2018年06月28日

2018年7月号  グローバリゼーションの行方 - 林川眞善 

目  次

はじめに `Post Trump’ に備える     

1. トランプ米国 対 中堅国家   

(1)Middle powers of the world must unite  
(2)日欧関係の進化が意味する事
              
2.世界経済は新たなグローバル化に向かう ・・P.7

(1) グローバリゼーションは新時代
(2) Digitalization と地勢環境
(3) 新時代のグローバル化とその課題

おわりに グローバリゼーション、民主主義、国家主権
                                
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はじめに ‘Post Trump’ に備える

・壊し屋トランプ
6月11日付、夕刊各紙に掲載されたメルケル独首相がトランプ米大統領を説きふせんと迫る状況写真は、カナダで行われたG7サミット会議(6月8・9日)での場面写真ですが(実際は9日午前にドイツ政府が提供し、APが流したものの由)、まさに映画の一コマを思わせんばかりとするものでしたが、これが何よりも自由貿易の危機を映す姿と、世界を駆け巡ったとされるものでした。そして、その直後、議長国カナダのトルドー首相が取り纏めて発表したサミットの共同声明について、トランプ氏は「保護主義と戦い続ける」との文言が盛り込まれているとして、当該声明を拒否するとツイッターに書き込んだという由ですが、全会一致でない首脳宣言は初めてというものでした。
1975年11月、’73年のオイルショックによる混乱の収拾、それに続く世界的不況への対策等について話し合うため、自由主義陣営の主要先進国による初のサミット会議が仏ランブイエで行われていますが、それから40余年、それがトランプ米大統領によって混沌の淵につき落とされた、まさにそんな様相を映す処です。

米国がEU諸国や日本、カナダなどと維持してきた同盟関係は、世界の安定に欠かせない「国際公共財」と云うものですし、もとよりそれは米国の国益の支えでもある筈です。が、残念ながらトランプ氏にはそういった発想はうかがえません。
つまり,トランプ政権が進める保護主義貿易政策は、結局は同盟国に対してまでも貿易インバランス解消の為として高関税の実施を始めるなどで、先進国仲間に深い亀裂を齎し、今やG7もG6プラス1と言われるほどに「西側同盟の終焉」かと思わせるような状況を露わとしてきています。これまで戦後世界は大国米国が主導する自由主義貿易を枠組みとして成長発展してきたものですが、その米国が180度異にした、後ろ向きの保護主義的行動に転じたため、グローバル経済の枠組みが変調をきたし、自由貿易の基本的枠組みと云うべきWTO体制をも揺るがすほどになってきたと云うものです。 序でながら、そうした事態は、廻りまわって中国の覇権主義に力を貸す処です。

先の‘パリ協定からの離脱’、‘イラン核合意’からの離脱‘、‘TPPからの離脱’、‘NAFTA協定の改正’、更には国連人権委員会からの離脱、等々トランプ氏はアメリカ・フアーストをもって国際的連携体制を忌避し、それでなお「尊敬されるアメリカの再生を目指す」と豪語?していますが、エコノミスト誌(6月9日)は、そうした彼を`Demolition man’(壊しや)と称し、彼の行為は取り壊し作業で使う鉄球を同盟国にぶち当てる様だが、コスト・ベネフィットから見て米国や世界にとって極めて不合理かつ危険なことと、訴えていたのです。(注)

   (注)・・・ From a man who exults in breaking foreign -policy taboos, they would be
truly remarkable. But are they likely? And when Mr. Trump seeks to bring them
about with a wrecking ball aimed at allies and global institutions, what is the balance
of costs and benefits to America and the world?

こうした中、6月14日IMFが公表した対米審査概要では、米国の中期経済見通しについて大型減税と歳出拡大で2018年、2019年ではトランプ政権が目指す3% 近い成長を予想するも2020年以降、実質成長率が大きく減速するとの予想を示しています。(2018:2.9% 2019:2.7%, 2020:1.9%,2021:1.7%, 2022: 1.5%,2023: 1.4%)そしてトランプ政権が仕掛ける「貿易戦争」も米経済のリスク要因と強調していたのです。勿論、米財務省はこれに反論するところです。

同様に世銀も世界経済の来年以降の減速を予想していますが、さて、いまリーマン危機時、世界は団結して、政策協調や反保護主義を打ち上げ、危機脱出を図ってきましたが、トランプ氏にかき回される環境にあって、世界が不況に陥った時、世界は一つになれるかと不安の大きくよぎる処です。トランプ旋風でかき回される世界経済を如何にmanageすべきか、まさにAmerica first への対抗に世界はいま苦悶する処です。

・ポスト・トランプに備える
そうした環境ながら、もはや考えておかねばならないのがポスト・トランプ、トランプ後の米国経済であり世界経済の在り姿です。

つまり、世界経済の公共財とも言える自由主義貿易を基軸としたグローバル・システムがトランプ大統領の出現で否定され、彼が仕掛けた関税引き上げは貿易戦争の様相を呈し始めるなど、世界経済はいまstand-stillの様相にありますが、ではトランプ後、つまり最長2期、6年として、彼が去る2023年後には、元のグローバル経済に戻ることになるのかと言うと、そうは考えにくいのではと思料するのです。というのも世界経済はトランプ登場前からDigitalizationの急速な進行で構造変化が進むなか、新経済大国の中国が世界経済にフルに参加してきたことで更なる変化の中にある処ですが、従って今起きているトランプ現象も、そうした構造変化の流れの上での表出と思料されるからです。

もう一つは、東アジアを巡る国際政治環境の構造的変化が進みだした事です。先の米朝首脳会談の結果(弊論考特別号、6月13日付)、米朝の対立関係の解消が進み、米朝首脳のダイレクト対話が可能になってきた事で、これまでの様に、北朝鮮対応について中国に気遣いする必要がなくなった環境が生まれた一方、中国習主席が米朝会談を通じて北朝鮮金委員長の後見人役を果たしたことで中朝関係の急速な改善が進んできた事で、東アジアを巡っての新たな覇権構図が生まれてきたことです。つまり米中共に、自在の戦略を以って行動ができるようになってきたと云うもので、かつての「米ソ対立」に代わる「米中対立」の構図が指摘されるようになってきたと云うものです。因みに、目下世界的な貿易戦争に広がるのではと懸念されている米中貿易摩擦の実相とは、そうした環境変化で対中関税を控える理由がなくなった事で、トランプ政権が仕掛けた結果と云うものです。

こうした環境変化を踏まえるとき、トランプ後の世界経済がこれまでのように経験してきたグローバル経済に戻る事は考えにくいと思料するのです。とすれば、トランプ対抗戦略もさることながら、ポスト・トランプへの対応戦略が同時に求められる処と思料するのです。もとより、米中のはざまにあってこれから日本はどういった形を以って明日を切り開いていくか、大きな問題であること、予て筆者の問う処です。

さて、6月11日付Financial Times はその社説`President Trump goes rogue at the G7’で、G7で見せたトランプ大統領の‘狼藉’な振舞いについて、事態は想像していた以上に最悪だと評した上で ‘Other democracies must band together to resist global trade war’と、民主主義の先進諸国に向けて、グローバル貿易戦争に対抗して団結すべきと檄を飛ばしていたのです。 それに先立つ5月29日、偶々手にしたFinancial Timesが伝えるコラム` Middle powers of the world must unite ‘(中堅国家は団結を)は、そうした檄に応えうる一つと映る処、世界経済の構造変化への対応と云う視点を踏まえながら、America firstへの対抗軸としてG7の再生を視野に入れた、自由陣営の連携強化への道を提唱するものでした。

更に‘Globalization’、いまや忘れられかけた感のある言葉ですが、その‘Globalization’の行方を示唆する論考にも対面したのです。Foreign Affairs(May/Jun2018)に掲載あった元米クリントン政権で経済諮問員会議長のLaura Tyson 氏とMcKinsey のパートナーであるSusan Lunda氏の両者による‘Globalization is not in retreat’(グローバリゼーションはなお前進する)と題する論稿でした。それは現下のトランプ米国が指向する内向き姿勢を批判しつつ、急速に進むDigitalizationによりグローバル化の流れは止まる事はなく、同時にそれへの対応準備をと、提言するものでした。要は ‘トランプ後の世界に向けた準備を’ と云うものです。

そこでこの際は、現実の動向に触れながら、この二つの文献をレビューすることとし、今後の変化を見通す上でのlogicに寄与していきたいと思料するのです。


1. トランプ米国 対 中堅国家

・いま世界は関税報復合戦で貿易戦争の様相
3月8日、米政府がEU、日本を含む貿易相手国に対し貿易インバラランス解消のためと、鉄鋼とアルミ製品への輸入に高関税を適用、輸入制限措置を取っていますが、その狙いは中国にあったとされるものでした。果せるかな、前述、米中関係の環境の変化もあり、6月15日には中国の知財権侵害への制裁措置だとして500億ドル分の中国製品に25%の追加関税の7月からの実施を決定したのです。その際、トランプ氏は中国が巨額補助金を拠出してハイテク産業を育成する「中国2025」を名指しで批判し、「中国は不公正な手法で米国の知財や技術を得ており、もはや耐えられな」(日経6月16日)との声明を出しています。これに対して中国政府は翌6月16日、農産品などに同規模で高関税をかける報復措置を発表。EUも22日には先の鉄鋼・アルミ輸入制限への対抗措置として、28億ユーロ(約3600億円)規模の米国からの輸入品に対して報復関税を発動しましたが、ロシアも対米関税の発動が伝えられる処です。かくして、米中のみならず米欧間の貿易を巡る対立、貿易摩擦が一段と先鋭化してきてきたというものです。勿論、関税の引き上げは安価な輸入品を減らし、物価高の要因となる処ですし、供給網が集中するアジアに飛び火することで、世界経済は深刻なリスクに晒される処となってきています。今世界は、まさに貿易戦争の様相です。

(1) Middle power of the world must unite

さて英紙Financial Times, May 29に投稿された同紙コラムニスト,Gideon Rachman氏の
‘ Middle power of the world must unite ’は、上述事情を踏まえ大国の暴走を止めるためには新たな非公式な同盟・団結をと、提唱するものでした。以下はその概要を紹介するものです。
 
・・・・・・・・米国と中国は国際合意の制約から抜け出し、力を振るって自らの目標を一方的に成就させたいという野望を強めている。ロシアも超大国と呼べるほどの経済力こそないが、核兵器を保有しており、領土拡張を進めている。そして、世界が少しずつ無法地帯化していく状況に大きく加担しているとした上で、こうした状況に対抗していく為には、以下、6か国による非公式な同盟関係をと、提唱するのです。中堅諸国よ立て!と云う処です

これまでの数十年間、先進自由諸国は、二つの柱に沿って国際社会での立場を固めてきた。その一つは、米国との強固な同盟関係であり、もう一つはEU、APEC,そしてNAFTAといった強力な地域集合体への加盟だったと云うのです。然し、トランプ氏が米国大統領に就いたことで世界はこうした前提がひっくり返る事態を迎え、欧州諸国とオーストラリア、日本、カナダは公にどんな声明を出したとしても、本音では米国が目指す方向に動揺している。
トランプ政権が推進する保護主義は、これらの国にとって経済的な利益を損なう脅威だ。何をしでかすかわからない上に孤立主義を取り始めた米国が、同盟国に対して十分な安全保障政策を実行できるのか、という疑問も生じてきているとし、そこで、利害を共通する国として6か国を挙げ、非公式な同盟関係を築くべきと提唱するのです。

つまり、こうした現状はドイツ、フランス、日本、英国等「中堅国家」にとってはジレンマで、彼らには超大国のように力で他国を威嚇することが出来ない。だが世界経済と安全保障に利害関係を持つ国際的ナプレーヤーの一員であり、ルールに基づく世界を必要とする。そして、中堅国家がこうした共通の課題を抱えている事実は、一つのチャンスであり、ルールを基本とする世界秩序を支えたいと考えるこれらの国々は、今こそ非公式な同盟を組むべきと云うのです。WTOの存続や、国際的な人権法及びグローバルな環境基準の持続といった課題に対し、一国で対応する事は不可能だが、集団でかかれば国力や軍事力ではなく、ルールと権利を軸とする世界を守ることが出来るかもしれない、と云うものです。。

中堅国家は自らの立場の調整と、貿易や気候変動、中東やアジアにおける平和実現への努力等、グローバルな問題に関する働きかけを強化すべきと云うのです。ただ、調整内容は「米国が平常に戻るまでの間、既存の国際秩序を維持する」ことになるかもしれず、また状況が芳しくなければ「自由主義的価値を守る為、代わりの仕組み作りに着手する」ことになるかもしれないとは云うのですが。

・グループ構成については、日本、ドイツ、英国、フランス、カナダ、オーストラリア(人口の多い順)の6か国をベースに対抗勢力を築くべきと云うのです。いずれも裕福な民主主義国家である事から、利害と価値観も似通っているだろう。また、主要な貿易国である事と、実質的な軍事力を持ち、自国軍を海外に派遣する意欲がある(日本は除く)ことも共通している。貿易や投資の範囲を超え、国際的な人権基準の保護をも含む国際規定の順守に関心を持つ点でも共通するものがあると云うのです。尚、中堅国同盟のメンバー候補は他にもある。韓国、南ア、イタリア、ブラジル等。然し、南アとブラジルは既にBRICSの一員である事、イタリアはトランプ流の愛国主義と保護主義に傾く可能性があること。韓国は足元で抱えている問題のせいで余裕がないとするのですが。

・中堅国家の纏め役は? 欧州とアジアには中堅国の利益を守るため、中国とロシアの支援を取り付けたいと考える向きもあるが、これは有望な手段にはならない。つまりプーチン大統領は武力を以って国際秩序の転覆をいとわない仁であり、信頼できるパートナーとは云えない。一方習近平主席の中国は、気候変動、貿易問題に対しては中堅国家に近い立場を取るが、中国は一党独裁国家で、自らの権威主義的価値観を国外で推し進めるようになってきた点で問題含みと。
従って、中堅国家を纏める上で、EUの役割は潜在的に重要だと云うのですが、ただし不確かなものでもあると云うのです。独・仏は、EUが一つの「超大国」として今後、中国や米国と肩を並べることも可能だろうとはしながらも、EU圏内には独裁色を帯びた政権やポピュリスト政権が出現してきている転移照らし、政治的な問題に関し、EUが共通の立場をとることはこれからどんどん難しくなるだろうとも云うのです。だが、殊、貿易となるとEUは一つの単位として機能している。つまり、トランプ政権が進める保護主義への強力な対抗勢力となり得ると云うものです。 ・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、「世界の中堅国家による同盟」等は実に奇妙なものであり、それを構築するのも難しいが、新しい時代には斬新な発想が求められている」・・・・と云うのです。さて、この発想に照らす時、彼の提唱は大いに考えられてしかるべきではと思う処です。

(2)日欧関係の進化が意味する事

さて、日本は7月 11日、ベルギー・ブラッセルで日本とEUの経済連携協定(EPA)に署名の見通しにあります。日欧EPAは2017年12月に妥結したものでこれには日本とEUで兄29か国が参加することになっています。これが実現されれば、人口で約6億人、世界GDPの約3割を占める自由貿易圏の誕生となるのです。日欧EPAの署名を急ぐのは、保護主義的な動きを強める米国の存在が大きく作用していると云うものです。この日欧EPA署名の実績と例のTPP11と合わせ、米国に対抗して自由貿易を推進していく姿勢を示していかんとするもので、上述、ラックマン氏提唱のcontextと同じくする処です。

既に先の特別号論考(6/13)では、EU外交安保上級代表のメゲリーニ氏から7月の日・EUのEPA調印を控え、経済協力・提携強化を通じて安保体制の強化を訴えてきたことを紹介しましたが、加えて驚くべきニューズが届いたのです。それは6月6日のドイツの連邦議会(下院)でのメルケル首相の発言で、耳を疑うほどに刺激的なものでした。(日経、2018/6/21)

その発言とは「ロシアを挟んで西にドイツ、東に日本。距離は離れているが日本とドイツは親密なパ-トナー」と、‘米ロより日本を重視する’ 考えを発信したことでした。当該記事によると、これはキリスト教民主同盟(CDU)のキーゼウエッタ議員の質問「傍若無人な米国と、中国の脅威と云う難局に直面するのは欧州も日本も同じ。ならば連携してはどうかか」へのリアクションだった由ですが、メルケル首相は単にリップサービスではなく本当に関係を深めたいと考えているとCDU筋は証言している由でした。さて、2012年、第2次安倍内閣が発足してからの彼女の対日観は極めて厳しいものがあった事は周知の処でした。

筆者は、こうした経済の提携強化こそが日本の実状に即した安全保障対応だと提唱してきましたが、今その思考様式が充填されてきたと認識する処です。太平洋を跨ぐ経済連携、TPPはまさにその象徴的存在と思料する処です。


2.世界経済は新たなグローバル化に向かう

クリントン政権で経済諮問委員会議長を務め現在、米UC Berkeley 大学院特別教授のLaura Tyson氏は、McKinsey & CompanyのPartner, Susan Lund 氏との論考‘Globalization is not in retreat’で、デイジタル技術の進歩とそれが齎す貿易の新たな姿を「新時代を迎えたグローバリゼーション」として展望し、グローバル化の後退はなく更に深化し、従ってそれへの備えに挑戦すべきと檄を飛ばすのです。まさにPost Trumpの在り姿を示唆する処です。
そこで、以下では当該論考をレビューすると共に、新しく現出が想定される事態に如何に備えていくか考察することとしたいと思います。

(1)グローバリゼーションは新時代

The New Era :米国は内向きになる一方EUと英国は離反する等、いま世界経済のリーダーシップが聊かの変調をきたしているが、これが即、グローバリゼーションが非グローバル化に向かっている事を意味するものではなく、変化の背景には急速に進むdigitalizationがあり、それが世界経済を新たな局面に向かわせている、つまり新時代に入ってきたと云うのです。そこでは、イノベーションや生産性の向上が進み、各種情報へのアクセスを高め、それが消費者と生産者の距離を縮める等、経済社会は大きく進化することになるが、一部には消えて行く産業、喪失するジョッブ等、崩壊現象は起り得べく、その点では企業も政府もそれへの対応準備が欠かせなくなっていくと云うのです。

因みに、1980年代から始まった輸送・通信のコストの急激な低減は、多角的自由貿易協定とも合わさって世界の貿易は急速に拡大、1986年~2008年ではモノ・サービスの貿易額は全世界のGDPの2倍もの速さで拡大してきました。が、以降の5年間は当時の不況を映す結果、その伸びは世界のGDPを凌ぐことはなく推移してきています。つまりGlobal value chainは部品製品の貿易取引に貢献してきましたが、当該効率化が成熟の域に達した事で、その効果は吸収されてしまったためだと云うのです。生産拠点は今後も労働賃金や生産要素価格の相対的に低い処を狙って移動していく事だろうがそれは単に貿易のパターンを変えるだけで、貿易全体の拡大にはつながっていないと云うのです。

然し、digital flowsの拡大、つまりe-mail やvideo streaming 、IoTが進む事でグローバル経済での結ばれ方が従来とは異にする構造的変化をきたし、しかもこのdigital flowはもっぱら先進国での動きだったのが新興国に蔓延しつつあることで今や、世界貿易の半分がdigital technology に依存する形となっていると云うのです。企業では商品の動きを追跡する情報機能を導入することで30%までも輸送時のロスをなくし得たと云い、世界の消費者は態々小売店に出向くことなく必要品を手にでき、2020年までにはe-commerce利用者は10数億人、年商は年1兆ドルに達すると見込まれているというのです。

処で、これまでグローバル化と云えば、大国が誘導するものとされてきたが、例えばEstoniaという僅か130万人の小国でもdigital化のお陰で、大国と伍していける状況が生まれてきており、いま注目されているのがe-government の成功であり、その枠組みの下でSkyepeの開発国としてEUの中の急成長国と位置付けられていると云うのです。勿論、こうしたDigital flows は世界企業の位置づけも反転させる処、巨大グローバル企業は長年経済の分野で支配的に動いていたが、digital platforms は小規模企業にも出番を与えるようになってきた事で、つまりはmicro -multinationalsが生まれてきたことでon-line market の拡大が予想されていると云うのです。

(2) Digitalizationと地勢環境

グローバリゼーションがdigital化に即した形で進む結果、そのcenter of gravityがシフトしてきたと云うのです。つまり2000年のFortune Global 500にリストされた企業の内、新興国にheadquarterを置いていた企業は僅か5%だったが、2025年までにはMcKinsey調べでは、それが45%に達する事、しかも中国は欧米企業を上回る、年商10億ドル超の企業をいくつも抱えることが予想されていると云うのです。つまり,世界で消費されるdigital contentの多くは米国が作り続けるとして、アマゾン、フェースブックやグーグルと言った米企業のライバルである中国のインターネット企業、アリババ、やテンセント等に取って代わられると云うのです。

現在、global e-commerce transaction に占める中国のシェアーは42%との由ですが、グローバリゼーションの地勢は新興国レベルでも変化していると云うのです。つまり次の10年、世界のGDPの半分が新興国経済に負う事になると予想される処、これらは地図では見出しにくい440ほどの都市に負う事が予想されているのです。因みに今や南・南貿易が2000年ではglobal total の7%に過ぎなかったものが、2016では18%にまで拡大していると云うのです。世界経済も既にこうしたnew reality,新事態に適応始めていると云うのです。

ワシントンがglobal trade agreements に背を向けるとしても、例えば米国以外の自由諸国ではTPP11の前進があり、更にはASEAN諸国と日中豪印NZ韓国を含めたRCEP(Regional
Comprehensive Economic Partnership)が進められるとなると、これで世界貿易の40%をカバーでき、人口では世界人口の半分を占める経済圏が誕生することになる処、中でも注目すべきはワシントンベースの世銀等、各種経済機関に対抗するが如くに、中国が進めるNew Development BankやChina-Africa Investment Forum, 更には「一帯一路」構想等は全アジア的な経済成長を促す処、いわゆるグローバル化に後れを取った国々との結び付きが新たに進む事で、新たな発展が期待できると云うのです。

(3)新時代のグローバル化とその課題

Digitalization を映して進むグローバリゼーションは新時代を演出する処、同時に色々な弊害も避けられず、これにどう向き合っていくかが重要な問題となってきている事、周知の処です。

まず、開放政策が対峙する最大の問題は移入労働者問題です。具体的にはJobを巡りwinner とloserの対立構図がうまれ、つまりはグローバル化が当該国の社会や労働環境を痛める結果、それがpopulismやprotectionismを誘引する事情は周知の処です。勿論、人種差別問題等々質的ともいうべき大きな問題が潜在する事、云うまでもありません。そこに見る基本問題は競争構造の変化、つまり、低コストの新興国の市場参入で先進国型企業の競争力が傷つき、雇用の削減も余儀なくされると云った問題です。が、それこそはdigital flowsの強化を通じて知識集約型分野での競争関係の改善が期待でき、intellectual property(知的資産)の重要性を高め、特許を巡る新たな競争関係の構築も可能となると云うものです。 尚、Digital technologies は更に企業の工場の新設地の決定に大きな影響を与える処、、労働市場環境、エネルギー・輸送コスト、更には消費者との距離も含めて言える事は、新たな生産体制は多くの場合、新興市場から再び先進国市場に回帰していくのではと云うのです。

かくしてNew eraにあってはdigital capabilities, デイジタル力が経済のロケット発進の燃料の役割を果たす処、企業トップの使命は「high-speed broadband networks」の構築に求められ、政府にあっても企業がnew digital technologiesと、それに必要とされる人材への投資等、worker-training も含め、必要とされる項目の整備と、それへの具体的準備が求められるというものです。 そして、‘Rather than relitigating old debates, it is time to accept the reality of the new era of globalization and work to maximize its benefits, minimize its costs, and distribute the gains inclusively. Only then can its true promise be realized‘ と。つまり、過去をグタグタ云う事ではなく、グローバリゼーションが齎す新時代の現実を受け入れ、ベネフィットの最大化、コストの最小化に努め、広く収穫が行き渡るようにすること、これこそが本当の公約実現となる、と締めるのです・・・・。

さて、トランプ大統領は秋の中間選挙目当ての政治行動に明け暮れているようですが、その結果は自由諸国を混乱の淵に追い込む一方で、日本の安倍首相も‘明日の日本’を語る事もなく、秋の自民党総裁選に照準を合わせたかの政治行動と、似たもの同志の日米関係に聊かの危機感を覚える処です。
序でながら、米朝首脳会談の結果について筆者は、6月13日付で友人ら関係者に当該所感論考を送りましたが、それに対するリアクションは総じて日本を案じ、安倍首相のトランプ氏に盲目的な追従型の姿勢に本当に大丈夫かと、思いを暗くしたと、するものでした。


おわりに グローバリゼーション、民主主義、国家主権

本論考を書き終え、ふと思い起こすのが、ハーバード大のDani Rodrik教授の‘The Globalization Paradox’(2011)で示されていた仮設です。それは「グローバリゼーション」を促進することは経済的な国境である関税や自由な資本移動の規制をなくすことで、従って「グローバリゼーション」と「民主主義」、或いは「国家主権」との組み合わせはあっても、三要素が同時に成り立たつことはないないと云うもので、要はグローバリゼーションを進めるには民主主義か、国家主義のどちらかを犠牲にする必要があるとする仮説ですが、近時digitalizationの進化が三要素の関係が不鮮明となってきた点で、依然仮説に留まる処です。

さて、近時、目の当たりとするトランプ氏の政治行動は、いわゆるリベラルな良識派からは許し難い行動と映る処です。その彼の行動の背景にあるのが、いわゆるグローバル化がもたらした負の効果としての労働者の格差問題と理解されています。そこで、彼は、自国の利害を担保していく為として、その流れを断ち切り、これまで米国が中心となって進めてきた国際秩序、リベラルな自由主義をまさに否定するAmerica firstを行動規範としてきています。然し、各国の産業は相互に依存しあう、その深度を深める形で成長し、世界は発展してきたことは厳然たる事実です。そして今、危険なのは資本主義が強くなりすぎてバランスが崩れることと思料される処です。従って、基本的な政策対応は、これまでの負の効果を如何に軽減、改善し、これまでのグローバル化の論理を如何に堅持していくか、にあるべきと思料するのです。

我々は既にグローバル化された世界に住んでいます。従ってグローバル化の道を閉ざしては、言うなれば大きな経済危機の起こることも予想される処です。勿論民主主義も必要です。政治に対して意見が言える事が必要です。それには健全なメデイアの強化も必要です。トランプ氏は自分にとって面白くない事につぃては、全てフェーク情報だと斥けていますが、言うなればそれは独裁者の姿勢そのものと云うほかありません。勿論、国家も必要ですし、その枠組みを超える試みもあります。要は、ロドリックの仮説はともかく、グローバリゼーション、国、そして民主主義の三つを今よりずっとうまく調和させる方法はまだまだある筈と思いますし、このような解決策を探るべきではと思うばかりです。 資本主義だけではシステムは機能しません。民主主義だけでもシステムはきのうしません。二つが両立するシステムを築くことが必要です。民主主義が資本主義を制御するツールとしての役割を果たすようなシステムです。繰り返しますが、グローバリゼーションを放棄するのではなくその影響を緩和することを考えていく事と思料するのです。

序で乍ら、過般手にしたイアン・ブレマーの最近刊「対立の世紀―グローバリズムの破綻」(US VS、THEM-われわれ対彼ら;The Failure of Globalism)は興味深いものでした。その副題にある、「われわれ」とはポピュリズムの原動力となっている様々の力を指し、一方「彼ら」とはそうした動きを軽視する政府のエリートたちであり、「大企業」、金融エリートを指す処ですが、要は自分の属するグループとそれ以外を峻別し、対立構造を作り上げることを含意とするものです。その上で南ア、中国等、新興国12か国を取り挙げ、彼らが抱える構造的問題を解析した上で、世界人口の半分を優に超える人口、若手人口となると更に高い比率となる事情に照らし、21世紀の世界経済の運命は、彼らが握っていると云うのでしたが・・・。   
 
以上 ( 20018/6/27記)
posted by 林川眞善 at 10:09| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2018年06月14日

2018年6月特別号  検証 米朝首脳会談 - Facts & Impact - 林川眞善

- 目 次 -

はじめに:史上初の米朝首脳会談

1.検 証、シンガポール米朝首脳会談

2.米朝首脳会談と‘戦後日本’の総括   

おわりに:過去のサミットの教訓と米朝首脳会談

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はじめに:史上初の米朝首脳会談

6月12日は、TV特番中継放送にクギ付けとなる一日でした。云うまでもなく、その日、シンガポールのリゾート地、サントーサ島のカペラ・ホテルで行われた、史上初となる米大統領、トランプ氏と北朝鮮委員長、金正恩氏との米朝首脳会談の様相を伝えるものでした。それも今尚、交戦状態にあり、外交関係もないままの両国トップの会談です。

さて、北朝鮮の金正恩委員長は、「新年の辞」で平昌五輪への参加に言及して以降、周辺国との関係改善に舵を切ったものと見られる中、3月5日、韓国のチョン・ウイヨン国家安保室長が、韓国文大統領の特使として北朝鮮金委員長と南北朝鮮統一問題について平壌で会談した際、同委員長からトランプ大統領と早期に直接会談したいとの意向表明があり、その要請を受け同特使は3月8日、ホワイトハウスを訪問、トランプ氏にその旨を伝えた処、彼からは即座に応諾があり、途中の経過(注)はともかく、今回、シンガポールでの開催となったものでした。

(注)一旦、中止宣言された米朝首脳会談は先に予定の6月12日で再設定、開催。
3月8日:トランプ大統領は朝鮮金正恩委員長から申し入れの「米朝首脳会談」に応諾、
5月10日:「米朝首脳会談」、6月12日、シンガポールで開催の旨発表。
5月24日:「今は不適切」としてトランプ氏は中止を表明
6月1日:北朝鮮、金英哲(キム・ヨンチヨル)党副委員長との会談(於、ホウィトハウス)
で予定通り開催される旨発表。僅か1週間の心変わりは何故?

・トランプ氏の米朝首脳会談応諾
周知の通り、これまで、金北朝鮮とトランプ米国との間では‘核・ミサイル開発’を巡り、時には一触即発の様相をも呈する状況にありましたが、今秋の中間選挙を控え、この際は、金委員長の提案を受けることで、一矢を迎えんとの読みがあったと思料されるものでした。

大統領就任1年をほとんど空費したトランプ氏にとって政治的ターゲットはまさに今秋の中間選挙一本にあり、そこで金委員長の申し入れを受け入れ、これを成功に導ければ彼は有能な勝者となり、選挙戦を勝ち抜けると瞬時、直感したものと言えそうです。そして序でながら、その推移如何では、ノーベル平和賞ものとの野次馬の声も聞かれるだけに、トランプ氏の姿勢はまさに前のめりにあったと伝えられる処でした。つまり、トランプ大統領は「それは過去の米政権が出来なかった偉業」となると、一貫して乗り気になっていったということですが、加えて3人の米国人人質の解放が実現した事は、北朝鮮への米国が仕掛けてきた圧力の成果だと、自らの業績としてアッピールする処、これが中間選挙対応の他なく、まさにTrump firstの真骨頂と云う処です。

・トランプ大統領 vs 金委員長
さて、トランプ氏は米朝首脳会談に臨むにあたっては「朝鮮半島の完全な非核化」、つまり「完全で検証可能且つ不可逆的な非核化(CVID:Complete, Verifiable, Irreversible and Denuclearization)」の実現を主題としていました。つまり、非核化を一気に進めること、その上で北朝鮮が求める「体制の保証」や1953年に結ばれた朝鮮戦争休戦協定の「平和協定への転換」等、問題に応えていく事になると明言していました。一方、北朝鮮金正恩氏は、米側の云う一括放棄は受け入れ難くとし、非核化に向けて段階的な措置をとるたびに見返りを受ける方式を訴えていたのです。

つまり、非核化を巡っては、米側のスタンスは、北朝鮮がまず完全に核を放棄し、それが検証されたのちに保証があるという、言うなれば、非核化は全ての交渉の「入り口」とするものですが、一方の北朝鮮は、一応「非核化」を受け入れる姿勢を示すも、その先に「非核化」があると云うこととなり、ここでは「非核化」は、「出口」に位置すると云うもので、トランプ氏の「‘完全’な非核化とその短期実現」と云う命題とは聊かの乖離がありました。

にも拘わらず途中からは、トランプ氏は首脳会談を重ねることも視野に、完全な非核化に向けた具体措置の合意をめざしていく構えに修正、つまりはトランプ氏が金氏に歩み寄ったというものでした。 6月1日、金正恩氏の使者、金英哲氏をホワイトハウスに迎えたトランプ氏は、同氏に対し、非核化の進め方について「ゆっくり進めてください」と伝えた由ですが、加えて、これまで言い続けてきた北への「最大限の圧力」と云う表現はもう使わない、とまでコメントするまでに変化を露わとするのでしたが、これは段階的な非核化を訴える北朝鮮のシナリオに乗ってでも会談を実現させ、中間選挙に臨まんとするもので、その姿は上述のTrump firstと映る処ですが、同時にトランプ氏の戦略のなさを暴露するものと云えそうです。

・「最大限の圧力」の旗を降ろすトランプ氏
尚、「最大限の圧力」を降ろしたことで、金正恩包囲網の弛みは否定できず、周辺の視線は、既に経済協力に向いている様相にあり、言い換えればトランプの心変わりで、北朝鮮は対話路線に乗る事で着々と果実を得ようとしているといえそうです。

因みに、メデイア情報によると、中国国際航空は6日には、昨秋から運休の北京―平壌間定期便の運航再開した由ですが、これは人の往来を後押しせんとするものと思料される処です。また、中国政府は国連制裁決議を履行する姿勢を取りつつも、制裁対象外の交易や民間交流は拡大する構えにあるともされています。習近平・金正恩の2度の会談で関係改善を演出していましたが、国境の出入り現場では取り締まり機運も薄れ気味と報じられています。
又、韓国も国連制裁を維持しつつも解除後をにらみ走り始めたようで、先の‘板門店宣言’を踏まえ、鉄道の連結・補修事業等話し合う高官協議を開催予定と伝えられています。更にはロシアも北朝鮮に接近中にある処、プーチン大統領はかねて極東地域と朝鮮半島をつなぐガスパイプラインや鉄道建設を提唱しています。6月下旬に訪ロ予定の文韓国大統領とは、北朝鮮との経済協力が主要テーマとなりそうと伝えられている。

そして何よりも、その象徴的な変化は、6月3日、シンガポールで開かれた日米韓防衛相会議の共同声明から「圧力」の文言が落ちていた事でした。


・Disciplineを失った米朝会談
さて、これまでの経緯はともかく、トランプ米大統領は、前述の通り、朝鮮半島の平和のためには北朝鮮の完全な非核化が不可避とするスタンスにあった処、言うなれば中間選挙への支持浮揚を狙うばかりに、とにかく金正恩氏との会談の機会を持つことに意義ありとし、非核化を段階的にとする金氏の意向に応じることととした事で、当該会談は実質的には金氏のシナリオにはまった形で進み、従って当初、描かれた会談のdisciplineが見失われた格好となったと思料されるのです。

因みに会談後発表された会談内容の確認書ともいうべき「合意文章」(ポイント)は以下の通りですが、極めて包括的で、何ら具体的な行動に繋がるものは見当たりません。更に、合意文書のフォローアップの記者会見ではトランプ氏が最も強調していた「CVID」の言葉が抜けているとの記者からの指摘に、時間がなかったためとの言い訳に終始、要は準備不足、勉強不足を露わとする処です。会談直前にはポンペイオ国務長官は、完全な非核化が確認できない限りは何も合意はできないと釘を刺していたのですが。

[米朝合意文章]―新たな関係を構築 
1.米朝両国民は両国民の平和と繁栄への要望に基づき新たな関係を構築
2.米朝は永続し、安定した平和な体制を朝鮮半島に構築するよう努力
3.先の板門店宣言に基づき北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に努力
4.米朝は捕虜(POW),行方不明兵(MIA)の遺骨発見に努め、直ちに米国に。

ではこの合意をトランプ氏が得意とするdealに照らすと、何と何を取引したことになっているのか、全く見えてこないのが実状ですが、金氏にとっては金体制の保証を得たという点で勝利したことになったと云えそうです。それでもトランプ氏はツィターで大いに成功だったと再び中間選挙向けにアッピールし、同時に次の米朝会談を云々する処です。

さて、今次の首脳会談を契機に、各国首脳が金委員長と会談したがっている環境が生まれてきていると一部マスコミは指摘するのですが、そうした機運の高まりは北朝鮮に正当性を与え、実質的に‘核保有国としての北朝鮮’と関係の正常化を進めることになりかねず、新たな懸念の生じる処です。尤も、トランプ氏はそれでも完全な非核化が進まない限り、制裁措置を緩めることはないと繰り返す処ですが、そこで改めて北朝鮮の完全非核化の可能性の如何を検証することとし、併せて、首脳会談の結果として想定される米国のretreatが齎す東アジアに於ける安全保障環境の変化、そしてそれが日本に及ぼす影響、更にそれへの対応の如何について考察したいと思います。云うまでもなく米朝会談の検証ともなる処です。


1.検証、シンガポール米朝首脳会談

(1)「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」の可能性
   ― CVID:Complete, Verifiable and Irreversible Denuclearization

現地特設のプレスセンターに集まる記者たちの多くは合意文章について、本命のCVIDと云う言葉が抜けている、リフアーがないことが問題と指摘していました。尤もこれを因数分解し合意文章に照らすと、「C」と「D」は確認されているのですが、そのプロセスとなる「V」と「I」が抜けている事が問題となる処です。それはまさに非核化に向けた具体的手順、工程表とされる処です。それが現時点では何も見えていないことがもんだいであり、その点では非核化は本当に進むのかと疑念を呼ぶ処です。

ではその手順とは、ですが、まずCVIDの目標と期限を共有した上で、核関連施設を全て明らかにする申告やその検証、濃縮ウランやプルトニウムなどの核物質や施設の廃棄・搬出、核開発に後戻りできないことを確認するIAEAなどによる査察と言った手順を詰めておくのが柱となる筈です。元より、これには時間を要する処、最長10年はかかると見る向き(米ロスアラモス国立研究所)もあり、その点では段階的取り組みもやむをえない処かと思料されると云うものです。とは言え、核放棄要求をのらりくらりとかわし、結局は逃げ切るのではとの懸念の残る処です。つまり今回のような重要な会談に臨むに当たっては、通常以上に準備を重ねることが必要なはずですし、入念に準備や分析をしたうえで臨むべきと云うものです。が、こうしたプロセスを欠いていることが極めて重大な問題と思料する処です。

今回、非核化を進めることだけは約束したわけですが、それも4月27日の南北首脳会談で非核化についての目標を確認したピョンヤン宣言を単にリフアーすることでやり過ごしている点が極めて不信感を呼ぶ処ですが、とにかく北朝鮮には徹底的な査察を受け入れることが第一であると云う事、そしてその上で制裁緩和について判断すべきではと思料される処です。そして何よりも、問題はトランプ政権内に北朝鮮の中枢をきちんと分析ができる人材が乏しい事かと思われるのです。然し、こうしたポイントにトランプ氏は気づくことなく、自身の政治日程だけで、つまり11月の中間選挙からの逆算で動く彼のまさにトランプ・リスクの高さが、結局は前述のような北朝鮮を利するばかりと、危惧される処です。

(2) 「北朝鮮の体制保証」の意味する事

トランプ氏は北朝鮮に対し非核化に応じた場合は「体制保証の用意がある」と明言してきています。この点は合意文章にも映る処ですが、それが意味することは北朝鮮の安全保障を米国が担保していくという事でしょうが、その場合、北朝鮮にとって安全保障が成立する唯一の条件と云えば、米軍が北朝鮮軍を撃破する戦力(特に核戦力)を持たないという事にあると云うものでしょう。

仮に米朝間で平和条約の話が進むことともなれば、米国としては北への脅威解消の視点から在韓米軍の見直しが始まる事が予想され、つまりは米国のretreatであり、その結果は米国のアジアにおける地位の低下を余儀なくすること、先に触れたとおりです。既にトランプ氏は記者会見で在韓米軍の見直しはあり得ると示唆していますし、米韓合同軍事演習についても同様指摘しています。一方、そうした事態は中国にとって東アジアでの支配的な、経済も含めた大国になっていく機会ともなると云うものです。つまりは中国こそは、その恩恵に浴することになると云うものです。これは国際的に新たな安全保障環境の創出を意味することになるのですが、それは、アジア市場が赤色に染まっていくこと、つまり世界経済の競争関係が自由陣営の思考様式から中国共産党の思考様式に塗り変えられていく事であり、その危険性を意味する処です。

実際、中国習近平氏はかねて北朝鮮が求める「体制保証」や「段階的な非核化」に理解を示し、金正恩氏の後ろ盾としての存在を強調し、米主導の国際秩序に対抗しうる中国流の勢力圏の形成をも目論んでおり、とりわけ今次のカナダG7サミットで鮮明となったG7の分裂含みの状況を好機とみている様相が伝わる処です。
とすれば、そうした新たな国際環境に自由陣営諸国は如何に向き合っていくか、その自覚と覚悟を以って、明確な対抗軸の構築が求められると云うものです。それは朝鮮半島の安全保障体制をどう構築するかですが、この際はG7の再生を視野に入れ、自由陣営の連携強化への道を改めて模索すべきと思料するのですが、以下で指摘するように、これこそは日本の出番とする処ではと思料するのです。(尚この項については別途論じる予定)

かくして現時点でのレビューからは前述のとおり、米朝首脳会談は結果的には北朝鮮の描くシナリオを行くものとなったと云うものですが、その際留意すべきは、前述したように
核放棄要求をのらりくらりとかわし、結局は逃げ切るのではとの懸念を完全に払しょくできるシステムの導入が不可欠と云うものです。
一方、これら新展開の波及効果として、東アジアを囲む形で中国の覇権拡大が進む事が想定される処、日本の今後の姿については、これらをcontextにおいて考えられていく事が必然となったという事です。


2. 米朝首脳会談と‘戦後日本’の総括

(1)迫られる ‘戦後日本’の総括
  
戦後日本は前述の通り、一貫して米国の核の傘の下、日米同盟関係を基軸とした生業を以って、今日に至っています。つまり戦後70年余、米国と共にあったわけですが、朝鮮半島における平和体制が醸成され、それに合わせて米国が在韓米軍等、朝鮮半島における安全保障体制の見直を必然とし、つまりは米国のretreatが進むとなると、当然として日本にとっての安全保障体制には空白が生じていく事になり、新たに日本としての自律的な安保体制の構築が求められる事になると云うものです。つまり、今次の米朝会談を契機として、米国の行動様式に変化が起こり、これまでの日本のあり方では通じなくなっていく可能性が出てきたきたと云う事です。勿論、日米の同盟関係が即解消となる事はないでしょうし、相応に堅持されるべきとは思料するのですが、新な日本としての安全保障を念頭に置く外交戦略の構築が不可避となってきたと云う事です。それは、まさに戦後日本の総括としての新体制の構築を意味する処です。 

・求められる日本という国の「かたち」
では、何を以って日本の安保・外交戦略の基本軸とされるのかですが、その点では、日本と云う国のかたち、これからの姿を描きだす事なくしては、議論はできませんが、ここでは暫し横に置いて議論を進めることしたいと思います。

尚、ここで留意すべきは、安全保障の問題となると往々にして国の防衛、軍備の拡充だ、軍事費の拡大をと、声が上がる処で、安倍首相に至っては北朝鮮の脅威を煽り、防衛政策の転換や防衛力の増強を進めてきた事は周知の処です。因みに5月29日、自民党政務調査会では防衛費をこれまでのGDP比1%から2%への拡充を提案しています。これは米・英などは2%超だからという事のようですが、その必然性は不明のままにあるのです。考えておかねばならないことは、防衛費の2倍とは5兆円が10兆円ということですが、まだまだ防衛費の効率化の余地があるとされる点です。例えば、米国から輸入する高額の装備製品についてみると、米政府から直接契約して調達する優勝軍事援助(FMS)での取得が増えていますが、調達価格は米政府主導となっているのです。
勿論、国を守る事は当然であり、そのために必要な国防措置は不可避です。ただそのためには、環境が変わってきた今、国の在り方、国際関係の在り方についての展望を持つことが不可欠ですし、それこそ、上述のように国のかたち論も必要とされる処です。更には有事という事態も構造的に変わってきています。つまり、大きく変化していく現実にあって、単に軍備費予算を増やし、戦闘用機器を調達すれば事が済むなどその発想は余りにも古典的であり、あまリにも先進さに欠くと云うものです。まさに発想の転換が不可欠なのですが、その自覚に欠けていることが問題です。

・日本の戦略軸は多元的経済連携の強化
さて、近年、日本の成長、発展の在り姿は周知の通り、高度technologyとグローバル化の深耕に負うものであり、多国間での重厚な連携に於いて成り立ってきている事、周知の処です。この経験に照らす時、つまりグローバル化が更に構造的な変化を伴いながら進行していく世界にあって日本としては、その生業からは、より新たな連携を以って臨むことが極めて重要になってきており、それこそは日本の戦略軸となる処と思料するのです。
因みに元米大統領国防担当補佐官で、ハーバード大教授のJoseph Nye氏は`Asia After Trump’(Apri.9)で、もはや世界の抱える問題は一国だけでは解決できない状況にあることを理解し、米国と云えども、日本、中国、インド、更には欧州との高度な連携強化を図っていく事が世界の安全保障に資するとし、再び持論の人口の流動化、エネルギ開発、新技術、教育の高度化等々、soft powerの戦略的活用をと、主導する処です。

・メゲリーニEU外交安保上級代表
さて、日本と欧州との間でも、今そうしたコンテクストをもった動きが鮮明となってきています。日本はEUと経済連携協定(EPA)の調印を7月に、そして2019年初めには発効予定ですが、そのEU外交安全保障上級代表メゲリーニ氏は、近時の欧州とアジアの行動に鑑み、両者がこれほどまでに近い存在だったことがあったであろうかとして、日経(5月30日)への寄稿の中で、EU外相理事会(5月28日)での包括的なEU・アジア戦略についての討議内容をリフアーしながら、日本,アジアと安全保障関与の強化を訴えています。

つまり、「欧州とアジア・日本との関係では経済的側面が馴染みの多い部分だが、両者の協力関係拡大では安全保障分野における取り組みが一番進展している。そして、いま両者の間で最も差し迫った問題はおそらく非核化であろう。双方は、イラン核合意を維持し、朝鮮半島の非核化に向けた協議を支援する事に共通の利益を見出している」とするものでした。

・TPPは自由貿易の象徴そして、「自由で開かれたインド太平洋戦略」も
米国が抜けた後、日本が主導して完成させたTPP11は、いまや自由貿易の象徴的存在と評価をされていますし、それは日本が身をもって演出できる自由な民主的経済活動の舞台と云うものです。当初、TPP11の戦略的推進を指摘する度、それは甘い発想と批判を受けてきましたが、今ではインドネシアが参加を希望し、英国までもが関心を示し出すほどです。

加えて日本が発想し、トランプ大統領の理解も得て、日米豪印の四者による戦略「自由で開かれたインド太平洋戦略」があります。これなど、極めて安全保障戦略をなす処、既に四者間協議が始まっています。序でながらマテイス米国防長官は5月30日、米太平洋軍の名称を「インド太平洋軍(INDO-PACOM)」に変更しています。当該軍の管轄地域は以前と変わらず太平洋からインド洋にまたがるものですが、今回はトランプ政権が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進しているのに伴って名称を変更したもので、北朝鮮問題や中国の海洋進出に対処するものとされているのです。

(2)懸念される安倍政治の対米姿勢

今次の米朝首脳会談を契機として、上述の通り、日本には今後の在り方が問われることになってきたという事ですが、それが日本に自立した外交戦略の構築を求めることになってきた事、つまり米国頼みを脱する時である事を、確認させられる処です。その点で気になるのが安倍首相の対米姿勢、いや対トランプ姿勢です。安倍首相はトランプ氏との蜜月関係を築き、十分なコミュニケーションを図ることで豊かな協調関係を誇示しています。このことは評価できる処でしょう。然しその実態にはいまや疑問の積もる処です

6月7日、安倍首相は4月に続いて再び訪米し、トランプ氏と会談しています。その趣旨は云うまでもなく、12日の米朝首脳会談を前に、対北朝鮮政策をすり合わせる狙いとされるものでした。 然し、トランプ氏が安倍首相との会談後の共同記者会見では、朝鮮戦争の終結に向けた合意文書への署名を調整中と明かしていましたし、当面は制裁を排除しないとは言いながらも、金正恩氏のシナリオに乗り、北朝鮮を取り込む方向に舵を切った事は間違いない処でしたし、実際にそうでした。これでは、安倍首相の米国一辺倒、圧力一辺倒の外交は、はしごを外された格好となったと云うものです。

とにかく、トランプ氏が会談中止を発表した際は、世界で一国だけ安倍首相は「支持する」と表明したのですが、会談の予定通りの開催が決定されるや「会談の実現を強く期待する。その勇気を称賛したい」と一変。米国の動きに応じて態度を変える姿が鮮明となったというものですが、これでは地域の平和と安定を築く当事者としての自覚が問われる処です。

更に、安全保障に経済を絡めるトランプ氏は、対日貿易赤字の縮小にも照準を合わせ、巨額の兵器などの購入を日本に迫っています。北朝鮮問題で、対米依存を強めれば、足元を見られるばかりと云うものでしょう。因みに、北朝鮮への見返りとする経済支援は日中韓で、としているのも、とりわけ日本については安倍首相が要請した拉致問題を会談での俎上に乗せると約した見返りとして、日本には経済支援をと云うのですが、まさにデイールに乗せられたと云うことでしょうか。これを機に,安倍政権にはこれまでの対米外交の効果と、限界を冷徹に分析し、新たな現実に即した戦略の練り直しと云う課題を抱えることになったと云うものです。


おわりに 過去のサミットの教訓と米朝首脳会談

処で、いろいろ資料を漁っていた折、極めて興味深い記事に出会ったのです。Financial Times (2018/6/11) にあった同紙Columnist、Gideon Rachman氏の記事 「Past summits offer lessons for Singapore showdown ― From Munich to Yalta, Beijing to Reykjavik, top -level meetings have a patchy record」です。Rachman氏は「伝統的に歴史を作るサミット発言大国の商品欧者間で行われ、戦争と平和の問題に対処してきた。そして、いくつかのサミットが歴史の流れを変えてきた。そしてそれぞれのサミットにそれぞれの教訓が込められている」として、以下の歴史的なサミット(注)を取り挙げ、当該サミットが示唆する教訓について解説するものでした。
(注)歴史的サミットと関係首脳
1938年ミューヘン会談:独ヒットラー、英チェンバレン、仏ダラデイエ、伊ムッソリーニ
1945年のヤルタ会談:米ルーズベルト、英チャーチル、ソ連スターリン
1972年の米中首脳会談:米ニクソン、中毛沢東
1986年のレイキャビック首脳会談:米レーガン、ソ連ゴルバチョフ

例えば、「ミューヘン会談」の場合、ナチスに対する宥和政策の失敗の極みを告げた場面として悪名を馳せるようになったと云うものですが、英チェンバレン氏は、後に無価値であることが判明する将来の平和の確約の見返りに、チェコ領を明け渡したことで、今日に至るまで「ミューヘン」という言葉は、目先の事しか考えない弱さの代名詞となっていると云うのです。然し、あの当時は、ミューヘン会談は英国内の多くのひとから勝利とみなされ、チェンバレンはロンドンで喝采する群衆にむかえられ、帰途に就く前のミューヘンでも拍手を浴びていたと云うのです。つまりそこから得られる教訓とは、歴史の評価は、サミット翌日の評価とは大きく異なることがある、と云うのです。

又、ヤルタ会談では、戦後秩序の形成に於いて決定的に重要な瞬間となったが、年老いたルーズベルトは対ナチ連合の結束維持から、ソ連が1939年に併合したポーランド領を保持したいと云うソ連側の要求を飲んだことで、今日に至るまでポーランド国内外の多くのひとは、ヤルタと云う言葉を裏切りの同意語と見なされていると云うのです。
そこで、自らが交渉のテーブルに就いていないのなら、自国の利益が取引で譲り渡されることを心配すべきと云うのが、教訓だと云うのです。今次のトランプ氏と金氏が会談に向かう中、これは日本政府が特に懸念していた事だったと云うのです。では、安倍首相が直前、ワシントンでトランプ大統領と会談したことはその教訓を体現するものだったという事なのでしょうか。

Rachman氏は今次の米朝会談について、予測不能なことが起こる可能性はトランプ政権の準備不足で高まっていると指摘していました。‘包括さ’が際立つた「合意文書」。トランプ氏はそれを以って成功だとご機嫌の様子でしたが、それはまさにトランプ氏の準備不足に負う処、尤も金氏にとっては都合の良い様相にあるとされるのですが、それだけに今後の作業プロセスでは認識のズレの顕在化に注意せよという事なのでしょうか。

以上
posted by 林川眞善 at 10:12| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2018年05月28日

2018年6月号  ”非核化”騒動を巡る世界、そして問われる「戦後日本」の総括 - 林川眞善

はじめに ‘非核化’を巡る国際情勢, 二題
― 米朝首脳会談と、イラン核合意問題の現状

・米朝首脳会談取りやめ
5月24日、トランプ米大統領は、6月12日に予定されていた史上初となる米朝首脳会談は「今は不適切」として、中止すると表明、そしてその旨、北朝鮮金正恩委員長あて書簡を送った由、報じられたのです。北朝鮮の非核化と北東アジアの平和構築への大きな一歩かと世界が注目する会談でしたが、当該発表は米朝間に横たわる溝の深さを印象付けた処です。

そもそも、米朝首脳会談は北朝鮮の非核化と北東アジアの平和構築を目指す会談とされ、従ってトランプ米国は会談に臨むに当たっては「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を短期間で実現するよう求め、その結果の見返りとして北朝鮮が求める「体制の保証」等に応えていかんとするシナリオかと観測されていました。この点、トランプ政権は「過去20年の北朝鮮政策の失敗を繰り返さない」と強調するところでしたが、それこそは、相手に派手なデイールを仕掛け注目を引き、そして、過去の政権の政策を徹底的に否定し、更に、迅速な結果を求めると云う、まさにトランプ流、行動様式を鮮明とする処です。一方、北朝鮮はこの米側の考えに対して、一括放棄は受け入れられずとし、非核化に向けて段階的な措置をとるたびに見返りを受ける方式を主張していたのです。

果せるかな、米朝会談は中止、その理由として、トランプ氏は北朝鮮による「直近の声明に表れた激しい怒りと露わな敵意」を挙げていましたが、北朝鮮が本気で核を放棄するという確信が持てなかったと云う事だったのでしょうか。ただトランプ氏は金委員長あて書簡で会談の実現を非常に楽しみにしているとし、「究極的に重要なのは対話だけ」と綴っていたと由ですが、その後のインタビュ-でもトランプ氏は会談の可能性を繰り返す処です。

要は、トランプ氏はなお将来の会談に意欲を示している様相ですが、どこまで可能か、元より読み切れるものではありません。ただ、本稿では、これまでの米朝会談を巡る関係国の動向を整理し、次の舞台に備えることとしたいと思います。

・イラン核合意問題
もう一つはイラン核合意に係る問題です、5月8日、トランプ大統領は、2015年、米英独仏中ロの6か国とイランの核を巡る合意「包括的共同作業計画」、通常云うイラン核合意からの離脱を決定、イランの核開発に関連した経済制裁を再開する大統領令に署名したのです。そして5月21日、米国は当該合意に代わる国際的な対イラン網づくりを狙った「対イラン政策」を発表しましたが、これが米欧の亀裂を深める一方で、結果としてイラン国内の強硬派を勢いづけ、中東の対立や混迷を深める様相にある処です。序でながら5月14日トランプ政権はイスラエル米大使館をエルサレムに移転させましたが、これが中東の混迷に火を注ぐ状況です。

勿論、この二つの共通テーマは「非核化」です。言い換えれば、この非核化をどのように進め、実現していくかですが、それはとりもなおさず世界の安全保障体制を如何に担保していくか、でしょうが、この点は世界が知恵を出し合っていかねばならない処です。

なお、そうした環境にあって日本の姿勢が見えてこないという事がもう一つの問題と映る処です。中東問題もさることながら、日本にとって喫緊のテーマは何といっても米朝会談に在りましたし、何よりも、その結果が齎すであろう日本へのインパクトにあり、今も尚、重要な問題として映る処です。 因みに、安倍首相は、米朝会談の話が具体的に俎上に乗るや、日朝間の最大の問題は拉致問題とし、この際はトランプ大統領に早期解決への橋渡しをと、協力要請に走っていました。勿論、日本にとり重大な問題です。トランプ大統領に協力要請をすることを否定するものではありません。然しなぜに、小泉元首相が実行したように、自ら北朝鮮に乗り込むぐらいの努力をしてこなかったのか、理屈はともかく、ここに至っては、まさに‘トランプ’頼みの政治‘に不安は募る処です。(注)

(注)2002年9月、日朝平壌宣言(小泉純一郎首相、金正日委員長)には拉致問題の解決が盛り
込まれているが、同年10月、米国が北朝鮮の核開発疑惑を指摘、翌03年には北朝鮮はNPTか
らの脱退、一方、日本は経済制裁を強化したことで、当該宣言は実践課程には入っていない。

全て事態は今尚、流動的であり、それら行方については、言うなればnobody knowsと云う処です。ですがこの際はメデイア情報をベースに事態の推移をレビューし、その結果が日本に突きつける日本のあるべき姿、言い換えれば「戦後日本の総括」について併せて考察してみたいと思います。(2018/5/26)




     目 次


第1章 取りやめとなった米朝首脳会談  

1.米朝首脳会談    

(1)米朝首脳会談は中止
  ・トランプ大統領vs金委員長
(2)米朝首脳会談の今後に備えて
  [資料] 米朝首脳会議に備えた関係国首脳会議
  ① 中朝首脳会談 ② 南北朝鮮首脳会談 
  ③ 日中韓首脳会談
(3)米朝首脳会談の可能性と課題
  ・可能性を測る条件
  ・米朝首脳会談のイメージ

2.米朝首脳会談が突きつける‘戦後日本’の総括

(1) 日米同盟のdecoupling
(2) 日本の安全保障体制とはー多国間連携の強化

第2章 米国のイラン核合意からの離脱
  ・イラン核合意
・米大使館のエルサレム移転

おわりに:トランプ氏一人にかき回される世界
  ・Denuclearization means the US too
- Professor. Jeffrey Sachs
  ・米中貿易摩擦
  ・保護主義のギアを引き上げるトランプ政権


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第1章 取りやめとなった米朝首脳会談

1.米朝首脳会談

(1) 米朝首脳会談は中止

トランプ大統領が朝鮮金正恩委員長から申し入れあった「米朝首脳会談」に応諾すると発表したのが3月8日、爾来2か月余、米朝はもとより、北朝鮮との利害関係の深い中国、韓国等、関係各国は、その事前の調整に大わらわのなか、5月10日、当該「米朝首脳会談」は
6月12日、シンガポールで開催すると同大統領は発表しました。これが実現なるとすれば史上初、国交のない両国トップがいきなり会うという、まさに異例中の異例となるイベントですし、タイミングの取り方も、6月8日からカナダで始まるG7会議で、事前サミット・メンバーに説明しG7からの支持を得て、との読みもあっての事と思料される処でした。

特段の理念のないままsnow job と揶揄され、就任1年をほとんど空費したトランプ氏にとって、政治的ターゲットは今秋の中間選挙一本にある処、金委員長の申し入れを受け入れ、これを成功に導ければ彼は有能な勝者となり、選挙戦を勝ち抜けると瞬時、直感したものと思料するのですが、今や、その推移如何では、ノーベル平和賞ものとの野次馬の声も聞かれるなか、トランプ氏の姿勢は前のめりの、まさにTrump firstの様相を呈する処でした。
つまり、トランプ大統領は「北朝鮮の核放棄の合意」を前提として「過去の米政権が出来なかった偉業」となると、一貫して乗り気にあったと伝えられ、とりわけ3人の米国人人質の解放が実現した事、これは北朝鮮への米国が仕掛けてきた圧力の成果だと、大いに自らの業績としてアッピールしようとの様相にあるなど、彼の行動様式はまさに、この秋の中間選挙対応の他なしと映るばかりです。

・トランプ大統領 vs 金委員長
さて、そうしたトランプ大統領ですが、米朝首脳会談に臨むにあたっては、彼が命題とするのは「朝鮮半島の完全な非核化」、つまり「完全で検証可能且つ不可逆的な非核化(CVID:Complete, Verifiable, Irreversible and Denuclearization)の実現」を目指し、一気に非核化を進めることとし、その上で「体制の保証」や1953年に結ばれた朝鮮戦争休戦協定の「平和協定への転換」等、問題に応えていく事になるものかと観測されていました。
一方、北朝鮮金正恩氏は、非核化については「段階的で同時的な措置」、つまり一括放棄は受け入れられずとし、非核化に向けて段階的な措置をとるたびに見返りを受ける方式を訴えていたのです。これは一応「非核化」を受け入れる姿勢を示唆する処でしょうが、トランプ氏の云う‘完全’な非核化とその短期実現と云う命題とは聊かの乖離がある処、その溝は埋まる事のないままにあり、6月12日までに両国が立場の違いをどこまで埋めきれるか、そして予定通りに首脳会談が開けるのか、その行方に、如何とも疑心暗鬼とする処でした。

それが対立構図として鮮明に映すことになったのが、金正恩氏が5月7・8日の2回目の訪中で習近平主席との会談だったとメデイアは云うのでした。つまり、その結果、中国と云う大国の後ろ盾を得た事で安心したのか、北朝鮮は米国を自分のペースに引き込もうと強硬発言を繰り返すようになったと云うのです。因みに、習近平国家主席は上述、金正恩氏が主張する段階的非核化に理解を示し、直後の電話協議でトランプ氏に北朝鮮側の懸念を伝えたと報じられていますが、トランプ氏にしてみれば、中国が米朝和解を後押しするのではなく介入するなら看過できないという処でしょう。因みに、16日、朝鮮中央通信などを通じて米韓演習や「米国が求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を批判し、米朝会談の取りやめを示唆。24日にも同様の声明を出していたのです。

そうした状況変化こそが、24日、トランプ大統領をして6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談の開催は「今は不適切」として中止を決定せしめたと云うものでしたが、まさに中朝接近に不信を募らす結果ともされる処です。トランプ氏は、併せて中止は、「北朝鮮や世界にとって大きな後退だ」とし、必要があれば軍事行動も辞さない構えをも示しています。東西冷戦時代から約70年間に亘る米朝の敵対関係の転換点となる可能性があった初の首脳会談が見送りとなり、朝鮮半島情勢が再び緊迫する恐れが出てきたと云うものです。

(2)米朝首脳会談の今後に備えて
尚、今後の仕切り直しの可能性は依然残されているのではと思われますが、正直、不透明という処です。但しこの際は、留意しておくべきは、北朝鮮が求めている体制保証の問題との絡みです。トランプ氏は北朝鮮に対し非核化に応じた場合は「体制保証の用意がある」と明言しています。その際のポイントは仮に核を放棄したとして、北朝鮮の安全保障が成立する唯一の条件と云えば、米軍が北朝鮮軍を撃破する戦力(特に核戦力)を持たないという事と思料される処ですが、ではこの点についてどういった対応の用意があるか問われる処です。

言える事は、仮に米朝間で平和条約の話が進むことともなれば、そのimplementationとして、北への脅威解消の視点から在韓米軍の見直しが始まる事となるでしょうし、この結果は、米国のアジアにおける地位の低下を齎し、一方、それは中国にとって東アジアでの支配的な、経済も含めた大国になっていく機会ともなる、つまりは中国こそは、その恩恵に浴することになるというものです。これは新たな国際安全保障環境との対峙を意味する処です。かつて筆者は、アジア市場が赤色に染まる危険性を指摘しましたが、それは世界経済の競争関係が、自由陣営の思考様式から中国共産党の思考様式に塗変えられていくことの危険性です。とすれば、そうした新たな国際環境に自由陣営は如何に向き合っていくか、その自覚と覚悟が問われていく事になる処、その点で自由陣営の連携強化が改めて求められるというものですが、とりわけそれは日本に向けられる話と思料するのです。

尚、北朝鮮問題を巡る関係国首脳会談の概要を、今後のリフアレンスとして下記[資料]を紹介しておくこととします。

[資料] 米朝首脳会談に備えた関係国首脳会談             

  ① 中朝首脳会談(3月26日 北京、 5月7/8日 大連 )
中国習近平主席はトランプ米大統領の今回の動きに驚いたと伝えられていましたが、3月26日、同主席は北朝鮮金委員長を北京に招聘、9年ぶりの中朝首脳会談を行っています。その中朝首脳会談に臨んだ金正恩委員長は次の様に発言した由、伝えられています。まず「金日成主席、金正日総書記の遺訓に基づき、半島の非核化に尽力する事は我々の一貫した立場」とし、「韓国と米国が善意を以って、我々の努力に応じ、平和実現のために‘段階的で同時並行的な措置’を取るならば、非核化問題は解決する事が可能」と。但し、これは中国側の発表です。尚4月20日の朝鮮労働党中央委員会総会開催に当たり公式発表された声明では「核実験や大陸弾道弾ミサイル(ICBM)発射の中止、核実験場の廃棄」を表明(朝日デジタル、4 月20日)していましたが、核放棄には触れていません。

更に5月7・8日には中国大連で、両者は再会しています。僅か40日あまりで2度目となる金委員長の電撃的な訪中は、米朝トップ会談を睨んで、習近平中国に「後ろ盾」の役割をお願いするためだったと見られていますが、これを受け入れる中国側事情、つまりこれまで険悪だった北朝鮮との関係を改善させる背景には、米国との貿易摩擦交渉で北朝鮮への影響力をカードに使おうとするフシもある処、朝鮮半島問題で主導権を握り、米国をけん制する狙いが透けると云うものです。要は、中国が北朝鮮問題への関与を高めた事で、新たな米中関係を明示することになったと云えそうです。

尚、6月の米朝会談に向けた米朝の駆け引きが続く中、北朝鮮は5月16日に予定されていた南北閣僚級会議の延期を突然発表、その事由は5月11日から展開中の米韓合同軍事演習を挙げてはいましたがそれ以上に、北側を刺激した事は5月11日のポンペオ発言(後出)に続く13日のボルトン米大統領補佐官のTVでの発言、つまり,北朝鮮に見返りを与える前に、まずCVIDが必要、との発言にあったようで、その際は、米朝会談についても言及があり、「一方的な核放棄だけを強要するなら、対話にこれ以上興味を持たない。会談に応じるか再考するしかない」と米国を威嚇。一方中国は、これに対し「すべての関係国は互いに緊張を引き起こす行為は避けるべき」と、北朝鮮擁護の姿勢を支持していますが(日経5月17日)、2度の中朝会談を通じての中朝蜜月関係を強く印象付ける処です。前述、トランプ大統領の「北朝鮮体制保証の用意あり」の発言はこうした環境を考慮したものと言え、トランプ氏の高圧的ながら、当該会談に寄せる心意気を伝える処ではと思料するのです。尤も、これも秋の中間選挙狙いでしょうが。
 
  ②南北朝鮮首脳会談 (4月27日、板門店 )
一方、南北両首脳会談が、4月27日、板門店で行われています。2007年以来、11年ぶり
の首脳会談です。その際、公表された共同宣言(日経、4 月28日)では「完全な非核化を
通して核のない朝鮮半島を実現すると云う共通の目標を確認した」としています。同時に、
上述の通り、現在の休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制を構築する、と
しています。但し、非核化についてはその目標を確認したと云うものの、北側が一方的に核
放棄することを示唆する文言の明記はありません。

  ③日中韓首脳会談(5月9日、東京)
5月9日、急遽、安倍首相、李克強首相、文大統領による日中韓首脳会談が東京で行われて
います。これは2年半ぶりの開催でした。そして、その際、発表された日中韓共同宣言では
「朝鮮半島の完全な非核化にコミットしている」と非核化に取り組む姿勢を打ち出し、更に
「朝鮮半島や北東アジアの平和と安定の維持は共通の利益且つ責任だ」と強調していまし
たが、非核化をどう実現させていくかという具体的な手法に踏み込むまでには至っていま
せん。結局、3首脳が確認できたのは国連安保理事会の制裁決議の完全な履行、つまり安保
理決議にはCVIDを求める内容が入っているためとして、当該共同宣言へのCVIDの明記
に慎重な中韓との折衷案だった(日経5月12日)とされる処です。
  
   [5月24日: トランプ大統領、6月12日、シンガポールでの米朝首脳会談の中止を決定]

2.米朝会談が突きつける‘戦後日本’の総括

(1)日米同盟のdecoupling

さて前述、会談結果の如何では、アジアにおけるこれまで抑止力となっていた米国の地位の低下が進み、従って新たな東アジアにおける安全保障の在り方が問われていくことになると指摘しましたが、その文脈を以って日本も自らの安全保障の在り方が問われる事になるというものです。
つまり、会談結果がいかなる形であれ、トランプ政権にとりポジテイブなものと受け止められれば米国にとっては北朝鮮による米本土への核兵器の脅威は薄れることとなり、トランプ氏はAmerica firstをより強め、アジアからのretreatを進める事が予想されると云うものです。もとよりそれは、米政府主導の東アジアにおける安全保障体制の見直しを示唆する処と云うものです。

一方、問題は日本です。これまでの脅威は変わらないとすると、日米の‘脅威’に対する認識にずれが起き、その結果、これまで米国の‘核の傘’を基軸とした日米同盟の体制が崩れる、つまり日米同盟のdecouplingが予想されるというものです。それが意味する事は、これまで米国一辺倒主義を‘戦後日本’の基本軸とし、過去70年間成長を続けてきた日本ですが、もはやその一辺倒からの脱皮なくして、持続的な成長を維持していく事は不可能となる事を示唆すると云うものです。となれば、日米の同盟関係は形の上では維持されるとしても、日本としては、自らの安全保障体制の構築が不可避となったというものです。

以前、本論考12月号で、米コロンビア大のT. Hikotani 氏が、トランプ氏の米国第一主義、世界への関与からの撤退政策は、日本にとってのチャンスだ、ギフトだとしてアジアでの積極戦略をと主張する論考‘Trump’s gift to Japan’(Foreign Affairs, Sept./Oct.,2017)を紹介していますが、今ではそれが forced される状況に転じたと言えそうです。

尚、仮に会談が決裂したとして、その場合、トランプ米国は軍事行動に出る可能性もありでとなれば、同盟国たる日本はその米国に対して軍事協力を必然とされ、その結果は北朝鮮からのミサイル攻撃の脅威に晒される事になるのでしょう。となれば日本として安全保障体制をどう整えていくかが、問われていく処です。要は、米朝首脳会談が、どちらに転んでも日本に及ぼすインパクトは、戦後一貫、米国の同盟国として米国一辺倒でやり過ごしてきた国の在り姿、つまりは‘戦後日本’の見直しが不可避となってきたと云うものです。

それは日本と云う国のかたち、これから目指す方向を再定義し、それに照らした世界経済の中の日本を再設計することであり、その際は日本という国の生業からは、多国間の連携が当該設計のベースとなるものと思料するのです。それはまさに‘戦後日本の総括’であり、新たな日本百年の計ともされると云うものです。そしてその際は、日本の安全保障体制とは、国際経済関係の強化というコンテクストに於いて語られるものと思料するのです。そしてそうした取り組みこそは、ハーヴァード大の国際経済学者ダニ・ロドリック氏が掲げていた三つのトリレンマ(注)への反証ともなる処です。
     (注)ロドリック氏の「三つのトリレンマ」:三つの要素、グローバリゼーション、
国家、民主主義、この三つの内二つの組み合わせしか選べないとした学説

要は、米朝会談後の世界と、日本はいかに向き合っていくか、そして世界経済への貢献を通じていかに成長していくか、併せて日本として安全保障体制を如何に構築していくか、自らを問うていく事になるのです。

(2)日本の安全保障体制とは ― 多国間連携の強化 

さて、上述発想に耐えうる、そして日本が主導しうる事案が今、迫ってきています。それは「TPP」であり、「自由で開かれたインド太平洋戦略」であり「日欧EPA」等、です。

中でも年内に発効が期待されているTPP11協定(CPTPP:包括的かつ先進的TPP協定)は、米国が抜けた後、日本が主導してまとめ上げた、新たな自由貿易拡大の枠組み(5億人市場、99%関税撤廃)です。米国が抜けた分scale downしたとはいえ、それでもトランプ保護主義が蠢く中、いまや自由貿易の象徴的存在と再評価される処と思料するのです。というのも、この協定は知的財産権保護や国有企業への優遇措置の禁止を盛り込んだ質の高い自由貿易協定とされるものです。つまり、そこに盛られる協定内容は、単なる市場開放でなく、情報の流れは国境を超えて自由であるべきとの原則を以って、「21世紀型」と呼ぶほどに、通商ルールを多国間協定で定めたものとなっており、その意義は高いもののある処です。

そうした位置付けを得るTPPは日本にとり折角の機会です。従って、今後の課題はTPPの価値をどのように高め、どのようにアジアにおける新しい日本の姿を示していけるか、にある処です。TPP協定が動き出せば、米国が要求する日米二国間の貿易摩擦交渉で、米国が農産物や工業品の関税引き下げを要求してきても、TPP以上は絶対に譲歩できないと押し戻し得るとも言え、二国間交渉の風圧を強める米国への反発もあって、自由貿易や透明性の高いビジネスルールの枠組みを謳うTPPに活路を求める動きが出始めていると言われています。因みに、直近では、タイの参加意向が伝えられていますが、これが決まればインドネシア、フィリピン、なども参加に動くと見られています。 [(注)今次参加国:日本、カナダ、豪州、ニュージランド、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、シンガポール、ペルー、チリ、メキシコ]

まさにTPPを主導してきた日本がこの動きを支え、より強固なものとしていく事でその価値を高めていく事になるのです。加えて、日本とEUの経済連携協定、EPAも多国間協定を進める弾みになる処です。この7月には両国が署名し、2019年初頭にも発効の見通しとされています。この日欧EPAによるGDP押し上げ効果は約5.2兆円とも見られ、TPP11効果、約7.8兆円とあわせ計13兆円の押し上げとなり、米国が参加した場合のTPP効果(14兆円)とほぼ並びEUが、米国の抜けた「穴」を補う構図となる処です。 

要は以前にも指摘したように今後、日本に問われる、そして適う安全保障体制とは、即軍備拡充という事ではなく、こうした多国間の協力体制の構築にある処、日本として「やわらかい規範」とされる「ソフトロー」(Sustainable Development Goals)を駆使し, TPP後の国際規範創造のけん引役を目指すべきで、それこそその構築に向けたプロセスとなる処です。


           第2章 米国のイラン核合意からの離脱

非核化を巡る米朝首脳会談の行方に世界の関心が集まる中、同じくトランプ大統領は5月8日、米英仏中ロ5か国がイランと2015年合意したイランの核開発を巡る包括的共同作業計画(JCPOA : Joint Comprehensive Plan of Action)、いわゆる「イラン核合意」からの離脱を決定し、対イラン経済政策を再開する大統領令に署名したのです。
その合意内容とは、イランはウラン濃縮など核開発にからむ活動の制限を受け入れ、米欧は見返りにイランへの経済制裁を解除するというものです。

合意離脱決定直後、英BBCのJonathan Marcus氏(防衛・外交担当)は「Iran nuclear deal:What now after Trump’s decision to pull out?」(5月9日)と題するコラムで、With a stroke of his pen Us President Donald Trump has jeopardized the one agreement – good or bad -that seeks to constrain Iran’s nuclear ambitionsと、イランの核兵器開発抑止を目指す唯一の合意をトランプ大統領はあっさりと危機にさらしてしまった。代案を示すこともなく、しかも同盟関係にある英仏独と米国の外交政策を対立させる道を選んだトランプ大統領は欧州との溝を深めるだけで、しかも彼は一貫して合意に反対してきたが、それは前政権の成果だと云う以外に論理的な反対理由は見えない、と厳しく批判するのでした。

・イラン核合意
そもそも、各国がイラン核合意をまとめたのは、イランを核開発から遠ざけておくことが理由の一つだったわけで、そうすれば、イランが規制を破り核兵器を入手しようとしても、国際的圧力をかけるだけの時間が稼げると期待されていたと云うものです。確かにイラン核合意が持つ意味は短期的にイランが核兵器を保有する道をふさいだことにあるのですが、加えて、核開発と云う誘惑にかられる近隣国を抑止する機能があったとされています。そうしたことへの認識を以って、マクロン仏大統領、メルケル独首相は、直前のワシントンでトランプ氏に離脱を思い留まるよう助言していましたが、それにも拘わらず、と云った結果で、トランプ氏の国際社会での孤立が更に鮮明となる処ではと思うばかりです。

5月21日、ポンペオ国務長官は、‘合意’に代わる、イランの脅威に対抗するための包括的な政策、「対イラン新政策」(注)を発表しています。
    (注)米国の対イラン新政策(骨子)
      ・核開発関係:2015年に代わる新たな枠組みを追求。核・弾道ミサイル開発完全停止、等
     ・経済制裁:金融面での制裁圧力強化、中東・アジアなどの制裁への参加 

これも、イランが政策変更に応じるまで「過去最強」の制裁を続けると云うのです。そして欧州はじめ、アジアや中東など各国に協力を求める方針を示していますが、さて、国際的な対イラン包囲網を築けるかは不透明というものです。とりわけ、‘合意’の下でのイランビジネスの継続を求めてきた欧州側の理解が得られるかは不透明と云うもので、実際、英仏独は合意に留まることを宣言し、5月15日にはブルッセルで、EUも加わりイラン政府と会合を持ち米国抜きでの、核合意の堅持に向けた打開策を数週間以内に目指すことで一致したと報じられています。
その際、EUモゲリーニ外交安保上級代表(外相)は「経済制裁の解除とイランとの通商・経済関係の正常化が核合意の必須な部分だ」と強調。核合意の崩壊を避ける為、イランの経済的な見返りの確保が不可欠だとも訴えていたのですが、それも米国が再開するイラン制裁から欧州企業を如何に保護するかがカギを握ることになるものと思料される処です。

もう一つの懸念材料は、こうした欧米が足並みを乱す中、同じ核合意に参加している中国とロシアの動きです。つまり、シリア情勢を巡って結束していた欧米に溝が入る事はロシアにとっては望ましい状況という事になるのでしょうし、「一帯一路」を目指す中国にとっては経済的利益を確保しやすくなるというものです。
つまりは両国が混乱に乗じ機会主義的な利益を得ようと行動すれば、関係各国の利害対立は更に複雑になる一方で、イランと対立するサウジやイスラエルは核合意を完全な崩壊に追い込もうと揺さぶりをかける処ですが、トランプ米国の合意離脱が意味する事は、米国の対イラン取引の大幅制限が再び実行される事であり、その項目次第では世界経済に構造変化を誘引することともなると言う点で、日本も大いに注視の要ある処と云うものです。

・米大使館のエルサレム移転
序でながら、国際的安全保障環境への懸念が深まる中、トランプ政権は5月14日、在イスラエル大使館を、首都と認定したエルサレムに移転しました。云うまでもなく、パレスチナ自治政府や国際社会の反発を押し切っての決定です。ただ、これが大規模な抗議デモを引き起こし、多数の死者を結果するなどで、中等和平の仲介者としての米国の信任は失墜。和平プロセスの再会は糸口さえつかめなくなったと云うものです。そして米国によるイラン核合意離脱の行方も絡み、中東と世界をも揺さぶる状況が新たに生まれてきていますが、これまで石油の安定輸入を目指した日本の対中東外交政策の、これも米国の支援を受けてのものでしたが、この際は、基本的な改革が必要となってきたと思料されるのです。

実はこの行為も前述イラン核問題も、更には6月12日の米朝首脳会談も全て、この秋の中間選挙向けの行為とみなされおり、因みに、米国大使館のルサレム移転などは、トランプ氏の支持層であるキリスト教福音派の期待に応えんとする特定支持層を意識した行為と云うもので、従って、ごく短期的成果を求めるだけの行為に終始する‘米国’があり、しかしそこには一貫した論理のない思考様式に、何とも言えない不安な思いを禁じえないのです。


おわりに: トランプ氏一人にかき回される世界
       
さて、今回の論考は、北朝鮮の非核化問題、米国のイラン核合意からの離脱問題と、いずれも「非核化」をテーマとするものでしたが、 偶々、手にした米コロンビア大のJeffrey Sachs氏の5月7日付論考 「Denuclearization means the US, too.」(Project Syndicate)は、これまでの国連での二つの条例をreferしながら核保有国、とりわけ自己主義的な米国の行動様式の現状を批判し、米国も非核化を目指せと云うものでした。

・Denuclearization means the US, too
まず彼は、外交政策には ‘might makes right’(力は正義なり)を原理に準拠するもの、もう一つは、‘international rule of law’ 、つまり法律による国際的ルールに準拠するもの、の二つがあるが、核兵器を巡る米国の対応はその両方をやろうとしているが、もはやそれは失敗に向かっていると断じ、キリストが剣を持った者はその剣で滅びるとの言葉を配しながら、今や核問題は、そうした事、以上に世界は危険な状況にあると指摘するのでした。

つまり1968年のNPT(核不拡散条約),「核保有国は核の他国への譲渡禁止」、「核エネルギーの平和利用の権利」、そして、「核軍縮交渉の義務」定めた協定ですが、その狙いは核兵器競争の廃止、かつ地域的核独占の招来を抑制するものだが、それが守られていない現状、そして2017年国連核兵器禁止条例では122か国が署名したものの、核保有国は参加せず、更には、今年2月、トランプ政権が出したNuclear Posture Review(NPR:「核体制見直し」では、核による抑止力の強化を打ち出すなど「核兵器の近代化と拡大」という新たな時代の到来を謳い上げている点で、サックス氏は、要は米国は他国に非核化を求め、自らは米軍のニーズへの対応を進める身勝手な姿勢を取っていると、批判するのです。そして、問題の一つは、過去半世紀、米国は中東やアフリカ、その他地域で当該国の平和の為として戦争を誘導し、国際法や国連憲章等、お構いなくレジームの転換を進めてきた事と云うのです。
勿論、北朝鮮の非核化は早急、かつ成功裏に進めることは当然として、世界はもはやPax Americanaにあるわけではないが、今なお数百万の人々が戦争の脅威に晒され、また制しのきかない軍事力の恐怖に晒され生活する10億の人々が居るこの現実をみる時、そうした人々の為にも、この際は米国も等しく非核化を進めるべきと、主張するものでした。

・米中貿易摩擦
処で、北朝鮮や中東イランでの非核化問題に注目が集まる中、タイミングを同じくして行われていた米中貿易協議は極めて気がかりなイッシューでした。1回目は5月3・4日、北京で、2回目は5月17・18日、ワシントンで行われています。筆者の関心は、この2国間協議の前に米側から出された当該協議の「枠組み草案」に盛られた内容、‘米国が中国に要求する行動’(注)がまるでultimatum,つまり最後通告とも映る、まさに貿易戦争の瀬戸際の様相と、米中摩擦2.0を映すものだったからです。
(注)米国が中国に要求する行動:
     ・中国は2018年6月1日から12月の簡易対米貿易黒字を1000億ドル削減する事
     ・2019年6月1日から12か月お間に更に1000億ドル削減する事
     ・過剰生産を助長する「市場をゆがめる補助金」は全て即刻廃止する事。そして外資の対中進
出にあたって技術移転を求める慣行を撤廃する事。

果せるかな、中国が米製品の輸入を増やすと表明し、以って米側は一旦、矛を収める形で協議は終わっています。やはり6月12日の米朝会談を控えての状況にあって、現在は中止とされていますが、習氏が金正恩氏の「後見役」として北朝鮮への影響力を強めている事への考慮があってのことと見る処、米側代表のムニューシン財務長官は「貿易戦争を当面留保する」と明言していましたが、まさに大国の力関係の変化をそこに見る処です。

さて、この貿易摩擦問題も含めこれら一連の動きは周知の通り、全てこの1か月に起きた事案ですが、これがトランプ大統領一人の人為的決定によるものである事に聊かの危険さを禁じ得ません。かくしてAmerica firstの一言を以って、戦後米国が築いてきた秩序が崩れだし始めているその様相をワシントンで見る倒錯の構図と、日経ワシントン支局長の菅野幹雄氏は指摘していましたが、併せて「深刻に感じるのは、戦後秩序の危うい変調と裏腹に、米国世論に‘トランプ流’への評価が芽生えているように見えることだ」(日経 5月23日)との指摘は近時、筆者も同様感じ出しているだけに、ますます憂鬱感の増す処です。

・保護主義のギアを引き上げるトランプ政権
加えて、5月23日、トランプ政権は、安全保障を理由に自動車や同部品に追加関税を課す輸入制限の検討に入ると発表しました。米メデイアによれば乗用車の関税を25%に引き上げる案が出ているようですが、先の商務省が鉄鋼に課した輸入制限と同様、車の輸入増が安保上の脅威になっているかを調べるものとしていますが、保護主義的通商政策のギアを一段とあげんとするものです。要は中間選挙をにらんだ、自動車と云う米国内でも雇用が大きくわかりやすい産業に目を付けたと云うものでしょう。国の安全保障を大義とすれば、どんな輸入制限も許されると本気で考えているのか、トランプ政権の通商政策は余りにも危険さを禁じ得ません。トランプ通商政策については別途分析整理してみたいと考える次第です。
ロシアのプーチン大統領も25日のサントペテルブルクでの国際経済フォーラムで講演し、安全保障を理由にした経済制裁を「新しい保護主義」と呼び,「安全保障を口実に競争相手に圧力をかけている」と、米国を暗に批判していたのです。 以上
posted by 林川眞善 at 07:58| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする