2017年12月26日

2018年1月号  'America First'と'American Retreat'に揺れた世界、この1年 - 林川眞善

はじめに トランプ現象

今から20年前、米国の代表的哲学者Richard Rorty (1931~2007)が著した「Archieving our Country,- Leftist thought in twentieth century America,1998」は現下のトランプ現象を理解する上で示唆的と云うので、先般、新装の日本語版「アメリカ未完のプロジェクト ー 20世紀アメリカにおける左翼思想」(小澤照彦訳、晃洋書房)を読んでみました。それは3部構成(「アメリカ国家の誇り」、「改良主義左翼の衰退」、「文化左翼」)で、‘現代’アメリカが抱える深い闇(差別、暴動、偏見)をnew left思想からその現実を解析するものでしたが、今日のトランプ現象を予測したかのようで極めて興味深いものでした。

要は、雇用が奪われ、最低賃金も上がらない、ミドルクラスが縮小した社会において、ある日、反エスタブリッシュメントを自負する政治家が現れて、「労働者が報われないのはお金持ちのせいだ、lobbyistのせいだ、政治家、media、intellectualのせいだ」と糾弾する。そして「自分が指導者になったら、それを叩きつぶしてやる」と豪語する。その人物は熱狂を以って迎えられるが、やがてアメリカ社会がそれまで勝ちとってきたマイノリテイや女性の権利が後退するようになる、・・・という趣旨のことを記すものですが、けだし慧眼と云うものです。

ミドルクラスが縮小してくると社会全体としての余裕がなくなってくる為、どうしても排外的となり、国際的な課題に関与するより、自国第一主義のような考え方が出てくると云う事ですが、その面でトランプ現象というのはミドルクラスが縮小したアメリカにおいて生まれるべくして生まれた現象と言え、仮にトランプが当選していなくても、第二、第三のトランプが生まれる素地はあったのではと思うのです。その点では、トランプ現象はアメリカだけに留まらず、ミドルクラスが先細りしつつある先進国に共通してみられる現象と、思料する処です。
そして、先の大統領予備選で自ら社会主義民主党員と名乗って若者の人気を一身に集めた上院議員のBurnie Sanders氏 を想起させるのですが、実はRichard Rortyも自らを、米国に夢としての民主主義を追求する「左翼」と任じる仁でした。因みに彼が日本語版宛てに寄せた2000年1月21日付序文で「・・・自分の関心はアメリカや日本のような民主主義国家に革命的変化を起こす事ではなく、そうした国々の有権者の想像力を捉えて、その票を獲得していく左翼的な社会政策を考案することにある。」と記しているのですが、興味深いところです。


さて、そうした論理を実証するが如くに登場したトランプ米大統領のこの1年は、彼が主張する米国第一主義、America Firstを基本軸に、これまでの米国そして世界と共に創りあげてきた生業を否定する如くに、「迷走する世界」を演出する1年だったと云える処です

そんな折、示唆に富む二つの文献に遭遇したのです。一つは米MIT名誉教授、ジョン・W・ダワー氏の新著「アメリカ 暴力の世紀」(田中利幸訳、岩波書店、2017/11)、もう一つは、阪大名誉教授、猪木武徳氏の論考「歴史から学べるのか、歴史は繰り返すだけなのかー経済学から見たトランプ氏の通商政策」(中央公論、12月号)です。いずれも著名な歴史学者であり、経済学者です。前者は、戦後から今日に至る米国の姿を米国が関与してきた国際事件を通して今日を照射するものであり、後者はトランプ米国の今、そしてその可能性を、経済学的論理を以って問うていくというもので、いずれも示唆に富むものでした。

そこで今回論考では、第1章として、この二つの文献を下敷きとして、トランプ氏が主張するAmerica Firstの1年を総括方レビューすることとし、新年に備えることとしたいと思います。
そして第2章では、先のトランプ大統領アジア歴訪中、日本がinitiateした、そしてトランプ氏も取りあえず同意したとされる「自由で開かれたインド太平洋戦略」、そのproject の可能性を握るのがインドと見られる処、 Foreign Affairs, Nov./Dec. 2017.(P.83~92)が掲載するAlyssa Ayres 氏、Senior Fellow for India and South Asia at the Council on Foreign Relation ,の論文「Will India Start Acting Like a Global Power ? ―New Delhi’s New Role 」はglobal power たらんことを目指すインドの現実の姿を描くもので、それは新年の可能性を占う上で有為の材料と映るものでした。そこでこの際は、その概要を紹介しておきたいと思います。

処で、12月6日、米トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都と認定すると共に米大使館を現在のテルアビブから移転すことを発表しました。この決定は「米国の国益」だとも発言、再び「アメリカ・フアースト」です。勿論、このトランプ認定にアラブ諸国は猛反発、世界の主要国からも一斉に反対の意見が伝えられる等、中東情勢は緊迫の度を増す処です。そうした新たな問題を抱えたまま、世界は新年を迎えるのですが、では世界経済はいかなる推移を辿ることになるのか。そこで ‘おわりに’ として、NYU Stern School of Business 教授でノーベル経済学賞のMichael Spence氏が米論壇Project Syndicateに投稿したessay、The Global Econmy in 2018, Nov.28にも照らしながら、日本経済のあるべき論に触れ、今年の締めとしたいと思います。
(2017/12/25)

                                      
           目  次
                                             
第1章 この1年、Trump’s America First は何をもたらしたか ---- P.3

1. Trump’s America First
 ・世界の潮流 / ダワー氏VSトランプ氏

2.検証:トランプ通商政策の合理性と、WTO対応 
(1)米中二国間貿易インバランスの是正と 保護主義政策の帰結
 ・保護主義政策の帰結/ Trump’s next trade turget             
(2) 米国の世界覇権からのretreat
     - トランプの「国家安全保障戦略」と日本の対応

第2章 「自由で開かれたインド太平洋戦略」        ------P.7

1.「インド太平洋戦略」構想は、Trump’s gift to Japan

2.世界の「グローバル・パワー」を目指す新生インド
   ― Will India Start Acting Like a Global Power
(1)インド経済とNew Delhi’s New Role
 ・インドの外交姿勢
(2)米印関係の強化
 ・インド経済のグローバル化と安全保障対応

おわりに The Global Economy in 2018、そして日本は ------ P.11
 ・TheGlobal Economy in 2018 /日本経済のこれからを考える

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第1章 この1年、Trump’s America Firstは何をもたらしたか

1. Trump’s America First

・世界の潮流
今年1月米大統領に就任したトランプ氏は「America First」を強調、対外的には「自由貿易によって米国は一方的に損をしてきた。従って米国の手足を縛るような多国間の貿易協定には参加しない」と、保護主義、排外主義を前面に押し出す諸政策を打ち出し今日に至っています。実際、トランプ米国は「TPP」協定からの離脱、環境保護を巡る「パリ協定」からも離脱、そしてUNESCOからの脱退決定、更にはイランとの核合意など多国間協定や合意についても次々と離脱、一対一の力による交渉の枠組みへと米国の位置をシフトさせてきています。

さて、こうした動きに照らしながら世界情勢を振り返る時、この数年、ゆっくりと進行してきた「統合と収斂」の動きが大きく後退し、「分離と発散」への傾向が再び顕著になってきたことに気付くとは、阪大名誉教授の猪木武徳氏の指摘する処です。(中央公論12月号) 昨年、英国が国民投票によってEUからの離脱を決め、スペインではカタルーニア州独立の声が上がるほどに、今次トランプ氏の言動は、まさにそれらを援護射撃するかのように映る処です。文明が「共存の意志」を意味するのであれば、こうした分離・発散の傾向は、文明の進歩とは相反する野蛮への回帰という事になる、とも猪木氏は断じるのです。

・ダワー氏 VSトランプ氏
先月(11月)、ジョン・W・ダワー氏の最近刊「アメリカ 暴力の世紀 ―第二次大戦以降の戦争とテロ」(田中利幸訳、岩波書店)[原題:The Violent American Century—War and Terror since World War Ⅱ, 2017] を手にしました。ダワーと云えば、思い出されるのが1999年のピューリッツア賞受賞作品「敗北を抱きしめて」(Embracing Defeat ― Japan in the Wake of World War Ⅱ )です。これは戦後直後の日本にスポットを当て、日本に民主主義が定着する過程を日米の視点から書かれたものでしたが、今次のそれは、第2次世界大戦の遺物を抱えた世界と歩んできたアメリカの現状、軍事を巡る歴史、テロなどの不安定の連鎖拡大の現状を描くものものです。そして、今次の日本語版に寄せられた2017年8月5日付序文はトランプ時代を危惧する、短いものでしたが、それだけにトランプ氏の米国大統領としての存在に,一層の ‘危険さ’を感じさせるものでした。因みにダワー氏のトランプ評の一部を紹介しておきましょう。
「・・・多くのアメリカ人と世界の大部分がトランプを不安の目で見ている。彼は国家を指導するにふさわしい知性も気質も備えていない。彼は読書をしない物事の詳細を知ろうとする忍耐力もなく、物事の正確さや真実を尊重することもない。・・・もっとも重要なのは、彼が世界のリーダーとして、「支配」以外にアメリカの将来について明確な展望を何ら持ち合わせていないという、非常に不安な状況にあるという事だ。」( J・ダワー「アメリカ 暴力の世紀」)

さて、こうした二つの論評を前にする時、以前リフアーしたThe Economist,(Nov.11/17)の巻頭言‘Endangered’ でBy putting `America First’ , he makes it weaker, and the world worse off. つまり「米国第一主義」を実践することで、米国を貧しくし、世界を貧しくすることになる、という事態に思いを深くする処です。

ただ、それでも頭をよぎるのは先月NYで会った知人との会話でした。つまり、そうした発想は、NYを中心とした東部、又西部ではカリフォルニアぐらいで、中西部に出かけるとトランプの当選を齎したエスタブリッシュメントへの国民の怒りという草の根の潮流は変わっていないとの指摘でしたが、それは冒頭引用のRortyの文脈に通じる処です。確かにメデイアは共和党の動きとして、2018年の中間選挙に向けて、移民受入れや自由貿易に否定的な「ミニ・トランプ候補」が続々名乗りを上げていると報じています。一方の民主党でも反自由貿易を唱えるサンダース氏の主張が影響力を強めているとも報じています。そして12月12日、長年与党の地盤とされてきたアラバマ州での米上院補選では民主党ジョーンズ候補が僅差ながら25年振り勝利したのです。勿論、現状は未だまだ不透明な要素一杯で、メデイア風に言えば、トランプイズムはアメリカの亀裂をさらに深めている, という事になる処です。とすれば仮にトランプ氏が一期で終わったとして、その後は万事平穏と見るのは楽観的に過ぎると云うものでしょうか。

2. 検証;トランプ通商政策の合理性と、WTO対応

(1) 米中二国間貿易インバランスの是正と保護主義政策の帰結
さて周知の通り、トランプ氏はAmerica Firstの下、選挙戦を通じて中国や日本との貿易収支の赤字が米国の製造業の雇用を奪ってきた, と二国間貿易の均衡化を主張し、先のアジア歴訪の折も同様言動を繰り返し、因みに中国からの輸入については高関税で阻止し、中国との貿易赤字を是正し、米国の製造業の雇用を回復させることが当面の米国の重要な貿易政策としています。

こうしたトランプ氏が主張する「中国からの輸入急増が米国の製造業の雇用を奪った」という点
についてはMIT Autor教授、Dorn教授 他による2014年、更に2016年の学術的検証(注)によ
れば2000年以降、中国からの輸入増が齎した米国経済への影響としては大まかに言って「米国
の製造業雇用者の減少分の内、中国ショックによるのは1割から2割程度」と推定される処です。
が、これら製造業から排除された労働者を他のセクターが十分吸収できなかった点も指摘され
る処です。 [(注)China Syndrome : Local Labor Market offsets and Import Competition in the United
States ,by Autor,Dorn,Hanson,他 (2014) & (2016) ]

そこで、中国に向かって輸入抑制措置を取ったとして中国からの輸入が減少し米中二国間貿易の赤字是正が進んだとしても、だからと云ってマクロ経済的に米国内の雇用が回復することになるかと云うと、そうはなりません。と云うのも一国の対外収支(貿易バランス)は会計学的に成立する恒等式によってマクロ経済的に制約されているからです。つまり、一国の「民間投資と政府の財政赤字分」をフアイナンスするためには結果として同額の「民間貯蓄と経常収支の黒字」を必要とするという事で、この恒等式が教えることは「対外収支は一国全体の貯蓄(S)と投資(I)のバランスに依存する」という事ですから、米国民が消費支出を抑え、民間貯蓄が投資を上回るようにしない限り貿易収支を改善することはできないのです。俗にいうISバランス理論です。

因みに、2000年以降、米国では資産価格の高騰等を背景に消費の増加に加え、財政収支の赤字の悪化等で国内の貯蓄率は低下傾向にあるなか、投資率はやや上昇したことから貯蓄不足が拡大してきており、この点を改善しない限り、保護主義的措置をとっても何らの解決にはならず、ましてやアメリカ国内の基幹産業の復活に繋がる事はないのです。ノーベル経済学賞のJ.Stiglitz氏も、12月5日付のEssay ‘The Globaization of Our Discontent’ で、ISバランス理論を擁してトランプ貿易政策の矛盾を批判する処です。

・保護主義政策の帰結
処でトランプ氏が尊敬すると云われるレーガン元大統領は、まさに80年代初頭、日本の自動
車、鉄鋼等の対米輸出を抑え国内産業を保護する為と輸入制限策を取ったのですが結果は「川
下」産業に高コストを強い、競争力の低下と同時に物価高で低所得者を困難に至らしめた経験が
あるのです。レーガン大統領はこの失敗を認め自由化に向かったのですが、こうした失敗をトラ
ンプ政権が認識しない限り、米国経済はここ数年内には先進国の優等生の地位から滑り落ちる
可能性は否めないというものです。もとより日本経済にとっても極めて重大問題と映る処です。

かくしてトランプ政権の貿易政策、つまりそうしたlogic無視の貿易均衡策、保護主義的措置は結果として、米経済の競争力の低下、委縮、延いては世界経済の停滞すら招く事になりかねないという事で、それはフーバー大統領時代の経験(1930年6月「スムート・ホーリー関税法」)が教える処です。つまり、米経済の構造的改革なくしてはトランプ氏が目指す健全な貿易バランスは期待できず、保護主義政策は経済の停滞をもたらすことになると云うものです。

・Trump’s next trade turget
加えてトランプ政権は、自由貿易の本山ともされるWTOの基本までをも槍玉に挙げだしており、これ又憂慮される処です。12月7日付、Finanncial Times はTrump’s next trade target と題した一大記事を以って、The World Trade Organization faces an identity crisis because of the suspicion of the Trump administration. とし、しかも皮肉なことに、The irony is many countries want to work with the US to deal with China’s modelと、トランプ流の行動様式を取らんとする国が多くなってきているとも指摘していたのです。

実際12月10日からブエノスアイレスで開かれたWTO閣僚会議で、米通商代表部のライトハイザー代表は、WTOルールは途上国に有利になっており、現状を維持することはできないと主張し、「多角的貿易」の文言の削除すら求めたと伝えられています。(日経‣夕、12/12)つまり、米国がWTO体制における被害者だというトランプ氏のこれまでの主張に沿った姿勢を鮮明とするものです。そして当該閣僚会議は米国のWTO批判にかき回され議論が錯綜する中、閣僚宣言の採択ないままに13日閉会となっていますが、大国のリーダーシップ不在の結果で、WTOの漂流する姿が印象付けられるばかりです。さて次の一手は?です。繰り返すに、トランプ貿易政策の最大のリスクは、戦後世界が営々と築いてきたGATT、そしてWTOの多角的かつ自由な貿易体制が崩れ、報復関税の応酬を引き起こしかねないという点にある事です。

(2) 米国の世界覇権からのretreat
   - トランプの「国家安全保障戦略」と日本の対応

ただそれ以上に問題と映る事は、こうした米国の政策行動は、米国の世界経済における覇権からのretreat 、つまり‘後退’の何物でもなく米国のlocal 化すら懸念される処です。そして、かかる事態が中国の世界経済における覇権国家としての台頭を許す処ともなってきていることで、因みに先のAPEC首脳会でも、保護主義という守りに入ったトランプ米国とは対称的に、習近平主席は「通商戦争には勝者なし」としつつ、グローバル化や自由貿易の重要性を強調していましたが、何かドラマでも観ていると云った感じです。
現状多くの識者は、そうした世界経済の化学反応を容認してはいる処ですが、中国が一度も民主主義を経験していないことにも照らし、近代国家としての持続性に聊かの疑問を禁じ得ない(ジャレド・ダイアモンド氏、米UCLA教授、日経11/ 28)と、総括される処です。

さて12月18日、トランプ大統領は「国家安保戦略」を発表しました。本来なら世界秩序の指針たるべきものですが、持論の「米国第一」を繰り返すに留まるもので、米国のretreat宣言とも映る処です。日本の安全保障政策の基軸が日米同盟にある事には変わりないでしょうが、これでは心許ないと云うものです。従って、安倍政権には、自由主義、市場経済を掲げる国々と、幅広く安保ネットワークを構築していく事が求められる処、その点では日米豪印による言うなれば広域安全保障体制の構築を目指す「自由で開かれたインド太平洋戦略」構想(後述)があり、又、12月14日ロンドンで開かれた日英外務・防衛担当閣僚協議では「グローバルな戦略的パートナーシップ」の拡大が謳われ、準同盟国として協力していく事、とりわけ英国のEU離脱に向けた経済関係強化の方針がが合意されており、これを機に、米だけに頼ることのない、幅広い日本としての安全保障網をしっかりと構築していくべきを改めて目指すべきと、思料する処です。


第2章.「自由で開かれたインド太平洋戦略」

1.「インド太平洋戦略」構想は‘Trump’s gift to Japann’

トランプ米国が「国際的な枠組みやルールはアメリカにとっての足かせだ」とする中、日本としてどのようにアメリカを繋ぎとめておくことが出来るかが課題となる処でしょうが、もとよりアメリカと世界は言うなれば一蓮托生の安全保障上、政治、経済上のステークホルダーであり、日本としては不可分の存在である事を強調するほかないものと思料するのです。

その点で、今次トランプ氏のアジア歴訪時、明らかとされた「自由で開かれたインド太平洋戦略」構想は極めて有為なものと云え、つまりは太平洋とインド洋を結ぶ地域全体で法の支配や市場経済を重視する国際秩序の維持を狙いとするものです。実は日本がinitiateした構想と云われていて、これにトランプ米国を巻き込み、同時にオーストラリア、インドをも巻き込み日米豪印4か国が共同して、新たな海洋安全保障協力体制づくりを目指す、まさに不可分を強調する処となるものですが、これこそは前号論考で紹介したTrump’s gift to Japanと映る処です。

11月12日、その四者会合がマニラで行われていますが、そこで出された各国声明文を分析したインドのネルー大のコンダパリ教授によると、日米豪は法の秩序、核不拡散など同戦略に関する主要9項目のうち、ほぼ全項目で一致した由ですが、インドは海洋安保等3項目で言及を避け、意見の相違をうかがわせたと、12月4日付日経は伝えています。そして、同紙はインドは軍拡を通じて独自の「インド洋戦略」を優先し、その延長線上でのみインド太平洋戦略に加わる安保外交を展開していく事になるのではと、指摘するのです。

もとより、内向きを強める米国の影響力が衰えることを睨んでいくとき、日米にオーストラリアとインドなどを加えた枠組みでアジアの安全保障の変化に対処していかんとする方向は高く評価できると云うものですが、そのカギは従って、インドにありと思料される処です。 その点で、
米外交誌Foreign Affairs(Nov./Dec.,2017)が伝えるAlyssa Ayres氏論文 `Will India Start Acting like a Global Power ’ は、その可能性を測る上での格好の資料と思料するのです。そこでその概要を以下に紹介しておきたいと思います。

2. 世界の「グローバル・パワー」を目指す新生インド
 ― Will India Start Acting Like a Global Power

(1)インド経済とNew Delhi’s New Role 
まず、インドは軍事力(軍人の数)で世界第3位、国防予算で世界第5位、そして経済力では世界第7位の民主主義国でありながら、国連安保理のメンバーでも、先進工業国G7のメンバーでもなく、major global playerとは認知されてきていないことに疑問を呈するのです。然し、現在のモデイ政権下ではleading power として世界的にも位置付けされてきているというのです。

その背景にあるのがインド経済の成長です。つまりインド経済はGDPで2兆ドル超。G7メンバーのカナダやイタリアを凌駕する処、米政府は更にインドは2029年までには世界第3位、米中に続く経済大国になると予想しているのです。BRICSにあって、中国がスローダウン、ブラジル、ロシアの経済が縮んで来た今、インドのグローバル経済におけるウエイトは高まり、IMFは2020年までには8%を超えるものとみているというのです。これは1995年の日本、2000年の中国を上回るもので、2016年米コンサル企業KPMGの予測ではインドは今後3年間で経済大国になるとしています。そして、その可能性を担保するのが大規模な若年人口の存在と云うのです。国連見通しでは、インドは2024年には中国を捉え、世界最大の人口大国になる事が予想されており、この若手労働者の成長は2050年まで想定されるというものです。因みに日本の平均年齢は53歳、中国は50、欧州では47歳、一方インドでは37歳と予想されているというのです。

・インドの外交姿勢
ここ数年、こうした成長を背景に自信を深めたインドは単にグローバルな動きに反応するというよりも、積極的に役割を果たしてきているとも指摘するのです。その一つは、国際気候変動問題への対応だと指摘するのです。これまで炭酸ガス排出削減協定に拒否してきたが、それは先進国が排出量の少ない新興国のインドに削減を求めることは不公平だと考えてきたためで、その辺の事情が変わってきた今、2015年のパリの国際気候変動会議ではインドはこれに参加、New Indiaの顔を鮮明としたと云うのです。そしてフランスと共にモデイ首相は新たな国際ソーラーパワー開発機構の拠点をインドへと訴えているのも、当該開発でインドは国際的なリーダーシップを目指さんとするもので、こうした ‘パリ協定への参加はインド外交の新たな姿、従来の姿勢とは違った問題解決型の新たなインドの姿を示すもの’ だと強調するのです。

もとよりインドは西欧への依存を深めながらも、これまで過去数十年に亘り、既存の国際機関を補強する機関の創設に努めてきており、BRICsメンバー国として2012年にはNew Development Bankを創設、既に2016年には初のローンを実施していること、2014年にはBRICSのContingent Reserve Arrangementを確認していますが、これは経済危機の際のIMF支援に代わるものとしていく事を目指とするのです。2017年にはインドは上海協力機構にも参加していますが、これも米国の枠組みとは異なるConference on Interaction and Confidence Building Measures in Asiaを通じて広くアジア諸国との連携を深める処と云うのです。勿論インドは中国主導のAIIBをも支援する立場にあり、今では当該銀行の第2位の出資者となっています。勿論、ニューデリーのトップ・プライオリテイは西欧が主導する伝統的なグローバル機構に留まり、米国のインタレストに見合う形で協力していく事にはあるとも強調するのです。

(2)米印関係の強化
処で、こうしたインドの実状に対するトランプ米大統領の理解が乏しいと、米国に対インド政策の見直しを迫る処です。それはグローバル・ガバナンスたる主要国際機関から外されている不公平な事情を改善し、対等に迎えられるべきであり、インドはそれに応えていく用意、十分にありというのです。
では、米政府はどうか。引き続き米政府はインドとの関係を有力な戦略機会の一つとして見ていることには変わりなく、インドについては歴史的な齟齬を超え、成長市場として、関係の強化を、また中国に対する防波堤として、注目してきたと云うのです。それでも、ジョージW.ブッシュとは2005年の核共同開発について、オバマ政権では防衛、経済、外交協力面で、いろいろ努力してきてはいるが、双方の目標とそれへのアプローチはかみ合う事はなく、例えばロシアのクリミア侵攻問題を巡っての対応の違いがそれだったというのです。

いずれにせよインドとしての戦略上の課題はグローバル・パワーとして認知されることで、これまで長年時間をかけ政策の独立性を維持しながら現在のインド政府のビジョン「世界は一つの家族」へとシフトを図ってきたと云うのです。ただ、独立性と同盟関係という点で、時に双方の理解に齟齬をきたす等、衝突する事情があったものの、昨年、米国は重要防衛パートナーと定義づけた事で、新しい動きが始まりだしたとする処です。

・インド経済のグローバル化と安全保障対応
尚、インドは目下、グローバル化を推進中で、2014年には貿易手続きの簡素化を含む貿易促進に取り組み、近時ではインドが最有力とする情報技術分野についてtop priorityを置き、人材の交流を含め、これには米国でのビザ発給手数料の引き上げ問題はあったが、当該ビジネスの拡大を図ってきており、こうしたグローバル化対応はインド経済の持続的成長に寄与する処、その点では更なる改革を自覚する処と云うのです。尤も、インド独自の政治的枠組みだけではその努力にも限界のある処、国際的ネットワーク、つまりAPEC,OECD,IEAなどを通じて、経済成長と雇用創造を進めていくとも主張する処です。
近時アフリカ資金援助でインドは大いなる貢献を果たしてきており、OECDではインド、ブラジル、中国、インドネシアをKey partnersと称し、経済成長を誘導させんとしており、G7を世界経済の中核としながら、インドを外してはやっていけなくなってきている点、強調する処です。

そして最後に安全保障対応では、人口とUN Peacekeeping(国連平和維持軍) への資金援助額から見て、国連安保理への招聘がないのはunfairと主張するのです。2010年、オバマ当時米大統領はインド議会でインドの為に「組織の再編・拡充」を約していると指摘、従って米国はそれを履行すべきと云うのです。そして欧州のメンバー同様、米国はインドの台頭に応え、世界の秩序再生に努めてほしい、世界のステージは今、our time has come.と主張するのです。


さて、世界のベクトルが今、「分離と発散」ヘとシフトを見せる中、まさにトランプがくれた贈り物としてのこの機会を効果的、戦略的に活かすこととし、日本が主導する形で具体的に進めていくべきで、うまく進めば地域の均衡と安定に役立つ処と思料される処です。ただ、この際は米国の対中姿勢にも関わる処でしょうがそれでも、中国封じ込めが狙いでは安定は覚束ないと思料するのです。と云うよりは中国を引き込んだ「均衡と協調」(注)の体制を作る必要性すら思う処です。 [(注)慶大教授 細谷雄一氏は国際秩序とは、「均衡」「協調」「共同体」という3つの体系の結びつきで形つくられると指摘するのです。(同氏著「国際秩序」中公新書、2013 )]


おわりに The Global Economy in 2018、そして日本は

12月20日、米議会は10年間で1.5兆ドルという巨額な減税法案を可決しました。トランプ
大統領、初の大型公約の実現です。メデイアは総じてこれが景気の起爆剤となると伝えていますが、巨額減税は財政の悪化に繋がる恐れある処、さて潜在成長率の引き上にどこまで結びつくか、その副作用は否めず、中期的効果は今後試されることになると云う処です。因みに今次大型減税法案に賛成票を投じたのは共和党だけ、民主党は「大企業、金持ち優遇だ」として全員が反対に回った由で、そうした議会の様相は分断の広がる「トランプ米国」を象徴する姿と映る処です。

・The Global Economy in 2018,
さて、ノーベル経済学賞の米NYU Stern School of Businessの Michael Spence教授は、米論壇に寄稿した11月28日付エッセイ「The Global Economy in 2018,」で、今次世界経済の現状を鳥瞰した上で、成長のカギは、technology, とりわけdigital technology にあるとして、世界経済の新たな生業について以下(概要)語るのです。

まず2017年の先進国を回顧し、経済成長は加速する一方で、政治的には分裂、分極化が齎す緊張に晒された、対照的な年となったが、長期的にはそうした経済も、政治的、社会的な分離主義の流れに影響を受けていく事になろうというのです。尤も、市場も経済も政治的無秩序さにはゆとりある対応を取ってきており、当面、景気後退のリスクは低いと指摘するのです。但し例外はBREXITを抱えるイギリス、そして連立政権候補の調整に問題を抱えるドイツ、メルケル首相の影響力の低下で、EU統合強化への影響を危惧するのです。一方、斯界が注目するのが金融政策の推移。先進国経済の良好なperformanceに照らし、引き締めに向かう事が予想される処、それは経済の本格回復を示唆するものと積極的に受け止めるのです。
一方アジアについて、中国では習近平主席一強の様相を強めるなか、経済構造のゆがみ是正問題が進み、同時に、消費とイノベーション主導の成長が期待されること、またインドも成長の持続性と構造改革に向かっていると指摘するのです。そしてこれらの経済成長に刺激され、他諸国も地域での発展を目指すことになると予想するのです。

こうしたperspective に立ってSpence氏は、世界経済の成長のカギはtechnology、とりわけdigital technologyで、今後、中国と米国がその中心となって、膨大な情報量を背景に経済と社会の交流の場となる各種プラットフォームを形成し、イノベーション推進、実用化、AI活用等で、新しい機会が創造されていく事で、経済社会は新しい局面に入っていくと見るのです。とりわけ同氏は中国の11月11日のSingles’ Day、独身者の日という名の世界最大のショッピングイベントに注目、中国最有力のon line payment platform 、Alipayでの取り扱いが一秒間でなんと256,000件と驚異的な結果であったこと、これによる金融サービスの拡大とそれが齎す経済活動の広がりに注目するのです。今後、先進国、新興国は共に、そうした機能を擁して、より包摂的成長を目指すことになると指摘するのです。 尚、トランプ米国が進めるretreatの動きの如何で、グローバル経済はserious challengeに向き合う事になると警鐘を鳴らすのです。

・日本経済のこれからを考える
さて、そうしたグローバルなperspectiveの下にあって、では日本経済はどうあるべきか、です。12月8日、安倍政府は再び「生産性革命」と「人づくり革命」を2本柱とする新たな経済政策を発表しました。そして「生産性革命と、人づくり革命を車の両輪として、少子高齢化と云う大きな壁に立ち向かう」と強調するのですが、何とも相変わらずの謳い文句です。12月9日付日経社説は「日本経済の最大の課題は潜在成長力の底上げと、先進国で最悪の財政の立て直しの両立だ。その姿が(新政策には)見えず、勿論「革命」の名に値しない新政策だ」と断じる処です。

あと1年4か月で「平成」の時代が終わります。であれば、この際はポスト平成を期すべく、これまで日本経済が対峙してきた問題を繰り返す事のよう、今後の経済をどう運営していくべきか、考えることが肝要であり、それは未来の日本や企業の望ましい姿をまずは描くことで始まるものと思料するのです。具体的には10年後の日本の姿は人口統計からある程度分かる処です。2025には団塊世代が全員後期高齢者に仲間入りです。これが意味することは医療・介護費用が膨らむのは確実です。一方健康寿命を延ばし、稼げる高齢者を増やせば社会保障費の膨張を抑えることもできると云うものです。財政についても同様です。日本は平成の間だけで国債発行残高は5倍以上に増えています。なのに、利払い費はピークの10兆円台が8兆円台にまで減っています。経済の低迷が皮肉にも財政破たんのタイマーを遅らせたと云うものです。然し、現状の超緩和が続けば金融機関の体力が衰え、金融危機の再来すら危惧される処です。等々、10年後の姿を描き出し、来たる新年に備えていくべきと思うのです。

それにしても、11月28日、経団連榊原会長の出身会社、東レで品質改ざん、品質不正が明らかになっています。その前日、同会長は,東芝をはじめとする企業の不祥事について強く非難していたばかりでした。まさに「東レよ、お前もか!」です。次々に起こる日本の大企業の不正事件、一体どうしたものなのか。かつて「財界の総理」と呼ばれた経団連会長、いまやその面影はいずこと、財界のretreat だけが痛く感じさせられる年の瀬です。
以上
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2017年11月27日

2017年12月号  トランプ大統領、この秋、アジアを行く  アジアからのretreatを鮮明としたトランプ米国 - 林川眞善

はじめに: トランプ米大統領と日本

この秋、トランプ米大統領は就任後初のアジア5か国を歴訪、その最初の地として11月5日、日本にやってきました。その彼の来日を控え、日米関係に係る資料を整理していた折、ある論文が筆者の目を惹きつけたのです。それは米外交誌Foreign Affairs, Sept/Oct. 2017 ( P.21-27)に載った米コロンビア大、Takako Hikotani氏の論文 ‘Trump’s Gift to Japan’ でした。因みに副題はTime for Tokyo to invest in the Liberal Orderです。(注:Takako Hikotani is Gerald L. Curtis Associate Professor of Modern Japanese Politics and Foreign Policy at Columbia University)

「トランプ米大統領の日本への贈り物」とは、聊か皮肉っぽい表題と映る処ですが、Hikotani氏は、要はグローバル化、多国間協調と云う世界の潮流に背を向け、America First, 自国主義を貫かんとするトランプ大統領の登場は、これまでの国際経済の枠組みを否定する如くに、日本に対しては日米通商面ではその公正を、また、日米安保関係では日本の役割の見直し、強化など、圧力をかけてくることが予想され、又それへの対応を余儀なくされる処としながらも、こうしたトランプ政権の対日姿勢こそは、これまでの対米従属と批判されてきた日本の外交、安全保障政策を、自主的、主体的なものとしていく絶好のチャンスと受け止めるべきで、更には、アジア等、世界への関与後退、つまりretreatこそは経済大国日本のアジアにおける出番となるとし、そうしたトランプ氏の米大統領としての登場は日本にとって歓迎すべき機会だ、まさに‘贈り物’だというのです。そして、そのコンテクストを以って日米関係の今日的実状を分析し、日本の取るべき対外政策の今後について語る、極めて実践的な論文です。

そこで、本稿は今次のトランプ大統領のアジア歴訪のレビューと併せて日本での日米首脳会談が映す日米関係の現実と今後について考察する事を予定するものですが、その考察への備えとして、改めて上掲論文をレビューする事から始めることとしたいと思います。そして先週、Thanksgivingで沸くNYに出かけましたがその際の、安倍首相が叫ぶ‘アベノミクスの再起動’に、覚える所感を合わせ記したい思います。( 2017/11/27)
             
     目  次

第1章 Trump’s Gift to Japan --------- P.2

(1)二つの ‘トランプ取り込み’ 作戦
(2)いま日本に求められる外交戦略

第2章 トランプ米大統領、この秋、アジアを行く 
            --------- P.5
1.トランプ大統領の来日と、日本の今後
(1)日米首脳会談が映す日米関係のリアル
(2)気がかりな事

2.トランプ大統領のアジア5か国歴訪と彼の可能性
(1)トランプ大統領のアジア歴訪と首脳会談総括
(2)トランプ大統領の可能性


おわりに 滞在先のNYで思うこと
--------- P.9
(1)米景気の勢いに触発されて
(2)「改革したふり」せず、真に改革を


        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第1章 Trump’s Gift to Japan
―Time for Tokyo to invest in the Liberal Order

(1)二つの ‘トランプ取り込み’ 作戦
安倍首相とトランプ大統領との相性はよさそうだ。これがまず作戦のベースにあったと云うのです。つまり両者は共に、自国を再生し偉大な国にすると云い、どちらも強いリーダーシップに共感し、共にゴルフを楽しむと云った点で、相性がよさそうだ、フレンドリーだ、との感触の下、勿論トランプ氏が見せていた対日批判姿勢を気遣っての事でしたが、同氏を日本側に取り込むための「二つの作戦」が用意されてきたと指摘するのです。外交とは人間関係にあり、と云う事でしょうか。

その一つが「to `disarm ‘ Trump」と云うのです。(トランプ融和作戦とでも云う事でしょうか)
具体的には昨年11月、当選直後のトランプ氏を安倍首相は、黄金のゴルフ・ドライバーをお土産にトランプタワーに表敬訪問していますが、それは選挙中、トランプ氏が見せた対日批判姿勢を気遣ってのアレンジであり、両者の会話の場に娘のイバンカさんにも同席を促したこともあって、その効果は大きく、更には、今年2月にはトランプ氏の別荘、Mar-a-Lago でゴルフ、会食する等で、蜜月とも言われる関係が出来てきたと云い、二人の距離は急速に縮まり、二人の会談はより効果的なものとなってきたと指摘するのです。

もう一つの作戦が「to `disengage’ Trump from key policy matters」だと云うのです。日本政府筋はトランプ氏のtransactional dealmaking approach、つまり外交交渉をビジネス交渉まがいとする姿勢を懸念し、とりわけ経済と安全保障問題が一緒に扱われ、例えば貿易上の問題を同盟関係維持問題とすり替えられる事への懸念から、交渉チャンネルを変え、つまりはホワイトハウスから切り離すこととしたことで、これが功を奏していると評価するのです。

因みに、安保問題につぃてはスムーズに進展、米国は在日駐留軍の維持と、日米安保条約第5条(米国の集団的自衛権行使)を以って日本の防衛と日本の領土保全を約するまでに至った事、 一方、経済問題では周知の通り、TPPからの離脱という事で日本に水を浴びせ、又、自動車輸出を巡り、reciprocity 互恵の云々が持ち込まれる等、1980年代の日米交渉の再現すら思われる処ですが、日本からは日米の副総理、副大統領による日米経済対話を提案することで、トランプ氏をこうした問題から外すことに成功していると云うのです。

要は、こうした二つの対トランプ作戦、disarming Trumpと disengaging him from core issues、 が攻を奏する処、因みに2月11日、Mar-a-Lagoでの食事を挟んでのトップ会談後、その際、北朝鮮はミサイル発射実験を実施していますが、トランプ氏は` The United States of America stands behind Japan, its great ally, one hundred percentage, ‘(米国は100%日本側にある)とメッセージを発していましたが、それこそは両者の結束力の強さの証とするのです。そして、係る状況に、日本国民はかなりの比率において成果ありとしていると理解をする一方で、28%と僅かながらも、トランプに近づきすぎ ` Abe for sucking up to Trump’ (トランプにおべっかばかりの安倍)とする批判にも言及し、日本への信頼を怪うくする処と指摘するのですが、これこそは今、安倍政権が醸し出している問題と思料する処です。

(2)いま日本に求められる外交戦略
処で、こうした日本の対トランプ作戦にもその限界が鮮明となってきたと指摘するのです。
つまり、彼の行動はdisarming はともかくdisengagementと云う点では想定されいた枠組みを超え、北朝鮮問題に対しては極めて挑戦的な行動をとり、7月以来、G20などで米国製品の市場アクセスについて漏らしていた不満を荒げだしてきたという事です。これらはより基本的には、米国の外交政策上の構造的変化、つまり国際機関からの撤退、米中関係の不確実さ、高まる朝鮮半島での脅威を映すものとし、かかる変化は日本に、これまでの対トランプ政策を超えた戦略思考を求める処となってきたというのです。それは日本が如何に自主防衛の能力を高めるか、そして如何にその政策ポートホリオを拡充し、以ってinternational institutions国際機関等、諸制度の活性化を助けていくかが、求められる処と指摘するのです。

尚、北朝鮮への対応として、彼らの米本土に届くICBMの開発の成功はまさに日米同盟の在り方を変えるgame changer となるとして、巡行ミサイルを含むcounterattack 能力の確保を指摘するのですが、これはアジア地域における他国の戦略にも大いに影響を及ぼす処と云うもので、慎重を要する処と思料するのです。要は日本はこれまでとは比べようのない広域の選択を迫られる処となってきたと云い、それは経済関係で云えば米国のTPPからの離脱を問題とする事よりもアジアにおける経済秩序の在り方について主導していく立場にあると指摘するのです。

そしてアジア地域における最も重要な問題は、アジアにおける膨張する中国、とりわけ「一帯一路」構想とどう向き合っていくべきなのか、競争し、共存し、協力していけるかにあるというのです。トランプ政権のアジアにおけるリーダーシップの弱体化が進む中その分、日本は対アジア政策の再考が必要になっていると指摘するのです。因みに、この6月安倍首相は「一帯一路」構想にたいして、これまでとは姿勢を変え、協働していくと公言していますし、又、太平洋からインド洋にまたがる自由貿易圏の構築を目指したい `to see a world in which high-quality rules cover an area from the Pacific to the Indian Ocean、with free trade a force that can bring both peace and prosperity. ’ と語っています。又日本のEUとの経済連携協定もアジアを超えた通商拡大を意味しているというのですが、これらが全て、日本が米国を離れて、中国に向かうという事ではないと質した上で、トランプ氏が日本に向ける問題の基本は、liberal democratic order に関わる点であり、それこそは日本の発展、成功の規範となるもので、それこそはアジアのみならず世界における日本の役割と、主張するのです。まさに副題、Time for Tokyo to invest in the Liberal Order の示唆する処と云うものです。

アジアにあっては、TPP完成の為に日本は鋭意関係諸国と協働し,主導していくべきであり(次章P.8)、米国の将来の復帰参加を可能とすることをも考え取り組むべきで、同じ文脈で、日本はワシントン政府のパリ協定への再加盟を支援していくべきとも云うのです。又、日本はアジアのリーダーとしてアジア諸国と協調していくべき立場にあるわけで、そうした対応こそが北朝鮮危機を悲劇的結果とならないようにしていく事になる、Keeping the door open for the United States- is a role Japan should seek, not just in Asia but also worldwide. と云うのでした。


第2章 トランプ米大統領、この秋、アジアを行く

1.トランプ大統領の来日 ― 日米首脳会談と日本の今後

さて、トランプ米大統領は就任後初となるアジア歴訪の最初の地として11月5日、日本に到着、やはりShinzo-Donaldの蜜月さは、ひときわ世界の注目を引く処でした。そしてトランプ氏滞在中、行われた日米首脳会談を通して見える日米関係とは本稿冒頭紹介したHikotani 論文を地で行くがごときと映るものでした。

まず、トランプ大統領は11月5日 日本に到着するや直ちに、安倍首相招待の歓迎ゴルフ接待を受け、続く首相夫妻主催の夕食会に出席。翌6日、午前中は日本の経済人との会合に、そして皇居での天皇皇后両陛下と初会見、午後はワーキングランチを経て、大統領就任以来5回目となる日米首脳会談を果たし、これらevents での会話、会談を通じ、両国の喫緊のテーマ、北朝鮮問題について、米国と当該対応方針について認識の共有を図り、まさにShinzo-Donald の‘蜜月’を、改めて世界にアッピールするものでした。尚、余談ながら彼の日本入国は米軍横田基地経由でした。かつて72年前の1945年8月30日、マッカサー元帥が国連軍最高司令官としてコーン・パイプを咥え米軍の立川基地に降り立つ姿を想起させられたのですが、今回彼が横田基地に降り立ったことに特別な意味を持たせようとしたものかと、下衆の勘繰りと云うものでした。

(1)日米首脳会談(注)が映す日米関係のリアル
今回の日米トップ会談は、その後に続くアジア訪問各国での首脳会談への枠組み作りとも映る処、日米が主導して政治的、経済的メッセージを発する処に狙いがあったと云うものでした。
当首脳会談要旨は以下(注)の通りで、北朝鮮に対して日米の結束を打ち出し得た事、勿論、それで米朝の軍事衝突リスクが解消とはなりませんが、相応の成果があったとされる処でしょう。

 (注)11月6日行われた日米首脳会談要旨(日本政府発表)。(日経2017/11/7)
[北朝鮮問題] 日米両国が北朝鮮問題に関して100 % 共にある事と、日本の防衛に対する米国のゆるぎないコミットメントを確認。対話ではなく、北朝鮮に最大限の圧力をかける局面であるとの認識で一致
[安全保障] 法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序が国際社会の安定と繁栄の基礎であること
を確認。インド太平洋地域の重要性で一致。自由で開かれたインド太平洋戦略を共に推進する。日
米同盟の抑止力の強化に引き続き取り組む。
[貿易] 自動車、ライフサイエンス等の分野での協力を確認。日米両国間の貿易・投資見ついては、
麻生太郎副総理とペンス副大統領による日米経済対話で引き続き議論をしていく事で一致。2国間
だけではなく、アジア太平洋地域に広がる貿易、投資の高い基準作りを主導することで一致。自由
で公正な貿易の環境を作ることを確認。

そして、もう一つ成果としてあげられるのが上記‘要旨’にも記されている米国と「自由で開かれたインド太平洋戦略」の理念(注)を共有できた事だったといえそうです。そのコンセプトは日米豪印4国を軸に、アジアからインド洋を経てアフリカに至る地域の安定と成長を目指さんとするもので、大風呂敷な感は否めませんが、それでも日米共通の外交戦略とすることでトランプ氏と合意なった事は相応の成果と言えるのではと思料するのです。周知の通り、同氏はアメリカ第一主義を以って多国間協調なる戦略を忌避する立場ですが、この多国間の枠組みに理解を示した初の事例と云う点で、興味深いものでした。さて、インドはやや浮いた存在にありますが、これがつなぎとめられるかが、今後の課題と云うものと思料される処ですが、やはりトランプ氏がどこまで真剣に考え対応しようとしているかは、気になる処です。

      (注)「インド太平洋戦略」3つの狙い(日経 2017/11/7 )
     1.基本的価値の普及→ 日米豪印中心に連携
       2.経済的繁栄の追求→ アジア・アフリカの成長支援 (太平洋)
       3.平和と安定確保 → 人道・災害支援 (インド洋)

とは言え、トランプ氏のこの変化は、中国の「一帯一路」構想が、時に対米戦略の一環とも言われる処、これへの対抗ビジョンを求めていただけに、オバマ政権との差別化という点でもトランプ大統領として乗りやすかったのではと思料する処です。当該戦略とはどのような展開となるものか、具体的にはまだ分かってはいませが、今次大枠合意をみたTPP11とも併せ、日本はアジアにおける主導的な立ち位置を手にしえたのではと思料される処です。もとより、当該課題は如何にそのcomprehensive、 かつtimely なaction planを示し得るかでしょうが、暫し推移を見て行きたいと思う処です。

(2)気がかりな事
勿論、色々残された問題多々です。双方の問題への関心の在り方、そのベクトル合い難く、因みに首脳会談の冒頭、安倍首相が北朝鮮問題について言及したのに対し,トランプ大統領は対日貿易赤字にまず触れた事は、好対照と云え、両者の関心のすれ違いを鮮明とする処でした。各論については`日米経済対話’の枠組みに持ち込まれましたが、トランプ大統領としては来年の中間選挙を前に日米間の貿易交渉での成果を期待する処でしょうから、日米関係がShinzo-Donaldの蜜月とは言え今後共、貿易面では強く圧力をかけてくる事が予想される処です。

因みに、首脳会談後の共同記者会見では、貿易不均衡問題に絡めた米国製防衛装備品調達の要請が飛び出し、これに応える形で後刻、前述のように安倍首相は800億円の追加調達を明らかにしていますが、さてこの辺りになると、トランプ追随型の安倍政治と映る処、それは米軍の枠組みに取り込まれる姿とも映るだけに、極めて気がかりと云うものです。
加えて、日米関係に限る話ではありませんが、トランプ政権と付き合っていく上で、いま最も気がかりな事として云えることは「ロシアゲート」問題です。日米首脳会談を控えた5日、トランプ氏とロシアの不適切な関係を巡る「ロシアゲート」に新たな疑惑が持ちあがってきたのです。対象となったのはトランプ政権閣僚、ロス商務長官です。10月末のマナフォード元選挙対策本部長(起訴)、フリン前大統領補佐官に続く疑惑です。トランプ大統領としては米国内でのこの逆風から目をそらすため、外交面での目に見える成果に傾く公算大と云え、後述する歴訪総括報告はそういった事情を反映したものとも云えそうです。

2. トランプ大統領のアジア5か国歴訪と、彼の可能性

(1)トランプ大統領アジア歴訪と首脳会談総括 
トランプ氏は大統領就任後、初となったアジア5か国の歴訪を終え、11月14日、ワシントンに戻り、翌15日、今回の歴訪総括声明を発表したのです。今回の歴訪は、前述の日本(11/5-6)を皮切りに韓国(11/7)、中国(11/8-/9)そして、ベトナムでのAPEC首脳会議(11/10)、フィリピンでのASEAN首脳会議(11/13)に出席、夫々、安全保障問題として、北朝鮮の核・ミサイル開発停止に向けた対北朝鮮包囲網作りへの協力要請、そして経済面では公正かつreciprocal trade つまり互恵的貿易の確保を訴える旅でした。

さて15日の総括声明は、とにかく自画自賛の内容とも云うべく、とりわけ日韓中での首脳会談を通じて、安全保障との絡みで3か国への売り込みに成功した話が中心で、何か企業人の出張報告といった様相にあり、TVに映るその場の雰囲気はいささか冷めた観のあるものでした。
つまり、先々の首脳会談、多国間協議の場では、彼は米国のアジアへの関与の維持を口にすることはあっても、期待された`安保‘と`経済‘を両輪にアジアの平和と発展を主導する具体的戦略を語ることもなく、最後は必ず持論のAmerica First で終わるもので、大統領としての彼の関心が専ら二国間対米貿易の赤字削減に向けられ、何よりもこれまでの世界の指導者としての立場を投げ出し、やり過ごす姿に、もはやアジアからの共感を呼ぶことはなく、その分、後述、中国の存在感が際立つばかりと云うものでしたが、それを自ら実証したと映るものでした。

そうした状況を決定的なものと印象付けたのが10日、APEC首脳会議を前に、習近平主席のスピーチに先立ち行われたトランプ大統領のスピーチでした。トランプ大統領は「インド太平洋構想」には触れたものの、あくまで米国を縛るような多国間協定には反対と、米国第一主義を繰り返すだけで、そこで‘東’には自国主義で内向きに閉じこもるトランプ米国があり、‘西’には世界を主導せんと台頭する習近平中国がありと、両者が太平洋を挟んでせめぎ合う構図の深まりを‘実感’する、まさに世界のガバナンス構図の変化の始まりを強く印象付けるものだったのです。

(注)両首脳の発言ポイント(日経11/11)
・トランプ大統領:「我々はインド太平洋地域のパートナーであり、同盟国だ」だとしなが
らも、「米国第一」は譲らず、多国間交渉を通じて地域全体に自由貿易のルールと理念を
広げる先導者の役割には背を向けるもの。    
・習近平主席:「アジア太平洋の平和と安定、繁栄はアジアの人々に属する」「アジアで自由
貿易を作るのは私にとって長年の夢だった」と、自国優先に傾く米国のスキを突き、地域
の盟主の座を窺う様相

・‘対北朝鮮政策’と‘公正貿易’
さて、最大の課題とされた「北朝鮮政策」を巡っては、日米、米韓両トップ会談では「最大限の圧力」、「最大限の制裁と圧力」をかけることで足並みを揃え、カギを握る中国の習近平主席との会談では、北朝鮮への圧力継続を確認したと成果を誇示していましたが、北朝鮮を核放棄に追い込む包囲網には濃淡は残り、道は半ばと云った様相に終わっています。(尚、17日、中国は北朝鮮に特使を派遣し、米国との対話の可能性について協議を始めたと報じていましたが、その内容は不透明のまま。-日経、11/18)

もう一つのテーマ「貿易赤字の是正」問題では、米国との防衛防衛の拡充と云うコンテクストを以って、トランプ大統領は日本,韓国に対して米国製武器の調達を要請、既に安倍首相は800億円の迎撃ミサイル追加購入を約し、韓国では在韓米軍の平等な費用負担を絡め、FTAの再考を促し、更に中国では28兆円の商談(大半は「協議入り」や「覚書」だそうですが)と云う手土産を手にしたのですが、さながらトランプ大統領は武器を含む行商人の様相を見せる処でした。もとより米国内の軍需産業、ボーイング、ロッキード・マーチン等、は大いに恩恵を受け、業績好調が伝えられていますが、トランプ政権の主要閣僚が軍出身者(注)で固められている点からも、トランプ政権の軍産複合体の拡大を実感させると云うものですが、それは同時に、アイゼンハワー元米大統領が1956年、軍産複合体の危険性を指摘し、警鐘を鳴らしていたことを想起させる処です。

      (注)Generals & ex-generals in the Trump administration :
H.R. McMaster : National security adviser (3- stars)
James Mattis : Secretary of defence (4- stars )
John Kelly : Chief staff (4-stars)
  Joseph Dunford : Chairman of the joint chiefs of staff (4-stars)
  Michael Flynn : Former national security adviser (resigned) (3-stars)
                   ( The Economist, Nov.11-17, 2017) 

・TPP11大枠合意と日本経済
序でながら、当初、日米主導で進められてきた多国間通商協定TPP12は、今年1月トランプ大統領が就任時、米国のTPPからの離脱を決めた事で一時、その成立が危ぶまれていましたが、米国抜きのTPP11としてAPEC会議と並行して進められていましたが、11月 11日、漸く大枠合意を果たしたのです。日本が11か国の議論を主導した結果というもので、その努力は大いに評価される処、自国第一主義の高まる中での合意成立の意義は極めて大きいと云うものです。

TPPの目的は、アジアの成長市場の活力を取り込むためにルールを整備することにあります。タイ、インドネシアなどは市場も大きく、多くの日本企業はASEAN全体にわたってサプライチェーンを展開する処ですし、これら国々が参加すれば日本にとって経済的実利は大きいと云うものです。それよりも何よりも、二国間取引を前提に米国から圧力がかかってもTTP協定を以って当該圧力には対抗しうると云うものでしょう。但し、このためにも日本は一層の構造改革と同時に貿易の自由化を進めることが不可避となる処です。そして、日本経済の再生が実現していくとすれば、世界経済の成長に貢献することになると云うものです。関係国の早期批准を期待する処です。

(2)トランプ大統領の可能性
さて、米国民が異端の指導者を担いだ選挙戦から11月8日で1年、そのトランプ政権の混迷は深まる一方の状況にあります。周知の通り、ポピュリズムの台頭を許した庶民の内向き志向は根深く、かつての米国に戻る復元力は今の処乏しいと見ざるをえません。 因みに彼がアジアへ旅立つ前の10月28日、米紙、ワシントン・ポスト紙は、メリーランド大学との共同世論調査結果、トランプ政権下で「政治の停滞が危険水準に達した」と考える国民が71%に達したと報じたのです。そして、この水準について、米軍撤退等を巡り国論が2分したベトナム戦争当時と同じ水準か、それよりもひどいと感じていると回答した人が70%に達したと、伝えるものでした。

上掲エコノミスト誌(Nov. 11-17)、巻頭言は「Endangered ― American influence has dwindled under Donald Trump. It will not be simple to restore.」と、劣化したトランプ米国の世界に対する影響力の再生はもはや無理だろうと、断じると共に、By putting `America First’, he makes it weaker, and the world worse off と、極めてnegativeなコメントを伝えるものでした。上述トランプ大統領の言動からは、もはや、と云ったところかと思うばかりです。因みに米論壇,Project SyndicateでMs. Elizabeth Drewは論考(11/3)`The Fall of the President’s Men’ で、`Trump is the Target’ と指摘するのです。(Ms. Elizabeth Dew is regular contributor to New York Review Books and the Author of Washington Journal; Reporting Watergate and Richard Nixon’s Downfall)


おわりに  滞在先のNY で思うこと

(1) 米景気の勢いに触発されて
筆者は先週、Thanksgiving で賑わうNYに滞在し米経済の消費景気を実感してきました。23日にはNY最大と云われるパレードがあり翌24日はBlack Friday で街中、大セール一色で身動きの出来ぬほどの人出、今朝一番のTVニュースでは本当か嘘か、1億1千万人の人出があった由、これは日本の全人口がショッピングに集まったという事になるのですが・・・。とにかく筆者もこの活況に与かるべくパレードの大本拠たる36丁目のデパート、メーシイーズに出かけましたが、久しぶりの高揚感と熱気に疲れ、ホテルに戻りましたが、その帰りyellow cab のdriver に景気が良くていいね、と声をかけたら、戻ってきた言葉は、給料が上がらなくてね・・・。要は、自分は関係ないよと、云いたかったのでしょうか。どこかで聞くストーリでした。

さて日本経済は8月発表のGDP(四半期)ベースで6期連続のプラス、内閣府が11月8日発表した9月の景気動向指数では景気回復は戦後2位、58か月となる見込みと報じています。でもNYのタクシードライバーならぬ多くの日本国民はその経済の回復の恩恵に浴している実感がないというのです。GDPの6割を占める消費は依然低迷状況にあります。雇用者賃金が上がらず好景気でも懐は温まらないという事です。
思うに、。アベノミクスがスタートして4年。この間、日銀は異次元の通貨量を流し、政府は想定外と云われる規模の財政出動をもって経済を支えんとしてきたのですが、お陰で株式市場は好調なのですが、これが実需につながる事はなかったという事なのです。そこで安倍首相は財界幹部に一律賃金の3%アップを要請、「賃上げは企業への社会的要請だ」と云う言葉を付してです。そしてこの要請を財界は一言の異論を挟むことなく受容したのです(10月26日、経済財政諮問会議)何か変です。もはやアベノミクスは機能不全に陥ったと云うものです。

不全とする理由は経済構造が90年代以降急速に変わってきたのに、日銀も政府も昔の短期不況に対応した政策の発想から抜け出せていないことの不条理とも云うものです。
これまで日銀は通貨を発行さえすれば人々はモノを買いに走り、景気が回復するとしていました。政府も民間にお金を配る事で、つまり公共事業等財政出動ですが、そう考えてきました。まさに需要サイドの話です。一方、政府は効率化だ、競争力強化だ、無駄の排除等いわゆる成長戦略などを進めてきています。アベノミクスで云えば今一億総活躍だ、働き方改革だ、等々改革を掲げ、誘導してきています。これは日本経済の生産力の強化、つまり供給サイドでの対応です。然しお金を配っても需要は増えない。消費者は一応の必需品を完備して、そういった点で需要は増えない状況です。需要が増えなければ企業が、労働者が頑張っても効果は上がりません。それどころか、効率化によって人がいらなくなり、生産能力が更に拡大すればかえって売れ残りや失業が広がり、不況をひどくしかねないのです。

今、消費者は必要なものは十分に揃えている、飽和状況にある現状ですから、本当は何が欲しいのか見つめ直し、今企業にとどまっているお金をそのために使うようにしていく事が必要なのです。これまで生産性の向上が競争力強化に繋がり、以って企業が稼ぎその結果が賃金に反映されていくと考えられていましたがもはやそうした考えは通用しなくなっているのです。そうした認識がいま、世界的に広がってきている処です。

・技術革新が賃金を抑えていく
この5月、MIT教授のD.オーター氏が発表した論文「労働分配率の低下とスーパースター企業の興隆」が、今世界的に話題を呼んでいます。同教授は2014年8月、米ワイオミング州ジャクソンホールの経済シンポジューム向けに提出した論文で「コンピューター化により、世界中で高学歴の人や未熟練労働者への需要は高まったが、中間スキル層への需要が低下した」ことを明らかにし、コンピュータ時代の長期的な戦略は、人的資本に積極投資するこ都で「ハイテクに奪われるのではなく、ハイテクに保管されるようなスキルを持った労働者」を育てることだと、主張していたのですが、更に、当該論文は、その議論の延長として、アップルや米アマゾン・ドットコム、フェイスブックといった革新企業を取り上げ、彼らの経営行動が賃金に逆風になっていると主張するのです。(注)因みにフェイスブックの場合、利用者は世界で20億人、株式時価総額は50兆円。然し従業員数は2万人。2017年3月時点の連結で36万人いるトヨタ自動車の18分の1.企業が稼いだ利益は資本家に集中し労働者に廻りづらくなっていると云うものです。 [(注)日経( 2017/9/14):「経済教室」鶴光太郎慶大教授「労働分配率低下の真犯人」]

これまで新興国への生産移転と空洞化を経験してきた先進国は経済の停滞を、イノベーションを図ることで克服してきました。そうした革新が今や、ほんの一部の企業が主導するようになってきたことで、イノベーションが ‘競争’ではなく‘寡占’を生む処となり、従って成長の果実も寡占されていくという新事態を生んできているのです。こうした産業の在り姿が急速に変化を進める今、既成通念的な対応では、事態を律しえない状況となってきたということです。

つまり、生産システムのコンピューター化、デジタル化が進んできたことで「モノづくり」の形が急激に変りだしてきていますが、そうした技術革新の進行がシステムの変化を齎し、結果として賃金が抑えられてきているという事で、今や国際的な広がりでみられる現象です。因みに従業員の給料をGDPで割った「労働分配率」は先進各国では低下傾向にあり、日本の場合、1997年からずっと下落傾向にあると法政大学教授の水野和夫氏は雑誌NIPPON、2017/11で語る処です。(注:国民総所得における賃金・俸給の比率は1980年度には46.5%あったものが2015年度には40.5%まで低下)勿論、その分、資本家への分配が増えていると云う事なのです。

こうした変化の中、消費者の行動も構造的に変わりだしてきているのです。今次経験したNYでの消費活動の様子ですが、Thanksgiving Parade の翌24日のThe Wall Street Journalの一面には「Shoppers Flock to Phones 」、つまり混雑のデパートに行くよりはスマホで、と云った具合に消費行動も大きく変化しているのです。

(2)「改革したふり」せず、真に改革を
安倍首相は、現下の完全雇用状態で、近時株価も上昇し、これがアベノミクスの成功の賜物として、「アベノミクス再起動」を云々するのでしょうが、アベノミクスの行動様式を続ける限り、
金融、財政政策の成功の陰で、成長戦略は進まぬままとなり、もはや日本経済の体質の行き詰まりとなる事、火を見るより明らかです。これまで日本の強みとされていた「モノづくり」は近時の大企業の体たらくが象徴する処これありで、成長の可能性に繋がる設備投資もデジタル化でその伸びは鈍化する状況にあって世界的なカネ余り現象が更に深まる恐れがある処です。要は潤沢な手元資金をどのように次の成長につなげていくかが、問われているのです。

これまでも、例えば「一億総活躍」と云ったような陳腐な表現を持ち出し、改革だと叫んでいる安倍首相にいま求められる事は、いつまでも「改革したふり」をすることはやめ、自身も記者会見で喋っているように、‘少子高齢化やグローバル化に対処できる日本経済 ’ へと体質改善を加速させていく事なのです。そしてその為の論理と将来像を描きながら、一義的アクションとして、まずは国をよりオープンとすることも含め規制改革を果敢に進め、新規事業を進めやすい環境を整備していく事であり、それは同時に世界の成長を取り込むアクセスでもあるのです。安倍首相は当初これこそは一丁目一番地と云っていた筈です。
思うに一国の首相たる彼が、目標数字を示し要求する姿は、まさに「国家資本主義」の姿と映る処、これこそが日本経済の活力を乏しくしているのではと痛く思う処です。

それにしても前述、諮問委員会で、経団連会長をヘッドとする企業経営者が首相の要請を、特段の異見を挟むこともなく素直に受け入れる姿に、これって何なのと、大いなる疑問を禁じ得ない処でしたが、偶々見ていたTVニュースで、自民党の小泉進次郎衆院議員も、17日、都内での講演で、同様の疑問を呈していたのです。「首相から、お金が足りない、と言われたらお金を出す。政治の顔色をうかがう現状に甘んじていてはinnovationは生まれない」と檄を飛ばし、そして、一番ものを言えないのは経済界だと、経済界を一喝していたのですが、この若い彼の批判に経団連会長はどう応えるものか、帰路機中では、その思いは深々とする処でした。
以上
posted by 林川眞善 at 21:45| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2017年10月27日

2017年11月号  この秋、日本の政変、欧州の政変 - 林川眞善

はじめに:日欧政治の潮流変化

・日本政治のトレンド
10月22日、日本の衆院総選挙の結果は自民党の圧勝で、安倍晋三政権の続投が決まりました。自民党勝利の構図は、当初反安倍勢力として最有力視されていた新党「希望の党」が同党を率いる小池百合子氏の言動を映す形で失墜、因みにその結果は野党陣営では第2位に、それと同時に進んだ野党勢力の分散で、反安倍での結集が出来ず、結局は安倍政権再登場を許す処となったと云うものです。今次、自民党勝利は、2012年(衆院選)、13年(参院選)、14年(衆院選)、16年(参院選)に続く、実に5連勝となるものです。

彼の再登場は、これまでの延長線にあるという意味では自民党政治の安定化と目される処でしょうが、それは従来の自民党勝利とは基本的に異なる重大な意味を持つ処です。それは、今次選挙で自民党は選挙公約に初めて‘憲法改正’を掲げ、勝利したという事です。以って国民の容認を得たとして今後、安倍政治は改憲路線の具体化を進めていくことでしょうが、それは当然として安倍政治の更なる保守化、右傾化を深める処と危惧される処です。つまり日本政治のトレンドが大きく変わるという事です。従来のそれとは異なる重大な意味を持つとは、そうした事なのです。勿論、彼は‘アベノミクスの再起動‘も挙げていますが、その‘再’という言葉も気になる処です。

・独・仏のパワーバランス
一方、目を欧州に転じると欧州政治の潮流にも、いま大きな変化が起こりだしています。
9月24日、ドイツ(連邦議会:下院)、フランス(上院選)で行われた議会選挙の結果は、これまで欧州を牽引してきた両国のパワーバランス、政治力学に変化を齎し、欧州(EU)統治の生業に一大変化を齎す処となってきているというものです。

まずドイツですが、メルケル首相、自身は4選を果たしたものの、これまでの連立政党が敗退、、メルケル与党は大きく票を減らし、代わって極右政党が初議席を獲得、第3政党として躍り出るという構造変化に直面、彼女としては政権維持のために新たな連携を模索することを余儀なくされ、その威光に影を落とす状況にある処です。これまでポピュリズムにはさほど縁がないとされてきたドイツですが、近時の難民の急増への不満、メルケル財政の引き締めへの不満の高まりを受けての結果とされる処、いまや「The end of German exceptionalism」(Financial Times, Sept.25)、と囁かれる状況です。

一方、同日行われたフランス上院議会選挙では、マクロン大統領主導の「共和国前進」も僅少ながら議席数を減らしたことで彼への求心力が瞬時云々されましたが、上院より権限の大きい下院の過半数を握っている点で彼が進めんとする公務員削減や労働市場改革等すぐに滞る状況にはありません。それよりもメルケル氏の政権基盤が緩んできたことで、いわゆる「メルクロン」主導のEU改革はどうなるのか、疑問符が付く処ですが、26日にはマクロン氏はリベラルな姿勢を基調に、再びEU強化について熱弁を振るい、もって、29日のEU首脳会議に臨み、まさにEU統合深化についての論陣を張り、メルケル氏に代わって、マクロン氏の存在感が急速に高まる処となっています。そして、そのあり姿は、Europe’s new order (The Economist.Sept.30)と語られる処です。

つまり、今、日本では政治の保守化、右傾化が懸念される一方、欧州ではマクロン・リベラリズムを基調にEU統合の深化が語られる等、対照的な様相を呈しているのです。

そこで本稿は2部構成とし、第1部では今次、選挙結果を巡る事情、特に選挙の流れを決定づけた新党「希望の党」の顛末をレビューし、一方、再登場の「安倍政権」の‘改憲路線’を質すと共に、今後の経済政策について考察し、第2部では、流動化する欧州事情について検証していきたいと思います。 (2017/10/26)           


― 目 次 -

第1 部 2017年10月、衆院総選挙

第1章 新党「希望の党」とは何だったのか

(1) 不発に終わった「希望の党」
(2)小池ポピュリズムと政党政治の実相

第2章 安倍晋三政権再び
 
(1)安倍政権の「改憲路線」を質す
・憲法は国家百年の計
(2)アベノミクスと安倍経済政策の今後
・アベノミクスのリアル
(3)潜在成長率引き上げに向けた構造改革を
・英誌「エコノミスト」の警鐘
・いま必要なことは労働市場改革
          
第2部 欧州は今、新秩序へ

第1章 シフトする独仏の政治力学 
(1)ドイツよ、お前もか
(2)そしてマクロン氏台頭

第2章 マクロン大統領の挑戦 ― Future of Europe


おわりに:「米中逆転」が現実味を帯びる中で

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


第1部 2017年10月、衆院総選挙


第1章 新党「希望の党」とは何だったのか

(1) 不発に終わった「希望の党」
小池百合子氏率いる「希望の党」の絶対的優位が伝わる中、その結果は前述の通りで、野党陣営
の中でも新党「立憲民主党」の後塵を拝するものでした。小池代表の地盤、都内25選挙区(擁
立候補22人)での獲得議席は僅か1議席。では希望の党の敗因は何か。安倍自民党政治との対
峙と云いながら、その政治姿勢を政策の裏付けを以って明確に訴えることが出来なかった、一言
で言って‘政治’に対する未熟さにあったと云うものです。

まず政治姿勢です。小池代表は「希望の党」は‘改革保守’を標榜し、政権公約では原発ストップ、
消費増税見送りと、一見改革姿勢を打ち出すも、それ以外では改憲容認、安保法制容認とまさに
自民党と同じ路線を語るものでした。そこで自民保守との違いを問われると彼女はゴルフ・プレ
ーを引き合いに出し、既成政党は右のラフに打ち込んだり、左のラフに打ち込んだりするが、希
望の党は、フェアーウエーに打ち込み、真っすぐに政策を進めると語るだけで具体的説明もなく、
極めて分かりにくく、又、政権政党選択の選挙と云いながら党代表の彼女の出馬はなく、ではそ
れに代わる総理候補は、と問えばそれも拒否し全ては選挙結果を見てから考えると応えるだけ
で、有権者には極めて曖昧と映り、同党に対する支持は後退、加えて前述彼女の言動、「排除の
論理」を翳した事が、小池代表のおごりだとして「希望の党」の失墜を招いたと云うものでした。
「言葉は政治の武器」、その武器の使い方が問われたと云うものです。

また経済政策にしても然りと云うものでした。まず、アベノミクスの向こうを張って「ユリノミ
クス」を掲げたのですが、ユリノミクスとは何かと問えば、「消費者に寄り添いマーケテイング
などをベースに進める」と応えるだけで、「AI(人口知能)からBI(ベーシックインカム)へ」
ともいうのでしたが、これには巨額の財源が必要なのですが何ら具体性もないままです。更に増
収策について、消費増税は見合わせ、代えて企業の内部留保への課税を挙げるのですが、内部留
保金は企業内に取り崩せる塊として存在するわけでなく、投資に回しても、現金預金で保有して
も内部留保の額は同じです。等々、経済政策としても、財源確保策としても問題のある政策と云
うものです。

経済の活性化を云うのであれば、業績好調な企業がもっと賃上げや、投資に向かうよう促すこと
にある筈の処、内部留保課税はそれを阻害することになる一方、法人税は景気に左右されるだけ
に、消費税ほどには恒久財源にはなりえない等々、問題意識の浅さ、論理的詰めの浅さ、等々、
政党としての未熟さを感じさせるばかりと云うものでした。

尚、小池氏の「排除の論理」がトリガーとなり、政治集団の再編が進み、その結果は新党「立憲
民主党」を生み、これがリベラルとしての政策統一が進んだ事で有権者には、政治が分かりやす
くなったと云うもので、これが怪我の功名とも言え、立憲民主党が野党第1党に躍進した背景と
云うものです。因みに出口調査によれば、無党派層の3割が立憲民主党に投票した由ですが、ま
さに政策対応で筋を通した事への評価という処でしょうか。

(2)小池ポピュリズムと政党政治の実相

処で、今次選挙でダメージを受けた「希望の党」の姿とは、それは小池劇場とも言われるポピュ
リズムをベースに置く政治が故のなせる業と映る処ですが、雑誌、中央公論、10月号の特集「政
党が信じられない」での二人の学者(一橋大教授 中北浩爾氏、京大教授 待鳥聡史氏)の対談、
それは先の東京都議選で圧勝の小池都知事と大阪維新との違い、そしてそこから見える政治課題つまり、政党の在り方について語るものでしたが、今回の「希望の党」に映る小池流ポピュリズム政治を考えていく上で興味深いものでした。

まず、ポピュリズムの特徴を、「体系的な政策の欠如」と「短期間で出現することにある」とした上で、都民フアーストの場合はまさにそうした政党であったと断じ、維新は大阪の課題に取り組む際の基軸が比較的明確だったというのです。つまり大阪の場合、市内や府南部等本当に深刻な課題を抱えていて、維新の台本はある種の必然性があったが、一方の東京について言えば、築地市場の移転問題があったが、大阪の課題と比べると何が争点なのかよくわからない。ただ、大阪の選挙は市長選、市議選、府知事選、府議会と4つあるのに対し東京の場合は知事選と都議選の二つで、勢いがあれば東京の方が ‘短期間’で支配的になれると指摘するのです。
確かに都民フアーストの会が支える小池都知事の構図は、首都東京とは言え地方自治におけるポピュリズム政治であり、都議選での勝利パターン、つまり小池流ポピュリズム戦略を以って国政に臨んだことの限界を実証するものだったと云える処です。

(注)ポピュリズムについての定義は大まかに言ってつぎの二つとされている;
① 「固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル」と捉える定義。つまり、リーダーの政治手法として、大衆に直接訴える政治手法としてのポピュリズム
② ‘人民’の立場から「既成政治やエリートを批判する政治運動」と捉える定義。即ち、政治変革を目指す勢力が、既成の権力構造やエリート層を批判し、‘人民’に訴えてその主張の実現を目指す運動としてのポピュリズムされるもの。(水島次郎「ポピュリズムとは何か」、中公新書2016/12)

尚、興味深いのは、小選挙区制(1994/1導入)と無党派の動きに係る指摘でした。つまり、小選挙区制は、選挙前の第1党が有利なのではなく、選挙前に最も勢いのある党に有利に働く制度だと指摘するのです。因みに2009年衆院での民主党、2012年衆院選での自民党の圧勝がまさにそれだとするのです。更に、無党派の風は8年周期で起きているとの指摘です。1993年の細川政権、2001年の小泉政権、2009年の(旧)民主党政権だったと云うものです。では今回の選挙ではどうだったか。無党派の反乱のほどは不詳ですが、少なくとも彼らの3割が新党「立憲民主党」に向いた結果、「立憲民主党」が野党第1党になった事で、相応の政治的意義はあったものと思料するのです。

さて、ポピュリズムの高まる中、政党の存在意義が問われています。その点で、彼らは次にように指摘するのです。かつて政党政治における対立軸は経済の再分配にあって、従って政党は支持者の為にパイを取ってきて、それを分配できたが今はそれができない。有権者は新しい政党ができると飛びつき、期待ほどの効果を出せないとすぐに離れる。政党は使い捨ての存在となってしまっているというのです。ならば、どう存在意義を出すか。政党は解決策を与えられるわけではない点で、有権者の困りごとを聞き、課題を認識してくれる、そう言った場としての存在たれと云うのです。つまり、‘使い捨てカイロではなく湯たんぽのような政党になるべき’と、その為には支持者が政党の意思決定にかかわる事の出来るシステムが大事と云うのです。言えて妙の表現です。それは政党が一般有権者と政治のパイプになる事の重要性を示唆するのですが、さてそれはポピュリズムと共生する政党の新しい姿となるものか、考えさせられる処です。

第2章 安倍晋三政権再び
   
(1)安倍政権の「改憲路線」を質す
今回の自民党の勝利は、政権公約として掲げた憲法改正を国民が容認したという事で、再登場の安倍政権は‘改憲’中心の政治を進めることが想定される処、連立の公明党に加え、憲法改正に前向きな希望の党、維新の会を合わせた「改憲勢力」は国会発議に必要な3分の2(310議席)を大きく上回ったことで、‘発議’が現実味を帯びてきたと云うものです。

具体的には今回公約として掲げた改憲案4項目、「①自衛隊の明記、②教育の無償化・充実強化、③緊急事態対応、 ④ 参院の合区解消」を中心に、改憲審議が進められていくことになるものと思料される処です。ただその際は、現下の北朝鮮動向に照らし、いたずらに危機を煽っていると受け取られることのないよう時間をかけ、国民が納得できる慎重な審議を求めていきたいと思うのです。勿論、そのプロセスは彼の身上思想とも併せ見るとき危惧されるのは、政治の保守化、右傾化の進む事です。そこで、この際は公約にあった上記4項目につき筆者の思う処を、記しておきたいと思います。

・憲法は国家百年の計
そもそも憲法とは国家の根幹をなすものであり、国家百年の計と云うものです。その現行憲法を改正しようと云うのであれば、まず、戦後70年の変化を踏まえ、それは「国のかたち」までも改めるものでなければならないと思料するのです。そして、そのための前提となる国家観を国民に示していく事が求められる処です。然し未だ、安倍晋三氏からそうした話を聞くことはありません。とすれば彼が宿願とする改憲とは、単に、改憲を果たした政治家として、歴史にその名を残したいと云うものかと、そう思えてならないのです。

・4つの改正点に思う
もとより憲法を改正する事、自体を否定するものではありません。がとりあえずは公約にある改憲項目案について、筆者の思う処を記しておきたいと思います。

まず、条文に触らなければできないものは明文改憲で、基本法や個別法で対応可能なものは立法措置で、対応すべきと思料しますが、この際は、それらを合わせた憲法改革の視点の必要性を指摘しておきたいと思います。因みに、「教育の無償化等」は、まさに政策判断により法律で対応が可能なはずで、これがなぜに改憲に繋がる事なのか釈然としない処です。一方「参院の合区解消」については、議員定数の問題はともかく、これを機会に、よく話題に上がる衆参両院制度問題への取り組みと併せ考えるとき、役割分担をはっきりさせるためとして、参院を行政チェックに徹する「行政監視院」にするなども考えられますが、それは立法改革で可能なはずですし、議員の選び方を変えるのは勿論立法でできるのですから、それらをセットにした取り組みを目指すべきと思料するのです。つまり、それは憲法改革路線を目指す処です。

さて、改憲のキモは何といっても「自衛隊の憲法明記」にある処でしょうがそれは当然のこととして安保体制との絡みで考えられるべきイッシューです。実は、それは憲法解釈を見直して集団的自衛権の行使を限定解除したことで、現在の国際情勢に即した安保体制はそれなりにできており、9条を抜本的に書き直す必要性はかなり薄らいだと云え、あとは自衛隊をどう法的に位置づけるか、だけと思料するのです。仮に憲法の明文化で自衛隊に正当性を持たせるなら、それに見合うシビリアン・コントロールの枠組みも一体で盛り込まねば、最悪の改憲提案になるものと思料するのです。とすれば、この際は9条にばかり拘る不毛な憲法論争は卒業すべきで、そのエネルギーを外交力の強化、つまり今日的国際安全保障環境に即した重層的、構造的外交戦略の構築に向けていくべきものと思料するのです。時に、そんなことは何ら力にならないとの批判が起こる処ですが、とにかく言い続けることなのです。因みに、本26日、日経朝刊一面では、河野外相は日経紙のインタビューで「日本も戦略的に大きな絵を描いて外交努力をしていかねばならない」と強調し、自由貿易推進、防衛協力を念頭に置いた「日米豪印で戦略対話」構想を語っていました。大いに支持されるべき構想と痛く思う処です。 尚、「緊急事態対応」問題については、ワイマール憲法の下での独裁者台頭という歴史の事実に照らし、弊論考でも何度も指摘してきた処であり、危険な代物の他ないのです。

日本の平和憲法は日本国家のブランドです。そのブランドを壊してまでも何故今、改憲なのか、その疑問は依然消えません。今後の議論の推移を注視していきたいと思う処です。

(2) アベノミクスと安倍経済政策の今後
9月20日、安倍晋三氏は国連総会に出席したのを機会に、NY証券取引所で金融関係者ら約200
人を前に日本経済の現状について講演をしています。同所で講演するのは‘ Buy my Abenomics
(私の経済政策は買いだ)’と訴えた2013年9月以来のものです。今回の講演では「この4年
間日本経済構造を根本から改革するため、ひたすらにアクションを続けてきた」とアッピール。
9月9日、10秒の壁を破った桐生祥秀選手を引き合いに出し、私も2020年に向かって‘壁’に挑
戦すると力説。「いかなる‘壁’も打ち破り、新たな成長軌道を描く。これこそがアベノミクスの使
命だ」(日経 9月21日)と再びアベノミクスを標榜していました。10月3日発表された選挙
公約の第2項には「アベノミクスの再起動」が掲げられていました。が、その‘再’には、4年間
のアベノミクスへの反省が含まれてのことかと思うのですが・・・。さてその実状は如何。

・アベノミクスのリアル
安倍首相は上述の次第で、アベノミクスによって景気は回復したと主張し、内閣府の景気判断で
も回復基調が続き、いざなぎ景気超えと云う声まで出ています。確かに異次元金融緩和、財政出
動で株価や地価もこれに呼応する形で上昇し、景気回復感を煽る処です。が、問題はこの回復が
実感されることがないという事ですが、その背景にある事情こそが基本的問題とされる処です。

安倍政権4年間(2013~16)の経済成長(実質GDP)は4年連続プラス成長で年平均1.1
%ですが、その前の3年間(旧民主党政権下)の平均1.8% より低く、また消費も同様にありま
す。その消費の鈍化を結果しているのが雇用環境にあるのです。つまり、安倍政権下の4年間
で雇用者数は230万人増えたと誇っていますが、その内訳は非正規が殆どで約210万人増えた
というものです。GDPがあまり変わらないのに雇用が大幅増なのは、雇用が劣化していること
のほかありません。本当に労働環境が改善していれば賃金も上がるはずです。政府は今、盛んに
企業に対し賃上げを要請しているのもそうした事情を映すものですが、未だしと云う処です。

少子高齢化が急速に進み、日本経済はいまや人手不足の状況にあり、上述消費の動向も含め、先行きへの不安、つまりコンフィデンスが持てないという事情これありで、企業も安易には賃上げに応じ得ない状況と云われています。つまり異次元金融緩和で数字上金融資産を大きく増やし財政の大幅出動を以って景気を維持してはきたものの実体経済は伴っていないという事なです。こうした不安を克服し、経済の持続的回復を図っていくには、何としても環境の変化に即した経済改革、構造改革が必要なのです。その点、これまでも安倍政権はお題目としては掲げてきましたが、その歩みは極めて鈍く、アベノミクスが今批判を集める処です。‘再’起動とは自らの政策の失敗を認めた言質と云うものです。

(3) 潜在成長率引き上げに向けた構造改革を

・英誌「エコノミスト」の警鐘
この4月、OECDが対日経済審査報告で、また7月にはIMFが日本経済2017年次審査報告で、アベノミクスを巡って縷々指摘していましたが、そんな中、興味深いのが9月30日付英エコノミスト誌のアドバイスでした。まず、北朝鮮の暴走危機の中での解散に疑問を呈しながらも、日本の安全保障の核心は経済にあり、「A vital part of Japan’s national security is its economy」と警鐘を鳴らすものでした。要は、安倍政権は不人気な経済構造改革に踏み込む意思はなさそうだが、これは極めて問題だと云うものです。日本の国民の関心は、今北朝鮮問題にあり、経済から安全保障に向けられている処、勿論それは重要な問題だが、それはトランプ米大統領との連携の下で、対応されるべきことで、長期的な視点に立つとき、経済停滞からの回復に遅れをとること自体、日本の安全保障にとって大きな脅威に繋がると、‘-----, in the long run, a failure to economic decline will pose as great a threat to Japan’s security ’というのです。さてこうした次元で経済の重要性を指摘するのは流石、エコノミスト誌と、痛く感じさせられる処です。

要は構造改革を進め持続的成長への基盤固めを今こそと云うものですが、筆者流に言えば、それは潜在成長率の引き上げに徹した成長戦略の取り組みに他なりません。言い換えると、今言われる日本経済の最大の壁「急速に進む少子高齢化、人口減少」への対応の如何となる処です。

・いま必要なことは労働市場改革
2017年度の経済財政白書によると、1986~91年のバブル期には時間当たりの労働生産性の伸びが年平均3.8%であったのに対し、12~16年では0.7%にとどまっています。生産性の低下を反映し一人当たり名目賃金の年平均上昇率もバブル期の3.6%に対し12~16年は0.4%となっています。このままでは進行中の経済構造変化を日本企業が乗り切るのは難しいという事になる処です。労働力の減少は今後本格化することが見えています。とすれば企業に迫る課題とは、働き手一人の付加価値を高めること、つまり生産性の向上です。 それへの企業対応は有望分野への経営資源の集中であり、研究開発の強化であり、ITの積極活用、等々でしょうが、政策面では企業が活動しやすい環境の整備が求められる処です。現在、「働き方改革」では脱時間給や残業規制、など生産性向上を後押しする施策は進んではいますが、経済の新陳代謝に繋がる柔軟に仕事を移っていける「流動性の高い労働市場」の整備は、未だしの状況です。

因みに、前掲、2017年OECD対日経済報告書ではこう指摘しています。
「・・・労働生産性は、依然、OECD諸国の上位半数の国の平均値から約4分の1下回っている。企業の参入、退出に係る障害により、革新的な新たな企業の数は抑制され、労働と資本は生産性の低い活動に閉じ込められている。サービス業と製造業の間、先端企業と遅れた企業間の生産格差は拡大し、賃金格差、所得格差の一因となっている。労働市場の二極化は更に固定化が進んできており、非正規労働者は今や雇用の38%を占め、相対的貧困率を高めている。」と。

とすれば必要なのは労働市場改革です。これこそは日本の成長力を高める基礎となる処です。選挙の終わった今、その重要性を再認識し、それに向けた具体的施策を整備し、その実現に向けた果敢な取り組みこそが喫緊の課題なのです。



第2部 欧州は今、新秩序へ

第1章 シフトする独仏の政治力学

(1)ドイツよ、お前もか
9月末のドイツ連邦議会(下院)選挙の結果は、これまでEU欧州を引張って来たアンジェラ・メルケル首相の威光に影を落とす状況が生まれてきている事、前出「はじめに」で触れた処ですが、その実状は次の通りです。

つまり、メルケル首相は今回の選挙でも勝利し、4選を果しましたが、自身が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は議席を前回から65議席も減らす一方で、これまで連立を組んできたドイツ社会民主党(SPD)が歴史的敗北を喫したことで連立を離脱。一方、極右とされる「ドイツの為の選択(AfD:Alternative for Germany)」が初の議席を獲得して第3党に躍り出たのです。これまでポピュリズムにはさほど関係がないとされてきたドイツですが、近時の難民の急増への不満、メルケル財政の引き締めへの不満の高まりを受けての結果とされており、近時の英国やオランダの選挙結果と類似する処、時に「ドイツよ、お前もか」と云う処です。

要はドイツ政治の支持基盤構造が変化したということですが、この結果メルケル首相は政権維持のため新に自由民主党(FDP)、緑の党、との連立の模索を余儀なくされています。いずれも穏健派ではあるものの、メルケル氏とは政策スタンスに隔たりがあり調整は難航必至と見られ、その分、彼女の求心力の低下は避けられないとされる処です。つまりメルケル首相の立場は、親EUで、グローバルな市場主義を遵守し、共通の価値観の国々との連携にしかドイツの未来はないとするリベラルな立場です。これに対してFDPは自国ビジネスを最優先する立場にあり、マクロン氏が主張するユーロ圏共通予算に反発しており、また環境政党の緑の党はグローバリズムに懐疑的である事から、その調整に時間がかかると見られています。

Financial Times (Sept.25)は「The end of German exceptionalism」と、これまで欧州の盟主とされてきたメルケル首相は自身の難民政策とユーロ圏を巡る政策のツケを払う事になった、もはやドイツも怒れる大衆のポピュリズムとは無縁ではなくなったとして、German now looks more like a `normal’ western country. And that, ironically, is not something to be welcomed.つまり、ドイツも普通の西側の国に近づいたかに見える。が、皮肉なことに、それは歓迎すべき事ではないのではと云うのでしたが、然りです。因みに10月9日、メルケル首相は難民の受け入れを、年間20万人を上限とすると、これまでの方針を変えたのです。

尚、選挙中メルケル首相は連立の社会民主党のガブリエル外相との話の中で、北朝鮮問題に関連し、珍しく「ドイツは外交的な解決に全力を尽くす」(日経25日)と発言した由ですが、これが映すこととは、ナチスへの反省から沈黙する国家であるべきとする戦後ドクトリンは捨て、外交や安全保障でも世界をけん引しようとの意気込みとされるのですが、以って、ドイツの戦後に幕が降りたという事なのでしょうか。

(2)そしてマクロン氏台頭
一方、フランスでも上院選挙の結果は、マクロン大統領主導の「共和国前進」も議席数では非改選の9名を含む議席は29から28に減らしたことで、彼への求心力が云々されるのですが、上院より権限の大きい下院の過半数を握っている点で彼が進めんとする公務員削減、労働市場改革等目玉政策がすぐに滞るわけではありません。むしろ問題は、メルケル氏の政権基盤が緩んできたことで共に進めんとする、いわゆる「メルクロン」主導のEU改革に疑問符が付くほどに様相は変わってきたとみられる事でした。
然し、マクロン氏は、9月26日、パリで再びEU統合深化策(次項)について熱弁を振るい多くの支持を改めて得ると共に、続く9月29日のEU首脳会議ではEU改革を巡る議論で彼は「主役」を取ったと報じられ、因みに、会議終了後の記者会見では、「独仏がリーダー選びの選挙を終え、難題に真正面から取り組む来年こそ、EU改革を一気に加速させるべきと、力説した」(日経、10月3日)と伝えられています。

さて、これまで「メルケル頼み」一色だった欧州統合の構図が薄らぎ、マクロン氏の存在感が高まったことで、ドイツ議会選後のEUの如何が云々される状況になってきたと云うものです。つまり「フランスには欧州域内の覇権国としての意思はあるが、国力が伴わず、ドイツには国力はあるが意思が伴わない」(日経10月9日)と言われる両国ですが、今回の選挙を契機に欧州における独仏間に見る政治力学に変化が生まれ、新しい秩序がささやかれる処、これが欧州の実相として、9月30日付The Economist の巻頭言では、‘Europe’s new order-A dynamic Emmanuel Macron and a diminished Angela Merkel point to a new balance in Europe‘ (次項)と指摘し、新たな独仏基軸が果たせる役割は少なくないと期待するものです。

第2章 マクロン大統領の挑戦 - Future of Europe

9月26日、マクロン大統領は、パリ、ソルボンヌでEUの立て直しに向けた改革案(Eurozone、Tax, Democracy, Labor Market, Security, Migration)に熱弁を振るい、脚光を浴び、一方、国内においてはこれまでの規制の多い統制経済(dirigisme) も大きく変えようとしています。さて、ここ10年間、EUという舞台でバックコーラスに甘んじてきたフランスが再び中央に立てるか否か、それは同氏の欧州政策次第であり、長年不可能と思われてきた国内での改革の如何にも負う、と云うのは英誌エコノミスト誌(9月30日)です。そこで、以下では、同誌論ずるマクロン論をベースに今後の欧州の行くへを検証したいと思います。

・欧州政策:9月26日マクロン氏が行った欧州政策についてのスピーチでは‘shared military budget and an agency for ` radical innovation ‘ , as well as the desire to strengthen the euro zone. つまり、各国共通の防衛予算、急進的な技術革新を担う専門機関の創設などを主張し、ユーロ圏強化に向けて熱弁を振るったと云うものでした。更に、税制についてマクロン氏は、域内への輸入品に炭素税を課す事、域外IT企業のタックスヘブンを使った税逃れ阻止のため利益を上げった国で課税する必要性を力説。法人税率を統一し、低賃金や劣悪な労働条件で生産された商品を安く輸出するsocial dumping の徹底した取り締まりも訴えるものでした。 更に、スピーチではデイジタル経済の潜在成長力の向上を狙う為として、各国の規制を取り除き「デイジタル市場の完全統合」(Digital Single market) も訴えたのです。勿論ユーロ圏が実現すれば、欧州は新たな金融危機への備えをより確かなものにできる筈です。

・内政(労働市場改革):マクロン氏の内政への狙いはポピュリズムの抑え込みにあるとエコノミスト誌は指摘するのです。つまり技術革新を進める中、雇用の安定に力を入れることで労働者に技術革新を受け入れても仕事が無くならことを示し、失業への不安を和らげようとしているというのです。実は、それほど注目を集めなかったが、実はこの夏、驚くようなことがあったちうのです。つまり、大半の国民が休暇を楽しんでいるさ中、マクロン氏は労働組合と交渉し、広範な労働市場改革への同意を取り付けた由です。大した批判も出ないまま、合意内容は9月22日に法制化されたのです。戦闘的な労組、過激な極左グループによる講義運動も想定されたほどには盛り上がらず、因みに労働改革を支持すると答えた国民は実に59%に達している由です。


ドイツでの例が示しているように、労働改革で雇用が創出されるには時間がかかるうえ、政治的には評価されるのは通常、議会に改革案を通す仕事をした当人ではなく、その後継者となるも、マクロン氏は改革を進めようとしている点で胆力のある仁だというのです。そして、彼が規律正しいというのは、大統領選の前に政策を明確に提示し、その公約の実現に向けて努力しているからだと評価するのです。実際、労組とは十分に協議し、主要な3労組の内2労組は改革案を受け入れたそうです。これは前任者とは好対照だと指摘するのです。そして、彼の思慮深さについて、政策をバラバラではなく総合的に打ち出そうとしている点に見て取れるというのです。そして、エコノミスト誌は、こう締めるのです。
「マクロン氏はドイツに自身のユーロ圏改革案を受け入れさせるのにも苦労するだろうが、今年明らかになった事は、同氏を過少評価してはいけない」と。- if this year has shown anything, it is that it is a mistake to bet against the formidable Mr. Macron.


おわりに:「米中逆転」が現実味を帯びる中で

10月18日、5年に一度開催の中国共産党大会の冒頭、習近平総書記は「建国100年の2049年に米国に並ぶ強国になる」長期目標を示しました。米国の相対的な衰えが指摘され「米中逆転」が現実味を帯びてきたと云うものです。その変化は日本に対し、どんな立ち位置を取ることになるのか、大きな問題を投げかける処です。安全保障問題への対応然り、少子高齢化の進む日本経済への対応然り、等々、既に上述した処ですが、いまやあらゆる面で、これまでのモデルでは律しえなくなってきたことが実感される処、今次総選挙は今後10年、20年先の時代に向けた節目と自覚し、そのフォローを確実にしていきたいと思う次第です。

そんな折、ドナルド・トランプ氏が11月5日、米国大統領として初の来日予定です。先の「パリ協定」からの離脱に続き、ユネスコからの脱退、米欧など6か国とイランが2015年に結んだ核合意の破棄をも発言するなど、国際協調の枠組みを壊しにかかっている彼ですが、そこにはどんな展開があるのか、興味は深々と云う処です・・・。
以上  
posted by 林川眞善 at 14:31| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする