2018年11月26日

2018年12月号  ”反動”の米欧、”進取”のアジア - 林川眞善

- 目 次 -

はじめに いま、「脱欧入亜」?            
・「民主主義の死」は選挙から始まる
・反動に覆われる米欧
・自由貿易主導のアジア、そして日本

[ 第1部 ‘ 反動 ’に煽られる米欧 ]

第1章 解析「2018年 米中間選挙」と、トランプ政治の行方
(1)解析「2018年米中間選挙」
・映画「華氏119」
・中間選挙結果の意味 — Check & Balance
(2)トランプ政治の行方 ― 次期大統領選を視野に
・トランプ台頭を許した三つの反動と政治地図
・トランプ党vs 民主党 / ・ トランプ外交と日米関係

第2章 メルケル独首相の党首辞任表明と欧州の行方  
(1)メルケル首相の党首辞任表明
・イタリア政府とEU委の対立
(2)「西洋の没落」再び、か
・The Decline of the World , Again / アフター・ヨーロッパ

[ 第2部 自由貿易主導のアジア、そして日本 ]

第3章 日本とアジアの新時代   
(1)日中新時代を確認した両首脳会談
(2) アジアを巡る自由貿易構想と日本
・TPP協定の発効
・自由貿易主導のアジアと日本

おわりに ‘ 選ばれる国、日本に’          

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はじめに いま、「脱欧入亜」? 

・「民主主義の死」は選挙から始まる 
かつて民主主義は革命やクーデターによって死んだ。然し,‘現代の民主主義の死は選挙から始まる’と、二人のハーバード大学教授、S.レビッキー氏とD.ジブラット氏は共著「民主主義の死に方」(新潮社、2018/9/25)で、次のように警鐘を鳴らすのです。

つまり、1973年、チリで起きたピノチェト将軍が指揮するクーデターによってアジェンダ大統領が死に、チリの民主主義がそして死んだと同じように、冷戦の間に起きた民主主義の崩壊の4分3近くはクーデターによるとした上で、「軍事クーデターほど劇的ではないものの、同じくらいの破壊力を持つ別の過程を経て民主主義が崩壊する例も少なくない。つまり軍人ではなく、選挙で選ばれた指導者によってー自分を権力の座へと押し上げた制度そのものを破壊しようとする大統領や首相によってー民主主義が死ぬこともあるのだ。1933年にドイツ国会議事堂放火事件を起こしたヒトラーのように、短期間のうちに民主主義をとりのぞいてしまう指導者もいる。然し、多くの場合、民主主義は見えにくいプロセスによって少しずつゆっくりと侵食されていく」と、‘民主主義の死’を危惧するのです。

本書は云うまでもなく2年前、‘選挙’によって大統領として登壇したトランプ氏が、America firstを旗印に、米国の為と云うよりは、彼を支持する有権者のインタレストに応える政治に特化し、国際協調は二の次、国際提携等の枠組みを全否定する如きの政治を進め、その結果、米国を支えてきた民主主義の規範をも崩す、まさに反動の政治を目の当たりとするにつけ、警鐘を鳴らさんとするものでした。  ・・・・・・・・・・・・・・・・・


・‘反動’に覆われる米欧
さて、11月6日、米国では中間選挙が行われました。4年毎行われる大統領選の間に行なわれるという事で、中間選挙と称されるものですが、それは同時に当該期の大統領の政治行動に対する信任投票とも見なされ、俗に大統領の通信簿と言われるものです。それだけに、特に今回は、上述トランプ政治に対して、有権者はいかなる審判を下すのかと、まれに見るほどに世界の注目を集める処でした。その投票結果は、上院は与党共和党が、下院は野党民主党が過半数を獲得。その結果、上下両院は与野党の捻じれを起こす処、上下両院の権能(注)に照らすとき、議会民主主義の基本たるcheck and balance 機能の回復を齎す選挙だったと云える処です。
(注)上院権能:条約の批准と、大使や最高裁判事等、指定人事の承認に限定され
下院権能:予算等全事案の審議、全下院委員会(27)委員長は多数党議員(民主党)

つまり、共和党が両院を制していたことで、これまでないがしろにされてきた民主党との対話が不可避に、言い換えれば共和党が放棄してきたとされる‘政権監視’機能が働く事になったと云う事です。尤も直後の7日、トランプ氏はワシントンでの記者会見で、上院の結果だけに触れ、完全に勝利したと発言するのでしたが、次期大統領選を意識した、その虚勢を張った言葉、その姿勢に、今後の米国政治の混迷を予感させる処です。

一方欧州では、10月29日、これまでリベラル・民主主義の要塞、欧州の盟主とされてきたドイツ・メルケル首相が、10月に行われた二つの州議会選挙で、与党キリスト教民主同盟(CDU)が連敗したことの責任を取って12月の党大会では党首に立候補しないことを表明したのですが、そこには歴史の偉大な皮肉を感じさせられる処です。つまりCDUは戦後ドイツの民主主義を支える大切な柱となってきましたし、戦後の米国は、CDUの設立を促す上で大きな役割を果たしてきたのです。然しそのトランプ米国を支持するのが米国内での反動勢力ですが、メルケルCDUはその反動勢力にとって代わられると云う皮肉な結果となっているのです。さて、欧州の結束にCDU党首として18年間、取り組んできたメルケル氏の辞任表明の瞬間、語られることはその結束が揺らぐことになるのではとの懸念でしたが、その姿は「西洋の没落」今再び、を思わせる処です。

・自由貿易主導のアジア、そして日本
こうした反動に煽られる米欧に代わって世界のトレンドは、いま「アジア」に向かっていると論壇Project Syndicate(Sept.26)で Hertie School of Governance in Berlin教授、Helmut Anheier氏は断じるのでしたが、果せるかな、現下の米欧の内向きベクトルとは相対する如くに、アジアを舞台に多国間を枠組みとする自由貿易への動きが進みだしています。日本が主導してきたTPP然りで、12月末には、コアーメンバー6か国をベースに、誕生することになりました。英エコノミスト誌(2018/10/27)も機を一にする如く、‘オーストラリアに陽が昇る’と豪州経済を特集しています。一方、安倍首相は10月26日、日中平和友好条約締結40周年記念式典に参加した機会に日中首脳会議を持ち、日中新時代を打ち上げています。
さて、経済のグローバル化を念頭に欧米に進出した多くの企業は、米欧の環境変化と、アジア経済の自由貿易姿勢に照らし、当該戦略の練り直しを始めていると報じられています。いままさに、「脱亜入欧」ならぬ「脱欧入亜」を思わせるような状況にある処です

・本稿構成
そこで今回は、米欧とアジアのコントラストを意識する趣旨から2部編成とし、第一部は米欧編とし、その 第1章では中間選挙後の米トランプ政治の行方について、 第2章ではポスト・メルケルの欧州の行方について考察します。第2部はアジア編とし、同 第3章では新時代を迎えたアジア’について、特に日中新時代の構図を中心に、同地域を巡る国際関係の現実について考察することとします。


[ 第1部   ‘反動’に煽られる米欧 ]


第1章 解析「2018年米中間選挙」と、トランプ政治の行方

(1) 解析「2018年米中間選挙」

・映画「華氏119」
まず余談から。11月3日、マイケル・ムーア監督の米映画「華氏119」を観ました。11月6日の中間選挙を目前に控えたトランプ大統領に立ち向かうドキュメンタリー映画です。さすが関心の高さを映す如く、劇場内は満席。119とは2年前の大統領選でトランプ氏が勝利宣言した11月9日の事だそうです。差別的、独裁的な指導者を指弾する反トランプ映画ですが、彼の主たる関心は、そんな大統領を誕生させた米国の民主主義の危機をえぐり出すことにあると云うものでした。

映像はまず、オバマ前大統領とクリントン夫妻を取りあげ、彼らが既得権をもつエリート層に譲歩や妥協を繰り返し、本来の支持基盤である労働者層から離れてしまったと主張、中道路線を支持したメデイアも断罪。バーニー・サンダース氏の台頭を阻んだ民主党上層部を痛烈に批判するのです。そして、ムーア氏はいわゆる「錆びついた地域」を取材して回り、多くの白人労働者がトランプ氏を支持した事を肌で感じとると同時に、トランプ氏が、かかる既存体制を批判した唯一の候補者だったとし、「うんざりして、あきらめた時代に独裁者が現れる」と語り、トランプとヒトラーの映像を重ね、そして行動を呼びかけるのでした。

・中間選挙結果の意味 - Check & Balance
果せるかな、中間選挙の結果は前述の通りで、上院では与党共和党51議席、野党民主党46議席、一方下院は共和党の199議席、民主党が223議席を獲得、結果、上院は共和が、下院は民主が制する処となりました。(11月7日現在)

今回の選挙について、その1か月前、10月11日付でノーベル経済学賞の Joseph Stiglitz氏は、今回の選挙には米国の命運がかかっているとして、つまり、トランプ政治が齎す数々の危機を阻止する必要がある事、その為には、若い進歩的で熱心な新顔候補を当選させることに注力すべきこと、そして今次選挙を見る視点として次の4点を挙げていたのです。(注)
[(注)10月11日付「People vs Money in America’s Midterm Election」by Joseph Stiglitz ]      

つまり, ① 米国の有権者は、トランプ氏が米国の本質を示す人物ではないと宣言するのか。②トランプ氏の人種差別的で女性蔑視的な態度と移民排斥主義、保護主義にノーを突きつけるのか。③米国第一主義を掲げ、国際社会の法規範を無視するトランプ氏のやり方が米国民の意志にそぐわないと表明するのか。はたまた、④大統領選挙におけるトランプ氏の勝利が‘歴史的な偶然’ではなかった事を、はっきりさせる結果となるのか、と。
要は、選挙結果が、米国における政治と経済の未来、そして何よりも全世界の平和と繁栄はこの選挙が出す答えにかかっていると云うものでした。

上記投票結果が意味することは、これまで与党共和党が両院を制していた事で緩みがちにあった大統領の行動への監視機能が回復した事、更にはトランプ大統領が円滑な議会運営を図っていく為には、これまでないがしろにあった野党民主党との対話が不可避となった事で、前述、米議会のcheck and balance機能の回復と、極めて歓迎される処です。因みに直後のFinancial Times (Nov.8)の社説でも `A good day for the US democratic system ― Midterms offer a chance to change the tone of American politics ‘ つまり中間選挙結果は米政治のこれまでの強硬路線を変える機会となった、米民主政治にとって佳日となったと、評するのでした。

(2)トランプ政治の行方―次期大統領選を視野に

・トランプ台頭を許した‘三つの反動’と政治地図
さて、トランプ大統領は選挙直後、下院の結果には触れることはなく、上院での勝利をトランプ政治の成果と、誇らしく喋っていたのですが裏を返せば、2020年次期大統領選参戦を示唆するものだったと云うものでした。ではトランプ政治の展開如何ですが、それは彼の台頭を許してきた要因を分析する事で、ある程度の枠組みが分かるのではと思料するのです。
つまり三つの‘反動’とされる批判の行方と、その‘対応’の如何にある処と思料するのです。
周知の通り、彼が掲げるAmerica firstの前提には、有権者、とりわけlower incomes white層が表する不満、つまり反動と云うべき既存システムへの強い批判があって、それへの対抗を以って応えることで、岩盤支持層に取り入ってきた事情に照らすとき、トランプ政治は引き続き、同じ路線をひたすら進めることになるのでしょう。

つまり、トランプ支持につながった三つの‘反動’とは、一つは「グローバル化への反動」、二つに「人種構成への反動」、そして「オバマ政権への反動」とされるものですが、これが地域事情を映す形で進んでいくことで、`政治的戦場‘、つまり共和党支持地域、民主党支持地域が明確となる処、まさにトランプ氏はその流れを身に付けて大統領の道を歩んだとされる処です。

まず「グローバル化への反動」とは、労働者、特にlower incomes white 層が露わとする経済格差への不満で、主として①「rust belt」、俗に言われる「錆びた工業地帯」で高まる反動です。また「人種構成への反動」とは、移民、とりわけヒスパニックの流入による白人労働者の雇用機会喪失に係る問題ですが、ヒスパニック系住民が重要性を増す②「sunbelt」で強く映される問題です。さらに「ジョージア州からペンシルベニア州に延びる③「Appalachians(アパラチア)地帯」地域を加えた三地域での投票行動が、過去5回の大統領選と中間選挙の結果を決定づけたと云われており、来る2020年の大統領選は勿論、その後も長期に亘り、この地帯での動きが大統領選を左右していくものと見られると、米ジョンズ・ホプキンス副学長Kent Calder氏は指摘する処です。[(注)日経11/16]

因みに①地帯では主として共和党を、②では民主党、そして③では、従来民主党支持と見られていましたが、石炭産業を抱える地域だけに、環境問題に緩やかなトランプ台頭以降、共和党支持に向かっている由ですが、要は地域産業と政治の絡みをどう見極めていくかにかかると云う問題です。

尚,「オバマ政権への反動」とは、オバマ政権が打ち出した医療保険制度、つまりオバマケアーが齎すコスト負担増への反発、上述のヒスパニック等、低賃金労働者の大量移入の容認への反発等々ですが、これらへの対抗が結果としてトランプ台頭を許す処となったとされる点で、それら周辺の動きの見極めが肝要となる処です。尚、オバマ政権が人権上の問題として取り上げた人口中絶容認も、トランプ支持にあるキリスト教福音派有権者(全米人口の4分の1とされている)の強い批判を生む処、極め付きはこれまで不問とされてきたエルサレムの首都容認を果たしたのも福音派の支持に応えんとするもので、トランプ政治を見ていく上では、宗教的事情を踏まえることの重要さを実感させられる処です。

・トランプ党vs民主党
さてこうした彼の言動は、時に論理矛盾を露わとしながらも、トランピイズム、つまり愛国、大衆、敵対を含意とするものとして受け止められ、もはや共和党と云うよりトランプ党の様相を極めつつあり,それはまさにidentity politicsへシフトする姿とみる処で、懸念の集まる処です

その点、過去3回(2014/2016/2018)の中間選挙の得票総数では、民主党が共和党に対し、120~100百万票の差をつけて推移してきた(注:米Columbia大教授J Sachs氏, `Trump’s Diminishing Power and Rising Rage No.12 ,Project Syndicate )由で、今回の投票行動では共和党主導の議会政治にストップを、との声が高まってきたやに窺える処です。問題は、では民主党はトランプ氏に対抗し得る人材の確保ができているのか、です。現在メデイアでは、バンデイ前副大統領やバーニー・サンダース上院議員の名前が挙がる処ですが、いかにも古証文と云え、今回落選したベト・オールク氏のようなオバマの再来とされる若手も俎上に乗る処、残る2年、トランプに勝てる対抗馬の擁立ができるかは、依然大なる課題です。

・トランプ外交と日米関係
さて、こうした内政環境にあって最大の外交問題は、米中貿易戦争ですが、政治事情がどうあれ米議会は、全体としてトランプ政権と共に、中国との対立を深めていく事と思料される処です。そんな中、11月13日、APEC首脳会議出席(代理)の途次、来日したペンス米副大統領は安倍首相と会談し、共同記者会見では「インド太平洋地域へ日米合わせて最大約8兆円のインフラ投資を実施する」旨を発表し、改めて日本との連協強化を確認したという事でしょうが、要は対中警戒で足並みを揃えておきたいという事だったのでしょう。
ペンス副大統領と言えば10月、米国の対中方針演説で「中国は米国の軍事的優位を脅かす能力の獲得を第一目標にしている」と断じ、「中国製造2025」計画を米技術の「略奪」と評し、「断固たる態度を取る」と訴え、新しい冷戦を煽った仁です。(弊論考11月号) いま、米中の対立が深まる中、中国の対日接近が進み(後出第3章)、日中新時代が云々される状況です。さて、米中のはざまにあって米国の同盟国日本として、如何に是々非々を貫くことが出来るか、高度な対応が求められる処です。


第2章 メルケル独首相の党首辞任表明と欧州の行方

(1)メルケル独首相の党首辞任表明

さて、ヨーロッパ(EU)でも大きな変化を予感させる事件が起っています。10月29日、ドイツ、メルケル首相は与党のドイツ州議会選での連敗(14日、28日)を受け、与党党首の辞任を表明したのです。辞任の事由は従って州議会選での連敗の責任を取ると云うものですが、党首として自由主義と欧州統合を目指し18年間、欧州を引っ張ってきたメルケル首相の退任表明は、当然の如くに欧州(EU)の行方に大きな不確実要因を投げつける処となっています。 ただ与党の連敗が意味することは単に政権批判と云うよりもドイツ社会の国際化や宗教離れで有権者の価値観が大きく変わってきた事が底流にあるとされる処です。

ドイツの戦後政治を担ってきたのは、保守系のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と中道左派のドイツ社会民主党(SPD)の二つの国民政党で、両陣営がしっかりしてきたことで、政治リスクの小さい「欧州の安定役」を担ってきたと云うものです。然し、14日のバイエルン州議会選では保守の得票率が37%と68年振りの低水準にとどまり、SPDは1桁で惨敗。28日のヘッセン州議会選でも保守(27%)とSPD(約20%)が退潮、左派系の緑の党(約20%)や「ドイツのための選択肢(AfD)」(13%)の迫る処となってきたのです。

つまりその姿は、二大政党を軸とした政党システムから、言うなれば群雄割拠の多党化へとシフトする姿を露わとする処、ドイツ政治が歴史的な転換点を迎えた事で欧州に地殻変動をもたらす処となってきたという事です。言い換えれば、伝統的な社会・宗教を重んじる保守と所得再分配を訴える社民と云う二つの陣営だけでは社会を作れなくなってきた事を語り、国粋主義者からグローバル主義者までの多様な価値観が今、ドイツには雑居する状況となってきた事を示唆する処です。

これまでメルケル人気が二大政党の落日を覆い隠してきたものの、それが剥げ落ちた瞬間、‘時代’に取り残される姿が露わになったと云え、もはや執行部を刷新しても復活は難しいとされる処、二大政党を軸とした古い政党システムと決別し、脇役にあった新興・中堅政党が本流に躍り出る状況にシフトしだしたと云えそうで、その分、視界不良と云う処です。

思うに、2015年の難民受け入れで、メルケル評が一変。反移民の右翼勢力が欧州を席巻し、‘親メルケルか反メルケルか’、が欧州政治の軸となってきた点で、「欧州の盟主」ドイツ、メルケル首相の党首辞任発表は、欧州の行方を不確実なものとする一方で、G7においては、トランプ氏の発言力を高めることにも直結する処とも云え、世界の不確実性は更に高まることになると見る処です。

・イタリア政府とEU委の対立
尚、EU運営に係る実践的問題も浮上しています。つまり、11月13日、2019年度予算を巡り、イタリア政府とEU委員会との対立が露呈してきた事です。問題はイタリア政府が提出していた予算案が、EUが加盟国に義務付けている財政規律ルール(政府債残高はGDP比「60%以下」とする)を大きく上回る130%となっている点で、その修正要請を受けたイタリア政府が、拒否したことで、EUとして制裁手続きを考えると云うものです。

この背景にあるのが、今年6月、「5つ星運動」と極右「同盟」の連立で誕生した反動政権が、最低所得補償の導入などバラマキ予算としたものの由で、EU委では財政ルール軽視を放置すれば、単一通貨ユーロの信認を揺るがしかねないとして、制裁金を科す手続きに入ると云うものですが、その推移如何はEU運営を律する事にもなりかねません。

こうした政治環境に加え、不透明感を強めるのが欧州景気の停滞感です。8日、EU委が発表した2020年までの経済見通しでは、ユーロ圏の2019年の実質成長率は前年比1.9%と
7月時見通しから0.1ポイント下方修正で、3%を割り込めば3年振りと云うものです。       
元より、トランプ政権が仕掛ける通商摩擦や原油高が経営者や消費者心理に影を落としている要因も挙げられる処ですが、英国のEUからの離脱交渉の難航やイタリアの財政懸念等、まさに身から出たさびとも云うべく、とにかく欧州各国は、懸念される景気失速への危機感を共有し、事態の打開に結束して臨むべきが、問われる状況にある処です。

(2)「西洋の没落」再び、か

・The Decline of the West, Again
かくして西洋に輝く太陽が沈む一方、その陽はアジアに昇ると断じるのはHertie School of Government in Berlin教授のHelmut K. Anheier氏です。彼はProject Syndicateに投稿の10月26日付論考、The Decline of the West, Again(西洋の没落、再び)で、著名なヨーロッパの学者、政治家の言動をリフアーしながらglobal balance of power は間違いなくアジアに向け動き出していると指摘するのです。つまり「西洋の没落」については世界的大著O. Spenglarの ‘The Decline of the West,1918‘があり、Samuel Huntingtonの‘The Clash of Civilizations and the Remaking of the World Order,1996’の語る処としながらも、英国のEU離脱への動きに見るような今日的西洋の没落が進む中、Trumpの`America First’、更には国連総会でのvainglorious(うぬぼれ高い)言動はまさに西洋の崩壊を語る何物でもなく、世界は明らかにアジアに向かう事を選択していると断じるのでした。

・アフター・ヨーロッパ
尚、タイトルに魅せられ手にした新刊「アフター・ヨーロッパ」(原題 ‘After Europe’ イワン・クラステフ、岩波書店 2018/8)で、著者は「欧州が、政治は極右ポピュリスト政党の伸長で不安定になり、経済は緊縮政策で痛み、社会は難民流入で荒れている。欧州のリベラルな普遍的理念は誰の心にも響かない‘ガラパゴス’となってしまった」と云い、「政治の分裂の歴史を注意深く学ぶと、生き残りの技術とは絶え間ない即興の技術であるということが分かる」と云うのでしたが、であれば、それこそが欧州の課題と云うものかと、思う事しきりです。 


[ 第2部  自由貿易主導のアジア、そして日本 ] 


第3章 日本とアジアの新時代

(1) 日中新時代を確認した両首脳会談

10月25日、北京で行われた日中平和友好条約発効40年を記念する式典に出席した安倍首相は、翌26日、習近平主席との首脳会談に臨み席上、新たな時代の日中関係について「競争から協調へ」などの3原則(注)につき提示がなされた由で、両首脳はそれを確認したと報じられています。(日経、10/27)が、普通、公式首脳会談であれば、共同声明が出されるのが常ですが、今回は記者会見と云う形で終わっており、双方の認識に微妙な差を感じさせられる処でした。

(注)・日中の新たな3原則:① 競争から協調へ ② 隣国として互いに脅威とならない、
③ 自由で公正な貿易体制の発展
  ・「3原則」を巡る日中両国の認識(立場)の差異(日経10/30);
        日本:安倍首相は29日の国会答弁で「3原則を確認」したと発言
        中国:「首相の表明を歓迎する」と内容には同調。「3原則」の言葉は使わず。

さて、日本の首相として公式訪問は7年ぶりの事でした。2012年、日本政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化したのをきっかけに日中関係は凍り付いたままにあって、漸く17年頃から中国は、少しずつ改善に向かい出してきたのです。それはトランプ米大統領の登場で、米中摩擦が始まり、従ってトランプ米国睨みの対日接近と云うものです。 つまり、トランプ政権が17年12月に公表した「国家安全保障戦略」(弊月例論考2018年1月号)で中国を「競争相手」と定義すると,中国はトランプ氏が対中圧力を強めてくると確信したとされているのですが果せるかな、今夏以降、米中は貿易戦争に入り、いまや米中覇権争いの様相にある処です。(注)
(注)11月14日、米議会「米中経済安全保障再考委員会」が公表した2018年版報告書で
 は「覇権を目指す中国の試みは米国の安全保障や経済的利益に疑いようのないリスクと
なる」と再び対中批判を鮮明としています。(日経夕、11月14日)

加えてトランプ氏は米国が旧ソ連と結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を表明し、米ロの軍事的な対立も懸念される環境も生まれてきている事情もこれありで、中国としては、この際は対日関係の改善に活路を求めたものと見られる処です。 そう言えば1989年、天安門事件で西欧諸国から経済制裁が科されたとき、中国は日本を突破口に見定め、また日本もいち早く経済制裁の解除に動き、92年の天皇陛下の訪中に繋げていった経緯がありました。
                                
とに角、上記3原則を枠組みとした両国の協力関係は、経済分野を中心に実務的には幅広いものとなっており、具体的には、中国が求める第三国市場開拓での連携や、金融分野では失効中の円元スワップ協定の再開合意等が挙げられる処です。ただこうした協調案件が、さて具体的に実行されうるものか、約1年前には米中首脳会談でも巨額商談の調印式はあったものの、その多くは棚上げとなったままにある事情に照らす時、そうした合意がスムースに稼働するよう、双方には更なる協力の強化が求められていく事になると言うものでしょう。

かくして経済を接点として接近する両国ですが、これがたとえ打算の産物であっても、中国がこれまでのような孤立の道に進むのを止める役割を果たすなら、相応の意味のある処でしょうし日本にとってもメリットのある処です。 元より、安全保障上の懸念、今や常態化している中国公船の日本海領域の侵入、東シナ海でのガス田開発等、まだまだ問題の残る処ですが、予て安倍首相は、「東シナ海を平和、友好、協力の海に」と公言してきており、この言葉を体現できれば、信頼醸成への更なる一歩となる処です。 そうした文脈にあって次の課題は、来年6月、大阪で開催の20か国・地域(G20)首脳会議へ出席のため習近平主席には初の訪日が予定されていますが、これを機会に両国は首脳の相互訪問を基礎に、軸がぶれにくい安定した関係を目指すべき処です。いま、日中関係のみならず、日本を巡る国際環境は日本の出番を促す状況にあるのです。

(2)アジアを巡る自由貿易構想と日本

・TPP協定の発効
10月31日、TPPの事務局であるNZのパーカー貿易・輸出振興相が記者会見で、発効に必要な6か国の国内手続きが終了したと発表。この結果残る5か国を残すも12月30日を以ってTPP11は発効する旨、発表しました。(注) これで、域内人口は約5億人、国内GDPでは世界の13%にあたる11.38兆ドルを占める巨大貿易圏が動き出す事になったと云うものです。因みに、政府は日本のGDPを年約8兆円押し上げ、46万人の雇用創出につながると試算している由です。(日経、2018/11/01)
(注)批准済み6か国:メキシコ、日本、シンガポール、NZ, カナダ、オーストラリア
       未批准5か国:ベトナム、ペルー、チリ、ブルネイ、マレーシア

米国の離脱で一時、壊れかけたTPPでしたが、11か国で発効に漕ぎつけられたのは日本の貢献に負うものと誇れる処です。とりわけ、成長著しいアジア太平洋地域で自由度の高い貿易・投資協定を実現し、トランプ政権が拡大させる保護貿易の防波堤を築く意義はことさら大きいものがある処です。メデイアによると、タイは2019年に参加を目指し準備中であり、EU離脱を目指す英国も19年3月以降の交渉を想定しているとの由ですが、いずれにせよ日本としては参加国の拡大にも指導力を発揮し、TPP11の基盤を更に強化していく事が期待される処です。序でながら日米間では19年1月から2国間のTAG交渉が始まりますが、その際はTPPの基準やルールに沿った合意を目指すべきと思料する処です。

・自由貿易主導のアジアと日本の出番
元より日本の自由貿易圏づくりはTPP11で終わるものではなく、EUとの経済連携協定(EPA)の発効(19年初めを目指す)や、更には日本や中国、インドそしてASEAN諸国
等16か国が参加するRCEP,「東アジア地域包括的経済連携」交渉についても、年内の実質妥結を目指す処です。但し、中国が日本の求める高い自由化率に抵抗感があり、癒着ぎみにありますが、TPPの高い自由化率等を目安として明確に示すことが出来れば、交渉を主導できるのではと思料するのです。そうした折、英エコノミスト誌は、柔軟な政策対応を以って持続的成長を図っているオーストラリアは、現下の世界にあって‘きら星的存在’と映るとして豪州を特集し、かつての特集、「日はまた昇る」を想起させる処です。元より彼らの問題意識は「自由で開かれたインド太平洋構想」(Indo-Pacific Vision)に及ぶ処、豪州、インドと共に具体化推進を目指す日本のインタレスト、琴線にも触れる処です。つまり、日本の出番がそこにあるのです。

昨年、米Princeton大学G.J. Ikenberry教授が‘Foreign Affairs’で提言していたトランプ主義外交への対抗として日独で、具体的にはメルケル首相と安倍首相が連携してLiberal International Order(国際協調秩序)づくりを目指してほしいと声を挙げていました。前述事情にあるメルケル首相はともかく安倍首相にはその役回りにある事が実感される処です。

尚、この際、ハーバード大学 デイビス教授は、現下の世界情勢にあって、多国間協定に取り組む日本の努力を高く評価しつつ、問題は、世界の貿易体制では自由化の促進が偏重される一方、構造改革に関する政策は個々の国に委ねられて来たが、各国政府は、政治的に持続可能なバランスの良い貿易政策の策定に必要な改革案を纏めようとしないことにあると云うのです。(日経、「経済教室」2018/9/6)要は、各国政府はあまりに長い間、構造改革や再分配を放置し自由化にばかり力を入れてきた結果、市民は怒りを募らせ、貿易制度全体を脅かしていると云うのですが、改めて銘記しおくべき処かと思料するのです。


おわりに  ‘選ばれる国、日本に’ 

本稿draft中の11月23日、2025年万博開催地が大阪に決定との知らせが入ってきました。1960~70年代に行われた東京五輪(1964)、大阪万博(1970)は、当時の日本経済の高度経済成長を支える要因となったのですが、2020年の東京五輪、2025年の大阪万博開催は、同じ構図にある処、早速にその経済波及効果はインバウンド効果を中心に日本全体として約2兆円に達するものと、期待の高まる処です。
 
処で、気になるのが、時おり政府筋から聞かされるcampaign phrase「選ばれる国、日本に」
です。定義のほどは承知しませんが、察するに、外国人に‘日本は住みよい国’、‘働きたいと思える国、日本’ にしていこう、という事かと思料するのですが、それは上記イベントを行えばOKというものではありません。勿論、大イベントで日本への理解は深まる事でしょうが、それには日本が受け入れ国として相応のシナリオと、そのための確固とした哲学を用意しておくことが不可欠です。

さて、11月13日、「出入国管理法改正案」が国会に提出されました。急速な高齢化で労働力制約が強まる中、外国労働者の受け入れを拡大し、係る事態に対応していこうと云うものですが、この際は、外国人受け入れとは人手不足解消の為だけではなく、競争を通じて日本人労働の質を高めることにも貢献する、つまり双方の利益になるという視点を、まず確かなものとする事が肝要です。そして、中長期的に労働力の確保を目指すとすれば、それは日本の成長基盤づくりにつながる処、延いては日本の将来をも規定していくことになるとの自覚が不可欠と云うものです。然し審議の現状は、まさに空回りの様相にあり、それはそうした認識、自覚の欠如に負うものと思料するのです。そこでこの際は、感ずる所2点、記しておきたいと思います。

まず行政です。現在、法務省入国管理局が当該事案の主管となって進められています。ただ入国管理局はつまる処、国境で業務を担う組織ですから広く国内での雇用問題に対応できる組織ではありません。勿論、人の出入を管理とすることは重要です。が、事の本質に照らすに、法務省流の管理的発想を超えた、労働市場や医療保険等、包括的な例えば「外国人雇用法」を制定し、外国人労働に関する多様な業務を担える組織の導入を目指すべきではと思料するのです。もう一つ、日本の成長基盤づくりとは、日本経済の生業、日本国のかたちを、どのように描いていくかが、問われる処です。日米関係、日中関係等々、その行方を語るにしても今や、どういった国のかたちを目指すのか、その軸となる構想が不可欠と云うものです。‘選ばれる国、日本に’とは、まさにこうした行動様式を経ての事と、思料するのです。当該法案はまさに日本経済の転機を示唆する処、この際は並行して、日本国の目指すべき姿、designについて真剣な議論を深めて貰いたいと思うのです。  
(2018/11/26 記)
posted by 林川眞善 at 12:50| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2018年10月27日

2018年11月号  米中貿易戦争の行方、安倍長期政権の行方 ー 林川眞善

― 目 次 -

序 章  ドナルドの強権と、世界経済

(1) 米国と世界の断絶の瞬間
          
(2)絡み合う‘貿易と安全保障’
  ・トランプ通商政策と米通商拡大法(1962)
  ・‘新たな冷戦’状況に向かう米中関係

第1章  ‘新たな冷戦’に向かう米中関係  

(1)今、米中関係は新冷戦の瀬戸際
  ・対中報復第3弾発動で、リセットの米中関係
  ・ペンス米副大統領の対中‘三行半’演説

(2) 米中経済と、米中貿易戦争の行方
  ・米中経済の実態
  ・米中貿易戦争の行方 
  ・日中首脳会談と中国企業、華為技術(フア-ウエイ)

第2章  安倍長期政権と日本の行方

(1)安倍晋三首相に問われる課題
  ・今、安倍氏に求められる行動様式

(2)日米貿易協議(FFR)の行方

おわりに 沖縄県知事選と日本のIdentity Politics


         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
序 章 ドナルドの強権と、世界経済


(1) 米国と世界、断絶の瞬間

ドナルド・トランプ米大統領は、自身就任後2回目となる、今次(9月25日)国連総会の一般討論演説に臨み「グローバリズムのイデオギーを拒絶し、愛国主義のドクトリンを尊重する」と言明し、「米国第一」の立場を改めて訴えたのです。
云うまでもなく、国連は第2次大戦の反省に立って恒久的世界平和、そのための多国間協調体制を目指すこととして創設された国際機関です。従って年次総会では加盟各国首脳が、その目的に向かって、すべき事を語る場であり、以って世界秩序の堅持を確認する場とされる場ですが、トランプ氏の発言はまさにそうした世界的規範に背を向けた、独善的な言動となる処です。元より戦後世界の秩序を支えてきた加盟各国からの非難を一斉に呼ぶ処、それはグローバル化の象徴的存在であった米国と世界との断絶を思わせる‘瞬間’でしたが、何か孤立化する我が身を楽しむが如きと映るのでした。メデイアによると国連グテレス事務総長は昼食会で「我々は皆、世界市民でもある」と、トランプ氏に忠告した由でしたが・・・。

さて、その彼は、いま米議会の中間選挙(11月6日)を控え、自分ほど大きな仕事をした大統領はこれまでいないと、意気軒高、大統領就任以来2年、政策実績を誇示する処です。
確かに2016年大統領選での公約は相応に実現されては来ています。グローバリズムを拒絶する姿としてTPP、パリ協定等、国際的枠組みからの離脱方針を相次いで表明する一方、不法移民の取り締まり強化、サウスボーダー(国境)の壁建設等々も進め、大減税をも実施、更には、‘雇用の確保’、国内産業保護を名目に、WTOルールを顧みることなく、米国と関係二国間の貿易交渉を進め、製品輸入の抑制を実行してきています。(注)

    (注) 米国との二国間交渉:「ナバロ文書」で特定された6か国 [韓国、日本、欧州(ドイツ)、
NAFTA2か国 そして中国] に対して当該国との貿易赤字解消に向けた貿易交渉を実施。但し中
国とは合意なし。中間選挙向けに「米国第一」の具体的成果として誇る様子に、因みにトランプ
大統領はNAFTA新協定が確認された10月1日、「(大統領選での)約束を守った」とアピール。

ただし、トランプ主導の二国間交渉の姿は、大国、米国の圧力を感じさせ、脅しともとれる、強権的振る舞いを露わとする処、貿易ルールは国の力関係で決まる、いわば無法状態に陥ってしまう様相すら映す処です。それは自由貿易を規範としてきた世界経済を混乱させ、深刻な打撃を与える、まさに世界経済のリスクと映る処、中でも米国が仕掛ける対中圧力は、いまや米中貿易戦争状況を齎すなど、まさに世界経済を下押しする要因となってきています。

因みに、10月4日、IMFのラガルド専務理事は日経インタビューで「世界経済は引き続き安定的に成長しているが、半年前よりもリスクは高まって居る」と語り、7月時点の2018年と19年の世界経済の成長見通し(3.9%)の下方修正の可能性を示唆していましたが(注)、その最大の懸念が米中の貿易戦争であり、制裁の応酬が拡大すれば「影響は中国だけでなく、同じ供給網を築いている近隣諸国にも及ぶ」(日経10/5)と指摘するのでしたが、果せるかな、10月9日、IMFが発表した世界経済見通しでは、2018年の成長率予測は3.7%と7月時点から0.2ポイント下方修正され、併せて、トランプ政権が仕掛ける貿易戦争が更に激しくなる場合、世界経済は19年以降に最大0.8ポイント下振れすると警告するものでした。

    (注)世界経済の見通し
序でながら9月26日、国連(国連貿易開発会議)が発表した2018年度、貿易開発
報告書では、現状のまま貿易戦争が続く場合、2023年の世界経済の成長率は2.4%
に減速すると予測。同時に雇用や投資、個人消費などあらゆる分野が低迷すると警鐘
を鳴らしている。要は、金融危機で1.8%のマイナス成長に陥った後、2017年には
3.1%まで回復してきてきたものの、世界経済は再び緊張状態にありとされる処。

(2)絡み合う‘貿易と安全保障’

・トランプ通商政策と米通商拡大法(1962)
そうしたトランプ政権が進める対外通商政策、つまりは輸入抑制のための二国間交渉の在り姿は、いまや‘貿易政策’に新たな視点を齎す処となっています。

当該輸入抑制を目指す関税交渉は、いずれも米通商拡大法232条に照らし、米国が仕掛ける形で行われてきているものです。この232条とは、輸入の増加が、‘安全保障上の脅威’ となる場合、貿易相手国に対する制裁を可能とする法律ですが、さてアルミや鉄鋼が更には俎上に上がる事が噂される自動車など、これら製品が国内の安全保障に直結するものなのかと、疑問を呼ぶ処、本来ならWTOのパネルに諮るべきとされる処です。ただ、そもそも他国の政策を勝手に判断して、不当あるいは危険と見做し、当該貿易相手国を罰する権利があると一方的に主張する事自体、問題と云うものですが、結果として通商政策は、 ‘貿易と安全保障が密接に絡み合う状況’ を反映する処となってきたのです。

更に中国に対しては、上記232条に加え、301条(不公正な貿易措置への対抗)(注)の適用をも擁し、9月24日には既に通告済みの第3弾(対象2000億ドル相当)制裁関税を発動。(これで制裁関税対象総額は2500億ドル) 更に、中国の出方如何では全輸入製品への制裁関税拡大をも示唆するなどで、今や米中報復関税合戦の状況にある処です。 232条の担当が商務省、301条の担当がUSTR(米通商交渉代表部)ですが、この両者を擁した、まさに貿易戦争とされるだけに、チキンレースの様相を呈する処です。

(注)米通商拡大法301条:301条は80年代の日米貿易摩擦でフル活用されたが、WTO発足
後は封印され「抜かずの宝刀」とされていたが、トランプ政権は同文章を基に301条を積極
活用に転じ、中国の知財権侵害を制裁する名目で中国製品に追加関税を課す根拠としている。

さて、‘貿易と安全保障’が密接に絡みあう事態が進行するなか注目すべきは、そうした傾向を助長する背景として保守的な国家主義者の存在が云々される処、ビジネス寄りのリベラル派までもが保護主義に傾いてきたことです。
例えば今年4月に起こった中国の通信機器大手企業、中興通訊(ZTE)の米企業との取引禁止を巡る米国内の政治的反応にその典型を見る処です。つまり当該取引は技術の流出につながると、米国の安全保障上「重大な脅威」として一旦、トランプ政権は米企業との取引を禁じる制裁を課しています。然し後日、同社が罰金(10億ドル)を払う事を条件に取引禁止の解除を発表すると、米共和党からも、米民主党からも反対の声が上がったのです。

こうした国家主義色が強くなる中でもう一つ懸念される事は、独占禁止を巡る政策も安全保障のための武器となるという事です。やはりトランプ政権は、シンガポールの半導体大手ブロードコムによる同業の米クアルコム買収を阻止しています。その理由は、次世代通信規格「5G」の技術で米国が競争力を維持しなければならないとするものでしたが、何か国家主義色が強くなっていく様相に聊かの懸念を禁じえないのです。(注)

     (注)外資の対米投資規制:米財務省は10月10日、外資による対米投資の規制の詳細を発表。
半導体や情報通信、軍事など27産業を規制対象に指定し、事前申告を義務づけ、11月10日
から実施予定と。ハイテク分野での覇権を狙う中国から先端技術を保護する狙いとの由。

・‘新たな冷戦’状況に向かう米中関係
処で、9月24日、上述の通り、米政権は対中報復追加関税引き上げを発動していますが、これが米中関係に一つの転機を印すものとされるのです。既に発動済みの500億ドルと合わせ2500億ドル、米国の対中全輸入額(約5000億ドル)の凡そ半分に追加関税がかかることになる処、対立終息の道筋は見えず、世界経済の大きな波乱要因になるとメデイアは書き立てています。中でもFinancial Times,Sept.24は、今次の対中追加関税の引き上げ実施は、米中間の政治・経済関係の真のリセットにつながる処、今や、trade warと云うより、the beginning of something that looks more like a cold war than a trade war、つまり冷戦とも言える状況の始まりと、指摘するのです。

・本論考の構成
そこで本稿、第1章では、今や世界経済にとって最大のリスク要因となっている米中貿易戦争にフォーカスすることとし、上掲、FT記事をリフアーしつつ、その実状と今後の行方を考察することとします。尚、目下の米経済事情については、 2005年時のFRB議長グリーンスパン氏が当時の米経済について「コナンドラム(謎)」と呼んだと同じような現象、今再びと云われる処ですが、一方、中国経済の変調も伝えられる処です。そこで、両国経済の今日的生業を踏まえ、米中摩擦、より具体的には米国の対中貿易インバランス是正の可能性
について考察することとします。

加えて、10月2日、日本では第4次安倍改造内閣が発足しました。上述の通り、内外環境は大きく変化を呈する処、それが意味することは、これまでと同じ発想、行動対応では通じなくなってきたという事です。そこで、第2章では、長期政権となった安倍内閣の行方について、米中関係、日米関係の今後にも照らしつつ、改めて考察することとします。


           第1章 ‘新たな冷戦’に向かう米中関係


(1)今、米中関係は新冷戦の瀬戸際

・対中報復第3弾発動で、リセットの米中関係
9月24日、トランプ政権は中国に対し、既に告知済みの対象額2000億ドル相応の輸入品に対する追加報復関税措置を発動しました。今回の中国向け報復措置についてFinancial Timesの Columnist, Rana Foroohar氏は、同紙Sept.24付けでTrade hawks seize their moment.(米国の通商タカ派、対中関係リセットの好機をつかむ)と題し、当該行動はトランプ氏率いるホワイトハウスが下した無分別且つ性急な政策決定であるどころか、それ以上に危険な、長期にわたって影響を及ぼす行為だと批難すると共に、これは米中の経済的、政治的関係を完全にリセットするものであり、貿易戦争と云うより冷戦の様に見える状況の始まり、と断じるのです。加えて、このリセットを支持する動きはトランプ氏周辺にとどまらず、左派、右派両方に浸透し、それゆえ‘事’は深刻だと指摘するのです。

ではその深刻さとはどういう事か? 同記事が危機感を持って指摘するのは、トランプ政権内でのタカ派とされるナバロ大統領補佐官(通商担当)そしてライトハイザーUSTR代表(通商代表部)の思考様式です。
つまり、トランプ大統領は対中貿易赤字の事しか頭にはないが、彼ら二人は、中国との経済関係を断ち切ることが長期的に米国の国益に適うとしている事だ、と云うのです。確かに「ナバロ文書」にもそうした指摘は認められる処ですが、こうした発想に賛同する人達が国防総省には大勢いると云い、進歩主義的な左派で労働運動にかかわる人の中にも該当者はいると指摘するのです。そしてトランプ氏がホワイトハウスを去った後も、彼らの多くは権限ある地位に長く残るだろうと云うのです。つまり夫々の思惑は異なるだろうが、米国と中国とは長期的には戦略的なライバル関係にある事、それ故、米国の通商政策と国家安全保障政策はもはや切り離すべきでない、とする二点で手が結ばれているというのです。

更に、対中追加関税発動についてグローバル企業の経営者が口にする、高税率の引き揚げで目に見えるインフレ圧力が生じるとか、販売価格を引き上げざるを得なくなるといった不満に対して、経済タカ派は殆ど理解を示すことはなく、それどころか、西側の根本的な価値観を共有することもなく、色々条件を付けて最終的には自国の市場への平等なアクセスも認めないと云う中国に、自社の短期的な利益を優先して米国の事業を移してきたとんでもない存在だ、裏切り者だとさえ考えていると云うのです。こうした環境が、いま囁かれだす米中冷戦状況を、更に深める処となってきている処です。そして経済タカ派こそが、こうした政治・経済の環境変化に照らし、政策の方向性や世論を牛耳っていると断じるのです。

序でながら国防総省はsupply-chainを米国内に戻すことを提言する白書を作成中とかで、近々ホワイトハウスから発表予定の由ですが、中でもトランプ政権の今後の産業政策の方向として、全てを米国内で調達する、つまり「Fortress America」(要塞アメリカ)を作り上げることをめざすとしていると云うのですが、元より政治的にも現実的にも不可能な話です。が、仮にトランプ政権が米国として、そうした産業政策を進めたいと云うのであれば、欧州などいろいろな地域の貿易相手国と同盟関係を築く必要があるとも指摘するのでしたが、元より、トランプ大統領の得意とする処ではありません。

さてそんな中、ペンス米副大統領が10月4日、米ハドソン研究所(在ワシントン)で行ったスピーチは、こうした米中関係の変化を決定的なものと、印象付けるものでした。

・ペンス米副大統領の対中 ‘三行半’ 演説
10月4日、ペンス米副大統領はハドソン研究所で、`the Administration’s Policy Towards China ‘(トランプ政権の対中政策)と題してスピーチを行ったのですが、その内容は、`mobilized covert actors’ 秘密工作員を動員して「中国は米国に内政干渉しようとし、これまでになく力を誇示している」と激しく中国政府を批判する、まさに‘三行半’ものでした。以下の引用は、そのブチ切れ様子を伝えるべく、その障り、冒頭の一部を紹介するものです。

「Beijing is employing a whole -of-government approach, using political, economic, and
military tools, as well as propaganda, to advance its influence and benefit its interests in the US. China is also applying this power in more proactive ways than ever before, to exert influence and interfere in the domestic policy and politics of our country. Under our administration, we’ve taken decisive action to respond to China with American leadership, applying the principles, and the policies, long advocated in these halls.」・・・

今次ペンス副大統領のスピーチは、要は、中国が自由や民主主義と言った概念を理解していないことを糾弾し、トランプ政権が、本格的に中国の覇権拡大にストップをかけようとしていることを明らかにするもので、スピーチ後、ホワイトハウスは公式ホ-ムページにその全文を掲載(インターネトで入手可能)、トランプ政権の対中政策の転換を公式に宣言するものとなっています。この講演は11月のアジア歴訪を前にしたトランプ政権の包括的な対中政策と位置づけられるものの由ですが、1946年3月、チャーチルが「鉄のカーテン」を語って以来の歴史的演説とも評される処、まさに「新冷戦へのsignal gun」ともいうものです。

更に8日、北京で行われたポンペオ米国務長官と中国王毅外相との会談が、互への不信感をむきだしにした異例の激しい応酬(日経10月10日)に終始したと報じられていますが、係る事態とも合わせ見るとき、米中関係は長いトネル入りかと、まさに「新冷戦」瀬戸際にありと、感じさせられる処です。加えてペンス氏の発言が象徴する米国の対中強硬姿勢が、政権だけでなく与野党を問わず議会にも根強くある事が気がかりとする処です。

(2) 米中経済と、米中貿易戦争の行方

・米中経済の実態
米中貿易戦争の推移は前述の通り、両国の権威を掛けたチキンレースと映る処ですが、その実状は先に触れたように、米中の貿易不均衡改善を事由として米国が対中圧力をかけ、中国の通商面での対米依存を抑え、併せて中国が目指す技術立国「中国製造2025」の計画を押さえ込まんとするものと言われているだけに、米中貿易戦争の本質は「テクノヘゲモニー」、つまり科学技術の覇権争いと云え、簡単には収拾するものではないと見る処です。ただ、問題の中核にある米国の対中貿易インバランスの改善の可能性だけをみれば、両国経済の生業を見て行く限りにおいては、その改善の道筋は相応、見える処かと思料するのです。そのポイントはドル高です。

まず米国経済ですが、今年の2月以降、ドル高が続いてきています。これは米国経済の腰が強い事を語る処で、因みに米国の本年4~6月期GDP成長率は年率で4.1%、2014年7~9月期以来の高い数字です。トランプ氏は、ドル高は競争力を削減する要因としてnegativeですが、現実には米企業は海外市場で価格競争はしていませんから、輸出振興のためにドル安誘導は必要のない処です。米経済について今、言われる事は2005年、グリーンスパンFRB議長が「コナンドラム(謎)」と呼んだと同じような現象が起きていると云う事です。
つまり、FRBは引き締めにあるなか、景気は良いのに物価は上がらない、失業率は低下しているのに賃金が上がらないといった状況です。因みに去る5日、米労働省が発表した9月の失業率は3.7%、1969年以来の低水準です。これは新たな産業革命、デジタル革命の深化に負うものとされる処です。

尚、トランプ氏は’ America First’、`Make America Great Again ‘と叫んでいます。これは覇権国である米国を、これまで以上に強くするという事と理解される処です。つまり、America Firstを以って、他を寄せ付けることなく独自流パワーを身に付け、世界のヘゲモニーを握ろうとするものでしょうし、とすれば覇権国家として進んでいく上では財政基盤、経済基盤が欠かせませんが、これを支えるのがドル高と思料するのです。

一方、中国経済の現状ですが、去る10月7日、中国人民銀行は、15日から市中銀行から強制的に預かる預金の比率を示す預金準備率を1ポイント引き下げると発表しました。これで金融緩和は今年で3回目となるものですが、これは指導部が米国との貿易戦争による打撃で景気の先行きに危機感を抱いていることを裏付ける処です。更に、金融緩和を決めた7日の夜、劉昆財政相は追加減税を発表しました。財政と金融が揃って景気を支える姿勢を何とか演出せんとするものと映る処です。この中国を代表する2つの経済官庁のちぐはぐぶりこそは深刻化する貿易戦争への対応に不安を予感させると云うものです。
そうした中、19日、中国政府が発表した2018年7~9月のGDP成長率(実質)は前年同期比6.5%と2期連続で減退、リーマンショック直後以来の低水準に沈んでいます。この2期連続の減速は地方政府や企業の債務削減が打撃となり、投資や消費が振るわなくなった為とされる処、米中貿易戦争の風圧も強まり、先行きは更に下押し圧力が高まる見通しです。

・米中貿易戦争の行方
こうした米中経済の実情、とりわけドル高と、元安の事情に照らし米中貿易のインバランスの行方を観察すると、早晩、改善に向かうシナリオが描かれる処と思料するのです。

その理由のひとつは中国経済で進む人件費の上昇です。元より、これが輸出競争力を押し下げる処ですが、加えて米国の対中関税引き上げを受け、輸出拠点として中国に進出した外国企業が転出を図る結果、中国からの対米輸出の鈍化は避けられません。一方、中国政府は、国内の過剰生産から脱却していく為にも産業構造のハイテク化を目指しており、その為には必要となる製品の輸入は避けられませんが、ドル高の下では、中国輸入の膨張を齎すこととなり、その結果、中国の貿易収支の悪化は避けられなくなっていく事が想定されるのです。その点では習近平主席お墨付きプロジェク「中国製造2025」はもろ刃の剣、と云うよりは、輸入拡大の大きな要因になるのではと思料する処です。

つまり、ドル高、元安が進むなか、中国の対米輸入が膨らむ一方、米側の関税引き上げで中国の対米輸出が鈍化する形で、米中貿易の不均衡改善が進む事になると見るからです。と云うよりも、前述したように米国は輸出に当たって殆ど価格競争はしていない状況にあります。例えば、航空機では米ボーイングと欧州エアバスの独断場ですし、アップルのiPhoneのブランド力に代わる存在もありません。軍事装備品も同様です。つまりドル高でも彼らは買うしかない状況にある点で、対中関係での米経済の優位が確認される処なのです。

要は、貿易を名分にドル高をテコに金融戦争を仕掛け、人民元の脆弱性を知らしめる。「マーケット」はそれで「中国危うし」とみて「株」も落ちる。こうして実体経済も悪化し、中国としては何時までも突っ張ってはいけなくなる筈、とシナリオが書ける処です。 勿論、事態はそんなシナリオ通りに進むものか、環境は極めて不確実性の残る処です。因みにFinancial Times(Oct.20~21)は、元の対ドルレートは今年末、6.9, 更に来年末では7.20と元安進行を見る処です。

さて問題は、そうした米国の対中貿易赤字改善を以ってだけで、貿易戦争が終わるかと云うと、そうは問屋は許さずと云う処です。前述したように米中貿易戦争の本質は「テクノヘゲモニー」争とされる中、もともと中国潰しを指向する経済タカ派を擁するトランプ政権の行動は ‘戦争に勝利する’ことにありとされている点で、そうした‘争い’とも併せ見るとき簡単に終焉を見ることはないものと思料されるのです。ではどのような展開が想定されるかですが、神のみぞ知る処でしょうか。折しも20日、トランプ大統領は日中ロは核戦力の増強を進めているとして、米国が旧ソ連との間で結んだ中距離核戦力廃棄条約(INF)の破棄を表明しましたが、これに応える中ロの動きを見るに、何かキナ臭さを感じさせられる処です。

・日中首脳会談と中国企業、華為技術(フア-ウエイ)
序でながら、米中関係の緊張が増す中、安倍晋三首相は10月26日、北京で習主席と首脳
会談を行い、「日中平和友好条約」40周年の節目に友好ムードを高めたいとの意向と、伝え
られています。この際は国際情勢の展望を読み違えることのないように、中国との距離の取
り方には十分な注意が求められると云う処です。
折しも、10月17日、中国通信電気大手、華為技術(フア-ウエイ)が関西地区では初めてとなる研究所の新設を検討していることが明らかとなりました。同社は既に横浜市に研究所を構えていますが、更なる日本企業との連携を深める狙いかと思料される処ですが、やはり米国の仕掛けた貿易戦争にあるのではと思料する処です。つまり日本企業との連携を高め、日本の技術基盤を活かしながら、更なるグローバル化を進め、中国企業たるを理由に華為を排除する米国に対抗する狙いがあるのではと、思料されるのです。

尤も、今次日中首脳会談では新技術や知的財産権問題で新たな対話の枠組みが合意される見通しにあることから、この機会を活かさんとの思惑も窺える処です。但し、今は米中摩擦が激しいことで、中国も日本に近づかんとする構図ですが、これとて、仮に米中関係が改善すればどうなるものかですが、かかる国際情勢にあって日本企業と強固な関係を築き上げることが出来るか、推移を見極めていきたいと思うばかりです。


            第2章 安倍長期政権と日本の行方


(1) 安倍晋三首相に問われる課題

9月20日、自民党総裁選3選を果たした安倍晋三首相は、10月2日、4回目となる改造内閣を発足させました。今後順調にいくとすると首相の在任は2021年9月まで9年に及び、連続在任日数と、第1期政権を含めた合計在任日数は、ともに日本憲政史上最長となるものです。ただ、これだけの長期政権でありながら、「安倍時代」に日本はどう変わったのか、依然としてはっきりしないように思われます。何故か? 京大教授の待鳥聡史氏は、「恐らく、安定感のある外交とは対照的に、内政面で当初は比較的明瞭だった政策の基軸が失われたことにある」のではとし、「安倍政権には内政と外交の‘二つの顔’があり、両者の違いが次第に大きくなってきた」(日経2018/9/27)ためと指摘するのです。

つまり、内政では2012年末、第2次安倍政権発足時、発表された経済政策「アベノミクス」により経済再生を目指すと言う点では、その内容や方向と言った点で相応の批判はあったにせよ財政出動と金融緩和を大胆に実施し、その後は成長戦略として構造変革に取り組むという工程表は、多くの有権者にとって期待できる処、政権は「第3の矢」に当たる社会経済構造の変革には尻込みし、短い周期での解散総選挙を繰り返して当座の政権浮揚を図るという方針に転じた事が最大の問題で、そうした彼の行動がゆえに今尚、何をどうしたいのか不明瞭なままに置かれてしまっているという事です。

一方、外交では安保法制など思い切った政策を進めるために、総選挙での勝利による政治的資源が必要だったと云う事情は理解するとして、あまりにも当座に偏った動きが続いたため、日本の社会と経済を今後どうしたいのかが不明瞭になってしまっているのです。これこそは、これまで何度も本論考で安倍首相には国家観が見えない、日本の社会と経済を今後どうしたいのか見えないと批判してきた処ですが、実はこの点こそは今後、3年間で安倍政権が何を‘目指すべきなのか’に密接に関係する処です。

・今、安倍氏に求められる行動様式
周知の通り彼は総裁選で、又、改造内閣発足時の記者会見でも、最大のテーマは憲法9条を巡っての憲法改正と主張しています。総裁選での勝利で求心力を得たからという事でしょうが、であればその発想と行動様式は結局、2015年頃から続くパターンの繰り返しとなる処でしょうか。勿論、憲法改正が望ましいとする有権者は少なくはありません。然し、都度の世論調査結果では、経済や社会保障と言った内政課題に比べ、その優先度は極めて劣位にあります。という事は、それは有権者の期待する処とは聊か乖離しているという事です。

そこでまず肝要な事は、その乖離への真摯な理解、認識を確かとする事です。そして、今トランプ政権の保護主義に振り回される中、日本は自由主義を基調とした国際秩序を維持する立場を取るとしていますが、元よりその立場を強く支持する処です。が問題は、ではそれに見合う開明的、そして多様性重視の社会を目指す国内改革を進めていく事が不可避となる処ですが、さてそれに対する用意があるかという事です。 要は、国際的な保護主義の波と国内的な少子高齢化を前に、自由で活力ある社会をどう維持するか、日本の今後への構想と、それに向けた戦略アジェンダを整備し、以って広く議論を通じて有権者に訴えていく事が求められると云うものです。

長期政権の最大の存在意義は、有権者からの信任を全面活用して、困難だが不可欠な課題に取り組む処にあるのです。言い換えれば、それを見失えば、3年後は単に安倍政権の終わりではなく、日本政治にとって深刻な危機を齎しかねないと云うものです。

(2)日米貿易協議(FFR)の行方

トランプ大統領の対日貿易赤字削減要求に端を発した日米通商問題は、9月26日、NYでの日米首脳会談でひとまず決着を見ています。今回の日米首脳会談では、米中間選挙を前に2国間交渉で成果を挙げたいトランプ大統領の意向もあって、日米間の物品貿易協定(TAG)
の交渉開始で合意された由ですが、具体的交渉は米議会との関係で年明けとの見通しです。

さて交渉に臨む日本政府に、東大教授の中川淳司氏は次の三点を提案するのです。(日経9月7日)一つは、日本の農産物市場の開放、次に、知的財産、投資、国有企業の規制、そして電子取引の4分野でTPPを実質的に復活させるルールの提案、三つ目は日本企業の対米投資拡大による米国での雇用創出、です。そして日米交渉でも米国のTPP復帰を粘り強く説得せよと後押しをするのです。つまり、TPPを「21世紀の通商協定のモデル」と位置付けたのはブッシュ(息子)政権からオバマ政権までの歴代米政権。トランプ政権にTPPへの名誉ある復帰を求めて粘り強く交渉を進めることがポストFFRの日本の対米通商政策の目標となると云うのです。それにしても、やはり日本経済成長への構想力の如何が問われる処です。


おわりに 沖縄県知事選と日本のIdentity Politics

9月30日、翁長知事の死去を受けて行われた後任知事選では、オール沖縄を掲げて立候補した玉城デニー氏が、自民党等安倍政権が全面的に支援した佐喜真氏を8万票もの大差をつけて勝利しました。周知の通り、知事選最大の争点は、普天間基地の名護市辺野古への移転の是非でした。玉城氏は「県内に新たな米軍基地はつくらせない」と訴え、8月急逝した翁長前知事が作った保革相乗りの「オール沖縄」の枠組みを再現したのでした。翁長前知事はかつて自民党に属していて、日米安保体制にも在日米軍の駐留にも賛成していたのです。ただ掲げていたのは「沖縄の過重な負担の解消」だったのです。にもかかわらず、安倍政権は翁長氏を反米主義者の様に扱い対決姿勢で臨んだのでした。振興予算を削るなど「兵糧攻め」のようなこともしています。こうしたやり方が結果として翁長氏を引き継いだ玉城氏に追い風となったと思料されるのです。

その翁長前知事を送る県民葬が10月9日行われました。会場では玉城新知事は式辞として翁長氏が主張していた「イデオロギーより、アイデンテイテイー」を繰り返し、その思いと、遺志を引き継ぐと約していました。さてその後に立った菅官房長官が代読した安倍首相からの追悼の辞は、玉城氏が8万票の大差をつけて当選した背景にあるある民意を一顧だにすることもなく、淡々と「沖縄県に大きな負担を担っているこの現状は到底是認できるものではない」、「基地負担の軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意」にあると云うものでした。その直後、参列者からは「嘘つき」などと怒りの声が飛び交い、会場は一時騒然としたのです。この県民葬で浮かび上がったのは県と政府の溝の深さでした。

さて、日米両政府が普天間基地の返還で合意したのは22年前、1996年の事です。今更白紙撤回で、改めて移設先を探すのも現実的ではないでしょう。他方、基地は作ればいいと云うものでもありません。米軍将兵にも生活があり、地元住民の協力なしには円滑な運用は難しいと云うものです。問題はこの二つを両立させるには、どう考えて行けばいいのか、つまり、そのための構想力が改めて求められる処です。12日には、安倍首相は玉城知事と官邸で会談しました。が、安倍首相の姿勢は日米運命共同体の発想から一歩も出ることもなく、17日には政府は県による埋め立て承認撤回への対抗措置を指示したのです。安倍首相はどうも「嘘つき」政治にご執心ようです。(2018/10/26記)
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2018年09月27日

2018年10月号  Identity Politics , そして Liberal Order の行方 - 林川眞善  

目 次
    
序 論   Identity Politics , WTO and Silicon Valley
  
第 1 章  Identity Politics と 民主主義   

(1)Identity Politics と米民主党の変質
  ・トランプ政治とIdentity Politics
・変質する米民主党
(2)Identity Politics は民主主義の危機
    - Francis Fukushima氏の反論

第 2 章 リベラルな国際秩序の行方       

(1) 戦後「国際秩序」生成の生業
  ・戦後国際秩序としての国連誕生
  ・国連常任理事国
  ・冷戦の終焉
  ・J.アタリ氏の信念
(2)「多様性を受け入れる秩序」
  ・リベラルな秩序
  ・JFKの示唆

 おわりに 安倍晋三氏の自民党総裁3選に思う  
  ・民主主義政治の基本は‘プロセス’ 
  ・創刊175年の英経済誌 `The Economist ‘


         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

序 論  Identity Politics , WTO and Silicon Valley


ドナルド・トランプ氏が米大統領として世にその存在を示したのが2017年1月。爾来、僅か1年8カ月、米国政治の風景は様変わりとなってしまいました。勿論、新たな大統領の登場は、新たな政治方針と政策を以って政治に臨むわけでしょうから、当然の結果として政治は変化を遂げ、進化をも示す処です。然し、殊トランプ大統領について言えば、これまでの米大統領に見る姿、つまり戦後一貫して、自由経済を支え、そして世界秩序を堅持してきた、言うなれば世界に対する‘責任’を矜持ともしてきた大統領の姿はなく、あるのはAmerica first、つまり自国利益を求めて進む姿であり、対外的にはAmerican retreatを映す処となっています。元よりこれが、米国の政治、経済、そして産業の在り方に強い変化をもたらす一方、世界経済運営の枠組みすら否定するほどになってきています。その変化はずばり‘後退’の変化と云う他なく、そうしたトランプ氏については、米国の役割、つまり国際秩序の堅持に異議を唱えた初の大統領として明記されていく事になるのでしょう。

尤も彼だけが異質と云うわけではありません。1971年8月のニクソン・ドクトリンでは、国際金融システム、金ドル交換制度の停止、輸入課徴金の実施と云う、国際秩序に背を向けた例もあるのですが、ただ基本的な違いは後述するように、大統領選を通じて、今もそうですが、いわゆるタブーとされてきたraceへの意識、Identityを鮮明として、言うなれば「人種政治」を訴えた事が功を奏する処、それを「米国第一主義」と結び付けた政治、貿易、更に産業運営が行われている点にあると云うものです。そうした米国の変化を伝えるkey words として挙げられるのが、Identity Politics (政治)、WTO(経済)そしてSilicon Valley (産業)の三つです。

まず、Identity Politics です。これはトランプ大統領の言動に刺激され、人種を意識した、これまでのliberal democracyとは次元を異にする政治、弱者集団の声を代弁する「人種政治」(アイデンテイテイー政治)とされる動きです。とりわけ米国のDemocratic Party(民主党)がこのIdentity Politicsに舵を切りだしたと云われていますが、極めて注目される変化です。元よりこれが米国の政党政治に強い影響を与えると共に他諸国でのポピュリズムにも強く反映する処です。因みに9月9日、スエーデンで行われた議会選挙では「反移民」を掲げる極右・民主党が躍進。更にリベラル思想の旗手とされるドイツで排他主義が広がってきたこと、元よりこうした政治潮流が欧州全体の政治危機に繋がると、その危うさが伝わる処です。 
(注)Identity Politics :何かの属性に起因して社会から奪われた価値を取り戻し、政党に承
 認を得られる状態を実現するための運動と定義されるもの。

次にWTOですが、それは戦後の自由主義貿易の砦とされる、米国が主導してきた多国間協議の国際機関です。にも拘わらずトランプ米政権は、国内産業の復活、雇用機会の確保を理由に、WTOに諮ることもなく輸入規制策を強硬。つまり、当該二国間交渉による関税の見直しを通じて米国の貿易赤字是正を迫るトランプ流Deal 外交戦略ですが、とりわけこれが米中間での関税報復合戦を招来する等、まさにWTOの存在を否定する如きです。戦後の国際秩序の下、培われてきた自由貿易のシステムが壊れだしたと云うべく、その点では環境変化に対応できるWTOへの改革が喫緊の課題となっており、先の論考でも指摘の通りです。

そしてSilicon Valley。世界の技術革新を圧倒的にリードしてきた米国 シリコン・バレーに陰りが出てきたという事態です。9月1日付The Economist誌の特集`Peak Valley’ は極めて刺激的なリポートでしたが、シリコン・バレーの相対的な凋落が、競合する活発な技術拠点の交流を告げるものであるなら歓迎されるべき変化でしょうが、当該陰りとは、世界中で技術革新が難しくなっているのではと、警告を発するものでした。係る事態も例のビザ発給問題に象徴されるトランプ流人種政策が影を落とす処と云うものです。

さて、世界貿易の関税報復合戦(注)は、これまでも当論考で、縷々報告してきた通りで、とりわけ米中の報復合戦はチキンレースの様子を呈し、推移しています。又‘シリコン・バレー’の翳り論も大変な問題ですが、これについてはIdentity Politicsの文脈において捉えていく事も可能です。 そこで今次論考では、三つのkey words の内、Identity Politics をテーマに論じる事とし、更に、そうした環境にあって、今後とも求められる国際秩序とはどのような姿であるべきか、ヨーロッパ最高の知恵と言われるフランスJ.アタリ氏、そしてハーバード大の政治学者G.アリソン教授の著作を介して考察する事としたいと思います。

     (注)トランプDeal 外交の現場(9/24現在):
   ・米欧協議:7月25日、自動車を除き、関税撤廃交渉入り(9月10日交渉再開)
・NAFTA協定交渉:8月27日「米墨改訂合意」、「原産地規則」改訂(実質Buy American)。
賃金条項、自動車数量規制; 8月28日「米加交渉」→ 9/11再開 → NAFTAの行方。
・日米協議:8月9・10日仕切り直し→対日赤字是正圧力とFFR協議(9月24日再開予定)
尚、9月26日、NYで日米首脳会談予定
      ・米中協議:上記通商拡大法232条(安全保障対応)に加え、301条(不公正貿易慣行対応)を
       適用。対中制裁関税の決定― 米対中制裁関税 第1弾~3弾:2,500億ドル、中国の対米
       報復関税:1,100億ドル(8月23日、制裁関税第2弾発動、9月24日、第3弾、発動)
     



            第1章 Identity Politics と 民主主義


(1)Identity Politics と 米民主党の変質

・トランプ政治とIdentity Politics
米国の指導者がいつも戦後秩序の守護神、自由貿易の旗手であって「トランプ大統領が例外」かと云えば必ずしもそうではない事、前述したとおりです。
第37代米大統領、ニクソンは1971年8月15日、「金・ドル為替制度」の廃止と一律10%の輸入課徴金導入の決定、つまりニクソンショックです。その際、彼は次の様に演説しています。「米国は過去25年、欧州やアジアの自立の為に巨額の支援をしてきた。今日、彼らは経済的に強くなったのだから世界の自由を守るために応分の負担をすべきだ。為替相場について米国が手を縛られて競争する必要は何もない」と。

一方、今年2月28日、トランプ大統領は「米国の貿易政策と年次報告」を議会に提出していますがその際のスピーチも、上記ニクソンの口調に似るものでした。つまり「中国や日本、韓国のために膨大なお金が失われた。過去25年と同じままにしてはおけない」と。そして「米国第一主義」の下、貿易赤字の原因を相手国の輸入障壁に求める論理などはまさに、戦後国際秩序に背を向ける姿勢と云うものです。

然し、そうしたトランプ流米国主義がこれまでの政治と一線を画すのが、大統領選を通じて彼が訴えてきたポイントの違いです。つまり、いずれの大統領も「自分なら経済を再建できる」と云わずして当選したリーダーはいませんし、トランプ大統領も同様、貿易戦争にその解を求める形をとっています。ただ彼が大統領選で取った戦術は(今もその延長線上にある処)、そのポイントを明らかに‘人種’(特に低所得の白人労働者)に置いていたことでした。

アメリカ国民の多くは世界と断絶したカントリーにあって幸せに生活ができ、従って友人によれば、彼らにとって中央政治はゲームでありshowでもあったと評するのですが、米国の国力が高い間はともかく、グローバル化に取り残された彼らは、国力の相対的低下に伴って不満を募らせ、それが反自由主義経済に繋がる処ともなってきたというもので、実はそのことにワシントンは鈍感であったと云われています。そこに注目してトランプ氏を当選させたのが、道徳よりも損得を振りかざし選挙参謀をやり遂げたバノン氏で、その彼が照準を合わせたのが白人の低所得労働者であったと云うものですが、その思考様式が‘現在も善’とする空気にある処です。

つまりトランプ大統領の言動に刺激され、前述したように、人種を意識した、これまでのliberal democracyとは次元を異にする政治、弱者集団の声を代弁する「人種政治」(アイデンテイテイー政治)が露わとなり、米国の政党政治に強く影響を与え出したというものです。

さて、アイデンテイテイー政治が進むとなれば、それは‘人種のるつぼ’と言われてきた米国のような国では、社会の分断を招きかねないとの懸念の高まる処、実は民主党、Democratic Partyが, このIdentity Politicsに舵を切った事で注目を呼ぶ処となっているのです。これまでの米国政治にあっては、Minorityは民主党を支持し、共和党は白人票を得てきたとされていますが、トランプ大統領の言動、更には人口構成の変化が、民主党の目を更にMinorityに向けさせていく事になると見られるからです。

・変質する米民主党
Financial TimesのCommentator, Janan Ganesh氏は、この民主党の姿勢の変化について`US Democrats are re-discovering identity politics ―Trump’s conduct in office has sapped that race could be transcended ‘(Aug 16,2018)と題し、次のように指摘するのです。

「‘人種を考慮する政治’と言う点では、共和・民主の両党とも同じスタンスにあり、これまで民族多様化を政治戦略として織り込むことは、白人労働者の支持層を失う事に繋がるとして、両党はそれぞれ「自党の」有権者に訴えてきた。それもほぼ暗黙の訴えだった。とりわけ民主党(の上層部)は、これまで米国民は米国民として扱うべきであって、複数の民族的な集団の集まりとしてみるべきではない、とする合衆国の理念に基づく信念があって、アイデンテイテイーに基づく政治と、国民を一つと捉える思想が示すベクトルは異なるとして距離を置いてきた。然し今,この二つの距離が縮まってきているが、それは選挙戦での配慮からくるものと言え、この姿はトランプ大統領のlegacy「遺産」の一つとして語られるであろう。実際、民主党の有力者の中からも、人種を大義に掲げる人達が現れれている。民主党がこれほど人種を意識する事は88年のJ.ジャクソン牧師以来の事」と云うのです。

つまり、トランプ大統領の行動が、人種の壁は乗り越えられるとする民主党の基本信念を蝕みだした結果、対象者を明示せざるを得なくなってきたことで、両党とも、各民族集団に向けて言葉を尽くして訴えだしたと云い、これこそは新たな「人種政治」と指摘するのです。ただ、「トランプ大統領が去り、共和党がトランプ以前に戻ったなら、民主党もまた、オバマ時代やクリントン時代のように人種問題に対して実務者的な抑制を利かせる姿勢に戻るかもしれないが、この国(米国)にとって恐ろしいのは、共和党と民主党のどちらもが、以前の状態に戻らない場合で、その先にあるのは細かく分断された社会でしかない」と思いつめた様子で締めています。要はこのまま「人種政治」が進むという事は国の分断を意味するばかりと危惧するのですが、やはり気がかりな事と云う他ありません。

(2)Identity Politics は民主主義の危機 - Francis Fukuyama氏の反論

さて米国際政治学者Francis Fukuyama氏 (注)は近着Foreign Affairs (Sep./Oct. 2018) に寄せた論文「Against Identity Politics ― The New Tribalism and the Crisis of Democracy」で、Identityと云う属性をベースとした云うならば同族意識に訴える政治、Identity Politicsは、民主主義にとっての危機だと批判しつつも、これが国としての一体感を図る戦略的機会と受け止めるべきと、そのスタンスは極めてユニークです。そこで以下で、当該論文をレビューすることとします。

     (注) Francis Fukuyama 氏と云えば「歴史の終わり(The End of History and the Last man,1992)」
で世界的に著名な政治学者です。そこでは1991年12月のソ連邦崩壊を以って米ソを2極と
した冷戦構造は瓦解. その結果を民主主義と自由経済の勝利とし、その後は米国を一極として
国際社会の平和と安定が無期限に維持される、とする仮設を展開するものでした。然し,そこで
語られた仮説は、21世紀に入り中国の台頭、ロシアの復権等、更には今日のトランプ政権が進
めるAmerica firstの戦略を受け、その修正が余儀なくされる処です。

まず彼は、21世紀に入ってからの世界経済は、2007-2008の世界金融危機、2009年のユー
ロ危機によって大恐慌をきたし、世界的な高失業と雇用労働者の収入の大幅減少を齎して
いった事で、欧米が主導してきた自由民主主義への信頼を損ねる結果を生んだ。そして驚く
べきは2016年の米英での選挙結果で,英国では有権者はEUからの離脱に賛成投票し、米
国ではトランプ氏が大統領選に勝利した事、つまりpopulist nationalism が勝利した事と云
い、係る展開は経済とテクノロジーの革新的発展でグローバリゼーションの流れが変化し
てきた点に負うものとし、同時に従来見られなかったような現象、rise of identity Politics、
人種政治の招来を生んだと、その経緯を総括し、そうした変化の中で進む米国の2大政党
政治の変質に触れ、次のように語るのです。

つまり、20世紀の政治の大半は経済問題に集約されてきた。 ‘左’陣営は労働組合、社会保
障、分配政策が政策の中心にあり、‘右’陣営は、小さい政府、企業の活性化に政策の中心に
あったが、今日では経済やイデオロギーが問題ではなく、identityが問題となってきたと云
うのです。確かに、多くの民主国家では今、左翼は経済的平等にはそれほど意を用いること
はなく、移民やマイノリテイや難民、女性等々に関心を集め、一方の右翼は伝統的な国家意
識と共に、時に人種や民族意識を強調するように変わってきたことで政治的な焦点がshift
し、いつしか移民問題にフォーカスされる処となっていると云うのです。

もとより、先進国における人口の減少を考えると、移民の受け入れは避けられない事であり、むしろそれを積極的に受入れていくべきで、ただ問題は受け入れた移民を単にチープ・レーバーとすることなく、成長産業に対応していける教育を戦略的に施していくべきで、従ってこれを成長の機会と捉え、移民の戦略的受容を進めていくべきで、それは同時に民主主義をかく乱させているポピュリストたちへの矯正策ともなるとして、ことさら人種にウエイトを置くidentity politics に疑問を呈するのです。 
― People will never stop thinking about themselves and their societies in the identity terms. 
But people’s identities are neither fixed nor necessarily given by birth. Identity can be used to
divide, but it can also be used to unify. That, in the end, will be the remedy for the populist
politics of the present.

要は、今見るトランプ・アメリカの政治は「小さな政府」を標榜する保守派(共和党)と「公
正な富の分配」を唱えてきたリベラル派との政策上の対立のように見えるが、Fukuyama氏
は従来のような「パイ」を巡る経済闘争でもなければ、イデオロギー闘争でもないとするも
のです。言い換えると、この政治闘争は物質的な利益を巡る対立と云うよりも自らの存在を
社会に認識させようとするアイデンテイテイ闘争だという事でしょうか。彼はこうした現実
をIdentity Politicsと表現しているという事のようですが、であればIdentity Politicsとは
「アイデンテイを巡る政治闘争」とでも訳すべきかとも思料する処です。
因みに日本でのIdentity Politicsと云えば「中央政府の意向は関係ない。要は沖縄県民の意志」として、All Okinawaのスローガンを掲げ沖縄知事選に勝利した故翁長氏こそは、その最たる事例ではと思料される処です。その後任の沖縄県知事選は9月30日に行われます。

尚、9月11日、ニューヨークでは当該論文を拡充した新著「Identity: The Demand for Dignity
and the Politics of Resentment (尊厳への要求と憤りの政治)」が発売されたとインターネッ
トで承知しました。さぞ更ななる話題を呼ぶ処かと思料するのですが、この際思い出すのは
彼の言です。「現状を改善するための特効薬薬はない。・・インターネットの登場でエリート
はその影響力を失いつつある。民主主義というものは恐らくある程度エリートがコントロ
ールしなければ正常には機能しないと思う」と。[Democracy needs Elite (民主主義はエリ
ートを必要としている)]

`Identity Politics’を巡る政治の現実を語るFinancial Times とF. Fukuyama氏のIdentity Politicsへの理解のスタンスの違いに痛く感じさせられる処です。


第2章 リベラルな国際秩序の行方


現時点で痛感される事は、政治も企業も、米国のみならず他諸国もトランプ流に振り回
され、長期の視野を見失いつつあることではと思料するのです。つまり liberal democracy
の今後をどう考えて行けばいいのか、「国際ルールに基づくリベラルな秩序」への危機感が
募る処、そうしたテーマに迫る有為な文献、二つが今、手許にあります。

一つは、フランスのジャック・アタリ氏の最近刊「新世界秩序」(山本規雄訳, 作品社2018/7)
です。彼は周知の通り、ヨーロッパ最高の知恵と言われ、ドイツ再統一、EU成立を実現さ
せた陰の立役者と言われ、ベルリンの壁崩壊後の東ヨーロッパ復興を目的とした「ヨーロッ
パ復興開発銀行」初代総裁にもあった仁です。同書でJ.アタリ氏は、グローバル化が齎した
欠陥が、不平等の拡大、環境破壊、宗教原理主義、ポピュリズムの台頭など目に見える形で
露わになったいま、どのようにして「新秩序」が形成されることになるか、「古代・中世の
世界秩序」、そして資本主義による「世界秩序の進展」について歴史的史観を以ってレビュ
ーし、「世界秩序の現在」更に「21世紀の新世界秩序」について、そのあるべき方向につい
て語るものです。

もう一つは、「リベラルな国際秩序」について、ハーバード大学のG.アリソン教授(注)が日本版フォーリン・アフェアーズ・リポート(2018,N0.8 )に寄稿した論考「多様性を受け入れる秩序へ -リベラルな国際秩序と云う幻」です。そこでは巷間、リベラルな国際秩序として指摘される三つのコンセンサスを整理し、それらの持つ誤謬を指摘した上で、1963年にJ.F.ケネデイがアメリカン大学の卒業式でおこなったスピーチをリフアーし、自由主義国家であれ、非自由主義国家であれ、「多様性を受け入れる」世界秩序を維持することで十分ではと、主張するものです。

     (注) Graham Allison : ハーバード・ケネデイ・スクール初代院長。レーガン~オバマ政権
      の歴代国防長官の顧問を務める。現在の米中関係について、‘ツキデイデスの罠’から逃れる事
は現実的に可能として、両国が戦争に落ちらないことを指摘した仁です。

そこで以下では、この二つの文献を介して、戦後(1945年~)から今日に至る国際秩序の在り姿をレビューし、トランプ米大統領の台頭が齎している、いわゆる‘混乱’が進む中、今後の秩序とはどうあるべきなか、その方向について考察することしたいと思います。

(1)戦後「国際秩序」生成の生業

・戦後国際秩序としての‘国連’誕生
第二次世界大戦終結1年前の1944年2月、米法学会が招集した専門委員会で、人間の基本的権利に関する報告書「世界人権宣言」が策定され、1944年4月19日、ローズベルト米大統領はこう宣言しています。 「持続的な平和の条件は、経済に関する制度が健全に組織され、人間的な労働、社会的地位の向上、正規雇用、然るべき生活の保障によってそれが強化されない限り、確保されない」と。ローズベルトにとって、平和の中でも経済的次元はアメリカ流のグローバル化を意味する処です。

同じ頃、ニューハンプシャー州の小さな町ブレトンウッズで、大西洋憲章(注)で予告された国際金融機関設置に関する交渉がアメリカ代表の財務次官補ハリー・デクス・ホワイト、イギルス代表団に参加していたジョン・メイナード・ケインズとの間で交渉が行われ、紆余曲折、最終的に国際金融基金(IMF)の設立が決定されています。この基金の使命は周知の通りで、世界レベルで貿易収支の均衡を促すこと、通貨に関して国際的な協働関係を作ること、為替相場の安定をはかること、多国間決済制度創設を援助すること、収支悪化に苦しんでいる国に融資すること、でした。そして世界中央銀行として国際復興開発銀行(世界銀行)が創設され、IMFと共にその本部はワシントンDC、ホワイトハウスからほんの数メートルの位置に構えることになった事で以後、世界の金融政策をワシントン・コンセンサスと称せられる処です。
        
(注) 大西洋憲章:1941年8月14日、米ローズベルト大統領と英国チャーチル首相と
の共同宣言で、第2次大戦後の平和回復のための基本原則(自由貿易の拡大、経済協力
の発展、安全保障のための仕組みの必要、等)を纏めたもので42年1月1日の連合国共
同宣言にも取り入れられた。尚、交渉が北大西洋上の英軍艦(Prince of Wales 号)と米
巡洋艦(Augusta号)上で行われた事で、一般に大西洋憲章(Atlantic Charter )と呼ぶ。

・国連常任理事国
一方、1944年8月21日ワシントンDCのダンバートンオークスという名の邸宅では、米英、ソビエト連邦、中国の間で国際連合設立のための会合が開かれています。そして新設の国際組織(国連)が十分な効力を持つよう、総会より上位に安全保障理事会を置き、その決議だけが法的拘束力を持つものとしたのです。その狙いは、手中にある世界統治が別の国に逃げていかないよう米国は安全保障理事会に拒否権を持たせる事とし、ダンバートンオークスに集まった3か国にもその権限を付与し常任理事国としたのです。果せるかな、1945年10月24日、51か国に署名され、国連憲章の発効を以って戦後世界の秩序へのシナリオがスタートしたのです。その際、フランスもなんとか常任理事国に滑り込むことに成功していますが、それは英国がソビエト連邦に対抗してヨーロッパ大陸の安全を確保するためには、フランスが必要との判断にあったと云われています。この間いくつもの国連専門機関が生まれていますが、米国は、自分たちが最も「重大」と見なす組織(IMF,世銀、GATT)については国連総会の支配下に置かないよう細心の注意を払い、それら組織の中枢に特殊な内部統制機能を残したままとして、自分達がその中枢の権力を完全に手中に収めたという事です。

・冷戦の終焉
一見、順調なスタートに見えた国連ですが、1947年スターリンがコミンテルの後身としてコミンフォルム(共産党・労働者党情報局)を新設、49年にはソビエト連邦が核保有国になるや、米国とソ連の間の「冷戦」は苛烈なまでに進行しましたが、1989年11月9日のベルリンの壁撤去に象徴されるソ連邦の崩壊で冷戦に終止符が打たれ、更に91年7月にはゴルバチョフが無策にもG7ロンドン・サミットに出席、それがモスクワでの彼の信用が失墜、保守派分子に因るクーデタを促し、更にソ連邦の解体を招くことになると共に史上初めて国際機関に「グローバル・ガバナンス」の表現が登場したのです。まさに‘冷戦’の終わりです。米国は唯一の超大国となり、「一極支配の時代」が云々され、冷戦後の世界を「新世界秩序」として語られるようになり、前述のFukuyama氏の「歴史の終わり」が始まるのですが、その仮説が修正を余儀なくされていく事情は先に見た通りです。

・J.アタリ氏の信念
J.アタリ氏は上記、世界の統治環境に照らし、なお信念を曲げずに現状を粘り強く改革していく事で、その先に将来の姿も浮かび上がってくる、「民主主義的な世界秩序」(世界統治機関)の方向に進む以外にないと、主張します。とすれば‘国際的な正当性と法の支配の象徴’である国連を強化していく事が具体的課題と映ります。ただ、実践的な力と強さを体現できる米国がトランプ政権の下、国連を忌避し、プーチン・ロシアも挑戦的姿勢にあるだけに、soft powerを発揮する民主主義の国が受け身の姿勢を取っていては、国際秩序は粗暴な力によって形作られかねません。そこで民主主義諸国が協力関係を強めることが不可避となる処です。そして何よりも重要な事は、8月に亡くなった前国連事務総長コフィー・アナン氏に代わる人物の確保です。 尤もこれら流れも、11月の米中間選挙次第ではと思うのですが。

(2)「多様性を受け入れる」秩序

・リベラルな秩序
さて、ハーバード大のG.アリソン教授は、リベラルな国際秩序を巡るコンセンサスとされる理解には誤解が多いと指摘するのです。

まず、「リベラルな秩序」を、この70年に及ぶ大国間の「長い平和」を実現した最大の前提と見なす考え方について、「長い平和」はリベラルな秩序の賜物ではなく、45年に及んだ冷戦期における米ソ間の危険なパワーバランスに負う平和であり、それは冷戦秩序だったと一刀両断です。アメリカは西ヨーロッパ再建の為にマーシャル・プランを実施し、IMFと世銀を創設し、世界の繁栄を促すためGATTを纏め、そして西ヨーロッパおよび日本との積極的な協力関係を維持するために、NATOを創設し、日米同盟を築いたが、これら構想はソビエットの打倒を最大の目的とする秩序を支える支柱となるものだったと云い、逆に言えばソビエトの脅威がなければそうした構想は必要なかったと云うのです。

そしてソビエトの崩壊、ロシアのボリス・エリツエン大統領による「共産主義を葬り去る」キャンペーンを経てアメリカは勝利し、一方、自由を手にした東欧市民は、市場経済と民主主義を受け入れ、ジョージ・H・Wブッシュは「新世界秩序」を宣言。その後アメリカは「関与と拡大」の旗印の下、リベラルな秩序への参加を求める各国を歓迎していったことで冷戦の終結がアメリカの一極支配を齎し、リベラルな秩序はその副産物だったとするのです。

ただ、冷戦終結が齎したのが「一極支配の時代」ではなく、「一極支配の瞬間」だったことが今や明らかと。つまり今日、権威主義の中国が華々しく台頭し、多くの分野でアメリカのライバルとなり、様々の領域でアメリカ以上の力を持つようになった事、また強引で非自由主義的なロシアが核の超大国として復活し、軍事力を用いてヨーロッパの国境線や中東における力の均衡を揺るがさんとする中、アメリカの衰退をそこに見ると云うもので、この衰退は「アメリカのリーダーシップ」という言葉の持つ説得力を奪っていると云うのです。前述、Fukushima氏が言う「歴史の終焉」は、終わったと云う処です。

アメリカが生き残るには外国とのより深いかかわりが必要と結論付けたのは、大恐慌と第2次世界大戦の直後だけで、ソビエトが世界の脅威となる帝国を建設しようとしていると認識したが故に、戦略家たちは冷戦を戦うための同盟と制度・機構を構築し、これを維持してきたが、それはトルーマン政権が纏めた冷戦戦略、国家安全保障政策文書、NSC-68(月例論考8月号参照)にあるように、その取り組みの目的は「基本的な制度と価値観を損なうことなく自由国家アメリカを維持していく事」にあった、つまり米国の世界関与を促したのは、自由主義を世界に拡大したい、国際秩序を構築したいと云う思いからではなく、国内でリベラルな民主主義を守るための必要性に駆られての事だったと断じるのです。

・JFKの示唆
世界におけるアメリカンパワーの衰退、米政府の機能不全が囁かれる中、民主的統治の価値を信じるアメリカ人にとって大きな課題は、まさに国内で機能する民主主義を再建することに他ならないと。幸い、その点では、中国人やロシア人、その他の国の人々にアメリカ人の自由思想を受け入れてもらう必要はなく、他国の政治制度を民主体制にと迫る必要もなくなった環境にあっては、前述したように、ケネデイが1963年、アメリカン大学で行ったスピーチ同様、「多様性を受け入れる」世界秩序を維持するだけで十分ではないかと、主張するのです。つまり、他国には統治についてアメリカと異なる考え方があり、彼ら自身のルールにもとづく国際秩序を構築しようとしている現実に合わせ、アメリカの国外での取り組みを変えて行けばいい事と、云うのです。

但しこうした多様性を受け入れることが出来る最低限の秩序を実現するにも、現在の社会通念を遥かに超える戦略的想像力が必要となると云うのです。それは米外交官、ジョージ・ケナン(注)が作り挙げた冷戦戦略が、1946年のワシントン・コンセンサスを遥かに超えていたようにと、云うのですが、さていかなる戦略が予想できると云うものでしょうか。

     (注)G. Kennan::1946年モスクワ米大使館代理大使にあったケナンは当時のソ連の行動を分
析し「長文の電報」でワシントンに報告したことで有名な外交官で、事後、以ってトルーマン
米国の冷戦外交の基本方針とされ、ソ連封じ込め政策の立役者とされる仁。

要は、アタリ氏の信念たるグローバルな秩序構築を目指すべき事。一方アリソン氏が示唆するように各国はそれぞれの事情に即した秩序対応を進めるとして、それでもやはり重要なことはグローバル秩序との合理的な接点づくりではと思料する処です。


おわりに 安倍晋三氏の自民党総裁3選に思う

         
・民主主義政治の基本は‘プロセス’
9月20日、安倍首相は自民党総裁選で3選を果たしました。安倍氏の勝利は、経済の好調、外交での実績と、党もメデイアの多くも指摘する処です。確かに、異次元緩和策に代表されるアベノミクスで市場は円安、株高となり、多くの企業は増収増益。有効求人倍率はバブル波の水準まで回復。従って安倍政権の継続は政策の安定と、市場からは大いに評価される処でしょうし、外交についてもG7では最古参リーダーとして彼への信頼感は高まっており、これが日本への信頼感に繋がってるという事でしょうか。

然し、総裁選を通じて、アベノミクスの出口戦略が取りざたされるようになった今、望ましい経済政策の議論は深まることもなく、安倍氏は唯々「戦後日本外交の総決算」だ、「憲法改正を任期中に」と叫んでいます。とりわけ憲法改正については、何故改正が必要なのか、その緊急度は?ですが、国の屋台骨たる憲法の改正ながら、そのking pinたる国家観が示される事もなく、云うならば思い込みだけで動く姿と映る処です。それは先の‘蕎麦屋談義’で終始した国会運営で見せた彼の限りなく不誠実な姿を映す処と云うものです。 因みに総裁選では、安倍氏は党員・党友による地方票と国会議員票、併せて807票中553票、7割近い得票を得たと誇示しています。然し、地方票では安倍氏の224票に対し、石破氏のそれは181票と当初の予想を上回る結果でしたが、それは在京の国会議員票はともかく、地方ではアベ批判が高まっている事を物語る処です。彼はそうした党内批判に意を介することもなく、要は不都合な事実には蓋をするが如き振舞いですが、より気になる事は、選挙戦最終日の秋葉原での街頭演説では、公共の場で行われていたにも不拘、安倍支持の市民以外はその場から排除するような整理が行われていた事です。安倍政治の不具合さを露わとする処です。

こうした安倍政治の実像に接する時、痛感させられる事は、 ‘数’が決定するのが民主主義とする姿が透けて見えてくることです。民主政治とは、国民の意見を広く重ね、万機公論を以って政策決定がなされるべきが筋であり、まさに「プロセス」にその本質があるのです。彼の政治行動は、そうした事への不安を募らせる処です。そこで、そうした事への対抗として、この際はこれまでの政策を総棚卸し、国民に見える形で政策の再整備を図り、以って日本の指針を明示していくこととすべきと、思いを痛くする次第です。

・創刊175年の英経済誌‘The Economist’
序でながら、先週届いたThe Economist( Sept. 15~21) は創刊175年(1843~2018)を祝すものでした。同誌は、1843年9月、スコトランド出身のJames Wilsonが立ち上げた経済誌ですが、その特集記事によると彼が目標としたのはfree trade, free marketsそしてlimited governmentで、その拠って立つのがliberalismだったというのです。そのliberalismから一歩も引くことなく今日に至ったその歴史が、世界が誇る経済誌たらしめてきたと云うものです。同誌はこの175年を機に、改めて創業の理念を忘れることなく、wariness, optimism, purposeの3点、つまり変化を常に注視し、常に前向きに、そして目標を曖昧とすることなきを基本原則として、次の175年に臨んでいくと、意気込みを伝えています。期待する処です。この175年の内、凡そ50余年、筆者も大いにお世話になってきました。そこで改めて祝意を表したいと思います。 `Congratulations on the Economist’s 175th anniversary ‘
                                   以 上
(2018/9/26記)
posted by 林川眞善 at 17:28| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする