2017年11月27日

2017年12月号  トランプ大統領、この秋、アジアを行く  アジアからのretreatを鮮明としたトランプ米国 - 林川眞善

はじめに: トランプ米大統領と日本

この秋、トランプ米大統領は就任後初のアジア5か国を歴訪、その最初の地として11月5日、日本にやってきました。その彼の来日を控え、日米関係に係る資料を整理していた折、ある論文が筆者の目を惹きつけたのです。それは米外交誌Foreign Affairs, Sept/Oct. 2017 ( P.21-27)に載った米コロンビア大、Takako Hikotani氏の論文 ‘Trump’s Gift to Japan’ でした。因みに副題はTime for Tokyo to invest in the Liberal Orderです。(注:Takako Hikotani is Gerald L. Curtis Associate Professor of Modern Japanese Politics and Foreign Policy at Columbia University)

「トランプ米大統領の日本への贈り物」とは、聊か皮肉っぽい表題と映る処ですが、Hikotani氏は、要はグローバル化、多国間協調と云う世界の潮流に背を向け、America First, 自国主義を貫かんとするトランプ大統領の登場は、これまでの国際経済の枠組みを否定する如くに、日本に対しては日米通商面ではその公正を、また、日米安保関係では日本の役割の見直し、強化など、圧力をかけてくることが予想され、又それへの対応を余儀なくされる処としながらも、こうしたトランプ政権の対日姿勢こそは、これまでの対米従属と批判されてきた日本の外交、安全保障政策を、自主的、主体的なものとしていく絶好のチャンスと受け止めるべきで、更には、アジア等、世界への関与後退、つまりretreatこそは経済大国日本のアジアにおける出番となるとし、そうしたトランプ氏の米大統領としての登場は日本にとって歓迎すべき機会だ、まさに‘贈り物’だというのです。そして、そのコンテクストを以って日米関係の今日的実状を分析し、日本の取るべき対外政策の今後について語る、極めて実践的な論文です。

そこで、本稿は今次のトランプ大統領のアジア歴訪のレビューと併せて日本での日米首脳会談が映す日米関係の現実と今後について考察する事を予定するものですが、その考察への備えとして、改めて上掲論文をレビューする事から始めることとしたいと思います。そして先週、Thanksgivingで沸くNYに出かけましたがその際の、安倍首相が叫ぶ‘アベノミクスの再起動’に、覚える所感を合わせ記したい思います。( 2017/11/27)
             
     目  次

第1章 Trump’s Gift to Japan --------- P.2

(1)二つの ‘トランプ取り込み’ 作戦
(2)いま日本に求められる外交戦略

第2章 トランプ米大統領、この秋、アジアを行く 
            --------- P.5
1.トランプ大統領の来日と、日本の今後
(1)日米首脳会談が映す日米関係のリアル
(2)気がかりな事

2.トランプ大統領のアジア5か国歴訪と彼の可能性
(1)トランプ大統領のアジア歴訪と首脳会談総括
(2)トランプ大統領の可能性


おわりに 滞在先のNYで思うこと
--------- P.9
(1)米景気の勢いに触発されて
(2)「改革したふり」せず、真に改革を


        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第1章 Trump’s Gift to Japan
―Time for Tokyo to invest in the Liberal Order

(1)二つの ‘トランプ取り込み’ 作戦
安倍首相とトランプ大統領との相性はよさそうだ。これがまず作戦のベースにあったと云うのです。つまり両者は共に、自国を再生し偉大な国にすると云い、どちらも強いリーダーシップに共感し、共にゴルフを楽しむと云った点で、相性がよさそうだ、フレンドリーだ、との感触の下、勿論トランプ氏が見せていた対日批判姿勢を気遣っての事でしたが、同氏を日本側に取り込むための「二つの作戦」が用意されてきたと指摘するのです。外交とは人間関係にあり、と云う事でしょうか。

その一つが「to `disarm ‘ Trump」と云うのです。(トランプ融和作戦とでも云う事でしょうか)
具体的には昨年11月、当選直後のトランプ氏を安倍首相は、黄金のゴルフ・ドライバーをお土産にトランプタワーに表敬訪問していますが、それは選挙中、トランプ氏が見せた対日批判姿勢を気遣ってのアレンジであり、両者の会話の場に娘のイバンカさんにも同席を促したこともあって、その効果は大きく、更には、今年2月にはトランプ氏の別荘、Mar-a-Lago でゴルフ、会食する等で、蜜月とも言われる関係が出来てきたと云い、二人の距離は急速に縮まり、二人の会談はより効果的なものとなってきたと指摘するのです。

もう一つの作戦が「to `disengage’ Trump from key policy matters」だと云うのです。日本政府筋はトランプ氏のtransactional dealmaking approach、つまり外交交渉をビジネス交渉まがいとする姿勢を懸念し、とりわけ経済と安全保障問題が一緒に扱われ、例えば貿易上の問題を同盟関係維持問題とすり替えられる事への懸念から、交渉チャンネルを変え、つまりはホワイトハウスから切り離すこととしたことで、これが功を奏していると評価するのです。

因みに、安保問題につぃてはスムーズに進展、米国は在日駐留軍の維持と、日米安保条約第5条(米国の集団的自衛権行使)を以って日本の防衛と日本の領土保全を約するまでに至った事、 一方、経済問題では周知の通り、TPPからの離脱という事で日本に水を浴びせ、又、自動車輸出を巡り、reciprocity 互恵の云々が持ち込まれる等、1980年代の日米交渉の再現すら思われる処ですが、日本からは日米の副総理、副大統領による日米経済対話を提案することで、トランプ氏をこうした問題から外すことに成功していると云うのです。

要は、こうした二つの対トランプ作戦、disarming Trumpと disengaging him from core issues、 が攻を奏する処、因みに2月11日、Mar-a-Lagoでの食事を挟んでのトップ会談後、その際、北朝鮮はミサイル発射実験を実施していますが、トランプ氏は` The United States of America stands behind Japan, its great ally, one hundred percentage, ‘(米国は100%日本側にある)とメッセージを発していましたが、それこそは両者の結束力の強さの証とするのです。そして、係る状況に、日本国民はかなりの比率において成果ありとしていると理解をする一方で、28%と僅かながらも、トランプに近づきすぎ ` Abe for sucking up to Trump’ (トランプにおべっかばかりの安倍)とする批判にも言及し、日本への信頼を怪うくする処と指摘するのですが、これこそは今、安倍政権が醸し出している問題と思料する処です。

(2)いま日本に求められる外交戦略
処で、こうした日本の対トランプ作戦にもその限界が鮮明となってきたと指摘するのです。
つまり、彼の行動はdisarming はともかくdisengagementと云う点では想定されいた枠組みを超え、北朝鮮問題に対しては極めて挑戦的な行動をとり、7月以来、G20などで米国製品の市場アクセスについて漏らしていた不満を荒げだしてきたという事です。これらはより基本的には、米国の外交政策上の構造的変化、つまり国際機関からの撤退、米中関係の不確実さ、高まる朝鮮半島での脅威を映すものとし、かかる変化は日本に、これまでの対トランプ政策を超えた戦略思考を求める処となってきたというのです。それは日本が如何に自主防衛の能力を高めるか、そして如何にその政策ポートホリオを拡充し、以ってinternational institutions国際機関等、諸制度の活性化を助けていくかが、求められる処と指摘するのです。

尚、北朝鮮への対応として、彼らの米本土に届くICBMの開発の成功はまさに日米同盟の在り方を変えるgame changer となるとして、巡行ミサイルを含むcounterattack 能力の確保を指摘するのですが、これはアジア地域における他国の戦略にも大いに影響を及ぼす処と云うもので、慎重を要する処と思料するのです。要は日本はこれまでとは比べようのない広域の選択を迫られる処となってきたと云い、それは経済関係で云えば米国のTPPからの離脱を問題とする事よりもアジアにおける経済秩序の在り方について主導していく立場にあると指摘するのです。

そしてアジア地域における最も重要な問題は、アジアにおける膨張する中国、とりわけ「一帯一路」構想とどう向き合っていくべきなのか、競争し、共存し、協力していけるかにあるというのです。トランプ政権のアジアにおけるリーダーシップの弱体化が進む中その分、日本は対アジア政策の再考が必要になっていると指摘するのです。因みに、この6月安倍首相は「一帯一路」構想にたいして、これまでとは姿勢を変え、協働していくと公言していますし、又、太平洋からインド洋にまたがる自由貿易圏の構築を目指したい `to see a world in which high-quality rules cover an area from the Pacific to the Indian Ocean、with free trade a force that can bring both peace and prosperity. ’ と語っています。又日本のEUとの経済連携協定もアジアを超えた通商拡大を意味しているというのですが、これらが全て、日本が米国を離れて、中国に向かうという事ではないと質した上で、トランプ氏が日本に向ける問題の基本は、liberal democratic order に関わる点であり、それこそは日本の発展、成功の規範となるもので、それこそはアジアのみならず世界における日本の役割と、主張するのです。まさに副題、Time for Tokyo to invest in the Liberal Order の示唆する処と云うものです。

アジアにあっては、TPP完成の為に日本は鋭意関係諸国と協働し,主導していくべきであり(次章P.8)、米国の将来の復帰参加を可能とすることをも考え取り組むべきで、同じ文脈で、日本はワシントン政府のパリ協定への再加盟を支援していくべきとも云うのです。又、日本はアジアのリーダーとしてアジア諸国と協調していくべき立場にあるわけで、そうした対応こそが北朝鮮危機を悲劇的結果とならないようにしていく事になる、Keeping the door open for the United States- is a role Japan should seek, not just in Asia but also worldwide. と云うのでした。


第2章 トランプ米大統領、この秋、アジアを行く

1.トランプ大統領の来日 ― 日米首脳会談と日本の今後

さて、トランプ米大統領は就任後初となるアジア歴訪の最初の地として11月5日、日本に到着、やはりShinzo-Donaldの蜜月さは、ひときわ世界の注目を引く処でした。そしてトランプ氏滞在中、行われた日米首脳会談を通して見える日米関係とは本稿冒頭紹介したHikotani 論文を地で行くがごときと映るものでした。

まず、トランプ大統領は11月5日 日本に到着するや直ちに、安倍首相招待の歓迎ゴルフ接待を受け、続く首相夫妻主催の夕食会に出席。翌6日、午前中は日本の経済人との会合に、そして皇居での天皇皇后両陛下と初会見、午後はワーキングランチを経て、大統領就任以来5回目となる日米首脳会談を果たし、これらevents での会話、会談を通じ、両国の喫緊のテーマ、北朝鮮問題について、米国と当該対応方針について認識の共有を図り、まさにShinzo-Donald の‘蜜月’を、改めて世界にアッピールするものでした。尚、余談ながら彼の日本入国は米軍横田基地経由でした。かつて72年前の1945年8月30日、マッカサー元帥が国連軍最高司令官としてコーン・パイプを咥え米軍の立川基地に降り立つ姿を想起させられたのですが、今回彼が横田基地に降り立ったことに特別な意味を持たせようとしたものかと、下衆の勘繰りと云うものでした。

(1)日米首脳会談(注)が映す日米関係のリアル
今回の日米トップ会談は、その後に続くアジア訪問各国での首脳会談への枠組み作りとも映る処、日米が主導して政治的、経済的メッセージを発する処に狙いがあったと云うものでした。
当首脳会談要旨は以下(注)の通りで、北朝鮮に対して日米の結束を打ち出し得た事、勿論、それで米朝の軍事衝突リスクが解消とはなりませんが、相応の成果があったとされる処でしょう。

 (注)11月6日行われた日米首脳会談要旨(日本政府発表)。(日経2017/11/7)
[北朝鮮問題] 日米両国が北朝鮮問題に関して100 % 共にある事と、日本の防衛に対する米国のゆるぎないコミットメントを確認。対話ではなく、北朝鮮に最大限の圧力をかける局面であるとの認識で一致
[安全保障] 法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序が国際社会の安定と繁栄の基礎であること
を確認。インド太平洋地域の重要性で一致。自由で開かれたインド太平洋戦略を共に推進する。日
米同盟の抑止力の強化に引き続き取り組む。
[貿易] 自動車、ライフサイエンス等の分野での協力を確認。日米両国間の貿易・投資見ついては、
麻生太郎副総理とペンス副大統領による日米経済対話で引き続き議論をしていく事で一致。2国間
だけではなく、アジア太平洋地域に広がる貿易、投資の高い基準作りを主導することで一致。自由
で公正な貿易の環境を作ることを確認。

そして、もう一つ成果としてあげられるのが上記‘要旨’にも記されている米国と「自由で開かれたインド太平洋戦略」の理念(注)を共有できた事だったといえそうです。そのコンセプトは日米豪印4国を軸に、アジアからインド洋を経てアフリカに至る地域の安定と成長を目指さんとするもので、大風呂敷な感は否めませんが、それでも日米共通の外交戦略とすることでトランプ氏と合意なった事は相応の成果と言えるのではと思料するのです。周知の通り、同氏はアメリカ第一主義を以って多国間協調なる戦略を忌避する立場ですが、この多国間の枠組みに理解を示した初の事例と云う点で、興味深いものでした。さて、インドはやや浮いた存在にありますが、これがつなぎとめられるかが、今後の課題と云うものと思料される処ですが、やはりトランプ氏がどこまで真剣に考え対応しようとしているかは、気になる処です。

      (注)「インド太平洋戦略」3つの狙い(日経 2017/11/7 )
     1.基本的価値の普及→ 日米豪印中心に連携
       2.経済的繁栄の追求→ アジア・アフリカの成長支援 (太平洋)
       3.平和と安定確保 → 人道・災害支援 (インド洋)

とは言え、トランプ氏のこの変化は、中国の「一帯一路」構想が、時に対米戦略の一環とも言われる処、これへの対抗ビジョンを求めていただけに、オバマ政権との差別化という点でもトランプ大統領として乗りやすかったのではと思料する処です。当該戦略とはどのような展開となるものか、具体的にはまだ分かってはいませが、今次大枠合意をみたTPP11とも併せ、日本はアジアにおける主導的な立ち位置を手にしえたのではと思料される処です。もとより、当該課題は如何にそのcomprehensive、 かつtimely なaction planを示し得るかでしょうが、暫し推移を見て行きたいと思う処です。

(2)気がかりな事
勿論、色々残された問題多々です。双方の問題への関心の在り方、そのベクトル合い難く、因みに首脳会談の冒頭、安倍首相が北朝鮮問題について言及したのに対し,トランプ大統領は対日貿易赤字にまず触れた事は、好対照と云え、両者の関心のすれ違いを鮮明とする処でした。各論については`日米経済対話’の枠組みに持ち込まれましたが、トランプ大統領としては来年の中間選挙を前に日米間の貿易交渉での成果を期待する処でしょうから、日米関係がShinzo-Donaldの蜜月とは言え今後共、貿易面では強く圧力をかけてくる事が予想される処です。

因みに、首脳会談後の共同記者会見では、貿易不均衡問題に絡めた米国製防衛装備品調達の要請が飛び出し、これに応える形で後刻、前述のように安倍首相は800億円の追加調達を明らかにしていますが、さてこの辺りになると、トランプ追随型の安倍政治と映る処、それは米軍の枠組みに取り込まれる姿とも映るだけに、極めて気がかりと云うものです。
加えて、日米関係に限る話ではありませんが、トランプ政権と付き合っていく上で、いま最も気がかりな事として云えることは「ロシアゲート」問題です。日米首脳会談を控えた5日、トランプ氏とロシアの不適切な関係を巡る「ロシアゲート」に新たな疑惑が持ちあがってきたのです。対象となったのはトランプ政権閣僚、ロス商務長官です。10月末のマナフォード元選挙対策本部長(起訴)、フリン前大統領補佐官に続く疑惑です。トランプ大統領としては米国内でのこの逆風から目をそらすため、外交面での目に見える成果に傾く公算大と云え、後述する歴訪総括報告はそういった事情を反映したものとも云えそうです。

2. トランプ大統領のアジア5か国歴訪と、彼の可能性

(1)トランプ大統領アジア歴訪と首脳会談総括 
トランプ氏は大統領就任後、初となったアジア5か国の歴訪を終え、11月14日、ワシントンに戻り、翌15日、今回の歴訪総括声明を発表したのです。今回の歴訪は、前述の日本(11/5-6)を皮切りに韓国(11/7)、中国(11/8-/9)そして、ベトナムでのAPEC首脳会議(11/10)、フィリピンでのASEAN首脳会議(11/13)に出席、夫々、安全保障問題として、北朝鮮の核・ミサイル開発停止に向けた対北朝鮮包囲網作りへの協力要請、そして経済面では公正かつreciprocal trade つまり互恵的貿易の確保を訴える旅でした。

さて15日の総括声明は、とにかく自画自賛の内容とも云うべく、とりわけ日韓中での首脳会談を通じて、安全保障との絡みで3か国への売り込みに成功した話が中心で、何か企業人の出張報告といった様相にあり、TVに映るその場の雰囲気はいささか冷めた観のあるものでした。
つまり、先々の首脳会談、多国間協議の場では、彼は米国のアジアへの関与の維持を口にすることはあっても、期待された`安保‘と`経済‘を両輪にアジアの平和と発展を主導する具体的戦略を語ることもなく、最後は必ず持論のAmerica First で終わるもので、大統領としての彼の関心が専ら二国間対米貿易の赤字削減に向けられ、何よりもこれまでの世界の指導者としての立場を投げ出し、やり過ごす姿に、もはやアジアからの共感を呼ぶことはなく、その分、後述、中国の存在感が際立つばかりと云うものでしたが、それを自ら実証したと映るものでした。

そうした状況を決定的なものと印象付けたのが10日、APEC首脳会議を前に、習近平主席のスピーチに先立ち行われたトランプ大統領のスピーチでした。トランプ大統領は「インド太平洋構想」には触れたものの、あくまで米国を縛るような多国間協定には反対と、米国第一主義を繰り返すだけで、そこで‘東’には自国主義で内向きに閉じこもるトランプ米国があり、‘西’には世界を主導せんと台頭する習近平中国がありと、両者が太平洋を挟んでせめぎ合う構図の深まりを‘実感’する、まさに世界のガバナンス構図の変化の始まりを強く印象付けるものだったのです。

(注)両首脳の発言ポイント(日経11/11)
・トランプ大統領:「我々はインド太平洋地域のパートナーであり、同盟国だ」だとしなが
らも、「米国第一」は譲らず、多国間交渉を通じて地域全体に自由貿易のルールと理念を
広げる先導者の役割には背を向けるもの。    
・習近平主席:「アジア太平洋の平和と安定、繁栄はアジアの人々に属する」「アジアで自由
貿易を作るのは私にとって長年の夢だった」と、自国優先に傾く米国のスキを突き、地域
の盟主の座を窺う様相

・‘対北朝鮮政策’と‘公正貿易’
さて、最大の課題とされた「北朝鮮政策」を巡っては、日米、米韓両トップ会談では「最大限の圧力」、「最大限の制裁と圧力」をかけることで足並みを揃え、カギを握る中国の習近平主席との会談では、北朝鮮への圧力継続を確認したと成果を誇示していましたが、北朝鮮を核放棄に追い込む包囲網には濃淡は残り、道は半ばと云った様相に終わっています。(尚、17日、中国は北朝鮮に特使を派遣し、米国との対話の可能性について協議を始めたと報じていましたが、その内容は不透明のまま。-日経、11/18)

もう一つのテーマ「貿易赤字の是正」問題では、米国との防衛防衛の拡充と云うコンテクストを以って、トランプ大統領は日本,韓国に対して米国製武器の調達を要請、既に安倍首相は800億円の迎撃ミサイル追加購入を約し、韓国では在韓米軍の平等な費用負担を絡め、FTAの再考を促し、更に中国では28兆円の商談(大半は「協議入り」や「覚書」だそうですが)と云う手土産を手にしたのですが、さながらトランプ大統領は武器を含む行商人の様相を見せる処でした。もとより米国内の軍需産業、ボーイング、ロッキード・マーチン等、は大いに恩恵を受け、業績好調が伝えられていますが、トランプ政権の主要閣僚が軍出身者(注)で固められている点からも、トランプ政権の軍産複合体の拡大を実感させると云うものですが、それは同時に、アイゼンハワー元米大統領が1956年、軍産複合体の危険性を指摘し、警鐘を鳴らしていたことを想起させる処です。

      (注)Generals & ex-generals in the Trump administration :
H.R. McMaster : National security adviser (3- stars)
James Mattis : Secretary of defence (4- stars )
John Kelly : Chief staff (4-stars)
  Joseph Dunford : Chairman of the joint chiefs of staff (4-stars)
  Michael Flynn : Former national security adviser (resigned) (3-stars)
                   ( The Economist, Nov.11-17, 2017) 

・TPP11大枠合意と日本経済
序でながら、当初、日米主導で進められてきた多国間通商協定TPP12は、今年1月トランプ大統領が就任時、米国のTPPからの離脱を決めた事で一時、その成立が危ぶまれていましたが、米国抜きのTPP11としてAPEC会議と並行して進められていましたが、11月 11日、漸く大枠合意を果たしたのです。日本が11か国の議論を主導した結果というもので、その努力は大いに評価される処、自国第一主義の高まる中での合意成立の意義は極めて大きいと云うものです。

TPPの目的は、アジアの成長市場の活力を取り込むためにルールを整備することにあります。タイ、インドネシアなどは市場も大きく、多くの日本企業はASEAN全体にわたってサプライチェーンを展開する処ですし、これら国々が参加すれば日本にとって経済的実利は大きいと云うものです。それよりも何よりも、二国間取引を前提に米国から圧力がかかってもTTP協定を以って当該圧力には対抗しうると云うものでしょう。但し、このためにも日本は一層の構造改革と同時に貿易の自由化を進めることが不可避となる処です。そして、日本経済の再生が実現していくとすれば、世界経済の成長に貢献することになると云うものです。関係国の早期批准を期待する処です。

(2)トランプ大統領の可能性
さて、米国民が異端の指導者を担いだ選挙戦から11月8日で1年、そのトランプ政権の混迷は深まる一方の状況にあります。周知の通り、ポピュリズムの台頭を許した庶民の内向き志向は根深く、かつての米国に戻る復元力は今の処乏しいと見ざるをえません。 因みに彼がアジアへ旅立つ前の10月28日、米紙、ワシントン・ポスト紙は、メリーランド大学との共同世論調査結果、トランプ政権下で「政治の停滞が危険水準に達した」と考える国民が71%に達したと報じたのです。そして、この水準について、米軍撤退等を巡り国論が2分したベトナム戦争当時と同じ水準か、それよりもひどいと感じていると回答した人が70%に達したと、伝えるものでした。

上掲エコノミスト誌(Nov. 11-17)、巻頭言は「Endangered ― American influence has dwindled under Donald Trump. It will not be simple to restore.」と、劣化したトランプ米国の世界に対する影響力の再生はもはや無理だろうと、断じると共に、By putting `America First’, he makes it weaker, and the world worse off と、極めてnegativeなコメントを伝えるものでした。上述トランプ大統領の言動からは、もはや、と云ったところかと思うばかりです。因みに米論壇,Project SyndicateでMs. Elizabeth Drewは論考(11/3)`The Fall of the President’s Men’ で、`Trump is the Target’ と指摘するのです。(Ms. Elizabeth Dew is regular contributor to New York Review Books and the Author of Washington Journal; Reporting Watergate and Richard Nixon’s Downfall)


おわりに  滞在先のNY で思うこと

(1) 米景気の勢いに触発されて
筆者は先週、Thanksgiving で賑わうNYに滞在し米経済の消費景気を実感してきました。23日にはNY最大と云われるパレードがあり翌24日はBlack Friday で街中、大セール一色で身動きの出来ぬほどの人出、今朝一番のTVニュースでは本当か嘘か、1億1千万人の人出があった由、これは日本の全人口がショッピングに集まったという事になるのですが・・・。とにかく筆者もこの活況に与かるべくパレードの大本拠たる36丁目のデパート、メーシイーズに出かけましたが、久しぶりの高揚感と熱気に疲れ、ホテルに戻りましたが、その帰りyellow cab のdriver に景気が良くていいね、と声をかけたら、戻ってきた言葉は、給料が上がらなくてね・・・。要は、自分は関係ないよと、云いたかったのでしょうか。どこかで聞くストーリでした。

さて日本経済は8月発表のGDP(四半期)ベースで6期連続のプラス、内閣府が11月8日発表した9月の景気動向指数では景気回復は戦後2位、58か月となる見込みと報じています。でもNYのタクシードライバーならぬ多くの日本国民はその経済の回復の恩恵に浴している実感がないというのです。GDPの6割を占める消費は依然低迷状況にあります。雇用者賃金が上がらず好景気でも懐は温まらないという事です。
思うに、。アベノミクスがスタートして4年。この間、日銀は異次元の通貨量を流し、政府は想定外と云われる規模の財政出動をもって経済を支えんとしてきたのですが、お陰で株式市場は好調なのですが、これが実需につながる事はなかったという事なのです。そこで安倍首相は財界幹部に一律賃金の3%アップを要請、「賃上げは企業への社会的要請だ」と云う言葉を付してです。そしてこの要請を財界は一言の異論を挟むことなく受容したのです(10月26日、経済財政諮問会議)何か変です。もはやアベノミクスは機能不全に陥ったと云うものです。

不全とする理由は経済構造が90年代以降急速に変わってきたのに、日銀も政府も昔の短期不況に対応した政策の発想から抜け出せていないことの不条理とも云うものです。
これまで日銀は通貨を発行さえすれば人々はモノを買いに走り、景気が回復するとしていました。政府も民間にお金を配る事で、つまり公共事業等財政出動ですが、そう考えてきました。まさに需要サイドの話です。一方、政府は効率化だ、競争力強化だ、無駄の排除等いわゆる成長戦略などを進めてきています。アベノミクスで云えば今一億総活躍だ、働き方改革だ、等々改革を掲げ、誘導してきています。これは日本経済の生産力の強化、つまり供給サイドでの対応です。然しお金を配っても需要は増えない。消費者は一応の必需品を完備して、そういった点で需要は増えない状況です。需要が増えなければ企業が、労働者が頑張っても効果は上がりません。それどころか、効率化によって人がいらなくなり、生産能力が更に拡大すればかえって売れ残りや失業が広がり、不況をひどくしかねないのです。

今、消費者は必要なものは十分に揃えている、飽和状況にある現状ですから、本当は何が欲しいのか見つめ直し、今企業にとどまっているお金をそのために使うようにしていく事が必要なのです。これまで生産性の向上が競争力強化に繋がり、以って企業が稼ぎその結果が賃金に反映されていくと考えられていましたがもはやそうした考えは通用しなくなっているのです。そうした認識がいま、世界的に広がってきている処です。

・技術革新が賃金を抑えていく
この5月、MIT教授のD.オーター氏が発表した論文「労働分配率の低下とスーパースター企業の興隆」が、今世界的に話題を呼んでいます。同教授は2014年8月、米ワイオミング州ジャクソンホールの経済シンポジューム向けに提出した論文で「コンピューター化により、世界中で高学歴の人や未熟練労働者への需要は高まったが、中間スキル層への需要が低下した」ことを明らかにし、コンピュータ時代の長期的な戦略は、人的資本に積極投資するこ都で「ハイテクに奪われるのではなく、ハイテクに保管されるようなスキルを持った労働者」を育てることだと、主張していたのですが、更に、当該論文は、その議論の延長として、アップルや米アマゾン・ドットコム、フェイスブックといった革新企業を取り上げ、彼らの経営行動が賃金に逆風になっていると主張するのです。(注)因みにフェイスブックの場合、利用者は世界で20億人、株式時価総額は50兆円。然し従業員数は2万人。2017年3月時点の連結で36万人いるトヨタ自動車の18分の1.企業が稼いだ利益は資本家に集中し労働者に廻りづらくなっていると云うものです。 [(注)日経( 2017/9/14):「経済教室」鶴光太郎慶大教授「労働分配率低下の真犯人」]

これまで新興国への生産移転と空洞化を経験してきた先進国は経済の停滞を、イノベーションを図ることで克服してきました。そうした革新が今や、ほんの一部の企業が主導するようになってきたことで、イノベーションが ‘競争’ではなく‘寡占’を生む処となり、従って成長の果実も寡占されていくという新事態を生んできているのです。こうした産業の在り姿が急速に変化を進める今、既成通念的な対応では、事態を律しえない状況となってきたということです。

つまり、生産システムのコンピューター化、デジタル化が進んできたことで「モノづくり」の形が急激に変りだしてきていますが、そうした技術革新の進行がシステムの変化を齎し、結果として賃金が抑えられてきているという事で、今や国際的な広がりでみられる現象です。因みに従業員の給料をGDPで割った「労働分配率」は先進各国では低下傾向にあり、日本の場合、1997年からずっと下落傾向にあると法政大学教授の水野和夫氏は雑誌NIPPON、2017/11で語る処です。(注:国民総所得における賃金・俸給の比率は1980年度には46.5%あったものが2015年度には40.5%まで低下)勿論、その分、資本家への分配が増えていると云う事なのです。

こうした変化の中、消費者の行動も構造的に変わりだしてきているのです。今次経験したNYでの消費活動の様子ですが、Thanksgiving Parade の翌24日のThe Wall Street Journalの一面には「Shoppers Flock to Phones 」、つまり混雑のデパートに行くよりはスマホで、と云った具合に消費行動も大きく変化しているのです。

(2)「改革したふり」せず、真に改革を
安倍首相は、現下の完全雇用状態で、近時株価も上昇し、これがアベノミクスの成功の賜物として、「アベノミクス再起動」を云々するのでしょうが、アベノミクスの行動様式を続ける限り、
金融、財政政策の成功の陰で、成長戦略は進まぬままとなり、もはや日本経済の体質の行き詰まりとなる事、火を見るより明らかです。これまで日本の強みとされていた「モノづくり」は近時の大企業の体たらくが象徴する処これありで、成長の可能性に繋がる設備投資もデジタル化でその伸びは鈍化する状況にあって世界的なカネ余り現象が更に深まる恐れがある処です。要は潤沢な手元資金をどのように次の成長につなげていくかが、問われているのです。

これまでも、例えば「一億総活躍」と云ったような陳腐な表現を持ち出し、改革だと叫んでいる安倍首相にいま求められる事は、いつまでも「改革したふり」をすることはやめ、自身も記者会見で喋っているように、‘少子高齢化やグローバル化に対処できる日本経済 ’ へと体質改善を加速させていく事なのです。そしてその為の論理と将来像を描きながら、一義的アクションとして、まずは国をよりオープンとすることも含め規制改革を果敢に進め、新規事業を進めやすい環境を整備していく事であり、それは同時に世界の成長を取り込むアクセスでもあるのです。安倍首相は当初これこそは一丁目一番地と云っていた筈です。
思うに一国の首相たる彼が、目標数字を示し要求する姿は、まさに「国家資本主義」の姿と映る処、これこそが日本経済の活力を乏しくしているのではと痛く思う処です。

それにしても前述、諮問委員会で、経団連会長をヘッドとする企業経営者が首相の要請を、特段の異見を挟むこともなく素直に受け入れる姿に、これって何なのと、大いなる疑問を禁じ得ない処でしたが、偶々見ていたTVニュースで、自民党の小泉進次郎衆院議員も、17日、都内での講演で、同様の疑問を呈していたのです。「首相から、お金が足りない、と言われたらお金を出す。政治の顔色をうかがう現状に甘んじていてはinnovationは生まれない」と檄を飛ばし、そして、一番ものを言えないのは経済界だと、経済界を一喝していたのですが、この若い彼の批判に経団連会長はどう応えるものか、帰路機中では、その思いは深々とする処でした。
以上
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2017年10月27日

2017年11月号  この秋、日本の政変、欧州の政変 - 林川眞善

はじめに:日欧政治の潮流変化

・日本政治のトレンド
10月22日、日本の衆院総選挙の結果は自民党の圧勝で、安倍晋三政権の続投が決まりました。自民党勝利の構図は、当初反安倍勢力として最有力視されていた新党「希望の党」が同党を率いる小池百合子氏の言動を映す形で失墜、因みにその結果は野党陣営では第2位に、それと同時に進んだ野党勢力の分散で、反安倍での結集が出来ず、結局は安倍政権再登場を許す処となったと云うものです。今次、自民党勝利は、2012年(衆院選)、13年(参院選)、14年(衆院選)、16年(参院選)に続く、実に5連勝となるものです。

彼の再登場は、これまでの延長線にあるという意味では自民党政治の安定化と目される処でしょうが、それは従来の自民党勝利とは基本的に異なる重大な意味を持つ処です。それは、今次選挙で自民党は選挙公約に初めて‘憲法改正’を掲げ、勝利したという事です。以って国民の容認を得たとして今後、安倍政治は改憲路線の具体化を進めていくことでしょうが、それは当然として安倍政治の更なる保守化、右傾化を深める処と危惧される処です。つまり日本政治のトレンドが大きく変わるという事です。従来のそれとは異なる重大な意味を持つとは、そうした事なのです。勿論、彼は‘アベノミクスの再起動‘も挙げていますが、その‘再’という言葉も気になる処です。

・独・仏のパワーバランス
一方、目を欧州に転じると欧州政治の潮流にも、いま大きな変化が起こりだしています。
9月24日、ドイツ(連邦議会:下院)、フランス(上院選)で行われた議会選挙の結果は、これまで欧州を牽引してきた両国のパワーバランス、政治力学に変化を齎し、欧州(EU)統治の生業に一大変化を齎す処となってきているというものです。

まずドイツですが、メルケル首相、自身は4選を果たしたものの、これまでの連立政党が敗退、、メルケル与党は大きく票を減らし、代わって極右政党が初議席を獲得、第3政党として躍り出るという構造変化に直面、彼女としては政権維持のために新たな連携を模索することを余儀なくされ、その威光に影を落とす状況にある処です。これまでポピュリズムにはさほど縁がないとされてきたドイツですが、近時の難民の急増への不満、メルケル財政の引き締めへの不満の高まりを受けての結果とされる処、いまや「The end of German exceptionalism」(Financial Times, Sept.25)、と囁かれる状況です。

一方、同日行われたフランス上院議会選挙では、マクロン大統領主導の「共和国前進」も僅少ながら議席数を減らしたことで彼への求心力が瞬時云々されましたが、上院より権限の大きい下院の過半数を握っている点で彼が進めんとする公務員削減や労働市場改革等すぐに滞る状況にはありません。それよりもメルケル氏の政権基盤が緩んできたことで、いわゆる「メルクロン」主導のEU改革はどうなるのか、疑問符が付く処ですが、26日にはマクロン氏はリベラルな姿勢を基調に、再びEU強化について熱弁を振るい、もって、29日のEU首脳会議に臨み、まさにEU統合深化についての論陣を張り、メルケル氏に代わって、マクロン氏の存在感が急速に高まる処となっています。そして、そのあり姿は、Europe’s new order (The Economist.Sept.30)と語られる処です。

つまり、今、日本では政治の保守化、右傾化が懸念される一方、欧州ではマクロン・リベラリズムを基調にEU統合の深化が語られる等、対照的な様相を呈しているのです。

そこで本稿は2部構成とし、第1部では今次、選挙結果を巡る事情、特に選挙の流れを決定づけた新党「希望の党」の顛末をレビューし、一方、再登場の「安倍政権」の‘改憲路線’を質すと共に、今後の経済政策について考察し、第2部では、流動化する欧州事情について検証していきたいと思います。 (2017/10/26)           


― 目 次 -

第1 部 2017年10月、衆院総選挙

第1章 新党「希望の党」とは何だったのか

(1) 不発に終わった「希望の党」
(2)小池ポピュリズムと政党政治の実相

第2章 安倍晋三政権再び
 
(1)安倍政権の「改憲路線」を質す
・憲法は国家百年の計
(2)アベノミクスと安倍経済政策の今後
・アベノミクスのリアル
(3)潜在成長率引き上げに向けた構造改革を
・英誌「エコノミスト」の警鐘
・いま必要なことは労働市場改革
          
第2部 欧州は今、新秩序へ

第1章 シフトする独仏の政治力学 
(1)ドイツよ、お前もか
(2)そしてマクロン氏台頭

第2章 マクロン大統領の挑戦 ― Future of Europe


おわりに:「米中逆転」が現実味を帯びる中で

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


第1部 2017年10月、衆院総選挙


第1章 新党「希望の党」とは何だったのか

(1) 不発に終わった「希望の党」
小池百合子氏率いる「希望の党」の絶対的優位が伝わる中、その結果は前述の通りで、野党陣営
の中でも新党「立憲民主党」の後塵を拝するものでした。小池代表の地盤、都内25選挙区(擁
立候補22人)での獲得議席は僅か1議席。では希望の党の敗因は何か。安倍自民党政治との対
峙と云いながら、その政治姿勢を政策の裏付けを以って明確に訴えることが出来なかった、一言
で言って‘政治’に対する未熟さにあったと云うものです。

まず政治姿勢です。小池代表は「希望の党」は‘改革保守’を標榜し、政権公約では原発ストップ、
消費増税見送りと、一見改革姿勢を打ち出すも、それ以外では改憲容認、安保法制容認とまさに
自民党と同じ路線を語るものでした。そこで自民保守との違いを問われると彼女はゴルフ・プレ
ーを引き合いに出し、既成政党は右のラフに打ち込んだり、左のラフに打ち込んだりするが、希
望の党は、フェアーウエーに打ち込み、真っすぐに政策を進めると語るだけで具体的説明もなく、
極めて分かりにくく、又、政権政党選択の選挙と云いながら党代表の彼女の出馬はなく、ではそ
れに代わる総理候補は、と問えばそれも拒否し全ては選挙結果を見てから考えると応えるだけ
で、有権者には極めて曖昧と映り、同党に対する支持は後退、加えて前述彼女の言動、「排除の
論理」を翳した事が、小池代表のおごりだとして「希望の党」の失墜を招いたと云うものでした。
「言葉は政治の武器」、その武器の使い方が問われたと云うものです。

また経済政策にしても然りと云うものでした。まず、アベノミクスの向こうを張って「ユリノミ
クス」を掲げたのですが、ユリノミクスとは何かと問えば、「消費者に寄り添いマーケテイング
などをベースに進める」と応えるだけで、「AI(人口知能)からBI(ベーシックインカム)へ」
ともいうのでしたが、これには巨額の財源が必要なのですが何ら具体性もないままです。更に増
収策について、消費増税は見合わせ、代えて企業の内部留保への課税を挙げるのですが、内部留
保金は企業内に取り崩せる塊として存在するわけでなく、投資に回しても、現金預金で保有して
も内部留保の額は同じです。等々、経済政策としても、財源確保策としても問題のある政策と云
うものです。

経済の活性化を云うのであれば、業績好調な企業がもっと賃上げや、投資に向かうよう促すこと
にある筈の処、内部留保課税はそれを阻害することになる一方、法人税は景気に左右されるだけ
に、消費税ほどには恒久財源にはなりえない等々、問題意識の浅さ、論理的詰めの浅さ、等々、
政党としての未熟さを感じさせるばかりと云うものでした。

尚、小池氏の「排除の論理」がトリガーとなり、政治集団の再編が進み、その結果は新党「立憲
民主党」を生み、これがリベラルとしての政策統一が進んだ事で有権者には、政治が分かりやす
くなったと云うもので、これが怪我の功名とも言え、立憲民主党が野党第1党に躍進した背景と
云うものです。因みに出口調査によれば、無党派層の3割が立憲民主党に投票した由ですが、ま
さに政策対応で筋を通した事への評価という処でしょうか。

(2)小池ポピュリズムと政党政治の実相

処で、今次選挙でダメージを受けた「希望の党」の姿とは、それは小池劇場とも言われるポピュ
リズムをベースに置く政治が故のなせる業と映る処ですが、雑誌、中央公論、10月号の特集「政
党が信じられない」での二人の学者(一橋大教授 中北浩爾氏、京大教授 待鳥聡史氏)の対談、
それは先の東京都議選で圧勝の小池都知事と大阪維新との違い、そしてそこから見える政治課題つまり、政党の在り方について語るものでしたが、今回の「希望の党」に映る小池流ポピュリズム政治を考えていく上で興味深いものでした。

まず、ポピュリズムの特徴を、「体系的な政策の欠如」と「短期間で出現することにある」とした上で、都民フアーストの場合はまさにそうした政党であったと断じ、維新は大阪の課題に取り組む際の基軸が比較的明確だったというのです。つまり大阪の場合、市内や府南部等本当に深刻な課題を抱えていて、維新の台本はある種の必然性があったが、一方の東京について言えば、築地市場の移転問題があったが、大阪の課題と比べると何が争点なのかよくわからない。ただ、大阪の選挙は市長選、市議選、府知事選、府議会と4つあるのに対し東京の場合は知事選と都議選の二つで、勢いがあれば東京の方が ‘短期間’で支配的になれると指摘するのです。
確かに都民フアーストの会が支える小池都知事の構図は、首都東京とは言え地方自治におけるポピュリズム政治であり、都議選での勝利パターン、つまり小池流ポピュリズム戦略を以って国政に臨んだことの限界を実証するものだったと云える処です。

(注)ポピュリズムについての定義は大まかに言ってつぎの二つとされている;
① 「固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル」と捉える定義。つまり、リーダーの政治手法として、大衆に直接訴える政治手法としてのポピュリズム
② ‘人民’の立場から「既成政治やエリートを批判する政治運動」と捉える定義。即ち、政治変革を目指す勢力が、既成の権力構造やエリート層を批判し、‘人民’に訴えてその主張の実現を目指す運動としてのポピュリズムされるもの。(水島次郎「ポピュリズムとは何か」、中公新書2016/12)

尚、興味深いのは、小選挙区制(1994/1導入)と無党派の動きに係る指摘でした。つまり、小選挙区制は、選挙前の第1党が有利なのではなく、選挙前に最も勢いのある党に有利に働く制度だと指摘するのです。因みに2009年衆院での民主党、2012年衆院選での自民党の圧勝がまさにそれだとするのです。更に、無党派の風は8年周期で起きているとの指摘です。1993年の細川政権、2001年の小泉政権、2009年の(旧)民主党政権だったと云うものです。では今回の選挙ではどうだったか。無党派の反乱のほどは不詳ですが、少なくとも彼らの3割が新党「立憲民主党」に向いた結果、「立憲民主党」が野党第1党になった事で、相応の政治的意義はあったものと思料するのです。

さて、ポピュリズムの高まる中、政党の存在意義が問われています。その点で、彼らは次にように指摘するのです。かつて政党政治における対立軸は経済の再分配にあって、従って政党は支持者の為にパイを取ってきて、それを分配できたが今はそれができない。有権者は新しい政党ができると飛びつき、期待ほどの効果を出せないとすぐに離れる。政党は使い捨ての存在となってしまっているというのです。ならば、どう存在意義を出すか。政党は解決策を与えられるわけではない点で、有権者の困りごとを聞き、課題を認識してくれる、そう言った場としての存在たれと云うのです。つまり、‘使い捨てカイロではなく湯たんぽのような政党になるべき’と、その為には支持者が政党の意思決定にかかわる事の出来るシステムが大事と云うのです。言えて妙の表現です。それは政党が一般有権者と政治のパイプになる事の重要性を示唆するのですが、さてそれはポピュリズムと共生する政党の新しい姿となるものか、考えさせられる処です。

第2章 安倍晋三政権再び
   
(1)安倍政権の「改憲路線」を質す
今回の自民党の勝利は、政権公約として掲げた憲法改正を国民が容認したという事で、再登場の安倍政権は‘改憲’中心の政治を進めることが想定される処、連立の公明党に加え、憲法改正に前向きな希望の党、維新の会を合わせた「改憲勢力」は国会発議に必要な3分の2(310議席)を大きく上回ったことで、‘発議’が現実味を帯びてきたと云うものです。

具体的には今回公約として掲げた改憲案4項目、「①自衛隊の明記、②教育の無償化・充実強化、③緊急事態対応、 ④ 参院の合区解消」を中心に、改憲審議が進められていくことになるものと思料される処です。ただその際は、現下の北朝鮮動向に照らし、いたずらに危機を煽っていると受け取られることのないよう時間をかけ、国民が納得できる慎重な審議を求めていきたいと思うのです。勿論、そのプロセスは彼の身上思想とも併せ見るとき危惧されるのは、政治の保守化、右傾化の進む事です。そこで、この際は公約にあった上記4項目につき筆者の思う処を、記しておきたいと思います。

・憲法は国家百年の計
そもそも憲法とは国家の根幹をなすものであり、国家百年の計と云うものです。その現行憲法を改正しようと云うのであれば、まず、戦後70年の変化を踏まえ、それは「国のかたち」までも改めるものでなければならないと思料するのです。そして、そのための前提となる国家観を国民に示していく事が求められる処です。然し未だ、安倍晋三氏からそうした話を聞くことはありません。とすれば彼が宿願とする改憲とは、単に、改憲を果たした政治家として、歴史にその名を残したいと云うものかと、そう思えてならないのです。

・4つの改正点に思う
もとより憲法を改正する事、自体を否定するものではありません。がとりあえずは公約にある改憲項目案について、筆者の思う処を記しておきたいと思います。

まず、条文に触らなければできないものは明文改憲で、基本法や個別法で対応可能なものは立法措置で、対応すべきと思料しますが、この際は、それらを合わせた憲法改革の視点の必要性を指摘しておきたいと思います。因みに、「教育の無償化等」は、まさに政策判断により法律で対応が可能なはずで、これがなぜに改憲に繋がる事なのか釈然としない処です。一方「参院の合区解消」については、議員定数の問題はともかく、これを機会に、よく話題に上がる衆参両院制度問題への取り組みと併せ考えるとき、役割分担をはっきりさせるためとして、参院を行政チェックに徹する「行政監視院」にするなども考えられますが、それは立法改革で可能なはずですし、議員の選び方を変えるのは勿論立法でできるのですから、それらをセットにした取り組みを目指すべきと思料するのです。つまり、それは憲法改革路線を目指す処です。

さて、改憲のキモは何といっても「自衛隊の憲法明記」にある処でしょうがそれは当然のこととして安保体制との絡みで考えられるべきイッシューです。実は、それは憲法解釈を見直して集団的自衛権の行使を限定解除したことで、現在の国際情勢に即した安保体制はそれなりにできており、9条を抜本的に書き直す必要性はかなり薄らいだと云え、あとは自衛隊をどう法的に位置づけるか、だけと思料するのです。仮に憲法の明文化で自衛隊に正当性を持たせるなら、それに見合うシビリアン・コントロールの枠組みも一体で盛り込まねば、最悪の改憲提案になるものと思料するのです。とすれば、この際は9条にばかり拘る不毛な憲法論争は卒業すべきで、そのエネルギーを外交力の強化、つまり今日的国際安全保障環境に即した重層的、構造的外交戦略の構築に向けていくべきものと思料するのです。時に、そんなことは何ら力にならないとの批判が起こる処ですが、とにかく言い続けることなのです。因みに、本26日、日経朝刊一面では、河野外相は日経紙のインタビューで「日本も戦略的に大きな絵を描いて外交努力をしていかねばならない」と強調し、自由貿易推進、防衛協力を念頭に置いた「日米豪印で戦略対話」構想を語っていました。大いに支持されるべき構想と痛く思う処です。 尚、「緊急事態対応」問題については、ワイマール憲法の下での独裁者台頭という歴史の事実に照らし、弊論考でも何度も指摘してきた処であり、危険な代物の他ないのです。

日本の平和憲法は日本国家のブランドです。そのブランドを壊してまでも何故今、改憲なのか、その疑問は依然消えません。今後の議論の推移を注視していきたいと思う処です。

(2) アベノミクスと安倍経済政策の今後
9月20日、安倍晋三氏は国連総会に出席したのを機会に、NY証券取引所で金融関係者ら約200
人を前に日本経済の現状について講演をしています。同所で講演するのは‘ Buy my Abenomics
(私の経済政策は買いだ)’と訴えた2013年9月以来のものです。今回の講演では「この4年
間日本経済構造を根本から改革するため、ひたすらにアクションを続けてきた」とアッピール。
9月9日、10秒の壁を破った桐生祥秀選手を引き合いに出し、私も2020年に向かって‘壁’に挑
戦すると力説。「いかなる‘壁’も打ち破り、新たな成長軌道を描く。これこそがアベノミクスの使
命だ」(日経 9月21日)と再びアベノミクスを標榜していました。10月3日発表された選挙
公約の第2項には「アベノミクスの再起動」が掲げられていました。が、その‘再’には、4年間
のアベノミクスへの反省が含まれてのことかと思うのですが・・・。さてその実状は如何。

・アベノミクスのリアル
安倍首相は上述の次第で、アベノミクスによって景気は回復したと主張し、内閣府の景気判断で
も回復基調が続き、いざなぎ景気超えと云う声まで出ています。確かに異次元金融緩和、財政出
動で株価や地価もこれに呼応する形で上昇し、景気回復感を煽る処です。が、問題はこの回復が
実感されることがないという事ですが、その背景にある事情こそが基本的問題とされる処です。

安倍政権4年間(2013~16)の経済成長(実質GDP)は4年連続プラス成長で年平均1.1
%ですが、その前の3年間(旧民主党政権下)の平均1.8% より低く、また消費も同様にありま
す。その消費の鈍化を結果しているのが雇用環境にあるのです。つまり、安倍政権下の4年間
で雇用者数は230万人増えたと誇っていますが、その内訳は非正規が殆どで約210万人増えた
というものです。GDPがあまり変わらないのに雇用が大幅増なのは、雇用が劣化していること
のほかありません。本当に労働環境が改善していれば賃金も上がるはずです。政府は今、盛んに
企業に対し賃上げを要請しているのもそうした事情を映すものですが、未だしと云う処です。

少子高齢化が急速に進み、日本経済はいまや人手不足の状況にあり、上述消費の動向も含め、先行きへの不安、つまりコンフィデンスが持てないという事情これありで、企業も安易には賃上げに応じ得ない状況と云われています。つまり異次元金融緩和で数字上金融資産を大きく増やし財政の大幅出動を以って景気を維持してはきたものの実体経済は伴っていないという事なです。こうした不安を克服し、経済の持続的回復を図っていくには、何としても環境の変化に即した経済改革、構造改革が必要なのです。その点、これまでも安倍政権はお題目としては掲げてきましたが、その歩みは極めて鈍く、アベノミクスが今批判を集める処です。‘再’起動とは自らの政策の失敗を認めた言質と云うものです。

(3) 潜在成長率引き上げに向けた構造改革を

・英誌「エコノミスト」の警鐘
この4月、OECDが対日経済審査報告で、また7月にはIMFが日本経済2017年次審査報告で、アベノミクスを巡って縷々指摘していましたが、そんな中、興味深いのが9月30日付英エコノミスト誌のアドバイスでした。まず、北朝鮮の暴走危機の中での解散に疑問を呈しながらも、日本の安全保障の核心は経済にあり、「A vital part of Japan’s national security is its economy」と警鐘を鳴らすものでした。要は、安倍政権は不人気な経済構造改革に踏み込む意思はなさそうだが、これは極めて問題だと云うものです。日本の国民の関心は、今北朝鮮問題にあり、経済から安全保障に向けられている処、勿論それは重要な問題だが、それはトランプ米大統領との連携の下で、対応されるべきことで、長期的な視点に立つとき、経済停滞からの回復に遅れをとること自体、日本の安全保障にとって大きな脅威に繋がると、‘-----, in the long run, a failure to economic decline will pose as great a threat to Japan’s security ’というのです。さてこうした次元で経済の重要性を指摘するのは流石、エコノミスト誌と、痛く感じさせられる処です。

要は構造改革を進め持続的成長への基盤固めを今こそと云うものですが、筆者流に言えば、それは潜在成長率の引き上げに徹した成長戦略の取り組みに他なりません。言い換えると、今言われる日本経済の最大の壁「急速に進む少子高齢化、人口減少」への対応の如何となる処です。

・いま必要なことは労働市場改革
2017年度の経済財政白書によると、1986~91年のバブル期には時間当たりの労働生産性の伸びが年平均3.8%であったのに対し、12~16年では0.7%にとどまっています。生産性の低下を反映し一人当たり名目賃金の年平均上昇率もバブル期の3.6%に対し12~16年は0.4%となっています。このままでは進行中の経済構造変化を日本企業が乗り切るのは難しいという事になる処です。労働力の減少は今後本格化することが見えています。とすれば企業に迫る課題とは、働き手一人の付加価値を高めること、つまり生産性の向上です。 それへの企業対応は有望分野への経営資源の集中であり、研究開発の強化であり、ITの積極活用、等々でしょうが、政策面では企業が活動しやすい環境の整備が求められる処です。現在、「働き方改革」では脱時間給や残業規制、など生産性向上を後押しする施策は進んではいますが、経済の新陳代謝に繋がる柔軟に仕事を移っていける「流動性の高い労働市場」の整備は、未だしの状況です。

因みに、前掲、2017年OECD対日経済報告書ではこう指摘しています。
「・・・労働生産性は、依然、OECD諸国の上位半数の国の平均値から約4分の1下回っている。企業の参入、退出に係る障害により、革新的な新たな企業の数は抑制され、労働と資本は生産性の低い活動に閉じ込められている。サービス業と製造業の間、先端企業と遅れた企業間の生産格差は拡大し、賃金格差、所得格差の一因となっている。労働市場の二極化は更に固定化が進んできており、非正規労働者は今や雇用の38%を占め、相対的貧困率を高めている。」と。

とすれば必要なのは労働市場改革です。これこそは日本の成長力を高める基礎となる処です。選挙の終わった今、その重要性を再認識し、それに向けた具体的施策を整備し、その実現に向けた果敢な取り組みこそが喫緊の課題なのです。



第2部 欧州は今、新秩序へ

第1章 シフトする独仏の政治力学

(1)ドイツよ、お前もか
9月末のドイツ連邦議会(下院)選挙の結果は、これまでEU欧州を引張って来たアンジェラ・メルケル首相の威光に影を落とす状況が生まれてきている事、前出「はじめに」で触れた処ですが、その実状は次の通りです。

つまり、メルケル首相は今回の選挙でも勝利し、4選を果しましたが、自身が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は議席を前回から65議席も減らす一方で、これまで連立を組んできたドイツ社会民主党(SPD)が歴史的敗北を喫したことで連立を離脱。一方、極右とされる「ドイツの為の選択(AfD:Alternative for Germany)」が初の議席を獲得して第3党に躍り出たのです。これまでポピュリズムにはさほど関係がないとされてきたドイツですが、近時の難民の急増への不満、メルケル財政の引き締めへの不満の高まりを受けての結果とされており、近時の英国やオランダの選挙結果と類似する処、時に「ドイツよ、お前もか」と云う処です。

要はドイツ政治の支持基盤構造が変化したということですが、この結果メルケル首相は政権維持のため新に自由民主党(FDP)、緑の党、との連立の模索を余儀なくされています。いずれも穏健派ではあるものの、メルケル氏とは政策スタンスに隔たりがあり調整は難航必至と見られ、その分、彼女の求心力の低下は避けられないとされる処です。つまりメルケル首相の立場は、親EUで、グローバルな市場主義を遵守し、共通の価値観の国々との連携にしかドイツの未来はないとするリベラルな立場です。これに対してFDPは自国ビジネスを最優先する立場にあり、マクロン氏が主張するユーロ圏共通予算に反発しており、また環境政党の緑の党はグローバリズムに懐疑的である事から、その調整に時間がかかると見られています。

Financial Times (Sept.25)は「The end of German exceptionalism」と、これまで欧州の盟主とされてきたメルケル首相は自身の難民政策とユーロ圏を巡る政策のツケを払う事になった、もはやドイツも怒れる大衆のポピュリズムとは無縁ではなくなったとして、German now looks more like a `normal’ western country. And that, ironically, is not something to be welcomed.つまり、ドイツも普通の西側の国に近づいたかに見える。が、皮肉なことに、それは歓迎すべき事ではないのではと云うのでしたが、然りです。因みに10月9日、メルケル首相は難民の受け入れを、年間20万人を上限とすると、これまでの方針を変えたのです。

尚、選挙中メルケル首相は連立の社会民主党のガブリエル外相との話の中で、北朝鮮問題に関連し、珍しく「ドイツは外交的な解決に全力を尽くす」(日経25日)と発言した由ですが、これが映すこととは、ナチスへの反省から沈黙する国家であるべきとする戦後ドクトリンは捨て、外交や安全保障でも世界をけん引しようとの意気込みとされるのですが、以って、ドイツの戦後に幕が降りたという事なのでしょうか。

(2)そしてマクロン氏台頭
一方、フランスでも上院選挙の結果は、マクロン大統領主導の「共和国前進」も議席数では非改選の9名を含む議席は29から28に減らしたことで、彼への求心力が云々されるのですが、上院より権限の大きい下院の過半数を握っている点で彼が進めんとする公務員削減、労働市場改革等目玉政策がすぐに滞るわけではありません。むしろ問題は、メルケル氏の政権基盤が緩んできたことで共に進めんとする、いわゆる「メルクロン」主導のEU改革に疑問符が付くほどに様相は変わってきたとみられる事でした。
然し、マクロン氏は、9月26日、パリで再びEU統合深化策(次項)について熱弁を振るい多くの支持を改めて得ると共に、続く9月29日のEU首脳会議ではEU改革を巡る議論で彼は「主役」を取ったと報じられ、因みに、会議終了後の記者会見では、「独仏がリーダー選びの選挙を終え、難題に真正面から取り組む来年こそ、EU改革を一気に加速させるべきと、力説した」(日経、10月3日)と伝えられています。

さて、これまで「メルケル頼み」一色だった欧州統合の構図が薄らぎ、マクロン氏の存在感が高まったことで、ドイツ議会選後のEUの如何が云々される状況になってきたと云うものです。つまり「フランスには欧州域内の覇権国としての意思はあるが、国力が伴わず、ドイツには国力はあるが意思が伴わない」(日経10月9日)と言われる両国ですが、今回の選挙を契機に欧州における独仏間に見る政治力学に変化が生まれ、新しい秩序がささやかれる処、これが欧州の実相として、9月30日付The Economist の巻頭言では、‘Europe’s new order-A dynamic Emmanuel Macron and a diminished Angela Merkel point to a new balance in Europe‘ (次項)と指摘し、新たな独仏基軸が果たせる役割は少なくないと期待するものです。

第2章 マクロン大統領の挑戦 - Future of Europe

9月26日、マクロン大統領は、パリ、ソルボンヌでEUの立て直しに向けた改革案(Eurozone、Tax, Democracy, Labor Market, Security, Migration)に熱弁を振るい、脚光を浴び、一方、国内においてはこれまでの規制の多い統制経済(dirigisme) も大きく変えようとしています。さて、ここ10年間、EUという舞台でバックコーラスに甘んじてきたフランスが再び中央に立てるか否か、それは同氏の欧州政策次第であり、長年不可能と思われてきた国内での改革の如何にも負う、と云うのは英誌エコノミスト誌(9月30日)です。そこで、以下では、同誌論ずるマクロン論をベースに今後の欧州の行くへを検証したいと思います。

・欧州政策:9月26日マクロン氏が行った欧州政策についてのスピーチでは‘shared military budget and an agency for ` radical innovation ‘ , as well as the desire to strengthen the euro zone. つまり、各国共通の防衛予算、急進的な技術革新を担う専門機関の創設などを主張し、ユーロ圏強化に向けて熱弁を振るったと云うものでした。更に、税制についてマクロン氏は、域内への輸入品に炭素税を課す事、域外IT企業のタックスヘブンを使った税逃れ阻止のため利益を上げった国で課税する必要性を力説。法人税率を統一し、低賃金や劣悪な労働条件で生産された商品を安く輸出するsocial dumping の徹底した取り締まりも訴えるものでした。 更に、スピーチではデイジタル経済の潜在成長力の向上を狙う為として、各国の規制を取り除き「デイジタル市場の完全統合」(Digital Single market) も訴えたのです。勿論ユーロ圏が実現すれば、欧州は新たな金融危機への備えをより確かなものにできる筈です。

・内政(労働市場改革):マクロン氏の内政への狙いはポピュリズムの抑え込みにあるとエコノミスト誌は指摘するのです。つまり技術革新を進める中、雇用の安定に力を入れることで労働者に技術革新を受け入れても仕事が無くならことを示し、失業への不安を和らげようとしているというのです。実は、それほど注目を集めなかったが、実はこの夏、驚くようなことがあったちうのです。つまり、大半の国民が休暇を楽しんでいるさ中、マクロン氏は労働組合と交渉し、広範な労働市場改革への同意を取り付けた由です。大した批判も出ないまま、合意内容は9月22日に法制化されたのです。戦闘的な労組、過激な極左グループによる講義運動も想定されたほどには盛り上がらず、因みに労働改革を支持すると答えた国民は実に59%に達している由です。


ドイツでの例が示しているように、労働改革で雇用が創出されるには時間がかかるうえ、政治的には評価されるのは通常、議会に改革案を通す仕事をした当人ではなく、その後継者となるも、マクロン氏は改革を進めようとしている点で胆力のある仁だというのです。そして、彼が規律正しいというのは、大統領選の前に政策を明確に提示し、その公約の実現に向けて努力しているからだと評価するのです。実際、労組とは十分に協議し、主要な3労組の内2労組は改革案を受け入れたそうです。これは前任者とは好対照だと指摘するのです。そして、彼の思慮深さについて、政策をバラバラではなく総合的に打ち出そうとしている点に見て取れるというのです。そして、エコノミスト誌は、こう締めるのです。
「マクロン氏はドイツに自身のユーロ圏改革案を受け入れさせるのにも苦労するだろうが、今年明らかになった事は、同氏を過少評価してはいけない」と。- if this year has shown anything, it is that it is a mistake to bet against the formidable Mr. Macron.


おわりに:「米中逆転」が現実味を帯びる中で

10月18日、5年に一度開催の中国共産党大会の冒頭、習近平総書記は「建国100年の2049年に米国に並ぶ強国になる」長期目標を示しました。米国の相対的な衰えが指摘され「米中逆転」が現実味を帯びてきたと云うものです。その変化は日本に対し、どんな立ち位置を取ることになるのか、大きな問題を投げかける処です。安全保障問題への対応然り、少子高齢化の進む日本経済への対応然り、等々、既に上述した処ですが、いまやあらゆる面で、これまでのモデルでは律しえなくなってきたことが実感される処、今次総選挙は今後10年、20年先の時代に向けた節目と自覚し、そのフォローを確実にしていきたいと思う次第です。

そんな折、ドナルド・トランプ氏が11月5日、米国大統領として初の来日予定です。先の「パリ協定」からの離脱に続き、ユネスコからの脱退、米欧など6か国とイランが2015年に結んだ核合意の破棄をも発言するなど、国際協調の枠組みを壊しにかかっている彼ですが、そこにはどんな展開があるのか、興味は深々と云う処です・・・。
以上  
posted by 林川眞善 at 14:31| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2017年09月25日

2017年10月号  この夏 暴走する北朝鮮と国際社会の相克、そして「地経学」(Geoeconomics)の台頭 - 林川眞善

はじめに: 北朝鮮の暴走

2014年、米政治学者,Walter Russel Mead氏が Foreign Affairs (May/June)に発表した論文「The Return of Geopolitics」(地政学の復活)は、―「地政学」とはもともと国の政治行動を、地理的環境、条件と結びつけて考える学問の事をいいますが ― 時の国際競争環境が旧来の「ゼロサム」関係に戻ったとするもので、斯界の注目を呼ぶものでした。その論文の内容は概略、以下の通りです。

― 冷戦の終結を経て、国際関係の基本は、領土問題や軍事力への依存など、国家間の勝ち負けがはっきりする「ゼロサム」関係から脱却し、世界秩序の構築、通商の自由化、核不拡散、等々世界全体が利益を得られる「ウインウイン」関係へと質的変化を遂げたと各国の政府関係者、政策関係者は思っていたが、しかし、実はそれが幻想に過ぎず、ロシアのクリミア進攻や中国の東シナ海、南シナ海での自己主張の展開、それに対する日本の反応、等々に照らし、世界は再び「ゼロサム」関係に戻った、とするものです。。

これは競争の構図が、欧米等いわゆる「西側諸国」と、ロシアや中国と云った現存秩序に異議を唱え、挑戦するrevisionistとの対立になったとする見方です。因みに、中国は、日米同盟を中心とする、アメリカ主導の同盟ネットワークを「冷戦思考」の残滓と批判し、「ウインウイン」関係を構築しようと主張しています。然し、東シナ海、南シナ海で起きていることを見ても、日本等中国の周辺諸国にとって「ウインウイン」の関係にはなっていないことは明らかです。

そんな中、この夏、北朝鮮は、ミサイル発射を繰り返し、加えて核実験を強行するなどで、世界を震撼させ、今尚その脅威は続く処です。そして、彼らが目指す軍事強国化が齎すリスクと、北朝鮮を巡る国際社会、とりわけ米・中・ロの相克とも相まって、朝鮮半島を巡る伝統的な地政学的状況は一変する処となっています。

つまり、朝鮮半島におけるパワーバランスが今や、通常戦力では韓国が優位に立つものの、「核」では北が優位に立つという非対称のいびつな形となってきている処、ミサイル技術等は、従来の地政学が前提としてきた固定的な国境を容赦なく越えることが出来る点で、その‘形’は更に深化する状況にあるという事です。加えて、朝鮮半島では中国の経済的影響力の増大で、南北関係、更には朝鮮半島全体の地政学的構図が影響を受けだし、経済的要因が優越する「地‘経’学」(geoeconomics) 的リスクが生じるという新たな状況が生まれてきたというものです。後述する今次、国連安保理での制裁決議案を巡る関係国の対応こそは、地政学だけでない「地経学の台頭」を映す処です。

とすれば、かかる新たな環境にあって、これまで日米同盟を軸に米国だよりの政策行動にあった日本は、世界とどう向き合っていくべきか、再考が迫られる処です。というのも、新たな「地政学」、「地経学」の時代に向き合っていく為には、単なる連携の政治学では太刀打ちが出来なくなる可能性があるとみられるからです。
そうした折、9月21日、北朝鮮のリ・ヨンホ外務大臣がNYで行った太平洋上での水爆実験の可能性を示唆する発言は、北朝鮮の脅威を一挙に極める処となっています。

さて、以上の状況を踏まえながら、改めて、この夏起きた‘北’の暴走の実状と国際社会の対応状況について、勿論 彼らの挑発行為はこれからも続くことが予想される処ですが、この際はメデイア情報をベースに整理し、従来の地政学を超える地経学の台頭という新たな時代感性の下、日本の進むべき方向について考察してみたいと思います。(2017/9/25)


                 目   次

第1章 この夏、北朝鮮の暴走と国際社会    ---------- P.3

1.北朝鮮の暴走、その実相
(1)ミサイル発射・核実験と、‘北’の狙い
(2)挑発行為を許してきたアメリカの対北朝鮮政策
2.北朝鮮問題と 中・ロのスタンス
(1)習近平中国
(2)プーチンロシア
          
第2章 「地経学」の台頭と、日本の目指すべき方向 ----- P.7

1.「地経学」の台頭が意味すること
2.新しいリスク環境と、日本の目指すべき方向

おわりに:アジアの未来、そして日本政治の明日は  ----- P.10.

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第1章 この夏、北朝鮮の暴走と国際社会

1. 北朝鮮の暴走、その実相

(1)ミサイル発射・核実験と、‘北’の狙い

8月29日、北朝鮮は日本の北海道上空を越える弾道ミサイルを発射、襟裳岬東1180キロに着弾と報じられました。今年に入って13回目の発射だそうです。安倍首相は「これまでにない脅威」として即、同盟国米トランプ大統領にコンタクト、「今は対話の時ではない」との認識で一致し、圧力の強化を高めていく事で連携する方針を確認すると共に、米韓と共に緊急国連安保理で北朝鮮に対し、ミサイル発射の即時停止を求める議長声明の採択に動きました。これには予て北のサイドにあった「中・ロ」から、彼らは常任理事国として拒否権を持つ立場ですが、反対もなく全会一致で合意したのです。(注:議長声明は国連の公式文書として残る為、非公式の報道声明より格上の位置づけとなる)

そうした中、9月3日には、北朝鮮は2006年10月来、通算6度目となる核実験(ICBM用水爆実験と発表)を強行、防衛省によると核実験規模は160キロトン、その爆発規模は従来の10倍(広島原爆の10倍)ともいわれるものです。これまでの国際社会の制止を聞かずに核・ミサイル開発を強行する北朝鮮は、従って国際社会への脅威を一段と高める存在となってきましたが、日本にとって、その姿は、戦後最大の危機を目の当たりとするものです。

9月4日には再び緊急安保理が公開で開かれ、後述するように、11日には米国より提案の追加制裁案が、一部、ロシア、中国からの修正提案を受けたものの、全会一致で採択(注)、以って国際社会として北朝鮮に制裁を課すこととしていますが、彼らは全く意に介すことなく15日には、再び北海道上空を通過する中距離弾道ミサイル「火星12」の発射を強行、制裁決議はどこ吹く風の様相にある処です。ただ、そのミサイルは北朝鮮が「包囲射撃」計画を発表した米領グアムを射程に入れたものだけに、北朝鮮リスクは危うい一線に近づいていることを感じさせるものでした。因みに16日、朝鮮中央通信の報じる処では、15日のミサイル発射について金正恩委員長は「戦力化が実現した」と評し、実践配備への準備を指示した由です。(17日付日経)

(注)追加制裁決議(9月11日):
 ・貿易規制:原油、石油製品は上限を設定、天然ガスは禁輸、繊維製品の全面禁輸、
 ・主要外貨獲得手段:北朝鮮労働者の受け入れ禁止、
(要は、「ヒト・モノ・カネ」を断つことにあったが、中ロの異見に配慮。「最強の決議案」からは後
 退。尚、過去の制裁と併せると、北朝鮮からの輸出の9割が断たれることになると見られている)

‘北’の狙い - では、そもそも金委員長は何を目指し、そうした行動に出ているのか、です。
巷間伝えられることは、国内経済が疲弊する中、三代続く金独裁政治体制を維持していく為には、米国との平和協定をテコとした国際社会の制裁解除が不可欠としており、その為には軍事力の強化を以ってしかなく、つまり合法的な「核保有国」(注)となることで、米国と対等な立場を堅持し、朝鮮半島での米国の影響力を弱化させることが必須と、2006年以来核兵器開発に邁進してきているというもので、今回のミサイル発射も米領周辺への実行をちらつかせて米国の危機感を煽り、有利な条件で米朝対話に持ち込む狙いがあると言われています。

(注)現在の核保有国は、NPT(核拡散防止条約、1963年)で認められた米英仏中ロの常任 
  理事国、5か国、に加え、NPT非批准国のインド、パキスタン、そして未確認のイスラエ
ル、 そして北朝鮮、保有が疑われているのがイラン、シリア、ミヤンマ。

もう一つ、開発に猛進する事情として語られることは、2000年代に入ってイラクのフセイン、リビアのカダフィら独裁者が倒れたのも「米国の圧力に屈し、核を放棄したから」と思い込んでいることがあるとされ、殊三代目委員長は、その点を強く意識していると伝えられている処です。とすれば、世界が北朝鮮を核保有国であることを認めない限り、つまりは米国がそれを容認しない限りという事ですが、北朝鮮の暴走はとまることはなさそう、という事でしょう。

では彼らの挑発行為を止めさせるためにはどうするか。基本的には「対話」、「圧力の強化」、「軍事力の行使」の三つしかないのでしょうが、国際社会としては、これまでも国連安保理を介して北朝鮮包囲網を築くことし都度、非難声明、制裁措置を打ってきていますが、今回の追加制裁決議に対しても北朝鮮はすぐさま「全面的に排撃する」と非難し、前述の通り15日にはミサイルの発射を強行しています。現下のトップ2人の挑発言動は、双方不信を深め、その決着は不透明を極める状況です。それだけに外交経験の乏しいトップ2人によるチキンゲームが過熱した結末が危惧される処、とにかく「ツキジデスの罠」(注)に陥らないことを念ずるばかりです。

     (注)歴史家、ツキジデスが、紀元5世紀、古代ギリシャ世界で、当時の覇権国家スパルタが、
急激に勃興する都市国家アテナイに恐怖心を抱き戦争(ペロポネス戦争)に至った経緯を記  
述する中、新興国の台頭が覇権国家に与える恐怖が、戦争を不可避とするとしたもの。

(2)挑発行為を許してきたアメリカの対北朝鮮政策

処で、そうした動きを助長し、現在のような北朝鮮の暴走を許してきた要因が、歴代米政権がおかした誤算の連鎖にあるとされています。

まず、クリントン政権では、1994年の第1次核危機で一時は核施設への限定的空爆を検討した経緯があったのですが、韓国の反対もあって最後は対話路線に転換し、核開発の凍結と経済支援を組み合わせた「米朝枠組み合意」を纏め、以って対北朝鮮政策としていましたが、2003年に北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)から脱退を表明したことで当該合意は完全に崩壊してしまっています。
次に、オバマ前大統領は、「戦略的忍耐」を掲げ、核放棄に向けた北朝鮮の自主的な取り組みを待つというものでした。それは「核」というものへの過小評価に負う結果と言われていますが、同時に北朝鮮に開発の時間を稼がせてしまったという事でした。ブッシュ大統領もそうでしたが、いずれも北朝鮮が崩壊するのは時間の問題と考えていたと言われていたのです。

そしてトランプ大統領です。彼は就任時、米本土に届く核弾頭を積んだICBMの完成には2年はかかると、つまり危機は少し先よりと見ていたようだと伝えられており加えて、トランプ氏は大統領就任以来、北朝鮮問題はとりあえず中国にまかせてきた事情もこれありで、その結果が、米国が軍事行動に踏み切る「レッドライン」の一つと見られていた核実験を許す事態に至ったというものです。9月4日、公開で行われた緊急安保理では、米国は「可能な限り最強の制裁措置を採択すべき」(ヘイリー国連大使)としていたのはそうした事情への焦りを示唆する処でした。

が、実はNYTimesは、この春から米国は急速に北朝鮮に対する取り組みを本格させだしたと報じていたのです。つまり専門家や情報機関の報告をベースに「現状が変わらなければ北朝鮮の核兵器はトランプ大統領が任期を終えるまでに、50個に達するかもしれない」(2017/4/26付)というのでしたが、既に、繰り返されるミサイル・核実験で、いまやその危機が現実となってきた事を認識し、要は北朝鮮の「核の脅威」が米本土に及ぶかもしれないと、米国は真剣に考え始めたと、いうものだったのです。

9月19日、トランプ大統領は、初登板となったNY、国連総会で「米国と北朝鮮の問題ではなく、世界と北朝鮮の問題だ」と強調し、国際社会が協力し、経済的な圧力を加える必要を訴えていますが、その協力という点では、北朝鮮と深い経済関係にある中・ロの対応の如何が大きなポイントとなる処です。つまり、現状、中国、ロシアそして米国が演じる国際社会のパワーゲームが、対米戦略が絡む図式となってきている点で、対北朝鮮政策についても、この図式の中でどう解を求めていくかが大きなポイントとなる処です。序でながら、北朝鮮に対して日米韓は敵対国であり、中ロは友好国です。以下は、直近での中・ロのスタンスの如何を観るものです。

2. 北朝鮮問題と中・ロのスタンス

(1)習近平中国(中朝友好協力相互援助条約)

中国は、北朝鮮にどう向き合おうとしているのか。北朝鮮との緊密化した経済関係に照らし、基本的には制裁には反対の立場にあったはずです。因みに当初制裁案にあった原油禁輸措置は北朝鮮の生殺与奪権を奪うものとして、ロシアと共に反対しています。尤もそれによる北朝鮮からの難民流入を警戒しての事とも言われているのですが。

然し、今回の北朝鮮の核実験が、習主席が主催してアモイで開く「BRICS首脳会議」開催(9月3日)の当日であったことは、彼にとっては極めて大きなショックを齎したとされる処です。つまり、習近平氏は主席に就任以来「中華民族の偉大な復興」を掲げ、大国を意識した外交を展開してきています。2014年、北京でAPEC、2016年には杭州でG20首脳会議を開催。今年のBRICS首脳会議は10月の共産党大会でアピールとなる筈だったと云われていました。が、北朝鮮のミサイル・核実験はそれまで積み重ねてきた成果、効果を帳消にしてしまったと、中国政府にとって大きなショックを与え、つまりは習主席の顔にドロを塗るがごときというものです。因みに、BRICS会議では北朝鮮の核実験に触れることはなかったと伝えられています。

加えて、米国との関係については、これまで中国は一帯一路構想等、「西」に目を向け、米国と対立することなく大国の地位を目指す道を進んできたとされるなか、同盟国北朝鮮の暴走が、同時に米国の対中圧力を生む処となってきたわけで、この圧力の大きさ如何では「党主席」につくと云われてきた習近平氏の「中国の夢」は壊されかねない状況と、報じられるなどで、いまや条件を付けながらも制裁には前向きになったと伝えられている処です。
因みに11日の制裁決議で禁輸が決まった北朝鮮の外貨獲得源と言われる衣料品貿易について、中国は決議採決前の8月下旬から停止していた可能性が伝えられていますが(日経9月14日)、原油の全面禁輸には反対したものの、中国が自国企業への影響を犠牲にしてでも衣料品の禁輸に踏み切ったとすれば、北朝鮮へのいら立ちのほどが映る処です。

尚、序でながら、トランプ大統領就は就任当初、中国が目指す米国との大国関係にrespect する姿勢を見せ、併せて北朝鮮問題については前述、中国に任せることとしていたものの、その期待に応えてくれない中国に不満を鮮明とする処、米通商法301条に基づいて中国による知財間侵害の調査を始めると云い、更に中国をイメージしての事と思料されるのですが「北朝鮮とビジネスをするすべての国との貿易停止を検討している」というのです。
つまり、トランプ氏の行動で注目すべきは、安全保障上の問題が経済に飛び火してきている点で、後述、「地経学」的リスクの高まりを実感させる処です。(第2章、P.9参照)

(2)プーチン ロシア(ロシア・北朝鮮友好善隣協力条約)

ロシアはどうか。ロシア国連大使は緊急会合後の記者会見で、「制裁だけではどのような禁止措置が導入されたとしても問題解決にはならない」と主張、併せて米国の決議案にロシアの経済的利益に関わる事項が入っていれば反対する(日経9月5日)と明言していましたし、北朝鮮との経済関係、つまりロシア経済は5万人超とも言われる北朝鮮労働者に依存する事情からも、制裁には反対、あくまでも話し合いをとしています。原油の禁輸措置については中国と共に同様趣旨で反対しています。
偶々、その直前の9月7日、ロシア極東のVladivostokで開かれた「東方経済フォーラム」に出席した安倍首相は、現地で行われたプーチン大統領との首脳会談で、改めて追加制裁案に賛成をと要請していますが首を縦に振ることなく、あくまで対話で解決すべきと主張、両者の溝は埋まる事はなかったと報じられていました。プーチン・安倍の親密さが喧伝される割にはと云った処です。さて安倍首相はトランプ大統領の飛脚なのかと云いたくなる処ですが、要は、彼らは政治よりは経済をと、具体的にはユーラシア地域でロシアが主導する経済開発に北朝鮮を組み込んでいかんとしている由で、中国の一帯一路戦略を意識した、新たな世界戦略を示唆する処です。

その他、英国、フランス、ドイツの欧州勢は制裁措置に大賛成にあり、核保有国を認めれば核拡散の懸念を指摘する等で、メルケル独首相は「仲介外交」に意欲を示すほか、スイスのロイハルト大統領も米国と北朝鮮の間の仲介役を買って出てもいいとの声も伝えられているのですが・・・。

さて、上述、新たな変化にある国際社会の生業を理解するとき、前述の通り、米国べったりできた日本の政策行動は再考が不可避となる処ですが、それには相応の哲学が求められると云うものです。因みに、安倍首相は各国首脳を訪れ、北朝鮮への圧力強化をと唱えています。が、単調に唱えるだけでは外交努力を尽くしているとは言えません。 今、日本は多国間の対話を呼びかけるにふさわしい立場にある処、先の国連総会での安倍首相の発言は、単にトランプ大統領の激しい北朝鮮批判に油を注ぐが如きで、さて彼の感性は如何なものか、と問いたくなる処です。


第2章 「地経学」の台頭と、日本の目指すべき方向

1.「地経学」の台頭が意味すること

本稿冒頭、旧来の力の衝突が国際関係に戻ってきたとする論文「地政学の復活」を紹介しましたが、北朝鮮問題も含め世界で起きていることを更によく見ると「復活」したのは「地政学」だけではなく、もう一つ言えるのが「地経学」の復活です。この「地経学」という言葉が生まれたのは米国の戦略研究家、エドワード・ルトワックが1990年に発表した「地政学から地経学へ」と題する論文で初めて使われたとされるものです。発表前年の1989年に起きたベルリンの壁崩壊、更に西ドイツ、日本という当時の新興国が米国の経済的優位を脅かしつつある新状況に照らし、軍事的脅威や軍事同盟の意味が薄れ、地経的な順位や、その方法が支配的になってきたとして、その時代を「地経学」の時代と呼んだものでしたが、その後、米国経済が勢いを増してきたことで、その言葉も消えて行ったというものですが、いま再びと云うものです。因みに、朝鮮半島を巡る現下の国際社会の生業こそは、新たな地政学的状況を生む処とされるのですが、つまりは「地経学」の復活を意味する処です。

尚、今日的には「地経学」は下記(注)の通り定義される処ですが、要は、地政学的な利益を、経済的手法で実現しようという政治・外交手法の事ですが、その具体的事例とし、よくリフアーされるのが、2010年9月、尖閣列島沖での中国漁船衝突事件後に起きた日中間の通商紛争です。

つまり、日本政府はこの衝突事件で中国漁船の船長を逮捕したのですが、中国側はレアアースの「対日輸出の禁止」を以って、日本に対して漁船船長を釈放させようと圧力をかけた事件です。当時、中国は世界のレアアース生産の97%を占めていただけに、その衝撃は日本に留まる事なく世界を走ったのです。これは漁船衝突事件を巡る一連の中国側の反応の一コマに過ぎなかったものの、経済手段を戦略的に使うという意味で、極めて画期的な出来事であり、まさに「地経学」的行動の典型的とされるのです。

(注)「地経学」:「国益の増進と防衛、更に地政学的に有益な結果をもたらす為に経済的手段を
行使すること」― By Robert D. Blackwill and Jennifer M. Harris,「War by Other
Means :Geoeconomics and Statecraft」(Harvard University Press, 2016 )
    
この地経学の台頭は実は、いわゆる liberal international order (自由で開かれた国際秩序)に対する挑戦が進むなかでの現象と言え、一言で言えば、「安全保障の地理、geography」は縮小し、「経済の地理」が戦略性を強めながら拡大する現象(慶大神保謙准教授「地経学の台頭と日本の針路」、2017.7)と見ることが出来るものです。もとより、この二つ現象は同時並行的に起こっているのです。

嘗て世界の安全保障問題、世界経済の秩序ある成長、等への対応は軍事大国、経済大国として米国が主導し、必ずや一定の落としどころを得て運営が可能とされてきました。然し、いわゆるG7に対抗できる新興国、とりわけロシア、中国が名実共に大国として台頭してきた一方で、米国が孤立主義に向かい、世界のリーダーとしての立場を放てきしだした事で、従来のような多国間の協調連携を容易とすることが難しい状況が出てきていますが、今回の国連追加制裁を巡る各国の対応推移は、まさにそうした現状を映すものと云えるのです。
 
序でながら、「地経学」の現象を、上述「経済的手法を用いた地政学的目標の追求」とする時、トランプ氏の大統領としての登場は、この「地経学の復活」を印象付ける処とも言えそうです。つまり彼は、周知の通り、民主主義、人権等を訴えるいわゆる「価値外交」を拒否しています。そして、これを嫌がる中国などに押し付けてもしようがない、それよりも、西側の経済発展と繁栄を見せつける方が遥かに中国を民主化に導く効果がある、との考え方にもあるものですが、それはまさに「普遍的価値」より「経済利益」を目指すという点で「地経学」の復活を印象付けると云うものです。尤も、それで大国米国を一つに纏め、政治することは極めて難しい処であり、現下の米国の実状が、それを語る処です。

さて、地政学と地経学の復活を受けて変化する国際環境は、今後、日本にどのようないリスクを齎し、従っていかなる戦略を以って臨むべきか、以下はその考察です。

2.新しいリスク環境と、日本の目指すべき方向

日本をはじめとする多くの地域諸国にとって、中国は最大の貿易相手国となっています。つまり通商、経済は中国に大きく依存しているのです。一方で、日本、韓国、オーストラリアなど、米国の同盟国、友好国は、自国の安全保障を米国に大きく依存しています。つまり経済は中国、安全保障は米国と、股裂け状況にある処です。だからと言ってどちらか片方を選ぶというわけにはいかないというものでしょう。

経済的な相互依存はグローバリゼーションが進んだ結果であり、更に進化することでしょう。それは世界経済を「ウインウイン」関係に導くための決め手でもあるのですが、同時に各国経済の脆弱性を大きくするマイナス効果をも招く処です。それは言い換えれば、先に触れたように自由で国際秩序への挑戦が進んできたことで、「安全保障の地理」は縮小し、「経済の地理」が戦略性を強めながら拡大する新たな環境を生む処、地経学的な外交は、経済的な依存を「人質」にとって、政治・安全保障上の譲歩、政策変更を迫るといった事が、常態化するのではとも危惧される処です。まさに新たなリスク環境と言える処です。

では今後の方向は、ですが ー これまで日本は民主主義等普遍的価値を米国と共有することで同盟関係を強いものとし、「自由で開かれた国際秩序」を維持せんとしてきました。が、上述してきたように「地政学的」、「地経学的」な大きな変化を齎す国際情勢にあっては、そうした日本に深刻なリスクをも齎す処です。つまり、グローバルなパワーシフトが起こり、中国やロシアと云った国家資本主義の台頭があり、民主主義と自由な価値の後退という挑戦を受け、同時に、これら変化は安全保障環境を厳しいものにする処です。こうした変化が示唆することはこれまでのような、単なる連携の政治学だけでは太刀打ちできなくなる可能性を示唆する処ですし、まさに地経学の重要性が増す処です。

そこで、考えられていくべきアジェンダですが、それは、現状の「米国主導への協調」策を含め、日本国内における経済、政治、安全保障を如何にバランスしたものとしていくか、にある処です。つまり、米国以外の地域連携を如何に考えていくか、とりわけ中国主導のAIIB等への対応、一方、ユーラシではロシア主導の経済圏の拡大で、地経学が急速に重要性を増してきていると伝えられていますが、これら対応を如何に考えていくべきか、が問われていく処と思料するのです。

かかる思考様式をコンテクストとするとき、日本に必要とされるのは、やはり開かれた国際秩序の基盤を守りつつ、新しい潮流に積極的に参加し、先進国と新興国が複合体として共存するシステムの構築を目指すことと思料するのです。弊論考7月号で紹介した、米プリンストン大学のG.J. アイケンベリー教授がLiberal international order(自由で開かれた国際秩序) の再生を目指せと主張していたこと、再び想起する処です。


おわりに:アジアの未来、そして日本政治の明日は

The Economist(2017/9/9)に載った ‘Asia’s Reckoning : China, Japan and the Fate of US Power in the Pacific Century by Richard McGregor , 2017’ の書評は、というより、書評を通じた評者のコメントは、今回の論考にも絡み、非常に筆者の興味を引くものでした。

まず、本書著者、マクグレガー氏は、シドニー生まれのジャーナリスト(the Australian and the Financial Times)で東京、北京で活躍し、日本語、中国語の二か国語に通じる仁で、かかるバックグランドをもつだけに、戦後の時代から今日に至る日本と中国の関係、さらには日米中、3国間の関係についての記述は、現場で手にするarchive(公文書)への豊かな解釈が加わって、極めて魅力的と評するのです。

因みに、日本と中国は少なくとも千年もの間、地域のライバル関係にあった事。双方が戦争を始めたのは19世紀の後半で、それまでは絵画、書家等芸術の分野では交流があったが、他の近隣諸国の様に中国の皇帝に貢物をするようなことはなかった事。そして、1895年から1945年の間、日中はしばしば戦争を繰り返してきた事、そして、1945年以降は、今日のような甘酸っぱい関係を引きずってきているというのです。とりわけ日本の植民地であった朝鮮半島については戦後解放されたものの、米・ソ(旧)が仕掛けた分断国家となり、その後に起きた朝鮮戦争(1950~53)では米国と中国軍が交戦し、その結果は今尚和解(平和条約)ないままの状況が続いていること、等々、その語り口は魅力に富むものだったというのでした。

こうした国際情勢の分析を課しながら、エコノミスト誌評者は、日中両国は20世紀を通して戦った交戦国として和解しきれないままにあり、しかもその関係が更に開く様相にあると、指摘するのです。そして、仮に、東アジアで戦争が起こった場合、北朝鮮は9月3日の核実験の成果を駆使するだろうし、そうなれば東シナ海の諸島はもとより、韓国の崩壊すら示唆するのです。
そこでifですが、中国が北朝鮮による核戦争勃発を阻止する口実で、北朝鮮を占拠ないし政権交代を力で行い、北朝鮮を自らの核傘下に入れることとすれば、東アジア地域における戦略的なパワーバランスを、米日中心から中国側へとシフトさせられるであろうし、それこそは一番手っとり早い方法であり、であれば、これはアジアにとって本当のfinal judgementになるだろう、Asia’s truest ‘reckoning’だというのです。さて、これは評者の勝手な推論でしょうが、何故かその可能性を感じさせるもののある処です。

来る10月、5年ぶりに開催される中国共産党大会では習近平氏が毛沢東以来の党主席に就任し、11月にはトランプ大統領の訪日、そしてアジア諸国訪問が伝えられていますが、これがアジアの安全保障の今後のり方再考への大きなモーメントとなる事間違いなく、日本政府には前述のように日本のみならずアジアの日本として、今後どう考えているか、その確実な対応準備が求められる処と思料するのです。という事で早速に「Asia reckoning」を発注しました。楽しみです


処で、9月17日(日)付日経朝刊一面には「早期解散強まる- 首相、来月衆院選模索」の言葉が躍り、え~と、思わせるものでした。事後、10月22日を投開票日とするスケジュールで、政界は動き出しています。何故、いま?って処です。北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射は、まさに日本国にとって戦後最大の危機とされる処です。一刻たりとも政治を休ませることはできないはずですが、そうした状況にも拘わらずです。
では国民に何を問うとするのでしょうか。つまり解散の大義、争点は、です。本来、与野党の論戦を通じて定まっていくものです。が、そんなことにはお構いなく、下り坂の安倍人気挽回の為には対抗勢力が全く弱体の今が・・・、という事のようです。党利党略、政権与党の損得だけで宝刀を振り回されては国民としては、たまったものではありません。あれだけ成長戦略の中核法案と安倍首相自身、しこってきた「働き方改革法案」など、結局は先送りとなるのですから。

近時、際立つ低レベルの国会議員の登場こそは、そうした政治風土を映すものでしょうが、勝手な都合で国政をいじくりまわし、政治の空転をも良しとする輩に、もはやred cardと、思う事しきりです。
                                        以上
posted by 林川眞善 at 14:29| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする