2023年08月28日

2023年9月号  バイデン大統領は米国のSupremacy 追求、マクロン大統領が目指すは欧州第一主義 - 林川眞善

目次

はじめに  酷暑のこの夏、世界は新展開に向かう 
・米欧が目指す行動は、Zeitenwende超え
・強権主義国家、他の動きも

1.検証 「バイデノミクス」と、日米韓首脳会談  

(1)BIDENOMICS – バイデン大統領が語るニュー経済政策 
  ・Financial Times. Gilian Tett記者
  ・新局面を迎えた米国の対中規制
(2)初の日米韓、三首脳会談

(3)序で乍ら ― 日本経済の現状、成長の活路
  ・2024年度の政府見通しが意味すること

2.マクロン仏大統領の矜持 ― 欧州の`Le Zeitenwende’  

(1)‘欧州自由主義’の行方
  ・Scot Moton 氏の人事と欧州主義
(2)EUの向かう方向 ―「戦略的自律」

おわりに:「地球沸騰の時代が来た」      
・グリーントランスフォーメーション(GX)




はじめに 酷暑のこの夏、世界は新展開に向かう

・米欧の行動はZeitenwende超え
サミットが終わって3か月。広島では米欧7か国の首脳が集まり、ウクライナ戦争と戦争当事国、ロシアにどのように対峙していくかが議論され、併せてG7メンバーの西側諸国の結束の強化が確認され、目下の世界はその合意を枠組みとして運営されてきている処です。ドイツのショルツ首相が米外交専門誌、Foreign Affairs、Jan~Feb,2023に寄稿した論文「The Global Zeitenwende (世界は歴史的転換点)」は、その対応として西側諸国の協調を強く訴えるものでしたが、上記合意はその主張をendorseする処です。(弊論考2023/5月号)

さてこの3か月、上記枠組みには特段の変化はありませんが、この「Zeitenwende」に応えんとする動きは顕著と云え、時にそれは現状へのアンチテーゼの様相を呈する処です。
以下、バイデン大統領が近時発動した経済政策、欧州では、これまで主流とされてきた欧州自由主義が後退しつつあって欧州第一主義が主流になってきたことが指摘される処です。

➀ バイデン氏が進める政策行動は米国のsupremacy追求
・6月28日、バイデン大統領は、シカゴでの講演では、中間層を拡大させ、インフラを強
化し、製造業を国内に回帰させる政策のすべてを「バイデノミクス」と称し、以って,その
合理性を主張するものでした。尤も、その内容は古くて新しい産業政策の到来を思わせる
処ながら、その狙いは米国のsupremacy 確保。
・8月9日、バイデン政府は、半導体やAI、量子技術といった先端技術分野で幅広く投資を禁じると対中規制強化発表。予ねて(2023年2月、大統領施政方針)バイデン氏の頭には米国のsupremacyの思い強く、それゆえに近時の中国の台頭許し難いとして、規制の網をヒト・モノだけでなく、直接投資というカネにも本格的に広がる処です。更に、
・8月18日には 日米韓、首脳会談を米国・キャンプデービッドで開催。これは先の広島サ
ミット時、バイデン氏から提案のあったもので、今後年1回の定期開催とする由。そして
対中を意識して「日米韓パートナーシップの新時代」と宣言する処、その狙いはアジアに於
ける米国のsupremacyの確保。

② 欧州では欧州主義への動きが進行
一方、欧州EU本部で起きた人事指名を巡るトラブルはマクロン大統領が主張する欧州主
義、国家主義的考え方が主流となってきたと云う新事態を映す処です。
具体的には、7月11日EU委員会は、米国籍でYale大学の経済学者のScott Morton氏を
EU競争政策の委員長に指名したことに始まるごたごた話です。一言で言って当該ポストに
何故米国人が ? と云った批判で、人種差別かと思わせるのですが、結局本人は7月19日
辞任したことで一件落着を見ましたが、これが、マクロン仏大統領が目指す欧州主義の変質
とする処です。つまり、これまで主流とされていた経済のglobalismを拒否するような動
きが顕在化してきたと云うものですが、 近時 欧州ではマクロン大統領が主張する、国家主
義的考え方が、主流に変質してきたことの証左とされる処、The Economist、July 22~28,
は ’ An American v Paris’と題して語る処です。(後述、第2項参照)

・強権主義国家, 他の動きも
勿論、注目される事案は多々とする処、とりわけ中国経済の不調が云々される処、一義的には不動産投資の不調にあって、8月17日、恒大集団の倒産が象徴する中国経済の不振は、世界経済の視点からも大きなリスク要因と映る処です。それが今や、中国経済の「日本化」(注)の兆しが出てきたと指摘されだす処です。

   (注)中国経済の日本化:正しくは「日本病化」とすべきでしょうが、要は需要不足によ
るデフレ懸念が台頭してきたと云うことで、中国経済の3割を占めるとされる不動産の
停滞が、全体的需要不足を誘引する処、これが需要不足で物価が伸び悩む状況をバブル
崩壊後の長期停滞に苦しんだ日本に重ねられるとするもの。

加えて、北朝鮮を巡ってのロシアと中国の動きが誘引する地政学的リスクの高まりも大きな問題です。7月27日は朝鮮戦争休戦から70年、北朝鮮ではその日を「祖国解放戦争の勝利の日」と位置づけ大々的祝賀パレードを展開していましたが、金正恩総書記 はロシアのジョイグ国防相を、中国からは李鴻忠政治局員を招待し、これに応える形でジョイグ国防相、李政治局員、夫々がプーチン大統領、習近平国家主席のメッセージを伝え、北朝鮮を介した新たな外交展開の場となったことで注目を呼ぶ処、とり分け北朝鮮が軍備の点で、ロシアへの接近が報じられる処です(日経7/28)  勿論,BRICSもGlobal Southも、です。
かくして、これらいわゆる強権国家の動きについても引き続きフォローが不可欠と思料する処、今次弊論考では当該問題については紙数の都合で、別の機会としたいと思います。

従って、今次論考は、日本を含めた米欧西側に見る新たな動きに焦点をあてる事とし、改めて「バイデノミクス」を検証し、欧州で進む自由主義の変質について、考察していく事としたいと思います。 この二つが映すのがzeitgeist、つまり「時代思潮」と云えそうです。


1.検証「バイデノミクス」と、日米韓首脳会談

(1) BIDENOMICS – バイデン大統領が語るニュー経済政策 
6月28日、バイデン大統領がシカゴで行ったスピーチでは初に「バイデノミクス」というフレーズを採用したことに注目の呼ぶ処でした。40年以上前、当時のレーガン大統領が自由市場と自由貿易を推進する政策にカジを切っています。これが「レーガノミクス」と呼ばれ、政府が市場や通商を手厚く支援してきた戦後の混合経済の反動と定義される処です。

今次の「バイデノミクス」スピーチは、そうしたこれまでの米政権が目指してきた政策について、「富裕層と大企業のために減税すべきと云うトリクルダウン経済学(注)は結局うまくいかなかった」、「中西部等の地域で、コミュニテイーから尊厳や誇り、希望が奪われた」と指摘し、レーガノミクス 以降の新自由主義経済政策は結果として、アメリカ国内の工業地域を空洞化させ、中間層が衰退し、民主主義の危機に繋がっているとするもので、そうした事態への対抗として、改めて3本柱からなる政策、 ➀ インフラ投資の拡大、② 教育による労働者の能力向上, ③ 競争促進に伴うコスト減で中小企業の支援 ― を目指す下記3法を以って `Remake America’s economy ‘を訴えるものでした。

(注)トリクルダウン経済学:トリクルダウン経済学とは富裕者がより豊かになると、経
済活動が活発になり、その結果、低所得者や貧困者にもその効果が浸透していく事で、経
済の全体が豊かになっていくと云う論理。現実は期待されたほどの効果はなく経済格差
の拡大を招いただけと、バイデン氏はまさにアメリカが推し進めてきた政策を全面的に
否定する処です。「アベノミクス」もそのトリクルダウンを目指していたが、実際には期
待されたほどの効果はなく経済格差の拡大を招いただけと認識される処。勿論バイデン
氏は、それに代わる政策とし昨年末、議会で採択された「インフラ投資・雇用法」「イン
フレ抑制法」そして「半導体・科学法(CHIPs法)」の3法を以って既に新政策実施を目
指す処。( 弊論考N0 131 ,2023/3月号、「バイデン大統領の施政方針演説と・・・」参照)

この3法を以って目指すことは、アメリカやカナダ、メキシコで最終組み立てされた電気自動車購入への実質補助金にあたる税控除、米国内の半導体産業を強化の為、5年間で約7兆円の補助金制度そして、国内雇用創出の為1.2兆ドルに及ぶインフラ投資などが含まれる内容で、つまる処バイデン政権の政策は、膨大な財政出動による国内産業振興、企業誘致、と云った内容で、要は、「下から創り上げ、中間層を支えていく」とするものでしたが、これが長く米国自身が他国に対して否定や批判してきた 保護主義とも映る処、意外な事に今次のバイデン発言は欧米メデイアでは大きな騒ぎとなる事はなかったのです。

・Financial Times. Gilian Tett記者
ただFT米国版Editor at largeのジリアン・テット 氏は、今次のバイデン・スピーチについて以下のコメントをよこす処でしたが、極めてrealisticであり、時に示唆的(FT Jun.30)とも映る処、この際は当該記事の概要を以下に紹介しておきます。

第1に、バイデン政策は大統領選が実施される24年までの短期の景気浮揚が主な狙いではなく長期的な経済構造の転換を目指している。つまり、「多くの雇用を今生み出すのではなく、将来に向けた道をつくる」のが狙いとするもの。
第2に、レーガノミクスを否定する事情は、いわば現実的な政策の寄せ集めにある点にあって、green innovation への支援があり、インフラ投資、企業独占の抑制、労働者の再訓練があり、更には ‘America first’に基づく通商政策による重要なサプライチェーンの強化などがごった盛りされていると。
第3に、バイデノミクスは西側諸国における潮流の変化の原因であり、その結果のひとつでもある処とも云え、構想の多くは過去10年のESG (環境・社会・企業統治)推進で主張されてきた内容。そもそも、米国第一主義に基づく通商政策と国家安全保障を理由にした政府のサプライチェーンへの介入に乗り出したのはトランプ前米政権。
第4に、バイデノミクスの明確な輪郭はまだ定まっていないが、この政策転換は既に経済で予想外の効果を生み出している。因みに22年の歳出・歳入法(インフレ抑制法)が予想外に施行にこぎに漕ぎつけ、製造業への投資がこの2年でほぼ倍増したことを銘記すべきと。

そして、I suspect that the phrase “Bidenomics” could shape the zeitgeist for some time-and even outlast Biden’s political career. Welcome to the new (old) world of American policymaking. Investors ignore it at their peril. と、「まさに古くて新しい米国の産業政策の世界が到来した」と、以ってバイデノミクスをzeitgeist(時代思潮)にかなうものと締めるのですが、このzeitgeistこそは、その際の決め言葉とする処です。

それでも、今次「バイデノミクス」で盛られた内容はずばり、前政権のトランプ氏が訴えていたトランポリズム、市場重視の経済政策、を踏襲するものとの批判も伝わる処ですが、要はすべてタブー破り、非論理のトランプ氏とは同列には語れない、つまり、バイデノミクスは論理的に整備されたものとして受け止められ、意外なほどにバイデン氏の発言は欧米メデイアで大きな騒ぎにはなっていないのも、そうした新しい環境整備があって、まさにZeitgeist(時代思潮)として仕切られる処です。

言い換えればトランピニズムとの根本的な違いは政策実行の仕方の違いでしかないとする処ですが、8月8日付FTコラム欄では、同社chief commentator のラックマン氏も同様コメントする処、そのタイトルは ‘Why Baiden is the heir to Trump’と、トランプ流をバイデノミクス化したものと評する処、中国の台頭阻止を狙うバイデン氏は対中貿易収支に拘ることなく、次項対中輸出規制強化の下、基幹技術の対中輸出を制限する取り組みを体系的に進めている事、更に米産業の再活性化に向け前政権より多くの資金を投じている点でも強く背中を押す処です。 

とは云え、バイデン氏が、過去の巨額の経済対策と物価高騰の関係を説明し、又「大きな政府」ではなく、物価高にも配慮し、健全化の方向を伴う財政政策を示さない限り、「バイデノミクス」は有権者の心には響かないのではと、個人的には危惧する処です。
つまり最悪、「大きな政府」への回帰が単に国内産業重視や自由貿易の否定等、一国中心主義、保護主義に走るような事になると、世界の政治や経済に与える影響は少なくなく、では米経済政策が具体的にどういう方向に向かっていくのか、やはり友好国との連携も固めつつ、当該推移を見守っていく事、不可欠と思料するばかりです。

・新局面を迎えた米国の対中規制
そうこうする中、バイデン米政府は8月9日、半導体やAI、量子技術といった先端技術分野で幅広く投資を禁ずる旨を発表。規制の網がヒト・モノだけでなく、直接投資というカネにも本格的に広がる様相です。 投資分野の規制では従来、軍事や監視技術に絡む特定の中国企業への株式投資を制限していましたが、今回は直接投資に踏み込んだほか、対象領域を横断して幅広く網をかけたのが特徴となる処です。勿論、中国は反発する処、先端技術の覇権を米中どちらが握るのかが、今後の世界秩序を決める事になるものと見られるだけに、バイデン政権の対中規制が新局面に入ったとして、世界の注目が集まる処,です。

因みに8月12日号、The Economist 巻頭言では、バイデン政権の今次対中規制について、まず 規制の対象について「米政府は規制対象を絞って厳重に管理する、‘small yard and high fence ‘ 戦略で米国をうまく中国から守りたいと考えているようだが、中国を対象とする関税や規制を導入する事に伴うマイナス面を正確に理解しない限り、安全保障上の理由から規制を強化するたびに その対象が拡大し、管理が強化されることになりかねない。これまでの処、想定していた効果を実現できていない一方で、コストの上昇を含めマイナス面が予想以上に大きい」とし、この点でも米政府は規制対象の的をもっと絞る必要があるのではと‘costly and dangerous` と評する処です。要は、米国の置かれた現状からみて、今次の規制は、‘costly and dangerousとなるだけで、Joe Biden’s China strategy is not working と評するのです。そして米国のデリスキングによって、世界はより安全どころか、むしろより危機になるばかりだと評する処、では日本の対応は如何にと問われる処です。

(2)初の日米韓、三首脳会談
さて、8月18日、5月のG7広島サミットでバイデン氏から提案あった日米韓3首脳による会談が米大統領の山荘「キャンプデービット」で行われました。今次首脳会談は初のことでしたが、要は北朝鮮のミサイル対応やサイバー防衛、経済安保等についての協力の強化について話し合ったというものでしたが、その特徴は日米韓の安保協力を新たな高みに引き上げると云うもので、日米韓が協力する領域を大幅に広げたことでした。そして「日米韓パートナーシップの新時代」が宣言され、今後、この三者会談は年1回の定例開催とする由です。ただ、気になるのは「パートナーシップ」と呼ぶその実態の如何です。

日米同盟、米韓同盟は密接に関係する処、朝鮮半島有事となれば在韓米軍と韓国軍を後方で支えるのは在日米軍でしょうが、自衛隊も米軍などの後方支援を想定される処です。最近では米国が主導して中国や北朝鮮などに政治力や軍事力を発揮するための枠組みが増える状況にあって、その狙いは米国のsupremacy確保と思料する処です。
一方、米政権内では岸田氏へのバイデン氏の信頼が高まっている背景として、ロシア制裁に参加したこと更に、防衛費増額に踏み切ったことで、日本の安保政策の転換を評価する形で去る1月、岸田氏の訪米を受け入れてきたとされる経緯もありで、では当該会談の先にはNATOのような集団的防衛体制を目指すことになるのかと、気になる処です。

(3)序で乍ら ― 日本政府の効率化問題と、成長の活路
・スイスのビジネススクール(IMD)が6月20日公表した2023年「世界競争力ランキング」では日本は64カ国中、35位と過去最低の水準でした。1989年の第1回目のランキングは、日本は世界第1位、その後、低下はしたものの96年までは5位以内を保っていましたが、それ以降、順位を下げ、2023年は過去最低の順位に沈んでいますが、ランキング評価項目の内、とりわけ政府の政策が適切でないためにビジネスの効率性が低下していることが指摘され、その結果、日本全体として競争力は低下にあると云うものです。 つまり、一言で言って「国力の低下」の何ものでもない話です。 90年代中頃まで世界でトップを争っていた日本が何故にここまで凋落したか ? 人口減少が進み財政難が続く中、生産性や潜在成長力をどう高めていくか問われる処です。

・2024年度の政府GDP見通しが意味すること
さて上記事情の中、7月20日、内閣府は2024年度のGDP見通しを、601.3兆円と公表しました。この600兆円と云えば15年に当時の安倍首相が打ち出した新3本の矢の大目標の数字です。15年度の名目GDPは540.7兆円、22年度も561.9兆円と21兆円余りの増加に留まる処、それが23年度には586.4兆円と前年度比24兆円余り増え、24年度には600兆円に乗せるというのですが、要は物価が上がりだしたことで名目GDPが押し上げられる事になる処、因みに8/15、内閣が発表した4~6月期のGDP速報値(名目)は年率12.0%の成長に加速。デフレで長く低迷していた名目GDPが世界的物価上昇を契機に動きだしつつある処です。

そこで留意されるべきは、バブル崩壊後の日本は経済が軌道に乗りかけると、財政政策か金融政策かでブレーキを踏み、経済を失速させてきた経験のある処、その轍を踏むことのないよう細心の注意が求められる処です。


2 マクロン仏大統領の矜持 - 欧州の ’ Le Zeitenwende’

(1) ‘欧州自由主義’の行方
前述の通り、7月11日、EUの欧州委員会は競争政策部門のchief economistに米国籍でエール大学教授のFiona Scott Morton 氏を指名しましたが、その後、EUの要職に外国人、米国人の助言を仰ぐことに抗議の声が、フランスを中心に上がり出し、翌週の19日、当人が就任を辞退した事で、一件落着を見る処でした。本来ならEUの要職に外国人が就任すれば欧州が持つ 称賛すべき開放性を世界にアピールし得たのではと云うものでしょうが、結局浮彫りになったのは、欧州第一主義の勢いが増していることを語る処、マクロン大統領が指向する欧州主義の浸透が進む様相を映す処です。

つまり近時、フランスが中心となってEUの統合を進めるべきとの声が高まるなか、対ロでもEUの結束を強調する処、NATOについても、欧州の安保に不可欠な存在として高く評価する処です。そしてフランスの政治事情も既成政党の退潮で嘗ての「左派対右派」の図式はなくなり、「国際主義」対「自国主義」の構図に変わってきたとされる処です。

・Moton女史の人事と欧州主義
今次のMorton人事を巡って、The Economist, July 22~28 は、「An American V Paris」と題し、副題を「A spat in Brussels pits an open vision of Europe against an insular one 」(ブリュッセルの ‘人事のごたごた騒ぎ ’は、島国根性を忌避する欧州ビジョンに風穴を齎すか)として、今回のモートン騒動について、以下 指摘する処です。

まずScot Morton氏を指名したEUは、選択のプロセスに於いて、国籍に拘わらず最も適切で優れた人材を、自信を以って採用する組織との印象を与えたとし、米国のIT大手が牛耳るこの世界で、米国人の知見を活用するのは当然の事と評する処です。しかしフランス政府の目にはScot Morton氏の資質は不適切と映った由で、マクロン大統領は欧州委員会について ‘ autonomy of thought’ 「思考の自律性」を失うつもりかと疑問を呈する処、多くの欧州議会議員や欧州委員の内5人も、この指名を批判した由で、同氏を擁護する学者も多かったが、主だった政治家からは同氏を擁護する声は上がらなかった由。そして、今日では明らかにフランス的な考え方が主流にあり、基本的には以下文脈にあるとするのです。

つまり、「EUが自由主義に拘るのは単純すぎる。他国はそんなやり方をとうの昔に捨てている。例えば、米国や中国は事あるごとに自国の為に貿易障壁を高めているのに、なぜEUはあらゆる貿易に対して開放的な姿勢を維持しなければならないのか」、また「中国や米国は国内企業にたっぷりと施しを与えているが、欧州は国を代表する企業への補助金を禁じている。米中は恥ずかしげもなく自国第一主義を貫いているのだから、欧州もそうすべきだ。自由主義のルール等かまうものか」と云うのです。
こうしたことの推移は、EUの考え方の転換を目指すフランスが、成果を収めつつあることをも示唆する処です。フランスは予ねてグローバル化や自由すぎる市場に懐疑的で、その考え方はEU内の自由主義的な声との間でつり合いが取れていたが、ただ自由主義的な政策は、北欧や中欧の小国の後押しを受け、EUの一部機関が推進してきた結果と云うのです。

・更に今回のMorton騒動は4年前に起きた事件を想起させる処と云うのです。
つまり、マルグレーテ・ベステアー氏(欧州委員会と競争政策担当委員)が欧州の二つの巨大企業、独シーメンスと仏アルストムの鉄道事業統合計画を正当に却下し、フランス政府を困惑させた話ですが、その決定は自由市場を支持する陣営の暗黙の支援を受け、維持されたものでしたが、今振り返ると、この時期が、欧州が最も自由主義的な瞬間だったと云え、その後、新型コロナ禍により、グローバル化と国際供給網の魅力が低下。ウクライナ戦争で、天然ガス等必須の資源を他国に頼ることの危険性が露わになったことで、今日では、こうした主張が主流となっているとし、そうした結果は積みあがり始めていると指摘する処、欧州経済は益々国家主義的、つまりフランス的様相を強めていると見る処です。

(2)EUの 向かう方向 ― 「戦略的自律」
マクロン氏は貿易でも防衛でも、他地域に頼れない場合の対処計画を策定すべきと「戦略的自律」の必要性を訴える処、米国でトランプ主義が復活しそうなことも、欧州の神経を高ぶらせていると見る処、今ではこうした主張が主流と指摘される処です。そして24年には欧州委員会の新委員が何人も指名され、マクロン大統領にとって経済統制政策への影響を強める好機と指摘するのです。 つまり、EUが向かう方向は明らかだが、それは懸念すべき方向でもあると指摘するのです。欧州が直ちに計画経済へと変質する事はないだろうが、経済的活力を失った欧州大陸には、あらゆる政策助言は必要で、時には外国からの助言もと、付言し締めるのです。 G7が終わった今、フランスではマクロン氏が目指す,そして主導せんとする 欧州第一主義が進む様相にあって、これがこれからの世界にいか様なインパクトを齎していくか、その流れを注意深くフォローしていきたいと思う処です。


おわりに 「地球沸騰の時代が来た」

連日の異常気温に晒されたこの夏、世界気象機関(WMO)とEUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス(C3S)」は7月27日、7月の世界の平均気温が観測史上 最も高くなることが確実になった旨を発表。 国連グテーレス事務総長はWMOの報告を受け、「気候変動はここにある。恐ろしいことだ。そして、始まりに過ぎない。地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が来た」と語る処、ペッテリ・ターラス事務局長は「残念だが、異常気象は新しい日常になりつつある」とその言にフォローする処、メデイアも同様,
8月2日付日経社説は「酷暑の日常化へ対応を急げ」と檄を飛ばす処です。

欧州では、夏の過ごし方を再考する議論が始まったと伝えられる処ですが、進行する地球温暖化は、節電や省エネと云った従来の小手先での対応では止められないものと思料するのです。つまり経済社会を抜本的に変革する対策が必要です。生活習慣を大きく変えると同時に、脱炭素化社会の実現に向けて新しい産業を生み出していく覚悟が求められるというものですが、具体的には、そうした要請に応える政策の中核となるのが、日本の場合、グリー
ントランスフォーメーション(GX)です。

・グリーントランスフォーメーション(GX)
昨年7月、岸田首相を議長とするGX実行会議が開催され、今年2月、次の2点、「徹底した省エネ等、取り組みを中心とした推進策」、加えて「GXの実現に向けた先行投資支援」を中心とした取り組みが、閣議決定を見る処です。もとよりGX投資の成否は、今や企業・国家の競争力を決定づけるとされています。が、足元でのGXの状況は聊か心もとない状況と報じられる処です。この種 問題には何としても政府の強力な指導力が求められる処です。

今、岸田政府が主導するマイナンバーカードと保健証の統合化問題で前述の通り、岸田政治は混乱状態にある処、これもdigitalizationと云いながら、それに向かい合う行政府の取り組みの曖昧さにあって、要は政府のガバナビリテイーの欠如とされる処です。因みに、7月の報道各社の調査では、その結果を映すごとく内閣支持率は各社とも、「不支持」が「支持」を上回る状況です(日経、8/1) 岸田政権には今一度グリップを握り直し、原点に立ち戻る事ではと愚考するのです。つまり番号制度とそのツールとしてのマイナカードを真に国民の利器にするための知恵を絞り、総意工夫を発揮すべきではと思うばかりです。
 (2023 / 08/ 25)
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2023年07月24日

2023年8月号  ロシアではブリゴジンの乱、欧州では転換点の安保秩序、 そして、日本では政界リベラル派の決起 - 林川眞善

[ はじめに ] 世界の安全保障体制はいま転換点  

[ 1 ] ロシア・ワグネル反乱とプーチン政権の行方

(1)ワグネルの反乱
 ・Financial Times ,Gideon Rachman 氏 コメント
(2)ブリゴジン氏と民間軍事会社(PMC)「ワグネル」
 [補足] ブリゴジン氏と民間軍事会社「ワグネル」
(3)ブリゴジン反乱と中ロの関係

[ 2 ] 今、転換点の欧州「安保秩序」と、
戦時下のウクライナに想うこと
 
(1) 今次NATO首脳会議が明示する新方針
 ・ EU・日本の安保連携
(2) 今、戦時下のウクライナに想うこと

[ おわりに ] 没後50年の今、石橋湛山に学ぶ、ということ
・超党派による「石橋湛山研究会」の発足
 

        



[ はじめに ] 世界の安全保障体制はいま転換点

この6月、ロシアで起きたブリゴジン氏が仕掛けた反乱は、プーチン政権の基盤の脆弱さを露わとする処、とりわけ反乱の鎮静化に外国指導者の仲介を得たという事は、まさにそうした事態を象徴する処と云えそうです。勿論、プーチン政権が揺らげば、良くも悪くも国際政治への影響は大きく、とりわけ注目に値するのがロシアの友好国 中国に齎す意味合いです。

一方 西欧諸国は、ロシアへの対抗として軍事同盟たるNATOを以って安保体制の強化を目指す処、7月11/12日、リトアニアで開催の首脳会議では、ロシアへの抑止力維持の為として長期的、武器供与の継続を担保するなど、ウクライナを結束して支援していく姿勢を明確にする処、とりわけNATOが採択した共同声明では、中国について「中国の野心と威圧的な政策はNATOの利益や安全、価値観への挑戦だ」と明記する一方、ロシアについてついては「最も重大かつ直接的な脅威」と定め、ウクライナからの撤退を求めるとする処です。

尚、NATO首脳会議に先立ち、4月に正式加盟したフィンランドに続き、反対して来たトルコの方針転換で、スエーデンの加盟にもメドが立つ処、実現すれば現在31カ国のNATO加盟国は32カ国に増える事になり、その拡大はロシアへの西側の包囲網が更に強まる事を意味する処です。この北欧2カ国の加盟は、ロシアのウクライナ侵攻を事由とする処、ロシアにとっては緩衝地帯としていた当該2カ国が消えることとなり、プーチン氏にとっては西欧との緩衝地帯が消えることでNATOの東方拡大を軍事的脅威と見做して猛反発する処、以って欧州の安保秩序は冷戦終了後で最大の転換点を向けえる処です。

更に上記首脳会議に引き続き13日、ブリュセルで行われた日・EU(ストルテンベルグ事務総長)首脳会談では、安全保障協力に関する新たな4か年計画の公表がありましたが、これまでにもまして、東アジアの海洋の安全確保、サイバー攻撃対策などで、共同で取り組む方向が確認され、安保分野で新たな協力の枠組みが進められる処です。 ただ現在のウクライナ戦争を巡る当事者はプーチン・ロシア、そして暗黙の支援国としてあるのが習近平中国ですが、これに西側諸国は隊列を組んでロシアへの対抗を図らんとする処、未だウクライナ戦争の終結に向けての言葉は何処からも届くことはありません。 そうした中、いま日本の政界では戦前「小日本主義」を訴え、戦後首相になった石橋湛山に注目が集まる処です。 

そこで今次論考では、上記ロシアでの反乱騒動の実状と、それを機に一気に動き出す感にある西側安保対応の動向に絞り、その行方について、そして湛山の思考様式とも併せ、考察する事としたいと思います。


[1] ロシア・ブリゴジンの反乱とプーチン政権の行方

(1)ブリゴジンの反乱
2023年6月23日夜、ロシアの民間軍事会社(PMC)「ワグネル」の創設者、ブリゴジン氏はロシアのショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長らの更迭を求めて武装蜂起を宣言、そして、ウクライナから部隊をモスクワに向け進める予定の処、プーチン氏の意を受けたロシアの隣国 ベラルーシのルカシェンコ大統領が、ブリゴジン氏との仲介役となり(ルカシェンコ氏とはブリゴジン氏は20年来の知人とされる処)、24日の夜、武装蜂起の停止で合意。反乱は一日で収束をみる処でした。

そもそも「ワグネルの存在」はプーチン大統領の容認する処にあって(注)、従ってロシアのウクライナ戦争に関与を続ける処、ロシア軍からの武器支援が十分に得られない事情「等」にロシア国防省と対立関係にあったブリゴジン氏は、上記二人の更迭を求めて武装蜂起したと伝えられるもので、ブリゴジン氏は政権の転覆は望んでないとするも、それは‘事変’の他なく、反乱とされるもので、まさにロシア版本能寺の変を思わせんばかりでした。

   (注)プーチン大統領は「ワグネルというグループは法的には存在しない」と話す等、
解体を急いでいる様相とメデイアは伝える処。(日経2023/7/16/)

24日には、ブリゴジン氏はロシア南部ロストフ州を離れ、その後の所在は不明とされていましたが、27日、ルカシェンコ大統領はブリゴジン氏がベラルーシに到着したと明らかにする処、これが事実上の亡命とされるものでした。(日経6/28) しかし、その後の彼の居場所については確たる情報は伝わりませんが、これまでの一連の動きは盤石と見られたプーチン政権の体制の脆弱さを浮き彫りする処と云えそうです。

ただ、ブリゴジン氏がどこに居ようが、引き続きロシアの軍指導部とプーチン氏を声高に批判し、彼らにとって危険な存在であり続けると見られる処、その‘危険’とは追い詰められたプーチン氏が仕掛ける原発爆破テロであり、ロシア軍が退却後、ザポロジエ原発に仕掛けた爆発物が爆破する恐れともされる処でしたが、ウクライナ国防省情報総局は6月30日、原発に送り込まれた一部のロシア人従業員が退却を始めたと公表する処です。(日経7/3)、このワグネルによる反乱は、一旦鎮まったものの、これまでのブレゴジン氏の行動にも照らし、これが正常化への一歩ではなく混乱の序曲ではと、巷間の見る処です。

(注)ブレゴジン氏動静:ロシアのメデイア「メドウーザ」は7月19日、ブリゴジン
氏が部隊と共に「しばらくベラルーシに滞在する」と述べたと報ずる処です。同氏は今後のウクライナ侵攻の戦線への復帰を示唆したとし、戦闘員には「アフリカで新た
な道を歩む」ことも促したとも伝わる処です。(日経、7/20 夕)

・Financial Times 、Gideon Rachman 氏 の論評
因みに「事変」発生の直後、6月26日付Financial Timesでは、同社chief commentatorのG. Rachman氏は `Putin’s system is crumbling’と題し、プーチン体制の崩壊の始まりと語る処でした。序で乍ら、そのポイントを紹介しておきましょう。

➀ ブリコジン氏の武装蜂起はひとまず沈静化したが、ロシアがこれで正常を取り戻すとは思えない。そもそも戻るべき正常な状態などもはや存在しない。今回、反乱が起きたのはプーチン氏の計画が崩壊しつつあるからで、そのプロセスはこの反乱で加速する可能性が高い。今やプーチン氏が生き残りをかけた2つの戦いに直面しているのは明白。
一つはウクライナとの戦争、もう一つは自身の政権内部のぐらつき。そしてウクライナとの闘いで更に劣勢に追い込まれれば、ロシア国内でのプーチン氏の立場は一段と危うくなる。その逆も然り。

② 6/24~25日に起きた出来事をロシア国民は目の当たりとした。ロシア市民は今回のプーチン氏がウクライナとNATOがロシアに侵略してくると云う嘘に基づいてウクライナを侵攻したと云うブリコジン氏が批判するのを聞いた。ロシア市民はブリゴジン氏とワグネルの兵士らを「必ず処罰し」、「法と国民を前に責任を負わせる」というプーチン氏の決意も耳にした。

③ その後、ワグネルがモスクワへの進軍を止める約束と引き換えに、プーチン氏がブリゴジン氏を無罪放免とすることに同意したこともロシア国民は見、プーチン氏がベラルーシのルガシェンコ大統領の仲介に頼る姿も目の当たりとした。プーチン氏が過去に軽蔑を 隠そうともしてこなかったあのルカシェンコ氏に対してだ。ウクライナは、ロシア軍内部の対立の表面化は自分たちにとって好機とみている。彼らは、今こそ反攻すべく予備兵を投入するかもしれない。7月に開催のNATO首脳会議では、西側の友好国に更なる支援を訴えかけるべく新たな理論を用意してくるだろう。

④ プーチン氏が自らの体制を維持できる可能性は明らかに低下している。ブリコジン
氏は今後もプーチン氏の脅威となる。同氏がベラルーシの田舎にあっても引き続きロ
シアの軍指導部とプーチン氏を声高に批判し、彼らにとって危険な存在であり続ける
だろう。プーチン氏は、プリゴジン氏が批判するジョイグ国防相とゲラシモフ参謀総長
は確かにウクライナでも、国内でも明らかに失敗を侵してきた。よって都合よくスケー
プゴートにされるかもしれない。だが、二人を排除すればプリゴジン氏の主張を認める
事になり、となるとプーチン氏は更に弱い存在に見えかねない。

➄ スケープゴート探しはロシアのエリート層の間に分断を招きかねない。プーチン氏が長く自らの体制を維持してこられた一因は、ロシアで大きな力を持つ人々の多
くが 自分たちの運命はプーチン氏と彼が創り上げてきたシステムに依存いている事
を知っていたからだ。ロシアのエリート層にとってはプーチン氏にしがみつくことが、
安全確保への道に思えていた。だが、そのシステムが揺らぎつつある今、彼らの計算
も変わりつつある、と。

更に、7月1日付The Economistは`The humbling of Vladimir Putin’と題する論考では、まだ侮れないがと、But don’t count him out yet としながらも、`The Wagner munity exposes of the Russian tyrant’s growing weakness’ とし、’ as long as Mr. Putin wears the crown and his soldiers dream of imperial rule over Ukraine, the journey cannot even begin‘とプーチン氏のウクライナ支配を目指す虚ろな姿を強調する処です。

(2)ブリゴジン氏と民間軍事会社(PMC)「ワグネル」
さて、今次反乱を企てたワグネルの頭領 ブリゴジン氏とはいかなる人物か?ソ連崩壊後、急速に事業を拡げた企業家の顔を持つ仁で、90年にホットドッグの屋台を始めたのが彼のビジネスの始まりと伝えられています。そしてホットドッグ店のチェーン展開に成功すると96年には高級レストランの経営に乗り出し、要人が訪れるようになり、その中にプーチン氏もあって、彼の「取り立て」で事業は急成長を見る処と伝えられていますが、ブリゴジン氏のビジネスの闇が深まったのはプーチン氏が3期目の大統領に就いた10年代前半とされています。

・「ワグネル」という会社
民間軍事会社「ワグネル」は、13年に創設された香港を拠点とする「スラブ軍団(Slavonic Corps)」という組織を前身とするもので、ロシアの総合警備会社を母体とし、戦時下のシリアで活動するために創設されたとするもので、それはSNSなどに偽情報を流して世論を操る組織で、後に「トロール工場」とも呼ばれる組織で、フェイクニュースの拡散等を通じて世論工作を行うグループを指すのです。因みに、シリアやアフリカでもロシアの別動隊として紛争に加わり、多額の報酬に加え、石油・ガスや金鉱山の利権をも獲得したとされる一方、16年には米大統領選や、18年の米中間選挙でもSNSを通じて世論操作を行なったとされています。 こうした民間軍事会社(PMC)は現代版「傭兵」ともいえる処、これが単なる傭兵ではなく、戦闘のみならず、ロジステイックやインテリジェンスに至る非常に広い分野をカバーしながら、国家や民間の要望に応えつつ、軍事的な活動を総合的に支える役割を担う存在で、多様化した新しい戦争に対処していくためにも不可欠な存在となってきたとされる処です。(「 ハイブリッド戦争:ロシアの新しい国家戦略 」 廣瀬陽子、講談社現代新書、2021 )

要は、欧米のロシア批判に情報戦で対抗し、正規軍が関与できない非合法な作戦を担ったとされ、その点でウクライナ侵攻でも主力部隊を形成する処とされています。もっとも、今次の武装蜂起で、政権との相互利用の関係が終わったとされるのですが、ブリゴジン氏は前掲メドウーザ紙が示唆するように何か新しい行動機会を模索中とされる処です。

[補足] ブリゴジン氏と民間軍事会社(PMC)「ワグネル」
ワグネルの頭領、ブリゴジン氏とはいかなる人物か? その一部は上述にある処、彼はソ連
崩壊後、急速に事業を拡げた企業家の顔を持つ仁で、90年にホットドッグの屋台を始めた
の が彼のビジネスの始まりとされています。そして、ホットドッグ店のチェーン展開
に成功すると96年には高級レストランの経営に乗り出し、要人が訪れるようになり、その
中にはプーチン氏もあって、彼の「取り立て」で事業は急成長を見る処だった由。

ブリゴジン氏のビジネスの闇が深まったのはプーチン氏が3期目の大統領に就いた10年
代前半。つまり13年にはSNSなどに偽情報を流して世論を操る組織で、後に「トロール
工場」(注)と呼ばれる組織ですが、14年には、ワグネルの前身となる軍事会社を創設、
ウクライナ東部紛争で暗躍したとされています。また、シリアやアフリカでもロシアの別
動隊として紛争に加わり、多額の報酬に加え、石油・ガスや金鉱山の利権をも獲得したと
される一方、16年には米大統領選や、18年の米中間選挙でもSNSを通じて世論操作を行
なったとされています。 [(注)トロール工場:フェイクニュースの拡散等を通じて世論
工作を行うグループを指す] 

トロール工場やワグネルは、プーチン政権の意向を受けて動いていたとされていますが,
要は、欧米のロシア批判に情報戦で対抗し、正規軍が関与できない非合法な作戦を担った
とされ、その点でウクライナ侵攻でも主力部隊を形成したとされています。尤も今次の武
装蜂起で政権との相互利用の関係が終わったとされるのですが、ブリゴジン氏は何か新し
い行動機会を模索中とも報じられている処です。(日経、6/30)

   序で乍ら彼の出自ですが、 伝えられる処、彼は1961年6月1日、レニングラードで
誕生。1979年11月レニングラードでの窃盗罪で執行猶予付きとなったものの、1981年には強盗、詐欺、未成年者を含む売春等の罪で12年の懲役刑を宣告され、9年間の刑務所暮らし。出所後は前述の通りで、ホットドックの販売ネットワークで、成功を収め、プーチン氏との接点ができたことで大成功をおさめ今日に至ったとされるのでしたが、上掲ラックマン氏はブリゴジン氏を根からの悪と決めつける処です。

(3)ブリゴジンの反乱と中ロの関係
今次ブリゴジン氏がプーチン政権に対して起こした武装反乱の解決に外国指導者の仲介を必要としたと云う事は極めて象徴的と云え、プーチン・ロシアの今後に強い影響を与えるものと思料される処、プーチン政権が揺らげば、良くも悪くも国際政治への影響の大きさは大方の指摘する処ですが、とりわけ注目されることは、中国にもたらす意味合いだ、と指摘するのが日経本社のコメンテーター、秋田浩之氏です。(日経7/8)

同氏によれば、習近平政権内での検討では、今後もロシアとの軍事協力を深めると云うものだった由ですが、プーチン政権の求心力が衰えれば、習政権には二つの影響が出ると指摘する処です。その一つは、ロシア内の安定が揺らげば、インド太平洋への中国の戦略に狂いが生じること。二つは、ロシア内の混乱は中国の対米戦略にも影響を落とすとするものです。習政権は米国主導秩序を塗り替え、50年までに世界の最強国になる目標を掲げる処で、米国への対抗上、ロシアは唯一の大国パートナーであること、ロシアの国力が衰えたからと言って国連安保理事会の常任理事国の地位が消えるわけではないが、外交力は下がってしまう。習氏にとって最悪な筋書きは、プーチン氏が失脚する事と断じ、更に、重要なのは、ロシアの苦境から習氏がどのような教訓を引き出すかにあると同氏は指摘するのです。

つまり、明確な自信のないままプーチン氏がウクライナに侵略し、ロシア軍の死傷者が増え続けたことが反乱を誘発したとするのですが、これを中国に当てはめれば、よほど短期で圧勝できる自信がない限り、台湾侵攻に踏み切るべきでないと云う教訓になる処、ただプーチン政権が内戦寸前の危機にさらされたことが、習氏に与える心理的な圧力は計り知れないだろうと云うのです。そして強権政治は盤石なようで、崩れる時はアッと云う間であって、西側諸国も「脆いロシア」への対策を急ぐべき時と云うのです。勿論、「備えよ常に」と理解する処、これが 時宜として、岸田政権にはいつまでもバイデン政権のフォローワーではなく、自らの政治理念を映す政策とその行動が必要となっているのではと痛感するのです。


     [2] 今、転換点の欧州「安保秩序」と、戦時下のウクライナに想うこと

(1) 今次NATO首脳会議が明示する新方針
7月11/12, 東欧リトアニアの首都、ビリニユスで開かれたNATO首脳会議では、ウクライナを長期にわたり結束して防衛し、脅威に対する安全を保障すると、明確なメッセージを発信する処(注)、ロシアへの抑止力維持へ長期的に武器の供与を継続することを担保する処です。ただ 昨年6月、マドリードで開かれたNATO首脳会議では今後10年の指針となる新たな「戦略概念」が採択されていますがその際も、ロシアを「最も重大かつ直接の脅威」と呼び、抑止力と防衛力を大幅に強化するとし、又 中国についても「我々の利益、安全保障、価値に挑み、法に基づく国際秩序を壊そうと努めている。中国とロシアの戦略的協力関係の深化は我々の価値と利益に反する」と記す処でした。(日経2022/7/1)

  (注)NATO首脳会議共同声明のポイント(日経2023/7/13)
    ① 「ウクライナの将来はNATOの中にあると、明記
    ② 加盟国の軍事費支出をGDP比で「最低2%」に
    ③ ロシアにウクライナからの撤退要求。「最も重大かつ直接的な脅威」
    ④ 中国の野心と威圧的政策は「NATOの利益、安全、価値観への挑戦」
   ➄ 日本、韓国、オーストラリア、ニュージランドと安全保障分野で協力強化
  
尚 12日には、NATO首脳会議にあわせ、G7は共同声明を公表。現在のウクライナの自衛力を高めると同時に、将来のロシアによる再侵攻を抑制する為、各国が長期的に支援することとし、夫々で軍事的、経済的支援の在り方を定め、当該宣言では各国が直ちに議論を始めると明記する処です。具体的には防衛装備の提供などの他、ウクライナに対する訓練プログラムや軍事演習の拡大、同国の産業基盤の発展に向けた取り組みを想定する処ですが、バイデン大統領は、12日「同盟国はウクライナの未来はNATOにあることに同意し、G7は我々の支援が将来にわたって続くと明確にした」と強調する処です。(日経、7/13)

・EU・日本の安保連携
ただ、日本が他国の安全を長期的に保障する枠組みに参加するのは極めて異例とされる処ですが、今次のNATO首脳会議を機に7月13日、ブリュッセルで開かれたEUと日本の首脳会談では、これまでの経済中心のEU・日本の安保協力を格上げする事とし、具体的には東アジアの海洋安全確保やサイバー攻撃対策等に共同で取り組む方針を確認、新たな連携の仕組みを導入するとしています。 因みに、日仏間には外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)が、日独間には首相と外務、防衛、財務等主要閣僚が勢ぞろいする政府間協議の枠組みが設けられていますが、これが日本・EUでも実現すれば, EUがアジアの安保に関わるという国際社会への強いメッセージになると関係者は、協調する処です。具体的には、海洋安保、宇宙、サイバー、偽情報と云った領域を対象にすると云うのです。(日経、7/3) 安保分野で初めて本格的な連携に踏み込む処です。

(2)今、戦時下のウクライナに想うこと
処で5月以降、G7首脳サミット、NATO首脳会議、更には個別、二国間協定等々、各共同宣言が映す西側陣営の姿は当然の事ながら、複相的連携体制の下、ロシアを最も脅威として対ロ、対中に向けた抑止力の維持、或いはその強化の一点にあって、今日に至るプロセでは本稿冒頭でも指摘したように、ウクライナ戦争の解決や終結に向けた言葉は一切見受けられないままにすぎてきています。極めて気になる処です。しかも日本についてみれば、その行動様式はまさにバイデン米国への追随のほかなく、日本としての当事者意識が見えない事に聊かの疑問を禁じ得ません。

ウクライナ戦争は既に1年半に及ぶ状況にあって、その間の犠牲は甚大なる処、では、それを終結させるためにはどのような行動を取るべきか? そうした声がとどくことはありません。これこそが問題です。そこで、この際は実戦ではなく、戦闘状況のトレンドに変化を齎すような、つまりは変化球づくりを構想していってはどうかと思料するのです。勿論、その際は複相的連携体制の下行われることが前提ですが、先のG7サミットで見せた日本のリーダーシップが生かされる処ではと、思料するのです。
 
実践的には、西側諸国との連携もさることながら、この際はG7サミットでの経験を活かし、日本側に取り込んだインドやインドネシア等、グローバルサウス(GS)との連携をベースに、インドのモデイ首相が、 ‘今、戦争をしている時ではない’ とプーチン氏に直言したことにも照らし、膠着状況の現状を打破するため、相応の変化球を打ち出すことを目指してはと思料するのです。つまり日本こそは、そうした行動を取り得るポジションにあるのではと思料するのです。勿論、簡単なことではないでしょうが、前号論考で指摘した通り世界の中心がシフトすることが見通せる状況にある今、日本こそはそうした展望の下で、GS等、関係諸国と連携し、時間はかかるでしょうが変化球づくりを目指してはと、痛く思う処です。


[ おわりに ] 没後50年の今、石橋湛山に学ぶ、ということ

過日、友人と会食をしながら上記 筆者の思いについて色々話をしましたが、今の 現状は、結局、岸田首相に彼が目指す長期ビジョンや、それを支える政治哲学の無さに因る結果ではと、話は収斂するのでした。ただ幸いにも、その際、この6月、超党派の与党議員連が「超党派石橋湛山研究会」を立ち上げたことを承知しました。そこで話は続くのでしたが、では何故今、湛山か?です。

その点、筆者友人が、今回の研究会立ち上げにかかわった共同代表の一人、国民民主党の古川元久氏から直接もらい受けたと云う週刊誌(サンデー毎日 7/16 )で、古川氏は次のように語っているのです。まず、時代認識にあって、「新しい戦前」と云われる今の日本には湛山から学ぶべきものが多い事、そして、日本政治の最大の課題は米中対立の中で日本がどう生き延びるかに尽きる処、日米同盟で中国を封じ込めるという今のやり方では行き詰まり、下手すると国を失いかねない、その点で、「小日本主義」を謳った湛山を改めて学習すると云うものの由ですが、まさに筆者の疑念を映す処です。

序で乍ら、彼らが指摘する「時代認識」に、政治家、岸田文雄はどう応えていこうとしているのか、それが伝わってこないことが今日的問題と云え、5月のG7サミットでは、岸田首相のleader-shipに多くの称賛を集める処でしたが、6月の報道各社 (朝日、産経、日経、読売、共同通信)の世論調査では、内閣の支持率は激しく下落する処、その理由として挙げられていたのが「政策が悪い」で、これはまさに内閣への信頼の無さを映すものと云え、G7サミットでの成果をまさに帳消しする格好です。

・超党派による「石橋湛山研究会」の発足
さて湛山(1884~1973)は1907年 早大(文学部哲学科)卒業後、曲折を経て1911年、東洋経済新報社に入社。戦前から植民地の放棄を主張する「小日本主義」を唱えるリベラルなジャーナリストとして、freshな記者の視角を残す処、 敗戦後は政治の世界に転じ自民党総裁を経て1956年、内閣総理大臣に就任。しかし病の為, 僅か65日で総理大臣辞任を余儀なくされています。

それでも1959年には湛山は訪中し、周恩来首相と会談。「石橋湛山・周恩来共同声明」を発表し、田中角栄が目指した日中国交正常化に向けた地ならしを果たし、更に1961年、米ソ冷戦で世界が引き裂かれていたさ中、「日中米ソ平和同盟構想」を発表、その3年後の1964年にはソ連訪問を実現させた仁です。改めて書架の奥にうずもれていた冊子(井出孫六「石橋湛山と小国主義」)を取り出し、読み返す処、要は湛山には「西側か東側か」と云った、どちらか一方の陣営と友好関係を築くやり方は日本の将来にとって現実的ではないとの思いがあって、日本に求められるのは通商国家として生きていく覚悟とする処、その結果は今日に至る日本の成長の姿の他なく、まさに先見の思想家と評される所以です。

今次liberalとされる保守系議員が超党派で「湛山研究会」を立ち上げました。一部では現状に対する不満を映す決起かと、評する向きもある処、要は「民主主義か専制主義か」の二項対立を世界に持ち込むような外交を展開するやり方では賛同者は得にくい、まずそのことを、日本こそがアメリカに向かって発言していくべきで、それが日米関係の深化に繋がるはずとして、改めて湛山を学び直そうと有志が集まったというものの由です。 
もとより湛山的思想を実践する事は生半可な覚悟ではできない事と思料します。が、 今年は湛山没後50年、湛山を源流とする宏池会との歴史的つながりを持つ岸田首相には、いかなる外交路線を打ち出せるか、まさに問われる処と思料するのです。(2023/7/24)
posted by 林川眞善 at 14:35| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2023年06月25日

2023年7月号  広島サミット ‘後’ の世界の行方 - 林川眞善

目次

[ はじめに ] 広島サミットで特筆される三つの イッシュー  

[1] 今次サミトで合意された対中戦略の行動基準  

(1)行動基準はDe-risking、not de-coupling
      ・‘The risks of de-risking trade with China’ – Rachman FT記者
 
(2)対中脅威への対抗多国間枠組み, 米中首脳会談の可能性
      ・「インド太平洋経済枠組み」そして「日米豪比4カ国 防衛相会議」
      ・米中関係 改善の可能性

[ 2 ] Global South(GS)の盟主「モデイ・インド」の今 
     
(1)「Upside of Rivalry:India’s Great-Power Opportunity 」
by 元インド外務次官 Nirupama Rao氏

(2)モデイ・インドの行動様式

[ おわりに ]  世界経済の ‘重心’



[はじめに] 広島サミットで特筆される三つのイッシュー

今次G7広島サミットは5月21日、幕を下ろしました。その最大の評価に繋がったのはサミット、三つの行動でした。その一つは、インドやインドネシアと云ったグローバルサウス(G.S.)の有力新興諸国をサミットに招き、特に中国を念頭に今後の世界における経済安全保障問題について、まさに彼らと対等かつ忌憚ない討議を重ね、互いの思考様式、行動様式への理解を深め、更にはウクライナのレジンスキー大統領のサプライズ登場もありで、G 7と新興国との距離が一挙に縮まった事でした。

そして対中戦略を巡って、新たな行動基準とも云える概念がG7として示されたことも大いに評価される処でした。つまり米国が主導してきた、とりわけトランプ前政権下で顕著となった米政府の対中戦略、米中de-couplingと叫ばれた対決姿勢に代え、新たにde-risking、つまりリスクの低減化をベースとした行動様式を以って進む趣旨が、下記 サミット首脳宣言(序文)(注)に組み込まれた事でした。
そして、それ以上にG7首脳 全員が揃って「広島平和記念資料館」を訪れたこと、そして全首脳がそこに展示された遺品、写真等を通じて ‘核の脅威’をまさに目にしたことでした。

(注) 広島サミット首脳宣言: G7 Hiroshima Leaders’ Communique 、May 20,2023
[Preamble] (序文) ― We are taking concrete steps to :
・support Ukraine for as it takes in the face of Russia’s illegal war of aggression;
・strengthen disarmament and non-proliferation efforts, towards the ultimate goal of a
world without nuclear weapons with undiminished security for all;
・coordinate our approach to economic resilience and economic security that is based on
diversifying and deepening partnerships and de-risking, not de-coupling;
・drive the transition to clean energy economies of the future through cooperation within
and beyond the G7;
・launch the Hiroshima Action Statement for Resilient Global Food Security with
partner countries to address needs today and into the future; and
・deliver our goal of mobilizing up to 600 billion dollars in financing for quality
infrastructure through the Partnership for Global Infrastructure Investment (PGII)

資料館で語られる核の脅威、更にde-riskingという概念については種々議論のある処です。が、本稿ではとりわけこのDe-riskingは、国際環境の変容を踏まえたG7が目指す行動様式の表れとして、その周辺事情をまずレビューし、今次特筆されたGSの盟主、モデイ・インドの今を考察し、併せて今後のグローバル世界の行方を考察としたいと思います。


[1] 今次サミトで合意された対中戦略 行動基準

(1)対中行動基準はDe-risking、not de-coupling
今次広島サミットで目を引くのが上記首脳宣言(序文)に見る対中姿勢に係る表記の変化
でした。勿論、そこには「中国」の文字は見られませんが、当該表記の変化からは今次サ
ミットは中国との向きあい方を巡る新たな共通認識形成の場になった事を伺わせる処です。
具体的には中国を巡る米国の戦略対応について、とりわけトランプ前政権でのそれは、対
中切り離しを目指すde-couplingとする戦略にありましたが、今次サミットでは国際環境
の変化への対応として、徒に対立を煽るような表現は避け、代えてde-risking、つまり‘リ
スクの低減化’ を行動基準に据えた事で、G7として危機管理の発想を採用し、多様化する
環境への対応基準(?)に据えたことでした。つまり『デリスキング (de-risking)』を行
動の軸としながら、経済的強靭性及び経済安全保障へのアプローチを以って 協調・対峙し
ていくとしたことで、実質 中国対応を意識したものと理解する処です。

つまり、対中貿易・投資規制は結果として経済を冷やし、逆効果を生む処、そこで「安全保障面では中国を抑止するが、自国の経済的利益も追及する」とし、以って中国への向き合い方とする処です。 となると今後、globalな競合の視点は民主主義や法の基盤、人権と云った方向へとシフトしていく事になるのではと見る処です。

因みにEUのフォンデアライエン欧州委員長は3月30日、ブラッセルでの講演で「中国との関係を切り 離すことは可能でなくEUの利益にもならない」と、de-riskingを重視する方向を示唆する一方、イエレン米財務長官 も4月「(米国は)中国とのde-couplingを目指していない」と明言する処です。更に、5月12日、スエーデンのストックホルムで開かれたEU非公式外相会合では、重要資源や物資の中国への依存度を減らして行く方針を合意していますが、中でも対中戦略について「デカップリング(分断)」でなく、「デリスキング」だとする処です。(日経 5/14)

加えて、G7としては世界経済における自らの影響力の衰退を実感する中(世界のGDPに占めるG7の割合はかつて7割あったものの08年のリーマンショックを経て、現在では4割を切る状況)、独自外交(戦略的自律)を以って中立的立場を堅持するインドやインドネシア等、G.S.勢の影響力の高まるなか、これが米中、米ロの対立が続く中にあって、どちらに就くかは明確にすることなく、要はうまく付き合い、自国の経済的利益と安全を確保しようとする立場を堅持する処ですが、G7としては自らの衰退をカバーするためにも彼らとの連携が不可避とし、その為にもデリスキングを基本軸として連携を進めていく事は、双方にとって利することにもなるとする処です。
 
つまり今、世界で進んでいるのはバイデン大統領が云う「民主主義と専制主義」の二極化ではなく、独自の判断で行動する新興国の存在が目立つ世界秩序の多極化ですが、そうした行動様式をG7として容認する事になった点で、今次サミットは中国との向き合い方を巡る新たな共通認識を形成する場となったと云え,同時にサミットは再びG7結束を固める場となったと思料する処です。

勿論、De-riskingについてはまだまだ詰められるべき点のある処、例えば新興・途上国の「グローバルサウス」は重要鉱物の宝庫ですが、米国が彼らからの調達体制を確立できれば中国依存のリスクを軽減できるのでしょうが、国内ではバイデン政権の支持基盤の一つである労働団体などは調達先の拡大には反対にあって、バイデン政権は世界の供給網から強制労働を排除すると訴えていますが、その点、政策に矛盾を生じかねずで、当該議論は慎重に進める必要があると云う処です。

・「The risks of de-risking trade with China」
Financial Timesのコメンテーター、ギデオン・ラックマン記者は、5月30日付、Financial Timesで「The risks of de-risking trade with China」と題し、対中取引を巡るde-riskingとする行動様式には、なお問題のある処と、下記指摘するのです。参考まで、その概要を以下に紹介いておきたいと思います。

「・・・ 中国との関係で、西側はDe-coupling(分断)を進める必要があるとしたこの表現は、どう考えても不可能かつ極端な考え方だとして激しく非難されるケースが多かった。それに比べDe-riskingはもう少し慎重で、非常に的 を得た印象を与える。西側の企業には、安全を期すために一定のルールさえ守れば従来通り中国と貿易を続けてよいと云うメッセージとして伝わっている。

中国との関係で米国と欧州が懸念しているリスクは大きく分けて二種類。第一は西側が中国から受けとるものについて、第2は中国が西側から受け取るものについてだが、とりわけ懸念されることは、第2の「中国が米国から受け取るもの」についてだ。第2の「中国が米国から受け取るもの」で最も懸念されているのが、軍事転用が可能な米国の先端技術だ。日本も先端半導体の製造装置等23品目の輸出には友好国・地域向け以外では個別許可が必要になると発表したが、これらもまさに第2のカテゴリーに該当するものだ。

G7各国は、中国が自分たちの重要な技術にアクセスするのを制限すると同時に、中国に危険なまでに依存する事態からの脱却も図っている。電池の開発や環境負荷削減に向けた取り組みに不可欠なレアアースや重要鉱物などは、その最たる例だ。EUは電池生産の要であるリチュウムの97%を中国からの輸入に頼っている。西側諸国が依存度を減らそうとしているもう一つが、台湾から90%以上を輸入している先端半導体だ。米国で2022年に成立した半導体補助金法は、米国での半導体生産を復活させるべく約520億ドル(約7兆3000億円)の補助金を投じる計画だ。

デリスキングという考え方の骨格はそれなりに明白になってきたが、いざこれをどう実行するかとなると、まだはっきりしない部分は多く既に3つの難題が浮上している。第一は
企業と国の関心が相対立する点。第二は中国への依存を軽減する難しさと、これに伴うコスト。第三はリスクの本質が依然として判然としないことだ。 我々が危険視しているのは、中国が他国を自国の思い通りに強引に動かそうとすることなのか、それとも戦争に至るリスクなのかと云う点だ。

普通なら西側各国政府の重要目標は、自国企業の輸出拡大支援だ。だがデリスキングを追求するとなると必ずしもそうはならない。半導体大手エヌビデイアのジェンスン・フアンCEOは5月末、米企業が中国への先端半導体の輸出を禁じられれば「非常に大きな打撃」を被ると訴えた。だが、米政府は、同社の半導体はAIの開発に不可欠なだけに、輸出規制を見直す姿勢は全く見せない、と。

・・・更に、西側のデリスキングへの進め方は今、3つの柱に集約されつつある。中国への依存度の軽減、技術輸出の制限を図る、そして西側企業の中国市場との取引を促進することだ、という。中国の海外諸国・地域に対する強引な動きへのリスクに備えると云うのであれば、それは一つの一貫した政策と云える。だが備えるべきリスクが台湾などを巡る米中間の競争となると、この対中政策は一気に崩れ始める。恐ろしい事に、米政府高官の中には米中間で軍事衝突が起きる確率を今や50 %以上と見る向きもある。実際に戦争となれば、西側企業は中国からの即時撤退を余儀なくされるだろう。
製品の大半を中国南部で生産している米アップルや利益の半分以上を中国で稼ぐ独フォルクスワーゲンのような企業にとって、これは死を意味するかもしれない。一方、西側のある国家安全保障担当はこう言う。「もし中国との戦争が起きたら、世界自動車市場への影響など気にする余裕もない小さな問題でしかなくなる」・・・・と、締める処です。
さてこうしたde-risking、リスク回避を以って対中関係がスムースに進むものか?ですが。

・日本の外交課題
さて、G7後の日本の外交は如何?ですが、要は2点に集約される処ではと思料するのです。つまり、サミットではウクライナへの力強い支援と厳しい対ロ制裁の継続を確認し、21日サミットは幕を閉じましたがその際の記者会見で岸田首相は「対ロ制裁を維持・強化し、その効果を確かなものとする為に制裁の回避・迂回防止に向けた取り組みを強化していく」と発言し、以って自らの課題としたようです。となれば、その着実な実践が課題となる処です。 もう一点はやはり難しい課題ですが、岸田首相が云う、そしてG7サミットの首脳宣言でも盛り込んだ「核なき世界」に向けて、どのように取り組んでいくかです。サミット・メンバーの米英仏、そしてアウトリーチに参加のインドはいずれも核保有国です。その目標とする「核なき世界」に向けた策はとなると、具体的には見えることはないままです。岸田首相は2022年5月、国連NPT検討会では「核なき世界」を目指す行動計画、「ヒロシマ・アクション・プラン」(注)を打ち出してはいるのですが。

    (注)「ヒロシマ・アクション・プラン:22年5月, 国連で開催の核兵器不拡散条(NPT)運用検討会議に出席した岸田首相は、5本柱とした行動プランを提示―
        ➀ 核兵器不使用の継続、② 透明性の向上、③ 核兵器数の減少傾向の維持、
④ 核兵器不拡散と原子力の平和利用, ➄ 各国指導者らの被爆地訪問の促進。
但しウクライナを巡る問題を理由にロシアが反対、採択されずに終っています。

勿論、今次発表された「広島ビジョン」はこのプランに沿ったものですが、この際は一足飛びに核廃絶を目標とするのではなく、前月号論考でも指摘した通りで、「核なき世界」を目指すとい云い続けること、そしてその発信や気運をG7だけでなく、枠外の国も含めた具体的な行動に結びつける働きがけを、続ける事ではと思料する処です。

(2)対中脅威に対抗する多国間枠組み、と 米中首脳会談の可能性
上記G7サミットで示された対中行動基準に応じる形で, 対中多国間連携の枠組みは多忙を喫す一方、米中首脳会談の可能性も浮上する処です。以下その実情をレビューします。

➀ 動き出した米主導、二つの対中 多国間連携の枠組み
・「インド太平洋経済枠組み」:IPEF (インド太平洋経済枠組み)の閣僚会議がサミット後の5月27日デトロイトで開催されています。IPEFは、日米や東南アジア諸国等14カ国が参加し、2022年5月米国が主導する形で、東京で発足した経済連携の枠組み作りで、①貿易、②サプライチェーン、③エネルギー安全保障を含むクリーン経済、④脱汚職等公正な経済、の4分野を協議対象とするものです。今次会合では、サプライチェーンの協定で合意の目途が立った由で、要は中国への依存の高い重要鉱物などの供給網の強化を目指すと云うものです。 同会議に出席した西村経産相は「何か危機が起きた時にカバーし合う、協力し合う枠組みと。そして供給網の多国間協定は世界で初」と語る処です。(日経 5/28) 序で乍ら6月8日、英スナク首相は米バイデン大統領とホワイトハウスで会談し、supply chain 構築、防衛分野での貿易促進の「大西洋宣言」に合意していますが、これがIPEFを枠組みとした連携の実際とされる処です。

・日米豪比4カ国 防衛相会議:6月3日、日米豪比4カ国は、シンガポールで初の防衛相会議を開き、南シナ海や台湾を念頭に、中国脅威に対しインド太平洋の実現に向け協力することを確認するものでしたが、これまで日米豪の3カ国で協力を進めてきたが、今次フィリピンが参加したことに新しさがあると云うものです。周知の通り、対中多国間枠組みでは「Quad(日米豪印)」がありますが、インドが「中立」を指向している為、4カ国が揃って中国を名指しする事のないままにあって, この辺の事情については、後述「モデイ・インドの行動様式」(P8)に委ねる事とします。

② 浮上してきた米中関係 改善の可能性 
上記環境の中 6月18日、米国務省の事前発表の通り、ブリンケン米国務長官が訪中。これが2018年のポンペオ国務長官(当時)以来約5年ぶりとなるものですが、19日には外交部門トップの王毅共産党政治局員、秦剛国務剣外相と会談、引き続き短時間ながら北京の人民大会堂で習近平主席と面会、双方米中関係の安定化に向けた基本方針を伝える共に、習氏はブリンケン氏に対して、「両国の間にある共通の利益を重視すべきだ。その成功は互いにとって脅威ではなくチャンスだ」と指摘した由 伝えられる処でした。ただ、ブリンケン長官によれば、米中の軍事対話の再開では合意できなかった由で、最も重要な衝突回避に向けた措置で具体的な進展がなかったことは問題といえ、両国は危機管理の仕組みづくりを急がなければならないものと思料する処です。19日の米CBS TVのインタービューでブリンケン氏は11月、米国で予定のAPEC首脳会議に合わせ米中首脳会談を開く可能性があると明言する処でした。(日経6/21/2023,夕刊)

尚、習近平氏のブリンケン氏への応接作法に一部からは批判の声も上がる一方、バイデン氏が習近平氏を独裁者と発言したことで中国側の猛反発を招くなどで、瞬時ギクシャクする処、とにかく同氏の今次訪中が冷静な議論に移行するシグナルではと思料する処です。
G7サミット後の世界は益々、西側陣営と中ロ陣営との間の溝が広がる様相にある処、仮に米中首脳会談が実現すこととなれば、今次サミット宣言で打ち出されたde-riskingを超えた、要は世界が期待する安全保障環境の確保は進むものかと思料する処、その姿勢は、まさにDe-riskingを地で行く処と云え、Cross fingerする処です。


       [ 2 ] Global South (GS)の盟主、「モデイ・インド」の今

(1)Nonaligned Worldと、元インド外務次官ラオ氏の寄稿
米外交専門誌、Foreign Affairs ,May/June,2023号の冒頭特集は「The Nonaligned World(非同盟の世界)」で、新興国、途上国の新たな姿を伝える多数の論考を掲載する処でした。いうまでもなく5月の広島サミットでは、G7メンバーに加えインド、インドネシア等、グローバルサウス(GS)が招待され、彼らとの連携強化への討議が進むことを映す処という事でしょう。

さて、上記Foreign Affairs誌で筆者の目を引いたのが元インド外務次官、Nirupama Rao女史の寄稿「The Upside of Rivalry ― India’s Great-Power Opportunity」でした。要はインドという国について、そしてモデイ首相が目指す世界の中のインドについて力強く語る処です。尚 Nirupama Rao女史は上記 元インド外務次官で、駐中国インド大使、駐米国インド大使を歴任した仁で、7月6日 デリーで開催予定の日印両国の第3回「2プラス2」対話に出席予定との由、報じられる処です。

周知の通りインドは民主主義の価値観を共有する、今では大国の条件を備える国で, 人口では今年中には中国を抜いて第1位(人口大国)となることが予想され、しかも経済を支える若年層労働者が豊富、外交はgoing my way, 独自路線を堅持し、因みにロシアとは兵器の購入やエネルギー調達で良好な関係を維持し、ウクライナ侵攻でも直接ロシアを批判することを控え、G7が続ける対ロ政策とは一定の距離を保ち、ロシアのウクライナ侵攻についても「ロシアがウクライナで人権侵害をしているとの欧米の主張は正しいかもしれない。だが、西側はベトナムやイラクなどで似たような暴力的不当な介入をしてきた。だからインドはロシアの孤立を求める西側の声に関心がない」と断じる処です。

これは上記Foreign Affairsに寄せたラオ氏の論考の一節ですが、彼女は続けて ‘We are not pro-Russian, nor for the matter are we pro—American’ と、初代インド首相のネルーが掲げていた `We are pro-India’ を繰り返すと共に、今インドはIndia of Modiに沸く処と強調するのです。そして彼女が語るインドとは「Go your own way」であり、「Have your cake and eat it, too」と、その行動は自主的判断に負うものと語るのです。そしてインド国民は西側政府からの干渉には極端に反応するも、要は西側諸国とのsolid relationship, 賢明な連携関係の堅持にあって、とりわけ米国に対してはそうした関係の堅持を目指すとする処です。尚、インドの魅力は内需です。23年には人口は中国を抜き世界首位に、又、per head GDPでは23年に2600ドル、25年には3000ドルを超えると予想される処です。
今少しその内容をモデイ・インドの行動様式としてレビューしておきたいと思います。

(2)モデイ・インドの行動様式
モデイ首相率いるインド人民党(BJP)が政権を担ったのが2014年、任期は5年。BJPは2019年の連邦下院選で勝利を収め、現在2期目で、モデイ政権は2024年迄続く事になっています。さて、インドはこれまでの30年間、堅実な経済成長を果たし、今では経済のトップランナーにあって、周知の通り、今年1月には「Voice of the Global South」と称した大規模な国際会議を主導、新興国・途上国が求める不公正な分配の是正を求め、又グローバル・サプライチェーンの整備統合を働きかける一方、今や、国際機関についてもglobal southを入れた組織改革の必要性を訴える等、国連については安全保障理事会の組織改革を、又IMF等、国際金融機関についても改革を迫る処、西側諸国の中でも、特異な存在にあると彼女は語る処です。勿論、色々問題はあるものの西側の外交政策が ‘human rights and democracy ’ にあることが支えだとも指摘する処です。

・インドと多国間連携の実状、そして対米関係の今
インドは自国の防衛について60%をロシアに依存してきたこと、そして、エネルギーについては、インドにとってロシアは安価な輸入先となってきたこともありで、地政学的リスク環境から対ロ政策については友好関係を基本とする処、因みに先の国連総会でのロシアへの非難決議にはインドは棄権に回り、まさに独自の行動を取る処です。

が、こうしたインドの行動様式は多国間連携に多大な影響を与える処、日米印豪の間には2006年の安倍元首相の提唱を受ける形で、「法に基づく自由で開かれた国際秩序の強化にコミットした4カ国首脳会議」、QUADがありますが、もとより中国を念頭とするものですが、その現実はインドが『中立』を目指す事で4カ国が揃って中国を名指しで非難するケースはなく、その点 米国は中国が外交攻勢をかける太平洋諸国とも防衛協力を固めることが不可欠と、6月3日には、インドに代えフィリッピンを呼び込み日米豪比の4カ国による初の防衛相会談をシンガポールで開く次第です。(日経6月4日)

又、インドは、大国として中国に対峙する米国とのバランサーとなる構えはなく、米中競合の中に入って両サイドに働きかける事になると云うのです。そしてネルー時代以上にインドはインドの利害に照らしながら多くの国々との付き合いを構築していくと云うのです。ただ、世界が多極化する中、考え方の違う民主主義国家同士が困難を抱えながら協力関係を結び双方が経済や安全保障の面でメリットを享受していけるものか、問われる処です。
が、それ以上にモデイ・インドに付き合っていくうえで気がかりは、経済成長やデジタル技術の導入でダイナミクな変貌を遂げつつあるインドですが、これが必ずしも「リベラル」なものではないと云う現実です。つまり現政権下で強権的なヒンズー第一主義が進められていると云う点です。( 「これからのインド」堀本武功、他、東大出版会、2021)

6月17日付The Economist は巻頭言「America’s new best friend – India dose not love the West. Even so, America needs it」で、こうしたモデイ・インドとバイデン米国との行動について次のように語る処でした。・・・・To work, the relationship will have to function like a long-term business partnership : India and America may not like everything about it, but think of the huge upside. It may be the most important transaction of the 21st century. (インドと米国は互いの全てを好きなわけではないが、両国の関係が齎す大きな利点に目を向けよう。21世紀で最も重要な「取引」となるかもしれない) 
まさに21世紀の先を見据えた米印関係かくあるべしとする処、その言然りと思う処です。

果せるかな6月22日、モデイ首相は国賓として米国を訪問。その国賓待遇は米国にとって非同盟国ながら初となるものでした。米印両国は中国と対立関係にあり、両首脳会談は防衛協力が主たるテーマーにあって、モデイ首相は米両院議会での演説では「両国の連携が21世紀を決める」と語る処です。(日経、6/23/2023夕)確かにモデイ・インドの台頭は世界に新たな潮流を生む処、両国関係の今後の展開に更なる関心の高まる処です。

[ おわりに ] 世界経済の `重心’

G7広島サミットを契機に確実にGlobal South (GS)は世界経済における地歩を固めたと云える処です。そうした変化は、欧米による支配が後退し、それに伴い世界の重心に変化が起きている事を示唆する処です。そして今後は多極化した混乱の世界に、とって代わられると断じるのがFinancial TimesのChief Commenterの Martin Wolf氏です。彼は6月7日付 Financial Timesで、今進み出したアジアを中心とした変化を「The myth of the `Asian Century」と題し、その副題に「A rebalancing is taking place as European and American hegemony dwindles away」を掲げる処、要はユーラシアにおける米欧覇権のRebalance (リバランス) が進み、その重心はアジアに向かうとみるのです。(注:Eurasia:アジア州とヨーロッパ州を一続きの大陸と考えた時の呼称)
つまり、上記変化を含め、足元で起きている変化とは過去200年の欧米による支配が衰退しつつあるのに伴い、世界の重心に変化が起きているという事、そして今後は多極化した混乱の世界にとって代られるが、アジアはその中で確実に大きな位置を占め、中国とインドが主な役割を担うようになる。そしてアジアは役者というより舞台となると云うのです。 

かの有名な英経済学者 故アンガス・マデイソンによる世界経済(実質GDP)の長期予測値をリフアーし、1820年の西欧の人口一人当たりの実質GDPは東アジアの2倍強で、その差は1950年には6.5倍に広がったが、2018年には2.4倍と2世紀前とほぼ同水準に戻したが、ここで重要なのはアジアが19~20世紀初めにかけて経済的地位を相対的に急落させたにも拘らず、東アジアが牽引役となってそれを回復させた点で、その過程でユーラシアにおける重心が変化しつつあるというのですが、重要な事はこれが自然な流れだとするのです。そして米欧が享受してきた凄まじいまでの勢力は衰退しつつあって、世界人口の半数近くを抱え、世界的かつ歴史的な文明を複数育んだアジアが、この変化を率いているのは驚きではなく、大災害や大惨事が起きない限りこうした状況は続くと説く処です。

かくして、世界経済の重心が東にシフトしつつあることから、アジアは政治と経済の両面で極めて重要な存在となると断じるのです。ただアジアは、域内で各国間の深刻な対立に加え、同地域ならではの問題も抱えており、その為アジアとしての「総意」を持つことはなく、各国がそれぞれの路線を追求していく事になるだろう、とも断じる処です。
そして、「世界の他の誰がどう思うとも、特に個人の自由と民主主義という自分たちの最高の価値を何としても守らねばならない」と、締めるのでしたが、まさに至言と感じ入る処です。(2023/6/24)
posted by 林川眞善 at 21:53| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする