代は、様々な産業が「場所」という制約から解放される一方で、通信の遅延の少なさは、これまでITとは縁の薄かった産業の変革も促すことになっていく処です。その姿はまさにdisruptionと呼称される革命的な変容を齎すことになる処です。まさに「5G元年」(注)です。 

    (注) 通信システム技術の進化:GはGeneration の略
1 G:アナログ携帯電話(80~90年代)
2 G:デイジタル化とデータ通信(90年代)
    3 G:国際電気通信連合(国連ITU)が国際標準化を推進
4 G:モバイルネットワークの第4世代技術
5 G:「モバイルネットワークの第5世代技術」で、「第5世代移動通信システム」

先のトヨタ社長の発言ではありませんが、未知の世界への挑戦が可能となってきたと云う事といえるのですが、今次の米国際家電見本市CES(International Consumer Electronics Show) は、それをリアルに見せつける場となった事で、企業にとって2019年は、AI,人工知能時代に適応できる経営の具体化が問われる年になったというものです。

2.検証:変革への対応の現場

では現場の反応はどうか。その点では「はじめに」の項で触れたFinancial Times、Rana Foroohar氏の自動車産業に向けた鋭い記事 ‘Tech tinkers under the hood’(自動車大手の技術者は鋳掛屋?)は極めて示唆的と云え、そこで‘トヨタの動き’をも含め、同記事をレビューし、同時に当該進化が誘発する新たな地政学的リスクについて考察します。

(1)‘Tech tinkers under the hood’ 

当該記事は先に触れたように、GMがトランプ関税政策に対抗して、操業拠点を米国内から他国に移転させると決定した事について、これを批判するトランプ氏や労組とも併せ、両者、GMも労組も問題の視点がずれていると指摘するのです。つまり、GMがいま直面している最大の課題は、労働コストや鉄鋼関税の問題ではなく、クルマが高度な情報機器へと変わろうとしている時代に、自動車業界全体の経済的価値の大きな部分を押さえることが出来るか、と質すものでした。

その為には、自動車メーカーながら同業の自動車各社からではなく、携帯電話メーカー、ノキアの失敗に学ぶべきとアドバイスするのです。ノキアはかつて大成功を納めた企業。然し、同社の業績は2011年に急落、その後回復することはなかった。その最大の原因は機器の価値が「ハード中心からソフト中心へと転換していく動き」に迅速に対応することが出来なかった為と、同社説明だったが、それはそのとおりとしながらも、同社はもっと深い処で起きている変化を見落としていた為だったと指摘するのです。それは価値の大部分がハードからソフトにシフトしていくだけでなく、様々なソフトがその上で動くプラットフォームに価値が移っていくと言う点を、見過ごしていた事にあったと言うのです。

現時点ではクルマの価値の約90%はハードが占めているが、自動運転やいろいろのデジタルアプリがクルマの価値を高めていくようになるに従い、このハードとソフトの価値の比率は劇的に変わっていく筈と云うのです。因みに金融大手モルガン・スタンレーの予測ではautonomous vehicles(自動運転車)の場合、the value of an automobile(自動車価値)の40%がハード、40%がソフト、残りの20%が外から流れ込むコンテンツが占めることになる処、そのコンテンツとは、ソフトを通じて得られるゲームや広告、ニュース等だと云うのです。

そこでGMにとっての課題とは、この変革の時代に、自動車メーカーとして意味ある存在であり続けられるかと、質すのです。つまり、クルマ関連のソフトやアプリで今最も進んだ技術を持つのはグーグルやアップルなどIT企業である事、実際、彼らは自動運転技術とその基盤となるプラットフォームの開発に巨額の資金を投じている処、当該分野は自動車メーカー各社が現在、開発を進めている領域でもあり、こうした情報を新たな商品やサービスを通じてクルマに提供できるようになれば、自動車メーカーは大きな対価を得るようになると指摘する処です。

更に、プラットフォームを持つ強みは、その企業がユーザーの30~40%を握って、ようやく発揮することが可能になる処、多くのソフト開発者は、そのくらいの規模のユーザーがいなければそのエコシステムを利用しようとはならない。従って、その規模のシェアーを確保する為には、世界の自動車各社は手を結ぶ必要があると云い、こうした共同開発は、国や業界をも超えて進めるのが理想だと云うのですが、面白いのが、この記事の締めでした。
「・・・But such collaboration, which ideally should happen across geographies and even sectors, will not be made easier by the US president putting up trade barriers and looking to play the blame game.」 と。 つまり貿易に様々な障壁を設け、自国の問題を他国の所為にしているような大統領がいるのでは、そうした協力関係を進める事は容易ではないと、ささやかなトランプ批判を残すのです。

要は、自動車メーカーが産業の「主役」で居続ける時代はおわり、業種の垣根を超えた連携で付加価値を高めなければ生き残れない時代に移りつつあることへの警鐘なのです。
尚、GMのメアリー・バーラCEOはリストラを進め、モビリテイーサービス会社への転換を目指すとしていますが、トランプ氏が足枷となっていると、伝えられる処です。

・自動車会社トヨタの場合
これまでトヨタはモノづくりの「技術」、トヨタ生産方式と徹底した合理化で競争優位を維持し続けてきています。然し、先に触れた通り、AIやIoT等、新たなテクノロジーの進化によって、クルマの概念やクルマを取り巻く社会構造が大きく変わろうとしている環境に照らし、もはやトヨタといえど過去の延長線上に未来を描くことが難しくなってきたと、自動車メーカー・トヨタはモビリテイ(移動)に関わるあらゆるサービスを提供する会社「モビリテイ・カンパニー」になると宣言する処です。そして、かかる分脈において今次の「CES」開催に合わせ7日、トヨタがラスベガスで開いた記者会見では、人工知能(AI)研究子会社、トヨタ・リサーチ・インステイチュート(TRI)のギル・プラットCEOが登壇「トヨタは自動運転で多くの命を救う義務がある」と語り、自社の車両に搭載予定だったガーデイアン(注)を「自動車業界に提供する」旨を、明らかにする処です。(日経 1月9日)

     (注)ガーデイアン:各種センサーなどドライバーの状況を観察し、危険な状況では
      運転を代わり、事故を防ぐ技術。

(2)5Gと政治リスク

さて、各時代で先端だった技術はマイクロソフトやグーグルを成長させ、産業の新陳代謝を促してきました。が、産業構造を変えかねない5G技術は国家をも巻き込み始めています。5Gの通信基地局開発では中国の華為技術(フアーウエイ)と北欧のエリクソン、ノキアが先行していますが、トランプ米政権は新たな社会インフラとも言える5Gを中国企業に押さえられることを強く警戒してきており、フアーウエイ製品の締め出しや幹部のカナダでの逮捕の底流には「5G」があるとされる処です。
その華為技術は1月24日,「5G」向けの半導体を開発したと発表。米企業に技術で先行しシェアー拡大を狙うものでしょうが、現下の米中対立が先鋭化する中、まさに「テクノ冷戦」(イアン・ブレマー氏)と云う新たな地政学的リスクの高まりを痛感する処です。



おわりに 平成という時代の終わりに思う

2019年4月30日を以って、平成の時代に幕が降り、5月からは新元号の下、日本は新たな歩みを始めることになります。いま‘平成とはどんな時代だったのか’ 、各種メデイアは賑わいを呈する処です。

戦後74年、時代は昭和から平成へと移る中、まず、昭和という時代は、「明日は今日より豊かになる」として成長一本で進んできた日本は、お陰で大国メンバーの一員となり日本型成長パターンを世界にアッピールするまでに発展しましたが、その結果は、バブル崩壊を以って終焉を見、平成はその修復の時代だった筈でした。が、結局は修復を果たすことなく次代に引き継ぐ事で、平成と云う時代は幕を下ろすことになったと、総括される処です。

さて、新時代に向かう日本としては、こうした来し方の姿を見直しながらも、情報化が齎す進化とグローバル化を如何に融合させ、日本そして世界の発展につなげていくか、が課題となる処と思料するのです。同時に、自由主義、世界経済の価値観、多国主義に基づく国際秩序の枠組みを如何に守っていくか、その為にもマインドのリセットも必要となる処です。
TPP (Trans Pacific Partnership)協定が12月30日付でスタートしました。日本が米国に代わって主導してきたアジア11か国による多国間経済提携協定の実現です。まさに多国主義に基づく国際秩序作りへの一歩と云うべく、今後の発展に期待する処です。

処で、友人曰く。高度情報通信技術の時代には、所有よりシェアー(共同利用)、競争よりケアー(いたわり)、売買よりもアクセス(接続)、固定よりモバイル(携帯)、機能分解よりワンセット(総合性)、分業よりセルフサービス(自前)といったコンセプトが重視されると。そして日本のカルチャーは、実はそうしたコンセプトにマッチしており、その点で、どの先進国よりも早くポスト資本主義に移行する可能性を秘めていると。
GDPで経済発展を測る時代が終わるとされるいま、新たな視点を与えてくれる処です。

以上 (2019/1/26, 記)
posted by 林川眞善 at 17:23| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする