2019年10月26日

2019年11月号  いま、英米を覆う民主主義の危機 - 林川眞善

はじめに:On September 24th, in New York

9月24日、国連総会に出席のためにNYに居合わせた二人、英国首相 ジョンソン氏、と米大統領 トランプ氏の二人は同じタイミングで、それも、自国の法律に違う行為を行ったとの事由で問われる‘屈辱の瞬間’を共にしたのです。

まずジョンソン氏。この7月 、‘何が何でも10月末に英国はEUから離脱する’ を公約とし、メイ前首相の後継として英国首相に就任。爾来、公約達成のためと強攻的な議会運営を進める中、議会でのBREXIT議論の進捗に苛立った彼は、そこでエリザベス女王に助言をし、9月10日から10月13日まで「議会閉会」を決めたのです。BREXITに係る議論の棚上げを狙うものでしたが9月24日、これが「違法」と最高裁は裁定したのです。(注:本訴訟はEU残留派のスコットランドの議員や弁護士らが起こしたもの)

つまり、「下院は国民の代表として、この大きな変化について意見を云う権利がある。この国への民主主義への影響は甚大だ」(ヘイル裁判長)として議会の停止は違法で、無効とするものでした。違法性が確定したことで、ジョンソン氏の政治的立場が一段と厳しくなるのは必至の処、ジョンソン氏は裁判結果には強く失望したとコメントしたものの、英議会は最高裁判決を受け、25日には再開。今回の判決で司法までが強権的な政権運営に待ったをかけたわけで、まさに‘Britain’s constitutional guardians strike back ’(Nicholas Reed Langen ,Sept. 26)、最高裁は英国の民主主義を守ったとされる処です。

一方のトランプ氏。9月24日、ペロシ米下院議長が、トランプ大統領の弾劾に向けた調査を開始すると公表したのです。理由は、7月下旬にトランプ氏がウクライナのゼレンスキー大統領と電話協議し、米国の軍事支援の見返りに、ウクライナのガス会社で幹部を務めていたバイデン前副大統領の息子について調査するよう要請した事、そして、当該会話内容が安全保障に悪影響をもたらすと判断した情報当局者が監察官に内部告発した事で、疑惑が一気に浮上したと云うものですが、ペロシ氏が問題視したのは、国家情報長官代行が内部告発の内容について報告を拒否した点(日経9/25)とするものでした。更に、ペロシ氏は報告拒否を「法律違反」と断じると共に、「誰も法を超越できない」とする処です。

周知のとおりバイデン氏は2020年大統領選ではトランプ氏に対抗する民主党最有力候補と目される仁で、従ってライバルを陥れるために外交を政治利用した行為と非難する処です。

かくして大西洋を挟んだ、かつての大国?英米の為政者二人が、同じ場所で、しかも時を同じくして法違反と突き付けられる事態に、言い換えれば「法の支配」を何のそのと振る舞う姿に、これまで英米が矜持としてきた「民主主義」への不信を呼ぶ処、すわ~「アングロ・アメリカン・デモクラシイ」の危機と、世界の耳目を集める処です。米コロンビア大学教授のJeffrey Sachs 氏はかかる現状について,この夏 米論壇Project Syndicateで `The Crisis of Anglo-American Democracy ‘ (2019/7/25) と題し、危機を齎しているのが ジョンソン首相でありトランプ大統領と、激しく批判する一方、現実的問題として、彼らを国のトップに仕立てた選挙制度にあると警鐘を鳴らすのでした。
そこで本稿では、今英米で起きている二つのpolitical issues、英国のBREXIT問題とその行方について、フォーカスし、また米国でスタートしたトランプ氏に対する弾劾調査の現状、その問題提起の本質につて、次期大統領選とも絡め解析予定です。が、その前に、これら問題点を理解するためにもまず、サックス論考をレビューする事から始めたいと思います。


― 目 次 -

第1章 The Crisis of Anglo-American Democracy
― アングロ・アメリカン民主主義の危機

第2章 混迷の様相深める英米の政治

[2-1 英国 ]              
1.英国政治とBREXITの行方
(1)ジョンソン政権の対EU新提案
  ・新提案とEUの合意
  ・ボールは再び英国議会に
(2)英国政治の対欧政策総括

2. 今後の英国の可能性
(1)英米の「特別な関係」の行方
(注)Battle of Britain
  ・The post-BREXIT cost of special relation
(2)英・EU関係の課題           
  ・英・EU安全保障対応

[2-2 米国 ]
1. トランプ大統領の弾劾調査

2. ペロシ議長のアクションが意味すること
・「リベラル」が擁護する法の支配

おわりに ‘イングランド’物語、二題      
  ・英旅行会社「トーマス・クック」破綻
  ・「ラグビー W杯、2019」

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         第1章 The Crisis of Anglo-American Democracy

米コロンビア大学教授のJeffrey Sachs 氏は、世界で最も敬うべき、優位な民主主義が、米国ではドナルド・トランプ、英国ではボリス・ジョンソン(彼は英国のトランプと呼ぶのですが)という二人の政治家が、如何に機能不全に至らしめてきたかと、その危機感を露わとする処です。そしてトランプのような人物を大統領にしてしまった最大の要因は何か? 結局、現状からは選挙制度にあると断じるのです。それは「民主主義の死に方(How Democracies Die)」(ステイーブン・レビッキ/ダニエル・ジブラット著、2018)が示唆する現代の民主主義の崩壊は軍事的クーデターではなく、「選挙で選ばれた独裁者」により合理的に成し遂げられるとの主張と文脈を同じくする処、事のrealityを図るためにも、Sachs氏の論考「The Crisis of Anglo-American Democracy」を以下にレビューします。

・トランプ氏とジョンソン氏の行動様式
両者について、アイルランドの心理学者、Ian Hughesが言う`disordered minds’ (心的異常者)の持主とした上で、それぞれの政治行動の異常さを指摘するのです。

まずトランプについては、常習的な嘘つきである事、レイシズムの主導者たる事、大規模な税金のごまかし、例のマーラ特別検察官レポートへの司法の介入、更には20件に及ぶ女性スキャンダル、等々人格的欠陥を指摘したうえで、政治活動について以下指摘するのです。
つまり、彼の行動は、ますます政治パズルを展開するが如くで、彼の政策は一般大衆の声を映すことは珍しく、彼の政策上のレジェンドと云えば2017年の減税法ぐらいで、理解に苦しむ事と云えば、気候温暖化対応に係る彼の立ち位置、移民の受け入れ、メキシコ国境での壁建設、社会保障経費の削減、更にはイラン核合意からの離脱、等々、不人気なアジェンダについては、とにかく大統領令を発令し、その具体化を強行することだとするのです。

ジョンソンについても彼のpersonal behavior から、まさに自制のきかない、常習的な嘘つきとした上で、 彼が2016年のBREXIT問題では不誠実なキャンペーンを張っていたこと、当時、英国の外務大臣ながら、国家秘密情報、一つはフランスのリビヤに係る情報、もう一つはイランにつぃての英国の情報、を漏らすような人物と品定めしたうえで、更に彼の旗印のBREXITについて、EUとの離脱交渉時、2016年国民投票時の離脱キャンペーンの数々が虚言であったことが分かってきたことで、国民及び議会の大半も、反BREXITに転じてきており、合意なき離脱に強く反対しているが、ジョンソン氏は交渉に失敗した場合は、合意なき離脱となると云うだけだと、批判する処です。

要は貿易や技術の発展と共に他に追いやられてしまった、時代に取り残されたと思う高齢の保守層の存在がカギだと云う事ですが、これをトランプ氏の場合、公民権運動、女性人権問題等を貿易戦争や技術移転問題にすり替え、またジョンソン氏は高齢有権者にたいして非工業化を訴え、そして過去の英国の栄光を思い焦がれる人たちに訴えることで、彼らからの強い支持を得ているとするものです。言い換えると、権力者には二つの民主主義があって、従って不人気な政策でもやってしまえると云う事になると、するのです。

勿論、それですべてが説明されうるものではなく、この二人とは反対の立場にある米国の民主党、イギリスの労働党のいずれも、グローバル化で置き去りされたとする労働者に対して、次なる仕事に向けた誘導が必要な処、十分に説明できていない事が問題と指摘するのです。そして、トランプ、ジョンソン両氏が進めんとする政策 ― 米国では富裕層に向けた減税、英国では合意なしのBREXITの追求 ― は両氏の個人的な思い込みに沿った行動結果とは言え、両氏のような人物の台頭は構造的な政治の欠陥を映すものと、強調する処です。

・問題は選挙制度 (Winner-take-all-rules)
さて、こうした政治的混乱を齎している最大にして共通した要因は、今や、政治の場に代表者を送り出す制度、具体的には「first-past-the-post voting systems」(比較多数得票方式)(注)にあるとするのです。

   (注)比較多数得票主義:得票数が投票総数の過半数に満たない場合でも最も多くの票を得
   た候補者が当選するシステム。この下では、政党は当該候補者が最も多くの票を獲得しな
い限り議席を獲得できない。これにより小政党は選挙で勝つことが難しい。

米国の場合、いま共和党を支配しているのがトランプ氏だが、共和党員と自覚するアメリカ人は僅か29%、一方、民主党員の場合は27%、そして独立系とするものが38%。単独の党としては不安定だが、2016年の選挙ではトランプ氏はヒラリー・クリントン氏より得票数では劣後していたが、Electoral College (選挙人団)のおかげで勝利したと云うのです。

2016年の場合、Eligible Americans(有権者)が投票行動を起こしたのは僅かに56%、トランプ氏が有権者から得た支持は27%。つまりトランプ氏が支配する共和党への支持は有権者の3分の一にも満たず、従って政治の現場では、法令を以って政治が動かされている事になるが、これには危惧の念を禁じ得ないと、云うものです。 英ジョンソン氏の場合、およそ10万人の保守党員がジョンソンをリーダーに選び、それが首相に繋がる処、これが全体の承認率が31%にも拘わらずと,指摘する処です。

Political scientistは、二大政党制の下では投票者のmedian voter (中位数)が代弁する事になると云う。と云うのも各党は投票者の半数プラス1票の獲得を目指して行動を起こすからと云うのです。一方、英国の場合、BREXITに反対するmajor party(有力政党)は見当たらないがが、ただ制度として、一つの党派でも一つの政党(one faction one party)として、有権者の多くが反対する事案について、国のため継続的に政策選択することを可能としていますが、ここでも忌まわしいことは、大きな意見対立があってもWinner-take-all-rules(勝者総取り)の政治システムが故に、二人のような危険な性向を持った政治家に国家権力を与えてしまう事になっていると、云うのです。勿論、政治制度に完璧はなく、常に改善されていくべきだが、今日の環境にあって時代めいた勝者総取り制度のお陰で、世界で最古の最も素晴らしい二つの民主主義が上手く機能しなくなった現状に警鐘を鳴らすと云うものです。 

さて、サックス氏のこうした実践的な指摘に特段の異論はありません。が、結果のすべてを選挙制度のせいだと言うには依然無理のある処、基本的には有権者の合理的な投票行動に期待、となるのでしょうが、その基本は‘教育’に尽きる処ではと、痛く思うのです。

               
    第2章 混迷の様相深める英・米の政治

[ 2-1: 英国 ]

1. 英国政治 とBREXITの行方

(1) ジョンソン政権の対EU新提案   
前述の通り英最高裁は、9月24日、EU離脱を目前に控えたこの時期に議会を閉会するようジョンソン首相が女王に助言し、女王自身が違法な行為を働くよう仕向けられたとの判断を示し、「民主主義の根幹」(the fundamentals of democracy) に対する今回の侵害について政府は「適切な理由どころか、如何なる理由も提示しなかった」との判決を裁判官の全会一致で下した(The Economist `Sept.28 ‘The Reckoning’)ことで、ジョンソン氏の強硬策は封じられることになったと云うものです。Financial Times, Sept.25,2019 は「The prime minister’s unlawful conduct has been called to account」(首相は不法行為に対して申し開きを)と社説を以って糾弾する処です。

長期閉会の違法性が確定したことでジョンソン氏の政治的立場は一段と険しくなるのではと思料する処、ひるむことのないジョンソン氏は、先に予定されていた10月2日の党大会に登壇, 10月末の離脱に向けた公正で合理的な最終案をEUに提示した旨,発表したのです。

・新提案と、EUの合意
EU離脱協議で最大の焦点は北アイルランドの位置づけでした。つまり北アイルランドと地続きのEU加盟国アイルランドの国境をどう扱うか、具体的にはベルファスト合意(1998/4)のポイント[英領北アイルランドとアイルランド共和国間の国境往来は自由、国境は作らない] との整合性をいかに堅持するかにありました。 
これまでの協議では国境問題について、英・EUは過去の紛争(北アイルランド30年紛争)再発防止のため物理的な国境を設けない方針で一致していましたが、税関を設けず関税を徴取する方法が見つからず、そのため従来の協定案では具体策が見つかるまで英国がEUの関税同盟に事実上とどまる「バックストップ」(安全策)を盛り込んでいたのですが、これでは英国の自主性が保てないと英議会が反発、協定案は3度に亘り否決されてきたのです。

が、今次新提案ではその安全策を削除、これに代え「二つのborder(国境)を導入すること(the creation of two new borders: a customs frontier in Ireland and a new regulatory frontier between Northern Ireland and the rest of UK) 、そして、農産品や工業製品などの基準やルールに関しては、北アイルランドに限りEUルールを受け入れる方針を明示。但し、EUルールに従い続けるかどうかは、北アイルランド自身が4年ごとに判断することとする」と、貿易面では半ば外国扱いする案を打ち出し、EUと合意したのです。(注)

(注)ただアイルランド島の国境付近での税関業務を省略できるよう、北アイルランドに限
り関税手続きをEU基準に合わせる方向が出されている。尚、EUのバルニエ首席交渉官は
記者会見で、英国とEUが関税をゼロにするFTA協定を目指す考えを明らかにしている。
また物品検査の手続の諸略のため、北アイルランドに限って農産品、工業製品等でEU基
準を引き続き適用する事、北アイルランド議会には。4年ごとにEU基準の適用継続を判断
できる権限を付与する。(日経、2010/10/18)

ジョンソン首相としては、要はEUとの関税同盟を早期に抜け、通商政策の主導権を取り戻すのが最大の狙いとする処、果せるかな、英国とEUは10月17日、EU欧州委員会で、英国提案の離脱条件を定めた離脱協定と英EUの将来関係を盛り込んだ政治宣言の改定案とも併せ、合意をみたのです。

・ボールは再び英国議会に
EUが新たな離脱案を受け入れたことで、ボールは再び英議会に戻され、次なる焦点は、10月19日の英議会で、英政府がEUと纏めた新たな離脱案が承認されるかに移ったのですが、果せるかな、当日の議会では、EUとの離脱合意案の採決は、離脱合意案を英国内法に落とし込む法改正が未だ済んでいない事を理由にそれが済むまでは採決は保留となったのです。

政府は9月に成立された離脱延期法の下では、19日までに議会が承認しなければ、2020年1月末まで3か月延ばす申請を義務付けられており、従って19日深夜、ジョンソン首相はとりあえずEUに対して10月末からの離脱延期を申請しています。とは言え、依然、彼は10月末の離脱を目指すとしており、ジョンソン政権は22日には「議事進行動議」を出していましたがこれも却下。議会での与党は過半数割れの状況にあって、さてジョンソン氏に残された次の一手は解散総選挙? という次第で、離脱への道筋は今尚、見えない状況です
(注:10月24日、ジョンソン首相は12月12日総選挙を提案。28日に採決の見通し)

2016年6月23日、国民投票で僅差ながらEUからの離脱方針を決定してから3年半、円滑な離脱を実現するはずの処、時間は浪費され、「離脱」か「残留」かと、英国の分断を巡る議論は今も埋まらぬままにある処 これがジョンソン氏の行動が齎してきた結果でしょうが、その光景は「民主主義国家のモデル」とされた英国の凋落を見る思いです。

尚、英国の動向についてはBREXIT絡みで見極めていく事になる処、その為にもこの際は、その背景となる英国政治のトレンドを総括的にレビューすることとしたいと思います。

(2) 英国政治の対欧政策総括
まず、今日に至る英国の発展の生業に照らすとき、ジョンソン氏ら離脱派が「BREXITで世界に開かれた英国になる」というその弁は、とても理解し難く、仮に離脱ともなるとEU残留を目指すスコットランドが独立するなど、連合王国の一体性が揺らぎ、イングランドとウエールズだけになれば国際社会での存在感や重要性が各段に落ちること避け難く結果、英国という国の衰退さえ、覚えるほどに忌まわしさを禁じ得ないのです。

そもそも、EUとその巨大市場を狙う外資に依存する英国がEUを離脱し、外資に逃げられて、生きられることなどないはずです。また英国の対欧州政策も結果として失敗の繰り返しだったと斯界の多くは指摘する処です。そして、今日見る混迷する姿は、世界の政治の模範だったはずの英民主政治の堕落の結果と評される処です。では、何がそうさせたか?です。

周知の通り、EUに関する国民投票は今回(2016年)が2度目です。前回は1975年で英国がECと呼ばれた経済統合に加わった2年後でした。加盟を実現させたヒース保守党政権はグローバル化戦略を成長政策と位置付けていたものの、石油危機による景気悪化のあおりを受け、保守党は74年総選挙に敗北。政権に返り咲いた労働党ウイルソン首相が国民投票を仕掛け結果は残留が67.2%,離脱が32.8%と今回とは対照的。しかも、二大政党共に残留、離脱両派を抱えていたのです。残留派は「欧州の中の英国」、離脱派は「国民投票運動」と、二つの団体が党派を超えて争っていたのです。

つまり、戦後チャーチル首相は「欧州合衆国」構想を提案していましたが、英国は「中に入らず、共にある」と欧州大陸と一線を画していました。之には米英ソによるヤルタ体制の意識が抜けなかった為とされる処です。また冷戦終結後、79年から11年半首相の座にあったサッチャー氏も独仏主導のユーロ創設に反対、これが大欧州への潮流に乗り遅れたともされる処です。そうした文脈の中で、EU内での孤立化を防ごうとキャメロン首相が2016年、EU残留を国民投票に委ねたのも失敗だったとされる処です。

こうした英国政治の度重なる失敗は歴代首相たちの抜きがたい大国意識からきていると評される処、言い換えれば過去を追う意識から脱し、新たな世界観を枠組みとした国家運営を目指すべきと云う事でしょう。同時に英国として新たな国際関係を創造していくことのはずですし、その限りにおいて期待したいと思います。 ただ、前述の通りBREXITの顛末は現時点では読み切れませんが、「特別な関係」と云われてきた英米関係の変化、そして、勿論のこと、EUとの関係、日本との関係が気になる処です。

2. 今後の英国の可能性

(1) 英米の「特別な関係」の行方
かつてチャーチル英首相はアメリカとの関係を特別な関係と評し、英国は米国のパートナーたるを矜持とし世界に影響を与え、今日まで歩んできましたが、それは1940年の夏に起きたBattle of Britain(注)を契機に、時の米大統領ルーズベルトの対英支援に負うものでした。

(注)Battle of Britain:1940年7月、英国空軍とドイツ空軍は史上最大の航空戦(バト
ル・オブ・ブリテン)を展開、既に西欧諸国、北欧諸国のほとんどがドイツに占領され、英
国は破滅の一歩手前にあった。数において劣勢の英国は英連邦諸国から人的支援を受け、中
立国アメリカからは経済支援を受け戦ったが、米国の参戦だけが英国の唯一の希望だったと
云う状況。1940年11月米大統領選で3選を喫したルーズベルトは、その年の12月、ラジ
オ放送で「英国が敗れれば、全ヨーロッパ、全世界がドイツに征服される」と演説し、公然
とドイツを非難し、英国支持を主張。そして41年3月には、それまでのモンロー主義を放
棄し、武器貸与法を制定、チャーチルの英国に武器や兵器を戦後払いで提供。ドイツの英国
上陸を断念させた。この結果は第2次世界大戦の重大な転機となったとされるもの。更に英
米両首脳は1941年8月、国連憲章の原型となった「大西洋憲章」に署名。爾来,英国にとっ
て米国は「特別な関係」とされる所以がそこにある。

・英米の「特別な関係」の行方
さて、ジョンソン首相の自己中心の行動は、トランプ氏の特異な行動様式に共鳴し合う形で進む中、従来云う処の特別な関係は薄れる一方で、それでも一部ながら「特別な関係」と呼ばれるものが築き上げられつつあるとされてきています。冒頭のNYでの出会いでは、二人はこれまでの互いの政治成果を讃え合ったと報じられていましたが、この行動様式が離脱後の英米関係の筋書きともなるのでしょうか。

確かに、EU離脱後の孤立を避けたい英にとって米との関係強化は不可欠と云え、因みにジョンソン政権が目指す米英FTAは離脱後の経済政策の生命線ともなる処と思料するのです。
ただ、それも巷間、ひとたび英国がEUを離れるや、残るのは気まぐれな米大統領の善意くらいしかないからだと評される処です。因みに、英リーズ大教授のV.ハニマン氏は「EU離脱を控える英国は、米国から同調を迫られやすい」(日経8月20日)と分析する処、それは英国にとって大きな代償を払う事を意味しそうです。

・The post -BREXIT cost of a special relationship
因みに、Financial Times, Aug.16では「The post -BREXIT cost of a special relationship」と題して、ジョンソン氏は前任者のだれよりも米国との関係が齎す恩恵を必要とする立場にあり、そのコストは極めて高いものになると指摘する処です。そしてジョンソン首相が強行せんとする離脱は、英国の外交政策を支えてきた「欧州」という柱を打ち砕くであろうし、既にジョンソン首相は独・仏から嫌われているが、このまま10月31日に離脱を強行すれば、「米国」という柱は従来を上回る重さを支えねばならなくなる処、トランプ氏は、イラン核合意の維持を譲らないEUにいら立ち、英国に離脱を促し、EUの弱体化を目論んでいると指摘するのですが、まさにトランプの従僕たるを映す処です。
因みにトランプ政権はEUの航空機補助金がWTO違反だとし航空機やワイン、チーズなどに最大25%の報復関税を発動しているのです。

もとより英米それぞれ、違ったレンズを通して世界を見ている筈です。因みに英国の国益に必要なことは米政権が軽んじている多国間システムにあり、それがEUから離脱した英国が生き延びていく上での不可欠な国家戦略となる筈です。ただ、トランプ氏に「ノー」を云うのはジョンソン氏にとってなかなか難しいのではと思料するのです。米国との「特別な関係」に熱意を寄せていたマクミラン首相がEECに加盟申請したのも、英国が欧州としっかり結び付き、よりどころを確保する必要があると理解していたからで、そこで、ジョンソン氏もいずれ同じ教訓を学ぶだろうと締めるのです。ただ、EU嫌い、マクロン嫌いのトランプ氏とどこまで歩調を合わせていけるものか、別の懸念も沸く処です。

(2) 英・EU関係の課題
離脱し、EUの呪縛から解放され、独自路線で大英帝国の繁栄を今一度と、中国への接近を強め、又アジアへの機会を目指すなどポピュリスト、ジョンソン氏の面目躍如でしょうが、EU側からも前述のようにBREXITの際は、対英FTAの提案も英国側の自主路線に沿う処、国民生活の安定維持を軸に新たな対応を目指すべきでしょう。尤も、現実は厳しい道のりと思料する処ですが。勿論、グローバル主義をとる日本にとっては対英、そして対英関係を生かしたグローバル戦略の可能性を意識させられる処です。

・英・EU安全保障対応
さて、EUにとって英国が抜けても経済面で言えばEU内には競争力のある産業が残るため、米中など巨大市場を持つ国との交渉力は落ちることはないでしょう。ただ安全保障の面では、英国とEUの分離は地域の弱体化につながりかねず、経済関係の如何はともかく、軍事や秘密情報の分野では最重要国の一つである英国とは不可分にある処です。その点ではEUは安全保障面で英国との緊密な関係の維持が重要課題となるものと思料するのです。

[ 2-2 : 米国 ]

1. トランプ大統領の弾劾調査
          
一方米国では、冒頭指摘の通り9月24日、米野党・民主党のペロシ下院議長はトランプ大統領の弾劾(Impeachment)に関する調査を開始すると正式に表明しました。トランプ氏が、民主党のバイデン前副大統領に関連した調査を進めるようウクライナ政府に圧力を懸けた疑惑の真相を政権が隠蔽していると判断したためとされるものです。

トランプ氏がウクライナ政府にウクライナにおけるバイデン前副大統領を巡る周辺事情の調査要請を行ったことですが、これができたのは、大統領という肩書があってのことですが、米国では大統領は、政権と外国政府との日々のやり取りはチェックされず、重要事項は国家機密として開示されません。しかしCIA inspectorが傍受した当該会話の内容が米国の安全保障に係る重大事項だとして書面で、議会に告発した事で発覚したとされるものですが、national intelligence の局長代行が、この書面開示の要求を拒否したことで一挙に燃え上がったと云うものでした。

つまり、内部告発を受け、民主党はトランプ氏がこの議会の監視を受けにくい外交政策を悪用したと主張、言い換えれば、安全保障面で米国に依存するウクライナの軍事支援を停止することとした上で、政治的な支援を求めたのは大統領権限の乱用とし、弾劾に向けた調査に踏み切ったと云うものです

    (注)大統領罷免プロセス:民主党が調査結果トランプ氏の弾劾訴追が必要と判断し、司法委の
弾劾勧告を経て下院本会議で決議案を採択。過半数の賛成でトランプ氏は弾劾訴追される。下
院で訴追を受ければ、次に上院で弾劾裁判が開かれる。大統領の罷免には客観的な規定はなく、
裁判を通じて、上院の議員が夫々最終判断をする仕組み。裁判委出席した上院議員の3分の2
が賛成すればトランプ氏は罷免される。
尚、Past presidents in hot water (米政治史上、弾劾訴追の不名誉を受けた米大統領)、
    ・Andrew Jonson, 1868:acquitted and remained in office
・Richard Nixon, 1974:resigned before impeachment proceedings finalized    
    ・Bill Clinton, 1998:acquitted and remained in office (Financial Timed,Sept.26)

勿論ペロシ氏はトランプ氏の行為が現時点では弾劾相当と断じているわけではありませんし、調査がどのように展開していくものか、nobody knowsです。が、先のトランプ・ロシア疑惑の際には動かなかった民主党が、トランプ氏の弾劾訴追に向けて舵を切ったと云う事の意義は極めて大きいものと、思料する処です。

2.ペロシ議長の ‘アクション’ が意味すること

2016年大統領選でトランプ氏を有利にする介入が問われた「ロシア疑惑」では民主党ペロシ下院議長は弾劾には慎重だったとされていました。と云うのも与党の共和党が過半数を制する上院で3分の2の賛成を確保することは厳しく、また相手を利するとの判断があってのことと伝えられていました。しかし、今回は疑惑が公になって1週間もたたない9月24日に弾劾調査を始めると表明しています。要は大統領が選挙で外国勢の助けを借りるのは完全な禁じ手とされる処、違法行為は見逃せないと云う立場に転じたということですが、詰まる処、米政治における民主主義擁護に向けた行為と見られる処です。

・「リベラル」が擁護する法の支配
つまり、弾劾の損得勘定が変わったわけではなく、変わったのは民主党の姿勢だとFinancial Times のコメンテータ、Janan Ganesh氏はSept.26付同紙で「The Democrats have stopped overthinking impeachment」として、民主党の変化を指摘する処です。

どういう事か。前述、英国における最高裁判決とも併せ、当該アクションが示唆することは、英米ともにリベラル勢力が擁護しようとしているのは政策ではなく法の支配だという事です。政策を守ろうとすれば、法の支配が犠牲になる恐れがある処、ペロシ氏は法の支配を守るための代償を恐れない覚悟ができたとするのです。
重要なのは民主主義が権力の絶対的な監視機能を果たせないことで、とすれば法律や憲法のチェックは必要、不可避となる処、その点で、弾劾調査への着手はおそらくペロシ氏の政治家としての最後の功績となるものと、Ganesh氏は評するのです。

勿論、弾劾調査というパンドラの箱を開けたことで民主党のリスクは高いでしょうし、それこそリベラル勢力は原理原則に従って行動してきた結果、国民の支持を失う事をずっと恐れてきた次第で、今回の行動が有権者の良心を目覚めさせることになるか、はたまたトランプ再選のお膳立てをしてしまう事になるのか。 10月16日、秘密聴聞会のシフ委員長は下院議員たちに送った書簡の中で、これまで召喚した官僚たちとの質疑応答を公開すると明言した由、伝えられており、1973年のウオーターゲート聴聞会がいよいよ再現される雲行きになってきています。極めて緊張する時を迎えたと思料する処です。

直近の世論調査結果では、次期米大統領選の民主党候補の指名争いでは、左派のウオーレン上院議員が、有力視されてきたバイデン氏を抜いて初めて首位に立ったことが報じられています。(日経10月10日) 彼女が仮にトランプ氏と競う事にでもなれば、彼女の強い革新性が故に、再び国を分断しかねないのではとの懸念も云々される処、トランプ氏はいまや再選のためにと、狂ったような政治対応を図る処です。ただ巷間、これからの大統領選は政策だけでなく人格やスキャンダルへの対応も問われる事になると、伝える処です。


おわりに ‘イングランド’ 物語、二題

・英旅行会社「トーマス・クック」の破綻
この9月、在ロンドンの老舗旅行会社「トーマス・クック」の倒産を知りました。大量の人件費を抱え、一方でon-line onlyの低コスト小規模旅行代理店の台頭などの煽りを受け、競争力を失い経営は悪化、9月23日当局よりcompulsory liquidation、強制清算を余儀なくされたと云うものです。1841年preacher伝道師のThomas Cookが酒に代わる娯楽として旅行を提案したのが始まりで、爾来180年 近い歴史に幕を閉じたと云うものです。9月25日、再会された議会での最初の議題が、BREXITではなく、なんとトーマス・クックのツアー客をどう救済するかだったのです。国外旅行を庶民の娯楽として根付かせてきた同社の歩みは、英国近代史の浮き沈みを体現するものでしたが、その破綻はEUからの離脱で迷走し、かつての輝きを失った英国の姿とも重なる処です。英国駐在中、よく利用していただけに、世の中の変化に伍していけなかったその姿に「Thomasよ、お前もか」の思いです。

・「ラグビーW杯、2019」
処で、10月20日、「ラグビー・ワールド・カップ、2019」では 、日本は初のBest8として,過去2度の優勝を誇る強豪、南アと戦い、結果は3-26で残念ながらの敗退でした。が、巨漢相打つ、まさに肉弾戦。実に迫力あるプレーでしたが、戦い終ったあとは何か清々 しいものを覚えるのでした。翌日の各メデイアは判官ひいきならぬ日本チームへの賛辞で溢れていました。これまで関心の薄かった筆者でしたが、TVで中継されるラグビーを観戦するうち、日本のグローバル化は、産業界の外向きベクトルの広がりだけでなく、何か内なる動きと、その広がりを感じさせられたのです。

国別対抗としながらも「日本代表チーム」も他国チーム同様、日本選手と外国選手との混成。そして日本のために戦うと云い、日本国歌を歌うのですが、そこには異なる文化を受容し、言葉の障害を乗り越え、まさにone teamを体現するのです。試合が終わると「ノー・サイド」と称して全員が和気あいあいと。ラグビーは周知の通り、19世紀初頭、イングランドの有名なパブリック・スクール「ラグビー校」を発祥の地とし、爾来パブリック・スクール精神をバックボーンに頂き、世界に広がっていったとされるのです。

偶々、翌日の日経新聞社説では「多文化主義」という言葉を擁し、「多文化主義を養い、真のグローバル国家に」と、日本のグローバル化の行方を問うのでしたが、そのカギの一つが「異なる文化や言語を認め合い、異文化間のコミュニケーションを密にする事」とし、以って多文化主義を謳うのでした。その記事にはラグビーの「ラ」の字もなかったのですが、その指摘は前夜のラグビー観戦で得た思いに共鳴する処でした。 周知の通り、こうした多文化主義は、英国、カナダ等英連邦や北欧の一部の国に根付いている処、ラグビーもそうした多文化主義を体現する処と云うものでしょう。ただ近時、激増した難民の流入が自国民の寛容さを失わせる例が目立つようになったのには注意が必要である事いうまでもありませんし、英国のBREXIT問題もその流れに位置付けられる処です。

筆者は、急速に進む日本の人口減少は、国の衰退すら誘引しかねない致命的問題であり、その対抗として外国労働者の受け入れを戦略的に進める事が不可避とするものですが、この際は多文化主義のさまざまな面について海外の事例にも学びながら、具体的な取り組みについて考えていかねばと触発される次第です。 以上(2019/10/26 記)
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2019年09月27日

2019年10月号  世界はGlobal Supply Shocks、企業はNew Mantra - 林川眞善

はじめに Japanification

・日本型景気後退に向かう? グローバル経済
8月28日付け英紙 Financial Times は`Investors fear Japan’s stagflation malaise is spreading globally’ と題して、世界経済は今、日本が過去30年にわたり経験してきた今に及ぶ経済の停滞、異次元と云われた金融刺激策にもかかわらず、デフレと弱々しい経済成長を余儀なくされてきた日本型stagflationに向かい出したようだ、Japanification in action と、紙面一杯を飾る特集を組んでいました。それより先、8月17日付けThe Economist誌の巻頭論考では ‘Market in an Age of Anxiety’ と題し、債権市場の長・短逆転の動向に注目した投資家たちが、世界経済の行方、景気悪化に身構える様子を伝えていたのです。

つまり、米国債市場では10年物利回りの方が3か月物利回りよりも低い「逆イールド」が発生していることです。逆イールドは景気後退の前兆とされる特異な現象です。不安感が表面化しているのは国債市場だけではありません。為替市場では、資金の安全な逃避先とされる米ドルが多くの通貨に対して値上がりし、金地金も2013年4月以来、6年ぶりの高値をつけています。価格が逆方向に動くことが多いドルと金、これがいま同時に上がるのは異例のこととされる処、これが意味することは、ドル高を跳ね返すほど安全資産として金への投資需要が強いと云う事でしょうが、要は市場の不安心理の強さを裏付けると云うものです。加えて米国とイランの近時の対立は、国際情勢への大きな不安要因となってきています。つまり、景気はいつ悪化してもおかしくない様相です。金利がすでにかなり低いことから(注)、次の景気悪化に対抗する手段は限られている処、投資家たちの間では世界が「日本化」しているのではと、その恐怖感すら伝わる処です。

      (注) 米FRBは9月18日、7月に続き0.25%の利下げを決定、これを受け18~19日に追
随利下げを決定する中銀が相次いでいる。尚、日銀は19日、現状緩和の維持決定(後出)。

そうした環境下、米NY大学のRoubini 教授は、米論壇 Project Syndicateで、6月14日付論考 `The Growing Risk of a 2020 Recession and Crisis ‘で、そうした不況到来のリスクを指摘、更に8月22日付で ‘The Anatomy of the Coming Recession’と題し、当該不況が米中の貿易摩擦、技術を巡る覇権争いがコスト上昇を招き景気後退を引き起こす可能性をoil shock ならぬsupply shockとして解析する処です。そこで、この際は当該Anatomy of the Coming Recessionを, 第1章で取り上げ、その概要をレビューすることとします。

そうした環境の中8月19日、米主要企業の経営者団体、Business Roundtable(BRT) は、今後の企業経営は従来の「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重
した事業運営に取り組むと宣言したのです。筆者が手にする声明文(コピー) `Statement on the Purpose of a Corporation‘ は181名の経営トップが自筆署名で名を連ねたもので、それ自体興味を呼ぶ処、企業の行動指針ともいうべき言うなればNew Mantraです。

企業とは、イノベーションを起こし、新たな生活空間を創造していく責務があり、その際の原動力は、animal spiritsだとケンインズが繰り返すところでしたが、このマントラが如何に反映されていくものか、米経済の根幹をなす「資本主義のかたち」を大きく見直すことになるものだけに関心呼ぶ処です。勿論、これが大企業への批判をかわすためのジェスチャーではと、賛否のある処ですが、この際は、近時の日産のトップ人事も有之で、後学議論に備えるべく、その概要を第2章として取りあげ、レビューすることとします。

そして最後に一言。9月11日安倍首相は内閣改造を果たし、「安定と挑戦」を旗印に、トランプ米大統領と歩みを共にする様相です。実際、先のG7を機にフランスで行われた貿易交渉で見せた‘安倍氏のトランプ迎合’には聊かの安倍不信感を募らせる処、マクロン仏大統領の気遣いとも併せ、コメントしたいと思います。
                 
目 次
                 
第1章 迫りくるglobal recession, その構図

1.Anatomy of the Coming Recession

(1)景気後退を誘引する Supply Shocks
  ・deglobalization
(2)2008年の世界金融危機 vs 想定される現下の供給ショック

2.日本経済のリアルと政策の現場

(1) 日本経済のリアル
  ・生産活動 / ・設備投資
(2)政策の現場

第2章 「脱・株主第一主義」を宣言する米企業、
では日本企業は?

1.A new corporate purpose
(1)米Business Roundtable (BRT) の New Mantra
  ・今、米企業も業績試練に
(2)J. Stiglitz教授の疑問
・M. フリードマン vs J. ステイグリッツ
・企業の本当の責任
2.問われる日産の統治能力、再び
  ・社外取締役の使命

おわりに トランプ氏への二つの配慮
  ・マクロン仏大統領の配慮
  ・安倍首相の配慮


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           第1章 迫りくるGlobal Recession、その構図       

1.The Anatomy of the Coming Recession

米NYU’s Stern School of Business 教授のN. Roubini 氏は、前述したように8月22日付け論考 ‘ The Anatomy of the Coming Recession’ で、2020 年までに世界的な景気後退を引き起こす可能性のある「Negative supply shock :負の供給ショック」が3つあると指摘すると共にそのいずれもは、国際関係に影響する政治的要素を反映したもので、しかもこの3つの供給ショックが誘引する景気後退は、従来型の景気変動抑制的なマクロ経済政策ではどうにもならないものばかりだとするのです。

(1)景気後退を誘引するSupply Shocks 
まず考えられるショックとは、米中間の貿易・通貨戦争から生じるもので、その対立構造は8月初めの、トランプ米大統領が対中輸入品に新たな関税を課すと脅し、中国を公式に為替操作国と呼んだことで更に悪化の様相です。第2はテクノロジーを巡り、徐々に進行しつつある米中間の冷戦。そして3つ目のリスクは石油の供給に関わるものだとするのです。普通、貿易や通貨、テクノロジーを巡る戦争に因る景気後退により、エネルギーの需要と価格は低下するものだが、米国とイランの対立次第では、逆の現象が起きると見る処、現実原油価格は急騰を見せる処です。(注:9月14日、サウジの石油施設への無人機による攻撃を受け、生産の半減を公表。原油供給リスクが広がりだしている。)

これらリスク要因が、グローバルに広がり、複合的に絡み合っていく事で、輸入品や中間財、エネルギーの価格を引き上げ、経済活動のコスト上昇を招き、景気後退を引き起こすことになる、まさにオイル・ショック(1973年)ならぬサプライ・ショックに因る景気後退、stagflationの可能性を指摘する処です。

・Deglobalization
スタッグフレーションとは消費者向け輸入品の価格や中間財、ハイテク部品、エネルギーの価格が上昇する一方で、世界のサプライチェーンが混乱し、生産活動が落ち込む現象ですが、厄介なことは、そこに広い意味でのdeglobalization (脱グローバル化)に向けた動きが始まりだしているとも指摘するのです。つまり、米中対立によって世界の国々と企業は、これまでのように統合されたバリューチェーンの長期的な安定はもはや期待できないとして、脱グローバル化の動きが進む結果、それが貿易活動の分断を進め、世界の生産コストはあらゆる産業で上昇するとの見立です。しかもこの貿易戦争と通貨戦争そして、テクノロジー戦争は、影響し合うことで負の連鎖が起こりやすい構造となってきていると云うのです。

そこで問題となるのが対応政策です。70年代を襲った複数のショックがスタッグフレーションを起こした際は、インフレ抑制のため金融引き締め策がとられていました。たが、今日、米連銀(FRB)など主要中銀は、インフレとインフレ期待が共に低水準であるため既に緩和政策に走っている事、オイル・ショックからくるインフレ圧力についても、中銀はインフレを持続的上昇要因というより、単に価格上昇としか見做さないのではと、する処です。

時間の経過と共に負の供給ショックは、消費と設備投資を減少させ、経済成長とインフレの両方を鈍らせる一時的な負の「需要」ショックと化すかもしれず、実際、現在の条件のもとで米国および世界の企業の設備投資は大幅に押し下げられている処です。その理由は以上の3つのショックの可能性や事の重大性等、不確実であるためだとしながらも、こうした現象が世界的な不況となって広がっていないのには、ひとえに個人消費が強さを維持しているためで、仮に3つの負の供給ショックのいずれかが原因で輸入品の価格が更に上昇すれば、消費活動は打撃を受け、世界経済は後退局面に突入すると見るのです。

そうした負の総需要ショックが短期的に発生する可能性を考えると、中銀が政策金利を緩和することも、財政についても短期的対応策を取るのも、適切な対応としながらも、中期的には、負の供給ショックに対応するのではなく、追加の緩和をせずにショックに順応することが最善だとするのです。と云うのも貿易やテクノロジー戦争から生じるこうした供給ショックは、潜在的成長の鈍化と同様、永久に続くものだからと云うのです。

要はこうした中期的な潜在成長の低下につながるショックは、金融・財政政策で覆せるものではない、つまり短期的に何とかなっても、そのままの対策を続ければ、財政規律は乱れ、最終的には中銀の目標を遥かに上回るインフレとインフレ期待を招くことになると警鐘を鳴らすのです。

(2)2008年の世界金融危機 vs 今回想定される供給ショク
尚、ここで留意すべきは、2008年のglobal financial crisis と現在のglobal economyを襲うかもしれない負の供給ショックとの間には重要な違いがある事です。前者は、主に経済成長とインフレを抑圧した大規模な負の総「需要」ショックであったため、金融刺激策及び財政刺激策による適切な対応がとられたとするのですが、今回、世界が直面することになるのは長期間続く負の「供給」ショックであり、これに対しては全く別の政策をもって中期に亘る対策を講じる必要があると云うのです。つまり、受けた損害を取り戻そうとして金融・財政刺激策を長引かせるのは賢明な選択ではないと警鐘を鳴らす処です。

さて、冒頭Japanificationと称された当該日本経済を預かる責任者はその実態を何と認識しているものか。9月11日、内閣改造を果たした直後の記者会見で安倍首相が発した言葉は「安定」と「挑戦」でした。

2.日本経済のリアルと政策の現場

(1) 日本経済のリアル
米中貿易摩擦による世界経済の減速が国内製造業の重荷となってきたことを示唆する指標が続いていますがその姿はまさに上述ルービニ氏の指摘を検証する処です。

・生産活動
まず8月30日、経産省発表の7月の工業生産指数では、2か月振りに上向いていましたが、電子部品・デバイスなど輸出業種を中心に回復は鈍く在庫も高止まり、高水準で積みあがる局面が続く様相です。とりわけ世界経済の減速で各国の金融緩和の流れが強まれば、円高圧力が高まり輸出に逆風となる悪循環も懸念されるなか、堅調とされてきた雇用情勢も軟化の兆しがみられる処です。同日発表の厚労省有効求人倍率は1.59倍で前月比0.02ポイントの低下、リーマン・ショック後の09年以来の3か月連続の低下です。米中の貿易戦争の長期化となると外需の変調が内需の変調に及ぶリスクも高まろうかというものです。

・設備投資
更に注目されるのが、9月2日、財務省が発表した4~6月期の法人企業統計(設備投資)です。それによると全産業の設備投資は非製造業の設備投資(金額では全産業のうち7割を占める)の7.0%の増加があったことで前年同期比1.9 %増、10兆8687億円と、11四半期連続の増加となっています。が、製造業の設備投資は、前年同期比で6.9%減の3兆6156億円と、2017年4~6月期以来、2年ぶりに前年を下回わるもので、この2年ぶりのマイナスは米中貿易戦争の余波を受ける処、製造業の失速を鮮明とする処です。

設備投資を業種別にみると、情報通信機械が43%減と落ち込みが目立つ。世界的に巨額の投資と休止を繰り返す傾向のある半導体市場は、年初から調整局面に入っていたとの指摘の多い処です。更に上述、米トランプ政権が中国の通信機器大手、フアーウエイ製品の締め出しを強めており、両国の貿易戦争が長引くことで日本でもスマートフォーン向け部品の受注が減り、企業は新たな設備投資は慎重に見極めようとの構えにあるとされています。製造業の能力増強や生産性向上につながる省力化投資が滞れば、将来の成長力にも影響しかねずと、懸念される処です。従って、今後の焦点は製造業を中心とする設備投資の鈍化が一時的流れにとどまるかどうかですが、米中の対立が長期化し、企業マインドの悪化が雇用や消費に影を落とすようになると、非製造業にも余波が広がるおそれはあり、まさにルービニ氏が云う新たな政策対応が痛感される処です。

(2) 政策の現場
尚、日銀は9月19日の金融政策決定会合では、現行の金融緩和策の維持が決定されました。
米FRBをはじめ世界の中銀が金融緩和に向かう中、今後の円高リスクなどを踏まえ、言うなれば貴重な緩和カードを温存したと云うものでしょうか。 OECDが同19日発表した2019年の世界経済の成長率(実質)見通しでは2.9%で、前回5月より0.3ポイント下方修正でした。日銀が今回動かなかったのは、国内の景気や物価にまだ波及していないと判断したものと報じられていますが、超低金利が地方銀行などの収益圧迫や年金基金の運用難を招くと云った副作用も顕在化しつつあり、日銀としては可能なら緩和カードを温存しておきたいと云うのが本音(日経9/20)の由ですが、その推移極めて要注視です。


第2章 「脱・株主第一主義」を宣言する米企業、
では日本企業は?

1.Anew corporate purpose 

(1)米「Business Roundtable (BRT)」のNew Mantra
8月19日、米主要企業の経営者団体「Business Roundtable」は従来の「株主第一主義」を見直し、企業がより幅広いステークホルダーに配慮する事を旨とする5項目に係る声明(注)を出したのです。この声明には同団体の会長を務めるJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOの他、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEO、GMのメアリー・バーバラCEOなど180人の経営トップが直筆署名を以って名を連ねるものでした。そして、賛同企業は顧客、従業員、取引先、地域社会、株主と云ったすべての利害関係者の利益に配慮し、長期的な企業価値向上に取り組むというものです。

米BRTは1978年以降、定期的にコーポレートガバナンス原則を公表し、97年からは「企業は主に株主のために存在する」と明記してきましたが、今次の声明は、投資家の利益を優先してきた米国型の資本主義にとって大きな転換点となる処です。因みに、JPモルガンのダイモンCEOはpress releaseで「The American dream is alive, but fraying (アメリカンドリームは存在するが、揺らいでいる)」と指摘した上で、行動原則の見直しは従業員や地域社会への投資継続を約束するものとしており、言うなれば新しいマントラという処です。

(注)[Statement on the Purpose of a Corporation]
      ― While each of our individual companies serves its own corporate purpose ,
we share a fundamental commitment to all of our stakeholders. We commit to:
(1) Delivering value to our customers (顧客:顧客の期待に応えてきた伝統を前進させる)
(2) Investing in our employees (従業員:公正な報酬の支払い、福利厚生の提供)
(3) Dealing fairly and ethically with our suppliers(取引先:規模の大小問わずよきパートナ
ーとして扱う)
(4) Supporting the communities in which we work(地域社会:持続可能な事業運営で、環境を保護する)
(5) Generating long-term value for shareholders, who provide the capital that allows
companies to innovate, grow and innovate(株主:長期的な株主価値の創造に取り組む)

・今、米企業も業績試練に
では、今なぜという事ですが、米大企業は、上述三つの要因を背に、2四半期連続の減益を余儀なくされ、まさに企業は業績試練を迎えている(The Economist, `Corporate earnings reprieve ’, July 20,2019)とされる状況にある処ですが、加えて、所得格差の拡大で、大企業にも批判の矛先が向かってきており、行動原則の修正を迫られてきた、そう云った事情に応えんとの思惑あってのことではと思料する処です。

(2)J. Stiglitz教授の疑問
そんな中、ノーベル経済学賞の米コロンビア大教授、J. Stiglitz氏は、米論壇 Project Syndicateへの投稿論考 `Is Stakeholder Capitalism Really back? (Aug.27)’で、これまで主流をなしていた株主第一主義からの大転換に、本心からの行動かと、素早く反応するのです。

同氏は過去40年間、米企業にとって最大の使命は株主価値を最大化する事、つまり利益を拡大し、株価を押し上げる事で、それも労働者や顧客、サプライヤー、社会に及ぼす影響を顧みることなしに行われてきたが、それが、BRTが「利害関係者」の利益を尊重する資本主義の実現を目指す `--business is about more than the bottom line.(企業の使命は利益を上げるだけではない)‘と、企業の総意として宣言したことに、大きな方向転換としながらも、That is quite an about-face. Or is it? 本当にそうなのと、疑問視するのです。 その指摘はもちろん日本企業(後出の)にも及ぶ処、そこで多少長くなりますが、以下にその概要を紹介しておきたいと思います。

・M.フリードマン vs J.ステイグリッツ
まず、「株主第一主義の原則」を普及させるのに一役買った、同じノーベル経済学賞のミルトン・フリードマンの主張、「企業の果たすべき唯一無二の社会的責任は利益を増大すべく資源を使用し、事業活動に従事する事だ」に言及しながらも、70年代後半に展開してきた自説「株主第一を基本とする資本主義は社会の幸福や繁栄を最大化しない」ことの合理性を、例えば、気候変動などの重要な外部性が存在するときや、我々が吸う空気や飲む水を企業が汚染するときだと指摘し、更に、より一般的に云えることは、市場は企業を近視眼的にし、労働者や社会への投資を不足させる可能性があるとするのです。

このため経済が果たす機能について卓越した洞察力を持っているであろう企業のリーダー達がようやく光明を見出し、近代経済の実態に追いついたことに安堵すると云うのです。之が40年の歳月を要したとしてもだと云うのです。しかし、これらの企業リーダーたちは、株主第一主義を見直すと本心から言っているのか、それとも、これまでの数々の悪しき行いに対し人々が強い不満をあらわにしているのに直面して、改めるふりをしているに過ぎないのではとし、本心からの行動ではないと信じるに足る理由がいくつもあるとするのです。

・企業の本当の責任
企業がまず果たすべき第一の責任は税金を納めることだが、今次理念に署名した企業の中には、租税回避策を率先している企業が含まれている事。その一つが「アップル」であり、同社は、巷間英王室属領のジャージー島などの租税回避地を利用し続けていると指摘するのです。一方、トランプ大統領が2017年の減税法案、これは大企業や大金持ちの税金を引き下げるものだが、を提出した際は、これを支持した企業も多く含まれていると云うのです。そしてリーダー達は、減税は投資促進と賃金上昇につながるとの主張を支持しているが、労働者はほんのわずかなおこぼれしか与っていない。減税により浮いた資金のほとんどは自社株買いに向けられており、これが株主や株価に連動する報酬を受け取るCEOの懐を肥やすだけとなっていると、指摘するのです。

では巨大銀行はどうなのか。2008年のグローバル金融危機を引き起こした元凶にもかかわらず、銀行はドッド・フランク法(米金融規制改革法)が10年に成立するや、同法は、金融危機が再来する可能性を低めるべく規制を強化するものだが、主要条項を無効にする動きを始めた経緯があると云うのです。この様な動きを取った銀行の一つが米JPモルガン・チェースであり、そのCEOダイモン氏がBRTのトップにいると指摘するのです。つまり、
米国の最もパワフルなCEOらが新たな姿勢で社会的責任に取り組み始めているのは、喜ばしいことだが、だがそれがポーズに過ぎないのか、それとも言葉通りのことを意味しているのか、見守る必要がある、とするのです。

前出フリードマン氏の考えは、欲深いCEO達に対して、欲望のまま行動してよいとの口実を与え、更に、米国やその他多くの国の法体系に株主資本主義を組み込んだ企業統治法を齎したが、この状況を改める必要があると、ステイグリッツ氏は語気を強める処です。そして、自らが取った行動が他の利害関係者に及ぼす影響について、企業が配慮するのみならず、配慮することを義務にしなければならないと、主張するのです。

因みに、Financial Times (Aug.20) 社説は、この4月、JPMorgangが株主宛に出しているAnnual letterの中でダイモンCEOが教育、移民問題、税制改革、そしてJPMorganがこれら問題を更に次の次元に高めていく事を約束していたことにも照らし、この際はBusiness must act on a new corporate purposeと、行動を起こせと云うのですが。

2.問われる日産の統治能力、再び

9月16日付で日産自動車の社長兼CEOの西川氏が辞任しました。前会長のゴーン被告が解任されてからわずか10か月後の辞任劇、それも取締役会(9月9日開催)での辞任要請を西川社長が受け入れたとされているもので、実質社長解任です。その最大の理由は各メデイアが伝えるように一意義的には西川社長の‘報酬かさ上げ’ 問題です。株価連動型報酬で、本来より4700万円多く受け取っていたと云う事です。メデイアによると、6月に社外から指摘された段階では「疑惑」だった由でしたが、これが社内調査で事実関係が認定されたと云うものです。西川社長は自身の指示によるものでないとしていましたが、トップが千万円単位の不適切な報酬を得て、それが返納に至った事態は「ガバナンスに重大な問題がある」(木村康、取締役会議長)とした事実上の解任です。

・社外取締役の使命
ここで注目すべきは、今回の人事を主導したのが、社外取締役が多数を占める同社の取締役会だった事でした。日産はゴーン被告らの一連の不正を受け、西川社長は指名委員会等設置会社への移行など、企業統治改革の歯車は進めていました。が、一部の人間だけで決める体質は変え切れず、社長の独善的指揮が今次の不正をもたらしたと、評される処です。言うまでもなく、社外取締役の最大の仕事は、「ダメな経営者の首に鈴をつける事」と云われていますが、日本では社外取締役がトップの交代に深く関与した例は少なく、その点では、日産のケースは日本の企業統治を考える上で、一つのモデルになるのではと思料する処です。 ただ、日産の社外取締役にはもう一つ重要な仕事が残されています。西川氏の後継者選びです。同社指名委員会の委員長である豊田正和社外取締役は「世界の自動車産業に精通し、アライアンスやルノー、三菱自動車への深い理解と大きな関心がある事」(日経、9月10日)を後任者の条件、としています。もとより企業の未来は経営者が決めるわけで、この条件はどの企業にも通じる処、言うまでもないことと思料するのですが。

かくして日産については、企業統治の不全ばかりに注目が集まり「日産統治不備再び」とされる処ですが、実は日産の業績は悪化の一途にあり、「収益力の低下」というより寝深い問題を抱える処です。因みに7月に発表された19 年4~6月の連結営業利益は前年同期比99%減で、同日、日産は23年3月末までに生産14拠点でライン停止や縮小、更にグループ従業員の1割に当たる従業員1万2500人の削減に着手する旨を発表しています。

一方、現在、生産体制の見直し、新型車投入を新たな再建の柱としていますが、新車開発には自動運転等、先端技術が求められると同時に新車開発資金もかさむ処、さて、この先、顧客に支持され、従業員が前を向いて動き、株式市場で評価される会社となれるのか、まさに前述、BRTのMantraが語る、顧客・従業員・取引先・地域社会、そして株主、のステークホルダーとの好関係の確立に、応えていく事でしょうが、その限りにおいて、次のトップの歩む道のりは極めて険しいものと云え、その推移に更なる関心の高まる処です。


          おわりに トランプ氏を巡る二つの配慮

・マクロン仏大統領の配慮
フランス・ビアリッツで開かれたG7サミット(8月25~26日)は結局、世界が抱える問題を十分討議すこともなく、ただ5つの課題項目を列記する1枚の紙きれを以って幕を閉じたのですが、それもトランプ米大統領への気遣いあっての事で、因みに閉会後の記者会見は通常議長国の、今回でいえばフランス、マクロン大統領が対応する処、今回はトランプ米大統領に同席をと,マクロン氏が慫慂したことで、異例の二人会見となっていました。配慮の効果?とでもいう処でしょうか。

そもそも国際協調、自由貿易をベースに世界経済の発展を目指し、スタートしたG7サミットでしたがトランプ氏のような米国第一主義、自国主義者が入ってきたことで意見の一致が見にくくなってきた事で、もはやG7は機能を失い、形骸化した存在たるを認識させられたというもので、予想されていたこととは云え、今次サミットも同様な様相です。
昨年カナダで行われたサミットでは、米国対他メンバー国、つまり1:6という、分裂状態を見せつけられ、これがトランプ米国の孤立する姿と映るばかりだったのです。

序で乍ら、トランプ氏は孤立したかというと、そうではなさそうです。まず、以下列挙の仁を見ていただきたいのです。 オーストラリアの「モリソン首相」、インド「モデイ首相」、ブラジルの「ボルソナロ大統領」、イタリア与党の極右「同盟」の党首の「サルビーニ前副首相」、アルゼンチン「マクリ大統領」、英国の「ジョンソン首相」、トルコの「エルドアン大統領」、サウジの「ムハンマド皇太子」等々。

彼らは風聞、トランプ氏を好むとされる首脳たちですがが、彼らがトランプ氏に感じている魅力とは、「民主主義国家の首脳にとっては、トランプ氏のポピュリズムであり、ずっと疎外感を抱いてきた有権者層の心をつかむ能力、独裁主義者にとっては、トランプ氏のdeal重視の考え方であり、人権侵害などの問題を見過ごすことも辞さない姿勢」にあると、米国際政治評論家、イアン・ブレーマー氏の評する処です。(日経8/15)

つまり、トランプ大統領の「米国第一主義」の外交政策はdealを重視し、歴史をないがしろにし、米国はかつてないほどに孤立し、カナダや、ドイツ、フランスなどの友好国との関係を損なってきています。だが、米国は今までと違うタイプの国を味方につけてきたというものです。米国第一主義は米国を孤立させはしなかったが、外交関係の質を変えるようになってきたこと、或いは、世界がトランプ氏に象徴される政治スタイルに向かっている可能性を窺わせる処、危うい異端の連鎖が続く様相と映るのです。その中で、米国は新たな友好国と敵対国に向き合う事になるのでしょうし、日本は、その文脈において安保戦略の再考が迫られる処、まさに外交戦略の立て直しが喫緊の課題となってきたというものです。

・安倍首相の配慮
さて、前述ビアリッツ・サミットに合わせ、25日、現地で日米両首脳間での通商交渉が行われ、当該基本合意が成立、9月下旬に協定案に署名の方針が確認されたのです。当該交渉は昨年の9月の首脳会談に始まったものですが。わずか1年程度と、異例のスピードで決着を見ることになったのですが、それには早期に範囲を絞って妥結し、過度な要求を避けたい日本政府と、来年の大統領選を控え成果を急ぐ米政府の思惑が一致したためとメデイア(日経8/26)は伝える処ですが、驚かされたのは、その報道からは、安倍首相の、トランプ氏に対する迎合ぶりでした。

同報道によれば、トランプ氏が基本合意成立で、急遽公式発表の場を設けるよう安倍首相に求めて、対日協定の大枠合意を確認するだけでなく、安倍首相に「トウモロコシの輸入拡大を決めたことを話したらどうか」と促し、首相は日本が緊急措置として米国産トウモロコシの購入を前倒しすることを表明したことでした。トランプ氏は嬉嬉としてその成果を強調する処、中国ではうまくいかなかったものをあっさりと安倍首相が認めてくれたと評価するものでした。つまり大統領は来年の再選に不可欠なトウモロコシ生産州(アイオワ、ウスコンシンなど)の票を稼げるという事で、これが安倍首相のトランプ迎合というものです。

尤も今回の交渉では日本側が主眼としていたのは自動車の追加関税の回避でしたが、交渉の最終場面で、その流れを後押したのがトウモロコシの緊急輸入だったと云うことで、まさにトウモロコシで車を守った、っていうところです。勿論、国内生産者からのブーイングは言うまでもありません。なにせ、その輸入量は約270万トン、日本の年間輸入量の4分の一相当、これだけの量のトウモロコシを買ってどうするの?ですが。

それでも8月27日、日本では菅官房長官が記者会見で、態々「トウモロコシ」の前倒し購入に触れ、国内での害虫被害が理由だと説明していましたが、要は大統領選を控え、トランプ氏は余剰トウモロコシの対日輸出で農家に成果を訴えられるというもので、安倍のトランプ大統領選支援という事ですが、その見え見えの、過剰ともいえる配慮が齎す日米関係のゆがみすら感じさせる処です。トランプ氏は加えて「日本の民間は米国と異なり、政府に非常によく耳を傾ける」とコメントしていたようですが、実になめられたものです。 そして、日米通商交渉は上記の通り、9月25日、NYでの国連総会出席を機に行われた両首脳の署名を以って一件落着(?)で、 両者はwin・winと叫んでいたのですが。
      以上(2019/9/26記)
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2019年08月26日

2019年9月号  日本の安全保障を巡る二つの論理・・・日米同盟の論理、日韓対立の論理 - 林川眞善

今、日本は国の安全保障を巡っての、二つの大きな問題に直面しています。
・日米安全保障条約は不公平?
まずその一つは日米安全保障に係るトランプ批判です。先のG20大阪サミットを前後して彼は日米安全保障条約は片務協定だ、「米国が攻撃されても日本は必ずしも助けてくれない」、日米安保は「不公平」だと(日経6月30日)、同じフレーズを繰り返し非難する処です。更にこれが「日本防衛のために米国の若者が死ぬことはあるが、逆がないのはおかしい」との発言となると米国民には「極めて当然の話」と映る処、2020年の大統領選対策も有之、これが繰り返されるとなると日本は窮地に追い込まれること必定と思料する処です。

実際、日本は「自国の防衛はひたすら米国依存」以外の選択肢を持ち合せない事情からは、遠からずトランプ氏の云い分を受け入れざるを得ないことになるのではと思料するのですが、彼のこの批判は日米同盟の今日的意味合いを問い質す契機ともなる処です。 つまり、戦後、日本の安全保障体制は日米同盟という名の下に語られ、その体制を担保するのが日米安全保障条約にほかならず、従ってトランプ氏の批判にどう応えていくかは、日米同盟の在り方を見直す一大政治プロジェクトにもなろうかというものです。

・日韓対立は韓国政府による日韓軍事協定破棄で
もう一つは深刻さ増す日韓の対立です。日本政府が韓国向け輸出に実施した規制の厳格化と更に8月2日には韓国をホワイト国対象から外したことで、文韓国大統領は、後述するように、この一連の対韓措置は、元徴用工訴訟の韓国大法院(最高裁)判決に対する安倍政権主導の「経済報復」と日本批判を繰り返す一方、文大統領主導型の反日運動が勢いづき、日韓関係は「政冷経冷」の状況すら呈する処、8月22日、韓国政府が日韓軍事協定(GSOMIA)の破棄を決定したことで、日韓対立は東アジアの安全保障問題にシフトされる処です。

そこで今回はこの2題に集中し、これまでの論考で触れてきたことのフォローアップを兼ね、以下の要領にて、論述することとします。まず、第1章ではトランプ氏の日米安保条約批判への対抗準備として、日米安保条約の成立の経緯と特異性、そして安全保障と米政権の政策選択との関係をレビューし、併せてトランプ氏の台頭が日米同盟を揺るがし出している現実をレビューすると共に、過半入手の防衛大教授の武田康弘氏の近著「日米同盟のコスト」を背に、グローバルな視点から今後の日本の安全保障の方向を探ることとします。第2章では、上述、日韓対立の構造を現地のメデイア情報にも照らしレビューし、今や韓国政府のGSOMIAの破棄決定で、日米韓の三角連携による安保体制が崩れかねない事態にある処、今後の推移について考察する事とします。処で8月1日、参院選後の国会が開催されました。安倍政権は如何なる責任ある政治を目指すのか、改めて問う事とします。


― 目  次 -

第1章 日米同盟の論理と、その行方    

1. 日米同盟という名の日本の安全保障体制
(1)日米安保条約成立の経緯とその特異性
(2)日本の安全保障は米政権の政策選択の函数
2. 日米同盟を揺るがすトランプ政権
(1)「適正な防衛の対価」要求
(2)トランプ政権による拡大抑止の信頼性
3. 多国間連携強化こそ最大の安保戦略
・人口減少を見据えて
 ・TPP11の経験を踏まえて

第2章 日韓対立の論理と,その行方

1. 日韓対立の構図
(1)朝鮮日報が伝える日韓対立の真相
(2)‘安倍晋三vs 文在寅’が齎す日韓「政冷経冷」の危機
2.揺れる日米韓の安保連携             
(1)日米韓の安保連携から逸脱(?)目指す文政権
(2)日韓関係の行方を占う三つのポイント

おわりに 参院選後の日本の政治
  -MMTとアベノミクス

        ----------------------------------------------------------------

  第1章 日米同盟の論理と,その行方

1. 日米同盟という名の日本の安全保障体制

― 国の安全保障とは? 伝統的な思考様式としては、安保とは国家の領土や政治的独立、外部からの脅威を軍事的手段による牽制によって守ることを主眼とするものとされ、一言でいえば 国防に該当する処です。因みに大平正芳総理(1980年)主導の「総合安全保障問題研究会」報告書では、「脅威に対する手段を軍事的なものに限らず、非軍事的なものも最大限に取り入れ、同時に対象となる脅威も国外だけでなく国内や自然の脅威をも対象とする安全保障」を総合安全保障として理論づけ、その翌年の1981年5月、鈴木善幸首相(当時)は日米安保条約に裏打ちされた関係を日米同盟と初めて表現したのです。

(1)日米安保条約成立の経緯とその特異性
戦後、日本は1951年9月8日、サンフランシスコ対日講和条約を以って国際社会への復帰、独立を果たしましたがその際、米国との連携において日本の国体を堅持する趣旨で、日米安全保障条約が署名されました。これが当時台頭しつつあった社会主義、具体的にはソ連の台頭に対抗する趣旨から導入されたものと云え、因みに講和条約はソ連など社会主義諸国を含めた全面的な講話でなく、米英仏など西側諸国だけとの片面講話でした。従って日米安保に基づいて米軍の駐留継続を認めることで、日本は主権を回復し、西側陣営の一角として国際社会に復帰することとなったのですが、この二つ条約が同日に調印されたことは、両条約が不可分一体であることを象徴する処です。

爾来1960年の改訂(岸伸介首相とアイゼンハワー米大統領)を経て日本の安保体制が整備され今日に至る処、この日米安全保障条約こそは日本にとって唯一、他国と結ぶ同盟関係で、今日の日米同盟の根幹をなすものです。

尚、通常、条約を結ぶ国は、武力攻撃をうければ共同で対処する「相互防衛」が基本となっており、NATO条約では第5条で加盟国に対する攻撃を全加盟国に対する攻撃とみなすと想定し、集団的自衛権の発動を義務付けていますし、米韓相互防衛条約でも第3条で、太平洋におけるいずれかへの攻撃に対する共同対処が謳われていますが、日米安保ではそうはなっていません。51年署名の条約では、防衛義務も特に明記なく、米国が「援助を与えることができる」ことだけが示されていたのですが、60年改訂条約ではこれが見直され、共同対処するのは日本の施政下にある領域に限り、領域外で日本が米国支援のために戦う義務はないとなっています。つまり、日米の役割分担は以下の通りで、攻撃と守備に仕分、規定(条約第5条&第6条)されており、その仕分けこそが異色とされる処、日米の双務性を問う問題として今に及ぶ処です。以下はその実状です。

・安保条約第5条と第6条が規定する日米の役割
つまり ‘60年の改定では、日本が領域内で他国から武力攻撃を受けた際、日米両国が自国の憲法の規定に従って「共通の危険に対処するよう行動する」(5条)と定められ、陸海空の領域、サイバー空間などで日本が受けた攻撃に対し、米国には集団的自衛権を行使して防衛する義務が生じる事になっています。トランプ批判とは、その点を突く処、米国が日本を防衛する義務を定めているに対して、日本の自衛隊は米国を守るとは規定されていない点で、これは片務的、不公平だとするのです。

又、在日米軍との関係について、安保条約6条では、米国は「日本の安全」と「極東における国際平和と安全の維持」に寄与することが規定され、その為に日本国内に米軍基地(施設・区域)を設置できるとされ、在日米軍が駐留する根拠となっています。 尚、当該経費負担(注)が問題となるのですが、防衛省試算では、日本は2015年度の在日米軍の駐留経費総額 2210億円のうち86.4%を負担しています。それでもトランプ政権は日本の防衛負担増を求める処です。(日経8/16)

(注)駐留経費の分担:米軍基地の土地代や施設・区域の提供は日本が負担、更に米側の要請に応じ
て基地従業員の人件費や光熱水料も「思いやり予算」として、これも日本が負担。2016年度より
は特別協定もあり、5年間の負担総額は約9465億円に上っている。

従って、トランプ批判に応えていく事は、安保条約第5条規定の日米の役割分担の見直し、第6条の経費負担の見直し、という事ですが、前者の問題は日米同盟の構造問題と云え、日本国憲法(第9条)との関係有之で、結論を得るまでには時間を要する処でしょうが、後者の問題、経費負担という事であれば、この際はコストの合理性追求として見直し、相応の結論は出しうるものと思料するのです。その為にも、まずは日米関係を、変化する国際環境に即して再定義すること、そしてその下で日米同盟関係の合理的な在り方について見直していく事で、米軍の駐留経費の合理性を再評価する事が可能になると思料するのです。
   
尚、平和憲法の下で専守防衛に徹する日本の安全保障は、拡大抑止を規範とする日米同盟に決定的に依存する処です。その点で、自助努力や米国以外の国家との協力で代替できることは極めて難しいと云わざるをえないのが現実です。が、そのことは米国による拡大抑止が如何に機能するかにか、つまり対外脅威に対して米国は如何に対応してくれるかという点で、日本の安全保障は米国歴代政権の政策選択の函数ともされ、それが日米安保条約の特異性を成す処、日米関係推移の実際でもある処です。以下は、その実際をレビューするものです。

(2)日本の安全保障は米政権の政策選択の函数

① 1960年1月の安保改定で、米国の日本防衛義務が明示され、内乱条項(日本で内乱が起きた際の米軍による鎮圧)は撤廃。行政協定は地位協定に変更され、防衛分担金も廃止。更に事前協議制の導入で、日本は極東有事の際の米軍基地使用に関して一定の発言権を確保。そして1971年までに自衛隊の規模は287千人となり現在の自衛隊の骨格がおおむね整備されたのです。 尚、1967~69年の沖縄返還交渉は日米同盟に変化をもたらす契機となるものでした。つまり、沖縄返還は、日米の共同防衛区域を拡大すると共に、在沖縄米軍の抑止力が日本及び極東の安全保障に果たす役割を確認する処でした。

② 1970年2月のニクソン・ドクトリンに続く米地上軍のアジア撤退、そして米中和解に象徴されるデタントは、日米同盟を共産主義の封じ込めから地域の平和と安定化の装置へと変化させる処、それは同時に同盟国に対する米国の防衛公約の信頼性を低下させ、日本に「見捨てられ」リスクを意識させるようになったとされるのです。そしてこのリスクが進行する中での軍備抑制策の帰結として、日米防衛協力を強化する必要性が高まり、1978年11月に策定された「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)では米国の核抑止を明記すると共に、日本有事の際の米軍の来援と日米の役割分担を確認する処でした。但し、極東有事の際の日米協力については随時協議と研究の推進を謳うにとどまるものでしたが、これを機に日米のシーレーン共同防衛や共同演習・訓練が拡充されていったのです。

③ 2017年1月、誕生したトランプ政権のアジア政策、対中政策や対北朝鮮政策が、歴代政権のそれとは大きく変化を見せる一方で、対日政策はおおむね伝統的な路線が維持されてきていて、外交・安保面では同盟重視の対日政策が採用されていますが、経済面では公約通りの保護主義的な通商政策が影を落す処です。
実際、2017年1月にTPPから離脱し、NAFTAの再交渉を宣言したトランプ政権は、同年2月の日米首脳会談で、「二国間の枠組みで経済対話に従事する」ことが謳われています。そして2018年6月の日米首脳会談では麻生副総理とペンス副大統領による日米経済対話の下に、茂木内閣府特命担当大臣とライトハイザーUSTR代表との間で、「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議(FFR)」が設置され、目下日米通商交渉が進められている事、周知の処です。(注)8月23日、ワシントンでの協議で重要品目の扱いに付き、大枠で合意したと発表。

2.日米同盟を揺るがすトランプ政権

トランプ政権の安保条約への不公平批判とは前述の通りで、在日米軍駐留経費の負担増、GDPに占める防衛費の割合拡大要求等、要は防衛に対する「適正な対価」への要求ですが、その一方で、米国が孤立主義、単独主義に傾斜することで日本に提供される「拡大抑止の信頼性」の低下懸念が圧力ともなって今、日米同盟を揺るがす処です。

(1)「適正な防衛の対価」要求
70年代、米国の経済的優位が相対的に低下し、財政赤字が拡大するたびに、米国は同盟国への分担を求めてきています。因みに、NATO首脳会議で当時のオバマ大統領が「自由はただではない」と訴え、加盟国に国防費の増額を求めていますし、2016年7月のワルシヤワ首脳会議では、加盟国の防衛費をGDP比2%にまで増額することで確認されているのです。そして、今トランプ政権は対日負担増要求を強めていますが、それもこれまでと同じ路線にあるというものです。

さて米国が日本に求める「適正な防衛の対価」とは前述の通りで,具体的には現在のGDP比1%、約5兆1251億円の防衛費を2%つまり2倍にするか、在日米軍駐留経費(2017年度予算:約5,288億円) を増額する形で米国の防衛負担の拡大要求に応えることを意味するのですが、そうした対応が日本の国益に適うことになるものか、疑問の残る処です。その点では、コスト負担構造の見直し(コスト分担の合理性)が不可欠と云え、その際は日本の貢献が見える形としていく事がより肝要と思料するのです。

・‘日本の貢献’の見える化
日本国の経営にとって、前述事由から今後とも現行安保体制の堅持が前提となる処でしょうが、上述日米同盟のコスト対効果に照らしていくとき、同盟の発展的改善への「のりしろ」は狭まることはあっても、広がる可能性は難いのが実情です。ましてや互いに従来型発想を以ってする限り、「非対称な双務性」の改善は極めて困難なことと思料するのです。

そこで、限られた資源の中で日本の安全を担保していくためにも、まず対米関係において、
改めて日本として「できる事、できない事」を、はっきりさせていくこと、そして、米軍に対して「何を、どこまで」協力できるのか、或いは、することとするのか、そのシナリオを整備し、以って個々に米国と詰めていく事が肝要と思料するのです。つまり、日米同盟に係るコストとその効果について再確認し、同盟環境の変化にも照らし、当該分担の合理性を確認していく事です。それは日本の貢献を目に見える形にしていくプロセスをなす処、これこそがただ乗り批判に対抗し易くなるものと思料するのです。

尚、‘見える化’のためにも、同盟コスト分担の合理性をいかに確保していくかは依然重要な問題です。日米同盟のコストとは、下記(注)にあるように ① 経費の分担と② 任務の分担で構成される防衛コストと、➂ 主権の制約と④ 駐留経費負担で構成される自律性コストで構成され、日米間の経費分担については、米国が負担する在日米軍の維持・作戦経費と、日本が負担する在日米軍関係経費との対比で論じられてきていますが、過去5年の平均は人件費を含めれば概ね1対1の分担比率にあるのです。

にもかかわらず、日米双方に不満の残るのは②の任務の分担を米国が一方的に負担していることと、➂の主権の制約を日本だけが被っているとの被害意識があるとされ、従って、仮に在日米軍駐留経費の全額を負担したとしても不満の解消にはなりません。また、トランプ政権が求める防衛費のGDP比2%要求にしても、その経費をどのような任務の分担に充てるのか、それがどのような自律性コストの軽減に繋がるか、細かく詰めて検討していく事が不可避ですが、となればコスト負担の合理性見直しのためのシステムの導入の必要性が指摘される処です。

偶々、日経(8 月6日)が報じた防衛省2020年度予算概要要求では米軍再編関連経費を含め5兆3千億円超、過去最大規模となっていますが、これも「対米」次第で増額見通しと云うのです。この在日米軍駐留経費(注)の負担増は自律性コストの拡大を意味し日本の防衛に間接的に資するものであっても、直接的に貢献するものではありません。‘金を出すから日本を守ってね’と云った処でしょうが、これこそトランプ大統領のクレームが映す処です。

   (注)同盟のコスト:① 防衛コスト(共同防衛という軍事的貢献に伴うコスト)と、②
自律性コスト(防衛協力を得る見返りに「主権の制約」と「駐留経費の負担」)からなる。

(2) トランプ政権による拡大抑止の信頼性
もう一つ日本が直面する問題は、米国による拡大抑止の信頼性の低下です。つまり、トランプ政権が米国第一主義を掲げ、孤立主義、単独主義に傾斜する限りにおいて、トランプ政権による拡大抑止の信頼性が低下する事の可能性です。従って、その信頼性をいかに堅持していくか、そのためにも案件ごとに常に問いただすことのできるシステム作りが不可欠となる処です。 因みに、尖閣諸島の領有権侵犯や北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対する米国の対日防衛コミットメントは、随時確認できるよう、当該システムの整備が不可欠となる処です。 そして留意すべきは、トランプ政権を生んだ米国社会の構造的変化が今後も続き、米国がもはや世界の警察官に復帰できないとすれば、拡大抑止の信頼性は今後の日米同盟が直面する深刻な課題であり続ける筈という点です。

3. 多国間連携強化こそ最大の安保戦略

上述、トランプ大統領の台頭で、日米安保条約の、言うなれば威力の低下が懸念される中、では、今後とも日本の安全保障はどのように確保されていくべきかが問われる処です。言うなれば日米同盟を基軸としながらも、今後とも自らのsustainableな成長をいかに図っていくかがテーマとなりますが、その際のポイントは色々ある処ですが、何よりも問題は致命的に進む人口減少です。勿論、国内的には産業の競争力強化、社会保障等々、の視点から縷々語られる処ですが、これが国際的連携の強化なくして解決を見ないことが現実です。

・人口減少を見据えて
いうまでもなく、人口は国力を示す有力指標の一つです。その急速な減少は極めてseriousな問題です。内閣府によると、2053年には人口は1億人を割り込むことが想定されています。(2018年版「高齢社会白書」)その数字が意味することは、欧州の一国が消滅することと云え、労働力人口が減少していく中、いかに競争力を維持するか、そしていかに労働力の確保を図っていくか、が問われる処です。

この点、まずは高度情報化を進めることで、生産性の向上、競争力の確保を図ることが方向付けられる処、同時に、これに対応できる人材の確保を図ることとされていますが、それ以上に問題は、減少する労働力については、外国労働者の戦略的移入を進めることなくしてはカバーできなくなっている事情です。つまり、その戦略推進のためには雇用制度の改革等関連諸制度の見直し、改革が不可避であり、まさに革命的変化となる処です。要は、国内問題にしても現実は独りでこなせる状況にはなく、いまや国内的問題も、第三国との連携によって初めて成り立つ話となってきているのです。

・TPP11の経験を踏まえて
近時、日本は米国と同盟関係にある国と安保協力を深めてきています。ただ条約としてはあくまで米国を介した形で進められており、直接条約で同盟関係を結んではいません。むしろそれは現在の日本にとって幸いなことと思うのです。とい云うのも目指すべきは、基本的には多国間の連携強化による安定した経済の発展であり、これこそは現代における安全保障に資する戦略と位置付け得るものなのです。多国間主義、国際ルール重視を基本軸に置いた行動こそが、持続的成長戦略であり、同時にそれは安全保障対応となるのです。

その点、TPP11は政策対応の見本となる先例です。このTP11で見せた日本のリーダーシップを足掛かりに、開かれた世界貿易のシステムを推進していく事で、日本の立場はより強固となる筈です。勿論、これが米国を軽視することではなく、日米同盟の基盤強化につながる処です。 この際は、伝統的な日米同盟と云う事で思考停止せず、安全保障の一環としてグローバルな経済対応を戦略的に図る、防衛も経済も全方位での外交を目指すべきと思料する処です。



第2章 日韓対立の論理と,その行方

1. 日韓対立の構図

日本政府は7月1日、韓国への輸出管理を厳格化すると発表、7月4日に「フッ化ポリイミド」、「EUVレジスト」「フッ化水素」の3種類の半導体材料について輸出規制を発動しました。この規制により、これら3材料の輸出には経産省の審査に最大3か月の時間がかかる事になるとのことです。6月末、G20サミットが大阪で行われ、曲がりなりにも自由貿易を標榜する声明文が出た直後だっただけに、この輸出規制は韓国企業への奇襲攻撃と映る処でした。更に、8月2日、日本政府は韓国を「ホワイト国」(注)対象から除外することを閣議決定。この一連の対韓措置について日本政府は、韓国側の安全保障対応の不備さに向けた対抗措置と説明する処、韓国文大統領は、元徴用工訴訟の韓国大法院(最高裁)判決に対する安倍政権主導の「経済報復だ」と批判を繰り返す一方、韓国内では文氏主導の反日運動が勢いづき、いまや日韓対立は決定的となる状況です。

[注:ホワイト国とは、安全保障上の信頼関係がある国を輸出管理で優遇する対象国。 韓国は2004年から優遇対象国だったが今回の輸出管理の厳格化で8月28日から対象国から外れる。尚2日からホワイト国と非ホワイト国の通称を「グループA~D」の4段階に細分化した。現時点では26か国 ]

尚、世耕経産相は8月8日、先に指定した当該3品目の一部(レジスト)の中国企業(サムスン電子)への輸出を許可したと公表しました。1か月で輸出を許可したのは、今回の対韓輸出厳格化を対韓「禁輸措置」だとする韓国批判の沈静化を図らんとの由でしたが、韓国側はそんな事には意を介することなく、元徴用工判決に端を発した日韓対立は日を追うごと、激化の様相を呈する処です。

(1)朝鮮日報が伝える日韓対立の真相
現下の日韓対立の背景にあるのが、韓国側が「徴用工」と呼ぶ戦時中の朝鮮人労働者に対する賠償を巡る問題ですが、筆者の友人が提供してくれた朝鮮日報、日本語版(2019/07/17)は、以下の通り、徴用工賠償問題は日韓請求権協定で終了したとする事情、そして、その後、司法府と行政府の判断が衝突する中、大法院は、その結論を覆す判決を確定したことで、日本との8か月の「にらみ合い」が日本の経済報復に繋がったとするものでした。以下はその概要です。(当該記事を提供してくれた友人は、韓国最大の新聞ながら国賊扱いされそうと、漏らすのです.)

・日韓請求権協定と徴用工賠償問題
2005年8月、当時の蘆武絃(ノ・ムヒョン)政権は、2005年1月、40年間非公開だった請求権協定文書が公開されることとなったのを契機に、首相及び閣僚など政府関係者と各界の専門家を集め、民官共同委員会を発足させていますが、その際の争点の一つが「国家間の交渉で個人の請求権が消滅するか」でした。そして、民官共同委の結論は、強制徴用に関して「政府が日本に再度法的な被害補償を要求することは信義則の上で問題がある」とし、個人の請求権は生きているが、1965年の協定(注)によって行使は難しいとするものでした。

その代わりに蘆政権は被害者への補償に力を注ぎ、2007年には特別法で追加補償に着手し、2015年までに徴用被害者7万2631人に6184億ウオン(現在レートで約567億円)が支払われたと云うのです。ここで興味深いことは、民官共同委に現大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏が、当時大統領府民生主席の政府委員として参加、同結論に同意していたのです。
かくして韓国政府も「強制徴用問題は、1965年の請求権協定で終了した」との立場を維持し、裁判所も関連の訴訟で同じ趣旨の判決を下したと云うのです。

      (注)1965年、佐藤栄作政権と朴正煕政権の間で、日韓基本条約と日韓請求権協定が締結。
その際、問題となった日本による植民地支配の位置づけについては、両国が歩み寄る為と
して日韓基本条約では、植民地支配前の条約について「もはや無効」と明記された。
尚、当該請求権協定では、その1条で韓国への5億ドルの経済支援、2条では、賠償請求権
問題の「完全かつ最終的」な解決、3条では、紛争時の協議や仲裁を規定し、徴用された
労働者についての賠償は、韓国政府が行い、日本政府はその資金を援助することで合意。
以って日本政府は一貫して賠償を拒否してきたが、韓国の裁判所は2018年、国内にある新
日鉄住金などの資産を差し押さえ、その売却を認める逆転判決を下した。

ところが、2012年5月、大法院は新日鉄に賠償責任があると判断、「協定があるとしても個人の請求権を行使できる」という破棄差し戻し判決を下したのです。当時の朴クネ政権はこの訴訟を5年以上「凍結」、文大統領になって、それは「故意に判決を遅らせている」と批判され、大法院の当局者を逮捕したことで、18年10月、大法院は急いで同趣旨の判決、日本企業に賠償を命ずる判決を出したのです。この逆転に文氏からのコメントはなく、まあ、それは当然という処でしょうか。

‘ 安倍晋三 vs 文在寅 ’ が齎す 日韓「政冷経冷」の危機
これまでの日韓関係は、度重なる政治摩擦に曝されながら経済界や民間は互いに相手を認め、補い合ってきました。が、日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた判決が出たことで日本政府は韓国政府に対して再審を請求したものの、三権分立を盾に実効的な対策を打とうとしない韓国政府を動かさんと、我慢の末に、今次の輸出管理の厳格化という交渉カードを切ったものと思料するのですが、文大統領の激しい対日批判は止むことはなく、安倍首相は8月6日には訪問先の広島での記者会見で、「日韓請求権協定(上記)に違反する行為を一方的に行い、国交正常化の基盤となった国際条約を破っている」とし、「請求権協定をはじめ国と国との関係の根本に係る約束をきちんと守ってほしい」(日経 8月6日、夕刊)と厳しく迫る処です。
     
勿論そのコメントは、ずばり文大統領に向けられたものですが、過去に結んだ国家間の合意や協定を守ってほしという当たり前の主張も、革命政権を自認する文在寅大統領には届く由はなく、8月15日の演説では、45年までに朝鮮半島の南北統一を目指すと「南北平和経済」の推進を謳う(注)処です。それは韓国の対日依存からの脱皮を目指す姿であり、日本への挑戦の姿と映る処、日韓両国の関係は、今や政治のみならず経済においても、まさに「政冷経冷」(日経8/16)を醸しだす処です。

(注) 文大統領のラブコールながら、本質的に異なる政治思想, political governanceの下で平和統
合が叶うものか。因みに北朝鮮は米韓合同軍事演習に対抗、7月25日以降今日まで6度に亘る
ミサイル実験を行っており、そうした彼らに韓国へのrespectなど感じられることはありません。

2. 揺れる日米韓の安保連携

(1) 日米韓の安保連携から逸脱 (?) 目指す文政権
文政権の政治姿勢は「積弊清算」、つまり過去のあらゆる不正腐敗を批判(否定)し、自身の正当性を主張するという事ですが、これは人民委員会のようだとする声もある処、文大統領としては、その線上で、反日姿勢を鮮明にすることで、支持率上昇につなげていると指摘されています。とりわけ2020年4月の韓国総選挙では反日感情の高まりに便乗して支持率を更に高めんとする処で、日本との関係改善などはほとんど問題とする様子はありません。仮に徴用工賠償問題で日本が批判行動をとるとなれば、それは文氏の思うツボとなり、更なる日本依存からの脱皮、韓国の北朝鮮シフトが喧伝され、日米韓の安全保障連携からの逸脱が進むとされ、改めてアジアにおける日米韓安全保障体制の見直しが不可避となる処です。

さて、日韓関係が悪化すると米国が仲介し、収めてきたのが伝統でした。従軍慰安婦を巡る日韓対立ではオバマ前大統領が仲介し、2015年の日韓合意につながっています。が、今回は、韓国の最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟問題が絡むだけに、トランプ政権の対応はこれまでとは様相を異にする処です。つまり差し押さえられた企業の資産が売却され原告に支払われれば、先の完全で最終的な解決と謳った1965年の日韓請求権協定を根底から覆すことになるからで、要は自分のことは自分でという事でしょうが、上述事情に加え後出GSOMIA破棄問題も有之、トランプ政権は何時までそうした姿勢でいられるかです。

(2)日韓関係の行方を占う三つのポイント
韓国は、日本が日韓請求権協定(1965年)に基づき元徴用工訴訟について要請していた仲裁委員会の設置には応じない方針を示す一方で、日本の半導体材料の輸出規制強化では、WTOへの提訴を進めつつある処です。しかし自由主義、民主主義を標榜している先進二か国が互いに角突き合わせる事は両国国民にとって不幸の何物でもありません。とにかく、もつれた糸をほぐすには外交しかなく、日韓の場合、首脳会談と云う事になるのでしょうが、
その点で両政府は外交を取り戻す機会を探るべきと痛く思う処です。ただ韓国文政権が、北に向かう姿勢を対日関係において鮮明としている点で、それこそは韓国における日本の優位が減退していることの証左ですが、そうした変化を以下三点として見る限り、両者融解の可能性はまさに遠のくばかりかと思いを痛くする処です。

まず一つは中国の台頭です。韓国の輸出に占める中国の依存度は2000年に入ってからは日本を抜き、03年には米中も逆転し、07年からは中国だけで日米合計を上回るまでになっており、18年には中国(26.8%)が日本(5%)、米国(12%)を大きく引き離す処です。つまり実経済面で中国の重要性が日本を遥かに凌ぐようになってきたという事です。
次に、日韓の対北朝鮮路線が真逆になってきていることです。つまり、日本は核の脅威に対応するため米国と組み北朝鮮を封じ込める方向に動くも、韓国は核戦争を防ぐことを最優先として北朝鮮との融和を急ぐ方向にあり、従ってそうした韓国にすれば南北融和を応援してくれる中国が日本より大切な相手となる処です。 8月23日、韓国政府は、一連の安倍政権による対韓措置への報復として日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定しましたが、この決定は、東アジア安保の要となってきた日米韓連携と距離を置く革新政権の姿勢を鮮明とする処ですし、それは北アジア情勢に逆行する処と思料するのです。
そして、もう一つは韓国内事情の変化です。世代交代と民主化が進むにつれ、軍事政権が1965年に結んだ日韓請求権利協定は不平等と考える世論が広がっていることです。

では現状、どうするか? ですが即効薬はありません。要は今以上事態を悪化させないよう対処療法に務めるほかなく、普通の関係にするよう努力を続けていく事ではと思料するのです。それができない限り、その漁夫の利を手にするのは、日米韓を分断したい北朝鮮と北東アジアを自分の勢力圏に染めたい中国ではと、思料するのです。それは韓国にとっても国益にはならない筈です。 要は、日韓関係の悪化で韓国が北朝鮮に向かい、更には中国に接近していくとなると、そこには新たな地政学的環境が生まれ、もとよりこれが日本の安全保障にはマイナスとなる筈。米国が日韓対立に懸念を表明しているのもそのためです。

・序で乍ら、この週末フランスではG7サミットが開かれています。1975年のスタート以来、世界経済の安定、自由貿易の推進、北朝鮮の非核化など等、幅広く取り上げ共通のメッセージを発信してきました。今、機能の劣化が云々されるサミットですが、上述安保環境の改善に資する議論・行動を期待する処です。因みに安倍首相は最古参メンバーの一人です。



            おわりに 参院選後の安倍政治
                   ―MMTとアベノミクス

8月9日、政府は2019/4~6月GDP速報値を公表しました。 結果は年率2.2%の高い成長率を記録したというものです。異次元な財政出動と異次元の金融緩和を続けてきた結果と云う事なのでしょうか。まさにMMT(現代貨幣理論)の提唱者、NY州立大学のステフアニー・ケルトン教授によると、日本経済(アベノミクス)の今の姿こそは、その理論を実践するものと指摘する処です。

そのケルトン教授が7月16日、来日し、衆院議員会館でMMT論について講演を行ったのですが、それには多数の聴講者が集まったことが報じられました。
メデイアによると、彼女はお金を水に喩えて説くものだった由。つまり、水がたまるシンクが経済と云い、政府を示す蛇口から水が財政出動で、排水口から出ていってしまう水は税金を指す。そこで、経済を活気づけるには、財政をふかして減税するほど良いことになる。シンクから水があふれだす現象をインフレになぞらえ、以って財政出動の限界を表しているのだというものです。これではまるで中央銀行は政府の一付属機関にすぎなくなり、通貨の価値をだれが維持管理するのか、財政のdisciplineはどうなるのか、等々疑問の沸く処ですが、そのMMT理論を実践しているのが日本のアベノミクスだと評するのです。

アベノミクスがMMT理論と重なって映るのは、デフレ脱却を目指した日銀の金融緩和と政府の財政出動を組み合わせた手法です。2013年1月、安倍政権と日銀が合意した共同声明(アコード)では、日銀は物価上昇率2%をできるだけ早く実現するために金融緩和を進める、政府は機動的なマクロ経済運営を打ち出し、財政をふかすと宣言し、今日に至っています。ただ一点、MMTと一線を画すのが、財政再建の着実な推進を当該声明には含められている点です。確かに財政の規律ポイントとしてPB(プライマリー・バランス)の黒字化を挙げていましたが、残念ながらPB目標は延期が繰り返されている状況です。そう言ったこともこれありで政府関係者は財政を意識しないMMT理論とは全く関係ないと、冷ややかな態度です。

さて日本経済の現状は、遠のく2%目標を追う日銀の金融緩和に支えられ、緩んだ財政に浸る姿を演出する処ですが、となると繰り返されるのが、子や孫の世代へのツケは膨らむばかりとする批判です。ではこうした状態を克服する道はどこにあるのか? もはや言い尽くされた感のある処ですが、企業や社会の生産性を高め、経済を強くすることに尽きるものと思料するのです。この点こそはアベノミクスが積み残した主題であり、その為の施策の実行です。それはまさに王道に戻ることと思料するのです。

序で乍ら、ケルトン教授を日本に招聘したグループの一人が内閣参与で京大の藤井聡教授で、彼は内閣府参与としてアベノミクスに関わってきた仁です。その彼と3年前、ある研究会でGDP論争をしたことを思い出すのです。彼は当時536兆円のGDPは、前提を置きながら2020年には600兆円になると断じたのです。その結論はいうまでもない処です。

                      以上 (2019/8/25記)


posted by 林川眞善 at 11:19| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする