2021年05月26日

2021年6月号  バイデン米大統領の「施政方針演説」を解体する - 林川眞善

目  次

はじめに:米NICレポート「Global Trends to 2040」 
      
第1章 「バイデン施政方針演説」が映し出す新たな経済トレンド

1.バイデン施政方針演説 深読み
(1)米経済再生に向けたバイデン政策のかたち
(2)バイデン政策のキモは‘増税’
    ・「小さな政府」対「大きな政府」

2.バイデン増税政策と進歩資本主義
(1)バイデン増税政策とグローバル経済 
(2)Progressive capitalismの実践

第2章 バイデン外交 ―米中対立の行方     

1.バイデン外交の規範 ― 米・同盟国 対 習近平中国  
       
2.米中対立の行方を読む
(1)二人の識者の見立て
   ① 米クレアモント・マッケン大教授、ミンシン・ペイ氏
   ② 米 政治学者、イアン・ブレマー氏
(2)M.ガブリエル氏のアドバイスは「対話」

おわりに 期待されるG7の復活

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はじめに 米NICレポート「Global Trends to 2040」

4月8日、米National Intelligence Council (NIC: 米国家情報会議) は 「GT2040」―「The
more contested world’ of 2040: the forces and dynamics shaping the national security over
the next 20 years」を公表しました。

米NICは1997年から4年ごと、「グローバルトレンド」を発表してきており、発表年から20年後の米国の戦略環境に係る諸要素を分析し、対象年の世界秩序に係るシナリオを提示してきています。そして、当該報告書は、本来米大統領選挙に勝利した新大統領に対する報告書として策定されてきていますが、今回の「GT2040」についてNICは「政策立案者が政権発足の早い段階において、国家安全保障戦略を策定し、不確実な未来を航海する際に、彼らに分析の枠組みを提供するものだ」と説明していることから、バイデン大統領ほかバイデン政権の為に記述されたと云えそうです。

となれば、4 月28日、バイデン氏は上下両院会議で施政方針演説を行っていますが、そのspeechを理解するためにも、この際はGT2040の理解は欠かせぬものと思料する処です。 今次弊月例論考ではバイデン施政方針演説を巡る諸事情をテーマとすることとしたいと考えていますが、従って当該G2040報告について予め理解しておくべきと思料するのです。そこで本論に入る前に当該 `Executive Summary ‘と`Global Trends Overview’ (報告書全文は156ページ)を基に、その概要を報告しておこうと思います。

・「GT2040」概要
本報告書は3章からなり、第1章では、Structural Forcesとして、「人口動態」、「環境」、「経済」そして「テクノロジー」の4コアー領域におけるパワーを分析。当該4分野とは、「将来を形成する基礎であり、範囲が比較的普遍的であり、利用可能なデータと証拠に基づいて妥当な予測を提供できる」ものとする処です。尚、従来コアー領域としていた「軍備」が、今次報告では「環境」に代わった点が特筆される処です。そして第2章では、これら4つの変数が、他の要因とどのように相互作用し、「個人と社会」、「国家」、そして「国際的システム」の3つのレベルにおいて新たな力関係(ダイナミックス)にどう影響を与えていくか分析し、最終章ではそれらを踏まえ2040年へ向かう5つのシナリオ、以下を明示するのです。

・5つの Scenarios for 2040:
① Renaissance of Democracies (民主主義の復活) :
米国と同盟国が主導する「開かれた民主主義」が復活した世界。一方、中国やロシアでは、社会統制や監視が永年にわたって強化されたためにイノベーションが阻害され、主要な科学者や起業家は欧米諸国に亡命し、衰退する。
② A World Drift (漂流する世界):
leaderがおらず、国際システムは方向性を失い、混沌とした不安
定な世界。OECD諸国は経済成長が鈍化し、社会的分裂は拡大し、政治的麻痺に悩まされる。その隙間に中国が影響力を高めるが世界的なleadershipは発揮できず、気候変動といった主要な問題が解決されぬままとなる。
➂ Competitive Coexistence(競争的共存):
米・中が二分された世界で、競い合いながらも共存している。中国が引き続き閉鎖的な国
家指導体制を堅持し、2030年代に米中は自国の経済的繁栄の為にお互いが必要との結論に
達し、相反する国家システの下、共存、市場と資源を巡り競争し合う。
④ Separate Silos (分断されたブロック):
グローバリゼーションが崩壊した世界」。複数の経済ブロック、安全保障ブロックに分断され、情報も夫々独立したseparate cyber-sovereign (サイバー主権)の中を流れる.
⑤ Tragedy and Mobilization (悲劇と動員):
壊滅的な地球環境の危機を背景とした、ボトムアップによる革命的な変化が起こった世界。気候変動で引き起こされた世界的な食糧危機が、国際機関を活性化し、世界的協調を促す。

要はこれら5つの展開のいずれかを、世界は歩む可能性が高いと、米国が見ていることになるのですが、 ただ、中国の現体制が20年後も残るという事が前提になっていること, 又これまでの分析の前提にあった「軍備」が消え、代わって「環境」が変数として採用されています。今次バイデン主導で開かれた「気候変動サミット」は、まさにその趣旨を映すものと思料する処です。

さて4月28日、バイデン氏は上下両院合同会議で、大統領就任後初となる施政方針演説を行いました。その内容は、これまでも何度か当論考でも照会してきた事案をベースに取りまとめられたというものですが、改めて、そのFull transcript: President Biden’s first speech to Congress を読み直すと、バイデン米政権が目指す米国社会の ‘かたち’、そしてその姿が映す新たな資本主義の生業のなんたるかを知る処となるのです。勿論、問題はあります。

そこで今次月例論考は、この施政方針演説のFull transcript: President Biden’s first speech to Congress を深読みし、そこに映し出されるバイデン米政権が目指す米国社会の形と、当該論理の合理性を検証ししつつ、併せて、今や敵対的関係ともいわれる対中関係を核として進められる米外交の行方、等々、総括的に論じることとしたいと思います。バイデン施政方針演説Anatomy, つまり、バイデン施政方針演説「解体」です



第1章「バイデン施政方針演説」が映し出す新たな経済トレンド

1.バイデン施政方針演説 深読み
   
4月28日、両院合同会議で行われたバイデン氏の施政方針演説は一言で言って、新型コロナ感染で傷んだ経済を立て直し、コロナ後を見据えた中長期的な経済成長を図り、中間層等国内雇用に重点を置いたもので、以って「民主主義」への信頼回復を目指すとするものでした。尚、後述するように、そのspeechでは‘国際協調路線’を強調することはあっても、自由貿易について触れることはなく、その点で不満の残るものでした。

(1)米経済再生に向けたバイデン政策のかたち
経済政策の焦点は、云うまでもなくコロナ禍で傷んだ米経済の回復です。そして、その為の政策対応を短期的景気回復策、次に中・長期の構造的成長政策、そしてこれら経済を支える核となる中間層の経済的底上げのための支援政策の、以下3本を以って臨むというものです。 つまり、第1は、The Americans Rescue Plan (米国救済計画)
第2は、The American Jobs Plan (米国雇用計画)
第3は、The American Families Plan (米国家族計画)

先ず第1の`The Americans Rescue Plan’ の概要は、コロナ対策を軸とした1.9兆ドルという巨額の追加経済対策ですが、当該財政支出については2月末、議会で承認され、既に実行に移され、新型コロナワクチンの接種を大幅な前倒しで浸透させてきたこと、同時に当該100日間で、130万件以上の新しい雇用を生んだと成果をアピールする処です。(注)

(注)米疾病対策センター(CDC)によると、5月9日の新規感染者数は2万4千人と、
     2020年6月以来およそ11か月ぶりの低水準に。(日経、2021/5/11) 一方、7日公表の4月雇用統計では景気動向に反映する非農業部門の就業者は、市場予測を下回る、前月比26.6万人増に留まる由。これは経済回復で人手不足感がある反面、手厚い給付があって低賃金の職に就くのを控える等、雇用のミスマッチが生じていると見る処。

次の `The American Jobs plan’ は、今後8年間で、およそ2兆ドル規模となる一段のインフラ投資を進め、雇用と需要の創造を図り、安定成長を目指さんとするもので、バイデン氏はこのAmerican jobs planを ‘ a blue-collar blueprint to build America ’と呼ぶと共に、The middle class built this country. And unions build the middle class’ と、米国は働く中間層の米国人が支える国たるを強調する処です。
その政策の在り姿の基本は、財政出動による需要創造ですが、それは1930年代のF.ルーズベルト大統領の進めたNew Deal政策に倣う処、その財源は企業増税にありとする処です。

そして`The American Families Plan ’ は、格差縮小を目指す上からは, 機会平等の堅持が不可欠と、子育て支援、教育機会の拡充等を目指す家庭支援策です。そして注目を呼ぶのが、これも、当該予算規模、10年で1.8兆ドルは個人富裕層への増税を以って賄うと云う点です。これが貧困の連鎖を断ち切るためとは云え、富裕者から富を回収し以って、現金給付となる点で社会主義的との非難を呼ぶ処です。

以ってバイデン政権 「3段構えの経済政策」となるのですが、上述「GT2040」に照らす時、シナリオ①、②を目指しながら、シナリオ➂を以って米経済の運営を図らんとするものと云えそうです。が、その心はと云えば、Middle class, 中間層の引き上げにあって、中間層を起点とした経済を成長させんとする処です。

ただ問題は当然の事ながら、議会がおよそ4兆ドルにも上る増税案にどう向き合ってくれるかにあって、野党共和党との超党派の合意を得てとしている点で、そのハードルは低くなく、5月21日には、インフラ投資構想「米国雇用計画」については、原案の8年で2兆ドル規模を1.7兆ドルに圧縮、共和党に再提案する処です。サキ大統領報道官によれば、新提案では研究開発、中小企業への投資等を計画から外し、18日に審議入りした「米国イノベーション・競争法案」(中国対抗法案)に移す由ですが、財源を企業増税で賄う方針に変更はなく、税率については既に5月6日、南部ルイジアナ州での演説で示したように、当該上げげ幅については「25~28%で賄えるだろう」と語り、当初28%としてきた方針からは譲歩の姿勢にある処です。

(2)バイデン政策のキモは‘増税’
さて、バイデン氏は28日の演説で新型コロナの感染拡大で資産価格が上昇し、格差が一段と拡大したと述べ、「公平」と云う言葉を何度も繰り返していました。その心はと云えば、富の偏在こそが社会の分断を深め、不満や嫉妬が民主主義の根幹を揺るがしているとの認識の下、従って、経済回復、再生のポイントは格差解消にありとして、上述3段構えの経済計画を擁してその目標に向かわんとするのですが、実はこのプロセスこそは、民主主義の再生につながるとする処です。そして、注目を呼ぶのが、前述の通り「インフラ投資」に要するコスト、家族計画における「現金給付」財源のいずれをも、増税を以って賄うと云う点ですが、なぜか新鮮な行動様式と映るのです。 つまり、新型コロナウイルス禍にあって、大規模な金融緩和と巨額の財政出動を背景に株高が続き、いわゆる「K字」型で貧富の差が一段と拡大、二極化が進むなか、経済格差の是正こそが決め手とし、「増税」を以って「公平」化を進め、格差を縮め、先ずは成長基盤の底上げをと、するのです。

ただ、その財源を増税で賄うと云う点で、増税を積極政策と位置付け、結果、経済に強く関わる「大きな政府」への傾斜を以って成長を目指すとする処です。これまで「大きな政府とは非効率を齎す」ものと、されてきていましたが、さてこれが齎すリスクをどのように回避していくか、新たに政策課題を抱える処ですが、こうした「増税」政策に、今、財源確保に苦しむ海外諸国の関心を呼ぶ処です。

・「小さな政府」対「大きな政府」
尚、80年代以降は資本家の「黄金の40年」だったとよく言われています。レーガン政権では「小さな政府」を目指し、減税と規制緩和によって民間の力を引き出すことに注力されてきましたし、金融政策では通貨供給量を減らしインフレ抑制にも成功してきたとされています。つまり米経済の主役は政府から「市場」に映り、恩恵を受けたのが資本家達とされてきたのです。よく言われるように、米国では上位たった1%の富裕層の収入が全世帯の所得の2割を占める状況です。バイデン政権は、かかる事態を改善するためにも「大きな政府」に転換するもので、雇用創出や格差是正を目指して大型の財政出動を旨とするも、その財源は、大企業や富裕層を対象とした増税を想定するのです。加えて金融政策もインフレ率の上振れを容認する構えにある処です。

序で乍ら、バイデン氏はトランプ前政権が誘導した「トリクルダウン」、つまり減税によって豊かな層をより豊かにし、その恩恵を貧困層にまで波及させるとした「トリクルダウン理論は機能しなかった」(Trickle-down economics has never worked) と断じ、前政権の減税路線を完全否定する処です。つまり、こうした法人税引き下げ競争の潮目が変わる中、諸外国の反応は上述の通りで、米英共に増税を打ち出す中、国際的な最低税率を設ける議論も詰めに入ると報じられる処です。

2.バイデン増税政策と進歩資本主義

(1)バイデン増税政策とグローバル経済
今次、バイデン政権の増税政策は公平を確保し、格差の是正を目指すとするものですが、当該増税を体した税制の見直しが今、国際的に進みだす処です。
米欧が税の見直しに踏み込むのは、云うまでもなくコロナ禍対応で、大型財政出動、財政の赤字拡大への対応にある処ですが、もう一つは、税負担の公平さへの疑義にある処てす。
バイデン氏が目指す超裕福者への増税を以って中低所得層への所得支援とする姿勢はまさにその象徴とされる処、英国やEUでも同じような趣旨を体した議論の活発化を生む処です。 因みに、英国では3月、大企業向け法人税率を現在の19 %から2023年に25 %に引き上げる方針を示していますし、EUも新たな課税構想に積極的と伝わる処です。

これまで主要国は法人税を引き下げる一方、消費税にあたる付加価値税を引き上げてきています。OECD加盟国の平均法人税収はGDP比、約3%と横ばいで推移しているのに対し、付加価値税収は過去20年間で5 % から7% 弱へとジワリと上がってきていますが、以って低中所得層の苦しさが強まり、特に欧州では更なる引き上げは難しくなってきたと指摘される処です。そうした環境にあって、バイデン増税政策は世界の税制に新たな潮流を生む処となってきています。つまり、日米欧の主要国は近時の経済事情を踏まえ、なるべく高い税率を支持する処、累進性をより高め、対象や目的を絞って課税する新たな潮流が出てきています。日本政府も積み上がる政府債務への対応や成長戦略の原資をどう確保していくか、考えていかねばならない環境になってきたというものです。

ただ、その一方で、低税率国などからは企業誘致戦略に影響が出かねないと不満の声も上がる処、グローバル化と同時進行してきた法人税率の引き下げ競争に歯止めをかける試みは一筋縄ではいかない状況にある処です。国際協調の機運が出てきた今、この流れを各国のエゴで絶やさないために、最適水準での決着へこぎつけられるか、対外競争力にも影響を与えることになるだけに、当該推移への関心は高まる処です。(注)

     (注)最低法人税率交渉:5月20日、米財務省はOECDとの協議で「15%を下限と
し、議論の中で水準を引き上げていくべき」と提案した由です。(日経 5/21夕刊)
これまで低税率のアイルランドの12.5%に対して米国は21%程度を念頭に交渉して
きた経緯ある処、今回、米国が「15%以上」への譲歩案を示したことで、OECDと
G20は年央の合意を目指す様相となってきたと伝えられる処です。

(2)Progressive capitalismの実践
こうした格差解消を念頭に大企業や富裕層への増税を掲げて進む政治には「左派シフト」と酷評する向きはありますし、大きすぎる政府をすんなり受け入れる米国社会に疑問を投げかける向きもある処です。が、機会の平等、社会の公正、更には格差の解消を目指して
経済成長に取り組むとするならば、それこそは民主主義再生へのプロセスとも云え、予てノーベル賞 経済学者で米コロンビア大教授の、ステイグリッツ氏らが主張する新しい資本主義「進歩資本主義」、( progressive capitalism)の実践と映る処です。

ステイグリッツ氏は予て、アメリカ資本主義における基本問題は、経済格差を助長するような権力行使の現実にありとして、ガルブレイスが主張していた`Countervailing Power’(拮抗力:労働組合)を頼みにするのではなく、政府が積極的に介入し、「機会の均等と社会的公正」を確保する対策を講じるべきとするのですが、バイデン政策は、まさにその論理に沿うものと云える処です。(弊論考N0.94, 2020/2月号) そして後に振りかえれば、「バイデン革命」ともいえる世界の変曲点になるかもしれないと見る処です。


        第 2 章.バイデン外交 ― 米中対立の行方

1.バイデン外交の規範 ― 米・同盟国 対 習近平中国

バイデン氏は演説を通じて We aren’t going alone – we’re going to be leading with our allies.と 、米国は独りではなく、同盟諸国との連携を基本として歩む姿勢を強調するのでした。併せてNo one nation can deal with all the crises of our time alone.、いかなる国も単独では危機にたち向か得ないとし、国際連携の必要性と、その象徴事案として「気候変動問題」を挙げる処でした。が、米中関係が周知の事情にある中、中国に対しては対抗意識をむき出しとするものでした。

因みにバイデン氏は、‘We’re in a competition with China and other countries to win the 21st Century’と、21世紀で勝利するため今、中国、他と厳しく競っていると、同盟諸国と共に歩む姿を強くアッピールし、習近平氏に対して「自分は紛争を始めるためでなく防ぐために、欧州のNATO同様、インド太平洋地域で強力な軍事力を維持する」、「米国は人権と基本的自由へのコミットメントから離れることはない」と、言い放ったことを披露するのでした。
そして、「彼ら(中国)は本気で、世最も影響力のある国になろうとしている」、「習近平氏や専制主義者は、21世紀には民主主義は専制主義に対抗しえないと考えている」と、やや挑発的ともとれる習近平批判を続けるのです。

更に、バイデン氏は中間層に利益を齎す外交の推進を強調します。つまり、中国政府の国営企業への補助金(注)や、米国の技術と知財権の窃盗等、米産業や労働者を弱体化させる不公正な貿易慣行に対し、Buy American法適用の可能性を明言するほどに、要は、米国のmiddle classが中国との競争で犠牲を強いられているとして、その事情からの解放を目指し、対中政策を前進させると云うのです。これらバイデン氏の言動からは、中国政府の反応は見えませんが、民主主義と専制主義の対立構図を際立たせるものを感じさせるばかりです。    

     (注)WTOは輸出を促進するための補助金、国産品優先の補助金を禁じているが、
中国の実績報告が不十分なこともあって明確に違反を問えない事情はある。

いずれにしろ「The autocrats will not win the future. America will. The future will belong to America.」(専制主義国家が未来を勝ち取ることはない。米国が勝ち取るのだ)と明言して終わるスピーチは、米国の世界主導宣言とも映る処ですが、そのスピーチが終わり、5月に入るや国際秩序再生に向けた多国間会議が活発となってきています。勿論、後に控える各種首脳会議に備えての動きですがG7復活への準備とも映る処です。そして、この際は、米中対立激化を基軸に世界の地政学的緊張が一層高まりつつある事、世界の潮流として、安全保障がより重視される事態が浮上してきたこと等、いつになく実感させられるというものでした。

2.米中対立の行方を読む

(1)二人の識者の見立て
上述、米中関係の悪化が敵対的となるなか、その行方の如何は、です。その点で聊かの裨益を受けるメデイア情報に出会いました。一つは、中国の内政事情からみた中国の行方を示唆する米クレアモント・マッケン大教授で政治学者のミンシン・ペイ氏のコメント(日経5月8日)。もう一つは世界的に著名な政治学者で米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏のコメント(日経ビジネス5月24日)です。以下、二人のコメント概要を紹介し、それを体し、米中関係の行方を考察します。

①ミンシン・ペイ氏(Prof. Minxin Pei)
・米中対立が進む中、米中共に、かつての米ソ冷戦から教訓を得ようとするだろが、とりわけ中国は自らには旧ソ連にない強みがあることを発見し、勇気づけられている。それは経済的には旧ソ連の計画経済よりも効率的な混合経済システムにある事、輸出入など世界経済で中心的な位置を占めている事等で、米国が中国経済を封じ込めることは極めて難しい。中国は一部分野で米国の技術に及ばないものの、量的な強さは否定できない。中国]は依然として成長の勢いが米国を上回り、10年以内に経済規模で米国を超す公算は大と。

・中国の脅威は、旧ソ連のそれとは違い漠然としたもの。現在中国は、日本、台湾、インドと云った一部の周辺国・地域には差し迫った安全保障上の脅威となっているが、国によっては米国の中国に対する地政学的な闘いは、覇権を維持するために過ぎないと見る向きもあり、どちらの側に就くのをためらっている。こうした状況下では、米国が中国を封じ込めるために旧ソ連とのような冷戦の手法を用いるのは、非常に難しい。一方、中国は自らが実際より強いと考えるようになり、悲惨な結果を招きかねない。つまり、自国経済から中国経済を切り離す余裕がある国はほとんどないとの自信から、行動は攻撃的なものとなり、中立的立場をとれる国を米国側に追いやる可能性がある。尚、今年3月, 全人代で、2021~25年の5か年計画を採択しているが、中国が驕りによって戦略的過ちを犯す可能性は現実に存在するだけでなく極めて高いと.。

--------- では、この際は、中国経済の行方を律するものは何か? 中国と旧ソ連の経済面での違いは何かと云えば、民営企業の有無でしょう。国営企業等で占められていた旧ソ連は非効率な経済運営で1980年代後半からに事実上ゼロ成長となり、やがて共産体制が瓦解しています。今の中国は民営企業がGDPの6割以上を占め、成長をけん引する処です。そこで問題は、巨大化した民営企業に共産党がどこまで介入するかにあるのではと思料するのですが、その点で、最大の要因は意思決定が中央に過度に集中している事と、思料するのです。

②イアン・ブレマー氏 (Pres. Ian Bremmer )
・対するブレマー氏の描く見立ては? 5月24日付け日経ビジネスのコラム「賢人の警鐘」に登壇したブレマー氏は、冒頭、バイデン政権が「最初の100日」に示した国内経済再生の為の3段構えの政策対応について、新型コロナウイルスのワクチンを素早く全米に普及させ、経済が元の状態に戻れる素地を作り、次にインフラ投資等、経済政策に大規模な資金を投じ、経済の歯車を回し出したことに、世界的にみて賞賛に値するもの、とした上で、国際関係について、中国との競争関係をどうするか、中でもインド太平洋の軍事バランスをどうとるか、台湾の問題をどう扱うか、が焦点だとし、いずれの課題についても日本が果たす役割が大きく、だからこそバイデン政権は日本を同盟国の中でも「中核」に位置付けていると、米国の対中政策も日本との絡みにおいて語られる処です。

・日米中のトライアングル:つまり4月の日米首脳会談がその象徴だとし、具体的には日米首脳が1969年以来、初めて台湾に触れた協働声明を出した事の意義は図りしれないと云うのです。そして米インド太平洋軍のデービッド司令官が「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」とのコメントをリファーし、「台湾有事」はいずれにしろ、中国が軍事力を高めるにつれ米国が対応準備を急がねばならない喫緊の課題だった。「6年」と云った期間ではなく、準備の必要性が高まっていることに注意を向けるべきだと警鐘を鳴らす処です。

・具体的に、米国は自国の軍事力を支える半導体を台湾のメーカーに頼っている。もし台湾が中国に侵略されれば米国にとって憂慮すべき事態に陥ることは明白。ただ米国は、台湾が侵攻されたとき、台湾の軍事力を支援はできても直接、防衛に参加することはできない。だからこそ、日米のトップが共同で台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、立場を明確にしたこと(先の日米首脳共同声明)に意味があるとするのです。そして、この秋の選挙で誰が日本の首相になっても米国の中核的な同盟国であり続けるとのご託宣です。

・ただ彼は、予て中国政府の途上国への支援政策、つまり「一帯一路」を通じて多くの途上国に資金や技術の提供をしているが、被支援国には中国政府の支援を拒む余裕はなく、また米政府が自国と取引する代わりに中国との取引を止めるよう要求すれば、地政学的に重要な局面で世界の大半の国々を中国側に渡してしまうリスクも生じる。そこで、資本主義の原点である競争に立ち戻ろうとしていると、したうえで、米国の最重要課題は、出来るだけ多くの国々で中国と「競争的に共存」し、中国の影響下に完全に陥る国が出ないようにすることだ、と云うのです。

---------- さて「一帯一路」を敬遠する国は既に現れ始めています。西側各国が支援する場合より、中国主導の開発プロジェクトは往々にして質が劣る他、負担に関する条件も重いと云われていますが、以って被支援国の一部で起き出している対中批判の証拠となる処です。バイデン政権はこの現実に照らし、米国が海外で中国と競争できると確信し、自国の強みを生かそうとする処です。更に、重要なのは、闇雲に米国と手を組むよう、求めてはいないことだとされてもいます。つまり、性急に中国と組むよりも、米国と組む方が得策との理由を世界に示すことが、長期的には米国の国益になるとの理解あってのことと、思料する処です。

要は、被援助の国々が中国に取り込まれないよう、その為には米国が中心となって支援していく事であり、中国との「競争的共存」を容認しつつ戦略的な援助で民主主義国家の仲間を増やしていく事と、する処です。この点では、途上国をコロナ禍から救うため編成された日米欧主導で途上国に無償分配する枠組み「COVAX」は、直接的経済支援とはなりませんが、有力な手段の一つではと、思料する処です。

(2)ガブリエル氏のアドバイスは「対話」
その後、世界的に名声を馳せる気鋭のドイツ人哲学者、マルクス・ガブリエル氏の新著(と云っても対談を編集したものですが)「つながり過ぎた世界の先に」を読みました。というのも、筆者としては上述二人の趣旨を踏まえ、米中の今後をどう理解し、フォローしていくべきか、それなりの結論を引きだそうとする為でした。
ガブリエル氏はその中で倫理的な資本主義(注)を念頭に、これは前出、ステイグリッツ氏らの新資本主義に通じる処と思料するのですが、彼は米中対立について、中国の統治の仕方を我々が変えられると考えるのは甘いと断じ、かく云うのです。つまり「年がら年中、中国人は人権を侵害していると指摘しても、何も変わらない。中国とパートナーシップを築く唯一の方法は、対話を通して相手を理解すること。それが今、われわれが中国に対してしなければならない事だ」と。何か力が抜ける思いでしたが、ごく自然な事かと納得する処でした。

    (注)倫理資本主義:‘社会性’と‘経済的(儲け)’とが高いレベルで両立した経済の在り
     方を言い, 要は「‘人と、社会にとって良いこと’を判断基準とした資本主義」を指す。


おわりに 期待されるG7の復権

今、英国首相のジョンソン氏が元気です。バイデン米大統領の演説が終わり5月に入ってからというもの、主要国間での会合が頻繁にあり、外相、貿易相、保健相、環境相、財務相等、閣僚会議が続く処、6月11/13日のG7サミットへの対応準備とされる処です。勿論11月のCOP21会議への対応にも繋がる処ですが、これら会議が全て英国で行われる点で、ホスト国、英国のジョンソン首相は、国内ではスコットランドの独立問題やアイルランドの統一問題など、連合王国の結束の揺らぎを抱えながらも、大張り切りと云う由です。

5月3-5日、ロンドンで行われたG7外相会議では、議長を務めた英国ラーブ外相は4日、G7外相会議について「脅威の高まりや課題への対応が必要な今こそ、民主主義のグループを結集し団結を示す時だ」と、外相会議への決意を示したと報じられる処、権威主義的動きを強める中国の抑止を狙った共同声明をまとめています。更に、そこには4月の日米首脳会談を踏襲する表現を以って台湾問題にも言及し、中国を強くけん制していますが、このことで対中包囲網づくりへ欧州も足並みを揃えたとの認識を生む処です。
因みに、昨年12月、EUは中国と包括的投資協定(CAI)を締結することで大筋合意し、その批准に向けた審議を進めていましたが、これが5月20日の欧州議会で、当該審議の停止が、賛成多数で決議されたのです。この事由は、少数民族ウイグル族の人権問題に絡んだEUの対中制裁に、中国が報復措置をとったことに反発した結果と伝えられています。今次の欧州議会の決議は、「中国との関係でバランスを取り戻すことが必要だ」と、経済だけでなく、人権や民主主義などEUが重視する基本的な価値も含めて、中国との関係を再考すべきとの主張に負うものとされているのです。

さて、トランプ前政権下の米国は「保護主義の否定」を巡って、欧州などの首脳とは対立し、G7とは、「G6プラス1」と皮肉られていましたし、2019年の仏ピアリッツ・サミットでは首脳宣言をまとめられず、G7の機能不全を印象付ける処でした。いま、国際主義者ともいわれるバイデン氏の登場を得て、トランプ時代に入った亀裂を修復し、共通の価値を示すG7の「復権」に、期待が集まる処です。尚、今次会合にはインド、豪州、韓国の首脳もゲストで招かれ、日米豪印のクワッドの顔ぶれもそろう由、新たな展開が期待される処です。

偶々、世界の主要国・地域の2021年第一四半期のGDP(速報値)が発表されました。(日経、2021/5/19) 中国や米国の景気回復が加速した一方、日本や欧州の遅れが伝えられる処です。これが新型コロナウイルス対策の巧拙を映す結果とされる処、第二四半期(4~6月期)には中国に加え米国のGDPもコロナ禍前の水準を上回る見通しにあって、更に、春以降にワクチン接種が進んだ欧州も4~6月期、以降の回復期待が強まってきたとされる処です。日本のワクチン接種も遅ればせながら軌道に乗ってきたとすると、上述国際政治環境とも併せ見るとき、G7サミットの再生図式が確実と映る処です。

先ずは、これまで固めてきた対策のレビューが主眼となることかと思料するのですが、G7がここ数年にわたり共有しきれなかった問題の一つ、‘自由貿易の推進’の稼働が期待される処です。そして米国のTPP復帰問題こそは、それを象徴する事案ではとも思料する処です。            
以上 (2021/5/25)
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2021年04月26日

2021年5月号  Joe Bidenのハネムーン「100日」と世界経済 - 林川眞善  

目  次

はじめに バイデン大統領のハネムーン「100日」   

第1章  バイデン政権のBig Gambleと世界経済  

1. 二つの米経済Rescue Plans
(1)コロナ対策第5弾 ― 財政1.9兆ドルの「米国救済計画」
(2)長期的成長戦略 ― 「米国雇用計画」     
2.世界経済の回復と、新「ワシントン・コンセンサス」
(1)2021年の世界経済
・バイデン積極財政と欧州経済
(2)新「ワシントン・コンセンサス」

第2章 脱中国のバイデン政権と世界経済の生業

1.米中対立は今、広範な地政学上の対立へ
(1)バイデン政権と米中関係
・無視できなくなった対中「テールリスク」 
(2)米「2020年、人権年次報告」と、2022年北京五輪問題
2.中国包囲網 ― ‘先進自由諸国’ VS ‘中国’ 
(1)対中強化を目指す、二国間協議「2プラス2」
(2)日米首脳会談と日本外交の今後
・ 今次日米共同声明と日米関係
・ 日米の連携行動
・ 共同声明は日米同盟の羅針盤?

おわりに  改めて `Progressive Capitalism’  
            
    --------------------------------------------------------------------------

はじめに:バイデン大統領のハネムーン「100日」

米国では新大統領就任後の100日間を、国民・マスコミとの関係を新婚期になぞらえてハネムーンと呼び、この100日間は新政権に対する批判や性急な評価を避けることとなっています。そのハネムーン期間がこの4月29日を以って終わります。当初、ほとんど公の場に姿を見せなかったバイデン氏でしたが、就任50日が経過したころから表舞台に出てきて強気の発言や行動が目立つようになってきています。

    (注)ハネムーン「100日」:1933年、F.ルーズベル大統領が有名な炉端談義で、就
任100日程度で、後のニューデイル政策に繋がる法案を成立させた実績を以って、
「私の100日をよく見てほしい」と国民に語り掛けたことから、当該期間をそう呼ぶ。。

2020年米大統領選の結果はバイデン氏の勝利となったものの、その戦いの構図は「融和のバイデンか、分断のトランプか」ではなく、単に「トランプを選ばなかった」結果であって、圧勝を見たわけではありません。が、彼には36年間の上院議員としての政治経験があって堅実な政治家として反トランプという事よりも、世界との協調を基調として、いわゆるアメリカン・ドリームを追及する姿勢に、大方の支持を集める処です。加えて、バイデン政権での副大統領に起用されたカラマ・ハリス氏は、「女性+黒人+アジア系」という点で、民主党が求める「多様性の象徴」と、国民の支持を集める処です。

一方、バイデン氏の政策対応はと云うと、就任当日からトランプ政権の方針を軒並み反転させ、パリ協定への復帰、WTOからの脱退阻止、等々、署名した大統領令など指令文書は50件超に及ぶ処、その行動様式からはバイデン政策の実際は、従来の民主党にはなかった二つの戦略軸、一つは「新型コロナ対策」、もう一つは「対中外交」に、絞られる処です。

「新型コロナ対策」と云えば、「経済よりもまず防疫を」と映る処ですが、その心は、コロナ対策を通じて、コロナ禍で傷んだ経済の回復を期す、つまりは経済再興戦略に他なりません。その実績を以って支持を盤石にし、次の民主党政権に分断修復を託すものとも見る処ですが、同時に、対中戦略上も米国内経済の回復あってのこととする処です。

その「対中外交」ですが、バイデン氏は昨年3月、Foreign Affairsへの寄稿論文 `Why America must lead again’で示したように「外交こそ米国のパワーの源泉」として、グローバリズムの再生を目指す処ですが、今や大国となった中国と如何ように向き合っていくかが、米国にとって最重要テーマとなる処です。その米中関係は、先の米中アラスカ会議で露わとなったように、これまでの単純な経済関係から、政治体制や国家理念にも立ち入る新たなステージにシフトした、つまり戦略的忍耐が要求される米中関係にアウヘーベン(止揚)したことから、
中国のウイグル自治区での人権弾圧に強い懸念を持つバイデン氏としては、「人権」と云う視点から「中国脅威論」を前面に出し、対中圧力を強めていく戦略と見るのですが、その実状は脱中国、脱習近平戦略のほかない処です。 因みに4月8日には米上院ではバイデン政権が「唯一の競争相手」と位置付ける中国への対抗策を列挙した新法案「戦略的競争法案」を超党派で纏める処です。(日経2021/4/9)

そこで本稿では、バイデン政権がハネムーンの100日で見せた米経済回復のための戦略的政策対応の現状と今後の課題、そして上述急速に変質する米中対立の実情と、その影響について考察し、併せて今次初となった日米首脳会談をも含め、世界経済の行方について考察することとします。つまるところ「バイデン100日」の行動reviewです。


第1章 バイデン政権のBig Gambleと世界経済

1.二つの米経済Rescue Plans

(1) コロナ対策第5弾 ― 財政出動1.9兆ドルの「米国救済計画」
バイデン政権発足来、今次の新型コロナウイルスでダメージを受けてきた経済の回復を期すべく、コロナ対策として1.9兆ドルに上るの大型追加財政の出動を提案していましたが、3月10日、これが連邦議会で可決され、3月12日、バイデン氏の署名を得て成立・決定しまた。今回のコロナ対策は第5弾とされるもので、これまでの対策とも併せ、対策規模の合計は5.8兆ドルとGDPの28%に達する規模となる処です。IMF試算によると、日本の15.6%、ドイツの11.9%を超え、米国が財政出動の規模で突出する処です。

・「高圧経済」実践
この大型財政の出動はバイデン政権の公約の実現ですが、それは予てイエレン財務長官が前職FRB議長時代に主張していた「高圧経済」 論(注)の実践とも言え、その柱は一人当たり最大1400ドルの現金給付にあって、家計支援を中心に個人消費を大きく引き上げんとするものです。1.9兆ドルの財政出動は、名目GDPの9%に相当するほどに、まさに`American rescue plan’ 。今その大規模財政出動で米景気を吹かし始める処、これがバイデン財政の大いなる賭け、Big Gamble (The Economist, 2021/3/13)と評される処です。

     (注)高圧経済 ( High-pressure economy ):需要の刺激を続けると、いずれは投資 
 や労働力が回復し、経済の供給力が増すとの理論。つまり設備投資等供給能力向
上のための追加的な需要を促進し、経済の好循環につなげる考え方。需要を先に
喚起することから、インフレのリスクが伴う。

つまり、ワクチン接種が進むにつれて消費や投資が活発化し、米経済が予想以上に早く持ち直す可能性も排除できない状況があって、そこに1.9兆ドルの財政出動が加われば、景気の過熱やインフレ助長への懸念も浮上する処、以って`Big Gamble’ とされる処です。
 
因みに4月13日公表された3月の米消費者物価上昇率は前年同期比で2.6%と、2018年8月以来の高い伸びとなっていました。この伸びは新型コロナ危機で経済活動が鈍った1年前の反動に加え、巨額の財政出動による需要増が物価を押し上げたとされる処です。 既に、米連銀(FRB)はこうした状況を踏まえ、3月の公開市場委員会(FOMC)では、景気見通しを上方修正し、21年の成長率を6.5%、失業率を4%台とするシナリオを固めたと、報じられる処、世界経済の成長予想も後出(P.5)の通り、総じて上向き改善となっています。

バイデン氏は、3月25日の記者会見で、ワクチン接種について、これまでの1億回の接種目標を2倍に引き上げ、就任100日後の4月末までに2億回の接種を目指すとしたのですが、これは当初の1億回目標が早々と達成できたことで2倍に引き上げるというものですが、その思いは感染拡大を抑えて早期の経済回復につなげたいとする処です。

それにしても気になるのは経済格差の広がりです。FRBの金利政策にも映るように、彼らは「少なくとも23年末までゼロ金利の維持」にあると仄聞しますが、その心は、格差がK字型を以って広がる中、雇用改善で恩恵の薄いヒスパニック系労働者、黒人等、低賃金労働者層を支えるためにも緩和を続ける要があるとの読みを映す処です。つまり格差問題への対処です。今、米経済については大規模な財政出動で過熱懸念が云々される処、「バイデノミクス」に求められる次の一手とは、その懸念を成長期待に変えていくことであり、そのプロセスにおいて、格差是正をきちっと政策課題と位置付け、持続的成長を目指すべきと思料するのです。次項、長期的成長戦略こそはそれに応えんとする処と思料する処です。

(2)長期的成長戦略 -「米国雇用計画」
バイデン政権は、上述 総額1.9兆ドルの「米国救済計画」を成立させた3月12日から間を置くことなく、2週間後の3月31日、今度は、8年でインフラや研究開発に2兆ドル(約220兆円)を投じる長期計画「米国雇用計画」(注)をピッツバーグでの演説のなかで公表したのです。前述「バイデノミクス」に求められる次の一手は、経済の過熱懸念を成長期待に変えていく事だと指摘しましたが、これは、まさにそれに応える処です。今後は、コロナ危機対応のための一時的な財政支出から、持続的成長を狙った長期的な政策に軸足を移す、つまり、持続的な米国経済を再活性化し、足腰を鍛え上げることを政策目標とするものです。 

(注)バイデン政権のインフラ整備計画 (億ドル) (日経2021/4/1)
・道路や橋、鉄道、EV設備:6210 / ・半導体等供給網強化:3000
・AIやバイオ:1800 /・高速通信網:1000、/・クリーンエネルギー:1000 
                        
この長期計画の狙いについて、バイデン氏は 「数百万人の雇用を生み、中国との国際競争に勝てるようにする計画」たるを強調。要は「雇用を生み、中国に勝つ」と、超党派で対中強硬論が広がる議会を念頭に、中国への対抗策としての位置付けも明確にする処です。 因みに、対中の視点からは、サプライチェーンの強化等製造業の振興に3000億ドルを投じると云うのですが、元より、これら計画が格差解消につながることが期待される処です。                       
尚、コロナ対策の1.9兆ドルの財源は企業増税(法人税率:21% から28%へ引き上げ)で確保する事、又、長期計画で想定される2兆ドル超のコストについては「15年間の税収増(増税)」(約2.5兆ドル)を以って 賄うとの方針です。

序で乍ら、F/Tは7日、バイデン政権はこの機会にOECDを中心とした国際課税交渉を進展させるための新提案を各国に送ったと報じています。米国はこの4月、上記法人税の引き上げを発表していますが、更に、年央までに主要20か国と法人税の最低税率導入で合意することを目指しているとも伝えられる処ですが、欧州や新興国が求めるデジタル課税の導入事案もあり、これらが一体で、合意に至れば国際社会の協調は大きく前進する処、それを米国が主導する構図が鮮明となるものと思料するのです。

処で、今回の計画と合わせると、歳出と増税の規模は大きく膨らむことになる処、取りあえずコロナ禍の財政出動で、2月時点の予測では既に米連邦債務はGDPの130%に膨らんでおり、第2次大戦直後の最悪期(1946年、119%)を上回る状況です。(日経2021/4/2) と云うことは、中長期の成長軌道を描けなければ、膨張債務を超低金利で支える危機モードから抜け出せないことになるという事なのです。とにかく「パラダイムを変えたい」と云うバイデン氏の‘賭け’ともいわれる野心的な財政の出動は、まさに1930年代、F.ルーズベルが当時の‘大恐慌’からの脱出をめざしたNew Deal政策を想起させる処です。
ただこれが「大きすぎる政府」の危うさ、云いかえれば ‘政府の肥大化という非効率’ を社会全体に広げる恐れをはらむ点で、バイデン政権のカジ取りの難しさは増す処と思料するのです。それにしても予想以上にActiveなバイデン氏の行動に瞬時、圧倒される処です。 

2.世界経済の回復と、新「ワシントン・コンセンサス」

(1)2021年の世界経済
バイデン政権が主導する上述経済政策の効果に照らし、多くの機関では2021年の世界経済の堅調な景気回復を予想する処です。 先ず、3月9日発表のOECDの経済予測では、ワクチンの普及で経済活動の再開が進むとして、米経済の21年通年の成長率を6.5%と前回見通し(3.2%)比3.3ポイントの大幅、上方修正とする一方、これが世界経済全体の回復も後押しするとして2021年の世界経済の見通しも、20年末時点から1.4ポイント上方修正し5.6%と発表する処です。これが予想通りとなるなら、21年オイルショックの起きた1973年以来の高成長と予想される処です。

更に4月6日公表のIMFの2021年世界経済見通しでも、米国については6.4%, 中国につぃては8.4%、そして、世界経済については6.0%と、夫々上方修正、バイデン政権主導の大型財政出動を反映した、米国が牽引する世界経済の回復を示唆する処です。序で乍ら、米金融大手、JPモルガンのダイモンCEOは7日、同社年次報告に添えた株主への手紙で、米経済は「2023年まで強い基調が続く」と述べていた由ですが(日経2021/4/8)、高い貯蓄と財政出動が景気を押し上げる原動力と、指摘する処です。

・バイデン積極財政と欧州経済
処でこうした米経済の政策展開に照らし、Financial Timesの欧州経済コメンタータ、Martin SANDBU氏が、3月15日付けで語る欧州経済の実情とそれへのadvice、US stimulus package leaves Europe standing in the dust、は極めて興味深いものでした。それは、バイデン氏の積極財政に照らし、欧州経済の実情を以下のように鋭角的に論じる処です。
― In the future, Europe and the US will loom large in the global economy as emerging countries outperform their growth. That is inevitable. What we do not know is how fast that US and Europe dominance will be whittled away, as that depends in part on policy choices made today. On that score, US President Joe Biden has delayed his country’s relative decline. EU leaders, however, look set to accelerate theirs.

要は、世界経済における米欧の存在は低下していく事は避けられないが、バイデン氏の1.9兆ドルの経済対策は少なくとも米経済の相対的な凋落を遅らせることになるが、EUの指導者の現状は、自らの衰退を加速させ、欧州経済の凋落は加速していると、その凋落に警鐘を発するのです。 そして興味深いことは、その凋落にストップをかけるには、バイデン経済政策が示す教訓に目を向けるべきとの指摘です。

つまり、バイデン経済対策の心は、中国の米国追随を抑える事にあるも、コロナ対策、巨額インフラ整備計画を確実に進め、米経済の再強化が進めば、その目的は達成されるとするもので、要は中国を意識しての米国の指導力の回復も、自国経済の再強化にありとした政策姿勢を評価すると共に、欧州もバイデン氏の政策姿勢を見習うべきと指摘するのですが、納得です。 勿論、米国の大規模財政出動にはインフレや長期金利の上昇を誘発しかねない危うさの残るも、各国とも決して楽観せず、今後の経済運営に最新の注意が要請される処です。

それにつけても、気がかりはメルケル後のドイツ、というよりもEUの生業です。彼女が首相に就いたのが2005年11月。以来、安定した政権運営で国民の人気は高く、国際社会でドイツの存在感を高める原動力でした。そして2020年7月21日 欧州復興基金をマクロン氏と共に主導・創設し、ドイツにとっての欧州ではなく、欧州のドイツを鮮明とする処でした。さて、ポスト・メルケルの欧州は如何?と気になる処です。

(2)新「ワシントン・コンセンサス」
こうした世界経済のトレンドにあって、注目すべきはワシントンに本部を置く国際金融機関、IMFと世銀、そして米政府(財務省)の三者が90年代を通じて進めてきた「ワシントン・コンセンサス」と称される自由主義的な経済戦略、要は財政規律の堅持とする考え方に基本的な変化が進みだしてきたという事です。

つまり、コロナ禍対応の財政出動が進む中で、最も効果的な財政出とは何か、これまでの財政規律重視より、価値を生む分野にとにかく資金を投じるべきと云う論調に急速に変わってきたという事です。これは、新型コロナウイルスワクチンの製造とその接種を世界的に進めるためにあらゆる努力をすべきとのメッセージにも反応する処とも云え、各国政府がワクチン接種に関連した支出をすれば、それは何倍もの見返りが期待できるというものです。 勿論、IMFは財政規律の重要性を今も説く処ですが、我々が半世紀前に学んだものとは大きく異なる思考様式となる処、加えて、富裕層や、「コロナ禍による特需」で利益を上げた企業に、復興のための一時的な義援金の拠出を求める声もある処です。

こうした動きは前述、F.ルーズベル大統領が大恐慌時、実施したNew Deal政策とその方向性は一致する処ですが、IMFと世銀が今の米国と歩調を合わせるのは、米国がIMFと世銀にとって最大の資金拠出国だからという事ではなく、むしろ両機関が、米政府よりも先に世界の経済政策の在り方について発想を転換させていたというものです。まさに新しい「ワシントン・コンセンサス」と云える処ですが、以前の「コンセンサス」同様、大きな政治力を発揮する可能性があるものと思料する処です。


         第2章 脱中国のバイデン政権と世界経済の生業

1.米中対立は今、広範な地政学上の対立へ

(1)バイデン政権と米中関係
本稿「はじめに」の項で触れたようにバイデン政権のもう一つの戦略軸、対中外交とは脱習近平中国を目指す点にあって、中国のウイグル自治区における人権弾圧に照らし、「人権」を対抗軸に、自由諸国との連携強化を以って、対中圧力を強める姿勢を強める処です。
因みに、3月25日の記者会見では、バイデン氏はこの中国のウイグル自治区での人権弾圧事件に照らしながら、米中関係について「21世紀での民主主義の有用性(Utility of Democracy)と専制主義(Autocracy)との戦」と再定義し、併せて台湾や南シナ会問題にも触れる処です。(日経2021/3/26)

そして、4月8日には米上院で、前述 中国への対抗策を列挙した新法案「戦略的競争法案」を超党派で纏め、公表しています。それは日本や韓国などを「極めて重要な同盟国」と位置付け、安全保障や経済で連携を深めることを柱とするもので、尖閣諸島の防衛義務も明記された由です。そして翌9日、米国務省は台湾との政府間交流の拡大に向けた新指針を公表。この新指針についてプライス報道官は、これまで中国に配慮し、自粛していた米台の交流を大きく広げることを狙ったものと説明する処です。バイデン政権は1月に発足以来、同盟国と連携する形で中国に圧力をかける動きを加速させてきています。中国メデイアでは、当初、バイデン氏の登場で米中間の距離が縮まらんとの論調が目立っていたが、今では, それが警戒に変わりつつあると伝える処です。(日2021/4/11)

・無視出来なくなった対中「テールリスク」
因みに、3月29日付けThe Wall Street Journalは、‘New Age of Chinese Nationalism Threatens Supply Chains’と題する中で、先のアラスカでの米中非難合戦後に起きた、欧州と中国の制裁合戦に照らし、ナショナリズムの為に経済的リスクを冒すことへの中国政府の許容度が、今ほど高まったことはないと警鐘乱打する処です。

つまり、世界が注視する東アジア地域で米中の重大な衝突が起きる可能性は、依然として低いとは見るものの、それを非現実的な「テールリスク」(可能性は低いが、発生すると深刻な被害をもたらすリスク)として無視することは、もはやできなくなっていると指摘するのです。因みに中国は3月22日、欧州議会議員を直接制裁の標的とすることで、苦労して交渉してきたEUとの投資協定を危険に晒す判断を下したと、評する処です。
又、先のアラスカ会議(3/18)で、中国は米国に対して‘強国としての力’を見せつけたと中国国営メデイアが数日間かけて宣伝していた由ですが、これが指導部が国家指導体制を維持するための行為とみられるのですが、これが自ら身動きが取れなくなるリスクを冒しているとも指摘される処です。

そこで米中両国はそうした熱気を低下させるために互いが受け入れ可能な道を見つけるべきと、例えば、米中両国にはアジア地域からの半導体の供給維持という共通の重要な利益があることに照らし、‘台湾を標的とする中国軍備の削減’との引き換えに、‘中国IT大手のフアーウエイ向け半導体販売の限定的再開を認める’と云った異なる措置の組み合わせも、前向きな一歩になるかもと、提言するのです。 尤もその状況は長年、中東からの円滑な原油供給を巡って利益を共にしてきた経験にならわんとする処でしょうが、そう簡単な解決策など見当たることはなさそうです。とすれば当該地域で展開する企業には、不測の事態への備えを開始する必要があるとするのですが、ごく自然な生業です。

(2)米「2020年、人権年次報告」と2022北京五輪問題
さて3月30日、米国務省はバイデン政権で初となる世界各国の人権状況に関する2020年版、年次報告を発表しました。その中で、中国による新彊ウイグル自治区でのウイグル族への弾圧は国際法上の犯罪となるとして「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定、中国を非難する処でした。欧米と中国との制裁の応酬が続く環境にあって、ジェノサイドとなれば平和の祭典とされるオリンピックは真逆なものとなる処、以って2022年の北京冬季五輪のボイコットの可能性が取りざたされ出す状況です。

3月27日付けThe Economistは、北京五輪ボイコットは起こるかと、’ Winter of discontent ― As another Beijing Olympics draws nearer, calls for boycotts will grow ‘と題するなかで、近時の中国通信機器大手、フアーウエイの孟副会長がカナダで拘束された事を受け、中国は、中国にいたカナダ人の元外交官マイケル・コブリグ氏と企業家のマイケル・スパバ氏を拘束していますが、両氏が釈放されねばカナダはもとより、他の国々でも、中国への反発が広がると云うのです。 そして、ウイグルの人権問題を巡り対中制裁を科した欧州では、中国が3月22日、対抗措置としてEUの議会関係者や学者らに制裁を科したことに憤りの声を上げる処です。この北京五輪ボイコット運動が勢いを増すとするなら、国内での人権侵害と同様に、対外的な行動が招いた結果ともするのですが、北京五輪もさることながら、中国・新彊ウイグル自治区の人権侵害問題は欧米企業の中国ビジネスへの影響を拡大させる処です。

米国は「ボイコット」については同盟国と議論して対応したいとしていますが、さて日本の
対応は如何です。東京五輪については、国内でのコロナ感染拡大への防御対策に大わらわの中、オリンピック憲章に悖る森喜朗の老害発言も加わり、その対応にフラフラの日本政府です。仮に2022年冬季北京大会にボイコットの動きが起きるとなると、その影響は極めて深刻なものとなる処です。勿論、人権問題はウイグルだけではありません。ミヤンマーの現状の下で外資が事業を続けるとなると軍政支援にもつながりかねず、企業にもスタンスが問われていく事にもなる処、極めて要注意とされる処です。

2.中国包囲網進捗 ― ‘先進自由諸国’ VS `中国‘ 

(1)対中強化を目指す、二国間協議「2プラス2」
さて、バイデン政権が誕生した当初、中国では前述の通り、独善的な行動で世界を混乱させたトランプ氏とは違って、中国と欧米との溝が埋まると期待されていた由でしたが、現実は、米国を中心とする欧米自由諸国による中国包囲網が着実に広まってきており、両者の乖離は一層広がり、時に敵対的と見られる様相です。

因みに、日本政府は米政権と共に中国への「抑止力」強化を念頭に、QUADを擁して欧州各国にインド太平洋への関与を促す処、この4月13日にはオンラインながら、ドイツと初の外務・防衛担当閣僚協議(2 プラス2)を開いています。日本がドイツと「2プラス2」の枠組みを設けるのは英国とフランスに続き3か国目で、今回の「2プラス2」協議はドイツがインド太平洋地域の主導権争いにかかわる意思を示す事例とされる処です。尚、英国との「2プラス2」協議は今年2月開催、香港情勢に重大な懸念表明を行っています。

また、2月1日、英政府はTPP加盟申請を果たしたこと周知の処ですが、EUを離れた英国は有望市場と見定めるアジアで中国が覇権を強める姿を良しとせず、中国包囲網の性格を帯びるTPPに加盟申請したと云われています。そして3月16日、公表された英政府の外交・安保の方針では、中国を「経済安全保障上の最大の国家的脅威」と位置付ける処です。尚、フランスとは2019年を最後に開かれてはいませんが、マクロン氏はこの2月、原子力潜水艦を南シナ海に送ったことを公表する処です。各国が意識するのは勿論、中国の脅威です。まさに、民主国家で構成する対中包囲網が進む処です。

3月26日、バイデン氏は英ジョンソン氏との電話協議で、中国の「一帯一路」構想に対抗するため、民主国家で作る同様の構想をジョンソン氏に提案したと、デラウエア州で記者団に語っています。具体的内容は不明ですが、民主主義陣営として何らかの経済協力の枠組みを作る意向と推測する処ですが、まさに新冷戦が演出される処と思料する次第です。
かくして、新たな自信を見つけた中国は、新たな敵をも生み出したとも云えそうです。

(2)日米首脳会談と日本外交の今後
さて4月16日、初となる日米両首脳会談がホワイトハウスで行われました。新冷戦ともいわれる米中新環境関下での会談だけに、日米関係は、日本の行方はと、世界の耳目を集める処でした。会談内容は既に各メデイアが、多くを伝える処、ここでは直後に公表された共同声明(注)をレビューし、日米関係、日本の行動様式について以下、考察することとします。

    (注)日米共同声明のポイント(日経 2021/4/18)
    ・台湾海峡の平和と安定の重要性 /・日米安保条約5条の尖閣諸島適用を再確認
・香港や新彊ウイグル自治区の人権状況へ深刻な懸念共有
    ・半導体、等サプライチェーンで提携 /・脱炭素へ30年までに確固たる行動をとる。
・日本の今夏の五輪開催への努力を支持

・今次日米共同声明と日米関係
今回の共同声明は、これまでの米中対立事情を映す如くに、中国を強くけん制する内容となるものでした。が、同時に当該共同声明は日米関係の新たな姿を演出する処となっています。具体的には、共同声明に52年振り「台湾」を明記し、台湾マターに言及したことでした。これまで台湾については、中国が敏感に反応してきた事情を踏まえ、日本政府は台湾表記を避けてきました。が、この通念を打ち破ったという事です。

バイデン政権は、同盟国や友好国との関係再構築を図らんとする中、とりわけ日本との連携
については最優先に取り込まんとする姿勢にあるのですが、その先に見えるのが中国です。つまり大国となった中国乍ら、ルールに基づく国際秩序を逸脱するような行動を強める中国に大いなる懸念の抱かれる処、共同声明では米国に沿う形で「台湾」表記を行った事で、日本政府の外交姿勢の変化を露わとしたというものでした。

その中国は2030年代にはGDPベースで米国を凌駕するとも見られ、こうした国力を増し、自信を深める中国に、米単独で向き合うのは困難になりつつあるとの見立てにあって、中国に近いアジアの大国であり、価値観を同じくする日本との連携強化の戦略は当然の選択肢です。 会談の前に語られていた日本に対する米側の期待は、「中国との対峙へと軸足を移すバイデン政権と並走する日本」だと仄聞する処でしたが、この共同声明はそうした期待に応えるものとなったというものです。因みに会談後の共同記者会見ではバイデン氏は「我々二人は日本の安全保障を鉄壁で守ることを確認した」と強調する処でした。ただこうした事態は、菅政権の対中姿勢を問う踏み絵ともなったとも云えそうです。

・日米の連携行動
もとより、首脳会談では新興技術の開発、高速通信規格(5G)ネットワークの安全性確保、半導体を含むサプライチェーンの構築など、それぞれの分野での協力が確認されています。とりわけ足元で供給不足が深刻化している半導体に係るサプライチェーンについては、中国の脅威に直面する台湾が最大の生産地という事情もこれありで、日米共に新たな発想が求められる処です。いずれにせよ、経済発展と安保の両面からこれら分野での日米連携の強化は重要となる処です。尚、バイデン氏が目玉とする「気候変動対策 ― 脱炭素化」については、首脳会談で「気候変動に関するパートナーシップ協定」を新たに立ち上げ、脱炭素化を日米が共に目標とする2050年の脱炭素化の実現につながる2030年の目標達成へ動き出す処、4月22/23日には米政府主催で気候変動に関するサミットが行われています。

なお、中国は日本にとっては最大の貿易相手国(注)です。その点で、経済面での脱中国は現状からは困難と云え、気候変動など共通の利益に関わる課題では中国と協力していく必要があり、共同声明でも中国との協働の必要性を指摘する処です。そこで、日本としては、難しい事ではあっても中国とは、競争と協力の両立という狭い道を探るしかないのでしょうが、それだけに、日本の主体的な貢献がますます重要になってきたと、感じさせられる処です。こうした首脳会談をフォローするメデイアは、その様相を日本に覚悟を迫るものだったと評するのですが、なかなかデリケートなコメントです。

     (注)4月19日、財務省が発表した2020年度貿易統計(速報)は輸出入で中国へ
の依存を強める日本経済の現状が映る処です。日本の輸出に占める中国の比率は、
22.9%、輸入についても27.0%といずれも過去最高となっています。
   
・共同声明は日米同盟の羅針盤?
さて、菅首相は、上述新環境に照らし、日本の防衛力の強化を含め、具体的な同盟強化策の検討に入るとしています。日本がどこまでの役割を担うのか、そこでは米国と入念にすり合わせ、国民の理解を得ながら備えを固めていく事、肝要となる処ですが、もはや、この共同声明は、従来のものとは異なる、日米同盟にとっての羅針盤とも映る処です。尚、菅政権には日本の国益を突き詰め、時には強かに振舞うことが求められる事も不可避と云え、日米の役割分担を進めることで、世界経済への新たな貢献も可能となるものと思料する処です。


おわりに 改めて ‘Progressive Capitalism’

今次弊論考書き終え、それを見直す過程で目にしたMohamed A. El-Erian氏、President of
Queens’ College, University of Cambridge、が米論壇 Project Syndicate (2021/4/2)に投稿
した論考 `Ensuring a Stronger and Fairer Global Recovery’ は、筆者の頭を整理する上で極
めて有意と映るものでした。そこで、当該論考の概要、そして筆者の思いとも併せ、お伝え
し、本稿「おわりに」に代えることとしたいと思います 

筆者は、バイデン政権が積極財政を擁して、コロナで傷んだ米経済を回復させ、併せて他自由諸国との連帯強化を図りながら、中国に対峙し、それが世界経済に好影響を与えるとの視点で現状を整理し、以って世界の行方を見通す起点とする処です。が、モハメド・エラリアン氏は現状では世界経済の回復も多くの人たちにはジレンマを齎すかもしれず、この際はより包摂的な政策をと、主張するのです。以下はその要旨です

・2021年 世界経済の持続的回復を規定する5つの要因:米国と中国の高い成長に牽引され世界経済は、6%以上の成長が見込まれる処、その実現の可能性は、5つの要因の推移如何と、いう。 まず「COVID-19の感染抑制の如何」であり、従って「ワクチンの配布と接種状況」次第と。そして三つ目は「financial resilience ,財政の弾力性」と。つまり途上国の抱える債務問題への支援体制の如何にあり、要は国家間や国内の格差拡大進むことで、2021年の回復を持続させるのが難しくなると云う。更に米経済の高い成長に伴い、各国の市場金利が上昇し、中央銀行は「金融緩和の引き締め」に転じる可能性を挙げる。これはコロナ危機を受けて市場に供給された資金の流れが変わることで深刻な混乱が起きると想定される事。そしてuneven economic recovery、むらのある景気回復となると、コロナ危機で既に拡大している「所得や、機会の格差拡大の更なる拡大の可能性」を指摘する処で、特に機会に関する格差が大きいほど、疎外感や社会から取り残されている云う意識が強まり、政治的な二極化を招き、適切な政策立案を妨げる公算が大きくなると、云うのです。

・今後、持続的な回復堅持のための条件:こうした問題に折り合いをつけることは極めてタフな仕事だが、グローバル経済は,今年も来年も、堅調な回復を維持する一方、不利な立場にある国やグループ、そして地域を浮揚させるという道はある。その実現のためには国内政策と対外政策をすり合わせる必要があるが、まず国内政策について、経済対策と包摂的な成長(inclusive growth)促す措置を組み合わせた改革の加速が不可欠という。このことはhuman productivity (人的生産性)や、productivity of capital and technology(資本や技術の生産性)の向上を目指すことではなく、公正な社会を作り上げていく事にあって、climate resilience、つまり地球環境問題への取り組みが不可欠とするのです。

・包摂的な経済政策を目指す:そして今、米中両国が世界の成長をけん引していることから、世界経済はコロナ危機から脱出する機会がある。勿論多くの人たちが傷つき、貧困削減等の社会経済的な目標の達成に向けた10年の進歩が帳消しになった例もある。国内外の政策をすり合わせられなければ、不均等な回復を余儀なくされ、世界経済が切実に必要としている、より高く、より包摂的で持続可能な成長は、続かない可能性があると、云うのです。

確かに、エラリアン氏云う処の包括的な成長を目指す政策こそ、今 必要です。世界は16兆ドル(約1750兆円)超の緊急対策で危機の封じ込めを急ぎ、中長朝的に経済の底上げの為の投資を競う状況です。が、経済回復のカギは今や「格差の縮小」にあって、一連の政策をバランスよく打ち出さない限り、格差は拡大こそすれ縮小に向かう事はないと、承知する処です。以上 (2021/4/25)
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2021年03月26日

2021年4月号(その2)  米中対立の構図と、「中国のトリセツ」 - 林川眞善

目 次

はじめに : 動き出すバイデン外交戦略   
1.日米豪印首脳会議(QUAD)、日米「2プラス2」協議
2.米中外交トップによるアラスカ・アンカレッジ 会談 
3.The Economist誌が示唆する「中国のトリセツ」
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はじめに : 動き出すバイデン外交戦略

(1)「米国家安全保障戦略」暫定指針
3月3日、バイデン政権は米国の安全保障政策を巡る「暫定戦略指針」(Interim National
Security Strategic Guidance )を発表し、中国やロシアに対抗するため、日本や韓国、豪州やNATOとの連携を強めていくと宣言しています。ただ当該指針では北朝鮮の非核化には言及なく、日本にとっては一部に不安の残る内容との指摘ある処です。

当該指針は、これまでバイデン政権が対外的に発信してきた理念、方針を改めて整理した
もので、中でもバイデン氏が2月に初の国際舞台として登壇したミュンヘン安全保障会議での演説を中核とするものです。
まず、前提とする国際情勢について、コロナ・パンデミックをはじめとする今日の重大な危機は国境を超えるもので集団的な対応が必用な事、自国をはじめ世界の民主主義が包囲されている事、中国の台頭など世界における力の配分が変化し新たな脅威を生み出している事、等を挙げ、その上で、米国の安全保障を確保するために経済、国家防衛、民主主義を含む米国の強さの根源を守り育てていく、とするものです。

ブリンケン国務長官によると、バイデン政権は数か月後をめどに本格的な国家安全保障戦略の策定を目指しており、暫定指針はそれまでの「つなぎ」の役割を果たすものとしていますが、今回の指針の発表に合わせて、外交政策に関する演説を行い次の8点を優先課題として挙げる処です。

① 新型コロナウイルスの収束と国際的な衛生安全保障の強化、② 経済的危機の克服とより安定的で包括的な国際経済の構築、➂ 民主主義の刷新、④ 人道的で効果的な移民制度の創設、⑤ 同盟・友好国との関係の再活性化、⑥ 景気変動への対応とグリーンエネルギー革命の推進、⑦ 技術における主導的地位の確保、⑧ 21世紀における最大の地政学的試
練である対中関係の管理。

(2)動き出したバイデン外交の実像
さて、3月12日(金)から18(木)・19(金)両日の1週間と云うもの、日米関係、そして対中関係の今後を占うeventが立て続けとなりました。

まず中国の全人代大会が11日(木)に終わるや、それを待ってたかのように、翌12日にはバイデン大統領主導によるオンラインながら、日米豪印の4首脳会議、QUAD首脳会議が、又、16日(火)には東京で日米の外務・防衛担当閣僚協議会、「2プラス2」協議が行われ、そして、18日(木)・19日には米国、アラスカ州 アンカレッジで米中外交トップによる直接協議が行われました。尚、18日には、同じ枠組みで、ソウルでも米韓「2プラス2」が開かれ、これら協議は次に控えた中国との協議に備えての行動とされる処でした。

今次連荘となった、これら会議はいずれも、中国の台頭で急速に変化する地政学的環境への対応、世界秩序の堅持の方向を探らんとするものであり、上記「暫定米国の戦略指針」の検証作業の一環とも思料される処です。 もとよりその行方の如何は、当然のこととして、米同盟国としての日本の外交のあるべき姿が問い質される処です。そこで、今次、連荘のこれら協議の実情をレビューし、今後の行方を考察することとします。


1.日米豪印首脳会議(QUAD)、そして日米「2プラス2」協議

(1)日米豪印首脳会議、QUAD (Quadrilateral Security Dialogue) 、2021年3月12日
そもそもQUAD(日米豪印戦略対話)とは、日米豪印戦略対話)2006年当時の安倍首相が4か国の戦略対話を訴えたのがきっかけ。安倍氏の首相返り咲きで計画が再浮上、2007年11月、局長級会合が始まり、19年には4か国外相会談が開催されています。
この間、インドは伝統的に「非同盟」の立場にあって、中国を含め「等距離外交」を重視してきた経緯もあり、今次の首脳級への格上げには難色を示していたとされる処でした。が、近時の中国との国境紛争問題を抱える新事態に対峙する中、日米の口説きもあって4か国の枠組みに参加することとしたというものです。更に、日米豪はインドが参加しやすくなるよう配慮し、議題も安保を前面に出すのを抑え、経済や環境、新型コロナ対策など幅広く設定されたとされたのです。

今次QUADの成果として挙げられたのが、4か国協働によるワクチンの国際的配布プロジェクトの決定でした。ワクチン供与問題は重要テーマです。が、その直後の筆者の印象は、それだけなの?と云うものでしたが上述対インド配慮を思う時、止む無しという事だったのでしょう。因みに直後の4首脳連名での共同寄稿はその辺の事情を映すものとなっていました。

つまり、4首脳連名でWashington Post紙に共同寄稿「Global Opinion」では、「We will renew strengthen our partnerships in South Asia, starting with the ASEAN Nations, work with the Pacific Islands, and engage the Indian Ocean region to meet this moment」とし、「Our foundation of democracy and a commitment to engagement unite us.」とするもので、それ以上の具体的言辞を見出すことはなかったのです。要は、中国を念頭に、4者連携とそのパワーを誇示せんとするものだったと理解する処です。

ワクチン配布プロジェクトについて云えば、中国は既に自己開発のワクチン「シノバック」を東南アジア各国に配っていて更に、東京五輪に参加する選手全員にワクチンの無償提供を提言している処です。つまりワクチン外交です。一方、QUADではワクチン提供、製造、輸送、資金提供などを4か国が分担、余剰ワクチンはインド太平洋諸国に提供しようという事で大切な合意を見ましたが、果たして、これが中国への対抗、包囲網に役立つのかと、多少懸念の残る処でした。

勿論、上述インドへの配慮あっての事とは推測する処ですが、「法の支配」といった価値観を共有する4か国が、今起こっているミヤンマーの軍事クーデターに対して糾弾声明すら出すこともなかったことはいかがなものかと思料する処でした。とにかくQUAD は、「自由で開かれたインド太平洋構想のシンボル」なはずです。アジア・太平洋の指導者がオンラインとはいえ、一堂に会したこの機会に、ミヤンマーについて何ら声明を出すことなく終わった事には、いささか看板倒れではと、残念さの残る処、次回のQUADに期待する処です。

    (注)QUADの枠組みを支える日本側の協力体制は以下3本の条約
     ・日米安保条約(1960年6月1日)・日豪安保共同宣言(2007年3月13日)、
     ・日印安保共同宣言(2008年10月22日)

(2)日米「2プラス2」:日米外務・防衛担当閣僚協議 2021年3月16日
「2プラス2」協議とは日米の外務・防衛閣僚が集まって、両国の安全保障を話し合う協議体で、正式名称は「日米安全保守協議委員会(SCC)」、1960年に発効した日米安保条約に基づくもので、同年9月に初回会合を開催。90年には出席者を当初の実務者から閣僚級に格上げされ、現在に至っています。これまで、在日米軍の再編や防衛協力の指針(ガイドライン)の改訂など日米同盟の節目となる重要なテーマを協議してきています。

さて16日の協議には、米国からはブリンケン国務長官、オーステイン国防長官が出席、日本は茂木外相、岸防衛相が出席しましたが、QUADとは違い、協議ポイントは明快。ブリンケン氏は、日本との同盟関係重視の考えを繰り返し強調、同盟を再確認するだけではなく実行をするために日本に来たと発言。またオーステイン氏も「一緒に自由で開かれたインド太平洋を守りたい」と続いたと、報じられる処です。そして、両氏が最初の訪問先に日本を選んだ背景には、中国への意識があり、今時協議の成果文書(注)でも中国の行動について「既存の国際秩序と合致しない」と厳しい表現で批判する処となっています。

(注)日米共同発表のポイント(日経2021/3/17):
・中国海警法に深刻な懸念 / ・台湾海峡の平和と安定が重要
      ・尖閣諸島へ日米安保条約5条を適用。日本の施政権を損なう行動に反対
      ・同盟強化へ「日本の能力向上」/ ・年内に2プラス2をサイド開催。

直近4回の2プラス 2の文章では中国を明示することはなく、2013年の協議の際は地域の安定や繁栄のため中国に「責任ある建設的な役割」を求める内容でしたが、この8年の変化は米国の中国観の変容を浮き彫りする処と、メデイアの報ずる処です。(日経2021/3/17)

バイデン政権はアジア太平洋での中距離ミサイルの配備、中国に頼らない半導体などのサプライチェーンの構築を目指す中、日本の役割拡大を期待する処ですが、米国が中国の尖閣周辺での領海侵入に厳しい姿勢を示すその視線の先にあるのが台湾です。今年、2月1日付けで施行された中国の海警法の強化は、台湾海峡の緊張を一段と高める処ですが、3月9日、インド太平洋軍のデービッドソン司令官は米上院軍事委員会で、「インド太平洋の軍事バランスは米国と同盟国にとって一層、不利に傾いている事」、「米軍が効果的な対応策を打つ前に中国が一方的な現状変更を試みるリスクが高まっている」と、したうえで「台湾への脅威は今後、6年以内に明白になるだろう」と証言しています。
つまり、2027年までに中国が台湾を侵攻する危険を示唆する処ですが、台湾有事となれば、沖縄の米軍基地が重要な役割を果すこととなる処です。米国が東シナ海に積極姿勢を見せるのはこうした差し迫った事情を映す処です。

勿論その際は、日本は何をなすべきか、上記 デービッドソン司令官の議会証言もこれありで、議論を急ぐ必要のある処ですが、今次「2プラス2」の共同声明に盛られた事項への具体的取組を確実に進めていく事かと思料する処です。

尚、中国外務省は16日の記者会見で、日米2プラス2に関し、「第三者を相手にしたり、利益を損ねたりしてはならない」と警告を発していましたが、こうした思考様式の相違については更に、次のアラスカでの米中協議で集約されていくものと想定される処でした。


2.米中外交トップによるアラスカ・アンカレッジ会談 、2021年3月18日/19日

当該会談は、当初中国側から東京での「2プラス2」の終了後、北京で2者会談したいとの
提案があったものでしたが、米側からcounter提案があり、北京・WSHで等距離となるア
ンカレッジでの会談と、なったというものでした。

さて、初となった米中の外交トップによる2日間の協議は異例ともいえる非難合戦で幕が
開け、19日に終了しましたが、その翌日の新聞報道は「人権や経済で同盟国と組んで中国封じ込めを狙う米国」と「軍事内政で強権を誇示する中国」、超大国の衝突は政治体制や国家理念にも立ち入る新たな次元に突入したと(日経3/21)、やや興奮気味に当該会談の様子を報道するのでした。

冒頭の両者全員の発言については、米国務省が全文を公表し、その和訳が23日付け日経に掲載されていますが、とりわけ冒頭記者団を前にしての過去に例を見ない激しい応酬が1時間以上も続いた事態に、「新冷戦」と称されるほどに悪化している米中関係をまざまざと感じさせられる処でした。そしてブリンケン氏の「新彊ウイグル(注)や香港、台湾、米国へのサイバー攻撃や同盟国への経済的威圧について深い懸念」の表明、併せて、これら中国の行動について仝氏は「世界の安全に欠かせないルールに基づく秩序を脅かしている」と激しく非難する姿に米中対立の深まりを感じさせられる処でした。

   (注)対中制裁:EU理事会は22日、中国での少数民族、ウイグル族の不当な扱いが人
権侵害に当たるとして中国に対して制裁を決定。これは1989年の天安門事件以来、30
年振りの措置です。多くのウイグル族が不当に拘束されている他、労働や不妊手術を強
制されているのを問題視しての決定ですが、更に、仝日、米英カナダもウイグル問題で、
そろって対中制裁を発表。EUに続く制裁で、主要国が足並みを揃える処です。更に、
ブリンケル氏は、23~24日、ベルギーで開催のNATO外相理事会に出席、24日には米
欧同盟について講演し、そこでも中国の脅威を訴え欧州に連携を呼びかけています。

一方、中国は主要国が参加する対中包囲網を強く警戒を示す処、楊共産党政治局員が「世界の大部分の国は米国の価値観が世界的な価値観だとは認めていない」と強く反論する処、これが、警戒感の表れとされる処です。 要は、コロナの封じ込めにいち早く成功した習近平主席を頂点とした共産党の一党支配こそ、米国式の民主主義に代わる優れた仕組みと、楊氏は言い放っていますが、米中関係の変質と中国がおかれる立場の変化が、その発言に集約される処です。中国は既に、反米対抗連合を模索し始めていると報じられる処ですが、バイデン氏のプーチン大統領に対する発言もこれありで、プーチン氏は駐米ロシア大使を帰国させる一方、急速な対中アプローチを目指すなど、中ロ連携の強化が進む状況です。
 
つまり、バイデン政権が支柱に置く人権外交(ウイグル問題)をトリガーに米欧自由諸国による対中包囲網が進む一方、中国を軸にロシア、北朝鮮との連携が進む結果、米中の対立は、
「米国の人権外交 VS 中国の反米対抗連合」を構図とした、対立関係が進む様相です。
因みに3月22~ 23日、ロシアのラブロフ外相は中国王毅外相と中国南部の桂林市で会談、共同声明では「人権問題に名を借りて他国の内政に干渉するのをやめるべきだ」と強調、ウイグル自治区を巡る米欧の対中制裁をけん制する処です。(日経3/24)

中国は先に2035年までに国力を引き上げ、中東レベルの先進国にする長期展望を示しており、今次アラスカ協議でもその一端が紹介されています。米国超えを狙う国家戦略が明らかで、中長期的な覇権争いも絡むとなると対立緩和は容易なことではないのでしょうし、世界第1位、2位の経済大国の対立が固定化すれば、コロナ禍で疲弊する世界経済への影響も大きく、今こそ、米国としては同盟重視で、中国との接点を探る必要があるのではと思料する処です。 尤も気候変動問題では協力が期待できそうな数少ない分野ですが、バイデン大統領が主宰する4月下旬の気候変動に関する首脳会議に合わせた協力が焦点になる処と思料するのです。


3.The Economist誌が示唆する「中国のトリセツ」

3月20日付けThe Economistの巻頭言 ` Dealing with China ‘ は世界経済の現状について、問題提起方々、今後の中国への向き合い方について、次のように指摘するのです。今言う処の「中国のトリセツ」です。

まず「自由主義の価値観はソ連崩壊を機に、世界で優勢を誇ってきたが、中国の揺さぶりを受け今、米ソ冷戦初期以来の試練に直面している。つまり、冷戦時代のソ連とは異なり中国は西側諸国と緊密に結びついて、この事実が、自由主義世界に大きな難問を突き付ける処
、その難問とは、「中国の台頭に伴い、経済的繁栄を維持し、戦争のリスクを抑え、同時に自由社会を守る最善の策とは何か」という問いだというのです。

因みに、西側の為政者の多くは、中国のWTO加盟を歓迎し、豊かになれば自然と民主化すると考えたが、そうはならなかった。つまり関与政策の失敗です。そのためトランプ前政権は中国に強硬姿勢で臨み、追加関税と制裁を科したが、それも効果はなかった。では西側が取れる強行策としては、中国への強硬姿勢を更に強め世界から孤立させ、方針転換を迫るという選択肢はあるが、その代償は大きいく、世界の工場である中国は世界の輸出製品の22%を生産している現状を見れば理解できる処と云うのです。それでは中国との禁輸を進めれば人権尊重を促す一助になるという見方はあるが、独裁国家は孤立すると強権を強める傾向があり、西側とビジネス面、学術面、文化面で接触を失えば、中国市民は他国の意見や情報からさらに切り離されることになる。従って、中国との関係を維持するのが唯一の賢明な策となるが、これが融和策に陥らないようにするにはどうすれば良いかだというのです。

そこで、先ず西側が始めなければならないことは防衛強化だと。つまり中国政府の介入に備え、クラウドシステム、エネルギー体制を含め様々の制度やサプライチェインの強化も必要だという。今米主導で構築し、グローバル化を支えてきたインフラは老朽化している。それらを刷新し、中国が対抗して構築している制度とは異なる選択肢を提供できるようにする必要があるというのです。その点では、平和の維持のためには「QUAD」のような日米豪印4か国の連携強化や台湾の軍事力強化が必要だと。そして、中国と対峙する力を強化すれば開かれた社会を維持し、人権問題に毅然と臨めるようになると云うのです。
今、バイデン政権は、一連の協議の成果を踏まえ、前出「暫定米安全保障戦略指針」の見直しを進めている処でしょうし、西側各国も中国にすり寄ることなく、どう付き合うか戦略の見直しを進めている処と思料するのです。

さて、菅首相は4月前半、バイデン大統領と会談の為、訪米予定です。その際 問われるのが上記の問いに応えていく、要は、米中対立の中の日本の役割を語ることと思料するのです。
米国は中国との協議で、日本をはじめとする同盟国と連携して中国と対峙する姿勢をはっきりと打ち出しています。日本はどこまで米国についていけるか。 因みに上述、エコノミスト誌も指摘していたようにQUADは地域協力を促進枠組みになりうるかが試されることでしょうし、日本は豪印だけでなく日米に他のアジアの国も加えた関係強化の方策を提供すべきと思料する処です。以上 (2021/3/25)
posted by 林川眞善 at 11:00| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする